約 632,086 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/1917.html
この物語は、幻想郷の日常を淡々と描写したものです。過度な期待はしないでください。 原作キャラ崩壊、独自設定、パロディーなどなんでもあり。 以上に留意した上でどうぞ。 パティシエールな小悪魔3 「美味しい! 何ですかこの肉まん?! まるで舌の上でとろけるような感じです!」 一口その肉まんを齧った小悪魔は、そのあまりの柔らかさに驚いた。 明らかに普通のものよりも柔らかく、とろりとした肉汁が溢れそうになっている。 「これは、確かに今まで食べたことがないほど柔らかいわね」 隣で同じように肉まんを食べたパチュリーも、驚いている。 「どうです、中国四千年の味は?」 特製肉まんを賞味する二人に、テーブルの向かいからニコニコしながら声をかけたのは紅美鈴。 紅魔館の門番であり、赤い髪に緑色の中華風衣装を纏った、気を使う程度の力を持つ妖怪である。 ここは紅魔館の門の内側に作られた、門番のための詰所。 美鈴は紅魔館内にも自室を与えられていたのだが、勤務時間中以外も何かと便利なので、この詰所で過ごす事が 多かった。 今日は美鈴にとって、久々の休日であった。 門の外では、代わりの妖精メイドが門番を務めている。 とはいっても、上空を含めた紅魔館の周りには美鈴が気を張り巡らせて、侵入者があった場合にはすぐ判る ようにしていた。 大体、危険な侵入者は殆どが空からやってくる。紅白とか白黒とか。 そういう意味では、外に立っていなくても警備は出来る。 毎日外に立っているのは、紅魔館の示威行為であり、デモンストレーションでもあるのだ。 余談だが、幻想郷の人里では、美鈴の人気は高い。親しみやすい雰囲気の美貌で、紅魔館一のナイスバディー、 その上拳法の達人だが、普段はのんびりとした性格で、礼儀正しく人間にも好意的である。 人里の男どもが勝手にやっている人気投票では、優勝したこともあるくらいだ。そのため、紅魔館には美鈴を 一目拝もうと遠巻きに見に来る里の者や、腕試しと称して殴られに来る者など、様々な人間が現れる。 いつも適当にあしらっているそれらの対応が、危険な侵入者よりよほど多いので、今日はその相手をしなくて いいだけ気楽な様子だった。 閑話休題。 今日のお茶会は、美鈴の招待で、門番詰め所の中の部屋で行われていた。 メニューは、美鈴特製、新作ゆっくりれみりゃの肉まんと、仄かに甘い香りが漂うジャスミンティー。 なんでも、この前小悪魔に貰ったクリーム・ブリュレのお返しに、新作点心の味見をして欲しいとの事だった。 美鈴は非番の日には時々、パチュリーや小悪魔のお茶会に参加し、点心をご馳走する事があるのだ。 「この柔らかさ、まるで高級霜降り肉のような… いや、もっと溶けて無くなる様な儚さ…」 きらきらと目を輝かせて賞賛する小悪魔。 このれみりゃの肉まんは、幸せな味がする。 栄養状態も最高で、思う存分ゆっくりしていたのだろうな、と小悪魔は感じていた。 美鈴は、小悪魔の幸せそうな顔に気を良くして言った。 「そう、そこでこれ、ゆっくりれみりゃの豚トロ饅頭なんて名前でどうでしょう?」 「そうね、鮪のトロは、人肌で脂肪分が溶けるので食すと溶けるように柔らかいと聞くわ。 食べたことはないけど、こんな感じかしら?」 パチュリーはいつか本で読んだ、未だ見ぬ外界の食材へと思いを馳せているようだ。 「食べるたびに熱々の肉汁がぴゅっぴゅっって飛び出してきますよ。とってもジューシィで美味しいです!」 「我等が紅魔館のパティシエール、小悪魔にそこまで褒めてもらえるとは、嬉しいですねえ」 「いえいえ、私のお菓子作りなんかただの趣味ですから。そんなに凝った物は出来ませんし… それにしてもの肉まん、中から肉汁がトロトロと溢れてきて、普通のゆっくりれみりゃの肉まんともぜんぜん 違いますよ、どうやって作ったんですか?」 「それは禁則事項です」 「それって、私の口癖、真似しないで下さいよぅ」 美鈴と小悪魔は、仕える主こそ違え、同じ紅魔館に住む者として仲が良かった。 赤いロングヘアーが共通する二人は、傍目には姉が美鈴、妹が小悪魔という姉妹のような雰囲気だ。 それを眺めてパチュリーは目を細める。 「お正月には、この豚トロ饅頭で飲茶スタイルのパーティーやりましょうか?」 「飲茶スタイルって?」 美鈴の提案に、パチュリーが疑問系で聞き返す。 「飲茶スタイルは、給仕用のワゴンにコンロや鍋を載せて、テーブルのそばで注文に応じて料理をする。 っていう形式の事ですよね? 居ながらにして屋台料理の雰囲気が味わえるという」 小悪魔は知っている範囲で答えた。 それに美鈴が相槌を打つ。 「そうそう、それですよ。 豚トロ饅頭を蒸かす以外に、ゆっくりめーりんを使った刀削麺の実演なんかもやっちゃいますよ? あいつら、面の皮が厚いから丁度良さげだし」 「あ、あの包丁で削って作った麺を、そのまま鍋の中に放り込むのですか? 良いですね、美鈴さんと咲夜さんの競演なんて、見てみたいなあ」 「中身はピリ辛ピザまんだから、坦々麺風スープかな」 もうもうと湯気を上げる大釜の前でナイフを構え、目にも留まらぬスピードでゆっくりめーりんの皮を削る 美鈴と咲夜。 小悪魔はその横で、ピリ辛のスープを作っている… 二人の楽しげな会話を聞くパチュリーの頭の中には、そんなビジョンが鮮明に浮かんだ。 「まあ、館の食堂なら良いけど、図書館ではやらないでね。 これ以上部屋の湿度を上げられたらかなわないわ」 「あー、私も泣きます」 最近特に、かび臭い本の手入れが大変なのだ。 パチュリーの言葉に本来の司書の仕事を思い出した小悪魔は、一転して本当に泣きそうな顔をしている。 それを見た美鈴は、思わず苦笑してしまう。 「はいはい、じゃあ食堂で」 そんなわけで、新作、ゆっくりれみりゃの豚トロ肉まん試食会は好評のうちに終了した。 美鈴は最後まで作り方を教えてくれなかったが、 「この肉まんは、仕込みが肝心でちょっと時間がかかるんです。 作り方は中国四千年の秘儀なんで秘密ですよ。特に咲夜さんには見せられませんからね。ウフフ…」 などと、意味深な事を言っていたのだった。 大図書館に戻った後、小悪魔は蔵書を整理しながら、クリスマスに作るケーキのレシピを考えていた。 (クリスマスにはやっぱり、ブッシュ・ド・ノエルが良いかな? チョコレートクリームが沢山要るから、ゆっくりちぇんを発注しようかな… でも、悪魔がクリスマスを祝うのも変な気もしますが…ケーキくらい良いですよね) パチュリーは中央のテーブルで本を読んでいたが、考え事をしているのか、どこか集中できない様子だった。 小悪魔を見ると、唐突に口を開く。 「美鈴の豚トロ饅頭だけど」 「はい?」 パチュリーの目が、悪戯っぽくきらっと輝く。 「中国四千年の秘密と言われると、是が非でも暴きたくなるわね」 流石、ノーリッジの名前は伊達ではない。 その知識欲は、自身に知らないことがあるのを許せないかのようである。 確かに小悪魔も、気にならないと言ったら嘘になる。 料理人としての好奇心が、あの肉まんの秘密に迫りたいと囁くのだ。 「でも、どうやって探るんですか? 流石に私やパチュリー様が嗅ぎ回ると、目立ちすぎて美鈴さんにばれちゃいますよ?」 「そうね、そこで、これを使ってみようと思うんだけど…」 「むぎゅ…ぎゅ…ぎゅ…ぎゅ…」 「チルノフの冷蔵庫で冷やされていた所為か、妙に顔色が悪くてガタガタ震えてるわね?」 小悪魔はパチュリーの取り出した直径15cmほどの水晶球と、同じく15cmほどのゆっくりぱちゅりーを見ると、 パチュリーのやろうとしている事に合点がいくと同時に、ちょっと残念気味に言った。 「ゆっくりに偵察させる気ですか? まあそれはともかく、その子は使えないと思いますよ」 「どうして?」 「外見は変わってませんけど、中身いじっちゃいましたから。 その子の中身の生クリームを半分抜いて、代わりにコーヒーゼリーを入れてありますから、 多分まともに動けないと思います」 小悪魔はパチュリーの手からゆっくりぱちゅりーを受け取ると、ちょっとシェイクしたり揉んだりした後に、 頭頂部に太目のストローを突き刺した。 「むぎゅっ!」 その瞬間だけ大きく痙攣したゆっくりぱちゅりーだが、それ以外は真っ青な顔でぶるぶると震えるのみだ。 「どうぞ。新しいデザートを試作中だったんです。ちょっと試食してみて頂けますか?」 パチュリーはそれを受け取ると、恐る恐る飲んでみた。 太目のストローを咥えるパチュリーの口に、白と黒のマーブル模様の液体が吸い込まれると、透けるように白く 細い喉がコクコクと微かに上下する。 「んっ、ちょっと喉に絡みつくような感じがするけど、トロっとして美味しいわ、これ!」 そう言うパチュリーは、唇に付いた白い生クリームを舌でペロッと舐めとる。 その光景に小悪魔はにっこり微笑むと、パチュリーに見えないように小さくガッツポーズをした。 「それ、ドロリッチなんとかって名前で、外界で流行っている最新スィーツだそうです。 山の上の神社の巫女さんに教えてもらったんで、試しに作ってみたんですけど」 「ふぅん、外界では不思議なものが流行るのね… それはともかく、あの娘は巫女じゃなくて…」 「まあ良いじゃないですか、青巫女さんのほうがわかり易いですし」 そうこうしているうちに、ゆっくりぱちゅりーは萎んでしわしわの干物のようになってしまう。 「思わず飲み干してしまったわ…どうしましょう」 「とりあえず厨房にストックしてある加工前の子なら居ますが、あんまり期待できないと思いますよ? 加工所で食用に育てられた子は、殆ど体力無いですし…」 「まあ実験だし、いいわ、一匹持ってきてくれない?」 「むきゅぅ…」 そんなわけで小悪魔に持ってこられた、直径15cmほどのゆっくりぱちゅりー。 箱から出され目は覚ましているが、半眼で眠そうな表情をしている。 まあこれは、ゆっくりぱちゅりー種に共通する特徴だが。 パチュリーは水晶球とゆっくりぱちゅりーをテーブルに置くと、何やら呪文を唱え始めた。 水晶球とゆっくりぱちゅりーの上に手をかざすと、それぞれの下に光り輝く魔方陣が出現し、今までうとうと していたゆっくりぱちゅりーが、急に痙攣したように動きを止める。 「むきゅ!」 それと同時に、水晶球にはテーブルの反対側からゆっくりぱちゅりーを覗き込む小悪魔の姿が映し出された。 「えっと、これはこの子の見ている景色。って事ですか?」 水晶球を指差しながら尋ねる小悪魔に、パチュリーは頷く。 「それだけじゃなくて、こちらからその子を自由にコントロールする事が出来るわ。 ゆっくりは構造が単純だから、魔法がよく効くわね」 なるほど、術をかけた相手を、遠隔操作出来る魔法らしい。水晶球はモニター代わりのようだ。 パチュリーが水晶球の上に両手をかざすと、ゆっくりぱちゅりーはきょろきょろと辺りを見回し始めた。 それと同期して、水晶球の景色も左右に動く。 「リンクはOKのようね、行くわよ、ドロリッチ2号!」 「むきゅっ!」 ドロリッチ2号というのはこの子の名前らしい。パチュリーが号令をかけると、ドロリッチ2号は、 ぽよん、ぽよんと軽い音を立てながら跳ねて前進する。 「うっ」 数歩行ったところでドロリッチ2号は急停止し、パチュリーは口に手を当てる。 「どうしたんですか! パチュリー様!?」 「…酔うわね、これ」 水晶球を覗き込んで青ざめるパチュリーを見て、不安になる小悪魔だった。 「大丈夫かなあ、これで…」 結論から言うと、ゆっくりぱちゅりーをリモートコントロールし、美鈴の豚トロ饅頭製作現場をスパイする、 「ドロリッチ計画」は頓挫した。 4機もの精鋭を送り込んだのだが、全て稼動不能という散々な結果に終わったのだ。 2号は気分の悪くなったパチュリーがコントロールを失った間に、小悪魔が止めるより早くテーブルから落下、 3号は階段を昇る途中で同じくコントロールを失い転落、 4号は扉に挟まれ作戦行動不能、 5号は庭に出たところで、うろついていたゆっくりれみりゃに捕食されてしまった。 「全く…、想像以上に…脆弱な種ねえ…、こんなので良く…今まで絶滅しないで…居るわね…」 青ざめた顔で、ぜいぜいと肩で息をして憤るパチュリー。 小悪魔は、ぱちゅりーの操縦で酔ってふらふらしているパチュリーをなだめながら、これ以上食材を無駄に するのは避けたいと思っていた。 「まあ、この子達は天然ものじゃなくて、加工所の養殖ものですから…あぁ、勿体無い…」 「やっぱり、食用のゆっくりを転用するのは無理があるわね」 「そういう問題でも無いような気がしますが…」 「仕方が無いわね、こんな事もあろうかと、密かに用意していたアレを出すわ」 パチュリーは暫く考えた末、ついに虎の子の最終兵器投入を決めたようだ。 「…まだやるんですか?」 何だか目的と手段が入れ替わっているような気もする小悪魔だが、パチュリー様は結構頑固なので、 言い出したら聞かない所がある。 (それに、こんなに楽しそうな主を見るのも久しぶりだ、自分も結構悪戯は好きだし、もう少し付き合おう…) 小悪魔は傍観するだけだと甘く見ていたのだ。その時までは。 パチュリー様が魔法の実験に使う小部屋から、見慣れない一匹のゆっくりを抱えて戻ってきた。 直径15cmほどの饅頭形態に、側頭部に蝙蝠のような羽。遠目にはゆっくりれみりゃの様に見えたが、めーりんの 様な赤い髪。おまけに、細くて黒い尻尾も見える。 (これって、もしかして…) 「こぁ!」 それが鳴いた。 小悪魔はある確信を得たが、あえて尋ねてみた。 「あのぅ、それって…」 「そう、あなたのゆっくり、“ゆっくりこぁ”よ」 「こぁ!」 「やっぱり…でも初めて見ました」 「そうね、だって、私が魔法で作り出したんだもの。 ゆっくりちぇん以上の俊敏性と、れみりゃやふらんより速く飛べる羽と強靭な牙、めーりんより強い皮膚と 赤い髪、もちろん知能も強化してあるし、必殺技も仕込んであるわ。 これが、“私の考えるちょっと強いゆっくり”よ!」 「こぁ!こぁ!」 パチュリーの説明に合わせて、何だか自慢げに鳴いてみせるゆっくりこぁ。 「えー、“さいきょうのゆっくり”じゃないんですか…」 自分で突っ込んでから、そんなのは自分に似合わないな、と思う小悪魔だった。 「でも何で…?」 と言いかける小悪魔を制し、パチュリーが続ける。 「本当はあなたへのクリスマスプレゼントにしようと思ってたんだけど。 あなた、咲夜が“ゆっくりゃざうるす”の話をするの、いつも羨ましそうに聞いてたでしょ? まあ、いつもお世話になってるから、これ位良いかなって。 ちょっと早いけど丁度良いわ、これから実戦投入よ」 「こぁ!」 「パチュリー様…」 照れ隠しなのか、ツンデレ口調で早口のパチュリー様。 本当は、クリスマスの朝にこっそり枕元に置いておくつもりだったのだろう。 アレな理由で先に貰ってしまい、サプライズは無くなったが。いや、今十分驚いた。 逆に、こんなに顔を真っ赤にしてプレゼントを渡してくれるパチュリー様が見られたのだ。 小悪魔は嬉しさで感無量だった。 「悪魔がクリスマスプレゼントなんて、貰っても良いんでしょうか?」 「ここは幻想郷、何でも受け入れる場所でしょ、そんな細かいこと誰も気にしないわ。 でもそうね、渡すタイミング外しちゃったから…お歳暮だとでも思えばいいでしょ?」 気恥ずかしさが増したのか、真っ赤な顔でツンツンした態度のパチュリー。 「ありがとうございます!」 「こぁ!こぁ!」 嬉しさは伝播するのだろう。 小躍りしそうにはしゃぐ小悪魔につられたように、ゆっくりこぁも嬉しそうにしている。 「さあ、感動のご対面のところ悪いけど、あなたには早速その子を操縦してもらうわよ。 私たちには、その子しか残されてないの」 パチュリーの言葉に、我に帰る小悪魔。 「でも私、そんなのコントロールできませんよ?」 水晶球を指差して言う小悪魔に、パチュリーが返す。 「大丈夫よ、私の魔法で、あなたの意識をこの子の中に飛ばすの。 それで、シンクロ率も上がって思ったようにコントロールできるわ」 「それってもしかして、幽体離脱とかいう厄いものでは…?」 何やら危険な香りを感じた小悪魔は、恐る恐る聞いてみる。 「大丈夫よ、危なくなったらすぐに引き戻してあげるわ」 「はぁ…」 あんまり大丈夫じゃないような気もするし、何より折角パチュリー様から貰ったプレゼントを、危険な目には 遭わせたくないと思うが、パチュリー様はやる気だ。 むしろその為に渡されたのだから。 仕方なく覚悟を決める小悪魔だった。 「お願いします…」 「こぁ!」 何故だかやる気満々のゆっくりこぁと、椅子に座る小悪魔。 パチュリーはにっこり笑うと、それぞれの額に手をかざす。 その手前に光り輝く魔方陣が現れると同時に、小悪魔は意識を失い、そのままテーブルに伏してしまう。 次の瞬間、テーブルに伏している自分の姿が見えた。 不思議な光景だな、と小悪魔は思う。 寝ている自分の姿を外から眺めるなんて、めったに出来ることではないだろう。 「シンクロ率は80%以上ね、どう、調子は?」 後ろからパチュリー様の声が聞こえる。 (はい、大丈夫そうです) 「こぁ!」 自分の考えた言葉とは違う鳴き声が発せられた。 やはり、自分がコントロールしているとはいえ、この子はこぁとしか喋れないようだ。 だが、人語を喋れない事と、頭の良さは別である。 小悪魔には、生まれてから今までパチュリー様に育てられた、この子の記憶の断片が感じられた。 パチュリー様は私にばれない様に、苦労してこの子を育てたようだ。 そして、パチュリー様の私への感謝の気持ちと、この子の、育て親であるパチュリー様への感謝の気持ち、 両方が感じられるその記憶の断片は、とても暖かいものだった… (ありがとうございます、パチュリー様) 「こぁ!こぁ!」 「凄いわね、シンクロ率100%よ」 ゆっくりこぁはパチュリー様に向き直ると、感謝の意を込めた挨拶をした。 パチュリー様は、水晶球に表示される数字を見て驚いた様子だが、こちらを見るとにっこりと笑う。 こちらの思いは、言葉にならなくともなんとなく伝わっているのだろう。小悪魔はそう思った。 (今までありがとうございました、行ってきます) 「こぁ!」 パチュリー様に挨拶をして、ゆっくりこぁは飛び立った。 小悪魔は、普段と同じように側頭部の羽を動かすことが出来、あまり違和感を感じることは無かった。 普段から空は飛べるが、本当に羽を使って飛んでいるわけではない。魔力を使って浮き上がっているのだ。 ゆっくりこぁも、よく分からないがそんな不思議な力で飛べるのだろう。 図書館を飛び出したゆっくりこぁは、門番の詰め所を目指した。 ゆっくりれみりゃの肉まんは、詰め所の奥のキッチンで作られたようだ。 秘密があるとすれば、その先だろうと思ったのだ。 「こぁ!」 「うー? うー?!」 紅魔館の庭に出たこぁは、ゆっくりれみりゃを見つけた。 ゆっくりれみりゃもこちらを見つけたようだ。 仲間だと思ったのか、食べ物だと思ったのか、ニコニコしながら近寄ってくる。 だが、こんな所で遊んでいるわけにはいかない。 こぁは、飛行速度を上げた。 その飛行速度は、ゆっくりれみりゃよりずっと速く、その高度はずっと高かった。 「ぅーっ!」 ゆっくりこぁは、今まで籠の中で飼われていた。無論、パチュリーがこっそり育てていたからである。 はじめて見る外の世界は光に溢れ、広く、清々しい空気に包まれている。 外の世界を自由に飛びまわれるって、こんなにも素晴らしいものだったんだ。 こぁの意識を感じ取った小悪魔も、嬉しくなる。そういえばこんなに自由に飛ぶのは、久しぶりだ。 「こぁ!」 そのころ大図書館では、パチュリーが水晶球を見て目を瞠っていた。 「凄い、シンクロ率が150%を超えたわ。 俄かには信じられない値ね…」 無論、危険なことがあれば、意識は引き戻すつもりだ。 傍らでテーブルに伏している小悪魔を、ちらりと見る。 ゆっくりれみりゃを振り切ったこぁは、門番詰め所にたどり着いた。 中に美鈴が居る様子は無い。 幸いにも自室に戻ったのか、出掛けているのか。 この隙に、こぁは詰め所の中へと入り込む。 控え室の奥には洗面所や小さな炊事場があり、簡単な調理が出来るようになっている。 そこにはコンロの上に蒸し器が載っているのが見えた。そこで豚トロまんを蒸しあげたのだろう。 しかし、蒸し器の中は綺麗に片付けられ、周りにもそれらしいものは置いていない。 「こぁ!」 さらに奥の階段を目指す。 こぁの意識が、更に奥にある階段に何かがあると囁くのを感じていた。 上に通じる階段は仮眠室へ。下に通じる階段には、小悪魔は入ったことがない。 (この階段は、地下牢に通じていると聞いたことがあります。この紅魔館は、中世ヨーロッパの城を改装して、 そのまま幻想郷入りしたものだそうですから。 詰め所の地下には、当時の敵の侵入者や不審者を閉じ込めたり、拷問したりする部屋があると…) (ちょっと怖いですが、行ってみよう…) 薄暗い階段に、ちょっとびくびくしているこぁ。 だが、ここで引き返すわけにはいかない。 小悪魔はこぁの意識を宥めながら、先へと進む。 (この先に、美鈴さんの言っていた秘密が?) 地下の扉の奥からは、「う゛う゛う゛…」という、うめき声のようなノイズが漏れてくる。 よほど凄惨な現場が待っているのであろうか?果たして中国四千年の秘儀とは? 「ギギギ…」 体全体を使って扉を押し開けると、そこは奥の牢屋に通じる小部屋の様である。 壁際には、奇怪なオブジェが置かれていた。 壁に固定されているらしい棚のような木の板の上に、ゆっくりれみりゃの頭が置かれている。 その顔は上に向けられ、その口には上から固定された大きな漏斗が差し込まれている。 暗く見難かったので、最初は頭だけのゆっくりれみりゃ、胴なしに見えたが、そうではない。 木の板は前後に分割されており、半円形にくりぬかれた部分に挟まれるようにれみりゃの首が嵌っているのだ。 ピンク色の服を着た胴体は、木の板の下に見える。 そして驚くべきことに、その体はぶくぶくと肥大化し、通常のれみりゃ種より2倍は大きい。 