約 2,067,558 件
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/266.html
②*③/ /第十六話 ―AD109/07/23 二三 四七― 「ボス、スコープアイが、基地制圧を開始しました。 ポイントレッドのMTも、ほとんど撃墜いたそうです」 「よし。 少し早いが、作戦を開始する。 各員、レーダーには常に気を配れ」 予測の通り事が運べば、敵部隊は既に警戒している三方向からしか攻めて来ることはない。 だが、シェルブはもう一つ、ある可能性を懸念していた。 ――そんな事態に、ならなければいいが そう考えずにはいられない。 レイヴンならば誰もがいつかは経験する、ある危険性をこの任務は孕んでいる。 だが、今このタイミングにおけるそれは、少しばかり厄介だ。 だが、同時にそれを経験することで、成長も期待できる。 いずれは超えねばならない壁なのだ。 「――マイ、聞こえるか」 『何ですか親方?』 「……気を引き締めろ、予測とは違う方向から襲撃があるかもしれん。 その時は補給部隊の護衛が最優先だ、敵勢力は破壊して構わん。 いいな?」 『分かってます。 大丈夫です』 ――自分の口にした言葉が、こんなにも情けなく感じるとは思わなかった。 何故、はっきりと自分の懸念している事を言わなかったのか。 否、言えなかったのか。 彼らを甘やかしているわけではないはずだ。 かつての自分と違うのは、自分の元には、多くの部下がいるということだ。 以前に比べて、組織を保つという上で、保守的になっている。 それは確かに感じている。 だが、今までにこのような判断の迷い――自身の判断への不安――は無かった。 何がこうも不安感を募らせるのか、その原因が掴めない。 だが、その不安感こそが、鴉の持つ警戒心だ。 直感と言ってもいい、長い経験と研ぎ澄まされた感覚による、危機の察知。 それが今できるのは、自分だけだ。 「エイミ、スコープアイに回線を繋げ」 「了解。 回線、繋ぎます」 数秒のコールの後、音声のみで回線が繋がる。 『こちらスコープアイ、アルフです。 レイヴンは既に基地内に潜入しました。 何か連絡でしょうか?』 「ああ。 基地のどこかに、敵組織を支援している連中の証拠になるものがあるはずだ。 見つけ次第、こっちに連絡するように言ってくれ。 以上だ」 『了解。 レイヴンに伝えます。 通信終了』 アルフとの回線が切れると同時、今度はアハトに繋ぐ。 「アハト、聞こえるか?」 『……通信状態は良好だ』 不安な点がある以上、用心するに越したことはない。 対策はするべきだ。 「ガレージにて戦闘装備で待機していろ、それとショーンに言って一番脚の早いビークルを準備させろ」 「了解した」 短い返答の後、ショーンがガレージにいるか一応の確認を取り、再び正面のモニターに目線を移す。 おそらく、状況は動く。 不安は既に、確信へと変わっていた。 ―AD109/07/23 二三 五五― 男が門のカメラの異変に気付いたのは、三分前だった。 一番近い場所にいた者を確認に行かせたが、応答がない。 そもそも、応援に出撃したMT部隊からの連絡がない。 それだけでも十分に危険な状況であるというのに、こんな時にカメラの調子が悪くなるとは、最悪だ。 ただでさえ少ない人員だというのに、戦闘経験のある者はほとんどMTで出撃中。 その間の警備は不安だ。 だからこそ、自分はそういった事の専門家を雇うべきだと言ったはずなのに、上層部は聞き入れてくれなかった。 確かに、もうレイヴンを雇うほどの予算もないのだろう。 他所の警備隊をほんの少し借りる程度しかできないのだ。 だが、自分達だけでもやらなければならない。 これ以上は引き下がれないのだ。 だからこそ、司令室のモニター監視を交代してもらって、こうして自分が見回りに来たのだ。 だというのに、どうしてだろう。 脚が震えて動かない。 目の前には、目深に帽子を被って拳銃を構えた男が一人。 完全に武装しており、明らかに侵入者であるのだ。 だが、身体が動かない。 その男は、返り血に塗れ、その右目さえも真っ赤に染めていた。 「司令室は、この上か?」 頷いて、男の言葉を肯定する。 瞬間、男の右腕が、自分の首を絞めた。 身体が思うように動かない。 意識が、薄れていく。 そういえば、どこかで、こんな話を聞いたことがある気がする。 赤い右目の男による、連続テロ事件…… 首を絞められた男が完全に気を失ったことを確認して、首を離す。 無駄に殺しはしないが、必要があれば殺すしかない。 以前は手当たり次第に暴れるだけで良かったが、今はそうもいかない。 シーアは気絶した男から少し離れた場所で床に細工をした後、すぐに階段を上がろうと奥に進もうとして、今しがた気絶させた男の胸を見て立ち止まった。 どこかで見覚えがある。 服装事態、男のタクティカルベストにも見覚えがあるが、その程度ならよくあることだ。 それ以上に胸の部隊賞のあたりが気になる。 男の傍に屈み、ベストをもう一度見回す。 そして、部隊賞のすぐ横にある銀のスナップボタンを見て、ようやくその正体に気付いた。 ソグラト警備隊の物と、同一だ。 ベストの形状が異なっているにもかかわらず、ボタンが 同一なのはおかしい。 これはソグラト警備隊のデザインの物である為、部隊の者しか手に入らないはずだ。 とすれば、この男は装備をソグラト警備隊から奪ったのか、それとも…… 「……まぁ、次で分かるか」 どちらにせよ、次に誰かに会った時には確認できる話だ。 階段を上がり、突き当たりの一番大きな部屋に向かう。 そこが司令室だ。 だが、そこで予想外の出来事が起きた。 丁度、通り過ぎた左手の部屋のドアが開き、人が出てきたのだ。 「お前、何者……」 男がライフルを構え、トリガーに指を掛ける刹那。 シーアは左手を腰のツールバックの裏に差し入れ、黒い拳銃を引き抜きながら、トリガーを引いた。 乾いた銃声。 スライドに空いた制動孔――コンペンセイター――から独特な方向に制動ガスが噴射され、銃口から閃光が放射される。 放たれた弾丸が、男の胸を穿つ。 ――コイツはまだ、死んでいない 一瞬の判断で、上半身を捻って右手の銃を突き出す。 撃発。 今度はサプレッサーにより音が減衰されるが、弾丸は正確に眉間を貫いていた。 だが、これは終わりではなく、始まりだ。 響いた銃声に気付いて、正面のドアが開き、アサルトライフルを構えた男達が出てくる。 「……バレちゃあ、仕方ないな」 左手の腕時計のスイッチを押す。 瞬間、基地が若干揺れる。 遠くで爆発音が響き、一斉に照明が消えた。 右に構えた拳銃のサプレッサーをアタッチメントごと、取り外す。 露出したスライドには、側面から上部に向かって大きく開いたコンペンセイターがある。 両手の銃は、同じものだ。 「パーティーの始まりだ……!」 銃のスライド後部のセレクターを親指で跳ね上げてから、マガジンを捨てた。 次に、トリガーガード下部のレーザーポインターのスイッチを入れる。 そして、両手をツールバッグの側面に押し当てる。 すると、ツールバッグ上部から左右に向かってロングマガジンが露出。 そこにグリップを押し込むだけで、マガジンの装填が完了する。 突然の暗がりに怯んだ相手が、ライフルを構えなおすよりも先。 銃から発される赤い光点が男の頭部に当たるのを右目で確認してから、シーアはトリガーを引いた。 「邪魔だ、消えろ」 瞬間、弾丸の雨が横薙ぎに荒れ狂った。 その全てが、シーアの両手のハンドガン――正確に言えばマシンピストル――から発射されたものだ。 その銃は〈CR-GG-C58〉、クレスト傘下Glueck Glocke製の高性能ポリマーフレーム拳銃を、シーア自らが改造した物だ。 毎分一二〇〇で連射される五・八×三〇ミリの徹甲弾が弾幕を張り、その進路上にある全てを貫く。 数秒でマガジン内の全弾を撃ち尽くしスライドが後退して停止する。 だが、その時には既に、立っているものはシーア以外に誰もいなかった。 一〇人程が倒れただろうか。 確認のため、マガジンを装填してからゆっくりと司令室へと歩き出す。 一人一人、着弾点を確認していく。 と言っても、その殆んどは頭部に集中している。 原型を留めていない者もいるが、それだけ精度よく射撃がで きた証拠だ。 そして、司令室の扉まで辿り着く。 先程の掃射で倒したのは十三人、全員死亡。 残るはこの司令室を占拠し、退去通告を出してから駐機スペースの全てのものを破壊すれば任務完了だ。 マシンピストルをホルスターに収め、バックパックのラッチからショットガンを取り外す。 そのまま構えて、扉のロック部を撃つ。 ロック部が吹き飛ぶのと同時、扉を開けて左側に向けてトリガーを引いた。 同時に、左側に隠れていた男の胸に散弾が直撃する。 しかし、同時に右側の男がアサルトライフルを構えていた。 シーアが部屋の中へ飛び込み、着地と同時に身体を捻る。 一瞬で右側にいた男に照準、引き金を引く。 そのまま、通路から司令室に向かってきている敵に向かって二連射した。 ドラムマガジン式のフルオートショットガン〈RM-ASG5〉だからこそできる芸当だ。 これで、残るはこの司令室の端末を調べてから駐機スペースに向かうのみ。 そう思いながら司令室の扉を閉め、振り返った瞬間だった。 突如、ショットガンが蹴り飛ばされた。 息つく間もなく、右からの回し蹴りが頭を襲う。 「ッ……!」 なんとか腕で受けるが、すぐさま正面からのストレートが迫る。 そのまま隙を見せず、突き、肘打ちを織り交ぜて攻撃を繰り出される。 格闘技術に乏しいシーアは、ギリギリで避けるか、急所を外す程度しか出来なかった。 それに気付いたのか、男は力任せに正面から蹴りを繰り出した。 両腕でブロックしたが、勢いを殺しきれず、よろけて背中から倒れる。 「ふんっ……!」 男がシースからナイフを抜き放ち、逆手に握って突き立てようとする直前に、シーアは口の中の赤い玉を噛み潰した。 そして、玉から溢れ出た液体を、男の顔に向かって吹きかけた。 「ぐああぁぁっ、目がっ……!」 その液体の正体は、カプサイシンを主とした催涙液だ。 また、その辛味成分は集中力が低下してきた際に口内を刺激し、集中力を持続させる効果もある。 狙撃手がよく使う、唐辛子を噛む行為と同じ効果だ。 シーアは男が怯んだその隙を逃さず、腰のツールバッグに右手を回す。 そして日頃から常に携行しているモンキーレンチを、そのまま男の頭めがけて力任せに振り下ろした。 ガツン、と右手に衝撃を感じたと同時、男がたまらず倒れこむ。 「貴様、やってくれるじゃないか……!」 身を起こしてマシンピストルを構えながら、シーアが立ち上がる。 男は頭からだくだくと血を流し、既に意識を失っていた。 おそらく、もう起きることはないだろう。 マシンピストルをホルスターに戻してショットガンを拾い上げる。 同時に、かすかに音が聞こえた。 瞬間、そこに向かって発砲する。 椅子が吹き飛ぶのに遅れて、小柄な男が腰を抜かして飛び出した。 「動くな!」 言いながら、逃げる男の脚を撃つ。 小柄な男はもんどりうって倒れるが、這いずりながらも懸命に逃げようとする。 「逃げるなと言っているんだよ……!」 男に近づき、血の流れ出ている脚を踏みつける。 「あぁぁぁぁぁ……! やめてくれ、俺は何もしてない、何もしてないんだよぉ……!!」 「黙れ」 ショットガンの銃口を、男の頭に突きつける。 「オレは今気が立っているんだ、大人しくしてろ」 男の胸倉を掴み、引き寄せる。 「お前らの裏には誰がいる? 正直に言え」 「知らない、俺はそんなこと知らないんだ……」 シーアはショットガンを放り、空いた右手で男の顔を容赦なく、思い切り殴った。 「お前らが動くには、協力者が必要だってことは知っているんだよ……言え、言わないなら殺す」 「だから、俺は本当に知らないんだ! 俺は他所から雇われて……」 シーアはしびれを切らして、同じ事しか言わないことに男を手近な椅子に座らせ、手足を椅子に縛り付けた。 「本当に知らないんだな?」 「本当だ、本当に何も知らな…」 言いかけたその口に、シーアはバックパックから赤いLEDカウンターの付いた小さなケースを取り出し、男の口に咥えさせてガムテープで口を塞いだ。 「今お前が咥えているのは、これだ」 男の眼前に、今しがた咥えさせたものとまったく同じものを突き出す。 赤いLEDカウンターと、隙間から見える複数のコード。 そして、ケースの上蓋を開けて中身を見せた途端、男がもがき始めた。 「見ての通り、爆薬だ。 頭が吹き飛びたくなければ白状しろ。 お前は協力者を知っているか?」 その質問に、男は必死に首を横に振って答えた。 「……そうか」 知らないのなら、用済みだ。 どんなにもがいていようが、どうでもいい。 だが、このまま放置するのも面白くない。 少しだけ、希望を残してやってもいいだろう。 「……助かりたいなら一つだけ教えてやる。 その爆弾、迂闊に仲間に外してもらうと、起爆するぞ」 必死で縛られた手足を動かすが、いくらやっても無駄である。 その手足を縛っているのは、牽引用ワイヤーだからだ。 必死でもがく男を最後にもう一度見てから、シーアは司令室を出て扉を閉めた。 その男の部隊章のボタンが、ソグラト警備隊のものであると確認して。 残るは地下二階の通路から、敵MT及び装甲車の破壊、そして敵部隊の排除だ。 だが、それも既に時間の問題と言っていい。 この最上階に来るまでに、多くの罠を仕掛けてきた。 この基地は既に、自分の手中にある。 全てが、自分の思う通りに動きだす。 ゆっくりと、階段を下りる。 下の階から響く靴音から、二つ下の階まで迫っているだろう。 その場でバックパックから感知式爆弾を取り出し、階段の一段目に設置する。 別の階段に向かうため、一四階の通路を進む。 敵がいるのは明らかだが、正面から銃撃戦を挑む必要はない。 腕時計のスイッチを、またひとつ押す。 爆発。 炸裂音と悲鳴の不協和音が響き、わずかにビルが揺れる。 両手にマシンピストルを構えて、通路を進む。 時折、生き残った敵が飛び出てアサルトライフルを構えるが、撃たれる前に額を撃ち抜く。 壁越しに銃だけ出して射撃する相手には、爆弾を投げつけて、即時起爆させる。 張り合いもなく、あっさりと階段に辿り着くが、下からは異変に気付いた敵が迫ってきている。 ――そろそろ、頃合か。 右手をマシンピストルをホルスターに戻して、ショットガンを構える。二つ下の階に向かって勢いよく手榴弾を投げつけてから、シーアは階段を駆け下り始めた。 敵が出て来た瞬間に、右手の人差し指を引く。 毎秒6発の散弾が敵を吹き飛ばし、撃ち漏らしを左手のマシンピストルで片付ける。 狭い室内戦での面制圧力と連射性は、正面に立ち塞がる障害の存在を一方的に否定する。 そこに手榴弾が織り交ざり、接近すらも許さない。 赤い右目の男の存在を見た者達は、その頭を吹き飛ばされる。 一年ほど前に起こった、公式記録が一切残されていない、ある連続テロ事件と、まったく同じ状況。 だが、それを知らない殆んどの基地の男達は、上下の階からの挟み撃ちに打って出る。 上からの襲撃を感知したシーアは、特製の焼夷手榴弾のピンを引き抜いて、上の階に放り投げた。 場所が特定されている以上、同じ道を進むのは危険である。 シーアはそう判断して通路に出て、エレベータに向かった。 だが、通路の向かいには既に、銃を構えた敵が、6人ほど壁に身を隠して待機していた。 ――ようやく、面白くなってきた。 ショットガンのドラムマガジンを交換し、焼夷手榴弾のピンを引き抜く。 一秒待ってから、手榴弾を投げつけて壁に身を隠す。 敵が発砲して弾幕を張るが、手榴弾には当たることなく、そのまま敵の元まで飛んでいく。 避けろ、と叫んで逃げる敵。 だが、その手榴弾は予想に反して爆発はしない。 ただ、青白い閃光が炸裂する。 その強烈な閃光が、視界を完全に焼き尽す。 シーアの狙いは、最初からそれだった。 通路を走りぬけ、左右に腕を突き出して発砲。 左右に分かれた男達に、次々と弾丸が突き刺さる。 絶命の確認はせず、すぐにエレベータに向かう。 電源供給が完全にストップしているため、ドアはこじ開けるしかない。 だが、わざわざ苦労して開けてやる必要はない。 バックパックから取り出したのは、黒い大きな円盤。 その名は〈ウォールブレイカー〉。 裏面には高指向性爆薬がセットされている。 それを、エレベータのドアに設置して離れる。 起爆。 ただでさえ高い指向性を持つ爆薬が、円盤の特殊構造によって衝撃が収束され、ドアには綺麗な円形の穴が開いた。 その穴から、エレベータシャフト内に滑り込んで梯子に手をかける。 シャフト内の梯子にフックをかけて、腰のベルトに小型ウインチを取り付け、ワイヤーをフックに接続する。 そして、梯子から手足を離した。 ウインチによって適度に減速しつつも、一気に階層を下る。 その間に、腕時計のスイッチの殆んどを押した。 施設内に仕掛けた爆弾が、次々に爆発してビルを揺らす。 その度に、遠くで悲鳴が響き渡る。 かなりの階層を降りてから、最後にもう一つ、腕時計のスイッチを押す。 すると、自分のいる位置より少し下に、光が差し込んだ。 地下一階のエレベータドアに自分があらかじめ仕掛けておいたウォールブレイカーによって穴が開いたのだ。 ウインチでさらに下降速度を減速させ、ゆっくりと目的の場所に近づき、梯子に手をかける。 ツールバックからワイヤカッターを取り出し、ワイヤーを切断。 そして、穴から外に出た。 敵の気配はないが、既にこちらの存在には気付いている。 待ち構えていてもおかしくはない。 そう考え、ショットガンとマシンピストルを構えて慎重に進む。 地下二階へ向かう階段をゆっくりと降り、通路の前で立ち止まる。 おそらく、この先には敵がいる。 それが最後になるだろう。 ショットガンのドラムマガジンを変えて、弾種をエアバースト弾に変更する。 そして焼夷手榴弾を投げ込むと同時に、シーアは壁で半身を隠しつつ顔を出した。 正面に並んだ敵は八人。 全員が一斉にアサルトライフルを構えて、発砲してきた。 彼らも必死なのだろう。 手榴弾に警戒して、一斉に敵が引く。 シーアが爆発後にすぐ顔を出しても、射撃は止まることがない。 おそらく、閃光手榴弾のの対策を知っている者がいるのだろう。 だが、その程度の話だ。 この程度は想定内である。 そのために、ショットガンの弾種を変更したのだ。 エアバースト弾ならば、壁に隠れた敵にも問題なく攻撃できる。 右目で距離を測定し、ドラムマガジン側面のコントローラから信管のタイマーを設定する。 そして銃口を右の壁際に向けて、トリガーを引いた。 真っ直ぐに進んだ弾丸が通路の壁を通り過ぎた瞬間、突如空中で炸裂する。 悲鳴が聞こえ、命中を確信する。 即座に左の壁際にも向けて発砲。 悲鳴を頼りに、マガジン内の弾丸全てを左右へと掃射する。 だが、シーアはショットガンによるそれ以上の射撃を諦め、バックパックのラッチに戻した。 銃身の過熱により、連射サイクルが低下し始めた為だ。 室内戦では非常に強力な銃だが、弱点も存在する。 右手にマシンピストルを構え、シーアは通路へと飛び出した。 一気に敵の目前へと接近し、トリガーを引く。 機関銃並みの速度で容赦なく連射される、弾丸の雨。 血飛沫と脳漿を撒き散らし、次々と敵が倒れていく。 だが、数秒で弾倉内の弾丸を撃ち尽くしてしまう。 その隙を狙って、味方の死体から這い出した一人の男がライフルを構える。 マガジンの装填が、間に合わない。 そう判断したシーアは、スライドが後退したままの左手の銃を突き出し、トリガーガード内側のスイッチを押した。 瞬間、強烈なフラッシュが正面の男の顔を三度、襲う。 視界を奪われた男が、闇雲にライフルを発砲する。 だが、シーアのいる場所からは大きく外れていた。 シーアは一気に間合いを詰め、弾丸の入っていない右手のマシンピストルを男の頭に突き付けた。 男は銃を取り落とし、両手をあげる。 そして、口を開いた。 「……どうして、俺達を平気で撃つんだ? お前には、躊躇いはないのか?」 くだらない質問だが、この男で作戦は終わりだと思うと、何故か答えてやる気になった。 「躊躇して、何かメリットがあるか?」 「お前、たったそれだけで……!?」 「いや、それだけじゃないさ」 右手のマシンピストルの銃口を首に押し当て、シーアが口を開く。 「オレの邪魔をするヤツは、何であろうと潰す。 お前らは所詮、歩いているうちに偶然踏み潰しちまった虫と、何も変わりはしないんだよ」 そう言って、左手と同じようにトリガーガード内側のスイッチを押す。 瞬間、銃口まわりに紫電が奔る。 アンダーレールに装着した、スタンガンユニットが起動したのだ。 男が気を失い、その場に倒れる。 すぐさまマガジンを交換するが、既に敵は全員動けない状態だった。 「……終わったか」 階段を上がり、駐機スペースに到着する。 残っているのはMTが五機と、装甲車が四台。 それだけだった。 MTのコクピット全てに爆弾をセットし、装甲車も一台を残して爆弾をセットする。 あとは自分が脱出してから、起爆するだけでいい。 「アルフ、聞こえるか? こっちは終わったぞ」 『お疲れ様です、レイヴン。 敵組織への協力者の正体は掴めましたか?』 「ああ、それに関してだが――」 瞬間、背後の音に振り返って銃を構える。 そこには、メットとボディアーマーで武装した、小柄な敵兵がいた。 「……丁度いい、コイツに聞いてみるか」 目の前の兵士は、アサルトライフルを持ってはいるものの、構える様子が全くない。 近づいて銃を奪い取ると、兵士はその場にへたり込んだ。 顔を見るため、メットを取る。 そして、その者の正体にシーアは若干、戸惑った。 ――女だと? 女性兵であるというのならまだわかるが、どう見てもそのような雰囲気は感じられない。 まだあどけない顔の、一〇代の子供だ。 鍛えられた様子は、全くない。 