約 898,976 件
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/2379.html
『まりさを探せ!』 14KB 不運 自業自得 差別・格差 飾り 駆除 野良ゆ 都会 加工場 現代 独自設定 ジャンル・「救出」? 「まりさを探せ!」 羽付きあき ・加工所物 ・幾つかの独自設定で保管しておりますご注意を ・謎解き?モノ 「・・・で、これがいなくなったまりさです」 ・・・私の目の前で男が自身と移っているゆっくりまりさの写真を差しだした。 モチモチの小麦粉の肌に、艶艶の砂糖細工の髪・・・そして皺ひとつない帽子と金バッジ。 相当大事にされていたのだろう。 「・・・いつ頃いなくなったのでしょうか?」 「丁度ひと月前ぐらいでしょうか・・・少し目を離したすきに網戸を自分で開けて出たんだと思います・・・」 金バッジのゆっくり・・・それも殆ど外らしい外を知らないゆっくりまりさがひと月も帰ってこない。 それは恐らく街ゆっくりにでもやられたか、そのまま野垂れたかのどれかだろう。 だが、男にはそのまりさが生きていると言う確信と言うか、何かそんな物を持っているようだ。 「しかし一か月近くです。山野で迷ったと言うならまだ可能性はありますが街では・・・食料の取り方、どれが食べられるものか、"おうち"の作り方、あなたのまりさはそれを知りません。そう考えれば持って三日と考えるのが妥当でしょう」 「・・・確かにその通りです。ですがまだ一つ可能性が残っています・・・これを見てください」 男が差し出したのは雑誌であった。開いたその記事と写真に目を通したとき、なるほど可能性はまだあると私も感じた。 雑誌には「加工所のゆっくり達」と言う題名で、広い部屋に大量に集められた「街ゆっくり」や「捨てゆっくり」等の写真が載っていた。 一斉駆除の際に、一旦捕まえて加工所で処分するのである。餡子は生産すっきり用ゆっくりの食料などに再利用されると言われている。 「なるほど、確かに一定の数量が集まらなければ加工所でずっと集められたままですしね・・・それのスパンはおおよそ約一カ月。可能性があります」 「ですが問題が・・・」 「・・・"300体のゆっくり"でしょうか?」 男の顔が曇った。 加工所に一度に入れれるゆっくりの数は約300、一か月近くと言えど、それ程度の数は集まっていると見るのが普通だろう。 そして何より、恐らく「飼いまりさ」にはバッジがないだろう。 あれば拾って戻っているはずである。バッジを街ゆっくりに奪われた可能性が高い。 つまり、全く見分けのつかないゆっくり300体の中から短期間で飼いまりさを見つけ出さなければならない。 それは、容易ではないと言う事は重々承知であった。 「まりさを、見つけてもらいますか」 男が重い口を開いた。 私は席を立ちあがると男の手を取り、こう言った。 「わかりました。必ず見つけ出します」 ・・・・・・ ・・・ 「・・・あなたはゆっくり研究の中でも特に街ゆっくりの社会性について詳しいとお聞きしました。少しお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 私の目の前には、本に埋もれる様にして僅かに露出した椅子に腰かけている老人の姿があった。 老人は、分厚い本を取り出すと、まるで辞書の単語でも探すかのようにペラペラと捲っている。 「かまいませんよ。何についてでしょうか?」 「"かいゆっくりにしてください"と言ってくるゆっくりをよく見かけます、それは全て捨てゆっくりなのでしょうか?」 「よく勘違いされる質問ですね。答えはNOです」 「・・・つまり、飼いゆっくりになった経験も存在しない街ゆっくりも混じっていると?」 老人が席を立ちあがると、立てかけてある小さな黒板にチョークで何やら図を書き始めた。 「俗に言う"アピール"と言う行動ですね。これは本来、秋の中頃からから冬までがピークを迎えます。それはつまり・・・」 老人がチョークである図を指し示した。そこには「不足」と書かれている。 「食料不足・・・ですか」 「その通りです。"おうた"も"おどり"も出来ないほどに食料不足が深刻な時の最終手段としてとらえるとわかりやすいでしょう。確かにあなたの言う通り、全てと言っていいほどのアピールをするゆっくりは"捨てゆっくり"です。ですが近年では比率が代わってきております。大体街ゆっくり、飼いゆっくりとで表すなら約7:3と言ったところでしょう」 「では、加工所に入ったゆっくり達の中からたった一体の金バッジゆっくりを見分ける為の方法はあるのでしょうか?」 老人が眉をピクリと動かした、そして開けたままであった分厚い本をぱたりと閉めるとこう答える。 「特定と言うのは不可能ですが絞り込むことは可能です。特殊な状況下において・・・特に加工所内であなたがゆっくり達に近づくと、どのゆっくりも"アピール"を繰り返すでしょう。嘘も含めてね。」 「その嘘を見破らなければならない・・・」 「そうです。具体的な方法は幾つかありますが、その飼いゆっくりの特性を利用しなければ・・・」 老人が小さなメモ帳を破ると、サラサラとボールペンで何かを書き始める。 それを私に手渡す間際にこう話した。 「一般的な見分け方です。大分絞り込めるでしょうが見つけるまでには・・・」 「いえ、十分助力になります。ありがとうございました」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「いやあああああ!もうじっぎりじだぐないいいいい!ずっぎりいやあああああ!!」 「あでぃずのっ!あでぃずのどがいばなおぢびぢゃんがっ!ゆがあああああ!もうずっぎりはいやだわあああああ!!」 「ゆ”・・・!ゆ”・・・!お・・・ぢび・・・ぢゃん・・・れい・・・む・・・の・・・おぢ・・・び・・・ぢゃ・・・」 ベルトコンベアの端には、透明の箱に茎だけが伸びる形でゆっくりの番いが置かれていた。 れいむ種とありす種が蔓を伸ばしている。砂糖水の涙と涎をまき散らし叫ぶゆっくり、虚ろな寒天の両目で中空を見据え何かをブツブツと呟くゆっくり等がいた。 後ろ側には、多くのまりさ種やありす種がヘコヘコと底部を動かして、ヌルヌルの水飴の液体を噴出させ続けていた。 「ゆふっ・・・!ゆふっ・・・!あでぃずっ!ごべんねっ!ごべんねぇぇ・・・!」 「ぼうずっぎりじだぐないわあああああ!ゆぎいいいいい!」 「ゆはっ・・・ゆはっ・・・!もうだべだよ・・・!」 一体のまりさ種が動きを止めた、その瞬間に先のとがったロボットアームがまりさ種の後部に突き刺さり、何かを注ぎ込む。 「あぎっ!ゆぎっ!い”や”あ”あ”あ”あ”!!ぼうずっぎりじだぐないよおおおおお!ゆふっ・・・!ゆふっ・・・!ふっ・・・!ふっ・・・!」 叫んで小麦粉の皮をよじらせたまりさ種であったが、動きが止まる、小刻みにプルプルと震え始める・・・そして 「んほおおおおおおおお!!でいぶっ!でいぶっ!でいぶううううううううう!!ずっぎりずっぎりいいいいいいいい!!」 声を上げて底部をヘコヘコと再び動かすまりさ種。しかし、恍惚とした表情のまま、涙を流していた。 仮面の下からあふれ出す涙の様に私は感じた。 (ここには金バッジまりさはいないな・・・) 生産すっきり用のゆっくりは、れいぱーありすや、まりさ種、れいむ種等が担当するが、一回り大きいゆっくりがそれになる。 金バッジまりさは栄養状態がいいとは言え、恐らく一カ月の間にやせ衰えてしまっているだろう。 ・・・恐らくは子ゆっくりを育てている。モチモチの小麦粉の肌や清潔な風貌は、街ゆっくりから見ればさぞや「美ゆっくり」に見える事だろう。 つまり、迷ってしまった日からそう遠くない時に、すっきりをされているはずである。 まりさ種と言う事を考えれば、れいぱーありすと言った所が一番可能性が高いか・・・ そこから導き出せば、金バッジまりさは子まりさ、ないし子ありすと一緒にいる可能性が高い。 いよいよ、ドアが開くと、そこにはガラス越しに、大量のゆっくりを見る事が出来た。 それぞれが家族単位で寄り固まっている。 風貌はどれも汚く、飾りが所々欠けているゆっくりが多々見受けられた。 小麦粉の肌も煤や泥がついて汚れている。 私がガラスを一度コンと叩くと、ゆっくり達の眼の色が変わった。 凄まじい勢いで飛び跳ねてきたり、のーびのーびで近寄ると、ガラス越しに小麦粉の顔をべチャリと付けて何かを叫び始めた。 後ろにいるゆっくり達までもが、のーびのーびを繰り返していびつな形に鳴りながら私に何かを叫び続けている。 「・・・!!!・・・!!・・・!」 「・・・!!・・・!!!!」 「・・・!!・・・!」 私は、ゆっくり達のいる場所のドアをあける。柵がしているので近づく事が出来ないが、ガラスの向こうに張り付いて殺到していたゆっくり達が、今度は私の柵に向かって群がり始めた。 「にんげんざんだ!にんげんざんがおりでぎだよっ!」 「ゆ!ゆ!」 「まりさをかいゆっくりにしてねっ!」 「ゆ!」 「ありすはとっても!とってもとかいはだわ!おうただってうたえるしおどりだって・・・ゆがっ!」 「どいてねっ!にんげんさん!れいむとれいむのおちびちゃんだよ!とってもゆっくりできてかわいいよ!だから!だからかいゆっくりにしてね!おちびちゃんもなにかしてねっ!はやく!はやくっ!」 「ごはんしゃん!ごはんしゃんをちょうぢゃいにぇ!まりしゃちゃちはもうなんにちもごはんしゃんがたべれちぇにゃいんぢゃよ!」 「ゆ!ゆ!ゆ!」 「あでぃずのおぢびぢゃんがゆっぐりでぎなぐなっでるのおおおおお!にんげんざんっ!おでがいじばずっ!あばあばを!おれんじじゅーずざんをぐだざいっ!ずごじでいいんでずうううううう!!」 「ちゅぶれりゅううううううう!」 「ゆ!」 「ごはんさん!ごはんさんをちょうだいね!ずごじだげっ!ぼんのずごじだげでぼ・・・!」 「まりさたちをここからだしてね!」 「たすけてね!れいむたちゆっくりしたいだけだよ!」 「ゆ!ゆ!」 ・・・私は思わず一歩後ろに下がった。 それを去る行為と勘違いしたゆっくり達が、鉄柵を折り倒さんとする勢いでさらに騒ぎ出す。 「まっでええええええ!まっでえええええええええ!にんげんざんんんんんんんんん!!」 「でいぶはぎんばっじのがいゆっぐりだったんだよ!」 私がその言葉に反応すると、れいむのただ一言が皮切りとなって一斉にゆっくり達が騒ぎ始めた。 「ま、まりさも!まりさはきんばっじのかいゆっくりだったんだよ!とってもすごいんだよ!」 「ありすもきんばっじよ!とってもとかいはなきんばっじだったのよ!」 「れいむはぎんばっじさんだったけどおうたがじょうずなんだよ!ゆ~!ゆゆー!ゆっくり~!」 「まりさはぎんばっじさんだけどかけっこがいちばんじょうずだったんだよっ!ゆっくりみててね!ゆ!ゆ!」 「ありすはきんばっじさんだからとってもとかいはなこーでぃねーとができるわ!みて!このかざりはしみやよごれなんかじゃないわ!これはありすがこーでぃねーとしてのよ!」 「まりさはぷらちなばっじさんだったんだよ!とってもゆっくりしたゆっくりなんだよ!だからかいゆっくりにしてねっ!」 「ありすも!ありすもぷらちなばっじさんだわ!おちびちゃんたちもきんばっじよ!」 「れいむはおちびちゃんたちもぷらちなばっじだよ!とってもゆっくりしたゆっくりなんだよ!」 どれもこれも荒唐無稽な事を口にしている。 突如跳ねて部屋の端から端まで「かけっこ」をし出すゆっくり、怒号と変わらない「おうた」を歌い出すゆっくり、汚いシミや油汚れ、そして泥に汚れたカチューシャを「こーでぃねーと」だと叫ぶゆっくり・・・ どれも殆どが具体的な事に触れず、抽象的な表現で「飼いゆっくり」であった事をアピールしている。殆どが嘘だろう。 薄汚い小麦粉の体をぐーねぐーねと動かしながら、砂糖水の涙と涎をまき散らして、砂糖細工の歯をむき出しにしてこちらに迫っている。 (・・・僕の周辺より外れて点在しているゆっくり達が本物の可能性があるってことか) 蠢く様に小麦粉の体の形を変化させこちらに群がるゆっくり達に外れているゆっくり・・・ 弾き飛ばされて最後部に来たのだろう・・・可能性があるとすればこのゆっくり達だ。 しかし出遅れただけと言う可能性もある。次に行う方法で大分絞り込めるはずだ。 私はガラスの向こうにいる加工所職員に手で合図を送る。 すると部屋の壁に据え付けられていたダクトの様な場所が開き、中からチョコレートや砂糖菓子等の「あまあま」が落ちてきた。 ダクトの数は全部で3個。つまり三か所にわけてある。 「今、僕はあまあまを流した!あそこに三か所あるぞ!」 私がそう言うと、ゆっくり達の視線がダクトに釘づけになる。 一斉にダクト周辺へと集うゆっくり達、押し合いへしあいを繰り返して三か所にゆっくりの「ダンゴ」が出来上がった。 「ゆ!あまあまさんだよ!」 「これはれいむのものだよ!ゆっくりどいてね!」 「はふっ!ほふっ!ゆがっ!」 「どぎなざい!がふっはふっ!これはあでぃずのものよ!」 「ずるいよ!まりさにもわけてね!」 「ゆ!ゆ!どいて!ゆ!どいてね!」 「いやだよ!これはまりさのものだよ!」 「あでぃずも!あでぃずもぼじいわっ!ぼじいわああああああ!!」 ・・・私の視線は「ダンゴ」になったゆっくり達の外側・・・つまり押し戻されたゆっくり達に神経を注いだ。 砂糖細工の後ろ髪や、ピコピコを噛み、それを左右に振りながら前のゆっくり達をどかそうとしているゆっくり達。 拍子に飾りが取れてしまったり、帽子を落としてしまったりしても、お構いなしにあまあまに群がっていくゆっくり達は「ダンゴ」の中心部周辺にいる。 これが「街ゆっくり」だ。 はずみで飾りが取れたり、帽子を落とした外側のゆっくり達は、あまあまを諦めてでも飾りを拾いに行っていた。 また、子ゆっくりに構わずあまあまを取りに行かずに、子ゆっくりが転んだりすると、すぐさま諦め、ぺーろぺーろを始めるゆっくり。 これが「捨てゆっくり」だろう。 私が判断した捨てゆっくり達を注視していると、一体のまりさが目に付いた。 帽子が明らかに他のまりさ種よりボロボロだ。擦り切れたりしたのではない。あれは「噛み千切られ、踏みにじられ」た物だ。 周りのゆっくりに比べて一段と汚く、さらには生傷だらけである。日常的に他のゆっくりに攻撃を受けているのだろう。 そして、一体の子ありすをぺーろぺーろした後は、帽子を取り払い、その中に避難をさせようとしている。 帽子の内側の白い布の上には、赤まりさや赤ありすの帽子や飾りが、10~20個程詰まっていた。 (見つけた!) 私は鉄柵を飛び越えてそのまりさと子ありすを掴むと、ドアに向けて走り出す。 粗方「あまあま」を食べ終えたゆっくり達が、一斉に私に「アピール」をしようとなだれ込み始める。 間一髪でドアを閉めると、ゆっくり達の悲鳴が遮断されるはずの壁越しから振動となって聞こえて来たように感じた・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・ 「ゆぎゃあ”あ”あ”あ”っ!!!!いだいっ!いだいいいいいいい!あ”あ”あ”あ”っ!ごわいよおおおお!いだいよおおおおお!!」 一体のまりさがローラーに引き潰されながら残った小麦粉の体をぐーねぐーねとさせながら何かを叫んでいる。 ブチブチと言う音がここからでも聞こえてくるのが分かる。 「にんげんざんっ!でいぶをだずげでねっ!でいぶまだもっどゆっぐりじだいよっ!おちびちゃんだぢどみんなでおうだをうだっだりぽかぽかざんをじだ・・・あぎゃあ”あ”あ”あ”あ”っ!!いだいっ!にんげんざんっ!だずげでっ!だずげでっ!だずげでえええええええ!!でいぶをだずげでねええええええええ!!」 「あ”あ”あ”あ”あ”っ!あでぃずまだじにだぐないわああああ!!あ”あ”----っ!!あ”あ”あ”あ”------っぎゃあ”あ”あ”あ”あ”!!いだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいいいいいいいいいいいいい!!!」 「ゆはっ・・・!ゆはっ・・・!ゆはっ・・・!ごわっ・・・!ごわいよっ・・・ゆひっ・・・ゆひっ・・・!あ”あ”----っ!!ぎだあああああああ!!いやだあああああああ!うごいでねっ!うごいでねっ!!うごいでねえええええええ!までぃざのあんよざんうごいでねっ!おでがいいいいいいいぃぃぁぁあああああぐぇぇぇぇえええええええ!!!!いだいいいいいいいいい!!ゆはっ!ゆはっ!ゆっぎいいいいいいい!!」 他のゆっくり達もローラーによってどんどんと破砕されていっていた。 私が、金バッジまりさとその子ありすを見つけた後、すぐに始まったのだ。 あのまりさが金バッジまりさだとわかったのにはいくつか裏付けがある。 最初の私自身がゆっくり達の近くに寄ったのと、あまあまを流したのは一般的なゆっくりの見分け方で。 最後にまりさが子ゆっくりにする行動と、なにより帽子の中身が決め手となった。 まりさは迷った当初、れいぱーあありすにすっきりされたのだ。 栄養状態が良かったため、すっきりしたまま餡子が吸われて潰れる事も無く、20体近くの赤ゆっくりを育てた。 しかし街と言う過酷な環境、それに対応できるはずもないまりさは赤ゆっくりの全てをゆっくりできなくさせてしまう。 問題はここからだ。 普通の街ゆっくりならば赤ゆっくりの飾りはどこかへ捨ててしまうだろう。そんなものを持っていても何の役にも立たないし、むしろデメリットの方が多いからだ。 しかしこのまりさは、そんな事は全く知らない。赤ゆっくり達の飾りを形見として持っていたのだ。 全てはまりさの優しさがこの窮地を救ったのかもしれない。 ・・・加工所を後にする。後ろからは飼い主と金バッジに戻ったまりさの感謝の声が聞こえていた。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3197.html
『隻眼のまりさ 第五話』 18KB 戦闘 群れ やっぱり私は厨二が治りません。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第五話~ まりさの戦い!その力は誰がために… ――――某日、日の出―――― 今日も今日とて、隻眼のまりさは修行に明け暮れていた。 「…………………」 ただ、今は動いていない。 意識を集中しているのだ。 「…………………」 思い浮かべるのは例の攻撃イメージ。 冷静でありながら熱い闘争心。 目の前に敵がいるイメージを持ちながら ひたすらに神経を尖らせ続ける。 「…………………ふぅぅぅぅぅ!」 そこには敵がいるんだ。攻撃するんだ。 自己暗示のように頭の中でひたすらに繰り返す。 「はっ!!!」 体当たりを実行。 だが、対象もいなければ体当たり自体が 特別なものでもなかった。 ――――同日、朝方―――― 「じゃあ、今朝の『ぶりーふぃんぐ』はおしまいね。 まあ今年は『とりひき』も終わったし 後は大体自由に冬篭りに備えていけばいいのだけれど」 「うん!まりさも冬篭りのごはんさんをあつめないと!」 「ドスもがんばってね!」 「ゆっくりがんばるよ」 「じゃあ解散」 「ゆ~!」 皆が上機嫌でドスの洞窟を出て行くのだが 隻眼のまりさの足取りだけは重かった。 あのレイパーありす事件以降、まりさは トレーニングの効果をはっきりと実感することがなくなっていた。 勿論身体的なジャンプを始めとした足回りの強化には励んでいる。 始めた当初は走る速さの向上などすぐに効果が現れたのだが 最近では特別こうなった、と言えるものがなかった。 その原因をまりさなりに考えた結論は二つ。 実戦経験と新しいトレーニング方法。 前者は難しい問題ではない。 常時に敵がいるイメージを浮かべながら 精神修行してもなかなか効果は上がらない。 集中力はともかく、やはり実戦時の緊張感が持てないのだ。 かといってそいこらのゆっくりに喧嘩を売るわけにもいかない。 仲間を傷つける云々もあったが このことはあくまで自分だけで取り組むのだと決めていたから。 それでも、そのうちれみりゃが襲ってくれば試すこともあるだろう。 問題は後者。 早く言えば、どうしたら自分は強くなれるのかという漠然とした問題。 これだけの命題では思いつく方が不思議だ。 現在のまりさが考えられたのは足の強化だけ。 せめて何か理想の戦い方を考え付けば それに向けた努力が可能であるのだが。 「うーん…」 ぱちゅりーに話を聞けば何か取っ掛かりが見つかるかもしれない。 彼女の知識は本物だ。 知識はいくらあっても困らない。 雑多な知識は持っててどこかで役に立つかもしれない。 そう言った本人の言葉通りちょっとした知識を様々な場面で役立てている。 もう少し自分で考えてみようと思った。 ぱちゅりーになら相談する価値は十二分にあるのだが やはりこれは自分だけで考えるべきだ。 ぱちゅりーに頼るのは最終手段だ、と結論付けた。 ――――同日、昼前―――― 越冬に向けての食料集め。 秋も半ばに到達するころ皆のために働いていた 精鋭のまりさ達やドスも自分達の食料集めに 入らなければならない。 隻眼のまりさは単独で食料集めをしていた。 秋は様々な食料が見つかる。 いつも食べている雑草や花も食べられるが 保存には向いていない。 ゆっくりの間で保存食として優先的に収集されるのは ドングリやマツボックリなどの固い物。 ドングリの中身の味はそこそこだが何より固いので噛み切るのは大変である。 丸呑みしたりするケースが多いが 赤ゆっくりにとっては大きすぎて食べようがない。 越冬時に繁殖すると苦労する原因の一つでもある。 「いっぱいあるね。 今年の『えっとう』は苦労せずにすみそうだよ」 隻眼のまりさも例外でなくドングリを多く集めている。 マツボックリはまだちらほら見かける程度だ。 「ん~。そろそろ帽子がいっぱいだよ」 食料を集めてしまいこんでいる帽子は午前中で一杯になってしまった。 ゆっくりは物を口の中に入れて運ぶのが一般的だが まりさ種は割と体積のある帽子に物が収容できるため 狩りをするのに一番適した種族である。 自然、活動的な性格の者が多かった。 「まりさ!」 「??…れいむ?」 一旦帰ってからまた来ようかと考えていたまりさに 狩りの途中らしきれいむが寄ってきた。 「まりさ!ゆっくりしていってね!!!」 「どうしたの?」 狩りに来ている、というのは不正確かもしれない。 なぜなら帽子という収容する物のないれいむ種が 狩りをしてる最中なら口の中に物を入れていて 積極的に会話するはずがないからだ。 「その食料は重そうだかられいむが持って帰ってあげるよ! とっととそれを寄越してね!」 「何言ってるの?これはまりさが集めたんだよ?」 「れいむは『しんぐるまざー』だからたくさん食料が必要なんだよ! 狩りをする番がいないから大変でかわいそうなんだよ! ゆっくり理解してね!!!」 「何言ってるの!れいむに子供はいないでしょう!?」 このれいむは最近この集落に越してきたゆっくりだった。 ドスに『めんかい』した者は基本的に誰でも住むことができるというルール。 ぱちゅりーはそこで一応そのゆっくりがゲスかどうか見極める。 馬鹿なゲスはそこで命令口調で話したり 自分がこの集落を統括するなどと言い出したりして返り討ちにあうのだが このように嘘をついたり演技をしたりして入ってくるゲスもいる。 「どうしてそんなこと言うのおおおおおお!!?? れいむは嘘なんかついてないよおおおおおお!!??」 「だったらその子供達をまりさに見せてね! 嘘をつくゆっくりは集落には住めないよ!!」 「ゆ…ゆううう」 ゲスれいむは完全に計算が狂ってしまったことに戸惑っている。 まりさ種は運動能力に優れているが頭が悪いと思っていた。 れいむは自分が一匹だということを 知らないだろうと高をくくっていたのだ。 実際全く外れというわけではないのだが 隻眼のまりさだけでなく精鋭達は一様に頭もいい。 「ゴチャゴチャ言わないでとっととよこしてね!! グズなまりさはゆっくりできないよ!!」 「ゆっ!?」 れいむがピョンピョンと跳ねながら向かってきた。 どうやら力ずくで奪うらしい。 だが、今のまりさにはその攻撃が さながらスローモーションに見えていた。 「ゆっくりしないで寄越してね!!」 「ゆっ!?うわ!!」 直前で回避しようと思ったまりさ。 だが直撃は免れたものの体半分くらいの位置で 体当たりを受けてしまった。 コテンと転ぶと荷物の重さでぐらついた帽子が地面に落ち 食料が辺りにブチ撒けられてしまった。 (油断した…!?いや、あの攻撃くらいよけれるはず…!) 「ゆふん!初めから素直に渡さないからこうなるんだよ! 馬鹿なまりさはとっとと死んでね!!」 回避失敗に戸惑うまりさ。 「グズなまりさはまりさのせいで散らばったれいむのごはんを れいむのおうちに運んでね!のろまは嫌いだよ!!」 そう言うとれいむはまりさを心底馬鹿にしたような顔で見てきた。 すると、まりさはカチンときた。 自分は一番足が速いからのろまではないとか まりさが集めた食料をいつの間にか自分の物と主張するなとか 言いたいことはすべて吹き飛んだ。 その感情は、怒りのベクトルを得た。 「………………………!!!」 「ナニダマッテルノ! 『カタメ』シカナイミニクイマリサダケド トクベツニレイムノドレイニシテアゲルカラトットトハコンデネ!!」 れいむが何か言っているが隻眼のまりさに声は届いていたが 意味が全く伝わっていなかった。 一旦爆発した感情がまりさの攻撃意志に集まっていく。 「ハヤクシナイトセイッサイスルヨ!! ホントウニグズナマリサダネ!! イクラレイムガヤサシクテモ」 「黙れ」 「っ!!」 れいむは一瞬気圧された。 だがすぐに調子を取り戻して再びまりさを罵ってくる。 「――――!!!――――!!!!」 隻眼のまりさにはもう何も聞こえていない。 まりさの自意識は全て自分の中に集中していた。 増大した攻撃意志が一点に集まっていくイメージ。 落ち着いて、だけど怒る。 攻撃しようという意志が実際の攻撃力になる。 静まれ、それが集中力になる。 高まれ、それが攻撃力になる。 「でいぶをむじずるなああああああああああああ!!!」 面倒くさがりらしく今まで仕掛けてこなかったれいむが ついに痺れを切らして突っ込んできた。 (ここだ!!!) 「ゆうううううううううう!!!!」 「じねえええええええええ!!!!」 ドン、と交差法の体当たりが炸裂。 それは二回目の成功。 れいむは、バラバラに砕け散って死んだ。 ――――同日、昼過ぎ―――― 隻眼のまりさはあの時散らばった食料を集めて 集落に戻ってきていた。 家に入って荷物を下ろす。 例によって単独で行動していたことが幸いした。 またも同族殺しを犯したまりさ。 だがそんなことが瑣末なことであるかのこととしか 思えないほどに上機嫌だった。 なんといっても試行錯誤しても 全くできなかった攻撃がついに成功したのだ。 これ以上の成果はない。 そしてこの戦闘では様々な物を得た。 まず二つはっきりしたことだが あの攻撃を発動するには攻撃意志が不可欠であるということ。 それと今更だがあれは普通の攻撃ではないということ。 あの攻撃は単なる体当たりなどではない。 れみりゃへの攻撃もそうだが 止めを刺すには体重に任せて連続で踏みつけるしかない。 一撃でそれ以上の効果が得られるなどありえないと 隻眼のまりさの餡子脳でも理解できた。 攻撃意志の方は重要だが厄介だ。 はっきりと相手がいて、それに攻撃するつもりじゃないと あの攻撃は使えない。 つまりは練習ができないということ。 以上の二つについては気付きだが 正直どうしようもないことだ。 とりあえずまりさは頭の隅に追いやる。 問題は先ほどの攻撃の回避失敗だ。 後から考えれば当たり前のことだった。 あれは荷物の重さで回避力が落ちていただけだ。 そして、それはトレーニングに応用できる。 重いものを持って移動できるようになれば それを下ろしたときにさらに高い機動力が得られるはずだ。 新しいトレーニング方法を思いつき 隻眼もまりさはウキウキしていた。 「まりさ、もう戻っていたの?」 「ドス。うん、そうだよ」 家から出てみるとドスがいた。 どうやらドスも荷物が一杯になったため 早めに戻ってきていたらしい。 「ドスは越冬の方大丈夫?」 「うん。一杯ドングリやお花さんが集まってるから 冬さんが来ても大丈夫。 まりさは?」 「まりさも大丈夫だよ。 そういえばぱちゅりーは?」 外出時はほとんどの場合帽子に 乗っているぱちゅりーがいなかった。 「ぱちゅりーはまりさの家の食料庫で 食料の整理をするって言ってた。 ぱちゅりーがいても重いだけで役に立たないって」 「そうなんだ」 なんだかもうぱちゅりーはドスのおかざりの 一部のような感覚があったのでちょっと違和感があった。 「ドスはもう一度集めに行くの?」 「ううん。今日はもうやめとこうかなって思ってる。 まりさは足が遅いしね」 隻眼のまりさはその台詞にちょっとだけ寂しさを覚えた。 もう自分の前を走ってくれるリーダーはいないんだな、と。 そういえばいつからだろう。 リーダーをリーダーと呼ばなくなったのは。 今では皆、ドスか長と呼ぶ。 自分も気がついたらドスと呼んでいた。 六匹で集まって遊んでいたころにはリーダーはずっと まりさ達のリーダーであってくれると思ってたのに。 あの多数のれみりゃ襲撃の際に一匹は行方不明となっていた。 数週間、数ヶ月と待ち続けたが、それだけ時間がたてば もう生きてはいないだろうということを納得せざるを得なかった。 そして、リーダーがドスになったため 六匹はもう四匹になってしまった。 そこまで考えて、隻眼のまりさはハタと気付いた。 三匹になってしまう。 自分はゆっくりとは違う段階に入るなどと 思い上がったことを考えいたのだが 要するに自分も幼馴染のグループから抜けて 新しい一歩を踏み出そうとしているのだ。 そういえばいつからだろう。 自分が単独行動をするようになったのは。 しかも行方不明となったまりさとリーダーとは違い 自分は自らの意志で抜けようとしている。 皆と一緒にいるからなどというのは言い訳だ。 「そういえばまりさ、最近『とれーにんぐ』を 頑張ってるんだって?ぱちゅりーから聞いたよ。 …まりさ?」 「……………」 まりさから反応が返ってこないことを心配するドス。 ドスはそれほど頭のいいほうではない。 だが仮にも村長で六匹のまりさの元リーダーだ。 隻眼のまりさが何かを抱えていることだけは分かった。 「まりさ、何か悩みでもあるの?」 「…うん」 隻眼のまりさが抱えているのはリーダーのかつての言葉だった。 皆で走ることが重要、と。 それはいつかの約束ごと。 リーダーは一番速かったけど一人先を進むことはなかった。 結局皆ついてこられるから、とその時は言っていたが それが間違いだったと気付いた。 リーダーについて行けていたのではない。 リーダーが皆を置いていかなかったのだ。 なのに自分は、自らが特別な存在になるのだと考え 皆を置いていこうとしている。 「ねぇドス」 「何?」 「ドスは…ドスになった時どう思った?」 「え?」 まりさは知りたかった。 ドスがどうしてドスになったのか。 リーダー自身が否定していた『特別』な存在になった時 ドス自身はどう思っていたのか。 ――――同日、同時刻―――― ドスは最近穏やかではないものを感じていた。 それがぱちゅりーの焦燥感や 隻眼のまりさの違和感だったりするのだが ドス自身はこれだ、と気付けるものはひとつもなかった。 「これからどうしようかな…」 ドスは一旦食料を持ち帰ってぱちゅりーに整理を任せたのだが 中途半端に時間が空いてしまった。 今からまた食料を探しに行ってもいいのだが また帽子一杯にして戻ってくるには短いし ただぼーっと待つには長い時間だった。 せっかくなので集落を見て回ることにした。 長なのでそれ位してもいいだろう。 ぱちゅりーの方が頭がいいし長に向いているのではないかと 考えなくもなかったが拾われた一匹のぱちゅりーより 『いげん』のあるドスの方がいいと長に推された。 実際村はうまく回っているので恐らくそれが正しい選択なのだろう。 「まりさ、もう戻っていたの?」 「ドス。うん、そうだよ」 幼馴染の一匹、隻眼のまりさが家から出てくるのが見えた。 最近のまりさは難しい顔をしていることが多い。 ぱちゅりーが考えことをしている姿を多く見るので 割とすぐに気付いた。 「ドスは越冬の方大丈夫?」 「うん。一杯ドングリやお花さんが集まってるから 冬さんが来ても大丈夫。 まりさは?」 「まりさも大丈夫だよ。 そういえばぱちゅりーは?」 「ぱちゅりーはまりさの家の食料庫で 食料の整理をするって言ってた。 ぱちゅりーがいても思いだけで役に立たないって」 「そうなんだ」 ぱちゅりーは長としては器の足りない自分を しっかりサポートしてくれる。 せめて頭を使わない仕事くらい自分だけでやりたかった。 「ドスはもう一度集めに行くの?」 「ううん。今日はもうやめとこうかなって思ってる。 まりさは足が遅いしね」 そう言うとまりさが複雑そうな表情をした。 慌ててその場を取り繕おうと口を開く。 「そういえばまりさ、最近『とれーにんぐ』を 頑張ってるんだって?ぱちゅりーから聞いたよ。 …まりさ?」 「……………」 「まりさ、何か悩みでもあるの?」 「…うん。ねぇドス」 「何?」 「ドスは…ドスになった時どう思った?」 「え?」 唐突な質問。 今度はドスが複雑そうな表情をする番だった。 ドスが一番気にしていること。 それは自分がドスになって幼馴染の輪に 一緒にいられなくなってしまったこと。 ドスにとっての、唯一の脛の傷。 「どうして?まりさもドスになりたいの?」 答えになっていないが、それだけ言うのが精一杯だった。 「ううん、そういうわけじゃないけど…」 隻眼のまりさも押し黙ってしまう。 実はドスはこのまりさに自分の後を継いで 残った四匹のリーダーになって欲しいと考えていた。 このまりさに前を走れ、と言ったのはそういう意味も含んでいた。 自分は、何の因果かドスになってしまった。 皆が喜んでくれたので自分もちょっとは嬉しかったが ドスになって自分自身が得られたものなど何もない。 「…ドスは、ドスになれて嬉しかったよ。 ドススパークも使えるようになったし長にもなれたしね」 完全な嘘だ。 「そうなんだ。やっぱりドスも 皆のリーダーになれたことは嬉しかったの?」 「うん、皆で力を合わせれば何でもできると思ってたけど ドスになったからできることがもっと増えたよ」 これも嘘。 実はドスの巨体は食事量や歩く位置など気を 使わないといけないケースが多いので以前より 不便になったとすら感じる。 思い返してみて自分でも意外だった。 そしてドスという存在が少し嫌になった。 やはり自分は、特別な存在にはなりたくなかった。 平凡な、ただ一匹のまりさでいたほうが幸せだった。 番も持たず、仲間も持たず、皆のために働くヒーロー。 そこに、ドス自信の幸せなど欠片もなかった。 そしてその思いは一つの形となった。 それは誰にもそのことを悟られないこと。 ドスは皆のヒーローで居続けようと決心をした。 ――――同日、深夜―――― 隻眼のまりさは自宅に居た。 トレーニングの方法を考えて頭をひねっていたのだが 次第に眠くなってきて気付いたら寝息を立てていた。 だが、今は起きている。 それが偶然なのか、第六感なのかは分からないが 確かな何かを感じていたのだ。 まりさはガサガサと巣を覆っていた木の皮をどけると単身外に出た。 時刻は深夜。しかも森の中なので月明かりも僅かにしか入ってこない。 ピョンピョンと辺りをうろつく。 何故だかはわからない。 だが夜という時間、そしてゆっくりの身であるまりさに 当然の脅威が襲ってきた。 「うー、まりさがいるどー」 「あまあまたべるんだどぅー」 れみりゃだ。 胴付きが一匹。そうでないのが三匹。 「こんなところにいるなんてれみりゃはうんがいいんだどー おちびちゃんにかりのしかたをおしえるんだどー」 「うー、おかーしゃんがんばれー」 「ぷっ」 隻眼のまりさは思わず噴き出してしまった。 あんなに脅威に感じていたれみりゃが こんなにも滑稽に見えたのは初めてだ。 のろいし頭も悪い。 そして何より運が悪い。 自分と会ったのだから。 「かくごするんだどー」 「ふっ」 伸ばしてきたれみりゃの手をさっとかわす。 遅い。こんなものでは当たりようがない。 「うー?おとなしくするんだどー!」 「ふっ!とっ!!」 次々と攻撃を繰り返すれみりゃの腕を 右へ左へと簡単に回避する。 少々暗くて攻撃に移り辛いと思っていたが そろそろ目が慣れてきた。 「おかーしゃん!れみりゃもてつだう!」 「まりさなんてらくしょうなんだどー!」 「うー、さすがれみりゃのおちびちゃんなんだどー!」 四匹による一斉攻撃が始まる。 「ふっ!ふっ!ふっ!」 「うー!ちょこまかとうっとうしいんだどー!」 まりさは連続のバックステップで距離をとる。 流石に囲まれたら危ない。 回避は大して難しくないのだがまりさは一つの問題を抱えていた。 れみりゃ達が弱すぎて怒りが沸いてこない。 例の攻撃の発動条件が満たされないのだ。 その時だった。 「なにやってるの!」 「!!!」 なんとドスの洞窟からぱちゅりーが出てきたのだ。 「うー、ちょうどいいんだどー ぱちゅりーはもっとよわいからねらいやすいんだどー」 「あんなのろまならおちびちゃんでもやれるんだどー」 (まずい!!) れみりゃがすばしっこいまりさから 体力的に弱いとされるぱちゅりーに標的を変える。 (ぱちゅりーを守らないと!!!………!!!) きた。あの感覚だ。 頭が冷えていき、身体が熱くなる。 ピョンピョンと跳ねながら急いで攻撃態勢を整える。 間合いまであと三歩。 頭が妙に冴え渡る。 あと二歩。 何故だか標的の胴付きれみりゃがよく見える。 あと一歩。 他の全てが意識から消える。 間合いに入った。 全力で踏み切る体勢に入る。 「うああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 ぱちゅりーは見た。隻眼のまりさが光り輝くのを。 そして聞いた。れみりゃの断末魔を。 まりさがジャンプするたび、一回ずつの悲鳴。 最後に見たのは、バラバラに砕け散ったれみりゃ四匹の残骸と 隻眼じゃない、両目の開いたまりさだった。 続く 次回予告 隠し通していた姿を見られた隻眼のまりさ。 ぱちゅりーはその姿から様々な思いを巡らせていた。 それでも歩みの止まらない進化をどのように判断するのか…。 次回 隻眼のまりさ ~第六話~ ぱちゅりーの疑念!ドスとまりさと戦いと… 乞うご期待! あとがき 相変わらず厨二設定の強い作品ですが楽しんでいただけたでしょうか? 今でこそどんどん文章が書けますが 同時にいつ失速するかとびくびくしながら書いています。 予告は付けてから必要がないかと思うんですが結局そのまま投稿してしまいます。 蛇足な上にどうでもいいことですが 私は本物の饅頭を食べるのがあまり好きではありません。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3843.html
