約 4,733,967 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2302.html
「BLAME!」より霧亥を召喚 BLAME!の霧亥がルイズに召喚されたら? log_01 BLAME!の霧亥がルイズに召喚されたら? log_02 BLAME!の霧亥がルイズに召喚されたら? log_03 BLAME!の霧亥がルイズに召喚されたら? log_04 BLAME!の霧亥がルイズに召喚されたら? log_05 BLAME!の霧亥がルイズに召喚されたら? log_06 BLAME! 用語解説
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6187.html
管理人様、変なページの作成すいません。 リンク切れっぽいページの一覧です つかいま1/2 第一話 使い魔が来た ご主人様は承認せず! 後編 作品ページ名 ゼロの使い魔-02 リンクするページ名 ゼロの使い魔-03a ゼロの使い魔-09a 次ページ名 あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ 三つの『二つ名』 一つのゼロ-10 新約・使い魔くん千年王国 第四章 皇太子 これまでの「悪魔くん」のあらすじ hellouise-8 ゼロの使い-15 豆粒ほどの小さな使い魔-22 寄生獣ゼロ ゼロの探究 真説サムライスピリッツ・ゼロ ゼロの宇宙船日記 はだしの使い魔 3 ソーサリー・ゼロ第四部-16 次虚無と賢女 ゲーム帝国ハルゲギニア出張版 復活・使い魔くん千年王国 第十章 ティファニア スクライド・零-23 出来損ないの魔術師と改造人間-4 マジシャン ザ ルイズ 3章 (60) ザンキゼロ 00の使い魔 ◎◎◎ ゼロのアルケミストアルケミストアルケミストアルケミストアルケミスト ゼロのアルアルアルケミスト 夜天の使い魔 夜明けの使い魔 yes?ナイトメア0
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/349.html
『ローゼンメイデン』の水銀燈が召喚される話 注)本SSは『アニメSS総合スレ』で連載していましたが、スレ寿命により本スレに移動した作品です。 アニメSS総合スレアニメSS総合スレ ゼロのミーディアム 序 章 ゼロのミーディアム 第一章 -01 ゼロのミーディアム 第一章 -02 ゼロのミーディアム 第一章 -03 ゼロのミーディアム 第一章 -04 ゼロのミーディアム 第一章 -05 ゼロのミーディアム 第一章 -06 ゼロのミーディアム 第一章 -07 ゼロのミーディアム 第一章 -08 ゼロのミーディアム 第一章 -09 ゼロのミーディアム 第一章 -10 ゼロのミーディアム 第一章 -11 ゼロのミーディアム 第一章 -12 ゼロのミーディアム 第一章 -13 ゼロのミーディアム 第一章 -14 ゼロのミーディアム 第一章 -15 ゼロのミーディアム 第一章 -16 ゼロのミーディアム 第一章 -17 ゼロのミーディアム あらすじ あの作品のキャラがルイズに召喚されました ゼロのミーディアム 第一章 -18 ゼロのミーディアム 第一章 -19 ゼロのミーディアム 第一章 -20 ゼロのミーディアム 第一章 -21 ゼロのミーディアム 第一章 -22 ゼロのミーディアム 第一章 -23 ゼロのミーディアム 第一章 -24 ゼロのミーディアム 第一章 -25
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7130.html
前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 03.明日ハレの日、ケの昨日(*1) その年の召喚の儀式は、初めは例年のように進行していた。生徒達の召喚呪文に よって、普通に使い魔として見かける生き物達が召喚される。猫やカラス、蛇に フクロウ。特殊なところでは風竜が呼び出され、周囲を驚かせたくらいだ。 しかし、ある男子生徒の召喚から状況が一転する。彼のところに現れたのは、 何と妖精だった。身長七十サントほどのそれは透明な羽を持ち、何より人間の 言葉で挨拶をしてきたのだ。 初めはエルフの類かとも思われたのだが、その愛らしい笑顔が周囲を魅了した(*2)。 聞けば、特別なことは何も出来ない(*3)という。それでも、召喚した男子生徒は 得意満面で妖精とコンタクト・サーバントを行った。風竜には敵わないけれど、 それでも十分特殊な生き物だ。メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、というでは ないか。今はただのドットクラスだけれど、きっと自分には秘められた力があるに 違いない――。 残念ながら彼のその希望は儚くも砕かれることになる。次々と呼び出される 妖精達。先ほどの妖精を羨ましそうに見ていた生徒達が一転、今度は嬉しそうに 契約をしていく。 そして毛色の変わった生き物が呼び出されはじめた。基本的に人間の姿をして いるものの、鳥の様に翼があったり、虫の触角が生えていたり、猫の尻尾が二本 生えていたり、捻れた角が生えていたりと様々である。ただ共通しているのは、 みな女性――それも少女と言っても良いような年頃の姿をしていること。そして みな知り合いだということだ。 彼女たちは自分たちのことを『ヨーカイ』なのだと話した。妖精とは比べものに ならない力を持っており、契約すれば使い魔として働くという。 「まあ妖怪って基本的に、人を襲って食べたりするんだけどね。でもそれはそこの 大きいの(*4)だってそうでしょ? 大丈夫大丈夫、使い魔として呼び出されたん だから、ちゃんと使い魔をするよ」 角の生えた少女――自らを伊吹萃香と名乗った――は笑顔でそういうと、腰に ぶら下げた奇妙な形の入れ物を口につけた。ゴクゴクと喉が動き、プハァと息を 吐き出す。酒臭い。それを見た召喚主は、コンタクト・サーバントしただけで 酔っちゃいそう、と現実逃避気味に考えていた。本当は考えなければならない ことは他に沢山ある。どういう種の生き物なのか。何が出来るのか。自分の 専門属性は何になるのか。そして、コンタクト・サーバントをすべきか否か。 彼女は助けを求めるように、引率の教師を振り返った。 召喚の儀式は神聖なものであり、契約は絶対のもの、とはいうものの、引率の 教師であるコルベールは内心頭を抱えていた。敵意はない。自分たちから進んで 使い魔をやるという。その点はとても望ましいことだ。しかし、自分の中の何かが 危険信号を発している。これは危険な生き物だ、と。 結局彼は、召喚と契約の続行を決めた。召喚の儀式で使用される、魔法に対する 信頼があるからだ。また今までの記憶にも記録にも、召喚した生き物が制御 できなかったということはない。 彼女は諦めて、自分の呼び出した酒飲みとコンタクト・サーバントを行った。 案の定、酒臭い。眉をしかめる様に気づいた様子もなく(*5)、萃香はどこから ともなく取り出した茶碗に酒をつぐと、召喚主に向かって差し出した。萃香達の ところでは、主従関係を結ぶ場で酒を飲むしきたりがある(*6)、という。匂いを 嗅いだだけでも、かなりアルコール度数が高いことが分かった。彼女たち貴族も 一応普段からワインを嗜んでいるが、それは様々な香料を入れたり甘みをつけたりと アルコール度を薄めたものを少し飲むだけだ。ここまで度数の高いものをそのまま 飲んだことはない。それでも彼女は、その酒を一息に呷った。使い魔になめられる わけにはいかない、と思ったのかどうか。しかし彼女は茶碗を手から取り落とし、 目を回して倒れ込んだ。地面にぶつかる前に、彼女の使い魔となった萃香が軽々と 彼女を抱え、ゆっくりと地面に寝かせてやった。そして手を叩き笑う。 その心意気は見事、と。 それを見ていた他の妖怪や妖精も、手に手に湯飲みや茶碗を取り出した。 そして自分の召喚主に対して笑いかけた。さあ、私たちも、と。こうして召喚の場が 宴会場へと変わっていくのであるが、未だ召喚を行っていない者達には それどころではない。なにしろ次に呼び出された生き物は、今までとは段違いに 危険だったのだから。 背格好自体は十歳に満たない少女の様。日傘を差し、背中には蝙蝠のような羽、 笑った口元には牙のような犬歯が見える。彼女は辺りを見回すと、威厳に満ちた 口調で言い放った。 「私はレミリア・スカーレット、誇り高き吸血鬼の貴族。 さあ、私を召喚した幸運な子は誰?」 「吸血鬼!」 コルベールは油断なく杖を構えると、レミリアに相対した。彼の知っている限り、 吸血鬼などといった人間に敵対する知性体が召喚されたことはない。 「吸血鬼が一体どうして召喚されたのだ?」 「もちろん、使い魔をするためよ」 そこの連中と同じよ、と酒を飲んでいる妖怪を指さした。指された方は笑って 手を振り返す。 「いや、私が聞きたいのはそういうことではなく……」 「何故、こんな得体の知れない連中が大量に召喚されてるのか、ってこと?」 「……まあ、そんなところだ」 明らかな敵意を向けられてなお、レミリアは悠然と笑い言い放った。 「後に召喚される妖怪の中には、説明が得意なのもいるわ。 彼女達に聞いてちょうだい」 知識人っぽいのとか、家庭教師っぽいのとか、と含み笑いをするレミリア。 「後に……ということはまだ君たちのような人外が呼び出されるというのか?」 「そうよ。まあ、その中でも私が一番(*7)だけど」 何が一番(*8)なのやら、と妖怪連中から戯れ言が飛ぶが、一睨みで黙らせる。 「むやみに人間を傷つけるつもりはないわ。貴族の誇りにかけて、ね」 貴族の誇りを出されてしまっては、人間達も黙るしかない。それに納得も していた。人間にも平民と貴族がいるように、吸血鬼にも普通の吸血鬼と高貴な 吸血鬼がいるのだ、と。粗野な平民と違い、貴族には礼儀と誇りがあるものだ。 それは、吸血鬼でも変わらないのだろう。 コンタクト・サーバントを終わらせると、レミリアはニヤリと牙を見せて笑った。 「吸血鬼に相応しい主人にしてあげるわ」(*9) レミリアを呼び出した女生徒は、顔色を青くしながらも頷いた。普通の下級貴族で ある自分にそんなことが可能なのか。いや、やるしかないのだ。吸血鬼を使い魔に した貴族など、きっと後世にも名前が残るだろう。貴族にとってそれはこの上も ない名誉なことである。 こうして召喚の儀式は継続された。レミリアの言ったように、それからも様々な 妖怪が呼び出される。中には、どう見ても人間にしか見えない者達もいた。 例えばキュルケが呼び出した者は、自らを蓬莱人だと名乗った。それが何を 意味するかは不明だったが、少なくとも彼女は炎を操ることが出来た。呪文も なしに火を生み出す様に精霊魔法なのか、と騒然となったが、当の本人は至って 平然と答えた。 「そこの大きいのだって火を吐くんだろ(*10)? まあそれと同じようなもんさ」 それに精霊魔法は、その地に存在する精霊と契約して発動する魔法。逆に言えば、 契約をしなければ発動できない。召喚されたばかりの彼女に、そんな時間や呪文の 詠唱はあったか。答えは否だ。 それでも、いきなり彼女のような存在が呼び出されていれば、また話は違った だろう。魔法を使わずに特殊なことが出来る者に対する偏見は大きい。だが今回の 召喚の儀式では、妖精に始まり吸血鬼まで、特殊な生き物が数多く呼び出されている。 さすがに人間達も感覚が麻痺してきていた。慣れてきた、とも言える。 その最たる例として、自らを神と称する者が召喚されたが、比較的スムーズに コンタクト・サーバントまで至っていることがあげられるだろう。 「神って言うけど、こっちの世界じゃ精霊みたいなものかね」 背中に縄を結ったような飾りを付けた(*11)女性は、そう言いつつどっかりと 腰を下ろした。 「なにしろ今までいたところには、神様が八百万もいたからね。こっちは神様は 一人なんだろ?」 彼女を召喚した男子生徒は、どう返答したらいいのか分からず、とりあえず頷いた。 この世界の神と言えば始祖ブリミルということになるのだろうか。もちろん、 神聖な存在であり、威厳があって厳かな存在なのだろうと思っている。しかし……。 ちらりと横を見る。そこではやはり神を自称する少女が、召喚主の女生徒に後ろから 抱きつかれて困っていた。 「あーうー、私は神なのだぞー」 「か~わい~」 蛙を模した帽子をかぶった少女は手足をばたばたさせるが、威厳の欠片もない。 どういう経緯でこうなったのかは彼にも分からなかったが、可愛いことは確かだ。 「あははは、土着神の頂点も形無しね、諏訪子」 「そう思っているなら助けてよ、神奈子」 それも親交(*12)よ、と取り合う様子もなく、神奈子はどこからともなく盃を 取り出した。同じく、どこからともなく取り出した瓶から何かを注ぐ。言うまでも なく、酒だ。 「さあ、私たちもやろうじゃないの」 確かにもう辺りは、酒を飲まない方が不自然な状態にまでなっている。 楽器ごと宙に浮いた三人組が音楽を奏でると、翼を持った少女が歌を歌う。 やたら偉そうな妖精が空中にダイアモンドダストを発生させると、別の妖精が 輝きを集めて虹を作る。幻の蝶(*13)や見たこともない赤い葉っぱが辺りを舞い、 どこかに消えていく。ついでにコルベールはしきりに頷きながら、奇妙な帽子を かぶった者から話を聞いている。制止役がこれでは、騒ぎが収まるわけがない。 これは酒でも飲まないとやってられない。彼は神奈子から杯を受け取ると一気に 呷った。奇妙な味だが悪くない。 最初の爆音が響いたのは、ちょうどその位だった。 生徒達はその音に振り返り、ああ、あいつか、と呟いた。ゼロがまた魔法を 失敗した、と。 「ゼロ?」 その声に一人の少女が反応した。紫色のゆったりとした服(*14)に身を包んだ 自称魔女は、視線を自分の召喚主の男子生徒へと向ける。その全てを見通すかの ような視線にたじろぎながらも、彼は問いに答えた。 「あいつは魔法を成功したことがないんだ。だからゼロ」 彼が指さす先で、一人の女生徒が杖を構える。他の生徒に比べ、幾分幼い感じが する少女は真剣な面持ちでサモンサーバントの呪文を唱え杖を振った。が、 二度目の爆音が響いただけで、何も召喚されない。 なるほど、と彼女は頷くと感想を述べる。 「ふーん。零点ね」 「そうさ。零点――」 しかし魔女は召喚主の口をふさぐかのように指を伸ばした。 「零点なのはあなたよ」 「は?」 呆けたような顔を面白くなさげに一瞥すると、魔女は少し大きな声で説明を始めた。 「費やされた魔力のうち、サモンサーバントの分は正しく消費されてるわ。 あの爆発は余剰分が行き先をなくして発生しているだけ」 「まさか。だいたい何でそんなこと――」 わかるんだよ、と続けようとして、ジロリとにらまれる。 「貴族の合間にメイジをやってるあなた方には分からないかもしれないわね。 だけど私は生まれたときから魔法使いなのよ。言葉を話すより先に魔法を 使っているの」 魔法の動きを知るなんて呼吸をするのと同じ事よ、とつまらなそうに言うと、 手に持った本に視線を落とした。この世界は発動体が必須とされるようなので、 常に持ち歩いているこの本が発動体だと言うことにしてある。別に嘘だという わけではない。上級スペルを詠唱する際には、一部の負担を本に蓄えた魔力で 代替わりしているのだ。疲れないために。 しかしこの世界の魔法は彼女の知っているそれとは全く違う。呪文はあくまで キーワードでしか過ぎない。もちろん各自が持っている魔力は消費されているが、 消費分に対して発動される内容が高度なのだ。大体、この程度の魔力消費で空間を 転移するゲートを開けるなど、彼女の常識からすれば冗談の様である。まるで、 合い言葉を唱えると、世界そのものが魔法を発動しているかのようだ。 この魔法はどのような原理で構築されているのか。これからの研究対象を考えると、 彼女は興奮を覚えるのだった。なぜなら彼女の名前はパチュリー・ノーレッジ。 知識こそが彼女の生き甲斐なのだから。 「で、でもさ、じゃあなんで何も召喚されないんだよ」 本に向かって顔を伏せたまま、上目遣いにルイズを見ると、このやり取りが 聞こえたのか当のルイズと目があった。絶対に諦めない、という眼差し。 その視線に知り合いだった人間を思い出す。彼女もよくこんな目をしていた。 普通の人間の魔法使いだったくせに。いや、だからこそ、か。 そんなことを考えていると、再び爆音が轟いた。 「ふん、やっぱり失敗は失敗だよな。あいつはゼロなんだから」 「……零点。おめでとう、これでダブルゼロね。ダブルオーの方がいいかしら」 「なにーっ」 最近流行だったみたい(*15)だし、などとよくわからない解説が追加される。 「なぜ召喚されないのか、ということを考えず失敗と思考停止するのは、 愚か者のやることよ」 「僕が愚か者だって――」 「違うというなら考えてみなさい」 ピシャリと言い切られ、歯がみをして悔しがる。なんで僕は使い魔にこんな 言い込められないといけないんだろう。こんなことなら普通の動物がよかった。 と数分前とはまったく逆のことを彼は考え始めた。そんな様子を歯牙にもかけず パチュリーの考察と解説は続く。 「サモンサーバントで発生するゲートは、強制的に相手を転送させるものではないわ。 対象となったものが触れて初めて効果を現す。逆に考えれば、触れなければ 召喚されないという事よ」 「……じゃあ、触ろうかどうしようか迷ってるっていうのか?」 「そうね。意図的に触れずにいることを選択しているのかもしれないし、 何らかの事情で触れられない状態になっているとも考えられる――」 少し離れたところでそのやり取りを聞いていた狐の妖怪、八雲藍は、口元に 笑みを浮かべ呟いた。紫様も人が悪い、と。 もうほとんどの生徒は召喚を終えている。見回したところ、幻想郷にいた妖怪は 一人を除いて全員召喚されているようだ。その残った一人こそ、八雲藍の主人であり 幻想郷の賢者といわれた八雲紫。少々戯れに過ぎるのが玉に瑕。今回もその戯れだと 思ったのだ。 「紫様を使い魔にするのだ。これくらいの苦労は越えられねばな」 早々に酔いつぶれてしまった自分の新たな主人に膝枕(*16)をしながら、藍は しみじみと呟いた(*17)。 そしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの召喚魔法 失敗が二十回を超え、儀式の場はますます盛り上がっていた。 「さあ、次の呪文で召喚できたら、銀貨一枚につき二枚払うよー」 頭から兎の耳が生えた妖怪が、賭け事を始めている。 「人の失敗を賭に使うなーっ!」 ルイズの怒声もなんのその。生徒達や妖怪達が、おもしろ半分に賭け金を出し 始めた。 「あんた達も賭けるんじゃないわよっ!」 手に持った杖を突きつけるルイズだったが、次で召喚すれば問題ないでしょ、 と笑って返され二の句が継げなくなる。どうやらみな、酷く酒に酔っているらしい。 一体どうしてこんなことになったのだろう? もちろん答えは決まっている。 このヨーカイといかいう連中の所為だ。でもその一人がさっき言っていた。 魔法自体は成功している、と。本当のことかどうかは分からない。