約 579,029 件
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/44.html
「おい!ゼシカ大丈夫か?」 「駄目・・・気持ち・・・ワルイ」 この状態で部屋に戻るより、少し風に当たらせようと思い、屋上に出る。 ベルガラックの夜は本当に暑い。 肩さえ冷やさなければ風邪を引くこともないだろう。 ククールは壁を背にして座り、自分にもたれかかるようにゼシカを座らせ、脱いだ上着をその肩に掛けてやった。 「アンタは、弱虫よ」 うつらうつら、ゼシカが言った。 「・・・まだ言うかよ。酔っ払いめ。」 顔を覗き込むとゼシカはすでに眠りに落ちている。 自分が何年もかけて作り上げて来た守りの城壁。 それをゼシカは人の気持ちを汲み取るのが上手くて、さらに正直者だから簡単に崩す。 ―――愛し愛される人はいらないの、とゼシカは聞いた。 それは、自分は永遠に得られないもののような気がする。 本気で好きになんてなりたくなかった。 マイエラ修道院に入ったあの時から、ククールは他人に対する執着を捨てた。 互いを愛し通せなかった父母の、自分に対する愛情に疑いを持った。 自分の見てくれの良さに、絶えず寄ってくる他人たちにもシラけた。 そして何よりも異母兄からの拒絶は手痛かった。 一旦差し伸べた手を、引っ込められるのは、もうごめんだった。 神様は意地が悪くて、本当に欲しい物を目の前にぶら下げておいて、決して与えてはくれない。 それでも、どうしても自分は欲しがってしまう。 ゼシカが欲しくて、もう手の施しようのないところまで来ている。 「決めた。絶対にコイツ口説いてやる。絶対に振り向かせて―――ずっと守ってやる。」 「いたたた・・。アタマ痛い・・・。」 ゼシカは頭痛と共に目覚めた。 あたりを見回す。ベルガラックの宿の一室、自分にあてがわれたベッドの中だった。 部屋の中には自分の他に誰もいないようだ。日はずいぶん高くなっている。 酒場に行って、ククールに絡んだ所までは覚えていた。 ―――そのあと・・・そのあとは!?ククールは? ベッドで寝てはいたが、自力で歩いた記憶は無い。 ―――ククールが部屋まで運んで・・・くれたんだよね?きっと。 なんとか記憶を絞り出そうと四苦八苦していると、部屋の扉が開き、当のククールが現れた。 ククールは、水の入ったグラスを差し出しながら、おはよう、とだけ言った。 「おはよう・・・みんなは?」 ゼシカは気まずそうに下を向いた。 「誰かさんが二日酔いで起きられないから、今日はカジノで遊ぶってさ。」 ククールが楽しそうに答えてくれたので、ほっとしつつ、もう一つ質問をする。 「あのー、ククールさん?私、昨日何かやらかして・・・ないよね?」 ククールは少しの間黙ってゼシカの事を眺めた。そして不意にニヤッと悪魔的な笑みを浮かべた。 「あー、やらかしてくれた。ほんとに参った。」 ツカツカとゼシカのベッドに歩み寄り、二の腕を掴むと体ごとベッドに押し倒した。 そして抵抗する間も与えずに、強引なキスをした。 ククールは体を離すと、あまりの展開に呆然と自分を見つめるゼシカに言い放った。 「覚悟しとけ。ドルマゲスを倒したら、お前、絶対にオレの女にしてやるからな。」 ククールはゼシカの鼻先を指で叩くと、そのまま扉を開けて出て行ってしまった。 ―――なんで!?どうしよう!どうしよう!何かして怒らせた?でも楽しそうだった? ドキドキと跳ね上がる自分の心臓の音を聞きながら、ゼシカは何時間もククールが出て行った扉を見つめ続けた。 無題10-前編-
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/126.html
『各自、最低一つはキメラのつばさを持ち歩く』 『リレミト使用者は、いかなる事態でも、その分のMPは確保する』 『万一、パーティーが分断された場合は、速やかに海辺の教会で合流』 日々、何が起こってもおかしくない状況で旅をしているエイト君たち一行にとって、以上のようなマニュアルは必要不可欠です。 今日は、彼らの冒険の中で起こった、ある非常事態のお話。 メディおばあさんから最後のカギを受け取った一行は、レオパルドを追うのをそっちのけで『宝箱を探そう世界の旅』の真っ最中でした。 メディおばあさんも草葉の陰で泣いているかもしれませんが、それはまあ、良しとしましょう。 今までに立ち寄った町の宝箱は全て回収し、後はサザンビーク城の北にある、固く閉ざされていた扉を残すのみとなりました。 切り立ったガケの上にその扉はあるのですが、エイト君たちは道を間違えたらしく、その扉のあるガケの真下に来てしまいました。普通はこんなところまでこられないはずですが、それもまあ、良しとしましょう。 ここ数日、雨が降り続いていたので道はぬかるみ、キラーパンサーの速度も遅く、戻る道も全く見当がつきません。ここまで来たのにルーラで引き返すのも気が進みません。一行は何とかガケをよじ登れないものか挑戦することにしました。 しかし、それが不運の始まりだったのです。 まずは、エイト君が先頭で道を探します。そして、次にヤンガス氏。本当は最も重い彼が、そんなポジションで登ってはいけないのですが、エイトの兄貴の後ろを、誰にも譲る気はないそうです。 次にゼシカ嬢。最後にククールさんです。決して、ゼシカ嬢のスカートの中を覗くためではなく、最も腕力の無いゼシカ嬢が足を踏み外しても、ククールさんがフォローできるようにです。 それでも、ヤンガス氏が落ちてきたら、エイト君以外、全員道連れになるだけなんですけどね。 事件は、最後尾のククールさんがようやく岩棚に足をかけたぐらいの時に起きました。 連日の雨で水かさの増えていた川が、上流の方で氾濫したのでしょう。すぐ脇の滝から、もの凄い勢いで水が流れ落ち、川の流れを暴走させます。 すでに水は、一行のすぐ間近まで迫っています。このままでは、まだ地面からさほど離れていないククールさんとゼシカ嬢は押し寄せる水に飲みこまれてしまいます。 「早く上がれ!」 ククールさんが叫び、ゼシカ嬢の身体を上へと押し上げます。ヤンガス氏がゼシカ嬢の腕を掴み、更に引き上げます。 ギリギリのタイミングでした。 ゼシカ嬢は遅い来る水流から、かろうじて逃れることができましたが、ククールさんは間に合いませんでした。彼はあっというまに水の流れに飲みこまれ、姿が見えなくなってしまいました。 「ククール!!」 ゼシカ嬢は叫び、ククールさんを追って水の中に身を投じようとしましたが、エイト君とヤンガス氏が、彼女の身体を掴んで、決して離しませんでした。ククールさんの行為を無駄にしたくなかったのです。 しばらくして、水の流れは、やや落ち着きを取り戻しました。 一行は、急いでガケを降り、ククールさんの姿を求めて下流へと急ぎました。しかし、彼の姿はどこにも見当たりません。 あれほど人目を引く、真っ赤な服の切れ端すら見つからないのです。 一行の心に、絶望の影が落ちました。ゼシカ嬢は悲しみに耐えられず、顔を覆って泣き出しました。 ククールさんは、一体どうなってしまったのでしょう。 答えは簡単です。 彼は既に、海辺の教会のベッドの中で、気持ちよさそうに眠っていました。 スカラを重ねがけ、バイキルトで筋力増強し、バギマで水流を制御して命からがら水から這い上がったのでした。 そしてマニュアルに従って、ルーラで海辺の教会に辿り着いたのです。 ずぶ濡れで疲れきった様子のククールさんを見て『お仲間が来たら起こして差し上げますから』と申し出てくれたシスターの言葉に従って、風呂を使い、ベッドに入ったのでした。 ククールさんが目を覚ましたのは、陽が落ちる頃でした。かれこれ5時間は経っています。 シスターから、まだ仲間が到着していないと聞いて、ククールさんは驚きました。 ようやく仲間が、まだあの場所で自分を探しているのかもしれないと気づいたククールさんは、教会を飛び出しました。 そして丁度その時、暗くなったために捜索を一時断念したエイト君たちがルーラで到着したのです。 「何だよ、お前ら、マニュアル忘れたのかよ。ホントしょうがねぇ奴らだな。