約 579,052 件
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/379.html
「ずいぶん熱心にお祈りしてたわね。今年もバニーちゃんに囲まれて過ごせますようにって?」 「いや?今年こそゼシカが素直になって、オレを好きになってくれますようにって」 「…ッ!///そ、そんなこと、神様に頼らなきゃ叶えられないの?情けないわね…っ」 「…………ゼシカ。それって、自分の力で奪ってみろって意味?」 「や…っやれるものならやってみなさいよッッ!!><」←言っちゃった 「(ニヤリ)…よし、言ったな?いいんだな?本気出すぞ。 これからは真剣にお前を堕としにかかるからな。覚悟しとけよ…ゼシカ(魅惑のまn)」 「~~~~っっっ!///」
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/232.html
ふと、ベルガラックの街中で見かけたショーウィンドウに映った自分の姿。 見慣れたドレス。お小遣いをためて自分で買った、お気に入りのもの。 それに重なるようにガラスに映りこんでいたのは、女の子らしいヒラミニのワンピースだった。 それにニーハイを組み合わせるのが今年の流行りみたい。どこの店にも同じようなのが並んでて…かわいい。 なんとなく、自分の身体を見下ろした。 ………自惚れるわけじゃないけど、似合うんじゃないかな、私、あんなのも。 動きやすそうで戦闘にも向いてるし…なんて言い訳がましく考えてみたりして。 離れた所でヤンガスとエイトに呼ばれて、後ろ髪を引かれながらも私はひとまずその店をあとにした。 「ククールは?」 「どこかな、見かけてないけど…。……あ、いた」 エイトが指さした先には、飽きもせずいつものように女の子とイチャつくバカ男の姿があった。 「ねぇねぇククール見てぇ、この白のドレス、今日買ったのよ。素敵でしょ、似合う~?」 「あぁアリア…まるで天使そのものだよ。こんな天使なら例え神様と言えども手を出さずにはいられない」 「例え敬虔な修道士サマでも…でしょ?」 「オレは所詮堕天使さ。よく似合ってるよ。…でも、それをすぐに脱がしちまうのは少々勿体ないかな…」 「うふふ…」 聞こえてくる会話も、バカ以外のなにものでもない。 こめかみが引きつるのを我慢しつつ、私は眉間にしわをよせてため息を吐いた。 私達に気付いたククールは、すり寄る女の子に何事か囁いてキスをすると、あとは振り返りもせずに ご満悦な様子でこちらに向かってきた。さりげなく私の横に並んで歩き出す。 「………いいの?天使ちゃんを置いてきて」 「天使は神の御使い。堕ちた不良僧侶には、はねっ返りのオテンバお嬢さんあたりが丁度良いぜ」 「私は女たらしな生臭坊主なんかお断りよ」 「誰もゼシカのことなんて言ってないけど?」 「!!」 一気に血が昇り、顔が真っ赤になる。この男、最低ッッ!!!! ニヤニヤしたまま先に行った背中にメラを投げつけそうになって、エイトとヤンガスに止められた。 チーーーーーン!! 「できたよゼシカ。さすがに時間かかったね」 エイトが渡してくれたのは、錬金で出来上がった しんぴのビスチェ っていう装備だった。 今まであったいくつかのお気に入りの装備と比べても、なんだかとても女の子らしくて可愛い。 ちゃんとニーハイにガーターベルトもお揃いで、背中には羽根までついてるの。 この前見たショーウィンドウのワンピースに感じが似てるわ。…どうしよう、嬉しい! 「ありがとうエイト!…ねぇ、少し待っててくれないかな?今すぐ着てみたいの」 「いいよ。僕らはここで待ってるから、ゆっくり着替えてきなよ」 「うん!」 優しく言ってくれたエイトの隣でヤンガスはボケーッとしていたけど、ククールは… …チラッと見ただけだけど、なんだか不機嫌そうだった…? どうしてだろう。こんなことに時間割いちゃったからかしら…早く着替えて戻ろう。 ククールのことは気にかかったけど、私はウキウキしてビスチェにそでを通した。 似合う、かしら?アイツ、なんて言うかな… まぁ、適当に…どこぞの女に言ってたみたいに、歯の浮くようなセリフを並べ立てるんでしょうね。 ーーーかわいいよ、ゼシカ。まるで天使そのものだ… ………脳裏に浮かんだアイツの姿に少し顔が熱くなった気がしたけど、気付かないフリをした。 * 大きく開いた胸元に、限界ギリギリな短さのヒラヒラしたスカート。 抜群のスタイルをこれでもかと強調するかのように全体的にピッチリとしたデザイン。 胸からへそあたりと側面の編み込みからは素肌が垣間見えていて、指を突っ込んでみたくなる。 眩しいふとももに食い込むニーハイはガーターで釣られていてそこはかとなくエロい。 そして背中には、白い羽根。 確実に女の子らしい可愛らしさを追求したデザインのはずなのに、こうも男の欲望をくすぐるのは なぜだ。ていうか軽く犯罪だろ、コレ。しかも着てるのがゼシカときた。 最高の顔とスタイルを持ちながら、最凶に無防備で無邪気なゼシカお嬢様だ。 「こういうの、着てみたかったの!ねぇククール、似合う?」 少し紅潮した頬で嬉しそうに、オレの前でクルリと一回転してみせる彼女。 当然のように揺れる胸。翻るスカート、チラリとのぞくその中身。………オイオイオイオイオイ!! ブチ。 「………お前なぁ、似合うとか似合わねぇとかいう以前の問題だろ? そんな服、もっと自分自身のこと自覚してから着ろよ、バカじゃねーの!?」 ゼシカが一瞬ポカンとしたのち、みるみる表情と身体を固くしていくのがわかった。 オレも多少ひどいこと言っちまったのはわかってるが、もう余裕がなかったんだよ。 仕方ない。これで少しは己の無知っぷりに気付いていただきたい。 でもさすがに彼女の顔はまともに見れなくて、プイと顔を背けてしまう。すると。 「………………何よ、いきなりッ!!似合わないもの着て、見たくもないもの見せちゃって、 悪かったわねッッ!!!!…………ッ、私、先に行ってる!!!!」 驚いて振り返った時には、ゼシカは遠くの路地に姿を消していた。 