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とある夏の日。 うちのぱちゅりーがあまりの暑さに半分溶けてた。 堪えるのはわかるが 「あつがなついのはりふじんよ!!ちきゅうおんだんかだわ!!」 「むきゅー、むきゅー、あっためないでー!!」 などと何度も叫ぶものだから五月蝿くて仕方が無い。 「ぱちゅりー、もう少し静かにできないか?」 「むきゅー……あつくてだまってるとふっとうしそうなのよ……」 「んー、じゃあ冷凍庫入れてみるか」 でろんでろんになってるぱちゅりーをつかんでそのまま冷凍庫に入れてみた。 冷気が漏れないように透明な板で蓋をして、と。 ひんやりとした冷気に包まれ、徐々に原型を取り戻すぱちゅりー。 「むきゅ~♪かしこいぱちゅりーにはさいてきなしょこね!!」 しかし、-4℃の冷気が徐々に体を蝕み…… 「む、むっきゅー!!さ、さむくてしにそうなのよー!!はやくだしてー!!」 「それじゃあクイズに正解したら出してあげるよ、いいかい?」 「のぞむところよ!!このぱちゅりーにかかればどんなもんだいもひゃっぱつひゃくちゅうなのよ!!」 「んじゃ第一問。紅魔館からバスが出てはじめに三人乗りました。白玉楼で一人降りて半人だけ乗りました。 八雲さんちで二人降りて、結局合計何人だ?」 「むきゅー、まずさんにんでしょ?それからひとりへって……はんじん!?はんぶんだけのひと? えーっと……えーっと……さんにんがひとりでふたりで……わかったわ!!のこりははんじんよ!!」 得意げに体をそらしながら答えるぱちゅりー。 それじゃ、笑顔で答えを①、②、⑨~♪ 「答えは0人でしたー」 「む、むっきゅー!?どうかんがえてもそれはおかしいのよ!!」 目を白黒させて困惑するぱちゅりー。そりゃそうだ、普通に考えれば0人なんてなるはずもない。 「何故なら何故ならそれは、幻想郷にバス無い~」 「むきゅっ!?……そ、そのはっそうはなかったのよ!!」 納得したようだ。 せっかくなので煽ってみよう。 「バーカバーカ!!バーカバーカ!!バーカバーカ!!」 「!?」 「バーカバーカ!!バーカバーカ!!バーカバーカ!!」 「ぱ、ぱちぇはバカじゃないのよ!!てんさいなのよ!!」 「バーカバーカ!!バーカバーカ!!バーカバーカ!!」 「こんかいはたまたまなのよ!!こうぼうにふでのあやまりってやつよ!!」 「バーカバーカ!!バーカバーカ!!テレッテレッテレッテレテッテそれじゃ第二問!!」 「むきゅっ!これでおめいばんかいしてみせるわ!!」 ブルブルと震えながら、次こそはを意気込むぱちゅりー。 それじゃ次言ってみようか。 「れいむのおうちにある100万円の壷を誰かが割りました」 「むきゅっ!それはだいじけんなのよ!!」 「そこにえーりんがやってきました。悪戯者のてゐが割ったと白状したそうです」 「むきゅ~?てゐはいっつもいたずらしてくるのよ!!はんにんにまちがいないわ!!」 「さて、てゐが払った賠償金はいくらになったでしょう?」 「むきゅきゅっ!これはかんたんよ!!ひゃくまんえんのつぼをわったのだからひゃくまんえんだわ!!」 自信満々に即答するぱちゅりー。それでは答えの発表です。 「ブッブー!!答えは0円です!!」 「むっきゅーーー!?つぼがわれたのにばいしょうきんをはらわないのはルールいはんよ!!はらうべきだわ!!」 当然、困惑するぱちゅりー。目を白黒させながら食いついてくる。 「何故なら何故ならそれは、そんな壷ある訳ないー」 「!?」 「れいむのおうちにそんな壷あるわけないでしょう?馬鹿なの?死ぬの?」 「む、むきゅうぅ……」 残念、二問目も不正解。 じゃあ、せっかくなので(ry 「バーカバーカ!!バーカバーカ!!バーカバーカ!!」 「むきゅー!!ぱちゅりーはばかじゃないのよー!!」 「バーカバーカ!!バーカバーカ!!バーカバーカ!!」 「さっきもせいかいできなかったけど……ばかじゃないのよー!!」 「バーカバーカ!!バーカバーカ!!バーカバーカ!!」 「やめてー、ばかっていわないでええええ!!!やめてよぉ……」 「バーカバーカ!!バーカバーカ!!テレッテレッテレッテレテッテ、お次は第三問!!」 そんなこんなで無茶振りの問題を繰り返し、間違えさせてはバーカバーカを繰り返す。 次第に凹みつつもなんとか正解しようと意地を張るぱちゅりー。 そんなこんなで時計の三本の針はグルグル回り…… 凍る部屋の中ひんやりした温度も時間も気にせずゆっくりしていった結果、 ぱちゅりーはすっかりカチカチに冷凍されてしまった。 僕はそっとハンマーを取り出すと、粉々に砕……くのは流石にあれなので縁側に適当に置いといた。 明日には溶けてるだろう。 次の日からどんなに暑くても文句は言わなくなった。よかったよかった。 ───────────────────────────────── あの歌聴いてたらバーカバーカ!!がしたくなって書いた。 今は反省している。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2806.html
注意 現代モノです。 俺設定があります。 善良なゆっくりがゆっくりできない目に逢います。 赤ぱちゅりーはとある森の中で産声を上げた。 ハンサムで逞しい父まりさと優しく物知りな母ぱちゅりーの間に生まれた赤ゆっくりであった。 胎生妊娠で産まれた一人っ子で姉妹はいなかったが、その分両親の愛を一身に受けて恵まれた生活を送っていた。 父まりさは狩りの腕に優れ、いつも山ほどのお花さんや虫さんを巣に運び入れてくれる。 家族団欒の一時にはよく子ゆっくり時代の武勇伝を聞かせてくれた。 博識な母ぱちゅりーは、ゆっくりとした生活の合間に豊富な知識を披露してくれる。 自分達ゆっくりのこと、捕食種のこと、この森のこと、そして人間のこと。 野生の一ゆっくりとして生きるのに必要十分な知識を遥かに上回る情報量を赤ぱちゅりーに惜しげもなく与えてくれた。 赤ぱちゅりーにはよく分からなかったが、父まりさも母ぱちゅりーもかつては人間と一緒に暮らしていたらしい。 母ぱちゅりーは血統書付の優良個体で、ペットショップで過ごした子ゆっくり時代には既に銀バッジを取得していた。 もしも飼い主にやる気があったなら金バッジ取得も夢ではなかったかもしれない。 父まりさは元々は街に住む野良だった。 その毎日は決してゆっくりとはできなかったけれど血湧き肉踊るような冒険の日々は充実していた。 人家の玄関で昼寝していた犬さんの食べ物を命からがら掠め取って来たり、 襲ってきた野良れみりゃを撃退した時の興奮などは鮮明に記憶に残っている。 そんなある日、街で飼い主とお散歩していた母ぱちゅりーと偶然出合ったのだった。 一目見た瞬間にお互い惹かれ合い、二匹はすぐさますーりすーりを始めた。 当然飼い主から追い払われそうになった父まりさだが、生粋の野良ながらも なかなかの美まりさであったことが幸いして母ぱちゅりーの飼い主のお家に招待されることになった。 そして、翌日には飼いゆっくりの登録とともに銅バッジも取得し、 その後は母ぱちゅりーと一緒にゆっくりとした日々を送っていた。 だが、ある朝目が覚めると二匹は森の中にいた。飼い主の姿はどこにも見当たらない。 いくら名前を呼んでも返ってくるのは自分達の木霊だけだった。何が起こったのか全く理解できない。 しかし母ぱちゅりーはこれまで得た知識から、そして父まりさは本能的に、自分達は捨てられたのだと悟った。 それから程なくして二匹はこの森で生きていく覚悟を決めた。 温室育ちの母ぱちゅりーはもちろん、元野良の父まりさにとっても森は街とは勝手が違う。 だが、二匹は手近な木のうろに巣を構えると、力を合わせて少しずつ堅実に食べ物を蓄えていき、 巣も拡張して、ついには初の赤ゆっくりにも恵まれた。もしも母ぱちゅりーの蓄えた知識、 そして父まりさの培ったバイタリティがなければ初日で途方に暮れていたかもしれない。 「まりさとぱちゅりーのあかちゃんは、ほんとうにゆっくりできるあかちゃんだね」 「むきゅーん。もしもにんげんさんにかわれていたなら、きっとぎんばっじもらくしょうよ」 銀バッジ?赤ぱちゅりーにはそれも何のことだかサッパリ分からなかった。 分からなかったが……しかし何故かそれはとてもゆっくりできるモノのような気がした。 そう思ったから母ぱちゅりーに聞いてみた。 「みゃみゃ。ぎんばっじってぇ?」 「むきゅー。ぎんばっじはぎんばっじよ。がんばったゆっくりだけがもらえるくんしょうみたいなものよ」 「くんしょー?」 「そう、くんしょうよ。ままのおぼうしについてるこれよ。これがあればにんげんさんはゆっくりさせてくれるのよ」 母ぱちゅりーの帽子には銀色に輝く丸いものが付いていた。 通常、飼いゆっくりが捨てられる際はバッジを毟り取られるのだが、母ぱちゅりーたちの飼い主はそれを忘れていた。 「むきゅ。でも、ぱぱはぎんばっじついてないの?」 「ゆゆっ!ざんねんだけどまりさはしけんにおちたんだよ。どうのばっじはもってたけど……なくしちゃったよ……」 父まりさも捨てられた際は銅バッジが付いたままだった。しかし野生の環境は厳しい。 幾多の狩りの中でいつのまにか銅バッジはそれを付けた帽子の箇所ごと抉れてなくなっていた。 「むきゅー。しんぱいないわ、まりさ。いつかまたにんげんさんがむかえにきてくれたら、 こんどこそぎんばっじをとれるわ。ゆっくりしたまりさならきっとだいじょうぶよ」 「ゆゆ~……ありがとう~、ぱちゅりー」 すーりすり、すーりすり 仲良くすーりすーりする両親の姿は赤ぱちゅりーにはとてもゆっくりして見えた。 そんな両親の姿を眺めるのが赤ぱちゅりーの一番の幸せだった。 そして赤ぱちゅりーは母ぱちゅりーの帽子に鈍く光る銀のバッジからも目が離せなかった。 「むきゅ。ぎんばっじしゃんきゃあ。ぱちゅも、ぎんばっじしゃんほしぃなぁ」 そんなゆっくりした生活が数週間続き、赤ぱちゅりーは子ゆっくりに成長していた。 野生のゆっくりに銀バッジは無縁だ。しかし子ぱちゅりーにとってそんなことはどうでもよかった。 博学なぱちゅりー種としての本能からか銀バッジを取得すること自体がゆん生の目標になっていたのだ。 母ぱちゅりーはそんな我が子の情熱を喜んだ。 飼い主が戻ってきて連れ帰ってくれる保障なんてどこにもないが、それでも我が子の勤勉さが嬉しかった。 そして、このまま、ゆっくりしたゆっくりに育ってくれたならご褒美に自分の銀バッジを与えようと心に決めていた。 父まりさもまた子ぱちゅりーの頑張る姿が微笑ましかった。 曲がりなりにも銀バッジ取得試験に挑んだ身として、それが簡単なことでないのは分かっている。 それでも愛する母ぱちゅりーとの間に生まれた我が子ならばきっと成し遂げると信じていた。 父まりさは子ぱちゅりーの成長を支えるべく一層狩りに精を出すようになった。 そして冬篭りを控えたある日のこと。この一家の幸せは唐突に幕を下ろすことになる。 それはいつものように夕食後の団欒を終え、家族が眠りにつこうとしていたところだった。 「まま。きょうのおはなしはとってもきょうみぶかかったわ。 ぱちぇたちもにんげんしゃんをゆっくちさせちぇあげられりゅのね……」 「むきゅー。あしたもっとくわしくおしえてあげるわね。きょうはもうおねむにしましょう」 「ゆゆん。ゆっくりおやすみ……ゆゆっ?」 唐突に父まりさがビクッと顔を上げた。 「どうしたの?まりさ?」 「……なんだかゆっくりできないけはいがするよ……」 「むきゅ~?」 耳を澄ますと、すぐ近くからガサゴソという音がしている。 すると、ふいに巣の入り口のバリケードが一瞬にして取り払われた。 同時に昼のお外のような眩い光が巣の中を照らす。 「ゆっ!?」 「お、いたいた。おーい、いたぞ~。やっぱりこの木のうろには入ってやがったか」 「おっ!やっとかよ。今年はこっち側はハズレだったなぁ。崖向こうの斜面は大量だって話なのに」 「こっちは去年一昨年と派手にやりすぎて覚えられちまったのかもな」 人間の男の二人組だった。 「ゆー!ここはまりさたちのおうちだよ!」 「え~と、クズが一匹、成体が一匹と……子供が……一匹だけか」 「ゆっくりできないにんげんさんはゆっくりしないででていってね!!」 「少ないな。まぁいいや、空袋のままで帰ったらまたうるさいからな」 父まりさが体を膨らませて威嚇するが男達は気にした様子もない。 「だな。さてと……とっとすませるか。っと、おい!このぱちゅりーバッジ付きだぜ!」 どうやら母ぱちゅりーの銀バッジに気が付いたらしい。 「マジかよ。なんでこんなところにいるんだ?」 「おおかた麓の町から攫ってきたってところだろうな」 男の一人がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら母ぱちゅりーを素早く捕まえた。 母ぱちゅりーは男の顔の高さまで持ち上げられる。 「むきゅー!にんげんさん、ぱちゅたちはなにもわるいことしてないわ!だから……」 「ほほ~、こいつはなかなかの上玉だぜ」 「む、むきゅー!?」 「ゆゆっ!」 父まりさは慌てて男の足に体当たりする。 「ゆゆー!ぱちゅりーをゆっくりしないではなせーーー!!」 「むきゅー!まりさ、だめよ!おちびちゃんをつれてはやくにげるのよ!」 「ゆっくりできないにんげんさんはゆっくりしないで、ゆべっ!!」 ズドムッ!! 瞬間、鈍い音が巣の中に木霊した。父まりさが男に蹴り飛ばされたのだ。 宙を舞った父まりさは隣の木の幹に派手に打ちつけられる。 「む……むきゅーーー!!まりさーーー!!エレエレ……!!」 その様子を見た母ぱちゅりーは絶叫を上げると、そのまま生クリームを吐き出して動かなくなった。 男は持っていたズタ袋に母ぱちゅりーを放り込むと、そのまま父まりさに歩み寄っていく。 父まりさはもはや白目を剥いて痙攣するのみだ。その体の側面には大きな穴が開いて餡子を垂れ流している。 男は父まりさの顔を平手打ちして叩き起こした。 「おい、起きろよ。ゲス饅頭」 「ゆ……ゆ……」 「お前……飼いゆのぱちゅりーを攫って無理遣りすっきりしたんだろ」 「ゆ……ゆ……まりさは……そんな、こと、してない、よ」 「じゃあ、何でぱちゅりーにバッジが付いてるんだ?」 「……まりさと、ぱちゅ、りーは……つがい、なんだよ」 もう一人の男が声を掛ける。 「どうした?」 「いやな。飼いゆを攫ったゲスを制裁してやろうと思ってな」 「ゆ……ゆ……ちが、う、よ……まりさは……」 男は懐から筒状の道具を取り出した。発炎筒だった。 「はいはい。ゲスはみんな自分の都合にいいように解釈するもんさ。お前は飼いゆを攫ったゲスなんだよ」 「まり、さは……げすなんか、じゃ……」 「ゲスは報いを受けなきゃな。判決……死刑。あの世で反省しろよ」 男はそう告げると、発炎筒を父まりさの大きく裂けた傷口に乱暴に挿し込み、一気に紐を引き抜いた。 「ゆ、ゆがああああああああああああああああああああ!!!!!!」 父まりさの絶叫とともにその体内で業火が荒れ狂う。 両目は弾け飛び、大きく開いた眼窩と口からは炎が勢いよく噴出する。 だが、それも一瞬のことだった。今度は父まりさの体全体が激しく燃え上がる。 今や父まりさは一本の火柱と化していた。 「おいおい!山火事になったらどうするんだ!!」 「もうちょいしたら土かけて消すから大丈夫さ」 子ぱちゅりーはその様子をただ見ていることしかできなかった。 恐怖で動けないのではない。何が起こっているのか理解が追いつかないのだ。 「む、む、む……」 無理もないことだった。巣のバリケードが払われてからまだ三分ほどしか経っていない。 今までずっと一緒に暮らしてきた両親……。 つい先ほどまで優しく語り掛けてくれた母ぱちゅりーはズタ袋の中に入れられピクリとも動かない。 今の今まで家族を守ろうとしてくれた父まりさは子ぱちゅりーの目の前で激しく炎上している。 「む、む、む……むきゅー!……エレエレ」 そして理解が追いついたその瞬間、子ぱちゅりーもまた生クリームを吐き出し意識を失った。 それは子ぱちゅりーにとって産まれて初めての嘔吐だった。 ゴトン 「むきゅ?」 お空を飛んでいるような……そんな浮遊感を覚えていたら唐突に地面に落ちた……。 そんな気がして子ぱちゅりーは目を覚ました。そこは狭い透明な箱の中だった。 天井は開けていたが子ぱちゅりーの身体能力では届く筈もない高さだ。 透明な箱の外を見ると、子ぱちゅりーと同じくらいの大きさの無数のぱちゅりー種が、 自分と同じように透明な箱に入れられ一列に並べられている様子が伺えた。 その表情は哀しげだったり困惑していたりと様々だ。自分の箱はその列の一番端に置かれていた。 ここがどこなのか、あれからどれだけの時間が経ったのかはは全く分からない。 当然ながら両親の姿はなく、檻の中は自分の他には何一つない。 子ぱちゅりーは、今までのことをゆっくりと思い出していた。 父まりさは自分の目の前で酷くゆっくりできない方法で永遠にゆっくりしてしまった。 母ぱちゅりーはどうなったのか分からない。が、あの男達の様子からして、きっとゆっくりできてはいないだろう。 あれは一体何だったのだろう?自分達が何をしたというのだろう? 子ぱちゅりーは自分達の身に降り掛かった理不尽な悲劇に涙するしかなかった。 子ぱちゅりー自身は気付いていなかったが実はあれから三日が経過していた。 男達に連れ去られた子ぱちゅりーは、すぐさまこの施設に引き渡され、ゆっくり用の睡眠薬を打たれ眠っていたのだ。 その間、子ぱちゅりーは体を綺麗に洗浄され、毎日定期的に特殊な栄養剤と薬剤を注射されていた。 そして、今日は子ぱちゅりーに対する“処理”の最終工程が施される日だった。 ガシャン 突然、ゆっくりできない大きな金属音が響き渡った。 それと同時に子ぱちゅりーの入った透明な箱が一箱分前に進んだ。 いや、子ぱちゅりーの入った箱だけではない。この箱の列全体が一箱分前進していた。 ゴトン そして、やや遅れて、進んだ自分の箱のすぐ後方に、新たな透明な箱が降ってきた。 その中には、たった今、落下のショックで目覚めたと思しきぱちゅりー種がキョロキョロと辺りを見回していた。 「……???」 ガシャン 数分後、再びあの大きな金属音が響き渡った。 それと同時に箱の列全体がまたも一箱分前進している。そして、またもや後方には新しい透明な箱が降って来た。 状況は理解できないが、どうやら自分を乗せたこの箱の列は少しずつ前方の黒いカーテンに向かって前進しているようだった。 カーテンは真ん中で割れており、箱の列が前進する度に一箱だけその奥に吸い込まれていった。 前方のぱちゅりー達も後方のぱちゅりーたちも皆揃っておろおろするばかりだ。 そして、ついに子ぱちゅりーの箱がカーテンの奥に進む番がやってきた。 黒いカーテンを抜けた先、そこには優しそうな初老の男性が座っていた。 男性は柔らかい笑顔を湛えながら子ぱちゅりーの身体を優しく手に取り透明な箱から出してくれた。 巣を襲ったあの男達は全くゆっくりしていなかったが、目の前の男性はゆっくりした人間のように見える。 銀バッジ取得試験に向けて特訓中だった時の母ぱちゅりーの言葉が脳裏をよぎる。こういう場合はまず自己紹介だ。 「むきゅー。はじめまして。ぱちぇよ。ゆっく……びぃぃ!!!?」 満を持しての挨拶は男性が手にした鉄箆によって遮られた。 真っ赤な焼けた鉄箆を口に押さえつけられる。痛みで声が出ない……のではない。 柔らかな唇が一瞬にして溶けて癒着し、それ以上言葉はおろか異音を発することさえ出来なくなってしまったのだ。 痛みと混乱で気を失いかける子ぱちゅりーを次なる痛みが襲った。 そのしなやかなあんよに高温の激痛が走る。 「……!?……!!!!!!!」 男性が片手に持った子ぱちゅりーの底部をバーナーで炙っているのだ。 その恐ろしいまでの高熱は子ぱちゅりーのあんよからどんどんしなやかさを奪っていく。 たっぷり十数秒炙られた後、子ぱちゅりーはバーナーから開放された。 底部全体が焼け焦げたあんよは鈍痛を信号として送ってくるだけで もはや自分の意志ではピクリとも動かせなかった……だがそれだけではない。 あんよはゆっくりにとってあらゆる動作の根幹となる部位である。 あんよを奪われるということは、跳躍や這いずりだけでなく、 体をよじることすら困難な体にされてしまったということなのだ。 無理に大きく体を動かそうものなら、焦げ付いて硬化したあんよがヒビ割れたり、 あんよと接する柔らかい部位の皮が引っ張られて破れてしまうだろう。 絶望的な喪失感に苛まれる子ぱちゅりー。だが男性の暴虐は止まらない。 さらなる苦痛が子ぱちゅりーを襲う。今度は子ぱちゅりーの恥ずかしい部位に激痛が走った。あにゃるだった。 「!!!!」 悲鳴を上げようにも声が出せない。生クリームを吐きたくても吐き出す口がない。 そして、それはもう既に上の穴も下の穴も同じことであった。 体の危機に体が反応したのか、子ぱちゅりーの意志を無視して口の下の小穴からしーしーが流れ出る。 