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彼女達の物語 ◆MmI69YO1U6 人が、死んだ。 こうやって口に出してしまえば、不思議と空気に溶けてしまう。 ただの言葉な筈のそれは、空へ溶けてしまってもずっと、心を縛り付けるくらい、重たい。 想像してしまうだけで、ずぶずぶと暗い何かに意識が沈んでしまうようで。 背後から迫ってくるような恐怖感をふるりと体を揺すって考えないようにする。 本当の本当に当たり前のお話で、今更言うようなことじゃないけれど。 命は尊くて、大切なモノだ。 何にも変えられない、大切なモノ。 失うなんて出来ない、大切なモノ。 アイドルとか、プロデューサーとか、そんな立場なんて関係なく。 お金持ちも、貧乏な人も、そんな付加価値なんて関係ない。 誰もみんな命が大切で――死んでしまうのは、怖い。 死ぬ、ということは命が消えてしまうということ。 命が消えてしまったら、もう何も、ない。 死んでしまったら、命が失われてしまったら、全部が終わり。 誰かと喜んで、笑顔になることも出来ない。 誰かに怒って、喧嘩をすることも出来ない。 誰かを哀しんで、涙を流すことも出来ない。 誰かで楽しんで、怒られることも出来ない。 死んでしまったら全部全部、おしまい。 思い出や、絆、或いは血縁関係や、そんなものを超えた感情。 後に残されるであろう誰かには、そんな、自分が生きていた証が刻まれるのかもしれない。 でも、死んでしまった人には何も残らない。 これまで誰かと共に創り上げた笑顔も。 これから誰かと共に上っていく舞台も。 過去と未来が別け隔てなく、失われてしまう。 だから、死ぬのは、怖い。 無くなってしまうのは、怖い。 無かったことになってしまうのは、怖い。 言葉にしなくても、心の底ではそんな当たり前が存在していて。 他の皆にも、当たり前が確かにあるんだって思っていて。 『……う……そ……なんで……なんで……死ななきゃならないのよぉ!?!?』 けれど、その命は呆気無く、いとも簡単に、容易く失われてしまった。 お腹が空いたからご飯を食べるくらいの気軽さで、人が、死んだ。 目の前で、当たり前は当たり前じゃなくなった。 ――認めたくなんて、ない。 それを認めてしまったら、 それが当たり前になってしまったら、 そしたら、きっと―――― ☆ 星一つない真っ暗な夜空も、星々の光に照らされてきらきらと輝くように。 完全に消灯されて明かり一つない漆黒の空間を、小さな円形の光がぴょこぴょこと跳ね回る。 「にゃーん♪にゃにゃにゃにゃーん♪」 光源である懐中電灯の持ち主は、自身の置かれた状況にはとてもそぐわないような。 およそ場違いと言っても過言ではない軽い声音で、呑気に鼻歌を辺りに響かせる。 殺し合いを強制された『イベント』とは思えない、軽やかな声音。 「あっかり、あっかり、あかりチャンはどっこに隠れてるのかにゃー☆」 自らの目の前ですら把握することが困難な、重苦しい暗闇。 その中をぱたぱたと、せわしなく歩き回る足音と同時に聞こえる彼女の声だけが、しんとした静寂を破る。 どうやら電灯のスイッチを探しているらしい、警戒なんて言葉は欠片も感じることが出来ない物音。 わたわたと紡がれるそれは、時折何かがぶつかる音と重なりつつもやがて乾いた音と共に静まることになる。 「あ、いたたた……やぁっと発見にゃ!」 同時。 天井に設置された電球に淡い光が灯り、空間が眩く照らされ暖かな光に包まれる。 漸く周りを視認することが出来るようになった彼女――前川みくは、にゃうぅ、と目尻に大粒の雫を浮かべて恨めしそうな視線をどこへやら送っていた。 「どうせなら、電気も点けといてくれたら良かったのににゃあ」 四苦八苦している時にでもぶつけたに違いない、恐らくたんこぶが出来ているであろう頭を片手で撫でつつ、ポツリ。 ジトリと、しかし深刻さを余り感じさせないそれをこれ以上重ねることはない。 すぐに気を取り直したような、いつも通りの無邪気な笑顔を浮かべて明瞭になった視界を確認する。 暗闇の中周りが見えないというのは、想像以上にストレスが溜まるものである。 何かにぶつかったり、うっかり物を落としてしまったり、或いは言いようのない恐怖を感じたり。 そんな様々な不安を掻き立てる何かが心の奥底に潜んでいたからだろうか。 いくつも並ぶ電灯のスイッチを発見した彼女は、特に意識することもなくスイッチを全てオンにしていた。 故に、一般的にフロントと呼ばれる位置に立っていた彼女は電灯に照らされる周囲の状況を用意に把握し、明かりを求めてなんとはなく飛び越えて進入した其処を、今度は正式な出入り口から脱出する。 若しかしたらスカートの中が見えてNG? などと、腕を組んでうにゃうにゃ思案しながらも、背負っていた鞄をぎゅっと背負いなおして暗闇に阻まれた目的地であるエレベーターへと歩き出す。 「よーし、いっくにゃー!!」 咆哮一閃。 彼女の物語はここから始まる。 ☆ 目を覚ました時、最初に感じたのは強い、強い、恐怖。 妙に重たい瞼も、身体を襲う倦怠感も、不思議と気にはならなかった。 心の中心にあるのはたった一つ。 「なんで、なんで、なんで、にゃあ……」 かたかた、と理由もわからず小柄な身体が震えている。 ――否、理由を理解しているから、震えは止まらない。 意識が途切れる寸前まで彼女の視界を占めていた光景。 無論、今は瞳に映る筈もないソレが、瞼を閉じると鮮明に浮かび上がる。 鈍いあかいろ。 錆びたにおい。 訪れたおわり。 考えると同時に喉下まで昇ってくる不快感を、必死に堪えて唾液を飲み込んだ。 ぽたぽたと、両の瞳からは涙が流れ落ち視界がぼやける。 