約 632,149 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4032.html
作品の後ろにある文字の説明はジャンルマークについてに纏めてあります。 作者名の改名は、お気軽にお申し出下さい。ご自分で編集して変えていただいても問題ありません。 作品の一覧追加も、漏れがありましたらお気軽にお申し出下さい。これまたご自分で編集していただいても問題ありません。 あ~な行で始まる作者別アールグレイ アイアンマン アイアンゆっくり 赤福(ゆっくりしたい人から改名) アサシンの人 甘党 天海 アルコールランプ アンノーマン エイム 大貫さん オズ お題の人 お帽子の人 『オマケ』 小山田(通称:ゆっくり加工場の人) 御湯栗 俺とゆっくりの人 俺魔理沙の人 怪僧トンポ 課本 書き溜め 希少種の人 キノコ馬 キャベツ頭(ハチの人から改名) きめぇ丸大好きっ子 虐待おにいちゃん 巨大(ryの人 クラムボン ケイネスキー ケラ子 剣客みょん 懲りない男 さすらいの名無し しゃべらないゆっくり 十京院典明(”ゆ虐の友”従業員から改名) 少女Q(ゆっくりゃバーガーの人から改名) 白い人 神社バイト 神父 推進委員会の人 睡眠不足な人 すまれみりゃの作品集 ダイナマイト横町 タカアキ 高菜の人 チェンジリングの人 チェンマガツ ちはる ちゃわんむし(762) 町長 超伝導ありす ツェ ティガれみりゃの人 デストラクション小杉 同志ゆっくり小町 土下座衛門 ドスまりさとゆうかの人(仮名) ななな 七連星の人 茄子 名も無き作者 のりたま あ~な行で始まる作者別 アールグレイ ゆっくりいじめ系638 少年と木ゆっくり虐無 ゆっくりいじめ系651 ユルジンと魔法のランプ虐家性共 ゆっくりいじめ系903 因幡の白ゆっくり ゆっくりいじめ系1238 ゆっくりsacrifice アイアンマン アイアンマンの作品集 アイアンゆっくり ゆっくりいじめ系2668 まりさの馬鹿 ゆっくりいじめ系2713 ゆっくり地縛霊 れいむ親子の場合 ゆっくりいじめ系2772 ゆっくり教えてね!! 1 ゆっくりいじめ系2819 ゆっくり地縛霊 まりさ達の場合 ゆっくりいじめ系2824 鬼斬 1 ゆっくりいじめ系2863 ゆっくり教えてね!! 2 ゆっくりいじめ小ネタ529 世界で一番短い虐待 ゆっくりいじめ系2882 怪奇現象虐制強希無 ゆっくりいじめ系2948 ゆっくり地縛霊 ありすの場合虐制家共強希無 ゆっくりいじめ系3086 恐るべきゆっくり 前半 赤福(ゆっくりしたい人から改名) ゆっくりしたい人の作品集 アサシンの人 ゆっくりいじめ系761 ゆっくり兵 ゆっくりいじめ系955 ゆっくりアサシン~お兄さん遊び編 ゆっくりいじめ系1360 焼き串 ゆっくりいじめ系1890 ゆっくり護身術 ゆっくりいじめ系2022 ゆっくりになった男1 ゆっくりいじめ系2295 ゆっくりになった男2 ゆっくりいじめ系2296 ドスのいる村 ゆっくりいじめ系2301 食ゆ植物 ゆっくりいじめ小ネタ412 ゆっくりミキサー車 ゆっくりいじめ系3093 GSPOゆっくり課 ゆっくりいじめ系3095 GSPOゆっくり課2 ゆっくりいじめ系3103 GSPOゆっくり課3 ゆっくりいじめ系3104 GSPOゆっくり課4 甘党 甘党の作品集 天海 天海の作品集 アルコールランプ アルコールランプの作品集 アンノーマン ゆっくりいじめ系1087 潜入!ボスの群制無 ゆっくりいじめ系1111 協定破棄復無 ゆっくりいじめ系1120 加害者ありすの献身虐制性無 ゆっくりいじめ系1296 栄光のユックリンピース制性環無 ゆっくりいじめ系1517 走れマリス ゆっくりいじめ系1647 侵入!ボクの家 エイム にとり×ゆっくり系2 見本市 その他 大会に行こう! ゆっくりいじめ系332 大会に行こう! そして、それから… ゆっくりいじめ系356 ある可能性 その他 うん、この味 ゆっくりいじめ系811 ある森の危機制捕無 ゆっくりいじめ小ネタ292 私は大抵はもらい物で済ませる物 ゆっくりいじめ系2213 ある可能性の否定 大貫さん 大貫さんの作品集 オズ ゆっくりいじめ系270 ゆっくりスイーツ(笑)虐無 ゆっくりいじめ系680 ゆっくり刷り込みしてね!!!虐共無 ゆっくりいじめ系1188 漢方『湯繰丹』 お題の人 お題の人の作品集 お帽子の人 お帽子の人の作品集 『オマケ』 ゆっくりいじめ系2131 ゆっくりはつらいよ 花粉篇 ゆっくりいじめ系2171 ゆっくりは死なん ゆっくりいじめ系2274 邪悪の使い ゆっくりいじめ系2365 ゆっくり恐怖症 ゆっくりいじめ系2659 ゆっくりしてほしい ゆっくりいじめ系2786 飼われなかったゆっくり ゆっくりいじめ小ネタ324 ゆっくりのおまけ ゆっくりいじめ小ネタ325 あかちゃんはどこからくるの? ゆっくりいじめ小ネタ365 薪割り 小山田(通称:ゆっくり加工場の人) ゆっくり加工場の人の作品集 御湯栗 ゆっくりいじめ系159 ゆっくり飾り Part.1虐家共無 ゆっくりいじめ系160 ゆっくり飾り Part.2虐家共無 ゆっくりいじめ系175 ゆっくり飾り2 Part.1虐家無 ゆっくりいじめ系2138 ゆっくり飾り2 Part.2 俺とゆっくりの人 ゆっくりいじめ系21 俺とゆっくり 虐環 無 ゆっくりいじめ系97 俺とゆっくり2(前編)制無 ゆっくりいじめ系165 俺とゆっくり2(中編)制家無 ゆっくりいじめ系214 俺とゆっくり2(後編)虐家性無 ゆっくりいじめ系561 俺とゆっくり2(終編)虐制家捕無 ゆっくりいじめ系636 俺とゆっくり2(完結編)虐環捕無 俺魔理沙の人 ゆっくりいじめ系61 ゆっくり俺魔理沙そ ゆっくりいじめ系70 NTR 制 ゆっくりいじめ系330 電子生命ゆっくり誕生制捕無 ゆっくりいじめ系663 ルチャゆっくり虐無 怪僧トンポ ゆっくりいじめ系73 こどもたちが屠殺屋ごっこをしたはなし1虐共家 ゆっくりいじめ系81 こどもたちが屠殺屋ごっこをしたはなし2虐共家 ゆっくりいじめ系224 ゆっくり藍の憂鬱虐無 ゆっくりいじめ系225 ゆっくりたちの生き地獄制家環無 課本 ゆっくりいじめ系383 畑番めーりん制そ ゆっくりいじめ系522 ゆっくりめーりんの話虐無 ゆっくりいじめ系550 体付きゆっくりの冬虐家捕無 ゆっくりいじめ系675 一人きりの子育て虐性家 書き溜め 書き溜めの作品集 希少種の人 希少種の人の作品集 キノコ馬 キノコ馬の作品集 キャベツ頭(ハチの人から改名) ゆっくりいじめ系896 ハチとゆっくり ゆっくりれみりゃ系いじめ49 冬のれみりゃ1 ゆっくりれみりゃ系いじめ59 冬のれみりゃ2 ゆっくりいじめ系1335 ゆっくりおろしていってね!!! ゆっくりいじめ系1372 都市型ゆっくりの受難 きめぇ丸大好きっ子 ゆっくりいじめ系764 究極お兄さん制無 その他 きめぇ丸といっしょ ゆっくりいじめ系820 きめぇ丸といっしょ2 ハロウィンゆっくり虐家捕無 ゆっくりいじめ小ネタ144 改造お兄さん ゆっくりいじめ小ネタ148 ゆっくりりぐる 虐待おにいちゃん 虐待おにいちゃんの作品集 巨大(ryの人 巨大(ryの人の作品集 クラムボン ゆっくりいじめ系41 ゆっくり一家と俺の冬 前編 制家無 ゆっくりいじめ系42 ゆっくり一家と俺の冬 後編 制家共無 ゆっくりれみりゃ系いじめ12 ゆっくりゃたまねぎ責め虐制 ゆっくりいじめ系449 あるゆっくり姉妹の話そ ケイネスキー ゆっくりいじめ系306 ゆっくり改造職人のお話 前編虐そ無 ゆっくりいじめ系340 ゆっくりダイビング虐環無 ゆっくりいじめ系466 ゆっくりに激しいぼうこうを加えるお話虐 ゆっくりいじめ系475 ゆっくりイクと俺虐 ケラ子 ゆっくりいじめ系509 紅い弾丸 ゆっくりいじめ系601 ある新人ゆっくりーだーの話(前編)制無 ゆっくりいじめ系647 ある新人ゆっくりーだーの話(後篇)制共無 ゆっくりいじめ系711 ある植物型奇形妊娠の話 ゆっくりいじめ系748 ある動物型奇形妊娠の話 ゆっくりいじめ系807 あるロボットゆっくりーだー達の話(前編) ゆっくりいじめ系844 あるロボットゆっくりーだーの話(後編) ゆっくりいじめ系1437 ゆっくりー島の悲劇 剣客みょん (暫定的に作者名を勝手につけました。一作品目が名前にそのまま出来そうなタイトルでしたので。微妙な場合はご遠慮なく改名要請お願いします。by管理人) ゆっくりいじめ系1528 剣客みょん ゆっくりいじめ系1547 合戦 ゆっくりいじめ系1561 ゆっくり冬将軍 ゆっくりいじめ系1576 怨念 ゆっくりいじめ系1633 ゆっくりさん ゆっくりいじめ系1644 ここが奇跡のゆっくり村!鬼意山は舞い降りた!! 懲りない男 懲りない男の作品集 さすらいの名無し さすらいの名無しの作品集 しゃべらないゆっくり ゆっくりいじめ系630 狭き門虐環家共無 ゆっくりいじめ系653 ゴッドかなこ虐共 ゆっくりいじめ系690 ゆっくりとカビ虐性家無 ゆっくりいじめ系715 不可侵条約虐無 ゆっくりいじめ系765 子沢山(植物篇)虐性無 ゆっくりいじめ系1054 子沢山(にんっしんっ篇) ゆっくりいじめ系1166 ゆっくりによる裁判 十京院典明(”ゆ虐の友”従業員から改名) 十京院典明の作品集 少女Q(ゆっくりゃバーガーの人から改名) 紅魔館×ゆっくり系8 ゆっくりゃバーガー虐 ゆっくり加工場系18 ゆっくり連環腿虐薬道 慧音×ゆっくり系5 ゆっくり奇々怪々(上) 慧音×ゆっくり系6 ゆっくり奇々怪々(中) 慧音×ゆっくり系9 ゆっくり奇々怪々(下) その他 にちょりは仲良く暮らしたい。 ゆっくりいじめ小ネタ213 ゆっくり鞭打 ゆっくりいじめ系1600 ゆっくりくずまんじゅう 白い人 その他 ようむそ ゆっくりいじめ系616 ゆゆほーる虐道無 神社バイト 神社バイトの作品集 神父 その他 辻斬り妖夢譚 ディレクターズカット版 (前編)虐性料 その他 辻斬り妖夢譚 ディレクターズカット版 (後編)虐料 小悪魔×ゆっくり系5 パティシエールな小悪魔虐料 小悪魔×ゆっくり系6 パティシエールな小悪魔2虐料 ゆっくりいじめ系1800 パティシエールな小悪魔3虐料 推進委員会の人 ゆっくりいじめ系577 ゆっくり推進委員会_1虐環無 ゆっくりいじめ系578 ゆっくり推進委員会_2虐環無 ゆっくりいじめ系666 ゆっくり推進委員会2虐環家無 ゆっくりいじめ系747 ゆっくり推進委員会3虐環捕無 ゆっくりいじめ系774 ゆっくり推進委員会4虐環捕無 ゆっくりいじめ系1182 悪徳の栄え1虐環無 ゆっくりいじめ系1226 悪徳の栄え2虐環無 睡眠不足な人 ゆっくりいじめ系718 ドスまりさのお願い(前) ゆっくりいじめ系719 ドスまりさのお願い(後) ゆっくりいじめ系743 楽園 ゆっくりいじめ系875 楽園2-裏側 ゆっくりいじめ系879 あるゆっくり家族の話 すまれみりゃの作品集 すまれみりゃの作品集 ダイナマイト横町 ダイナマイト横町の作品集 タカアキ タカアキの作品集 高菜の人 ゆっくりいじめ系1523 じゃがいも ゆっくりいじめ小ネタ228 高菜 ゆっくりいじめ小ネタ322 ふりだしにもどる チェンジリングの人 チェンジリングの人の作品集 チェンマガツ チェンマガツの作品集 ちはる ゆっくりいじめ系924 ゆっくり姉妹 前編 ゆっくりいじめ系925 ゆっくり姉妹 後編 ゆっくりいじめ系967 カントリーガール 1 ゆっくりいじめ系968 カントリーガール 2 ゆっくりいじめ系1540 ゆっくりと悪魔のような子供達 ゆっくりいじめ系1670 ゆっくりと悪魔のような子供達2 ゆっくりいじめ系1671 ゆっくりと悪魔のような子供達3 ゆっくりいじめ系1672 ゆっくりと悪魔のような子供達4 ちゃわんむし(762) ちゃわんむし(762)の作品集 町長 ゆっくりいじめ系642 満員電車とゆっくり虐環無外 ゆっくりいじめ系662 大岡裁き虐家無 ゆっくりいじめ系858 ゆっくりセラピー ゆっくりいじめ系913 頭外 ゆっくりいじめ系1190 ゆっくりの巣 ゆっくりいじめ系1729 年の瀬とゆっくり虐 超伝導ありす 超伝導ありすの作品集 ツェ ツェの作品集 ティガれみりゃの人 ティガれみりゃの人の作品集 デストラクション小杉 デストラクション小杉の作品集 同志ゆっくり小町 ゆっくりいじめ系1401 男と一家 ゆっくりいじめ系1421 きめぇ丸の恩返し 丙 ゆっくりいじめ系1438 きめぇ丸の恩返し 丁 ゆっくりいじめ系1459 ゆっくりハザード 永遠亭の怪 ゆっくりいじめ系1508 楽園の終焉 ゆっくりいじめ系1579 感染拡大 ゆっくりいじめ系1626 内から侵食 ゆっくりいじめ系1766 ゆっくりの逃避行 丙 ゆっくりいじめ系2159 ゆっくりの逃避行 丁 ゆっくりいじめ小ネタ404 王様とゆっくり 土下座衛門 土下座衛門の作品集 ドスまりさとゆうかの人(仮名) ドスまりさとゆうかの人の作品集 ななな ゆっくりいじめ系77 くたばれゆっくりぁあああああ!!!!虐そ ゆっくりいじめ系95 しにさらせゆっくりぁあああああ!!!!そ 七連星の人 七連星の人の作品集 茄子 茄子の作品集 名も無き作者 ゆっくりいじめ系100 ピタゴラゆっくり虐家無 ゆっくりいじめ系106 小ねたっぽいゆっくりいじめ虐環 ゆっくりいじめ系288 ピタゴラゆっくり2虐機無 ゆっくりいじめ系301 ゆっくりゃかわいがり(笑)虐無 その他 ゆっくりクッキングそ のりたま ゆっくりいじめ系1145 硬いお菓子 ゆっくりいじめ小ネタ163 小ネタ 7eu
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/1215.html
とある寂れた宿場町で、ひとりの美ゆっくりらんしゃまが泣いていたのです。 「ああ、ちぇん。ちぇえええええん!」 その叫び声は天をも落とす勢いで。 しかし、その町の人々は、何かを恐れてか、誰一人としてらんしゃまに話しかけようとするゆっくりはいなかったのです。 日も暮れ、流す涙も等に果てたころ、ふいと旅装束の一団が通りかかってまいったのでございます。 「まちなさいだど。おじょうさん。どうしてそんなにないてるんだど?」 そこには、見るもかわいらしいおぜう……じゃなかった。越後のちりめん問屋の娘と名乗るゆっくりでした。 「私の一人娘のちぇんが、悪いお代官様に囲われてしまったのです」 そう、ゆっくりらんしゃまの一人娘、親孝行なことで有名なゆっくりちぇんは、借金のかたにお代官様の元に奉公にいかされてしまったのだそうで。 「おぜう……じゃない、ご隠居さま。この町の代官は色魔として悪名を誇るゆっくりみょんのはず」 「おそらく、このままではゆっくりちぇん殿は手篭めに……」 ちりめん問屋の娘の共、と名乗るゆっくりさくやとゆっくりぱちゅりーが神妙な顔で頷くのでした。 「そ、そんな。ちぇええええええん!」 「おちつくんだど、お嬢さん。きっと、天はお嬢さんを見放さないんだど~」 「いいえ、この町にあの代官様に逆らえるゆっくりは誰もいません! こうなったら私一人でもちぇんを助け出す!」 そういって、ゆっくりらんしゃまは夕闇の中、できるだけいそいで、ゆっくりかけていったのでした。 「おぜうさま、いかがいたしますか?」 「ふ~むだど。もう少し様子を見るど~」 「離してくれ! ちぇええええん! ちぇえええええええええん!」 代官屋敷の中庭に、代官の部下のゆっくりまりさと、まりさに哀れにも捉えられたらんしゃまがいたのでした。 「この不届きもの、いかがいたしやすか?」 ゆっくりまりさが不適に笑います。話しかけている相手は、縁側にいる、悪代官のゆっくりみょんでした。 「ちんぽ。ちーんぽ!」 「わかりました。れいむ! ちぇんをここへつれてこいと代官様がお望みだ」 その場へゆっくりれいむにつれてこられるちぇん。 「わ、わからないよー」 ちぇんはおびえきっていました。 だってそうでしょう? 今から何をされるのかちっとも想像がつかないのですから! 「ちーんぽ!」 「なんと! そんなことを! お代官様、あなたも非道ですなあ」 ゆっくりれいむは、ちぇんをおさえつけたまま、にやりと笑いました。 「ちーんぽ! ちんぽ。ちーんぽ!」 「わからないよー。わからないよー」 そこはさながら阿鼻叫喚の図でした。 「そ、そこまできつい言葉攻めをするなんて。お代官さまはなんとおそろしいゆっくりだ!」 母親の目の前で、一人娘が言葉で陵辱されているのです。 ちぇんは涙を何筋ともなく流し、それを見せ付けられているらんしゃまは、いまにも気を失いそうです。 そのとき! 「民衆の、もはんとなるべき代官が、そんなことではいけないんだど~」 ゆっくりたちが、さっそうと進入してきました。 そうです。あのちりめん問屋の三人です。 「ち、ちーんぽ!」 「なにものだ。ええい、であえ、であえー」 とたんに、悪代官の手下のゆっくりたちが、十人ばかり現れました。 ちゃんちゃんばらばら、ちゃんばらら。 なんということでしょう。 人数では圧倒的に劣勢なのに、三人は見事なチームプレイで、悪代官たちを追い詰めてゆきます。 あっというまに、配下の半分が気絶させられました。 そのとき、 「しゃくや、ころあいだっどぅ~」 ちりめん問屋の娘が、自信たっぷりに言い放ちます。 その言葉とともに、ゆっくりさくやが娘のそばに控えます。 「ものども、ひかえい! このおかたの悩☆殺ダンスが目に入らぬか!」 ちりめん問屋の娘は、見事なしゃがみガードと踊りを披露いたしました。 「れみ☆りあ☆う~」 「げえっ! そのないすだんすはっ!」 うろたえるゆっくりれいむたち。 「このお方を……げほっげほっ……むきゅ~」 「……このお方をなんと心得る。紅魔館のおぜうさま、れみりゃにあらせられるぞ。ものども、頭が高い。ひかえおろう~!」 そうです! ちりめん問屋の娘の正体は、おぜうさまだったのです。みんな気づかなかったね! さすがの悪代官も、おぜうさまにはかないません。みなでゆっくりしました。 「ははー」 そこには、ゆっくりらんしゃま、ちぇん親子もいます。 「らんしゃま、ちぇん。話はすべてきいたど。借金はきにしなくていいど。これからも仲良く暮らすど~」 「ありがとうございます!」 「わかるよー」 二日後、宿場町はかつての賑わいを取り戻していました。 「さて、旅を続けるかだど~」 おぜうさま一行は、また、旅装束に身を包み、新たな町へと向かって旅を続けるのでした。 「まってくださいよ。団子をもうひとつ」 「むきゅー。めーりんはたべてばっかりね」 「こいつはうっかりです」 テレビドラマ定番シリーズ「水戸ゆっくり」 「……面白かった、橙?」 「わかる、わかるよー!」 万年初心者 面白かったw -- 名無しさん (2010-01-23 02 15 14) おーーぜーーーうーーさーーまーーー♪ この一行についていきたい^^ -- 名無しさん (2011-07-29 09 27 45) 水戸黄門かいな -- 名無しさん (2023-02-27 11 15 13) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3299.html