その酷く怯えた顔を見て、シーアは先程までとは違う、少し落ち着いた声で、問いかけた。 「……お前は何故、ここにいる?」 「……連れて、来られたの。 私のおじさんが、いい仕事場を、紹介してくれるって。 そしたら、知らない」 怯えて涙を流しながらも、少女はゆっくりと話を続ける。 「……どうして? なんで皆、死んじゃうの? どうして皆、お父さんみたいに死んじゃうの? 私はどうして、こんなことしなくちゃいけないの? ねぇ……」 少女の声が上擦り、か細くなる。 「……私も、ここで死んじゃうの?」 それ以上は、聞いていられなかった。 シーアは銃を収めて、少女の重い装備を外してやる。 そして、出来る限り丁寧に、話しかけた。 「……君を傷つけるつもりはない。 ただ、ここは危険だ。 オレについて来れば、生き残れる。 どうする?」 「……私も行く」 シーアは少女を抱きかかえて、キーの刺さったままの装甲車に乗せ、自分は運転席についた。 キーを回し、エンジンに火を入れる。 「アルフ、孤児の少女を一人保護した。 リヴァルディに連絡しろ。 それと……」 一度間を置いてから、先程のアルフの問いに答える。 「敵はおそらく、ソグラトだ」 言いながら、アクセルを踏み込む。 車両専用の出入り口へと車を走らせ、閉まったままのフェンスを突き破り、基地から出る。 「アルフ、ビーコンの位置にミサイル発射だ」 『了解』 森の中から突如、七発のミサイルが発射される。 それを合図に、通信が入る。 『よぉ整備士、そっちは終わったか?』 「ああ、任務完了だ。 敵のMT部隊は殲滅、装甲車も残ってない」 言い終えると同時、駐機スペースに向かったミサイルが着弾し、爆発した。 爆炎が舞い上がり、木々を揺らす。 キースとの打ち合わせで、ミサイル発射を合図に合流することになっていたのだ。 「それで、そっちはちゃんと合流できたのか?」 『当たり前だろ。 さっさと機体の場所まで戻って来いよ』 言われずとも、進路は既に愛機の方へと向けていた。 機体を待機させている場所に一番近い道路で車を止め、少女を抱えて合流地点へ向かう。 そこには既に、AC輸送車と、フィクスブラウの他にもう一機、ACがいた。 「機体の右腕がないということは、お前がゼオか」 『その通り。 初めまして、だな。 スコープアイさんよ』 機体の外部スピーカー越しに話かけてきたその声は、ブリーフィング時に聞いた声と相違ない。 「わざわざキースのお守り役、ご苦労だったな。 面倒だったろう?」 『ああ、全くだよ……今後は遠慮したいね』 「おいおい、そりゃないだろうよ?」 ウイスキーを煽りながら、輸送車からキースが降りてきた。 「まぁいいや、さっさと機体を輸送車に入れちまえ。 んで、その抱えてる子はどうした?」 「ああ、孤児を保護したんだ。 悪いがゼオ、リヴァルディまで送ってくれないか」 シーアが少女をその場に下ろしながら、機体に乗ったままのゼオに話しかける。 が、ゼオは文句を垂れた。 『おいおい、 俺の機体のコクピットにゃそんなスペースはないぜ? 腕に乗せてやろうにも、片腕じゃ武器をどうすんだって話だ』 ゼオの言うとおり、ACのコクピットには普通、一人乗るのがやっと のスペースしかない。 二人乗れるほどの余裕など、普通はないのだ。 「だが、マイはそれを無視して一人乗せて連れ帰ったことがあるぞ? 帰艦までの道程の長かっただろうな……まぁ、お前にできないというなら、仕方ないが」 分かりやすい挑発だが、マイと同期のレイヴンであるゼオにとっては、やはり感じるものがあったのだろう。 「あー、わかったよ! 乗せて行くから、早くしてくれ」 ゼオの機体が屈み、コクピットハッチを開放する。 そして、少女にそれに乗るようにシーアは促した。 「アイツがオレの仲間の所まで連れて行ってくれる。 そこまでいけばもう安全だ、心配しなくていい。 皆、君を歓迎してくれるはずだ」 「……ありがとう、ございます」 まだ若干の不安が残る顔だが、それも仕方ないだろう。 自分達が危害を加えない者であると証明するのは、難しい。 だが、リヴァルディのクルー達ならば、なんとかしてくれる。 これまでに何人もの孤児を保護してきたという実績がある上、自身もその雰囲気を感じているからこそ、確信できる。 少女がACに乗り込み、コクピットハッチがロックされるのを見て、自分も機体を輸送車に入れる為に愛機のコクピットに着いた。 「悪かったなイリヤ。 待たせてすまない」 「それほど長かったわけでもないわ。 彼らがここに着いたのが、割と早かったから」 なるほど、確かにそれなら退屈はしなかっただろう。 口うるさいキースの相手をしてどう思ったのかは少し気になるが、それはまた後だ。 「キース、機体を固定したぞ。 出してくれ」 『あいよ。 機体にカバーかけたらこっちに来いよ』 コクピットを出てから、イリヤに手伝ってもらいながらカバーをかけて、運転席に向かう。 シーアは通信機のスイッチを入れて、回線を繋いだ。 ―AD109/07/24 〇〇 二三― ――来たか。 繋がった回線に、応答する。 「こちらザックセル。 スコープアイ、終わったか?」 『こちらスコープアイ、旧補給基地の制圧を完了。 ゼオとの合流も完了した』 どうやら問題なく制圧できたようだ。 期待通り、かなり手早く制圧が完了してくれた。 船員の緊張も少し和らいでいる。 「よくやった。 ゼオから話は聞いている、孤児はこちらで保護しよう。 ……それで、裏は取れたか?」 作戦開始時より懸念していたその答えを、シーアがようやく口にした。 『敵兵の装備のボタンを調べた結果、ソグラト警備隊のものと同一だった。 一人ではなく複数人が、だ。 よって、今回の作戦はソグラトによる謀略である可能性が高い』 ――やはり、予想していた通りだった。 「……わかった。 そちらは予定通り、第二段階に進んでくれ」 『了解。 これより作戦第二段階に移行、次の定時連絡まで回線を閉鎖する』 「ああ、頼む」 回線が切れ、何人かがこちらを見る。 先程のシーアの言葉に、皆驚いているのだろう。 「アハト、聞こえたな?」 『ああ。 これよりソグラトに向かう』 「代表を逃がすな、絶対にだ。 捕まえたら連絡しろ」 『了解』 司令室内がどよめくが、シェルブが顔を上げた瞬間、すぐに全員の表情が引き締まる。 「総員、戦闘体制に移行。 ……マイ、聞こえるな」 『……はい』 シェルブが想像していたよりも、マイはずっと落ち着いていた。 だが、 彼を更に苦しめるであろう事を隠しているという事実が、僅かに不安感を描き立てる。 だが、それが今は最善の策だ。 「……マイ、補給部隊を停船させろ、今すぐにだ!」 『了解……』 蒼竜騎が補給車両の前方に立ち塞がり、その進路を塞ぐ。 補給車両はそれを見て、すぐに停止した。 だが、それと同時にレーダーに反応を確認して、エイミが叫ぶ。 「ボス、右舷と艦後方に敵勢力を確認! 地中進行型と二脚型のMTです!」 「来るぞ! 迎撃しろ!」 リヴァルディの機銃とミサイルポッドが展開し、一斉に攻撃を開始する。 「シルヴィ、ポイント・イエロー方向に狙撃機がいるはずだ、探し出して先に撃て!」 『り、了解!』 こちらが気付いたと感知した瞬間の、この対応。 これは完全に、最初からこちらを狙うつもりだったということだろう。 だが、サンドゲイルは素人に追い詰められるような組織ではない。 次々とMTを撃破していく。 だが、シェルブが最も恐れていた事態が、起きていた。 「マイ、どうした? 早く迎撃しろ!」 『でも、親方……』 蒼竜騎が、動いていない。 補給車両の前に立ち塞がったままだった。 シェルブが最も恐れていた事態は、まさにこれだった。 つい先程までいた町の、MTを相手にすること。 それはつまり、MTパイロットである町の警備隊員を、殺してしまうかもしれないということだ。 少なからず世話になったことのある相手を、殺してしまうかもしれない。 それ以前に、戦うことに対して、迷いが生じている。 だが、レイヴンにその迷いは許されない。 それはすなわち、自らの死に繋がるからだ。 「――お前の言いたいことは分かる。 だが、敵である以上、戦わなければ我々がやられてしまう。 そんな醜態を晒しながら、何が守れるというんだ?」 その決断は非常に心苦しいものだろう。 だが、いずれは乗り越えなくてはならない壁だ。 理想と、現実。 その二つを完全に両立するのは、難しい。 だからこそ、その選択が出来なければならない。 その選択を、今、ここでしなくてはならない。 この先、何度も同じ分岐路に立たされるであろう彼に、選ばせなくては。 「マイ、お前は、どうする――」 正しい答えなど、既にわかっている。 だが、それは何を持って正しいと言えるのか? 何を基準にしているのか? だからこそ、迷っている。 今ここで、答えを出したくはない。 それでも、時は残酷だ。 人が望む通りに、待つことはない。 蒼竜騎に、地中からMTが襲い掛かる。 背後からの奇襲、殺到するパルスガン―― 「畜生!」 マイは機体を右に動かしてパルスガンを避け、右足を軸に左回転させる。 そして、左腕のレーザーブレードを振るった。 MTが正面からその光刃を受ける。 その凄まじい熱量が、一瞬にしてMTを真っ二つに溶断した。 マイは、その威力に驚愕した。 シーアがエネルギーラインを丸々移植したと言っていたが、本当にそれだけでここまでの違いが出るものなのかと、疑ってしまう。 同時に、咄嗟の出来事に反応してしまった自分が、なぜか悔しく思えた。 だが、そんな感傷に浸っている場合ではない。 MTはまだ残っている。 地中を進むMTにマシンガンとロケットを浴びせる。 爆発して、砂を舞い上げる。 「どうして、こんなことを……」 迷いつつも、戦うしかない。 鴉の本能が知らずに染み付いていることをマイは悔いながら、マシンガンを二脚MTに向けた。 ―AD109/07/24 〇〇 五二― 「……終わったか」 サンドゲイルはソグラト警備隊を一切の被害なく、無事迎撃した。 MTパイロットの多くが投降し、その証言の結果、シェルブの予想通り、ソグラト管理部はサンドゲイルの物資を奪うつもりだったらしい。 同時に、ソグラト他、ポイント・イエローと呼称していたコロニー郡はどこも物資に悩まされており、物資を巡っての対立関係ではなく、協力して物資が奪われた形に見せかけることでエデンⅣからの補給物資をより多く手に入れようと共謀していたことが判明した。 ソグラト代表はアハトが無事に確保、保安部隊に引き渡した。 おそらく、罪を問われてエデンⅣに身を移されることになるだろう。 そして現在、任務を終えたリヴァルディは現在、大西洋を渡ってトラキアへ戻る準備のために、海沿いの町を目指している。 だが、その前にシェルブには、マイに言わなければならないことがあった。 ガレージに戻ってきたマイを、自分の部屋に連れて行き、座らせた。 「……マイ。 お前には、話さなくてはならないことがある」 「……はい」 覚悟を固めたような顔つきのマイ。 だが、自分がこれから言うことは、彼の予想している言葉とは大きく違うものだろう。 間を開けてから、シェルブは口を開いた。 「……イリヤのことだが、彼女は友人の下に預けることにした」 「……何だって?」 マイが驚き、思わず腰を上げる。 「落ち着け。 いいか、彼女を保護するには、我々では荷が重い。 彼女が来てからというもの、企業の部隊に狙われる節が多すぎる」 「それなら俺がちゃんと守りますから、だから……」 「お前だけでどうにかできる話ではない!」 場の空気が、緊張感に満たされる。 「でも、どうして預けるんですか? そんなことをすれば、その人が危険な目に……」 「取引をした」 その一言に、マイが反応する。 「……どんな、取引ですか?」 正直に、話さなければならない。 おそらく、マイが許容できないことを自分はしている。 彼女を助けるというマイの決意を、自分が阻んでしまっている。 「彼女の引渡しと交換条件に、ミラージュに『サンドゲイルには手を出さない』という確約を取り付けてもらうことになった。 取引相手は、ターミナル・スフィアだ。 シーアが今、オフィスのあるエデンⅣに向かっている」 たまらず、マイが立ち上がった。 「どうして、そんなことをしたんですか! イリヤは道具じゃない、それなのに、取引材料にするなんて……」 「なら、お前はミラージュの大部隊を相手に、一人で相手が出来ると思うのか?」 シェルブの言葉に、マイは答えられなかった。 答えは当然、決まっているからだ。 どんなに願っていても、叶わぬことはある。 理想と現実は別物だ。 もっと冷静に、状況をよく考えろ。 自分はどうするべきなのかを、な……」 シェルブが言い終える前に、マイは部屋を飛び出した。 脇目もふらずに走り、自室に戻る。 鍵を閉めて、壁に背をもたれさせる。 「畜生、俺は……俺は……」 自分の力不足なのか。 それとも、他に何か足りないものがあるのか、わからない。 わからないことが悔しくて、マイはただ、拳を壁に叩きつけることしか出来なかった。 第十五話 終 →Next… 六 コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/273.html
⑤*⑥/ /第十話 蓋を開けてみれば何から何まで事前情報と異なるとは、こういう事を言うらしい──。 後退支援戦闘に当たって迎撃戦闘に転じた部下の二人ともが瞬く間に撃滅された状況下にあって、ウルフ・アッドは冷静に事態を捉えていた。 本社情報部の連中が遣した詳細に依れば、独立系傭兵部隊〝サンドゲイル〟は比較的優秀なAC戦力を保有しているものの、独立勢力としては目立った所のない一勢力に過ぎないとの事だった。 やはり、本社の情報部は信用ならんな──。 先だって投入された先行戦力群──グレイヴ・メイカーという戦闘に際しては素人の域を出ない技術屋集団が壊走したのは当然の顛末だったとして、それは否定しない。 同時に、その壊走が始まるまでの戦域映像が本社からの指示でデータリンク適用外とされていた事が、仇になったのもまた、否めない感があった。 仮にも特殊部隊管轄軍の精鋭部隊を自負する我々の戦力の大半が、容易く撃破されたのだ。 自身の脳裏を過ぎった可能性に対して、小さく口許を歪める。 純粋戦力の数的差が産まれつつある現状にあって、ウルフは恐ろしく冷徹にあった。圧倒的不利な状況下での作戦などは、此れまでに嫌というほど経験してきている。 その中で常に生き残ってきたという経歴とそこで得た鋭い経験則が、常に彼を冷静に足らしめていた。 そして少なくとも、ウルフが相対する者──淡い桜色の塗装が施された軽量級ACとの戦闘を始めてから終始、彼自身にとって状況は優位に推移していた。 偶然に僅かな意図を絡めて、ウルフはその機体を自らが相手をするべき敵性動体として選択した。今回の作戦を嘗ての原隊に口利きした張本人である同期のリヒト・マウザーが少々気に掛けていたのだ。 敵AC機体に搭乗するパイロットの名は、シルヴィア・マッケンジー──。 そのフルネームに、ウルフは以前から聞き覚えがあった。 以前行なわれた本社外部指令一四四二号作戦──自身を出し抜いたウルフが受諾し、幾つかの友軍の犠牲を出しながらも遂行した作戦である。 後に垣間見た事後報告では、本社が必要としていた遺失技術資材の確保が作戦骨子だった。その作戦で起きた不測の事態に関与した人物の中に、シルヴィア・マッケンジーという若年レイヴンが名を連ねていたのである。 そのレイヴンはフリーランスであった為に詳細を得る事も叶わず、事態の混乱に紛れて姿を消し、作戦の事後経過でも消息不明として扱われた。 運の良いレイヴンもいたものだと、その時のウルフも軽く得心していたに過ぎなかった。 しかし、運命は往々にして巡り合うものなのだな、とウルフは今回の作戦に際して考えた。 その名を持つ当人と思しきレイヴンがサンドゲイルにいると、作戦の立案段階でリヒトはさも楽しそうに言ったのをよく覚えている。 そのレイヴンが今、自分と戦火を交えている──運が良かったのかどうか、それも含めて単純な興味のあったウルフは戦闘を開始して数分、既に僅かな落胆を覚えてもいた。 「ふん、幼いものだな──」 搭乗機、中量級二脚機〝ガト・モンテス〟は光学兵器類を搭載武装の軸とし、瞬間火力と戦闘継続力を高水準で実現している。非常に長い年月を共にしてきた事でウルフはその機体の特性を細部に渡るまで熟知していた。 微細な機体制御で常に敵性動体を有視界に捕捉し続け、ウルフは両背部連装式武装の浮遊設置型光学兵器──イクシード・オービットを射出した。正確な反応を返した敵機は高出力の収束光を回避してみせる。小気味良い偏差機動を駆使してはいるが、次の攻撃への対応準備は非常に緩慢なものであった。 此方の意図する様に戦域を右往左往する敵機へ向け、機体内蔵型の同種武装を展開、低出力の代わりに速射力を底上げした収束光を射線上に放つ。武装の仕様上、一次捕捉に限定される収束光が同時多角から殺到、見せかけは安定していた回避機動を途端に崩し始める。 基本的な操作技術は優れている。絶対的な経験の浅さ故か、機体制御に於いて甘い点が散見できるが、同時に相当なセンスの良さも垣間見せてくれる。 しかし、それでウルフの構築した優位な戦況を覆すのは、聊か困難な話である。 それでも偏差機動を継続し、あくまで回避行動を続ける様子を余裕を保った姿勢で見ると、ウルフは今一度、背部イクシード・オービットを見舞う。 前方広範囲から殺到させる光学攻撃に紛れ、ウルフは操縦把付随のトリガーを引く。右腕部携行兵装のレーザーライフルから確定捕捉を完結した収束光が大地を縦断し、敵機の側頭部複合装甲を焼却した。 継続的な高火力攻撃を見舞う中、オープンチャンネルでの通信要請を戦術支援AIが受信する。 『貴方達、ルア・リーフェスを知っているか──っ?』 状況の割りに、随分と余裕な様子だな──鼻で小さく笑い、気まぐれ程度にと応えてやった。 「知っていたとして、応える必要はない。我々の任務とは無関係だ──」 『なら、此処で貴方に用はない──!』 敵機のレイヴンの声音は何処か中性的だが、気質の幼さを垣間見せる所があった。 だが、威勢の良さだけは評価してやってもいいか──。 「ふ、前評判通りのレイヴンか──今時、珍しいものだ」 ルア・リーフェス──確かに、知っている。 本社外部指令一四四二号作戦で、リヒトが持ち帰った遺失技術資材の〝小娘〟の名だ。 リヒト自身も確か、こう言っていた。 戦場での玩具と小娘のまま事など、見ていて気分の良いものではない──。 悪辣な気質のリヒトらしい言葉だった。 そしてその小娘と相対するウルフは、彼の言った言葉の意図する所に同調している節があった。 「護りたい、奪い返したい、殺したい──生臭い感情を垂れ流す割には、大人しい立ち回りをするものだ……」 若年であろうと幼かろうと、戦士として自らの志と共に戦場に在るのなら、その生き方に忠実であれ。 出来ない者程早く死ぬ、その理はどの戦場であろうと大した差にはならない。 「貴様一人に時間は掛けられん──」 ウルフは冷徹な殺意を湛えた。 * ルア・リーフェスを知っているか──。 その問いに対する敵パイロットの応答は、耳を打つ内容としては到底満足の往くものでなかった。 そもそも一瞬の感情の昂りをついて出てしまったような、一過性の言葉に過ぎないとシルヴィアが自身でよく分かっていた。 戦術の一切を固定せず、多彩な戦闘機動を展開する敵機を前に翻弄される中、シルヴィアはその状況とは裏腹にコクピット内で確信を得ていた。 奴は、ルアの事を知っている──。 総合して中量級二脚構成のACは光学兵器群による洗練した手管を緩めず、搭載センサー群を駆使して尚、此方が知覚できない巧妙さを持って打撃を確実に与えてくる。 一方的な防戦から瓦解する前にと、シルヴィアはフットペダルを一層細かく踏んで偏差機動を行なう。 光学兵器の弾幕を引き剥がした隙に、背部ミサイルコンテナへ火器管制システムを移行──反撃の糸口を掴む為に、牽制の意味合いを強く含んだマイクロミサイルを射出した。 至近距離で吹き荒ぶ収束光の間隙を縫ってミサイルが飛翔を開始、それに紛れて右腕部に携えた長砲身の遠距離用滑腔砲からAPFSDS(離脱装弾筒付翼安定徹甲弾)弾を連射した。 ジルエリッタの主兵装が最低限稼動できる間合いを取らなければ、この戦域ではそれは全く役に立たない。 AC機の生命線である機動駆動系──膝関節部を狙ったAPFSDS弾は正確な射線を辿り、しかし、其処へ投入された浮遊設置型の光学兵器に阻まれた。光学兵器が爆発、四散して細かい残骸を周囲にばら撒く。 そしてさらに光学兵器群が敵機体との間に割って入り、マイクロミサイルの弾頭を正面から誘爆させた。撃ち漏らしたミサイル群も敵機が備えるレーザーライフルによって正確に撃ち貫かれる。 無駄な回避機動を一切含まない、非常に洗練された動作──。 黒煙混じりの火球が渦巻く中で敵機体のカメラアイと一瞬視線が交錯し、直後、再び光学兵器群による収束光の嵐が殺到する。 交戦する中量級二脚AC──それに乗り込む搭乗者が手加減をしている事にシルヴィアが気づいたのは、戦闘状態へ移行してから間もなくの事だった。一定以上の相対距離を保持して慎重に出方を視ていたつもりが、いつのまにか相手の意図に引きずり込まれていたのだ。 多様な光学兵器群による同時攻撃は圧倒的で、しかもその戦術に無駄はない。烈火の如き激しい攻撃に搭乗機ジルエリッタが曝されてなお、その暫くを持ち堪えていたという事実が、相手が手を抜いているだろうという確信の一助となった。 圧倒的な殺意を持っていることに変わりはない──しかし、何処か此方を値踏みするかのような視線の介在をシルヴィアは感じていた。そしてそれが、まるで自分の事を以前からある程度知っているかのような、そんな不快さを孕んでいたのである。 それについて言外に咎める気はなかった。もし知られているというのなら、その見覚えがシルヴィアには密かに合るからだ。 