『まりさとの勝負』 27KB いじめ 現代 失礼します。 anko2611 ゲスゆっくり奮闘記1 anko2622 ゲスゆっくり奮闘記2 anko3414 ゲスゆっくり奮闘記3 anko3417 ゲスゆっくり奮闘記4 anko3456 れいむのゆん生 anko3458 まけいぬとゆっくり anko3461 ゆっくりに生まれて anko3484 ゆっくりブリーダー anko3489 休日とゆっくり anko3652 ドスについて anko3715 ゆっくりに餌を anko3729 はじめてのぎゃくたい anko3730 はじめてのしいく 「」ゆっくりの台詞 『』人間の台詞でお願いします 誤字脱字失礼します 『はぁぁ、良いもんだなぁ、森林浴』 森、とまでは行かないけど林の中を俺はゆったりと歩く。 木々の隙間から零れてくる日差しに、そっと目を細める。 その優しい光に心が洗われる様な気がしてくる。 俺は友人の勧めで、休日に森林浴とやらに来ていた。 森林浴と言っても、一人ピクニックのようなもので帽子にブーツ、そして背中に背負ったリュックサックには重くならない程度の食料を入れてある。 他にも、タオルや軍手、スコップに鋸やナイフになる便利十得などの探検道具のような物も入っている。 自然の中に向かうというとこで年甲斐もなく、はしゃいでしまった結果だった。 『なんか、本当にゆっくりしてるなぁ……』 優しい木々の気配に抱かれながら、立ち止まり深呼吸をする。 ここから数百mも歩けば、車の排気ガスの立ち込める人間社会に辿り着くとは思えないほどに清廉で静かな空間。 空気の美味しさがまるで違い、普段歩いてるコンクリートの地面とはまるで違う柔らかい土と落ち葉が敷き詰められた地面はいくら歩いても疲れない。 そこかしこで聞こえてくる虫の音や、鳥の囀り。 『リスとかいるのかもなぁ……』 木々を見上げながら、今度カメラでも買っても良いかも知れない、そうホクホクと感じながら首から下げた水筒から麦茶を一口飲み、また歩き出す。 名も知らない綺麗な花、見たこともない虫。 街中で見たなら見逃してしまうだろう自然そのものに注意深く視線を向けながら俺は奥へ奥へと歩く。 といっても、ペースが遅いのでそんなに距離は進んでいない。 『田舎暮らしとか、良いのかもなぁ』 都会生まれ都会育ち、こんな林だって最近まで知らなかった俺はゆっくり目を細めながら田舎暮らしに夢を馳せる。 実際はとても困難なことなのだろうけれど、俺にはとても素晴らしいことに感じられた。 『いっそ、婆ちゃん家にでも置いて貰おうかな……』 今の仕事を捨てることさえ考え始めたそのとき。 「そこでなにそしてるのぜっ!!」 『は?』 急に声をかけられ足を止めて、周囲を見回す。 林に入って1時間ほど、誰にも出会わなかった為に間抜けな反応をしてしまい、自分に声をかけた存在を探す。 『あれ? さっき、声が……』 「なにしているのかってきいてるのぜっ!!」 『ん? ……あ』 声のした方向を見る、目線をかなり下げた地面ギリギリにその声の主はいた。 「ここはまりささまのむれのなわっばり なのぜ! さっさとでていくのぜ!」 『なんだ、ゆっくりか……』 地面ギリギリにいたのは、黒い帽子のゆっくりまりさ。 ゲームキューブほどのサイズで、街で見かけるゆっくりより綺麗ではあるが土くさい感じがした。 俺はさっきまでの気分を害された気分になって、無視して進むことにする。 『ったく、こんなとこまでいるなよな……』 「むしするんじゃないのぜっぇぇええええ!!! ここはまりささまのむれのなわっばりだっていってるでしょぉおおお!!!」 無視してやろうとする俺の後ろをまりさは、跳ねながら追ってくる。 ゆっくりと歩いていたので、まりさはどうにか食いついてくる。 俺はゆっくりは好きでも嫌いでもないので無視をしようとしていたのだが、あまりに煩いので少しイライラして早足になろうとしたとき。 「さっきからおさのことをなにむししてるの!」 「なんていなかものなのかしら!」 「むっきゅ、にんげんはあたまがわるいって ほんとうなのね!」 『うわっ、また出た……』 そこからの草むらや木の陰から、ゆっくりたちがワラワラと現れて俺を囲んでいく。 何だこれ、と顔をしかめていると、息を切らせたまりさが俺にやっと追いついてきた。 「ゆ、ゆへ、ゆは、ゆ、ゆぅ、に、にげるのは、もうおしまいなのぜ?」 『…………』 背後の足元を見ると、まりさがニヤニヤと笑いながら良く解らないことをほざいていた。 どうやらまりさの中では勝手なシナリオは進んでいたらしく、いつの間にか俺が逃げていたことになったらしい。 呆れて溜息をつく間にも、ゆっくりたちは増えていく。 子ゆっくり赤ゆっくりもいるらしく、全部で50以上はいるだろう。 別にゆっくりなんぞいくら増えても10分かからず皆殺しに出来るだろうけど、俺はこの自然を汚したくなかった。 まぁ、ゆっくりがいる時点で大分汚れている気がするけど、そこは無視して、とりあえず跨いで通ろうとか考えていたとき。 「ゆへ、またにげるのぜ? でも もうおそいのぜ、おまえはかんっぜんに りょういきをおかしたのぜ! これはせいっさいにそうとうするのぜ!」 「そうだよ! しかもクソにんげんなんだからせいっさいはにばいだよ!」 「むきゅきゅ、おろかなクソにんげんのだんまつまが いまからきこえてくるようだわ!」 『はぁ……』 俺は知らなかったが、こいつらは捨てられた飼いゆっくりがこの林の中で世代交代してきた群れで、人間に対して悪い感情と、自分達に従う存在だと間違った認識を持っている。 捨てられるゲスの子孫なのだから仕方がないことなのかも知れない。 そして、こいつらは林から出ることはなかったので、今までほとんど人間と交流したことがないので、力の差もまったく理解が出来ていない。 高々数十匹のゆっくりで囲んだだけでニヤニヤしているのだから、それも解ることだろう。 街のゆっくりならば、人間を見ただけで逃げ出すか土下座がデフォルトだ。 人間はそんなゆっくりたちをイライラしたと蹴ったりすることもあるし、たまにいるゲスを潰したりは当たり前にする。 何となくで命を奪えるほどの力の差が人間とゆっくりの間には存在しているというのに、このゆっくりたちは完全に人間を下に見ていた。 それに何となくイライラしながら、せっかくストレス解消に来た先でこんな目に会うなんてと気分が重くなる。 こいつらを振り切るために走っても良いが、わざわざゆっくり相手に疲れることをするのも面倒だ。 何よりカバンの中には、弁当が入っている、走って崩れでもしたら目も当てらない。 俺はどうしたものかと悩んでいると、長と呼ばれたさっきのまりさがニヤニヤ俺を見上げてきた。 「こわい? こわいのぜ? いまから せいっさいされる きぶんはどうなのぜ?」 何とも的外れな台詞に、他のゆっくりたちもニヤニヤ笑いながら俺に声を向けだす。 「ゆぷぷ、きっとしーしーどころか うんうんまでもらしたい きぶんだよ!」 「なさけないんだねー、わかるよー」 「ほんっとうにクソにんげんはいなかものね、ありすならしにたくなるわ!」 「ゆきゃきゃ、しーしーもらしのくしょじじー!」 『…………』 好き勝手ほざくゆっくりたちに、だんだんイライラしてきた。 ここで全部潰してやろうかと半ば本気で考え出したけど、やはりこの自然を汚したくはない、そう考える。 「それじゃあ、そろそろ……」 「「「「「ゆっ」」」」」 何やら長まりさは、そこでタメを作り。 「せいっさいをはじめるのぜぇぇぇぇえぇぇえええええ!!!!」 「「「「「「ゆぅぅぅぅぅぅぅん!!!」」」」」」 お下げを振り上げて、何やら宣言をしだした。 それに合わせて、周りのゆっくりたちは枝を持ったり、もみ上げをわさわささせたりしながら、ジリジリと近づいてくる。 どうにも面倒なことになりそうな予感がした俺はとりあえず、長まりさをビシっと指差した。 『まりさ、勝負だ!』 「「「「「ゆ?」」」」」 俺の突然の行動にゆっくりたちは動きを止める、森にさっきのような静寂が訪れた。 ニヤニヤ笑っていたゆっくりたちは、それぞれ目を見合わせて身体を傾げる。 長のまりさもポカンとしている。 俺はそこで、もう一回しっかりと言ってやる。 『長のまりさ、俺と勝負だ、ジャンルは、巣作り、狩り、喧嘩の三本勝負でどうだ? 俺が勝ったら制裁はなし、まりさが勝ったそうだな、あまあまでもくれてやるよ』 「ゆ!? あまあま!?」 俺の話をポカンと聴いていた長まりさは、あまあまの下りでやっと動き出した。 それほどのゆっくりにとってあまあま、甘味は重要なものなのだろう。 「あまあま?!」「れいむ、あまあまたべたいよ!」 「むっきゅぅぅう!? あまあま、ほんとうにあまあま!?」 「なんてとかいはな、ひびきなの、あまあま……」 他のゆっくりたちもにわかに騒ぎ出した。 無理もないだろう、餡子に刻まれた単語あまあま、しかし、この林の中で手に入るあまあまなんて花の蜜くらいのものなのだろうから。 「あまあま! さっさとまりささまのよこすのぜ!」 長まりさは、目の色を変えて俺に命令をしてきた。 勝負の話は聴いていなかったらしい。 『だから、勝負して勝ったらって言ってるだろ?』 「ゆふん! そんなのするまでもなくまりささまのかちなのぜ! だからさっさとわたすのぜ!」 「そうだよ! おさはすごいんだよ!」「おしゃはおうちつくりのたくみなのじぇ!」 「そうよ! おさはかりだってうまいんだから!」「ちょかいはにゃありしゅのあこがれよ!」 「そしてもちろんけんかだってさいきょーだよー!」「くしょにんげん、かんおけしゃんはよういしてありゅの?」 「ゆっふっふ、みんないいすぎなのぜ……まぁ、たしかにまりさはおうちづくりとかりのたつっじんで、けんかはかみクラスなのぜ」 うざいことこの上ない。 人間の力を知らないにしてもサイズの差くらい理解してほしい。 どこかで、ゆっくりは余りに大きいと認識できないと聞いたことがある、もしかしたらその話は本当なのかも知れないな、と溜息一つ。 そして、なるべく馬鹿にしたような声音を喉で作り。 『あー、なんだー、まりさは俺に負けるのが怖くて勝負から逃げてるんだー、本当は家も作れない狩りも出来ない喧嘩も弱い、ダメダメゆっくりなんだー、なっさけなーい』 「ゆはぁぁぁあ!!? なぁぁあに もうげんたれながしてるのぜっぇえぇえ!?!?」 とても簡単に食いついてきた。 『えー、だってそうだろー、俺に勝てないから勝負から逃げる! んだろー』 逃げるを強調して、無駄に、本当に無駄に高いプライドをくすぐってみる。 「ゆぎぎぎぎっ! そこまでいうならやってやるのぜ! でも、まけたらおまえはあまあまけんじょうでせいっさいなのぜ!!」 『はいはい、んじゃルール決めるから頭良いの連れてきてよ……いる? 頭良いの?』 「ばかにするんじゃないのぜぇぇぇぇええ!!! おまえはもうぜんっごろしなのぜ!!」 適度に挑発を繰り返して、そしてルールを決めることに成功した。 ルールの説明と理解にかなり時間を食ってしまった。 途中でなんでこんなことしてるのか解らなくなってしまったが、もうやり通すことにした。 ルールは以下のとおり。 第一種目[おうちつくり] 時間はまりさが完成させるまで 勝敗を決めるのは群れゆっくり、どちらの家に住みたいかで 第二種目[かり] 時間はまりさが集め終えるまで 勝敗を決めるのは群れのゆっくり、どちらの狩りの成果を食べたいか その際に、どちらが作ったかは明かさないで審査させる 第三種目[けんか] 勝敗は相手にまいったを言わせる とまぁ、こんな簡単なルールだ。 こんなルールを説明して理解させるのに30分もかかってしまった。 説明する間も、説明が終わっても長まりさを含め、群れのゆっくりはニヤニヤ笑っていた。 既にまりさの勝利は決まっていて、俺を制裁することと、あまあまを食べることで頭がいっぱいらしい。 『それじゃー、そろそろ始めるか』 「ゆっ、いいのかぜ? もうすこしゆっくりしててもバチはあたらないのぜ……なんたってこれがさいごのゆっくりになるんだぜ!」 「ゆぷぷ、ちからのさがわからないってあわれだね!」「なさけないのぜ、バカは」 「にんげんのおろかさはめーりんいじょうね、むっきゅきゅ」「はぁぁぁ、いなかものねぇあのクソにんげんは」 相変わらず勝つ気満々らしい。 「ま、しかたないのぜ、そろそろはじめるのぜ! クソにんげんのこうかいしょけいなのぜ!!」 「「「「ゆぉぉおおおお!!!」」」」 『趣旨違うっつの……』 そんなこんなで第一種目が始められた。 長まりさはその辺をキョロキョロ見回して、口に咥えた枝で地面を突き刺したりしている。 どうやら地面の柔らかさを確かめているらしい。 言うだけのことはありそれなりに家を作るノウハウは持ち合わせているらしい。 「ゆぷぷ、あのクソにんげん おさのてぎわにみとれてるよ!」「いまさらあやまったっておそいよ!」 「きづくのがおそすぎるのぜ!」「ほんとうにバカね、にんげんって」 『うっさいなぁ……』 しばらく観察していただけでこの言い草だ。 俺は何度目かの溜息をついて、作業を開始することにする。 まずはリュックから軍手を取り出し、装着。 そして、ナイフ、鋸などに変化するサバイバルグッズを取り出す。 『工作は得意だ』 俺は、まず地面を踏みしめて調度良い場所を探す。 硬すぎず柔らか過ぎずの場所を探す。 「ゆぷっ、みてよあのクソにんげん、くやしいからじだんだふんでるよ」「ゆっくりしてないねー」 この際無視無視。 良い場所を見つけたら、そこの周りの小石を取り除き均す。 それが終わったら、そこら中から木の枝を集める。 『なんだか楽しくなってきたな……』 学生時代は良くプラモデルや、木工細工を作ったりしていたもんだから最近ではめっきりしなくなっていた。 久しぶりに手に感じる工作の期待は、どうにも押さえきれない。 周りのゆっくりどもの声なんか無視だ無視。 チラッとまりさを見ると、場所を選定し終わったのか、その場所をさっきより太い枝で掘り進んでいる。 ゆっくりたちは皆そっちを見に行ってしまったようで、俺はゆったり作業が出来る。 今の内に逃げるのもありかと思ったけれど、やはりここは勝負をすることにした。 『絶対に勝つ』 集めた枝を鋸で長さを整えながらつぶやく。 ……。 …………。 「かんっせいしたのぜぇぇぇええええ!!!!」 「ゆわぁぁあぁすごくゆっくりしてるよぉおおお!!」「むきゅ、これは、さすがね」 「こんなおうちにすみたいんだよー!」「なんてとかいはな まんっしょんなの!」 「ゆっぽんぎヒルズさんだね!」「さすがはおさなのぜ!」 『ん? あ、出来たの?』 俺が家を作り終えて一時間ほどして、歓声が聞こえてきた。 俺は声の方に歩いて向かう。 『よう、やっと完成した?』 「ゆぁぁぁあん? まけいぬがなんのようなのぜぇぇえ?」 声をかけた俺に、長まりさは自信満々の笑みを浮かべてきた。 『まだ審査してないっつの』 「するまでもないのぜ! このまりささま いじょうのおうちなんて そんざいしないのぜ!」 「クソにんげんじゃ いっしょうかかってもすめない ごうっていだよ!」「むきゅ! ぱちぇがせっけいしただけはあるわ!」 「コーディネイトはありすよ!」「まりさも土をはこんだのぜ!」 「ゆっ! だめだよ、みんなそれはないしょだよ!」「ゆゆ!? そうだったわね!」 『…………ふぅん、別に良いけどね』 どうやら、長まりさは俺が作るのに夢中になっているときに、他のゆっくりを動員させて製作したらしい。 実に汚い方法だけど、まぁ、それも仕方ないだろうと納得。 『まっ、じゃあ審査に入ろうぜ』 「ゆっ、わかってるのぜ、まりささまのかちはゆるがないのぜ」 まりさの言葉もあながち嘘ではない。 群れのゆっくりは長まりさが作ったお家を知っているのだ。 そうなれば自然と長まりさの家を推すだろう。 最初からこれはハンデマッチの超アウェーなのだ。 それでも俺は負ける気は一切しなかった。 そして審査に入った。 まずはまりさのお家への審査だ。 まりさの作ったお家は、ゆっくり一人分ほどの入り口の穴で、俺には内部は伺い知れないが、入り口の周りには花やら枝やらが置かれていた。 これがコーディネートなんだろうかと無秩序にちらかされただけに見えるそれをゲンナリと眺める。 しかし、審査する群れのゆっくりたちはそれを思う存分に褒め称えた。 素晴らしいコーディネイト、広いお家と。 似たようなことを延々と繰り返していた。 俺も穴に手を入れてみたが肘まで入らない程度の深さで、巣のサイズは成体ゆっくり二匹分程度の広さだった。 短時間で作ったにしては頑張った方なのかも知れない。 『この程度か、まぁ、そりゃそうか』 既に勝利ムードで騒ぐゆっくりたちを引き連れて今度は俺のお家の審査に入る。 「ゆひゃっひゃ! もうまりささまのかちはきまったのぜ!」 『さぁ、それはどうかな……ん、これが俺の作ったお家だ』 「どんなひんっそうなおうちかみてや、るの、ぜ……」 「おうち、これが、おうち?」「すごく、とかいは……」 「なんだか、なつかしいきがするわ」「わ、わからないよ……」 俺の作ったお家を目にして、ゆっくりたちはさっきまでの勝ちムードから一転する。 あり得ない物を見たような眼差しに、俺の心が満たされる。 俺が作ったのは小型のログハウスのようなもの。 枝を切りそろえて、ナイフで薄く切った木や、蔦、草で頑丈にパーツを汲み上げた一品。 作ってるうちにどんどん熱中してしまい、最終的には成体ゆっくりが5匹は余裕で入れるサイズになってしまった。 入り口は寒さを防ぐようにやや小さめに作り、蔦で編んだ簾のようなものをかけてある。 『中に入って審査してよ』 ぽかんとしてるゆっくりに入り口の簾をどかしてみせる。 「れ、れいむがいくよ!」「ま、まりさもいくのぜ!」 「ちょ、ちょっとまちなさい! ここはとかいはにじゅんばんを!」「あれはちぇんのおうちだよ!!」 我先にとゆっくりたちがお家に殺到する。 中もそれなりに凝ってある。 床が木では痛いだろうと、蔦に柔らかい葉っぱを通したものを何本も敷き詰め絨毯代わり。 部屋の中央には移動させることの出来る机。 部屋の隅には、成体ゆっくりに二匹が乗れるサイズの枝で組んだ枠、中にはナイフで削った大鋸屑が敷き詰められてふかふかだ。 食料を貯蔵する箱も作ったし。 完成させて暇だったからゆっくり用に皿なども作ってしまった。 更に、雨が降っらそれを貯めておける桶も作った。 かつて飼いゆっくりだった祖先の記憶が蘇るのか、ゆっくりたちは「ゆっくりできるよ」と涙を流しながら家の中でゆったりしていた。 それを面白くないのは長まりさだ。 「ゆぎぎぎ、こ、こんな、こんなおうち、まりささまのおうちのあしもとにおよばないのぜぇ……」 歯を食いしばって、何やら呟いていた。 まったくゆっくりしていない様子だったが、俺はゆっくり相手でも自分の家が認められるのが嬉しくてニヤニヤしてしまった。 『いやー、まりさのお家も良かったけど、俺の方が人気みたいだねー』 「ゆぎぃ!! みんな! そんなおうちからさっさとでるのぜ! さっさとでて しんさをして まりささまのかちをきめるのぜぇぇえ!!」 「「「「「ゆっ!?」」」」」 長まりさのヒステリックな叫び声に、俺のお家に群がっていたゆっくりたちは自分達が今何をしているか思い出しのか、気まずそうにこっちにやってくる。 やってきても、チラチラとログハウス風のお家をチラチラ見ていた、名残惜しいのだろう。 「さぁ! しんさのじかんなのぜ!! みんなどっちのおうちがいいかいうのぜ!!」 「ゆぅ……」「どっちのおうち……」 「ゆっくりしてる、のは」「とかいはな……」 長まりさの言葉に群れのゆっくりたちは、ブツブツと呟く。 俺のお家の方がゆっくりしている、しかし長まりさも裏切れない。 そんな空気がありありと感じ取れた。 「さぁ! さぁ! いうのぜ! まりささまのおうちがゆっくりしてるって、いうのぜぇぇええ!!!」 「「「「ゆぅ…………」」」」 長まりさの恫喝に、一同暗い雰囲気を出す。 ゆっくりという生き物は嘘が苦手な生き物だ。 どこまでも自分に正直で、本能のままに生きる。 その為、自分の考えを曲げることは実に[ゆっくりできない]のだ。 「いうのぜ! まりささまのかちをいうのぜ!」 と、言っても長まりさのこの恫喝では、いずれ一匹くらいが長まりさの家が良いと言うだろう、そうなれば後は総崩れだ。 そこで、俺は一言だけ告げる。 『あぁ、もちろん俺はこの群れのものじゃないからあのお家は、俺の家を選んでくれたゆっくりにあげるよ』 「「「「「「ゆゆゆっ!!!!」」」」」 俺の言葉に、長まりさを含めその場にいた全ゆっくりが反応した。 そして次の瞬間に……。 「「「「「「こっちのおうちのがゆっくりしてるよ!!」」」」」」 満場一致で俺の勝ちは決まった。 家は一個しかないのに、全員が自分の物になると信じている様子で俺のお家をキラキラした目で見ていた。 「な、なにいっでるのぜぇぇぇぇぇえええ!!! ま、まりささまのおうちのが、ゆ、ゆっぐりしてるのぜっぇええ!!」 「ゆぅ、おさのおうちは、ねぇ」「せまいし、きたないし」 「おちびちゃんをつくるスペースもないじゃない」「あんなのただのあななんだよー、わかれよー」 「ゆっぎぃいいぃいいいい!!!」 見事な手のひら返しに、まりさは涙を流しながらその場でジタバタと暴れていた。 俺はそれをクスクス笑いながら眺める。 「なぁあにわらってるのぜっぇえええ!! つぎの、つぎのしょうぶなのぜぇぇぇええええ!!!」 『ん、あぁ、ごめんごめん、次ねはいはい』 「みんなもいつまでもそんなおうちにはいってるんじゃないのぜ! つぎのしょうぶがはじまるのぜ!!」 「「「「「「ゆ、わ、わかったからこわいかおしないでね」」」」」」 順番で家に入っていたゆっくりたちは、名残惜しそうにぞろぞろ出てきた。 赤ゆっくりたちはベッドで固まって寝てしまったらしく、そのままに放置されていた。 「ゆっへっへ、ちょっとおうちつくりがうまいからって ちょうしにのるのははやいのぜ! まりささまのしんこっちょうはかりにあるのぜ!」 「おさはすごいんだよ!」「ミミズさんでも、いもむしさんでもかんったんにつかまえられるんだよ!」 「おいしいくささんも」「はなさんだっていくらでもとってこれるのよ!」 さっきまで長まりさのお家をボロクソ言っていたゆっくりたちは、また長についた。 実に適当な人間、いやゆっくり関係なんだろうかと笑えて来る。 『まぁ、いいやちゃっちゃかやろう』 「ゆっへっへ、まぐれはにどは つづかないってしらないのかぜ?」 『じゃ、もっかい俺が勝ったら実力だろ』 「ゆひゃひゃひゃ! あ、ありえないのぜ!」 「まったく、クソにんげんはみのほどしらずねぇ」「おさにかてるわけないよ!」 「おさはちぇんよりすごいんだよー!」「まりさのほこりなのぜ!」 圧倒的な長まりさへの応援。 苦笑しながら俺は適当に頷き、そして二回戦が開始された。 長まりさは直ぐに跳ねてどこかに向かっていった。 その後ろを何匹かのまりさや、ぱちゅりーが追っているのでまた今回も他のゆっくりの力を借りるのだろう。 『まぁ、別に良いけどね』 俺はゆっくりとゆっくりと離れていく長まりさを見ながら、リュックサックを漁る。 ……。 …………。 「ゆっへっへっへっへ、やっぱりまりささまはてんっさいなのぜ!」 『ふぁ、あ、やっと来た』 携帯電話を弄って待っていたら、何やら長まりさの声が聞こえてきた。 俺はその声に呼ばれて向かう。 『よう、いいのとれたか?』 「ゆふん、あたりまえなのぜ!」 長まりさはあちこちに泥をつけながら、大きく胸を張った。 長まりさの前には大きな葉っぱに乗せら、大ぶりの芋虫が何匹も乗っていた、更に綺麗な花や、キノコまで揃っていた。 『へー、やるもんだなぁ』 俺はそれを見ながら、習って大きな葉っぱに俺の成果を載せる。 「ゆぷぷ、なんなのぜそのゆっくりできないまっくろは? ゆぷぷ、ドロでももってきたのかぜぇ?」 相変わらず勝ったつもりの長まりさに、肩をすくめて返す。 そして、俺たちの元へ群れゆっくりたちが集まる。 今回の勝負はどっちが二人のものか明かされていない。 しかし、まりさは自信満々の笑みを崩さない。 確かに、数匹で取って来たにしてもゆっくりにとってはごちそうなのかも知れない。 群れのゆっくりたちは涎を垂らして、まりさの方の葉っぱを見詰めている。 「さぁ、みんなたべてはんだんするのぜ!!」 長まりさの声に、群れゆっくりたちが殺到する。 まっすぐ長まりさの方に向かっていた、しかし葉っぱに近づくにつれてだんだんと動きはゆっくりになり。 「ゆっ、このにおい」「すっごく、すっごくとかいはなにおいがするわ」 「す、すごい、なにこれ……」「わ、わからない、よー」 まるで呼び寄せられるように、群れのゆっくりは俺の葉っぱの黒い物体、一口チョコに群がる。 それを見て、長まりさは口をあんぐりあけていた。 それはそうだろう、仲間を動員して狩った成果が完全にスルーされたのだから。 しかも、スルーした中には狩りに同行したゆっくりもいるのだ。 群れのゆっくりたちは、俺の葉っぱを囲んでごくりと唾を飲み込み。 一匹のぱちゅりーが恐る恐るチョコを舌で掴み口に運んだ。 「むーしゃむーしゃ…………」 「ゆっ? ぱ、ぱちゅりー? どうしたの?」 口に含んで動きを止めたぱちゅりーに、心配そうに声をかけるれいむ。 そして、10秒ほどの静寂の後に。 「じ、じ、じじ、じ、じあばぜっぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇえええええ!!!!!!!」 「「「「「「「ゆゆっ!?」」」」」」」 ぱちゅりーは、しーしー垂れ流し涙を流しながらチョコの甘さを堪能した。 その声に惹かれるように、我先にと他のゆっくりもチョコを食べる。 「じ、じあばぜぇぇえ!!」「しゃーわせっぇええええ!!!」 「しあわせ、しわせだよぉおおおお!!」「とっかいはあっぁぁあああ!!」 食べた全員が転げ周り痙攣しながら、その美味しさを認めた。 当たり前だ、虫や草しか食べてこなかったゆっくりがチョコを食べたらこうなるに決まっている。 俺は持ってきたチョコを出したのだった、わざわざ虫を取るのも嫌だったので。 俺の金で買ったんだ、狩ったに変わりない。 『いやー、俺の方が好評みたいだね?』 「ゆんぎぃぃぃいいいい!!!!」 長まりさはさっき以上の歯軋りを見せてくれた。 これまた笑ってしまった。 まりさは口を利くのも大変そうだったので、俺が代わりにゆっくりたちに聞く。 『さ、審査に入ろうか? どっちが美味しかった?』 「もちろんこっちだよ! こっちがおさのだね!」「さすがはおさなのぜ!」 「まさかあまあまとってくるなんて! さすがおさ」「むきゅぅ、けんじゃのぱちぇもよそうがいよ おさ!」 俺の葉っぱを選んだ上での、長コール。 長まりさは帽子で顔を隠してしまった。 『えー、みんなこっちの葉っぱので良いのかな?』 既に一欠けらも残っていない俺の葉っぱを指差し、もう一度質問する。 「そうだよ! そっちのがよかったよ!」「おさ! こんどあまあまのとりかたおしえてね!」 「おさはきせきのつかいてだったんだねー!」「さっすがおさ、とかいはなかりゅうどね!」 『だってさ、ね、長?』 「ゆぎぃぃい…………」 答えを聞いて、改めて発表する。 『こっち、さっきのあまあまが俺の方、長のはこっちでした、また俺の勝ち』 「「「「「「ゆ?!?!」」」」」」 俺の言葉に、ゆっくりたちはフリーズする。 そして、ゆっくり長まりさに視線を向ける。 「お、おさ?」 「……べるのぜ」 「ゆ? なんて 「たべるのぜ! たべてからはんだんするのぜ!!」 ゆ、わ、わかったよ!」 長まりさの剣幕に、さっきまで騒いでた群れのゆっくりたちは気まずそうに、虫や草の元に向かう。 「「「「「「…………」」」」」」 そして、長まりさの葉っぱを囲んで全員沈黙する。 ついさっきまでご馳走に見えていた芋虫や、草、キノコ、それらにどうしても食欲が湧かないらしい。 さっき食べたチョコのせいで一気に舌が肥えたのだろう、本当に野生生物失格なやつらだ。 「さぁ! たべるのぜ! たべればどっちがおいしいかわかるのぜ! さっさとするのぜぇっぇええええ!!!」 「わ、わかったから、そんなこわいかおしないでね……ゆぅ」 一匹のれいむが代表のように前に出て、気乗りしない表情で芋虫の端を齧る。 「むーしゃむーしゃ、げろまずー……」 舌が一気に肥えたれいむの味覚では芋虫は「げろまず」らしい。 他のゆっくりたちはそれを見て、自分から食べる気もしないのか長まりさをチラチラ見てはさっきのチョコの味を思い出してニヤけていた。 『いやー、まぐれは二度は、なんだっけ? ねぇ? ねぇ?』 俺は完全勝利の気分に笑いを抑えきれずに、つま先で長まりさをツンツン刺激する。 『で、どうする? もう俺の勝ち確定だけどどうする? 最後の勝負する? 逃げる?』 挑発するように、わざと馬鹿にした口調で話しかける。 「やってやるのぜ、さいごのしょうぶなんだぜっぇぇえぇぇえええええ!!!!!!」 長まりさは、鬼の形相で雄たけびをあげた。 頭から湯気が出そうなほどの怒りを見せる。 プライドを完全に粉砕された結果か、目は血走り、食いしばった歯にはヒビが入っていた。 「ちょこぉぉぉっとおうちつくりとかりがうまいからって、ちょうしにのるんじゃないのぜぇぇぇえええ!!!」 『めちゃくちゃお家作りと狩が下手なまりさも調子に乗らないでね』 「うるっさいのぜぇぇぇえええええええぇえぇぇええ!!! だばれぇぇぇえぇ!!!」 長まりさはその場で何度もぴょんぴょん跳ねて、怒りを表す。 「おうちつくりも、かりも! まりささまのつよさのまえではゴミどうっぜんなのぜぇええええ!!!」 『へぇ、じゃあまりさはお家つくりと狩りが自慢だったみたいだけど、ゴミを自慢してたの?』 「うるざいのぜ! いまからしぬおばえに、がんっげいないのぜぇぇえええええ!!!」 群れのゆっくりたちは、長まりさへの気まずさ、不信感、そしてあまりの怒りに恐怖を覚えてか、遠巻きにこちらを見ている。 何匹かは、チョコの乗っていた葉っぱを舐めていたが。 「ばいざが、ばりざがさいっきょうのところみせてやんのぜえっぇぇえ!!」 『よし、じゃあ最後の勝負だ……まぁ、もう俺の勝ちなんだけどね』 「おばえはしぬからかんっけいないのぜぇぇええ! やってやんのぜぇぇぇえぇぇええええええええええ!!!!」 長まりさは、怒りのままに全力でジャンプして俺の脚に向かって飛んできた。 俺がしたのは……。 『ほいっ』 「ゆびぇぇぇぇえええ!!?!??!」 サッカーで言うなら、練習パスを出すように軽く足を出して、向かってきた長まりさを蹴っ飛ばした。 ただそれだけで、長まりさは大げさに吹っ飛び、一回戦で自分が作ったお家に頭からはまってピクピク痙攣していた。 『これじゃあ待ったは言えないだろうけど、俺の勝ちだよな』 「「「「「「ひぃっ!?!?」」」」」」 群れのゆっくりに視線を向けると、怯えた声を出してしーしーを漏らす者もいた。 群れの長たるまりさをこうも簡単に倒したのだから、怯えもするだろう。 普段人から恐れられたりなんてまったく経験ない俺は、妙な高揚感があった。 別に人を殴りたいとかは思わないけど、充足感と疲労が合わさり、とても気分が良かった。 『んじゃ、俺の勝ちってことで……行くけど良い?』 「は、はいぃいい!! どうぞ!!」「れ、れいむたちはおさなんかぜんっぜんしんじてなかったよ!」 「そ、そうよ、クソ、じゃなくて、にんげんさんのかちをかくしんしてたわ!」「わ、わかってねー!」 『露骨に媚売らなくて良いって、まぁ、楽しかったよ』 俺はそれだけ告げて、リュックを背負って歩き出す。 『あ、これ、赤ちゃんにも』 ポケットにとっておいたチョコを、赤ゆっくりが眠る俺の製作のお家に投げ入れる。 『いやー、まだ16時だけどいろいろやって疲れたから今日はもう帰ろう』 帰りにホームセンターによって、木工細工の材料でも買おう。 ついでに、コンビニで酒を買って、飲もう。 予想以上のリフレッシュ出来たことに驚きながら、軽快な足取りで俺は林を抜けていった。 後に残されたのは、後に残されたのは痙攣する長まりさと、それを冷めた目で見つめる群れのゆっくりたちだけだった。 ……。 …………。 『いやー、森林浴なんて久しぶりだなぁ』 およそ一ヵ月後、俺は再び林に来ていた。 ガラガラと猫車を押しながら、そこには成体ゆっくり3匹は入れるお家が5つ乗せられていた。 あれから何故かミニハウス造りに凝ってしまい、その中の失敗作をこの楽しみを思い出させてくれたゆっくりたちにあげようと持ってきていた。 ついでに、チョコレートも持ってきてある。 『ゆっくりと遊ぶの案外楽しいからなぁ、俺もゆっくり飼おうかなぁ』 以前より軽い笑顔を浮かべながら、どんどん進んでいった。 適当に歩きながら、周囲を見回す。 『あれ、この辺のはずなんだけどな……お、あったあった!』 勝負の際に作ったお家を見つける。 雨風に少しやられてはいるが、まだまだ壊れてはいなかった。 その事実に嬉しくなり、声をかける。 『おーい、お家もってき、うわっ!』 声をかけたとたん、巣の中から小さな動物、リスが出てきた。 手に何かの実を抱えたまま、さっと俺から距離をとった。 『リスが、住んでるんだ……って、写メ写メ! あー、逃げられたかぁ』 木の上に消えていったリスを残念に思いながら、俺は持ってきたお家をそこらに設置する。 『にしてもゆっくりいないなぁ、引越し? せっかく持ってきたのに……まぁ、リスとかが住んでくれるか』 俺は首を捻りながら、来た道を戻った。 俺は知らなかった、あの後癇癪を起こした長まりさが群れのゆっくりからせいっさいされたことを。 俺は知らなかった、このお家をめぐってゆっくりたちが争ったことを。 俺は知らなかった、騒ぎで目を覚ました赤ゆっくりはチョコを食べて、もう他のものが食べられなくなったことを。 俺は知らなかったし、これからも知ることはない。 『ゆっくり飼ってー、俺が作ったお家に住ませてみたいなぁ、ゆっくり出来るって言ってくれるかなぁ』
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3207.html
『隻眼のまりさ 第六話』 18KB 群れ サブタイトル難しいです。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第六話~ ぱちゅりーの疑念!ドスとまりさと戦いと… ――――某日、未明―――― 最近になってぱちゅりーは一つの問題を抱えている。 それは集落の拡大についてだ。 ゆっくり達の欲望に任せていては集落の存続に関わる。 繁殖力の高さ、そして食欲の旺盛なところ。 このまま数を増やしていけば食糧難に陥るのは時間の問題。 ドスの力を借りて道路整備などもやってみたが そんなものは場当たり的な対応だ。 今年は何とかなったとしてもいずれは限界がくるだろう。 十分な『ゆっくりできる』環境を整えれば数が増加していくのは必然。 ぱちゅりーが食物連鎖による淘汰を理解していたが故の悩みなのだ。 弱いものが自然界において強者の食料となるのは当然。 そうしなければ強者だけでなく弱者である自分達も危機に陥る。 そしてこの集落はあろうことか強者であるはずのれみりゃさえ 撃退しながら平和を保っているのだ。 仲間がやられたほうがいいと言うつもりはない。 しかし同時にこのままでは集落の未来に関わる。 今年の秋に入ってからずっとぱちゅりーはそんな板ばさみに苛まれていた。 そして目下のところ食物連鎖に対する『歪み』の象徴。 ドスまりさ、自分、そして最大の問題である隻眼のまりさだ。 ドスはれみりゃに対抗しうる武器を持っている。 まりさ種にたまに現れる突然変異体とも言われる存在だ。 体長は2mにもおよびドススパークと呼ばれる必殺技を持つ。 ただしそれには使用制限があるし、何より動きが遅く 一匹ならともかく五匹、六匹とれみりゃの一家に襲われれば無事ではすまない。 次にぱちゅりーである自分。 自惚れでなく、自分は通常のゆっくりを 遥かに凌ぐ頭脳があるという自覚がある。 しかもこれは人間の知識だ。 ゆっくりの範疇では知りえない情報をゆっくりだけで構成される集落に持ち込み それを生活や戦闘に活かしている。 ゆっくりの視点で言えばそれは素晴らしいことで 皆がゆっくりするための要因の一つでしかないのだろう。 だが、俯瞰して見ればどうだ。 自分の存在はゆっくり達のコミュニティのバランスを崩し 常に崩壊の危機が付きまとう。 そして、今はまだ大丈夫だが数が増えて人間にとって不都合な存在となれば 駆除業者が現れて集落ごと潰していくことだろう。 そして、一番のイレギュラーが隻眼のまりさ。 昨晩見たあれは一体なんだったのだろうか。 あの力は隻眼のまりさにのみ発現したスペシャリティの高い能力か。 あるいは全てのゆっくりに発現の可能性のありえる 習得可能な技術なのだろうか。 それ以上に心配なのが 自分の知識は誰かの助けがなければ活かせないし ドスは単独では大した力が発揮できない物なのだが 隻眼のまりさは他者の援護なしにあれだけのことをやってのけたのだ。 そのことが最も大きな問題だ。 隻眼のまりさは単独でさらに強大な力を得るかもしれないし、或いは…。 いや、これ以上はただの憶測になる。 ともあれ、直接話を聞いてみないことには結論も出しようがない。 ぱちゅりーは、自分ひとりで考えすぎだと思考を打ち切った。 ――――翌日、日の出―――― 早朝に隻眼のまりさとぱちゅりーは早起きをしていた。 「ドスは起きてこないかな?」 「大丈夫でしょ。朝までは何があっても起きないわ」 ここはドスの洞窟にある横穴。 ぱちゅりーの家、というよりは部屋と言うべきだろうか。 あの戦闘の後二匹は別々に家に戻り眠った。 まりさはすぐに詰問されるかとも思ったが 他のゆっくり達に感づかれたり集落全体に 影響が出たりするのはまずい、と夜ではなく朝に話し合うことにしたのだ。 「まりさ…貴方は、どうして皆に黙ってああいう訓練をしていたの?」 ぱちゅりーは慎重に言葉を選んだ。 このまりさは今までのまりさと何かが違う。 何が起こってもおかしくないと本能的に感じ取っていた。 実際のところぱちゅりーは隻眼のまりさが何をしてきたか大体は掴んでいる。 昨晩の攻撃を見て集落の行方不明者もひょっとしたら このまりさが殺したのかもしれないという疑念もあった。 故にもしかしたらそれを見た自分も殺されるかもしれないという危険性も。 「………………」 まりさも言葉を選んでいた。 ゆっくり断ちがぱちゅりーに気付かれていると思っていない。 それを知られたら集落にいられなくなるかもしれないという思いがあったから。 故にもしかしたらこのぱちゅりーすら殺すかもしれないという焦燥感も。 「………………」 「………………」 重い空気が二人を包み込む。 だがやはりというべきか、先に口を開いたのは学のあるぱちゅりーだった。 「私は、話が聞きたいだけ。 貴方は二年間生死を共にした仲間だと思っているし あれだけの強さを頭ごなしに否定するつもりはないわ。 だからせめて包み隠さず言って。 その後どうしようと私は抵抗できないから」 「ぱちゅりー…」 まりさはその言葉に温かみと同時に後ろめたさを感じた。 皆を置いて行こうとした自分だが少なくともぱちゅりーは あれを見ても自分を仲間だと言ってくれた。 だけど、その言葉で腹が括れた。全てを話そう、と。 その後隻眼のまりさは一部始終をぱちゅりーに話した。 話に偽りを一つも込めずに。 ――――同日、朝方―――― 「むきゅ、皆集まったわね。 それじゃあ『ぶりーふぃんぐ』を始めるわ」 皆が集まったところでブリーフィングが始まる。 皆とは、ドス、ぱちゅりー、隻眼のまりさ、残り三匹のまりさだ。 だがここに集まった合計六匹は、かつての合計六匹とは 全く違う様子を見せていた。 かつての思惑の違いも、疑念も後ろめたさもなかった 幼馴染六匹のまりさとは全く違ったものだった。 その違いが、それぞれの行く末を左右することになろうとは誰も知らずに…。 ――――同日、昼前―――― ここは集落付近の狩場。 ドスは、一匹で越冬のための餌を集めていた。 「む~ん…」 食料集めはいまひとつはかどっていなかった。 それというのもぱちゅりーと隻眼のまりさの様子がおかしかったからだ。 よく分からないが、ギスギスしたものがあった。 ぱちゅりーというよりは、主に隻眼のまりさに。 昨日話した時にも感じた悩んでいるような違和感が 今朝になってさらに増大していたのだ。 かといってブリーフィングの場で聞くこともできなかった。 皆の前で話すかどうかという問題もあったが 何より二匹を信じていたから。 後任のリーダーに推薦したつもりのまりさもそうだが 何より自分より頭が良く思慮深いぱちゅりーがいたから。 あの様子から恐らく、ぱちゅりーは事情を掴んでいたのだろう。 だったら、自分の出る幕ではないのかもしれない。 頭ではそのことを理解していたがやはり寂しさはあった。 でも自分は、ドスになっただけの普通のゆっくりだ。 頭のいいぱちゅりーにしかこの件は解決できないだろう。 自分は本当に身体が大きいだけのただのゆっくりだった。 ドスは自嘲的な笑みを浮かべる。 何が村長だ。 『特別』な存在にはなれないし、最初からなろうとは思っていなかった。 自分の母も村長となって働いていたが自分にとっては普通の母だった。 皆と何も変わるところはない。 ドスになったのも、あの夜たまたま帰りが遅れて外で寝る羽目になったから。 つまりは自分の間抜けなミスを発端にした本当の偶然だ。 自分はぱちゅりーのような勉強熱心さもないし 隻眼のまりさのように修行熱心でもなかった。 ただ、皆とゆっくりしたいと思っていただけだ。 そこには『普通』のゆっくりの在り方があっただけだ。 何で、自分はドスになったのだろう。 足が速かったから?集落で一番強かったから? それはおかしい。 今の隻眼のまりさはかつての自分より遥かに強い。 走る速さだけとっても信じられない速さになっている。 あの分だと或いはれみりゃより速く走っているかもしれない。 自分は皆とゆっくりしたいがために自らの力を限定してしまったが あのまりさは全てを振り切って走っていく。 そこには枷も限界もない。 何で、自分はドスになったのだろう。 結局自分は特別な存在にはなれなかった。 ドススパークを得たとは言っても見方を変えればただのドスまりさだ。 ドスである、ただそれだけの違い。 しかもそれすらも偶然の産物である自分に何ができるというのだろう。 だがもう二年間、そのことにしがみついてしまった。 村長でなくなった、ドスであることを放棄した自分には何が残るだろう。 もう、大きさの違いからかつての幼馴染とは一緒にいられない。 ぱちゅりーは村のために働くだろう。 だが自分は村長である威光を失えば自分のためにしか生きられない。 ドスになった以上、もう普通のゆっくりと子を成すことも出来ない。 自分に残されたのはただ、ドスとして生きる宿命だけだ。 「ドスー!!」 「ゆゆっ?」 「ドスー!まりさ達も一緒に狩りをするよー」 そこに現れたのは残り三匹の幼馴染まりさだ。 悪く言えば能天気な表情や台詞だが 負のスパイラルに陥っていたドスにとってはありがたかった。 何よりも、変わらずにいてくれたことに。 そして、他のゆっくりの邪魔になるため一緒に狩りが出来ないという 自分の寂しさを打ち砕いてくれたことに。 「うん!一緒に狩りをしよう!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 そうだ、何も自分は孤独ではない。 仲間はぱちゅりーと隻眼のまりさだけではないのだ。 皆守らなければならない大切な仲間だ。 誰だって悩むことはある。 だったら今は皆でできることをやって 支えあえるところは支えあって また皆で笑い合えるように努力しよう。 だからせめて最後まで『みんなのむらおさ』としての役を演じきってやる。 その意地だけがドスに貫き通せる信念だ。 そのドス自身が偶然と評した立場がドスの最後の支えだった。 そして、もう一度信じてみよう。 みんな、ゆっくりできる仲間なのだから。 ――――同日、昼過ぎ―――― ぱちゅりーは困っていた。 ドスの洞窟で資材の整理をしながら考え事をしている。 悩みの種は勿論隻眼のまりさのことだ。 普段から判断の早いぱちゅりーの考えを ここまで鈍らせた事件は初めてだ。 何より、ぱちゅりーの考えの全く及ばない範疇の事件が。 いくらぱちゅりーの知識が豊富とは言ってもあんな事態は初めてだ。 人間で言えば『人知を超えた』事態である。 あの時はブリーフィングを始める時間になったので とりあえず話はまた夜に、ということで別れた。 こんなのははっきり言えばただの時間稼ぎだ。 ぱちゅりーの中では、実はある種の回答が出ている。 ただ、それを伝えることは躊躇われた。 なぜなら今のまりさはもう何を言っても遅い気がする。 まりさの『進化』とも言える特別な能力はもう発現してしまっているのだ。 今更何を言ったところでその変化にブレーキをかけるのがいいところ。 完全に元通りにはならないことは明白だ。 何より、止めようとしたところで反発されるだろう。 最悪の場合自分も殺されるかもしれない。 殺される、という可能性の考慮は何もぱちゅりーが薄情というわけではない。 冷静な思考ができるゆえの危惧だ。 同時にぱちゅりーは自分のとりえの危機を感じていた。 このまりさの変化は止めることができず 集落に何らかの波紋をもたらすことだろう。 そうなった時、自分にはなす術がない。 同じ領域に到達したいと言い出す者もいるだろう。 ゆっくりすることをやめたことを追求する者も現れるだろう。 そして何より、自分に解決策を求めに来るだろう。 責任の押し付け、などと言うつもりはない。 自分は知恵を出すことが仕事なのだ。 誰にでも知らないことはある、それは当たり前のことだが そのようなことを言ったところでブリーフィングに出ている 残りの五匹はともかく集落のゆっくり達が理解を示すとは思えない。 そして、集落の中で一番頭がいいのは自分なのだ。 つまりこのことに限らず物事を考えるに当たって ぱちゅりーは誰にも相談することができないのだ。 ここに来て、何物にも馴染まず孤高を決め込んでいたことが仇になる。 自分が被害者でいることは出来ないだろう。 誰かが自分を非難すればその非難はたちまち集落全体の非難に繋がる。 ぱちゅりーはそんな崖っぷちの状態で今まで良く持ったものだ、と 自嘲的な笑みを浮かべる。 この世の全てを知ることなど不可能だ。 いつかはこうなることは分かっていたはずなのに どうして何も手を打てなかった。 滑稽だ。自分にある知識など他から受け取ったものだけだ。 自分から調べて得たものではない。 皆が一様に呼ぶ『もりのけんじゃ』などちゃんちゃらおかしい。 自分自身のことが何一つ出来ないではないか。 しかし、実際こうなってしまった以上何が起きても受け入れるしかない。 どの道二年前に終わっていたはずの命だ。 どの道完全なしあわせなどあり得ない一生だ。 ならばせめて最後まで『もりのけんじゃ』としての役を演じきってやる。 その意地だけがぱちゅりーに貫き通せる信念だ。 そのぱちゅりー自身が滑稽と評した知識がぱちゅりーの最後の支えだった。 そして、もう一度信じてみよう。 みんな、ゆっくりできる仲間なのだから。 ――――同日、夕刻―――― いつものデブリーフィングの集合時間が迫る。 ゆっくり達に時計などという都合のいいものはないが ドスの洞窟の入り口から見て太陽が山間に隠れるより前に 始めるというのが決まりごとになっていた。 無論季節によって日没の時間は変わってくるのだが どちらにしても日が沈んで暗くなってしまえば 外出するわけにはいかないのでこの方法で問題はなかった。 洞窟には現在、元々外に出ていないぱちゅりーと 早めに戻ってきていた隻眼のまりさがいた。 「みんな、遅いね」 「…そうね」 お互いに表情は暗い。 例の話をいつ皆が戻ってくるか分からない今の タイミングにするわけにもいかない。 かといってお互いのわだかまりが残る状態で 自然に会話が出来るはずもなかった。 隻眼のまりさは一つ思いを巡らせなければならないことがあった。 それはこの先どうするかということ。 自分はもう、歩みを始めてしまった。 皆の元から離れて、自身の目標に向かう歩みを。 このまま歩みを止めて元の生活に戻ろうとしたところで ずれてしまった感覚が元に戻ることはないだろう。 場合によっては止めようとしても止まらず いずれ皆の前で同じような事態を引き起こすだろう。 そういう戻れないところまで来ていた。 そして自分の浅はかさを呪った。 なんて甘い考えだったのだろう。 皆と一緒にいるから大丈夫だと? 皆と違う段階に進もうとしながら良くそんな言い訳で 自分が納得したものだ。 あの時の自分を張り倒したくなる。 根源的な概念である『ゆっくり』を捨て去ってしまって 普通のゆっくりでいられるはずがない。 そんなことをすれば、たとえ皆と一緒にいても 自分とのずれが大きくなる一方だ。 そんな状態が長続きするはずがない。 隻眼のまりさは自分のあまりの浅はかさに 自嘲的な笑みを浮かべる。 自分はどれだけバカなのだろうと。 ぱちゅりーのような知識や思慮深さも リーダーのような心優しさも仲間を思う気持ちも これっぽっちも持ち合わせていなかった。 自分のしたことはただ己の力だけを悪戯に増大させた。 『特別』な存在ではない。『特別なバカ』になっただけだ。 自分がかつて思い浮かべた理想像。 それはリーダーの背中だったはずなのにいつしか 届くかどうかも分からない正体不明の存在にすり替わっていた。 そもそもあいつがゆっくりだと思ったのは自分の勘だけ。 もしかしたらあいつはゆっくりじゃないのかもしれないし 最悪の場合自分の白昼夢だったとさえ思えてきた。 だが、なんの偶然かベクトルを失ったその力への欲求は 全くおかしな方向に発現してしまった。 自分にはその力がなんなのかも知らずにそれを磨くことを徹底した。 せめて、もっと早い段階で誰かに相談すべきだったんだ。 ゆっくりしない、という帰結にたどり着いた時点で その選択肢が埋もれてしまった。 隻眼のまりさは誰も信じずに ありもしなかった自分の自身に頼ってここまできてしまった。 そして結局のところ考えを巡らせたとて バカな自分ではこの先どうするかという問題に答えが出せないでいた。 ならばせめて最後まで『特別なバカ』としての役を演じきってやる。 その意地だけが隻眼のまりさに貫き通せる信念だ。 そのまりさ自身がバカと評した自分の力がまりさの最後の支えだった。 そして、もう一度信じてみよう。 自分はもうゆっくりすることが出来ないが 他のみんなは、ゆっくりできる仲間なのだから。 ――――同日、日没―――― デブリーフィングの終了。 それはつまりぱちゅりーとの話し合いの時間が 迫っているということでもある。 「むきゅ、遅くなっちゃったけど 今日はこれでおしまいね。皆解散よ」 「ふ~」 「ゆっくり帰るよ!」 三匹のまりさが洞窟を出て行く。 彼らの日常的な行動が残りの三匹には眩しかった。 どうしてこうなってしまったんだろう。 いや、問題なのは自分だ。 それは三匹同時の同じ思考。 自分が変わってしまったから。 自分の知識が足りないから。 自分に器量がないから。 ゆっくりにとって二年間という時間はとても長い。 一年間生きることすら怪しいのだ。 様々な自然の驚異に立ち向かいながら 共に手を取り合って生きてきた。 しかし、今はお互いにお互いが距離を感じている。 相手が離れていってしまったのか。 自分が距離をとってしまったのか。 分からない。 でも自分達はどこか信じていたのだ。 もとより、お互いがお互いを想っているのだ。 たとえ問題が起きても最悪の結果にはならないはずだ。 「まりさ、ドス、奥へ…」 ぱちゅりーが口を開く。 隻眼のまりさとドスがそれについていく。 ドスの同行は想定していなかったわけではないのだが少々意外だった。 一旦自分達だけで決着をつけてからとも思っていたのだが。 ――――二年前、れみりゃ襲撃の翌日、夕刻―――― 「ドスー!!」 「むきゅ!?まりさ!!大丈夫だったの!?」 「まりさは大丈夫だよ!皆は!?」 それはれみりゃを一通り撃退することができた次の日だった。 そこにいるのはその時はまだ隻眼でなかったまりさと、ぱちゅりーだ。 「ドスは!?ドスは大丈夫なの!?」 「いっぺんに聞かないで。ドスは何とか生きているわ。 集落の方の生存者も一杯戻ってきてる」 「じゃあ皆は!?」 「あなた達の中で戻ってきたのは貴方が最初よ」 「そうなんだ…ドス!?大丈夫なの!?」 まりさが洞窟の奥に目をやるとそこには傷だらけのドスがいた。 あれほど弾力があり、つやのあった皮があちこち千切れて 見るも無残な状態になっている。 「大丈夫よ、怪我はしているけど命に別状はないわ。 今は戦いで疲れて寝てるだけ」 「…ぱちゅりー…まりさ達戻ってきたの……?」 「ドス!?まりさだよ!!大丈夫!?」 ドスが目を開けてまりさの声に反応する。 「何とか無事だったよ…まりさは大丈夫?」 「うん…だけど、皆も、村も…」 「皆頑張ったよ…れみりゃ達はまりさ達が考えていたよりずっと強かったけど まりさ達が頑張ってくれたから、ぱちゅりーがいたから、何とかなったよ…」 「むきゅう…ドス、今は休まないと…」 「うん…でもまりさ…やっぱり…まりさは皆の力がないと何もできなかったよ…。 ぱちゅりーも、まりさも、やっぱり自分だけじゃ何もできないんだよ…」 まだ意識がはっきりしないのか、同じような内容の言葉を発する。 「むきゅ!ドス、今は寝てなさい。 元気になったらしっかり働いてもらうからね!」 「ゆっくり分かったよ…」 ドスは頭の中でぼんやりと起きろと言われることは多々あったが 寝てろと言われるのは初めてだな、などと考えていた。 「まりさ、あなたたちの言うとおり私は戦えないわ。 でも私達はゆっくりだから、皆の力を合わせないのとこうなるのよ…」 「うん…ごめん。まりさ達はぱちゅりーみたいに頭がよくないから 力を合わせるって事の本当の意味が分かってなかったよ…」 ――――現在、深夜―――― あの日、この三匹は連携することの大事さを知った。 ただしその連携が成り立つには互いの意識統一が重要であることを 二年越しにしてようやく気付いた。 いつからだろう。こんな軋轢が生まれたのは。 どうしてだろう。それに気付こうとしなかったのは。 なんなのだろう。こうして三匹の間にある違いは。 なぜなのだろう。こんなに向いている方向が違ってしまったのは。 三匹は、ここに来てようやく事の顛末に触れようとしている。 お互いに隠すものは隠して、などという甘い考えはもう通用しないだろう。 この先どうなるか、どうすればいいのか、なにがあるのか。 ゆっくり達には何も分からない。 続く 次回予告 それは輝かしい日々の終わり。 変わらないものなどないのに。 ゆっくりすることがどういう結果を生むのか。 誰も、特別な存在になどなりえないのか。 次回 隻眼のまりさ ~第七話~ ドスの思い!その存在が生み出すものは… 乞うご期待! あとがき ノベル作品を読むとき、工夫された文章構成を見るとおお、と思うので 自分も似たような工夫を施してみました。 自分が書いた物ではわざとらしいとか、読みにくいなどの印象も残りますが 自己満足は得られました。 あとは、この六話は心理描写ばかりで話がほとんど進んでいないのも問題ですね。 この話も中盤を迎え、山場の入り口に差し掛かっているので どうぞこれからもお付き合いください。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3217.html
