約 1,324,921 件
https://w.atwiki.jp/vippokemonbwsougou/pages/127.html
恐らくBW最後の大会 さよならBW環境大会 in VIP 【ルール】 普通の6350トーナメント 【日時】 受付 6/16(土)23時00~ 開始 6/17(日)20時30~ 【参加テンプレ】 ろんじゃ@0721-4545-1919 【その他】 大会中のポケモン持ち物技の変更禁止 BVは歯医者がうpすること(大会終了後) 参加者一覧 ゆうき@4943 1192 7912 シャドウ@2408 9248 0736 いあろ@4212 3108 8580 シン@2709 7453 7422 のりしお@0605 0738 8835 なぎ@3997 7432 8133 ゴルハット@0647 1255 7873 ベクシン@3181 1687 0982 ナージャ 2409 0820 6624 むなげっち 1378-1147-2851 ハマーン@3568-1024-8153 みずどり@4170 0528 2315 さなえ@2108-1794-8338 まゆげ@2151 4262 9900 かでなー@2666 7842 7471 なっぺ@3481-8395-0986 740 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2012/06/17(日) 21 15 20.27 ID SA5Qo7Q9o ┌─ みずどり@4170 0528 2315 ┌─┤ │ └─ ゆうき@4943 1192 7912 ┌─┤ │ │ ┌─ さなえ@2108-1794-8338 │ └─┤ │ └─ ゴルハット@0647 1255 7873 ┌─┤ │ │ ┌─ いあろ@4212 3108 8580 │ │ ┌─┤ │ │ │ └─ むなげっち 1378-1147-2851 │ └─┤ │ │ ┌─ シャドウ@2408 9248 0736 │ └─┤ │ └─ なっぺ@3481-8395-0986 ─┤ │ ┌─ シン@2709 7453 7422 │ ┌─┤ │ │ └─ のりしお@0605 0738 8835 │ ┌─┤ │ │ │ ┌─ ベクシン@3181 1687 0982 │ │ └─┤ │ │ └─ まゆげ@2151 4262 9900 └─┤ │ ┌─ ハマーン@3568-1024-8153 │ ┌─┤ │ │ └─ なぎ@3997 7432 8133 └─┤ │ ┌─ ナージャ 2409 0820 6624 └─┤ └─ かでなー@2666 7842 7471 結果 優勝 ゆうき 準優勝 ベクシン 3位なっぺ 3位かでなー BV 決勝 ゆうきvsベクシン 69-42839-28142 準決勝 なっぺvsゆうき 15-61212-44088 ベクシンVSかでなー 95-10977-63575 のりしおVSシン 22 18886 87856 一回戦さなえVSゴルハット 56-38289-54221 いあろーなっぺ 50-16767-99538 なぎ vs かでなー 50-73294-25533 シャドウVSなっぺ 26-72323-55188 ナージャvsかでなー 46 42996 31844
https://w.atwiki.jp/nicoutaite/pages/86.html
作詞:spica 作曲:spica 編曲:samfree 歌:ピコ 翻譯:風翊寒 再見、我曾深愛你 由頰上滑下的熱淚 灑落在環抱的膝蓋上 「不是你的話 就不行」 那天你這麼對我說 我無法接受那句話 僅僅確認了那份溫暖 炫目的陽光下 你的側臉 透著茶色的長髮 那雙眼眸中映出的我 和你是真正的面對面嗎? 不但逞強又不直率 那已逝去的夏日 天真地笑著的你 在記憶中搖擺 再見、我曾深愛你 雖然已經再也無法這麼說 分開後才發覺的那真正的愛 若能夠 再一次擁抱你的話 這次絕對不會再鬆開那雙手 不過現在已經太遲了呢… 即使是那刻印著懷念的街 少了你也只剩下黑白 笨拙地抓住 那摸索著找到的東西 那樣的我的支柱 明明曾是你 好想見你、吶 你 現在在我不知道的地方 和誰在看不一樣的景色呢? 明明若閉上眼的話 好似能聽到你美麗的聲音 從遠方傳來 但是那是不可能的吧 再見、我曾深愛你 雖然已經再也無法這麼說 分開後才發覺的那真正的愛 若能夠 再一次擁抱你的話 這次絕對不會再鬆開那雙手 不過現在已經太遲了呢…
https://w.atwiki.jp/hengokurowa/pages/322.html
「な、なんという...!」 小太りの中年、彩南高校の校長はわなわなと身体を震わせていた。 仮にも彼はイチ教師である。 当然、この理不尽な殺し合いに怒りを覚えて 「なんという素晴らしいプレゼンツ!ムホー、みなぎってきましたぞォォォォォ!」 ...訂正しよう。確かにこの殺し合いに怒りや恐怖といった人並みの感情は抱いていた。 だが、彼に配られた支給品である成人向け雑誌、所謂アダルトな本(オブラートな言い方をしなければエロ本)。 これを見た瞬間、彼のほとばしる熱いパトスは治まるところを知らなかった。 「これは服など着ている場合ではありませんぞ!いざ、いざ、いざああああああ!!」 バサリ、と音を立て服が空を舞い、あっという間にトランクス一丁のあられもない姿になる校長。 その中年特有のだらしなく肥えた身体つきが惜しみなく晒されるが彼には関係の無いこと。 「むひょおおおおおおおおおおおお!!!」 己の欲望に従い、男の孤独な戦いが始まった。 □ 「ふぅ...」 数十分後、なにかをやり遂げた顔で吐息を漏らす校長。 彼の周囲には丸まったティッシュが幾つも転がっていた。 「さて。そろそろ行動しなければ」 己に燻っていたモノを発散しきった校長はこれからの行動を考える。 日々、金色の闇やその他女生徒に跳びかかりその都度に撃退されているため多少の痛みは屁でもないものの、やはり彼とて命は惜しい。 かといって、流石に人を殺すつもりはないため、できれば何事も無く脱出し彩南町に帰りたい。 そのためにはどうにかして協力者を得たいが... 「あの、すみません」 「むほぉ!?」 背後より突如かけられた声。 校長は思わず身体をビクリと跳ねあげつつ振り返る。 立っていたのは、薄いシャツと下半身を包むジャージという見る者に体育教師という印象を与える爽やかな青年だった。 「僕は教育実習生の神谷と言います。あなたの名は?」 「わ、ワシは彩南高校の校長ですぞ」 「校長先生ですか!よかった、あなたみたいな人なら安全だ」 神谷と名乗った青年は、ニコリと笑みを浮かべ握手を求める。 その好青年さる姿に、校長もまた思わず安堵し握手を返した。 それから、ここが学校らしいことを認識した二人は、誰か生徒がいないものかと校内を周りはじめた。 「教育実習生らしいが調子はどうだね」 「いやあ、まだまだ生徒が怖くて」 普段のテンションからは考えられない程紳士然とした態度をとる校長。 当然だ。 彼が興奮し変態するのは好みの美少女や美女相手のみであり、その気がない相手には普通の態度をとっている。 興味が無ければ暴走する必要もないからだ。 そんな教師として真っ当な会話をしつつやがて辿りついたのは空き教室。 促されるように校長は教室へ足を踏み入れ、後から入った神谷はゆっくりと扉を閉めた。 「君のように若い先生が教育に携わってくれるのは嬉しいことでね。期待しておりますぞ、神谷君」 背を向けながら、校長はそんな上辺半分な言葉を投げかける。 そんな校長は神谷の向ける視線に気が付かない。 「校長先生」 突然の呼びかけに思わず振り返る。 瞬間、校長の時は静止した。 立っていたのは、己のイチモツを露出させ熱い視線をぶつけてくる神谷だった。 「きみ...」 「あなたに一目ぼれしました。抱いてください」 神谷は校長から目を逸らさず、シャツをまくり上げ乳首を見せつける。 「オレ、ホモなんです。先生のヒゲや豊満な体つきを見ればオレは迷わず裸になれます。それに、あの散乱したティッシュ。あなたも性欲を持て余していたんでしょう。オレの推測はまちがってますか?」 「神谷くん...」 □ 俺の名は浦上。 ちょいと遊び過ぎて指名手配犯になっちまった死刑囚だ。 今はあの妙なガキ共の開いた殺し合いに参加させられているところだ。 当然ながら俺はこの殺し合いに乗った。 理由なんざ決まってる。なんでも願いを叶えるってのは魅力的だし、なにより俺の欲求を満たしやすい環境なんだ。断る必要がねえ。 目を覚ました俺はさっそく獲物を探すため近くにあった学校へと潜入。 ガキや素人はまずこういった目ぼしいとこを目指しやすいが、ビンゴ。 校庭の砂利には二人分の足跡が残されていた。 ご丁寧にその足跡は校舎の方にまで続いていた。 さてどんな遊びをしてやろうかと考えつつ俺は校舎へと足を進める。 男だったらどこをどうやって解体してやろうか。 ガキか女だったら殺しながら穴という穴を犯しつくしてやろうか。 気配を殺しつつ進んでいた俺に、ギシッ、ギシッとなにかが軋むような音が届いた。 (こんなところでヤッてんのか。お盛んだねえ) 以前、自衛隊の奴らがバケモノ共を襲撃した際にも暢気に盛ってたヤツらがいた。 人間はこういう事態の最中では興奮しやすい。