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朝早くワルドに起され促されるままついていくと、礼拝堂でわたしの結婚式が 始められようとしていた。 ここに居るのは、わたしとワルド、ウェールズ様とプロシュートだけだった。 何故、今こんなのとになっているのか、わたしには分からなかった。 ワルドは、この旅が終われば僕を好きになると言った。 結婚しようとも言った。 だけど、何故、今?こんな時に?こんな場所で結婚式を? 分からない、分からない。 不安になりプロシュートを見るが、彼は部屋の隅で黙ってグラスを傾けていた。 どうして何も言ってくれないの? 「緊張しているのかい?仕方が無い。初めてのときは、ことがなんであれ 緊張するものだからね」 ウェールズ様は、にっこりと笑って後を続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。 では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、 そして夫と…………」 こんな気持ちで結婚なんて出来るワケないじゃない。 わたしはウェールズ様の言葉の途中で首を振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 ウェールズ様とワルドが怪訝な顔でわたしの顔を覗き込む。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「違うの。ごめんなさい……」 「日が悪いのなら、改めて……」 「そうじゃないの、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、わたし、 あなたとは結婚できない」 わたしの言葉にウェールズ様は首をかしげた。 「新婦は、この結婚を望まぬか?」 「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、 わたくしはこの結婚を望みません」 ワルドの顔に、さっと朱みがさした。ウェールズ様は困ったように首をかしげ、 残念そうにワルドに告げた。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 しかし、ワルドはウェールズに見向きもせずに、わたしの手を取った。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。きみが僕との結婚を拒むわけがない」 「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。 でも、今は違うわ」 ワルドは、わたしの肩をつかんだ。その目がつりあがる。表情がいつもの 優しいものでなく、どこか冷たい、トカゲか何かを思わせた。 熱っぽい口調でワルドは叫んだ。 「世界だルイズ僕は世界を手に入れる!そのためにきみが必要なんだ!」 豹変したワルドに怯えながら、わたしは首を振った。 「……わたし、世界なんかいらないもの」 ワルドは両手を広げると、わたしに詰め寄った。 「僕にはきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの『虚無』が!」 そのワルドの剣幕に、わたしは恐くなった。優しかったワルドがこんな顔をして 叫ぶように話すなんて夢にも思わなかった。 わたしは知らず知らずのうちに、ワルドから身を引いた。 「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか!きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀な メイジに成長するだろう!きみは気づいていないだけだ!その才能に!」 「ワルド、あなた……」 この人は、わたしの知っているワルドじゃない。何が彼を、こんな物言いをする 人物に変えたのだろう? ワルドの剣幕を見たウェールズ様が、間に入ってとりなそうとした。 「子爵……、きみはフラれたのだ。いさぎよく……」 が、ワルドはその手を撥ね除ける。 「黙っておれ!」 ウェールズ様はワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。 ワルドは、わたしの手を握った。 「ルイズ!きみの才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは、そんな才能のあるメイジじゃないわ」 「だから何度も言っている!自分で気づいていないだけなんだよルイズ!」 痛い。振りほどこうとしたが物凄い力で握られて振りほどくことができない。 「そんな結婚死んでもいやよ。あなた、わたしをちっとも愛してないじゃない。 わかったわ、あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという、 在りもしない魔法の才能だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。 こんな侮辱はないわ!」 ウェールズ様がワルドの肩に手を置いて、引き離そうとした。 しかし、今度はワルドに突き飛ばされた。 突き飛ばされたウェールズ様の顔に赤みが走る。立ち上がると、杖をぬいた。 「うぬ、なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から 手を離したまえ!さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。 そのまま風のように身を翻らせ、ウェールズ様の胸を青白く光る杖で貫いた。 「ウェールズ、貴様ごとき無能なメイジが僕を切り裂くと?笑わせるな! 滅びの道しか残されておらぬ哀れな王族よ、そこで犬の様に這い蹲り、 己の無力さを呪うがいい」 「き、貴様……、レコンキスタか?」 ウェールズ様の口から、どっと鮮血が溢れる。 「よく気が付いたな、偉いぞウェールズ」 ワルドは冷たい感情のない声で言った。 「ウェールズ様!」 わたしはワルドの手を引き剥がしウェールズ様を抱え起こした。 「……ラ・ヴァリエール嬢……アンリエッタに……この指輪を」 ウェールズ様は震える指先で自分の指輪をわたしの手の平にそっと置いた。 「あと……アンリエッタに……」 言い終わらない内にウェールズ様の手がダラリと垂れた。 「しっかりしてください!ウェールズ様!」 ウェールズ様の体から生命の鼓動が消えた。 わたしは、たまらずワルドに怒鳴った。 「貴族派!あなた、アルビオンの貴族派だったのね!裏切り者ッ!」 「裏切り者か……ルイズ、視野を広げて見ると、裏切っているのは実は君達の 方かもしれないよ」 わたしの怒鳴り声にも、どこ吹く風のワルドがとんでもない事を言い出した。 「何言ってるの?」 「始祖ブリミルの悲願、聖地の奪還を疎かにし、ブリミルの恩恵である魔法の 力を貴族同士で領土を奪い合うためだけに使う事こそが、始祖ブリミルに 対する裏切りだとは思わないか?ルイズ」 「なら、その考えを陛下に言えばいいじゃない!」 「言ってどうする、ハルケギニア全土のメイジの意志を一つにまとめる事に 何年かかると思っている。いや、不可能といってもいい。そのために革命が 必要なのだよ」 「昔は、そんな風じゃなかったわ。何があなたを変えたの?ワルド!」 「月日と、数奇な運命のめぐり合わせだ。今ここで語る気にはならぬ 話せば長くなるからな」 もはや目の前の男は、わたしの知ってるワルドじゃない! 「助けて……助けてプロシュート!」 ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ピタリ プロシュートはわたしの隣に来ると手に持ってたグラスの氷水を わたしの頭にぶっかけた! 「冷たッ!なにすんのよ!」 「頭を冷やせルイズ。要するにワルドは敵だってワケだ。後はワルドを 倒し手紙を持って帰る。それだけだろ?」 「えらく簡単に言ってくれるわね。ワルドはスクエアのメイジなのよ」 「知ったことか、お前は自分の身を守る事だけを考えてろ」 いつの間にか出現したグレイトフル・デッドがワルドに向かって大きな手を 繰り出した。しかし、その大きな手はワルドの杖で防がれてしまった! 「見えているの!?」 わたしの疑問にワルドは余裕の態度で解説した。 「見えている訳ではない、風の動きを読んだのさ。土くれの情報『見えない力』 と言ったな。動きが速過ぎる為見えないと思っていたのだが、そのままの意味 で『見えない力』であったか」 今までプロシュートが圧倒的だったのは、他のメイジにはグレイトフル・デッドが 見えていなかったからだ。 「ど、どうするのよプロシュート」 しかし、プロシュートに全く焦った様子は無かった。 「慌てるなルイズ。俺は見えて当たり前のヤツ等と殺し合ってきたんだぜ。 見えて対等であって、決して不利じゃねえ!」 グレイトフル・デッドの拳をワルドは飛びながらかわした。 それから杖を振り、呪文を発した。プロシュートはグレイトフル・デッドで防ごうと するがウィンド・ブレイクは脇をすり抜け彼だけを襲う。プロシュートは剣を素早く 構え受け止めようとするが壁にぶち当たり、プロシュートは呻き声をあげる。 怪我した左腕が痛むのか、プロシュートの動きにいつものキレが感じられない。 「どうした?お前のお前の力を見せてみろ、偉大なる使い魔ガンダールヴ」 残忍な笑みを浮かべて、ワルドが嘯く。 そんなとき、デルフリンガーが叫んだ。 「思い出した!」 プロシュートも突然のデルフリンガーの言葉にとまどってる様だ。 「なんだよてめえ、こんなときに!」 「そうか……ガンダールヴか!」 「なんのことだ!」 「いやぁ、俺は昔、お前に握られてたぜ。ガンダールヴ。でも忘れてた。 なにせ、今から六千年も昔の話だ」 「寝言、言ってんじゃねえ!」 デルフリンガーに返答しながらプロシュートはワルドの魔法をかわしていく。 「嬉しいねえ!そうこなくっちゃいけねえ俺もこんな格好してる場合じゃねえ」 叫ぶなり、デルフリンガーの刀身が光り出す。 プロシュートは呆気に取られてデルフリンガーを見つめていた。 「デルフ?」 再びワルドはウィンド・ブレイクを唱えた。 光に気を取られていたプロシュートは避けずにデルフリンガーを構えた。 「無駄だ!剣では避けられないと、わかっただろうが!」 ワルドが叫んだ。が、しかし、プロシュートを吹き飛ばす風が、デルフリンガーの 刀身に吸い込まれていく。 そして……。 デルフリンガーは今まさに砥がれたかのように、光り輝いていた。 「デルフ?お前……」 「これが、ほんとの俺の姿さ!相棒!いやぁ、てんで忘れてた!そういや 飽き飽きしてたときに、テメエの体を変えたんだった!なにせ、面白いことは ありゃしねえし、つまらん連中ばっかりだったからな」 「早く言いやがれ!」 「しかたねえだろ。忘れてたんだから。でも安心しな相棒。ちゃちな魔法は 全部、俺が吸い込んでやるよ!この『ガンダールヴ』の左腕、 デルフリンガーさまがな!」 興味深そうに、ワルドはプロシュートの握った剣を見つめた。 「なるほど……。やはりただの剣ではなかったようだ。この私の『ライトニング・ クラウド』を軽減させたときに、気づくべきだったな」 それでも、ワルドは余裕の態度を失わない。 杖を構えると、薄く笑った。 「さて、ではこちらも本気を出そう。何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、 その所以を教育いたそう」 プロシュートは剣とスタンドで襲うが、ワルドは軽業師のように剣戟を かわしながら、呪文を唱える。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 呪文が完成すると、ワルドの体はいきなり分身した。 四体の分身、本体と合わせて、五体のワルドがプロシュートを取り囲んだ。 「分身か……ギトーはコレを見せようとしてたのか」 「ただの『分身』ではない。風のユビキタス(偏在)……。風は偏在する。風の 吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」 ワルド達は懐から真っ白な仮面を取り出すと、顔につけた。 あの、桟橋で襲ってきた仮面のメイジはワルドだったの! 「まるでスタンドだな。最強の所以は分かった……だとしたら、どうして『虚無』に 拘るんだ、『風』が最強なんだろ?」 プロシュートの問に、フッとワルドは自嘲的な笑いを浮かべた。 「確かに系統魔法で『風』は最強だ……だが視野を広げて見ると、認めたくは 無いがエルフの使う先住魔法は我らの力を遥かに凌駕する。その強力なエル フ共を打ち破る為にルイズの『虚無』が必要なのだよ!」 