「おにぇーしゃん! ゆっくちいってらっしゃい!」 「行ってきます、れいむ。いい子にしてるのよ?」 私は普通のお姉さん。 巷では虐待だの愛でだのとゆっくりへの対し方はいろいろあるらしいが、私は特にそういった趣向は持っていない。 それなのに私はゆっくりれいむを飼っている。いや、飼っているというのは正しくない。 れいむは私のペットではなく、ただ家に置いているだけだ。 なぜかと言えば、それは数日前のことだ。 仕事を終えて家路を歩いていたら、茂みから小さなれいむが出てきた。 野生のゆっくりを里の近くで見るのは珍しいといえば珍しいが、皆無というわけではない。 しかし、どう見ても子ゆっくりにもなっていないほどの大きさのゆっくりが一匹だけで行動しているのは気になった。 辺りを見回しても、親ゆっくりの姿は見当たらない。 「ねえ、君」 「ゆっ!? ゆっくちちちぇいっちぇねっ!?」 声をかけると、怯えたように体を膨らませて威嚇してくる。 とはいっても、赤ゆっくり程度の大きさでは膨らんだところでたいした変化はないのだが。 「ご、ごめんなさい。驚かせちゃったかしら……あら?」 膨らんだことで傷口が開いたのか、れいむのほっぺたの辺りから餡子が漏れていた。 「ゆあーん! いちゃいよおお! おきゃーしゃーん!」 大粒の涙をこぼしながら母の名を呼ぶれいむ。しかし、親が助けに来る様子はない。 「大変! 怪我してるのね。ちょっと待ってね」 鞄の中から水筒を取り出す。中身は麦茶に砂糖をたっぷりと入れたものだ。 ゆっくりについて詳しい話は知らないが、怪我したゆっくりにはオレンジジュースをかけてやると良いと聞いたことがあった。 あいにくオレンジジュースはなかったが、甘い飲み物なら少しはマシだろう。 甘党で良かった、と思う。たとえ体重と戦う運命にあろうとも。 ハンカチを麦茶で濡らし、れいむの傷口に優しく当てる。 「ちょっと痛むかもしれないけど、我慢してね」 「ゆあーん! ゆあーん! ……ゆゆ、ゆっくちいちゃくなくなっちぇきちゃよ!」 見れば、ほっぺたにある大きな傷のほかにも小さな傷が無数にある。 もう一度ハンカチを麦茶に浸し、体全体を撫でる。 「ゆゆーん! しゅっきりー!」 「もう大丈夫ね。ねえ君、お父さんやお母さんはどうしたの?」 「ゆ……ゆあーん! おとーしゃーん! おきゃーしゃーん!」 しまった。落ち着いたと思ったけれど、いきなり核心を突くのはまずかった。 おろおろしながら周囲を見回すと、大きめの葉っぱが目に入る。 その葉っぱを一枚ちぎり、れいむの前に置いて、そこに少量の麦茶を注ぐ。 「ね。これ飲んで落ち着いて。ね?」 「ゆあーん! ……ゆ? このおみじゅしゃんにゃんだかちょっちぇもあまあまだよ!」 ふう、と胸をなでおろす。どうやら落ち着いてくれたようだ。 「ぺーろぺーろ! しゃーあせー!」 お腹もすいていたのだろう。一心不乱に舐め続ける。 おかわりを三回ほどしたところで、今度は少し遠まわしに尋ねてみる。 「ねえ、君はどこから来たの?」 「ゆ? れーむはもりしゃんにすんでるよ!」 ファーストコンタクト成功。心の中でガッツポーズをとる。 「それじゃ、どうしてここまで来たの?」 「ゆ……みんにゃでおしゃんぽしてたら、れみりゃがきちぇ……」 れみりゃ……というのは、確かゆっくりを捕食するゆっくりだったと思う。 「おとーしゃんがおちょりになるっちぇ、おきゃーしゃんがにげりょって……ゆあーん!」 また泣き出してしまったが、大まかの事情は理解できた。 幸せに暮らしていたゆっくり一家。 みんなで散歩に出ていたところに、捕食種であるゆっくりれみりゃが襲ってきた。 父ゆっくりが囮になってれみりゃの気を引いている間に、母ゆっくりが逃がしてくれたのだろう。 だけど、今母ゆっくりが近くにいないことを考えると……その先をれいむの口から聞くのはためらわれた。 「よしよし、泣かないで。……そうだ、お姉さんのおうちに行きましょう」 「ゆ? おねーしゃんのおうち?」 「そうよ。美味しいお菓子もあげるわ」 「ゆ! おかち!」 「ふふ。決まりね」 私はれいむを抱えると、家路を急いだ。 それから数日。れいむはまだ私の家にいる。 お菓子もあげるし、時間があれば遊んであげる。 その時にれいむは必ず「しゃーあしぇー!」と言ってくれるが、ことある毎に窓の外を見ては「おとーしゃん……おきゃーしゃん……」とさびしげに呟く。 いくら最高のゆっくりプレイスだとしても、両親がいない寂しさを埋めることは出来ないのだろう。 無言でれいむの頭を撫でてやる。 「ゆゆ! おねーしゃん、くしゅぐっちゃいよ!」 幸せそうに笑うれいむだが、やはり表情には陰がある。 このままではいけないのだろう。 しっかりと両親がもういないであろうことを伝えなければいけない。 そして、野生に帰るか、それとも……。 ふう、とため息をつく。まだ早い。まだ真実を伝えるには早すぎる。 それに、万に一つの確率で両親が生きているかもしれない。 れいむと、それに私の決心が付くまで、もう少しこの生活を続けてもいいだろう。 そんな風に結論を先延ばしにしながら、また数日が経った。 私が家を留守にしている間に、二匹のゆっくりが家を訪れた。 まりさとありす。どうやら、人間の食料を奪いに来たらしい。 「ゆゆ! にんげんのいえにれいむがいるんだぜ!」 「まだちっちゃいあかちゃんじゃない!」 「ゆ? ゆっくりしちぇいっちぇね!」 いつものようにれいむが窓の外をぼんやりと眺めていると、二匹はれいむに気づいたようだ。 「なんでにんげんのいえにれいむがいるんだぜ?」 「ほかのゆっくりはいないのかしら?」 「ゆゆーん……れいむのおとーしゃんとおきゃーしゃんはれみりゃに……れみりゃに……」 ゆぐゆぐと泣くれいむを傍目に、まりさとありすは相談を始める。 「どうやられいむだけみたいなんだぜ」 「そうみたいね。それにしてはひろくてとかいはなゆっくりぷれいすじゃない」 「れいむにはもったいないんだぜ! ゆっへっへ、まりさにいいかんがえがあるんだぜ!」 悪巧みというものはもう少しこっそりとやって欲しいものではあるが、幸か不幸かれいむは二匹の様子には気づいていない。 「それはかわいそうなんだぜ! まりさとありすがれいむのおとうさんとおかあさんになってやるんだぜ!」 「ゆ? おとーしゃん? おきゃーしゃん?」 「ゆ! そうよ! きょうからわたしがれいむのとかいはなおかあさんよ!」 まりさの意図に気づいたらしいありすも迎合する。 「いっしょにゆっくりするんだぜ!」 「とかいはなこどもにしてあげるわ!」 「おとーしゃん! おきゃーしゃん!」 窓ガラス越しにすーりすーりしながら、まりさとありすは悪い笑顔を浮かべる。 「ゆっへっへ。こどものものはおやのものなんだぜ!」 「さすがまりさ! とってもとかいはね!」 「ただいま、れいむ……あら?」 仕事から帰ってくると、窓の外に二匹の見知らぬゆっくりがいた。 「おねーしゃん! おきゃえりなしゃい!」 「やっとかえってきたんだぜ! にんげんはさっさとここをあけるんだぜ!」 「そうよ! こんなさむいところとかいはじゃないわ!」 「ええと……れいむのお友達?」 「おちょもだちじゃにゃいよ! おとーしゃんとおきゃーしゃんだよ!」 「そうだぜ! まりさはれいむのおとうさんなんだぜ!」 「ありすはとってもとかいはなれいむのおかあさんよ!」 れいむが家に来てから、ゆっくりに関して少しだけだが調べてみた。 近所にゆっくりについてとても詳しいお兄さんがいたので、その人に話を聞いたのだ。 そこで知ったことなのだが、ゆっくりは親のどちらかの種として生まれるらしい。 つまり、何か特別な理由でもない限りはこの二匹がれいむの親であるという可能性はない。 なのだが……。 「ねえ、れいむ。本当にまりさとありすがお父さんとお母さんなの?」 「しょうだよ! おとーしゃんとおきゃーしゃんだよ!」 ぴょこぴょこと飛び跳ねながら喜びを表すれいむ。 本人がそう言うのであれば……私が口を挟む問題じゃない。 「はやくここをあけるんだぜ! おかしももってくるんだぜ!」 「ぐずなのはとかいはじゃないわ! まったく!」 まりさとありすも口は悪いが、きっと早く子供に会いたいんだろう。 鍵を開けて、窓を開ける。 「ゆっへっへ! ここは――」 「それじゃあ、まりさ。ありす。れいむのこと、よろしくお願いするわね」 「ゆ? そんなことはどうでも――」 「おねーしゃん! ゆっくちおせわになりました!」 「ちょっとどこいくのおちびちゃ――」 「あの子はずっと室内育ちだから上手に狩りとか出来るか心配だけど、ゆっくり長い目で見てあげてね」 「まりさのはなしをきいて――」 「これ、今日のお土産だったんだけど。餞別になっちゃったわね……はい、れいむ」 「ちょっときいてるの――」 「ゆゆ! しゅーくりーむしゃんだよ! ありがちょうおねーしゃん!」 「だからここはまりさの――」 「おとーしゃん! おきゃーしゃん! ゆっくちおうちにかえっちぇたべよーにぇ!」 「ありすたちのおうちはここ――」 「それじゃあね! ばいばい、れいむ! 元気でね」 名残惜しくないと言えば嘘になる。 だけど、れいむがゆっくりと過ごせる未来を自分で選んだのだ。 それを尊重してあげるのが、一番の幸せだろう。 窓を閉めて、カーテンを閉める。 いつまでも私が未練がましく見ていたら、きっとれいむも寂しくなるだろうから。 れいむも大好きだった幻想楽団の音楽を流しながら、一つになってしまったシュークリームを食べる。 大好きな味なのに、今日はなんだかしょっぱかった。 「ゆ? おとーしゃん。おきゃーしゃん。ゆっくちおうちにあんにゃいしてにぇ!」 「どぼじでおぞどにいっぢゃうのおおおおお! おぢびぢゃんのおうぢはあぞごでじょおおおお!」 「ゆゆ? あそこはおねーしゃんのおうちだよ!」 「なんでぞんなごどいうのほおおおおおお!」 「ゆゆゆ? へんなきょといっちぇないでゆっくちおうちにかえろうにぇ!」 まりさとありすの脳内では、あの家はれいむのおうちだった。 そして、自分たちがれいむの親になれば、そのおうちに一緒に住むことが出来る。 れいむはしばらくしたら追い出せばいい。 そうすれば、人間のおうちを自分たちのものに出来る。 そんなことを考えていた。 しかし、れいむはあのおうちがお姉さんのおうちであるということを理解していた。 だからどれだけゆっくり出来る環境であったとしても、自分が帰るべきおうちは外にあると理解していたのだ。 呆然としていたまりさとありすだったが、ふつふつと湧き上がる怒りのままれいむを叩きつける。 「ゆえ!? どうちてきょんにゃことしゅりゅの!?」 「ぐずなれいむのせいでさくせんがだいなしだよ! ぷんぷん!」 「まったく! いなかもののれいむのせいよ!」 「ゆえーん! おとーしゃあああん! おきゃーしゃあああん!」 「うるさいね! まりさがれいむのおとうさんのわけないでしょ!」 「そうよ! まりさとありすのこはもっととかいはでかわいいこよ!」 少しは大きくなったとはいえ、まだ子ゆっくり程度のれいむ。 そんなれいむが成体二匹から怒りのこもった体当たりを何発も受けたのだ。 「これで綺麗になったわ」お姉さんに綺麗にしてもらった肌はボロボロに。 「さらさらで羨ましいわ」お姉さんに綺麗にしてもらった髪はボロボロに。 「ゆっくりできないれいむはゆっくりしね!」 とどめの一撃。 「もっちょ……ゆっくりしちゃきゃっちゃ……よ」 二匹の息のあった体当たりで、れいむは吹き飛ばされて……動きを止めた。 「うっめ! これめっちゃうめ!」 「ま、まあまあのあじね!」 そんなれいむには目もくれず、シュークリームを貪り食う二匹。 「ゆべし!」 「ゆでぶ!」 突如、二匹に脳天直撃の衝撃が襲う。 「これは……どういうことかしら?」 別れた数分後。 耐え切れず、私はれいむの様子を窺いに外に出たのだった。 ゆっくりとした両親に囲まれて、ゆっくりとおうちに帰るれいむ。 そんな光景を想像していた私には、この光景は衝撃だった。 急いでれいむを抱え上げ、オレンジジュースをかける。 服が汚れるのも気にせずに、何本も。 三本目をかけ終わったところで、れいむが目を開けてくれた。 「ゆ……? おねー……しゃん?」 「よかった……よかった!」 そのまま眠ってしまったれいむをタオルに包んで、テーブルに置く。 そして改めて外に出たところで――今に至る。 「はなすんだぜ! はなすんだぜ!」 「どういうことって聞いているのよ」 右手にまりさ、左手にありすを鷲掴みにしたまま問いかける。 「いなかものなにんげんははやくとかいはなありすをはなしなさい!」 掴んだ両手に力を込める。 「ゆぎいいいい! やべるんだぜええええ!」 「どがいはじゃないわあああああ!」 「もう一度聞くわ……これは、どういうこと? あなたたちはれいむの親じゃなかったの?」 「ばりざがでいぶのおどおざんなわけがないでじょおおおお! ばがなの? じぬの?」 「ぞうよ! あんないながもののでいぶがありずのごどもなわけがないわあああ!」 なるほど。 つまりは、この二匹は……れいむを利用しようとしたわけか。 こうなってくると、私はゆっくりについての見識を改めなければいけないようだ。 「はやくはなすんだぜ! あとさっきのあまあまをもっともってくるんだぜ!」 「そうよそうよ! とかいはなありすにすてきなゆっくりぷれいすをわたしなさい!」 ……こいつらがれいむを利用しようとしたのなら。 私が、れいむのために、こいつらを利用させてもらうとしよう。 「ゆゆ……」 れいむはすっかりと沈み込んでしまっている。 それはそうだろう。両親を二度もなくしたようなものなのだから。 「おとーしゃんとおきゃーしゃんじゃ……にゃかっちゃよ」 優しく、頭を撫でてやる。 「ねえ、れいむ。良かったら……」 「ゆ?」 「良かったら、このおうちで一緒に暮らしましょう?」 「おねーしゃんのおうちで?」 「私はれいむのお父さんでもお母さんでもないけれど、お姉さんにだったらなってあげられるわ」 「ゆ……ゆゆ……」 「もちろん、嫌ならかまわないんだけど」 「しょんにゃことにゃいよ! れいむもおねーしゃんだいしゅきだよ!」 「ふふ。決まりね」 そうして、今も私はれいむと一緒に暮らしている。 「おねーさん! ゆっくりはやくかえってきてね!」 「はいはい。れいむがいい子でお留守番していたらね」 今ではすっかり大きくなったけれど、れいむはまだまだ甘えん坊だ。 「わかったよ! れいむいいこでおるすばんしてるよ!」 「そうしたら、ご褒美買ってきてあげるから」 「ゆ! いってらっしゃい、おねーさん!」 「うん、行ってきます」 飼いゆっくりは総じて、美ゆっくりになることが多いらしい。 私が言うのもなんだがうちのれいむもかなりのものだ。 人が留守のうちに家に忍び込んで飼いゆっくりに被害が出るケースも少なくないらしい。 だけど、我が家は安全だ。 なぜなら――。 「ゆっぐり……ざぜで……」 「ごんなの……どがいはじゃ……ないわ……」 ゆっくりが進入してきそうな玄関や窓の前に、透明なケースが置かれている。 その中にはあの二匹がそれぞれ入れられている。 もっとも、一目でゆっくりと理解するのは難しいかもしれない。 どちらも足を焼かれ、目を刳り抜かれ、髪を剃られ、体中に針が刺さっているのだから。 いわば、これはゆっくり避け。 外から来たゆっくりに、ここはゆっくり出来ない場所だと認識させる。 定期的にゴミを餌として食べさせているから死ぬこともない。 近所のお兄さんに教わったのだが……彼は一体どこからそんな情報を仕入れているのだろうか。 それはそうと、効果はかなりのものだ。飼いゆっくり被害に悩まされている人は、試してみる価値はあるんじゃないだろうか。 「いっぞ……ごろじで……」 「ゆぎいいいい! いだいわあああああ!」 ……この怨嗟に耐えられるのならば。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2941.html
外道饅頭 皆さんはイヌガミをご存知だろうか? イヌガミとは犬を頭だけ出した状態で地中に埋め、その目と鼻の先に食べ物を山のように積み飢えさせていく事から始まる。 やがて手も足も出ない犬の飢えが絶頂に達した頃、一思いにその首を刎ねるのだ。 そうして出来上がった生首、その瞳は憎悪と渇望にまみれ言葉に出来ぬ程の闇を宿すと言う。 だがこれだけで終わらない。 更にこの生首を人が頻繁に通る四辻に埋めて、多くの人にその頭上を歩ませるのだ。 肉も朽ちる頃、ようやく掘り出されたそれは、崇り祭られイヌガミを宿す呪物と成る。 このイヌガミ、術者に莫大なる富を与える反面、時に厄災を呼び起こし一族全員を崇り殺すことまであると言う。 また一度イヌガミが憑いた家は末代にまで憑いて廻り、その家系と関係を持った他所にまで伝染することから孤立することも多い。 そのおぞましさ、業の深さから人はこれを道をはずれた行い、外道と呼ぶ。 そうして俺は図書館を後にする。 外道だろうが畜生だろうが幸福になれるならなってみたいものである。 とは言えワンコの首ちょんぱを出来る程、俺の肝は太くない。祟りだって怖い。 地道に全うな道を歩むのが身の丈に合っているというものだろう。 そんなこんなを考えていると、ふと絹を裂くような悲鳴が聞こえた。 「いぢゃあああああああああああ!!!」 声の主はゆっくりれいむ、何ともゆっくりしてない声である。 とはいえ、その頭には2本の牙が深々と突き刺さり、今尚ちゅるちゅると中身を吸われている最中であるから無理もない。 「う~う~♪」 一方のゆっくりれみりゃはニコニコと笑顔満面、れいむの餡子に舌鼓を打っている。 「もっど・・・ゆっぐり・・・じだ・・が・・だ・・・」 やがてれいむはペラペラになり、遂には何も喋らなくなった。 れみりゃは小さくゲップをすると、腕の甲でゴシゴシと口元を拭っている。 「こんにちわ」 「うー? こんにちわだどぉー♪」 俺はれみりゃに声を掛ける、不幸にもある思い付きをしてしまったからである。 「ごごがらだじでぇーーー!!」 地面からモグラの様に首だけを出すれみりゃ、その眼前にはお菓子が山のように積まれている。 「どうしたんですかお嬢様、おやつはお気に召しませんでしたか?」 「おがじ!! おがじいいぃぃぃ!!」 れみりゃは饅頭とは言え人の形をしているし、言語を操るほどの知能もある。 儀式の代替に用いたものの、考え方によっては犬よりも向いているかもしれない。 パタパタと団扇で風と香りを送る。 「うぅ、うううぅぅぅぅぅ!!!」 歯を食いしばって必死に耐えている、お嬢様のプライドと言うやつだろうか。 その姿が余りに健気だったので、もう少しばかりサービスしてやることにする。 「そうだお嬢様、よろしければ私めがお食事をお運びしましょう。」 そういって手元のプリンを匙ですくう。 「うー!! ぷでぃん、ぷっでぃ~ん♪」 手の平を返したように満面の笑顔を咲かせるれみりゃ。 すっと伸ばした匙を上下させる。プリンは目の前ではプルプルと躍り、鼻の前では甘いバニラの香りを漂わせる。 「あー・・・♪」 耐え切れずに雛鳥のように口を開く、その口内は燃えるように真っ赤である。 パク 「あ・・・? あ、ああ、ああああああああああ!!!??」 うん、旨い。 取り立てて好きと言う訳ではないが偶に食べるとどうしてこんなにも美味しいのだろうか。 口を動かす俺の前でれみりゃは大粒の雫を目元に浮かべる。 そんな様子を傍目に、黙々と匙を動かしていく。 やがて匙が底を打つようになったところで、おもむろに器をれみりゃの眼前に置く。 カラカラと匙が転がる音がやけに響く。 「うぅ・・・う!? れみりゃのぷっでぃーん!!!!!」 遂に耐え切れなくなったのか、ボロボロと涙をこぼし始める。 チンチンと匙で空の器を叩く。その音は澄んだ空に吸い込まれていった。 翌日 「「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~!!」」」 「だべるなああぁぁぁ、れみりゃのぷっでぃーんだべるなああぁぁぁぁ!!!」 お菓子の山に群がる饅頭、涙を流しながら幸せ幸せと食い散らかしている。 そうして小一時間もする頃には山のようにあったお菓子も、汚らしい食いカスを残すばかりとなった。 「げっぷ・・・。ゆふーん、とってもゆっくりしてるね!!」 「「「ゆっくりしてるね!!」」」 れみりゃのことなど何のその、たらふく食べたゆっくり達は思い思いにくつろぎはじめた。 イヌガミはその怨念が大きいほど強力な呪術となるらしい。 そこでよりその思いを掻き立てるため、ゆっくり達をけしかけることにする。 「やぁおはよう、ゆっくりしてるかい?」 「「「ゆっくりしてるよ!!」」」 一斉に振り返り元気な返事を返してくれる。中々素直だ。 「ねぇみんな、あそこにれみりゃが居るだろう。怖くないのかい?」 「あのれみりゃはうごけないからだいじょうぶだよ! おにいさんもゆっくりしていってね!」 視線の先ではれみりゃが歯軋りをしながらうーうーと唸り声を上げている。いい感じだ。 「そっかそっか。ところでお兄さん面白い遊びを考えたんだけど・・・」 「いだいいだいいいいいぃぃぃ!!!」 「ゆっへん!!まりさはむれいちばんのゆっくりなんだよ!!」 「「「ゆんちょ!! ゆんちょ!!」」」 「おちびちゃんたちかっこいいよ!! さすがれいむのおちびちゃんたちだね!!」 俺の考えた遊び、それはれみりゃを虐めるというシンプルなものであった。 尤も迂闊に近づくと齧りつかれてしまう。そこでゆっくり達に石や棒を使うという入れ知恵をしてやる。 後は放っておくだけで行為はどんどんエスカレートしていき、ストレスも雪だるま式に積もっていくわけだ。 最初の頃は憎まれ口を叩いていたものの、今ではもう泣き言しか出てこない。 「うわああぁぁぁざぐやああああぁぁぁぁ!!!」 れみりゃの再生力なら死ぬことは無いだろう。 そうして2日目は過ぎていった。 更に翌日 「・・・・・・・・・」 何やら口を動かしボソボソと呻いているが聞き取れない。 目元は大きく腫れあがり、クマも墨を流したようにどす黒くなっている。 頬を伝う白い筋は涙のあとだろうか。 髪もボサボサに乱れ、顔中の至る所で痣やミミズ腫れが見られる。 燃費の悪いゆっくりの体では丸2日の絶食は堪えるのだろう、傷の回復もままならないようだ。 台所に戻り包丁を手にする。そろそろ頃合だろう。 ジャリジャリと土を踏み鳴らしれみりゃの背後に回る。 こいつには俺がどのように見えているのだろうか。 そうして鈍く光る刃を白い首筋に宛がう。 大きく息を吸う、そうして一気に刃を引いた。 「おごごごごごごごごgggggg」 斬り損じた。傷は首の中程で止まってしまった。 饅頭と高をくくっていたが、地面と密接していたためか上手く刃が入らなかったらしい。 口からは泡を吹き出し、首からは何やらヒューヒューと気の抜ける音を立てている。 仕方がないので刃先で突く様にして少しづつ削り崩していく。 一突き一突きする度にビクビクと震え、辺り一体に肉汁の香りが充満する。 そうして包丁を握る手が油でぬるぬるになる頃、ようやくにして首を落とすことが出来た。 「ざ、ざぐ、や・・・」 れみりゃはまだ生きていた。 おぼつかないが確実に意味を成す言葉を紡いでいる。意識もあるのだろう。 今更ながら可哀想という気持ちが沸いて来たが、ここまでやっておいて投げ出すことも出来ない。 喚く生首を手にし、一路畑道へと向かった。 『・・・・・!!・・・・・!?』 畑のど真ん中の畦道。その交わるところは色が変わり、耳を澄ますとそこからは虫の声のようなものが聞こえていた。 翌日 まだ声は聞こえる。 三日後 まだだ、まだ聞こえる。 一週間後 まだ、まだ聞こえる。 この日、男は遂に耐え切れなくなり地面を掘り返していた。 一堀一堀進む度、聞こえる声はどんどん大きくなっていく。 そうして掘り終えたそこにあったのは薄汚れた帽子だけであった。 話によればこの遺物を呪物として祀りあげることにより術は完成するという。 とはいえ、もう男にはそんな気力は無い。一日一日と熱は冷めていき、もはや残るは後悔の念だけである。 残った帽子のやり場に手を焼いていると、ふいに声を掛けられた。 「ゆっくりしていってね!!」 ゆっくりれいむ。こちらとは対照的に何とも幸せそうな顔をしている。 「おにいさん、きょうはおかしないの?」 はて、どうやら以前れみりゃのお菓子を横取りしていた連中の1匹らしい。 そこで男はふと思いつく。ゆっくりのことはゆっくりに。 「れいむ、いい物をあげようか?」 「ゆゆ! いいものってなぁに?」 涎を垂らすれいむに手を伸ばす。その中に握られているのはあの帽子。 「ゆびぃ!? おにいさん、これゆっくりできないよ!!」 思わず後ずさるれいむ。 だが男はなだめる様に言葉を続けていく。 「まぁ待てって。れみりゃの帽子を持っているとれいむは強いって他のゆっくり達から大人気間違いなしだぞ?」 「ゆ・・・・・?」 「おまけにこの帽子は特別せいでね。大事に大事にすると幸せーになれるんだ」 「ゆゆ!!」 「と、言うわけで大事にしろよ。」 「ゆっくりわかったよ!! おにいさん、ありがとう!!」 れいむは帽子を咥えるとペタペタと跳ねて行った。 都合よく厄介払いの出来た男はホッと一息ついた。心なし肩の荷も降りたような気がする。 そうして男は足取りも軽く家路へとついた。 「ゆっくりしていってね!!」 「ゆくっりしてっ!? れいむなにもってるの!!?」 我が家へ帰って最初に放たれたのは驚嘆の音、まりさは訝しげにれいむを見つめる。 「ゆっふっふーん・・・これだよ!!」 「ゆゆゆっ!!?」 ぺっと吐き出されたれみりゃの帽子、思わずまりさは言葉を失う。 「ど、どうじだのごれええぇぇぇ!!?」 「ゆ? ゆー・・・れ、れいむがれみりゃをやっつけたんだよ!!」 「ゆっぐいー!!!??」 