けれど、 今のところ縋ることの出来る唯一にして最高の言葉だ。だから自分は魔法を 唱え続ける。続けられる。 そんなことを考えながらも呪文を唱え、杖を振った。が、爆発。また失敗だ。 賭けた者からは罵声が、賭けなかった者からは歓声があがる。 「じゃあ次は銀貨一枚で、銀貨三枚ねー」 兎の声に、先ほどより多くの賭け金が集められた。思わず怒鳴ろうとしたが、 よくよく考えれば賭けるということは、召喚の成功が、つまり魔法の成功が 期待されているということだ。酔っぱらい共の戯れだとしても少しだけ気分が良い。 詠唱、そして杖を振り……また爆発。何も現れない。汗が目にしみる。まだまだ 諦めるには早すぎる。 集中、詠唱、杖、爆発。一体何が召喚されるというのだろう。 深呼吸、集中、詠唱、杖、爆発。もう周囲が騒ぐ声も気にならない。 「そう。重要なのは集中することよ」 その様子をじっと見ていたおかっぱ頭の少女が呟いた。背中には二本の刀、 隣には半透明な物体がふわふわと浮いている。半分人間である彼女は、努力して 技術を習得するということを人の半分程度は慣行している。だから、周囲の声にも 拘わらず召喚呪文を唱え続けるルイズという少女を、彼女は内心応援していた。 もっとも、彼女の主人はそうとは思っていないようだが。 「無理だと思うんだけどな」 「何故?」 鋭い視線で見つめられ、腰が引けそうになる。背の武器で斬りつけられたら…… と思うと気が気ではない。コンタクト・サーバントは終わっているので危害を 加えられることはないだろう、とはいうものの、やはり怖い。もちろん、その前に 魔法で何とか出来るとは思うが…… 「ダメよ~、妖夢。ご主人様が怖がっているじゃないの」 「何を言うんですが、幽々子様!」 「あらあら、怖い怖い」 突然横から現れた女性は、広げた扇子で口元を隠すと含み笑いを漏らした。 「妖夢は真面目すぎるのよ」 「性分ですから」 憮然として答える妖夢。その様子はまるで教師に叱られた生徒のようであり、 現役の生徒である彼女の主人は不意に親しみを感じた。 「もっとこう、余裕を持った方がいいと思うのよ」 「幽々子様は余裕がありすぎです!」 「そうねぇ。でも『今の』ご主人様は真面目な人みたいだし、 従者が余裕を持たないとね~」 その言葉に妖夢はハッとさせられた。なるほど、従者とは主人を補う者だ。 幽々子様の下では今までの自分でよかった。しかし新しい者の従者になるという ことは、自分も変わっていかなければならないのではないか。 「……努力します」 「そうそう。変われる、というのは人間の特権ですもの」 再び口元を扇子で覆い、笑い声を漏らす。その言葉は、果たして誰に向けられた ものか。 そんな周囲の会話ももはや聞こえる様子もなく、ルイズの召喚失敗は回を重ねる。 兎の賭の倍率が十倍にもなり、辺りが夕日に包まれてもまだ召喚は成功しなかった。 肩で息をする。喉も渇いた。魔力が尽きかけていることが、自分でも分かった。 これで最後にする。そう気合いを入れ、呪文を唱えた。そしてイメージする。 自分が最高の使い魔を使役している姿を。 「!」 杖を振ると共に起きる爆発。だがその中に、人影が見えた。 「おや……?」 その姿に真っ先に反応したのは藍。なぜならその容姿が彼女の想像と違って いたからだ。片手には日傘。これはよい。髪の色は金色。これも想像通り。 だが頭には黒いとんがり帽子を被り、黒い服の上に、白いエプロン。ドロワーズも 露わについた尻餅の下敷きになった箒。これではまるで、知り合いの魔法使いの ようではないか。その人間の名前は―― 「魔理沙っ!」 何人もの妖怪が叫んだ。疑惑に満ちた声で。単純に驚きで。喜びをにじませて。 嫌そうな声色で。溜め息と共に。 静寂の中、呼ばれた本人はゆっくりと立ち上がるとスカートに付いた土埃を払う。 そして不貞不貞しく笑みを浮かべると、口調だけは残念そうに第一声を放った。 「くっそー、ついに捕まっちまったか」 「ついに……ってどういうことよ」 その魔理沙の正面に立つ少女、ルイズ。杖を構え、肩で息をする様を一瞥し、 魔理沙は納得するように二度三度と頷いた。 「ん、ああ、あんたが私を召喚したのか。よろしくな。勝負に負けたんだ。 潔く使い魔になってやるぜ」 「ししし勝負ってなんのこここことかしら?」 あくまで冷静な魔理沙に対し、ルイズは興奮のあまり口が回っていない。 「根比べさ、召喚の。あんたが私を捕まえるのが先か、魔力が切れるのが先か。 寿命まで無料奉仕してやろうってんだ。これぐらいは試させてもらわないとな」 「じじじ寿命ですって?」 「ああ、私はこいつらと違って、普通の人間だからな」 周囲に座った妖怪を指さしながらの言葉。普通の、人間。その意味をルイズが 理解できるより先に、周囲が反応した。 「普通の人間って事は平民か?」 「なんだ、これだけ大騒ぎして結局普通の平民かよ」 「これって失敗だよな!」 「やっぱりゼロのルイズね」 いつも通り巻き起こる嘲笑。肩を落とすルイズ。よりにもよってただの平民とは。 また失敗なのか。しかしそれを認めるわけにはいかない。例えそれが強がりと 見られようとも。ルイズは顔を上げ、言い返そうとした。いつものように。 しかしルイズより先に、目前に立った少女が大声を上げた。 「ああ、そうだ! 私は霧雨魔理沙! 普通の人間だ!」 ルイズに背を向け、ルイズを守るように、霧雨魔理沙は立っている。 「だがなっ!」 だからルイズだけは気がついた。他の人間から隠すよう背に回した右手に、 光が集まっていることに。 「普通の人間の……魔法使いだぜ!」 そういうなり、右手の光――魔力塊を真上に向かって打ち出した。 一瞬の静寂。そして閃光。 まるで花火のように、光り輝く星屑が夜空に広がる。きらきらと輝くそれは 幾何学的な模様を徐々に変えながら、ゆっくりと広がっていく。 「わぁ……」 其処此処から感嘆の声があがる。四つの系統のどれにも属さない魔法。しかし 誰もそのことを言い出さない。 それほどに美しかったのだ。 そして何が起こるかうすうす感づいている妖怪連中は、にやにやと笑っていた。 人に馬鹿にされてただで済ますほど、霧雨魔理沙という人間は温厚ではないのだ。 「おっと、ちょっと魔力を調整しそこなったぜ」 わざとらしい声とともに、上空に広がった七色の星屑が一斉に地面目がけて 落ちてきた。(*18) そりゃあもう、唐突に。 「うぉあっあたる、あたる!」 「馬鹿っこっちくるな!」 「いやーっ」 「ブリミル様、お救いをーっ」 右往左往した挙げ句、互いにぶつかって倒れてみたり。地面に伏して祈ってみたり。 そんな様子を、魔理沙の召喚主であるルイズは唖然として眺めていた。 普通の人間? 魔法使い? 先住魔法? 星屑? 自分は一体、何を呼び出したんだろう? 「あー、別に危険じゃないぜ。ちゃんと消えるし」 その声にルイズが顔を横に向ける。いつの間にかルイズの横に並んだ魔理沙は、 困惑したという口調で嘯いてみせた。 事実、それは地面に一つも届いていない。流星の様に落ちてきた星屑は、最初から 幻であったかのように、中空で溶け込み消えていく。その様子もまた幻想的で、 混乱していた生徒達は徐々に呆けたように空を見上げていった。 一方妖怪達は、いつもの宴会芸に大喝采である。やはり酒の席にはこの花火が ないと始まらないとばかりに再び音楽が始まり、静寂が一転、喧噪に包まれる。 「さて、と」 そんな様子に満足したのか魔理沙は、ルイズを見るとウインクして見せた。 「契約をしなきゃなんないんだろ?」 言われて思い出す。そういえばまだコンタクトサーバントを行っていない。 「さっさとやろうぜ。せっかく注目を外したんだしな」 「注目を……?」 おうむ返しの質問。頭が混乱して、考えがまとまらない。 「いくら女の子同士でも、人の注目浴びながらキスをするのはちょっとな」 ファーストキスだからな。と帽子を目深に被りなおしながらつぶやく。 その頬が夕日の下でもそれと分かるほど赤く染まっていることに、ルイズは 気がついた。普通の人間で、魔法使いで、先住みたいな魔法を使って、でも、 中身はルイズと同じ少女なのだ。 そのことに気がついたルイズは、ようやくいつもの調子を取り戻した。 「感謝しなさい。わたしみたいな貴族の使い魔になれるなんて、名誉なことなんだからね」 胸を張り宣言する。その様子に魔理沙は、ニヤリと笑い言葉を返す。 「さすが私のご主人様だ。そうこなくっちゃな」 こうして、魔法が使えない貴族、ルイズと、魔法が使える普通の人間、魔理沙は コンタクト・サーバントを行ない、主従となったのであった。 そして二時間後。月明かりの中、ルイズは目を回して倒れていた。別にルイズに 限ったことではない。多くの生徒はルイズ同様、召喚の儀式が行われた草原に制服の まま倒れ伏している。 全ての原因は魔理沙だ。コンタクト・サーバントが終わるとルイズの手を引いて、 妖怪達の宴会に飛び込む。ここまではいい。自分が酒を飲み、ルイズにも酒を飲ます。 これもある意味当然の流れだ。だけど言ってしまったのだ。「さすが私のご主人様だ、 いい飲みっぷりだぜ」と、他の生徒を挑発するように。その結果がこれだ。 「みんななさけないわね」 余裕を装うキュルケも、目が虚ろ。手に持ったグラスは今にも滑り落ちそうだ。 ルイズより先に酔いつぶれるわけにはいけない、と半ば意地で意識を保っていた ものの、そろそろ限界らしい。自慢しようにも当のルイズはさっさと潰れている。 その使い魔は、狐っぽいのと日傘を挟んで深刻そうな話をしている。さあどうしよう。 その揺れる視線が親友の姿を捉えた。青い髪を持った小柄な少女、タバサ。 いつものように本を開いてはいるが、遠い目をして何か呪文のように呟いている。 ずりずりと膝立ちで近づいたキュルケのことも、目に入っていない。 「…………」 「なに一人でぶつぶつ言ってるのよ」 「亡霊だから幽霊じゃない…… 騒霊だから幽霊じゃない…… 半人半霊だから幽霊じゃない…… 亡霊だから――」(*19) 「ねえ、タバサ~」 反応のないタバサに業を煮やし、何気なく肩に手を掛ける。が、ビクン、 と一瞬背筋が伸び、こてんと倒れてしまった。 倒れてしまった親友を一人寝かしておく訳にはいかないわよね、とようやく 理由が出来たキュルケは、タバサを抱きしめるように横になり、自分の意識を 手放すことが出来たのだった。 一方タバサの使い魔となった風竜――もちろん実際には風韻竜なのだが―― のシルフィードは、そんな主人の事も気づかずに、他の使い魔達との会話に 夢中だった。他の使い魔とはいっても、妖怪が主である。それも特に、幼い雰囲気の 連中だ。 「きゅいきゅい!」 「へえ、一人で二百年も」 「きゅいきゅい」 「へーそーなのかー」 「きゅいきゅいきゅい」 「うんうん、その気持ち、よく分かるよ……あ、八目鰻、食べる?」 「きゅい!」 「えへへ~おだてても何もでないわよ~」 「みすちー、私のはー?」 「もうとっくに食べちゃったでしょ?」 「きゅい……」 「あー、いいのいいの、こいつが食いしん坊なだけだから」 「ひどいよー、そんな嘘、言いふらさないでー」 「そうそう、食いしん坊と言ったらやっぱり、アレよね」(*20) 「きゅい?」 まだまだ話は尽きそうもなかった。 脳天気な話をしている連中もいれば、ただ杯を傾けている連中もいる。 蓬莱山輝夜と八意永琳、そして鈴仙・優曇華院・イナバは、言葉少なに月を 見上げていた。 「イナバが二つに見せてるんじゃないの?」 波長を操作できる鈴仙なら、光を操作して一つのものを二つに見せることなど 雑作もない。 「姫様が一つ増やしているんじゃないですか?」 先日の夜が終わらない騒ぎの元凶は、輝夜が作り出した偽物の月である。 二人そろって盃を干すと、大きな溜め息をついた。そんな二人を照らす月も、二つ。 「確かに世界が違えば、月が二つあってもおかしくはないのでしょうけどね」 永琳も、遅れて溜め息をついた。 「本当にあなたたちって、違う世界から来たのね」 永琳の主人が口を挟む。言葉の意味に気がついたから。 「それにしては驚いてないのね」 「もう驚き疲れちゃったわよ」 大体なんで貴族である私が、夜の野外に酒盛りなんてしないといけないのかしら、 それも地面に座り込んで、などとブツクサ呟きつつ、盃を傾けた。そしてちらりと 斜め向こうを見る。そこでは彼女と付き合っているキザっぽい少年が、自分の呼び 出した使い魔に何かを囁いていた。あんな光景を見せられたら、酔うに酔えない。 うふふ、という笑い声にキッと使い魔を睨むが、永琳は嬉しそうに笑うばかりだ。 「若いっていいわね」 しばらく睨んだ末の言葉がこれだ。色々とやるせなくなって、永琳の主人である モンモランシーは一息に盃を干したのだった。 一方、そのキザっぽい少年の使い魔となったアリス・マーガトロイドは、安堵の 溜め息をついていた。やっと酔い潰せた、と。 基本的には悪い人間ではないと思う。選民思想が少々気になるが、まあ特権階級の 子息ならこんなものだろう。服装のセンスが悪いのも、多分なんとかできる。 だが、語彙の乏しさはなんとかならないものか。延々と同じ口説き文句を 聞かされると、最初いい気分だっただけ落差が酷い。 「?」 そうして落ち着いてみると、なにやら視線を感じる。月の姫達と共にいる少女が なにやらこっちを見ているようだ。アリス自身がそちらを向くと見ていないフリを するが、周囲の状況は腕にさりげなく抱えた上海人形により、常に把握している。 人形の目は彼女の目なのだから。もっとも、状況自体はわかっても、それが何を 意味するものなのかを推測するには、アリスには経験が足りなすぎた(*21)。 特に男女間の人間関係における心情については。こうして今しばらくの間、アリスは 据わりの悪い思いをするのだった。 一方、そんな状況を早速手帳に書き留めている者もいる。 「『三角関係勃発か?』 ……うーん、 『主人と使い魔の恋は成り立つのか?』 の方がいいですかねえ」 「アヤ、今度は何を書いてるの?」 問うたのは彼女の主人。ポッチャリとした体型の彼は、先ほどまで使い魔の 射命丸文から質問責めにあっていたのだ。律儀に使い魔からの質問に答えて いたのは、時に鋭くなる言葉の槍が、妙に心地よかったから。 「ふふふ、秘密ですよ」 そんな文の不敵な笑みもまた、彼の心を撫で上げるようである。これって もしかして恋なのかな?(*22) などと考えるマリコルヌ少年が、自身の性癖に 気がつくのはもう少し先のことである。 一方、文はそんな主人の様子よりも、目の前で起きている出来事の方が重要だった。 そこでは唯一使い魔となった人間、霧雨魔理沙と、主人達の教師であるコルベールが 興味深い話をしていたのだ。先程の藍と魔理沙の会話も興味深いものだったが、 こちらの話もまたそれに劣らず面白そうだ。 「ほう、変わったルーンだ」 「ふーん、そうなのか?」 コルベールに言われ自分の額を撫でる魔理沙。コンタクト・サーバントにより浮かび 上がる使い魔のルーンが、魔理沙は額にあった(*23)。月明かりの下、手元の本を 広げるコルベール。誰からもらったのかそれは、幻想郷縁起(*24)であった。苦労して 魔理沙のページを探すと、そこにルーンの形状を書き込んでいく。 「しょうがないなぁ」 そんな魔理沙の言葉と共に、辺りが明るくなる。見上げれば、本の上に明かりが ともっていた。星も集まれば、月よりも明るい。その輝きをしばし見つめた コルベールは頭を振ると、魔理沙に問いかけた。 「それは一体どういうものなんだね?」 「星の魔法だぜ」 さも当然だと言わんばかりの返答に、コルベールは再度頭を振った。 この世界で人間が使う魔法と言えば、四つの属性に分類されるものだ。例外として コモンマジックと、伝説と言われる虚無。しかしこの魔法は、そのいずれにも該当 しないものだ。いや、少なくともコモンマジックと属性魔法には該当しない。では虚無 魔法か? いや、あれは遠い伝説のものだし、そもそもこの人間は、杖を使ってすら いない。では先住魔法か? いや、彼女は人間だ。それは間違いない。マジック アイテムを所持しているものの、自身は普通の人間であることは、ディテクトマジックで 確認済みだ。ならばそのマジックアイテムの力なのだろうか? コルベールは使い魔の印を書き写す作業に戻りながら、考えを巡らす。それを 知ってか知らずか、さらにコルベールを混乱させる事を口にする。 「他には、恋の魔法とかもあるぜ」 「は?」 「ま、星も恋も、遠くにあって憧れるものさ」 何かの聞き間違いかと思った。今、恋、と言ったのだろうか? どこか遠い目をしてのその言葉に、コルベールは聞き返せなかった。いずれ詳しい 話を聞く機会もあるだろう。彼は三度頭を振ると、本を閉じた。 「ん、終わりか?」 「うむ、これは後日、調べることにしよう。 それより一つ、聞いておいて欲しいことがある」 「あー?」 聞き返す魔理沙は十分に酔っているように見える。これから話すことを覚えて いてくれるかも怪しい。それでもコルベールには伝えておきたいことがあった。 「他でもない、君の主人となる者のことだよ」 当のルイズは、魔理沙の脇で横になり、寝息を立てている。その寝顔がどことなく 微笑んでいるように見えるのは、うがちすぎであろうか。 「もう知っているかもしれないが、彼女――ミス・ヴァリエールは、 魔法が使えないのだ」 「でも、私を呼び出したぜ?」 「ああ。だが明日以降も魔法が使えるかどうかはわからない。 今回が特別なのじゃないかとも思う」 もちろん、そうでないことを願うがね、という言葉とは裏腹に、コルベールの顔は暗い。 「ははん。だから面倒を見ろって?」 「そういうわけではないが……覚悟して欲しい、ということだ」 「ふん、覚悟か。 そんなのは、この世界に来ることを決めた時に、とっくに終わってるぜ」 魔理沙は手に持った茶碗に残った酒を一気に空けた。 「なにしろ私は、普通の人間の魔法使いだからな」 そういうと、おーい、酒が切れたぞー、と傍らの集団に声をかけた。コルベールが 何か言うより早く、新たな酒が魔理沙の茶碗に注がれる。ついでにコルベールの 手にも、コップが持たされた。 「お、おい、私が飲むわけには――」 「まぁまぁ、そういいなさんな。これからも長い付き合いになるんだしさ」 傍らに巨大な鎌を置いた女性が気軽に肩を叩き、コップに酒を注ぐ。その容姿に、 コルベールの相好も思わず崩れる。彼とて木石ではない。女性に酌をされれば それなりに嬉しい。(*25) 「昨日までの日々に別れを。明日から世界に祝福を」 生真面目な雰囲気の女性が盃を掲げると、まだ意識のあるものは自らの酒杯を 掲げた。数瞬の静寂。ある者は離れてきた家を想い、ある者は残してきた者達を想い、 ある者はそこにあった自然を想い……みな幻想郷のことを想い、そして別れを告げた。 こうして今までの昨日は終わり、全く新しい明日が始まったのである。 人間にとっても、妖怪にとっても。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方風神録」のBGM名より借用 *2 こうやって人間をだまして悪戯する *3 空を飛ぶのと弾幕を撃つのは、幻想郷では標準技能。 *4 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 普通の風竜と一緒にしないで欲しいのね!) *5 絶対に気がついてる。 *6 酒を飲むありがちな口実。 *7 多分カリスマ度。 *8 多分幼女度。 *9 レミリアの能力は、運命を操る程度の能力。 *10 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 野蛮な火竜と一緒にしないで欲しいのね!) *11 正装。 *12 親交=信仰。って神主が言ってた。 *13 見ているだけなら安全。 *14 実は寝間着らしい。 *15 早くも幻想郷入りしていた? *16 尻尾枕だったかもしれない。 *17 とてもこき使われたらしい。回転しながら特攻とか。 *18 この弾幕はフランからのパクリなのか? *19 現実逃避。あるいは自己暗示。もちろん、全部幽霊。 *20 ご想像にお任せします。 *21 魔法ヲタクかつ人形ヲタク。 *22 恋ではなく変です。 *23 ミョ(略)ンなルーン。 *24 妖怪にとってはイラスト付きの自己紹介本。自己アピールあり。だから信頼性は不明。 *25 それに体型的にも嬉しい。 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7132.html
