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ラノる 五 花宴は自室で茶を飲んでいた。部屋の外には屈強な護衛が数人おり、彼は何の心配もせず、ゆったりとした時間を過ごしている。 花宴の一族は江戸の時代は商人であったが、明治維新から戦前にかけて闇の商売に手を染め、莫大な資産を手に入れていた。そして戦後の混沌とした時代にさらに怪しげな商売に手を染めていた。だがそれも昔の話で、花宴財閥の三代目である花宴恭一郎の時にはすでに没落状態であった。このままでは多額の負債を抱え、花宴は消滅するところであった。 だがその時に花宴は先代たちが出会ったと言う“件”の文献を屋敷の蔵で発見したのであった。 そうして花宴は件探しに躍起になり、ようやくN県に件の子供がいると聞き、それを引き取った。件の子供を座敷牢に閉じ込めて、予言と予知をさせ、花宴は昔と同じような財力を取り戻していったのである。 (あの“件”を手放すわけにはいかない。あれを失えば、私はまた――) 花宴は自分に先代たちのような才能も運も無いと自覚していた。それゆえに彼は誇りを持たず、化物《ラルヴァ》の力を借りてまで花宴の家を護り続けてきたのだ。 件を手に入れて以来彼はラルヴァに魅せられ、ラルヴァ信仰団体“|聖痕《スティグマ》”のスポンサーにつき、飛頭蛮の殺し屋である李玲を派遣してもらい、それを私兵として招き入れていた。 漠然とした不安を押し殺そうと花宴は湯呑に口をつけ、熱いお茶を飲んでいく。すると、 「うわあああああ!」 突然部屋の外から悲鳴が聞こえ、思わず噴き出してしまった。 「何事だ!」 花宴は立ち上がり顔をこわばらせる。部屋の外では怒声と銃音や、破壊音が続けざまに聞こえてくる。 「てめえ! どうやってあそこから!」 「うああ! 化物め!」 そんな護衛たちの声が響き、突然自室の扉がめりめりと音を立てて破壊される。扉は頑丈な木製の扉だったのだが、吹き飛ばされた護衛の身体ごと、扉は突き破られた。 「な、なんだと……!」 開かれた扉へと視線を向けると、そこには気絶しているのかぴくりとも動かずに倒れこんでいる護衛たちの姿があった。そして二つの人影が部屋へと足を踏み入れてくる。 「よお花宴のじじい。まさか今のさっきで脱出してくるとは思わなっただろ」 「…………」 そこには座敷牢にいるはずの晃と、そしてその隣には件である澪がこちらを睨んでいた。澪は晃の影に隠れ、憐れむような視線を花宴に向ける。 「く、クソガキめ。私の“件”を返せ!」 花宴は憎悪をこめた目で二人を睨み返した。高齢にも関わらず、未だに執着心は一切衰えてはいないようである。 「澪はお前の物なんかじゃねえよ。連れて帰させてもらうぜ」 「許さん。そんなことは許さんぞ!」 花宴はばっと部屋に飾ってあった日本刀を手に取り、その鞘を抜き、煌めく刀身を剥き出しにして晃にその切っ先を向ける。だが晃は澪を後ろに追いやるも、まったく動じてはいないようである。 「なんだよじじい。やる気か?」 「殺す殺してやるぞ小僧……」 晃は花宴を挑発し、花宴は護衛を失ったため、意を決したように刀を構える。それを見て晃の後ろにいた澪が突然叫び始めた。 「あ、ああ! 駄目お兄ちゃん! また“視えた”の。お兄ちゃんが刀で刺される姿が!」 その言葉を聞いた花宴は狂気の笑みを浮かべる。 (殺せる!) 件の予言は絶対だ。澪が晃の刺される姿を視たというのならば、それは実際に起きることだ。つまり自分は晃を殺せる。そう花宴は確信した。 「うおおおおおおおお!」 花宴は刀の切っ先を晃の腹部目がけて突き出す。晃は避けることもせず、そのまま肩は晃の腹部を貫通していく。肉を貫いていく感触が花宴の手に伝わり、確かな手ごたえを感じていた。後ろから澪の甲高い悲鳴が聞こえてくる。 「はははは。間抜けめ。死ね、死ね!」 花宴は死にゆくであろう晃の顔を見ようと、顔をあげる。だが、その晃の顔を見て、その顔に違和感を覚えた。 そう、その晃の顔にはさきほど杖で叩かれたときの傷が消えていたのである。 どこにも痣なんてない、綺麗な肌がそこにあるだけだ。 (な、なんだと……!?) 花宴は刀を突き刺していても晃は平然とした顔をしている。まるで刀で刺されても死なないとでも言いたげな顔をしていた。 「こ、この化物めえええ!」 「そうだよ。俺は化物だ」 晃はそう冷たく言い放ち、全力のキックを花宴の顔面にクリーンヒットさせる。花宴は刀から手を離し、壁の方まで飛んでいき、がっくりと気絶してしまった。 ◆ 倒れた花宴を見下ろし、晃は彼が気絶したことを確認する。 振り返ると澪が涙を浮かべ、震えながら晃の方を驚いたように見ている。晃は腹部に刀が刺さったまま、澪のもとへと歩いていく。 「お兄ちゃん……だ、大丈夫なの?」 「ああ、全然平気だぜ。ところで澪、この刀引き抜いてくれよ。生憎俺の腕はこんなだからな」 「う、うん。わかった」 澪は怯えながら晃に突き刺さっている刀に手をかける。筋肉に掴まれているかのように硬く突き刺さっていたが、全体重をかけてようやく無理矢理引っこ抜くことができた。刀を抜いた瞬間血が溢れ出てくるのではないかと思ったが、そんなことはなく、少しだけ流血したがそれよりもっと驚くべき光景を澪は目の当たりにした。 「うそ……!」 刀で開いたはずの晃の傷が、みるみるうちに治っていくのを澪は見た。まるで逆再生しているかのように傷口が閉じ、肉も皮膚も元通りになっていく。最後にはジャージに穴があいているだけで、そこにはツルツルとした晃の肌が見えているだけになっている。 「これが俺の化物としての、両面族としての“能力”だ。これでわかったろ。俺は不死身の身体を持っている。どれだけ俺が刀で刺されるだの斧で斬られるだのと予言してもそれは俺の死に繋がるわけじゃねえ」 晃はそう説明するが、まだ澪は口をぱくぱくさせて驚いている。 「そ、それならそうって言ってよお兄ちゃん! し、心配したんだから。すっごく心配したんだからね!」 澪は怒ったように顔を真っ赤にさせ、晃の胸をぽかぽかと叩く。目にはまだ涙が浮かんでおり、晃は澪が心の底から心配していたのだと理解し、肩をすくめた。 「悪かったよ澪。それよりこの部屋のどっかに俺の腕があるんだろ。ちょっと探してくれないか。さすがに手がないと引き出しも開けれやしねえ」 「もう、お兄ちゃんなんか知らない」 澪はぷいっとそっぽを向いてしまったが、仕方なく部屋の中の引き出しを片っ端から開いていく。すると、箱に入っている晃の両腕を見つけ出した。 「腕あったけど……。お兄ちゃん、これをどうするの?」 「いいから、その腕をこっちの断面とつけ合わせてくれ」 澪は言われるままにその腕を晃の両腕にくっつける。すると、驚くことにその切り離された腕もまた、腹部の傷のように再生していくのであった。数十秒後、切り離されていた腕は完全に結合され、傷口も消えてしまい、まるで最初から腕なんて落とされていないかのように平然とくっついてしまった。 「すごい……」 「言ったろ。俺は不死身なんだよ」 晃は手を何度か繰り返し握ったり開いたりして筋肉と神経の調子を確かめる。どうやら万全のようで、強く拳を握りしめ、澪のほうを向き直った。 「さて、逃げるぞ」 「うん!」 そう二人は頷きあうと、廊下の方から他の護衛たちが駆けてくる音が聞こえてきた。 「当主! 大丈夫ですか!」 「全員集まれ、件と賊が逃げ出したぞ!」 彼らはもうこの部屋の近くまで来ているようである。晃はひょいと澪を抱きあげ、お姫様だっこをして窓から外へ飛び出した。 ◆ 花宴専属の殺し屋である飛頭蛮の李玲は屋敷の人間たちと共に主の自室へと向かった。だが、部屋に辿りつくと花宴の部屋を護衛していた男たちが全員そこに倒れているを見つける。 (どうやらさっきの両面族の小僧と“件”が逃亡したようだな……) 部屋の中へ入ると花宴もまた気絶しており、部屋の中が物色された後があった。窓を見つめるとそこは開いており、外を覗くと二つの足跡があるのが見える。 「おいお前ら。おそらく賊は外へ逃げた。後を追え! あたしは主を手当てする!」 李玲は他の連中にそう命令し、花宴の部下や護衛をけしかける。中には李玲の言葉に従うことに嫌な顔をするものもいたが、それでも全員この場から離れていった。 李玲は斧を構え、気絶している花宴を見下ろす。 「悪名高き花宴も、“件”がいなければ惨めなものだな……」 花宴の身体に跨り、李玲は斧を振り上げ、花宴の首筋を睨みつける。 「あんたはもう終わりだろう花宴の旦那。“件”がいなければ財閥もすぐに廃れてしまう。そうすればあたしはあんたに仕える理由がなくなる……」 李玲は憎々しく花宴を睨み続ける。知らず知らず斧を握る手に力が入る。 飛頭蛮は非常に弱く、何人もの同胞が人間の手によって滅ばされてきた。それに立ち向かうために飛頭蛮の一族は殺人技能を高めて生き延びてきた。だがそれすらも人間に利用され、殺し屋として裏の世界を生きることになった。 その飛頭蛮の中でも李玲は最強と呼ばれる存在であったが、このような老人の私兵になるしかない自分の境遇を呪っていた。 (いま、こいつを殺せばあたしは自由になれるのか……?) 花宴を殺し、ここから離れた先に自分の居場所はあるのだろうか。東京には自分のような化物を狩りながらも、保護する機関があるということは知っている。だが、数え切れないほどに人を綾めてきた自分が、今さらそんなところで暮らせるわけがない。 「あたしたち飛頭蛮は両面族とは違う。人間なんかと一緒に生きていくなんて御免だ。あたしは、あたしは!」 断ち切るのだ。 人間に飼われ、利用されることはもうない。 今日から自分は自由に生きるのだ。 李玲はそう念じながら斧を思い切り振り下ろした。 「―――ふふっ」 だがその斧は花宴の首の横に振り下ろされ、床に刃先が食い込んでいた。 「旦那。あたしは両面族とは違う。化物として、誇りを持ってあんたから離れる。だからあんたは生かしておいてやる」 李玲は床に突き刺さっている斧を引っこ抜いた。 「だけど、あの小僧との決着はつけねばならないだろう……あたしは、化物としての誇りを取り戻すんだ」 李玲はそう呟き、斧を引きずりながら部屋から出ていった。 六 「うおおおおおおお!」 晃の拳は護衛である黒服の男の顎を砕く。男は大きく吹き飛び池に落ちていく。晃は後方から責めてくる大勢の黒服たちを、澪を庇いながら同じように殴り、蹴り、吹き飛ばしていく。 晃は屋敷内の庭園を駆け抜ける。周りには屋敷中の人間が銃や刀を構えて襲いかかってくる。晃は自らが率先して盾になり、澪に刃が向かないようにしていた。 (俺一人がどれだけ攻撃を受けてもいいが、澪に怪我をさせるわけにはいかねえ) 屋敷の出口に向かおうとするが、次々と黒服たちは襲いかかってきた。 「死ね化物が!」 この人数相手ではちょっとした隙が命とりになる。黒服の一人が晃の脇腹に刀を突き刺した。それに続いて数人の黒服たちも晃に刃を突き刺していく。晃は血を吐きながらもなんとかそれを耐える。 だが不死身の身体を持つ晃には、命とりは命とりではないのだ。 「くそ、人間共め……!」 晃は両面族としてのポテンシャルを完全に解放し、技術もなにもない、ただ純粋な暴力で黒服たちをねじ伏せていく。骨を砕き、肉を裂き、圧倒的な怪物としての力を黒服たちに見せつけていく。晃が腕を振るうだけで男たちは宙を舞い、晃が蹴りを身体に入れれば肉体は破壊される。 晃の傍には澪がいるため、黒服たちは銃を使えないのも晃にとっては有利であった。さすがに脳や心臓を撃ち抜かれたら再生はできないであろう。 無力な澪は、晃に突き刺さっていく刀やナイフを引っこ抜いていくことくらいしか出来なかった。晃でなければもう二桁は死んでいる。 「お、お兄ちゃん大丈夫!?」 「平気……とは言えなくなってきたな。さすがに再生力が落ちてきた」 晃は身体に突き刺さる刀を抜き去りながらそう呟く。確かに傷の治りが追い付いておらず、あちこちから噴水のように血が溢れている。 屋敷の方へ目を向けると、まだ十数人も黒服たちは残っている。彼らも手に刀やナイフを手に持ちこちらに向かってきていた。 (さて、後何回攻撃に耐えられるかねえ……) 人間を超えた体力を持っていても、どうやら晃の体力もそろそろ限界が近づいてきているようだ。これ以上澪を庇って戦うのは難しいであろう。 「おい澪。走って逃げろ。俺が食い止める」 「何言ってるのお兄ちゃん。そんなのダメだよ!」 澪は泣きながら晃の腕にしがみつき、離れようとはしなかった。 「バカ。このままじゃ二人とも死ぬぞ。お前は逃げるんだ」 「やだよ! お兄ちゃんは不死身なんでしょ! 死なないって言ったじゃない」 澪は駄々っ子のように晃の腕に顔をうずめ、一歩も動こうとはしなかった。澪にとって、自分の人生で初めて優しくしてくれたのは晃であった。それまでは実の母親ですら彼女に触れようともしなかったのだから。 (しかたねえな。だけどどうする……) 晃は真っ直ぐに向かってくる黒服たちを睨みつける。 だが、その黒服たちの一番後ろに、一人だけ異質な存在こちらに歩いてくるのが見えた。 それは少女、戦斧を引きずりながら、マフラーを巻いた少女がやってきていたのであった。 「あいつは……!」 少女が斧をぶんっと振るった瞬間、その場にいた総ての黒服たちの首が宙を舞った。 それはまるで映画でも見ているかのような光景である。男たち首が夜空に舞っていき、血の雨が庭園の地面を濡らしていく。そしてやがてボトボトボトと男たちの首が音を立てて落ちてくる。その男たちの眼は、恨めしそうに少女に向けられていた。 だが彼女は現実感を薄れさせるように、惨状の中を笑いながら歩いてくる。 「飛頭蛮……」 「李玲だ」 「は?」 晃は突然自分の名を名乗った飛頭蛮の少女――李玲を不審な目で見つめる。彼女の眼は濁っているような澄んでいるような、よくわからない輝きを放っていた。李玲が何を考えているのかわからないが、なぜかその瞳からは迷いは感じられない。李玲は斧の切っ先を晃に向け、高らかに名乗りを上げた。 「あたしは飛頭蛮一族の末裔。断頭斧使いの李玲だ。名乗れ、両面族の戦鬼よ。決闘だ」 その言葉を聞き、晃は一瞬唖然とするが、すぐに耐えきれなくなり大声で笑い始めた。その様子を李玲は不快そうな目で睨む。その不穏な空気を気にしてか、澪は晃の袖を引っ張った。 「駄目だよお兄ちゃん。笑うなんて……」 「いやいや、悪かった。くくく」 「何が可笑しい!」 「いや、今どきそんな馬鹿正直に名乗りを上げて決闘なんて言う奴なんて久しぶりに見たぜ」 「あたしだって普段はそんな風に名乗りはしないさ。だがこの戦いはあたしのケジメだ。そこの“件”が外の世界へ出るのなら、あたしだって自由にこの世界に生きていきたいと思ったのさ」 「だったら勝手にしろよ。俺たちも花宴も放っておいてとっとと逃げればいいだろ。誰もお前を縛るものなんてねーんだから」 「そういうわけにもいかない……」 李玲はゆっくりと晃の方へと歩み寄ってくる。倒れている男たちの屍を踏み越えながら。血を浴び、真っ赤に染まっているその姿はさながら修羅のようである。 「これはあたし自身のケジメだ。あたしと似たお前を討ち倒し、外へ出ようとする“件”を滅ぼし、あたしはようやく自由になれる気がするんだ……もう、人間に縛られるのはやめだ」 その言葉を聞き、ようやく晃は自身の顔から笑みを消す。澪を物影へと隠れるように促し、手加減用のグローブを脱ぎ棄てて李玲と対峙する。 「いいぜ。やろうぜ飛頭蛮。いや、李玲」 晃は自分の後頭部に縛ってある髑髏の仮面を外し、自分の顔に被りなおした。骸骨の顔を正面に向けるその姿はまるで、本当に亡霊のようである。 「双葉学園の実践教訓その四。『無害であり意思の通じるラルヴァの生命は尊ぶべし。しかし人に害をなすラルヴァはその限りにあらず』――だ。お前が人殺しの糞野郎でよかったぜ。俺もお前に手加減も容赦もしなくてすむ」 晃はぽきぽきと手の骨を鳴らし、拳を前に突き出して構える。 「 俺は両面族の戦士。不死の力を冠する“骸面《むくろめん》”の小録晃だ」 両面族にとって、仮面は自己の精神面の安定だけではなく、その仮面は彼らの持つ特殊な力を現しているものである。狐面は狐火を操り、鬼面は鬼のような怪力を発揮すると言ったふうに。 骸面とは両面族の中でも稀にしか存在しない特異的な能力を現す面である。 まさに歩く屍のように、どのような攻撃を受けても死ぬことは無く、瞬時にその傷を回復させることができるという。 「不死の力か。どうやらはったりではなさそうだな……」 李玲は晃の穴だらけの肉体を見ながらそう呟く。だがその顔には邪悪な笑みが浮かび、斧を構えなおしていた。 「どれだけ不死でも、首を刎ねてしまえばいいんだろう。ならばそれはあたしの得意分野だ」 「いいぜ。おもしれえ。殺し合いを始めようぜ!」 晃は仮面越しに李玲を睨みつける。二人の間には張り詰めた空気が流れ、風が吹き、草木を揺らしている。 そして、ししおどしの音が鳴り響いたその瞬間、李玲は爆ぜたようにその場から駆け始めた。 李玲の動きは素早く、晃との距離を縮めていく。常人の動体視力ではまるで李玲が消えたかのように見えるだろう。李玲は腰を屈め、真っ直ぐに晃の方へと向かってきた。 李玲は腕を振り、片手で斧を横に薙いだ。 空気が切り裂かれる音。 その斧の切っ先は晃の首もとを狙っていた。晃は持ち前の反射神経で上体だけを逸らし、紙一重でそれを避ける。いや、避けれてはいない。晃の首は骨まで切断され、噴水のように鮮血がほとばしる。 だが、完全に首が切り離されていないのであれば、瞬時に再生が可能だった。李玲は振り回した斧の慣性に引かれ、少しだけバランスを崩す。 「甘いぜ」 晃は繋がっていく首を気にしながら、右足のつま先を李玲の顎に向かって蹴りあげた。その蹴りは李玲に直撃するが、李玲は斧を持っていない方の手で晃の足を掴み上げ、斧で晃の足を切断する。片足を失った晃はそのまま地面に倒れこんでしまう。 「ぐ……!」 「お兄ちゃん!」 澪は思わずそう叫ぶが、倒れ込んだ晃に止めを刺そうと李玲は斧を振り上げていた。 「終わりだ」 斧が振り下ろされる瞬間、晃は身をよじりなんとか避けようとするが、斧は晃の脇腹にかすり、肉がそげる。 「ちょこまかと逃げるな!」 這いまわる晃に苛立ったように李玲は叫ぶ。晃は地面に落ちた自分の足を手に取り、すぐに足にくっつける。だがその間に李玲はまた晃に斧を叩きつける。 「畜生!」 なんとか腕で防御し直撃を避けるが、今度は腕が吹き飛んでしまうだけであった。 (くそ、得物がある分向こうが有利か……) 晃は切り落とされた左腕を掴み、李玲に向かってぶん投げる。李玲は思わずそれを反射的に叩き落とす。だがその瞬間を見逃さずに、晃は李玲に向かって全力で駆けだす。 「うおおおおおおおお!」 晃は李玲の両足の膝を踏みつけ、完全に折り、その足の骨が皮膚を突き破り剥き出しになってしまう。李玲は苦痛に顔を歪ませていた。 晃はそのまま地面を蹴り、全力の飛び蹴りを李玲の身体にぶち込んだ。小柄な李玲の身体は、玩具のように吹き飛び、何度も地面をバウンドして庭園にある大きな岩へとぶつかった。 「はぁ……はぁ……」 晃それを見つめ、落ちた腕拾い上げて再び繋ぎ合わせる。 岩にぶつかった李玲はぐったりとしていた。晃はゆっくりとした歩調で、李玲のもとへ歩み寄っていく。両足を砕かれた李玲はもう戦いに復帰は不可能であろう。ヒトウバンには晃のような再生能力はない。これで勝負は決した。 「やったか……?」 晃がそう呟き、李玲を見下ろす。すると李玲は目を開き、晃を睨みつけた。 「“やった”だと……? あたしはまだ死んではいないぞ両面族の戦鬼よ」 「何言ってんだ。お前もう立つことも出来ねえだろ」 晃はぐちゃぐちゃに潰れた李玲の足を見る。だが、それでも李玲は不気味に笑っていた。 「くくくく。甘い。甘いな両面族の戦鬼よ。人間に飼われてぬるま湯につかっていて戦いの掟を忘れたのか」 李玲は笑いながら、自分の首を巻いていた。マフラーをほどいていく。 「お前が言ったんだぞ『殺し合いを始めよう』ってね。だったらお互いどちらかが死ぬまで戦いは終わらない」 「…………」 「中途半端な情けは戦士への冒涜だ。それにあたしはまだ、戦える!」 マフラーをほどき終わった瞬間、晃はそこにありえない物を見た。いや、それは李玲の種族を考えれば当然のことであろう。 マフラーの下から見えた李玲の首は、胴体と繋がってはいなかった。首から頭が離れ、空中を浮いている。 飛頭蛮。それは名の通り首を飛ばす妖物。これこそが李玲の本当の姿であった。 「あたしたち飛頭蛮にとって足なんて飾りだ!」 そう呟いた瞬間、李玲の首は晃目がけて弾丸のように飛んできた。晃はそれを手で防いだが、李玲の口の鋭い歯に噛みつかれ、肉がもっていかれてしまう。腕の骨が露出するほど深く肉をそがれてしまった。 「こっからが本番ってわけか――」 晃は拳を構えひゅんひゅんと空を切りながらこちらに滑空してくる李玲の頭と対峙する。長い髪が空中になびき、まるで蛇のようにも思えた。 「お兄ちゃん危ない!」 澪の声も虚しく、晃は凄まじい速さで飛びかかってくる李玲に何度も噛みつかれ、身体はどんどん削られていく。 ただでさえ常人を超えた素早さを持っている李玲なのに、首だけになり身軽になった李玲のスピードはもはや晃には知覚できないものになっていた。 それとは対照的に、晃の身体の傷はどんどん再生スピードが落ちていく。 (糞……。そろそろ限界か……) 晃の不死身の体の正体は、実はただの治癒能力《ヒーリング》である。しかしその回復能力は桁違いで、首を切り落とされたり心臓を破壊されない限りは瞬時にどんな怪我も再生させてしまうものである。もっとも、これは自分自身にしか使えない治癒能力であるため、人の怪我を治すことはできないようだ。 晃のこの治癒能力は魂源力《アツィルト》を消費しているため、何度も再生を繰り返していくとガス欠状態になり、治癒ができなくなってしまう。 実際に晃の怪我はもうほとんど治ってはいなかった。 斧を持っていない李玲の攻撃力は大幅に落ちたが、このまま防戦一方のまま長期戦になれば自分の不利にしかならない。 (どうにか拳をあの顔面に叩き込めれば……) そう思い拳を振るっても、残像をかき消すだけで、李玲に拳を噛まれ、削り取られるだけであった。 「どうした両面族の戦鬼よ! お前はそんなものか!」 「うるせえ! ぶんぶんぶんぶんと飛びまわってんじゃねえよ!」 晃は真っ直ぐ飛んでくる李玲の頭めがけて回し蹴りを放つが、李玲は弧を描き、晃の攻撃を避けて脇腹に噛みついて内臓を抉っていく。 「ぐふっ」 晃は血反吐を吐き、そのまま膝を崩してしまった。傷口からは内臓がでろりとはみ出、普通の人間ならばショック死するほどのものであった。晃は無理矢理内臓を体内に押し込め、再生するのを待つ。だが、そんな暇もなく李玲はまるでカラスが獲物をつつくように何度も執拗に噛みついてきた。 「もうやめて! お兄ちゃんを傷つけないで!」 岩影に隠れていた澪がそう叫びに晃のほうに向かって走り出していた。 「来るな澪、邪魔だ!」 晃は澪にそう怒鳴りつけるが、澪は泣きながら晃のもとにやってきて、晃の身体にしがみついた。 「離れろ、お前を庇って戦える相手じゃない!」 晃がそう言っても、澪はぶんぶんと長い髪を振り乱し、黙っているだけであった。 それを李玲は空中から嘲笑っているだけである。 「“件”か。貴様も我々と同じ化物だ。貴様を向かい受けてくれる場所なんかない。ならば貴様もここで命を終えたほうがいいだろう。どこに行っても利用されるだけだ」 「…………違う」 「なに……?」 晃は空高くから自分を見下ろしている李玲を睨みつけ、その言葉を否定した。 「学園にいる俺は、利用されてるわけじゃない。これは全部俺の意思だ。学園の人間共に利用されているわけじゃねえ」 「ふん。どうかな。お前の意思だと思っていても、結局は人間の利益にしかならないんだろ。あたしたち化物は、人間に滅ばされるか、利用されるだけしかない。あたしはそんなの御免だ。花宴の支配から逃れ、あたしは自由になるんだ! お前たちとは違うんだ!」 そう叫んだ瞬間、李玲の頭はまたもや凄まじい速さで飛びまわり、晃を狙い近づいてきた。 (くそ、これまでか……) 晃が諦め、ふと澪の顔を見つめると、そこには虚ろな瞳で自分の角を撫でている澪の姿があった。 そして、その小さな口からかすかに言葉が漏れていた。 「…………右斜め後ろ」 その澪の呟きを瞬時に理解した晃は、言葉の通りの場所へと己の拳を振り回した。すると拳の先に何かが当たり、小さな叫び声と共にその何かは吹き飛んでく。地面を転がっていったそれは、李玲の頭部であった。彼女は不思議そうに目を白黒させ、自分が殴られた事実を認識できずにいた。 「な、なぜだ。なぜこのあたしのスピードに……」 晃はその言葉には答えなかった。ただ、晃は勝利を確信する。 まぐれに違いないと李玲は再び晃に向かって飛びかかってくる、今度は複雑な軌道で晃を翻弄し、喉元に噛みついてやろうとしていた。だが晃は目を伏せ、李玲のほうなど微塵も見てはいない。彼はただ、澪の言葉に耳を傾け、集中している。 「……前方右斜め」 澪がそう呟いた瞬間、晃は何の迷いもなくその方向へと渾身の正拳突きを放った。ボッという空気を貫く音ともに放たれたその晃の拳は、突っ込んできた李玲の大きく開かれた口の中に思い切りぶち込まれた。 その拳は李玲の口を貫き、彼女の頭部はその反動で遠くに飛んでいき、庭にあった池の中へと、水しぶきをあげて落ちていったのであった。そうして、李玲がそこから飛び出してくることはなく、完全に沈んでしまったようである。 「はぁ……はぁ……勝った――のか?」 「あれ……? ぼく、どうしたんだろ……」 澪は正気に帰ったかのように瞳に光を戻し、ぽかんとした表情で晃を見上げた。そんな澪の頭を晃は撫でてやる。ふんわりとした澪の髪の毛が晃の手をくすぐる。 「ありがとよ。お前の力のおかげで勝てた……」 件の予言の力が李玲の軌道を先読みし、晃を救ったのであった。晃に褒められた澪ははにかみながらも笑顔晃の腕に抱きつき、目をつぶった。 「お礼を言うのはぼくのほうだよお兄ちゃん……ぼくを助けてくれてありがとう……」 澪の素直な言葉に、晃は照れくさそうな笑みを浮かべ、ふっと空を見上げる。 もう東の空からは日が昇り始め、空は綺麗な橙色に染まっていく。晃は傷だらけの自分の身体を見て、これからこの身体で山を降りるのが一番苦労するだろうな、と大きな溜息をついた。 だがその表情は妙にすがすがしいものであった。 晃と澪は顔を見合わせ、お互いに身を寄せ合った。 七 あれから数日後、学園側の応援部隊に救助された晃は、いつもの学園生活を過ごしていた。任務に出ることが多い晃は授業に出るのは久しぶりであったが、とくになんのトラブルも無く一日の授業を終え、自分の生活の場である男子寮へと帰っていった。 男子寮に足を入ると、同じ寮に住んでいて、自分のクラスメイトであるイワン・カストロビッチがパンツ一丁のままニヤニヤと晃のほうを見ていた。どうやら晃より先に寮に帰っていたらしい。しかしなぜカストロビッチがこっちを見て笑っているのか理解できなかった。 「何見てんだよイワン」 「なんだい小録。聞いてないのか? 今日から新しい寮生が入ったんだ」 「ふうん。興味ねーな」 「そんなこと言っていいのかい。その新人はお前と同室なんだぜ」 「――は?」 この寮には一人部屋と、二人部屋が存在する。二人部屋は家賃がその分安くなるらしいが、ここの寮の生徒は誰も二人部屋には住んでいないようだ。晃はその二人部屋に住んでいるのだが、ルームメイト希望者が存在しないため、一人で住んでいた。ルームメイトが来たということは晃の家賃の負担が半額になるので、晃にとってルームメイトが入ることは好都合であった。 (どうせ俺はあんまこっち帰ってこねーし金が勿体なかったんだよな) 「もうその寮生は部屋に来てるみたいだから挨拶してきなよ」 「わかったよ」 カストロビッチにそう言われるまま、晃は自室へと戻っていった。 ノブに手をかけると、特に鍵はかかっておらず、すんなり扉は開く。 「よお、俺はルームメイトの小録――」 晃はその部屋の中にいる人物に驚き、言葉を詰まらせる。そこにいた人物は学園指定のブレザーのスカートをひるがえしながら、晃の方へと振り返った。綺麗な黒髪をなびかせながら彼の身体に抱きつく。 「今日からここで暮らすことになった九段《くだん》澪です」 呆気にとられる晃をよそに、澪は悪戯っぽい笑顔を浮かべ、晃の腕を引っ張った。 「よろしくね、お兄ちゃん♪」 ――了 中編にもどる トップに戻る 作品保管庫に戻る
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戦闘技術系スキル 戦闘技術系スキル(魔導系) 肉体系スキル 頭脳系スキル 対人系スキル 非戦闘系 従者系スキル 成長系スキル 分類不明系スキル 戦闘技術系スキル 武術 チェーンソー術lv1 チェーンソーを扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル1では付け焼刃であり大したものではない。勝利要素×1 銃術lv1 銃を扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル1では付け焼刃であり大したものではない。勝利要素×1 銃術lv3 銃を扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル3になれば流派や自分の特色が出始める。命中確定×1、勝利要素×5 筆術lv1 詳細不明 蔦術lv5 勝利確定×1 アイテム術lv1 アイテムを扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル1では付け焼刃であり大したものではない。勝利要素×1筆術lv1 チェーンソー術lv1 銃術lv1⇒統合⇒アイテム術lv1 アイテム術lv2 アイテムを扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル2ではようやく見習いというところ。とはいえ素人相手には十分善戦できるだろう。勝利要素×5 アイテム術lv3 アイテムを扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル3になれば武器による特色が出始める。先制確定×1、勝利要素×5 体術lv4 身体を扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル4なら真剣にその武術に打ち込んでおり体術家の端くれを名乗ることができるレベル。耐久確定×1、命中確定×1、勝利要素×10 体術(真) 体を扱い戦う武術。一握りの天才や熟練者が辿り着く領域の達人の技。歴史に名を遺すほどの武道家であることを示すスキル。勝利確定×1、耐久確定×1、命中確定×1、このスキルは無効化されない。 剣術lv2 剣を扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル2ではようやく見習いというところ。とはいえ素人相手には十分善戦できるだろう。勝利要素×5 剣術lv3 剣を扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル3になれば武器による特色が出始める。撃破確定×1、勝利要素×5 剣術(真) 剣を扱い戦う武術。一握りの天才や熟練者が辿り着く領域の達人の技。歴史に名を遺すほどの武道家であることを示すスキル。 勝利確定×1、撃破確定×1、先制確定×1。このスキルは無効化されない。 ガトリング術lv4 ガトリングを扱い戦う武術。魔導とは異なる術理を扱うためのスキル。レベル4なら真剣にその武術に打ち込んでおり、ガトリング斎の端くれを名乗ることができるレベル。先制確定×1、命中確定×1、勝利要素×10 ガン=カタ 命中 命中lv1 相手に攻撃を当てる基礎的な技術。如何なる攻撃だろうと当たらなければ意味をなさない。レベル1では必要最低限、というレベル。勝利要素×1 命中lv2 相手に攻撃を当てる基礎的な技術。如何なる攻撃だろうと当たらなければ意味をなさない。レベル2ではまだ心許ない。勝利要素×3 命中lv3 相手に攻撃を当てる基礎的な技術。如何なる攻撃だろうと当たらなければ意味をなさない。レベル3であれば十分実戦で通用するだろう。勝利要素×5 命中lv4 相手に攻撃を当てる基礎的な技術。如何なる攻撃だろうと当たらなければ意味をなさない。レベル4ともなれば十分当てることが得意だと言って良い。勝利要素×7 命中lv5 詳細不明勝利要素×10 命中(真) 相手に攻撃を当てる基礎的な技術、それを純粋に高めたもの。達人同士の戦闘であっても通用する高い基礎力命中確定×1、勝利要素×10 命中(極) 詳細不明命中確定×3、このスキルによる命中確定は勝利確定と相殺される。 叩き落とし 相手の攻撃を自身の攻撃を持って叩き落とし、相殺する技法。命中力を利用した回避の技。自身の命中確定が残っている場合、回避確定×1 誤射上等射撃 斜線上に立った味方を気にせずに攻撃をぶっ放す諸共精神。味方を巻き込んだり誤射上等で放つ攻撃時、命中確定×1を得る。 狙撃lv1 狙い撃ち 一瞬のために研ぎ澄まし致命的な一撃をお見舞いする技術。高い集中力とここぞという場面を見極める洞察力。作戦案で指定した自身のとっておきの一撃を命中確定×1して命中させる。 婉曲射撃lv5 湾曲する軌跡を描く射撃を行う技法。直線とは異なる軌道は相手を翻弄し、目的の対象へと攻撃を着弾させる。自身の行う射撃攻撃に複雑な軌道をつけることが可能になる。命中確定×1、勝利要素×10 ピンポイントショット 損傷のある場所に銃弾を撃ち込み更に大きな損傷を与える技術。それだけでは役立たないものの発生している傷へと着弾する魔弾/魔矢。自陣が撃破確定を産み出しているのなら撃破確定×1敵陣が敗北確定を保有しているのなら勝利確定×1 回避 回避lv1 相手の攻撃を避ける基礎的な技術。如何なる攻撃だろうと当たらなければ意味をなさない。レベル1では必要最低限、というレベル。勝利要素×1 回避lv2 相手の攻撃を避ける基礎的な技術。如何なる攻撃だろうと当たらなければ意味をなさない。レベル2ではまだ心許ない。勝利要素×3 回避lv3 詳細不明勝利要素×5 回避lv4 詳細不明勝利要素×7 回避lv5 相手の攻撃を避ける基礎的な技術。如何なる攻撃だろうと当たらなければ意味をなさない。レベル5まで至ればそれは十分あなたの武器となるだろう。勝利要素×10 回避(真) 相手の攻撃を避ける基礎的な技術、それを純粋に高めたもの。達人同士の戦闘であっても通用する高い基礎力。回避確定×1、勝利要素×10 回避(極) 相手の攻撃を避ける基礎的な技術、その極点。相手の攻撃を完全に回避する極めて高い基礎力。回避確定×3、このスキルによる回避確定は勝利確定と相殺される。 貧乳回避 詳細不明 受け流し 近接戦闘で行われる回避術。相手の攻撃を往なし期を伺う戦士の技。近接戦闘時、回避確定×1自身の武術が真以上なら代わりに回避確定×3 戦闘技法 基礎を固めし戦闘巧者 相手より早く動き、相手に確実に攻撃を当て、相手の攻撃に当たらない。純粋に高水準な戦闘技術の集大成。単純に高い戦闘力に対処するのは至難の業だ。勝利確定×1命中(真) 回避(真) 高速詠唱(真)⇒接着⇒基礎を固めし戦闘巧者 王道に勝る奇道なし 純粋に戦闘における基礎技術を磨き続けたことを示すスキル。ただただ単純にどんな場合でも強い、それは敵対者にとって何よりも絶望的だ。勝利確定×3、このスキルは無効化されない。└命中(極) 回避(極) 高速詠唱(極) アクロバット 常人には行いがたい身軽な身体運動や熟練の身体運動を示すスキル。軽業や曲芸とも言うバランス、機敏さ、コーディネートの高度な技を要する全身運動。ランダムに先制確定、回避確定、命中確定の中から2つを得る。 アクロバット(真) 常人には行いがたい身軽な身体運動や熟練の身体運動を示すスキル、その発展形。軽業や曲芸とも言うバランス、機敏さ、コーディネートの高度な技を要する全身運動。発展形になったことにより状況に応じて適切な行動を取ることができるようになった。先制確定、回避確定、命中確定の中から好きなもの2つを得る。 舞踏戦闘術 舞踏を用いた戦闘術。踊りながら行われる特殊な戦い方。それを捉えるのは並大抵のことではない。回避確定×1 箒式戦闘術 自身が乗っている箒を武器として転用する技術。自身の騎乗を同レベルの武術として使用できる。自身が勝利確定を生み出す場合、1ランク上の物として扱う。(レベル5の場合は真として扱う。) フライトマニューバ 航空戦闘術のスキル。三次元戦闘ということだけでなく、速度の維持や方向転換攻撃の設置など空中戦闘は地上で行うものとは大きな違いがある。航空戦闘中、先制確定、回避確定、命中確定の中から1つを得る。飛行系に対する無効化耐性を1つ得る。 フライトマニューバ(真) 航空戦闘術のスキル、その発展形。自由自在に大空を翔る一流の航空魔導師である証。航空戦闘中、勝利確定×1飛行系に対する無効化耐性を1つ得る。 弾幕展開lv2 自身の魔導を拡散させ、弾幕として発射する技法。広範囲を襲うマップ攻撃。勝利要素×3×(相手人数-2、最大10) 弾幕展開lv3 自身の魔導を拡散させ、弾幕として発射する技法。広範囲を襲うマップ攻撃。勝利要素×5×相手人数(最大10) 流星弾幕 流星雨の如く、視界を埋め尽くすほどの弾幕を展開する技法。広範囲を襲うマップ攻撃はもはや絶望でしかない。勝利確定×(相手人数-2、最低1最大5)敵陣の回避確定を1人につき1つずつ相殺する。 執念のラストアタック 敗北するその間際に放つ、決死の一撃。敗者になれど、ただでは勝たせない執念と技量。敗北時、状況に応じたダメージを発生させる。また戦闘による相手の疲労や損耗を増大させる。 必滅のクロスカウンター 詳細不明 心眼 経験や戦闘勘によって養われた高度な戦術論理のスキル。突発的な被害を減らし、着実な結果を齎す。自身への敗北確定を1つ相殺し、戦闘技術系に対する無効化耐性を1つ得る。 心眼(真) 経験や戦闘勘によって養われた高度な戦術論理のスキル、その発展形。高い安定性を有する熟練の戦士。作戦+1、自身への敗北確定を3つ相殺する。戦闘技術系に対する無効化耐性を1つ得る。 燕返し 振るった刀の切っ先を、急に反転させて相手を斬る刀法。空飛ぶ燕さえも避けれぬ必殺技法。命中確定×1、自身の剣術がレベル4以上なら代わりに命中確定×3自身の剣術が真以上ならば代わりに勝利確定×1 三段突き 素早く相手の急所を穿つ三連撃。踏み込みの足音が一度しか鳴らないのに、その間に三発の突きを繰り出す妙技。撃破確定×1、自身の武術がレベル4以上なら代わりに撃破確定×3 仁王立ち 相手の攻撃を避けずにただ己の肉体だけで迎え撃つ漢らしい戦闘術。相手の攻撃を耐え忍び、反撃の糸口を掴むのだ。耐久確定×1 仁王立ち(真) 相手の攻撃を避けずにただ己の肉体だけで迎え撃つ漢らしい戦闘術、その発展形。生半可な攻撃ではびくともしない耐久力。耐久確定×2、敵陣が近接攻撃によって勝利確定を産み出す場合勝利確定×1 仁王立ち(極) 相手の攻撃を避けずにただ己の肉体だけで迎え撃つ漢らしい戦闘術、その究極系。硬く雄々しく逞しいその姿は一種の芸術である。勝利確定×1、耐久確定×3 後の先(真) 敵手より初動が遅くとも敵手より早く攻撃を届かせる技術、その発展形。相手の動きを見て適切な対処を行う熟練技巧。敵陣が自陣よりも多くの先制確定を有している時、先制確定×5相手が先制確定を得る効果で得た勝利確定を2つ相殺する。 超至近強襲 超至近距離での戦闘術。息も吐かせぬ怒涛のラッシュ。魔導の展開よりも早く相手に迫り為す術なく相手を打倒する。勝利確定×(魔力+装備)/3(最大5、端数切り上げ)、先制確定×1 浸透発勁 相手の体内に直接ダメージを叩き込む格闘術。相手の耐久確定を1つ相殺する。自身の体術がレベル4以上なら代わりに3つ相殺する。