ワルドの目に以前、宿で見た妖しい光が灯る、ワルドの本当の目的が判った。 ワルドが在るという、わたしの虚無の力がエルフを倒す為に必要だったのね。 「自分じゃエルフを倒せない、だからルイズの力に頼ろうってのか。恥ずかしく 無いのかテメーはよぉ」 「目的のためには、手段を選んでおれぬのでね」 言い終わると、ワルドは呪文を唱え、杖を青白く光らせた。 『エア・ニードル』、さきほど、ウェールズ様の胸を貫いた呪文だ。 「杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込むことはできぬ!」 五体のワルドがプロシュートを襲う。 その攻撃をプロシュート自身とグレイト・フルデッドが防ぐが、五対二……はっきり 言って分が悪い。反撃できずに防戦一方だ。 ワルドは楽しそうに笑った。 「平民にしてはやるではないか。さあ見せてみろ、お前の力はこんなものでは ないのだろう?」 じりじりとワルド達はプロシュートににじり寄った。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「もう、スデに『見せている!』、気づいてないのか?」 まさかっ!まさか……プロシュートは!…… 「なに!?こっ、これは……」 ワルドの仮面に隠されていない口元に深い皺が刻まれていた。 あの長い髪にも分かりづらいが白髪が見え隠れしている。 グレイトフル・デッドの無差別老化攻撃! わたしは慌てて自分の髪を手ですき、観察してみる。 艶のある桃色のブロンド……指先も皺が無かった。 顔は鏡がなかったので確認できなかったが、手触りでは違和感が無かった。 こいつら!早くも気づいていやがったんですよ!兄貴の『グレイトフル・デッド』は 体を冷やせば老化が遅れるっって事をよォーッ。 !!突然聞こえた男の声。だから、プロシュートはわたしに氷水をかけたのね。 わたしの体を冷やすために。 「こ、これはっ!?この疲労感は!」 ワルドの言葉に始めて焦りが出てきた。 「どうしたワルド、任務の疲れで肩コリでも出て来たか?」 プロシュートはデルフリンガーとグレイトフル・デッドでワルドに攻撃した。 ワルドにも先ほどの動きが見られなかった。 「うおおおおおおおぉ、そんな馬鹿な!神の左手ガンダールヴ、その『能力』は あらゆる武器を使いこなす事と超人的な運動能力の二つのはず……… この力は一体……!?」 「この力は俺自身のスタンド能力だ」 プロシュートがグレイトフル・デッドの拳をワルドに振るう。 「『スタンド』?先住魔法か!?」 「おいおいワルドさんよー、俺が何から何まで親切に教えると思うのか?」 「おのれ土くれ!なにか隠しているとは思ったが、この事だったとは!!」 フーケ……ワルドに老化現象は話さなかったのね。いや、思い出したくも 話したくもなかったのか。 このままだとプロシュート押し勝つだろう…… なんだか心のモヤモヤが晴れない、わたしは何をやっているんだろう。 フーケの時も、今の戦いもプロシュートに任せっきりにしている。 たしかに使い魔は主人の身を守る。だけど主人は何もしないって事じゃない。 わたしは、この任務で成長すると誓った。だけど今わたしは何もしていない…… これじゃ何も変わらないわ。 わたしは杖を掲げ呪文を詠唱する。 「なにやってる!ルイズ」 プロシュートの叱責が飛ぶが、わたしは止めない。 ファイアーボールを唱え杖を振る。一体のワルドが表面で爆発する。 ぼこん!と激しい音がして、そのワルドは消滅した。 「え?消えた?わたしの魔法で?」 残った四体のワルドが一斉にグルリとわたしの方を向いた。 こっ恐い……。 「ファイアーボールの一発で僕の偏在が消し飛ぶ訳が無い。君は土くれの ゴーレムの腕を吹き飛ばしたそうじゃないか、しかも再生するはずの腕を そのままにして」 ワルドの言葉に熱がこもる。 「追い詰められ、命を懸けると本当の力がわかる。なるほど、そこの使い魔の 言うとおりだ。まだ自分の系統に目覚めてもいないのに、この威力! 覚醒すればどれ程の力になるのか楽しみだ、実に楽しみだぞ僕のルイズ!」 ワルドが目を輝かせ、わたしに杖を向ける。 「逃げろ!」 プロシュートが叫ぶがワルドの風で、わたしは壁に叩き付けられた。 「「カ八ッ」」 わたしは衝撃でしばらく体が動かなかったがワルドは何もせず、ただプロ シュートの様子を眺めていた。 おもむろにワルドが口を開いた。 「今、僕の魔法が、かすりでもしたか?」 何を言ってるのワルド? プロシュートの方を見ると険しい表情で汗をダラダラとかいていた!? プロシュートが叫ぶ。 「逃げろッ!ルイズ!」 わたしには何が何やらさっぱり分からなかった。 「主人の危機を知らせる能力か?ルイズのダメージが使い魔に伝わったのか」 ワルドの攻撃の質が変わった!プロシュートだけを狙う攻撃から、わたしにも風 を当てようと杖をこちらに向けてきた。 ズドドドドドドド 「うおっ、うおぉおおおおお」 プロシュートはわたしを庇う様にワルドの前に立ちはだかる。 「プッ、プロシュート!!」 「オレにかまうなッ!逃げろッ!」 「え!!え!?」 「早くにげろーッ!」 わたしのダメージがプロシュートのダメージになるですって? 思い出した!!そういえば召喚した時にプロシュートが言っていた。 それを今の今まで忘れていたわ!何てこと、何てことなの。 まさか、こんな事になるなんて! 一体のワルドがエア・ハンマーを、わたしにぶつける。 「「カハッ」」 攻撃を受けていないプロシュートも息をもらす。 「隙だらけだぞガンダールヴ」 三対のワルドの杖がプロシュートを引き裂いた。 「プロシュート!!」 プロシュートが床に倒れる、その体はピクリとも動かない。 出血がみるみる内に床に広がっていく。 わたしは立派なメイジになるとか、認められたいとか……空回りして。 プロシュートの足を引っ張って、最低のマヌケだわ。 ワルドの顔から皺が消えた…… 余裕を取り戻したワルドが、にこやかな口元で声を高らかにあげた。 「さてルイズ、今一度問おう。僕と一緒に来てくれるかい?」 「絶対に嫌よ!」 YESと答えると思ってんの、この男は? 「さて、どうしたものか。かけがえのない『虚無』を殺してしまう訳にもいかぬ。 無理矢理に連れて帰っても協力を得られない……薬でも使うか?いや…… 魔法の使えぬ人形にしては意味が無い……そうか、その手があったか。」 ワルドは、ニタァと笑うと舐める様な視線をわたしに向けた。 「君に惚れ薬を使う」 「ワルド、あなた何を考えているの。惚れ薬の売買、所持、使用は重罪よ!」 「革命を考えている者に、その様な忠告は無意味だとは思わないのかい?」 「あなた最低ね!」 「最後に自分の考えで話せる言葉は、それでいいのかい僕のルイズ?」 いいわけないでしょ。なにが惚れ薬よ!冗談じゃないわ! 「フフフ、いいぞ『聖地』が見えてきた!ヤル気がムンムンと湧いてくるじゃ ないか!ええ、おい!」 ワルド、自分の世界に酔ってる? 四対のワルドがゆっくりと、わたしを囲もうと動き出す。 「フフ、すぐ済むよ」 にっこりと笑うワルドはもう、ただ気持ちが悪いとしか言い様がない。 「近づかないで!」 ファイアーボールを唱える。 しかし、ワルドにぶつからず、全く別の場所が爆発するだけだ。 続けてもう一度唱えるが、これも当たらずワルドの歩みは止まらない。 「威力は申し分ないがコントロールは、まだまだの様だな」 歩み寄って来るワルドの足が急に止まった。 「ば……ばかな!こ……この疲労感……ま……また始まったぞ!」 「終わってないぞ!!まさか……まさか!あいつ!」 ワルドが苦しんでる?でも……プロシュートはもう…… わたしはプロシュートに視線を向ける。 「グレイト……フル・デッド……」 プロシュートの血溜の中にグレイトフル・デッドが立っていた。 その表面が古い土壁の様にボロボロと崩れていく………… まるでプロシュートの傷を表わすかのように…… 「プロシュートォォォォォ」 「本当に……あなた……ううっ……そのとおりだったのね。 腕や脚の一本や二本、失おうとも、わたしを守ると言った事は!! プ……プロシュート、あんなボロボロの重症じゃあ………… も……もう……あなたは助からないッ! 息をひきとるのも時間の問題ね。 だのに、あなたは自分のグレイトフル・デッドを解除しない。 わかったわプロシュート!! あなたの覚悟が『言葉』でなく『心』で理解できたわ!」 ワルドがプロシュートに息の根を止めようと襲い掛かる。 「この死にぞこないが!」 そうはさせない!! 「ファイアーボール」 プロシュートに迫ったワルドが吹き飛んだ。 「むっ!!ルイズのコントロールが良くなった!?」 残った三対のワルドが、わたしを取り囲もうと動き出す。 わたしは急いでプロシュートを守るように立った。 「嬢ちゃん、俺を使え!」 足元から、デルフリンガーが声をあげる。 わたしは、言われるままデルフリンガーを両手で構える……重い。 杖と剣を纏めて持っているので、振るいにくい! 剣を構えたとたんにウィンドブレイクが迫ってきた。 だがそれはデルフリンガーによって吸収されていく。 「くっ、インテリジェンスソードか!直接ルイズを気絶させねばならぬようだな」 目の前のワルドが、わたしに杖を構える。 「ファイアーボール」 ワルドが音を立てて消し飛んだ。これも偏在か……だが、あと二体!! 消し飛んだワルドから、二体のワルドが間合いを取る。 「せ……正確すぎる、僕の動きが正確に読まれてしまっている。 しかも一撃で偏在を吹き飛ばされる『パワー』もすごい! 老化の使い魔さえ倒せば、もう僕の勝利かと思ってた…… だが甘くみていた、この戦いの中で本当にやっかいなのは 『老化させる能力』の使い魔の方ではなかった 真に恐ろしいのは……!!この『虚無』のルイズの方だった!」 今まで、外していたのが嘘のように、狙い通りに魔法が当たる。 不思議な感覚、これがリズムが生まれるってやつなの? 「栄光は…………おまえに……ある……ぞ………… ……やれ やるんだ…… ルイズ オレは…… おまえを 見守って…… いるぜ…… やれ…… 」 「ルイズ、君の『面がまえ』……今まで、こんな『目』をしているメイジではなかった まるで『十年』も修羅場を、くぐり抜けて来たような……スゴ味と…… 冷静さを感じる目だ……たったの数分で、こんなにも変わるものか…… 君に小細工は通用しない!!」 二体のワルドがわたしに突っ込んできた。 「ファイアーボール」 わたしは前を走るワルドに魔法をぶつけた。 ワルドが爆発し消し飛ぶが、後ろのワルドは構わずに突っ込んでくる。 偏在を盾にしたのか。これで残るのは本体のみ! 「もらったよ、僕のルイズ」 呪文が間に合わない!単純な力押しできたか!! ワルドが杖を構える。やっぱり、わたしじゃ勝てないというの? 憎憎しげにワルドを睨む。その後ろには、いつの間にかグレイトフル・デッドが その大きな腕を振り下ろしていた。 ワルドの左腕が飛んだ。 「なにー!?」 「グレイト……フル・デッド……」 激昂したワルドが杖を振り上げた。 「この使い魔がッ!!」 ありがとうプロシュート。このチャンス、無駄にはしないわ。 「隙だらけよ!ワルドッ」 プロシュートに一撃を加えた屈辱の台詞をそのまま言い返す。 「しまっ……」 「ファイアーボール」 「ぐはッ!!」 ワルドの表面で爆発が起こり、煤だらけで倒れた。 倒した……わたしが『スクエア』のワルドに勝った!!
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「サイト! 助けて!」 ルイズは絶叫した。 呪文が完成し、ワルドがルイズに向かって杖を振り下ろそうとした瞬間……。 礼拝堂の壁が轟音と共に崩れ、外から烈風が飛び込んできた。 「貴様……」 ワルドが呟く。 壁をぶち破り、間一髪飛び込んできた才人らしき人物が、ワルドの杖をはっしとデルフリンガーでうけとめていた。 そしてルイズを横抱きに抱えて、ワルドから距離をとる。 なぜ「らしき人物」かというと、飛び込んできた人物は覆面のようなもので顔の下半分を覆っていたからだ。 「大丈夫かっ!?」 「サ……サイト……助けに来てくれたんだ……」 「ルイズの使い魔め! 邪魔だてするか! この変態めが!」 ワルドは絶叫する。 まあ、無理もあるまい。 そのサイトらしき人物は上半身はランニングシャツ、下半身はトランクス一丁という、有り体に言って下着姿だったのだから。 「ちっ…違う! そ、それがしは才人でも才人に憑いている物でもないっ!! 全くの別人だッ!!」 「どっから見てもサイトそのものじゃないのよっ!!」 「いやっ違うっ!! とてもよく似ているが違うのだあっ!!」 才人(仮)は冷や汗を流しながら叫ぶ。 「それがしは……それがしは……ルイズの使い魔そっくりの人間が大勢住むツカイマ星からやってきた宇宙人、 ツカイマンだああっ!!」 無論神族の一員である韋駄天ツカイマンにワルドごときが敵う筈もなく、ワルドは捕らえられた。 クロムウェルもシェフィールドもフーケも捕まった。 彼らの証言でガリアの「無能王」ジョゼフが裏で糸を引いていることがわかり、アルビオン王党派・トリスティン・ゲルマニアの連合軍がガリアに攻め入り、ジョゼフを討とうとしたが、ジョゼフは「逃げるんだよォォォォォォ!」と叫びつつ走り去っていった。 そしてジョゼフの行方は杳としてわからないという。 いろいろあったけど、ハルケギニアはおおむね平和だった。 完。 -「GS美神極楽大作戦!」から韋駄天八兵衛を召喚
