約 698,349 件
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/79.html
阿弥陀の騒ぎから1ヶ月。いよいよ一平達の喪が明ける。追悼集会だ。この時期の俺達は忙しい。他所のチームを誘ったり走るルートを決めたりやらなきゃならない事がたくさん有る。ルートによっては他のチームに話を通しに行かなきゃならない。俺と真也は雹に話をつけに行った。雹のいまの頭は一輝って俺達のタメの奴。中坊時代は敵だったけどいまは友達だ。追悼は来てくれる。でも一輝がちょっと気になる事を言ってた。 「格さんってヤクザになんでしょ?最近、事務所に出入りしてるらしいじゃん。」 「いや、それはねーよ。俺らも聞いてねーし。金払いに行っただけじゃね?」 「そーなんだ。仁さんルートの情報だから間違いないって思ったんだけど。追悼の方はわかった。俺達も行かせてもらうよ。」 「よろしく頼むわ。なんかあったら連絡くれよ。じゃー当日な!」 そー言って一輝のとこを後にした。 「…なあ、ちょっといいか?」 後ろに乗ってる真也がつぶやいた。 「なんだよ、さっきの話か?」 「ちょっと気になる事あってさ。マック寄ってくんねー?」 俺は頷いた。 マックに着くと真也は少し言いにくそうに話出した。 「一輝が言ってた事あったじゃん。あれ聞いたの3回目なんだよね。」 「格さんがヤクザになるって事か?」 「あぁ。一輝の前にナイトの奴とイーグルの奴から同じ話出てた。」 「ふーん。でもなんかの間違いじゃね。普通俺らに相談するだろ。気にしすぎだよ。」 「だといいんだけどな。」 「そんな事より一平の単車なんだけどまだウチの物置に置いてあんだよ。追悼はあれ直して出るわ。」 「直んのかよ。結構いっちゃってたんじゃねーか?」 「とりあえず走れる様になればいいのよ。そんで相談なんだけど真也前にバブ乗ってたじゃん。部品くれ。」 「タダでかよ!ふざけんな!」 「ケチケチすんなって。後で酒おごってやっからさ。」 「お前の酒って缶ビールだろ!絶対ヤダね。」 「いいからいいから。今日の夜持ってきて。」 「はぁ、ホントにふざけてんのかよ!タダで持ってく上に持ってこいって言ってんのかよ!絶対無理。取りに来いよ。夜ならいるから。」 「マジで!?本当にくれんのかよ!?真也、愛してる!」 「気持ちわりぃよ!それにお前にじゃなく一平にだからな。勘違いすんなよ!」 「わかってるって。じゃー夜、信義と取りに行くわ。」 そー言って俺達はマックを後にした。格さんの事はちょっと気にはなったけどアイツが俺達の事裏切る訳ない。そー信じてた。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/47.html
なんとか逃げ切った俺達はそのまま浜に向かった。 浜ってのは俺達の地元にあるナンパスポットで、週末になると県外とかからも人が集まってくる。多いときは200台ぐらいの車が集まり、そいつらがみんなギャラリーになる。 このへんの族の最終の目的地は毎回必ず浜だ。イーグルなんかも例外じゃない。 浜に行くとすでにイーグルとかは集まってた。マイク先輩がこっちに来る。 「サッキハアリガトナ。オマエラノオカゲデタスカッタヨ。」 マイク先輩は見掛けより物腰は柔らかくていい人だ。でも太い二の腕が怖い。 「ソーイエバオマエフタゴナンダロ。」 マイク先輩が唐突に俺に聞いてきた。 「はい、そうです。何で知ってんですか?」 「オマエラフタゴダッテユウメイダモン。」 …意味がわからないけどとりあえずありがとうございますって言ってみた。 「キョウハホントニアリガトナ。コノママナガレカイサンニナルカラキヲツケテカエレヨナ。」 って言ってどっか行ってしまった。とりあえず謎だ。 マイク先輩が行った後、格さんにこれからどーするか聞いた。 