「ちょ…っオイ!んなカッコで一人でどこ行く…!」 今忠告したの何聞いてたんだよ!? 慌てて追いかけようとしたオレの背中に、じっとりとした視線と声がからみついてきた。 「………なに今の、最低だよククール…」 「まったくでガス…さすがのアッシにもそれぐらいはわかるでガスよ…」 「は。何がだよ。オレはそんなカッコするならもうちょっと周囲の視線を警戒しろって注意して」 2人は顔を見合わせて、わざとらしく大きなため息を吐いた。 「……ぼくには、”そんな服着るならもっと鏡で自分のこと見て自覚してからにしろよブス” …って言ってるようにしか聞こえなかった」 「アッシもでゲス」 「……………」 ………………………………って、ええええぇええ!?なんだよソレ!? 動揺するオレにエイトが改めて心底からの呆れたため息をつく。 「………いいから早く連れ戻してきなよ。”あんな”格好の彼女こんな広い街で一人にして、 何かあったらキミの責任だからね」 何かあってたまるか!オレは速攻できびすを返しゼシカを追いかけた。 ゼシカがどこに行ったのか皆目見当はつかなかったが、大変に目立つ彼女のこと、 人に聞いて回ったら案外と早く向かった方向を知ることができた。 というか、途中から道の端のそこかしこに丸焦げの男共が転がっていて、いい道しるべになっている。 苦笑を抑えきれないと共に、やっぱり油断ならねぇと腹立たしい気持ちになった。 小さな井戸の側で柵にもたれて外を眺めている背中を見つけて、改めてかける言葉を探した。 正直自覚したくないんだが、レディにかける言葉に悩むなんて、オレにとっちゃ 彼女以外にはあり得ないんだよな。さっきの失言だってそうだ。余裕をなくすからこんなことになる。 そーいうことちゃんとわかってんのかねぇ、このお嬢さんは…。 「…ゼシカ」 ビクッと細い肩が震える。 「悪かった。ごめんな」 「………何がよ」 「似合ってないなんて、言ったつもりじゃないんだ。ただ…」 「いいわよもうっ!アンタのお好みじゃなくて悪かったわね!!何よ、バカみたい…!!」 「ゼシカ」 「バカみたい、似合いもしないもの着て、一人ではしゃいで、私…っ」 「ゼシカ」 素早く近づいて、背中からぎゅっと強く彼女を抱きしめた。 「違うって。ここ来るまでに、バカな男達にいっぱい声かけられただろ? それだけその服が似合ってるってこと。ゼシカが魅力的だってことさ」 「知らないわよあんな連中!私は、わたしは、ククールに…っ」 オレの腕の中で、涙を帯びた声音が少しずつ小さくなっていく。 「………ッ。…………他の女には似合うだのカワイイだのいくらでも言うくせに…」 「他の男にやっても惜しくない女の子なら、いくらでも褒めていい気分にさせてあげるのが 色男のつとめさ。でもゼシカは、他の男になんか指一本触れさせたくないからな」 抱きしめた身体が小さく反応するのがわかった。 「だから本当はそんな格好してほしくないんだ」 「……意味がわかんないわ…」 「いいよ、じゃあわかんないままで」 どこまでも無防備な彼女に小さな笑いをもらすと、そっと身体を正面に向けて、尋ねる。 「許してくれる?」 すると戸惑いがちに見上げてくる、少し困ったような、怒ったような、複雑な表情。 瞳にたまった涙をそっと拭って微笑みかける。 「………ちゃんと言ってよ」 駄々をこねる子供のような言い方に、脱力するほどの愛しさを感じた。ああ、もう。 「………よく似合ってる。かわいい。世界で一番かわいいよ、ゼシカ」 「あの天使ちゃんよりも?」 「オレにとっての天使はゼシカ一人さ。ホラ、ここにちゃんと本物の…」 背中から生えるそれを触ってみせる。 「羽根があるしな」 ようやく、彼女が笑った。 改めて見るしんぴのビスチェ装備のゼシカは、本当に可愛らしかった。参ったね、これからしばらく この姿の彼女と過ごすのか。自覚の薄い無垢な彼女のままでいることを望んだからには 今まで以上に徹底的に、不埒な野郎共は排除しなきゃならねぇな。 メラの餌食になった連中の屍の山を見るに、まぁそんな必要もないのが、このお嬢さんなんだけど。 「神の道を踏み外した生臭坊主には、自分でムチを振り回すオテンバ天使の加護がちょうどいいぜ」 「……ふふっ」 どこかで言ったような台詞を呟くと、彼女が楽しそうに笑った。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/311.html
『ゼシカぱふぱふしてくれよ~』 「何言ってんのよ。絶対お・こ・と・わ・り!」 『絶対?ほんの少しの間も?何が何でもしない?』 「当然でしょ。なんで私がそんな事しなきゃなんないのよ」 『ちえっ、仕方ないな。諦めるとするか』 「…今日は随分物分りがいいのね」 『ゼシカがこんなに嫌がってるんだもんな。この前知り合ったバニーちゃんで我慢するよ』 「へ?え?」 『嫌がっているハニーに無理矢理そんな事させられないもんな。仕方ねーよ』 「ちょっと、ククール…?」 『ゼシカの巨乳も捨てがたいが、あのバニーちゃんもなかなかいいもん持っていたし、うん』 「ね、ねえ、何一人で納得しているのよ…ククールってば!」 『という訳でじゃあな、ハニー。俺はぱふぱふの柔らかな温もりを求めに行くぜ』 「ちょ、ちょっと…ちょちょちょっと。ククール、ちょっと!ストップ!!」 『何?やっぱぱふぱふしてくれる気になった?』 「……」 『まあせっかくだけど今回は遠慮しとよ。 この前のバニーちゃんなら最初から嫌がらずにしてくれそうだし』 「……じゃなくて、メラゾーマとマダンテ。くらうのはどっちがいい?」 『その二択しかないのかよ』
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/107.html