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トリステイン魔法学院開設以来の大惨事となった使い魔暴走事件より一夜明け、学院の教師たちは事件の 後処理に追われ、被害にあった生徒たちは、ある者は死に、又ある者は未だ治療を受け続け生死の境を彷徨う中、 中庭のテラスでのん気に紅茶と会話を楽しむ者たちがいた。 「いやあ~モンモランシーとデートの約束をしてね~。今度の虚無の日に街に出かけるんだよ~~」 「ギーシュ。それもう五回目だよ」 「聞いてないわよ、マリコルヌ」 声高く笑い嬉しさの余り顔が崩れているギーシュと、それを呆れた顔で見るトリッシュとマリコルヌである。 「でもさ、よく許してくれたわよね。普通は暫く顔なんか見たくないと思うけど」 「よくぞ聞いてくれた!実は全てヴェルダンデのおかげなんだよ!!」 トリッシュが嫌そうな顔で見ている事にも気付かず、ギーシュは顔を綻ばせ傍らに侍る巨大なモグラに頬擦りをする。 マリコルヌはギーシュとヴェルダンデのスキンシップを見て、自分がトリッシュに頬擦りをする光景を想像して 恍惚の表情を浮かべ、気持ち悪い物を見るようなトリッシュの視線にやはり気付かなかった。 「……それで、そのモグラがどうしたのよ」 「そうだ!その話だったね!!」 トリッシュとルイズが決闘の最中、広場の隅でいじけていたギーシュにヴェルダンデが地中から可愛い洋服を 掘り出してそれを差し出した事を幸福の絶頂と言った顔でギーシュが語り、その話を聞いていたマリコルヌは その洋服は自分が埋めた物と気付き、顔を引き攣らせた。 幸いなことにトリッシュはギーシュの話を聞いていた為、マリコルヌの表情に気付かなかった。 「お待たせしました」 ギーシュの話が八回目を迎える頃に、シエスタがイチゴのショートケーキが乗ったトレイを持って現れ配膳を始める。 トリッシュがトレイを見ると、テーブルには三人しか居ないのに何故かケーキが四つ置かれていた。 その『四つ』のケーキを見て、ある人物の事を思い出したトリッシュは、以前から疑問に思っていて聞き辛かった事を 思い切って聞いてみることにした。 「あのさ、『ミスタ』って敬称よね?」 「そうですけど、それがどうかしましたか?」 改まった様子のトリッシュに三人の視線が集まり、トリッシュは心に渦巻く疑念を吐露する。 「もしよ?グイード・ミスタって貴族が居たら『ミスタ・ミスタ』になるじゃない。それってどう?」 「どうって言われても…貴族の方なら敬称は付けないと」 困った様子で答えるシエスタと、トリッシュの疑問を考えるギーシュとマリコルヌ。 トリッシュは更に言葉を重ねる。 「でもさ、その人は名前を二回呼ばれる事になるでしょ?それって失礼じゃあないの?」 「ええと…だったらミスタ・グイードになるんじゃないですか?」 「シエスタ、それ名前を逆さまに呼んでるだけだから」 「しかしだね、他に呼びようがないじゃないか」 トリッシュの疑問に四人揃って頭を悩ますが結局答えは出ず、質問自体をなかった事にして決着となった。 「あら、楽しそうね。私も混ぜてくれないかしら?」 「モンモランシー!勿論だとも!ささ、僕の隣が空いてるよ」 ギーシュの隣にモンモランシーが座り、紅茶とケーキを用意する為にシエスタが厨房へ向かおうと歩き出すが その背中をギーシュが呼び止めて立ち止まらせた。 そしてギーシュは皆を見つめて突然頭を下げ、テーブルに額を擦り付ける。 「ちょっと!どうしたのよギーシュ?!」 モンモランシーがギーシュの肩を掴み身体を起こすと、その顔はいつになく真剣な表情を浮かべていた。 「実はみんなに頼みがあるんだ。とりあえずこれを見て欲しい」 そう言ってギーシュは懐から何枚かの紙片を取り出し、シエスタを含めたテーブルに着いている者たちに その紙片を配り始める。皆が一様に怪訝な顔をして紙片を見ると、そこには数行の文字が書かれていた。 「マリコルヌ。これなんて書いてあるの?私、字が読めないのよ」 マリコルヌはトリッシュから紙片を受け取りそれを読み上げる。 「ええと…ギーシュ様と言って眼に涙を浮かべ……って何だよこれ?!」 「ちょっとギーシュ!なんで私がワインをあなたの頭にかけなきゃいけないのよ!?」 「あの……私、何か粗相を致しましたでしょうか?」 口々に疑問と叫びを上げながらギーシュに詰め寄るが、その反応を予想していたのか詰め寄るマリコルヌたちを 手で制すると真面目な顔で皆を見渡し語りだした。 「みんなの疑問は当然だ。しかし!ここは僕の言う通りに行動して欲しい!このギーシュ・ド・グラモンの 一生に一度のお願いだ。どうかこの通りだ!是非!!僕に力を貸してくれ!!」 ギーシュが今度は地面に額を擦りつけ土下座する。その心の奥底から出る叫びに一同は静まり返り それぞれが了承したとばかりに頷き返し、ギーシュは涙を流しながら皆に感謝の言葉を述べた。 「サイトさんか私が、ミスタ・グラモンが落とした香水の壜を拾えば良いのですね?」 「それで僕が冷やかすと……」 判らない箇所をギーシュに質問しながらそれぞれが役割を把握し、打ち合わせが終わると それを待っていたかの様なタイミングでターゲットが現れた。ルイズとその使い魔である平賀才人である。 「よーっす、シエスター!」 「あ、さいとさん。こんにちは」 呼びかけられたシエスタが台詞を読む様にぎこちなく挨拶を交わす。物凄く不自然なシエスタの態度を サイトは不思議に思いながらも、ルイズと共にギーシュたちの座るテーブルに近づいて行くと、 太陽光を反射して光る小壜がギーシュのポケットから転がり落ちた。 「ギーシュ。なんか落としたわよ」 「「「あーーーーーーっ!!!」」」 ギーシュのポケットから転がり落ちた小壜をルイズが拾おうとし、一同、顔を蒼白にしながら叫びを上げる。 その声に驚いたルイズが身体を竦ませると、その隙にシエスタがサイトの方へ小壜を蹴る。 ギーシュ以下も役者たちがシエスタのファインプレーに心の中でガッツポーズを取るが、ルイズは蹴られた小壜を あっさりと拾いギーシュに差し出す。 「ハイこれ。大丈夫よ割れてないから」 ルイズとしては、自分が小壜を渡すことでギーシュからシエスタを守ろうとしたのだろうが、それはこのテーブルに 着く者たちにとって要らぬ気遣いであった。 「どうしたのよ?受け取りなさいよ」 ギーシュは石の様に固まった。ここで香水の壜を受け取ってしまっては全てが終わりである。 如何したものかとマリコルヌに視線を送るが、マリコルヌは黙って首を振る。 全てはサイトかシエスタが香水の壜を拾う所から始まるのである。ここで冷やかせばルイズと決闘になる。 それではダメなのだ。 「ほら!ギーシュッ!……あれ?」 (スパイス・ガール……香水の壜を柔らかくした。壜はルイズの手を貫通するみたいに通り抜ける) ルイズの手から逃げる様に壜が地面に落ちる。それをルイズは拾おうとするが、手から滑り落ちて拾えない。 ギーシュたちは何が起こったのか理解できなかったが、ルイズが壜に触れないことを見て胸を撫で下ろす。 「なんでよ~ど~して拾えないの~?」 「なにやってんだよルイズ。ほら、俺に任せろ」 サイトがルイズの隣から手を伸ばし香水の壜を拾おうとする。それを見てトリッシュが能力を解除した。 ギーシュ、演出、脚本の舞台が始まった。 「ほら、お前のだろ」 ルイズがジト眼でサイトを睨むが、サイトはその視線に気付かずに香水の壜をギーシュに渡そうとする。 「おお?そのあざやかなむらさきいろのこうすいはもしや、もんもらんしーのこうすいじゃないのか?」 「え?本当なの?モンモランシー」 マリコルヌは大根役者の様に抑揚のない声でギーシュを囃し立て、ルイズがモンモランシーに尋ねるも それを黙殺し、舞台は続く。 「違う。いいかい?彼女の名誉の為に言っておくが……」 トリッシュが突然立ち上がり、眼に涙を浮かべながらギーシュの前に立つ。 「ギーシュ様……」 「ちょ、ちょっとどうしたのよ?!」 眼に涙を溜めて、今にも泣き出しそうな顔でギーシュを見るトリッシュ。 自分の指をヘシ折り、顔を蹴り飛ばしたトリッシュの泣き顔を見てルイズは混乱した。 「やはり、ミス・モンモランシーと……」 「いや、これは誤解だよ。僕の心の中には君への想いだけ……」 「え?え?なになにどゆこと?」 混乱の度合いを増すルイズを置いてきぼりにして、二股かけられた女の子になりきったトリッシュは 思いっきりギーシュを殴り飛ばし、泣きながら何処かに走り去っていった。 「やっぱり、あの一年生に、手を出してたのね?」 「え?一年生って?マリコルヌの使い魔じゃなかったの?ひょっとしてメイジ?」 「お願いだよ。モンモランシー。咲き誇る……」 モンモランシーは、シエスタから受け取ったワインの中身を満身創痍のギーシュの頭にブチ撒けると トリッシュと同じく走り去ってしまった。 「なんだお前、二股かけてたのか?」 「あのレディたちは薔薇の存在の意味を理解してないようだ。そう言う訳で決闘だ!使い魔君!!」 「ちょっと!どういうこと!ぐえ…」 戻ってきたトリッシュにルイズは絞め落とされ、気絶したルイズを担ぎ上げて大急ぎで姿を消した。 「なんなんだ……?」 「さ、さいとさん、ころされちゃう。きぞくをほんきでおこらせたら……」 精一杯に怯えた顔を見せながらシエスタも何処かに走って行ってしまった。 「ギーシュなら昨日の広場で待ってるから、行ってあげなよ」 マリコルヌはサイトに決闘の場所を教えて中庭から立ち去った。 一人残されたサイトは何が何だか訳が判らないが、無視すると色々とマズそうなので仕方ないと言った様子で ギーシュの待つ広場へと歩き始めた。
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前ページ次ページ鋼の使い魔 せっかくの虚無の曜日が暮れてとっぷり。 トリステイン魔法学院内にある大会議室はオールド・オスマンを首座に座らせて教師という教師が集まり、非常に重たい空気を作っていた。 陽も落ちかけた頃に突如として現れたゴーレムが宝物庫を破壊し、収蔵されていた無二のマジックアイテム『破壊の杖』が 盗賊『土くれのフーケ』によって盗み出されてしまった。 その慎重にして大胆な犯行に学院の管理者たる教師たち一同は責任の所在と今後の対策について、 議論とは名ばかりの自己保身や責難に明け暮れた。 「当直のものは何をしていたのだ!」 「衛兵など当てにならぬ!今後はこのようなことが無いよう国軍に警護をまかせるべきではないか」 「当直を行っていなかったミセス・シュヴルーズには損失の弁償を…」 「そんな!私だけじゃなく他の方々も満足に当直なんてなさっていなかったでしょう!」 「国軍を安易に学院内に留まらせるのは学院の自主性の放棄じゃないか?!」 まさに議会踊って進まず。このような状態が3時間は続いていた。 好々爺の姿勢を崩さずそのやり取りを見守っていたオールド・オスマンであったが、さしもの業を煮やし取り乱す教師たちを一喝する。 「静まらぬか。皆の者」 半ば立ち上がりながらも喧々と口角泡を吹いて立ち回っていた教師達は、齢300とも称されるこの老メイジの放った覇気に当てられて 喉を詰まらせた。 「ここにおるほぼ全員が学院に賊が入り込むとは考えていなかった。無論、宝物庫の壁には強固に固定化を仕込んでおったが、所詮人の技。 事実盗賊めにまんまと破られて『破壊の杖』を持っていかれた。 詰まる所、今回の責任は学院の管理者たる我々全員にあると、わしは思うが如何かねミスタ・ギトー」 「お、おっしゃるとおりに……」 一際激しく責任者を探すべくなじっていたギトーは名指しされて鼻白んだ。 オスマンは咳払い一つ、いくつか空いた席が置かれて座っているコルベールに聞く。 「で、賊を直接目撃したものはおるのかね」 「はい。こちらに集まってもらってます」 コルベールは平素と変わらぬ態度で――ただし、その顔は幾分か険しい――会議室の隣に繋がるドアを叩き、中の者を呼び寄せた。 開けられたドアから入ってくるルイズ、ギュス、キュルケ、タバサ。 本来はギーシュも広場に居たため目撃していたはずなのだが、ゴーレム倒壊による負傷のため現在は医療室へ運ばれている。 ただし、勤務医の報告によると、ギーシュ・ド・グラモンは土砂崩落に巻き込まれた負傷に付随して、一種の欠乏症からくる 健康障害も患っていたことをここに記しておく。 閑話休題。