自身の体術が真以上ならばさらに敗北確定×1を付与する。 急所狙いlv2 相手の急所を狙って鋭い攻撃を仕掛けるスキル。柔らかいところを穿つ致命の一撃。自身の命中確定を任意の数(最大2つ)まで減らし減らした数だけ撃破確定を得る。 急所狙いlv5 相手の急所を狙って鋭い攻撃を仕掛けるスキル。柔らかいところを穿つ致命の一撃。自身の命中確定を任意の数(最大5)まで減らし減らした数だけ撃破確定を得る。 限界突破 リミッターを外すことで本来の力よりも大きな力を扱えるようになるスキル。脳の制御を解き放ち、自らを顧みない強引な行動を可能にする自身に敗北確定×1を付与することで任意の通常確定を3つまで自由に得る。 限界突破(真) リミッターを外すことで本来の力よりも大きな力を扱えるようになるスキル、その発展形。単純に脳の制御を外すだけではなく、魔力的な制限すら解除する。自身に敗北確定×1を付与することで任意の通常確定を3つまで自由に得て魔力+1する。 限界突破(極) リミッターを外すことで本来の力よりも大きな力を扱えるようになるスキル、その究極系。自らの脳や魔力、魂の枷を外して行われる超駆動。自身に敗北確定×1~3を付与することで任意の通常確定を3~9つまで自由に得る。この効果を使用している時、自身の魔力+1、覚醒判定が発生することがある。 フルパワーインパクト 渾身の力を込めて放たれる強烈な一撃、その発展形。魔力を圧縮して放つチャージショット。魔法未満の単純な力押しだが、相手を倒せるのなら十分である。撃破確定×1、勝利要素×3魔力、遅緩確定×1自身の魔力が5以上ならさらに撃破確定×2 縮地 膝をぬく事で「重力」を利用した移動を行う歩法。地面自体を縮めたかのようにすら思える高速機動先制確定×1 縮地(真) 膝をぬく事で「重力」を利用した移動を行う歩法。地面自体を縮めたかのようにすら思える高速機動、その発展形。一瞬のうちに接近し勝負を決める達人の妙技。先制確定×2、自身が近接攻撃によって勝利確定を産み出す場合勝利確定×1 フェイント 相手を惑わせるために行う動作。攻撃が来ると思わせて相手の行動を誘発し、その隙を突く敵陣が回避確定を保有しているとき、命中確定×1 距離詰め 相手の攻撃を躱しながらその隙を付く技術。遠距離ならば近距離に、近距離ならばそのまま攻撃を加える。自身の回避確定が残っている場合、命中確定×1 刹那の窃盗 戦闘中という咄嗟の状況においてでさえ行うことができるスリの技術。相手と交差する一瞬の間に相手の懐から物を抜き取る神業のスリ。 判定を行い、成功すると相手のアイテム1つを奪い取ることができる。 盗んだアイテムを活用するには別途装備枠を必要とする。 無刀取り 盗む、という行為を以て切り結ぶ窃盗と武術の複合スキル。相手の武器を奪い取る強力な武術。判定を行い成功すると、相手の武器を奪い取ることができる。それがアイテムならばそれを無効化して自身が装備することも可能。盗んだアイテムを活用するには別途装備枠を必要とする。)またこれによって武術系効果の無効化が発生する。 ガ突 ガトリングを水平にして行う突き攻撃。全身をバネとして利用し、至近距離へガトリングによる突きを行い相手の肉体にめり込んだ状態で行われる一斉至近射撃。自身のガトリング術による効果をもう一度得ることができる。 ガトリング=カタ ガトリングを利用した奇妙極まる近接戦闘術。ガトリングで相手を殴打し、距離を取ってガトリングを打ち込むのだ。自身のガトリング術を近接技能としても使用できる。自身のガトリング術が真以上ならさらに命中確定×1を得る。 首狩り戦術 詳細不明 ターバンのガキ 詳細不明 七転び八殴られ 詳細不明 飛んで火に入る自己犠牲 望んで火刑に処されるが如き自己犠牲。それを尊いと見るか狂人の立ち振る舞いと見るかは人それぞれだがしかし無茶な行いであるがゆえに救えるものもまた存在するのだ。何等かの重大なマイナス効果を誰かの代わりに引き受けるかまたは自身に多大なマイナスを齎すことで相殺することができる。 イタクァ強化 詳細不明 無我の境地 意識と肉体を切り離し無意識に任せる戦闘術。思考よりも速く鋭く行われる極まった武術の粋。勝利確定×3、自身の武術系スキルが無効化されなくなる。 肉を斬らせて骨をチェーンソー 相手の攻撃をわざと受け入れ、そこに対して殺意を込めたチェーンソーをぶち込む技。必要なのは技術ではなく殺意と根性、あと生存確定である。相手の自身に対する攻撃を受け入れ、死亡確定×1を得ることで相手に死亡確定×1を付与する 力こそがパワー! ゴリ押しにゴリ押しを重ねた力による勝利への活路。圧倒的なパワーが全てを打ち砕く自身の撃破確定3つを勝利確定と相殺できるようになる。 武芸百般 様々な武芸に通じたことを示すスキル。あるいは自身の武術を応用させる高度な複合術。自身の武術を1レベルまたは1段階低下させ別の武術として適用できる。(効果そのものは1回しか機能しない。) 長銃棒術 長銃を利用した棒術。銃身が曲がらないように気を付けながら行う近接戦闘術。自身の銃術を近接技能としても使用できる。自身の銃術が真以上ならさらに命中確定×1を得る。 変幻自在 自らの戦法さえも容易く変える器用さあるいは不安定さによるスキル。膨れ上がった思考回路は精神あるいは魂にさえ作用する。自身は限定枠の上限を無視してスキルを修得できる。ただし戦闘案ごとにどのスキルを使用するかを決定すること。また一部のスキルはこの時使用しないことを選ぶことができない。 応急手当 応急手当 怪我をましな状態にしたり死にかけの奴を延命するスキル。使えるやつが一人はいると便利かもしれない。自陣が受ける敗北要素/確定のうち1つの効果を半減する。 戦闘技術系スキル(魔導系) 魔導習熟 魔導習熟lv1 魔導の基礎となる魔力運用のスキル。とはいえ習熟難易度が高めで昨今においては魔法の術式の簡便化によりこれがなくとも魔法を簡単に行使できるようになっており、修得しない者もいる。勝利要素×魔力 魔導習熟lv2 魔導の基礎となる魔力運用のスキル。とはいえ習熟難易度が高めで昨今においては魔法の術式の簡便化によりこれがなくとも魔法を簡単に行使できるようになっており、修得しない者もいる。勝利要素×魔力、魔術の修得が可能になる。 魔導習熟lv3 魔導の基礎となる魔力運用のスキル。レベル3以上であれば突発的な事態でも問題なく魔導の術式を展開できる。魔導師を名乗るのならばこの程度はなければならない、と言う魔導師も多い。勝利要素×魔力、魔術の修得が可能になる。自身の魔導がスキルによって無効化されなくなる。このスキルは無効化されない。 魔導習熟lv4 詳細不明 魔導習熟lv5 魔導の基礎となる魔力運用のスキル。それを純粋に高めることで熟練の域に達したもの。この段階にまで到達すれば誰憚ることのない一流の魔導師である。勝利確定×1、魔術の修得が可能になる。自身の魔導がスキルによって無効化されなくなる。自身の魔力+1、このスキルは無効化されない。 魔導体得 魔導の基礎となる魔力運用のスキルを極めたもの一流を越え、歴史に名を残す面々と争うようになった魔導師。勝利確定×魔力/2、魔術の修得が可能になる。自身の魔導がスキルによって無効化されなくなる。自身の魔力+1、このスキルは無効化されない 高速詠唱 高速詠唱lv1 魔法や魔術を素早く展開する基礎的な技術。詠唱、とは言うもの実際に呪文を唱える必要はなく魔法や魔術の術式を如何に素早く適切に行えるかを示す。レベル1では必要最低限、というレベル。勝利要素×1 高速詠唱lv2 魔法や魔術を素早く展開する基礎的な技術。詠唱、とは言うもの実際に呪文を唱える必要はなく魔法や魔術の術式を如何に素早く適切に行えるかを示す。レベル2ではまだ心許ない。勝利要素×3 高速詠唱lv3 魔法や魔術を素早く展開する基礎的な技術。詠唱、とは言うもの実際に呪文を唱える必要はなく魔法や魔術の術式を如何に素早く適切に行えるかを示す。レベル3であれば十分実戦で通用する……はずだった。勝利要素×5 高速詠唱lv4 魔法や魔術を素早く展開する基礎的な技術。詠唱、とは言うもの実際に呪文を唱える必要はなく魔法や魔術の術式を如何に素早く適切に行えるかを示す。レベル4ともなれば十分魔導の高速展開が得意だと言って良い。勝利要素×7 高速詠唱lv5 詳細不明 高速詠唱(真) 魔法や魔術を素早く展開する基礎的な技術、それを純粋に高めたもの。 達人同師の戦闘であっても通用する高い基礎力。 先制確定×1、勝利要素×10 高速詠唱(極) 魔法や魔術を素早く展開する基礎的な技術、その極点。相手よりも確実早く起動させる極めて高い基礎力。先制確定×3このスキルによる先制確定は勝利確定と相殺できる。 魔導技法 無詠唱 己が内部のみに術式を展開し、気付かれることなく魔導を行使するスキル。妨害されにくく、高い隠密性を保有する魔導の行使術。自身の魔導に関する行動が成功しやすくなる。魔導に対する無効化耐性 多重詠唱 複数の複雑な術式を展開する魔導行使のスキル。これにより遅い術式の展開を行いながら別の魔導を展開するといった複雑な挙動を行うことができる。自身の作戦が6以上の時、魔力+1 完全詠唱 如何なることがあろうと妨げられぬ完璧な詠唱術。朗々と紡がれる至極の術式。このスキルは無効化されない。魔導の詠唱に際して発生するマイナス効果を無効化し、魔導の発動が阻害されなくなる。 コンセントレイト 魔力を一点に収束し、威力を底上げする魔導技法。ある一つの魔導を極めんとする試みの一つ。高い集中力こそが魔導の力を引き上げる。遅緩確定×1、作戦時に自身の魔導1つを選ぶ。その魔導の効果を2倍にする。ただし攻撃ではない魔導には使用できない。 コンセントレイト(サイレントエラッタ) 魔力を一点に収束し、威力を底上げする魔導技法。ある一つの魔導を極めんとする試みの一つ。高い集中力こそが魔導の力を引き上げる。遅緩確定×3、作戦時に自身の魔導1つを選ぶ。その魔導に撃破確定×魔力を付与する。もしその魔導が大魔術式なら代わりに勝利確定×魔力を付与する。ただし攻撃ではない魔導には使用できない。 過剰収束(真) 魔導に本来込めれる以上の魔力を詰めることで高い破壊力を実現する技法。自身の魔導の火力を突き詰める高等技術、その発展形。収束された高濃度の魔力は自身の魔導を必殺技へと変える。撃破確定×1または魔力枠を1つ使用し、撃破確定×魔力 魂源抽出lv1 詳細不明 魂源抽出lv3 自らの魂から魔力を絞り出す技術。早い話が寿命の前借であり、極めて負担の大きい技法。敗北確定×1~3を得ることで自身の魔力を1~3上昇させる。このスキルを使用した場合、寿命が減少したり体力を大きく消費する。そのコストは使用者の魂に関する魔導力に依存する。 術式介入 他人が自身の修得している魔導を使用した時に使用する魔力運用の応用術。他者の魔導の制御権を奪い取り、己が支配下に置く。性質上、大きな才能の差や熟練度の差等が無ければ成立しない。相手が使用した魔導の効果が状況に応じて変更になる。この魔導は複数回使用することができる 圧縮言語lv4 言語を意味が繋がるように圧縮し、単一の魔導を連続展開する魔導技法。ある一つの魔導を極めんとする試みの一つ。重ね合わせることでより魔導はより大きな力を発動する。任意の魔導1つを4回まで追加で魔力枠に入れることができる。ただし一部魔導や大魔術式には適用できない。 魔力観測 相手の魔力の動きを観測することで相手がどのような魔導を使用しようとしているかを判別する高等魔導技能。相手の動きを事前に知ることは魔導師戦において高い効果を生み出す。作戦+1、相手の魔力枠の使用先がいくらか分かることがある。 魔導戦術『マジックサークル』(三首式) 複数人で行使する大規模魔導、その陣形。魔導を複数人で行使するのは簡単なことではなくそれが部隊規模となればほんの少しのズレでも大惨事に繋がりかねないが 三つの首を上手く利用することで疑似的にそれを行っている。複数の首で共同して行使する魔導の効果を行使した首の数倍にするただしこの魔導の行使に失敗した場合、敗北確定×首の数を得る。魔導戦術のスキルは味方内で1つしか効果を発揮しない 魔力暴走(不完全) 魔力をコントロールしきれずに暴発させてしまう技法というより失敗。基本的には術式が発動しなくなるはずなのだが大量の魔力を流すことで暴発として発動する。自身が使用した魔導の効果をX倍(最大絶対値2.5)にすることがある。この魔導はメアリーが表に出ていない時常時魔力枠を使用する。 魔力暴走 魔力をコントロールしきれずに暴発させてしまう失敗を技法へと昇華したもの。基本的には術式が発動しなくなるはずなのだが大量の魔力を流すことで暴発として発動する。自身が使用した魔導の効果をX倍(最大絶対値2.5)にすることがある。自身の魔力が6以上ならこの魔導技法は魔力枠を使用しない。 肉体系スキル 身体能力 恵体lv3 運動性能に優れた恵まれた身体。それだけでどうという訳ではないが、最終的な結果を分けるのは己が肉体である。勝利要素×5 恵体lv4 運動性能に優れた恵まれた身体。それだけでどうという訳ではないが、最終的な結果を分けるのは己が肉体である。勝利要素×7 恵体lv5 運動性能に優れた恵まれた身体。それだけでどうという訳ではないが、最終的な結果を分けるのは己が肉体である。勝利要素×10 黄金律(身体) 身体の黄金比率を表すスキル。常に健康であり、大きな力を発揮できる恵まれた身体。自身に対して肉体系に対する無効化耐性を3つ得る。勝利確定×1 怪力 人ならざる者の血か天賦の素質かこのキャラクターは他者を遥かに凌駕する力を持って生まれた。撃破確定×1 鋼の肉体 鋼のように硬い肉体には生半可な攻撃では傷をつけることは出来はしない。マッスルイズパワー。耐久確定×1 俊足 鍛え上げられた俊足。ただ走ることにおいてなら他の追随を許さない。先制確定×1 疾風迅雷 風や雷の如く駆け抜ける速さ。魔導さえも追いつけない敏捷な躰。勝利確定×1、先制確定×1 怪力乱神 神の如き腕力の冴え。魔導さえも紙切れのように破り捨てる強き躰。勝利確定×1、撃破確定×1 金剛力士 鍛えに鍛えた師玉の肉体。魔導さえも跳ね返す強靭な躰。勝利確定×1、耐久確定×1 財宝化の魔眼(真/制限) 睨んだ者を金銀財宝へと変える恐るべき石化の魔眼の亜種。視界に修めるだけで他者を変質させる生体に備わった魔導。抵抗しようがある程度動きを鈍らせることができる優秀な魔眼。見つめた対象に財宝化確定×0~3を付与する。財宝化に抵抗した対象に遅延確定×2と敗北要素を×25を付与し、その回避確定を1つ相殺する。このスキルは自身が竜形態でなければ使用できない。※肉体系スキル 肉体改造lv5 自身の身体に何らかの改造が施されている。けれどそれはその分だけ純正の人間からかけ離れるということであり肉体に負荷が掛かるということである。敗北確定×3、このスキルのレベルだけ改造系アイテムを内包する。寿命が低下する(大) 種族 単一種族 生物種として行ってはいけない特異点となり果てた者。突然変異ですらなく、同種として数えられないハズレ値。種族系参照効果を受けなくなり、肉体・限定系効果を取得しやすくなる。限定+1、勝利確定×(自身の限定-相手の限定 最低0)元同種からの好感度にマイナス補正。 半人半呪 人の身でありながら一種の呪物と化した存在。もはや災厄の一種と言っても過言ではなく、古の時代ならば間違いなく討伐対象である。限定+1、呪術一種を魔力枠を消費せずに使用できる自身が勝利確定を生み出すのなら自身以外のキャラクター全てに敗北確定×1を付与できる。 半竜半呪 竜の身でありながら一種の呪物と化した存在。もはや災厄の一種と言っても過言ではなく、古の時代ならば間違いなく討伐対象である。限定+1、呪術一種を魔力枠を消費せずに使用できる。自身が勝利確定を生み出すのなら自身以外のキャラクター全てに敗北確定×1を付与できる。自身に対する竜属性特攻の効果を半減する。 人狼 人に紛れ、襲撃を行う魔獣の血を引き継いだ人類種。人としての知性と魔獣としての力を行使できる恐るべき怪物。狼、とは言うものの実際にはその中身は千差万別。限定+1、勝利要素×10このスキルを使用した時、カテゴリが魔獣となる。 闇に吠える者 魔獣の血を引き継いだ人類種にして魔獣の力を使いこなす者。人間社会に溶け込み人間として行動しながら魔獣側の行為を行うのに躊躇が不要な怪物であり人類の天敵。限定+1、勝利確定×1、人類系スキルを1つ無効化する。このスキルを使用した時、カテゴリが魔獣となる 悪霊 死してなお未練のために現世を離れることができない哀れな存在。けれども彼らに情を抱いてはならない。それは黄泉へと続く奈落なのだから。通常とは異なる耐性と弱点を保有する。相手の精神系スキル1つを無効化する。 黄泉へ至らず祀ろわぬ者 死してなお未練のために現世を離れることができない哀れな存在。周囲へ祟りを齎す、神とさえ表せられる者。通常とは異なる耐性と弱点を保有する。相手の精神系スキルを1つずつ無効化する。敵対者全員に敗北確定×1を付与する。 魔獣lv3 魔力を持ちそれを本能で以て行使する野獣たち。世界に存在する魔導生物の大半を占める恐るべき存在。けれどこの世界に生きるのならば彼らとの付き合いを避けることなどできはしない。勝利要素×15、独自の耐性と弱点を保有する。また一部魔術を修得できる。 魔獣lv4 魔力を持ちそれを本能で以て行使する野獣たち。世界に存在する魔導生物の大半を占める恐るべき存在。けれどこの世界に生きるのならば彼らとの付き合いを避けることなどできはしない。勝利要素×21、独自の耐性と弱点を保有する。また一部魔術を修得できる。 怪獣 極大の暴虐を身に纏う破壊者たる魔獣の上位存在。全てを打ち滅ぼす暴威の象徴。生半可な存在では相対することさえ許されない大いなる力。勝利確定×1、このスキルは無効化されない。敵陣のキャラクターの無効化耐性を1つ相殺する。 屍鬼 無理やり生き返らせられ仮初の生を与えられた屍。知性はなくただ命令や本能、かつての思考の残滓によって動く怪物。仮初の生だからこそ逆に殺しきることが難しい。自身の作戦が1になる(下限無視)、耐久確定×0~4(元の肉体に依存する) 魔神lv1 異界より現れる高次魔導生物たる魔神。それぞれが特異な権能と恐ろしき力量を保有する怪物。力量が上がれば上がるほど、この世界への現界が難しくなる。とはいえこのレベルであればまだ抵抗が可能な範囲。勝利要素×10、限定+1 魔神lv5 異界より現れる高次魔導生物たる魔神。それぞれが特異な権能と恐ろしき力量を保有する怪物。力量が上がれば上がるほど、この世界への現界が難しくなる。決して呼び出してはいけない最上級の怪物。このレベルの存在を呼び出す者がいるとすれば、それは恐らく世界の破滅を願う者だろう。勝利確定×5、限定+1、魔力+1このスキルは無効化されず、レベルは低いものとして扱われない。このスキルは魔神調伏の魔術の効果を受けない。 ドラゴンルーラー 魔竜物差しと呼ばれる竜の属性を持つ魔獣。その力は真なる竜には及ばないものの凡百の魔獣とは一線を画す。勝利要素×10、自身が勝利確定を保有する時代わりに勝利確定×1自身に対する無効化耐性を1つ得る。 竜種 極大の神秘を身に纏う産まれながらの上位存在。空を飛び、焔を放つ暴威の象徴。生半可な存在では相対することさえ許されない大いなる力。勝利確定×1、このスキルは無効化されない。無効化耐性を1つ得る。 大いなる龍 極大の神秘を身に纏う純正のドラゴン、その頂き。固有の名を冠す最強の存在。英雄譚でしか見ないような暴威の究極。勝利確定×5、このスキルは無効化されない。無効化耐性を3つ得る。 環境適応(肉体系スキルとして適応) 環境適応(バッドイベント)lv1 一つの環境に適応した存在であることを示すスキル。それ以外の環境では力を発揮しきれないものの自身の得意領域でなら無類の強さを発揮する。該当場所によるマイナス効果を無効化することがある。該当の場所での勝利要素×3、それ以外の場所での敗北要素×1 環境適応(バッドイベント)lv4 一つの環境に適応した存在であることを示すスキル。それ以外の環境では力を発揮しきれないものの自身の得意領域でなら無類の強さを発揮する。該当場所によるマイナス効果を無効化または半減する。該当の場所での勝利要素×21、それ以外の場所での敗北要素×10 環境適応(バッドイベント)lv5 一つの環境に適応した存在であることを示すスキル。それ以外の環境では力を発揮しきれないものの自身の得意領域でなら無類の強さを発揮する。該当場所によるマイナス効果を無効化または半減する。該当の場所での勝利要素×30、それ以外の場所での敗北要素×10 環境適応(旧文明の森)lv3 一つの環境に適応した存在であることを示すスキル。それ以外の環境では力を発揮しきれないものの自身の得意領域でなら無類の強さを発揮する。該当場所によるマイナス効果を無効化する。該当の場所での勝利要素×15、それ以外の場所での敗北要素×5 環境適応(トロピカル)lv3 一つの環境に適応した存在であることを示すスキル。それ以外の環境では力を発揮しきれないものの自身の得意領域でなら無類の強さを発揮する。該当場所によるマイナス効果を無効化する。該当の場所での勝利要素×15、それ以外の場所での敗北要素×5 リング上の住人 リング上という環境に特化した適応能力。自身のフィールドにおいて勝てるものなどそうはいない。該当場所での勝利確定×3、作戦+1該当場所によるマイナス効果を無効化または半減する。該当場所以外で、自身が勝利確定を有する時、敗北確定×1 加護 精霊の加護(地)lv3 精霊と呼ばれる特殊な魔法生物から受けた加護。対応する属性への変換がやりやすくなり耐性を獲得するが加護に適応するほど肉体が精霊のそれへと近づいていく。レベル3とも成れば肉体の半分が精霊とも言うべき存在になっている。勝利要素×5、地属性の魔導やアイテムを使用した時、勝利要素×5通常とは異なる耐性と弱点を保有する、思考回路が精霊種のものに近づく。 魔神の加護(ラビアン) 異界より現れる高次魔導生物たる魔神。その狂気に満ちた名を告げられ、加護を受けし存在であるということ。その音階は呪いであり祝福である。勝利要素×10、自身が他に勝利確定を保有するなら代わりに勝利確定×1イベントでの成長率が鈍化(小)し、生存確定×1とラビアンと同等の精神・魂に対する防御力を得る。ラビアンへの愛を叫ぶことで短時間の通信を行うことも可能。(インターバルあり) 熱砂龍の加護 大いなる龍からの加護を受けた存在。龍とは人の身では抗うことすらできない災害であり世界の覇者となるだけの強大な力である。それに認められ力の一端を与えられるということはそれだけで偉業なのだ。勝利確定×1、ドラゴン属性を得る。熱や乾燥の環境によるデメリットを受けなくなり、それらの攻撃に耐性を得る。また熱砂系の成長率が上昇する(小)。 黄金龍の加護 大いなる龍からの加護を受けた存在。龍とは人の身では抗うことすらできない災害であり世界の覇者となるだけの強大な力である。それに認められ力の一端を与えられるということはそれだけで偉業なのだ。勝利確定×1、ドラゴン属性を得る。伝説のアイテムの入手率が上昇する。伝説のアイテムを7つ以上装備している時、装備+1新システムにおいてガチャチケットを得られる時、その倍率を1.5倍にする。 呪血の加護(ユカリ) 大いなる存在の血を受けたことにより呪われたことを示すスキル。単に血を受けるだけでなく存在から対象への強い思念を必要とする。敗北要素×10、自身が他に勝利確定を保有するなら代わりに敗北確定×1このキャラクターへのユカリ・タイドムーンからの精神への浸食を無効化する。このキャラクターへのユカリ・タイドムーンからの魂への自動的な浸食を無効化する。このキャラクターに対する干渉をユカリ・タイドムーンが肩代わりする可能性がある。非戦闘時、このキャラクターに発生する痛みをユカリ・タイドムーンが肩代わりする。このキャラクターへの呪厄竜の血厄液によるバッドイベント発生率上昇と不運を相殺し代わりにユカリ・タイドムーンのバッドイベント発生率を上昇させる。このスキルはユカリ・タイドムーンが健在な限り無効化されない。 頭脳系スキル 高速思考 高速思考lv1 素早く思考を巡らせるスキル。相手よりも速く物事を考えられるということは他者よりも深く物事を考えられるということでもある。勝利要素×3、自身が勝利確定を有するのなら先制確定×1 高速思考lv2 素早く思考を巡らせるスキル。相手よりも速く物事を考えられるということは他者よりも深く物事を考えられるということでもある。勝利要素×9、自身が勝利確定を有するのなら先制確定×2 高速思考lv3 素早く思考を巡らせるスキル。相手よりも速く物事を考えられるということは他者よりも深く物事を考えられるということでもある。作戦+1、勝利要素×15、自身が勝利確定を有するのなら先制確定×3 高速思考lv4 詳細不明 高速思考lv5 詳細不明 並列処理 複数の物事を頭の中で同時に処理するスキル。マルチタスクとも呼ばれる難易度の高いスキル作戦+1、作戦案の行数に+高速思考レベル/2(端数切り上げ)する。 臨機応変 器用に立ち回り最適解を探すスキル。高い応用力と手札の多さに裏打ちされた臨機応変さ。自身の魔力枠を高速思考のレベル個まで入れ替えることができる。 ファストシンキング 思考の瞬発力によって行われる戦闘における手札の切り合いを習熟していることを示すスキル。自身が他者の協力を必要としない自身への確定勝利、敵陣への無効化、敵陣への敗北確定のいずれかを(8-自身の高速思考のレベル)回生み出すたびに勝利確定×1を得る。 解へと至る道 自らの思考の淵へと深く沈み込む高速思考と分析の複合スキル。極限状況で行われる正解へたどり着くための高速分析。イベント中、一定の情報が集まった際、その答えへとたどり着く判定が発生する。 多層思考 詳細不明 パターン対応 いくつかのパターンを想定しておくことで素早く行動を行うスキル経験や想定による高い対応力。先制確定×1、高速思考のレベルが3以上ならさらに回避確定×1、命中確定×1 感情鎮静 詳細不明 輝け、渾身の迷推理 詳細不明 戦術指揮 戦術指揮lv2 味方を指揮して適切に行動させるスキル。作戦を考え、味方の能力を把握して行うことができる修得難易度の高いスキル。チーム内に指揮を行える者がいるかどうかは大きな違いを産む。自身以外の味方の作戦をレベル分増加させる。(最大自身の作戦) 戦術指揮lv3 味方を指揮して適切に行動させるスキル。作戦を考え、味方の能力を把握して行うことができる修得難易度の高いスキル。チーム内に指揮を行える者がいるかどうかは大きな違いを産む。自身以外の味方の作戦を3増加させる。(最大自身の作戦)戦術系効果に対する無効化耐性を1つ得る。 行動委任 詳細不明 兵は詭道なり 詳細不明 戦術看破 相手の戦術を見抜き、それを封殺する戦術を組み立てる戦術巧者。敵陣の技術・戦術系によるスキルを自身の戦術指揮のレベルの数だけ無効化する。ただし自身よりも作戦が高いキャラクターのスキルは無効化できない。 戦術予報 相手の行動を予測する調査分析と戦術指揮の複合スキル。的確な情報とそれによる予測は戦闘を優位に進める。敵陣のキャラクター1名の行動案を事前に知ることができる。ただし自身より作戦が低いキャラクターしか選ぶことができない。 包囲戦術 相手を囲んで追いつめる戦術。上手く機能させるためには事前の準備や味方同士がお互いに誤射をしないような配置が必要でそれをどうにかするのが指揮官の腕の見せ所。自陣が包囲している戦闘時、命中確定×味方人数(最大10)を得る。自身の戦術指揮がレベル4以上なら代わりに勝利確定×味方人数(最大10)を得る。ただし敵陣の人数が自陣以上ならこれで得られる勝利確定は半減(端数切り捨て)する。 火力支援 戦術・作戦行動を支援するために行われる火力投射。魔導師同士の戦闘においても火力の集中という概念は効果を発揮する味方陣営の撃破確定4つにつき勝利確定1つに変換できる。味方陣営がこのスキル以外で勝利確定を生み出すなら代わりに撃破確定3つで変換できる。 軍略 軍略lv3 味方の配置や作戦などを練り適切行動させて勝利へ導くスキル。その場その場における戦術ではなく軍全体の戦術や戦略に関するスキル。自身の戦略下にある味方陣営に勝利要素×その戦闘の味方人数×5を付与する。味方が勝利確定を有するのなら代わりに勝利確定×その戦闘の味方人数×0.5を付与する。味方に対する無効化耐性を1つ得る。追記:(軍略⇒自身の軍略下にあるキャラクターに頭脳系の無効化耐性を1つずつ与えるに変更)とのこと 特殊戦術 被害誘導lv2 配置や立ち回りによって相手の攻撃の的をずらすスキル。戦術的理解だけでなくそれを活かす能力も必要な高度なスキル。このレベルでは自身から被害を逸らす程度。自身を対象にした効果1つを別の対象に移し替える。失敗する場合もある。 被害誘導lv3 配置や立ち回りによって相手の攻撃の的をずらすスキル。戦術的理解だけでなくそれを活かす能力も必要な高度なスキル。レベル3以上なら対象を選ばずに誘導することができるようになる。誰かを対象にした効果1つを別の対象に移し替える。失敗する場合もある。 一撃離脱lv2 有効射程と索敵能力の許す限り遠くから攻撃を仕掛け、即座に撤退する戦術。攻撃の命中も去ることながらそれ以上に上手く撤退を行うことが必要な特殊戦術。勝利要素×自身の作戦×レベル 一撃離脱lv3 有効射程と索敵能力の許す限り遠くから攻撃を仕掛け、即座に撤退する戦術。攻撃の命中も去ることながらそれ以上に上手く撤退を行うことが必要な特殊戦術。勝利要素×自身の作戦×レベルこのスキルの使用に関わる作戦によるボーナスを2倍にする。 一撃離脱lv5 有効射程と索敵能力の許す限り遠くから攻撃を仕掛け、即座に撤退する戦術。攻撃の命中も去ることながらそれ以上に上手く撤退を行うことが必要な特殊戦術。勝利要素×自身の作戦×レベルこのスキルの使用に関わる作戦によるボーナスを2倍にする。回避確定×1 初撃決殺lv1 初手で攻撃を叩きつけ、戦闘を終わらせる戦術。自身が先制確定、命中確定、撃破確定のうち二つを得ている時、足りないものを1個まで追加する。 先手必勝 先手を取って強い攻撃を当ててしまえば勝利できるという火力主義の完成系。自身が先制確定、命中確定、撃破確定のうち二つを得ている時足りないものを足りるようになるまで追加する。 根性カウンターlv5 相手の攻撃に耐えることで機をを伺い確実に相手に攻撃を命中させるタフネスを利用した攻撃戦術。自身の耐久確定を任意の数(最大レベル分)まで減らし減らした数だけ命中確定を得る。 拠点構築、陣地作成 拠点防衛 陣地の防御に専念し、拠点を護るための防衛術。きちんと防御された拠点を突破するのは並大抵のことではない。陣地の防衛を行っている場合、耐久確定×2 野戦築城lv3 屋外等において素早く拠点を作成するスキル。ちょっとした塹壕程度であろうとあるとないとでは大違いだ。勝利要素×レベル×作戦作成した拠点において自身の作戦+1 調査分析 調査分析lv1 相手に関することや隠蔽された痕跡や目撃情報などを解明するスキル。通常の人間が気付かないような手がかりから真実を導き出す。基本成功率20%で分析することができる。 調査分析lv2 相手に関することや隠蔽された痕跡や目撃情報などを解明するスキル。通常の人間が気付かないような手がかりから真実を導き出す。基本成功率40%で分析することができる。 調査分析lv3 詳細不明 調査分析lv4 詳細不明 調査分析lv5 詳細不明 プロファイリング 詳細不明 偽証看破 詳細不明 盲打ちlv1 盲打ちlv2 誰にも予測できない敵も味方も混乱させる常軌を逸した戦術。それは自身さえ例外ではない頭のおかしい打ち手。けれどそれゆえに他者の思考にノイズを放り込む。敵味方問わず頭脳系のスキルのレベルをこのスキルのレベル分だけ低下させる。自身の行動を予測するような作戦案の成功率を著しく低下させることがある。 盲打ちlv3 誰にも予測できない敵も味方も混乱させる常軌を逸した戦術。それは自身さえ例外ではない頭のおかしい打ち手。けれどそれゆえに他者の思考にノイズを放り込む。敵味方問わず頭脳系のスキルのレベルをこのスキルのレベル分だけ低下させる。自身の行動を予測するような作戦案の成功率を著しく低下させることがある。自身は盲打ちやそれに類する効果を受けなくなる 魔獣理解 魔獣理解lv1 ダンジョンから現れる魔導生物、魔獣と呼ばれる彼らの生態を理解していることを示すスキル。人類の天敵であり、同時に良き隣人でもある彼らを知ることは彼らに対抗すべき魔導師には重要な事柄である。魔獣との遭遇時、基礎成功率レベル×20%で魔獣の存在について知ることができる。 魔獣理解lv2 詳細不明 魔獣理解lv3 ダンジョンから現れる魔導生物、魔獣と呼ばれる彼らの生態を理解していることを示すスキル。人類の天敵であり、同時に良き隣人でもある彼らを知ることは彼らに対抗すべき魔導師には重要な事柄である。魔獣との遭遇時、基礎成功率レベル×60%で魔獣の存在について知ることができる。 魔獣理解lv4 詳細不明 魔獣理解lv5 詳細不明 種族判別 相手の特徴からその存在がどういう種族、性質を持つかを当てるためのスキル。魔獣だけでなく多くの分類の魔導生物を頭の中に入れ分類訳を行うようになった者。その成功率は魔獣理解のレベルに依存する。 読書 読書lv1 書を読むためのスキル。書を速く読み込むこと、書を深く読み込むことそれらは簡単なようで重要なスキルなのだ。1行動で読める本の数に+1本を読む行動を行うたび1の経験値を得る。 読書lv2 書を読むためのスキル。書を速く読み込むこと、書を深く読み込むことそれらは簡単なようで重要なスキルなのだ。1行動で読める本の数に+2本を読む行動を行うたび2の経験値を得る。 学問 経済学 詳細不明 初級魔導薬学 詳細不明 薬草鑑定 詳細不明 植物学lv1 植物に関する学問。その知識を修め、その分野に精通していることを示すスキル。レベル1では少し齧った、程度。 対人系スキル 社交 社交lv2 他者と交友関係を築くスキル。単なるコミュニケーション能力だけではなくマナーや状況に合わせた立ち振る舞いなども含む高度なスキル。レベル2であれば社交界で恥をかくことはないだろう。 社交lv3 他者と交友関係を築くスキル。単なるコミュニケーション能力だけではなくマナーや状況に合わせた立ち振る舞いなども含む高度なスキルレベル3となれば社交の場において能動的な行動を行える有力者の域。 人間観察 ちょっとしたコミュニケーションや対象の仕草から相手の性格等を見抜く対人能力。社交や交渉等の対人スキルとコミュニケーションの深さに依存して発揮される分析と社交の複合スキル。観察量に応じて相手の行動を予測できるようになる。 黒子式社交術 詳細不明 井戸端会議の聞き上手 詳細不明 好意の反対は嫌悪である 詳細不明 誘惑 誘惑lv1 他者を惑わし、魅了し、己の意のままに操ろうというスキル。魅力的な人物の願いには人は容易く転んでしまう。性質上容姿がよいほど伸ばしやすいが、醜くても愛嬌がある人物なども得意であることがある。レベル1では二人組を作るのに失敗しない程度。 誘惑lv2 他者を惑わし、魅了し、己の意のままに操ろうというスキル。魅力的な人物の願いには人は容易く転んでしまう。性質上容姿がよいほど伸ばしやすいが、醜くても愛嬌がある人物なども得意であることがある。レベル2であれば玉の輿にのったりヒモになったりする程度は問題なく行える。 買収 お金で相手を誘惑するスキル。当然お金持ちには効きづらく、自らに財力が無いと無意味。金で買えない物はあるが、それでも買える物は沢山あるのだ。自身と相手の財力差に応じて誘惑の効果を上昇させる。 挑発 挑発lv1 詳細不明 挑発lv2 他者を挑発し、冷静でなくさせるスキル。人という生き物は平静でなければその力を100%を発揮しきれない。だが戦いの場で相手を怒りに染めるのは技術が必要だ。挑発したキャラクター1名の作戦を0~2低下させる。 挑発lv3 他者を挑発し、冷静でなくさせるスキル。人という生き物は平静でなければその力を100%を発揮しきれない。だが戦いの場で相手を怒りに染めるのは技術が必要だ。挑発したキャラクター1名の作戦を0~3⇒4分低下させる。複数名にこの効果を適用させることができる。 愚者の嘲笑 危険性も相手の力量も分からずにあるいは意図的に無視をして行われる命知らずな挑発行為。危険を顧みないからこそ相手の地雷を踏みつけることができる。敗北確定×1、自身の挑発の効果を+1する。 精神切開 他人の精神の傷を切り開き精神にダメージを与える技術。人の心を抉り、奈落へと突き落とす話術と挑発の複合スキル。一種の精神的医療ではあるものの大半はトラウマをより深くする攻撃でしかない。 条件を満たしたとき、他人の精神を切り開くことができる 致命的な一言 詳細不明 話術 話術lv1 どれだけ言葉を巧み操り会話を行えるかを示すスキル。このスキルがなければ会話ができないわけでも心に響くことが言えないわけでもないが話を相手に届かせる技術というものは確かに存在する。レベル1ではクラスの人気者になれるかもしれない程度。 話術lv2 どれだけ言葉を巧み操り会話を行えるかを示すスキル。このスキルがなければ会話ができないわけでも心に響くことが言えないわけでもないが話を相手に届かせる技術というものは確かに存在する。レベル2ならば十分言葉を操るのに長けていると言える。 話術lv3 どれだけ言葉を巧み操り会話を行えるかを示すスキル。このスキルがなければ会話ができないわけでも心に響くことが言えないわけでもないが話を相手に届かせる技術というものは確かに存在する。レベル3であれば言葉を扱う仕事についても苦労はしない。 染み入る共感の激痛よ 他者の精神的な痛みや欠点に対する共感術。他者の心の宿痾を看破し、深く理解することができるが反面その傷を自分のものであるかのように受け取ってしまう。 思考誘導 他者の思考を知らず知らずのうちに誘導する技能。そうと悟られることがなく相手の思考を望む方向へと誘導するためのスキル。施した対象の行動傾向を誘導することができる。どの程度誘導できるかは話術のレベルに依存する。 絢爛たる上の空 詳細不明 望まぬ答え 話し合いを誘導し誰もが望まないような着地へと運んでしまうスキル。話をややこしくし、時に平行線に、時に妥協させあいながら求めるべきものを少しずつずらし、間違った着地点へと導く。このスキルを使用することで誰も望まないような答えへと話し合いを導くことができる。 チョイスブロッキング 他者の選択肢を制限する話術スキル。他者の思考を自らの話術で誘導することで自分にとって不都合な行動を行わせない。会話をしたキャラクターの選択肢を制限することができる。 詐術 詐術lv1 他者を欺くためのスキル。言動や容姿、思い込みの利用など用いる手段は様々だがこのスキルが高いということは誠実さからは程遠いことは間違いがない。レベル1ではちょっと対人ゲームが強い、程度。 詐術lv2 他者を欺くためのスキル。言動や容姿、思い込みの利用など用いる手段は様々だがこのスキルが高いということは誠実さからは程遠いことは間違いがない。レベル2であれば他人から嘘吐きと言われても仕方がない。 偽りの仮面 外面に貼り付けた仮面。本来の性格とはかけ離れた外面を作り上げていることを示すスキル。精神系干渉に対して耐性を得る。自身の内面を他者に認識されづらくなる。 情報工作 詳細不明 脳ある鷹は猫を被る 自身の力を隠し弱くみせる嘘吐きのスキル。自身の詐術を見抜けないキャラクターは自身の実力を誤認し続けることになる。意図的に自身の力を下げたり、スキルのレベルを引き下げることができる。 燻製ニシンの虚偽 詳細不明 情報工作 詳細不明 伽藍洞の虚言 自身の言葉を軽薄な嘘で塗り固めるスキル。良い悪いに関わらず、その言葉には何一つ正しいものが乗っていない。