俺も経験はある。 多少の緊張感があった方が燃えるってのは解らないでもないが、運のない奴らだ。 それが原因で俺に殺されることになるんだからよ。 中の得物はどんなプレイをお楽しみなのか。 ギリギリまで窓に近づき、気取られないよう姿を隠しつつこっそりと中を除く。 俺は絶句しちまったね。 なんせ、健康そうな若い男が醜い肢体の中年を犯してたんだからよ。 ■ 「校長先生...!」 『か、神谷くん!』 俺が腰を動かす度に、校長先生の甘い喘ぎが漏れる。 『お、おおう...!』 「ああ...」 校長先生の紅潮した頬に、吐息に、俺は思わずうっとりとした表情を浮かべてしまう。 それに呼応したかのように、俺のパトスは更に熱さを帯びた。 その穴の湿り、加齢臭、先端から漏れる雄の匂い... 校長先生の全てが俺にとっての媚薬なのだ。 ふと、何者かの視線を感じ俺は顔を上げた。 そのもとは窓の向こう側。 坊主頭の男が俺たちに熱い視線をぶつけてくる。 なんだい。あんたも俺たちに混ざりたいのか。 だがもう少し待ってな。いまは校長先生をたっぷり味わいたいんだ。 終わったらあんたも一緒に楽しも――― 『か、神谷、くん...!』 息も絶え絶えに、校長先生は俺に縋り付く。 ああ、すまないな校長先生。 いまはあんただけを――― 『ワシを殺してくれ』 思わず俺の腰が止まる。 『ワシはこんな快感を味わったことはなかった。こんな絶頂のまま死ねるなら―――それがいい』 俺は耳を疑った。 だってそうだろ?俺の惚れた男が、俺の手で死にたいなんて言うんだぜ。 勿論、俺だって殺すこと自体嫌なモンさ。 『早く...ワシを...!』 けれど。 愛しているからこそ、その願いを叶えてやるべきではないだろうか。 それが男というものではないのか。俺は、そう思う。 「...校長先生」 俺は、そっと先生の首に手をかけた。 □ オイオイオイオイ、マジかよ。 なんたってこんな醜いデブとの交尾なんざ見せつけられなくちゃならねーんだよ。 いくら俺でもあんな中年のデブを抱きたくなんかねえぞ。 しかも掘ってる方も若いっちゃ若いがあの新一とかいうガキみてえな可愛い顔じゃなくてどちらかといえば男臭い感じだしよ。 ったく。汚いモン見せられて気分が萎えちまったぜ。今回はズラか... ん?デブの方がなんか抗議し始めたな。 「やめてくれ、ワシにこんな趣味はない!」 なにぃ? ...ってことは、あの男はデブを無理やり犯してる訳か。 物好きにもほどがあんだろ。 「こ、こんな状況できみはなにを...」 「この野郎、恥かかせやがって!」 デブの抗議に男の方が激昂し、デブの首を絞めはじめた。だが腰はずっと動かしてやがる。 デブがいくらもがこうが男は関係ない。己の快楽にのみしか興味が無いようだ。 次第にデブの抵抗も弱まっていき、やがてパタリと地面に手が落ちる。 同時に。 「うおおーーーーっ!!」 どうやら二人同時に逝っちまったらしい。 ...なんなんだあいつは。 流石のオレもあんな狂人は相手にしたくない。ここはズラか... ゲッ、目が合っちまった。 ■ 「はぁ、はぁ...」 校長先生の首から手を離す。 殺ってしまった。 俺はこの手で惚れた男の命を奪ってしまったのだ。 校長先生の頼みは断ろうと思えば断れたかもしれない。 「そんなことしなくても、校長先生と一緒に殺し合いから脱出して最高の快楽を味あわせてあげますよ」と言うことはできたはずだ。 だが俺はしなかった。 ...もしかしたら俺は、心の底では初めての命を奪いながらの交わりに期待していたのかもしれない。 そんな己に芽生えているかもしれない残虐性に怯えたが、しかし校長先生の安らかな顔を見ていればその恐怖も薄まった。 校長先生。あなたはこんな俺を許してくれるんですね。 とにかく、いまは生き残ることを考えなければ。 俺は殺人鬼じゃない。もうあんな交わりは頼まれない限りごめんだ。 さっきから覗いている坊主頭の男に弁解しなければ。 そんな想いで顔をあげると、坊主頭の男と視線があった。 彼は一目散に逃げ出した。殺人現場を見てしまったのだから当然だ。 「待ってくれ!」 俺の呼びかけも彼には届かない。 クソッ、どうにか誤解を解かなければ。 俺は急いでジャージを履き直し彼の後を追う。 教室を出る際に校長先生を一瞥し、後ろ髪を引かれる想いで俺は教室をあとにした。 □ 誰もいなくなった無人の教室。 そこに残されのは、肛門から白い粘液が溢れ、顔を苦痛に歪めた中年の男の死体だけだった。 【校長@TOLOVEる 死亡】 【一日目/高校】 【神谷@教育実習生絶頂す】 [状態]:健康(無自覚の精神不安定) [装備]: [道具]:不明支給品1〜3 [思考・行動] 基本方針:石井先生を探す。殺し合いには乗らない。 0:さっき見ていた男(浦上)を探す【犯す】。 1:女は放っておきたいが... ※他の男性参加者になにかと難癖をつけてホモ認定し抱きたがります。 【浦上@寄生獣】 [状態]:健康 [装備]: [道具]:不明支給品1〜3 [思考・行動] 基本方針:殺し合いに乗る。 0:神谷から逃げる。
https://w.atwiki.jp/virako/pages/79.html
泣き声を聞いた。それもとても沢山の。あのときはどうしてか頭がぼんやりして、喧しいとしか思えなかった。意識がはっきりしてからあんまりな考えに後悔したのだけれど、誰も彼もそれほど弱い奴ではなかったのだ。 ありがたいことだと安堵していたのに、今悲鳴に近い泣き声が聞こえてきている。人のマントに顔を埋めて、体を二つに折って泣いている。どれだけの間そうしていたのだろう、掠れてしまった声で何度も何度も自分を呼んでいた。 ヴィラル。 会いたい、寂しい、と泣く彼女に呼びかけた。もちろん声は届かなかった。艶やかだったはずの髪を撫でてやっても、ヴィラルは顔を上げようともしない。 それでも次第に彼女のしゃくりは収まって、ついにはマントから顔を離した。雨風に晒されていた布に付いた埃や泥が移った頬を涙ごと拭い去って、ヴィラルはゆっくりと立ち上がった。自信に溢れたあの表情はどこにも見当たらず、食いしばる口元にばかり目がいってしまう。今にも崩れ落ちてしまいそうな体を懸命に支え、自分の墓に背を向けたヴィラルをカミナは見ていることしかできなかった。 カミナがカミナとして意識を保てるようになるまでには結構な時間が必要だった。気が付けば戦いが終わっていて、墓に参りにきたシモンは人として一回りも二回りも大きくなっていた。ふわふわな髪をした女性を連れてきて、沢山の話をしてくれた。自分が死んだときのことに、その後のシモンの心情や隣にいるニアに会ったときのこと。何もかも包み隠さず話す中に、当然ヴィラルの話題もあった。 かなりの間、ヴィラルがカミナの死を知らなかったこと、テッペリンでヴィラルと戦ったこと。そうして、ヴィラルが自ら死なない体になったと言ったこと。本当かどうかは分からないけれど、とシモンは付け加えた。とても高い所から落ちたようだったから、実際不死でもないと生きてはいないだろう、とも言った。 「アニキ、俺、思うんだ。俺達は獣人がいたから穴の中で暮らしていたけど、今の獣人を憎むのはおかしいかもしれないって。ロージェノムが獣人にそうさせてたんだから、憎むべきはロージェノムが作った体制だって俺は思う」 だから、とシモンは言葉を切った。 「俺はヴィラルを恨まない。もし、別に何か悪いことをすれば別だけど、アニキを殺したとかそういうことでは憎みたくないんだ」 よし、よく言ったシモン、とやはり頭を撫ぜると、派手に風が吹いてシモンの髪がばさばさと揺れた。シモンは一瞬驚いたように目を丸めてから柔らかく瞼を細めて、ありがとうと囁いた。 ヴィラルはきっとシモンに許されていることを知らないだろう。 ヴィラルは日が傾きかけた頃に帰ってきた。遠くから徒歩で来ていたらしく、色々な荷物を背負っている。どこかに拠点を作って歩き回っていたのだろう。ヴィラルはカミナの墓の横に荷物を置いて、鞄から寝具を引っ張り出した。普段は物陰で眠っているのか、テントはないようだった。墓の近くで石が少ない場所を選んで黙々と仮の宿を作り上げていく。 こんなところで一人で眠ってしまっていいものなのだろうか。そう訝しんでから、この辺りに猛獣の類がいないことを思い出す。人影も皆無なのだから、その辺の心配はないものとの判断なのかもしれない。 火の準備はせずに食事を済ませ、ヴィラルは手元にカンテラを置くと早々に寝入ってしまった。日は既に地平線の向こうに沈んでいて、金の髪が弱々しい光をわずかに弾く。カミナは赤く染まったヴィラルの目許に口づけて、目を閉じた。 目を閉じるといっても、生きているときとは勝手が違う。見る、という意識を閉じるといえばいいのか、はたまた見ないようにすると強く念じるといえばいいのか。 目を閉じると必ずといっていいほどにどこかに辿り着く。場所はその時々によって変わるのだが、長くいてはいけない所ということだけは分かっていた。帰ってこられなくなるのだ。きっとそれが自然なことなのだろうが、まだ行ってはいけないと己の勘が告げている。まだやらなければならないことがあるのだと。 「……お?」 いつもと毛色の違う所に辿り着いた気がする。丈の長い金色の野原が広がっていて、空もまた薄い野原色だった。吹く風は暖かく、軽く草原を揺らす。 