『隻眼のまりさ 第七話』 17KB 戦闘 群れ ちょっと自分推敲が足りないかもしれませんね。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第七話~ ドスの思い!その存在が生み出すものは… ――――同日、深夜―――― 隻眼のまりさ、ぱちゅりー、ドスは皆が寝静まった深夜に ドスの洞窟の中で一箇所に集まっていた。 今までのことを、そして今後のことを話し合うために。 洞窟の中は真っ暗だった。 中で行動するのに慣れていてもそろりそろりと移動しないと危険だ。 「まりさ、とりあえずドスにも同じ話をしてあげて」 「うん…」 「……………」 ドスは黙ってことの推移を見ていた。 ぱちゅりーの行動、つまりは自分に話を通すということが意外だったからだ。 それはつまり、自分の予想が全く追いつかないことが分かったから。 いちいち話の腰を折って状況説明を求めるより 全て聞いてから自分の判断や意見を言おうと思った。 「ドスは、きめぇ丸って知ってるかな?」 「きめぇ丸…?ひょっとしてあの全然ゆっくりしてない ゆっくりのこと?」 隻眼のまりさはその言葉に少々ズキンときた。 やはりゆっくりしていないゆっくりはドスでもいやなのか、と。 「何日か前に狩りに行ったときそのきめぇ丸に会ったんだ」 「そうなの?」 「それで、きめぇ丸が」 「ゆんやあああああああああああ!!! れみりゃがああああああああああああ!!!」 「!!!」 「れみりゃ!?」 集落のゆっくりの悲鳴が聞こえてきた。 「まりさ!ドス!」 「う、うん!!」 「いくよ!!」 ドスはぱちゅりーを帽子に乗せ、洞窟の外へ向かう。 緊急事態だからしょうがない。 三匹とも同じように考えていたが同時に この話を先延ばしにできたことに僅かな安堵を得ていた。 でもやはり、この話には早々に決着をつけておくべきだったのだ。 まず隻眼のまりさが外に出て、それに続いてドスが洞窟から顔を出す。 「ドス!危ない!!」 「むきゅっ!!」 「うわあ!!」 ドスの顔めがけて飛んできたれみりゃをまりさが体当たりで引き離した。 「え…?まりさ…?」 ドスは驚いた。ドスの顔の高さは1m以上ある。 にもかかわらず隻眼のまりさはその高さにいたれみりゃに体当たりを当てたのだ。 「ドス!ドス!前見て!!」 「う、うん!!」 そうだ、それどころではない。目の前にはれみりゃがいるのだ。 自分のドススパークは最大戦力。 とにかく今は戦闘に集中しなければならない。 「何よ…これ…」 洞窟の入り口から見た光景はまさに二年前の再現だった。 満月の月に照らされた夜の森に翼を持った悪魔が飛び交っている。 数は無数。あの時以上かもしれない。 「………!!ドス!ドススパークを!!」 「わ、わかったよ!!」 しかし呆けてなどいられない。 とにかく、守れるものは守らなければならない。 「うー!おっきなやつがいたんだどー!」 「みんなでたべるよ!!」 ぱちゅりーの思惑が成功したのかそうでないのか定かではないが 集落のゆっくり達は巣の中にいるようだ。 外には誰もいない。 しかしそれが故にドスを確認すると辺りにいたれみりゃが一斉に殺到してきた。 ドスもそうだがドスの帽子に乗っているだけのぱちゅりーが最も危険だ。 「ドス!かまわないわ!薙ぎ払って!!」 「ゆっくり理解したよ!!」 ドスは専用のキノコを咀嚼せずにそのまま飲み込む。 ぱちゅりーに教わった発射時間の短縮方法だ。 「ゆぅぅぅぅ…あああああああああ!!!!」 「……っ!!!」 隻眼のまりさはあまりの光と轟音に目を背けた。 ドスはレーザーを照射しながら右から左へと頭を振り上空の連中を一斉攻撃したのだ。 ただし、この方法では周囲の木々も同時に薙ぎ払ってしまう。 巣の支柱とされていた木を破壊してしまわないためにも 緊急時以外は使用を禁じていた方法だ。 「うわあああああああああああああ!!!」 「ゆゆーーーーーーーーーーーー!!!???」 「おがーじゃあああああああああああん!!??」 バキバキと木が倒れる音。 上空の捕食種は直接薙ぎ払われ、目を戻したところで 今度は倒れてくる木の上部にある葉や枝によって地上のゆっくりに襲い掛かる。 「ドス!一旦洞窟の中に下がって!! このままじゃ三方向かられみりゃに襲われるわ!!」 「分かったよ!!」 「まりさ!!聞こえてる!?中に入ってくるれみりゃを撃退して!!」 「聞こえてるよ!!分かった!!」 周りの音がうるさくてお互いに大声で会話する三匹。 前方90度にあった木がドススパークによってバランスを崩し ドシンドシンと次々と倒れる。 そして倒れた中は地獄絵図と化した。 れみりゃ達にも多大な被害を与えたが集落のゆっくり達も 驚いて外に出てきてしまった者がいた。 だが、この混乱もぱちゅりーの狙いの一つ。 集落に住む者たちにも被害が出てしまったが れみりゃ達の行動がバラバラになった。 とりあえず、一点集中の攻撃は避けられたのだ。 「ドス!大丈夫!?」 「まりさ達も来たよ!」 残りの精鋭まりさ二匹が洞窟の前に躍り出てきた。 「助かるわ!ドスの洞窟の前に陣取って! ドススパーク発射を援護するのよ!!」 「ゆっくり分かったよ!」 「待って!もう一匹は!?」 「まりさは見てないよ!」 「きっと大丈夫だよ!!」 「とりあえず目の前に集中して!!」 お互いの声を聞いていなければ右も左も分からなくなりそう。 そんな思いを持ちながら自らを奮い立たせて目の前の脅威に立ち向かう。 「ドス!!いいわ!!その位置から仰角10!真っ直ぐ発射!」 「え!?何だっけ!?」 「地面よりちょっと上!正面の木の枝をすべて排除するの!!」 「ゴメン!!分かったよ!!」 ぱちゅりーの戦術は木の枝という障害物を作り そこに真っ直ぐ穴を開けるというもの。 そうすればよりドススパークの有効範囲内に 敵が侵入してくるようになる。 「うー!よくもやったなー!」 「ゆぅぅぅううう!!」 「ふらん!いっしょにあいつをたおすどー!!」 「くらええええええええええええ!!!」 第二射。正面に集まってきたれみりゃとふらんが一斉に消し飛んだ。 この集落で一番の脅威であると理解してドスに攻撃をしようと集まってきたのが災いした。 「いいわ!!第一次攻撃は成功!!まりさ達は前進して! 私が合図するか危ないと思ったら左右の木の枝の中に避難して! 決して自分たちだけで戦おうとしないでね!!」 「分かったよ!」 「突撃するよ!!」 まりさ達三匹が隻眼のまりさを先頭にドスの元を離れて ドススパークでできた道へ前進する。 再び敵をここに集めるのが目的だ。 「ゆわーん!!こわいよおおおおおおおお!!!」 「みゃみゃあああああああああああ!!!」 「うー!にげるんじゃないんだどー!!」 「えださんじゃまなんだどー!!」 混乱して巣から出てきたゆっくり達が辺りに散らばり始めた。 しかし密度の高い障害物である木の枝に遮られて 地上を這い回るゆっくり達より 三次元移動をするれみりゃ達はさらに行動し辛くなる。 「行くよ!!『あろーふぉーめーしょん』!!」 「「ゆっくり理解したよ!!」」 そう言ってから隻眼のまりさは木の枝を帽子から取り出す。 それを口にくわえると正面の胴付きれみりゃに向かっていく。 「あまあまがあったんだどー!」 「ふっ!!!」 手を伸ばしてきたれみりゃの攻撃にあわせてジャンプした。 すれ違いざまに木の枝の先端で相手の左目を切り裂く。 「うー!?いぎゃああああああああああ!!! でびでゃのおべべがああああああああああ!!」 これはかつて自分が受けた左目の怪我を思い出して考えた技だ。 『刺す』のではなく勢いに任せて『斬る』攻撃。 「とどめだよ!!」 「ゆっくり死ね!!」 「うー!?いだいいいい!!やべろおおおおおおお!!!」 転んだれみりゃが後ろの二匹のまりさに踏みつけられる。 斬る攻撃なら武器の木の枝を失わずにすみ 刺してれみりゃの顔を踏む追い討ちの邪魔にならないし 裂けた部分から中身が漏れ出すというダメージ増加に繋がる。 カウンターに加えた一石三鳥の攻撃だ。 「立ち止まらないで!着いて来て!!」 「分かってるよ!!」 立ち止まってはやられる。 先頭のまりさを矢尻の先端に見立てた三角の陣形。 その形を保ちながら後ろの二匹がついてくるのを確認しながら 隻眼のまりさは大きく方向転換する。 「右に避けるよ!」 「「ゆっくり理解したよ!」」 「よぐもおおおおおおおおおお!! じねえええええええええええええ!!!」 真っ直ぐ向かってくる胴付きふらんの進行方向に対して 垂直になるように回避運動をとる。 通常のまりさよりも早く動ける捕食種に対しては 最も効果的な回避だ。 「うー!?どこいったー!?」 「後ろを取ったよ!!回れ、右!!」 「「回れ、右!!」」 胴付きふらんが自分達の進路を横切ったところで180度の方向転換。 先頭のまりさを一旦追い越してから残りの二匹が同様に向きを変える。 陣形を維持したままの方向転換だ。 「食らえ!!」 「うー!?」 隻眼のまりさが後頭部に体当たりを当てるとふらんはうつぶせに倒れた。 「一点集中!!」 「「一点集中するよ!!」」 そこへ今度は三匹一斉の踏みつけ攻撃。 一斉にその頭部に向かってジャンプする。 「ゆっくり死ね!!」 「とどめだよ!!」 「ゆぐびぃ!!」 ふらんの頭部が帽子ごとグチャッと潰れた。 その手ごたえを感じたら再び前進を開始。 「よぐもおおおおおお!!!」 「おがーじゃんがあああああああ!!!」 「ばりざなんがゆっぐりじないでじねえええええええええ!!!」 「ドスのところに戻るよ!!」 「「ゆっくり理解したよ!!」」 上空の敵がまりさ達に照準を定めたところで退却を始める。 パワーや柔軟性は胴付きの方が胴無しより優れているが 地上戦を主眼に置いた胴付きより飛んでいる胴無しの方が まりさ達には仕留めにくい。 何より胴無しは胴付きより数が多い。 無理に立ち向かおうとせずドススパークに頼るため ドスの洞窟の方へ向かって移動を始めた。 「ドス!発射準備!!私の言うタイミングに合わせて!」 「ゆっくり分かったよ!!」 ことの一部始終を見ていたぱちゅりーが再びドスに発射態勢をとらせる。 ドスはキノコを飲み下すと息を吸い込んでそのまま止める。 十秒程度しか持たないが時間差射撃の体勢だ。 「まりさ!!れみりゃが来るよ!!」 「急いで!!頑張って走るんだよ!!」 「頑張ってるよ!!」 「ドス!!カウントダウン!!3、2、1!!」 三匹のまりさがカウントを聞いてさっと右に避けた。 「発射!!」 「発射あああああああああああああ!!!!」 三度(みたび)夜の森がドススパークに照らされた。 「ドス!キノコは後いくつあるの!?」 「あと二つしかないよ!!」 「じゃあすぐに後退!!篭城戦に入るわ!! ドスはすぐに奥へ!!だけど外を見ながら後ずさるのよ!! まりさ達は私の部屋に入って!!」 「ゆっくり分かったよ!!」 そこで隻眼のまりさは『え?』と思った。 何で?まりさはまだ戦えるよ? 集落のゆっくり達はどうするの? ドススパークもあと二発残ってるんでしょう? こんな弱い奴らから逃げるの? なんで? なんで? 隻眼のまりさだけはそこで固まった。 ドスは既に前を見ながら後ろ向きに移動を始めている。 二匹のまりさも洞窟に向かって走り始めていた。 第一に、この認識のずれが先に話し合っておくべき内容だった。 「まりさ!?」 「何処行くの!?ドスの洞窟の中が安全だよ!?」 「ゆっくり追うよ!!」 「駄目!!言ったでしょう!?勝手に行動しないで!! ついていったら死ぬわよ!!」 第二に、それぞれの思惑の方向性について先に話し合っておくべき内容だった。 「ぱちゅりー!!どうしてそんなこと言うの!?」 「まりさを助けに行かないと!!」 「あなたたちはもう忘れたの!? 助けることよりも、生き残ることを考えなさい!!」 「ドスは、村長なんだよ!?皆を守るドスなんだよ!?」 第三に、各々の立場を再確認することが先に話し合っておくべき内容だった。 この三つが互いにとって最低限、話し合っておくべきことだったのだ。 奇しくもれみりゃに襲われたタイミングは三匹にとって最悪のタイミングだったのだ。 ――――同日、同時刻―――― ドスは前に出て戦う隻眼のまりさを見てずっと考えていた。 あの三匹は見事な軌跡を描いてれみりゃ達を討っていた。 その様子から自分が考えていたことは杞憂だったのではないかと思い始めていた。 見事なフォーメーションと指揮だ。 かつて自分が先頭を走っていた時とは比べ物にならない。 ぱちゅりーの作戦もあるのだろうが それを聞いていたとしてもかつての自分にあれだけできただろうか? だが同時に今はもうそれでもいいか、と思う。 自分が果たせなかった思いをあのまりさが引き継いでくれている。 そう思った。 帽子の上にいるぱちゅりーの様子は自分からは確認することができない。 だがきっと自分と同じようにその姿を見て感心しているはずだ。 自分はもう、まりさ達と走ることはできない。 だが、まりさ達は自分達でチームを組み 自分が必要ない段階まで成長してきている。 隻眼のまりさが皆を統率してくれる。 あのまりさに皆はついていくことだろう。 そしてそう思うことで自分は彼らに対する未練を完全に 断ち切ることができるだろう。 今日の決意がもう揺らがないように。 ドスは幼馴染の輪から完全に抜けることを決心した。 もう自分はまりさ達のリーダーなのではなく 集落のリーダーなのだから。 「ドス!発射準備!!私の言うタイミングに合わせて!」 「ゆっくり分かったよ!!」 自分は、自分に与えられた使命を果たす。 今できることはドススパークでれみりゃを出来るだけ倒し 集落の皆を助けることだ。 キノコを口に放り込みそのまま丸呑みする。 口に合わせて喉も大きいので特に苦にならない。 そしで息を吸い込んで止める。 「ドス!!カウントダウン!!3、2、1!!」 思い切り息を吸い込んで止めるのは結構苦しい。 ぱちゅりーのカウントがものすごく遅く聞こえる。 「発射!!」 「発射あああああああああああああ!!!!」 全力で叫んでドススパークを発射。 いつもながら自分で発射しているのにもかかわらず れみりゃや大木をなぎ倒すこの威力には全く現実感がない。 ドスでなかった頃からは全く考えられないものだ。 「ドス!キノコは後いくつあるの!?」 「あと二つしかないよ!!」 「じゃあすぐに後退!!篭城戦に入るわ!! ドスはすぐに奥へ!!だけど外を見ながら後ずさるのよ!! まりさ達は私の部屋に入って!!」 「ゆっくり分かったよ!!」 ドスはそう言われ感心した。 本当にぱちゅりーはすごい。 こういう練習はたまにしてきたけど 何もかもその練習通りになる。 まるで自分だけでなくまりさ達やれみりゃまで ぱちゅりーの言いなりに動いているかのような錯覚に陥る。 その知識と判断力は驚嘆に値する。 ぱちゅりーがいれば、その言葉に従えば 集落全てのゆっくりを助けることが出来る。 ドスはそう考えていた。 「まりさ!?」 「何処行くの!?ドスの洞窟の中が安全だよ!?」 唐突に隻眼のまりさが外へ飛び出していった。 え?なに?ぱちゅりーは洞窟に入れって言ったよ? 皆と戦うためには、集落の皆を守るためには 皆で力を合わせないといけないんだよ? ドスはその行動に虚を突かれた。 なぜなら隻眼のまりさはあの二匹を放り出して出て行ってしまったのだ。 まりさ達のリーダーになるんじゃなかったの? 「ゆっくり追うよ!!」 「駄目!!言ったでしょう!?勝手に行動しないで!! ついていったら死ぬわよ!!」 「ぱちゅりー!!どうしてそんなこと言うの!?」 そうだ、どうして。 それに隻眼のまりさはどうして出て行った。 それでどうしてぱちゅりーは追いかけるのを止めるんだ。 まりさが勝手に行動したのは確かに悪いことだけど それを見捨ててここで待つというのか? 「まりさを助けに行かないと!!」 ドスは思う。 二年前のあの時六匹が五匹になってしまったのは 力がなかったからであることが原因だ。 そして自分達の力を過信してちゃんと力を合わせて戦えなかったからだ。 「あなたたちはもう忘れたの!?」 忘れてなどいない。 あんな思いはもう御免だ。 それ以前に既に一匹見当たらないのだ。 その見つからないまりさも探しに行かなければならない。 目の前にはまだ何十匹も敵がいるのだ。 一匹で行動していては危険だ。 「助けることよりも、生き残ることを考えなさい!!」 何を言っているんだ。 助けることと生き残ることは一緒だ。 助けなければ皆生き残れない。 仲間がやられて自分だけになってしまえばすぐにやられてしまう。 だから助けないと。 生き残るために。 戦うために。 皆を守るために。 村長としての役目のために。 そう思うと自分は声を張り上げていた。 「ドスは、村長なんだよ!?皆を守るドスなんだよ!?」 それが自分が自分が決心したこと。 村長としての役割を演じるための。 皆で笑いあうために。 これからもゆっくりするために。 少なくともその思いはぱちゅりーだって同じはずだ。 ぱちゅりーの知識なら何とかしてくれるはずだ。 そう思ってぱちゅりーの反応を待った。 しかし返ってきた言葉は 「駄目!私にも状況がつかめていないのよ! れみりゃが何匹いるか!まりさが何処へ行くのか! この状況で動けば悪い方向にしか行かないわ! 自分のことだけ考えて!でないと全滅するわ! 戦えるものだけでも生き残らないと!」 それは、絶対だと信じていたぱちゅりーの知識の限界。 ぱちゅりーにも分からないことがある。 だが、自分の考えの及ばないところで考えている ぱりゅりーの知識の限界にドスは全く気付いていなかった。 気付いていなかったが故に ぱちゅりーが自分のことしか考えていないと 考えることを放棄してドスである自分の力を利用することしか頭にないのだと。 ドスはそう思ってしまった。 自分は、皆を助けるために戦っているのに。 どうしてそんなこと言うの? だったらどうして自分に指示を出すの? 自分が指示に従っているのはぱちゅりーを信じているからなのに。 ぱちゅりーは皆を信じていないの? ぱちゅりーは皆を守る気がないの? ぱちゅりーは皆と生きたいと思わないの? ドスは生まれて初めてものすごい速さで頭の中が回転していた。 今までの二年間。自分はぱちゅりーを信じていたし ぱちゅりーも自分を信じてくれているものだと思っていた。 自分は集落のためになるとぱちゅりーの指示に従ってきた。 実際集落は以前より活気付いて皆ゆっくりした顔をすることが多くなった。 だけど。けれども。 ぱちゅりーの行動が長としての役割と一致しないのなら? ぱちゅりーの指示が皆のためでなく、ぱちゅりー自身のためなら? ぱちゅりーの考えが自分の及ばない範囲だと村長として考えることを放棄しているのなら? ぱちゅりーの独自の考えで動く大きいだけの傀儡と化しているのなら? 村長である自分は、どうするべきなのか? 続く 次回予告 それぞれの思いは一つ。 ただ自分の信念を貫こうとすること。 その思いの根底は同じはずなのに。 どうしようもなくすれ違ってしまう。 なぜなら、皆が違う存在なのだから。 きちんと言葉で伝えられなかったから。 それぞれの信念はたとえ戦場においても互いを傷つけてしまう。 次回 隻眼のまりさ ~第八話~ ぱちゅりーの思い!その言葉は伝わるのか… 乞うご期待! あとがき 相変わらずくどい文章ですがご容赦を。 餡子脳にここまで出来るのかどうかは自分としても疑問ですが こうして進めてしまった以上最後まで突っ走る所存です。 心理描写は書いて手時間がかかりますが 戦闘描写は書き手というより中のキャラクターが 自然に動いてくれるので書きやすいですね。 ちなみに作中でれみりゃとふらんを目の敵にしていますが 私はれみりゃとふらんがまりさ種より遥かに好きです。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
https://w.atwiki.jp/hutaba_ranking/pages/190.html
『まりさを探せ!』 14KB 不運 自業自得 差別・格差 飾り 駆除 野良ゆ 都会 加工場 現代 独自設定 ジャンル・「救出」? 「まりさを探せ!」 羽付きあき ・加工所物 ・幾つかの独自設定で保管しておりますご注意を ・謎解き?モノ 「・・・で、これがいなくなったまりさです」 ・・・私の目の前で男が自身と移っているゆっくりまりさの写真を差しだした。 モチモチの小麦粉の肌に、艶艶の砂糖細工の髪・・・そして皺ひとつない帽子と金バッジ。 相当大事にされていたのだろう。 「・・・いつ頃いなくなったのでしょうか?」 「丁度ひと月前ぐらいでしょうか・・・少し目を離したすきに網戸を自分で開けて出たんだと思います・・・」 金バッジのゆっくり・・・それも殆ど外らしい外を知らないゆっくりまりさがひと月も帰ってこない。 それは恐らく街ゆっくりにでもやられたか、そのまま野垂れたかのどれかだろう。 だが、男にはそのまりさが生きていると言う確信と言うか、何かそんな物を持っているようだ。 「しかし一か月近くです。山野で迷ったと言うならまだ可能性はありますが街では・・・食料の取り方、どれが食べられるものか、"おうち"の作り方、あなたのまりさはそれを知りません。そう考えれば持って三日と考えるのが妥当でしょう」 「・・・確かにその通りです。ですがまだ一つ可能性が残っています・・・これを見てください」 男が差し出したのは雑誌であった。開いたその記事と写真に目を通したとき、なるほど可能性はまだあると私も感じた。 雑誌には「加工所のゆっくり達」と言う題名で、広い部屋に大量に集められた「街ゆっくり」や「捨てゆっくり」等の写真が載っていた。 一斉駆除の際に、一旦捕まえて加工所で処分するのである。餡子は生産すっきり用ゆっくりの食料などに再利用されると言われている。 「なるほど、確かに一定の数量が集まらなければ加工所でずっと集められたままですしね・・・それのスパンはおおよそ約一カ月。可能性があります」 「ですが問題が・・・」 「・・・"300体のゆっくり"でしょうか?」 男の顔が曇った。 加工所に一度に入れれるゆっくりの数は約300、一か月近くと言えど、それ程度の数は集まっていると見るのが普通だろう。 そして何より、恐らく「飼いまりさ」にはバッジがないだろう。 あれば拾って戻っているはずである。バッジを街ゆっくりに奪われた可能性が高い。 つまり、全く見分けのつかないゆっくり300体の中から短期間で飼いまりさを見つけ出さなければならない。 それは、容易ではないと言う事は重々承知であった。 「まりさを、見つけてもらいますか」 男が重い口を開いた。 私は席を立ちあがると男の手を取り、こう言った。 「わかりました。必ず見つけ出します」 ・・・・・・ ・・・ 「・・・あなたはゆっくり研究の中でも特に街ゆっくりの社会性について詳しいとお聞きしました。少しお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 私の目の前には、本に埋もれる様にして僅かに露出した椅子に腰かけている老人の姿があった。 老人は、分厚い本を取り出すと、まるで辞書の単語でも探すかのようにペラペラと捲っている。 「かまいませんよ。何についてでしょうか?」 「"かいゆっくりにしてください"と言ってくるゆっくりをよく見かけます、それは全て捨てゆっくりなのでしょうか?」 「よく勘違いされる質問ですね。答えはNOです」 「・・・つまり、飼いゆっくりになった経験も存在しない街ゆっくりも混じっていると?」 老人が席を立ちあがると、立てかけてある小さな黒板にチョークで何やら図を書き始めた。 「俗に言う"アピール"と言う行動ですね。これは本来、秋の中頃からから冬までがピークを迎えます。それはつまり・・・」 老人がチョークである図を指し示した。そこには「不足」と書かれている。 「食料不足・・・ですか」 「その通りです。"おうた"も"おどり"も出来ないほどに食料不足が深刻な時の最終手段としてとらえるとわかりやすいでしょう。確かにあなたの言う通り、全てと言っていいほどのアピールをするゆっくりは"捨てゆっくり"です。ですが近年では比率が代わってきております。大体街ゆっくり、飼いゆっくりとで表すなら約7:3と言ったところでしょう」 「では、加工所に入ったゆっくり達の中からたった一体の金バッジゆっくりを見分ける為の方法はあるのでしょうか?」 老人が眉をピクリと動かした、そして開けたままであった分厚い本をぱたりと閉めるとこう答える。 「特定と言うのは不可能ですが絞り込むことは可能です。特殊な状況下において・・・特に加工所内であなたがゆっくり達に近づくと、どのゆっくりも"アピール"を繰り返すでしょう。嘘も含めてね。」 「その嘘を見破らなければならない・・・」 「そうです。具体的な方法は幾つかありますが、その飼いゆっくりの特性を利用しなければ・・・」 老人が小さなメモ帳を破ると、サラサラとボールペンで何かを書き始める。 それを私に手渡す間際にこう話した。 「一般的な見分け方です。大分絞り込めるでしょうが見つけるまでには・・・」 「いえ、十分助力になります。ありがとうございました」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「いやあああああ!もうじっぎりじだぐないいいいい!ずっぎりいやあああああ!!」 「あでぃずのっ!あでぃずのどがいばなおぢびぢゃんがっ!ゆがあああああ!もうずっぎりはいやだわあああああ!!」 「ゆ”・・・!ゆ”・・・!お・・・ぢび・・・ぢゃん・・・れい・・・む・・・の・・・おぢ・・・び・・・ぢゃ・・・」 ベルトコンベアの端には、透明の箱に茎だけが伸びる形でゆっくりの番いが置かれていた。 れいむ種とありす種が蔓を伸ばしている。砂糖水の涙と涎をまき散らし叫ぶゆっくり、虚ろな寒天の両目で中空を見据え何かをブツブツと呟くゆっくり等がいた。 後ろ側には、多くのまりさ種やありす種がヘコヘコと底部を動かして、ヌルヌルの水飴の液体を噴出させ続けていた。 「ゆふっ・・・!ゆふっ・・・!あでぃずっ!ごべんねっ!ごべんねぇぇ・・・!」 「ぼうずっぎりじだぐないわあああああ!ゆぎいいいいい!」 「ゆはっ・・・ゆはっ・・・!もうだべだよ・・・!」 一体のまりさ種が動きを止めた、その瞬間に先のとがったロボットアームがまりさ種の後部に突き刺さり、何かを注ぎ込む。 「あぎっ!ゆぎっ!い”や”あ”あ”あ”あ”!!ぼうずっぎりじだぐないよおおおおお!ゆふっ・・・!ゆふっ・・・!ふっ・・・!ふっ・・・!」 叫んで小麦粉の皮をよじらせたまりさ種であったが、動きが止まる、小刻みにプルプルと震え始める・・・そして 「んほおおおおおおおお!!でいぶっ!でいぶっ!でいぶううううううううう!!ずっぎりずっぎりいいいいいいいい!!」 声を上げて底部をヘコヘコと再び動かすまりさ種。しかし、恍惚とした表情のまま、涙を流していた。 仮面の下からあふれ出す涙の様に私は感じた。 (ここには金バッジまりさはいないな・・・) 生産すっきり用のゆっくりは、れいぱーありすや、まりさ種、れいむ種等が担当するが、一回り大きいゆっくりがそれになる。 金バッジまりさは栄養状態がいいとは言え、恐らく一カ月の間にやせ衰えてしまっているだろう。 ・・・恐らくは子ゆっくりを育てている。モチモチの小麦粉の肌や清潔な風貌は、街ゆっくりから見ればさぞや「美ゆっくり」に見える事だろう。 つまり、迷ってしまった日からそう遠くない時に、すっきりをされているはずである。 まりさ種と言う事を考えれば、れいぱーありすと言った所が一番可能性が高いか・・・ そこから導き出せば、金バッジまりさは子まりさ、ないし子ありすと一緒にいる可能性が高い。 いよいよ、ドアが開くと、そこにはガラス越しに、大量のゆっくりを見る事が出来た。 それぞれが家族単位で寄り固まっている。 風貌はどれも汚く、飾りが所々欠けているゆっくりが多々見受けられた。 小麦粉の肌も煤や泥がついて汚れている。 私がガラスを一度コンと叩くと、ゆっくり達の眼の色が変わった。 凄まじい勢いで飛び跳ねてきたり、のーびのーびで近寄ると、ガラス越しに小麦粉の顔をべチャリと付けて何かを叫び始めた。 後ろにいるゆっくり達までもが、のーびのーびを繰り返していびつな形に鳴りながら私に何かを叫び続けている。 「・・・!!!・・・!!・・・!」 「・・・!!・・・!!!!」 「・・・!!・・・!」 私は、ゆっくり達のいる場所のドアをあける。柵がしているので近づく事が出来ないが、ガラスの向こうに張り付いて殺到していたゆっくり達が、今度は私の柵に向かって群がり始めた。 「にんげんざんだ!にんげんざんがおりでぎだよっ!」 「ゆ!ゆ!」 「まりさをかいゆっくりにしてねっ!」 「ゆ!」 「ありすはとっても!とってもとかいはだわ!おうただってうたえるしおどりだって・・・ゆがっ!」 「どいてねっ!にんげんさん!れいむとれいむのおちびちゃんだよ!とってもゆっくりできてかわいいよ!だから!だからかいゆっくりにしてね!おちびちゃんもなにかしてねっ!はやく!はやくっ!」 「ごはんしゃん!ごはんしゃんをちょうぢゃいにぇ!まりしゃちゃちはもうなんにちもごはんしゃんがたべれちぇにゃいんぢゃよ!」 「ゆ!ゆ!ゆ!」 「あでぃずのおぢびぢゃんがゆっぐりでぎなぐなっでるのおおおおお!にんげんざんっ!おでがいじばずっ!あばあばを!おれんじじゅーずざんをぐだざいっ!ずごじでいいんでずうううううう!!」 「ちゅぶれりゅううううううう!」 「ゆ!」 「ごはんさん!ごはんさんをちょうだいね!ずごじだげっ!ぼんのずごじだげでぼ・・・!」 「まりさたちをここからだしてね!」 「たすけてね!れいむたちゆっくりしたいだけだよ!」 「ゆ!ゆ!」 ・・・私は思わず一歩後ろに下がった。 それを去る行為と勘違いしたゆっくり達が、鉄柵を折り倒さんとする勢いでさらに騒ぎ出す。 「まっでええええええ!まっでえええええええええ!にんげんざんんんんんんんんん!!」 「でいぶはぎんばっじのがいゆっぐりだったんだよ!」 私がその言葉に反応すると、れいむのただ一言が皮切りとなって一斉にゆっくり達が騒ぎ始めた。 「ま、まりさも!まりさはきんばっじのかいゆっくりだったんだよ!とってもすごいんだよ!」 「ありすもきんばっじよ!とってもとかいはなきんばっじだったのよ!」 「れいむはぎんばっじさんだったけどおうたがじょうずなんだよ!ゆ~!ゆゆー!ゆっくり~!」 「まりさはぎんばっじさんだけどかけっこがいちばんじょうずだったんだよっ!ゆっくりみててね!ゆ!ゆ!」 「ありすはきんばっじさんだからとってもとかいはなこーでぃねーとができるわ!みて!このかざりはしみやよごれなんかじゃないわ!これはありすがこーでぃねーとしてのよ!」 「まりさはぷらちなばっじさんだったんだよ!とってもゆっくりしたゆっくりなんだよ!だからかいゆっくりにしてねっ!」 「ありすも!ありすもぷらちなばっじさんだわ!おちびちゃんたちもきんばっじよ!」 「れいむはおちびちゃんたちもぷらちなばっじだよ!とってもゆっくりしたゆっくりなんだよ!」 どれもこれも荒唐無稽な事を口にしている。 突如跳ねて部屋の端から端まで「かけっこ」をし出すゆっくり、怒号と変わらない「おうた」を歌い出すゆっくり、汚いシミや油汚れ、そして泥に汚れたカチューシャを「こーでぃねーと」だと叫ぶゆっくり・・・ どれも殆どが具体的な事に触れず、抽象的な表現で「飼いゆっくり」であった事をアピールしている。殆どが嘘だろう。 薄汚い小麦粉の体をぐーねぐーねと動かしながら、砂糖水の涙と涎をまき散らして、砂糖細工の歯をむき出しにしてこちらに迫っている。 (・・・僕の周辺より外れて点在しているゆっくり達が本物の可能性があるってことか) 蠢く様に小麦粉の体の形を変化させこちらに群がるゆっくり達に外れているゆっくり・・・ 弾き飛ばされて最後部に来たのだろう・・・可能性があるとすればこのゆっくり達だ。 しかし出遅れただけと言う可能性もある。次に行う方法で大分絞り込めるはずだ。 私はガラスの向こうにいる加工所職員に手で合図を送る。 すると部屋の壁に据え付けられていたダクトの様な場所が開き、中からチョコレートや砂糖菓子等の「あまあま」が落ちてきた。 ダクトの数は全部で3個。つまり三か所にわけてある。 「今、僕はあまあまを流した!あそこに三か所あるぞ!」 私がそう言うと、ゆっくり達の視線がダクトに釘づけになる。 一斉にダクト周辺へと集うゆっくり達、押し合いへしあいを繰り返して三か所にゆっくりの「ダンゴ」が出来上がった。 「ゆ!あまあまさんだよ!」 「これはれいむのものだよ!ゆっくりどいてね!」 「はふっ!ほふっ!ゆがっ!」 「どぎなざい!がふっはふっ!これはあでぃずのものよ!」 「ずるいよ!まりさにもわけてね!」 「ゆ!ゆ!どいて!ゆ!どいてね!」 「いやだよ!これはまりさのものだよ!」 「あでぃずも!あでぃずもぼじいわっ!ぼじいわああああああ!!」 ・・・私の視線は「ダンゴ」になったゆっくり達の外側・・・つまり押し戻されたゆっくり達に神経を注いだ。 砂糖細工の後ろ髪や、ピコピコを噛み、それを左右に振りながら前のゆっくり達をどかそうとしているゆっくり達。 拍子に飾りが取れてしまったり、帽子を落としてしまったりしても、お構いなしにあまあまに群がっていくゆっくり達は「ダンゴ」の中心部周辺にいる。 これが「街ゆっくり」だ。 はずみで飾りが取れたり、帽子を落とした外側のゆっくり達は、あまあまを諦めてでも飾りを拾いに行っていた。 また、子ゆっくりに構わずあまあまを取りに行かずに、子ゆっくりが転んだりすると、すぐさま諦め、ぺーろぺーろを始めるゆっくり。 これが「捨てゆっくり」だろう。 私が判断した捨てゆっくり達を注視していると、一体のまりさが目に付いた。 帽子が明らかに他のまりさ種よりボロボロだ。擦り切れたりしたのではない。あれは「噛み千切られ、踏みにじられ」た物だ。 周りのゆっくりに比べて一段と汚く、さらには生傷だらけである。日常的に他のゆっくりに攻撃を受けているのだろう。 そして、一体の子ありすをぺーろぺーろした後は、帽子を取り払い、その中に避難をさせようとしている。 帽子の内側の白い布の上には、赤まりさや赤ありすの帽子や飾りが、10~20個程詰まっていた。 (見つけた!) 私は鉄柵を飛び越えてそのまりさと子ありすを掴むと、ドアに向けて走り出す。 粗方「あまあま」を食べ終えたゆっくり達が、一斉に私に「アピール」をしようとなだれ込み始める。 間一髪でドアを閉めると、ゆっくり達の悲鳴が遮断されるはずの壁越しから振動となって聞こえて来たように感じた・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・ 「ゆぎゃあ”あ”あ”あ”っ!!!!いだいっ!いだいいいいいいい!あ”あ”あ”あ”っ!ごわいよおおおお!いだいよおおおおお!!」 一体のまりさがローラーに引き潰されながら残った小麦粉の体をぐーねぐーねとさせながら何かを叫んでいる。 ブチブチと言う音がここからでも聞こえてくるのが分かる。 「にんげんざんっ!でいぶをだずげでねっ!でいぶまだもっどゆっぐりじだいよっ!おちびちゃんだぢどみんなでおうだをうだっだりぽかぽかざんをじだ・・・あぎゃあ”あ”あ”あ”あ”っ!!いだいっ!にんげんざんっ!だずげでっ!だずげでっ!だずげでえええええええ!!でいぶをだずげでねええええええええ!!」 「あ”あ”あ”あ”あ”っ!あでぃずまだじにだぐないわああああ!!あ”あ”----っ!!あ”あ”あ”あ”------っぎゃあ”あ”あ”あ”あ”!!いだいいだいいだいいだいいだいいだいいだいいいいいいいいいいいいいい!!!」 「ゆはっ・・・!ゆはっ・・・!ゆはっ・・・!ごわっ・・・!ごわいよっ・・・ゆひっ・・・ゆひっ・・・!あ”あ”----っ!!ぎだあああああああ!!いやだあああああああ!うごいでねっ!うごいでねっ!!うごいでねえええええええ!までぃざのあんよざんうごいでねっ!おでがいいいいいいいぃぃぁぁあああああぐぇぇぇぇえええええええ!!!!いだいいいいいいいいい!!ゆはっ!ゆはっ!ゆっぎいいいいいいい!!」 他のゆっくり達もローラーによってどんどんと破砕されていっていた。 私が、金バッジまりさとその子ありすを見つけた後、すぐに始まったのだ。 あのまりさが金バッジまりさだとわかったのにはいくつか裏付けがある。 最初の私自身がゆっくり達の近くに寄ったのと、あまあまを流したのは一般的なゆっくりの見分け方で。 最後にまりさが子ゆっくりにする行動と、なにより帽子の中身が決め手となった。 まりさは迷った当初、れいぱーあありすにすっきりされたのだ。 栄養状態が良かったため、すっきりしたまま餡子が吸われて潰れる事も無く、20体近くの赤ゆっくりを育てた。 しかし街と言う過酷な環境、それに対応できるはずもないまりさは赤ゆっくりの全てをゆっくりできなくさせてしまう。 問題はここからだ。 普通の街ゆっくりならば赤ゆっくりの飾りはどこかへ捨ててしまうだろう。そんなものを持っていても何の役にも立たないし、むしろデメリットの方が多いからだ。 しかしこのまりさは、そんな事は全く知らない。赤ゆっくり達の飾りを形見として持っていたのだ。 全てはまりさの優しさがこの窮地を救ったのかもしれない。 ・・・加工所を後にする。後ろからは飼い主と金バッジに戻ったまりさの感謝の声が聞こえていた。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/833.html