オレ一人でサッサとこっち来ちまって、すげえ薄情者みたいじゃねぇかよ」 ククールさんは、照れ隠しに軽口を叩きます。 「ククール!」 ゼシカ嬢が、ククールさんめがけて駆け出しました。ククールさんも、条件反射で両腕を広げて迎える体制をとります。 まるで芝居のワンシーンのような抱擁がかわされると思ったその時、ゼシカ嬢はくるりと向きを変えました。ククールさんは嫌な予感に襲われました。 そう、ラブリーガール、ゼシカ嬢の得意技、ヒップアタックをお見舞いされたのです。 しかも、ご丁寧に彼女の現時点最強武器、はがねのムチを装備状態で。 ククールさんは、軽く5mは吹っ飛びました。 「何がマニュアルよ! バカ!」 ゼシカ嬢は怒鳴りました。 ククールさんも、さすがにこれには理不尽を感じました。 命がけで守った女性から、この仕打ちはあんまりです。更には、装備してる武器で威力が変わるヒップアタックという技も、あまりに理不尽です。 今は元気になったけれど、本当に一歩間違ったら命を落としてもおかしくない状況でした。もし睡眠をとって、体力が回復していなかったら、今の一撃で死ぬところです。 「ゼシカ! お前なあ! オレが一体何したって・・・」 しかし、ククールさんはそれ以上何も言えませんでした。 ゼシカ嬢が、今度こそ本当に芝居のワンシーンのように、ククールさんに抱き着いてきたからです。 「どれだけ、心配したと思ってるのよ・・・」 もう後は涙声で聞き取れません。 「・・・ごめん・・・」 何も悪いことをしていないのに、ククールさんは謝りました。でも、もうそれを理不尽だとは思いません。ククールさんは、ゼシカ嬢の身体に腕を回して抱きしめました。 普段なら『調子にのらないで!』と怒られるところですが、さすがにそこまで理不尽なことにはなりませんでした。 終わり良ければ全て良し。 ヒドイ目にもあいましたが、ククールさんにとっては良い一日でもあったようです。 メデタシメデタシ。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/366.html
「はいゼシカ、これバレンタインチョコのお返し」「わぁ、ありがとうエイト!素敵なドレス!」「錬金で作ったから元手もかかってないようなものだし、防御も高いから一石二鳥ってことで」「あはは、ほんとね!重宝するわ、ありがとう」目の前でいきなりエイトがゼシカにひかりのドレスを手渡した時、正直オレは愕然とした。―――今日っていわゆるホワイトデーかよ!!当然何も用意していない。しかしオレも2月14日にはゼシカからチョコをもらっている。小さい、でも多分一生懸命選んだんだろうなと思わせる、かわいらしいチョコだった。チョコそのものよりそれを渡しに来た時の、「別に他意はないんだけど、あんたにだけ渡さないわけにはいかないでしょ」とかなんとか言いながら若干ほっぺを染め素っ気なくオレの手を取ったゼシカの、あまりの可愛さに身悶えた覚えがある。愛の言葉付きでも、熱いキス付きでもないただのチョコだというのに、その小さな包みを、今まで星の数ほどもらってきたチョコなんか足元に及ばないほど嬉しく思った。可愛い、だけじゃなくて、ほっとけない、だけじゃなくて、もしかしたら、好き、なのかもしれない。でもあんまり深く考えてない。結論なんか出す必要はない。オレ達は一緒に旅をしている。いつでもそばにいる。それだけでいい。―――しかし深く考えなかった結果、大変困ったことになった。あの朴念仁のエイトでさえ、金のかからない、恩着せがましくない、気の利いたお返しをしているというのに、このオレがゼシカに何も返さないとかあり得ないだろ!じりじりと内心で滂沱の汗を流しているオレに、2人がふと気づいた。「何してるんだいククール?」エイトの人のいい笑み。しかしオレはその裏に隠された意図を読み取る。だてに四六時中 行動共にしてるわけじゃねぇぞ。てめ、オレが何も用意してなかったこと知っててこういうシチュエーション仕立てやがったな!?しかし何か言い返すほどの材料がこちらにはない。ぐぬぬ、と睨みつけていると、「ねぇククール、エイトがこのドレスくれたの。素敵でしょ?ちょっと着替えてきていい?」とゼシカが嬉しそうに言ってきたので、オレは少々焦った。オレからのお返しがないことなどどうでもいいというか、考えてもいないらしい。それはそれで気に食わないというか………しかも他の男からもらったドレス着たいとか言われてもなぁ…―――グイッ「ククール?」オレはほぼ無意識にゼシカの手を引っ張っていた。「それはあとでいいからさ。あっち行こうぜ」「はぁ?」眉をひそめるゼシカの手から、バサリとドレスを奪ってエイトに突っ返す。「オレもゼシカにお返ししたいんだ」「ちょっと、何勝手に…ククール!」有無を言わさず彼女を連れて、街の中をどんどん進んだ。感情にまかせてゼシカを連れてきてしまったものの、もちろん何を考えていたわけでもない。今ここで渡せるものなんか何もない。あったとしても、そんなその場しのぎのものを適当にゼシカに渡すわけにはいかない。返すからには喜ばせたい。しかも絶対的に、だ。どうすればいいか。明晰な頭脳をフル回転して、オレは考える。「……ね、ちょっとククール、痛いよ」ゼシカの訴えに我に返り、わりぃと言いながらいつのまにか強く握ってしまっていた指の力をゆるめた。でも掴んだ手首は離さない。歩みを止め、改めて向き合う。ゼシカは呆れたような顔をしている。「なんなのお返しって。別にそんなのいいのよ、気にしないで」「でもオレはゼシカから愛のこもったチョコをもらったわけだし」「何度も言うけどね、あれは義理なの!愛なんてこもってません!」「そうかな…オレは存分に感じたけどね、ゼシカからの秘められた熱い想いを」「勝手に勘違いしてなさいよ!このうぬぼれ屋さん!」ぷんぷんと肩を怒らせるゼシカに笑いがもれる。それでも手を振り払われないのが嬉しい。そういえば最近、ゼシカはオレの差し出すエスコートの手を拒絶しなくなった。宿の部屋割りも、野宿で隣同士に寝る時も、以前はやたらとオレの存在を警戒していたのに、気付けばあまりそういうのを意識しなくなっている。仲間、としての信用。彼女の中でオレという存在は、馴れ馴れしいケーハク男から信頼できる仲間へといつのまにかランクアップしていた。それ以外の部分はよくわからない。例えば、男としてはどうだとか。ただ、そばにいるだけじゃなく触れることを許してくれるようになったっていうのは、普通に考えれば、脈はナイよりはアリだと思う。そういや変わったと言えば、態度だけじゃなくて言動も変わった。たいていは今みたく小気味いい色気のないやりとりばかりだが、時折…こう頼ってくるというか、すがってくるというか、要するに甘えてるような言動をとることがある。普段のほとんどはそんなことはない。女だからと特別扱いされるのは未だに嫌がるし、こっちから甘やかすような発言や行動をとればたちまち反発してくるのだから。…しかし、本当にたまに、ふとした瞬間に、いつもの強気なオーラが薄れる。そういう時には大概、オレのマントの裾を掴んでいる。彼女の変化に気づいていないフリをしてどうかしたか?とさりげなく尋ねると、困ったような顔で見上げてきて、何かしらの「おねがい」を言ってくる。本当にどうでもいいようなことだ。高いところにあるものを手が届かないから取って、とか。うまくいかないから髪の毛を結って、とか。嫌いなものを食べて、とか。わがままにも満たないおねがい。でもオレがそれにつけこんで、普段のようにからかったりバカにしたりしないのをわかっている、ある種 確信犯的なおねがい、だ。…それってどうなんだろう?仲間、の一言で片づけられる行為なんだろうか?いつものクセで、深く追求しようとはしないけれど。そういう「おねがい」を、ゼシカがオレ以外の仲間にしているのを実は見たことがない。遭遇したことがないだけかもしれないが、多分そうではないと思ってる。ゼシカには「オレにしか言えないおねがい」がある。それがどういう意味をもつのかはともかくとして、オレは、その事実が単純に嬉しい。彼女の願いを叶えてあげるのは当然のことだし、それによって喜んでくれるのもうれしい。笑ってくれるのが嬉しいし、ありがとうと言ってくれるのも嬉しい。