約 1,161,800 件
https://w.atwiki.jp/r-type-tactics/pages/339.html
「R-TYPE TACTICS 過去スレッド」 【アイレム】R-TYPE TACTICS【シミュレーション】 http //game11.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1179939162/ 【最終兵器】R-TYPE TACTICS Mission2【最終悪魔】 http //game11.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1190615354/ 【良ゲーなのに】R-TYPE TACTICS R-3【宣伝不足】 http //game11.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1191827359/ 【バイド】R-TYPE TACTICS 4号機【おいしいです】 http //game13.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1194794827/ 【うむっ】R-TYPE TACTICS 5マンダー【緊急連絡だ】 http //game13.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1199864443/ 【6スペルヘイム】R-TYPE TACTICS パト6ロス【グリッド6】 http //game13.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1204348612/ 【バイドニ】R-TYPE TACTICS 7黒の瞳孔【ナツテイタ】 http //schiphol.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1213121452/ 【8イド星】R-TYPE TACTICS 8イド【腐8い都市】 http //schiphol.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1226326916/ 【タブロッ9】R-TYPE TACTICS R-9【E(・ω・´)回】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1246659746/ 【アルバ10ロス】R-TYPE TACTICS RX-10【ス10ライダー】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1249726492/ 【フューチャーワールド】R-TYPE TACTICS 総合【Rw-11A】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1251376468/ 【健全】R-TYPE TACTICS 総合【R-12指定】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1253068205/ 【ケルベロス】R-TYPE TACTICS 総合【Rwf-13A】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1254067592/ 【デリカテッセン】R-TYPE TACTICS 総合14【R-9AX】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1254667642/ 【ディナーベル】R-TYPE TACTICS 総合15【R-9AX2】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1255394150/ 【レオ】R-TYPE TACTICS 総合16【R-9Leo】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1256606948/ 【レオ2】R-TYPE TACTICS 総合17【R-9LeoII】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1258765413/ 【プリンシバリティーズ】R-TYPE TACTICS 総合18【R-9Sk】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1260166942/ 【ドミニオンズ】R-TYPE TACTICS 総合19【R-9Sk2】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1260598424/ 【ワイズマン】R-TYPE TACTICS 総合20【R-9W】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1260846528/ 【ハッピーデイズ】R-TYPE TACTICS 総合21【R-9WB】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1261185870/ 【スウィートメモリーズ】R-TYPE TACTICS 総合22【R-9WF】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1261616555/ 【ディザスターリポート】R-TYPE TACTICS 総合23【R-9WZ】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1262656032/ 【ストライダー】R-TYPE TACTICS 総合24【R-9B】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1263480957/ 【ステイヤー】R-TYPE TACTICS 総合25【R-9B2】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1264526202/ 【スレイプニル】R-TYPE TACTICS 総合26【R-9B3】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1266224415/ 【POW】R-TYPE TACTICS 総合27【TP-02C】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1268650172/ 【無敵の】R-TYPE TACTICS 総合28【人工生命体】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1272559178/ 【グレース・ノート】R-TYPE TACTICS 総合29【R-9DH】 http //jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1276701771/ 【ストライダー】R-TYPE TACTICS 総合30【R-9B1】 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1282488137/ 【コンサートマスター】R-TYPE TACTICS 総合30【R-9DH3】(実質31スレ目) http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1287941403/ 【フューチャーワールド】R-TYPE TACTICS 総合31【R-11A】(実質32スレ目) http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1293967231/ 【ティアーズ・シャワー】R-TYPE TACTICS 総合33【R-9DV】 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1300152597/ 【ノーザン・ライツ】R-TYPE TACTICS 総合34【R-9DV2】 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1306138281/ 【アサノガワ】R-TYPE TACTICS 総合35【R-9DP2】 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1310928088/ 【ケンロクエン】R-TYPE TACTICS 総合36【R-9DP3】 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1317263235/ 【ミッドナイトアイ】R-TYPE TACTICS 総合37【R-9E】 http //toro.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1326206550/ 【アウル・ライト】R-TYPE TACTICS 総合38【R-9E2】 http //toro.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1344353943/ 【スウィートルナ】R-TYPE TACTICS 総合39【R-9E3】 http //toro.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1354847537/ 【パワードサイレンス】R-TYPE TACTICS 総合40【REAW-1】 http //toro.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1369178345/ 【アンチェインドサイレンス】R-TYPE TACTICS 総合41【REAW-2】 http //wktk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1399079506/ 【アンドロマリウス】R-TYPE TACTICS 総合42【R-9F】 http //wktk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1423005199/ 【アルバトロス】R-TYPE TACTICS 総合43【RXwf-10】 http //wktk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1453224051/
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3839.html
広大な空間に響き渡る、不気味な轟音。 頭上を覆う合金製構造物の破片を除け、ギンガは周囲を見回す。 機械的強化の施された眼には、暗闇など僅かたりとも障害とはなり得ない。 非常灯の明かりすら消え、完全な闇に閉ざされたトラムチューブ内には、落下した構造物の破片以外には何も存在しなかった。 数十秒前に彼女達を襲った衝撃、それとほぼ同時に飛び込んだメンテナンス・ハッチから抜け出し、油断なく周辺の様子を窺う。 そうして、これといった脅威が存在しない事を確かめると、ギンガは背後のハッチへと声を飛ばした。 「周囲クリア・・・大丈夫よ」 その言葉を受け、ハッチ内部より這い出す5つの影。 スバル達だ。 影の1つ、ウェンディが周囲を見回しつつ、呟く。 「何だったんスか、さっきの・・・」 「あの化け物、もう此処まで来やがったのか?」 続いて発せられたノーヴェの言葉に、ギンガは微かに表情を顰めた。 ノーヴェの言葉が不快だったという訳ではない。 666と交戦中である筈のR戦闘機群はどうしたのかと、最悪の予想が脳裏を過ぎったのだ。 だがその思考は、続くランツクネヒト隊員の言葉によって否定される。 『放射能除去用ナノマシンが散布されている。どうやら外殻で核爆発が発生したらしい』 「核爆発!?」 スバルの上げた声に、ギンガもまた驚きを隠そうともせず隊員を見やった。 彼は床面に片膝を突いて周囲を見回しているが、同時にインターフェースを通じて膨大な量の情報を取得しているのだろう。 やがて銃口でトラムチューブの奥を指すと、無感動に状況を告げた。 『Aエリア外殻近辺でアイギスのミサイルが起爆したらしい。それ以上の事は分からない』 「アイギスって・・・まさか、汚染?」 『だろうな』 「冗談じゃない、Aエリアには生存者が集結しているんだぞ。彼等はどうなっている?」 『大多数は無事だろう。爆発の最大効果域は外殻に達していない。コロニーからの迎撃を感知した12発の弾頭が、回避不可能と判断して起爆したんだ。被害は受けたが、外殻の崩壊には至っていない』 「内部の人間は?」 スバルの問いに対し、隊員は口を噤む。 その沈黙こそが、彼女の懸念が的を射たものである事を雄弁に語っていた。 スバルは、更に問い掛ける。 「外殻が無事だとしても、あの衝撃は尋常じゃなかった。Aエリアの人員に被害が無いとは思えない」 『まあ、そうだろう。多少の犠牲者は出ている筈だ』 「・・・輸送艦の安否は?」 『不明だ。既にシステムの80%が沈黙している。こちらから港湾施設に行くしかない』 言いつつ、彼は強襲艇より持ち出した、自動小銃よりも2回り以上に大きな銃器の弾倉をチェックする。 見る者に威圧感を与える重厚な外観は質量兵器全般に共通するものだが、目前のそれは通常火器にしては幾分だが禍々しさに過ぎる印象が在った。 自動小銃に酷似してはいるが明らかに異なり、かといって散弾銃でもない。 未知の質量兵器に対する警戒心が、自己の意識へと反映されているのだろうか。 取り敢えず、ギンガはその銃器について尋ねてみる事にした。 「その銃、何か特別な機能でも?」 『唯のガウスライフルだ。バイド相手には気休めにもならないが、アサルトライフルよりかはマシだ』 「コイルガンの一種か」 『正確には炸薬との複合式だが』 グリップ後方に位置する弾倉を外して内部をチェックし、再度装着して初弾を装填する。 金属音、そして小さな電子音。 隊員は更に、同じく強襲艇より持ち出したバックパックから幾つかの部品を取り出し、見事な手際でそれを組み立てる。 完成したそれは、長さ40cm程の銃身下部に弾倉のみを備えた、奇妙な銃器だった。 彼はそれを、ガウスライフルの銃身下部へと固定する。 最後に、展開したウィンドウ上で幾つかの操作を終えると、彼は再度バックパックを装甲服に固定して立ち上がった。 其処で漸く、ギンガ達の視線が自身へと集中している事に気付いたらしい。 数秒ほど沈黙した後、何処か白々しく言葉を紡ぐ。 『唯の銃だ』 「初速は?」 『2930m毎秒』 呆れの混じった溜息を吐く者、沈黙のままに隊員を見据える者。 周囲の反応に、彼は些か戸惑っているらしい。 そんな彼へと、次々に浴びせられる言葉。 「それの何処を見れば「唯の銃」なんて言えるッスか」 「歩兵に持たせるなよ、そんな物」 「それはコロニーの中で発砲して問題は無いのか?」 「どう見たって魔法よりヤバいじゃない・・・」 『分かった、俺が悪かった・・・頼むよ、勘弁してくれ・・・』 周囲から相次いで放たれる野次に、彼はとうとう音を上げた。 微かに肩を落とし、スバル達から顔を背ける。 これまでになく人間味を感じさせるその素振りに、ギンガは微かな笑みを零す反面、何処か釈然としない感情を覚えていた。 これまでギンガを始めとする攻撃隊の面々が目にしてきた、地球軍による数々の非人道的な言動。 一方でランツクネヒトの構成員については、少なくとも非戦闘員および敵意の無い者に対しては友好的な態度を示している。 だが、その根幹は地球軍と何ら変わりない事も、ギンガは理解していた。 民営武装警察という肩書が在るが故か、被災者に対し惜しみない人道的支援を行う彼等は、しかし同時にスバルとノーヴェを兵器として扱った一面をも併せ持っている。 彼女達のオリジナルの体組織から制御ユニットを作成し、R戦闘機へと搭載する事さえしたのだ。 被災者に手を差し伸べる彼等と、平然と非人道的な行いを為す彼等。 目前でスバル等にからかわれる姿と、嘗て自身の眼前に銃口を突き付けた姿。 どちらが真の姿なのか、等という問いが無意味なものである事は重々に承知しているが、思考せずにはいられない。 少なくともギンガにとっては、目前の光景はそれだけの違和感を孕むものだった。 「大体それ、どう見たって生身で振り回せるサイズじゃないッスよ。筋力増強が在ること前提じゃないッスか」 『魔導師だって似た様なものだろう。あんなにデカいデバイスを棒切れみたいに振り回しているじゃないか』 「秒速3kmの弾を放つ銃器など、歩兵には明らかに過剰火力だと思うが」 「小銃で十分じゃないかなあ」 『爆弾魔や拳で機動兵器の装甲に穴開ける連中が言っても説得力は無いぞ』 「おいテメエ、それ以上チンク姉を侮辱すると・・・」 じゃれ合っているとしか見えない5人を前に、ギンガは諦めと共に息を吐く。 これ以上は考えるだけ無駄だろう。 そんな結論に達した時、微かな機械音と共にトラムチューブ内の非常灯が点灯した。 一瞬だが眼が眩み、しかしすぐに光量調節機能により正常な視界が確保される。 「明かりが・・・」 『電力供給経路が第2核分裂炉にシフトした。第1は既に機能を停止しているらしい』 「輸送艦はどうなっているの」 『其処までは・・・』 途切れる言葉。 何事か、と訝しむギンガ等の前で、彼はウィンドウを展開する。 表示された情報は、トラム運行状況。 「・・・トラムがどうかした?」 『A-00エリア、管制区・第3トラムステーションに車両が停車している。妙だな、もうとっくに退避したものと思っていたんだが』 「自動運行で着いた可能性は」 『有り得るが、どうにも・・・待て』 更にウィンドウを操作し、彼は何らかの情報を読み取っている様だ。 数秒後、彼はウィンドウを拡大すると、其処に管制区ステーションの立体構造図を表示する。 ステーションの一角には、赤く表示された4つの人影が横たわっていた。 「これ・・・」 『死亡している。管制区内の状況までは分からないが、検出された体温からして死亡後にそれほど時間は経過していない』 ウィンドウが閉じられる頃には、既に全員がトラムチューブの奥へと向き直っている。 展開したテンプレート上に立つノーヴェが、隊員へと問い掛けた。 「管制区までの距離は?」 『このまま2km、その後に垂直方向へと1.5kmだ。車両かエレベーターを使おう』 「そんな悠長な事してる暇は無いッスよ。こっちの方が早いッス」 そんな事を言いつつ、自身のライディングボードを叩くウェンディ。 その言葉の真意を正確に受け取ったのだろう、隊員は助けを求めるかの様にスバルの方を見やる。 だが、返された言葉は非情なもの。 「また、だっこします?」 『・・・人生最悪の日だ』 恨み事を呟きつつ、彼はウェンディとライディングボードへと歩み寄る。 ぎこちなくボード上へと乗る彼の姿を確認すると、ギンガは鋭く指示を発した。 「私が先頭、スバルは後方を警戒。速度はノーヴェとウェンディに合わせるわ」 重なる了解との声を背に、ギンガはウイングロード上を駆ける。 数分で管制区へと続くシャフトへと到達、今度は螺旋軌道を描きつつ上昇。 途中、重力作用方向が変化し始め、5分程でステーションへと到達した。 先程の衝撃の為か、破損し火花を散らす車両を避け、ステーション内部へと滑り込むと同時に周囲の安全を確認。 待合所には4つの死体が散乱しており、床面もまた赤く染め上げられている。 壁面や天井面に血痕が付着している事から推察するに、やはり核爆発の衝撃で周囲へと叩き付けられた事が原因で死亡したらしい。 遺体の潰れた顔から思わず目を逸らし、ギンガは後続の皆へと念話を飛ばす。 『ステーション、クリア』 ローラーが床面を削る音。 振り返れば、丁度ノーヴェの背からチンクが、ライディングボードから隊員が降りたところだった。 チンクはこれといって問題は無いが、隊員の方は何事か不満らしき言葉を呟いている。 そんなに嫌だったのかと、ギンガは場にそぐわないとは思いつつも、微かに苦笑の表情を浮かべた。 だがそれも、続く隊員の言葉によって掻き消える。 『前方500m、管制室付近に複数の動体を感知。接近中』 ガウスライフルを構えつつ、隊員は4つの遺体が散乱する待合所の陰へと身を隠した。 ギンガとノーヴェは通路傍の壁面に、スバルとチンクは反対側の壁面へと走り寄る。 ウェンディは隊員の傍で砲撃態勢に入り、目標の接近に備えていた。 『400m』 『人間、それとも敵?』 『不明。もう少し近付かない事には・・・』 『ウェンディ、もし敵であれば砲撃後にフローターマインを配置しろ。通路を塞ぐんだ』 『了解ッス』 ライディングボードの砲口とガウスライフルの銃口が通路奥へと向けられている事を確認し、ギンガは拳を握り締めて接触に備える。 目標が人間であれば良いが、最悪の場合には何らかの汚染体である事も考えられるのだ。 それが行き過ぎた警戒などでない事は、これまでに嫌という程に思い知らされている。 アンヴィルとは別の経路から、666以外のバイドが侵入していないとも限らない。 緊張を高めるギンガ、しかし。 『待て、待て・・・確認した、人間だ。デバイスの所持を確認』 銃口を上へと向け、隊員が待合所の陰から姿を現す。 ウェンディがそれに続き、2人は通路傍のギンガ達へと歩み寄ってきた。 隊員はウィンドウを開き、それを操作しつつ通路へと踏み込んで行く。 その傍らを歩きつつ、ギンガは彼へと問い掛ける。 「目標は管理局員?」 『そうだ。14名、いずれもデバイスを所持している・・・ああ、ランスター一等陸士も居るな』 「ティアナが?」 スバルが驚きの滲む声を上げるが、ギンガも内心は同様だった。 ティアナがこんな所で何をしているのか、見当も付かなかったのだ。 特に666の迎撃に当たっていた様子も無かった為、被災者の誘導に当たっていたものと思っていた。 13名、死体となった者達も同様とするならば、計17名もの局員を引き連れて何をしているのか。 「何処に向かっているの」 『第5トラムステーションらしい。こっちの車両は、もう使い物にならないからな。生存者の捜索に来たのか?』 「管制室には管理局のオペレーターも居ただろ。そいつらを探しに来たんじゃないか」 『こちらのオペレーターが退避したなら、連中も一緒に退避している筈だ。行方不明者でも居るのかもしれない』 言葉を交わしつつ、6人は徐々に足を速める。 ティアナ達までの距離は400mといったところだが、向こうも移動している為にすぐに追い付く訳ではない。 先程までは接近していたのだが、第5トラムステーションまでの経路が横に逸れている上に向こうは飛翔魔法を用いているらしく、今は徐々に遠ざかっている。 念話で呼び掛けてはみたものの、システムの大部分が沈黙している為に繋がらなかった。 こうなっては、ティアナ達に追い付く以外に術は無い。 ギンガとスバルはデバイスを、ノーヴェとウェンディは固有武装を、チンクは慣れない飛翔魔法で通路を翔けるが、魔導師でも戦闘機人でもない隊員はそうもいかなかった。 多少なりとも肉体的強化は為されているのか、重装備にも拘らずかなりの速度で駆けてはいるが、それでもギンガ達と比べれば遅い。 このままでは引き離されるばかりだと、ギンガは新たに指示を飛ばす。 「スバルとノーヴェは私に着いてきて! チンクとウェンディは彼と一緒に後から!」 「了解した!」 チンクの返答を聞き留めると、ギンガは一気に加速した。 主要通路に進行を遮る物は無く、背後の2人と共にローラーブレードから火花を散らしつつ駆ける。 幾度か交差路を直進した後、第5トラムステーションへと続く通路へと床面を削りつつ滑り込む。 ティアナ達までは100mといったところだ。 「畜生、無駄に広いんだよ此処!」 「これだけ大きなコロニーなのよ、管制区が広いのも当たり前・・・」 「居た! ティアナ達だ!」 スバルの声に、ギンガは前方を注視する。 彼女の言葉通り、前方の交差路を曲がる数人の姿が見えた。 更に加速し、後を追って角を曲がるギンガ。 「待って・・・ッ!?」 「おい、何してんだ!」 「ティア!?」 その先に待ち受けていたのは、ティアナのクロスミラージュ、その銃口を始めとする無数のデバイスの矛先。 予想だにしなかった敵意の壁に、ギンガは思わず足を止めてしまう。 だが、予想外であったのは向こうも同様だったらしく、殆どの局員が驚いた様な表情でこちらを見つめていた。 最前部の1人が、呆けた様に声を漏らす。 「ナカジマ陸曹・・・?」 その声とほぼ同時に、突き付けられていたデバイスが次々に下ろされる。 ギンガは張り詰めていた緊張を解く様に息を吐くと、集団の中でクロスミラージュを手に佇むティアナへと視線を移した。 彼女は何をするでもなく、こちらを見つめている。 「ティアナ・・・」 「・・・御無事で何よりです、ギンガさん」 軽く息を吐きつつ、ティアナは言葉を紡ぐ。 言葉は安堵を表していたが、その顔に浮かぶのは仮面じみた無表情。 少々の不自然さを覚えたものの、この状況では無理もないと思い直した。 「搭乗機が撃墜されたと聞きましたが、不時着に成功していたのですね」 そういう事か、とギンガは納得する。 どうやら彼女は、自分達の搭乗していた強襲艇が撃墜された事を知り、安否を気遣っていたらしい。 「何とかね。それより・・・」 「ティアはこんな所で何をしてるの?」 ギンガの言葉を遮る様に、スバルが問い掛ける。 少々の驚きと共に、妹を見やるギンガ。 発言の途中で割り込まれた事にではなく、スバルの声に若干の不審が含まれている様に感じられたのだ。 軽く窘めようかとも考えたが、続くティアナの言葉にその思考は霧散する。 「・・・捜査活動、ってところね」 「え・・・」 再度ティアナへと視線を移すと、彼女は常ならぬ険しい表情でこちらを見やっていた。 何事か、と戸惑うギンガ達に対し、ティアナは幾分潜める様な調子で語り始める。 「ナカジマ陸曹。バイドに関する情報で、可及的速やかにお伝えしなければならない事実が在ります」 バイドに関する情報。 その言葉を聞き止めたギンガの意識に浮かび上がる、微かな疑問。 此処でその様な事を言い出すという事は、その情報はこの管制区で得たという事なのだろうか。 ギンガの疑問を余所に、ティアナは言葉を続ける。 「バイドは、単なる・・・」 「ギン姉ぇ、やっと追いついたッス!」 ウェンディの声。 自身の右側面へと振り返れば、其処にはチンクとウェンディ、そしてランツクネヒト隊員の姿が在った。 チンクとウェンディの後方、隊員は幾分疲労している様に見えた。 「2人とも御苦労さま」 「お守は疲れるッスよ。次からは問答無用でボードに括り付けるか、ノーヴェかスバルがお姫様だっこして運ぶッス」 『だから・・・もういい』 「ティアナ達は?」 「此処に居るわ。今・・・」 言葉を交わし、ティアナ達へと向き直る。 だが其処には、奇妙な光景が在った。 ティアナを含め、全ての局員が再度デバイスを構えているのだ。 絶句するギンガに、ティアナが問い掛ける。 「ナカジマ陸曹」 「・・・何?」 「ウェンディの他に、誰が居るのですか」 この交差路は60度ほどの急角度で形成されており、ウェンディ達の姿は壁面に遮られティアナ達から確認する事はできない。 声からウェンディが居る事は判断できたが、音声出力装置を通した聞き慣れない声と、そしてギンガの言葉から更に1名以上の人物が其処に居る事を推察したのだろう。 ギンガは納得しつつ、チンクと隊員の存在を告げんとした。 「チンクとランツクネヒトの・・・」 『陸曹』 その言葉を遮る、隊員の声。 そちらへと視線を移せば、彼は壁面越しにティアナ達の方向を見やっていた。 もしや見えているのかと訝しんだのも束の間、彼が紡いだ言葉によってギンガの思考は中断する。 先程までの人間味が嘘の様に消え失せた無機質な声で以って紡がれる、予想だにしなかった言葉。 『何故、彼等が「アーカイブ」を所持している』 直後、無数の誘導操作弾がギンガ達の側面を掠め、空間を突き抜けた。 「な・・・!」 愕然とするギンガ。 余りに突然の事に、反応する隙さえ無かった。 クロスミラージュから、周囲の局員達が手にするデバイスから。 数十発もの誘導操作弾が放たれ、それらがギンガ達の側面を掠めて背後へと抜け、交差路の先に佇んでいたランツクネヒト隊員へと襲い掛かったのだ。 壁面越しに異常を察知していたのであろう、隊員は咄嗟にウェンディの背後へと隠れる様に跳躍。 ウェンディはギンガと同様、状況を理解する隙など無かったであろうが、眼前に迫り来る魔導弾幕に対して咄嗟にライディングボードを翳した。 貫通力に関しては直射弾に劣る誘導操作弾は、ボード表層部で小さく炸裂するものの防御を破るには到らない。 だが、数発がウェンディを迂回する軌道を取り、彼女の背後の床面に倒れ込んでいた隊員の胴部へと直撃する。 小さな爆発音と共に炸裂する魔力、強力な力によって十数mもの距離を弾き飛ばされる隊員の身体。 ギンガの背後、叫ぶスバル。 「ティア!?」 ベルカ式の局員が2名、ギンガ達の間を擦り抜けウェンディ達の居る通路へと飛び込む。 男性局員は右手にナックルダスター、左手にジャマダハル型のアームドデバイスを、女性局員は右手にショートソード、左手にマインゴーシュ型のアームドデバイスを携えていた。 動きが鋭すぎる。 明らかに高ランク、それも尋常ではないレベルで完成された近代ベルカ式魔導師。 飛行には適さないバリアジャケットのデザインから推測するに恐らくは陸士、覚えが全く無い事から何処かの管理世界にて治安維持に就いていた陸の人員だろう。 こんな未知の高ランクが居たのかという驚きはしかし、床面に触れるジャマダハルの切っ先から弾け飛ぶ火花、そして床面へと異常なまでに深く刻まれた傷によって掻き消される。 非殺傷設定、解除状態。 「止めてッ!」 咄嗟に叫んだギンガの声に、チンクが応じた。 数十本のスティンガーを展開し、数本を2人の足下を狙って射出。 2人が前進を中断すれば良し、縦しんばそれを回避したとしても残るスティンガーが通路を塞ぐ様に展開している。 如何に高ランクであろうとも、近接戦闘に特化したベルカ式魔導師がスティンガーの壁を突破する事は、決して容易ではない。 自身の経験からギンガはそう判断し、自身もブリッツキャリバーで2人の後を追う。 だが。 「な・・・ッ!」 一瞬だった。 一瞬で、彼等は張り巡らされたスティンガーの壁を突破していた。 あの状況下で、足下へと放たれたスティンガーを無視し、更に加速して自身等が潜り抜ける分だけのスティンガーをナックルダスターとマインゴーシュで破壊し、その開いた空間を通ってチンクの後方へと躍り出たのだ。 想定を超える事態とその速度に反応できないチンクの背後、ジャマダハルとショートソードの刃が隊員へと迫る。 だが、チンクの行動は無駄とはならなかった。 彼女が稼いだほんの数瞬で、隊員は状況に対応する機会を得ていたのだ。 吹き飛ばされていた隊員はその姿勢のまま、左手のガウスライフルではなく、右手で抜いたハンドガンの銃口を2人へと向ける。 そして、発砲。 連続して発砲炎の光が瞬く中、2人は怯む事も無く突進、刃を振るった。 「駄目!」 爆発する魔力光。 其々の刀身に纏った魔力を、刃を振ると同時に炸裂させたのだ。 恐らくは2人とも被弾していたのだろう。 刃による直接的な斬撃ではなく、魔力による間接攻撃へと切り替えたらしい。 魔力を感知したに過ぎない筈の自身のリンカーコアを震わせ、肉体的な苦痛すら齎す程に強大な魔力爆発。 それが轟音と共に通路を破壊し、床面と壁面、天井面を十数mに亘って跡形もなく抉り取る。 極近距離に限定された範囲と引き換えに圧倒的な破壊を齎す、拡散型近距離疑似砲撃魔法。 全身が跳ね上がる程の衝撃、脳裏へと浮かび上がる最悪の結果。 ギンガは咄嗟にリボルバーナックルを振り被る。 「貴方達・・・ッ!?」 直後、男性局員の背から血が噴き出した。 驚愕と共に足を止めたギンガの目前で、更にもう1箇所から血が噴き出す。 と、男性局員の陰から側面へと、ハンドガンを握る腕が突き出された。 銃口の先には女性局員。 彼女は咄嗟にショートソードの側面で頭部を庇うも、発射された弾丸はバリアジャケットを貫き大腿部と頸部を撃ち抜く。 だが、その一瞬の隙に男性局員が動いた。 ジャマダハルを構える左腕が振り抜かれ、彼の陰から延びる隊員の腕が跳ね上がる。 腕が陰へと引き込まれ、更に銃声が3度。 局員の背から、同じ数だけ更に血が噴く。 零距離射撃、弾体貫通。 「ギン姉、ノーヴェ!」 「畜生ッ!」 スバル、ノーヴェが突進。 男性局員が、背中から床面へと倒れ込む。 灰色のバリアジャケット前面は、鮮血によって赤く染まっていた。 女性局員は頸部を撃ち抜かれ倒れてから、被弾箇所を両手で押さえつつのた打ち回っている。 そして、露わとなった男性局員の陰に、ランツクネヒト隊員の姿は無かった。 崩壊した構造物だけが、空しくその内面を曝している。 その先に拡がる階下および階上の空間については、立ち込める粉塵によって見渡す事ができない。 崩壊した通路の縁に駆け寄り、ギンガはスバル等と共に呆然とその先の空間を見つめる。 「何て事・・・」 「逃がすな!」 呟くギンガの聴覚に、信じ難いティアナの声が飛び込んだ。 直後に、ギンガ達の左右から突き出す、無数のデバイスの矛先。 忽ち高速直射弾の嵐が眼前へと現出し、粉塵の中で無数の魔力爆発が巻き起こる。 数瞬ほど、ギンガは信じられない思いでその光景を見つめ、やがて視界に移るデバイスの1つを反射的に掴むと、咄嗟にその主へと拳を打ち込んでいた。 周囲ではスバルやノーヴェ、チンクとウェンディも似た様な光景を繰り広げている。 簡易砲撃を放とうとしていた数名にガンシューターを撃ち込みつつ、ノーヴェが叫ぶ。 「イカレてんのか、テメエら! いきなり殺しに掛かりやがって!」 「ティア、ティア! どうして、何でこんな事!」 「ウェンディ、退がれ!」 近接戦闘を不得手とするウェンディを庇う様に、チンクが再度スティンガーを展開せんとする。 だが1発の甲高い銃声と共に、全ての戦闘行為が停止した。 ティアナだ。 「・・・其処までよ。