流れ出たしーしーは子ぱちゅりーの下膨れを伝い鉄箆へと到達する。 だが、その些細な反撃は真っ赤に焼けた鉄箆には文字通り焼け石に水でしかない。 そして鉄箆はそんなしーしーの穴をも容赦なく蹂躙した。もはや叫びすら無く涙を流し続けるしかない。 涙で視界がぼやけて見える。だがぼやけていてもハッキリ見えた。子ぱちゅりーの眼球に迫る鉄箆……。 声は出せない。体も動かない。生クリームを吐くことすらできない。 それでも視覚を焼かれるより先にぱちゅりーは何とか意識を手放すことに成功した。 ……遠ざかる意識の中で、何かが聞こえたような気がした。 「鬼井さ~ん!営業の餡野さんから~。外線……」 帰宅途中、俺はいつものように商店街のペットショップの前で足を止めた。 ショーウィンドウからは毛並みの良いゆっくりたちがニコニコとこちらに向けて微笑んでいる。 窓の一つ一つに貼られた値札には全て六桁・七桁の数字が踊っていた。 はぁと溜息をつく。貧乏学生がおいそれと手を出せる金額ではない。 俺はとある大学のゆっくり医学部に通うしがない学生だった。 だが、いつかは金を溜めてちゃんとしたゆっくりを購入しようと心に決めていた。 ちなみにお目当てはぱちゅりー種だ。あの落ち着いて優雅な感じが好みなのだ。 ふと、商店街の一角に人だかりが出来ているのに気が付いた。 近くに寄ってみると、どうやら福引をやっているらしい。 そういえば、さっきパン屋で福引券を貰ったっけ。 どうせ今日は暇だし、と福引会場に向かい奥にある景品を眺めてみた。 すると透明な箱に入った一匹のゆっくりと目が合った。成体のぱちゅりーだった。 かなりの美ぱちゅりーであった。帽子には金バッジが輝いている。 そして予想通りぱちゅりーは一等の景品だった。俺の持つ福引券はたったの一枚。 分の悪い賭けだが負けたところで失うのは紙切れ一枚だけだ。 紅白巫女姿の受付嬢に福引券を渡し、箱の中から折り畳まれたカードを一枚取り出した。 ジャラン♪ジャラン~♪ 安っぽい鐘の音が鳴り響く。 「おめでとうございます。二等です。二等が出ました~」 愛想笑いを浮かべつつ妙に事務的な声で俺と周囲に当たりを知らせる受付嬢。 おおお、一等は逃したが二等か。俺のクジ運も意外と捨てたもんじゃないな。 そういえば二等って何だっけ?一等のぱちゅりーに目が行ってそれ以外は気にも留めていなかった。 「はい。二等の生ぱちゅりー饅頭です」 受付嬢が化粧箱を差し出してくる。 両目と口を焼き潰されたぱちゅりー種のカラー写真が印象的なパッケージ。 テレビで見たことがある。これはあの有名なぱちゅりー牧場の生ぱちゅりー饅頭じゃないか! 敷地内の森でゆっくり育った天然の子ぱちゅりーを、贅沢にも丸ごと生きながらに饅頭に加工した一品。 主に富裕層のギフト向けに供される超高級菓子であった。 パッケージ側面の解説文によると、何でも覚醒させた子ぱちゅりーの口を嘔吐される前に素早く焼き塞ぎ、 あんよを狐色になるまでしっかり焼いて、あにゃる~しーしーの穴~両目を同様に塞いでから 最後にぱちゅりーしゅ特有の長髪が狭くて動かせない程度の箱に生きたままの状態で梱包しているのだそうだ。 子ぱちゅりーは恐怖と絶望に曝されることで甘みを増し、同時に余計な身体機能を殺すことで、 生命活動を最低限維持させ、絶食状態でも長期の延命・保存が期待できるらしい。 確かに五感の大半を視力に頼るゆっくりは目を潰されれば周囲への恐怖から積極的に動こうとしなくなる。 さらにあんよを焼かれれば肉体的にも歩行や跳躍を半永久的に封じられてしまうだろう。 一切の身動きを封じられれば、脆弱なぱちゅりー種は恐怖とストレスから致命的な分量の中身を吐き出しかねないが、 それも先手を打って全身の穴を塞いでいる為、加工された子ぱちゅりーは身悶えすることしかできないに違いない。 ちなみに、これらの処理は熟練の職人が個体毎に微調整を加えながら手作業で行うらしい。 本当に手間暇掛けてるよなぁ。本来なら俺みたいなヤツが食べられるシロモノじゃない。 金バッジぱちゅりーが手に入らなかったのは残念だが、元々勝算は低かったしこれはこれで驚きの収穫だ。 去り際にふと金バッジぱちゅりーに目を移すと、あのパッケージ写真にショックを受けたのか白目を剥いて気絶していた。 家に帰ると早速、生ぱちゅりー饅頭に齧り付くことにした。 化粧箱を開けると全身の穴とあんよを焼き潰されたパッケージ写真そのままな子ぱちゅりーたちが転がり出る。 全部で四匹入りだ。ソフトボールより一回り大きいくらいなので二匹も食えば満腹だろう。 ふと、密封状態から開放されたことで表皮が外気を敏感に感じ取ったのか 生ぱちゅりー饅頭たちは皆揃ってぷるぷると震えだした。パッケージの解説通り四匹ともしっかり生きているようだ。 おもむろに一番手近な一匹を手に取る。手に取った瞬間ビクッと体が跳ねた。 その反応が妙に可愛かったので両手で全身をゆっくりとこねくり回してみる。 両目と口が焼き固められていて表情は判らないが、その心中はきっと恐怖で一杯なのだろう。 必死な様子で全身を小刻みにピクピクと震わせている。生き饅頭に許された最大限の抵抗なのかもしれない。 さて、それじゃそろそろ十分に感触を楽しんだので、まずはあんよから頂くことにする。 「それじゃ、いただきまーす」 バリリッ!(ビックンッ!) 噛み付いた瞬間、生ぱちゅりー饅頭の体が大きく仰け反った。 両手でしっかり押さえているので生クリームが飛び散ったりはしない。 ムシャムシャ!(ビクビクッ!) 焼けたあんよの表面はクッキーのような味と食感だった。黒焦げではないので苦味は全くない。 さらに口の中であんよの表皮の内側にごっそり付着した生クリームが別の生き物のようにのた打ち回る。 この感触はクセになりそうだ。続けて生ぱちゅりー饅頭のまむまむの辺りを食い千切ってみた。 ムシャリッ!(ビクビクビクン!) ふむふむ、ここはシットリとした食感だ。これはどんどん行けるぞ! こうして気が付けば生ぱちゅりー饅頭はペラペラの頭皮に付着した紫色の毛髪と帽子を残して俺の腹に収まっていた。 ふぅ、さすがはあのぱちゅりー牧場謹製の銘菓なだけのことはある。 少々がっつき過ぎな気もするが早速二匹目行ってみるとするか。 そして頭皮と帽子を口に押し込みながら残る三匹に手を伸ばそうとして……そこで視線に気が付いた。 さっきは気付かなかったが、よく見ると一匹のぱちゅりーが両目を見開きダクダクと涙を流しながらこちらを見上げていた。 あれ……両目は潰してあるはずじゃ……ううむ?潰し忘れの不良品か。 まぁ、加工食品に見つめられるのは気持ち悪いが、別に食べられないほどの欠陥というわけでもない。 何なら今この場で両目を潰してしまえばさっき食ったのと何ら変わらない饅頭に……。 と、そこまで考えてふと思いついた。このぱちゅりーを治療してペットとして育てられないかと。 ぱちゅりーは身体の複数の重要器官を潰されているが、その目は怯えていながらも決して正気を失っている様子はない。 生ぱちゅりー饅頭のパッケージの成分表に目を通す。流石に人の口に入るものとあって諸々の予防接種は受けているようだ。 これは憧れのぱちゅりー種を入手するチャンスだ。失敗してもどうせただで貰った饅頭だ、惜しむほどじゃない。 ……だが果たしてうまくいくかどうかは正直不安だった。 学生とはいえゆっくり医学が専攻なので、ゆっくりの所見には実習も通してそこそこ自信がある。 ぱちゅりーは両目が無事とはいえ口もあにゃるも焼き塞がれている。しーしーだって出来ない。 あんよも動かせないだろう。自力で食料摂取と排泄ができなければ座して死を待つばかりだ。 とりあえず治療プランを練ることにしよう。治療に優先順位を付けて一つずつ目標をこなしていけばいい。 そうなるとまずは何より口の再生が最優先だ。食料摂取もさることながら、 意志表示の手段を与えてやらねばゆっくりを飼う面白みがない。 それに口の再生が成功したとしても、俺の飼いゆっくりになるかどうかは、ぱちゅりー自身の意志を確認しておきたかった。 野生に帰りたいなら帰してやってもいい。無理に飼いゆっくりとして引き止めても良好な関係は得られないからだ。 だが加工のトラウマで自らゆん生を放棄しようとしていたり、性格があまりに酷いゲス個体ならば、 やはり食用饅頭としての役目をまっとうさせてやらねばなるまい。 ゆっくりの体は未だ謎だらけだ。だが人間も含めた既成の生物とは異なり妙にいい加減な生態であることは判明している。 例えば体に穴が開いても、餃子の皮や小麦粉で簡単に修復できることはよく知られている。 さらに成功確率はやや落ちるものの、ゆっくり間の移植手術も人間同士の移植手術に比べ遥かに敷居が低い。 そして、それは異種族間でもそれなりに通用することが確認されている。 例えば眼球を喪失したれいむ種の眼窩にまりさ種の眼球を嵌め込んで視力が回復した例は少なくない。 もう一度ぱちゅりーの口元をよーく確認する。焼かれた唇は溶け焦げて完全に塞がっている。 さっき食った一匹の口周辺の食感を思い出してみる。パリっとしていた。 そうだな。まずは現状の口元を削り取り、小麦粉で新たに口を作り直すことにしよう。 「よし、ぱちゅりー。お前は助けてやるぞ。これから治してやるからちょっと痛いけど我慢しろよ」 そう一方的に宣言してぱちゅりーの表情を探ってみた。 ぱちゅりーはといえば、信じる信じない以前に状況が判断できずにむしろ混乱しているように見える。 無理もない。助けてやるとはいっても、それはつい今しがた目の前で仲間を食い殺した人間の口から出た言葉なのだ。 まぁどうせ返答はできないだろうから今は勝手にやらせてもらおう。 俺は箪笥や台所から適当に必要なものを準備した。そして、ぱちゅりーの両目をハンカチで縛って目隠しをする。 これは恐怖で精神崩壊させない為の処置だ。あとはぱちゅりーが痛みに耐えてくれることを願うしかない。 ぱちゅりーの体を片手でしっかりと持ち、荒めの紙ヤスリで口元を抉るように削っていく。 ガリガリ、ガリガリガリガリ。 ぱちゅりーは細かく振動している。今削っている箇所は恐らく痛覚ごと焦げ付いており痛みはない筈だ。 だが、だからといって自分の体が少しずつ削り取られていく感触に平気でいられる筈もないのだろう。 ふと、ぱちゅりーの体がビクッと跳ねた。紙ヤスリの一部が痛覚の残っている箇所に触れたか。 ここからは目の細かい紙ヤスリに持ち替えて慎重に焦げて硬くなっている部分を削っていく。 そして、ぱちゅりーが反応する度に削る箇所を変えて、口元の壊死した皮はあらかた取り除くことに成功した。 削っていた箇所の中央は口内まで貫通し、ぽっかり開いた穴からは微かに前歯が覗いている。 次に小麦粉をオレンジジュースで溶いてペースト状にし、それを薄く引き延ばして即席の皮を作る。 削ったぱちゅりーの口元にもオレンジジュースを満遍なく塗り、 湿った皮が柔らかくなるのを待って、作った皮を貼り付け指で周囲と癒着させていく。 そうすると、ぱちゅりーは完全な口なし状態になった。 もちろん色白な本来の肌とオレンジジュースで黄ばんだ即席の皮は色合いが違うので、どこが治療箇所かは一目で分かる。 俺は耳掻きを手に取り、黄ばんだ皮の部分に慎重に切れ目を入れていく。 新たな口元はさっき福引会場で見た金バッジぱちゅりーを参考にした。 よし。これで口元の見た目は何とか整った。だが、ぱちゅりーの口が言葉を紡ぐ様子はない。 それも当然だ。ぱちゅりーの新しい口元はまだ単なる小麦粉細工でしかない。 時間が経てば、本来の肌との結合部から次第にぱちゅりー本体と同化して、色合いも機能も取り戻すことだろう。 さて、次は排泄器官だ。まずは口のすぐ下に位置するしーしーの穴に的を絞る。 作業にあたり、残る二匹の饅頭のうち一匹をバラして焼き塞がれた箇所の損傷がどの程度か入念に調べることにした。 口元の再生を行う前にやっておけばよかったが、まぁ治療プラン自体が思いつきなので作業が前後するのも仕方ない。 ぱちゅりーの目隠しはしたままなので、この光景が大事に発展することもないだろう。 結論から言うと、しーしーの穴もあにゃるも、焦げているのは比較的浅い層だけのようだった。 (ちなみに調べ終わった後のバラバラの饅頭はその場でおいしく頂きました) しーしーの穴に紙ヤスリを当てる。作業自体は口元の時とあまり変わらない。焦げた箇所を目の粗い紙ヤスリで大雑把に削り、 目の細かい紙ヤスリで微調整してから小麦粉とオレンジジュースで作った皮を周囲の肌と癒着させていく。 そして最後にキリで丁寧に小穴を開け、爪楊枝を慎重に挿して尿道と繋がっていることを確認した。 これで暫くすれば、ぱちゅりーは再びしーしーが出来るように筈だ。 とりあえず今はこの辺にしておくか。続きは口としーしーの穴の機能が回復してからだ。 二、三日も放置すれば最低限の機能は取り戻すことだろう。 俺はぱちゅりーの目隠しを取り外すとクッションの上に寝かせることにした。 賢いぱちゅりー種ならば、今日の処置は最初に語り掛けた通り“治療”であると判断できた筈だ。 実際、その目にはまだ怯えの色が残っているものの状況を察したのかだいぶ落ち着いてくれたようだった。 (中編へ?)
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「ただいまー。ぱちゅりー、帰ったぞー」 家に帰り着くと、俺は子ありすを玄関に置いてぱちゅりーに帰宅を知らせた。 ……返事はない。心配になってぱちゅりーのいる居間へと急いだ。 すーすー、すーすー ……心配は杞憂だった。ぱちゅりーは幸せそうな顔で可愛い寝息を立てている。 そうか、ぱちゅりーはお昼寝中か。そいつは都合が良い、今のうちに子ありすの準備を済ませてしまおう。 俺は箪笥から裁縫箱を取り出すと玄関へと踵を返し、子ありすの袋を持って浴室へと向かった。 ぱちゅりーを起こさないよう浴室のドアをしっかり閉める。 そこで裁縫箱を開け、コンビニ袋を鋏で切って子ありすを外へ出してやった。 「ゆはぁ!!ゆぅぅ……このいなかものっ!とかいはなありすをこんな、ゆがぁ!!」 俺に文句を言おうと大口を開けた瞬間を見計らってすかさず子ありすの舌を摘み上げる。 そして、反対の手で子ありすの体をしっかり押さえつけると、そのまま舌を引き抜いた。 「ゅぐぅ!!」 小さな呻き声を上げる子ありす。……この程度ならぱちゅりーのいる居間には届くまい。 だが俺は裁縫箱から針を取り出し、間髪入れずに子ありすの唇を縫い付けていく。 もはや呻き声しか上げられないだろうが、万が一にも、 この小汚い口上がぱちゅりーに悪影響を及ぼす事態は避けたいのだ。 それに、口を開けば文句ばかりのこの子ありすがいい加減鬱陶しくなってきたというのもある。 唇をしっかり縫い付けると子ありすは完全に沈黙し、視線と挙動でしか反抗の意志を伝えられなくなった。 よっぽど俺を恨みに思っているのか、その両目には殺意めいた憎悪の灯火が光っている。 手を離せばそのままこちらに体当たりを仕掛けてくるに違いない、そんな形相だ。 今度はその視線も塞いでやることにした。子ありすの瞼を摘んで同じように縫い付けていく。 右目は縫い始めに、針が眼球を縦に貫いたかのような感触が伝わってきたが別段問題はない。 両目の処置も完了した。これで子ありすはもはや体をよじる動きでしか反抗の意志を表現できない。 俺は浴室の蛇口を捻して水を風呂桶に溜め、子ありすを乱暴に叩き込んだ。 そのまま皮を破らないよう注意しつつゴシゴシと全身を揉み洗いしていく。野良生活で付着した汚れと 子まりさを襲っていた際に分泌していたあの気持ち悪い粘液をここで洗い落とす必要がある。 蛇口からの放水はそのままにして、風呂桶が濁る度に角度を変えて排水し都度水を交換していく。 しかし酷いもんだな。最初の三回くらいはみるみるうちに水が茶褐色になってしまった。 その後も例の分泌液のせいか水がすぐさま白く濁っていく。 実に十回ほども同じ作業を繰り返して、ようやく風呂桶の水が濁ることはなくなった。 次に石鹸を泡立て子ありすの全身を再度よく洗う。とくにあんよは重点的に洗った。 ……そろそろこんなものかな。俺は最後に石鹸を洗い流すと放水を止めて子ありすを洗面所にエスコートした。 ドライヤーで子ありすを乾かしていく。ブルブルと激しく震えて抵抗しているがもう気にしないことにする。 そうして乾かし終えた子ありすは移植手術を始めるまで空の段ボール箱で待機させることにした。 念の為、子ありすの様子を観察する。かなり乱暴に洗った結果だろう。髪がところどころ溶けていた。 ありす種特有の印象的な赤い髪飾りも、今ではすっかりひしゃげてしまっている。 だが、そんな状態にも関わらず子ありすは段ボール箱の中を狂ったように飛び跳ねていた。 あれだけ乱暴に揉み洗いされたというのに随分と元気なことだ。 レイパーならではの生命力ゆえか……それとも俺を恨むあまりの執念か。 居間に戻ると、ちょうどぱちゅりーが目を覚ましたところだった。 「むきゅ……ごほんをよんでいたら、いつのまにかねむってしまったわ」 「そうか。ところでぱちゅりー。あんよの件なんだが、今から早速手術をしたい」 「むきゅ!?ま、まだこころのじゅんびがととのってないわ……」 早くて数日後だと聞かされていたのに、手術を急かされ焦りを見せるぱちゅりー。 だが、こういうのは勢いが大切なのだ。 「それが今じゃとダメなんだ。実は知り合いのありすにぱちゅりーのことを話していてな。 そのありす、何て言ったと思う?もし自分に何かあったら可愛そうなぱちゅりーにあんよを 提供してやってほしい、それが都会派なありすの愛だと……そう言ってくれたんだ。 今日はそんなありすにまたぱちゅりーのことで相談しようとしたんだが、俺がありすの元を 訪れた時には既にありすは危篤状態だった。あの様子じゃきっと野良のふらんに襲われたんだろう」 「む、むきゅー……」 よし、いくら賢いとはいえぱちゅりーも所詮ゆっくりだ。このまま畳みかけよう。 「ありすは今こうしている間にも永遠にゆっくりしてしまうかもしれない。 ここで手術をしなければありすの誠意が無駄になってしまう!それでもいいのか?ぱちゅりー!?」 大袈裟に身振り手振りを加えた演技でぱちゅりーに迫る。ぱちゅりーも俺の話に聞き入ってくれているようだ。 「……む、むきゅう。そういうことならしかたないわ。でも、そのありすはほんとうにたすからないの?」 「……残念だ。それに、あの体じゃ例え助かっても二度とゆっくりできないだろう」 「むきゅ!わかったわ。しんせつなありすのためにも、ぱちぇはしゅじゅつをうけるわ!」 GOサインが出た。物分りが良くて助かる。俺は食器棚から一本の瓶を取り出した。 「ぱちゅりー。えらいぞ、よく決断してくれた。早速準備に取り掛かるから、これを飲んでくれ」 「むきゅ?これはなにかしら?」 「これは麻酔といってな。飲めば眠って痛みを感じなくなるんだ。手術はぱちゅりーが眠ってる間に終わらせるよ」 「むきゅー!ますいさんはべんりだわ!……しゅじゅつ、しんせつなありすのためにもせいこうさせてね」 「ああ、まかせておけ!それじゃ、ゆっくりのむんだぞ」 俺は瓶を開けると、中の液体をぱちゅりーの口にあて、ゆっくりと流し込んでいく。 「むきゅ。これ……あまいわ」 それはそうだ。ぱちゅりーに飲ませているのは梅酒だった。 種族や個体によって差異はあれど、大抵のゆっくりはアルコールが入れば酔ってしまい、 一定量を摂取させれば痛みも感じなくなってしまう。この特性はゆっくり医療の現場でも活かされている。 もっとも他の種なら手術の際はこれに加えて睡眠薬や本物の麻酔も併用するのだが、 種族的に体が弱く、まだ成体にもなっていないこのぱちゅりーならこれで充分であろう。 ぱちゅりーの白い肌がみるみるうちに赤くなっていく。 「むきゅぅぅぅぅ。おにーさん、ぱちぇはなんだかねむくなってきたわ」 「麻酔が効いてきたんだな。ゆっくりおやすみ……ぱちゅりー」 さて、次は子ありすだ。俺は居間にぱちゅりーを残して廊下に向かい、 棚から工具箱を取り出して、子ありすを入れた段ボール箱を開けた。 その瞬間、音や気配で察したかこちらに飛び掛ってくる子ありすを片手で払い退ける。 暴れる子ありすをしっかりと掴み直すと、俺は台所へと向かった。 台所には廃棄予定の古い木製まな板がある。今回はこれを子ありす専用の手術台として再利用する。 俺は子ありすをまな板の上に押さえつけると工具箱から一本の釘を取り出した。 そして、まだ頭髪の残る頭頂部よりやや下の部位を前面から後頭部まで勢いよく刺し貫いた。 ビクビクビクン!! 子ありすが激しく痙攣する。だが俺は子ありすを押さえつける手に力をこめ直しつつ、 金槌で釘の頭を素早く打ち付けてまな板にしっかりと貼り付けていく。 ガン!ガン!ガン!(ビク!ビク!ビク!) 金槌を振り下ろす度に子ありすの体が跳ねる。だがカスタードの中枢は外してあるので即死することはないはずだ。 もっとも今の衝撃で中枢がダメージを受けている可能性もあるので作業を急ぐことにする。 移植手術は鮮度が重要だ。死なれてから行うより、子ありすを生かしたままの状態で行いたい。 