飲み込んでも飲み込んでも、押さえた口から嗚咽が零れる。 じわり、じわり。 お気に入りの衣装の胸元が滲む。 無理だ、と。 心の中で何かが悲鳴をあげている。 無理だ、と。 心の外で何かが悲鳴を上げている。 なのに、そんな意志に反して身体はむくりと起き上がり、両足で地面を踏ん張り立ち上がる。 ちひろさんは言っていた――これは殺し合うイベントだと。 無意識に首元へと手が伸びていた。 触れるとひんやり冷たい首輪は、文字通りの意味を与えていて。 逆らったら死んでしまうと、言葉なく伝えてきていて。 だとしたら、こんな所で寝転んで泣きじゃくっている自分も若しかしたらあの人みたいに―― そこが、限界だった。 「う、え、ぇ……! えほっ、えほっ……ッ、ひっ、ぐ……ふ、う」 すっぱい液体がとめどなく地面に零れ落ちた。 でも、そんなことを気にしている余裕なんてあるわけがない。 怖くて、怖くて、怖くて、怖くて、怖くて、怖いから、怖かった。 他のことなんてなにも考えられない。 たった一つの感情だけが全部を支配して、他のものは壊れてしまう。 恐怖に震えて、涙を流すことしか出来ない。 そう、思っていたのに。 意識も、身体も、止まってはくれない。 いつの間にか背負っていた鞄の紐を、落とさないようにしっかり握り締める。 寝転んでいた道は舗装されていて、周りからは丸見え。 せめて誰にも見付からない所へ行こうと、ゆっくり歩き出した。 忍び足のつもりの足取りには震えが幾分も混ざり、押さえようもなく地面を踏みしめる音が聞こえる。 静寂に包まれ、月の光が辺り照らす光景は何処か幻想的だと場違いなことを思うけれど。 いまはその静寂が、どうしようもなく嫌だった。 一歩踏み出す度、鼓膜を震わす音に、心臓はばくばくと脈打っている。 口から漏れる吐息は不規則で、上手く呼吸ができているのかわからない。 握った拳がじんわりと汗ばんで、きもちわるい。 涙と、汗と、体液で全身はぐしょぐしょだ。 けれど、そんな状態でも歩き続けていれば、なんとか人気のない路地裏へと辿り着くことが出来た。 誰にも見付からなかったことに対する安堵と、いつまでも終わらない恐怖に対する不安。 膨大な感情に靄がかかる思考は、何も考えたくないという意思とは裏腹に目まぐるしく脳裏を駆け巡る。 プロデューサーが死ぬのは、絶対嫌だ。 それなら言われるがままに、誰かを殺すのか。 それとも殺されないように、何処かへ隠れるのか。 どうすれば皆と離れずに、また一緒に帰ることが出来るか。 家に帰ることが出来たとしても、またトップアイドルを目指せるのか。 形にならない乱雑な思考は次々湧き上がる、が。 ――このまま死んでしまうのは、嫌だ。 結局、彼女の答えは一つ。 「死にたく、ないにゃあ……」 死んでしまったら、大好きなプロデューサーといられなくなる。 死んでしまったら、彼の傍を誰かに獲られてしまうかもしれない。 死んでしまったら、一緒に頑張ってきた日々がなかったことになるかもしれない。 死んでしまったら、二人で描いてきた夢は別の誰かと叶える夢にすり替わるかもしれない。 死んでしまったら、心から忘れ去られてしまうかもしれない。 そんなのは、絶対に、嫌だ、 でも、だからといって他の誰かを殺すなんて、出来ない。 このイベントに集められたのは、皆アイドルである仲間だ。 頂点を目指して頑張る仲間を、ライバルを殺すなんて出来るワケがない。 この手は、誰かの笑顔を作るもので。 この目は、誰かの笑顔を見るもので。 この身は、誰かの笑顔を守るもので。 誰かの笑顔を壊す為にあるんじゃないから。 でも、殺さなければ殺されてしまう。 死ぬのも殺すのも、怖い。 だったら、どうすれば、 と。 そこまで考えたところでふと、今更のように自身が背負った鞄の存在を思い出す。 ずるりと肩から滑り落ちる紐を、勢いに任せて下へと引っ張る。 さして抵抗もなく地面に落ちたソレを、縋るような手つきで検分していく。 何を求めているのか理解しないまま、一心不乱に。 そうして暫く、懐中電灯や名簿といった品々を指先で掴み取るのだが、その次に触れた物が中々取り出せない。 震えた指先では上手く掴むことが出来ず、それに苛立って強引に引っ張り出そうとしても引っかかって顔を出さない。 プラスチックのような、チャチな材質の何かをカリカリと爪先で引っ掻いている状況にやがて痺れを切らすと、鞄をさかさまにして上下に振りたくる。 一瞬遅れて聞こえる、荷物がばら撒かれる音。 そして、漸く何かの正体が瞳に映る。 苦労して取り出した、何か。 蛍光色で塗られており、薄暗い路地裏でも容易く目に入る何か。 ソレが何であるかを確認した瞬間、全身から力が抜けペタンとお尻から崩れ落ちる。 「はぁぁぁあ……プロデューサーチャンも冗談キッツいにゃあ ……ドッキリならドッキリって言ってくれなきゃ、困る、にゃ」 彼の名前は呼ばない、公私混同は駄目なことくらい理解している。 ごしごしと、充血して真っ赤になった目元を拭って涙を隠す。 近くにあった紙でちーん、と鼻をかんで小さく咳払い……そのまま投げ捨てるのはご愛嬌だ。 そして、改めて取り出したプラカードを確認する。 『ドッキリ大成功』 テレビでもよく見掛ける小道具を前にして、やっと彼女に小さな笑顔が戻る。 そう、よくよく考えてみれば可笑しい話だ。 誰かを集めて殺し合わせるイベントなんて、そんなの誰も認めるわけがない。 警察が、そんな大掛かりな事件を見過ごす筈がない。 それ以前に、自分達は『アイドル』なのだから、殺し合わせる理由なんてあるわけがない。 ちょっと考えれば、こんなにも当たり前なことだったのに。 