少女とまりさ 後編 ※少女とまりさ前編の続きです。 ※注意、人間が酷い目にあいます。 ※書いた奴の脳みそが残念なので、致命的な設定のミスがある可能性があります。 オレンジ色の淡い光が住宅街を溶かすかの様に包み込む。 西に傾きながらも、まだ衰えないその日差しを背に受けながら少女が歩みを進めている。 少女の足取りはぎこち無く、時折足を止めては乱れた呼吸を整えている。 それは、少女が抱えている大きな荷物のせいだった。 少女が朝に家を出た時に身につけていた鞄はこの場には無く、その代わりに薄汚れた大きなゴミ袋を背負うようにして運んでいた。 ズッシリと重量感のある黒い袋を乱暴に地面に降ろして肩で呼吸をする少女。 他人が見れば、その異様な光景に怪訝な表情を浮かべたであろう。 しかし、わざわざ遠回りしてまで選んだこの人通りの少ない道には、幸いにして少女以外の人影は何処にも見当たらなかった。 少女が自宅へと帰宅した頃にはすっかり日が落ちてしまっていた。 少女は薄暗い玄関の中を手探りで灯りのスイッチへと手を伸ばす。 その時、部屋の奥から「ぽいんぽいん」と床を弾む音がこちらへ近づいてくる事に気がついて少女は眉をひそめる。 玄関の扉が閉まる音で、少女が帰宅した事を察知したのだろう。 蛍光灯の灯りが玄関を照らすと、少女の目の前にはまりさの姿があった。 「ゆっくりしていってねっ!」 臆面も無く、満面の笑みを浮かべながら少女の周囲を軽快に飛び跳ねるまりさを一瞥して、少女は目を細める。 昨日のあの出来事までは、可愛らしいとまで感じていたニヤニヤとした薄ら笑いが、今日は少女の神経を激しく逆撫でた。 少女は、まりさに対してこれといった反応をする事も無く、再び重いゴミ袋を背負うと無言で薄暗い廊下を進んで行った。 「ゆっく!・・・ゆゆんっ!?」 少女に無視されたまりさは、驚きの表情を浮かべながらも、横を通り過ぎて行った少女の後を追う。 まりさの方へは振り向かずに、後ろ手で「ぴしゃり」とリビングの引き戸を閉める少女の背中が、一瞬だけまりさの視界に入った。 「ゆっ!ゆっ!ゆっくりあけるよ!とびらさん!ゆっくりひらいてねっ!」 昨日までは、まりさがリビングへと自由に出入りができる様に、まりさの体の幅の分だけ常に開かれていた引き戸は今日は固く閉ざされている。 まりさは自分の体を擦り付けるようにして、何とか引き戸をこじ開けてリビングの中へと入り込んだ。 先にリビングの中へと入っていた少女は、運び込んだ黒いゴミ袋を乱雑にソファーの脇に投げ捨てると、 備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、それを一気に胃の中に流し込む。 そんな少女の様子を見て、まりさが目を輝かせながら少女の足元へと擦り寄った。 「ゆっ!まりさもごーく!ごーく!するよっ!ゆっくりちょうだいねっ!」 「・・・・・」 少女は足元で屈託のない笑みを浮かべるまりさの問いかけを再び無視すると、ペットボトルを冷蔵庫に放り込んで少々乱暴に扉を閉めた。 その音にまりさは驚いて「ゆっ?」と小さな声を漏らしながら、ビクリと体を震わせる。 まるで、まりさなど始めから存在しないかの様に振る舞う少女は、そのまままりさの元を離れて部屋中のカーテンを次々と閉めていく。 そして、リビングに設置してあるテレビやコンポの電源を入れると、そのボリュームを最大にまであげていった。 「ゆっ!うるさいよっ!まりさをゆっくりさせてねっ!」 まりさはおさげで耳を塞ぐような仕草をしながら、少女に向かって大声をあげる。 何故少女は、まりさの話を聞いてくれずに無視するのだろうか? その理由を今日のお昼頃までは、まりさも「ゆっくりと理解」していた。 それは、毎晩こっそりと少女に対してゆっくりの生殖行為である「すっきり」を行っていた事がバレたからである。 森のゆっくりの群れを飛び出して、人間が住む「まち」へと降りてきたまりさにとって、 虫や草等を主食にして、木の根元に穴を掘って細々と暮らすなどという昔の生活には、もはや戻る事はできなかった。 人間の食べる味の濃い食料を口にしてしまったまりさは、その虜になってしまったのだ。 それに、何時またまりさをあの「息のできない箱」に閉じ込めた「恐ろしい人間」がまりさの前に現れるかわからない。 だから、まりさは少女をお嫁さんにして、この家に住み着こうと画策したのだった。 しかし、その企みは見事に失敗して、まりさは窮地に立たされた。 なので、まりさは別の方法を考える事にした。 少女が家を留守にしていた間に、家をくまなく物色してその計画の足がかりを発見し、 作戦を練っている内に、まりさの記憶の中で「少女を怒らせた理由」がバッサリと抜け落ちてしまっていたのだった。 「おねえさんっ!ゆっくりとまりさのお話をきいてねっ!あのねっ!あのねっ!・・・ゆっ?」 まりさが視線を上げると、既にリビングに少女の姿は無かった。 再び、引き戸をしっかりと閉じて足早に階段を登っていく少女。 まりさは眉毛をハの字に折り曲げて、困った様な表情で少女の後を追って床を跳ねる。 「ゆっ!まってねっ!ゆっくりまってねっ!まりさのお話をきいてねっ!」 まりさは階段のへりに齧りつきながら、尻を振ってその上体を持ち上げるという動作を繰り返して、一段一段、器用に階段を登って行く。 汗だくになりながらも、何とか二階へと登り切ると、そこも一階と同じく、耳を覆いたくなる様な騒音に包まれていた。 「ゆっくり」する事を信条としているゆっくりにとって、この騒音は生理的に我慢ならない。 まりさは、すぐにでもこの騒音を止めて貰おうと、キョロキョロと忙しない動きで辺りを見回す。 その時、自室から出てこちらへと向かってくる少女を見つけてまりさは叫び声をあげた。 「おねえざんっ!まりさはねっ!もうぜんぜん怒ってないよっ!だからゆっくりしてねっ!」 少女の行く手を遮るように立ちはだかると、飛び跳ねながら声を張り上げるまりさであったが、 それでも少女は、まりさに対して何の反応も見せずに、まりさをまたいで通り過ぎて行く。 いつまでもまりさの存在を無視し続ける少女の行為に対して、まりさのこめかみに薄っすらと餡子の筋が浮かんだ。 「ばな゛じをぎげぇぇぇ!!」 甲高い声で奇声を発するまりさ。 ぷるぷるとその身を怒りで震わせながら、歯をギリギリと鳴らして全身を使って歯がゆさをアピールする。 「・・・何?」 「ゆ゛っ!!」 ふいに帰っていた少女の返事に、まりさは「びくり」とその体を震わせる。 俯いて絶叫していたまりさが目を開いて上を見上げると、そこにはまりさを見下ろす少女の姿があった。 少女の視線は冷ややかで、その雰囲気は昨日までとはまるで違ってまりさを蔑んだものだった。 そんな少女の態度に臆する事無く、まりさが大声をあげる。 「どぼじでばりざを無視するのっ!許してあげるっていってるでしょっ!」 少女の口は噤んだままだったが、口の中でギリッと歯の軋む音が鳴る。 内に秘めた怒りを表へと出す事無く、少女がまりさに素っ気無く切り返す。 「許すって・・・何を?」 「なにって・・・まりさに「いたいいたい」をしたでしょっ?ゆっくり思い出してねっ!」 先程も述べたように、まりさの中で自分に非がある部分だけがバッサリと抜け落ちていた。 今まりさの中にある記憶は、少女がまりさを床に叩きつけたという部分だけである。 自らに落ち度がある記憶を何時までも持ち続けていれば、「ゆっくり」する事ができない。 ゆっくりの存在は、自然のヒエラルキーの中で圧倒的に下位に位置づけされている。 それが今日まで絶滅せずに生き残れてこれたのは、驚異的な繁殖能力によるものが大きい。 その身体能力の低さ故に、番や子供を失う事は日常茶飯事だった。 何時までも番や子供の死に悲観していては、その生存競争の波にすぐに飲み込まれてしまうだろう。 なので、ゆっくり達はその悲しみを「断ち切る」術を覚えた。 ゆっくりの平均寿命は驚くほどに短い。精神的に成長して悲しみを克服する時間など無かった。 悲しい事、煩わしい事はすぐに「忘れて」目先の「ゆっくり」に没頭する個体だけがその命の鎖を脈々と繋げていった。 しばしば、窮地に立たされるとすぐに番を見捨てるゆっくりや、 「子供などまた産めばいい」と開き直るゆっくりを見かけるのは、ゆっくり特有の都合のいい脳内補完の習性が原因でなのである。 まりさは空気を吸い込んで「ぷくっ!」と頬を膨らませると少女を睨みつける。 精一杯の威嚇の表情で、少女に対する怒りをアピールするまりさだったが、 少女はそんなまりさに臆すること無く、先程までと変わらない冷たい視線をまりさに浴びせ続けている。 「ゆっ!まだいたの?ばかな人間さんっ!」 その時、少女が向かおうとしていた兄の部屋の引き戸の僅かな隙間から、 不貞不貞しい笑みを浮かべたれいむの顔面がズルリと姿を現した。 「ゆゆっ!なに見てるのっ!かわいくてごめんねっ!」 れいむの外見は昨日とは少し違っていた。その頭からは青々とした茎が生えている。 茎には、小さなまりさとれいむが三匹ずつ、目を閉じてすやすやと眠っているかの様な穏やかな表情を浮かべている まりさはれいむの存在に気がつくと、驚きの表情を浮かべて溜め込んでいた空気を「ぶひゅるる」と吐き出してれいむの側へと向かった。 「ゆ゛っ!れいむっ!まりさが「いいよっ」って言うまで出てきちゃだめでしょっ!」 「ゆっ?うるさいよっ!れいむにはかわいいおちびちゃんがいるんだよっ!ゆっくりいたわってねっ!」 れいむの態度は昨日よりも輪をかけて不貞不貞しい ニヤニヤと癇に障るその表情は、まるでこちらを挑発している様にも感じられる。 そんなれいむの悪びれない態度に、少し困った様な表情を浮かべたまりさだったが、 クルリと少女の方へ振り向くと、眉毛をキリッ!とさせて再び大声を張り上げる。 「ゆゆっ!ゆっくりきいてねっ!おねえさんっ!」 そういうとまりさは自分の帽子の中をおさげでごそごそと探り、一枚の紙片を取り出した。 それは昨日、少女が兄の部屋で見つけた日記に挟まっていた写真だった。 「この部屋はゆっくりできない」等と言っておきながら、少女が不在の間に兄の部屋に勝手に入り込んで持ち出した様だ。 「おねえさんっ!このゆっくりプレイスはね・・・っ!じつはまりさのものなんだよっ!」 写真を少女に見えるように床に置くと、芝居がかった動きで辺りを見回すまりさは、得意気にその理由を語り始めた。 まりさは元々、このゆっくりプレイスに「飼いゆっくり」として住んでいた。 この写真に写っているのが、このプレイスの元々の持ち主達で、この二人の人間は「じゅみょう」で死んでしまったのだ。 持ち主不在となったのであれば、ここは少女よりも先にこのプレイスに住んでいたまりさの物という事になる。 今までは、少女の自由にこのゆっくりプレイスを使わせてやっていたが、まりさに盾つくのであれば出て行ってもらうしかない。 それを証明するのがこの写真である。それがまりさの言い分だった。 「ゆっくり理解してねっ!この「しゃしん」さんが「ゆるぎないしょうこ」だよっ!」 「そうだよっ!後からここに来た人間さんはゆっくりでていってねっ!」 「どうだ!」と言わんばかりの表情で、眉毛をキリッとさせながらふんぞり返るまりさ。 その後ろでれいむが舌を出しながら少女を挑発して、薄ら笑いを浮かべる。 「まりさはねっ!本当はおねえさんをお嫁さんにしてあげようと思ったんだよっ!」 「ゆ゛っ!?なにいってるの!?「およめさん」はれいむでしょぉぉぉ!?」 まりさの意外な一言に、れいむが舌を出したまま驚きの表情を浮かべる。 そんなれいむを気にかける事無く、まりさはふるふると身を震わせながら、少女を睨みつけた。 お姉さんがまりさの番になれば、今まで通りこのゆっくりプレイスで暮らせる事ができたのだ。 そんなまりさの心遣いをお姉さんは踏みにじった。今更後悔してももう遅い。 「それなのに、おねえさんはまりさにひどいことをして、それからむししたよねっ!絶対にゆるさないよっ!ぷんぷんっ!」 まりさは昨日少女に行った行為を謝罪するどころか、開き直ってこの家を奪い取ろうと画策している様だ。 家から追い出されない為に、毎晩少女に対してこっそりと行ったゆっくりの生殖行為である「すっきり」を 恩義せがましくも、少女が家から出て行かなくても良い様に行った行為、善行だと主張しはじめたのだった。 それを聞いた少女の頬が時折引きつる様に波打っている。 粗だらけのどうしようもない嘘だ。 「では何故、そんな飼いゆっくりが水槽の中で溺れていたのか?」と問いただせばそれで終わりである。 ふいに目の前で世迷い言をのたまう饅頭を踏みつぶしたい衝動にかられた少女だったが、 一度目を閉じて、大きく深呼吸をして心を落ち着かせると、まりさに問いかける。 「まりさ、じゃあまりさが寿命で死んだらこの「ゆっくりぷれいす」は誰のものになるの?」 少女の問い掛けにまりさが「待ってました」とばかりに口を尖らせる。 「ゆゆっ!だめだよっ!まりさが永遠にゆっくりしたら、その後はこのおちびちゃん達がこのゆっくりプレイスを「そうぞく」するんだよっ!」 れいむの頭の上で揺れる赤ゆっくり達の生った茎をおさげで指差しながら、 あてが外れて動揺している筈の少女の表情を伺おうと仕切りに顔を覗き込んでくる。 「じゃあまりさ、持ち主が死んだらその「ゆっくりぷれいす」は子供の物になるっていう事?」 「ゆっ!そうだよっ!だからここにおねえさんの居場所はないんだよっ!わかるっ?ゆっくり理解してねっ!」 今更後悔してももう遅い。 そう簡単にお姉さんを許すわけにはいかない。 だが、お姉さんはこのゆっくりプレイスの何処に食料があるのかを知っているし「りょうり」も上手い。 お姉さんがまりさの気が済むまで謝罪すると言うのならば、召使いとしてこの家に置いてやるのもいいだろう。 いや、お姉さんとの「すっきり」はとてもゆっくりできた。「あいじん」として飼ってやるのも悪くない。 昨日までの可愛らしい面影は微塵も無い薄汚い笑みを浮かべるまりさが、 勝ち誇った顔でふんぞり返りながら、少女の謝罪の言葉を今か今かと待つ。 しかし、当然少女の口から出た言葉は謝罪の言葉では無かった。 少女は膝を折り曲げてその場に屈むと、床に置かれた写真に映った笑顔を浮かべる母を指差して静かに答えた。 「私はね・・・この人の「おちびちゃん」なの」 「ん゛ゆ゛っ!?」 少女の言葉にまりさの勝ち誇った表情が見る見る歪む。 「持ち主が死んだらその「ゆっくりぷれいす」は子供の物になるんでしょ?」 「ゆ゛っ!!・・・ゆ゛う゛う゛っ!?」 少女の告白に信じられないと言ったような表情を浮かべて、口をパクパクとさせて取り乱すまりさ。 たった今、まりさ自身が述べた理屈では、この家は少女の物という事になってしまう。 何とか反論しようと、必死に餡子脳をフル回転させて考えを巡らせるまりさであったが、出てくる言葉は単語の形を成さない。 「う゛っ!うぞだぁぁぁ!嘘だよぉぉ!ゆっくりうそつきだよぉぉぉ!」 「何故そう思うの?」 「ゆっ!それはっ!ゆゆゆっ!とにかくうそだよっ!「しょうこ」も無いのに変な事いわないでねっ!まりさ本当におこるよっ!」 まりさは自分の怒りを全身で表現しようと、限界まで空気を体内に取り込むと先程よりも更に大きく体を膨らませる。 目に涙を一杯溜め込み、醜く歪んだふくれっ面を維持して必死に少女を威嚇する。 こちらは「しゃしん」という揺ぎ無い証拠を用意して説明しているのだ。 だと言うのに、お姉さんはただ口で写真に映った人間の子供だと主張しているだけである。 そんな物が通るか、通るわけがない、嘘つきだ!お姉さんは嘘をついているのだ!このゆっくりプレイスはまりさの物だと言うのに! 逆上したまりさにとって、もはや嘘で継ぎ接ぎされた虚構が真実になってしまっていた。 まりさのゆっくりプレイスを奪おうとする悪の少女に対して、それを許さんとする正義のまりさの図式が脳内で出来上がってしまっている。 「証拠ならあるよ」 「ぶひゅるるるるるぅ!?」 少女の素っ気ない返事に、思わずまりさの体内に溜め込んだ空気が一気に抜けた。 少女は「とたとた」とまりさの方へ歩みを進めると、 まりさの隣でヘラヘラと薄ら笑いを浮かべているれいむの体を襟首をつかむように、皮を握りしめて掴み上げる。 その突然の行為に、れいむがクワッ!と歯茎をむき出して少女を威嚇した。 「なにじでるの!?れいむは偉いんだよっ!おちびちゃんがいるんだよっ!ゆっくりしたにおろしてねっ!」 少女に向かって唾を飛ばしながら妄言を垂れ流す饅頭を、少女は無造作に階段に向かって放り投げた。 「ゆっ!まるでおそらをとん・・・ゆ゛ん゛っ!」 突如宙を舞ったれいむは、その浮遊感に目をパァァ!と輝かせて一瞬の「ゆっくり」を満喫したが、 すぐに階段の角に頭を打ちつけて、醜い苦悶の表情を浮かべた。 「い゛っ!・・・い゛ぎっ!?・・・ひべっ!・・・ほだらっ!?」 そして、固い階段に何度も全身を叩きつけられながら、大きな音を立てて一階へと転がり落ちていった。 少女の突然の行動に驚いたまりさが金切り声をあげて叫ぶ。 「なっ!!なにじでっ!なにじでええええええ!?」 狂ったように奇声をあげるまりさだったが、 次の瞬間、まりさの頭上に重たいものがのしかかってきて、床に体を押さえつけられる。 「ゆ゛ん゛や゛!!」 それは少女の足だった。少女によって踏みつけられたまりさは、全身を平たく変形させて小さく呻き声を漏らしている。 苦しそうに「じたじた」と体を動かすが、少女の足の重圧からは逃れられずに「ゆひゅーゆひゅー」と苦しそうに息をする。 少女の大きく見開かれた濁った両目がまりさを覗き込む。 「こうやって母さんを突き落としたんだろ?」 「ゆ゛ん゛や゛ぁぁぁぁぁ!!」 少女の口から飛び出した言葉にまりさは思わず絶叫する。 まりさが無理やり「無かった事」にした記憶がムクムクと音を立てて蘇った。 何故だ?何故知っている? そうだ、まりさはこのゆっくりプレイスの前の持ち主の「飼いゆっくり」では無かった。 そして、前の持ち主達は「じゅみょう」で死んだのでは無い。 本当はこの家を人間達から奪い取ろうとして、弱そうな人間をあの尖った坂(階段)へと突き落としたのだ。 そして「恐ろしい人間」にこのゆっくりプレイスを奪われたのでは無い。 弱そうな人間を尖った坂に突き落とした所を見ていたもう一人に「せいさい」されたのだった。 それがあの「恐ろしい人間」だったのだ。 逆だった。人間にゆっくりプレイスを奪われたのでは無い。まりさがこのゆっくりプレイスを奪おうとしたのだ。 何故だ。何故この人間はまりさも忘れていたような事を知っているのだ? やはり本当に前に住んでいた人間達の「おちびちゃん」だからか? もし本当ならこのゆっくりプレイスを奪われてしまう。 いやだ。ここはまりさのゆっくりプレイスなのだ。認めたくない。認めるわけには行かない。 認めたら「ゆっくり」できなくなってしまう。 ◆ −10数年前の同じ場所− 「ゆっ!ゆっ!ゆっくりすすむよっ!かわいくてごめんねっ!ぷんぷんっ!」 まりさはこの状況に苛立っていた。 群れを離れて山を降りてきたまりさが、やっとの思いで見つけたこのゆっくりプレイスを、 後から来た人間が我が物顔でのさばっている現状が我慢ならなかった。 番のありすにその憤りを訴えても「召使いと思えばいい」等と呑気な事を言う。 人間がこんなにすぐ傍に居ると言うのに「ゆっくり」できるありすは、ゆっくりできない奴だ。 この出来事から、日に日にありすとの会話は減っていた。 「さっきから呼んでるでしょっ!はやくごはんにしてねっ!まりさおこるよっ!」 何時ものように、登りづらい尖った坂を何とか登りきったまりさは、ベランダで洗濯物を干している人間に怒鳴り声をあげる。 まりさの存在に気がついた人間はまりさの方へと振り返ると、くすくすと小さな笑い声をあげた。 「まりさちゃん、ご飯ならさっき食べたでしょ?おばあちゃん見たいな事言わないでね」 「あれっぽちじゃ全然足りないよっ!ばかにしないでねっ!」 頬を膨らませて人間の足にぐりぐりと自らの体を押し付けるまりさ。 まりさにとっては、威嚇を超えた攻撃の域にまで入った行動であったが、人間にとってはゆっくりがじゃれついている様にしか感じていない。 「あらあら、今はお洗濯してるから後で遊びましょうね」 「ゆぎぃぃぃっ!」 (ゆっ?あんなの”召使い”だと思えばいいわ・・・ゆっくりしてね、まりさ) ありすの言葉を思い出したまりさが、苛立たしそうに何度も飛び跳ねて地団駄を踏む。 何が「召使いだ」まりさの言うことなどちっとも聞きやしない。 「せいさいするよっ!」 まりさはそう叫ぶと、息を大きく吸い込んで地面を蹴り、人間の腹部の辺りに体当たりをした。 その衝撃に人間は小さな呻き声をあげると、膝をついてその場にしゃがみ込む。 両手を床について、苦しそうに深い呼吸を繰り返す人間を見て、まりさがほくそ笑んだ。 まりさの一撃で、もはや立つこともできないらしい。 いい機会だ。そろそろ自分の「たちば」という物をわからせてやろう。 「いたかったっ?まりさは怒ってるんだよっ?ゆっくりはんせいしてねっ!」 まりさが勝ち誇った表情で人間にそう吐き捨てた次の瞬間だった。 「・・・ゆ゛っ?」 まりさの目の前が突然真っ白になって、視界がグルグルと回転していく。 突然体が動かなくなり、為す術も無く流れて行く景色を呆然と眺めるまりさ。 何が起こったのかわからない。まりさは吸い込まれる様にベランダから廊下へと転がり落ちて行った。 そして、冷たく固い床に全身が叩きつけられる。 信じられない程に重く感じる自らの体が、ひしゃげるように押し拡がる。 「いだいぃぃぃいだいよおおおおっ!!」 重くなった体がようやく元に戻り、何とか起き上がったまりさだったが、目の前はキラキラ輝いて地面が揺れる。 立っていられない。そして右の頬にじんじんと熱い痛みが走る。 まりさは「ゆっ?ゆっ?」と力の無い声を漏らしながら、何とか今の現状を理解しようと辺りを見回す。 まりさの視界には、まりさを睨みつける人間の姿が映った。 今のは、あの人間がやったのだろうか?まりさが何を言ってもヘラヘラして言い返してこないあの人間がやったのだろうか? まりさは認めたくなかったが、じんじんと悲鳴をあげる頬の痛みがそれを許さない。 「前にも言ったでしょ?ここには私の「おちびちゃん」がいるの」 腹部をかばう様にして立ち上がった人間の語調は何時になく荒い。 そんな人間の様子と頬の痛みで、まりさはようやく自分の「立場」を理解した。 キュッと全身を硬直させてその身を一回り程縮めたまりさが、目に涙を浮かべながら弱々しい声で人間に語りかける。 「ごっ・・・ごべんなざいっ、ばでぃざははんせいじばじだっ」 「ううん、許さないわ。聞きなさい、まりさちゃん」 人間はまりさの言葉を遮って話を続ける。 約束、覚えている?私の赤ちゃんが生まれるまではここに居てもいいけど、早く元居た場所に戻りなさい。 人間の居る所にゆっくりの住む場所なんて無いの。 ここの暮らしに慣れすぎてしまって、森に帰れなくなったゆっくりはいずれ人間に連れて行かれて殺されてしまうよ。 街では人間と一緒に暮らす為に教育されたゆっくり以外は、人間は見向きもしないの。 野生のゆっくりだった貴方達を飼ってくれる人なんて何処にも居ないわ。 私も子どもが生まれたら、貴方達の面倒を見る事なんてできなくなる。そんな資格も無いしね。 人間の手を借りないで、二人で暮らすって言っても「ゆっくりプレイス」なんて何処を探しても無いの。 何故なら、この街全体が遠い昔から人間の「ゆっくりプレイス」なんだから。 だから、早く貴方達の本当のゆっくりプレイスに帰ってね。そこで好きなだけ「ゆっくり」しなさい。 「帰り道が怖いのなら、あの子に付き添って貰えばいいわ」 そう言うと、人間の表情は先程までの優しいものに戻っていた。 しかし、そんな人間の言葉はまりさの頭の中には入っていなかった。 何故、まりさのゆっくりプレイスで人間が偉そうにしている? それ以外の思考はまりさの中で麻痺していた。 どんな情報もまりさの頭の中を素通りして外へ出て行ってしまった。 先程の頬の痛みも、これ以上の被害を受けることが無いと理解した途端忘却していた。 それほど、新たに手に入れたこのゆっくりプレイスの魅力は大きかったのだ。 この街全体が人間のゆっくりプレイスという事ならば、このプレイスに侵入したのはまりさという事になる。 しかし、自分が被害者ではなく、加害者と認識していてもそれを認める事ができなかった。 人間はカラになった洗濯籠を持ち上げると、腹部に気を使いながら慎重にベランダから廊下へと静かに降りる。 そしてまりさの方へ振り返るとにこりと優しい笑みを浮かべた。 「じゃあ、ご飯はまだ駄目だけど、おやつにしましょうね」 そう言うと踵を返して「とたとた」と廊下を進んで行った。 何故人間が、まりさのご飯を食べる時間を勝手に決めるのだ? まりさは食べたいときに食べて、眠りたい時に寝る。それが「ゆっくり」だと言うのに。 ここはまりさのゆっくりプレイスなのに。まりさは何も悪いことしていないのに。 人間さえ居なければここはまりさのゆっくりプレイスになるのに・・・人間なんてゆっくりしないで即座に居なくなればいいのに・・・ 「ゆっくりしねっ!!」 まりさはそう叫んで人間の背中に向かって懇親の力を込めて体当たりした。 「あっ・・・!」 人間は小さく漏らすとまりさからどんどん遠ざかっていく。 人間の倒れた先には床は無かった。 ◆ 「い゛だい゛!!い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」 「ゆ゛ゆ゛っ!?」 家中に響き渡るれいむの沈痛な叫び声でまりさは我に返った。 少女の踏みつける力が先程よりも少し緩んでいる事に気がついたまりさは、 素早く体を捻らせて少女の足の重圧から逃れると、悶え苦しむれいむの居る一階ヘと向かって階段を駆け下りて行った。 「でいぶぅぅぅ!ゆっぐりじでねっ!ゆっぐりだよぉぉっ!」 「ん゛ぎい゛い゛い゛い゛っ!!」 ギュッと目を閉じて醜く歯茎を剥きだしながら歯を食いしばって何とかその激痛に耐えるれいむと、 その頭に生えた六匹の赤ゆっくりに必死に声をかけるまりさ。 まりさは、れいむが階段から突き落とされる光景を見て、過去の出来事を思い出した。 (ここには私の「おちびちゃん」がいるの) あの人間の大きくなった腹部を思い浮かべてまりさは、苛立たしそうに舌打ちした。 お姉さんが言った通り、お姉さんがあの人間のおちびちゃんという事はどうやら事実である。 もはや「わじゅつ」でお姉さんをこのゆっくりプレイスから追い出すことはできないだろう。 ならば今は、仲間の数が重要なのだ。言葉で駄目ならば、あの時の様に暴力でこのゆっくりプレイスを手に入れるしかない。 特に自分の餡子を色濃く受け継いでいるであろう優秀なまりさ種だけでも無事で無くてはならない。 まりさは赤ゆっくりの安否を確かめようと、れいむの頭のある方へ跳ねて回り込む。 「ゆ゛っ!な゛に゛ごれ゛っ!?」 しかし、れいむの頭から生えた茎は不自然な方向へと折れ曲がり、 赤ゆっくり達は先程までの穏やかな表情から一転して、目を大きく見開き、大口を開けて時折苦しそうに呻き声をあげている。 茎が折れかかってれいむからの餡子の供給が滞っているのだ。 水中で突然、酸素ボンベを奪われた様なものである。 このまま放置しておけば赤ゆっくり達は生まれる事無く、その生涯を終える事になるかもしれない。 「おぢびちゃん!ゆっぐり!ゆっぐりじでぇぇえ!べーろっ!べーろっ!」 苦悶の表情を浮かべて小刻みに痙攣する赤ゆっくり達をまりさはぺろぺろと舐め回す。 気の合った仲間同士、お互いを舐めあう事で「ゆっくり」を感じ合う行為であるそれは、今の赤ゆっくり達にとっては何の効果も無い。 それ所か赤ゆっくりと茎との結合部を破損させてしまう恐れすらあった。 この状況をどうする事もできないまりさは、涙をボロボロとこぼしながら鳴き声をあげた。 ぎしり、ぎしり そんな中、静かで重い足音がこちらへと向かってくる事に気がつくと、 まりさはピタリと泣くことを止めて、咄嗟に音が聞こえる階段の方を見上げる。 そこに居た”モノ”を見てまりさは醜く歯茎をむき出して「ゆ゛っ!」と野太い声を響かせた。 恐ろしい人間。 そこには、まりさを何度も何度も殴りつけて、群れの仲間を焼き殺した「恐ろしい人間」の姿があった。 それが静かに階段を一歩一歩降りてまりさとの距離を少しずつ縮めている。 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ごっ!ごっぢごないでねぇぇぇ!!」 「ゆべぇ!?」 まりさはれいむを突き飛ばすと、少しでも恐ろしい人間から距離を取ろうと逃げる様に飛び跳ねた。 しかし、錯乱状態で周りの見えていないまりさは、目の前の下駄箱に全身を叩きつけてべちゃりと床に倒れこむ。 背後から聞こえて来る足跡に向かってまりさは必死に声を張り上げる。 「あっちへいっでねっ!ゆっくりどこかへいってねっ!」 何とか起き上がったまりさは、下駄箱に自分の体を押し付けてふるふるとその身を震わせる。 ダラダラと全身からこぼれ落ちる汗が床に水たまりを作った。 殴られる。ゆっくりできなくなる。 またあの息のできない箱に入れられる。いやだ。あそこはゆっくりできない。あそこだけはいやだ。 「助けてあげるよ」 「ゆ゛っ!?」 まりさは、その声で目の前に居たのはあの恐ろしい人間で無い事に気がつく。 そこには、まりさを助けてくれて、美味しいものを食べさせてくれた優しい少女の姿があった。 何故少女の姿があの恐ろしい人間に見えていたのか、まりさにはわからなかった。 ゆっくりには、現在の心理状態によって目に見える物を脚色して見たり、感じたりする習性があるという。 自分の体から出た餡子を臭いと感じたり、死んだ仲間の飾りに酷い恐怖心を覚えたり、 絶対に勝てる筈の無い外敵が、弱々しく見えたりするのもその習性の特性であり。 その習性が少女を「恐ろしい人間」である少女の兄に見せたのかもしれない。 目の前に居るのが恐ろしい人間では無く、少女だった事にまりさの餡子脳は更なる変調をきたした。 まりさは何を思ったか、少女の足にすがり付くようにして全身を擦りつけると、れいむの救助を懇願し始めたのだった。 「おねぇざぁぁん!だずげてねっ!はやぐでいぶをだずげであげでねぇぇっ!」 れいむがこうなったのは少女の仕業だという事も忘れてしまったのだろうか? まりさは、渡りに船とばかりに少女にすがり付く。 「恐ろしい人間」には何を言っても無駄だが、少女にならばまりさの願いは通じるかもしれない。 まりさの浅はかな打算がそこにはあった。 少女はまとわりついて来るまりさに露骨に嫌悪の表情を浮かべながらも、淡々と語りかける。 「れいむか赤ちゃん、どちらかなら助けてあげられるよ」 「どぼじで!?」 「体はひとつしかないから」 もはや少女には、ゆっくりにもわかるように説明する気などさらさら無かった。 わからなければ、わからなくても一向に構わない。そんな態度だった。 説明の意味がまるで理解できないまりさであったが、少女の様子に半ば諦める様に踵を返すと れいむとその頭に生った赤ゆっくり達を交互に見る。 助かるのはどちらか片方だけ・・・どちらを助けるかまりさが選ばなければならない。 「おぢびはどうなっでもいいがらっ!れいむをずぐにだずげでねっ!」 今にも折れてしまいそうな茎に気を使う事も無く、丘に打ち上げられた魚の様に、 自らの体をぶるんぶるんと揺さぶりながら、涙をまき散らしてれいむが叫んだ。 もう少しで生まれ落ちようとしている生命に一切の母性を感じる事無く、 れいむは我が子である赤ゆっくり達を切り捨てる事をまりさに懇願しだした。 「なにじでるのっ!ばやぐでい・・・ぷぎっ!?」 そんなれいむの奇声がピタリと止まった。 れいむの右目に少女の足の指が深々と突き刺さったからである。 突然の少女の行為に、れいむは残された片方の目を丸く見開きながらポカンと口を半開きにして放心している。 「私はまりさに聞いてるの」 低く落ち着いた声でそう言うと、少女はれいむの右目から足を無造作に引き抜く。 それと同時に、ひしゃげた窪みになってしまった右目からドロリと餡子の糸を引きながら眼球が床へとこぼれ落ちた。 少女はそのまま餡子で汚れた足の先をれいむの頬に擦りつけて拭い取る。 れいむは頬に足を押し付けられるという屈辱的な行為に対して何ら反論の意思を示す事も無く、 床を転がる変わり果てた自分の右目を見て声にならない声を力無くあげている。 「まりさ、早く選んでね。別に両方死んじゃっても私は構わないけど」 完全に戦意を喪失して抜け殻の様になってしまったれいむの頭の上に腰を降ろして、少女が微笑む。 少女の行動に身を震わせてじりじりと後ずさりしていたまりさだったが、少女に声をかけられてビクリと驚いた表情を浮かべる。 そして、少女の下でえぐえぐと嗚咽を繰り返すれいむを暫し凝視していたが、こう切り出した。 「ばっ・・・ばやぐっ!おぢびちゃんをだずげでねっ!れいむなんかもういらないよっ!」 「な゛っ!!な゛に゛い゛っで!!・・・・・・い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛・・・」 まりさの心ない言葉に対して、れいむが怒りの声を張り上げた瞬間、少女の手によってれいむの頭髪がごっそりと引き抜かれた。 その激痛にれいむは再び口をつぐんで小さなうめき声を漏らしながら、無言でボロボロと涙をこぼす。 先程までの不貞不貞しい薄ら笑いの面影は微塵も無く、力無くすすり泣く事しかできない。 人間を舐めきって生きてきた結果がこれである。まさにごらんの有様であった。 「どぼじでぇぇ・・・どぼじでがわいいれいむがごんな目にぃぃぃ・・・」 「おねえざん!ばやぐじでねっ!れいむなんかどうでもいいからねっ!はやぐおちびちゃんをゆっくりさせてねっ!」 まりさはれいむの事など、もはや微塵も気に留めては居なかった。 飼いゆっくりの「きんばっち」だから番になっただけの事で、傷物になってしまっては何の価値も無い。 れいむなど、可愛い赤ゆっくり達の「土台」とでも言わんばかりの態度でれいむを無視するまりさ。 そんなまりさの腐りきった態度を横目で見ながら、 少女は神妙な面持ちでれいむの頭から生える茎に手を添えるとそれをジッと見つめている。 しかし次の瞬間、無造作に茎を握り締めるとポキリとれいむの頭から茎をむしり取る。 「失敗した」 「な゛っ!・・・な゛な゛な゛な゛!!な゛に゛じでる゛う゛う゛う゛ぅぅ!!」 少女の行動にまりさが激昂した。 赤ゆっくり達は茎が折れてしまった事により、母体からの餡子の供給が完全に遮断されてしまい、 ぐったりとうな垂れて舌を力無く「だらり」と垂れ流してる。 まりさは少女の手に握られている茎を凝視しながら、頭から煙が吹き出さんばかりに大声で喚き散らす。 少女はそんなまりさの怒りを受け流す様に、涼しい表情を浮かべながら、悪びれずにこう切り出した。 「まだ助けられるよ」 「ばやぐじろおおお!!」 少女はれいむの上から立ち上がって明後日の方向へ視線を泳がせるとこう呟いた。 「”まりさ”か”赤ちゃん”どちらかなら助けてあげられるよ」 「どぼじでそこでまりさの名前がでてくるのぉぉぉ!?」 その時、まりさは思い出した。 少女の母親を自分が殺して、それがバレてしまっていた事を。 むしろ、何で忘れていたのだろうか? お姉さんは怒っているのだ。あの「恐ろしい人間」と同じ様に。 お姉さんははじめから、れいむもおちびも助ける気など無かったのだ。 危ない所だった。もう少し気がつくのが遅ければ、まりさもれいむと同じ様な目に会っていたかもしれない。 「まっ!まりさだけはたすけてねっ!・・・おちびはもういらないよっ!」 まりさが噛み付くような勢いで少女の足にしがみついたその瞬間だった。 まりさの目の前が突然真っ白になって、視界がグルグルと回転していく。 突然体が動かなくなり、為す術も無く流れて行く景色を呆然と眺めるまりさ。 何が起こったのかわからない。まりさは吸い込まれる様に廊下から玄関へと転がり落ちる。 そして、冷たく固い石造りの床に全身が叩きつけられる。 信じられない程に重く感じる自らの体が、ひしゃげるように押し拡がる。 「いだいぃぃぃいだいよおおおおっ!!」 何とか起き上がったまりさだったが、目の前はキラキラと輝いてグラグラと地面が揺れる。 立っていられない。そして右の頬にじんじんと熱い痛みが走る。 まりさは「ゆっ?ゆっ?」と力の無い声を漏らしながら、何とか今の現状を理解しようと辺りを見回す。 まりさの視線の先には、まりさを睨みつける少女の姿。 まりさには、少女の姿が今度はまりさを殴ったあの弱い人間に見えていた。 「私はれいむに聞いているの」 少女の言葉にまりさの視界がぐにゃりと歪む。 れいむを見捨てたまりさにとっては、少女の言葉は死刑宣告も同じだった。 少女の言葉に暫し呆然としていたれいむだったが、すぐに状況を理解すると、 ニタリと汚い笑みを浮かべてまりさを睨みつける。 その視線にまりさは汗を垂れ流しつつも「にこり」と引きつった笑い顔を浮かべた。 「ゆっ!ゆゆんっ!れ、れいむゆっくりしていってねっ・・・!」 「うるさいよっ!お前みたいなゲスは人間さんにゆっくりと「せいさい」されてねっ!」 「ゆっくりしていってねっ!ゆっくりしていってねっ!」 まりさは眉毛をハの字に曲げて、少し困った様な表情を浮かべると体を左右に伸ばしながら愛想を振りまく。 「ゆゆーんっ!まってねっ!きいてねっ!ゆっくりきいて・・・ねっ!!」 媚びへつらった声でそう囁きながらも、まりさは地面を力強く蹴った。 この窮地と脱するには、あの時の様に人間を殺すしかない。 あの時みたいに人間をゆっくりできなくさせてやる。 そして、今はあの「恐ろしい人間」の姿はここには無い。 まりさは全身に力を込めて少女の背中に体当たりした。 「んっ・・・!」 まりさの体は少女の背中に突き刺さり、少女はその意外な重さの衝撃に小さく声を漏らす。 そして壁に強く体を打ち付けると、ずるずると床に倒れこむように座り込んでしまった。 「じねっ!ゆっぐりじねっ!」 まりさは投げ出された少女の足に食いつくと、一心不乱にその体を揺り動かす。 肉食獣の様にそのまま足を食い千切る・・・とまではいかなかったが、少女の足に食い込んだまりさの歯からうっすらと血が滲んだ。 「やっ・・・痛・・・っ!」 「はふぃふぁのふよさにふぉふぉれふぉののふぃふぃえふぇっ!!」 少女の足に食らいつきながら、まりさが勝ち誇ったような叫び声をあげる。 少女は、何とかまりさの髪の毛を鷲掴みにして引っ張ろうと力を込めるが、 それをさせまいと、まりさの噛み付く力が更に増して、その痛みに少女は手を離してしまう。 「いっ・・・!ま、まりさぁ・・・!」 その痛みに少女の瞳に涙が浮かんだ。 噛み付かれている足を両手で押さえ込んで固定して、首を狂ったように振り回すまりさの動きを何とか止める。 自分は何でこんな事をしているんだろうか?ふとそんな考えが脳裏を過ぎった。 しかし、そんな考えも少女の足に食らいつくまりさの憎らしい顔を見た途端に吹き飛んだ。 「ぷぎっ!?」 ドシン!と鈍い音がした途端、まりさが間の抜けた叫び声をあげた。 少女はまりさに食いつかれたその足を、懇親の力を込めて壁へと叩きつけたのだった。 少女の足と壁との圧迫によって、真平らにひしゃげたまりさがグルリと白目をむいた。 まりさの口が「パカリ」と開かれて釣られた魚の様に、少女の足にひっかかって「だらり」とぶら下がった。 少女はまりさの口から足を引き抜くと、まりさの頭を握りしめて立ち上がり、床へ向かって思い切り叩きつけた。 「い゛びゃいっ!!」 パン!と渇いた音が鳴り響いて、まりさの目玉が飛び出さんばかりに大きく見開かれる。 少女はそんなまりさに覆いかぶさる様にして両脚で挟み込んで固定すると、握った拳をまりさの顔面に向かって振り下ろした。 腕はまりさの顔面に深々と突き刺さったが、それと同時に少女のか弱い右手が悲鳴をあげる。 更に、ズキズキと脈を打つように痛むその右手をまりさから引き抜くと、大きく振り上げて、再び振り下ろす。 「何様のつもりだ!」 再びまりさの顔面に少女の右手が突き刺さる。 まりさの歯がポキポキと砕ける感触が右腕から伝わってくる。 まりさが低い呻き声を漏らしてぶるんっ!とその体を苦しそうに震わせた。 少女は何度も何度も、その右手の感覚が無くなるまでまりさの顔面に拳を振り下ろし続けた。 「や゛・・・べで・・・も゛っ・・・やべ・・・」 完全に戦意を喪失したまりさを少女が赤く腫らした目で見下ろしていた。 まりさは元の顔がどうであったかわからない程に顔面を腫れ上がらせて、少女に弱々しい声で何度も許しを請う。 少女は悲鳴をあげる自らの右手の痛みを無視してまりさの髪の毛を掴むと、それを引っ張り上げる。 「ん゛ぎゅっ!・・・ううぅぅぅぅ」 まりさの体が不自然に縦に伸び上がって、髪の毛がブチブチと音を立てて千切れ始める。 次の瞬間、まりさの髪の毛が根元からごっそりと抜けると、少女の手を離れてその後頭部を床に激しく打ち付ける。 少女の手によって、綺麗に洗われてキラキラと光沢を放つまりさの髪は、今は見る影も無くボサボサに乱れて右側頭部は醜く皮膚を露出させていた。 「ばっ・・・ばでぃざの・・・ぎれいな・・・がみのげざんがぁぁぁ・・・!」 まりさは頭上の少女の手から雨の様にパラパラと降り注ぐ自分の髪の毛を見て、パンパンに腫れ上がった顔から涙を垂れ流す。 そんなまりさの声を聞いた少女は小さく舌打ちすると、無言で矢継ぎ早にまりさの髪の毛を次々とむしり取る。 「やべっ!やべっ!・・・やべでぇぇぇぇぇ・・・」 まりさは何度も後頭部を床に打ちつけながら、悲痛な呻き声を漏らす。 そんなまりさの様子を見て少女の体に体を擦りつけながら、れいむがゲラゲラと汚い笑い声をあげた。 「人間さんっ!もっとまりさをいたみつけてねっ!まだまだれいむの気はおさまらないよっ!」 少女の傍らで勝ち誇った様な笑みを浮かべるれいむ。 少女は無言でゆっくりと立ち上がると、そんなれいむの脳天に懇親の力を込めて足を振り下ろした。 「ひゃぶる!?」 ズムッ!と鈍い音がしてれいむの脳天が陥没する。 少し間を置いて、れいむが「えれえれっ」と大量の餡子を口から垂れ流した。 少女はぴくぴくと無言で痙攣するれいむを足で廊下の隅に寄せると、まりさのおさげを掴んで廊下を歩いていく。 「ま゛っ・・・ま゛っで・・・ね」 何とか声を絞り出したれいむだったが、少女の歩みが止まる事は無く「ピシャリ」とリビングの引き戸が閉められた。 肌寒い玄関には青い顔で痙攣する赤ゆっくり達の生った茎と、如何ともし難い傷を負ったれいむだけが寂しく取り残された。 「ゆ゛っ・・・ぐり・・・じだ・・・げっが・・・が・・・ごれ・・・だよっ・・・!」 そう呟くとれいむは、支えを失ったかの様に「くしゃり」と平たくなって動かなくなった。 ◆ まりさはおさげを少女に掴まれて、ゆらゆらとその身を揺らしている。 「だずげでね・・・がわいい・・・ばでぃさを・・・だずげてね・・・」 「・・・・・・」 少女は世迷い事を垂れ流す饅頭を、無言でテーブルに向かって投げつけた。 「ん゛びゃん!!」 情けない表情を浮かべていたまりさの顔面が、テーブルの角に突き刺さる。 体をテーブルにめり込ませたまま、ジタバタと苦しそうに体を動かしていたまりさがべしゃりと床に転がり落ちた。 まりさの頬はテーブルの角にぶつかった為にパックリと大きく裂けて、そこからダラダラと餡子が滴り落ちる。 それを見たまりさが、ギュッと目を閉じて歯を食いしばった。 「んぎっ!・・・い゛ぃぃっ!・・・ゆっぐりっ・・・!ゆっぐりぃぃぃ・・・っ!」 そんなまりさを他所に、少女はポケットの中からデジタルカメラを取り出してSDXCカードを外すと、 大音量でニュースを垂れ流しているテレビのスロットに挿入する。 「まりさ、一緒にテレビをみようね」 そう言うと、ソファーに座って掴み上げたまりさを膝の上に置いた。 まりさは全身を硬直させて歯を食いしばり、ギリギリと音を鳴らして微動だにしない。 少女はリモコンを手に取ると、先程挿入したカードに記録されている動画を再生する為の操作を行う。 「ゆ゛っ・・・!ゆ゛っ・・・!ゆ゛っ!ゆ゛っ!ゆ゛っ!」 突然、早いテンポで痙攣を始めたまりさを見下ろして少女は憎々しげに舌打ちする。 少女は体をのけぞらせて、ソファーの裏側にある小さな冷蔵庫を開けると、ペットポトルを取り出して蓋をあける。 そして中に入っているオレンジジュースを自分の服が濡れるのも気にせずに無造作にまりさの頭の上から浴びせた。 早々に生きることを諦めてゆっくりできる方へ逃避を始めたまりさを強引に現実へと引き戻す。 「ゆ゛っ!ゆ゛っ!ゆ゛っ!・・・・・・ゆっ?・・・ゆゆっ!ゆっくりし・・・」 「うるさい」 すぐに意識を回復させたまりさが、ゆっくり特有の挨拶をしようと伸び上がった瞬間、 少女はまりさの下膨れに爪を突き立てると、真上に向かって思いっきりひっかいた。 「ていっ・・・だぁぁぁい!!」 一時、記憶が飛んでこの場に似つかわしくない呑気な声をあげたまりさだったが、 少女の手によってすぐに現在の過酷な現状へと引き戻されてクワッ!と歯茎を醜く剥き出す。 そんな中、暫く青い画面を表示していたモニタだったが、一瞬ノイズが走ると画面には鬱蒼と木の生い茂る森が映し出された。 「ゆ゛っ・・・ゆぐっ・・・!」 まりさはこの光景に見覚えがあった。そこはまりさが元々住んでいた巣からすぐ側の場所だったからである。 その時、ぐるりと景色が回転してカメラを持っている少女の顔が大写しになった。 「ここがまりさのお友達が住んでいる新しいゆっくりプレイスの今の様子だよ」 画面の中の少女がまりさに向かって声をかけてくる。 まりさは画面に映る少女と、自分を膝の上に乗せている少女とを交互に見て「ゆっ?ゆっ?」と驚いた様な声を小刻みにあげている。 画面が再び激しく揺れて、少女の姿が見えなくなるとその代わりに森のゆっくり達の姿が映し出された。 「ゆ゛っ!?な゛に゛ごれ゛!?な゛に゛ごでぇぇぇ!?」 まりさが森のゆっくり達の姿を見て大声を張り上げた。 ◆ 少女は木の枝にデジタルカメラをぶら下げながら、小さな液晶モニタを覗き込んで、 きちんとこの光景が撮影できているのかを確認すると、ありすの元へと向かってゆっくりと足を進める。 少女の足元にはぐったりと力無く地面に横たわり、苦悶の表情を浮かべるありすの姿があった。 