草がズボンに擦れるのを感じながら当てもなく歩いていると、突然道に出た。道は踏み固められていないのか、妙にふわふわしている。靴よりも素足で歩いた方が良さそうに思えた。 かといって靴を脱ぐ気にもならず、とりあえず足元を気にしながら進む。俯いていたから直前になって初めて、道が一段下がった真っ黒な石になっているのに気がついた。爪先をつけると予想通り、硬い感触。一応手を近づけると、一瞬躊躇してしまうほどの冷気が伝わってきた。 しゃがんだまま視線を前方にやったとき、カミナは思わず息を飲んだ。おおよそ金色の空間でも一際目立つ金の髪が十歩ほど向こうで項垂れていたのだ。ご丁寧に膝を抱えて座っているせいで顔は全く窺えない。 「おい!」 呼びかけてもぴくりともヴィラルは動かない。石に足を踏み入れて、カミナが目の前にまできても動く様子はなかった。 「ヴィラル!」 墓前と同じように聞こえてないのかもしれないと焦燥を抱きながら、カミナはもう一度呼びかけた。反応のあるなしに拘わらず、膝に乗った頭を押してこちらを向かせる。触れられるということは、恐らく言葉は届いている。 「カミナ……?」 惚けたような口調でヴィラルが掠れた声で囁いた。頭から頬まで滑らせた手がぞっとするほど冷たい。暖かく柔らかな空間でヴィラルと、ヴィラルの周りだけが酷く冷たかった。 「立てよ、ヴィラル!」 腕を引っ張って立ち上がらせようとしたのだけれど、ヴィラルは状況が飲み込めないのか目を大きく開けたまま動こうとしなかった。軽く舌打ちをしてから、両脇に手を入れて強ばったヴィラルの体を無理やり持ち上げる。一瞬触れた体は頬と同じように冷えきっていて、実際に死んでしまった自分よりも死者らしく思えた。 「歩けるか?」 「あ、ああ」 返事と共に頭が揺れる。何故か頭と一緒に流れた髪は初めて出会ったときの艶やかなそれだった。服装もさっき墓前で見たものではない。記憶の中の彼女のまま、ヴィラルは掴まれた腕を不思議そうに見ていた。 「カミナ」 後もう少しでふかふかの道に出るというとき、ヴィラルが足を止めた。 「どうした?」 「お前、死んだんじゃなかったのか」 絞り出すような声だった。始めにカミナを見ていた瞳はすぐに伏せられ、答えを望んでいるふうには見えない。 「ああ、死んでる」 けれど答えなければいけないような気がして、ゆっくりと返答をする。そうか、と呟いたヴィラルの声はやけに口早だった。 すまない、とヴィラルは口早のまま言葉を続けた。 「すまない、わたしが――っ!?」 次に続ける言葉など容易に分かってしまって、カミナはヴィラルを抱き上げた。冷たい体を強く強く抱きとめ、さっさと石の向こう側へ行く。柔らかな地面に足をつけさせると、そのままずるずると座り込んでしまった。 「別にいいじゃねえか、そんなこと」 ヴィラルの前にしゃがんでカミナは俯いた顔を持ち上げた。 「……よくない」 顎に添えられた指を気にしながらもヴィラルが否定した。意志が強いはずの瞳の輪郭がぼやけて、口元がぐっと下がる。 「私が殺したんだ」 「いや、だからな?」 再び下がっていく頭を見ながら、何と言ってやっていいのか分からなかった。リーロンならどんな言葉をかけてやるのだろう。今のヴィラルに対してものを言うなら、カミナよりもリーロンの方が適役な気がした。 「お前だけじゃない、沢山の人間を殺したんだ」 けれど、リーロンはここにいない。自分なりの言葉でヴィラルに伝えなければならない。 「だったら俺だってそうだろ!」 自然大きくなったカミナの声に弾かれたようにヴィラルが顔を上げた。 「違う、お前は」 「違わねえよ。確かに俺は人間は殺してねえ。けどな、獣人は殺してきたんだぜ?」 「そうじゃない、お前達が獣人を殺したのには正当性がある。私達が人間を襲わなければ、お前は殺さずにすんだはずだ!」 眠る前に沢山泣いたというのに、ヴィラルの瞳から涙が零れる。垂れたままの大きな手が柔らかな地を掻いた。 「ヴィラル」 その手にカミナは手を重ねた。体を寄せて、瞼にそっと口付ける。濡れた目尻を舐めると、舌に温い塩味が滲む。 「俺達は何も知らなかった。お前達はちゃんと伝えられていなかった。俺達は何も知ろうとしなかったし、お前達は聞こうとしなかったんだ。おあいこだろ?」 びくりと手と瞼を震わせたにも関わらず、ヴィラルは抵抗する素振りを見せなかった。代わりにゆっくりと顔を上げて、至近距離でカミナの瞳を覗き込む。 「お前、知っているのか」 「いろんな奴が報告しに来るんだよ。お前のことも聞いたな」 自分の掌の下で、ヴィラルの指が握り締められた。持ち上がっていた顔もゆるゆると下がって行く。非難されて当然と思っている上で、ヴィラルは傷つくのを酷く恐れているように見えた。 「ったく、らしくねえな!」 ヴィラルの手を放して、代わりに両手で耳の当たりに手を置いて頭を挟んでやる。 「な、ちょっ……止めろカミナ!」 わしゃわしゃと滑りの良い髪を掻き回すと、ヴィラルが必死に手を止めようとしてきた。彼女にならこれくらい簡単に止められるだろうにその腕はやけに控えめで、軽く添えられるだけに留まる。 「別にお前を殺したいほど憎んでる奴なんていないんだぜ? そりゃ、複雑な奴だっているだろうが、皆どうして俺達があんな戦いをしなくちゃいけなかったのか知ってんだ」 「そんな、はずは」 両手に挟まれながらもヴィラルは弱々しく首を振る。揺らぐ瞳が嫌というほどヴィラルの気持ちを伝えてきているように思えて、カミナは彼女の頬に親指を滑らせた。 「じゃあ、お前はシモン達を憎んでるのか? 今、俺を殺したいって思ってるのか?」 既に死んでしまっている身の上でこう言うのも変かもしれないが、とこっそり付け加える。ヴィラルがもう目をきつく瞑って、もう一度首を振った。ころりと目の縁から零れた涙が頬を撫でていた親指に染み込んで、何だかこっちまで泣きたくなってきた。どうやったらこいつの悲しみを取り払って、以前のような自信を取り返させてやれるだろう。ただ、俺はお前を憎んでなんかいないと伝えたいだけなのに。 お前もただ、許されたいだけなんだろう。けれど、気難しくて馬鹿正直なお前は自分のしたことが許せない。ヴィラルという一個人を許していないのは、もうお前だけなのに。 「優しい奴なんだな、お前は」 きっとそう口にしても、ヴィラルは受け入れることができないだろう。なら、どう伝えればいいのだろう。案の定、ヴィラルはふるふると髪を揺らして否定を示した。 「今どこに住んでんだ?」 「え、ああ、地下の人間の集落だ」 ふっとヴィラルの目尻が緩んで、言葉の端々が柔らかくなった。おおよそ豊かではないだろう状況で、ヴィラルに与えられていた旅道具を思い出す。質素ではあるだろうが、十分な量の食事もまた頭を過った。 「好かれてんだな」 「すかれて、いる?」 良く分からない、とヴィラルが素直な疑問符を浮かべた。実感できないとか好かれているように思えないとか言われるならまだ分かるが、この反応は何なのだ。まるで、その経験をしたことがないような。 「ああ、分からないんだ。我々は必要のない感情を省かれて、螺旋王に作られたからな」 「必要ない?」 螺旋王が求める獣人像は、死を恐れぬ戦人だろう。ときに人を弱くも強くもしてしまう愛は獣人の個々の力を予測できないものとしてしまって、甚だ不必要とされてもしかたがないのかもしれない。 けれど、愛を心を持つ生き物がなくすことができるのだろうか。そして心があるからこそ、ヴィラルはこんなにも苦しんでいるというのに。 「獣人はクローンによって作られるから、種の存続のために愛情は必要ないだろう」 会話をキャッチボールに譬えることは良くあるが、それでいうところの暴投とはこのことだろう。それも明後日の方向に投げたのならともかく、デッドボールを鳩尾に食らったような感じだ。話の方向自体は合っているのに、着地点が全く違ってしまっている。 「な、おい、お前何言ってんだ?」 「人間の生殖行為には基本羞恥心が伴うだろう? そのままだと子孫が残し辛いから、愛情でもって主に女性側の欲求を掻き立てるのではないのか」 そんなことも知らないのか、というふうにヴィラルが溜め息を吐いた。ヴィラルの説明が分からないわけではないが、カミナが言いたいことはそういうことではない。 「確かにそうとも取れるかもしれねえけどよ、別に俺達は子供が欲しいから誰かを好きになるわけじゃないぜ?」 「じゃあ、どうして好きになるんだ? 利点がないだろう」 そもそも感情に利益を求めること自体如何なものかと思わなくもない。けれど物質的に求める姿が無性にヴィラルらしくて、呆れるついでに笑えてくる。だからいって爆笑する程でもなくにやついていると、ヴィラルが眉間に皺を寄せた。 「うわっ! おい、何を――」 侮辱しているわけではないと説明してやる代わりに、目の前にある体を思いっきり抱き締めて地面に尻をつける。色気も糞もない悲鳴を上げたヴィラルの口を自分の口で塞いでやれば、一度肩が大きく震えてから全身が硬直してしまった。 「分かんねえ。分かんねえけど、しかたないだろ。生きてるなら、きっと誰かを好きになる。そうしなけりゃ、誰も生きていけねえんだよ」 至近距離過ぎてピントの合わない視界でも、ヴィラルの顔が真っ赤になっているのが分かった。さっきも瞼にしてやったというのに、全く意識していなかったらしい。 