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+ 〔人類の脅威〕特性持ち一覧 Class Rare Name 剣 4 葛飾北斎 分 4 メカエリチャン メカエリチャンⅡ号機 降 5 アビゲイル・ウィリアムズ 葛飾北斎 楊貴妃 アビゲイル・ウィリアムズ〔夏〕 ヴァン・ゴッホ ジャック・ド・モレー 詐 5 オベロン エネミー - 讐 - ゴルゴーン(7章) - スペース・イシュタル(バトル・イン・ニューヨーク 2019) ? - 量産型メカエリチャン ? - 空想樹の種子 ? - 空想樹 月 - BBホテップ(2018夏イベ敵?) 降 - BBB(2018夏イベ敵) 分 - 羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満 槍 - アルビオンの竜骸 剣 - 魔犬バーゲスト 狂 - 祭神ケルヌンノス 詐 - オベロン 狂 - ダゴン 術 - 暗黒の仔山羊 降 - ORT
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アルビオンの街の一つ、街ロサイスは、首都ロンディニウムの郊外に位置している。 ここはアルビオンの、特に空軍にとって重要な街であり、そこかしこに無骨で巨大な煙突が建ち並んでいた。 ハルケギニアで工業技術の秀でた国と言えばゲルマニアだが、空の上に浮かぶアルビオンも造船技術では引けを取らない。 煙を吐き出している煙突は、巨大な工場らしき建造物から伸びており、工場の中では真っ赤に溶けた鉄が鋳型に流し込まれているところだった。 アルビオンの皇帝となったオリヴァー・クロムウェルは、お供の者達を引き連れて、工場の建ち並ぶロサイスの街を視察していた。 その中にはワルドの姿もあり、視線だけを動かして周囲を観察していた。 トリステインには無かった巨大な造船工場は、アルビオン国王のおふれに始まる。 百年以上昔、首都ロンディニウムでは大火事が発生し、木で出来た家々は消し止める間もなく次々に燃えていった。 当時の国王は、住宅を石造りにして火事に対処せよとおふれを出し、その結果、森林は傷つけられることなく残った。 アルビオンは、驚くほど木材資源が豊富なのだ。 ワルドは、満足そうに胸を張って歩くクロムウェルを見て、少し目を細めた。 しばらく歩いていると、三色の旗が目に入ってきた。。 現在、空軍の発令所となっている赤レンガの大きな建物には、レコン・キスタの旗がはためいている。 その背後には、天を仰ぐような巨大なテントが見える。 だが、それはテントではなく、アルビオン空軍本国艦隊旗艦『レキシントン』号だった。 雨よけのための布が風を受けて、震えていた。 クロムウェルは、発令所から少し離れた場所で、戦艦を見上げている軍服姿の男を見つけ、楽しそうに声をかけた。 「なんとも雄大で頼もしい戦艦ではないか、このような艦を与えられたら、空と地を自由にできるような気分にならんかね? 艤装主任」 「わが身には余りある光栄ですな」 艤装主任と呼ばれた男は、少し気の張りがないような、あまり気乗りしていないと思えるような口調で答えた。 「サー・ヘンリ・ボーウッド君、君は革命戦争のおり、巡洋艦で見事二隻の敵艦を撃破して見せた。君はいかなるときも軍人として冷静だと聞いている」 「軍務に従ったまでのことです」 「ほう!いや、おごり高ぶらぬ態度は美徳だな。旗艦の艦長にはふさわしい!」 端で会話を聞いていたワルドは、ふと違和感を感じたが、アルビオン空軍の慣習を思い出して納得した。 確か、アルビオンでは、戦艦の艤装主任は、艤装の終了したのち、艦長へと就任する。 王立空軍ではなく、レコン・キスタ空軍となった今でも、その慣習はそのまま残っているのだろう。 「見たまえ。あの大砲を!」 クロムウェルは、戦艦の側面から突き出た大砲を指差す。 「きみへの信頼を象徴した新兵器だ。アルビオン中の錬金魔術師を集め、鋳造した長砲身の大砲だ!」 ボーウッドは、新兵器と聞いて、クロムウェルの指さす方を見た、そこには確かに真新しい砲門が姿を見せている。 「いいかね主任、設計主任の計算では、あの砲の射程は………」 調子良さそうに喋っていたクロムウェルの歯切れが悪くなると、すかさず脇に控えていた長髪の女性が、クロムウェルの言葉を代弁した。 「トリステイン、ゲルマニアの戦艦が装備するカノン砲と比較し、おおよそ一・五倍の射程を有します」 「おお、そうだったな、ミス・シェフィールド」 ボーウッドはシェフィールドと呼ばれた女性を見た。 二十代半ばに見えるその女性は、どこか冷たい雰囲気を漂わせていた。 マントを着けていないので、メイジではないのだろうかと疑問に思ったところで、クロムウェルがボーウッドの肩に手を置いた。 「彼女は遙か東方『ロバ・アル・カリイエ』から、優れた未知の技術を我々に伝えてくれた。言わば我らの同士だ」 「東方ですと?」 ボーウッドは少し胡散臭そうに聞き返したが、カノン砲の鋳造技術を思い返し、むむ、とうなった。 「エルフより学んだ技術を我々にもたらしてくれるとは、実に頼もしい!艤装主任、きみも彼女のともだちになるがいい」 「…はっ」 ボーウッドはつまらなそうに頷いて、シェフィールドと握手を交わした。 それが終わるとシェフィールドは、レキシントンの船内へと続く階段へと向かっていった。 ワルドは、ボーウッドの仕草を逐一見て、彼の心情を想像していた。 ボーウッドは心情的には王党派寄りだが、軍人として忠実であるために、上官の命令に従い、王軍に弓を引いたのだと想像できた。 ワルドもまた、つまらなそうに鼻を鳴らしたい所だったが、訓練された軍人としての仮面が、それを押さえた。 「この艤装が完了すれば、『ロイヤル・ソヴリン』号にかなう艦は、少なくともこのハルケギニアの何処を探しても存在しないでしょうな」 貴族派の革命によって『ロイヤル・ソヴリン』は『レキシントン』と名を変えていたが、あえて旧名を呼んだ。 生粋の軍人であるが故に、革命で王軍に弓を引かざるを得なかった男の、皮肉だった。 「ミスタ・ボーウッド。アルビオンにはもう『王権』(ロイヤル・ソヴリン)は存在しないのだ」 「そうでしたな」 ボーウッドは、わざと興味なさそうに返事をした、正直なところクロムウェルには早く何処かに行って貰いたかった。 クロムウェルの口調といい、態度といい、戦略といい、すべてが下品に思えた。 その下品さの一つが、この戦艦の艤装を急がせる理由だった。 「ゲルマニアとトリステインの結婚式とはいえ、戦艦に新型の大砲を積んでいくとは、下品な示威行為と取られますぞ」 クロムウェルをはじめ、現在のアルビオンを統治する『神聖アルビオン共和国』の閣僚達は、レキシントンに乗って、トリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式会場へと移動する。 その際、あえて新型のカノン砲を、見せびらかすように積んでいくのだから、下品といわれても仕方がない。 だが、下品といわれたクロムウェルは、むしろそれを誇らしげに思っているかのごとく、唇をゆがめて気味の悪い笑みを漏らした。 「ああ、きみには、この『親善訪問』の概要を説明していなかったのだな」 そう言って、クロムウェルはボーウッドの耳に口を寄せると、ぼそぼそと何かを呟いた。 すると、ボーウッドは表情こそ変えなかったものの、目にみえて顔を青ざめさせ、クロムウェルに言い返した。 「バカな!そのような破廉恥な行為は…!」 だが、それすら気にした様子もなく、クロムウェルは事も無げに呟く。 「軍事行動の一環だ」 「トリステインとは、不可侵条約を…!」 ボーウッドがついには怒りを顕わにし始めたので、ワルドと他数人のメイジが、一歩前に出る。 ワルドが杖を手にかけたところで、クロムウェルがそれを制止した。 「かまわん、説明が遅れたのは私のミスであった。…しかし、ミスタ・ボーウッド。それ以上の政治批判は許されぬ。議会の決定、余の承認を経た正式な『政治的外交』だ」 「ぬ………っ。アルビオンは、恥を晒すことになりますぞ…!」 ボーウッドは、悔しそうに呟いたが、クロムウェルの周囲にいるメイジ達を見て、言葉を窄めてしまった。 ワルドは除くが、クロムウェルの周囲を警護していたのは、革命戦争の折に戦死したはずのメイジ達だったのだ。 ボーウッドは、つい数週間前、目の前に立つメイジ達の戦死に際して、敬礼を捧げていたのをハッキリと覚えていた。 「艤装主任…いや、艦長殿。彼らも『親善訪問』には諸手を挙げて賛成してくれているのだよ」 クロムウェルの言葉を聞いて、メイジ達は一斉ににやりと笑った。 ボーウッドは、力なく膝ついた。 メイジの一人が、ボーウッドの手を取って、ボーウッドを立たせた。 触れられた手が異様に冷たくて、ボーウッドは背筋に冷たいものを感じた。 それからクロムウェルは、ボーウッドのいる場所を離れ、レキシントンの艤装をより近くで見るために歩き出した。 かつての仲間達も、死んだはずの仲間達も、トリステインの魔法衛士の隊服を着た男もそれに続いた。 その場に取り残されたボーウッドは、恐怖か何かから来る寒気で身体が震えるのを止められなかった。 ボーウッドは『水』系統のトライアングルであり、生物の組成、治癒にかけてはエキスパートではあるが、死人を蘇らせる魔法などは想像の範疇を超えていた。 彼らは、精巧なゴーレムなのかもしれないと思ったが、掴まれた手から生気の流れを感じた。 