ゼシカの日記 龍の月/獅子の日(晴)*サザンビーク 今日は起きたら前髪がペッタリしてて超ブルー。どうして仰向けなのにあんなになるの? 午前中は王家の谷周辺でレベル上げをする。最近ずっと移動はキラーパンサーだから、太るのが心配。 エイトはいつもどおり上薬草の錬金。どうしてドラゴンテイルを作ってくれないのかしら! ヤンガスはどうも最近肩があがらないらしい。四十肩なんじゃない、と言ったらむっとされた。ゴメン ククールが川べりでぼーっとしてて、話しかけたら水に映る自分に見とれてたらしく超笑った!! 午後になってからは宝探しのためにルーラであちこちを回った。 雨が降ってきたので今日は海辺の修道院に泊まる。 最近ここのシスターが怪訝そうな顔をするようになった。もしかして、ちょっと来すぎなのかな?恥ずかしい。 夜にククールとふたりで屋上に行き夜風に当たっていたの。 ふたりきりで眺める海は超ロマンチックで、遠くの夜景の光が宝石みたいだったわ。 あの崖の上の街はなんなのかしら?ってククールに聞いたら、それはね、と耳元でささやいてから… 不意打ちで私にキスをしてくれたv超嬉しくてそのまま背中に腕を回してもっと~と言っていると そのまま押したお 「ククール」 般若のような顔のゼシカが立っている。 「げっ」 憤怒のオーラを感じ、ククールの視線は背後に注がれる。 「人の日記を何改竄してるのよ!!バーカ!!この大バカ男!!」 ゼシカは長い髪を力いっぱい引っ張った。 「痛いちょっと止めろ痛いすいません痛い!すいませんごめんなさい」 勢いで机の上にインクが床にこぼれた。 「わ、ちょっと!…あーよかった、日記が無事で」 ゼシカは机から日記を取り上げる。 「俺の服にかかったじゃねえか!」 「自業自得よ!私の日記勝手に見るの止めてよね!もうっ!」 「あーはいはい。…所で、もうみんな寝たみたいだからこれから屋上で夜けっ」 日記の角でククールを殴ると、頭をおさえてうずくまってしまった。 ゼシカはそれを振り返りもせず、さっさとベットに入った。 日記の後半部分はフィクションです。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/87.html
暫く呆然と同じ場所に立ち竦んでいたククールは、 泣きそうに歪む顔を伏せそのまま小さな声で一つの魔法を唱えた。 「ルーラ」 短く呪文が唱えられた瞬間、ククールのいた周囲に風が巻き起こり、 そのまま風に運ばれるようにしてククールの姿が空に消える。 そこから数メートルも離れていない位置で、 突然起きた風にゼシカは小さく「きゃ」と悲鳴をあげて目を閉じ、 エイトは反射的に風の起こった方を振り返った。 (アレは…ククール?!) ゼシカを庇うように立ち上がりながらも、 一筋の弧を描いて空の彼方へと消える姿を見て、驚きに目を見開く。 ククールがゼシカを想う気持ちにも、ゼシカがククールを想う気持ちにも、 それとなくエイトは気づいていた。 二人がその想い故に擦れ違っていることも。 (もしかして今の会話を聞いていたとしたら… どうしよう、ククールは、何処に行くつもりなんだろう) 「エイト?」 自分に背を向けるようにして立ったまま、 腕を組んで何事か考え込んでいるエイトを不審に思い、 ゼシカは声を掛けるも、深く考え込んでしまったエイトの耳には届かない。 (いちかばちか…行ってみるしか) ゼシカの声に気づかないまま、エイトは何かを決意した眼差しで空を見上げ、 そうして先程ククールが唱えたものと同じ呪文を大きな声で口にした。 ふわり、と地面に着地する手前で身体が一瞬浮き上がり、 トンと軽快な音を立てて目的の場所、ドニの町へとエイトは降り立った。 足が地面に着き切るのを待たずにその足を前方へ向けて走り出し、 町の入口を猛スピードで潜り抜ける。 そして目前にあった大きな酒場へと、 勢いを止めずに飛び込むようにして足を踏み入れたと同時に叫ぶ。 「ククールはいますか!?」 酒場では活動時間外の真っ昼間に、 突然大きな声をあげて入って来た青年に、 中にいた数人の人が振り返って入口を見る。 その視線の中に、今しが金髪のバニーガールを引き連れ、 裏口から出ようとしている赤い制服を男を即座に見つけると、 エイトは即座に駆け寄った。 驚きに見開かれた蒼い瞳が、ふい、とバツが悪そうに背けられる。 行こうぜ、とククールが隣にいるバニーガールの子の 腰を引き寄せて言いかけた声を遮って、エイトが口を開く。 「やっぱりココにいたんだ」 「……わざわざ追いかけて来たのか?悪趣味だな」 傍にいたバニーガールを腕を伸ばす仕草で、 先に外に出したあと追いかけて来た人物を振り返り、 馬鹿にしたような表情を浮かべてククールが返す。 一瞬、言葉に詰まりエイトは俯くも、首を横に振って見せた。 「…君の行動を咎めるつもりで来たんじゃないんだ。 僕は、もし今の旅が嫌になったら逃げても良いと思ってる。 いや、君にも他のみんなにもその権利はあるんだ」 真摯な眼差しで、一言一句確かめるように言い放つエイトから視線を外して、 ククールは自嘲気味な笑いを零す。 「だったら放って置いてくれよ。…そのうち、気が向いたら戻るからさ」 「それは構わないよ。…ただ、ゼシカが心配するから、 彼女には一言何か言ってあげて欲しい」 「そりゃあ悪かったな。でもオレなんかより、 愛するお前から伝言受けた方がゼシカは喜ぶぜ?」 一瞬躊躇うように言葉を切った後、 どことなく遠慮がちに言葉を紡ぐエイトが全部言い終わらぬ内に、 ククールが吐き捨てるように言い、そのまま背中を向けて一歩踏み出す。 「…やっぱり、ククールは誤解してるよ」 エイトはその後ろ姿を追いかけようとはせず、 僅かに首を傾げてポツリと呟くように零す。 「…何が?」 いかにも迷惑そうな表情を作りながらも、 エイトの台詞が気にかかった様子で、ククールが今一度後ろを振り返った。 「…こんなことを僕の口から言いたくはなかった。 だから黙ってた…けど、ゼシカが好きなのは僕じゃない」 エイトは、キュッと何かを堪えるように胸の上で拳を握り締めると、 普段と変わらぬ淡淡とした声音で告げた。 顔だけを振り返らせたククールの冷めた表情に、 一瞬僅かな動揺が走ったあと、おどけた仕草で肩を竦めて見せた。 「…冗談。