各自、デバイスを下ろしなさい」 その冷え切った声に、ギンガは1人の局員のデバイスを押さえたままそちらを見やり、僅かに躊躇した後にその手を解放した。 追撃を警戒したが、どうやら局員達もティアナの指示に従っているのか、一様にデバイスの矛先を下ろしている。 幾分荒い呼吸もそのままに、ギンガは周囲を見回した。 「それで、どういうつもり? 何故こんな事を」 殺気すら込めてティアナを睨み据え、問い掛ける。 ギンガは、現状を理解する事ができなかった。 ティアナ達は唐突にランツクネヒト隊員の殺害を試み、攻撃を受けた隊員は2名の局員に重傷を負わせて逃亡。 否、2名の治療に当たっている局員の様子から推測するに、致命傷となっている可能性もある。 男性局員は胸部から腹部に掛けて少なくとも5発の銃弾が貫通し、女性隊員は大腿部と頸部に銃弾を受けているのだ。 だが、隊員の行動が過剰な反撃であったかと問われれば、ギンガは否定も肯定もできない。 隊員は疑似拡散砲撃が放たれた際、後方へと距離を取るのではなく、逆に前進して局員の懐に入る事で砲撃の拡散点より内へと逃れた。 その策が功を奏したからこそ無事であったものの、もし失敗すれば完全に砲撃に呑まれていただろう。 如何にランツクネヒトの装甲服を纏っていると云えど、非殺傷設定を解除された上で更にこの破壊規模、跡形もなく消滅していたであろう事は想像に難くない。 つまり、近接攻撃を実行した2名の局員については、その殺意の存在は疑うべくもないのだ。 では、ティアナ達はどうか。 答えは、ウェンディから齎された。 「・・・全弾非殺傷設定解除とは、随分と念入りな事ッスね。下手すりゃチンク姉もアタシも死んでたッスよ」 「貴様ら、正気か」 スバルが、懇願するかの様にティアナを見つめる。 だが、ティアナは感情が抜け落ちたかの様に冷然とした面持ちを崩す事はなかった。 そして意外にも、次に言葉を紡いだのはノーヴェ。 「アイツが言ってた「アーカイブ」ってのは何だ」 その単語には、ギンガも聞き覚えが在った。 彼が言ったのだ。 何故、ティアナ達が「アーカイブ」を持っているのか、と。 攻撃は、その直後に始まった。 ティアナは答えないが、ノーヴェは大方の状況を理解したらしい。 「成程、それを持っている事がランツクネヒトに知られちゃ不味い訳だ。だからアイツを殺そうとしやがったな」 ノーヴェが述べた内容は、ギンガの推測とほぼ同じもの。 そして、恐らくは限りなく正解に近いものの筈だ。 だが、ティアナは沈黙したまま。 言葉も発する事なくクロスミラージュをワンハンドモードへと移行し、床面に転がる男性局員のアームドデバイス、ジャマダハル型のそれへと歩み寄る。 膝を突き、空いた左手を伸ばすティアナ。 デバイスに触れ、無言のままにその刃を見つめている。 「答えろ!」 「少し違うわね。正確には「第97管理外世界の人間」に知られると不味いのよ」 焦れたノーヴェの叫びに、極々自然な声を返すティアナ。 彼女の左手にはジャマダハルが握られている。 今更ながら、その刃が半ばまで赤く染まっている事に気付き、ギンガは自身の血の気が引いてゆく事を自覚した。 「貴方達、本気で・・・」 「御互い様だと思いますが。こちらは2人が死に掛けていますし、被害の度合いとしては向こうの方が小さい位でしょう」 「そんな事を言っているんじゃない!」 「そんな事? この結果を招いたのは貴女達ですよ。はっきり言いましょう。貴女達が邪魔さえしなければ、2人があの男を殺して終わりだった」 ギンガには最早、言葉も無い。 呆然とギンガを見つめるが、しかし問い詰めるべき事はまだ在ると、思考を切り替える。 ティアナ達が所持する物についてだ。 「「アーカイブ」とは、何なの」 「このコロニーのデータベースユニット、その中枢ハードウェアの事です」 言いつつ、ティアナはジャマダハルを傍らの局員へと手渡し、バリアジャケットのポケットから5cm程の正方形、厚さ2cm程のメディアデバイスを取り出した。 それをギンガ等に見せる様に手の中で弄び、再びポケットへと戻す。 「第97管理外世界の民間人4名が快く協力してくれました。アンヴィル暴走の混乱に乗じて、全てのユニットがランツクネヒトによって破壊される前に、1つだけ回収してくれた。本当に良いタイミングだった。 アクセスコードまで手に入ったのは、幸運としか云い様がありません」 快くとの言葉に、ギンガは寒気がした。 そんな筈はない。 第88民間旅客輸送船団の人員は、その殆どが後より合流した管理局員を強く警戒している。 そんな彼等の内4人が、どういった経緯でランツクネヒトと地球軍に対する背信行為に及んだのか、或いはそう誘導されたのか、少なくともギンガとしては考えたくもなかった。 また、アクセスコードの入手は幸運だったとティアナは言うが、実際にはそれすらも予定の内であった事は明らかだ。 そして、協力者の人数は4名と、ティアナは言った。 「あの死体・・・まさか!」 「ああ、死んだのね。あの衝撃で無傷で済むとは思わなかったけど」 何という事だ。 第3トラムステーションの待合所に散乱していた、あの4つの死体。 あれこそが、ティアナの言う協力者達の末路だったのだ。 「気の毒にね」 「抜け抜けと・・・っ! 初めから殺すつもりだったのだろうに!」 「いいえ、違うわ。初めは単に口止めと警告で済ませるつもりだったのだけれど、これの内容が予想以上だったものだから、そうもいかなくなってしまった。だから、眠らせてあそこに置いてきたのよ。 あの衝撃は想定外、本当はこのコロニーごと消える筈だった」 チンクが激昂するも、周囲の局員達は全く動じない。 信じられなかった。 非戦闘員を作戦に巻き込み、挙句の果てに「死なせる」つもりで放置したというのだ。 ギンガにはもう、眼前の人物が自身の知るティアナ・ランスターであるという、その確信が全く持てなかった。 しかしそれでも、彼女は気丈に問い掛ける。 「内容とは?」 「バイドの正体」 息が止まった。 見れば、スバルやノーヴェ等も、瞼を見開いてティアナを見つめている。 そして再度ティアナを見やれば、彼女は変わらず感情の抜け落ちた様な瞳でこちらを捉えていた。 紡がれる言葉。 「バイドは、異層次元生命体なんかじゃない」 意識を抉る根幹を抉る言葉に、ギンガの喉から小さな音が鳴る。 言葉は続く。 「そんな都合の良い存在じゃない。バイドは「質量兵器」だ」 脳裏へと鳴り響く警鐘。 覚悟も無しに、それ以上を聞いてはならない。 戻れなくなる。 もう2度と、同じ価値観には戻れなくなる。 「その「質量兵器」バイドを創造したのが」 駄目だ、聞くな。 戻れなくなる、全てが崩れる。 止めろ、黙れ、それ以上は喋るな。 全てを知るのは、全てが終わった後で良いのに。 なのに、もう。 「第97管理外世界「地球」よ」 もう、戻れない。 ギンガの中で砕け散る、1つの世界、それに対する全て。 印象も、情報も、侮蔑も、憧憬も。 全てが塵と消え、新たに再構築されてゆく。 そして、全てが変質した。 * * 「異層次元から現れた未知の侵略性生命体なんて、何処にも居なかったのよ。初めから、居たのはたった1つだけ。彼等が・・・彼等の子孫が作り上げた最悪の質量兵器、唯1つだけ」 理解できない。 スバルの脳裏には、そんな事しか思い浮かばなかった。 ティアナの言葉は続いているものの、何を言っているのかすらおぼろげにしか解らない。 「26世紀の第97管理外世界は、外宇宙の「敵」と戦う為に強大な戦略級質量兵器を生み出した」 バイドは、第97管理外世界が創造した質量兵器だった? 馬鹿げている。 質量兵器が全次元世界を呑み込み、数億人を虐殺し、更に全てを喰らわんとしている? 有り得ない。 「自然天体に匹敵する大きさのフレームに内蔵された、星系内生態系破壊用兵器。一度発動すれば、効果範囲内に存在するあらゆる生命、意識体、情報集約体を喰らい尽くすまで、決して活動を止めない絶対生物。 局地限定破壊型質量兵器の到達点、それがバイドだった」 振動。 戦闘の余波が此処にまで届いている。 666とR戦闘機群の戦闘によるものか、それとも汚染されたアイギスと防衛艦隊の戦闘によるものか。 「26世紀の第97管理外世界は、これを敵勢力の中枢が存在する星系へと転移させて発動、敵勢力を殲滅する事を画策した。ところが、どんなミスか知らないけれど、間抜けな事にその質量兵器は彼等自身の星系で発動してしまったのよ」 全く理解できない。 26世紀だと? 地球軍は22世紀の第97管理外世界から現れた。 其処から更に400年もの未来に建造された質量兵器が、何故此処で出てくる? 「自らが創造した兵器の癖に、彼等は暴走したそれを滅ぼす術を持たなかった。彼等は自分達にさえ手の負えない化け物を、自らの手で創り上げてしまった」 信じられない。 現在から100年後の時点でさえ想像を絶する科学力を有しているというのに、更に遥か未来に創造された質量兵器。 その創造主達でさえ、自らが創り出した兵器を制御できなかった? 「それで・・・それで、どうなったんだ・・・ソイツらは?」 「捨てたのよ」 思わずといった様子で問うノーヴェ。 返すティアナの言葉は、またも想像を超えていた。 スバルも、呆然と声を吐き出す。 「捨てた、って・・・」 「そのままの意味。暴走開始から150時間後、彼等はその兵器の周辺空間を崩壊させて、異層次元の彼方へと葬り去った。少なくとも26世紀では、それで事態が決着したと考えたんでしょう」 「それが何で・・・」 4世紀も前の時代に。 その問いが放たれる前に、ティアナは答えを齎す。 「異層次元がどんな所かは知らないけれど、少なくとも単一存在が自らの存在確率を維持する事すら困難な環境らしい。そんな空間へと墜とされてなお、その兵器は機能を失わなかった。 課せられた目的を失い、手駒となる戦力を失い、機能中枢に刻まれた情報以外の一切を失ってもなお、それは発動時に攻撃目標として設定された星系および文明に対する殲滅を諦めはしなかった。 当然よね。自我なんか在りもしない、単なる戦略兵器だもの。創造主に施されたプログラム通り、作戦目標の達成かシステムの破壊、それ以外の理由で活動を停止する事は有り得ない」 「だから・・・何だというんだ? そいつが何故、22世紀に関係する」 チンクが問う。 ティアナは未だ、その疑問に答えていない。 「数十年、或いは数百年か。もしかすると数秒かもしれないし、数億年かもしれない。そもそも、私達の知る時間の概念と同一の現象が存在していたかすら怪しい。そんな中で、兵器は進化を繰り返した。 詳細なんて私には知る由もないけれど、少なくとも人間の脳で理解できる様な生易しい変貌ではないでしょうね」 ティアナの傍らに立つ局員が、指先でリストウォッチを軽く叩く。 彼女はそれを横目に見やり、軽く腕を振って移動を促した。 周囲の局員が歩きだす中、ティアナの言葉は続く。 「あらゆる存在を無へと帰す空間の中にあって、その兵器は逆に存在を創造し、空間を支配するまでに進化した。そして、遂には時間という概念すらも引き裂いて、既知の異層次元へと帰還を果たす。その先に存在したのが」 「まさか・・・!」 思わず、声が零れる。 それを聞き止めたか、ティアナは軽くスバルを見やった。 そして視線を戻し、告げる。 「22世紀・・・4世紀前の第97管理外世界よ」 誰も、言葉を返さない。 返すべき言葉が見付からない。 ティアナから齎された真実は、それ程までに衝撃的なものだった。 バイドは、正体不明の侵略性生命体などではない。 バイドとは紛う事なき人造生命体であり、それとの絶望的な戦いに明け暮れる第97管理外世界の未来に於いて建造された、戦略級質量兵器である。 創造主たる第97管理外世界の人間達により異層次元へと投棄されてなお、活動を停止する事なく異常な進化を遂げ、4世紀もの時を遡り過去の第97管理外世界へと現れた、悪魔の兵器。 完結している。 完結すべきである。 全てが第97管理外世界より始まり、そして第97管理外世界へと収束している。 バイドを創造したのも、バイドと交戦状態にあるのも第97管理外世界「地球」だ。 其処に他者を、他の世界を巻き込む事など在ってはならない。 その理由も無い筈だ。 だが、現実には次元世界全域がバイドと地球軍、2者間の戦争へと巻き込まれている。 其処には、選択の余地など無い。 一方的に、そして極めて理不尽に。 バイドと地球軍との闘争へと巻き込まれ、逃れる事のできない絶望の縁へと立たされているのだ。 「嗤えるでしょう? この戦いは全て「地球」の自業自得、因果応報よ。彼等は、遥かな未来に自らの子孫達が創り上げた兵器から、余りにも唐突で滑稽で絶望的な戦いを仕掛けられた。 未来からよ・・・過去の遺産っていうならいざ知らず、400年も先の未来から。こんな馬鹿げた話って無いわ。自分達が後世に残した負の遺産から兵器が生まれ、それがそのまま今の自分達に返ってきたのだもの。 今までに滅びた世界の記録は嫌というほど見てきたけれど、此処まで愚かで救い様の無い世界なんて見た事ないわ」 再び、振動が一帯を揺さ振る。 先程よりも衝撃が大きい。 戦域が近付いているのか。 「自分達の犯した失態の癖に、それへの対応の余波に次元世界まで巻き込んでいる。その事実を隠し、同じ被害者面を装って協調体制なんて嘯いていたのよ」 「それは、バイドが・・・」 「どっちから仕掛けたとしても同じ事よ。バイドを創ったのはあの世界なんだもの。それに・・・」 三度、振動。 ティアナは言葉を区切り、手振りでスバル達を促して歩き出す。 数瞬ほど遅れ、その後に続く5人。 すぐに飛翔魔法を使用しての移動に移り、通路を加速してゆく。 飛び込む念話。 現状では距離が離れると念話は使用できないが、ごく近距離ならば問題は無い。 『バイドは既に、無数の文明を滅ぼしている。第97管理外世界の存在する恒星系を内包したものに限らず、無数の銀河系や異層次元に存在していたあらゆる形態の文明、或いはそれに酷似した情報集約系を片端から汚染し、喰らい、同化してきたのよ』 『何でそんな事・・・目標は第97管理外世界なのでしょう?』 『ええ、ですからその下準備です。22世紀の第97管理外世界を確実に滅ぼす、唯それだけの為にバイドは、接触したあらゆる文明の全てを喰らってきたんです』 『じゃあ、まさか』 スバルの思考へと浮かんだのは、余りにもおぞましい推理。 この事態が引き起こされた理由、バイドの目的。 続くティアナの念話が、それが的を射たものである事を証明する。 『ランツクネヒトがアーカイブへと追加していた情報を解析した結果、西暦2169年に発動された第三次バイドミッション「THIRD LIGHTNING」はバイドの物理的戦力を大きく削ぐ事には成功したけれど、作戦そのものは失敗に終わった事が判明しています。 バイド中枢の破壊は成らず、制御統括体として機能していたマザーバイド・セントラルボディの深々度異層次元投棄のみに止まったと。その際、バイドはR-9/0 RAGNAROK-ORIGINALの攻撃により、機能中枢部に重大な損傷を受けたと予測されている。 其処からランツクネヒトや地球軍が推測した、バイドによる次元世界侵攻の目的は・・・』 『新たな戦力の確保と中枢の修復・・・!』 『地球軍に邪魔されずに失われた戦力を再生産できる空間、それと更なる自己進化の為の新しい「餌」を求めて、ってところでしょうね。聖王のゆりかごや巨大なレリック、他にはアタシ達が遭遇した化け物も、バイドが次元世界で魔導技術を取り込んだ結果、より強化した上で複製されたものでしょう』 『ロストロギアまでか・・・』 前方、第5トラムステーションの表示が視界へと映り込む。 車両に乗り込む局員達の中には、先程の戦闘で銃撃を受けた2人の姿も在った。 他の局員に身体を支えられている事から推測するに、一命は取り留めたものの戦闘への復帰は絶望的だろう。 『まだ肝心の質問に答えてないッスよ』 唐突に割り込むウェンディの念話。 彼女の方を見やれば、未だ猜疑と敵意の滲む目がティアナを見据えていた。 念話は続く。 『それがどうして、協力者やアイツを殺さなきゃならない理由に繋がるんスか』 『解らないの?』 問い掛けに返されるティアナの念話は、接触後に初めて若干の感情を滲ませるものだった。 微かだが、苛立った様な感情の波。 念話から伝わるそれは、スバルを動揺させた。 ステーションの床面へと降り立ち、ティアナは口頭で以って言葉を繋げる。 「ランツクネヒトも地球軍も、バイドが第97管理外世界で建造された兵器であるという情報だけは取り分け厳重に隠匿していた。それだけ私達に知られたくなかったという事よ。何故だか解る?」 「・・・それを知った管理局・・・違うな、次元世界全てが第97管理外世界を危険視する。それを危惧していたって事か」 「次元世界に無数に存在する多種多様な文明の多くが敵に回るとなれば、如何に地球軍とはいえ唯では済まない。バイド建造の真実が私達に漏れたと彼等が知れば、それこそ生存者を抹殺してすら天体外部への情報漏洩を防ごうとするだろう。 だがコロニーのシステムが停止している以上、ランツクネヒトへの情報の伝達は直接的に接触しなくてはならない。それを避ける為に、お前達は彼等を始末しようと考えた訳か」 「半分正解、半分外れね」 車両へと乗り込む一同。 ドアが閉じられ、車両が発車する。 車両内に表示された行き先はA-14エリア第1トラムステーション。 「彼等は次元世界の敵対を懼れてなどいない。彼等がこの情報を隠匿する理由は2つ。現状での次元世界被災者による叛乱の防止と、後の手間を省く為」 「手間?」 車両を揺さ振る衝撃。 特に機能へと異状は生じていないが、小刻みな振動が途切れる事なく続く。 局員がウィンドウを開き、何事かを確認。 「彼等にとって地球文明圏以外の文明に対する認識とは、バイドに新たな戦力を与える「餌」というものでしかない。第97管理外世界と他文明圏の接触は、その全てがバイドによって汚染された敵性体群の地球文明圏侵攻、或いは遭遇戦という形でしか実現していない」 「・・・地球文明が他文明と接触する前に、その全てがバイドによって滅ぼされていたというの?」 「ええ、これまでは。ところが今回に限り、彼等は未だ健常な文明と接触してしまった。バイドにより完全に汚染される前の、文明圏としての機能を保ったままの世界と。 そしてランツクネヒトの連中は、合流した地球軍パイロット達から第17異層次元航行艦隊内部に於ける、今後の戦略概要を聞かされていました」 「内容は」 言葉を区切り、ティアナは息を吸う。 そして、沸き起こる何らかの感情を抑えているかの様な僅かに歪んだ表情で、その言葉を紡ぎ出した。 「当該異層次元に於ける汚染拡大は既に致命的な段階へと達しており、更に当該異層次元の規模と2165年の事例を鑑みるに、短期間の内に地球に対する重大な脅威と化す事は想像に難くない。 第88民間旅客輸送船団および資源採掘コロニーLV-220の捜索・救助完了、ヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦アロス・コン・レチェの発見・破壊を以って、即時当該異層次元の脱出作戦へと移行。 その後、司令部との通信が回復すれば増援と各種解析・研究機関の派遣を要請。通信回復失敗時は地球圏を含む通常3次元空間を除き、当該異層次元の破壊へと移行」 「破壊!?」 次元世界の破壊。 その言葉に、ギンガが声を上げる。 スバルは、声を出す事もできなかった。 それでもウェンディが、どうにか問い掛ける。 「破壊って・・・どうやって!」 「次元消去弾頭という兵器だそうよ。当然、これも質量兵器。数千発も使用すれば、ひとつの異層次元を完全に消滅させる事ができる。尤もバイドや地球軍の兵器みたいに、異層次元航行能力を有する存在に対しては全くの無力との事だけど」 「消滅・・・」 気が狂いそうだ。 想像すら付かない規模、概念での破壊。 地球軍は、そんな常軌を逸した破壊すらも可能なのか。 それでも、バイドを滅するには到らないのか。 「連中は地球というたった1つの文明圏を護る、唯それだけの為に次元世界を破壊するつもりよ。其処に存在する無数の文明の事、況してや其処に暮らす人々の事なんか考えもしない。自分達が全ての元凶の癖に、保身の為に他の全てを滅ぼそうとする」 スバルは気付いた。 ティアナの手、固く握られたその拳が震えている。 爪が肉に食い込んでいるのか、指の間には紅いものが滲んでいた。 「数億人・・・数億人も殺されている。まだまだ増えるでしょう。もしかすると外ではもう、その十倍以上も殺されているかもしれない。でもこのままでは、数十億どころか次元世界そのものが消されてしまう。それもバイドではなく、地球軍の手によって」 拳だけではない。 既にティアナの声は、先程までの無感情なものではなかった。 微かに震え、明らかな負の感情を滲ませる声。 「ねえ、信じられる? 文明なんて、無限に広がる宇宙や次元世界には、それこそ無数に存在しているのよ。万か、億か、それ以上か。なのにアイツ等は、その全てを一方的に自分達の戦いへと巻き込んで、しかも一方的に消し去る事ができる。 唐突に、理不尽によ。これまでに幾度もそれを実行してきた。それも全て、ただ自分達を護る為だけに。ふざけてる。許せるもんか。自分達で生み出して、自分達が戦って、自分達だけが死ねば良いものを。 何の関係も無い文明を片端から巻き込んでは滅ぼし、挙句の果てに生き残ろうと戦い続けている世界まで、自分達の都合だけで滅ぼそうとしている」 誰も、言葉を挟まない。 否、言葉を発する事ができない。 レールと車両間の摩擦音と怨念じみた言葉だけが、スバルの意識を埋め尽くす。 「アイツ等は人間なんかじゃない、ケダモノよ。自分達が生き残る為なら他の生命体、全てを殺し尽くす事も躊躇わない。そもそも躊躇う様な精神構造を持っていない。悪魔というのなら、アイツ等こそがそれだわ。 バイドなんかじゃない。アイツ等こそが最悪の悪魔よ」 悪魔とは、最悪の存在とは、バイドではない。 それを創り出し、それと戦い、自らをも含め悉くを破壊し、殺し尽くす存在。 最も非力な存在でありながら、最もおぞましい狂気を内包した存在。 あらゆる神秘と奇跡に見放されながら、あらゆる神秘と奇跡を科学で以って否定し蹂躙した存在。 尊われるべき概念を凌辱し、尊われるべき生命を喰らい、尊われるべき世界をも破壊する存在。 それが、それこそが。 「アイツ等・・・「地球人」こそが!」 警報。 瞬間的に我へと返り、車両内を見回す。 ウィンドウを開いていた局員が、焦燥した様子で忙しなく指を走らせていた。 同じく我へと返ったらしきティアナが、鋭く声を飛ばす。 「どうしたの!」 「解りません、車両のコントロールが急に・・・!」 『Error. Illegal override to the service program was done』 響き渡る人工音声のアナウンス。 その内容に、スバルは愕然とする。 そしてそれは、他の局員達も同様だったらしい。 「オーバーライド!? 何処から!」 「不明です! システムが回復していない上に、干渉は迂回に次ぐ迂回の上で行われています! ルート変更、A-00に戻っている!」 「アイツだ」 叫びにも似た声が次々に上がる中、スバルの意識へと飛び込む静かな声。 ノーヴェだ。 彼女は座席へと腰を下ろしたまま、鋭い視線で中空を見つめていた。 「アイツだよ。まだ生きてるんだ。アタシ達を逃がさないつもりだ」 「馬鹿げてる! 腹を貫かれているんだぞ、もう失血死していたっておかしくない!」 「そんな簡単に死ぬかよ。アイツ等、医療用のナノマシンを投与されてるんだろ? 治り切る事はなくても、止血位はすぐに済んでる筈さ」 「それに、向こうもこっち並みに必死な筈ッスからね」 ノーヴェの発言に、ウェンディが続く。 ティアナが視線も鋭く2人を見据え、ウェンディに続く言葉を促した。 「何が言いたいの」 「ちょっと訊くッスけど、さっきの地球軍の戦略、あれ知ってるのはランツクネヒトの全隊員なんスか?」 「・・・いいえ。指揮官のアフマド中佐を始めとした、数人といったところね。下部構成員はバイド建造に関する情報の隠匿を厳命されている程度よ」 「ならアイツは多分、今頃こう考えている筈ッスね。管理局の一部局員がバイドに関する情報を得て、その上で反乱を企てている。どうにかしてその事実を仲間達に伝えて、アーカイブが他の局員の手に渡る前に叛乱部隊を殲滅しなきゃならない。そりゃ必死にもなる訳ッス」 やがて、車両が減速を始める。 A-00エリア、管制区・第1トラムステーション、到着。 ティアナはウェンディの発言に対し言葉も返さぬまま、クロスミラージュを手にドアの傍へと立つ。 「サーチャーは?」 「駄目です、ジャミングが張られている。このエリアのシステムを限定的に回復、乗っ取られた様です」 「周囲警戒を怠らないで。生存者はA-05から12までのエリアに集結しているから、此処に居るのはあの男だけよ。確認の必要はない、目標と思しきものは全て撃って」 ドアが開き、局員達が車両外へと展開する。 ステーションに人影は無い。 変わらず響き続ける振動だけが、降車するスバルの聴覚に鈍い轟音となって届く。 「誰も居ない」 「サーチャーを接触式に変更、通路を索敵して。反応があれば・・・」 その時、ステーション内に警告音が流れた。 何時か耳にした音、緊急ではなく平時に聴いたそれ。 一体、何処で? 「ノーヴェ・・・この音って、確か・・・」 「・・・ヤバイ!」 咄嗟に振り返り、車両内に残る局員へと向かって叫ぶノーヴェ。 負傷者2名と、その治療に当たる1名の局員、計3名。 時間が無い。 あの警告音は、そして徐々に大きくなる鉄の擦れる異音は。 「トラムだ、逃げろッ!」 直後、減速すらせずにステーションへと侵入してきた車両が、停車中の車両へと激突した。 3人を乗せた車両は一瞬にして拉げ、その破片と火花が車両外の局員をも襲う。 反射的に頭部を庇った腕を引き裂いてゆく、無数の鉄片。 数秒ほど、全身を襲う衝撃と鼓膜を破らんばかりの轟音に耐え抜いた後、漸く腕を下ろし見開いた眼の先には、どちらの車両もレールさえも存在しなかった。 視界に映るのは破片と火花、そして天井面から噴き出す消火剤だけ。 車両及びレール、崩落。 『The accident occurred at the first tram station. The rescue team was called into action』 「・・・クソッ、やられた! 被害は!?」 「車両内の3人はバイタルが途絶えた! 受信距離が短くなっているんで断言はできないが、この・・・」 ティアナの問いに答える局員の言葉は、最後まで言い切られる事なく途切れた。 突然、彼の胸部が消し飛び、肩部より上が床面へと落ちたのだ。 腹部より下は未だバランスを保っており、一拍遅れて鮮血を噴き出しながら2・3歩よろめき、やがて倒れる。 そして、呆然とその様を見つめるスバルの眼前で、今度は別の局員の頭部が弾け飛んだ。 「銃撃だ!」 局員の叫び。 直後に、ステーション内部は再び弾け飛ぶ火花と鉄片に埋め尽くされ、金属を引き裂く耳障りな異音が何重にも響き渡る。 咄嗟にマッハキャリバーを用いて後退し、チンク、ノーヴェと共に待合所の陰へと身を隠したスバルは、この状況が何によって引き起こされているかを理解していた。 壁面の向こうより構造物を容易く貫き飛来する無数の銃弾、バリアジャケットを容易く貫く程の高速で破壊された構造物の破片を飛散させるそれ。 「ガウスライフルだ!」 「遮蔽物諸共に撃ち抜くか! やはり過剰火力ではないか!」 スバルに続き叫ぶチンク。 余りの攻撃の激しさに、まるで身動きが取れない。 弾体のみならば隙を突いて移動する事もできたかもしれないが、其処に飛散する構造物の破片が加わっただけで全ての動きが封じられてしまう。 壁面構造物は然程に強度が無く、弾体通過時に撒き散らされる衝撃波によって粉砕され、銃弾さながらに飛散するのだ。 こうなると、もはや弾幕と何ら変わりない。 破片は防御の薄い箇所を抜くには十分な速度を有しており、更に弾体そのものに到っては構造物越しにも拘らず易々とバリアジャケットを貫く程。 しかも突撃小銃なみの発射速度で継続射撃されている為、待合所の陰から顔を出す事もできない。 それでも何とかギンガやウェンディ、ティアナ達の安否を確認しようと僅かに顔の右半分を覗かせると、忽ち額の皮膚が引き裂かれ、更に右耳が半ばから縦に切断された。 「ぅあぁぁッ!」 「畜生、引っ込めッ!」 反射的に顔を背け、額と耳を押さえつつ再度に身を隠す。 襲い来る激痛に声を漏らし、歯を食い縛るスバル。 蹲り足下へと向けられた視線の先、切断された右耳の一部が鮮血に濡れて落ちていた。 「スバル・・・!」 「・・・大丈夫」 息を呑むチンクとノーヴェへと無理矢理に声を返し、何とか痛みを堪えつつ耳を澄ませる。 何時の間にか破壊音は止み、周囲には構造物の破片が落ちた際の微かな金属音のみが響いていた。 銃撃、停止。 「・・・おい、止んだぞ」 「分かってる。ギン姉達は何処?」 先程以上に警戒しつつ再度、顔を覗かせる。 こんな時にセインが居れば良いのだが、彼女のISは直接戦闘に向かない上、彼女自身も戦闘能力に秀でている訳ではないので、今は生存者の誘導に当たっていた。 無い物強請りである事を自覚しつつも、スバルは舌打ちせずにはいられない。 あのガウスライフルに狙われている事を知りつつ、それでも射界に身体を曝す事は御世辞にも良い気分とは云えないのだ。 そうして、スバルは破壊され尽くしたステーション内の光景を、余す処なく視界へと捉える。 「どうだ?」 「・・・酷い」 ノーヴェの問いに対し、スバルはそう答える以外に言葉が浮かばなかった。 ステーションは最早、元の様相を留めてはいない。 壁面には拳大の穴が無数に穿たれ、周囲の壁面構造物は根こそぎ剥がれてステーションの其処彼処に散乱している。 そして、散乱する無数の赤い塊。 「・・・何人やられた?」 「分からない・・・みんなバラバラに・・・待って」 構造物の破片に混ざり散乱する、人間にしては小さ過ぎる幾つもの肉塊。 その向こう、トラムチューブ内メンテナンス通路へと降りる為の階段が設置されている箇所に、ギンガとウェンディ、その他数名の姿が在った。 向こうもこちらに気付いたのか、ギンガが手振りで人数を伝えてくる。 「トラムチューブに8人、ギン姉にウェンディ、ティアナも居るって」 スバルは視線を動かし、次いで其処彼処に散乱する肉塊へと視線を移した。 思わず逸らされそうになる視線を無理やりに固定し、肉塊に付着する衣服の残滓、或いはそれらの間に転がるデバイスを探す。 漸く見付けた幾つかのデバイスは、そのどれもが酷く破損していた。 「・・・今のところ、私達も含めて生存者は11名」 「という事は8名が死亡、若しくは生死不明か」 チンクと言葉を交わす間にノーヴェが待機所の陰から顔を出し、すぐに手で口許を覆って頭を引き戻す。 その顔は見る間に酷く青ざめ、手は小刻みに震えていた。 苛烈な性格とは裏腹に、彼女の精神は繊細だ。 スバルもそれは良く解っていた為、チンクと軽く視線を交わすと再度、彼女自身が陰から顔を覗かせる。 丁度その瞬間、スバルの足下から響く鈍い金属音。 「え?」 戦闘機人特有の反射速度にて、足下へと視線を落としたスバルの目に、奇妙な物が映り込む。 それは床面にて反射し、後方へと弾んで行く小さな円筒形の物体、総数3。 かなりの勢いで弾んだそれらは、更にその先の壁面へと衝突して跳ね返り、まるで意思が在るかの如く宙を舞ってスバル達の頭上へと落下してくる。 スバルの脳裏を過ぎるのは、訓練校での座学で学んだ質量兵器の歴史。 「グレネード!」 叫び、待合所の陰から飛び出す。 視界の端には同じく飛び出したノーヴェと、彼女に抱えられたチンクの姿も在る。 直後、背後から膨大な熱量と、脊椎を粉砕せんばかりの衝撃が襲い掛かった。 「がぁッ!」 一瞬にして身体が制御を失い、マッハキャリバーによる加速を遥かに超えた速度で壁面が迫り来る。 スバルはそのまま、真正面から壁面へと衝突した。 咄嗟に顔を庇った腕を中心に衝撃が全身を打ちのめし、そのまま仰向けに床面へと倒れ込む。 ぼやける視界の中、鉄の臭いが嗅覚を侵し始めた。 打ち付けた鼻から、そして頭部から血が出ているのだ。 「う・・・」 呻き、身を起こそうと試みるスバル。 だが、身体が動かない。 全身が軋みを上げ、力を込める事ができないのだ。 そんなスバルの視界へと、ガウスライフルの銃撃によって壁面に穿たれた穴から飛び出す、数発のグレネード弾が映り込む。 弾体の軌跡を目で追えば、榴弾は次々に床面で兆弾、その勢いを保ったまま天井面から壁面へと、縦横無尽に空間を跳ね回るではないか。 唖然とするスバルの眼前で、榴弾は複数の角度からトラムチューブの方向へと跳ね、全弾が狙ったかの様にメンテナンス通路へと向けて落下してゆく。 其処で漸く、彼女は気付いた。 インテリジェント砲弾。 状況に応じて誘導方式を能動的に選択し、自己を正確に目標へと到達させる機能を持つ砲爆弾。 まさか魔法でもない質量兵器、それも個人携行火器の弾薬にその機能が備わっていようとは、夢にも思わなかった。 グレネード弾の反射は受動的なものではなく、榴弾自体の制御下に置かれた運動だったのだ。 「逃げ・・・」 辛うじて振り絞った声が発し切られる前に、メンテナンス通路から複数の叫び声が響く。 次いで、爆発。 爆発の瞬間に撒き散らされる無数の小さな破片と、それによって引き裂かれてゆく周囲の構造物。 恐るべき威力だ。 ギンガやティアナの無事を祈りつつも、スバルはあれを受けた自身の背中がどうなっているのかを想像し、其処で全身の感覚が薄れてきている事に気付いた。 不味い。 どうやら自身が思っていた以上に、負傷の度合いは酷い様だ。 四肢の末端が冷えてゆく感覚は、大量の出血によるものか。 可能な限り早く治療を受けねば、このまま失血死してしまうだろう。 「・・・誰か・・・手を貸してくれ! 誰か!」 そんなスバルの思考は、突如として意識へ飛び込んできた叫びによって中断された。 朦朧とする思考のまま、声の方向へと首を巡らせる。 どうにか動かした視線の先には、倒れ伏すノーヴェを引き摺るチンクの姿。 だが、どうにも様子がおかしい。 「誰か・・・誰か居ないか! 返事をしてくれ!」 チンクに引き摺られるノーヴェの両脚は、膝から先が無かった。 傷口から零れ出る血液が、床面に血溜まりを作っている。 更に全身を破片に切り刻まれたのか、スーツの其処彼処が破れ、その下から覗く皮膚は深く抉られていた。 スバルと同様、彼女も重大な傷を負っているのだ。 