ありすだけでは無い。群れのゆっくり達全員が、ありすと同じ様に苦しそうに呻き声を漏らしながら地面に這いつくばっていた。 「ゆ゛っ!?ゆ゛っ!?うごげないよっ!ゆっぐりうごげないよっ!」 「ゆんぎっ!これ・・・毒はいっちぇるよぉぉぉ!!」 「どぼじで!どぼじで!だれかゆっくり「せつめい」してねっ!」 「わからないよーっ!わからないよーっ!」 再び森のゆっくりの群れに姿を現した少女は、まりさからの「贈り物」と称して群れのゆっくり達にお菓子を振舞った。 お菓子と言っても、ここへ来る途中にスーパーで買った安物の甘味料を水に解いただけのものであったが、 普段は草や虫などを主食にしている野生のゆっくり達にとってその甘味料は、今まで口にしたどんな食べ物よりも美味しく感じただろう。 群れのゆっくり達は、奪い合う様にしてその甘味料を貪った。その結果が今のこの状況であった。 甘味料の中には、大量の「下痢止め」が入っていた。 ゆっくりに対して市販されている人間用の下痢止めを投与すると、体内の餡子が硬化してしまうという作用がある。 少量ならば動く事が困難になり、多量に与えれば、固くなった餡子が内側の皮を傷つけて全身から汗を垂れ流して苦痛を訴える。 どういった仕組みで、下痢止めが餡子に作用するのかは少女にはわからなかった。 兄の残したゆっくりの虐待方法を記したファイルの記述通りに実行したまでの事である。 「実は私は「恐ろしい人間さん」の妹なの」 「「「ゆ゛ゆ゛っ!?」」」 「お兄ちゃんは皆を長い時間をかけて苦しめてきたけど、私はすぐに殺してあげる事にしたよ」 「「「ゆ゛っ!!!」」」 ゆっくり達はそんな少女の言葉に身を震わせながらも、時折チラチラと明後日の方向へ視線を逸らす。 ゆっくり達の視線の先には、携帯ガスコンロの上でもうもうと煙をあげている壺があった。 その壺は、長い間ゆっくり達がありすを虐待し、その傷を癒す為に使われていたオレンジジュースが入っていた壺である。 その中身は、先程少女の手によって捨てられていて、今は中に新しいオレンジジュースが沸騰してぐつぐつと音を立てている。 少女は足元で舌を出しながら「ぜひぜひ」と苦しそうに荒い呼吸を繰り返して体中から汗を垂れ流している野生のまりさを掴み上げると、 その帽子を奪いとって、目の前の煮えたぎる壺の中へと放り込んだ。 「ゆゆっ!まりさのすてきなお帽子さんがっ!」 壺の中へと落ちたまりさの帽子は一瞬にして、ぐにゃぐにゃにふやけると、溶け込む様に壺の底へと沈んでいった。 それを目の当たりにした野生のまりさが、大口をあけて涙を垂れ流しながら叫んだ。 「なにじでるのっ!がえじでっ!ばでぃざのお帽子さんをゆっぐりがえずんだぜぇぇ!」 「うるさいよ」 少女は腕の中で喚き散らしている野生のまりさを、熱せられた壺の側面へと押し付ける。 「ジュッ!」という小気味の良い音が辺りに鳴り響いて、まりさの頬から甘い香りのする煙が立ち上った。 「ん゛っ!!の゛ぜえ゛ぇぇぇぇ!?」 身動きができないまりさは、少女の行為に抵抗する事ができずに、 徐々に黒く焼け爛れて行く自らの姿を見て声にならない声をあげる。 「やべでっ!あづいっ!ゆっぐりあづいっ!やべでっ!やべでっ!」 「黙ったらやめてあげるよ」 「い゛っ!?い゛っ!?い゛っ!?」 全身を駆け巡る耐え難い激痛に、まりさは反射的にその体を跳ね上げようとするが、それは叶わない。 硬化した餡子のせいで、その動きは僅かにビクリと痙攣するだけであった。 まりさが叫び声をあげている内は、この責め苦が終わる事はない。 まりさは声を押し殺そうと必死に全身に力を入れるが、やはりどんなに我慢しても声が漏れてしまう。 まりさは歯を食いしばって、自分の口から無意識に漏れる声を無理やり押さえ込む。 そうしている間にもまりさの体はどんどん焦げ付いて、嫌な臭いを辺りに充満させた。 暫くして、ようやく焼けた壺の側面から開放されたまりさ。 おさげを少女によって掴まれて、ゆらゆらと宙でその身を揺らしている。 「あ゛じゅい゛っ・・・あ゛じゅいよ゛ぉぉぉ・・・ゆ゛っぐでぃざぜでぇぇぇ・・・」 先程までの威勢の良かった「だぜ」言葉はすっかり鳴りを潜めて、弱々しい没個性なゆっくりへと成り下がっていた。 まりさは、顔をぐしゃぐしゃに歪ませながら、ぽろぽろと大粒の涙を零している。 そんなまりさの下腹部が僅かに盛り上がると、そこから申し訳なさそうにしーしーが地面へとこぼれ落ちた。 「みっ・・・見ないでね・・・ばでぃざのしーしーみないでね・・・」 群れのゆっくり達に向かって、自分の醜態を見ないで欲しいと訴えるまりさ。 足に振りかかるその液体を見て眉間にシワをよせた少女が、まりさを煮えたぎったジュースの中にゴミを捨てる様に放り込んだ。 「ゆ゛い゛ぎっ!!」 体の半分程が液体に浸かったその瞬間、まりさの髪の毛が「ブワッ」と逆立つ。 その熱に歯茎を剥き出して、苦悶の表情を浮かべたまりさの顔がボコボコと泡立つ様に醜く変形した。 その激痛を言葉で表現する事はできずに、ズルリと無言で液体の中へと飲み込まれていった。 群れのゆっくり達は、その地獄の様な光景を声も出さずに固まったように見ている。 「まりさとありすには、全員こうなってもらうよ」 「「「「「い゛や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」」」」」 まりさの無残な最期を目の当たりにしたゆっくり達は、一斉に鳴き声とも怒鳴り声ともつかない声を張り上げた。 母を殺したまりさとその番だったありすと同じ顔をしているゆっくりには、無条件に死んでもらう。それが少女の考えだった。 少女は何とかしてこの場を離れようと、必死に「びたんびたん」と丘に打ち上げられた魚の様に、 その場で飛び跳ねるまりさ種とありす種を掴み上げると、それを次々に煮えたぎる壺の中へと放り込んで行く。 「いやだ!いやだ!やべで!ばでぃざをゆっぐりざぜでよおおお!」 「どぼじで!?どぼじで!?」 「ごんなのっ!どがいばじゃないばぁぁぁ!!」 「おでえざん!ゆっぐりじで!!ゆっぐりじでいっでっ!やべでっ!」 「ゆっぐりできない!ゆっぐりざぜで!!」 ゆっくりを飲み込む液体は、オレンジ色から徐々に黒く濁った小豆色へと変わっていく。 「やべでぇぇぇ!やべであげでぇぇぇ!まりさとありす達は痛がってるよぉぉぉ!」 残されたれいむ種、ぱちゅりー種、ちぇん種達がどうする事も出来ずに、悲痛な声をあげる。 そんな「お目こぼし」されたゆっくり達を見回して少女が僅かに笑みを浮かべた。 「それとれいむ、れいむは昨日お母さんが死んだことを「大したことじゃない」って言ったよね」 「「「ゆ゛っ!?」」」 群れのれいむ種達が一斉に歯茎を向いた。 「悪いけど、見分けがつかないから全員死んでもらうよ」 「「「ゆ゛げぇ!!う゛ぞでしょぉぉぉ!?」」」 「嘘じゃないよ」 理不尽なその提案にれいむ達が声を張り上げる。 しかし、”見分けがつかない”と言ったのは嘘であった。 少女の提案を聞いた途端、他のれいむ達よりも更に大量の汗を噴出させているれいむが2匹。 互いに顔を見合わせて、何やら言葉にならない奇声を発している。 恐らくこいつらが、一昨日森で出会った二匹のれいむ達で間違い無いだろう。 少女はそのれいむ達の傍に近寄ると、泣き叫ぶれいむ達を見渡してわざとらしく、こう話を切り出した。 「名乗り出てくれれば、他のれいむ達は助けてあげられるんだけど」 「「「・・・・!?・・・・!?」」」 それを聞いたれいむ達は怒声を鳴り響かせた。 さっさと名乗りでろ。死にたくない。お前だけ死ねばいいのに。早くしてね。早くしろ。 半ば錯乱状態のれいむ達、とても名乗りを挙げられる様な状況では無かった。 例え名乗りを挙げたとしても、そこで浴びせられるのは賞賛では無く、この上無い罵倒の嵐であろう。 人間ならば、そんな汚名を被ってでも名乗り出る者も居るに違いない。 しかし、「ゆっくり」する事を信条として、それが生きる目的であると言っても差し支えないゆっくりにとって、それは到底不可能だった。 決して自己犠牲の精神が無いという訳では無い。 捕食者から群れを守る為に自らの身を囮にするゆっくりは存在する。 それは、その行動によって自らが死んだ後も「ゆっくりしている」と賞賛されるからである。 自らの身を犠牲にしてでも「ゆっくり」という荒唐無稽な物を渇望するゆっくりは、それを実行する事もあるだろう。 しかし、「ゆっくりできない」事にわざわざ頭をつっこむゆっくりなど存在しない。皆無であると言っていい。 少女の足元に転がる二匹のれいむも顔を引きつらせて、歯をガチガチと震わせながら、ただただ沈黙を守り続けるだけだった。 そんな二匹のれいむを睨みつけながら、少女が声を上げる。 「残念だけど、名乗り出る気は無いみたいだね」 少女の最終通告を聞いて、足元のれいむ達がびくりと大きく震える。 れいむ達と少女の目が合う。れいむは声を出そうと体に力を入れるが、そこから漏れるのは荒い吐息だけであった。 そんなれいむに少女は冷ややかな視線を投げかけると、他のれいむ達を次々と壺の中に放り込んでいった。 「なにじでる!れいむは選ばれたゆっぐでぃ・・・あづい!」 「じね!れいむをゆっぐりざぜない人間はゆっぐりじでぇぇえ!」 「れいむ!ばやぐじろ!ばやぐ!はやぐででごいいいい!」 「ぶざけるな!ゆっぐりじね!れいむはゆっぐりじね!」 そして、壺の中のゆっくり。 彼女らは暫く熱湯の中で苦痛を味わってから死んでいる訳では無い。 恐らく、中に入っているゆっくり全員が苦痛に身を踊らせながらもまだ「生きている」のだ。 あまり大きくない壺の中でその形状を維持できない程にグズグズに体を溶解させながらも”ゆっくり”と生きている。 いや、生かされていた。その理由は言うまでもなくオレンジジュースの効果によるものである。 沸騰したオレンジジュースの熱によって苦痛を味わいながら肉体を崩壊させつつも、 オレンジジュース特有のゆっくりへの回復機能によって、その肉体は簡単に死ぬことができないでいた。 それでも熱による肉体の破壊の方が回復するスピードより若干早い為に徐々にその肉体を維持できなって行く。 髪やお飾りは瞬時に欠損し、その皮も徐々に崩壊していって中身の餡子がむき出しになる。 やがて、生命を維持するのに必要な少量の餡子と中枢餡を残して溶けてなくなる。 親から受け継いだ生きるために必要な記憶も無くなり、最後に残るのは原始的な本能だけとなる。 すなわちこの場合は「熱い」「痛い」という感情を抱えた餡子が最後に残ることになった。 それが、無数に混ざり合ってひとつの意思を形成する。 拙い表現になるが、「痛くて熱いと訴え続ける餡子」が完成するわけである。 それに触れた「皮を失って餡子が剥きだしのゆっくり」は、従来の熱に加えて、 他のゆっくり達から蓄積された苦痛までもフィードバックして感じる事になる。 つまり、後になれば、なるほど苦しみも増す事となった。 意図的に少女によって壺の中に入れられるのが後回しにされたれいむが二匹。 おさげを掴まれて、もうもうと煙をあげる壺の上でゆらゆらと揺れている。 少女はまだ「熱くて痛い餡子」になる前の死にかけのゆっくり達に聞こえるように話す。 「実はこの二匹が犯人だよ」 「「「あづっ!あばばっ!おばっ!おばえがああああ!!」」」 ボコボコと泡立つ皮膚に剥き出しになった眼球が幾つも浮かんできて、二匹のれいむを睨みつける。 つい先程まで、一緒に助けあって生きてきたプレイスの仲間とは思えないその形相にれいむが悲鳴をあげた。 「「こっちみないでねぇぇぇ」」 れいむがもみあげをブンブンと振り回しながら、鳴き声をあげる。 少女が左手に握ったれいむを煮えたぎる液体の中に放り投げる。 「んぎぃ!!んぎぎっ!あばばばっばっ!!」 嘔吐を我慢する肥満児の様な表情を浮かべて、熱湯の中でのた打ち回るれいむ。 そんなれいむをもう「まりさ」なのか「ありす」なのか「れいむ」なのか分からない溶けかかった黒い塊達が わらわらと寄ってきて、無言で液体の底へと引きずり込んでいった。 「れいむぅぅぅ!れいむぅぅぅぅ!ゆっくり戻ってきてねぇぇぇ!」 少女の右手に握られたれいむが「もるんもるん」と少女の腕の中で体を揺り動かなしながら絶叫する。 そんなれいむのもみあげを掴んだまま、半分ほど液体に浸けてやると 「ぴきぃ!」とゆっくりとは思えない甲高い奇声をあげた。 「「「やめてあげてねっ!やめえあげてねええっ!」」」 恐ろしい光景を見て身を震わせつつも、残されたゆっくり達はひたすら少女に助けを求め続けた。 そんなゆっくり達を横目で見ながら、少女は沸騰した液体に浸かっているれいむを引きずり出す。 「ゆ゛っ!ゆぐっ!ゆ゛ぐり゛り゛っ!」 れいむの半分は皮が泡立つ様にボコボコになり、所々中身を露出させていた。 もう半分が先程までと同じゆっくりの原型を留めた状態である為にその悲壮さが際立つ。 少女は気の狂いそうな激痛に襲われて、狂った様にもみあげを振り回しながら白目を剥くれいむに語りかける。 「どう思う?」 ぱちゅりーは助ける。 れいむはこれから、苦しんで恨まれてゆっくりできなくて惨めに死んで行くけど 助かったぱちゅりー達は、れいむと違って優秀なゆっくりした子だから、きっとこの群れを立て直して立派にゆっくりしていくだろうね。 むしろ、れいむみたいな”能無し”が居なくなって内心喜んでいるかも知れない。 そんな事を少女はれいむに淡々と告げる。 「れいむに選ばせてあげるよ、ぱちゅりーはどうしたらいいと思う?」 れいむは、グズグズになった自らの半身が、音を立てて壺の中へとこぼれ落ちて行く様子を呆然と眺めていたが、 見開いた目を四方八方にグルグルと動かしながら消え入りそうな声で呟いた。 「ばっ・・・!ばばばっ!ばちゅりーもっ!ゆっぐりこのつぼさんにいれてねっ!!」 「むぎゅううう!?」 れいむの言葉にぱちゅりーは目を見開いて絶叫した。 この日まで群れの為に全てを捧げてきたこのぱちゅりーが、馬鹿なれいむのせいで巻き添えを被ることになった。 効率の良い餌の探し方、夏の暑さのしのぎ方、快適な巣の作り方、越冬の知識。 全てこのぱちゅりーのお陰でこの群れは快適な暮らしを行えて来たというのに。 ありえない。断じてあってならないことだ。冗談じゃない。ふざけるな。 「むぎゅううう!!むぎゅうううう!けふっ!けっふっ!」 「ぱちゅりーにも選ばせてあげるよ」 「むぎっ!?」 怒り狂った拍子に、大きく咳き込んでクリームを撒き散らすぱちゅりーに側にいつの間にか少女は居た。 その手には、もうれいむは握られていなかった。 少女はにこりと涼し気な笑みを浮かべるとぱちゅりーを優しく掴み上げて語りかける。 「ちぇんは・・・どうしたらいいと思う?」 「むぎぃぃぃ!?」 ぱちゅりは歯をギリギリと鳴らしながら、暫く唸っていたが やがて押し黙って頬をひきつらせながらも、こう呟いた。 「ちぇんも壺さんの中にいれてちょうだいね」 「「「わがらっ!!!」」」 ◆ こうして”まりさ”の番だった”ありす”以外の群れのゆっくり達は全員その命を落とした。 火を止めても未だにもうもうと湯気を噴出し続ける壺の中からは、 時折「あつい」「しね」と呪詛の様なか細い呻き声が漏れるだけで、辺りは先程とは打って変わって静寂に包まれている。 「どぼじでごんっ・・・・!!」 「どうしてこんな事するの?」と絶叫しようとしたありすだったが、 その叫びは少女の足がありすの口の中に突き刺さった為に最後まで発せられる事は無かった。 少女の靴はありすの歯を砕きながら、喉の奥まで突き刺さり、すぐに引き抜かれた。 「わかりきったこと言わないで」 「いじゃいぃぃ!いじぁぁい!!」 砕け散った歯の欠片をボロボロとまき散らしながら、ありすが悲鳴をあげる。 しかし、それでも少女に対しての戦意を喪失させる事無く、目を血走らせて少女を睨みつけると狂ったように喚きだした。 「ばでぃざがっ!ばでぃざが勝手にやっだのよっ!」 「あでぃすはなにもっ!なにもしてないのにっ!」 「ぞれなのにっ!群れのゆっくりをだぐざんごろじでっ!」 「そっちは「ひとつ」だけどこっちは「たくさん」じんだのよおおおお!!」 「ごのいながものっ!いながものっ!」 ありす達にとってみれば、あまりにも理不尽な少女の行いに、ありすが怒りを露にする。 だが、再び少女のつま先がありすの画面に突き刺さると、ありすはくぐもった声を漏らしたきり静かになった。 そんな中、少女はありすの目の前に一匹の芋虫を投げ込んだ。 「ゆ゛っ!いもむしさん!むーしゃ!むーしゃ!」 こんな状況であるのにも関わらず、ありすは目の前の芋虫に舌を伸ばすとそれを一気に口へと運び込んだ。 どうやら、相当お腹が減っているらしい。 開放されたとはいえ、長年の仲間からの虐待によってその体は未だに自由に動かせないでいた。 いや、永遠に昔の様に自由自在に動き回れる事は無いだろう。オレンジジュースを使っても回復しなかったのならばそういう事なのだ。 そして自らの体と動揺に、仲間との確執も修復できなかった様だ。 自由に身動きができずに狩りを行うことができないありすが空腹に苛まれていると言うことは 仲間が誰もありすを助けてくれなかったという事だ。 少女が何もしなくても、ありすは時間をかけて寂しく死んでいく運命だったのだ。 そんなありすの目の前に再び芋虫が投げ込まれる。 今度は一匹ではなく、数匹。 「その芋虫は今食べた芋虫の子供だよ、ありすを許さないって言ってるよ」 「ゆっ?何を行っているのかわからないわっ!そんなの関係・・・ゆゆっ!?」 ハッ!と何かに気がついた表情を浮かべてありすがキョトンとした顔で少女を見上げる。 何を言っているのかわからない。 そう、それが答えだった。 少女、いや、人間にとってはゆっくりの存在は目の前に転がる芋虫の様なものなのである。 ありすにとっては芋虫など、取るに足りない存在に過ぎない。 芋虫が何匹死のうと、ありすには何の関係も無かった。 そんな芋虫に自分の親や仲間を殺されたとしたら・・・それは許されない事だ。 人間がゆっくりをどう思っているかを理解したありすはガクガクとその身を震わせる。 「ありすは賢いね」 少女はそれが逆に許せなかった。 そこまで考えがまわるのならば、まりさを止めることも、家から立ち退くこともできた筈であろう。 聞くまでも無い、一時のゆっくりの為にわかっていてまりさを放置したのだ。そしてその恩恵に浸った 少女は木の脇に立てかけておいた筒状の器具を手に取る。 それはポリタンクに入った灯油をヒーターのタンクに移す時に使う「自動給油ポンプ」だった。 しかし、その形状は通常のそれとは若干異なっていた。 本来ならば、ヒーターのタンクの給油口に装着されるべきその管に、斜めにカットされた金属の筒が装着されている。 その槍の様な形状をした金属が装着された管をありすの脳天へと突き刺す。 「ゆんぎっ!!」 ありすは自分の体内へと突き刺さった異物の冷たい感触と激痛にその身を震わせた。 そして金属の筒の反対側、本来ならば灯油の入ったポリタンクに入れられる側の棒状の装置をまだ湯気をあげる煮えたぎった壺の中へと放り込む。 「なにずるのっ・・・!まっでっ!!まっでええええ!?あやばりばず!あやばりまずがらああああ!!」 賢いありすにはこれから何がはじまるか、ゆっくりと理解できた様だった。 オレンジジュースで煮詰めた大量のゆっくり達は、その形状を粉々に崩壊させながらも死ぬ事は無く、 原始的な「感情」を持ったまま互いに混ざり合ってひとつの「意思」を形成している。 その夥しいまでの「苦痛」抱え込んだ生きた意思である餡子を、生きているゆっくりに注入するとどうなるか? 兄の残したファイルにはこう記されている。 見た目の外傷は全く無いが、全身が焼けただれる苦痛を何時までも味わう事になる。 煮詰められたゆっくり達の記憶を何度も追体験する事になり、死にたくても体は無傷である以上、死ぬことは無い。 かと言って、発狂する事もできない。ゆっくりの体の制御を司る「中枢餡」はこの「熱くて痛い餡子」を無害な栄養分と認識するからである。 「やべでええええやべでえええええええ」 少女はポンプのスイッチを入れた。低い駆動音と共に壺の中の液体がありすの体内に侵入していく。 その瞬間、全身が強張った様に硬直し、歯は砕けんばかりにギリギリと鳴り響き、目はまぶたが破れる程に見開かれた。 煮詰められたゆっくり達の全身を駆け巡る熱さと、その苦悶の声をフィードバックしているのだろう。 しかもそれは一匹分ではない、数十匹分の苦痛である。 経験した事の無いその痛みに、ありすは叫び声を上げることも無く、全身を携帯のバイブの様に痙攣させている。 ありすの体は見る見る膨れ上がっていき、その下膨れは醜いまでに丸々と肥えている。 「ん゛え゛れ゛っ!お゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛お゛っ!!」 ボコン!とありすの中で音がして、ありすの頬が大きく膨らむ。 それを見た少女がありすの口にガムテープを貼りつけて蓋をした。 「ひゃぶっ!!ひひゃぶっ!」 許容量の限界を超えたオレンジ色の液体が、ありすの口から流れ出ようと押し寄せるが、それは叶わない。 頬をはち切れんばかりに膨らませてグルリと白目を剥くありす。 少量の液体が水鉄砲の様にありすの下まぶたの涙腺がら放出されるだけだった。 少女はそんなありすに黒いゴミ袋を被せた。 ゴミ袋は苦しそうにぶるんぶるんとその身を踊らせる。 そんなゴミ袋を少女が蹴り飛ばすと、中から小さくうめき声が聞こえてゴミ袋は動くことを諦めた。 画面に映し出されているゴミ袋。 それが今、まりさの目の前にあった。 少女が家に持ってきた黒いゴミ袋。その中にはまりさの元番であるありすが入っていたのだ。 少女が伸ばした足を乗せているその物言わぬ黒い袋から、少しでも距離を取ろうとまりさが体をよじった。 「ゆわっ・・・ゆわわっぁぁぁ!!」 少女の膝の上から転がり落ちて、尻で後ずさる様にしてリビングから出ようと、戸を目指して逃げるまりさ。 しかし、今までは何とかまりさの力でも開けることのできた廊下へと続く戸は、今はビクともしない。 少女がまりさを連れてこの部屋に入ったときに、戸をロックしていたのだ。 「だじゅげでええええ!だれがっ!だずげでっ!ばやぐがわいいばでぃざをだずげでねぇぇぇえ!!」 天を仰いで、精一杯の大声を張り上げて助けを求めるまりさ。 しかし、その声は家中で鳴り響く大音量の、テレビやラジオそしてコンポの音楽によってかき消され、外に漏れる事は無かった。 まりさにとってこの家は、まさに陸の孤島と化していた。 そんな様子のまりさを眺めながら、少女は足を乗せていたゴミ袋を蹴り飛ばす。 ゴロリと転がった袋の中から変わり果てたありすの姿が躍り出た。 全力疾走した心臓の鼓動の様に早いテンポで痙攣を繰り返し、真っ赤に充血した目をグルグルと回転させて何処を見ているかわからない。 少女はありすの口に貼られたガムテープを無造作に剥がすと、足を使って逆さまになっているありすを無理やり立たせる。 「ごろじでええええっ!あでぃずをごろじでぐだざいいいいい」 「昨日の約束通り、合わせてあげたよ」 「ゆ゛っ!!?」 「ありす、そこにいるのが「まりさ」だよ」 少女に促されて辺りを見回したありすは、 どうやっても開かない戸にカリカリと必死に自らの歯を突き立てるまりさの後ろ姿を見つけると、狂ったように奇声を張り上げて絶叫した。 「までぃざぁぁぁっ!おばえのっ!おばえのぜいだああああっ!」 「ゆんぎっ!」 背中に叩きつけられた怒声にまりさは汗をまき散らしながら振り返る。 そして、自分を凄まじい形相で睨みつけるありすを見てまりさは勢い良くしーしーを放出させた。 「ありす、久しぶりにあったんだから二人でゆっくりしてね」 「ごろじでやるううう!!」 パンパンに膨れ上がったその身を持て余しながらありすがまりさに向かって襲いかかる。 「あっ!あでぃすっ!・・・ゆ、ゆっくりしてい・・・」 ニコリと引きつった笑みを浮かべたままの表情でまりさが宙を舞った。 轢かれたと形容してもいい程の、勢いで壁に叩きつけられるまりさ。 「どっどぼじでっ!・・・ま、まりさは・・・おむこさんなのにっ・・・」 説得など通用しないだろうという事が、ゆっくりであっても見れば分かった筈である。 どうやらまりさは、自分自身の都合のいいように状況を解釈する「脳内補完」の速度が他のゆっくりよりも飛び抜けて早い様だ。 あの一瞬でまりさの脳内はありすと共に群れから離れて街へ降りてきた頃にまで遡っていた。 いや、無理やり遡ろうとして失敗したのだった。 ありすは一瞬、大きく沈み込むとゆっくりとは思えない程の跳躍力を見せた。 天井に頭を掠める勢いで、宙に舞ったありすはそのままその醜く膨れ上がった巨体をまりさめがけて振り下ろした。 まりさは「ゆ゛っ!?」と小さく野太い声を漏らすとありすの落下地点から飛び退く、 その次の瞬間、轟音をあげてありすが床に着地した。 まともに食らったらそこには餡子の水たまりが出来ていたであろう。 そんなゆっくりの常識を超えたありすがギョロリと目を動かして、逃げたまりさを追う。 まりさの逃げた場所は部屋の角。逃げ場は無かった。 まりさは部屋の角に体を押し付けて、フルフルと首を振るようにその身を揺り動かしている。 「こないでねっ!こっちこないでねっ!」 まりさの言うことなど、ありすが聞き入れる筈が無い。 しかし、ありすの動きは止まっていた。 ありすはまりさを舐め回すように眺めている。 オレンジジュースによって幾分回復したとは言え、少女の暴行によってボコボコに腫れた皮膚。 所々、皮膚を露出させたボサボサの醜い髪。 おまけに野生のゆっくりにとっては、命と同じ位に重要な要素であるお飾りすら持ってない。 ありすが通常の思考を持っていれば、今のまりさなど歯牙にもかける事の無いゆっくりできない存在である。 しかし、今のありすの思考は既にその機能を停止していると言っても良かった。 ありすは舌からダラダラと涎をまき散らしながら、まりさに絡みつくと飴玉の様に舐め回す。 「やべでええ!!ぎぼぢばるいいいい!!」 「んほおおおおおおおっ!!!んほおおおおおおおっ!!!」 くんつほぐれつの揉み合いは三分もすると、どういう訳か交尾に移行していた。 全身から滴る何なのかよくわからない粘着質な液体を垂れ流しながら、ありすが咆哮をあげる。 テラテラと鈍く輝く、二匹は蛍光灯の光りを反射して怪しい光りを放っている。 少女はそんな二匹を冷めた目で暫く見つめていたが、リビングに飾ってあるバットを取り出してありすの後ろに立つ。 少女は手に取ったバットを「ぼぅっ」と眺める。これは兄のバットなのだろう。 その確証が無かったのは、少女が一度も兄がこのバットを使っている所を見た事が無いからである。 しかし、そのバットと一緒に飾ってある賞状やトロフィーを見れば、それが兄の物だという事はわかる。 目の前で「こうこつ」の表情を浮かべている二匹は、兄がこのバットで青春を謳歌するという囁かな夢も握りつぶしたのだ。 少女の目に浮かぶ兄の姿は、疲れきった作業服姿の兄、父だと思しき男とこのリビングで口論している兄、 泣き叫ぶゆっくりを笑顔で追いかける兄、そんな姿ばかりだった。バットを振る所か手に取っている所すらも見たことが無い。 「んほおおおおっ!んっほおおおおっ!」 「すっきりするよっ!かわいいまりさがすっきりするよぉぉぉっ!」 ぴきっ!と少女の頭の中で、何かが切れる音が響いた。 自然と体が動いていた。 振り下ろされたバットは、ありすの後頭部に突き刺さり、大きく沈み込んでいる。 行き場を無くしたありすの「中身」は結合部を経由してまりさの中へと流れ込み、まりさの体が大きく膨れ上がる。 「ずっぎりいだい!!いだあづい!!」 恍惚の表情から一転して、舌をだらりと垂らしながら転げまわるまりさ。 ありすも、ぷるん!と気色の悪い音を出して抜けた”それ”を振り回しながら床をのた打ち回る。 少女はそんなありすに狙いを定めて、もう一度大きく振りかぶったバットを振り下ろす。 「ゆ゛っぐり゛!!」 ありすの動きがピタリと止まり、うつ伏せの状態で「どくんどくん」と醜く胎動する。 少女は躊躇する事無く、更にもう一度バットを振り下ろした。 今度は、ありすから声が漏れる事なく、鈍い音と共にありすの後頭部が裂けて、 カスタードと黄色い液体が混ざった液体が噴水の様に「びゅるびゅる」と吹き出した。 それでも少女はバットを振り下ろす事をやめない。何度も何度も一心不乱にありすにめがけてバットを振り下ろし続けた。 「ゆ゛っ!!ゆ゛わ゛っ!!」 ありすから流し込まれた「熱くて痛い餡子」によって、 床をのたうち回っていたまりさが突然、素っ頓狂な声をあげはじめる。 「い゛っ!い゛だいよっ!あだまがいだいっ!ゆっぐりっ!割れ゛っ!?」 まりさの頭からギチギチと得体の知れない音が鳴り響いたと思った矢先の事だった。 まりさの頭からは、通常の物とは比べ物にならない速度で茎が生え始めた。 それも一本では無い。夥しい数の茎が一瞬にして生えて、そこに生った赤ゆっくりもまた形相を浮かべながら、瞬時に膨れ上がる。 あっという間に子ゆっくり程度の大きさになったそれは、皮の伸びる限界を超えて渇いた音と共に爆発した。 茎はすぐに膨れ上がる赤ゆっくり達の重さに耐えきれずに折れ、成長途中で茎から切り離された赤ゆっくりも爆発することは免れたものの、 ありすからまりさに注入された「精子餡」に混ざった「熱くて痛い餡子」によって、産まれた直後にしてその激痛に悲鳴をあげる。 「「「「ひぎぃぃぃぃぃ!!!」」」」 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 まりさは頭上と目の前で起こっている地獄絵図を見て歯茎を剥いて絶叫した。 それで終わりではない。更に折れた茎を押し分ける様にして次から次へと新しい茎が生えてくる。 打ち上げ花火の様に赤ゆっくりが次々と生まれては、爆発してまりさに降り注いだ。 それはありすから注入された過剰な栄養分が、まりさの中で尽きるまで延々と繰り返された。 まりさは周りに転がる無数の「ゆっくりの成り損ない」の耳を劈くような奇声を一斉に浴びて放心している。 「ゆっぐじうばれあばばばばばばばっ!!」 「いだいいいい!!いだいいい!!」 「がわ゛い゛・・・・いだだだだっ!ゆぎぃぃぃ!」 赤ゆっくりにとっては、一体何が起きているのかわからない。理解のしようが無かった。 親ゆっくりと茎で結ばれて、ゆっくりと母体から栄養分を供給してもらい、 それと同時に脈々と受け継がれてきた記憶を引継ぎつつ、母体やその番から「ゆっくり」した声をかけられる事によって、 自身を「ゆっくり」だと自覚し、平均して数十時間から数週間かけて「ゆっくり」と生まれるのが通常のプロセスである。 しかし、今回はそれらを全て省略して、瞬時に生まれ落ちてしまった赤ゆっくり達。 子ゆっくりサイズにまで膨張してしまった自らの体、体中に駆け巡る激痛、 そして頭の中で響く煮詰められて死んでいったゆっくり達の声。 どういう事だ?これはどういう事なのだ?何故ゆっくりさせてくれないのだ?親は何をしているのだ? 赤ゆっくり達は、一様にその答えを母体であるまりさに問いかけようと、重い体を引きずってにじり寄る。 しかし、当のまりさは首をぶんぶんと振りながら、かわいいおちびちゃんである彼女らに向かって、 来るな、こっちへ来るなと、ただひたすらに拒絶するだけであった。 そのまりさの態度に、赤ゆっくり達にゆっくりにあるまじき感情が芽生えはじめる。 沸々と煮えたぎる様な、やり場の無い負の感情。 自分たちをゆっくりさせずに、何もできずに泣きわめいているでかいだけの愚図に憤りを感じていた。 何一つ教育されること無く、生まれ落ちた赤ゆっくり達だったが、脈々と受け継がれた餡子に眠る罵倒の言葉を一心不乱に絶叫した。 「「「「じねっ!ゆっぐじじねええええ!!」」」 「ごないでねっ!!ぐるなぁぁぁっ!!」 赤ゆっくり達は這うようにしてまりさに接近すると一斉にその体に食いついた。 「ん゛ぎっ!?」 ぎゅうう!という締め付ける様な音と共に、まりさの体に熱い痛みが走り、次々とその小さな痛みの箇所が増えて行く。 まりさは頭から生えた膨大な量の茎によって立つことすらままならなかった。 自らが産んだ赤ゆっくり達に囲まれ、為す術も無く形相を浮かべて泣き叫ぶだけであった。 「じねっ!じっ・・・!?ゆ゛びえっ!?」 その時、まりさに歯を突き立てる膨張した赤ゆっくりの一匹が突然断末魔の叫びと共に爆ぜた。 水風船を破裂させたかの様に、爆散する膨張した赤ゆっくり、その餡子は水っぽくまるで泥水の様だった。 まりさにかじりつく歯と転がる目玉だけを残してその姿は床の染みになってしまった。 そんな仲間の呆気ない最後を見て、膨張したゆっくり達がまりさから離れる。 「「「やめちぇあげちぇにぇ!」」」 「「「ゆ゛っ!?」」」 そこには他の赤ゆっくり達とは違い、比較的普通の赤ゆっくり近い形状をしたゆっくりの姿があった。 ありすの過剰な栄養分が尽きかけていた時に産まれた為に「痛い餡子」の流入を極力回避することのできた赤ゆっくり達である。 「おかあしゃんにそんなことするなんて、ゆっくりしてない「げしゅ」だにぇ!」 「しぇーしゃいしゅるよっ!」 「ゆっゆぉー!」 膨張した赤ゆっくりは意外にも見た目よりその力は弱く、自分よりも二回りは小さい赤ゆっくりに容易に弾き飛ばされて床を転がる。 「ゆびっ!」 「げしゅはそくざにしんでにぇ!!」 面白いように敗れ去って行く膨張したゆっくり達を見て、赤ゆっくり達は自信を深めていった。 最後は奪いあうようにして、膨張したゆっくりを競う様に次々と殺して行く。 あっという間に膨張したゆっくり達は、全滅してしまった。 「「「ゆっくりちていっちぇにぇ!」」」 「ゆっ!ゆゆうっ!」 まりさの前に一列に並んで同時に軽く飛び跳ねながら、ゆっくり特有の挨拶をする赤ゆっくり達の姿を見てまりさは昔の事を思い出していた。 ゆっくりしたおちびちゃんを沢山授かる為に、群れを出て街へと向かった日の事を思い出していた。 (ゆっ!ゆっ!まりさっ!ゆっくりすすもうねっ!) (ゆっ!ゆっ!ありすっ!丈夫でゆっくりしたおちびちゃんを産んでねっ!) 群れを離れた時は、今目の前に広がるこんな光景を夢見ていた筈でだった。 それが、人間の居るこの「まち」に来てからは目に映るもの全てが物珍しくて、とてもゆっくりしていると思った。 気がついた時には、大きなゆっくりプレイスを手に入れる為に、躍起になっていて、群れを出た時の想いなどすっかり忘れてしまっていた。 どうしてこんな事になったの?どうしてまりさがこんな目にあわないといけないの? (ゆっくりプレイスなんて何処を探しても無いの) (何故なら、この街全体が人間のゆっくりプレイスなんだから) ふいに思い出したあの「弱い人間」の言葉がまりさの脳裏を過ぎる。 どうしてそんな事を言うんだろう?まりさはただ、ただゆっくりしたかっただけなのに。 人間たちは数え切れない程の大きなゆっくりプレイスを沢山持っている。 ひとつくらい。ひとつくらいまりさがそこでゆっくりしてもいいではないか。 ありすを失ってしまい、自らもこんな深手を負ってしまった。可哀想。可哀想なのだ。 そう、こんなに可哀想なまりさが何でこんな目にあわなくてはならないのだろうか? 「ゆぐっ!どぼじでぇぇぇ・・・、どぼじでぇぇぇ・・・」 「おきゃぁしゃん!なにないちぇるのっ!?ゆっくちしちぇ・・・い゛っ!」 その時、母を慰めようと一歩前に飛び跳ねた赤ゆっくりに少女が握ったバットの先がのしかかった。 バットの先が赤ゆっくりの頬を撫でて、その頬がぷるん!と揺れた。 「ゆっ!やめちぇにぇ!ゆふふっ!くすぐっちゃいよっ!」 最初はそのいい匂いのする木の感触に笑顔を浮かべていた赤ゆっくりだったが、 赤ゆっくりを押さえ込む力が次第に強く、重くなっていく。 「やっ!・・・やめっ!・・・ちゅぶれ!・・・ゆっぐぢっ!・・・ちゅぶれり゛ゅ!!」 少女の押し付けるバットの圧力から逃げる様に、 押しつぶされた赤ゆっくりの体内の餡子が逃げ場を求めて、押しつぶされていない部分へとプルンと寄った。 バットの先からはみ出した顔面に一斉に餡子が流れんで、はち切れんばかりに顔を膨張させる。 その苦悶の形相が、先程競うように殺した膨張した赤ゆっくりと重なった。 皮は中身の餡子が透けて見える程に薄く引き伸ばされ、両目は大きく見開かれて火花を散らすかの様に血走った。 「ちゅぶれっ!や゛め゛ろ゛っ!ばきゃっ!・・・ちゅぶ・・・れ゛ッ!!」 赤ゆっくりの両目はコルク栓の様にぽんっ!という渇いた音と共に飛び出して床を跳ねる。 それと同時にその両目の窪みから噴水の様に餡子がビュル!と吹き出した。 赤ゆっくりが爆ぜた事を確認した少女は赤ゆっくりをそのバットの重圧から開放してやる。 「ゆっぐち!まっぐらでっ!・・・どごっ!?おがあ・・・ざっ!!」 ぽっかりと穴のあいた両目から黒い涙を垂れ流しながら、よろよろと親であるまりさの元へと向かおうとする赤ゆっくりだったが、 その暗闇の中でまりさに出会うことができずに明後日の方向へと進んで行く。 「おがあしゃん!なおじでにぇ!おべべをゆっぐりなおじでにぇ!べろべろじでにぇ!」 ようやく、ふわっ!とした感触の元にたどり着いた赤ゆっくりがパァァ!と安堵の表情を浮かべる。 「ゆっくち!ゆっくちさせちぇにぇ!しゅーりっ!しゅーりっ!ちあわちぇーっ!」 赤ゆっくりが必死に体を擦りつけるそれは、先程自らが殺した膨張したゆっくりの残骸であった。 そんな赤ゆっくりだったが、再び少女のバットがその脳天に振り落とされると、再び両眼から餡子を噴出させて、呆気無く動かなくなった。 「やべでえええ!やべでぐだざいいいい!」 まりさが涙をまき散らしながら赤ゆっくり達を庇うように少女の前へと躍り出た。 「おでがいじばず!ごで以上までぃさのがわいいおぢっ!!」 それと同時に少女のバットがまりさの右頬に突き刺さった。 バットはまりさの体の半分の所までめり込み、右側の歯を粉々に砕きながら振り抜かれた。 叩きつけられる様に地面を滑るまりさ。それに赤ゆっくりが巻き込まれて下敷きになる。 「ゆ゛わ゛っ!?おぢび・・・じゃっ!!」 「ゆぴぃ!いちゃいよぉぉぉ!」 そんなまりさの脳天にバットが再び振り下ろされた。 その稲妻が落ちたかの様な激痛に、まりさが目玉を飛び出さんばかりの形相を浮かべる。 少女は無言でバットを振り上げる。 それを見たまりさは、バットをかわそうと身を捻ろうとしたが、 まりさの下でフルフルと震えながらつぶらな瞳に涙を貯めている赤ゆっくりが視界に入った。 かわせば赤ゆっくりが犠牲になる。 まりさはギュッと目をつむると、随分と数を減らした歯をギリギリと鳴らしてバットをその体で受け止める体勢に入った。 「ゆっぐりうげどめるよっ!おぢびぢゃん!ゆっぐりじでねっ!」 鈍い音がして先程と全く同じ位置にバットがめり込んだ。 違ったのは音である。今度は湿った音が鳴り響いて、まりさの頭からボタボタと餡子が滴り落ちた。 「あんござんっ!」 それを見てまりさが大声で絶叫する。 そして、天を仰ぐとそこには、更にバットを振りかぶる少女とその光る眼が視線に入った。 「おきゃぁしゃん!ゆっくりありがとうっ!とってもゆっ・・・ぷぎゅるっ!!」 まりさは少女の振り下ろしたバットを転がってかわした。 わが子を守ろうと奮起した「ぼせい」は早々に萎んで消えた。 バットの直撃を受けた赤ゆっくりは、跡形も残らず床の染みになった。 「ま゛っ!ま゛っでっ!!」 少女はまりさの言うことなど聞かない。 転がったまりさに再び横薙ぎにバットが突き刺さる。 まりさは少女に必死に話しかけようと声をあげるが、その訴えは聞き取られずに何度も何度もバットが突き刺さった。 「・・・何?」 「い゛っ・・・!い゛ぎっ・・・!」 ようやく少女がまりさの訴えに耳を傾けた時にはまりさの全身はうっすらと滲んだ餡子で醜く変色していた。 まりさはグルリを白目を向きながら、ゆっくりと後ろにさがると、絞り出した様な小さな声で、こう呟いた。 「も゛う゛要ら゛な゛い゛です゛・・・」 次の瞬間、少女のバットの先がまりさの顔面へと突き刺さる。 その激痛にまりさは舌をだらりと出して苦悶の表情を浮かべる。 「大きな声でハッキリ言って」 「おちびはもう要らないがらっ!までぃざに痛いことをするのをやべでぐだざいっ!」 まりさは痛みから逃れる為に、自分を救ってくれた赤ゆっくり達をあっさりと見捨てた。 当の赤ゆっくり達はまりさの発した言葉の意味がわからずに目を白黒させている。 「食べて」 「ゆ゛っ!?」 「要らないんでしょ?・・・なら全部「食べて」みせて」 「ゆ゛ん゛や゛っ!!」 信じられないと言った表情で少女を見上げるまりさ。 少女は何も言わない。 その冷たく輝く両目でまりさをジッと睨みつけている。 「はやくしてね」 少女はリビングの引き戸に手をかけると、吐き捨てる様にまりさにこう言い放った。 私が戻ってくるまでにやっておく事。 そうしたら”今日は”焼かないでおいてあげる。 そういうと少女はリビングから出て行ってしまった。 少女が戻ってくるまでにおちび達を全員食べなければならない。 しかも「焼く」とは何だ?これから一体何がはじまると言うのだろうか? とにかく、あの「恐ろしいお姉さん」がまたここへ戻ってくるまでにやらなければいけない。 ゆっくり殺しはゆっくりできない。しかし、それをやらないとゆっくりできなくなる。 いや、これからまりさが「ゆっくり」できる事なんてあるのだろうか? どうしてまりさがこんな・・・いや、どうしてまりさはこんな恐ろしい「まち」に何か来てしまったのだろうか? 身を寄せてガタガタと震える赤ゆっくり達を見下ろしながら、まりさはこの世の終わりの様な表情を浮かべた。 「おきゃーしゃんはみんにゃを食べたり何かしにゃいよね?ね?」 「こんなにきゃわいいのに、食べるわけがないよねっ?」 「ねっ?ねっ?・・・ね!」 「にぇ?なんときゃいっちぇにぇ!」 「こっちをみてにぇ!」 「こたえてにぇ!」 「こたえろおおお!!」 「ぐる゛な゛!」 「あっぢへいげっ!じねっ!!」 無言でぽすんぽすんと床を跳ねてこちらへ向かってくるまりさから、蜘蛛の子を散らす様にして赤ゆっくり達が逃げ惑う。 まりさは舌を伸ばして逃げ惑う赤ゆっくりの一匹を絡めとると、口の中に運び込んだ。 「やめちぃぃえぇぇ!ゆっくちさせちぇぇぇぇ!」 まりさの口の中で悲痛な叫び声が反響して頭の中で響く。 何とか口の中から脱出しようと、まりさの歯に内側から必死に体を擦り付ける赤ゆっくりの様子が手に取るように感じられた。 しかし、躊躇はしなかった。 まりさは一瞬、歯を僅かに開くと、そこに滑り込んできた物体を歯で挟み込んで食い千切る。 「ぴきゅっ!!」 ぐにゃり!と柔らかい感触が走って、口の中で狂ったように暴れまわる物体が二つに増えるのを感じた。 その嫌な感触を消すために、まりさは何度も何度も歯を上下させてその物体を粉々に噛み砕いた。 物体はすぐに動くのをやめる。その瞬間、まりさの口の中に焼けるような甘みがパァッ!と広がった。 ◆ 「「「むーちゃ!むーちゃ!ちやわちぇー!」」」 「「「どぼちてぇぇ!どぼちてぇぇ!」」」 れいむは死んでいなかった。 茎が折れた赤ゆっくり達も既に実ゆっくりから赤ゆっくりへと成長しきっていた為に、 茎からその身を引き離すと、パチリと目を開けて産声をあげた。 そもそも、少女の脚力ではゆっくりを一撃で死に至らしめる事など不可能であったのだ。 恐ろしい少女の姿も居なくなった事もあり、失った片目の事などとうに忘却の彼方のれいむが不貞不貞しい笑みを浮かべている。 その視線の先には、3匹の赤れいむと、3匹の赤まりさが対照的な表情を浮かべていた。 赤れいむ達は自らが生っていた茎をむしゃむしゃと口に頬張って舌包みを打っている。 一方、その光景を涎と涙を垂らしながら、羨ましそうに見つめている赤まりさ達。 「しょりょーり!しょりょーり!」 そろりそろりと実際に口で言いながら、赤れいむ達の元へ忍び寄る一匹の赤まりさだったが、 すぐさまそれを見つけたれいむによって排除される。 「ゆぴんっ!」 ころころと涙をまき散らしながら床を転がる赤まりさ。 他の赤まりさが目をギュッと瞑りながら身を捩らせて叫び声をあげる。 「どぼじでまりちゃ達にはむしゃむしゃさせてくれないのじぇぇぇ!!」 「しょうだよぉぉ!ゆっくちさせちぇぇぇ!」 そんな赤まりさ達の悲痛な面持ちを見下ろして、れいむが鼻も無いのにフン!と鼻息を荒らげて吐き捨てる 「あんなゲスと同じ顔をしたゆっくりなんてれいむの子供じゃないよっ!ゆっくり飢えていってねっ!」 「「「うえちぇいっちぇにぇ!」」」 まりさのせいで大きな傷を負ったれいむに、まりさと同じ姿をした赤まりさを養う母性など無かった。 