自身に対する分析系の効果を大きく低下させる。 威圧 威圧lv1 他者に圧力を掛け、委縮させるスキル。殺意や敵意といった負の感情を叩きつけ動きを止める技。性質上格下に強く同格以上には効きが悪い。敵全員に敗北要素×3または敗北確定×0.1を付与する。(付与する相手の力量や自身の力量による。) 威圧lv2 他者に圧力を掛け、委縮させるスキル。殺意や敵意といった負の感情を叩きつけ動きを止める技。性質上格下に強く同格以上には効きが悪い。敵全員に敗北要素×9または敗北確定×0.3を付与する。(付与する相手の力量や自身の力量による。) 威圧lv3 他者に圧力を掛け、委縮させるスキル。殺意や敵意といった負の感情を叩きつけ動きを止める技。性質上格下に強く同格以上には効きが悪い。敵全員に敗北要素×15または敗北確定×0.5を付与する。(付与する相手の力量や自身の力量による。)さらに気絶判定を発生させる。 威圧lv5 他者に圧力を掛け、委縮させるスキル。殺意や敵意といった負の感情を叩きつけ動きを止める技。性質上格下に強く同格以上には効きが悪い。敵全員に敗北要素×30または敗北確定×1を付与する。付与する相手の力量や自身の力量による。)さらに気絶判定を発生させる。さらに遅緩確定×3を付与する。 空気揺るがす怒号 大声で怒鳴り散らすことで威圧するスキル。声の大きさは生物にとって恐ろしいものだ。自身の威圧によるものと同量の勝利要素または勝利確定を得る。 狂気感染 狂気を付与し同類を増やす特殊な威圧。別名強制SANチェック。自身の威圧に発狂効果が付与される。 恐るべき巨体 身体の大きさによって敵の戦意を失わせるスキル。大きさだけでなく、それを上手く活用する使い方も含まれる。自身の威圧を受けているキャラクターに対する無効化耐性を1つ得る。自身の威圧を受けているキャラクターが自身を攻撃する場合、耐久確定×1 悪魔の眼光 悪魔の如き鋭い眼光。その眼(まなこ)に睨まれるだけで人は十全なパフォーマンスを行えなくなってしまう。敵陣の自身の威圧を受けているキャラクターの作戦-1 上級国民 高級品や伝統のアイテムでマウントを取り威圧するスキル。いないところではどれだけ陰口を叩こうがいざ目の前にすると人は委縮してしまうものなのだ。敵陣の自身の威圧を受けているキャラクターの装備-1 いつでもヘラヘラ不気味な笑顔 弱さを受け入れる歪んだ笑顔で相手の精神を揺さぶるスキル。自らの醜さや不甲斐なさを笑って受け入れられる鬱屈した精神への恐怖。耐久確定×威圧レベル、周囲のキャラクターからの好感度が下がりやすくなる。相手が自身に対して強力な攻撃を行うたび、敗北要素または敗北確定×0.1×威圧レベルを付与する。(どちらになるかは対象に依存する。) 肥大化する恐怖 詳細不明 負のオーラ マイナス属性や不吉そうなオーラを身に纏うスキル。思わず距離を取りたくなるどこまでもマイナスな雰囲気。自身に対する好感度が上がりにくくなる。相手の精神系スキルを一人に付き一つずつ無効化する。 凶星のオーラ マイナス属性や不吉そうなオーラを身に纏うスキルが類まれなる不運と星の力によって変質したもの。思わず逃げ出したくなるどこまでもマイナスで危機感を煽る雰囲気と赤い星々。不運とテンション、運命力をトリガーに発動するマップ兵器。一定以上のバッドイベントまたは不運時、自らの頭上に死兆星を出現させテンションに応じて威圧の効果が上昇し、周囲のキャラクターの恐怖心を増大させる。相手の幸運を一人に付き一回ずつ無効化し、バッドイベント判定を行う。 教導 教導lv3 教え導く事を体系化し、十全に行えることを示すスキル。他者に物事を教えるということ、それは容易なことではない自身が他者に物事を教える際、その基本割引上昇量を15%にする。行動枠を消費することで状況に合わせたスキルや魔導を修得させることができる。 教導lv4 教え導く事を体系化し、十全に行えることを示すスキル。他者に物事を教えるということ、それは容易なことではない自身が他者に物事を教える際、その基本割引上昇量を20%にする。また行動枠を消費することで状況に合わせたスキルや魔導を修得させることができる。 実践教導 戦いや何等かの実践行為の中で行う教導術。一種のスパルタ教育であり、体験を通じて対象の成長を促すスキル。対象教導を行う場面でなくとも教導スキルを使用することができる。 個別指導 少人数のキャラクターに対して行う集中的な教導術。教える対象が少ないがゆえにその個人個人に合わせた教導を行うことができる。少人数に対する教導時、教導の効果を2倍にする。 煽り教導 煽ることによって行う特殊な教導術。挑発と教導の複合スキル。他者の心へずかずかと踏み入り触れられたくない部分を刺激することで相手の力を引き出し、向上させるろくでなしの教導術。挑発を行いながら相手に特殊な教導を行うことができる。 これで安心テスト対策 何等かのテストを行う対象に使用する教導術。テストの傾向を調べ上げ、相手がそれに合格できるように足りない部分を詰め込み埋め合わせる塾講師などが行うスキル。テストに関する教導時、基礎点を自身の教導レベル×5点上昇する。 修行心得 詳細不明 勤勉なる学習者 詳細不明 隠蔽 隠蔽lv1 起きた出来事やその場の状態、あるいは情報などを隠すスキル。真実を歴史の闇に葬るスキルと言っても過言ではないがあったことをなかったことにするのはとても難しくもある。基本成功率20%で隠蔽をすることができる。 非戦闘系 感知 感知lvN 周囲の違和感や気配、罠などを感知することができるスキル。平時ではなく危機的状況でこそ真価を発揮するスキル。基本成功率レベル×20%で感知を行うことができる。 直感 感覚的に自身の身の危険を察知することができる感知スキル。単に攻撃を回避するだけでなく、自分にとってまずい選択肢を嗅ぎ取ることもできる。回避確定×感知レベル(最大5)、感知が真以上なら感知確定×1選択肢において自身にとって危険なものや選ばない方がよいものが分かるようになる。 逃走 逃走術lv1 誰かから上手く逃げるためのスキル。移動力だけでなくルート選択や追跡者との心理戦など多くの要素を含むスキル。遭遇時だけでなく戦闘での敗北時にも使用できる。逃走の基本成功率は20%となる。 逃走術lv4 誰かから上手く逃げるためのスキル。移動力だけでなくルート選択や追跡者との心理戦など多くの要素を含むスキル。 遭遇時だけでなく戦闘での敗北時にも使用できる。逃走の基本成功率は80%となる。 逃走術lv5 誰かから上手く逃げるためのスキル。移動力だけでなくルート選択や追跡者との心理戦など多くの要素を含むスキル。遭遇時だけでなく戦闘での敗北時にも使用できる。逃走の基本成功率は100%となる。 逃走術(真) 誰かから上手く逃げるためのスキル、その発展形。移動力だけでなくルート選択や追跡者との心理戦など多くの要素を含むスキル。戦闘敗北時だろうと確実に逃走を行える高い逃走力。逃走確定×1 三十六計逃げるに如かず あれこれ考えるよりも逃げた方がよい場面もあるということ。あらゆる策を越える逃走術。逃走判定に+自身の作戦×5%、自身が逃走確定を生み出すなら代わりに逃走確定×1逃走に対する敵側によるマイナスを半減する逃走系に対する無効化耐性を1つ得る 無様なる生への逃走 体力を振り絞り一目散。これ以上ないほどの必死で無様な逃走。生存確定×1、逃走確定×1 追跡lv1 詳細不明 隠密 隠密lvN 物陰や闇に潜むスキル。他者に見つからずに行動するためのスキルであり、様々な場面に活用できる。基本成功率レベル×20%で隠密を行うことができる。 隠密(真 物陰や闇に潜むスキル、その発展形。他者に見つからずに行動するためのスキルであり、様々な場面に活用できる。その気になれば誰にも見つからない高度な隠密力。隠密確定×1 探索 探索lv1 場をくまなく探し、何か見つけ出すためのスキル。効率的な移動や危険への対処などが含まれる複合スキル。世界に広がり現れるダンジョンを踏破することは冒険者としての誉れである。レベル1ではまだ基礎の基礎という段階。しかしそれでも何もないよりは雲泥の差である。 サバイバルlv2 探索変異。詳細不明 壁壊し 邪道の探索術。壁を破壊し、ギミックの土台から台無しにして行う探索術。探索時、壁や部屋を破壊できることがある 水泳 水泳lv1 水の中を泳ぐためのスキル。簡単なように見えて意外と難しい特殊技能。レベル1であれば綺麗なフォームで25mプールを泳ぎきれる程度。たったそれだけのことでも割と難しい。 水泳lv3 水の中を泳ぐためのスキル。簡単なように見えて意外と難しい特殊技能。レベル3であれば鎧などを着て泳ぐことすら可能。特殊な鎧などを着ていない場合、勝利要素×5を得る。服装が水着等の泳ぎやすいものであればさらに勝利要素×5を得る。 異所水泳 空中や無重力空間、マグマなど水中以外で泳ぐ技術。とはいえあくまで水泳としての動作を適用させるだけでこれのみでどこでも泳げるようになるわけではない。水中以外で水泳スキルを発動させることができる。 芸術関連 芸術審美 全体的な芸術に関する知識とセンス。何がよいものかであるかなどをを把握する美的感覚。それを作れずとも良し悪しがきちんと分かることを示すスキル。基本成功率75%で審美判定を行うことができる。 珍品・迷品集め 迷走した結果産まれてしまったような品々を集めるコレクターのスキル。欠陥品だの亡国面だのと揶揄されるものの中には光るものがある……と彼等は信じている。珍品・迷品に該当するアイテムを入手しやすくなる。 音楽関連 製作(音楽)lv1 音楽を製作するためのスキル。物を作るということは一日そこらで習熟できることではない。レベルが高ければ高いほどより高度なものを作成できる。レベル1では少し齧った程度。 音楽業lv1 営みの一つ。音楽を扱う業種、およびそれを行うための技能。レベル1では少し齧った、程度。 音楽業lv2 営みの一つ。音楽を扱う業種、およびそれを行うための技能。レベル2であれば特技や趣味として十分自慢できる領域。 絵画関連 製作(絵画)lv1 絵画を製作するためのスキル。物を作るということは一日そこらで習熟できることではない。レベルが高ければ高いほどより高度なものを作成できる。レベル1では少し齧った程度。 事務 詳細不明 窃盗 詳細不明 従者系スキル 従者 従者lv4 詳細不明 従者は完璧を以て良しとする 完璧な従者とは主を支えるためのあらゆる行動を一切の淀みなく行えそして言われずとも自発的に主の求めに答える存在だ。勝利確定×1、従者確定×1、自身に対する従者系の無効化耐性を1つ得る。 従者の献身 攻撃を庇い、己が主を護る従者スキル。忠誠心溢れる従者を突破して主に攻撃を届かせるのは簡単なことではない。主を対象にした効果を自身に移し替えることができる。自身の従者のレベルが3以上の時、耐久確定×1 従者の操縦術 主に対する心理的な操縦術。主の欠点が発揮されないよう時に宥め時に褒めることで行われる主のコントロールスキル。主の作戦に+1、主が持つデメリット効果を1つ相殺する。 身辺警護 常に主の近くで備え、その身を護るボディガードのスキル。主を護るために警戒を続けるボディガードを突破するのは並大抵のことではない。感知確定×1、耐久確定×1 例え火の中水の中 例え火の中水の中 いつでもどこでも主の元へ素早く駆けつける従者の嗜み。例え距離が開いていようと何かをしていようと主人の求めに素早く駆けつけるのだ。主と共に行動していない時、合流判定が発生することがある。 静音動作 主の会話や思考を邪魔しないように、静かに見苦しくなく茶器やカートの音を立てぬように動く従者と隠密の複合スキル。静かで快適な環境は主の成長をも促すのだ。半月ごとの主の経験値に+従者レベル バトルメイド 戦いに身を投じるメイド/執事のスキル。――メイドだから戦えないとでも思っていたのか?自身の従者スキルを同レベルの武術として使用できる。自身が確定勝利を生み出す場合、その武術のレベルを+1する。(レベル5の場合は武術(真)として扱う。) カバーリング 相手の攻撃を防ぎ、味方を護るための防衛術。位置取りや相殺による護衛戦法。味方がいる場合、回避確定×1、耐久確定×1 カバーリング(真) 相手の攻撃を防ぎ、味方を護るための防衛術、その発展形。位置取りや相殺による護衛戦法であり、味方の奥の手を確実に決めさせるための時間稼ぎ。味方がいる場合、回避確定×1、耐久確定×1味方が勝利確定を有しているのなら勝利確定×1 成長系スキル 成長系 実践成長 実践する中で僅かな経験を糧とする一種の才覚によるスキル。行動の中で経験を積み、それを瞬時に活かすのだ。行動中に経験値を獲得したり成長を行うことができる。また成長判定が発生する可能性がある。 実践衰退 実践成長の反転とも言うべきスキル。行動の中で負の経験を積み、更なる袋小路へと入っていく。だがそれは己が欠点を以て武器とする者にとっては成長でもある。行動中に経験値を獲得したりデメリットのある成長を行うことができる。また負の成長判定が発生する可能性がある。 見取り稽古 見ることによって行う稽古。他者の行動を見るだけでも十分な経験を積むことができるノウハウあるいは才覚。見る、という行為が学びには重要なのだ。他者の行動を見ることで経験値を獲得したり、割引を受けとることができる。また一定以上の才覚がある場合覚醒判定が発生する可能性がある。 分類不明系スキル 集団 数が多いことを示すスキル。烏合の衆であろうとも数の力はいつの世であっても偉大である。勝利要素×1~50、または勝利確定×1(集団の数や質による)このスキルは効果で無効化されない。人数カウントにおいて自身を2~5人分として扱う。 欲深い金の三首よ 成長により三つに別れた龍の首。物理的な並列思考を可能にし、さらにそれぞれの首からブレスを放つことができる。多くの龍が首を増やすのはそれが強いからに他ならないのだ。作戦+2、ブレスを3つまで使用できる。この時同じブレスを使用してもよい。
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*こちらのバージョン前提でルビとか振ってあります ガラクタの山を猫車――工事現場で土砂運搬に使う一輪のアレだ――に乗せて戻ってきた会 長の姿を見て、工克巳《たくみかつみ》は肩をすくめた。 「蛇蝎《だかつ》さん、どうするんですか」 「修復しろ。さすがに今回のは大きすぎた、予測ができても対応できないのでは意味がない」 「いや、そうじゃなくて、セイバーギアじたい……」 元からジャンクつぎはぎの急造品だった上、派手にやられてバラバラになった〈ヘビィース コルピオン〉の惨状を前に、克巳はため息をつく。 裏|醒徒《せいと》会の長である蛇蝎|兇次郎《きようじろう》が、チビっ子たちに大人気 の対戦型遊具〈セイバーギア〉に、年甲斐もなくのめり込むようになってから、そろそろ二週 間になろうとしていた。 拾い物でできているので、大して元手はかかっていないとはいえ、毎度のように破壊されて いては修理費も目に見える額となってくる。 「ホントに、ガキのお遊びにつき合ってどうするの?」 今回は珍しく、裏醒徒会の初等部担当兼マスコットである、相島《あいじま》陸《りく》も 克巳の意見に賛同するようだった。兇次郎のギアである〈ヘビィースコルピオン〉は規格外の 巨大セイバーであり、その運搬用として、いわば魔法のポケットである陸の異能〈カットアン ドペースト〉はフル活用されていた。拘束時間が長いために、遊びまわれないのが不満なのだ。 陸を見る兇次郎の目は、意外なほどまじめだった。 「相島、そもそもこの任務に適しているのはきさまなのだぞ。セイバーギアの主な対象年齢は 小学生児童だ」 「でもさ蛇蝎おにいちゃん、ぼくがいきなりセイバーギアはじめたって、まわりのみんなに、 なにかたくらんでるって思われるだけだよ」 陸の反論に、さしもの兇次郎も答えに詰まった。弱冠十一歳でありながら「きれいなおねえ ちゃんが大好き」な陸は早熟の色男であり、女性との接点につながらないことにはろくに興味 を抱かない。携帯ゲーム機は持っているが、ささっているソフトの内容は、「お友達とアドレ ス交換をして仲良しポイントを貯めよう!」という感じの、リアルで会うことを前提としてい るものだ。もちろん陸の持っているアドレスは、大学部や若手の女性教職員、学園近隣の「お ねえちゃん」たちのものばかり。 「……それは認めざるをえん。だから運ぶのくらいは黙って手伝ってもよかろう」 兇次郎は陸の見解を半分は首肯した。白々しい顔をした陸にギアバトルをやらせるより、自 ら〈魔王〉を名乗って大仰な芝居をしていたほうがまだマシであろう。金銭をかけることので きないポンコツマシンで、どうやって戦うかを考えるのが意外と楽しい、ということは黙って おくことにした。 だが。 「来週の日曜日、区大会予選のある日は無理だからね。ずっと前から約束があるんだから」 と、陸の返事はつれないものだった。しかも兇次郎にとっては、意外な情報も含まれている。 「大会の日程をなぜ知っているのだ?」 「清廉《せいれん》おねえちゃんに教えてもらった。島内には中継するんだって」 「なるほどな。あながち執行部もアホばかりではないようだ。初等部の発掘には余念がないな。 やはり、やつらにだけ青田刈りをさせてはいられん」 妙に気合の入っている兇次郎の様子に、陸と克巳は顔を見合わせた。欠食児童に食事をさせ るなど、初等部の児童を懐柔して裏醒徒会シンパに仕立てていくのは、兇次郎にとって最も重 要な戦略であるのだが、陸や克巳にはまだそこまでの長期的な視点はない。おそらく、裏醒徒 会ナンバー2である笑乃坂《えみのさか》や、影の協力者である清廉も、兇次郎が十年の時を 費やしてでもこの島の支配権を得ようと、本気で考えているとまでは、気づいていないだろう。 蛇蝎兇次郎は遠大な男であった。 そして兇次郎の見たところ、子供たちの間で流行っている〈セイバーギア〉は、金の卵を見 つけ出すのに最適な計器だった。双葉区内で売られているセイバーギアは一般流通しているも のとはすこし違う。異能の力に感応するのだ。 子供たちにとっては遊びながら異能を磨くことのできる格好の教材であり、大人たちから見 れば開花しつつある才能をすぐに見出すことのできる便利な鈴だった。年端もいかぬ幼い子が 異能を暴走させ、周囲を傷つけ、自らも深いトラウマを負ってしまうようなことは、遠からず なくなるだろう。 そしてそれは、異能者を完全に管理する社会の到来をも意味するのかもしれない。兇次郎が 自らを悪と規定し、体制に与しないアンチテーゼたろうとしている理由は、そうした流れに対 して、彼の灰色の脳細胞が警鐘を鳴らしているからなのだろうか。 しかし、兇次郎は己の考えていることを軽々と明かしはしない。克巳に〈ネオ・ヘビィース コルピオン〉の仕様を指示し、必要なパーツを調達するため、兇次郎は裏醒徒会のアジトであ る野鳥研究会室をあとにした。実際には〈ネオ・ヘビィースコルピオン・リターン・マーク7〉 くらいなのだが、細かいことを気にしていては大物にはなれないというものだ。 セイバーギアは民生用技術としては最先端といって差し支えのないハイテクの塊であり、け っこう高価な玩具だった。小学生では、誕生日やクリスマスにコアパーツをプレゼントしても らうほかには、毎月のお小遣いでカスタムパーツをひとつずつそろえていくのでやっとだろう。 双葉区特別仕様の〈異能反応〉型は、その改造費の分は政府からの補助金でカバーされている ので一般流通品と同程度の価格に抑えられているものの、苦学生である兇次郎にとってはなお お高い買物だ。 結果として、兇次郎は中古パーツを置いてある店をまわることになる。場所に余裕のある店 では、セイバーギアの対戦リングを置いてあることも多い。 一軒めは空振りで、二軒めの店に入ったところで兇次郎は足を止めた。ちょうど野試合がは じまるところに出会したのだ。どちらも初等部の三年生か四年生で、異能の資質を秘めている ようだった。見物していくことにして、兇次郎は長椅子に腰を下ろす。 線が細く青白い、インドア派であることがあきらかな子と、健康そうに陽焼けしている子が 対決するようだ。もっとも、ギアバトルにおいて体格の違いは影響を与えない。事前のセッテ ィングの妙と、臨機応変な判断力、そして精神力がものをいう。異能反応型のセイバーは、気 持ちを込めて応援すれば本当に強くなるのだ。 精神戦の中には、もちろん場外での舌戦も含まれる。先に口火を切ったのは、陽焼けしてい る子のほうだった。 「おまえ、転校してきたばっかのくせに、チョーシづきすぎてるんじゃねえのか?」 「きみがなにをいいたいのか、よくわからないな」 「その態度がチョーシこいてるっつってんだよ!」 「いいから、早くギアバトルしようよ。決着をつけようっていったのはそっちでしょ」 冷めた調子で、白細い子が自分のセイバーを手に取った。鳥型セイバー〈フォトンレイブン〉 に若干のカスタマイズを施した機体のようだ。素早いが脆い、扱いの難しいセイバーである。 一度舌打ちして、陽焼けしている子もセイバーを構えた。カメ型セイバー〈マッドトータス〉 に見えるが、こいつは甲羅の下になにを隠しているのかわからない。格闘用クローが出るか、 射撃用のキャノン砲が出るか、意表をついて宙を飛ぶやつまでいる。 ギャラリーは、兇次郎のほかに六人。店番のおばちゃんがカウンターからそれとなく目を配 っており、残りの五人は陽焼け坊やの取り巻きのようだ。 対峙するふたりが、腕を振り上げる。スターターシグナルにあわせて、ファイティングコー ルを唱和する。 『レディ――ゴーーーーー・セイッ!!』 開始の合図とともに、バトルフィールドの中に、両者のセイバーが投じられた。当然のごと く、フォトンレイブンが素早い動きで先手を取った。レイブンがくちばしを開くと、青白い波 形が迸り出て、マッドトータスを襲う。トータスは甲羅の中に頭と四肢を引っ込め、防御態勢 をとった。レイブンの吐いた青白い波は、トータスをたたくだけではなくフィールドの盛り土 を円錐形にえぐりとっていく。 「この坊主――音波遣いか」 兇次郎がつぶやく間にも、レイブンは距離をつめてトータスへ蹴りを入れる。続いて鋭いく ちばしを甲羅へ打ち込んだ。二度、三度、四度――だが防御形態のトータスはびくともしない。 効果の薄い攻撃を中断すると、レイブンは二脚でジャンプし、店舗の天井近くまで舞いあが った。さすがのセイバーギアといえど、自由自在に飛び回れるほどではない。ジャンプしたり、 滑空したりする程度だ。 トータスの真上につけたレイブンが、翼をたたんで急降下に移る。 「いけ、スパイラル・ダイブ!」 白細い子の声に応え、レイブンがドリルのように回転しながらトータスへと迫った。さらに くちばしの先が青白く光る。ダイブ+ドリル+ソニックアンカー――よほど守備に特化した異 能でない限り、マッドトータス自体の防御力でこの攻撃に耐えることは不可能、それが、蛇蝎 のはじき出した結論だった。 そこで、トータスが動いた。後脚としっぽだけを支えに、立ちあがる。飛び込んでくるレイ ブンに向け、トータスの甲羅から、前脚の代わりに二門の大砲が突き出された。 「意外な速攻勝負になったな」 と兇次郎が口にするのとほぼ同時に、陽焼けしている子が、叫ぶ。 「コラテラル・バースト!!」 トータスの大砲が、火を噴いた。どうやら、陽焼けしている子の異能は、火器の威力を増幅 させるものらしい。 ゼロ距離射撃と同時にレイブンの超音波を食らい、トータスは地面にひっくり返った。一方、 レイブンはリング外にまで吹き飛ばされ、右羽根を失った無惨な姿をさらしていた。しばらく すると、トータスが甲羅に脚を引っ込め、反動をつけて起きあがる。ダブルKOというわけで もなかったようだ。マッドトータスの、陽焼けしている少年の完勝であった。 五人組から大歓声があがる。 「っしゃー!!」 「さすがだぜヨシ!」 「やっぱり正義が勝ったぜ!」 陽焼けしている少年が、得意げに取り巻きたちのほうへ振り向いた。 「当然、こんな新入りなんかに負けるかよ」 盛りあがる勝者の側に対し、敗れた白細い子は茫然としていた。床に転がっている愛機を拾 いあげることも忘れ、ただ立ちつくす。 「いいか、おれたちが勝ったんだからな。明日からは逆らうんじゃねえぞ。お代わりはおれた ちが優先なんだよ。ジャンケンで決めるなんて、そんなナンセンスなことはねえの。それがE 組のオキテなんだ、わかったな」 と、陽焼けしている子――ヨシは敗者へいい渡すと、意気揚々と仲間を引き連れて店を出て 行った。争いの原因を察して、兇次郎は苦笑を漏らす。給食のお代わりが公平に分配されない のはおかしいと主張した転入生の正論は、通らなかったわけだ。 だが、ルールに則って定められた力関係になら、正当性はある。覆したければ、再戦を挑ん で勝てばいい、いや、勝つしかない。 白細い子がのろのろと動き、床からレイブンを拾いあげた。高々と頭上に掲げられたその腕 を、兇次郎は無言でつかむ。 びくりと、白細い子が兇次郎の顔を見た。この子ほどではないが兇次郎も血色は良くない。 頬がこけ、眼光鋭い裏醒徒会長の容貌は、小学生から見ればかなりの威圧感がある。現にこれ までも、初見でなついてくれた児童はほとんどいなかった。 「な、なんだよあんた!?」 案の定、その声は震えていた。兇次郎は、いきなり叱責する。 「物を粗末にするな、愚か者め。だからきさまは負けたのだ」 「ちがう! ぼくは勝ってた、この、こいつがちゃんと動いてれば――」 「そんなことではあと百回やっても百回負けるぞ」 兇次郎は凍るような口調を浴びせた。それから、わずかばかり調子を緩めて、訊ねる。 「小坊主、この島に越してきたのはいつだ?」 「一ヶ月前……です」 「ここにくる前もセイバーギアをプレイしていたのか?」 「うん……いえ、はい、やってました」 「では、ここの島のセイバーギアが特別なことはわかっているな?」 「異能の力がセイバーにでるんでしょう」 「それだけではない。異能の力とは精神の、魂の力だ。きさまの心をセイバーに通わせること で、はじめて本当の力を発揮する。あの小坊主……ヨシといっていたか」 「あいつは筒井《つつい》由典《よしのり》っていう名前です」 「由典はあのセイバーでもう何ヶ月もギアバトルを戦ってきているだろう。この島にやってき て一ヶ月程度、しかもあまりセイバーを大事に思っていなかったきさまでは、まだまだ敵わな い相手なのだ」 白細い子は口をへの字にしてしばらくレイブンへ目を落とし、それから顔をあげた。 「強くなりたい」 兇次郎はひとつ口の端に笑みを浮かべてから、きびすを返した。白細い子には背を向けたま まで、いう。 「その言葉に偽りがないのなら、ついてこい」 そしてそのまま歩きはじめた。この小坊主はものになる――そんな予感がしたので。 ちなみにパーツ屋のおばちゃんは、「物を粗末にするな」と子供を諭す青年にすっかり感心 していたので、小学生男児連れ去り容疑で兇次郎がお縄になる危機はどうにか回避されること になった。 意外な邂逅は、野鳥研究会室で果たされた。陸はとっくに帰ってしまっていたが、克巳はま だ残っていて、〈ヘビィースコルピオン〉の残骸から使えるパーツを選り分けていた。 兇次郎がつれてきた白細い子と克巳の目が合い、しばらくお互いに硬直する。 「……に、兄ちゃん!?」 「克次《かつじ》? おまえどうしてこんなところに」 「兄弟……だと?」 蛇蝎兇次郎ともあろう者が、この展開はまったく予想していなかった。あらためて見てみて も、そんなには似ていない。 兇次郎の驚愕をよそに、ひさしぶりの再開となった工兄弟は互いの近況を確認し合っていた。 「おまえも異能が発現したのか?」 「うん。|音波の錐《サラウンドコーン》っていうんだって。将来有望っていわれたけど、い まはどんだけがんばっても、ちょっと先のガラスを割るくらいしかできないや」 「なんで島にきたのに連絡くれなかったんだよ」 「お父さんが『克巳は勘当中だからいまは家族じゃない』……っていうんだ。不良をやってる ようだから、おまえも引き込まれるかもしれないから近づくなって」 「もう足抜けしたよ。蛇蝎さんのおかげでな」 誇らしげな口調とともに、克巳は兇次郎へ憧憬の念のこもった視線を送った。克次もそちら を見る。 「だかつ……さん?」 克次の声を受け、蛇蝎はひとつ忘れていたことに気づいた。 「そういえば名乗っていなかったな。我輩の名は蛇蝎兇次郎、裏醒徒会の長だ」 「工克次です。兄がお世話になってます。……うらせいとかいってなんです?」 ぺこりとおじぎしてから、克次は首をかしげた。 「野党の党首みたいなもんだ。醒徒会は知ってるだろう? 影の醒徒会ってわけだ」 「へえ、すごい人なんだね」 克巳の説明は適当きわまりなかったが、克次は素直に感心した。兇次郎のほうへ向き直って、 克巳は訊ねる。 「ところで蛇蝎さん、どうしてこいつを連れてきたんですか。べつにおれの弟だからというわ けじゃないみたいですけど」 「うむ。こいつを区大会の予選に出してみようかと思ってな」 「大会って、セイバーギアのですか?」 「そうだ。会場の外で魔王を名乗って野試合をするのでは、せいぜいふた組かその程度の実力 しか測ることができん。かといって横で見ているだけでは確かなことがわからないのが、セイ バーギアの奥深いところだ。工、きさまならセイバーに計器を仕込むことができるだろう。そ れを持たせて弟に大会を戦わせれば、多くの詳細なデータが手に入るというわけだ」 「なるほど」 兇次郎の説明に克巳はうなずいた。克次のほうは目を輝かせている。 「強いセイバー使いになれるかな、ぼく」 会長の指示となれば、克巳の動きは速い。 「とりあえず、こっから適当なパーツとって、そいつを修理しろ」 選り分け途中のパーツが入った箱を弟に渡すと、克巳は野鳥研究会室の中央を占拠する大き なテーブルの上をかたづけはじめた。 今度は兇次郎が怪訝な表情をする番だった。 「なにをする気だ?」 「ちょっとこいつの腕がどんなものか確かめます」 「きさま、セイバーを持っていたのか……?」 「思いっきりパチモノですけどね。サイズ規格しか合わせてないんで大会には出られません」 一度テーブルの上をきれいにしてから適当に障害物を設置し直して、克巳が簡易リングを整 えるのに五分ほどかかった。その間に、克次は〈フォトンレイブン〉を修理し終えていた。右 の羽根だけ色が違うパーツになってしまったが、機能的には問題なさそうだ。 「公式リングじゃないんで外周にセンサーがありません。蛇蝎さん、ラインアウトの判定お願 いします」 といって、克巳はロッカーからパチモノセイバーを取り出す。 「工、そいつは――」 「お察しのとおりです。〈鋼鉄《スチール》の《・》毒蛇《ヴアイパー》〉のあまりパーツで 作りました。〈小白蛇《タイニィパイソン》〉」 蛇蝎へ説明してから、白いヘビ型のセイバーモドキを手に、克巳は弟へ声をかけた。 「準備はいいか?」 「うん」 フォトンレイブンを掲げて、克次が応じる。スターターシグナルもないので、兇次郎が右手 をあげた。 「レディ――」 『ゴーーーーー・セイッ!!』 兄弟のそれぞれの手からセイバーが放たれる。タイニィパイソンとフォトンレイブンは同時 にフィールド上に接地したが、レイブンが二歩進んだときには、すでにパイソンがその側面を 捉えていた。 「はやい……!?」 克次の驚愕をよそに、パイソンが長大なしっぽを振るってレイブンを打ちすえる。向き直っ てレイブンはくちばしを繰り出すものの、パイソンは身を捻って躱し、敵の足元へ滑り込んだ。 脚に絡みつかれかかって、レイブンは両翼を羽ばたかせて逃げる。 「相手の動きをよく見ろ。一瞬ごとに判断を変えるんだ」 兄の声が聞こえるが、克次にその内容は理解できない。人の話の意味を聞き取っている場合 ではなかった。 パイソンは常にレイブンに張りつくように動いてくる。くちばしや蹴爪で攻撃しようとして も、ヘビの長い身体はすべてが武器だ。どこを攻めても、しっぽか牙によってかならず反撃さ れてしまう。痛み分けを続けていては、耐久力の低いレイブンに勝ち目はなかった。 削り合いでは負けてしまうと悟って、克次はレイブンを一気に飛び退がらせ、ついに必殺の サラウンドコーンを放った。だが、障害物として置かれていた、五〇〇ミリペットボトルをひ しゃげさせて吹き飛ばすのが関の山だった。 サラウンドコーンを身を縮ませて回避したパイソンは、身体下半分をバネとして跳ねあがり、 そのまま身体上半分を螺旋状にしたままレイブンの首に飛びかかった。一気にレイブンの首に 巻きつき、締めあげる。 勝負はついた。 有効打の一発すらなし。克次にとっては、〈マッドトータス〉戦よりはるかにひどい、いい とこなしの完封負けだった。 「そ、そんな……」 床に崩れる弟へ近寄って、克巳はその肩をたたいた。 「この白蛇《パイソン》を倒せるようになったら、ほとんどの小学生が使うセイバーに勝てる ようになるさ。こいつはインチキセイバーなんだ、チートだよ」 「いんちきって、どういうこと……」 「こういうことだ」 といって、克巳は制服のブレザーを脱いだ。兄の胴に巻かれた、鈍色の金属光沢が、克次の 目を奪う。 「これがおれの異能の真髄、〈鋼鉄《スチール》の《・》毒蛇《ヴアイパー》〉だ。そんじょ そこらの怪物《ラルヴア》には負けない真物の武器だよ。白蛇《パイソン》はこいつのミニチ ュアなんだ。セイバーギアはあくまでもオモチャ、実戦用の武器じゃない。――まあ、トップ ランカーには、こっちの毒蛇《ヴアイパー》本体にもセイバーで勝っちゃえそうなバケモノが そろってるけどな」 克次の知っている兄は、こんなに恰好よくなかった。わかれて数ヶ月でこんなにもまぶしい 存在になっているとは。きっとそれは、兄が異能のパワーを正しく使っているからなのだ―― と、幼い克次は素直に感動した。 「兄ちゃん……ぼく、強くなるよ。兄ちゃんと一緒に怪物《ラルヴア》退治に行けるように、 セイバーギアでトレーニングするよ」 「よし、やるか。ちなみにこの白蛇は完全自動型だから、手加減するモードはついてない。覚 悟はいいな」 「ぼくがんばるよ、兄ちゃん!」 そんな、「兄弟よ大志を抱け」の図式と化している克巳と克次の様子を、兇次郎は生温かい 笑みで見守るのだった。 翌週の日曜日――商店街の大型ホビーショップにて、セイバーギア双葉区大会の予選Bブロ ックが開催されようとしていた。 双葉区大会で優勝しても、都大会、地区大会、全国大会への扉は開かれることはない。異能 感応式のセイバーギアは双葉区内限定モデルなので、仕方のないことではある。純粋にセイバ ーギアを極めたいなら、非異能型の一般品を持って、区外の大会に出なければならなかった。 そして基本的には、初等部児童のための大会だった。異能育成のためのマシンなのだから、 当然の措置ではある。魂源力《アツイルト》を数値的に測定するだけではわからない、疑似実 戦の中で磨かれた、将来のエース異能者候補を発掘するのが体制側の目的なのだ。 フリークラスへの出場を希望する児童であっても、まずは初等部の階級で優秀な成績を収め なければならない。 出場者よりもギャラリーのほうが何倍も多く、会場は大盛況だった。メモやモバイル、ファ イルを手に、真剣な面持ちをした大人が何人も混ざっている。中には、白衣を着たままの人も いた。島内の異能関係の研究者なのだろう。優秀な異能者の卵を探しているのだ。 気合充分で予選に挑んだ克次は、抽選の結果、初戦で因縁の相手とぶつかることになった。 クラスメートの筒井由典――克次にとっては、またとないリターンマッチの好機である。 克次の姿を目にして、由典は余裕の表情だ。 「ふん、またおまえか。何度やってもおれの〈マッドトータス〉には勝てやしないぜ」 「きみの技は前回の戦いで見せてもらった。換装命の〈マッドトータス〉なのに、実質一択。 仮にぼくに勝ったとして、二回戦どうするの?」 「……そのナメた口を二度とたたけないようにしてやろう。リングアウトなんてヌルいことは なしだ。岩に押しつけてコナゴナになるまでコラテラル・バーストをくれてやる」 ただ勝つだけでは収まらなくなった由典は、マッドトータスを克次へ突きつけた。対して、 克次はおもむろにセイバーを取り出す。 由典が嘲笑を浮かべた。 「新しいセイバーか。ホイホイ乗り換えるようなやつがビッグになった試しはないぜ」 「姿を変えただけさ。これがぼくの〈有翼虹蛇《コアトル》〉セイバーだ」 有翼虹蛇《コアトル》は、コアパーツをフォトンレイブンから受け継いでいる。頭を取り替 え、胴をシェイプアップし、しっぽを伸ばして、脚をオミットした。パーツは〈ヘビィースコ ルピオン〉の残骸から拝借した、ジャンクではあるがすべて正規規格の品だ。 改造したのは、もちろん克巳である。 「両者、構えて」 セイバーギアの公式戦にはジャッジがつく。陸なら喜びそうな感じのお姉さんの指示に従っ て、克次と由典はセイバーを掲げた。 「レディ――」 『ゴーーーーー・セイッ!!』 有翼虹蛇《コアトル》とマッドトータスは、同時にバトルフィールドへ降り立った。が、ト ータスは由典の手から離れた瞬間から砲身を展開し、着地するなり弾丸を撃ち放つ。ルール上 は違反ではない。 たちまち連鎖する爆発が有翼虹蛇《コアトル》の姿を覆い隠す。 無駄弾を撃つことはなく、由典は油断なくフィールドを見渡した。このバトルのステージデ ザインは「岩の荒野」だ。そこそこ障害物があるものの、プレイヤーの視界を遮る極端なサイ ズの構造物はない。天へ向けて細長く伸びる岩山の影になっている部分は、プレイヤー自身が 動けば視線を通す位置までいける。しかし有翼虹蛇《コアトル》は見えなかった。 「なんだ、待ちでどうにかなるとでも思ってるのか。マッドトータスのビッグキャノンは岩山 のオブジェくらいぶっ壊せるぞ。時間切れまで、かすられもせずに逃げていられたとしても、 ドローにしかならないぜ」 由典が煽ってくるが、克次は黙って腕を組んでいた。そう長く待つ必要はない。爆煙が晴れ ――そこに有翼虹蛇《コアトル》の姿は影も形もなかった。 「なに……?」 障害物の裏に隠れているのかと、由典は右へ左へと動く。それでも有翼虹蛇《コアトル》は 見つからない。由典の動きに合わせて岩陰をまわり込む、ということはできないはずだった。 マッドトータスは自動照準でも砲撃できるからである。トータスと由典、その両方の視界から 同時に姿を隠すことは不可能だ。 フィールドの地上部分では。 「……まさか!?」 由典が気づいたときには、トータスのすぐ脇に屹立している岩山の頂上から、有翼虹蛇《コ アトル》が音もなく滑り降りてきていた。トータスが向き直るよりも早く、しっぽの先端で右 後脚を絡めとり、ひっくり返す。 背中側に比べれば、亀の甲羅の腹側はずいぶんと薄い。有翼虹蛇《コアトル》の牙が突き刺 さり、さらにサラウンドコーンがたたき込まれた。衝撃が浸透し、トータスの巨体が震える。 有翼虹蛇《コアトル》が鎌首を逸らせ、もう一撃くれてやろうというところで、トータスの 後脚が甲羅の中に引っ込んだ。開いた穴からジェット噴射をして、背中を地面にこすりつけつ つもトータスは有翼虹蛇《コアトル》の間合から逃れる。 したたか被った損害に、由典は歯噛みした。 「くそ、どうやって岩山を登った。いや、岩山の頂上から頂上に飛び移るのに、おれが気づか なかったはずはない」 「登るのは簡単だったよ。最初の砲撃にまぎれればいいだけなんだから。そして、煙が晴れた とき、きみは存在しない有翼虹蛇《コアトル》を探すために意識を集中しすぎたんだ。岩山の 間を飛び越えるのには二秒もかからない。それにここの会場は応援でうるさいからね。実際に 気づかなかったでしょ?」 と、克次はこともなげに答えた。カメレオン能力を使ったわけでもなく、ただ隙をつかれた だけだというのは由典にとって信じ難いことだった。しかし、今日の試合は公式戦、一度リン グの外へ抜け出して大まわりをするというようなインチキはできない。 