ピンク色の服は、肥え太った胴体ではちきれそうに膨らんで、まるでボンレスハムのようだ。 その丸々と太った足でも、通常のれみりゃよりはるかにふとましい体を支えられないのか、床に座り込むような 形で手足を時折じたばたさせている。 「う゛ぷぅーっ、う゛ぷぅーっ」 弱々しい叫び声も、口に差し込まれた漏斗の所為か、太りすぎた所為なのか、濁音交じりで聞き取りにくい。 (何ですか、これ…でもどこかで見たような?) 小悪魔はこんなに太ったゆっくりれみりゃは見たことがない。 通常の状態では、胴体つきのゆっくりれみりゃはここまで大きくならないのだ。 ゆっくりれみりゃには骨格が無いので、あまり大きくなると自重で潰れて動けなくなる。 今目にしているゆっくりれみりゃは、まさにそんな状態だ。 だが、どこかで見たような気もする。不思議な感覚だった。 と、そのとき部屋のさらに奥にある牢らしき部屋から物音が聞こえた。 こぁは飛び上がって驚き、咄嗟に壁の近くの物置らしき所に飛び込む。 体が小さいから出来た芸当だ。 小悪魔は恐怖に怯えるこぁの意識を宥めつつ、奥の部屋へと意識を集中した。 そこから現れたのは、美鈴その人であった。 ニコニコしながら、ゆっくりれみりゃに話しかける。 「さ、食事の時間ですよ、おぜうさま!」 そして、奥の牢屋らしい部屋からリボン付きの子ゆっくりを5,6匹持ってくると、壁に固定されている ゆっくりれみりゃに近づき、子ゆっくりをごろごろと漏斗に流し込んだ。 「ゆっ、ゆっくりやめてね!」 「れみりゃいやぁー!」 「れいむおいしくないよー!」 「だべだいでぇー!」 叫ぶ子ゆっくりに構わず、美鈴は木の棒で上から子ゆっくりを突き、漏斗の真ん中のれみりゃの口に繋がって いる穴にぐいぐいと押し込んでゆく。 「むぎゅ、やべでっ!」 「いだいいだいだい!押さないでね!ゆっくり押さないでね!」 「ぶぺっ!ぶごっ!」 漏斗の中で潰されながら叫ぶ子ゆっくりたちと、 「ぶぅ゛ーっ!ぶぅ゛ーっ!」 漏斗を咥えさせられ叫び声も上げられず、涙を撒き散らしもだえるれみりゃの頭。 餡子がのどに詰まると呼吸が出来ないのか、その顔は青くなったり赤くなったり忙しい。 その机の下では、ぶくぶくに太った体がじたばたと無駄な足掻きを続けている。 中々にシュールな光景だ。 そのうち、子ゆっくり達は美鈴の手によって、無理やりゆっくりれみりゃの口の中に押し込まれてしまった。 小悪魔は、この光景が何かに似ていると考えていたが、暫くしてそれを思い出す。 (そうだ、フォアグラだ、これ) フォアグラというのは、人為的に太らせたガチョウやアヒルのレバーを使った料理を指す。 このれみりゃと同じように首を固定して、漏斗で無理やり餌を与え続けると、レバーに脂肪が蓄積されて、 いわゆる脂肪肝と同じような状態になるのだ。 それを使ったフォアグラ料理は、脂が乗って軟らかく、世界三大珍味の一つと呼ばれる。 そういえば先程のとろけるような肉まんの食感、それもフォアグラに良く似ている。 このゆっくりれみりゃの仕込みだろう作業も、以前、大図書館の資料で見たことがあるフォアグラの写真に そっくりだった。 先ほどの疑問が解消し、美鈴の作業の秘密が分かって、小悪魔はほっとしていた。 だが、ゆっくりこぁの意識はそうではなかったようだ。 はじめて見る恐ろしい光景、怖そうに見えるお姉さんに怯えてしまい、小悪魔が意識を緩めた弾みで、思わず 泣き声をあげてしまったのだ。 「…こぁ!」 小悪魔がしまったと思うより早く、美鈴がこちらに気付いて振り返る。 「おやぁ? いつの間に逃げ出した子が居るのかな?」 (まずい、逃げなきゃ!) 「こぁ!」 だが、恐怖で萎縮してしまったこぁの体は、震えたまま動かない。 目前まで迫った美鈴は、獲物を前にした豹のように、目を輝かせて微笑んでいた。 「みぃつけた!」 恐怖心で震えるゆっくりこぁの意識は、冷たく、暗い闇となり、小悪魔の意識も覆い隠してしまった… 「はっ、ここは!?」 がばっと起き上がった小悪魔。その肩から椅子の上へ、ぱさりと毛布が落ちる。 「図書館よ、私があなたの意識を引き戻したの。 驚いたわね、シンクロ率が急に200%を超えて、危険な波形が見えたのよ。 一体何があったの? 大丈夫?」 パチュリー様が話しかけてくるが、それどころではなかった。 「すみません、あの子が危ないんです! 話は後で!!」 小悪魔はダッシュで図書館を出る。 階段を駆け上り、中庭へと飛び出す。 そこから、詰め所まで飛んで行く。 勿論、普段は歩いて行くのだが、今はゆっくりこぁが心配で気が気ではなかった。 美鈴さんに秘密を探っていたことがばれても、何とかしなければならない。 このままでは、あの子はゆっくりれみりゃの餌にされてしまうかもしれないのだ。 クリスマスにはちょっと早かったけど、パチュリー様から頂いた大事な子だ。 短い間だったが、暖かい記憶も共有したし、一緒に空も飛んだ。 そんな子を失ってしまったら、パチュリー様に申し訳が無い。 飛行の風圧なのか、それとも別の何かか。小悪魔は目尻から暖かいものが零れるのを感じながら、詰め所へと 飛び込んだ。 「美鈴さん! その子は駄目なんです!!」 詰め所の部屋の中には、美鈴と、テーブルの上で肉まんをパクつくゆっくりこぁが居た。 そのゆっくりとした様子は、すでに打ち解けて仲の良い家族のようだ。 その無事な姿を確認すると、小悪魔はその場でへたり込んでしまう。 「はぁ、良かった…」 「どうしたんですか、そんなに慌てて?」 「こぁ!」 のんびりと声をかけてくる美鈴と、小悪魔を見るなりその胸に飛び込んでくるゆっくりこぁ。 「すみません、この子はパチュリー様から頂いたプレゼントなんです。 美鈴さんが食べちゃったんじゃないかと心配になって…」 小悪魔は、ゆっくりこぁの髪を撫でながら言った。 あえて地下室の事については触れないように。 「この子を見つけたときに、小悪魔の気の流れを感じたんですよ。 だから、多分パチュリー様の差し金であそこに忍び込んだんだと、ピンと来ました。 何より、見たことの無い珍しいゆっくりでしたからね」 やはり小悪魔の感じたとおり、美鈴にはすでに察しがついていたようだ。 「良かった、本当に良かった…」 「こぁ!」 「でも、地下室のアレ、咲夜さんには秘密ですよ。 中庭で増えすぎたゆっくりれみりゃの間引きは任されているとはいえ、アレはショックでしょうから」 笑いながら言う美鈴。 小悪魔も尤もだと頷いて見せた。 「とにかく、この子は多分世界で一匹だけの存在なんです。 私はこの子を育ててみようと思います」 「こぁ!」 「分かりました。 まあ、咲夜さんも“ゆっくりゃザウルス”飼ってるし、私もれみりゃ飼育してますから、何かあったら相談に 乗れると思いますよ?」 そう言う美鈴の言葉を聞いて、この二人は当てにならないだろうなあ、と思う小悪魔だった。 終 by 神父
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1861.html
『しまわないで!』 ※一部にパロディ要素を含みます 「うー! しね! よわむしおねえさまは、ゆっくりしね!」 「うー! ふりゃんのぶぁーか! おねぇーさまはかりしゅま☆れでぇーなのぉー!」 × × × 「うーうー♪ あまあま☆でりしゃすぅー♪」 「う~~! ちっぢゃいれみりゃ、やめてぇー! それ、れみりゃのおやづなのにぃ~!」 × × × 「ゆゆっ! にくまんがいるよ! みんなあれをつかまえれば寒い冬さんも安心だよ!」 「やだやだぁー! れみりゃはにぐまんじゃないのぉー! おでで、はむはむしないでぇー!」 × × × 「おっ! ゆっくりゃだ! 珍しいな」 「なぁ、知ってるか? あいつらの服や髪、結構いい金になるらしいぞ」 「うわぁぁー! れみりゃのだいじだいじがぁー! ざらざらへあーがぁぁーー!?」 × × × 「うっぐ、ひっぐ、えっぐ……」 幻想郷の里山の一画から、聞こえてくる嗚咽。 それは、ふくよかな手で大きな下ぶくれ顔を押さえ、 必死に涙をこらえようとする"ゆっくりれみりゃ"のものだった。 「う~~っ、ぐやじぃよぉ~~!」 よたよた、どたどた、ゆっくりと歩くれみりゃ。 左右にふらふら揺れては、大きなお尻を振ることで、辛うじてバランスを取る。 このれみりゃは、度重なるトラブルで、すっかり疲れ果てていた。 真っ赤になって泣きじゃくるれみりゃの顔は薄汚れ、 手も足も擦り傷だらけで、大事なおべべも帽子もしわくちゃになっている。 妹の"ゆっくりふらん"に散々馬鹿にされた上で、虐められ。 友達になろうとした"胴無しゆっくりれみりゃ"には食べ物を奪われた挙げ句、見捨てられ。 迷子で泣いていてところをドスの群れに見つかり、"にくまん"の汚名を着せられて追いかけ回され。 その挙げ句、こぁいお兄さん達に意地悪をされ、大事なおべべや髪の毛をぐちゃぐちゃにされてしまった。 痛くて、苦しくて、悔しくて。 解決できないモヤモヤを押さえきれず、れみりゃはぺたんと座り込み、叫んだ。 「もうやだぁ~~! なんでみんな、おぜうさまにやさしくしてくれないのぉ~~!?」 再び"こぁいなにか"と出会ってしまう危険性も厭わず、わんわん叫んで泣く、れみりゃ。 自分は可愛くて、えれがんとで、かりすま溢れるえら~いお嬢様なのに、 一体どうしてこんな目に遭わねなければならないのか……。 れみりゃはその不条理にどうしても納得ができない。 せめて、今のこのゆっくりできない状況だけでもどうにかしたい。助けてもらいたい。 れみりゃはよちよち立ち上がるり、本能レベルですり込まれた絶対的な味方を探し求めるのだった。 「しゃくやぁー! れみりゃのしゃくやどごぉー!?」 "ガサッ" 「うっ、うぁっ!?」 れみりゃの赤い靴が、泥の上にいくつかの足跡を作ったその時、 れみりゃの眼前のしげみの奥から、がさがさという音が聞こえてきた。 その音に驚き、反射的に身をすくめる、れみりゃ。 がさがさという音は次第に大きくなっていき、 しげみの奥の暗がりに、うっすらと巨大な何かの影が映りだす。 「う~~~~っ!」 れみりゃは怯え、身を屈めて両手で頭を抱えこむ。 それは、"大好きなまんまぁー"から教わった、秘伝の緊急回避法だった。 もっとも、周りからは姿も丸見えで、 体を丸めてガタガタ震えるその様は、むしろ戦闘力の無さをアピールしてしまっていたが……。 「ごごにはだれもいないのぉー! れみりゃはゆっぐりずるのぉー!!」 恐怖で声を抑えることができないれみりゃは、必死に叫ぶ。 もういやだ。 おうちへかえりたい。 まんまぁー、ふらん、たすけて。 ぐるぐる、思いが頭と胸を駆けめぐり、意識は恐怖で混濁していく。 そして、その精神的負荷がついに限界に達し、れみりゃは目を瞑り両手を広げて近づいてきた何かへ向かって叫んだ。 「ぎゃおーーーーー!!!」 自分のカリスマを最大限にほとばしらせる、必殺のポーズ。 それが、錯乱したれみりゃの取れた、唯一の行動だった。 「……ゆぅ?」 「……ぎゃ、ぎゃおー?」 しげみの奥から現れた者の声を聞いて、 れみりゃはおそるおそる、大きな赤い瞳を開いてみる。 「う、うわぁぁぁーー!!?」 バンザイの姿勢のまま、その目をパチクリさせて、 見上げるほど大きいその存在に、れみりゃはあんぐり口を開けて固まった。 「……おぜうさま、およびになりましたか?」 しげみの奥から現れた存在。 それは、高さ2mにも達する動くプリン饅……すなわち巨大なゆっくりさくやだった。 * * * 「うっう~♪ すぴあ☆ざ☆ぐんぐにるぅ~♪」 「ゆべしっ!」 れみりゃが巨大さくやと出会ってから数時間後。 そこには、笑顔で木の棒を振り回してはしゃぐれみりゃと、 れみりゃの"ぐんぐにる"に無抵抗のままべしべし叩かれ続けるドスまりさの姿があった。 「ふやじょう☆れっどぉー♪ ぜんせかい☆ないとめあー♪」 「ゆぐ、ゆぐぐ……」 調子に乗って、下ぶくれスマイル全開で攻撃を続けるれみりゃ。 ドスまりさもれみりゃに抵抗しようとするが、 より強大な存在に取り押さえられ、なすがままになっていた。 「そのちょうしです! 素敵ですわ、おぜうさま!」 れみりゃへ声援を送るのは、あの巨大さくやだ。 数分前、巨大さくやは体当たりと口にくわえた鋭利な石片で、あっという間にドスまりさを痛めつけ、 上からのしかかって動きを封じ、れみりゃ用のサンドバッグにしたてあげたのだった。 「うっうー☆」 「ゆぅ……ゆっくりした結果がこれだよ……」 れみりゃの御機嫌な一撃を受け、とうとう絶命するドスまりさ。 動かなくなったドスまりさを、れみりゃは不思議がり、おそるおそる触れていく。 やがて、自分がドスまりさを倒したことを知り、れみりゃはぴょんぴょん跳ねて喜びを露わにした。 「れみりゃ、つよぉーい♪ うぁっ☆うぁっ☆うっうー♪」 興奮冷めやらぬ様子で、腕をぐるぐる、お尻をぷりぷり振り出し、ダンスを踊るれみりゃ。 実際は殆ど巨大さくやの手柄であったが、そんな事実は今のれみりゃにとってどうでもいいことだった。 「さすが、おぜうさまです! さくやかんげきです!」 「う~♪ しゃくやぁ~♪ いっしょにおまんじゅうたべよぉ~♪」 巨大さくやの言葉にさらに機嫌を良くし、 れみりゃは巨大さくやと一緒に"えれがんとなでぃなー☆"を開始する。 「あぅー♪ おいじぃー♪」 口の中いっぱいに広がる甘み。 お腹から全身へ広がっていく、ゆっくりとした満足感。 これが勝利の味、これがカリスマ☆にふさわしき食事、これがおぜうさま本来の姿……。 「あーぅ☆あぅー♪」 口のまわりを汚しながら、れみりゃは幸福感に酔いしれる。 そして、この幸福を自分へ運んできてくれた巨大さくやへよりかかり、頬をすり寄せた。 「うーうー♪ しゃくやぁーごれがらもずっどいっしょー☆いっしょだよぉー♪」 そんなれみりゃの様子を微笑みながら眺める巨大さくや。 そして巨大さくやは、れみりゃへ向かってハッキリと告げる。 「もちろんです、おぜうさま。さくやは"こうまかん"でおぜうさまにおつかえしつづけます」 「うー? ごーまがん?」 きょとんとして、首を傾げるれみりゃ。 「そうです! おぜうさまのおやしきです!」 こーまかん……おぜうさまのおやしき……。 巨大さくやから澱み無く放たれたその響きに、 れみりゃは胸がときめきわきたつのを感じずにはいられなかった。 「うー♪ ごーまがん☆ごーまがん♪ れみりゃのおやじぎぃ~♪」 実際のところ、このれみりゃにとって"こうまかん"は初耳の単語であり、 当然元々そこに住んでいたわけでもない。 けれど、れみりゃに刻まれた本能が、おぜうさまとしての宿命が、 "こうまかん"へ行くことを促して止まらない。 「うーうー♪ れみりゃはおぜうざまだがら、ごーまがんでゆっぐりずるのぉー♪」 「はい、おぜうさま! それではこちらへ!」 れみりゃが肯定するのを聞くや否や、 巨大さくやは自分の頭の上にれみりゃを乗せ、どすんどすんと森を跳ねていった。 巨大さくやの頭上で、れみりゃは至って御機嫌だ。 "たかいたか~い♪"と喜び、巨大さくやを見て逃げ回る他のゆっくりや動物達を見ては、 自分のかりすまに恐れおののいているのだと解釈して、誇らしげにうぁうぁ☆リズムを刻んだ。 そうして、楽しい一時をすごしているうち、 大きな岩山に開いた巨大な洞の前で、巨大さくやは跳ねるの止めた。 「さぁ、つきましたよ、おぜうさま」 「すごぉーい♪ おっぎぃー♪」 立派で頑丈そうな、それでいて綺麗な乳白色の岩山と、 元々あった天然の穴を拡張し、整地したであろう洞穴とエントランス。 それでいて、付近には花が植えられ、彩り鮮やかに周囲を賑わせている。 それらは、永い年月をかけて、巨大さくやが瀟洒に整えたものであった。 「うー♪ れみりゃはごーまがんのあるじなのぉー♪ とっでもえらいんだぞぉー♪」 巨大さくやさえ余裕で入れる"こうまかん"の大きさに、ご満悦のれみりゃ。 おぜうさまとしての自信と誇りを胸に、パタパタ中空へ浮かびあがって、洞の中へ入っていく。 そのまま直線の回廊をしばらく進むと、れみりゃは明るく広大な場所につきあたった。 「うー?」 そこは直径20mはあろう円形の広場になっており、 天井は吹き抜けで、上空から優しい木漏れ日が照明として降り注いでいた。 そして円形の外周部には、広場を囲むように、岩で組んだ箱状のものが何十個も並んでいた。 「うぁ☆おまんじゅうがいっばいあるぅー♪」 れみりゃは、地面に降り立ち、とてとて歩いてその岩の箱へと近寄っていく。 岩の箱の中には、一つの箱につき一匹ずつ、弱り切ったゆっくりが収まっていた。 うぁうぁお尻を揺らし、その様を観察するれみりゃ。 やがて、その光景にも飽きたれみりゃは、岩の箱の中からゆっくりを取り出し、無造作に放り投げる。 「うー♪ おまんじゅうはたべあぎちゃっだがら、ぽいっ☆するのぉー♪」 一匹、また一匹と、れみりゃはゆっくりを放り投げて遊び出す。 「ぽーい☆ぽーい☆ぽぽいのぽーい♪」 独特のリズムを刻み、時折ダンスとお歌を混ぜながら、ゆっくりを"ぽいっ☆"していくれみりゃ。 飽きずに20匹ほど放り投げ終えてから、れみりゃは自身の下ぶくれスマイルを両手で指さし、 誰へとでもなくぬぼーと笑顔を広げた。 「ぽーいしたら、おながすいちゃったぁー♪ ぷっでぃ~ん☆たぁ~べだ~いなぁ~♪」 にぱぁーと、笑顔満面のれみりゃ。 すると、どこからか、れみりゃに呼応するかのように声が聞こえてきた。 "うー……" 「……うー?」 その声を不思議がるれみりゃ。 最初は気のせいかと思っていたが、 ほどなく円形広場の一画から、その声が聞こえてくることに気付き、そこへ歩を進める。 "うーうー……" "うっぐ……ひっぐ……" 「う、うぁ!?」 その一画へたどりついた時、れみりゃは立ちつくした。 そこにもまた、岩の箱が大量に並べられていた。 ただ、先ほどゆっくりを放り投げたところとは違い、平べったい岩で蓋がされていた。 そして何より、その岩の箱の中から、同じれみりゃ種のものと思われる声が聞こえてきた。 それも一つや二つではない。その区画にある殆どの箱の中からである。 「う~!? れみりゃがいっばい~!?」 困惑するれみりゃ。 れみりゃは疑問を解決すべく、岩の箱を調べだす。 岩の箱をおっかなびっくり撫でてみたり、こんこんと蓋を叩いてみたり。 そのうち、ちょうど蓋の閉まっていない箱を見つけ、れみりゃはその中を覗き込んでみる。 ……と、その時。 「ぶぶっ!」 突如、何者かに背中を押され、れみりゃは顔を箱の底に打ち付けてしまう。 「うわぁぁーー!! れみりゃのえれがんとなおかおがぁぁーー!?」 顔の真ん中を赤く腫らし、歪なへの字に口を広げて、滝のように涙を流すれみりゃ。 痛みで我を忘れ、のたうちまわるれみりゃ。 れみりゃの体は、顔を先頭にして既に半身が岩の箱の中に入ってしまっている。 苦しむ上半身に併せて、箱から出ている大きなお尻がじたばた揺れて、捲れたスカートからドロワーズがまる見えになる。 その動きに誘われたのか、れみりゃの背中を押した何者かが、今度はお尻を押しはじめた。 「じゃぐやぁー! ごぁいひどがいるよぉー! はやぐぎでぇーー!」 ぎゅうぎゅうと、狭い岩の箱の中へ強引に押し込まれていくれみりゃ。 れみりゃも暴れて抵抗するが、何者かの力は強く、なすすべもない。 「やだやだぁー! れみりゃばごーまがんでゆっぐりずるのぉー! じゃぐやぁー! はやぐだすげでよぉー!!」 必死に助けを呼ぶ、れみりゃ。 しかし、その願いがかなうことはなく、とうとうれみりゃの体はすっぽり岩の箱の中へ押し込められてしまう。 そして、れみりゃを押し込めた何者かは、れみりゃの体が箱に収まったことを確認すると、すばやく岩の蓋を閉めてしまった。 狭いの箱の中で、身動きも出来ぬまま、光さえ奪われるれみりゃ。 手足や羽を動かすことも出来ず、れみりゃはただただ助けを呼び続けるのだった……。 「ぶぇぇぇ~~! じゃぐやぁ~~! まっぐらでごぁいよぉぉ~~!」 * * * 『ぐらいよぉー! ごぁいよぉー! おながずいだよぉー!』 岩で組まれた箱の中、平べったい岩の蓋の向こうから、れみりゃのくぐもった泣き声が聞こえてくる。 その声を聞きながら、恍惚の表情を浮かべ、小さくひとりごちる者がいた。 「これでもうあんしんです」 それは、れみりゃを箱の中へ閉じこめた張本人。 そして、れみりゃをこの"こうまかん"へ招いた張本人。 「おそとはきけんがいっぱいですから。おぜうさまはこうまかんでゆっくりしていってくださいね」 れみりゃ達が閉じこめられている箱の前。 そこには、自らの職務を瀟洒に果たしたと自負する、巨大さくやがいた。 「うふふ、ゆっくりできていないおぜうさまは、どんどん☆しまっちゃいましょうねぇ~♪」 おしまい。 ============================ れみりゃおぜうさまをペットとして飼いつつ、 自分自身はさとり様にペットとして飼ってもらう……そんな生活に憧れる日々です。 さておき、れみりゃSSにはまだまだ可能性があるはず…… 最近、それを模索中だったりします。 by ティガれみりゃの人 ============================ このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/712.html