そして、そんな光景に自分たちは「選ばれたゆっくり」だと錯覚して高飛車な態度を撮り始める赤れいむ達。 赤まりさにとってはれいむの理由など理解できる筈も無かった。ただただ理不尽な親の仕打ちに涙を流す赤まりさ達。 そこに少女がゆらりと現れた。 少女の姿を見たれいむはビクリと体を震わせると大きく後ずさった。 「かわいそうに、はいチョコをあげるよ」 少女が赤まりさ達の前に半分に割った板チョコ置く。 そのチョコに向かってわらわらと集まってくる赤まりさ達。 「ゆゆっ!これくりぇるにょ?」 「うん、仲良く分けて食べてね」 「「「ゆわーい」」」 残り半分の板チョコをかじりながら少女はにこりと笑った。 そんな少女の微笑みに生まれてはじめての「ゆっくり」を感じた赤まりさ達はフルフルと身を震わせてほろりと涙をこぼした。 「むーちゃ!むーちゃ!・・・ち、ちあわちぇぇぇぇ!」 「なにこりぇぇぇぇ!ゆっくち!ゆっくちぃぃ!」 「ちやわちぇのじぇ!ちやわちぇのじぇ!」 チョコにはむはむと口を押し付けて、目を輝かせる赤まりさ達。 「ゆっ!なにしょれ!れいむも「むーちゃむーちゃ」しゅるよっ!」 「ちょうらいにぇ!」 「はやくしてにぇ!」 少女は図々しく食べ物を催促する赤れいむ達に向かって、無言でチョコの欠片を投げ捨てた。 床を転がるチョコの欠片は、赤まりさ達に与えられた量の十分の一も無い。 それに我先に群がって、奪い合うようにして貪る赤れいむ達。 「うみぇ!これめっちゃうみぇ!」 「もっと!もっとちょうらいにぇ!」 「はやくしてにぇ!たくしゃんでいいよっ!」 「嫌だね」 「ゆゆっ?」 少女は赤れいむ達にもわかるように、わかりやすく、回りくどく、何度も言い聞かせるように語りかけた。 今食べたものがお前たちの人生で最も美味しかった食べ物である。 これ以降、お前たちがこんな美味しい物を食べる事は二度と無い。 それどころか、間もなく飢えて死ぬだろう。 普通に暮らしていれば、美味しいと感じることのできた食べ物も、今食べたチョコのせいでおいしいとは感じない。 それも皆、お前達を産んだれいむが無能だからである。 しかし、それに対して不平不満を漏らせば、れいむによって即座にその人生は終わるだろう。 何故ならば、お前たちを産んだれいむは無能だからである。 お前たちはこれから短い、短い期間を飢えと乾きと、そして親の機嫌を取りながら惨めに寂しく過ごすだけだろう。 何故そんな事になったのか?そう、それは”れいむが無能だから”である。 「「「ゆ゛ぅ!?・・・ゆゆゆううう!?」」」 赤れいむ達は少女とれいむを交互に見渡しながら声にならない声をあげた。 赤れいむ達のゆん生は今始まったばかりである。 産まれてすぐにまりさ達よりも優遇された事によって、自分たちは「選ばれたゆっくり」と錯覚していた。 甘いチョコを食べてしまった為に、今では大しておいしいとは思わなかったが、茎をお腹いっぱい食べて幸せだったのだ。 そしてこの幸せはこれからもずっとずっと続くものだと、そう勝手に思い込んでいた。 しかし、目の前の人間が言うには、もう幸せな事は無いらしい。 それどころか、間もなくゆっくりできずに死ぬとこの人間は言っている。 赤れいむ達は一様に、心配そうな眼差しで親れいむを見る。 だが、頼みの綱の親は、赤ゆっくり達と視線を合わせようともせずに 少女に対して何も言い返すこともできずに、ひきつった笑みを浮かべるだけである。 「おきゃーしゃん!なにかっ!なにかいいかえちてよっ!」 「あのにんげんを「しぇいしゃい」ちてねぇ!」 「はやく!ころちて!ころちていいからにぇ!」 少女の言い分を認めるわけに行かなかった。自分たちの待っている未来が絶望的にゆっくりできない事を認めるわけに行かない。 赤れいむ達は金切り声でれいむを焚き付ける。しかし、れいむから出た言葉は意外なものだった。 「おちびちゃんをあげたかわりに・・・れいむも・・・飼ってね」 「ゆゆっ!なにいっちぇるの!?おきゃーしゃん!」 「うるさいよっ!} 「「「ゆゆうう!?」」」 少女はれいむの問い掛けには一切答えずに無言で外へと続く玄関の扉を開けた。 外からは身を切るような冷たい風が吹き込んでくる。 「ゆっ!さ、寒いよっ!お姉さんっ!ゆっくりと扉さんを閉めてねっ!」 少女が赤れいむ達に話した言葉を一番痛感したのはれいむだった。 飼いゆっくりであった筈の自分がこの数週間、何故か飼い主からはぐれて野良生活を強いられている。 認めたくは無かったが、れいむは捨てられたのだ。 もう冬がもうすぐそこまで迫っている。今から食料を集めて、越冬の為の丈夫な巣を探すなどとても間に合わない。 そもそも、飼いゆっくりであるれいむには、越冬の経験すらなかった。 このまま外へと放り出されれば、間違いない命を落すことになる。 そしてあのゲスのまりさのせいで、担がされた居るだけで枷になるチビども。そして自身の重い怪我。 状況は絶望的だった。 つい、数分前までこの広くて餌の豊富なゆっくりプレイスで悠々自適な暮らしが約束されていたのいうのに。 何故だ?どうしてこうなったのだ? しかし、今はそれを嘆いている場合ではない。抜き差しならない状況を打破するにはこうするしかなかった。 れいむは土下座をするような姿勢で深々と床に頭をこすりつけると少女に懇願した。 「おでがいじばず!ごのままお外に出たら!でいぶが死んでしまいばす!だから飼ってくだざいっ!」 「いやだよ、出て行って」 れいむの譲歩に譲歩を重ねた必死の訴えは、そっけなく少女に打ち消された。 「じゃあおちびはいいでず!れいむだけは飼ってくだざいっ!」 「聞こえないの?」 少女はにこやかな表情とは裏腹にやや強い口調でそう言った。 「しぇーしゃい・・・しゅ!!!」 その時、業を煮やした一匹の赤れいむが大きく飛び跳ねて少女に襲いかかった。 「制裁する」そんな短い言葉を言い切る事無く、赤れいむは少女の払いのけた手に叩き落されて、 玄関の固い石造りの地面にその体を打ちつけると、ジワリと餡子を全身から漏らした。 「ゆ゛っ・・・!ゆぴっ・・・ゆぴぃぃん・・・」 虫の息の赤れいむは、まだ何が起こったのかよく分かっていない姉妹達と 醜い形相を浮かべるれいむを見回すと、力無く呟いた。 「もっちょ・・・ゆっくち・・・しちゃ・・・」 ほんの僅かな餡子をトロリと口から出すと、赤れいむは見る見る黒ずんでいった。 他の赤ゆっくり達には、まだ状況が良く呑み込めていない。 「ゆっ?ゆっ?」と声を出しながら、黒ずんだ姉妹に体を擦りつけたり、ペロペロとその体を舐めたりしている。 そんな光景を目の当たりにしながらも、れいむは土下座の体勢を崩さない。 「おでがいじばずっ!おでがいじばずっ!」 れいむの中で赤れいむは切り捨てられていた。既に全員死んでいるのと同じだった。 少女はそんなれいむのもみあげを握り締めると、外へつまみ出した。 「ゆべぇっ!・・・ま゛っ!ま゛っでっ!おでがいじばずっ!」 れいむはその怪我からは想像できない動きで素早く立ち上がると、 家の中へ戻ろうと目を血走らせながらずりずりと体を引きずる。 「飼っでぐ・・・だざゆ゛っぐり゛っ!!」 そこに重い鉄の塊が後ろから迫ってきて、れいむを挟み込んだ。 少女が勢いをつけて閉めようとした扉に挟まったのだ。 その顔面を焼けた餅の様にぷっくりと膨らませて、れいむは両目を大きく見開いた。 「ゆっくりしていってね・・・わたしの視界に入らない所でね」 再び僅かに開いた扉から、れいむと赤れいむ達がコロコロと転がって外へ放り出された。 れいむは少女の家の前でいつまでもわめき続けた。 れいむはきんばっちなんです。といれも自分でいけます。 餌も残り物でかまいません。おちびも全部あげます。 上手にお歌も歌えるんです。だから、寒くて死にそうなんです。 お願いだから飼ってください。お願いします。お願いします。 簡素な作業着を着た男達がれいむ達を連れて行くまでその叫び声が鳴り止む事は無かった。 少女の言った通り、赤ゆっくり達の惨めな生活は僅か2日で終了した。 ◆ 数ヶ月後 空は透き通るような青空で覆われていた。 雲ひとつない快晴。 少しばかり降り積もった雪も今はその名残りを塀の隅に僅かに残すだけである。 柔らかな春の風に乗って何処からとも無く桜の花びらがひらひらと舞い込んで少女の頬を撫でた。 手入れの仕方が分からない為に、荒れ放題になってしまった芝の上に縁側から足を投げ出して、少女はぼんやりと庭を眺めている。 その視線の先には、楽しげにボールを蹴る三匹の子まりさの姿があった。 「ゆっ!ゆっくりけるよっ!ゆっくりとうけとめてねっ!」 「ゆっくりりかいしたよっ!ゆっくりけってねっ!」 「ゆんゆっ!ぱすっ!ぱすっ!ぱすなのぜええっ!ゆんやっ!」 あの時、れいむから奪い取った赤まりさ達は子まりさに成長していた。 生みの親の非道な行為もあってか、子まりさ達は人間である少女によく懐いていた。 子まりさ達は、少女の前で自分が優秀な個体であるという所を見せようと、競いあうようにボールを追いかける。 「かわいくてごめんねっ!} いち早くボールに追いついた一匹のまりさが、全身をふくっ!と膨らませた勢いでボールを強く弾く。 ボールは勢い良く弾んで、少女の元へと転がっていった。 少女は目の前まで転がってきたボールに足を置いてその回転を止める。 「ゆゆんっ!おねえさんっ!ゆっくりまりさにパスしてねっ!」 「ゆゆっ!おねえさんはきっとまりさにパスするよっ!」 「パスなのぜっ!パースパースっ!ゆっくりまりさにパスするのぜっ!」 地面を軽快に跳ねながら屈託のない笑顔で少女に声をかける子まりさ達。 しかし、少女はそんな子まりさ達の声に耳を傾けること無く、足元のボールをジッと見つめている。 暫く微動だにしなかった少女だったが、ポツリとこう漏らした。 「もう子供に蹴られるのもすっかり慣れちゃったね「ゆっくり」してるでしょ?まりさ」 「ゆゆん?」 少女の言葉の意味がわからずに一様に小首を傾げる子まりさ達。 その言葉は庭で遊んでいた3匹の子まりさ達に投げかけられたものでない。 少女の足の下にあるボールに対して言ったものだった。 少女はボールを拾い上げると、それについている不自然な3つのジッパーを静かに開いていく。 そこには二つの大きな濁った目と、カチカチと音を鳴らすボロボロの歯が並んだ口があった。 「・・・やべでね・・・やべでね」 「「「ゆ゛っ!?なにぞれぇぇぇ!?」」」 そのボールは子まりさ達が、まだ赤まりさだった頃に少女からはじめて貰った宝物だった。 他の玩具で遊んでいる時よりも、少女が嬉しそうにしていたのを見ていた子まりさ達は、 少女の笑顔を見るために毎日毎日、飽きること無くそれを蹴り続けてきたのだった。 その正体がゆっくりだった事に今初めて気がついたまりさ達がガクガクとその身を震わせる。 「あなた達のお母さんはどんな人だった?」 いびつな肉塊を地面に無造作に放り捨てると、唐突に少女が3匹の子まりさ達に問いかけた。 「ゆっ!ゆゆぅ・・・っ!ま、まりさの・・・まりさのお母さんは・・・」 まりさ達は赤ゆっくりだった時の事を忘れずに記憶していた。 産まれたばかりの自分たちに一切餌を与えること無く、不貞不貞しい笑みを浮かべていたゲスの事を。 それでも自分たちは、おねえさんの言うことをしっかり聞いて立派に「ゆっくり」している。 それは、きっと自分の父親が立派なゆっくりだったからだ。そう自分たちに言い聞かせて生きていた。 「おっ、お母さんは・・・ゆっくりしていない「ゲス」だったよ」 「そしてそこに転がってるのが、お父さんだよ、まりさ」 「「「ゆ゛ん゛ぎぃぃぃ!?」」」 子まりさ達の前でブクブクと泡の塊を口からこぼしながら、小刻みに痙攣する肉塊。 それが、子まりさ達が思い描いて心の糧としていた「立派な父親」だった。 少女は呆然とした表情を並べる子まりさ達に、父親であるこの肉塊が行って来た事を淡々と告げる。 少女の母を殺し、少女の兄に制裁されたのにも関わらす、それを助けた少女に行った行動。 ゆっくりよりも、人間に同族意識を感じるように育てられたまりさにとって、それは衝撃的なものだった。 「お゛ばえ゛はっ!おばえばっ!な゛に゛をじでる゛ぅぅぅ!!」 「人間ざん゛にっ!なんてごとじでるのぉぉぉぉ!!」 「じね゛っ!ゆ゛ん゛っ!ごろじでやるんだぜぇぇぇ!!」 三匹の子まりさ達は激昂して、目の前に転がる父親を罵倒し、踏みつけ、蹴り飛ばした。 そんな子まりさ達に対してまりさはオドオドと怯えた様な表情を浮かべるだけて何も抵抗しない。 いや、抵抗できなかった。 その全身は少女の手によって、火で入念に焼かれた為にきらきらと輝く綺麗な髪は二度と生えてくる事無く、 底の部分の皮はガリガリに炭化してピクリとも動かせないので、二度と自分の足で飛び跳ねる事はできない。 まりさは喋るだけの達磨になってしまっていた。 「や゛っ・・・やべでね・・・っ!おぢびちゃん・・・っ」 「おばえなんがっ!「おや」じゃないよぉぉっ!!」 「おばえじゃないっ!まりさ達の「おや」はおねえさんだよっ!」 「あの時助けてもらった恩をかえすよっ!おねえさんっ!」 惨めに許しを懇願する親を憎々しげに睨みながら、子まりさ達が叫び声をあげる。 醜い肉塊を奪い合う様にして、何度も何度も体重を乗せて踏みつけた。 まりさは自らを殺そうとする子まりさ達に対して「やめてください、やめてください」と力無く呟くだけであった。 「ごめんね(子)まりさ、もう貴方達・・・もう要らないの」 「「「ゆ゛ゆ゛っ!?」」」 少女の声を聞いて、子まりさ達がその動きをピタリと止めた。 食い入る様に少女を見つめるその瞳には、今にもこぼれ落ちそうな程に涙が浮かんでいる。 そんな子まりさ達の表情を見ても、少女は顔色ひとつ変える事なく、淡々と話を始めた。 あの日、子まりさ達をれいむから助けた理由。 それは、このまりさを精神的に痛みつける道具として必要だったからである。 子まりさ達がおいしい食べ物を食べて、綺麗に体を洗ってもらい、 清潔な寝床でゆっくりとした生活を満喫している傍らで、ゴミの様に扱われるまりさ。 まりさは矮小な薄っぺらいプライドを大きく傷つけた様で、子まりさ達は大いに役に立った。 しかし、目の前の肉塊は、もう苦しんでいないし、何も感じていないのだ。既にこの苦痛には慣れてしまっていた。 傷ついたフリをしてこっそりと「ゆっくり」しているのだ。だからもう子まりさ達は必要無くなってしまった。 まりさをゆっくりさせないという事が子まりさ達の存在価値と言っていい。それができないのならもう必要無いのだ。 「だからお願いしてもいいかな?」 自分たちの事を必要無くなったと言い放つ少女にすがり付きながら、子まりさ達はポロポロと涙をまき散らした。 そして、一様にフルフルとその身を揺さぶりながら大声をあげる。 「なにっ!おねえさんっ!なんでもするよっ!」 「だから要らないとかいわないでねっ!」 「まりさはこんなにゆっくりしてるんだぜええ!!」 子まりさ達の言葉に少女は少し表情を綻ばせると、こう言い放った。 「そこのゴミクズと”すっきり”してね」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」 そう告げると、少女は踵を返して家の中へと入っていってしまった。 一匹の子まりさが後を追うように縁側に飛び乗ると、 少女が入って行った引き戸をこじ開けようと、その体を必死に擦り付ける。 しかし、何時もは容易く開くその戸は、今日はピクリとも動かなかった。 固く閉じられた戸と、目の前に転がる肉塊を交互に見るまりさ達。 辺りは不気味な程の静寂に包まれている。 「お゛っ!お゛ぢびぢゃん゛・・・っ!に゛げよ゛う゛ね゛っ!・・・ゆっぐりばでぃざど、にげっ!!」 世迷い事を抜かす肉塊を一匹の子まりさが齧り付いて掴むと、草むらへ向けて突き倒した。 為す術無く、ゴロゴロと芝を転がって子供の様な嗚咽の声をあげるまりさ。 そんな、あまりにも情けない自らの親を道端に転がる汚物を見るような目で見下ろす子まりさ達。 縁側にあがって何とか戸を開けようと、顔を真赤にしている子まりさが、ニコリと笑顔を浮かべて家の中の少女に語りかける。 「ゆゆんっ♪おねえさんっ!いじわるしないであけてねっ!ゆっくり一緒にお歌を歌おうねっ!」 額に汗を滲ませつつも、精一杯の猫なで声で「ゆーゆー」と調子の外れた歌を披露する子まりさ。 しかし、何時まで経っても中から返事が帰ってくることは無く、戸は依然固く閉ざされたままだった。 再び、辺りは重く苦しい静寂に包まれた。 そう、辺りは物音ひとつしない静寂に包まれている筈である。 しかし、子まりさ達の頭の中には少女の言葉が何度も反響して響く、それ所かどんどん大きくなっていく。 もうあなたたち、いらないの。 子まりさ達は、少女に世話をしてもらっていたが、 その代わりに少女をとても「ゆっくり」させてあげていると思っていた。 だから、その立場は対等と思っていた。しかし、そんな事は無かった。全くそんな事は無かったのだ。 目の前で泣き叫んでいるゴミを悲しませる。ただ、それだけの存在だったのだ。 少女に自分たちは必要な存在だと理解させるにはどうしたらいいだろうか? 言うまでもない。「ゆっくり」させてあげればいいのだ。 少女の言うとおりにすれば、少女はゆっくりしてくれる筈だ。 いや、違う。 目の前に転がるゴミクズ。あれはかつてゆっくりだったのだ。 お姉さん・・・あの人間の命令を無視したら・・・自分たちもあんな目に会うのでは無いだろうか? 徐々にその目をはち切れんばかりに見開く子まりさ達。 その視線の先には、醜く顔を引きつらせた自らの父親の姿があった。 ◆ 以前とはすっかり様変わりしてしまった少女の部屋のリビング 暖かな色のカーペットは剥がされて、剥き出しのフローリングの床の上に簡素な作業台が置かれている。 その上には、様々な小物や金属部品、そして兄の残したゆっくりの虐待方法を記したファイルが置いてある。 最初はこのファイルの終盤の記述の意味がわからなかった。 ゆっくりを殺すための装置でも、薬でも、習性を記したものでもない無いこの記述。 しかし、今ならばこの項目の意味が理解できる。つまり、兄も私と同じ「結論」に達したのだった。 ゆっくりどもよりも許せない。 あいつがもっとしっかりしていれば、そもそもゆっくりにこの家を蹂躙される事なんて無かったのだ。 これは思ったよりも簡単に作ることができる事を知った。 市販の製品を利用して、材料さえ用意できれば半日も製作に掛からない。 そして兄の記した材料は、夏に使う嗜好品、文房具、調理用具、普通に暮らしているのならば、誰もが購入するであろうものばかりである。 几帳面に製品の型番まで指定されており、それらの商品はこの国所か、世界各地で製造されているものもある。 これならば、材料から身元が割れる事はまず無いだろう。 しかし、ひとつだけ問題があった。この装置の核となる部分。 それに時計を使った場合、時間通りに対象がその場に居るのかがわからない。 それに化学反応を利用した場合、その知識の浅さからか成功率が芳しくなかった。 だが、それを解決するのが、ゆっくりを利用した方法である。 試行錯誤の上にようやく完成した一本の銅線がはみ出した小箱を大事に両手で抱えた少女は、引き戸を開けて庭へと戻った。 そこに広がる光景を見て少女は、ふわりと笑みを浮かべた。 「ゆ゛っ!ゆ゛っ!ゆ゛っ!ゆ゛っ!」 塀に餡子と思わしき、黒い染みが斑点のように幾つもこびりついている。 この子まりさは、自分の体を何度も壁に叩きつけたのだろう。 顔面を黒く変色させて、壁の傍で仰向けになって白目を剥いて痙攣している。 「~~~~~!!」 この子まりさは自分の舌を噛みちぎっていた。 止めどなくあふれ出てくる餡子を口の中一杯に貯めて苦悶の形相を浮かべながら、 無言で頬を膨らませて、自分のやった行為を後悔する様な悲しげな表情を浮かべている。 二匹の心境などわからない、自分の両親の外道ぶりに悲観して行ったのか。 それとも、少女の手で”それ”を行われるくらいなら、と自らを自傷したのか。または「これは夢」だと逃避したのか。 少女にとっては、心底どうでもいい事だった。 こいつらを可愛いなどと思った事は一度も無い、道端に落ちている蝉の死骸程にも関心が無かった。 そんな二匹には目を合わせること無く、”まりさ”の元へと向かう少女。 「すっ!すっ!すっ!すっ!すっ!」 最後の子まりさは、親の上に乗って一心不乱に腰を振っていた。 醜い恍惚の表情を浮かべながら、、顔を真っ赤にして涎をまき散らしている。 こいつらの何時もの気持ちの悪い表情だ。 「いつまでやってるの?」 少女はそう言うと、子まりさを蹴り飛ばした。 横腹に衝撃を受けた子まりさは、餡子をまき散らしながら芝生を転がって歯茎をむき出した。 その体は楕円に醜く歪んだままで、元の形状には戻らない。 少女のつま先が突き刺さった疵痕から夥しい餡子を垂れ流しながらも、まだ一心不乱に腰を振っている。 少女が”まりさ”に視界を移すと、その頭からは弱々しい茎が一本生えていた。 茎には四つの実ゆっくりが生っている。 四つの実ゆっくりの内、二つは舌をだらりと垂らして髪は抜け落ち、黒ずんでいる。既に死んでいるのだ。 もう一つはギリギリのところでゆっくりという存在を何とか維持していた。 閉じたまぶたは微かに震えて、青ざめた顔がその生命の維持が限界に達している事を告げていた。 それに反して、最後の一つは丸々と太って幸せそうな笑みを浮かべて、すやすやと眠ったような表情を浮かべている。 少女は、丸々と太った一匹を掴むと捻じり取る様に茎から切り離して手元に寄せる。 柔らかな笑顔を浮かべていた実ゆっくりはクワッ!と形相を浮かべて痙攣を始める。 そして、少女を睨みつけるとギリギリと歯を鳴らして威嚇を始めた。 少女は何をする訳でもなく実ゆっくりを、ただジッと見つける。 実ゆっくりは次第にその表情を威嚇から、許しを請う様な弱々しいものへと変化させていった。 そんな実ゆっくりの様子を見て少女は口の先を吊り上げると、それをまりさの口の中へと放り込んだ。 「食べろ」 まりさは何も反論することなく、プチップチッと小気味の良い音を出しながら実ゆっくりを貪りはじめた。 まりさが少女の行為に対して反抗の態度を示したのは最初の数日だけだった。 最近は叫び声さえあげる事も少ない。ただただ「やめてください」と力無く呟くだけになっていた。 今回も黙々と少女の言いつけを実行したまりさを 少女はまりさを優しく抱き抱えると、懐から取り出したまりさの帽子を被せてやる。 そして、優しげな笑みを浮かべて撫でた。 「もう大丈夫だよ、怖かったね」 「ゆ゛っ!!」 その言葉を聞いたまりさはカッと目を見開いた。 目の前に居るのは、恐ろしいお姉さんでは無い。 まりさをあの恐ろしくて、息の出きない、怖い箱の中から助けてくれた優しいお姉さんだ。 待っていて良かった。まりさはずっと待ち続けていたのだ。優しいお姉さんがまりさを助けてくれる日を。 きっとまた優しいお姉さんがまりさを助けてくれると信じていた。 「恐ろしいおねえさん」と「優しいおねえさん」 まりさの中で少女はいつの間にか二人の人間になっていた。 「までぃざば!!ばんぜいじばじだあああ!!ぼんどうに!ぼんどうになんでずううう!!」 「そう、怖かったね」 本当に反省していようが、していまいが、少女はどうでも良かった。 仮に本当に反省していたとして、だからなんだと言うのだろうか? なので少女は、機械的に優しい声で返事をしてやった。 そんな少女の声にまりさは頬を綻ばせてポロポロと涙をこぼす。 歓喜の声をあげるまりさを他所に、少女はまりさの頭から生えた茎をジッと眺めていた。 それを一度優しく撫でるとポキリと根元から折って静かに地面に置いた。 そして、まりさを抱き抱えたまま縁側に腰を降ろすと、まりさを綺麗な箱の中へと寝かせて入れた。 そして懐から取り出した先程の「小箱」をまりさの帽子の中に入れてそこから伸びる銅線をまりさにくわえさせた。 「ゆっ・・・!これはなんですか?おねえさん?ゆっくりできるもの?」 「違うよ、でもとても大事な物なの」 「・・・ゆ゛っ?」 まりさはとても怖い夢を見ているの。 これはまりさが群れを離れて街に来る前の日の夜に見ている夢なの。 本当は、怖い思いも痛い思いもしていない、群れの温かい寝床ですやすやと眠っているの。 少女の言葉にまりさが目を輝かせる。 「ほんとうにっ!?ほんとうにっ!?」 「うん、そうだよ。早く起きたい?この夢を終わりにしたい?」 「したいっ!したいですっ!してくださいっ!おねがいしますっ!」 夢から覚めるには方法があるの。 これからこの箱をゆっくり閉じるけど、中では喋ってはいけないよ、身動きひとつしちゃいけない。 そして、この箱がもう一度開いた時に元気に「挨拶」をして、それからこの線を噛みちぎってね。 少女の口から告げられる悪夢から目覚める方法を、 目を血走らせて念仏の様に何度も唱えて自らの餡子脳に刻みつけるまりさ。 「ゆっ!でぎばず!ゆっくりしないでできばず!」 それができたら、まりさの怖い夢は終わるよ。 優しいありすと群れの仲間がまりさを起こしてくれる。 だから「夢から覚める」までは決して「寝ては」駄目だよ。 「わかったよっ!ゆっくりしないでやるよっ!」 「・・・失敗したら「えいえん」にこの夢は終わらないからね」 最後に低く冷たい声でそう告げると少女は静かに箱を閉じる。 その声を聞いて恐怖に表情を引きつらせたまりさの形相が一瞬だけ見えた。 例えこの中で十年待たされても、まりさが箱の中で眠ることは無いだろう。 それ程に、まりさが”今見ている夢”は恐ろしいものだった。 少女は、まりさの入った箱を可愛らしい包装紙でラッピングするとリボンを添える。 それを両手で抱えると、誰もいない家の中へ向かって大きな声で叫んだ。 「それじゃあ、いってくるね!」 その声は少女の見た目からしてもまだ幼い、まるで幼稚園児の様な小さな子供の声だった。 ◆ 「今の子・・・一体だれなの?」 男はそう呟いた声の主を一瞥すると、憎らし気に舌打ちして自室のドアを力強く閉めた。 男の部屋は酷く散らかっていたが、そこに置いてある家具や小物はどれも価値のある物ばかりである。 艶やかな光沢を放つ黒いソファーに深く腰を降ろすと、小脇に抱えた「箱」を投げ捨てる様に置いた。 「馬鹿女の子供もやはり馬鹿なのかねぇ」 そう呟くと、箱のリボンを無造作に解いた。 その光景に男は、この箱を持ってきた少女の胸に飾りつけてあったリボンを解く妄想を思い浮かべて汚い笑みを浮かべた。 もう少し自分の”賢い”血を色濃く受け継いでいれば、上手に楽しく世の中を渡って行けると言うのに。 保証だの、賠償だの、小煩かったあの兄貴の様に騒いでもいいものなのに事も有ろうか、 毎月勝手に振り込まれていたらしい雀の涙程の養育費を「もう要りません」と断りに来たのだ。 しかも、こんな御大層なプレゼントまで用意して、だ。間抜けにも程があるだろう。 もしかしたら、今まで振り込んでいた額の十倍くらい振り込んでやったら、向こうの方から勝手に服でも脱ぎだすかも知れない。 再びそんな妄想を脳内で描きながら、男は胸のポケットから煙草を取り出して口にくわえると、忙しなくライターを求めて体中をまさぐる。 その時、机の上に置いた箱がビクリ!と震えると蓋が勝手に開いた。 その中身は男が想像していた物とは全く異なっていた。 ケーキでもクッキーでも無い。 中では異臭を放つ物体がプルプルと小刻みに震えている。 無意味に大きく見開かれた両目は焦点が定まっていない。何処を見ているのかわからなかった。 僅かに開かれた口からは、ボロボロになった歯が僅かに頭をのぞかせている。 そんな気味の悪い物体が、もぞもぞと体を揺り動かしてムクリと立ち上がった。 男の口にくわえらえた煙草がポロリと床に落ちる。 気味の悪い物体は、男と目が合うと体をくねくねと踊るように揺らしながら、 ニコリとこぼれ落ちそうな笑顔を浮かべて、底抜けに元気に叫んだ。 「ゆっくりしていってねっ!」 その瞬間、男の目の前が真っ白になって、何も見えなくなった。 おしまい 今まで書いたもの ・ふたば系ゆっくりいじめ 131 れいむ視点と人間視点 ・ふたば系ゆっくりいじめ 987 少女とまりさ前編 ・ふたば系ゆっくりいじめ 1113 少女とまりさ後編
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/950.html
ゆっくり火葬戦記その2 ゲスゆっくりが登場します 「おいじじい!さっさとあまあまだすんだぜ!」 「ほれ。あんまり甘くはないがな…」 何時ものように顔を出すそいつにとって置いた代用食、甘薯の残りをやる 息子、孫と出征している彼には有り余ると言うほどではないが若干の余裕はあった しかし生活に余裕はあっても潤いはない 連れ合いは既にこの世の者ではなく、子と大きな孫は遙か南方へ、小さな孫達は遠く内陸へ疎開していた 時折訪れるのは様子を見に来た息子の連れ合いと手紙を運んでくる郵便配達員のみ 寂しかった 平穏な御代であれば娯楽で寂寥感を紛らわせた、いやそもそも家の中に人があふれて寂しさなど感じる事はなかったはずだ そんな中現れたのは口の悪い動く饅頭 しかしそんな物でも孤独の中にいるよりはましだった 「ふん、つかえないじじいだね。まあこれでがまんしてやるのぜ!」 どう見ても我慢しているようには見えない 目を輝かせて飛びつき夢中で頬張る 「むーしゃむーしゃ、しあわせー!!」 「そうか、そうか。それはよかった」 老人の見る目が孫を見るような目になる 果たしてまりさを通して遠くの孫を見ているのか、それともまりさそのものが孫のように感じられているのか それは老人の心を覗かない限り分からない 「そ、それなりにだぜ!つぎくるときはもっとゆっくりできるものにしてね!」 「はは、出来たらの」 「…ところでじじい。じじいはぐあいはわるくないのぜ?」 「具合?いや特には悪くないの」 「ならいいのぜ」 おかしな奴だ 「あと、こしとかいたくはないのぜ?」 「ああ、大じょ…」 そう言えばこの間町中でこいつを見かけた時田中さんの家を覗いてたな あそこのじいさんは確か一年中腰が痛いと言ってたの そうか、そういう事か くそ饅頭め、わしはまだそこまで年寄りじゃないぞ 「う、うん。こほん、そうじゃの、最近ちと痛くての」 「それはよくないんだぜ!そこにねころぶんだぜ」 「分かった分かった」 縁側にうつぶせになる (ちと汚れてるの、掃除せんといかんな) 「いくよ!ぴょんぴょんするよ!」 「?」 どすん まるで獲物を捕らえるかのように勢いよく背中へ飛び乗る 「ふぴゃぁああっぁあぁ」 老体にはあまりの衝撃に思わず奇声が出た (くああ、ほ本当に痛くなった…嘘はつくもんじゃないわい) 「じ、じじい?」 「そ、それはちと強すぎる…」 「じじいはひんじゃくだね!もっとごはんむーしゃむーしゃしてつよくならないとだめなのぜ!」 跳ねるのを止め背中の上で勢いよくのーびのーびし始めた 「のーびのーび!」 「ああ、それ位がちょうど良い…」 「ふふふ、まりささまのいだいさをおもいしったのぜ?」 「ああ、知った知った」 「ならばもっとあじわうといいのぜ!のーびのーび!」 「ふふ、のーびのーび」 ついつい調子を合わせて一緒に言ってしまう 「のーびの…ゆぎゃああああ」 「ど、どうした?」 「あ、あんこが」 「餡子が?」 「あんこがつったのぜ…」 「だ大丈夫か?」 とっさに起き上がってしまう 餡子がつるって一体どんな状況だ? 「ゆぎいいい、ももっとそっとうごくのぜ」 背中から転がり落ちて身悶えしていた うにょうにょ、くねくね転げ回っている、いや転がるのを止められないでいる 痙攣状態だろうか? 「しっかりしろ」 そっと転がっているまりさを捕まえる 「ゆぎいいい、そんなにつよくつかむんじゃないのぜええ!!」 「ほら落ち着け」 筋肉の痙攣と同じなら軽く揉みほぐすと良くなるはずだ とりあえず人間の対処法と同じ事をやってみる 「ゆくくくくく」 「頑張れ、すぐ良くなる」 しばらくゆるーく揉んでいく するとだんだんと体がやっこくなってきた 心持ちかなんだか肌もてかりが出てきたような… 「ゆーゆゆ、ゆー♪」 「良くなったかの?」 鼻もないのに鼻歌まで出てきたからもう大丈夫と思い手を離す 「ゆー♪よくなった…も、もともとまりささまはぜんかいばりばりなんだぜ!? な、なにねぼけたこといってるのぜ?」 まあ、これだけ憎まれ口叩ければもう大丈夫か 「そうじゃの。もともとお前さんは元気一杯だったの」 「そ、そうだぜ。わかればいいのぜ ゆ、まりささまはようじをおもいだしたからかえるのぜ!」 「そうか、またな」 夕焼けが跳ねていくまりさの後ろ姿を真っ赤に染めていた 「じじいーきょうもまりささまがきてやったのぜ!」 「…今日はこれ食ったらすぐ帰っとくれ」 何時もより多くの甘薯を差し出した あまりと言うには多すぎる、まるで食べてないようだ 「どうしたのぜ?ぶさいくなかおがいとどぶさいくなのぜ?」 「なんでもない、お前には関係のない事だ」 「かんけいないことないよ!ごはんもってくるくそどれいがげんきなかったらまりささまがこまるのぜ!」 「今日はお前の相手をする元気がないんだ…」 「いいからいうのぜ!ちゃんとごはんたべてるのぜ?それともまたこしがいたくなったのぜ?」 まりさのその言葉で小さい頃肩を揉んで貰った事を思い出した もうあの手が揉む事はない 「いいから…帰れ」 「どおしたんだぜ?ぜったいにきょうのじじいはへんだぜ! あ、おてがみがこなかったのぜ?しょうがないおちびだぜ、かわりにきょうはまりささまがそばに」 茶飲み話、いや芋食い話に南方へ出征していった子供らの事 疎開先の孫らの事 そしてそれらが手紙をよこしてくる事なども話していた 昨日もそろそろ届く頃だと機嫌良さそうに話していたのだ だからてっきりまりさはその手紙が来なくて落ち込んでいるのだと勘違いしていた 「帰れと言っておるのが聞こえんのか!」 今まで聞いた事もない大音声だった その表情もまた鬼神のような恐ろしい物 言いかけた台詞もふてぶてしい表情も消え去り、恐ろしーしーを垂れ流した 「う、うあーん。うああああああ」 一拍置いて滝のように涙を流す それを見ていた老人の顔にも思わず光る物がこぼれ落ちる 「う、ううううう。すまん、お前が悪いんじゃないな。すまん」 「うあああああ、うああああああ」 老人の顔から剣幕が消えたことにも気づかず泣き続ける 「実はな…」 手紙が届かなかった訳ではない 届いて欲しくない手紙が何時もの手紙に代わって届いたのだ 事の次第を涙ながらにまりさへ聞かせる 半分は老人のかすれ声の所為で、半分はまりさの頭の悪さで 今ひとつ正確には伝わってはいなかったがまりさにもようやく何が起きたのかおぼろげにも理解出来た 「じじい、きょうはとくべつにまりささまがとまっていってやるのぜ!ありがたくおもうのぜ!」 「まりさ…ありがとう」 「とくべつなんだぜ!もっとかんしゃしてもいいのぜ!」 「ああ、ありがとう」 深夜の事である 何時もはさして飲まない老人がしたたかに深酒をし眠りこけていた 「じじい、まりさはしーしーしてくるのぜ」 返事がない、寝ているようだ。断じて死体ではない 庭に出て端でしーしーを放つ 「すっきりー!まりささまの40さんちほうのいりょくだれかにみせたいのぜ!」 ドゴオオン!! 「ゆべぇし!…ぺっぺっくさいいいいい」 背後からの強風で40サンチ砲弾弾着地に顔面から弾着する 「なんなのぜ、いったい」 そしてゆっくりとふり返る ウー…ウー…ウー…ウー…ウー…ウー…ウー…ウー…ウー…ウー… 「関東地区、関東地区、空襲警報発令。 東部軍司令部より関東地区に空襲警報が発令されました」 「ゆ?」 建物がない 「ゆゆゆ?」 あるのは瓦礫だけ 「ゆゆゆゆゆゆゆ?」 そしてそこにはまだ寝ているはずの… 「う、う、うあああああ!!!じじいいいい!!!」 不発弾だった 老朽化していた彼の家は炸裂しない弾でさえ受け止める事は出来なかった もろくも崩れ落ち、辛うじて長年連れ添ってきた箪笥が天井を受け止め何とか老人の命を長らえさせていた 「だ、だれか!じじいが!じじいがなかにいるんだぜ!」 あちらこちらから迫り来る炎に人は日頃の訓練にもかかわらず逃げ出してしまう こんな浮き足立っている時に誰もわめく饅頭など気に留めるはずがなかった 「ああああ、そこのおにいさんん、じじいがなかに!」 「うるさい、邪魔だ!」 「ゆべ!」 纏わり付いてくるゆっくりを蹴飛ばし走り去る 無理もない、この猛炎の中ゆっくりにまで気を回せる人間などいる訳がない 周りの人間のゆっくりしてなさに見切りを付け、助けを呼ぶ事をあきらめて自力で助け出そうとする 「ゆああああああ、じじい!すぐたすけるんだぜ!」 崩落した家屋をにゅるりにゅるりとかいくぐり老人の元へ向かう 「ま、まりさか?」 「そうだぜ、じっとしてるんだぜ!いままりささまがだしてやるんだぜ!」 「来るんじゃない!」 「ゆっくりおうちさんそこをどくん…だぜ?」 「お前が来てもなんの役にもたたん!さっさとにげろ、くそ饅頭!」 「うるさいんだぜ、くそはそっちなんだぜ、くそじじい」 「良いから行け、来るな、近寄るな、どっかへ行け!もう顔も見たくない!」 「じじい…くそじじいにそこまでいわれるすじあいはないのぜ! おなさけでつきあってやってたのをかんちがいするんじゃないのぜ、このげすじじい!」 「ああ、なんとでも言え、ゲス饅頭」 「ふん、こっちこそもうにどとくそじじいのおかおをみたくないのぜ!」 にゅるにゅると元来た道をたどり瓦礫から脱出する 言葉遣いの通りまりさはゲスだ、自分に何が出来るかよくわきまえてる 力が足りなければ仲間も平気で見捨てていく だからあっさりと大恩ある老人を見捨てていった 「じじい…じじいいいいい!!!!!」 振り返らずに宛もなく軽やかに跳ねていく 頬に伝わるそれはきっと汗だろう 「すまない…すまない、まりさ…魔理沙、あいつをどうか守ってやってくれ」 そして老人も泣いていた 泣きながら見えない位置の、今は共に下敷きになっているはずの仏壇に祈る じりじりと業火は迫ってくる 人、動物、植物そしてゆっくり、それらを区別無く全て平等に飲み込んでいく 逃げ場など何処にも無い 「東部軍管区情報。 一部に発生せる火災は、軍官民防空活動により制圧しつつあり。 一部に発生せる火災は、軍官民防空活動により制圧しつつあり。 情報おわり。以上」 全ての炎が消し止められたのは翌朝の事である 「うあああああああ、じじいい!じじいいい!!!」 小さな壺に納まった老人に泣きついている饅頭という異様な光景 「うそだぜ、うそにきまってるのぜ… ずうたいだけはむだにでかいじじいがこんなにちっちゃくなるわけないんだぜえええ」 「まりさ…じいさんは」 「うるさい!じじいをどこにかくしたのぜ? このまりささまにはていのうなくそじじいがうそをついてるなんてとっくにおみとおしなのぜ!」 「芋でも食って落ち着け」 「あまあまなんかじゃだまされないんだぜ!さっさとつれてこないとせいっさいっ!するよ!」 「あれどうしようか…」 「しんだあのじいさんが可愛がっていた奴だからな、殺すというのも…」 ご近所さんがただでさえ悩みで一杯の頭に余計な悩みを抱えていた そこに通りかかった褐色の影 「このゆっくりは?」 「あ、将校さん!い、いえこの家のじいさんが飼っていた奴でして。すぐ処分させます!」 「いや、その必要はない。軍で預かっても構わないかな?」 「は、はい。家族にはこちらから伝えておきます」 「うむ。…まりさ?」 「ぅぅぅ…なんだぜ?まりささまはいまとってもいそがしいのぜ」 「泣くのにかね?」 「ゆう、ばりざはなきむしじゃないがらないてなんがないのぜ!」 「なあ、まりさ。泣くのも良いが…」 「だからないてなんか…」 「おじいさんの敵討ちをしないか?」 …… … 「おにいさん」 「なんだ?」 「ありがとう。これでやっとまりさゆっくりできるよ」 「…ああ、そうだな」 「それでおにいさんにおねがいがあるのぜ」 「言ってみろ」 「おぼうし…まりさのおぼうしをじじいのはかにかざってほしいのぜ。きっとあのくそじじいまたさびしがってるのぜ」 「分かった、預かろう」 「きっと、きっとだぜ!じじいはまりさがいないとだめなんだぜ。しょうがないにんげんなのぜ…」 「ああ、きっとだ。心配するな」 「ではいくよ!」 「しっかりやれよ!」 飛び立っていく 力一杯帽子を振り見送る 「頼んだぞ、まりさ。お前の背中には皇国の命運が掛かっているんだ」 時はさかのぼる事出会いの頃 彼は空技廠所属の技官だった 新型の対空兵器開発に挑んでいたのだが、これが命中率が悪くて実用化出来ていなかった 航空機に高角砲を乗せる試みは行われていたが命中率、重量の面であまり実用的ではなかった だが既存の機銃ではあの化け物には効果がない 体当たりでは機体搭乗員共に生産が追いつかない そこで目を付けたのがロケット 既に大型の艦船用は大型の『誘導装置』を搭載して実用化していた だがそれを航空機用に小型化を試みたものの誘導装置を乗せる隙がない 何発か試射してみたが命中は0だった そこでより小型の誘導装置を開発していたのだがこれが難航していた そしてあの大空襲である 航空兵器の威力の調査のためにも被災状況の視察を命じられていたのだった そこで出会ったのがあのまりさである いける なぜだか分からないがあのくすんだ灰色の帽子を見た瞬間そう確信した そして声をかける 「敵討ちをしよう」と スィーについては戦前から確認されてはいたが原理が解明されておらず また個体数もきわめて少ないため利用は断念した そこで人間と同じように操縦桿を使用する事に決めた だが高速で飛翔するロケットを制御するにはゆっくりの反射では追いつかない そもそも高速をゆっくり出来ないと言って嫌った そこで医学の登場である 多数の人体、いやゆん体実験を繰り返し飛躍的にゆっくりの反射神経を引き上げる事に成功する 副作用として酷く落ち着きのない個体に仕上がり、また異常に高速で飛行出来るようになった あまりの変異に担当者の予測を超え、実験で使用していた体力に優れる貴重なゆっくりを多数取り逃がすという失態を犯す あれが繁殖しないと良いのだが… おっとあまり関係のない事だった ともかく反射神経を上げる事に成功した おまけに思考まで多少早くなったのはうれしい誤算だったと言える 簡易的な物とは言えなかなか飛行機の操縦を覚えさせるのには苦労した 極限まで簡略化した弾体を完成させた時には既に夏になっていた 実用出来る目処が立ち、敵軍の上陸が予想される第二総軍管轄地へ移動し実戦を待つばかりとなった ここでは総司令部防空の任務が与えられた とは言ってもまだ正式採用された物ではない実験部隊に本格的な任務は与えられないままであった ようやく使用可能と判断された翌日、都合良く偵察部隊とおぼしき物がここ総司令部へ接近してきた 絶好のチャンスと言わざるを得ない 最近では燃料不足が深刻で偵察部隊相手には迎撃を行っていない ここで撃墜すれば間違いなくこの新兵器の成果と主張出来る! 早速司令部に掛け合い、強引に出撃許可を得た そうして秘匿名:曼珠沙華砲は『偵察部隊』へと放たれる事となったのだ 状況は転じて遙か上空8000米 既に母機から切り離され独力での飛行となっていた まりさの体を貫通した電熱線に熱がこもる B29の飛行する超高空は低温、低酸素の極限環境 与圧されていない機内では人間であれば電熱線入りの防寒着と酸素ボンベが必要不可欠だ 酸素を消費しないゆっくりでもこの低温下では凍結か冬眠状態に移行してしまうのは目に見えている そのためまりさと技術者が選んだのは体内に電熱線を通す事だった 外部から熱を加えるより簡単に体温?が上がるし構造も簡単 更に言えば物資が不足する中、一回の使い捨ての弾丸にわざわざ特注の飛行服なんて作っていられなかった 弾体内に徐々に充満する焦げた餡子の匂い あまりの熱さに餡子が沸騰しそうだった、いや一部は沸騰していた だがそれはまりさの気持ちをまるで表現しているようなものだ、あまり違和感はない 「あつい、あついのぜぇ」 まりさを蝕む熱い熱い焼け付くような気持ち どんなに甘い物を与えられてもどんなに綺麗なゆっくりに出会えても晴れそうにない この気持ちが晴れない限り自分は絶対にゆっくり出来ないと確信していた まりさは孤独だった 生まれついての奇妙な体色で誰からもまともに相手にされなかった 定まらない赤い瞳でにらみつければ誰もが気味悪がって近寄らない 銀色の髪に触れようとする者はいない 抜けるような白い肌はまるで幽霊のようだと陰口をたたかれる 人間でさえ気味悪がった 唯一まともに取り合ったのはあの老人だけだ 一度味わった味はもう忘れられない もう二度と孤独という苦みを頬張る事は出来ない まりさの舌は肥えていた 眼前一杯に広がる銀翼の怪鳥 ガラスの向こうには慌てふためく人間の姿が見えた 「このくそじじいいいいい!ばりざをゆっくりさせろおおおおお!!!!!!」 「やった…やったぞ、まりさ!俺たちの勝ちだ!」 地上からも視認出来る巨大な超新星、周囲に連れ添っている飛行要塞もその輝きには耐えられなかった 大気圏へ突入した星屑のように砕け、そして燃え尽きた 「勝てる、これでこの戦争に勝てるぞ!」 感動のあまり防空壕から出た所で棒立ちとなる 異変を察知したのは部下の方が先だった 「中尉、伏せて!」 伏せながら叫ぶ だがその声が届く前に閃光は彼を押し包んだ 第一射こそ成功したものの続く第二弾以降の生産は難航した 誘導装置の品質にムラがありすぎるのだ 元々のゆっくりの性格に加え、ゆっくりに精通した技術者を失ったのは痛かった 癖のありすぎる奴らを上手くいなせる人材はまだ当時は少なかったのだ 更に言えば時間もなかった、その日までもう一週間ちょっとしか無い 結局終戦までに輝く星とななれたのはごく僅かなゆっくりでしかなかった …… … 今年もまた夏が来る 暑い夏になりそうだ、しっかり墓に帽子を被せないとな 白い杖を携え、サングラスに奇妙な帽子を被った老人が墓苑へ足を向ける ~お終い~ いい加減こんな夢が続くと何かに呪われてると思えてくる今日この頃 皆様きちんと睡眠取ってますか? 今回は火葬らしくとんでも展開…な気がしないでもありません リクエストにあった独逸編は作者が帝國贔屓な為次作の予定です 注意:色々不謹慎ですが全てフィクションです 挿絵:全裸あき