釘は子ありすを貫通してまな板の奥深くまで深々と突き刺さった。釘の頭も子ありすにめりこんでいる。 これで子ありすがどれだけ暴れるようと外れることはないだろう。 あとは最後の仕上げだ。先ほどの口と目の縫合処理は、子ありすの洗浄を済ませ、 ぱちゅりー側の準備も整った今となっては必要ない。 俺は子ありすの顔面の縫合を唇や瞼ごとバッサリ切ると、血走った両目の眼窩に それぞれ人差し指と中指を突き入れ、か細く呻き声を上げる口には親指を突っ込んだ。 そして、子ありすがブルンブルンと体をよじって暴れるのを無視して、突き入れた三本の指の先を 合わせるように顔の中心を内側から掴み、その箇所を一息に外側に引っ張って顔面を引き剥がした。 ビックン!!!!!!ビクン!!ビクン!!ビクン!! 流石に今のはレイパーの生命力でも堪えたのか、顔面から流出するカスタードを気に留める様子も無く、 今までにない勢いで体を上下左右に激しく揺さぶっている。 さらに体内のカスタードの流れを司る重要な器官に支障が出ているのだろう。 しーしーはおろか、あにゃるからも盛大にうんうんを垂れ流していた。 この処置は、さっきぱちゅりーを納得させる為に即席で作った法螺話の辻褄あわせだった。 麻酔による処理は、手術中に痛みは感じずとも意識を回復させてしまうことが人間でもままある。 万が一、ぱちゅりーが手術中に目を覚ましこの子ありすの姿を見てしまったとしても、 疑問に思うようなことがあってはならないのだ。 だが、これで“野良ふらんに襲われたゆっくり”の体裁は整った。 しかし、このままでは手術の続きに支障が出るので、体を汚すしーしーやうんうんは 台所のお手拭用タオルで拭い取ってやることにした。激しい発作や痙攣も手術の邪魔になることが 懸念されたが、こちらは多量のカスタードを急速に失ったことで次第に鈍化していった。 子ありすの処置を終えた俺は、よく手を洗ってから、子ありすを乗せたまな板のすぐ横に 真新しいまな板を設置し、居間からぱちゅりーを運び入れて静かに寝かせた。 しかし、この体勢じゃあんよの手術は難しいな。ブックスタンドででも挟んで固定するかな。 と、唐突にぱちゅりーの目が開いた。朦朧とした瞳が周囲をぼ~と見つめている。いかん、まだ早かったか。 「ぱちゅりー。これから手術を始めるんだ。しっかり眠らないとダメだぞ」 「…………」 ぱちゅりーは声を発したこちらにに目を向けたものの黙ったままだ。意識が朦朧として状況が理解できていないのか。 と、ぱちゅりーの視線が力なく周囲をさ迷い、真横に固定された子ありすの体に向けられた。 「……ゆ?……あ…………あ…………あ」 「……ぱ、ぱちゅりー?」 「……あ……あ……あ……む、むきゅうううううううううううう!!!」 ぱちゅりーの瞳がぐるんと半回転して上を向いた。子ありすの姿に失神してしまったようだ。 その口元から白い液体が一本、地面に向かって滴り落ちる。これは液状化した生クリームだろうか。 「ええっと……ぱちゅりー?だいじょうぶか?ぱちゅりー?」 呼んでも返事はない。ショックが強すぎたのか?まさか死……んではいないようだ。 全身が小刻みに震えている。一時的なショック状態だろう。 これはチャンスだ、今のうちに急いで手術を済ませてしまおう。 まな板の上で、焦げたあんよを上に向けさせた状態のぱちゅりーを、ブックスタンドで優しく挟み込み固定した。 そして、ペンナイフで慎重に焦げたあんよと健常な肌の境界に切り込みを入れていく。 ここからが正念場だ。切り込みが一周したところで、ゆっくりとあんよ全体の外皮を捲るように引き剥がす。 なるべく、取り除くあんよ側に生クリームが持っていかれないように注意したつもりだが、そう都合よくはいかないようだ。 引き剥がしたあんよにはゴッソリと生クリームが付着していた。だが、これも想定の範囲内だ。 とりあえず、ぱちゅりーのあんよは形状そのままに生クリームを乗せた“お皿”として利用することにする。 次は子ありすのあんよだ。こちらの作業は慎重さより速度が重視される。 包丁を抜き放つと、切除したぱちゅりーのあんよと見比べつつ、必要な箇所をズバッと一刀両断にした。 ビクッ!ピクピクピク…… 刃を入れた瞬間、子ありすの体がまたしても仰け反ったが、もうそんなことはどうでもよかった。 作業の邪魔になるので余ったゴミは縫い付けたまな板ごとゴミ箱に捨てる。 一方、子ありすのあんよは、本体から切り離したというのにモゾモゾと蠢いていた。 あんよ側に大量に付着したカスタードが子ありすから受け取った最後の信号を未だあんよに伝えているのだろう。 試しに古いまな板を捨てて空いたスペースに置いてみると、驚いたことにあんよだけでそろーりそろーりを始めた。 だが、その動きはまるで意志が感じられず単なる生理反応でしかないことは一目瞭然だった。 新鮮なタコの足を切り離すと足だけでも勝手に動き回るのと同じだ。イキがいい証拠でもある。 おっと、手術中だというのについ興味本位で無駄な時間を費やしてしまった。 俺は子ありすのあんよを手に取ると、スプーンで内側のカスタードを素早く掬い取っていく。 掬い取ったカスタードは不要なのでそのまま排水溝に捨てた。 あらかたカスタードを掬い取ると、今度はぱちゅりーの焦げたあんよ=“お皿”から 同じように生クリームを掬い子ありすのあんよの内側に充填いく。 そうして、いよいよ、ぱちゅりーの生クリームを充填した子ありすのあんよを、 ぱちゅりー本体に移植する作業を開始する。作業開始に先立ち、あらかじめ子ありすのあんよのあにゃるを 外側から鉛筆で貫通させ、その先をぱちゅりーの生クリーム落ち窪んだ箇所に浅く挿した。 ここが人間で言うところの直腸なのだろう。もっともその窪みは奇妙なほど広かった。 人間のように肛門と細い直腸が繋がっているというより、あにゃるのすぐ裏側の生クリーム全てがうんうん、 またはうんうん候補の生クリームで、体内の生クリームが増え過ぎた場合に大雑把に古い生クリームを 流入させてあにゃるから排出するのだろう。 そして、その鉛筆を基点に子ありすのあんよをぱちゅりー本体に慎重に貼り付けていく。 最後にオレンジジュースで接合部の肌とあんよをそれぞれふやけさせてから互いに癒着させた。 皮が足りない部分はペースト状にした小麦粉で入念に塞ぐことにする。 その後、ある程度接合部の表面が自然乾燥するのを待って、あんよ全体を包帯でグルグル巻きにした。 これで移植手術は完了だ。ぱちゅりーを再び居間のクッションの上に寝かせ、 スポイトでその口にオレンジジュースを少量注いだ。 新しいあんよがぱちゅりーの体にある程度同化されるには少なくとも一週間は掛かる。 それまでは、なるべく栄養状態を良好に保ち、このままの状態で安静にさせておくことにしよう。 俺はその日寝るまでぱちゅりーの寝顔をゆっくり眺めていた。 ぱちゅりーが目を覚ましたのは翌日の夕方だった。俺は朝からぱちゅりーにつきっきりだった。 「……むきゅ~……よくねたわ。おにーさん、おはよう」 「おはよう、と言っても今はもう夕方だけどな。手術は昨日終わったよ。頑張ったな、ぱちゅりー」 「むきゅ、まるいちにちねむってたのね。しゅじゅつは……せいこうしたの?」 「ああ、一応な。だが今は安静にしていないと、あんよがくっ付かないかもしれないぞ」 「むきゅー、わかったわ。それじゃ、ぱちぇはゆっくりさせてもらうわ。ところで、あのありすは……」 「ぱちゅりーも見ただろう?ふらんに襲われたゆっくりは皆ああなってしまう。 でも、ありすの崇高な志はあんよとともにぱちゅりーに引き継がれたんだ。 ぱちゅりーはありすの分までゆっくりしないといけないぞ」 「むきゅ!ゆっくりりかいしたわ!ぱちぇはぎんばっじさんをとって、ゆっくりしたゆっくりになるわ!」 それからの一週間、食事はオレンジジュースのみ、クッションで寝たきり(?)状態ではあるが ぱちゅりーは一心不乱にずっと“本”を読み続けた。 「あんよはうごかなくてもべんきょうはできるわ」 ずっとこんな調子だった。“本”も日を追うごとに高度なものを用意した。 そして昨日からは俺が手書きで作った“本”を与えている。 銀バッジ取得試験の内容をぱちゅりーでも理解できるようカラフルなイラストで絵本にしたものだ。 人間に対する仕草、求められるマナー、そして模範的な表情まで示してある。 知識は既に充分だった。このぱちゅりーは残念ながら無理だが血統さえ証明できれば 金バッジ取得試験すら突破できるだろう。あとは実践だけだ。 そして、ついに包帯を解く時がやってきた。これはぱちゅりーの新しい第一歩でもある。 俺はぱちゅりーのあんよを固定していた包帯に手を掛けた。 「むきゅ……きんちょうするわ」 所々包帯と外皮が貼り付いてしまっている箇所があるので ぱちゅりーの負担にならないよう少しずつ慎重に剥がしていく。 そうして全ての包帯を解き終わるとそこには見事に定着した新しいあんよが姿を見せた。 だが、まだ完全にぱちゅりー本体と同化していないのだろう。 接合部の傷口はなだらかで段差も見当たらないが、そこから下のあんよは色素が若干濃い。 「まずまずの出来だな。あとはちゃんと動くかどうかだ。試しにそろーりそろーりしてみてくれ」 「むきゅ!ぱちぇ、やってみるわ!……ゆんしょ、ゆんしょ、そろーりそろーり……」 ぱちゅりーは真剣な顔つきだ。必死にあんよを動かそうとしている。 だが、まだあんよが動き出す気配は感じられない。ぱちゅりーの顔にも焦りの色が浮かぶ。 「むきゅーーー!ぱちぇのあんよさん、うごいてーーー!」 「まぁ焦ることはないないさ。ここは少しずつリハビリを重ねてだな……」 そう言おうとしたところで、ぱちゅりーの身体が僅かに前進した。 ぱちゅりーもハッとした表情だ。 「お!う、動いたじゃないか!よしそのままそろーりそろーりを続けてみてくれ!」 「むきゅっ!ぱちぇ、がんばるわ!あんよさん、うごいてーーー!」 ぱちゅりーの踏ん張りとともに、また僅かにその身体が前進する。 いくら種族的に脆弱とはいえ本来のぱちゅりー種ならもっと速い筈なのだが、 ここまで出来ればあとは本当にリハビリ次第だろう。 「よし、その調子だ。今はまだ動かし辛いだろうけど少しずつ慣らしていけば、きっと元通り動けるようになるよ」 「むきゅー!おにーさん、ありがとうなのだわ。あんよさん、うごいてーーー!」 この調子なら一週間もあればそろーりそろーりは完全に出来るようになりそうだな。 ぽよんぽよん跳ねたりできるのはまだ先になるだろうけど一ヶ月もあれば完治するかもしれない。 それに伴ってあんよの色素もぱちゅりー自身の色に近づいていく筈だ。 あとは、あにゃるがちゃんと機能すれば固形物を与えても大丈夫だろう。 そういえば俺もそろそろ腹が空いてきたな。俺はぱちゅりーに背を向けて台所に向かい、 冷蔵庫に残った最後の生ぱちゅりー饅頭をほうばった。 そして一ヵ月後、俺はぱちゅりーを抱いて道を歩いていた。 ぱちゅりーの帽子にはついさっき取得したばかりの銀バッジが燦然と輝いている。 そう、ぱちゅりーはついに夢を叶えたのだった。その表情からは何かをやり遂げた者特有の精悍さが伺える。 あんよの機能は順調に回復し、屋内であれば通常のぱちゅりー種と遜色ない動きができるようになった。 銀バッジ取得試験は屋内会場で行われた為、身体機能の測定にはほとんど影響しなかったのだ。 尤も舗装されたアスファルトの上を跳ねるのはまだ早い。その為、外出時はいつも俺が抱いて連れていた。 それは調度空き地の傍を通り掛った頃だった。 ぱちゅりーが唐突にこう切り出した。 「むきゅ、おにーさん。ぱちぇはおそとではねてみたいわ」 うーん、ぱちゅりーの向上心には今更ながら関心させられる。 あれから一ヶ月も経ってるし屋内では満足に動けているんだからそろそろ頃合だろうか。 「……そうだな。確かにぱちゅりーもそろそろ自分のあんよでお外を歩いてみたいよな」 「むきゅ。ぱちぇはやりとげてみせるわ!」 ぱちゅりーのことだ。こうと決めたからには敢えて難易度の高いアスファルトから始めたいのだろう。 どうせ止めても無駄だろうしな。俺はぱちゅりーを静かに地面に降ろしてやった。 「……むきゅー!なんだかじめんさん、ごつごつしてるわ……でもぱちぇはへいきよ」 「無理はするなよ。辛かったらすぐに言うんだぞ」 「むきゅ、だいじょうぶよ。おにーさん、ぱちぇはぎんばっじもちなのよ!これくらいなんでもないわ!」 アスファルトの上を軽く跳ねて俺の足元の周囲を廻っているぱちゅりー。 言葉ではああ言ってはいたが瞼を硬く閉ざし額に汗を滲ませ跳ねるその姿はかなり辛そうだ。 だが、ここはぱちゅりーから止めたいと言うまでこちらから制止しないでおく。 ガサガサ……ポヨンポヨンポヨン ふと、唐突に空き地の草むらから一匹のゆっくりが飛び出してきた。 小汚いそのゆっくりは迷わず俺の正面に立ちはだかる。その視線は間違いなくこちらを捕らえていた。 野良のまりさか……まさか定番の強盗ゆっくりってやつか、それとも身奇麗なぱちゅりーがお目当てなのか。 だが俺の警戒を他所に、野良まりさは妙に爽やかな口調で俺に話しかけてきた。 「ゆゆ!おにーさん、ひさしぶりー!ゆっくりしていってね!」 「ん?……なんだ?野良ゆっくりが何の用だ?」 「ゆゆ!おにーさんにたすけてもらったまりさだよ!ゆっくりおもいだしてね!」 俺が助けた?……俺が治療してやったゆっくりなんて実習用を除けばぱちゅりーくらいなもんだが……。 ん?そういえばこの場所はあの空き地か。となると……。 「…………ああ、あの時のまりさか!ありすに襲われてたっけかな。だいぶ大きくなったじゃないか。 にしても、受けた恩をちゃんと覚えてるとは野良のゆっくりにしてはなかなか立派な心掛けだな」 「ゆゆーん!まりさはかしこいんだよ!」 例のドナー候補のまりさだった。ぱちゅりーもそうだが今では成体間近といったところだろうか。 「ゆゆ?みなれないぱちゅりーだね?」 まりさは俺の横で必死にぽよんぽよん跳ねているぱちゅりーが気になったようだ。 ぱちゅりーもまりさに気付いたらしい。 「むきゅ。はじめまして、まりさ。ぱちゅりーよ、よろしくね」 「ゆゆ!とってもゆっくりしたぱちゅりーだよ!ゆっくりしていってね」 お互い初対面だというのに、まりさは顔を赤らめ、ぱちゅりーも妙にモジモジした様子だ。 これはアレか……一目惚れってやつかね。 「……むきゅ、なんだかてれるわ、まりさ。そんなにみつめないでね」 「ゆゆーん!ぱちゅりー、もしよかったらまりさとおともだちになってほしいよ!」 「むきゅー。……おにーさん、どうしようかしら?」 ……なんだかゆっくりのくせに随分と展開が速いな。 だが野良ごときに自分の飼いゆっくりに手を出されて黙っている飼い主はいないぞ。 ぱちゅりーの為にも悪い虫はさっさと潰し……いや、待てよ。このまりさは使えるかもしれない。 どうも俺に恩義を感じているようだし野良にしては礼儀正しさも兼ね備えているので及第点だ。 それに、いずれはぱちゅりーのお相手を用意しなくてはいけないが、 万年金欠の俺としては無料でそこそこのゆっくりが手に入るのなら万々歳だ。 銀バッジ取得祝いのプレゼントということにしてお招きしてやるとするか。 そうと決まればまりさの資質の最終チェックだ。とりあえず俺とまりさだけで話したい。 「ぱちゅりー。まりさとは俺が話すよ。ぱちゅりーはお外で跳ねる練習を続けてくれ」 「むきゅー!ゆっくりりかいしたわ!まりさ、またね」 そう言うとぱちゅりーは俺とまりさに背を向け、少し距離を離しつつぽよんぽよん跳ねる練習に戻って行った。 「さて、まりさ。分かってるとは思うがあのぱちゅりーは俺の飼いゆっくりだ。 野良ゆっくりと遊ばせてやるわけにはいかない」 「ゆゆ!おにーさん、いじわるしないでね。まりさはゆっくりしたゆっくりだよ」 「ああ。そこで提案なんだが……」 そう言い掛けたところで、俺のすぐ傍を真っ白な選挙カーが走り抜けていった。 「む゛ぎゅ」 危ないな……もう少しで接触するところだ。ちゃんと前を見て走っているんだろうか? 車上のスピーカーからは大音量のスピーチが流れている。 「あまあま党の由久利愛出子、由久利愛出子をよろしくお願いします!!」 ん……何か前にもこんなことがあったような……。 妙な既視感に囚われていると、ふと、選挙カーの窓から何か巨大な物体がニュ~と突き出てきた。 あれは……ドスまりさ? 「ゆゆ~ん♪みなさん、ゆっくりおうえんしてね~♪」 ……思い出した。先日のあまあま党の選挙カーだ、まだやっていたのか。 俺は少し落ち込んだ様子のまりさの頭を撫でつつ後ろのぱちゅりーに向けて言った。 「ぱちゅりー、お外では常に周りに気を付けるんだぞ…………ぱちゅりー?」 返事はなかった。その理由は即座に知れた。 俺のすぐ後ろには全身の生クリームをぶちまけて皮だけになったぱちゅりーの姿があった。 「…………ぱ、ぱちゅりー…………」 タイヤ痕も生々しい。そこには、ついさっきまでゆん生の絶頂期を謳歌していたぱちゅりーの面影はない。 「ゆ?……ゆああああああああああああ!!ゆっぐりじだばぢゅりーがぁぁぁぁ!!」 まりさも何が起きたか悟ったらしい。 ぱちゅりーは間違いなく即死だっただろう、何が起きたかさえ判らなかったに違いない。 人間に襲われ加工され、今度は人間に助けられて苦労の末に銀バッジまで手に入れたというのに、 その最期はこんなにも唐突であっけないものなんだろうか。 これからも俺をゆっくりさせてくれるんじゃなかったのか?ぱちゅりー……。 選挙カーは既に視界から消えている。道行く人々は誰しもがこちらに声を掛けることもなく通り過ぎていく。 結局、そこには呆然とする俺と泣き喚くまりさとズタボロの残骸だけが残されたのだった。 残骸に残された銀バッジだけがいつまでも煌々と光を湛えていた。 ぱちゅりーの轢き逃げは警察に届け出たが全く相手にされなかった。 あまあま党にも直接抗議したが「ゆっくりの安全義務を怠ったあんたが悪い」の一点張りだ。 しょせん、ゆっくり一匹の扱いなどこんなものか。 俺は例の野良まりさを連れて帰りペットにすることにした。思っていた通りなかなか気立ての良い奴だ。 とりあえず庭先で雑草毟りをさせつつ、ぱちゅりーの残骸を埋めて墓を作ろうとしていたら その帽子に付いた銀バッジに興味を示したので、暇潰しに翌日試験を受けさせるとなんと一発で合格してしまった……。 何だか理不尽な気もするが、それでも夢を叶えたぱちゅりーは世界で一番幸せなゆっくりだったと信じたい。 その紆余曲折のゆん生は最高のシーンで幕を閉じたのだから……。 終わり このSSに感想をつける