ボーウッドは、『水』系統の使い手だからこそ、共に戦った仲間達の『生気の流れ』が別人のものではないと感じたのだ。 神聖皇帝クロムウェルは、『虚無』を操り、生命を操る……。 ただの誇張された噂話だと思っていたが、もし本当に『虚無』のメイジであり、もし『死者を蘇生』させる魔法があったとしたら…… 「……あいつは、ハルケギニアを、生命をどうしようというのだ」 ボーウッドは、震える声で呟いた。 しばらくの間、戦艦の外周を見て回ったクロムウェルは、傍らを歩くメイジ…ワルドに話しかけた。 「子爵、きみは竜騎兵隊の隊長として『レキシントン』に乗り組みたまえ」 「あの艦長殿の目付け、というわけですか?」 ワルドの憶測を、クロムウェルは首を横に振って否定した。 「あの男は、頑固で融通の効かぬ男だからこそ信用できる。余は魔法衛士隊を率いていた、きみの能力を買っているだけだ。竜にのったことはあるかね?」 「ありませぬ。しかし、わたしに乗りこなせぬ幻獣はハルケギニアには存在しないと存じます」 「ふむ、だろうな…」 クロムウェルはワルドに向き直った、ワルドは、無いはずの左腕…いや、左腕に取り付けられた義手を、右手で撫でていた。 「…子爵、きみはなぜ余に従う?」 「わたしの忠誠をお疑いになりますか?」 「そうではない。ただ、きみは余に何も要求しようとしない、何も、だ」 ワルドは、静かに笑顔を見せつつ、首から下げたペンダントを右手で握りしめた。。 「閣下の進まれる道を、間近で見たいと…そう思っただけでございます」 「ほほう、余の道の先には『聖地』しかないがな」 「わたしが探すものは…そこに、そこにあると思いますゆえ」 そう言って、ワルドは首から提げられたペンダントを、無意識に握りしめた。 「信仰か?」 「…かも、しれませぬ」 「ふむ、欲がないな。」 少しの間、考え込むように視線を下げた後、ワルドは笑みを浮かべて呟いた。 「いえ、閣下。わたしは世界で一番、欲深い男です」 一方、トリステインの王宮では、アンリエッタの私室に女官や召使が忙しそうにしていた。 結婚式でアンリエッタが身に纏うドレスの寸法を合わせ、細かな部分を仮縫していたのだ。 傍らでは、太后マリアンヌがそれを見つめていた。 アンリエッタは未完成な純白のドレスに身を包んでいたが、表情は決して明るくなかった。 仮縫いのため、アンリエッタへと着心地はどうかと質問する縫い子たちの声にも、曖昧に頷くばかりだった。 それを見たマリアンヌは、縫い子や女官達を下がらせて、アンリエッタと二人きりになった。 「愛しい娘や。元気がないようね」 「母さま」 アンリエッタは、椅子に座っているマリアンヌに近寄ると、ひざまずくように姿勢を下げた。 下着姿で母の膝に頬をうずめると、マリアンヌはアンリエッタの頭を撫でた。 「望まぬ結婚なのは、わかっていますよ」 「そのようなことはありません。わたしは幸せ者ですわ」 その言葉とは裏腹に、アンリエッタの表情はどこか曇っていた。 「………愛おしい夢は、いずれ冷めます、熱が過ぎればいずれ忘れていきましょう」 「母さま、夢ではありませんわ」 マリアンヌは首を振った。 「恋は、はしかのようなものです、陽炎のような夢に浸っていては、王女としての勤めを果たせませんよ」 「陽炎では…ありません」 「あなたは王女なのです。夢でも陽炎でもないのなら、もう泣くのはおやめなさい。そんな顔をしていたら、民は不安になるでしょう」 「わたくは…なんのために、嫁ぐのでしょうか?民と、国の未来のためなのでしょうか…」 アンリエッタの言葉に、マリアンヌは首を横に振った。 「国と、民と、貴方自身のためでもあるのです」 「…私自身のため、でしょうか」 マリアンヌは、諭すように、静かに語った。 「レコン・キスタのクロムウェルは、皇帝を名乗りました。野心豊かな男です。聞くところによると、かのものは『虚無』を操るとか」 「私も、その話は聞きましたわ」 「…『虚無』がまことなら、恐ろしいことなのですよ。過ぎたる力は人を狂わせるのですから」 「過ぎたる…力…」 ふと、アンリエッタの脳裏にルイズの姿がよぎる。 ルイズは、今ごろはラ・ロシェールからアルビオンにたどり着いている頃だろう。 アンリエッタに『私は食屍鬼を作らない』と約束するルイズの姿は、どこか儚げだった。 ルイズは、自分の力を知っているからこそ、その力に振り回されぬように自制しているのだろうか? 『吸血鬼』であり『虚無』… この事に限っては、枢機卿と協力して、母にも、誰にも知られぬようにしていたのだ。 「野心にとりつかれた男が、軍隊を得て大人しくしているとは思えません。不可侵条約を結んでも同じ事です、軍事強国のゲルマニアにいたほうが、あなたの身は安全なのですよ」 アンリエッタは顔を上げた。 そして母の前で居住まいを正すと、母に頭を下げた。 「……申し訳ありません。わがままを言いました」 「いいのですよ。貴方の”夢”は、貴方の側には居られないと思いますが、貴方の幸せを誰よりも願っているのですよ」 「…はい」 そして、マリアンヌは立ち上がり、母と娘は抱き合った。 一方、港町ラ・ロシェールからほど近い森の奥では、シエスタが木の上で身を潜めていた。 タバサはシエスタの手から伸びたツタの先端を握りしめて、木の陰で何かを探そうと集中している。 ふたりは、タバサの足下から数えて約20メイル先の建物に意識を向けていた。 そこには廃墟となった寺院があった。 敷地面積は、トリステイン魔法学院の本塔と同じぐらいのだろうか。 錆びて朽ちかけた鉄の柵、倒れた円柱、割れたステンドグラスを見ると、かつては見事な建造物だったとわかる。 かつては、ここに村があり、この寺院は村の中心的な役割があった。 何百年か前に起こった、ゲルマニアとトリステインの戦争で、この村は燃やされてしまった。 とは言っても、非戦闘員の住む村落を無碍に燃やすことは、ゲルマニアでも禁じられている。 この村は、荒くれ者達や、自称『傭兵』達、もしくは盗賊達に荒らされてしまったのだ。 戦争も終わり、一応の平和が訪れたが…もはやこの寺院を訪れる人間は居なかった。 不意に、門柱の近くにある木から、ドォン!という音が響いた。 タバサとは別の場所に潜んでいるキュルケが、木に火の魔法を当てたのだ。 そして、どかどかと足音を立てながら、何者かが寺院の中から飛び出してきた。 この寺院を住処にしている、オーク鬼の群れだった。 「ぶひ」「ギィ」「ぶごっ、ぶごごっ!」 十匹にもなるオーク鬼の群れが、寺院の中から姿を現し、鼻を鳴らして互いに会話していた。 シエスタはガサガサと、わざと音を立てながら木から飛び降りた。 かなり高い位置から飛び降りたのだが、木の葉に波紋を流して吸い付き、勢いを殺しながら降りたのでダメージは無い。 それを見たオーク鬼達が一斉に「ブギィ!」と叫び、シエスタへと走り寄ってきた。 シエスタは、ワインや水を使って生命の波を探知するように、蔓草を通じてタバサに波紋を流していた。 すると、『風』を得意とするタバサの身体に変化が起こる。 まるで周囲を流れる微弱な風が、自分自身の指先になったかのように、敏感に、鮮明に、『生き物が持つ波紋』を感じられるのだ。 「ラグーズ・ウオータル・イズ・イーサ・ウインデ……」 タバサは小声だが、しっかりとした発音でルーンを詠唱し、『ウインディ・アイシクル』を放った。 タバサの隠れている木、その木の前に立つシエスタ、それらを一切傷つけることなく氷の槍が四方八方から飛来し、オークの群れへと殺到する。 先頭に立つオーク鬼の身体を貫通し、後ろのオーク鬼までを串刺しにして、氷の槍が砕け散る。 タバサが次に唱えた『エア・ハンマー』は、氷の破片を三匹目に殺到させ、オークの身体を穴だらけにした。 と、その様子を見ていた他のオーク鬼達が驚き、戸惑う、何匹かは寺院の中に戻ろうとしたが、寺院の中に居たのは青銅で作られたゴーレム、ワルキューレだった。 寺院の入り口は人間より二回り以上大きいが、オークにとっては丁度良い大きさだった。 その入り口を槍を構えたワルキューレが塞いでいたのだ。 「ぶぎ!」「ぎぎ、ぶごっ」 鼻を鳴らしてオーク鬼が会話する、その様子はまるで「おい、どうする?」と相談しているかのようだった。 事実、そうなのだろうが、その僅かな合間が命取りだった。 寺院の入り口から飛び出したワルキューレが、オーク鬼の持つ棍棒一振りでグシャグシャに潰されたが、左右に突然現れたワルキューレに両脇腹を槍で貫かれ、一匹が絶命した。 すかさず右からキュルケの炎が飛び、左からキュルケの使い魔フレイムの炎が飛ぶ。 更に一匹、二匹と焼かれていき、残った五匹は悲鳴を上げた。 そのうち一匹が、シエスタに向かって棍棒を投げた、オーク鬼の腕力は人間よりはるかに強く、まともに棍棒を受ければシエスタは肉片になってしまうだろう。 だが、シエスタは逃げなかった。 すかさずマントに手をかけると、内側のとある箇所を握りしめて波紋を流した。 するとマントはシュッ、と音を立てて円錐形に形を変え、その頂点をオーク鬼に向けた。 投げられた棍棒は、マントの表面を流れる『弾く』波紋により、あらぬ方向へと滑り飛んでいった。 残る、オーク鬼五匹。 かれらは、その腕力と獰猛さで人間の子供を食らうので、人間達から恐れられていたが、今は違った。 残忍な狩人であるオーク鬼達が、今は狩られる側に回っていたのだ。 シエスタは、マントを元の形に戻すと、両手の力を抜いた。 波紋を蔓草に流し、タバサの手から蔓草を巻き戻す。 「…いきます」 シエスタの言葉に、タバサとキュルケ頷いた。 