オスマンは立ち並ぶ四人に対して暖かい目で迎えた。 「ふむ。詳しく話してくれるかの?」 一礼して一歩進み出るルイズ。他方ギュスターヴにも教師達の視線が集まってくるが、それは学院の会議室という厳かな場所に許可を与えたとはいえ平民が入り込んできている、という事への不快さを露にしたものだった。 「私はあの時、広場で魔法の練習をしていました。偶然広場に居たギーシュが塔の上に人影が見えたと言って、その後地鳴りが起こって 壁の向こうから大きな土のゴーレムが入ってきました。私はそれを撃退できないものかと遠くから魔法を打ちましたが、何度目かに命中して ゴーレムが崩れました。落ちてくる土から逃げる為に建物の中に一度はいり、土煙が収まってから外に出た時には、土の山だけで 賊が居なくなっていました」 「賊の特徴は覚えておるかの」 「黒いローブを身に着けていましたが、顔はおろか男か女かも分かりません……」 杖を振って賊を追い払うことに夢中で賊の顔形が頭から無かった事を心深くからわびるルイズに、あくまでも教師として 優しさと厳かさの混じった声で語りかけるオスマン。 「よいよい。生徒でありながら勇敢に杖振るったことを褒めてやろう。しかし一歩間違えば命の危険もあったのじゃ。そのことを忘れぬように」 はい、とルイズ。オスマンは教師達へ向きなおし、彼らに問う。 「さて。手がかりらしいものが何も残されておらぬ。どうするべきかのぅ」 「王宮に報告するべきではないでしょうか」 当直であったために最も非難を浴びていたミセス・シュヴルーズが積極的に手を上げる。 「ならぬ。先ほど言ったように今回の責任は我々全員にあるのじゃ。この件で王宮の官吏どもから非難と処罰があれば、我々は 責任を取らされて職を辞し、学院の管理運営は最悪アカデミーの傘下に吸収される、という事もありうるじゃろう。 そのような事があってはならぬ。ゆえに我々だけでフーケを捕縛、ないし『破壊の杖』を奪還せねばならぬのじゃ」 アカデミーとは学院と同じく国が置いた王立の機関の一つであるが、その目的は学術的な意味での魔法に関する研究である。 ただし学院とは違い、積極的な宮廷や地方貴族らからの寄付や義捐などを募り、内部の党派閥の激しい機関であることが知られている。 そのような連中に次代の貴族を育てる学院の運営を任せられない、ましてや不祥事をきっかけにしてなど。 オスマンの言葉に色を無くす、シュヴルーズ始め教師達。ことは己の職の安否にすら繋がるものと恐々とし始める。 ただなお、首座のオスマンは冷静にこの大事な会議の場に欠席する秘書の存在を気に掛けた。 「そういえば、ミス・ロングビルの姿がおらぬのう」 「どこに行ったのでしょうか。自室にはご在宅ではありませんでした」 明確に答えることが出来ないコルベールはそう言うしかない。 そこに勢い良く会議室の両開きの扉をと開け放って飛び込んできた人影があった。そこに室内の全員が視線を集める。 「遅れました!申し訳ありません皆さん」 「ミス・ロングビル!大変ですぞ!賊が侵入して宝物庫を荒らしていきましたぞ!」 「存じておりますわ。私、真っ先に宝物庫を確認して賊の後をつけるべく調査して参りましたの」 息を切らせ汗ばみ、額に髪が張り付いていたミス・ロングビルは、コルベールの言葉に答えながらたたずまいを直してオスマンの元に寄った。 「仕事が速くて助かるのぅ……」 「で、結果は?」 ミス・ロングビルは懐からなにやらメモ書きのようなものを取り出してそれを読み上げる。 「近在の農家などに聞き込みをしてみましたところ、ここから馬で4時間ほどの場所にある廃屋に、近頃見知らぬ人の出入りがあるとのこと。 ゴーレムの侵入した方角とも合わせて、おそらくそこがフーケと名乗る賊の棲家ではないかと思われます」 「上出来じゃ、ミス・ロングビル」 報告に満足したオスマンは再度教師陣に目を移し立ち上がった。 「さて諸君。再度言うがこの件は我らだけで解決せねばならぬ。故に今からフーケ捜索の有志を募る。我こそはと思うものは杖を上げよ」 オスマンの言の後、無言の時間が流れた。オスマンは大きく咳払いをしてもう一度教師達をみたが、教師達は互いに見合わせるだけで 何もする事が無い。そうして四半刻がゆっくりと流れた。 流石のオスマンも苛立ってくる。 「ええい、この中にフーケを捕らえようというものはおらんのか?貴族の威信にかけて汚名を雪ごうというものは」 ぐ…と杖を握る腕を震わせる教師一同。相手は巨大なゴーレムを作り出せるほどの優秀なメイジあることは明白。 しかも今から賊の住処を荒らしに行くというのだ。よっぽど自分に自信のあるものでなければ杖を上げることは出来ない。 オスマンはコルベールを見た。目を伏せ、ただじっとしている。汗一つ、震え一つ見せないその姿をオスマンは無念そうに眺めていた。 やがて上げられた杖がまず一つ。それは教師達からではない。 「ミス・ヴァリエール!」 「行かせてくださいミセス・シュヴルーズ」 会議室の隅に立ったまま待機していたルイズはじめ四人。一歩進み出てルイズは制止しようとするシュヴルーズに応えた。 「貴方は生徒ではないですか。ここは我々教師達に任せておくのです」 「そうは言っても、だれも杖を上げないではないですか」 たじろぐシュヴルーズ。そのとおりだ。現に止めるシュヴルーズ自身、杖を上げなかったのだ。ルイズを止めておける資格が無い。 そのやり取りを見ていた後の二人も杖を掲げた。 「ミス・ツェルプストー!それにミス・タバサも!」 「ヴァリエールには負けていられませんもの。でもタバサ、貴方はいいの?」 キュルケは脇に立つ友人に目を向けた。タバサは一旦掲げた杖を少しおろし、ルイズに、そしてキュルケに向けて一言。 「心配」 言葉少ない友人の気持ちに心を暖めるキュルケだった。 そんなやり取りをじっと見ていたオスマンは、ふむ、と一言言って教師達へ話した。 「では、彼女ら3名を捜索隊として遣わす」 「オールド・オスマン!」 「それとも君がいくかね?ミセス・シュヴルーズ」 「ぃ……いえ、私は…」 「彼女らは一度賊を見ておる。それにミス・タバサはシュバリエの称号を持つ優秀なメイジじゃし、ミス・ツェルプストーもゲルマニアの 高名なメイジの家系として優秀なトライアングルメイジじゃ」 シュバリエとは国が貴族へ与える爵位の一つだが、領地を与えられぬ無領地爵位でありながら、実戦能力等の実力によって 与えられるものであり、優秀なメイジの証でもある。 しかし、とオスマンは言葉切ってルイズを見る。 「ミス・ヴァリエール。本当に捜索隊に志願するかの」 「……はい!」 ルイズの目ははっきりと開かれオスマンを見ている。その態度に満足したオスマンは、 「うむ。では明朝未明より捜索隊として君達に外出許可を出す」 「「「「杖に賭けて」」」 「ミス・ロングビルには道案内をたのむぞ」 声をかけられたミス・ロングビルは心穏やかにそれを了承した。 「了解しました」 誰にも分からぬほどに笑いながら。 明朝、捜索隊として集められた一同は、用意された馬車に乗り込み、朝の澄んだ空気の中、出発した。 道中は森まで街道を行き、途中から徒歩による探索になるという。 「ミス・ロングビル。手綱など御者に持たせればよろしいのに」 案内人のミス・ロングビルは自ら馬車の手綱を取る事を願い出て、二頭引きの馬車を操っている。 「いいのです。私は貴族の名を捨てたものですから」 「よろしければ、事情を教えてもらえます?」 沈黙が二人に流れる。ロングビルは少しだけ、表情を曇らせたが、努めて空気を汚さぬように振舞った。 「……とある事情で廃名されまして。家族を養わなければなりませんので街に出て働いていたのですが、そこをオールドオスマンに 秘書として雇ってもらいましたの」 興味津々に聞いていたキュルケのシャツが何者かに引かれている。キュルケが振り向くと、小柄な友人が首を振って言った。 「野暮」 「それもそうね。ごめんなさいな、ミス」 「いいえ。慣れていますので…」 その言葉にほんの少し憂いを残す。 一方、馬車の別一角。ルイズは無理矢理同行させたギュスターヴの愚痴を叩き伏せるのに夢中だった。 「何も自分から厄介を拾いにいくこともないだろうに」 「何言ってるのよ。学院に賊が入ったのよ。これを放置するのは貴族の名折れよ」 「いつの時代も貴族ってやつぁ、大変だーな嬢ちゃん」 研ぎ終わったデルフがギュスターヴの腰に指されている。短剣とつりあうように左右に指された剣はギュスターヴの心象に 一応の安心感を与えていたのだが、この場においては多方向からの言葉に対応しなければいけない分、不利である。 「しかしだなぁ。何で俺まで引き連れるかね」 「ギュスターヴ。あんたは私の使い魔なんだから。腕に覚えがあるんでしょ?手伝って当然でしょ」 「当然って言われてもなぁ…」 「ま、いいじゃねーか。俺様は賛成だぜ。相棒の腕が早く見てーからな」 「……昨日みたいにでかいゴーレム出されたらあんまり出番もないんじゃないかなぁ……」 「ぶつくさ言わないの!使い魔だと分かってるなら主人の助手くらい承諾しなさい」 「そうだぜ相棒。もう馬車は出てるんだから嫌嫌言ってもしょうがねーぜ」 サラウンドで会話をするのは非常に面倒である。朝早くから馬車に揺られてそんなことをするのは気が削がれていく。 「分かったよ…」 うんざりしながらも渋々と首を縦に振るギュスターヴなのだった。 馬車が進んで3時間半。街道を外れた森の手前で馬車を止め、そこから徒歩で森に入って奥、ほんの少しだけ開かれた場所に あばら家が見える。 「農家からの聞き込みでは、おそらくここと思われます」 森の茂みの中、わずかにうねって身体を隠しておけるところに集まった5人。 「で、中はどうやって確かめるの?中に賊が居れば外におびきだす囮になってもらわなくちゃいけないけど」 キュルケは作戦を立てた。まず一人ないし二人で小屋に近づき、中にいれば陽動して外に出して挟撃する。 居なければ小屋の中で待ち伏せて賊の帰りを待つ、というものだ。 それを聞いたタバサは杖でルイズを指し示す。 「行くべき」 「私?」 そう、と答える。 「一番最初に杖をあげた。私もついて行く」 その言葉にキュルケが不思議そうにタバサを見た。 (自分から他人に近づいていくタバサって珍しいわね) 「引き受けたわ。見てなさい」 ルイズはタバサをつれて茂みを遠回りして廃屋に近づいていく。 残された三人は、周囲に賊が張り付いていないかを探す。 「ミス。つかぬ事をお聞きしますが、属性とクラスをお教えいただけます?」 「土のラインです。……!」 「なにか?」 ロングビルが何かに反応した。 「何か人影のようなものが見えましたわ。ちょっと見てきます」 険しい顔でロングビルが森の奥へ入って行き、木々の陰に見えなくなった。 キュルケはふと、自分がギュスターヴと二人きりになれたのを好機に話しかけて、自分への興味を持ってもらえないだろうか、と思い始めた。 「ミスタ・ギュスは今回の事件どう思われて?」 「…なぜ俺に聞く?」 ギュスターヴは腕を組んで木に寄りかかって聞いている。 「この捜索隊にあまり乗り気じゃなさそうだったみたいだし」 「そうだな…もし、俺が賊だったら。こんな中途半端な距離にある廃屋に潜んだりしない。 夜を通して移動して国境を越える。そうすれば追っ手はひとまずこないからな」 (あら、結構口が辛いわね。でも年の割に若々しい感じで素敵) キュルケは暗に自分の立てた作戦の不備を突かれているのだが、本質的に賊捜索に真剣なわけではないから気にしないことにした。 むしろ、このあばら家を探し出したロングビルの情報元があやしいかも、なんて思い始めた。 「では、この情報はガセ?」 「そうとも言えない。……そうだな。例えば賊が何らかの事情で現場から余り離れることが出来ないとか、或いは……」 「或いは?」 「…何か目的を持ってここに潜み、捜索隊を待ち伏せるとかな」 あばら家に徐々に近づいていくルイズとタバサ。ルイズは足元に罠があるかも、と観察しながら歩いていたが、 よく見ると自分達のほかに、あばら家の周りには真新しい足跡がいくつかついている。 「ボロボロの小屋なのに人の使ったような跡があるわね。賊が使っていたに間違いなさそうね……」 そっとあばら家の外壁に張り付いて窓からそっと中を覗く。中は薄暗いが人の気配はない。 タバサが近づいて、杖先でゆっくりドアを開ける。古い蝶番が軋みを上げて動き、仄かな日光があばら家の中へ入るが、やはり中に人が居ない。 慎重に慎重を重ねて覗き、人が居ない事を再度確認して中に入ったルイズとタバサ。あばら家の中にも新しい足跡は残されていた。 ほかには腐りかけの藁や農具のようなものが置かれていて、その中に比較的綺麗な布で包まれて立てかけられているものがあった。 ルイズはそれを手にとって開いてみる。中には不可思議な装飾の施された、杖。 「これが『破壊の杖』?普通の杖に見えるけど……」 次の瞬間、あばら家の外から轟音が聞こえる。地鳴りのような振動があばら家の弱りきった土台越しに足元を震わせる。 