「とりあえず地元帰ろうぜ。とにかく疲れた。単車もなくなっちゃったし。早く寝たい。」 そー言うと、格さんはタバコを買いにコンビニへ。 残った連中で話してると、トオルから一平を見つけたって連絡がきた。(もちろんベル。) コンビニに格さん置いて帰る訳には行かないから、俺はとりあえずコンビニまで迎えに行く事にした。他のメンバーは地元に帰って一平をいじめるらしい。マイク先輩に挨拶だけして俺はコンビニに向かった。 コンビニに着くと、中に格さんがいない。後を覗いてみると、誰かが喧嘩してる。格さんだ。 俺は格さんのとこに向かう。 相手は酔っ払い。でも格さんの方がやられてる。俺は酔っ払いの後から蹴り入れた。おもいっきり入れたから倒れる酔っ払い。 格さんに大丈夫かたずねてると、酔っ払いが起き上がって殴りかかってきた。 さすがに2対1で負ける訳はないと思ってたのが甘かった。あっという間に俺と格さんはフルボッコにされた。どーやら相手は仁さんの友達で五郎さんって言う人だった。 格さんも俺もけして弱くはないはずなのに手も足もでなかった。漁師はおっかない。 五郎さんは言った。 「おめぇら仁の後輩なんだろっ!俺あいつ嫌いなんだよ!」 たまたま話かけられた格さんがうっかり仁さんの名前を出した事からこんな事になったらしい。 やっぱりコイツは空気読めない。 五郎さんは自分が仁さんをどんだけ嫌いか俺達に切々と語り気が済むと一人でフラフラ行ってしまった。漁師恐るべし。 格さんは鼻を折られて、俺は前歯を折られた。 切なかったけど俺達はトボトボ地元に戻った。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/62.html
「ヤマトんちはお通夜もダメだって。俺らと遊んでなかったら死ななかったって言われた。」 真也が寂しそーに言った。 「一平の方は明日、斎場に1時だ。単車は乗ってくんな。家族に迷惑かけんな。タバコも吸うな。」格さんがみんなに伝えた。 「あと、学校行ってる奴らは制服な。行ってない奴は礼服用意してこい。目立とうとすんな。んじゃー解散。」 そー言って俺達は解散した。 朝、真也が迎えにきた。 「学校の奴らも結構来るんじゃねーかな。タクシー使おうぜ。」 真也はタクシーを止めに国道に向かう。あの日から一平の単車はウチに置いてある。一平の親に言ったら、いらないって言われた。親からしたら大切な息子を殺した単車だ。見たくはないはずだ。 斎場ではみんな制服か礼服だった。学校の友達も来てた。もちろん香織も。香織は泣いてた。ジローや幸雄も友達の死を悲しんだ。 一平の母ちゃんは憔悴しきってた。父ちゃんは気丈にふるまってる。 一平の両親が俺達に気づいた。二人とも頭を下げる。 頭なんて下げないでください。ヤマトのとこみたいに罵られた方がよっぽど心が楽だ。 この日一平は煙になった。 「いまから格さんちに集合だって。格さんの奢りで飲みだって。」 格さんちはレストランだ。今日は俺達のために貸し切ってくれる。 「ちょっといい?」 一平の母ちゃんに声をかけられた。 「はい。」 俺はそれしか言えない。 「あの子が事故に合う直前まで一緒にいてくれたんでしょう。最後までありがとう。最後はどうだった?」 俺が言葉に詰まると信義が言った。 「あいつ、挨拶してきましたよ。大きく手を挙げて、「じゃーな。」って。」 「あの子、みんなには挨拶してったんだ。ずるいなぁ。私のとこには来なかった。」 一平の母ちゃんは泣きながら微笑んだ。 隣にいた香織は泣いてる。 俺も涙が出そうだったけど我慢した。 「もうこんな事はやめなさい。私はこんな事になってあなた達のお母さんが悲しむ姿はみたくないもの。」 一平の母ちゃんはそう言うと戻っていった。 香織はきっと今日の一平と俺を重ねて泣いてる。そー考えるとまた胸が痛くなった。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/46.html