チンクはそんな彼女の左手を右手で掴んでいるが、何故かその身体を背負う事はしていない。 良く見れば、彼女には左腕が無かった。 それだけではない。 両脚の脹脛は引き裂かれて筋組織が剥き出しとなっており、やっとの事で立っている状態だ。 そして何よりも、チンクはその唯一残されていた左眼の位置から、夥しい量の血を溢し続けていた。 更に良く凝視すれば、何と左眼周辺からその下部に掛けての皮膚組織、そして骨格が根こそぎ失われているではないか。 頬骨が抉られ、内部組織が零れ出しているのだ。 どうやら榴弾が炸裂した際、スバルより僅かに退避の遅れた2人は、至近距離から破片を浴びてしまったらしい。 恐らくは、聴覚も機能を破壊されているのだろう。 何事かを呟くノーヴェに気付かないまま、掠れる声で周囲の返事を求めつつ、チンクは覚束ない足取りで歩き続ける。 彼女の向かう先には、破壊された壁面以外には何も無い。 だが彼女には、それを知る術が無いのだ。 「チンク姉・・・も・・・良い、から・・・逃げ・・・」 「誰も居ないのか!? ノーヴェが、ノーヴェが負傷しているんだ!」 溢れ返る血液が気道に流れ込むのか、チンクの声には無数の泡が弾ける様な音が混じっていた。 余りにも凄惨な光景に、スバルは自身の負傷さえも忘れて立ち上がろうとする。 何とかうつ伏せになり、背中の感覚が一切無い事に冷たいものを覚えながらも、床面に手を突いて力を込めた。 四肢が震え、ただ立つだけの事であるにも拘らず、内臓を締め付けられるかの様な感覚が彼女を襲う。 それでも、ノーヴェを救わんと歩き続けるチンクの姿を視界へと捉えながら、遂にスバルは立ち上がる事に成功した。 ふらつく身体を何とか支えながら、チンクに手を貸すべく歩み出す。 その時、引き摺られつつも周囲を見やっていたノーヴェの顔が、丁度スバルの方向へと向いた。 「スバル・・・!」 「ノーヴェ・・・待ってて・・・すぐに・・・」 「頼む・・・チンク姉を・・・このままじゃ・・・」 言われずとも解っている。 今のチンクは、視覚も聴覚も奪われているのだ。 恐らくはすぐ其処に居るにも拘らず、反応の無い事からノーヴェの状態を推測したのだろう。 事実、ノーヴェは動ける様な状態ではない。 だがチンクとて到底、無事とは云えない状態だ。 念話を用いている様子もない事から、肉体的な負傷だけでなく意識の保持すらも危ういのだろう。 スバルは遅々とした、しかし僅かにチンクを上回る歩行速度で、徐々に距離を詰めていった。 「チンク」 「誰か・・・」 そうして傍らへと辿り着き、名を呼びつつ左手を伸ばしてその肩を掴もうとする。 指先が触れた瞬間、チンクは目に見えて身体を震わせた。 スバルも一瞬、反射的に手を引いたものの、再度すぐに腕を伸ばす。 チンクの身体を支え、そのまま3人で物陰へと退避する為だ。 そして左手が、チンクの右肩へと置かれる。 次の瞬間、スバルの視界の中から、彼女の左腕が消え去った。 「あ・・・え・・・?」 呆然と、スバルは自身の左腕が在った空間を見つめる。 今はもう、其処には何も無い。 解れた筋組織と僅かな機械部品の残骸だけが、残る肩部から垂れ下がっている。 そして一拍遅れて、大量の血液が噴き出した。 スバルは悲鳴も上げない。 否、上げられない。 自身の腕が吹き飛んだという事実よりも、その先にある光景こそがスバルの意識を捉えて離さなかった。 「チンク姉・・・?」 呆然と放たれた、ノーヴェの声。 恐らくは、目前の光景が信じられないのだろう。 スバルにとっても、それは同様だ。 今は失われた腕、その先に佇んでいたチンク。 彼女の一部もまた、スバルの左腕同様に消し飛んでいた。 呆然とその姿を見やるスバルの眼前で、チンクの小柄な身体がバランスを失い倒れ込んでゆく。 数秒前よりも、明らかに小さくなった身体。 在るべきものが無い、不格好な身体。 「嘘・・・」 「頭部」と「右半身」の無い「チンクだったもの」。 「チンク・・・」 「チンク姉ぇッ!」 余りにも軽い音と共に、その肉塊は床面へと叩き付けられた。 断面から血液が溢れ出し、周囲を赤く染めてゆく。 絶叫と共に、ノーヴェが激しく身を捩りながら、残されたチンクの肉体へと縋り付いた。 半狂乱にチンクの名を呼び続ける彼女の身体は、脚のみならず腰部までもが大きく抉られている。 チンクの身体とスバルの左腕を粉砕した数発の銃弾が、そのまま倒れ伏すノーヴェの身体をも穿ったのだろう。 叫びつつチンクの身体を揺さ振る度に、ノーヴェの腰部からも大量の血が溢れ出す。 既に彼女の上半身と下半身は、僅かに残った左側面の体組織によって辛うじて繋がっている状態だ。 「やだよ・・・やだよチンク姉ぇっ! 死んじゃやだ・・・死んじゃやだよう・・・」 チンクだった肉塊を腕の中に抱き止め、泣き叫ぶノーヴェ。 そんな彼女を前にスバルは、無くなった左腕を掻き抱く様にして、微かに震えていた。 恐怖による震えではない。 抑え切れぬ感情の波、彼女を内側より突き破らんとする激情からの震え。 何故、どうしてこんな事になった。 こんな事、余りに残酷すぎる。 何故、チンクは死ななければならなかった。 車両内に残った3人は、壁面ごと撃ち抜かれた7人は。 彼等は何故、同じ人間に殺されなければならなかったのだ。 共通の敵、絶対的な力を有する悪夢が其処に在るというのに、何故。 「あ・・・ああ・・・!」 震えは秒を追う毎に強まり、遂にスバルは膝から崩れ落ちる。 追い詰められた身体、追い詰められた精神。 もう、立っている事すらできなかった。 「誰か・・・!」 未だ泣き叫ぶノーヴェへと覆い被さる様にして、スバルは震える声を絞り出す。 今の彼女には、地球軍やランツクネヒト、次元世界全体の事を思考する余裕など無かった。 残酷な現実に折れた心の中、残されたのはたったひとつの強迫観念。 救わねばならない。 目の前の彼女、同じ遺伝子を持つ姉妹を救わねばならない。 それを為そうとし、しかし叶わずに逝ってしまった彼女の姉に代わり、自身が彼女を護らねばならない。 でも、不可能。 左腕が無い。 脚も動かない。 圧倒的に血が足りない。 心臓の鼓動さえも、何時止まるとも知れない。 だから、叫ぶのだ。 「助けて・・・ギン姉・・・ティア、ウェンディ! ノーヴェが・・・ノーヴェが死んじゃう! 死んじゃうよおっ!」 血を吐きつつ、スバルは叫ぶ。 様子見か、新たに壁面を貫通してくるガウスライフルの銃弾。 それが残る右腕を吹き飛ばしてもなお、その叫びは破壊されたステーション内に響き続けていた。 * * 「どけ」 「いいえ、断るわ」 短い問答の後、ウェンディは躊躇う事なく、ライディングボードの砲口をティアナの眼前へと突き付けた。 だが、ティアナは動じない。 変わらぬ無表情のまま、クロスミラージュを持つ手を動かす事もなく佇んでいる。 「これで最後。どけ」 「もう一度言うわ。チンクは死んだ。戻っても意味は無い」 途端、ボードの砲口に魔力が宿った。 脅しではない。 ウェンディは本気で、眼前に立つティアナを殺すつもりだった。 だが直後、砲口とティアナの間に影が割り込む。 ギンガだ。 「止めなさい、ウェンディ! ティアナ、貴女どうしてしまったの? スバルとノーヴェは、まだ生きているのよ!?」 言いつつ、彼女はティアナへと詰め寄る。 そう、チンクがランツクネヒト隊員により殺害された事は、先程まで聞こえていた助けを求める声とバイタルが途絶えた事で判った。 だがスバルとノーヴェについては、未だそのバイタルは健在なのだ。 2人は、まだ生きている。 にも拘らずティアナは、2人の救出、それ自体が無駄な行為であると言い切ったのだ。 その言葉に、ウェンディは激昂した。 ふざけるなと一喝、ボードを手に立ち上がる。 そんな彼女の前に、ティアナが立ち塞がった。 その結果が先の問答である。 「無駄ッスよ、ギン姉。ソイツはもう、アンタやアタシの知ってるティアナじゃないッス」 いつもの口調で吐き捨てると、ウェンディは2人の傍らを擦り抜けてボードを浮かべた。 ボードの上へと飛び乗り、推力を引き上げんとする。 そんな彼女の背後から、思わぬ言葉が投げ掛けられた。 「あの2人はもう、私達の知ってるスバルとノーヴェじゃない」 瞬間、ウェンディはボード制御に関する、全ての情報をキャンセルした。 床面から50cmほど浮かび上がったボードの上に立ったまま、背後のティアナへと振り返る。 視界にはティアナの後姿、そして彼女を見やる驚愕の表情を浮かべたギンガが映り込んだ。 「ランツクネヒトが用意した新しい身体に、2人の脳髄が移植された事は知っているでしょう」 「・・・勿論」 知っている。 知らない筈がない。 それを聞いた時の衝撃は、今でも鮮明に思い出せる。 2人は誕生から慣れ親しんだ身体を、永遠に失ったのだ。 「2人の体組織から培養された生体ユニットが、無人のR戦闘機に搭載されている事は」 「知っているわ。それが?」 「それですよ、ギンガさん」 途端、全身が冷え切ってゆく様な感覚が、ウェンディを襲う。 脳裏に浮かぶ、最悪の予想。 そんな事はない、と否定しながらも、それで辻褄が合うと冷静に指摘する理性。 そして遂に、ウェンディが最も望まなかった答えが、ティアナから齎される。 「あの2体の身体に移植されたのは、オリジナルの脳内情報を転写された培養体。オリジナルの2人の脳髄は、あの身体に移植されていない」 周囲の全てが冷え切ってゆく。 そんな錯覚が、ウェンディを侵食していた。 ボードの高度が徐々に下がり、床面に接触する。 ウェンディは覚束ない足取りでボードを降り、ゆっくりとティアナへと歩み寄った。 「なら・・・それなら・・・」 震える両の腕を伸ばし、ティアナの肩を掴む。 力加減など考えもしなかったが、ティアナは特に反応を見せない。 冷たい瞳だけが、ウェンディを真正面から見据えている。 「2人は、何処に・・・?」 答えはすぐに齎された。 同じく、最も望まなかった、最悪の真実。 スバルを、ノーヴェを。 そして、最後まで2人を護ろうとして命を落としたチンク。 3人の命と尊厳を踏み躙り、徹底的に侮辱する事実。 「「TL-2B2 HYLLOS」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」・・・それが、スバルとノーヴェの「移植先」よ」 トラムチューブ内に響く、泣き叫ぶ声と助けを求める声。 それらの声を聞き留めながらも、ウェンディは動く事ができなかった。 ギンガを、ティアナを、そして自分を呼ぶ声に、応える事ができない。 「初めから、2人を返すつもりなんて無かったのよ。オリジナルを生体ユニットに加工し、私達にはオリジナルを模したコピーを返す。本当の事は、ランツクネヒトの上層部だけが知っていた。あの2体は情報収集ユニットとしての機能を担っていたのよ。 念入りにも、通信を用いて情報を転送するのではなく、回収して情報を吸い出すタイプのね。こうして逸れる事ができたのは幸運だったわ。さっきは2体が居たから、この事を貴女達に伝える事もできなかった」 そう言うとティアナはウェンディの手を払い、トラムチューブの奥へと向かうべく歩を進める。 その左肩は、鮮血に塗れていた。 先程トラムチューブに落下してきた、榴弾の炸裂による負傷だ。 彼女だけではない。 ウェンディもギンガも、そして他の5人も。 皆が皆、少なからず傷を負っていた。 「とにかく一旦、此処を離れましょう。向こうは私達を此処から逃がす訳にはいかないけれど、それは私達も同じ。体勢を立て直して砲撃戦を仕掛ける。壁ごと撃ち抜くのは、何も奴らだけの・・・」 「ティアナ」 と、ティアナの言葉を遮る、ギンガの声。 見れば彼女は、左腕のリボルバーナックルに右手を添え、ステーションの方向を見据えていた。 チューブ内には未だ2つの声が響いており、次いで悲鳴の様な叫びが上がる。 「私は、あの2人を助けに行く」 毅然と放たれたその言葉に、ウェンディは自身の心が揺さ振られた事を感じ取った。 決然としたギンガの声には、懼れなど微塵として滲んでいない。 その目には、迷いなど欠片も浮かんではいない。 「正気ですか、ナカジマ陸曹」 感情のまるで感じられない、冷たく無機質な声。 ティアナだ。 そちらを見やれば、彼女は足を止め、しかし振り返る事なく佇んでいた。 「あれはスバルでもノーヴェでもない、単なるランツクネヒトと地球軍の情報収集ユニットですよ。それを理解した上で言っているんですか」 「本物かどうか、なんてのは問題じゃないわ。あの2人は、自分の事をスバル、そしてノーヴェだと信じ切っている。ある意味、間違ってはいないと思わない?」 「あれを救い出すつもりですか? 馬鹿げてる。人間でも、戦闘機人でもないのに」 「彼女達は私達と同じ遺伝子を基に生み出された、言うなれば姉妹よ。どんな目的があって生み出されたのかなんて、どうでも良い。助け出して、ランツクネヒトの呪縛から解放する。スバルもきっと同じ事を望むわ」 そう言い切ると、ギンガはステーションへと向かい歩み始める。 数秒ほどその姿を見つめていたウェンディだったが、すぐにボードへと飛び乗り、その後を追い始めた。 その背後から掛けられる、ティアナの声。 「その選択がどれだけの危険を孕んでいるか、本当に理解しているんですか!? あれはランツクネヒトが送り込んだ生物兵器なんですよ!」 ギンガは答えない。 ウェンディはその背を視界へと捉えつつ、同じく振り向かずに歩を進める。 再度、掛けられる声。 「勝手にすれば良いわ! スバルとノーヴェは私が救い出す! 偽物なんかじゃない、本物を救ってみせる!」 そんな声を背に受けつつ、ウェンディは加速し前方を行くギンガへと追い付き、その僅か前方へと位置する。 ギンガの瞳は既に、戦闘機人の証である金色の光を帯びていた。 彼女は微かにウェンディへと視線を向けると、静かに語り掛けてくる。 「貴女は、これで良かったの?」 「水臭いッスよ、アタシ達はみんな姉妹みたいなモンじゃないッスか。其処に新しい妹が2人ばかり増えるだけッス。それに」 前方、薄らとステーションの明かりが見えてきた。 2つの声は未だ響き続けていたが、その勢いは随分と弱まってきている。 急がなければ、危ない。 「チンク姉だって、そう言うに決まってるッス。お姉ちゃんの意思も酌めない妹じゃ、くたばった時に合わせる顔が無いッスよ」 震えそうになる声を、明るい声で無理矢理に誤魔化す。 滲む視界。 拳を瞼に当て、乱暴に水分を拭い去る。 チンクは、あの小さな身体の、しかし何時だって姉妹達の事を考えていてくれた姉は、もう何処にも居ないのだ。 「ウェンディ!」 ギンガが、鋭く声を発した。 もう一度、瞼の上を拭い、ウェンディは瞠目する。 前方のステーション下、トラムチューブの中央に、潰れて落下した車両の残骸が燃え盛っていた。 その少し先、ステーションから零れ落ちる大量の火花に照らし出され、見慣れたデバイスが転がっている。 「・・・ッ! 急ぐッスよ!」 リボルバーナックルだ。 それを装着した腕部そのものが、血塗れとなって転がっていた。 先程の悲鳴はこれか。 ボードの角度を吊り上げ、上昇に移る。 一息にステーションへと到達すると見せ掛け、直前で反転し降下。 直後、眼前に火花と鉄片の壁が出現する。 ガウスライフルによる銃撃、陽動による回避成功。 その隙を突いて展開されたウイングロードの上を、ギンガが一瞬にして駆け抜ける。 銃撃の火線が後を追うも、最高速度にまで達したギンガを捉えるには至らず、飛散する壁面構造物の破片が背の一部を切り裂くに留まっていた。 だからといってこのままでは、遠からず直撃弾が出る事は明らかだ。 しかし、既に策は成っていた。 「アタシを忘れてたのが・・・」 ウェンディ、空中でボードに手を添え上下を反転、そのままの勢いで着地しつつ砲撃態勢へ。 戦闘機人の有する強靭な耐久力で以って衝撃を耐え抜き、既に魔力集束を開始したボードの砲口を頭上のトラムチューブ壁面へと向ける。 ガウスライフルの射撃点は既に、ギンガを追う火線の射角変化から割り出されていた。 視界へと表示される目標に照準を合わせ、集束値が臨界を迎えた事を知らせる表示の点滅と同時。 「運の尽きッスよ!」 ウェンディは一切の躊躇い無く、集束砲撃を放った。 砲撃が壁面へと突き立ち、次いで壁面内部で起こった魔力爆発が周囲の構造物を消し飛ばす。 それを最後まで見届ける事なく、ウェンディは更に6回の簡易砲撃を放ち、ボードへと飛び乗り加速、スバルの右腕を回収しつつステーションへの上昇に移った。 この砲撃でランツクネヒト隊員を無力化できたとは考えていないが、しかし少なくとも同じ地点からの射撃継続は不可能だろう。 そうしてステーションへと到ったウェンディの視界に、余りに凄惨な姿となったスバルとノーヴェ、その2人を庇う様に抱え込むギンガの姿が映り込んだ。 3人の傍らには、自身のそれと同様のスーツを纏った小さな、頭部と右半身の無い死体。 それが誰のものであるかを理解し、ウェンディの胸中へと言葉にならない感情が込み上げるが、それを無理矢理に押し込める。 そんな彼女へと、ギンガは焦燥を隠そうともせずに言い放った。 「出血が激しすぎる! すぐに医療施設へ運ばないと!」 その言葉に、既に意識を失ったらしきスバルとノーヴェの全身を見やれば、2人は全身を切り裂かれた上、スバルは両腕、ノーヴェは両脚が吹き飛んでいるではないか。 更に、無数の鉄片が背面へと食い込んでおり、深く抉れている箇所も10箇所以上あった。 戦闘機人でなければ、疾うに死亡していただろう。 「A-04だ! あそこなら医療ポッドが在る!」 口調を取り繕う余裕すら無く、ウェンディは叫ぶ。 ギンガがスバルとその右腕を、ウェンディがノーヴェを抱え上げると、数瞬ほどチンクの遺体を前に躊躇し、しかし軽く目を伏せて別れの言葉を呟くと、A-04エリアへと向かう為に視線を引き剥がした。 その、直後。 「な、あッ!?」 巨大な衝撃が、周囲の全てを揺るがした。 立つ事はおろか、その場に留まる事すらできない程の衝撃。 まるで至近距離で爆発が起きたかの様なそれに、ウェンディ達は為す術もなく弾き飛ばされ、幾度となく壁面へ床面へと身体を打ち付けられた。 そんな中でもウェンディは、腕の中のノーヴェを必死に庇い続ける。 発動した防音障壁越しにも届く、鼓膜を引き裂かんばかりの轟音。 それが響き続ける中、辛うじて数瞬ほど見開かれた眼。 その視界には大量の火花と、巨大な黒々とした何かが眼前の構造物を引き裂いてゆく光景が映り込む。 直後、全身を襲う浮遊感。 落下している。 数秒ほどそれが続いた後、ノーヴェを抱えたまま衝撃に身構えていたウェンディの身体を、誰かが抱き止めた。 落下速度が減速している。 見開いた瞼の先には、こちらを見下ろす血に塗れたギンガの顔。 「ウェンディ・・・無事?」 「・・・助かったッス、ギン姉」 漸く、構造物に足が着いた。 腕の中にノーヴェの姿が在る事を確かめ、ウェンディは周囲を見回す。 振動が絶え間なく続いており、何処かで爆発が連続的に発生している事が窺えた。 傍らには、スバルを抱えたギンガの姿も在る。 どうやら右腕1本で、落下するウェンディを受け止めたらしい。 近くに落下していたのか、少々破損したライディングボードも見付かった。 だが、それらよりも、ウェンディの意識を引き付けたもの。 「何スか、これ・・・」 高さ数百mにも亘って構造物が崩落した、広大な空間。 粉塵に埋め尽くされているものの、僅か20秒程度で出現したとは信じられない程に広大な其処は、其処彼処に燃え盛る炎の光が粉塵に反射し、不気味に薄く照らし出されていた。 何もかもが崩壊した、元が技術の粋を集めて建造された施設とは到底信じられぬ、破壊の痕跡のみに支配された空間。 その中、ウェンディ達の前方100m程の地点に、壁が在った。 禍々しい、黒々とした壁。 周囲の全てが凄絶なまでに破壊されている中、その壁だけは損傷といった損傷も無く、この空間に於いては明らかな異常として存在していた。 呆然とその壁を見つめるウェンディに、ギンガから声が掛けられる。 「ねぇ、あれ・・・」 その声に振り返れば、ギンガは正体不明の壁、その一部を指し示していた。 指の先を辿るも、それ以外に注目すべきものは見付からない。 どうにも解らず、もう一度ギンガを見やると、彼女は何処か呆然と告げた。 「あれ・・・戦艦じゃ・・・」 ノーヴェをそっと足下に横たえ、ウェンディはライディングボードの許へ走る。 ボードを手に取り、数発の直射弾を頭上へと発射。 弾速を落とし、多少に過剰なまでの魔力を供給されたそれは、桜色の光で辺りを照らしつつ上昇してゆく。 余りに巨大過ぎて気付かなかったが、数十mもの大きさを持つミサイル格納部らしきハッチが直線上に並び、遥か頭上にまで連なっていた。 光源である直射弾の周囲を拡大表示すると、100m近い長大な砲身が2つ連なった砲塔が2基、闇の中に轟然と浮かび上がる。 艦体は更に続いている様だが、その先はコロニーの構造物に埋もれて確認できなかった。 間違いない、これは戦艦だ。 だが何故、そんなものがコロニーに突っ込んできたのだ。 この戦艦は、何処の勢力に属するものなのか? 「ギン姉、この戦艦って・・・」 「入りましょう、ウェンディ」 こちらの問い掛けを遮る様に放たれた言葉に、ウェンディは暫し呆然とした。 だが、その間にもギンガは、スバルとノーヴェを抱えて戦艦へと歩み寄る。 スバルの右腕から回収したのか、ギンガのそれには右手用のリボルバーナックルが装着されていた。 そんなギンガの行動に戸惑いつつも、ウェンディは再度に問いを発する。 「何の為に?」 「これを迂回してA-04まで行くのは無理よ。だけど、これだけ巨大な艦なら医療施設も有している筈。私達が目指すのはそれよ」 「・・・けど! 突っ込んできたって事は、間違いなくコイツも汚染されてるッスよ!?」 「だから?」 立ち止まり、不敵に声を返すギンガ。 こちらへと振り返った彼女の眼は、試す様にウェンディを見据えていた。 思わず息を呑むと、彼女は決意に満ちた声で続ける。 「この娘達を救う為なら、その程度の危険なんかどうでも良いわ。此処で何もしなければ、2人が死んでゆく様を見ている事しかできない。そんなのは御免よ。それに・・・」 ギンガ、ウイングロード展開。 紫の魔力光を放つ道が、緩やかなループを描きつつ遥か上空へと続いている。 2・3度、ブリッツキャリバーの調子を確かめる様にローラーを鳴らし、ギンガは言い放った。 「人間と殺し合うより、バイドと殴り合う方が余程やり易いわ」 途端、彼女はブリッツキャリバーから火花を散らしつつ、空中へと駆け出す。 ウェンディは数瞬ほど躊躇い、次いで息を吐くと頭上を仰ぎ見た。 そして額に手を当て、握り拳を作ると少々強めに頭を小突く。 ボードを倒し、その上へと飛び乗って加速、上昇角を吊り上げてギンガの後を追い始めた。 推力を上げ、更に加速を掛ける前に一言。 「ああもう、畜生! 今日は人生最悪の日ッスよ!」 紫と桜色の光が、破壊に彩られた闇を切り裂く。 絡み合う様に上昇してゆく2条の光に焦燥はあれど、絶望の色は微塵も存在しなかった。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3831.html
「結局のところ、管理世界と第97管理外世界が抱く互いへの危機感は、同じ要因に端を発するのだろうね」 唐突に発せられたその言葉に、シャリオ・フィノーニ執務官補佐はウィンドウへと落としていた視線を上げる。 此処は本局の一画、研究区画。 時空管理局が誇る最精鋭技術達の居城。 其処で彼女は、久方振りに技術者としての才能を発揮していた。 彼女が補佐すべきフェイト・T・ハラオウン執務官は、対バイド攻勢作戦「ウイング・オブ・リード」へと参加・任務遂行中であり、もう1人の補佐官であるティアナ・ランスターも同様。 非戦闘員である彼女は独り取り残され、法務も特に存在しない事から技術部へと出向したのだ。 技術部は優秀な技術者である彼女の出向を歓迎、本局上層部もロウラン提督の根回しにより問題なくそれを認めた。 それは喜ばしかったが、同時に幾つか彼女にとって予想外の事が起こる。 ひとつは、幼馴染であり嘗ての同僚でもある、グリフィス・ロウランが技術部に出向していた事。 事務官として搭乗していた次元航行艦を地球軍による本局襲撃時に失い、以降はバイド及び地球軍の戦力解析に尽力していた筈の彼が何故ここに居るのか。 シャリオは混乱し、しかし答えは当のグリフィスよりあっさりと齎された。 要するに彼は母親であるロウラン提督より、とある人物の監視任務を言い渡されたのだ。 何故、事務官である彼がそんな事を、と疑問を抱きはしたが、少々考えれば納得もできた。 旧機動六課に於いては部隊長補佐として活躍し、はやてをして非凡と言わしめる指揮能力、そして洞察力を兼ね備える彼だ。 ほぼ全ての方面に於いて人手不足となっている現状にて、優秀な人材である彼を遊ばせておく余裕など管理局には無い。 ロウラン提督がグリフィスの洞察力を活かせる最適の任務を宛がった事は、長い付き合いもあり容易に想像できた。 だがシャリオにとって真に予想外であったのは、その監視対象たる人物そのものだったのだ。 少なくとも、この本局に居る筈のない人物。 濃紺青の長髪、白衣を纏ったその男性。 嘗てミッドチルダを騒乱の只中へと落とし込み、本局をも震撼せしめた広域次元犯罪者「ジェイル・スカリエッティ」。 彼が第14支局跡より回収された「フォース」の解析に携わっていた事、魔力増幅機構「AC-47β」及び「AC-51Η」の設計主任である事などは、既にシャリオも知り得ていた。 JS事件収束から約半年後に本局との司法取引に応じ、ナンバーズの長女であるウーノを助手に第5支局ラボ主任として活動していた事も、技術部への出向から間もない頃に説明されている。 しかしその言葉が正しいならば、彼等は第5支局に事実上の幽閉状態である筈だ。 何故、此処に居るのか? その答えもまた、グリフィスより齎された。 要するに彼等を含む第5支局ラボ所属研究員は、状況によっては戦闘艦として運用される可能性のある支局艦艇より本局に移され、バイド体に対するより詳細な解析と応用技術の開発に充てられたという訳である。 確かに本局の設備ならば、支局よりも更に詳細に、更に早急にバイド体の解析作業を行える筈だ。 未だブラックボックスの塊であるとはいえ、既に魔力増幅触媒として常軌を逸した成果を齎しているバイド体である。 上層部が彼等に向ける期待は並々ならぬものだろう。 そしてスカリエッティもまた、自身の知識欲を満たす為にそれを望んだであろう事は、容易に想像できた。 しかし彼は異動に際して、条件を1つ持ち掛けたらしい。 それが、各地の軌道拘置所に収監されているナンバーズ、計3名の本局への移送だった。 スカリエッティ曰く、何処に居ようとバイド、または地球軍の脅威から逃れる事はできないであろうが、しかし本局以上に安全な場所はあるまいとの事。 彼女等の安全確保が為されなければ、これ以上の解析及び開発には一切協力しない、との要求を上層部へと突き付けたというのだ。 本来ならば一蹴されて然るべき要求。 しかし上層部は、交渉に費やす時間すらも惜しいと云わんばかりの速断で、3名の本局移送を了承した。 3名は各々が別区画に隔離されている上、固有武装すら持ち得てはいない。 ISの解析も終了している事から、重大な脅威にはなり得ないと判断したのだ。 スカリエッティとしても、この結果は予測済みだったのだろう。 彼は3名の本局移送完了を待たずして、ウーノと共に解析作業を開始したという。 これまでの経緯を聞かされたシャリオは、個人としては複雑な感情を抱きながらも、スカリエッティがこの場に居る事を納得した。 だからと言って親しくなろうという意思がある訳でもなく、時折データの遣り取りがある以外は特に接触もない。 しかしこの時、偶然にも彼の言葉を聞き止めた彼女は、何の気なしにそちらへと視線を投じた。 スカリエッティはウィンドウの1つへと目を落としたまま、流れる様にキーウィンドウ上の指を走らせている。 ウーノは言葉を返す訳でもなく、自身の作業に没頭している様だ。 そして、其処から然程に離れてはいないコンソールでは、グリフィスが感情の窺えない瞳で以って彼を視界へと捉えていた。 彼の傍らには、2名の武装局員が控えている。 誰も、言葉を返す気配はない。 独り言だったのだろうか、と首を傾げるシャリオを余所に、スカリエッティは再び声を発した。 「こちらにしてみれば、魔法では到底及びも付かない破壊を齎す質量兵器を無尽蔵に生産し、しかも実際にそれを運用している勢力だ。第97管理外世界は我々にとって、理解などできない正しく異端そのものと云える」 またも呟かれる言葉。 どうやら特定の人物に向かって放たれたものではなく、半ば独り言の様なものらしい。 周囲からの反応があるか否かは問題ではなく、単に自己の内での確認とでもいうべきものだろうか。 しかし、その内容を理解したシャリオは数秒ほど思考に沈み、暫しの後に納得した。 彼の言っている事は正しい。 管理局、延いては管理世界が第97管理外世界を危険視、或いは敵視する最大の理由。 戦略級質量兵器の大量保有と使用、当該世界の歴史上に於ける実際の使用事例の存在。 暴走とも云える軍事技術の異常発達、際限の無い軍拡競争の歴史と各国家間に於ける一触即発の現状。 そして何より、あの事件だ。 22世紀地球軍とバイドによる、クラナガン及び本局襲撃。 クラナガンに於いては31万、本局では1300名もの生命を奪ったあの事件は、純粋科学技術体系を基盤として発達を続ける第97管理外世界、その発展が秘める危険性を浮き彫りにした。 それだけではない。 管理世界に於いては、唯でさえ反感を以って捉えられる質量兵器。 その恐ろしさと危険性・非人道性を身を以って体験した局員、そしてクラナガン市民を中心とするミッドチルダ住民。 直接的に被害を受ける形となった彼等がそれらを運用する第97管理外世界に対し抱く感情は、もはや反感と呼べる様な生易しいものではなく、敵愾心とも呼ぶべきものと化していた。 公然と質量兵器を運用する、危険極まりない次元世界文明。 その存在を野放しにした結果が、時間さえ超越しての他次元文明に対する無差別攻撃。 そもそも魔法技術体系及び次元間航行技術を持たないからといって、2世紀にも満たない短期間で異常な科学技術の発達を成し遂げる様な文明が管理体制下に置かれる事もなく存続している、それ自体があってはならない事なのだ。 彼等が将来、極めて侵略性の高い巨大軍事勢力となる事は明らかになった。 ならば、摂り得る選択は1つしかない。 現時点での当該世界、21世紀地球に於いては次元間航行技術は確立されておらず、現状では決定的に管理局が優勢だ。 となれば、すぐにでも艦隊を送り込み、第97管理外世界を武力統治すべきである。 彼等が質量兵器廃絶の要求に応じる可能性は無に等しく、平和的な交渉など徒労に終わるのは明らかだ。 彼等の主権を奪ってでも統治下に置き、質量兵器技術をその根幹より廃絶する事が望ましい。 否、それでは足りない。 より確実を期すならば、軌道上より戦略魔導砲の一斉射により、当該文明そのものを消去する方法が最も安全且つ堅実だ。 縦しんば第97管理外世界を統治下に置いたとしても、同時に複数の反管理局勢力の発生は避けられない。 そうなれば危険に曝されるのは、第97管理外世界製の強力な質量兵器と相対する事となる、前線の局員達だ。 更にテロリズムともなれば、各管理世界の一般人までもがその脅威に曝される事となる。 管理世界の平和を最重要視するならば、人道を無視してでも危険要因たる当該世界を完全に排除すべきだ。 無論の事ながらこの様な過激な思想は、管理局内部に於いては極一部の強硬派が提唱しているものに過ぎない。 大多数の局員は、第97管理外世界の隔離・相互不干渉状態の維持で十分であると考えているし、先制攻撃によって文明自体を破壊する等という非人道的な措置を望んではいない。 質量兵器に関しても、第97管理外世界の置かれた状況とその性質からして、仕方のない事であると頷ける事もある。 何より、地上の治安回復に尽力した故レジアス・ゲイズ中将が、スカリエッティとの取引をせざるを得ない状況へと至るまでの過程に関する負い目も相俟って、本局の中ですら強制執行には反対する意見が多い。 魔力資質因子保有者の存在しない世界から唯一の自己防衛手段である質量兵器を奪う事が、どれだけの流血を伴うものか。 彼等はそれを、正確に理解しているのだ。 強いて言えば、関わり合いにはなりたくない、というのが本音だろうか。 どちらにせよ各管理世界を含め、大多数は武力衝突を望んではいない。 しかし事は、そう単純なものでは終わらなかった。 問題は多数の穏健派ではなく少数の強硬派、前線の局員及び高ランク魔導師達だ。 管理世界の中心地であるミッドチルダの住民、そして管理局上層部の一部が強制執行を支持する事は予測された事態だった。 厄介なのは、管理局の行動方針について強い発言権を持つ高ランク魔導師、その殆どが強硬論を支持している現状だ。 彼等は過去、最前線へと投入され、其処で文字通りの命懸けで任務を遂行してきた、筋金入りの現場主義者達だ。 自らのみならず、数多くの戦友達の血と遺族の涙を以って、現体制の維持に尽力してきた。 そんな彼等が、自身等が血を流して守ってきた体制とは相容れない文明、管理局とそれの妥協とも取れる穏健派の思想に賛同できる筈もない。 元来、組織が掲げる思想の実現に於いて、根幹から魔導資質を持つ人材に依存しているのが時空管理局の実状である。 魔導資質因子を持たない者と比して、魔導師の発言権が増大する事は避けられない事態だった。 結果として上層部の殆どは魔導師に占有される事となり、非魔導師の意見は通り難くなる。 幾度となく改革が行われてはいるものの、それらの試みが実を結んでいるとは云い難い。 そんな状況の中で、魔導資質因子を持たないレジアスが地上本部のトップに就任した事実は、ある意味では奇跡の様な出来事だった。 だがレジアスが築き上げた体制も結局は本局と地上、魔導師と非魔導師との軋轢の中で瓦解し、現在は再び本局より派遣された高ランク魔導師が地上本部の総司令として君臨している。 そして、JS事件の真相を知った陸士の殆どは新しい総司令を毛嫌いしている上、レジアスの遺した体制より新たな方針へと転換後、犯罪検挙率は減少の一途を辿っていた。 その事実こそ故レジアス中将が築いた体制の優秀さを証明するものだったが、実際にそれを評価しているのはミッドチルダを含む各管理世界主要都市の住民と陸士達だけだった。 この現状だけを見れば、陸士が本局上層部と高ランク魔導師の唱える強硬論に賛同する要素など、何1つ存在しない様に思える。 