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3162.html
『隻眼のまりさ 第三話』 17KB 戦闘 群れ 例によって続きです。どうぞよろしく。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ――――某日、日の出―――― ここはいつものゆっくり達が住む集落。 まだ日が昇ったばかりでゆっくり達はまだ夢の中。 ただし、現在広場にいるゆっくりを除いてだ。 隻眼のまりさは早めに目を覚ましていた。 早起きをしてトレーニングをしていたのだ。 「ゆ゙っ…ゔっゆ゙ゔゔ………!!」 まりさは直立姿勢から比べて大きく右に傾いていた。 斜めに立っていると言った方が正しいかもしれない。 足である底面全体を地面につけるのではなく 足と側面である場所ギリギリのところに力を集中し 不安定な姿勢で立っていた。 「ゆっ!あっ!うわ!!」 バランスを崩し横にコロンと転がってしまった。 ふぅ、と一息つくと今度は足の左側に力を込めて身体を左に傾ける。 「ぐっ…ゆ゙っ…ゆ゙ゆ゙っ………!!」 これは、あの時のきめぇ丸の状態を必死に思い出して考えた 隻眼のまりさの新しいトレーニング方法だった。 あの時、きめぇ丸はものすごく横に傾いた状態で平然と立っていた。 自分が真似してみると、ものすごく辛い。 人間で言えば片足立ちで横に重心をずらしているようなものだ。 まりさはただ走るだけのトレーニングでは限界と考え とにかく新しい方法を試しているのだ。 「よっ!わっ!ぐぐぐぐ……!!」 バランスを崩しそうになったが何とか踏みとどまった。 以前ぱちゅりーに強くなるのにどうしたらいいか、と 聞いたことがあったのだがその時人間さんは 様々な方法で身体を鍛えているそうだが その方法のほとんどが手足を使ったものばかりなので 今のまりさに真似できるものではない。 だが一つだけ、鍛えたいところがあるなら その部分を使い続ければいいということだけは はっきり分かっている、と。 「ぬ゙っ…ゔっ…ふぅ……」 今度は自発的に力を抜いた。 ここで無理をして狩りのほうに影響が出ても困るので 体力全てをつぎ込もうとは思っていなかった。 まあ要するに、走るのが速くなりたければ 足を使い続けて強化するしかないということだ。 そこにあのきめぇ丸を真似してみた結果が今のトレーニングだった。 ――――同日、朝方―――― 集落のゆっくり達が起き始める時間だ。 仕事始めと言ってもいい。 「あ、まりさ!ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっく…おはよう!」 まりさの試行の二つ目。それはゆっくり断ちだった。 あの日感じた違和感が形となっていたのは『ゆっくり』という 単語であったことに気が付いたのだ。 自分は速く走りたいんだ、ゆっくりじゃなく。 これがどのような結果を生むのかは、或いは何も起きないかもしれないけど ゆっくりすることを至上とするゆっくりという種のとっては壮大な試みだった。 場合によっては集落から追放なんて事態もありうると 考えたまりさはこのことについては誰にも相談していない。 実際、他人を罵るときに『ゆっくりできない』なんて物言いがあるくらいだ。 その単語を発することをやめるなどと言い出せば何が起こってもおかしくない。 だが、断ってみて気が付いたのだが別にゆっくりという言葉を発しなくても 『おはよう』とか『こんにちは』とか代用できる単語はあるし ゆっくりしなくても食事や狩りは出来る。 「じゃあゆ…じゃなくて、早く『ぶりーふぃんぐ』に行くよ!」 『ゆっくり○○するよ!』などと言葉を発して行動するのが多いゆっくりだが だからこそ逆にこの隻眼のまりさが気付くことができたことなのかもしれない。 「むきゅ?早いわね。もう来たの」 「うん。ドスは?」 「まだ寝てるわ…」 ドスの洞窟に行ってみるとぱちゅりーがすでに動き回っていた。 ぱちゅりー種は身体が弱いと聞くし、実際斜向かいに住んでいる 親ぱちゅりーは家にこもりがちなのだが 集落の参謀を務めるこのぱちゅりーは肉体労働こそしないものの 大声を出したりするとても元気なぱちゅりーだ。 さすが子育ての上手いと言われた前村長が育てただけのことはある。 「おはよー!!ゆっくりしていってね!!!」 「おはよう」 幼馴染のまりさの一匹が洞窟へやって来た。 今度はゆっくりと言いかけることもなく挨拶ができた。 「ぱちゅりー!今日は何をすればいいの?」 「待ちなさい。皆で聞かないと駄目よ」 それからしばらくして。 「むきゅ、それじゃあ『ぶりーふぃんぐ』を始めるわ」 皆がぱちゅりーに注目いつもの光景だ。 だが、隻眼のまりさにとってはここで一つの問題にぶつかった。 そういえば、みんなと走れというのがリーダーの言葉であり 自分の守ってきた行動理念だ。 だが、今のまりさは一人で走ろうとしている。 そのことを誰かに相談すべきではないか? 自分ひとりの考えで行動することがどういうことか分かっているのか? 「じゃあ今日はあなたが皆を連れて虫さんのいっぱいいる 森に行ってね」 「え?ああ…うん…」 「どうしたの?まりさ」 「なんでもないよ」 ぱちゅりーの言葉に反応するのが送れたためか 横にいたまりさが少し心配そうに声をかけてくる。 そうだ、自分は何も皆から離れようというわけではない。 いつも通り仕事をこなして、いつも通り行動し その合間に自分が気付いたことを試していくだけだ。 そこには問題はない。 それにまりさ自身分からない領域に踏み込もうというのだ。 他者に理解してもらえるなどと初めから思っていない。 やれるだけのことをやって自分が満足すればそれでいいのだ。 隻眼のまりさはそのように自己弁護して自分を納得させた。 「じゃあドスは、私と『ばりけーど』のために使う 資材を探しに行くから」 「ゆっくり理解したよ」 以前までなら何気なしに使っていた表現に 我知らず嫌悪感すら覚えるようにまでなっていたことには 目をつぶりながら。 ――――同日、昼前―――― 「ま、まってよー!!まりさー!!」 「れいむは疲れたんだねー、わかるよー」 「こんなに早いなんてとかいはじゃないわ!」 隻眼のまりさは集落の若いゆっくり達を連れて狩りをしていた。 「大丈夫!まりさは遠くへは行かないよ! 皆が離れてきたらまりさが自分から戻ってくるからー!!」 まりさは左右ジグザグにぴょんぴょん飛び跳ねながら大きな声で答えた。 これはまりさが戦闘スタイルを見直す意味で考えた 新しいフットワークだった。 ゆっくりの戦闘スタイル、というよりは唯一の攻撃手段は体当たりだ。 場合によっては噛み付き攻撃もするが通常種には れみりゃのような鋭い牙も中身を吸い出すような器用な真似はできない。 加えて、体当たりによる攻撃は直線的だ。 昔から破れかぶれに真っ直ぐ突進して痛い目にあったなどという 例は数え切れないほどあった。 「ゆっ!ほっ!やっ!!とうっ!!」 そこでまりさが考案した左右の高速シフトだ。 早朝のトレーニングで鍛えた左右への力の強化が活きてくる動き。 れみりゃの直線的な動きはれみりゃの周りを回ることで回避するという 方法が考案されていたがそれだけでは攻撃に移れない。 が、左右への動きが可能ならば回っている最中に 突然真横に飛んで体当たりしたり 場合によっては直線の攻撃は避けながら接近が出来る そんな攻防一体の戦闘スタイルだった。 これを思いついたきっかけもやはりあのきめぇ丸だった。 あんなに速い奴の攻撃を目で見て避けるなんて不可能だ。 だからこそ全く止まらずに左右に移動し続け的を絞らせない作戦。 「蝶がいたよ!」 木の根元に生えている花に大きな蝶が止まっていた。 まりさは蝶の正面に回りこみ、花ごと噛み付くつもりで飛び掛った。 「はっ!!」 接触寸前に蝶が横へ飛んだ。 まりさは蝶野位置を横目で捉えると 「えいっ!!」 横っ飛びで木に体当たり。 蝶を挟み込む要領で潰して仕留めた。 この行動には、連続攻撃の意味合いもある。 攻撃位置への移動、そして連続でジャンプをすることで 外れた対象に方向転換することなく着地の瞬間真横や真後ろに向かって再び攻撃ができる。 今仕留めた蝶もそうだが、動く敵には攻撃し辛いし 自分が縦横無尽に動けるのならば回避行動も攻撃行動もとりやすいという 利点を併せ持っていた。 「いたたたたた…蝶々は…それなりー」 あまりにうまくいったため調子に乗って思い切り体当たりをしてしまった。 木と衝突した身体がちょっと痛かった。 ――――同日、昼過ぎ―――― 太陽が真南を通過する頃、一行は目的の狩場で狩りをしていた。 隻眼のまりさはというと、木の枝をくわえては下ろしている。 「これは大きいかな…こっちは細いかも…」 ここでまりさが行っているのは武器の選定だ。 戦闘において、敵に止めを刺すには必ず二匹以上での連携が不可欠だ。 というのも、ゆっくりの死亡条件である中身の喪失という条件を ゆっくりの身であるまりさが満たすには、相手の頭部を潰すしかないのだ。 そして頭部を潰すには囮役となり敵の攻撃を回避する役 敵を倒すか止まった敵に一撃を加えてフィニッシュに持っていく もう一匹がどうしても必要。 それが必要なのもゆっくり同士で相手を損傷させるのが 困難であることに起因する。 そこでまりさが取った方法の一つがみょん種のやっている 木の枝を使った戦闘方法である。 だが、みょん種が特別強いというわけではない。 問題は致命打を与えるかどうかということ。 一対一でならともかく、多数対多数の戦闘で 木の枝を使って攻撃を仕掛けたとて、一匹にダメージを与えるだけで 殺すことはできないし、刺した棒を再び武器として使うには 抜いてから再び構えないといけない。 だからまりさは使い捨てで使える木の棒を選定しているのだ。 長すぎると取り回しが悪いし持って戦うにしても邪魔になる。 そして実際使うに当たって基本的には口にくわえて 体当たりの攻撃力を増大させるのが目的。 故にインパクトの瞬間折れることがないもの つまりは真っ直ぐであり、鋭く、なおかつくわえるグリップ部分が 太めになっている枝がベストなのである。 「っ!つっ!!」 口にくわえたまま例のステップを敢行。 一通りステップを踏んでみた結果、一本いいものを見つけた。 実戦で使ってみるまで使い勝手は分からないが 役に立たないのであれば捨てて戦えばいいのだ。 「まりさ、何してるの?」 「ん、別に…」 ありすが近づいてきた。 元々誰かに話すつもりはなかったし このありすに話しても理解できるとは思えなかった。 「最近まりさ、かっこよくなったわよね…」 「え?そ…そう…?」 なんだか様子がおかしい。 このありすはこの夏独り立ちをしたばかりで 越冬に向けての食料集めが難航してるという話を聞いた。 今回の狩りにどうこうしたのもそれが理由だ。 「なんて言うのかしら…変わったというか強くなったというか… 前のまりさと今のまりさは全然違う…」 「…………?」 なにやら身の危険を感じ始めた隻眼のまりさ。 が、仮にも集落の一員だ。 いきなり攻撃するわけにもいかない。 ともかく、話してみないことにはどうにもならない。 「ありす、狩りの調子はどう? 越冬に向けて秋のうちにたくさん食料を集めないと大変だよ?」 「まりさ…私とずっとゆっくりして!!」 ありすの唐突な言葉。 『自分とゆっくりして』はゆっくり達に共通する求愛の言葉だ。 そう言えばこのありすはまだ番がいなかったな、と頭の片隅で考える一方 隻眼のまりさは今回も『ゆっくり』という言葉に反応した。 「いやだよ!ありすとゆっくりするつもりなんかないよ!!」 ついつい怒鳴ってしまった。 今のまりさはゆっくりするつもりなど全くない。 ありすのゆっくりして、がまりさにとっては嫌悪感を感じさせる 言葉以外の何者でもなかったのだ。 ちなみに否定したのはゆっくりすること、なのだが ありすにとっては致命的な言葉。 そしてその一瞬の感情の爆発は 「まりさあああああああああああああああああ!!! つんでれなのねええええええええええええええ!!!」 ありすをレイパーとして覚醒させる起爆剤となってしまった。 「うわあああああああああああああああああ!!!」 飛び込んできたありすをバックステップで緊急回避。 危なかった。 今回自分が考えた戦闘スタイルがなければ こんな回避方法は取れなかっただろう。 そして自分が考えた方法が決して間違いでなかったことを 感じさせるには十分だった。 「まりさああああああああああああああ!!!」 そこでまりさは一つのことを考え付いた。 自分は武器の選定を誰にも話すつもりはなかった。 故に、ここには誰もいない。 そして、今自分の下には丁度いい枝が一本だけ。 レイパーと化して他のゆっくりを死なせた者は 例外なく制裁か追放だ。 だからこそ、このありすで模擬戦闘を行おうという考えに至った。 「まりさあああああああああああああ!!! すっきりしましょおおおおおおお!!!!」 「……っ!!!」 真っ直ぐ突進してくるありすを今度はサイドステップでかわす。 目を見開き涎をたらすありすは今までのすました ありすのイメージとはかけ離れている。 髪の毛を振り乱して突進してくる様はれみりゃとは 違う恐怖心を煽られる。 「どぼじでにげるのおおおおおおおおお!!??? どっでもぎもぢいいのよおおおおおおお!!??」 まりさに回避されたありすがこちらに顔を向けてきた。 顔面から地面に激突したありすはさらにひどい顔になっている。 正直直視したくない。 まりさは連続でバックステップを踏んで距離をとる。 「まりさあああああああああああああ!!!!」 それしか言えないのか、と冷めた感情を持ちながら サイドステップで接近。 「まりさああああああああ!!! やっどうげいれでぐれるのねえええええええええ!!」 冗談じゃない。 まりさの心はますます冷え切っていく。 すれ違う瞬間、まりさはカウンターチャンスを見ていた。 ゆっくり同士が衝突する場合、顔面から正面衝突するより 人間で言うショルダーチャージの要領で斜めから 当たるほうが有利だ。 その方が顔面が痛くないし側面のほうが凹凸が少なく頑丈 なおかつ痛みが少ないので手加減なしで体当たりが可能だ。 「どぼじでよげるのおおおおおおおおおおお!!!!」 連続で突っ込んでくるありすを最小限のサイドステップで回避。 まりさの回避運動が闘牛士のように冴え渡る。 普通のゆっくりなら背を向けて逃げてしまうため なりふり構わない突進をしてくるレイパーに体力差で 捕まってしまうのだが 今のまりさは最低限度の動きで回避しているのだ。 このペースで行けばありすのほうが先に力尽きるのがオチだろう。 「ばりざ!ばりざ!ばりざ!ばりざああああああああああ!!!」 ありすの顔はもう先ほどと同じゆっくりとは思えないほどに変貌していた。 その場ですっきりするつもりで仕掛けてきたのだろう。 連続しておあずけを食らって頭がおかしくなったのかもしれない。 が、ありすの熱が高まれば高まるほどまりさの心は冷え切っていった。 そして冷え切るのと同時に、これまでにない昂ぶりも感じていた。 ゆっくりしていた頃には考えられない。 冷めれば冷めるほど、冷静な回避ができた。 高まれば高まるほど、強力な攻撃が出せる予感がした。 「…!!」 そうか、と隻眼のまりさは唐突に気付いた。 これが戦闘だ。 ゆっくりにとって制裁やゲスの攻撃など単なる暴力だ。 相手がまともに抵抗しないように数や力だけで圧倒する 単純なものではない。 確実に、残酷に、相手の命を奪うことに特化した 命、誇り、信念をかけた戦い。 「ま…………まり…………………まりざぁ……… まりざああああああああああああああああああ!!!」 「うわああああああああああああああああああ!!!」 隻眼のまりさは全身に力がみなぎるのを感じた。 それは、不思議な感覚だった。 カウンターを発動するときの緊張感じゃない。 突進するときのがむしゃらさでもない。 最後の力を振り絞って向かってくるありすに まりさは、全力の攻撃を仕掛けていた。 ――――同日、夕刻―――― 隻眼のまりさは連れて行った狩りに行った皆と共に 集落へ帰還していた。 …件のありすをのぞいて。 「じゃあ、結局見つからなかったの?」 「うん、遠くに狩りに行ったのかもしれないし 気付いたらいなくなってたんだよ。 一人立ちしてからまだ狩りになれてなかったからかも…」 嘘だ。 ありすはまりさが殺したのだ。 「ごめんね。 まりさがしっかりしていなかったから…」 「仕方がないわ。 いくらまりさでも全部のゆっくりを見張ることなんてできないわ」 あの後、まりさが集合をかけて皆を集めた時 ありすは当然戻ってこなかった。 皆で少しだが辺りを探してみたが 地面に埋められたありすの死骸を 他のゆっくりが発見できるはずもなく やむなく集落に戻ってきた、という形を取ったのだ。 現在ブリーフィングでその旨を報告しているところである。 「ありすの家族は?」 「あのありすは一人だったし、おかあさんとおとうさんも もう死んじゃってるから…」 「…そう、わかったわ まりさ、今日は大変だったわね。 日が暮れるからもう休みましょう」 「分かったよ」 そう言ってぱちゅりーは自分の部屋であるドスの 洞窟の横穴に入っていった。 ――――同日、日没―――― まりさは、あの時のことを思い出していた。 『うわああああああああああああああああ!!!』 『まりさあああああああああああああ!!!ぎゅぶぇっ!!!』 いつものカウンターとは全く違う感覚。 木の枝をくわえて突進してくるありすに対して 交差法での体当たり。 それだけのはずだったのだが あの時の体当たりは全く違うものだ。 なぜならば、体当たりのヒットしたありすは見事に 『バラバラに砕け散って』死んだのだ。 その直後、我に返ったまりさは急に別の意味で頭が冷えていき 大変だ、どうしよう、と焦りに焦った。 だが少ししてからだったら埋めてしまおう、と思い 武器の候補として集めていた木の枝を使って ありすの死骸を地面に埋めてやり過ごした。 ありすがレイパーに名って襲ってきたと言えば 理解が得られるかもしれないが 何よりまりさはあの状況、あの感覚を 誰かに説明する気になれなかったのだ。 ゆっくり殺しの汚名を着せられることでもなく ただあの時の一瞬の感覚と 戦いの中で得たものをごたごたのせいで失くしてしまうことが まりさにとっては一番の損失だった。 そしてまりさはこの一件ではっきりと分かった。 自分を縛っていたのはゆっくりだ。 ゆっくりしていたらあのありすに襲われていただろう。 そして、ゆっくりしていたらあの感覚は得られなかっただろう。 もう二度とゆっくりするものか、と思いつつ 隻眼のまりさは倫理や、秩序、規範 そしてゆっくりとしての概念や矜持を捨ててでも この先にあるものを見てやる、と意識を新たにしながら眠りについていた 続く あとがき まず最初に、掲示板での様々なコメントありがとうございました。 下げた頭が上がらないというのはこのことです。 あれほどの反響が得られるほどこの作品が読まれていたことを そして続いて欲しいという言葉を嬉しく思います。 感想を一通り読ませてもらいましたが 全ての意見の中でおおよそ共通するのは 『評価されたきゃ完走しろ』というのがありました。 人気がないのであれば投稿自体が邪魔になってはいないかとも思っていたのですが 僭越ながら続けさせてもらおうという思いを新たにしました。 本当にありがとうございます。 加えて、感想を下さいなどということをあとがきに載せた事 本当に申し訳ありませんでした。 ご迷惑になっていなければいいのですが。 まあこの話題はこれくらいで。 この作品の特徴ですが ゆっくりがゆっくりらしくない 心理描写が多すぎ の二つを含むところはテーマ上変わらず続いていくので ご了承ください。 これからは私は九郎ver.2とまでは行きませんが 九郎ver.1.01位の気持ちでやっていきたいと思います。 お気に召しましたら、今後もどうぞよろしくお願いします。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 anko3053 ゆっくり駆除業者のお仕事風景2 前編 anko3054 ゆっくり駆除業者のお仕事風景2 後編 anko3060 ゆっくり駆除業者のお仕事風景3 anko3061 隻眼のまりさ プロローグ anko3075 隻眼のまりさ 第一話 anko3084 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 幕間 anko3091 隻眼のまりさ 第二話 anko3101 ゆっくり駆除業者のお仕事風景4
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1189.html
・『ふたば系ゆっくりいじめ 376 飼いゆっくりれいむ』で登場した元飼いまりさが主役です とはいっても前作は読まなくても問題ないと思います ・本作で出てくるのうかりんは、全員媚薬を飲まされてローターを入れられています そんなそぶりを見せずに働くのうかりんに萌えて下さい 『家出まりさの反省』 D.O 「はぁ・・・、困ったわ。」 人通りの多い町中で特大の溜息をついているのは、 湯栗町に校舎を構える学校、湯栗学園小等部の英語教師、美鈴先生だ。あだ名はめーりん先生。 彼女の溜息の原因は、小5の頃にはDカップを超えていた、この大きな胸が邪魔で邪魔で・・・ というわけではなく、右手に提げているペットキャリーバッグ、その中にいる、彼女の飼いゆっくりだ。 「ゆぅん!さっさとだして、あまあまよこすんだぜ!このくそばばぁ!!」 「あーあ。なんでこんなになっちゃったんだろ・・・。」 このまりさだが、無論元からこんな態度だったではなかった。 ゆっくりには定評のある虹浦町でも最大手のゆっくりショップで買ってきた、正真正銘の銀バッジ赤まりさだったのである。 元気過ぎる点はあったものの、人懐っこく素直で可愛かったまりさ。それがなぜ? 彼女とまりさの出会いは今から2か月ほど前にさかのぼる。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「あぁ~・・・うらやましいわぁ。」 ここは湯栗学園の敷地内にある合宿所・・・のはずが、なぜか職員寮になってしまった建物。 めーりん先生は、その窓のカーテンの隙間から、中にいる人影を熱心にのぞきこんでいた。 視線の先の人物は、学校管理を任される公務ゆっくり、ゆうかりんとふらんちゃん以外で、 唯一この職員寮に住んでいる家庭科教師・優宇河先生だ。 教師内では最年少に近い二人、年の差も一年、バストサイズではめーりん先生がやや優勢。 密かに学園内の人気を二分しているライバル、とめーりん先生が一方的に思い込んでいる相手だったりする。 ちなみに生徒からはそれぞれ『めーりんちゃん』、『優宇河先生』と呼ばれている。 『優宇河先生、さようなら!』 『めーりん、じゃーなー!』 などとあいさつされるたび、めーりん先生は自分の方が生徒と仲良くなれていると思っていたようだが、 両者のキャラクターやら受ける尊敬の度合やらの違いは、これだけでもわかってもらえると思う。 脱線してしまったが、そんな彼女が今羨ましがっているのは、 優宇河先生がぺにぺにを指で弾いて遊んでいる、2匹のまりさについてであった。 「ああ、ゆっくりってあんなに可愛かったのね。 ゆうかりんやふらんちゃんが特別優秀だと思ってたけど、あのまりさ達なんて、拾ってきたって言ってたわ。 生徒たちより言うことよく聞くし、素直でいい子なのよねぇ。ああー、私も欲しわぁ。」 と、いうわけで、その日の夕方ゆっくりショップに駆け込んだめーりん先生は、 くりくりとした瞳のとてもきれいな赤まりさを、給料の1割をはたいて購入したのであった。 「おにぇーしゃんがまりしゃのかいぬししゃんなのじぇ!?ゆっくりおねがいしましゅのじぇ!」 「きゃー!やっぱりかわいいわー!よろしくね、まりさ。」 「・・・ぇすので、銀バッジと言っても、大きくなるまではきちんと躾を・・・あの、聞いてます?」 めーりん先生は、思い違いをしていた。 ゆうかりんやふらんちゃんは特別優秀な上に厳しい訓練と選別を受けてきた、一流の公務ゆっくりなわけだが、 まりさ達にしても生粋の野良としての経験と、その厳しい世界で代々生き延びた賢明さを併せ持った、これまた特別製であったのだ。 加えて言うと、優宇河先生との指導者としての個性の違いにも気づいていなかった。 そして現在。 めーりん先生がすっかり成長したまりさを連れてきたのは、まりさを購入したゆっくりショップである。 「くそばばぁ!とっととだすのぜ!いたいおもいしないとわからないのぜ!?」 「という感じで・・・。」 「いやー、またずいぶんと調子に乗らせましたね。ウチで販売した中じゃ、ちょっと珍しいくらいですよ。」 まりさのお帽子にかつてつけられていた銀バッジはもうない。 銀バッジ登録の更新試験に落ちてしまったためだ。 バッジのあった場所にはうっすらと傷がある以外、なにも存在しない。 「・・・それで、お値段なんですけど。」 「えー、この状態から銀バッジの再調教となりますと、2週間で15万3千円になります。」 「うぇっ!嘘ぉ!」 「赤ゆっくりをゼロから調教するなら、大した手間ではないんですが、もう成体ですしねぇ。 一度人間をなめてしまうと、よほどのトラウマを植え付けないと元の関係は築けないんですよ。」 「いや、だからってこの金額は・・・。」 「それに、調教師だって再調教を専門とする者は少なくて。 相当高度な虐た・・・調教技術がないと心身に、目に見えるような傷を残すこともありますし。 調教を受けるゆっくりの可愛さと命を保証するための、必要な経費だと思ってください。」 「うーーーーん・・・。ちょっと考えます。」 「・・・弱った。いくらなんでも教員がポンと出せる金額じゃないわ。」 「すぴぃー、すぴぴぃー!ゆっくりさせろぉ・・・」 「寝言もゆっくりしてないわね。」 金の問題はもちろんあるが、だからと言ってこのまま放置するわけにもいかなかった。 実は昨日も、食事の用意を少し遅れただけで、授業計画やら教科書解説書やらをうんうんまみれにされたのだ。 その前は携帯電話を浴槽に放り込まれ、、さらに前は優宇河先生の生着替え写真に歯形をつけられた。 「らじぇ・・・らじぇ・・・」 「ん・・・ああ、ウチのまりさにもこんな時期があったわねぇ。・・・らじぇまりさ、5万・・・?」 ゆっくりショップのショーウィンドウには、気の優しそうな赤ゆっくり、しかも帽子に輝くのはキラキラの金バッジだ。 今のまりさより値段は張るが、再調教代ほどではなく、ましてこれから起こるであろう悪行による損害額も考えるとややお得。 そもそもめーりん先生は、ゆっくりに対して癒しを求めていたので、 ゲスまりさからの被害はこれ以上ごめんこうむるところだった。 めーりん先生の頭にはこの時、いくつかの選択肢が浮かんだ。 1.躾失敗の責任は果たすべき。まりさ再調教に15万払う。 2.ゲス化したまりさはこの際諦める。ゲスまりさは保健所行きにして、らじぇまりさ購入。 3.もうゆっくりは飼わない。ゲスまりさはおいしく料理の素材にする。 4.いっそ胴付きとかの賢い希少種を購入してみる ・・・・・・。 めーりん先生は、結局どれも選べず、一番やっかいな道を選んでしまった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− めーりんお姉さんの選んだ道、それは、まりさは飼いつつ、らじぇまりさも購入、という物であった。 とりあえず、ゲス化したまりさの方は自分でしっかり教育しなおすとして、 自分の癒しのために、らじぇまりさを購入。 らじぇまりさの素直な行動を見本にしてもらって、まりさにも反省してもらおうと言う計画でもあった。 そんなもの、上手く行きっこないのだが・・・ これに面白くないのはまりさである。 「らじぇ!らじぇ!」 「ほーら、いい子ねー!あまあまあげるからね!」 「らじぇ!!」 「(ゆぎぃぃぃぃ・・・あまあまはぜんぶまりさのなのにぃぃいぃ!!)」 「はーい!ボールさん投げるから、取ってくるのよー!『ぽーい!』」 「らじぇ!らじぇ!」 お姉さんが放り投げたピンポン玉を、ぽにょぽにょと跳ねて追いかけるらじぇまりさ。 その前に、まりさが立ちはだかる。 「ゆぎぃぃいいい!!このぼーるさんは、まりさのおもちゃなのぜぇぇええ!!」 「らじぇぇぇ!?」 「こらっ!まりさ!オモチャを独り占めしちゃだめでしょ!!」 「なんでそんなこというのぜぇぇえええ!?」 夜寝る時も、これまではまりさの定位置だった、めーりんお姉さんの胸元にはらじぇまりさがいる。 「そこはまりさのすーやすーやぷれいすなのぜ!!さっさとどくのぜぇぇ!!」 「らじぇぇぇ!?らじぇ・・・」 「こらっ!!まりさはお姉さんなんだから、自分のベッドで寝なさい!」 「ゆぎぃぃぃぃいいいい!!」 これまで、自分の言う事を聞く奴隷だったお姉さんが、今では新入りの赤まりさの奴隷になってしまった。 しかも、自分だけのあまあまも、自分だけのおもちゃも、自分だけのゆっくりプレイスも、全部侵略されていく。 まりさの中に蓄積されていく不満、不安。 そしてある日、そんな生活はついに破局を迎えたのであった。 パリンッ!! 「ゆぴぃぃぃぃいいい!!」 「ゆゆっ!?なんなのぜ!?」 らじぇまりさが子ゆっくりサイズにまで成長した頃、その事件は起こった。 らじぇまりさが、花瓶を倒して割ってしまい、その破片であんよを切ってしまったのである。 らじぇまりさも赤ゆっくりの頃はさほど行動的でもなかったが、子ゆっくりまで育った事で、 家の中全体を歩き回れるほどの体力もつき、好奇心もそれに合わせて大きくなっていっていた。 ゆっくりの飼い主が一番怪我に気をつけなければいけない時期である。 行動範囲が広がったことではしゃぎまわる子ゆっくりは、家の中の家具でも物でも、何でもいじりまわす。 その危険性を一つ一つ教えてやり、危ない目に合わないように教育することは、飼い主の重要な仕事の一つなのだ。 「らじぇぇぇぇ・・・いぢゃいのじぇぇぇ・・・」 「ゆわぁぁ。いたそうなのぜぇ。ぺーろぺーろ。」 日頃の恨みはともかく置いておき、傷をなめてやるまりさ。 そこに、騒ぎを聞いためーりんお姉さんが駆けつけてきた。 「うわっ!まりさ、何やってるの!」 「ゆゆっ!?このちびが、かびんさんをわったのぜ!けがしてるのぜ!」 割れた花瓶、あんよを切ったらじぇまりさ、側にいるまりさ・・・ 残念ながら、めーりんお姉さんの出した結論は、まりさにとって最悪の物であった。 「嘘ついちゃだめでしょ!!まりさはおねえさんなのに、おちびちゃんのせいにするの!?」 「・・・ゆぎぃぃいいいい!!なんでしんじないのぜぇぇえええ!!」 自業自得ではあるが、少々酷な仕打ちではあった。 そしてこのめーりんお姉さんの態度は、不満をため込んでいたまりさに対して、最後のひと押しとなってしまったのであった。 「ゆぎぃぃぃいいい!!!もうがまんできないのぜぇぇええ!!」 「まりさ!?」 「どれいのばばぁがどんなにあやまっても、もうゆるさないのぜぇええ!!もうにどとかおもみたくないのぜぇぇええ!!」 「ちょっ・・・まりさ!!」 まりさはそう叫ぶと、たまたま半開きにしてあった、庭に面した窓から外に飛び出していった。 ちなみに、不用意に窓を開け放しておかないのは、ゆっくりのみならずペットの飼い主の基本的な注意点である。 「まりさ、待って・・・!!」 めーりんお姉さんも庭に飛び出したが、 まりさはすでに、庭の生け垣の隙間から外に飛び出しており、姿を完全に消していた。 周囲を見渡しても、まりさの気配はすでにない。 「・・・どうしよ・・・」 こうして、まりさはめーりんお姉さんを見放し、自分は自由な外の世界へと羽ばたいていくことにしたのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− まりさは、おうちを飛び出すと、好奇心の赴くままに町中を練り歩いた。 これまでペットキャリーバッグの中から見ていた景色。 それが今では自分のあんよの届く場所にあるのだ。 それにしても、と思う。 「ゆふーん。まりさがいちばんゆっくりしてるのぜ!どいつもこいつもゆっくりしてないのぜ!」 町中は、ゆっくりで溢れていた。 電柱の影に、裏通りに、ビルの隙間に、どこを向いても、どこの行っても視界にゆっくりが存在しないことは無い。 だが、その一匹として、まりさのゆっくりっぷりにかなうものはいなかった。 薄汚れたリボン、虫や草のクズがついたお帽子、あんよは黒ずみ肌は黒ずみ汚れている。 生まれたての赤ゆっくりですら、まりさの清潔さにはかなわないであろう。 まりさは、それが飼い主の保護と努力によるものであることを気付いてはいない。 町中を歩いているうちに、小さな広場にたどり着く。 そこにもまた、ゆっくり出来ていない野良ありすの一団がいた。 「みゅほぉぉ!!みゅほぉぉぉ!!」 「おちびちゃん!それじゃあとかいはになれないわよ!!」 「ゆぅん。むぢゅかしいわぁ。」 「よくみててね!・・・むほぉぉぉぉおおおお!!!」 「しゅ、しゅごいわ・・・おにぇーしゃん、とってもとかいはにぇ・・・」 「(なにやってるのぜ・・・きもちわるいのぜ。)」 一方、都会派教育中のありす達もまりさに気がつく。 「ゆぅ、あのまりしゃ、とってもとかいはにぇ!しゅっきりしちゃいわ!!」 「・・・だめよ。あのまりさはゆっくりできないわ。」 「ゆぅぅ?どうしちぇ?」 「あのまりさ、きれいすぎるわ・・・きっと『すてられゆっくり』よ!」 「ゆぅぅぅ?」 「うふふ。おちびちゃんにも、そのうちわかるわ。でも、これだけはおぼえておいてね。 『すてられゆっくり』は、とってもゆっくりできないのよ。」 「わきゃらにゃいわぁ・・・」 その会話は、まりさの耳(?)にも届いている。 「ゆっくりしてない『のら』が、なにいってるのぜ!へんなこといってたら、ゆっくりできなくしてやるのぜ!!」 「ゆぁぁあああん!ゆっくちできにゃいわぁぁ!!」 「おちびちゃん、もういきましょう。ゆっくりできなくなるわよ。」 都会派ありすは赤ありすを連れて広場を去りながらも、まりさの方をチラリ、と一瞥した。 都会派ありすだけではなく、野良の成体ゆっくりは皆知っている。 飼いゆっくりは、野良とは比較にならないほど清潔な肌と飾りを持っていることを。 だが、飼い主を連れずに町を歩いている、飾りにバッジをつけていないゆっくりは、『捨てられゆっくり』であることを。 『捨てられゆっくり』は、初めのうちは美ゆっくりだが、無能で、ゲスで、人間さんにもゆっくりにも迷惑ばかりかける。 下手に近づくと、自分達だってロクな目に合わない。 だから野良ゆっくりは、『捨てられゆっくり』からなるべく距離を取り、無視するようになったということを。 まりさはそんなことなど、うかがい知るはずもない。 先ほどまでありす達がぺにぺにをしごいていた土管の上で日向ぼっこをしながら、 新しい奴隷になる人間を探さなければ、などとぼんやり考えていた。 まりさは、運がよいゆっくりだったのであろう。 本来はまずあり得ないほどの希少なチャンスが、この、昼寝中のまりさの元に転がり込んできたのであった。 「お、野良にしちゃ、キレイなゆっくりだな。」 「ゆぅん!とってもゆっくりしてるね!!」 「すーや、すーや・・・ゆゆっ!?なんなのぜ!」 突然日陰になったのを不審に思って目を開けると、まりさの前には一匹のれいむを連れた、 眠そうな顔をした人間さんが立っていた。 「お前、野良?」 「ゆゆっ!?まりさをそこらののらといっしょにすんななのぜ!!」 「ふーん?まあ、どうでもいいか。バッジ無えし。」 「なにいってるのぜ?」 「いやな、ウチのれいむが一匹じゃ寂しいってな。お前、このれいむと結婚するなら飼ってやるけど。どうだ。」 「れいむも・・・かっこいいまりさと、ずっとゆっくりしたいよぉ。」 「・・・・・・。(ゆぅぅ、まぬけそうなにんげんさんなのぜ。このれいむもばかそうなのぜ。ちょうどよかったのぜ。)」 「・・・ダメならいいや。じゃあな。」 「ま、まつのぜ!ゆふん!そんなにまりさをかいたかったら、かわせてやってもいいのぜ。」 「ゆっくりー!まりさ、ずっとゆっくりしようね!」 「ゆん!なかなかゆっくりしたれいむだから、とくべつにすっきりしてやってもいいのぜ。」 「・・・なんでもいいや。んじゃ、俺の家に行くぞ。」 こうしてまりさは、野良生活に堕ちない最後のチャンスを手に入れたのであった。 「ゆぅぅ~!とってもはやくてきもちいいのぜ~。」 自転車に乗せられて、人間さんの家までの快適な旅を終えたまりさは、 広大な畑の端にある林に囲まれた、古風な木造家屋の庭に案内された。 庭はゆっくりにとってはなかなか広く、草は短く刈り込まれ、庭の柵の向こうには林も広がっている。 まりさも先祖をたどれば、森や山の中で生活していたゆっくりである。 自然に近い環境に囲まれ、何やら胸躍る物を感じていた。 「ゆふぅぅうん!とってもゆっくりしてるのぜ~!きにいったのぜ!」 「そうか。なら良かった。んじゃ、れいむと仲良くやってくれ。」 なんだかんだ言っても、新生活に不安のあったまりさであったが、 あまりにもすんなり事が運んだので、増長するのも早かった。 「ゆぅ~ん、まりさ。すーり、すーり。」 「ゆへぇぇ!いいからとっととまむまむをむけるのぜぇ!『ぼよぉぉおん!』」 「『ごろんっ』ゆぅ!?もっとゆっくりしてぇ!」 「しったこっちゃないのぜ!まりさのぺにぺにをおみまいしてやるのぜぇ!!」 ずぼぉっ!ずっぽずっぽずっぽずっぽ・・・ 「ゆぁーん、いだいぃぃぃい!らんぼうすぎるよぉ。もっと、ゆっぐりぃ!」 「ゆっふっ!ゆっゆっゆっゆっゆっゆっすっきりぃぃぃいいい!」 「ずっぎりぃぃ。」 まりさにとっても初体験である。 れいむは野良程薄汚れていなかったこともあり、まりさから見てもそこそこ美ゆっくりだった。 かねてから興味のあった『すっきりー』の味は、なかなか満足できた。 ともあれ、これで初すっきりーも終え、まりさとれいむは立派なつがい(笑)。 まりさも晴れて飼いゆっくりに復帰である。 「ひどいよまりさ・・・」 「ゆふぅ。ひとしごとおわっておなかがすいたのぜ。にんげんさん、とっととごはんをもってくるんだぜ!」 まりさは、奴隷である人間さんに、当然の権利としてご飯を要求する。 だが、人間さんの態度は、まりさの望むものではなかった。 「その辺のを適当に食え。」 「ゆゆ!?なにいってるのぜ。ゆっくりふーどさんなんて、どこにもないのぜ。」 「草があるだろ。」 「な・・・なにいってるのぜぇぇ!くささんはごはんじゃないのぜ! ふーどさんがないならけーきさんでもいいのぜ!はやくもってくるのぜ、くそじじぃ!」 「ゆぅ。なにいってるの?おにーさんにあやまってね。くささんはおいしいよ。むーしゃむーしゃ。」 伴侶のれいむは、当然と言うようにそこらの雑草をむしゃむしゃ食っている。 「ゆぎぃぃぃいい!もういいのぜ!はやくおうちにいれるのぜ!べっどですーやすーやするのぜ!」 「そこに家ならあるだろ。」 「な・・・なにいってるのぜぇ!これはごみばこさんなのぜ!くさくてきたないのぜ!」 「ひ、ひどいよまりさ!おにーさんがれいむにくれた、ゆっくりできるおうちだよ! それに、れいむがいっしょうけんめいおそうじしたんだよ!ゆっくりあやまってね!」 伴侶のれいむは何の違和感も持たずに、 まりさが以前住んでいためーりんお姉さんのおうちでは生ゴミ用のポリバケツとして使われていた、 文字通りのポリバケツの中にモソモソと潜り込む。 まりさの態度に、人間さんの表情も曇る。 人間さんにとってゆっくりと言えば、文句を言わずに生ゴミを食べ、 花壇用の肥料としてうんうんを生産するコンポストなのだから、それも当然だろう。 この時点ですでにまりさは、人間さんにとって有益な『コンポスト』から、必要のない『モノ』になり下がっていた。 「・・・いいよ別に。文句があるなら勝手に出ていけば。」 「ゆふん!まったく、ばかなじじぃとゆっくりしてないごみれいむのほうが、このおうちからでていくのぜ! ゆっくりしたまりささまが、とくべつにこのおうちをつかってやるのぜ!」 だが、まりさは、その人間さんの空気の変化に気付かない。 当然と言わんばかりに人間のおうち明け渡しを要求する。 以前の飼い主であるお姉さんの時は、カッとなって自分からおうちを出ていってしまったが、 考えてみれば、まりさがおうちから出ていくというのはおかしいのだ。 「ふーん・・・。れいむ、どうやら一緒に暮らすのは無理そうだが。」 「ゆぅぅぅぅ・・・ゆっくりできないまりさだよぉ。」 「おぼうしかえしてね!まりさのおぼうし・・・ゆぁぁああ!!おぼうしなげないでぇぇぇえ!!」 「子供は大事に使ってやる。二度と帰ってくんなよ。じゃあな。」 ぽーい・・・ 「おぼうしさん、ゆっぐりおりでぎでぇぇぇぇ・・・・・・」 まりさがおうち強奪宣言をして2分後、人間さんはまりさのお帽子を取り上げ、フリスビーの要領で畑に放り投げた。 そして、まりさがお帽子にたどり着いた頃には、人間さんのおうちの玄関は固く閉ざされていたのであった。 それは、まりさが、今度こそ本当の意味で『捨てられゆっくり』になった瞬間であった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− だが、まりさは人間さんのおうちの玄関が閉ざされたことを確認する機会はなかった。 なぜなら、まりさがお帽子に追いついた、作物も収穫済みの畑のど真ん中で、 ちょうど森から下りて来たのであろうゲスゆっくりの集団に鉢合わせしていたからである。 「いいからだしてるわぁ。」 「おぼうしもぴかぴかだよー。」 「ちょうどたまってたみょん。」 集団は、ゲスありす、ゲスちぇん、ゲスみょん。 その視線は、いずれもまりさを品定めするように、お飾りからあんよまで舐め回すように動いている。 「な、なんなのぜ!まりささまにたてつくきなのぜ?」 だが、まりさの虚勢など何の意味も持たなかった。 「ゆっぎ『わかるよー』はなすのぜぇ!はな『うごいたら、いたいいたいだみょん。』ゆっぎゅぅぅ・・・。」 背後からありすとちぇんに抑えつけられ、みょんには鼻先(?)に棒を突き付けられた。 これまで甘い世界で言うことをなんでも聞く人間さんに守られていたまりさの抵抗など、 有能無能問わず、野生に生きるゆっくりにとって何の意味も持たなかった。 そして、 「むほぉ。きれいなまむまむねぇ。ありすがとかいはのあいをあげるわぁ!」 「ゆっへっへぇ、わかるよー。ちぇんたちにものこしてねー。」 「たっぷりかわいがってやるみょーん。」 「やべでぇぇぇええ『ずぷっ!』ゆぴぃぃぃいいいい!!」 「むほぉぉぉぉおおお!!とってもとかいはな、まむまむねぇぇえええ!!ずっぎりいいい!!」 「ゆひぃぃぃ!ずっぎりぃぃぃぃ・・・」 「とってもとかいはなすっきりーだったわ!まりさったらとってもいんらんね!」 