さっき不思議な泉でゼシカから告白されたばっかりだろう? それとも、何、オレをからかってんの?」 「僕が君をからかったり、 君が敢えて傷つくような冗談を言う人だと思ってるの?」 作り笑いのような表情を浮かべ、 どこまでも軽く受け流そうとするククールの態度に、 エイトの表情と声に僅かな怒りが篭もる。 ククールは、虚を突かれたように目を薄く見開くと、 僅かに体勢を変えてエイトと向き直り目を伏せる。 暫しの沈黙。先に口を開いたのはククールだった。 「……いや、そんなことは、思ってない…悪い」 心底申し訳なさそうな表情を浮かべ、 口許を押さえて掠れた声でククールが謝罪する。 エイトはそれに首を横に振って答えて、一拍置いてから口を開く。 「…それより、ゼシカとちゃんと向き合って、話であげて。 君のことを放っておく訳にいかなくて、一人で置いて来ちゃったんだ。お願い」 少し物悲しいような、どことなく切なそうにも見えるエイトの表情と、 最後に付け足された短い一言に、 ククールは困ったように首を傾げた後、肩を竦めた。 「……エイトにそう言われると、オレ、何も言い返せなくなるんだけど。 オレは、確かに、ゼシカの口からエイトが好きだって、聞いたぜ?」 「きっと、タイミング悪かっただけだよ」 困惑気味に言葉を紡ぐククールに、エイトは苦笑して答える。 疑惑をきっぱり否定するように言い切られてしまい、 ククールは降参したように両手を挙げた。 直後、開け放たれたままの扉の隙間から、 ひょっこりと先程のバニーガールが顔を覗かせた。 「話は終わったの?」 一度エイトをチラリと見たあと、 ククールの様子を窺うようにして尋ねる。 「いや、その話なんだが…ちょっと用事が出来たみたいでさ、」 気まずそうに髪を掻きあげ、 悪いんだけど…と続けようとしたククールの言葉を遮るように、 立てた人差し指をチッチッと横に揺らす。 「悪いんだけど、全部聞かせて貰っちゃった。 酒場にいた他の人もみ~んな、 ククールたちの話に釘付けだったみたいよ? 女の子が店内を見渡すようにして言ったその言葉に反応するように、 酒場のあちこちからゴホン、とかウン!などと言った咳払いの声や、 止めていた作業を再開するような音が響いた。 エイトはその様子を見て、困ったように頬を掻き、 ククールは呆れたように嘆息した。 「大事な女の子がいるんでしょ?ククールにも、そんな時期が来たのね。 この借りは次来てくれたときに返してくれればいいわよ。はいどうぞ」 何故か楽しそうにクスクスと笑いながら、 バニーガールの娘は外に出るのを促すように扉を開けてみせる。 ククールはチラリとエイトを見た後、 「じゃあ悪いけど、行くよ」と誰にでも無く言葉を返して、 裏口から外へ出て数歩歩いた位置で再びルーラを唱えた。 エイトは安心し切った微笑みをたたえて、その後ろ姿を見送った。 un titled1 un titled2 un titled4
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/475.html
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/195.html
日曜の礼拝の後、サーベルト兄さんのお墓の掃除をして家に帰った私は、メイドさんたちにからかわれた。 ついさっきククールが、真っ赤な花束を抱えて訪ねてきたばかりだという。 やだもう、タイミングが悪いんだから。 お墓の周りにちょっと雑草が生えてて、それを素手で引っこ抜いて、手に着いた土をスカートに擦りつけたりなんかしたから、今はお世辞にも綺麗な格好とは言い難いのに。 ……べ、別にいいんだけどね。 旅の間は、埃まみれ泥まみれの姿を散々見られてるんだし、そもそもククールの前に出るのに特別綺麗にする必要もないわ。 なのにメイドさんたちは、私が何かを言う前に掌とスカートの泥を落とし、髪の乱れまで直してくれる。 そして声を揃えて『お綺麗ですよ、お早くどうぞ』なんて言ってくれる。 何か勝手な想像されて、勝手に盛り上がられてるんだけど、ククールがこうして訪ねてきてくれるようになって、 あの調子でメイドさんたちに愛想を振り撒いてお近づきになろうとするから、私はその毒牙を何とか阻止しなきゃいけなくて。 そうするうちに、それまで上手く接することの出来てなかった彼女たちと、少し仲良くすることが出来るようになった。 「ありがとう」 なので、私は素直にお礼を言って、二階へ上がった。 なのに、私の目に飛び込んできたのは、恭しくお母さんに花束を差し出すククールと、嬉しそうな笑顔でそれを受け取るお母さんの姿だった。 ……何よ、これ。 「ゼシカ、帰ってたの? だったらククールさんに挨拶くらいしなさい。いくら親しい仲とはいえ、礼儀を軽んじてはいけませんよ」 何よ。お母さんなんて初めはククールのこと、うさん臭そうに『あなた、からかわれてるか、騙されてるかしてるんじゃないの?』とか言ってたくせに。 今ではすっかり仲良しになっちゃって、花なんか貰って喜んだりして。 「お帰り、ゼシカ。……って、オレが言うのは変か」 何よ! ククールなんて最近は訪ねて来ても、お母さんとか使用人たちとばっかり仲良くして。 私のことなんて、ほったらかしじゃないの! 気が付いたら、格闘スキルを極めたスピードで一気に距離を詰めて、思いっきりククールをひっぱたいていた。 「あんたは女だったら誰でもいいわけ? よりによって、お母さんにまで!」 怒りたいのか、悲しいのか、一人だけ取り残された気がして寂しいのか。 とにかくこの場にはいたくなくて、私は家を飛び出した。 村の中を歩いているうちに、少しずつ頭が冷えてくる。 そうして考えてみると、いくら女好きのククールだって、軽い気持ちでお母さんを口説こうとする程の節操無しではないんじゃないかって思い当たる。 さっきだって浮ついた感じじゃなく、結構いい雰囲気だった。 ううん、さっきだけじゃないわ。 私といる時は、言葉も汚くて態度も悪いのに、お母さんの前ではすごく紳士的に振る舞ってる。 