れいむは見栄を張った。 「さっすがまりさのれいむだよ!! とってもゆっくりしてるよー!!」 「ゆ・・・ゆっへん!!」 えへんぷりとアゴを反らす。 パートナーの尊敬の眼差し、その日2匹は久々のすっきりをした。 「うーうー」 「ゆ? ゆっくりしていってね!!」 れいむの周りを何やら黒い影が動き回っている。 「ゆぅ? あなたはだぁれ?」 「うーうー」 黒い影は答えない。ただひたすらウロウロしているだけである。 「ゆぅぅぅ、ゆっくりしてよー!!」 「うーうー」 遂には怒鳴りだすれいむ、だが黒い影の様子は変わらない。 やがてれいむが怒り疲れた頃、黒い影はピタリとその眼前で歩みを止めた。 「ゆ!! やっとわかってくれたんだね!!」 「うー」 影は一声上げると霧散するようにその姿を消した。 その声はまるで戸惑っているようだった。 「ゆ・・・ゆっふーん!!」 「おはようれいむ、きょうもいちにち」 「「ゆっくりしていってね!!」」 朝というにはやや遅い時間帯、のどかな挨拶で2匹の一日はゆっくりと幕を上げる。 だが今日はいつもと何かが違った。何か違和感を感じるのだ。 「ゆー・・・? まりさ、なにかへんだよ?」 「ゆぐぅ・・・ なんだかまりさ、あたまがおもいんだよ」 いつも元気なまりさ、それが今日はどことなく力ない。 れいむが心配してまりさに歩み寄る。そしてその目にあるものが映った。 「ゆ!!? まりさのあたまに あかちゃんがはえてるよ!!」 「ゆゆゆゆゆ!!!??」 重い頭、その正体はタワワに実った赤ちゃんであった。 帽子のツバが影となり気付くのが遅れてしまったのだ。 「ゆゆぅ・・・れいむたちのあかちゃん、とっとてもゆっくりしてるよぉ・・・」 「ゆふぅーん・・・」 2匹揃ってうっとりー、思わず涙も零れ落ちる。 その日から2匹の子育てが始まった。 「ゆんゆっゆ~ん♪」 身重のまりさに留守を任せ、せっせと木の実拾いに打ち明けるれいむ。 幸せの絶頂、れいむは木の実を集めることすら楽しくて仕方なった。 そんなおり 「おう、こんちは」 頭上を見上げるとそこに居たのは昨日の男。そう、れいむに帽子を与えた男であった。 「おにいさんこんにちは!! ゆっくりしていってね!!」 元気よく挨拶を返すれいむ。挨拶を受け終え男は懐に手を入れる。 そうして引き出された握り拳をれいむの眼前に伸ばす。 「ほら、これをやろう」 「ゆ?」 開かれた手の平に乗っていたのは飴玉、透き通った琥珀色が何とも美しい。 「これはとっても甘くてゆっくり出来るんだ。美味しいから食べてみ」 「ゆっくりわかったよ!! ぺーろぺーろ、 し、しあわせー!!!」 だくだくと涙を流す。気に入ったようだ。 そうして1人と1匹は話し始める。 愛しのまりさがにんっしんっしたこと、赤ちゃんは皆とてもゆっくりしていること。 気付けば太陽が大きく傾く時間になっていた。 「それじゃあ れいむはもうかえるね。おにいさん、あまあま ありがとう!!」 「ああ、気をつけて帰れよ」 最後にもう数個の飴玉を受け取り、まるでリスのように頬を膨らまし帰路を目指す。 そうして振り返った背中に男の声が掛かった。 「そうだ。昨日渡した帽子、くれぐれも大事にしろよー!」 そういえばそんなものもあったな。今日これだけ幸せなのも、きっとあの帽子のおかげだろう。 れいむは一度礼を返し、今度こそ帰路へと着いたのだった。 「ぺーろぺーろ、しあわせー・・・!!」 まりさはぺろぺろと飴玉を舐めている、その目からは相も変わらずだくだくと涙が流れる。 そんな様を尻目に、れいむは神妙な面持ちで帽子の前に座る。 (ぼうしさん、ぼうしさん。れいむたちをゆっくりさせてくれてありがとう!!) 心の中で感謝を述べる。すると風も無くふらふらと帽子が揺れ動いた。 「ゆ?」 瞬間、帽子の下から真っ黒なネズミが顔を覗かせた。 「ねずみさん、ゆっくりしていってね!!」 「ぅー」 「れいむ、どうかしたの?」 「まりさ、みてみて!! ねずみさんだよ!!・・・ゆ?」 振り返った時、そこにネズミの姿はもうなかった。 「ゆ? ゆっくりしていってね!!」 「うーうー」 黒い影は今日も忙しなく動き回る。 「・・・・・・・・」 「うーうー」 あっちへよたよた、そっちへよたよた。 何を考えているのか解からない。 「ゆ?」 「うー」 最後に昨日と同じよう眼前に訪れたかと思うと、やはり同じように一声鳴いて消えた。 今日の声はなんだか嬉しそうだった。 「「「ゆっくちちちぇいっちぇにぇ!!」」」 「「ゆっくりしていってね!!」」 「まりさぁ、このこたちとってもっゆくりしてるよぉ!!」 「こんなぷりちーなあかちゃんみたことないよ!!」 きゃっきゃと歓声をあげる一家、絵にした様な幸福がそこにはあった。 「ゆんゆんゆっくり~♪」 「おっす」 今日もれいむは男と話す。 もっぱら、今日は可愛い可愛い赤ちゃんの話題で持ちきりなのだが。 ゆっくりしてない喋り方を見ると、本当に可愛くて仕方ないのだろう。 目に入れても痛くないとはこんな感じなんだろうか? そうしてまたお菓子を貰い、れいむはぽよぽよと我が家を目指す。 (ぼうしさん、ぼうしさん。れいむたちのあかちゃん、とってもゆっくりしてるよ!!) そうして一日の終わりに帽子に語りかける。すると昨日と同じように帽子が動き出す。 「ぅー」 「ゆ!! ゆっくりしていってね!!」 ネズミである。 「ぅー」 「「「ぅーぅー」」」 「ゆゆゆ!!?」 次から次へと出てくるネズミ、一様にヒクヒク鼻を動かし辺りを探っているようだ。 「おとーしゃん、しょのきょちゃちぢゃぁれ?」 「おちびちゃん、このこたちはねずみさんっていうんだよ!! まりさー!!」 今日こそは可愛いネズミさんを見てゆっくりして貰おう。 だがれいむがまりさを呼び連れて戻る頃、やはりネズミ達は1匹残らず居なくなっていた。 「うーうー」 「ゆっくりしていってね!!」 相変わらず影は落ち着きがない。だがもう馴れた事だ。 「うーうー」 馴れてしまえばコレはコレで中々可愛いじゃないか。そんな事を考えていると 「「「うーうー」」」 「ゆゆっ!!?」 影の数が多い。余りの多さに目を回しそうである。 「ゆゆゆゆっくりしてね!! ゆっくりしてよー!!?」 「「「うーうー」」」 影達が動くたびにザザザと不快な音が立つ。 やがていつもの様に眼前で静止する。 「ゆは、ゆは、やっと・・・ゆっくり・・・できるよ・・・」 「「「うーうー」」」 そうしてまた影達は一声残して消えていく。今日の声は何だか楽しそうだった。 それからも、れいむ達は毎日が幸せだった。 お兄さんは変わらず優しく、美味しいお菓子を与えてくれる。 れいむはれみりゃをやっつけた実力と、何だかゆっくりしている雰囲気を買われ群れのリーダーになった。 子供達は順調に大きくなり、引き手数多の美しいゆっくりに育った。 まりさも相変わらずゆっくりしている。子供が大きくなった今では、またすっきりしようかなんて可愛いことを言っている。 一日一日が楽しく、幸せで、ただただ流れるように時間が過ぎていった。 「ゆふー・・・いままでおせわになりました!!」 「むこうへいってもゆっくりしていってね!!」 すーりすーりと頬ずりをする3匹。 今日は可愛い末娘の門出の日である。互いに親愛の情を示しあうと、やがてかつての子ゆっくりはぴょんぴょんと歩き出した。 その姿が見えなくなると、残された両親はふっと短いため息をつく。 「みんないっちゃったね」 「なんだかひろくなっちゃったね」 背後にはかつて賑やかだった我が家、今では住人もれいむとまりさだけになってしまった。 ガラガラの部屋を見回す。荷物も整理しないといけないな。 そんな感傷に浸っていると、ついっとあるものに目が留まった。 帽子である。 ホコリまみれになり薄汚れてしまった帽子、最後に祈りを捧げたのは何時のことであっただろうか。 れいむはおもむろに帽子の端を咥えると、ぺっと巣の外に吐き捨てた。 幸せに溺れきったれいむには、もはやそれは只のボロキレにしか映らなかった。 刹那、脳裏をネズミの姿がよぎった。 ネズミはまるで怒っているような、泣いているような、なんとも複雑な表情を浮かべていた。 「うーうー」 「ゆ? ゆっくりしていってね!!」 れいむの前では黒い影がふらふらと揺れている。 そういえばこの子に会うのも久しぶりだ。 「うーうー」 「ゆ? どうしたの?」 影は今までと違い行儀良く座ると、何やらうーうーとれいむに呼びかける。 「うーうー」 「ゆうぅ・・・なにいってるかわからないよ!!」 必死に何かを伝えようとしているのだが、れいむにはその意図するところが掴めない。 「うーうー」 「うるさいよ!! しずかにしてね!!」 痺れを切らしぼむっと体当たりを食らわせる。 影は二転三転しようやく止まると、もう何も言わず静かに消えていった。 「ゆふぁ・・・ゆっくりおはよう!!」 「おはよう!! きょうもゆっくりしようね!!」 そうして2匹の一日が始まる。 いつもと変わらぬ静かな朝、本当に静かだった。 「それじゃあまりさ、ごはんとりにいこう!!」 「ゆっくりわかったよ!!」 ゆんゆんと巣を後にする2匹、今日も一日ゆっくり出来そうと心を躍らせる。 そんなおり 「れいむ、たいへんよ!! 」 突如として呼び止められる。視線の先ではありすがぜーぜーと息を切らしている。 「どうしたのありす?」 「いいからはやくきて!! あなたのこがたいへんなの!!」 ありすに案内されてやってきたのは昨日末娘が嫁いだまりさの家だった。 そこで目にしたの無残にも全身を食いちぎられ、今にも力尽きそうな我が子の姿だった。 「おちびちゃん!!? どうしたの!!?」 「お・・・おかー・・・さ・・・」 「しっかりしてね!! しっかりしてね!!?」 「もっと・・・ゆっくり・・・」 そうして子れいむは静かに目を閉じた。 結局つがいのまりさとその両親姉妹含め、一家全員が惨殺されていた。 「ゆ・・・だれかいるの?」 『うーうー』 姿は見えないが声は聞こえる。 「ゆっくりでてきてよ、ゆっくりでてきてよー!!」 『うーうー』 「ゆぅ・・・ゆっくりおはよう・・・」 「おはよう、れいむ・・・」 昨日の今日では流石に元気が出ない。重苦しい空気の中、2匹は手短に朝の挨拶をすませる。 だがいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。 「・・・ゆっふ!! まりさ、あのこのぶんまでゆっくりしようね!!」 「そうだね!! これからはゆっくりしようね!!」 無理矢理に自身を鼓舞する。これがあの子に出来るせめてもの手向けと信じて。 だがそんな思いもあえなく崩れ去ることとなる。 「れいむ!! 大変なの!! またあなたのこが・・・」 「ゆぐ!!!??」 駆けつけた先では昨日と同じように、愛しの我が子が力なく横たわっていた。 懸命の呼びかけにも返事は無い。 惨状は昨日と同じ、赤ちゃんまで残さず皆殺し。 まるで写真の焼き増しのような悲劇は、れいむの心をぎゅうぎゅうと締め上げた。 同時に、この一連の事件は群れのゆっくり達に暗い思いを芽生えさせていた。 どこからか笑い声が聞こえた。 「ゆっくりしていってね・・・」 『『うーうー』』 相変わらず姿は見えない。だが昨日より声の数が増えている気がする。 「ゆー・・・」 『『うーうー』』 「おはよう・・・」 「ゆぅ・・・」 もう口を開くことすら億劫である。朝が来るのが怖い。 もそもそと2匹が遅い朝食を摂っていると、願わない客が訪れる。 「れいむ・・・」 「・・・・・」 もはや返事すら返さない。 れいむは静かに食事を止めると、まりさを促すようにし玄関をくぐった。 「・・・・・ゆぅ」 時間が止まって同じところを繰り返しているような錯覚に落ちる。 ただ現実として存在するのは目の前に倒れているのは昨日とは違う子で、昨日倒れた子はもう居ないという事実。 もはやも涙も悲鳴も枯れ果て、乾いた溜息を吐き出すことが限界だった。 「・・・れいむのせいだ」 「・・・ゆ?」 「れいむたちのせいで ぱちゅりーのいっかは ころされたのよ!!」 声を上げたのはありす、今日殺されたぱちゅりーの親友だった。 「きのうのれいむも そのまえのまりさもそう!! あなたたちがふこうをよぶのよ!!」 「ゆぐっ!!!」 この時群れを取り巻く疑いの芽は、ついに確信へと変わった。 どっと沸き立つ罵詈雑言、言葉の一つ一つがれいむの胸を大きく抉る。 だがれいむは何も言い返せなかった。れいむの中にもその疑惑は消せずに存在していたからだ。 「ゆっくりしねぇ!!」 「このむれからでていけぇ!!」 言葉はやがて石つぶてとなり、れいむ達の体を激しく打つ。 2匹は痛む体を引きずって、命からがら家へと逃げ帰った。 その晩、残す娘達も泣きながら帰って来た。その体は痛々しい傷にまみれていた。 「なかないでね・・・ぺーろぺーろ・・・」 「ゆぐ・・・ひぐ・・・」 互いに傷を舐めあい、寄り添って眠る。 久しぶりの顔合わせであったが、ちっとも楽しい気持ちになれなかった。 『『『うーうー』』』 れいむは何も喋らない。 『『『うーうー』』』 れいむは何も映さない。 『『『うーうー』』』 ああ、この耳が聞こえなくなればどれ程気持ちが楽だろう。 「おはよう・・・」 「おはよう・・・」 「「「おはよう・・・」」」 作業の様に挨拶を済ます。 そうして互いの顔を見回し、れいむはあることに気付いた。 「ゆ・・・ゆゆ!? きょうはだれも いなくなってないよ!!?」 「ほんとだ!! みんないるね!!?」 「「「ゆっくりここにいるよ!!!」」」 れいむは数日ぶりに心の底から笑うことが出来た。 あの事件はれいむ達のせいじゃなかったんだ。 その証拠にこうして皆ゆっくりしているではないか!! そう心を躍らせている時分のこと、ドスドスと戸口を打つ音がする。 「れいむ・・・」 「ありすみて!! れいむたちはみんなぶじだよ!! やっぱりあれはれいむたちのせいじゃ・・・」 「きて」 必死に捲くし立てるれいむを一瞥するとありすは短く、だがはっきりと切り捨てた。 「・・・・・なんで?」 そこにあったのはゆっくり一家の惨殺死体。その一家は昨日れいむの子供を追い出した一家だった。 「れいむたちのせいじゃないよ!! きのうはいっしょにいなかったもん!!」 「よらないで!! ・・・あなたたちにかかわると みんなふこうになるの」 「そんな!! そんなのって」 「うるさい!!・・・わかったらもうかえってちょうだい」 れいむは言葉を飲み込んで背を向けた。 石は飛んで来なかったが刺すような視線が痛かった。 やはり笑い声は聞こえていた。 その日も夢を見た。 代わり映えのしない内容だった。 そうして朝は来る。望まなくても時は流れるのだ。 もはや挨拶もなく、もそもそと食べ物を飲み込んでいく。味はよくわからなかった。 そうして食事を終え皆で狩りに出る。 擦れ違うゆっくり達は目も合わさず道を譲る。 遠くの方で声が聞こえた。 また誰か死んだのだろうか。 そうして日が暮れ食事を摂り寄り添いあって眠る。 その日も夢を見た。 夢では無くこちらが現実なのかもしれない。 朝。 食事を取り機械的な一日が始まる。 ゆっくりが減った。また死んだのか。 或いは群れを離れて行ったのかもしれない。 どうでもよかった。 夜はいい。 何も考えないで過ぎてゆく。 ただやはり耳は邪魔だと思う。 朝。 食事を取りに外に出る。 そこにはゆっくりの姿は無かった。 静かになって良かった。 この日は懐かしい夢を見た。 赤ちゃんが生まれた時のこと。 群れのリーダーに選ばれたこと。 初めて孫が出来た時のこと。 そして最後に黒い影が笑っていた。 朝。 れいむの瞳からは二筋の雫が流れていた。 今日も食事を摂り何をするでもなく時間を過ごす。 それはいつまでも続くはずだった。 「ゆぎゃあああああぁぁぁ!!!??」 突如としてまりさの悲鳴が響く。 何事かと振り返るとその体には黒山のようにネズミ達が群がっていた。 「やめてねネズミさん!! ゆっくりまりさをたべないでね!!」 「れいむなにいっでるのおおお!!? へんなごどいっでないでだずげでよおおぉぉぉ!!!」 れいむの呼びかけも虚しく徐々に解体されていくまりさ。5分もする頃には帽子だけを残し綺麗に消えてしまっていた。 「ゆ・・・ゆわあああああああああ!!!」 れいむは走った、決して振り返る事無くただガムシャラに走った。 家に駆け込むと扉を固く閉じ、ただ静かに涙した。 そうしてうつむいて咽いでいるとあるものに気付いた。それは床に打ち捨てられた子供達の髪飾りだった。 その夜、影達はれいむを囲うように整列していた。 ブスブスと燃えるような音を立てて影が剥がれていく。れいむは静かにそれを見つめていた。 そうして現れたのまりさだった。元気な頃のあの笑顔でれいむを見つめている。 隣には末娘のちびちゃん。屈託の無いその微笑みが胸に刺さる。 そうして次々と姿を見せるのは亡くなったはずのゆっくり達。 皆が皆、温かい笑みを浮かべてれいむを歓迎している。 やはりそうだ。あれは悪い夢だったのだ。 ようやく私は悪夢から目を覚ますことが出来たのだ。 「みんな!! ゆっくりしていってね!!」 れいむの呼びかけに答えようとゆっくり達は大きく口を開く。 その瞬間、口の中から数え切れない程の何かが飛び出しれいむの体に齧りついた。 「ゆっぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!???」 飛び出したものの正体、それは真っ黒なネズミだった。 餡子で染めたような真っ黒な体に、まるで吸血鬼のような牙と真っ赤な瞳。 それがれいむに覆いかぶさり容赦なくその体に牙を立てていく。 「やめで!! やめでぐだざいいいぃぃぃぃ!!!」 必死の懇願も虚しく黒い塊に飲み込まれていく。 そうしてれいむを散々いたぶったネズミ達は最後の仕上げに入る。 「あぢゅぢゅ!!? あぢゅいいいいいいいぃぃぃ!!!」 ぢゅるぢゅるとれいむの体に何かを注ぎ込んでいく。まるで餡子が溶けるようだった。 次第にその体は膨らんでいき、やがて倍程の大きさになる頃にはその皮はパンパンに張っていた。 「ゆっぐりゆるじ、おぼぶ!!? おごごごごごごggggggg」 白目を剥き出しにし、ビクビクと痙攣しながら泡を噴水のように吹き上げるれいむ。 「うーうー」 そうして噴水の中から這い出してきたの真っ黒な体のネズミだった。 朝。 眩しい日差しが一日の始まりを告げる。 鳥達のさえずりは澄んだ風に乗り、緑色の森中に響き渡る。 そこには誰も居なかった。 「そういや最近あいつら見ないな。引越しでもしたんかね?」 首を傾げる男の前には空っぽの巣穴が広がっていた。 その奥にはボロボロの帽子が横たわっていた。 うーうー どこからかネズミの泣き声が聞こえた。 終わり 作者当てシリーズ* このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/531.html
どこかの街でゆっくりブリーダーがおはぎを作っていた頃。 ここでも、一つのゆっくり一家が無事ブリーダーの元から卒業する事ができた。 「ゆ!! おじさんいままでありがとー♪ これからもれいむたちはゆっくりするね!!」 「おじしゃんありがとーー!!!」 一匹の親霊夢とその子供達の霊夢と魔理沙。 去年の冬からブリーダーの元で育てられ、今ではキチンとした行いが出来るまでに成長していた。 「うん。おじさんも君たちを育成できて良かったよ。それじゃあこれでお別れだけど、また何時でも遊びにおいで」 そして、その成果をしみじみと実感するブリーダー。 「ううん! おじさんはほかのゆっくりたちをきちんとするんでしょ? れーむたちがくるとおじさんのおしごとのじゃまになるから」 「そんなことないよ。だからたまには遊びにおいでね」 遠慮という、ゆっくりからすれば一番の対極にある言葉が出てくるまでに成長したこの一家にブリーダーは諭すような口調で提案する。 「ゆ~。わかったよ!! こんどあそびにくるね!! それじゃあおわかれだね!!!」 「おじさんいままでありがとーーー」 「「「「「さよーならーーー!!!」」」」」 「さよなら。元気でな!!」 こうして、人々が仕事に取り掛かり始めた頃、一家は男の家を後にした。 「ゆ~♪ これからどうしようか?」 「ほかのにんげんのおうちにいっておてつだいする?」 「でも、ゆっくりたちはにんずうがおおいから、めいわくがかかるよ!!」 キチンと育成されただけあって、こうすればどうなるという事を考えられるようになっているこの一家は、これからの自分達の進退を必死になって考え始めた。 「ゆゆ!!! おかーさんにいいかんがえがあるよ!!!」 閃いた!! と言わんばかりの声をあげお母さん霊夢が子供達に説明を始める。 「ゆゆ!! おかーさんあたまいい!!」 「それにゃらゆっくりできるね!!!」 どうやら、どうやって食べていくか、決まったらしい。 いそいそと、近くのゴミ捨て場から大きな缶詰の空き缶を拾ってくるお母さん霊夢。 ご丁寧に小豆の缶詰を拾ってきたらしい。 「それじゃあ、おかーさんとあかちゃんたちはここでするから、おねーちゃんたちはむこうでしてきてね!!!」 「うん!! ゆっくりがんばってね!!!」 お母さん霊夢と赤ちゃん、お姉さん達に分かれて行動する事にした一家。 しばしの別れの挨拶をした後、それぞれ人の多い場所に消えていった。 「ゆ~~♪ ゆ~~♪ ……ゆ!! ここにしようね!!!」 「ゆくりしゅるよ!!!」 「ゆっくりちようね!!!」 「ゆ!!」 人通りの多い一角で足を止めたゆっくり達は、お母さん霊夢の指示で立ち位置に立った。 そして、お母さん霊夢が、息をスウッと吸って歌を歌いだした。 「ゆ~~~っくり♪ ゆっくり~していってね~~~♪」 「ゆっくり~~~♪ ゆゆゆ~~~~♪」 「ゆゆゆ~~~~~~~~♪」 それに負けじと、子供達も必死でバックコーラスに徹する。 そして、目の前には先ほどの空き缶。 どうやら、芸をしてお金を集める方法を選んだようだ。 「ゆっくり~~~♪ ゆ・ゆ・ゆっくり・ゆうっくりぃ~♪」 「お! なんだなんだ?」 次第に、疎らだが人が集まり出した。 普通のゆっくりならここでペースト出荷されるが、ブリーダの所から出されたゆっくりはリボンか帽子に縫い付けられたワッペンのおかげで、完全ではないが安全は保障されているのだ。 「ゆゆ!! れーむのおうたをきにいったら、すこしでいいからおかねいれてね♪」 「おかーしゃんはおうたじょーずだよ!!」 「いっしょうけんめーうたうよ!!!」 確かに、そのゆっくりの歌声は唯の騒音ではなく、音痴なメロディ~であった。 