fuku5629.txt『重箱の隅』?の続きです。 豆れみりゃと二重人格お兄さん by ”ゆ虐の友”従業員 俺は豆れみりゃ一家の入った重箱を、家事の邪魔にならないよう台所の片隅に移動させる。 それから通常サイズのれみりゃの入ったガラス箱も、同じように移動させた。 そうした上で、その一角を手製の柵で囲い、さらに蚊帳を張ってれみりゃが勝手に飛び出ないようにする。 かつて、台所全体を我が物顔に飛び回っていたころからは想像もできないほどの都落ち―― 豆れみりゃ用のこーまかん(重箱)、通常れみりゃ用ガラス箱、それと豆れみりゃ数匹が踊れる程度の面積の床。 それが、俺がれみりゃ達に与えたあたらしい住処だ。 「こんなせまいとごろやだどぉー」 「おぞどにでだいどぉーー!!」 俺は通常れみりゃに、あることを言い聞かせた。 「これからは、お前がこのおちびちゃんたちをきちんと世話してやること。いいね」 通常れみりゃは豆れみりゃ達を見ると、元気よく頷く。 「わかったどぉ~!」 なかなかものわかりがいい。 「餌もすべてお前にまかせるからな、きちんとわけてあげるんだぞ」 「う~わかってるどぉ!おぜうさまはりっぱなおねーさまだどー」 * * * * それから数日が過ぎた。 「うっう~おちびぢゃんたち~ごはんだどぉ~」 「うー!」 「ぷっでぃんー!」 俺が通常れみりゃのガラス箱に与えた餌を、通常れみりゃはきちんと豆れみりゃ達に分け与えている。 親豆れみりゃはというと… 「おっきいおちびちゃんはぁ、いっぱいたべなきゃだめだどぉ!」 相変わらず子ども扱いされている。無理もない。通常種のれみりゃから見れば親豆れみりゃも子豆れみりゃも小さいことには 変わりないのだ。 「おぜうさまはまんまぁなの~!おちびちゃんじゃないどぉ~!」 おちびちゃん扱いされてぐずる親豆れみりゃだが、不承不承に餌の施しを受ける。 親豆れみりゃが泣こうがわめこうが、俺は通常れみりゃにしか餌を与えていないからだ。 「ぐやじいどぉー!でもおながずいだがらごはんたべるんだどぉー!」 「うー!でっかいおぜうさまのおうち、とってもえれがんとだどぉ~」 一匹の豆れみりゃが、通常れみりゃのガラス箱を見てそう言った。 今や、豆れみりゃだけに与えられた空間は”こーまかん”重箱と、数匹の豆れみりゃが踊ることができる程度の 床の広さしかない。 それに比べ、通常れみりゃのガラス箱は体に比例して大きく居住区全体の半分以上の場所を取っている。 新しいれみりゃ居住区はそれほどに狭いのだ。 通常れみりゃは胸を張って答える。 「おぜうさまのこーまかんだどぉー!えれがんとなのはあたりまえだっどぅ♪」 「おぜうさまたちのこーまかんのなんばいもおっきくてりっぱだどぉー」 他のれみりゃも追従する。 「ぴかぴかしてきれーだどぉー」 「いっぱいうーできるどぉー!」 気をよくした通常れみりゃ。 「そうだっどぉ!いいことかんがえたど♪ おちびちゃんたちぃ、おぜうさまのこーまかんのおちびちゃんになるどぉ♪ おぜうさまをまんまぁだとおもっていいどぉ~♪」 当然怒るのが親豆れみりゃだ。 「あうー!もうゆるざないどー!」 何倍も大きい通常れみりゃに飛びかかり、ぽかぽかと打ち据える。 「あう?おっきいおちびちゃん、おいたはだめだどぉ♪」 「うううーーー!!」 はっはっは、ぜんぜん相手にされてないでやんの。 と、そのとき、俺は脳の奥が疼くのを感じる。それは俺と”もうひとり”が人格交代する前兆だ。 「まったく、いいところで……」 しかし、考えようによってはむしろいいタイミングかもしれない。 この状況を見れば、俺が”もうひとり”の仕掛けたゲームに乗ったということは一目瞭然のはず。 ここから”もうひとり”がどうするのか。お手並み拝見といこう。 「あとは、任せた――」 次に戻ってくるのが楽しみだ。 * * * * ――数日して”戻ってくる”。 いつものように”もうひとり”が散らかした部屋を掃除すると、俺は台所へと向かった。 台所の隅のれみりゃ居住区の外観は変わっておらず、れみりゃの数や状態にも変化はない。 しかし、 「うあー!うあー!」 「まんまぁ~」 「うー!おぜうざまのおっきいおちびぢゃん~~」 「おぢびぢゃん~まんまぁをだずげでぇ~!!」 蚊帳で手狭に囲われた居住区の中で一匹のハエが親豆れみりゃを追い回している。 大きさからいえばいい勝負だが、鈍重なれみりゃと俊敏なハエでは勝負にならない。 すでにババくさい衣服はぼろぼろに食い破られ、ところどころから肉餡がはみ出ている。 「あっ、まんまぁのじゅうしゃだどぉー!まんまぁをはやくたすけるんだどぉー!!」 「まんまぁはつよいんだろう?ハエぐらいどうとでもなるんじゃないのか?」 「つべごべいわずにだずげなきゃだめなのーーー!!!」 親豆れみりゃは手をばたつかせてハエを追い払うが、すぐさまハエは舞い戻ってきてれみりゃに食らいつく。 「うんぎゃーー!!ぶんぶんいやだどぉーー!!」 俺は通常れみりゃにハエ叩きを握らせた。 「これでぶんぶんをやっつけるんだ」 「わかったどぉ!おっきいおちびちゃん、いまたすけるどぉーー!」 すっかり豆れみりゃを自分の所属物と思っている通常れみりゃである。発奮してハエを追い回し始める。 (やっぱりゆっくりしてるけど) 「いっくどぉー!」 大きく振りかぶって、べちん。 「いだいどぉぉぉぉ!!!」 思いっきりハエ叩きを振り下ろされた親豆れみりゃの悲鳴が上がった。 しかし、ハエはとっくに飛び立ってしまっている。 「うー!?おちびちゃんごめんだどぉ!こんどこそ……うー!」 「うっぎゃーーー!!」 「どーじでぶんぶんにげるんだどぉーー!ずるいどぉーー!」 「もうやだどぉーー!!」 「まんまぁ~!まんまぁ~!」 やると思ったぜ……期待通りだ、通常れみりゃ。 むきになってハエ叩きを振り回しながら親豆れみりゃを追い回す通常れみりゃ。子豆れみりゃはぴーぴーと泣きながら それをみまもることしかできない。 「びゃぶぅぅぅ!!!」 「またしっぱいだどぉ!だけどだいじょうぶだどぉ♪」 何が大丈夫なのかわからないが、大した自信だ。 「つぎこそほんとーにまちがいなくほんきのふるぱわーでぇ、いちげきひっさつだどぉ! おねーさまに、お☆ま☆か☆せ☆だっどぉ♪」 「いだいのやぁぁぁぁ!!!!」 * * * * 「さて」 通常れみりゃからハエ叩きを奪い取り、ハエを始末してやる。 すでに親豆れみりゃは全身打撲状態で、虫食いよりもハエ叩きのダメージの方が深刻というありさまだ。 通常れみりゃはというと、悪びれる様子もなく親豆れみりゃをなでている。 「う~おっきいおぢびちゃんごめんだどぉ。でもでもぉ、けっかよければすべてよしだっどぉ♪」 「ぜんぜんよぐないどぉぉぉぉぉ!!!ぞれにおぜうざまはおちびちゃんじゃないどぉぉぉ!!! でっかいおぜうざまなんがぎらいだどぉぉぉぉぉ!!!!」 「これからどうしたものか……」 思案するが、すでに十分痛めつけられたれみりゃをどうするか判断に迷う。 「あう?おふろだどぉ♪きもちいいどぉー♪」 とりあえず鍋にお湯にを入れ、そこに親豆れみりゃを入れてみた。通常種のゆっくりに与えるオレンジジュースとやらの代わりだ。 ひょっとしたら出汁が取れるかもしれないしな…… そのまま火にかけ、ことこと煮込む。 「あう~?ひかげんがあつすぎるどぉ!きのきかないじゅうしゃだどぉ!もっとぬるくするどぉ~」 蓋の下から何か声がするが、気にしない気にしない。 「~♪~♪~♪」 「あぢゅいぃぃぃぃぃ!!!!!!」 「本当に、これからどうしよう……」 折角”もうひとり”がいるのだから、たまには手抜きもいいかもしれないという結論に達した。 れみりゃ居住区を区切っている蚊帳を広げ、れみりゃ達の行動可能な空間を倍ほどに広げてやる。 「うっうー!ごーじゃすだっどぉ~」 「ひろびろ~だっどぉ~!」 早速うれしそうに飛び回る豆れみりゃ。 ほんの少し前まで、この台所すべてを勝手気ままに飛んでいたのだが……そんなことはもう忘れているのかもしれない。 通常れみりゃの方は、このぐらいの空間ではまだ飛ぶには手狭なようで、床に座り込んで豆れみりゃ達を応援している。 「うーみんなかわいいどぉ♪とってもえれがんとだどぉ♪」 ひとしきり飛び回った後、豆れみりゃ達は床に降り立って踊り始めた。 どうせならここで邪魔してやりたいところだが、今日は安息日だ。 (命拾いしたな……) 「うっうーうあうあ☆」 「じょーずだどぉー!」 「うあ☆うあ☆」 「せくしぃだどぉー!」 こんなときばかり手際のいいことに、順番に列を抜けて声援を送る役に回っている。 「……」 通常れみりゃが音頭を取り、手足をばたばた、翼をぱたぱた。 「れみ☆りゃ☆」 「しびれるどぉー!」 「う……」 「しゃおらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 その瞬間、俺は沸かせていたお湯を蚊帳の向こうへぶち撒けていた。 「うびぃぃぃぃぃ!!??」 「あうあーーー!!」 「まんまぁ~!まんまぁ~!」 「あ、ご、ごめ、つい」 まったく無意識に体が動いていた。 そうか、何で湯なんか沸かせていたのか自分でも不思議だったんだが、こういうことだったのか。 「大変だ、大変だ」 俺はいそいそと床を拭き始めた。 「それじゃあ、俺は一旦出て行くからゆっくりしていってね!」 「うー!ばいばいだどぉ!もうもどってこなくていいどぉー!」 「ぽーいだどぉー!どっかいっちゃえだどぉー!」 「そういうなって。俺がいなくなったら、お前ら飢え死にだぞ☆」 「とっととでていくどぉー!」 「わかったよ、ばいばい」 俺はそっと引き戸を引く。……少し待ってまた開ける。顔だけを出して、 「ゆっくりしていってね!」 「うざいどぉぉぉぉぉぉ!!!!」 もう一回。 「……ゆっくりしていってね!」 「ゆっぐぢでぎないどぉぉぉぉ!!!!」 * * * * しばらくして台所へ戻る。 「うーおなかすいだどぉ~」 「ぷっでぃんー」 いつものようにわめくれみりゃ達に餌を用意する。 「安息日、安息日……」 そうだ、今日は特別に親豆れみりゃにも餌をくれてやろう。結果については責任持たないけど。 「うっうー!おぜうさまのかり☆すまにやっときづいたんだっどぅ? と☆く☆べ☆つ☆にゆるしてやるんだどぉ♪もうわるいことをしてはだめだどぉ♪」 重ねて言うが、結果については特に責任持たない。それに”もうひとり”が俺のあとを引き継いでどうするかは なおさら知ったことじゃないのだが…まあ安息日だしな、いい気にさせておいてやろう。 俺から餌を得た親豆れみりゃは、両手にそれを抱えて子れみりゃのもとへと飛ぶ。 「うっうー!まんまぁがでぃなーをもってきたどぉー♪おちびちゃんたちいっぱいたべてえれがんとにそだつんだどぉ♪」 威信回復をかけて、目いっぱい餌を抱えてきた親豆れみりゃだが、子豆れみりゃたちの反応は今ひとつ。 「うー?」 「おぜうさまはおっきいおぜうさまからもらうからいらないどぉ?」 「どーじでーー!!!???」 (尺が違うんだよ) 親豆れみりゃが一生懸命に餌を抱えたところで、その量はたかが知れている。 それよりも通常れみりゃ用の――豆れみりゃには巨大な――皿に群がって餌を食む方が手っ取り早いのは当然だ。 それに、長い習慣づけによって『おっきいおぜうさま=ごはんをくれる』という風に記憶が上書きされているのだろう。 「まんまぁがまんまぁなのーーーー!!!」 * * * * それからまた”もうひとり”と交代し、戻ってくると、何やられみりゃ居住区にみょんな植物がしげっている。 百日紅(さるすべり)のようにつるつるとした幹。枝からはまばらに葉が茂り、いたるところに棘が生えている。 れみりゃ達はそれに絡まって遊んでいるように見えたのだが、 「いだいどぉーー!!」 「だじでーー!だじでーー!」 「?」 居間の机の上に紙切れが置いてあった。 「何々……?」 <カザリガリノキ カザリガリノキは、ゆっくりの髪飾りを取るよう開発された植物です。 庭に植えるなどして防ゆっくりにどうぞ。 棘があり、外部からの刺激によってオジギソウのような就眠運動を誘発します。お手を触れる際にはご注意ください> 「世の中にはいろいろなものがあるものだなぁ……」 俺は感心した。 そういうことなら。俺は早速台所へもどって観察を始める。 「いぢゃいぃ~~!!」 「だずげでぇ~まんまぁ~」 子豆れみりゃはすっかり枝と枝の間に入り込んでしまっている。出ようとしても翼や手足が枝のどこかしらにひっかかり、 その度に枝はよじれて豆れみりゃを刺す。 今やいっぱしの虐待お兄さんとなった俺には、こうなった経緯が容易に想像できた。 「えれがんとないんてりあだどぉー!」 「おぜうさまがじきじきにたんっけんしてあげるどぉ~!」 意気揚々と、生い茂るカザリガリノキの突っ込んでいく豆れみりゃ。しかし豆れみりゃに触れられ動き出した木に捕らわれ、 そのうちにれみりゃが大事にしているお帽子を取られてしまう。 「おぜうさまのおぼうしかえすんだどぉー!」 「かえさないとたーべちゃーうどー!」 腹を立てた豆れみりゃ達は、茂みのより奥へと進んで行き―― 「どーじででられないんだどぉーー!!??」 そして現在にいたる、と。 「じゅうしゃー!なんとかずるんだどぉー!」 俺は適当に返事をする。 「自分でしなさい、まんまぁでしょ」 「うー!そうだどぉ!まんまぁがいまたすけてあげるどぉー! うっうー!」 こいつら本当に面白いな。 「うー!……あう?」 先ほどの俺の想像通りに木に突っ込み、絡まってもがく親豆れみりゃを見て俺は心からそう思ったのだった…… 「だれが~!!まんまぁをだずげでぇ~!!」 * * * * それにしても、最近床が汚れてきたな…… もちろん台所のこちら側は俺が掃除している。問題なのはれみりゃ居住区の床である。 「自分のこーまかんは、自分できれいになさい」 俺はれみりゃ達に布きれをやり、そう言い渡す。 「う~?なにばかなこといってるんだどぉ~?」 「おそうじはぁ、じゅうしゃのしごとだどぉ☆」 「あ、そ。 お兄さんは言うこと聞かない子にはご飯あげないよ?」 「そんなのめっだどぉー」 それから最初の食事の時間が来た。 「うっうー!おぜうさまはおなかがすいたどぉ♪」 「ぷっでぃーんはやくぅ☆」 昨日までと同じくそう命令してくるが、無視。 「おながずいだどぉー!!」 「ぷっでぃんたべたいどぉー!!」 れみりゃ達はその次の食事にも、そのまた次の食事にもありつけなかった。 うおんうおん泣くその声がいくらか鬼気迫ってきた。それでも掃除に取り掛かる気配はない。 こちらとしては一匹生き残れば繁殖させられるのだから譲歩するつもりはない。全滅という一線を越えなければいいだけなのだ。 三日目に入って、通常れみりゃが布切れを使って自分のガラス箱をのろのろと掃除し始める。 しかし、やはり気が進まないようですぐに投げ出してしまう。 「う゛ーづまんないどぉー!」 「そろそろ昼飯だどー……じゃなかった、昼飯だぞー。お掃除終わらさないとご飯抜きだぞー」 「ううー!」 俺の言葉で、ようやく豆れみりゃどもも通常れみりゃを真似て掃除を始める。 「うー!ごんなのえれがんとじゃないどぉー」 「づがれだどぉー!!」 飛び回るには狭くとも、むらなく拭くのには広すぎる空間だ。しかもれみりゃ達は統率を図るでもなく、 それぞれ思うがままに動いて頭をぶつけ合ったりしている。 俺は料理に取り掛かった。今日は豪勢に肉饂飩だ。 「えれがんとならんちだどぉー!」 「はやくたべたいどぉー♪」 どうやら飯にありつくつもりらしい。今までの流れでどうやったらそう思えるのか、不思議でならない。 「いいにおいだどぉー」 「……」 深く考えるのも馬鹿らしい。俺は気にせず料理に集中しよう。 近所の猟師からもらった肉を取り出し、普段はあまり使わない香辛料類もふんだんに使って調理を進めていく。 俺が葱を切る包丁の音が、れみりゃ達の物音をかき消して台所に響く。 「うっうー!まちきれないどー!」 「はやくつくってほしーどぉ-!」 「……」 「よし、完成だ!」 テーレッテー 「奥義・肉煮込み饂飩みそ風」 品名の前に奥義を付けたことにより味わいと風格がそなわり最強に見える。 「はやくはやくぅ、おぜうさまにちょーだいだどぉー!」 「おなかすいたどぉー!」 何だ、早速いただこうと思ったのに麺が延びてしまうじゃないか。 俺は一応床を一瞥するが、もちろん掃除が終わっているはずもない。 「お前ら、掃除、終わってない、以上」 簡潔に切って捨て、居間へと向かう。 「あうーー!!やだどぉーーー!!」 「おなかぺこぺこだどぉぉぉぉぉ!!!」 俺は少し考えたあと、丼を持ったまま台所へ戻る。 「あう!」 「いじわるしないで、はやくたべさせるどぉー!」 「いや、俺ここで食うことにしただけなんだけど。何勘違いしてるの?馬鹿なの?死ぬの? ……うっめ!これめっちゃうっめ!」 「あうーーー!!!!」 半ば錯乱状態なのか、仰向けになってごろごろ転がりだすものまでいる。いいぞもっとやれ。 「しばらく、料理に凝ってみようかね……」 俺はやけに美味く感じる饂飩をすすりながら、そう思ったのだった。 END □ ■ □ ■ ”もうひとり”視点からとか、野生で生活したら?とかは書ききれないのでいったん締め。 豆れみりゃは初心者向けな一方ダイナミックないじめができないので結構ストレスなのぜ…… ぬるいじめ用ゆっくりってことで。 読了ありがとうございました。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2071.html
キングれみりゃ ある日の事、香霖堂のご主人主催で外の世界の「映画」というものの鑑賞会が行われた なにやら巨大なトカゲのような怪物と金色の雷を吐く怪物が暴れたりなんやりしているものであったが、とても面白い そして私は思った… この怪物を作れないものかと そして私は苦労して希少種であり、更に数少ないれみりゃザウルスを三体手に入れた そして特注のアレも… 結構な金が掛かったが、まあ後で元は取れるだろうから気にしない まずは解体だ 眠らせた二体のれみりゃザウルスの頭だけを切り離す 「う~… うあ!」 という声はしたものの目は覚まさなかった 流石加工所で高い金出して買った薬だ 次に、残った一匹の肩の肉を剥ぎ、さっき取った頭を両肩にひとつづつ小麦粉と水で繋ぎ合わせる 流石噂に聞くだけあって生命力が強い すぐくっついた それにしても良い匂いだ 今日の夕食は肉まんもいいな… っと、まあそんなことは後で考えるとして次は体だ 現状では少し体が不釣りあいだ(もともと不釣りあいだとかそういうのは気のせいだ きっと) よって残った二つの体の中身と皮を使い、補強を施す 何かが足りない… そう、羽だ!!! ここで特注していた 超巨大に育てられたれみりゃ の出番である サイズはドスまりさにも匹敵する 体つきじゃないれみりゃは可愛げがある気がするが、これも目的のため 羽を引きちったが眠らせてあるのでなぜか幸せそうな顔をしている… この羽を先ほどの三つ首れみりゃの背中に移植した 「で、できた…」 もう予想は出来ているであろうが、キング○ドラのごときキングれみりゃの完成である そろそろ薬も切れる 反応が楽しみだ 部屋の外から覗いて観察することにした れみりゃ1「う~… れみりゃのぷりてーなからだがいたいど~…」 まず真ん中の頭が目を覚ます そして両側の頭も目を覚ました れみりゃ2「うあ?よこからせくーしなこえがきこえるど~☆」 れみりゃ3「がお~☆ た~べちゃ~うぞ~☆」」 とりあえずそれぞれの頭は独立した思考を持っているようだ ここで鏡を持って部屋に入る れみりゃ*3「「「れみ☆りゃ☆う~☆ はやくこうまかんのおぜうさまにぷっでぃんもってくるど~」」」 いきなりぷっでぃん要求かよ それも三匹同時に… まあ気にせず鏡でキングれみりゃに己の姿を見せる れみりゃ*3「「「かかかかかかか かっこいいどぉ~!!!!! うつくしくぷりてーでかりしゅまだど~!!!!!!!!!!」」」 こいつらの美的センスは一切理解できない がまあ予想通りの反応 次に要求どおり ぷっでぃん を与えてやる ただし一個だ… れみりゃ1「う~☆ ぷっでぃ~ん!」 れみりゃ2「はやくたべさせるど~☆」 れみりゃ3「はやくしないとしゃくやにいいつけるど~☆」 ウザイ… 床にぷっでぃんを置くと部屋から出て、また観察を続けた れみりゃ1「ぷっでぃんおいしいど~☆」 れみりゃ2、3「「う~!はやくれみりゃにたべさせるど~!!!」」 なるほど… ベースとなったれみりゃが一番からだの扱いがうまく出来るようだ のこりの頭も若干体を動かせるようだがそれでも動きを少し止めるくらい れみりゃの肉まん脳じゃぷっでぃんを分けるなんて事は考えられないようだ 結局真ん中のれみりゃの頭が全部食べたしまった 他の頭がなにか喚いている 煩いのでまた薬で眠らせることにした こいつを野性に放す 考えただけでもわくわくする おそらく真ん中の頭以外は餌を食べれないだろう 残り二つの頭はそれでも死ぬことが出来ない なぜなら真ん中の頭から栄養が供給されるから 巨大な羽を移植したので空も飛べるであろう よって餌にもさほど困らないはずだ この一匹で不公平を味わう奇妙な生き物がこの先どうなるのかは、誰も知らない 作:文章が下手なお兄さん 虐待分薄すぎだろ… 常考… このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/108.html