シルヴィアがその視線を許す事ができないのは、もっと根本的な部分に根ざした事実故である。 自分がパイロットとして半人前どころか、まだ児戯に等しいなどという事は誰に指摘されなくともよく理解しているつもりだった。 戦場に臨む兵士として、最も致命的に欠落した部分──自分の両の眼で相手を見て、躊躇があろうと何だろうと、殺すと決めた相手を必ず殺す、その意識と覚悟がシルヴィアにはなかった。 兵士として在ると決めながら、シルヴィアはその実、長い時間その覚悟を持つ事を恐れて生きてきた。 自らの汚点である事は知っているし、それに対する恥かしみもある。 だが、それをして尚、シルヴィアは絶対的にその汚点を否定してはいなかった。 それがシルヴィアの戦士としての、一つの覚悟なのだ。それを敵は見誤り、自分を一人の戦士としてすら認めていない──シルヴィアはそう確信を得ていた。 護りたいモノを護り抜くために必要な覚悟──即ち、自らの軍靴で何者かの命を踏み躙る事を未だに畏れているのだと。 何処かで私が、それをしなくても生き残れるかもしれないなどと言う淡い希望を抱いているのだと。 その浅ましい考えを、敵は見抜いている。 しかし、シルヴィアは自分のその気構えを、決して否定しない。 二流だろうと三流だろうと構わない。誰に甘すぎると罵られたって、構わない。 自分がそうやって生きて、生き残って意思を貫いて、代償を呑んでも護りたいモノが私にはある。 シルヴィアは心の中で一時、瞼を下ろす。そして次の瞬間には極限にまで研ぎ澄ました戦意を双眸に湛え、そして、咆哮した。 「僕は、こんな所で死ぬ訳にいかないんだ!」 その苛烈な戦意が伝わったのかどうか、敵機はそれまで緩急をつけていた機体動作を止め、此れまでとは桁外れに鋭角的な戦闘機動へと移行する。 既に生かしていたぶる価値がなくなったか、時間が惜しくなりでもしたのか定かでないが、その苛烈な攻撃を前にしては数分と持たないだろう事は明白だった。 シルヴィアは白熱した意識の中で覚悟し、展開していた回避重視の偏差機動を最低限に留める。火器管制機構と搭載センサー群を最大稼動効率で運用、機体周囲に展開する光学兵器群を把握すると同時に、此れまで蓄積したイクシード・オービットの軌道情報をHMD画面に出力する。 その中でも僅かな予測のぶれを敵機が行う為に、シルヴィアはその修正を手動──即ち自らの直感に掛けた。 圧倒的な瞬間火力の収束光がジルエリッタの機体各部へ焦熱痕を穿ち、過剰損害による被害状況を戦術支援AIがけたたましく伝える。レッドアラートがコクピット内を反響する中、メインディスプレイの一点に集約した〝狙撃座標〟が導き出され、シルヴィアは全力でトリガーを引いた。 APFSDS弾を四発斉射、一発目の砲弾が射線に重なった光学兵器群──二基の浮遊設置式子機と、その最後衛で機体に追従するEO機の計三基を纏めて貫通する。内部機構の爆発を招いたEOが後背部から衝撃を齎し、敵の戦闘機動を鈍らせる。 そこを狙った三発の砲弾が、複合装甲非搭載の膝関節部と右腕部マニピュレータ、そして頭部を破壊した。 機体制御を著しく低下させた敵機体レイダー3が荒野を削り、やがて噴煙の中でその機動を完全に停止した。 極力絞った警戒推力で至近距離まで接近し、赤銅色の噴煙を挟んで主兵装の砲口を突きつける。 荒野を走る陣風が噴煙をさらい、やがて大地に各坐したレイダー3の無残な姿が露になった。後背部は爆発したEOの影響で背部兵装のコンテナ群が損壊、他の部分も緊急制動の影響で負荷限界を超えた為か、醜くひしゃげていた。 オープンチャンネルで再び通信要請を行うと、以外にもすんなりと回線が確立された。 上がっていた呼気を整え、凛とした態度を保ってシルヴィアは宣言する。 「貴方の命までは取らない……」 『小娘が──その軍事的偽善が、貴様の答えか……』 重々しい口調で毒づくパイロットに返答は返さず、しかし胸中で、シルヴィアは頷く。 これが、私の戦争なのだと。 シルヴィアは完全に継続戦闘力を失った敵機体を残し、既に先行した二機の後にジルエリッタを向かわせた。 * ふ、私も焼きが回っていたという事か──。 あちこちから火花の散るコクピットの中で、ウルフ・アッドは自嘲した。 「仮に会う事があったら、これも予定調和だったと、貴様は抜かすのだろうな」 古い戦友の後ろ姿を脳裏に浮かべ、コクピットの内壁に吊るしていたホルスターから自動拳銃を抜く。 サンドゲイルと我々の衝突は、奴が──リヒト・マウザーが最初から望んで描いた未来だったのだ。 そして、自分達が撃滅される事も恐らく、予定された可能性の範疇に含まれていた。 踏み台にして上り詰めるつもりが、私はまたしてもあの男に一杯食わされたという事だ。 邪魔立てしようとする者は、誰であろうと逃さない。 「そこまでして貴様は何処へ行くつもりだ、リヒト──」 長年使い込んだ得物の遊底を引き、その銃身を一時見下ろした後、銃口を顎に押し付けた。 「貴様は、一人の〝鬼〟を戦場に解き放った。そいつがどう大きくなってゆくのか、俺は高みから見ていてやろう──」 何の躊躇もなく、引き金を絞った。 * コンテナを積み込んだ軽量級二脚〝レイダー4〟は無駄な反攻をせず、素直に周辺戦域外への離脱を計っていた。相対距離にして一〇〇メートル以内、それは交戦距離として極至近であり、効果に程度はあれど必中を狙える距離である。しかし、マイは積極的な攻勢に出るのを躊躇していた。 「ダメだ、射撃精度が足りない──」 吟味する間もなく出撃した経緯から、レイダー4を追撃する蒼竜騎の武装は中近距離戦闘用に調整されたままであった。現状を鑑みるならば、右腕部に携える短機関砲で敵機の機動力を奪う──即ち、関節部などの要所を攻撃するのが通例だろう。だが、それを実践するには余りにも、その兵装が状況として適応していなかった。 もし、予定外の部位を攻撃してしまったら──? 間違って関節部内のアクチュエータ機構へ致命的な損害を与えようものなら、レイダー4は推進安定を失って瞬く間に倒壊するだろう。 その際に、背部のコンテナが巻き込まれては本末転倒も良い所だった。 射撃精度に秀でた武装で、要所のみを確実に狙わねばならない。 その最低要件が、蒼龍騎の持つ武装の何れにも決定的に不足していた。 速やかな戦線離脱を計るレイダー4も既に状況を把握済みのようで、その後退機動には余裕すら垣間見える。マイが先程からできる事と言えば、短機関砲による牽制射撃を周囲に穿って進路を逸らさせ、僅かにでも時間を稼ぐ事だけだった。 マイは僅かな焦燥が、脳裏で渦巻きはじめているのを自覚していた。 「じきに領域圏外だ──どうする?」 閉鎖型自治区【ソグラト】を含む近隣自治帯は何れの統治勢力の管轄下にもない、いわば空白地帯である。その中をレイダー4は、最寄のミラージュ社管轄境界線に向けて進行中であった。此方が積極的な攻撃に出れるとしたら、それは敵機が境界線を割るまで。 もしマイが領土侵犯を犯して越境すれば、それを正当な名目としての、事実上の武力粛清は免れ得ない。 逆に空白地帯である近隣自治帯内で事を納めれば、この状況を静かに遣り遂せる可能性は非常に高かった。前後状況を鑑みるに、既にミラージュ社は相当数の実行部隊を派遣している。これ以上目立つ行動をすれば、空白地帯に隣接する他の統治勢力を刺激するのは火を見るよりも明らかだった。 現在の機動速度を維持された場合、境界線を割るまでの所要時間は一〇分を切ると戦術支援AIは算出している。 俺は、何も果たせないのか──? マイの脳裏を考えてはならない可能性が過ぎり、古い過去がその流れを後押しする。 他の誰よりも幼く、何もかもを見捨てて命にすがった頃。 誰もそれを咎めなかった。だが、自分はその腐敗しゆく心を許せなかった。 故にマイは、自らに覚悟を課したのだ──。 「どうすれば──……」 焦燥が口をついて出た時、第一種狭域索敵態勢で稼動中のレーダーに、友軍の識別信号が二つ、浮上する。後方から瞬く間に距離を詰めてきた動体反応──友軍機のツエルブとフィクスブラウが両側を突出し、その機影を有視界で直接確認した。 『ドラグーン、此方ザックセル──どういう状況だ?』 素早くレイダー4の左舷前方へ迂回したACの搭乗者である親方のシェルブ──ザックセルが問う。 「蒼竜騎では狙い撃てない、射撃精度が不足しています……」 『なるほど──此方とフィクスブラウで挟撃を仕掛け、揺さ振りを掛けよう。出来るか、スコープアイ?』 『──問題ない』 ツエルブの正対位置、右舷前方を併走中のフィクスブラウを駆るシーアが冷静に応答した。 戦術支援AIが随時算出中の境界線までの限界時間は残り五分を切っている。この状況下で二機もの増援が間に合った意味は途方もなく大きい。 前方の二機が揺さ振りを掛ける間に蒼龍騎で後方から接近、至近距離から要点を単撃する──状況として依然困難であることに変わりはないが、それが出来なければ状況の打開は見込めない。 意思を固め、マイが強襲機動に掛かろうとした、その矢先だった。 有視界に捕捉中のレイダー4が見せた変化を搭載センサー群が詳細に解析、戦術支援AIが羅列情報と合わせてプログラムボイスで報告する。 『──レイダー4、内蔵燃料電池の内部温度が上昇しています。機体各部温度も上昇、一部機構融解が始まっています』 その事実報告に一瞬戸惑い、しかし直にマイは気づいた。 『マズいな。この野郎、自爆しやがるぞ──俺達の手に渡る位ならって奴か!』 確立状態の共有回線を通じてスコープアイが毒づく。 搭載センサー群が更新するレイダー4の機体状態が劇的に変化、ものの数秒で動力源部の内部温度は数百度に達した。 現存のAC兵器には燃料電池という代物が、主な動力源として通じて採用されている。 機体内部の密閉状態から突沸した気化物が拡散爆発を起こすよう人為的に仕向ける事は、決して不可能ではない。 不都合な事実を抹消する為や、単純な自決の為に度々こういった処置が施されているという事は、戦場では珍しくない話だ。だからこそ、マイは焦燥した。 往々にして、その結末は周囲に甚大な被害を齎して収束する。 シェルブが共有回線を通じて叫んだ。 『全員退避しろ、吹き飛ぶぞ!』 その言葉に従ってフィクスブラウと、自ら発したツエルブが距離を保つ。しかし、マイは推力調節用のフットペダルを強く踏み込んだ。 その様子を垣間見てザックセルが、 『馬鹿野郎、みすみす死ぬ気か!』 「すみません、行きます──」 自らに教えを与えた親方ですら退く状況──それは致命的な状況以外の何者でもなく、マイが行なうその行動は既に、親方のそれからすらも遠くかけ離れた境地となっていた。 自身がその事実を既に自覚し、だからこそ、マイは迷いなく蒼龍騎を駆って突進を仕掛ける。 相対距離は五〇メートル弱──拡散爆発の発生まで想定一〇秒を切っている。 間に合わないかもしれない。自分以外の誰も彼もが、現状を諦めているかもしれない。 彼女──イリヤですらも。 しかし、誰かの手を離す事を、マイは良しとしなかった。 機体温度を上げながらも尚、境界線へ向けて疾走し続けるレイダー4を追う。 その時、レーダー反応に友軍の別な識別信号が現れ、友軍識別コード・ジルエリッタが表示される。 それと同時に、白燐の急激燃焼による赤い軌跡を引いたAPFSDS弾(離脱装弾筒付徹翼安定徹甲弾)が蒼竜騎の側面を走る。 後方距離は、遥か四三五〇メートル──遠距離攻撃用滑腔砲に於ける有効精密殺傷圏の間際という遠方から行なわれた狙撃が、レイダー4の後方噴射ノズルの片割れを吹き飛ばす。機動速度を途端に落としたレイダー4がよろめく。 回線を通じて〝キャスパー〟の名を持つシルヴィアが叫んだ。 『行って、マイ──!』 「オーケー。流石だ、シルヴィ!」 コンソールを叩き、左腕部以外の武装を全て強制投棄する。死荷重のそれらによる制約から解放されると同時に限界速度が跳ね上がり、マイは一層強くフットペダルを踏みつけた。 極高速の強襲機動が身体を軋ませ、状態異常を察知したメディカルシステムが異常警報を発する。 瞬く間に眼前のレイダー4へ肉薄、マイは知らぬ間に咆哮していた。 背部搭載コンテナの接続部に狙いを定め、左腕部武装のレーザーブレード発振装置から現出させた刀身を振り払う。出撃前に換装処置が成された左腕は発振装置への出力供給を高効率で実現、それによって規格外の高熱量を帯びた刀身が鋭く、背部接続部分を焼き切った。 落下を始める前にすかさず、右腕部のマニピュレータで人型大のコンテナを捕捉。強襲機動の残余推力から強制制動をかけて機体を反転させ、コンテナを抱え込んで蒼竜騎に耐久姿勢を取らせる。 ──一拍後、耳を劈く爆発音と共に後方から衝撃が叩きつけた。 緩衝機構ですら相殺しきれない衝撃が機体を覆い、警告文字がディスプレイ上を埋め尽くす。爆炎が有視界を長時間駆け巡る。 容赦ない衝撃負荷に、マイは歯を食い縛って耐え続けた。 暫くして漸く機体の震動が収束し、爆発の残響音が荒野の地平線に遠のいていく。 『機体磨耗率上昇──頭部中破、背部複合装甲消失──累計機体磨耗率、八四パーセントです。緊急冷却措置を最優先で実行、機体稼動再開までの所要時間は三分──』 戦術支援AIの抑揚に乏しい音声報告が、静けさに満ちたコクピット内に響く。 「はあ──ふう……」 大きく息を吐き、マイはヘルメットをコンソール脇に投げ置いた。強か打ち付けたような激痛が全身にあり、しかし、それを度外視してコンソールに指を伸ばす。 戦術支援AIがその他報告事項を段階的に述べ、その過程でどうやら戦域周辺に敵性勢力の反応は全て消失した事を確認した。 破損したカメラアイを介し、激しいノイズが走る有視界で蒼竜騎が右腕部に抱えるコンテナを見下ろす。表面部は余す事なく焼け焦げ、外からではどうにも内部の状況を判断できそうになかった。 冷却処置の完了を待ってマイは、コンテナと機体双方に余計な負荷を掛けないよう注意を払いつつ、コンテナを地上へそっと下ろした。 身体に鞭打ってパイロットシート脇の背嚢を背負い、開放したハッチからタラップを使って地上に降りる。 インカムに繋いだ共有回線に、有効殺傷圏外へ寸での所で離脱した友軍AC──ツエルブから通信が入った。 『マイ、大丈夫か──?』 「大丈夫です、親方……今からコンテナを開けます」 鋼鉄の残骸、残り火や黒煙が周囲一帯に散在し、鉄屑の焦げる特有の臭気がマイの鼻を鈍くつく。 焼け焦げたコンテナの前に立つと、マイは冷却用ゲルボンベで冷却措置を済ませてから解体工具を用い、一つ一つコンテナの部品を取り外していった。 そして、施錠部の部品を取り外し、コンテナのハッチを両手と肩を使って持ち上げる。 「──大丈夫か、イリヤ?」 薄暗い内部で、まるで初めて遭遇したいつかの時と同様に、彼女は目の前に横たわっていた。 しかし、今の彼女は明確な意識を保ってマイの目の前にいた。 イリヤが小さく口を開く。 「貴方は本当に馬鹿だわ、こんな私の為に……」 相変わらず表情の薄い彼女と視線を重ね、マイは強張っていた表情を俄かに緩めた。 上体を起こそうとする彼女の背中に腕を回し、手伝う。 その時、視界に横合いから橙色の鋭い光源が差し込み、マイは眼を細めた。 もう、そんな時間か── マイの手助けを得てコンテナから降りた彼女は、初めて立つかのように正しく大地を踏みしめ、荒野の果てに揺らぐ斜陽の光に身を浸す。 傍に寄り添うマイは戦火の残り香が揺らめく荒野を見回し、最後に彼女の横顔を眼に収めた。 戦陣の残り香を掻き消すかのように、荒野の風が吹き抜ける。 瞑っていた眼を彼女が開いた時、目許に溢れていた涙がその風に包まれて舞った。 斜陽の光を孕んだ大粒の雫が結晶のように煌めき、深い橙色の荒野の何処かへと貰われてゆく。 イリヤは、口許に淡い微笑みを湛えた。 「ありがとう。でも、今はそれが嬉しい──」 第九話 終 →Next… 第十話 コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/pathofexile12/pages/1068.html
The Scarred MeadowはDivination Cardの一種 交換可能アイテム 入手方法 関連リンク The Scarred Meadow 必要枚数 9枚 Wake of Destruction The earth offers nourishment, growth and healing. Unless, of course, the sky has other plans. 交換可能アイテム 変換先 Wake of Destruction 入手方法 このカードがドロップするエリア The Old Fields • Ashen Wood Map • Fields Map • Peninsula Map カード等のドロップ以外の入手方法 アイテム 必要数 備考 The Gambler 5 Stacked Deck 1 関連リンク 英wiki https //pathofexile.gamepedia.com/The_Scarred_Meadow Divination Card
https://w.atwiki.jp/gamemusicbest100/pages/8704.html
レッドストーン 機種:PC 作曲者:L K Logic Korea 開発元:L K Logic Korea 発売元:ゲームオン 発売年:2005 概要 韓国のL K Logic Korea社が開発したオンラインゲーム。 日本では2005年からサービスを開始しており、15年以上も親しまれている古参のオンラインゲームの1つ。 音楽は作曲者は不明であるが、L K Logic Koreaのスタッフが制作したものとされる。 サントラも発売されていてイメージソングも収録されているが、BGMの方は街やダンジョンなど1部のものしか収録されていない。 収録曲(サウンドトラック順) 曲名 作・編曲者 補足 順位 -Title- Legend of Red Stone L K Logic Korea タイトル画面 -Brunenstig-Old City Brunenstig 古都ブルンネンシュティグ -Grassland- Echo of Wind 古都西口 -Cave- Impression of Adventure 洞窟 -Moutain Village- My Sweety Home 鉱山町ハノブ -Mountain- Teeth of the Earth 山脈 -Dungeon- Cold Spirits 地下墓地 -Mine- Dark Stream 廃坑 -Liveration Team- Sorrow of Pure White デフヒルズ -Desert- Yellow Sand,Oasis,and Life 砂漠 -Dessert Village- Cactus オアシス都市アリアン -Ruined City- Scar of Brick 荒廃都市ダメル -Savanna- Best of Root やぶ森 -Tower- Dancing Gear スウェブタワー -Small Town- Incongruity 緑故地スマグ・バリアト -Temple- Rose Window 神殿 -Legend of Red Stone (Arrange version) 編:桜庭統 ボーナストラック -Little Choice ~「RED STONE」イメージソング~ (Japanese Version) Tae-Hyoung Seo 歌:Jung Eun Lee -Little Choice ~「RED STONE」イメージソング~ (Korean Version) サウンドトラック レッドストーン オリジナルサウンドトラック
https://w.atwiki.jp/prototype_game/pages/42.html
A DREAM OF ARMAGEDOON Go to the Contact s Phone Booth. Contact Mercer, right now BLACKWATCH s only motivation is fielding the Bloodtox weapon as far and wide as possible. They re already moving to blanket the island with it, and once they have you boxed in, they ll move in for the kill. You need to break their grip on Southern Manhattan before they can expand their coverage radius. Alex Who the hell is this? HALT THE DEPLOYMENT OF BLOODTOX GO to the BLOODTOX STAGING AREA. Alex Bloodtox breath everything infected with virus. Dispurce who their moderate? agent march. DESTROY all BLOODTOX BLOWERS. Alex Bloodtox burns. Hit and runs and all I can do. Blackwatch Headquaters We have clearance to deploy a fighter wing for priority support to the Tox Teams. Orders from the old man himself is that sustained Bloodtox deployment is the number-one priority.