その馬鹿さ加減が受けたのか、チャリンチャリンと小銭が空き缶に吸い込まれてゆく。 「!!!! ゆっくり~~~ゆっゆっ!!!!」 それで気分をよくしたゆっくり達は、更に気持ちを込めてご自慢の歌を熱唱していく。 一時間程たっただろうか? それまで違う場所でお金を集めていたゆっくり達が帰ってきた。 「ゆゆ!! むこーでもらってきたよ!!!」 一番はやく母親の元へきたゆっくり魔理沙が自慢げに千円札を見せた。 ブリーダーに飼われていた一家には、その金額の価値がはっきりと分かる。 「ゆゆ!!! すごいね!!!」 「おねーちゃんたちすごいね!!!」 「ゆ!!」 母親や妹達からも褒められて、このゆっくり魔理沙は上機嫌だ。 「それじゃあ、たべものをかいにいこうか!!」 自分達の缶の中にも硬貨が沢山入っている事を確認したお母さん霊夢が子供達に尋ねる。 「「ゆっくり~~~♪」」 二つ返事で賛成されたので、一家仲良く近くのお店に足を運んだ。 「こどもたちはここでまっててね!! みんなではいるとめいわくだからね!!!」 「「はーい!! ゆっくりまってるよ!!!」」 子供達に念を押して、一人で中へ入ってゆくお母さん霊夢。 以前、ブリーダーのおじさんと来た事があるので、大体の内装は把握していた。 奥にある大きな台に飛び乗って一言。 「このおかねで、ゆっくりできるおいしいたべものちょうだいね!!!」 店員の女性は、一瞬呆気に取られたが、ここはよくブリーダーの人がお使いさせるために利用する店なので速やかに値段分の食べ物を出してくれた。 「はい。これはお釣りだよ。大事に取っておいてね」 残ったお金を一緒に袋に入れて、地面に降りた母親の口元に運ぶ。 「ありがとう!! はむ……」 お礼を言い、袋の箸を紐で咥えて店を後にしたお母さんゆっくり。 外にでると、キチンと言いつけを守り待機していた子供達が一斉に駆け寄ってきた。 「うわぁーー!! いっぱいあるね!!!」 「ゆくりたべれるね!!!」 「ゆくりできりゅね!!!」 袋の中を見た子供達は大興奮。 そして、ゆっくり食べるべく、新しい家を探して街の中を再度彷徨う。 お釣りは、一番年長のお姉さん魔理沙が、重ねた空き缶の中へ入れて運んでいる。 「ゆっくり~♪」 それは、先ほど千円札を持ってきた魔理沙だった。 役に立っている自分が余程嬉しいらしい。 魔理沙の鼻歌が引き金となり、瞬く間に一家全員に広がっていく。 気が付くと、一家は街の外れの方まで足を運んでいた。 「ゆ~、なかなかみつからないね!!!」 「もうちょっとさがそうね!!!」 CASE:01 「ゆっくりさがそうね!!!」 母親が活を入れ家探しを続行する。 まだ、日は高く上っているのでさほど心配する事でもないだろう。 一家も、それが分かっているようでのんびりと探し回っている。 「ゆゆ!!! おかーさん!! ここはどう!!!」 先ほどの魔理沙が、母親を呼び止めた。 「ゆ~~?」 そこは十メートル四方ほどの大きなくぼみだった。 人工的に作られたようで、天井は透明な板に覆われ中から見上げれば、透き通るような景色を見れるだろう。 また、上部には所々穴が開いており、更に階段が下まで伸びている。 作りもしっかりしており、何よりも開閉式の蓋もあるそこは、十分家として機能するものであった。 「ゆゆ!! ここはだいじょうぶそうだね!! でも、にんげんがでていけっていったらすぐでていくよ!!!」 「うん!! わかってるりょ!!!」 「ゆっくりしようね!!!」 「「「「ゆっくりしようね!!!!」」」」 新たな住処の確保に成功した一家は、先ほど買った袋から食べ物を引っ張り出し、ささやかな宴を始めた。 「ゆ!! おいしーね!!!」 「うん!! おしたもいっぱいうたっていっぱいたべよーね!!!」 「「「「ゆっくりがんばろーーね!!!!」」」」 日が落ち始めても、一家の楽しい宴は終わりを見せない。 「ゆっくり~♪ ゆっくり~していってね~♪」 「おかーしゃんじょ~ず~♪」 「ゆゆ!! あめがふってきちゃよ!!!」 「だいじょうぶだよ!! ふたはきちんととしめたから!!!」 そう言って上を見上げるお母さん霊夢。 透明な天井には沢山の雨が弾け飛ぶ様子が断続的に映される。 「ゆっゆ♪ すごいね!!」 「たのしいね!!!」 本来ならば見ることが出来ないその光景を、一家は食い入るように見つめている。 きっと晴れた日には満天の星空が見えることだろう。 ここでの生活はきっとすばらしいものになる。 一家の誰もがそう思っていた時、悲劇は突然起こった。 「ゆ!! おみずだよ!! おみずがながれてくるよ!!!!」 「どうして!!! どうしてこんなにおみずがでてくるの!!!」 「!!! 、そういえばさいごにおじさんがいってたよ!!!」 この街には雨が降ったとき、川がゆっくり流れるように一時的に雨を貯めておく所がある、そこに入ってはいけないよ。 危ないから。 「ゆゆ!!! たいへんだよ!! はやくでようね!!!!」 「みんないそいでね!!!」 しかし、思い出したとしても時既に遅し。 上部に開いた穴から大量の水が流れ出し、階段を上ろうとする一家をことごとく下に押し返していく。 「ゆぎゃ!!」 一匹の赤ちゃん霊夢が地面に押し付けられた衝撃で、餡子を飛び散らせ絶命した。 「ゆゆゆ……」 上がっても、ここに居ても自分達が死ぬ事は避けられない。 残った方法は助けを呼ぶ事くらいだ。 「ゆっくりできないよーーーー!!!!! だれかーーーーたすげてくださいーーーー!!!!!」 「ゆっくりーーーー!!! だれかーーーーー!!!!!」 「しんじゃうよーーーーーー!!!!!!」 しかし、非常に激しい雨の中、出歩いている人も無く、一家の声を聞くものも居ない。 「ゆぶぶぶ!!!」 とうとう、容量いっぱいに水が溜まったようだ。 「あぶぶ!!! うぐぐ!!!」 水の進入は止まったが、全面水で満たされたこの状態では蓋を開けることも、ましてや息をする事さえも叶わない。 「ゆ……」 「ぐり……」 一匹、また一匹と餡子を流しながらゆっくり達が死んでゆく。 初めの方に死んだゆっくりは、既に完全に水に溶けてしまっていた。 「おがーしゃん……ぎょめん……」 最年長のゆっくり魔理沙が、母親に何かを訴えかけるような目をしたまま命を落とした。 「あばばばばば!! りぇーみゅのこどもだじーーーー!!!!」 そして、最後まで残っていたのは、やはりお母さん霊夢だった。 窒息の苦しみと、溶け出す体。 そして、混ざってゆく子供達の惨状を見ながら、ゆっくりと息を引き取った。 全ての水が流された後、そこに残っていたのは数十円のピカピカの硬貨だけであった。 CASE:2 その後、へとへとになるまで探したが、森の中とは違い一向に巣に適した場所を見つけることは出来なかった。 「ゆ~、みつからないね!!!」 川辺で、先ほど買った食事を取りながらこの後の計画を話し合っていく。 既に、近くで遊んでいた子供達は居なくなり、どうしようもない焦燥感が一家に襲い掛かっていた。 「どこか、にんげんのおうちにいそうろうさせてもらおうか?」 「そうだね。ゆっくりさがそうね」 これ以上探しても意味が無い。 そう感じた一家は、取り敢えずの間、人間の家に居候させてもらう事にした。 しかし、ここでただ家にお邪魔するほどブリーダ卒のゆっくりは馬鹿ではない。 「そうだ! おじゃまするんだから、れいむたちがおうちをきれいにしよう!!!」 「うん!! おじさんのところでもがんばっておそうじしたもんね!!!」 「かってに住んでいるだけじゃわるいもんね!!」 食べ物を食べている間、自分たちが出来る事を考える。 ただで家に居るのはいけない事。 それもブリーダに教わった事だった。 食事を食べ終え、幾分元気を取り戻した一家は、家を求めて街へと戻っていった。 しかし、誰某の家を探していたわけではない。 適当な家の前に到着した一家は、大声で門に向かって喋る。 「こんにちは!! ゆっくりさせてください!!!」 これが、礼儀というものだ、そう教えられた。 程なくして、人間が一家を出迎えに現れた。 「ああ、ゆっくりか。丁度良いところにきたな。まあ、中に入れ」 「おじゃまします!! おねーさんゆっくりさせてね!!!」 「れーむたちは、きょうぶりーだーのおうちからでてきたの!!」 「あたらしいおうちをみつけるあいだ、ここでゆっくりさせてもらっていいですか?」 「もちろん、きちんとおてつだいもするよ!!!」 「れーむたちはおそうじもとくいなんだよ!!」 「そうか。それなら、ちょうど手伝ってほしい事があるんだ」 こっちに来てくれないか? 女性に言われて着いた所は竹林の中。 既に日も沈み、おぼろげな灯がより一層竹林を栄えさせている。 「ゆ? きれーだね!!」 「すごいね!!」 「おーい。こっちだこっち!!」 竹に見とれている間に女性は奥のほうへと進んでしまったらしい。 慌てて追いかけるゆっくり達は、そこに更に二人の女性が居る事に気が付いた。 「あら、それはゆっくり?」 「なんでここに連れて来るんだ?」 「こんばんは!! ゆっくりさせてください!!!」 「こんびゃんは!!」 「おばんです!!」 一家は、少し怪訝そうな表情をする女性二人に臆することなく挨拶をする。 「まぁ、そう言うな。……お前達は親子か?」 「うん!! そうだよ!!」 「おかあしゃんはおうたがうまいんだよ!!!」 「それにものしりだよ!!」 「ああ。それはよかったな!」 「「「「ゆっくりーーー!!!!」」」」 ブチ。 ブチブチブチ。 「あぎゃあ!!」 ブチブチブチ。 ブチブチブチ。 ブチブチブチ。 「「「おがーしゃーーん!!!」」」 ブチブチブチ。 ブチブチブチ。 「ゆっゆ~♪」 ブッチ!!!! 「ゆ~♪ !! ゆゆ!!!」 連れて来てくれた女性が、一気に子供達を踏み潰した。 ブリーダーに育てられて、少し油断もあったお母さん霊夢は、全ての子供が潰されるまで暢気に構えていた。 「ああああああ!!!!! れーむのあがじゃんが、こどもたちがーーーーーー!!!!」 「ああ。私が全部潰した」 淡々と、真実のみを告げる女性。 月が隠れてしまって表情をうかがい知る事は出来ない。 「どーーじで!!! どーじでれいむのこどもたじにごんなごとするのーーー!!!!!」 「さぁ、な」 女性は動機を答えない。 否、この霊夢には関係のない事なのだろう。 「ゆーーー!!! ごめんねーーーー!!! もっどゆっぐりじたがったよねーーー!!!!」 「私が憎いか?」 「ゆ!!! ゆっくりしんでね!!! おじさんは、むやみやたらにゆっくりをころすひとはわるいひとだっていってたよ!!! だからゆっくりしね!!! こどもたちをこんなめにあわせたおねーさんはゆっくりしね!!!! しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね!!!!!!!」 大量の涙を流し、目の前の女性に向かって機械のように言葉を発するお母さん霊夢。 「……もういいだろ」 「ゆっくりしね!!! しn……ぶぎゃら?!! ……い、いだいよ!! ゆー、ゆっぐりじだがったよ!!」 暫くそれを眺めていた女性は、一言だけ呟いて踏み潰した。 残ったのは大量の餡子、竹林の香りと融合し、お世辞にも良い香りとは良い辛い。 そして、後ろで呆然と眺めていた二人に向き直り、強い口調で言い放った。 「ほら、見ての通り憎しみは憎しみしか生まん。お前達もそろそろお互いいがみ合うのはやめないか? 勿論、暇つぶしに殺し合いをするくらいなら良いだろう。ただし周りには気をつけろよ。今回は饅頭だったが、これが人間がだったら大変な事になるからな」 「ふーん? まぁいいわ。飽きてきたし、まぁいい運動にはなるんだけど」 かたや興味はなさそうに呟く黒髪の女性。 「まー、輝夜と合わせると癪だけど、いつの間にか唯の暇つぶしになってたしな」 かたや面倒くさそうに呟く銀髪の女性。 「それよりもお腹が減ったわ。こんなに甘い匂いが立ち込めてるんですもの」 しかし、どちらも腹の内は同じらしく、少々ぎこちないがいたって普通の会話が形成されていく。 「そうだな。私達も夕飯にするか? 慧音」 「ああ。折角だから輝夜の家で頂くとしよう」 最後に、水色の髪の女性が返事をし、連れ立ってこの場所から去っていった。 上白沢慧音。 最近は、ブリーダ上がりのゆっくり家族を使い、命の授業を行うという。 生徒の親からの評判は上々である。 CASE:3 「あら? 貴方達そんな所でどうしたの?」 声のした方向へ振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。 「れいむたちは、ぶりーだのおうちからでてきたんだけど、あたらしいおうちがみつからないの」 「このたべものはじぶんたちでおかねをかせいでかったんだよ!!」 人間が必要としている事を簡潔に説明する。 これも、ブリーダーから教わった事である。 「そうだったの。 だったら家に来ない? 貴方達みたいに躾ができているゆっくりなら大歓迎よ?」 「ゆゆ!! ほんとう?」 「もちろん!! 嫌だったなら無理にとは言わないけど……」 「ううん!! おねーさんのおうちにいかせて!!」 「きちんとするよ!! おねーさんありがとう!!」 「おてつだいしてほしいことがあったらなんでもするよ!!!」 「そう。ありがとう。私の家はこっちよ」 「「「「ゆっくり~~~~♪」」」」 このゆっくり達は幸運だった。 新しい家、それも人間の家が約束されたからだ。 そして、以前住んでいた見慣れた森の中、その奥に女性の家はあった。 「ここが私の家よ。さぁ、中に入って」 「「「「おじゃまします!! ゆっくりさせてね!!!」」」」 家の中に通された一家。 出迎えたのは沢山の人形。 その愛くるしい人形達は、ゆっくりを簡単に魅了した。 「わー!!」 「にんぎょうさんがいっぱーい!!」 「これおねーさんがつくったの?」 「ゆゆ!! うごくよ!!!」 「すごーーい!!」 「ふふふ。そうだ、お腹減ったでしょ? 今食べ物を持ってくるわ」 自分達で買ったお菓子があると言う一家に、それじゃ足りないでしょ、と言い残してキッチンの奥へと消えていった女性。 時間にして数刻だろうか? 思いの他早く大きな皿を携えて戻ってきた。 「はい。どうぞ、好きなだけ食べていいわよ!」 「ありがとうおねえさん!! ゆっくりいただきます」 「「「いただきまーす!!」」」 「ぱく!! おいしいよ!! とってもおいしいよ!!」 「ほんと!! おいしい!! おねえさんありがとう!!!」 皿いっぱいに盛られた甘くて美味しい食べ物を、口に付かないように注意しながら食べていく。 そんな食べ方でも、大量にあった食べ物は直ぐに綺麗サッパリ無くなった。 「けふ! おねいさんありがとう、おいしかったよ!!!」 「「「「ありがとーーーおねーさん!!!!」」」」 目をトロンとさせて、頬を赤くした顔で女性にお礼を述べる。 その表情は、野生のそれと一緒だが、本当に幸せな証拠なのだろう。 「ふふ。どういたしまして。そんなに美味しかった?」 「「「「うん!!!」」」」 「ゆっくり達の餡子だったのに?」 「ゆ?」 「ゆゆ!!」 そういえば、自分達の中身は餡子だとブリーダーから教えられていた。 そして、この一家は食べたことが無かった。 それゆえ、先ほどまで美味しく食べていたそれが、自分達の中身だと分かった時のショックは大きかった。 「ゆゆ!! おえっ!! おえーーーー!!!!」 「あらあら。戻しちゃダメよ?」 「むぐ!! むぐぐ!!!」 人形を操作して、今まさに吐き出そうとするゆっくり達の口を塞ぐ。 それでも懸命に吐き出そうとするが、ゆっくりの力は人形の力にも及ばないようだ。 抵抗に諦めたゆっくり達は、吐き気がおさまるまでじっと耐えるしか選択肢は残されていなかった。 「ゆーーー。 おねーさん!! ひどいよ!!」 「うそをついちゃだめだよ!!!」 「ともぐいはいけないことなんだよ!!!」 漸く、吐き気が収まったゆっくり達は、口々に非難の言葉を浴びせかける。 「そんな事無いわ。貴方達だって美味しいって食べてたじゃない?」 「「ゆ!!」」 痛いところを疲れた一家は、反論できずに押し黙る。 「おねーさんありがとーー!!! って必死になって食べてたじゃない?」 「「ゆゆゆ!!!」」 そのまま、女性はどんどんと一家を攻め立てる。 「幸せそうに食べてたじゃない?」 「ゆ……」 「何であんた達はそんなに幸せそうなのよ!!!」 「ゆぐ!!!!」 突如罵声とも取れるほどの声をあげ一家を驚愕させる。 怒りに任せ、一匹の子供霊夢を踏みつけた。 悲鳴を上げるゆっくり霊夢。 「ゆーー!! ゆっぐりでぎるよ……」 しかし、周りに餡子が飛び散ったが幸いにして命に別状は無いようだ。 「ど、どうしたのおねーさん!! ゆっくりs「うるさいわね!!!!」」 「!!!!!!」 またしても、一家は黙るしかなかった。 「私は上手くいかないのに、……なんであんた達はそんなに幸せなのよ!!!」 理性を失った女性は、人形に指示を出し、次々とゆっくりに五寸釘を打ち付けていく。 「いい!! いだいよ!!」 「おねーさん、れーむたちなにかわるいことした?」 「だったらあやまるよ!!!!」 「ごめんにゃしゃい!!!!」 「うるさい!! 私は幸せそうなあんた達自体にムカついてるの!!!!」 生かさず殺さず。 急所を外しながら、刺しては抜くを繰り返す。 針山に針を刺すように、何の感情もなしに延々と繰り返させる。 「なんであんた達だけ。何時も魔理沙と仲良くしてるのよ!!」 「ゆゆゆっぐりざぜでーーー!!!!!」 「魔理沙も魔理沙で、なんでそんなに霊夢と幸せそうにしてるのよ!!!!」 「い! いだいよーーー!!!!!」 釘は次々を刺さっていくが、餡子が漏れないので意識はしっかりと残っている。 そんな、一家にとっては地獄の時間が、漸く終わりを迎えた。 「はぁ、はぁ。ふぅ。そ、それじゃあ、約束どおり家に住まわせてあげるわ!」 「いいでずーー!!! じぶんだじでおーじざがじまずーー!!!!!」 「おねーーざんありがどーーー!!!」 「ゆっぐりがえるーーーー!!!!」 「あら。言葉が悪かったかしら。私は、家に住みなさいって言ってるのよ?」 全ての人形に臨戦態勢をとらせ、優しくしかし有無を言わさぬ口調で一家に話しかける。 「ゆゆ!! わがりまじだ!! おうじにいさせでくだざい!!」 「ゆっぐりぎでいぎまず!!!」 「おねーざんのおうtんぎゃ!!!!」 「アリス、よ」 「「「「ありすのおーじにずっといざせでくだざい!!!!」」」」 「ええ! みんなで仲良く暮らしましょうね!!」 ブリーダー卒のゆっくり達は、その後の生活は比較的幸せになるらしい。 CASE:4 「あら。あんた達こんな所でなにしてんの?」 「ゆゆ!! れーむたちはきょうぶりーだーのおうちからでてきたの!!!」 「このたべものもじぶんたちでおかねをあつめてかったの!!!」 「おねーさんはどうしたの?」 「私? 私はあんた達がずっとウロウロしてるから気になっただけよ」 「ゆ~~。れーむたちまだおうちがないの!!」 「だから、おうちをさがしてたの!!」 「何だそんな事か。ついてらっしゃい、良い所があるわ」 「「「ゆ♪」」」 親切そうな女性の後ろを付いていく一家。 見れば自分や子霊夢達と同じ、綺麗なリボンを付けているではないか。 「ゆっゆ♪」 自分の真似をしてくれている人間が居た事で、お母さん霊夢はすっかり幸せそうな表情になった。 街を抜け少し歩くと、いつの間にか大きな神社が目の前に存在していた。 「ゆゆ??」 突然の事に戸惑う一家だったが、パンパンと手を鳴らした女性がそれを制止した。 「ここの敷地内だったら何処に居てもいいわよ。それに、さっきの道を通れば直ぐに街へ着くわ。ただし、建物の中には勝手に入らない事。自分達の食べ物以外は勝手に食べないこと。他のゆっくり達が来たら、自分達で対処しないで必ず私を呼ぶ事。分かった?」 「うん!! わかった!! ゆっくりさせてもらうね!!!」 「「「「おねーさんありがとうね!!!」」」」 「どういたしまして。そうだ! あんた達が稼いだお金、一回私の所に持ってきなさい。ゆっくり達じゃ買えないような美味しい食べ物を買ってきてあげる」 自分達では買えない美味しいもの。 この言葉は、いかにブリーダーによって教育されたゆっくりと言えども抗う事の出来ない魔法の言葉だった。 「ゆゆ!! おねーさんありがとう!!!」 「おかねはおねーさんにわたすよ!!!」 「私の名前は霊夢よ」 「ゆっくりおぼえたよ!! れーむ、ゆっくりさせてもらうね!!!」 次の日から、ゆっくり達の新たな生活が始まった。 一家の寝床は住居の軒下に決まった。 雨風を防げるここはなかなか住み心地が良いらしい。 そして朝、朝食を食べて街へ向かう。 昼を過ぎた頃に神社へ戻り、霊夢にお金を渡す。 夜、霊夢が買ってきた美味しい食べ物を一家で食す。 「今日は甘い食べ物よ」 出されたのはカラフルな甘いペースト状の食べ物だった。 「おいしい!! れーむおねーさんおいしーよ!!!」 「今日はこんなの買ってきたわ」 出されたのは、カスタードケーキだった。 「あまい!! すっごくおいしい!!!!」 時々、霊夢も縁側で食事を取ることがある。 その時は皆で一緒に楽しくご飯を食べる。 「頂きます」 「「「「いっただきまーーす!!!!」」」」 しかし、楽しい事ばかりではない。 「うっう~♪ れみりゃ☆だどぉ~♪」 「ゆ?」 「うっう~♪ れみりゃはこーまかんのおぜうさまだっど~♪」 それは、紅魔館の主が従者を引き連れてここに来る時に、従者が引き連れてくるゆっくりれみりゃだった。 「ゆ! ゆゆゆ!!!」 一家はこのゆっくりが自分達にとって危険なものである事は理解していた。 ブリーダーに教えられた事と、先ほど言った通り従者が引き連れてくるからである。 「だいじょうぶよ!! れみりゃさまはとってもグルメなんだから。プディングしかお召し上がりにならないわ」 「う~♪ れみりゃはぷっでぃ~んしかだ~べないどぉ~♪」 そう言って、その従者にれみりゃと遊ぶ事を強制させられていることも。 食べないといっても、捕食種のゆっくりと遊ぶ事は危険な事に変わらない。 「うっう~♪ た~べちゃ~うぞ~♪」 「う~♪ れみりゃはつよいんだどぉ~♪」 そう言って噛み付かれたり、殴られたりしていたのだ。 去り際に、ゆっくり霊夢の飼い主が文句を言っても、子供同士のおふざけです。 そう言って話すら聞かないで帰ってしまうのだ。 「うっう~♪」 それがまた目の前に居る。 従者の姿は見当たらない、おそらく一人で抜け出してきたのだろう。 それを確認して、一家はさっさとこの場から逃げ出そうとした。 「ゆ! そこでゆっくりしててね!!」 「ゆ~!! だめ~~~!!! れみりゃとあそぶの~~~~~!!!!」 しかし、長い事人間と暮らしていた一家は、同じく飼われているれみりゃから逃げる事はできなかった。 狙いを付けられた一匹が、頭の上からのしかかられ両手で頬を引っ張られる。 「うっう~~♪ れみりゃはつよいんだどぉ~~~♪」 「やめふぇね!!! ゆっふりふぁなしふぇね!!!!」 必死にれみりゃに対して懇願するゆっくり霊夢だったが、プディンしか聞き分けられないスカスカ脳みその肉まんには何を言っても無駄である。 「うっう~~♪ がぁお? !!!」 「ゆ?」 突然、頭の上にあった重みが消え、口も自由に動かせるようになった。 何事かと上を見上げると、そこにはれみりゃの羽を掴んだこの神社の主の姿があった。 「ゆゆ!! れいむおねーさんありがとう!!」 「いいのよ。きょうはあのくちやかましいロリコンも居ないし」 そう言って、れみりゃを持ち替え顔を正面に向ける。 「ううーーーーー!! はなさないとさくやにいいづけるどぉーーー!!!!」 両腕でお腹を押さえられているれみりゃは、自分の両手を首元まで持ってきてぶりっ子のポーズを取りながら、若干涙が滲んでいる顔を女性に向けて言葉を吐き捨てた。 「ああこわいこわい!!」 「ぎゃっは!!! うう!! あっぎゃ、かは!!」 掴んでいた腕から、握りつぶすように力を込めていく。 「これは私が退治するから、あんた達はそこでゆっくりしてなさい」 「「「「ゆっくりしてるよ!!!!」」」」 「うーーーー!!!! ざぐやーーーー!!! どぉごーーーー!!! はやぐれみりゃをだずげろーーーーー!!!!! あっぎゃーーーー!!!!!!!」 戻ってきた霊夢は、一家に怪我がない事を確認するとご馳走を作るからといって家の中へ消えた言った。 その日の夕食には、美味しい肉まんと、餃子と、よく出しの取れたお吸い物が並んだ。 「ゆっくりいってくるね!!!!」 今日も、ゆっくり一家は街へお金を稼ぎに出かけていった。 「これは良い方法だったわ。クズ野菜なんかに砂糖を混ぜて出せば美味しいって言ってくれるんだから。無い時はそこら辺のゆっくりで良いし。お金もいっぱい溜まるし、やっぱり後を付けていって正解だったわね」 満面の笑みを浮かべて見送る霊夢は、ボソッと一言呟いて掃除を再開した。 「さてと、今日の夕飯はすき焼きが良いかしら、それとも奮発してお刺身でも買おうかしら?」 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/4760.html