一瞬何が起こってるか分からなくなった。頭の中は真っ白。ただわかってる事は、自分が限りなくヤバくて、香織との約束を果たせそうにないって事だけだった。パトカーが停まる。 5台も来やがった。 俺はどーにか逃げられないか考えた。単車捨てて走って逃げてもどうせ捕まる。それなら… 押しがけするしかない。(押しがけって言うのは、セルやキックでかからない単車をギアを入れた状態でクラッチを握り、ひたすら押して行き、スピードが乗ったらクラッチを離して無理矢理エンジンをかけるって言う荒技。よいこのみんなはマネするなよ!) 奴らがパトカーから降りてきたら終りだ。 俺は全力で単車を押した。 警察は慌てて降りてきたけど、こっちは命がけ。キャブの機嫌が直ってれば、エンジンはかかるはず。 警察が俺の腕を掴んだ瞬間、エンジンがかかった。 でも、奴らは執念深い。俺の腕を掴んだままはなさない。俺はそのまま警察を引きずり20メートル位走った。 最後は信号に叩き付けて無理矢理離して逃げた。俺は助かった。 しかし、一難去ってまた一難。前の方が止まってる。奴らはどーやら交差点で大掛りな検問をしてやがった。 残されたのはウチのチームの連中だけだ。後からもパトカーが迫ってくる。 俺と信義は格さんに言った。 「俺達が道を開くからそこから逃げろ。」 「俺がパトカーの隙間に突っ込むから後に続け。止まったら終りだ。」 信義と真也が歩道を走って警察を誘導する。俺は全開で検問に突っ込んで行く。六尺棒(警察が使う長めの武器)が頭の上をブンブン通り過ぎる。前に立ちはだかる警察官を俺は撥ねた。 道は開いた。 俺はこけた。 でもすぐに立て直してそのまま抜けた。 ウチのチームは全員逃げられた。 一平は行方不明だった。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/94.html
智光先輩んちに着くとまだ時間は7時半。格さんは智光先輩を起こしに行った。 「なあ、なんかヤバくねーか?俺、ちょっと心配になってきたんだけど。」 真也が急に言い出した。 「大丈夫って思うしかねーな。今日1日我慢すれば明日からは無関係だろ。それにもー金使っちゃって持ってねーだろ?」 俺が聞くと真也はうなずいた。 「だったらしょーがねーよ。ここまで来たら覚悟決めるしかない。」 内心、心配なのは俺も一緒だ。これが縁でヤクザになんか入れられちまったら目も当てられない。いま智光先輩の組が人手不足なのは格さんから聞いてて知ってる。 「…おう。今日は早くからわりぃな。」 智光先輩が出てきた。左手は包帯が巻かれてる。 「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」 俺と真也の目は左手に釘付けだ。 「…寝起きだからちょっと待ってろ。そー言えばお前ら「女優霊」ってビデオ見た事あるか?いまかけといてやるから観てろよ。」 格さんがギクッとした顔になる。 「兄貴、時間ないですから。今日は止めときましょうよ。また後でにしましょう。」 「…何、俺に意見してんだテメー。お前らは見たいよな?」 格さんが後ろで首を振ってるけど、智光先輩には逆らえない。 「…見たいです。」 「そーだろ。じゃーちょっとこれ見て待ってろ。格田、ビデオ入れてコイツらに見せとけ!」 智光先輩が部屋を出ていく。 「…なんで断らなかったんだよ。」 格さんがうらめしそーに言った。 「…わりぃけどあの空気じゃ無理だわ。智光先輩どーしても見せたかったんだろ?ちょっと付き合えばいいだけだから大丈夫だろ?」 「…俺、これ見るの3度目。早送り一切なしの2時間ノンストップだ。しかも今日は事務所に8時半集合。見終わるまで動かしてもらえねー。」 