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/267.html
第一話*②*③ 若干離れた場所から本来の進路へ復帰した直後、通信回線に指示が入る。 『施設外周部戦域の制圧が完了しました。隔壁開放と共に、速やかに施設内部へ進攻して下さい──』 総合通信士が述べ、マイは前方二四五メートル前方に聳える旧世代施設の大型隔壁を拡視界に納める。第二陣主戦力より先行していた供出軍の特殊工作MTが複数機、隔壁設備外盤部に取り付いている。 機構制御を直接掌握する算段なのだろう。遥か前方を突出していた友軍機〝シックザール〟が機動速度を緩め、後続戦力の到着を待つと共に機体姿勢を臨戦態勢へと移行する。 『──さあて。お仕事、お仕事♡』 今か今かと手を揉んでコクピット内部で待つ彼の姿を脳裏に浮かべ、アレで仕事上本腰入れているのだから何だかな──マイは一人思った。 特定周波数で結んである通信回線から漏れた独り言を聞き流し、蒼竜騎に戦闘態勢を取らせる。予定外の介入はあったが、機体状態に目立った変動はない。短機関砲の弾薬消費は最小限に抑え、装甲損害も皆無である。 「漸く出番か──」 低く呟き、マイはブースタペダルをぐっと踏み込んで蒼竜騎の機動速度域を巡航機動から完全な強襲機動に押し上げる。残り火が燻る周囲の景色が飛び過ぎ、先行していたシックザールを瞬く間に追い越した。 「──蒼竜騎、突出する。後続に紛れて遅れるなよ、ゼオ?」 『安い挑発文句は止せよ、ドラグーン。出会い頭にヤラれても、ケツを拭くのは勘弁だぜ──』 軽い冗談を飛ばし合った矢先、隔壁設備に取り付いて制御機構の掌握を図っていた工作MTのパイロットの通信報告が入り込んできた。 『こちら工作部隊、隔壁設備の機能を掌握した。施設隔壁の開放を実行する──』 その報告を確認した作戦司令部の総合通信技官が続いて、 『設備隔壁の開放まで残り一〇秒です。縦列密集隊形を維持し、内部迎撃戦力を殲滅してください──』 更に機体速度を跳ね上げると後続戦力もそれに呼応し、ごく自然な流れで突入制圧用の密集隊形が構築されていく。マイは蒼竜騎をその最先鋒に立て、右腕部マニピュレータに握った短機関砲を持ち上げる。 重厚な建造方式の隔壁が左右に押し開かれ、マイは逡巡なく蒼竜騎に突入機動を取らせた。 ほぼ完全に開放された隔壁奥部に無数の熱源反応を感知、カメラアイが施設内部の迎撃戦力を捉え、マイは突進機動から蒼竜騎の機体を左右に振り回した。 「っと、修理費は安く済ませたいんでね──!」 一拍遅れて煌いた無数の高出力収束光が前方から照射され、その殆どが蒼竜騎の周りを飛びすぎていくか、軽く外部装甲を掠める。運悪く収束光の集中照射を浴びた後続ACが二機ほど決定的な打撃を受け、突進機動を停止してその場に横転、周囲のAC群が巧みに回避して突入を続行する。 設備隔壁を潜り抜ける刹那、マイは素早く操縦把の付随端末を操作し、火器管制機構の管制対象を右背部兵装へと転換──ミサイルコンテナを展開した。 仄暗い内部で迎撃態勢を敷く敵性個体群──ごく単一的な形態のパルヴァライザーが、遍くその青白い不気味な眼光を揺らめかせる。それらを多重捕捉し、即座に射出スイッチを押し込んだ。 計八基の小型地対地ミサイルが先行して内部へ進入、その弾幕を隠れ蓑に用い、蒼竜騎を一気に内部へ滑り込ませる。最も手近な目標に向けて突進攻撃を仕掛け、短機関砲による遅滞掃射を浴びせた。回避機動を遅らせた四脚形態の目標がミサイル弾頭を正面右側から受け、その隙を突いてレーザーブレードから刀身を現出、高熱量に任せて目標の胸部を袈裟懸けに切り裂いた。 沈黙した目標が崩れるのを待たず、機体を転回させる。 後の先を取ったマイの攻撃が功を奏し、後続の友軍AC達も既に他の敵性動体を始末していた。応対攻撃を受けてなお突入攻撃を続行、最初の防衛戦力を制圧──友軍の損害も二機に抑えた。手始めの戦果としてはまずまずだろう。 戦闘音の収束を聞く傍ら、タッチパネルを叩いて施設内部の位置情報をHMD画面に出力する。今回の作戦に先んじてミラージュ社は事前に調査部隊を派遣、多大な損害と引き換えに設備隔壁とその先の資材保管施設の全容を解析したのだ。 ここを起点にして地上及び地下の方々へ広大な空間を構築しており、直結する連絡通路は現在地点の資材保管庫に合計七箇所用意されている。 第二陣主戦力の兵力数は現在六機──進路が重複するという事はないだろう。識別信号〝04〟を発信する友軍AC──シックザールがまず、名乗りを上げた。 『04、一番連絡口からの制圧行動を開始する──』 シックザールは傍の連絡口へと通常歩行で歩み寄り、隔壁を開放する。その先へ機体を進ませていく中、搭乗者のゼオから通信が入った。 『戦埠は切られちまったが、此処からは一足先に稼がせてもらうぜ。じゃあな、ドラグーン──』 「ああ。──ゼオ、充分に気をつけろよ?」 彼は軽く鼻を鳴らし、それを最後に特定回線で結んでいた通信体制が解消される。 それから立て続けに他のレイヴン達が各々の進入経路に進んだ後、資材保管庫に残ったのはマイの搭乗する蒼竜騎のみとなった。 「さて──……」 一人残った広大な資材保管庫内を、カメラアイを転回させてぐるりと見回す。 自ら先陣を切って突破口を切り開いたのだ。せいぜい花を持たせるなどという殊勝な考えがあった訳ではないが、遅かれ早かれ何処かのルートに入るのならと、最後まで名乗りをあげなかった。 友というには聊か血生臭い間柄のゼオが消えた連絡口の隔壁を見咎め、マイは小さく嘆息する。 ミラージュ社が提示した施設内部進入後の戦術は、単独行動による内部探査と武力制圧だった。調査部隊に多数の損害を出したミラージュ社が、それ以上のリスクを抑える為にレイヴン──取り分け、無所属の自由傭兵を中心に依頼をかけてきたのは簡単に理解できる。 しかし、マイは単独行動による作戦遂行を提示してきたというその意図に、疑問を感じていた。 たかが一つの遺跡化した旧世代軍事施設とはいえ、蒼竜騎の佇む資材保管区だけでも恐ろしく広い。施設の全容となるとさらに大規模である事は、未探査の現段階で確信しても問題ない。 一定以上の規模を有する未探査区域を調査する際は、通常二機一組の行動班に分かれ、行動するのが大原則として挙げられる。生存確率を上げると共に未探査区域の網羅を確実なものとするには、それが最良の寸法だからだ。 ミラージュ社はそれを選択せず、単独行動による作戦遂行を指示した──。 作戦前から考えていた事を再び頭に持ち出していた事に気づき、マイはかぶりを振った。 不利な条件下での作戦など、これまでに幾度となくこなしてきた。原隊が関与しない初の単独出向任務とはいえ、今回もそんな依頼の一つに過ぎない。マイは頭の中から、それまでの思考を追い払う。 何れのレイヴンも進入していない連絡口の位置座標を出力し、そこへ蒼竜騎を向かわせるその途中、ふと踏みしめる地盤に意識が向き、カメラアイを足元へと下ろした。 無機質な素材で構成される地表部で俄かに瞬く淡青色の発色光を見咎め、マイはマルチコンソールを叩いて搭載センサー群の情報収集に指向性を与える。搭載センサー群が瞬く間に情報を収集解析し、それらがHMD画面へと出力される。 「……──資材運搬用の昇降設備?」 事前に与えられた内部情報には記載されていない事実を発見し、マイはどうしたものかと一時思案した後、作戦司令部との通信回線を用いて連絡を取る。 「オペレーター、こちら〝01〟──該当座標の設備機構を操作できるか?」 位置座標の転送から暫く後、 『施設全域の隔壁及び昇降設備の基本機能は掌握済みの為、可能です』 「よろしく頼む──」 『了解しました。昇降設備を起動します──』 総合通信技官が至極冷静な、明け透けにいえば抑揚に乏しい口調で述べる。それから数秒後、蒼竜騎が目の前に佇む地表の昇降用プレートが重厚な動作音と共に作動、青白い輪郭線が浮かび上がる。 昇降設備の完全な起動を確認してから、マイは大型昇降台へ蒼竜騎を移動させた。 『停止階層は?』 「施設制御用の中枢機構があるとすれば、最下層だろう。下まで降ろしてくれ」 その要求に総合通信技官が何の詰まりもなく応え、間もなくして昇降機が下降を開始する。地下から届く風が昇降台外縁部の隙間を抜けて吹き上げ、奇異な風音を立てる。 それは冥府への誘いの音のようであり、ここで果てた何者かの慟哭のようでもあった。戦域環境情報のひとつとして収集されるその音源を耳に入れる中、索敵レーダーが資材保管区に現れた動体反応を捕捉、蒼竜騎のカメラアイを突入してきた設備隔壁の方へ向ける。 丁度、一機のACが内部へと滑り込んで来た所であった。 その機影を肉眼に捉えた瞬間、昇降機の下降高度が蒼竜騎の巨躯を越えた為に視界からACの機影が途切れる。しかしマイは、そのACに見覚えがあった。 確か、内部突入の直前に手を貸したACだ──。 第一陣主戦力の担当は施設外周部戦域だが、事前のブリーフィングで自己判断により施設内部の制圧作戦への参加は可能と、作戦司令部から提示されていた。 恐らくその先鋒として、入り込んできたのだろう。 下降高度が下がり続ける高度計を確認し、マイは意識を鋭く改めた。 高度計の数値が地下五〇〇メートルへ到達した時、歪な模様の内壁が広がっていた前方の視界が開けた。 透明な隔壁を隔てた先には無尽とすら思える空間が広がり、空調設備の通風管か或いは輸送用レールとも取れるパイプラインが縦横に折り重なって伸びている。 その建造様式は、現在の何ものとも異なる極めて異質な物であり、マイはその光景に眼を細めた。 「本当に、人類がこんな力を持っていた時代があったんだな……」 現代の科学力では恐らく、旧世代が創り出したこのような施設を再現する事は困難だろう。 遥か昔に断絶した歴史を隔てた時代に、現代の人類が呼ぶ〝旧世代〟は存在した──とされている。 人類が気候や資源、生命すらも自在に造り変えたと言われる時代の記録は、後世の人類が繰り返した果てない戦乱の中で失われていった。 マイとてもちろん深く知る訳でなく、それらを知る知識層などの関係筋から時折話を聞く程度のものでしかない。現在地上に生きる人々の大半は、遥か昔のそれらなどは、おとぎ話で語られる程度でしか知らないものだ。 ──旧世代文明は、人類が最も深い暗部に遺した遺産なのだ。 やがて前方に広がっていた世界が元の昇降設備内壁に戻り、それから程なくして蒼竜騎を搭載した昇降機が停止した。 それに併せて正面の大型隔壁が滑り、奥へ一本道に伸びる通路が姿を現す。搭載センサー群が収集する戦域環境情報に動体反応がないことを確認してから、マイは通常歩行で蒼竜騎の足を踏み出させた。 鋼鉄の脚部が発する重い足音の反響音が容易に耳に出来る程通路は静謐に満ち、橙色に発光する警戒灯のみが等間隔で瞬いている。 ハズしたか──? 不測の事態に瞬時に対応できるよう、右腕部に携える短機関砲の砲口は上げたまま、連絡通路の先へと蒼竜騎を進ませていく。搭載センサー群によって未踏査地区の詳細が構築され、十数分程経過した頃に漸く探査地区の全容が明らかになった。 旧世代施設地表部の何倍もある、恐ろしく広大な設備空間だ。 そしてマイはその時、丁度一つの一際巨大な設備隔壁の前に蒼竜騎機体を到達させていた。設備隔壁の周囲を探査したところ、何処からか電力供給を得て稼動状態にあることは把握できた。しかし肝心の操作機構などは見当たらず、総合通信技官へ無線を飛ばす。 「此方01、閉鎖隔壁前に到達した──」 『了解──。……──レイヴン、当該探査区画の隔壁設備機構は、完全に独立状態で機能している様です。此方からの制御は出来ません』 マイは、何となくそんな可能性を察していた。昇降設備の下降途中で既に、上層部の旧世代施設とはどうにも様子が異なるのを直感的に察知していたのだ。 『──別働ACが、中枢設備への進入経路を発見した模様です。最短ルートを転送しますので、レイヴン、貴方も合流してください。当該階層へは中枢設備の掌握後、改めて工作部隊を派遣します』 「了解──」 マイは冷静に返答する。番外経路を辿って最下層部へと到着したにも関わらず、何の収穫もなくとんぼ返りする事になるとは何とも締まらない話だ。しかし文句を垂れた所でそれに言葉を返す者はおらず、溜息を呑んでマルチコンソールに手を伸ばす。 作戦司令部とのデータ・リンクを通じて最新の戦域環境情報を圧縮したファイルが転送され、パスコードを打ち込んでアップロード準備を確立。ローディング・ゲージが四〇パーセントまで順調に進行した時、不意にエラーメッセージが表記され、データ・リンク体制が一方的に解除された。不審に思いマルチコンソールに叩くが、システムが復旧する兆しは見られない。 通信回線から作戦司令部に連絡を試みるが、応答の様子はなかった。 「どうなってるんだ──?」 搭載センサー群は微弱な妨害電波を検知しているが、それは致命的なものではない。 作戦司令部、もしくはこの階層から上に問題が──? 通常歩行で蒼竜騎の機体を方向転換させようとした時、設備隔壁が不意に起動、設備外周の青白い警戒灯が先ほどよりも激しく明滅し、サイレンが鳴り響く。そして最後に、一際巨大な隔壁が重厚な作動音を立てつつ上昇し始めた。 連絡の途絶えた作戦指令部が設備隔壁を〝どうにか〟て開放したのかとも勘繰ってみたが、どうにもマイの冷静な頭はその楽観的な可能性を否定していた。 「鬼でも大口開けて待ってるってか……」 総合通信士は、別働ACが中枢設備への進入経路を発見したと言っていた。しかし、それはあくまで発見の段階に過ぎない。現場合流は暫く遅延するが、開放された設備隔壁の先に現れた新たな未踏査地区の把握を優先すべきだろうとマイは判断、蒼竜騎を隔壁の向こうに広がる空間へと歩み出させた。 一点の光もない深い暗闇に包まれた異質な空間を前に夜間戦闘用システムを起動させようとしたが、それを見計らったかのように空間内を眩い光源が照らし出した。 随分と広いな──。 口にこそ出さなかったものの、胸中で一番にその感想を述べた。 入り口に佇む蒼竜騎の前には、これまでみたものと同程度に広大な空間が広がり、その様式は五角柱を横倒しにして引き伸ばしたようなものとなっている。半透明の足場には何らかの意味を成す光源体が流れており、それの足場を隔てて、蒼竜騎は空間高度の中ほどに立っていた。 横面内壁にはハッチと思しき設備が備わっており、足場を隔てた下層部にも同様の設備が散見できる。内壁から染み出した冷気が大気を満たし、HMD画面に出力した気温計を見やると外気温はマイナス数十度を計測していた。 高度も幅も遠大な規模の空間の奥に別な隔壁があり、この先にも何かがあることを窺わせる。 搭載センサー群が空間環境情報を収集、有視界内に異質情報を捉え、メインディスプレイに拡視界で出力する。隔壁の右手上部に位置するハッチが、既に開閉済みとなっていた。 その視覚情報の把握からコンマ数秒以下──状況の急展開に対応できたのは、戦士として長らく培われた経験則のお陰だった。 条件反射がマイの身体を鋭く突き動かし、ブースタペダルの踏み込みに合わせて外部補機兵装の起動スイッチを押し込む。高出力の噴射炎が後背メインノズルと肩部付随型スラスターから一挙に吐き出され、蒼竜騎が時速五〇〇キロ以上の瞬間推力を持って前方に飛び出した。 しかし、その回避機動ですら無傷でやり遂せるには遅すぎたらしく、次の瞬間、重い衝撃が蒼竜騎の半身に叩き付けた。 目まぐるしく流動する有視界の中で上腕部から切断された左腕が宙を舞い、蒼竜騎を後背へ急速転回させる。 解析システムが左腕を襲った高出力の光学兵器による焦熱性損害を報告、戦術支援AIが機体磨耗率の増大を音声報告する。 『左腕部大破、機体磨耗率四〇パーセント──』 半透明の地表部へ激突した左腕が轟音を立てながら横転し続け、内壁に衝突して漸く止まった。 視界を前方に固定し、突如出現した敵性個体を捕捉する。 現存の類似兵器に例えて中量級二脚機の形態を模した異形の存在──パルヴァライザーと呼称される旧世代兵器がそこに佇んでいた。 ──索敵レーダーが、動体反応を検出しなかった。 「──迷彩機構か、面倒なもんだ……」 捕捉目標に接近されるまで、気づくことが出来なかった。現在も索敵レーダー上には、動体反応がない。 現存技術の何れよりも、遥かに高次化された代物だという事は疑いようがない。極至近距離にまで接近されても、僅かな動体反応すら索敵レーダーが検出できなかったのだ。 これまでの画一規格の粗雑兵器とは異なる上級戦力を前に立ち、マイは歓喜にも似た喜びの笑みを浮かべていた。それは実戦に臨む者が常に抱く恐怖とは別の感情──常に死の可能性を背負って立ち続ける者の一部が持つ、強者と合間見えた時に垣間見せるものだった。 「ち──、この代償は高く付くぞ?」 軽く毒づき、マイは右腕操縦把を振るって短機関砲の砲口を跳ね上げた。轟音と共に高速徹甲弾の砲弾を高密度にばら撒く。 しかし、捕捉目標は青白い噴射炎を後方二基のメインノズルから吐き出すと、正に掻き消えたと形容しても過言でない速度で弾幕の嵐の中を潜り抜けた。 索敵レーダー上に変わらず反応はない──しかし、捕捉目標が発散する高出力の熱源に対し蒼竜騎の搭載センサー群は的確に反応していた。役に立たない索敵レーダーの代わりに他の搭載センサー群を基にした索敵しシステムを扱い、マイは捕捉目標の機影を一時たりとも有視界の中から逃さない。 蒼竜騎の応対攻撃に対してパルヴァライザーは、先ほど至近距離から弾幕を回避して見せた圧倒的な機動力を存分に生かし、広大な施設空間内の空域を移動する。腕部ターレットが稼動域の限界に達しようとした時、唐突に回避機動から蒼竜騎に向け、突進攻撃に転じた。高速徹甲弾による弾幕を最小限の機動力のみで最大限回避してみせるという所業をこなし、パルヴァライザーは両腕部一体型の兵装を同時に持ち上げる。 ──蒼竜騎の左腕を上腕部から奪ったのは、コイツか。 搭載センサー群が捕捉目標の兵装を照合、速やかにHMD画面に詳細をアップロードする。 その兵装はステルス技術と同様、現存技術のどれにも当てはまらないものだ。しかし、兵器構造や性能については幾らか解析されている。 五年前に突如発生し、世界情勢を激変させた【兵器災害】の黎明期──旧世代文明の遺した亡霊達は、驚異的な軍事力を持って人類を蹂躙した。