ほんの数日でなにが変わったというのか。本人が腕を上げたのか、セイバーの性能か。 ――セイバーの性能だ。現に変わっているじゃないか。 由典は自分のセイバーのことを思い出した。マッドトータス――鋼の守りと岩の体力を誇る、 信頼できる相棒。そうだ、あんな新入りに負けるものか。 由典は拳を固め、叫ぶ。 「いけマッドトータス、おまえの本当の力を見せてやるんだ!!」 トータスも吼えた。カメとは思えない速度で、有翼虹蛇《コアトル》へと突き進む。 サラウンドコーンの一発や二発は根性で受けるつもりだったが、有翼虹蛇《コアトル》は真 っ向から迎え討ってきた。 激突する。 接近戦でなら有翼虹蛇《コアトル》はトータスの敵ではない。脚払いで転ばされてもそんな のはダメージのうちに入らないし、接触距離でのサラウンドコーン以外に有翼虹蛇《コアトル》 側にはまともな攻撃手段がない。それに対し、トータスの爪や牙は、鈍重なので躱されやすい ものの、一発でもあたれば有効打だ。 ――と由典は踏んでいたのだが、有翼虹蛇《コアトル》は真っ正面からぶつかってきたとみ せて狡猾だった。身を捻ってトータスの牙を躱し、滑空を補助する役にしか立たないと思って いた翼で爪攻撃を受け流す。一方で有翼虹蛇《コアトル》の牙はトータスの四肢にチクチクと 噛みつき、わずかずつだが体力を奪っていく。 「くっそ……」 思いもよらない展開に、由典の背中をいやな汗が流れ落ちた。甲羅にこもるのは問題外だ。 このまま戦っても、タイムアップまでトータスの体力は保つのである。もちろん待っているの は判定負けという結果だが。 トータスの攻撃が二発あたればイーブンにまで戻る。しかし由典はセイバー使いとしていっ ぱしのレベルには達していた。その戦士の勘が告げるのだ。これでは勝てないと。 由典は、ただひとつの逆転の可能性に賭けることにした。変幻自在の有翼虹蛇《コアトル》 の攻撃に耐えながら、トータスに一歩ずつカニ歩きをさせる。じりじりと右へ。 克次も相手がなにか企んでいることには気づいていた。が、下手に離脱すればトータスのビ ッグキャノンが火を噴く。あたる確率はほとんどない攻撃ではあるが、仮にもらってしまった ら近接打撃より痛い。逆転を許してしまう。 ついにトータスは賭けに出るポイントへ到達した。由典は迷いなく必殺技を宣言する。 「いけぇ! コラテラル・バーストッ!!」 トータスの前脚が引っ込み、ビッグキャノンが展開された。もちろん、こんな至近距離で砲 身をのんびりと伸ばしたところで、その動きは克次にとっても有翼虹蛇《コアトル》にとって もスローモーションに等しい。 あたるわけはないが、だからこそ由典がなぜこんな行動をとるのか、それが克次には引っか かっていた。まだ時間はある。最後っ屁には早い。有翼虹蛇《コアトル》をトータスの右サイ ドへまわり込ませようとし――砲門が追尾してこなかったことで、克次はようやく相手の狙い に気づいた。 「させるかっ!」 有翼虹蛇《コアトル》のしっぽの先で、トータスの右後脚を払う。バランスを崩しながらも、 トータスのビッグキャノンは由典の異能によって限界以上の火力を絞り出されていた。 撃ち出されたコラテラル・バーストはわずかに狙いがそれ、有翼虹蛇《コアトル》の背後に そびえていた岩山の根元部分を七割ほど吹き飛ばす。 岩山が崩れはじめた。その方向は、由典の狙いとは一五度ばかりずれていた。そして岩山の 上部が落ちかかってくる地点には、バランスを崩してひっくり返っているトータスがいた。 克次は有翼虹蛇《コアトル》に指示を下す。その動きを見て、由典が叫んだ。 「なんのつもりだ!?」 「トータスが潰れちゃうだろ!」 まだ逆さまのままのトータスの前に、有翼虹蛇《コアトル》が進み出る。そこへ、巨大な岩 の塊が降りかかってきた。真物とは違う、ぎっしり詰まった岩盤ではないといっても、セイバ ーギアを単なる燃えないゴミに変えてしまう程度の重量はある。縦横は二〇センチ、高さはそ の二倍ほど―― 「サラウンド・バスタァーーーッ!!」 克次の必殺コールに応えて、有翼虹蛇《コアトル》が音波の槍を撃ち放った。振動波が、迫 りくる岩を分割し、四散させる。 エネルギーのほとんどを使い切り、有翼虹蛇《コアトル》が動きを止めたところで、マッド トータスがちょうど起き上がった。だが、由典は自らバトルフィールド内へ身を乗り出し、腕 を伸ばして愛機を拾いあげた。ドロップアウトだ。 「試合放棄とみなします。勝者、工克次くん!」 ジャッジのお姉さんがフラッグをあげて試合終了を宣告した。これで、克次は異能感応型の セイバーギア公式戦において、記念すべき初勝利を挙げたことになる。 「攻撃すればそっちの勝ちだったのに、どうして?」 と、克次は由典へ訊ねた。マッドトータスを両手で抱えて、由典がぼそりと答える。 「……おまえはこいつを助けてくれたじゃないか」 「それと試合はべつだよ。勝手にエネルギー使ったのはこっちなんだから」 「そんなんじゃおれが勝ったことにはならない!」 「もしかして、余計な真似だったかな」 「そうじゃない。おまえがトータスを助けてくれて、すごくホッとしたんだ。なのに、おれは 先におまえのセイバーを岩で潰そうとしてたんだ……」 ばつの悪そうな表情の由典に対し、克次は、にぃ、と笑ってみせる。 「もう、ぼくたちは友達《ライバル》だろ、筒井」 「ありがとう……。いままでごめんな、工」 「べつにいいよ。ぼくのほうが、余裕がなくて弱いやつだったんだ」 「なんか、ホントに強くなったなあおまえ」 「まだまだだよ。やっと自分が弱いんだってことに気がついただけ。それより、今度一緒にう ちの兄ちゃんのところに遊びにいこうよ。兄ちゃん、すっごいセイバーギア強いんだ」 「まじで! じゃあ、ユキチとトシヤもだな……」 結局克次は三回戦で敗退し、裏醒徒会による「青田刈り計画」は初回相応の、参考以上収穫 未満の結果に終わった。 蛇蝎兇次郎の新セイバー〈ネオ・ヘビィースコルピオン〉は、以前のものよりはずいぶん小 型に仕上がった。とはいえ拡張スロットは潤沢に準備されているので、今後〈魔王〉蛇蝎がど のようなセイバーギアを駆って暗躍するのかは本人のみぞ知るところである。 そして、野鳥研究会室がセイバーギア同好会室になりかけてしまい、半月ほど裏醒徒会の一 部メンバーの頭を悩ませることになったという。 おしまい トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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【Romantic Quixote】 2年Q組、その派手な人材を欠いたクラス編成から無能組、普通科連隊などと呼ばれるクラスである。だが、俺、牧野徹(まきのとおる)はそんな地味な自分のクラスが気に入っていた。 地味ではあるが、それゆえにのんびりとした空気、今のところ特に対立のない人間関係、そして何よりも大切な親友である根本宗太郎(ねもとそうたろう)の存在、不満を覚えることはなかった。俺にとってはさしずめ滋味のあるクラスといった感じなのだ。 6月8日 双葉学園 2-Q教室 その日、俺は部活がなかったにも関わらず、放課後もクラスに残っていた。明日までになんとかしなければならない、英語の宿題があったのだ。 メンバーは俺と根本、そして最近、一緒に行動することが多くなった佐竹義冬(さたけよしふゆ)の3人である。佐竹は「この世と共にあるこの世ならざる世を見る目」という異能を持ち、簡単に言えば幽霊や神様の類を見ることの出来る異能者であった。疲れた目とその下のひどいクマは、その異能故のものと言われている。時折、妖怪や幽霊が眠っていている佐竹を覗き込んできたり、話しかけてきたりするため、安眠とは程遠い夜を過ごしているらしかった。 宿題は放課後すぐに始めたのだが、根本は途中で所用があるからと抜け出し、依然帰ってきていなかった。 「なあ、佐竹、問3のとこだけどよ、これって? I were you, I would resin from the company.でいいの?」 問3は指定された単語のうち、いくつかを組み合わせて「もし、僕が君ならば、会社をやめるな」という文章にせよ、というものであった。幸いなことに、このメンツの中では佐竹が一番成績がいいので、根本が欠けても宿題の進行には影響はなかった。 「あー、それはifを使わない仮定法ですよ。あと、resinじゃなくてresignです。」 「おれの答えで何か問題あるのか?」 俺は少しイラッとした。間違えているのなら、もったいぶらずにさっさと教えて欲しかった。 「……そうにらまないでください、牧野さん。そのぱっちりおめめで睨まれたら、思わず財布出しそうですよ」 佐竹がため息をつく。そこまで言わなくても……と俺は思った。俺を見ただけで小中学生が逃げ出したことなんて、半月に1回あるかないかだ。 「If I were you, I would...なら正解ですが、この場合、ifが省略される仮定法なので、疑問文と同じ語順にしてください。つまり、Were I you, I would resign from the company.になります」 佐竹が自分の答案を見せながら説明する。俺がそれを覗き込もうとすると、リーゼントの先端が机の脇に置かれた佐竹の文房具を叩き落していった。一時期、皮膚炎の治療のため(蜃討伐のために、阿呆みたいな量のポマードとヘアスプレーを使用したことが原因だった)、短髪にしていたのだが、治療後、リーゼントは往事の栄光を回復しつつあった。 「お? その下の問4は俺と同じ答えじゃん、佐竹やるじゃーん!」 せっかくなので、唯一、独力で説いた問題のところだけ自慢してみせた。全くの無能と思われるのは(誰もそんなこと言っていないにしろ)面白くない。 「……そーですか……」 「ちっ、んだよ、その反応!」 俺は佐竹が嫌いなわけではなかったが、会話のキャッチボールは、やはり根本が一番であった。佐竹では、何気ない会話もどこか滑らかさを欠いてしまうのである。 「ねも、何やってんだか……もう宿題終わっちまいそーだぜ?」 どこからか迷い込んでいたトンボがリーゼントにとまる。とりあえず集まること=だべる、と考えている俺にとっては、マブダチを欠いた会合、それも勉強会というのは退屈なものであった。 「よおっ! 悪ぃー悪ぃー、遅くなっちまった!」 根本が上機嫌でQ組の教室に入ってきたのは、ちょうどそのときであった。 「おう、もう終わっちまうぞこっちは。ねも、お前どこ行ってたんだよ?」 何気ない問いかけに返ってきた答えは意外なものであった。 「ん、ああ~、ちょっと女の子とお茶会やってた。」 「なにぃっ!!」 佐竹は答案に目をやりながらも、その耳がぴくりと動いたように見えた。 俺は根本の腕を引っつかみ、椅子へと無理矢理座らせた。逃げられないように背中をしっかりと押さえつける。 「そいつぁ、素敵だ……詳しい話を聞こうじゃないか!」 「どなたとお茶をされていたのですか?」 いつになく、佐竹も積極的だった。根本はあっという間に包囲される形となった。宿題のことは誰の意識にも残っていなかった。 「ちょ、おい、バンブー、なんでお前までそんなマジなんだよ!?」 「そのあだ名、認めた覚えはありませんよ。で、そんなことよりも、ゲロってください。」 目をいつになく見開いて根本をガン見する佐竹は、そのひどいクマと相まっていつになく迫力があった。根本がその迫力に負けたのか、あっさりと口を割る。 「べ、別に変なことしてたわけじゃないんだぜ? 千ヶ崎とお茶飲んでたんだよ、ちょっと趣味があってさ……」 千ヶ崎とは、千ヶ崎寛子(ちがさきひろこ)、Q組の男子に憧れの女子は誰か(クラス内限定)、と聞けば高確率で名前が挙がるであろう女子の一人であった。やや丸みを帯びた顔に、セミロングの綺麗な髪をした、美人というよりは、表情が可愛いと言った方が似合うタイプである。性格やクラス内でのポジションはいわゆる優等生タイプのそれであり、誰にでも笑顔で接する親しみやすい女子であった。 根本は、千ヶ崎に、彼女の好きなビジュアル系音楽バンドである「兀突骨(ごつとつこつ)」のファーストアルバム「南蛮炎上~Burning Barbarian」を貸す約束をしたとのことだった。「兀突骨」は最近3作目となるアルバム「臥龍飛翔~The Trap of Kongming」で成功を収めたバンドであり、そのファースト、セカンドアルバムは発売数が少なく、新規ファンの間では高値で取引されているとも言われていた。 根本はまだ中学生の頃、中古屋でそれを250円で入手しており、たまたま千ヶ崎がそのCDを探していることを聞き、貸してあげることにしたらしい。要するにちゃっかりポイントを稼いだつもりなのだ。 「で、CD渡すのに生物教室行ったんだ。千ヶ崎さん、生物部だからさ。そしたらお茶ご馳走してくれて、いや、ほんと、美味しいお茶だったんだ! いろいろ喋ってたらこんな時間になっちまったってわけよ。悪いな」 普段、うまい棒とか安くて濃い味の菓子ばかり食っているこいつは、お茶の味とか分かるような舌をしていただろうか? 「で、どんなことを話したんですか? 詳しく」 佐竹が胸ポケットからすかさずICレコーダーを取り出した。だが、ICレコーダーはあえなく、根本に取り上げられた。 「お、お前! なんでこんなもん持ってんだよ! 別に大したこと話してねーよ!」 「根本さんは千ヶ崎さんのことが好きなんですか?」 佐竹の目がキラリと光った。顔に似合わず、こういう話は大好きなクチらしい。 「ちょ、いや、お前らちょっと待てよ! 別に俺は好きとは言ってないだろ。ただ、いろいろ話してると、結構楽しいな、って感じがしてよ……」 「せつなさが炸裂したんですね?」 佐竹は食い下がった。濃いクマの底の目は爛々と輝いている。 「お、お前様子おかしいぞ、このバンブー! ちげーって、そういうのとはちげーって言ってんだろ!」 「そんなあだ名を認めた覚えはないですよ!」 しつこい佐竹に対して、いささかむっとしたらしい根本はムキになって反論した。要するにどっぷり片思い中らしい。 「何、ムキになってんだよ、ねも。お前らしくねーぜ」 俺は根本の肩に手を回した。 「俺とお前の仲じゃねーか、お前が恋したいって言うなら、いくらでも手伝ってやるからよ。そう、カリカリすんなって!」 根本が意外そうというか、びっくりしたような顔を向ける。 「どうした、ねも?」 根本は元々ハンサムというほどの顔は持っていないが(鼻がしっかり筋通っていればハンサムだった……かも、と評されたことはある)、ひねたところのない、いい顔をしているやつだった。きっと幸せな家庭で育ったからだろう、早くに壊れちまった家庭で育った俺にはしたくてもできない顔だった。 「いや、ちょっと意外に思っただけだ。お前のことだから、あーそうかいって頑張れよって感じで関心示さんと思ってたわ」 「ふん、何言ってんだよ。俺は正直言って、普段のらりくらりとしてばかりいるお前が、恋愛とかに夢中になっている姿、見てみたいぜ。マジならよ、頑張ってみろよ」 「そうか、ああ、うん、ありがとう」 どうやらマジなようだ。応援すると言っておいてなんだが、意外だった。ここまでストレートに感情を出している根本は久しぶりに見た気がした。 「やっぱり、根本さんは、彼女のことを、愛して……」 「うるせーよ、バンブー!」 ちゃかそうとする佐竹に根本がクロスチョップをお見舞いする。恋愛は結構だが、俺には気になることもあった。 「ねも、お前、洋モノ愛好家じゃなかったっけ? 千ヶ崎、可愛いとは思うが、思いっきり日本人って感じの顔だぜ、あれ?」 俺の記憶が正しければ、根本は元々、東欧あたりの美少女に並々ならぬ関心を持っていたはずだった。なお、俺の趣味はお姉ちゃん、佐竹は京美人であり、3人でどれが一番素晴らしいかについて朝4時まで激論を交わしたものだった。 「ち、しゅ、趣味と現実はまた別だよ馬鹿野郎、うちのクラスに異国のお姫様みたいなのが何人もいたら、話は別だったかもしれねーけどな……おい、頼むから千ヶ崎さんの耳に入りそうなところで余計なこと言わないでくれよ!」 「余計とは、一体どんなことでしょうか? 具体的かつ大きな声でお願いできますかね?」 また、佐竹が余計な口をはさむ。コイツは他人の恋路をからかうのが大好きなのだろうか? 俺は佐竹にデコピンをくらわせた。 「あたっ!?」 「やめろ佐竹、ねも、マジなんだぜ? マジなやつのことをからかうもんじゃないぜ?」 佐竹が、調子が狂う、とでも言いたそうな顔を見せた。普段、俺のちゃらちゃらしている姿ばっかり見ているので、少々意外な発言として受け止められたのかもしれない。 だが、せっかく、享楽的、というよりは適当に人生を過ごす、それ自体をモットーみたいにしていた根本がやる気を出したのだ。マブダチとして、応援してやるのが筋、というものだろう。 「で、具体的にこれからどーすんだよ? デートにでも誘うんか?」 「ん~、千ヶ崎さんとは音楽の趣味が似てるとこあっから、まずはここで話してお近づきになってくさ。その後は……まあ選択肢が出るまで様子見ながらやってくよ」 そこで佐竹がまた、要らぬ口を挟んだ。 「高度に柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応することになるんですね?」 「あああ~っ! うるせーよ、お前、このバンブー! そのセリフなんか良くないフラグの臭いがするぞ!」 そう言って大騒ぎする根本の顔は、いつになく楽しそうだった。そして、根本の宿題が真っ白なことなど、もはや誰も気にしていなかった。 6月15日 双葉学園 カフェテリア それからというもの、根本はチャンスを見つけては、せっせと千ヶ崎と話し込んでいるようだった。 あまり女性の扱いに慣れた男ではなかったはずだが、千ヶ崎の周囲にもそれなりに顔を利かせ、うまいことやっているらしい。思っていたよりもずっと積極的な男なのかもしれないが、少々浮ついているようにも見えた。 その日、俺と根本、佐竹の3人で駅前のカラオケに行く約束をしていた。部活をうまいこと早めに切り上げて、カフェテリアで佐竹と落ち合った。コーラを買って、席につく。 「どーも、お待ちしていましたよ、牧野さん。」 待っている間、得意の甘いもの中毒を発揮しながら読書に興じていたらしく、佐竹の前には一杯のコーヒーと、見てるこちらが気持ち悪くなりそうなくらいの甘味があった。 「ねもは?」 「? 10分前に、牧野さんとわたし宛てに同時送信でメールが来たはずですよ? 所用ができて少し遅れると言ってました。多分、千ヶ崎さん関係でしょう」 俺は携帯を求めてポケットを探った。 「あれ? そういや、俺、携帯どこやった!?」 即座に鞄の中も探したが見つからない。いつもなら必ずズボン右のポケットに入れているはずなのだが。 「……牧野さん、鳥の巣にいますよ、携帯……」 「なに!?」 鞄を覗き込む姿勢から、急に佐竹の方を向いたため、リーゼント先端が卓上を滑り、佐竹の前にあったシュークリームを跳ね飛ばしてしまった。一瞬、佐竹が本当に悲しそうな顔を見せる。 「鳥の巣ってなんだよ?……」 そこまで言ってふと気がついた。これからの季節、ズボンのポケットの財布や携帯を突っ込むと汗まみれになって不快な思いをする。そこで、それを避けるために頑丈なリーゼントに埋め込むようにしまいこんでいたのだ。 俺はリーゼントを手探りで撫で回すようにし、そこから携帯を取り出した。 「いやー、最近の携帯は薄くてわかんねーわ……なくしちまいそうであぶねーな!」 携帯はバイブレーションONにしてあったものの、歩いているときなどは気がつかないものなのだ。 「……で、根本さんのことですが、大丈夫ですかね? 浮ついているというか、のめり込んでいるというか、なんだか危なっかしく感じます」 佐竹がリーゼントによって吹っ飛ばされたシュークリームをふーふー吹きながらつぶやいた。 「そうだな~……」 根本が千ヶ崎に夢中になっているのは、佐竹に言われなくても感づいていた。一部では噂にもなっているらしい。 そして、根本が千ヶ崎に夢中になるのと反比例するかのように、俺らとの交流の時間は削られていった。 よく恋人ができると友人との付き合いが疎かになるというが、根本もそうなるのだろうか? あまり考えたくないことだった。 「根本さんは、佐久間先生のところへも良く行っているようですよ」 「でこ子爵んとこ? なんで?」 でこ子爵とは、生物教師にして2-Qの担任、佐久間盛寛(さくまもりひろ)のあだ名である。その名はナイスおでこ、高価そうなスーツとそれに釣り合わない微妙な貧相さから来ていた。 「佐久間先生、紅茶が好きじゃないですか? で、千ヶ崎さんも紅茶、お好きですね、いろいろ教えてもらってるようですよ、品種というか銘柄というか、そういうのを。」 佐竹の前に密集陣形で配置されていたはずの各種甘味はいつの間にかなくなっていた。 「それに、佐久間先生は千ヶ崎さんの部活、生物部の顧問です。そこまで根本さんが気を回しているかどうかは分かりませんが、顔を効かせようとしているおつもりかもしれませんね」 「一生懸命じゃぁん……」 俺は少々呆れ返ってしまった。ついでに反り返るようにして、背もたれに体重を預ける。好きな女と知己を得たからと言って、普通、そこまでするだろうか? 「恋は盲目、ですかね」 そう言って、佐竹は鞄からぼろぼろの手帳を取り出し、それを開いた。 「ところで、その千ヶ崎さんですが、気になることもあります。千ヶ崎さん、実は中学生の頃から、八方美人と言われ、親しくなったと勘違いして猛烈アタック→めっちゃ冷たくされる、のコンボを食らった男子生徒は少なくないそうです。ただ、魔性の女なんて雰囲気のする方ではないので、それなりに親しくなることは簡単でも、そこから先には非常に難しい方かと」 俺は佐竹がこんなことみっちり調べている、という意外性に目を丸くした。 「あ? おい、それって当たり前なんじゃねーの? 誰だって友達と恋人には一線を引くだろーよ」 「千ヶ崎さんの場合、最初のうちは非常に親しく接してくるので、ついそのペースでイケルと勘違いしてしまう、これが危険かと。ある程度仲良くなると、釣った魚に餌はやらないとでも言いましょうか……意識的にやってるのかどうかは知りませんが、急に冷たくなる、扱いがぞんざいになる、と言う人もいました」 「……なんでお前そんなことまで知ってんの? ストーカー?」 「まさか!」 佐竹はクマのひどい目に細めてくっくと笑った。顔色の悪さと相まってけっこう不気味だ。 「私がそんなことしなくても、そこら辺の幽霊とか妖怪に頼み込めば、ちょっとやそっとの情報、集められますよ。目と耳は使うためにあるんですからね……私のことをフーシェと呼んでくれてもいいですよ」 「誰だよ、そいつ? そんなに幽霊だの妖怪だのが、お前の頼みを聞いてくれるんなら、いっそそいつら指揮して、敵対的なラルヴァ退治すりゃいいんじゃねーの?」 「当然考慮に入れています! 中には人間に忘れ去られていくことをひどく恐れている神さまや妖怪だっているんです、同盟の組みようはあると思います。数多の妖怪を指揮下に収め、戦う……いろいろ検討を重ねているのですが、そもそも、裏の世界の面々をこちら側に呼ぶためには……」 佐竹特有の得意気で長々とした説明(それも当初話題から方向性が反れた)が始まった頃、ようやく根本が顔を出した。 「うぃーっす! 遅くなって悪ぃーな!」 早速根本を羽交い絞めにして拿捕する。 「千ヶ崎に興味持ってから付き合い悪ぃーじゃん、お前の恋愛を邪魔する気がねーが、お兄さん寂しいぞ?」 「いでででで……やめろ、ギブギブ、誰がお兄さんだよ!」 俺の羽交い絞めから、根本が必死にもがいて脱出する。 「何してたんですか? まさかナニしてたんですか? うぶっ!?」 根本の渾身の右ストレートが佐竹の頬に決まる。 「ナイスパーンチ! で、ねも、そろそろ告白したか?」 「まさか! 俺はチキンだぜ!」 威風堂々とした態度で親指を立てる。根本の顔はいつになく活き活きとしていた。 「千ヶ崎さん、紅茶好きって言うから、この間見つけた良さ気な紅茶プレゼントしたんだよ。マリアージュフレールって言うフランス紅茶、そしたら気に入ってくれてさ」 「ん? それ高い紅茶じゃ?」 佐竹が尋ねる。 「1缶2500円したわ、おかげでエスコンの新作は次の仕送りくるまでお預け!」 「2500円!? 紅茶1つに!?」 俺は危うく、コーラを噴きそうになった。2500円と言えば、俺のリーゼント用のポマード+ヘアスプレー代1週間分に相当する。よくも紅茶1つにそこまで金を使う気になれるものだ。 「で、その後、一緒に紅茶ご馳走になってきたんだ。千ヶ崎さん、紅茶入れる手つき一つから違うんだよ。美味しくてさ。」 根本の目は、まるで少女漫画のキャラのように輝いていた。プレゼント攻勢は単純かつ効果的かもしれないが、報われなければ最も哀れなアプローチではないだろうか? 「紅茶、生物室でご馳走になったんだけど、こう、夕焼けが差し込む教室で、2人だけで紅茶飲みながら会話って、なんだかエロゲみたいで……良かったよ」 例えが糞だった。 それから、3人で、「告白しないの?」→「大丈夫かな?」→「やってみろよ!」といったお決まりのパターンの恋バナをしながらカラオケへと向かった。 (貢くんにだけはなるなよ……) 俺は千ヶ崎のことをよく知っているわけではないが、心の中でそう思った。それとも、例え、利用されるだけの貢くんでも好きな女の笑顔を見れればこいつは幸せなのだろうか? 6月16日 双葉学園 2-Q教室 「根本くん、どうしよう……」 千ヶ崎がそう言って、困った顔で根本のところにやって来たのは、昼休みも半ばを過ぎた頃だった。ちょうど、俺と根本は、教室内で、歯科助手の魅力について語り合っていたところだった。ちなみに佐竹は、先日買ったと言うハイテク耳かきにはまり過ぎて外耳炎を患い、学校を休んでいた。 「はいはい? どうしたの!?」 根本は慌てて、跳ね飛ぶように椅子の上で回転し、千ヶ崎の方に向き直る。 「これ、なんとかならないかな?」 そう言って、周りに隠すようにして千ヶ崎が見せた鞄の中には、植木鉢が1つ、そしてそこには息も絶え絶えの……いや、すっかり枯れ果てた「草」があった。 「……何これ?……」 根本が訪ねる。 「植物だよ?」 根本の問いかけに対する千ヶ崎の答えは無邪気なものだった。その口調が生来のものであるにしろ、作っているものであるにしろ、根本が聞きたいのはそんな高次の分類群、要するに大雑把な話ではないだろう。 「あのね、実はね……」 千ヶ崎の話によれば、これは生物部の3年生の先輩から預かっていた観葉植物「だった」ものらしい。現在、3年生はとある小さな学会にここ数年の活動の成果「双葉島におけるセミの種類と発生状況」を発表するため、九州に滞在しており、その間の世話を後輩らが請け負うことになった。しかし、一度に世話しなければならない動植物が増えたために手が回らず、この観葉植物を放置、枯らしてしまい、困っているとのことだった。 「なんとかって言われても……これ、水かけてもダメなのかな?」 根本がいつになく真剣な顔で眉をひそめる。 「もうすっかり枯れてると思う」 「う~ん……」 千ヶ崎よりも根本の方がすっかりまいってしまっている様だった。なんとか千ヶ崎の期待に答えたいのだろうが、手段が見つからないのだろう。俺も根本も異能持ちではあるが、根本は蜂のようなものの召喚、俺はリーゼントから魂源力をチャージして撃ち出すリーゼントキャノンと、まるで植物復活とは縁のない異能だった。 「……千ヶ崎くん、知り合いに植物育てる異能の人がいるって聞いたんだけど、聞き間違いかな?」 上目づかいに千ヶ崎が尋ねる。 「……?……ああ! 慶田花か! あの女か!」 根本は合点がいった、と言わんばかりに声をあげた。慶田花碧(けだはなみどり)は、以前、蜃をリーゼントキャノンで討伐した際、射軸の安定性を確保するため、リーゼントを伸ばすのに協力してもらった異能者だ。2-Oに在籍しており、その異能は生体の成長促進である。普段は園芸部でその異能を生かしているはずだった。 「知ってるの! お願い、何とかその人に頼んでもらえないかな?」 千ヶ崎はそのやや丸みを帯びた顔にすまなそうな笑顔を浮かべ、必死に頭を下げる。 「おーけー、千ヶ崎さんに頼まれたら断れないね! やってみるよ、任せて!」 「本当! ありがとう根本くん!」 なんだか見てられないやり取りだった。根本の言動や表情が初々しく、首筋が痒くなりそうだった。 「で? いつまでに?」 千ヶ崎がばつの悪そうな顔で根本を見つめる。 「明日の朝、先輩たち帰って来ちゃうんだ」 ちょうどチャイムが鳴り、昼休みが終わりを告げた。 根本は5時限目後、わずかな休み時間に慶田花を探したが、O組は移動教室だったらしく、慶田花を捕まえることはできなかった。 本来、俺が手伝うことはないのだが、千ヶ崎が見ている前以外ならば、ダチを放っておくという選択肢は持ち合わせていなかった。 結局、慶田花に事を相談することができたのは、放課後、部室を訪ねた時だった。 「おやおや、根本くんに牧野くん、ふん! どうしたんで~? ふんっ、あたしに用ですかね?」 外も内も植物の鉢植えに溢れ、ついでに肥料の独特の臭いにも溢れた園芸部の部室に行くと、慶田花が相変わらず、鼻をふん、ふん、と不快に鳴らしながら出迎えてくれた。作業のためかその長い髪はポニーテールのように束ねられ、その額には汗の粒が浮いている。園芸部だけあって、立ち込める肥料の臭いに思わず顔をしかめた。 「ふん、ひょっとして、 また伸ばすんですか~? ふっ、その頭の海苔巻き?」 相変わらず猫背の慶田花は、こちらの顔を下から覗き込むようにして、鼻を鳴らす。慶田花の場合、その視線は上目づかいというより、下から小馬鹿にした視線で相手を穿つ、と言った感じだった。そこには、昼休みに千ヶ崎が根本に対して見せた上目づかいの、可愛げのある、あるいはぶりっこな感じの雰囲気は存在しなかった。 俺がもう少し若かったら、とりあえず2、3発はぶち込んでいたかもしれない。鉄拳かリーゼントキャノンを。 だが、蜃討伐の一件で、少しだけ、この慶田花の扱いは分かった気がする。こいつの目つきの悪さは悪意あってのものではないのだ。悪気はないが、コミュニケーション能力もない、あるいはそれをまともに発揮する気がないだけなのだ。 「いや、違うんだ。実は他のことで頼みがあってな……こいつを復活させてもらえないかな?」 そう言って根本は、あの枯れ果てた植物を見せた。慶田花が眉をひそめる。 「……どうしたんです? これ? ポインセチアですね……はんっ、根本さんに植物を育てるような趣味はないはずでしょー?」 慶田花の声は何やら不機嫌そうだった。いつも小馬鹿にしたような光しか宿していないはずのその瞳には、いつになく力強い眼光が宿っている。 「ふん、誰かに頼まれたんですかね? ふ、旧友として言っておきますがね、これ、ひどいもんですよ。ふふん、こんなになるまで放置した人が今更慌てたところでまっとうにこの植物を世話するとは思えないんですけどね、ふふんっ」 その声は明らかに怒っていた。部室内にいる他の園芸部員がこちらをちらちらと見ている。ただのコミュニケーションスキル不足の変なやつ、ぐらいにしか思っていなかったが、家が花屋のせいなのか、植物には人一倍マジな人間らしい。 「すまん、慶田花、そこを何とか頼む、この通りだ!」 根本は頭を下げて頼み込んだ。他人から頼まれたことは慶田花に感づかれていたが、根本は、千ヶ崎のことを決して話そうとはしなかった。 「ふふんっ、いや別に根本さんを怒ってるわけじゃーないんですよねー、ふん。ただ、ここまで枯らした人に、ふん、異能でなんとかしてもらえば、植物は放っておいてもだいじょーぶーとか思われるのは、普通にむかつくんですよー、ふん」 「すまん、本当にすまん!」 根本は必死だった。心からか、点数稼ぎのためか、あるいは両者の混合か、いずれにせよ、千ヶ崎の期待に答えるため慶田花に必死に頼み込んでいた。 それは普段の厄介ごとをのらりくらりとかわしてばかりいる根本には似合わない姿であった。好きになった女、それも片思いの相手のために「自分のスタイル」を崩して平気なのだろうか? 俺は、そんな根本の必死さにある種の憐憫の情と痛々しさを感じてしまった。 「頼む、お願いだ! どうか助けて欲しい!」 「ふんっ! ……人生まったりがモットーの根本くんらしくないんじゃないですか? ……でも、まあ……ふん……」 慶田花はなにやら、考え込むようなポーズを取った。だが、それはすぐに終わった。 「分かりましたよ、ふん、そこまで言うなら、しょーがないっすねー。ふふんっ」 根負けしたのか、旧友のらしからぬ姿に感情を動かされたのか、慶田花は折れた。その目には、先ほどまでの力強い眼光は失せていた。 「おお! ありがと……」 「ただし!」 根本がお礼を言おうとしたとき、慶田花はその出鼻をくじいて交換条件を持ち出してきた。 「うちの実家、花屋ってことは知ってますよね? ふんっ、実は両親が、沖縄にいる親戚からオキナワチドリって植物を阿呆みたいに仕入れてきたんですが裁ききれずに困ってるんですよ。買い取ってください。1つじゃあれですから、3鉢ほどでいかがでしょう?」 「ぶっ!」 根本は文字通り噴いた。 「か、金取るのかよ!?」 そして抗議した。 「ふ、ふふふっ! 根本くんにも是非、植物を育てて欲しいと思ってたんすよねー? いやならいいですよ、あたしは困りませんがね? ふんっ!」 根本は小さく舌打ちした。 「畜生め! いくらだ?」 「1鉢1200円、全部で3600円……サービスは……ふんっ、しませんよ?」 根本はがっくりとうなだれた。 「それでいいぞ、鬼畜め! 支払いは今日じゃなくてもいいな?」 「おい、慶田花、本気で金取るのかよ!」 さすがに居たたまれなくなって、口を出してしまった。 「ふん、牧野くん、今、学校中の花壇の整備をしてましてね、ふふん、結構異能使う機会多いんですよねー。ふん、しかも、枯らしたからなんとかしてくれ、とか花屋としてあまり好きじゃないんですよー、ふふん。これでも旧友ということで譲歩してると思ってほしーですねー、ふん」 慶田花やれやれとでも言いたげに肩をすくめてみせた。 「ところで、お前の異能って、生体を成長させることだろう? それ、大丈夫なのか?」 根本は不安そうに、褐色の植物らしきものを見つめる。 慶田花はふふん、と笑った。 「ふ、ふふん、この植物はですね、一見枯れてるように見えても幹を切って戻せばまた復活するんでー、ふん、だいじょーぶですよー。ただし、ふん、本来は数ヶ月はかかるものを1日で成長させるんでー、結構無理しなきゃーいけないんですよー、ふん、そこんとこご理解よろしくですねー、ふふん」 「分かった、よろしく頼むわ」 根本は慶田花と、明朝の受け渡しの約束を取り交わすと、園芸部の肥料臭い部室を後にした。 「これでいいのか、ねも? あんまり女の心象良くするために金使うのは、いい感じじゃねーぜ?」 俺は思い切って根本に聞いてみた。TVや漫画ばかり見ているせいか、なんだか嫌な予感しかしないのだ。 「牧野……俺が惨めに見えるかい? 好きな女の歓心を得るために必死こいてるように見えてみっともないか?」 根本は、いつものほほんとしているその顔に、なんとも言えない微妙な……自虐的とも受け取れるような表情を浮かべていた。 「俺もそう思う。少なくともそう思う時があるよ。馬鹿じゃねーの?って顔面ひっぱたきたくなるくらい」 そう言って、根本は肩をすくめて見せる。 「最初は好きなのかもーってくらいの気持ちだったんだが、打ち解けてくると嫌われるのが、いや、その他大勢に含まれるのが怖くなるって感じでさー……分かってるつもりだけどよー、やっぱりみっともないかね?」 口ではあっけらかんといった感じで話しているつもりなのだろうが、その雰囲気は明らかに怯えていた。 俺は根本の肩をぽんと軽く叩いた。 「んー、なんだかなーって思ったことがないわけじゃねーがー……ま、いいんじゃねーのー? みんないろいろ悩むもんだって、うじうじするのも恋愛のうちだろーよ、まあ、あんま気にしすぎんな」 根本の表情を見て、俺の言葉は最初とは180度逆のものになってしまっていた。 「そうか……っまあ、そんなもんだよな」 翌朝、慶田花の異能によって、無事鮮やかな発色を取り戻したポンなんとかという植物が、千ヶ崎のもとに帰還した。 「わー、ほんとに元気になってる! すごーいっ! ありがとう、根本くん!」 半分安堵、半分大喜びの表情を浮かべる千ヶ崎に、根本も嬉しそうだった。 「いやあ、俺は頼んだだけだし……」 「あ、それもそっか」 千ヶ崎の冷たい一言に根本が一瞬ぽかんとした表情を浮かべる。 「……」 「くす、冗談だよっ! そんな顔しないでよ。じゃあ、私はこれ、部室に戻してくるね? 本当にありがとう!」 千ヶ崎は心からの感謝を述べると、HRが始まる前に部室へと、鉢植えを戻しに行った。その後姿を見送る根本の表情はこの上なく満足そうだった。 「ふ、へへへへ……」 ニヤニヤが止まらなかったのか、根本は思わず笑いが声に出てしまっている。 「ち、調子のいい笑顔してやがるな、この思春期ボーゥイ?」 あんまりにもいい表情だったので、とりあえず、一発どついておく。 「いでぇ! 羨ましければお前も恋の1つや1つどーだい? 鼻はそこそこ高いんだし、そのぎょろぎょろ怖い目つきなんとかすりゃ、惚れる女子も出てくるかもしんねーぜ!」 「言ってろ!」 根本はいつになく上機嫌で饒舌だった。だが、その「いい笑顔」は長続きしなかった。元々、性格にチキンなところがあるせいか、根本は小さなことに一喜一憂し、その感情はなかなか安定しなかった。 とある日には、千ヶ崎が他のクラスの男子生徒と親しげに話していたことに根本は不安を訴えた。 「……ひょっとして、つきあってんのかな~……」 「アホか、ねも? お前は千ヶ崎がお前以外と口聞かないとでも思ってんのかよ?」 「……それもそうか……そうだよな」 佐竹もせっせと情報を収集しては根本に伝えていた。 「根本さん、今日の千ヶ崎さんの下着の色に関する情報が入手できました、いかがで……」 「おいこら、バンブー!? なんで、んなことてめぇが知ってんだよおっ!? ああああっ!?」 「いでっ! いでっ! すいません! やめて! 通りすがりのカラス天狗に聞いただけなんです!」 「いいかバンブー! 千ヶ崎さんに余計なことしたらタダじゃおかねーからな!……で、何色なんだ?」 また別の日には、千ヶ崎の宿題を手伝った礼として、部室でのお茶会に誘われた。 「あ~牧野? 今日ゲーセン行こうって約束あったけど……その~、千ヶ崎さんにお茶に誘われてしまってだな……」 「やったじゃねーか、俺のことは気にすんなよ! 牧野徹はクールに去るぜ」 だが、お茶会の約束をすっぽかされたこともあった。 「どうしたねも、今日は千ヶ崎とお茶の約束だって張り切ってたんじゃねーのか?」 「ど忘れされてた……ああああ! やっぱり俺はどうでもいい人間なんだー!」 「落ち着け! そういう日もある。そうだ、今日の夕食は、ねもの好きな爽やかな漬物用意したぜ!」 「大根? キャベツ?」 「瓜ィィィィィィィィィッ!!」 後半に続く トップに戻る 作品保管庫に戻る