前編 四日目 女心と秋の空。 井戸の上空にひたすら広がる青い空を仰ぎ見て、れいむはそんな常套句を思いだしていた。 昨日までのしとしと降りは霧散消散。 いまはからっとした陽光に包まれた穏やかな秋晴れ。 昨日から寝ていないゆっくり二匹にとって、その朗らかな心地よさは毒のようなもの。重たい目蓋をこじあけて、死を意味する居眠りを何とか堪えた。 その日差しが直接入り込むにはまだ時間が早かったが、入り口付近を淡く白い光が包み込んで、井戸の中はほの暗い。 井戸の腐ったような胸に詰まる臭いも今はそれほど強くはなかった。 乾燥した空気が井戸の底までおりてきて、ゆっくり二匹の湿りきった体に心地よい。 陰干しされたゆっくり二匹。 体から水気がゆっくりと蒸発して、元のもちもちとした肌が戻ってきた。 同時に、昨日から続いていた落下もようやく止まって一安心。 大分底に近づいてはいたが、井戸の上から見下ろせばまだ十分視界に入る位置だった。 「すっきりー!」 晴れやかに宣言するれいむ。 まりさはうつむき加減で言葉は発しないが、悪くない気分らしい。吐く息がゆっくりと穏やかだった。 「かゆいのは、大丈夫?」 「……うん」 れいむの言葉に、弱弱しい声をだして頷くまりさ。 と、同時にそれと同じ角度で頷いていたれいむ。 あれ、どうしたんだろう? 意図しない自分の動きにハテナマークを浮かべるれいむ。きょろきょろと視線を走らせて、ようやく気がついた。 ゆっくり二匹のふっくらしたほっぺた。 ぴったり強くこすり合わせていたその小指ほどの先端が、今見るとまりさの頬とぴったり皮膚が繋がっていた。その皮膚を通じて、まりさの動きに引きづられていたゆっくりれいむ。 「ゆっくりー!?」 驚愕のれいむ。 雨でぐずぐずになった皮をこすりあわせているうちに結合していたらしい。 皮自体は乾燥して弾力を取り戻したが、お互いのほっぺは強固にくっついたまま。 二匹は思わず視線を合わせた。 「くっつくよ!」 れいむが叫ぶと、その頬の動きのままにびろんとのびる二人の皮。 奇怪な有様だったが、ゆっくりれいむは妙に嬉しそう。 「これじゃあ、ずっといっしょだね!」 れいむの言葉にこめられた親愛に、まりさは頬を吊り上げてかすかな笑顔。 わずかな仕草なのに、心の底からの嬉しさがほっぺのつながりと通じてれいむに伝わってくる。 相変わらず状況は絶望的で、体力は落ちていくばかり。おなかもぺこぺこ。 でも、目の前のゆっくりと再び親友に戻れた。それだけで単純なゆっくり二匹の心は晴れやかだった。 「……おなかすいたね」 続くまりさの呟きも、声色自体は疲れ果ててはいたが、口調自体はいつものもの。 れいむもお腹はぺこぺこだ。壁にはりついたムカデやナメクジをぺろぺろ舐めとっても何の足しにもならないし、美味しくない。 でも、自分はまだいい。消耗しきったまりさの方が心配だった。落下してから何も口にしてないのではいだろうか。 「まりさ、右のほっぺに蟻さんがいるよ!」 その言葉に、ぺろんと伸びるまりさの舌。 まりさの顎の方へ向けて行進していた蟻たちが一瞬で姿を消した。 だが、すぐに顎の傷のほうから次々と蟻たちが出現しては、引き続きまりさの舌に飲み込まれていく。 「もっと沢山たべたい……」 蟻んこでは腹の足しにならないのだろう。まりさの虚ろな表情に元気は戻らなかった。 我慢している顎の傷の痒みは相当のものらしく、言葉が尽きるなり、ごしごしと患部を壁にこすりつけるまりさ。 顎の付近から、ぶわっと羽虫が舞い上がった 寄るところもなく宙を漂う羽虫。だが、まりさの蠢動が治まるなり顎の傷のあたりへ戻っていった。 「ゆううう!」 途端に、またびくびくとむずかりだすまりさ。その顎には我が物顔に再び行進をはじめる蟻の行列。一様に極小の餡の粒を背負っている。 どうやら、わずかに開いた傷口から漂う甘い香りが、井戸の住民たちにかぎつかれたようだ。恐らくは、傷口が虫たちにほじくりだされているのだろう。 そんな様子は自分からでも確認できるらしく、暗い眼差しで虚空を眺めるゆっくりまりさ。 れいむは少しでもまりさの気持ちが紛らわせようと口を開いていた。 「ここからでたら、虫さんは全部つぶしてあげるからね!」 「……」 「そして、美味しいものを沢山たべようね!」 「……」 「野いちごとか、沢山食べようね!」 ひっきりなしに話しかけるれいむ。 太陽を一杯に浴びた野草や、まるまるとした昆虫、リスなどの小動物。その味わいを夢想する。 その中でも最近食べた一番美味しい食べ物はあれだろう。 ぼんやりと、れいむは回想に入る。 数ヶ月前、月明かりに誘われて家の周りに遊びに出たゆっくりれいむとその姉妹。 野犬の遠吠えも聞こえない、静かな満月の夜だった。 家の入り口近くに何匹も連なって月の鑑賞会。まん丸な月を眺めるゆっくりたち。息を吸い込んでお月様のように丸く膨らんだり、ぴょんぴょんと跳ねて少しでもお月様に近づこうとしたりと、思い思いに楽しんでいる。 だが、突如として月明かりに影が差す。 見上げたゆっくりたちの視線の向こうに、月を背負ったシルエットが一つ浮かんでいた。 「ゆ?」 その正体がわからなくて首を傾げるゆっくりたち。 ニンゲンに似た体つきだけど、それにしては手足が短い小さな体。ぱたぱたとはためく翼もニンゲンのものじゃなかった。 目をこらすと、 朧な月の光にその姿が浮かび上がってくる。 丸い顔に満面の笑顔を浮かべて、短い手足を一杯に広げた生き物。誰かにおめかしされたのか、ピンクの服と帽子、 そして赤いリボンが愛らしい。 幼子のような笑顔のまま、その生き物は鳴いた。 「うー! うー!」 その可愛らしい生き物はご機嫌そのもの。だが、ゆっくりたちは気がつかなかった。意味のわからない呟きをもらすその口元に輝く、剣呑な牙を。 それは、紅魔館に最近住み着いたゆっくり亜種だった。空を飛ぶ吸血種で、その上に幼児のような体と手足がある、極めつけの希少種。 主に似たその生き物を、紅魔館の者は親しみをこめ、こっそり「れみりゃ」と呼んでいた。 そんなれみりゃは、発見されたからずっとメイド長咲夜に世話をされてきた筋金入りの箱入り娘。いつもは館の奥で大切にされていて、単独での外出が許されていなかった。たが、今日は素敵な満月。ついつい心踊る月明かりに誘われ、抜け出してきたのだろう。 つきっきりで世話をする咲夜の姿も、今日はどこにも見当たらない。 過保護な従者のいない久しぶりの自由を謳歌して、ご機嫌なれみりゃ。うーうーと、幸せそうに月夜を飛び続ける。 気がつけば、ずいぶん遠くまできていた。 くーくーと鳴り始めるお腹の虫。そろそろ戻ろうかなと迷い始めていた。けど、帰ればこの楽しい夜が終わってしまう。 そこで出くわしたのが、いつも餌として与えられているゆっくりれいむの一群だった。 まさに渡りに船。 「ぎゃおー♪」 ご機嫌に、怪獣のような叫びを発するれみりゃ。 咲夜が怪獣のキグルミを着て演じた台詞をそのままなぞっただけの幼い咆哮。 ゆっくりたちは奇妙な闖入者に戸惑って、逃げるべき相手か、判断がつかなかった。 だが、そんなゆっくりたちは次の台詞で震撼する。 「たーべちゃうぞー!」 宙から、ふわりとこちらへ飛んでくるれいりゃ。その口の牙が月光を帯びて鈍く光った。 「ゆっくりやめてね!」 慌てて、一目散に家へと逃げ込むゆっくりたち。 だが、出入り口は一つ。一度に入れるのはせいぜい二匹まで。 「はやくしてね!」 最後尾のゆっくりれいむが急かすが、その声が不意に止む。 れみりゃに牙を突き立てられ、引きずられていくゆっくりれいむ。 「お゛があざーん……!」 ぱたぱたとはためく翼の音とともに、母を呼ぶ声も遠ざかる。 「うー♪」 見守るゆっくりたちの前で、れみりゃは捕らえたれいむを抱え込む。 同時に、れみりゃの口からじゅうううと鈍い音が響きだした。 「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ!?」 自分の体に何が起こっているのかわからないゆっくりれいむ。 だが、みるみる頬がこけ、皮がビロビロに伸びはじめてようやく気づく。れみりゃは、ゆっくりの中身を急激に吸い上げていた。 「い゛や゛あ! ゆっぐりじでよおお! ずわ゛な゛い゛でええええ!」 しかし、言われてジュースを飲むのを止める幼児などいない。 うまうまと、たっぷりの甘さを味わいながらちゅーちゅーと吸い続けた。 次第に、白目をむくゆっくりれいむ。 「ゆ"っゆ"っゆ"っ」 細かく痙攣を始めるが、れみりゃはジュースの器がどうなろうが一切気にとめない。喉の渇きのまま、最後まで一気に飲みきるだけ。 ふにゃふにゃにのびたれいむの、最後の雫を吸い込もうとれみりゃが一呼吸したそのとき。 猛然と転がる岩のようなゆっくりがいた。 「ゆっ! ゆっ!」 異変に気づいたお母さんれいむだった。 ぷっくり膨らんだからだを揺すって、どすどすと入り口かられみりゃに向けて一直線。 「うー?」 只ならぬ振動に顔をお母さんれいむに向けるりみりゃ。 瞬間、お母さんれいむは飛んだ。 月夜を背景に、膨らんだ全身をばねにして見事な飛翔。 そのまま、れみりゃの顔面へと飛び込んでいく。 ぺちっと、情けない音がれみりゃの顔面で響いた。 もんどりうって倒れる一団。 「うあー! うあー!」 れみりゃはうつぶせ倒れこんで、起き上がりもせずただ泣き叫ぶ。 これまで、食事といえば昨夜が手配したゆっくりれいむかゆっくりまりさ。お嬢様に粗相のないよう、処理されたものばかりだった。 だからこそ、まさか獲物に反撃されるとは夢にも思っていなかった。 ショックでわんわんと泣き出すれみりゃ。いつもなら、ダダをこねていれば光の速さで咲夜が飛んできて自分を慰めてくれる。 でも、ここは紅魔館から遠く離れたゆっくりたちの巣。 絶望的にれみりゃは孤独だった。 「うあ!」 唐突にれみりゃが感じた激しい指先の痛み。 見れば、一匹のゆっくりれいむが復讐だとばかりに噛み付いている。振り払おうとするその腕に、さらに噛み付く別のゆっくり。 続いて、背中にどすんとのっかった重みはお母さんれいむ。息がつまって、れみりゃの体がのけぞる。その隙に残りのゆっくりたちも意を決して競って背中に乗り上げてきた。もうれみやは飛ぶどころか、起き上がることすらできなくなる。 「うっ……!」 もういやだ、早く帰して。今日はプリンのお夜食なんだから、もう帰る! そんな思いをこめてゆっくりたちを見つめる。 だが、紅魔館自体を知らないゆっくりたちに容赦する理由は微塵もない。 「うっ!」 れみりゃの短い叫び。 見れば、指先に噛み付いていたゆっくりれいむがついにその丸い指先を噛み切ったのだ。 指先からほくほくと、肉まんの湯気。 「うっ……うっ!」 赤く灼熱した焼印を押し付けられたような指先の激痛。 苦痛から、もはや声にならない悲鳴がれみりゃの口をつくが、むーしゃむーしゃと味わうれいむには聞こえていないかのよう。 「おいしいよ!」 ほくほくの笑顔でそのお味を家族にご報告。 その言葉が契機になって、一斉にゆっくりたちが殺到する。 あんぐりと、れみりゃの指先やほっぺにくらいついた。 「う゛っ、あ゛ーっ!」 れみりゃは元々柔らかい肉まんのようなものなのか、強く噛み付くとゆっくりに、抗うことなくぽろぽろと千切られていく。 「むーしゃ、むーしゃ」 一斉にれみりゃを咀嚼するゆっくりたち。 はふうと、同時に吐き出される至福のため息。 「しあわせー!」 「ゆっ! ゆっ!」 わが子の嬉しげな様子を穏やかな視線で見つるのは、お母さんれいむ。 れみりゃがもう何もできなくなったことを確認して、その翼を口でぺりぺりと剥ぎ取る。 咥えたまま向かった先は、れみりゃに吸われてぺしゃんこになったわが子の元。そっと、くわえてきた翼をわが子の前へ置く。 けれど、もはやわが子は目も見えていないようだった。白目をむいて震え続けるだけのゆっくりれいむ。 お母さんれいむは、無言で我が子を見下ろしていた。 れみりゃを味わっていたゆっくりれいむの一匹が、その様子に気づいて駆け寄ってくる。 「早くよくなってね!」 元気付ける言葉は、虫の息となったれいむにも聞こえたのだろう。 応えるため、口を緩慢に開こうとする。 「ゆっ……く……」 だが、もれたのは言葉にならないあえぎだけ。 やがて、言葉の代わりに大きく吐き出される吐息。あえぎ声。 それっきり、ゆっくりれいむは動かなくなる。 きょとんとその様子をうかがう子供たち。何が起こっているのだろうと小首を傾げる。 お母さんれいむは頬をすりよせて、抜け殻となったわが子の目を閉じてあげた。 沈痛な沈黙。 「ゆっ!」 短い呟きが、わが子の亡骸に向けられて静かに響いた。 やがて、お母さんれいむはくるりと振り向く。皮だけと成り果てたわが子から離れて、れみりゃのもとへ。 「うー!」 うつぶせにむせび泣いていたれみりゃと静かに向かい合う。 相変わらずの無表情のまま沈黙を守るお母さんれいむ。 すると、れみりゃを味わっていたゆっくりれいむのうち一匹が、れみりゃの指先を見つめてぽよんと飛び跳ねた。 「ゆっくり治っているよ!」 見れば、千切られたばかりの指先がじわじわと元に戻りつつある。吸血種ならではの再生力だった。 その様子を、相変わらずじっと見つめるお母さんれいむ。 お母さんれいむは声もなく動き出し、れみりゃの服の襟首をくわえ込む。そのまま、ずりずりと家の方へ引きずり出した。 ゆっくりれいむたちは不思議そうに母親の行動を眺めていたが、そのうち一匹が母親の意図を悟る。 「まいにち、ごちそうだね!」 その言葉で他のゆっくりたちも気づく。れみりゃは一晩で元通り。食べ過ぎなければ、いつだって美味しいご飯になるということを。 一斉にれみりゃに飛び掛るゆっくりたち。れみりゃの翼を、耳を、指を、靴の先を、それぞれ思うがままに咥えて、一心不乱に家の方向へ。 「うっ! うっ!」 異常なゆっくりたちの団結に、怯えて泣き叫ぶれみりゃ。だが、もう遅い。れみりゃの姿は、ゆっくりとれいむたちの住処へと消えていった。 それから数ヶ月、豊かな食生活が続いたゆっくり一家。 だが、その幸運も不意に消えてしまった。 いつも家の中に縛られて転がっているれみりゃが可哀想だと、ゆっくり家族たちが気を利かせて日向ぼっこ。 「うー! うー!」 家の方が居心地がいいのか、出ていきたがらない素振りのれみりゃだったが、日向でゆっくりさせてあげないと体に毒だと無理やり引っ張り出す。餌にすら親切なゆっくり一家だった。 逃げないよう縄でがんじがらめにして、お天道様の下に転がしておく。 「うあああーっ!」 嬉しいのか大声ではしゃぎ、のたうちもがくその声を背に、ゆっくりたちは気ままに遊び場へ散らばっていく。 日没まで存分に遊んで帰ってきたゆっくちが見たのは、れみりゃを縛った形のまま地面に横たわるロープと、そのロープを覆いつくさんばかりの真っ白な灰だった。 これは何だろうと疑問の答えを見つけるよりも早く、灰は草原を吹きぬける風に舞い上がげられる。 そのまま、近くを流れる小川へ押し寄せられ、流されていった灰。よくわからないので、ゆっくりたちはすぐに忘れる。 結局、逃げられたと結論づけて、今日もお母さんれいむの待つ家の中へ、ゆっくり姉妹は仲良く連れ立って入っていった。 おいしい食べ物のことを思い出して、だらりとれいむがよだれをたらしているうちに、時刻はいつしか夜を迎えていた。 今日は誰も井戸をのぞきこんだりはしなかったが、明日もこの小春日和が続けば、ゆっくり仲間か暇なニンゲンあたりが ふらっとこのあたりを通りかかるかもしれない。 それまで、耐えられるよねと自分に自問する。 全身は、力をこめ続けていたせいで、がちがちにこわばっていた。身じろぎするたびに体がきしんで痛みが走る。 眠らないでいた頭はぐらぐらと揺れて気が遠くなりそうな程。ぼんやりとなる瞬間もあるけど、死ぬよりはマシと思うしかない。 それに、嬉しい兆候もあった。 お昼に少し元気を取り戻したものの、日暮れ前にはもうぐったりして動けなくなっていたゆっくりまりさ。 だが、夜が深まるにつれて何やらもぞもぞと体を動かしていた。 まりさが先に力尽きることが最大の不安だっただけに、その復活はれいむにとっても望ましいことだった。 後は誰か、誰でもいいから、この井戸を覗き込んでもらうだけ。 そうだ、お願いの言葉を今からきちんと考えないと。 どことなく前向きなゆっくりれいむ。 そのれいむの思考を邪魔する、カサカサというまりさからの音と、時折の「ゆ……」とうめき声。 だが、れいむは気づかないまま、助け出されたときのお礼の仕方をのんきに考えはじめていた。 五日目 考えすぎたのが悪かったのだろうか。朝から、れいむの頭は朦朧としていた。 眠らないまま、どれだけの時間を過ごしただろう。 力を抜かない、眠らない。 それだけを守って、それだけしか許されないこの世界で生き抜くうちに、れいむは少しずつ現実とつながる意識が薄れていた。 空が明るくなって、かろうじて五日目に入ったことはわかる。 けれど、もう何年も閉じ込められているような気分だった。 この空虚でゆっくりと流れる時間を、一人だけで過ごしていたら今頃心が壊れていたかもしれない。 だが、隣にぴったりとくっつくまりさの存在が、れいむの心に頑張らないとと、わずかな種火となってくすぶった心を焦がしている。 昨日からちょっと調子が悪いらしくて、話しかけても何も応答が無い。 でも、いるということだけで心強いのだ。 「れいむう……」 そのまりさが、一日ぶりに自分から話しかけてきた。 井戸の暗闇から届く、のったりと間延びした呼びかけ。 「どうしたの、まりさ!」 そのことが嬉しくて、応じるれいむの声は弾んでいる。 まりさの次の言葉は中々発せられなかったが、ゆっくり待った。 「……ようやく、かゆい理由がわかった」 時間を大分おいた一言は、れいむに「よかったね!」の合いの手を躊躇わせるほどに疲れきった声。 どうしたのだろうと訝りつつ、やはりまりさの言葉を待つしかないゆっくりれいむ。 そのとき、ゆっくりれいむはわずかな光を感じた。 見上げると井戸の縁を、太陽がわずかに踏み越えようとしている。 ほかほかのお日様がでれば、まりさも元気になるかな。 「あのねえ」 まりさの呟き。 日差しはどんどん高くなる。光の領域が、井戸の縁から内側へ、みるみる広がってきた。 「れいむ、きらいにならないでね……」 よくわからない言葉がれいむの困惑を誘う。 さらなる説明を求めようとした、その時。 ふっくらとしたお日様の気配が二人を包んだ。ゆっくり二匹の元へ届いた、晴れやかな日差し。 光に照らし出されたまりさは、口を半開きにして惚けたような顔。 そして、顔半分を覆いつくす黒。 目を凝らすと、その黒い帯は光を受けて一斉に動き出した。 「ゆーっ!」 黒い帯。それは、まりさの顔にたかる幾百もの虫たち。地虫、羽虫、カトンボ、ゲジゲジ。数え切れないほどの虫たちが光の襲撃を受けてうごめき、逃げ惑い、光から隠れた。 最も手近なまりさの中へ。 まりさの右のほっぺに開いた無数の穴へと、我先にと逃げ込んでいた。 「ゆっ! ゆっ! ゆううううっ!」 目の前10cmで繰り広げられる光景のおぞましさに、満足な叫びもあげられないゆっくりれいむ。 虫たちはまりさの傷口から入り込み、中身を食い荒らしながら、奇妙な巣を勝手につくりあげていた。 まりさは、もう心が消えうえせたかのように、微動だにしない。開いた口からだらだらとよだれをたれ流して、右頬だけがぷるぷると微妙に震えている。 その虚ろな目が、怯え震えるれいむを見つめていた。 れいむは「れいむ、きらいにならないでね……」というまりさの言葉を思い返す。 きっと、今自分はまりさを化け物を見るような目で見ているのだろう。 「しっかりして、まりさ! 外にでたらすぐに治療しようね!」 真正面にまりさの惨状を見据えて、心を燃え上がらせての激励。 ほのかに、まりさの瞳に生気が戻る。 「ありが……」 だが、お礼の言葉は最後までいえなかった。 「うっぐ!」 言葉を遮ったのは、まりさの口からわらわらと巣立つ羽虫たち。 凍りついたれいむに、なぜか笑いかけるまりさ。 「……卵産みつけられちゃった」 気を失いそうになるれいむ。 まりさからは、低い笑い声がもれてくる。 「うふふ……うふふ」 これまで聞いたことの無い、奇妙な笑い方。 もう、れいむの言葉は届きそうに無かった。 それに、その虫たちを見ているとれいむに浮かぶ不安が一つ。 まりさの餡を全部食べ尽くしたら、この虫たちはどうするのだろう。 答えは、まりさと連結した自分のほっぺた。おどろくほど容易い進入経路。 「だずげでえええ! 今ずぐ、だずげでえええええええ!!! だずげでええええええええ!!!」 幼子のように泣き叫ぶも、声を聞き届けて顔を覗かせるものなど誰もいない。 ただ、驚いた羽虫たちをぶわと舞い上がらせただけ。 やがて、惨劇を見せ付けた太陽は井戸の外へ、早々に引っ込んでいく。 後には泣きじゃくるれいむと、まりさの乾いた笑い声。 そして、それを覆い尽くす虫たちの気ぜわしい羽音や足音だけがいつまでも響いていた。 六日目 何度目か、すでにれいむはわからなくなりつつある太陽の出現。 昨日、叫び疲れてぐったりと力を使い果たしたれいむ。もう、口を開くのも厭わしい。 まりさも虫たちに蹂躙にされるがままになっていた。 もううめきすら聞こえない。生きているのか、死んでいるのか、もう判別のつけようがなかった。 ゆっくりれいむは、そんなゆっくりまりさを見つめながら、自分の最期を見つめる思いだった。 きっと、自分もこんな死に様なのだろう。 ありありと見せつけられた絶望。 だが、先ほどまでの狂おしい恐怖はすでに感じなくなっていた。何もかも、あやふやな夢の中にいるよう。ぼんやりと、厚い膜を張ったような精神状態。 心が磨耗しきっていた。 もうすぐまりさのように、うふふ、うふふと笑える幸せな世界に旅立てるのだろうか。 先に行けて、まりさはもいいなあと、れいむはまりさをうらやましくさえ感じていた。 だが、れいむがやっかむ必要もないだろう。 そのときは、確実に近づいていた。すでに、自分を取り巻く全てに何の現実感も感じられなくなりつつある。 だから、れいむは妄想か夢を見ているかと思い込んで見逃すところだった。 はるか井戸の上には、見下ろす一人の女性の姿。 「久しぶりに昔の家にきてみたら、こんなところに……あなたたち、何をしているのかしら」 耳障りのよい、落ち着いた女性の声。 井戸に響き渡る、待ちかねた来訪者の声だった。 「ゆっ! ゆゆゆゆっ!」 助けて、出して、ごめんなさい、お願いします。言うべき感情がれいむの口をあふれて、まったく形をなさない。ただ興奮と哀願だけが噴出して始めていた。 声をかけてきた女性は、逆光でよくわからないにがサラサラの金髪に、白いケープが目に入る知的で楚々とした印象。 自分たちに降りた蜘蛛の糸を握る唯一の人物。 「勝手に入ってごめんなさい! 出られないの! お願い、助けてください!」 「あら、かわいそうに」 ゆっくりに向けられた女性の声色は心底哀れんでいるようだ。 優しい人かもしれない。 ゆっくりれいむは期待と不安の眼差しで女性を見つめる。 「心配しなくていいのよ。今、助けてあげるわ」 逆光で顔立ちはわからないが、その女性はにっこりと微笑んでいた。 その笑顔に、沸き立つ安堵の想い。知らず、体の力が抜けかけるゆっくりれいむ。 だが、ここで沈んでは何にもならない。必死に堪えた。 「待っててね。今、家からロープか何かもってくるから」 身を翻して姿を消す女性。 