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注意 現代モノです。 俺設定があります。 善良なゆっくりがゆっくりできない目に逢います。 赤ぱちゅりーはとある森の中で産声を上げた。 ハンサムで逞しい父まりさと優しく物知りな母ぱちゅりーの間に生まれた赤ゆっくりであった。 胎生妊娠で産まれた一人っ子で姉妹はいなかったが、その分両親の愛を一身に受けて恵まれた生活を送っていた。 父まりさは狩りの腕に優れ、いつも山ほどのお花さんや虫さんを巣に運び入れてくれる。 家族団欒の一時にはよく子ゆっくり時代の武勇伝を聞かせてくれた。 博識な母ぱちゅりーは、ゆっくりとした生活の合間に豊富な知識を披露してくれる。 自分達ゆっくりのこと、捕食種のこと、この森のこと、そして人間のこと。 野生の一ゆっくりとして生きるのに必要十分な知識を遥かに上回る情報量を赤ぱちゅりーに惜しげもなく与えてくれた。 赤ぱちゅりーにはよく分からなかったが、父まりさも母ぱちゅりーもかつては人間と一緒に暮らしていたらしい。 母ぱちゅりーは血統書付の優良個体で、ペットショップで過ごした子ゆっくり時代には既に銀バッジを取得していた。 もしも飼い主にやる気があったなら金バッジ取得も夢ではなかったかもしれない。 父まりさは元々は街に住む野良だった。 その毎日は決してゆっくりとはできなかったけれど血湧き肉踊るような冒険の日々は充実していた。 人家の玄関で昼寝していた犬さんの食べ物を命からがら掠め取って来たり、 襲ってきた野良れみりゃを撃退した時の興奮などは鮮明に記憶に残っている。 そんなある日、街で飼い主とお散歩していた母ぱちゅりーと偶然出合ったのだった。 一目見た瞬間にお互い惹かれ合い、二匹はすぐさますーりすーりを始めた。 当然飼い主から追い払われそうになった父まりさだが、生粋の野良ながらも なかなかの美まりさであったことが幸いして母ぱちゅりーの飼い主のお家に招待されることになった。 そして、翌日には飼いゆっくりの登録とともに銅バッジも取得し、 その後は母ぱちゅりーと一緒にゆっくりとした日々を送っていた。 だが、ある朝目が覚めると二匹は森の中にいた。飼い主の姿はどこにも見当たらない。 いくら名前を呼んでも返ってくるのは自分達の木霊だけだった。何が起こったのか全く理解できない。 しかし母ぱちゅりーはこれまで得た知識から、そして父まりさは本能的に、自分達は捨てられたのだと悟った。 それから程なくして二匹はこの森で生きていく覚悟を決めた。 温室育ちの母ぱちゅりーはもちろん、元野良の父まりさにとっても森は街とは勝手が違う。 だが、二匹は手近な木のうろに巣を構えると、力を合わせて少しずつ堅実に食べ物を蓄えていき、 巣も拡張して、ついには初の赤ゆっくりにも恵まれた。もしも母ぱちゅりーの蓄えた知識、 そして父まりさの培ったバイタリティがなければ初日で途方に暮れていたかもしれない。 「まりさとぱちゅりーのあかちゃんは、ほんとうにゆっくりできるあかちゃんだね」 「むきゅーん。もしもにんげんさんにかわれていたなら、きっとぎんばっじもらくしょうよ」 銀バッジ?赤ぱちゅりーにはそれも何のことだかサッパリ分からなかった。 分からなかったが……しかし何故かそれはとてもゆっくりできるモノのような気がした。 そう思ったから母ぱちゅりーに聞いてみた。 「みゃみゃ。ぎんばっじってぇ?」 「むきゅー。ぎんばっじはぎんばっじよ。がんばったゆっくりだけがもらえるくんしょうみたいなものよ」 「くんしょー?」 「そう、くんしょうよ。ままのおぼうしについてるこれよ。これがあればにんげんさんはゆっくりさせてくれるのよ」 母ぱちゅりーの帽子には銀色に輝く丸いものが付いていた。 通常、飼いゆっくりが捨てられる際はバッジを毟り取られるのだが、母ぱちゅりーたちの飼い主はそれを忘れていた。 「むきゅ。でも、ぱぱはぎんばっじついてないの?」 「ゆゆっ!ざんねんだけどまりさはしけんにおちたんだよ。どうのばっじはもってたけど……なくしちゃったよ……」 父まりさも捨てられた際は銅バッジが付いたままだった。しかし野生の環境は厳しい。 幾多の狩りの中でいつのまにか銅バッジはそれを付けた帽子の箇所ごと抉れてなくなっていた。 「むきゅー。しんぱいないわ、まりさ。いつかまたにんげんさんがむかえにきてくれたら、 こんどこそぎんばっじをとれるわ。ゆっくりしたまりさならきっとだいじょうぶよ」 「ゆゆ~……ありがとう~、ぱちゅりー」 すーりすり、すーりすり 仲良くすーりすーりする両親の姿は赤ぱちゅりーにはとてもゆっくりして見えた。 そんな両親の姿を眺めるのが赤ぱちゅりーの一番の幸せだった。 そして赤ぱちゅりーは母ぱちゅりーの帽子に鈍く光る銀のバッジからも目が離せなかった。 「むきゅ。ぎんばっじしゃんきゃあ。ぱちゅも、ぎんばっじしゃんほしぃなぁ」 そんなゆっくりした生活が数週間続き、赤ぱちゅりーは子ゆっくりに成長していた。 野生のゆっくりに銀バッジは無縁だ。しかし子ぱちゅりーにとってそんなことはどうでもよかった。 博学なぱちゅりー種としての本能からか銀バッジを取得すること自体がゆん生の目標になっていたのだ。 母ぱちゅりーはそんな我が子の情熱を喜んだ。 飼い主が戻ってきて連れ帰ってくれる保障なんてどこにもないが、それでも我が子の勤勉さが嬉しかった。 そして、このまま、ゆっくりしたゆっくりに育ってくれたならご褒美に自分の銀バッジを与えようと心に決めていた。 父まりさもまた子ぱちゅりーの頑張る姿が微笑ましかった。 曲がりなりにも銀バッジ取得試験に挑んだ身として、それが簡単なことでないのは分かっている。 それでも愛する母ぱちゅりーとの間に生まれた我が子ならばきっと成し遂げると信じていた。 父まりさは子ぱちゅりーの成長を支えるべく一層狩りに精を出すようになった。 そして冬篭りを控えたある日のこと。この一家の幸せは唐突に幕を下ろすことになる。 それはいつものように夕食後の団欒を終え、家族が眠りにつこうとしていたところだった。 「まま。きょうのおはなしはとってもきょうみぶかかったわ。 ぱちぇたちもにんげんしゃんをゆっくちさせちぇあげられりゅのね……」 「むきゅー。あしたもっとくわしくおしえてあげるわね。きょうはもうおねむにしましょう」 「ゆゆん。ゆっくりおやすみ……ゆゆっ?」 唐突に父まりさがビクッと顔を上げた。 「どうしたの?まりさ?」 「……なんだかゆっくりできないけはいがするよ……」 「むきゅ~?」 耳を澄ますと、すぐ近くからガサゴソという音がしている。 すると、ふいに巣の入り口のバリケードが一瞬にして取り払われた。 同時に昼のお外のような眩い光が巣の中を照らす。 「ゆっ!?」 「お、いたいた。おーい、いたぞ~。やっぱりこの木のうろには入ってやがったか」 「おっ!やっとかよ。今年はこっち側はハズレだったなぁ。崖向こうの斜面は大量だって話なのに」 「こっちは去年一昨年と派手にやりすぎて覚えられちまったのかもな」 人間の男の二人組だった。 「ゆー!ここはまりさたちのおうちだよ!」 「え~と、クズが一匹、成体が一匹と……子供が……一匹だけか」 「ゆっくりできないにんげんさんはゆっくりしないででていってね!!」 「少ないな。まぁいいや、空袋のままで帰ったらまたうるさいからな」 父まりさが体を膨らませて威嚇するが男達は気にした様子もない。 「だな。さてと……とっとすませるか。っと、おい!このぱちゅりーバッジ付きだぜ!」 どうやら母ぱちゅりーの銀バッジに気が付いたらしい。 「マジかよ。なんでこんなところにいるんだ?」 「おおかた麓の町から攫ってきたってところだろうな」 男の一人がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら母ぱちゅりーを素早く捕まえた。 母ぱちゅりーは男の顔の高さまで持ち上げられる。 「むきゅー!にんげんさん、ぱちゅたちはなにもわるいことしてないわ!だから……」 「ほほ~、こいつはなかなかの上玉だぜ」 「む、むきゅー!?」 「ゆゆっ!」 父まりさは慌てて男の足に体当たりする。 「ゆゆー!ぱちゅりーをゆっくりしないではなせーーー!!」 「むきゅー!まりさ、だめよ!おちびちゃんをつれてはやくにげるのよ!」 「ゆっくりできないにんげんさんはゆっくりしないで、ゆべっ!!」 ズドムッ!! 瞬間、鈍い音が巣の中に木霊した。父まりさが男に蹴り飛ばされたのだ。 宙を舞った父まりさは隣の木の幹に派手に打ちつけられる。 「む……むきゅーーー!!まりさーーー!!エレエレ……!!」 その様子を見た母ぱちゅりーは絶叫を上げると、そのまま生クリームを吐き出して動かなくなった。 男は持っていたズタ袋に母ぱちゅりーを放り込むと、そのまま父まりさに歩み寄っていく。 父まりさはもはや白目を剥いて痙攣するのみだ。その体の側面には大きな穴が開いて餡子を垂れ流している。 男は父まりさの顔を平手打ちして叩き起こした。 「おい、起きろよ。ゲス饅頭」 「ゆ……ゆ……」 「お前……飼いゆのぱちゅりーを攫って無理遣りすっきりしたんだろ」 「ゆ……ゆ……まりさは……そんな、こと、してない、よ」 「じゃあ、何でぱちゅりーにバッジが付いてるんだ?」 「……まりさと、ぱちゅ、りーは……つがい、なんだよ」 もう一人の男が声を掛ける。 「どうした?」 「いやな。飼いゆを攫ったゲスを制裁してやろうと思ってな」 「ゆ……ゆ……ちが、う、よ……まりさは……」 男は懐から筒状の道具を取り出した。発炎筒だった。 「はいはい。ゲスはみんな自分の都合にいいように解釈するもんさ。お前は飼いゆを攫ったゲスなんだよ」 「まり、さは……げすなんか、じゃ……」 「ゲスは報いを受けなきゃな。判決……死刑。あの世で反省しろよ」 男はそう告げると、発炎筒を父まりさの大きく裂けた傷口に乱暴に挿し込み、一気に紐を引き抜いた。 「ゆ、ゆがああああああああああああああああああああ!!!!!!」 父まりさの絶叫とともにその体内で業火が荒れ狂う。 両目は弾け飛び、大きく開いた眼窩と口からは炎が勢いよく噴出する。 だが、それも一瞬のことだった。今度は父まりさの体全体が激しく燃え上がる。 今や父まりさは一本の火柱と化していた。 「おいおい!山火事になったらどうするんだ!!」 「もうちょいしたら土かけて消すから大丈夫さ」 子ぱちゅりーはその様子をただ見ていることしかできなかった。 恐怖で動けないのではない。何が起こっているのか理解が追いつかないのだ。 「む、む、む……」 無理もないことだった。巣のバリケードが払われてからまだ三分ほどしか経っていない。 今までずっと一緒に暮らしてきた両親……。 つい先ほどまで優しく語り掛けてくれた母ぱちゅりーはズタ袋の中に入れられピクリとも動かない。 今の今まで家族を守ろうとしてくれた父まりさは子ぱちゅりーの目の前で激しく炎上している。 「む、む、む……むきゅー!……エレエレ」 そして理解が追いついたその瞬間、子ぱちゅりーもまた生クリームを吐き出し意識を失った。 それは子ぱちゅりーにとって産まれて初めての嘔吐だった。 ゴトン 「むきゅ?」 お空を飛んでいるような……そんな浮遊感を覚えていたら唐突に地面に落ちた……。 そんな気がして子ぱちゅりーは目を覚ました。そこは狭い透明な箱の中だった。 天井は開けていたが子ぱちゅりーの身体能力では届く筈もない高さだ。 透明な箱の外を見ると、子ぱちゅりーと同じくらいの大きさの無数のぱちゅりー種が、 自分と同じように透明な箱に入れられ一列に並べられている様子が伺えた。 その表情は哀しげだったり困惑していたりと様々だ。自分の箱はその列の一番端に置かれていた。 ここがどこなのか、あれからどれだけの時間が経ったのかはは全く分からない。 当然ながら両親の姿はなく、檻の中は自分の他には何一つない。 子ぱちゅりーは、今までのことをゆっくりと思い出していた。 父まりさは自分の目の前で酷くゆっくりできない方法で永遠にゆっくりしてしまった。 母ぱちゅりーはどうなったのか分からない。が、あの男達の様子からして、きっとゆっくりできてはいないだろう。 あれは一体何だったのだろう?自分達が何をしたというのだろう? 子ぱちゅりーは自分達の身に降り掛かった理不尽な悲劇に涙するしかなかった。 子ぱちゅりー自身は気付いていなかったが実はあれから三日が経過していた。 男達に連れ去られた子ぱちゅりーは、すぐさまこの施設に引き渡され、ゆっくり用の睡眠薬を打たれ眠っていたのだ。 その間、子ぱちゅりーは体を綺麗に洗浄され、毎日定期的に特殊な栄養剤と薬剤を注射されていた。 そして、今日は子ぱちゅりーに対する“処理”の最終工程が施される日だった。 ガシャン 突然、ゆっくりできない大きな金属音が響き渡った。 それと同時に子ぱちゅりーの入った透明な箱が一箱分前に進んだ。 いや、子ぱちゅりーの入った箱だけではない。この箱の列全体が一箱分前進していた。 ゴトン そして、やや遅れて、進んだ自分の箱のすぐ後方に、新たな透明な箱が降ってきた。 その中には、たった今、落下のショックで目覚めたと思しきぱちゅりー種がキョロキョロと辺りを見回していた。 「……???」 ガシャン 数分後、再びあの大きな金属音が響き渡った。 それと同時に箱の列全体がまたも一箱分前進している。そして、またもや後方には新しい透明な箱が降って来た。 状況は理解できないが、どうやら自分を乗せたこの箱の列は少しずつ前方の黒いカーテンに向かって前進しているようだった。 カーテンは真ん中で割れており、箱の列が前進する度に一箱だけその奥に吸い込まれていった。 前方のぱちゅりー達も後方のぱちゅりーたちも皆揃っておろおろするばかりだ。 そして、ついに子ぱちゅりーの箱がカーテンの奥に進む番がやってきた。 黒いカーテンを抜けた先、そこには優しそうな初老の男性が座っていた。 男性は柔らかい笑顔を湛えながら子ぱちゅりーの身体を優しく手に取り透明な箱から出してくれた。 巣を襲ったあの男達は全くゆっくりしていなかったが、目の前の男性はゆっくりした人間のように見える。 銀バッジ取得試験に向けて特訓中だった時の母ぱちゅりーの言葉が脳裏をよぎる。こういう場合はまず自己紹介だ。 「むきゅー。はじめまして。ぱちぇよ。ゆっく……びぃぃ!!!?」 満を持しての挨拶は男性が手にした鉄箆によって遮られた。 真っ赤な焼けた鉄箆を口に押さえつけられる。痛みで声が出ない……のではない。 柔らかな唇が一瞬にして溶けて癒着し、それ以上言葉はおろか異音を発することさえ出来なくなってしまったのだ。 痛みと混乱で気を失いかける子ぱちゅりーを次なる痛みが襲った。 そのしなやかなあんよに高温の激痛が走る。 「……!?……!!!!!!!」 男性が片手に持った子ぱちゅりーの底部をバーナーで炙っているのだ。 その恐ろしいまでの高熱は子ぱちゅりーのあんよからどんどんしなやかさを奪っていく。 たっぷり十数秒炙られた後、子ぱちゅりーはバーナーから開放された。 底部全体が焼け焦げたあんよは鈍痛を信号として送ってくるだけで もはや自分の意志ではピクリとも動かせなかった……だがそれだけではない。 あんよはゆっくりにとってあらゆる動作の根幹となる部位である。 あんよを奪われるということは、跳躍や這いずりだけでなく、 体をよじることすら困難な体にされてしまったということなのだ。 無理に大きく体を動かそうものなら、焦げ付いて硬化したあんよがヒビ割れたり、 あんよと接する柔らかい部位の皮が引っ張られて破れてしまうだろう。 絶望的な喪失感に苛まれる子ぱちゅりー。だが男性の暴虐は止まらない。 さらなる苦痛が子ぱちゅりーを襲う。今度は子ぱちゅりーの恥ずかしい部位に激痛が走った。あにゃるだった。 「!!!!」 悲鳴を上げようにも声が出せない。生クリームを吐きたくても吐き出す口がない。 そして、それはもう既に上の穴も下の穴も同じことであった。 体の危機に体が反応したのか、子ぱちゅりーの意志を無視して口の下の小穴からしーしーが流れ出る。 流れ出たしーしーは子ぱちゅりーの下膨れを伝い鉄箆へと到達する。 だが、その些細な反撃は真っ赤に焼けた鉄箆には文字通り焼け石に水でしかない。 そして鉄箆はそんなしーしーの穴をも容赦なく蹂躙した。もはや叫びすら無く涙を流し続けるしかない。 涙で視界がぼやけて見える。だがぼやけていてもハッキリ見えた。子ぱちゅりーの眼球に迫る鉄箆……。 声は出せない。体も動かない。生クリームを吐くことすらできない。 それでも視覚を焼かれるより先にぱちゅりーは何とか意識を手放すことに成功した。 ……遠ざかる意識の中で、何かが聞こえたような気がした。 「鬼井さ~ん!営業の餡野さんから~。外線……」 帰宅途中、俺はいつものように商店街のペットショップの前で足を止めた。 ショーウィンドウからは毛並みの良いゆっくりたちがニコニコとこちらに向けて微笑んでいる。 窓の一つ一つに貼られた値札には全て六桁・七桁の数字が踊っていた。 はぁと溜息をつく。貧乏学生がおいそれと手を出せる金額ではない。 俺はとある大学のゆっくり医学部に通うしがない学生だった。 だが、いつかは金を溜めてちゃんとしたゆっくりを購入しようと心に決めていた。 ちなみにお目当てはぱちゅりー種だ。あの落ち着いて優雅な感じが好みなのだ。 ふと、商店街の一角に人だかりが出来ているのに気が付いた。 近くに寄ってみると、どうやら福引をやっているらしい。 そういえば、さっきパン屋で福引券を貰ったっけ。 どうせ今日は暇だし、と福引会場に向かい奥にある景品を眺めてみた。 すると透明な箱に入った一匹のゆっくりと目が合った。成体のぱちゅりーだった。 かなりの美ぱちゅりーであった。帽子には金バッジが輝いている。 そして予想通りぱちゅりーは一等の景品だった。俺の持つ福引券はたったの一枚。 分の悪い賭けだが負けたところで失うのは紙切れ一枚だけだ。 紅白巫女姿の受付嬢に福引券を渡し、箱の中から折り畳まれたカードを一枚取り出した。 ジャラン♪ジャラン~♪ 安っぽい鐘の音が鳴り響く。 「おめでとうございます。二等です。二等が出ました~」 愛想笑いを浮かべつつ妙に事務的な声で俺と周囲に当たりを知らせる受付嬢。 おおお、一等は逃したが二等か。俺のクジ運も意外と捨てたもんじゃないな。 そういえば二等って何だっけ?一等のぱちゅりーに目が行ってそれ以外は気にも留めていなかった。 「はい。二等の生ぱちゅりー饅頭です」 受付嬢が化粧箱を差し出してくる。 両目と口を焼き潰されたぱちゅりー種のカラー写真が印象的なパッケージ。 テレビで見たことがある。これはあの有名なぱちゅりー牧場の生ぱちゅりー饅頭じゃないか! 敷地内の森でゆっくり育った天然の子ぱちゅりーを、贅沢にも丸ごと生きながらに饅頭に加工した一品。 主に富裕層のギフト向けに供される超高級菓子であった。 パッケージ側面の解説文によると、何でも覚醒させた子ぱちゅりーの口を嘔吐される前に素早く焼き塞ぎ、 あんよを狐色になるまでしっかり焼いて、あにゃる~しーしーの穴~両目を同様に塞いでから 最後にぱちゅりーしゅ特有の長髪が狭くて動かせない程度の箱に生きたままの状態で梱包しているのだそうだ。 子ぱちゅりーは恐怖と絶望に曝されることで甘みを増し、同時に余計な身体機能を殺すことで、 生命活動を最低限維持させ、絶食状態でも長期の延命・保存が期待できるらしい。 確かに五感の大半を視力に頼るゆっくりは目を潰されれば周囲への恐怖から積極的に動こうとしなくなる。 さらにあんよを焼かれれば肉体的にも歩行や跳躍を半永久的に封じられてしまうだろう。 一切の身動きを封じられれば、脆弱なぱちゅりー種は恐怖とストレスから致命的な分量の中身を吐き出しかねないが、 それも先手を打って全身の穴を塞いでいる為、加工された子ぱちゅりーは身悶えすることしかできないに違いない。 ちなみに、これらの処理は熟練の職人が個体毎に微調整を加えながら手作業で行うらしい。 本当に手間暇掛けてるよなぁ。本来なら俺みたいなヤツが食べられるシロモノじゃない。 金バッジぱちゅりーが手に入らなかったのは残念だが、元々勝算は低かったしこれはこれで驚きの収穫だ。 去り際にふと金バッジぱちゅりーに目を移すと、あのパッケージ写真にショックを受けたのか白目を剥いて気絶していた。 家に帰ると早速、生ぱちゅりー饅頭に齧り付くことにした。 化粧箱を開けると全身の穴とあんよを焼き潰されたパッケージ写真そのままな子ぱちゅりーたちが転がり出る。 全部で四匹入りだ。ソフトボールより一回り大きいくらいなので二匹も食えば満腹だろう。 ふと、密封状態から開放されたことで表皮が外気を敏感に感じ取ったのか 生ぱちゅりー饅頭たちは皆揃ってぷるぷると震えだした。パッケージの解説通り四匹ともしっかり生きているようだ。 おもむろに一番手近な一匹を手に取る。手に取った瞬間ビクッと体が跳ねた。 その反応が妙に可愛かったので両手で全身をゆっくりとこねくり回してみる。 両目と口が焼き固められていて表情は判らないが、その心中はきっと恐怖で一杯なのだろう。 必死な様子で全身を小刻みにピクピクと震わせている。生き饅頭に許された最大限の抵抗なのかもしれない。 さて、それじゃそろそろ十分に感触を楽しんだので、まずはあんよから頂くことにする。 「それじゃ、いただきまーす」 バリリッ!(ビックンッ!) 噛み付いた瞬間、生ぱちゅりー饅頭の体が大きく仰け反った。 両手でしっかり押さえているので生クリームが飛び散ったりはしない。 ムシャムシャ!(ビクビクッ!) 焼けたあんよの表面はクッキーのような味と食感だった。黒焦げではないので苦味は全くない。 さらに口の中であんよの表皮の内側にごっそり付着した生クリームが別の生き物のようにのた打ち回る。 この感触はクセになりそうだ。続けて生ぱちゅりー饅頭のまむまむの辺りを食い千切ってみた。 ムシャリッ!(ビクビクビクン!) ふむふむ、ここはシットリとした食感だ。これはどんどん行けるぞ! こうして気が付けば生ぱちゅりー饅頭はペラペラの頭皮に付着した紫色の毛髪と帽子を残して俺の腹に収まっていた。 ふぅ、さすがはあのぱちゅりー牧場謹製の銘菓なだけのことはある。 少々がっつき過ぎな気もするが早速二匹目行ってみるとするか。 そして頭皮と帽子を口に押し込みながら残る三匹に手を伸ばそうとして……そこで視線に気が付いた。 さっきは気付かなかったが、よく見ると一匹のぱちゅりーが両目を見開きダクダクと涙を流しながらこちらを見上げていた。 あれ……両目は潰してあるはずじゃ……ううむ?潰し忘れの不良品か。 まぁ、加工食品に見つめられるのは気持ち悪いが、別に食べられないほどの欠陥というわけでもない。 何なら今この場で両目を潰してしまえばさっき食ったのと何ら変わらない饅頭に……。 と、そこまで考えてふと思いついた。このぱちゅりーを治療してペットとして育てられないかと。 ぱちゅりーは身体の複数の重要器官を潰されているが、その目は怯えていながらも決して正気を失っている様子はない。 生ぱちゅりー饅頭のパッケージの成分表に目を通す。流石に人の口に入るものとあって諸々の予防接種は受けているようだ。 これは憧れのぱちゅりー種を入手するチャンスだ。失敗してもどうせただで貰った饅頭だ、惜しむほどじゃない。 ……だが果たしてうまくいくかどうかは正直不安だった。 学生とはいえゆっくり医学が専攻なので、ゆっくりの所見には実習も通してそこそこ自信がある。 ぱちゅりーは両目が無事とはいえ口もあにゃるも焼き塞がれている。