だが多くの陸士部隊は、地球軍及びバイドによるクラナガン襲撃時に於いて多大なる犠牲者を出していた。 現在の彼等は、本局との軋轢を気にしている余裕など無い。 如何にしてバイド及び地球軍へと報復するか、以後に発生の予測される悲劇の芽を摘み取るか、それだけが思考を支配していると云っても差し支え無いだろう。 更にそれを後押しするのが、31万もの生命を奪われたミッドチルダ住民の存在だ。 家族を、知人を奪われた彼等は、口々に地球軍と第97管理外世界への報復を叫んでいる。 現在のところ穏健派が主流であるのは、単にミッドチルダと隔離空間内へと取り込まれた41の世界を除く各管理世界が、第97管理外世界との相互不干渉を望んでいる為に過ぎない。 冷静さを保っている上層部の大多数も、その方針を挙げている。 信管に火の入った爆弾に近付こうとする者は居ない。 だが、いずれ強硬派の不満が爆発するのは、誰の目にも明らかだった。 シャリオ個人としては、なのはやはやての出身世界である第97管理外世界に対する武力行使については賛同しかねている。 しかし当の2人は、然程に現状を憂いている気配はない。 大して気に掛けてもいないのか、或いは強硬派の動向について情報操作が為されているのか。 少なくとも、戦略魔導砲による無差別攻撃案の存在については、情報部が全力を挙げて隠蔽しているのだろう。 本局内のシステムを利用すれば、彼女達に気付かれずに周囲の音声、情報媒体を統制する事も可能だ。 強硬派の動向を、彼女達の耳に入れる訳にはいかない。 何せ第97管理外世界には彼女らの肉親、友人、知人が多数存在するのだ。 アルカンシェルによる文明の破壊などという手段は到底、受け入れられるものではないだろう。 たとえ彼女達が、管理局による第97管理外世界の全面統治に肯定的であるとしても。 シャリオがそんな事を思考していると、現在の作業に一区切り付いたらしきスカリエッティがキーウィンドウより手を離し、回転式の椅子に座したままウィンドウへと背を向ける様が目に入る。 彼は脚の上で手を組み、何処か楽しそうに周囲へと視線を遣っていた。 「そして、地球軍にとっての管理局もまた同様だ」 その言葉に、幾人かの作業の手が止まる。 シャリオもスカリエッティの言葉を訝しみ、知らず視線を彼へと固定していた。 奇妙な静寂の中、聴き慣れた声が鼓膜を叩く。 「リンカーコアを持たない彼等にとって、質量兵器を使用する事もなく、個人単位で戦術兵器に匹敵する攻撃を実行可能である魔導師という存在は、決して受け入れる事のできない異端であり、排除すべき危険因子と認識される可能性が高い」 それは、グリフィスの声だった。 その内容にシャリオは愕然とし、母親に良く似た容姿の幼馴染を視界へと捉える。 冷然と構えるその姿は、何処か生気を感じさせないものだ。 そして、相も変わらず楽しげなスカリエッティの声が響く。 「その通り。彼等にしてみれば魔導師という存在は、核弾頭が自由意志を持ち、自らの価値観に基づいて行動しているに等しい。何時、何処で爆発するかは弾頭自身の気分次第。これ程に恐ろしいものはない」 違う、と否定する感情的な声は、区画の何処からも上がる事はなかった。 知っているのだ。 グリフィスの、スカリエッティの言葉は正しいと。 シャリオを含め、この場に存在する者の殆どは技術野の出身だ。 魔導資質因子を持つ者も居るが、総じて実戦に出られる程の魔力保有量は有していない。 だからこそ、魔法技術体系からなる自身の組織とその主張を、客観的に評する事ができた。 そう、確かに彼等にとっての魔導師とは、暴走した戦術兵器そのものだ。 彼等の存在そのものだけでなく、その在り方を許容する管理局の体制すらも警戒の対象となるだろう。 出力リミッターという形での制限機構も存在はするが、それは魔導師の暴走を抑える為というよりは、組織内の公平さを保つ為の手段だ。 リミッターを使用するに至らない低ランク魔導師については、一切の制限手段が無いに等しい。 無論、低ランク魔導師が犯罪行為に至ったとして、大した脅威とはなるまい。 しかしそれは、鎮圧する側もが魔導師であればの話。 魔導資質因子非保有者にとっては、何にも勝る脅威に違いない。 Cランク、Dランクの魔導師であっても、拳銃弾に匹敵する魔導弾を放つ事は可能だ。 つまりそれは、生身の人間が質量兵器を用いずに、暗殺を初めとする各種破壊工作が可能である事を意味する。 第97管理外世界の住民にしてみれば、正しく制御されない脅威そのものだろう。 自らの隣に居る人物が、突如として魔導弾を乱射するかもしれない。 人混みの中から、あらゆる物を巻き込んで砲撃が放たれるかもしれない。 都市の一画が、たった1人の生身の人間によって灰燼に帰すかもしれない。 実際にそれらの行動が成される必要はない。 その可能性があるというだけで、魔導師を危険視するには十分に過ぎる。 魔法技術体系を持たない次元世界に於いて魔導師の価値は、正しく核弾頭と同じく、抑止力としての威力さえ発揮する程のものなのだ。 そんな異端の存在を、第97管理外世界が容認する事などある筈が無い。 「管理局が質量兵器の廃絶を望むのと同じく、彼等は魔導師の根絶を望むだろう。それこそ、ありとあらゆる手段を用いて、だ」 「彼等が管理世界に対し、強硬派が提唱する以上の非人道的手段を用いて攻撃を行うと?」 更に発せられたスカリエッティの言葉に、グリフィスが声を返す。 この狂気に侵された科学者との遣り取りの中から、少しでも有用な情報を拾い上げようとしているのか、グリフィスの目は猛禽の様に鋭い。 「そうだ。私に言えた義理ではないかもしれないが、これまでに観測された行動と得られた情報を見る限り、如何にも彼等は生命倫理というものに対しての関心が薄い様だからね」 「魔導資質の封印のみならず、管理世界全域に対する無差別攻撃を実行する可能性が高い。少なくとも、貴方はそう考えている」 「態々、千数百億もの管理世界住民を検査する程、彼等は時間も人員も持て余してはいないだろう。そんな事をするよりも、次元世界そのものを消し去ってしまう方がよほど効率的だ。 あのパイロット達の証言が真実ならば、少なくとも22世紀の第97管理外世界はより上位の空間構造を把握し、活動範囲へと加えている事になる。私達の知る次元世界そのものを消滅せしめる事も、或いは可能だろう」 「もし、その推測が的を射ているのならば、強硬派の主張は全く以って正当なものとなる。貴方はそれを望んでいる様にも見えますが」 「勿論」 その瞬間、幾つもの緊張を孕んだ視線がスカリエッティへと注がれた事が、シャリオにも感じ取れた。 彼女自身も例に漏れず、殺気にも似たものを含んだ視線を彼へと向けている。 当のスカリエッティは、先程までの楽しげな雰囲気を消し去り、真剣な様相でグリフィスを睨んでいた。 「勿論だとも、ロウラン事務官。私の娘達の安全は、管理局の対応に懸かっている。誤った対応を採られれば、彼女達はその巻き添えとなるしかない」 「彼女達の生命を守りたいと?」 「尊厳を、だ。戦闘機人である彼女達が地球軍に捕らえられれば、その先に待つのは一切の倫理を無視した、私にさえ想像も付かない凄惨な実験・研究だろう。彼等はそうやって、R戦闘機やフォースを開発した。 バイドとの戦いが続く限り、彼等は技術の革新に対し異様なまでに貪欲であり続ける。これは疑い様の無い事実だ」 其処まで言い切ると、スカリエッティは僅かに息を吐き、目に見えて肩の力を抜く。 そして、何処か諦めた様な声で続けた。 「彼等がバイドとの間に繰り広げているのは、戦争じゃない。生存競争だ。勝てば相手を喰い殺して力を得るが、負ければ喰い殺される。互いに進化し、相手を出し抜き、出し抜かれぬ様に手段を講じ続けている。私達は、其処に取り込まれた・・・取り込まれてしまった」 「取り込まれた?」 堪らず、シャリオが割り込んだ。 スカリエッティは驚いた様子も無く、彼女へと視線を移し言葉を続ける。 「そうとも。これは、単なる質量兵器と魔法の戦いでも、思想の衝突でも、況してやロストロギア・バイドを巡る事件でもない。紛れもない生存競争であり、管理世界は新たな捕食者にして被食者として、舞台に上がる事を余儀なくされたのだ」 「喰い殺さなければ、喰い殺される。そう言いたいのですか?」 「そうだ」 そう答えると、スカリエッティはキーウィンドウの一角を指先で叩いた。 瞬間、ハッキングツールの発動を、シャリオはウィンドウ上に情報として捉える。 咄嗟に警告の声を上げようとするが、それより早く1つの受像システムが中空に現れた。 スカリエッティ、違法アクセスによるプログラム干渉により、室内の魔力式光学迷彩解除。 受像システムの映像受信先を逆探知し、それを表示しているであろう空間ウィンドウの前に存在する人物の姿を、リアルタイムで室内のウィンドウ上へと表示する。 その容姿に、シャリオは息を呑んだ。 幼馴染と同じ、濃紫色の髪。 その少し後方に、若緑色の髪も見える。 共に若々しく、しかし確かな威厳を感じさせる、女性上級将校2人。 スカリエッティは臆する事もなく、彼女達へと語り掛けた。 「よって・・・ロウラン提督、ハラオウン総務統括官」 こちらを監視していたのであろう、無言の儘にスカリエッティを見据えるリンディとレティに対し、彼は言葉を投げ掛ける。 彼女達の、管理局の意識を揺さ振る、言霊とも云える声。 「貴女方が良心の呵責に囚われる必要はない。穏健派と強硬派との折衷に腐心している事は予想できるが、それよりも如何にしてバイドと地球軍の脅威から生き延びるかを考えた方が良いだろう。 管理世界の置かれている状況には最早、第97管理外世界の住民の尊厳に気を配っていられる程の余裕などありはしない。躊躇う必要はない。強制執行を実行すると良い・・・尤も」 警報。 咄嗟に周囲を見回すシャリオの意識に、うろたえる局員達の声と大音量の警告音が飛び込む。 怒号と混乱の叫び。 そんな中にあって、スカリエッティの言葉は奇妙に澄んで聞こえた。 「それまで此処が保てばの話だが」 続く中央センターからの警告が、シャリオの意識を揺さ振る。 それは、本局内に存在する12万の人間を戦場へと誘う、悪夢の始まりを告げていた。 『隔離空間、領域拡大! 空間歪曲面、高速接近! 接触まで15秒!』 * * 「ルクレツィア、戦術級光学兵器被弾! 艦体左舷部爆発、轟沈します!」 「シャーロット、敵機動兵器撃破! ファインモーション、残存数7!」 「第16支局艦艇、敵機動兵器による体当たりを受けました! Dブロック崩壊!」 「敵機動兵器、自爆! 第9、第13支局艦艇ほか7隻が爆発に・・・いえ、各艦健在です! 敵機動兵器、残存数5!」 「第8、10、15支局艦艇よりMC305砲撃、総数60! 来ます!」 「ユージェーヌ及びローロンス、アルカンシェル発射! 弾体炸裂まで4秒!」 「総員、衝撃に備えろ!」 3隻の支局艦艇より放たれた総数60発もの大出力魔導砲撃、そして複数のXV級からの砲撃が彼方より飛来し、5機の大型無人機動兵器へと殺到する。 外殻装甲を閉じ、重力偏向フィールドによる防御幕を展開していた3機が砲撃に耐え抜いたものの、次いで炸裂した2発のアルカンシェル弾体による高密度次元震に巻き込まれ、閃光と共に全ての機動兵器が跡形も無く消え去った。 異層次元巡回警備型無人機動兵器「ファインモーション」40機、殲滅。 しかしクロノは気を緩める事なく、矢継ぎ早に指示を下す。 「被害報告」 「システムに異常ありません。機関部にて負傷者2名、いずれも軽傷です」 「艦隊の損害は?」 「第12支局艦艇及びXV級11隻を喪失、いずれもクルーの生存は絶望的です」 「第8支局艦艇より入電。攻撃隊デバイス追跡信号、約半数を発見。いずれも人工天体内部に存在、バイタル異常はなしとの事です」 「了解した。周囲警戒、大質量物体転移に注意せよ」 他の艦艇との連絡を取りつつ、クロノは新たな敵襲に備えるべく艦の態勢を整えた。 攻撃隊の安否が気に掛かるものの、第8支局が追跡信号を捉えたとの報告に幾分ながら安堵する。 残る半数の安否は未だ不明だが、全滅という最悪の事態だけは避ける事ができたのだ。 寧ろ、この規模の転送事故にあって半数が生存という結果は、最悪どころか最良とも云える。 そう時間を掛けずとも、攻撃隊の現状については情報が入ってくる事だろう。 この時クロノは、そう考えていた。 少なくとも、続くクルーの報告を聞くまでは。 「第8支局艦艇へ報告。これより本艦はシャーロット、ローロンス両艦と連携し、人工天体への・・・」 「警告! 後方、空間歪曲境界面、相対距離増大! 隔離空間全体が拡大しています!」 「バイド係数増大! 16.52・・・17.80・・・19・・・22・・・27・・・!」 「大規模空間歪曲発生、総数300以上!」 瞬間、クロノはブリッジドーム内部へと表示された外部映像上に、信じられない光景を見出した。 隔離空間内の至る箇所で可視化された空間歪曲が乱発生し、数秒後に1つの天体が出現したのだ。 何が起こったのか、理解などできる筈もなかった。 つい数秒前まで何も存在しなかった空間に、恒星の光を鮮やかに照り返す巨大な球体が浮かんでいる。 それが管理世界の1つだと気付いた時には、更に数十もの天体が出現していた。 秒を追う毎に増えゆくそれらを、クロノは呆然と見詰める。 しかし、警告音と共に表示された情報、そしてクルーの報告が、彼の意識を強制的に覚醒させた。 「各天体付近に艦隊の展開を確認! 照合結果・・・第88管理世界、フォンタナ政権正規艦隊、及び反政府軍艦隊!」 「第179観測指定世界、エムデン連邦軍ルフトヴァッフェ所属、第1から第9次元巡航艦隊までの72隻、全次元航行艦艇を捕捉。管理局監視指定質量兵器、シュヴァルツガイスト2機の配備を確認」 「第66観測指定世界バルバートル合衆国艦隊、及び第71管理世界メイフィールド王朝王家近衛艦隊、確認! 両惑星間にて交戦中・・・いえ、戦闘中断!」 「第148管理世界、成層圏に不明艦隊を捕捉。管理局のデータベースには登録されていませんが、当該世界の艦艇と同一の設計です。これは・・・未登録戦力の保有、違法艦隊です!」 「小型次元航行機、総数544機、交戦中・・・第133管理外世界、ツェルネンコ政権正規軍、ダニロフ解放戦線です」 次々に飛び込む報告は、各世界の固有戦力が、本星もろとも隔離空間内へと取り込まれている事を告げる。 更には他の艦艇との情報共有により、読み上げる暇さえ無い膨大な各世界及び固有戦力の情報が、多重展開されたウィンドウ上を埋め尽くす様に表示されていた。 本作戦が立案された際、管理局は各管理世界に戦力の提供を求めていたが、それらの要求は全て撥ね退けられている。 どの世界も管理局に事態の解決を委ね、固有戦力を自世界の防衛に充てていた。 汚染艦隊の脅威、クラナガンの惨状を鑑みれば当然の事かも知れないが、それら以外にも狙いがあるのは明らかだ。 この機会に体制の転覆を狙う者、敵対する他世界との拮抗状態により動くに動けない者、管理局の疲弊を狙い実質的な侵略行為を開始する者、停戦監督者の不在を狙い一気に紛争の終結を狙う者。 其々の思惑を内包し、彼等は戦力抽出要請を蹴ったのだ。 管理局としても、バイド制圧後の各世界に於ける軍事的拮抗の崩壊については頭を悩ませていたが、かといって隔離空間内部の各世界を放置する訳にもいかず、局内に於ける多数の反対意見に曝されながらも次元航行部隊の半数を本作戦へと投じる事となる。 各次元世界は自らの世界を離れ、バイド制圧作戦へと赴く管理局艦隊を、内心では諸手を挙げて歓喜しつつ見送った事だろう。 ところが今、それらの世界は固有戦力もろとも隔離空間に取り込まれてしまった。 単に本星の防衛に当たっていた勢力、内紛による戦闘中の勢力、他世界との全面戦争中の勢力。 中には管理局でさえ把握していない、つまりは違法に保有する次元航行戦力までをも取り込まれた世界すらある始末だ。 それどころか、どの次元世界に属するものかは窺い知れないが、次元世界を航行中の艦隊、或いは独航艦までもが出現している。 それに加え、数千隻もの非武装民間船舶までもが、数百もの世界と艦隊の合間を縫う様にして浮かんでいるのだ。 「管理局艦艇、捕捉! XV級76隻・・・78・・・84・・・増え続けています! 第2、第7支局艦艇、捕捉!」 そして遂に、管理局艦艇の存在までもが捕捉される。 残る7隻の支局艦艇と共に本局、及びミッドチルダ周辺世界の防衛に就いていた筈の次元航行部隊が、次々に隔離空間内部へと転移を始めたのだ。 加速度的に数を増しゆくXV級の艦体を見詰めつつ、クロノは唐突に理解する。 同時に、全身が氷漬けになったかの様な悪寒を感じた。 気付いたのだ。 この状況の意味する事を、何が始まったのかを。 「空間歪曲境界面、ロスト! 相対距離、計測不能です!」 「天体数、更に増大・・・管理局が捕捉する世界の総数を超えました!」 「前方、人工天体付近に大規模空間歪曲・・・あれは・・・あれは・・・!」 拡大した隔離空間。 各世界の転移。 際限なく増えゆく天体数。 詰まるところ、この状況が意味する事は。 「本局です! 時空管理局、本局艦艇、捕捉! 人工天体より距離86000!」 「ミッドチルダ、転移確認! 繰り返す、ミッドチルダの転移を確認!」 バイドは、次元世界そのものを「侵食」した。 全ての管理世界・管理外世界、そして観測指定世界までもが、否応なくバイドとの戦争の場へと引き摺り出されたのだ。 「第97管理外世界、捕捉!」 その報告が艦内に、延いては時空管理局艦艇の全てに行き渡った時、それまでとは別種の緊張がクロノに走る。 咄嗟にブリッジクルーへと目をやれば、彼女達は後ろ姿からでもそうと判る程、憎々しげに1つの管理外世界、その表示画像を見据えていた。 彼女達の心境を慮り、クロノはそれを理解すると同時に、遣り切れないものが込み上げるのを感じる。 妻であるエイミィ、そして息子カレルと娘リエラの3人は、一連の事件発生直前にミッドチルダへと帰省していた。 東部のテーマパークを訪れ1泊した後に本局を中継し、地球へと戻ろうとした矢先に地球軍の襲撃に遭ったのだ。 子供達、そして実戦を離れて久しい妻にとっては、余りに恐ろしい体験だったのだろう。 子供達を安心させ、彼等と離れた後に止まらない自身の震えを吐露した妻を慰める為に、クロノは少ない猶予の中で最大限の時間を割いた。 彼女達は今、聖王教会の守護するミッドチルダ北部で、リンディが手配したホテルのスイートに宿泊している。 地球へと戻れない以上、仕方のない事だった。 よって今、クロノの家族は地球には居ない。 しかしあの世界にはなのはの家族を始めとして、彼女やフェイト、はやての友人達が存在している。 彼女達は勿論の事、あの世界の住民は次元世界で何が起こっているのか、何1つ知らない。 少なくとも、21世紀に於いては。 しかし次元世界に於いては、第97管理外世界はこの事態の元凶の一端として捉えられている。 その事実が、クロノには歯痒いものとして感じられるのだ。 あの世界は今、自身を襲っている幻想をどう理解しているのか。 次元世界に対する観測手段を確立してはいない以上、通常通りの宇宙空間を観測しているのだろうか。 バイドによって取り込まれ、そして管理世界にすら敵視される世界。 何も知らないのは、彼等自身だけ。 しかし百数十年後、彼等は異常極まる戦力を以って次元世界へと介入するのだ。 次元世界の存在を知る誰もが出現を予想だにせず、今この瞬間でさえ解明されてはいない超高度科学技術を以って次元の壁を乗り越え、バイドと共に管理世界を、延いては次元世界全体を危機へと陥れる、正に災厄の申し子とすら呼べる世界。 しかしバイドは、何を考えてこんな事を? 如何に汚染艦隊が圧倒的な戦力を有しているとはいえ、各世界を合わせれば軍用次元航行艦の総数は1500を超えるのだ。 未確認の世界が有する艦艇数を考慮に含めればその倍以上、3000を超える事さえあり得る。 何せ、隔離空間は今も拡大を続けているのだ。 艦艇の数は、際限なく増え続けるだろう。 管理局としても危険な事ではあるが、何よりもバイドにとっては不利になる事さえあっても、決して有利とはなり得ない。 一体、何の為に? 「第9支局艦艇より警告! 空間歪曲反応、多数観測! 総数・・・」 「どうした?」 クロノが抱いた疑問。 それに答えるかの様に、報告が飛び込む。 同時に、隔離空間内を映し出すブリッジドーム内面に、空間歪曲の発生を意味する赤い波紋が表示された。 その数、数十か、数百か。 クルーより齎された報告は。 「総数・・・4000以上! 繰り返す! 総数4000以上! 大質量物体転移まで5秒!」 壁が、出現した。 少なくとも、その感想を抱いたのはクロノだけではなかったろう。 先程の機動兵器群など比較にもならない、大型次元航行艦に匹敵する敵影が、赤く光るイメージとしてドーム内部を埋め尽くしている。 それらの約半数は、次元世界の艦船だ。 古代ベルカ艦艇、及び古代ミッドチルダ艦艇などの歴史的遺物にも該当する艦から、退役した筈の管理局旧型次元航行艦、明らかに新造艦と判る所属不明艦まで、世界も時代も問わず、無数の艦艇が等距離を保って壁を形成し、艦首をこちらへと向けている。 「何だ、これは・・・」 「不明艦隊よりバイド係数検出! 13.86で変動停止、汚染艦隊です!」 「約500隻、こちらへ向かってきます! 距離25000、残る汚染艦艇は各方面へ!」 「聖王のゆりかご、捕捉しました! 総数・・・40! 40隻です!」 『第8支局より全艦隊へ! 異常係数検出個体を確認! 総数20、接近中! 画像を確認せよ!』 「目標、拡大映像を出せ!」 攻撃艦隊へと向かって接近を開始する汚染艦隊。 その中に、幾つかの異形が紛れ込んでいる。 支局艦艇より齎されたデータに基き、それらを拡大表示するようクルーに命じるクロノ。 そうして表示された映像、浮かび上がった異形の全貌に、クロノを含め誰もが言葉を失う。 「・・・これが、戦艦だと?」 それは「艦」と呼称するには、余りにも歪な存在だった。 通常の艦艇の様に前後に伸長する形ではなく、上下に伸びたメインユニットを挟む様にして、左右に張り出した巨大なエンジンユニットらしき部位が付属している。 メインユニット下方には、騎士甲冑の腰部装甲を思わせるサブエンジンユニットらしき左右一対の部位が存在し、上部エンジンユニットとの間には左右二対、計4門の砲撃兵装らしきユニットが見て取れた。 全体からは複数の槍状構造物が突出し、本来ならば無機質とも取れるであろう外観を、防衛本能を剥き出しにした生物、即ち有機的生命体にも似たそれへと変貌させている。 メインユニット最下方には、三方に延びる巨大な槍状構造物。 外殻装甲は血とも赤錆とも取れる、黒ずんだ闇色の赤に彩られている。 少なくとも、塗装による色彩ではない。 前方から捉えたその全貌はまるで、肩部装甲を残し四肢と頭部をもぎ取られた、巨大な騎士甲冑の様にも見える。 計測結果、全高817m、全長790m、最大全幅635m。 「第10支局より入電。敵性体、詳細判明。地球軍識別コード、B-BS-Cnb。コードネーム「COMBILER」。艦船の残骸を中心として無数の推進機構及び兵装が融合した後、汚染により機械生命体として活動を開始した複合武装体。 小型及び中型汚染体の母艦としての機能を持ち、陽電子砲を始めとする複数種の武装を内包。メイン・サブ含め6基の独立可動式エンジンユニットに計18基の核融合パルス、バサード・ラムジェット複合サイクル推進機構を持ち、空間跳躍及び浅異層次元潜航機能を搭載。過去に確認された事例では多数の核弾頭を搭載し、上部発射機を用いての戦略攻撃により、単体にて大規模人工居住空間1基を破壊、地球軍艦艇2隻を大破させているとの事。 第一次バイドミッションに於いて武装体形成途上の個体を確認、R-9A単機により撃破した記録あり」 第10支局艦艇にて監視下にあるR戦闘機パイロットより齎された情報、その余りに出鱈目な敵性体の性能に、クロノは小さく悪態を吐いた。 陽電子砲などという常軌を逸した兵装だけに飽き足らず、核弾頭で武装した巨大な機械生命体。 それが今、明確な攻撃の意思を以ってこちらへと接近している。 しかもその数は20体、更には1体につき2隻のゆりかご、恐らくはコピーであろうそれらの護衛付きという有様だ。 余りに絶望的な戦力差に、眩暈さえ起こしそうである。 「・・・アルカンシェル、バレル再展開。攻撃管制システムを各艦とリンク、距離15000で発射と通達せよ」 「バレル再展開、距離15000で発射、了解」 「システム、リンク要請・・・要請通過、リンク完了」 しかし、此処で絶望している訳にもいかない。 クロノは提督だ。 多くのクルーを抱え、艦と共にその生命を背負っている。 責任を放棄して蹂躙を受け入れる事などあってはならないし、元より受け入れるつもりなど無い。 『ローロンスよりクラウディア、第13支局艦艇よりリンク要請があった。発射は距離20000にて行う。支局艦艇とリンクし、タイミングを修正しろ』 「クラウディアよりローロンス、了解。リンクを許可する」 「リンク完了。全艦艇、バレル展開」 白光を放つ環状魔法陣がクラウディア艦首へと幾重にも展開され、その中央に閃光が集束を開始する。 形成された弾体はクロノが火器管制機構の鍵を捻り、自身を束縛する膨大な魔力が霧散する瞬間を待ち侘びていた。 炸裂と同時、広域に亘り高密度次元震を引き起こすそれは、目前の「壁」を食い破らんと白光の牙を剥き出しにする。 その牙はクラウディアのみならず、185隻のXV級、その全ての艦首へと現出していた。 「目標、距離196000!」 「速度、進路、共に変わりなし」 「第102管理世界艦隊、汚染艦隊との交戦を開始! 次元航行機による近接攻撃です!」 「第18観測指定世界、地表部からの迎撃を開始・・・第33管理世界艦隊を巻き込んでいます! 艦隊、地表部への反撃を開始! 魔導砲撃です!」 汚染艦隊の射程内到達を待つ間、各方面で汚染艦隊と各世界の保有する戦力との戦闘が開始される。 恐らくは、汚染艦隊による攻撃を受けたのだろう。 状況を理解し切れていなかったであろう世界も、既に他世界との戦闘状態にあった世界も、例外なく全てが汚染艦隊との戦闘を余儀なくされてゆく。 「194000!」 「空間歪曲、観測! バルバートル艦隊及びメイフィールド近衛艦隊による戦略攻撃です! 汚染艦隊、約40隻が消失!」 「汚染艦隊、約300! 第97管理外世界に向け進攻中!」 「汚染艦隊、加速! 距離188000!」 「アルカンシェル、発射まで60秒」 報告の中にあった第97管理外世界の名称に、クロノは思い入れの深いその惑星へと視線を投じた。 恐らくは戦闘が発生している事すら気付いてはいないであろう、その青く美しい惑星の住人達。 十二分に戦闘を行える兵器を保有しつつも、次元世界を観測する手段を持たないが故に未だ宇宙を見ているであろう彼等は、惑星へと接近しつつある300隻の汚染艦隊の存在すら捕捉してはいないのだろう。 付近にはXV級次元航行艦が20隻ほど存在してはいるものの、自らの安全を優先したか、はたまたこの機会に第97管理外世界を消し去ろうというのか、惑星へと向け進攻する汚染艦隊を迎撃する素振りは全く無い。 思わず、クロノは通信を繋ごうと手を動かし、しかし寸でのところで思い止まる。 これで第97管理外世界が滅んだとして、それはバイドの攻撃によるものだ。 手を出さずに見ているだけで、将来的に管理世界の、延いては次元世界の安寧を脅かす勢力となる、危険な世界が1つ潰える。 それは己が手を汚さずに望んだ結果を得る事のできる、最良の手段ではないか? 「184000!」 「第97管理外世界へと向かう汚染艦隊、質量兵器を発射! 核弾頭と思われます!」 「発射まで50秒」 事実、管理局艦隊を含め、第97管理外世界に程近い空間に位置する複数の世界の艦隊も、汚染艦隊の通過を許容している。 この時点で交戦を開始すれば、確実に優位を確保できるであろう位置に存在するにも拘らず、一切の攻撃行動を見せない。 狙いは明らかに、汚染艦隊による第97管理外世界の抹消だ。 そして彼等の望み通り、汚染艦隊は核弾頭らしき質量兵器を発射した。 後は、見ていれば良い。 フェイトやなのは、はやてには悪いが、これが次元世界にとって最良の選択かもしれない。 「質量兵器群、第97管理外世界、大気圏突入まで30秒!」 「180000!」 「40秒前」 此処で、ふとクロノは気付いた。 決定的な違和感、奇妙な感覚。 何かが足りない。 何か、この場にあるべきものが無い。 本来ならば存在して然るべき筈のものが、決して欠ける事など無い筈のそれが、切り取られたかの様にこの戦場から抜け落ちている。 一体、何が? 「30秒前」 そうだ。 「彼等」が存在しない。 本来ならば、自身等が隔離空間内部に突入した際、既に存在しなければならなかった筈の「彼等」。 この作戦が始動してからというもの、唯の1度もその姿を現す事が無かった「彼等」。 「彼等」がこの戦場に存在しないなどという事は、ある筈がない。 未知の隠匿機能か、浅異層次元潜航か。 「彼等」は間違いなく、この空間内に存在する。 「172000!」 「20秒前」 「警告! ゆりかご全艦艇より高密度魔力反応! 次元跳躍攻撃の可能性大!」 「カウント中断! 即時発射態勢を取れ!」 「敵複合武装体より高エネルギー反応! 陽電子砲、発射態勢!」 「汚染艦隊より人型機動兵器、多数出現! ゲインズです! 凝縮波動砲タイプ及び陽電子砲タイプ、確認! 敵影多数の為、詳細な数はカウントできません!」 「未確認の人型機動兵器及び多脚型機動兵器群の出撃を・・・第10支局より入電。人型機動兵器、Bh-Tb02「TUBROCK 2」及びB-Urc-Mis「U-LOTTI」ミサイルタイプと判明。共に誘導兵器群による長距離攻撃を主体とする機動兵器との事」 汚染艦隊、アルカンシェル射程外からの超長距離砲撃態勢に移行。 クロノは迎撃の為、アルカンシェル発射制御を攻撃管制から迎撃管制へと切り替える。 空間歪曲と高密度次元震による極広域破壊を齎すアルカンシェルは、時空管理局艦艇にとって最も強大な矛であると同時に、最も強固な盾でもあった。 如何なる攻撃をも呑み込み、虚数空間の彼方へと葬り去る戦略魔導砲撃。 しかし、不安要素はある。 陽電子砲や波動砲の迎撃など、管理局の歴史上にも前例が無いのだ。 理論上は問題なく迎撃できる筈なのだが、しかし地球軍による本局襲撃時に、無視する事のできない現象が観測されていた。 襲撃の結果、管理局は14隻のXV級を喪失。 それらの約半数が、長距離支援用と思われる波動砲の砲撃によって撃破されていた。 発射点の特定にすら至る事の出来なかったそれは、アルカンシェル弾体の炸裂範囲、即ち空間歪曲発生領域を貫いて飛来していたのだ。 襲撃当時のアルカンシェルは機能的欠陥を抱えていたとはいえ、俄には信じ難い事実である。 つまり、地球軍の兵器が空間歪曲回避、或いは時空間異常遮断能力を備えているのならば、バイドもまたそれらを備えていたとしても、何ら不自然ではないのだ。 R戦闘機を始めとする第97管理外世界の兵器群は、彼等の言う異層次元全域での作戦行動を想定して建造されているという。 ならば、それらが相対する事となる汚染体群もまた、同様の機能を有しているのではないか? 凝縮波動砲は、陽電子砲は空間歪曲によって無効化できるのだろうか? 「質量兵器群、大気圏突入まで10秒!」 「聖王のゆりかご群、艦首より凝縮魔力拡散を確認! 次元跳躍砲撃、来ます!」 「アルカンシェル、自動発射!」 瞬間、艦内に魔力素の力場が立てる高音、それが解放される轟音が連続して響き渡り、振動が艦体を揺らす。 ドーム内面を埋め尽くす、白く眩い閃光。 XV級185隻、アルカンシェル同時斉射。 光り輝く185発の弾体が、通常魔導砲と比して僅かに劣る速度で飛翔する。 数秒後、それらが不可視の空間歪曲を捉えるや否や、弾体群は凝縮された魔力を解放、極広域空間歪曲を引き起こした。 40隻のゆりかごより放たれた次元跳躍砲撃は、連鎖発生する高密度次元震の壁へと接触し反応消滅を誘発され、次々に炸裂しては空間を閃光に染め上げる。 十数秒にも亘って継続する空間破壊は、続けて連射される砲撃までをも完全に無効化。 ゆりかご群から飛来する、一切の砲撃を消滅させる。 魔力炉が最大稼動、「AC-51Η」による魔力増幅を受け、膨大な魔力をアルカンシェルへと再供給。 発射より僅か8秒程度にして、戦略魔導砲の再発射態勢が整った。 減衰を始めた第一斉射の空間歪曲発生領域、その消滅を待たずして第二斉射が自動発射され、更に放たれ続ける次元跳躍砲撃を無効化してゆく。 このペースならば大丈夫だと確信し、クロノが通常魔導砲撃の発射態勢を命じようとした、その矢先。 「前方、高エネルギー・・・」 クルーの警告よりも遥かに早く、空間歪曲発生領域を貫いて飛来した巨大な赤い閃光が、十数隻のXV級を呑み込んだ。 「な・・・」 「陽電子砲! 陽電子砲による攻撃です! XV級、17隻ロスト!」 「更に高エネルギー反応、来ます!」 「緊急回避!」 クロノによる咄嗟の指示により、クラウディアは急激な機動で回避運動へと移行する。 付近に位置する艦艇の機動を確認すれば、ローロンスとシャーロット、他4隻がクラウディアの後を追う様にして回避行動へと移行していた。 しかし、間に合わない。 飛来する巨大な赤、鋭利な青、2種の光条。 それらの陽電子砲撃は、最も回避の遅れていた2艦、その右舷を食い破り、または艦全体を呑み込んだ。 1隻が内部より爆発を起こし轟沈、残る1隻は破片すら残らなかった。 クルーの報告が、力なく響く。 「XV級・・・19隻ロスト」 クロノは呆然と、ただ呆然と、味方艦艇の消え去った空間を見詰めた。 其処には、何も無い。 数十名のクルーを乗せた時空管理局最新鋭の次元航行艦が、1発の砲撃で跡形も無く消滅したのだ。 恐らくは艦長以下、クルーの全ては、自らの死を認識する暇さえ無かっただろう。 余りにも呆気なく、軽過ぎる。 数十の、全体としては千数百もの生命が失われたというのに、余りにも現実味が薄く、認識が及ばない。 初めからそんな生命は存在しなかったのだ、と言われれば納得してしまいそうな無だけが、陽電子という名の死神が通過した跡に拡がっている。 軽過ぎる。 人間としての生命が、尊厳が、余りにも軽過ぎる。 それらの存在価値さえ、疑問視してしまう程に。 「空間歪曲発生領域、消失します!」 「・・・進路変更。目標、汚染艦隊。MC404、砲撃準備」 やがて、アルカンシェルによる空間歪曲の壁が、減衰により消失を始めた。 