「何?なんなの?!」 「ここは危険。脱出する」 飛び出そうと二人は出入り口に駆け寄ろうとした寸前、出入り口に土の塊がぶつかる。土の塊は砕けて出口を塞いでしまった。 「ゴーレム!」 ルイズの叫びが中に響く。 外で待っていた二人には静かな時間が流れている。ミス・ロングビルは人影を探しに行ったきりで戻ってこない。 もしかしたら迷ってるのかしら、などと考えていたキュルケは、あばら家の更に奥の森からごごご…と音を上げて 持ち上がっていく土の山が見えたとき、緊張に身体をこわばらせた。 やがてそれは草木交じりの身体をした巨大なゴーレムに変形し、小屋を見下ろしている。 ギュスターヴは腰の剣に手をかけ、キュルケも杖を構えた。 「昨日のと同じゴーレム?!」 「多分な。二人を小屋から脱出させるぞ」 小屋に駆け寄る二人、しかしわずかに遅く、ゴーレムの拳があばら家に落ちる。落ちた拳は切り離されて土砂の塊となって あばら家の出口を塞いでしまった。 「タバサ!ルイズ!」 叫ぶキュルケ。ギュスターヴはキュルケの脇に立ちデルフを右手で抜いた。 「ゴーレムをひきつけるぞ!」 鞘から抜かれたデルフリンガーは、握りにも新しい布が巻かれ、丁寧に研ぎ澄まされた刀身が日光を受けてきらりと光る。 「俺様の出番だな。期待してるぜ相棒!」 袈裟斬り気味に振りかぶってゴーレムに飛び掛るギュスターヴ、キュルケも杖をゴーレムに向けて唱える。 「フレイムボール!」 「『かぶと割り』!」 ファイアボールよりも巨大な火球が発射してゴーレムの胸に当たり、露出していた樹木の枝が焼けて落ちる。 ギュスターヴの剣戟が腹に当たって衝撃が土を抉るように削り落とした。二人の攻撃で大きく一歩半、ゴーレムはよろめいた。 その振動は気を抜けば足首を痺れさせて立てなくさせる。 ガッシャン、と小屋から窓の割れる音が二人を振り返させる。背に背負ったあばら家の窓を割って這い出してきたタバサとルイズ。 その手にはしっかりと『破壊の杖』が握られている。 「ふひー」 「ルイズ!」 「『破壊の杖』を見つけたわ!あとはフーケだけよ」 そのやり取りを見逃さない。ゴーレムの拳が降ってくる。ギュスターヴは急いでゴーレムの足元から逃れた。 「ギュスターヴ!」 「ここは危険だ。一度引くぞ」 口笛を吹くタバサ。森の上空に青い軌道を残して飛ぶするシルフィードがゴーレムを中心に何度も旋回し、ゴーレムの動きを阻んだ。 鬱陶しそうに両拳を振り回すが、シルフィードの動きについていけないゴーレム。 「今の内」 「逃げるわよルイズ。『破壊の杖』は回収できたんだから長居する必要は無いわ」 あばら家を背に森の中へ逃げ込もうとするキュルケとタバサ。少なくとも盗まれたものが手元に戻ってきた以上、危険であれば それ以上する必要は無い、というのは正常な判断に思われて、ギュスターヴはそれに倣う。しかし、 「ルイズ?」 「私は引かないわ」 ルイズは逆だった。注意が上に向けられているゴーレムをじっと見る。 「私は貴族よ。賊を恐れて逃げ出すなんて出来ないわ」 「駄目だルイズ。見るんだ。ゴーレムの上に賊が乗っていない。フーケは森に潜んでゴーレムを動かしてるんだろう。 ゴーレムを倒しても賊が見つからないんじゃ意味が無い」 きゅいーっ!と上空のシルフィードが悲鳴を上げる。巡航速度以上のスピードで狭い空間を飛び回るのは飛行に長けた風竜でも限界がある。 「そうよルイズ。第一まともに魔法が使えない貴方じゃゴーレムの足止めも出来ないわよ 「黙りなさい!」」 吼えるルイズ。 「貴族とは、魔法を使えるものを言うんじゃないわ。敵に背中を向けないものを貴族というのよ!」 ルイズの目にはゴーレムしか写っていない。ゴーレムに走り寄りながら杖を向けた。 「ルイズー!」 「見てなさい!フレイムボール!」 キュルケの制止を振り切って詠唱、やはり爆発。ゴーレムの胸が爆発の衝撃で抉れ飛ぶ。 しかしこれがゴーレムの注意をシルフィードから足元へ移させてしまった。 「もう一度!フレイムボール!」 なおも詠唱、爆発。ゴーレムのわき腹が吹き飛ぶが、痛みを感じないゴーレムにとって身体を支える程度の強度があれば問題は無い。 ゆっくりと片足を上げてゴーレムがルイズの頭上に迫る。 「フレイムボール!フレイムボール!フレイムボール!」 遮二無二連発するルイズだが、ゴーレムの体がいくら傷つけられても、落ちてくる足が止まることはない。 「ルーイズ!」 キュルケの悲壮な叫びが森に響く。降ろされたゴーレムの足がルイズの居た場所を踏み潰していた。 「無茶はしてもらいたくないな。ルイズ」 「はぇ…」 ルイズはその時、ギュスターヴの片腕に抱かれて意識を朦朧とさせていた。 ギュスターヴはとっさに駆け出し、ゴーレムの足が落ちる寸前、ルイズを捕まえて脱出したのだ。 抜き身のデルフリンガーが『左手』に握られて、右腕にしっかりとルイズを抱きしめている。 左手の甲に刻まれたルーンが、仄かに光っている。 「おお、思い出したぜ相棒!」 「何?」 「…ちょ、ちょっと、ギュスターヴ!さっさと私を降ろしてよ!」 「ああ、ちょっと待ってろ」 ひとまず抱き上げたルイズを降ろす。 「で、何だって?デルフ」 「思い出したぜ相棒。お前さんは『ガンダールヴ』だ」 「「『ガンダールヴ』?」」 ルイズとギュスターヴ両方の質問の声が重なる。 「あらゆる武器を使うことができる伝説の使い魔ってやつよ。心を奮わせて俺を握りな。体から力を引き出してやれるぜ」 試しにギュスターヴはぐっと強くデルフを握り、呼吸を変えて神経を集中させると、ルーンが一層の輝きを増す。 「ルーンが光ってる……」 「嬢ちゃん、ここは相棒に任せて下がりな。使い魔が賊を倒せたら主人の手柄になるんじゃねーの?……それでいいだろ、相棒」 「仕方が無いな…下がってろ、ルイズ」 「ギュスターヴ……。…ごめんなさい」 再度シルフィードで撹乱されていたゴーレムは、シルフィードがあばら家の前に下りると首らしき部分を下に向ける。こちらを見ているようだった。 「タバサ。皆を乗せて森を出るんだ」 「貴方は?」 「少しばかり時間を稼ぐ」 「ギュスターヴ!……ちゃんと帰ってきなさいよ」 無言で頷くと、シルフィードは飛び上がって馬車を留めた場所に向かって飛んでいった。 「さて相棒。どうするかね?こんなでかいゴーレムを」 ゴーレムは足を落とす、腕を落とす。それを『ガンダールヴ』の力を試すように動き回りかわしていく。 「とりあえずルイズ達が安全な位置まで移動できる時間を稼ぐぞ。タバサの使い魔が飛んで馬車の準備が出来るまでだ。その後は」 「後は」 「……あれを壊す。覚悟しろデルフ。折れるんじゃないぞ」 「まかせときな」 ギュスターヴは、このとき初めて左手でデルフを構えた。ゴーレムは足元のギュスターヴを認識して拳を落とそうと踏み込むが、 ギュスターヴは自分から踏み込んで、ほぼゴーレムの真下に立つ。 袈裟に構えて腰を落とす。両足から両脚、膝、腰、背筋から腕、そして手首にかけてに神経を集中させる。 「『ベアクラッシュ』!!」 一声。高く飛び上がったギュスターヴの一撃が、ゴーレムの肩に叩きつけられた。炸裂音にも似た衝撃がゴーレムの右肩を走る。 ギュスターヴの剣技の中で一、二を争う剛剣は、『ガンダールヴ』の力も合わさって深々とゴーレムの身体を進み、深く入った亀裂が 右腕を支えきれなくなって折れる。落ちる右腕を確認してからゴーレムの身体に食い込むデルフを抜いて、ゴーレムの体の上を走る。 飛び上がるようにジャンプし、デルフをゴーレムの胴体に振り込んだ。 「『天地二段』!」 削撃音を響かせてゴーレムが切り裂かれていく。地面に達した瞬間にデルフを水平に払うと、ゴーレムの足首が切れ飛んで、 衝撃で仰向けにゴーレムは倒れた。倒れることで森が揺れて、驚いた鳥達が一斉に飛び立っていく。 「まだだぜ相棒。ゴーレムは再生できる。操ってるメイジが居る限りな」 「その通りよ。とはいえ只の平民が私のゴーレムをここまで壊せるなんてね」 背後から声かけられたギュスターヴ。声の主はミス・ロングビルだったが、彼女はギュスターヴの背中にナイフを突きつけている。 「ミス・ロングビル。何を」 「その名前はちょっと違うねぇ。私の名は、『土くれのフーケ』さ」 握っていた剣を降ろすギュスターヴ。振り向くことも出来ず、ただ背中からの声に耳を傾けた。 ギュスターヴは抑揚の無い声で話しかけた。 「近くに居るだろうとは思っていたが、賊の正体が貴方だったとはな」 「主人を逃がすために一人で戦うなんて立派だねぇ。でもここまでさ。アースハンド!」 地面から延びる土の腕がギュスの足を絡め取る。 「何!?」 次に崩されたゴーレムが盛り上がって山になる。そして先ほどより小さいゴーレム――それでも、3メイルはある――が2体、形成されて ギュスターヴの前に立った。 「そこで暫く遊んでな。私はあの嬢ちゃんたちから『破壊の杖』をもらってくるから」 フーケは悠々と森を出て行く。足を止められて追うことが出来ないギュスターヴは、拳を突き出してくる2体のゴーレムをデルフでいなすしかない。 「どうするんだよ相棒。このままじゃやばいぜ」 「少し時間が掛かるが始末は出来る。あとはそれまで、ルイズたちが無茶をしないでくれていれば……」 シルフィードが森を抜けて馬車を止めた場所で降りた時、丁度ミス・ロングビルが森から飛び出してルイズたちの視界に入った。 「ミス・ロングビル!ご無事ですか?」 「はい。ゴーレムが見えたので一度森を脱出しようと思いまして。……その手のものが『破壊の杖』ですね」 「はい」 ルイズは手にしっかりと『破壊の杖』の包みを握っていた。 「改めさせていただきたいので、こちらへ……」 破壊の杖を持ってルイズはロングビルに近寄った。ルイズがロングビルの手に届いた瞬間、羽交い絞めにするように押さえつけられたルイズの首に、ロングビルの手に 握られたナイフの刃が当てられる。 「ミス・ロングビル?!」 「大人しくしな!じゃないとこいつの首が落ちるよ!」 粗野な言葉遣いと目の前に出来事に動くことが出来ない。 「あなたが賊……土くれのフーケだったのね」 「そうさ」 ルイズが苦しげにロングビル……土くれのフーケに言った。フーケはひたひたとナイフを当てながらけらけらと笑って話す。 「頑丈な宝物庫の壁を壊してくれて例を言うよおちびさん。でもね、せっかく手に入れた『破壊の杖』なんだけど、使い方がさっぱり分からなくてね。 どう見てもただの杖なのに振っても何をしても反応が無い。だから人の来ないこの森まで捜索隊をおびき出して襲えば、 『破壊の杖』を使うやつがいるんじゃないかと思ったんだけど…どうやら、無駄だったみたいね」 「わたしをどうするつもり?」 「ひとまず私が馬車で逃げるまで大人しく捕まってな。後で馬車から降ろしてやるよ」 フーケの顔が嗤っている。あの穏やかで美しかったロングビルの豹変にルイズをはじめ三人は戦慄した。 「嘘よ。薄汚い賊が離しなさい。キュルケ、構わないで私ごとフーケを打ちなさい!」 「そんなことできるわけないでしょ!」 「賊に捕まって好きにされる方が屈辱よ。早く打ちなさい」 ルイズが盾になってキュルケの魔法はフーケに届かない。そのことにキュルケは歯噛みしていたが、タバサはなぜか視線が少しずれて森を見ていた。 「麗しい友情ってところかい?まぁいいさ。そこで私が逃げるのを大人しく見守ってておくれよ」 フーケはルイズを引きずりながら馬車に向かって移動する。タバサがじわりと詰め寄ろうとすると、ルイズを引き寄せてナイフを首に当てなおす。 「動くんじゃないよ!本当にこいつを殺すよ」 「タバサ、やめて。ルイズが死んじゃう!」 キュルケは何も出来ずに叫ぶ。しかしタバサの目は冷静だ。静かに声を出す。 「大丈夫。彼がいる」 「彼?」 キュルケの脳裏にいまだ森から出てこない平民の使い魔が浮かぶ。フーケはそれを見越していたのだろう。可笑しくてたまらないとばかりにニヤニヤしている。 「あの平民の使い魔だったら、今頃森の中で私のゴーレムと殴り合いをしているよ。暫くは動けないはずさ」 「それはどうかな?」 背後に背負った森から何度か聞き覚えのある声が聞こえて、不意にフーケは返事をしてしまった。 「え?」 振り返った瞬間に視界に入り込んだものは、突進するギュスターヴ。手にはデルフリンガーではなく手製の短剣を握っている。 ギュスターヴは短剣を立てず、寝かせてフーケに当てて体勢を崩した。 「あうっ!」 それを逃さず倒れたフーケに剣先を突きつける。ルイズがフーケの腕から逃げてギュスターヴの背中に隠れた。 「『追突剣』……もう逃げられないぞ、フーケ」 ギュスターヴの空いた手にはフーケの杖が握られている。『追突剣』の際にフーケの懐から奪い取ったのだ。 フーケは起き上がってナイフを構えたが、背後に杖を構えたキュルケとタバサが間合いを詰めると、やがてナイフを捨てて両手を挙げた。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ滅殺の使い魔 ――森の一角。 