―――あぁ、そうだ。思いついた。「なぁゼシカ、今何かオレにしてほしいことある?」「何いきなり?急に言われてもそんなの…ってまさかそれがお返しって言うんじゃないでしょうね」怪訝な目つきにオレは う、と声を詰まらせる。ゼシカは短く息を吐き、「あのねぇ…どうせ何も用意してなかったから今思いつきで言ってるんでしょ? 別にいいってば、気にしないで。ほら戻りましょ」そう言って歩き出そうとしたのを内心慌てて引き留め、「違うって前から考えてたんだよ」「何が」「今日いちにちゼシカのおねがいもわがままも、なんでも聞いてやろうって」我ながら信憑性のない話だなと思いながらも、なるべく本当に見えるような余裕のある笑顔で言ってみる。…と。なぜかこの一言に、ゼシカがオレの顔をじっと見上げたまま動きを止めた。驚いているようにも見える、大きな瞳。別に呆れてるんでも疑ってるんでもなさそうだ。どちらかといえば無表情に近い。なんだなんだと思いながらも、張り付けた笑みを絶やさないままその視線を受け止めた。やがてゆっくりとゼシカの口が開く。「…………ほんと?」「ほんとだよ」できる限りの紳士オーラを発揮してそう答えると、ゼシカは何かを考えるように俯いた。大通りの道端でオレに手を取られながら、しばらくそのまま立ち尽くす。―――今のオレらって、はたから見たら恋人同士に見えるのかね。宿の部屋とる時なんか、最近とみにそう見られることが増えた気がするけど。まぁ年頃の美男美女が一緒にいたら、そう思うのが普通だよな。兄妹…にはさすがに見えないだろうし。やがてゼシカがパッと顔を上げ、そこにあった表情にオレは思いがけず激しくときめいた。頬をピンクに染め、下がり気味の眉に、少し恥ずかしそうな、はにかんだ笑み。日頃、滅多にお目にかかれないゼシカの表情。でもオレはこれに「似た」表情を何度か向けられたことがある。「…ねぇ、じゃあ、ひとつだけ、おねがいがあるんだけど…」「なんなりと、お嬢様」「あの、ね…」もじもじと、躊躇して。あぁ、やっぱりこの顔だ。オレはゼシカの言葉を待ちながら、本当は彼女が何を「おねがい」しようとしているのか、頭のどこかでわかっていた。「……今日いちにち――――サーベルト兄さんの代わりに…なってほしいの」やっぱり、な。さっきの表情は、彼女がオレに「甘えて」くる時のそれに少し似ているんだ。優しく微笑み「かしこまりました」と礼をすると、嬉しそうに笑って見上げてくるキラキラの瞳。オレは、心の中でため息をついた… *「ねぇ見て!スライムのぬいぐるみ!」「へぇ、珍しいな」その日オレ達は、街中を手を繋いで歩いた。手を繋ぐのをリクエストしてきたのはゼシカの方だった。それも例のはにかんだ笑みで、恥ずかしそうに申し訳なさそうに、でもオレが断らないのを知っている可愛い狡さで。「買ってやろうか?」「えっ、い、いいよ」「いいって別に。ゼシカ実はスライム好きだろ?かわいいもんな」「別に好きとかそういうんじゃないわよっ、ただなんかこう、モンスターっぽくないから…」「かわいいんだろ?ほら」ゼシカがムキになっている隙に素早く支払いを済ませて、彼女の手にぬいぐるみを乗せてやる。しばらくブツブツと何か言っていたが、すぐに嬉しそうに笑って繋いだ手に力をこめてきた。「ありがと、ククール」オレは最大限に穏やかな笑みを浮かべて、それに答える。ささやかな買い物をして食事をして、街の外に出る。適当な草原に入り、日差しを避けるために木の幹に座って、他愛ない会話を楽しむ。街で買ったクッキーを広げて、持参したお茶を飲む。澄み渡る青空。文句のつけようのない晴天だった。「――気持ちいいね…」呟いたゼシカの声音に、「眠い?」「ちょっとだけ…」ゼシカは口元に笑みを浮かべたまま目を閉じている。オレはその手からカップを取ってわきに置くと、上着を脱いで地面に広げた。「寝ていいよ。オレはここにいるから」ゼシカはパチリと目を開けて、オレの顔と地面とを交互に眺める。そしてまた「あの」表情で、頬を染めた。「うん…」「…どうした?」「ねぇ、あのね、イヤだったらいいんだけど」それを聞く直前に、オレはまたもやゼシカの「おねがい」がなんであるか直感で悟ってしまった。「……ひざ まくら、…してくれない?…兄さんにね、してもらうと、すっごく…安心したの…」数分後、膝に頭を乗せ穏やかに眠る幼女のようなゼシカを眺め、オレは天を仰ぎ、会ったこともない“サーベルト兄さん”に思いを馳せる。――――――アンタ少々甘やかしすぎたんじゃないですかねぇ、サーベルトさん… *ふぅ、と、部屋に入るなりため息をつく。ついさっきゼシカと別れてきた。彼女は最後まで、あの抱きしめたくなるような笑みをオレに向けていた。……………………疲れた……。普段の戦闘に明け暮れる日々に比べればずっとまどろんでいたような平和な一日だったというのに、主に精神面でげっそり疲れている自分を自覚した。……そりゃ疲れもするさ。どうやら惚れてるらしい女にずっとあんな魅力的な表情を向けられながら「紳士」の仮面をかぶり続けるというのは、常に己の精神力を試されているようなもんだ。それも文字通り上っ面の仮面では足りない。左右上下右斜め上、内から見ても外から見ても、どこにも絶対にボロが出ないほどの 完 璧 な る 紳士の仮面。…まぁ言うまでもなくこの場合、オレは紳士というよりは「兄」でなくてはならなかったわけだが。己を偽るのは得意だ。それでも今回はキツかった。何しろ惚れてる女を目前にして「オレはこいつに惚れてない」と思い込むなんて馬鹿げたこと、当然したことないんだから。それでも彼女の「おねがい」は引き受けるしかなかった。彼女の中のオレの位置を貶めないために。少なくとも「仲間」という立場を保ち、これからも彼女のそばに居続けるために。自己暗示をかけ、沸き立つ心を無視し、「兄」であるなら抱えるはずのない欲望を押し殺し続けた一日。正直こんなことはもうごめんだと思った。こんなことがこれから先何回もあったら、オレは絶対おかしくなる。欲情するなと言われるならまだマシだ。だけど男として好きになってはいけないと言われるのは、心の底からキツイ。……でも多分、オレはそう望まれている。それも、ゼシカ本人に。こうもはっきり示されてしまうと、もう見ないフリはできない。ゼシカがオレに求めているもの。彼女自身はきっとまだ完全に把握できていないのかもしれない、今日一日無邪気に、残酷に、オレに向けられ続けた親愛。オレは今までの幸薄い人生の中でも味わったことのない苦しさに戸惑う。どうすればいいのか全くわからない。見当もつかない。とりあえずシャワー浴びて寝ちまおうと、いつも通り深く考えない姿勢を貫くことにした。そろそろ日付も変わろうかという時刻に、この日最後のファイナル・インパクトはやってきた。控え目なノックの音にザアッとイヤな予感がよぎり、またも直感が来訪者の正体をオレに知らせる。「――――誰だ?」「……………。……わたし……」予想通りの声に、オレはガクリと肩を落とした。今日はもうそっとしといてくれないかな。でももちろん身体は即座に動き、夜気でゼシカの身体が冷えないように急いで扉を開けている。「どうした?」そこにはまだ少し濡れている髪の毛を肩におろし、白いストンとしたノースリーブのルームワンピース(彼女の寝る時の服だ)を着たゼシカが、枕を抱いて所在なさげにオレを見上げていた。胸がドクンと鳴る。それは危うい彼女の姿と、経験上のイヤな予感によって。「…ごめんなさいこんな時間に」「いいよ起きてたし」「…」そのまま枕を抱いて黙り込んでしまった彼女に、心の奥で大きな大きなため息がもれる。あぁ…どうしたって逃れようがないか。「………冷えるぞ、入るか?」一応聞いてみる。ゼシカは見た限りほとんど悩むことなく、オレの部屋に入ってきた。風呂からあがったばかりの男と女が、お互い無防備な夜着で深夜の部屋に2人きり。オレはこのシチュエーションを絶対に意識しないように努める。考えたら終わりだ、絶対平静でなんかいられない。今から起こりうる展開を考えれば、オレは昼間とは比べ物にならないほどの理性を総動員しなければならないはずだから。―――そしてゼシカは、今オレの腕の中にいる。案の定ゼシカの最後の「おねがい」は、抱きしめて一緒に寝て、という耳を疑うようなものだった。