「…参考までに聞くけど、遅刻したらどーなるの?」 「考えたくねーけど死ぬほど怒られるんじゃね。兄貴はともかく、下っ端の俺は10分前には事務所にいなきゃ怒られる。ヤバい。」 大変な事になった。智光先輩のわがままで俺達全員がヤクザに怒られる。そんな迷惑な話、聞くわけにはいかない。 「…なんとかしようぜ。初対面のヤクザに怒鳴られるとかそんなの想像したくねー。」 智光先輩が戻ってきた。 「お前らちゃんと見とけよ。おっかねーから。」 俺達にとってはビデオの内容より遅刻する方がおっかねー。 「先輩、今日は何時に集合なんですか?」 真也が言った。やればできる子だって俺は信じてた。 「8時半だから心配すんな。見終わってからでも間に合うから。」 ダメだ。何言っても通じない。俺達はあきらめた。でも格さんがしつこく言ったのと、信号を命がけで止まらずに進む智光先輩の運転のおかげでなんとか時間には間に合った。事務所に着くといかにもな人達が全員ジャージ姿で集合してる。えらいっぽい人が話はじめた。 「今日は休みのとこ申し訳ない。途中何人か手伝いに来るけど、基本的には今いる人数でやることになると思う。各自怪我しない様にやってくれ。」 ヤクザは真面目な奴が多い。そこら辺のリーマンなんかより真面目に働くし、真面目に悪い事をする。根が真面目な奴じゃないと務まらねー。 「お前ら事務所の中はヤバい物でいっぱいだからしっかり守れよ。」 智光先輩が言う。俺は聞いてみた。 「…先輩、ヤバい物ってなんですか?あと守るって何やればいいんですか?」 「…そーだな。チャカとかかな。」 「!?」 「嘘だよ。あと守れってのは敵が来たら体張って戦えって事だ。そんな事より無駄口たたいてねーでさっさと働け。」 冗談なのかどーかわからない。さっさと終わりにして帰りたい。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/100.html
最初は何言ってるのかわからなかった。ただ、次の日の新聞には載ってたから間違いないらしい。竜が殺したのは1コ上の先輩。喧嘩して殴り殺しちまったらしい。一応チームのメンバーじゃねーけど地元は一緒だから全員知ってる。次の日、俺達は集まった。 「…なんでこんな事しちまったんだろーな、アイツ。」 真也が言った。俺も信じられない。 「アイツ、こんな事する奴じゃなかった。誰か最近の竜に会った奴とかいねーの?」 誰もわからない。みんな最近はほとんど付き合いがなかった。ただ俺だけは拓ちゃんと連絡が取れる。拓ちゃんちに電話してみた。 拓ちゃんは家にいた。いまから来てくれる事になった。 「竜は“天地”って連中のとこに出入りしてたんだ。」 天地。聞いた事ない。 「それって族なの?」 「…難しいけど族じゃない。SRとかスティードとかアメリカンな感じ単車乗ってる連中。チーマーと族の真ん中みたいな奴らかな。よく駅前とかにたまってんじゃん。アイツらだよ。」 ちょっとわかった。変なコール切って走ってる奴らだ。 「竜はそこの先輩にかわいがられてたんだよ。たしか神田って名前の先輩だな。殺しちまった奴はその神田の友達みたいだ。神田と金の事かなんかで揉めてて、竜が取り立て頼まれたって言ってた。殴ったとこが悪かったのかもな。」 拓ちゃんは淡々としゃべった。 「その神田って奴は捕まらなかったの?なんか納得いかねーな。」 「竜の性格考えればきっと口は割らないよ。あとは神田が黙ってればわかんねーからな。捕まらないんじゃん。」 「…おまわりが捕まえねーならどーしようもねーよ。」 信義はそー言ってたけど俺は納得いかなかった。 次の日、駅で俺はそいつらを襲った。生まれてはじめて自分から喧嘩を売った。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/99.html