簡単に騙されて、アイドルらしからぬ醜態を晒した自分が急速に恥ずかしくなってくる。 頬が熱くなるのを感じつつ、さり気なくを装って周りを見渡すが、どこにもカメラは見当たらなかった。 きっと、見付からないように此方の反応を窺っているのだろう。 だが、ドッキリの醍醐味ともいえる、リアクションを浮かべた表情を撮り逃す筈がない。 今度こそアイドルらしい自分を表現しなくてはと、満開の笑顔を咲かせようとするが、どうにも表情が強張って仕方がなかった。 「でも……なんで、みくにコレが……?」 ふと、脳裏を過ぎる疑問も、最早敵ではない。 きっと、ドッキリの種明かしをする立場――所謂仕掛け人に選ばれたのだ。 きっと、これまでの努力が実を結んで自分はその立場に選ばれたに違いない。 「うーん? あっちの方に、みくのセンサーがビンビンでギンギンなのにゃ☆」 そう、いつも通りに声を張った視線の先には、豪勢なホテルの一室が映っていた。 建物全体が消灯している中に一室だけポツンと明かりが灯る様子は、暗い恐怖の中で芽生えた一つの希望のようで。 ホテルを介して自らの希望を再度認識しながら、あそこにいる誰かにも希望を早く分けてあげようと即座に立ち上がる。 不安も、恐怖も、もう終わりだと何度も心の中で呟いて。 この震えは嬉しいからだと身体に言い聞かせて。 そして彼女は建物に灯る希望へと歩き始める。 「怖いのは、ぜーんぶおしまいっ! 後はみくチャンにまっかせっにゃさぁーい!!」 咆哮一閃。 彼女の物語はここから始まった。 ☆ 大きく息を吸って、大きく息を吐く。 その度に胸がたゆんと上下に大きく揺れるが、彼女にとっては今更なことであり気にする素振りはない。 吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吸って、吸って、思い出したように吐いて。 いくら落ち着こうと意識してはみても、流石に恐怖は拭い去ることが出来ないのだろう。 深呼吸を何度も繰り返した結果、余計に心拍数は上昇し頭に血が上るのを自覚する。 「これからどうしましょうかー」 先程から奇妙な行為を至極真面目な表情で行っていた及川雫は小さく呟きを漏らすと、部屋に備え付けられたベッドに寝転んでぎしりと身体を沈める。 雫が目を覚ましてから既に一時間は経過しており、自分の置かれた状況は嫌という程理解させられていた。 理解はしていても、そう簡単に答えが出るような甘い状況に雫はいなかった。 勿論、雫の思考速度が些か以上に緩慢なのも原因の一端ではあるだろうが。 「誰かを殺すなんて、そんなの絶対駄目ですー」 何をどうするか答えは出なくともその一点だけは、雫の中の確固たる意志として答えが存在していた。 目の前で人が殺されて、死へ誘う首輪を嵌められ殺し合いを強制されて猶、その選択肢を選ぶことだけは絶対に、ない。 「私達はアイドルですからー、誰かを悲しませるようなことはしちゃ駄目なんですよねー?」 人を殺してはいけない。 そんなのは小学生でも理解している、当たり前の事実だ。 殺人を犯せば罪になり、罰を与えられる。 例えそれ抜きにしても、倫理観という感性が人間には備わっていて、忌避感が働く。 法であり倫理であり、あらゆる理屈を以って殺人は罪とされる。 とかなんとか。 そんな上辺だけの論理以上に、及川雫はアイドルだった。 彼女の中のアイドルとは、誰かに夢を与え、誰かを癒すことの出来る存在で。 自分自身がそう在れていると、断言出来るような自信と実績は未だないが。 それでもそう在ろうと、アイドルでい続けることは今の彼女にだって出来る。 きっと、雫が誰かを殺したと知ったら――さんの笑顔が曇ってしまう。 今まで応援して来てくれたファンの方々も、家族の皆も笑ってはくれない。 そうなってしまったら、もう、雫はアイドルでなくなってしまう。 誰かの笑顔を奪うアイドルなんて、アイドルである筈がない。 こんなことを考えていて、人質になった――さんが死ぬのは怖い。 誰かの命を、こんな所で終わらせてしまうのは怖い。 ゆっくりと、一歩ずつ歩いてきた道が途切れてしまうのは、怖い。 どれ程決意していても、その感情は常にじくじくと彼女の身体を蝕んでいく。 けれど。 こんな怖さ、とっくの昔に乗り越えてきていた。 目を瞑り、恐れに震える手できゅっとシーツを握り締めて、心に仕舞った大切な思い出を頭に浮かべる。 ――さんと出逢ったあの日、アイドルにならないかと言われたあの日、確かに雫の胸には恐怖が在った。 男の人に可愛いと言われたのは初めてで、こんなにも胸がどきどきするのは初めてで、嬉しいのに震えてしまうのも初めてで、風邪でもないのに顔がぽかぽかするのも初めてで。 嬉しいと思う反面、その言葉を自分自身で汚してしまうのが怖かった。 自分の性格をわかっているからこそ、アイドルなんて無理なんじゃないかと弱音が零れた。 人前に出て、何かをするのは緊張して無理だと、彼の言葉を否定した。 期待を裏切るのが怖いと、諦めようとした。 そんな自分に“大丈夫”だと言ってくれたのは――さんだ。 大好きな牛さんのように、ゆっくりでも一歩ずつ前進していけば良いと。 自分は雫のそんな姿に癒されていて、きっとファンになるであろう皆を癒す存在になれると。 雫のソレは、コンプレックスでもマイナスでもないんだと。 皆恐怖を感じてる……でも、それを乗り越えられるのがアイドルだと。 諦めずに頑張れば、どんな夢だって叶えられる――それがアイドルなんだと。 語っても語り尽せない言葉の数々に励まされたから、雫は此処まで辿り着くことが出来た。 他人から見れば小さな一歩でも、雫にとっては大きな百歩だから。 アイドルになったあの日、雫の胸にあったのは夢に対する希望だ。 