前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 聞く耳持たず、とはまさにこのこと。そのまま杖を構え詠唱を始める。慌てて防御用の 結界を用意するが、時間が足りない。特に、他人の分の結界を用意する時間が。 こうしてシュヴルーズは、眼前で起きた爆発により気絶したのだった。 ちなみに妖怪を含む使い魔達は、ルイズの爆発を昨日散々見てきていたので、 この爆発も予想の範囲内である。驚いて暴れたりすることもないし、騒ぎに乗じて 別の使い魔を飲み込んでしまうこともない。 それはもちろん生徒達も一緒なのだが、分かっているからといって二日酔いから 来る頭痛を押さえられるわけもない。ルイズの「調子が悪かった」という言い訳に 突っ込みを入れる気力もなく、頭を抱えて悶絶するのだった。 教室に残っているのは二人。ルイズと魔理沙は、爆発の後片付けをしていた。 ルイズ共々魔法を使っての片付けを禁じられたので苦戦している……と思いきや、 案外そうでもない。床に転がった破片を箒で掃き、汚れた机を雑巾で磨いていく。 窓にはめるガラスは、宙に浮かせた箒にくくりつけて運んだ。魔理沙曰く、私が 魔法を使ってるんじゃなくて、箒が勝手に宙に浮いてるんだぜ(*28)、だそうだ。 しかし。と、魔理沙は手を動かしながら考えた。この沈黙はどうしたものだろう。 ルイズも嫌々と汚れた机を雑巾で拭いている。魔理沙に背中を向け、無言で。 理由は何となく分かる。あとはどうするか。引くのは簡単。けれど、それは柄じゃない。 魔理沙は地雷と分かっていて、あえてその話題で話しかけた。 「すごい爆発だったな」 「…………」 返答はない。しかし肩が震えている。 「怒るなって。褒めてるんだぜ」 「ななな何をほほほほ褒めてるっていうのかしら」 「もちろん! 魔法はパワーだから……っと」 飛んできた雑巾を避ける(*29)。ようやく魔理沙の方を向いたルイズが見たのは、 腕を組んで立つ魔理沙の姿だった。それがまた癪に障る。 「まあ聞けって。 爆発が起きてる、ってことは、魔力の放出自体は正しく行えてるってことだろ」 「だから? 失敗は失敗じゃない」 「まず、発動しない原因を調査。問題を取り除いた後に練習。これで完璧だぜ」 完璧、といいつつ人差し指を立てる仕草が、さらにルイズの神経を逆撫でる。 何が調査と練習だ。簡単に言ってくれる。 「ふん。ちょっと自分が魔法を使えるからって偉そうにしちゃって」 その台詞に魔理沙はますます胸を張った。 「そりゃあ、普通の人間の魔法使いだからな。 魔法を失敗することに関しちゃ、自信があるぜ」 「……ふーん」 「あ、信じてないだろ」 「口先なら何とでも言えるわ」 「そうだな……」 魔理沙は辺りを見回した。もう掃除はほとんど終わっている。 「自分で言うのも何だが、掃除の手際はよかっただろ」 「……まあ、そうね」 正直、昼休みが終わるまでかかると思っていた。しかしまだ、昼休みは始まっても いない。ルイズが渋々と頷くと、魔理沙も我が意を得たりとばかりに頷いた。 「私の魔法は派手だからな。失敗したら大惨事だ」 だから掃除もうまくなったのさ。と肩をすくめる。 「大惨事……ね」 「言ったろ、魔法はパワーだ。家ごと吹っ飛んだこともあったぜ」 ふーん、と生返事をしてまたそっぽを向いてしまう。魔理沙から見えるのは横顔の 口元だけ。 「それで、どうしたの?」 「ああ、掃除するのをやめた」 「え?」 「どうせ吹き飛ぶんなら、掃除しなくても一緒だろ」 「む、無茶苦茶ね」 「ひどいな、合理的と言ってくれ」 お陰で家の中はまるで物置だぜ(*30)、という魔理沙の台詞に、くすり、とルイズの 口元が動く。ここまではいい。さて、ここからどうするか。仕上げに窓ガラスを拭きつつ、 魔理沙は考えを巡らす。事細かに説明するのは面倒だし、大体こいつが聞かないだろう。 私と違って天の邪鬼(*31)な様だし。となると、やってみせるしかないか。 ルイズに投げつけられた雑巾を回収し、自分の使っていたものと一緒に片付けると、 魔理沙は前掛けで手を拭きつつルイズに話しかけた。 「さて、ちょっと聞きたいことがあるんだが」 「なによっ」 身構えたように声を高くするルイズだが、次の魔理沙の問いに思わず素っ頓狂な 声を上げてしまった。 「この辺にキノコが生えているところはあるか?」 「はぇ?」 「キノコだ、キノコ。 食用にもなるキノコでもいいけど、食用にならないキノコの方がいい」 「……何しようっていうの?」 「調査と練習だ。説明が面倒だからな。見た方が早いだろ」 一体この使い魔は何を見せようというのだろう。先ほどの会話に関係があること なのだろうか。 「それを見せて、どうするのよ」 「どうするかはルイズの自由だ。だけどな……」 そこで次の言葉を探すように口ごもり、ついでに帽子を深く被り直した。 「……だけど、何よ」 「ルイズの恥ずかしい姿を見たんだ。 私の恥ずかしい姿も見せなきゃ、フェアじゃないだろ?」 「どういう理屈よ、それ……」 ウインクをしながらの魔理沙の台詞に、ルイズはついに深く考えることを止めた。 確かに魔法の失敗は、人に見せたくない恥ずかしい姿だけれど……まあいい。 見せたいというなら、見てやろう。それに確かに興味もある。魔理沙の言う、 キノコを使った失敗の恥ずかしい姿とはどういうものだろう? キノコね……と反芻しつつ、記憶を掘り起こしてみる。去年の授業だったろうか、 確か先生が言っていたのは―― 「南に十リーグくらいかしら? 森の中に生えてるそうよ」 「十リーグ?」 「馬で十五分くらいね」 「なんだ。私なら一瞬だな」 魔理沙はちらりとルイズの顔色を窺い、素知らぬ顔で付け足した。 「今度は、スピードだけではないところをお見せしましょう」 「それは楽しみね」 かろうじてそう答えたルイズの顔には、明らかに安堵の色が浮かんでいた。 それから三十分後。二人は鬱蒼と茂った森の中にいた。 「なるほど、こりゃあいい森だぜ」 「こんなに暗いのに?」 「ああ。キノコはこういう所の方がいいのさ」 会話する二人を乗せた箒は、木々の間をすり抜けながらゆっくりと飛ぶ。 魔理沙自身は地面ばかり見ているのに、箒は的確に木の枝やツタを避けていく。 「それでこの鍋は何なのよ」 箒の下には大きな鍋がぶら下げられていた。学院の中庭で妖怪達と話をしていた メイド(*32)に借りたのだ。中には水がなみなみと汲まれている。それでいてこぼれる 様子は全くないのだから、箒の飛行が如何に安定しているかが判るというものだ。 「そりゃ、魔女といったら箒と大きな鍋だからな」 「だからもうちょっと分かるように話しなさいよ」 「私のいた世界には、『考えるな、感じるんだ』という便利な言葉があってな」 「それって考える努力を放棄してるだけじゃない」 「無駄な努力は休むに似たりってな。お、発見だぜ」 まさに無駄話をしているうちに、さらに森の深部に入り込んだらしい。空は分厚い 木の葉に覆われ、辺りは昼間だというのに薄暗い。いかにも湿ってます、という 地面の上に生えている毒々しい色をしたキノコ目がけて、魔理沙は飛び降りた。 その後を箒がゆっくりと近づいていく。 「ふむ、数は十分だな」 周りを見回すと、そこそこの数のキノコが自生していた。おそらく毒があるのだろう、 生き物に囓られた跡もない。魔理沙にとっては好都合である。 転がっている岩を かまどのように組むと、懐から大きなアミュレット(*33)のようなものを取り出し、その中に 設置した。 そして箒に乗ったままのルイズを見上げると、大声で話しかける。 「ほら、降りてくれ」 「えー、靴が汚れるじゃない」 誰が喜んで、こんなジメジメした地面に降りるというのか。絶対に泥がつく。 魔理沙の靴も既に汚れているし。 「洗えばいいだろ」 「じゃああなたが洗いなさいよ」 善処するぜ、という魔理沙の返事に不安を覚えつつも、ルイズは魔理沙の手を借り、 湿った地面に降りた。余計な重量がなくなった箒を魔理沙は慎重に誘導し、先ほどの アミュレットの上に鍋を下ろす。 「熱くなるから注意してくれ」 ルイズに注意だけすると、今度はキノコに取りかかった。手袋をはめ、一つずつ慎重に キノコを採取する。手に持って眺めると、額のルーンが薄く輝いた(*34)。その様子に ルイズは驚きの声を上げる。 「何でルーンが光ってるのよ」 使い魔のルーンが光る、という話は見たことも聞いたこともない。 一方魔理沙も、驚いたような声を上げた。 「へぇ、光ってるのか」 「……マリサがなんかやってるんじゃないの?」 疑惑の視線に、魔理沙は心外だぜ、と声をあげた。 「これって使い魔の契約をしたってルーンだろ? こっちの世界のものだ。 私が知るわけないぜ」 「わたしだって知らないわよ」 ルイズの返答に、しかし魔理沙は納得したように何度も頷いた。 「なるほど、やっぱりこいつは特別みたいだな」 「やっぱりって……知らないって言ったじゃない!」 「使い魔は私だけじゃないしな。比較対象があれば比べるくらいはするぜ」 魔理沙の話によれば、他の誰も魔理沙と同じルーンが刻まれたものはいないらしい。 パチュリーという名前の魔女の話によれば、これは『ミョズニトニルン』と読めるという。 「ミョズニトニルン?」 「なんか知ってるのか?」 ルイズは首を傾げた。 「聞いたことがあるような気もするけれど……」 「まあいいや。どうせ時間はたっぷりあることだし」 ゆっくり調べるさ、といい魔理沙は作業に戻った。 キノコを一つずつ選別すると、鍋に放り込む。さらに懐から粉末状の何を 取り出し鍋に投入した。水が沸騰すると、なんとも奇妙な臭いが辺りに漂い始める。 ルイズは我慢できずにハンカチで鼻を覆った。 「さて、後は煮詰めるだけだぜ」 「一体これがなんだっていうのよ」 「魔法の元の元の元……ぐらいか?」 籠もった声での問いかけに魔理沙は、冗談めかして答えた。もちろんその答えは、 ルイズにとって納得できるものではない。 「そんな馬鹿な話があるわけないでしょ」 「そりゃ貴族様は、合い言葉を唱えて杖を振れば、魔法が発動するからな」 「…………」 文句を言いたげに口元がつり上がる。が、魔理沙はその鼻先に包みらしきものを 突きつけた。 「そろそろランチでもどうだ?」 言われてみればお腹が空いている。掃除で体を動かしたあと、昼飯も食べていない。 包みから漏れ出す美味しそうな匂いは、キノコの臭いにやられた嗅覚にも激しく 訴えかけるものだった。 魔理沙は返事を待たずに後ろを向くと、箒を呼び寄せる。椅子代わりに空中に 固定すると自分はさっさと腰掛け、ルイズを手招きした。 「ご主人様、どうぞこちらに」 「普通、ご主人様が座るまで待つものよ」 溜め息を吐きながら、ルイズも魔理沙の隣に並んで腰掛けた。 「……こんなところでお昼なんて」 「準備万端だろ」 ルイズがブリミルに祈りを捧げるのを待って、二人で包みの中身を食べ始める。 「よく用意したわね」 「鍋を借りたときにな……うん、朝もそうだったが旨いな、ここの食事は」 「当たり前でしょ。貴族のための魔法学院なのよ」 「使い魔に呼ばれた甲斐があったぜ」 「どういう基準よ」 口先の会話を交わしながら、互いに相手のことを観察する。 身長は同じくらい。ルイズの方が幼く見えるのは、主に体つきによるところが大きい。 ルイズが桃色がかったブロンドの長髪をそのまま流しているのに対し、魔理沙は金色の 長髪を三つ編みにしている。 ルイズは魔法学院の制服だ。白いブラウスにこげ茶のプリーツスカート、そして貴族で ありメイジの証でもあるマントを羽織っている。一方魔理沙は平民そのものの格好だ。 白いブラウスに黒いサロペットスカート、そして白いエプロン。これで頭に乗せた黒い 尖った帽子さえなければ、メイドと言っても通るかもしれない。 外見はそんなところだ。しかし、内面はどうだろう。 何この変な平民、というのがルイズの魔理沙に対する印象である。平民のくせに魔法を 使うし、口先だけかと思わせて、実は口先だけじゃなく、でも誠実かというと誠実というわけ でもなし、わたしを守ってくれようとしたり、危険な目に遭わせたり、一体何を考えているのか 全然解らない、というところだ。 一方、魔理沙のルイズに対する印象はと言うと、実のところそれほど悪くない。想像してた 貴族の子供から浮かべられる人物像とは大違いだ。ただもうちょっと心に余裕を持って 欲しいよな。霊夢ほどじゃないにしろ、と心の中で呟く。それもこれも、魔法が使えない、 ということが原因なんだろうけれど。だからこれからやることをルイズに見せようとして いるんだが。 いつの間にか見つめ合っていた二人は、態とらしく咳払いをした。グツグツという鍋の 煮える音の中、魔理沙の方から口を開く。 「ところで、使い魔って何をやるんだ?」 「そんなことも知らないで、使い魔をやるって言ってたの?」 やっぱりマリサって変な平民ね、とルイズが肩をすくめると、魔理沙は心外だとばかりに 言い訳を始めた。 「使い魔自体は見たことあるぜ。ほら、蝙蝠っぽい羽を生やしてるヤツ、いたろ?」 「子供みたいなの?」 「いや、あれじゃない。あれは吸血鬼(*35)だ。 そうじゃなくてもっと大人っぽいやつ」 「……ああ、いたわね」 ルイズも僅かに覚えていた。眼鏡をかけていたような気がするが、定かではない(*36)。 何しろあの時は、自分の召喚に精一杯だったのだから。 「あれは小悪魔っていってな。紫モヤシっぽい魔女に呼び出されたんだ」 パチュリーって名前な、と説明される。確かそれは、魔理沙の額に浮き出たルーンの 読み方を教えてくれた魔女の名前ではなかったか。 「知り合いだってのにずいぶんな言い方なのね」 「お互い様だ。アイツだって私のことを黒白とかネズミとか呼ぶんだぜ」 「分かる気がするわ」 黒白は服の色だ。ネズミだというのはきっと動きが速いからだろう。 そう納得する(*37)。 「それはともかく、あの小悪魔、使い魔として何をやってたと思う?」 「普通使い魔っていったら、主人と感覚を共有したり、秘薬の材料を集めたり、 主人を守ったり……」 「まぁそれが一般的なところだな。 だけどあいつは、ずっと本の整理をやらされてたぜ」 なにしろパチュリーは巨大な図書館を持っていたからな、という説明に、ルイズは 曖昧に頷くことしかできなかった。わざわざそのために使い魔を呼び出したというの だろうか。それとも、呼び出した使い魔が本の整理に向いていたから、本の整理を やらせていたのだろうか。そもそも巨大な図書館ってどれくらい巨大なんだろう。 学院にあるのより、大きいんだろうか。 会話が途切れる。魔理沙は立ち上がると傍らに落ちていた木の枝を手に鍋に向かい、 中身をかき回した。一段ときつい臭いが立ちこめる。 「なんでそれが、魔力の元の元の元、なの?」 先ほど、ルイズが抗議しようとした事だ。 彼女にとって魔法とは、そんな怪しげなキノコに宿るものではない。 「私はこの世界で言う平民と一緒だ。貴族のように、魔女のように、 魔法を使うなんて力はない。だから別のやり方を考えるしかなかったのさ」 そういうと魔理沙は鍋の中にから元はキノコであったろう固まりをつまみ上げた。 「見てろ」 そういうと魔理沙はその固まりを傍らの木に叩き付けた。ベシャリ、と音がする。 普通ならそれで終わりの筈だ。しかし。 「ふむ、青色か」 「え?」 僅かに。本当にごく僅か、言われなければ判らないくらいに、その固まりは発光 していた。もっとも、昨日の夜に見た星屑の煌めきからすれば、零に等しい。 ポケットから取り出したメモ帳に何かを書き込んだ魔理沙は、また別の固まりを 叩き付ける。 「これは外れ、と」 またメモ帳に何かを書き付ける。こうして次々とキノコだった物体を試していく。 何かしらの反応が現れるのは十回に一回くらいだ。それでも魔理沙は一つ一つ、 メモ帳に書き込んでいく。 「こうやって、使い物になりそうなキノコと、その条件を調べていくんだ」 「…………」 「そして、使えそうなヤツをさらに調べていく。こうして魔法の元を作っていくのさ」 「これをずっと繰り返すの?」 「繰り返すぜ」 本番では数日間煮込んだ上で、ブレンドしたり乾燥させたりするという。さらに、 叩き付けるだけじゃなくて、水に浸したり、火にくべたりとかもするぜ、と魔理沙は いうものの、地道な作業であることには違いない。 「今までもずっとこんなことやってきたの?」 「やってきたぜ」 ほらよ、と渡されたノートには、細かい字でびっしりとデータが書き込まれている。 それで五冊目だぜ、という説明に一瞬くらっとした。一体何回、何十回、何百回 同じ事を繰り返せばこれだけのデータとなるのだろう。 「これが、普通の人間である私が魔法使いとしてやっていく、数少ない方法だからな」 どんなに地味でもやるしかないのさ、と肩を竦める。 これがどれほどの手間と時間がかかったことなのか、ルイズにも理解できた。 だからこそ、分からないこともある。 「……なんでそうまでして、魔法を使うの?」 ルイズ自身も魔法が使えない。だから使おうと色々試してみた。けれどそれは、 『貴族ならば魔法は使えるもの』という前提に立ったものだ。何度も繰り返せば、 そのうちコツがつかめるのではないか、といったある意味、楽観的な見方をして いたのかもしれない。 しかし魔理沙は違う。全くのゼロから、自分の力のみで魔法を使うということを 達成している。この原動力は何だというのだろう? その問いに対する魔理沙の回答は、単純明快であった。 「魔法に、恋をしているからだ」(*38) 「こ……い……?」 思わず聞き返す。その単純明快すぎる答えは、ルイズには分からないものだった。 「好きなだけじゃない。 憬れだけでもない。 どうしても自分のものにしたいって想いだ」 これを恋と呼ばずしてなんて呼ぶ? と問われたルイズは、笑い飛ばすことが 出来なかった。その瞳に込められた真摯さに気がついたから。 魔理沙はルイズに背を向け、己の作業に戻った。 しかし、そのまま自分の話を続ける。 「あのまま元の世界にいたら、私は魔法を使えないただの普通の人間に なっていただろう。