でも、れいむに不安はない。女性の言葉は心底の同情に満ちたものだったから。 しばらくして、言葉の通りに戻ってきた女性。 「ありがとう、おねーさん! お願いします!」 ゆっくりまりさの言葉に小さく頷いて、女性は井戸の上からするするとロープを下ろしていく。 あと、ちょっと。あとちょっとでれいむの口が届きそうになる。 あーんと、大きく口を開くゆっくりれいむ。 その口が届こうとする、そのまさにほんの手前。 「ところで、ここからじゃ暗くてよく見えないのだけど、あなたたちのお名前を教えてもらっていいかしら?」 女性の機嫌を損ねたくなくて、れいむはロープを噛みに行く動作を止めた。 「ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさだよ!」 疲れ果て、声を出すのも億劫だったが、精一杯の愛嬌をこめて応えてみせる。 「へえ、良くあなた方の組み合わせを見かけるけど、だいぶ仲がいいのね」 なぜだか、突然始まる女性の世間話。 早く、早く! れいむの心の声が鐘楼のように鳴り響くが、ここで焦って全てを台無しにするわけにはいかなかった。 「うん、親友だよ!」 正直に答える。 すると、ロープの先端がプルプルと震えだした。 震えているのはロープと、その根元を握る女性の手。 女性は不意に笑い出した。まりさのような、乾いた笑い方だった。 「アハハハ。ホント、あなたたちはいつも仲がいいわよね。守矢神社のときもそう。私のことを放って二人で解決しちゃうくらいだし。本当にまりさとれいむは仲良いわね」 ゆっくりに、女性の言葉の意味はわからない。 ただ、ふつふつと湧き上がる怒りだけが伝わってきた。 「おねーさん、ロープをもう少しのばしてね!」 只ならぬ気配に不安になったれいむが思わず催促してしまう。 それが引き金だった。 「……あら、手が滑ったわ」 恐ろしいほどの白々さを響かせる声。 それとともに、ロープは一気にゆっくりれいむの元へ届き、そのまま丸ごと井戸の底へ落ちていった。 「ゆっ、ゆー!」 れいむの絶叫の最後に、着水したロープの音が無情に響く。 「どうじで、ごんなごどずるのお……」 涙目で見上げると、女性は無表情でゆっくりたちを見下ろしていた。 唯一の蜘蛛の糸が、この瞬間明らかに断ち切られようとしている。 「おねーさん、怒らせていたらごめんなさい! だから、お゛ね゛がい゛! もう一回、お願いじまずうううう!」 れいむにできるのは、同情を誘う哀願のみ。 それでも、井戸の上の女性に効くかどうかは、すでに疑わしくなりつつあった。 「私なりに考えてみたのだけど、せっかくそこでゆっくりしているのに、お邪魔するのは悪いわよね?」 女性の気を遣ったような言葉が放たれるが、その根底に横たわるのは隠そうともしない悪意。 「やだあっ! もうここでゆっくりじだぐないいい! だがら、だずげでぐだざあい!!!」 「でも、大丈夫。今、素敵なお友達をそっちにおくるから、もっと楽しくなるわよ」 会話ではなかった。 ゆっくりれいむの嘆願を存在しないものとして、にこやかに語りかける女性。 優しげに井戸に響く女性の言葉が消えるやいなや、何かを投げ込んでくる。 ひゅうううと、井戸の空気を切る何かが、れいむの顔へ一直線。 そのペラペラの物体が光を透かして、れいむにはそれが何かわかってしまった。 自分と向き合って落ちてくるのは、同じゆっくりれいむ種。ただし、中身がこそぎ落とされた上に、頭を切り落とされたゆっくりのデスマスク。 ぺちゃりと落ちて、身動きできないれいむの顔に張り付く。お互いの唇を重なって、ぺったりと。 「む、むぐううううう!」 同種の死骸といきなりのマウストゥマウスに、声にならない悲鳴。 「喜んでもらえて嬉しいわ。それじゃあ、リクエストにお答えして、もう一匹、お友達がそっちにいくわよ」 すでにひどい衝撃を受けているゆっくりたちへ向けて、さらに何かを投げ入れた女性。 れいむがデスマスクを払いのけるのと同時に、ぺっちゃっと水っぽいものが落ちてきた。 れいむは顔面で受け止めたそれの正体に気づく。 「ゆっ! ゆっくりパチュリー!?」 すでに亡骸となっているゆっくりパチュリーだった。いや、パチュリーが死んでいるのはよくあることなので、さしては驚かない。 問題は、その頭部。 ご自慢の三日月の飾りをつけた帽子が破れ、頭全体がぐちゃぐちゃに中身をかき回されていた。 死に顔は歪みきった苦悶の表情。どんな苦痛を経れば、こんな顔で死ぬのだろうか。 井戸の上から見下ろす女性、アリスの微笑みはお茶会に呼ばれた淑女のように楚々とした笑顔だったが、れいむには空恐ろしくて仕方なかった。 不意に、れいむの鼻腔をつんとした臭気が突き上げる。 気がつけば、周囲にたちこめた甘く腐ったような匂い。 パチュリーの中身が発酵して、強いにおいを放っていた。 その腐った餡はパチュリーを受け止めた二匹の顔のあちらこちらに飛散して、嫌な匂いをこびりつかせる。 「ゆっ!?」 ぶうんと喧しい音。れいむの耳元で騒ぎだす虫たちだった。匂いの強さに惹かれ、わらわらとれいむへも忍びよる虫たち。 見たことも無い大きさのムカデが、まりさの頬からにょっきりと頭をのぞかせる。 「や゛あ゛あ゛! よ゛ら゛な゛い゛でええええ!」 我を忘れ、いやいやと餡子を振り落とそうとするれいむ。 それが致命的だった。 ずるりと、壁からずり落ちるゆくりれいむの体。その動きを止めてくれていたまりさも、すでに押し返す力はない。 二匹とも、ずり、ずり、ずりと下がっていく。 「ゆぐうう! ゆぐうううううう!」 踏ん張ろうとしても、もう遅い。 落下は加速的に早まって、どんどん近くなる水面。遠くなる外の世界。 やがて、井戸に派手な水音が響き渡った。 その反響が収まると、もうゆっくりれいむたちは井戸の上から見えなくなる。 満足げに見届けたアリスは、井戸の上に新たな板を敷き、重石をのせた。 「それじゃあ、ゆっくりしていってね」 くすりと品のいい笑顔を残して、アリスは去っていく。 後には、もう何年も忘れ去られたような古井戸だけが残されていた。 七日目 井戸の底は、光の欠片もない真の暗黒。 出口はすでに閉ざされ、れいむは完全に日時の感覚を失っていた。 ここは井戸の底。にごりきった水面から、頭一つだけ上に離れた壁面。 朽ち果て、崩壊した石壁のでっぱり。そこへゆっくりれいむは口をひらき、顎が外れんばかりにくらいついていた。 れいむのほっぺにくっついたまりさは半身を水面に沈めている。 時折、ぶくぶくと気泡を吐き出して、虚ろな目で浮き沈みを繰り返す。 水に沈んだことで虫たちはある程度外に逃れてはいたが、代わってボウフラたちにまとわりつかれていた。 むわっと、淀んだ水の匂いがきつい。 そんな有様に、れいむはもう終わりが近づいてきたことを自覚しはじめる。 石積みブロックに喰らいついている顎も、がくがくと小刻みな震えが止まらない。 井戸は完全に封印されて、もはや人目につくことも望めなかった。 「うふふ……」 あぶくの合間に、相変わらずの親友の笑い声。 おそらく、ゆっくりまりさはもうダメだろう。 まりさの心が死んでしまうまでに、まりさへ大好きだったことをもっと伝えておけばよかった。 喧嘩してひどいことを言ったことを、謝りたかった。 でも、もう届かないし、口を離せば即座に二匹とも水面に転がり落ちるだけ。 ボロボロとひっきりなしにれいむの涙が零れ落ちていた。もう、何もかもが手遅れ。 せめて、死ぬ前にお母さんに会いたい。 会って、あの柔らかい体に飛び込んで大変だったよと、今までの話を伝えたい。 可哀想に、ゆっくりお休みと、受け入れてくれるお母さんの胸に甘えながら死にたい。 とっくに叶わなくなった、哀れな夢。 もう全てを諦めて、水に沈んでしまおうかと、何度も考える。 けれど、その惨めさが悔しくて悔しくて、れいむは結局石壁にかじりついていた。 このまま、果てて死ぬだけだとわかりきっていた、無駄な抵抗。 どれぐらい時間がたっただろう。 ほんのりと明るさを感じていた。 見上げるゆっくりれいむ。鮮烈な光を放つ天から、小さな、人に似た存在が何体も連れ立っておりてくるのが見えた。 天使というものだろうか。 ああ、自分は死のうとしているのだ。 なぜだか冷静に、れいむは天使たちを眺めていた。 天使たちはれいむの下に回りこむと、その体を掴む。 浮遊感。 ゆっくりれいむは井戸から静かに上昇していく。 ああ、ここから出られるなら、死んでもいい。 安らかなれいむの表情。 外の日差しの強さを感じながら、れいむはゆっくりと目を閉じる。 白く霞みがって遠のく意識。 その心地よさに身を任せていた。 「これで、いいのかしら?」 アリスは人形たちに引き上げさせているゆっくりれいむを見やりながら、傍らのゆっくりまりさに語りかけていた。 そのゆっくりまりさは、井戸の中にいるまりさと別の個体、アリスが最近飼いならしているゆっくりまりさだった。 「ありがどううううう!」 今は仲間の姿を見つめながら、アリスに涙声でのひたすらにお礼を繰り返している。 アリスに唇に苦笑がこぼれていた。 「私は本当にまりさに甘いわね」 昨日の夜、ゆっくりれいむたちの様子を夕食の話題に伝えたところ、仲間を助けて欲しいと泣きすがられてしまった。 どれだけひどくそのほっぺを抓りあげても、一向に黙ろうとしない。「箱」で脅されても「おねがい、だずげであげで!」と泣き喚かれて、アリスも少しだけの譲歩。 やがて人形に抱えられて、気を失ったゆっくりれいむが運び上げられてくる。 「まったく、暢気なものね」 楽しげにゆっくりれいむのほっぺたを、白く形のよい指先で弾いて遊ぶ。 れいむは昏睡したように起きる気配もない。 つづいて、れいむのほっぺたにくっついてまりさが姿をあらわした。 太陽の下、主だった虫たちはぽとぽとと井戸へ落ちていく。水をくぐったことも少し虫を減らしたのだろう。少しだけ、マシなまりさの顔。 「ゆ……?」 そのおかげか、光の眩さに目を覚ますまりさ。瞳にやんわりと光が戻ってくる。 やがて、視覚した目の前の光景に、光が強くなるまりさの瞳。 そこは、夢にまでみた外の世界だった。風がそよそよ心地よく、草むらの青い匂いが薫る森の中。 外にでたの……? 目を凝らしても変わりはない。 紛れもなく、外の世界だった。 ……助かったんだ。 救出を認識するなり、心の奥底から蕩けそうな安堵感に包まれてじんわりと涙がにじむ。 「ゆ、ゆっくりいいいい……」 続く喜びに体が震えていた。 心にこみあげる暖かさに、ほろほろと涙が止まらない。 幸せな気分で流す涙は、なんて気持ちがいいんだろう。 こうして見える全ての景色は、いきなり奪われて、奇跡の果てにようやく戻ってきたあたりまえの世界。 いや、もうあたり前の世界には見えなかった。 世界がこんなに素敵なことに、ゆっくりまりさは気づいてしまっていた。 果てしない空、どこまでも跳ねてゆける自分の体、愛情を確かめ合える友達。それがどれだけ貴重なことか、まりさには心から知ることができた。 さあ、この素晴らしい世界で、心行くまでゆっくりしよう。 まずは、ゆっくりと何をしようかな。 思いつくことは沢山ある。ずっと井戸の中でしたいと熱望していたこと。美味しいものを食べる、遊びまわる、安全な場所でゆっくりする…… だが、それにも増してまずしなければならないことがある。自分を許し、励まし続けてくれたゆっくりれいむに感謝と改めてお詫びをすること。本当にありがとう、そしてごめんなさいと、蕩けるまでゆっくり全身をこすり合わせたい。 その後はひたすらゆっくりしよう。体は大分ぼろぼろだけど、仲間たちに虫をとってもらってゆっくり休めば、きっとまた元に戻れる。 ゆっくりとした日常に戻れる。それだけで、もう涙が止まらない。 とめどなく頬を伝う暖かな落涙。 アリスはそんなまりさにそっと顔を寄せていた。 ようやく、まりさはアリスに気づく。 れいむをひっぱりあげる、人形たちの姿にも。 「……お姉さんが、助けてくれたの?」 「そうよ」 アリスの簡潔な言葉を受けて、心を突き上げてくる感謝の思い。 「あっ、ありがどう……! ほんとに、ほんとに、あ゛り゛がどうううううう!」 最後の力を振り絞ったゆっくりまりさの言葉を、アリスは優しげな眼差しで受け止めていた。 「あらあら。涙で顔がくしゃくしゃよ。女の子がそんな顔を汚しちゃだめよ」 「うん」 茶目っ気たっぷりに語りかけられて、ゆっくりまりさははにかんだ笑みで頷いた。 「それじゃあ、しっかり顔を洗ってきましょうね……」 「ゆ?」 アリスの言葉の意味を問い返す暇もなく、まりさに近づく影があった。 薄皮一枚で繋がるまりさとれいむの間をすうと抜けた影は、アリスの上海人形。 上海人形が両腕に抱えるのは、鈍く銀色の輝きを放つ、大きな大きな断ち切り鋏。 「ゆ?」 次の戸惑いの声がまりさの口からもれたとき、すでにその体は落下を始めていた。 断ち切られていた自分とれいむとの皮膚の結合。 下には、何も無い空間が口をあけているだけ。 それからの光景は、やけにゆっくりと見えた。 再び、井戸の口に沈み込む体。あと10cmでもずれていれば、縁にあたって外に転がり出るというのに、 体はすっぽりと井戸の中央。 すぐさま、暗闇が視界を支配する。 落下を続けながら天を見上げるゆっくりまりさ。 井戸の口はどんどん小さくなって、かつての光景のように遠ざかっていく。 もう、一緒に落下を耐えた友達はそこにはいない。 どこまでも落ちていく。 あれえ、夢かなあ。 惚けた台詞を呟くやいなや、底に着水して激しい水しぶき。 思ったより衝撃がないのは、水中に住む先客がまりさの体を受け止めれてくれたからだった。 井戸の底からぷかぷかと浮かぶのは、無数のゆっくりまりさたち。 すでに中身が井戸に溶け出して、ぶよぶよに膨らんだ皮だけが浮かんでいる残骸だった。 アリスが捕まえて、懐かなかったゆっくりまりさの成れの果て。 この井戸は、アリスの処分場となっていた。 しかし、まりさにそんなことはわからない。わかりたくもない。 「ゆ……ごぼ……ごぼぉ……」 まりさの体にできた虫食いの空洞から生まれる盛大なあぶく。 そのわき立つ水面の向こうで、閉ざされた井戸の天井をぼうっと眺めていた。 水をすった皮がぶよぶよに膨らみ始め、自分の皮で覆われていく視界。 ぎゅうぎゅうの皮におしこまれ、目の玉がとびだしそうに痛い。まるで、巨大な綱で常に締め上げられているよう。 間断ない痛みは、虫にたかられていた時以上に時の進みをゆっくりと感じさせた。 死ぬほど苦しい。でも、自分を殺すこともできない。 もう考られること一つ。いつ死ねるのかなということだけ。 中身の完全な腐敗、溶解まで後一週間ほど。 まりさのゆっくり生活は、ようやく折り返し地点を過ぎたところだった。 後編
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1323.html
前編へ 「ゆっくりしていってね!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 真夏の太陽を天に抱いた森の中、ゆっくりたちの声が木霊する。 大人のゆっくりのものが一つと、赤ちゃんゆっくりのものがたくさん。 群生する草を掻き分けて、最近の幻想郷ではよく見かけられるようになった、ゆっくり家族の姿が現れた。 「ゆっゆっ、おひさまきもちいいね!」 「ゆっくりできるね!」 「あ、アリさんがいるよ!」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 生まれてまだ間もないであろう、ミニトマト程度の大きさしかない赤ちゃんゆっくりたちは、元気にはしゃぎまわっている。 種類は全てゆっくり霊夢種であり、小さなリボンをはためかせて元気いっぱい飛び回る姿は人間の子供たちと左程変わりない。 そしてそんな微笑ましい光景を、後ろから優しい顔つきで見つめるゆっくりが一匹。 「あまり遠くに行かないでね!」 ゆっくり魔理沙だった。 バレーボール程度もある身体を揺らして、四方八方に行こうとする自らの子供たちに注意を向けている。 「おかあさん、アリさんいっしょにたべよ!」 「お母さんはだいじょうぶだよ! みんなで食べるといいよ!」 「わーい♪」 「ゆっくりたべるね!」 「おかあさんだいすき!」 列を成して歩くアリの集団を見つけた赤ちゃんゆっくりたちは、小さな舌を伸ばしてアリを食べ始める。 近くに湖が存在し、生き物がたくさん生息しているこの場所は、ゆっくりたちが過ごすには快適すぎるほどのゆっくりスポットだった。 幸せそうにアリを頬張る赤ちゃんゆっくりたちの姿を慈愛の表情で見つめるゆっくり魔理沙。 その左頬は、他のゆっくり魔理沙と比べて、ほんの少しだけ歪な形をしていた。 二週間前、人間の手によって失われ、そして再生した結果だった。 そう――このゆっくり魔理沙は、あの無礼な態度のせいで『お仕置き』されたゆっくりだった。 あの後、怪我による衰弱で意識不明の重態に陥っていたゆっくり魔理沙は、偶然通りがかったゆっくり霊夢に助けられた。 一週間の看病の末、餡子の大半を失っていた身体は万全とはいかないまでも回復。 お礼を兼ねての親愛の表現として身体を寄せ合って揺すり合い、ついムラムラしてそのまま性交に発展してしまった。 助けてくれたゆっくり霊夢は黒ずんで朽ちてしまったが、代わりに可愛い赤ちゃんがなんと七匹も生まれたのだった。 それからゆっくり魔理沙は母として、赤ちゃんたちを育てている。 右も左も分からぬ森の中での生活だったが、暮らし始めてみれば今まで暮らしていた場所より遙かに快適で、既に安住の地と化している。 あの男が言っていた野良犬やゆっくりれみりゃ、ゆっくりアリスの姿も見かけない。 ……あの男。 顔を思い出す度に、ゆっくり魔理沙の左頬がじくじくと痛み出す。 あの男には酷いことをされた。 ――しかし、あの男を怒らせるようなことを、自分は仕出かしてしまったのだ。 そう考えるゆっくり魔理沙。別に知能が上がったわけではなく、単にトラウマが生じているだけなのだが、本人はそのことに気付いていない。 ――今でも怒っているのだろうか。 あれ以来、人里には近付いていない。場所が分からないということもあるが、近付いてあの時と同じような目に合いたいとは、二度と思わなかった。 「おかあさん!」 思考に没頭していたせいか、ゆっくり魔理沙は自分の子供が目の前に来ていたことに気付かなかった。 慌てて思考を中段し、微笑みを作る。 「ゆっ、どうしたの?」 「みてみて、アリさん!」 赤ちゃんゆっくり霊夢が舌をべっと伸ばす。その先には、踏まれてぺしゃんこになったアリの死骸がくっついていた。 「えらいね! ちゃんととれたんだね!」 「ゆゆっ♪」 褒められたことが嬉しいのだろう、赤ちゃんゆっくり霊夢はその場で踊るように飛び回る。 その愛らしい姿を見て、ふと電撃のような閃きがゆっくり魔理沙の脳裏に浮かんだ。 この可愛い赤ちゃんたちを見れば、きっとあの男も許してくれるに違いない! それは人間からすれば何とも愚かな考えだったが、今のゆっくり魔理沙にとって天啓ともいえる閃きだった。 早速赤ちゃんたちを全員呼び集め、高らかに宣言する。 「今からお兄さんのおうちへしゅっぱつするよ!」 「ゆ?」 「おにいさんってだれ?」 「ゆっくりできるの?」 「とてもゆっくりできるよ! おいしい食べ物があるし、れいむたちよりも大きなれいむもいるよ!」 「ゆゆっ!?」 「いきたい!」 大はしゃぎする赤ちゃんゆっくりたち。「ゆっ♪」「ゆっ♪」と楽しげにその場で飛び跳ねている。 それが静まるのを待ってから、ゆっくり魔理沙は記憶を頼りに道を歩み始めた。 「それじゃ、ゆっくり行こうね!」 「「「ゆっくりいこうね!!!」」」 時は少し遡り、早朝。 俺は知人の美鈴さんから習った太極拳を練習していた。 別に拳法に目覚めたわけではなく、ここのところ働き詰めだったので、健康のためにやっているだけだ。 ゆっくり魔理沙に『お仕置き』してから一週間くらい経ったころだろうか、俺の勤め先でちょっとしたトラブルが生じた。 それ自体は解決したのだが、それの尻拭いのために俺や同僚たちは朝から深夜までずっと駆り出され、今日まで一週間ずっと働きっぱなしだったのだ。 おかげでゆっくり霊夢には寂しい思いをさせてしまった。こういうとき、畑仕事をしている人が羨ましいと思ったりもする。 だけどまぁ、五年前に外の世界から迷い込んできた外来人である俺に土地なんてあるはずもなく、こうして家を持てただけでも大したものなのだろう。 「……ゆ?」 ゆっくり霊夢が眠りから目覚めたようだ。きょろきょろ周囲を見渡し、俺と目が合うや否や、 「ゆっくりしていってね!」 とお決まりの挨拶。 うぅん、相変わらずぷりちーなナマモノだ。 頬ずりしたくなる衝動をグッと堪えて、朝食の準備に取り掛かる。 その間ゆっくり霊夢はずりずりと腹ばいで俺の足元に近付き、ずっと身体を摺り寄せていた。 普段こいつが起きる前に家を出ていたので、久しぶりのスキンシップが取りたいのだろうか。 萌え死ぬ。 足の親指で頬のあたりをくすぐってやりながら、てきぱきと料理を作る。 外の世界のガスコンロと比べて竈は使い辛い(そもそも使ったことが無かった)が、今ではすっかり慣れたものだ。 今日は夕飯にも再利用出来るシチューを作る。 器に注ぎ、おひたしに鰹節を振りかけて醤油をかけた皿と丁度炊き上がったお米を並べて完成。 テーブルの上に乗せ、少量を別の皿によそうと、ゆっくり霊夢が食べやすいように床に置いた。 「いただきます」 「ゆっくりいただくね!」 ゆっくり霊夢は舌を器用に使い、零さず綺麗にご飯を平らげる。うーん、美しい。 おっと、感心してないで俺も早く食べなくてはな。 外の世界にいた頃と比べてずいぶん質素になった朝食を手早く食べ終え、皿を水の入った桶につけておく。帰ったら洗おう。 「じゃあ、行ってくる。今日は通常業務だからいつもの時間に帰れるよ」 「ゆっ、本当!?」 「ああ。それに明日はお休みも貰っている。一緒に遊ぼうな」 「ゆっくり待ってるね!」 ゆっくり霊夢に見送られながら、俺は家の扉を閉めようとして―― ごしゃん。 