そんな、自分を助けてくれた全部を裏切るわけにはいかないから、この場所でもそれを貫こうと決意する。 雫がプロデューサーを通して、癒しを感じていたように。 今度は雫を通して、皆に癒しを与えられるようここで頑張るのだ。 「アイドルは、誰にも負けませんからー 大丈夫、どんな夢だって叶えてみせますー」 大丈夫、は魔法の言葉。 いつの間にか震えの止まった手を、今度はぎゅっと力強く握り締める。 今は何をどうして良いかわからないけれど、諦めずに一歩ずつ歩いていけばきっと道は開ける。 一人じゃ駄目なら二人で、二人じゃ駄目なら三人で、三人で駄目なら皆で。 叶えられない夢はなく――不可能なことなんて何もない。 きっと皆が笑って、またトップアイドルを目指す生活に帰ることが出来る。 何の恐れも躊躇なくその意志を、その想いを、アイドルの皆を信じる。 及川雫というアイドルの生き方を、ここでも歩き続ける。 「まずは衣装から、ですー」 アイドルは衣装も大事、それも雫の心に刻まれた大切な教えだ。 何故だか――さんが顔を赤らめていたのは不思議だけれど、きっとその言葉には間違いない。 うんうん、と頷きながらゆっくりと起き上がって、ベッドの傍に置いてある鞄を開ける。 迷いない手つきで取り出されたのは、雫が良く着ていた衣装の一つ。 ――さんがデザインしてくれたらしいオリジナルの衣装で、大好きな牛さんをイメージした可愛らしい衣装。 大好きと大好きが合わさって、もっともっと大好きになった、雫を象徴するような衣装。 これでもっと頑張れる、と満開の笑顔を咲かせると緩慢な速度で脱衣を始める。 衣擦れの音共に晒される肢体。 ゆっくりとしたペースであるが故に見るものの心を惹きつけて止まない絶妙な速度。 徐々に晒される少女の柔肌は、微かに日に焼けて健康的な色を醸し出し、思わず指先で触れたくなるような瑞々しい張りと潤いを、瞳に映すだけで理解させられる。 ほっそりとした鎖骨から胸元まで均等に魅力は配分され、童顔であることも合わさり年齢相応の幼さを存分に放ち少女の価値を引き立てている。 だが、その未成熟な果実が少しずつ成長していく様を見守るような微笑ましい感情は、視線がずれる度に少しずつ削り取られていく。 牛が好きだからか、はたまたこう在るから牛が好きなのか。 胸元で柔らかく揺れながらも、破壊的な凶器としか表現しようのない二つの果実は、圧倒的な質量と存在感を以って立ち塞がるあらゆるものを崩壊させんとしている。 熟した果実のように濃厚な旨みを保ちつつ、驚くなかれ未成熟な果実のように成長する余地すら残している。 未完成であるが故に完成しているそのアンバランスな破壊力を余すことなく引き継ぐのは、程よい肉付きながら決して下品にはなりえない臀部のまるみ。 低いものを用意するのではなく、高いものを超える高いものを用意することで産み出されるギャップは、天性の財であると言わざるを得ないだろう。 そんな、アイドルになる為に生まれたと言っても過言ではない肢体を惜しげもなく晒しながら雫は丁寧に脱衣した服を畳んでいく。 窮屈だと訴えるかの様に胸元のロゴはくたびれ、はちきれそうな身体を包んでいたシャツはもう汗に濡れていて気持ちが悪い。 下着まで濡れてしまっていて、出来るなら洗濯したい程だが、いくら雫とはいえそこまで愚かではない。 用意されている衣装には下着もちゃんと付いているのだと、プロデューサーの準備の良さを誰にでもなく胸を張って誇っていると、不意に足音が聞こえる。 その迷いない足取りはこの部屋の前で止まり、一瞬の間の後にドアノブが動く。 早速一人目に出逢えたんだと無邪気に喜ぶと同時、雫の意識から自らの格好は消えていた。 そして扉は開かれる。 「~~~~~っ!!? ……!?!?」 「いらっしゃいませー! 及川雫ですー」 「――――――――――お」 「お?」 「おっぱいはいくらなんでも駄目にゃーーーー!!」 咆哮一閃。 彼女達の物語は、ここから始まる。 【A-3 ホテル内部/一日目 深夜】 【及川雫】 【装備:なし】 【所持品:基本支給品一式、牛さん衣装、不明支給品0~1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:何をしていいかわからないけど一歩ずつ前に進んで、アイドルとしてこんなイベントに負けない。 【前川みく】 【装備:『ドッキリ大成功』と書かれたプラカード】 【所持品:基本支給品一式、不明支給品0~1】 【状態:健康】 【思考・行動】 基本方針:ドッキリの仕掛け人として皆を驚かせる。 前:真夜中の太陽 投下順に読む 次:さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を 前:真夜中の太陽 時系列順に読む 次:さあ、演じよう、この哀しくも愛おしい劇を 前:~~さんといっしょ 及川雫 次:完全感覚Dreamer 前川みく ▲上へ戻る