閃光が徐々に衰え、可視化された空間の歪みが消えてゆく。 その向こうに展開する汚染艦隊、その各所に点在するゆりかごと複合武装体の姿に、クロノは知らず歯軋りしていた。 「距離は?」 「・・・145000。全兵装、有効射程外です」 思わず、血が滲む程に拳を握り締める。 完敗だった。 通常魔導砲撃も、アルカンシェルも届かぬ超長距離から、汚染艦隊は次元跳躍砲撃と陽電子砲とを撃ち込んできたのだ。 こちらが距離を詰めようとする間、汚染艦隊は一方的に打撃を与える事ができる。 打つ手は、無い。 絶望と共に、クロノが息を吐く。 もう、撤退しかない。 席に座し、同じ決断を下すであろう支局艦艇からの通達を、静かに待つ。 そして、自身等に敗北を突き付けた存在、恐るべき未来からの来訪者達の全貌を眺め始めた。 だがその時、彼は汚染艦隊の奇妙な行動に気付く。 全艦艇がこちらへと舷側を曝し、回頭を開始しているのだ。 すぐさま身を乗り出し、映像を拡大表示する。 クルーも、他の管理局艦艇も気付いたらしい。 通信が慌しくなり、無数の単語が入り乱れる。 その中に、第97管理外世界という名称が含まれている事に気付いたクロノは、反射的にその惑星の映像を表示した。 ウィンドウへと映し出される、青き惑星。 特に先程との差異は無く、クロノは何が他艦艇の注意を惹いているのか理解できない。 地球は、特に変わりも無く存在しているというのに。 其処まで思考し、クロノは気付いた。 「・・・なに?」 地球が「変わらず」存在している? 何1つ異変も無く? 馬鹿な。 21世紀時点での第97管理外世界には、次元世界を観測手段など存在しない筈だ。 にも拘らず、あの惑星が今も健在であるならば。 「第97管理外世界近辺、所属不明艦隊捕捉! 総数40!」 汚染艦隊が放った核弾頭は、何処へ消えたのだ? 「艦長! 汚染艦隊、所属不明艦隊へと向け転進します!」 「画像拡大、不明艦隊を映せ!」 「映像、拡大します!」 クルーの報告により判明した、所属不明艦隊の出現。 クロノは、その艦隊が核弾頭の消失に関わっていると確信し、ウィンドウへと表示させる。 汚染艦隊が、管理局艦隊に背を向けてまで優先する、艦艇総数、僅か40隻の艦隊。 映し出されたその全貌に、彼は凍り付いた。 「表示しました・・・しかし、これは・・・」 既知の世界、そのいずれとも異なる艦艇の造形。 個人携行型質量兵器にも通ずる、余りにも無骨な外観。 管理局のそれとは異なり、優雅さなど欠片も存在しない、ただ只管に効率と機能性だけを突き詰めたかのような艦艇の集団が、其処にあった。 刃先の様に平坦な艦首から、後方へと向かうにつれ体積の膨れ上がる艦艇。 真横からならば、直角三角形に小さな艦橋が付いたかの様にも見えるだろう。 艦橋前方に主砲らしきユニットが2つ、艦首上部が大きく前方へと突き出た艦艇。 自動小銃にも似たその全貌は、艦の存在意義そのものが管理世界とは相容れない事を声高に主張しているかの様だ。 明らかに戦艦と判る、正しく大型銃器そのものとも云える全貌の巨大艦艇。 2連装砲塔6基、ミサイル格納ユニットらしき無数のハッチ、艦首に備えられた、XV級で云うアルカンシェルに相当するであろう、戦略兵装らしき大型ユニットは、見る者に圧倒的な重圧感を与える。 これらの艦艇ですら、既に管理世界の理解の範疇を外れている。 しかし、それ以上に無視する事のできない異形が、艦隊には存在した。 最早、艦と呼称する事すら躊躇われるそれらは、生理的嫌悪感をすら齎す全貌をウィンドウ上へと曝している。 先の戦艦とほぼ同じフォルムの艦体ながら、全長・全幅・全高、全てがそれを遥かに上回る艦艇群。 その巨大さは、信じ難い事にゆりかごにも迫る程だ。 艦体下部および後部には無数の槍状構造物が伸び、有機生命体の断面より垂れ下がる生体組織、それらを目にした際にも似た嫌悪感を見る者に植え付ける。 同じく、艦体下方側面より艦尾下方へと角度を付けつつ延びる翼状構造物は、その先端より多数の槍状構造物を伸ばしている。 恐らくは高度な知性と技術力を有する存在が建造した艦艇に、有り得ない事ではあるが、独自の生命が宿り、生物個体として成長したかの様な外観。 艦首兵装ユニットは、周囲に配置された槍状・板状構造物の存在と更なる大型化により、恐怖感すら伴って視界へと映り込んだ。 無機的構造物でありながら有機的生命体。 正しく、その表現が当て嵌まる。 そして、その異形を基に、更なる改良が加えられたのであろう巨艦。 全長が更に増大し、槍状・翼状構造物もその数を増している。 最早、人工建造物として認識する事すら困難な、異形の艦艇。 そして、何より。 他の2種を更に突き放す、余りにも巨大、余りにも異様。 より生物としての成長が進行し、成体として完成されたと云える外観。 巨大な翼、下方・前方・後方のほぼ全てを覆う槍状構造物。 巨獣の口腔とも取れる艦首兵装ユニット。 兵装と艦橋らしき部位を除けば、もはや生命体である事を疑う事さえ困難だろう。 「全長・・・3900m!? 全高1800m、最大全幅1300m・・・!」 「この艦・・・艦長、構造物が・・・!」 「分かっている」 そして、何かを発見したクルーが、怯えるかの様にクロノへと語り掛ける。 クロノにも、それは見えていた。 不明艦艇より伸びる、無数の槍状構造物。 それらの一部が、不自然に揺らめいている。 初めこそ見間違いかと考えたが、画像を拡大するや否や、その可能性は潰えた。 棘皮動物の棘にも似たそれらが、何らかの事象に反応して各々に独立可動、僅かながら管足の如く蠢いているのだ。 その事実を認識した瞬間、言い様の無い悪寒がクロノの背を駆け上がった。 それは正しく、人間が原生動物などに対し抱く、生理的嫌悪感と全く同じもの。 個人としての印象は兎も角、対象は明らかな人工建造物と判明しているにも拘らず、クロノは醜悪な生命体に相対した際と同じ感覚を抱いていた。 彼は既に、あの存在が生命体ではないと、知的存在によって建造された戦艦であると、そう云い切れなくなっている自己に気付いている。 それだけではない。 彼は何か、言い様のない不快感と嫌悪、生理的なものとは源を異にするそれらを覚えていた。 だが、それらの感覚が何処から生じているのか、それが判然としない。 一体、この感覚は何なのか。 「第10支局より入電・・・所属不明艦隊、詳細判明。第97管理外世界、国連宇宙軍・第17異層次元航行艦隊。艦隊編成、ニヴルヘイム級戦艦3隻、ムスペルヘイム級戦艦4隻、ヨトゥンヘイム級戦艦6隻、テュール級戦艦8隻、ガルム級巡航艦12隻、ニーズヘッグ級駆逐艦7隻。 計40隻の艦艇から成る、独立遊撃艦隊との事。艦載機はR戦闘機を中心に、総数500機前後・・・」 「警告! 本艦側面60m、空間歪曲発生!」 「何だと!?」 咄嗟に、ドーム側面へと視線を投じるクロノ。 果たして其処には、5機のR戦闘機が忽然と現われていた。 データ照合、該当記録あり。 クラナガンにて確認された、高圧縮エネルギー障壁発生機構搭載型。 それらが何故、管理局艦隊の只中に現れたのか。 クロノが理解するを待たず、5機は一斉に機体下部より大型ミサイルを放つ。 見れば、管理局艦隊の其処彼処より、計30発以上ものミサイルが放たれているではないか。 如何やら他にも、艦隊の隙間を縫う様にして同型機が出現しているらしい。 そして、ミサイルの飛翔する先に存在するは、地球軍艦隊へと向き直り後背を曝す汚染艦隊。 即座に迎撃が開始されるも、高度な欺瞞装置が搭載されているらしきミサイル群の数は一向に減らない。 それらは驚くべき速度で飛翔、150000もの距離を僅か十数秒で詰め、遂に汚染艦隊の只中へと突入。 瞬間、視界を焼かんばかりの閃光が、ブリッジを埋め尽くす。 同時に、強大なエネルギーの炸裂の余波が、クラウディア艦体を激しく打ちのめした。 座席より投げ出され、コンソールへと打ち付けられるクロノの身体。 ブリッジドーム内に、クルーの悲鳴が響く。 数秒後、何とか身を起こしたクロノは、外部映像を映し出すドーム内面に、驚くべき光景を見出した。 しかし、彼の口から零れた言葉は、まるでその有様を予測していたかの様なもの。 口内に溜まった血を吐き捨て、侮蔑の表情を隠そうともせずに呟く。 「ああ、そうだろうさ・・・貴様等が、通常の弾頭など用いる訳がない。狂人共にそんな良識がある訳がない」 そう呟く彼の視線の先には、未だ消えぬ数十の巨大な火球、その中に浮かぶ、大きく数を減らした汚染艦隊の影があった。 画像には、火球を生み出した現象についての解析結果が表示されている。 其処には、唯1つの単語のみが記されていた。 「核爆発」と。 そして、クロノは理解する。 先程の疑問、理由すら判然としない不快感と嫌悪。 彼はその明確な答えを、はっきりと自覚していた。 あれらの艦艇は、非常に「似ている」のだ。 気の所為などではない。 明らかに、紛れもなく、疑う余地すら無く。 あれらは余りにも酷似しているのだ。 彼等が打倒せんとする存在、打倒すべき存在。 今この瞬間、クラウディアの遥か前方で核の焔に呑まれ、なお滅びぬ異形の群れ。 生物と見紛うばかりの全貌、複合武装体。 間違いない。 彼等が、地球軍があれらの艦艇を建造するに当たって摸した、その存在とは。 「R戦闘機、発艦確認!」 「汚染艦隊残存勢力、本艦隊へと向け再転進!」 「バイド」だ。 直後、第8支局艦艇より全艦隊に警告が奔る。 空間歪曲多数、及びバイド係数の上昇を確認。 大質量物体、転移まで20秒。 クロノは三度、アルカンシェルのバレル展開を命じる。 生存か、破滅か。 選び得る道は、1つしかない。 管理局が全てを取り戻すか。 地球軍が全てを灰と化すか。 バイドが全てを呑み込むか。 「AB戦役」最大にして最悪の戦闘と云われる、隔離空間内部艦隊戦。 その中でも最も長い期間に亘って継続し、最も多大な被害と犠牲を生み出した「極広域空間融合・第二次遭遇戦」。 大義も思想も朽ち果て、理性も尊厳も消失し、人が人たる所以を失い、「バイド」と「人間」、双方の「本性」のみが全てを支配した、悪夢の戦闘。 全てはまだ、始まりに過ぎなかった。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3833.html
その瞬間に何が起きたのか、彼には理解できなかった。 作戦開始から28分。 C50区画にて強襲艇へと搭乗中の4分隊、そして救出したパイロット2名、計38名のバイタルサインが強襲艇のシグナル諸共、唐突に途絶えたのだ。 ジャミングを疑ったものの、中枢は既にこちらが抑えている筈。 不可解な事態に彼は他の分隊の状況を確認すべく回線を繋ぐが、同時に意識へと飛び込んだのは信じ難い言葉だった。 『中枢を奪還された。繰り返す、中枢を奪還された。バイドによる侵蝕ではない。管理局側の抵抗と思われる』 その内容を理解すると同時、彼は自身の意識を疑わざるを得なかった。 信じられなかったのだ。 プログラムの発動から30分と経たずに中枢の奪還を果たされるなど、本作戦の実行前段階に於いては完全に想定外だった。 それ程の技術を有する人材を、管理局は温存していたのか。 『トランスポーターの暴走を確認・・・第5・6・9・10分隊が空間歪曲に巻き込まれた。反応消失・・・』 『第14分隊からの応答が2分前より途絶したままだ。第2分隊より「ウーパー・ルーパー」。サーチを実行、第14分隊の状況を報告せよ』 『ウーパー・ルーパーより第2分隊、第14分隊は2分前にバイタルをロスト。最初のトランスポーター暴走に巻き込まれたものと思われる』 『第18分隊よりウーパー・ルーパー、敵のアクセスポイントは何処だ』 『バイド汚染区画からの干渉が激しく、特定不能。フィールド出力を下げると、こちらが汚染されかねない』 錯綜する情報は、戦況が秒刻みで悪化し続けている事を告げていた。 バイドまでもが本局へと侵入していた事も予想外だったが、この状況はそれ以上の脅威だ。 再び中枢を掌握されたという事は、こちらが完全な敵地に取り残されているという事を意味している。 中枢を再度奪取する手段を講じるか、或いは早急に脱出を図らねばならない。 『第13分隊よりウーパー・ルーパー、援護機はどうした?』 『ウーパー・ルーパーより第13分隊、既にツァンジェンは侵入に成功、Aブロックにて局員の殲滅に当たっている。「ウラガーン」、「エグゾゼ」は潜航中に遭遇したバイドの一群を殲滅次第、本局へと突入する』 『ならブロックだけでも良い、アクセスポイントを突き止めてツァンジェンを誘導してくれ。ブロックごと破壊するんだ。パイロットについては既に全員を確保している』 『戦闘機人はどうする。現在、確保しているのはNo.2の残骸とNo.3の射殺体のみだ。ジェイル・スカリエッティは?』 『中枢を掌握された状態では作戦続行は不可能。中枢再奪取後に生存していれば確保する』 『了解。ウーパー・ルーパーより全部隊へ。「ラップドッグ」を起動せよ。繰り返す、ラップドッグを起動せよ』 インターフェースによる通信を行いつつ、同時に彼は並列処理によって隊員に指示を出し、互いをカバーしつつ歩を進める。 現在地、D33区画主要通路。 彼等の後方には、銃弾によって粉砕されたデバイス、そして人体組織の破片が散乱していた。 大量のどす黒い液体によって描かれた染みが、力無く点滅を繰り返す照明の中に浮かび上がっては消えるを繰り返している。 周囲に各種反応が無い事を確認し部隊の歩みを止めると、彼は周囲警戒を命じ右腕に繋いだ漆黒のケースを床面へと下ろした。 信号を送りロックを解除、開いたケース内の端末にインターフェースを接続。 疑似信号を織り交ぜながら正規のコードを入力し、更に起爆コードを手動で直接入力する。 そして全ての操作を終えるとケースを閉じ、管制機へと回線を繋いだ。 『第13分隊よりウーパー・ルーパー、ラップドッグ起動完了・・・ウーパー・ルーパー? ラップドッグを起動した。聴こえているか? ウーパー・ルーパー・・・』 しかし、呼び掛けに答えるのは沈黙のみ。 幾度繰り返しても、結果は変わらなかった。 ウーパー・ルーパー、通信途絶。 『第2分隊、応答せよ・・・第2分隊・・・第17分隊、そちらの状況は? 応答せよ・・・』 他の分隊へと通信を試みるも、こちらもまた繋がらない。 管理局によるジャミングか。 すぐさま対抗手段を講じようとするものの、それより早く隊員からの警告が飛び込んだ。 『高密度魔力反応検出・・・300m前方、魔力障壁展開を確認』 『後方220m、同じく魔力障壁展開』 その警告に従い視線を上げると、主要通路の前後に展開した薄緑の光を放つ障壁が、拡大表示された視界内へと飛び込む。 表面に無数のミッドチルダ言語の羅列と魔法陣を浮かび上がらせるそれは、障壁前後の空間を完全に遮断していた。 通路の反対側へと視線を投じれば、同様の障壁がもう1つ展開している。 すぐさま最寄りのドアを開けようと試みるが、何時の間にかロックされていたそれらは微動だにしない。 『ドアを撃て!』 軽装甲車両程度ならば紙の様に引き裂く銃弾が、嵐の様にドアへと撃ち込まれる。 しかしそれらの銃弾は、ドアを引き裂いた先に展開していた数重の障壁、その数枚までを破壊して停止、或いは兆弾となって通路内を跳ね回った。 その十数発が周囲に展開する隊員を襲い、更に内数発が装甲服を貫通し内部の人体を破壊する。 インターフェースを通じて彼等の苦痛の声が届く事はないが、被弾の衝撃で弾き飛ばされた身体が床面へと叩き付けられ、更にのた打ち回る事もなく倒れ伏す様は、負傷の度合いが決して軽くはない事を窺わせた。 装甲服の医療機構が作動し、すぐさま大量のナノマシンが負傷個所の修復を開始。 それを確認し、彼は残る隊員へと指示を下す。 『どうやら完全に隔離されたらしい。警戒しろ、すぐに局員が・・・』 『障壁、急速接近!』 その言葉に反応した時には、既に障壁との距離は100mを下回っていた。 300m前方に展開していた筈の障壁は、一瞬にして200m以上もの距離を高速移動していたのだ。 反射的に彼は後方へと振り返り、自動小銃のトリガーを引絞っていた。 周囲から同様に発射された大型火器の銃弾が、前方と同様に急速接近する障壁へと殺到する。 数十発もの大口径対魔力障壁弾による集中射撃を受けた緑光の壁は、忽ちの内に粉砕されて同色の光を放つ魔力素へと還元された。 しかしその向こうから、更に同様の障壁が急速に接近してくる。 射撃継続。 連射される銃弾が、通路の前後より迫り来る障壁を次々に破壊してゆく。 しかし幾ら破壊しようとも障壁の発生が止む事はなく、それとは逆に隊員は次々に弾薬切れを起こし始めた。 視界内に隊員の弾薬欠乏、或いは装填中を示すマーカーが次々に表示される。 そして遂に、彼自身も自動小銃の弾薬を撃ち尽くし、腰部に掛けられたPDWへと手を伸ばした。 だが、それすらも間に合わない。 『来るぞ!』 掃射が途切れた瞬間、障壁が一気に距離を詰めてくる。 視界を完全に覆う緑光の壁を見据えながら、彼は任務失敗を悟った。 そして恐らくは、この作戦自体が既に破綻しているであろう事も。 衝撃、暗転。 人工筋肉と自身の骨格が破壊される耳障りな音を最後に、彼の意識は暗黒に閉ざされた。 * * 主要通路の奥から衝撃音が響き、僅かな振動が壁面越しにも身体を震わせる。 腕の中の義娘が僅かに身を強張らせた事を感じ取り、リンディは彼女の肩を支える手に微かな力を込めた。 直後、傍らに展開した小さなウィンドウから、聴き慣れた音声が響く。 『敵勢力排除。もう大丈夫ですよ』 その言葉を受けて、通路の角へと身を潜めていた数人が前方の様子を窺い、後方へと合図を送った。 彼等の更に後方で息を潜める者達はそれを目にし、恐る恐るといった体で動き出す。 リンディもまたフェイトへと肩を貸しつつ、周囲の局員達と共に歩を進めた。 そして数分後、彼等は障壁の消失地点へと辿り着き、侵入した地球軍部隊の末路を目にする事となる。 「う・・・」 「年少者には見せるな・・・よせ、反対側を見てろ!」 その凄惨な光景を前に、リンディは吐き気を堪える事で必死だった。 地球軍は特殊な銃弾を用いていたのか、1つ1つを呆気なく破壊してはいたが、本来ならばSランク相当の砲撃ですら防ぎ切る魔力障壁。 通路の両端より高速にて接近する2つのそれらに挟まれた地球軍兵士達は、見るも無残な有り様となり果てていた。 外観からは21世紀の第97管理外世界にて普及している野戦服、その発展形にしか見えないが、実際には人工筋肉を主とする各種機能を搭載した装甲服の様な物なのだろう。 強固な装甲に身を包んでいた彼等は、しかしその事実によって更に悲惨な末路を辿る事になった。 彼等は装甲服の耐圧限界が訪れると共に、まるで卵の如く破裂して砕け散ったのだ。 薄い板の様に圧搾された、漆黒と濃灰色の迷彩装甲服。 その其処彼処から、断裂した人工筋肉と思しき組織と大量の水気を含んだ赤い有機組織、そして無数の白い破片が噴水の様に噴き出し、2つの障壁の隙間、僅かな空間を真紅に染め上げている。 こちらへの配慮か、障壁が解除されてそれらが通路へと撒き散らされる事はないが、迂闊にもその様を直視してしまった者達の中には、込上げる物を抑え切れずに嘔吐してしまう者も少なからず存在した。 リンディは嘔吐しそうになる自身を抑制しつつ、フェイトの視界を覆い隠す様にして歩を進める。 フェイトも義母の意図を察したのか、何も言葉を発する事なくそれに従っていた。 しかし、その見るに堪えないオブジェの傍を通り過ぎる際、水音と共に金属的な接触音が鳴り響く。 思わず足を止めると同時、新たに展開されたウィンドウから声が発せられた。 『誰か、そのケースを回収して下さい。中を確かめて』 足音が1つ、集団を離れて障壁の方向へと歩み去る。 それを確認するとリンディはそのまま直進し、集団と共にリニアレールの停車場へと辿り着いた。 此処で一旦、休息を取るのだ。 フェイトを優しくベンチへと下ろすと、リンディの目にケースを手にした局員の姿が映り込む。 彼はウィンドウの向こうからの指示に従い、漆黒のそれを開こうとしていた。 地球軍部隊の血に塗れているのか、床に置かれたケースの周囲には小さいながらも血溜まりが拡がっている。 意外にも呆気なく開かれたそれに対し数名の局員が魔法による解析を開始するが、程なくして上がった声が作業の終了を告げた。 「うそ・・・」 「戦術核・・・奴ら、正気か!?」 戦術核。 少なからぬ局員が、その名称に反応した。 リンディ、そしてフェイトも例外ではない。 彼女達が驚愕も露わにケースを解析する局員達の方向を見やると、ウーノを伴ったスカリエッティがその場へと歩み寄るところだった。 彼は局員達の後ろからケースを覗き込み、傍らへと展開したウィンドウと僅かに言葉を交わす。 やがて表情を顰めて吐息をひとつ、諦めた様に言葉を紡いだ。 「・・・完全にロックされている。介入は不可能だ」 「起爆装置は?」 「既に作動している。状況から推測するに、恐らくは時限式ではなく感応式だ。作戦領域内からの友軍バイタルサイン完全消失を以って起爆すると思われる」 『つまり全ての核を処理できない限り、本局から彼等を逃がす訳にも、かといって全滅させる訳にもいかなくなった訳だね』 結論として紡がれたウィンドウからの言葉に、一同は緊張を深める。 だが、錯乱して騒ぎだす者が居なかっただけでも、僥倖だったかもしれない。 自らが身を置くこの巨大艦艇内部に、起爆装置の作動した核弾頭が複数存在する。 そんな事実を知って、その上で冷静でいられる者は少ない。 幸いにもリンディは、その数少ない者の1人だった。 彼女はケースへと歩み寄り、スカリエッティと同じくそれを覗き込みつつ言葉を発する。 「正確な数は?」 『分かりません。しかし探知した地球軍部隊の数からして、20は下らないと思います』 「初めから此処を吹き飛ばすつもりだったのかしら?」 『さあ、其処までは・・・君はどう思う?』 ウィンドウの向こう、問い掛ける言葉。 返す声は、何処か馬鹿にする様な響きを含んでいた。 聞き慣れない女性の声。 『向こうは目標だけを確保して、後は口封じに周囲の人間を皆殺しにして脱出するつもりだったんじゃないですか? 地球軍が管理局と完全に敵対する方針を選んだ、その事実を隠蔽する為に。 でも局員の皆さんが予想外に優秀だったものだから、本局内の全区画に事態が知れ渡ってしまった・・・そちらの提督さんが発動したプログラムを打破してね。作戦続行は困難、しかも放っておけば管理局の全戦力に自分達の敵対が知らされてしまう。 そうなったら、本局を残しておいても百害あって一利なし。後々の為にも後腐れなく一切合切、纏めて吹き飛ばした方が利口・・・って、私ならそう考えますけど?』 その言葉に、一同が沈黙する。 良心の呵責も、自身ならば殺戮も辞さないと宣言する事に対する躊躇も、少なくとも表面上は微塵も感じられない声色。 幾人かが嫌悪も露わに表情を顰めるが、続く声はその言葉の内容を肯定するものだった。 『成程、合理的だね。確かに、彼等なら躊躇なくやってのけるだろう』 『あら、無限書庫司書長から直々にお褒めの言葉を頂くなんて、光栄ですわ』 感嘆する様な声、そして楽しげな声。 リンディは歯噛みし、フェイトの方を見やる。 案の定、自身の傍らに展開したウィンドウを通して今の会話を聞いていたらしき彼女は、悔しさと憤りを隠そうともせずに、此処には居ない人物への敵意を表情に滲ませていた。 ウィンドウの向こうに存在する人物、即ちユーノの容態をフェイトが気に掛けていた事はリンディも知っている。 自身の判断ミスから彼に重傷を負わせ、その四肢を奪い去ったとの自責の念を抱えていた事も。 そして同時に、なのはと並ぶ恩人の1人でもあり古い友人でもある彼が見せた行動に、単なる友情を越えた感情が芽生えつつある事にも、リンディは気付いていた。 その感情が、彼に対する罪悪感と地球軍に対する憎悪によって自覚を妨げられているであろう事も、少し前にレティと交わした会話を通して確信している。 だからこそ、フェイトは彼の現状が気に喰わないのだ。 あろう事か戦闘機人の中でも最も酷薄な人物に協力を仰ぎ、しかも現状の分析と対処に於いて表面上ではあるが意気投合しているという事実が、どうしても素直に受け入れられない。 正確に云えば、彼女の記憶の中に存在するユーノ・スクライアという人物像と、無限書庫という情報機関の長であり現状に於いて冷酷とも取れる対応と実力行使を為すユーノ・スクライアという人物像、その両者の相違を受け入れる事ができないのだろう。 確かに今のユーノは、長らく指揮官としての立場から実戦と相対してきたリンディから見ても、必要とあらば敵対勢力の殺害すら厭わない冷酷さというものが感じられた。 嘗てのプレシア・テスタロッサ事件に於いて、リンディが自身の乗艦であるL級次元航行艦アースラ魔力炉からの魔力供給を受けていた事例と同じく、今のユーノはEブロック第2予備魔力炉からの直接魔力供給を受けている。 魔導師としては補助系統全般に長け、術式構築などの精密性に於いても並ぶ者の無い才覚を発揮するユーノだが、如何せん攻撃魔法に対する適性の無さと、Sランクには到底届かない魔力保有量がネックとなり戦場に於ける主力とはなり得ない。 だからこそ、嘗ての彼はなのは達の補助に徹し、裏方ながら重要な役割を果たしてきた。 それは無限書庫という情報機関の頂点に立った今でも変わる事はなく、桁外れの情報処理能力と検索魔法という力を用いて、彼は前線の局員達を支え続けている。 しかし、外部からの強大な魔力供給を受けている現在、ユーノにはこれといった欠点が無い。 膨大な魔力を用いて、過去の事例と同じく最適な補助を齎してくれる。 リンディ達は、そう信じて疑わなかった。 補助ではなく、攻撃。 彼が実行したのは、それだった。 しかもその方法、彼が中枢を介して展開した結界魔法、それを応用した複数の障壁を用いて実行した攻撃は、過去のユーノ・スクライアという人物像からは想像もできない程に凄惨なものだ。 高速移動する2つの障壁の間に敵を挟み圧死させるなど、果たしてこれまでに実行した魔導師がどれ程に存在する事だろう。 そもそも敵勢力の殺傷を目的とするにしても、本来の用途からして防御用である障壁を攻撃に転用するなど、同じく補助を得意とするリンディですら発想し得なかった。 否、するにしても間接的な手段として用いただろう。 直接的に、障壁そのものを用いて殺傷しようとなど、考えた事もない。 しかし、彼はやってのけた。 Sランクの砲撃すら防ぎ切る魔力障壁、魔力炉からの供給を得て更に強固さを増したそれを用いて、9名もの地球軍兵士を殺害してみせた。 過去のユーノ、即ちリンディの記憶にも存在する心優しい少年しか知らぬフェイト、彼女の目と鼻の先で。 一部門の長として成長した結果というだけでない事は、リンディにも分かっている。 恐らくは彼なりに地球軍という敵性組織を分析し、その目的を推測し、現状を理解した上で決意した行動こそがこれであるという事も。 だがそれでも、フェイトのみならずリンディでさえ、今この瞬間に彼が身を置く状況を許容する事はできなかった。 本局内の其処彼処で地球軍を殺傷し、その事象についてあの酷薄な戦闘機人、クアットロと意志の一致を見せている事実など。 「フェイト!」 「・・・アルフ!」 そんな事を思考する内に、別の一団を引き連れたアルフが他の通路より現れる。 最近では珍しく、成人女性の姿だ。 クラナガンへと下りたエイミィ達と別れ本局へと残った彼女は、ユーノを欠いた無限書庫に臨時の戦力として組み込まれていた。 彼女の有する魔導資質がユーノと近似であった事もあり、検索魔法を展開する事ができた為だ。 そして、ユーノの誘導に従って彼女がこの場所を目指していた事も、ユーノ自身からの報告で聞き及んでいた。 「アルフ、無事で良かったわ」 「そっちもね。ユーノの方から連絡が入ったんだって?」 アルフの言葉に、リンディとフェイトは複雑な笑みを浮かべる。 実際にアルフの言葉通りなのだが、その事実は自身等が彼に頼り切っている現状を証明するものでもあったのだ。 心中の苦いものを自覚しながらも、リンディは言葉を絞り出した。 「ええ・・・中枢を奪還したと、連絡が入ったのよ。後は彼の誘導に従って・・・」 「そっか・・・あの、さ・・・リンディ、あんたの旦那は・・・」 アルフが何処か言い難そうに、リンディへと問い掛ける。 彼女が何を訊こうとしているのか、リンディは正確に理解していた。 半身をずらし、後方で2人の局員が手にする偏向重力発生結界に覆われた、灰色のポッドを指す。 それを目にしたアルフは、瞬時に悟ったらしい。 「・・・良かった、何とかなったんだね」 「プログラムを発動していたのは彼ではなく、ポッドを固定していた電子機器群だったわ。ユーノ君とスカリエッティが気付いて、すぐに分離する事に成功したの」 「危なかったよ。気付くのがもう少し遅れていたら、武装局員が義父さんを殺していたかもしれない」 全てではないにせよ、家族が揃った事で幾分か雰囲気が和らぎ、互いの口数も多くなる。 他の者達も同様で、総数が500人を超えた事で少なからず安堵の気配が漂っていた。 武装局員を始めとする魔導師の数も200人に達し、強力なバックアップの存在もあってか状況打破への希望が湧いてきたらしい。 だが其処に、ユーノから新たな情報が齎される。 『リンディさん、ロウラン事務官は其処に居ますか』 「グリフィス君・・・?」 ユーノからの問いに、リンディは周囲を見渡した。 目的の人物はすぐに見付かった。 既にこちらを気に掛けていたのか、彼の方から歩み寄って来るところだったのだ。 「此処に居ます。何の御用件でしょうか、スクライア司書長」 『・・・リンディさん、ロウラン事務官。レティ提督の消息についてご報告があります』 その言葉にレティは息を呑み、グリフィスは無表情に言葉の続きを待つ。 御世辞にも好ましいとは言えない予感が、リンディの脳裏を掠めた。 そして無情にも、その予感は現実のものとなる。 『セキュリティ・サーチャーがレティ・ロウラン提督の執務室にて、彼女の遺体を確認しました。現場の状況から推測するに、重火器による至近距離からの銃撃を受けたものと思われます』 瞬間、リンディは自らの呼吸が止まった事を、確かに認識していた。 直後にグリフィスの方向へと視線を投じるも、彼は無表情のまま、取り乱す事もなく佇んでいる。 どんな言葉を掛ければ、と半ば混乱する思考を廻らせるも、彼は特に目立った反応を見せる事もなく、平静を保ったまま言葉を紡いだ。 「・・・了解しました。有難う御座います、スクライア司書長」 敬礼をひとつ、彼は踵を返す。 そんなグリフィスの背を呆然と見送っていたリンディだったが、彼の進む先に待つシャリオの表情を目にし、全てを悟った。 平静を装ってはいるが、やはり彼は大きな衝撃を受けている。 自分にはそれと判らなかったが、彼女は全て承知しているらしい。 傍らのベンチへと腰を下ろしたグリフィスの傍へと佇み、項垂れるその背を静かに見つめるシャリオは、まるで母親の様な慈愛を感じさせる。 今、彼の心を慮れるのは母親の友人であった自分ではなく、幼い頃から傍にあった彼女だろう。 少なくとも今は、彼の事については自身の出る幕は無い。 『ところで、これからの行動ですが』 そんな思考を遮る様に、ユーノが言葉を発する。 見ればウィンドウの傍らに、本局の立体構造図が表示されていた。 紅く点滅するのは、現在地であるDブロック、その端。 『皆さんには、Dブロック脱出艇格納区を目指して貰います。道中の地球軍はトランスポーターの暴走により排除済みですが、システムの一部が破壊されている為に完全なサポートは不可能ですのでご留意を』 「リニアレールで移動すれば4分といったところだな。最終停車場まで行けるのか?」 『いいえ。地球軍強襲艇突入の影響により、D61区画の路線が破壊されています。其処から先は徒歩での移動になりますね』 「逆方向は? 中央区の脱出艇はどうなっているの?」 『中央・A・B・F区画はほぼ全ての接続が破壊された為、現在はいずれも独立機能しています。回復を試みてはいますが、まだ暫く掛かるでしょう。よって現在、こちらからの干渉はできず、状況は不明。そちらへの移動は危険です』 「待って、中央区の状況が不明? 市街は? 住民はどうなったの!?」 中央区の状況不明。 ユーノより齎されたその情報に、少なからぬ人数が反応した。 中央区といえば、本局に於いては生活の中心である。 本局内部12万の人間、局員とその家族が住む街そのものが、中央区には築かれているのだ。 それは単なる居住施設ではなく、広大な自然公園を含む生存空間だった。 上空にはホログラムによる空が拡がり、小規模ながら生態系が存在し、ビルやショッピングモール等の建造物が建ち並ぶ。 次元世界に浮かぶ巨大艦の内部とは到底信じられぬ、クラナガンの縮小版とも云える街が3つ、階層状に築かれているのだ。 最下層の第1階層から順に、自然区・居住区・商業区が建造されている。 特に、居住区には局員の家族7万人が生活しており、彼等の生活を支える為に4000人が商業区に常駐していた。 即ち、少なくとも74,000人の民間人が、中央区には存在している筈である。 だと、いうのに。 『脱出艇の射出は観測されていません。システムが完全ではないから、これが本当に正しい情報とは言い切れないけど、もしそうなら誰も中央区から脱出していない事になる』 「そんなっ!?」 『民間人が生存している事は確実です。中央区にはかなりの数の武装局員が存在するし、地球軍にしても居住区に侵攻するメリットは無い筈。バイドによる汚染も・・・』 『そうでもないみたいですけれど』 唐突に、クアットロの声が通信に割り込む。 誰もがウィンドウへと視線を釘付けにされる中、非情な報告が発せられた。 『E19から8までの区画で、バイド係数の上昇を確認。どうやら汚染は中央区へと近付いているみたいですねぇ』 「な・・・」 『それとC1から7までの区画で異常振動を観測。魔力反応が多数に、戦闘によるものと思われる轟音も未だに響き続けています。多分、バイドか地球軍が局員と戦闘を行っているんじゃないですか?』 その報告に、リンディは絶句する。 7万を超える民間人が存在する空間で、戦闘が発生したというのだ。 逃げ場の無い閉鎖空間での戦闘によりどれ程の被害が出るのか、想像する事は難しくない。 何より、クラナガンという先例があるのだ。 バイドは勿論の事、地球軍が民間人への配慮を行う事はないだろう。 周囲の局員達も、同じ事を考えたに違いない。 だからこそ、その言葉が発せられた事は当然と云えた。 「中央区へ行こう! 民間人を助けなければ!」 