明確な対処法もなく、事態が小康状態へと遷移した頃には地上にいたとされる二〇〇億人超の人類は、推計で約四割ほども減少したとされている。正確な被害数は、現在も把握されていない。 だが、人類に大打撃を与えた旧世代技術も徐々にではあるが、統治企業群や統一連邦などの隷下専門機関によって解析されつつある。 捕捉目標の兵装は、高収束率を持つ結晶体を基軸にした発振装置である。光学兵器として遠隔攻撃性能に優れながら、同時にガスレーザーを結晶体周囲に展開させる事で近接兵装としての実用性も併せ持つ。 後者としての機能を発揮したその兵装が、左腕部を両断したのだろう。 蒼竜騎に肉薄するパルヴァライザーは両腕部一体型兵装の発振装置から刀身を現出させ、それを大きく振り被る。 「二度も同じ手を喰らうかよっ」 急速接近を試みる目標に対し、火器管制機構の捕捉ラグを瞬時に手動補整、マイはトリガーを全力で引く。 高速徹甲弾の弾幕がレーザーブレードより寸拍早く、パルヴァライザーの胸部装甲に到達した。高密度の弾幕の直撃によって機体が後ずさり、しかし、捕捉目標はこの好機を逃すまいと後方メインノズルから噴射炎を吐き出す。胸部機構の損害を犠牲にして、強引に前進してきた。無人兵器だからこそできる芸当だ。 マイは軽く舌を打ち、速やかに外部補機兵装のスラスターから噴射炎を吐き出させる。袈裟懸けに振り下ろされたレーザーブレードの死角へ蒼竜騎の巨躯を潜り込ませ、肩部外皮装甲を代償に致死必至の一撃を回避する。パルヴァライザーが無防備な後背部を曝し、マイは短機関砲による集中掃射を見舞った。 同時に火器管制機構の管制対象を背部兵装へ瞬時に切り替え、ロケットコンテナを前面展開。想定通りの回避機動を取るよう短機関砲による射撃密度を調整し、パルヴァライザーがマイの意図通りに上空への急速離脱を図る。 マイは咆えた。 「こいつで決まりだ──!」 短機関砲の弾幕によって後背部に重度損害を受けた捕捉目標に対し、ロケット弾を射出した。パルヴァライザーの胸部へロケット弾頭が吸い込まれ、上空に赤々しい爆炎が発生する。 致命傷を受けたパルヴァライザーが落下、地表部へ激突した。燃料系統に引火して燃え上がる炎に包まれたパルヴァライザーの傍に蒼竜騎を近付け、砲口を突きつける。機体胸部全域を粉砕された影響により、脚部を喪失したパルヴァライザーの上半身が足元に転がっている。それでも、機能していた。 青白い発色光を不規則に明滅させ、半ば灼け落ちた両腕で這いずって蒼竜騎ににじり寄る。 その異様な機械の執念に対し、マイは淡々と高速徹甲弾をパルヴァライザーの頭頂に撃ち込んだ。柘榴のように頭部が爆ぜ、制御系統を失った残骸が炎の海の中へと沈む。 戦域環境情報に敵性反応がないことを確認し、直にカメラアイで周囲を見回してからマイは第一種戦闘態勢を継続維持したまま蒼竜騎の臨戦態勢を解く──直後、大音響の警告音が鳴り響き、マイは蒼竜騎の右腕部に残された短機関砲を弾き上げた。 出来る限り空間内を有視界に収め続け、やがて現れた変化にマイは眼を瞠った。 横面内壁のハッチが開口し、それと同時に搭載センサー群が無数の熱源反応を検出する。 開口を完了したハッチの搬出口に新たな無人戦力──画一規格のパルヴァライザーが出現する。前後左右全周囲のハッチからそれらが現れ、完全に包囲された格好となった。 「くそ──、本気か……!」 凡そ絶望的以外の何者でもない状況に対して、マイは蒼竜騎を臨戦態勢に再移行させる。 増援戦力として現れた防衛戦力群の形態は画一的で、今しがた相手にしたパルヴァライザーとは比較すべくもない粗雑製だという事は直ぐに分かった。数機程度ならば何とかいなせるかもしれない。 しかし、救いようのない悲運がこの時になって味方したのか、搭載センサー群が捕捉した全周囲を取り囲む敵性動体の総数は、マイが相手にできる技量の限界を遥かに超越していた。 覆せない事実が、そこにあった。圧倒的物量差というにも厳しい現実を目の前に、マイはこめかみから一筋の汗が流れた事に気づく。 「ハメられたという訳か、俺は──」 警告音に代わって、天蓋から警戒灯が淡青色の明滅光を降らせ、その下で奇異な青白い妖光がぞろぞろと揺らめく。怖気すら誘うその大群の様相に、マイは酸っぱくなった喉元へ唾を送り込む。 最初を凌いだとして、その後持つ時間は数秒もない。 マイ・アーヴァンクは、既に意を決していた。 戦士として戦場に臨む以上、歴戦の猛者であろうと新参の傭兵であろうと覚悟の程度は大差ないもののはずだ。旧世代戦力を前にしては、人類には降伏の選択肢など最初からない。数秒後に訪れるであろう事実に反して、マイ胸中には極めて獰猛な闘志が滾っていた。 ならば、最期まで抗ってみせるしかないだろう──。 隻腕だろうと満身創痍だろうと、現状に至っては最早関係がない事だった。 増援も見込めないこの場所にあってはここは、死線ですらない。 不可避の〝死〟のみが待つ、〝死地〟に過ぎないのだ──。 臨戦態勢を取らせた蒼竜騎のメインノズルから準備用の噴射炎を吐き出し、最も手近な撃破対象である正面のパルヴァライザーを捕捉。 薄く瞼を下ろし、ブースタペダルへかけた足に力を込め、最後の攻撃を仕掛けようとした直前の事だった。 『──れいヴん、コッちへ……』 無用ではあったが、万一に備え体制を維持していた通信回線に無線が入った。その不意の事態にマイは前方を正視したまま、HMD画面に映る通信情報を注視した。 確立状態の通信回線に再度、無線が飛ばされてくる。 『──れいヴん、コッちへ……』 不気味な程に同じ声音で、全く同じ台詞が繰り返される。その音源情報を不審に考え、解析システムに走査させた結果、極めて高精度ではあるが合成プログラムを用いて生成された合成音声であることが判明した。 視界前方の隔壁が一人でに開口し、それに併せて全周囲を埋め尽くしていたパルヴァライザーの群列がハッチの中へと一歩下がる。 マイは安直な推測に縋る都合のいい気質は持ち合わせていなかったが、慎重に周囲の状況を鑑みてから最終的にその誘導へ従う事にした。通常歩行で周囲を警戒しながら隣接区画へ踏み込むと、それを境に隔壁が自動閉鎖された。 通信回線を通じ、合成音声の新たな指示がコクピット内に響く。 『降リテ、モット、オクヘ……──』 「無茶言ってくれるなよな──」 一方通行の無線に対して静かに愚痴を返し、マイはマルチコンソールを叩く。蒼竜騎が立つ空間内の大気状態を調査してみたが、人間が生身で踏み込んでも問題ない程度の酸素が確保されている事にひとまず安堵した。光源も十分とまで言えずとも、手探りしながら進むほどではない。 発信主が不明の無線指示に従う義理はなかったが、そうせねば直ぐにでも危険が迫る事を承知していた。 ──理由は不明だが、情けをかけられたのだ。従わない訳にもいかない。 蒼竜騎の機体制御態勢を第一種戦闘態勢から第三種準備待機態勢へと移行、低姿勢に固定する。 シート脇の収納ボックスから背嚢を取り出して背負い、背嚢側面の収納袋に差した酸素ボンベと防毒マスクをホースで接続し、万が一の場合に備えた。気があるからと油断させといて出た瞬間に、酸素カットでころりじゃ冗談にもならないからな──。 コクピット内壁からコンソールを操作してハッチを開口、マイは機体背面のタラップを用いて地面に降り立った。被り込んだヘルメットバイザーのHMD画面にはウェアラブルコンピュータからの諸情報が綿密に転送されてきており、そこに記された外気温計は零下十数度を示している。 最悪空調設備を弄られて気温が低下したとしても、着込んでいるパイロットスーツは防熱及び防寒性能も備えている為、ある程度までは耐えられるだろう 肩に掛けていたカービン銃を下ろして撃鉄を引き、両手に構えた。 俯き加減で待機状態にある蒼竜騎を見上げ、 「ちょっと待ってろよ、蒼竜騎──」 脚部をぽんと叩き、マイは姿勢を低く保って徒歩による移動を開始した。 →Next… ③ コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/17.html
第三話/ /第四話/ /第五話 第四話 執筆者:CHU シェルター都市『MA31-HOPE』 ミラージュの庇護下にある人類の楽園だ。少なくとも居住している富裕層にとっての話だが。 ここに自分のオフィスを持つグローバルコーテックス所属レイヴン「スワロー」は、この日新人の専任オペレーター「ライラ・フェモニカ」と通信で依頼の吟味をしていた。 『レイヴン、こちらの依頼はどうですか。【MT部隊撃滅】報酬も悪くありませんし、ターゲットもMTですので簡単かと』 「うーん……、場所が森林区画だし、見通しが悪そうだなあ。そうすると死角からの被弾は避けられないだろうし、修理費がねえ……」 不平不満は聞き飽きたといった口調でライラが諌める。 『お言葉ですがレイヴン、この程度の依頼がこなせない様では、レイヴンとしての沽券に関わるのではありませんか?』 他にも色々な依頼を蹴られたのだろう。ライラの顔には疲れと呆れが浮かんでいる。 「おっ、これなんてどうかな?」 ライラの苦言を完璧に受け流し、そう言ってスワローが指定した依頼は【旧兵器遺跡制圧】と銘打たれていた。 「複数のレイヴンに依頼しているようだし、ボク一人がサボっていてもバレないでしょ」 『――すみませんレイヴン。その依頼は既にサンドゲイル隊が受諾しています。手違いで表示されたままになっていました。今消しますね』 スワローの期待が、一刀の元に両断される。 「はあ……、旨い話だと思ったんだけどなあ。そう上手いこといかないか。何かカンタンそうなお仕事、他にないの?」 煙草とコーヒーカップを片手に、リクライニングチェアーでふんぞり返っているスワロー。 その姿を画面越しに見て、駄々を捏ねるレイヴンなんて聞いたコトない……、と呟いていたライラがとある依頼を提案してきた。 『こちらはどうですか。【クレスト資源庫襲撃】。クレスト社の保有する資源保管施設の設備と兵器生産用資源の破壊、とのことですが』 「お、カンタンそうじゃないか。報酬額はいくらだい?」 『30000Cです。良い条件かと』 「確かに破格だね。……依頼者は誰だい?」 施設襲撃の相場が10000C程度と考えると、かなり割りの良い条件である。 『武装集団クライムロック、だそうです。余り聞かない名前ですね』 「武装集団風情が相場の数倍で依頼、か。ふうん……怪しいな」 『そうですか?しかしレイヴン、これ以外今期の依頼で条件が合うものは見当たりませんが』 暫く黙考したスワローは、顔を上げると、渋々といった顔で画面のライラに向かって頷いてみせる。 「仕方ないな。分かった、その依頼受けよう」 『了解です。依頼の詳細を送ります。作戦は明後日0600開始です、機体の最終チェックはご自分でお願いしますね』 次の仕事も決まり、幾分晴れやかなトーンがライラの声色に混ざる。が、 「ねえライラ、この仕事が片付いたらどこか食事にでも行かない?ホラ、ボク専属になったお近付きってことでさ」 「お断りします」 スワローのナンパで一気に硬化した。 作戦当日の天候は、いつも通りスモッグと排気ガスを吸った灰暗い雲に覆われていた。『良い曇天』である。 絶好の殺戮日和――と、言えなくも無い。 『そろそろポイントに到達します』 ライラの声で思考の世界から現実に引き戻される。 (この子は仕事は出来るが、あんまり良いカオしてくれないなあ。まあ、そこが新人のいい所だけど) スワローはコックピットのコンソールに作戦の詳細を表示させる。 施設と倉庫の破壊。新人でも楽勝な仕事だ。 「アナンタ、戦闘システム起動」 【ラジャー、戦闘システム起動します】 『味気ない』という理由だけで、有名女優のボイスサンプルでカスタマイズしたAI「アナンタ」が、重量2脚機体「アロウズ」を奮い立たせる。 ちなみにカスタム料は当然ながら自腹だった。 『ハッチ展開。降下OKです』 ライラからGOサインが出る。 「んじゃサクサクっと終わらせて帰りますか」 ブースターに火を入れ、アロウズが汚れた空から汚れた地表へと、その身を躍らせた。 重力に身を任せ落下していく。 鈍重な機体は落下速度を増しながら、大地に落ちていく。 【高度3000…2500…2000…1500…】 アナンタが艶やかで無機質な音声で高度を読み上げる。 【1000…500…、400、300、200】 残り100mともなると、地表の建造物が肉眼でもはっきり見えてくる。 スワローはフットペダルを踏み込み、ブースターの推力で落下速度を相殺する。 ドズンッッ しかし、ブースター始動のタイミングが僅かに遅れ、無様な四股踏みを晒してしまった。 兵装であるバズーカなどは、全長が長いため、先端が柔らかい地面にめり込んでしまっている。 『見事な着地ですね、レイヴン』 間髪入れずにライラから皮肉が送られてきた。 「いやいや、これは演技だよエンギ。敵を油断させるための高度な駆け引きだよライラ」 「演技に夢中で奈落に落ちないようお願いします」 痛烈なライラの返しが来たところで、アナンタが周辺の状況確認を完了させる。 【スキャニング完了。周囲に動体反応、エネルギー反応ありません】 コホンと咳払いを一つ入れ、気を引き締め直し辺りを見渡す。 鬱蒼とした木々の中に、ポツンと人の手による建造物がある。 小奇麗な外見の建物の他に、格納庫や、(輸送機のためのものだろう)滑走路もついている。 「コレか。……倉庫というよりはなんか研究施設っぽいけどね」 『そうですね、私も同意見です』 「でもまっ、ここが指定ポイントだし、破壊してしまえば問題無いな」 話との食い違いにやや面食らいながらも仕事は仕事、細かな差異など良くある話だ。 スワローがバズーカを構え、トリガーを引こうと力を入れるのと、ライラが鋭く報告を入れるのは同時だった。 『広域レーダーに反応!3つの熱源体がこちらに高速で接近中!この反応は、……ACです!」 (タイミングが良過ぎるな。予感的中ってところか) 未確認ACは、レーダー上を真っ直ぐにアロウズの方へ向かってくる。 何が狙いかは明らかだった。 「ダメもとで何か言い訳でもしてみるかなー。ライラ、あちらさんに通信を」 『ダメです。応答ありません』 「うーん、『まだ』何もやってないから言い訳できるかなーと思ったけど、やっぱプロだよね。さすがさすが』 どのような言い訳を考えていたか知らないが、非情が売りであるレイヴンに、そのようなものが通用するわけがないのだが。 スワローはこの明らかな危機にも動揺が見られず、泰然としている。能天気なだけかもしれないが。 『え……、これは一体?未確認ACは接近を停止。こちらから一定の距離を保ち、第一種戦闘態勢のまま包囲している模様』 オペレーターのライラも困惑しているようだ。 攻撃もしてくるわけでもない。 しかし通信も受け付けない。 「変なことになったなあ」 『便宜上敵性と認定します。敵ACのデータの照合完了。どうやらクレスト所属陸軍のようです』 ライラがそっけなく報告を入れる。 「まあそうだろうね、クレストの管理下にいるんだから」 クレスト所属機ならば、何か警告なり威嚇なり――最悪攻撃をしてきても不思議ではない。 しかし、クレストACは沈黙を保っている。 気まずい硬直を打ち破ったのは、意外なものだった。 『資源保管施設に変化があり。格納庫が開かれていきます。……!?』 格納庫が開き、中のモノがスワロー達の目に映る。 『あれは、パルヴァライザー!?』 スピーカーからライラの驚愕した声がコックピット内に響く。 独特のシルエットに、オレンジを基調にしたツートンカラー。 両腕にはロングブレードの代わりにマニュピレーターが付いていてライフルを装備している。ディテールこそ違えど格納庫から姿を現した二脚型の機体は、幾度も人類と交戦してきた旧世代の機動兵器『パルヴァライザー』に酷似していた。 「いや、似ているが、違う。コアにクレストCCM-0V-AXEの特徴がある。アレは、少なくともACだな」 スワローが酷く落ち着いた様子で分析結果を述べる。 『ではクレストの新型AC?』 「……まあ旧兵器の技術は流用されているだろうね。鹵獲したパルヴァライザーから全く異なる機体制御技術のサルベージに成功したという話や、新物質によるジェネレーターのエネルギー効率の革新に成功したという話は耳にする。「ターミナル・スフィア」という墓荒らし集団の噂くらいは、ライラも知ってるだろう?」 『ええ、独立した軍事力を保有する少数精鋭の旧世代調査団体、と記憶しています』 「ま、あのババアは調査が一番仕事は二番とか抜かしてるしね。己の好奇心を満たすためだけに、パルヴァライザーをとっ捕まえることぐらいしてそうだな」 スワローの声に懐かしさが混ざる。 『レイヴンはターミナル・スフィアに知り合いがいるのですか?』 「……いや、まあ、ね」 ライラが不思議そうに聞くと、頬を掻きながら笑ってはぐらかされた。 この男にも何か言いたくない事があるようだ。 これ以上の詮索は無意味と悟ったか、ライラは新型ACの解析作業に移る。 『あの新型ACは起動していないようです。エネルギー反応がありません。それ以外の情報は残念ながら解析不可能です』 クレストの新型と思われるパルヴァライザーもどきは、不気味に首を垂れ、動く気配は無い。 クレスト軍のACも同様に動きは無い。 スワローも動くに動けず、バズーカを施設に向けたまま固まっていた。 この沈黙を破ったのは、やはりライラの状況報告だった。 『敵クレスト所属AC全機、こちらから離れていきます。索敵レーダー範囲から離脱を確認』 全く動きを見せなかった敵ACが、一斉にアロウズから離れていく。 やはり全くの無言だった。 「良く分からないな。何かあったのは確かみたいだが」 『衛星からの情報によると、どうやら北西に向かっているようです。我々の他にも侵入したACが居るようですね』 目の前の敵よりも脅威となると判断したのだろう。それともアロウズをこの新型に撃破させようとでもいうのか。 【敵眼前ACにエネルギー反応】 アナンタからの報告でスワローはレーダーから視線を引き剥がす。 今まで置物のように鎮座していた新型ACに灯がともっている。 数々のACを見てきたが、禍々しいと形容する他無い外見だ。 スワローは状況に対応できるように、敵新型ACをロックオン。いつでもトリガーが引けるように操縦把を握り込む。 だが注意していたにも関わらず、敵新型ACの機動が全く見えなかった。 