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「はぁ…」 住宅街の外れにある一軒家に住む青年は朝一番から深いため息をついた。 というのも、自宅の庭のど真ん中にタブンネの死体が横たわっていたからだ。 原因は家の周りに設置された対ネズミポケモン用の毒餌。 青年は前々からコラッタの被害に悩まされており、その対策のためつい先日設置したのだった。 コラッタは被害にあった場所には二度と近付かないと聞いていたので、かなり強力な毒を持った物を選んだのだが、まさかタブンネがそれを食べてしまうとは彼自身も思っていなかった。 せっかく天気の良い休日の朝だというのに、いきなり見馴れぬポケモンの死体を見た事で穏やかな陽気に対して気分は最悪だった。 やがて、いつまでもこうしていても仕方ないと死体を引き取って貰うため保健所に連絡しようとしたその時、 「チィチィ。チィ?」 青年の耳に甲高い声が聞こえてきた。その声は眼前の死体の向かい側から。 恐る恐る覗いてみると、そこには大きさ30センチ程度のベビンネ2匹の姿。 この息絶えたタブンネは子持ちだったのだ。 「チッチィ、チィ」 ベビンネ達は動かないタブンネを揺すり、何かを求めるような声で鳴き続けている。 それはベビンネ達がお乳を求める声。 2匹のベビンネはその幼さ故に既にこのタブンネが事切れている事にまだ気付いていないのだ。 「マジかよ…」 チィチィと鳴き続けるベビンネを見て、茫然とする青年。 彼自身、コラッタを駆除したかっただけでタブンネを殺すつもりは毛頭なかった。 漸く歩けるようになった程度の乳飲み子である2匹は自分達で餌を確保することも出来ず、餓死するか他の野生ポケモンの餌になるかだ。 見つけた瞬間、青年が第一に持った感情はただただ面倒臭いというものだった。 が、眼下にお乳を求め尻尾を振り、小さな手でタブンネ揺すりながらチィチィと懸命に鳴き続けるベビンネ2匹。 その姿を見る内に、間接的とはいえタブンネを手に掛けてしまった事に対する罪悪感が徐々に青年に芽生えていった。 暫くベビンネ達の声を聞きながら頭を抱え葛藤していたが、やがて意を決して自宅の中へ戻り、小さめの段ボールに不要になったバスタオルを敷いて庭に戻ってきた。 この子らが自分達で餌を取れるようになるくらいまでは面倒を見てやろう。 それがこのタブンネへの罪滅ぼしになると考えたのだ。 青年の存在にも気付かず、未だ小さい手でタブンネを揺さぶっているベビンネを青年は左右で1匹ずつ、出来るだけ優しく掴んでやる。 ベビンネ達にとっては巨人にも等しい青年の手に捕まれた事に驚き、そこで漸く青年の存在に気付いた。 上を見上げると強張った表情で自分達を親から引き離そうとする未知の存在。 「チィッ!?チィチィチィ!」 ずっと一緒だった親から引き離される事、今まさに自分達を掴んでいる存在への恐怖から今度は激しく泣き喚き始めた。 青年は突如大きくなった声に驚いて手を離してしまい、ベビンネ達は段ボールの上に図らずも叩きつけられてしまった。 「チィィ!チィチィ!チィ!ビィーー!」 バスタオルがクッションとなったものの、その衝撃を切欠に軽いパニックを起こし、一層激しく泣き出すベビンネ2匹。 青年はその声の煩さに思わず顔を歪める。 「すまない、お前達のお母さんはもう死んでしまったんだ。だから今日からここで暫く暮らすんだ」 その言葉を理解出来る訳がないと思いつつも、あやすように段ボール箱を優しく揺すりながら家の中へ戻っていった。 「チッビィィィ!チィヤアアア!」 「うるさっ…!頼むから静かにしろって…」 庭からリビングへ戻った青年はベビンネの入った段ボールを緩かに上下左右してみるも、一向に泣き止む気配がない。 人間の赤ん坊のように抱き抱えてあやす事も考えたが、じたばたと駄々っ子のように暴れており、とても掴める状況ではない。 「ビチィ!チィチィチィチィ!チィィーーーー!」 親を失ったベビンネに待ち受ける現実は死。 あのまま放置されれば半日と待たずに他のポケモンの餌食となっていたか、一晩空腹と喉の乾きに苦しんだ後に餓死していたかのどちらかだっただろう。 客観的に見れば今のベビンネ達は青年によって命を救われたのだ。その事は間違いない。 「ンチィ!ヂィィィ!!ヂィィィィイ!!」 しかしそんな事を理解する事の出来ないベビンネは、親から引き離された事に対する悲しみ、知らない存在への不安、恐怖でいっぱいになっており、力の限り親タブンネへ助けを求め続ける。 離されても、その分声を大きくすればきっと届くに違いない、そう健気に考えて。 「あー、もう…くそ…」 家中に反響する、耳をつんざくような騒音に青年はとうとう音を上げた。 いつまでも泣いている訳ではないだろうと、あやす事を諦めベビンネ入り段ボールにお盆で蓋をし、その上から毛布をかけ、様子を見る事にした。 「…チィー!ンミィ!チミィィ…!」 今度は周りを暗闇に覆われ、一層恐怖したベビンネは限界を越えて来る事のない親タブンネへと助けを求めた。 しかし、漸くハイハイを卒業した程度のベビンネ達にとって、泣き続けるという行為は想像以上にその未熟な体力を奪っていく。 やがて蓄積された疲労は眠気という形で現れ、突如としてベビンネ2匹は意志とは無関係の強烈な睡魔に襲われる。 「チィ……チィィ…」 本能的に体力を回復させようと脳から送られる指令に抗う事は出来ず、身体を丸め眠る体勢を取る。 程なくしてベビンネ達は意識を失った。 寸前、目が覚めれば目の前にきっと親タブンネがいると信じて。 「あ、静かになった…」 青年が恐る恐る毛布を上げた先に見えたのは海老のように丸くなっているベビンネ2匹。 一瞬ショック死でもしたのかとヒヤッとしたが、緩かに上下するピンクの身体を見て眠っている事を理解する。 今のうちだと青年は毛布をかけ直し、リビングを後にする。 ベビンネ達が眠っている間に親タブンネの死体を保健所に引き取って貰う為だ。 流石に目の前で保健所職員に引き取られる姿をベビンネに見せたくないと考えたのだ。 その後、インターネットでタブンネの育て方を調べようとスマートフォンの検索エンジンに「タブンネ 赤ちゃん」と入力する。 すぐに表示された結果を見て、青年は愕然とする。 「な、何だこれ…」 検索候補の上位に出てきたのは、生まれて間もないベビンネや幼い子タブンネをケージや水槽などに閉じ込め餓死させた、親タブンネの目の前でその子供達を弄んだなどというものだった。 