引越しは問題なく終わった。途中ちょっとおまわりが見にきたぐらいでこれと言って何もなかった。やっと終わった。時間は4時。帰れる。 「お前ら表の車洗っとけ。それが終わったら兄貴が飯連れてってくれっから。」 智光先輩が言った。まだ帰れねーのかよ。俺と真也は渋々表のベンツの洗車をはじめた。 「クソ、いい車乗りやがって。悪い事やって稼いでんだろーな。」 車を洗いながらつぶやく。 「でもあのぐらいの歳でベンツ乗れるんだからけっこうヤクザって儲かるんだな。俺も格さんみてーにヤクザんなろーかな。」 真也が羨ましそーに言った。たしかに智光先輩の兄貴はまだ30ちょっと過ぎたぐらいだ。 「バカじゃねーの。よっぽど才能ないとこんな生活出来ねーよ。それに危ない橋渡ってんだから常に危険にさらされてんだぜ。そんな思いまでしていい車なんか乗りたくねー。いくら俺達が族だからって族の上にこれしかねー訳じゃねーだろ?俺はもっと真っ当な事していい生活してーよ。」 「たしかにな。我慢も嫌いだし、痛いのも嫌だし。俺達には向かねーな。」 俺達は笑いながらそんな話してた。すると上から声が聞こえてきた。 「洗車終わったかー?そろそろ行くぞ!」 智光先輩の声だ。俺達は洗車を終わりにして飯食いに行った。 「今日はご苦労だったな。なんでも好きな物食え。」 智光先輩の兄貴が焼肉屋に連れてきてくれた。でも好きな物食う様な雰囲気じゃない。俺と真也は安い肉とご飯だけを頼んだ。 「なんだ、そんだけか?遠慮しねーでもっと食え。格田、コイツらの分も頼んでやれ!」 やたら気前がいい。気持ち悪いぐらいに。絶対裏があるに決まってる。 「ところで兄ちゃん達は格田と同じ歳なんだよな?学校はおもしれーか?」 きた。当たり障りないように答える。そっからは大変だった。なんとか断る事ができたけど、最後にいつでもこいって名刺もらった。ヤクザも人手不足なんだ。じゃなきゃこんなガキ勧誘しない。ヤクザなんか一見けっこう自由気ままな様に見えるけど実際は大変だ。どんな道も楽じゃねーって思った。礼金もらったけど二人で飲んで使っちまった。やっぱり俺はヤクザなんかよりコイツらとバカやってる方が楽しい。 帰り道、信義から電話が入った。竜が人を殺して逮捕された。って。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/63.html
「…まだ続けるの?」 香織は俺に言った。 「一平君みたいにいつか死んじゃうかもしれないんだよ?」 「…そーだな。でも俺は…」 「かっこつけんなよな!!残された方の気持ち考えてよ!死んじゃう方はそれで終わりになるかもしれないけど、残された方はそのまま生きてかななきゃならないんだからね!!」 返す言葉が見つからない。 「さっきの一平君のお母さん見たよね?あんなに悲し思いさせるんだよ?自分のお母さんがあんなになった時の事考えてた事ある?お腹痛めて産んだ子があんな事で死んじゃうんだよ?…もうやめてよ。」 そー言うと香織はまた泣き出した。 いつもだったら、「俺は死なない。」とか言ってごまかすけど今日は無理だ。 「…俺はみんなを裏切れない。一平の事もヤマトの事も。」 香織に殴られた。今日はビンタだ。 「それなら勝手に走って勝手に死ね!!」 そー言って香織は帰っていった。 俺は格さんちに向かう。 「何、辛気臭い顔してんだ。今日は俺の奢りだから奴らの分まで飲んで弔ってやれ。」 格さんはやっぱり俺達の頭だ。 真也が言った。 「追悼とかってやるんだろ。どーすんだ。」 「49日は外そうぜ。その間は走るのもなしだな。」 格さんがそー言った。 「じゃーさ。49日明けたら奴らがびっくりする様なでかい追悼してやろーぜ。俺、一平の単車直して出るよ。あいつらが道に迷わないよーに送ってやろーぜ。」 さっき香織に言われた事ももちろん忘れてない。けど、俺達はやっぱり暴走族でこのやり方以外知らない。 「そーだな。ちゃんと送ってやらないとな。喪が明けたら盛大に弔ってやろーぜ。」 そう言って俺達は飲んだ。俺はあいつらを裏切らない。いまはそれしか考えられなかった。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/32.html