レーダーで確認してようやく真上に垂直ジャンプしたのだと理解した。 「速い……!オーバード・ブーストか!」 エクステンションの補助ブースターではこれ程の推力は出せないはずだ。 しかし、ライラからの報告は予想を裏切るものだった。 『違います……、信じられませんが、通常のブースターとスラスターのみの推力です!』 通常のブースターのみでオーバード・ブースト並の出力があるということだ、この新型は。 (旧兵器だけかと思ったが、まさかあの技術まで組み込んであるのか!?) アロウズの真上を取った敵新型ACは、両手のバーストライフルを交互に打ち込んでくる。 直上からライフルの弾丸が降り注ぐ。 スワローはレーダーで位置を確認しながら機体を急速後退。しかし避け損ねた幾らかの弾がアロウズの装甲を削っていった。 「結局こうなるのか!」 二次ロックの掛からないバーストライフルの特性上からか、それともロックオンシステムに不備があるのか、どちらとも言えないが、敵の狙いは甘く、鈍重であるアロウズを捉え切れていない。 (無人機か?狙いはお粗末だな……。まあ、あの加速では常人どころか並の強化人間でも耐えられんが) しかし圧倒的なスピードでサイティングすらままならず、視界外からの射撃が容赦なくアロウズの装甲を削っていく。 【AP80%に低下】 アナンタがこちらの劣勢を淡々と告げる。 『本社に増援を要請しましたが、到着に1時間以上掛かります。レイヴン危険すぎます、撤退を』 ライラが撤退を推奨してくる。 だがスワローは無駄に冷静だった。 「あのスピードから逃げられると思うかい」 機動力に数倍の差があるため、尻尾を巻いて逃げたとしても、簡単に追いつかれるだろう。 あちらの通常速度は、こちらのオーバード・ブースト以上なのだ。 『しかし!』 尚もライラは食い下がる。「逃げて」と、そう言っているのだ。 小心者で、大した腕でもないこの男が、この方法意外で生き延びる術は無いはずだ。だから「逃げて」と、そう言っているのに―― 「まあこのままだと――死ぬね。間違いなく」 『だったら!』 ライラの声は悲鳴に近い。 「いいかいライラ、良くお聞き。オペレーターというのは常に冷静でいなければいけない。冷静に状況を判断し、レイヴンのサポートをしなければならない。良いオペレーターになりたいなら、この事を忘れてはいけないよ、いいね?」 上を取られた状態でスワローは回避行動を取り続ける。 だが、コンデンサー内のエネルギーもそろそろ蓄えがなくなってきている。このままではいずれ捕まり、蜂の巣にされるだろう。 『こんな時に何を……』 【AP60%に低下】 アナンタが無情に報告を続ける。 「勿論ボクもこのまま死ぬつもりなど毛頭無い」 意外なことをこの三流レイヴンが言い出した。まさか玉砕でもするというのか。 しかし次のスワローの言葉は、ライラにとって更に意外なものだった。 「ライラ、本社に回線09Xで緊急通信を」 『え……?しかし援軍要請は既に……』 「いいから!言う通りにするんだ」 『りょ、了解っ』 尚も敵新型ACからの攻撃は続いている。 反撃でバズーカを打ち返すが、ロックオンすらままならず、カスりもしない。 『レイヴン、回線繋ぎます。どうぞ』 コックピットコンソールに白衣姿の妙齢の美女が映し出される。 "あらスワロゥ、どう…の?実験……ないのに" 回線が安定していないのか、ジャミングでも掛けられているのか、ノイズ交じりの映像だったが、やがてはっきりとした線を結んだ。 「やあディタ、雰囲気で伝わると思うけどピンチでね。機体の使用許可を貰いたい。ASAPだ」 スワローにディタと呼ばれた女性は僅かに驚いた様子だったが、すぐに合点がいったようで、手元のキーボードを打ち始める。 『火急のようね。分かったわ、使用を許可します。認証コードの入力はそちらでお願いね』 「ありがとう恩に着るよ」 『いいのよ。それよりも面白い土産話を期待してるわ。ご武運を』 最後にウィンクを残し、ディタの姿が消える。 『レイヴン、今のは?』 「あー、ごめんライラ。機密ってヤツでね、君の階位では話すことができないんだ。それより少しの間通信を切らなければいけない。けど心配しないでくれ、必ず戻る」 ライラは少し逡巡したが、すぐに頷いた。 『――わかりました。ちゃんと戻ってきたらデートのコト、考えてあげてもいいです。どうか、ご無事で』 ライラの声を聞き終えると、スワローは通信を切った。 「これは俄然やる気が出てきたな」 そう言ってスワローは獰猛な笑みを浮かべる。 普段の飄々とした態度とはかけ離れた、兇悪な猛禽の姿がそこにあった。 オーバード・ブーストで一旦距離を取り、左手の携行グレネードをパージして敵新型ACに投げつける。 勿論当てるのが目的ではない。 「ちょっと時間を稼がせてもらう」 ロックオンを『グレネードに』向け、トリガーを引く。 バズーカの砲弾が、放物線を描いてアロウズと敵新型ACとの間に投げ込まれた携行グレネードに当たり、弾薬に誘爆して紅蓮の壁を作り出す 炎の壁は、敵新型ACの姿を赫光で覆いつくす。 爆炎が視界を遮っている内に、アロウズを後退させコンソールにプログラムコードを入力。 「アナンタ!コードNX-28483だ!」 コードを確認したアナンタが命令を復唱する。 【イエス、マスター。コードNX-28483確認『ARROWS』起動します】 その瞬間、アロウズの機体が爆ぜた。 いや、爆発したように見えた。 実際には指向性の形成炸薬が増設した装甲を吹き飛ばし、本来の姿を晒し出しただけだ。 現れた新しい機体には、ミラージュ社に見る流線型の美しいフォルムに、クレスト社に見る直線のマッシブさが融合している。 塗装も迷彩も施されていない銀色の中量2脚が、鈍重な重量級の装甲を弾き飛ばし出現した。 腰部からパルスライフル程度の大きさの短身銃を取り出す。 小型軽量化されたプラズマライフルだ。 【インテグレイトコントロール接続】 コックピットのシートからプラグがせり出しヘルメットに合着。そしてスワローの脳神経と機体システムが直接接続される。 内部外部問わず、大量の情報がスワローの脳に直接流れ込んで来る。 「ぐ、うぅッ!」 脳を圧迫するほどの情報量に、スワローの顔が苦痛に歪む。 【コジマ粒子、安定しました。クイックブーストスラスターオールグリーン。200秒間のみ戦闘推力での稼働が可能です】 「……ふぅ。3分もあれば十分だ。」 自分の体に力がみなぎるような錯覚に、否が応でも気分が高揚する。 もはや自分は狩られる側ではなく、狩る側なのだ。 視界の回復したらしい敵新型ACが猛スピードで突っ込んで来る。 ライフルがアロウズの肌を喰い破ろうと襲い来るが、後方に一瞬で100m程飛び退り、回避する!こちらも通常ACでは考えられない速度だ。 強烈なGが、スワローの骨格を軋ませる。 「……ッ!飛ばし、過ぎだ!アナンタ!Gキャンセラー効いてないぞ、どうなってる」 【Gキャンセラーはオミットされています】 「そういやそうだった……。」 敵もこちらの変化に気付いたのか、今まで以上の速度で追い縋る。 「クソッ、無傷では帰れそうにないな!」 後退しながらトリガーを引き絞る。 破壊力を追求したプラズマがパルヴァライザーもどきに迫るが、弾速があまりにも不足していた。 余裕綽々で回避される。 「普通に撃っては当たらないか。……アナンタ、ロックオンを解除。手動でやる」 【ラジャー、オートロックオン解除】 相手の機動予測をコンピューターに任せていては当たらないと考えたスワローは、火器の生命線とも言えるロックオンを外す。 (無人と有人の決定的な差を教えてやるよ。閃光で怯んだりした所を見ると、視覚情報メインでの回避運動か。ならば!) プラズマライフルをわざと一定の射線で撃ち、敵新型ACを研究施設の方向へ誘導していく。 (お前の弱点はその馬鹿げた機動力だ) その時耳障りな警告音が響き渡る。聴覚も研ぎ澄まされているスワローは思わず耳を塞ぎそうになった。 【銃身異常加熱。40秒後に爆発します】 「これだからエネルギー兵器は大嫌いなんだよッ!」 スワローはアナンタに向かい怒鳴り散らす。 (まあいい、その前にケリをつけるだけだ!) スワローは後退から一転して追撃の姿勢を取る。 プラズマの光弾に追い立てられた敵新型ACは、施設の壁に沿うように回避し続けている。 しかし目の前を壁で塞がれてしまった。スワローは最初からこの場所へ誘い込むために、ワザと避けやすく撃っていたのだ。 築壁とプラズマに挟まれた敵新型ACは、他に逃げ場が無いと悟ったか、真上に急速上昇する。 (そうだ、もう上にしか逃げ道はない) スワローの予測通り、真上にクイックブーストをかけた敵新型ACの左足を、プラズマが撃ち抜いた。 パーツの部品と火花を撒き散らし、片足を失いバランスを崩した敵新型ACは、回転しながら施設の壁に叩き付けられる。 轟音を上げ、コンクリート片と埃煙が舞い上がった。 「チェックメイトだ」 ようやく体勢を立て直した敵新型ACのコアを、アロウズのプラズマが正確に撃ち砕いた。 【目標の沈黙を確認。エネルギー反応、動体反応共にありません。インテグレイトコントロール解除】 中枢を完全に破壊され、機能を停止した新型ACを確認し、スワローは溜め込んだ息を盛大に吐き出した。 「くはっ、色々と疲れた……」 一息ついたのも束の間、小型プラズマライフルが過剰熱量に耐え切れず爆発する。 格納武器はこれ一つだけなため、今のアロウズは丸腰ということになる。 「あー、……まあ敵を倒した後だからいいか」 自壊炎上する大嫌いなエネルギー兵器を見ながら、スワローはポツリと呟く。 【広域レーダーに反応。先程のクレストACが一機接近中です】 「ふむ。新型の反応が消失したから驚いて戻ってきたって所かな。一機だけだとすると、他の二機はまだ戦闘中か、あるいは……」 煙を上げ、動かなくなった敵新型ACを見やる。 「手土産に腕の一本でも持って帰りたいところだけど、荷物抱えて逃げ切れそうにも無いな。口惜しいけど諦めるか」 【クレストAC、索敵レーダー範囲内まで接近。マスター、ご命令を】 アナンタが状況の判断を促す。 「仕方ないな、このままサッサと逃げることにするか。アナンタ、亜音速推力でオーバードブースト機動」 【ジェネレーターの電圧が不足しています。亜音速推力では起動後116秒後に機能停止します】 「……、じゃあ準戦闘推力で起動だ」 【ジェネレーターの電圧が不足してい……】 「分かったよ!通常巡航用推力で起動だ!」 【ラジャー、オーバード・ブースト、スタンバイ】 溜息をつきながら、スワローは今回の戦闘を思い浮かべる。 あの新型には旧兵器の技術と、不完全ながらも「例の技術」が使われているのは間違いない。 このアロウズもその技術を流用して作られた試験機だ。 (やはり企業連中も本格的にNEXTに取り組み始めたか……。また面倒なことになりそうだなあ) 【オーバード・ブースト始動】 噴射炎を引きながら、アロウズがクレストの領空を疾駆する。 「アナンタ、グローバル・コーテックスに通信回線を開け。輸送機に迎えに来てもらおう」 【ラジャー、回線開きます……】 (さて、ライラには何て言い訳しようかな?) スワローが何よりも真っ先に思い浮かべたことは、可愛い可愛い自分専任のオペレーターだった。 第四話 終 →Next… 第五話 コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/14.html
第一話/ /第二話/ /第三話 第二話 執筆者:柊南天 殺した。取り立てて珍しいモノもない、地方によくあるような断崖都市で、殺せる限りの人間を殺した。敵対行動を取る者は無論、戦闘員であるなしを問わず逃げようとする人間は視界に映る隅から撃ち殺した。短機関砲から吐き出された高密度の火力を受けた彼らは例外なく、血霞になってその場から消えていった。 珍しくとも何ともない光景で、何度も繰り返し再現してきた事実だ。 殺しの為の大義などなく、大義を掲げるに足る主義理想もない。 惜しみなく注がれる王岳の報酬に雇われ、肉腫塗れの殺意を代行し、汚れ切った戦場を駆けずり回る、烏は時に独りで屍肉を漁り、時に群れを成して無垢な赤子を襲い、その白い肉を相食む。必要であるとされれば群同市ですら互いの肉を求めて争う。両翼に纏わりつく腐敗した欲望と殺意の残滓を撒き散らしながら。 戦場を跋扈する烏──レイヴンとはそういった兵士達であった。世の中には高潔な理想を振りかざしてその無類の武力を行使するという奇特な烏も稀にいるというが、少なくとも自身にとってはそういうものであり、その生き方を通してきた。──唯一の故郷であったミラージュを去った時から。 代行する殺意の是非に興味などない。だから私は、あの時私に手を差し伸べてくれた"彼女"と共に戦場を駆け巡り、彼女が望む全ての対象を塵に変えてきた。 ──血雨混じりの鉄屑が自身の搭乗する機体の外部装甲を叩き、肉眼で目視できるほどの肉片がべっとりと付着する。カメラアイにまで届いたそれを見咎めて胸中で舌打ちした後、有視界内とレーダー索敵領域に敵性動体がない事を確認し、左腕に構えていた短機関砲の銃口を下した。 「……こちらゼクトラ、当該戦域を制圧した」 『良い手際だ。こちらも間もなく制圧を完了する』 南北に二分した作戦領域の北方戦域で戦闘行為を継続中の"彼女"──ノウラは、低く落ち着いた声を無線を介して寄こしてきた。その彼女の労いの言葉に、私は僅かに口許を緩めた。彼女にとってはその言葉以上の意味は何もないだろう。彼女が必要としているのは、彼女が五年前に私を拾った時から何も代わらない。 けれど、彼女が、ノウラがその言葉をくれる事が、私にとってそれ以上も以下もない喜びだった。 ブースタ機構の出力を微調整して機体を転回上昇させ、たった今しがた殲滅した南方戦域の前景を視界に映し出す。 大渓谷の断崖に寄生するように、醜くへばり付いて発展した採掘都市。廃墟と化した建築物や鉄屑と化した砲台群による防衛機構が周囲一帯で黒煙を吹き上げ、剥離した瓦礫が断崖下方の渓流へと崩れ落ちていく。 動くものは何もない。動体はない。殺して、殺し尽した。 日常によくある光景で、翌日の経済新聞の片隅にも掲載されないようなありふれた話だ。 代行する殺意の是非に興味はない。それは紛れもない事実である。 だが──、それでも、私は意識して自分が溜息をつくことを禁じ得なかった。 五年前から、世界は未曽有の兵器災害に見舞われているというのに、支配企業達は未だに互いの勢力圏の拡大と権益確保に躍起になっている。 『作戦領域の第四種制圧を完了。これより主任務の再開へ移行する。聞いたか?』 「ああ、聞いている」 結局いつも結論の出ない思案に感けていたせいで、我ながら抑揚に欠けた返事を返してしまった。 採掘都市の制圧は、主任務の作戦領域へ移動する最中に依頼主であるミラージュ社──かつての育ての親から持ち掛けられた緊急の仕事だった。灯台下暗しとはこの事だと、仕事を請けた時には思った。 『丁度いい小遣い稼ぎも済んだ。さっさと作戦領域へ移動せんと、依頼主に目を付けられるぞ』 どこか含みを持たせた彼女のその言葉に胸中で同調し、フットペダルを踏み込んで自身が搭乗する機体【ゼクトラ】を宙空へ急速上昇させる。主任務へ最短時間で到着する為の巡航高度にまで達した所でコンソールに指を走らせ、巡航用オーバード・ブーストの起動準備を進行させる。 投射型のメインディスプレイに、先の制圧戦闘における機体損耗状況と周辺戦域の情報映像が出力され、機体搭載の戦術支援AIが情報更新と報告義務を行う。 『機体装甲摩耗率4%、最大巡航速度での機構起動、問題ありません』 「作戦領域までの所要時間は?」 『主任務作戦領域までの距離は565キロ、最大巡航速度で約65分です』 「機体制御を第一戦闘態勢から第二準備態勢へ移行。周辺戦域とのデータリンクを継続、作戦領域到達までの間、現態勢を維持」 『了解。第一戦闘態勢から第二準備態勢へ移行を完了しました。作戦領域までの航行軌道プログラム修正。オーバード・ブースト起動準備、完結──』 若い女性のヴォイス・プログラムを出力するAIがオーバード・ブースト機構の起動準備完結を報告し、コンソール画面に素早く視線を走らせて最終起動チェックを済ませた。 『こちらノウラ、これより北方戦域から作戦領域への巡航機動を開始する。航行軌道のランデブー地点は約255キロ北東、20分後になる。それまで各自単独行動だ、遠方からの戦術支援は行えん。不足の事態に常に備えておけよ、後援部隊の到着まで間もないとはいえ、現戦域はクレスト領下の非緩衝地帯だ。敵対勢力と接触した際は──と、すまない。老兵の過言だったな……』 「──いや。気にするな、ノウラ」 控え目に発したその言葉を無線の向こうで聞いた彼女──ノウラが軽く苦笑する声が聞こえてくる。彼女が発した意での老兵──そう呼んでしまうにはあまりにも、彼女は一線で活躍する優秀なレイヴンであり過ぎている。 確かに、彼女──ノウラという女性はレイヴンとなって既に久しく、その上、何れの勢力にも属さないフリーランスの傭兵となってから五年以上もの歳月が経とうとしている。だが、その経歴と、古参と呼ばれるようになってからさらに現在までの五年間をフリーランスの傭兵という立ち位置で生き貫いてきたという実績は、彼女の意で言う老兵の身としては不相応であり、また彼女が老獪を極めつつあるごく一握りの傭兵である事を私達の業界に知らしめている。しかも五年前以前の経歴を秘匿しながら── 五年前、彼女に拾われなければ、今の私は彼女と同じ道を歩んではいなかっただろう。 いや、今ですら既に私は彼女の影に過ぎない。それはノウラが望んだことであり、私が切望した事実に過ぎない結果論だが。 最早その事実を掘り返すことすら不毛であると、その考えを頭の隅から思考の外へ追い落とす。口許を歪めて軽く笑み、メインディスプレイに出力中のルートマップを注視する。両手にそれぞれ握りしめた操縦把上部に付随のカバーを親指ではじき、内蔵の押ボタンに指面を近づけ── 第二準備態勢に移行し、第一広域警戒態勢にあった各種センサーが突如、けたたましい警戒音を狭いコクピットに響かせた。戦術支援AIが即座に反応してメインディスプレイに現状況を出力する。レーダーに勢力不明の熱源反応が後方、南東から急速接近してくる。 『未確認勢力動体、急速接近。移動速度及び各種駆動音から、動体源をAC機体と断定。