「ティファ、薪割りが終わったが」 金髪の壮齢の男が少女に話しかける。 赤いタキシードを着こなす所にダンディズムが感じられる。 「あ、ありがとうルガールさん。 もういいですよ、休んでいて下さい」 ティファと呼ばれた少女は、料理をしながらルガールに言う。 「そういうわけにもいかんだろう、君のような少女が一人で働いていると言うのに」 ルガールは困り顔で肩を竦める。 そんなルガールに、ティファはクスッと笑うと、遊んでいる子供達を見る。 「なら、子供達の相手をしていて下さい」 「ふむ、わかったよ」 ルガールはそう言うと、子供達の中へ向かった。 「あー! ルガールおじちゃん!」 「ああ、何をしているのかな? 私も混ぜてもらいたいんだが」 そういって子供達に混ざっていく。 ルガールは考える。 何故、自分はこんなにも穏やかに日々を送っている? いや、それ以前に、何故自分は生きているのか? あの時、自分は死んだ……、いや『オロチの力』に体を乗っ取られた筈だ。 豪鬼との死闘の末、その殺意の波動を奪い、しかし、その力を使いこなせずに……。 その他にも疑問はあった。 果たして自分は、こんなにも穏やかな性格だっただろうか? 否。 断じて否だ。 『悪』こそが自分の全てだ。 では、なんの影響だ? オロチ? 否。 殺意の波動? これも違うだろう。 二つの力の反応? 否定は出来ないが、可能性は薄い。 ではやはり……。 このルーンの仕業か。 朝―― 朝早くに豪鬼は目覚める。 ルイズを起こす為では無い。 修行の為だ。 まだ日は昇りきっては居ない。 修行しよう、と考えた後に豪鬼は気付いた。 道知らねぇ。 つまり、洗濯にはかなりの時間がかかる。 道に迷うことも視野に入れなければならないのではないか。 結局、豪鬼は今日のところは何もしないことにした。 と、言うわけで、もう少しボーッとしていた訳だが。 しばらくして、日がかなり昇ってきたので、豪鬼はルイズを起こすことにした。 「ルイズ、朝だ」 ……反応を示さない。 「ルイズ、朝だぞ」 ……反応を示さない。 ルイズがあまりに起きないので、豪鬼は毛布を引っぺがした。 「な、何!? 何事!?」 「朝だ、ルイズ」 「はえ? そ、そう……。 って、誰よあんた!」 「豪鬼」 「あ、そうだ、昨日召喚したんだ」 ルイズは起き上がり、部屋を見渡す。 豪鬼は何も用意していないようだ。 そして豪鬼に命じた。 「服」 そう言うと、いつの間にか椅子にかかっていた服が豪鬼の手に握られていた。 「ま、魔法!?」 「いや、普通に取ってきただけだ」 いつもならかなり気にするところだが、そこは寝起きの頭である。 「下着」 「どこだ」 「そこのクローゼットの一番下」 場所を言うと、またいつの間にか豪鬼の手に 下着が握られていた。 豪鬼には基本恥じらいなど無い。 「服」 「渡したぞ」 「着せて」 豪鬼は、なるべく力加減を覚えるように着せた。 問題は無かった。 ルイズとともに部屋を出る。 すると、すでに一人の女子生徒が廊下に出ていた。 豊満な胸に、それを強調するような服の着方をしている。 普通の男であれば、否応無しに胸に目が行く所だが、そこは豪鬼である。 巨乳の女は他に見たこともあるし、全員鍛えぬいた体をしていた。 そんな訳で、豪鬼には目の前の少女の胸はただ肥え太った不摂生の賜物にしか見えなかった 彼女はルイズににやりと笑いかける。 「おはよう、ルイズ」 それに対して、ルイズはあからさまに嫌そうな表情になった。 「おはよう、キュルケ」 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない!」 豪鬼は密かに、それには感謝している、と心の中で呟いた。 「『サモン・サーヴァント』で、平民を呼んじゃうなんて、さすがはゼロのルイズね」 ルイズは頬を染めながら、キュルケを睨む。 「五月蝿いわね」 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。 勿論、一発で成功したわ」 「知ってるわよ」 「どうせ使い魔にするなら、こういうのが良いわよね~。 フレイムー」 キュルケが勝ち誇ったような声で使い魔の名前を呼ぶ。 すると、キュルケの部屋から虎ほどの大きさの赤いトカゲが現れた。 辺りを熱気が包み込む。 ルイズは息苦しそうな表情になる。 豪鬼は動じない。 「あら? 怖がらないの? 度胸あるのね」 豪鬼がそのトカゲを見る。 よく見ると、その尻尾には炎がついているではないか。 豪鬼は少し驚き、兄の弟子の金髪を思い出した。 更に、学生服の男も思い出した。 インド人も思い出した。 「これってサラマンダー?」 ルイズはかなり悔しそうだ。 「そうよー。 火トカゲよー。 見て? この尻尾。 ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランド物よー。 好事家に見せたら値段なんてつかないわよ? あたしの二つ名は『微熱』。 相応しいと思わない?」 未だに二人は何やら競っているが、それを尻目に豪鬼はフレイムを見つめていた。 こいつと死合いたい。 かなり好奇心が刺激されていた。 そうして豪鬼が必死で自分と死合っていると、キュルケが豪鬼に話しかけてきた。 「あなた、お名前は?」 「……豪鬼」 「ゴウキ? 変な名前」 「……ふん」 すると、キュルケは豪鬼の体をまじまじと見つめながら言った。 「うーん、でも、かなりいい体してるじゃない。 逞しい殿方は好きよ?」 キュルケは豪鬼を誘惑した。 豪鬼はそれでも揺るがなかった。 「それじゃあ、お先に失礼」 キュルケは、フレイムと共に去っていった。 キュルケが居なくなると、ルイズは悔しそうに拳を握り締め、呟いた。 「くやしー! 何であんなのがサラマンダーを召喚できて、わたしはこんななのよ! メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われてるぐらいなのに~!」 そう言いながら拳を豪鬼に向かって振った。 勿論そんなものが豪鬼に当たるはずも無く。 「かわすな!」 「当てて見せい」 そんなやり取りをしながら、豪鬼はふと思った。 そういえば、まだルイズの魔法を見たことが無い。 あの火トカゲと『微熱』という二つ名を見る限り、あのキュルケとか言う女は火を使うのだろう。 モグラを召喚している小僧も居たが、あれは土か? では、ルイズは? まさか『殺意』などと言う属性は無いだろうが、では何だ? 自分が使う属性に似たものは……。 『灼熱波動拳』しかない。 とすると『火』か? では『ゼロ』とはなんだ? まさか、あの光の剣を使う者という意味ではあるまい。 少し気になるが、まあ良い。 力を振りかざすのは弱者のみ。 あのキュルケとか言うのは弱者だろう。 「ほら、わたし達も行くわよ」 落ち着いたらしいルイズは、すでに前方を歩いていた。 「うむ」 豪鬼達が食堂に着くと、既に多くの生徒達が集まっていた。 ルイズによると、朝昼晩全てここで食事を取るらしい。 全てのテーブルには、豪華な飾りつけがなされていた。 「愚かな……」 無駄に権力を振りかざしているのがありありと分かり、豪鬼は少し失望していた。 これが人の上に立つ者として正しいとでも言うつもりか。 見たところ、相応しそうな人物など数人ではないか。 そんな豪鬼の態度を見て、ルイズは何を勘違いしたのか、得意げに豪鬼に説明した。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけではないのよ」 「……ほう」 「メイジはほぼ全員がメイジなの。 『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族足るべき教育を、存分に受けるのよ。 だから食堂も、貴族の食卓に相応しいものでなければならないのよ」 豪鬼は、心の中で舌打ちをした。 貴族足るべき教育? これがか? これでは傲慢な人間が増え、格差が広まる一方ではないか。 相応しい食卓? 下らん。 何故こんな贅沢の限りを尽くすものなのだ? 貴様はこの食事に相応しい人間か? 否、断じて否。 色々と腹は立ったものの、腐った人間などそれこそはいて捨てる程見てきた(強者ではあったが)ため、それくらいで済んだ。 「わかった? ほんとならあんたみたいな平民は『アルヴィーズの食堂』には一生は入れないのよ。 感謝してよね」 「……ふん」 「もっと感謝しなさいよ! ……まあいいわ、いいから椅子をひいてちょうだい。 気が利かないわね」 「ああ」 虫唾が走る思いで椅子を引く。 「じゃあ、あんたはそれね」 ルイズが床を指差す。 「特別に、ここで食べさせてあげる。 床だけどね」 皿を見てみる。パンが二切れ、肉が申し訳程度に浮かんだスープが一皿。 格闘家は体が資本である。 故に豪鬼は、断食したことなど無いし、一日として食事を抜いたことは無い。 瞑想や修行で知らないうちに食事を忘れていたことならあるが。 朝はこの程度で十分だろう。 そうおもった豪鬼は、少々野菜が少ないことを不服に思いながら平らげる。 パンを食べ終え、スープに手を付けようとした時、ルイズが鳥の皮を入れてきた。 「ほら、肉は癖になるからだめよ」 「要らん」 豪鬼の言葉を無視し、ルイズは自分の食事に戻った。 鳥皮などという油の固まりは、豪鬼にとって毒でしかない。 入れられてしまったものは仕方が無いと、豪鬼はスープを丸々残した。 豪鬼とルイズは教室の掃除をしていた。 ルイズが魔法を失敗し、教室を滅茶苦茶にしたからである。 事の成り行きはこうだ。 豪鬼とルイズが教室に入ると、一斉に生徒達が二人の方を向き、クスクスと笑った。 キュルケも男子達の中に居た。 多くの男をはべらせている様だ。 下衆が。 豪鬼はそう思ったが、やはり下衆の相手をする気はなく、ルイズの隣に座った。 教室内を見回すと、珍妙不可思議な生物がたくさんいた。 見回す中でルイズに視線を向けると、ルイズが不機嫌そうに豪鬼を見ていた。 豪鬼はそれに構わずに再び教室を見回し始める。 ルイズももう諦めたようで、何も言ってはこなかった。 授業中、ルイズが口論を始めたりはしたが、豪鬼は構わず、時間を瞑想に使っていた。 しかし、興味があるものが耳に入ると、それをやめ、授業に耳を傾けた。 「では、この練金を……、ミス・ヴァリエール、やって御覧なさい」 「え? わたし?」 「先生! やめた方がいいと思います! 危険です!」 キュルケが立ち上がり、叫ぶ。 教室の中の殆どの生徒が頷く。 「やります」 それに反応したのか、ルイズは何か決意したように言う。 つかつかと黒板の前に向かっていくルイズ。 すると、殆どのの生徒が机の中に隠れる。 その中でも、キュルケだけは隠れずにルイズを見つめていた。 さっきまで必死にルイズを止めていたのに、いざとなるとちゃんと向き合うとは、実は少しはやれるのではないか、と豪鬼は思った。 少なくとも、このときキュルケは豪鬼の中での『下衆その一』という位置づけからは脱していた。 ルイズが呪文を唱え、杖を振り下ろす。 刹那、爆発。 目の前の机を吹き飛ばし、破片を飛ばす。 豪鬼はそれに反応した。 丁度いい。 「ぬぅん!」 飛び散る破片や机を全て叩き落す。 「あ……」 キュルケだけがそれを目撃した。 豪鬼のお陰で大きな被害は出なかったものの、生徒達はルイズを睨む。 ルイズは全く悪びれる様子も無く、こう言った。 「ちょっと失敗しちゃったみたいね」 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「いつも成功の確率、ゼロじゃないか!」 豪鬼は、ルイズが何故『ゼロ』と呼ばれているのか理解した。 今日の「滅殺!」必殺技講座 灼熱波動拳 波動拳に炎を付加(?)し、放つ技。 この波動拳は、多段ヒットする上、威力も高いものとなっている。 その代わり、発射前に大きな隙がある為、使いどころが難しい技となっている。 コマンド「(右向きの時)逆半回転+パンチボタン」 「んんん、ぬぅん!」 「どうやって火付けてるのよ」 「知らん」 「はぁ!?」 前ページ次ページ滅殺の使い魔