しーしーだって出来ない。 あんよも動かせないだろう。自力で食料摂取と排泄ができなければ座して死を待つばかりだ。 とりあえず治療プランを練ることにしよう。治療に優先順位を付けて一つずつ目標をこなしていけばいい。 そうなるとまずは何より口の再生が最優先だ。食料摂取もさることながら、 意志表示の手段を与えてやらねばゆっくりを飼う面白みがない。 それに口の再生が成功したとしても、俺の飼いゆっくりになるかどうかは、ぱちゅりー自身の意志を確認しておきたかった。 野生に帰りたいなら帰してやってもいい。無理に飼いゆっくりとして引き止めても良好な関係は得られないからだ。 だが加工のトラウマで自らゆん生を放棄しようとしていたり、性格があまりに酷いゲス個体ならば、 やはり食用饅頭としての役目をまっとうさせてやらねばなるまい。 ゆっくりの体は未だ謎だらけだ。だが人間も含めた既成の生物とは異なり妙にいい加減な生態であることは判明している。 例えば体に穴が開いても、餃子の皮や小麦粉で簡単に修復できることはよく知られている。 さらに成功確率はやや落ちるものの、ゆっくり間の移植手術も人間同士の移植手術に比べ遥かに敷居が低い。 そして、それは異種族間でもそれなりに通用することが確認されている。 例えば眼球を喪失したれいむ種の眼窩にまりさ種の眼球を嵌め込んで視力が回復した例は少なくない。 もう一度ぱちゅりーの口元をよーく確認する。焼かれた唇は溶け焦げて完全に塞がっている。 さっき食った一匹の口周辺の食感を思い出してみる。パリっとしていた。 そうだな。まずは現状の口元を削り取り、小麦粉で新たに口を作り直すことにしよう。 「よし、ぱちゅりー。お前は助けてやるぞ。これから治してやるからちょっと痛いけど我慢しろよ」 そう一方的に宣言してぱちゅりーの表情を探ってみた。 ぱちゅりーはといえば、信じる信じない以前に状況が判断できずにむしろ混乱しているように見える。 無理もない。助けてやるとはいっても、それはつい今しがた目の前で仲間を食い殺した人間の口から出た言葉なのだ。 まぁどうせ返答はできないだろうから今は勝手にやらせてもらおう。 俺は箪笥や台所から適当に必要なものを準備した。そして、ぱちゅりーの両目をハンカチで縛って目隠しをする。 これは恐怖で精神崩壊させない為の処置だ。あとはぱちゅりーが痛みに耐えてくれることを願うしかない。 ぱちゅりーの体を片手でしっかりと持ち、荒めの紙ヤスリで口元を抉るように削っていく。 ガリガリ、ガリガリガリガリ。 ぱちゅりーは細かく振動している。今削っている箇所は恐らく痛覚ごと焦げ付いており痛みはない筈だ。 だが、だからといって自分の体が少しずつ削り取られていく感触に平気でいられる筈もないのだろう。 ふと、ぱちゅりーの体がビクッと跳ねた。紙ヤスリの一部が痛覚の残っている箇所に触れたか。 ここからは目の細かい紙ヤスリに持ち替えて慎重に焦げて硬くなっている部分を削っていく。 そして、ぱちゅりーが反応する度に削る箇所を変えて、口元の壊死した皮はあらかた取り除くことに成功した。 削っていた箇所の中央は口内まで貫通し、ぽっかり開いた穴からは微かに前歯が覗いている。 次に小麦粉をオレンジジュースで溶いてペースト状にし、それを薄く引き延ばして即席の皮を作る。 削ったぱちゅりーの口元にもオレンジジュースを満遍なく塗り、 湿った皮が柔らかくなるのを待って、作った皮を貼り付け指で周囲と癒着させていく。 そうすると、ぱちゅりーは完全な口なし状態になった。 もちろん色白な本来の肌とオレンジジュースで黄ばんだ即席の皮は色合いが違うので、どこが治療箇所かは一目で分かる。 俺は耳掻きを手に取り、黄ばんだ皮の部分に慎重に切れ目を入れていく。 新たな口元はさっき福引会場で見た金バッジぱちゅりーを参考にした。 よし。これで口元の見た目は何とか整った。だが、ぱちゅりーの口が言葉を紡ぐ様子はない。 それも当然だ。ぱちゅりーの新しい口元はまだ単なる小麦粉細工でしかない。 時間が経てば、本来の肌との結合部から次第にぱちゅりー本体と同化して、色合いも機能も取り戻すことだろう。 さて、次は排泄器官だ。まずは口のすぐ下に位置するしーしーの穴に的を絞る。 作業にあたり、残る二匹の饅頭のうち一匹をバラして焼き塞がれた箇所の損傷がどの程度か入念に調べることにした。 口元の再生を行う前にやっておけばよかったが、まぁ治療プラン自体が思いつきなので作業が前後するのも仕方ない。 ぱちゅりーの目隠しはしたままなので、この光景が大事に発展することもないだろう。 結論から言うと、しーしーの穴もあにゃるも、焦げているのは比較的浅い層だけのようだった。 (ちなみに調べ終わった後のバラバラの饅頭はその場でおいしく頂きました) しーしーの穴に紙ヤスリを当てる。作業自体は口元の時とあまり変わらない。焦げた箇所を目の粗い紙ヤスリで大雑把に削り、 目の細かい紙ヤスリで微調整してから小麦粉とオレンジジュースで作った皮を周囲の肌と癒着させていく。 そして最後にキリで丁寧に小穴を開け、爪楊枝を慎重に挿して尿道と繋がっていることを確認した。 これで暫くすれば、ぱちゅりーは再びしーしーが出来るように筈だ。 とりあえず今はこの辺にしておくか。続きは口としーしーの穴の機能が回復してからだ。 二、三日も放置すれば最低限の機能は取り戻すことだろう。 俺はぱちゅりーの目隠しを取り外すとクッションの上に寝かせることにした。 賢いぱちゅりー種ならば、今日の処置は最初に語り掛けた通り“治療”であると判断できた筈だ。 実際、その目にはまだ怯えの色が残っているものの状況を察したのかだいぶ落ち着いてくれたようだった。 (中編へ)
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注意 オリジナルキャラが出ます けして秋姉妹ではありません 初SSですのです オリジナル設定あり? まだれみりゃは出ません にとりとぱちゅりーと妖怪の子供さんとそしてれみりゃ 僕は河童! でも幻想郷のだから ゆっくりってかわいいよね! でも悪さをするゆっくりも増えてますよね ゆっくりを飼いたくてゆっくりが売ってるショップにきました! 「いらっしゃいませー!」 店員がそう言ってきた 店に入った瞬間いっぱいゆっくりの声がした 「ゆっ!かわいいれいむをかいにきたんだね!」 だとか 「まりささまはとてもすごいからかわれてやってもいいぜ!」 だとか 「ちぇんをかいにきたんだね!わかるよー」 とか 「とかいはのありすはとっ・・・とくべつにかわれてもいいのよ」 とかいろいろ聞こえてきた みんな飼われてほしいらしい 「なにをお探しですか?」 と店員に言われた 僕はぱちゅりーとにとりがとっても好きだ 「ぱちゅりーとにとりを探しています・・・後赤ゆっくりのね」 といったら 「れいむをかわないなんてひやかしなんだね!ひどいよ!」 とか近くのれいむが言った 店員さんがそんなの無視した後 「こちらです」 と言ったのでついていった。 「「「「ゆっくちちていっちぇね!!!」」」」 赤ゆコーナーに入ると元気でかわいい赤ちゃんゆっくりがいっぱいいた。 「お探し物はこちらでよろしいですね?」 と店員がいったら仲良しそうににとりとぱちゅりーの赤ゆっくりがすりあってた。 「きょれがあちゃらちいかいにゅししゃん?ゆっくちちていってにぇ!」 とぱちゅりーがいったらにとりも 「ゆゆ!あちゃらしゅいきゃいにゅちしゃんゆっくちちていってにぇ!」 と言った。 その後僕は2匹を買って家に帰った。 「ほーらここが君達のおうちだよ。ゆっくりしていってね!」 「「おにいしゃんゆっくちちていっちぇね!」」 その後僕は2つのプレゼント箱を上げた。 2匹は 「にゃにぎゃはいちぇるんだろう!」とか「きっちょゆっくちできりゅものだよ!」など言った。 「開けてみてね」 っと言ったら2匹は箱を開けた。 なんとぱちゅりーには子供向けの絵本、にとりには発明道具が入っていた。 「むきゅ!ゆっくちできりゅほんだよ!」 「きゃーぱ~ぱ~とてもゆっくちできりゅものだにぇ!」 と言った。 後半に続くよ!!! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 短いですが今度から長くします れみりゃは何話ぐらいかな・・・・ でもゆっくり最高! ゆっくり次をみてね! これくらいなら後編と合わせて一つのページにしても良さそうだね、これからこの三種をどう愛でていくのか楽しみだよ -- 名無しさん (2008-11-01 18 12 42) こんばんは。作者です後半と合わせたほうがよかったですか! 後続編と違う -- 名無しさん (2008-11-01 18 53 00) ↑みすった 違うの続きから SSも作成中です。 -- 名無しさん (2008-11-01 18 53 38) ふふふふっ -- りせりー (2010-07-11 20 02 46) 名前 コメント
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作者:白兎 ※前編に虐殺シーンはありません。 ※独自設定多数。 ある群れに、一匹の子ぱちゅりーがいた。 珍しいことではない。 ぱちゅりー種など、どの群れにも何匹かはいるものだ。 れいむ種やまりさ種と比べれば数が少ない、というだけのことである。 しかし、その子ぱちゅりーには、他のぱちゅりーと異なる点がいくつかあった。 まず、家族構成が変わっていた。 彼女の父親はぱちゅりーであり、その母親もまたぱちゅりーだった。 普通、ゆっくりは、同種間のすっきりを忌避する傾向にある。 それは、多くの動物たちがそうであるように、近親交配を避け、 少しでも遺伝子の多様性を維持しようとする本能的なものであった。 むろん、ゆっくりの場合は、遺伝子ではなく餡子なのであるが、事情は同じことだ。 なぜ両親ともにぱちゅりーなのか。 その答えは、この両親が子ぱちゅりーを産むにいたった経緯にある。 彼女の父親だったぱちゅりーは、生まれつき病弱で、 親友だった別のぱちゅりーにいつも面倒を見てもらっていた。 このもう一匹のぱちゅりーというのが、子ぱちゅりーの母親にあたる。 父ぱちゅりーは、ひとりで狩りをすることもできなかった。 だから、母ぱちゅりーは、父ぱちゅりーとともに冬を越そうと決心した。 つがいになるつもりはなかった。 正確に言えば、2匹は、一度もつがいになったことなどなかった。 その年の冬、稀に見る寒波が山を襲い、父ぱちゅりーは自分の死期を悟った。 食糧はまだ十分にあったが、気温の低下に体が耐えられなかったのである。 父ぱちゅりーは、親友の母ぱちゅりーに、とんでもないお願いをした。 ゆん生で一度でいい、すっきりしてみたいのだわ、と。 母ぱちゅりーは驚き、最初はそれを拒んだ。 ぱちゅりー同士が子を作るなど、聞いたことがなかったからだ。 2匹の間で、その話は無かったことにされた。 それから3日後、外はますます冷え込み、巣の中も真冬のような寒さに包まれた。 父ぱちゅりーがいよいよ衰弱していく中、母ぱちゅりーは突然つぶやいた。 すっきりしてもいいのだわ、と。 その夜、2匹は生まれて初めてのすっきりをし、父ぱちゅりーはそのまま息を引き取った。 永遠にゆっくりしてしまった父ぱちゅりーは、いかにもすっきりとした表情を浮かべていた。 母ぱちゅりーは、泣く泣くその死体に切り口を入れ、まだ温かい生クリームを取り出すと、 それを使って入り口の補強工事を始めた。 油脂をたっぷり含んだ生クリームは、グリセリンと同じように防寒剤となり、 巣の中はとても暖かくなった。 それはまるで、死んだ父ぱちゅりーと寄り添い合っているかのような、そんな温かさであった。 ゆっくりの中でも比較的賢いぱちゅりー種である。 出産方法などは、事前に話し合っておいた。 動物型にんっしん。厳しい冬を耐えるには、植物型にんっしんでは危険過ぎる。 小さな赤ゆっくりから育てていくのは、到底不可能に思えた。 しかし、動物型にんっしんでも、2匹、3匹と産まれては困る。 食糧などを勘案して、育てられるのは子ゆっくり1匹だけだ。 そこで、父ぱちゅりーと母ぱちゅりーは、巣の中の葉っぱで避妊具を作り、 それをぺにぺにに巻いて、精子餡の量を調整した。 人間の場合とは違い、赤ゆっくりの数は精子餡の量に比例する。 大量の精子餡を放出するれいぱーが母体の死に直結するのも、このためだ。 3週間後、ぷっくりと下顎を膨らませた母ぱちゅりーは、 巣の中でゆっくりラマーズ法を実践しながら、陣痛に苦しんでいた。 ゆっゆっふぅ、ゆっゆっふぅ、と白い息を吐く母ぱちゅりー。 そして、次第に割れ目が大きくなり、赤ゆっくりがじわじわと顔を出す。 自分の位置からは見えないが、母ぱちゅりーには我が子の動きがはっきりと分かった。 ぽん コルク栓を抜いたような音とともに、赤ゆっくりが産道から飛び出した。 木の葉や綿毛で作った毛布をクッションにして、地面にぶつかったときの衝撃を和らげる。 ふぅー、と大きく息を吐いた後、母ぱちゅりーは産まれたばかりの赤ゆっくりを見た。 それは、案の定と言うべきか当然と言うべきか、ぱちゅりー種であった。 「ゆっくりちていってね!」 元気よく挨拶する赤ぱちゅりー。 「ゆっくりしていってね。」 母ぱちゅりーの目に、すっと涙が流れた。 死んでしまった親友への涙か、それとも、母親になれたことの喜びか。 そんな母親の複雑な思いを、赤ぱちゅりーは知る由もなかった。 赤ぱちゅりーはとてもゆっくりした子で、2匹は何とかその冬を乗り越えることができた。 春が来て、山のほうぼうからゆっくりたちが顔を出す頃になると、 母ぱちゅりーも、入り口を塞いでいた木の枝や苔をはずし、 久々に見るお日様に向かって、ゆっくりー♪、と喜びの挨拶をした。 そして、皮となった親友の死体を埋め、そこにお墓を作った。 父親のことは、成長して子ぱちゅりーになった我が子にも内緒にしておいた。 ぱちゅりー同士の子だと知れれば、何をされるか分かったものではない。 だから、母ぱちゅりーは、仲間に尋ねられると、いつもこう答えた。 これは、一本杉の根元に住んでいた、まりさの娘だ、と。 一本杉のまりさは越冬中の雪崩に巻き込まれており、まさに死人に口無しであった。 そんな母ぱちゅりーが、我が子のおかしさに気付いたのは、 4月に入り、山桜がゆっくりと咲き始めた頃のことだった。 「おかあしゃん。ちょうちょしゃんがゆっくりとんでりゅよ。」 「ほんとだね。ちょうちょさんはとってもゆっくりしてるね。」 「ゆわーん!いちゃいよー!まりしゃおねえしゃんがいじめりゅー!」 「いじめちぇないのじぇ。ちょっとおふじぇけしただけなにょぜ。」 「らんぼうさんはだめだよ。いもうとはまだちいさいからゆっくりあそぼうね。」 野原の片隅で、花と虫に囲まれながら、日光浴を楽しむれいむ一家。 彼女のつがいだったはずのまりさは、もういない。 親れいむの話では、冬越しの間に風邪をひき、そのまま死んでしまったのだという。 親れいむは夫の死を乗り越え、形見のおちびちゃんたちを世話している。 だが、親ぱちゅりーは薄々勘付いていた。 彼らは、予定外のすっきりで冬籠り中ににんっしんしてしまい、食糧が足らず、 親まりさが自ら命を絶つことで家族を救ったのだ、と。 話をもとに戻そう。 親れいむのそばで遊ぶ子ゆっくりたちは、子ぱちゅりーと同じ早生まれ、 通称、冬生まれである。 親れいむの話からすると、産まれた時期もほぼ一緒のようだ。 ところが、その子ゆっくりたちは、子ぱちゅりーとは似ても似つかない。 いや、逆だ。子ぱちゅりーが、その子ゆっくりたちとは似ても似つかないのである。 「むきゅん。おかあさん、きょうもごほんをよんでほしいのだわ。」 「もちろんいいのだわ。ぱちぇはほんとにごほんがすきなのね。」 お分かりいただけただろうか。 この子ぱちゅりー、れいむ一家の子どもたちと違い、 何の問題もなく言葉を話せるようになっている。 これは、ぱちゅりー種だという事実だけでは説明がつかない現象だった。 まだ生後3ヶ月しか経っていないのである。 「このまどうしょによれば、ひとざとには、ちょこれーとでできたおしろがあるのだわ。」 子ぱちゅりーが持って来たのは、河原で拾った1枚のちらしだった。 大方、キャンプ客が、何かを包むために持参したのだろう。 ちらし一面に、甘い食べ物がところ狭しと並んでいた。 「むきゅん。おかあさん、そんなおしろがあるのかしら。」 子ぱちゅりーが、いぶかしげに尋ねた。 「どうしてうたがうのかしら?」 母ぱちゅりーは驚いた。 これまで、自分がごほんを読んでいるときに、口を挟まれたことがなかったからだ。 ゆっくり一般に言えることだが、文字に関するぱちゅ種の解釈は絶対なのである。 「むきゅん。ちょこれーとさんはあついとすぐにとけてしまうのだわ。 そんなものでおしろをつくったら、だれもすめないのだわ。」 ぱちゅ親子が住む群れは、一度も人間の里に下りたことがなかった。 それが最も安全な方法だと、先祖代々伝えられていたからだ。 しかし、近くの河原がキャンプに適しているため、 夏場には人間のほうから群れの近くへやって来ることがある。 そして、彼らの中には、ゴミを持って帰らない人たちもいる。 そのおかげで、チョコレートというお菓子も、群れのゆっくりたちにはよく知られていた。 とっても甘くてゆっくりできる、伝説のあまあまさんである。 親ぱちゅりーですら、それを口にしたことは一度しかない。 「でも、このまどうしょには、ちょこれーとのおしろがあるのだわ。」 親ぱちゅりーは、うねうねと動く髪の毛でちらしを指した。 「それはおしろじゃなくて、おしろのかたちをしたちょこれーとなのだわ。」 「むきゅん。そうかもしれないわね。」 親ぱちゅりーは思った。 この子は、てんっさいかもしれない。 それも、自信過剰なまりさ種がよく使うような意味ではない。 思えば、父ぱちゅりーも、病弱ではあったが、頭の回転は群れ一番だった。 それを知っているのは、世話をしていた母ぱちゅりーだけだったけれども。 「おかあさん、このしろいものはなんなのかしら?」 「むきゅん。それはね…。」 こうして、ぱちゅ親子は、今日もごほんを読みながら一日を過ごした。 6月。梅雨の訪れ。 今や子ぱちゅりーも半年の歳月を経て、子ゆっくりから大人ゆっくりになろうとしていた。 そして、その間の成長ぶりは、親ぱちゅりーの予想を遥かに上回るものだった。 「お母さん。ぱちゅは今日、面白いことに気付いたのだわ。」 子ぱちゅりーは、地面に木の枝で何かを書きながら、母親に話しかけた。 いつまでも降り続ける雨の中、子ぱちゅりーは、こうやって時間を過ごしている。 「どうしたのかしら。」 「むきゅん。3匹のまりさが、木の実を4つずつ拾ったら、何個になるのかしら。」 母ぱちゅりーも木の枝を取り、地面に式を書く。 4+4+4=12 「12個なのだわ。」 普通、ゆっくりの中で計算ができるのは、ぱちゅ種だけである。 その計算とやらも、足し算と引き算のみから成る簡素なものだったが、 10以上の数を「たくさん」としか認識できないまりさ種やれいむ種と比べれば、 格段の能力差に違いなかった。 「そうなのだわ。でも、こうすると、もっと速く計算できるのだわ。」 4×3=12 母ぱちゅりーは、おめめをぱちくりとさせた。 彼女には、娘の書いた計算式が、何を意味するのか分からなかったからだ。 ゆっくりは、掛け算を知らない。 「足し算で同じ数が連続するときは、その連続する数を使って、計算できるのだわ。 この新しい計算方法に重要な組み合わせは、81通りあるのだわ。」 母ぱちゅりーは、子ぱちゅりーの言っていることが理解できなかった。 子ぱちゅりーの能力は、その母を凌駕していたのである。 だが、ひとつだけ分かったことがあった。 この子は、本物のてんっさいだということだ。 「むぎゅ。」 親ぱちゅりーは、そっと子ぱちゅりーを抱きしめた。 長い髪の毛で顔を撫で、すりすりをしてやる。 「ぱちゅはほんとにいいこね。おとうさんもよろこんでるのだわ。」 「むきゅきゅ。お母さん、苦しいのだわ。」 その夜、母ぱちゅりーは、花の蜜とムカデでお祝いをした。 「むきゅん。何のお祝いなのか分からないのだわ。」 こういうところには、てんで疎い子ぱちゅりーである。 だが、そんな彼女も、母親の喜んでいる姿を見ると、 うっとおしい湿気など、吹き飛んでしまうのだった。 7月。晴れ渡った夏空の下で、ぱちゅ親子は狩りに精を出していた。 他のゆっくりたちも、家族連れであちこち飛び回っていた。 目立つのはまりさ種とちぇん種だが、れいむ種もちらほら見かける。 この時期になると、春に産まれた子どもたちもすっかり大きくなり、 子育てに手間がかからなくなるのだ。 子ゆっくりたちは、親の狩りに同行し、生きるために必要な知識と技術を学ぶ。 父ぱちゅりーの世話をしていたためか、母ぱちゅりーは狩りが上手かった。 上手いと言っても、ぱちゅ種にしては、という条件付きだが。 それでも自分たちの食糧を集めるのには、一度も困ったことがない。 