オーク鬼に向けてシエスタが駆け出す、それは端から見れば自殺行為にも等しい。 メイジでもない人間が、素手でオークに立ち向かうなど、あまりにもバカげている。 シエスタに一番近いオーク鬼もそう考えたのだろう、ブヒ、と鼻を鳴らして右手を振り上げ、シエスタに向けて振り下ろした。 …だが、吹き飛ばされるはずのシエスタは、左手の指一本でオーク鬼の手を止めていた。 「ブゴ?」 きょとん、とした目で、オーク鬼は自分の手を見た。 か弱い人間をはじき飛ばすこともできない、それどころか、その指から自分の手が離れないのだ。 「ぶごぉ!?」 オーク鬼は、左手でシエスタを殴ろうとしたが、それよりも一瞬早く、シエスタの手から『波紋』が流された。 オーク鬼の身の丈は二メイルほどあり、大きさから考えて体重は人間の五倍ほどあると予測できる。 その身を、動物から剥いだ毛皮に包んでおり、棍棒などで武装していることがある。 知能は高いが、その豚のように突き出た鼻から、オーク鬼は二本足で立った豚と表現されている。 一般に、オーク鬼は太った体つきをしているが、ただ太っているわけではなく、相当量の筋肉が脂肪の下を埋め尽くしている。 人間の腕力をはるかに超えるその力は、今回ばかりは、かれらの弱点となった。 ベキベキベキベキと音が響く、オーク鬼の背中が、まるで弓のように反り返り、自分の背骨を砕いていたのだ。 オーク鬼の後頭部が地面に触れると、綺麗な曲線を描いがブリッジが完成した。 動物特有の発達した背筋が、自分の意志に反して過剰に収縮し、自分自身の骨を自分で砕いてしまったのだ。 他のオーク鬼達は、その姿に驚き、言葉…と言うよりは鳴き声を失った。 同胞の一人が、奇妙に丸まって全身の骨を砕かれ、絶命したのだ。 誰かが「ブゴッ」と鳴き声を上げると、残るオーク鬼四匹が後ずさった。 目の前にいる平民の少女…もっとも、オーク鬼達に『平民』と言っても分かりはしないが…杖を持たずに仲間を殺したこの少女が、恐ろしくなったのだ。 「ブギィ!」「ゴア!」「ビギーッ!」「ブゴオ!」 残された四匹のオーク鬼は、ちりぢりに逃げ出そうとした、しかし、キュルケのフレイムボール、タバサのエア・カッター、サラマンダーの炎、シエスタの波紋疾走にて打ち倒された。 オーク鬼が全て退治されたのを確認すると、屋根の上で身を潜めていたギーシュが、すっくと立ち上がって薔薇の造花を掲げた。 「フッ、これがトリステイン貴族の実力さ」 キザったらしく髪の毛をかき上げたギーシュだったが、そこに突然の風が襲った。 ばさっ、ばさっ、と音を立ててシルフィードが寺院の庭に着地したのだ。 風に煽られたギーシュは寺院の屋根から滑り落ち、そのまま地面に激突した。。 「ゴフッ!?」 「ギ、ギーシュ!大丈夫?」 シルフィードの背に乗っていたモンモランシーが慌てて飛び降り、ギーシュに駆け寄る。 頭を膝の上に乗せて膝枕の形になり、ギーシュの頭に手を当てて、優しくさすった。 「ああ…モンモランシー、白魚のような君の手が痛みを忘れさせてくれるよ」 「ギーシュ…」 二人の様子を見ていたキュルケとシエスタだったが、もう勝手にやってろと言わんばかりに首を横に振って、寺院の中へと入っていった。 タバサは、シルフィードに背中を預けると、いつも持ってきている本を読み始めた。 「この寺院の中には、祭壇があって、その下にチェストが隠されてるそうよ」 「祭壇ですね…あれでしょうか?」 キュルケの指示に従って、シエスタが祭壇を探したが、そこにはチェストなど影も形もなかった。 キュルケがレビテーションで祭壇をどかすと、その下には人一人が入れそうな空間があり、小さなチェストが置かれていた。 「ここの司祭が、寺院を放棄して逃げ出すときに隠した、金銀財宝と伝説の秘宝『ブリーシンガメル』があるって話よ?」 キュルケが得意げに髪をかきあげる、シエスタは蔓草を使ってチェストを引き上げると、床に置いた。 「ブリーシンガメルって、どんな物なんでしょう?」 シエスタが訪ねると、キュルケは手に持った地図を開き、そこに書かれた注釈を読んだ。「えっとね、黄金でできた首飾りみたいね。聞くだけでわくわくする名前ね! それを身につけたものは、あらゆる災厄から身を守ることが……」 シエスタがチェストの中を見ると、そこには色あせた装飾品や、がらくたしか入っていなかった。 その晩、一行は寺院の中庭でたき火を取り囲んでいた。 モンモランシーは、ギーシュと一緒にいられるのが嬉しいらしく、ギーシュに寄り添っては離れより沿って離れを繰り返している。 ギーシュもまた、モンモランシーの前では毅然とした態度を取ろうと心がけていたが、いかんせん膝枕の感触を思い出しては時々鼻の下を伸ばしている。 キュルケは、紙の束…よく見ればそれが地図と判る…をたき火の中に投げ入れた。 その様子を見て、ギーシュがふぅ、とため息をついてから、しゃべり出した。 「なあキュルケ、これで七件目だろう。地図をあてにして、お宝探しなんて…苦労しても何も見つからないじゃないか」 モンモランシーも、ギーシュの言葉に頷いた。 キュルケはどこからか手に入れた『宝の地図』を頼りに、宝探しをして小遣いを稼ごうと画策したのだ。 シエスタとタバサを連れて行ければいいと思っていたが、困ったことにギーシュがついてきてしまった。 どいやら、この間シエスタに決闘を挑んでしまった罪滅ぼしらしいが、それを聞いたモンモランシーまでもが参加することになった。 女三人とギーシュ一人である、モンモランシーが何か危惧するのは当然だろう。 キュルケは、モンモランシーは『水』系統の使い手であり、怪我をしたときに彼女が居ると有利だと考え、五人での宝探しが始まったのだ。 だが、一攫千金の宝探しなど、そうそう簡単に実現できるはずもなく、一行はことごとく偽のお宝を掴まされていた。 「何よ、あらかじめ言っておいたじゃない。この地図の『どれか』は本物なの『かも』しれないって」 「いくらなんでも、廃墟や洞窟にいる化け物を苦労して退治して、得られた報酬が銅貨数枚とガラクタだけじゃ、割にあわんこと甚だしいよ!」 ギーシュはそう言って、薔薇の造花を口にくわえ、中庭に敷いた毛布の上に寝転がった。 「そりゃそうよ。化け物を退治したぐらいで、ほいほいお宝が入ったら、誰も苦労しないわ」 俄に険悪な雰囲気が漂い始めたところで、シエスタの明るい声が響いた。 「みなさーん、お食事ができましたよー!」 たき火の火を使って、シエスタが調理していたのは、彼女の故郷独特のシチューだった。 深めの皿にシチューをよそる、シエスタが言うには、この形の皿を『チャワン』というらしい。 一人一人にシチューを渡すと、ほんのりと良い香りが鼻を刺激する。 「へえ、この草はハーブだったのか、雑草かと思っていたが…」 ギーシュがシチューを頬張りながら呟くと、モンモランシーがシチューをかき回して、中に入っている野草や肉の臭いを確かめた。 「…これはウサギ肉と、ハシバミ草の一種ね、もしかしてタバサに頼んで乾燥させていた草って、これ?」 「はい、乾燥させてから煮込みなおすと、アクが出てハシバミ草の苦みはほとんど無くなるんです、やりすぎると香りまで飛んでしまうのですけど」 「物知りねえ、この間貴方の故郷…タルブ村に行ったときに食べた、ヨシェナヴェに味付けが似てるわね」 キュルケが感心したように呟く、すると、タバサもそれに続いて「美味しかった」と呟いた。 「あら、二人ともシエスタの故郷に行ったことがあるの?」 モンモランシーが空になったお椀を差し出しながら聞く、シエスタはお椀にシチューをよそりながら答えた。 「はい、私が魔法学院に入学させて頂くことになった時、キュルケさんと、タバサさんが手伝って下さったんです」 「そうよ、ああ、あのワイン美味しかったわね。タルブ村にまた行きましょうよ、タバサもヨシェナヴェはお気に入りでしょ?」 キュルケの言葉にタバサが頷く。 「それに、最後に残った地図も、タルブ村の近くを示してるもの、最悪でもワインだけ貰って帰ってくればいいわ」 「最後のお宝って何よ、またインチキじゃないの?これ以上宝探しを続けても収穫はないと思うわよ。それに…ギーシュも疲れてるみたいだし」 キュルケは宝の地図を放り投げて、モンモランシーに渡した。 「…『竜の羽衣』って、何?」 シエスタが驚いて顔を上げ、モンモランシーが持った宝の地図を見つめた。 「…竜の羽衣ですか?そんな、あれはお宝なんてものじゃありません」 「知ってるの?」 「はい、あれは…コルベール先生が授業で言っていた、魔法を使わずに動くものらしいんです、でも今は壊れて…なんの価値もないと思います」 シエスタの言葉に、キュルケが驚いた。 「魔法を使わずに動くって、あの、『蛇くん』のこと?ホントにガラクタじゃない」 「…私も、最初はそう思っていたんです。けど…」 シエスタが竜の羽衣について話しだす。 皆は、はじめ胡散臭そうに聞いていたが、シエスタのマントが滑空する原理や、コルベール先生の開発した『ゆかいな蛇くん』の話をするにつれ、皆シエスタの話に夢中になっていた。 より原理的に完成された『エンジン』の存在。 他にもプロペラ、揚力、抗力、機関銃、合金、速度…それらの話を聞いていくうちに、タバサを除く皆の目に活力が見えてきた。 それらは曾祖父の日記に、理論と共に書かれていた。 それが正しければ、まさしく竜の羽衣はハルケギニアの技術を遙かに超えた『マジックアイテム以上のマジックアイテム』なのだ。 更に、シエスタの曾祖父がそれに乗ってタルブ村にやって来たと聞いて、皆は面白そうに目を輝かせた。 