「……」 忙しくて修理する暇のなかった扉が、ついにご臨終なされたようだった。 なんか変な方向に曲がっており、動かそうとしてもビクともしない。 どうしよう、時間をかければ直せそうではあるが、そうすると仕事の開始時間に間に合わない。 扉は中途半端に開いたままだ。別に泥棒に盗られて困る貴重品はないが、野犬やゆっくりたちが入り込んでくる可能性もある。 仕方無いので、雨漏りの修理用に何本かストックしてある木の板を裏から持ってきて、扉の前に置いた。 あとは野犬の目の高さくらいの位置にいらなくなった新聞紙を米を糊代わりにしてくっつける。 突撃されたらすぐ剥がれてしまうが、多少の目眩ましにはなるだろう。 「いいか、知らない人が来ても追い返すんだぞ。お前のリボンにつけたペット証があれば、誰もお前を傷付けないからな」 「わかったよ!」 ちょっと心配だったが、仕事はしないといけない。 俺は何度も振り返りつつ、家を後にした。 時間は過ぎて、三時を過ぎたころ。 ゆっくり霊夢が主人の作ってくれた手製の滑り台で遊んでいると、何処からか自分を呼ぶ声が聞こえた。 どうやら玄関の方かららしい。この家に来客は滅多に来ないので、ゆっくり霊夢は多少警戒しながら扉に近付いた。 「ゆっ、誰かいるの?」 「れいむ! まりさだよ!」 「ゆゆっ、まりさ!?」 聞こえた声は、懐かしい知人のものだった。 二週間前、たった一日だけ遊んだ友達。主人から家に帰ったと聞かされて残念な思いをした記憶が蘇る。 板と新聞紙の隙間から外を覗くと、確かに見覚えのあるゆっくり魔理沙の姿があった。 「どうしてここに?」 「遊びに来たよ! ゆっくりさせてね!」 「ゆゆっ! ゆっくりしていっ……ん……」 「……? れいむ、どうかしたの?」 ゆっくりしていってね、とお決まりの台詞が聞けると思ったゆっくり魔理沙は、訝しげな視線をゆっくり霊夢に送る。 ゆっくり霊夢を引き止めたのは、主人が出かける前に言った言葉だった。 『知らない人が来ても追い返すんだぞ』 何者かがこの家に来たのなら、自分は追い返さなければならない。 しかし…… 「ゆっくり入れてよ! れいむに見せたいこどもたちもいるんだよ!」 「ゆっ、子供!?」 ゆっくりとしての本能を刺激する単語に、ゆっくり霊夢はぴくりと反応して顔を上げた。 「そうだよ! みんな、れいむにあいさつするんだよ!」 ゆっくり魔理沙の言葉に、板の向こうから赤ちゃん特有の甲高い声が幾重にも折り重なって唱和された。 「ゆっくりしていってね!」 「おねえちゃん、おかおがみえないよ!」 「はやくいれてね!」 「そこはゆっくりできるところなの?」 「ゆっくりさせてね!」 ゆー、ゆーと甘い鳴き声。ゆっくり霊夢は理性と本能のせめぎ合いでおろおろする。 主人は、ゆっくり魔理沙たちが部屋に入ることを是としないだろう。 しかし、赤ちゃんたちを見たい衝動が心の内よりどんどん溢れてくる。 主人への忠節を取るか、自身の抑えがたい興味を優先させるか。 悩みに悩んで、ゆっくり霊夢が取った行動は、 「今、この板をどけるよ! ゆっくり下がってね!」 ゆっくり魔理沙たちは知らないゆっくりじゃないから大丈夫だという、後先を考えない愚者の選択だった。 「おねえちゃん!」 「ゆっくりしていくね!」 「ゆっ、ゆっ♪」 赤ちゃんゆっくりたちに纏わり付かれながら、ゆっくり霊夢は幸せだった。 加工所で生まれ、この家に引き取られてからずっと、ゆっくり霊夢は赤ちゃんというものを見たことがなかった。 ペット用のゆっくりは英才教育を受けるために誕生してすぐ親元から引き離され、ゆっくりブリーダーと呼ばれる人間の下で厳しい訓練を受けることになる。 だが、生まれたばかりの蜂が教わらなくても狩りの仕方を熟知しているように、種族の本能的な部分は親と子の愛情関係を完全に理解していた。 赤ちゃんゆっくりたちを見てゆっくり霊夢の中に浮かんでくる感情は、間違いなく『愛』と呼ばれるものだった。 「うわー、すごいね! ゆっくりできるものがたくさんあるよ!」 「みんなでゆっくりしようね!」 ゆっくり赤ちゃんたちは大はしゃぎで、家の中を飛び回っている。 特に目を引いたのは、主人がゆっくり霊夢のために作ってあげた手製の玩具の類だった。 滑り台にブランコ、蛙人形やシーソーなど、さながら小さな遊園地といった風情である。 赤ちゃんゆっくりたちは玩具に駆け寄ると、思う存分ゆっくりし始めた。 列を作り、順番に滑り台を滑り。 ブランコに乗って、どちらがより高い場所まで行けるか競い合い。 蛙人形に群がって、ゆっくりれみりゃ退治ごっこをして。 シーソーを使って、自分の身体が沈んだり持ち上がったりする感覚を楽しんだ。 生まれて一週間、森の中でこんな遊びをしたことはなかったのだろう。赤ちゃんゆっくりたちは終始はしゃぎっぱなしだった。 ゆっくり霊夢もそんな赤ちゃんたちに付き添うように遊んでいたのだが、 「ゆ~……ふぁ……」 急に眠気を感じ、ふらふらと壁にもたれかかってしまった。 今日までの一週間、ずっと帰りの遅い主人を待ち続け、早く寝ないで夜遅くまで待っていた結果がこれだった。 眠ってはいけないと思いつつ、意識が闇の中へと沈んでいく。 やがてくぅくぅと寝息を立て始めたのを、離れて赤ちゃんゆっくりたちを見守っていたゆっくり魔理沙が発見した。 「れいむ、れいむ?」 「ゆっ……くぅ……」 揺すっても起きない。 赤ちゃんゆっくりたちが、心配したかのように駆け寄って来る。 「おかあさん、おねえちゃんどうしたの?」 「つかれて眠っちゃってるだけだよ! しんぱいしないでゆっくり遊んでてね!」 ゆっくり魔理沙はゆっくり霊夢は起きないよう、小さな声で告げる。 だが赤ちゃんゆっくりたちは動かない。集まってきたのは、ゆっくり霊夢が心配だったからだけではないからだ。 「おかあさん、おなかすいたよ!」 「なにかたべさせてね!」 朝食の蟻を食べてから、この家に来るまでずっと移動中だったゆっくり魔理沙たちは、その間何も口に入れていなかった。 それに加えて、今激しい運動をしてきたばかりである。 空腹を訴えるのも当然の行動だった。 「ちょっと待ってね! お兄さんが帰ってこないと……ゆっ?」 言葉の途中で、ゆっくり魔理沙は鼻をひくつかせる。 漂ってくる、いい匂い。 食欲を促すその香りは、台所の竈の上に置いてある鍋のほうからしていた。 「あっちに、ご飯があるよ!」 ゆっくり魔理沙は竈のほうへと近付いた。 そこにはこの家の主人が今朝方作ったシチューの入った鍋がある。 だが、鍋はかなり高い位置に置かれており、普通は届く距離ではない。 ただ竈は角の部分が先に行くほど少しずつ丸みを帯びていく構造になっており、角の先端はゆっくりにとってただの坂と呼んでも差し支えない形状になっている。 あの部分まで飛ぶことが出来れば、鍋に届くかもしれなかった。 「いくよ!」 ゆっくり魔理沙は助走をつけ、竈の少し手前で思い切りジャンプした。 浮遊感。一瞬の空白の後、坂道の部分にギリギリ身体が届いた。 間髪入れず、もう一度ジャンプしようとする。 だが坂道での踏ん張りが効かずにバランスを崩し、そのまま床に落下してしまった。 「ゆぶっ!」 衝撃。口から餡子が少しはみ出る。 「おかあさーん!」 赤ちゃんゆっくりたちが心配して駆け寄ろうとするのを、ゆっくり魔理沙は静かに押し留めた。 「だ、大丈夫だよ! ゆっくりそこで見ててね!」 ゆっくり魔理沙は何事もなかったかのようにニッコリ笑うと、もう一度チャレンジするために距離を取る。 無論、痛くないわけではないが、それでも子供たちを心配させないために我慢しなくてはならない。 それは親になったゆっくりとしての本能だった。 「……ゆっ!」 気を落ち着かせ、もう一度トライ。タイミングを見計らって、竈の坂道へ一直線に跳躍する。 べしゃっ、と身体が押し付けられる感覚。その感覚を維持したまま、ゆっくり魔理沙はもう一度ジャンプした。 一瞬の緊張。果たして自分はどうなった? 答えは、身体に触れる床の感触で分かった。 ゆっくり魔理沙は、見事に竈の上に着地していたのだった。 「ゆっ! ゆっ!!」 「おかあさん、すごい!」 遙か下方で、赤ちゃんゆっくりたちがやんややんやの喝采を母親に送る。 その声に満足しながら、ゆっくり魔理沙は鍋に近付いた。 この鍋を持って床に降ろすのは、物理的に不可能だということくらいゆっくり魔理沙の知能でも分かった。 ならば、方法は一つしかない。 「ゆっくり落ちていってね!」 体当たり。がん、という衝撃と共に鍋の位置が少しずれる。 もう一度アタック。ずず、ずず……と少しずつ鍋がぐらつき、そして…… がしゃーーーん!!! 豪快な音を立てて、鍋が竈から転がり落ちた。 床にぶちまけられるシチュー。掃除するのにかなり苦労することになるだろうが、無論ゆっくりたちはそんなこと知ったことではない。 赤ちゃんゆっくりたちは歓声を上げてシチューに群がり、ぱくぱく食べ始める。 「ゆっゆっ、つめたいけどおいしいね!」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 「うっめ!!! メッチャうっめこれ!!!」 その様子を幸せそうに眺めていたゆっくり魔理沙は、床に水の入った桶が置いてあるのを発見した。 後で皿を洗うために浸けていたものだが、ゆっくり魔理沙にとってその桶は飲み水にしか見えなかった。 「みんな、お水もあるよ!」 地面に慎重に下りると、ゆっくり魔理沙は躊躇無く桶も引っくり返す。 水が一面に溢れ出し、勢いよく流れ出た皿は地面を擦って何筋もの傷を付けた。 「ゆゆっ、ちべたーい!」 「おみず、きもちいいね!」 「ごくごく、おいしーい♪」 赤ちゃんゆっくりたちは大はしゃぎ。風呂代わりに水浴びしたりするゆっくりまで現れる。 皆にとって、ここは最高にゆっくり出来る環境だった。 「……ゆっ!? みんな、何してるの!?」 と。 先程鍋を落とした音で目を覚ましたゆっくり霊夢は、台所の惨状を見て驚愕の声を上げた。 「あ、れいむ!」 ゆっくり魔理沙はぴょんぴょん飛び跳ね、フリーズしているゆっくり霊夢に近寄る。 そしていかにも自分は幸福です、というような顔で、 「おにいさんがまりさたちのために用意してくれたばんごはん、美味しいね!」 「……」 ゆっくり霊夢は口をぱくぱくさせるだけで反応しない。 「……? どうしたの、れいむ?」 不審そうな表情を浮かべるゆっくり魔理沙。気付いた赤ちゃんゆっくりたちも二匹の周囲に駆け寄った。 「おねえちゃん、どうしたの?」 「ゆっくりしていってね!」 「おねえちゃんのぶんもまだあるよ!」 悪意のない赤ちゃんゆっくりたちの言葉。 ゆっくり霊夢は何とか餡子の底から声を絞り出そうとして、 「ゆっくり霊夢っ!!!」 叫び声と、ぶち壊す勢いで開けられた扉の音にびくりと身体を硬直させた。 それは、ゆっくりが進入しないように置いておいた板が外れているのを発見し、慌てて帰宅した主人の声だった。 「ゆっ……ゆっ!?」 これはマズい、とゆっくり霊夢は思った。 何がマズいのかは分からなかったが、とにかく本能的な危険をゆっくり霊夢は感じていた。 どたどたという足音、そして、 「ゆっくりれいっ……む……」 惨状を見つけてしまう。 目を見開き、硬直する主人。 ゆっくり霊夢は固まったまま反応出来ない。 「……ゆっ!」 だが、大きな声に少し驚いたゆっくり魔理沙は、自分がここに来た目的を思い出した。 「みんな、来て!」 「ゆっ?」 「おかあさん、どうしたの?」 突然闖入してきた初めて見る人間の姿を興味津々に眺めていた赤ちゃんゆっくりたちは、母の言葉を受けてゆっくり魔理沙の周囲に集まる。 「みんな、お兄さんに『挨拶』するんだよ!」 「「「ゆっ!!!」」」 朝、ここに来る道中で母に教わった『挨拶』。 赤ちゃんゆっくりたちはぽかんと口を開けっぱなしの男に向かって、精一杯の愛らしい顔で、 「「「ゆっくりしていくね!」」」 言った。 ゆっくり魔理沙は順繰りに赤ちゃんたちを見渡し、 「お兄さん、この前はごめんね! 赤ちゃんたちをとくべつにかわいがっていいから許してね!」 そして、 「だから、みんなでここに住まわせてね!」 その日、ゆっくり霊夢はゆっくりれみりゃやゆっくりフランなど足元にも及ばない恐怖を味わった。 それはいつかの『お仕置き』すらも凌駕する、圧倒的なまでの修羅の形相だった。 「おにいさん、ここからだして!」 「おなかすいたよ!」 「ここじゃゆっくりできないよ、おうちかえる!」 赤ちゃんゆっくりたちの声。 俺はいらついた風を装い、ゆっくりたちを閉じ込めた透明の箱を蹴り上げる。 「五月蝿い、殺されないだけありがたく思え!!!」 「ゆゆっ!!?」 衝撃と振動。 赤ちゃんゆっくりたちは怯えて隅に固まり、震えながら泣き出してしまった。 「やめてね! 赤ちゃんたちに酷いことしないでね!!」 と、こっちはゆっくり魔理沙。 赤ちゃんゆっくりたちを入れた箱とは別の小さな透明の箱に詰められ、ずいぶんと苦しそうだ。 子供たちを庇おうとするその姿勢は、いつかの自分勝手な姿からは想像出来なくて少し吃驚する。 「お兄さん、まりさたちを許してあげて!」 更に別の箱、こちらは少し空間のゆとりがある透明の箱の中で、ゆっくりれいむは俺に温情を訴えかける。 ゆっくり魔理沙たちを家の中に入れてしまった罪で閉じ込められてなお、友達の安否を気遣うとは……流石我がペット。 ぶっちゃけた話、俺は別にそこまで怒り心頭というわけではなかったりする。 確かにあの惨状を目にした瞬間、ちょっと怒りの沸騰点が限界を超えかけた。 でもそこを鋼の精神でぐっと堪え、ゆっくりたちを閉じ込めるだけに留めている。 何故殺さなかったのか? 勿論『殺害』という直接的な攻撃を俺が嫌っているというのもある。 だがそれ以上に、 「ほーれほれ」 「ゆゆっ!? お、おかあさーん!」 「ゆっくりやめてね! 赤ちゃんを放してね!!!」 こいつらの泣き叫ぶ声と必死の表情が、最高に俺の心を満たしてくれる。 殺してしまったら、この愉悦は味わうことは出来ない。 自分の唇がすごい勢いでひん曲がっているのを感じる。 蓋を少し開き、赤ちゃんゆっくりの一匹を掴み上げた。 ああ、ゆっくり魔理沙の懸命な顔……そそる。 「しかしぷにぷにしてんなー、こいつ」 掌に乗せた赤ちゃんゆっくりの頬を突く。 最初は優しく、そして少しずつ力を込めて。 「ゆ、ゆゆっ、いたいよ! ゆっくりできないよ!!!」 最初はくすぐったそうにしていた赤ちゃんゆっくり霊夢だったが、力が入ると苦しそうな声を上げた。 その様子を見て、ゆっくり魔理沙が半狂乱で泣き叫ぶ。 「な゛ん゛でごん゛な゛ごどずる゛の゛ぉ゛ぉぉぉぉ!!?」 「何故? 分からないのか?」 いつかのような質問。あの時の痛みを思い出したのか、ゆっくり魔理沙がびくりと震える。 「ここは、誰の家だ?」 「お……お兄さんのおうちです……」 おぉ、覚えていたか。感心感心。 「で、お前は何をしていた?」 「あそんでました……」 「それは別に構わん。その次だ」 「お兄さんが用意してくれたおゆうはんを」 「違う」 赤ちゃんゆっくり霊夢にデコピン。 結構本気で叩いたからか、「ゆ゛ーっ!!!」と泣き出してしまった赤ちゃんの姿を見て、慌ててゆっくり魔理沙が訂正する。 「まりさたちのじゃないおゆうはんを勝手に食べてしまいました!」 「そして?」 「お水も勝手に飲んでしまいました!」 「ふむ」 もう一度デコピン。赤ちゃんゆっくり霊夢の泣き声が激しさを増す。 ゆっくり魔理沙は俺の動きを止めようと必死に箱をガタガタ揺らした。 無駄な努力ご苦労さん。 「さっき言ったよな? ここは俺の家だって」 「そ、そうです、だから赤ちゃんをゆっくり放してね!」 「あ?」 「は、放してください!」 ゆっくりが敬語を使ってるのは面白いなぁ。 「で、お前は人の家で、俺が俺のために作ったシチューを床にぶちまけたわけだ? お前の都合のために?」 「あやまります! あやまりますからまりさの赤ちゃんにひどいことしないでぇぇぇ!!!」 ゆっくり魔理沙の顔はもう涙で皮がべちょべちょになっていた。 うはぁ、やべぇ。超快感。 だけど台所の掃除と扉の修理で時間を使いすぎた。 はっきり言って俺は眠い。 今日はゆっくり魔理沙に『絶望』を知ってもらうだけで終わらせてしまうか。 俺は泣きながら俺の手を逃れようとする赤ちゃんゆっくり霊夢を指で掴むと、 「あーん」 「ゆ゛ゆ゛っ!!?」 大きく口を開き、奥歯に挟んだ。 「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇ゛ぇ゛ぇ!!!」 そんなに騒がなくても食わないよ。 まだ。 俺は奥歯に挟んだ赤ちゃんゆっくりを見せ付けるように、ゆっくり魔理沙と他の赤ちゃんゆっくりたち、そしてゆっくり霊夢の箱を順繰りに回る。 「いいか、今からお前に問題を出す」 うっ、しゃべりづらい。 「お前が十秒以内に答えられたら子供は助けてやる。答えられなかったら子供は食われる。分かったな?」 「わ、わかったからいそいでもんだい出してね!」 歯と歯の間で母の名を呼びながら泣き叫ぶ(口の中に振動が起きて少し気持ち悪い……)赤ちゃんゆっくりを見つめて、ゆっくり魔理沙は俺を急かす。 おやおや、ゆっくりのくせにゆっくりしないでいいのかな? まぁいいや。 「問題。ゆっくり魔理沙には七匹の子供がいます。ある日ゆっくりれみりゃに襲われて二匹殺されてしまいました――」 逃げた先でゆっくりフランの群れに遭遇してしまい、また二匹無残に殺害されました。 更に発情期のゆっくりアリスと出会ってしまい、ゆっくり魔理沙は子供の一匹を犠牲にして逃れました。 しかし家に帰ると、そこはゆっくり霊夢の一家に占拠されていました。 ゆっくり霊夢たちに押し潰され、また一匹子供が死んでしまいました。 そうこうしてるうちにお腹が空いてしまったゆっくり魔理沙は、残った子供をぺろりと食べてしまいました。 さて、子供は現在何匹残っているでしょう――? 「ゆっ!? ゆ、ゆっくり……」 ゆっくり魔理沙は顔を顰めて考え出す。 くくく、所詮ゆっくりブレイン、答えられまい。 しかもゆっくりれみりゃなどの天敵の名前をわざわざ出している。本能的な恐怖で冷静な思考なで出来ようはずもない。 「なーな、ろーく」 「ま、まってね! ゆっくりかぞえてね!」 「ごー」 焦ってるゆっくり魔理沙も可愛いなぁ。 その頬を引っ張りたい。 「さーん、にー」 「ゆゆゆゆっくりしてね!!! ゆっくりして」 「いーち」 「ゆ……う゛わ゛あ゛あ"ああぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛!!!」 「ぜろー、残念でしたー」 やっぱり無理だったか。 ゆっくり魔理沙は何とかしようと、目に見えて暴れ出した。 だが狭い箱の中、己を苦しめるだけだ。 俺は口の中から聞こえる赤ちゃんゆっくり霊夢の泣き声を聞きながら、他の赤ちゃんゆっくりたちを閉じ込めた箱の前に移動した。 「おにいさん、なんでこんなひどいことするの!?」 「はなして! いもうとをはなしてね!」 「ゆっくりできないおにいさんはゆっくりしんでね!」 口々に喚きたてる赤ちゃんゆっくりたち。だけど俺が箱を蹴ると大人しくなる。 「非常に残念だが、こいつは死ぬ。あーあ、残念だなぁ。お前たちのお母さんがちゃんと問題に答えられてれば、こいつも助かったのになぁ」 まるでゆっくり魔理沙が全て悪いような言い方。 勿論、どう考えても悪いのは俺なのだが、ゆっくりの餡子脳ではそんなこと分かるはずもあるまい。 「お前たちのお母さんのせいでこいつは死ぬのかぁ。あーあ。酷い親だよなぁ」 「ゆっ!?」 「そんな、おかあさん!?」 赤ちゃんゆっくりたちが一斉に母親の方を振り向く。 ゆっくり魔理沙は違うと言いたげに身体を少しだけ揺らした。本当は首を振りたかったのだろうが、箱が狭くて身動きが取れないのだ。 「ち、ちがうよ! おかあさんは赤ちゃんをたすけようとしたよ!」 「それなら赤ちゃんは助かってるはずだよなぁ。もしかしたら、お前たちも見殺しにされるかもなぁ」 論理の破綻した言葉。 だが、それは赤ちゃんゆっくりたちを突き動かす原理になる。 「ひどいよ、おかあさん!」 「ここにつれてきたのもおかあさんだったよね!」 「れいむたちがひどいめにあってるのもおかあさんのせいなんだ!」 「おかあさんはゆっくりしね!」 「「「ゆっくりしね!!! ゆっくりしね!!!」」」 「や゛め゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! ぞん゛な゛ごどい゛わ゛な゛い゛でぇ゛ぇ゛ぇぇ!!!」 子供を護ろうと必死だった母親が、護ろうとした子供たちに糾弾されて泣き叫ぶ。 人間ならば同情を誘う光景だが、こいつらはゆっくり。 快感しか生まん。 「さて」 俺は再びゆっくり魔理沙の前に戻り、口の中を見せた。 相変わらず、奥歯に挟まってがたがた震えている赤ちゃんゆっくり霊夢の姿がそこにある。 「こいつを助けたいか?」 「だずげであ゛げでぐだざい゛ぃ゛ぃ!!!」 「うん、でも駄目」 ぷちん。 俺は口を開けたまま、見せ付けるように奥歯で赤ちゃんゆっくり霊夢を押し潰した。 飛び散る餡子。意外と美味しいが、それよりも生命を奪った生理的な罪悪感を覚えてしまうのは俺がゆっくりを愛している所以か。 「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!!」 ゆっくり魔理沙のこれ以上ないという悲鳴。 いいね、ゾクゾクする。 先程の罪悪感はそれで消し飛んだ。 さて、じゃあ眠るとするか。 明日は休みだ。 もっと遊ぼうな、ゆっくり魔理沙…… 続く。? このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1417.html