本気で言ってるのか?そう、本気で言ってるんだよこのお嬢さんは。あぁもう信じらんねぇ信じらんねぇよチクショー。オレの腕に抱かれたいと願う女は山ほどいたが、本当に「それだけ」を願ってくる女なんて聞いたことねぇよ。一体どういう風に育てればこんなアホすれすれの天然純粋培養に育つんだよ!サーベルトさんよぉ!!彼女の華奢な身体に回した腕はガチガチだ。恋人の真似ごとなら、柔らかく優しく且ついやらしく身体を抱き込んで、やりすぎない程度に愛撫することなんて簡単なのに。ゼシカはオレの胸元に顔をうずめて小さく小さく丸まっている。わからないけど、なんとなく眠っていない感じがする。でもそれを確かめる気はまったくない。一緒に寝ていい?と小首を傾げられ、オレが引きつる笑顔でスローモーションのように頷くと、ゼシカは華のように喜んでもそもそとベッドに潜り込んだ。承諾したからには当然オレもその横に入らなければならないわけで…。ふとんをめくった時も、ゼシカの身体に触れないように身体を滑り込ませた時も、ゼシカのご要望で彼女の身体を抱きしめた(!)時も、どれだけ下半身が末期的な反応をしないように脳内を真っ白にして無心でいようと努力したか。そしてもちろんその努力は今も依然と続いている。ガチガチに力のこもった腕もその証だ。今少しでも気を緩めれば、どエライことになりかねない。これだけ拷問のような責め苦に耐えてきて、最後の最後にもっともやっちゃいけない事態に陥ってしまっては元も子もない。だから、わざわざ起きてるか、などと声をかけることは決してしない。無駄なアクションによって思いもかけず努力が水の泡になるのは勘弁だ。起きてようが寝てようが、もうこのまま1秒でも早く朝を迎えたかった。「――――――……ククール…」はじめ、寝言かと思ったくらいの小さな声のあと、ゼシカが腕の中でわずかに身じろぎした。「…ごめんね…」一瞬寝ているフリをしようかとも思ったが、どうにも切実な声に自然に返事をしてしまう。「……なにが?」お互いに囁くようなやり取り。視線にはゼシカの後頭部と剥き出しの白い肩。「………ククールに、兄さんの代わりになってほしいなんて、わたし…」消えるような語尾のあと、小さく息を吸い込む。「…失礼なことだって、わかってたの…でも、……でも、ククールが、本当に上手に、兄さんのふりを、してくれたから。―――――私の望むとおりに、してくれたから」肩が震えている。寒いのか。それとも…「――だから、私、どうしようもなくて…っ。甘え、たくて…」「ゼシカ…いいよ、オレは。…いいんだ」「だから…っ、ご、ごめ、ん、ね…っ、あり、がとう…」止められなくなった嗚咽ごと、オレはゼシカを抱きしめる腕に力をこめた。胸が痛くて、この痛みが自分のものじゃなく今のゼシカの気持ちなのだとなぜかわかる。他人の涙にこんなに心が締め付けられる自分なんて、知らなかった。ゼシカはちゃんと気づいていたんだな、オレが「わざと」そうしていたことを。サーベルトならどうするか、なんて言うか、どうするのがゼシカの最も望むことなのか。そのいちいちを考え、答えを違わず当て、ククールという人格を捨てサーベルトとしてゼシカに接し、「一日サーベルト兄さんの代わりをしてほしい」という願い以上の願いを叶えてきたことを。―――気にしないでいいんだ、そんなのは。お前の喜ぶ顔が見たくて勝手にやっただけなんだから。それでますますお前がオレにサーベルトの面影を重ねることになっても、自業自得なんだ。報われないのは慣れてるさ。自虐的な気持でもなく、今は本当にそう思った。この程度の苦悩一つでゼシカの埋めようのない寂しさが少しでも癒されるのなら、本気でなんの後悔も感じない。ゼシカは時々鼻をすすりながら、ポツリぽつりとサーベルトのことを話した。毎年ゼシカが渡す特大のチョコに対する彼のお返しは決まっていた。“今日いちにちゼシカのおねがいもわがままも、なんでも聞いてやるよ”それが決まり文句だった。オレがほとんど思いつきで口にしたのと、全く同じ内容。それでゼシカはオレに対する「おねがい」を思いついたのだという。多分、毎年のことだからそれが一番ラクだったんだろうし、何よりゼシカも物をもらうより、その方がよっぽど嬉しかった。そして毎年大きな街まで出て、手を繋いで店を見て歩き、ちょっとした欲しいものをねだり、いつもより豪勢な店で食事をした。ピクニック気分で外に出て、心ゆくまで話をして、帰る時間になるまで彼のひざまくらで眠り、夜になるとこんな風に抱きしめてくれた。「…なんて、最後のだけは、もっと小さい時の話なんだけどね」腕の中でゼシカは小さく笑う。オレは正直なところほっと安堵のため息をつき、同時に、じゃあなんでオレは今こんなメに合ってるんだ、などと考えてしまう。だけどサーベルトの思い出を語るうちに、ゼシカは少しずつ落ち着いてきたようだった。「――――本当に、ありがとう、ククール。兄さんとククールって、身長とか、声とか、あと年も…なんとなく似てるの。中身は全然似てないんだけど、でも、すごく安心するの…」「……そっか」こっそり苦笑いを浮かべる。「ククールのこと、ちょっとだけ、兄さんみたいに思ってたのかも…」もうそれでもかまわないと、本心でそう思いはじめていた。しかしゼシカの次の言葉は、諦めの境地に達していたオレの心を唐突に揺らした。「でもやっぱりそんなのいやだって、今日思ったわ」「―――――――……………………なにが?」呆けたような声が漏れる。今なんとなく喜ばしい言葉を聞いたような気がするが、確信がない。「ククールが兄さんになるなんて、いや」「…………………………なんで?」「だってそれって、今のククールがいなくなってしまうようなものだもの。 サーベルト兄さんは兄さんとしてちゃんと私の心の中にいるし、ククールはククールとして、こうしてちゃんと私のそばにいてほしいの。2人とも私にとって大切な存在で、2人とも大好きだから…」オレは返す言葉が見つからなかった。―――なんだって?今のセリフは、えぇと、…えぇと、額面通りに受け取っていいのか?「今日、“兄さんみたいな”ククールと一緒にいて、嬉しいのに、どこか寂しかったの… いつもみたいに、ケーハクで、へらへらして、いつも私のこと守ってくれる女たらしのククールが、すごく恋しかった…。…やっぱりいやだよ…ククールが、兄さんなんて…」「…ゼシカ?」「……ね、あしたも、わたしの…きし、でいてね…」すーすーと聞こえてくる寝息。オレの脳内は努力するまでもなく真っ白になった。……え~と…………………………―――――とりあえず、いつものように深く考えないことにする。鼓動が速く、そもそも惚れた女を抱きしめたまま眠ることなんて多分無理な気はするが、このままがんばって、何事もなく朝を迎えようと思う。とりあえず明日の朝いちばんに訊いてみよう。「オレのこと好き?」って。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/289.html