「面白そうじゃない!壊れていてもいいわよ、それ、竜の羽衣を一度見に行きましょう。」 キュルケがそう言うと、皆もそれを了承したのか、一様に頷いて肯定した。 「じゃあ、今日は早く寝ましょう、あのワイン美味しいのよね…楽しみだわー」 ワインの味を思い出して、キュルケは楽しそうに呟くと、傍らで本を読んでいたタバサも小声で呟いた。 「楽しみ」 「貴方はワインじゃなくてハシバミ草でしょう?」 「…」 タバサが無言で頷くと、皆が一様に笑い出した。 嵐の前の、つかの間の平和が、彼らを包んでいた。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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前ページ次ページzeropon! 第10話 真夜中の訪問者 二つの月が草木を明るく照らす、そんな夜のこと。 その日の昼間、貴賓が招かれた学院では使い魔のお披露目会が開かれていた。 各人が思い思いの方法で、召喚した使い魔を披露する中、 ルイズとパタポン達は歌劇『ぱたぶランカ~愛のしもふりにく~』を上演。 その物悲しくもハートフルでバイオレンスな物語は観客を魅了。 最後にはスタンディングオベーションの喝采を浴びるほどだった。 このお披露目会に気を良くしたルイズは、夕食後、自室でメデンが持ってきた、 銘酒『パ王』を景気よく飲んでいた。 コン、コン…コンコン ルイズの部屋の扉がノックされる。 ルイズの相手をしていたメデン。こんな夜更けに誰だろうか? 既に草木も寝ようとする夜更け。訝しみながらも 「どうぞ、扉は開いております」 と、入室を促す。かちゃり、と静かに開いた扉から現れたのは、 フードを目深に被った女性。彼女は後ろ手に扉を閉める。 次に取り出したのは一本の杖。その様子を見て身構えるメデン。 しかし振られた杖には攻撃の意思はなく、一度光るとそれきりのまま 再びしまわれる。そして彼女はその顔を隠すフードを外した。 「どこに聞き耳をたてる者がいるかわかりませんからね」 現れたその顔をメデンは知っていた。見たのは今日の昼間。 お披露目会の会場の貴賓席。その中にいた王族の一人。 その姿は一輪の気高き花。王国の至宝。 「貴方は、王女さま?」 彼女はアンリエッタ・ド・トリステイン。この国の王女である。 彼女のことをメデンはルイズから聞いていた。 ルイズと彼女は幼い頃、共に過ごしていたらしい。 いわゆる幼馴染である。そんな二人だがやはり王女という 身分が妨げになっているらしく久方ぶりの再会なのであろう。 と言って、椅子に座るルイズにガバリ、と抱きついたアンリエッタ。 「ああ!おひさしぶり、ルイ、酒臭っ!」 と叫ぶとルイズから身を急いで離す。 よくみればルイズの傍らの一升瓶に入ったパ王。 度数45度と書かれたそのビンの中身は既に半分空いており、 そして、それを手酌するルイズの瞳はがっつりと据わっていた。 「ええと、る、ルイズ?」 恐る恐るルイズの顔を覗くアンリエッタ。それをぐいんっ、と 頭を振って睨み付ける。 「ひいっ?!」 ビクリっと身をすくめるアンリエッタ。彼女に差し出されたのは一杯の酒。 先ほどルイズが手酌した一杯である。 「飲んで」 ずずいっと、据わった目を向けながら杯を押し付けるルイズ。 「え、いや、ルイズ、私、お酒は…」 「飲んでくれないの?」 途端、今まで据わっていた目がうるうると潤みだす。 その目はまるで小動物のような愛らしさ。 アンリエッタは思い出した。 この目だけはダメだ。この目をされると何も断れなくなる。 子供の頃のおままごと。彼女が今と同じように差し出してきたのは 泥水のワイン。そして同じ瞳で彼女は言う『飲んで』と。 それを飲み干したばかりに三日三晩かけて死に掛けた。 そして再び今、彼女は 「いただくわ、ルイズ」 自ら死地に飛び込んだ。 一時間後… 「あはははは!」 「あはははは!」 部屋に高らかに響く哄笑。 あげているのはもちろんルイズ、そしてアンリエッタ。 高らかに杯を上げて乾杯をしては飲み干していくその様を見て、 メデンはため息をつき、あきらめたように部屋を後にした。 残ったのは酔いどれ×二匹。 結局、朝まで続いたこの狂宴、朝になり姫が居ないことに気づいた 摂政マザリー二が部屋にやってきて、 「酒臭っ!」 と叫ぶまで続いた。 「ううううう、あたまいたいー」 ふらふらと、パタポン砦の前まで現れたルイズ。 それを心配そうに支えながらメデンが傍らにいる。 二日酔いのまま、なぜルイズがここに来たのかというと、 アンリエッタが完全に酔う前にルイズにお願いしたことにあった。 曰く「アルビオンのウェールズ皇太子に宛てた恋文を取ってきてほしい」とのことだった。 アンリエッタにお願いされたルイズは使命感から安請け合いしていたが、 アルビオン…この地名にメデンは覚えがあった。 情報収集に使っているフーケから聞いた情報の中、 現在のアルビオン、クーデターが起こっているとの情報があった。 貴族派と呼ばれるクーデター軍は既にアルビオンの大半を手中に収めているらしく、 既に王城付近に押し込められた王党派と呼ばれる正規軍が弱弱しい抵抗をしているだけらしい。 このような場所に神ルイズを行かせるのは危険である。 しかし、二日酔いの状態で意地でもいく、と言い張る彼女を説得するのは難しかった。 それにこのことはパタポン族全体にもかかわることであった。 トリステインが現在推し進めている王女アンリエッタと、隣国ガリアの王との婚姻。 これが事の発端である。これは小国であるトリステインが戦火が拡大するアルビオンへの牽制。 そしてこの先、動乱が起こりつつある世界を生き残るための政策である。 これを進める上で、ウェールズに送っていた恋文などが公になれば 進めている全ての事が無駄になる。 それを危ぶんだ上でのアンリエッタの依頼なのであろう。 トリステインが戦火にさらされればパタポン族、そしてもちろんルイズにも火の粉が及ぶ。 ならば、今のうちに…とメデンは考えていた。 極秘任務のためと思いつつ頑張ってルイズがふらふらと砦の前に着くと、 「おそいわよ!ルイズ」 「五分で仕度」 「さあ!姫の依頼を果たそう!」 なんかたくさんいた。 「…キュルケ、タバサは慣れたからもういいわ。…だけど何でギーシュもいるのよ!」 「はははは!簡単なことさ!昨日の夜、モンモラシーに夜這いをかけたら窓から放り出されてね! 地面で伸びていたらたまたま姫君が通られたから後をつけただけさ!」 轟然と胸を張るギーシュに、ルイズ必殺の拳が顔面に叩き込まれる。 しかしそれは黒い影に防がれる。 「な!私のルイズ・ナッコーが!?何者?!」 ルイズの拳を防ぐそれは…モグラだった。巨大なモグラが二人の間に地面から現れ、 ルイズ・ナッコーをその前脚で受け止めている。 「ああ!ヴェルダンディー!ナイスだ!」 どうやらこのモグラ、ギーシュの使い魔らしい。モグラにひし、と抱きつくギーシュ。 「おのれええ!」 地団太を踏んだルイズが、愛情表現のキスを行うギーシュごと爆発で吹き飛ばそうとしたとき、 突然の突風にモグラことヴェルダンディーごとギーシュが吹き飛ばされた。 「僕のフィアンセに手を出さないでもらおうか」 その突風と声の持ち主は上空から舞い降りた。 それは一頭のグリフォン。猛禽の頭と獅子の巨躯を併せ持つその獣は ハルキゲニアでも誇り高く獰猛な種である。 そしてその猛獣を従えてその男は地に降り立った。 機能的な服装。腰に挿した実用的なレイピアの如き杖。 服に包まれた身体は薄くも強靭そうな筋肉に包まれている。 精悍な顔には薄く髭があり、そしてその眼はそれこそグリフォンのようだった。 「な、何者だ!僕とヴェルダンディーをよくも!だいたい手を出してきたのは 貴方の婚約者のヴァリエええええええ?!婚約者?!」 素っ頓狂な声を上げるギーシュ。キュルケもタバサも驚きに目を見開く。 「あなた誰?」 キュルケが不審げにその男に尋ねる。 「おっとこれは失礼。私はグリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 アンリエッタ王女の命により参上した」 皆が一様に驚く中、彼はきょろきょろと周りを見渡す。 「ところで…僕の愛しのルイズはどこかね?」 優雅に聞くワルド。そのワルドにキュルケは腕を組んだまま指だけでその方向を指す。 ルイズがいた。モグラとギーシュと一緒に吹き飛ばされていた。 さあっと顔が青くなるワルド。それはそうだろう。婚約者を吹っ飛ばしたのである。 ぐったりしたままのルイズ。傍らにいるのはメデン。メデンは静かにルイズに向け手を合わせ、 その後ぱんぱんっと手を叩く。砦から一匹のキバポンが荷車を引いて現れた。 だがそのキバポン、顔にオレンジ色の面をつけていた。 それは召喚されたときメデンの傍らにいたパタポン、ヒ・ロポンである。 彼はからからと荷車をルイズの横につけると、ひらりと馬から降りて、 メデンと共にうんしょ、うんしょと荷車にルイズを積む。そしてメデン、ヒ・ロポンがつみ終えたのを見ると、 キュルケ、ギーシュもパンパンと土を落として馬に乗る。タバサも使い魔の蒼い竜に乗る。 皆、無言でメデンを後ろに、ルイズを荷車につんだヒ・ロポンについていく。 からからと無情の音をたてて進む一行。やがて門からは見えなくなった。 取り残されたワルドは…数刻経ってからとぼとぼと、グリフォンに乗り込み 一行の後を追った。 前ページ次ページzeropon!