ご注意 ※一部独自解釈を含みます。 ※今回はあまりゆっくりを虐待していません。 それでも宜しければ、お楽しみ頂ければ幸いです。 魔法の森からそう遠くないとある丘の一角に、人間の里を見下ろすように立つ屋敷 そこにはちょっと変った男と、ちょっと変ったゆっくり達が住んでいました。 そしてその屋敷の扉には、こう書かれた看板が下がっていました。 「ゆっくり改造工房 ここだけでしか手に入らないゆっくり、お作りいたします 品種改良から整形、改造、インテリア、能力強化まで」 マイスタ ゆっくり改造職人のお話 「ちんちーん」 一番鳥が鳴く声で男は目を覚ました。ゆっくり職人の朝は早い。 しかし何時聞いても酷い鳴き声だな……声の質自体は良いんだけれど。 ブツブツ呟きながら洗顔と支度を済ませて居間に下りると、既に彼の助手が食事の支度を終えた所だった。特徴的な耳がゆらゆら揺れている。 「あ、師匠、おはようございます」 「おはよう。あのゆっくり目覚ましの声、なんとかならないの?朝っぱらから卑猥なんですが」 「改造したの貴方でしょうに……ゆっくりみすちーなんか素材に使うからですよ」 「アイディアは良かったと思うんだけどなぁ」 苦笑する助手と漫才しつつ食事を取る。 「そういえば、この前作った試作型四足歩行まりさですが」 「おお、アレは跳躍行動を止めさせるのにえらく苦労したっけなぁ。行動半径が広がったから野外牧場に移してたが、どうだ調子は?」 「全員死んでました。機動力を生かして夜のうちに柵を飛び越えて逃げようとしてたはいいものの、着地を考えておらず 地面に激突して骨折した所をそのまま野生動物の餌になったようです」 「Oh…………」 食事が終わると、助手とともに多目的ゆっくり飼育場の様子を見に行く。 「むっきゅ~~!親方、おはようございますなの!」 「むっきゅ~~!今日もお仕事がんばりますなの!!」 「おはよう、もう他のゆっくり共の朝の餌やりは済んでいるな?じゃミーティング始めるぞ」 出迎えたのは10匹のゆっくりパチュリーだった。一般的にゆっくりパチュリーは体が弱い脆弱種となっているはずだが ここにいるパチュリーは全員が野生種の数倍体が大きく、血行の良いなんとも精悍な体つきをしている。 話す言葉も聡明であり、腰?には反抗的なゆっくりを制裁する為の警棒、帽子には彼女等の地位と権力を示すバッジがつけてあった。 彼女たちは男が、飼育所管理用に特別調教したエリート達である。 ゆっくり改造には、生きた状態の大量多種類のゆっくりが必要となる。 改造のメインボディーとなるゆっくりだけではなく、パーツ移植用、練習用、研究用に体質変化の為の飼料用など、膨大な数のゆっくりが使われるからだ。 それら全ての世話を、彼と助手だけで行うのは時間的に厳しく、かといって沢山人を雇う余裕も無い。 そこで考えたのが、ゆっくり種の中でも体は弱いが比較的頭がよく、雑務を命令するのに適したゆっくりぱちゅりーの教育であった。 まずは薬物と手術で強制的に巨大化、長命化させたゆっくりぱちゅりーを使い子供を大量に養殖、 そして生まれた数多の子供の中でも特に知性が高く従順なものを選び抜き、特別訓練を施す。 特別な栄養を与え、筋トレをさせ、ゆっくり飼育場に必要な多種多様の知識、特に他のゆっくり命令を出す為の帝王学を学習させる。 その中でノルマを達成すればよい食事を与え可愛がり、成績が悪ければ拷問を、命令に従わないものには死を与えることで、主人への一層の依存と忠誠心を植えつけた。 それが終わるといよいよ最終試験として、訓練済みぱちゅりー達を当時の収容所……もといゆっくり飼育場に放り込み、彼女等以外の全ゆっくりを完全に命令に従う状態にするよう命じた。 当然ゆっくりたちは猛然な反発をし、ぱちゅりー側にも相当な犠牲が出たが 訓練済みパチュリーたちは強い団結とナチス顔負けの恐怖政治で反対勢力を無力化し、とうとう飼育場を完全にその支配下に置くことに成功した。 こうして飼育場は修羅場を潜り抜けた歴戦のパチュリーたちによって管理され、労働力の問題はようやく解決されたのである。 「じゃぁ今日の仕事を伝えます。パチュリーA、B、Cは通常通り、部下と一緒に飼育場の清掃と給仕をお願い。 D、Eは農園の管理。最近野菜の数が合わないわよ、犯人を捕まえて見せしめで殺しなさい。適当に下手人を立ててもいいわよ。 F、Gは野外農場と家の周りの清掃。使う労働力は適当に見繕って。 Hは人体実験済みゆっくりの経過記録、Iはロボトミーれみりゃ軍団をつれて森の罠の回収に向かって頂戴 J、貴方は私と一緒に家内の清掃よ。 以上、解散!」 助手の掛け声とともに、パチュリーたちは一斉に持ち場に散っていった。 一通り飼育場を見て周ってから母屋に戻ると、助手が本日最初の依頼者を案内してきた。 見た目は40を過ぎた位の裕福そうな男。話を聞くと町の実業家だそうだ。 「それにしても珍しいですね。ゆっくり加工場にも永遠亭にも属さずに、個人でゆっくりの改造を行っているとは。」 「私は商売人でも研究者でも無く職人ですからね……まぁ半分は自己満足みたいなものです。 予算と時間さえ頂ければ、大抵のゆっくりは作って差し上げますよ。一体どのような改造をお望みですか?」 「それは……」 実業家氏は暫く口篭っていたが、やがて意を決したように言った。 「実は私の愛するゆっくりれみりゃの肉体を、できるだけ人間に近く改造したものが欲しいのです」 「HENTAI目的ですね。わかります。」 慎重に言葉を選んだ実業家の努力を、男は爽やかにブチ壊してくれた。 「い、いやわわたしは何も……」 「そう恥ずかしがることでもありません。実際人間タイプのゆっくりの改造を希望される方は、9割方性行為も視野に入れた愛玩が目的ですからね。 人として自然な欲求ですよ。比較的プラトニックなものから非常にサディスティックなものまで、その程度は様々ですが」 淡々と男は説明する。もっとも彼自身にはそういう趣味は無い。 だが彼のその言葉で、男性の心の殻は必要以上に破れてしまったようだ。 「そ、そうですよね!私は決してアブノーマルなんかじゃ無いですよね!それなのに世間一般の奴等はこぞってそういった趣味の人間を危険人物のように…… 大体少女愛や獣姦は太古から行われてきたことで、そのオルガズムは……」 「(うわ……地雷踏んじまったよ……)」 男の後悔をよそに実業家の熱弁は止まらない。そのまま10分近く演説を聴かされた所で、助手が盆を手に部屋に入ってきた。 「お茶をお持ちしました…………ごゆっくり」 「あ、こりゃどうも……」 罰の悪そうな表情で湯飲みを受け取る実業家。助手は笑顔で二人に一礼すると静かに部屋を出て行った。 「あはは、可愛い方ですな……ひょっとして奥さんですか?」 「ご冗談を、ただの助手ですよ。」 「……私達の会話、聞かれてましたかね?」 「多分」 気まずい空気を振り払うように、二人は改造仕様の具体的な協議に入った。 身長は原型のままでよいか? Aよい。ロリコンこそ正義 体型は? A歳相応に健康的に、だが胸は膨らみかけで 爪の移植は? A無くてよい。爪きりめどいし 髪の色は?顔の輪郭は?足の長さは?etc etc etc…… 大まかな注文が纏まると、男はそれを元に必要予算の見積りを出す。 提示された金額は、依頼者には払えぬほどでは無かったが、幻想郷の物価からすれば相当な高額であった。 「むぅ……少しお高いですな。」 苦言を呈す実業家に、男は反論する。 「お言葉ですが、ゆっくりというのは生物学的に見て、普段我々が思う以上にデリケートで予測困難な存在なのです。その施術の難しさは計り知れません。 単にゆっくりを切り刻み、肉体をくっつけるだけなら子供にでも出来ます。 しかし技術と欠いた手術は術後も傷跡が残ったり、施術した部分が歪んで再生したり、壊死したりと時間の経過につれて問題が噴出します。 そして何より、ゆっくりの潜在的な寿命を大きく縮めてしまうのです。 私が高額の料金を取るのも、そのような悲劇を防ぐ為に入念な下準備をおこない、最高の素材を用いた上で施術を行うからです」 「しかし、実際どの程度劇的な差ができるものかは……」 未だ渋い顔をしている実業家に、男は頷いて言った。 「まぁ言葉だけでは実感が沸かないとは思います……。では、サンプルをお見せしましょう おーい、キモ子!」 手を叩いて助手を呼ぶ。程なくして先程お茶を運んできた少女が、耳をピョコピョコ揺らしながらやってきた。 「お呼びですか師匠?あと次にその名前で呼んだらブン殴ります。Please call me レイセン, OK?」 「いや、かといってその名前は色んな意味で不味い気がするんだが……特に永夜ファン的に…… それはそうと、お客さんがお呼びだぞ」 「いや、私は人間型ゆっくりの改造サンプルを見せていただけると聞いただけで……」 困惑する実業家を前に、レイセンと名乗った少女は自分を指差すとニコニコ笑いながら言った 「でしたら、ここに。お疑いでしたら試しに触ってみてくださいな」 「いやいやいや(サワサワ)……ん(サワサワ)……え………うそぉん!!」 差し出された手を握ったまま、思わずのけぞった実業家を素早く支えつつ、男が話しかけた。 「はい、素晴らしいリアクションをありがとうございます!ええ、間違いなくゆっくりですよ。私の最高傑作です。 元々彼女は超特別製でしてね……迷いの竹林の奥深くにあるとされる永遠亭 そこでしか確認できない希少種『ゆっくりうどんげ』の中の、更なる突然変異『きもんげ』なのです。」 まだ口をパクパクさせている依頼者を横目に、男は説明を続ける。 「突然変異故、生まれつきゆっくりらしからぬ非常に高い知能を持っていたものの その顔面があまりにも、殺人的に、ウザくて不細工だった為に、仲間のゆっくりからも屋敷の住人からもひたすら嫌われ、いぢめられていました。 とうとう拷問の末処分されるというその一歩手前の所を、私が頼み込んで譲って貰ったのですよ。 それから半年程かけて、私の持っていた全ての知識と技術を投入し、整形手術を行い 見事『全米ブサイクな兎コンテスト』優勝候補だった彼女を、美少女として蘇らせることに成功したのです!」 苦笑いしている助手の肩に手をおいて、男は胸を張る。それは手塩にかけた自慢の娘を紹介する父親のようだった。 「しかし信じられない、どう見ても人間そのものだ……」 実業家の言うとおり、少女はどう見てもゆっくりには見えなかった。 身長も体型もゆっくりの胴長短足とは程遠いスレンダーなもの、そのくせ出ている所はしっかり出ている。 顔は睫毛から耳の形まで完全にモデルとなったであろう月兎の美少女を再現しており、実際に肌に触れてみない限り誰もゆっくりとは気付かなかったであろう。 「まぁ家一軒は余裕で建てられるほどの金を費やしましたので……素材も墓からにんg……ゲフンゲフン ともあれ、ダッチワイフもどきに金を捨てたと親族には罵られ、婚約者には逃げられましたが、結果には満足しています。」 苦笑する男、しかしその話を聞いた依頼者の態度は明らかに変わっていた。 「感動しました、貴方は男の夢の体現者だ!是非とも私にもその力をお貸し下さい、お願いします!!」 「解って頂けましたか。」 二人の男は堅い握手を交わし、その後つつがなく商談は成立した。 「……なお、体型等はなるべく其方の要望通りに作らせて頂きますが、顔についてはオリジナルに若干のアレンジを加えさせていただきます あまりに紅魔館の主そっくりに作ってしまいますと、万が一本人の目に留まった場合ほぼ確実に殺されますからね」 「なるほど……承知しました。」 実業家が帰ってしばらくしてやって来たのは、男が暮らす家の一つ隣にある村の村長だった。 「これは村長、いつもお世話になっております。今日はどういったご用件で?」 「いやー、実は……」 村長の話は次のようなものだった。 最近、村の畑をゆっくりの群れが徒党を組んで荒らすようになった。 これまでゆっくりの被害にあったことの無かったその村では、慌てて柵を作ったり罠を張ったりして対策を練ったが そのゆっくり達は長く生きて悪知恵に長けているのか、罠は看破するわ柵は地面を掘って進入するわでまるで効果が無いのだという。 しかも夜更けなど人が畑にいない時間を見計らって襲撃してくる。毎日畑に見張りを出すわけにもいかず、村人全員弱りきっているのだか。 「と、いうわけです。何か良いお知恵はありませんか」 「なるほど。それなら丁度良いモノを作っていた所です」 そう言って、男は村長を飼育場の方に案内した。 「あーー、にんげんだー、こんにちはーー」 「あそんでくれるんだねー、わかるよーー!」 「ゆっくりしていってねー」 村長が案内された飼育場の一角では、数匹のゆっくりちぇんが遊んでいた。 男達を見つけるとぴょんぴょんと飛び跳ね近づいてくる。 元々性格の良い個体が多いゆっくりちぇん種だが、ここで飼育されているちぇんは特に人間への警戒心が薄いようだった。 「ただのゆっくりちぇんじゃないですか……こいつらを番猫にしろとでも?」 「まぁ見ていて下さいな」 落胆する村長を尻目に、男はあるものをちぇんたちの前に放り投げた。 「ゆっ!」 それは一匹のゆっくり霊夢だった 柵の内側に投げ込まれたゆっくり霊夢。最初は男達に文句を言っていたがちぇんたちの姿を見ると笑顔になってすりよっていく。 「ゆっ!おともだちがいるよ!ゆっくりあそぼうね!!」 だが、その姿を見たゆっくりちぇんたちの取った行動は、彼女の期待とは真逆のものであった。 「ゆっ!てきがおちてきたよっ!」 「ころすんだね!わかるよわかるよーーっ!!」 「さっさとしね!むごたらしくしね!!」 突然表れたゆっくりれいむに対して、殺気をむき出しにするちぇんたち 先程まで優しい光をたたえていた双眸は、れいむを睨むと大型肉食獣のごとく吊り上がり 歯を剥き出しにした所を見ると、その口の中にはゆっくりちぇん種には似合わぬ凶悪な牙がズラリと並んでいる。 更には体をぶるぶると震わすと、刹那、その背中からは歪な翼が飛び出してきた。 「「「ゆっくりしねぇ!!!」」」 「どぼちてぇぇぇ!!!gbふぁa」 声をあげると、ちぇんたちは一斉に哀れなゆっくりれいむに飛びかかった。 牙で裂き、翼でえぐり、その体に似合わぬスピードで踏み潰す。 男達の目の前で、れいむはあっという間に原形を留めぬ汚いミンチとなっていった。 「これがわが工房の『高機動ちぇんF型』です。」 唖然としている村長を横目に、男は解説を入れる 「通常、ゆっくり同士の生体間移植は同種でしか成功しません。 種族ごとに、彼らの体を構成する『餡』が異なり、別種のものを入れても拒絶反応を起こして壊死してしまうからです。 しかし例外的に、彼らの皮膚や歯、羽や洋服といったいわゆる『皮』で出来た部分は、組成成分が近いせいか拒絶反応が少なく、移植が成功する場合があります。 これらのちぇんは、まだ拒絶反応が少ない幼少のうちに歯を全て引き抜き、代わってゆっくりふらんの歯と翼を移植したものです。 施術を施したものの多くは拒絶反応によって死にましたが、一部はこうやって生き残りました。 その後も、ゆっくりへの凶暴性を高めるために餌にゆっくりふらんの血肉を混ぜて与え続けたり 餓死寸前になるまで干しておいてから、徐々に他の生きたゆっくり種を餌として与えるなどして 最終的にこのような優秀なハンターとなるまで鍛え上げました。ゆっくり狩りには最適ではないでしょうか。」 その後も男は死亡率を下げるべく切開面を少なくしようといかに工夫したか、翼と背筋餡の接続にいかに苦労したかを延々と語り始めたが、村長は既に聞いていなかった。 呆然としてゆっくりちぇん達を眺める。先程まで殺戮に興じていたちぇんたちは、今は何事も無かったかのように嬉々として助手の少女と戯れていた。 「しかし聞いたところ、一匹のちぇんを強化するにはかなりの労力と費用がかかる様子 元々弱いゆっくりちぇんをわざわざ改造して強くするよりは、れみりゃ種を捕獲して番犬代わりに使った方が良いのでは?」 と、気を取り直して村長が疑問を呈す。 貴方は何も解っていない。魔改造したジムでビグザムの群れを殲滅できるようにするのが男のロマンでしょうが! と、男が独自の美学に基づいて反論しようとする前に、改造ちぇんを抱えてひょっこりと助手が顔を出した。 「それについては、私からご説明させて頂きます。 ゆっくりれみりゃは捕食者としては優秀ですが、いかんせんゆっくりの中では1,2位を争う頭の悪い種族。 散々苦労して仕事を覚えさせても、ある日突然蝶々を追いかけていなくなってしまった、などというのもよくある話です。 一方ゆっくりふらんはれみりゃほど知能は低くないもののプライドが高く躾が難しい、 下手に暴力で言うことを聞かせようとすれば、自殺してしまうことすらあります。 そして何よりこの2種は希少種です。最近養殖モノが出回り始めたとはいえ、未だに一匹辺りの値段は高い。 その点この改造ちぇんなら母体のゆっくりは安価に手に入りますし、移植する羽と翼は一匹のゆっくりふらんからいくらでも手に入ります。性格も良く躾も簡単。 忠誠心と有用性、コストパフォーマンスの全てを備えたこの改造ちぇんこそ、次世代を担う番犬ゆっくりなのです!」 相変らず良く回る口だと、村長に立て板に水のセールストークを続ける助手を見ながら、男は呆れ気味に思った。 助手に迎えてから解ったことだが、この元きもんげは金儲け関連の仕事をさせると抜群に上手い。 彼女に言わせると「人間が金儲けに関して抜けすぎているだけ」だそうだが、本人に商売の素質があることは間違いないだろう。半分詐欺まがいの商売を発案することもあるが…… 職人としてのこだわりから、しばし将来性や採算度外視の仕事に走る男と足して二で割って、丁度良くバランスが取れているといえる。 とか何やら男が考えているうちに、助手と村長の間では 村長の家で暫く試用期間を設けた上で、効果が認められれば村を代表して正式に購入する、という話が纏まったようだった。 「可愛がってあげて下さいね」と手渡された改造ちぇんを大切に胸に抱え、村長は村に帰っていった。 結局その日、新たに職人の下を訪ねてきた客は二人 一人は自分の飼っていたゆっくりが大きくなりすぎたので、餌代節約の為にサイズダウンさせて欲しいという男 もう一人はペット用ゆっくりアリスの避妊を依頼してきた業者で、ダンボール一杯に子アリスを詰めた物を置いていった。 「4件か……まぁ多い方かな。今日は準備だけに留めて、施術は明日から始めるとしよう」 「最近仕事もコンスタントに増えてきていい感じでんなぁ。スケベパワー様々や」 「……その似非方言は止めろと言っているだろ、関西人に失礼だ」 すみません、と助手は舌を出す。たまに偽関西弁が出るのも彼女に言わせると「きもんげの特性」だそうだ。 みっともないから男も注意し、本人も普段は注意しているのだが、たまに気を抜くとつい出てしまうのだとか。 そういえばこの前家計簿をつけさせたときも、札をカウントしながら 「どんだけ中身が薄くても、タイトルに東方ってつけて表紙どんげにすればアホがぎょーさん買うていく。笑いが止まらんわぐっへっへ」 とかなんとか言ってたが、あれは一体何のことだろうか。 「……まぁ、一番手間がかかる施術さえ元々生命力の高いゆっくりれみりゃの改造だ。失敗の可能性は薄いだろう。 コツさえ知っていれば誰にでも出来る、大工仕事だよ……たまには難易度の高いパチュリーの改造等をしてみたいねぇ。」 「そんなこと言っていますが、顔は笑っていますよ?」 美しい顔にニヤニヤ笑いを浮かべて助手は指摘する。この辺の性格は改造前とあまり変っていないな、と男は思った だがまぁその通りだ、なんだかんだと文句を言いつつ、自分は明日の仕事を楽しみにしている。 改造は、楽しい。 子供が粘土で「ぼくだけのかいじゅう」を作るように、男は自分の思うがままにでゆっくりに手を加える。 ゆっくりの命を切り貼りし、肉体を繋ぎ合わせ、醜い部分を削ぎ、綺麗な部品を加え、新たな生命として蘇らせる。 命を媒介にして行う粘土遊び。命を弄ぶ行為、神への冒涜と言われようと、これほど面白い遊びはこの世には無い。 安定した収入を捨て、これを生業に選らんだことで失ったものも多かったが、男は微塵も後悔してはいなかった。 「とりあえず俺はパチュリーどもと夜のミーティングを済ませてくる。お前jは明日使う器具と素材を準備してくれ。それが終わったら飯だ。」 「了解しました、師匠!」 助手と別れて飼育場に向かう男の目は、まるで明日は何をして遊ぼうかと考えている子供のように輝いていた。 後編に続く このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/2146.html