ヴィラルは無駄に頭でっかちで、色々な感情を押さえ込まれて生きてきだのだ。たとえ獣人が作られた種族であったとしても、感情まで操作できるはずもない。できるとしたら、ただ遠ざけることだけだ。 「それは、私もか?」 「ああ。お前は今、自由だろ?」 何もお前を押さえ付けるものなどないはずなのだ。おずおずと肯定した頬を撫で上げてやって、細まった瞳にもう一度唇を落とす。それだけで鋭く反応する彼女が酷く愛おしく感じた。 ああ、そうだ。愛しいのだ。 いつの間にか芽生えていた愛の片鱗に今更ながら気が付いて、思わず苦笑してしまう。今、こいつが欲しくてしかたがない。 「今の自分が嫌いか? 全部忘れちまいたいか? 忘れちまって、それで昔に帰れたらそれで構わないなんて思うか?」 「嫌だ」 ふるふると首を振って否定するヴィラルの記憶に果たして自分が含まれているのだろうか、となんとはなしに思う。初めての出会いは彼女にとって最早過去に成り果てているのではないか。 ならば、今の己はどうなのだろう。カミナという存在に会うことで彼女が過去に戻っているなら、それは酷く悲しいことだ。 「なら、そんな昔の格好してんじゃねえよ」 短い髪の端を摘んで、目の前で振ってやる。ヴィラルが自然寄った目で髪の長さを確認してから、手首部分に付いたファーを不思議そうに見下ろした。 「……どうして」 万感の思いを込めて、というふうに吐き出された言葉が掠れて響く。どうしてなのだろうか、とヴィラルは少しだけ間を開けて言い直した。 「私はお前を既に過去の人物だと思っていた。でも、違うんだな。こうやって、今生きている私に作用してきているんだ」 一呼吸分空白が生まれて、ファーを見詰めていた視線がこちらを向いた。 「私がここで死んでいなければ、お前もある意味死んでいないのかもしれん」 自分の上で縮こまっていたヴィラルの体が少し柔らかくなった気がする。何がどうなったのか、瞬きをしていた間に艶やかで短かった髪が背中辺りまで伸びて、抱き寄せる腕に掛かる。さっきまでのような艶がないその髪が、やけに美しく見える。 「仕方ない、お前の為にも生きてやる」 深く抱き締めて髪に顔を埋めてしまったせいで、彼女の服装も表情も全く分からない。けれど、きっと服は埃に塗れていて、口元には笑みを湛えていたに違いない。そう思うと、不思議なくらい満たされた。
https://w.atwiki.jp/retrogamewiki/pages/11519.html
今日 - 合計 - Thread Colors?さよならの向こう側?の攻略ページ 目次 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 名前 コメント 選択肢 投票 役に立った (0) 2012年10月12日 (金) 11時33分16秒 [部分編集] ページごとのメニューの編集はこちらの部分編集から行ってください [部分編集] 編集に関して
https://w.atwiki.jp/nishiparo/pages/78.html
22 驚くには値しない。 こうなるだろうことは誰にでも、そう、あの性悪の占い師でなくとも、少し想像力を働かせれば、容易に見えたはずだ。 わからないなら《怠けてんじゃねぇっ!!》、などと言われても、これはもう致し方ない。 だからぼくは振り返らなかった。 粛々とグラブを上げると、わざわざゆっくり回ってるとしか思えないバッターを無視して、キャッチャーに新しいボールを要求する。 「うん?」 「…………」 だがぼくなんかとは、比べるのもおこがましいくらい聡い彼女は、立ち上がって、ボールの飛んだだろう方向を見ていた。 振り返る。 打球の飛んだ方向ではなく、子荻ちゃんの視線を追って、首だけで後ろを振り返る。 「……ああ」 そういうことか。 哀川さんのかっ飛ばした特大のホームラン。 その着弾点はおそらくあそこだ。 職員棟の最上階。 飛距離はどんなもんだろう? 学園長室の窓が派手に割れていた。 打席に立ったとき、哀川さんがぴたりとバットで指した意味は、予告ホームランもあるが、どうもそこに打つということだったらしい。 学園長の趣味は人に嫌がられることらしいけど、その友人である哀川さんも、その辺は何だか似たり寄ったりだった。 「仲がいいのやら悪いのやら」 わかったようなことを言って、ぼくはゆっくりと振り返る。 「…………」 子荻ちゃんはまだじっと見ていた。 特定の目的を持たず、常に最善最良の手段を選んで策戦を遂行する。 そんな風なとてもクールな印象だが、そしてそうなのだが、これでかなり母親想いの娘なのだ。 ぼくの知り合いでは珍しく家庭内円満。 別段それが羨ましいとは思わないが、出来ればこのままでいってほしいね。 「ホームインッ、と」 最後の一歩をぴょんっと跳ねて、グラウンドを悠然と一周してきた、この赤い人みたいに、世界中を巻き込んだ親子喧嘩は勘弁だ。 「…………」 ま、この親子も四年前からは、それなりに上手くはいってるみたいだけど、さ。 人ん家のことだから、勿論深くは突っ込まない。 「騒ぐな騒ぐな小娘ども」 その哀川さんは随分とまた上機嫌である。 さっきチームメイトになったばかりの、姫ちゃん始めとした生徒達の頭を、かいぐりかいぐりくしゃくしゃしてる。 「…………」 いきなり授業に乱入して《あたしチームといーたんチームで対戦しようぜ》、そう言われたときは全員、ぽか~~っんとしてたけど。 姉御肌。 若い娘には哀川さんみたいなキャラは受けがいいらしい。 すっかりと短い時間で馴染んでいた。 当然のように一年生チームを率いているのは哀川さん。 必然のように三年生チームを率いているのは(ぼくではなく)子荻ちゃん。 只今六回表の一年生チームの攻撃、哀川さんの三度目の打席で三点目。 ちなみに一年生チームの得点は全て、DHである(守備までされたらゲームにならない)哀川さんのソロホームラン。 こちらは子荻ちゃんとぼくのタイムリーヒット。 一年生チームのピッチャーは姫ちゃんだが、目をつぶって適当に振ったバットが、今日に限っては滅茶苦茶良く当たっていた。 四対五。 意外にいい勝負になってる。 「先生」 「うん」 子荻ちゃんは新しいボールを、丁寧に二、三度擦ってから、手持ち無沙汰で待っていたぼくに投げて寄こした。 ここまで哀川さん以外は綺麗に零封。 ひとえにそれは女房役の、絶妙の配球に拠るものである。 ぼくの打ちごろのへろへろ球は、びっくりするくらい、ダブルプレーの山を築いていた。 と。 以上がここまでの状況説明である。 「さて」 それじゃ。 どうしようか? 要するにこの試合の見せ場は、盛り上がるのは、物語で言うところの、主要登場人物のシーンしかない。 ってわけで。 だらだら明記するのもなんだから。 “……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………” 「ここですよ」 マウンドまで上がってきた子荻ちゃんが、ポンッと、力づけるようにぼくにボールを手渡す。 色々はっしょっての九回表。 四対五で変わらず、何とかぼくらは、一点のリード守っていた。 バッターボックスに鵜鷺ちゃん。 「敬遠しましょう」 「でも次は――」 ネクストサークルには哀川さん。 にやにやと愉しそうにこっちを見ている。 「ええ。わかってます。ですから、こんな策はどうでしょうか?」 キャッチャーミットで口元を隠して、子荻ちゃんはすっと唇を寄せてきた。 耳朶にかかる吐息。 バッテリーの相談。 それは野球の光景としては、珍しくも何ともないが、可愛い女の子が相手だと、これが結構どきどきするもんである。 「――です」 子荻ちゃんの献策は短く簡潔だった。 「正々堂々真っ向から不意討ってご覧に入れましょう」 「……オーケー」 なるほど。 それならば確かに《人類最強の請負人》でも絶無で手の出しようがない。 立ち上がったままの子荻ちゃんと、力ないキャッチボールを、テンポ良く四球続けて、ぼくはいよいよ赤い最強打者を迎える。 その哀川さんは肩にバットを担いで、何か子荻ちゃんと喋っていた。 「てっきりま~~た敬遠でもすんかと思ったぜ」 子荻ちゃんから確認を取ったらしい。 哀川さんは満足そうに、極上の微笑を浮かべて、ぴたりと、狙いを定めるようにバットをぼくに向ける。 怖ぇよ。 「それで痛い目見てますからね」 敬遠は一度試みてる。 一塁側ベンチに向かって投げたのに、九メートルはジャンプして、あっさりと、ピンポン玉みたいにかっ飛ばしやがったからな。 世界記録って何メートルだっけ? とにかく敬遠すらも、この人相手には許されない。 「哀川さん」 「潤」 言いつつ哀川さんは視線を、にこやかに、でもその眼は全然笑ってなくて、ぼくの眉間の辺りにバットを固定する。 「今度言ったらボール、顔にぶち込むからな」 「……潤さん、ここで潤さんがホームランを打てなかったら、それでぼくらの勝ちってのはどうです?」 「あん?」 「授業時間もそろそろ終わりですし」 それに延長戦なんてしたくないし。 何故ぼくが投げてるのか疑問だし。 「…………」 ま、これは九回まで投げといていまさらだけど。 「ここまで予想外に盛り上がってるんです。だったらこれを、このシーンを、最後のクライマックスにしたいじゃないですか」 戯言まみれだな。 言ってて恥ずかしくなってくる。 