頭を使って山菜の群生地を探したり、虫の巣を見つけたりして、 体力任せにうろうろするまりさたちよりも、効率がよいくらいである。 それと対照的なのが、子ぱちゅりーであった。 すっかり大人になったというのに、自力で虫を捕まえることができない。 ぴょんぴょんと後を追っては、石に躓いて転んでしまう。 「むきゅん!虫さん待つのだわ!むぎゅ!」 今日も今日とて、何度目か分からない盛大な転び方をする子ぱちゅりー。 「むきゅん。ちょっときゅうけいするのだわ。」 「むきゅん…。」 いくら頭がいいとは言え、実践は別物である。 動植物に関する知識は完璧なのだが、動かないもの以外には応用がきかなかった。 とはいえ、親ぱちゅりーも、娘の鈍重さをそれほど気にはしていなかった。 欲張りさえしなければ、花や草、木の実だけでも生きていけるからである。 特に、この子ぱちゅりーほどの知識があれば、誤って毒草を口にすることもなく、 いろんな場所で食べ物を探すことができるだろう。 ただ、ごちそうのムカデさんを食べられないことだけは、不憫に思っていた。 ムカデさんは、本当に美味しいのだ。 「おひるごはんにするのだわ。」 「むきゅん。今日はお花さんの蜜を呑むのだわ。」 子ぱちゅりーは、自分で摘んだ花の蜜をちゅーちゅーと吸い、 親ぱちゅりーは、自分で穫った毛虫をむーしゃむーしゃする。 交換はしない。 それは、子ぱちゅりーのためにならないからだ。 毛虫を口一杯に頬張りながら、母ぱちゅりーは子ぱちゅりーを盗み見る。 子ぱちゅりーの顔は最近痩せており、どうも元気が無い。 娘が理由を語ることはなかったが、母ぱちゅりーには分かっていた。 友達ができないのである。 母ぱちゅりーは、子ぱちゅりーの偉大さを理解していた。 ただし、何となくスゴい、という意味でだった。 子ぱちゅりーは毎日「まどうしょのかいどく」に取り組んでいたが、 それを横目で見る母ぱちゅりーには、娘が何をしているのか見当もつかないことが多い。 ぱちゅ種の、しかも比較的優秀な個体ですらそうなのだ。 他のゆっくりがどういう反応を示すかは、火を見るより明らかである。 子ぱちゅりーは、「かわりもののぐず」とみなされていた。 「むきゅん。美味しかったのだわ。」 「むきゅん。ちょっとおひるねしましょう。」 ぱちゅりー親子は、近場にある老木へと向かった。 その根元には、ゆっくりが寝るのにちょうどいい穴蔵がある。 春にそれを見つけた2匹は、草や苔でその穴を塞ぎ、ときどき別荘代わりに使っていた。 親子が薄暗い穴に身を隠すと、ひんやりとした土と空気に心が休まる。 「むきゅん。ごくらくなのだわ。」 「ここは太陽さんが当たらないから、昼間も涼しいのだわ。」 そう言うと、2匹はゆっくりとお昼寝を始めた。 8月。ゆん生の中で最も楽しい季節がやってきた。 子どもたちはみな成長し、あちらこちらに家族連れのゆっくりがあふれ返る。 おうたを歌うれいむ一家、どろんこになりながら遊ぶまりさ一家、 わかるよーと言いながら鬼ごっこをするちぇん一家、 そんな中でも、とかいてきな慎みを失わないありす一家。 ぱちゅ一家は、そのいずれにも与することなく、自分たちの夏をゆっくり楽しんでいた。 そんなある日のこと。 「お母さん、話があるのだわ。」 真剣な顔付きで、娘が口を開いた。 母ぱちゅりーも、自然と居住まいを正す。 「むきゅん。どうしたの。」 「ぱちゅは、河原に行きたいのだわ。」 ついにこの日が来てしまった。 母ぱちゅりーは、心の中でそう思った。 8月になると、人間の親子連れが、近くの河原に集まって来る。 この群れのゆっくりなら、誰でも知っていることだ。 だから、この時期、川に行くことは禁じられていた。 それでも、母ぱちゅりーには、娘の考えが手に取るように分かった。 にんげんさんを見てみたい、と。 「にんげんさんにあいたいのね。」 「むきゅん。ぱちゅは、人間さんを見たいのだわ。会うんじゃないのだわ。」 「それはおなじことなのだわ。」 「同じではないのだわ。遠くから見るだけで、お話はしないのだわ。」 「みんなさいしょはそういうのだわ。でも、おはなししたくなるのだわ。」 人間は、ゆっくりにとって、親しくもあり危険でもある、そんな存在だ。 同じ言葉を話す別々の種族。 違いは多々あれど、コミュニケーション手段が同じだという事実は、 人間にとってもゆっくりにとっても非常に魅力的である。 だからこそ、人間はゆっくりに、ゆっくりは人間に近付いて行く。 やはり駄目か。 子ぱちゅりーは、心の中で落胆した。 「あなたがいきたいのなら、いくといいのだわ。」 「むきゅん!本当!?」 意外な母の言葉に、思わず飛び上がってしまう子ぱちゅりー。 しかし、すぐに冷静さを取戻した。 おそらく、何か注文をつけてくるだろう。 子ぱちゅりーは、母親の言葉を待った。 「どうしたのだわ。いかないのかしら。」 「むきゅ…本当に行っていいのかしら…。」 「すきにするといいのだわ。」 母ぱちゅりーは、それ以上何も言わなかった。 彼女は、子ぱちゅりーの予想とは全く違う態度で、娘の意志を尊重したのである。 すると逆に不安になってしまうのが、ゆっくり心というもの。 子ぱちゅりーは、母が自分のことを心配してくれていないのではと思った。 そんな娘の不安を察した母ぱちゅりーは、ゆっくりと話を続ける。 「むきゅん。ぱちゅはおかあさんをこえてしまったのだわ。 おかあさんは、もうぱちゅのかんがえがよくわからないのだわ。」 「むきゅ!?」 ショックだった。 冷たい群れの中で、唯一の理解者だと思っていた母。 その母親が、自分のことをもはや理解できないと言うのである。 子ぱちゅりーの目がうるむ。 「ないちゃだめなのだわ。おかあさんは、ぱちゅがきらいじゃないのだわ。」 母ぱちゅりーは、娘を髪の毛で優しく包んでやる。 「おかあさん、わからないことには、さんせいもはんたいもできないのだわ。 だから、ぱちゅがやりたいようにやればいいのだわ。ぱちゅのかんがえは、 きっとおかあさんよりもただしいのだわ。」 「むきゅ…お母さん…。」 その夜、2匹は久しぶりに一緒のお布団で寝た。 優しい母の温もりを感じながら、子ぱちゅりーは明日の冒険に胸をはずませ、 なかなか寝付くことができなかった。 続く これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して 乞食れいむのおうた 選択肢 投票 しあわせー! (6) それなりー (0) つぎにきたいするよっ! (0)
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「ただいまー。ぱちゅりー、帰ったぞー」 家に帰り着くと、俺は子ありすを玄関に置いてぱちゅりーに帰宅を知らせた。 ……返事はない。心配になってぱちゅりーのいる居間へと急いだ。 すーすー、すーすー ……心配は杞憂だった。ぱちゅりーは幸せそうな顔で可愛い寝息を立てている。 そうか、ぱちゅりーはお昼寝中か。そいつは都合が良い、今のうちに子ありすの準備を済ませてしまおう。 俺は箪笥から裁縫箱を取り出すと玄関へと踵を返し、子ありすの袋を持って浴室へと向かった。 ぱちゅりーを起こさないよう浴室のドアをしっかり閉める。 そこで裁縫箱を開け、コンビニ袋を鋏で切って子ありすを外へ出してやった。 「ゆはぁ!!ゆぅぅ……このいなかものっ!とかいはなありすをこんな、ゆがぁ!!」 俺に文句を言おうと大口を開けた瞬間を見計らってすかさず子ありすの舌を摘み上げる。 そして、反対の手で子ありすの体をしっかり押さえつけると、そのまま舌を引き抜いた。 「ゅぐぅ!!」 小さな呻き声を上げる子ありす。……この程度ならぱちゅりーのいる居間には届くまい。 だが俺は裁縫箱から針を取り出し、間髪入れずに子ありすの唇を縫い付けていく。 もはや呻き声しか上げられないだろうが、万が一にも、 この小汚い口上がぱちゅりーに悪影響を及ぼす事態は避けたいのだ。 それに、口を開けば文句ばかりのこの子ありすがいい加減鬱陶しくなってきたというのもある。 唇をしっかり縫い付けると子ありすは完全に沈黙し、視線と挙動でしか反抗の意志を伝えられなくなった。 よっぽど俺を恨みに思っているのか、その両目には殺意めいた憎悪の灯火が光っている。 手を離せばそのままこちらに体当たりを仕掛けてくるに違いない、そんな形相だ。 今度はその視線も塞いでやることにした。子ありすの瞼を摘んで同じように縫い付けていく。 右目は縫い始めに、針が眼球を縦に貫いたかのような感触が伝わってきたが別段問題はない。 両目の処置も完了した。これで子ありすはもはや体をよじる動きでしか反抗の意志を表現できない。 俺は浴室の蛇口を捻して水を風呂桶に溜め、子ありすを乱暴に叩き込んだ。 そのまま皮を破らないよう注意しつつゴシゴシと全身を揉み洗いしていく。野良生活で付着した汚れと 子まりさを襲っていた際に分泌していたあの気持ち悪い粘液をここで洗い落とす必要がある。 蛇口からの放水はそのままにして、風呂桶が濁る度に角度を変えて排水し都度水を交換していく。 しかし酷いもんだな。最初の三回くらいはみるみるうちに水が茶褐色になってしまった。 その後も例の分泌液のせいか水がすぐさま白く濁っていく。 実に十回ほども同じ作業を繰り返して、ようやく風呂桶の水が濁ることはなくなった。 次に石鹸を泡立て子ありすの全身を再度よく洗う。とくにあんよは重点的に洗った。 ……そろそろこんなものかな。俺は最後に石鹸を洗い流すと放水を止めて子ありすを洗面所にエスコートした。 ドライヤーで子ありすを乾かしていく。ブルブルと激しく震えて抵抗しているがもう気にしないことにする。 そうして乾かし終えた子ありすは移植手術を始めるまで空の段ボール箱で待機させることにした。 念の為、子ありすの様子を観察する。かなり乱暴に洗った結果だろう。髪がところどころ溶けていた。 ありす種特有の印象的な赤い髪飾りも、今ではすっかりひしゃげてしまっている。 だが、そんな状態にも関わらず子ありすは段ボール箱の中を狂ったように飛び跳ねていた。 あれだけ乱暴に揉み洗いされたというのに随分と元気なことだ。 レイパーならではの生命力ゆえか……それとも俺を恨むあまりの執念か。 居間に戻ると、ちょうどぱちゅりーが目を覚ましたところだった。 「むきゅ……ごほんをよんでいたら、いつのまにかねむってしまったわ」 「そうか。ところでぱちゅりー。あんよの件なんだが、今から早速手術をしたい」 「むきゅ!?ま、まだこころのじゅんびがととのってないわ……」 早くて数日後だと聞かされていたのに、手術を急かされ焦りを見せるぱちゅりー。 だが、こういうのは勢いが大切なのだ。 「それが今じゃとダメなんだ。実は知り合いのありすにぱちゅりーのことを話していてな。 そのありす、何て言ったと思う?もし自分に何かあったら可愛そうなぱちゅりーにあんよを 提供してやってほしい、それが都会派なありすの愛だと……そう言ってくれたんだ。 今日はそんなありすにまたぱちゅりーのことで相談しようとしたんだが、俺がありすの元を 訪れた時には既にありすは危篤状態だった。あの様子じゃきっと野良のふらんに襲われたんだろう」 「む、むきゅー……」 よし、いくら賢いとはいえぱちゅりーも所詮ゆっくりだ。このまま畳みかけよう。 「ありすは今こうしている間にも永遠にゆっくりしてしまうかもしれない。 ここで手術をしなければありすの誠意が無駄になってしまう!それでもいいのか?ぱちゅりー!?」 大袈裟に身振り手振りを加えた演技でぱちゅりーに迫る。ぱちゅりーも俺の話に聞き入ってくれているようだ。 「……む、むきゅう。そういうことならしかたないわ。でも、そのありすはほんとうにたすからないの?」 「……残念だ。それに、あの体じゃ例え助かっても二度とゆっくりできないだろう」 「むきゅ!わかったわ。しんせつなありすのためにも、ぱちぇはしゅじゅつをうけるわ!」 GOサインが出た。物分りが良くて助かる。俺は食器棚から一本の瓶を取り出した。 「ぱちゅりー。えらいぞ、よく決断してくれた。早速準備に取り掛かるから、これを飲んでくれ」 「むきゅ?これはなにかしら?」 「これは麻酔といってな。飲めば眠って痛みを感じなくなるんだ。手術はぱちゅりーが眠ってる間に終わらせるよ」 「むきゅー!ますいさんはべんりだわ!……しゅじゅつ、しんせつなありすのためにもせいこうさせてね」 「ああ、まかせておけ!それじゃ、ゆっくりのむんだぞ」 俺は瓶を開けると、中の液体をぱちゅりーの口にあて、ゆっくりと流し込んでいく。 「むきゅ。これ……あまいわ」 それはそうだ。ぱちゅりーに飲ませているのは梅酒だった。 種族や個体によって差異はあれど、大抵のゆっくりはアルコールが入れば酔ってしまい、 一定量を摂取させれば痛みも感じなくなってしまう。この特性はゆっくり医療の現場でも活かされている。 もっとも他の種なら手術の際はこれに加えて睡眠薬や本物の麻酔も併用するのだが、 種族的に体が弱く、まだ成体にもなっていないこのぱちゅりーならこれで充分であろう。 ぱちゅりーの白い肌がみるみるうちに赤くなっていく。 「むきゅぅぅぅぅ。おにーさん、ぱちぇはなんだかねむくなってきたわ」 「麻酔が効いてきたんだな。ゆっくりおやすみ……ぱちゅりー」 さて、次は子ありすだ。俺は居間にぱちゅりーを残して廊下に向かい、 棚から工具箱を取り出して、子ありすを入れた段ボール箱を開けた。 その瞬間、音や気配で察したかこちらに飛び掛ってくる子ありすを片手で払い退ける。 暴れる子ありすをしっかりと掴み直すと、俺は台所へと向かった。 台所には廃棄予定の古い木製まな板がある。今回はこれを子ありす専用の手術台として再利用する。 俺は子ありすをまな板の上に押さえつけると工具箱から一本の釘を取り出した。 そして、まだ頭髪の残る頭頂部よりやや下の部位を前面から後頭部まで勢いよく刺し貫いた。 ビクビクビクン!! 子ありすが激しく痙攣する。だが俺は子ありすを押さえつける手に力をこめ直しつつ、 金槌で釘の頭を素早く打ち付けてまな板にしっかりと貼り付けていく。 ガン!ガン!ガン!(ビク!ビク!ビク!) 金槌を振り下ろす度に子ありすの体が跳ねる。だがカスタードの中枢は外してあるので即死することはないはずだ。 もっとも今の衝撃で中枢がダメージを受けている可能性もあるので作業を急ぐことにする。 移植手術は鮮度が重要だ。死なれてから行うより、子ありすを生かしたままの状態で行いたい。 釘は子ありすを貫通してまな板の奥深くまで深々と突き刺さった。釘の頭も子ありすにめりこんでいる。 これで子ありすがどれだけ暴れるようと外れることはないだろう。 あとは最後の仕上げだ。先ほどの口と目の縫合処理は、子ありすの洗浄を済ませ、 ぱちゅりー側の準備も整った今となっては必要ない。 俺は子ありすの顔面の縫合を唇や瞼ごとバッサリ切ると、血走った両目の眼窩に それぞれ人差し指と中指を突き入れ、か細く呻き声を上げる口には親指を突っ込んだ。 そして、子ありすがブルンブルンと体をよじって暴れるのを無視して、突き入れた三本の指の先を 合わせるように顔の中心を内側から掴み、その箇所を一息に外側に引っ張って顔面を引き剥がした。 ビックン!!!!!!ビクン!!ビクン!!ビクン!! 流石に今のはレイパーの生命力でも堪えたのか、顔面から流出するカスタードを気に留める様子も無く、 今までにない勢いで体を上下左右に激しく揺さぶっている。 さらに体内のカスタードの流れを司る重要な器官に支障が出ているのだろう。 しーしーはおろか、あにゃるからも盛大にうんうんを垂れ流していた。 この処置は、さっきぱちゅりーを納得させる為に即席で作った法螺話の辻褄あわせだった。 麻酔による処理は、手術中に痛みは感じずとも意識を回復させてしまうことが人間でもままある。 万が一、ぱちゅりーが手術中に目を覚ましこの子ありすの姿を見てしまったとしても、 疑問に思うようなことがあってはならないのだ。 だが、これで“野良ふらんに襲われたゆっくり”の体裁は整った。 しかし、このままでは手術の続きに支障が出るので、体を汚すしーしーやうんうんは 台所のお手拭用タオルで拭い取ってやることにした。激しい発作や痙攣も手術の邪魔になることが 懸念されたが、こちらは多量のカスタードを急速に失ったことで次第に鈍化していった。 子ありすの処置を終えた俺は、よく手を洗ってから、子ありすを乗せたまな板のすぐ横に 真新しいまな板を設置し、居間からぱちゅりーを運び入れて静かに寝かせた。 しかし、この体勢じゃあんよの手術は難しいな。ブックスタンドででも挟んで固定するかな。 と、唐突にぱちゅりーの目が開いた。朦朧とした瞳が周囲をぼ~と見つめている。いかん、まだ早かったか。 「ぱちゅりー。これから手術を始めるんだ。しっかり眠らないとダメだぞ」 「…………」 ぱちゅりーは声を発したこちらにに目を向けたものの黙ったままだ。意識が朦朧として状況が理解できていないのか。 と、ぱちゅりーの視線が力なく周囲をさ迷い、真横に固定された子ありすの体に向けられた。 「……ゆ?……あ…………あ…………あ」 「……ぱ、ぱちゅりー?」 「……あ……あ……あ……む、むきゅうううううううううううう!!!」 ぱちゅりーの瞳がぐるんと半回転して上を向いた。子ありすの姿に失神してしまったようだ。 その口元から白い液体が一本、地面に向かって滴り落ちる。これは液状化した生クリームだろうか。 「ええっと……ぱちゅりー?だいじょうぶか?ぱちゅりー?」 呼んでも返事はない。ショックが強すぎたのか?まさか死……んではいないようだ。 全身が小刻みに震えている。一時的なショック状態だろう。 これはチャンスだ、今のうちに急いで手術を済ませてしまおう。 まな板の上で、焦げたあんよを上に向けさせた状態のぱちゅりーを、ブックスタンドで優しく挟み込み固定した。 そして、ペンナイフで慎重に焦げたあんよと健常な肌の境界に切り込みを入れていく。 ここからが正念場だ。切り込みが一周したところで、ゆっくりとあんよ全体の外皮を捲るように引き剥がす。 なるべく、取り除くあんよ側に生クリームが持っていかれないように注意したつもりだが、そう都合よくはいかないようだ。 引き剥がしたあんよにはゴッソリと生クリームが付着していた。だが、これも想定の範囲内だ。 とりあえず、ぱちゅりーのあんよは形状そのままに生クリームを乗せた“お皿”として利用することにする。 次は子ありすのあんよだ。こちらの作業は慎重さより速度が重視される。 包丁を抜き放つと、切除したぱちゅりーのあんよと見比べつつ、必要な箇所をズバッと一刀両断にした。 ビクッ!ピクピクピク…… 刃を入れた瞬間、子ありすの体がまたしても仰け反ったが、もうそんなことはどうでもよかった。 作業の邪魔になるので余ったゴミは縫い付けたまな板ごとゴミ箱に捨てる。 一方、子ありすのあんよは、本体から切り離したというのにモゾモゾと蠢いていた。 あんよ側に大量に付着したカスタードが子ありすから受け取った最後の信号を未だあんよに伝えているのだろう。 試しに古いまな板を捨てて空いたスペースに置いてみると、驚いたことにあんよだけでそろーりそろーりを始めた。 だが、その動きはまるで意志が感じられず単なる生理反応でしかないことは一目瞭然だった。 新鮮なタコの足を切り離すと足だけでも勝手に動き回るのと同じだ。イキがいい証拠でもある。 おっと、手術中だというのについ興味本位で無駄な時間を費やしてしまった。 俺は子ありすのあんよを手に取ると、スプーンで内側のカスタードを素早く掬い取っていく。 掬い取ったカスタードは不要なのでそのまま排水溝に捨てた。 あらかたカスタードを掬い取ると、今度はぱちゅりーの焦げたあんよ=“お皿”から 同じように生クリームを掬い子ありすのあんよの内側に充填いく。 そうして、いよいよ、ぱちゅりーの生クリームを充填した子ありすのあんよを、 ぱちゅりー本体に移植する作業を開始する。作業開始に先立ち、あらかじめ子ありすのあんよのあにゃるを 外側から鉛筆で貫通させ、その先をぱちゅりーの生クリーム落ち窪んだ箇所に浅く挿した。 ここが人間で言うところの直腸なのだろう。もっともその窪みは奇妙なほど広かった。 人間のように肛門と細い直腸が繋がっているというより、あにゃるのすぐ裏側の生クリーム全てがうんうん、 またはうんうん候補の生クリームで、体内の生クリームが増え過ぎた場合に大雑把に古い生クリームを 流入させてあにゃるから排出するのだろう。 そして、その鉛筆を基点に子ありすのあんよをぱちゅりー本体に慎重に貼り付けていく。 最後にオレンジジュースで接合部の肌とあんよをそれぞれふやけさせてから互いに癒着させた。 皮が足りない部分はペースト状にした小麦粉で入念に塞ぐことにする。 その後、ある程度接合部の表面が自然乾燥するのを待って、あんよ全体を包帯でグルグル巻きにした。 これで移植手術は完了だ。ぱちゅりーを再び居間のクッションの上に寝かせ、 スポイトでその口にオレンジジュースを少量注いだ。 