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前ページ日本一の使い魔 「ダーリーン。」 ルイズにとって忌々しい声が聞こえる。早川に飛びつくキュルケ。キレるルイズ。我関せずで読書のタバサ。 「なによツェルプストー。何してるのアンタ?」 「あらヴァリエール、いたの?私はダーリンに会いたくて来たの」 早川は苦笑いを浮かべキュルケを見ると、背中に見事な見た目の剣を背負っている。 女性が持つにはかなり不釣合いな為、早川は尋ねた。 「この剣はどうしたんだい?」 「これは何処かのケチな貴族が、ケンにみすぼらしい剣を贈ったって言うじゃない? 私はケンにはこの剣がふさわしいって思ったから。この剣は差し上げますわ」 ケンは贈り物を受け取り礼を言うと、これから起こる事を考えそっと移動する。 「だ、誰がケチな貴族でっすって?何で人の使い魔に許可無く渡してるの?」 早川は両手を広げ肩をすくめる。 すると、タバサが早川の隣にやって来て何かを渡す。 「なんだい?くれるってのかい?」 コクリと頷き呟く。 「シルフィードがお世話になった」 二人の様子にルイズとキュルケは言い争う事を忘れる。 「ほぉー、きれいなペンダントだ。ありがとう。」 タバサの手をとり、軽くしゃがみ手の甲にキスをする早川。頬を染めるタバサ。 「「えぇぇぇーっ」」 「そろそろ帰りましょうかツェルプストー」 「そ、そうねヴァリエール」 二組はそれぞれ学院に帰るのだが、キュルケは思った。 「(私にはキスしなかったはね。ケンはタバサみたいなのが好みなのかしら、でも私がダーリンを)」 そしてルイズは考えるのをやめた。 そしてデルフリンガーは鞘に入れられたまま忘れられていた。 学院についた早川は二本の剣を交互に握り、自分の体の変調を確かめるように振るっている。 「なぁ相棒よ」 「なんだデルフリンガー」 「俺の事はデルフって呼んでくれ、それよりもよ相棒だって気が付いてるんだろ?その剣がナマクラだって」 「まぁな、でも言ったらレディが可哀想だろ?」 「相棒はキザだねー」 遠くから徐々に争う声が聞こえ肩をすくめる。 「お客さんだ」 「大変だな相棒」 ルイズとキュルケの二人が杖を相手に向け、叫ぶ。タバサは早川の横で興味無さそうに立っている。 「「決闘よ!」」 なぜこうなったかと言えば、早川には二本も剣は要らない。どちらの剣を使うのが相応しいのか 言い争い、それが拗れて決闘騒ぎになったのだ。 キュルケは『ファイヤーボール』を唱え、 ルイズは火球をかわし、『ファイヤーボール』を唱えるが火球は現れず見当違いの場所に爆発が起こる。 自分のファイヤーボールが避けられた事にムキになったキュルケは、もう一度火球をルイズ目掛け撃つ。 キュルケは後悔していた。このままだと自分がムキになって放ったファイヤーボールがルイズの顔に命中してしまう。 しかし、何かが目にも留まらぬ速さで火球を掻き消した。 早川はこのままではと思い、煌びやかな大剣を投げる。左手のルーンが光り、 想像していた勢いを上回る速さで飛んでいく。 投げた大剣が火球を掻き消し勢い衰える事なく学院の壁に亀裂を作り大剣が砕ける。 その様子に四人は 「(やりすぎたか、それにしてもこの力)」 「(ダーリン凄いわ!)」 「(あそこは宝物庫……)」 「(えぇー100%変身いらないじゃん)」 その様子を陰から見ていたロングビルは驚愕した。 「なんなんだい、あの使い魔。まぁ、せっかくのチャンスだし、利用させて貰うよ。出ておいでゴーレム!」 ロングビルが杖を振ると巨大な土人形が現れ、宝物庫の壁を殴る。 「な、何なのよアレ?」 「私に聞かれたって知る訳ないでしょ?タバサは何か知ってる?」 「おそらく『土くれのフーケ』のゴーレム。そして狙いは宝物庫」 「止めなくちゃ!」 ルイズが杖を振るうと、壁を殴るゴーレムの右腕に爆発が起きる。それに続けとばかりに、 タバサが『ウィンディ・アイシクル』、キュルケは『フレイム・ボール』を唱える。 しかしゴーレムの一部を吹き飛ばすが、すぐに修復してしまう。 邪魔者に気付いたゴーレムは三人を踏み潰そうと足を上げる。 タバサとキュルケは状況を冷静に判断し、退却という選択をする。 しかし、手柄を立てようと躍起になっていたルイズは判断を誤り退却が遅れた。 「ルイズのバカ!何やってんの!」 無常にもゴーレムは虫けらを踏み潰すかのように踏みつける。 顔をしかめるキュルケとタバサ。しかし、この男が黙って見ているはずが無い! 「チッチッチ、無茶はいけませんぜ。」 ルイズが目を開けると、ゴーレムが踏み潰した場所から数歩離れた所で早川に抱きかかえられている。 早川がデルフリンガーを片手に構え、テンガロンハットのつばを上げ 「デルフ、デビュー戦だ」 「おうよ!相棒!」 フーケは早川の処分が先決と考え、早川を始末するようゴーレムに命じる。 振り下ろされる巨大な拳、踏みつける足。なぎ払う掌。 その全てを後方宙返り、バックステップ、前方宙返りなどと華麗にかわしながら切りつける。 しかし、剣で切りつけただけでは再生するゴーレムには焼け石に水であった。 その様子を後方で見ていたルイズは、前に出てゴーレムに向かって杖を振る。 丁度、ゴーレムが早川を払おうと振り回した腕がルイズのいる場所に、ルイズの目線に土の塊が迫ってくる。 土の塊が徐々に大きくなり、もうダメだと目をつぶると横から衝撃を感じる。ふと目を開けると早川が放物線を 描き飛んでいく様が見えた、地面に叩きつけられ転がっていく自分の使い魔。 とっさに早川の元へと走る。キュルケもそれに続く。 「「ケーーーーン!」」 邪魔者がいなくなったゴーレムは壁を数発殴り穴を空ける。ぽっかりと空いた穴に黒いフードを被った 人物が入り、何かを抱えてゴーレムの肩に乗る。三人への攻撃を警戒していたタバサは、シルフィードを呼び ゴーレムを追いかける。しかしゴーレムが学院の壁を越えるとゴーレムはただの土くれに姿を変えた。 ゴーレムの主は森の木々に隠れ姿を消していた。 ─────ボツネタ───── ゴーレムに吹き飛ばされ、意識が飛びながらも立ち上がる早川。 敵を正面に保ったまま、両手を右側へ水平にピンと伸ばす。 そして、伸ばした腕を左斜め上までゆっくりと回し、静止させる。 そこから右腕のみを引き拳を握り元の場所へと突き出しなだら左腕を腰に構える。 高らかに叫ぶ 「変ー身!V3ァーーーー!」 ルイズ「絶対ダメーーーー!あんた(作者)!絶対叩かれるわよ!反応良かったら 使って見ようかなとか思ってるんでしょ!ダメだからね!!」 前ページ日本一の使い魔
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Mathieu まてゅー 委員長の魔女の手下。その役割はクラスメイト。 足に履いたスケート靴で糸の上を優雅に滑走するが それぞれは魔女が糸で操ってるだけであり意思を持たない。 概要 委員長の魔女・Patriciaの使い魔。 Patriciaの縮小版のような使い魔で、ひざまくらという商品を彷彿とさせる。 プリーツスカートを穿いた下半身のみの姿をしており、空から大量に降ってきたり、Patriciaのスカートから発射されたりする。一応外敵を邪魔しているようだが、落ちてきて糸の上をスケートするだけで、攻撃らしい攻撃はしてこない。 親の魔女と違いスカートの中身が見放題だが、ちょうちんブルマを穿いているので視聴者のご期待には添えない。 劇団イヌカレーによれば「魔女といえどもパンツチラリは許しません」とのこと。 その上、Mathieuは男性名である。女装が疑われるが、姓に使われることもあるので断定はできない。 ポータブルでのドロップアイテム MathieuはAGI強化ポイントをドロップしティーチャーはDEX強化ポイントを落とす。 ティーチャーについては詳細はないのでまとめて表記する。 名前 コメント
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 暖かな陽光が照らす朝。 朝食をとる為に食堂へと向かい、朝日が差し込む廊下を歩く影が二つ。ルイズとその使い魔=ジャンガだ。 「はぁ…」 「…何度目だよ、そのため息は?」 ルイズのため息にジャンガは顔をしかめる。 「仕方ないでしょ……他の皆は使い魔とのコミュニケーションもとっくに終えて、共に過ごしているっていうのに、 私は召喚から”4日”も経った今日、初めてアンタを連れているのよ?」 ”4日”の部分を強調し、ルイズは振り返らずに答える。彼女が憂鬱なのもまぁ無理も無い事ではある。 ジャンガは召喚から三日三晩経った昨日の時点で目が覚めてはいた。 だが怪我はまだ完治しておらず、念の為にともう一日休息を入れたのである。 その為、召喚から計4日と言う開きが出てしまったのだ。 ただでさえ皆に馬鹿にされている彼女にしてみれば、これは非常に致命的な弱みでもあった。 このまま食堂に行けばどうなるか…考えただけでも更に気持ちが沈む。 「はぁ…」 更に鬱な気分になり、彼女の口から再びため息が漏れた。 学生達が食事をする『アルヴィーズの食堂』は既に大勢の生徒で賑わっていた。 三つ並んだ、やたらと長いテーブルにはロウソクやら花が飾られ、所狭しと豪華な料理が並んでいる。 ちょっと油断をすれば直ぐに腹の虫が鳴き出す香ばしい匂いの中、ルイズはジャンガを引きつれ足を進める。 案の定、周りからは嘲笑が聞こえてきたが、彼女は全力でそれらを無視。 ジャンガに席を引かせると着席する。 「で?」 「”で”……って?」 「俺は何処に座ればいいんだ?」 ルイズの左右の席には既に着席している生徒が居る。 自分の席は何処かと辺りを見回す。ルイズはそんな彼のコートの裾を引く。 振り向いた彼にルイズは床を指差した。 ジャンガが視線を向けると、そこには罅の入った皿が一つあり、豪華な料理とは比べる事などできないほど、 粗末なスープと如何にも硬そうなパンが乗っていた。 「おい…何だこいつは?」 「この席に座っていいのは貴族だけなの。使い魔は本来なら外で待っているのよ? あんたは私が特別に計らってあげたから床。感謝しなさいよ?」 「……」 無言のままジャンガは床に座った。――額にハッキリと青筋を浮かべながら…。 朝食が終わり、午前の授業が始まった。 食堂でもそうだったが教室に入った途端、ルイズは生徒達に嘲笑や罵声を浴びせられた。 それにも彼女はやはり無視を決め込んだ。 そんな彼女と生徒達の様子を見つつ、ジャンガは他の使い魔達と共に教室の後ろの方で壁に凭れ掛かっていた。 暇潰し程度に授業の内容を聞きながら、ただ呆然と時間が過ぎるのを待った。 やがて暇を潰すのにも飽き、船を漕ぎ出した時、生徒達が急に騒ぎ始めた。 「んだぁ…?」 騒がしい声にジャンガは顔を上げる。 見ればルイズが席を離れ、先生(ミセス・シュヴルーズとか言ったか?)の方へと歩いていく。 そんなルイズに周囲の生徒達は一様に鬼気迫る表情を浮かべ、「やめて、ルイズ」などの言葉を投げかける。 食堂や教室に入って来た時などの嘲笑とはまた違うその雰囲気にジャンガは不可解な物を感じた。 「なんだってんだ…一体?」 そうこうしているうちにルイズは教卓の前に立った。 「では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く思い浮かべるのです」 優しく促す教師=ヴァリエールの言葉にルイズは緊張の面持ちで教卓の上の石ころを見つめる。 その様子を静かに見ていたジャンガだが、ふと一人の生徒が扉を開けて出て行くのに気付いた。 ゆっくりと扉を閉め、タバサは教室を後にする。 ルイズが魔法を使おうとすればどうなるかは誰もが承知の事実。 故に誰もが必死にルイズを止めようとしたのだ。 あの教師は少し気の毒だが、今年就任したばかりで彼女の事を知らないのだから致し方ない。 それにタバサにしてみれば気に留める必要もない。…何せいつもの事なのだから。 教室を離れた後は読書をしつつ、次の授業の事を考えればいい。 タバサは本に目を落としながら、静かに読書できる場所へと歩みを進める。 「授業中に抜け出すたぁ、良くねぇな~?」 唐突に聞こえてきた聞きなれない声にタバサは顔を上げた。 見れば壁に凭れ掛かりながら、こちらに顔を向けている長身の男が立っていた。 左右で色と見開き方の違う月目が自分を見つめている。 「…ジャンガ?」 「キキキ、嬉しいねぇ…俺の名前を知っているたぁな?」 何時の間に先回りしたのだろう?多少気になったが、タバサの興味をさらうほどではない。 タバサは本へと目を戻し、ジャンガの前を通り過ぎようとする。 「おいおい、無愛想だな…?」 「……」 タバサは最早顔も上げず、読書を続けながら歩みを進める。 そんな様子に舌打するジャンガ。 「まだ授業は終わっちゃいねぇぞ…?不味いんじゃないのか?」 「…いいの」 「おいおい…」 「多分…授業続けられない」 「そりゃ、どうい――」 ――その時、ジャンガの声を遮り、学院内を揺るがす爆発音が響き渡った。 「な、なんだぁ?」 突然の事にジャンガは両目を見開き、爆発音の聞こえてきた方向=教室の方を振り返った。 タバサは全く動じずにその場を立ち去ろうとする。その背にジャンガは声を投げかけた。 「お、おいっ!?今の何だ?」 「…彼女の魔法…」 タバサは振り向かずに一言。 「はっ?」 「…行ってみれば分かる…」 そう言い残すと彼女は今度こそ、その場を後にした。 ジャンガはその背を暫く見送っていたが、やがて教室へとその足を向けた。 「……」 教室へと舞い戻ったジャンガは言葉を失った。 あの爆発音からある程度予想はしていたが、目の前の状況は多少それを上回っていた。 