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できるだけラノで読んでください 作品をラノで前後編まとめて読む 4 ぼくは開かれた扉の中に足を伸ばす。足を踏み出すと、足の感触は土ではなくコンクリートか何かに変った。どうやら人工的な所みたいだ。しかし真っ暗だ、と思っていると、センサーか何かが反応したのかいきなり全ての電灯が点く。 眩しさにぼくは一瞬怯みながら、ゆっくりと目を開けると、そこは奇妙な光景が広がっていた。 そこはまるで研究所のようであった。 見たこともないような機材や標本が無造作に置かれ、何かの研究レポートのような紙があちこちに散らばっている。そこに書かれている言葉はほとんど理解できない。どうやら暗号化されているみたいだ。 もしかして、ここは父さんの研究室なのか。父さんが都心の研究施設にスカウトされる前から何かを研究していたとは聞いていたが、こんな地下研究所を父さんは持っていたのか。一体ここは何の研究をしていたんだろうか。まるで人の目を避けるようなこんなところで何を。 ぼくは不気味で無機質な空間を奥に進んでいく。しばらく歩くとすぐに行き止まりに行き着いた。研究所内は以外と狭く、機材だけがあって、特に怪しいものはないな、と思っていた矢先にぼくはそこにありえないものを見た。 ぼくは自分の目を疑り、目をこする。だがそれでもそれは消えない。 そこには一人の女の子が座っていた。 綺麗な顔をした女の子が、目を瞑って妙な装置のような機械のイスに腰を下ろしたままぴくりとも動かない。 ぼくは頭がおかしくなったかと思った。ありえない。こんなところに女の子がいるわけがない。もし父さんがいなくなってからずっとここにいるとしたらそれは死体だ。あるいは幽霊だろう。どっちも嫌だな。 ぼくは現実から目を逸らしたかったが、恐怖を殺し彼女に視線を送る。 その女の子はいくつくらいだろうか、ぼくより少し上くらいに見える。髪の毛はまるで色素の無いように真っ白で、肩まで伸びている。その髪の色にも驚いたが、何よりも奇妙なのはその服装だった。 恐怖を通り越してぼくは変な笑いがこみ上げてくる。 その女の子はまるで昔のSF小説に出てくるような、そう、陳腐な言い回しが許されるのなら宇宙人のようなと言うべきだろう、ぴったりと肌にはりついた白色のスーツを着ていた。身体のラインがはっきりとわかり、ぼくは少し照れてしまう。スタイルがよく、郁美のような幼児体系よりも魅力的でその顔の美しさも相まってとても綺麗に見えた。頭にはまるでウサギの耳のような妙な機械がついていて、余計に滑稽に見える。 「なんだよこれコスプレ……? 死体が? 冗談だろ」 しかし、もしこれが死体ならとっくに腐って白骨化していてもいいだろう。だがそうじゃない。もしかしたら特殊な防腐処理でもされているのだろうか。そう思いぼくは恐る恐るその女の子の頬に触れてみる。 氷のように冷たい。だが、とても柔らかい。そのままぼくは指をなぞり身体の方へ伸ばしていく。胸やお腹や腕や足に触れると、顔と同じで柔らかい部分もあるが、所々まるで鉄で出来ているような硬い感触を感じた。 「これは、人形?」 死体でも幽霊でもなく精密な人形なのだろうか。いや、機械で出来ているというのならこれはロボットかもしれない。父さんはこの研究所で女の子のロボットを造っていたのか。母さんを放ったらかしにして、こんな玩具を作っていたのか。 そう思うとぼくは一気に馬鹿馬鹿しくなり緊張が緩んでその場に座り込んでしまう。 「はははは。父さん。あんたバカかよ……。こんなもん息子に見せてどうしろっていうんだ」 父さんはぼくにここの鍵を渡して何をしたかったんだろう。このロボットを世間に晒せってことなのか。冗談じゃない。今平穏な生活をしているのに、そんなことをしたら慌しくなるだけだ。それに母さんだってこんなロボットの存在を知ったら気味悪がるだろう。このことはぼくの心にだけ仕舞っておくほうがいいかもしれない。この鍵も帰りに閉めたら海に捨ててしまおう。それがいい。それでいいんだ。 ぼくはこの馬鹿げた空間から逃げるようにそのまま出入り口へ向かって歩く。 その途中、ぼくは父さんの研究デスクに目が行った。乱雑にノート類が散らばっている上で、ぼくはあるものが置いてあるのを見た。 それは母さんの写真だった。 今よりずっと若い。きっとぼくたちを生む前の姿だろう。とても綺麗だ。 ぼくはそれを見てなんとも言えない気持ちになった。父さんは何を考えてここにいたんだろう。母さんを本当に愛していたのか、そうじゃないのか、それすらもわからなくなってくる。 そして、その写真の下に一枚の紙がおいてあるのに気づいた。こんなに乱雑にノートやコピー紙が散らばっているので、母さんの写真がなければぼくはそれに気づかなかっただろう。ぼくはその紙を手にとって読む。 『和葉、お前がこれを読んでいるということは恐らく私はお前たちの前から姿を消しているだろう。この部屋でこの手紙を読んでいるのならあの髪の白い少女をお前は見たはずだ。あれは対四次元ラルヴァ用虚無空間移動装置、通称“星視機《スターゲイザー》”。その零号機のアバターだ。彼女をお前に託す。お前が世界を護るんだ。お前は私の息子だ。出来ないことなど何も無い』 そう書かれていた。 ぼくはその手紙をくしゃくしゃに丸めて思い切り投げ捨てる。 ふざけるのもいい加減にしろ。ぼくは腹の底から怒りが湧いてくるのを感じた。意味がわからない。まるでこんなのは妄想の産物じゃないか。こんなのは子供の空想だ。世界を救う? あの女の子のロボットで? 馬鹿げている。大体書かれていることのほとんどが理解できない単語だ。父さんは頭がおかしかったのか。研究者というのは嘘で、ここに異常者として隔離されていたんじゃないか、そう思ったほうがどれだけましだろうか。 だが、ぼくはふと疑問を抱いた。 この研究所は恐らくぼくたちが生まれる前に父さんが使っていたものだ。 なのに、なぜだ。なぜぼくがここに来ることを前提にあの手紙はここにあったんだ。ぼくが生まれた頃にはもう父さんは都心の研究施設に移動していたはずだ。ならこの研究所に訪れる暇なんかなかったはずだ。それとも何度か帰郷したときに書いておいたのか。それでもおかしい。 まるで、まるでこれじゃあ未来を予知していたみたいじゃないか。 あの鍵といい、父さんは何者なんだ。一体何故ぼくがこの場所に訪れることを知っていた。まるでそれじゃあ神様だ。何かが狂っている。ぼくの知っている常識が崩れていく。 ぼくは考えるのをやめた。 全て見なかったことにする。ここにいたら頭がおかしくなる。父さんのことを理解しようとするほうが無謀なんだ。 ぼくは早歩きで扉を出て、鍵を閉め、穴から出る。そいて再び社の中に戻る。 相変わらず暗い、だがこのホコリだらけの空気が懐かしく感じるほどだった。ここが現実だ。あそこはきっと地獄への入り口だったんだろう。全部夢だ。忘れよう。 「ねーカズ兄! 本当に大丈夫なのう!?」 郁美が痺れを切らして社の扉から顔を覗かせていた。その顔はやはり心配そうに歪んでいた。ぼくはすぐに郁美のこと頃までいき、 「大丈夫だよ。何にも無い。何にも無かった」 そう言って郁美の頭を撫でてやる。すると郁美は少し涙目になりながらぼくの顔を見上げていた。 「もう、だって全然帰ってこないんだもん。カズ兄に何かあったら私……」 「悪かったよ郁美。そんな泣くなって。別にただ穴が開いてたから珍しくて見てただけさ」 そうだ。これがぼくの現実だ。 郁美がいて、母さんがいて。いやなクラスメイトたちがいて。無関心な島民たちがいて、それでぼくの世界は廻っている。 ここを抜け出したいと願っても、たとえ抜け出たとしても、その先にあるのが楽園と限らないのならぼくはこのままずっとここにいるべきなのだろうか。 深く考えるのは今はやめよう。 ぼくは郁美の頭を抱きながら、ここから見える景色に目を向ける。相変わらずここからは平穏な住民の暮らしがよく見える――はずだった。 「あれ……?」 ぼくはその目の前の光景に目を疑った。 止まっている。 何もかもが。 畑で働いているおじいさんはクワを途中で振り下ろしたままで止まっているし、車も自転車も走行していたはずなのに全て停止している。犬も猫も、空を飛んでいる鳥たちまでも静止している。 それどころか木々も風に揺らめいたまま止まり、舞っている葉も空中で停止している。 これは、これはまるでビデオの一時停止を見ているようだ。 「お、おい郁美! どうなって――」 ぼくに寄り添っている郁美を見ると、郁美もまたまるでマネキンのように身体を硬直させて止まっている。 なんだこれは、時が止まっているのか? ありえない。こんなのは夢だ。一体何が起きているんだ。異常だ。狂っている。 父さんだ。あの研究所から何かがおかしくなっているんだ。全部父さんのせいだ。くそ、こんなのはまるでデタラメだ。 そんな絶望と混乱の中にいるぼくを、さらなる絶望と混乱に導くものを空高くに発見した。発見したくなかったよこんな物。 こんなことを言ったら、ぼくの頭がおかしくなったと思われるだろう。 いや、ぼくの頭がおかしくなっているというのなら、そのほうが救いだ。こんなの、デタラメを通り越して漫画だ。乾いた笑いが出てくる。 そう、島の上空に超巨大なテトラポッドが浮いていたのだ。 5 テトラポッド。テトラポッドは商標登録されている名で、本来は消波ブロックという。海岸などの護岸が目的の構造物だ。四本の突起物で構成されているコンクリートの物質だ。元々テトラポッドはギリシャ語で『四本足』を意味するものらしい。ぼくたちのような海に馴染み深い島民などは言わなくても知っているだろう。とりあえずテトラポッドという名のほうが普及しているからぼくもそう呼ばせてもらうことにする。 こうしてぼくがどうでもいい薀蓄を垂れているのはそれだけ混乱しているということを理解して欲しい。こんなのを見たら誰だってそうなる。ぼくを責めるのはやめてくれ。 空中に浮いている、島の四分の一ほどの大きさのテトラポッド。それはテトラポッドのような、でもなく、テトラポッドっぽい、でもなく、灰色のテトラポッドそのものの造形をしていた。 「ははは、嘘だろ……」 巨大テトラポッドはゆっくり、くるくると横に回転している。まるで何かを探しているようにも見えた。見えただけだ、どこに目があるかすらわからないんだから。というかこれは何なんだ、生きているのか、それとも機械か。理解しようとするだけ無駄に思えるが、ぼくに出来ることは考えることだけだった。 それとも逃げるか。郁美を置いて? どこに? 出来るわけがない。 そもそもあれが害のあるものとは限らない。もしかしたら―― 「あっ」 ぼくがそんな能天気なことを考えていると、テトラポッドは動きをぴたりと止めた。なんだろうとぼんやり見上げていると、その四方の突起物の先端が光り始めた。その突起の先端に光の粒子が集まってエネルギーを収束させているように見えた。 そして、その光の粒子が凝固した瞬間、一斉に四つの突起から光のエネルギー体が放射された。 「うわあああ!」 ぼくはあまりの眩しさに腕で目を覆う。光の勢いが薄れた後、目を少し開けると、一瞬遅れて、島のいたるところが大きく爆発した。爆風がぼくのいる高台まで届き、ぼくは思い切り吹き飛んでしまう。ごろごろと地面を転がるが、それでも郁美などはその影響を受けていないようにぴくりとも動かない。 「あのテトラポッド――レーザービームを撃ったのか! 馬鹿げてる……!」 レーザービーム。なんて陳腐な響きだ。自分で言ってて恥ずかしくなってくる。だがそう称するのが一番的確だろう。そのテトラポッドが同時に放った四発のビームは島の大半を吹き飛ばしていたのだ。山は崩れ、町は瓦礫と化し、畑は根こそぎひっくり返っていた。 ぼくが呆然と膝を落とし、がっくりとうなだれていると、今度は耳をつんざくような轟音が辺り一帯になり響いた。 「な、なんの音だよ今度は!」 ぼくの叫びもかき消される。耳を両手で塞いでもそれでも塞ぎきれないほどの轟音。その音が段々近づいているようだった。 「うるさーい!」 そう思わず叫んで、上を見上げた瞬間、ぼくの真上をとあるものが超高速で通り過ぎるのを見た。 それは戦闘機だった。少なくとも見た目だけはそう呼べるものだろう。 その戦闘機はすぐにぼくから遠ざかり、凄まじいスピードで旋回しているため、ほとんど知覚できない。だけどあの流線形のフォルムは間違いなく映画などで見るような戦闘機のそれである。実物を見たことがあるわけがないので、自信は無いけど。 その黒い戦闘機はまるで流れ星のように軌跡を残して飛んでいく。 何かと戦うために戦闘機は存在する。ならあの戦闘機は何と戦う? 決まっている、きっとあのテトラポッドに違いない。しかしあの中に乗っているのは本当に人間だろうか。もしあの中に宇宙人が乗っていたとしても今さらぼくは驚かないが。 ぼくは必死にテトラポッドの周りを飛び回る戦闘機を目で追う。 戦闘機が一瞬チカッと光ったかと思うと、テトラポッドの表面が爆発を起した。だがそれでもテトラポッドは微塵も動じていないようだった。それでも戦闘機はチカッチカッと連続で光を放ち、テトラポッドに攻撃を仕掛けている。どうやらあの戦闘機もビーム兵器のようなものを持っているようだ。だが威力は対したこと無いのか、それともテトラポッドがそれだけ堅いのかわからないが、やはり攻撃はさほど効果的ではないみたいだ。 しかし日本の自衛隊にあんな戦闘機があるのだろうか。そもそもあのテトラポッドはなんなんだ。宇宙からの侵略者? 未知との遭遇がこの日本のこの島で? そんなバカな、だけどもうそんな風にバカに出来ないような気がする。戦闘機が現れたことで、非現実的だったこの光景が少しだけ現実味を増す。巨大テトラポッドと戦う戦闘機なんてシュール過ぎるけど。 「あ、あれは」 ぼくは思わずそう呟く。 テトラポッドは攻撃を仕掛ける戦闘機を認識したのか、またゆっくりと動きだし、不可解な変化をしていた。テトラポッドの表面がぼこぼこっと少しずつ崩れてきている。戦闘機の攻撃の成果かと思ったけど、どうも違うようで、ぼくはそれを凝視する。驚いたことにテトラポッドの表面から崩れた部分が、浮遊して戦闘機のほうへと飛んでいった。それは大量に発射され、まるでミサイルのように戦闘機をホーミングして追っていく。 あんな巨大なコンクリートの塊をぶつけられたらひとたまりもなさそうだ。戦闘機は距離を置くために逆方向へ飛んでいくが、コンクリートの塊はまだ追ってくる。だが戦闘機からも細長い光の線が大量に発射され、コンクリートを爆破していく。激しい轟音が鳴り響き、まるで花火のように綺麗な爆発の光が輝いている。 こんな近くでこんな非現実的な空中戦を見ることになるなんて思ってもいなかった。ぼくは少しだけ高揚していくのを感じる。 代わり映えのしない、平穏で、平和で、平坦なこの島がわけのわからない不条理な存在に吹き飛ばされていくのを、そしてその不条理と戦う空を翔る物を見て心が躍っていた。 ぼくは心の中でその戦闘機を応援していた。 「危ない!」 テトラポッドの撃ちだしたコンクリートミサイルを、全て撃ち落せなかったようで、戦闘機にそのコンクリートが掠った。その衝撃で機のバランスが崩れ、くるくると変な動きのままこちらへと向かって落ちてくる。 え……? こっちに落ちてくる? 「うわああああああああ!」 どんどん戦闘機が近づき、その影を大きくしていく。ぼくは慌てて逃げようとするが、足が震えて言うことをきかない。 まずい、潰される。 ぼくは思わず目をぎゅっと閉じる。激しい音と衝撃が走るが、ぼくの身体に何も害は無かった。ゆっくりと目を開けると、ぼくのほんの数メートル横に戦闘機は墜落していた。ぼくはほっと胸を撫で下ろす。だが不思議だ。炎上も破損もせずに地面にめり込んでいるだけでどこも故障はないようだ。 ぼくはじっくりとその戦闘機を見る。ここまで間近で見ることが出来るとは思えなかった。 空を飛んでいる時はその細かい形状はよく見えなかったが、よくよく見ると戦闘機というにはあまりに派手というか奇抜な形をしている。黒い色あいに全体的にシャープなデザインで、ゴテゴテとした機械が機体のあちこちに組み込まれている。なんとうか『宇宙戦闘機』といった呼び方が似合いそうな、未来的な造形だ。 両翼の下部に筒のようなものが装備されている。形から察するにこれがビーム兵器だろうな。なんとなく本来の戦闘機よりも幼稚で、玩具のような感じに見える。そう、こんなにも大きく空を飛んでいなかったらただの模型だ。 ぼくは恐る恐る近づき、そっと触れてみる。確かにリアルな鉄の冷たさが指に伝わってくる。すると、突然「プシュー」という音が響き、ぼくはびくりと身体を震わせる。 音の方へ目を向けると、コクピット部分が開いたようだった。 そこから人影が顔を出す。 出てきたのはタコのような触手を持つ火星人―― 「ちょっと、嘘やろ……。なんでこの空間で一般人が動いていられるんや!」 ――ではなく、昼前に出会った、あの関西弁の女子高生だった。その女の眼鏡越しの怖い目とぼくの目が合った。 6 「ちょっと少年。あんたあん時のガキんちょやな。あんたよくもうちを騙したなぁ。宿屋潰れてたやないか――って違う、今はそんなこと言うとる場合やない!」 などと自分で突っ込みを入れながらその女は怒っていた。頭をがしがしと掻いている。だがぼくは驚きのあまり声がでなかった。この女子高生がこの戦闘機を操縦していたのか? 冗談だろ。 だがその女は先ほどのブレーザーにミニスカ姿ではなく、ぴちぴちのパイロットスーツのようなものを着ていた。スタイルがいいため、身体のラインの凹凸が激しく悩ましい。スーツのあちこちからケーブルが伸びていて、コクピットに直接繋がっているようだった。しかしいかにもと言った感じで逆に胡散臭い。 「ったく、どうなっとんのや一体……クロちゃん、ちょっと戦闘モード解除して!」 『イエスマスター』 と、その女とは別の女性の声が聞こえた。 その瞬間機体は光り輝き、一瞬にしてその姿を縮ませていく。光が収まると、戦闘機は消え、そこには二人の人間がいた。 一人はさっきの関西弁の女子高生。パイロットスーツからまたブレーザーに戻っていた。そしてその隣にいるのは、まるで人形のように綺麗な顔をした女の子だった。長い黒髪に、宇宙人のような機械的スーツをぴっちりと着ている。頭には妙な細長い機械をつけていて、ウサギの耳のようにも見える。 それはどこかで見たことがあるような姿。そう、さっき父さんの研究所で見たあのロボット少女と似た雰囲気を持っていて、ほとんど色違いだけのように見える。 驚くことにその少女が現れた途端、あの戦闘機は影も形も消えてしまった。 「戦闘モード解除。アバターモードに移行成功しました」 その黒い女の子は澄んだ綺麗な声でそう言った。 「あいよ。ねえクロ、あんたこのチビっこどう思う?」 女子高生はぼくに不審な目を送ってそう言った。クロと呼ばれた女の子はぼくのほうをそのガラス球のような目でじっと見つめる。 「微かな魂源力《アツィルト》反応あり。恐らく異能者です。この“虚無空間”に踏み入れているということは、どうやらマスターと同じ超空間知覚能力者と思われます。発汗や鼓動から察するにおそらく彼に自覚はないでしょうが」 「ふむん。このチビっこがねえ~。面白いやないか。これも何かの運命や」 女子高生はにいっと八重歯をむき出しにしながら笑い、ぼくの手をとった。 「こんなところで突っ立ってたらいつあのテトラポッドの攻撃の被弾を食らうかわからへんで、うちと一緒に来るんや」 「え?」 ぼくはぽかんと口を開けたまま呆然とする。一緒に来るってどういうことだ。 「駄目ですマスター。こんな不純物が混ざったら機体との精神シンクロ率が低下します」 「大丈夫やでクロ。うちが負けるわけない。うちはエースパイロット様や、あんなわけのわからん石の塊に負けるかいな」 「……そう言ってさっき攻撃を受けて落ちたのを忘れたのですか?」 「あんなのはちーっとばかし油断しただけや。今度は負けへんで。うちは一度負けた敵には負けへん」 ふふん、と女子高生は胸を張っていた。 「……ふぅ。仕方ないですね。確かにこの少年が“素質”を持っているのなら保護するべきでしょう。わかりました、同乗を許可します」 クロは溜息をついて、やれやれと言った調子だった。 「さあ、チビっこ。いくで!」 「ちょ、ちょっとあんた……!」 「あんたやない、うちはアッ子や。呼び捨てでかまわへんで」 女子高生、いや、アッ子はそうにやりと笑った。 「ぼくは、和葉。深井和葉」 「オッケー和葉。あんたも気張りや――ほれ!」 アッ子はぼくの手をひっぱりクロの胸に手を運んだ。 「な、何を」 クロのふくよかな胸の感触が掌に伝わる。そのぼくの手にさらにアッ子が手を重ねた。 「さあ行くでクロ」 「イエスマスター。再び戦闘モードへ移行。“星視機《スターゲイザー》”弐号機、変形を開始します」 その瞬間またあの強烈な光がぼくらを包む。 白い光が視界を覆ったと思った瞬間、ぼくは戦闘機の中へ移動していた。 狭く、ゴテゴテとしているコクピット内。どこからも外を見ることが出来ない空間になっており、とてつもない閉塞感に襲われる。 「無事同乗できたな和葉。やっぱあんたも素質を持ってるんやな」 後ろからアッ子の声が聞こえた。振り返るとアッ子がまたパイロットスーツになり、頭に奇妙な機械をつけていた。あれはヘルメットだろうか。どうやらぼくはアッ子の膝に座っているという格好らしい。もともと一人用に二人乗っているからこういう風になるのも仕方ないのだろうが。アッ子の胸が背中に当たってドギマギしてしまう。アッ子は楕円形の妙な形の操縦棹を握っている。とても戦闘機の操縦棹とは思えないものだ。どうやって操縦するんだろうか。 「おい、さっきのクロって女の子はどこ行ったんだ?」 「何ゆーとんのや。この機体そのものがクロの本体なんやで」 「え、この戦闘機が……?」 「星視機《スターゲイザー》ちゅーんや。かっこええ名前やろ、覚えとき。クロ! 機体の損傷率はどうなっとるん?」 『十パーセントと言ったところです。少し後部翼を削られましたが戦闘に支障はありません。飛べます』 と、クロの声がコクピット内に響く。どうやらアッ子の言ったことは冗談ではないらしく、あのロボットのような少女がこの戦闘機に変身したということなんだろうか。もはやなんでもありだな、とぼくは苦笑する。 「オーライ。行くでクロ、発進!」 その掛け声と共に一瞬、胃の辺りに浮遊感を覚えてくすぐったかった。だが、あまり飛んでいるという感覚はない。本当に今この戦闘機は飛んでいるのだろうか。そういえば戦闘機などはとてつもない重力がパイロットに襲い掛かり、訓練したものじゃないととても乗れたものではないと聞いたことがある。それにあんなスピードで飛んでいるのだ、そのGも半端ではないだろう。なのにこの戦闘機からは何も感じない。どうなっているんだ。 「何不安そうな顔しとんのや。安心し、この戦闘機は赤ちゃんが乗っても大丈夫なんや。なんたって全部“嘘”やからね。この虚無空間では精神だけが離脱しているから肉体に何の影響も無いんや。ただ、あの化物の攻撃を食らったらやばいけどな」 「虚無空間? なんなんだそれ。この時が止まってる世界のことか?」 「詳しい話は後や。今はあのくそでかいテトラポッドを倒すことが先決や、敵の攻撃で揺れるかもしれへんから舌噛まへんよう気をつけとき!」 アッ子は操縦棹を握り締め、表情は真剣だ。 コクピットからは外の光景が見えないが、アッ子はヘルメットについているバイザーから外を見ることが出来ているようだった。 「クロ、和葉にも外の映像が見えるようにしたってや。今後の参考になるやろ」 『了解。視覚シンパサイザを挿入します』 そうクロの声が聞こえ、操縦棹のある部分の横から一本の細いコードが延びてきた。それはうねうねと蛇のように動き、ぼくの右目に近づいてくる。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。何を――」 『大丈夫です。ちょっと先っぽだけ挿入《い》れるだけですから。痛くしませんから』 「ちょ、ま、ぎゃあああああ!」 そのコードが右目に刺さり、一瞬暗転したかと思うと、すぐに視界が切り替わった。確かに傷みは一切無い。そこからは青い空と島の全容が見ることができた。どうやら星視機《スターゲイザー》の視界とシンクロしているようで、まるで鳥になった気分でその風景を見ることができる。勿論視界にはあの巨大テトラポッドも映っている。こうして近くで見るとやはり異質だ。 「どうや、見えたか和葉」 ぼくは空いている左目でアッ子のほうを見る。どうやら視界は左右で切り替えることができるようだ。こんな技術絶対に日本にはない。いや、どこの国にもあるわけがない。 「うん、これでぼくも見えるよ」 ぼくは頷き、アッ子も了解したようだ。 「ほないくでええええ!」 アッ子は操縦棹をひっぱり、星視機《スターゲイザー》のスピードを上げてテトラポッドへ近づけていく。ビームを撃って牽制しながら、テトラポッドの周囲をぐるりと廻っていく。 「やっぱ堅いか。どこかに弱点があるはずなんやけどなあ。クロ、わかるか?」 『私も探していますがまだわかりません。恐らく見えないということは真下にある可能性が高いです。ですが相手の懐に入るのは危険です』 「でもやらなきゃ一生終わらへんでこの戦い。クロ! “第三主砲《サードバスター》”を解放、股間狙うで!」 『下品なことを言わないでください。……了解。第三主砲を解放します。エネルギーを消費が激しいのでこれは一度しか撃てません。気をつけてくださいねマスター』 「まかせときぃ」 ガゴンという音と共に、星視機《スターゲイザー》の背部から大きな砲台が出てきた。どうやらこれが第三主砲らしい。アッ子は機体を滑空させ、テトラポッドの真下を狙おうとする。しかし、テトラポッドは回転を始め、また四つの突起部分の先端にエネルギーを凝縮させ始めた。 『敵から高熱エネルギー反応。またあのレーザービームを撃つ気ですね』 「言われんでもわかっとるわ。避けるで!」 その瞬間テトラポッドは四箇所からレーザービームを放ち、そのまま回転して島の陸地を薙いでいく。あらゆるものがこのレーザー攻撃により吹き飛んでいく。アッ子はそのレーザーをギリギリでかわしていく。少しでもレーザーに触れれば機体は吹き飛んでしまうだろう。テトラポッドは回転しているため、なかなか下部へと追いつくことができない。だがアッ子はレーザーをひたすら潜り抜けていく。 だが、予想外なことに、レーザーを放出しているのに、テトラポッドはまた表面を崩させて、あのコンクリートミサイルを撃ってきた。追尾するその攻撃から逃げ切ろうとすると、レーザーの攻撃を避けることがおろそかになる。敵は二重攻撃を仕掛けてきたのだ。 「くそ、考えるやないかテトラポッドの癖に……やけど、超空間知覚戦士の能力を舐めてもらっては困るで!」 アッ子は何を思ったのか、レーザーの光柱に向かって思い切り突っ込むように加速した。ぼくは「危ない!」と叫んだが、アッ子はにやりと笑うだけだった。 アッ子は機体がレーザーに突っ込む直前に直角に上昇した。そんなことが可能なのか知らないがアッ子はそれを行い、後ろから追尾してきたコンクリートミサイルはその急な星視機《スターゲイザー》の進路変更についていけず、レーザーにぶち当たり粉々に消え去った。 「やった!」 「すごい……」 ぼくはその行動に素直に感激した。アッ子の汗が玉になり、コクピット内に飛んでいる。綺麗だ。 そのまま星視機《スターゲイザー》はテトラポッドの突起の無い部分、つまり平面状になっている下部へと向かう、そこにつけばレーザーの脅威も無い。そして、その平面状の部分にとあるものがあった。ぼくはそれを見て不気味さを感じずには入られない。 「なんだあれ……」 「あれが敵の、四次元ラルヴァ“主軸《アクシズ》”の弱点、いや本体《コア》って言ったほうがええやろね」 そこには小さい顔があった。人間の顔だ。小さいといってもテトラポッドと比べると、ということで、そのものの大きさは三メートルほどはある。ぼくらからすれば巨人の顔。だがまるで仮面のように無機質で白く、男の顔か女の顔かもわからず、無表情で目も瞑っている。不気味だ。 「さあ止めや、これでおしまい。ほなさいなら、なんつって」 アッ子は第三主砲の照準をその顔に合わせる。主砲にエネルギーが溜まっていき、アッ子は操縦棹のトリガーを引いた。 その瞬間びりびりとした衝撃が機内にも走り、その砲撃の凄まじさを伝わらせている。そしてぼくは見た、第三主砲の攻撃があの顔に当たる瞬間、その顔の目と口は開かれ、恐ろしい形相で叫んでいた。まるで死に対して恐怖を抱いているかのように。 その死の顔も、第三主砲のエネルギーレーザーによってかき消され、大きな爆発が起きた。どうやらあの顔は粉々に散ったみたいだ。 その後、本体を失ったテトラポッドはぼろぼろと崩れ去りながら地面に落ちていった。大きな音を立てて沈んでいく。 「か、勝ったのか……」 「勝ったで。さすがうちやね。天才や! うちはやっぱ最強のエースパイロットや!!」 アッ子は笑顔でそう言ってぼくをぎゅーっと抱きしめた。戦闘によりかなり高揚しているようだった。アッ子のいい匂いがぼくの鼻先を刺激し、なんだかとてもムズムズする。 『最後まで気を抜かないで下さいマスター。虚無空間の崩壊が始まります。現実世界への移動の準備をしてください』 その直後、視界が真っ暗になった。 「な、なんだ!」 「慌てるんやないの。男の子でしょ。虚無空間が消えるからブラックアウトしてるんや。それよりあれ見てみ」 ぼくはアッ子が指差した方に目を向ける。ほとんど真っ暗で何も見えない中、テトラポッドが落ちた下部分を見ると、綺麗で大きな光りの玉が浮いていた。 そしてその光りの玉は一気に上昇し、遥か遠く、上のほうでぱんっと弾ける。その弾けた光は小さな光の玉になり、まるで真っ暗な夜空に輝く星のようだった。 「どや、きっれーやろ」 「あれは……?」 『あれは主軸《アクシズ》に捕食された人間の魂です。私たちがアレを討伐したことで解放されました。きっと魂の持ち主の下へと還っていくでしょう』 クロはぼくにそう言った。人間の魂を捕食? 理解できないが、ぼくはその光の星を見て難しいことを考えるのは今はやめようと思った。 ぼくはこの戦闘機の名前を思い出す。 |星を視る人《スターゲイザー》。 なるほどこういう意味だったのか。 7 一瞬視界が黒から白に変り、ぼくは自分が地面に立っていることに気づく。 「え?」 ここはさっきの神社の境内。島を見渡すと、さきほどの戦闘が嘘のように静かで、どこも破壊されてなどいなかった。 平和そのものである。 「なんで……?」 「どうしたのカズ兄」 郁美の顔が突然目の前に現れてびっくりする。ちゃんと動いている。停止していない。 なんだなんだ、さっきのは夢だったのか。現実に疲れたぼくが見た幻覚? 「虚無空間で起きたことは現実世界に影響を及ぼさないのです」 澄んだ声が響く。それは聞きなれた声。 ぼくが後ろを振り返ると、そこにはあの宇宙人のような格好のクロと、ブレザー姿のアッ子が立っていた。夢じゃ、なかったのか。 「あれ、あなたさっきの。いつの間にここに?」 郁美がきょとんとして彼女達を見ている。アッ子はふっと不適に笑い、ぼくに手を伸ばしてこう言った。 「改めて自己紹介や和葉。うちは双葉学園高等部の和泉亜紀子《いずみあきこ》。今までどおりアッ子でええで。|これから《・・・・》よろしゅうな!」 アッ子はとびっきりの笑顔でぼくの手を握った。 眉間にシワを寄せている郁美をよそに、ぼくは不覚にも可愛いと思ってしまった。 STARGAZER RESET ほ し を み る ひ と 第一話(了) 第二話へ続く 前編へもどる トップに戻る 作品保管庫に戻る
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EMクレイブレイカー(OCG) ファーニマル・エンジェル(OCG) ヴァンパイアの使い魔(OCG) ヴァンパイアの眷属(OCG) ヴァンパイア・フロイライン(OCG) ヴァンパイア・グリムゾン(OCG) ヴァンパイア・スカージレット(OCG) ヴァンパイア・レッドバロン(OCG) 交血鬼-ヴァンパイア・シェリダン(OCG) ヴァンパイア・デザイア(OCG) ヴァンパイアの領域(OCG) ヴァンパイア・アウェイク(OCG) ヴァンパイアの支配(OCG) マズルフラッシュ・ドラゴン(OCG) 悪魔嬢リリス(OCG) 闇黒の魔王ディアボロス(OCG) 悪王アフリマ(OCG) 影王デュークシェード(OCG) 闇黒世界-シャドウ・ディストピア-(OCG) 悪のデッキ破壊ウイルス(OCG) シューティング・ライザー・ドラゴン(OCG) トランスコード・トーカー(OCG) ウィジェット・キッド(OCG) サイバース・ホワイトハット(OCG) サイバネット・リカバー(OCG) ペンテスタッグ(OCG) ゴッド・オーガス(OCG) ライドロン(OCG) 時械神サンダイオン(OCG) No.90 銀河眼の光子卿(OCG) トポロジック・ガンブラー・ドラゴン(OCG) テクスチェンジャー(OCG) ミラーフォース・ランチャー(OCG) サイバネット・リチューアル(OCG) レストレーション・ポイントガード(OCG) サイバース・ウィッチ(OCG) オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン(OCG) サイバース・マジシャン(OCG) クラスター・コンジェスター(OCG) SIMMタブラス(OCG) 破滅の天使ルイン(OCG) 終焉の悪魔デミス(OCG) 破滅の美神ルイン(OCG) 終焉の覇王デミス(OCG) 嵐竜の聖騎士(OCG) シールド・ハンドラ(OCG) リビング・フォッシル(OCG) ドラグニティナイト-ハールーン(OCG) ドラグニティナイト-アスカロン(OCG) ヴァレルソード・ドラゴン(OCG) ショートヴァレル・ドラゴン(OCG) ヴァレル・リロード(OCG) リンク・デス・ターレット(OCG) 剛鬼ザ・ジャイアント・オーガ(OCG) 剛鬼ジャドウ・オーガ(OCG) マガジンドラムゴン(OCG) ゼロ・エクストラリンク(OCG) マギアス・パラディオン(OCG) 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ラノで読む 「ちょいと、まーくん。こんなところであなたは何をやってるのかしら?」 昼ごはんの忙しい時間帯も過ぎ、まったりとした時が流れる午後二時過ぎ。召屋正行《めしやまさゆき》は人気のない喫茶店のカウンターに座りながら、冷たい視線を思う存分に浴びていることにも気にせずに好物のスパゲティを貪っていた。 「いや…今日の……ちょっと遅い……昼…飯を…ね」 召屋はケチャップが制服にかかることも気にすることなく、全力でパスタを啜っている。 ウェイトレスが、召屋の食べている皿を取り上げる。 「な、何すんだよ?」 「そーいうことを聞いてるんじゃないの。健全な高校生が授業にも出ないでこんなところで暇を潰してちゃ駄目でしょ? せめて、バイクで外環道路を爆走するとか、可愛い女の子をナンパするとか、それが駄目ならストーキングするとか、ゲーセンでハメ技使って初心者にトラウマ植えつけるとか、スパ銭行って幼女との出会いに心弾ませるとか、いくらでもあるでしょ?」 「おい、所々犯罪臭いぞ」 「あら? だって、そういうの好きでしょ?」 「どういう人間に見えてるんだ?」 「じょーだんよぉ!!」 ケラケラと笑いながら、ウェイトレスはスパゲティが盛り付けられた皿をカウンターテーブルに置きなおす。 「――――でも幼女は好きよね?」 「だから、なんでそうなるんだ」 「だって、よーく有葉《あるは》ちゃんと一緒にウチにくるじゃない? あっ!? それとも何? あっちの趣味があったのっ!?」 マズイことを言ってしまったと思ったのか、口を手で押さえる。 「俺は人の道も男の道も踏み外してねえっ!! それにあいつのことは関係ないだろっ」 珍しく声を荒げると、ニヤニヤとしていたウェイトレスを無視し、召屋は黙々とパスタを食う作業に戻っていく。ただ、いつもとは僅かに違う反応にウェイトレスが気が付かないワケがない。 「あら?」 「……」 「あら、あら、あらぁ~? 有葉ちゃんと喧嘩でもしたのー?」 そう言いながら、召屋の顔を覗き込み、肘で脇をこんこんと小突く。だが召屋はそれも無視する。 「違う」 「あっそう。ならいいけどね……」 ウェイトレスはどこからか携帯を取り出すと、誰ともなしに電話をし始めた。しかし、暫くして繋がらなかったのか、携帯を畳みいずこかへと仕舞ってしまう。その手際は手品のようだった。おそらく、彼女の能力であるサイコキネシスを使っているのだろう。 「出ないわねえ。有葉ちゃん」 その言葉に召屋は豪快にパスタを吐き出してしまう。もろにかかる位置に座っていたマスターだったが、読んでいた競馬新聞で起用に防御すると、無言でそれを丸め、周囲をお絞りで掃除し始める。 「ちょ、あん、あな、あなななな、いや、ね、ねえさん。なんであいつの番号知ってんだよ?」 「それは乙女の秘密よ」 「そもそも乙女じゃねーし、乙女って歳でもね……」 その言葉を遮るように、召屋の前のカウンターにナイフやフォークが何本も突き刺さる。召屋は思わず唾を飲む。 「もしかして死にたいのかな?」 「いえいえ、とんでもない」 軽く冷や汗を流しながら、召屋は強張った笑顔で応えることにした。 「ならいいわ。それで、まーくんは、どうするの?」 ウェイトレスの指先の周りには、十本ほどのナイフとフォークが円を描くように空を漂っている。その動きは種のある空中浮遊のマジックのような重力を感じさせるものではなかった。まるで、個々が意思のあるように動き、踊るように人差し指の動きに合わせ周りを浮遊していた。彼女自身はそれを顔をしかめることも汗をかくこともなく平然としてやってのけている。これだけの数をコントロールするのはそれなりの集中力と十分な魂源力《アツイルト》が必要なはずなのに。 「どうするって?」 いつこちらに突き刺さるかもしれない食器を横目で見ながら、召屋は有葉のことについて、白を通そうと決意していた。 「決まってるでしょ、有葉ちゃんのことよ。なんかあったんでしょ?」 「なんにもない」 「うっっそだ~」 ウェイトレスは、そう言いながら召屋の瞳をじっと見つめる。召屋はその眼力に負け、思わず避逃げるように目を逸らしてしまう。 「ほーら、やっぱりね。だったら、こんなところで暇を潰してないで、すぐ行動に出なさいな」 召屋はカウンターに思い切りフォークを叩き付ける。 「言っている意味が分からないんだけどな」 「あらあらぁ? 分かってるから、そーんなに顔を真っ赤にしてるんでしょ? こっちは全部お見通しなのよ」 「何をだよ?」 更に顔を真っ赤にして、召屋はウェイトレスの言葉を否定しようとする。だが、それを察したのか、ウェイトレスは召屋鼻と鼻がくっつきそうなほどに近づく。召屋の鼻腔にウェイトレスの甘い香りが漂う。 「そろそろ素直になろーよ。そうじゃないと、軽く、コ☆ロ☆す☆よ☆?」 目は笑っているが、その言葉は一寸たりとも冗談でないことが召屋にも分かる。彼の首筋に金属特有の冷たい感触があることからも明らかだ。 「だいじょーぶよぉ。私は子供の喧嘩に口を出すほど馬鹿じゃないわ。それともあれ? 私を厄介ごとに巻き込みたくないと思ったの!? ヤダッ! カッワイイー!!」 そう言うと、ウェイトレスは両手を広げ、そのまま召屋抱きつく。召屋はストゥールに座っていたため、顔が彼女の豊満な胸に押さえつけられてしまう。 「し、死ぬっ、窒息する」 その心地よさを堪能するのもほどほどに召屋はウェイトレスの肩を叩き、タップする。 「何よ、そんな言い方しなくてもいいじゃない?」 召屋の言葉に冷めてしまったのか、彼女はハグをやめ、僅かに残念そうな顔をする。だが、すぐにいつもの営業スマイルに戻ると、さっさと出て行けという意味なのか、召屋に手を振っていた。 「別に巻き込みたくないとか、そんなんじゃない。これは俺がやらないといけないことなんだ」 長い眠りから覚めて以来、彼の頭脳は何故か冴え渡っていた。まるで、何かのリミッターが外れたかのように。そして、永遠と繰り返される夢の中の出来事、以前から欠落していた記憶の一部も戻っていた。 ただ、何故その記憶が欠落していたのかは彼にも分からないし、今更蘇った意味も不明だ。もちろん、あの事件は思い出したくも無い凄惨な出来事であり、彼自身が封印したという可能性もある。腑に落ちない点もいくつか残っている。 その一つがクロの存在だった。その一部は記憶に残っていたが、クロという名前ではない。何より、これまで召屋が召喚してきたあれは、凶悪な化物《ラルヴア》であり、クロではない。昨日までの召屋にとってのクロは幼い頃に飼っていたラブラドールレトリバーである。