※作者は新人です ※明治時代を意識してにわかの知識で書いてみました ※独自設定注意 鳥の鳴き声で私は眼を覚ます。 そろそろ起きなければいけない時間のようだ。 私はその場に立ち上がり、大きく伸びをする。 今日も幻想郷は良い天気だった。 私は家庭菜園を営んでいる。 まあ、家庭~と付けるくらいだから、予想は出来るだろうが、規模は正直に言うとあまり大きくはない。 だが、いくら小さくてもこの菜園は私の食いぶちでもあり、命綱だ。 そう考えれば、そう文句も言うべきではないのだろう。 私はそんなことを考えながら、外へ出かける準備を始めた。 何銭かの金を手にして、私は市場へ出掛ける。 目的は水と同居人の飯だ。 そこで、私は幾分かの水と砂糖を手に入れる。 私の家の近辺には井戸は無いので、どうしても飲み水は水売りに頼らざるを得ない。 「痛い出費だよな…」と思わず愚痴が出てしまう。 砂糖の方は…当然、同居人の飯だ。 私は砂糖だけをすするほど惨めな生活をしている訳ではない、と幾許しかない自尊心を自分の中で大きくする。 人間、弱気になったら負けなのだ。 「おにぇ~しゃま~~~!!」 「あしょぼ~よぉ~~!!!」 「きゃははは~~~♪」 「さぐや~!!だずけで~~!!!!」 「…おや?」 帰り道を急ぐ私に、子供のような声が聞こえる。 どこから聞こえるのかと辺りを見渡してみると、そこには空に浮いている生首があった。 あれは最近、この幻想郷でよく見られる『ゆっくり』というものだ。 そのゆっくりの中でもなかなかお目にかかれない『ゆっくりれみりゃ』1匹と『ゆっくりふらん』3匹が私の視界内にいた。 「さぐや~~~!!!!」 「おにぇえしゃま~~~~!!!!」 『ゆっくりれみりゃ』は泣きながら必死に『ゆっくりふらん』3匹から逃げようとしている。 知り合いの自称ゆっくり研究家という奴の話によれば、『ゆっくりふらん』は『ゆっくりれみりゃ』を常に追い求めているらしい。 捕まえた後に自身の住処にその『ゆっくりれみりゃ』を連れてきて、一緒に住むというものらしい。 ここまでならばほのぼのとした良い話だが、この話はそこで終わらない。 なんでも奴が言うには、ふらんはれみりゃを巣までお持ち帰りした後、れみりゃの羽を千切ってれみりゃを逃がさないようにするらしい。 そこでそのれみりゃが死ぬまで大事に大事に、しかし、時には痛めつけて泣かせ、そして決して巣の外かられみりゃが出ないようにしながら暮らしていくらしいのだ。 お前はそれをどこから見ていたんだ、と言いたくもなったが、 そいつは「やんでれでさでぃすとでしすこんなふらんちゃんうふふ…」とか訳がわからないことを言い始めた為、私はその場から逃げ出した。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~~~」 「おにぇしゃま~~~~~!!!!!!」 「つかまえたよぉ~~~~~~~!!!!」 「はやくかえろ♪かえろ♪」 どうやられみりゃがふらん達に捕まったらしい。 見ればれみりゃは3匹のふらんに全身を甘噛みされているようだ。 「ざぐや~~~~~~!!!!!だすげで~~~~~!!!!」 れみりゃは叫んでいるが、誰も助けられない。 4匹は私が手を伸ばしても届かない高さにいるのだ。 そして近くに私しかいない以上、当然誰にも助けられない。 れみりゃはそのままお持ち帰りされてしまった。 そうこうしているうちに私は自分の家までたどり着く。 自称ゆっくり研究家だという奴の話を信じれば、先程のれみりゃはこれから不幸な人生(?)を送ることになるだろう。 しかし、私は必ずしももそうなるとは思えない。 何故なら 「うっう~♪」 「おにいさんおかえり~♪」 私が家の中に入ると、同居人である『ゆっくりれみりゃ』と『ゆっくりふらん』が出迎えてくれた。 先程はまだ寝ていたようなので起こさずに出かけたが、どうやら私が出掛けている間に起きたようだ。 私はこの2匹を飼い始めるきっかけは突然のことだった。 ふらんがれみりゃの羽を口に咥えたまま、私の家に飛んできたのだ。 何故私の家に飛んできたのかはわからないが。 ちなみにれみりゃは「ざぐや~~~!!!」と泣いていた。 先程帰り道で見たれみりゃのように無理矢理お持ち帰りされたのだろう。 私もその時の気紛れで「おなかすいた~!」と言うふらんに砂糖を出したのが良かったのか悪かったのか。 いつの間にか、れみりゃも泣いていたのを忘れて砂糖にかじりついていた。 「「あまあま~♪しあわせ~♪」」 静かな私の家にそのような可愛らしい叫び声が響き渡る。 一人暮らしが何となく寂しかった私もそいつらに気を許し、そのまま2匹は私の家に住み着いてしまったのである。 何故先程のれみりゃが不幸だとは限らないと言ったのかはもうわかるだろう。 私の家に住んでいるれみりゃとふらんは非常に仲が良い。 まあ、暮らし始めたばかりの段階ではれみりゃはやはりふらんに怯えていたようだが、ふらんもれみりゃに特に危害を与えることもしなかったので、今ではすっかり仲が良くなってしまったようだ。 と、そんなことを考えている私の服を2匹が口で引っ張る。 「おなかすいた~♪」 「あまあまちょ~だ~い♪」 「わかったわかった」 私は食欲旺盛な2匹に苦笑しながら、先程買ってきた砂糖を2匹の前に置く。 勿論、出したのは買ってきた砂糖全てではない。 全部出したらこいつら全部食べてしまうし。 「うっう~♪しあわせだぞぉ~♪」 「おいしいね♪おねえさま♪」 満面の笑みを浮かべる2匹。 そんな2匹に私は癒されながら、今日の畑仕事に取り掛かる。 この2匹の笑顔をいつまでも見ていたいと願いながら。 後書き ここのゆっくり小説を見て、私も何か書いてみたいと思い、とりあえず最初は短編と言う事で書いてみました。 これからここに投稿させていただくこともあるとは思いますが、よろしくお願いします。 ちなみに、私の中のフランはお姉様一筋です。 かわいいなぁ…これからもどんどん書いていって欲しいです! -- 名無しさん (2010-12-25 20 06 19) れみふらはジャスティス -- 名無しさん (2010-12-31 02 37 25) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/204.html
ゆっくりるーみあ 「なのかー」 夕闇の空のなかゆっくりるーみあが空を飛んでいた。 美しい金髪、紅く燃える瞳、ゆっくり種の中でも段違いに白く美しい肌。 ゆっくりるーみあは肉食種であるが、基本的にのんびりとしていて実にゆっくりらしい性格である。 「わはー」 笑顔ではねるゆっくりるーみあ。 宵闇ゆっくりとも言われるゆっくりるーみあにとって夕闇の時間帯は一番心躍る時間帯であるのだ。 これから来る楽しくて心地の良い夜。 西の空を眺めながら完全な日没を心待ちにしている。 地面にうつるゆっくりるーみあの影が徐々に長くなっていく。 辺りは暗さを増し、徐々に徐々にと闇が支配していった。 今夜は雲一つ無い美しい夜である。 月の蒼い光に美しい肌と金髪が生える。 さほどお腹が空いていなかったため原っぱでゆっくりと月光浴をすることにしたゆっくりるーみあ。 「きょうは満月なのかー」 紅い瞳が楽しそうに気持ち良さそうに笑う。 ゆっくりるーみあにとってここまで心地の良い夜も久しぶりだった。 ゆっくりるーみあが時を忘れ月光浴を楽しんでいると、月に黒いシルエットが横切る。 一つ、二つ、三つ、四つ。 「とりなのかー」 ゆっくりるーみあは小型の鳥も食べる。 もし捕食できるサイズだったら晩飯でもいいなと思いながらゆっくりと眺めていると、 影がこちらへと近づいてきた。 宵闇ゆっくりであるゆっくりるーみあは夜目が利く。 長く伸びた牙、奇妙な形の翼。 近づいてくるそれらがゆっくりフランであることに気づく。 「危険なのかー」 ゆっくりるーみあも肉食種であるが、同じ肉食種の、れみりゃ、フランに比べると段違いにゆっくりるーみあは弱い。 下手をすればゆっくり霊夢の群れに負ける程である。 慌てて逃げ始めるゆっくりるーみあ。 相手は肉食種最強の四匹のゆっくりフランである。 当然るーみあに勝ち目は無い。 飛び出すものの、その速度は実にゆっくりで、高スピード、高攻撃力が売りのアサルトゆっくりの異名をもつゆっくりフランから逃げ切れるはずは無い。 「ゆっくりしね!!」 上の方から叩きつけられ、錐揉み回転しながら落ちていくゆっくりるーみあ。 「やーーー、なっ!!」 鈍い音をだして叩きつけられるゆっくりるーみあ。 他のゆっくりよりも頑丈なため一命は取り留めるもののダメージは大きい。 「もうだめなのかー」 ゆっくりるーみあはもう諦めていた。 この四匹のゆっくりフラン達に食い裂かれるのだ。 ゆっくりフラン達が近づいてくる。 「うー、うー」 それぞれ楽しそうに声を上げるゆっくりフラン。 「いだぁあ!!」 ゆっくりフランがゆっくりるーみあの背中に噛み付き引きずっていく。 「うー、うー」 刺すような痛みの中捕食される恐怖に震えるるーみあ。 四匹のゆっくりフランがゆっくりるーみあを取り囲む。 ゆっくりるーみあにとっては本当に恐怖である。 「うー、うー」 首狩族のようにゆっくりるーみあの周りで声を上げながら反応を楽しむゆっくりフラン。 ゆっくりフラン、その性格が残虐と言われるのは、獲物を捕食前に甚振るのが所以である。 嗜虐心を煽るゆっくりるーみあのその様子はゆっくりフランにとって何よりのご馳走だった。 突然、ゆっくりるーみあの体に衝撃が走る。 「飛ばされるのかー」 そのまま地面に落ちころころと転がる。 「うー」 ゆっくりフランが転がってきたゆっくりるーみあに体当たりを加える。 「また飛ばされるのかー」 再び宙に舞うゆっくりるーみあ。 蹴鞠のように弄ばれるゆっくりるーみあ。 「うー、うー」 「ゆっくり死ね、ゆっくり死ね」 歓喜の声をあげるゆっくりフランとは対照に擦り傷を増やし、声をか細くしていくるーみあ。 「やめてー」 もういっその事一思いに食べて欲しかった。 残酷なゆっくりフランの仕打ちに心身ともに甚振られていく。 残酷な蹴鞠はしばらく続き、もうゆっくりるーみあは傷だらけで偶に声をあげる程になっていた。 これで仕上げとばかりに大木に向かって一匹のゆっくりフランが大木に当たるよう目一杯体当たりをする。 「ゆっくりしね!!」 渾身の体当たりを受け飛んでいくゆっくりるーみあ。 薄れ行く景色のしかしの中で迫ってくる大木が見えた。 「も、もうだめなのかー」 その様子を楽しげに見守るゆっくりフランたち。 そのとき、突然突風が吹いた。 ゆっくりるーみあは突風にその進路を変えられ、木の枝に一度引っかかったあと墜落した。 仕損じた。 その様子を見て、落下地点へと駆け寄るフランたち。 どうやら茂みに落ちたらしいが、直ぐに場所の見当が付いた。 ゆっくりるーみあがつけていたと思われる真っ赤なリボンが茂みに引っかかっていたからである。 「うー、うー」 それを見つけ仲間達を呼び寄せる。 もう、逃げる体力はあるまい、そう踏んで余裕たっぷりに茂みに集まる四匹のゆっくりフラン。 みな、にやにやしながらこれからの残酷な宴の想像をしていた。 突然茂みから黒い影が猛スピードで飛び出す。 「うーーーーーーー!!」 ゆっくりフランのうちの一匹が大きな悲鳴を上げた。 仲間達が悲鳴の先を見ると、リボンが外れたゆっくりるーみあがフランに喰らい付いている。 「がっ、がっ」 何故弱小種であるはずのゆっくりるーみあが仲間を? 三匹のゆっくりフラン達が呆然としている間に、ゆっくりるーみあがゆっくりフランの頬を噛み切った。 「うーーーーーっ!!」 今まで外敵に攻撃など受けたことの無いゆっくりフランである。 大きな混乱に包まれていた。 口の端から餡子を漏らしながら美味しそうに咀嚼するるーみあ。 仲間が固まっているうちに、震えるばかりのゆっくりフランに噛み付いては、引きちぎり、噛み付いては引きちぎり。 もうゆっくりフランは見る影も無く、皮と餡子の塊に成れ果てていた。 「ゆっくりしてくのかー」 先ほどとは別ゆっくりのような様子のゆっくりるーみあに突進していく一匹のゆっくりフラン。 このゆっくりフランはゆっくりるーみあに同胞が負けたのは奇襲のせいだと踏んだのだ。 遺されたフランたちは判断を誤った。 「うーーー」 一直線にゆっくりるーみあに向かっていくゆっくりフラン。 衝突すると思った次の瞬間。 「うっ!!」 ゆっくりるーみあは消え冷たい土の感触。 「うっ!? うっ!?」 混乱しながら辺りを見回すゆっくりフラン。 そのとき上に気配を感じた。 「う?」 上を見上げたときにはもう遅い。 上空から自重と重力を利用して突っ込んでくるゆっくりるーみあ。 「ぶべぇ!!」 二匹目のゆっくりフランも醜く餡子を漏らし潰れた。 一瞬で最強種といっても過言ではないゆっくりフランを絶命させたゆっくりるーみあ。 「あわわわわわわ」 目を見開き、口を広げ震える二匹のフランに向き直るゆっくりるーみあ。 真っ赤に燃える瞳は地獄のよう。 普通のゆっくりるーみあとはもはや別種と言っていいほど、雰囲気が変わっていた。 ゆっくりるーみあには震えながら羽を広げる姿が十字架のように見えた。 「フランは磔にされました?」 そう笑い声を上げるゆっくりるーみあ。 ゆっくりフランが別々の方向へと逃げ出した。 「ううーー、うー」 そのゆっくりフランは全速力で夜の闇を飛んでいた。 理解できなかった。 なぜ弱小種であるるーみあにここまでフランたちが圧倒されたのか。 そのときゆっくりフランは初めて恐怖という感情を覚えた。 いままで、自分達に追い詰められた獲物は成す術も無く甚振られ死んでいった。 反撃を試みてくる種もいたが、全て一蹴にした。 なのになぜ、あいつは、あいつは。 「うーっ!!」 遠くから、同種のものと思われる悲鳴が聞こえた。 どうやら自分はターゲットにされなかったようだと、安堵のため息をつくゆっくりフラン。 自分は助かった。 当分は湖周辺に篭ろう。 そうだ、ゆっくりれみりゃたちを苛めて楽しく過ごせばいいのだ、 「なんで、逃げるの」 突然後ろから声がした。 忘れもしないあのゆっくりるーみあの残酷でよく通る冷たい声。 緊張で再びピーンと羽を広げるフラン。 くすくす、という笑い声の後 「フランは磔にされました」 それがゆっくりフランが聞いた最後の音であった。 ゆっくり大辞典:ゆっくりるーみあ 夜行性かつ肉食だが大概のるみーあ種はのんびりとした性格で ゆっくりを捕食するよりも小型動物や昆虫を食し、月夜の晩にゆっくりとしていることが多い。 しかし、頭部のリボンが外れた場合、運動能力が増し上位肉食種と拮抗して戦闘する事例も報告されている その日も綺麗な満月だった。 リボンをつけていないゆっくりるーみあは月光を浴びながら、原っぱで気持ち良さそうにゆっくりとしていた。 written by TAKATA
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2833.html
紅魔館といえば、悪魔が住む屋敷として有名な場所である。 しかし、その主はお祭り好き。 そして、幻想郷も多少近代化してきた折、いろいろと外来の文化が入り込んできた。 今日はクリスマスイブ。 紅魔館は朝からパーティーの準備で忙しい。 「さくや〜〜♪ パ〜ティ〜の準備はどうなってるの?」 「飾りつけは終わりました。後は料理の完成を待つだけです」 「そう。それじゃあ、私は霊夢を呼んでくるわ」 それだけ言い残して、紅魔館の悪魔は神社の方へと飛んでいった。 ついでに越冬中のゆっくりれいむの巣を破壊しながら。 「う〜〜♪ さぐや〜〜♪ ぷっでぃ〜んぱ〜て〜はすすんでるんだぉ〜〜?」 「はいはい。あと少しで終わりますよ」 「う〜〜♪ ぷっでぃ〜〜んだどぉ〜〜♪」 そしてもう一匹。 屋敷に住んでいる、ゆっくりれみりゃが咲夜を尋ねてきた。 このれみりゃ、元々は咲夜が飼い始めたものであったが、棟の咲夜は最近興味が無いようである。 曰く。お嬢様のように扱き使ってくれないから。だそうだ。 「さてと。……」 ぱたぱた走り去っていくれみりゃの後姿を背中で追いながら、咲夜は厨房へと姿を消した。 ======= 「うっう〜〜♪ あうあう〜〜♪」 何時にもましてご機嫌なれみりゃ。 そのわけは、今日はクリスマスと言う特別な日であることであった。 「う〜〜!! ざぐやーー!! ざぐやーー!!」 「およびですかおぜうさま!!」 迷子が親を探すような口調で呼んだのは、一匹のゆっくりであった。 さくや種であるそのゆっくりは、最近連れてこられたもので、れみりゃの近くにいることが多い。 「しゃぐや〜〜♪ きょうはくっりすすうがくだどぉ〜〜♪」 「そうですねおぜうさま!! きょうはぜんやさいです!!」 いまいちかみ合っていない会話だが、それでも二匹は意思の疎通が取れるらしい。 その証拠に、れみりゃはいつも通りニコニコとして、さくやも嬉しそうにしている。 「うっう〜〜♪ とうとうじっこうするときだどぉ〜〜♪」 「そうですね!! おぜうさま!!」 主に、本家姉妹とその従者が行ったならば、相当の雰囲気を出せるであろう言葉を発した二匹は、いそいそと自分達の部屋に戻っていった。 「うーー!! う〜〜〜!! くろうぜっとにいしょ〜〜がいっぱいだどぉ〜〜♪」 ダンボールで区切られた一角。 その中にあるダンボールの中から、手袋や原色まぶしい長靴などを取り出すれみりゃとさくや。 簡単な着衣にたっぷり時間をかけ、漸く準備が整ったようだ。 「う〜〜♪ じゅんびばんたんだどぉ〜〜!!」 「それでは、まいりましょうおぜうさま!!」 そのまま、玄関を抜け門へ。 珍しく揚げパンを食べていた美鈴に、ケーキを取っておけと命令し、そのまま門の外へ。 そして、自慢の羽を広げいざ目的地へ。 さくやが、1/2程の速さでついて行く。 ======== 人里。 午前中、半獣の先生がやってる寺子屋に、サンタコスをしてプレゼントを届け終えた男は、貰った謝礼金で酒を買い家に戻っていた。 ちなみにその服は森の魔法使いが作ったものであったが、受け取る際。 「これをきて、魔理沙に…………うふふ。うふふ」 などと訳が分からない事を言っていたが、一日寺子屋で先生を見て、男も完璧に理解したようだった。 「さぁーて。いい夢見れるように酔っ払うか」 淡い夢を思い描きながら、玄関を開け、中に一歩入ろうとしたときだった。 「うっう〜〜♪ まつんだどぉ〜〜!!」 「そうですわ!!」 聞きなれない声を聞いたのは。 「?」 男は意味が分からなかった。 どう見ても、目の前にいるのは飼いゆっくりである。 手袋や靴を履いていることから分かる。 そして、それは紅魔館のゆっくりであろうと言う事も分かった。 キャラクターがデザインされた手袋に、長靴。 そこに、ぜんせかいれみりゃさま!!! とかかれていたら安易に想像できる。 「で? なんか用?」 分からないのは何故ここにいるか。 たしか、いまの時間は紅魔館でパーティーをしているはずで、メイド長も急がしいはず。 永遠亭の主もそれに行っているので暇だ、といって手伝ってくれた女性が言っていた事を男は思い出していた。 「う〜〜♪ かんたんだどぉ〜〜♪」 「そうですわ!!」 「れみりゃが、およめさんになってあげるんだど〜〜♪」 「…………へ?」 じっくり一呼吸おかれて話されたれみりゃの内容に、男は一瞬で言葉を返した。 「だから〜〜♪ れみりゃがおよめさんになってあげるんだどぉ〜〜♪」 この男、間違っても、ゆっくりを恋愛対象になど見ていない。 そもそも、ロリコンでもない。 薬売りの兎の目を見てもその様な事はない。 むしろそのまま兎に惚れることは間違いない。 「う〜〜〜♪」 対するれみりゃは、余程絶対の地震があるのだろう。 何時にもましてすばらしい笑顔で男の事を見つめている。 ========= このれみりゃ。 以前、咲夜のお使い際に連れられて街に来たとき、男を一目見て一目ぼれした。 新しく出来た、カスタードケーキがとかいは美味しい今川焼き屋のオープンスタッフとして、首から下、怪獣のぬいぐるみを着てプラカード持ちをやっていた男。 れみりゃは、男のその服と甘い匂いを嗅ぎ、いても経ってもいられず咲夜をなきながら呼びつけた。 当初は、何故ないているのか分からなかった咲夜であったが、店を指差し泣いているれみりゃを見て納得し、十個ほど今川焼きを与え、泣き止んだ事を見てから自身の用事を再開した。 それはそのときで終わったが、れみりゃはその後も男の姿をちらほらと見かける事になった。 主に、自分が気に入った、新しく出来たスイーツの店に、必ず気ぐるみを着てやってくる男。 当初はただ単に喜んでいただけであったが、咲夜が構ってくれなくなってくると、いつも甘いお菓子と服を着ている男にが気になっていた。 咲夜のれみりゃ熱が冷め、比較的自由に外に出れるようになってから、男の後を付けて家を見つけることも出来た。 ゆっくりでも分かりやすい立地であった事も幸いしたが……・。 そうして、その頃になって、れみりゃは男と結婚する事を考え始めた。 =========== 「うっう〜〜♪ こんなかわいくて、こうまかんのあるじなんだどぉ〜〜♪ おまえにふじゆうはさせないんだどぉ〜〜♪」 紅魔館の主。 これこそがれみりゃの自信を絶対のものへと昇華させていた。 おまけに飛びっきりのおめかしもした。 まさに完璧だった。 「ふ〜〜ん……。で、お前は一人でここまで来たの?」 「ふ〜〜♪ このさくやといっしょだどぉ〜〜♪ で〜も! ふたりっきりになりたいなら、さきにかえすどぉ〜〜♪」 「まぁ、おぜうさま!! だいたんです!!」 変な目線で見つめてくるれみりゃを無視し、なるほどと納得したような男は、半開きだった玄関を 開け、二匹を招きいれた。 「まぁ。外は寒いから二匹とも中に入れよ」 「うっう〜〜♪ うまくいったどぉ〜〜♪」 「さすがですわおぜうさま!!」 ========= 結果として。 れみりゃは男に全てをささげる事が出来た。 「うあーー!! なんだどーー!! なんだどーー!!」 金のない若い青年にとって、れみりゃは貴重な食料になった。 「やめるんだどーー!! れみりゃはおぜうさまだどぉーー!!」 セオリーどおりに、処理していく男に向かって叫ぶれみりゃの顔は、まさに信じられないといったものであったが、男は構わずに処理を続ける。 「うあーー!! れみりゃのおべべーー!! おべべーー!!」 防寒具を取り去り、縄でがんじがらめにする。 季節は冬。 能天気なれみりゃでも寒さを感じるのは同じである。 「うーー!! さむいんだどぉーー!! はなすんだどぉーー!!」 やれ縄を解け、暖炉を入れろ、お湯割をもってこい。 そのどれもが無理な事である。 結果として、そのまま放置される事となる。 「うあーー!! ざむいーー! さぐやーー!! ざぐやーー!!」 天井から吊り下げられたまま、必死に名前を呼ぶれみりゃ。 人間のほうの彼女は、今は実際の主の頬についたクリームを拭いていることだろう。 ゆっくりである、さくやは、最初にれみりゃが危機なったときに男に向かっていき、たたき潰された。 「はいはい。大事な食料はそこでおとなしくしててね」 それだけを言い残し、男は台所を後にする。 「まつんだどーー!! こうまがんのあるじのれみりゃだどーー!! おむこさんにしてあげるんだどぉーー!!」 散々叫んでいたれみりゃであったが、男が酒を煽って男が眠りに就くよりもはやく、眠ってしまった。 これから、数週間。 れみりゃは夢にまで見た男との生活を満喫できるであろう。 「慧音さんですか? ええ。正月は、……。そうですか。それじゃあ、僕もお手伝いします。ええ、慧音さんに合わせて、僕も和服を着ていきますから」 ただ、男がれみりゃに好意を持っていたかは、誰も知らない。