「ふふん」 哀川さんはぼくではなく、マスクを被って座る子荻ちゃんを見た。 「いいね~~いいね~~。そういうの嫌いじゃないぜ。裏あんのはモロバレだが、お膳立てもしてくれたし、ここはあえて乗ってやるよ」 にこにこして哀川さんはバットを構える。 こういうところ、何だか単純というか、子供みたいな人だ。 「…………」 でもまいったなぁ。 こうも簡単に乗ってくるとは。 子荻ちゃんの策には、一分の隙もないだけに、完璧に巧くいくだけに、ノリノリなだけに、それだけに……滅茶苦茶後が怖いです。 「さあ来いっ!!」 でももう後には引けない。 鵜鷺ちゃんを一度見てから、ぼくは覚悟を決めると、思考を停止させると、諦めの境地になると、セットポジションで脚を振り上げた。 「…………」 そしてしばし停止。 念のために脚の上げ下ろしを、二、三度ゆっくりと、アピールするみたいに繰り返す。 「こんなもんでいいかな?」 「ええ。ばっちりです先生」 応えてくれてのは言いだしっぺの子荻ちゃん。 ぼくが頑張って視界から、極力消そうとしてはいる不機嫌な赤色にも、怯えた様子も畏れた様子も、まるでまったく一切合切ない。 哀川さんに一言。 「ボークです」 堂々といい切る。それは不屈――いや、むしろ不遜だった。 「……やってくれんじゃん、策師っ娘」 「あなたに投げたら、その瞬間に負けですから」 にやり、と笑う子荻ちゃん。してやったりといった感じだ。 「お姉さん、こりゃ一本取られちゃたなぁ」 にやり、と似てはいるが意味の違う、尊大な笑みを返す哀川さん。 二人ともたったのそれだけで、極めて侵し難い、大物の雰囲気を醸し出していた。 「…………」 こっちとは大分違うな。 「ししょお~~!! あんたあれだけ煽っておいて、そんなんでいいと思ってるですかぁ? あんたオトコじゃねぇですよっ!!」 「黙れ。勝負は勝てばいいんだ」 「ロマンとかねぇですかっ!!」 ぼくと姫ちゃん。 かなりの小物ちっく。 「そういうのを負け犬の遠吠えと言うんだ、覚えておけ我が弟子よ。今日は一つ賢くなれた」 「キェ~~~~!!」 マウンドに猛然と泣きながら突進してくる姫ちゃん。泣くことないだろに。これじゃぼくが悪者みたいじゃないか。 姫ちゃんがグーで殴りかかるのと、チャイムの音は同時だった。 23 ぱたんっと、読んでいた本を閉じる。 待ち合わせ場所の京都御苑。 先に来てベンチに腰を降ろしていた彼女は、後から来たぼくを、ゆっくりと首を巡らし仰ぎ見た。 表情は不機嫌。 でも、 「待たせちゃったか?」 興味なさそうに、関心なさそうに、どうでもよさそうに、ふるふると彼女は首を振る。 怒らせた。 と。 彼女を知りもしない人ならきっと思うだろう。 でもそうじゃない。 そうじゃないが、これは彼女に限らずで、あのアパートに住んでる人達は皆、一見さんに心中を図れというのは不可能だ。 不機嫌な表情。 だけどその瞳の奥をじっと見る。 「…………」 笑っていた。 世界を壊しそうな妖しい輝きを放って、彼女の瞳は愉しそうに笑っていた。 吸い込まれそうになる。 「…………」 て。 危ない危ない。 慣れてるからって油断してたら、それはとんでもないことになる。 親しくなってもやはり魔女は魔女だ。 取り扱い注意である。 さりげなくも何ともないが、ぼくはふいっと目を逸らすと、腕にしてるアナログ時計を見た。 「まだ三十分も前だけど、随分と早く来たんだな」 「…………」 訊いても彼女は何も答えてくれない。 答えてはくれずに、さっきぼくがしたみたいに、ふいっと目を逸らすと、ベンチを立ってすたすたと歩き出す。 まるで逃げてるみたいだった。 「おいおい、一体どこに行く気なんだよ」 ぼくがその背中に声をかけると、彼女は振り向きもせず、手に握っているものをひらひらとさせる。 それは映画のチケットみたいだった。 駆け寄って隣に並ぶ。 「ポセイドン・アドベンチャー?」 こくんっ、と頷いて、それ以上彼女は何も言わなかった。 「これって確かもうじき、リメイク版が公開なんじゃなかったけ?」 ぼくの記憶力は勿論怪しいが、今朝見たばかりのテレビの内容くらいは、何ぼなんでもさすがに覚えてる。 そしてそれは間違ってなかったみたいだ。 こくんっ、とまた小さく彼女は、前を真っ直ぐ見たままで頷く。 キャラにない幼い仕草。 「…………」 間違えて、思ってしまった。 可愛いじゃん。 「……ま、リメイクを観る前に、もう一回、オリジナルを観とくのもいいかな」 ぼくも前だけを真っ直ぐ見て歩く。 アイコンタクト。 そんな言葉があるけれど、そんなものすら、ぼくたち二人の間にはいらない。 そんなものがなくとも、ぼくと彼女は、もっと深い部分で、もっと根源の部分で、絶対絶無で通じ合っている。――なぁんてね。 「戯言まみれだな」 異常終了。 七々見奈波と過ごす休日の一コマでした。 24 夕立だろう。 窓の外では突然の雨がアスファルトを叩き、視界を覆わんばかりに白い水煙を上げていた。 梅雨明け宣言をされようが何だろうが、《雨》は《降る》。 容赦なく降る。 天気予報なんてものは当てになりゃしない。 さっきまではカラッと晴れていても、たとえ傘を持っていなくても、あとちょっとでホテルだったとしても、問答無用で降る。 つまり運命に対して人間ができることは、備えあれば憂いなし、ということぐらいらしい。 因果。 ぼくは外の景色をぼんやりと眺めながら、何となくそんなことを考えてみた。 「ふうん。……夕立、夕立、ゆーうーだーち。この時間に振るだろうということを、私はあらかじめ予測していました」 「そうですか」 まぁ、今更何も言うまい。 二人の着ている服から、ポタポタと雫が垂れてる。 喫茶店のガラスに映った木ヶ峰助教授と、その隣りにちょこんと腰掛けてる年齢不詳の少女は、頭の天辺から爪先まで濡れ鼠だった。 「あらかじめ予測していました」 「……そうですか」 あんた、やっぱ適当に言ってるだろ。 何も言うまいと思っていたが、思考ばかりは止められない。 「いっきー。教養というのは育ちが大いに必要だけど、礼儀というのは心掛け次第なのだから、ちゃんとこっちを見て話しなさい」 気の抜けた炭酸のような、相変わらずやる気のなさそうな声。 蒸し蒸しとした京都の夏には一層堪える。 人にはそう言っておきながら、朽葉ちゃんの視線は、コーヒーカップにと落とされていて、こっちを見ようとする素振りすらもない。 ちなみにぼくは、これでも結構、礼節を守っているつもりだ。 あまりいまの二人を、一応はオトコであるぼくが、じろじろと見るべきではないだろうと思う。 木ヶ峰助教授も朽葉ちゃんも、そういうことを気にしない人達なのかもしれないが、ぼくなど気にするまでもないのかもしれないが。 頼むから気にしろよ。 うっすらとだけど透けてんです服が。 「最近は何か、面白いことなどありましたか?」 愉快そうに木ヶ峰助教授が唇を歪めているのが、ぼくにはわざわざガラスを見なくともわかる。 勿論、ぼくらが通じ合っているからではなく、単純に慣れの問題だ。 「いえ、特には」 こうして二人に会うのは、だいたいそう、二月に一度といったところか。 会うたびに必ず訊かれるのが、この質問なわけである。 「私が調べたところによると、あなたはつい最近だけでも、かなりの面白い目に合っているようですね」 木ヶ峰助教授は相変わらずだった。 人の話など右から左で、まるで聞いちゃいない。 「いつも不景気な顔してる癖に」 「どうも」 本当にいつもいつも、木ヶ峰約助教授、さり気に失礼な人だった。 「しかし、その輪の中に私がいないというのは、一体全体どういうことなのか、そんなことが許されてもいいのか、いや、そんなことが あってはならない、決してそんなこと私は許さない、許さない、許さない。ゆーるーさーなーい」 ぼくの眼に長い人差し指をびしっと、突き刺しそうにしながら、木ヶ峰助教授は高らかに宣言する。 周りに人など誰もいないかのように。 周りに人はしっかりと大勢いるのに。 「…………」 窓ガラスに映る朽葉ちゃんは、我関せずと、同じテーブルに着いてるのに、他人のふりでもするように、悠然とコーヒーを啜っている。 慣れたもんだ。 でもぼくは慣れるほどには、こんな経験をしたくはないけどね。 どうでもいいといえば、どうでもいいのだけど、店内にいる人達の、ガラス越しの視線が程よくちくちくと鬱陶しい。 「そこでやはり思うのですが、面白いことというのは、待っているだけでは決してやっては来ない」 突きつけていた指を、ぐっと胸元に引き寄せると、木ヶ峰助教授は遠くを見た。 「運命とは自分で切り開くもの。座して待つなどということは、私にはできようはずがない。それは運命に恭順し迎合することと同意」 G線上のアリア。 ぼくが映画の音響担当で、この女優さんでこのシーンなら、この曲をきっと挿入するだろう。 要するにちょっとだけ、いや大分、《戯言遣い》はかったるくなってきていた。 まるでロボットみたいな印象の彼女。 心など搭載されていなさそうな彼女。 終わりなどないのに続いていた彼女。 四年間付き合ってみてわかったが、こんなんでもかなりのナルシスト、一切のアルコール抜きで酔える人である。 ――自分に。 でもそうすると朽葉ちゃんのポジションは、実験体などではなく、少々辛口過ぎな評論家といったところなのかもしれない。 それはとても重要な役どころだ。 