「ゆっくりれいむ」 俺はめったに見かけない、胴付きのゆっくりれいむを飼っている。 理由は、炊事洗濯掃除等をやらせるためだ。一人暮らしなのでやる人間が自分しかいないのだ。 しかし、家のれいむは物臭なゆっくりらしく、洗濯も掃除も余りしようとしない。 毎日やるように言っても、 やらないので何度か、山の奥に捨てに行こうかと思ったが、 今も一緒に暮らしている。 「さーて、今日は風呂に入るぞ」 俺の言葉ににれいむは、びくっと反応した。 「な・な・ななにいってるのおにいさん、れれ・れれれいむはまだきれいだよ」 いくら風呂が嫌いだからって、 どもりすぎだろう。 「知るか、とにかく一緒に入るぞ」 「いやぁぁぁあ!!、おゆさんはゆっくりできないぃぃぃ!!!」 俺は、嫌がるれいむを引きずりながら風呂場に向かった。 一般人にたまに間違えて覚えている人間がいるが、 ゆっくりの全てが、水に溶けるわけではない。 ゆっくりにとりや、ゆっくりすわこ等は、溶けないどころか、 水中で生活できるし、その方が、生存率が高かったりする。 そして、胴付きゆっくりは、水に溶けにくかったりする。 胴付きゆっくりは、 体の表面に数mm程度の特殊な皮が形成されている。 この特殊な皮が耐水性をもっているらしい、 ちなみに、饅頭が人型でも崩れたりしないのもこの皮の為だとか。 だからと言って、毎日胴付きゆっくりを風呂に入れるのはまずい。 水に溶けないので、問題がないように思えるが、 実は、ゆっくりは体が腐らないように、 防虫防腐効果のある、物質を体の表面に分泌しているのである。 風呂に入ると、この物質も汚れと一緒に流してしまうのだ。 ゆっくりんぴーすとかいうゆっくり愛護団体の研究報告によると、 夏場に毎日、胴付きゆっくりを風呂に入れると、 一月で半身が腐ったゆっくりになるんだとか。 そんなわけで、れいむは風呂が嫌いで、 そんなわけで、俺は、れいむを風呂に入れるのは4日に一度にしている。 「あ~~~~、いいゆだよ~~~、ゆっくりできるよ~~~」 とは言え所詮ゆっくり、 風呂に入ってしまえば風呂嫌いを忘れたように風呂でゆっくりする。 「体は洗ってやったんだから、溶ける前に出ろよ」 俺が、れいむと一緒に風呂に入るのは、 そういう趣味があるからではなく、 れいむがゆっくりしすぎて、溶けるのを防ぐためである。 他意はない。 体を洗い終わった俺も、湯船に入った。 「ゆゆんゆ、ゆんゆんゆん、ゆ!ゆゆ~ん」 れいむはご機嫌そうに歌っている。 「ゆゆんゆ・・・ねえおにいさん、これなんなの?」 れいむは、俺のすね毛を掴みながら聞いてきた。 「これは、すね毛って言って、足を守るためにあるんだぞ」 「ゆ!すねげさんがあるとおにいさんはゆっくりできるんだね!!」 少し違う気もしたが、めんどくさいので、 「そうだぞ~、ゆっくりできるぞ~」 と、答えた。 ゆっくりを飼ってよかったことは、早起きになったことか、 朝5:00には、「ゆっくりおなかがへったよぉ」と、起こしにくるのだ。 どこのお年寄りだ。 今日も、朝早くに起こしに来た。 「おにいさんあさだよ。ゆっくりごはんつくってね」 自分で作れよこんちきしょうとは思うが、 もう一年近く同じよう名やり取りをしているので、諦めている。 「あ~まだ眠い」 働きに出るまで、約3時間ある、その分もう少し寝ていたいが、 飯を作るまで、れいむは起こし続けるし、 飯を作ったら、眠気は覚めていたりする。 なので諦めてさっさと起きる。 「ゆっくりおはようおにいさん」 「ん~おはろ~」 起きるとれいむがいつも通りすぐそばにいた。 いつものように、料理作るわけでもないのに、 エプロンをしている。 エプロンを着る時は、なぜか、いつもの巫女装束を着ない。 「はだかエプロンは、おにいさんがゆっくりできるよ!!」 とか、この間理由を聞いてもないのに言っていた。 俺をゆっくりさせるつもりがあるなら、ぜひもっと家事をしてもらいたい。 「さきに、いってまってるからゆっくりしないでごはんつくってね!」 「・・・あ~い」 冷蔵庫の中には、 パンとか調理しないでも食べれるものはいくらでもあるのに、 何でこいつは、わざわざ俺に朝飯を作らせるのだろうか? 台所のテーブルに行くれいむの後姿を見ながら思う。 それにしても、せっかくの裸エプロンも、 こいつでは、魅力は6割減といったところだろう。 あまり、肉付きが良くない体型だし、 ゆっくりだし、なんか表面がテカテカしてるし、 脚にすね毛がびっしり生えてるし、 すね毛? 「ほわぁぁぁぁ!!!!?!」 「ゆひぃ!?どうしたのおにいさん、わるいゆめでもみたの」 「今!現に!悪夢見てるよ!て言うか! お前がどうしたんだよ!こっちの台詞だよ! 何だよそのもっさりした脚!」 「?・・・!すねげさんのことだね! すねげさんがあるとゆっくりできるから、 きのうのよるにすねげのかみさまにおねがいしたんだよ!」 すね毛の神様がんばりすぎだろ、 俺だって誰かに頼られたりしたら、 張り切ってがんばったりもする事もあるさ。 「ゆゆ~んすねげさんとってもゆっくりしてるよ~」 きっとすね毛の神様も、 頼られて張り切っちゃったんだろうな、 何せ、すね毛だ。 『すね毛を生やしてください』 なんて極レアなオーダー、 きっと神生(?)初だろうよ。 今後あるとも思えない。 ダカラ、 レイムニ スネゲハエテモ シカタナイヨネ? 「なんて言うと思ったかこのやろぉぉぉ!!!!」 ブチブチブチブチィ 「ゆぎゃぁぁ!!」 俺は、れいむのすね毛を掴んでそのまま引きちぎった。 「なにするのぉぉぉ!! すねげさんがないと、おにいさんが「ゆっくりできねぇよ!!なんで俺が胴付れいむに、 すね毛が生えてないとゆっくりできない人間になってんだよ!! どんなHENTAIお兄さんだよ!! 上級者通り越して超級者の位置だよ!」 「おらぁ!ゆっくりできないすね毛はゆっくりしないで消えろぉ!」 ブチブチブチブチィ 「ゆぎゃああああ!ゆっくりできないぃいい!」 「ガムテープだぁぁ!まとめて抜けろぉ!」 ブチブチブチブチィブチィ 「れいむのすねげさんがぁぁぁ!!」 「オラオラオラオラ」 ブチブチブチブチブチブチ 「ゆぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」 「オラ!」 「ユ!」 「」 「すねげさんがないとゆっくりできないよぉぉぉ」 部屋の隅で、泣き喚くれいむ、 部屋中に飛び散るすね毛、 飛び散って張り付いたすね毛まみれのガムテープ 地獄絵図だ。 と、こんなことしている間に、 もうそろそろ家を出ないと会社に間に合わない時間だ。 「れいむ!俺は会社に行ってくるからな!部屋の掃除くらい頼んだぞ」 朝飯は我慢しよう。食ってたら間に合わない。 あ~、疲れた。 朝飯食ってなかったし、 朝っぱらから暴れたので、いつもよりも疲れた。 「ただいま~」 朝、掃除しろと言ったのを、珍しく実行してくれたらしく。 家の中は片付いていた。 「ゆっ、おにいさん、かえってきたんだね」 居間には、巫女服に着替えたれいむがいた。 もうすね毛は生えていない。 すね毛は・・・ 「おにいさんのおかげでぜんぜんゆっくりできなかったよ。 でも、もう気にしてないよ、もっとゆっくりできる、 ふわふわさんがれいむに生えたんだからね!」 「・・・うん、その『ふわふわ』が何なのか一目みてわかったよ。 ありえねぇよ!何だよそれ! その腋毛?気持ち悪いよ! 生えてきたってレベルじゃねぇよ!もっさりしすぎだよ! 自分の頭ぐらいの大きさの腋毛玉なんて始めて見たよ! もっさりしすぎて、さっきから、 『人類は十進法(以下略)』のポーズしか取れてねえじゃねぇか! 俺が会社行ってる間何してたんだよ!腋毛の神様にお願いでもしたのか!」 「なにいってるのおにいさん?わきげさんはかってにはえて 「こないよ!腋毛は勝手に生えてこないよ、そんなには! こっち来い、そんな腋毛修正してやる!」 「やめておにいさん! そんなことしたらおにいさんがゆっくりできなくなるよ!」 どうやら、こいつは 毛が生える=俺がゆっくりできる という式を、確立したらしい。 証明もしてないのに。 だめだこいつ 早く何とかしないと・・・ ~あ~と~が~き~ 初期のゆっくりっぽいものを 書こうとしてたんだ。 書こうとしただけで終わったけど。 このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/160.html
四日目 女心と秋の空。 井戸の上空にひたすら広がる青い空を仰ぎ見て、霊夢はそんな常套句を思いだしていた。 昨日までのしとしと降りは霧散消散。 いまはからっとした陽光に包まれた穏やかな秋晴れ。 昨日から寝ていないゆっくり二匹にとって、その朗らかな心地よさは毒のようなもの。重たい目蓋をこじあけて、死を意味する居眠りを何とか堪えた。 その日差しが直接入り込むにはまだ時間が早かったが、入り口付近を淡く白い光が包み込んで、井戸の中はほの暗い。 井戸の腐ったような胸に詰まる臭いも今はそれほど強くはなかった。 乾燥した空気が井戸の底までおりてきて、ゆっくり二匹の湿りきった体に心地よい。 陰干しされたゆっくり二匹。 体から水気がゆっくりと蒸発して、元のもちもちとした肌が戻ってきた。 同時に、昨日から続いていた落下もようやく止まって一安心。 大分底に近づいてはいたが、井戸の上から見下ろせばまだ十分視界に入る位置だった。 「すっきりー!」 晴れやかに宣言する霊夢。 魔理沙はうつむき加減で言葉は発しないが、悪くない気分らしい。吐く息がゆっくりと穏やかだった。 「かゆいのは、大丈夫?」 「……うん」 霊夢の言葉に、弱弱しい声をだして頷く魔理沙。 と、同時にそれと同じ角度で頷いていた霊夢。 あれ、どうしたんだろう? 意図しない自分の動きにハテナマークを浮かべる霊夢。きょろきょろと視線を走らせて、ようやく気がついた。 ゆっくり二匹のふっくらしたほっぺた。 ぴったり強くこすり合わせていたその小指ほどの先端が、今見ると魔理沙の頬とぴったり皮膚が繋がっていた。その皮膚を通じて、魔理沙の動きに引きづられていたゆっくり霊夢。 「ゆっくりー!?」 驚愕の霊夢。 雨でぐずぐずになった皮をこすりあわせているうちに結合していたらしい。 皮自体は乾燥して弾力を取り戻したが、お互いのほっぺは強固にくっついたまま。 二匹は思わず視線を合わせた。 「くっつくよ!」 霊夢が叫ぶと、その頬の動きのままにびろんとのびる二人の皮。 奇怪な有様だったが、ゆっくり霊夢は妙に嬉しそう。 「これじゃあ、ずっといっしょだね!」 霊夢の言葉にこめられた親愛に、魔理沙は頬を吊り上げてかすかな笑顔。 わずかな仕草なのに、心の底からの嬉しさがほっぺのつながりと通じて霊夢に伝わってくる。 相変わらず状況は絶望的で、体力は落ちていくばかり。おなかもぺこぺこ。 でも、目の前のゆっくりと再び親友に戻れた。それだけで単純なゆっくり二匹の心は晴れやかだった。 「……おなかすいたね」 続く魔理沙の呟きも、声色自体は疲れ果ててはいたが、口調自体はいつものもの。 霊夢もお腹はぺこぺこだ。壁にはりついたムカデやナメクジをぺろぺろ舐めとっても何の足しにもならないし、美味しくない。 でも、自分はまだいい。消耗しきった魔理沙の方が心配だった。落下してから何も口にしてないのではいだろうか。 「魔理沙、右のほっぺに蟻さんがいるよ!」 その言葉に、ぺろんと伸びる魔理沙の舌。 魔理沙の顎の方へ向けて行進していた蟻たちが一瞬で姿を消した。 だが、すぐに顎の傷のほうから次々と蟻たちが出現しては、引き続き魔理沙の舌に飲み込まれていく。 「もっと沢山たべたい……」 蟻んこでは腹の足しにならないのだろう。魔理沙の虚ろな表情に元気は戻らなかった。 我慢している顎の傷の痒みは相当のものらしく、言葉が尽きるなり、ごしごしと患部を壁にこすりつける魔理沙。 顎の付近から、ぶわっと羽虫が舞い上がった 寄るところもなく宙を漂う羽虫。だが、魔理沙の蠢動が治まるなり顎の傷のあたりへ戻っていった。 「ゆううう!」 途端に、またびくびくとむずかりだす魔理沙。その顎には我が物顔に再び行進をはじめる蟻の行列。一様に極小の餡の粒を背負っている。 どうやら、わずかに開いた傷口から漂う甘い香りが、井戸の住民たちにかぎつかれたようだ。恐らくは、傷口が虫たちにほじくりだされているのだろう。 そんな様子は自分からでも確認できるらしく、暗い眼差しで虚空を眺めるゆっくり魔理沙。 霊夢は少しでも魔理沙の気持ちが紛らわせようと口を開いていた。 「ここからでたら、虫さんは全部つぶしてあげるからね!」 「……」 「そして、美味しいものを沢山たべようね!」 「……」 「野いちごとか、沢山食べようね!」 ひっきりなしに話しかける霊夢。 太陽を一杯に浴びた野草や、まるまるとした昆虫、リスなどの小動物。その味わいを夢想する。 その中でも最近食べた一番美味しい食べ物はあれだろう。 ぼんやりと、霊夢は回想に入る。 数ヶ月前、月明かりに誘われて家の周りに遊びに出たゆっくり霊夢とその姉妹。 野犬の遠吠えも聞こえない、静かな満月の夜だった。 家の入り口近くに何匹も連なって月の鑑賞会。まん丸な月を眺めるゆっくりたち。息を吸い込んでお月様のように丸く膨らんだり、ぴょんぴょんと跳ねて少しでもお月様に近づこうとしたりと、思い思いに楽しんでいる。 だが、突如として月明かりに影が差す。 見上げたゆっくりたちの視線の向こうに、月を背負ったシルエットが一つ浮かんでいた。 「ゆ?」 その正体がわからなくて首を傾げるゆっくりたち。 ニンゲンに似た体つきだけど、それにしては手足が短い小さな体。ぱたぱたとはためく翼もニンゲンのものじゃなかった。 目をこらすと、 朧な月の光にその姿が浮かび上がってくる。 丸い顔に満面の笑顔を浮かべて、短い手足を一杯に広げた生き物。誰かにおめかしされたのか、ピンクの服と帽子、 そして赤いリボンが愛らしい。 幼子のような笑顔のまま、その生き物は鳴いた。 「うー! うー!」 その可愛らしい生き物はご機嫌そのもの。だが、ゆっくりたちは気がつかなかった。意味のわからない呟きをもらすその口元に輝く、剣呑な牙を。 それは、紅魔館に最近住み着いたゆっくり亜種だった。空を飛ぶ吸血種で、その上に幼児のような体と手足がある、極めつけの希少種。 主に似たその生き物を、紅魔館の者は親しみをこめ、こっそり「れみりゃ」と呼んでいた。 そんなれみりゃは、発見されたからずっとメイド長咲夜に世話をされてきた筋金入りの箱入り娘。いつもは館の奥で大切にされていて、単独での外出が許されていなかった。たが、今日は素敵な満月。ついつい心踊る月明かりに誘われ、抜け出してきたのだろう。 つきっきりで世話をする咲夜の姿も、今日はどこにも見当たらない。 過保護な従者のいない久しぶりの自由を謳歌して、ご機嫌なれみりゃ。うーうーと、幸せそうに月夜を飛び続ける。 気がつけば、ずいぶん遠くまできていた。 くーくーと鳴り始めるお腹の虫。そろそろ戻ろうかなと迷い始めていた。けど、帰ればこの楽しい夜が終わってしまう。 そこで出くわしたのが、いつも餌として与えられているゆっくり霊夢の一群だった。 まさに渡りに船。 「ぎゃおー♪」 ご機嫌に、怪獣のような叫びを発するれみりゃ。 咲夜が怪獣のキグルミを着て演じた台詞をそのままなぞっただけの幼い咆哮。 ゆっくりたちは奇妙な闖入者に戸惑って、逃げるべき相手か、判断がつかなかった。 だが、そんなゆっくりたちは次の台詞で震撼する。 「たーべちゃうぞー!」 宙から、ふわりとこちらへ飛んでくるれいりゃ。その口の牙が月光を帯びて鈍く光った。 「ゆっくりやめてね!」 慌てて、一目散に家へと逃げ込むゆっくりたち。 だが、出入り口は一つ。一度に入れるのはせいぜい二匹まで。 「はやくしてね!」 最後尾のゆっくり霊夢が急かすが、その声が不意に止む。 れみりゃに牙を突き立てられ、引きずられていくゆっくり霊夢。 「お゛があざーん……!」 ぱたぱたとはためく翼の音とともに、母を呼ぶ声も遠ざかる。 「うー♪」 見守るゆっくりたちの前で、れみりゃは捕らえた霊夢を抱え込む。 同時に、れみりゃの口からじゅうううと鈍い音が響きだした。 「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ!?」 自分の体に何が起こっているのかわからないゆっくり霊夢。 だが、みるみる頬がこけ、皮がビロビロに伸びはじめてようやく気づく。れみりゃは、ゆっくりの中身を急激に吸い上げていた。 「い゛や゛あ! ゆっぐりじでよおお! ずわ゛な゛い゛でええええ!」 しかし、言われてジュースを飲むのを止める幼児などいない。 うまうまと、たっぷりの甘さを味わいながらちゅーちゅーと吸い続けた。 次第に、白目をむくゆっくり霊夢。 「ゆ"っゆ"っゆ"っ」 細かく痙攣を始めるが、れみりゃはジュースの器がどうなろうが一切気にとめない。喉の渇きのまま、最後まで一気に飲みきるだけ。 ふにゃふにゃにのびた霊夢の、最後の雫を吸い込もうとれみりゃが一呼吸したそのとき。 猛然と転がる岩のようなゆっくりがいた。 「ゆっ! ゆっ!」 異変に気づいたお母さん霊夢だった。 ぷっくり膨らんだからだを揺すって、どすどすと入り口かられみりゃに向けて一直線。 「うー?」 只ならぬ振動に顔をお母さん霊夢に向けるりみりゃ。 瞬間、お母さん霊夢は飛んだ。 月夜を背景に、膨らんだ全身をばねにして見事な飛翔。 そのまま、れみりゃの顔面へと飛び込んでいく。 ぺちっと、情けない音がれみりゃの顔面で響いた。 もんどりうって倒れる一団。 「うあー! うあー!」 れみりゃはうつぶせ倒れこんで、起き上がりもせずただ泣き叫ぶ。 これまで、食事といえば昨夜が手配したゆっくり霊夢かゆっくり魔理沙。お嬢様に粗相のないよう、処理されたものばかりだった。 だからこそ、まさか獲物に反撃されるとは夢にも思っていなかった。 ショックでわんわんと泣き出すれみりゃ。いつもなら、ダダをこねていれば光の速さで咲夜が飛んできて自分を慰めてくれる。 でも、ここは紅魔館から遠く離れたゆっくりたちの巣。 絶望的にれみりゃは孤独だった。 「うあ!」 唐突にれみりゃが感じた激しい指先の痛み。 見れば、一匹のゆっくり霊夢が復讐だとばかりに噛み付いている。振り払おうとするその腕に、さらに噛み付く別のゆっくり。 続いて、背中にどすんとのっかった重みはお母さん霊夢。息がつまって、れみりゃの体がのけぞる。その隙に残りのゆっくりたちも意を決して競って背中に乗り上げてきた。もうれみやは飛ぶどころか、起き上がることすらできなくなる。 「うっ……!」 もういやだ、早く帰して。今日はプリンのお夜食なんだから、もう帰る! そんな思いをこめてゆっくりたちを見つめる。 だが、紅魔館自体を知らないゆっくりたちに容赦する理由は微塵もない。 「うっ!」 れみりゃの短い叫び。 見れば、指先に噛み付いていたゆっくり霊夢がついにその丸い指先を噛み切ったのだ。 指先からほくほくと、肉まんの湯気。 「うっ……うっ!」 赤く灼熱した焼印を押し付けられたような指先の激痛。 苦痛から、もはや声にならない悲鳴がれみりゃの口をつくが、むーしゃむーしゃと味わう霊夢には聞こえていないかのよう。 「おいしいよ!」 ほくほくの笑顔でそのお味を家族にご報告。 その言葉が契機になって、一斉にゆっくりたちが殺到する。 あんぐりと、れみりゃの指先やほっぺにくらいついた。 「う゛っ、あ゛ーっ!」 れみりゃは元々柔らかい肉まんのようなものなのか、強く噛み付くとゆっくりに、抗うことなくぽろぽろと千切られていく。 「むーしゃ、むーしゃ」 一斉にれみりゃを咀嚼するゆっくりたち。 はふうと、同時に吐き出される至福のため息。 「しあわせー!」 「ゆっ! ゆっ!」 わが子の嬉しげな様子を穏やかな視線で見つるのは、お母さん霊夢。 れみりゃがもう何もできなくなったことを確認して、その翼を口でぺりぺりと剥ぎ取る。 咥えたまま向かった先は、れみりゃに吸われてぺしゃんこになったわが子の元。