それどころじゃない。世界から魔法ってものがなくなるんだ。 それが……怖かった。恋する相手がいなくなることが」 「だからヨーカイ達と一緒に召喚されたっていうの」 ルイズに問いに、後ろ姿のまま頷き、そして振り返った。 「何しろ私は、魔法に恋した普通の人間の魔法使いだからな」 その恥ずかしげな、そして誇らしげな顔は、陰鬱な森の中でひときわまぶしく 輝いて見えた。思わずルイズが目を逸らしてしまうほどに。 「……やっぱりヘンな平民……」 その力ない言葉が単なる減らず口であることは、瞭然だった。だからだろう。 魔理沙は怒るでもなくニヤニヤと笑っている。 「ルイズはそのヘンな使い魔の主人なんだからな。よろしく頼むぜ」 「あたりまえでしょ。散々こき使ってやるんだから覚悟しなさい」 ルイズも口元を動かし、なんとか笑い返す。貴族の意地だ。貴族として、 平民である魔理沙の生き方に感銘を受けた、などとは口が裂けても言えないのだから。 それこそ、恥ずかしいことじゃない、とルイズは心の中でつぶやいた。 「……そういえば、マリサの恥ずかしい姿ってなんだったのよ」 「ああ、その話か」 最初の話を思い出しての問いに、魔理沙は本当に恥ずかしそうに答えた。 「私にとって魔法が恋人だとすると、このメモは恋文だな」 「……そうね」 「こうやって魔法に到達するために行う実験は、謂わば求愛行動だ」 「そう言われると、恥ずかしいわね」 「恥ずかしいだろ」 「そんなわけあるかーっ!」 「いや、本当に恥ずかしいんだって」 「やっぱりあんたはヘンな平民よ」 「ひどいぜ」 その二人の言い合いは、実に楽しげだった。 「あら、ようやくお帰り……って何よその臭いっ」 日が暮れようという頃になってようやくルイズの部屋の入り口に戻った二人を、 キュルケは鼻をつまんで出迎えた。 「え? そんなに臭うか?」 二人とも自分の匂いを嗅ぐ。確かにキノコの臭いが残っているが、自分たちでは それほどひどく感じない。どうやら長時間キノコ鍋の傍にいて、臭いになれてしまった らしい。 キュルケは二人を追い払うように、片手を振った。 「早く風呂に入って来なさいよ」 「へぇ、風呂があるんだ。そりゃ嬉しいぜ」 どこだ、と問いかける魔理沙の襟首を掴んで引き戻す。 「こら、平民が貴族の風呂になんて入れるわけないでしょ」 「みんな自分の使い魔と一緒に入ってたわよ」 「なによそれ」 憮然とするルイズを、可笑しそうに眺めるキュルケ。まったくトリステインの貴族は、 特にルイズは、身分の違いを気にしすぎる。だからこそ、からかい甲斐があるという ものなのだが。 「それとも『貴族』の使い魔を、『平民』の蒸し風呂に押し込めるつもり?」 貴族、を強調したその言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をするルイズ。 困ってる困ってる、と内心の笑みを表に出さず、とどめの言葉を放った。 「まあ、ヴァリエール家はケチくさい方々だし、それも仕方ないのかしらね」 「誰がケチくさいのよ! ほらマリサ、こっちよ、ついてらっしゃい!」 「待てって、着替えとかどうするんだよ」 ルイズと魔理沙が大騒ぎをしながらキュルケの視界から消えてようやく、彼女は 笑みを顔に出した。まったく、このヨーカイという連中が召喚されてから、楽しいこと ばかりだ。戻ってきたら、昼間食堂で起きた事を話してやろう。きっと驚くに違いない。 なにしろ――(*39)。 「おーい、キュルケ」 「なに、モコウ?」 自室の中から声がかかった。振り向くと、自らの使い魔とした妹紅が、困ったような 顔をしてキュルケのことを呼んでいる。キュルケのネグリジェを纏ってはいるものの、 正直あまり似合っていない。主に、胸元が。 「なんか窓から部屋に入ってこようとした男がいたんで、撃ち落として しまったんだけど、まずかったか?」 「え?」 そういえば今日は誰かと約束していたんだっけ? と記憶を掘り返す。 「思い出せないってことは、大した男じゃないってことよね」 「誰かは知らないが、可哀想に。キュルケから言い寄ったんだろ?」 「過去は過去よ」 肩を竦めてみせるキュルケ。 「あまり男心を弄ばないことだ。そのうち恨まれるぞ」 「あら、身に覚えでもあるの?」 「ああ」 からかうような言葉に対して返ってきたのは、怖いくらいに真剣な眼差し。 「ただし、恨まれる方じゃないよ」 もう終わったことだけどね、と遠い目をする妹紅ではあったが、キュルケは背筋に走った 寒気を押し殺すのに必死だった。普段の泰然とした雰囲気から、只の人間ではないと 思っていたが、どうやらそれはキュルケの思っていたものとは全然違う理由によるもの らしい。もし今の、一瞬漏れ出した殺気が自分に向けられたものなら、自分は死を覚悟 していたかもしれない。それだけのものを身の中に秘めたこのフジワラモコウという存在は、 一体どういうものなのか。 そして、この殺気を向けられたものは、どういう存在だったのだろう。(*40) 「……いつか話して貰えるわね?」 「機会があったら、そのうちにね」 それよりこの服、胸元が余るんだが、ととぼけた様子でキュルケを部屋に 招き入れる妹紅には、もう先程の様な真面目な雰囲気はなかった。 本塔の地下に風呂場はある。浴槽は縦横それぞれ十数メートルはあり、壁からは 蒸気が噴き出している。もちろん鏡も設置され、自分の姿を映し一喜一憂する 女生徒も居る。 その巨大な湯船の片隅で、一組の貴族と平民がお湯につかっていた。 もっとも 双方とも、あまり嬉しそうではなさそうだが。 貴族であるルイズにとって、貴族以外が入っているという風景はどうにも受け入れ ずらい。それが人間でもない、異形の存在だとすればなおさらだ。 右を向けば、妖精が主人の肩に掴まって湯につかっている。左を見ると、兎のような 耳の生えた使い魔が、主人の背中を洗っている。そして正面では、自らの使い魔が 渋い顔をしていた。 「うー、やっぱり次からは蒸し風呂とやらのお世話になるぜ」 「この風呂のどこが気に入らないっていうのよ」 キュルケに焚き付けられたられたとはいえ、せっかく連れてきたのだ。せめて嬉しそうな 顔ぐらいしても、罰は当たらないんじゃないか。 マリサは何かを嗅ぐような仕草をすると、耐えられないというように鼻をつまんだ。 「いや、匂いがな」 「香水の匂い? いい香りじゃない」 「不自然だぜ」 彼女の今までいたところにも風呂はあったが、このように香水を入れる習慣は なかったという。むしろ、硫黄の匂いのする風呂(*41)があったりもするらしい。 それはルイズにとって想像もできないものであった。もっとも、あのキノコの臭いにも 平然としていたくらいだ。やはり色々と違うのかもしれない。 「嫌がってるのはマリサぐらいよ」 「そうか?」 「ほら、気に入ってる使い魔もいるじゃ――」 指差そうとするルイズの動きが止まる。湯船の縁に腰掛け、心地よさげに目を つぶっている彼女には、伸びた犬歯と蝙蝠のような羽があった。あれは昼間の話にも 出てきた、吸血鬼ではないだろうか。もっとも、脚を湯に浸し、時々パシャリと跳ね 上げる様は、幼子が水に戯れる様にも見えるのだが。 マリサはちらりとそちらを見やり、納得したように頷いた。 「あー、アイツは別だぜ。何しろお嬢様だったからな」 「……お風呂を楽しむ吸血鬼なんて見たことも聞いたこともないわ」 口の中で呟く。魔理沙にも聞こえるかどうかの小さな声であったが、当の吸血鬼は 片眼を開くとジロリとこちらを見遣った。 「聞こえてるわよ」 固まるルイズ。しかし魔理沙は普通に手をあげ、その吸血鬼に挨拶を送った。 「楽しんでるようだな」 「まあ、悪くはないわね」 そのまま脚を伸ばしチャプンと湯船に入った吸血鬼は、僅かに湯を揺らしながら 近づいて来る。その白い肌は同じ女性であるルイズから見ても、綺麗だと思わせ られてしまうものだ(*42)。 「レミリアのご主人様はどうした?」 「のぼせたって言って、あがっちゃったわよー」 つまらなそうに口を尖らせる吸血鬼。こういう仕草だけ見れば、実に子供っぽいのだが。 しかしそれも一瞬のこと。ルイズの事を見つめると、目を細め可笑しそうに相好を崩した。 「なによ」 強気を装うルイズではあったが、内心気が気ではなかった。なにしろ、吸血鬼 なのだ。いくら使い魔としての契約は結ばれているといっても、外見が少女のよう であるとはいっても、警戒はしてしまう。 しかしレミリアは気にした様子もなく、牙の生えた口を開いた。 「あなたの運命も、大きく変わりつつあるようね」 「え?」 突然出てきたこの場にそぐわない単語。 その言葉に戸惑う間にも、レミリアの話は続く。 「もっともそれがあなたにとって、幸福な方向に変わっているのか、 悲劇的な方向に変わっているのか、までは判らないけれど」 「なんだ、全然解らないぜ。なぁ?」 頷けばいいのか、否定すればいいのか。魔理沙の問いかけに固まるルイズを、 レミリアはいっそう面白そうに口元を歪めて眺める。 「まったく、これだから脳なんて科学的な組織のある生き物は困るわ」 「そりゃあ、私達は人間だからな」 レミリアはやれやれと肩をすくめた。 「ゆっくり考えるといいわ」 そういうと立ち上がり、背を向ける。二、三歩進んだところで、顔だけ振り向いた。 横目でルイズを一瞥する。 「だけど覚えておきなさい。 その変化に流されるのか、それとも抗うのか、それはあなたの自由よ」(*43) ルイズが息を吐いたのは、レミリアの姿が脱衣所に消えてからだった。 「何だっていうのよ、まったく」 「気にしない方がいいぜ。言ったろ、早く慣れないと辛いぞって」 もっとも私はこの風呂には慣れそうもないけどな、と笑う魔理沙とは対照的に、 ルイズの顔色は暗かった。 「もうしわけありません、もうベッドの予備はありません」 「あー、やっぱりな」 頭を下げる黒髪のメイド。夕食後、借りた鍋を返すついでに、寝床を確保しようと 予備のベッドがあるかメイドに聞いた結果がこれだ(*44)。もっとも魔理沙にとっては 予想の範疇である。なにしろ初動が遅すぎた。いくらここが立派な魔法学院だとは いっても、予備のベッドがそんな数多くおいてあるわけでもないだろう。それに妖怪 とはいえ少女、男子生徒と一つベッドで眠りたいと思う者はそう多くない。 ルイズだってそう思うだろ? と問いかけるものの、ルイズの反応は芳しくない。 何事か考え込んでいるようだ。むしろ黒髪のメイドの方が頬を赤くしている。そんな ルイズの様子に魔理沙は肩をすくめた。 「別に私は、ルイズと一緒のベッドでも構わないけどな」 「わたしが構うわよ!」 ルイズもこれには反発する。いくら相手は自分と同じような少女だとはいえ、平民 なのだ。メイドも、この平民はなんてことを言うんだ、というように恐れた様子でルイズを 見ている。 もちろん、そんなことを気にする魔理沙ではない。むしろ、にやりと笑い返す。 「平気だって。何しろ一つの布団で一緒に寝るのには慣れてるからな」 「え……」 「もちろん、女同士だぜ」 「ええっ マリサってそういう趣味が――」 「そういうって、どういう趣味だ?」 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる魔理沙と、頬を赤らめた上にそっぽを向く 黒髪のメイド。そして怒りと羞恥に顔を赤く染めるルイズ。 「あああああんた達なななな何を勘違いしてるのかしら」 「勘違いしてるのは、ルイズじゃないのか?」 「そんなわけないでしょ! ほら、さっさと行くわよ!」 ルイズは魔理沙の腕を掴むと、さっさと歩き出した。後に残されメイドはしばし 呆然とした後、残された鍋を掴みあげる。ふと気になって、臭いを嗅いでみた。 「これ一体何の臭いですかーっ」 メイドの悲鳴じみた声は、誰にも届かなかった。少なくとも人間には(*45)。 月明かりが差し込む部屋の中で、二人の少女がベッドの上で互いに背を向けて 横になっていた。一人は素肌の上にネグリジェ一枚、一人はシミーズとドロワーズ。 「マリサ……キリサメマリサ……」 ネグリジェの少女であるルイズが呟く。しかし、反応はない。起きていて聞いていない フリをしているのか、それとも寝ているのか。身じろぎをしたついでにちらりと背後の 魔理沙を窺うが、なんとも判らない。 ルイズは両腕で自分の体を抱きしめるようにすると、今日の出来事を思い返した。 まったく、今までの常識が覆されるような出来事が色々とあった。当たり前のように 空を飛ぶ妖怪の事。この世界のそれとは異なる魔法の事。平民のくせに魔法を使う、 自分の使い魔のこと。 しかし今ルイズの頭を離れないのは、吸血鬼に風呂場で言われた事であった。 運命が変わりつつある、とはどういう事なのだろう。わたしの魔法が使えないという事が、 変わるということなのだろうか。それとも、使えるはずのものが使えなくなる、ということ なのだろうか。 確かに、今までの生活とはまったく違う日常が始まった。今日一日でもそれはよくわかる。 でもそれはこの霧雨魔理沙という使い魔の所為だ。それともこの魔理沙が使い魔になる ということ自体が、何かの変化なのだろうか? 確かに自分の想像していた使い魔とは 大きく違ったけど。 大体使い魔の癖に生意気よ。明日からちゃんとわたしのことはご主人様と呼ばせなきゃ。 さっきもいつの間にか、一緒にベッドで寝ることになっていた。どうもマリサと話をしていると いつの間にか言い負かされている。ご主人様として失格ね。もっとしっかりしないと。 などと思いながら、眠りに落ちていく。 最後にルイズの脳裏に浮かんだのは、『魔法に恋する普通の魔法使い』である事を 宣言した時の、恥ずかしそうな表情をした魔理沙の顔だった。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方封魔録」のBGM名より借用 *2 酒を呑んでも飲まれるな *3 でも手伝わない *4 でも、羽 *5 実際の所どうなのかは不明 *6 もちろん、無詠唱 *7 ご愁傷様 *8 同音異義語が通用するのは何故だろう? *9 マル略 *10 ご愁傷様 *11 詳細はもっと後で *12 言わずと知れた遠見の鏡 *13 実際、酔っぱらっていたし *14 普段から、出歯亀視線に晒されていたからか? *15 光や波や距離を操るメンツにはこちらが見えたのかも *16 希望的観測 *17 原作的な運命の悪戯 *18 徹夜の宴会対策は万全だ *19 酒好きの連中であることには違いない *20 そーなのかー *21 野菜以外を食べれるのか不明 *22 技術者的興味 *23 人形使い的興味 *24 同好の士を捜している *25 なん……だと……?風に *26 妖精とかはじっとしているのが苦手 *27 何十倍も何百倍も何千万倍も生きてるのもいる *28 拡大解釈 *30 魔理沙の家が片づいていない理由が本当にこの通りかは不明 *31 天の邪鬼は自分のことを天の邪鬼と認めない。天の邪鬼だから *32 詳細は次の話で *33 ご存じミニ八卦炉 *34 有効活用中 *35 でも子供っぽいことはスルー *36 実際の容姿は不明。 *37 その答えは48点くらい。96点満点で *38 この一連の設定は、東方創想話に投稿されているSS、「東方萃夢想 Stage-Ex「乙女の鬼退治」-Normal 」にインスパイアされたものです。 *39 待て次号 *40 何が終わったことなのか。何を引きずっているのか *41 温泉大好き *42 それに劣等感も苛まれないし。体型的に *43 どんなに格好つけても全裸なので威厳なし *44 ゆっくりした結果 *45 妖怪は色々といる。出歯亀好きとか 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2563.html
「職業はガンダールヴとありますが?」 「はい。ガンダールヴです。」 「ガンダールヴとは何のことですか?」 「使い魔です。」 「え、使い魔?」 「はい。使い魔です。武器を取ると覚醒します。」 「・・・で、そのガンダールヴは当社において働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」 「はい。敵が襲って来ても守れます。」 「いや、当社には襲ってくるような輩はいません。それに人に危害を加えるのは犯罪ですよね。」 「でも、ワルドにも勝てますよ。」 「いや、ワルドごときとかね・・・」 「竜の羽衣にも乗れるんですよ。」 「ふざけないでください。それに竜の羽衣って何ですか。だいたい・・・」 「人殺しの道具です。ゼロ戦とも書きます。ゼロ戦というのは・・・」 「聞いてません。帰って下さい。」 「あれあれ?怒らせていいんですか?帰りますよ。日本。」 「……いなくなったらやだ。……なにしてもいいけど、それだけはダメなんだから。」 「運がよかったな。12巻は東方に行かないみたいだ。」 「あんたの忠誠に報いるところが必要ね!めめ、面接官の体、一箇所だけ、好きなとこ、ささ、触ってもいいわ!」 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part63 - 134
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7131.html