こんな世界があるのか、とその生々しい記述に驚きつつ画面をスクロールしていき、漸くそれなりのベビンネ育成サイトを見つけた。 早速開き、その内容を確認していく。 与えるミルクはポケモン用の物で良い。それを湯煎し、人肌まで冷ました物を哺乳瓶でゆっくりと与える事 排泄物の処理は小まめに行う。その際、血便や血尿がないかを確認する事 2日に一回程度、ぬるま湯にで身体を洗い、その後すぐにドライヤーの温風を弱風で当て体を乾かすこと 周2回程度、ポケモンセンターで検診を受ける事が望ましい ミルクを卒業したら、ケージからだして屋内で飼育する。このところから餌をミルクから子供用ポケモンフーズ、きのみへ変更する ある程度育ってきたら適度に遊ばせ体力を付けさせる事 「はぁぁ……なんだよこれ…」 その他事細かに書かれた注意点の多さに肩を落とし、深いため息をつく。 青年は早速ベビンネを育てようと思った事を後悔しつつあった だが、殺してしまったタブンネへの罪滅ぼしの為に引き取ったのだ。 やるだけやってみよう。 何とか気を取り直した青年は、ベビンネの眠っている今のうちにポケモン用のミルクやケージ等を買ってこようと考え上着を着た。 毛布のなかのベビンネがまだ眠っている事を確認し、近くのフレンドリーショップへ急いだ。
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(画像:全身) 名前 瑠琉 (るる) 種族 猫又 (純粋) 年齢 16歳 身長 158cm 一人称: 私二人称: 呼び捨て、~ちゃん(男の子でも)、~さん 口調: 能力: 性格: 周に対してはかなり優しい、馬鹿、明るい 性別: 女 制作者: ゆーり こくばんリンク: http //kokuban.in/skeb/view/1374589031 設定(過去など): 昔、友達が自分を庇って死んでしまった。その事から友達を作ったらまた友達が死んでしまうと思い込み、森で自殺をはかろうとした。その時偶然その辺にいた周ちゃん(のぼろたんちの)に止められる。それから少しして、化屋敷に誘われついて行った。 腕の白いのは手袋。ウエディングドレス着てる人とかしてるあの白いやつみたいな! 交流関係: 颯月はお菓子仲間、周が他の人と話してるだけでも嫉妬してしまうほど周馬鹿。いっくんの事は敵対視している。 人間時の姿: (画像)
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RUF RGT 加速:85 スピード:67 ブレーキ:85 最高出力:480bhp/7600rpm 最大トルク:569Nm/5100rpm 駆動方式:RR 0-100km/h加速 3.68sec 最高速 340km/h(351km/h) {※()内は実測値} 車重:1377kg パワーウェイトレシオ:2.869kg/bhp インプレ 997型ポルシェをベースにRUFが製作したのがこのRGTである。 迫力あるオーバーフェンダーとGTウィングが追加され、レーシーな外観に仕上がっている。 エンジンは水平対向6気筒の3.8L NAを積み、高回転型のチューニングがなされている。最高出力480bhp/7600rpm、 最大トルク569Nm/5100rpmとパワー的にはA2の中で下位に位置する。車重は1377kgと軽く仕上がっている。 RRというレイアウトを採用している点もこの車らしい。 走りを見ていこう。普通に加速している時には感じないが、エンジンがピーキーであるため、回転数が落ち込んでしまうと加速がもたついてしまう。 最高速はこのクラスとして順当な351km/h(実測値)であり、カタログスペックを上回る。ブレーキもRRレイアウトのおかげで数値以上によく止まる。 一番の問題点はコーナリング時の挙動だ。ハンドリング自体はスッとインに切れこむ感じでふらつきやすいが、 弱オーバーに慣れているドライバーならば特に困ることはない。その割には高速コーナーで曲がらないため、注意が必要である。 問題は、コーナー脱出時である。普通の後輪駆動車の感覚で踏んでしまうとフルアシストでもホイルスピンを起こし、前に進んでくれないのだ。 その状態で少しでもステアリングを切ってしまえば、たちまち姿勢を乱してしまう。そのため、立ち上がりの際には、 徐々にアクセルを開けていくようにしなければならない。 A2カテゴリーの中では中の下になる。 乗りこなすのが難しく、たとえ乗りこなしたとしても中の中程度の速さしかないのだ。 ペイントに自信のある者はこの車に997型GT3RSのペイントを施してみると良い。 ドライブのモチベーションが上がること間違いなしだ。 名前 コメント すべてのコメントを見る
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キュビット タイプ1:いわ はっくつポケモン たかさ 0.5m おもさ 212kg ずかん おせんされた こうざんを はねまわる。 しかくい いしのなかに からだがあり われると しんでしまう。
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lena /// / 結婚を前にして相手が死んでしまうこと。またそのときにの儀式lenapelt、着る服lenasabの略 sid lo / ena 低く(悲しんでの意味)泣く