そっと、くわえてきた翼をわが子の前へ置く。 けれど、もはやわが子は目も見えていないようだった。白目をむいて震え続けるだけのゆっくり霊夢。 お母さん霊夢は、無言で我が子を見下ろしていた。 れみりゃを味わっていたゆっくり霊夢の一匹が、その様子に気づいて駆け寄ってくる。 「早くよくなってね!」 元気付ける言葉は、虫の息となった霊夢にも聞こえたのだろう。 応えるため、口を緩慢に開こうとする。 「ゆっ……く……」 だが、もれたのは言葉にならないあえぎだけ。 やがて、言葉の代わりに大きく吐き出される吐息。あえぎ声。 それっきり、ゆっくり霊夢は動かなくなる。 きょとんとその様子をうかがう子供たち。何が起こっているのだろうと小首を傾げる。 お母さんれいむは頬をすりよせて、抜け殻となったわが子の目を閉じてあげた。 沈痛な沈黙。 「ゆっ!」 短い呟きが、わが子の亡骸に向けられて静かに響いた。 やがて、お母さん霊夢はくるりと振り向く。皮だけと成り果てたわが子から離れて、れみりゃのもとへ。 「うー!」 うつぶせにむせび泣いていたれみりゃと静かに向かい合う。 相変わらずの無表情のまま沈黙を守るお母さん霊夢。 すると、れみりゃを味わっていたゆっくり霊夢のうち一匹が、れみりゃの指先を見つめてぽよんと飛び跳ねた。 「ゆっくり治っているよ!」 見れば、千切られたばかりの指先がじわじわと元に戻りつつある。吸血種ならではの再生力だった。 その様子を、相変わらずじっと見つめるお母さん霊夢。 お母さん霊夢は声もなく動き出し、れみりゃの服の襟首をくわえ込む。そのまま、ずりずりと家の方へ引きずり出した。 ゆっくり霊夢たちは不思議そうに母親の行動を眺めていたが、そのうち一匹が母親の意図を悟る。 「まいにち、ごちそうだね!」 その言葉で他のゆっくりたちも気づく。れみりゃは一晩で元通り。食べ過ぎなければ、いつだって美味しいご飯になるということを。 一斉にれみりゃに飛び掛るゆっくりたち。れみりゃの翼を、耳を、指を、靴の先を、それぞれ思うがままに咥えて、一心不乱に家の方向へ。 「うっ! うっ!」 異常なゆっくりたちの団結に、怯えて泣き叫ぶれみりゃ。だが、もう遅い。れみりゃの姿は、ゆっくりと霊夢たちの住処へと消えていった。 それから数ヶ月、豊かな食生活が続いたゆっくり一家。 だが、その幸運も不意に消えてしまった。 いつも家の中に縛られて転がっているれみりゃが可哀想だと、ゆっくり家族たちが気を利かせて日向ぼっこ。 「うー! うー!」 家の方が居心地がいいのか、出ていきたがらない素振りのれみりゃだったが、日向でゆっくりさせてあげないと体に毒だと無理やり引っ張り出す。餌にすら親切なゆっくり一家だった。 逃げないよう縄でがんじがらめにして、お天道様の下に転がしておく。 「うあああーっ!」 嬉しいのか大声ではしゃぎ、のたうちもがくその声を背に、ゆっくりたちは気ままに遊び場へ散らばっていく。 日没まで存分に遊んで帰ってきたゆっくちが見たのは、れみりゃを縛った形のまま地面に横たわるロープと、そのロープを覆いつくさんばかりの真っ白な灰だった。 これは何だろうと疑問の答えを見つけるよりも早く、灰は草原を吹きぬける風に舞い上がげられる。 そのまま、近くを流れる小川へ押し寄せられ、流されていった灰。よくわからないので、ゆっくりたちはすぐに忘れる。 結局、逃げられたと結論づけて、今日もお母さん霊夢の待つ家の中へ、ゆっくり姉妹は仲良く連れ立って入っていった。 おいしい食べ物のことを思い出して、だらりと霊夢がよだれをたらしているうちに、時刻はいつしか夜を迎えていた。 今日は誰も井戸をのぞきこんだりはしなかったが、明日もこの小春日和が続けば、ゆっくり仲間か暇なニンゲンあたりが ふらっとこのあたりを通りかかるかもしれない。 それまで、耐えられるよねと自分に自問する。 全身は、力をこめ続けていたせいで、がちがちにこわばっていた。身じろぎするたびに体がきしんで痛みが走る。 眠らないでいた頭はぐらぐらと揺れて気が遠くなりそうな程。ぼんやりとなる瞬間もあるけど、死ぬよりはマシと思うしかない。 それに、嬉しい兆候もあった。 お昼に少し元気を取り戻したものの、日暮れ前にはもうぐったりして動けなくなっていたゆっくり魔理沙。 だが、夜が深まるにつれて何やらもぞもぞと体を動かしていた。 魔理沙が先に力尽きることが最大の不安だっただけに、その復活は霊夢にとっても望ましいことだった。 後は誰か、誰でもいいから、この井戸を覗き込んでもらうだけ。 そうだ、お願いの言葉を今からきちんと考えないと。 どことなく前向きなゆっくり霊夢。 その霊夢の思考を邪魔する、カサカサという魔理沙からの音と、時折の「ゆ……」とうめき声。 だが、霊夢は気づかないまま、助け出されたときのお礼の仕方をのんきに考えはじめていた。 五日目 考えすぎたのが悪かったのだろうか。朝から、霊夢の頭は朦朧としていた。 眠らないまま、どれだけの時間を過ごしただろう。 力を抜かない、眠らない。 それだけを守って、それだけしか許されないこの世界で生き抜くうちに、霊夢は少しずつ現実とつながる意識が薄れていた。 空が明るくなって、かろうじて五日目に入ったことはわかる。 けれど、もう何年も閉じ込められているような気分だった。 この空虚でゆっくりと流れる時間を、一人だけで過ごしていたら今頃心が壊れていたかもしれない。 だが、隣にぴったりとくっつく魔理沙の存在が、霊夢の心に頑張らないとと、わずかな種火となってくすぶった心を焦がしている。 昨日からちょっと調子が悪いらしくて、話しかけても何も応答が無い。 でも、いるということだけで心強いのだ。 「れいむう……」 その魔理沙が、一日ぶりに自分から話しかけてきた。 井戸の暗闇から届く、のったりと間延びした呼びかけ。 「どうしたの、まりさ!」 そのことが嬉しくて、応じる霊夢の声は弾んでいる。 魔理沙の次の言葉は中々発せられなかったが、ゆっくり待った。 「……ようやく、かゆい理由がわかった」 時間を大分おいた一言は、霊夢に「よかったね!」の合いの手を躊躇わせるほどに疲れきった声。 どうしたのだろうと訝りつつ、やはり魔理沙の言葉を待つしかないゆっくり霊夢。 そのとき、ゆっくり霊夢はわずかな光を感じた。 見上げると井戸の縁を、太陽がわずかに踏み越えようとしている。 ほかほかのお日様がでれば、魔理沙も元気になるかな。 「あのねえ」 魔理沙の呟き。 日差しはどんどん高くなる。光の領域が、井戸の縁から内側へ、みるみる広がってきた。 「れいむ、きらいにならないでね……」 よくわからない言葉が霊夢の困惑を誘う。 さらなる説明を求めようとした、その時。 ふっくらとしたお日様の気配が二人を包んだ。ゆっくり二匹の元へ届いた、晴れやかな日差し。 光に照らし出された魔理沙は、口を半開きにして惚けたような顔。 そして、顔半分を覆いつくす黒。 目を凝らすと、その黒い帯は光を受けて一斉に動き出した。 「ゆーっ!」 黒い帯。それは、魔理沙の顔にたかる幾百もの虫たち。地虫、羽虫、カトンボ、ゲジゲジ。数え切れないほどの虫たちが光の襲撃を受けてうごめき、逃げ惑い、光から隠れた。 最も手近な魔理沙の中へ。 魔理沙の右のほっぺに開いた無数の穴へと、我先にと逃げ込んでいた。 「ゆっ! ゆっ! ゆううううっ!」 目の前10cmで繰り広げられる光景のおぞましさに、満足な叫びもあげられないゆっくり霊夢。 虫たちは魔理沙の傷口から入り込み、中身を食い荒らしながら、奇妙な巣を勝手につくりあげていた。 魔理沙は、もう心が消えうえせたかのように、微動だにしない。開いた口からだらだらとよだれをたれ流して、右頬だけがぷるぷると微妙に震えている。 その虚ろな目が、怯え震える霊夢を見つめていた。 霊夢は「れいむ、きらいにならないでね……」という魔理沙の言葉を思い返す。 きっと、今自分は魔理沙を化け物を見るような目で見ているのだろう。 「しっかりして、まりさ! 外にでたらすぐに治療しようね!」 真正面に魔理沙の惨状を見据えて、心を燃え上がらせての激励。 ほのかに、魔理沙の瞳に生気が戻る。 「ありが……」 だが、お礼の言葉は最後までいえなかった。 「うっぐ!」 言葉を遮ったのは、魔理沙の口からわらわらと巣立つ羽虫たち。 凍りついた霊夢に、なぜか笑いかける魔理沙。 「……卵産みつけられちゃった」 気を失いそうになる霊夢。 魔理沙からは、低い笑い声がもれてくる。 「うふふ……うふふ」 これまで聞いたことの無い、奇妙な笑い方。 もう、霊夢の言葉は届きそうに無かった。 それに、その虫たちを見ていると霊夢に浮かぶ不安が一つ。 魔理沙の餡を全部食べ尽くしたら、この虫たちはどうするのだろう。 答えは、魔理沙と連結した自分のほっぺた。おどろくほど容易い進入経路。 「だずげでえええ! 今ずぐ、だずげでえええええええ!!! だずげでええええええええ!!!」 幼子のように泣き叫ぶも、声を聞き届けて顔を覗かせるものなど誰もいない。 ただ、驚いた羽虫たちをぶわと舞い上がらせただけ。 やがて、惨劇を見せ付けた太陽は井戸の外へ、早々に引っ込んでいく。 後には泣きじゃくる霊夢と、魔理沙の乾いた笑い声。 そして、それを覆い尽くす虫たちの気ぜわしい羽音や足音だけがいつまでも響いていた。 六日目 何度目か、すでに霊夢はわからなくなりつつある太陽の出現。 昨日、叫び疲れてぐったりと力を使い果たした霊夢。もう、口を開くのも厭わしい。 魔理沙も虫たちに蹂躙にされるがままになっていた。 もううめきすら聞こえない。生きているのか、死んでいるのか、もう判別のつけようがなかった。 ゆっくり霊夢は、そんなゆっくり魔理沙を見つめながら、自分の最期を見つめる思いだった。 きっと、自分もこんな死に様なのだろう。 ありありと見せつけられた絶望。 だが、先ほどまでの狂おしい恐怖はすでに感じなくなっていた。何もかも、あやふやな夢の中にいるよう。ぼんやりと、厚い膜を張ったような精神状態。 心が磨耗しきっていた。 もうすぐ魔理沙のように、うふふ、うふふと笑える幸せな世界に旅立てるのだろうか。 先に行けて、魔理沙はもいいなあと、霊夢は魔理沙をうらやましくさえ感じていた。 だが、霊夢がやっかむ必要もないだろう。 そのときは、確実に近づいていた。すでに、自分を取り巻く全てに何の現実感も感じられなくなりつつある。 だから、霊夢は妄想か夢を見ているかと思い込んで見逃すところだった。 はるか井戸の上には、見下ろす一人の女性の姿。 「久しぶりに昔の家にきてみたら、こんなところに……あなたたち、何をしているのかしら」 耳障りのよい、落ち着いた女性の声。 井戸に響き渡る、待ちかねた来訪者の声だった。 「ゆっ! ゆゆゆゆっ!」 助けて、出して、ごめんなさい、お願いします。言うべき感情が霊夢の口をあふれて、まったく形をなさない。ただ興奮と哀願だけが噴出して始めていた。 声をかけてきた女性は、逆光でよくわからないにがサラサラの金髪に、白いケープが目に入る知的で楚々とした印象。 自分たちに降りた蜘蛛の糸を握る唯一の人物。 「勝手に入ってごめんなさい! 出られないの! お願い、助けてください!」 「あら、かわいそうに」 ゆっくりに向けられた女性の声色は心底哀れんでいるようだ。 優しい人かもしれない。 ゆっくり霊夢は期待と不安の眼差しで女性を見つめる。 「心配しなくていいのよ。今、助けてあげるわ」 逆光で顔立ちはわからないが、その女性はにっこりと微笑んでいた。 その笑顔に、沸き立つ安堵の想い。知らず、体の力が抜けかけるゆっくり霊夢。 だが、ここで沈んでは何にもならない。必死に堪えた。 「待っててね。今、家からロープか何かもってくるから」 身を翻して姿を消す女性。 でも、霊夢に不安はない。女性の言葉は心底の同情に満ちたものだったから。 しばらくして、言葉の通りに戻ってきた女性。 「ありがとう、おねーさん! お願いします!」 ゆっくり魔理沙の言葉に小さく頷いて、女性は井戸の上からするするとロープを下ろしていく。 あと、ちょっと。あとちょっとで霊夢の口が届きそうになる。 あーんと、大きく口を開くゆっくり霊夢。 その口が届こうとする、そのまさにほんの手前。 「ところで、ここからじゃ暗くてよく見えないのだけど、あなたたちのお名前を教えてもらっていいかしら?」 女性の機嫌を損ねたくなくて、霊夢はロープを噛みに行く動作を止めた。 「ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさだよ!」 疲れ果て、声を出すのも億劫だったが、精一杯の愛嬌をこめて応えてみせる。 「へえ、良くあなた方の組み合わせを見かけるけど、だいぶ仲がいいのね」 なぜだか、突然始まる女性の世間話。 早く、早く! 霊夢の心の声が鐘楼のように鳴り響くが、ここで焦って全てを台無しにするわけにはいかなかった。 「うん、親友だよ!」 正直に答える。 すると、ロープの先端がプルプルと震えだした。 震えているのはロープと、その根元を握る女性の手。 女性は不意に笑い出した。魔理沙のような、乾いた笑い方だった。 「アハハハ。ホント、あなたたちはいつも仲がいいわよね。守矢神社のときもそう。私のことを放って二人で解決しちゃうくらいだし。本当に魔理沙と霊夢は仲良いわね」 ゆっくりに、女性の言葉の意味はわからない。 ただ、ふつふつと湧き上がる怒りだけが伝わってきた。 「おねーさん、ロープをもう少しのばしてね!」 只ならぬ気配に不安になった霊夢が思わず催促してしまう。 それが引き金だった。 「……あら、手が滑ったわ」 恐ろしいほどの白々さを響かせる声。 それとともに、ロープは一気にゆっくり霊夢の元へ届き、そのまま丸ごと井戸の底へ落ちていった。 「ゆっ、ゆー!」 霊夢の絶叫の最後に、着水したロープの音が無情に響く。 「どうじで、ごんなごどずるのお……」 涙目で見上げると、女性は無表情でゆっくりたちを見下ろしていた。 唯一の蜘蛛の糸が、この瞬間明らかに断ち切られようとしている。 「おねーさん、怒らせていたらごめんなさい! だから、お゛ね゛がい゛! もう一回、お願いじまずうううう!」 霊夢にできるのは、同情を誘う哀願のみ。 それでも、井戸の上の女性に効くかどうかは、すでに疑わしくなりつつあった。 「私なりに考えてみたのだけど、せっかくそこでゆっくりしているのに、お邪魔するのは悪いわよね?」 女性の気を遣ったような言葉が放たれるが、その根底に横たわるのは隠そうともしない悪意。 「やだあっ! もうここでゆっくりじだぐないいい! だがら、だずげでぐだざあい!!!」 「でも、大丈夫。今、素敵なお友達をそっちにおくるから、もっと楽しくなるわよ」 会話ではなかった。 ゆっくり霊夢の嘆願を存在しないものとして、にこやかに語りかける女性。 優しげに井戸に響く女性の言葉が消えるやいなや、何かを投げ込んでくる。 ひゅうううと、井戸の空気を切る何かが、霊夢の顔へ一直線。 そのペラペラの物体が光を透かして、霊夢にはそれが何かわかってしまった。 自分と向き合って落ちてくるのは、同じゆっくり霊夢種。ただし、中身がこそぎ落とされた上に、頭を切り落とされたゆっくりのデスマスク。 ぺちゃりと落ちて、身動きできない霊夢の顔に張り付く。お互いの唇を重なって、ぺったりと。 「む、むぐううううう!」 同種の死骸といきなりのマウストゥマウスに、声にならない悲鳴。 「喜んでもらえて嬉しいわ。それじゃあ、リクエストにお答えして、もう一匹、お友達がそっちにいくわよ」 すでにひどい衝撃を受けているゆっくりたちへ向けて、さらに何かを投げ入れた女性。 霊夢がデスマスクを払いのけるのと同時に、ぺっちゃっと水っぽいものが落ちてきた。 霊夢は顔面で受け止めたそれの正体に気づく。 「ゆっ! ゆっくりパチュリー!?」 すでに亡骸となっているゆっくりパチュリーだった。いや、パチュリーが死んでいるのはよくあることなので、さしては驚かない。 問題は、その頭部。 ご自慢の三日月の飾りをつけた帽子が破れ、頭全体がぐちゃぐちゃに中身をかき回されていた。 死に顔は歪みきった苦悶の表情。どんな苦痛を経れば、こんな顔で死ぬのだろうか。 井戸の上から見下ろす女性、アリスの微笑みはお茶会に呼ばれた淑女のように楚々とした笑顔だったが、霊夢には空恐ろしくて仕方なかった。 不意に、霊夢の鼻腔をつんとした臭気が突き上げる。 気がつけば、周囲にたちこめた甘く腐ったような匂い。 パチュリーの中身が発酵して、強いにおいを放っていた。 その腐った餡はパチュリーを受け止めた二匹の顔のあちらこちらに飛散して、嫌な匂いをこびりつかせる。 「ゆっ!?」 ぶうんと喧しい音。霊夢の耳元で騒ぎだす虫たちだった。匂いの強さに惹かれ、わらわらと霊夢へも忍びよる虫たち。 見たことも無い大きさのムカデが、魔理沙の頬からにょっきりと頭をのぞかせる。 「や゛あ゛あ゛! よ゛ら゛な゛い゛でええええ!」 我を忘れ、いやいやと餡子を振り落とそうとする霊夢。 それが致命的だった。 ずるりと、壁からずり落ちるゆくり霊夢の体。その動きを止めてくれていた魔理沙も、すでに押し返す力はない。 二匹とも、ずり、ずり、ずりと下がっていく。 「ゆぐうう! ゆぐうううううう!」 踏ん張ろうとしても、もう遅い。 落下は加速的に早まって、どんどん近くなる水面。遠くなる外の世界。 やがて、井戸に派手な水音が響き渡った。 その反響が収まると、もうゆっくり霊夢たちは井戸の上から見えなくなる。 満足げに見届けたアリスは、井戸の上に新たな板を敷き、重石をのせた。 「それじゃあ、ゆっくりしていってね」 くすりと品のいい笑顔を残して、アリスは去っていく。 後には、もう何年も忘れ去られたような古井戸だけが残されていた。 七日目 井戸の底は、光の欠片もない真の暗黒。 出口はすでに閉ざされ、霊夢は完全に日時の感覚を失っていた。 ここは井戸の底。にごりきった水面から、頭一つだけ上に離れた壁面。 朽ち果て、崩壊した石壁のでっぱり。そこへゆっくり霊夢は口をひらき、顎が外れんばかりにくらいついていた。 霊夢のほっぺにくっついた魔理沙は半身を水面に沈めている。 時折、ぶくぶくと気泡を吐き出して、虚ろな目で浮き沈みを繰り返す。 水に沈んだことで虫たちはある程度外に逃れてはいたが、代わってボウフラたちにまとわりつかれていた。 むわっと、淀んだ水の匂いがきつい。 そんな有様に、霊夢はもう終わりが近づいてきたことを自覚しはじめる。 石積みブロックに喰らいついている顎も、がくがくと小刻みな震えが止まらない。 井戸は完全に封印されて、もはや人目につくことも望めなかった。 「うふふ……」 あぶくの合間に、相変わらずの親友の笑い声。 おそらく、ゆっくり魔理沙はもうダメだろう。 魔理沙の心が死んでしまうまでに、魔理沙へ大好きだったことをもっと伝えておけばよかった。 喧嘩してひどいことを言ったことを、謝りたかった。 でも、もう届かないし、口を離せば即座に二匹とも水面に転がり落ちるだけ。 ボロボロとひっきりなしに霊夢の涙が零れ落ちていた。もう、何もかもが手遅れ。 せめて、死ぬ前にお母さんに会いたい。 会って、あの柔らかい体に飛び込んで大変だったよと、今までの話を伝えたい。 可哀想に、ゆっくりお休みと、受け入れてくれるお母さんの胸に甘えながら死にたい。 とっくに叶わなくなった、哀れな夢。 もう全てを諦めて、水に沈んでしまおうかと、何度も考える。 けれど、その惨めさが悔しくて悔しくて、霊夢は結局石壁にかじりついていた。 このまま、果てて死ぬだけだとわかりきっていた、無駄な抵抗。 どれぐらい時間がたっただろう。 ほんのりと明るさを感じていた。 見上げるゆっくり霊夢。鮮烈な光を放つ天から、小さな、人に似た存在が何体も連れ立っておりてくるのが見えた。 天使というものだろうか。 ああ、自分は死のうとしているのだ。 なぜだか冷静に、霊夢は天使たちを眺めていた。 天使たちは霊夢の下に回りこむと、その体を掴む。 浮遊感。 ゆっくり霊夢は井戸から静かに上昇していく。 ああ、ここから出られるなら、死んでもいい。 安らかな霊夢の表情。 外の日差しの強さを感じながら、霊夢はゆっくりと目を閉じる。 白く霞みがって遠のく意識。 その心地よさに身を任せていた。 「これで、いいのかしら?」 アリスは人形たちに引き上げさせているゆっくり霊夢を見やりながら、傍らのゆっくり魔理沙に語りかけていた。 そのゆっくり魔理沙は、井戸の中にいる魔理沙と別の個体、アリスが最近飼いならしているゆっくり魔理沙だった。 「ありがどううううう!」 今は仲間の姿を見つめながら、アリスに涙声でのひたすらにお礼を繰り返している。 アリスに唇に苦笑がこぼれていた。 「私は本当に魔理沙に甘いわね」 昨日の夜、ゆっくり霊夢たちの様子を夕食の話題に伝えたところ、仲間を助けて欲しいと泣きすがられてしまった。 どれだけひどくそのほっぺを抓りあげても、一向に黙ろうとしない。「箱」で脅されても「おねがい、だずげであげで!」と泣き喚かれて、アリスも少しだけの譲歩。 やがて人形に抱えられて、気を失ったゆっくり霊夢が運び上げられてくる。 「まったく、暢気なものね」 楽しげにゆっくり霊夢のほっぺたを、白く形のよい指先で弾いて遊ぶ。 霊夢は昏睡したように起きる気配もない。 つづいて、霊夢のほっぺたにくっついて魔理沙が姿をあらわした。 太陽の下、主だった虫たちはぽとぽとと井戸へ落ちていく。水をくぐったことも少し虫を減らしたのだろう。少しだけ、マシな魔理沙の顔。 「ゆ……?」 そのおかげか、光の眩さに目を覚ます魔理沙。瞳にやんわりと光が戻ってくる。 やがて、視覚した目の前の光景に、光が強くなる魔理沙の瞳。 そこは、夢にまでみた外の世界だった。風がそよそよ心地よく、草むらの青い匂いが薫る森の中。 外にでたの……? 目を凝らしても変わりはない。 紛れもなく、外の世界だった。 ……助かったんだ。 救出を認識するなり、心の奥底から蕩けそうな安堵感に包まれてじんわりと涙がにじむ。 「ゆ、ゆっくりいいいい……」 続く喜びに体が震えていた。 心にこみあげる暖かさに、ほろほろと涙が止まらない。 幸せな気分で流す涙は、なんて気持ちがいいんだろう。 こうして見える全ての景色は、いきなり奪われて、奇跡の果てにようやく戻ってきたあたりまえの世界。 いや、もうあたり前の世界には見えなかった。 世界がこんなに素敵なことに、ゆっくり魔理沙は気づいてしまっていた。 果てしない空、どこまでも跳ねてゆける自分の体、愛情を確かめ合える友達。それがどれだけ貴重なことか、魔理沙には心から知ることができた。 さあ、この素晴らしい世界で、心行くまでゆっくりしよう。 まずは、ゆっくりと何をしようかな。 思いつくことは沢山ある。