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シルバーキー(1) 奥の門の中。ストーリー進めると入れるようになる ノーム(1) 北東の泣き虫の小屋へ行く途中の道の柵 本(1) 歴史に名高き王たち:セドリック王 北東の泣き虫の小屋内 宝箱 シルバーキー5 古き良き小屋と、愛の小屋の中間(サビーンが騙る山の民の歴史が置いてある場所)の奥 店舗 カズアル ウェア(コスチューム) 山の民のスーツ(男性用) 山の民のスーツ(女性用) アルビオン インク(タトゥー) 山の民のタトゥー サミット商会(雑貨) 花 山の民のメイク
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チャップ・アデル 番号 階級 NT値 戦艦 航空 車両 MS MA 049 中尉 ‐ × ○ ○ ○ × ランク 指揮 魅力 射撃 格闘 耐久 反応 E D 7 6 10 4 5 5 C 8 7 11 5 6 6 B 9 8 12 6 7 7 A 10 9 13 7 8 8 S 11 10 14 8 9 9 参入条件: 地球連邦軍第二部 ティターンズ結成イベント以降、任務中でないときに連邦版からグラフィック変更 ティターンズ 最初からいる ティターンズ・シロッコ 最初からいる 味方会話キャラ:なし 敵戦闘時会話キャラ:なし 友好キャラ: 専用機:なし 寸評:バニング隊長亡き後(連邦編では死なないが)も隊長に腕立てをさせられること恐れている元アルビオン隊の良識派のちょび髭 射撃がそれなりなので、原作どおりジムキャノン2にでも乗せておこう。
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アルビルダ 【人称】 一人称→「」 二人称基本→「」 【関連人物への呼称】 【能力】 元北欧のお姫様で元海賊。 のびのびと海賊行為に励んでいた所、 日本軍に捕らえられ、卑劣な変態の東郷に 犯されて性奴隷にされてしまった(本人談)。 ……要は所謂、重度の厨二病を患ってしまった ちょっとアレな人。 伝説に憧れており、いつか勇者になるのが夢。 こういう時期って割とあったよね、幼稚園児くらいに… ちなみにお姫様だったのは本当。 女子人気投票脇役なのに第1位な伝説。
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【登録タグ 曖昧さ回避】 曖昧さ回避のためのページ 涼風Pの曲アルビノ/涼風P buzzGの曲アルビノ/buzzG 曖昧さ回避について 曖昧さ回避は、同名のページが複数存在してしまう場合にのみ行います。同名のページは同時に存在できないため、当該名は「曖昧さ回避」という入口にして個々のページはページ名を少し変えて両立させることになります。 【既存のページ】は「ページ名の変更」で移動してください。曖昧さ回避を【既存のページ】に上書きするのはやめてください。「〇〇」という曲のページを「〇〇/作り手」等に移動する場合にコピペはしないでください。 曖昧さ回避作成時は「曖昧さ回避の追加の仕方」を参照してください。 曖昧さ回避依頼はこちら→修正依頼/曖昧さ回避追加依頼
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階段を駆け上がった先から伸びる枝に沿って、一艘船が停泊していた。 一行はタラップから甲板へと次々と飛び乗る。すると甲板で寝込んでいた船員が目を覚ました。 「な、なんでぇ?おめぇら!」 「船長はいるか?」 「寝てるぜ。用があるなら、明日の朝、改めて来るんだな」 男はラム酒の壜をラッパ飲みにしながら、酔って濁った目で答えた。 「貴族に二度同じ事を言わせる気―――――」 ワルドがすらりと杖を引き抜き、脅しをかけようとしたその時、船員は目の色を変えて直立した。 「ま、マジか!昼間、街のガキどもが話してた噂は本当だったのかよ。本物の『ギーシュさん』じゃねえか!」 船員は既にワルドの言葉を聞いてなければ、見てもいない。 「船長大変だァ!」 男は硬い動きで後ろへ向き直り、興奮した声で叫びながら船長室へすっ飛んでいった。 ギーシュはその状況に呆気を取られていたが、ふと気付くとワルドがとても熱い視線を自分へと向けているのに気付いた。 「流石『ギーシュさん』の雷名!このような下々の者にまでッ!」 やたらと熱く熱く感動しているワルドの姿を、ルイズは何も見なかった事にした。アヌビス神とデルフリンガーもそれに倣った。 しばらくすると、びしっとした正装姿に船長を表す帽子を被った初老の男が船員と共にやってきて、目の前で片膝をついて傅いた。 「うちのかみさんも大層貴方様には参ってまして。いやぁこのような貨物船に『ギーシュ』さんに来て頂けるとは一生の誉れです」 ギーシュは『ぼ、ぼくのこと?』と自分を指差してキョロキョロしている。ワルドがそれに頷いて応えた。 「で、当船に何の御用向きでしょうか?」 やたらと目をキラキラ輝かせて問う船長に、ワルドが答えた。 「アルビオンへ、今すぐ出航してもらいたい」 すると船長がとても申し訳無さそうな顔をした。 「アルビオンがラ・ロシェールに最も近づくのは朝です。その前に出航したんでは風石が足りんのです……最短距離分しか積んでないんですよ」 「『風石』が足りぬ分は、僕が補う。僕は『風』のスクウェアだ」 ワルドの言葉に船長と船員は、顔を見合わせた。 「す、すげえですよ船長!流石あの『ギーシュさん』だ!お供の配下がスクウェアメイジだ!」 「ま、全くだ。正直少し噂は眉唾ものじゃねえかとも思ってたが、こいつは本物だな!噂以上じゃねえか!」 二人は揃って深々と頭を下げた。 「ならば結構で。船賃も結構でございます」 配下扱いされたワルドはやたらと良い笑顔を浮かべた。右手をぎゅっと固く握って小声で『よっしゃ!』とか言っている。 「無理を頼むのだ、只でとは言わん。積荷はなんだ?」 「硫黄で。アルビオンでは、今や黄金並の値段がつきますんで。新しい秩序を建設なさっている貴族のかたがたは、高値をつけてくださいます。 秩序の建設には火薬と火の秘薬は必需品ですのでね」 「その運賃と同額を出そう」 ワルドのその言葉に船長たちは『へへぇー』と甲板に平伏した。 「さ、流石『ギーシュさん』ですね!太っ腹だァ!」 船員の言葉に船長がこくこくと嬉しそうに頷いた。 「お前ら!あの『ギーシュさん』のご依頼で今すぐ出航だ!もやいを放て!帆を打て!」 「「「オォー!!」」」 夜分にも関わらず、気合の入った声で答えた船員達は、よく訓練された動きできびきびと出航の準備を始めた。 帆と羽が風を受け、ぶわっと張り詰め、船が動き出す。 「アルビオンにはいつ着く?」 ワルドが尋ねると、 「明日の昼過ぎには、スカボローの港に到着しまさあ」 と船長が答えた。 ギーシュは舷側から、ぐんぐんと離れていくラ・ロシェールの明かりを見ながら、少しぼーっとしていた。 良く判らないうちに有名になっているけどあれは一体……とも思ったが、何より残してきた三人が気掛かりでもあった。 明かりの中に大きく揺らぐ巨大な炎の渦のような物が見えた。 「あれってやっぱりあの三人なのかね……」 呟いた独り言に横から返事が帰ってきた。 「トライアングルメイジが三人なのよ。ちょっとやそっとじゃ負けないわよ」 それはルイズであった。 「そりゃそうだ。しかもうち一人はあの『土くれ』だったね」 ギーシュは少し小声で風に紛らせるようにして答えた。 二人がしばし、ぼさーっと地上を眺めていると、船長と話しを終わらせたワルドがやってきた。 「船長の話しでは、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は、攻囲されて苦戦中のようだ」 ルイズがはっとした顔になった。 「ウェールズ皇太子は?」 ワルドは首を振った。 「わからん。生きてはいるようだが……」 「何見当違いな心配してるんだお前等。そんな主要人物が死んだり掴まったりしてたら、もう戦争終わってるだろうが!さっきの街でも大騒ぎだっての」 ルイズのお尻から声がした。正論だが言い方が気に入らなかったので、ルイズは黙って声の主を甲板へびたんと叩きつけた。 「どうせ、港町は反乱軍に押さえられているんでしょう?」 アヌビス神をぐりぐりと踏みつけながら、ワルドと会話を続ける。 「そうだね」 「どうやって、王党派と連絡を取ればいいのかしら」 「陣中突破しかあるまいな。スカボローから、ニューカッスルまでは馬で一日だ」 「反乱軍の間をすり抜けて?」 「そうだ。それしかないだろう。まあ、反乱軍も公然とトリステインの貴族に手出しはできんだろう。 スキを見て、包囲網を突破し、ニューカッスルの陣へと向かう。ただ。夜の闇には気をつけないといけないがな」 ルイズは緊張した顔で頷いた。それから尋ねる。 「そういえば、ワルド、あなたのグリフォンはどうしたの?」 ワルドは微笑んだ。舷側から身を乗り出すと、口笛を吹いた。下からグリフォンの羽音が聞こえてきた。 そのまま甲板に着陸して、船員たちを驚かせた。 「船じゃなくって、あのグリフォンで行けばいいだろ」 ルイズの足元からアヌビス神の声がする。 「竜じゃあるまいし、そんなに長い距離は、飛べないわ」 ルイズが答えた。 「ご主人さまは脳味噌がマヌケか? ならタバサのシルフィードで行けば良かったじゃねえか……。 街で一日潰す必要が何処にあったんだよ!おれ達がゲロまみれにならずにすんだじゃねえか!ご主人さまでも許されざるミスだぞこれは!」 「全くだ小娘め!おかげであんな6000年最大の恥辱を味わう派目になったじゃねーか!」 アヌビス神に続いて背のデルフリンガーも抗議の声を上げる。 ルイズは黙って背中のデルフリンガーも足元に放り投げた。 ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ そして黙ったまま、右足を何度も上下に往復させた。 ワルドはその光景にもう見慣れたらしく、優しく微笑んだ後向き直り、ギーシュの隣へそそくさと移動した。 「アルビオンが見えたぞー!」 舷側で思う思うに時間を潰していると、鐘楼の上に立った見張りの船員の声が聞こえてきた。 「あれがアルビオンか?」 甲板に転がるアヌビス神の視界に、雲の切れ目から黒い巨大な何かが映った。 地表には山がそびえ、川が流れる。その光景に圧倒される。 横で立っていたルイズが言った。 「驚いた?