427 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/06/29(日) 21 49 21 ID gRUry+Uz0 最近Ⅳ(PS版…)を久々にやってて思ったんだけど、パデキアのようなイベントがあったら なんとおいしいことかと思った…。クリフトが病気で倒れて姫が薬を取りに行く、ってやつね この2人もかわいすぎて悶えたんだけど、これククゼシでやってくれたら辛抱たまらんなぁと… ククールが何かの毒か呪いによって倒れるってイベント…(願わくばゼシカをかばって、なんての希望) 呪われゼシカの反対パターンみたいなね。 クリアリをネタにしちゃって好きな人ごめんなさい 428 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/06/29(日) 22 27 29 ID T9l37XN5O 427 ゼシカのために倒れるククとククのために薬を取りにいくゼシカ…(*´д`) リメイクされる日が訪れたら是非追加して欲しいなそんなイベント クリアリも好きだけどククゼシだと萌えすぎて表情筋崩壊するww 429 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/06/30(月) 14 11 12 ID 5jiqz7Yk0 倒れたククのためにゼシカが薬か何かを取りに行くというのもいいけど 主人公とヤンガスがククのために薬を取りに行って その間ゼシカがククの看病というのもいいなw 主人公達が帰ってきて薬を飲ませてククが回復する。 クク「ありがとう、ハニー。君の看病のおかげで直ったよ」 ゼシカ「またそんな事言って…。もう無茶しないでよね!」 ヤンガス「薬を取りに行ったのはあっし達の事は無視でがすか」 それでこんな感じのやり取りがイベントクリアの際にあれば…。 430 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/06/30(月) 20 13 06 ID MkuQgmxw0 ククールかゼシカが倒れて、というのもオイシイけど、ここは敢えて 主人公を倒れさせ、ククとゼシが二人だけで薬を取りに行くシチュを推したい。 普段はつきはなした態度のククールが、男である主人公の為に必死になる 意外な一面にドキっとするゼシカとか、二人きりなせいか、普段より素直に 自分を頼ってくるゼシカを可愛く感じるククールとか、そういう感じで。 431 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/06/30(月) 20 34 12 ID kv0AiCTyO 430 そんな展開あったら萌え死ねる(*´Д`) まだそこまで距離が近づいていないククゼシで、 お互いにいつもと違う相手の様子を感じとりドキドキしてしまう。 普段だったらククが軽口叩いてそれをゼシカが突っぱねて終わるのに、 ククが「ほらよ」と手を差し出せば微妙に赤くなりながらお礼を言って手を取るゼシカに ククまで何故か照れて僅かに赤くなったりして よく分からない妙な雰囲気に2人して戸惑ったりしている様子を妄想。 432 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/06/30(月) 20 47 05 ID 9/HGKKCF0 萌える…けど、その場合主人公をかいがいしく看病するのはヤンたんという 男性ユーザー的に救いようのない展開になるわけですね…w 「ゼシカだろ常考ゴルァァ!!!」という雄叫びが聞こえてきそうだ あぁそうか薬取りに行くメンバー選べたらいいんだ 433 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/06/30(月) 21 11 57 ID 5jiqz7Yk0 430 いいなそれw 思いがけない出来事で止む終えず行動を共にする事になり 特にゼシカ側からすれば物凄い不本意だったはずなんだけど、 それでもいつもと違う状況で二人の間に何かが芽生えるという黄金パターンw 432 薬取りメンバーを選べるとして、 「兄貴の看病はあっしに任せてくだせい!」 ヤンガスに看病を任せますか? はい →いいえ 「兄貴を置いていくなんてあっしにはできないでがす!」 とヤンガスが最初駄々を捏ねそうw それでも断り続けるとククールに引きづられながら しぶしぶ薬を探しに行くヤンガス…。 434 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/06/30(月) 23 19 11 ID dLmf3l4AO 自分がプレイヤーなら迷わず看病はヤンガスでククゼシ冒険させるけど、 それとは別にゼシカが主人公の看病で残った場合 その事でククがヤキモチとか妬いたりするといいな 主人公の病気も心配だけどゼシカと2人きりで変な気起こさないかとか そういう心配もして余計に焦り急いで薬を取りに行く 436 名前がない@ただの名無しのようだ[sage]2008/07/01(火) 19 38 24 ID HdA2AUVoO 薬を取りに行くさいか行った帰りに ククゼシが2人きりで遭難するイベントとかも発生するといいな MP切れで魔法も使えない状態で拠り所がお互いしかいないとかだと尚よし 437 [[かなり序盤かと]][sage]2008/07/02(水) 01 38 50 ID eXp+Nt020 ヤンガスに涙目ですがりつかれて、平静でいられる人なんてそうそういない。 SS SS2
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/113.html
ゼシカ 「昔、サーベルト兄さんに聞いたんだけど、とある国ではお盆っていうものがあるんだって」 ククール 「お盆? 何だ、それ?」 ゼシカ 「亡くなった人が、年に一度、こっちの世界に還ってくるんだって。私も兄さんに会いたいな」 ククール 「・・・オレがいるだけじゃ、淋しい?」 ゼシカ 「やだ、違うわよ。兄さんにククールのこと紹介したかったの」 ククール 「・・・ああ、そうだな。オレも挨拶したかったよ。ゼシカは必ず幸せにしますって」 ゼシカ 「・・・ありがと」
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/57.html
「もうっ!なんでこんな時に来るのよぅ!今日はお化粧手抜きなんだからねっ!」 ドニの町の酒場に大きな声が響いた。 久々に地元へ帰ってきたククールに、酒場のバニー達が次々と彼に言い寄る。 「ククール、会いたかった~!」 「ばか、来るのが遅すぎなのよ…」 「次はいつ来てくれんのよぅ?!」 などなど、バニー達は、甘えたような怒ったような目でククールを可愛く睨みつけていった。 「わかった、わかったって…ったく。しかし俺も罪な男だよなぁ」 ククールは軽くバニー達をたしなめた後、カウンターの席へ腰掛けた。 「相変わらずモテモテだこと」 隣に座ったゼシカが皮肉っぽく言った。 「妬いてくれてるのか?嬉しいねぇ」 渡されたブドウ酒を一口飲んでククールは言った。 「バーカ、違うわよ。でも…すごいよね」 「ん?なにがだ?」 神妙な顔つきでゼシカは続けた。 「あんな風にストレートに気持ちを出せるのって。ほんとにククールが好きなんだなーって」 ゼシカの言葉にククールは肩をすくめる。 「あれはあいつらのセールストークだっての。…それにお前だって俺にキツイことずばっと言うじゃねえか」 「種類が違うじゃない。だから…えーと…好きとか、そういうのを言えるのがすごい…ってこと」 「ふーん。うらやましいのか?」 ククールは何の気なしに言ってブドウ酒を飲み干した。 「べ、別にうらやましくなんか…ないわよ」 心の中を見透かされているような気がして、ゼシカは目をそらした。 本当は好きな人に…ああやって気持ちを伝えられることがちょっぴりうらやましいけれど。 けれど彼女達のように…ククールに面と向かって自分の想いを伝えるなんて、恥ずかしくて絶対できっこない。 「でもさ、俺達も戦いでいつ死ぬかわかんねぇんだから、言いたいことは言っといた方がいいと思うぜ?…例えば俺なんかにさ」 ククールはいつもの調子で前髪をかきあげた。 いつもならここでバカだのアホだの魔法だのが飛んでくるのだが、 「…他の娘に先に言われちゃってるんだから仕方ないでしょ…バカ…」 ゼシカはひとりごとのようにブツブツと言った。 「え?なに?」 「…なんでもないわよ」 ゼシカはぶっきらぼうに答えた後、唇をとがらせた。 宴もたけなわという時間だったが明日に備えるため早めのお開きとなり、一行は宿屋へ戻ることになった。 宿屋への帰り道。木々の香りを含んだ夜風が心地よい。 空には満点の星が輝いていた。 「あぁ、ゼシカ」 宿屋に戻る途中、後ろから急にククールに呼び止められた。 なんだか嬉しそうにこちらへ向かって歩いてくる。 「なに?」 ククールはつかつかとゼシカに近寄ると、エイトとヤンガスが宿に入ったのを確認してからさらにゼシカに近づいていった。 そしてそのまま、ゼシカの華奢な体を抱きしめた。 ククールのマントが結った髪と一緒にふわりとなびく。 「ちょ、クク…!?」 