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もしかしたらそれは、仕事を片づけてしまうともう自分のすることがない=自分は不要な存在だと思われるのが嫌いだからなのではないか、と思うことがある。しかしそれは思い上がった態度だ。しかも仕事を先送りにして締め切りをロクに守らず周囲に迷惑をかけていることを知っているのになお手をつけようとしないことの説明にはならない。周りに迷惑をかけ、遅くまで仕事をしているフリをし、仕事がたくさんあるフリをし、しかし実際にこなしている仕事の内容も量も大したことないぐらい、周りの人は知っている。それに気づかない振りをしてなおサボっているとは度し難い態度だ。何故そんなことをするのか。それは、全力で仕事に取り組んでしまうと、そこで自分の能力の限界を思い知ることが恐いからだ。手を抜いているうちは、理由が立つ。しかし全力で当たったときの言い訳は“能力不足”だ。それを直視するのが恐いのだ。無能とは言わない。が、他の人と比べて同じか少し劣る程度しかないとわかってしまうことをプライドが許さないのだ。 ほら「少し劣る」って、謙遜していて心の中では“そんなことないさ”って思っていることが透けて見える。
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59話 ひろかずの言うとおり~しんげき~ 「一緒に生き残ろうって……言ったのに……」 レオノーレの敗死を目の当たりにし、落涙する守矢。 そのレオノーレの死体は兵士達によって無造作に片付けられる。 「ここまで五人やって、勝ったの一人だけじゃねぇか……!」 「じゃあ、ここにいる人、殆ど死ぬって事じゃん……!」 余りに無情な現実を前に、絶望感を露にする史雄と真耶。 他の生存者達も――巴と千華は涼しい顔をしていたが――前述の二人と似たような面持ちだった。 ジャンケンで勝てば良い、ただそれだけの事が、生存者達には監獄の塀よりも高い障壁のように思えてならない。 負ければ問答無用で「死」なのだから。 「はい、次」 しかしそんな生存者達の気持ちなどお構いなく、寛和は次の順番の者を呼ぶ。 「舩田勝隆」 「……っ」 紺色狼の少年、舩田勝隆。 「……行ってくるよ、陽平」 「ああ……絶対勝てよ」 朝礼台へ上る勝隆。 その時陽平が見た勝隆の表情は、最初に出会った時とはまるで別人のように凛としていた。 「さて、変態君。気分はどうだ? 首輪から盗聴してたんだけどよ、ちゃーんと聞こえてたぜ? お前がオナってた時のヨガリ声」 「……そうですか」 やはり聞かれていたのかと思うと、勝隆は少し身体の芯が熱くなったが、自制の心がそれに勝る。 流石に今はそんな場合では無い事ぐらい勝隆も理解していた。 「流石、動じねぇか」 「絶対勝ちますよ。勝って、生きて、また好きな事をするんです」 「……良い目してんなぁお前。あんなヨガリ声あげてた奴と同一人物とは思えねぇ」 強い意志を宿した双眸、そして表情を見て、寛和は感想を述べる。 「よーし、じゃあ宣言してやろう。俺は次、チョキを出す」 唐突に次に出す手を宣言する寛和。 何事かと戸惑う他の生存者達、冷静に寛和を見詰める勝隆。 「じゃあ、グーを出せば俺は勝てるんですね?」 「ああ」 「……分かりました」 「よぉし……行くぜ?」 「セット」 第六回戦が始まる。 「さーいしょーはグー」 「ジャン」 「ケン」 「なーんてな♪」 ここで、寛和は宣言を反故にした。出した物は「パー」であった。 「ああっ」と、生存者達が絶句する。誰もが勝隆の敗北を覚悟した。 しかし――――勝隆の手には「チョキ」の形になっていた。 「……チッ、反応良いなお前」 「……」 勝隆の首輪が電子音の後に外れ、朝礼台の上に音を立てて落ちる。 「舩田勝隆、生きる。」 朋佳が勝隆に告げ、生存者達から歓声が沸いた。 勝隆は生存者達の方に向き、疲れ切った様子ではあったが笑顔を浮かべ、小さくガッツポーズを決めた。 レオノーレの死で悲しんでいた守矢も、涙を拭いて、ジャンケンに勝利した狼の少年を祝福する。 そして兵士達に連れられ悠里の待つ合格者席へ歩いて行く勝隆。 「みんな! 勝って生き残ろう! 陽平……待ってるから! みんな勝って! 絶対勝って!」 残りの生存者達に向かって、勝隆は精一杯の声援を送った。 それによって、生存者達の心は幾許かではあったが勇気付けられる。 難しい事では無い、ジャンケンに勝てば良い。勝てば生き延びられるのだと。 「はい次! 七塚史雄」 「よっしゃ行くぞォォォオオ!」 大声を張り上げて勢い良く朝礼台へ上がるバーテンダーの青年、七塚史雄。 「セット。さーいしょーはグー。ジャーンケーン、ポン」 寛和は「チョキ」、史雄は「パー」。 寛和の勝ち。 【七塚史雄 死亡】 「次、保土原真耶」 「真耶さん頑張って!」 「行ってくる! ご主人の元へ絶対帰るんだぁあ!」 守矢の応援を胸に、主人の元に帰るべくゲーム機擬獣人化女性、白狐の保土原真耶は勝負に臨んだ。 「セット。さーいしょーはグー。ジャーンケーン、ポン」 寛和は「パー」、真耶は「グー」。 寛和の勝ち。 【保土原真耶 死亡】 「長沼陽平」 「うおお見てろ勝隆! お前に続くぞぉおお!」 「セット。さーいしょーはグー。ジャーンケーン、ポン」 寛和は「グー」、陽平は「チョキ」。 寛和の勝ち。 「陽平……!」 勝隆の願いも虚しく、長沼陽平の首は宙を舞った。 【長沼陽平 死亡】 「原小宮巴」 「巴! 勝って!」 「おねーさん……」 悠里が自分を応援するとは思ってなかった巴は少し驚いた表情を浮かべる。 当の悠里も、最初巴と出会った時は、自業自得の部分も有るとは言え殺されかけたのだから印象は最悪だった。 だが以降は共に行動し、自分に危害を加えるどころか気遣ってくれる場面が多くなっていったので、 悠里は巴に対し十分な仲間意識を持つようになっていた。 