あれが浮遊大陸アルビオン。ああやって空中を浮遊して、主に太洋の上を彷徨っているわ。 でも、月に何度か、ハルケギニアの上にやってくる。大きさはトリステインの国土程もあるわ。通称「白の国」」 「どうして『白の国』なんだ? 反乱が起こってるって位だから白痴ばっかって事だな?そうに違い無いな」 「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ。あれよあれ」 ルイズは大陸を指差した。大河から溢れた水が、空に落ち込んでいる。その際、白い霧となって、大陸の下半分を包んでいた。 霧は雲となり、大雨を広範囲に渡ってハルケギニアの大陸に降らすのだとルイズは説明した。 「風にフラフラ彷徨って、白ってよりタコだな凧。タコの国で充分だ “風に吹き流されてふらふらタコの国”とおれが命名する」 ルイズがアヌビス神を踏みつけようとしたところで、見張りの船員が、大声をあげた。 「右舷前方の雲中より、船が接近してきます!」 この船よりも一回り大きい黒船が一隻近付いてくる。 「ちっ、大砲付きだな……」 アヌビス神の言葉にルイズは眉をひそめた。 「いやだわ。反乱勢……、貴族派の軍艦かしら」 後甲板で、ワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長らが叫ぶのが聞こえてくる。 「く、空賊だ! 逃げろ!取り舵いっぱい!」 声に続けて、砲音が響き渡る。 「き、きたか?ついに憧れの甲板白兵戦か?」 アヌビス神が興奮した声を上げた。 黒船のマストに、四色の旗流信号がするすると登る。 「停戦命令です、船長」 アヌビス神がわくわくしていると、船長の諦めるような声が聞こえてきた。ワルドの魔法は打ち止めとの声も聞こえる。 「裏帆を打て。停船だ」 船長の停船の声が聞こえ、アヌビス神は舌打ちをした。 「ちっ、だらしねえ。 いや?きっと騙してこっちへ乗り込ませてから白兵戦だな!」 ルイズはいきなり現れて大砲をぶっぱなす黒船に、慌てて二振りを足元から拾って身に帯びる。 どうやら大砲の音がするまで居眠りをしてたらしいギーシュが、どうしたどうしたと騒ぎながらバタバタと走ってくる。 「空賊だ!抵抗するな!」 黒船から、メガホンを持った男が大声で怒鳴った。 黒船の舷側に弓やフリント・ロック銃を持った男達が並び、こちらに狙いを定めた。 鉤のついたロープが放たれ、ルイズらの乗った船の舷縁に引っ掛かる。 手に斧や曲刀などの得物を持った屈強な男たちが、船の間に張られたロープを伝ってやってくる。その数およそ数十人。 「あの位の人数余裕だな。ずばァーっと行こうぜずばァーっと!」 「いいねェ、腕が鳴るねェ」 アヌビス神とデルフリンガーが興奮していると、傍にきたワルドに止められる。 「やめておけ。敵は武器を持った水兵だけじゃない。あれだけの門数の大砲が、こちらに狙いをつけているんだぞ。 おまけに、向こうにはメイジがいるかもしれない」 「あんだけ近くなんだぜ。大砲なんか早々撃てねえよ。 こっちに爆薬とか爆発物満載だって脅せば絶対に撃てないっての。硫黄の塊でも投げてやりゃ疑って自滅恐れて撃てねえ。心配するなワルド坊ちゃん。 憶えて置けよ、言葉も武器だぜ」 「言うねえ!流石兄弟!それで行こうや」 わざとらしく渋い声で喋るアヌビス神にデルフリンガーがやんややんやと声をあげる。 その時前甲板に繋ぎ止められていたワルドのグリフォンが、乗り移ろうとする空賊たちに驚き、ギャンギャンと喚き始めた。 その瞬間、グリフォンの頭が青白い雲で覆われた。グリフォンは甲板に倒れ、寝息を立て始めた。 「眠りの雲……、確実にメイジがいるようだな」 「だからどうしたんだよ。おれたちは寝ないし。あんなん煙幕にもならねえ。 速攻で大将首落としてあの軍船頂こうぜ」 警戒するワルドをアヌビス神が笑い飛ばし、興奮を高める。 会話をしている間にも、空賊たちは甲板へと迫り、どすんと音を立てて降り立ってきた。 その中に一人派手な格好の空賊が居た。 元は白かったらしいが、汗とグリース油で汚れて真っ黒になったシャツの胸をはだけ、そこから赤銅色に日焼けした逞しい胸が覗いている。 ぼさぼさの長い黒髪は、赤い布で乱暴に纏められ、無精髭が顔中に生えている。丁寧に左目に眼帯が巻いてあった。その男が空賊の頭らしい。 「船長はどこでえ」 荒っぽい仕草と言葉遣いで、辺りを見回す。 「わたしだが」 震えながら、それでも精一杯の威厳を保とうと努力しながら、船長が手をあげる。頭は大股で船長に近付き、顔をぴたぴたと抜いた曲刀で叩いた。 「船の名前と、積荷は?」 「トリステインの『マリー・ガーランド』号。積荷は硫黄だ」 空賊たちの間から、ため息が漏れた。頭の男はにやっと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分がかぶった。 「船ごと全部買った。料金はてめえらの命だ」 船長が屈辱で震える。 「チャンスだ。向こうの頭がこっちにいるから大砲はこねえ。 一瞬で首を刎ねて、動揺した隙に雑魚どもも纏めてバラせば勝てる」 アヌビス神はルイズの後ろでオタオタしているギーシュへと叫んだ。 「ギィィィーシュ!ワルキューレだッ!」 その声に船長の顔がぱっと明るくなる。 「そ、そうだ『ギーシュさん』がいらしたんだ!」 頭の男が眉をひそめる。 「ギーシュ……さん?聞き覚えが……」 空賊の一人が慌てて頭の下へばたばたと走ってきた。 「近頃トリステインで噂の『愛』の『ギーシュさん』でさぁ」 「あの噂の?本物なのか?」 「ま、間違いありません。噂どおりの格好と髪型。あれこそ『ギーシュさん』 何よりもあの薔薇の造花。間違い有りませんぜ」 ギーシュは突然自分の名前を連呼され、振ろうとしていた薔薇の杖を止める。 ルイズは突然の展開に、小さくぶっと噴出した。 空賊たちが最低限を残し、頭の周りに集まり突然相談を始めた。 戦闘回避された空気を読み取ってアヌビス神は詰まらなさそうに、また舌打ち風に声を出した。 しばらくすると突然空賊の頭が、先程と一変した理知的な表情でルイズらの前までやってきた。 空族たちも表情を一変させ直立で並んでいる。 頭は、カツラであった縮れた黒髪をはぎ、眼帯を取り外し、作り物だったらしいひげをびりっと剥がした。現れたのは凛々しい金髪の若者であった。 「大変失礼した。まさか風の噂に聞いた『愛』のお方が乗船している船だとは。 私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官……、本国艦隊といっても、既にあの『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きよりこちらのほうが通りがいいだろう」 若者は姿勢をただし、威風堂々名乗りを上げた。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは口をあんぐりと開けた。ありえない、ありえなさ過ぎる。何で名乗り出るのよそこで!名乗り出てもらわないと困ったけど。 噂、噂が一人歩きしている。トリステインから飛び出てしまっている。あの日食堂で勢いに任せた事で起こった、小さな蝶の羽ばたきが大嵐になって吹き荒れている気がする。 流石にウェールズ本人にまでは大きく耳に入って無かったようだが、配下の者たちは明かに毒されている。 ワルドはさっきからなにやら、ウンウンと頷いている。何だか半端に偉い立場の人程影響を受けているのでは無いだろうか?ルイズはふとそう思った。 アンリエッタさま自身は左程知らなかった、しかし王宮内には知って心頭している者が居たようで、現にこのワルドも妖しい。 今の目の前のウェールズ皇太子も、アンリエッタさまと似た様な感じがする。もしかしたら立場上狭間で疲れてる人の心を打つのかしら? アヌビス神が『タコ皇子か、ぷっ』と馬鹿にしたがルイズの耳には入らなかった。 時々『ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!』というコールは聞こえたが、聞こえなかった事にした。 ルイズが一人頭を抱えていると、何時の間にかワルドとギーシュが、ウェールズと話しを進めていた。 空賊に身をやつしていた理由、そして密書の件を話し自己紹介を済ませ、自分が指されていることに気付いた。 「そして、こちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢にございます殿下」 「なるほど!きみらのような立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに!いや……『ギーシュさん』ならばお一人でも……。 おっと、話しが逸れた。して、その密書とやらは?」 少し呆けていたルイズはその言葉に慌てて、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。 恭しくウェールズに近付いたが、途中で立ち止る。それから、ちょっと躊躇うように、口を開いた。 「あ、あの……」 「なんだね?」 「その失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」 ウェールズは笑った。 ルイズの疑いを完全に理解しないままに……。 「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」 ウェールズは、ルイズの指に光る、水のルビーを見つめて言った。 自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づけた。二つの宝石は共鳴しあい、虹色の光を振り撒いた。 その虹に一同おぉーっと声を上げる。 「こりゃヴェルダンデが見たらヨダレ垂らしながら全力で押し倒しに来るね」 ルイズは開いた手で、アヌビス神の鞘を止めるベルトを自然で流麗な動きで外して、脚元に落とした。 「この宝石は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」 ルイズは頷いた。 「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」 「大変失礼をばいたしました」 ルイズ一礼して、手紙をウェールズに手渡す。 ウェールズは、愛しそうにその手紙を見つめると、花押に接吻した。それから、慎重に封を開き、中の便箋を取り出し、読み始めた。 