放っておくと小難しいこと並べて、何がテーマなのかわからない、勝手に自己完結してる映画が最近、特に日本映画には多いからな。 勿論詰まらないし。 オマケに金と時間を払った過去の自分に、滅茶苦茶呆れて自己嫌悪してしまうし。 後悔している間は正しい自分でいられるから。 「いわば因果に対する反逆。実存する運命に対する革命、来る必然を迎え撃つ独立せ――」 「先生、それはそれとして」 慣れたもんだ。 「何ですか朽葉?」 すくっと立ち上がって気持ちよく、半ば以上トリッぷしていた木ヶ峰助教授だが、強引なカットに気を悪くした風もなく席に座る。 「例のお話をそろそろなさってはどうでしょう?」 「ん? ああ、そうですね」 え? 何ですか? ここからが本題なのですか? そりゃまたすげえ長い前ふりだなぁ。 「あなたの知り合いを二、三人誘って、この夏の間にでも、私の研究室に遊びに来ませんか? ……ふふっ。きっと面白いですよ」 言って木ヶ峰助教授は、唇を笑みの形に歪めた。 一方で朽葉ちゃんはというと、カップで顔半分を隠してはいるものの、その眼は十二分以上にに含みたっぷりである。 あの辺りは京都とはいっても郊外で、避暑地としては悪くはない。 「…………」 だが何なのだろうか。 まだ行ってもいないのに、行くかどうかもわからないのに、背筋が随分と涼しくなってきた。 「今年の夏は退屈せずに済みそうですね。退屈、退屈、たーいーくーつ。ふふふっ……まったく愉しくなりそうですね」 いや、だからさ、まだ行くかどうか、微塵も決めてねぇよ。 「諦めなさいないっきー。あんたはそういう運命よ」 朽葉ちゃんは断定口調だった。 「《生きてれば》、妥協も必要だとは思わない?」 「……《死んでない》だけなら、そうなのかもね」 とはいえ運命は甘くない。 ぼくは朽葉ちゃんと睨むみたいに見つめ合いながら、誰だったら一緒に行ってくれるだろうと考えていた。 『さよなら戯言先生』08へ 戻る
https://w.atwiki.jp/nishiparo/pages/80.html
27 まさか。 いまこの気持ちを表す言葉は、多分、これで合っていると思う。 「…………」 うっかり崖から落ちたとき(彼女達と同じノリで岩場を飛び跳ねたのがマズかった)、打ち付けた身体が痛んだがそれはどうでもいい。 そんなの慣れてる。 だからいい。 とりあえずそれはいい。 「…………」 大体いまはそれどころじゃなかった。 迫る脅威。 THE・月の輪熊。 哺乳類食肉目クマ科ヒマラヤグマ属。 日本にしか生息してない熊で、九州ではすでに全滅したとかしないとかいう、絶滅を危惧されている世界的にも希少な動物。 ……らしい。 自宅で五十連打に挑戦中の玖渚に聞いたところ、熊としては、さほど大きくはないそうだ。 体長は1m30から2m。 重量は100kg~~180kgくらい。 「…………」 でけぇじゃん。 人間に置き換えれば横綱クラス。 それこそあいつのちっこい身体なんか、頭から爪先までがぶりと、彼、もしくは彼女らは、美味しく残さずイケるだろう。 「…………」 まぁもっとも、それは玖渚に限った話しではない。 ぼくは果たして何日ぶりのご馳走なのか、だらだらと、山の熊さんは本能に従って涎を垂らしてる。 うん。 とてもわかりやすい。 目の前にぬっと現れた熊は、餌がないのかそれとも狩猟の才能がないのか、それは知らないが、ぼくを喰ってやる気満々みたいだった。 「…………」 そしておそらくはそうなっていただろう。 彼女達が来てくれなかったら、確実にそうなっていただろう。 右手の手のひらが。 左手の手のひらが。 毛むくじゃらの身体に、クロスするように、添えられた。 「川遠――」 「――境域」 ぼくが喰らうわけでもないのに、一瞬、既知の衝撃に、背中がずきりと痛み、息が詰まる。 “ドシッ” 肉を響かす鈍い音。 「失せろ」 「失せろ」 シンメトリーの声。 まさか。 この《二人》の小さな背中を、こんなにも頼もしく見る日が来るとは、ぼくは想像すらしたことがなかった。 ぶっ飛んでる。 熊がでんぐり返ってぶっ飛んでる。 ごろごろと転がって木にぶつかる様子は、何だか漫画みたいにコミカルだった。 「…………」 でも笑えない。 「お怪我はありませんか《いーちゃん》さん」 「お怪我はありませんか《いーちゃん》さん」 深空ちゃんが。 高海ちゃんが。 二人同時に、ぼくへと、振り返る。 目には優しいが生命には優しくない存在、《澪標姉妹》の登場だった。 効果音がほしいね。 ドドドドドッ……、みたいな。 「お怪我はありませんか《いーちゃん》さん」 「お怪我はありませんか《いーちゃん》さん」 やはり重なる声。 固まっているぼくに、二人は可愛らしく小首を傾げ、再度同じことを訊いてくる。 仕草が年齢より子供っぽい。 今日の二人のファッションは、あの気合の入った法衣ではなく、今時の女の子らしい、オフショルダーとミニスカート。 「《いーちゃん》さん?」 「《いーちゃん》さん?」 どちらがオフショルダーで、どちらがミニスカートなのか、それはぼくには、玖渚じゃあるまいしわからない。 わからないが。 二人ともなかなかに可愛いんだから、いつもこんな格好してればいいのに、と思った。 まあ、法衣は法衣で、 「あれはあれで捨てがたいけど」 「は?」 「は?」 「いやいや、何でもないよ。ありがとう、高海ちゃん、深空ちゃん。それで、どうして二人はこんな山の中に、都合よくいるのかな?」 いやいやと十回は言わない。 二人の着せ替え妄想は、望外に愉しいが、とりあえずいまは後回しだ。 そんな場合じゃない。 熊がよたよたはしてるが起きだしてる。 だけど、 「ごめんなさいです」 「ごめんなさいです」 二人は後ろに迫る熊など、心底からどうでもいいように、ぺこりと揃って、ぼくにしおらしく可愛らしく頭を下げた。 「へ?」 「僕た……私達、朝からずっと、《いーちゃん》さんのことを、尾けてました」 「僕た……私達、朝からずっと、《いーちゃん》さんのことを、尾けてました」 そう言ってから二人は、ちょっとだけ顔を上げる。 まるで《怒られるかな?》と窺う、小さな子供のようだった。 「…………」 結構ツボだったり。 「おっ?」 軽やかに流れるstar man。 携帯が鳴った。 圏外のはずなのに、ぼくの携帯が鳴った。 「ごめん、ちょっと待って」 何も考えずに、出る。 前にもこんなことがあったような、と、微かには思ったが反射で出る。 「ロリですね」 切れた。 それだけ言って切れた。 ディスプレイを見てみるが、そりゃもう当然のように非通知。 「…………」 はて? いまの声は真姫さんのものではなかったぞ。どこかで確かに聞き覚えのある、機械的な そして抑揚のない作り物みたいな声。 濡衣さん? 「…………」 どうでもいいか。また圏外になってるし。 「ごめんなさいです」 「ごめんなさいです」 黙ってしまったぼくを、怒ってると勘違いしたのか、二人はさらにシュンとなって、神妙に、ほとんど直角に頭を下げてる。 「ああ、うん、いいよそんなの」 ぼくは鷹揚に頷いた。 べつに心が広いからじゃない。 本当にそんなことは、どうでもいいからだ。 出夢くんには片手間で失神させられ。 零崎には鼻で笑われのされたものの。 これでも二人は立派な(前出の二人に言わせれば半人前だが)プロのプレイヤーである。 自分の間合いくらい、わかってはいるだろう。 だがそれでも、 言わずにはいられない。 「頼むから後ろを、……見てくれない」 言われて振り返った。 深空ちゃんと高海ちゃんは素直に後ろを、何の警戒もせずに、少なくともぼくにはそう見える風に、自然な感じで振り返った。 慎重に間合いを、熊が詰めてる。 「…………」 「…………」 それを見てやっと二人は、ゆるりと構えを取った。 熊がぴたりと歩みを止める。 当たり前だが熊という動物は弱くない。 そしてヤワくもない。 さっきは不意打ちだったからこそ、熊も無様にぶっ飛んだが、逆を言えばそれは、不意を打っても、一撃では倒せないということだ。 爪。 牙。 何なら体当たりを入れてもいいだろう。 三つの武器。 熊はそのうちどれか一つでもヒットさせれば、深空ちゃんと高海ちゃん、二人の身体を引き裂くことなど造作もない。 「《いーちゃん》さん、少し……離れていてください」 「《いーちゃん》さん、少し……離れていてください」 もちろんそんなのわかってるだろう。 深空ちゃん。 高海ちゃん。 そろそろこの二人の間合い、攻撃ゾーンであると同時に危険ラインでもあるエリアに、熊が踏み込もうとしてるみたいだった。 野生動物の本能でそれがわかるのか、熊の方も不用意には近づいては来ない。 「…………」 吹く風が否が応でも気分を煽る。 雰囲気。 睨み合ってるのが双子少女と月輪熊という、えらくシュールな光景ではあるものの、どことなく時代劇の殺陣を見てるみたいだった。 「…………」 ぼくは固唾を呑んで見守る。握る手はじっとりと汗ばんでいた。 と。 「うん?」 突然。 シャツで拭いていた手を掴まれる。 ぼくの右手は、左手で、強くもなく弱くもなく、ふんわりと、柔らかく包むかのように握られた。 「…………」 慣れ親しんでるぬくもり。 人肌のぬくもり。 少女も弱冠ではあるが、手に汗を掻いていて、ぼくのものとも混ざってベタベタするけど、それがちっとも嫌な気分ではない。 むしろ温かさを感じて落ち着く。 