前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 04.恋色マジック(*1) ルイズはまぶしくて目が覚めた。霞がかかったような頭に苛立ちを感じながら身を 起こす。下はいつものベッドではない。それどころか屋内でもない。 服も制服のままだ。どうやらここは昨日、召喚の儀式を行った草原らしい。 一体何があったんだっけ? という疑問は、辺りを見回したとたんに氷解した。 「う゛あ……」 思わず、貴族らしからぬ呻きを漏らす。死屍累々。その言葉がここまでぴったりと くる光景は初めてだ、とルイズは思った。気持ちの良さそうな寝息を立てて寝ている 妖怪達と、気持ちが悪そうに呻きながら横たわる生徒達。 その間を埋める、酒瓶の山。どこにこんな沢山持っていたのだろう、という程に 並んでいる。 自分も飲んだはず。だから、記憶もとぎれとぎれ。しかし、しっかり覚えていることも ある。それは、自分の隣で心地よさげな寝息を立てていた。 「キリサメ、マリサ」 確かそういう名前だった。しかし名前を呼んだ程度では反応はない。ずいぶんと酒を 飲んだのだろう。酒の入っていた瓶をしっかり抱きかかえたままだ。わたしも飲まされて、 疲れていたから簡単に酔いが回って、それで酔いつぶれた、 ということだろう。 だけど、彼女がいるということは、間違いのない事実。それはすなわち、召喚の魔法が 成功したということ。これでもうわたしは、魔法が使えない落ちこぼれなんかじゃない。 そう思うと、頬がゆるむ。今のわたしなら、レビテーションの魔法だって成功するはずだ。 ほら、目の前にちょうどいい大きさの小石があるじゃないか―― こうしてその日の朝は、爆発音と共に始まった。 「うわ、なんだなんだ」 魔理沙が飛び起きると、そこには杖を振り下ろしたまま、呆然とした顔で突っ立って いるルイズがいた。 「あー、とりあえず、おはよう」 声を掛けられたルイズは、慌てて杖を背後に隠した。そして取り繕うように胸を張る。 「ご、ご主人様より寝てるなんて、使い魔としてどうなのかしら」 「なんだ、使い魔の仕事には、モーニングサービスまで入ってるのか?」 まあそれくらいなら構わないけどな、といいつつ周囲を見回し、魔理沙もこの状況に 気がついた。 「やめろー」 「このぜろめ」 「あたまいたい……」 「はきそう……」 口元を押さえたり、頭を振ったりしながら体を起こす生徒達。どう見ても二日酔いの 集団である。彼らにとってあの爆発は手厳しい目覚めの合図となったことだろう。 ここまで酒を飲まされ、酒に飲まれた(*2)経験は、彼らにはなかったのだから。 一方、妖怪達もあわてて飛び起きはしたものの、ここが神社の境内でないことに 気がつき、安心した表情で再び座り込んだ。そして一抹の寂しさに吐息を漏らす。 宴会の後を片付けようとする巫女に手厳しく追い立てられる(*3)、ということはもう ないのだ、ということに気がついて。 そしてこの場で唯一の大人の人間、コルベールは、周囲を慌てて見回していた。 なぜなら今日はまだ、虚無の曜日ではない。ということは、普通に学校があり、授業が あるということ。 「皆さん、急いで戻りましょう!」 慌てるように言うと、自分自身にフライをかけ、そのまま生徒と妖怪を後目に、 飛んでいく。生徒達も自身にフライをかけ、後に続こうとした。いつものように、 ルイズに嘲笑を浴びせることも忘れない。 「ゼロは歩いて……うぷっ」 「あなたも……フライを……ああ、もうダメ……」 バランスを崩してフラフラしたり墜落しそうになっていなければ、それはきっと効果的な 罵声になっていたのだろう。フライを維持するには、ある程度の精神集中が必要なのだが、 二日酔いの中でもそれを維持できている人間はそう多くなさそうだ。 歩いた方が安全なのだが、それでもフライで移動しようというのは貴族としての意地と 見栄だろうか。それを見ていた妖怪達はヤレヤレと肩をすくめ、ふわりと宙に浮き上がった。 自分の主人となった人間に肩を貸そうというのだ。 地面に残り、一人その光景を見上げていたルイズは、思わず呟いていた。 「なんでみんな飛べるのよ」 しかもルイズの見ていた限りにおいて、呪文が唱えられた様子はない。まるで、鳥が 空を飛ぶのは当然だ、とでもいうかのごとく、自然に浮いていたのだ。 その人数は、五十に近い。このヨーカイとかいう連中がこれだけ召喚されていた、 という事実に改めて驚く。さらに驚くべき事は 「翼だってないのに」 ということだ。羽を持つ妖怪・妖精はごく一部。中には、羽と考えるならまったく実用的 ではない、七色の飾りのついた何か(*4)を背に生やした者もいる。そんな者たちも、 当たり前のように飛んでいる。 「普通、飛べるぜ」 地面に残り、一人何かを探している魔理沙は、そんなルイズの独り言に対して律儀に 合いの手を入れる。 「普通ってねぇ。じゃああなたはどうなのよ」 「私だけなら浮ける程度だな」(*5) 「はぁ……」 その返答に大きくため息をつく。やっぱり魔法使いとは言っても平民ならこんなものなのか。 「ふふん。この魔理沙様をなめてもらっちゃ困るぜ」 ルイズの元に戻ってきた魔理沙は、一本の箒を担いでいた。昨日ルイズが召喚した ときに、魔理沙が座っていたものだ。宴会の邪魔になるからと、遠くに放り出されて いたらしい。 「ご主人様に向かって何よそれ。だいたいそんな汚い箒がどうしたっていうのよ」 ふくれっ面のまま問いかけるルイズに、魔理沙はニヤニヤと笑いながら答える。 「空を飛ぶ……いや、駆けるのさ。あいつらよりも速いぜ」 「ふーん」 「あ、信じてないだろ」 「だってこんなので、どうやって飛ぶっていうのよ」 この世界には、箒に乗って空を飛ぶ魔女、という概念はない。そのことを魔理沙は 知らないが、何であれ飛ぶということを否定されるということは、幻想郷随一の飛行 速度を誇る魔理沙にとって、我慢ならないことだ。 「よーし!」 魔理沙の瞳が輝きを帯びる。きっと博麗の巫女なら『魔理沙がまた碌でもないことを 考えている』と分かっただろうが、昨日主人となったばかりのルイズにそれを求める のは、酷というものであろう。 「それではこの霧雨魔理沙の飛びっぷりを、ご主人様にごらんいただきましょう。 特等席で」 「え? え?」 戸惑うルイズの目の前で、まず魔理沙は箒を空中に固定した。奇術師のように 地面と箒の間に腕を通し、本当に浮いてることを示してみせる(*6)。ふぇ? という ルイズの間抜け声に含み笑いを漏らしつつ、魔理沙は自らの箒にまたがった。 そしてルイズを手招きする。 「……そこに座れっていうの?」 「ああ、特等席だからな」 魔理沙の前のスペースを指さしつつ、魔理沙はにこやかに笑った。不自然なまでに。 さすがにルイズの六感が警報を鳴らす。しかし、逃げ出すわけにはいかなかった。 ここで逃げたら、自分の使い魔を信じていないということを決定づけることになる。 使い魔を信じないということは、それを呼び出した自分の魔法を信じていないと いうことだ。自分の唯一となる魔法の成果を否定できるわけがない。 それに、昨日の召喚直後、魔理沙は自分のことを守ってくれたではないか。 「さあ、追いついてもらおうかしら」 魔理沙の手を借りて箒にまたがったルイズの命令に、魔理沙は不敵に笑って返す。 「追いつく? ぶち抜くぜ」 それは、嘘ではなかった(*7)。 「すごいわねぇ、風竜は」 「なんだ、早くも他人の使い魔に浮気か?」 「きゅいきゅい!」 「この子、雌」 タバサの使い魔となった風竜、シルフィードの上に三人の少女が乗っていた。主人で あるタバサとその友人、キュルケ、そしてキュルケの使い魔となった藤原妹紅である。 「ふふ、妬いてるの? ……いたた」 「確かに焼くのは得意だけどな」(*8) 人を連れて飛ぶのはどうもね、といいつつ肩をすくめる。それが二日酔いの人間で あれば尚更である、と。 さすがのキュルケも、深酒は堪えたようだ。片手で頭を押さえつつ片手で妹紅に 捕まるキュルケに、友人のタバサが救いの手を差し出した、というわけだ。 三人乗せても、風竜の飛行速度は他の誰よりも速い。頭痛に辟易としながら キュルケが後ろを振り返ると、妖怪に肩を借りたり、首筋を掴まれたり、抱きつかれ たりして飛んでいる生徒達が見える。中には手を繋いだだけなのに、頬を赤くする 小太りの男子生徒の姿もある(*9)。その後ろに、普通の生き物を召喚した生徒達が フラフラと続く。さらに目をこらすと、未だ地上に留まっている 人影が二つ。 「気になるのか?」 「まさか。ただちょっとどうしてるのかと思ったのよ」 素っ気ない仕草に、妹紅は内心ため息をついた。昨日の様子でも、自分の主人で あるキュルケとあのルイズという少女にはなにやら因縁じみた関係があるということは 想像がつく。ただそれは自分と蓬莱山輝夜のような殺伐とした関係ではなく、どうやら ライバルのようなものらしい。問題なのは本人達がそれに気がついていないことで。 まあ、しばらくは放っておこう、と妹紅は心の中で決めていた。変に弄って悪い方に 転がっても困る。 「あいつらなら、すぐに追いついてくるさ」 「…………?」 「きゅいきゅい!」 今まで手元の本を読んでいたタバサが不思議そうに妹紅を見上げ、シルフィードが 非難じみた鳴き声をあげる。それも当然だろう。ここからならば、もう目的地である 学院の方が近い。今の速度のままでも、あと三十秒足らずで着くはずだ。 「来るさ。なにしろアイツは――」 不意に妹紅が後ろを振り返った。他の妖怪達も振り返っている。タバサも気がついて いた。爆発的な魔力の放出に。 「後方注意!」 誰かが叫んだが、その時には既に遅かった。 地上から飛び立った何かが白い固まりを纏い、ものすごい勢いで接近してくる。 そして誰かが反応するよりも早く、生徒達の真上を駆け抜けていった。その軌跡を なぞるかのようにまき散らされる星屑に、みな昨日の光景を思い出す。ルイズの 使い魔である霧雨魔理沙が放った、星の花火を。 これでもし、うわー、とも、ひゃー、とも、ひー、ともいえない悲鳴が聞こえなければ、 ルイズのことを羨む者がいたかもしれない。そのなんとも形容しがたい悲鳴は ドップラー効果と共に遠ざかり、まるで流星のように学院目がけて落ちていく。 「今日は一段と速いな」 「きゅい!」 妹紅の評に応えるように一声叫ぶと、シルフィードは追い掛けるように速度を上げた。 今までとは比べものにならない速度ではあるが、時既に遅し。それでも風竜として意地 なのだろう。 一方、妖怪にも速さを信条とする者がいる。 「私たちもいきますよっ」 「えっ、ちょっとアヤ、待っ――」 左手で主人の手を握ったまま、右手で団扇を打ち振るう。巻き上がった突風に己と 主人の体を乗せ、これまた男の甲高い悲鳴と共に空を駆けていく(*10)。 後に残された生徒達は呆然とそれらを見送り、そして己の使い魔をそっと窺った。 その様子に気づいた妖怪が、内心苦笑しつつ応える。 「私たちはこのままの速度でいいですか?」 「そ、そうね、速ければいいというものでもないし……」 そのやり取りに、頷く者多数。あんな無様な悲鳴を上げるハメになど陥りたくない。 二日酔いで調子が悪いと来れば、尚更だ。 みな、自分たちの使い魔はあのような無茶で主人を振り回す生き物ではないと思い、 安心していた――まだ、この時は(*11)。 学院の厨房を取り仕切るコックのマルトーは、昨日の晩から機嫌が悪かった。 生徒の一人や二人が夕食を食べないことはよくあること。そのような分は、コックや メイドの賄いになるので、みな密かに望んでいたりする。 しかし昨日の晩は、二年生全員が食事をとりに来なかったのだ。あの誰も座って いないテーブルの寒々しいことと言ったら! そして今朝もまだ、二年生は誰も食堂に現れていない。 「くそっ! これだから貴族ってやつは!」 いつもの愚痴が漏れる。食材を作る平民のことも、それを運ぶ平民のことも、 調理する平民のことも眼中にないのが貴族だ、というわけだ。 そんな中突然、外からどよめきと悲鳴が聞こえてきた。 「なんだー?」 様子を見に行った部下の報告に、マルトーは眉をひそめた。曰く、召喚の儀式を 行っていた二年生がようやく帰ってきたという。まずは生徒四人に、使い魔が一匹と 三人。つまり、人間と思わしき使い魔が三人もいるということだ。 しかもその人型の使い魔は、まだまだ数がいるらしい。 「人型の使い魔ねぇ」 この学院で長いこと働いているが、そんな話は初耳だ。もっともマルトーにはそれ 自体は関係ない。重要なのはただ一つ。 「お前ら! どうやら今日からお客さんが増えるらしい。気合いを入れてけ!」 「はいっ!」 コック達の返事が唱和した。使い魔であろうと旨いと言わせてみせる。 それが料理人というものなのだ。 一方、学院長室。コルベールの報告を、次の授業の担当であるシュヴルーズは顔を 強張らせ、学院長であるオスマンは鼻毛を抜きながら聞いていた。 「――という訳で、直近のところでは問題はなさそうですが……」 「ま、見た目は可愛らしい連中じゃな」 「見てたんですか!」 コルベールの視線が一瞬、オスマンの背後にある鏡に向かう(*12)。 「そりゃあなあ。教師も含めて全員帰ってこなかったら、心配もするわい」 「申し訳ありません」 禿頭を下げるコルベールに対しオスマンは、ヒラヒラと手を振った。 「よいよい。あの場は一緒に酒を飲むのが一番じゃろ。 それが連中のコミュニケーション手段のようじゃし」 「それで、どう思われますか。連中はおとなしくしているでしょうか?」 「さあ、どうじゃろうなぁ」 「いんちょー!」 引き抜いた鼻毛をはじき飛ばしながらの台詞に、非難めいた声を上げるコルベール。 しかしオスマンはそれを無視し、真剣な声色で話し始めた。 「ただな。連中を見た目通りの存在だと思わん方がよいぞ」 「はい。なにやら色々出来るようです」 そういいつつ、懐から幻想郷縁起を取り出したが、書かれている内容を説明すべきか 迷う。一応本人達から直接話は聞いたのだが、運命を操るだの、豊穣を司るだの、 永遠と須臾を操るだのと、どう考えても酔っぱらいの戯言としか聞こえなかったのだ(*13)。 受け取ったオスマンはペラペラとめくりながら、言葉を続ける。 「鏡で覗いた時にな。ヨーカイ共が、こっちを向いたんじゃ」 「はぁ……」 言葉の意味が分からないコルベールに嘆息し、説明を続けた。 「魔法を介して気取られず観察できる筈のこちらの視線を感じて、反応したんじゃよ、 連中は」(*14) 「……単なる偶然では?」 「三十人からが一斉に振り向いてもか?」 「それは――っ!」 絶句するコルベール。 「その上、笑顔で会釈までしてきおった。まったく、どういう連中なのやら」 そこまでしてきたのはごく一部なのだが(*15)、それでも肝が冷えたことは確かだ。 ペラペラと幻想郷縁起をめくっていた手が、ふと止まる。印刷されている文字は 読めないが、イラストの下に見慣れた文字が書き込まれていた。 「キリサメマリサに……ミス・ヴァリエール?」 「ええ。彼女も召喚に成功しまして」 「そりゃよかった」 不幸中の幸いというやつか、というオスマンの言葉は、おそらくこの学院全ての 教師の内心を代弁したものといっても過言ではない。ヴァリエール家という高名な 貴族の息女がこの学院に預けられたのは、魔法に関する能力についてということも、 大きな一因なのだから。 「それで――」 今まで一言も発しなかったシュヴルーズが、引きつったような声を漏らした。 「次の授業はどうすればよいでしょうか」 「……普通でいいんじゃないかの」 「普通……ですか」 「連中は、ここが学舎であることは理解しとるんじゃろ」 コルベールはうなずき、言葉を継いだ。 「それに使い魔としての責は全うすると」 「主人達が静かにしていろという限りは、静かにしているじゃろ」 「はあ……」 まだ要領を得ない表情のシュヴルーズに、オスマンはしたり顔で頷いた。 コンタクト・サーバントによる契約が成されているのだ。実際にはそれほど 心配するほどのこともないのではないか、と(*16)。 「そういえば契約といえば――」 何かを思い出したようにコルベールは、オスマンの手元の本を指さした。 いまだに開かれている霧雨魔理沙のページには、彼女の額に浮かび上がった ルーンが書き写されている。 「このようなルーン、私は見たことがないのですが……」 「……私もないぞ」 シュヴルーズも黙って首を振る。三人とも、教師として長い。数多くの使い魔を 見ているが、このようなルーンを見たことは初めてである。もっとも、このように 奇妙な連中が召喚されたのも初めてのことではあるが。そこに何かしらの関係性が あるのではないだろうか(*17)。 「調べてみます」 「うむ、任せる……が、無理はせんことじゃ」 「は?」 「いや、まだ夜は寒いじゃろ? 酒を飲んで外で寝て、風邪でもひいてないかと思ってな」 ま、そんなヤワなわけでもないか。と笑うオスマンに対し、コルベールの顔が 徐々に引きつっていく。 「寒く……なかったのです、そういえば」 「ふむ。運がよいことじゃな」 「夜を通して暑くもなく寒くもなく、心地の良い風が吹いて、 まるで春の木陰にいるような……」(*18) 「……運がよい、だけでもなさそうじゃな、それは」 三人そろって嘆息した。運や偶然でなければ、この新しい使い魔達の仕業なの だろう。 オスマンが杖を振ると、鏡に何かが映し出された。食堂のようだ。貴族たちと共に テーブルに着く、使い魔の姿が見える。二日酔いのせいか顔色の悪い生徒達に対して、 使い魔となった妖怪たちは実に楽しげな笑みを浮かべていた。 いったいこの妖怪という連中は何者なのだろうか(*19)。 ルイズは気がつくと、アルヴィーズの食堂に座っていた。その直前の記憶は、 急速に近づいてくる地面だった気がする。あれは死んだと思った。走馬燈も走ったし。 でも今は、こうしてちゃんと食堂に座っている。その上左手にはフォーク。 先にはつけ合わせの野菜が刺さり、囓った後まである。全然覚えてないけれど。 そして彼女をこのような目に遭わせた使い魔はというと、彼女の横に座り、 他の使い魔と出来の悪い漫才に興じていた。 「――それで、その速さの秘密はなんです?」 「ん? いつも通りだぜ」 「ふふふ。私の目はごまかせませんよ」 「じゃああれだ。『郷に入っては郷に従え』」 「あなたは、そう簡単に従うような人間ですか?」 「あー、そりゃ気のせいだ。今の私は、ご主人様の命令を忠実に守る使い魔だぜ」 「どこが忠実な使い魔よーっ!」 思わず大声で叫んでしまった。 「うるさいー」 「あたまにひびくって言ったでしょー」 「このぜろのばかがー」 呪詛のような呻きが周囲から返ってきた。どうやら二日酔いは未だに治って ないらしい。食欲もない様子だが、その分、妖怪達が食べている。 「ご主人様、食べないんですか?」 「むしろよく食べれるな、君たちは」 「?」 呆れたような男子生徒の答えに、猫の尻尾を二本持つ使い魔は可愛らしく首を 傾げながら、主人が取り分けた鶏肉にかぶりついた。彼もまた昨日の深酒が 堪えている。彼ら以上にこのヨーカイといわれる連中は酒を飲んでいる筈なのだが、 なんでこんなに普通なんだろう。それに意外とみな、行儀がよい。きちんとナイフと フォークも使っている。昨日の夜の騒ぎ方からすれば信じられないくらいだ。 もっとも中には、鶏を骨ごとバリバリと噛み砕き、主人の顔を引きつらせている 者もいる。見た目が可愛らしいだけに、ギャップが酷い(*20)。 また、野菜だけを少しだけ食べているものもいる。 「食べないの?」 「うん、朝からそんなに食べたら、太っちゃうよ」(*21) 使い魔となった妖精の返答に、複雑な表情を見せる女生徒。年頃の女性として、 やはり体型は気になるところだ。 また別の生徒は、自らの使い魔がメイドに真っ赤な飲み物を持ってこさせる様子を、 気が抜けた風に見ていた。 彼女がその血のように紅いワインを飲む様子を見ながら呟く。 「血は飲まないのか……」 「下手な血よりは美味しいよ」 そういうと何が可笑しいのか、ケタケタと笑う。 「人間って鶏を食べるのに、鶏小屋に入って生きてる鶏に噛みつくの?」 「まさか」 「じゃあ、そういうことっ」 無邪気な様子で盃を一気に空ける。ニコリと笑った口に覗く犬歯は、今し方飲んだ ワインで紅く染まっていた。 また食事とは関係なく、むしろ周囲の人形に興味を示している者達もいる。 「ねぇ、一つ分解してみていい?」(*22) 「やめなさい、高いのよ、あれ」 「大丈夫、ちゃんと元には戻すから」 「……まずは、もっと安いので試して欲しいわ」 また別の主従でも。 「可愛い子達ね。一体貰えないかしら?」(*23) 「やめてくれ、あれは学院の備品で、高いんだぞ」 「そう、残念だわ」 「だったら僕が一つ作ってあげよう」 「あら、あなた、そんなことも出来るの?」 「ふふん。僕は青銅のギーシュ。この二つ名が意味するところは――」 しまった、と思うも後の祭り。二日酔いとも思えぬ勢いで始まった自慢話を 聞き流すアリス。一部そういうのもいるが、おおかたの所、この主人と使い魔達は 良好な関係を築きつつあるようだ。 そんな二年生と使い魔を、一年生と三年生が左右から、教師達が上からちらちらと 窺っている。