「まだ戦っている連中が居るんだろう!? 援護に向かうべきだ!」 「中央区を奪還して脱出艇を確保すれば・・・」 展開された数十のウィンドウを経て、一連の会話を聞いていたのだろう。 其処彼処から中央区へ向かうべきとの声が上がり始める。 非戦闘員の存在さえなければ、リンディもまたその声に賛同していただろう。 しかし今、当の彼等でさえ中央区への移動を支持している。 無理もない。 今まさに彼等の家族が、其処で危機に瀕しているのだから。 だが、続くクアットロの言葉は、そんな事を熟考する暇さえ与えてはくれなかった。 『・・・D1から9区画までのシステムが次々に沈黙している・・・警告、何かがそちらに近付いている!』 その言葉とほぼ同時、壁面に設けられたトンネルを出た5両編成のリニア車両が2本、停車場へと侵入してくる。 歓喜の声と共に、30人程が車両へと向かい始めた。 瞬間、鋭い声が飛ぶ。 「戻れ!」 それは、狙撃銃型のデバイスを携えた局員の叫びだった。 車両へと駆け寄ろうとしていた局員達が、一斉に振り返る。 トンネルの奥より響く、断続的な重低音。 「こっちに戻るんだ! 早く!」 次の瞬間に起こった事を、リンディは明晰さを取り戻した思考の中で捉えた。 トンネルより飛び出してきた、巨大な鉄塊。 薄青色に塗装されたそれは高速にて飛来し、停車中の車両、内1本へと減速もせずに衝突した。 大音響、衝撃。 巨大な質量同士が激突するその余波に、リンディは耐え切れずに床面へと倒れ込む。 嘗ては実戦に身を置いていただけあって即座に身を起こしたものの、その視界へと飛び込んだ光景は信じ難いものだった。 車両が、潰れている。 5両のリニアが大質量によって拉げ、飛び散った破片と火花とが周囲を埋め尽くしていた。 衝撃と破片を至近距離から受けた者達が其処彼処へと転がり、ある者は絶叫と共にのたうち、ある者は呻きつつ這いずり、ある者は微動だにせず血溜まりに沈む。 そして大音響により麻痺した聴覚に代わり、一定のリズムで響く重低音を全身が感じ取っていた。 皮膚は叩き付けられる重圧に緊張し、髪は場違いなまでの強風によって踊り狂う。 恐怖と混乱に満ちた念話が飛び交う中、リンディの視界へと飛び込んだ、その存在は。 「・・・ヘリコプター?」 管理局武装隊正式採用輸送ヘリ「JF704式」。 『おい、あれは実験用の機体だぞ! 技術部の格納区にあった奴だ!』 『誰が搭乗してる!? 何て操縦をしてやがるんだ、馬鹿野郎!』 『負傷者を救助しなさい! 医療魔法の使える者は壁際に!』 30人前後の負傷者及び死者が転がる中、救助活動へと移るべく動き出す局員達。 しかし数十発の直射弾が、衝突後も未だに滞空し続けるヘリへと襲い掛かった事により、その作業が実行される事はなかった。 その一方でヘリは閉鎖空間にも拘らず高機動による回避運動を実行、ローターを壁面へと擦りつつも、完全ではないにせよ直射弾の弾幕を回避していた。 すぐさま発せられる、非難の念話。 『武装隊、何をやっているの! 何で攻撃なんか!』 『あれは味方だぞ!?』 返されたのは武装局員からの念話のみならず、ウィンドウ越しのそれも含まれていた。 緊迫したユーノの声が、音声と念話の双方として総員の意識へと響き渡る。 『コックピットが潰れている! 生きた人間なんか乗っていない!』 『JF704式よりバイド係数検出、11.80! なおも上昇中!』 次の瞬間、全身を重圧が襲った。 高出力AMFによる、魔力結合阻害。 技術者の1人から、ウィンドウを通した音声での警告が飛ぶ。 『機載型高出力AMFの実験機体だ! 不完全だが、200m以内ではプログラムの展開すらできない!』 『対抗策は!?』 『とにかく距離を取るしかない! 集束砲撃か魔力密度の高い直射弾なら、AMFの最大効果域を突破できる筈だ!』 『総員、敵機から離れ・・・』 その指示が、最後まで紡がれる事はなかった。 ヘリは唐突に機体を旋回させ、出現の際とは反対のトンネルへと飛び込み、そのまま姿を消したのだ。 誰もが呆然としたまま、遠ざかる重低音と震動の源を呆然と見送る。 AMF効果域、消失。 「何が・・・」 「見逃された、って事かい・・・?」 唖然としつつ呟く、フェイトとアルフ。 その言葉は、この場の全員の総意だったろう。 1本の車両を破壊し、そのまま立ち去った輸送ヘリ。 何を目的として現れたのか、それが解らない以上は見逃されたと考えるしかなかった。 だがその予想は、すぐさま否定される。 『・・・路線管理システムの一部が沈黙・・・いや、D47区画以降のシステムが次々に沈黙していく・・・バイド係数、検出! 汚染拡大!』 『車両に乗り込んで! 早く! 中央区へ!』 トンネルの奥から轟く、不気味な衝撃音。 誰も彼もが一斉に動き出し、悲鳴と怒号が折り重なって停車場に響く。 リンディもまた、アルフと共にフェイトを支えつつ、残る車両へと向かい必死に走り始めた。 時折、背後へと振り返ってはクライドのポッドを運搬する2人が尾いてきているかを確認しつつ、数十秒ほど掛けて3人は最後尾の車両内へと乗り込む。 ユーノが呼び寄せた車両は物資輸送用であり、500人以上であっても余裕を持って乗り込む事ができた。 全員が乗り込むと同時に搬入口が閉じられ、車両は中央区へと向けて加速を始める。 そして、負傷者の呻きと指示を飛ばす声が響く中、リンディの傍らに新たなウィンドウが展開された。 『中央区との接続が一部復旧。リンディさん、中央第5・第8魔力炉を確保しました。供給ラインをそちらに繋ぐので、適当な人員に接続をお願いします』 「分かったわ」 ユーノの言葉に応を返すと、リンディは周囲の武装局員、その全てのデータを表示する。 それらの中から「AC-47β」非所持の人員を選別すると、更に高ランクの魔導師を2人ほど選出した。 しかし本人達に連絡を取った結果、2人が先程の負傷者の中に含まれている事が判明。 リンディは集団の纏め役となっている数人と短く議論を交わした後、軽く息を吐きつつ背後へと振り返る。 「アルフ」 「何だい?」 フェイトの具合を確かめていたアルフは、リンディの呼び掛けに顔を跳ね上げた。 少しでも長くフェイトの傍に居たいであろう事はリンディにも理解できたが、しかしその内心を押し殺して用件を告げる。 「ユーノ君が中央区の魔力炉を確保したわ。でも、此処には大量の魔力を扱える攻勢特化の余剰人員が無いの。だから・・・」 「攻撃は「AC-47β」を持っている連中に任せて、リンディとあたしは供給を受けつつ援護だね。了解」 だがアルフは、リンディが全てを言い切るまでもなく、要請の内容を正確に把握していた。 言葉もなく佇むリンディの目前で、彼女は新たに展開したウィンドウ上に指を滑らせると、魔力供給回路の接続完了を告げる。 「終わったよ・・・何だい、リンディ。ぼうっとしちゃってさ」 「いえ・・・」 アルフの言葉で我に返ったリンディは、すぐさま自身も魔力供給回路の接続作業を開始した。 本来ならば山の様な数の手続きを踏む必要のある作業だが、ユーノとクアットロが気を利かせたのか、1分と掛からずに全ての作業が完了する。 リンカーコアを通し、全身に漲る膨大な魔力。 背面からは余剰魔力蓄積の為の光る羽根が出現し、その表面から幻想的な光を放つ。 その気になれば周囲一帯を消し飛ばす事さえ可能であろう程の力を得て、しかしリンディの胸中を満たすのは心強さではなく、際限の無い不安ばかりだった。 だが、その不安は新たな通信によって和らぐ。 『こちら第7管制室。新たにEブロック第1予備魔力炉、中央第3魔力炉の制御を確保しました。既にシグナムとアコース査察官が接続を完了、これよりそちらに対する攻性支援を行います』 「了解した・・・助かるよ、スクライア司書長」 『2人はシステムを用いた間接戦闘に不慣れな為、支援は通常行使とほぼ同様の魔法による攻撃手段に限られます。一応、こちらでもイメージを付加しますが、炎と犬型の魔力集束体は味方なので注意を・・・』 「おい、居住区からの通信だ!」 ユーノからの通信に局員の1人が答える中、唐突に別の局員が声を上げた。 彼が放った言葉にほぼ全員が反応し、無数のウィンドウが展開される。 リンディもそれに倣い、アルフ、そしてフェイトと共に、流れ出る音声に耳を傾けた。 『・・・こちら・・・応答・・・居住区、市街・・・攻撃・・・』 「駄目だ、雑音が酷過ぎる。管制室、そちらで通信状況を回復できないか」 『少し待って下さい・・・これで良い筈』 『聞こえますか!? 1046から接近中のリニア! すぐに離脱を!』 通信状況、回復。 車両がトンネルから巨大な空間、第2階層内部へと飛び出し、窓から差し込む眩い光に眼が眩む。 そして、同時に飛び込んできた言葉が、リンディの意識を凍て付かせた。 『区画全体が崩落します! お願い、離脱して!』 頭上に拡がる、第2階層の人工の空。 其処から降り注ぐ人工の陽光に目が慣れるや否や、窓越しに信じ難い光景が視界へと飛び込んだ。 「・・・嘘だろ」 それは、誰の言葉だったか。 リンディには、それを確かめる余裕すら無かった。 只管に眼前の光景、理解の範疇を越えたそれを眺める以外に、採り得る行動など無かったのだ。 その、余りに常軌を逸した、現実のものとは思えぬ光景を前にして。 空に「穴」が開いていた。 人工の空に、漆黒の空間。 直径が数百mにも達するその「穴」が実に4つ、作り物の蒼穹に漆黒の闇を穿っていた。 商業区のビルが数棟そのまま落下してきたのか、「穴」の直下は大量の瓦礫と粉塵に覆われている。 第3階層崩落、第2階層へと落下。 大地が「焔」を噴き上げていた。 空と同様に穿たれた巨大な「穴」から、赤黒い「焔」が巨大な柱となって立ち上っている。 「穴」の淵に建っていたビルが、僅かに傾いたかに見えた、次の瞬間。 そのビル、更には隣接する1棟までもが、巨大な力によって「焔」の中へと引き摺り込まれた。 第2階層崩落、第1階層へと落下。 「階層が・・・崩壊している・・・!」 「そんな! 階層構造は破壊できる硬度や厚さじゃない筈・・・!」 『第7管制室より警告! 第1階層・自然区全域、異常高温! 階層全体が炎に沈んでいる! 現在2500℃!』 『こちらクアットロ、第2階層全域で温度上昇を確認! 現在53℃、なおも上昇中! 耐熱遮断障壁が保ちません! 第2階層底部が融解を始めています!』 リニアが居住区内を疾走する間にも、周囲には頭上よりビルそのものが降り注ぎ、また別の個所ではビルの一群が大地の下へと沈み込み姿を消す。 更には小規模から大規模なものまで爆発が頻発し、魔力光の炸裂と誘導型らしき質量兵器の弾体が曳く白煙の線が中空を埋め尽くしていた。 その光景は地球軍の侵入を意味していたが、同時に局員の生存をも示している。 すぐさま、全方位通信回線が開かれた。 飛び込む音声は、生存者達の叫び。 『第6避難所は全滅! 全滅だ! みんな死んじまった! 化学兵器だ! 畜生、ケダモノどもめ! 化学兵器で武装した地球軍部隊が居るぞ!』 『こちら2103! 現在地、市街4区2-7! 地球軍部隊の撃破に成功した! この地区の地球軍は全滅だ!』 『誰か、誰か聴こえますか!? こちら避難所・・・第10、いえ、第11避難所です! 地球軍に出口を封鎖されました! 現在、約1800人が避難しています! 室温が上昇中、既に68℃に・・・お願いです、早く救援を! もう死者が出始めているんです! 誰か、誰か助けて・・・』 『無人清掃車が民間人を襲っている! メンテナンスシステムもだ! 今は地球軍と交戦しているが・・・奴等・・・奴等、捕獲した人間を破砕機に放り込んでやがる! くそ、くそ! 何て事だ! 人間を砕いてやがる!』 『良いぞ、地球軍残党が7区1-1のビルに集結中だ! ビルを包囲しろ! 建物ごと吹き飛ばせ!』 『2区2-7から4-3、連鎖崩落! 地球軍が巻き込まれている!』 『11区の壁面に肉腫が・・・スフィアだ! オートスフィアが出現しました! 肉腫から魔導弾の発射を確認! 侵食域が拡大しています! バイド係数、更に増大!』 爆発と崩落、射撃と砲撃の轟音が紛れる中、怒号が幾重にも折り重なる。 絶望に叫ぶ声、歓喜に沸く声、恐慌に喚く声。 それらが念話・通信として飛び交う中を、リニアは常と変らぬ速度で以って駆け抜ける。 そして状況はリンディ達を、傍観者としての立場に留め置いてはくれなかった。 『運行中のリニア車両! ヘリが後方に迫っているぞ!』 その言葉が終るや否や、無数の光条が車両天井部を撃ち抜く。 極限まで高密度集束された魔力砲撃。 ユーノのそれよりもやや淡い緑、そして褐色の障壁によって構築された2重の防御壁に阻まれ、それらの矛先が局員へと至る事はなかった。 しかし、その事実にも拘らず砲撃が止む事はなく、逆に機銃の如く連射される光条が虫食いの様に無数の穴を天井部へと穿ちゆく。 その執拗な連射を前に、魔力が尽きる事さえないものの、出力端子となっているリンディ等の身体に苦痛が奔った。 「く、う・・・っ!」 「ユーノ、君・・・!」 『援護します、伏せて!』 次の瞬間、車両外部が爆炎に覆われる。 シグナムによる、魔力の過剰供給を用いた空間爆破だ。 感知した魔力からして、アギトとのユニゾン状態にあるらしい。 膨大な魔力の爆発を感じ取ったリンカーコアを通し全身が悲鳴を上げ、更に直前に伏せた身体を衝撃波が打ち据えた。 鼓膜が破れんばかりの破裂音と全身を叩く強風に、天井部が吹き飛んだのだと理解するより早く、続く地鳴りの様な重低音に素早く身構える。 完全に吹き飛んだ天井部の先、疾走する車両の200mほど後方に、あのコックピットの潰れたJF704式が滞空していた。 明らかにこちらを追跡している。 「リンディ、上!」 アルフの警告。 咄嗟に障壁を展開すると、再度頭上から襲い掛かった砲撃が褐色と緑の壁に弾かれる。 障壁越しに見上げれば、滞空するオートスフィアの群れが視界へと飛び込んだ。 それらは散発的にリニアレールの路線上へと配置され、車両の通過に合わせて砲撃を放つ。 どうやら先程の焔は、あのオートスフィア群の一部を狙ったものらしい。 次々と襲い来る砲撃に、リンディは焦燥を押し隠しつつ鋭く叫んだ。 「アルフ、暫く時間を稼いで!」 「了解!」 結界を解除、ディストーション・フィールドの発動準備に入る。 その作業すらも、膨大な処理能力を誇るユーノと本局データバンクからのバックアップにより、僅か5秒程で発動段階へと到った。 すぐさま、アルフへと声を飛ばす。 「アルフ!」 「はいよ!」 アルフの展開していた障壁が消失すると同時、入れ替わる様に車両上部へと空間歪曲が出現。 可視化した揺らぎが降り注ぐ砲撃を呑み込み、その全てを片端から掻き消してゆく。 高ランク魔導師であるリンディが、更に魔力供給を受けた上で展開したフィールドだ。 新型とはいえオートスフィア程度の砲撃では、万が一にもその防御を抜く事はできない。 その間に周囲では、後方より接近するJF704式に対する迎撃が開始されていた。 直射弾と集束砲撃が薄青色の機体へと襲い掛かり、高出力AMFによってその威力を減じられながらも機体表面を削りゆく。 だが、ヘリは怯まない。 回避行動を取るどころか、更に速度を上げてリニアへと接近してくる。 敵機は飽くまで輸送ヘリであり、AMF以外にこれといった武装を施されてはいない筈だが、しかし危険な事には変わりがない。 攻撃がより一層に激しさを増し、更にシグナムの炎と局員に対してのみ可視化されたヴェロッサの「無限の猟犬」がヘリへと襲い掛かる。 しかし、いずれにしてもAMFの効果範囲内へ侵入すると同時に減衰を始め、決定的な損傷を与えるには至らない。 幾ら高出力とはいえ、余りに異常に過ぎる魔力結合阻害効果。 どうやら汚染によって、安全回路が完全に破壊されているらしい。 今やあのJF704式は、次の瞬間には魔力暴走による爆発を起こすとも知れない、制御できない爆弾の様な存在なのだ。 局員の間に、焦燥を含んだ念話が奔る。 『駄目だ、魔力弾が減衰してしまう! 何か構造的弱点は無いのか!?』 『ヴァイス陸曹、何か知りませんか!?』 『テール・ブーム側面の排気口を破壊できれば、トルクを相殺できずに墜落する筈なんだが・・・誘導操作弾じゃAMF効果域を突破できないだろうしな・・・』 『不味いわ、フィールドが!』 念話が交わされる間にもリニアとヘリの距離は縮み、徐々にAMFの効果がリンディ達にも影響を及ぼし始めた。 そしてあろう事か、ディストーション・フィールドまでもが綻び始める。 空間歪曲の範囲が、明らかに狭まり始めたのだ。 このままでは未だ続くオートスフィア群からの砲撃を、直接的に受ける事となってしまう。 だがそんな中、クアットロからの通信が入った。 『ウーノ姉様、そちらで車両のコントロールを掌握できます?』 『・・・20秒程あれば』 『では、お願いしますね。それと皆さん、何かに掴まっていた方が宜しくてよ?』 その会話の内容に、リンディはスカリエッティ等が座していた方向を見やる。 彼女の視線の先では、ウーノが壁際のコンソール前へと佇んでいた。 信じ難い速さでキーウィンドウ上に踊る指を見つめていると、今度はスカリエッティからの警告が意識へと飛び込む。 『さて、急停車するぞ。そろそろ準備した方が良いのでは?』 その瞬間、リンディはフェイトを庇う様にその上へと覆い被さった。 視線だけは頭上へと向けたまま、同じくフェイトへと寄り添ったアルフが再度、障壁を展開する様を視界へと捉える。 直後、鼓膜を劈く金属音と共に車両へと急制動が掛かり、同時に30を超えるデバイスが頭上の空間へと向けられた。 そして、車両が急減速した結果、ヘリは一瞬にしてその上方へと躍り出る。 AMFによる重圧が急激に増すと同時、ヘリの至近距離に展開していたディストーション・フィールドは霧散し、アルフの結界が綻び始めた。 防御手段を奪われれば、後は砲撃の餌食となる以外に道は無い。 だが次の瞬間、轟音と共に頭上のヘリが「潰れた」。 砕け散る緑光の壁、飛び散る魔力光の残滓。 メインローターの一部が捻じ曲がり、既に圧壊していたコックピットが更に小さく押し潰される。 歪んだ機体は其処彼処から大小の破片を零し、亀裂と火花、赤々とした炎が一瞬にして表層を覆い尽くす。 金属が圧壊する巨大な異音が容赦なく鼓膜を叩き、飛び散る無数の破片がAMFにより減衰した障壁へと殺到した。 「まだ・・・!」 だというのに、ヘリはまだ飛んでいた。 減衰していたとはいえ、リニア進路上の空中に展開されたユーノの障壁、強固さでは並ぶ物の無いそれへと高速で突入し、機体各所より炎を噴き上げつつも未だ飛行している。 フレームが歪み十分な安定性すら確保できない状態となっても、メインローターとノーター・システムはその役目を放棄してはいなかった。 しかし、機内のAMFシステムはそうではなかったらしい。 元々が繊細な魔法機器である上に、耐久性を考慮されていない試作品だったのか、フレームの歪みに耐え切れず損壊した様だ。 全身を圧迫していたAMFの重圧が消失し、同時に鋭い念話が局員の間へと奔る。 『撃て!』 連射される直射弾、簡易砲撃。 シグナムの炎が機体を貫き、ヴェロッサの猟犬がテール・ブームを喰い千切る。 メインローターのトルクにより回転を始める機体へと更に大量の直射弾が撃ち込まれ、爆音と共にハッチが弾け飛んだ。 業火を噴きつつ、機体の高度が下がる。 そして、ユーノの警告。 『伏せて!』 視界へと飛び込んだユーノの障壁は、これまでとは異なる形で展開していた。 地表に対して垂直ではなく、水平に展開されていたのだ。 ヘリは回避する事もできずに障壁へと突入、鋼を引き裂く異音と共に機体が上下に分断される。 切断された機体下部は車両を掠めて路線へと接触、高架橋を破壊して市街へと落下した。 残る機体上部は回転運動の激しさを増し、更に路線に沿って建ち並ぶビルの壁面へと接触して大量のガラス片を周囲へと撒き散らす。 『やった!』 誰かが、念話で叫んだ。 ヘリは制御を失い、更に大きく速度を落として車両から離れ始めている。 あの様子からして、数秒後にでも墜落するだろう。 リンディも、そう信じて疑わなかった。 数瞬後、機体切断面より現れたそれを見るまでは。 「な・・・」 反応する間も無かった。 切断面から出現した、巨大な1本の触手。 有機的柔軟さと骨格の強固さを併せ持った赤黒い外観のそれは、車両とヘリの間に存在する40m程の距離を一瞬にして詰め、先端が4つに分かれると其々が天井部を失った車両へと突き立ったのだ。 異様な光景と衝撃に目を見開くリンディ達の眼前で、床面を抉ったそれは徐々に有機的な組織を構造物へと侵食させ始める。 鋭い、悲鳴の様な声が上がった。 「前へ! 逃げて!」 それがフェイトの声だと理解した時には、既にリンディはアルフと共に駆け出している。 周囲に展開していた局員やスカリエッティ達も、前部車両との連結部を目指し走っていた。 そして全員が4両目へと移ると共に、ベルカ式の武装局員が自身の槍型デバイスに魔力を纏わせ、連結部を切り裂く。 「これで・・・」 彼が言わんとした言葉を、最後まで聞く事はできなかった。 振動と共に5両目が離れ行く様を見つめる中、破壊された連結部から離れようとしたその武装局員は、天井部を貫いて侵入してきた触手により頭頂部から2つに分たれたのだ。 その惨状に凄まじい悲鳴が上がり、頭上では天井面へと血管状の組織が奔り始める。 だがユーノ達が、その状況を黙って見ている筈がない。 忽ちの内に障壁とバインド、各種結界と炎、無数の猟犬が侵食された天井部を吹き飛ばし、襲い来る異形の姿を露わにする。 「さっきのヘリ・・・あれが!?」 「節操の無い化け物だね、バイドってのは!」 メインローターは未だ回転していた。 機体上部もほぼ原形を保っている。 だが、それは最早ヘリではなかった。 機体下部からは6本もの触手が伸び、内4本が切り離された5両目に、残る2本がこの4両目へと打ち込まれている。 それらを用いて機体を固定する事によって、バイド化したJF704式はトルクに抗っていた。 素人目に見ただけでも触手の総質量は、明らかに機体のそれを超えていると解る。 しかし増殖は未だ止まらず、無数に枝分かれした極小の触手群が、最寄りの局員達へと一斉に襲い掛かった。 「うあ・・・げ、ひ!」 「ぎ、い・・・ぎッ・・・!」 「嫌、嫌・・・! ぎ、う・・・ぅ・・・ッ」 『退がれ、退がるんだ! 巻き込まれる!』 悲鳴に告ぐ悲鳴。 それらが絶叫へと変化する前に、触手の群れは哀れな犠牲者達を津波の如く呑み込んでいた。 縫い針ほどにまで細分化した数千、数万もの触手が銃弾さながらの速度で伸長し、それらの先端が局員の身体を貫いてゆく。 人体を貫通したそれらは更に伸長、先端が床面に達し構造物と同化すると同時に増殖を停止。 植物の根、或いは神経ネットワークの如く張り巡らされた触手の枝の中、全身を貫かれた局員達の影が網状となった赤黒い触手の中に蠢く様は、他の生存者達の正気を乱すには十分に過ぎた。 そして無数の悲鳴が上がる中、更なる狂気じみた事実が発覚する。 『バイタルが・・・バイタルが残ってる!』 『何の事だ!?』 『デバイスのバイタルサインが残っているんだ! 生きてる! 彼等はまだ生きてるぞ!』 『何を馬鹿な・・・!』 『見て!』 局員の1人が、触手の一部を指した。 反射的にその先へと視線を滑らせたリンディの視界に、褐色の制服が映り込む。 数十本もの極小の触手に貫かれた、局員の腕。 僅かずつ滲み出す血液に、褐色の制服が徐々に紅く染まりゆく。 その末端、同じく微細な触手に縫い止められた五本の指が、確かに動いた。 当然の帰結として、その腕の付け根へと視線を移動した結果。 「ッ・・・!?」 「見ちゃ駄目だ、フェイト!」 アルフの叫び。 もう少しそれが発せられる瞬間が遅ければ、叫んでいたのはリンディ自身だったろう。 尤もそれが、果たしてフェイトへの注意であったかは怪しいが。 「何て・・・事・・・」 信じられなかった。 否、信じたくなかった。 こんな事実を認識したところで、何ができるというのだ。 彼等は、まだ「生きて」いた。 全身を隈なく、それこそ四肢の先端から胴体、顔面から頭頂部に至るまでを数百もの極小の触手によって貫かれながらも、確かに「生きて」いたのだ。 それら触手の貫通する箇所から少しずつ血液を滲ませながら、眼球から鼻腔内までを貫かれながら、そして恐らくは心肺から脳髄までをも侵されながら。 彼等は「死ぬ」事もできずに「生かされて」いた。 くぐもった悲鳴混じりの呼吸音を漏らし、自らの身体を襲う異常な感覚に恐怖の涙を零し、触手によって貫かれた傷という傷からあらゆる体液を溢れさせながら。 「あ・・・ぁが・・・ぁ・・・げ・・・」 「ひ・・・!?」 そして、最も近い位置に囚われていた1人、その奇跡的に触手の刺突を受けなかった右眼球が動き、リンディ達を瞳の中心へと捉えた。 瞬間、リンディと腕の中のフェイト、傍らのアルフの身体が小さく跳ねる。 小刻みに揺れ動く瞳とか細い呼吸音、動かそうと必死に試みては傷を拡げ血液を噴き出す五本の指。 その局員が何を求めているのか、想像する事は容易だった。 彼は助けではなく、救済を求めているのだ。 「死」という名の救済を。 「あ・・・ああああぁぁぁッ!?」 「フェイト!?」 「フェイト、見ないで! 落ち着いて、目を閉じて・・・!」 『何をやっているんです! 逃げて下さい、統括官!』 『畜生、畜生! どうしろっていうんだ、どう助けろっていうんだ、畜生!』 『また伸び始めた・・・増殖が始まったぞ! 退がれ!』 肉体的に問題はなく、魔力の供給も問題なく行われている。 にも拘らず、リンディは限界が近い事を認識していた。 再度ディストーション・フィールドを展開し、触手に取り込まれた犠牲者達と生存者達の間を遮断しながらも、彼女の内心はこれまでにない焦燥と諦観とに染まりゆく。 炎が触手を焼き、猟犬がヘリ本体を貫通し、結界が触手の殆どを切り裂く様を視認してなお、その認識は揺らぐ事がなかった。 果たして、何時まで保つだろうか。 自身の、フェイトの、アルフの、延いてはこの場に存在する全員の精神は。 ただでさえ、実戦の場は精神を消耗する。 それに加えて家族の安否不明、地球軍による殺戮、そしてバイドによるこの惨劇だ。 精神に異常を生じる者が現れたとしても不思議は無い。 寧ろこの状況で取り乱す者は居るものの、未だに深刻な精神障害を生じる者は居ない事が奇跡的なのだ。 先程の光景は、人の心を破壊するには十分に過ぎる。 「死ぬ」事ができるならば、個人差はあれど納得はできるだろう。 如何なる要因かの差異はあれど、生ある者はいずれ「死ぬ」のだから。 だが、死すべき時に「死ねない」、死が救済となる場面に於いて「死ぬ事を許されない」という可能性を、現実の光景として見せ付けられたなら? 彼等は、あの触手の犠牲者達は、明らかに致命傷を負っていた。 全身を数百もの触手に貫かれ、口腔内へと侵入したそれらによって舌から食道、気道の奥までをも貫通されて。 にも拘らず、彼等は「生きて」いた。 死ぬ事も許されず、生ある事が苦痛以外の何ものでもない状況へと陥れられた状況で、自らを破滅へと誘った存在によって「生かされて」いたのだ。 安楽たる死へと至る事もできず、自身を貫く苦痛の源、醜悪な生命体によって生き続ける事を強要されるという恐怖。 それを齎す脅威が眼前に存在しているというのに、正気を保ち続ける事ができるものだろうか。 『その車両から出ろ! 焼き払うぞ!』 シグナムからの通信。 上空では無数の猟犬が宙を翔け回り、展開したオートスフィア群を片端から喰らい尽くしている。 周囲の市街にはユーノが展開したらしき巨大なラウンドシールド、サークルプロテクション、スフィアプロテクションが乱立し、バイド・地球軍双方の攻撃から局員と民間人を守護していた。 それらを視界の端へと捉えながら、リンディは再度アルフと共に、フェイトを支えつつ3両目を目指して走る。 その必死の逃走を遮ったのは、ユーノからの警告。 『第1階層隔壁面F、完全崩壊! R戦闘機、居住区侵入!』 リニア進行方向、右前方に立ち昇る赤々とした焔。 第1階層・自然区とこの第2階層・居住区を隔てる階層構造に穿たれた巨大な穴。 溶鉱炉と化した第1階層、魔女の大釜へと繋がるその只中から、1つの影が浮かび上がる。 濃緑色の機体、緋色のキャノピー。 主翼に相当する機構は存在せず、見るからに重装甲のエンジンユニットらしき構造が左右に突き出している。 機体後部には尾翼の間に姿勢制御用らしき左右一対のユニットが迫り出し、其々の後方からは更に噴射炎の青白い光が僅かに零れていた。 そして何より、機体下部に据えられた箱型のユニット。 射出口らしき無数の穴が並んだ平面を機体前方へと向けるそれは、明らかに大規模破壊を目的とした特殊重兵装であった。 「来やがった・・・!」 アルフの呟きは、この中央区に存在する管理局側の人間、その全ての心を代弁しているだろう。 中央区はバイドによる汚染が進行し、更に展開する地球軍は局員の抵抗により少なからぬ被害を受けているのだ。 この状況下で、中央区へと侵入したR戦闘機が取る行動とは何か。 『R戦闘機、波動砲充填開始!』 リンディの予想は的中した。 地球軍はバイド諸共、本局の人間を殲滅するつもりなのだ。 それを理解した瞬間、彼女は叫ぶ。 「緊急停車ッ!」 複数の人物が、その叫びに応えた。 リンディ、アルフ、ユーノの障壁が其々に角度を変えて空中へと展開され、それらは一瞬にして触手群を切り裂き車両とヘリを物理的に切り離す。 ほぼ同時にウーノが非常用の摩擦・空気抵抗複合式緊急停止機構を作動させ、更に武装局員が自身のアームドデバイスを床面へと突き刺し、車両の前進運動に急制動を掛けると、ヘリは先程と同様に車両直上へと躍り出でた。 更にトルクによる回転運動を開始し、制御を失ったまま車両を追い抜く。 リンディは周囲の者と同じく、急制動によって身体を3両目と4両目を隔てる壁面へと打ち付けつつ、その様を見届けた。 直後、R戦闘機が滞空していた周辺で光が爆発。 そしてほぼ同時に、車両を追い越したJF704式の姿が、幻影の様に掻き消える。 轟音、衝撃。 「ッ・・・!?」 アルフが、フェイトが何かを叫んでいる。 だが、聴こえない。 聴覚が麻痺する程の轟音と、床面へと倒れ込んだ身体を容赦なく襲う衝撃を前に、互いの声を聴き止める程の余裕などありはしなかった。 念話も同様で、とても言語の認識などしている暇は無い。 そんな状態が数秒ほど続いた後、全ての圧力が消失した事を確認し、漸くリンディは身体を起こした。 周囲の局員達も、既に立ち上がっている者が殆どだ。 車両は完全に停止し、纏わり付く外気は今更ながら異様に高温となった大気を認識させる。 燃えゆく市街を呆然と見詰めていると、ウーノからの報告が飛び込んできた。 『緊急停止機構がロックされました。解除は不可能・・・前方の路線に重大な異常が発生した様です』 『異常?』 ウーノの報告を受け、1人の局員が吹き飛んだ壁面の残骸を飛び越え、前方の様子を窺う。 その間、リンディは何とか自力で立ち上がったフェイトの身を気遣い、更にユーノとの通信を行おうと新たにウィンドウを展開していた。 そんな彼女の意識に飛び込んできたのは、理解できないと云わんばかりの局員の声。 『路線が・・・路線が無くなってる』 前方の車両から、幾つもの悲鳴が上がる。 それは恐怖の、というよりも悲嘆を色濃く含むものだった。 リンディはアルフへと視線をやり、フェイトは任せろとの意思を示す。 アルフは頷きをひとつ返すと、他の局員と共に車両外へと飛び出した。 「義母さん・・・?」 「大丈夫。大丈夫よ、フェイト・・・」 不安げに声を零すフェイトを、リンディは優しく抱き締める。 被曝と化学物質汚染により疲弊した身体が、彼女を常ならぬ不安の最中へと落とし込んでいるのだろう。 何時になく弱気な義娘を気遣い、髪を撫ぜてやるリンディ。 その傍ら、唐突にウィンドウが開き、切迫したアルフの声が木霊した。 『リンディ、聴こえるかい!?』 「聴こえるわ、アルフ。路線はどうなの?」 『それどころじゃないよ!』 続くアルフの言葉、そして映し出された光景に、リンディの意識が凍り付く。 同時に、彼女の腕の中のフェイトまでもが全身を強張らせたが、それに気付く事は終ぞなかった。 リンディの意識を釘付けにしているのは、ウィンドウ越しに映る悪夢の光景。 『街が・・・街が薙ぎ払われてる! あのヘリが居た周辺、全部だ! 路線もビルも、みんなバラバラになっちまった!』 波動砲充填音。 反射的に視線を投じた先に、あのR戦闘機が浮かんでいた。 居住区の空を悠々と漂いながら、青い波動粒子の光を貪欲に機体下部へと取り込んでいる。 周囲のオートスフィアは既に殲滅されているらしく、機体へと襲い掛かるのは地表部からの直射弾と砲撃、そして無限とも思える程に枝分かれしては壁となって襲い掛かるバイドの触手ばかり。 どうやらバイドはあのJF704式のみならず、既にこの階層全域に侵食しているらしい。 だがR戦闘機は見事な機動でそれら全てを回避すると突然、機種を反転させて地表へと向き直る。 そして先程と同じく、光が爆発した。 「うあッ!?」 思わず、悲鳴が零れる。 その強烈な閃光は、従来の青い波動粒子の光ではなかった。 黄金色の閃光が奔り、その光は巨大な奔流となって市街を襲ったのだ。 市街もろとも、バイドと局員の全てを呑み込む金色の奔流。 だがそれは、単一の砲撃などではない。 リンディは見た。 市街を襲う光の奔流の正体、無数の小さな光弾を。 あの波動砲は強力な単発の砲撃ではなく、高密度凝縮された何らかのエネルギー弾を極高速連射するタイプだ。 機体下部のユニットより薙ぐ様にして発射されたそれらは、ホースから放たれる水飛沫の如く市街へと押し寄せ、弾体軌道上の全てをコルク材の如く貫き崩壊させたのだ。 時間にすれば2秒にも満たない時間だが、その間に放たれる弾体数は万を優に超えているだろう。 でなければ、たった2度の掃射で1区画を完全に崩壊させる事など、できる筈がない。 掃射を受けたビル群はいずれも一瞬にして無数の穴を穿たれ、あるものは自重に耐え切れず崩壊し、またあるものは異常な密度の弾幕によって徹底的に細分化されて四散した。 リニアレールの路線も、あのバイド化したJF704式を砲撃した際に巻き込まれ、跡形も残さずに削り取られたのだろう。 ヘリが掻き消えた様に見えたのは、錯覚などではない。 あの弾幕に呑み込まれ、形ある物を何ひとつ残す事もなく、完全な塵と化したのだ。 否、弾体形成に波動粒子が用いられているであろう事を考えれば、塵すらも残ってはいない可能性すらある。 そして地球軍はそんなものを、無数の局員とその家族が存在する居住区へと、些かも躊躇う事なく撃ち込んだのだ。 