そして、巴もまた、悠里の事を大切な仲間だと感じていた。 にこり、と、巴が笑みを浮かべる。 今まで殆ど無表情だったが、その笑顔は普通の少女と何ら変わりの無い、屈託の無いものであった。 「巴……」 「頑張るよおねーさん。一緒に生き残ろうね」 「うん、うん……!」 だが。 現実は非情なもので。 寛和は「チョキ」、巴は「パー」。 寛和の勝ち。 「巴ええぇえええ……!!」 首と胴体が別れた犬狼の少女に向かって、悠里は悲痛な叫びを上げた。 【原小宮巴 死亡】 残りは、五人。 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 目次順 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 吉橋寛和 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 岩岡朋佳 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 原小宮巴 GAME OVER 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 都賀悠里 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ リクハルド 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 深谷明治 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 舩田勝隆 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 長沼陽平 GAME OVER 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 白峰守矢 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 保土原真耶 GAME OVER 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 沢谷千華 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 油谷眞人 次:ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~ 前:ひろかずの言うとおり~うんだめし~ 七塚史雄 GAME OVER
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秋も深まり、枯葉も殆ど落ち切ってしまった頃のとある夜。 寒々しい荒れ野の真ん中で、一人の少女と一匹の怪物が焚き火を囲んでいた。 少女の見た目は十代半ば頃。灰色のコートを羽織っていて、金色の髪を少し短めに揃え、整った顔立ちに青い瞳をしていた。 一方、怪物は結構大きめで、中にその少女が二人分入れそうなほどの体躯をしていた。 全身銀と灰色の装甲で覆われ、大きな胴体からは四つの脚が生えている。身近な生き物では、クモが一番形が似ていた。 「ねえタオル」 焚き火にあたりながら、少女が呟くように怪物に話しかけた。 「なあに、セリア」 焚き火の側で脚を下ろし、大地に胴体を着けて静かにしていた怪物が、すぐにその少年のような声で少女に返事をした。 少し間があいて、少女が揺れる炎を瞳に映しながら続けた。 「この世界で生き延びるためには、何より誰よりも、まず自分を愛さなければならない。それがたとえどんな状況でも。……そう教えてくれたのは、タオルだったよね」 「そうだよ、確かに言った。覚えてる」 軽い口調で当たり前のように断言した怪物は、やはり微動だにしないまま返した。 少女は怪物のほうを見ないまま、やはり炎を見つめながら続けた。 「もし、この先……タオルと私が二人とも危ない目に遭って、どちらかが助からないような状況になった時……」 「……」 「……私はきっと、タオルを見捨てる。そうでなきゃ、自分が死んでしまうから」 「……」 「タオルのことはなんだかんだで嫌いじゃないけど、それでも私はきっと見捨ててしまう。自分のことだから解る」 「……」 「……タオル?」 怪物の反応がなかったせいか、そこで少女は顔を少し動かし、怪物をちらりと見た。 怪物は、さっきと何も変わらずにそこに座って、静かに炎にあたり続けていた。 少し後悔したような色を顔に映すと、少女は膝に顎をのせて再び揺れる炎を再び見つめ始めた。 ……しばらくして静寂を破ったのは、怪物の声だった。 「正しい判断だと思うよ」 まったく迷いのない、それでいて優しい声が、炎に僅かに照らされた夜の闇に響いた。 「それで良いんだ、ボクの教えた通り。それでこそ旅人だよ、セリア」 「……タオルは、良いの?」 「ぶっちゃけ良くないけど、セリアが死ぬよりはほんのちょびっとだけマシかな。それに何より、ボクは一度死んでるしね」 「……」 そこで怪物は、くす、と一度だけ静かに吐息で笑うと、暖を取りながら柔らかい口ぶりで言った。 「だから、いつかその日が来るまでは、側にいさせてね」 少女からの返事は、返って来なかった。 その代わり、少女は座っていた切り株から立ち上がり、怪物に近づくと、その硬い背中に倒れこむような形で抱きついた。 「くすぐったいよ、セリア」 ぱちぱちと焚き木が焼けて跳ねる音だけが、夜の闇に木霊していた。