興味半分、恐怖半分、羨望少々、といったところだろうか。 召喚の儀式でこのような人の姿をした者達が呼び出されたということは、今まで 例がない。しかもみな基本的に、少女、もしくは年頃の女性の姿をしているのだ。 貴族とはいっても年頃の青少年、興味がないと言えば嘘になる。 とはいっても、異形の存在であることには違いない。妙な動きを見せたら即座に 対応できるようにと、杖を握りしめている教師もいる。もっとも大半の者達は 様子見だ。主人となった二年生と普通にやり取りをしている、ということもあるし、 その能力が分からない、ということもある。 先ほど中庭に突如として落ちてきた生徒と使い魔には、一時騒然となったものだ。 本人曰く、落ちてきたわけではなく着陸した、ということだが、フライという魔法の 能力では、あの勢いを制御できるものではない。 だから二年生達を羨む者達もいる。メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、と一般的に 言われているではないか。あの主人となった生徒も、実はすごい力を秘めているの ではないか、という憶測も飛んでいる。 もっとも、実際にその着陸を自らの体で体験した生徒にとっては色々と不満が あるらしい。だから、こんな文句も出る。 「なんでわたしたちと一緒に座ってるのよ」 「まさか床に座らせて、食べさせるわけにもいかないでしょ」 不満気なルイスの声に、キュルケが面白そうに応えた。彼女の使い魔である 妹紅は、我関せずというようにハシバミ草を囓っている。その様子をタバサがじっと 見ているのは、単に退屈だからというわけではないようだが(*24)、この場には 関係ないので割愛。 「なんだ、このすばらしい使い魔に不満でもあるのか?」 「あたりまえでしょ。わたしは、追いつけ、っていったのよ」 「追いつけ、といわれたから、ちゃんとぶち抜いたってのに」 「なんで追いつくだけにしないのよ」 「私はいつだって全力全開だぜ」 「全力全開っていうより、全力全壊ですね」 親指を立てての魔理沙の台詞に、横から射命丸文が口を挟んだ。壊すのが 魔理沙の専売特許でしょう、と何やら懐から紙切れを取り出す。そこに印刷された 写真の中には、窓を壊しつつ外に飛び出す魔理沙の姿があった。 「なるほど、さすがアヤ、上手いこというね」 さらに口を出すマリコルヌ。いつも悪口を言い合う相手の参入は、ルイズにとって 都合が良かった。怒りの捌け口という意味で。 「かぜっぴきは黙ってなさいっ」 「俺は風上のマリコルヌだっ」 そのまま始まった二人の言い合いを余所に、魔理沙と文は顔を見合わせた。 「この世界は日本語というわけじゃないですよね」 「ああ、昨日の禿頭の教師が書いてた文字は、私には読めなかったな」 「それでも会話は通じるし、同音異義語を使った冗句も伝わってます」 「面白いこともあるもんだぜ」 「これなら、いつもの調子で新聞を書いても、ちゃんと訳してもらえそうですね」 「なんだ、ここでも新聞を作るつもりなのか?」 呆れたような魔理沙に、文はあたりまえじゃないですか、と鼻を鳴らした。 「新聞の名前も考えてあります。 その名も文々。※新聞(ぶんぶんまるこめしんぶん)」 「まる……こめ……?」(*25) 「私のご主人様に敬意を表してですね――」 「マルコメじゃなくて、マリコルヌ、だよぅ」 情けなさそうなマリコルヌの声。さすがに聞き流すわけにはいかなかったらしい。 「それを言ったら、私だってブンじゃなくてアヤです。 いいですか、こういうのはちょっとした教養と余裕がなせる言葉遊びで――」 そのまま説明とも説教ともつかない話が始まってしまったが、マリコルヌはそれを どこか嬉しそうに聞いている。堪らないのは口げんかの最中に放り出された格好と なったルイズだ。右腕を振り上げたままの肩を、ポンポンと叩かれた。 振り返ると、神妙な顔をした自らの使い魔。 「早く慣れないと、辛いぞ」 「そうそう。こんな経験、なかなか出来るものじゃないわよ」 キュルケに同調までされてしまい、ルイズは深く溜め息をついた。まるで自分だけ おかしいみたいじゃない。ルイズは他の生徒達とは異なる頭痛に襲われていた。 覚悟を決めて教室に入ったシュヴルーズは、意外と平穏な状況に内心安堵の息を ついた。見るからにつまらなそうな様子で座っている者達(*26)もいるが、騒がれる よりはよっぽど良い。むしろ気になるのは、観察するかのような視線だ。 普通に、という学院長の言葉を思い出しつつ、彼女は毎年恒例となった挨拶を 口にした。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、 こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 今年は特に、可愛らしい使い魔が大勢いますね、という声に、当の妖怪達は微妙な 笑みを浮かべた。確かに外見は可愛らしいが、大半の妖怪はシュヴルーズの何倍も(*27) 生きているのだから。 何はともあれ、こうして授業が始まった。生徒達の体調を考慮してか今回は復習的な 内容らしく、多くの生徒は聞き流している状態だ。むしろ、一部の使い魔達の方が熱心に 授業を聞いている。 シュヴルーズが実際に真鍮を練金してみせると、小さなどよめきが起こった。 「無から小石を生成したり、そこから組成を組み直して真鍮を作ったり…… 面白いわね」 「なるほど、パチュリーの言う通りだ。あの魔力消費量は異常だぜ。少なすぎる」 「実は召喚魔法の応用で、物体の入れ替えを行っているとか? そちらの方がよっぽど納得できるわ」 「重要なのは、それが体系だった魔法として成り立っている事よ」 「研究するための所ではなく、習得するための所、か」 「貴族の立場が圧倒的優位にある理由がよく分かるわ」 「お静かに!」 シュヴルーズの注意に、三人の言葉が止まる。しかし、シュヴルーズの冷や汗は 止まらなかった。観察されていたのは彼女個人ではなく、この学院、そして魔法 そのものだったことがわかったのだから。 もっとも、だからといってどうこうできるわけでもない。彼女はいつも通り授業を進める ことにした。ここでは生徒に練金を試してもらう場面。ならば―― 「ミス・ヴァリエール」 「はい」 「練金を、あなたにやってもらいましょう」 あなたの無駄口の所為よ、などと使い魔にあたっているが、それは違う。彼女が 魔法を上手く使えないということは、シュヴルーズも話にだけは聞いている。先ほどの 三人の前で実践させれば、何か原因のようなものもわかるのではないか、と考えたのだ。 ただ、どのように失敗するか、ということまで詳しく知らなかったのが、迂闊ではあるが。 もっとも、当の使い魔の方は乗り気でないようだ。 「止めた方がいいんじゃないか?」 「なによ!」 「いや、だってなぁ……」 周りを見回すと、生徒達はみな、ルイズに思いとどまるような言葉をかけたり、何か から避難するかのように机の下に潜り込んでいる。つまり、ルイズの魔法は危険なのだ。 そういえば今朝、爆音で飛び起きた直後に魔理沙が見たものは、杖を持ったルイズの 姿だった。そして昨日の夜のコルベールの話。併せて考えれば、何が起きたのか、 そしてこれから何が起きるのかは容易に想像つく。 「朝だって失敗したんだろ?」 「だから何よ! 今度はちゃんと出来るかもしれないじゃない!」 「失敗した原因は分かってるのか?」 「う……」 「それじゃあ失敗するだろ、間違いなく」 「うるさいうるさいうるさい! 何度も練習したんだもん。今度ぐらい成功するわよ!」 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7129.html
前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 02.夢は時空を越えて(*1) 幻想郷は滅亡の危機に瀕していた。 その流れは穏やかで、しかし確実なものだった。 予兆は、博麗神社の脇に湧いた間欠泉が止まったことだった。もっとも、この 間欠泉が湧いた経緯を知っている者は、「またそのうち湧くだろう」程度の認識で あったが。何しろ、鴉のやることだ、何か間違えたか、忘れたかしたのだろう、 というのが大方の見方である。 後で考えれば、もうこの時には地底との通路は塞がってしまっていたのだろうが、 確かめる術はもうない。水風呂に飛び込む羽目になった霧雨魔理沙が風邪を引いて 寝込まなければあるいは状況は違ったかも知れないが、それは言っても詮無きことだ。 魔理沙が寝込んでいる頃、妖怪の山で大宴会が開かれた。鬼の伊吹萃香が 怪訝そうな顔で妖怪の山に現れたのが事の発端で、何でも天界に行けなく なったという。 とうとう閉め出されたか、という憶測はおくびにも出さず、対応に当たった天狗は 『酔いが足りないんじゃないですか?』と答えた。もちろん、鬼が酒を飲む口実を 見逃すはずもなく、大宴会と相成ったのだ。皆酒に酔い、天界に行けなくなった 理由を深く考えた者はいなかった。残念なことに。 外の世界から流れ着くものが増えたのは、その魔理沙の風邪が治った頃だろうか。 大抵の用途はわからないものの、たまに説明書がついているものがあり、徐々に それらで何が出来るのかが分かっていく。 香霖堂にはそれらの品が所狭しと並んだが、あまりに普通に手にはいるので 買う人は皆無だった。 妖怪の山に移転してきた神である八坂神奈子と洩矢諏訪子が、東風谷早苗を 見かけなかったか、と妖怪連中のところを訪ねてきたのも、この頃である。地底世界と 連絡が取れなくなったため使いにやったところ、そのまま行方不明になったというのだ。 もちろん誰も見かけたものはいなかったのだが、それを納得させるのには少し 手間がかかった(*2)。 結局早苗の行方は杳としてわからなかった。まるで幻想郷からいなくなってしまった かのように。 またこの騒ぎの最中に明らかになったこととして、マヨイガがマヨイガでなくなった ことがある。ここを住処としている化け猫である橙がミスティア・ローレライの屋台(*3)で 泣きながら愚痴ったところによると、普通に人間がやってきて、好き勝手にものを持って 帰ってしまうらしい。 主である八雲藍に訴えようにも、最近姿も見せてくれない、ということであった。 その一週間ほど後、いつものように蓬莱山輝夜と喧嘩(*4)をした藤原妹紅が 自分の住処に戻ってくると、虚ろな目をした上白沢慧音が座っていた。 聞けば、寺子屋に子供達が来なくなったらしい。来ても慧音の話を聞かず、 小さな箱(*5)に向かってなにやら一生懸命になっているそうだ。 それは外から流れ込んできたものだというが、それになぜ子供達が熱中するのか、 二人には全く理解できなかった。 子供達だけではない。豊穣の神である秋穣子が人間の畑に行くと、様子が一変 していた。機械が土を耕し、嫌な臭いのする薬が撒かれている。人間は嬉しそうな 顔をして、神様に手間をかけなくてもよくなったと喜んでいた。それが二人の小さな 神にどれだけ残酷な台詞かも気づかずに。 話を聞いた秋静葉は、終焉ってこういうことじゃないのに、と呟いたという。 時期を同じくして、輝夜の部下である鈴仙・優曇華院・イナバも異変に気がついて いた。月の仲間からの声が、何も聞こえなくなったのだ。 また、永遠亭に棲まう妖怪兎の数が減ってきている、という因幡てゐの報告もあった。 話によれば、突然普通の兎に戻ってしまうのだという。 一体何が起きているのか。月の頭脳と呼ばれる八意永琳にも、まったく原因が わからなかった。 幻想郷のさらに奥、広大な庭で有名な白玉楼にも異変が起きていた。幽霊の数が 減ってきているのだ。今までも多少増えたり減ったりすることはあったが、ここまで数が 減ることはなかった。 主である西行寺幽々子に命じられた魂魄妖夢が、幽霊を探して幻想郷中を飛び回る 光景が、この頃に見られている。 そして、香霖堂の店主、森近霖之助がいなくなった。いつものように店は開いた まま、彼の姿だけがどこを探してもなかったのだ。違いがあるとすれば、使い方が 分からなかったはずの機械の画面に、よく分からないものが映し出されていたこと 位であろうか。もっとも、彼がいなくなったことに関係あるかどうかは分からなかったが。 もちろん、手をこまねいて見ている連中ばかりではない。 博麗霊夢や霧雨魔理沙といった面々が原因を探ろうと試みてはいるものの、全て 徒労におわっていた。 霊夢すら、「てゐの幸運を少し分けて欲しいわね」と愚痴るほどの状況である。 そんなある日、霧雨魔理沙と共に夕焼けの中を飛んでいた博麗霊夢は、こんなことを 呟いたという。 「飛べない巫女に、意味はあるのかな……」(*6) 「なんだ突然。そもそも、普通巫女は飛ばないぜ」 「そうなんだけどね……」 憂い顔と溜め息。勘のいい霊夢は何を感じていたのだろうか。 しかし、それが霧雨魔理沙の見た、博麗霊夢の最後の姿だった。 なぜなら翌日、幻想郷から博麗神社が消えたのだから。 最初に気がついたのは魔理沙だった。昨日の霊夢の様子に胸騒ぎを覚えた彼女は、 朝一番に博麗神社に向かったが、その時にはもう神社にたどり着くことが出来なくなって いた。神社に着く前に、結界に行き当たってしまうのだ。 神社が結界の外に移動した? 違う。幻想郷が狭くなっている。 その事実に気がつくのに長い時間はかからなかった。 この様なことができる妖怪は一人しかいない。 いつも共に酒を飲む連中が集まり、この妖怪を探そうとした矢先、当の妖怪の 式である八雲藍が皆の前に現れ、疲れた顔でこう言った。 「世界そのものが幻想郷に入ろうとしている」  と。これが、全ての事件の原因だったのだ。 原因は分かったものの、対応策はなかった。 八雲紫が必死に抵抗していたものの、それでも博麗神社が消えることは防げ なかったのだ。幻想郷そのものが、幻想郷を成す原則に従い、幻想郷を滅ぼそうと している、ということになるのだろうか。 何か手はないのか、と詰め寄る妖怪に、藍は主人の言葉としてこう告げた。 「幻想郷は全てを受け入れるのよ」 紫の口癖とも言える言葉。これに続く句はみな知っていた。 「それはそれは残酷なことですわ」 確かに、残酷なことが始まろうとしていた。妖怪達にとって。 人間である博麗霊夢は生きているだろう。彼女は博霊の巫女である前に人間だ。 普通の、飛べない巫女となり、表の世界の博麗神社の巫女としてこれからの生を 過ごすのだろう。 しかし妖精は? 妖怪は? 神は? 彼女たちを信じるもの、恐れるもの、敬うものは、もう外の世界にはいない。 自分たちの存在する拠り所がなくなっても、存在できるものなのだろうか? 妖怪の山を中心に、物質、非物質を問わずに進入を拒む結界をはり、内部を 新たな妖怪の楽園とする。(*7) 天狗の長から出された案に賛同する妖怪もいれば、拒む妖怪もいた。 例えば同じ天狗でも、射命丸文の様に里に近すぎる妖怪はこの参加を拒んだ。 閉じこもる、ということは変化がない、ということ。変化のない生活を過ごすと いうことは、果たして生きているといえるのだろうか。 何より彼女たちは、今の幻想郷の在り方に適応しすぎてしまっていたのだ。 また、その妖怪の山の神となった筈の八坂神奈子と洩矢諏訪子も、否定的な 見解を示していた。理由を問われると神奈子は、外の世界から幻想郷に逃げ込んだ 理由を挙げた。曰く、東風谷の一族に信仰されるだけでは駄目だったのよ、と。 そんな妖怪達の前に八雲紫が現れた。その姿からは普段の余裕がまったく 感じられず、妖怪たちは二重の意味でショックを受けた(*8)。それだけ力を消耗 している、ということなのだろう。 その姿にみなが驚くより早く、彼女はとんでもない事を提案してきた。 別世界で、新しい幻想郷を作らないか、というのである。 その世界は、外の世界のように科学は発達しておらず、魔法が全盛で、人間達は みな得体の知れない種族を盲目的に恐れている。そこで魔法使いの見習い達が、 使い魔を召喚する儀式を行っているという。その儀式に便乗すれば、今の紫の力でも 妖怪達を転送することができるらしい。 使い魔をしつつその世界のことを覚え、召喚した人間が寿命で死んだら正々堂々、 世界の片隅にこっそりと幻想郷を作ろう、というのだ。人間より遙かに長い刻を 生きる妖怪達ならではの方法である。 召喚の儀式を行っているのはその世界の特権階級の子供達であり、恩を売って おいて損はないだろう。(*9) この案に賛成する妖怪もいれば、否定的な妖怪もいた。 幻想郷に入り浸る鬼である伊吹萃香などは、大笑いしながら賛同の意を表した。 こっそり、正々堂々と、というところがツボにはまったらしい。 また自称最強の妖怪である四季のフラワーマスター、風見幽香は、そろそろ花壇の 世話でもしながら余生を過ごすのもいいわね、と嘯いた。無論、誰も突っ込まなかったが。(*10) 否定的な妖怪の代表は吸血鬼であるレミリア・スカーレットだった。人間の 使い魔になるくらいだったら消滅した方がマシ、とはいかにも誇り高き吸血鬼である。 しかし翌日、召喚儀式割り込みの場に現れたレミリアは、楽しそうに参加する旨を 伝えた。 「要は、私に相応しいマスターとなるように人間を調教するってことね」 とは、その時の言葉である。片手には、十六夜咲夜から贈られたという紅い表紙の 本を持っていたが、それが原因らしいことは想像に難くない。(*11) しかし、当の十六夜咲夜はその場に姿を現さなかった。レミリアは何も 言わなかったが、同僚である紅美鈴によれば、レミリア以外の主人に仕えることを 良しとせず、十六夜咲夜の名を返上し、いつの間にかいなくなっていたらしい。 立つ鳥跡を濁さず。最後まで完璧で瀟洒なメイドであった。 他に姿を現さなかった者として、二体の人形があげられる。正確には、人形から 厄神になった者と、人形が妖怪となった者だ。 厄を溜め込む流し雛の鍵山雛は、近くに住む河童の河城にとりから話を聞いた後、 寂しげに笑いこう言ったという。私の溜め込む厄は周りの人間を不幸にするから、と。 もう一体は、鈴蘭畑に住むメディスン・メランコリーである。知り合いのよしみで 話をしに行った八意永琳が、ずいぶんと顔色を悪くして帰ってきた。幻想郷の中で 生まれた彼女にとって、幻想郷が存在しない状況というものが理解できなかった ようだ。毒をまき散らし、激しく抵抗されたらしい。 この話を聞いた人形使いであるアリス・マーガトロイドは、ひどく残念そうな顔を したという。 一方、儀式には参加しないが姿を現した人間がいる。稗田阿求だ。彼女はその 小さな体で持てるだけの幻想郷縁起を抱えてくると、端から妖怪に配って回った。 妖怪がいなくなるのに、書だけあっても仕方がない、という。 「本当は皆さんにご一緒したいのですけど、この体ですから」 彼女の能力は非常に特殊だ。一度見たものは忘れない代わりに、寿命が極端に 短い(*12)。幻想郷が幻想郷でなくなれば、ちょっと記憶力の良い、ただの人間に なるのだろうか。 驚いたことに、特に声をかけられなかった妖精といわれる者達も、この儀式に 参加した。例えば氷の妖精であるチルノはいつも一緒にいる大妖精と共に、 どこかで眠り込んでいたレティ・ホワイトロックを半ば氷漬けにして運んできた。 この世界のどこにも春を感じ取れなくなったリリーホワイトもいる。 