当該区画に存在していた局員及び民間人、彼等の生存は絶望的だろう。 「何て・・・事を・・・!」 『どうやら彼等は、この本局内で滅菌作戦を行う腹積もりの様だ。汚染の事実があるのなら、局員の殲滅にも正当性が生じる』 思わず呟いた言葉に返す声。 スカリエッティだ。 彼が返した言葉の内容に、フェイトが感情も露わに反論する。 「これが・・・この蛮行が正当ですって!?」 『ある意味ではそう捉える事もできるというだけだ。何も私自身がそう思っている訳ではない』 「だからって・・・!」 『其処までだ! 8区上空、2機目の侵入を確認!』 冷静に言葉を紡ぐスカリエッティ、感情的な反応を返すフェイト。 今にも論戦を始めそうな2人の間に割り込んだのは、緊迫したユーノの声だった。 彼の言葉に従い、8区上空の空間を見やる。 其処に2機目のR戦闘機、その姿があった。 群青の機体、漆黒のキャノピー。 これまでに確認されたR戦闘機の外観としては、オーソドックスな部類に該当するだろう。 だがリンディは、その機体の細部に見覚えがあった。 それはフェイトも、多くの武装局員も同様だろう。 「R-9Leo」。 捕虜となったR戦闘機パイロット達より齎された情報に基づき判明した、R戦闘機の1機種。 嘗ての地球軍による襲撃の際に、本局内部へと侵入した3機のR戦闘機、内1機。 Sランク1名を含む67名の魔導師、彼等を塵も残さず消し去った、忌まわしき機体。 波動砲の出力を犠牲に、フォースを介して放たれる光学兵器全般を極限まで強化した、殲滅戦特化機体。 リンディ等の視線の先に浮かぶ機体は、証言に基いて描かれたスケッチに瓜二つだった。 恐らくは、R-9Leoの上位互換機であろう機体。 それに付属するフォースは、6本のコントロールロッドを備える異様な外観だった。 機体左右に展開したビットシステムもまた、バイド体の半面を装甲と何らかの機能を伴う機器に覆われ、更に砲口までもが設けられている。 数瞬後、そのフォースの先端とビットシステムの砲口に、微かな青い光が宿った瞬間。 反応する暇すら無く、視界を強烈な光が覆い尽くした。 眼窩の奥に鋭い痛みを覚え、目を覆って床に伏せた事は認識している。 衝撃が全身を襲った事も、轟音によって再び聴覚が麻痺した事も理解していたが、続く生産的な行動を実行できない。 視覚を焼いた光が薄れ、痛みが薄らぐ瞬間を待つ事、それだけが自らの意思で選択し得る行動だった。 「な・・・あ・・・!」 『リンディさん! リンディさん、応答して下さい! リンディさん!?』 ユーノの声。 光が薄れ、痛みが消えた。 治癒効果を備えるラウンドガーダー・エクステンド、それが自身を含め全ての局員を覆っている事に気付いたリンディは、それまでの疲労が嘘の様に身体を起こした。 飛び交う念話を正常に拾い始めた頃、リンディは自身の身体が健在である事を確認し、市街へと視線を投じる。 だが、彼女の視界に映る光景は、既に一変していた。 街が無い。 ビルも、第1階層から噴き上がっていた炎すらも、全てが掻き消えている。 群青のR戦闘機が青い光を纏った事は覚えているが、その後に何が起こったのか、まるで理解できない。 何もかもが嘘の様に、抉れた階層構造物だけを残して消えている。 一部始終を観測していたであろうユーノへと詳細を尋ねようとするも、それより早く複数の声が悲鳴の如き叫びを返した。 『高架橋を降りて! 階層構造内に逃げるんです、早く!』 『6区、掃射型波動砲により壊滅! 敵機、再度充填を開始!』 『こちらで時間を稼ぐ! 猟犬の後を追え!』 ユーノ、クアットロ、シグナムの叫び。 視線の遥か先で、群上の機体が機首をこちらへと向けた。 だが、シグナムの炎が襲い掛かった事により、進路を変更すると異なる方向へと飛び去る。 彼方で炸裂する、青い光。 虹色の燐光が奔り、遅れて轟音が届く。 『くそ、迎撃された!』 苦々しく呻くシグナム。 だが、それに答える暇は無い。 彼方に点る、赤い光。 そして、赤い光条が大気を打ち抜いて飛来した。 周囲には眩い燐光を纏い、漂う粉塵をすら触れる片端から消滅させてゆく。 隣接区のバイド触手群を狙ったそれは車両上部を掠め、照射箇所の構造物を瞬時に溶解・気化させた。 熔鉄が降り注ぎ、気化した金属が路線上の生存者達を身体の内外から焼き尽くす。 絶叫が上がる中、リンディは障壁を展開しつつ、車両外より戻ったアルフと共にフェイトを支えて走り出した。 一分、一秒でも早く高架橋を降りなければ、あの常軌を逸した攻撃に巻き込まれて消滅する事となるだろう。 「リンディ、あれ!」 車両外へ出ると同時に、アルフが後方を指した。 R戦闘機が、こちらへと戻ってくる。 そのフォース先端には青く輝く波動粒子が集束しており、明らかに波動砲発射態勢へ移行していると判る。 そして砲撃が放たれるが、それはリンディ等の頭上を突き抜け、彼方に展開するバイド群の中央へと着弾した。 ビルが2つ、弾体の炸裂に巻き込まれて崩壊する。 これまでに確認された機体の砲撃と比して、明らかに低出力だ。 ならば構造物を盾に、何とか逃げ切れるかもしれない。 そう、考えた時だ。 『高速飛翔体、接近!』 警告と共に、燐光を纏って飛来した2つの光球が、先頭車両を粉砕した。 衝撃に煽られ、リンディはフェイトとアルフ共々に吹き飛ばされる。 その視界の端を、光球が掠めて消えた。 局員の誰かが、掠れた声で叫んでいる。 『ビットだ! ビットが襲ってくる!』 立ち上がる暇は無かった。 空間が赤く光り、振動と浮遊感がリンディを襲う。 背中に触れる高架橋のコンクリートに罅が入り、次の瞬間には崩れ始めた。 そして重力に引かれるまま、リンディの身体は落下を始める。 無数の瓦礫の中、上下逆転した視界の内へと映り込むは、接近してくるフォースと2つのビット。 腕の中のフェイトを強く抱き締め、瓦礫と敵機の攻撃を防ぐ為に有りっ丈の出力で障壁を張る。 だが無情にも、瓦礫の1つが彼女の腕を直撃した。 悲鳴を上げる間もなく、フェイトの身体が腕の中から逃れ、奈落へと落下してゆく。 「フェイト!」 「義母さんっ!」 母親としての悲痛な声、義娘としての叫び。 アルフ、そして彼女に抱えられたフェイトが必死に手を伸ばす。 それに応え、リンディもまた手を伸ばそうとして。 背後での青い光の炸裂と同時、全てが漆黒に塗り潰された。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3829.html
『前方、ゲート閉鎖! 行き止まりです!』 『コンテナ、来ます! 機数、約30!』 『左へ!』 彼等は追い詰められていた。 迫り来る鋼鉄の壁、宙を翔ける鉄塊の群れ。 管理世界の人間ではなく、第97管理外世界の人間達によって宇宙空間へと築かれた、異質な巨大建造物。 その内部を縦横無尽に走る、重金属回廊。 LV-220資源採掘コロニー、輸送システム。 巨大な循環器系にも似たその内部、生体内にて免疫機構に追われる異物の様に、彼等は逃げ惑う。 そして事実、彼等の存在はこの回廊内に於いて、異物以外の何物でもなかった。 『また行き止まりだ!』 『下! シャフトへ!』 高速で迫り来る反重力駆動式コンテナを、時に砲撃が、緑光の線が、雷光と赤光の刃が迎え撃つ。 その度に衝撃と轟音、爆炎が回廊を埋め尽くすが、それらは瞬く間に後方の闇へと消えた。 彼等もまた、高速で飛翔しているのだ。 しかしその速度は、コンテナ群のそれと比して僅かばかり劣っていた。 『また・・・!』 程なくして、無数の巨大な影がすぐ背後まで迫り来る。 鋼鉄の巨体が空気を切り裂き迫る、その異音に言い知れぬ圧迫感を覚えつつも、ディードはオットーを気遣いつつ必死に飛び続けた。 双子の姉が持つISは、どちらかといえば後方支援を主とする能力であり、ディードほど高速飛行に特化している訳ではない。 故にオットーは、この場の7人の中では、比較的に飛翔速度が遅い部類に入ってしまう。 30分にも亘る高速での飛行、そして瞬間的な反転迎撃を続けている為、流石に戦闘機人である彼女達といえども疲労の色は隠せない。 他の隊員達も同様で、既に限界が近い事は明らかだ。 それはSランクの空戦魔導師である、フェイトですら例外ではない。 だからこそディードは常に、姉の様子を気に掛けていた。 慣れない継続高速戦闘、反転迎撃の連続。 傍目から見ても、オットーの疲労は限界に達していた。 肉体的なものではない。 巨大な敵性体に追走される事による重圧と、飛翔を止めてはならないという強迫観念から来る精神的な疲労だ。 戦闘機人としての概念的な呪縛より解き放たれ、漸く新たな人生を歩み始めたばかりの彼女。 ディード自身と同じく、嘗てない程の実感を伴って迫り来る死の具現を前に、彼女は明らかに恐怖していた。 嘗ての様に、戦いの中で敵意を向けられるでもなく、かといって災害の様に偶発的なものでもない。 明らかにこちらを害する現象でありながら、殺気も敵意も一切が感じられない、不気味な鋼鉄の行進曲。 それはオートメーション機構の一部、巨大なシステムに於ける通常稼働態勢に過ぎない。 回廊内に存在する無数のコンテナを、所定の施設へと輸送するシステム。 本来ならば戦闘とは無縁である筈のそれが、現状では何物にも勝る脅威となってディード等に迫り来る、その異常性。 動作する機械群に紛れた蟲は、忽ちの内に無数の歯車に巻き込まれ、その命を散らす事となる。 それは現状でのディード達も同様だ。 巨大なひとつの「機械」内部に紛れ込んだ、僅かに7つの「異物」。 今でこそ危機を凌いではいるが、いずれ遠からぬ内に圧殺される事は目に見えている。 とある目的の下に完成された大規模システム内に於いては、如何に強力な単独戦闘能力を有しようとも、余りに無力な魔導師と戦闘機人の存在。 逃げ惑う事しかできない現状と、打開の糸口さえ見出す事のできない理不尽さ、そして何より意識の根底より精神を蝕む恐怖に、ディードの呼吸は徐々に荒く変化していた。 『シャフト、下へ!』 『そんな・・・これで8回目ですよ!? 何処まで潜るんです!?』 悲鳴の様な念話の遣り取りが交わされた後、攻撃隊は回廊の突き当たり、下方へと垂直に延びる縦穴へと飛び込む。 反重力駆動式コンテナの運行路だけあって水平方向のみならず、こういった縦穴が点在しているのもこの施設の特徴らしい。 そして隊員の言葉通り、ディード達がその中に飛び込むのは、これで8回目。 当初の転移地点から見て、少なくとも1200mから1300mは降下している。 闇に覆われ、その先を覗く事の叶わぬ深淵。 何処へ続くとも知れぬ縦穴の底へと向かい飛翔しながらも、ディードは自身の身に纏わり付く強烈な圧迫感と滲む焦燥を、確かに感じ取っていた。 終わりの見えない深淵へと続く穴を、際限なく降下してゆく自身。 無限の概念にも通ずるそれに対し、意識の根底より本能的な恐怖が沸き起こる。 だがそれでも、降下を止める事はできないのだ。 後方より響く鋼鉄の行進曲が、止める事を許さない。 足を止めれば、待つのは輸送システムによる「異物」としての死だ。 止まらない、止まれる訳がない。 『下方、ゲートが!』 『急いで!』 遥か下方、薄闇の中で回廊が狭まる。 ゲート封鎖。 それが完全に閉じられるまで、あと幾許もない。 フェイトから攻撃隊員に、焦燥混じりの指示が飛ぶ。 『後方は無視して! 閉じ切る前に、早く!』 その言葉も終わり切らぬ内、攻撃隊は可能な限りの加速を以ってゲートを目指していた。 言われずとも、誰もが理解していたのだ。 此処で往く手を塞がれれば、もはや生存は絶望的であると。 「AC-47β」により増幅された魔力のほぼ全てを飛行へと注ぎ込み、肉体が許す限りの速度で以って閉じゆくゲートを潜る。 『やった!』 歓声が上がった。 間に合ったのだ。 ディードはふと振り返り、閉じゆくゲートへと視線を投じる。 そして、その違和感に気付いた。 「え・・・」 閉じゆく巨大なゲート、その向こうに広がるシャフトの壁面は、鈍いながらも光を照り返すだけの光沢がある。 ところがゲートの内側は、ゲートそのものから壁面に至るまで、全てが濃褐色に色褪せ、その表面の殆どが得体の知れない油膜に覆われていた。 非常灯の黄色の光に照らし出された構造物は、機械油と様々な化学物質により侵食され、この施設が如何に劣悪な環境を内包しているかを窺わせる。 唯1つのゲートを挿んでの、余りに異常な差異。 幾許かの損傷はあれど、明らかにメンテナンスシステムによる機能・状態維持が為されていた回廊。 経年劣化、化学物質による汚染、罅と油膜に覆われた壁面。 だが何よりもディードの意識を引き付けたのは周囲の変容ではなく、閉じゆくゲートの向こうに浮かぶ、無数の反重力駆動式コンテナ群の姿だった。 それらは一様に追跡を中断し、反転離脱を開始。 赤い光を放つコアをこちらへと向け、ゲートより離れ行く。 役目は終わったとでも云わんばかりのその機動に、ディードは薄ら寒い感覚を覚えた。 どうやらコンテナ群の制御中枢は、これ以上の追撃は不要と判断したらしい。 それ自体は喜ばしいが、裏を返せばこの先に、こちらにとってより脅威となり得る存在が待ち受けているという事か。 否、それならばまだ良い。 コンテナ群の追撃中断は、如何にも唐突なものだった。 ゲートは未だ閉じ切らず、追おうとすれば容易に通過が可能であったにも拘らず。 まるで「こちら側」へと侵入する事態を避けるかの様に、コンテナ群はその進行を停止したのだ。 そんなコンテナ群の機動にディードは、自ら達の向かう先に得体の知れない恐ろしい存在が待ち受けているかの様な、漠然とした、しかし自らの内では既に確固たる形を持った不安を覚えていた。 もはや追撃の必要はない、敵対者の運命は決した。 聞こえる筈もないそんな言葉が、彼女の意識の内へと届いたかの様に。 「何だ、此処・・・」 隊員の呟き。 ディードとほぼ同時に、一同も周囲の異様さに気付いたらしい。 各々が視線を巡らせ、口々に異常を知らせる。 侵食の進んだ重金属回廊は充満する大気すらも澱み、汚れたそれは侵入者たるディード等に重圧感を与えていた。 重々しい感覚が、呼吸器を圧迫する。 気の所為などではない。 複数種の有害化学物質が、待機中に満ち満ちているのだ。 戦闘機人特有の高度無毒化能力、そしてバリアジャケットに組み込まれた対化学・生物汚染防御機能により、致命的な汚染は避けられる。 だがそれでも高濃度汚染域ともなれば、汚染物質を完全に遮断できる訳ではない。 僅かずつながらも汚染は確実に肉体を蝕み、いずれは致命的な段階へと達する事だろう。 「何て事・・・」 呼吸器を侵す有毒物質の存在に戦慄しながらも、ディードは周囲に対する観察を続けた。 回廊を照らし出す照明は、表面を覆う油膜と同じく、汚らわしく黄ばんだ鈍い光を発している。 その為か空間そのものが、褐色のフィルターを通したかの様に、くすんだ色を帯びて見えた。 陰鬱にして末期的な空気。 決して有機的ではない、何処までも無機的に、しかし破滅的な存在感を以って迫り来る何か。 広義的に解釈するならば「死」という概念に対する、無意識の畏れとも取れるそれ。 しかしディードは、有機体である自身の精神を揺さぶる圧倒的な「死」の匂いが、この金属に覆われた回廊の一体何処から発せられているのか、見当も付かなかった。 生命体の死体がある訳でもない、血の臭いがするでもない、この無機質な空間の何処から、自身は「死」という概念を導き出したというのか。 「ディード?」 「・・・大丈夫」 何処か不安げに声を掛けるオットーに、ディードは数瞬の間を置いて声を返す。 そしてフェイトが軽く手を振って促すと、攻撃隊は底の見えない縦穴の奥へと、再び降下を開始した。 絡み付く有害な大気と汚染された壁面に囲まれつつ、遥か下方を目指し降り続ける事、約7分。 800mほど降下したところで、突如として空間が拡がる。 「やっと・・・!?」 「な・・・」 そして、その広大な空間へと躍り出るや否や、攻撃隊は1人の例外もなくその身を凍り付かせた。 彼等の眼前に拡がるは、それまでの回廊と寸分違わず、化学物質により汚染された壁面と汚れて色褪せた大気。 しかし、複数隻もの次元航行艦すら同時に格納できる程に広大な人工空間には、そんな事など問題にもならない、更に衝撃的な光景が拡がっていた。 誰もが声も無く身を竦ませる中、オットーの緊張を孕んだ声が空気を震わせる。 「R・・・戦闘機・・・こんなに・・・!」 彼等の眼前、広大な空間。 その凡そ半分を埋め尽くす様に、数十機のR戦闘機が鎮座していたのだ。 余りの光景に戦慄するディード。 そんな彼女の鼓膜を、驚愕と困惑に満ちた複数の声が叩く。 「執務官!?」 「何を・・・ッ!?」 咄嗟に振り返れば、左手を自身の正面に翳し、今にも砲撃を放たんとするフェイトの姿。 ディードは思わず、悲鳴にも似た声を上げてしまう。 「駄目・・・!」 「トライデント・・・」 数人が、彼女を取り押さえようと動いた。 この状況で先制攻撃など、常軌を逸している。 どれほど好都合に状況を捉えても、高々一度の砲撃で撃破できる敵の数は、10機が良いところだ。 R戦闘機の耐久性を考えれば、撃破数は更に減る。 そうなれば後に待つのは、残る数十機による飽和攻撃だ。 たった7名の魔導師と戦闘機人など、跡形も無く消し飛ぶだろう。 それを理解しているからこそ、ディードを含む全員がフェイトの行動を止めに掛かった。 だが、間に合わない。 金色の光を放つ球体が急激に膨れ上がり、遂に爆発の時を迎えた。 「スマッシャー」 「止めろッ!」 隊員の放った鋭い制止の声も空しく、轟音と共に3条の砲撃が放たれる。 それらは各々が僅かに異なる角度を以って放たれ、数瞬後に飛翔角度を偏向すると、全く同一の地点へと収束した。 即ち、微動だにせず鎮座する、数十機のR戦闘機群の只中へと。 「不味い・・・!」 それは、誰の放った言葉だったか。 その声とほぼ同時、R戦闘機群の中央付近で、膨大な衝撃を伴う金色の光が爆発する。 巨大な力に押されるままに、後方へと弾き飛ばされる攻撃隊。 轟音に麻痺した聴覚が回復し、カメラアイを焼かんばかりの閃光が収まった頃、ディードは漸く着弾地点を確認する事ができた。 「・・・!」 凄絶な光景に、息を呑む各員。 跡形もなく吹き飛ぶか、或いは炎に沈み姿の視認できない数機のR戦闘機。 その数、凡そ7機。 だが、ディードの意識を引き付けたのは、噴き上がる業火でも、散らばるR戦闘機の残骸と思しき鉄塊でもなく。 「何故・・・?」 反撃の素振りすら見せずに鎮座し続ける、着弾地点周辺の数十機のR戦闘機群だった。 衝撃に煽られ、爆炎に焼かれ、機体に損傷を負いつつも、浮遊し戦闘機動へと移行する様子は微塵も見受けられない。 その事実が容易には受け入れられず、ディードは自身の目を疑いつつ、数秒ほど眼下の爆炎を見据え続けていた。 「何で・・・反撃しない?」 「する訳がない」 呆然と呟かれたオットーの言葉に、間髪入れず返される声。 驚きと共に集中する視線の先で、翳していた左手を下ろしたフェイトが冷然と言葉を紡ぐ。 「如何いう事です?」 「彼等が・・・地球軍がバイドの存在する領域に戦力を放置し、あまつさえ警戒態勢を解く事なんて有り得ない。敵を前に無防備な状態を晒すなんて、彼等には・・・「地球人」には有り得ない」 「それは・・・」 「つまりこれは、もう「地球軍」じゃない」 そう言いつつR戦闘機群の一部、最も手前に位置する数機をデバイスで指し示すフェイト。 彼女の誘導に従い視線を投じ、ディードは視界に機体の一部を拡大表示する。 そして、その異常に気付いた。 「・・・破損?」 「違う、これは・・・」 呟かれた言葉に、オットーが補足を加える。 更にデバイスを通して機体を解析していた隊員が、驚愕の声を上げた。 「何だ、こりゃあ・・・」 「どうしたの?」 「此処の機体・・・どいつもこいつもスクラップ同然だぞ」 「何ですって?」 「見ろよ」 隊員のデバイスより投射された空間ウィンドウへと、ディードは視線を投じる。 拡大表示されたR戦闘機の解析結果は、意外な事実を示していた。 「・・・メインノズルが、無い?」 「あの機体はな。こっちはサイドスラスター、あれはミサイルユニット・・・向こうの奴に至ってはキャノピーすら無い」 次々と明らかになる、機体各部位の欠落。 兵器として実戦投入するに当たっては到底、有り得る筈の無い状態。 呆然とキャノピーの無いR戦闘機を見つめるディードは、隊員の1人が上げた声に対し過敏なまでに反応した。 「おい、あれを見ろ!」 ディードは振り返り、その隊員が指差す方向へと視線を移す。 その先、広大な空間を満たす劣悪な大気にぼやける様にして、無数の影が浮かび上がっていた。 目を凝らし、光学処理の精度を上げる。 鮮明となった情景はディードに、とある確信を与えた。 「・・・そうか」 「ディード?」 その呟きに、オットーが訝しげに声を上げる。 ディードは答えず、ゆっくりと前進、降下。 メインノズル付近の内部構造物が剥き出しとなっているR戦闘機の傍らに立つと、その機体下部に据えられたカーゴの表層を見やる。 貼り付いた油膜の一部をツインブレイズの刃で剥ぎ取り、露わとなった電子表示。 第97管理外世界の言語であるそれを解析・翻訳し、ディードは念話としてそれを読み上げた。 『No.5531 解体・廃棄処分』 『廃棄?』 聞き返す念話は隊員のもの。 フェイトは未だ黙して語らず、オットーもまた無言のまま。 ディードは視線を上げ、遥か前方に鎮座する鉄塊の群れを見据えて言い放つ。 『此処は、処分場なんだ』 彼女の視線、その先に鎮座するは無数の残骸。 巨大な水上艦艇、人型機動兵器、元の原形すら判然としないまでに捩じれた巨大な鉄塊。 その全てが酷く破損し、ひと目で起動など不可能と解る状態だった。 ディードは、先ほど感じた「死」の匂い、その根源に気付く。 此処は機能を停止した機械達の、謂わば「墓地」なのだ。 正常な機能を、存在する意義を喪失した機械群が送られる、終焉の地。 それらはこの地で跡形もなく解体・粉砕され、更に無数の工程を経て、最終的には僅かな痕跡すら残さずに葬り去られるのだろう。 無機質でありながら、同時に絶対的な「死」の気配。 生命活動を行う上で決して欠かせない本能からの警告、即ち「死」に対する畏怖を誘発するそれは、根源となる存在が生物か非生物であるかを問わない。 例えば、原形を留めぬまでに破壊された車があるとする。 その完全に潰れ、一枚の金属板となった乗員席を目にした時、人は否応なく「死」を連想するだろう。 其処に明確な「死」を表す存在、即ち乗員の遺体、若しくは血痕などが存在せずとも、人は半ば無意識の内に連想される「死」の概念に恐れを抱くのだ。 この精神作用は奇妙なもので、日常生活に於いては凡そ生命体の「死」とは無縁に思える場面、その随所で人間の意識を苛む。 日常でありながら非日常と隣り合わせの情景、人という存在の入り込む余地の無い空間、常ならばあるべき人の姿の無い空間など、それこそ枚挙に遑がない。 早朝の無人の街角。 工場に蠢く無数の機械群。 打ち捨てられた人形。 昏い水底へと続く階段。 溶鉄を吐き出す転炉。 幾重もの唸りを上げる重化学プラント。 埋立地に積もる塵の山。 煙突より立ち昇る黒煙。 高度文明の負の面が集積する、廃棄物処理場。 『つまり、此処はゴミ処理場って事か』 隊員の念話と共に、攻撃隊は周囲のR戦闘機群を調査すべく、各々が別地点へと散開した。 それほど距離を開けず、しかし過剰に密集する事もない。 この機会を幸いと、誰もが「敵性」軍事技術に対する情報収集を開始する。 デバイスを用いての解析精度など高が知れてはいるが、無駄になる事もあるまいとの考えからだった。 隊員達が各方向へと散り行く中、ディードはオットーを呼ぼうとしたが、彼女が1機のR戦闘機に掛かり切りとなっている事を察するや、別の調査対象を探して歩み出す。 そして数歩ほど足を進め、靴底に糸を引く油膜の存在を思い出すと、顔を顰めて飛翔へと移った。 彼女が目指すは、他とは造形を異にする奇妙なR戦闘機。 その機体の傍らへと降り立ったディードは、その異様な外観を眺めながら、ゆっくりと周囲を回る。 ほぼ漆黒の機体に、試験管にも似た青いキャノピーを備えたその機体は、一見したところ特に重大な損傷を負ってはいないかの様に思えた。 しかし、ほぼ正面へと回った時、ディードはキャノピーに走る無数の罅、そしてそれらのほぼ中央に開いた30cm程の穴の存在に気付く。 彼女は宙へと浮かび上がり、何の気なしにその穴を覗いた。 所詮は単なる残骸、そう思っての行動だったが、キャノピー内部を覗いた瞬間、その思考は後悔に支配される。 「・・・ッ!」 瞬時に青褪め、口元を手で覆うディード。 キャノピー内部は、凄惨としか云い様のない有様だった。 左右のグリップを握る2つの手、固定された脚。 それは良い。 廃棄される筈である機体内に人間の姿がある事、それ自体が異常だが、まだ許容できる。 問題は、その人間の状態だ。 その人物は、左右の手首と両脚とを繋ぐ部位が無かった。 腕も、胴も、その上に鎮座すべき頭部さえも。 あるべき人体の部位が根こそぎ消し飛び、代わりにパイロットシートに穿たれた直径30cm程の穴と、キャノピー内部にこびり付いた大量の黒い染みだけがあった。 グリップを握ったままの手首からは、どす黒く変色した骨格の一部が覗いている。 「ぐ・・・!」 耐え切れず、ディードは素早くキャノピーより飛び退くと、そのまま床面へと崩れ落ち嘔吐した。 胃の中のものを残らず吐き出し、出るものが胃液のみとなっても、嗚咽は止まらない。 余りにも鮮明に襲い来る、明確な「死」のビジョン。 クラナガン西部区画に於いて体感したそれすら凌駕する悪寒が、容赦なくディードの精神を蝕む。 嘗て管理局を相手取り闘っていた頃には意識に上りもしなかった「死」という可能性を眼前に叩き付けられ、彼女は自身が狂気と殺意の渦巻く戦場に居るのだという事実を改めて、しかしそれまでとは明確に異なる意識を以って再確認した。 地球軍の心境が、僅かながら理解できた気がする この戦場に於いて、人間としての尊厳や生命など、何ら価値を持ち得ないのだ。 彼等はこんな無残な死を、バイドによる殺戮を幾度となく目にしているのだろう。 だからこそ、あれ程までにバイドを憎悪し、敵対する者をいとも容易く塵殺し、自らの生命さえ軽視する事ができるのだ。 彼等にしてみれば、実に単純な事。 殺さなければ、殺される。 敵であるとの疑いが生じたならば、他の一切を差し置いても先制攻撃を仕掛け、塵も残さず殺戮し尽くす事だけが、彼等にとっての生き残る術なのだ。 そうやって彼等は、バイドとの熾烈な生存競争を生き抜いてきたのだろう。 彼等にとっての闘争とは、敵性体の殲滅こそが全てなのだ。 だが、捕虜となったパイロットの証言を信じるならば、それ程までしてでも第97管理外世界の命運は風前の灯であるという。 地球軍の技術が進化するに合わせ、バイドもまた進化を以って対応する。 それに対し地球軍は更なる技術革新を為し、バイドも更なる進化を以って対抗。 際限なく繰り返されるその破滅的なサイクルは、互いの持つ力を常軌を逸した領域にまで押し上げた。 それでもバイドは常に地球軍の戦力を凌駕し、絶対的優位を保っている。 兵器単体の性能がバイド攻撃体を上回ったとして、全てのバイドを滅ぼすには至らない。 奴等は無数の次元、無数の宇宙に存在し、今この瞬間も尚、その数を増やし続けているのだ。 時空管理局本局に於いて視聴した聴取記録を思い起こし、ディードは背筋に寒気を覚える。 地球軍が倫理や道徳を捨て去ってまでして拮抗し得ない存在を前に、管理局が抵抗などできるものであろうか。 管理局は、この事実をどう捉えているのか。 そんな疑問を抱くと同時に、ディードはフェイトの考えを確信と共に理解する。 心を閉ざしたかの様な彼女の冷徹な態度を、ディードは作戦開始前より気に掛けていた。 それからというもの、戦闘の最中を除けば常にその事について思考を重ねていた彼女であったが、漸くその真意へと思い至ったのだ。 恐らく彼女は、管理局と地球軍の間に存在するこの決定的な差異に、逸早く気付いたのだろう。 この件に対する管理局の認識は、飽くまで「ロストロギア」バイドの暴走と、未開の次元世界による侵略行為としてのものだ。 上層部の思惑はまた違うのかもしれないが、少なくとも大多数の局員はそう捉えている。 クラナガンに於いて30万超もの犠牲者を出して尚、あの惨劇はロストロギアと違法な質量兵器、時空管理局法に無理解な第97管理外世界によって引き起こされた「事件」として認識されているのだ。 だが、地球軍は違う。 彼等にしてみればこの戦いは当初より、自己の生存を賭けた対バイド戦線の延長、即ち「戦争」なのだ。 「事件」に対応しようとする管理局と、「戦争」を行う地球軍との間には、絶対的な隔たりがある。 軍隊と相対するのは、何も管理局にとって初めての事ではない。 過去に幾度となく、彼等は魔法・質量兵器を問わず武装した軍隊と渡り合っている。 しかしそれらは、敵対世界が技術的に劣るケースが殆どであった。 仮に管理局が魔法技術体系の面で劣る事はあっても、絶対的な戦力差と巧妙な政治的交渉を背景に、最善と思われる形で管理世界への加盟を実現させてきたのだ。 だが地球軍は、そのいずれとも違った。 魔法技術体系を全く有さないにも拘らず次元世界へと進出し、しかも純粋科学技術からなるその軍事力は、唯の一個艦隊の戦力にも拘らず、本局及び地上本部を完膚なきまでに追い詰める程。 魔法を圧倒し、戦力差を覆し、強大な力で以って魔導師達の誇りを捻じ伏せた。 何もかもが管理世界の持つ認識、そして経験を逸脱している。 地球軍に対し管理世界の常識は通じず、地球軍の認識もまた管理世界には受け入れられない。 質量兵器にて武装した、強大な軍隊。 これまでと同じく、管理世界はその存在を許しはしないだろう。 そして自らを守る盾であり、敵を屠る剣である質量兵器を放棄する事を、第97管理外世界は頑として拒否するだろう。 その先に待つのは絶対的な決裂、決して重なり合う事の無い平行線だけだ。 恐らくフェイトは、自身を責める中で地球軍に対する分析を繰り返し、誰よりも早くその事実に到達したのだろう。 だからこそ当初より地球軍に対し敵意を剥き出しにし、牙を研ぎ続けてきたのだ。 平和的解決など望むべくもない事を悟り、しかしそれに対し一切の戸惑いも抱く事なく、只管に復讐の為の力を蓄えて。 そしてもう直、その機会は訪れるだろう。 彼女の前に、真に地球軍の運用するR戦闘機が現れる時。 その瞬間こそが、彼女の復讐が幕を開けるのだ。 そして上手く事が運べば、彼女自身の復讐を成すと同時に、管理局と地球軍の間に存在する明確な隔たりを、管理世界の共通認識とする事ができるかもしれない。 地球軍の主力兵器たるR戦闘機が魔導師によって撃破可能であると改めて証明できれば、管理局による第97管理外世界への強制執行の実現にも拍車が掛かるだろう。 となれば、その対象が21世紀の地球であろうが、22世紀の地球であろうが、地球軍は必ず武力抵抗に出ると予想される。 その時、管理世界の認識が「事件」であるか「戦争」であるか、それが状況を決定するだろう。 フェイトの狙いは、この作戦中に全局員の認識を「戦争」へと移行させる事だ。 それこそは被害を最小限に抑える為の最善の策であり、管理局が理念を達成する為の布石でもある。 このままでは、管理局に勝ち目など無い。 だが、此処で管理局全体の認識を変質させる事ができれば、少なくとも総合的に地球軍と対等にはなれるだろう。 自身達の世代では「戦争」が決着する事は無いかもしれないが、数十年、或いは百年といった長期に亘って見れば、十分に拮抗状態を維持する事ができるかもしれない。 最悪、目に見える形で管理局が勝利できずとも、負ける事さえなければ自然と組織は変容する。 地球軍という脅威が存在する事を知りつつ管理局が存続するとなれば、それは組織全体がその脅威に対応できるだけの力を有するものへと変容している事を意味するのだ。 此処で自身達が斃れても、その意思を継ぐ者達は幾らでも存在する。 極論してしまえば、次元航行艦等の戦力は幾らでも補充可能だ。 対峙する時間が長ければ、減少した魔導師の数も回復する。 長期的な視野で状況を捉えれば、状況が長引けば長引くほど管理局が有利なのだ。 無限の次元世界に存在する豊富な資源、そして人材。 地球軍の軍事技術に対する解析が進めば、その手は各世界の深宇宙にも伸びるだろう。 そして何よりも、管理局の持つ信念の強さは、地球軍のそれとは比較にならないものであると断言できる。 精神論ではないが、彼らの熱意は状況を打開する為に大いに役立つ事だろう。 フェイトは、未来に拡がる可能性を信じているのだ。 そんなフェイトの予測を理解しつつ、しかし同時にディードは自身の意識の片隅で、酷く冷ややかな声が響いた事を自覚した。 それは、大義などとは切り離された、一個の生命体としての本能の声。 ディードという個人としての、実に真っ当な思考。 そんな大義の為に、私達は馬鹿げた力を持つ存在に相対するのか? フェイトはまだ良い。 家族の安否は気に掛かるだろうが、それでも彼女は自身の信念に基き、満足して死ねる事だろう。 では、オットーは? 最愛の双子の姉は、その大義を知る事もなく、地球軍に挑んで死ぬ事を良しとするのか? 他の隊員達は? バイド制圧を目的として作戦に参加した彼等は、突発的に始まるであろう地球軍との戦いを受け入れられるのか? 自分は? 姉が死に、周囲の者が死に、知覚せぬ場で姉妹達が死んでも、果たして納得できるのか? 他人が勝手に始めた戦争で、私達は殺されるのか。 変わったな、とディードは自嘲する。 自身は、確かに変わった。 戦う事に意味を求めるなど、以前は無かった事だ。 だが今は、死にたくない、周囲の人々を失いたくはないと考えている。 それが自身の納得できない事象によるならば尚の事だ。 実際のところ、現在の管理局はほぼ2つの派閥に分裂し掛けている。 共にバイドを制圧するという認識は同一だが、その後の展望がまるで違うのだ。 第97管理外世界に対する強制執行を断行すべし、との主張を繰り返す強硬派。 バイド制圧後に交渉のテーブルを設け、叶うならば相互不干渉条約を結ばんとする穏健派。 其々の派閥が火花を散らし、互いに睨み合っているのが現状だ。 現在のところ、穏健派が主流ではある。 クラナガンの惨状を目にした各管理世界は、圧倒的な軍事技術を有する地球軍との衝突を望んではいない。 望んで業火に飛び込む者は居ない。 余計な被害を避ける為にも、互いに不干渉を貫くべきだ。 恐らくは地球軍も、バイド以外に余計な外患を抱えたくはないだろう。 