ずっと井戸の中でしたいと熱望していたこと。美味しいものを食べる、遊びまわる、安全な場所でゆっくりする…… だが、それにも増してまずしなければならないことがある。自分を許し、励まし続けてくれたゆっくり霊夢に感謝と改めてお詫びをすること。本当にありがとう、そしてごめんなさいと、蕩けるまでゆっくり全身をこすり合わせたい。 その後はひたすらゆっくりしよう。体は大分ぼろぼろだけど、仲間たちに虫をとってもらってゆっくり休めば、きっとまた元に戻れる。 ゆっくりとした日常に戻れる。それだけで、もう涙が止まらない。 とめどなく頬を伝う暖かな落涙。 アリスはそんな魔理沙にそっと顔を寄せていた。 ようやく、魔理沙はアリスに気づく。 霊夢をひっぱりあげる、人形たちの姿にも。 「……お姉さんが、助けてくれたの?」 「そうよ」 アリスの簡潔な言葉を受けて、心を突き上げてくる感謝の思い。 「あっ、ありがどう……! ほんとに、ほんとに、あ゛り゛がどうううううう!」 最後の力を振り絞ったゆっくり魔理沙の言葉を、アリスは優しげな眼差しで受け止めていた。 「あらあら。涙で顔がくしゃくしゃよ。女の子がそんな顔を汚しちゃだめよ」 「うん」 茶目っ気たっぷりに語りかけられて、ゆっくり魔理沙ははにかんだ笑みで頷いた。 「それじゃあ、しっかり顔を洗ってきましょうね……」 「ゆ?」 アリスの言葉の意味を問い返す暇もなく、魔理沙に近づく影があった。 薄皮一枚で繋がる魔理沙と霊夢の間をすうと抜けた影は、アリスの上海人形。 上海人形が両腕に抱えるのは、鈍く銀色の輝きを放つ、大きな大きな断ち切り鋏。 「ゆ?」 次の戸惑いの声が魔理沙の口からもれたとき、すでにその体は落下を始めていた。 断ち切られていた自分と霊夢との皮膚の結合。 下には、何も無い空間が口をあけているだけ。 それからの光景は、やけにゆっくりと見えた。 再び、井戸の口に沈み込む体。あと10cmでもずれていれば、縁にあたって外に転がり出るというのに、 体はすっぽりと井戸の中央。 すぐさま、暗闇が視界を支配する。 落下を続けながら天を見上げるゆっくり魔理沙。 井戸の口はどんどん小さくなって、かつての光景のように遠ざかっていく。 もう、一緒に落下を耐えた友達はそこにはいない。 どこまでも落ちていく。 あれえ、夢かなあ。 惚けた台詞を呟くやいなや、底に着水して激しい水しぶき。 思ったより衝撃がないのは、水中に住む先客が魔理沙の体を受け止めれてくれたからだった。 井戸の底からぷかぷかと浮かぶのは、無数のゆっくり魔理沙たち。 すでに中身が井戸に溶け出して、ぶよぶよに膨らんだ皮だけが浮かんでいる残骸だった。 アリスが捕まえて、懐かなかったゆっくり魔理沙の成れの果て。 この井戸は、アリスの処分場となっていた。 しかし、魔理沙にそんなことはわからない。わかりたくもない。 「ゆ……ごぼ……ごぼぉ……」 魔理沙の体にできた虫食いの空洞から生まれる盛大なあぶく。 そのわき立つ水面の向こうで、閉ざされた井戸の天井をぼうっと眺めていた。 水をすった皮がぶよぶよに膨らみ始め、自分の皮で覆われていく視界。 ぎゅうぎゅうの皮におしこまれ、目の玉がとびだしそうに痛い。まるで、巨大な綱で常に締め上げられているよう。 間断ない痛みは、虫にたかられていた時以上に時の進みをゆっくりと感じさせた。 死ぬほど苦しい。でも、自分を殺すこともできない。 もう考られること一つ。いつ死ねるのかなということだけ。 中身の完全な腐敗、溶解まで後一週間ほど。 魔理沙のゆっくり生活は、ようやく折り返し地点を過ぎたところだった。 後編 選択肢 投票 しあわせー! (3) それなりー (0) つぎにきたいするよ! (1) 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/3700.html
『20年前の想い出』 小学生の頃、私は田舎暮らしに憧れのようなものを抱いていた。そこにこそ日本人の魂があるものだと思っていたのだ。幸い自然の豊かなところに育ったので、山菜を摘んでは子供なりに料理して食べていた。 母親が妊娠や子育てに忙しく、私が家事を行うことが多かったことも幸いした。 そんなある日、学校帰りにれみりゃを見つけた。小学四年の事だったと思う。 草むらの中からガサガサと音がするので見てみると、れみりゃがうー、うー、と鈍重そうに草にぶつかりながら飛んでいた。 ゆっくりという呼称通りののろまな飛行を見ていると、本で読みかじったれみりゃの食べ方を実践してみたくなった。 ウサギや蛇を捌くのは難しそうだったが、川エビやれみりゃなら当時の私にも出来そうな気がしたのだ。 ジャージの上を脱ぎ、れみりゃにかぶせて絞って家まで走った。 走ったのは急がなければジャージが破れてしまいそうだったからだ。 当時私は蕎麦に凝っていて、土曜日の昼は蕎麦の事が多かった。その頃は土曜日にも小学校が営業しており、大抵はクラス会になってしまう道徳と、図書室の本のほとんどを読み終えてしまった私には退屈なだけの読書の時間が組み込まれていたのだが、帰って蕎麦を食べる事が心の慰めになっていた。 そんなわけで我が家には蕎麦を茹でるための大鍋があったので、大鍋に給湯器で沸かした湯を入れてれみりゃを放り込み、蓋を手で押さえつけながら火にかけて生き茹でにした。 れみりゃはしばらくじたばたしていたがやがておとなしくなった。しかし死んだふりをして私を油断させ、鍋から逃げ出そうとしているかもしれないと思い抑える手はゆるめなかった。そうして20分ほど茹でたところでようやく蓋を開けると肉饅頭はすっかり茹で上がっていた。 包丁で外皮を切り裂き、中身の肉を取り出してわさび醤油で食べた。 前述のように蕎麦好きの私は鮫皮のわさびおろしを持っていた。今は見当たらないが台所のどこかにあるのだろうか。この時はまだわさびおろしが台所の私の手の届くところに存在していたのだが、肝心のわさびがなかったので粉わさびだった。それも、大根おろしで溶く事をせず水で溶いた粉わさびだった。しかし、このれみりゃは旨かった。 あまりに旨かったので妹にも食べさせてやろうかと思った。小学生のおやつにはいかにも量も多かったからだ。 しかしれみりゃを茹でたものだと言うと彼女は嫌がったので、結局私が晩飯のおかずにした。 飯にもなかなか合い、その日は二膳おかわりをした。 それに味をしめた私は、今度は油で揚げてみる事にした。 中途半端に田舎だったので、一日駆け回ったら子持ちれいむを捕まえる事ができた。 本当はれみりゃがよかったのだが、赤ゆっくりでなければ油鍋には入らないのでれいむで我慢した。 ビニール袋に入れて水を注ぎ窒息死させてから熱した油に入れた。茹でれみりゃと異なり、揚げる時は殺さないと暴れて危険なのでしっかり殺さなければならない。 だが水切りが不完全だったのだろう。油に入れてしばらくすると油がはねて私の顔に飛び散った。 臆面もなく悲鳴を上げて洗面所で着衣のまま冷水シャワーを浴びた。そんな中でもちゃんと火を消した事だけは自分をほめてやってもよかろう。 翌日医者に行ったおかげで今では火傷の痕は残っていない。 しかし私はこれで凝り、ゆっくりを食べるのはやめてすっかり忘れていた。 先日の事だ。中華料理屋に行って肉まんを食べていたら連れが皮から取り出した中身だけを酢醤油につけて食べていたのだ。 私も真似をしてそうしてみたら、懐かしい味にれみりゃを思い出した次第だ。 私がれみりゃを捕まえた草むらは、ガソリンスタンドができたがつぶれてしまい、今では駐車場になっている。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1700.html
前 「あれ? あれってなーに? わたしには、わからないわよー……うふふっ」 ことさらにおどけた口調で、ふらんは聞き返す。 判っているけど意地悪をしている、と言う事を知らしめて、レミリアに屈辱を感じさせ るためだ。 自分は彼女によって、もっと強い羞恥や屈辱を与えられたのだから、これぐらい逆襲し ても構わないだろうと考えている。 嫌だと言って泣いて拒否しても、暴れて断っても、無理矢理やらされる運命から逃れら れないのなら──少しでも溜飲を下げておきたい。 「くっ……こ、こいつ……」 ぎりっとレミリアは奥歯を噛みしめた。 他者に屈辱や羞恥を与え、なぶりものにし、嘲弄したり凌辱するのは大好きだが、され るのは特別な場合を除き基本的に好まない。 「なに? ねぇ、おねーたまー、わたしになにさせたいのー?」 くやしい? ほら、どうなのよ? 調子に乗って、ふらんはさらに態度をふざけたものに変え、あからさまにレミリアをか らかいはじめる。 「あーっ、もうっ! 言うわよっ! 言えばいいんでしょ! くそっ、このガキぃ!」 侮辱に対しての堪え性があまりないレミリアは、容易く激高した。 長々と何度も揶揄され屈辱に歯ぎしりするのを、プライド高い吸血鬼はよしとしない。 「またそうやって、すぐおこる……ほんとに、あんたってがきね……」 ふらんは呆れ顔で溜め息をついた。 「うるさいっ! ガキにガキなんて言われたくないわよっ! ほらっ、あんたのお望み通 り命令してやるわよ!」 ぶんぶんと両腕を振り回し、地団駄を踏みながら、レミリアは怒鳴った。 少し前まで存在していた精神的な余裕は、もはや完全に失われている。 「あー、はいはい……どうぞどうぞ、わたしはさからえませんから、おすきなように」 投げやりな口調で話しつつ、ふらんは肩をすくめた。 「さぁ、しっかり聞くのよ! こ、こここ……こ、えっと……あ、こ、こいつを……」 またしても、レミリアは途中で言語不明瞭となり、まごまごしている。 「……もう、いいわよ……じぶんでやるから……」 だめだこりゃ、と言わんばかりの態度でふらんは首を振った。 「そ、そう? ふ、ふふっ……あ、あんたも好き者ね。いやらしい子ね……ふふっ」 恥ずかしい命令を口にせず済んだ安堵感で、レミリアは余裕を取り戻す。 嫌がる相手に強制させた方が楽しいのだが、下僕が命令を聞くまでもなく自分から動く のは、それはそれで気分が良い。 「……あんたにくらべたら、まけるわよ……」 レミリアの発言に小声でツッコミを入れてから、腰をかがめ足下のれみりゃを抱き起こ す。 「うぁ~……な、なになに? も、もう、やだやだ! こわいこわい……ぐしゅっ」 今度はどんな痛い目に遭わされるのかと思い、れみりゃは身を捩り啜り泣く。 「こわくないわ、だいじょうぶよ……れみりゃ」 安心させるように微笑みかけ、愛おしげに頭を撫でる。 「うー……なでなで♪ れみぃ、なでなで、すきすき♪」 精神構造があまり複雑ではなく、知能もそんなに高くないためか、れみりゃは感情の切 り替えが早い。 敵意が無い、酷い事や痛い事をされないと判ると、途端に泣き顔が笑顔に変わった。 「もうしんぱいしなくていいわよ、わたしがついてるから、ね……」 「うっうー☆ れみぃ、こわいこわいない。ふらんいるから、だいじょぶだいじょぶ♪」 年齢差と言えるほどの差ではないが、れみりゃの方が数ヶ月だけふらんより長く生きて いる。 だが、この場面を傍から見ると、ふらんが姉でれみりゃが妹のように見えるであろう。 「あははっ、わたしも……れみりゃ、すきよ」 ゆっくりとふらんは顔を近づける。 「う~……れみぃも、ふらんすきすき! うー☆」 ほんのりと頬を紅く染め、れみりゃは静かに目を閉じた。 知能も精神も未熟なはずだが、ふらんが何をしようとしているのかは、野生動物として の本能が察している。 「れみりゃ……んっ……」 「うー☆ んちゅ……ん……」 四肢と翼を失い、自分よりもかなりコンパクトな姿となっている、れみりゃを胸にぎゅ っと抱きしめながら、ふらんは己の唇を彼女の唇に重ねた。 「………………んー……」 腕を組み、無言でじっと見ているレミリアは、小さな呻き声を漏らす。 なんとなく面白くない──そんな気がしていた。 そんなレミリアの内心を知る由もなく、ふらんとれみりゃは行為を続ける。 「んっ、むっ……ちゅ……んちゅ」 「……うっ……んんっ……」 唇を合わせるだけの軽いキスは、舌を絡め合い唾液を啜りあうものに移行していた。 「……あー……なんか……んーむ……」 どうにも楽しくならない。 何か物足りないような気がして、レミリアは眉を寄せた。 相思相愛なラブラブ甘々な行為を、ぼーっと傍から見るのは、とても強い疎外感を感じ る。 ふらんとれみりゃの顔が、もっと自分と妹に似ていれば、重ね合わせて浸る事も出来る のだが、丸々と下膨れな滑稽フェイスでは難しい。 「んっ、ふ……あっ、れみりゃ……」 食欲をそそる旨みのある、れみりゃの口内を堪能し、ふらんは唇を離す。 油分と糖分が混ざり合った唾液の糸が、お互いの口元からのびる。 「うー……ふらん……れみぃ、ちゅっちゅちゅっちゅ、すきすき♪」 もっとずっとキスを続けていたいと、れみりゃはせがんだ。 言葉は無邪気だが、表情にはかすかな羞じらいの色が浮かび、目は情欲に輝いている。 「んー……中止! 中止よ! はいはい、そこまで!」 ぱんぱんと手を叩きながら、つかつかとレミリアは二匹に向かって歩む。 「えっ?」 「うっ?」 突然の制止に、ふらんとれみりゃは呆気にとられた顔で、彼女を注視する。 良い雰囲気を邪魔された不満よりも、何故だと言う疑問の方が大きい。 「なってないのよ、あんたたちは! そんな甘い、ままごとみたいなのはダメよ!」 イメージと違う演技をした役者に対する監督のように、レミリアは断言した。 「……って、いわれても……」 ふらんは視線をれみりゃに戻し、困惑した顔で呟く。 「うー……」 レミリアとふらんを交互に見ながら、れみりゃは落ち着かない様子で首をすくめた。 辛い事や苦しい事はなるべく早く忘れられる幸福な性質のため、レミリアが近くに居て も、そんなに激しく怯えたりはしていない。 「さっき、私があんたに……し、したみたいにっ、も、ももっと激しく、し、ししなさい って言ってんのよっ!」 直接的な単語を用いなくても、その行為について話す事に恥ずかしさを覚えるため、つ っかえながら赤面し、レミリアは注文を出した。 吸血鬼の主から下僕に下される命令は、主が「命令を下している」と意識しながらでな ければ、効果を発揮しない。 どんな言葉にでも反応されたら困るため、そのようなシステムとなっている。 そのため、レミリアが「命令」だと意識せず言った内容は、身体を勝手に動かす強制力 を伴わない単なる注文に過ぎない。 「そっ、そそそんなの……で、できるわけないでしょっ! なにいってんのよ!」 自分が先刻された内容を思い出し、ふらんもまた頬を紅く染めつつ、強い調子で拒絶の 言葉を口にした。 性格や性的嗜好には、ゆっくりふらんだった頃の個性が強く影響している。 知能と戦闘能力は卓越しているが、ふらん種は生殖行為を淫蕩に愉しむと言う意識が薄 い。 そのため、あのような快楽重視のプレイを、自発的に行いたいとは思わないのである。 「な、なによっ! あんたが自分でするって言ったんじゃない! わ、私に、命令しろっ て言うの? そ、そそそんな、は……恥ずかしいこと、を……」 紅潮した頬をさらに真っ赤に染め、声のトーンを幾分落とし、レミリアは羞じらう。 「やらせたいんなら、めいれいしなさいよっ! じぶんからなんて、ぜったいいやよ!」 対するふらんは一層強い口調で言った。 「う~……おねーさんおねーさん、ふらんふらん、けんかだめだめ……う~……」 あまり事態を把握していないれみりゃは、口げんかを止めて欲しいと仲裁する。 酷い事はされたが、このお姉さんはきれいで可愛い人だから、怒っていなければきっと 一緒に遊んでくれる。 こっちのふらんは、どうやら自分が好きみたいだから、一緒に居るとゆっくり出来る。 そのようにれみりゃは考えているため、とにかく争うのは止めて欲しいと、切実に思っ ていた。 ゆっくりを生きたまま食らう高い戦闘能力を持った捕食種であるが、ゆっくりれみりゃ と言う種は、争い事を好まない。 食欲を満たす狩りをする時と外敵に襲われた際など、必要に迫られた場合以外は、戦う より「ゆっくり」する事を好む。 このれみりゃのように、個体によっては「弾幕ごっこ」の存在を知り、無意味に他者を 攻撃する事もあるが、本人は戦闘ではなく遊びのつもりである。 ごっことつくから遊びだろう、と言う短絡的な思考によっての行動で、戦う意志があっ ての挙動ではない。 もっとも、弾幕ごっこと言う単語を知っていても、ルールは全く知らないと言うよりも、 理解できないのだが。 そんなれみりゃの制止を聞き流し、 「わ、わかったわよ! 命令するわよっ! すればいいんでしょ! こ、こここいつを、 れ、れい……れ、れれレイプ、しっ、しなさいっ!」 腹を固め、ありったけの勇気を総動員したレミリアは、頑張って言いづらい命令を言葉 にした。 「くっ……ごめん、れみりゃ……」 言うように仕向けたのは自分だが、命令を下されたからには逆らえない。 忌々しげに唇を噛み、小声でれみりゃに詫びながら、ふらんは彼女の服を引き剥がしに かかる。 「うー!? ふらん? な、なになに? れみぃおよーふく、ぬぎぬぎ?」 ついさっき優しく抱きしめ、接吻をしてくれた相手が、いきなり荒々しい手つきで自分 の服を脱がし始めたため、れみりゃは怯えるより先に戸惑った。 「あ……あははっ、そ、そうよ! これよ、これ……こうじゃなくっちゃね」 苦渋の表情を浮かべ、れみりゃを全裸に剥いて行くふらんを見て、満足げにレミリアは 頷く。 意に添わない性行為を強制され、苦悶する姿を眺めるのは心地良い。 それが自分の命令によって繰り広げられるのだから、とても支配欲が満たされる。 「ほ、ほんとうは……もっと、や、やさしく……したいんだけど……」 帽子以外の着衣を全て脱がされ、遮る物無き幼児体型を露わにしたれみりゃを、ふらん は地面の上に寝かせ、その上に腕立て伏せをするような姿勢で覆い被さった。 「うー? れみぃ、いいよいいよ……ふらん、すきすき……ちゅっ☆」 四肢が無いため背中と首の力だけで上体を起こし、れみりゃはふらんの唇に軽く己の唇 を合わせる。 詳しい事までは判らないが、少し激しい無理矢理な感じの生殖行為を、ふらんが自分に 対して行おうとしているのは判った。 だから、別にそれでも構わないと言う意思表示を、れみりゃは行ったのである。 「ああっ、れみりゃ……んっ……!」 れみりゃの首筋に左手を回し、ふらんは彼女の口を吸いながら、右手を自らの股間にの ばす。 人間の女児と同じような形状で慎ましく存在する割れ目に、中指を沿わせ擦り始めた。 「……ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……」 レミリアは二匹の横に腰を下ろし、ふらんに向かって話しかける。 「んぷっ、はぁっ……な、なによ?」 もっと長くキスを続けていたいが、血の呪縛により、身体は主の質問に答えるのを優先 させた。 不機嫌そうな目で、ふらんはレミリアを睨む。 「いや、その……ど、どうやって、するのかなぁ~って思ったのよ」 恒例の如くに、やはり羞じらいながら、レミリアは訊く。 「どうやって、って……あ、あんたが……わ、わたしに、した、みたいに……よ」 こちらも、やはり恥ずかしそうに、ふらんは答える。 「う~☆ れみぃ、ちゅっちゅちゅっちゅ、すきすき! ふらん、もっともっと」 さらなる接吻を求め、れみりゃはふらんの顎や頬を、ぺろぺろと舐めた。 「い、いや、その……そうじゃなくて、あんた……そ、その、あ……あ、アレついて、な、 ないし……き、気になった、のよ」 男性器を指す名称を、ストレートに言うのをレミリアはあくまで避ける。 「あ、あれ……あ、ああ……ぺ、ぺぺ、ぺにぺに……ね」 その器官を人間や妖怪たちがどう呼ぶか知っているものの、ふらんは口に出すのをはば かり、ゆっくりが用いる呼称を使った。 「ぷぷっ! ぺっ、ぺにぺにですって? ちょっと、笑わせないでよ……あははっ」 大変に間抜けな響きを持つ単語を耳にして、レミリアは吹き出す。 「あ、あんたがきいてきたんでしょ! わたしは……ゆっくりたちは、そうよぶのよ!」 今ではふらんも、確かに笑いたくなるような呼称だと思うが、実際に笑われるのは馬鹿 にされているようで腹が立つ。 「うー☆ ぺにぺに! れみぃ、ぺにぺにちゅっちゅちゅっちゅもすきすき♪」 好きな言葉が出たので、無邪気にれみりゃは喜んだ。 嬉しそうに喋っている内容を冷静に考えると、非常に淫らなのだが、ふらんとレミリア はスルーして互いの会話を続ける。 「ま、まぁそれはそれとして……くくっ、そ、その、ぺにぺに? ついてないのに、どう やってするのか気になったのよ」 ゆっくりが使う呼称ならば、あまり羞恥を感じないため、意外とすんなり口から出た。 「え?」 人は自分にとっては当たり前な、常識に類する質問をされると、答えるより先に絶句す る事が良くある。 思わず、まじまじとレミリアの顔をふらんは見つめた。 「な、なによ……わ、私そんな変な事きいた?」 怒るでも罵倒するでもない、頭大丈夫ですか的な視線を受けて、レミリアは反発よりも 不安を感じる。 「あ、うん……よくわかんないんだけど、あんたも……その、はやしてたじゃない?」 「え? そ、そうね……でも、あ、あれは私が普通の人間じゃなくて、吸血鬼だから…… って、ゆっくりも生やせるの?」 まるで生やせるのが当たり前のように言われた事に気付き、レミリアは驚き聞き返す。 「ああ、そういうことだっったのね……だって、ゆっくりは、あんたたちのことばでいう なら、しゆうどうたいだから」 ふらんも認識の違いを悟り、判りやすく一言で説明した。 「へー……そうだったの、なるほど。便利な生き物なのね、あんたたちって……あ、もう 良いから続けなさい」 とりあえずの疑問が解けたので、先の命令行動に戻れと命令を下す。 「ほんとにかってね、あんたって……んっ」 「うー♪ ふらん、ちゅっちゅちゅっちゅ……んむっ……んっ」 ふらんは命令通り質問される前の行動に戻り、再びれみりゃに口付けをした。 舌を絡め合い、甘い唾液と油っこい唾液を交換しながら、ふらんは自らの股間を擦る指 の速度を徐々に速めて行く。 「んちゅ……むっ、んーっ……んんっ……」 「んーっ、じゅっ……くちゅっ……んっ……」 唇の端から唾液が溢れ顎や頬を汚すのも構わず、ふらんとれみりゃは情熱的な深いキス を続ける。 どちらの唾液も糖分や油分を多く含むため、人間や妖怪のそれよりも粘度があり、やや 重く聞こえる湿った水音が絶え間なく響く。 「………………」 ふらんたちのすぐ脇に、膝を抱えて座っているレミリアは、合わさりあってもぞもぞと 蠢く唇を、じっと見ていた。 