なんだかんだ言ったって貴族の出身だし、ちゃんとしてる時の立ち居振る舞いには品があるのよ。 お母さんも、そういう所が気に入ってるみたいだし。 それに、お母さんは娘の私から見ても美人だし、私よりもずっと女らしいし、胸の形も私より綺麗なんじゃないかって、思うことがある。 ……もしかして、本気? いつの間にか教会まで戻ってきていた私は、兄さんのお墓に訴えていた。 「兄さん! 私、ククールを『お義父さん』って呼ぶのだけは、絶対にイヤよ!!」 「当たり前だ、そんな呼び方されて、たまるか」 いつの間に追いかけてきてたのか、私が叩いた頬を撫でながら、ククールが後ろに立っていた。 「お前さあ、すぐに暴力に訴えるのだけは何とかしろよ。ゼシカに本気で殴られて首の骨折らずに済む人間って、多分世界中探しても五人もいねぇぞ」 わかってるわよ、自分が暗黒神と素手で殴り合えるくらいのバカ力になっちゃってるってことくらい。 でも、ククールが私を怒らせるようなことするから悪いんじゃない。 他の人が相手だったら、私だってこんな風に感情が抑えられなくなったりしないんだから! 「とりあえず弁明するとだな。マイエラ地方では、今日、五月の第二日曜ってのは『母の日』っていって、母親への感謝を表す日なんだ。一般的には赤いカーネーションを贈ることになってる」 「……私、そんな日があるって、初めて聞いた」 「らしいな、アローザさんも知らなかったし。考えてみれば、マイエラとリーザスとは海で隔てられてるんだし、文化や風習が違うってのは十分ありえたんだよな。それを計算に入れてたら、ヤキモチ妬きのゼシカに殴られずに済んだのに」 「私、ヤキモチなんて妬いてない!」 「おまけに意地っ張りときてる」 「決めつけないでよ!」 でも、それはそれとして、疑問に思わずにはいられないことがある。 「だけど、どうしてククールが、私のお母さんに『母の日』の贈り物なんてするのよ?」 「それは、近い将来、『お義母さん』って呼ばせてもらっていいかを訊くために」 ………………………………。 「お母さん、何て言ってた?」 思いがけない言葉すぎて、ちょっとピントのズレた質問をしてしまう。 「う~~~ん、要約すると、『あんな短気で頑固で乱暴者の娘を、それを承知で欲しいと言ってくれる人は他にいないだろうから、よろしく頼む』って感じかな」 ……お母さん、一体私のこと、何だと思ってるの? 「って、ちょっと待ってよ。どうして私の頭の上を素通りして、いきなり二人でそういう話をしちゃうわけ? 普通は、私に先にプロポーズとかしない?」 「誰がいつ素通りしたんだよ? オレが何度プロポーズしても、ゼシカは無視してんじゃねえか」 「私はプロポーズなんてされた覚え、一度も無いわよ。どっかの誰かと間違えてんじゃないの?」 「してるだろ、何度も。『毎日、朝起きて初めに見るのはゼシカの可愛い寝顔がいいな』とか、『オレの腕をゼシカ専用の枕にしないか?』とか、他にもいっぱい!」 ククールは真剣そのものの顔をしている。 …………バカ? いや、うん、知ってたんだけどね、ククールがバカだってことは。 だけどちょっと、私が理解してたよりも更に深刻なバカだったみたい。 「悪いけどそれ、本気に受け取る人はいないわよ。むしろ本気に受け取ったら、ヒくと思う。良かったわ、私、冗談だと受け取っておいて」 今度はククール、ちょっと傷ついたようにスネた顔をする。 ああダメだわ。数分前まで本気で怒ってたはずなのに、どうしても怒りが長続きしない。 なんてズルい男。 「それでもね、私の気持ちを先に確認するべきだっていうのには変わりないわよ。今回のことは、ちょっと先走りすぎじゃないの?」 「だってゼシカ、オレのことは好きだろ?」 言葉が継げなかった。 「オレはこの通りの絶世の美男子だから、『外見の良さを鼻にかけた中身空っぽ男』って思われがちなのは気づいてたさ。 だから必死で紳士ぶって、少しでもゼシカの周りの人間に気に入られようとしたのに、その健気な男心も知らず、ヤキモチ妬きまくられて、結構辛かったんだぜ。 そろそろ素直に言ってくれよ、『ククールが好き』だって。『他の女にイイ顔しないで』って。一言言ってくれるだけで、オレはゼシカ一筋になれるのに」 何よ、これ。何で『オレは全部お見通し』って顔するのよ。 「あんたの……そういうとこがキライなのよ」 「じゃあ、他のとこは好きなんだ」 「そういう言い方もキライよ!」 「何だよ、オレはゼシカのヤキモチ妬きも、意地っ張りなところも全部好きなのに」 サラッと言われた言葉に、胸が鳴った。 「あー、だけど、すぐに手が出るところだけは、やっぱり何とかしてもらいたいかも……って、ゼシカ? どうしたんだよ、急に俯いて。人と話す時はちゃんと目を見て話せって、いつもゼシカが言ってんだろ」 だって……顔が上げられないんだもの。多分、私、真っ赤になってる。 身長差があって良かったわ。 おかげで下を見るだけで、そんな顔を隠すことが出来る。 「下向いてごまかしても、耳も首も真っ赤だぞ」 何よ! バレバレなの!? 「だから! そういうとこがキライだって言ってるの! 仕方ないじゃない、『好き』なんて言われたの初めてなんだから!」 「えっ……オレ、言ったこと無かったっけ?」 「ないわよ、一度も」 だからって、こんなに動揺しちゃう自分が情けない。 「そりゃあ……何ていうか、ゴメン、オレが悪かった」 「謝らなくていいわよ」 「これからはもっと、マメに言うようにする」 「いいわよ、無理しなくて」 「ゼシカにはストレートに言う方がいいんだってわかったから、もう一回やり直すよ。ちゃんと顔を上げて聞いてほしい」 いやよ、恥ずかしいもの。 「ゼシカ、頼むから」 何と言われようと、無理なものは無理。 「……しょうがねえなぁ、もう」 呆れたような声と同時に、膝の後ろに腕が回され、身体を持ち上げられた。 いつもと逆で、頭一つ下の所に、ククールの顔がある。 「ば……バカバカバカ! おろしてよ! おろしてってば!」 ポカポカと頭を叩いても、肩を掴んで引きはがそうとしても、ビクともしない。 