このままでは、悪戯する相手がいなくなることに気がついた光の三妖精も、 参加していた。 他に名もなき妖精達もいる。湖の妖精。花を抱えた妖精。メイド服を着ている 妖精は、紅魔館で働いていた者達か。彼女らを見て、元図書館司書の小悪魔は 次のように評した。 「まるで、沈没船から逃げ出すネズミのようですね」 「本能よね。この世界はもう、終わりよ。彼女たちにとっても、私たちにとっても」 それに対し、元図書館館長であったパチュリー・ノーレッジはこう呟いたという。 片手にはいつものように魔導書、もう片手には喘息の薬が入った袋を下げている。 他の妖怪もみな、自分の手持ちの品を持ってきていた。酒を抱えた連中も数多く いる。どうもこれから行く先は日本酒のような酒は存在しないようだ。ならば持って 行かなければ、と考えたらしい。 もちろん、自分たちの愛用の道具を抱えている連中もいる。 「さて、新しい世界への出発に相応しい演奏は」 騒霊三姉妹が各自の楽器を手も触れずに構えたところで、突然中空に穴が空き、 二人組が現れた。 「幻想郷に別れを告げなさい。それが幻想郷であなた達ができる、最後の善行よ」 「映姫様、それはちょっと関係ないんじゃ……」 「大ありよ。未練を持たない、ということは重要なことです」 妖怪にも妖怪以外にも敬遠される、地獄の二人組。閻魔の四季映姫・ヤマザナドゥと 死神の小野塚小町であった。 もっとも縁のある存在である阿求が声をかける。 「お二人も行くのですか?」 「ええ。幻想郷がなくなるので、私の職もなくなってしまいましたから」(*13) 幻想郷がなくなる。その言葉に、みな俯いた。 心のどこかでは思っていたのだ。これもまた紫の悪巧みで、実は何の問題もないの ではないか、と。 しかし閻魔が嘘をつくことはあり得ない。やはり幻想郷は消えるのだ。 阿求は最後の二冊を映姫と小町に渡し、ペコリとお辞儀をすると、皆さん、お達者で、 と挨拶した。 「本当はお見送りしたいんですけど……ごめんなさい」 そういうと踵を返し、歩き始めた。その後ろ姿はまるで泣いているようで―― いや、実際に泣いているのだろう。それが旅立ちの場に涙を見せたくないという 心遣いだ、ということくらいは妖怪といえども理解はしている。……一部を除いて。 重苦しい空気の中、突然声があがった。 「しつもーん。ご主人様って、食べていい人類?」 「食べるな!」 突っ込みの弾幕が黒い球体に吸い込まれ、悲鳴が上がる。 「うー、ほんの冗談なのに」 「あんたが言うと、冗談に聞こえないの!」 「そーなのかー」 宵闇の妖怪ルーミアと、蛍の妖怪リグル・ナイトバグのやり取りを聞きながら、 他の妖怪達は感謝していた。 暗いのは似合わない。優雅に、冗談交じりで行こうじゃないか。いつものように。 最後に、妖怪同士での取り決めが発表された。 壱.本気で力を使って目立つことは止めよう 弐.人を食べるのも禁止 参.血はトマトジュースで我慢しよう 四.人の精を吸うのはほどほどに(*14) 五.人間をからかうのはお手柔らか 参.をみたフランドール・スカーレットは渋い顔をしたが仕方がない。 それよりも彼女には気になることがあった。 「ねえ、魔理沙は?」 「霧雨魔理沙なら、向こうの丘からこちらを視ているようです」 答えたのは千里先まで見通す程度の能力を持つ、天狗の犬走椛。 「彼女らしくないですねぇ」 「あいつも人間だ、ということか」 「感傷ねえ。らしくもない」 みんなしてそんなことをいう。しかし口調には寂しさがあふれていた。なにしろ、 妖怪たちの『遊び』(*15)に付き合ってくれた数少ない人間なのだから。 「さて、そろそろ始めましょうか」 紫がそういうと、不意に一人の妖精の前に輝く鏡のようなものが現れた。恐る恐る 伸ばされた指先が触れると、吸い込まれるように消えていく。それを皮切りに、次々と 鏡のような何かが現れた。 「それではまた向こうで」 「元気でねー。私も行くけど」 口々に挨拶を交わし、旅立っていく。 そして最後に残るのは、八雲紫だけとなった。 「みんな行っちまったな」 そんな紫の後ろから声がかかる。振り向くとそこには、白と黒を基調とした服を 身にまとい、箒を担いだ少女が立っていた。人間の魔法使い、霧雨魔理沙である。 「喪服? 縁起が悪いわね」 「いつもの服だろうが」 いつも通りの軽口を交わしながらも、魔理沙は帽子を深く被り顔を隠したまま だった。 そして紫の後ろにも、銀色の鏡が形成される。 「これであんたが行ってしまえば、幻想郷は終わり、ってわけだ」 しかしその言葉に紫はいつもの妖しげな笑みを浮かべ、自らが生み出した空間の 狭間に腰掛けた。 「さあ、どうしましょうかしら」 「へぇ? いまさら怖じ気づいたっていうのか?」 魔理沙の驚いてみせる演技に、紫も大げさに返答する。 「そうなのよ。使い魔の契約に口づけが必要なのよね」 「はは、ファーストキッスがいまだに取ってあるってか? 紫様らしくもない」 「ふふ、心はいつまでも、恋する乙女のままよ」 口元に浮かぶ笑み。紫も口元に笑みを浮かべたまま、その手に持った傘の先を 魔理沙に向けた。 「それより、あなたは何故まだここにいるの?」 「なに?」 傘の先はそのままでただ口元の笑みを消し、紫は言葉を続ける。 「守矢の風祝は、外の世界に未練があったから消えた。 香霖堂の店主は、外の世界の品物に心を奪われすぎたために消えた。 博麗の巫女は、結界を保つという役目がなくなったから消えた」 その言葉に魔理沙は、帽子のつばを引き下げた。 何かを紫から隠すかのように。 「あなたがまだここにいる理由は、なんなのかしら」 「……私は」 くぐもった魔理沙の声。しかしその言葉は紫の耳にはっきりと届いた。 「……普通の魔法使いだからな」 果たしてその言葉にどれだけの意味が込められていたのか。 しかし紫はにこりと笑う(*16)と、手に持った傘をクルリと回し、先ほどとは逆に 柄の方を魔理沙に向かって差し出した。 一見ごく普通の日傘。それを見た魔理沙は、初めて顔をあげた。 「くれるのか?」 「あげないわよ。適切なものに渡してちょうだい」 「適切な……ねぇ。まぁ、善処するぜ」 受け取る魔理沙の目は赤く充血していた。頬には涙の跡。しかしその瞳は、 何かを決意したかのように輝いていた。 バサリ、と突然傘が開く。魔理沙の視界を一瞬閉ざし、その僅かな間に八雲紫は どこかへと消え去っていた。 「ちぇっ、挨拶もなしかよ」 しかし異世界へと旅立ったわけではない。なぜなら――魔理沙の目の前に銀色の 鏡が浮いているのだから。 一歩、二歩と後ずさる。振り向くと――その先に生じる銀色の鏡。 「なるほど。だけどな」 魔理沙は銀色の鏡に背を向けると、箒にまたがった。片手には託された傘。 「そんなに簡単に召喚されてやるほど、霧雨魔理沙様は甘くないぜ!」 その言葉と共に空へ向かって飛び出した。 正面に開かれた銀色の鏡を擦るかのように躱し、速度を上げる。 「私を召喚しようっていうんだ。根性ぐらいは見せて貰わないとな!」 こうして鬼ごっこが始まったのであった。 霧雨魔理沙がハルケギニアに姿を現すには、今しばらくの時間が必要なようである。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方夢時空」のBGM名より借用 *2 もちろん弾幕ごっこ *3 ここの八目鰻の蒲焼きは絶品 *4 多分殺し合い *5 小さな画面と複数のボタンが付いている *6 飛べない翼には意味があるらしい *7 それで抵抗できるかは不明 *8 東方妖々夢に出てきた時くらい *9 緑色の文庫本を片手に説得したという噂 *10 妖怪も殴られれば痛い *11 「見敵必殺」とかそんな感じとか *12 削除機能のないパソコンに動画をダウンロードしまくるようなもの。空き領域が足りなくてOSが動かなくなる *13 他の職が与えられなかったのは、普段の成績が問題だったのか? *14 性的な意味が含まれているかは不明 *15 幻想郷の妖怪にとって、異変を起こして人間に弾幕ごっこで退治されるのはとても重要な遊び *16 とても希有なこと 魔理沙が幻想郷に旅立つのを見届け、空間の隙間から紫が姿を現した。 「やっぱり正真正銘の人間がいいわよね、『彼女』には。そう思いませんこと?」 手元の本をめくる。が、数ページも進まぬうちに本自体が透明になり消えていく。 本に書かれている『事実』が変更されたため、本自体が存在できなくなったのだ。 「それでは、ごきげんよう」 彼女は『こちら』を見やりいつもの笑みを浮かべると、自分に残された最後の力を 振るった。自分自身の、人と妖の境界を弄ったのだ。 こうして大妖怪、八雲紫も消え去り、幻想郷もこの世から消え去ったのであった。 幻想が消え、世界の科学は急速に進歩する。月旅行や超高速鉄道―― この世界の中で、名前も、記憶も、能力の大半も失った、十六夜咲夜と八雲紫は 幾ばくかの時を経て再び出会うのだった。 宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンとして。 しかしそれはまた、それは別の物語である。 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7134.html
前ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 「あれが主人のためを想って、ですって?」 ようやく衝撃から立ち直ったのか、慧音を召喚した女生徒が声を上げる。気の強そうな 顔立ちであり、性格もその通りのようだ。 慧音はその睨み付けるような厳しい眼差しを、正面から受け止めた。 「恋愛沙汰から身代を潰した例など、歴史を見れば枚挙に遑がない」 「それがあの使い魔のやりようと、どういう関係があるっていうの?」 「そういう悪い癖は、若いうちから矯正しておいた方がよい、ということだ」 「大きなお世話よっ」 より一層肩を怒らせる少女。それが慧音には虚勢だと分かっていた。アリスの行動 自体に怒っている、ということもあるが、自分の生活に踏み込まれるのが不安なのだ。 もちろん、その気持ちも分かる。幻想郷において、妖怪と共存している事を理解しつつも、 妖怪を排斥しようとする人間達がいたように。 それはある意味自然な感情なのだ。 「別に私は、貴女の行動を制限するつもりはない」 「あたりまえよ」 「だが……」 そういいながら、じっと目を細める。何かを見通そうかというように。 「……貴女は嫡子だ。この学院を卒業した後は自分の領土に戻り、 婿を取るまで 領民を指導していくのではないか?」 「……それが何の関係があるっていうのかしら?」 「人々の上に立つ者ならば、自分の一挙手一投足に責任が生じるということを 理解した方がよい」 「だから、大きなお世話よ」 その語句とは裏腹に、口調は力のないものだった。それは逆を返せば、慧音の 言葉の意味を理解しており、普段もその事を考えることがある、ということだ。 とりあえずはこんなところか、と慧音は視線を外した。時間はたっぷりある。早急に 事を運ぼうとすることは苦手なのだ。慧音も半分は妖怪なのだから。 一方、そんな小難しいことを全く考えていない者もいる。 「なんだ。もう終わっちゃったの? ちぇっ」 「不穏なことを言うな!」 その男子生徒は自分の使い魔となった妖精に向かって叫んでいた。周りの友人達の 同情を帯びた視線と、使い魔達の心配そうな視線が集まるのにも、もう慣れた。 最初は喜んでいた。彼が呼び出したチルノという名の使い魔は、自身のことを 氷の妖精だといったのだ。自分の属性にぴったりじゃないか。 しかしどうにもこの妖精、愚かだ。いや、馬鹿と言ってもいいかもしれない。 「あたいだったら、もっとすごいのをどっかーんとやっちゃうのに」 「……自分の主人に、何をするつもりなんだ、お前は」 「あ、そっか」 そのあっけらかんとした妖精の言い方に、彼は大きく溜め息をつく。万事がこの 有様だ。悪意はなさそうなので、怒るに怒れない。しかし困ったことに、馬鹿だ。 本人は、『あたいってば最強なんだから!』などと大言壮語を吐いているが、それ 自体がもう、馬鹿の証拠だ。いや、もちろん最強だったら嬉しい。だけど、こんな 小さな子供っぽい生き物が最強なわけがないじゃないか。 「あに?」 「いや、なんでもない」 チルノは気にした風もなく、自分の食事を再開した。両手で握ったフォークを、 えいやとばかりに振り下ろし野菜に突き立てる。不作法ではあるが、この体の 大きさとフォークの大きさだ。とても微笑ましい。 「にがっ! なにこれ!」 突然顔を歪め、叫びをあげるチルノ。どうやらハシバミ草をかじったらしい。苦みが 強く、あまり好む人はいない。特にお子様には、厳しい食べ物だろう。 「こんなの、こうだ!」 憎々しげに見つめたかと思うと、チルノは両手でハシバミ草を握りしめた。 「えっ?」 思わず声が漏れた。彼の予想に反し、ハシバミ草は砕けたのだ。まるで凍って いたかのように。 恐る恐る指を伸ばし、ハシバミ草だったものの破片をつまみ上げた。 冷たい。本当に凍っている。 彼も氷の魔法を使えるから、その異常さはよく分かる。氷の魔法とは主に、 空気中の水分を凝固させる魔法だ。対象が生物になると、とたんに難易度が上がる。 魔法に対する抵抗力があるから、らしい。 それをこの妖精は、あの一瞬でこのハシバミ草だけを凍結させたのだ。 しかも周りの空気には一切影響を与えずに。 「すごいな……」 「ふふん。あたいにかかれば、これくらい簡単よ」 そういうなり、自分のサラダに手を向け、上から手のひらで押しつぶす。 いつの 間に凍っていたのか、パキパキと音を立て砕けていく。 思わず感嘆の声が漏れた。なるほど、これは確かに自ら最強と言うだけのことは あるかもしれない。ということはこんな使い魔を呼び出した自分もまた―― 「ほら、こんな大きいのだって」 「……ちょっと待て!」 慌てて止めるがもう遅い。ちょっと自分の考え(*22)に囚われていた隙に、色々と 凍っていた。彼の分のサラダも、熱かったはずのスープも、メインの料理も。魚の ムニエルをフォークの先でつつくが、カチカチという堅い感触しか返ってこない。 持ち上げようとしたら、皿ごとくっついてきた。実に見事だ。見事なんだが…… 「おい」 「あによ」 「僕は何を食べればいいんだ?」 「…………あ」 彼は溜め息をつきつつ、チルノの頬を痛くない程度に抓り上げた。きゅーっと(*23)。 「にゃにぃをしゅるーっ」 「それはこっちの台詞だ」 彼はため息を吐きつつ言葉を吐くと、さらにチルノの頬をみょーんと引っ張って みた。その妖精の頬は冷たく、そして柔らかかった。 「それで、ケロちゃんは何が出来るの?」 目を輝かせての問いかけに、諏訪子はげっそりした顔で自らの主人となった 女子生徒に向き直った。 「なんでケロちゃんなの?」 「かわいいから」 真顔で答えられてしまい、途方に暮れる。曰く、帽子が可愛いとか。ちっちゃくて 可愛いとか。この女生徒も決して大きい方じゃないのに。神奈子が本気で羨ましがって いるのが視界の端にちらちらするのが、また腹立たしい。こんな事なら、蛙の化身だ、 などと説明を適当に済ませようとするんじゃなかった。 まあ、親交は得られてるけどね、と気を取り直し、主人となった人間の質問を考える。 何が出来るか。改めて問われると実に難しい質問だ(*24)。どの程度まで、何を伝えれば いいのだろう。 腕を組んで考え込んだ諏訪子をしばらく眺めていた女生徒は、ひょいと諏訪子の 被っている帽子を取り上げた。そして諏訪子と帽子を交互に見つめる。 「なに?」 「帽子を取ったら、本性を現すのかなーって」 「……本性って、一体何を期待してるの?」 「んー、おおきなおおきな蛙?」 こーんなの、と両手を大げさに広げてみせた。周りの人間があからさまに怪訝そうな 顔をする。中には会話が聞こえたのか、諏訪子から椅子を遠ざけようとする女生徒も いた。ちょっと悲しい。ちょっとだけ。 「えー、大きな蛙でも、ケロちゃんなら絶対に可愛いと思うんだけどなぁ」 自分の主人となった少女は、そう言ってはくれている。しかし、自分の本当の姿を 知って、なお同じ態度でいてくれるのだろうか。祟り神のミシャグジをとりまとめ、 恐れと畏れによって諏訪地方を治めていた土着神。それが洩矢諏訪子だというのに。 「それで、ケロちゃんは何ができるの?」 話が最初に戻った。視線は斜め向こう、氷の妖精が起こした騒ぎに向いている。 あれはわかりやすい力だ。もちろん、妖精とはそういう生き物なのだから、当然 なのだが。自分とは違う。何しろ自分は神なのだから。 「……何が出来て欲しい?」 ちょっと卑怯だが逆に聞き返してみた。自分の主人となった人間が、どれほど 自分の力(*25)に期待をしているのか興味があったのだ。 しかし。 「別に、何も出来なくてもいいよ」 「あれ?」(*26) 首を傾げる諏訪子から視線を外すと、その女子生徒は口を尖らせ呟いた。 「……私、魔法が得意じゃないって、自分でも分かってるし」 「それとどういう関係があるの?」 彼女の説明によればこの世界では、メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、と言われて いるらしい。その話に従えば、魔法が得意ではない彼女には、大した使い魔はこないの だろう、ということになる。 普通ならばそうなのだろうが、妖怪達についてはどうだろうか。無理矢理に紫が 儀式に割り込んだのだ。果たしてその法則に従っているかどうか。もちろん、 従っていようがいまいが、諏訪子は諏訪子だ。となれば、その話を最大限活用 すべきだろう。 諏訪子は女生徒の手から帽子を取り返すと頭に被り、不敵な笑みを浮かべた。 「そう自分を卑下するもんじゃないよ」 「あはは、いいよいいよ。気を使ってくれなくても」 そういって笑みを浮かべる。痛々しげな笑みを。神の主人となった者に、そして神の 信者(*27)にそんな表情をさせてよいものか。もちろん、良いわけがない。 ならば、やることは決まっている。 「やる気になったようね」 「おや、神奈子じゃない」 「何よ、白々しい」 振り返るとそこには神奈子が、その後ろには、豊穣と終焉を司る姉妹がいる。 そして彼女たちの主人達も、どことなく納得がいかないという表情で付き添っていた。 特にこの二人の小さな神々は、理解されるのは難しいだろう。その能力はある意味、 人間にとってもっとも重要なものだが、それを妖精のやるようにこの場で一瞬に見せて やるというのは酷な話だ。 「ねぇ、何をするつもりなの?」 怪訝そうな顔で問いかけてくる自分の主人に、諏訪子は片目をつぶって応じた。 「このままだと、鬼の酒しか飲めなくなりそうだしね」 「うーん、わけわかんないよ」 頭を抱える諏訪子の主人。その上を、別の人物の言葉が飛び越えた。 「なるほど、それは面白そうですね」 「さすが天狗、酒の話になると早いね~」 「もちろん、酒の話じゃなくても速い(*28)んですけどね」 言わずとしれた射命丸文と、その脇には疲れた笑みを浮かべるシエスタの姿が あった。先程から延々と取材と称して引きずり回されていたようだ。 うきうき、といってもいいような様子の文の機先を制するように、神奈子が釘を刺した。 「でも取材は禁止だよ」 「……まぁ仕方ないですね(*29)。