「お兄ちゃん」 「何?」 小さく囁くような少女の声に合わせて、ぼくも小さな声で答えた。 「ここにいては澪標姉妹の邪魔になります」 「うん」 確かにそうだろう。 どう見てもスーパーヘビー級の月輪熊と、どう見てもミニマム級の深空ちゃんと高海ちゃん。 階級は端と端。 それでもお荷物のぼくがいては、二人は正面からぶつかるしか選択肢がない。 が。 哀川潤。 想影真心。 匂宮出夢。 この辺の化物クラスの人外ならともかく、二人はまだそこまでの域には、到底達してはいないだろう。 正面衝突は苦しい。 「戯言遣いのお兄ちゃん。大変卑しくも惨めではありますが、こんなとき、闇口には伝統的な戦いの発想法があります。それは………」 「……逃げる」 「主人の安全が第一ですから。闇口に美学なんてものはありません」 少女はちらりと、深空ちゃんと高海ちゃん&熊を一瞥すると、ぼくの手を引いた。 それはいつもと変わらない動作。 だけれど気のせいか、急かしてる気がする。 本領を発揮できない二人が、普段は仲が悪いけど心配なんだろう。 きっと。 「まぁ、お兄ちゃんが居なければ、彼女達も心置きなく殺れるでしょう。危なくなったらそれこそ、澪標姉妹も逃げればいいんです」 優しい娘だ。 東京に居る萌太くん、 「無様に命からがら方々の低であっても、《殺し名》のくせにどの面下げてであっても、できるものなら、逃げ帰ってくればいいんです」 ごめん。 声は深空ちゃんと高海ちゃんにも聴こえるくらい大きくなっていた。 二人の肩がさっきからぴくぴくしている。 退路は断たれた。 完全に。 これでも二人のプライドは山より高い。 少女は頬に人差し指をさして、クールな風貌に似合いもしない、けれど口元が思わず緩んでしまう、そんな可愛らしいポーズをとる。 いや、実際可愛い。 「では、息災と、友愛と、再会を」 そして別れの言葉と共に、いまはぎゅっと握ってるぼくの手を、《早く行こう行こう》、そう言うように引っぱった。 「……それじゃ二人とも、その、……頑張ってね」 「はい」 「はい」 こくんと頷く深空ちゃんと高海ちゃん。 ずきりと痛むぼくの良心。 少女に連れられて歩く、真に真っ暗な闇の中を、一度だけ振り返ると、ぼんやりと浮かんでる二人のシルエット。 「…………」 帰ったら二人の頭を撫でてあげよう。 なんてなどこぞの漫画の主人公みたいな、自惚れたことを考えてたのがバレたのか、振り向いた崩子ちゃんに「きっ」と睨まれた。 28 時間を省略したかのようだった。 「…………」 いや、そうじゃない。 まるで消し去って飛び越えたみたいな、そんな、眼で見ても観えない不思議な感覚。 ぼくには瞬間が少しも認識できなかった。 少女の手に握られてる魚も、きっとそうだったろう。 あのときと同じ。 結果だけだ。 そんなものは四年も前で、とっくに完治してるはずの腹部が、ずきりと、引き攣るみたいに、鈍く疼くみたいに鋭く痛む。 ぼくは思わず腹を押さえた。 未来への動きの軌跡は読ませずに、結果だけを残して、崩子ちゃんが、おかっぱの髪を揺らして振り返る。 「戯言遣いのお兄ちゃん」 魚を高く上げてぼくに見せてくれた。 それは別段、自慢げでもなく、得意気でもなく、さも当然のように、おそらく、この少女を知りもしない他人には、そう見えただろう。 「…………」 でもそうじゃない。 主人に狩った獲物を逐一見せたがるのが、何も猫科の動物に限ったことじゃないと、ぼくはこの四年間でこの少女から学習した。 「わんわん」 そして気づけばさらに一尾を、反対の手に持って、崩子ちゃんはゆっくり岸へと上がってくる。 濡れてる足をぴちゃりぴちゃりと、川原の石に晒しながら、ちょこんと、ぼくの隣りに可愛らしく腰を降ろした。 「二尾で足りますよね?」 バタフライナイフで魚の腹を手早く捌き、ずぶりと、口から小枝を突き刺しながら、崩子ちゃんが小首を傾げて訊いてくる。 「…………」 相変わらず少女の仕草は四年経ってもツボだ。 飽きないね。 「崩子ちゃんは夕飯どうするの? それとももう何か食べた?」 「いえ。これからです」 ポケットをごそごそして、さっと取り出したのは、みんな大好きカロリーメイト(マンゴー味)。 「足りるの?」 この少女は徹底した肉差別主義者なので、魚は当然食べないだろうけど、それだけでは育ち盛りなだけに、自称保護者としては心配だ。 「…………」 もしかしてもしかすると、ダイエットでもしてるんだろうか? 頭巾ちゃんもそうだったけど、この年頃の女の子は、それが自らに与えられた使命だと、勘違いしてそうだから怖い。 はっきりいって病気だよあれは。 「ええ。お昼はちゃんと食べましたから平気です」 「ああ、そうなんだ」 それは一安心。 「にしんそばのにしん抜き、とても美味しかったです。今度また行きたいですね、お兄ちゃん」 「うん。あのコラボは意外なほど美――」 いや待って。 「崩子ちゃんはそれを、どこで食べたのかな?」 まぁ、高海ちゃんと深空ちゃんが都合よく現れた段階で、今日の三人の一日のスケジュールは、大体手に取るようにわかったりするが。 「お兄ちゃんの四つ隣の席にいましたよ。哀川潤さんにご馳走していただきました」 「は?」 焚いてあった火の周りに、魚を丁寧に並べながら、何でもないことのように少女は言うが、……え? 誰にご馳走されたって? 「最初は」 弱冠ぼくから視線を逸らしながら、しかし悪びれた風もなく、崩子ちゃんは事の次第を説明する。 ぺきりと枝を折る音が、辺りに妙なほど響いた。 「お兄ちゃんがアパートを出てすぐに、バイクで追いかけようかと思ってたのですが、エンジンがどうやっても掛かりませんでした」 「だろうね」 ミココ号はぼく以外の人間、特に若い女性の言うことは聞かない。 後ろのシートに乗せることすらも極度に毛嫌いする。 随分前に一度、みいこさんを乗せたときなど、ブレーキが利かなくなったうえに、暴走までしやがって本気で死ぬかと思った。 「…………」 エヴァじゃねぇんだからさ。 ちょっとくらいなら他人を乗せてもいいじゃん。 勿論愛してるって巫女子ちゃん。 「そこで難儀していると、あらかじめ約束でもしてたみたいに、哀川潤さんがクルマで颯爽とやって来て――」 そのシーンが簡単に眼に浮かぶ。 三人の少女を『悪りぃ悪りぃ待たせたなぁ』、そう言って有無を言わさず、愉しくて堪らん嬉々とした表情でクルマに乗せたらしい。 そしてほぼ丸一日の尾行。 「…………」 あの人も忙しいのか暇なのかよくわかんない人だ 「お兄ちゃんたちがクルマを捨ててからは、哀川潤さんとは別行動ですが、戻ればみい姉さんのクルマは直ってますよ」 「そうなんだ」 崩子ちゃん。 ありがとうだけどさ、もうちょっと早く教えに来てくれると、ぼくとしてはより嬉しかったり。 元の道は距離にして十キロはあるだろう。 まぁ、それは、この際、ホントに、津々浦々、どうでもいいけどね。 「澪標姉妹が勝手に先走ってくれたので、姫姉さまやお兄ちゃんの隣りにいた髪の長い人には、どうも途中で気づかれてたみたいです」 「そうなんだ」 どうも姫ちゃんがぼくの方を、ちらちらと、やたら見るとは思っていたが。 だから子荻ちゃんもあんなルートを、二人に気づいてたからこそ、わざわざ通ったのかもしれない。 玉藻ちゃんは、 「…………」 あの娘は気づいても気づかなくても、そんなものはどうせ一緒だろう。 「殺気はなかったので放って置かれたみたいですが、助かりましたね。姫姉さまにでも迎撃されてたら、命はなかったですよあの二人」 「そうなんだ」 危ない危ない。 二人がそうして放って置かれなければ、ぼくはいまごろは山の熊さんに、美味しく愉快に食べられてたはずだ。 「…………」 もっとも。 その場合は代理品が用意されてるんだろうけど。 「でも本当に今夜のお兄ちゃんは、二人のこともそうですが、最初の遭遇が熊なんですから、憑りつかれたみたいに運がいいですよ」 「そうなんだ」 お? 魚がいい具合に焼けてきてる。 空腹は最高の調味料。 普段は特に食指のそそられない食べ物も、そう、キムチ大盛りだって、いまのぼくにとってはご馳走だ。 手を伸ばす。 息を吹きかけて、ぱくりと一口。そしてもぐもぐと。 「…………」 うん。 美味い。 喉元過ぎれば何とやらで、事態は多少の光明は見えたものの、まるで何にも解決してないのに、ぼくは完結した気分になっていた。 当然。 完結したものは解決しなくてはならないのに。 迂闊。 間違えて、思ってしまった。 「哀川潤さんに聞いたところでは、この山に、ぞくぞくと集まってるらしいですよ。プロのプレイアー」 カロリーメイトをはむはむしながら崩子ちゃん。 耳に入れたくはないけど、入れとかないと命に関わる話を、ぼくの横顔をじっと見つめながら、噛んで含めるように話してくれる。 せっかく美少女と暗闇で二人っきりなのに、ひたすらに色気のない話だった。 「…………」 ああ、でも、それは部屋にいるときも一緒か。 ぼくの抱きまくら。 「お兄ちゃんにも知ってる人が、この中にいるかもしれませんね」 「ふうん?」 これでも本格的にあっちの世界に踏み込んで四年。 そこそこは場数を越なし、噂だけでなく体験として、かなりのプレイアーをこの眼で、見るのではなく観てきている。 有名どころならわかるはずだ。 