新しいあんよがぱちゅりーの体にある程度同化されるには少なくとも一週間は掛かる。 それまでは、なるべく栄養状態を良好に保ち、このままの状態で安静にさせておくことにしよう。 俺はその日寝るまでぱちゅりーの寝顔をゆっくり眺めていた。 ぱちゅりーが目を覚ましたのは翌日の夕方だった。俺は朝からぱちゅりーにつきっきりだった。 「……むきゅ~……よくねたわ。おにーさん、おはよう」 「おはよう、と言っても今はもう夕方だけどな。手術は昨日終わったよ。頑張ったな、ぱちゅりー」 「むきゅ、まるいちにちねむってたのね。しゅじゅつは……せいこうしたの?」 「ああ、一応な。だが今は安静にしていないと、あんよがくっ付かないかもしれないぞ」 「むきゅー、わかったわ。それじゃ、ぱちぇはゆっくりさせてもらうわ。ところで、あのありすは……」 「ぱちゅりーも見ただろう?ふらんに襲われたゆっくりは皆ああなってしまう。 でも、ありすの崇高な志はあんよとともにぱちゅりーに引き継がれたんだ。 ぱちゅりーはありすの分までゆっくりしないといけないぞ」 「むきゅ!ゆっくりりかいしたわ!ぱちぇはぎんばっじさんをとって、ゆっくりしたゆっくりになるわ!」 それからの一週間、食事はオレンジジュースのみ、クッションで寝たきり(?)状態ではあるが ぱちゅりーは一心不乱にずっと“本”を読み続けた。 「あんよはうごかなくてもべんきょうはできるわ」 ずっとこんな調子だった。“本”も日を追うごとに高度なものを用意した。 そして昨日からは俺が手書きで作った“本”を与えている。 銀バッジ取得試験の内容をぱちゅりーでも理解できるようカラフルなイラストで絵本にしたものだ。 人間に対する仕草、求められるマナー、そして模範的な表情まで示してある。 知識は既に充分だった。このぱちゅりーは残念ながら無理だが血統さえ証明できれば 金バッジ取得試験すら突破できるだろう。あとは実践だけだ。 そして、ついに包帯を解く時がやってきた。これはぱちゅりーの新しい第一歩でもある。 俺はぱちゅりーのあんよを固定していた包帯に手を掛けた。 「むきゅ……きんちょうするわ」 所々包帯と外皮が貼り付いてしまっている箇所があるので ぱちゅりーの負担にならないよう少しずつ慎重に剥がしていく。 そうして全ての包帯を解き終わるとそこには見事に定着した新しいあんよが姿を見せた。 だが、まだ完全にぱちゅりー本体と同化していないのだろう。 接合部の傷口はなだらかで段差も見当たらないが、そこから下のあんよは色素が若干濃い。 「まずまずの出来だな。あとはちゃんと動くかどうかだ。試しにそろーりそろーりしてみてくれ」 「むきゅ!ぱちぇ、やってみるわ!……ゆんしょ、ゆんしょ、そろーりそろーり……」 ぱちゅりーは真剣な顔つきだ。必死にあんよを動かそうとしている。 だが、まだあんよが動き出す気配は感じられない。ぱちゅりーの顔にも焦りの色が浮かぶ。 「むきゅーーー!ぱちぇのあんよさん、うごいてーーー!」 「まぁ焦ることはないないさ。ここは少しずつリハビリを重ねてだな……」 そう言おうとしたところで、ぱちゅりーの身体が僅かに前進した。 ぱちゅりーもハッとした表情だ。 「お!う、動いたじゃないか!よしそのままそろーりそろーりを続けてみてくれ!」 「むきゅっ!ぱちぇ、がんばるわ!あんよさん、うごいてーーー!」 ぱちゅりーの踏ん張りとともに、また僅かにその身体が前進する。 いくら種族的に脆弱とはいえ本来のぱちゅりー種ならもっと速い筈なのだが、 ここまで出来ればあとは本当にリハビリ次第だろう。 「よし、その調子だ。今はまだ動かし辛いだろうけど少しずつ慣らしていけば、きっと元通り動けるようになるよ」 「むきゅー!おにーさん、ありがとうなのだわ。あんよさん、うごいてーーー!」 この調子なら一週間もあればそろーりそろーりは完全に出来るようになりそうだな。 ぽよんぽよん跳ねたりできるのはまだ先になるだろうけど一ヶ月もあれば完治するかもしれない。 それに伴ってあんよの色素もぱちゅりー自身の色に近づいていく筈だ。 あとは、あにゃるがちゃんと機能すれば固形物を与えても大丈夫だろう。 そういえば俺もそろそろ腹が空いてきたな。俺はぱちゅりーに背を向けて台所に向かい、 冷蔵庫に残った最後の生ぱちゅりー饅頭をほうばった。 そして一ヵ月後、俺はぱちゅりーを抱いて道を歩いていた。 ぱちゅりーの帽子にはついさっき取得したばかりの銀バッジが燦然と輝いている。 そう、ぱちゅりーはついに夢を叶えたのだった。その表情からは何かをやり遂げた者特有の精悍さが伺える。 あんよの機能は順調に回復し、屋内であれば通常のぱちゅりー種と遜色ない動きができるようになった。 銀バッジ取得試験は屋内会場で行われた為、身体機能の測定にはほとんど影響しなかったのだ。 尤も舗装されたアスファルトの上を跳ねるのはまだ早い。その為、外出時はいつも俺が抱いて連れていた。 それは調度空き地の傍を通り掛った頃だった。 ぱちゅりーが唐突にこう切り出した。 「むきゅ、おにーさん。ぱちぇはおそとではねてみたいわ」 うーん、ぱちゅりーの向上心には今更ながら関心させられる。 あれから一ヶ月も経ってるし屋内では満足に動けているんだからそろそろ頃合だろうか。 「……そうだな。確かにぱちゅりーもそろそろ自分のあんよでお外を歩いてみたいよな」 「むきゅ。ぱちぇはやりとげてみせるわ!」 ぱちゅりーのことだ。こうと決めたからには敢えて難易度の高いアスファルトから始めたいのだろう。 どうせ止めても無駄だろうしな。俺はぱちゅりーを静かに地面に降ろしてやった。 「……むきゅー!なんだかじめんさん、ごつごつしてるわ……でもぱちぇはへいきよ」 「無理はするなよ。辛かったらすぐに言うんだぞ」 「むきゅ、だいじょうぶよ。おにーさん、ぱちぇはぎんばっじもちなのよ!これくらいなんでもないわ!」 アスファルトの上を軽く跳ねて俺の足元の周囲を廻っているぱちゅりー。 言葉ではああ言ってはいたが瞼を硬く閉ざし額に汗を滲ませ跳ねるその姿はかなり辛そうだ。 だが、ここはぱちゅりーから止めたいと言うまでこちらから制止しないでおく。 ガサガサ……ポヨンポヨンポヨン ふと、唐突に空き地の草むらから一匹のゆっくりが飛び出してきた。 小汚いそのゆっくりは迷わず俺の正面に立ちはだかる。その視線は間違いなくこちらを捕らえていた。 野良のまりさか……まさか定番の強盗ゆっくりってやつか、それとも身奇麗なぱちゅりーがお目当てなのか。 だが俺の警戒を他所に、野良まりさは妙に爽やかな口調で俺に話しかけてきた。 「ゆゆ!おにーさん、ひさしぶりー!ゆっくりしていってね!」 「ん?……なんだ?野良ゆっくりが何の用だ?」 「ゆゆ!おにーさんにたすけてもらったまりさだよ!ゆっくりおもいだしてね!」 俺が助けた?……俺が治療してやったゆっくりなんて実習用を除けばぱちゅりーくらいなもんだが……。 ん?そういえばこの場所はあの空き地か。となると……。 「…………ああ、あの時のまりさか!ありすに襲われてたっけかな。だいぶ大きくなったじゃないか。 にしても、受けた恩をちゃんと覚えてるとは野良のゆっくりにしてはなかなか立派な心掛けだな」 「ゆゆーん!まりさはかしこいんだよ!」 例のドナー候補のまりさだった。ぱちゅりーもそうだが今では成体間近といったところだろうか。 「ゆゆ?みなれないぱちゅりーだね?」 まりさは俺の横で必死にぽよんぽよん跳ねているぱちゅりーが気になったようだ。 ぱちゅりーもまりさに気付いたらしい。 「むきゅ。はじめまして、まりさ。ぱちゅりーよ、よろしくね」 「ゆゆ!とってもゆっくりしたぱちゅりーだよ!ゆっくりしていってね」 お互い初対面だというのに、まりさは顔を赤らめ、ぱちゅりーも妙にモジモジした様子だ。 これはアレか……一目惚れってやつかね。 「……むきゅ、なんだかてれるわ、まりさ。そんなにみつめないでね」 「ゆゆーん!ぱちゅりー、もしよかったらまりさとおともだちになってほしいよ!」 「むきゅー。……おにーさん、どうしようかしら?」 ……なんだかゆっくりのくせに随分と展開が速いな。 だが野良ごときに自分の飼いゆっくりに手を出されて黙っている飼い主はいないぞ。 ぱちゅりーの為にも悪い虫はさっさと潰し……いや、待てよ。このまりさは使えるかもしれない。 どうも俺に恩義を感じているようだし野良にしては礼儀正しさも兼ね備えているので及第点だ。 それに、いずれはぱちゅりーのお相手を用意しなくてはいけないが、 万年金欠の俺としては無料でそこそこのゆっくりが手に入るのなら万々歳だ。 銀バッジ取得祝いのプレゼントということにしてお招きしてやるとするか。 そうと決まればまりさの資質の最終チェックだ。とりあえず俺とまりさだけで話したい。 「ぱちゅりー。まりさとは俺が話すよ。ぱちゅりーはお外で跳ねる練習を続けてくれ」 「むきゅー!ゆっくりりかいしたわ!まりさ、またね」 そう言うとぱちゅりーは俺とまりさに背を向け、少し距離を離しつつぽよんぽよん跳ねる練習に戻って行った。 「さて、まりさ。分かってるとは思うがあのぱちゅりーは俺の飼いゆっくりだ。 野良ゆっくりと遊ばせてやるわけにはいかない」 「ゆゆ!おにーさん、いじわるしないでね。まりさはゆっくりしたゆっくりだよ」 「ああ。そこで提案なんだが……」 そう言い掛けたところで、俺のすぐ傍を真っ白な選挙カーが走り抜けていった。 「む゛ぎゅ」 危ないな……もう少しで接触するところだ。ちゃんと前を見て走っているんだろうか? 車上のスピーカーからは大音量のスピーチが流れている。 「あまあま党の由久利愛出子、由久利愛出子をよろしくお願いします!!」 ん……何か前にもこんなことがあったような……。 妙な既視感に囚われていると、ふと、選挙カーの窓から何か巨大な物体がニュ~と突き出てきた。 あれは……ドスまりさ? 「ゆゆ~ん♪みなさん、ゆっくりおうえんしてね~♪」 ……思い出した。先日のあまあま党の選挙カーだ、まだやっていたのか。 俺は少し落ち込んだ様子のまりさの頭を撫でつつ後ろのぱちゅりーに向けて言った。 「ぱちゅりー、お外では常に周りに気を付けるんだぞ…………ぱちゅりー?」 返事はなかった。その理由は即座に知れた。 俺のすぐ後ろには全身の生クリームをぶちまけて皮だけになったぱちゅりーの姿があった。 「…………ぱ、ぱちゅりー…………」 タイヤ痕も生々しい。そこには、ついさっきまでゆん生の絶頂期を謳歌していたぱちゅりーの面影はない。 「ゆ?……ゆああああああああああああ!!ゆっぐりじだばぢゅりーがぁぁぁぁ!!」 まりさも何が起きたか悟ったらしい。 ぱちゅりーは間違いなく即死だっただろう、何が起きたかさえ判らなかったに違いない。 人間に襲われ加工され、今度は人間に助けられて苦労の末に銀バッジまで手に入れたというのに、 その最期はこんなにも唐突であっけないものなんだろうか。 これからも俺をゆっくりさせてくれるんじゃなかったのか?ぱちゅりー……。 選挙カーは既に視界から消えている。道行く人々は誰しもがこちらに声を掛けることもなく通り過ぎていく。 結局、そこには呆然とする俺と泣き喚くまりさとズタボロの残骸だけが残されたのだった。 残骸に残された銀バッジだけがいつまでも煌々と光を湛えていた。 ぱちゅりーの轢き逃げは警察に届け出たが全く相手にされなかった。 あまあま党にも直接抗議したが「ゆっくりの安全義務を怠ったあんたが悪い」の一点張りだ。 しょせん、ゆっくり一匹の扱いなどこんなものか。 俺は例の野良まりさを連れて帰りペットにすることにした。思っていた通りなかなか気立ての良い奴だ。 とりあえず庭先で雑草毟りをさせつつ、ぱちゅりーの残骸を埋めて墓を作ろうとしていたら その帽子に付いた銀バッジに興味を示したので、暇潰しに翌日試験を受けさせるとなんと一発で合格してしまった……。 何だか理不尽な気もするが、それでも夢を叶えたぱちゅりーは世界で一番幸せなゆっくりだったと信じたい。 その紆余曲折のゆん生は最高のシーンで幕を閉じたのだから……。 終わり このSSに感想をつける
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作者:白兎 ※虐待成分少なめ。 ※独自設定多数。 翌朝。子ぱちゅりーは、母親に作ってもらったお弁当を持ち、家を出た。 彼女の家から河原まで、片道で3時間は掛かる。 れみりゃが出没する夕方までには帰って来なければならない。 「むきゅん。行って来るのだわ。」 「いってらっしゃい。」 子ぱちゅりーは、ゆんしょゆんしょと野原を急いだ。 往復6時間の道のりだ。 ゆっくりしていては、にんげんさんを観察する暇がなくなる。 「どこへいくのぜ?」 森へ入ろうとするところで、ふいに背後から声を掛けられた。 子ぱちゅりーは、びっくりして後ろを振り返った。 声を掛けたのは、子まりさ、子れいむ、そして子ちぇんからなるグループだった。 8月も中頃になると、子ゆっくりは子ゆっくり同士で遊ぶようになる。 それが秋の初めまで続き、その間にできた交友関係が、 そのまま将来のゆっくり付き合いを形作る。 恋仲に発展したゆっくりはつがいとなり、友達の関係に留まったゆっくりは、 越冬の準備を手伝ったり、その後の近所付き合いを楽しんだりする。 強いて人間に喩えれば、高校から大学にあたる段階だ。 この3匹も、親同士の付き合いが縁になり、こうして友達の輪を作っていた。 「だれかとおもったら、ぐずぱちゅなのじぇ。」 一歩前に出た子まりさが、にやにやしながらぱちゅりーに話しかけた。 この子まりさは、群れのリーダーまりさの長女であり、 甘やかして育てられたせいで、性格が相当ひねくれていた。 「ゆふふ。ぐずなんていっちゃきゃわいそうだよ。」 口元にもみあげを当てて笑うのは、子れいむだ。 かわいそうなどと言いながら、少しも同情する素振りを見せていない。 彼女は、この群れ一番の歌姫の娘で、彼女自身の歌声も評判が高かった。 もちろん、ゆっくり基準で、の話であるが、ぱちゅりーも彼女の実力は認めていた。 「いもむしさんもとれないんだね。わきゃるよー。」 子ちぇんのからかいに、爆笑する一同。 子どもというものは、時に残酷である。 この子ちぇんは、リーダーまりさの側近ちぇんの長女。 要するに、この子まりさと子ちぇんは、将来のリーダー候補、側近候補というわけだ。 だから彼らは、群れの中でも、常に一目置かれる存在であった。 そしてそれが、彼らの自尊心を、あってはならないレベルにまでに煽っていた。 ぱちゅは、こういうときの対処法をよく心得ていた。 無視するのが一番である。 反論したり怒ったりすれば、ますます相手を愉快にさせてしまう。 ぱちゅりーは、ゆっくりとその場を離れた。 3匹も、興味を無くしたのか、追っては来なかった。 森の中はとても暗かった。 母親に教えられた通り、なるべく目立たない場所を通るように心がける。 ゆっくりの天敵は、れみりゃだけではない。 「ふぅ…大変なのだわ…。」 虚弱体質の子ぱちゅりーにとって、森の道は険しかった。 だが、にんげんさんを見られるという希望の前には、 なんでもないことのように思われた。 どのくらい歩いただろうか。 時間の感覚がなくなろうとしていたところで、遠くに水の音が聞こえた。 いつもは冷静に振る舞う子ぱちゅりーも、思わず下腹の動きを速めた。 木々の壁が途切れ、まぶしい昼間の太陽が降りそそぐ。 子ぱちゅりーの視界が、涼やかに流れる川の全貌をとらえた。 「むきゅん!」 思わず鳴き声を上げてしまう子パチュリー。 慌てて髪の毛で口元を覆った。 そうだ。ここでにんげんさんに見つかってはならない。 木の根元から、そっと河原の様子をうかがう。 ………いた。にんげんさんだ。 森に住む動物とは違う特徴を持つその生き物は、すぐにそれと分かった。 1、2、3…全部で5匹。 4匹は川の中、残りの1匹は、なにやら不思議な形をした物体のそばにいる。 子ぱちゅりーには分からなかったが、それはテントだった。 「おーい、こっちに蟹さんがいるぞー!」 群れの中で一番大きな人間が、川の水を覗き込みながら声を上げた。 「え、どこどこ?」 その半分くらいの背丈しかない人間が、ぱしゃぱしゃと川を渡る。 あれはなんだろうか。 もしかすると、子どもに狩りの仕方を教えているのかもしれない。 子ぱちゅりーは、自分なりの解釈をしつつ、人間の群れを観察した。 「みんなー、食事の用意ができたわよー。」 「「「わーい!」」」 テントの側にいる2番目に大きな人間が、みんなを呼び集める。 彼女は、バーベキューの準備をしていたのだ。 子ぱちゅりーは、女性のそばにある材料から、彼らの行動を理解した。 いくつか見知らぬ食材はあったものの、魔導書すなわちチラシで勉強した子ぱちゅりーは、 人間がどういうものを食べるのか、あらかじめ予習しておいたのである。 「よーし、早速焼くか。」 一番大きな人間が、何か小さな道具を取り出した。 子ぱちゅりーは、男の仕草を見逃すまいと目を凝らす。 すると、その道具からいきなり炎が吹き出し、何か黒い塊に火を点けた。 「むきゅ…!」 炎に驚いて再び声を上げてしまう子ぱちゅりー。 それは、春雷が木に落ちたとき、一度だけ見たことのある現象だった。 あのときは、群れ中が大騒ぎになったっけ。 人間たちは、火を全く恐れる様子がない。 見る見るうちに、箱の中から煙が上がる。 「お父さん、肉焼いて肉!」 「こらこら、まずは焼けにくい野菜からだぞ。」 なんという大飯喰らいなのかしら。 子ぱちゅりーはそう思った。 ゆっくりならば一家が余裕で冬越しできそうな量の食べ物を、 5人はものすごい勢いで口の中に運んで行く。 ぐるるきゅ〜 思わずお腹が鳴ってしまった。 子ぱちゅりーは、お弁当を食べることにした。 柏の葉で編んだ弁当を開けると、美味しそうな毛虫さんと、 デザートの蜂蜜さんが目の前に広がる。 そう、なんと蜂蜜さんが入っているのだ。 子ぱちゅりーは、母の心遣いに感謝した。 食事をとっている間も、子ぱちゅりーは人間から目を離さない。 大きな人間2匹は、火の点いた箱を囲んで座っている。 何をするでもない。 にんげんさんもゆっくりしているのだわ、と子ぱちゅりーは思った。 それとは対照的に、3匹の小さな人間は、川のそばで遊び回っていた。 姉妹とも友達ともそのような経験のない子ぱちゅりーは、少し羨ましくなった。 しかし、1時間もすると、子ぱちゅりーはだんだんと観察に飽きて来た。 好奇心が満たされたからではない。 にんげんさんは、ずっと同じことをしているように見えたからだ。 やることと言えば、川に入ったり、石を集めたり、虫を追いかけたりすることだけ。 大きなにんげんさんの方はと言えば、奇妙なベッドを取り出して寝ている始末。 「むきゅぅ…これではゆっくりと変わらないのだわ…。」 ゆっくりの世界しか知らない子ぱちゅりーには想像もつかなかったのだが、 人間がこれほどまでにゆっくりできることなど、滅多にないのである。 待てど暮らせど変化がない。 仕方がないので、子ぱちゅりーは、早めに家へ帰ることにした。 本当は夜になればもっと面白いものも見れたのだが、それは無理な相談であった。 元来た道をゆんしょゆんしょと辿り、森を抜けたところで、 草原にたたずむ母ぱちゅりーの姿を見つけた。 日が暮れるまでには帰って来るように言ったのだが、 あまりにも心配で、正午からずっとここで待ってくれていたのだ。 子ぱちゅりーは、母親にお弁当のお礼を言うと、2匹並んで巣へと帰って行った。 「むきゅ。行ってくるのだわ。」 「いってらっしゃい。」 翌日も、子ぱちゅりーは河原に向かった。 一度通った道は、前よりも短く感じるものである。 子ぱちゅりーは、迷うこと無く同じ場所に出ることができた。 ところが、そこにはにんげんさんの影も形も無くなっていた。 例の不思議なおうちも、火が出る不思議なお道具も見当たらない。 むきゅぅ、とぱちゅりー種特有の溜め息をつく。 ところが、である。 子ぱちゅりーが視線を手前の草むらに移すと、そこには見知らぬ本が置いてあった。 それは、母ぱちゅりーの本棚にあるどんな魔導書よりも分厚い。 子ぱちゅりーは、急いでそれをくわえると、木の影に隠れた。 表紙には、何やら楽しそうな子どもの絵と『なつやすみのとも』の文字。 意味は分からないが、とにかく凄い物を見つけてしまった。 中枢餡をグラニュー糖が駆け巡る。 かなり重たいが、持ち帰る時間はたっぷりある。 子ぱちゅりーは、冊子に髪の毛を絡め、口で引っ張るように引きずりながら家を目指した。 道中、子ぱちゅりーの頭の中は、煮えたぎる知識欲で一杯だった。 ただただこの魔導書を解読したい。 その一心で、森の奥へ奥へと進んで行く。 普段なら逐一確認する草木の種類も、鳥の泣き声も、子ぱちゅりーの意識にはのぼらない。 ところが、野原まであと少しというところで、それは起きた。 「みつけたどー。」 悪夢。そうとしか表現の仕様のない事態。 ばさばさと羽音が響き、その物体はこちらへ向かってくる。 ゆっくりれみりゃだ。 何故こんな時間に森をうろついているのか。 そんな疑問も湧かないほど、子ぱちゅりーはパニックに陥った。 