あまりに派手すぎるでしょう。 本当に出来るのならば、ですけど」 「おや、天狗が神々の力を疑うのかえ?」 「滅相もない。でももう時間がありませんよ」 「十分だよ。今から日没まで使えるなら、ね」 あまりにも端から聞いていると要領の得ない会話。その会話に口を挟んだのは、 神奈子の主人となった男子生徒だった。 「しかし、午後の授業が」 「気にしない気にしない」 「そんなわけには行かないわよ」 「もう、お堅いな、ご主人様ってば」 穣子とその主人のやり取りを眺めていた文は、今思い出したというように声を上げた。 「そういえばミス・ヴァリエールでしたか、あの霧雨魔理沙の主人の。 彼女も使い魔と共に出かけたようですね」 「なら問題ないわね」 えー、あんなのと一緒にしないでよ、などと抗議の声をあげながらも、四人の貴族は 四人の神々に引きずられていった。後に残るのは、二人だけ。 「あの……」 「はい、なんですか?」 シエスタは文に恐る恐る問いかけた。 「一体何が起きるんですか?」 「そうですねー」 一瞬考え込んだ文は、いいことを思いついたばかりに手を叩いてみせた。 「そうだ、シエスタさんも来るといい」 「え?」 「取材に付き合ってくれたお礼ですよ」 「はあ……」 「じゃあ、私は別の取材(*30)があるんで、これで」 一体何がどうお礼なのか、ということを聞く間も与えず、挨拶もそこそこにいなくなる文。 あとには、何が何だかわからないシエスタだけが残された。 一瞬、行かずにおこうかとも考えたが、後のことを思ったシエスタは、深くため息を吐いた。 昼食の片付けを終え、雑用をこなしていると、時間は終業時刻になっていた。 「南、でしたよね」 具体的な場所は分からないが、門番の人にでも聞いてみれば何か知っているだろう。 同僚に断りを入れ、まずは門に向かう。南の門の外は確か街道がある他は、特に何も なかったはずだ。一体何がどうなっているというのだろう。 しかし門まで近づいても、特に何もない。知り合いの門番も、退屈げにあくびをしながら 突っ立っている。どうしよう、と途方に暮れたシエスタだったが、その門番が、シエスタの 姿を見かけると声をかけてきた。 「お、シエスタ、人が待ってっぞ」 そして声を潜め、ついでに眉も顰めて問いかけた。知り合いか、と。名前は、と尋ねると、 門番はさらに眉を顰めた。テングの使い、と名乗ったという。 シエスタは溜め息を吐き ながら答えた。知り合いです、と。 「で、その人はどちらにいるんですか?」 「ほら、そこにいるじゃないか」 門番の差す方を見ると、見慣れない服を纏った少女が門の支柱に寄りかかるように 立っていた(*31)。この人も、呼び出された使い魔だったろうか。 シエスタが近づくと、声をかけるより早く身を起こし、じゃあ行きましょう、と踵を返した(*32)。 慌てて追い掛け、横に並ぶ。 「あの……」 「はい?」 シエスタの呼び声に振り返り、人の良さそうな笑みを浮かべる。 「あなたも、ヨーカイなんですか?」 「ええ、そうよ」 「……普通の人間みたいです」(*33) 「あはは、よくそう言われるわ」 まぁ、妖怪にも色々といるから、とその女性は照れくさそうに頭を掻いた。 その紅美鈴(ホンメイリン)という名前の妖怪は、使い魔として召喚される前は門番を やっていたという。色々とそつのない力が、当時の主人に買われたそうだ。 「それで、一体どこにいくんですか?」 二人は門を出て、さらに道を外れて歩いていた。この先には特に何もあるようには 見えない。後ろを振り向くと、門番が二人を気にした様子もなくあくびをしているのが 見える。 「そうね、ちょっと目を閉じててくれる?」 「え?」 「三つ数える間だけ。ね?」 美鈴はそういうとシエスタの瞼の上に手のひらをかぶせてきた。慌てて目を閉じる。 次いで、肩にも手をかけてくれたので、歩くのに支障はない。 「一つ、二つ……」 数を数えながら歩を進める。 「三つ。はい、いいわよ」 言われて目を開ける。そこに広がっていた風景は、先程とは一転していた。 それは一言で言えば、金色の絨毯。つまり、実りの季節を迎えた畑であった。 もちろんそれ自体は、シエスタも見たことはある。しかし今は春。それにここは 昨日まで、何もない荒れ地だったはずだ。 それに大体、先程まで――美鈴に言われて目を閉じるまでは何も無かった筈だ。 幻でも見ているのだろうか? しかし、風が金色の穂を揺らす音までも聞こえてくる。 香ばしいような、どこか郷愁を誘われるような匂いは、この作物のものだろうか? 僅か三歩進んだだけで、どこまで来てしまったのだろう。シエスタは恐る恐る 後ろを振り返った。が、そこには普通に学院の建物が見える。門の脇に立っている 門番も、何事もないようにあくびをしている。 「あれ? なんで分かっちゃったの?」 その声に振り返ると、そこには小さな姿があった。妖精が三人、不満気に シエスタを見上げている。その様子に、美鈴が口を挟んだ。 「だから、あなたたちの力は私には効かないって、何度言ったらわかるの?」(*34) もー、反則よ、などという美鈴と妖精達のやり取りだが、シエスタはむしろ目の前の 風景自体の方が反則だと思った。昼間に漏れ聞いた会話が事実なら、あれから 今までの時間に、実らせてしまったのだろう。それがあり得るかどうか、ではなく、 起きてしまった事実なのだ。 ただ風に揺れているそれは、シエスタが見慣れているものと微妙に違う。 麦だったら、もっと天を向いて穂が立っているはずだが、これは重そうに頭を 垂れている。もしかして妖怪達の食べ物なのだろうか。だから速く育っただろうか。 「そこのあなた!」 不意にシエスタに声がかけられた。 畑に気を取られていたが、その手前には昼に出会った四組の貴族と使い魔がいた。 この声は、その貴族の一人からかけられたものだ。ずいぶんと必死な形相だ、と シエスタは他人事のように思った。 「あなたには、これは何が……どんな風にどうなってる様に見えるの?」 なんともよく分からない質問だが、シエスタは言われた通り、目の前の風景を答えた。 「はい。何か、麦のような作物が、実っているように見えます」 「やっぱり……そうなのね……」 そのまま崩れ落ちるように膝をつく女生徒。一方その横で胸を張る、人間の子供の ような使い魔。その後ろではよく似た使い魔が、自分の主人であろう男子生徒に、 ほら幻覚じゃないでしょ、と話しかけていた。 「魔法で幻覚でも見せられてる、って方がまだ納得できるのに」 「だから、本当に穣ってるのよ。さっき自分でも触ったでしょ」 「まったくだ。お陰で靴が泥まみれになってしまったじゃないか」 どうやら、目の前の風景が幻覚かどうか、ということらしい。先程のシエスタへの 問いかけも、自分以外の人間に同じ風景が見えているかを確認したかったようだ。 「だがこの作物は見たことがない」 別の男子生徒の問いに、この中で一番威厳のある使い魔が答えた。 「これは米よ。ここ(*35)にはないのかもしれないね」 そういうと、意味ありげにシエスタに視線を向ける。 「そんな名前の食べ物、聞いたことはない?」 「いえ……どこかで聞いた気もするんですが……」 「曾祖父に関係することよ」 「……そういえば曾祖父が亡くなる直前に、コメが食べたかった、と 何度も言っていたとか聞いたような気がします」 それが何なのを確認できないくらいに、曾祖父が老いたころの話だった。シエスタも、 他の話のついでに聞いただけのこと。だから別に感慨とかはない。 「それが、これなんですか」 それにこれだけを見ても、まったく美味しそうには見えない。そもそも、どうやって 食べるものなのかも検討がつかない。これも小麦と同じように、臼でひいたりするの だろうか? 「そうよ!」 突然、膝をついていた女生徒が立ち上がり叫んだ。そしてピシリ、と、またあくびを している門番を指差す。 「なんであの門番は平然としてるのよ! そうよそうよ。きっと私達だけ幻覚を見てるんだわ」 「……いい加減、現実を受け入れたら?」 先程から、ケロちゃんすごーい、と、自分の使い魔(*36)に抱きついていた女生徒が、 溜め息をつきつつ叫んだ女生徒の肩を叩いた。 「よくわかんないけどすごい力を持ってることが分かった。これでいいじゃない」 「あなた、よくもそう簡単に割り切れるわね」 「割り切ってないよー。 結局、何がどうなって、こういう状況になってるのか、さっぱりわかんないし」 とはいえ、その顔はどこか嬉しそうだ。 「でも、こんなすごいことができるのが知れたら、大騒ぎになっちゃうかな?」 「大丈夫よ。妖精に誤魔化すように頼んであるし、結界も張ったから。 普通の人間には、何も無いように見えるのよ」 「へぇ、よくわかんないけど、ケロちゃんすごいねぇ」 「あぁ、もう、それはいいから。それに……」 「それに?」 諏訪子は意味ありげに神奈子を見た。神奈子もそれにうなずき返す。 「普通じゃない人には見えちゃうから。ねぇ?」 「そのようね」 そういうと二人の神々は、中空に対して手を振った。 学院長室で遠見の鏡を覗いていた二人は、この神奈子と諏訪子の様子に引きつった 笑いを漏らすことしかできなかった。 「やれやれ、とんでもないの」 「あれも、この使い魔のルーンが関係しているんでしょうか?」 コルベールの言葉に、オスマンは頭を振った。 「ここにはキリサメマリサはおらん」 「しかし、仲間のようですし……」 「それにその本に書かれていたじゃろ。全ての魔具を使いこなす、と。 あれは私が知ってるどんなものとも違うわい」 そういうと視線を遠見の鏡に移した。未だ、コメの畑を映している。そして手元の 本に視線を落とす。コルベールが先程持ち込んだ本だ。 「神の頭脳、ミョズニトニルン。伝説の使い魔。 確かに本当だとしたらすごいことじゃがな」 「しかし、ミョズニトニルンが関係ないとすると、あれだけのことをやってしまう ヨーカイとは一体……」 その後二人の会話は、王宮に報告する、しない、といった内容に移っていった。 ヨーカイが大量に呼び出されたと言うことは、もはや衆目の事実だ。何も連絡しない のは不自然だろう。ヨーカイについてだけ、報告のみ行おう、と話がまとまったところで、 不意にコルベールが声を上げた。 「誰ですかっ!」 しかし応えはなく、ただ一度、バサリと羽音が聞こえたのみ。窓の外を見ると、一枚の 黒い羽根が風に舞っていた。 その羽音と羽根の主である文は、十分に学院長室から距離を取ると懐からメモ帳と ペンを取り出す。 「なるほど、伝説ですか。これは特大スクープの予感ですね」 要追加調査、と書きこみつつ、文はにんまりと笑うのであった。 夜。シエスタは疲れた顔を隠そうともせず、蒸し風呂へと続く通路を歩いていた。 ふと立ち止まり、服の臭いを嗅ぐと、眉をしかめる。そして溜め息をついた。先程まで 洗っていた鍋の臭いが移ってしまった気がする。 全てはあの、キリサメマリサの所為だ。まさか貸した鍋が、こんな臭い付きで返って くるなんて。何とか臭いを落とそうと努力はしたものの、逆に自分の方に臭いが移った 気がする。 明日マルトーさんになんて言い訳しよう。そう考えながらサウナの入り口にたどり着いた シエスタは、中の様子に怪訝な顔になった。 なぜこんなに騒がしいのだろう。 脱衣所を覗き込むと、色とりどりの服が辺りに脱ぎ散らかされている。服のサイズも 様々だ。そのいくつかに見覚えがあることを思い出し、シエスタは後ろを向いてそのまま 帰ろうかと思った。が、数秒の逡巡の後、のろのろと脱衣所に入りメイド服を脱ぎ捨てる。 さすがにこの臭いを部屋にまで持って帰るわけにもいかない。 素肌にタオルを巻き付け、意を決して蒸し風呂へと続くドアを開けた。 ムアッとする蒸気と共に、歓声のよう笑い声が響く。 「えー、しんじられなーい」 「月が一つだけなんて、おとぎ話にもないわよ」 「あたしからすれば、月が二つもあるってのが驚きだよ」 大げさに肩を竦める様子に、また笑い声が起きる。笑っているのは学院で奉公して いるメイドたち。その輪の中心にいるのは、見覚えのない女性であった。いや、どこかで 見たような気もする。その豊かな胸回りにシエスタは微妙な敗北感を感じた。 「それでコマチさんは――」 「ああ、小町でいいよ」 そんなに他人行儀じゃなくて、と親しげに笑う様子につられ、また笑いが起きる。 シエスタもその笑いの輪の端に腰を下ろした。 あたりを見回すと、このコマチの他にも見慣れない者達の姿が見える。猫の耳と 尻尾を持った少女が、「水に入らないお風呂っていうから騙されたー」とへたり込んで いる。(*37) 妖精たちが、我慢競べをしている。身じろぎもせずに座っている少女の 周囲には、白っぽい固まりがまとわりついている。宝石のような飾りのついた羽を 背負う少女が、興味深げに蒸気の元を覗き込んでいる。そんな者達をなにやら熱の 籠もった視線で見つめる同室の同僚に気がついたが、シエスタは見なかったことに して目を逸らした。 「それでコマチは召喚されるまで何をやってたの?」 「ああ、あたしは船頭をしてたよ」 「船頭……?」 「こんな小さな船なんだけどね。客を乗せて川を渡るのさ」 身振り手振りでその船の大きさを示したり、実際に櫂を漕ぐ様子をやってみせる。 「いろんな人を乗せたよ。男も女も、老いも若きも」 「へぇ、流行ってたのね」 「いやー、そうでもなかったなー」(*38) 大して儲からなかったしね、と、おどけた様子に、また笑いが広がる。 周りを見れば、他の妖怪たちもこちらの様子をうかがいながら、笑みを浮かべていた。 微笑みから苦笑まで、いろいろな笑みだが。 「あの、コマチ……さん」 そんな空気の中、シエスタがおそるおそる声をかけた。そして言葉に詰まる。 問いたいことはある。しかし、なんと聞けばいいんだろう。 しかし小町はシエスタを振り返ると、 「ん? ああ、シエスタだっけ? なんだい」 と、名前を呼ぶではないか。固まるシエスタに気づいたのか気づいてないのか、 同室のメイドが不思議そうな声を上げた。 「あれ? シエスタのこと、知ってるの?」 「ああ、ちょっと昼間、あたしの上司……いや、元上司に絡まれてたみたいだったから」 「えーっ?」 「いや、あの人、ちょっと説教好きっていうか、首を突っ込むのが好きっていうか」 いったい何をやったのよ、と隣に座ったメイドが腕を突っつく。 みなの注目を集めていることにも気づかず、シエスタは問いを放った。 あの四人の中の一人の部下、ということはつまり―― 「じゃあやっぱり、コマチさんもヨーカイなんですか? 人間じゃなくて?」 人間ではなく、のところで喧噪が止まった。シエスタに向かっていた視線が、 今度は小町に向かう。その視線に気づかないのか、小町は暢気そうに答えを返した。 「んー、まぁ、人間か人間じゃないか、っていったら、人間じゃない方に入るかね」 その言葉の意味をみなが理解するより早く、小町は次の言葉を続けた。 「でもそれは、平民か貴族かって違いぐらいしかないよ」 それを聞いていた妖怪たちは、心の中でツッコミを入れた。それは違う、と。 もっともそれを口に出さない程度の分別があったのは幸いだった。 そんな周囲の反応に気づかず小町は、生きとし生けるものはみんな同じさ、と 呟くと目を閉じ、上を見上げた。 「生まれ育ち、競い争い、愛し愛され、疎まれ惜しまれ、死んでいく」 詠うかのような言葉。流れるようなその一言一言が奇妙に重い。シエスタは、肌を 流れる汗が妙に冷たくなったように感じた。 しかし、小町が目を開け再び笑みを浮かべると、その重い空気は一気に払拭される。 「一番楽しいのは、愛し愛され、のところだね」 そして聞き手であるメイドたちを見回し、問いかけた。 「みんなにもいるんだろ、お目当ての人くらいさ」 一瞬の間が開き、黄色い声が響いた。厨房の誰がよい、馬小屋の誰がよい、などと いったとめどもない話で盛り上がる。小町はその様子を、楽しげに眺めていた。 そしてシエスタはそんな小町のことを、不思議そうに見つめていた。 夜。シエスタは自室のベッドで眠れずにいた。寝返りを打つと、同僚が怪しい笑顔を 浮かべた寝顔のまま枕に抱きついているのが目に入る。 「うふふー、ふらんちゃんー」 フランとはあの七色の飾りのついた羽を持つ吸血鬼の少女のことらしい。 そう、吸血鬼なのだ。だけど彼女は、寝言に出してしまうほどその吸血鬼のことが 気に入ってしまったようだ。 他のメイドたちも、この奇妙な使い魔たちを受け入れてしまっている。昨日までは こんなことになるなんて思ってもいなかった。今日も昨日と同じような、普通の日々が 続いていくと思っていた。 すべてはこの、祖父のおとぎ話の中にしかいないと思っていた妖怪の所為だ。 しかし祖父の話とは違うこともある。決して恐ろしいだけの存在ではないということだ。 メイリンという妖怪も、コマチという妖怪も、人間と変わりがない様子だった。少なくとも、 身の危険を感じないくらいには。昼に取り囲まれた四人はちょっと怖かったけど。 明日からどんな日々になるのだろう? 少なくとも、今までの日常とは違うだろう。 でも、どんな日々? そんな風にいろいろと考えているうちにシエスタは眠りにおちて いた。 もっとも眠りに落ちる直前に鍋のことを思い出してしまったシエスタは、なぜかキノコの お化けに襲われる悪夢を見てしまうのだが、それは別の話。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方風神録」のBGM名より借用 *2 悪魔の犬 *3 な、なんだってーっ *4 げげっ、人間!? *5 小町の能力的に *6 縦回転もあるよ *7 言わずと知れた竹取物語 *8 因幡の白ウサギの話は不名誉だろう *9 目をつけられた、ともいう *10 アリスしか分からない差異 *11 中には入れてくれなかったらしい *12 色んな意味で *13 懼れてくれるという反応が心地よい *14 妖怪としては最年少。この場では *15 そして貧乏貴族でなかったら *16 お仕置きもブレインよ、といったところか *17 ある晴れた昼下がりに、市場に続く道で起きた出来事を歌ったもの *18 弾幕ごっこで覚えたか *19 アリスの介入が無くともギーシュが一方的に殴られて終わるのだが、そんな別世界の出来事は分からない *20 宝物庫が襲撃されても、相手がトライアングルだと躊躇するような人たちですから *21 ルーミアやチルノですら、弾幕ごっこの取り決めを理解し、守っていた *22 妄想 *23 ⑨っと *24 坤を創造する程度の能力 *25 可愛さではなく *26 心情的には、*おおっと* *27 親交=信仰であるならば、十分に信者 *28 ありがちな言葉遊び *29 映季様が見ている *30 別の面白いこと *31 シエスタを待ちつつシェスタ *32 垂らした涎が見えないように *33 涎の後を発見しての発言と考えると面白い *34 気を操れれば、見えずとも聞こえずとも問題なし *35 この世界/この地域 *36 使い魔は迷惑顔 *37 自分の汗で水浸しになるのは馬鹿馬鹿しいだろう *38 働いてなかっただけ 前ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
https://w.atwiki.jp/alucard/pages/3.html
虚無の魔剣士