奴らはどーやって調べたのかわからないが、ウチの学校に20台ぐらいで来て暴れまわった。飯田先輩がキレて出て行ったらしいが、数には勝てずに血祭りにあげられ、マッキーが拐われた。一平は職員トイレにたてこもり、難を逃れたらしい。香織んちにいた俺は、格さんからベルが入り、電話して全てを知った。 俺達は戦争の準備をし、東龍会の地元に突っ込むことにした。今度ばかりはちょっと死ぬかもしれないと思ってたが、これも道だ。俺達は止まらないし曲がらない。 俺と信義は、二人だけでマッキーを助けに東龍会の地元に突っ込んだ。 ジローから聞いた話では東龍会の連中は、ボーリング場を集合場所にしてて、そこに行けば必ず誰かしらいるって言うなんとも頼りない情報だけだった。俺と信義はそれだけを頼りに、ボーリング場を目指した。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/59.html
タクシーの中は無言だ。真也も信義もさっきのヤマトの姿を見ちゃってる。手の平が嫌な汗で濡れてる。 無言のまま病院に着いた。外には救急車が停まってる。ヤマトの家族はまだ来てない。俺は受付で、 「さっき友達が運ばれたはずなんですけど。」 そー伝えると看護婦さんは無言だった。 「てめぇなにやってんだよ!!」 外で信義の怒鳴り声が聞こえる。 ヤマトは袋に入れられてた。 「あきらめてんじゃねぇよ!!早く袋から出せ!!死んじまうじゃねーかよ!!」 信義の声が虚しく響く。 「やめなさい、もう亡くなってるんだ。」 救急隊員に言われてはじめて俺達はヤマトが死んだって認められた。 信義が救急隊員から手を離す。 俺達は真っ白になった。 「…一平の方に行こうぜ。アイツは大丈夫だよ。ここにいるのは辛い。」 真也が言った。 「あぁ、そうしようぜ。ここにいてもきっと迷惑かかるから。」 俺は同意した。一刻も早くここを離れたかった。ヤマトの家族が悲しむ姿はみたくない。 俺達は待たせてあったタクシーに乗った。 「…東病院まで。」 俺達はどこか「死」ってものに対する考えが甘かったんだと思う。つきつけられた現実を認めたくはない。 「…一平は大丈夫だ。ちょっと唸ってたし。」 説得力は全然ないけどいまはそれしか言えない。 病院に着くと救急車はもーいなかった。 また同じ様に受付に行く。 「さっき友達が運ばれてきたんだけど。」 看護婦さん言いにくそうに言った。 「…霊安室に安置されてます。いまは御家族の方がいますので、前のソファーでお待ちください。」 何を言ってるのかわからなかった。 「ふざけんなよ、嘘言ってんじゃねーよ。さっき唸ってたんだぜ、死ぬ訳ねーだろ!!認めねーぞ。俺は絶対認めねぇ。」 後から肩を叩かれた。格さんだ。 格さんはソファーに座ってうつ向いてた。 「あいつ、血なんて出てないし、怪我だって全然してないんだぜ。なのになんで…」 格さんは言葉を詰まらせた。俺が霊安室に行こうとすると、 「…やめとけ。いまは家族が入ってるから。そっとしといてやれよ。」 格さんは消え入りそうな声で言った。 現実が襲ってくる。2人は死んだんだ。 霊安室から一平の親父が出てきた。 「一平と友達でいてくれてありがとうな。こんなに大事にされて、アイツは本当に幸せだったと思う。」 泣きながら俺達に言う言葉が胸に刺さった。 俺は涙が出なかった。またひょっこり霊安室から歩いて出てくるんじゃないか。そんな気がしてた。