「まりさのばーじんがぁぁ・・・ゆぁぁ・・・」 こうしてまりさの、まむまむによる初すっきりーは、まりさ自身がれいむに対して行ったのと同様、 ムードとは無縁の物となった。 そして、望まぬすっきりーにより、にんっしんしたまりさは瞬く間にボテ腹になる。 「ゆぅぅ・・・まりさのおちびちゃん・・・」 だが、れいぱーによるれいぽぅが、この程度で終わるはずもない。 「むほぉぉおお!!2かいめよぉぉぉおお!!」 「や、やべでぇぇぇええ!!おぢびぢゃん、ゆっぐりぢぢゃうぅぅぅううう!!」 どすっ!! 「むほびゅぅっ!!」 そのとき、ありすの側頭部に突然衝撃が走った。 衝撃により吹き飛ばされたありすは、まりさのまむまむにぺにぺにを残して、 2メートルほど先まで転がり、失われたぺにぺにの付け根を眺めて茫然としている。 そこには一人のお兄さんがいた。 人間から見れば、とてもお兄さんとは言えない。 おそらく50代ではあろう、頭髪がすっかりはげ上がり、 無精ひげがうっすらと伸びる顔には深いしわが刻まれている。 服装もスーツがすっかりくたびれて、猫背気味の姿勢と合わせて疲れたような印象を受ける。 お兄さんは、丸見えになったありすのあんよに容赦なくつま先蹴りを浴びせる。 ドスッドスッドスッドスッドスッドスッ! 「ゆぴぇ!び!ぴゅ!ぶ!びゅ!びっ!」 しゃべらせる暇も与えず、しかも殺してしまわないように蹴り続ける。 3分ほどひたすら蹴る音と、ありすの『げびゅっ!』という叫び声だけが響き続けた。 お兄さんの足が止まった頃には、微かにうめき震えるボロ饅頭となったありす。 レイプを邪魔されたと思ったらこの有様で、何が起きているのか理解できずに、残る2匹のゲスはそれを茫然と見ていた。 そして、それは明らかな失敗であった・・・ お兄さんはありすの処置を終えて2匹の方を振り向くと、 「ゆ・・・ゆっくりしていってねー・・・」 「ゆっくりしてみょーん・・・」 表情一つ変えることなく、 残り2匹にもありすと同じ仕打ちを与えたのであった。 「びゅ・・・ぴぅ・・・・・・」 10分後、あんよをぐしゃぐしゃに蹴り潰された3匹のゲスが、まりさの目の前に転がされていた。 お兄さんは、虫の息の饅頭達から飾りを取ると、両手でぐしゃぐしゃと丸め、靴にこびりついた餡子をふき取り、 ゲスありすの元ぺにぺにの傷跡にねじ込んで、まりさの方を振り返った。 「あ・・・ありがとうなのぜ、おにいさん・・・。」 お兄さんと呼ばれたオッサンは、表情一つ浮かべずまりさを眺めていたが、 やがてまりさを両手で抱えると、一言も発することなく自分の家へと帰って行ったのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ゆぅ~・・・こわかったのぜぇ・・・。」 お兄さんのおうちの地下は、広さ8畳ほど、打ちっぱなしコンクリートの壁と床で、天井には照明1つ、 机が一台あるだけの、簡素な部屋であった。 「でも、やっぱりまりさはえらばれたゆっくりなのぜ!」 お兄さんは、まりさが手も足も(?)出なかったゲス達をボロ饅頭に変えてしまった恐ろしい人間さんだったが、 まりさを助けてくれたということは、どうやらまりさの奴隷希望ということらしい。 「ゆっくりできないすっきりーだったけど・・・おちびちゃん・・・」 すっかり大きくなってしまった自分のお腹を眺めるまりさ。 まりさは父親になることが望みであったので、2重の意味でショックだったが、 そうは言っても、にんっしんした以上、おちびちゃんに罪は無い。 まりさは自分が腹を痛めて産む以上、おちびちゃんをゆっくりと育てる決心をしていた。 このあたり、まりさは飼いゆっくりとして品種改良された、良餡のゆっくりではあった。 「ゆぁぁぁ、おぢびぢゃん、うばれるぅぅぅうううう!!」 それから2時間後。 早くもまりさは産気づいた。 通常であれば、にんっしん期間の短い植物型出産でも数日はかかるのだが、 れいぽぅされた場合極端ににんっしん期間が短くなるという性質がゆっくりにはある。 望まぬすっきりーによって異物と判断された精子餡を、一刻も早く体外に出そうとする防衛機能によるものと言われているが、 実際のところはよくわかっていない。 「ゆっぎっぎっぎっぎぃぃぃぃいいい!!ゆっぐぢうまれでねぇぇえええ!!ゆっ!」 しゅぽーん!べしょっ!! 「ゆ、ゆ、ゆぅ、・・・ゆっくちちちぇっちぇにぇ!!」 「ゆぅぅぅううう!!ゆっぐぢぢでいっでねぇぇ!!」 こうして、胎生にんっしんにしては早すぎる出産ではあったが、 新しい命、一匹の赤まりさが誕生したのであった。 「ゆっくちちちぇいっちぇにぇ!!ゆっくち!ゆっくち!」 「すーり、すーり!しあわせー!」 「しゅーりしゅーり!ちあわちぇー!」 ぎいっ・・・。 「「ゆゆっ?」」 そのときちょうどよく、お兄さんが部屋に入ってきた。 「おにーさん!まりさのおちびちゃんがうまれたのぜ!おいわいにあまあまをもってくるのぜ!たくさんでいいのぜ!」 「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!」 だが、お兄さんの返事は無かった。 返事の代わりにまりさ親子に向けられたのは、お兄さんの両手。 その両手は、そっとまりさ親子のお帽子を掴むと、しゅぽんっと頭からお帽子を奪った。 「ゆ・・・くち?」 「ゆ!?やめるのぜ!まりさとおちびちゃんのおぼうし・・・」 返事は無い。 お兄さんは、机の上に赤まりさのお帽子を置くと、まりさの大きなお帽子を両手で持ち、 ・・・びりっびりびり・・・ その黒く美しく輝くお帽子を、真っ二つに引き裂いた。 「ゆっ?ゆっ、ゆっ・・・ゆぁぁあああああ!!おぼうじがぁぁあああ!!」 ・・・びりっ・・・ 真っ二つに裂かれたお帽子は、さらに縦に引き裂かれ、4本になる。 「ゆぁぁあああ!!」 ・・・びりっ・・・びりっ・・・ 4本に裂かれたお帽子は、さらに縦に引き裂かれ、8本、16本の短冊になっていった。 「ゆっ・・・ぎ・・・」 「ゆぁーん、おきゃーしゃんのおぼうちー。」 まりさの目の前に置かれたのは、もはやお帽子であったかどうかもわからない、短冊状の黒い布。 ついさっきまでゆっくりしていた、まりさの黒く輝くお帽子は、永遠にその姿を失ったのであった。 「おぼうし・・・ゆっぐぢ・・・」 まりさは必死で組み立て、元の形にしようとするが、当然治るはずはない。 そして・・・ 「ゆぁーん!まりしゃのおぼうち、ゆっくちさせちぇー!」 ・・・びりびりびり・・・びりびり・・びり・・・・ 赤まりさのお帽子も、まりさのお帽子と同じ運命をたどった。 「おぼうしさん、ゆっぐぢ・・・ゆっぐ・・」 「ぺーりょ、ぺーりょ・・・どうしちぇ・・・」 必死で組み立て直し、ぺーろぺーろしてくっつけようとがんばっても、 そんな方法で破れたお帽子が元に戻るはずもなく、はらりと崩れ、元の黒い紐になる。 お兄さんは、そんなまりさ達の姿を机に腰掛けてしばらく眺めていたが、 やがて腰を上げ、まりさ達の元に戻ってきた。 「じじぃ・・・ゆっぐぢ、おぼうじ・・・もどにもどぜぇ・・・」 「ゆぁーん、ゆっくちさせちぇー。」 その声を聞き入れたのか、お兄さんは、まずまりさのお帽子だった黒い紐をまとめて拾い上げる。 だが、その後とった行動は、まりさが奴隷に命令した通りのものではなかった。 ・・・しゅるっ・・ぎゅっ!・・・しゅる・・・ 「な、・・・なにしてるのぜ?」 まりさの目の前で、黒い紐の束は先端同士を結び付けられ、一本の細長い紐になっていった。 「そんなのいいから、さっさともとにもどすのぜぇぇええ!!」 ぽよん、ぽよん、とお兄さんの足に体当たりするが、全く反応は無い。 やがてまりさのお帽子が一本の長い紐に変わり、赤まりさのお帽子も、同じく一本の長い紐になった。 「ゆぅぅ・・どうしちぇ・・・」 「ゆがぁぁあああ!!もどにもどぜぇぇええ!!」 ぽよんっ!ぽよんっ! そして、お兄さんの足に体当たりするまりさと、ひたすら泣き続ける赤まりさの目の前で、 まりさの帽子であった紐の先端に、ライターで火がつけられた。 「ゆびゃぁぁああああ!!ゆっぐぢぎえでね!ゆっぐぢぎえでぇぇええ!!」 とっさにあんよで火を踏み、もみ消すまりさ。 じゅっ!! 「ゆびぃっ!!」 火は消えたが、あんよの一部は焼け、饅頭皮の焦げるにおいが部屋に広がる。 そして、火が消えた次の瞬間には、帽子紐の反対側の先端に、ライターで火がつけられていた。 じゅぅ!「ゆぴぃっ!」じゅっ!「ゆぁぁっ!!」じゅぅ!「ゆぎぃぃ!!」 一方の先端の火を踏み消すたびに、反対側の先端に火がつけられる。 あんよはみるみる焼け焦げていき、歩行能力は失われていく。 そして、まりさがもはや這うことしか出来なくなった頃、まりさのお帽子を材料とした長い紐は、 床に一筋残された煤以外、跡かたもなく焼き尽くされたのであった。 「ゆ・・・あ・・・まり、さの・・・おぼうぢ・・・」 そして、赤まりさの帽子も当然、その運命を共にすることになる。 シュボゥ・・・ 「ゆぴぃぃいい!!まりしゃのおぼうち『じゅっ』ゆぴぃぃぃ!!」 1つ違うことと言えば、赤まりさのあんよは余りにも薄すぎ、火を踏み消すこともできなかった事だけ。 「おきゃあしゃぁぁん!まりしゃのおぼうち!おぼうちぃぃー!」 「ゆ・・・ぎ・・・おぢびじゃ・・・」 まりさのあんよは、赤まりさの叫びに突き動かされながらも、わずかに這い進むことしかできなかった。 燃え上がる赤まりさのお帽子、かつてお帽子だった黒い紐までたどり着くことは、ついにできなかったのであった。 「ゆぁぁーん!まりしゃのおぼうちがぁぁ!!ゆぁぁーん!!」 「ど・・・ぢで・・・」 そして、最後までお兄さんからの返答は帰ってくることがなかった。 それから30分後、まりさ親子は、先ほどまりさがゲスゆっくり達に襲われた場所に持ってこられ、 その場に放置されたのであった。 「おきゃーしゃん・・・」 「・・・なに、・・おちびちゃん・・・」 「・・・どうしちぇ・・・」 「・・・・・・。」 まりさには、自分がなぜ奴隷である人間さんに、こんな酷い目にあわさせられるのか、未だに理解できなかった。 ただ一つ確かな事は、まりさ親子があの人間さんによって、 今なお周囲に放置されたままうめき続けるゲスゆっくり達と、平等に扱われたという事だけであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− あれから川沿いの木の根元で一夜明かしたまりさ親子。 お帽子を失った喪失感を埋めるため、まりさは牛丼容器、赤まりさは卵の殻をかぶっているが、 正直言って慰めにもならなかった。 この頃になるとまりさも、赤まりさの献身的なぺーろぺーろでどうにか歩ける程度に回復していた。 しかし、一息ついて見ると体に力が入らない。 まりさは、家出して以降一度も食事をとれていないことに気付いた。 「ゆぅぅ・・・おちびちゃん、まりさはごはんをとってくるのぜ・・・ここでまっとくのぜ。」 「ゆぅ、ゆっくちりきゃいしちゃよ。」 実のところ、赤まりさはとっくに飢えの限界を越えており、 夜の間は木の周囲に生えていたコケや雑草をむーしゃむーしゃして食いつないでいた。 まりさにとっては不本意であろうが、赤まりさの舌は親より遥かに野生向きに矯正されつつあったのだ。 一方、そんなことは知らないまりさは、なんとか(自分基準で)ゆっくりした食べ物を探しに、 再び畑の方へとやって来ていた。 昨日の一件で、人間さんに下手に頼ると危険であることを叩きこまれたまりさ。 そうなってくると、まりさが知っている食べ物で、この周囲に確実にあることが分かっているものは、 一つしかなかった。 畑のお野菜である。 畑と言っても、まりさがゲス達と出会ったあたりの畑は、現在収穫済みで野菜が見当たらない。 そんなわけで少し遠くまであんよを運んでいると、明らかにゆっくり達のものと思われる怒声が聞こえてきた。 お帽子が無い今、他のゆっくりに出会いたくないまりさは、草むらに身を隠しつつ近づいてみる。 視線の先には、体高3mを超えるドスまりさがいた。 その周囲には、100匹は越えるであろう成体ゆっくりと、さらに数倍の数の子・赤ゆっくりがいる。 そして、群れに対面しているのは、一匹の胴付きのうかりんであった。 「お野菜さんを独り占めするゆうかりんは、ドスがせいっさいするよ!!」 「せいっさいするよ!!」×500 「ゆぅぅ~困ったわ。ゆうかは、独り占めなんて・・・」 「独り占めしないって言うなら、お野菜さんをちょうだいね!全部でいいよ!!」 「ぜんぶでいいよ!!」×500 「しょうがないわ・・・ドス、みんなもゆうかについてきて。」 「ゆわーい!おやしゃいしゃん、むーちゃむーちゃできりゅにぇ!」 「わきゃるよー!」 「ゆっくち!ゆっくち!」 どうやら、ドスの群れの交渉は成功したようであった。 まりさも、本来ならばあの群れについていきたいところではあったが、 お帽子が無い以上群れに紛れ込むのは難しい。 しょうがないので、とりあえずお野菜を置いてある場所を探るのと、 もし何個かお野菜を落として行ってくれたらそれを拾って帰ろうということで、まりさも群れの後をそっとつけていった。 のうかりんに連れられて畑の中の道を進むドス一行。 一行はやがて、そこそこの広さがある貯水池に通りがかった。 「このあたりでいいわ。」 のうかりんが、ふと立ち止まる。 「ゆ?お野菜さんが無いよ?早くお野菜さんをちょうだいね!」 「ちょーだいね!!」×500 だが、ドスの質問に対する返答は無く、のうかりんは、サッと右手を上げた。 そして、その合図と同時に、ドスの帽子がふわりっと宙に浮かびあがった。 「ゆぁぁ~!ドスのおぼうし!戻ってね!降りてきてね!!」 宙をひらひらと舞うドスの巨大なお帽子。 それは、風のせいなどではなかった。 注意深く周囲を見れば、ドス一行のはるか後方に、釣竿を手に持ったのうかりんがいるのが分かるはずだ。 手品のタネは簡単なモノだ。 ドスのお帽子を釣り針でひっかけて、釣り上げてやったわけである。 ドスのお帽子は、そのままドスからつかず離れずでヒラヒラと舞い続け、貯水池の真ん中に立てられた杭にひっかけられた。 「よかったよ。ドスのお帽子帰って来てね。」 だが、ドスとて所詮は饅頭だ。 ちょっとした雨くらいなら耐えられても、長時間水につかれば当然ふやける。 池の真ん中まで来て、帽子を杭から外している間に、程よくドスのあんよはふやけきっていた。 「どぼじであるげないのぉぉぉおおお!!」 あんよがふやけきり、気付いた時には方向転換すら出来なくなっていたドス。 のうかりん達にとっては、全てがいつも通りの作業である。 「どうしてまわりに、さくさんがあるのぉぉぉおお!?」×500 いつの間にか数匹ののうかりんが音も無く駆けつけて、折りたたみ式の柵で群れのゆっくり達を囲い込んでいる。 子・赤ゆっくりは柵の間を通り抜けられるが、そのさらに周囲を目の細かい網で囲いこんで、逃げられないようにしている。 明らかに成体と子ゆっくり以下を振るい分けする意図があった。 「ゆぁぁあああ!!やめてね!ゆうかりん!ドスに変な事しないでね!!」 ドスも当然、そのまま貯水池の中で溶かし殺したりはしない。 水を汚染されると厄介だ。 のうかりんは魚屋が使う胴付き長靴をはいて、ドスパークを受けないよう、ドスの後方から近づく。 「ゆぎゃぁぁあああああ!!ゆうかりん!!何ずるのぉぉおおお!!?」 そしてそのまま、特大のケーキナイフを使っての、ドスの後頭部から解体作業が始まった。 「ゆぎゃぁぁぁあああああ!!!どずのあんごさん、どらないでぇぇぇえええ!!」 ドスは後頭部を切り開かれ、餡子を10cm角のブロックにされて取りだされていく。 その作業速度は、手慣れている事もあり、人間のゆっくり解体職人並みにスムーズだ。 切り出された餡子は、バケツリレーの要領で貯水池の外まで運ばれると、猫車につめかえられ、肥料置き場に運ばれていく。 「ゆ・・・びゅ・・・ぎ・・・・・・」 ドスは、それから10分と経たないうちに意識を失い、30分後にはこの世から姿を消した。 「おーい。のうかりん。お仕事の調子はどうだ?」 「L田さん。ドスの処理は終わりました。他も大と小で分別終わってます。」 「うんうん。相変わらず手際いいねー。そんじゃ、大は肥料ね。小はのうかりん達のおやつにしていいから。」 「ゆーん!」×15 「あ、それじゃ、一番働いてくれたのうかりんには先にご褒美ね。」 「ゆぁ・・・ふぁん・・・まだおひるれしゅよぉ・・・」 「たまには、みんなの前ってのも・・・いいだろう?」 「ゆはぁん・・・」 「ゆぴぃぃぃいいい!!ゆっくちたしゅけちぇ~!」 「はいはーい。ゆうか達が美味しく食べてあげるからね~!」 「ゆぁぁ~ん、ゆっくちさせちぇ~!」 「やめてね!おちびちゃんがいやがってるよ!」 「安心してね。おちびちゃん達の苦しむ姿は見ずに済むから。」 「やべ『ぐしゃっ!』びぇ・・・」 まりさは、目の前の光景に戦慄していた。 自分が弱い事など自覚していないまりさでも、さすがにドスとの力の差位は理解している。 そのドスが、目の前で為すすべなく解体されていった。 また、自分と同程度の体格の成体ゆっくり達が、のうかりんに手も足も(?)出ずに餡子ペーストに変えられていく。 そして、その地獄絵図を作っているのうかりん達を指揮しているのは・・・まりさが奴隷と思っていた人間さんであった。 しばしの間放心状態だったまりさは、無意識のうちに体を揺らしてしまった。 その、草むらを揺する音がした次の瞬間、人間さんに激しく愛撫されていたのうかりんの右手から、閃光が走った。 しゅっ!! 「ゆっ!?」 しゅこんっ!! 閃光は、そのまま30mほど離れた茂みに潜んでいたまりさのお下げをかすめた。 まりさがぎこちなく後ろを振り向くと、 まりさの後方には、引きちぎられたお下げを貫き地面に突き立った鎌があった。 「まだ野良が隠れてるわ!!」ピッピーー!! 笛の合図とともに、周囲の畑から各々農具を手にしたのうかりん達が包囲に走る。 その動きは、統率された軍隊そのものであった。 「ゆぁぁぁああああ!!!」 まりさは、それでも何とか逃げ切ることに成功した。 群れに同行せず、一匹だけだったのが良かったのであろう。 ただし、その逃亡劇は、土と汚物にまみれ、泥水をすすり、一晩中眠ることも許されない悲惨なものではあったが。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− めーりんお姉さんの家を離れて数日しか経っていないが、すでにまりさは満身創痍、当初の余裕は完全に失われていた。 まりさは、食事も取れず、体は泥だらけ、お帽子もお下げも失い、 同行しなかったおかげでなんとか被害を免れた赤まりさ以外は、無事な部分などかけらほども残されていなかった。 これも赤まりさが、賢く周囲の草や木の枝を集めて即席の隠れ家を作ったり、 自主的に雑草などを食べてくれていたからこそではあったが。 「ゆぅぅ・・・このままじゃ、ゆっくりできないのぜ・・・」 「おきゃーしゃん、ゆっくちしちぇにぇ。いもむししゃんたべりゅ?」 「ゆぇぇ・・・おかーさんはえんりょするのぜ・・・。」 ともあれ、このままでは赤まりさはともかく、まりさはゆっくり出来なくなるのも時間の問題であった。 もはや、まりさに選択の余地は残されていなかった。 まりさの選ぶべき道は2つだけ、めーりんお姉さんのおうちに帰るか、最初に拾ってくれた人間さんのおうちに飼ってもらうか。 ・・・まりさは、人間さんのところへ向かうことにした。 めーりんお姉さんのところへ帰りたくなかったわけではない。 ただ、自転車でここまで連れてこられてしまったため、道がはっきりとわかるのが、 拾ってくれた人間さんのおうちだけだったのである。 まりさは、赤まりさを再び木の根元に残して、人間さんのおうちへ向かった。 思えば人間さんのおうちでは、わずか2日前にれいむにもにんっしんさせている。 もしもそれ以上おちびちゃんがいらないと言われたら・・・おちびちゃんには悪いが、 まりさはこれ以上野良生活には耐えられないと思っていた。 あのおちびちゃんなら、きっとひとりでも野生の世界で強く生きていける、そんな都合のいい事を考えていた。 要するに、最悪の場合は赤まりさを捨て、自分だけで飼ってもらおうと考えていたのである。 ガラガラガラッ! 人間さんが玄関から出てきた。 「お、おにいさん・・・」 「・・・・・・。」 だが、人間さんは、目の前にいるまりさを完全に無視した。 「お、お、おにいさん!まりさだよぉ。ゆっぐぢぢでねぇ。すーりすー・・・」 まりさが足にすり寄っても、その足をそっとどかすばかり。 一切反応は帰ってこなかった。 「やっばりがっでぐだざぃぃ・・・おねがいじばずぅ。」 通り道のど真ん中で土下座すると、人間さんは右足のインサイドをまりさの左頬につけ、 サッカーボールを扱うように、そっと横にずらした。 邪魔な『モノ』をどかすと、人間さんは何事もなかったように、すたすたと歩いていく。 「どぼぢでぇぇぇええ!!」 まだ諦めないまりさが、もう一度人間さんの前に立ちふさがろうとしたとき、人間さんと目があった。 その目には、怒り、憎悪、嫌悪など存在せず、それどころか、邪魔だとか、面倒くさいというような表情も浮かんでいなかった。 ただ、自分にとって無価値な、たとえば道の真ん中に石ころが転がっている、そういうものを見る目であった。 「ゆ・・・ゆ。ゆぁ・・・ゆぅ。」 まりさは、その視線に昨日のお兄さんや、農家以上の恐怖を感じ、とっさに道の脇によけた。 結局人間さんは、まりさの方を一度も振り替えることなく、駅への道を歩いて行ったのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 人間さんに飼ってもらえなかった日、 まりさには、困難はわかっていても、もはや他に選択肢は無くなった。 まりさは・・・めーりんお姉さんのおうちに帰ることを決心したのであった。 「ついたのぜ・・・」 「おきゃーしゃん!ここに、おきゃーしゃんのほんとのおうちがありゅの?」 「そうなのぜ・・・でも、つかれたのぜ・・・」 「しょうだにぇ!ゆっくちきょうはやすもうにぇ!!ゆっくち!ゆっくち!」 「ゆぇぇ・・・なんでそんなにげんきなのぜぇ・・・」 川沿いの道を歩くこと数日後、まりさはお姉さんと暮らしていた町の境界線にあたる、川の河川敷にたどり着いていた。 まりさも見憶えのある景色に喜んだが、町中とはいえ道を熟知している訳でもなく、これからは町中を探索する日々が始まる。 とりあえず、まりさは河川敷に落ちていた、雨に濡れたのであろうへにゃへにゃのダンボールを見つけ、 これでおうちを作って、今後の行動拠点とすることにした。 だが、弱っている時には何をやっても上手くはいかないものである。 「むきゅぅん。そのはこさんは、ぱちぇたちがいただいていくわ!むきゅ。」 「ゆぅぅ・・・これは、まりさたちがさきにみつけたのぜ・・・」 「わからないよー。まりさがもってるのをちぇんたちがみつけたから、それはちぇんたちのなんだねー。」 ここで再びゲス野良に出会ってしまった。 ゲスぱちゅりーを筆頭に、ゲスれいむとゲスちぇん。 頭もガラも悪そうな連中だが、今のまりさでは当然敵いそうにない。 まりさが油断していたのも無理はなかった。 町に入ってからは、お帽子が無いことでゆっくり出来ない視線を受けてはいたものの、 激しいイジメや攻撃は受けなかったからだ。 町では飾りのないゆっくりなど珍しくないことが原因ではあったのだが、 このゲス達、町で数代を過ごした町ゆっくりではなく、森から都会を目指してやってきた駄ゆっくり達である。 このゲス達としても、当面の宿が無いため、必死であったとも言えるのだが。 「だいたい、おかざりもないゆっくりが、れいむたちのおうちをひとりじめするなんて、ゆっくりできないよ!」 ぼよんっ! ゲスれいむの体当たりが、食糧不足でヘロヘロのまりさに直撃する。 「やべでぇぇぇえ!!」 「おきゃーしゃんをゆっくちしゃしぇちぇー!」 「むきゅーん。ぱちぇたちにたてつくと、おちびちゃんでもようしゃしないわよ?」 ぐしゃり! 「ゆぴぃぃぃぃ!やめちぇぇぇえええ!!」 「おぢびぢゃぁぁあああん!!」 こちらはすっかり野生に慣れて栄養状態は良い赤まりさであったが、成体との体力差はいかんともしがたかった。 あっさりと赤まりさを踏みつけると、どんどん圧力を強めるゲスぱちゅりー。 目玉が飛び出しかけ、口元からは餡子の混じった泡を吹き始める。 まりさもちぇんとれいむにまむまむとあにゃるを蹂躙され、身動きが取れない。 せっかく町までたどり着いたというのに、絶体絶命の状況に叩きおとされてしまった。 と、その時、赤まりさを押しつぶそうとしているぱちゅりーの後方から、抑制のきいた声が掛けられた。 「・・・チビ殺しはゆっくり出来ないみょん。」 そこには、まりさがこれまで見たこともない、これ以上ないと言うほどゆっくりしていないゆっくりが居た。 それは、お帽子の無いまりさ親子以上にゆっくりしていない風貌の、一匹のみょんであった。 顔面をすりおろしでもしたかのように、上下の唇が完全に削り取られ、前歯が丸見えになっている。 全身は細かい傷だらけだが、銀色の髪と黒いリボンだけは傷一つなく、気味が悪いほどに滑らかに手入れされていた。 額にはひらがなで『げす』と書かれており、まりさと同じく、人間の手による暴力を受けたのであろうことだけは見てとれる。 みょんは話を続ける。 「この町ではおうちもごはんも早いもの勝ちみょん。とっとと返して失せるみょん。」 みょんの話は嘘ではない。 元々資源の限られる町野良社会では、奪い合いを本気でやってしまうと結局誰もゆっくり出来なくなってしまう。 それを防ぐために、町野良の中では、狩り場(ゴミ捨て場)を独占したり、 誰かが一度手に入れた物を盗んだり、 あるいはおうちを強奪したりする事は御法度なのだ。 しかし、豊富な資源の中で奔放に育ったゲスに通じるような理屈ではない。 「むきゅぅぅ、ゆっくりできないみょんはしぬがいいわ!」 そう言うが早いか、先をとがらせた棒を口にくわえるゲス3匹。 だが、3匹がみょんに突進しようとした瞬間、 しゅこっ!! 閃光が走った。 次の瞬間、ゲス3匹は水平に、3枚づつにスライスされ、達磨落としのように崩れ落ちた。 まりさには、一瞬何かが光った以外、何も見えなかった。 ただ、みょんが舌を器用に使って、銀色に光る刃物らしき物を飲み込むのを見て、 アレでゲスをバラバラに切り裂いたのであろうことを察した。 みょんが、茫然としているまりさ親子に声を掛ける。 「おまえ、飼いゆっくりだったみょん?」 「ゆ、わかるのぜ?」 「ふぬけたかおだから、すぐにわかるみょん。」 「・・・ゆぅぅぅぅぅうう!?」 「どうせ、飼い主に逆らって捨てられたか、調子に乗って家出でもしたみょん。」 「ゆっぎっぎ・・・」 図星だ。まりさはなにも言い返せない。 「ふぅ。親がバカだと子供が苦労するみょん。」 その言葉は、妙に実感がこめられていた。 だが、赤まりさの声がその言葉をかき消す。 「おかーしゃんにひどいこといわにゃいでにぇ!!」 「ゆ!?おちびちゃん・・・」 「みょ~ん。・・・べろり!」 「ゆぴぃぃぃぃい!!きょわいぃぃぃいい!!」 「ゆわぁぁ!おちびちゃんになにするのぜぇ!?」 みょんの、通常のゆっくりの5割増しで長い舌で、顔面を舐められた瞬間、激しく泣き出し失禁する赤まりさ。 さっきまで怖い目にあってたかと思えば、今はそれ以上に恐ろしげなゆっくりに対面しているのだ。 緊張の限界だったのであろう。 「無理すんなみょん。」 「ゆぴぅ・・・ゆぅ・・・。」 赤まりさが泣きやむと、それを合図にしたかのように、小雨が降り始める。 バラバラにされたさっきの野良達も、空模様が不安だったからこそ、ダンボール一枚のためにあせっていたのだ。 「雨だみょん。どうせそんなダンボールじゃもたないみょん。ついてくるみょん。」 「ゆ、ゆぅ・・・。」 みょんに連れられてやってきたのは、川にかかっている橋の下だった。 「さあ、入るみょん。」 「ゆわぁ・・・しゅごーい!」 それは、橋の下でも特に死角になる、橋と道路の境界あたりに横穴を掘り、 さらにベニヤ板に草やツタを絡めた跳ね上げ扉をつけたおうちだった。 ぱっと見人間でも気付かないであろう。 「さっさと奥に来いみょん。雨さんが止むまではおいといてやるみょん。」 「ゆわ~。ゆっくちしちぇるにぇ~!」 室内を見てまりさ親子はさらに驚かされた。 人間さんの家には当然及ぶところもない。 しかし、そのおうちは、ゆっくりが自分で作ったものとしては信じられないほど見事なものであった。 入り口はやや狭く造られているが、奥は成体ゆっくり数匹がはいっても余裕があるほどの広い空間。 床には河原の丸い石を敷き詰め、その上に、天日で干したのであろう柔らかい草が敷かれている。 平たい石のテーブルや、木の皮や草を編んで作ったベッド、貯蔵食糧もバライティ豊かで、床に埋めた鍋には水もためられている。 彩のつもりか、光もはいらない室内にも関わらず、水をためた牛乳瓶には花が一輪飾ってある。 それは、まりさの野良ゆっくり観からはかけ離れた、非常に文化的な生活であった。 「それでも食っとけみょん。」 まりさが渡されたのは、まだ封を切って間もないメロンパン。 どうやって集めたのか、みょんのおうちの中には、人間でなければ手に入らないはずの食料も豊富にあった。 「そっちのチビには草を混ぜろみょん。そのまま食わすと舌がバカになるみょん。」 「ゆぅ・・ゆ。」 「むーちゃむーちゃ、ち、ち、ちあわちぇー!」 「むーしゃ、むーしゃ・・・しあわせ・・・ゆぅぅぅぅぅ。」 「おとなのクセに泣くなみょん。だから捨てられゆっくりはメンドくせーみょん。」 まりさは、泣き続けた。 このメロンパンは、まりさが家出をしてから数日間で、初めて食べたまともな食事だったのである。 しかもそれを与えてくれたのは、これまでまりさが見下し続け、汚いゴミ達程度にしか思っていなかった野良ゆっくり、 その中でもさらに飛びぬけてゆっくりしていない、この異形のみょんだったのだ。 それに、まりさがロクに食料も取ってこれない間でも、 まりさが苦くて食べられないような雑草を文句ひとつ言わずに食べて生きていたおちびちゃん。 おそらくもう一方の親の、ゲスありすの野生生活力だけを上手く引き継いでくれたのであろう。 まりさは、この中で、自分だけが誰かに頼らないと生きていけないゆっくりであることを悟らされたのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− まりさは、自分の窮状について、過去の経緯と合わせてみょんに全てを打ち明けた。 みょんの方は、聞けば聞くほど面倒くさそうな表情になっていったが、 赤まりさの方に妙に懐かれてしまったため、しぶしぶ最低限の協力をしてくれることになった。 とはいっても、一緒にお姉さんのおうちを探してくれる、などという都合のいい話は無い。 それは、まりさがお姉さんのおうちを見つけるまでの間、足手まといになるであろう赤まりさを預かってくれる、 というだけの話であった。 「こっちもイチイチ、アホなゆっくりの面倒なんて見てられないみょん。」 「ゆぅぅ、だからって、ウチにわざわざ連れてこないでほしいよ。」 「そういうなみょん。親はともかく、子供をみすみす死なせるのは夢見が悪いみょん。」 「ゆぅ~。しょうがないよ。みょんの頼みじゃ断れないよ。」 「大助かりだみょん。」 みょんがまりさ親子を連れてきたのは、町野良ゆっくりの孤児院、通称『ほいくえん』だ。 名前は微妙に間違えているが、機能は間違いなく孤児院なので、特に問題は無い。 みょんは、親切は自分の柄じゃないと言って、『ほいくえん』の園長、保育まりさに口利きだけして、 さっさと去っていってしまった。 やはり、厄介事はゴメンだということなのであろう。 「そんなわけで、しょうがないからおちびちゃんだけは、ココで預かってあげるよ。まりさはさっさと飼い主さんを探して来てね!」 「ゆぅぅ、ゆっくりおねがいするのぜ・・・。」 「・・・と、言いたいところだけど、タダで引き受けるわけにはいかないよ。」 「ゆっ!?でも、まりさはなんにもあげられないのぜ・・・」 「ゆふん。大丈夫だよ。まりさにでもできることをしてもらうだけだよ。それで、おちびちゃんも面倒見てあげるよ。」 「ゆぅぅ~・・・。」 保育まりさのいうところでは、要するにほいくえんで預かっているおちびちゃん達の授業に、 親子で参加して欲しい、という事であった。 その内容までは、結局教えてもらえなかったが、どうせまりさに選択の余地はなかった。 「ゆほんっ!おちびちゃん達!今日は特別授業だよ!」 「ゆっくちりかいしゅるよ!!」×200 「このまりさを見てね!!どう思う!ちぇん!」 「わきゃらないよー。おぼうしがにゃいんだよー。」 「ゆぅぅぅ・・・」 「ありす!」 「とっちぇもよごれてて、おはだもがさがさにぇ!ときゃいはじゃにゃいわ!」 「ゆぁ、ぁ、・・・」 「そうだね!とってもゆっくりしてないね!それはね!このまりさが、捨てられゆっくりだからだよ!」 「しゅてられ?」「ゆっくち?」 「『捨てられゆっくり』だよ!自分じゃ何にも出来なくて、人間さんにごはんも、うんうんの片づけも、ぜーんぶやってもらって、 それでも感謝しないで威張ってばっかりで、人間さんに見捨てられた、とってもゆっくりしてないゆっくりなんだよ!」 「ゆぅ・ぎぃ・・・」 「おきゃーしゃん・・・ゆっくちしちぇにぇ。」 保育まりさの口元には、陰湿な笑みが浮かんでいた。 何のことは無い。 保育まりさは、赤ゆっくり達への教育、という名目の元、 元飼いゆっくりであるまりさを、しかも自分の子供の前で、思いきりいたぶってやりたかっただけだったのだ。 「恩知らずで、何にも出来ないクセにいい気になってるゆっくりは、こんなにゆっくり出来なくなるんだよ! おちびちゃん達も、こんな風になりたくなかったら、がんばって立派なゆっくりに育ってね!」 「おきゃーしゃん・・・」 まりさはそんな保育まりさに対して、何一つ言い返す事が出来なかった。 そして、そんなまりさに対して、保育まりさすら予想していなかった、さらなる追い打ちが掛けられる。 それは、孤児ゆっくり達から発せられた。 「おにぇーしゃん。」 「ゆぅ、う、ゆぅ?なんなのぜ?」 「おにぇーしゃん、ゆっくちしちぇにぇ。」 「ゆ・・・ゆぅ。」 「おにぇーしゃんも、がんばっちぇ、ゆっくちしちぇにぇ!」 「おにぇーしゃんも、きっとときゃいはににゃれるわ!」 「むきゅ!おねーしゃんも、きっといつか、ゆっくちできりゅわ!」 「しょーだにぇ!ゆっくち!ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」 「わきゃるよー。ちぇんもおうえんしゅるよー。」 「みょんもおうえんしゅるみょーん!」 ・・・・・・。 それは、かつてまりさが、汚らしく、みすぼらしいと見下していた野良ゆっくりの中でも、 特に不幸な者たちであろう、両親を亡くした孤児ゆっくり達からの励ましの言葉であった。 孤児ゆっくり達は、純粋な善意だけからその言葉を発したのであろう。 しかし・・・それは、まりさが野良まで含めた、町のあらゆるゆっくりの中で、 もっともみすぼらしく、無能で、ゆっくりしていないゆっくりであることをハッキリと指し示されたも同然だった。 「おきゃーしゃん・・・ゆっくちしちぇー。」 まりさは、赤まりさの声もどこか別の世界の音にしか聞こえなかった。 このとき、まりさを形作っていた中身の無い自信、希望、生きてきた喜び、そういった物は、 跡かたもなく崩れ去ったのであった。 そして、まりさはほいくえんに赤まりさを預けると、もはや探す意味を見失いつつあるお姉さんのおうちを目指して、 ゆっくりと探索の旅を再開したのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− あれから数日後の深夜。 まりさは、飢えと疲れと失望の中、ゴミ捨て場で力尽きようとしていた。 夜間に積み上げられた生ごみの山の中で、薄れゆく意識の中、まりさは思う。 なぜ、自分はあんなに自信満々だったのか。 なぜ、自分は家出してしまったのか。 なぜ、自分はお姉さんにあんなに偉そうな態度をとっていたのか。 だが、まりさの中に、答えが浮かんでくることは無い。 当然だ。 まりさの持っていた自信に、そもそも中身や根拠など、かけらほどもなかったのだから。 赤まりさの事、そして、自分がれいむに宿した顔も知らない赤ゆっくり達の事も思い出す。 きっと、これでよかったのだ。 自分のような無能で、無意味な饅頭に育てられ、不幸な生涯を送るくらいなら、 あの頼りがいのある保育まりさやれいむに育てられる方がいいだろう。 それは、ある意味で正解だった。 事実、このときほいくえんでは赤まりさの出来の良さに保育まりさは驚いていたところだし、 れいむが生んだ赤ゆっくり達は、コンポスト、と呼ばれながらも何不自由ない生活を送っている。 そして、まりさは目を閉じ、結局自分が一番ゆっくりしていなかった事を気付き、 後悔しながら深い眠りへとついたのであった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ということがあってね・・・」 「ホント、よく生きて戻ってきたものねー。」 ここは、虹浦町内にあるイタリアンレストラン。 仲良くランチを取りながら話に華を咲かせているのは、 湯栗学園の名物教師、美鈴先生と優宇河先生だ。 そのテーブルには、美鈴先生の飼いゆっくり3匹と、優宇河先生の飼いゆっくり2匹もいる。 「ええ。髪の毛の、お帽子に隠れる場所に目印代わりのアクセサリーつけてたからよかったわ。」 「ホント、ゴミ捨て場で見つかるなんて、一歩間違えれば収集されて一貫の終わりじゃない。」 「そのゴミ捨て場の電柱に、『迷子ゆっくり捜してます!』て張り紙してたのがよかったのよ。なんでもやってみるもんねー。」 まりさはつくづく運が良いゆっくりだった。 めーりん先生は、あの後簡単にあきらめず、捜索願いと張り紙、聞き込みまでして必死に探してくれていたのだ。 まさか、町からそうとうに離れた農村地域まで行っているとは思っていなかったが。 「ほら、まりさ。ゆうか先生も捜すの手伝ってくれたのよー。お礼言いなさい!」 「ゆ・・・ゆっくちありが・ょ・・・ゆぅ。」 まりさはペットキャリーバッグの奥でコソコソと身を隠しながら、 人みしりの激しい人間のように、申し訳なさそうにお礼を言う。 そこに、かつての図に乗ったゆっくりの姿は無かった。 「出勤のたびに捨てないで、ひとりにしないでって泣き喚くのよ。うれしくもあるんだけど。 夜ひとりでおトイレにもいけなくてねぇ、お漏らしが直らないのよ~。」 「ゆぁぁ~ん!ゆっくちごめんにゃしゃいぃぃ!しゅてないでぇ!ゆっくちしちぇぇぇ!!」 しかも、ショックが利きすぎたのか、若干幼児退行してしまった。 まあ、これも可愛くはある。 「そういう意味では、どっかで作ってきたおちびちゃんの方が、ずーっといい子なんだけどねぇ。」 「その割には不満そうだけど?」 「お利口すぎるのよ・・・」 「ゆっくちちちぇにぇ!ゆっくち!ゆっくち!」 「あら可愛い。」 「好き嫌い言わないし、むやみにワガママ言ったり暴れたりしないし・・・野良ゆっくりに子育ての腕で負けたかと思うとねぇ。」 「ふーん。(あんたに子育てで負けるようじゃ、親はやっていけないと思うけど。)」 「それにしても、野良ってそんなに大変なのかしら?ゆうかのトコのまりさ達も、元野良だっけ?」 「そうなんだけど・・・まりさ達はどう?野良に戻りたいとか思ったことあ・・・」 優宇河先生が振り返ると元野良のまりさ姉妹は、顔色を赤、青、と目まぐるしく変化させ、 最終的に土色になった挙句、餡子の泡を吹き始めていた。 「もっちょ・・・ゆっぐぢ・・・・・・」 「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ・・・」 「捨てないから!大丈夫だから帰ってきてぇぇぇ!!」 「ふーん。野良って大変なのねぇ。」 「ところで美鈴。」 「ん?なあに?」 「反省したって言ってた割に、そっちのまりさはどうなってんのよ。」 「えーと・・・」 「まりさはとってもえらいのらじぇ!!みんなまりさにひれふすがいいらじぇ!!」 ぽよん!ぽよん!! 「ゆぁぁ。ゆっくりしてないまりさだよぉ。」 「そ、そんなにひどくぶつかられたら・・・すっきりー!」 テーブルの上のグラスや花瓶、優宇河先生の飼いまりさ達に体当たりをしながら、 言いたい放題のらじぇまりさ。 めーりん先生の躾は、またしても失敗していた。 「ホント。どうすんのよ。」 「えーと・・・また、野良にしつけ直してもらうとか?」 「ホンキ?」 「うーん・・・」 ※おまけ ちなみにらじぇまりさは、この後学校のコンポストに居る元野良まりさにしつけ直してもらいました。 いうことを良く聞くいい子になりましたが、今では熱心なコンポスト様信者です。 「まりさはとってもわるいこでしたのじぇ! これからは、おねえさんと、まりさおねーさんと、こんぽすとさまのおしえをまもって、きよくただしくいきていくのじぇ! こんぽすとさまのおしえはすばらしいのじぇ!こんぽすとさまのおしえはぜったいなのじぇ! ああ、こんぽすとさま!わがいのち、このあんこいってきにいたるまで・・・」 「どうしよ、ゆうか。ウチのまりさが変な呪文唱えるようになっちゃったんだけど・・・」 「ま、前よりはちゃんと言うこと聞くようになったんだし、いいんじゃない?」 「いや、そりゃそうだけど・・・ねぇ。」 餡小話掲載作品 ふたば系ゆっくりいじめ 132 俺の嫁ゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 148 ここはみんなのおうち宣言 ふたば系ゆっくりいじめ 157 ぱちゅりおばさんの事件簿 ふたば系ゆっくりいじめ 305 ゆっくりちるのの生態 ふたば系ゆっくりいじめ 436 苦悩に満ちたゆん生 ふたば系ゆっくりいじめ 628 ゆきのなか ふたば系ゆっくりいじめ 662 野良ゆっくりがやってきた ふたば系ゆっくりいじめ 678 飼われいむはおちびちゃんが欲しい ふたば系ゆっくりいじめ 753 原点に戻ってみる ふたば系ゆっくりいじめ 762 秋の実り 『町れいむ一家の四季』シリーズ 前日談 ふたば系ゆっくりいじめ 522 とてもゆっくりしたおうち 『町れいむ一家の四季』シリーズ(ストーリー展開順・おまけについては何とも言えないけど) 春-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 161 春の恵みさんでゆっくりするよ 春-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 154 竜巻さんでゆっくりしようね 春-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 165 お姉さんのまりさ飼育日記(おまけ) 春-2-3. ふたば系ゆっくりいじめ 178 お姉さんとまりさのはじめてのおつかい(おまけのおまけ) 春-2-4. ふたば系ゆっくりいじめ 167 ちぇんの素晴らしきゆん生(おまけ) 春-2-5. ふたば系ゆっくりいじめ 206 町の赤ゆの生きる道 夏-1-1. ふたば系ゆっくりいじめ 137 真夏はゆっくりできるね 夏-1-2. ふたば系ゆっくりいじめ 139 ゆっくりのみるゆめ(おまけ) 夏-1-3. ふたば系ゆっくりいじめ 734 未成ゆん(おまけ) 夏-1-4. ふたば系ゆっくりいじめ 174 ぱちぇと学ぼう!ゆっくりライフ(おまけのおまけ) 夏-1-5. ふたば系ゆっくりいじめ 235 てんこのインモラルスタディ(おまけのおまけのおまけ) 夏-1-6. ふたば系ゆっくりいじめ 142 ゆうかりんのご奉仕授業(おまけ) 夏-2-1. ふたば系ゆっくりいじめ 146 雨さんはゆっくりしてるね 夏-2-2. ふたば系ゆっくりいじめ 205 末っ子れいむの帰還 秋-1. ふたば系ゆっくりいじめ 186 台風さんでゆっくりしたいよ 秋-2. ふたば系ゆっくりいじめ 271 都会の雨さんもゆっくりしてるね 冬-1. ふたば系ゆっくりいじめ 490 ゆっくりしたハロウィンさん 『町れいむ一家の四季』シリーズ 後日談 ふたば系ゆっくりいじめ 249 Yの閃光 ふたば系ゆっくりいじめ 333 銘菓湯栗饅頭 ふたば系ゆっくりいじめ 376 飼いゆっくりれいむ ふたば系ゆっくりいじめ 409 町ゆっくりの食料事情 ふたば系ゆっくりいじめ 224 レイパーズブレイド前篇(おまけ) 本作品