「まず哀川潤さんを筆頭に、《愚神礼拝》の零崎軋識・《自殺志願》の零崎双識・《戦闘メイド》の千賀三姉妹・《病蜘蛛》の市井遊馬・ 《人喰い》の匂宮出夢と理澄・《拷問狂い》の園崎魅音に《鉈女》のレナ、……etc etc」 「なるほど」 知ってる人も数名いる。 「…………」 しかし話が通じそうな奴がいない。 きっと。 百鬼夜行やサバト、それにオカルト満載のハロウィンってのは、こんな感じだろう。 お菓子はいらんから命を出せって奴ばっかりだ。 「…………」 そして勿論お菓子も食べる。 こうして考えてみてわかったことは、ぼくの知り合いには破滅的に、ろくなもんじゃない奴が多いということだ。 そんなのは、ホントに、いまさらだけど。 「接敵されたらわたしだけで、お兄ちゃんを守れるかどうか。崖を背負って登るのも、まさか哀川潤さんじゃあるまいしで不可能ですし」 「例え崩子ちゃんにできたとしても、それはちょっとばかり嫌かな」 ぼくが背負われるのは、逆ならばともかく、些か以上に絵面が萌えなければ美しくもない。 「…………」 いやいや、待ってよ。 それはそれで、なかなか萌えは、結構あったりするのかな? ふむ。 「このテーマは熟考する価値があるな」 言いつつキレイに喰い終わった二尾の魚の骨を、ぽいっと火にくべると、同じくカロリーメイトを胃に収めた崩子ちゃんの手を取る。 「そろそろ行こうか」 「けれど、わたしだけでは――」 繋がれた手をじっと見ながら、崩子ちゃんは小さく呟いた。 「だいじょうぶ。崩子ちゃんがいてくれれば、安心」 「あ」 ぼくは崩子ちゃんの手を引いて、その声よりも小さくて可憐な身体を起こす。 「さ、行こう」 「……はい。戯言遣いのお兄ちゃん」 「うん」 なんだかなぁ。 少女を騙しているつもりなんて、一切合切でないのだけど、究極絶無で本心からの台詞なのだけど、背筋がぞくぞくしたりする。 ロリコン。 「…………」 なんだかなぁ。 こうやって人は道を踏み外していくんだなと、妙に感慨深く思ったり思わなかったりした。 『さよなら戯言先生』10へ 戻る
https://w.atwiki.jp/aidaze/pages/51.html
♪さよならの向こう側~アコースティックVer.~ 作曲 荷津鉄 作詞 荷津鉄
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/838.html
俺は話に聞いただけで草笛さんの住んでいる場所を知らなかった。 芝崎さんの家に行っても翠星石と蒼星石は帰って来ていないとのこと。 桜田君の家に行っても、誰も出てはくれなかった。 菓子折りを持って桜田君の家に行き、チャイムを鳴らし、30分経ったら帰る。 その繰り帰しだけで、一週間が過ぎた。 シャワーを浴びた後、髪も完全に乾ききっていないまま少し埃臭くなったベッドに体を横たえる。 「今日も収穫なしか……」 何としても他のドールに会わなければならない。 何としても蒼星石に関わる情報を集めなければならない。 何としても蒼星石を食ったという奴の元へ辿り着かなければならない。 そのためなら、大学の自主休講くらい厭わない。 そのためなら、どんな労苦も気にならない。 そのためなら、生活が破綻しようと構わない。 俺は指輪が嵌められたままの左手をぼんやりと見つめた。 契約の指輪……これがあるということは、蒼星石は多分まだ―消滅してはいない―― ふと、気付くと周囲が一変していた。ベッドは紫色の藁に変わっている。 周りは見渡す限りの荒野、ネガとポジが反転した寒々しい空にヒビが入っている。 「おやおや、随分と荒廃した世界ですな」 闇の中にタキシードを着た人影が見えた。 その人影が傘を差すとぽぅ…と音を立てて傘の周囲が明るくなる。その姿は…… 「ウっ ウサギ人間!? じゃない、確か……ラプラスの魔!!」 「私の名をご存知とは。しかしウサギ人間でもラプラスの魔でも構わないのです。 名前があるから存在するのではなく、存在するから名前がある。 もっとも、私に関しては存在するかどうかは貴方次第ですが」 「一体何を……? それより、確かラプラスの魔とは蒼星石が話していた『ここじゃないどこかの番人』……」 「名前などという便宜上の物事を知っていても察しはあまり良くないのでしょうか? トリビァル! ここは既に彼岸ではない何処か、あなたの夢のフィールドです」 「俺の……夢の中」 「そんなことよりも貴方はもっと知ること、知りたいこと、あるいは知るべきことがあるでしょう」 「……! 蒼星石が遠くに行った時のこと、雪華綺晶!!」 ラプラスは帽子を手に取り、軽く浮かせて会釈をする。 「そういきり立たず、落ち着いてみてはいかがでしょう? 乞食でなくとも慌てる者は損をするというのが必定です」 こちらの失態を誘うかのような、挑発も含む……そんな語気が感じられる。 俺は半立ちだった姿勢を正し、体についた紫色の藁を丁寧に叩き落とした。 「話してくれるか」 「なかなか好感が持てますね。では、この兎風情の戯言で良ければ存分にお聞きになってください」 「……蒼星石は何故、戦うことを選んだんだ? 今まで散々忌避してたアリスゲームを突然始めるだなんて…」 「恐らく、ローゼンメイデン第7ドールのお嬢さんが関係しているでしょう」 「第7ドール……雪華綺晶という名前じゃないか?」 「ご明察。 あのお嬢さんは第6ドール、第1ドールと次々にそのミーディアムを自分の中に取り込みました」 ……雛苺と水銀燈のミーディアムを…? 「それはまさに星にも手が届かんばかりの所業。 その手が貴方に危害を加える前に第7ドールを倒そう、そう考えたのでしょう。 そして遭えなく第7ドールに体を吸収され、ローザミスティカは第1ドールの手に渡りました。 もっとも、この答えの前半は私の類推に過ぎず憶測の域を出ない。 正しいかどうかはマスターであるあなたが答えを出すべきことだと私は考えますが」 「随分、蒼星石から聞いた話と違うな。 答えをのらりくらりとはぐらかして悪戯に場を混乱させる存在だと聞いているが」 「おやおや、これは手厳しい」 そう言うとラプラスは赤い双眸を細めた。 「貴方に会いに来たこと自体が戯れだとお考えください」 「そうか、それは失礼した。じゃあ失礼ついでだ、答えてくれ」 「何でしょう?」 「雪華綺晶の居場所はどこだ」 自分の歯を噛み砕いてしまいそうだ。 夢の中の出来事と理解しているのに、血の味が口いっぱいに広がった。 「どんな場所でもこの世界は繋がっているのです。 そして無数に道があるがため、誰にもわからない。 恐らく、貴方が他のドールに聞いたところで無駄でしょう」 「お前は知っているんだろう!?」 「さてはて、兎風情ではこれ以上あなたの激情を受けると持ちそうにありません」 そう言うと軽く飛び、紫色の藁束からさほど離れていない 人間くらいの大きさの立方体に切り取られた岩を指先で軽く触れる。 立方体の岩には水面のように波紋が立ち、柔らかくざわめいた。 「果たして人は先に道が無いと知った時どう歩みを進めるのか、 遥か過去から思索を続けていることでもあります」 「待て!」 「貴方がどういう答えを出すのか、私は知りたいのです。第4ドールのマスター」 俺が飛び掛るより早く、ラプラスは柔らかい岩の中に消え、そして世界が光に包まれた―― 勢いよくベッドから飛び起きる。だが、今度は自分の部屋だ。 空にヒビが入っているわけでもなく、ただ天井が見えるだけだし、 ベッドはいつものレモン色のシーツが敷かれている。決して紫色の毒々しい藁束ではない。 周囲も荒野でもなく、岩や石ころの変わりにゴミが散らかっているだけだ。 「夢……か」 いっそ蒼星石がいなくなったことも、夢であってくれれば良かったのに…… 口の中に苦味が走る。いや、これは…血の味!? 俺は紫色の藁束の位置から見て、ラプラスが消えた立方体の岩がある場所を見た。 そこにあったのは…… 「姿見の、鏡!」 間違いない、あの夢は本物だったんだ。 俺の夢の世界にラプラスが入り、そして雪華綺晶のことを話した。 そして俺の夢の世界における鏡からラプラスは去り、夢の世界から引き戻された。 鏡に映る俺の口の端からは、口の中を噛んだ時に出た血が垂れ、半分固まっている。 ラプラスは、雪華綺晶の居場所は誰にもわからない。そう言った。 『マスター、口元にご飯つぶついてる。ほら、取るね』 だが、俺は……蒼星石のことを忘れない、忘れられるはずがない… 『大分寒さも和らいできたね。ローダンセの花が咲くよ。花言葉は…ふふ、なんでもない』 そして可能性がゼロであっても、徹底的に足掻いてみせる。 『ずっと……ずっとマスターと一緒に居られたらいいな…』 俺は絶対に…絶対に諦めない!! 雪華綺晶に会うことは出来ない? 先に道が無い? そんなもの……そんな言葉…蒼星石と暮らした日々に比べれば、何てことはない。 俺は絶対に雪華綺晶に会ってみせる。それに対して、どんな対価を払おうとも。 ………… 「やっと見つけたよ、雪華綺晶…」 「何故? いえ、どうやって? あなたがここにいるのですか……蒼星石のマスター…!」
https://w.atwiki.jp/tsurucale/pages/107.html
『【俗・】さよなら絶望先生』第三集【特装版】 (キングレコード) 第九話のエンドカードのイラストを描いています。 ・STARCHILD 俗・さよなら絶望先生 ・俗・さよなら絶望先生 エンドカード (アニメ雑録)