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」 ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表した。 アヌビス神はふとアンリエッタの事を思い出した。 「二の腕から脇の斬り心地が実に良さそうな、あのアンリエッタ姫さまか」 「こ、この無礼も―――――」 「そう……昔からアンリエッタの二の腕は実に撫で心地が……ん?」 ルイズがアヌビス神を踏もうとしたところで、手紙を読みながら感いっていたウェールズが手紙に目を落としたまま、何か聞いてはいけない事を言った気がした。 「今の声は、ワルド子爵、きみかね?」 ウェールズの問いに、ワルドは違う違うと慌てて首を横に振った。『正直アンリエッタの腕に魅力を感じないし』と、うっかり言いかけて、口を押さえた。 ギーシュは何時の間にか、がっくりなっていた船長らを励ましに行っている為、此処には居ない。 船長らは『もう『ギーシュさん』に倣って王党派につきます!』と興奮気味に叫んでいた。 「そ、そそそ、その失礼致しましたっ!わ、わわ、わたしめの使い魔ですっ!」 ルイズが慌てて足元からアヌビス神を拾い上げる。 「後でたっぷりとお仕置きをして躾ておきますので、何とぞご無礼お許し下さいませっ!」 「褒め言葉が無礼とか、それこそ無礼だご主人さま」 ルイズとアヌビス神のやり取りを見て、ウェールズは少し微笑んだ。 「インテリジェンスソードが使い魔とは珍しい。 おっと、話しが逸れたね。今はそれどころでは、ないのだろう?」 読み終った手紙をたたみながら、ウェールズは続けた。 「姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう。 ただしあの手紙は、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。 姫の手紙を空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね」 ウェールズは笑って言った。 「多少、面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」 To Be Continued 21< 戻る
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前ページ次ページ鋼の使い魔 トリステイン王軍は、空軍を除き、常設2個旅団で形成される。 第一旅団は貴族子弟の憧れたる魔法衛士大隊を擁する幻獣騎兵科であり、近衛任務もここに含まれる。 第二旅団は各種歩兵を纏めた緒歩兵大隊で作られている。 さて、所謂弱小貴族が出世する為には文官より武官を選んだ方が早い、というのは異界の黄金獅子な銀河帝国皇帝も選んだとおりであり、その目指す先の多くが 先述の魔法衛士大隊を始めとする幻獣騎兵科を選ぶ。 斯く有名たる魔法衛士大隊であるが、その起源は実のところ、国内で賄える竜騎兵に供する風竜火竜が足らなかったところから来ており、ゆえに 隣国ゲルマニアを始め、諸外国では同じような兵科はあまり見られない。 例えば魔法衛士大隊の場合、三種の幻獣による三つの中隊から成る。一つは9頭のグリフィンからなるグリフィン中隊。15頭のマンティコアからなるマンティコア中隊。 21頭のピポグリフからなるピポグリフ中隊、と言った具合。 グリフィンは高度と速度で風竜と伍するものの航続距離に欠け、マンティコアは運動性と高度で劣るものの、高い戦闘能力がある。 ピポグリフはマンティコアよりも高い高度を飛び、グリフィンよりも長い距離を駆けるが、純粋な戦闘能力でいえば低い。代わりに、扱いやすく数が比較的揃えやすい。 以上のように、華やかたる古国トリステインの、華やかたる兵士たちにも、国柄からくるさまざまな事情があった。 その日、王都トリスタニア郊外に作られし王宮を警備していたのはマンティコア中隊だった。 騎兵による見回りといっても、今は一応平時である。幻獣付きの騎兵が一人、付き添いの兵士が一人か二人。それを一班として、王宮の各位置に配していた。 そんな中、上空より風を切る青い物体が遠くより迫るのを、ある騎兵が駆るマンティコアは捉えた。 騎兵がそれを認識した時、既にその青い物体は目の前を過ぎ去り、王宮の中央部を吹き抜ける中庭に落ち、着陸していた。 マンティコア騎兵は降り立った青い影――それは風竜の幼生体だった――を確認するや、持ち場から跳ねるように離れ、中庭を埋めるように包囲した。 謎の侵入者たる風竜は、数人の人影を背に乗せている。 「杖を捨てろ!」 騎兵達は軍杖を抜き、その先を人影に向けていた。 人影たちは総勢4人。年端も行かない婦女子が三人、血で汚れた服を着た男が一人だ。 男と婦女子のうち二人は、手に持っていた剣と杖を手元から話したが、一人、目立つチェリーブロンドの少女は、騎兵達の前に一歩進み出る。 「アンリエッタ王女殿下より密命を受けて参上した、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールでございます。急ぎ殿下へお取次ぎを願います」 『無垢なる過失は罪か、それとも罰か』 「なに、ラ・ヴァリエールとな」 毅然と言い放ったルイズの前に、一人の男性が現れた。彼もまた、周りの騎兵と同じくマンティコアにまたがっているが、周囲のそれよりも マンティコアは一回りほど大きく、また男自身の格好も派手なものになっていた。 この男、マンティコア中隊を預かるド・ゼッサールという。彼は上から下までルイズの姿をよく見てから、こう言った。 「卿がラ・ヴァリエールの者であることを証明できる品はあるかね」 言われたルイズは思ってもみなかったのだろう。ほんのわずかだが、たじろいだ。 「そ、それは…」 そのわずかな挙動をド・ゼッサールは見逃さなかった。 「この者らを捕縛せよ」 隊長の号令があった以上部下は即座に反応し、一度は下げた杖を再び構えて飛びかかろうとした、その時。 「待ちたまえ。マンティコア中隊長殿」 ド・ゼッサールの背後より声が掛かった。 「マザリーニ枢機卿か…」 振り向けば法衣に丸帽子を被ったこの国の宰相を務めるマザリーニが立っている。 「彼女は間違いなく、ラ・ヴァリエール公の息女であるよ。私が証明する」 「……左様でございますか」 ド・ゼッサールは手を振って部下を下がらせると、マザリーニに一礼してその場を後にした。 何が何やらわからないルイズたちに、マザリーニは近寄る。その姿は遠景から見た以上に……小さかった。 「殿下からの密命、であったな。道すがら教えてくれるかね?ミス・ヴァリエール」 アンリエッタはその日も、王女の執務室兼謁見室で、回されてきた書類の代理決裁をしていた。 次から次へと持ち込まれる書面を眺めて、アンリエッタはいい加減うんざりしていた。 やれ、鉄砲水で流れた橋の掛けなおし費用に関して、だの。王室所有の田園の整備費用について、だの。 各種の役人が既に是非を半ば決めてしまっている事柄に只判をつけて行くだけのような時間に感じられていた。 それよりもアルビオンへと使わしたルイズやウェールズ王太子の方が気がかりで仕方がなかった。 暫くして、マザリーニ枢機卿が部屋に来た。恭しく丸帽子を傾ける。 「殿下。ラ・ヴァリエール三女ルイズ・フランソワーズが謁見を希望しております」 それを聞くや、アンリエッタの心は躍った。 ああ、ついに待ち望んでいたものが来たわ! しかしアンリエッタは、そんな思いを彼女なりに懸命に隠し、枢機卿に向かった。 「そうですか。ではここへ。…ただし枢機卿。貴方にも席を外していただきたいのです」 「なりませぬ」 その一言にアンリエッタの顔が固まった。対する枢機卿のは目を伏せ気味に、しかしよく聞こえる声で朗々と話し始めた。 「聞けば殿下より密命を受けたとのこと。しかし私めの知る限り、左様なものは存じませぬ」 「当然です。わたくしの判断でルイズに、ミス・ヴァリエールに託したのですから」 アンリエッタはマザリーニがはっきり言って嫌いだった。もって回った言い方、歯に衣着せぬ讒言、どれもがちくちくと茨を巻いた様であったから。 「アルビオン内乱の杞憂、ゲルマニアとの婚儀を前に、王族とはいえ無用の動きは慎んでもらわねばなりません」 「無用ではございませんわ。密命はゲルマニアとの婚儀を滞りなく薦めるためのものですから」 「ほぅ…それは、それは」 その言葉にマザリーニは確かに、うっすらと笑う。 「であるなら、もったいなくもトリステインの宰相に任じられたる、この私めにもその密命、拝聴する権利があるかと、思われますが…違いますかな」 しまった、とアンリエッタは奥歯を噛む。 「違いますかな」 押すようなマザリーニの声は、堂の入った政治家らしい迫力でアンリエッタに迫る。 「…道理と、思いますわ」 その迫力にアンリエッタは負けた。単純な力の差であった。 「では、失礼ながらお傍にて、密命のご報告を聞かせていただきますぞ」 そういうとマザリーニは粛々と執務室の一角に身を寄せ、まるで置物のように静かになった。 衛兵に呼ばれ、ルイズは謁見室へ入った。傍に立つギュスターヴも同じく、入室を許可された。 「ただいま帰参してございます。姫殿下」 「無事帰参の報を聞けて何よりよ。ルイズ・フランソワーズ」 席上君主と臣下の礼節を守る二人である。 「では、手紙をこちらに」 角盆に乗せられた手紙がアンリエッタの元へ渡された。 「手紙を回収できたということは、ウェールズ王太子とも会うことが出来たとみてよろしいですね」 「はい」 「出来れば聞かせて頂戴。かのお方がどうしているのか」 ルイズは語る。アルビオンに渡った時点で王党軍は消滅寸前だった事。王党軍の作戦中に巻き込まれる形で偶然接触できた事。 「それほどまでに、アルビオンの王軍は衰退していたのですね」 まるで他人事のように言うアンリエッタが、わずかにギュスターヴの神経を撫でた。 「それで、その後はどうなったのです」 「それについては…このギュスターヴめが詳しく話します」 ルイズは少し顔を曇らせる。対してギュスターヴは一歩前にでて毅然として礼をした。 (ほぅ…) 傍で聞いていたマザリーニの目が光る。 「アルビオン軍と接触の後の事を話す前に、一つ確認したい事があります」 数日前にルイズの部屋で会った時も殆ど話さなかったこの男は、何等アンリエッタに気負う素振りも見せずに話しかける。 