夜風のにおいと、ククールの少し男っぽい香りがゼシカの鼻腔をくすぐった。 「さっきの、サンキュな…嬉しかったぜ」 一度ぎゅっと強く抱きしめた後、ゼシカの耳元でククールはそう囁いた。 顔を見ると心底嬉しそうな顔をしている。それはククールらしからぬ笑みであった。 「さ、さっきのって…」 「他の娘に先に…てな」 「な、聞こえて…!」 唖然とするゼシカの唇をククールは人差し指で押さえると、いたずらっぽくウインクをした。 「しかしもうちょっとムードのある告白できなかったのか?ありゃ愛の告白でもなんでもないぜ?」 「な、なんでっすってぇ!」 呪文を唱える体勢に入ろうとしたが、ククールに抱きしめられているので構えさえ取れない。 「もう!バカククール!!離しなさいよぉ!」 しばらく顔を真っ赤にしてジタバタしていたゼシカであったが、ククールの力にかなうはずがなかった。 「ったく…俺より先にコクるなよな」 「え?」 一瞬、時が止まったような気がした。 「…なんでもねぇよ」 ククールはお返しとばかりにそう言うと、ニヤリと笑ってきびすを返した。 「ちょっとククール!それどういう意味!」 「さぁな?もう遅いからさっさと寝ろよ、マイハニー」 怒鳴りながらも赤面するゼシカを尻目に、ククールは再び酒場の方へと消えていった。 「もう…!バカククール…!」 ゼシカは火照った頬を手のひらで冷やしながらそう言った。 そして、ひらひらと手を振る赤い後姿に「いーっっ」としてみせた後、宿屋の扉に手をかけた。 互いに、明日の朝がなんだか待ち遠しくなるような夜だった。
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/282.html
164 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/05/19(月) 23 27 40 ID HDH2uzoJ0 ククールってゼシカの怒りには耐性があるけど、ふいの涙にはものすごく …………………………………も の す ご く 動揺しそう 165 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/05/20(火) 18 44 20 ID 0OtZyeBNO 確かに動揺しそうw ゼシカが怒っている時は適当にかわすのに、 泣かれた途端おろおろと慌てて 普段女に囁くような気の効いた台詞が全く言えなくなったりしてw 166 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/05/20(火) 20 11 19 ID saYa7QK3O ゼシカって滅多に泣かなそうな感じだから余計動揺しそう 167 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/05/20(火) 22 36 47 ID Vy9jXhG90 あえて、必死に我慢しててまだ泣いてないけど、泣く直前状態のゼシカを前に うろたえるククールに一票入れたい。 168 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/05/20(火) 22 47 42 ID 6K9pitU/0 そしてそんなゼシカを前に堪らなくなり、思わず力強く抱きしめてしまうに一票。 169 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/05/20(火) 23 15 04 ID DSz2jfJCO ゼシカの温もりを堪能するように暫くぎゅーっと抱きしめた後に 戸惑うような声でゼシカに名を呼ばれた事で 始めて自分のしている事を自覚しさらに動揺するククに一票入れさせてもらう 170 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/05/20(火) 23 51 52 ID 6QFrC3Bu0 そしてお互い顔を見合わせてなぜかカーッと赤くなったあと、 なんとかいつもの調子を取り戻したゼシカが「…いっ、いつまで触ってんのよ!! この色ボケバカリスマ不良僧侶!!!!メラーッッ!!!!」「ギャーッ!!」 …というオチに一票 171 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/05/21(水) 00 59 42 ID iuD6RNEfO 167からの流れにワロタw オチまで…w 2人ともまだ自分の恋心を自覚していないって感じで萌えた
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/304.html
ククール「駄目だ、どんなにテンション上げようとしても 凍てつく波動で無効にされちまうぜ」 ゼシカ「嫌な戦い方してくるわね、ドルマゲスの奴…!」 ヤンガス「テンション上げは諦めるしかないでげす」 主人公「僕にいい考えがあるよ。ククールにしか有効でないけど…」 ヤンガス「さっすが兄貴!で、いい考えって何でげすか?」 ククール「俺にしか…?もったいぶってないで早く言えよ」 主人公「いや~…ゼシカがやってくれるかが問題なんだよね」 ゼシカ「何言ってんのよ。こんな時なのよ?私にできる事ならなんだってするわ!」 主人公「分かった、ありがとうゼシカ。じゃ、早速 ククールにキスして!」
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/510.html
強行軍のいちにちが終わり、一行はようやく町の宿屋にたどり着いた。皆 疲労困憊だ。取れた部屋は、1人部屋が二つに2人部屋が一つ。2人部屋の方がベッドが二つある分若干広いが、のんびりできるという意味では格段に一人部屋の方が良い。普段なら一人部屋は優先的にゼシカに回され、それ以外はじゃんけんで決められているが、ゼシカが今日ばかりはとても疲れたのは自分だけではないから、特別扱いはやめてほしいと頼み、4人でじゃんけんをすることになった。勝ったのはエイトとヤンガス。最初からどちらでもいい、と言っていたククールは二人部屋に文句もなく、ゼシカも了承した。2人で部屋に向かいながら、「はぁーーっ、今日は久々にベッドで寝られるね。何日ぶりだろう、…4日くらい?」「…5日」「よく覚えてるわね。あ、この部屋だわ。…あぁ、早くお風呂入ってゆっくりしたい…」安堵のため息をつきながら扉を開いた瞬間、ゼシカは突然後ろから抱きすくめられ小さな悲鳴を上げた。扉が閉まる音と同時に、下から胸をガシリと強く掴まれる。「ちょ、ちょ、ちょっと!?」「あ~~~~~…久々にさわれた…」「な・に・いってんのよッッ!!はなしてよこの変態ッ!!」いきなり盛るにもほどがある。いつもの悪ふざけの延長なら、大概ゼシカの怒りの鉄拳でこのテの行為はすぐに終わる。ゼシカはすぐさま不埒な手をどかそうともがいた。…が、離れない。「……~~ちょ…っと。ヤメてよ…っふざけないで」「ふざけるほど余裕ねぇよ…」もがく間にもククールの指は巧みな動きでゼシカの胸を揉みしだきはじめている。一瞬先端をかすめた快感に、思わずゼシカは身を固くして耐えた。「もう!やめてよ本気で怒るわよ!?」「いいよ」「…っ、いいって…」「それでもヤるから」「な―――ンう!!」後ろから首を捻じ曲げられて口唇を奪われ、ゼシカは抵抗する力を奪われる。ククールは片手でゼシカの顎を固定し、片手は器用に上着とビスチェをずり下げ、その白く大きなふたつのふくらみをさらけ出していた。すぐさま まだ柔らかい乳首を摘まみ、強引な愛撫で立たせる。「ん、はっ…やめ…、やめてククール…!」「5日だぜ…オレがどれだけツラかったか…」「い、や!はなして、だめ!」「人の気もしらねぇでプルンプルンプルンプルン誘惑しやがって…」「~~~~揺れるのは私のせいじゃないでしょっっっ!!!!バカ!!!!」涙目で叫ぶ声にも聞く耳はもたない。 耳元で繰り返される、荒い息。ゼシカは本気で焦った。このままだと、そのうちベッドになだれこんで「して」しまうのは想像にかたくない。