魔導書を盾にして、近くの凹みへ避難する。 1ページも読まないまま死んでしまうのか。 これほどまでに命が惜しくなったことはない。 れみりゃの羽音は、まっすぐこちらへ向かってくるように思われた。 万事休す。 「おいしそうなちぇんだぞー。」 ……ちぇん? 子ぱちゅりーの頭に、ふと?マークが付いた。 その瞬間、少し離れたところの茂みから、何かが飛び出した。 見れば、先日、子ぱちゅりーを馬鹿にしたあの子ちぇんである。 「わきゃらないよおぉぉ!!!なんでれみりゃがいるのおぉぉ!!!」 子ちぇんは泣きながら全速力で走ったが、空を飛ぶれみりゃの方がずっと速い。 あっと言う間に追いつかれ、右頬に鋭い歯が立てられた。 みちっと言う音とともに皮が剥がされ、中のチョコレートが顔を出す。 それは、これから始まるおぞましい仕込みの序曲でしかなかった。 痛みで動けなくなった子ちぇんの周りを旋回しながら、 れみりゃは何度も何度も執拗に攻撃を仕掛ける。 皮を裂かれ、尾を千切られ、帽子をずたずたにされ、 そして最後には眼を抉り穫られても、子ちぇんはまだ生きていた。 れみりゃが手加減しているのだ。 れみりゃは、痛めつけることでゆっくりの甘みが増すことを、 日頃の経験から熟知していた。 「わがりゃ……ない……よ……。」 息も絶え絶えに最後の悲鳴をあげる子ちぇん。 でろりと垂れた目玉からは、涙とも体液ともつかぬものが滴っている。 「いただきますだどー。」 れみりゃは、今度こそ容赦せずに子ちぇんの顔にかぶりついた。 ゆぷっと最後のチョコを吐き出し、子ちぇんは絶命する。 「おいしーどー。ひさびさのごはんだどー。」 くちゃくちゃと咀嚼する音を聞きながら、子ぱちゅりーは、ひたすら震えるしかなかった。 いったいどうやって帰って来たのか、子ぱちゅりーは覚えていなかった。 れみりゃが去った後、ただ闇雲に森を歩いた気もするし、 いつの間にかおうちの布団で寝ていたような気もする。 だが、例の魔導書だけは、ちゃんと側にあった。 なぜ持って帰ることができたのだろうか。 その答えは、母ぱちゅりーにあった。 母ぱちゅりーは、娘の帰りが遅いので、身の危険も顧みずに森へ入り、 倒れている娘を発見した。 最初は気が動転したが、生きていることを確認した後は、 子ちぇんの死体をよそに娘を連れ、森を出た。 そのとき、子ぱちゅりーがうわ言を呟きながら魔導書を離さなかったので、 何とかそれも巣へ持ち帰ったのだった。 その話を聞かされた子ぱちゅりーは、むきゅんとしなだれた。 心身ともに負担を掛けてしまい、申し訳なく思ったのだ。 「むきゅん。お母さんごめんなさい。ぱちゅは…。」 そんな子ぱちゅりーを、母親は黙ってゆっくり介抱してやった。 読書と研究に明け暮れていた子ぱちゅりーにとって、安らぎの時間が流れた。 一方、群れは大騒ぎになっていた。 側近ちぇんの長女が行方不明になったからである。 捜索隊が組まれ、森の中を探したが、子ちぇんは見つからなかった。 当然である。れみりゃに襲われ、その死体も大方蟻に持って行かれてしまったのだ。 見つかるとすれば、それはゆん霊に違いない。 群れの仲間は捜索を打ち切り、事件は収束したかに見えた。 しかし、1匹だけ納得しなかったゆっくりがいた。 子ちぇんの父親ちぇんである。 母親のありすは、我が子は死んだものと諦めていたが、 父親ちぇんは断固としてそれを受け入れなかった。 ゆうっしゅうな自分の子どもが死ぬはずが無い。 父親ちぇんは、いつまでも長女の帰りを待った。 それでも娘が帰って来ないと分かると、今度は同族を疑い始めた。 「ちぇんのおちびちゃんはころされたんだよー!わかるよー!」 広場で発狂したように叫ぶ父親ちぇん。 その狂気は、次第に群れの中を吹き荒れて行った。 9月。れみりゃ襲撃のショックから立ち直った子ぱちゅりーは、 朝から晩まで魔導書の解読に取り組んだ。 そして、にんげんさんの叡智を読み取っていた。 掛け算を自力で発見した子ぱちゅりーだったが、彼女は1桁の場合だけを考えていた。 しかし、この魔導書『なつやすみのとも』によれば、156×782などという、 到底信じられないような膨大な数の計算も可能なのだ。 さらに子ぱちゅりーを熱狂させたのは、「めんせき」と「たいせき」の概念である。 長さと長さの掛け算で、平らな物の大きさを一律に扱うことができる。 長年、「大きい」「小さい」「広い」「狭い」という言葉しか知らなかった子ぱちゅりーには、 目から鱗の発想だった。 子ぱちゅりーは、早速、巣の大きさを図ったりした。 子ぱちゅりーが興味を持ったのは、「すうがく」だけではない。 にんげんさんの言葉の奥の院、「こくご」もそのひとつだ。 「お母さん、二兎追う者は一兎も得ずなのだわ。」 理解した諺を片っ端から使い、母親を困らせる子ぱちゅりー。 ただひとつ、使い方を間違えて覚えてしまったものがある。 「自然は、焼肉定食なのだわ。」 原因は、穴埋め問題に書かれたジョーク。 しかし、これも人間の知恵のひとつに違いない。 人間の奥深さに触れた子ぱちゅりーは、ついにある決心をした。 にんげんさんと話そう。 子ぱちゅりーは、ふたたび母親と相談した。 母ぱちゅりーは、少し困った顔をしたあと、こう言った。 「すきにするといいのだわ。」 あれだけ怖い思いをしながら、一向に好奇心の衰えない娘を前に、 少しばかりあきれ顔の母ぱちゅりー。 トラウマからノイローゼになってしまうよりはいいのだろうと、諦めるより他にない。 そう。自然は焼肉定食なのである。 最初は、とあるれいむ種の一言だった。 「ゆゆ。そういえば、ぐずのぱちゅりーをもりでみかけたよ。」 それ自体は事実だった。 あの日、森のそばをたまたま通りかかったれいむは、 森の中から出てくるぱちゅりー親子を目撃したのだ。 恐ろしいのは、そこから先である。 あっと言う間に尾ひれがつき、子ぱちゅりーはチョコ塗れだったの、 子ちぇんと口論するところを見かけただの、 とにかく子ぱちゅりーを犯人に仕立て上げる証人が続々と現れた。 しかも、それは群れのリーダーまりさに密告という形で伝えられたため、 母ぱちゅりーも子ぱちゅりーも知らぬところで、事態は進展して行った。 そしてついに、幹部の間で決定が下されたのである。 「ぐずぱちゅをさいっばんにかけるよ!」 この知らせは、そっきんと仲良しグループだった別のまりさによって、 こっそりと母ぱちゅりーに伝えられた。 母ぱちゅりーは、生クリームを吹き出しそうなほど驚いた。 「とにかくおちびちゃんをにがすのぜ。さいっばんはあしたなのぜ。」 「むきゅ。ありがとう。まりさも、きをつけるのだわ。」 まりさは、辺りを用心して巣から出ると、そのまま闇に消えた。 母ぱちゅりーは、何かを思い詰めたようにしばらく身じろぎもしなかったが、 ふいに顔を上げ、子ぱちゅりーを起こした。 子ぱちゅりーは、太陽が沈むとすぐに寝てしまう習性の持ち主だった。 「むきゅん。こんな夜遅くに、何かしら。」 「あなたにおしえたいことがあるのだわ。」 母ぱちゅりーは、率直にありのままを伝えた。 隠し事をしても、メリットはないと思ったからだ。 話が進むにつれ、子ぱちゅりーは青ざめた。 さいっばんとは、ゆん罪者を捕まえるための手続だが、 その内容は群れごとに様々である。 ドスとまともな側近のいる群れでは、人間の行っているそれに似ていたが、 そうでない群れでは、およそ真相解明とは無関係なことが行われていた。 そして、この群れでは恐ろしいことに、ごうっもんが認められていたのである。 証ゆんが2匹以上いるにもかかわらず犯行を否認した場合、 ごうっもんが行われ、そこで自白しなければ罪を免れることができる。 しかし、そのごうっもんというのが、さっさと罪を認めて死んだ方がマシなほどの、 ゆっくりの名にあるまじき、とてもゆっくりできない内容だった。 「お、お母さん…ぱ、ぱちゅは、ぱちゅは…。」 ぱちゅりーの体がわなわなと震えた。 体内の生クリームがぐにゃりとした感覚におちいった。 「ぱちゅ。あなたはむれをでなさい。」 「むきゅ!?」 どういう意味だろうか。 自ら追放されろと言うのだろうか。 子ぱちゅりーは、わけが分からなくなった。 すると、母ぱちゅりーは、驚くべきことを語り始めた。 「ぱちゅのおかあさんのおかあさんのおかあさんのおかあさんは、 にんげんさんといっしょにすんでいたのだわ。そのしょうこに…。」 あんぐりと口を開けたままの子ぱちゅりーのまえで、 母ぱちゅりーは宝箱からまるっこいピカピカ光る物体を取り出した。 「これはね、そのおかあさんのおかあさんのおかあさんのおかあさんがくれた、 にんげんさんといっしょにすむための、あかしなのだわ。これがあれば、 にんげんさんは、ゆっくりといっしょにすんでくれるのだわ。」 子ぱちゅりーは、恐る恐るその金色の物体を受け取った。 そこには、数字と何かよく分からない紋が描かれていた。 母ぱちゅりーはさらに、一粒の錠剤を渡す。 それも、子ぱちゅりーには見知らぬものだった。 「これは何かしら。お薬に見えるのだわ。」 「もしにんげんさんにひどいことをされそうになったら、これをたべるのだわ。 そうすれば、ゆっくりすることができるのだわ。」 「これも、お母さんのお母さんのお母さんのお母さんがくれたのかしら?」 母ぱちゅりーは頷くと、それ以上説明しなかった。 「お母さんはどうするの?」 子ぱちゅりーが尋ねた。 「おかあさんはここにのこるのだわ。」 「駄目なのだわ。お母さんがみんなに怒られてしまうのだわ。」 自分を逃がしたことが分かれば、母親がせいっさいされてしまうかもしれない。 子ぱちゅりーは、一緒に逃げることを提案した。 だが、母ぱちゅりーは、首を縦に振らなかった。 「ばっぢはひとつしかないのだわ。それに、おかあさんはだいじょうぶなのだわ。」 どうすればそんなことが保証できるというのか。 しかし、母ぱちゅりーの決意は固かった。 結局、子ぱちゅりーは母親の気迫に押され、一匹で家を出ることになった。 「それじゃ、きをつけるのだわ。」 「今晩は、森のそばの別荘で寝るのだわ。太陽さんが昇ったら、すぐ川へ行くのだわ。」 「それがいいのだわ。」 別荘がこんなところで役立つとは、2匹とも思わなかった。 「さよならなのだわ。」 「お母さん、ありがとうなのだわ。」 子ぱちゅりーの声は震えていた。 今まで大切に育ててくれた母親に別れを告げ、子ぱちゅりーは闇の中へと消えた。 翌朝、ぱちゅりーの巣を村の有力者たちが訪れた。 その中には、母ぱちゅりーに告げ口をしたあのまりさも混じっていた。 まりさは、親子がちゃんと逃げたのか、気が気でなかった。 逃げられないように入り口を囲むと、リーダーまりさが一歩進み出る。 「ぐずぱちゅりーでてくるのぜ!これからさいっばんなのぜ!」 返事はない。 「ぱちゅりー!こどもをそとにだすのぜ!でないとぱちゅりーもさいっばんなのぜ!」 やはり返事はない。 リーダーまりさがおさげで合図をすると、小枝で武装した数匹が、穴の中へ押し入った。 リーダーまりさも、その後に続く。 「ぱちゅりー!ゆっくりかんねんするのぜ!……ゆげ!?」 リーダーまりさたちが見たもの。 それは、紫に変色し、口から生クリームを吐き出した母ぱちゅりーであった。 ひゅうひゅうと辛うじて息はあるものの、彼女が死にかけていることは一目瞭然だった。 誰も、無惨に崩れた母ぱちゅりーに近付こうとはしなかった。 だが、おぞましい姿とはうらはらに、母ぱちゅりーは、とても穏やかな顔をしていた。 「むきゅ……あなたとおしょらを……とんじぇ……る……。」 そう言って、母ぱちゅりーは、静かに息を引き取った。 続く これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して 乞食れいむのおうた ある群れと、1匹のぱちゅりーの記録(前編) 選択肢 投票 しあわせー! (1) それなりー (0) つぎにきたいするよっ! (0)
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SSWアイドル。 瑞稀ミキに改名したがディアステージに所属するにあたって、みきちゅに再改名した。 リンク Twitter Wikipedia 曲など
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『ゆっくり教材Vol.4『ゆっくりぱちゅりーの弱さ』』 7KB 観察 考証 日常模様 飼いゆ 現代 SSは1000番前ぶりかな? ・基本自分設定 独自解釈 ・虐待成分皆無 ・虐成分が欲しい方はウィンドウを閉じる事を推奨 ・内容は「ゆっくり向け」というより「飼い主向け」 扱うゆっくりや題材でどちら向けかかなり変化 ・今回は多分に「飼い主向け」 飼い辛さとその注意点 ゆっくり教材Vol.4『ゆっくりぱちゅりーの弱さ』 今回はぱちゅりーを飼う事で注意しなければならない部分を重点的にお伝えします。 ゆっくりを少し調べるとすぐわかるのが、ぱちゅりーはとても弱いゆっくりであるという事です。 種族的に病弱で、過度に運動すればすぐに吐き、気分が悪くなるとすぐに吐くという弱さ。 ぱちゅりーはありす以上に飼う人が少なく、数がいると状態維持も難しいので、 ペットショップでもあまり多くは扱っていません。 ありすのように初めてのゆっくりとして選ぼうとすると、 どんなに怠惰な店員でも必ず熱弁してまで止めるほどです。 これは知識のない人が飼ってすぐに死んでしまい、クレームになった場合を想定して、だそうです。 販売対応した店員も一緒にいろいろ言われるのでそれを回避するためであると言われています。 クレーマーはゆっくりできないよ! ではこちら、一般家庭で飼われている普通のぱちゅりーを見てみましょう。 「ぱちゅりー、運動に行こう」 「むきゅ!」 返事が良いですね。 健康体です。 しかし数分後。 「む……きゅ……」 「あれ、もう限界なの?」 「むひゅー、むひゅー……」 おやおやもう限界のようです。 そう、ぱちゅりーはいかに健康体でも種族的に体力が無いのです。 その疲れた時の呼吸は人間でいう喘息の時と同じです。 喘息持ちの方は、その苦しみがさぞわかるでしょう。 ひどい時は軽い運動程度ですぐ衰弱してしまうほどの弱弱しさです。 運動もできる個体もいるようですが、 よくて10匹中3匹の割合と言われています。 そこをついて、逆に健康で優良な固体を多く扱うショップもあるようです。 また、ぱちゅりーは読書を好みます。 ただし、文字そのものを読めるわけではないので、あくまで人間の真似であると言われています。 これは、ぱちゅりーが種族的にゆっくりの中でも知識に秀でているという本能があるためです。 実際の知能についてはさほど差は無いのですが、ぱちゅりー種は自分の考えを披露する時、 とても自信満々で喋っているため、単純なゆっくりたちは信じ込みやすいのです。 野生に生活するゆっくりの小さな群れで、ぱちゅりーがトップになっている事が多いのはこのためです。 なので、ぱちゅりーは自身は優れているという証のために読書を好むのです。 本能に従った行動なので、全部が全部そう思っているわけではありません。念のため。 ではちょっとした実験をして見ましょう。 こちらによくいる普通のぱちゅりーが壁一枚隔てて二匹います。 このぱちゅりーに白紙を与えてみました。 「むきゅ!これは面白い文献ね!!」 「むきゅ?なにも書いてないわ?」 この二匹の違い、何故かわかりますか? これは自尊心を示します。 白紙が文献であるといったぱちゅりーは、白紙が「紙である」と認識しています。 そして、紙は人間しか作らないというのも本能が知っているらしく、 紙は何かを書くものという認識も持っているようです。 そして、そこには何かが書かれているはずだと信じ込み、自分はそれがわからないはずがない、 もしくはわからない姿を誰かに見られては賢者失格である、と思ったための見栄です。 こうした固体は頑固なため扱いが少々難しい場合があります。 一方の白紙に何も書いてないといったぱちゅりーですが、こちらは自尊心や見栄の薄い固体です。 見聞きした事をすんなり受け入れて認められる良いタイプです。 この手のぱちゅりーは総じて扱いやすく、聞き分けがいい場合が多く、 しかもぱちゅりー種なのであまり動き回らないので他のゆっくりに比べて格段に育てるのが楽です。 もしぱちゅりーが欲しくなったら、店員に固体別の性格をよく教えてもらったり、 調べてもらうといいでしょう。 ただし、頑固さはある意味種の特徴であるため、 聞き分けがとてもよい個体は運動ができる健康体と同じくらいかそれ以下に少ないです。 では、頑固系の典型的なぱちゅりーを飼っている場合の注意点を。 まずはこちらをご覧ください。 「むきゅ!ごほんがよみたいわ!」 「前買ってやったじゃないか」 「あんなようちなもの、もうぱちぇにひつようないわ!」 「はいはい賢者様賢者様。また今度な~」 「むきゅー!ぱちぇにはいまひつようなの!!」 「はいはい、ほらよ、これでも読んでろ。白紙だけど」 「むきゅきゅきゅ、はやくわたしてくれればいいのよ」 さてこのぱちゅりー、定期的に本をせがんで、飼い主も買うか相手するかしているようです。 これは実のところあまりよくありません。 運動ができないから読書をさせてストレス発散させるというのはいい手段なのですが、 あまり頻繁に買い与えるのはいけません。 この場合、多少ストレスを与えてでも買い与える事はやめましょう。 無論、白紙を与えるのもだめです。 新しい本を手に入れたと思うことがいけませんから。 最初からぱちゅりーを飼う場合、次のようにやるのが効果的です。 「むきゅ、あたらしいほんがほしいわ!」 「なぜだい」 「もうよみおわってしまったからよ」 「そうか、でもだめだよぱちゅりー」 「むきゅ?でもぱちゅはいますぐよみたいわ!」 「だめだよぱちゅりー。どうしても、っていうならもうちょっと待ちなさい。 そうすれば新しい本を買ってあげるよ」 「でも―――」 「聞き分けが無いなら今まで買った本も全部捨てちゃうよ」 「むぎゅ……わがったわ……」 少々厳しいようですが、これが一番なのです。 本を与える、というだけなので軽視されがちですが、 犬の散歩で犬に任せた散歩をすると自分が上の立場と認識してしまうのと同じです。 いつの間にか自分が上の立場だと思ってしまう可能性があり、 そうなってしまっては修正がかなり困難です。 そうなった場合のぱちゅりーはこちらです。 「むっぎゅー!!はやくほんをかってきなざいよ!!! こののろま!ぐず!!」 「なんだとぉ?買い与えてもらってる立場で言う台詞か!」 「ぱちぇのためなんだからそれくらいあたりまえでしょ! いいからかってきなさいよぐずにんげん!」 見事につけあがっています。 これを修正させるのは非常に困難で、ちょっとした事でヒステリーを起こします。 そうなると犬にもよくやると思われる叩いてわからせるという事をする人もいますが、 貧弱なぱちゅりーは加減を考えないとあっというまに大怪我をします。 平均的な女性の力で思いっきり叩かれた場合でも、 最悪自身の中身をすべて吐き出すほどのショックを受けて死んでしまう可能性があります。 こうした様々な点でぱちゅりーは普通流通しているゆっくりの中でダントツの不人気というか、 売れづらさを誇ってしまっています。 しかしながら、信頼関係が築かれればとてもいい話し相手となってくれます。 ゆっくりれいむやまりさを何匹か天寿を全うさせるまで飼った事がある人なら、 ぱちゅりーを飼う事はそう難しくないものと思われます。 これからぱちゅりーを飼おうと思っている方は、 それらの点をじっくりしっかりゆっくり理解した上で、 ぱちゅりーを飼ってあげてください。 手のかかる子供と思えば、ゆっくり種は案外かわいいものなのです。 では、今回もこれにて終了となります。 今回は飼い主候補の方たちへ向けた内容となりましたが、 これで少しでもぱちゅりーの事を知っていただければと思います。 では、ここらで。 またお会いしましょう。 ゆっくり教材ビデオ。 飼いゆっくり向けの矯正を目的としたビデオや、 ゆっくりを飼う上での注意点を飼い主に伝える事を目的とした教材ビデオ。 パッケージ裏には内容説明のほかに、 大きめな文字で「飼いゆっくり向け(~向け)」「飼い主向け」と記されている。 ※(~向け)には、対象としたゆっくりの種類が記されている。 (~向け)がない場合はそのまま飼いゆっくり全般に向けている。 例「れいむ向け」主にれいむを主体として扱われている内容。 「れいむ他向け」主にれいむを主体とするが、他の基本種類ゆっくりにも当てはまる内容。 「基本種類向け」主にれいむ・まりさ・ありす・ぱちゅりー・みょん・ちぇん用の内容。 基本種類以外は個性が更に強いので個別向けで表記されている。 各巻1000円。 撮影協力 ゆっくり劇団 各ゆっくりぱちゅりー役の劇団所属ぱちゅりー 各飼い主役の劇団員 ナレーション あたいあき 製作 株式会社GYAKU 製作協力 ゆっくりペットショップ協会