そのことを確認しようと妹に連絡してみたが、クロは飼い犬であると断言されてしまう。明らかに欠落ではなく改ざんされていた。 これが事実なら、彼の妹も記憶操作されているということになる。不可解だった。召屋が知る限り、彼女は能力者でもなんでもないからだ。 事件の情報が学園のデータファイルに残っていないのもおかしい。召屋は、ここに来る前に学園の図書館に設置されたパソコンで、自分に関するデータを検索していたが、どこを探してもあの事件に関する情報は記載されておらず、完全な空振りに終わっていた。 完全な手詰まり。 その一方で、化物《ラルヴア》の詳細なデータなどを読み解き、見えてきた部分もある。有葉の行方だ。状況証拠からして、研究所に監禁されていることに間違いなかった。彼自身が有葉にあの研究所に行くようにとメールしていたからだ。 そしてなにより、昨日深夜に読んだ化物《ラルヴア》の報告書の一文が決定打だった。 “制御装置の開発、もしくは能力者の適合調整が早急に望まれる” これを読んだ途端、召屋は深夜にも関わらず、迷うことなく松戸に電話していた。五回ほど掛け直した後、ようやく繋がった松戸は酷く機嫌が悪そうだった。せっかくの睡眠を台無しにされたのだから当たり前である。だが、そんなことも気にせずに一言だけ質問をした。『お前が春部に殴られるはめになった実験の依頼人は尾原凛ではないのか』と。 その名前が出てきたことに松戸は酷く驚いたようだった。そして、その意外な質問に眠気も覚めたのか、何事かと興味深そうに矢継ぎ早に質問してくる。 召屋は事の次第を説明し、出来るだけの情報が欲しいと伝える。松戸もそれに同意し、調べてみると応対する。 『いやー、これは楽しそうだねえ』 なんとも緊張感のない他人事な言葉だが、善悪の観念に疎い松戸にしてみれば、これも楽しいイベントや実験の一つにしか過ぎないのかもしれない。最後に、召屋はクラスメイトの誰にも口外しないようにとも付け加えてた。まあ、それが実際に効果があるのかどうかは、不安だったが。 「ちょいとまーくん?」 不思議な物を見るようにウェイトレスが召屋の顔を覗き込んでいた。 それに気づいた召屋は、皿に残ったパスタを一気にかきこみ、すっかり冷めてしまったコーヒーで一気に胃へと流し込む。そして、カウンターに代金を置くと、面倒くさそうに立ち上がり、隣のストゥールに置いてあったヘルメットとグローブを抱え、ウェイトレスに声を掛ける。 「さて、ちょっと行って来るわ。ところでねえさん?」 「なあに」 「ガムは持ってる?」 「まあ持ってるけど。クールミントでいい?」 ウェイトレスは胸のポケットから板ガムを一枚取り出すと、不思議そうな顔をして召屋に手渡す。 「後で返すよ」 「そんなもん、別に返さなくていいわよ」 そう言いながら、まるで魚を狙っている野良猫を追い払うような仕草をする。面倒な表情からも、それがグダグダしてねえでさっさと行けと言っていることに間違いはなかった。 召屋は思わず舌打ちをする。その反応、ではなく言葉にだった。 「分かってねえなあ」 そう言って、召屋は受け取ったガムを口に入れながら扉を押し開き、喫茶店を出て行った。暫くすると、単気筒《シングル》特有の鼓動感の強いエキゾーストノートが聞こえてくる。その音は、急ぐように喫茶店から離れていった。 「やっぱり青春っていいわねー。これよね、これ。こうでないといけないわ。でも、どうしよう? ちゃんとできるかしら……」 ウェイトレスは喫茶店の中を落ち着き無くうろうろしながら、時折外を覗き込む格好をし、時計を気にする。子供の喧嘩に口出ししないとは言ったものの、それなりに心配らしい。 「上戸《うえと》ちゃん」 カウンターの奥から声がする。声の主はマスターだった。ウェイトレスの落ち着きの無さを悟ってのことだろう。 「なあに? マスター」 そう言いながらもウェイトレスは外を見ることを、時計を確認することをやめない。 「さっき駄目にしちまった競馬新聞さ、また買ってきてくれねーか? 見ての通り、店は暇だからよ」 ウェイトレスがその言葉に破顔一笑する。 「じゃあ、いってきまーす!」 嬉しそうに店を駆け出て行くウェイトレスを見守ると、マスターは、カウンターの下にあった別の競馬新聞を取り出し、読み始める。 読みながら吹かすタバコの煙がいくつもの円を描いていた。 「そうか、やっぱり週末のG1はミスズビャッコオーで決まりか……」 耳に挟んでいた赤ペンを取り出すと、新聞に丸をつけ始める。今日もこの喫茶店は千客万来とは程遠い平和な空間だった。 小柄な身体とは不釣合いに大きく豪華な椅子に座る少女は、目の前にいる人物の言葉に苛立ちを覚えていた。そして、それは、その傍らに立つ女性も同じだった。 「もう一度最初から説明しないと駄目なのだろうか? 藤神門《ふじみかど》くん」 神経を逆なでするような、馬鹿にした口調で男は目の前に座る彼女に言葉を吐きかける。恐らく、これ以上の口論は無意味であり、その勝者は自分であるということを示したいのであろう。 「そうではない。何故我々が介入することを禁じるのか、その意味を知りたいのだ!」 少女は身体に似合わないほどの大きな声を張り上げ、目の前にいる教師から提出された書類を突き返そうとする。だがそれは実らない。 彼女の行為を否定しながら、男は言葉を続ける。 「意味なんて知る必要はない。そこにあるサインを見ただろ? 理事会も認証済みだ。もう一度言う。この件に関して、何が起ころうと醒徒会および……あの何かと首を突っ込みたがる風紀委員の介入はどんな手段であれ、一切禁止されている」 「だが……」 藤神門が俯きながら搾り出すように言葉を紡ぐ。そして、傍にいた女性が彼女の耳元で呟く。 「確かに本物です」 事実、藤神門御鈴《ふじみかどみすず》が突き返そうした書類は本物だった。彼が、事前から用意してあったものだ。事態を見越してのことなのだろう。 「だが……、だが、私たちは生徒を守る義務があるのだっ!」 「おい! ……これは失礼、生《・》徒《・》会《・》長《・》、それはお互い様だ。それとも私が生徒のことを考えていないとでも? 危険が及ぶことに指を咥えて見ているとでも? 全くもって短絡的過ぎる。こう見えても私はこの学園の教師でしてね。見くびって貰っては困るな。いやまあ、私はどうでもいいか……。それよりも、少なくとも私の生徒たちを見くびらないでくれまいか。確かに彼らは君たちほどの力は持っていないし、非力だろう。それでもこの学園の生徒で、何より私の誇る生徒なのだよ」 藤神門の言葉が彼の何かに触れたのであろう、男の語気が急に荒くなる。 「今の件は謝ります。でも、そうは言いますが、ことが大事になれば……」 そう口を挟んできたのは藤神門の傍に立つ女性、水分理緒《みくまりりお》だった。いつもは温和な表情を絶やさない彼女も不安からなのか、はたまた不満があるのか、僅かに顔をしかめていた。 「これは酷く私的なものでね。あなた方に出張ってこられては困るのだよ。これは私《・》た《・》ち《・》が解決すべき事柄であって、君たちが口を出すことではない。さて、これ以上の口論は時間の無駄だ。私はお暇《いとま》するよ。やることが沢山あるのでね」 そう言って、男は醒徒会室を出て行く。 「うぐぐぐぐっ……。りお、塩を撒け、塩! 伯方の塩がいいぞ、なんかスゴク利きそうだからな!!」 「うなー!!」 藤神門の感情に影響されたのか、膝に座っていた白虎が彼女の大声とともに大きな鳴き声を上げていた。 廊下を歩きながら、字元数正《あざもとかずまさ》は額に吹き出る汗を真四角に折られたハンカチで拭っていた。 (全く、相変わらず醒徒会は手に余るというか扱いづらいことだ) そんなことを思いながら、字元は教務室へと急ぎ歩いていく。これから起こるであろう事件には、他にも根回しが必要なのだ。 「ん!?」 何かに気が付いた様子で、胸の内ポケットからマナーモードになっている携帯を取り出す。液晶に表示されている名前を確認すると、僅かにうんざりとしながら、通話ボタンを嫌そうに押し、携帯を耳にあてがう。 「何だね? 忙しいのだが―――――。はあ? そんなの言えるわけないだろ。君は馬鹿なのか? いつだってそうだ。十年前のあの時だって、君はね……それとこれとは別だと? だぁからあ――――」 そのまま淡々と歩きながら、電話口での口論は教務室に入るまで続いていた。 松戸科学《まつどしながく》は召屋と約束した通り、商店街からもはずれ、人家も少なくなっている町外れの神社の階段に腰掛けていた。 お尻が冷たい。松戸はふとそう思う。 このあたりは人工島である双葉島でも異質な、森や林、丘、小川など自然溢れる区画だった。双葉島完成当初から計画的に植林、造成が行われ、更に昆虫や鳥、魚など害のないものが放たれ、現在では東京都区内としては有数の人工ビオトープとなっている。ただし、植生や生態系、水質など徹底的に管理されているため、純粋な意味での自然とは言えなかったが、それでも多くの双葉区民が自然を楽しんでていた。格別に享受している野生児もいるという噂もあるほどに、区民に愛されているエリアである。 そんな自然溢れる場所の一角に腰掛けながら、松戸はここが自分に不釣合いなところだとしみじみ感じていた。彼は小さい頃からオリエンテーションやキャンプといった類が大の苦手だったからだ。何でわざわざ不便な生活をするために不便な場所へと足を運ばねばならないのか? 電子レンジに冷凍食品を入れてボタンを押せば数分でホカホカのおかずが出来上がるし、ご飯だって同じだ。飯盒炊爨なんかもってのほかである。もし、身近にそういったことを企画する人間がいるならば、その時はちょっとしたいたずらを仕掛けてやろう。松戸はそんなことを思う。 遠くからバイクの排気音が聞こえてくる。松戸はバイクに一切興味はなく、見た目はもちろん、エキゾーストノートの僅かな違いなど到底区別も付かない。が、その音とともにどうでもいい薀蓄散々聞かされていたこともあり、彼はそれを召屋のものであると理解する。 バイクが松戸の前でピタリと停まる。 「やあ、召屋、遅かったねえ」 「ちょっと色々あってな」 召屋はシールドを上げて、面倒そうに答えると、ヘルメットを脱ぐ。相変わらず冴えない顔がそこにあった。 「なんだ?」 召屋は自分の顔を不思議そうにじっと見つめている松戸を不思議に思う。 「いやあ、なんでもないよ。それでね、実は委員長たちにバレてしまったよ」 「はぁ? 言うなって言ったじゃねーかっ!?」 「そうは言うけど、君はぼくの命を保障してくれるのかい? そうじゃないだろう。あれは不可抗力ってところだよ」 あいも変わらず、松戸はノラリクラリと会話を続ける。 「で、誰に話した?」 その召屋の質問に、松戸はその場にいた全員の名前を話す。つまりは、2年C組の六名とH組の二名のろくでもない名前である。 八名の名前を松戸が全て言い終わる頃には、召屋はバイクの前で頭を抱えていた。 「ぜっっっったい、面倒なことになる……」 「そうは言うけどね、彼女らは真剣に有葉さんを探そう、いや、助けようってのが正しいのかな? そうしようとしてるわけだ。多分、きみの力になると思うよ」 「必要ない」 「そうは言うけどね、召屋……」 「もう一度いう、関《・》係《・》な《・》い《・》」 あまりの能天気な応答に、思わず召屋の声が大きくなる。 「そうかい? それはすまなかったね。つまり、きみはきみ一人でやろうっていうのか? それはそれは、随分とまあ、素敵なヒーロー願望を持っているじゃないか?」 「そういうのとは違うな」 松戸は目の前にいる人物が言っている意味が良く分からず、腕を組み、首をかしげる。「うーん、協力すれば楽になると思うけど……。そうそう、メンテナンスが終わった特殊警棒とこっちは調べた資料だよ」 飯屋の目の前に書類の束と銀色の警防を手渡す。 「ああ、ありがとな」 受け取った警棒を後ろポケットに収めると、それと一緒に受け取った書類を眺めながら、数枚ほど捲った後、召屋は驚く。 「―――これって?」 「簡単なものだけどね。それがあれば大分楽になるだろ? まあ、あそこは警備員の数も質も相当だから、おいそれと侵入なんてできないだろうけどね」 松戸は彼に背を向けると、振り返ることなく手を振り、その場から立ち去っていく。 「とりあえず、ぼくにできることはもうないから生暖かく見守ることにするよ。それとオ《・》マ《・》ケ《・》も付けといたよ」 だた、その言葉は召屋には聞こえなかったようだ。書類を読みながら、神社の長い階段を登っていたからだ。 向かう先は、彼と彼女が始めてあの化物《ラルヴア》に出会った場所だった。 「ちょっと待て! これはこれっぽっちも戦略的じゃない! それ以前にただの馬鹿じゃねーか俺はよ!!」 街灯に火が灯り、様々な虫がその輝きに釣られ群れ集まる初夏の夜。拍手敬《かしわでたかし》はその街灯の下で愚痴っていた。というか叫んでいた。自らの尊厳を賭けて、男としてのプライドと矜持に誓って。 (どう考えても、いや、理論的にも法治国家的にもあらゆる部分でおかしい) だから、そんなことが許可されるはずもない。そのはずだ。 ところがそうはいかない。理由は簡単だ、拍手に“抗弁する権利がない”からだ。ただ、それだけだった。理不尽だが、そうなのだ。 なにより、目の前で腕組みをして偉そうに立っている人物の目がそう語っている。いや、この場にいるほぼ全員が『君には賛成こそすれど、反対する言葉を放つことさえ許されていないのだよ』と生暖かい視線を投げかけていた。 「でもさ、この作戦は頭が悪すぎるだろ?」 権利はなくとも、精一杯に否定する。無駄であっても言わないよりはましというものだ。 いや、それこそが弱者の権利であると拍手は思う。そして、きっと給食費を盗んでないのに濡れ衣を着せられた貧乏な小学生はこんな気持ちなのだろうと、見当違いのことをしみじみ思ったりもする。そんないわれのない迫害を受ける中、拍手はようやく自分がどういう状況になっているのか分かり始めていた。 (こんな時、召屋がいれば、全部あいつが引き受けるんだろうなあ……) 拍手は、本来ならすべての厄介ごとを引き受けてくれる稀有な星の元に生まれた友人がここにいないことを呪っていた。 「だから、馬鹿とか賢いとか関係ないのよ、拍手くん。貴方は今ここで、この脚本通りのことをやらないと駄目なのよ」 無駄に偉そうに、意味もなく高圧的に笹島《ささじま》が断言する。拍手の手にある台本を書いた張本人である。ちなみに表紙の端には“著 笹島輝亥羽《ささじまきいは》”としっかり記載されていた。 「でもな、これはどう見てもこれは茶番だろ?」 「煩いわね、ベタなネタが一番効果的なのよ。いい加減黙らないと殴るわよ」 「そうですよ、光の柱にしますよ」 問答無用に、拍手の言葉を否定する。その傍に立つ瑠杜賀《るとが》もそれに同意し、ワケの分からないことを口にする。 「瑠杜賀さん、言っている意味は分からないけど、なんか凄く怖いからやめてくれよ。でもさあ……」 「まったく、拍手様は、おっぱいの話以外で役立つことがないですね」 「おいっ!? 人をおっぱいだけに生きてるような変人みたいな言い方やめろよっ?」 「あら、違うの?」 星崎が嘲笑で歪む口元を鉄扇で隠しながら、さりげなく突っ込みを入れる。 「ねーねー、私だって恥ずかしいんだから、さっさとやろうよ」 緊張感をそぐような調子で美作が台本を丸め、ポコポコと拍手の頭を叩いていた。 「じゃあ、そこのポンコツメイド、さっさとB班に実行開始時刻を知らせてきなさい。それと、戦う時はくれぐれも人に向かって峰じゃない方を使うんじゃないわよ!?」 「まったくもって、人形使いが荒いですねえ、笹島様は……。あんまりカリカリしていると、小じわが増えて嫁の貰い手がなくなりますよ。それに、再放送の暴れん坊将軍でしっかり勉強しましたから、大丈夫でございます」 「……私がその首を捻じ切らないうちに、春部さんたちのところに行きなさい」 「はいはい、かしこまりました」 そうぼやくと、瑠杜賀は裏口で待つB班へと歩き始める。 「キリキリ走るっ!!」 笹島の怒号が響く。それでも、あいも変わらずマイペースにポンコツメイドが粛々と歩いていた。 そんな時。 「それよりー、お腹すいたー! 誰かパンとか持ってない?」 緊張感のない美作の声が静けさ漂う闇夜の中こだまする。 「カレーパンとかだと嬉しいんだけどさ」 「で、これが突入メンバー?」 あまりの微妙な編成に、春部里衣は軽い頭痛を覚えていた。 彼女、春部里衣とイワン・カストロビッチ、そして今しがた勇壮にゆっくり歩いてきた役に立ちそうもないポンコツメイド含め、総勢四名がそこにいた。 「そりゃ、お前、こっちは少数精鋭の隠密行動なんだから当たり前だろ?」 彼女的に唯一役に立ちそうな男、イワンがそう答えるも、どうにも釈然としない。 「それにしたって使えそうな人ぐらいはよこすってもんでしょ?」 「誰ですか?」 「えーと、誰だっけ? ほら、あいつよ、あいつ。鉄扇持ってるあいつ。あいつくらいはこっちに送ってもいいんじゃないの?」 「星崎さんね。お前、相変わらず物覚え悪いな」 「物覚えが悪いんじゃなくて、別に覚える必要がないからよ」 そう、そっけなく答える。彼女の思考は有葉千乃を中心に回っており、そのためクラスメイト以外の人物の名前を覚えることはまずない。 一方、ポンコツメイドこと瑠杜賀羽宇は、そんな言葉を否定するように凛として答える。 「春部様の仰った“あいつ”が誰なのかは私《・》には不明ですが、突入班の構成は完璧です。笹島様の言うことに間違いございません」 「ねえ、あんた、なんでそこまでアイツのことを信頼できるわけ?」 ありえないものを見るような表情をしながら、春部は瑠杜賀に問いただす。人差し指で胸を突付きながら。だが……。 「決まってます!」 瑠杜賀は毅然として断言する。 「だから、何がよ?」 春部は、彼女のあまりの自信たっぷりな物言いに、二人に強い絆かなにかがあるのかと勘ぐってしまう。 (命の恩人か何かなのかしら?) 現実とはいつの世もドラマチックではない。瑠杜賀は胸を張り、春部の質問に毅然として答える。 「笹島様はクラス委員長だからです!!」 『え…………』 瞬間、春部とイワンの思考が停止する。どうやら、論理的思考の構築にしばらくの時間がかかりそうだった。そして、ようやく我に返った春部が指先でオデコを抑えながら、三十秒ぶりに声をあげる。 「えーと……あんた、何言ってるの?」 「ですから、笹島様はクラス委員長なのですよ」 ミシミシという音と共に春部の堪忍袋の緒が切れかかる。 「いやいや……そうじゃなくて。私はなんで信頼してんだって聞いてんだけどさ?」 「は…? で・す・か・ら、笹島様はクラス委員長なんですよ。委員長の言うことは絶対ではないですか? それとも、春部様はそんな初等部でも分かることを説明しないといけないほどに頭がお弱いのですか? 学園において醒生徒会長が絶対でありますように、クラスにおいて委員長の命令は絶対ですよ。そう笹島様に私は教わりましたが?」 堪忍袋の緒が更に切れていく。 「ほぉぉぉ、なら、あんたはアイツが東京タワーから飛び降りろと言えば飛び降りるの?」 「ええ」 この人は何を言っているのだろう? 内なる言葉が駄メイドの表情からも滲み出ていた。間接的に馬鹿にされているようで、春部の神経を逆撫でする。 「……よ、よーし、分かったわ。じゃあ、今は私がリーダーだから、私の命令に従うってことでいいわね」 「それは無理です」 駄メイドは、間髪いれずに拒否する。 「はぁっ? なんでよっ。あんた、リーダーの命令は絶対と言ったでしょっ!?」 「そんなことは言ってませんよ。私は『委員長の命令は絶対』と言ったのです。それとも春部様は私のクラスの委員長でらっしゃいますか? そうではないでしょう。全く、そんなお子様で分かることも理解できないとは嘆かわしいですね。笹島様の爪の垢でも煎じて飲ませたいものです」 可哀想な子供を見る目で瑠杜賀は春部を見つめていた。 『ブチン』 伸びきったゴムが切れるような気持ちのよい音があたりに鳴り響く。 「そーか、そーか、あんたがこうなったのはあいつのせいか! よーし、あんたをスクラップにする前に、あの無駄にでかいオデコを今から殴りに行ってやる!!」 「まてっ、春部、落ち着けって。この戦力でなんとかしないといけないんだから落ち着けってーっ!!」 キョトンとした顔をする瑠杜賀を前に、顔を真っ赤にして走り出そうとしている春部を全力で後ろから羽交い絞めして抑えているイワン。実にカオスな光景だった。 (全くもって、突入班は突入班で大変ですねえ…) 目の前に広がる酷い光景を目の当たりにしながら、埒外にいる彼女はしみじみと後悔していた。そんなことを思いながら、彼女は腕時計を見る。そろそろ、A班と言うか、かく乱班に動きがある頃合いだった。 『い~や~、た~す~け~て~』 誰にでも分かる棒読みな悲鳴を上げながら、ショートカットと長い髪をひっつめた二人の女の子が、目標の研究所にある警備員の詰め所に女の子走りで駆け寄っていく。 警備員は突然の出来事に何をしたら良いのか分からないが、とりあえず、自分の詰め所に二人を導きいれようとしていた。 「くぅーそー、おまえらはにがさないぞー。ここでにがしたら、われわれすてぃぐまのなおれなのだー」 これまた微妙な棒読みの台詞を引っさげて、短髪の少年が大げさなリアクションで闇夜の中からタイミングよく現れる。 『きゃぁぁぁ~』 二人の女の子が気の抜けた悲鳴を上げる。 「どういう了見だ? この変質者め!」 明らかに怪しい男に反応してか、研究所の警備員は、彼なりの正義感で彼女達を庇おうと拍手と二人の間に立つ。手に持っているのはどこにでもあるステンレス製の警棒のみだ。 「え? いや、変質者じゃなくてね、あー………何んだっけ……うわっはははははっ。かのじょはわれわれのけんきゅうにひつようなそんざいなのだ~っ!!」 手のひらに書いたアンチョコを横目で見ながら、下らない台詞と共に仰々しい振り付けをし、拍手はさらに近づいていく。一方、警備員は自らの手に余ると判断したのか、応援を呼ぼうと胸からぶら下げている無線を掴み、研究所内にいるであろう他の警備関係者に連絡を取っているようだった。 (よし!) 被害者女性役という実に似つかわしくない笹島が、メガネとオデコを輝かせながら、周りに見えないように小さくガッツポーズをする。 彼女がこんな寸劇を画策したのは研究所に突入することではなく、純粋に事件を起こすことにあった。まずはこちら側に警備員たち意識を集中させる。そうすることで、突入班への人出も減り、速やかに侵入しやすくなるというものだ。第一の目的はそこにあった。 気が付けば、研究棟から警備員の青い制服とは異なる、黒スーツ姿の男たちがワラワラと集まってくる。恐らく、彼らもこの研究所の警備を担当しているのであろう、そのリーダーらしき男が警備員と彼女たちに声を掛ける。 「おいおい、大丈夫か? 聖痕《ステイグマ》が現れたとは、穏やかじゃねえなあ」 中庭に驚くほどの数の黒服姿の男たちが様々な獲物を手に集まり始めている。それだけ、ここで行われている研究は重要なのだろう。 だが、黒いスーツ姿にサングラスの男の内の一人が笹島の顔を見て怪訝な表情をする。 「おい……そこの女の一人って、この前、探偵社《ウチ》を襲撃した馬鹿じゃねえか?」 「ん!? どういうことだ?」 「いやだから、そこの女は悲鳴を上げて逃げるようなタマじゃねえんだって!」 「こいつ、また何か企んでるのか?」 口々に黒服の男たちは笹島を罵倒し始める。笹島の化けの皮が完全に剥がれてしまっていた。まあ、元々薄皮饅頭の皮程度の化けの皮だったので、いつ剥がれてもおかしくはなかったのだが。 「どこで何やってたんだよ委員長……」 あまりにも酷い展開を見ながら、完全に蚊帳の外となっている襲撃者役の拍手が頭を抱え一人ごちていた。 「ふっふっふっふっ! バレては仕方ない……」 開き直ったのか、はたまた新たな方向性でアドリブ芝居を続けようとしているのか、笹島は不敵な笑みを浮かべながら、ゆらりと立ち上がる。 「え? それって、完全に悪役だって……」 拍手がとりあえず突っ込む。 「星崎《ほしざき》さんっ!」 笹島が叫ぶと、それに呼応するように被害者女性役のもう一人、美作聖《みまさかひじり》の姿が彼女の横から消失する。星崎が能力を使ったのであろう。彼女とかなり離れたところに星崎真琴《ほしざきまこと》と美作の姿が確認できた。 「さあ、あんた達、有葉千乃《あるはちの》さんを今すぐ返しなさい!」 問答無用で居丈高に黒服の男たちに人差し指をビシリと突きつける。 『はぁ~?』 黒服の男たちが一斉に素っ頓狂な声をあげる。そのことからして、身に覚えがないのは明らかだった。 「しらばっくれても無駄よ。拉致した有葉さんを返しなさいっ!」 彼女は自信満々に断言する。そんな場違いな子を見て、可哀想と思ったのか、黒服の内の一人が優しく笹島に声を掛ける。 「だから、お嬢ちゃん。ここにそんな子はいねえよ。アンタは知らないかもしれないが、ここは真っ当な研究施設なんだ。拉致なんてするわけがねえだろ……って、あれ? このやり取り、前も言ってなかったか?」 だが、そんなことを聞くはずもない。というよりも、笹島としては、ここで引き下がるワケにはいかなかった。もう一つの目的があったからだ。 「なるほど、どこまでも白を切る気ね。なら、実力行使をするまでよっ! 拍手くん、戦《や》う《る》わよ!!」 「うええぇぇ!?」 そして、匙《さじ》は投げられた。 拍手は全てを悟り、解脱した表情でつぶやく。 「もう、どーにでもなーれ!」 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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ラノで読む Xーlink 3話 Apart 【LORD OF THE SPEED / 前座男と二台のバイク】 「ねえねえ、出来た? 新しい『ダブル』」 「ええ、もう性能はあなたの注文通りに、調整もとっくに済んでいますよ。しかし、また天地《あまち》奏《かなで》ですか?」 黒いスーツに身を包んだ男が白衣の男に話しかける。スーツの男の方は顔だけ見ればかなりの童顔だが、年の頃ならおそらく三十代後半といったところ。年齢にそぐわない口調が不気味だ。白衣の男は二十歳前後にみえる白人で、奇麗なブロンドと整った顔立ちが特徴的でハリウッド俳優としても通じそうな見た目をしている。 大小問わず並んだ様々な機器や設備はどれも最新鋭で、どの研究所や大学にも劣らないものだったが、それらとはっきりと違うのは、この部屋には男二人しかいないという事だった。 「そうそう、そりゃもちろんだよ。他に僕が何に使うっていうのさ?」 「せっかくの『ダブル』を一個人のために使うっていうのはね」 白衣の男は溜息をつく、彼には相手の執着が理解できない。 「何言ってるのさ。この設備を整えたのは誰なのかな。それに、アールイクスの事も気にならない?」 「正直、もうアールイクスに興味はありませんね。あれはただの試作機ですよ。 でも、それぞれがやりたい事をやるっていうのがこの組織の基本ですからね。あなたのやる事に異議はありません」 「じゃあ、いいじゃないか。心配しなくてもちゃ〜んと『ダブル』も然るべきところに売ってあげるから。ていうか。もういくつか売ってるから」 「私は金に興味は有りませんが。ああ、わかっているとは思いますが、例によって行動パターンなどは私のほうでは何もしていませんから」 「了解。さあ、今度の嫌がらせはすっごいぞ〜」 跳ねるような口調でスーツの男は部屋を出て行く。いい年をした中年のそのような姿ははっきり言って気持ちが悪かったが、自分たちが持ちつ持たれつな事は確かなのでそれは言わない事にした。 スーツの男と入れ替えで、今度はジーパンにシャツといったラフな格好の男が部屋に入ってきた。外見では二十代後半くらいに見えるが全身から放たれる妖しい雰囲気はとても二十代のものとは思えない。 「おや、今度はあなたですか。ご用件は?」 「大した事じゃないさ。組織名の事についてなんだけど」 「その件ですか。そういえばもうそんな季節なんですね。で、今度は何にするんですか?」 まるで、二人とも明日の予定を話し合うかのような調子である。 「|悪意の幽霊《ブラック・ゴースト》にしようと思うんだけど、どうかな?」 「今度はサイボーグ009ですか? 私に異存なんてありませんよ、所詮便宜上のものですしね」 「そう? じゃあそのように。ところで、彼は何? また天地奏かな?」 「ええ、新しい『ダブル』をね。今度は二体使うとか」 「全く彼にも困ったものだな。素材にするラルヴァの調達も大変なのに。まあ、天地奏の父親には相当手を焼かされたからな」 「さすがは『万魔殿《パンデモニウム》』を生き残った男ですよ。彼には前の研究所を使用不能なまでに破壊されましたから」 思わず溜息が漏れる、そのおかげでしばらく研究がストップした事とデータの喪失は大きな痛手だった。 「そういえば、君にも双葉学園に知り合いがいるんじゃないのか? しかも彼女、最近天地奏に接近しているようじゃないか」 「ええ、でも大した問題じゃありませんよ。所詮、博夢《ひろむ》は出来損ないです」 「ほう、手厳しいな。我々凡人からすればその頭脳は素晴らしいものに見えるのだが」 「ラルヴァのあなたがその言い回しをするのはどうなんでしょうね。……まあ、博夢は天啓を受けられない、一人では何も生み出せない女でしかありませんよ」 白衣の男は口をゆがめ、笑みを浮かべた。 ** 世の中には、どうにもソリが合わない、折り合いが悪い人間というものがいるものだ。別にお互い嫌い合っているわけではない、それどころか相手の事すらよく知らない程度の仲なのに不思議と巡り会わせがよろしくない人間というものが。 天地《あまち》奏《かなで》と西院《さい》茜燦《せんざ》がそうだった。 初めての接触は、事もあろうにトイレだった。奏のクラスの二−A、茜燦のクラスは二−D。必然的に同じフロアのトイレを使う事になる。その時、茜燦は奏より一歩早くトイレに入った。運悪く、茜燦が前に立った小便器が最後の一つで他は全部埋まっている。 茜燦はバツの悪い顔をして振り返る。奏と目が合う。だが奏としてもどうしようもない。誰が悪いともいえないし、膀胱が激しく自己主張している今、騒ぐ気もなかった。 二人はどちらともなく、黙って会釈をするより他に無いのであった。 ちなみに、奏はしょうがないから空いていた大便器で小用を足したわけだが、その開放感と共に自然と口から漏れた史上最低の替え猥歌『ぼく、デカマラえもん』を聞いて吹き出した茜燦は少し狙いを外してしまう。最悪でもないがあまりよろしいとはいえないファーストコンタクトだった。 次に二人が接触したのは購買部。昼休みの事だった。このマンモス学園では、購買部の役割は大きい。殆どの生徒が親元を離れて寮住まいのために、弁当を自分で作っている律儀な生徒以外はその胃袋を購買部で満たさなければならないからだ。したがって、昼の購買はいつでも戦争状態である。 奏と茜燦、二人の男の手が同時に最後のカツサンドにのびる。飢えた男二人、それを譲る筈も無い。 「このカツサンド、俺の方が早く手を出したと思うんだが」 茜燦の目が剣呑に輝く。幼少の頃より実戦を経験してきた男の目には並の男なら即座に引く程の凄みがあった。 「いいや、俺だ。誰がなんと言おうと絶対にこの俺様だ! 俺の方が美形だからな!」 だが奏も一歩も引かない、この男には相手の表情を恐ろしいと思うような感性ははじめから存在しないのだ。 「いや、わけわかんねーよ! お前の顔なんざ知るか! とにかくカツサンドは俺のものだからな」 「ふざけんな! カツサンド食えなかったら渚《なぎさ》の学校での楽しみが無くなっちまうだろ! どうすんだまた渚が不登校になったら!」 「誰だよ渚って!? 知らねーよ!」 「朋也《ともや》君酷いです! いいからそのカツサンドをこの天才様に寄越せ!」 「いやだね!」 一つのサンドイッチを前にそれに恋焦がれる男が二人。 争うのは必然であった。このような出会い方でなければ、二人はあるいは親友となれたかもしれない。だが残酷な運命はそれを許さない。カツサンドを前にして二人に譲歩の二文字はない。茜燦の顔はさらに険しくなり、その形相はまさに鬼。奏は低いうなり声をあげる、その声はまさに虎。 まさに一触即発、見敵必殺《サーチ・アンド・デストロイ》、悪即斬。命有る限り戦い、そして壮絶に散る。生き残る男はただ一人、願いを叶えられるのはただ一人!カツサンドにありつける男はただ一人!! 「あれ、まだカツサンド残ってるじゃん、ラッキー! オバちゃん、カツサンドくださいな〜」 「はい、二百円ね。まいどあり」 この道十年余のパートのおばちゃん・西川《にしかわ》清子《きよこ》(四十六)はベテランの匠の技、淀みない動作でカツサンドを袋に入れると、硬貨を受け取り、商品を手渡す。 「いや〜、今日はついてるかも。あれ、あまち〜じゃん。どしたの? 変な唸り声出して。まあ、あまち〜が変なのはいつもの事だけどね。あははははは」 最後のカツサンドをゲットし、意気揚々と引き上げたのは醒徒会書記・加賀杜《かがもり》紫穏《しおん》であった。 残された男二人に出来る事などありはしない。 「「フン!!」」 息もぴったりにお互いにガンを飛ばし合うと、二人は踵を返したのであった。 二回目の接触は(おそらく)、最悪のものだった。 ** 土曜日の朝、双葉学園二輪演習場。学園の敷地のほど近くにあり、ごくごく小規模ながらもサーキットとダートコースが備えられたここでは、日夜、生徒達が二輪の演習に励んでいる。秋晴れの十月中旬、演習場には天地奏と喜多川《きたがわ》博夢《ひろむ》以下、数名の喜多川研の生徒が来ていた。奏は突っ立っているだけだが、喜多川研の学生達はピットの脇にテントを設営し、様々な機器のセッティングに追われている。 「こんな所に、こんなコースがあるなんて知らなかったぞ」 「ああ、ラルヴァ戦のために各地に派遣されると未舗装路を行く事が多いからね。バイクを使えれば便利なんだ。だから学園でもこういう場所を作って生徒に二輪の練習を推奨してるってわけさ。一応高校生でも免許は取れるからね」 奏に説明したのは喜多川研の三年生、椿《つばき》幻司郎《げんしろう》である。高校生どころかときどき中学生にも見間違えられる中性的な童顔といつも左手にしている手袋が特徴の男である。 「そうなのか。で、なんでこの俺様が土曜日の朝からこんなところに来させられたんだ?」 朝の弱さに定評のある奏は機嫌が悪い。もともと彼は土曜日は寝るかデートをする日、と決めているのだ。もっとも、デートに休日を使ったことはないのだが。 「それは私から説明しようか」 ピットのシャッターが開き、その中から喜多川博夢が現れる。サーキットに来てもその出で立ちはいつも通りのシャツ、タイトスカート、それに白衣という場ににつかわしくないものだった。 「おお、博夢ちゃん。今日もご機嫌麗しゅう」 「麗しくはない、サーキットは火気厳禁で……。いや、まあそれよくないが、いい。今日、君に来てもらったのは、コイツのテストをしてもらうためだ。八十神《やそがみ》、いいぞ」 喜多川の言葉に応じて、椿と同じく喜多川研の学生である八十神《やそがみ》九十九《つくも》がピットからバイクを転がして現れる。彼が押している白いバイクは大型の、おそらくオンロードタイプと思われるものだった。 「天地君には、今日、このバイクでサーキットを走ってもらう」 「はあ? 俺はバイクの免許なんて持ってないぞ」 「構わないよ、ここは学園の私有地だからね」 「ああ、そうなのか」 奏は得心し、うなずいてみせた。 それで納得が行く訳が無いのは喜多川研の学生達だ。口々に「何を考えてるんですか先生」だの「素人にこんな大型バイクなんて無茶だ」だの「死ぬからやめてください」だのと言い募る。 だが、そんな事を気にする彼女ではない。「問題無い」の一言で学生の意見を切って捨てると、学生達に西院び指示を出し始めた。実際の所、喜多川にはなんの裏付けも根拠も無いが、奏の過去が喜多川の推測通りならその程度の訓練は受けているだろうという勘があった。 数十分後、ライダースーツに着替えた奏は喜多川が用意したホワイトカラーのHONDA CBR1300XX スーパーブラックバード2というバイクにまたがっていた。数年前に発売された時、HONDAはおかしくなったんじゃないかと言われた、公道を走るには最早無駄なレベルの無闇な排気量とスピードを持つこのバイクは喜多川とその協力者によってチューニングされ、もはや得体の知れないモノに仕上がっている。 「おいおい、マジで乗る気なのかよ、奏」 意気揚々とバイクのエンジンをスタートさせた奏に九十九が話しかける。天地奏という男が正気ではない事を彼も短い付き合いの中でも十分に知っていたが、それにしたってこれはおかしい。125cc程度ならばともかくとして、国内では扱い辛すぎてまともに売れず、最高速の記録が欲しかっただけとまで言われたこのバイクの、しかもチューンモデルを素人が乗るなど考えられない。一つ間違えれば死、だ。 「ははははは!心配性だな、この天才様に出来ない事などないだろう。どきたまえ。ひとっ走りしてくるから」 いつも通りの根拠の無い自信を見せると奏はアクセルを捻り、その車体を発進させる。耳をつんざくような、凄まじいエンジン音をたてて奏の姿はあっという間に小さくなって行った。 「先生、やっぱりまずいですよコレ。案の定、最初は様子見でとかしやがらねえしあのバカ」 九十九は喜多川に言い募る。 「いや、やはり天地君はバイクに乗った事があるようだね」 「え?」 「考えてもみろ、この場で誰か彼にバイクのスタートの仕方を教えたか? ギアチェンジの仕方は? 何一つ教えていない。なのに彼はそれができている」 「ああ、言われてみれば確かに。先生はこの事がわかっていたんですか?」 「まあ、なんとなくね」 ひとまず自分の予測が正しかった事に安堵して喜多川はポケットからあるものを取り出そうとして、やめた。思わず眉間に皺がよる。足りない。『アレ』が決定的に足りない。 「はあ、さすがというかなんというか、うちの先生の考えている事はよくわからんな」 奏がスタートしてから数分後、ピット前の特設テントでは九十九と椿が走行データとにらみ合っていた。 「さすがといえば天地君もなかなか凄いよ。あのモンスターを上手い事操ってるね。あれを乗りこなせるとは思わなかった」 データを見ながら椿は嘆息する。奏の運転はかなり荒削りだが、それでも1300ccのモンスターマシンを乗りこなしている事は確かだ。 「確かに、な。荒削りだがライディングの基礎はきっちりしてやがる。才能だのアホなガキが無免許のバイク遊びで身につけただのってもんじゃない。どっかで訓練でも受けたに違いないな。ますます得体のしれない野郎だぜ。本当に何者なんだあの自称天才様はよ」 「さあ? 詮索するとただでさえ機嫌の悪いセンセーの気分がさらに悪くなっちゃうよ。僕も彼を『観ちゃいけない』って言われてるからさ」 「そうだ、そういやなんでうちの女王様の機嫌が悪いんだ今日は。いつにもましてぶっきらぼうというか」 「ああ、サーキットは火気厳禁だからね。ニコチンが足りないんじゃない?」 椿の言う通り、ヘビースモーカーである喜多川博夢の機嫌の悪さはそこに理由があった。 ** 『なあ、いったいいつまでこれを続けるんだ? 飽きたんだが、というか腹が減ったんだが』 「これでは物足りないと?」 「当然だろう、この天才様にこんな反復演習なぞ無意味だ」 テストが始まって約二時間、数度の休憩を挟みながら、奏はひたすらにサーキットを走り続けていた。元来飽きっぽさには定評のある奏はスピードにもすっかり慣れている。完全にだらけてインカムに向かって思わず不満をこぼす。 奏に対しての喜多川博夢の返答は『笑み』だった。インカム越しの会話なのでもちろん奏には喜多川の笑みが見える筈も無い。だがそれを見た喜多川研の学生達は総毛立つ。彼女がこのような笑みを浮かべた時はロクな事がない事を彼らは経験から知っている。 そして学生達の予感は見事に的中する。 ピットに面したホームストレートの向こうの黒い影を最初に発見したのは九十九だった。