本当はゼシカにも異存はない。ククールほど切羽詰まってはいないけれど、ゼシカも本当は、今夜したいと思っていた。野宿でするのは色々と無理がある。何度かククールが挑もうとしてきたけど、本気で教会送りにするつもりで抵抗したきた。だから5日ぶりのベッドで、二人きりで、今夜ならなんの不満もなくククールの求めに応じようと思っていたのだ(どちらかが一人部屋になっても、どうせ「しに」行くのだから問題はなかった)。…問題なのは、乙女の矜持。――――ゼシカはどうしても、お風呂に入ってからしたかった。「おねがい、ククール…あ、あとで」「なに?」耳の後ろやうなじを這いまわる舌に感じないよう、歯を食いしばる。「あ…っあとで、…する、から。いっぱい…。ね、だから、今は」「あとでもするよ。でも今もする」「ちょっと!!」いつのまにかコルセットも引き抜かれ、緩んだスカートがバサリと床に落ちた。…いつもじゃ考えられないほどの急展開。ククールは前戯というには長すぎる必要以上の愛撫で、ゼシカの性感を極限まで高ぶらせ、泣かせ、乱し、体中をさんざんいじめつくしてから本番行為に突入するのが好きだった。ことさら下肢への攻めはなかなか始まらず、ゼシカがなんらかの意思表示で自らねだるまでそう簡単にさわってはくれない。だから夜気に晒された下肢にククールの手が入り込んできた時、本気で驚いた。心の準備なんか、当然何一つできていない。いつものようにまだまだ延々と、弱い胸を弄られるとばかり思っていたのだから。ククールの指は下着の上からそこを引っ掻くようになぞった。「―――イヤッ!!」「足開けよ」「おねがいだから、あとにしてっ…!お願い…」「あとだろうが今だろうがおんなじだろ?」「お、おふろ…入りたいのよ…汚い、から…」泣きたい気分でゼシカはそう告げる。毎日身体は拭くし、泉で水浴びもしたけれど、やっぱり湯ぶねに浸かって隅々まで綺麗にしたかった。そうしてから、――したかった。久々だから、ククールにたくさんキスしてほしかったし、たくさん舐めてほしかった。そんなゼシカの本心が伝わったのか。きょとんとしていたククールは悪い笑みを浮かべ、「…汚くねぇよ。ゼシカの匂いが残ってる方が興奮する」「――やめてよ!そういうこと言わないで…っ」「ホントだぜ」引き寄せられ、素肌の腰に硬くて熱いものを押し付けられて、ゼシカは平静を見失いそうになる。「…ッ、い、や、なの…ほんとに…」「でも濡れてきてる」「いや…ぅん…っ」下着の上部分から指が滑り込み、茂みを通り越していきなり肉をかき分けてくる。相変わらずくすぐるように胸の先端をなぞり、そうかと思えば時折全体を激しく波打たせて揉みあげながら、わざと揺らして芯を刺激する。今一瞬でも気を抜けばたちまち官能の波に飲み込まれそうな自我を、ゼシカはなんとか必死で保とうとした。 「ね、クク…っ、一生のお願いだから…ねぇ、あ…ぅ」「じゃあオレも一生のお願いだから、今ヤらせて」「バカア…ッッ!!」我慢したのに、ククールが弄る下半身から聞きたくないような恥ずかしい濡音がした瞬間、全身の力が抜けたような気になった。感じないようにするって、なんて難しいんだろう。ククールの指がイヤラシすぎるからだろうか。それとも…私が?いつのまにか開かされた足はカクカクと震えはじめる。突然くるりと身体の向きを返され、相変わらず後ろから拘束されたまま、部屋の扉を目前にする格好になる。「…な、なに?」「今ゼシカがエロい声出して喘いだら、外通るヤツに丸聞こえだな」「…………ッッ!!!!」「どこまで我慢できる?」羞恥を煽られ体中がピンクに染まった状態で、ゼシカの理性を打ち壊すべくククールの指が本格的に動き始めた。もはや止めどなく溢れてくる体液を2本の指で掻き出しながら、同時に内壁を責め、ぬるぬるとした指で突起を容赦なく嬲る。「アッ!イ、――-んぅぅっ!!ん、ん…ッッ」完全に硬くなった胸の頂きを強くねじられ、摘ままれ、下から絞るように揉まれる。震える腰に後ろから己の欲望を押し付け、その存在をこれでもかと意識させる。ククールの口唇は彼の愛する彼女の白く華奢な肩に幾つも痕を残し、歯を食いしばるゼシカの口を開かせるため何度も強引な口づけを交わした。「ふ、ん、んぅ、は…っ、あ、あ、あ、あっダメ、クク、いや、た、立てな…っ」「…ベッド、行く?」ククールの悪い笑みにも気付かず、ゼシカは必死に頷く。これで合意のうえのセックスとなった。ここからはもう、イヤとは言わせない。…もっとも言ったってヤるものはヤるのだが。ククールがそれでは、とゼシカを抱き上げるために体制を変えかけた。その時。―――ガチャッククールとゼシカと、…扉を開けたトロデ王の時が、数秒ほど止まった。完全なる情事の最中。目の前に現れた突然の来訪者。2人とも声が出ない。さすがのククールも脳が停止している。ゼシカに至っては泣き濡れた瞳が零れ落ちそうに最大限に見開かれている。―――――――いたたまれない沈黙。トロデ王だけが何事もなかったようにそんな2人を見上げ、憐れむでもなく、嘆くでもなく、呆れるでもなく、なんというか…何かを悟りきった諦観あふれる表情で、ボソリと呟いた。「・・・・・・・・・・・若いのぉ」そして ふぅ、と小さなため息をついてパタンと扉を閉めていった。あとに残されるのは、本番もまさにこれからという若さあふれるバカップル。しばらくしていきなり部屋の中から、「――――ゴルァおっさん!!!!今ゼシカのおっぱい見ただろ!!!!!!!!」「そういう問題じゃないでしょ!!!!!バカーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!」…という雄たけびが聞こえたとか聞こえなかったとか。 *
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/330.html
「…いいですかククールさん。これはアルバート家に婿入りする貴方にとって重要な任務です。 アルバート家の一人娘の命に関わることなのですから。決して失敗してはなりませんよ」 キリリと、ゼシカそっくり(いや遺伝子的には逆だろうが)の凛々しい表情でキッパリと そう告げたアローザさん…つまり近い将来のオレの義母は、普段キッチリと結わえられている ヘアスタイルをほつれさせ、お召物もいささか乱れた状態で、ゼシカの部屋の前に仁王立ちしていた。 ボロ…ッ という擬音が漂いそうなその姿に、オレは思わず 「…ホイミかけましょうか?」 と尋ねてしまったが、 「け っ こ う で す 。わたくしではなくあの子をどうにかなさい。これは代々ゼシカの父、 サーベルト、そしてわたくしに引き継がれてきた、とても困難な任務なのです。婚約者ともあろう者が これしきの難関を乗り越えられなければ、あの子の夫になる資格はないものとお思いなさい」 「…了解しました」 オレは大人しく頭を下げた。 眉間にしわを寄せたままふぅ、と大きなため息をついて階段を降りていく、やっぱりかなり ボロボロな雰囲気を醸し出す背中を見送っていると、「まったく、体ばかり大きくなって…」 という嘆きが聞こえた。 オレは閉ざされたその扉を振り返る。 ―――さぁて、どうしたもんかな。 ×× そろそろ冬も本番かというこの寒い時期。アルバート家にはすでに年中行事と化している、 とある一大イベント…一大騒動…があるのだと、メイドのメイちゃんが教えてくれたのはつい最近だ。 サーベルトがいた頃はそれでもまだ穏便になんとかコトが運んでいたのだが、サーベルトの死後は、 アローザさんとゼシカが髪を振り乱して取っ組み合いのケンカを繰り広げるという、 考えただけで恐ろしい…メイド達にとっても頭の痛い行事なのだと彼女は語った。 父、兄、母…と担ってきたその役割を、ゼシカの婚約者となったオレが今年引き継ぐことになったのは 当然すぎる流れで…というか誰もこんなお役目引き受けたがるわけない。要するに押しつけられたわけだ。 暴れる、殴る、蹴る、ひっかく、引っぱたく、さらに母親相手にはさすがに使わなかった魔法も、 オレになら躊躇なくぶっ放してきやがる。おかげで満身創痍だよこのバカ。 