機体制御を第二準備態勢から第一戦闘態勢へ移行します』 その無機質な支援報告、ある意味では至極冷静なAIのその対処に大した意味もなく呆れながら、操縦把上部のカバーを閉じ込む。フットペダルを大きく踏み込んで後方ノズルから噴射炎を吐き出し、最大推力で機体を後方へ急速展開させる。ゼクトラのカメラアイが正面から急速接近してくる未確認動体の姿を拡大捕捉し、有視界内にそれを捉えた。 『不明動体、背部兵装のミサイルコンテナ展開を確認。単純な示威行為ではあり得ません。不明勢力を敵性動体と断定、迅速な迎撃態勢の展開を推奨します』 AIが平坦な口調で言い切った後、まさに正面から捕捉した未確認ACが背部兵装のコンテナからミサイルを連続射出した。胸中で軽く舌打ちし、自律支援プログラムに従って戦術支援AIが垂直発射されたミサイルを自動追跡する。 「不明勢力を適性動体と断定、排除する。第一戦闘態勢を維持、自律支援プログラムをセミ・アクティヴからオール・アクティヴへ。友軍AC、ホワイトサンへの回線を開け」 『了解。──開きます』 ざざ、と砂嵐のようなノイズが一瞬流れ、先ほど無線を閉じたノウラと再びコンタクトを取った。センサー情報が凄まじい密度でディスプレイに羅列され、戦術支援AIがそれらの中から有用情報をピックアップしていく。 垂直ミサイルは頭上400メートルから降下接近、時間にして約20秒以内で着弾。適性動体はオーバード・ブーストによる急速接近を続行、25秒後に接敵。 「的中のようだな、ノウラ」 『そちらもか。お前と私で一機ずつとは……クレスト社専属のAC部隊だろう。其処らの野烏共のようには行かん、くれぐれもな。作戦領域への巡航移動を放棄、敵増援戦力を迎撃する。狩るぞ』 「了解。敵戦力を殲滅、その後航行軌道プログラムを再修正する。幸運を、ノウラ」 『ああ、お前もな。カット──』 その最後の彼女の言葉は、彼女の本意ではないのかもしれない。彼女の私の間に信頼関係はあれど、私達の生き方にそぐわないような馴れ合いはない。 しかし、それでも、私は彼女のその言葉にいつも心を満たされる。 一瞬、時間にして刹那足らずの間思考を停止し、自らの意識の深遠に自我を埋没させる。 ──行こう。 「これより迎撃を開始する」 灼けつくような殺意を自身の双眸に湛えて有視界内の敵性動体を睨み据え、操縦把を握りしめた。眼球行動に同調追従するフレーム・システムによってカメラアイが上空を振り仰ぎ、右腕兵装の短機関砲を上方展開。着弾まで二秒に迫っていた垂直ミサイルの弾頭を捕捉。操縦把付随のトリガーを引き絞った。 雷鳴のような砲声が夕刻の赤く焼け始めた夏空に轟き、短機関砲から吐き出された砲弾の弾幕が頭上に迫っていた垂直ミサイルの弾頭を撃ち貫いた。赤々しい爆炎が頭上を埋め尽くし、轟音を伴った爆圧がゼクトラの機体を細かく揺さぶる。 『敵性動体、接触まで2秒。迎撃準備してください』 戦術支援AIに指摘されるまでもなくカメラアイを即座に正面へ据え、それに伴って短機関砲の照準を合わせる。敵性ACはこちらの迎撃態勢に的確に反応し、オーバード・ブーストを継続したまま恐らく最大推力で半円を描くように右手の方へ迂回機動を取る。 強い牽制の意味合いを含めた威嚇射撃を行い、短機関砲を唸らせる。曳光弾の火線が敵性ACの軌跡をなぞり、当の目標はゼクトラの右舷に達すると同時に方向転換、真正面から突進を仕掛けてきた。 ディスプレイに出力された敵性動体の機体情報を、視界の隅に捉える。高速機動戦闘を旨とするクレスト社製の軽量二脚型機体。右腕兵装は短機関砲、左腕兵装はレーザーブレード──その情報を確認した直後、敵性ACは自機の右腕に携えていた短機関砲の砲口を此方へ向けて跳ね上げた。それに即座に反応し、応対射撃を取る。互いの火線が完全に重なり合い、高密度の火力が衝突して派手に火花を散らす。衝突を免れた少なくない砲弾が互いの外部装甲を削り取り、急速に距離が短縮されていく。 「高機動展開に加え、レーザーブレード主体の近接戦闘か──似た者同士というところか?」 ──馴れ合いは好かんがな。 自機、ゼクトラの左腕兵装──射突型物理ブレードに意識を傾ける。互いの火線が零距離で交錯する一瞬──その時の判断が互いの勝敗を別つ。 『敵AC、オーバード・ブーストを解除。接触まで二〇メートル──』 敵性ACの頭部カメラアイから、それに搭乗しているレイヴンの研ぎ澄まされた鋭利な殺意を容易に感じ取ることができる。残余推力に後方ノズルから噴射炎を吐き出して推力を継ぎ足した敵性ACがレーザーブレードの刀身を現出させ、短機関砲の砲弾を撒き散らしながら勢いそのままに突進してくる。 互いの視線がカメラアイを通して肉薄し、左腕兵装である射突型ブレードの電子信管に直結した左操縦把トリガーにかけた人差し指に力を── 「左か──」 トリガーを引き絞る刹那、敵性ACの挙動を読み切ってゼクトラを左舷へ急速展開させた。正面からまさにその方向へ飛び出した敵性ACと完全に張り合う体勢となり、私は左操縦把付随のトリガーを全力で引き絞る。高速機動の中ですら、機体の挙動を一瞬押しとどめるほどの反動が左腕から伝播し、至近距離から敵性ACのコア目がけて、鋼鉄の杭が強装炸薬の燃焼ガスによって撃ち出される。 しかし、その直後敵性ACが取った機動は凡そ、ACという機体のそれとは思えぬものだった。鋼鉄の杭がコア部を刺し貫くかにみえた一瞬、適性ACはブースタを最大推力で噴射しながら噴射方向を微調整し、その場で反時計回りに軌跡反回転、物理ブレードの刺突を外部装甲表層部を掠めたのみで回避してみせた。 「次が来る──」 敵性ACはそれに留まらずさらに機体を展開させてゼクトラの機体後方へ回り込み、その遠心力を上乗せしたレーザーブレードの刀身を走らせる。思わず口許を大きく歪め、ゼクトラの機体をブースタ推力最大で軌跡反回転させた。右腕兵装の短機関砲をターレット稼働範囲限界で後方へ向け、敵性ACの頭部へ方向を突き付ける。 短機関砲の砲口が煌き、同時に二機のAC機体はブースタを逆噴射して即座に距離を保った。 『機体後背部外部装甲に焦熱性損害。機体稼働率に変動ありません。──敵性機体より通信要請です。回線を開きますか』 「通信要請だと──ふん」 胸中で人知れず得心し、戦術支援AIに指示して回線を開かせた。互いに距離を保ちながら、短機関砲の方向を突きつけ合った状態だが、しかし、少なくとも向こうは戦闘機動を取る様子を見せないでいる。 わずか十数秒足らず、その一連の行動の中で自分は通信要請を行ってきた敵性ACのレイヴンについて大体を知り得ていた。 『こちらクレスト社陸軍第六三機械化戦闘小隊だ。レイヴン──いや、"一つ手の射手"。聞き覚えはあるか?』 発信用周波数を流す前にため息を小さくつき、やっぱりか、と首肯する。 「──ああ。だが、久し振り、と言って差し支えはないな。"グレイエンバー"以来だから、五年になるのかな──マハヴィル。クリシュナも健在のようだ」 『お前が生きているという噂は、俄かに聞いていた。が、まさかこんな形になろうとはな……』 「既に、私達は戦場から降りるには手遅れだった。あり得ない話ではなかっただろう?」 『変わらんな、お前は。……それにしても、灯台下暗しとはよく言ったものだ』 そう言って、昔の同僚であったマハヴィルは堪えるような苦笑をもらす。 フリーランスの傭兵となってから五年、少なくともその間に、特定企業と専属契約を結んだ記憶はない。四年前にミラージュ社をはじめとする企業連合軍の犯した失態が私やマハヴィルのような死に損ないのレイヴンを産み、企業への失望が私達の頚城を外した。 昔の同僚と対峙する傍ら、脳裏に五年前の風景を描き出す。今にして思えば、その時の企業の裏切りはそれと呼べるようなものでもなかった。単に時期が悪すぎただけなのだろう。 兵器災害と呼ばれるようになった発端──旧兵器群による全世界の企業領土への大攻勢。ただ、それでも、手を差し伸べてくれた彼女に従い、私が背を向けるに足る十分なモノであったという事実に、変わりはない。 ──オペレーション:グレイエンバー。 旧兵器群の侵攻を足止めする為、前線での後退支援戦闘を命じられた捨駒のAC部隊。押し寄せる数万の旧兵器群の波によって、部隊は数日と持たず壊滅し、散り散りになった。 記録の一切は抹消され、焦土に埋もれていった多くの友軍の死も同様に扱われた。 忠誠の報酬は、徹底的な隠匿。 レイヴンとしても、一人の人間としても幼かった私は、割りに合わないという以前に──許容できなかった。 『私達に、感傷などという贅沢を楽しむ猶予はない。此処から先は、クレスト社の者としての言葉だ。貴軍はクレスト社領有地を著しく侵略している。我が社の増援部隊も急行している。速やかに武装解除し、降伏しろ』 「そうやってお前は、また企業の犬という身分に収まっているつもりなのか?」 『不相応な言葉を吐くべきではないな。この世界の戦場に在っては、結局私もお前も企業支配体制の尖兵でしかない。遠いか近いか、敵か味方かの違いでしかない。そうだろう?』 五年前に離れ離れになって以降、与り知ることのない時間を歩んできた戦友が選んだ現在である。それに対して過分な言葉をかけたくはなかった。しかし、思い出にしてしまうにはいまだ近すぎるあの過去が、所属先を変えて再び企業専属のレイヴンとなったマハヴィルに対する辛辣な言葉を出させた。マハヴィルとて、それは今も同じだろう。覆い隠してしまいたい過去に、今も苛まれている。 「敵味方の差でしかない、か。……ふふ、野放しの烏相手に少々行儀が良過ぎるんじゃないのか?」 『……あまり賢い返答とは思えんな』 今しがた吐き捨てた自身の言葉は、それ以上ないほどに自身の立ち位置の在り方を示していた。レイヴンには簡単に降伏する選択肢などは元来与えられるはずもない。穢れ切った烏が戦場から降りるのは、運悪くしに損ねた時か、死ぬ時だけだ。 「勝ち戦で吠えるなよ。お前は私とは違う。お前はお前の仕事を全うしろ。それだけで済む話だ。……それに、殺したいんだろう? 街ひとつ潰したレイヴンを?」 『死に際に吠えるなよ、貴様。幸運を──』 最後に明確な殺意を込めた言葉を残し、マハヴィルは一方的に無線を終了した。 最後の自身の言葉は、明らかな挑発の意を内包したものだった。私自身にとっても、彼自身にとってもその先で迎える互いの死を欲している。 ──過去に影を囚われるのはゴメンだ。 真正面で対峙していた敵性AC──かつてミラージュ純正部品で構成されていた機体はクレスト社のそれに置き換わっているが、変わらず軽量二脚のコンセプトを引き継いでいる──、クリシュナが右腕兵装の短機関砲を弾き上げ、砲口を煌かせる。瞬時に反応してブースタを噴射し、ゼクトラの機体を左舷下方へ急速降下させる。飛来した砲弾によって引き裂かれた右腕肩部の装甲損耗状態を、ディスプレイに更新された機体情報で確信しながら、廃墟と化した制圧済みの断崖都市は渓谷部を降りていく。 『閉鎖環境下では充分な機動戦闘を展開できません。広域拡視界での作戦遂行を推奨します』 「それは相手も同じだ。これからの戦闘行為を記録しておけ。次からの戦術支援に役立つだろう」 『──了解。まもなく、峡谷最下層部渓流域へ到着します』 ブースタを連続噴射してホヴァリング状態を保ち、水上へ降り立つ。上空を見上げると、下方への射撃体勢を取っていたクリシュナが再度、獲物の短機関砲から銃火を撒き散らした。 狭い峡谷の断崖部に砲弾が着弾し、抉り取られた大小無数の断崖の石片が頭上から降り注ぐ。周囲一帯で巨大な水柱が発生し、有視界を完全に遮断された。 クリシュナの機体から発生する駆動音と噴射炎の燃焼音をセンサーが正確に捉える。有視界を埋め尽くす水柱と石片から意識を引き剥がし、レーダーに目を向けた。 「闇討ち──後背か」 レーダーで機体後方から急速接近する敵機の機影を捕捉してゼクトラを急速転回させた瞬間、ブースタを最大推力で吹かしたクリシュナが有視界内前方の水柱を粉砕しながら突進してきた。既にレーザーブレードはその刀身を現出させており、それに相対するように左腕に装着していた射突型物理ブレードを構える。 双方の間合いが深く重なり合い、それが致命的になる直前、私は左舷の岩壁に向けて物理ブレードの引き金を引いた。 大きく砕かれた岩石が天然の凶弾となって前方に吹き荒び、軽量二脚機の機体に正面から衝突する。重質量の岩石によって機体制御を著しく乱したクリシュナの推力が減衰し、それを肉眼で目視すると共に突進を仕掛けた。 クリシュナの頭部を鷲掴み、フットペダルを踏み込んでブースタを最大推力で吹かす。そのまま水上を疾走し、クリシュナの機体を岩壁へ強引に叩きつけた。大気と水面を震わせる轟音が響き、衝撃で岩盤がさらに落下してくる。頭部を掴んだその密着状態から自身の右腕兵装である短機関砲の砲口をコア部にほぼ押し付けた状態で引き金を絞った。瞬間的に高密度の火力を受けたクリシュナのコア部装甲がいとも簡単にはがれとび、内部の駆動系機構が晒しだされる。 『敵性AC機体、機体磨耗率上昇。沈黙までまもなくです』 黙っていろ。蛇足のような報告を付け加えてきた戦術支援AIに胸中で悪態をつく。その瞬間、めまぐるしく明滅していたクリシュナのカメラアイから明確な殺意を感じ、それは自身の背筋に悪寒を走らせた。 クリシュナと岩壁の間からオーバード・ブースト特有の色彩を宿した噴射炎が溢れ出し、集中していた射撃精度が急激に乱れる。 ──押し戻される。 そう判断し次の機動を取るよりも早く、クリシュナは最大推力のオーバード・ブーストを使ってゼクトラの機体を押し戻した。フットペダルを細かく踏み込んでブースタの出力方向を微調整し、向かい後方の岩壁に叩きつけられるのを回避したが、クリシュナはゼクトラの機体を巻き込んで渓流息を下流へ向かって疾走し始めた。 「くそ……」 『敵性AC、最大推力で戦闘機動を展開しています。危険です、離脱してください』 「すこし黙っていろ──」 メインディスプレイに表記される警告メッセージを無視してブースタを噴射し、零距離で膠着状態にあった機体姿勢を強引に立て直した。不意にクリシュナとの間に空白が生まれ、ほぼ同時に短機関砲で牽制射撃を見舞う。 『南東に動体反応多数、状況判断によりクレスト社の増援勢力と断定』 時間的猶予は最早残されていない。回避機動を取りながら有視界に視線を巡らせる。かなり下流まで流されてきたのか、周囲は広域の河川地帯へ入っていた。 終わりが近い──。互いに弧を描くように周回機動を取りながら接近し、火器管制システムを左背部兵装のマイクロミサイルへ転換する。ミサイルコンテナを展開し、激しく流動する有視界の中でロックサイトにクリシュナの機体を捕捉、射出準備を完結し操縦把付随の射出スイッチを押し込んだ。 マイクロミサイルが同時射出され、追跡機動の展開の確認と共にフットペダルを強く踏み込む、ブースタを連続噴射してマイクロミサイルの弾幕の背後に追随し、間合いを自ら詰める。 マイクロミサイルの弾頭が迎撃射撃によって誘爆し、大きな爆炎が前方一帯を埋め尽くす。その鋭すぎる光源に目を細めながら、しかし、そこへ突っ込んだ。 爆炎の向こう側から精度を欠いた砲弾の弾幕がゼクトラを出迎え、それらを外部装甲で強引に受け止める。左腕兵装の射突型ブレードに意識を傾注し、寸秒後、その判断が最適でなかったことに、レーダーに現れた敵性熱源を見咎めて気づいた。 「垂直ミサイル──」 戦術支援AIが指示を出す間も、また自身の明確な思考も待たずに短機関砲の砲弾による弾幕を上空へ向けて張った。推力バランスが欠け、上空至近距離からの爆圧によって突進攻撃の要諦が崩れた所で、それをこそ狙っていたといわんばかりにクリシュナが爆炎の壁の向こう側から赤々しい炎を機体にまといながら出現する。 ここでの後退に勝機はないだろう。 ──次の一手が要だ ノイズが走る有視界内で火器管制システムがマイクロミサイルに固定維持されていることを確認し、ブースタ各部を吹かしてゼクトラの機体を緊急展開させる。背部ミサイルコンテナをその勢いに乗せて機体から切り離した。準備射撃を行っていたクリシュナの得物の砲弾がコンテナに次々と着弾し、その直後、互いに至近距離から爆発の衝撃を受けた。機体装甲が容赦なく吹き飛び、メインディスプレイに出力される情報が全て警告メッセージで埋め尽くされる。それを見てなお、私はその先を見据えた。 「オーバード・ブースト起動──」 機体後背部の加速機構が展開し、後方ノズルから高出力の噴射炎が吐き出される。ゼクトラの機体速度を跳ね上げ、爆炎の中へ進ませた。同じタイミングをもって再び現れたクリシュナの機体を捕捉する。 私は、口許を歪めていた。結局逃れ得ない現実が、此処にある。 ──マハヴィル、お前も同じだろう? クリシュナはレーザーブレードの刀身を現出させ、自身は射突型ブレードに意識を傾注する。灼けつく意識が交錯し、私は最後の殺意を撃ち込んだ。 コクピットに吹き込んできた高温の熱風が肌を撫で、続いて投げ出されるような衝撃が全身に襲い掛かってきた。オーバード・ブースト解除後の残余推力で浅瀬を数十メートル滑走し、停止間際に機体を転回させる。 突き抜けてきたばかりの爆炎が風に流され、黒煙と共に下流域へと流されていく。数十秒を待ってようやく周囲一帯に元風景が戻り、爆炎が渦巻いていたその先に、機能停止したクリシュナの機体を見つけた。 『機体磨耗率62%、左肩部外部装甲破損。第一戦闘態勢での機体稼働率は34%です』 戦術支援AIの機体報告を耳に入れながら、数十メートル先でこちらに背を向けているクリシュナの機体を拡大映像で映し出した。コア左下部が大きく欠損し、吹き飛んでいる。コクピットへの直撃はならなかったようだが、搭乗者への致命傷は確実だろう。 終わった、か── 『敵性ACより通信要請。回線、開きます』 耳障りなノイズが静けさを取り戻したコクピットを満たし、しばらくして、 『さすがは"一つ手の射手"……。ミラージュが、お前だけに懸賞金を、賭けた意味が、わかる……』 「過去の死人に賞金をつけるとは、ミラージュもよくよく暇を持て余しているようだな」 『阿呆……。お前の過去は、これからもお前も追い詰めるぞ。火遊びも程々にしておけ。──"グレイエンバー"の、最後の火が潰えるまで、ミラージュは諦めないだろう……』 「それでも、私は企業のもとには下らんさ……」 それから無線が一時途絶え、開放状態の回線からマハヴィルの咳き込む声だけが漏れる。間違いなく吐血している。致命傷に間違いない── 「自由にしろ。此処が、私の潮時だ。影を捕まえられるまで……生かされて、生きていけ──、アザミ……」 そして、無線は今度こそ途絶えた。 『友軍AC、ホワイトサンからの通信要請です』 コンソールを叩いて回線を開く。 『大丈夫か、──ファイーナ?』 「止めてくれ。……さすがに、少し堪えた。そちらは?」 『敵ACは殲滅した。だが、増援部隊までの相手はさすがにできん。依頼主から帰還指示が出ている。帰投するぞ』 ノウラの気の抜けたその言葉に首を傾げ、メインディスプレイの隅に表記された時刻に視線を向けた。時刻は既に夕刻過ぎ、一九四五を指している。なるほど── 「報酬は前金のみか?」 『クレスト社専属ACの撃破に対して、依頼主から特別報酬が提示された。それで充分釣りが来る」 「そうじゃない。今回のミッションに興味があったんじゃないのか?」 『今から出向いて、何ができるという訳でもあるまい。それに、今回の作戦には"サンドゲイル"が戦力を派遣しているらしい』 「サンドゲイルが……?」 サンドゲイルという名には多少の聞き覚えがあった。何でも特定の企業勢力に所属しないで依頼をこなす、レイヴンを主力として扱う遊撃傭兵部隊だとか。レイヴンを主戦力とする独立勢力はそれこそ数えるのも億劫になるほど存在するが、サンドゲイルは放っといても耳に入ってくるほどには名を知られている。 『奴さんに古い連れがいる。そいつにでも聞くさ。私達は黙って帰ってバーボン片手に一服してればいい』 「……本当に考古学者か、あんた?」 『それも生きようだよ、アザミ。似たような話は沢山転がってる。身体は一つしかないんだ』 「……了解。ゼクトラ、これより現作戦領域を離脱、帰投する」 ゼクトラの機体を巡航高度まで上昇させ、巡航用オーバード・ブーストを起動。 五年の付き合いを経たノウラ。分かっている事は、彼女がレイヴンと同時に一人の考古学者である事と、自身を今、必要してくれていること。 他の事はまだ、よく分からない。彼女は、ノウラは過去を溯ろうとしている。私は過去から遠ざかろうとしている。 生かされて、生きていけ──。 「そんなコト、関係ない──」 脳裏に木霊するその考えを振り払い、陽がほとんど落ちた夜空を見据える。ベリーショートの白髪の前髪をなんとなく摘み、それから軽くかき梳く。 今はただ、彼女の為だけに戦う── それが、今の私の意志。 第二話 終 →Next… 第三話 コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/achdh/pages/19.html