「キスしてくれたら、おろす」 この男は、よくもこういうことを、ぬけぬけと。 「……じゃあ、動かないでね」 私は、ククールの両肩に手を置き、慎重に位置を確かめる。 そして、思いっきり頭突きをくらわせてやった。 「……っ、いってえ~~~~~っ」 アホなこと言ってくれたおかげで、少し冷静になれたわ。 「調子に乗るんじゃない!」 それでも腕が緩まないあたり、しぶといというべきか、落とさずにいてくれるのは紳士だと思うべきか。 「だって、真っ赤になって照れるゼシカは可愛すぎる」 ああ、もう、また。 そんなにアッサリと『可愛い』なんて言わないでほしい。 「好きだよ」 ダメ、身体中の力が抜けてしまう。 「オレのお嫁さんになって。『うん』って言ってくれるまで、おろさない」 ズルい、こんなの。 こんな綺麗な目で見つめられて、こんな優しい声で囁かれて、逆らえるわけないじゃないの。 「……うん」 ククールは優しいから、いつもは私に勝たせてくれるけど、いざという時には絶対に自分の思いどおりにしちゃう。 私はいつも、振り回されっぱなし。 だけど、それを不思議と心地よく感じる自分を否定できない。 ふと、いつもは私の頭の上にあるククールの額が、ちょっと赤くなってるのに気がつく。 「頭突き、痛かった?」 「そりゃ、まあ、普通に」 今は私の方が高い位置にいて、それで気が大きくなってしまったのか、普段は絶対に届かないその場所に、そっと唇を落とした。 「ごめんね」 「額より、ビンタされた頬の方が痛いんだけど」 ククールは、しれっとした顔で言う。 それは、頬にもキスしろってこと? 調子に乗るなと、また怒ってやりたかったけど、こういうアホな部分を外に出してくれてないと、きっと私はククールにドキドキしっぱなしで、身がもたないかもしれない。 ククールもそれがわかってるとしたら、負けっ放しみたいで、ちょっと悔しい。 なので、何とか一矢むくいてみたくて、頬にキスするフリをして、不意に唇にキスしてみた。 そしたらククールは、今まで見たことが無いような驚き顔で、目をパチクリさせる。 私は何だか、それがとっても気分良かった。 なのに、その夜、ククールに念入りに反撃されてしまい、『この方面でオレに勝とうなんて10年早い』と言われてしまった。 何とか3年くらいで勝てるようにならないかと、精進してみるつもりでいる。 終
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/425.html
クク「そろそろ旅終わりにした方がいいかもな」ゼシ「どうして?」クク「終着点が見えたから。本当に手に入れたかったものが何だか分かったし」ゼシ「手に入れたかったもの…?」クク「分かってるだろ?」ゼシ「…んッ…!………ッ………。───きゅ、急にキスしないでよッ」クク「今更照れるなって」ゼシ「こういうのに今更も何もないでしょ!」クク「…大事なお嬢さんを随分と長い間連れましてしまった侘びをきちんとしないとな」ゼシ「お母さんに…?」クク「そう。土産も必要だな、こうなると」ゼシ「お土産?」クク「ああ。例えば俺とゼシカの2人で作る土産、とかな」ゼシ「何よ、それ」クク「ようするに新しい家族」ゼシ「!何言ってるのよ、バカッ!…あんたはいつもすぐそうやって…」クク「冗談だって。出既婚はさすがにな。将来の義母様の心象をこれ以上悪くしたくない」ゼシ「…………ずるい」クク「ん?」ゼシ「私、まだククールにちゃんとプロポーズされてないわ。なのにそんな…」クク「そうだったっけ?」ゼシ「そうよ。そういうつもりなら予定として淡々と話す前に、本人にちゃんと云うべきじゃないかしら」クク「そうか。じゃあゼシカ、俺と結婚してくれ」ゼシ「…私が断る訳ないって分かってて言ってるでしょ」クク「勿論」ゼシ「自惚れやさん」クク「でも本当の事だろ?ゼシカこそそんな風に濁してないで、ちゃんと返事してくれ」ゼシ「──断らないわよ」クク「ああ」ゼシ「…私のお母さん手強いんだから」クク「知ってる」ゼシ「いつから私とのそういうことを考えてたの?」クク「…具体的になら、両思いと分かった日からかな」ゼシ「なんで?」クク「俺は俺の隣にお前がいない未来なんて考えられない」ゼシ「………私も…、私の隣にはククールがいないと…だめなの…」クク「うん。だからずっと一緒にいよう」ゼシ「当たり前じゃない…っ」 潮時に触発され書かれた小ネタ
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/314.html
混み合う前に入った酒場で軽く酒を飲んでいた。 それほど客のいない店内で、少し離れたところにいる5,6人の男達の集団から聞こえてきた会話。 いい女だの、いい身体だの、すげぇ胸だの。それ以外の特徴からも、すぐにゼシカの話題だとわかった。 ピクリ…と神経が反応するが、ポーカーフェイスでさらに耳を傾ける。 すると、話はなんとも不穏な方向に流れ始めた。 ―――夜道で襲う、などと。 どうやら常習犯らしい。心底からの嫌悪をこめて舌打ちをする。さらに男の一人が、 その女のいる宿は調べがついている、そしてさっきどこそこにいたから、帰りはあの道を通るだろう―――と 周到な計画を話しだしたのが聞こえた瞬間、無意識に乱暴な音を立てて立ち上がっていた。 てめぇらなんかがゼシカをどうにかできると思ってやがるのか。身の程を知れ。 罵りは声に出さず、振り返りもせずに酒場をあとにした。 たいして飲んでなどいないのに、瞬間的にわき起こった異常なほどの不快感と妙に落ち着きなく騒ぐ胸の内で、 持て余した怒りと苛立ちがどんどん募っていくのを感じていた。 数時間前、街の子供達と遊んでいたゼシカ。少し魔法を使って見せると、子供達はたちまち夢中になった。 彼女はいつまででも付き合ってやる気みたいだったが、自分はすぐに面倒くさくなり、 早く帰れよ、と声を掛けてさっさとその場から退場し、酒場に向かったのだ。 今もそこで子供達の相手をしているか、周辺にいるか。もしくはすでに宿に帰ったかだろう。 