「なんでしょうか」 「殿下は今回の密命に際し、ワルドと名乗る者を遣わし、いくつかの品を我々に届けさせたのは殿下自身の御命によってでしょうか」 「はい。確かに私はグリフィン中隊長ワルド子爵に密命を滞りなく進める為、手紙と指輪を預け、それを届けた後は貴方達の護衛を勤めるように命じました」 秘かに緊張が走る。マザリーニは一瞬、身体を竦ませ、ルイズもピクリと動く。ギュスターヴは、ほんのわずかに頷くだけだった。 「…お答えしていただき、感謝します」 「よしなに」 そしてギュスターヴは語った。アルビオンを脱出する為に、王太子が避難船に席を取ってくれた事。玉砕する王軍を言祝ぐために ワルドとルイズが結婚式を挙げようとした事。 「そういえば、かの方とは婚約者でしたね」 「…はい」 ルイズの返事は沈んでいたのに、アンリエッタの言葉はどこか浮ついていたように聞こえた。 「…私は万一のためにウェールズ殿下の協力の下、結婚式の会場である礼拝堂に身を隠しておりました。しかし私の主人は心思うところにおいて婚儀を中断し、 その場での結婚を拒絶しました」 「…そう」 「その時、ワルド子爵は豹変し、媒酌のウェールズ殿下ともども主人に杖を向け襲いかかろうとしました。私は隠し身を暴き二方を守る為に剣を取りましたが、 子爵を遺憾ながら取り逃がし、ウェールズ殿下も深手を負われていました」 「!!」 再び走る緊張。今度はアンリエッタが衝撃を受け、マザリーニは静かに首肯した。 「子爵は主人と、手紙と、ウェールズ殿下の御首を持ってレコン・キスタへ参画する予定であった旨をその場で告白したのです」 「そんな…子爵が…裏切り者だったなんて……」 学院への道中の折、恭しげに頭垂れていた姿がアンリエッタの脳裏に挿す。 「私は気を失っていた主人を運び、隠し港に残されたボートでその場を脱出し、アルビオンの浮力圏から降りる中で主人のご学友に助け出されました。そして今に至ります」 「そうですか…」 顔を伏せるアンリエッタ 「ウェールズ殿下は最後に傷ついた身体を推して戦場に向かわれました。殿下より言葉を預かっております」 「…あの人は何と」 「『強く生きろ』と。それと…」 懐を探って『風のルビー』を取り出す。 「この指輪を授けてくれました。私より殿下が持つべきものと思います」 『風のルビー』は手紙と同じように盆に乗せられて、アンリエッタに運ばれた。 「ルイズ…」 「はい」 「あの方は、私のしたためた手紙を読んでくれましたか」 「私の前で封を開け目を通しました」 「そう…」 アンリエッタの心が、暗く濃く沈んでいく。 あの人は私の手紙を見ても、亡命して、生きながらえて欲しいと言っても、首を振らなかった。 その事実が胸を重くするようだった。 「……姫様」 「…なんでしょう」 「お預かりした指輪を返却したいと思います。ウェールズ殿下のお言葉ではこれはトリステインの秘法『水のルビー』であるとの事。いやしくも私のようなものが 持ち続けるのは不敬と思いますゆえ」 言ってルイズが取り出すのは正真正銘『水のルビー』である。 これにはマザリーニ只一人が衝撃を受けた。目を見開き、唖然としている。 アンリエッタは伏せ気味に手を振って答えた。 「いいえルイズ。それは貴方が持っていなさい」 「しかし」 「…ラ・ヴァリエール家は王家庶子を開祖とする名門中の名門です。始祖より続く秘宝を預からせるに足る家だと私は考えます」 「……謹んで、拝領させていただきます」 ルイズがルビーをしまい、場を一礼して退室の許可をもらおうとした時。 「あいや。失礼ながら、私めに発言の機会を下さりませぬかな、殿下」 脇で静かに聴いていたはずのマザリーニが歩み出た。 「……なんでしょうか。枢機卿」 「殿下がこのたび、ラ・ヴァリエール嬢を使わした経緯、このマザリーニも納得のいたすところにございます」 「それは結構です」 「ですが、いくつか得心しかねる点がございます」 「……それはなんでしょうか」 「まず一つ。衛士大隊の中隊長格の将兵を独断で動かされた件。もう一つは王宮で管理している秘宝を無断で動かし、あまつさえ 臣下に下賜されようとした件についてでございます」 瞬間に、ルイズの肩身が居竦む。 「ワルド子爵めが貴族派のシンパであり、ウェールズ殿下を暗殺せしめんとした事はこの際捨て置いて考えていただかれますかな」 「捨て置け…と……」 捨て置け。 私が愛したあの人を殺した、その事実を捨て置けと。 マザリーニの淡々とした言葉にアンリエッタは言葉が出ない。 「大隊小隊長格以上の指揮官将兵は、一時的に隊を離脱する場合、戦時でないかぎりその日時、理由、そして事後報告をした書面を提出する事になっております。 密命など特殊な任務を帯びた場合もそれらを証明する署名がいるのです。それらを用意できますかな、殿下」 ぎり、と歯を噛む音がギュスターヴの耳に聞こえた。 「もう一つ、秘宝を動かすに際しても、それらを監督するものがおります。下賜されるのであれば、その旨を各種庁に際し通達する文書をお書きして頂かねばなりません」 ぎりり、と今度はルイズにも音が聞こえた。 「以上の点につきまして、後に殿下に深くお話させていただきたく思います」 臆面もなく、マザリーニは滔々と話したかと思うと、アンリエッタの言葉を待つように静かになった。 「………いいでしょう。何一つするにも書面がいるというのであれば、いくらでも用意しましょう」 声の端が上がっているアンリエッタの精神は炎が吹き出そうなほど憤りを上げていた。 アンリエッタとマザリーニのやり取りをぴりぴりとした中で聞いていたギュスターヴとルイズである。 ギュスターヴはともかく、ルイズはその空気で身体に穴が開きそうだった。 「…ですが、水のルビーの件についてはこの場で下賜させます。書類の記載事項については追って官庁に知らせます。それでよいでしょう?」 「殿下がそうなさるのであれば、私は何も」 しれっと言い放つマザリーニに苛立たしげな顔を見せてやりたかったが、アンリエッタはルイズの手前、それを繕った。 「……ごめんなさいなルイズ。今日はこれで」 「あ……はい。謁見を許していただき、有難うございました」 ギュスターヴとルイズの謁見は、こうして終了した。 待合室で待っていた二人と合流し、王宮の外で待たせていたシルフィードに乗って学院へ帰る運びとなった。 ルイズは指にはめた『水のルビー』を、指先で撫でていた。 「ねぇ、ルイズ」 「…何よ」 キュルケの問いかけにもルイズはどこかぼんやりと答える。この様子では話をまともに聞きそうにない、とキュルケは思った。 「……なんでもないわ」 「何よ、もったいぶって」 「なんでもないわよ」 「言いなさいよ」 ふぅ、とため息を吐き、キュルケはゆっくりと話し始めた。 「…もし、ゲルマニアの皇帝がアンリエッタ王女を愛するつもりが無いとしたらどうする?」 「へ?」 何を言い出すのか、とルイズは思った。 「ゲルマニアにとってね。今回の婚約と結婚っていうのは単に軍事協約と始祖の権威を分けてもらうだけの話じゃないのよ」 「何よ、それ……」 「例えばね。ゲルマニアの商工ギルドや金融ギルドに、トリステインの貴族はたくさん、借金をしているの。知ってる?」 「まぁ、少しは……」 「そういうところはね、今回の婚約と協約で二国間の親密度が上がると仕事がしやすくなるの。トリステインは国土は狭いけど、まだ手付かずの資産がいっぱいある。 なんて考えている連中も少なくないわ」 「…」 ルイズのまるで与り知らぬ話ばかりであった。 「他にもあるわよ。今のゲルマニアの皇帝一族って精々5代、6代くらいまではゲルマニアの中の一領主でしかなかった。そこで今回の協約が成功すれば、 始祖の時代から続く国一つを味方に出来るわね」 キュルケの語る話は、何処までも生臭い。どこか迂遠な言い回しが鼻についた。 「さっきから何が言いたいわけ?」 「…ゲルマニア皇帝とアンリエッタ王女の婚儀は『確実に』成功するわ。だってその方が利益になるもの。国と国との間のやり取りで 人一人の思いを汲み取りあっていたらきりがないわ」 ざわり、とルイズの肌を何かが駆け抜けた。 「キュルケ…何で手紙のこと……」 「ちょうど聞いちゃってたのよねぇ。ごめんなさいな」 しかし口とは裏腹に、キュルケは悪びれもしない。 「でもあの時姫殿下は」 「手紙を取り返して、と言った?」 「!!」 ルイズの顔が凍りつく。 あの時アンリエッタ殿下は『どうしよう』とは言ったが、『どうかしてくれ』とは言わなかった。アルビオンまで行ったのは、あくまでルイズの申し出があったからに過ぎない。 さらにキュルケが続けようとしたが、ギュスターヴはそれを止めた。 「やめておけ、キュルケ」 「ギュス」 ギュスターヴのその、ルイズを慮るような仕草が神経を逆撫でた。 「…なによ、何よ。なによ!二人して!私は友達の手紙を返してもらいに行っただけよ!」 「そんな詭弁は無理」 差し込むようにタバサがぽつりと言った。 「貴女は、王女の政治的瑕疵を繕う為に動いた」 「タバサ、あんた…」 たじろぐルイズ。タバサも手紙の一軒を知っているのだと気付いた。 「それに、王女が思っているより瑕はずっと浅い。これは事実」 「うぅっ」 「そういうことを教えてあげるのが本当の友人だと、私は思う」 「……」 ルイズはもう、言葉が出なかった。『お前の行動は無駄骨だった』と言われた方がどれだけ楽だろうか。 「…ギュス、ターヴ」 「…なんだ」 搾り出した声を向けたのは、傍らの使い魔だった。 「キュルケや、タバサのいうこと…全部知ってたの……始めから、アルビオンに入る前から、姫殿下の手紙を回収するのが目的だって知ってたの」 「…ああ」 ルイズの震える声は風竜の上を流れていく。 「手紙一つじゃ、婚約が崩れたりしないって、判ってて、それでも着いて来たの」 「……ああ」 くわっと目を見開いたルイズの拳が、ギュスターヴの胸を撃った。 「バカァ!」 バシバシとルイズの小さな両拳が叩きつけられる。ギュスターヴはそれを身じろぎもせず受け止めた。 「バカバカバカバカ、あんた大バカよ!情けでもかけたつもり?!」 「そんなつもりはない」 はっきりと、ギュスターヴが答える。 「なら、どんなつもりよ」 「……アルビオンという国を見てみたかった。この目で」 「…それだけ?」 「それだけさ。一応、お前の使い魔ということにもなっているし」 「……バカね。本当に…本当に…」 ギュスターヴの胸を撃ちながら、ルイズは俯き、嗚咽する。 「本当の馬鹿は……私よ…」 ルイズの思いを無視して、シルフィードは一路、魔法学院へ向かうのだった。 前ページ次ページ鋼の使い魔