しかしまぁ、男の力技でもって強引に「現場」まで連れてきてしまえばあとはどうにでもなるだろうと 思っていたので、オレは殴られても燃やされても、とりあえずなんとか彼女をここまで連行してきたわけだ。 「イーーヤーーーーーアアアアァァァァァ!!!!!!!ヤだああ!!!!!!」 「ハイハイハイハイわかったわかったからちょっと落ち着け、って痛エッ!!」 「ヤだヤだ絶対イヤなの!!いやいやいやいや離してバカバカもおおおおお!!!!!!」 「いー加減大人しくしろっお前はッッッ!!!!!!!」 目の前で医者とナースが、苦笑するしかない、といった感じで気まずい笑いをこぼしている。 手元には一応、注射器の準備。一向にそのタイミングが訪れないから困っているのであるが。 この季節、油断するとあっという間に村全体に蔓延してしまうインフルエンザ。その予防注射、である。 ゼシカが、この世で3本指に入るほどダイッキライ!なものの中にランクインしているのがこれだ。 はじめて聞いた時は耳を疑った。虫はおろかそんじょそこらのモンスターにもひるまないコイツが、 ガキじゃあるまいし注射が苦手?そりゃ得意なヤツもいねぇだろうが、むしろ「これくらいで病気が 防げるなら安いものだわ!」とか言いそうなのに。 …しかしこの嫌がり方はハンパねぇ。無理やり連れてこられた診察室で、 逃げないように捕まえていたはずのオレの身体にいつの間にかしがみつき胸に顔を埋めて、 時折オレを無作為にボカボカ殴りながら、ひたすら半泣きでヤダヤダと駄々をこね続けている。 う~~~~~~~~ん。 ……かわいいなコノヤロウ。 イヤイヤそうじゃなくて(殴られながら悦ってる場合じゃない)。 この凄まじい嫌がりようを見るに、なんつーかとにかく注射ってもんに漠然とした恐怖感があるみたいだな。 トラウマでもあんのか?それとも尖端恐怖症とかそんな感じか。ゼシカみたいに豪胆な性格だと、かえって あーいうほっそいものが自分の体に刺さるという事態に、無条件でビビっちまうのかな。 とにかく、“ゼシカに注射を受けさせる”という任務を遂行しないことには、 オレの将来におけるアルバート家での立場はないに等しい。ここは腹をくくるしかない。 しかしなだめすかすのも一苦労だなこりゃ。 …とりあえず想像の中のサーベルト義兄さんのマネっこでもしてみるか?とっておきのスマイルで… 「ゼシカ、ほんの一瞬だから、な?ちょっとだけ我慢しよう?」 「イヤッッッッ!!!!!!!!離してよバカぁ!!!!!!!!」 …ダメか。てかオレにしがみついているのはゼシカの方なんですけどね。 「ほらオレがついててやるから。すぐ終わるって」 「イヤなの!!怖いの!!!!」 「怖くない怖くない」 「痛いのイヤー!!」 「痛くないって」 「ヤだヤだ怖いこわい!死んじゃうーー!!!!」 あーだこーだと問答をしてゼシカの気を逸らしながら素早くドクターに目配せをすると、 ドクターは隙をついてゼシカの腕をとり、袖をまくった。 すかさずナースがそれをがっちりと固定する。オレもなんとか暴れる体を押さえようとするが、 腕を捕られたことに気づいたゼシカはますますキャーキャーと大騒ぎして、危ないことこのうえない。 針を刺すんだからこんだけ動いちゃ問題だろ。変な風に刺さるのはごめんだし、リテイクはまずきかない。 「………ふぅ」 オレはひと息ついた。これはもう、やり方を変えなくちゃなるまい。手段を選んでる場合じゃねーな。 恋人として、婚約者としてのオレにしかできない裏技。 もちろんこのやり方は、自分にとっても大いに有意義な方法である。 「ゼシカ」 できうる限りの落ち着いた声音でそっと名を呼ぶと、グスグスと泣きながらオレのシャツの胸元を グチャグチャにしていたゼシカが、散々泣きわめいてさらにぐちゃぐちゃになった顔をあげた。 真っ赤にはらした目と、最大級の不満顔。…まったく、ホントにただの子供だ。かわいすぎる。 オレはその頬を両手で引き寄せ、すかさず額に口づけを落とし 「………怖がってるゼシカ、カワイイ」 甘い囁きと同時に今度は口唇をふさいだ。 ビキッッ!!…と音を立てたように硬直したゼシカ。その時間を少しでも引き延ばすために、 人前でするには少しばかりイキすぎた濃厚なキスをしなければいけなかったわけだが。 その間、ゆうに10秒。 腕のいいアルバート家お抱えのドクターは、この機を逃さずあっという間に処置を済ませた。 口唇を放した時には、すでに針を抜いたあとに、ナースがガーゼをしっかりと貼り付けていた。 呆然とするゼシカに、オレはにっこりと笑う。 任務完了。 ×× 「…ホイミ」 情けない溜息をつきながら、オレは自分の顔に呪文を唱える。 あのあと恐怖とか羞恥とかでわけわかんなくなったゼシカに、思いっきり横面ひっぱたかれてこのザマだ。 そんな彼女はというと、ベッドに座っているオレから一番遠い対角線上にペタリと座り込み、 枕を抱きしめて背を向けている。細い肩は丸まって、無言の非難をぶつけているようだ。 「…ゼーシーカ。ごめんなって。お医者さんの前であんなことしたのは謝るから」 「…バカ」 「ごめんな。でも注射なんて知らないうちに終わっちゃっただろ?」 「……………………ホントにイヤだって言ったのに」 思いきりすねた声。 「仕方ないだろ、予防接種はしなきゃいけねぇんだから。村のためにもさ」 「…怖いものは怖いの」 「お前が先導しなきゃいけない立場だろ?わがまま言わねぇの」 「子供っぽくたっていいもん…」 ありきたりな慰めじゃ全く応じようとしない。嫌がりように年季入ってるだけあって、 理性や訓練で克服できるものではないらしい。まぁ誰にだってオレにだって、何をどうしても これだけは勘弁してくださいお願いしますというものがあるものだ。 それを毎年 選択肢なしで強引に強要されているのだから、確かにかわいそうかもしれない。 「でもなぁ、ゼシカ…。オレもお義母さんも、何もお前を泣かせたくてやってるんじゃないんだぜ?」 「わかってるわよ…でも」 「ゼシカがイヤがること無理やりやって嫌われたって、ゼシカがひでぇ風邪ひいて苦しむのを見るぐらいなら、 それでもかまわないんだよ。オレも、お義母さんも」 愛情があるからこそなのだと。 やさしい笑顔でそう言うと、ゼシカは枕から顔をあげ、もそもそと戸惑いがちに身体をこちらに向けた。 怒ってるような困ってるような、まだ文句は言い足りないけれど、でも、という顔。 オレはそんな彼女に腕を伸ばしそっと手の平を差し出した。 「――-おいで」 いいかげん機嫌直して、触れたい。 ゼシカはしばし躊躇したあと、ベッドの上をひざで少しずつこっちに進んできた。 おずおずと伸ばされた指先が触れた瞬間、有無を言わさず引っ張ってその体を抱き込む。 すっぽりと納まったゼシカは、ふう、と小さな吐息をつきながら、オレの背中に腕を回してきた。 「…ククールの、バカ…」 「機嫌直ったか?」 「なによ、こんなのでごまかされないわよ」 「ハグじゃ足りない?じゃあ…」 華奢な身体を抱いたまま、二人して当たり前のようにベッドに倒れこみ 「お医者さんの前じゃ絶対できないことをしてあげよう♪」 ウィンクするオレに、ゼシカは真っ赤になって絶句している。かわいすぎる反応に思わず吹き出した。 ―――そういえば。 「しっかしお前、注射打つ時に“怖い、痛い、死んじゃう”ってさ。まったくおんなじこと言うんだもんなぁ」 「そ…っ!!そんなこと言っ…?!」 「言ってたぜー何回も」 恥ずかしさのあまりますます赤くなるゼシカに、笑いを抑えることができない。 「…でも…おんなじって?なんのこと?」 「オレがはじめてゼシカに注射した時も、まったくおんなじこと言ってた」 「は?ククールが、私に注射?なんのことよ?」 この程度の比喩も通じない無垢なゼシカが愛しすぎて、つい悪ノリして耳元で囁く。 「――-痛いけどキモチイイ、ゼシカが大好きな注射」 今から打たせていただきます、と言ったら、ようやく理解したのか全身全霊でバカ、と怒鳴られ またも平手張りされそうになったので、その手を掴んでシーツに押し付けて、かわいい口唇も さっさと塞いでしまった。 お義母さん、引き続き、任務続行します。 …あーオレあんまりかわいいゼシカが見れたんで、ちょっと調子乗ってるかも。 まぁ、いいか。