頭ではわかっているのに、あの連中の虫酸が走るようなツラが脳裏から離れず、オレの悪い予感が警告を発していた。 みっともなく、焦りが足にも顔にも出ているのがわかる。でも歩みを緩めることはできない。 ようやく目的の場所に辿り着いたが、目立つ彼女の姿は周りを見回しても見当たらなかった。 もう夜も更けようとしているのに、広場にはまだ子供が数人残っている。 入れ違いか、とすぐさま踵を返そうとして、あ、さっきのお兄ちゃんだ、と叫ぶ子供に何気なく尋ねた。 「さっきのおねえちゃんは帰ったのか?」 「うん。まじっくぱわーがなくなっちゃったから、って」 ―――その言葉の重大さに気付くのに数秒かかった。 一気に全身に血が駆けめぐり、そしてすぐに血の気が引く。気付くと足は再び全速力で走り出していた。 奴らが話していたと思われる路地に入り込み、必死で彼女の姿を探す。 その間にも沸々と怒りは沸き続け、その矛先は薄汚い連中よりも、なぜか完全にゼシカに向かっていた。 普段から何度も言っているのだ。しつこいくらいに、新しい街に来るたびに、言い聞かせてきた。 しかしアイツは、オレが真剣に言えば言うほどそれを本気だとは受け取らない。オレの信用云々もあろうが、 結局意地を張っているだけだ。素直に頷くことができないのだ。だから無駄に反発する。それに自分の 力を過信している。男と女の根本的な差をわかっていないのだ、あの箱入りは。 いい加減腹が立ち、好きにすればいいと思ったこともある。誘っているとしか思えない格好をして 一人で街をフラフラすれば、そのうち嫌でも危ない目に合うだろう。オレだって護るのに限界はある。 いつでもどこでも都合良く騎士が現れてくれるわけじゃない。それを思い知ればいいと。 ―――その結果がこれかよ。 オレは目の前に転がる無様な男達の姿を半ば呆然と見下ろしながら、心の中で呟いていた。 自制など効くはずもなく、勝負は一瞬だった。殺してはいない…だろう。多分。保証はないが。 そしてすぐに興味を失う。こんな連中どうでもいい―――ゼシカは。 その時、角を曲がった奥の方向からパタパタと足音が近付いてきた。 ………オレは思わずハッと笑っていた。 ちゃんと、このタイミングで。こいつらがまさに待ちかまえていた、この道をしっかり通って。 武器を持たず、魔法も使えない、無力な女が。なんの警戒心もなくやってくる、その事実。なんて愚かで滑稽な… も し も 今 こ の 場 に オ レ が い な か っ た ら そう考えて気が狂いそうになった。 なのに抑えた口元から漏れ出るのは、押し殺した笑い声で。 沸き上がるのは安堵ではなく、激しい苛立ち。そして荒れ狂うような…愛情と欲望。 突き刺すような視線を感じて、空を振り仰ぐ。巨大な満月が、オレを見下ろしていた。 * 「―――イヤァッ………!!!!」 引き絞られた甲高い悲鳴に、ククールは唐突にピタリと手を止めた。 片手で一つにまとめあげ、抑え込まれていた両手首がふいに解放され、ゼシカは力無くズルズルとその場に座り込む。 震える手で乱れた服に手をかけしばらく呆然としていたが、次第に顔を歪ませ、両手で顔を覆って泣き始めた。 ククールはそれを無言で見下ろす。かける言葉すら出てこない。今の状況がまるで夢の中の出来事のように、 現実感を伴わないことが不思議だった。確かに自分がやったことなのに、さっきまでの自分が違う誰かのようで。 しゃくりあげ、嗚咽をくり返す小さな身体は今にも壊れそうで、あまりにも弱い。 視界に入るのは、細い手首にはっきりと残った己の指の跡。そして強引に吸い付き好きなだけ舌を這わせた、 むきだしの首筋に残る幾つもの赤い跡。ククールはようやく自分がしてしまったことをはっきりと自覚した。 それでもなぜか、謝罪の言葉を告げる気にはなれなかった。 「………………ったのに」 ゼシカが肩をひくつかせながら、 「………ごめんなさいって、言ったのに………!!」 両指の隙間から漏れ聞こえた精一杯の非難に、ククールは苦しげに目を眇める。 確かに彼女は、乱暴な行為の最中に、何度もごめんなさいとくり返した。荒い息を紡ぎながらまるでうわごとのように。 そして自分はその声には耳を向けず、無理矢理口唇をふさいで懇願にも似たその言葉すら封じこめた。 そういう問題じゃないんだよ、ゼシカ。ほらお前はまだ何もわかってない。ひどい男にこんな目に合わされても、まだ。 ククールは無言で自分のマントと上着を彼女にかけ、静かに抱き上げた。 抵抗されるかと思ったが、もうそんな気力も残っていないようだった。 腕の中で、ゼシカはずっと泣き続けた。 本当に切り裂いてしまう前でよかった。だからといってひどい行いをしたことに変わりはないが。 謝るべきなのだろう、当然だ。しかしククールは、やはりこうなってしまった責任は彼女にもあると思う。 ―――お前が悪いんだ、ゼシカ。お前がオレを狂わせるから。 ふと、夜空を見上げる。雲が月を隠し、あたりを真の闇に染めていた。 * 『満月』・・・満月は、犯罪や自殺、狂気、精神疾患、災害、出生率、狼男伝説などの原因だといわれている。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/129.html