慌てて目をこらすと、それは凄まじい速さで接近してくる。間違いない、バイクだ。 「先生、今日ってうちらの貸し切りじゃないんですか?」 「そうだが」 「じゃあなんですか、アレ?」 「ああ、あれもテスト予定のうちだ」 八十神九十九は思わず頭を抱えた。なんとなくそんな予感はしていたが、やはり目の前の女(年下である)には時々ついて行けないと思う。 現れた黒いバイクは奏の白いバイクを猛追し、そしてあっという間に並んでみせた。 『おい、なんだこの黒いの!』 「ただ走る事には飽きただろう? だから、次のテストだよ。その黒いバイクとレースしてみなさい」 インカム越しに奏に対して喜多川は涼しい顔で言ってのける。 「いやいや、先生、無茶ですって!」 『レースか! 燃えてくるシチュエーションだな!』 「うわ、ノリノリだしこの人」 案の定という感じだったが、それでも喜多川研の学生達は驚くより他無い。 奏は横を走る自分と同じバイクのブラックカラーを一瞥すると、唇を少し舐め、アクセルを吹かす。 そしてデッドヒートが始まった。 「いやぁ、喜多川先生、ごきげんよろしゅう」 「喜多川先生、こんにちは」 黒と白の同型機によるレースが始まると同時にテントに現れたのは双子の姉妹だった。見た目はそっくりだが、一人はハイテンションで笑顔を振りまいているのに対して、もう一人は初対面の人間達に囲まれて落ち着かないようだ。 「すまないね。今日は協力していただいて。鵡亥《むい》未来来《みらく》君、明日明《あすあ》君」 「いえ、おやすい御用です。この程度でうちのパラスのオーバーホール手伝ってもらえるなんてむしろこっちが申し訳ないくらいで」 「そうそう、兄ちゃん女王蜘蛛の時はパラスに相当無茶させよったからな。センザ兄ちゃんもちょっと鍛え直した方がええって事で」 そう、奏と今競い合っているのは西院茜燦だった。お互いに相手はわかっていないが、これが三回目のコンタクトとなる。 茜燦の持つモンスターマシン、パラス・グラウクスにオーバーホールが必要になったのがそもそもの始まりだった。茜燦は女王蜘蛛の一件の際、パラスで山道を踏破し、壁を破るという無茶をやらかした。さしものモンスターマシンもここまでの無茶をしてただで済むわけもない。徹底的なオーバーホールが必要になったわけだが、普段パラスのメンテナンスをしている鵡亥姉妹は困り果てた。彼女達は超科学系異能を持つ秀才だったが、この全長四メートルを誇るモンスターマシンを二人でオーバーホールするには設備も人手も時間も足りない。そこで、支援を依頼すべく、喜多川研に赴いた。 喜多川としてもこれは渡りに船だった。天地奏の専用マシンを作成する為には、まず彼にバイクの特訓を課す事は必須だったが、彼女にはそれに付き合ってもらう適当なドライバーの知り合いがいなかった。そこに現れたのが鵡亥姉妹である。喜多川と姉妹は見事に利害の一致をみた。 「くくくく……」 「うふふふふ‥‥」 「あはははは……」 女科学者達は顔を寄せて笑い合う。その光景は一見すると、美女と美少女達の和やかな会話のように見えたが、その実まわりにいた学生達は何故か寒気を覚えた。 ** 「で、結局先週の土曜は一日中サーキットを走り回っていたわけだ」 「ああ、明《・》ら《・》か《・》に《・》俺様の方が実力は上だったのに、向こうがなかなか諦めなくてな。誰か判らずじまいだったが、今度あったら絶対……」 (コイツもしかすると負けたな) サーキットでのテストから二日後の月曜日の第二限、音羽《おとわ》繋《つなぐ》と天地奏は学園のグラウンドにいた。今は体育の時間、今日の二—Aの体育(男子)は二—Dとのソフトボールの試合となっている 「そういやさ、アンタソフトボールやった事あんの?」 「知らん! だが俺はやるぞ!」 鼻を鳴らして大きな声で元気よく無知をアピールする人間はそうそういない。根拠の無い自信はいつも通りだった。 「では、ここで一曲!」 颯爽と、どこに仕込んだのやら、体操着の中からフルートを取り出すと演奏を始める。音楽に造詣の深くない繋だったがその曲はよく知っていた。 「フルートで六甲おろしはやめなさい!」 グラウンドに妙なアレンジの『六甲おろし』が流れてから数分後、ピッチャーマウンドには西院茜燦、そしてバッターボックスには天地奏が立っていた。茜燦は先発ピッチャー、奏は一番バッターである。 「顔が良い順に打つべき。そして俺はこのクラスで一番カッコイイわけだから当然俺が一番というわけだ」 意味不明な超理論を展開すると奏は意気揚々とバットを振り回し、打席に向かう。もっとも、奏以外には誰も月曜の二限からソフトボールに血道をあげる人間などおらず、気になるあの子に良い所を見せたい。などという健全思春期少年以外は基本的にやる気が無い為に、一番バッター=天地奏はこれといった反対もなく通った。盛り上がっているのは見学の女子だけである。 奏が打席に立つと、二—Aの女子と反対側に陣取っている二—Dの女子達は黄色い声を上げた。 「天地さん、人気があるんですねえ」 繋の横に座る水分《みくまり》理緒《りお》は感心したような声を漏らす。それはそうだろう。奏を良く知る二—Aの女子は誰も奏に黄色い声をかける者はいない。それどころか敵チームのピッチャー、西院茜燦に声援を送っているものまでいた。 「ああ、まあ噂は聞いてるだろうけど、他のクラスの人はアイツについて今イチ良く知らないだろうから」 「ちょっと酷いけどそうかもしれませんね」 「そういやさ、D組のピッチャーの人誰? ちょっと格好良くない?」 「ああ、彼ですか? 彼は西院茜燦さんですよ」 「何、前座?」 「お約束ですね〜。前座じゃありません茜燦です。彼のバイクはちょっと凄いんですよ」 「はあ。バイクねえ」 バイクと聞いて繋は先ほど聞いた奏のバイク練習の話を思い出した。そこで奏が競った相手が今、話題に挙っている西院茜燦である事は彼女には知る由もなかったが。 ピッチャーマウンドの西院茜燦は得体の知れない何かを違和感を覚えていた。その原因は他の誰でもない、今彼の数十メートル前のバッターボックスでバットを構える男、天地奏であった。茜燦も噂で耳にしたとびきりイカレタ転校生。 奏の構えは誰の目にもメチャクチャだった。そもそもバットの握りがおかしい。左手が上にきている。それに足を殆ど開いてない上に棒立ちだ。あれではバットがボールを捉えてもまともに飛ばす事はできないだろう。 ここまで見る分にはただのド素人だ、恐るるに足らない。だが問題は奏の妙な自信とそして無駄な気迫にある。先日の購買部での一件で茜燦は奏がただ者ではないであろう事を理解していた。もし、身体強化系の異能者だったら、厄介だ。あんなクソフォームでも場外に飛ばしてしまうかもしれない。かくいう茜燦自身も身体強化異能を持っていたが、このような状況では異能は発動しない。発動には条件があるのだ。 「おい、なんのつもりだ、お前?」 茜燦の声が低くなる。その原因は奏がバットをバックスタンドに向けているためだ。紛う事無く、それは予告ホームランのサイン。 「おや、見て判らないか? カツサンド泥棒君。これは予告ホームランというものだよ」 にへらにへらと笑いながら答える奏。それは最高にむかつく笑顔だった。 「見れば判るぞその位! 大体俺はカツサンド泥棒じゃない! あの時カツサンドを買ったのは醒徒会だろ」 「そういえば、そうだったな。では名を名乗りたまえ! バットの錆にしてやる前に名前くらいは覚えておいてあげようじゃないか」 「どこまでも人の神経を逆撫でする奴だな。いいか、じゃあしっかり聞いとけよ、俺の名前は西院茜燦だ!」 「前座君? だから先発ピッチャーなのかな」 「お約束だが前座じゃねえ! サ・イ・セ・ン・ザだ!」 「では、俺の名前も教えてあげよう前座君! 俺は天と地に俺の音を奏でる、今世紀最高の天才、天地奏だ!」 「知ってるよ……。というか、何度も言わせるな、前座じゃない!」 「はあ、もういいよ。いいから早く投げたまえ前座君。俺の後ろの三十路独身男性体育教師がお怒りだ」 確かに審判を勤める体育教師は怒っているように見える。だがそれは間違いなく奏のせいだ。 前座と間違えられるのは最早お約束、その事でいちいち怒っていたらキリが無い事を茜燦は十分に理解していた。だが、目の前の男に関しては何故か頭に来た。そもそもコイツさえいなければ、自分はあの日カツサンドにありつけたわけだ。あの少し冷めたカツと、濃厚なソースが染みたパンの織りなす完全調和《パーフェクトハーモニー》、その至福を邪魔した男にむざむざ打たれるわけにはいかない。茜燦は球技には拘りがあった。 必ず三球で仕留めてみせる! 裂帛の気迫と共に勢いをつけて思い切り振りかぶり、必殺の気合と共に西院茜燦はソフトボールをキャッチャーミット目がけて放り投げた。 一方の奏も茜燦の気迫に呑まれる事はない。それを迎え撃つ。男同士の意地と意地が今、真正面から激突する。 この勝負の結果がどうなったか。結論から言うと、天地奏は塁に出た。ただし、彼はとても走れる状態ではなかったので塁に出たのは彼の代走の生徒だった。何故このような事になったのかと言えば、実に単純な話で、茜燦の放った白球が奏の頭部に直撃したからである。奏は即タンカで保健室送り。茜燦はそのあまりに見事な危険球でクラスメイトにピッチャーの座を引きずり降ろされた。西院茜燦、双葉学園でも屈指の球技好きは、超ノーコン男でもあった。 ** ソフトボール対決からおよそ一週間後の午後五時過ぎ、奏と繋は喜多川に呼ばれて学園内の車輛整備場に来ていた。普段ここでは学園の備品扱いとなっている車輛の整備や、理工学部が制作する車輛の整備が行われている。 現在、ここには二台のバイクがある。一つは言わずと知れた全長四メートルのモンスターマシン、パラス・グラウクス。そしてもう一台は白をベースとした塗装に金のラインが入っている、アールイクスのような色彩パターンの大型バイクだった。と、いってもパラスに比べると普通のバイクという感じでしかないのだが。それよりも奇妙なのはカウルだった。オンロード車にしてはカウルが少ないし、逆にオフロード車にしては多い。 喜多川研の学生達と鵡亥姉妹、それに喜多川本人も二台のバイクの最終調整に追われていた。奏も整備場に到着して早々、力仕事に駆り出されている。 「喜多川先生、なんですか、このバイク達?」 繋は思い切って喜多川に疑問をぶつけてみた。バイクには詳しくないが、それでもこの異常に大きい黒のバイクと奇妙な白いバイクは気になる。 「黒い方は西院君のバイク、そして白い方は天地君用のバイクだ。いや、というよりもアールイクス用かな?」 「ああ、なんかお約束って感じですね。やっぱり変身とかする人は専用バイクとか持ってなくっちゃ」 そう言っていつの間にか整備場には醒徒会副会長・水分理緒がいた。 「あれ、水分さん? どうしてここに?」 「その辺を散歩していたら、何か賑やかだったんで寄ってみたんです。まずかったですか? 喜多川先生」 「構わないよ。醒徒会に隠し事はしない」 「あら? ルール君が言ってましたよ。喜多川先生は私たちに何かお隠しになっているって」 いつも通りの上品な笑顔を浮かべる理緒だったが、何故か繋は寒気を覚えた。 水分理緒が来てから数分後、今度はパラス・グラウクスの現オーナーである西院茜燦が姿を見せた。勿論目的はオーバーホールを終えたパラスの受け取りであったが、当然のごとく奏は茜燦に食って掛かる。 「テメーはこの間の死球前座男! どの面下げてこの俺様の前に姿を見せやがった!」 「何度でも言うが俺は前座じゃない、センザだ。それに、この間のは悪かったって。謝っただろ?」 「なんや、謝ったのにぐちぐちぐちぐち! タマの小さいニーちゃんやなあ!」 「タマが小さいんじゃない! タマを当てられたんだよ俺は!」 奏と茜燦だけではなく、そこに鵡亥未来来まで加わって、言い争いになっている。さすがに喜多川が止めに入ろうかとした、その時だった。 「先生、ちょっといいですか? PCがネットに通じないんですけど。それに学生証の通信機能のほうも……」 一人の学生が声をあげた。それが最初だった。 「通信ができない? まさか!?」 喜多川は自分の通信機器を取り出して確かめる。どれも使えない。自分だけではなく、まわりの学生達も同様のようだ。間違いない、これは‥‥。 顔をあげた喜多川の前の空間が歪み、そして次の瞬間には二体のラルヴァが現れた。 一体は蜘蛛と猿が組合わさったようなラルヴァ、そしてもう一体は体長二メートルほどの巨大なトンボのように見える。 たちまち周囲は怒号と悲鳴に包まれた。多くの学生は戦闘系の異能を持たない。ラルヴァと交戦経験がない学生が悲鳴をあげるのも無理はない。 「やれやれ、うるせーなあ。殺っちまうか?」 蜘蛛の方が声を出す。 「めんどくせえよ。とっとと目当てのもん拉致ってずらかろうぜ」 「そうだな、えーと、目当ての女はと……おっいたいた」 蜘蛛が目をつけた女、それは繋だった。繋の姿を認めると蜘蛛はその口から糸を吐き出す。吐き出した糸はあっという間に繋の全身を覆い、糸で作った繭のようなもので繋をすっぽりと包み込んだ。 「はいはい、こんなとこかな。あと頼むよ」 「ああ、めんどくせえなあ。重いもん抱えて飛びたくねーよ」 トンボは繋の入った繭をその足で掴むと、飛び去り、それを追って蜘蛛も整備場を凄まじい速さで飛び出して行った。 それはあまりに一瞬の、まるで冗談のような、悪夢のような出来事で、奏も茜燦も、そして理緒も対応できなかった。 「なんなんだ、アレは。ワープでもしてきたっていうのか? いやいやいや、話は後だ。未来来、明日明、パラス使うぞ! 奴等追いかける!」 我に返った茜燦は即座に行動に移る。幼少時より対ラルヴァ戦闘を経験している彼は行動がはやかった。 「すまん兄ちゃん、あと十分は無理や。ここの調整で適当したら走行中にお釈迦になりかねんからなあ」 「なんだと!?」 通信が復旧したのを受けて、まず喜多川は双葉学園管理科に問い合わせて現状を報告すると共に、繋を抱えて逃げて行ったラルヴァの現在位置を聞く。二体のラルヴァは双葉区を本州との連絡橋に向かって北上中。その時速、なんと二百キロメートルオーバー。そんな速度で移動する蜘蛛型ラルヴァもトンボ型ラルヴァも前代未聞である。まず間違いなく『ダブル』だろう。管理科の報告は悲鳴のようだった。もし、ラルヴァが結界の外に出てしまえば、もうその存在を隠匿する事はできない。ある意味では双葉学園そのものにとって非常にマズい事になる。 管理下の報告を受けて、喜多川は各方面に手を打ってみる事にする。まず連絡したのは空戦能力を持つ魔女研。だが、これは無理だった。東京湾上に現れたラルヴァ討伐で魔女研は出払っていて、割ける戦力がない。 「そうだ、水分君、早瀬君は? 彼の速さなら奴等を捕える事もできるはずだが」 「はい、私もそう考えたんですけど、実は早瀬君、昨日からおたふく風邪で学校を休んでいて‥‥」 「うわ〜」 思わず近くの学生が声を上げた。 「おいよせ、天地。お前が走っても追いつけるわけないぞ」 「うるせえ! じゃあ俺に繋を見捨てろって言うのか!? 冗談じゃない! 必ず奴等を捕まえてやる」 「落ち着けって。冷静に考えろよ」 整備場の入り口では九十九と奏が押し問答を繰り広げていた。奏はなんと走ってラルヴァを追いかけようというのだ。結局奏は走って追いかけるという事は断念したが、その無茶さ、そして何よりいつものへらへらした奏とはかけ離れた激昂ぶりが周囲を驚かせる。 「やはり、手段はこれしかないか……」 いくらかの思考の後、喜多川は一つの結論に達する。外部からの支援が無い以上、自分たちでどうにかするより他に無い。 「天地君、西院君、それに水分君、君たちとここの二台のバイクであのラルヴァから音羽君を奪還し、そして奴等が結界の外に出る前に撃破してもらう。急だが手段はこれしかない」 「何言ってるんですか先生! パラスはともかく、AKFの方は無理ですよ。テスト走行もしていない」 学生の一人が喜多川に言い募る。テストをしていない以上、どのようなアクシデントが起きるかわからない。 「だが、それ以外にないんだ。天地君、どうだ?」 「聞くなよそんな事。行くに決まってるだろ」 普段と調子の違う奏に喜多川も違和感を覚えたが、それでも彼の意思を確認すると理緒と茜燦に顔を向けた。 「君たちはどうだ? 恐らく、上手く行ったとしても君たちの魂源力《アツィルト》も体力も限界まで使い切ることになるぞ」 「ああ、構わないぜ。どの道一人でも追いかけるつもりだったしな」 「私も、音羽さんは大事なクラスメイトですから」 茜燦も理緒も喜多川の指示に従う事を了承する。 「わかった、では作戦を説明しよう。音羽君の救出、そして結界から奴等を出さない、この二つを両立させなければならない」 三人は喜多川の説明に耳を傾ける。 ** 「とんでもない作戦ですよね。無茶にも程がありますよ」 パラス・グラウクスのサイドカーの中で理緒は口を開いた。現在、奏はアールイクスに変身し、バイクにまたがり、茜燦もパラスのコクピットに収まり、理緒はサイドカーの中でそれぞれ出撃を待っていた。 「そうか? ワンオフを仕留めた副会長さんのお言葉とは思えないな」 「そういえば、あの時もこのサイドカーに乗りましたね。……あら、天地さん? どうされました?」 理緒は奏=アールイクスがパラスの脇に立っていた事に気がつく。 「何してるんだ? そろそろ出撃だぞ」 「出撃する前に言っておきたい事があるんだ」 「何でしょう?」 「俺は何が有っても彼女を助けたいんだ。頼むぞ、水分理緒、それに西院茜燦」 それだけ言うと、奏は軽く頭を下げて、自らのバイクのほうに戻って行った。アールイクスに変身しているために、その表情は全く読めない。 「俺の名前はセンザだ。ていうか、なんだアイツ、いきなり……。」 「あら、言ってましたよちゃんと、西院茜燦って」 「思わず訂正したけど、そういえば……。全く、よくわかんない奴だぜ全く」 「ああ見えて結構優しい人なんですよ。天地さんは」 「まあいいか。ああいう風に言われたらきっちりやらなきゃ男じゃないよな」 茜燦は気合を入れ直し、ヘルメットを被った。 バイクに戻った奏に喜多川が近づいてきた。 「どうしたんだ? まだ何か?」 「大した用じゃないんだけどな。君に決めてもらいたいものがある」 「何をだ?」 「ああ、名前だよ、このバイクのな。一応AKF—01ていうコードネームはあるんだが、名前を君に決めて欲しい」 「良いだろう。そうだな……『イクスターミネーター』だ。必ず奴等を追いつめて、そして仕留める。ターミネーターがぴったりだろう」 「わかった。ではあと一分もしたら出撃だ。ぬかるなよ」 「ああ……絶対にな」 アールイクスは力強く頷いた。 そしてそれから一分後、陽が落ちかけた双葉区に白と黒、二台の超バイクが凄まじい轟音をたてて、飛び出した。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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ラノで読む 一言で説明すると、家が燃えた。 正しくは家ではない。寮である。寮の部屋である。 豪華とは決して言えず、普通の規模でもない貧乏生徒用の小さな寮。 寮というか、むしろ格安賃貸アパートと言ったほうがしっくりくる風情。 そこに巨大なビーム砲が飛んできた。 異能者の戦闘に巻き込まれたのだ。 あやうく巻き込まれて死ぬところだったが、咄嗟に防ぐことが出来てかろうじて命は助かった。 だが、部屋はものの見事に全壊した。 曰く、「まさか人がいるとは思わなかった、人の気配がないから安心していた」 こうして。 逢馬空は住む場所を失った。 金色蜘蛛と逢魔の空 4 家なき蜘蛛 「マジかよ」 「嘘を言って何になる」 「ウケ狙い? そうかウケ狙いなんだなこの野郎! 家が吹っ飛ぶなんてとんだギャグだろ!」 「身を張りすぎだろうそれは。お前じゃあるまいし」 教室でその話を聞き、大げさに驚くのは川内朝飛《せんだいあさひ》。 ニット帽がトレードマークの少年である。そのニット帽の下は、スキンヘッドだ。 実は昔は――といっても数ヶ月前程度だが――は普通の髪型だった。朝飛がスキンヘッドにした理由は、クラスで浮いてる(?)空をどうにかしようとしたためである。 朝飛は頭を丸めて、こう言ったのだ。 『お前は影が薄いことを気にしているようだが安心しろ! 俺は髪が薄い!』 薄いというか、完全無欠につるつるであった。薄いというレベルではなかった。 対する空の返答。 『もみあげは濃いね』 真顔だった。 かくして一発ギャグは見事に滑ったが、それ以来二人は(何故か)友人となる。 ちなみに、その時に朝飛はスキンヘッドに目覚め、以来ずっとそれを通している。その理由は、「丸めた自分の頭がこんなに美しい球形だとは思わなかった……! う、うつくしい!」との事だ。 スキンヘッドにはけっこう頭の肌が凸凹している人も多いが、自分は稀有なつるっつるであり、これはそのままにしておいたほうがいい……という、理解も共感も出来ない話ではあった。 なお、ニット帽でよく隠しているのは、恥ずかしいからではないらしい。 『日本刀は常に鞘から抜いているか!? 違うだろう!』 とのことである。 閑話休題。 そう話していると、委員長である秋森有紀と、そしてもうひとり女生徒がやってくる。 シャギーが入ったボブカットの気の強そうな女の子。 名前は谷山彰子。朝飛の幼馴染である。 「なにアホ言ってんのよ朝っぱらからアンタは本当に……」 「いや、いつもの事じゃない」 「だぁー委員長! それは俺がいつもアホって事かぁ!?」 「そう言ってのよアホ」 「るっせー彰子、おみゃーさんには聞いてねー」 「何よ! このハゲモンキー!」 「何だと! このメスマンドリル!」 お互いにらみ合う朝飛と彰子。 火花を散らすが、浅羽鍔姫がその光景に静かに口を挟む。 「あの、ちょっといい?」 「なによつばきち!?」「何だよ浅羽!?」 「踏んでる」 「「へ?」」 「……」 足元を見る二人。 そこには、気づかれずに踏み潰されて床を舐めている逢馬空の姿があった。 潰れたカエルのようだった。 「わーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」 青空に木霊する叫び。 いつもの光景であった。 「ごめんっ」 「いやいいよ、いつもの事だし」 彰子の謝罪に平然と答える空。本当に馴れたものである。 「相っ変わらず影薄いよね……」 「それにすんなり気づくお前さまの眼力も中々のモノじゃないですか浅羽さん。アレっスか、愛っスかげぶっ!?」 おどけたせりふを全部言う前に、無言の鍔姫に定規で顔面を叩かれ、斃れる朝飛。 定規というものは存外、強力な武器である。そのしなりは実にしなやかであり、平面で叩けば痛みはかなりのもの。縦にして叩けば打撃も実に覿面である。かくして、朝飛は床に沈んだ。 「あら、気づかなかった」 そしてわざとらしく彰子が言い、踏んだ。 「ふんがっ!」 川内朝飛、ここに沈黙。 「? どうかした?」 「いや何も?」 平然と答える鍔姫だった。 「そういえばさ」 鍔姫が思い出したふうに言う。 「私あったことないけど、お姉さん、たしかいたんだよね」 「……ああ」 少し置いて、空が答える。 「え、まじ美人?」 朝飛が復活した。 「どうだろうね」 「がー! その反応は超美少女でしかも姉のくせにちっちゃくてロリな年下っぽいそんないいかげんロリキャラぱかりはどうよ? という風潮に真正面から対抗するようなそんなお姉ちゃんを慕ってるシスコンだから他の男にはみせられませんとかそんな友達甲斐のない男だとは思わなかったぞ! そして俺はそんなお前を説得してそのお姉ちゃんと出会い出会ったが最後恋に落ちてしまいだがそこに待ち構えていた新たなるヒロインが――」 「会ったこともない友人の肉親相手にそこまで妄想膨らませるなっ!」 彰子の回し蹴りが炸裂する。 「そばっ!?」 また吹っ飛んだ。 「ったく……」 「相変わらずバイオレンスだな」 「どうしてうちのクラスはそういうの多いかなぁ」 「そうよねー。もう少し大人しくてもいいと思うけど」 有紀の言葉に、鍔姫も同意する。 「出会い頭に殴り飛ばされたあのバイオレンスを僕は忘れてないが」 「忘れろ。」 「はい」 素直に頷く空。 空気が読めなくても、自分の生命の危機を感じるぐらいは出来た。 「あのアホが悪いのよ」 頬を膨らませる彰子。 「保護者、ってワケ? 彰子も大変よね、幼馴染があんなので」 「幼馴染っつーか腐れ縁よ。好きで面倒みてるわけじゃないし、ただ目の前でいちいちウザいから」 「それでいちいちボコられる身になれっつーのこのメスゴリラがあ!」 復活した。 「だったら自重しなさいってのこのハゲモンキー」 「まあアレはおいといて、話戻すけど」 鍔姫が二人を視界から外して言う。 「じゃあそこに行けばいいんじゃないの? 頼るべきは肉親でしょ」 私と違って、とは口に出さずに鍔姫は言う。 だが空は、 「いや、それは駄目だよ」 と否定した。 「なんで。お姉さん女子寮とか?」 「ああ、そんなかんじかな、教会だし」 「ふぅん」 たしかにそういう話なら仕方ない、と鍔姫は納得する。 なんとなくなイメージだが、厳格そうな雰囲気とかがありそうだ。 「じゃあどうすんのよ、これから。住むところないままなんでしょ」 「そうなんだよなあ」 考え込む。 たしかにこれでは不便極まりない話だ。 そうして思案していると…… 「じゃあ私の家に住む?」 秋森のその言葉に全員が盛大にこけた。 「な、名なななな、なななななななななに言ってんの有紀ぃっ!?」 「なら委員長、俺もごぶっ!?」 彰子の肘鉄が朝飛の鳩尾に炸裂する。 そのまま朝飛は廊下の向こうに消えた。 「ちょっと有紀、それ流石に駄目よ!」 「そうよ、間違いあったらどうすんの!」 彰子と鍔姫が並んで声を荒げる。 「間違いって……もうやだなあ。友達が困ってるんだよ? 助けるのは特別なことじゃないと思うよ」 「特別じゃなくて異常だそれっ!」 ごもっともであった。 放課後。 「まあ、消去法だよなァ」 朝飛が笑う。 空は、男子量の、朝飛の部屋にいた。 新しい住処が見つかるまで、暫定的な処置として朝飛の部屋に住むことにしたのだ。 「ところでよ、新しい寮の申請書は出したんけ? お前よ」 「うん、出したけど」 「けど?」 「スルーされた」 「どんだけだよっ!?」 見事な影の薄さだった。 「ていうか本人どころか、書類上でも無視されるんかいお前はよ……」 「僕もびっくりだ」 「ありえねー影の薄さだな……お前はあれか、ぬらりひょんか何かか」 「それはないな。でかい顔できないから」 「いや、お前の空気読まねー姿はある意味ぬらりひょんみてーに大物だよ」 「僕がそうならこんな事で悩まずにすんだんだろうけど」 「だなぁ。住むばしょねーのアレだしなあ。ずっと俺の部屋ってわけにもいかねーし」 「困ったな」 「お前が困った姿ってあまり想像できねー」 「今困ってる」 「ふつーのツラで言うな」 どこまでも動じない男だった。 そうこうしていると…… 「げっ! やべ、寮監が来た!」 「なぜ判る」 「音!」 地獄耳である。 「まずいな」 「とにかく隠れ……」 言葉が終わる前にドアが開く。 「何がやばいって?」 そこから現れたのは筋骨隆々のジャージ男だった。 「ゲェェーッ! ていうか鍵かけてたのになんであっさりと開くのよっ!?」 「寮監だからだ!」 「説得力ありすぎる無茶なお言葉御拝領いたしましたーっ!!」 がし、と首根っこを掴まれる。 朝飛はそれでも、悲痛な決意を込めて叫んだ。 「逃げろ、空っ! 俺の事はいい、俺の帰る場所はここだがお前にはない、だが逆を言えば、お前は何処にでもいけるんだ…… さあ、俺を気にするな、遥か彼方へと旅立つのだー!!」 そして目を開いたそこには、 誰もいなかった。 「……って微塵の躊躇なく逃げやがったー!?」 窓の向こう。 すでに空の姿は豆粒のように遠くに在った。 「ちくしょー裏切り者ー! そこは「いや、お前を……友を見捨てて逃げることは出来ない」とキメるとこでしょー! はくじょうものー!」 「いやだって逃げろといわれたしなあ」 『全くだ兄弟』 もう朝飛に声はとどかないだろうが、つぶやきながら全力で走る。 「シェ――――――ン! カムバァァァ――――――――ック!!」 その言葉を最後に、朝飛の姿は扉の向こうに消え―― 扉の閉まる音が、無情に響いた。 「アッ――――――――――――!!」 寮から走り去り、街中を歩く。 『しかしどうすんだ? もう他の奴らんとこも寮は無理っぽいだろ』 ゴルトが言う。 「大丈夫だ」 空は言った。 「心当たりがある」 「なるほどそういう事か、なら安心してくれ、なに兄者の窮地は己の窮地でもある、力を貸さない理由などない。自分の家と思ってくつろいでくれ!」 朗らかな笑顔で言う鋭斗。 『ダンボールハウスじゃねぇーか!』 そう、そこは公園。 ホームレスの溜まり場だった。 「ぬ? どうした蜘蛛の兄者。ダンボールはいいぞ、暖かい。それにいざとなったら非常食にもなる」 『ならねぇよ! ていうかどんだけひもじい生活してんだてめーは!』 「兄者たちと約束したからな、もう己は人の食べ物を狩ったりしないと」 鋭斗はその約束を守っているようだ。 「だからここ三日ほとんど何も食ってない!」 『いや食えよ!?』 「秋森は? 弁当作るとか言ってたが……」 「ああ、断った!」 『妥協は悪じゃねぇ! お前はもう少し自分に優しくしろよ!』 とことんまで剛直な狼少年であった。 「悪魔である蜘蛛の兄者の台詞とは思えない。世界は何処までも残酷で苛烈だ、だからこそ戦い甲斐があるんじゃないか」 『もうやだこの猛犬!』 ゴルトシュピーネが嘆いた。 「安心しろ、兄者たちにはちゃんと食事を用意する。 最近ここらを荒らしてるラルヴァがいるらしい、そいつをちょっと狩って兄者たちの胃袋に捧げてくれよう」 『何食わせる気だよてめぇ! 兄弟も何か言え!』 「僕は生肉は食べられないけど」 「大丈夫だ、新鮮な生肉は美味いぞ!」 「ならいいかな」 『よくねぇし論点がちげぇよ!』 もっともだった。 「というかどんなラルヴァなんだ?」 「ああ、野良の獣や野鳥を襲ったり生ゴミを漁ったりする、巨大なムカデらしいぞ」 『てめぇーはオレらに虫食わせる気だったんかいっ!?』 「虫を食べる風習は古くから世界各地にある!」 『そういういらねぇ所だけ物知りだなてめぇ!』 「鋭斗、流石に共食いはちょっとゴルトにかわいそうだろ」 『ああそうだな虫同士は……ってちげぇよー!? オレは悪魔だ虫じゃねぇーっ!?』 そう言って騒いでいると、ダンボールの外から騒がしい声が聞こえてきた。 「大変だ犬の坊主! 風紀委員だ!」 「風紀委員?」 空が問い返する 「ああ、俺たちホームレスを撤去させて公園を綺麗にしようとする連中だ!」 「それはいい事じゃないのか」 『今のオレらが言うことでもないがな』 「兄者、ここは逃げてくれ! ……安心しろ、己は約束を守る、風紀委員たちとはてきとーにやりあうだけだ」 そして鋭斗は駆け出す。 戦うために。 「……」 『……』 「行くか」 『ああ』 そして空は公園を立ち去った。 『ど~すっかなぁ』 「どうにかなるさ」 『いやそりゃさ、住む場所もまったくありません毎晩毎晩寒さに凍えてすごしてます、ってのも「どうにか」の範疇だけどよ!? さすがにそりゃ駄目だろオイ』 「なんで?」 『全てのラルヴァの王となるお前が! んなひもじい生活してて許せるかっつーの!』 「僕はまあそれでもいいけど」 『よくねー!!』 絶叫するゴルトシュピーネ。 夜の街を彷徨いながら、二人は他愛もない話を繰り返す。 学校の教室にでも忍び込んで夜を明かすか、と学校の中庭に差し掛かったとき、ふと空は違和感を覚える。 この感覚は―― 「ああ、そうか」 空は得心する。 結界、だ。 空はその中に足を踏み入れ、進む。 「ここは、お前のお気に入りだったか」 木の上に腰掛ける少女に向かって声をかける。 シュネーヴァイス・エーデルシュタイン。 空に従属してる、吸血鬼の少女である。 「……はい」 枝から降り、答えるシュネー。 「ここは、星がよく見えます」 「好きなのか、星」 「……はい。天に飾られた宝石のようで」 「……」 空もまた、天を見上げる。なるほど、確かにその通りだ。 しばらく二人で見上げていると、シュネーが口を開く。 「私の家……とか」 「え?」 「母様が此処に住むために用意した……あの洋館です」 「ああ」 そういえば、確かでかい洋館に住んでいた。 「母様は亡くなりました。だから……母様の全ては、私の主人である空様のものです」 「いや、それは」 どうだろう。 あのエセ神父、ジョージ秋葉も似たようなことをいっていた覚えはあるが。 「住む場所がないのなら……そこに」 「そうは言われてもなあ……」 「私の全ては、貴方のものです。マイマスター」 「……だけどまあ、そういうのにつけいるようなのは」 確かに、シュネーは少なくとも契約上、空の使い魔である。 だが、そういうものにかこつけて家に押し入るというのは、空にはどうにも抵抗があった。 これがただのシュネーの家、というのなら空は遠慮はしないだろう。 だが……シュネーが住む家は、彼女の母である吸血鬼、ラヴィーネが用意したものであり……そこには思い出の品々も多々運ばれているという。 そういう場所に踏み込むには、どうにも遠慮があった。 「……我が主、逢馬空」 シュネーは言う。 「私は、貴方が憎い」 その憎悪を、歌う。 「貴方は……私を人間の使い魔へと貶めた。宝石のラヴィーネの継嗣たる誇りを汚した」 真祖たる吸血鬼、その高貴な血筋を冒涜したと糾弾する。 「私は、貴方に感謝する」 その敬意を、告げる。 「貴方は、私が友達を殺す暴挙を食い止めた。罪を犯す私を縛った」 暴走した吸血鬼、その残虐なる殺戮を食い止めた事を感謝する。 「……だから。恩讐は……差し引きで、ゼロです」 そう、穢された憎悪と、救われた感謝をあわせて、そこにはもう何もない、とシュネーは言う。 だから。 「私の……ただの好意です」 「そうか」 空は、それを聞いて答える。 「ただの好意なら……受けない理由はない、か」 「……はい」 その空の言葉に、シュネーは薄く微笑みを浮かべ、日傘でその顔を隠した。 「あれ、空じゃない」 道中、鍔姫とばったり会う。 「どうしたの? 川内の家なんじゃ」 「ああ、追い出された」 「川内に?」 「いや、筋肉ジャージの寮監に」 「……なるほど」 「お前は?」 「うん、コンビニに買い物」 「そうか」 「そう」 言いながら、鍔姫は空の隣に並ぶ。 「んー……じゃあさ、アレだよね、うん。仕方ないしさ、その……私寮じゃなくてマンション借りてるからさ、あのさ」 「?」 鍔姫は視線をせわしなく動かしながらも空から目を逸らしつつ、顔を心なしか赤らめてごにょごにょと言う。 「た、他意とか全くないんだけどっ。わ、私のマンションに、その……泊めてあげても、いいかな、って」 「いや、シュネーの家に住むことにしたから」 即答だった。 ずがんっ! 鍔姫は大きな音を立てて、看板に頭をたたきつけていた。 「? 足滑らした? 大丈夫か」 「あ、いやいやだいじょーぶだよー、うん……滑らしたというか滑ったというかー……ははは」 頭を抱えながら鍔姫は言う。 看板は盛大にへこんでいた。 「?」 「うん、こういうのってスピード勝負なんだなーって……いやいやそうじゃなくて……」 「何をぶつぶつ言ってるんだろう」 『いや、オレ初めてコイツにちょっと同情したっつーか?』 「?」 「あ、いいのようん、かんけーないんじゃぁ! うっしゃ気合入れなおしたっ!」 自分の頬を両手でばちん、と叩く鍔姫。 立ち直ったようだ。 「で、これから屋敷に?」 「いや、その前に教会にな。今回の事の報告を」 「報告?」 「うん、姉さんに」 「あ、そういえばシスターのお姉さんいたんだっけ」 『重複表現だぞそれ。頭痛が痛いとかの』 「職業としてのシスターでしょうがっ! わかって言ってるでしょあんた」 『当然だ』 影に身を隠しながらくっくっくと笑うゴルト。 「……はあ、まあいいわ。そうね、じゃあ私も付いていこうかな」 「……」 その言葉に空は黙る。 「迷惑? それなら遠慮するけど」 「いや、僕は迷惑じゃないけど。でも、面白くないよ」 「そう? でもあんたには前に助けられてるし、一応お礼もかねて挨拶とか、ってさ」 「……好きにしたらいいよ」 「?」 その空の態度に少しの違和感を懐く鍔姫。だがそれでも付いていくことにした。 そして二人は、教会へと歩く。 双葉教会。 双葉学園都市にある基督教系の教会である。 空たちは、その扉を開く。 「やあボーイアンドガールお久しぶりだねえ会えて嬉しいよ、いやいやでもここは本心がそうでも言葉の上だけでも嫌悪感や警戒心を匂わせるべきなのかなあ? だって君はそう、教会には歓迎されない人間だだって――」 扉を閉めた。 「帰ろうか」 「そうね」 扉が中から開けられた。 「ちょーっと待ったジャストモーメント! それ流石に酷くないかな顔つき合わせた瞬間にああ駄目だこいつ、ってフェイスを残して去っていくなんてそれゃひどいってもんじゃないかなぁ!?」 ジョージ秋葉が天を仰いで嘆く。 「……あんたが此処にいるのもびっくりだ。普段の廃教会はどうしたんだよ」 「ハー? そりゃさ、僕だって一応まっとうな神父だぜぇ? 此処にいて何の不思議があるのさぁ」 「不思議しかないと思う」 「オー、言うねぇ。その空気を読まない発言の数々、大人には真似できないティーンの特権さぁ、大事にしたまえよ?」 軽薄に笑いながらジョージは言う。 鍔姫もまた、眉間を押さえる。そんなに面識はないが、この似非神父の言動は苦手だった。 「……ところで神父さん。さっきの……」 「なんだいガール? 愛の告白なら間に合ってるけど」 「それは永遠にないから安心してください。で、その。空が歓迎されないって……」 「そりゃ当然さ? なんたって彼は“悪魔憑き”だ。教会がどうやって歓迎するんだろうねえ? 不倶戴天の怨敵って奴さぁ」 「あ――」 忘れていた。 悪魔憑き……というには少し違うかもしれないが、確かに空には悪魔が付いている。 いや、悪魔と魂を共有している――という話だ。 「そういうことさ。一気に退治されないだけ感謝して然るべきだよ。いや、ただの温情でそうなつてるわけでもないから感謝はいらないかなあ? 世の中はギブアンドテイク、敵の敵は味方、色々と言い方はあるけどね? ビジネスライクな付き合いって奴さ。ああ、こうも言えるね、利用できるものはなんでも利用する――たとえ相手が敵だとしても。 ああでもでもガールにあらかじめ言っておくけどさ、教会はともかく、僕らはボーイに対して憎しみも敵意もない。 魔術師は決して悪魔を憎まないものさ。そして僕らは悪魔を認める。何故かって? そりゃそうさ、神は人を作りたもう。そして悪魔が人の心の海から生まれたものであるならば、それを認めない理由はない。いやいや違うね、そもそもあれだ、悪魔がどういった形だろうとこの世に存在しているなら、存在を許されているって事になる。つまりは悪魔もまたその存在理由を与えられて許されているってさ。ああ、こういうのは難しかったかなぁ? 異論は認める」 「ちんぷんかんぷんよ」 「正直でよろしい。さてボーイ、そんな君の敵の住処にどんな用事だい? そこのガールを孕ませてしまった懺悔でもしにきたかい?」 「なっ、ななななな」 「違うよ」 平然と否定する空。その隣では鍔姫が顔を真っ赤にしている。 「いつもの用事さ」 「――そうかい。君が他人を連れてくるのは珍しいね。ああ珍しい、これで八人目?」 「……それって多いの、少ないの?」 「多いとか少ないじゃなくて、珍しいのさ。これは微妙にニュアンスが……まあいいか。で、ガールも会って行くのかい?」 「え、はい……そのつもりですけど」 「オーケーオーケー、わかった、じゃあ案内しよう」 そしてジョージは身を翻し、歩いていく。 礼拝堂を抜け、教会の奥のほうへと進むジョージに、空と鍔姫は黙ってついていく。 そして、簡素な扉に行き当たる。 「ここさ」 ジョージは鍵を差込み、扉をあける。 「――!?」 扉が開き――鍔姫は息を呑んだ。 