第五話①/ /第六話/ /第七話 第六話 執筆者:ユウダイ・ユウナ 少し外れにある小さな喫茶店にユウとレナはいた。特に任務や依頼がない時はレナは店の手伝いをしている。もともとこの喫茶店はレナの父親がマスターをしており、彼女もウェーターとして働いていた。ユウはこの喫茶店の常連客である。しかし、ユウにしろレナにしろ複雑な事情を過去に持つ人間だった。ユウの父親はレイヴンであり、トップランカーであった。しかし、イレギュラーの認定を受け殺された。レナの父親もレイヴンであり、同じくイレギュラー認定を受け殺されていた。今の父親は本当の父親ではなく、彼女の父親の兄が引き取って面倒を見ている。しかし、ユウは父親と同じレイヴンとして今を生き、レナは家業である喫茶店で働きながらユウの専属オペレーターとして活動していた。ユウが父と同じ道を進む可能性が高いレイヴンとして生きるのは理由がある。“父を殺した奴を見つけ出し、仇討をする”。その目標を達成するために、日々精進していた。ACやMTなどの勉強もし、父親から教わった操縦技術に磨きをかけた。アリーナにも意欲的に参加していた。しかし、アークは政治的な理由で彼を下位ランクにおいていた。実力はトップランカーにも迫るものだった。それは父親から伝授された操縦技術や戦闘のイロハと、持前の天性がもたらしているものである。だが、アークはランクを上げていくうちに自分たちが秘匿している様々な情報に近づくことを恐れていた。そんな背景があり、いまだに下位ランクのレイヴンとして一般には認知されていた。 「次の試合に勝っても、難しいわねぇ・・・・」 レナもその事情を把握しているため、ユウの苦しみを理解していた。だからこそオペレーターに志願したといってもいい。 「アークが先手を打ってるだけにすぎない・・・。こればかりはどうあがいても、難しいものがあるよな・・・・」 コーヒーを口に運びながらユウは、どこか諦めたように呟く。そんなユウを見て、レナは少し不安になった。彼との付き合いはかれこれ10年近くになる。レイヴンとオペレーターとしての関係以上に、私生活での付き合いは長い。それゆえ、“彼”がいる生活が半ば当たり前になっていた。それ故、ユウを失うことを恐れていた。レイヴンになった以上、いつ命を落とすかわからないのは知っているつもりだった。しかし、自分を娘のように育ててくれた今の父親同様、ユウにも非常に特別な想いを寄せていた。だからこそ、よけいに失うことを恐れていたのだ。だが、そのような話をあえて持ち込まないのは彼女なりの理由がある。彼女も彼女でアークや企業に対して不満を持っていた。ユウの父親とは違って、彼女の父親はイレギュラーの認定を受ける理由がなかったからである。一言で片づければ罪を押し付けられたということになる。なぜ殺したか・・・・その理由を知りたいがために、アークとの関係が強くなるオペレーターになったのだ。そんな理由をユウが知ってるかどうかはわからないが、ユウの目的のサポートもできるという利点があった。危険な賭け故、自分自身の命も危険かもしれない。でも、やらないよりはましだ・・・そういいきかす。携帯端末のコールでレナは我に返る。 「任務?」 「そのようだ。」 ユウは任務の依頼があった時は、持ち歩いている携帯端末に情報が届くようにしていた。今回はどのような任務がきたのか・・・、ユウは端末を取り出し目を通す。 「・・・・食糧不足が深刻なコロニーへ支援物資を輸送している車両が何者かに襲撃された・・・。任務は、襲撃現場へ行き被害状況を調査。敵が出現した場合は速やかに迎撃。可能であれば襲撃したものの特定・・・か・・・・。」 各地にはコロニーと呼ばれる居住地区がある。しかし、ほとんどのコロニーが食糧不足や治安などで頭を悩ませていた。各企業が資金を出し合って救援物資を送るものの、襲撃を受け救援物資を失ってしまうという事態もあった。 「受けるの?」 「そのつもりだ。すぐに出るから支度を。」 「わかった。」 レナはエプロンを脱ぎ、自室のある2階へ行った。ユウはコーヒー代の精算を済ませ、ACが係留されているトレーラーを表に出した。 襲撃現場に到着し、ユウは愛機-シャドームーン-を起動する。さっそく、周囲の調査を始めた。調査を始めていくうちに、ユウはある事実に気づく。 「こいつは・・・・」 車両のコックピット部分が的確に撃ち抜かれていた。そこから考えられる可能性を、ユウは頭の中で整理する。 『なにかわかった?』 「襲撃したのはスナイパーライフルを装備したACだ。おそらく、クレストの連射性能に優れたタイプだろう。」 『じゃあ、襲ったのはレイヴン?』 「おそらく。しかし、アーク所属なのかあるいは・・・・」 『サンドゲイル・・・・』 「否定はできんが、アークが雇ったレイヴンとみたほうが可能性高い。実際、ミーラジュ・クレスト・キサラギはコロニーの支援計画には反対の立場だ。そのいずれかがアークを介して依頼したのだろう。そうすれば自分たちの手を汚さずに計画の妨害ができる。」 『ひどい…』 確かに・・・とユウは思う。今回の件で何人の人が被害を受けるか・・・・いや、命を落とすのか・・・・・・それだけ状況が悪いというのに、このような襲撃事件は後を絶たない。と、ユウは周囲の状況が変化したことに気づく。レーダーにはなにも映っていないが、何かが動いているのだ。カメラの故障とも考えられるが、そうだとしてもやや不自然であった。 「ステルスMTか・・・・」 レーダーやカメラに映りにくく、それでいて動くことができるのはそれ以外なにもなかった。 『こっちでも確認してるわ。MTのいる所だけ空間がゆがんでる。それでも目視でかろうじているかどうかを確認できるぐらいだわ。レーダーが無意味だから、射撃武器は無駄よ。』 「承知している。」 シャドームーンの上半身を回転させ、その勢いを利用して背後の空間を月光で斬り裂く。なにもないはずの空間が、溶解する。背後に1機、MTがいたのだ。 「レナ!」 『スモークディスチャージャー起動!』 レナは輸送トラックに搭載されているスモークディスチャージャーを起動させた。状況を五分に持ち込む。それだけではなく、敵のステルス性能を低下させる狙いがある。 『敵MT、残り4』 スモークディスチャージャーを使ったことで、可視光線を利用して姿をけすことができなくなったMTをレナは特殊な暗視ゴーグルを使って見つけ出した。 「余裕だ!」 MTは何が起きているのか理解できてないのか、おどおど周囲を見渡しながらひとつに集まっていた。そこにめがけOBで一気に距離を詰める。月光が蒼い刃を形成し2機を斬る。OBを切り、通常ブーストで強制的に方向転換をし残りの2機に迫る。MTはライフルを乱射するがシャドームーンにかすりもせず、ただむなしく空間を過ぎる。再び月光が輝き、MTを切り捨てた。 『周辺に敵反応・・・・』 反応なしと言いかけたレナが言葉を改める。 『鈍足で接近する4足AC確認!』」 鈍足の4足と聞いた瞬間、ユウはため息をつく。 「またあいつか・・・・。」 『よう、助太刀に来たぜ!』 4足ACを駆るジャック・ロールが陽気な雰囲気で話しかける。ユウはため息をつくしかなかった。 『って、もう終わってるのかい?なんだよ・・・・』 「お前が遅いだけだ。」 『いやね、出撃しようとしたらチンピラに絡まれてさぁ・・・それで・・・。』 「レナ・・・今回の任務、もしかしたらチームトライアングルそのものに依頼しているみたいだな。」 チームトライアングルとはユウが所属するACのチームである。基本的にはアリーナでのチーム戦で活躍するが、任務でもチームとして遂行する時がある。リーダーはアンジェ・ブロウニングという女性レイヴンであり、搭乗ACは武装が射突型ブレードとレーザーブレードのみという超近接特化型のアイゼンを駆る。 『そのようね。今、アンジェに確認とったけど彼女はスナイパーACの追跡をしているって。』 「長くなりそうだな、この任務。」 『そうね・・・。』 『で、喧嘩に勝ったのはいいけど弾使い果たしたから補給して・・・』 「だれか、この馬鹿止めてくれ。」 『無理な相談ね。それは』 『それで・・・って、誰が馬鹿だ!』 「あ、聞いていたんだ。」 『普通に聞こえるよ!鴉はギャグを忘れないっていうじゃないか!』 「それを言うなら“鴉は恩を忘れない”だ。というか、使いどころが違う。」 『細かいこと気にするな。』 『いや、ここは気にしようよ。』 『レナちゃんまでそんなこというの?』 『黙れ!』 『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』 ユウはトレーラーに蹂躙される4足ACを見て、緊張がほぐれるのを感じた。ジャックが来たことで、不測の事態にもより柔軟に対応できる。備えあえばうれいなし・・・というわけではないが、近接戦闘重視のシャドームーンに対局するかのようにジャックのAC、クールデストロイは射撃戦に特化している。両腕にリニアライフルを装備し、エクステンションには迎撃ミサイル、両肩にはチェインガン、さらにエネルギータイプのEOを搭載したミラージュ製のコアを装備しているため火力はかなりのものだった。欠点と言えばシャドームーン以上に重量過多であるため、機動性が低い点である。ジャックいわく、「基本撃ちまくるだけ」のアセンでるため機動力はおろか、弾薬費すら気に留めていない。しかし、被弾時に与える熱量はシャドームーンよりもクールデストロイのほうが上回っている。そういった面でも、シャドームーンとクールデストロイは連携も視野に入れたアセンだということがわかるのだ。チームトライアングルはクールデストロイが弾幕を張り、シャドームーンがミサイルで牽制、アイゼンが突っ込み1機を射突型ブレードで仕留める。その後、アイゼンは軽量故の機動力の高さを活かして敵を翻弄、クールデストロイがけん制射を加えてシャドームーンがOBで敵との距離を一気に詰めて月光で斬り裂き1機撃破、最後にクールデストロイが残りの1機を仕留める・・・という戦法を基本としている。交互に攻撃・支援が入れ替わるため対応するにはそれなりのスキルが要求されるが、実行する側はよりスキルが要求される。連携はもちろんだが、仲間の機体特性も頭に入れておく必要がある。チームトライアングルの3人は、思想や理想に共通している部分が多く、それぞれの機体特性が互いに補い合うものであった。いうなれば、フォーメーションを組みやすい構成だったということである。それが、彼らのチームワークを可能とした。 「調査は終わった、アンジェと合流しよう。」 『待って、接近するACあり!』 「なに!?」 『んだよ、こんな時に・・・』 『でも、こんなスピードで接近できるACなんてありえないわ!』 レーダーを確認してみると、確かに異常なスピードで接近してきていた。ユウの知る限り、ここまで極端な性能を発揮できる機体は少ない。 『気をつけて、このAC・・・なにかあるわ。』 レナの警告と同時に、ACがライフルを構える。反射的にレバーをひねり、機体を射軸からずらす。だが、機体に弾が直撃する。 「何!?」 あまりにも正確な射撃にユウは驚きを隠せない。高速で移動しながら、瞬時に移動した物をノーロックで攻撃するなど通常のACでは不可能である。今度は敵ACのスピードが速まる。 「OBか!?」 シャドームーンの横を通り過ぎ、クールデストロイに向かっていく。反転させ、後を追うが、あまりにも速いため追いつけない。 『こっちにくるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 クールデストロイはチェーンガンで弾幕を張り、接近を阻止せんとする。敵は一旦距離をとる。 『敵AC判明、フィクスブラウよ。』 「サンドゲイル・・・。」 ACの名前から組織の名前が頭をよぎる。 『お前達はアークの刺客か?』 敵から通信だと気づいたのは、レナの声ではないと認識した時だ。 「違うな、今回のクライアントは救援物資を待ちわびていたコロニーだ。我々は、襲撃現場の調査、輸送中の車両を襲撃したACの追撃の任を受けている。アークは関係ない。むしろ、アークは俺にとって・・・仇そのものだ。」 個別回線であることを確認し、事実をありのままに述べる。それでも緊張は続いていた。 『では、お前たちが襲ったのではないと・・・・。』 「そうだ。」 しばらく沈黙が続く。先に比べて緊張の度合いは軽減している。ユウは無駄な戦闘を避けたかった。と、フィクスブラウが突如シャドームーン目がけ突撃する。 「それが・・・答えか・・・・。」 レーザーブレードを構え斬りかかろうとした瞬間、シャドームーンは月光を起動させ、敵の刃を受け止め、そしてはじく。距離が詰まった状態で再びにらみ合うシャドームーンとフィクスブラウ。 『やるな・・・・。その腕で下位ランクとは・・・・惜しい・・・』 「これもいろいろと事情があってね。」 『よかったらサンドゲイルに来ないか?その腕なら、こっちのほうが活躍できるぞ?』 意外な勧誘にユウは虚を突かれる。戦闘を仕掛けておいて、勧誘・・・・もしかして仲間を求めてるのか・・・一瞬、そんな考えをよぎるがすぐにしまう。 「せっかくの誘いだが、お断りしよう・・・。チームトライアングルが気に入ってるし、それにある目的を達成するためにも・・・。」 『そうか・・・。久しぶりに熱くなった。感謝する』 フィクスブラウは、反転し来た方向に向かって戻っていく。夕日に照らされたシャドームーンが幻想的な輝きを魅せていた。コックピットを解放し、頭部の横にでたユウはフィクスブラウの姿が見えなくなるまで見送り続けた。 「ったく、見失うとわねぇ・・・。」 アンジェは先ほどまで輸送車両を襲撃したACを追跡しいた。だが、MT部隊の妨害がはいり見失ってしまったのだ。 「これではユウやあの馬鹿に申し訳が立たない・・・・。さてどうしたものか・・・。」 機動力は高く、追いつける自信はあった。だが、それは逃走ルートが特定できていればの話であった。MTは逃走ルートを特定されないよう、巧みな戦術で襲撃してきたのだ。しのため、追撃する術を失ってしまったのだ。周囲には撃破したMTの残骸が静かに散らばっている。と、そこへ1隻のホバー船が接近してくる。 「あれは・・・・」 アンジェは記憶を呼び起こす。チームトライアングルを作る前、自身が所属していた組織・・・・サンドゲイルが所有するホバー船であった。 第六話 終 →Next… 第七話 コメントフォーム 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/asigami/pages/3588.html
曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FREEZE(SHOCK) Red Cape Theorem メリー・バッド・メルヘン A20+ 踊11 95 329/11 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 60 47 7 16 75 踊譜面(11) / 激譜面(14) 譜面 https //livedoor.blogimg.jp/yanmar195/imgs/7/e/7e32f1cb.png クリア難易度投票 スコア難易度投票 動画 https //www.youtube.com/watch?v=XtFFjfZbNR0 (x4.5,NOTE) 解説 2020/11/26以降、EXTRA SAVIOR PLUSの課題曲として登場。メディアミックス企画「バンめし♪」より。「バンめし♪ ふるさとグランプリ ROUND3~秋の陣~」 コメント コメント(感想など) 最新の10件を表示しています。コメント過去ログ