『回復魔法が得意なお仲間がいらっしゃれば、旅の間も心強いですわね』 『ええ、本当に』 ゼシカの声が、妙にカンに触った。 オレはあいつらの仲間になったつもりはない。 オディロ院長の仇を討つために、同じ目的を持って旅をしてる連中に、少しの間、同行させてもらうだけ。 それが済めばサヨナラだ。 できることなら、マルチェロの奴に言われるまでもなく、とっくに敵討ちに出てたさ。 でも、こんなことを認めるのは口惜しいが、オレ一人の力では、あの道化師ヤロウに勝てる自信が全くない。 胸クソ悪いこと、この上ないぜ、ったく。 オディロ院長が殺された、あの満月の夜から、ありとあらゆることがオレを苛つかせる。 マルチェロ団長や、修道院の辛気臭い空気は言うまでも無く。 気をつかってるんだか知らないが、やたらめったら話しかけてくるエイト。 確かにあいつには感謝してるさ。 知り合って間もない、オレみたいな人間の頼みをきいて、オディロ院長を助けに行ってくれた。その借りだけは返すつもりなのはウソじゃない。 でも、おせっかいな人間ってのは、助けてもらう側には良くても、そいつの周りにいて付き合わされる人間にはたまったもんじゃない。せいぜいオレまで巻き込まれないように祈るだけだ。 ヤンガスのやろうも、オレを戦力として値踏みするのはいいさ。そんなのは当たり前だ。 エイトのやつには、足手まといを切り捨てるなんて、できそうにない。その辺のフォローをしてやる人間は必要だろう。 でも『ククールのやつも苦労してるよう』ってのは大きなお世話なんだよ! オレは誰にも理解されたいなんて思っちゃいない。よけいなトコ見てんじゃねえよ! それに、あのゼシカだ。 潔癖なお嬢様だか何だか知らないが、『さわられるのもイヤ』って顔してたのに、ちょっと真面目に優しくしたら、コロッと態度変えやがった。 本人、しっかりしてるつもりなんだろうけど、はたから見てると、ものすごく危なっかしいぞ、アレ。 オレみたいな人間が、迷える子羊のために眠らない訓練するわけないだろう? 信じるなよ、あんなウソ。 オレが眠らなくても平気になったのは『修道院では眠れなかった』からだ。 ガキの頃は、修道院の建物や聖像、雰囲気なんかが理由もなく怖かったし、ある程度デカくなってからは、身の危険を感じて眠らないように、眠ってても気配の変化で起きられるように自分に戒めた。 修道院みたいな閉鎖された空間にずっといると、人間は澱む。この容姿と、マルチェロ団長に目の敵にされてることで、明らかにオレは目立ってた。歪んだ感情をぶつけれられるのはゴメンだった。 ・・・違う。今はオレのことを考えてたんじゃない。 そう、ゼシカのことだ。あいつ、そのうち絶対ロクでもない男に騙されるって話だ。 だいたい、あの胸! ・・・いや、胸に責任はないな。本人の意思とは関係ないから。 あの服だ! あんな格好で出歩いてたら、誰だって誘ってると思うだろう? 声かけるのが礼儀だと思っちまうぞ。あれで身持ちの堅いお嬢様? ふざけんな! 馬の鼻先に人参ぶらさげてるようにしか見えねえよ。 そう、馬といえばアレだ。 なんで馬が姫様で、緑の化け物が王様なんだ? ホント訳わかんねぇ。 「ククールよ。お前、何やら事情がありそうじゃな」 噂をすればってやつか。トロデのおっさんが起きてきちまった。 「話せば気が楽になることもあるやもしれんぞ? まあ、無理にとは言わんが・・・」 おせっかいの仲間は、やっぱりおせっかいってことか。 ・・・ホント、勘弁してほしいね。 街道をはるばる旅してやってきたアスカンタ城は、王妃が亡くなって以来、二年もの間、喪に服し続けている辛気臭い城だった。 何なんだよ、この立て続けの辛気臭さは。どっかでバーゲンセールでもやってんじゃねえのか? オレまでついつられて、トロデ王に辛気臭い話、しちまったし・・・。 おまけに心配していた通り、早速このパーティーのおせっかいに巻き込まれるハメになった。 メイドのキラってコの願いを叶えてやりたいとかで、エイトだけじゃなく、ヤンガスやゼシカ、トロデ王までノリノリだ。 これは逆らっても無駄だな。少しでもテンション高くなる方向に自分を持っていこう。 「パヴァン王と王妃は、よっぽど激しい大恋愛の末に結婚したんだろうな。そして魔法のとけないうちに王妃は天に召された。カンペキだね。うらやましい美談だ」 「どうして、それが美談なの?」 ゼシカに訊かれて、オレは少しとまどった。 どうしてって言われてもなぁ。ああ、でも、ゼシカは恋愛経験無さそうだもんな、わかんないか。 「熱が冷めないうちに、片方が召されてしまえば、思い出の中では美しいままだろう? もっとハッキリ言っちまえば、アラが見えないうちにってとこか」 「私はイヤ・・・」 ・・・何か、いやな予感がする。 「綺麗な思い出だけなんて、淋しいじゃない。私はそんなのイヤ。いいことばっかりじゃなくてもいい。ケンカしたことだっていい。私はもっといっぱい覚えていたい。もっとたくさん、思い出、作りたかった・・・」 ゼシカの瞳は潤んでいる。 ちょっと待て。これって泣くほどのことか? おおかた、サーベルト兄さんとやらを思い出したんだろうけど、家族と恋人は違うってのも、オレさっき言ったよな? わかった、ゼシカ、昨夜睡眠足りてないだろうから、気が立ってるだろ。 ・・・でも、オレか? やっぱりオレが泣かしたのか? 思わずフォローを期待してエイトたちの方を見ると、いつの間にか点にしか見えないほど遠くまで移動していた。 逃げたな。 前言撤回だ。おせっかいヤロウじゃなくて、とんだ薄情野郎どもだぜ。 他人をあてにしようとしたオレが甘かった。 さて、この目の前の事態をどうするかだ。 ゼシカは俯いたまま、スカートのすそを握り締めている。 今までこういう場合は、軽く抱き締めて、キスの一つでもすればOKだったんだが、このコには通用しないだろうな。 それどころか、エラいめに遭わされそうだ。 何で、こんなことで悩まなきゃなんねえんだよ。そもそも女の子にかける言葉に迷うなんて、何年ぶりだ? ・・・だめだ、真っ白だ。何にも浮かばねぇ。 「あ~、その、ゴメン。悲しいこと思い出させるつもりじゃなかった。頼むから泣かないでくれ」 我ながらストレートだな、おい。でも、これ以上この状態には耐えられん。 「言われなくたって・・・」 ゼシカがガバッと顔を上げた。 「誰が、あんたなんかの前で泣いてやるもんですか。ベ~~~~だっ!」 大きく舌を出し、馬車の方まで走っていってしまう。 ・・・何なんだよ、今のは。 思わず笑いが込み上げてくる。不思議と腹は立たない。 照れ隠しにああいうことしたんだろうけど、ずいぶんガキくさいよな。あれでしっかり者のつもりなんだから、笑うしかない。 さっきまでの辛気臭い気分が、どっか行っちまった。 「何してるの! サッサとキラのおばあさんの家まで行くわよ!」 ゼシカはすっかり、いつもの調子だ。 変な女。 何ていうか、ホントに。 ・・・調子狂うよなぁ。 <終> とまどい-前編