二匹の口元や滴り落ちた唾液から漂う、ほのかな甘く油くさい香りは、性欲よりも食欲 に訴えかけて来る。 やがて、ふらんの局部──正確に述べるならば、割れ目の上部に位置する小さな突起が、 大きく長く膨張し始めた。 人の身体で言うならば陰核に当たる部位は、だいたい直径八分ほど長さおよそ四寸ぐら いに膨張し、まるで勃起陰茎のような形へと成長している。 そう、これが四肢を備えたゆっくりの男根に該当する生殖器官──すなわち、ぺにぺに であった。 四肢を持たない、いわゆる生首生命体である通常のゆっくりは、顎のあたりからその器 官を生やす。 普段は薄皮の下に隠れ、外からは見えなくなっている産道を子宮とともに、内部から外 部へ向け反転して突出させる事で、ぺにぺにと言う器官を作り出す。 通常のゆっくりは出産に使う部位と、他者への"種付け"に使う器官が同一と言う、生物 的に考えると極めて異質な雌雄同体となっている。 それに対し四肢を備えた種は、人体で言うところの陰核を膨張させ、男根を作り出す。 陰核に該当する部位は、外観は人間と全く同じだが、筒状になった皮肌を小さく圧縮し た突起である。 性的興奮状態にある時「生やそう」と思いながら、その感覚が鋭く敏感な器官に意識を 集中すると、筒状の皮肌内部に体内から中身が集まって膨張し、勃起陰茎そっくりな形に なる。 外は皮肌で内部は中身が詰まっているため、硬さ的には本物の勃起したペニスと、ほぼ 同じぐらいであり、もちろん射精──精子相当の中身を噴出する機能も備えている。 イメージ的には人間でも希に誕生する半陰陽が、両性の生殖能力を保持していると考え れば判りやすい。 「ぷはっ……んっ、れみりゃ……あっ」 長く深いキスを終えて唇を離し、ふらんは自らの股間に生やした、人間の勃起男根に良 く似た器官を握りしめる。 「うー……ふらん、いいよいいよ……れみぃ、まむまむだいじょぶだいじょぶ♪」 陶然とした顔で、もう受け入れ準備が整っている事を、れみりゃは伝えた。 事実れみりゃの女性器相当なスリットは、性的興奮によって内部から染み出した液体で、 もう充分に濡れている。 「ぶふっ! ま、まむまむ……す、すごいネーミングセンスね……ゆっくり、って……」 傍で見ているレミリアは、れみりゃの発した言葉に衝撃を受けていた。 先の「ぺにぺに」に続いて、今度は「まむまむ」である。 かなり独特な呼称で生殖器官を表現する生き物だと、自分のネーミングセンスを棚に上 げてレミリアは思った。 「……ん? まむまむ……え、まさか!?」 その単語が、どの部位を指しているのかに気付き、レミリアは表情を変える。 「んっ、れみりゃ……あぁっ……」 立派に屹立した男根的器官を、ふらんはれみりゃの膣的器官の入り口に宛てがう。 そして、そのまま一息に貫こうとした刹那── 「や、やめなさいっ! あんた、なにやってんのよ! だめよ! だめだめっ! 中止!」 「え!? きゃぁっ!」 横からレミリアに突き飛ばされた。 「い、いたたた……な、なにすんのよ……!」 「うー! ふらんふらん! お、おねーさん、ひどいひどい!」 突き飛ばされ地面に転がり全身を強かに打ち付けたふらんと、挿入を待ち望んでいたれ みりゃが、口々に抗議の声を上げる。 「あんたたち、何考えてんのよ! そっちでしちゃだめよ! こ、こども……出来ちゃっ たらどうすんのよ!」 ぷんすかとレミリアは怒り、二匹を叱った。 「……え?」 「……うー?」 ふらんとれみりゃには、彼女の言っている意味が良く判らない。 「もうっ、これだから野生動物は困るのよっ! そっちじゃなくて、あ、アナ……お、お 尻でするのが普通でしょっ! 結婚前なんだからっ!」 「えぇっ?」 「ううっー?」 肛門性交が普通であると言い切られてしまい、二匹は呆気にとられた。 「わからないの? いい? そっちは大切にしなきゃだめなのよ! 遊びでしちゃいけな いのよ! わかった?」 びしっと指を立て、レミリアは強く注意する。 レミリアの中の常識では、女性器に何かを挿入する事はタブーであった。 純潔は特別な意味がある大切なものであり、快楽のためだけに散らしてはならない。 仮にバージンではなくとも、そこは子孫繁栄を目指すとき以外は、なるべく用いないよ うにすべきだと考えている。 性的な嗜好がアナル方面に強く偏っているから、と言う事情もあるが、それ以上に自分 が生まれた当時の、敬虔なカソリックが持っていた価値観に影響を受けていた。 また、吸血鬼が好む血は童貞と処女の血である。 神の摂理に反し、それへの反抗を常とする存在であるがため、やたらと聖性とか純潔へ の拘りが吸血鬼は強い。 そのため、生まれてからずっと──レミリアのそこは不可侵の地であった。 「……わ、わかったわ……」 「うー……れみぃもわかったわかった」 強い気迫に押され、本当は良く判っていないが、とりあえず判ったと頷く。 「そう、それならいいわ……もうっ、気分が壊れちゃったから帰るわよ! あんたたち支 度しなさい!」 もう夜明けがかなり近付いている以上、いちいち命令しながらやらせていたら、帰ろう にも帰れなくなるとレミリアは判断した。 「あ、うん……し、したくって?」 むしろこちらの方が気分を壊されたのだが、それに対して文句は言わず、ふらんは帰宅 に同意しつつ指示を仰ぐ。 「うー、れみぃ……はね、おてて、あんよ、ないない……れみぃ、おうち……かえれない かえれない」 帰ると言われても、動けないから帰れないと、悲しそうな声でれみりゃは訴える。 「素っ裸で連れて帰れないから、服着なさいって言ってんのよ! あんたはこれ着て、こ いつには私が着せるから」 れみりゃが身につけていた下着──シミーズとドロワーズを、レミリアはふらんに渡し た。 「う、うん……」 そう言えば、ずっと裸のままだったなと思いながら、渡された下着を身につける。 ふと、自分が着ていた服を着た方が早いのではと思ったが、血を飲む前の戦闘で所々汚 れて破けていたから、まだ下着だけの方が見栄えが良いかと思い直す。 「ほら、下着つけなくても、スカートで包めば見えないから……」 そう言いながら、れみりゃを抱きかかえ服を着せた。 「うー……おねーさん、ありがとありがと……」 ダルマにされたのも脱がされたのも、全てレミリアが元凶なのだが、服を着せてくれた 事に対して、素直に礼を述べる。 「ふふっ、こうして見ると、やっぱり可愛いわね……ああ、今日からあんたも私のペット よ」 最初に見たときは滑稽すぎる容姿に衝撃を受け、ひどい侮辱を受けたような気分になり、 思わず泣き出してしまったが、見慣れれば普通に可愛いと思えてきた。 似ていると認めてしまうのは腹立たしいが、漫画的な似顔絵としてならば、美しくはな いが醜くもないので許せる範囲だろうと考えている。 「うー? れみぃ、ぺっと? しらないしらない」 正確には、かつては知っていた言葉なのだが、強くなるのと引き替えに失われた語彙で ある。 人間の六歳児の理解語彙量は平均六千語ほどだと言われているが、このれみりゃはせい ぜい三千語ぐらいしか無い。 「私の家、紅魔館に連れて帰って、一緒に暮らさせてあげるのよ……わかった? 嬉しい でしょ?」 「うっうー☆ こーまかんこーまかん♪ れみぃ、うれしいうれしい☆」 れみりゃは紅魔館と言う名称に強い反応を示す。 喜色を満面に浮かべて、肩から数センチしか存在していない腕の残骸をひょこひょこと 動かし、嬉しさを可能な限りの手段で表現してみせた。 「あはっ、そんなに喜ぶなんて……ふふっ、可愛いわね」 喜ぶ姿に好感を覚え、レミリアは優しく抱きしめ頭を撫でる。 刃向かったり、気に触る余計な事をしなければ、すごく無邪気で可愛いと思った。 「うー! れみぃ、かわいいかわいい? おねーさん、すきすき♪」 れみりゃは今が良ければ、未来も過去も良いものだと考えられる、幸せな思考回路を持 っている。 そのため、自分の頬を叩き、両翼を引き千切り、両腕と両脚を潰し切った相手に対して も、わだかまり無く純粋な好意を抱く事が可能であった。 「あら、私のこと好きなの? あはっ、本当に可愛い子ね……ほーら、高い高い♪」 レミリアもまた刹那的な性格の持ち主であるため、好きだと言われると良い気分になる。 上機嫌になったついでに、もっと喜ばせようと、赤子にするような事を試してみた。 「うっうー☆ きゃっきゃっ♪」 構って貰えるのが嬉しくて、れみりゃは楽しそうに声を上げて笑う。 現在は失われているが、本来は翼を持ち、一応自由に大空を飛べるにも関わらず、幼子 のように喜んでいる。 「……ねぇ、かえるんじゃなかったの?」 じとっとした目で見つめながら、ふらんはレミリアに話しかけた。 自分が蚊帳の外に置かれ、忘れられているような気がして、なんとなく気分が悪い。 「ん? ああ、そうだったわね……あんたは自力で飛べるわよね?」 「ええ、あんたのちのおかげさまで、つばさはさいせいいたしましたですから!」 これって嫉妬なんだろうなと思いつつ、ふらんは不機嫌な声で皮肉を込めて答えた。 「なによ、この子と私が仲良くなったからって、あんた妬いてんの? ふふっ、なんだか んだで可愛いとこあるじゃない」 「べっ、べつに……そ、それよりかえるんでしょ? わたし、ばしょしらないからさきい ってよ!」 気持ちを見透かされたのが癪だ。 それ以上に、可愛いと言われて少し嬉しくなったのが、もっと腹立たしかったので、わ ざと突っかかるように言ってみせる。 「あはっ、顔が赤くなってるわよ……もうっ、ふらんちゃんったら素直じゃないわね」 「ふっ、ふふふらんちゃん!? な、なななんで……そ、そんなふうによぶのよっ!」 妹と同一視されていた時は「フラン」と呼ばれたが、それ以外はずっと「あんた」とか 「おまえ」と言われていたのに、いきなり名前で呼ばれ戸惑った。 「これからずっと、あんたって呼ぶのもどうかと思ったからよ。それとも、何か別の名前 があるの?」 くすくすと楽しそうに笑いながら、レミリアは聞く。 いっぱいいっぱいな精神状態にならない限り、ふらんに対してレミリアは、あらゆる面 で常に優位である。 「うっ……ふ、ふらんでいいわよ……れ、れみりあ」 むうっと呻り一層顔を赤らめながら、ふらんは答え、自身もレミリアを名前で呼ぶ。 「あら、違うわよ『ふらんちゃん』が、あんたの名前。館のメイドたちには、ふらんちゃ ん様ってあんたのこと呼ばせるから」 「なっ! なによそれ! そ、そんな、ばかみたいのわたしいやよっ!」 一瞬でも、こいつ実は良い奴かもと思いかけた自分が、一番馬鹿だとふらんは後悔した。 「だって、ふらんだけだとフランと紛らわしいじゃない? それとも、ふらん二号だとか、 准ふらんとか、ふらん代理補佐心得って呼ばれたいの?」 「そんななまえいやよ……ふらんちゃん、でいいわよ、もう……」 げんなりとした顔で、ふらんは渋々「ちゃん」付けを正式呼称と承認する。 レミリアが自分の技に対して、独特なセンスの名前をつけている事を、得た記憶から知 っているため、だめ出しをすればするほど絶望的な名称になると判断したのである。 「うー! おねーさん、れみぃも、なまえなまえ♪」 ふらんが名前を与えられたので、自分にもつけて欲しいと、れみりゃはせがむ。 「そうね、あなたにも必要よね……うん、れみぃって呼んであげるわ」 自分の愛称を、レミリアは気前良く与える。 どうせ、その愛称で呼ぶのは図書館の友人ぐらいしか居ないのだし、れみりゃよりも紛 らわしくないと考えた結果であった。 無論、メイドたちには「れみぃ様」と呼ばせる気で居る。 主のペットは、すなわち主の所有物なのだから、それを通して主への敬意を示すのは基 本であろう。 それに、れみりゃをみんなが「れみぃ」と呼んでいては、事情を詳しく知らない来客が 「ここの主は使用人に愛称で呼ばれるほど落ちぶれたのか」などと、レミリアの権威を疑 う想像をするかも知れない。 「うっうー♪ れみぃれみぃ☆ れみぃはれみぃ! うー♪」 元から自らを指す一人称として使っていたのだが、他者から認められたのが嬉しく、れ みりゃは「れみぃ」を連呼して喜ぶ。 「よかったわね、れみぃ……ふふっ」 自分に比べて何か微妙に良い待遇と言うか、まともな名前を与えられたれみりゃを羨む 気持ちよりも、喜んでいる姿が見られたのが嬉しくて、ふらんは和んだ。 「……まぁ、良いわ。それじゃ、帰るわよ……急がないと日が昇るわ」 ふらんに「れみぃと呼ぶな! れみぃ様と呼びなさい!」と注意しようかと思ったが、 その程度は大目に見ようとレミリアは考えた。 「はいはい、わかったわよ……ちょっと、そんなはやくとばないでよっ!」 言うだけ言ってさっさと飛び上がり、自分の全速力よりも速いスピードで去って行くレ ミリアに向かって大声で呼びかける。 ゆっくりふらんの飛行速度は、空を飛べるゆっくりの中ではかなり速い方だ。 その上さらに、このふらんはレミリアの血で飛行能力が増強されているが、それでも吸 血鬼の速さには全く及ばない。 「なによ? だらしないわね……もっと気合い入れなさいよ!」 普段の巡航速度よりもやや速い程度で、レミリアとしてはそんなにスピードは出してい ないつもりだったが、ふらんの姿はかなり遠かった。 叱咤しながらも、置いて行くわけにもゆかないので、思い切り速度を落とす。 「うっうー☆ はやいはやい! おねーさん、すごいすごい!」 人間がジョギングするぐらいの速さだが、それでもれみりゃにとっては速い。 「き、きあいいれろたって……むちゃ、いわないでよ……」 ふらんは全速力を出したため、ほどなく追いつけた。 「あんた……ふらんちゃんが、どんだけの速さで飛べるか知らないんだから、仕方ないで しょ」 自らが定めた呼称だが、まだレミリアも呼び慣れていない。 「あー……これぐらいが、いいかんじのはやさよ……」 だいたい普通の人間がダッシュする程度の速さに、ふらんは速度を上げた。 「遅っ! もう、仕方ないわね……ふらんちゃん、私の足に掴まりなさい」 日が昇る前に帰り着けないと、レミリアは困る。 日光を浴びると吸血鬼は気化してしまう。 たちまち気化する、と言うわけではなく、じわじわと力を奪われながら気化して行く。 絶体絶命のピンチではなく、速やかに日陰に避難しなければならない程度の危険だが、 たかが散歩の帰り道でそんな危険に遭遇したいと思うほど、レミリアはスリルに飢えてい ない。 「ん……つかまれって……まさか……」 言われるがままに主の足首を掴んでから、下僕は意図を察し顔色を変えた。 「離しちゃだめよ。気合い入れて頑張りなさいよ……牽引してあげるんだからっ!」 ぐんぐんとレミリアはスピードを上げて行く。 全速力だと軽く音速を超え、どう考えても抱いているれみりゃと、引っ張っているふら んが耐えられないため、せいぜい馬を襲歩で駆るより多少速い程度である。 「ああ、これぐらいなら……あぐっ……」 掴んだ手を振り離されるほどの速度ではないが、不用意に喋った際、折悪しく風に煽ら れ、ふらんは舌を噛んだ。 「あらあら、ふらんちゃんったら間抜けね……あははっ」 楽しげに笑いながら、いきなり下僕とペットを外出先で新たに作り、連れて帰って来た 理由を、どうやって忠実なメイド長に説明しようか、レミリアは考えている。 下手に誤魔化したり、有耶無耶にしようとしても、通じるような相手ではない。 肛門を犯したとか、その手の話すのに羞恥を伴う事柄は上手く伏せた上で、どう言うべ きかを悩んだ。 攻撃したから返り討ちにして、その時に気に入ったから──これで充分だろうか? レミリアが連れ帰った以上、異論は多少差し挟んでも受け入れてはくれるだろうが、そ の間に行われる問答は少なければ少ないほど、伏せたい部分が露見しづらい。 考えながら飛ぶうちに、もう紅魔館が見えて来た。 「まぁ、なるようになるでしょう……咲夜もきっと、判ってくれるはず」 誰に言うともなく呟き、速度と高度をレミリアは徐々に下げて行く。 とりあえず説明を終えて一眠りしたら──さっき途中まで進めた事の、続きに取りかか ろう。 人知れず顔を赤らめ、レミリアは淫蕩な妄想を開始した。 前方不注意で時計台に頭をぶつけ、早朝から一騒ぎを起こす事になるのだが、これはま た別の話である──。 ■END■ あとがき ご笑覧いただきありがとうございます。A.Hでございます。 お久しぶりです。恥ずかしながら帰って参りましたと言うか、別に出て行ったり消えよ うとした訳ではなく、ちょっと仕事が増えたのと、地霊殿がノーマルノーコン未だに出来 ず時間が……もう、老化がはじまって、視神経と反射神経が衰えてるのかもですねw そんなわけで、一ヶ月ちょいと経ってしまいましたが、後編その2で完結でございます。 気付いたら前編中編後編1後編2で合計180kbを越えやがりましたが、相変わらず虐待 のぬるさと、非虐待シーンの多さはいかがなものかと自己批判。 あと、れみりゃの口調をちょいと一般的なものから変えてみました……良く使われてい る口調も、私としては非常に可愛く感じて、泣いたり笑ったり出来なくなるまで、性的な 意味で色々と可愛がりたいのですが、もっと幼女らしい感じを出そうとしてみましたw あと、ありす狂いの作者さん、わざわざ拙作に言及いただきありがとうございます。 使えそうな設定を取捨選択して、さらに自分が使いやすいよう改変するのが面白いと私 は考えておりますので、すみませんだなんて恐縮です。アレンジむしろ光栄です。 遅くなりましたが前回もご感想いただきまして、ありがとうございます。 楽しみにお待ちいただけているとは恐悦至極です……遅くなって申し訳ありません。 えっと夜伽の件ですが、そろそろ挑戦しようかと三本ほど同時進行で書き始めてます。 勧めていただきありがとうございます。 ※文中「味あわされる」と表記している箇所がありますが、正しくは「味わわされる」で す。正確な日本語にこだわるよりも、慣例的に多く使われている誤った表記の方が、読む 際に違和感を感じねぇんじゃないかと思ったので。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/876.html
とある山、とある洞窟。 一匹のゆっくりありすと一匹のゆっくりまりさが愛の行為に励んでいる。 「ゆふうぅぅぅ、ありすぅありすうぅぅぅ……」 「んふぅーんふぅー……ま、まりさいれるよ?いれちゃうよ?」 「いいよぉいれてぇ……いっしょにすっきりしよぉぉぉ」 「それじゃいくよ?いくよ?いれちゃうよおぉぉぉぉぉ?」 顔、というか全身を赤く染めて確認すると、ゆっくりと自分の顎を相手の顎に擦り付けるありす。 突起も挿入口も無い二匹の曲面が、むにゅむにゅと絡み合っている。 「ゆっゆっふうぅぅぅぅぅ……!あ、ありすのぺにぺにすっごくおおきいよおぉぉぉ……!」 「んふぅ……!んふぅ……!ま、まりさまりさまりさぁ……!!」 一心不乱にまりさの顎に自身の顎を擦り付けるありす。その意識にまりさの睦言は届いていない。 「ゆっ、あ、ありすぅ…ちょっとはやいよぉ…!もうすこしゆっくり……」 と、まりさが声をかけた瞬間、 「んっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!…………すっきりー!!!」 絶頂まで程遠いまりさを差し置いて、独りで上り詰めるありす。 挿入から絶頂まで僅か30秒、神業の如き早撃ちである。 「んっふぅ……ありすのちょうぜつてくにっくはよかったでしょう!?ありすもまりさのなかとってもすっきりできたよ!!」 「ぜんぜんよくないよおおおおおおおおおおおおおお!!?どうしてひとりですっきりするのおおおおおおおおおお!!?」 怒りで顔を赤くし、飛び跳ねて抗議するまりさ。その剣幕にありすは呆然とする。 「まりさ……もしかしてふかんしょう?」 「ありすがはやすぎるんだよ!!!どうしてゆっくりすっきりしないのぉ!!?まりさはぜんぜんすっきりできなかったよ!!!」 「そ、そんな……そんなことないよ!!ありすはとってもゆっくりすっきりできたよ!!」 「ひとりですっきりしてもいみないでしょお!!!そんなありすなんかかおもみたくない!!ゆっくりしないででていってね!!!」 体内に充填されたエネルギーを発散するが如き勢いでありすに体当たりするまりさ。 ありすは跳ね飛ばされながらも必死で弁解する。 「だ、だって……まりさがよすぎるからいけないんだよ!!あんなまむまむじゃだれだって……」 「うるさいよ!!いままでにすっきりしたゆっくりは、みんなまりさといっしょにすっきりしたよ!!!」 「ありすがはじめてじゃなかったの!!?はつものだとおもったからすっきりさせてあげたのに!!!」 「ぜんぜんすっきりできてないよ!!だいたいこんなにおとななのにはじめてなわけないでしょ!!!なにいってるの!!」 ありすは愕然とした。このまりさは初めてではない?こんなに大人なんだから初めてな訳が無い? 見た所このまりさは自分より年下だ。 自分はこれが初体験で、年下のまりさは経験済みだと言う。しかもそれが当たり前であるかのような物言い。 それにこのまりさは自分の鍛えに鍛えたテクニックですっきりできなかったという。 まさか、自分が下手だった?否、断じて否。生まれてから今日まで毎日木の幹で練習して来たのだ。 その自分のテクニックが他のゆっくりよりも劣るなんて事がある筈が無い。 ありすは、あまりに自身の常識からかけ離れたまりさを見て初めて気付いた。 「まりさ……まりさはとんでもないいんらんだったのね!!だからありすのてくにっくでもすっきりできないんだわ!!」 「ゆっ!!?なにいってるの!!それはありすがへたくそだからでしょ!!!」 「もういいよ!!がばがばでいんらんのめすぶたまりさとはもうあわない!!まりさなんてゆっくりしんじゃえ!!!」 言うだけ言って外に飛び出すありす。後ろでメス豚が何やら喚いているが、そんな事は知った事ではない。 ゆっくりは豚の言葉を解するようにはできていないのだ。 ありすは、自分の初体験をメス豚に騙され穢された事に酷く憤慨しながら自宅へと戻った。 それからありすは何匹ものゆっくりと恋仲になり、すっきりしようとした。 しかしどのゆっくりも、最初のまりさと言う事は同じだった。 自慢だったテクニックを何匹ものゆっくり達に全否定され続けたありすは、 やがて他のゆっくりとの接触を恐れ、あの馴染みの木の幹とだけすっきりする様になった。 そしてゆっくりれみりゃに食われるまでの数ヶ月間、ありすは最期まで気付けなかった。 ありすが散々積み重ねた訓練は、自分自身をすっきりさせる為だけの、独りよがりな自慰行為でしかなかったと。 作:ミコスリ=ハン このSSに感想を付ける