彼等は、そう主張した。 対して強硬派は、飽くまで第97管理外世界に対する管理局法の適用に拘る。 余りに多くの犠牲を生んだ首都クラナガンを有するミッドチルダ全域の支持を受けた彼等は、質量兵器にて武装した巨大軍事組織の存在など、断固として許容しないと声高に叫んだ。 地球軍が道義を解しない無法者の集団である事は、クラナガンの惨状を見れば明らか。 ならば即刻、21世紀の第97管理外世界に対し強制執行を敢行し、その技術発展を防ぐべきだ。 地球という惑星を制圧する事で地球軍の動きを牽制できる上、同一時間軸上の存在であれば地球軍の存在自体に変容が生じ、可能であれば抹消すらできるかもしれない。 たとえそうでなかったとしても、今現在に於いても危険極まりない質量兵器を大量に生産し続けている第97管理外世界は既に、管理世界にとって重大な脅威である。 当該世界の住人達が質量兵器の廃絶に賛同する可能性は極めて低く、ならば武力を背景として実質的な管理下に置く事によって、その生産能力を奪うしかない。 そして、縦しんば22世紀の第97管理外世界との本格的な交戦状態に移行したとしても、次元航行部隊が戦略魔導砲アルカンシェルを有している以上、破滅的な戦略攻撃は抑止できる。 その上で敵性技術を解析し、地球軍を末端から切り崩せば良い。 彼等は、そう嘯く。 ディードとしては、穏健派に同調していた。 管理局が如何に巨大な組織であろうと、関わるべきでない事象というものは存在するのだ。 組織の許容範囲を超える事象に手を出す事は、それ即ち破滅を意味する。 管理局が崩壊すれば次元世界は未曽有の混乱に陥るであろう事は容易に想像が付く上、その中で姉妹や知人達が無事でいられる保証もない。 況してや、万が一にでも再びバイドの様な敵が現れた際、今回のような大規模制圧作戦の実現など望むべくもないだろう。 それ以前に今作戦の成否さえ未だ不透明であるというのに、地球軍への対応を考えるなど時期尚早だ。 少なくとも、彼女はそう判断していた。 対してフェイトは、明らかに強硬派寄りだ。 地球軍の存在を許さず、飽くまで管理局の理念に則り裁こうと考えている。 無論、其処にはスクライア無限書庫司書長及びシグナムの負傷、そしてクラナガン31万の犠牲者存在が影響している事は間違いない。 だがそれでも、ディードは考えてしまう。 フェイトは、本当に冷静であるのか。 復讐心に突き動かされるまま、勝ち目の無い戦端を開こうとしているのではないのか。 穏健派の動きを封じる事に気を取られ、自身ですら意識し得ない無謀を行おうとしているのではないのか。 どうしても、その危惧が脳裏から離れないのだ。 口元を拭い立ち上がると、ディードは軽く首を振りつつ余計な考えを打ち消す。 今はこの施設からの脱出、そしてバイド制圧こそが急務だ。 将来に不安を抱くのは、作戦終了後でも問題は無い。 もう一度、キャノピーに穴の開いたR戦闘機を見やるディード。 何故、廃棄される機体内部に死体があるのか、不審な点が多々残るそれ。 一刻も早くオットー達と合流し、この機体に対する調査を行わねば。 そう考え、背後へと振り返るディード。 そして彼女は、そのまま動きを止めた。 「・・・オットー?」 呟かれた声に、答える者は存在しない。 更に念話を発してはみたものの、こちらも何らかの要因により返答は無かった。 だが、それも当然の事だ。 彼女の視界に、双子の姉の姿は無かった。 金色の刃を振るう、執務官の姿も無かった。 共に戦っていた4名の攻撃隊員、その誰1人の姿も無かった。 彼女の眼前に拡がるのは、唯一つ。 「何で・・・」 僅か数m先に聳え立つ、巨大な鉄製の壁だけだった。 「オットー!?」 堪らず壁面へと走り寄り、拳を叩き付けて叫ぶ。 しかし、返事は無い。 数分前までは、確かに存在などしなかった筈の鉄壁だけが、無情にもディードの拳を弾き返す。 「オットー! ハラオウン執務官! 誰か!」 壁面を叩きつつ、更に叫ぶ。 だがそれでも、答えが返される事は無い。 沸き起こる悪寒に押される様にして、ディードは更に激しく壁面を打った。 その時、拳の当たっていた面が、微かな音と共に崩れ落ちる。 ディードは尚も壁面を叩こうとしていた腕を止め、その崩れ落ちた部位を見やった。 「・・・これは?」 そして、暫し呆然とそれを見詰め、数秒して手を伸ばす。 崩れた壁面の中から覗く、酷く傷んだ配線。 その束を握り締め、渾身の力で以って引く。 更に広い範囲で壁面が崩れ、細かな錆びた金属片と比較的大きな鉄塊、元が何であったかも判然とせぬ小さな部品が床面へと散らばった。 それらへと視線を走らせ、ディードは呟く。 「何、これ・・・?」 配線、鋲、メーター類。 嘗ては何らかの機械類を形成していたであろう、多種多様の金属塊。 タイヤのホイール、シャフト、スクリュー、ファン。 明らかに車両、若しくは小型水上船舶を構築していたであろう部品群。 イヤリング、ブローチ、腕時計。 顔も知らぬ誰かが身に着けていたであろう、数々の装飾品。 そして、何よりディードの目を引いたものは。 人工歯、人工骨、人工関節、ペースメーカー、機械式の義眼。 黒ずんだ液体の跡がこびり付いた、嘗ては誰かの体内に存在したであろう、人工の生体組織。 「ひ・・・!」 思わず声を漏らし、後ずさるディード。 だが彼女は、それに気付いた。 気付いてしまった。 突如として出現した巨大な壁面、その至る箇所から覗く無数の破片に。 「あ・・・」 明らかに車のヘッドライトと分かるもの。 壁面に取り込まれる様に、ボンネットの先端だけを覗かせている。 エア・コンディショナーの室外機。 良く見れば、ファンがまだ回転している。 圧縮されたヘリコプターの残骸。 潰れたコックピットの隙間より伝う幾筋もの黒い液体の跡が、内部の様相を物語っている。 そして、大量の「デバイス」。 ストレージ、アームド、ブースト。 多種多様、形態を問わず大量のデバイスが、壁面に埋め込まれていた。 それらの点灯部が微かに、しかし一斉に明滅を始める。 ディードの意識へと、強制的に介入する念話。 魂なき無数の声が、ディードの意識へと響き渡る。 『Help』 「あ・・・あ・・・」 『Help my Master』 『Please help our Masters』 「嫌・・・」 『Help』 『Destroy』 『Please hurry』 「嫌・・・!」 『Destroy us』 『Please』 『Kill us』 『Now』 「嫌ぁ・・・!」 主の救出、そして自らの破壊、即ち「死」を望む、何十、何百というデバイス達の声。 ディードは両の掌で耳を覆い隠し、小刻みに首を振る。 とても理解などできない「死」への渇望に満ちた無機質な声に、彼女は心底より恐怖していた。 後退さるディード。 と、彼女のブーツが何かを踏み付けた。 奇妙な感覚に恐る恐る下を向けば、細い鎖に通された2枚の金属板、そして幾つかのリング。 彼女のカメラアイは、それらの表面、そして裏面に刻まれた文面を、正確に読み取っていた。 『時空管理局 第75管理世界駐留部隊 第4航空隊 イリス・バーンクライト空曹長 Age19』 『C to I 永遠の愛を誓って』 『U and M パパとママへ 結婚40年目のお祝いに』 『リースへ パパとママから 10歳の誕生日おめでとう』 黒い染みに侵食されたそれらの有り様は、持ち主の辿った末路を連想させるには十分に過ぎた。 更に表情を凍り付かせたディードの意識に、更なる声が響く。 『Please eliminate us』 『Hurry・・・now』 『Please』 「嫌あああぁぁぁぁッッ!?」 ディードは最早、間欠泉の様に湧き上がる恐怖を抑える事ができなかった。 彼女の意識を構築するありとあらゆる精神構造が恐怖に塗り潰され、その肉体を強制的に突き動かし、迫り来る「死」の予感からの逃避へと駆り立てる。 尚も呼び掛けるデバイス達の声を振り切る様にして身を翻し、ディードは無数の残骸から成る鉄壁に背を向けて駆け出した。 だが直後、突如として響きだした高音に、思わず足を止める。 そして、その音の発生源へと視線を向けた時、彼女は悟った。 これは、復讐なのだ。 利用され、打ち捨てられ、勝手な都合によって破棄された機械群による、人間への復讐。 自身も、そう思っていたではないか。 他人の勝手な都合で殺されるのか、自身はその事実に納得できるのか。 できる筈がない。 未だ余命を残しつつ、他人の都合によって「死」を強要されるなど、真に耐えられる人間など存在する訳がない。 では、彼等は。 機械はどうなのか。 創造主の勝手な都合によって造り出され、勝手な都合によって廃棄される彼等は。 自らの運命を、真に受け入れているのか? 機械に自由意志など無い。 そんなものを機械に持たせる事は、余りにもリスクが大き過ぎる。 揺らぐ事の無いその事実を理解しつつもディードは、復讐という言葉を連想せずにはいられなかった。 何より、彼女の眼前に展開する光景は、雄弁にその思考を肯定している様に思えたのだ。 「ごめんなさい・・・」 知らず、そんな言葉が零れる。 ディードは、その機械群を知っていた。 知らない筈がない。 彼女達は、正確には彼女達の創造者は使い捨てを前提として、それらを大量に前線へと投入していたのだから。 湯水の如く使い捨てられるそれらの末路を、姉妹の誰もが知ろうともしなかった。 だからこそ、彼女は恐怖する。 彼等の怨嗟に満ちた言葉が、怨恨の視線が、自身を射抜いているかの様な感覚。 もはや彼女は、逃げようとする意思すら挫かれていた。 「ごめ・・・なさい・・・!」 溢れ返る絶望と共に紡がれる、謝罪の言葉。 だがそれらは、答えを返す事をしない。 震え、腰を抜かし、ツインブレイズを取り落とす彼女の眼前で。 キャノピーに穴の開いたR戦闘機と数十機の「ガジェット」群が、その砲口に光を宿していた。 数瞬後。 ディードの華奢な身体を、膨大な光の奔流が呑み込んだ。 * * 鼓膜を劈く様な悲鳴が、広大な空間に響き渡る。 だがそれは、連続した爆発音と金属の衝突音によって掻き消され、忽ちの内に意識の外へと追いやられた。 「オットー、上!」 フェイトが叫ぶや否や、ISレイストームの緑の光条が、上方より迫り来る巨大な影を貫く。 爆発。 飛び散る金属片を異に解する事もなく、フェイトはプラズマランサー6発を斉射。 それらは各々に異なる目標へと飛翔し、6体の異形を消し飛ばす。 爆炎が視界を覆い、しかし後方からの風によりすぐさま晴れた。 その後に残る光景に、フェイトの頬を一筋の脂汗が伝う。 「遅かった・・・!」 「不味いですね。このままでは退路を断たれます」 隊員の言葉に、フェイトは頷いた。 晴れた爆炎の向こう、異形の撃破地点。 其処には巨大な鉄製のブロックが、巨大な鉄柱を形成していた。 様々な鉄製品のスクラップが、巨大なブロックとして構造物を成している。 それは、一瞬の事だった。 各員がR戦闘機の残骸を調査していた最中、オットーが異常に気付く。 ディードとの念話が繋がらず、彼女の向かった方向を見やれば、巨大な鉄製の壁が空間を隔てていたのだ。 すぐさま壁へと駆け寄り、その壁面を叩きディードの名を叫び始めるオットー。 更に1人の隊員がデバイスの解析モードを起動したまま壁面へと接近し、その表層を調査しようとする。 それが、間違いだった。 空を切る音。 巨大な影が隊員の傍を掠め飛んだ直後、彼の絶叫が上がった。 誰もが驚きその方向を見やれば、空中に1本の太い「線」が描かれているではないか。 それが鉄製の構造物であると理解した瞬間、またも「線」が、今度は床面から上部構造物へと垂直に描かれた。 誰もが呆然とその現象を見守る中、悲鳴の様な念話が発せられる。 『脚が・・・脚が! 挟まれた! 動けない!』 即座に2名が救助に向かうも、その瞬間から無数の鉄柱が攻撃隊を目掛け伸長を始めた。 その速度たるや、空戦魔導師の飛行速度を完全に凌駕している。 すぐさま鉄柱の迎撃が開始され、その過程で「線」を描く存在の正体を知り得たのだ。 それは、巨大な蟲としか云い様が無かった。 機械ではあるが、その造形たるや醜悪な昆虫を思わせる。 幅8mはあろうかというそれが、廃棄物で構成された鉄製のブロックにより鉄柱を構築しつつ、凄まじい速度で突進を行っていたのだ。 幸いな事にそれらの耐久性は、外観に反し然程でもなく、容易に撃破が可能であった。 しかしその速度と数に押され、攻撃隊は徐々に迫り来る廃棄物の壁に追い詰められてゆく。 既にR戦闘機群は鉄塊によって押し潰され、広大であった筈の空間はその6割近くが構造物に覆われていた。 逃げ場もなく、かといって迎撃速度が上がる訳でもなく、攻撃隊は迫り来る壁に対し間断ない斉射を行う以外に、現状を切り抜ける術を持ち合わせてはいなかったのだ。 「この・・・!」 攻撃を続けるフェイトの背後、一際大きな悲鳴が上がる。 隊員からの念話、救助を完了したとの報告。 僅かに視線を背後へと投げ掛ければ、膝下を切断され呻く隊員の姿。 フェイトはすぐさま正面へと向き直り、ライオットブレードを振るう。 接近中の蟲が魔力の刃によって切り裂かれ、後方構造物までもが切断されて崩れ落ちた。 だが、足らない。 迫り来る壁を破壊する間に、その倍近い構造物が生成されるのだ。 このままでは攻撃隊は、あと数分と保たずに押し潰されるだろう。 「く・・・!」 「どうするんです、執務官!? このままでは全員潰される!」 「分かってる!」 更にプラズマランサーを放ちつつ、フェイトは苛立たしげに声を返した。 余りにも苛烈な突進攻撃に、大規模砲撃魔法の準備に移行する事ができない。 カバーする人員も足らず、フェイトが迎撃陣を抜ける猶予など、僅かたりともありはしないのだ。 「どうすれば・・・!」 呟きつつも、迎撃の手が緩む事はない。 だがそれでも、壁は徐々に距離を詰めてくる。 こんなところで終わりなのかと、フェイトの意識に焦燥と憤りが湧き上がった、その時。 背後より、オットーと隊員の声が上がった。 「みんな、こっちへ!」 「床にダクトが! 早く中へ!」 その言葉に、フェイトは傍らの隊員へと念話を送る。 先に行けと促し、自身は更に迎撃の弾幕密度を上げた。 そして十数秒後、彼女の脳裏へと声が飛び込む。 『全員、ダクト内に移りました!執務官も早く!』 『私は良いから先に! 数を減らしてから行く!』 最寄りの敵を8体ほど撃破すると、フェイトは身を翻し雷光の如くダクトを目指した。 一辺が2m程の正方形のそれへと、フェイトは減速する事もなく飛び込む。 変化した大気圧の壁にぶつかり、一瞬ながら視界が眩むもすぐさま回復。 下方へと垂直に延びるダクト内部を高速で翔けながら、先行する隊員達へと念話を送る。 『そちらの様子は?』 『200m下方、通路に出ました。先程の回廊とほぼ同じ広さです。敵影なし、負傷者の治療を・・・』 其処で唐突に、隊員の念話が途絶えた。 途端、フェイトの意識が更に研ぎ澄まされ、彼女は再度念話を放つ。 『こちらハラオウン、応答せよ。何があったの』 『・・・こちらオットー。聞こえますか?』 『聞こえる。状況を知らせて』 そして返ってきた言葉は、フェイトに歓喜と焦燥とを齎した。 待ちに待った瞬間、復讐の時。 『接敵した・・・R戦闘機、急速接近!』 その念話を受け取るや否や、フェイトは身体の上下を入れ替え、ライオットブレードを上段へと振り被った。 背後で刃先がダクト内部を削り、壮絶な火花を散らす。 だがフェイトは、それを気に留める素振りすら見せない。 唯一言、念話を発しただけだ。 『総員、壁際へ』 次の瞬間、フェイトは全力でブレードを振り下ろす。 狭いダクト内部、その刃先は振り切られる前に壁を削って止まる筈だった。 だが、刃がダクト内にて垂直となった、その瞬間。 バルディッシュは、一瞬にしてライオットザンバー・カラミティへと変貌していた。 雷光を纏う二又の大剣が、轟音と共に目前の壁を容易く切り裂く。 そして、フェイトの視界がダクト内部から通路へと移行すると同時。 振り抜かれたカラミティの巨大な刃が、上部構造物を突き破ってR戦闘機へと襲い掛かった。 「ッ・・・!」 大量の金属構造物を散弾の如く撒き散らしつつ、R戦闘機へと襲い掛かる二又の刃。 必殺と思われた一撃はしかし、接触直前にR戦闘機がサイドスラスターを作動させ数十mを平行移動した事により、通路を破壊するに留まった。 刃が床面を粉砕すると同時、想像を絶する轟音と衝撃が、攻撃隊とR戦闘機、そして攻撃の実行者たるフェイトをも襲う。 音速を優に超えた鉄片が肌を切り裂き、バリアジャケットをも貫かんとする中、フェイトはカラミティを振り抜いた体制のまま床面へと着地し、微動だにせず敵機を見据えていた。 そして、徐に口を開く。 「・・・流石に、この程度じゃ墜とせないか」 そうして彼女は、ゆっくりと立ち上がると、右手一本でカラミティを横薙ぎに振り抜いた。 隊員からは退がれとの警告が届くが、フェイトはそれらを無視。 こちらの様子を窺っているらしきR戦闘機に切っ先を向け、言葉を紡ぐ。 「こちらは時空管理局」 R戦闘機は動かない。 漆黒の機体、漆黒のキャノピー。 そのまま闇に溶け込みそうな配色だが、上部の僅かな白い装甲が光を反射していた。 フェイトは敵機を観察しつつ、更に言葉を繋げる。 警告ではなく、既に決定された事項を伝える為に。 「地球軍に告ぐ。これより我々は時空管理局法に則り、質量兵器の排除を開始する。以上」 それだけを伝えると、フェイトは一切の前触れ無くR戦闘機との距離を詰め、カラミティを振るう。 横薙ぎの一撃を、敵機は垂直上昇とフロントスラスターによる急速後退を以って回避。 そのままフェイトへと背を向け、通路の奥へと向け加速する。 舌打ちをひとつ、フェイトは念話を発した。 『追撃!』 『了解!』 即座に、攻撃隊はR戦闘機の後を追い、通路の奥を目指し飛翔を開始する。 しかし、曲がりなりにも相手は戦闘機。 速度の問題から、追い付くなど到底不可能である事は解り切っている。 何より、幾ら広大とはいえ、限定空間である通路。 真正面より波動砲を撃ち込まれれば、回避する術もなく全滅するだろう。 だが、フェイトは確信していた。 R戦闘機は、すぐにこちらを抹殺する事はない。 殺すのは「観察」が終了してからだ。 あの機体は今、より「観察」に適した場所を探している。 自身の安全を確保しつつ、こちらの「性能」を見極められる場所。 即ち、機体の機動性を確保できる空間だ。 そして、その予想は違う事なく的中する。 600mほど前進した地点、薄闇に包まれた空間。 R戦闘機は其処で、こちらに機体後部を向けたまま静止していた。 フェイトはバルディッシュを握り直すと、更に速度を上げる。 空間はかなりの広さを誇り、上下左右いかなる方向へと飛んでも接触の心配は無い様に思えた。 フェイトは、ノズルの近辺より発せられる微かな光を頼りに、一機に接近して袈裟掛けに斬り下ろそうと試みる。 そして、R戦闘機まであと100mと迫った、その瞬間。 『退がって!』 オットーからの念話に、フェイトは咄嗟に前進を中断した。 彼女とR戦闘機の間を、下方から上方へと突き抜ける、巨大な鉄塊。 そして次の瞬間、空間全体が照明によって照らし出される。 眩さに目を庇い、しかしすぐに光度慣れしたフェイトは、改めて目前のR戦闘機を見据え。 「え・・・?」 その機体が、先程のR戦闘機とは異なる事に気付いた。 「これは・・・!?」 機体の配色はほぼ同じながら、造形の細部が違う。 全体が一回りほど小さく、機体後部のエッジは先程のそれよりも短い上に本数も少ない。 左右のエンジンユニットの造形も大きく異なり、全体を覆う装甲板が存在していなかった。 そして、何より。 「ッ・・・!」 試験管にも似た、青いキャノピー。 その中央には30cm程の穴が開き、中からはグリップを握り締めたままの左右の手首、そして固定された人間の腰部以下の脚部が覗く。 胴部は無い。 パイロットシートに穿たれている黒々とした穴だけが、対峙する者にパイロットの末路を伝えていた。 そして機体下部の砲身、その砲口に青い光を放つ粒子が集束を始める。 「波動砲!」 攻撃隊、散開。 しかし、突如として頭上より降り注いだ大量の鉄塊により、彼等は迎撃の為に足を止めざるを得なかった。 見れば、頭上に3つの巨大な影が浮遊している。 「あれは・・・?」 それは、互いに酷似した造形を持つ、3機の大型機械だった。 其々が側面、または下方にエネルギーコアらしき部位を持ち、常にユニットの一部が重なる様にして機動している。 その異形は上部より大量の鉄塊、即ち廃棄物を放出し、有毒物質と重金属の雪崩を以って攻撃隊を押し潰さんとしていた。 降り注ぐ巨大な鉄塊の雨を躱し、小型のものは迎撃し、攻撃隊は必死の回避運動を続ける。 無論、フェイトも例外ではない。 膨大な魔力保有量に裏打ちされた大火力を生かし、頭上より落下してくる大型の鉄塊を迎撃。 しかし、重力により加速されたそれらは、破壊されてなお細かな破片となり、高速にて彼女の身体を貫かんと迫る。 フェイトは皮膚の其処彼処を切り裂かれつつもそれらを回避するも、更に執拗に降り注ぐ鉄塊によって、満足に攻撃行動へと移行する事ができない。 視界の端で集束する青い光に、彼女の内で幾重もの警告の声が響いた。 『このままじゃ・・・攻撃可能な者は!?』 『駄目です! 皆、回避で精一杯だ! 攻撃なんてとても・・・!』 回避行動を継続しつつ念話を交わす間にも、耳障りな高音と共に波動砲の充填が加速する。 死体を乗せたR戦闘機は位置を微調整し、その機首を真っ直ぐにこちらへと向けていた。 間に合わない。 フェイトは理解した。 一瞬後にはその機首より膨大なエネルギーの奔流が放たれ、自身等は跡形もなく消し飛ぶだろう。 その予想に違わず、R戦闘機の機体後部より光が洩れた。 反動制御の為か、機体後部のメインノズルに点火したのだろう。 敵機、砲撃態勢。 『散開・・・散開して!』 『無理です、動けない!』 『上方、更に落下物!』 隊員達は各々に砲撃の射界外へと逃れようと試みるが、しかしその動きは砲撃の充填速度と比して余りにも遅い。 誰の目にも、結末は明らかだった。 もう、間に合わない。 そして、遂にその瞬間が訪れる。 集束する青い光が、唐突に黄金色へと変貌。 光は一瞬にして膨張し、爆発的な解放へと向かう。 轟音と共に発射された砲撃が、落下する無数の鉄塊により形成される壁を貫き、フェイトの視界を埋め尽くして。 瞬間、その砲撃軌道があらぬ方向へとねじ曲がった。 「え?」 呆然と零れた声は一瞬。 フェイトの視界の中、金色の砲撃は急激に軌道を変更し、壁面へと着弾。 巨大な鉄製の壁面が一瞬にして消し飛び、同時に粉塵と爆炎の向こうから2基のミサイルが高速にて飛来する。 内1基は、波動砲を放ったR戦闘機から飛来した質量兵器の弾幕により撃墜されるも、残る1基はその機体左側面へと着弾、凄まじい爆発と共に装甲を跡形もなく破壊し、機体そのものをも数十mに亘って弾き飛ばした。 被弾したR戦闘機は業火を噴きつつも態勢を立て直し、こちらもまた2基のミサイルを放つ。 破壊された壁面へと向かって突進するそれらは、しかし次の瞬間、視界を塗り潰す閃光と轟音、そして衝撃と共に消滅していた。 だが、フェイトの意識を引き付けたのは、その事実ではなく。 「魔・・・力・・・?」 2基のミサイルを打ち砕いた雷光、そして全身を押し潰さんばかりに圧し掛かる「魔力」による重圧だった。 「まさか・・・!?」 粉塵の向こうより現れる、漆黒の機体。 空間すら歪めんばかりの魔力を纏ったその機体は、先程フェイト等の追撃を振り切ったそれ。 青い光の粒子を集束しつつ、交戦域へと侵入してくる。 フェイトの脳裏を過るは、本局にて確認した交戦記録、クラナガンにて確認された魔力を制御する機体。 冷静に思考すれば、目前の機体も、そして背後の機体も、クラナガンでの機体との明確な共通点があるではないか。 そして、クラナガンでの砲撃時に記録された、奇妙な幻影。 ロストロギア「闇の書」。 若かりし日の義母「リンディ・ハラオウン」、そして義兄「クロノ・ハラオウン」の幼き日の姿。 浮かび上がる複数の疑問。 地球軍パイロットの証言から浮かび上がった、1つの可能性。 それら全てが、フェイトの意識内を駆け巡る。 何故、嘗ての闇の書が投影されたのか。 何故、義母と義兄の幻影が現れたのか。 何故、あの機体は魔力を制御できるのか。 何故、この機体もまた魔力を纏うのか。 この機体と「クライド・ハラオウン」との関連性は? 「こちら時空管理局、執務官フェイト・テスタロッサ・ハラオウン! 応答を! 応答してください!」 咄嗟に叫ぶフェイト。 反応は無い。 攻撃隊から発言の真意を問い質さんとする念話が入り、目前のR戦闘機、「試験管」にも似た漆黒のキャノピーを持つそれが纏う魔力、その密度が更に高まっただけだ。 「お願い! 応答してッ!」 そして遂に、力は解き放たれた。 R戦闘機を中心に突風が吹き荒れ、フェイトは木の葉の如く吹き飛ばされる。 それでも何とか態勢を立て直し、驚愕と共に見上げた視線の先に、無数の稲妻が網目状に走った。 機体より炎を吹き上げるR戦闘機、そして頭上の大型機械が明らかな戦闘機動を開始すると同時。 魔力を纏うR戦闘機を中心に「広域天候操作魔法」が発動、数十条もの雷撃が周囲へと降り注ぐ。 身体を掠めんばかりの至近距離を貫く雷光に悲鳴が上がる中、フェイトは血を吐き出さんばかりに悲痛な声を上げ続ける。 彼の人を呼び戻す為に。 彼を待ち続けるたった1人の伴侶、たった1人の息子の許へと連れ帰る為に。 「クライド・ハラオウン提督! ・・・義父さんっ!」 無数の雷撃が、空間を埋め尽くした。
https://w.atwiki.jp/teamarrowhead/pages/5.html
R-TYPE Table Strategy 遊び方 本ゲームは2種類の遊び方に対応しています。 ・データを印刷し、ボードゲームとして遊ぶ方法。 ・どどんとふ(http //www.taruki.com/DodontoF/)を使用しオンラインで遊ぶ方法。 ※現在ではどどんとふに公式には認められていないので、遊ぶ場合はデータを手動で読み込ませる必要があります。 このページではそれぞれの遊び方について解説します。 ・ボードゲーム版 ・どどんとふ版
https://w.atwiki.jp/r-type-tactics/pages/56.html
R-TYPE TACTICSのバグ、小ネタ集 バグ施設を利用したバグ 小ネタバイド軍のパイロット名 反撃について 迎撃について ギャロップフォース ドブケラドプス 原作との比較 サントラ バグ 施設を利用したバグ ミッションNo.07などで登場する施設を開放し、ヴァナルガンド級などの副砲門を持つ戦艦の副砲門やダイダロスのポッドを施設に重ねると副砲門やポッドのみを収納できてしまう。 一度でも副砲門を収納してしまうと、戦艦が収納した時と同じ位置にあり、なおかつ収納した副砲門の攻撃可能な範囲に敵がいないと副砲門を施設から出せなくなる。 当然ながら、ミッションが終了すると元に戻る。 ちなみに、副砲門を収納した戦艦はその部分が破壊されたグラフィックになる。 また、副砲門を収納したままでも戦艦やダイダロスは移動可能である。 一応HPの回復と弾薬の補充はされるので、グリッドロックの瞳なら利用する価値はあるかもしれない。 小ネタ バイド軍のパイロット名 全パイロットを揃えるとメッセージが出来上がります 艦長:キガ ツク トワ タシ ハバ チーム:イド ニナ ツテ イタ ソレ デモ ワタ シワ チキ ユウ ニカ エリ タカ ツタ ダケ フォース:ドチ キウ ノヒ トビ トハ コチ ラニ ジユ ヲム ケル 『気がつくと私はバイドになっていた、それでも私は地球に帰りたかった だけど地球の人々はこちらに銃を向ける』 反撃について 反撃は対象が見えていないと行えません。 例:R系+フォース R系から見て索敵範囲はフォース分加え前方に3 それ以上の距離からゲインズの凝縮波動砲を放たれると、波動砲ゲージが溜まっていても波動砲で反撃できない (相手が4に居ても) これを覚えておくといろいろな場面で役立ちます 迎撃について 迎撃には兵器の種別によって制約が出てきます。 相手がミサイル系:ミサイル同士の相撃ち、光学兵器による迎撃、思念攻撃による迎撃(ベルメイト)が可能 相手が光学兵器:光学兵器は実体を持つ武器ではないので、ミサイルでも光学兵器でも迎撃は不可能 相手が体当たり:体当たりは射程が1なので、機銃による迎撃が可能だが、クロー・クローのレーザークローを射程2-xの武器で迎撃可能な場合がある ギャロップフォース データ残骸だけ残ってる。Rw-11系統が強すぎたから削られたのかな… Rwf-11 ならもっと無謀に攻めれる(時もある)のに。 ドブケラドプス Rといえばドブケラドプスというほど登場する。その学名または同類をまとめてみた。 R-TYPE (1面) ドブケラドプス R-TYPE II (1面) ザブトム R-TYPE III (5面) ドブケラドプス・アルビノ R-TYPE Δ (6th contact) R-TYPE FINAL (Stage 4.0) ドブケラドプス・マットウシス R-TYPE TACTICS (ドブケラドプス) ドブケラドプス・ユーピテル R-TYPE TACTICS (ドブケラドプスの屍?) ドブケラドプス・ウィアートル R-TYPE TACTICS (ドブケラドプス水棲種) ドブケラドプス・ドラコネム R-TYPE TACTICS (ドブケラドプス試験体) ドブケラドプス・グランデ ザブトムはドブケラドプスが復活した姿とのこと。 原作との比較 Mission5:R-TYPE 1面、ゴンドランが居なかったり地形が違ったりで再現度は低い Mission8:R-TYPE 2面、多少短縮されては居るが、インスルーが撃破できる以外は殆ど同じ Mission21:R-TYPE 5面、道が狭くなっていたりで異なるが、出現する敵は同じ Mission26:R-TYPE 6面、最初と最後のドップラッシュが繋がったような地形、移動パターンも大体同じ Mission28:R-TYPE 7面、出現する敵は大体似ているものの、地形やボスが異なる等、再現度は低い ドブケラドプス:R-TYPE 1面ボス、他の作品でも何度も出ている。今作の場合、胴体や頭部が攻撃してくる、尻尾から弾が出ないなどアレンジされている面が多い ゴマンダー+インスルー:R-TYPE 2面ボス、ΔやFINALにも出ている。今作ではインスルーが撃破可能、ゴマンダー自体が攻撃を行う等アレンジ面が強い コンバイラ:R-TYPE 4面ボス、初3D。敵艦として何度も遭遇する。分離しない等性能は別物 ベルメイト本体+ベルメイト肉塊:R-TYPE 5面ボス、初3D。ベルメイト肉塊の数が少なかったり、本体事態が攻撃を行ったりするため、原作とは多少異なる。ちなみにベルメイト肉塊は当時「タコ」と呼ばれていた。 ヘイムダル級:R-TYPE ⊿にてR-13以外でクリアすると現れる艦がヘイムダル級では無いかと思われる。 ボルド:R-TYPE 7面に出現する。当時の設定は「ゴミの塊」。今作では戦艦になり何度も出現する。 ガスダーネッド:R-TYPE II 2面に出現。当時はドライアイスを生成し、下部に敵を吐いているだけだった。 ファット:R-TYPE 7面に出現する。今作ユニットとしてはでていないが、コンバイラ、ボルドのミサイル砲として出現。 ウッキー:R-TYPE 2面に出現する。今作ユニットとしてはでていないが、バルドルの弾頭として出現。 ピスタフ:R-TYPE 1面、4面、7面に出現。攻撃方法が多少異なり、今作の形状はむしろR-TYPE FINALのレリックといえる。 メルトクラフト:R-TYPE FINAL1.0面、F-B面に出現。当時は擬態等はせず、ただ突進してくるのみだった。 初出一覧 サントラ 一部の曲はゲーム内で削られている前奏・間奏も含めて収録されている。 また最終トラックの曲はゲーム内だとムービーに合わせてテンポが変更されているため、若干ながら印象が異なる。 隊の名前で、モミホッグ隊がありましたが、FINALで没になった敵名のようです。ほかの名前も没ネタだったりして・・・ -- 新規隊 (2008-03-01 01 28 51) 一番最初のドブケラトプスの攻撃がくらわない場所があるらしい・・・ -- 初心者 (2008-08-22 19 40 47) ネコ死んじゃった・・・ハァ残念 -- 名無しさん (2008-08-23 22 15 38) ボルドについて、今回の武器追加によってバイドの能力で生まれた巡洋艦節が有力になった。 また、mission-21では初代のstage5の戦闘機型の雑魚敵「パスーア」がいない。 -- ゆすけん (2009-02-19 11 33 02) いまさらでかなりどうでもいいような事・・だが、最近X-BOX360で配信されたR-TYPEディメンションズという、初代+IIリメイクにHDモードがあるんですが、IIの発進シーン時、HDモードだと戦艦らしきものがチラッと映る。・・あれヘイムダルっぽいんですがどうなんだろう -- 無駄な努力好き (2009-04-19 23 01 09) ざlhh -- 名無しさん (2013-09-03 15 56 38) ミス。ザプトムは地球軍がドプケラを再利用して作ろうとした「オージザブトム」の未完成品、という扱いだったような。 -- 名無しさん (2013-09-03 15 58 56) 地球軍じゃなくてドプケラの屍が機会を取り込んで復活だったはず -- 名無しさん (2013-09-04 15 05 43) モミホッグという名前、バンピートロットであったような -- 名無しさん (2014-11-08 18 50 41) モミホッグはFINALの開発用仕様書に出てくる。ストロバルトに決定する前の名前 -- 名無しさん (2014-11-09 01 04 47) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/fujikoji/pages/317.html
https://w.atwiki.jp/ggmatome/pages/736.html
Wiki統合に伴い、ページがカタログに移転しました。
https://w.atwiki.jp/uwvd/pages/468.html
パイロット ロボット アイテム インクルード 2011/01/23 新規作成。 ずっとほったらかしにしていたデータを置いてみる。