教室内は爆発の名残であろう煙が充満し、壁や天井には罅が無数に入り、窓ガラスは残らず割れていた。 床や机には砕けた壁や天井の欠片が散らばっている。 ふと、目を向けた先の床ではシュヴルーズが倒れている。 時折痙攣しているところから目を回しているだけのようだ。 爆発の状況などから考えて、おそらくは爆心地に近い所に居たのだろう。 不幸と言えば不幸だが、これだけの大爆発の爆心地にいて目回している程度で済んでいるのは幸運と言える。 と、シュヴルーズの近くの煙の中から人影が立ち上がった。…ルイズだ。 顔は煤だらけ、服やスカートはボロボロ、路地裏で生活している奴と比べても大差無い…いや寧ろ酷い。 ルイズはこんな状況下でありながら、全く動じる気配を見せず、取り出したハンカチで顔の煤を拭き取る。 「慣れてるな…」 ある意味、感心したジャンガは思わず声を漏らした。 「だから言ったのよ!」 突然、響き渡った声にジャンガは目を向ける。キュルケが怒鳴り散らしているのが見えた。 しかし、やはりルイズは動じる気配を見せずにハンカチを動かす手を止めない。 「ちょっと失敗したみたい」 そんなルイズに生徒が一斉に騒ぎ出す。 「どこがちょっとだよ!」 「今まで成功の確立ゼロじゃないか!?」 「ゼロのルイズ!!」 『成功の確立ゼロ』……その言葉にジャンガは彼女が何故『ゼロのルイズ』と呼ばれるのかを知った。 (なるほどねぇ…) ジャンガは小馬鹿にするような笑みを浮かべ、ルイズを見た。 (ゼロ……つまり”無能”って事か…。キキキ…ピッタリじゃねぇか) 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 武器を失ったガンダールヴなど平民の小娘でしかない。 嗜虐の笑みを浮かべるワルドと、残りひとつとなった遍在。 一方、ウェールズとルイズはまだ杖を持っている。 先に言葉を始末し、遍在と二人がかりでルイズ達を殺すか? 雑魚を適当にあしらい、反撃する能力を持つルイズとウェールズを殺すか? ワルドの選択は、ルイズが決めさせた。 「ワルド!」 チェーンソーを破壊されたため言葉が無力化してしまったと理解しているルイズは、 言葉を守るため、注意を引くべく、ワルドに杖を向け詠唱を始めた。 失敗でも何でもいい、爆発を起こして、起死回生のチャンスを生み出さねば。 そんな動きを見せるルイズを、先に始末しようとワルドは決めた。 「エア・ハンマー!」 空気の塊を叩きつけられ、ルイズは石造りの壁に向かって吹っ飛ばされる。 壁に直撃すれば骨折程度ではすまない、打ち所が悪ければ死の可能性もある。 だからウェールズは、咄嗟にルイズに向けてレビテーションを唱え、ブレーキをかけた。 その隙に遍在がエア・ニードルを唱えながらウェールズに飛びかかる。 ウェールズはルイズの前に立ちふさがり、自らの肉体を盾として守ろうとした。 (さようなら、アンリエッタ――) 死を覚悟した男の背中を、ルイズは頼もしく思うと同時に、悲しくも思った。 自分のせいでウェールズが死ぬ。死んでしまう。 アンリエッタの大切な人を死なせてしまう。 (誰か――!!) 助けて、と思うよりも早く、彼女は来た。 エア・ハンマーで吹っ飛ばされたルイズを見て、言葉に動揺が走った。 裏切ったはずなのに、ああ、どうして自分は、こんなにも。 何とかしなければならない。しかし武器はもう無い。ガンダールヴの力は使えない。 武器を持たず飛び出しても間に合わない、ただの女子高生の力ではどうしようもない。 ウェールズが魔法をかけたのか、ルイズは壁に激突する前に止まったが、 その二人に向かって遍在が飛びかかる。エア・ニードルで杖を凶器として。 手を伸ばしても届かないと理解していながら、言葉は手を伸ばした。 何かを掴もうとして、虚空しか掴めぬ現実に打ちのめされる。 (私は、ルイズさんが殺されるのを、見ているしかできない) 絶望の中、憎しみを、悲しみが上回った。 その瞬間、床から光と共に、剣が飛び出してきた。 正確には生えたと表現すべきだろうか? 石畳を材料に剣が構築され、言葉の前に現れたのだ。 錬金? 土系統の魔法? 誰が? どこから? 何故? 世界を裏切った言葉に味方するものなど、何も無いはずだった。 しかしその女は確かに、言葉のために魔法を行使した。 教会の扉の陰から様子をうかがっていた、フードで顔を隠した女メイジ。 そのメイジの名は、土くれのフーケといった。 虚空を掴むしかなかったはずの手が、魔法で作られた剣を掴む。 左手のルーンが今までにないほど力強く光り輝いた。 感情の昂ぶりに呼応して力を発揮するガンダールヴのルーン。 今、ルーンは言葉の何の感情に呼応しているのか? 憎悪? 悲哀? 激怒? 確かなのは、ワルドへの敵意ではなく、ルイズへの情だという事。 風は烈風。すべてを切り裂く死の刃。 烈風となった言葉は、ウェールズの胸元を今にも貫こうとする遍在を一瞬にして一刀両断した。 かつて居合いを学んでいた言葉にとって、 剣という武器は日本刀ほどでないにしろずっと使いやすい獲物だった。 ノコギリやチェーンソーといった工具に頼っていた自分が馬鹿らしく思えるほどに。 そして、彼女が習得している居合いの真価は初太刀の後にある。 居合い斬り。大道芸として知られるこの技は、素早く抜刀して斬りつけるものだ。 しかし本物の居合いは違う。 抜刀をしての初太刀にすべてを込める一撃必殺の剣というのは間違いだ。 一撃で仕留められなかったら死に体という致命的な隙を作る? そんなもの剣技ではない。 居合いとは抜刀と同時に攻撃する技術であると同時に、 二の太刀、三の太刀を如何に素早く的確に放つかを追求している。 初太刀で相手を倒せなかった場合を想定せず抜刀する居合い術など存在しない。 初太刀でけん制し、二の太刀以降の攻撃で敵を仕留める事が多かったとさえ伝えられる。 刃を止めず、流れるように、様々な体勢から、様々な状況に対応し、臨機応変に敵を斬る。 それがい居合いだ。 だから、言葉は遍在を両断した直後にはもう、本物のワルドに向かって疾駆していた。 「ライトニング――!」 斜めに斬り上げる。向けられた杖を、ワルドの右腕ごと斬り落とす言葉。 悲鳴が上がるよりも早く、身を守ろうとして出された左腕を三の太刀で斬り落とす。 両腕を失ったワルドは、ようやくカエルのような悲鳴を上げてよろめいた。 そのワルドの視界の端で銀光がきらめく。 首筋に鋭い感触。 眼前で酷薄な笑みを浮かべるガンダールヴ。 「死んじゃえ」 ワルドの首筋にあてがわれた剣が、素早く引かれる。 「あ……」 呆けた声を漏らし、一拍置いてから、ワルドの首から噴水のように血が飛び散る。 白目を剥きいて糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、鮮血の結末を迎えた。 「こ、コトノハ……」 背後からルイズの声がする。 振り向きたい思いに駆られながら、言葉は眼前の死体に手を伸ばした。 その懐からはみ出ていた手紙、かつてアンリエッタがウェールズに送り、 任務を受けたルイズが回収しにきたそれを、言葉は自らの制服のポケットにしまう。 「コトノハ、大丈夫?」 心配げな、ルイズの声。 世界を、この世界のすべてを裏切ったはずなのに、 ルイズも、そして今手に持つ剣を与えてくれた者も、言葉に手を差し伸べてくれている。 その手を握る資格など無いのに。 「さようなら、ルイズさん」 振り向かずに、別れを告げる。 「裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません」 そう言って、言葉は誠の入った鞄を取りに行こうとし、教会全体が揺れた。 外が騒がしい。怒声と破壊音が響く。 「始まったか……レコン・キスタとの戦いが!」 ウェールズが言い終わると同時に、教会の天井が崩れる。 ワルドの死は悲しかったが、それよりも言葉とウェールズの無事をルイズは喜んだ。 ようやく話ができる余裕ができたと言葉に声をかけたが、返ってきたのは拒絶だった。 直後、ワルドとの戦いで気づかなかったが、 すでに始まっていたレコン・キスタとの戦いが、教会を襲った。 天井にヒビが入り、破片が落下し出す。小さな石でも、頭に当たれば大怪我をする。 そんな中を言葉はガンダールヴの脚力で椅子を飛び越えて誠の入った鞄を掴むと、 ルイズ達を振り返らず一直線に教会の戸を開け放ち走り去った。 「コトノハ!」 このまま行くつもりだ。レコン・キスタへ、クロムウェルの元へ。 アンドバリの指輪を求めて、独りで。 ルイズを裏切って。 (もう――戻ってこないつもり?) フーケと通じていた、ワルドと通じていた、という裏切りよりも。 これが言葉との別れなのかという予感が、悲しかった。 「ミス・ヴァリエール、ここは危ない」 茫然自失となったルイズの腕を掴んだウェールズは、 教会が本格的に崩れ出すよりも早く脱出する。 そこはすでに戦場となりかけていた。 言葉の姿を探したが見つけられない。 「ミス・ヴァリエール、君のために船を用意してある。 手紙は、ミス・コトノハが持っていってしまったが……君は逃げてくれ」 「ウェールズ殿下……」 「君はアンリエッタが心を許したかけがえのない友人。 僕の代わりに、彼女の支えとなっておくれ」 「……しかし、私は」 ルイズは唇を噛んだ。血がにじみ出るほどに。 任務を果たせず、ワルドは裏切った末に死に、言葉は裏切って手紙を持って逃亡した。 戦いが始まり、足手まといの自分は、やはりアルビオンから脱出するべきなのだろう。 でも。 ――裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません。 あの声は、今にも泣きそうなのをこらえているように聞こえたから。 振り返らなかった言葉。どんな表情をして、どんな瞳をしていたろうか。 レコン・キスタに行って言葉はどうするのだろうか。 誠が生き返ったらどうするのだろうか。 もう帰ってこないのか。 「私の、所に、もう」 頬が濡れた。 第15話 さようなら、ルイズさん 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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「クレイモア」の高速剣のイレーネ ラファエラ対峙後で右腕が常人の力程度に再生した状態 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 1 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 2 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 3 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 4 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 5 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 6 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 7 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 8 ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 9 軽い用語解説 『イレーネ』 組織のかつてのNo2。高速剣のイレーネの異名を持ち、No2だが歴代No1にも匹敵する力を持つ。クレア曰く「化物だな…お前も」最強の覚醒者『プリシラ』により左腕を奪われ瀕死の重傷を負うも辛うじて生存していた所に、右腕を失ったクレアを救う。高速剣と自身の右腕を託した。 『妖魔』 人の臓物を喰らい、人に化ける化物。 『クレイモア』 妖魔の血肉を取り込み、半人半妖と化した戦士。それぞれ47のナンバーで格付けされている。戦士が使う大剣の事も指す。 『覚醒者』 限界を超え妖魔と化した戦士の姿。思考が妖魔と変わらず基本的には人間の敵。元の妖力の高さに比例して強くなり、一桁Noの覚醒者は総じて強力。 『妖力解放』 戦士が内に秘める妖魔の力を解放させる事。1割で目の色が変わり、3割で顔つきが妖魔に近くなり、5割で体付まで変化する。8割を越えると限界を超えたとされ、大抵の戦士は覚醒者へと変貌する。また八割を超えていなくても負傷などの状態で妖力を解放すると限界を超える事がある。 『高速剣』 片腕を完全妖力解放させ、暴れまわる片腕を精神力で無理矢理押さえつける技。使用者には常に冷静を保つ強靭な精神力が必要。故に、心を震わせパワーアップするガンダールヴとは相性最悪。その神速とも言えるスピードは抜き身すら確認する事はできない。クレア曰く「ろくでもない技」