そこに在るのは…… 「なに――これ」 磔刑だった。 だがそれは、キリストの像ではなく、生きている人間が。生きている少女が磔刑に処されていた。 鉄の十字架に貼り付けられて。 光の十字架に胸を突き刺されて。 そして――水晶に閉じ込められて。 「姉さんだよ」 空が、透けるような感情のない声で言う。 これが、姉だと。 「サプライズかい? ガール」 後ろからジョージが言う。 「こ、これって……」 「ボーイのお姉さんさ。ちゃんと生きてる。でも、生きてない。 悪魔に魂を奪われた女の子……さ。そう、魂がない」 「魂が……?」 「人間の三位一体。肉、精神、魂。これらが揃ってこそ人は人足りえる。 だが彼女はね、そのうち魂を奪われた。悪魔に、だ。その三位一体の均衡が崩れた人間は、徐々に死んでいく。そう、放置していたら肉体は衰弱し精神は崩壊する。 だから――こうやって封印しているのさ」 「なんで……こんな」 「人質、だよ?」 「え……?」 「彼を体よく使うための人質。いや脅してるわけじゃないから違うな、取引か。 死に向かう彼女の身体を補完し封印する事でその命を守る。 そしてその代わりに、ボーイはぼくたちの命令を聞く。結社に従い、隷属する。 そう、この磔刑の乙女は、彼の生きる目的なのさぁ」 そのジョージの言葉が耳に入っていないかのように、空はただその水晶の下にたたずんでいる。 「姉の魂を奪った悪魔を倒し、その魂を奪い返し、姉を解放する――なんとも気の長い話だよ。 彼自身にもどれだけ時間が残されてるかもしれないのにねぇ」 「……え?」 「秋葉。おしゃべりが過ぎる」 「おっと失礼。しかし許して欲しいね、ほらさ、彼女はどうにもいじめがいがある」 「……秋葉」 「オーケーオーケー、失礼失言失敬しました。取り消すよ。そうだね、その話は君が自分でするべきだ、僕の語るべき事じゃなかった」 「……どういう、ことなの?」 鍔姫が空に聞く。 不安げな表情で。今の言葉は聞き違いか、あるいはジョージの冗談であって欲しい、と言うかのように。 「……」 その顔に、空は少し黙った後、答える。 「簡単なことだよ。 魔術を使いすぎれば、僕はいなくなる、それだけのことだ」 「……!?」 「悪魔に魂を売った代償――とでも言うべきかな。 いや、すでに魂は悪魔と共有しているわけだけど……そうだな。 魔術を使えば使うほど、戦えば戦うほど……僕は他人に認識されなくなる」 「それって……」 鍔姫は思い出す。 初めて会ったとき、自分は空がいないものだと思った。 あの影の薄さ……透明感、それは。 それは、まさか…… 「ガールの想像通りさ」 ジョージが口を挟む。 「本来、魔術ってのは……特にボーイの使うのは西洋魔術だ。西洋魔術ってのはつまるところリチュアルマジック。儀式を前提とするものさ? それがさ、実戦に耐えうるような速度、錬度でああも使えるものじゃない。 僕みたいに何から何まで他人の力を借りた、タネも仕掛けもあるインチキとは違う。 さて、そんな魔法をあそこまで使うなら当然代償が要るってことさ。そして彼の支払う代償は……そう、自分自身が悪魔へと近づいていくということだ。 本来悪魔ってのはカテゴリーエレメント、それも完全に完璧にアストラルの側の生き物だ。物質界には存在しない。人間に呼ばれるか。あるいはその他の条件を満たさない限り、物質界への干渉は難しい、そういうモノだ。そういうモノに彼は成る」 「そんな……それって!」 「うん、君の思っている通りだよ、浅羽。僕はいつしか、誰にも見えなくなる。多分、お前にも」 それは。 とても残酷な一言だった。 ……どちらから見ても、誰からも見ても。 誰からも認識されない。誰とも触れ合えない。それは……とてつもない孤独だ。 「そんな……」 「だからこそ」 ジョージが言う。 「だからこそ戦うのさ、ボーイは。姉を救うため、そして……自分が助かるために」 「え?」 「全てはね、彼に取り付いた悪魔、ソロモン序列第一位の蜘蛛のせいだ。いや、せいと言うのは些か言い方悪いかな、だって彼がいなきゃボーイは今そもそも生きていないからね? さて、しかしあの蜘蛛は正しい意味でソロモン序列第一位の悪魔そのものではない」 鍔姫は思い出す。そういえば、悪魔アンドラスとの戦いでそんなことを言っていたような…… 「不完全なピース。だからこそ、こんなひどいひどすぎる代償を強いられる。それは何故か? 欠けた力を埋め合わそうとする、極自然な力が働くからだ、だからボーイの存在は悪魔へと近づいていく。 なら話はシンプルだ、欠けたピースの残りを集めればいい……だろう? ボーイ」 「ああ」 空は頷く。 「バールの欠片たる悪魔、それらを倒してゴルトシュピーネと統合する。そうすればゴルトは本来の力を取り戻し、僕も……大丈夫、ということだ」 「……」 その言葉に、鍔姫は胸をなでおろす。 「よかった……」 「Haー、よかってねぇ本当に。どんな苦難にも必ず解決方法はある。この世は神の愛に満ちているよハーレルーヤー!」 「お前が言うとどんどん神の愛が胡散臭くなっていく気がするけど」 「違いないねぇ、ハハッ!」 「認めるなよ……」 そして三人はその部屋を出て、空と鍔姫は教会を後にした。 二人を見送って、ジョージは誰ともなくつぶやく。 「やれやれ、彼も優しいねぇ」 その優しい眼差しは……そう、死刑囚を見下ろすかのように慈悲深かった。 「たとえバールの全てを統合したとしても……それでも君は助からない、赦されない。 君はそれでも嘘をつく。やさしい嘘を、虚しい嘘を。 だってそうだろう? 悪魔に魂を売った人間は……破滅しか無いんだから」 鍔姫と別れ、空は屋敷へと向かう。 『……くそ、あの腐れ神父が……』 その道中、ゴルトが悪態をつく。 「怒ってるのか」 『たりめぇだ! オレがあそこで出れないのをいい事にネチネチグチグチとうざってぇ……』 「あれは全て事実だよ」 『だがよぉ!』 声を荒げるゴルト。一拍置いて、声のトーンを下げて言う。 『……わりぃ。確かに事実だ。そして……オレの罪だ』 「僕たちの罪だろ……兄弟?」 『ああ……』 そのまましばらく無言で、歩く。 『オレは諦めねぇ。海も、お前も、絶対に救ってみせるぜ』 「お前は僕をラルヴァの王にしたいんだろ? なら僕が悪魔になってしまったほうが都合がいいんじゃないのか」 『最悪の展開だな、そりゃよ。悪魔がラルヴァの王になったところでくだんねー、陳腐な話だ。 オレはな、お前に、お前のままで、そうなって欲しいんだよ』 「わけがわからないな」 『いいんだよそれで。オレもそうだ、オレはオレのままバールを取り戻す。他の欠片に食われたりしねぇだ、オレというオレのまま、バールへと返り咲く。東の王へと至る。だからお前も……お前のままでいろ、兄弟。逢馬空。 それがオレがお前に望む事だ』 「……僕も」 『ん?』 「僕も。お前以外のバールなんて、望まない」 『……たりめぇだ、兄弟』 蜘蛛が笑う。 その屋敷は相変わらずの威容を誇っていた。 『まあ、王には相応しいと褒めてやってもいいかな、うん』 「声が浮き足立ってるよ」 『ん、んなことねぇよ?』 よほどホームレスは嫌だったのだろう。明らかにゴルトの声は弾んでいた。 『……つーかアレだ、結界のせいか? 予想以上に身体の調子いいわコレ! 実体化も超楽チンだぜ!』 言うが早いか、ゴルトは空の影から飛び出す。 『やっべー身体軽いぜこれ! 流石は伝説の吸血鬼の館! やっべぇ調子いい!』 そう叫びながら、ゴルトは館の奥に走り去った。 「……子供みたいだなあ」 空は素直にそうつぶやいた。 館のロビーでとりあえずくつろぐ空。 前の時は急いでいたからゆっくりとする暇が無かったが、この屋敷はかなりでかかった。 外から見てもでかかったが、中に入るとさらに大きい。魔術的な仕掛けでもあるのだろうか、と思う。 感覚を研ぎ澄ませて見ると、確かにそれらしき気配はある。 屋敷全体に魂源力を循環させ、その循環が力の増大を生み、いたる所で術式を発動させている。 しかしそれは決して、侵入者撃退……といったお決まりの術式ではなかった。 空は思う。この館の主であった宝石のラヴィーネはよほど自分の実力に自身があったのだろう、と。 結界も術式も全て、この館を快適にする、ただそれだけに費やされている。つまりは、侵入者は全て自分の力で撃退してやるという自信の表れなのだろう。 一度会って見たかった、とは思う。 「……お帰りなさい」 そう考えていると、静かな声が響く。 シュネーだった。 「ああ、シュネーか。……いい家だな、ここ。 さすが、そっくりそのまま移築させたってだけのことはある」 「……はい」 そう答えながら、シュネーは空の傍らに来る。 「ああ、そうか」 空はシュネーの眼差しをうけ、察する。 自分が今、何を期待されているのかを。 「ちょっと待ってて」 言い、影を実体化、物質化させる。 いつも使っている、儀式用の短剣を自らの影で復元する。 そしてそれを左手に持ち、右手の手首に当て……一気に引いた。 刃が風を切る音、肉を裂く音が響く。 そして、真っ赤な鮮血が空の手首から溢れ、掌を流れ、指をぬらす。 「……」 空はそれを、シュネーへと差し出した。 シュネーの顔に、血の雫が滴り落ちる。それはシュネーの唇を赤くぬらす。 舌を突き出し、シュネーは空の指を舐める。 血の粘つく水音と、唾液の音が絡まる。 赤く染まる指に舌を這わせ、その赤を舐め取っていく。 人差し指、中指、薬指、小指と順番に。 音を立てて。 喉を鳴らす、血を嚥下する音も響く。 ぺちゃ、ぴちゃ。 こく、こくっ。 だがそれでも、赤は止まらない。 だから、その舌は指から掌へと進んでいく。 さらなる赤を求めるかのように。 だが、それを留めるのは、空の指先だ。 指が、シュネーの小さな口に、そっと突き入れられる。 「……っ」 「歯、立てるなよ」 そう言いながら、親指と人差し指の二本の指が、シュネーの唇に触れ、そして中に侵入していく。 指に再び流れ、絡まる赤。指を伝い、直接シュネーの中に注ぎ込まれていく。 言われたとおりに歯は立てない。だが、代わりに舌を動かす。 ただ喉に流し込まれただけでは、血の味を味わえないから。 口の中に侵入したそれをに舌を絡ませて、血の味と、汗のまじった肌の味をその舌先で感じる。 突き入れる。 動かす。 絡み合う。 「ん……むぅっ、ちゅ……んっ」 二本も突き入れられて、その小さな口に頬張り、呼吸もままならない、それでも必死に舐め、嚥下する。 空はそっと指を引き戻す。 血と唾液の混ざり合った液体が、指と舌の間に糸を引いた。 「はあ……っ」 名残惜しそうに、シュネーは顔を近づけ、再び掌に舌を這わせる。 その先に進む。手首の、まだ真っ赤な血を脈々と流し続ける肉の裂け目へと。 「っ」 今度は、空が声を押し殺す。 痛い。 切り裂いたばかりの傷、そこに口をつけられたのだ。痛いのは道理だ。 だが痛みよりもさらに増すのは、背徳感と征服感。そのふたつが空の感覚を支配する。 傷口を丹念に舐める少女の姿を見下ろして。 空は、食わせる。自らの血を。 シュネーは、喰らう。主の血を。 みゃくみゃくと零れ落ちる命の原液。 それを与える。 それを享受する。 それは食事というよりは、妖艶な儀式めいた光景だった。 シュネーが口を離す。 血と唾液の混ざり合った液体が糸を引く。 「もういいのか」 「……」 シュネーはこくこくと頷く。 「そうか」 空は、影を再び動かし、手首の傷口に巻きつける。 止血、癒着。 簡単な治癒魔術で、その傷口を覆う。 「……」 そう処理をしていると、シュネーが包帯を持ってくる。 「一晩あれば治るからいらないけどな」 「……」 じっ、と見つめてくるシュネー。 「……わかったよ、頼む」 こく、と頷き、シュネーは包帯を空の手首に巻く。 「しかし……」 空はそれを見ながら、自分の運命に思いを馳せる。 ボロい寮からホームレス、そう思ったら巨大な洋館、だ。 せわしないにもほどがある。 それに、 「クラスの連中にまたなんと言えばいいか」 考えるだけで、気が重かった。 本当に、めんどくさくてわずらわしい。 人との繋がりというものは、人付き合いというものは、とても重くて面倒くさくて、 だから……その重みが、空には心地よかった。 ■登場人物 川内朝飛(せんだい・あさひ) ニット帽がトレードマークの同級生。スキンヘッド。2-Eの男子のムードメーカー。 昔は普通の髪型だった。スキンヘッドにした理由は、クラスで浮いてる(?)空をどうにかしようとしたため。 「お前は影が薄いことを気にしているようだが安心しろ! 俺は髪が薄い!」 「気にしていないしスキンヘッドは薄いとは別次元だと思う」 かくして一発ギャグは見事に滑ったが、それ以来友人となる。 谷山彰子(たにやま・あきこ) 2-Eの同級生。 朝飛とはよく喧嘩する、幼馴染で友達以上恋人未満。朝飛を「ハゲモンキー」と呼ぶ。 面倒見のいい姉御肌で、そのお節介気質が有紀と馬が合うらしくよくつるんでいる。 美形に目がないミーハーな部分もある。 逢馬海(おうま・うな) 逢馬空の姉。悪魔に魂を奪われた少女。 生きてはいるし精神も健在だが、魂が無い為にこのままでは死ぬ運命が待つ。 その肉体の劣化と崩壊をとどめる為に教会に封印されている。 元に戻す方法は、その悪魔から魂を奪い返すこと。 健在だった頃は面倒見のいい優しい性格だった。ただし怒ると恐ろしい。 彼女を助けることが、逢馬空の生きる目的である。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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カバ型がプテラノドン型を捕食したことで生まれた未知生命体カバ龍の、より力強い咆哮が通路を揺らし、 大気を振るわせる。 北神 静馬(きたがみ しずま)ら3人にとって、もはや出来る事はただ一つ。脱兎の如く逃げて、逃げて、 迫り来る驚異をどうにかして振り切るのみ。 だがしかし、変態を遂げたことでさらに力強さを増したカバ龍の四肢は、もはやカバだった時の其れではない。 堂雪の能力にて顕現した金剛仁王は全力で駆けるが、距離はむしろ詰められている。 「おいおいおいおい、ヤベェぞ堂雪(どうせつ)! ヤツさらに速くなってやがんぞ!」 「そうは言うがな、これ以上の速度は出せん!」 「それだったら……撃ちます!」 口から熱線を放つ能力「ブラストアーク」を持つフィルリオーナ・テンペスターの口から幾重もの熱線が放たれ、 カバ龍の体皮を焼くが、効果はあまりない。 何せ体躯が巨大すぎる上に皮膚はさらに硬質化し、一方のテンペスターにも極大熱線を放つにもインターバルの 確保と休息が必要になるが、そんな余裕など与えられる筈もない。 「ううう……お役に立てなくて申し訳ないです……」 「いやま、テンペっちゃんは悪くないがな。悪いのはあのカバドンだ。さって、どうするか―――おわぁ!?」 「曲がるぞ、掴まれ!」 堂雪は目聡く曲がり角を見つけ、勢いを殺さぬままに、やや強引気味に曲がる。 ありがたいことに道は細く、金剛仁王を引っ込めて駆け出す三人は踏み潰される前に横道に入るが、巨体のカバ龍が その道に入り込むことは出来ない。 入り口でもがくカバ龍をよそに、ようやく訪れた一時の安息。三人は腰を下ろして僅かにでも体力回復に努める。 「ふぅ……ようやく一息、か?」 「だといいがな。さすがに、消耗が激しいぞ……一番疲弊していないのはやはりお前か、静馬よ」 「うっせ。しゃあないだろ。デカいのとの相性は最悪なんだよ、オレの力は」 「はう、疲れました……甘いものが食べたいのです」 「しゃあねぇなぁ。ほれ、アメちゃん食えテンペっちゃん」 「わぁ、ありがとうございます! むぐむぐころころ……あうぅ、ハッカ味ですぅ……」 「ハッカは苦手か、まだまだ子供だなテンペっちゃんは」 「うるさいです!」 ここが、これからの世界を変えるかもしれない戦場であることも忘れて和む三人。 座り込んで回復を図る堂雪とテンペスターをそのままに、静馬は立ち上がる。 「さてっと、ちょっとこの先軽く見て来るわ。二人は休んでな。何出るかわからんし」 「油断と無理だけはするなよ、静馬」 「お一人で大丈夫ですか、シズマ様?」 「ま、大丈夫だろ。この狭い道ならデカブツは出ないだろうし」 ひらひらと手を振り、静馬は一人奥へと進む。 ―――※――― 「うむ、やっぱりこの人間サイズかちょっと大きいくらいが一番やりやすいな、っと! っとと、あっぶねー!」 轟音と爆風、砕ける半有機体の床の破片が飛来するのを鎖鎌と波動の盾で軽やかに捌く。 通路の行き止まりに居たのは、身の丈にして3m程度だが、人間離れした膂力を窺わせるパワフルボディ。 丸太の如くに太い腕と鋼の如くに堅い拳が空を斬り床に叩き付けられる度に、床は砕け、壁は穿たれ、破片が飛ぶ。 Guoooooooooooo!! なかなか攻撃が当たらない巨人型未知生命体は、攻撃が当たらない苛立ちから、行動が単純大振りになる。 「ま、見え見えの攻撃に当たってやるほど、こっちは甘くなくってね。じゃ、終いにしようや」 旋廻させていた鎖鎌を抛る。 解き放たれた蛇の執念の牙が、舞い跳ぶ破片を軽やかに避け、巨人型の首筋に突き立てられ、そして抉り込む。 絶命するための喉すら奪われた巨人型は、体液を噴水の如くに撒き散らしながら、大の字に崩れ落ち、霧消する。 「ふぅ……この手のパワーファイターは大概ロクな装備にならんからなぁ。流石に肉襦袢とかはもう勘弁」 こんなもんだろ、と一息つき、行き止まりの壁に目を凝らす。 「こんな行き止まりに、あんなの配置するわけがないよな……っと、これ、扉か?」 扉のような境目をこじ開けて潜った先には――― 「っ!? が、ぐ、ぅ……」 中にあったモノ、それを見た瞬間、無意識下の情動が強烈なまでに揺り動かされ、鉄槌で頭蓋をかち割られたかの 如き激痛と、万力で脳全体を直接押しつぶされるような圧迫感に見舞われる。 「ぐ、う、ぅ……何だ、ってんだ、こいつは……!」 「ほぉう、貴様の如き俗物が、良くもまぁこの『神の座』に来れたものだなぁ、キタガミ」 「セルグライデ、テメェの仕業かぁ!」 セルグライデ・モンテューロ。人呼んで「奇跡の御手」、秘匿とされてきた神聖術式の数々を修めたと言われる、 非実体的存在に特に強いとされる異能者である。若い頃より20年以上の年月を、悪魔祓いという形で未知生命体と 戦い続けてきたその経験と実力は、同盟内でも有数のものである。 「今貴様の中を駆け巡っている、『神』に触れた歓喜の情動のことかい? 私ではないよ。この『神の座』が 貴様にもたらしたものだよ」 一際大きな空間の中心に据えられた、有機体とも無機物ともつかない異形。 鳴動とも駆動音とも分からぬ振動を続けるその物体は、怪しき輝きを放っている。 「『神の座』、だと……前々からズレてるやつだとは思ったが、ここに来てとうとうブっちぎっちまったか?」 「はっは、そうかも知れないね。貴様の如き俗物からすれば、そう見えるかも知れん。だがね、私からしたら 貴様のほうがイカレてるとしか思えないなぁ、キタガミ。この偉大なる『神の座』を前にして、私と同じ位階に 辿り着けないというのだからな……嘆かわしいな。実に嘆かわしい」 「はっ! 今のテメェと同レベルなんざ、死んでも御免だ!」 「……実に愚かだよ、キタガミ。貴様にも、神の位階に辿り着く機会は与えら得るだろうとは思っていたが、 『神』は平等に機会を与えてくださるものと思っていたが、そうではないらしいな」 セルグライデは目を閉じ、手をかざす。それは、日ごろの彼が、訓練で、戦闘で、見せるのと同じ仕草。 「ああ、そうか……私は今、悟ったよ、これは、私の、私のための、世界であり、神話であったか―――」 「ならば、下劣な輩は不要だ。失せろ、キタガミ。『神』の慈悲の下に、貴様を処断しよう」 開かれた瞼から現れたものは、人間の目では、なくなっていた。 失われた眼球は、彼にとっては神により与えられた聖なる傷痕。 奇跡と謳われた力が、部屋全体、そして静馬に向けて迸る。 「ちぃ、こんなとこでおっぱじめようってのか! 大事な大事な『神の座』ちゃんが壊れても知らんぜ?」 「安心しろ、そんな事が起こる前に、貴様は蒸発する」 「言ってくれるねぇ。アンタのそういう無駄にスカしたところ、ぶっちゃけ気に食わなかったんだよね!」 「私も、貴様のような、俗世の穢れそのもののような存在は嫌いだったよ」 「この際正直になったらどうだ? テンペスターに懐かれてるオレが気に食わないってなぁ!」 「神の位階に至るこの私に、そのような挑発など無意味極まりないな」 「お、どうした? そう言いつつも、そのたんせ~なお顔のこめかみの辺りがピクついてるぜ?」 口調こそ軽い静馬だが、二人の戦闘力差は、圧倒的なまでに静馬が劣っている。 セルグライデの能力は、突入以前の共闘で見たときのそれを遙かに凌駕していた。 (こいつぁ、本気でヤベェ……下手こいたら死ぬな、俺) セルグライドの能力の本質は、手より発せられる光による「拒絶」。 彼が可能だと信じる限りにおいて、光に照らされたものは等しく「拒絶」される。 圧倒的なまでの眩さを誇るセルグライデの光は、確実に静馬を追い詰める。 「無様ですね、キタガミ。さて、せめて最後に慈悲だけは与えましょう。死に際し、言い残すことはありますか?」 「いい年こいて16歳のぺったんこに懸想たぁいい度胸だ。今すぐ神に懺悔して腹切って死ねロリコン神父」 「それでは、祝福の内に神の御許に召されません事を……Amen」 「―――生憎と、神も仏も信じちゃいないものでね!」 限界一杯まで伸ばしきった鎖鎌は、一定量の力で構成されているため、その姿を薄れさせる。 魔術も光線も防げる「波動の盾」を使わず、死を厭わずに身体能力のみで回避し続ける。 その意図を探らせないために挑発行為を繰り返していたのは、すべてはこの一発のため。 獲物に餓えていた蛇の牙が、セルグライデの光満ち溢れる手に突き刺さる! 「ぐあああああああああぁ! キタガミぃぃぃ! きさまああああああああ!」 「こんなところでロリコンに殺されてたまるか! 俺は逃げる!」 限界まで駆けた足にさらに鞭打ち、静馬は悶絶するセルグライデに警戒しつつ部屋を駆け出る。 「ぐううう……やってくれる。許さぬぞ、キタガミ……」 静馬の鎖鎌の刃に貫かれ血が溢れる右手を抱えつつ、セルグライデは『神の座』へ近づく。 「まぁいい。これで私は神に近づく。そして神になる。そのための力が、この『神の座』にはあるのだからな!」 セルグライデは高らかに吼える。 彼を狂気に駆り立てる「神の座」、ソレが何であるのかは、今はセルグライデにしか分からない。 今だ血を吐き出す傷跡をそのままに、セルグライデは「神の座」に触れる。 「さぁ、私と一つになるのです。そして、私を更なる位階へ――――――」 セルグライデは、人であることを放棄した。 果たして、彼が辿り着いた位階は、神か、悪魔か。 それは、後の世に語られることになる。 ―――※――― 辛くも逃げ出した静馬は、肩で息をしながら、壁に手をつき移動する。 「はぁ、はあ、ふぅ……追ってこないところを見ると、面倒になったか、『神の座』がよっぽど大事か、か。 何にせよ助かっ」 てはいなかった。 「あー……そういや、こんなのも、いましたよねぇ……」 獲物をようやく見つけて吼え猛るカバ龍が、そこにいた。 ―――※――― 「それにしても、遅いですねぇシズマ様。そんなに奥まで続いてるのかな?」 「あいつに限ってやられるということはないだろうが、な」 「? 少し、揺れが、強くなってきた?」 「近くで大型の敵性存在が暴れているのやもしれん。だが、静馬と合流せずにここを離れるわけにもいかん。 まったく、静馬は何処で油を売っているんだ」 静馬の戻りを待つ堂雪とテンペスターにも、床の揺れが大きくなっているのが感じられる。 ふとそこに、壁の裂け目を押し開き、ひとりの少年が出てくる。 「なっ!? ……アルファリード、なぜそのようなところから?」 「調べてみたら、そこかしこに似たような横道が隠されてるんだ。でも、正直な話、僕は 横道に入るのは オススメしないね。どこに繋がってるか分かったものじゃないし……あんなモノ、みんなは見ちゃいけない」 攻撃向けの能力者ではないが、「エンブリオ」の組成そのものを研究する目的で付いてきた、物質結合の能力を 持つアルファリード・ノブリス。堂雪らの前に姿を現したとき、彼は酷く消耗していた。 堂雪が駆け寄り、アルファリードの体を支えてやる。 「ただ敵から逃げただけでの消耗とは思えないが……それで何を見たというんだ?」 「ごめん、それは言えないよMr.ドウセツ。アレはヒトが見ていいモノじゃない。見てしまったボクはもう、 もしかしたら狂ってしまっているのかもしれない。でも自分で自分を客観視しようとしても、ボクの中の 『正常』の基準が変わっていたら、それはもう正常なんじゃなかろうかとも思うん痛ァッ!?」 怒りを帯びたテンペスターが放つ、鋭いコークスクリューブローがアルファリードに突き刺さり、アルファリードは もんどりうって床を転がる。 やや間をあけて、ううう、と弱弱しい声を上げながらアルファリードは立ち上がり、服についた埃を払い落とす。 「何するんだよテンペスター、歯が折れちゃったじゃないか……なぜか抜けずに残ってた乳歯のラス1だけど」 「アルファ、意味わかんないこと言わない! イライラするのよ! で、結局何を見たのよ」 「だから、誰にも言うわけにはいかないんだよ。見てしまった者だけが、共有すればいいことなんヲぶゥ!?」 股間を押さえ崩れ落ちるアルファリードを、鋭く突き出した膝を戻しつつ冷ややかに見下ろすテンペスター。 「まったく、結局言いたくないだけなんじゃないのよ! 気を持たせるような言い方しないで!」 「ひ、ひどいやテンペスター……ううぅ」 「アルファリード、大丈夫か……?」 「え、ええ……なんとか、男で居られる程度には……」 同じ男として、堂雪は同情を禁じえない。 とりあえず腰を叩いてやるのであった。 それにしても、地響きは収まらない。 「ねぇbaldness、これってひょっとして……」 「まさかと思いたいが、行ってみるより他あるまい。アルファリード、君はどうする」 「ボクがついていっても何も出来ないので、横道経由でなんとか表に出る道を探ってみます。外壁を剥がせば 筏の一つくらいなんとか出来るでしょうから」 「くれぐれも、無理はしてくれるなよ。ではな」 「そちらこそ。Mr.キタガミにも宜しくお伝えください」 堂雪とテンペスターを見送るアルファリードは、ひとり呟く。 「―――ボクは知ってしまった。このイキモノたちの構造を。ボクたちの構造を。アレが真理なら、真実なら、 ボクは生涯をかけて、Αより出でてΩを目指さなければならないんだ。そのためなら……ボクは、何だって してみせる。例え人から狂っていると言われようとも、ね……」 アルファリードの目は、赤黒く濁り始めていた。 ―――※――― 「ぜっ、ぜっ、は、は、ふぅ……あっぶなかったわぁ」 カバ龍から追われ続けた静馬だが、先ほどセルグライデと接触した部屋にあったのと同じような裂け目を 目聡く壁に発見、辛うじて駆け込んで生き長らえていた。 「さっすがに、アレを、武器なしで、一人は、きっついって」 セルグライデの裏を掻く代償に、「拒絶」の閃光を受けた鎖鎌は消滅してしまっている。 とはいえ、たとえ手にしていたとしても何が出来るわけでもないほどに、圧倒的な差があるのだが。 「ん、なんだこりゃ? よっと」 人ひとりが何とか入れる程度のスペースの壁に、光を反射する球体がひとつ。 静馬はそれを手にし、 「後でアルファにでも見せてみるか。アイツの物知り具合なら、何だか分かるだろ」 上着のポケットに仕舞い込む。 「とはいえ、ここに篭ってても何にもならんし、堂雪やテンペっちゃんと合流したいところだが……ここ何処だ」 セルグライデの猛攻から無我夢中で逃げる余りに、手近な裂け目から脱出せざるを得なかったのは仕方がない。 元々相打ち覚悟で放った最後っ屁のつもりの一発だっただけに、命と引き換えの対価として鎖鎌を失ったのは 妥協せざるを得まい。命あっての物種とはよく言ったものである。 だが、何とか抜け出た先にもヤバいのがいたのは、想定して然るべきだったが、疲労がそれを許さなかった。 さて、どうしたものか。 聞きなれた声と咆哮が響いてくる。 裂け目から覗いてみると、やはり聞こえたとおり、カバ龍と金剛仁王が取っ組み合いをしている。 が、やはりカバ龍の凄まじいパワーに、金剛仁王は完全に押しこまれ、堂雪の顔にも疲弊の色が濃くなる。 「堂雪にゃ悪いが、横から見れば弱点の一つも見えてくるか?」 パワーは圧倒的に金剛仁王を上回り、硬質の皮膚はブラストアークも受け付けないのは確認済みである。 ―――はずなのに、なぜヤツの背中から、血の様な体液が流れ出ている? それも、あの体躯に合わない小さい翼が生えてきたときのものではない。 このことを、どう見るか…… 「あとはやり様と運頼み、か。よし、行くか」 裂け目をこじ開け、戦場へ躍り出る。 「シズマ様!? ご無事で何よりです!」 「悪ぃ、野暮用で遅くなった! それよかテンペっちゃん、頼みがある。俺を撃って、ヤツの背中に登るのを 後押ししてもらいたい。できるか?」 「た、多分……ううん、なんとかがんばってみます」 「そか、さんきゅ。堂雪、もう少しだけこらえてくれ! 打開の可能性が見えた!」 「ぬぅぅぅ、この際可能性でも何でもいい! それに賭ける!」 金剛仁王の豪腕に力が篭り、カバ龍に拮抗せんと力強く踏ん張る。 テンペスターは大きく息を吸い込み、力を内側に蓄える。 静馬は波動の盾を展開し、カバ龍の後足目掛けて駆け出す。 「今だ撃てぇ!」 ブラストアークを波動の盾で受け止め、その勢いで後足から背中へと駆け上がり 「うぉぉ!? 思ったより速ぇ! ―――っとと、オッケー、上手く行ったぁ!」 下から大丈夫かと飛び跳ね声をかけてくるテンペスターに手を振って応え、静馬はカバ龍背中の中央、 翼が生えている辺りに移動する。 「そろそろ堂雪もやばそうだしな、予想通りならいいが……南無三!」 バサバサとはためき続ける翼の付け根に腕を突きこみ、 「波動の盾、展開! 中身を拝ませてもらおうかぁ!」 展開したまま腕を引き抜き、強引にカバ龍の表皮を引き剥がしにかかる。 めりめり、ばきばき、ごぼ 生えた翼が生んだ裂け目が出来ていたおかげか、強攻に引き剥がすことができた表皮と肉との境目からは、 異臭を放つ体液があふれ出る。 「うぉぇ……ひっでぇ臭い。よぉ凧さんひっさしぶり。自慢の羽も能力も使えずに、全身肉壁に覆われて、 身動き一つできずにもがき続ける気分はどうだい?」 カバ龍に食われたはずのプテラノドン型。引き剥がした表皮の中から出てきたソレの、一部は周囲の肉と 一体となっていた。赤く濁った魚の様な目がこちらを睨み返しているあたり、まだ完全に合一を果たしては いないのだろう。 わざわざ自分が傷つくような能力を常時発動したまま翼を動かしている理由などなかろう、という理由から、 背中に回って表皮を引っぺがすという強攻策に打って出たが、どうやら賭けには勝ったらしい。 「前から回れりゃ楽だったんだが、オマエ『自分の前方の』空間だけ切り取りにかかるだろ? さっきアンタと 殺り合ってるときとか、衝撃波を避けられなかった時に、そうじゃないかと思って、わざわざケツからダッシュで 上がってきたんだぜ? これでスカす訳には……いかないんでね」 ガントレットを解除し、生身を晒した貫手に力を込め、プテラノドン型の目玉に突き立てる。 ぐしゃ ぶしゅ ごぼ 眼球がつぶれ、肉が千切れ、人でいうところの水晶体や体液がどろどろと流れ出る。 口はほぼ同化しているため、断末魔の悲鳴が起こることはない。 「やっぱ、この感触は慣れないねぇ……そろそろ、終いにしようか」 静馬はさらに深々と腕を突き込み、内部を掻き回し、引き剥がし、捻じり切り、握り潰す。 素手による未知生命体の屠殺。体表面からの打撃で倒せるような、小型で柔いものならともかく、大型ともなれば 肉の薄い部位、目など鍛えようのない部位などに直接手を突きこんで内部から破壊するより他ない。 「さぁ……どうなる?」 絶命の瞬間、従来であれば雲散霧消するはずの未知生命体の肉体が凝集、静馬の掌に一枚のメダルが残る。 メダルには、剣の紋章が刻まれている。 「うっし武器だ! 早速使ってみるか」 新たに生まれたメダルを指で弾き上げると、メダルは形容し難い光を放つ大振りの片手剣に姿を変える。 その形状は、先ほど討ったプテラノドン型の片翼にも似た奇抜な形をしている。 「剣道ってのはあんまり覚えがないんだが……なっちまったもんは仕方ない。まずはひと太刀……うぉりゃあ!」 まずは試し切り、足元を掃うように大きく、軽くひと振り。 翼を失ったカバ龍が、突如崩れ落ちる。 無理もない。下腹部からナナメに切り開かれ、両の後足が胴体と切り離されてしまったのだから。 その威力、空間切断のひと太刀がもたらした光景に慄きすら感じる静馬であったが、 「がふぅ!?」 吐血と共に崩れ落ち、剣はメダルの形に戻る。 「マ、マジかよ……一振りで、血反吐、吐く程、持ってかれるとか……おわぁ!?」 後足を失い、内部器官を腹の傷から吐き出し、態勢を維持できなくなったカバ龍。 その身が崩れ落ちる大揺れと衝撃に耐えることが出来ず、静馬はカバ龍の背から振り落とされてしまう。 「へぶぅ!? ってて、〆はイマイチだったが、いやはや上手く行ったわ……さんきゅ、堂雪」 最早カバ龍の拘束は必要無しと判断、早急に静馬のフォローに回った堂雪と金剛仁王により、床への墜落は 辛うじて免れた……が、それでも丈夫な仁王の掌との激突は避けられなかった。 「何処からともなく出てきたと思えば、これほどのことをやってのけるとは、な……奥方様が一目置かれるのも 分かる気がするな。少しだけだが」 「顔面打っちまった、鼻っ柱がまだいてぇ……ん? バァ様がどうしたって? にしてもコイツ、今の俺にゃ 扱うのは厳しそうだわ。さっきひと振りしてごらんの有様だが……オマエにゃ言うが、血反吐吐いた」 これが戦果だとばかりに、先ほど得たメダルを堂雪にも見せつける。 「それほどまでの力を、秘めているというのか……」 「そりゃそうだろうなぁ。空間操作系の能力者は大成が遅いってのがよく分かるわ……消費量やら制御に問われる センスと技量とかがバカにならん」 「それは貴様が精神鍛錬を怠っているからだろう? こんなところで倒れても、荷物になるだけだから担いでは やらんからな」 「あいよ、肝に銘じておくよ」 二人は喧しく絶叫と奇声を上げながら、軽くなった下半身を引きずりながらもがき暴れるカバ龍に目を向ける。 「なぁ堂雪さんや……ここでひとつ、欲目を出してもいいかね?」 「やるなら自分ひとりで勝手にやれ。これ以上は無益な殺生だ。俺は付き合わんぞ」 「ちっ、じゃあテンペっちゃんに頼んでみっ……一人でやるか」 妹分とはいえ、絶賛リバーシング真っ最中の女性に声をかけるほどにデリカシーを欠いている訳でもない。 見なかったフリをして、改めて駄々を捏ねる子供のように暴れ続けるカバ龍に向き直る。 「とりあえず、アレに乗れるように投げてくれや。あとは一人でなんとかするわ」 「付き合わん、と言った筈だが? テンペスターの介抱をする。そっちは自分でやれ」 「へいへーい。んじゃ、やってみるかねぇ」 金剛仁王の手から飛び降りた静馬は、錯乱のカバ龍へと駆け出す。 「慎重に、かつ、力を込めすぎないように、丁寧に、丁寧に、慌てず、騒がず、御する也、か……」 得た力をそのまま使うことが基本的なバトルスタイルであった静馬には、細やかな作業は心身ともに疲労感を 倍増させる行為であるのだが、下手に力をありのままに振るってしまえば、カバ龍は両断、自分もガス欠と 骨折り損のくたびれもうけになってしまう。 (こんなんだったら、グリ婆に言語以外ももっと教わっとけばよかったかねぇ) 今頃は藤神門宗家の書庫で、山のように積まれた書籍を読み漁っているに違いない「明星の魔術師」グリアノールの しわくちゃの顔と、若年層の同盟参加者はほぼ全員強制参加させられた地獄の言語学講座の光景を思い出す。 様々な書籍や伝承を読み解くことを趣味とする傍ら、伊達に「魔術師」の異名を得ているわけではなく、 どのようにして使うのかは決して誰にも明かすことなく放たれる「魔法」の暗黒で未知生命体を屠ってきた その経験と技量は同盟内でも随一のものである。 流し込む力、振るう力、見据える敵、集中。 まだ負担は大きいながらも、静馬が振るう刃は身動き出来ないカバ龍の前足を捉え、刃で右、空間切断で左の足を 胴体から分離する。 「ぐ、う、相当抑えたとは言え、最低消費量がこうもデカいと、きっついねぇ……で、だ。おいカバ公、 そろそろ決着と行こうか」 けたたましく吼えるカバ龍に今出来るのは、自前の空間圧縮による衝撃波攻撃のみ。 吸引のために口をあけようとするが、顎が動く空間を確保していたはずの四肢が失われたことで地べたに 這い蹲らざるを得ない状態になり、満足に開口することも叶わない。 「やっぱ最後に頼るのは能力ってか。でもよ、種も仕掛けも丸裸の手品ほど、詰らんものもないぜ?」 カバの如き大きく突出した口で吸引圧縮した空間を噛み砕いて衝撃波を発生させているわけだが、もう身動きの 取れない今の状態であれば、後方は完全なまでの安全地帯。 任務の都合上仕方なく覚えらせられたロッククライミングの技術と、堅い表皮を熱したナイフでバターを切るかの 如くに滑らかかつ易々と切り込む剣を足場代わりにして、暴れるカバ龍の腹を今度は自力で登ってゆく。 「さて、このデカい図体だ。ホントはバッサリやっちまいたいところなんだが……生憎と、今の俺は、 ちょいとばっかり強欲で、ね」 四肢を捥がれ、開腹され内臓と思しきものや体液をぶちまけるカバ龍の生体活動のリミットは近い。 となれば、何とかリミットを越えて滅する前に素手で一押し、してやるだけ。 「こうなると、ついさっきまでテメェに追いかけられてたのが嘘みてぇだな。そいじゃ、コイツで終いだ」 剣の刃をカバ龍の背に宛がい、そのまま駆ける。 鋭利を極める刃がカバ龍の背を開き、内骨格を顕にする。 首筋の内骨格の出っ張りに足を掛け二度の旋廻、後頭部の肉を削ぎ落とし、内骨格を僅かにスライス、頭蓋に 収まる生体中枢を暴く。 旋廻の勢いをそのままに疾駆、剣を納め、暴かれた生体中枢に剥き身の素手を突き込む。 「チェック、メイト」 静馬の素手に蓄えられた、形を成さない力の奔流は、カバ龍の生体中枢を混ぜ返し、神経節の悉くを焼き切る。 後に静馬自身振り返っても驚くほどの、冷静かつ正確な殺戮への疾走。 その双眸が赤黒く輝いていたのは、瞳まで洩らすことなく全身血に塗れたからだろうか。 カバ龍の全身が鳴動し、震え、動かなくなる。 淡く輝く始めたその巨躯は静馬の左の掌一点に集約、新たなメダルとなる。 「へっ、どんなもんだ……あら、らぁぁぁ……?」 足場にしていたカバ龍の消失と同時に、力の大量消耗により立つ気力も失われ、投身自殺の如く、宙にその身を 投げ出す形になる。 浮遊感と、喪失感。 刹那、静馬は何かを見たような気がした。 夢か、幻か、それともこれが走馬灯というものだろうか。 ―――※――― 日本有数の異能の大家、藤神門家の宗家。 その屋敷たるや広大なもので普段は静謐を極める地となっているが、今日は静寂の入り込む余地のないほどに 浮き足立っていた。 それもそのはず、未知生命体の出現に対し、初めて先手を取ると共に『預言』への最大規模の抵抗となる今回の 「エンブリオ」反抗作戦が、今正に佳境を迎えようとしているからである。 現場より寄せられる報告に、数少ないスタッフに、藤神門家に出入りする門下生他まで巻き込み、戦場さながらの 慌しさで分析作業が行われている。 その現場に、その報告がもたらされた時、その場に居た者全員が、押し黙り、驚愕せざるを得なかった。 エンブリオ、大西洋上に出現を確認 エンブリオ、エベレスト山頂付近に出現を確認 北極点付近に未確認の巨大球状物体が姿を現したとの未確認情報 etcetc…… 「どうされますかの、フジさんや」 「どうもこうもないわい……我々の行動も、彼らの奮戦も、結局は後手じゃった、というだけじゃ。 なんとも空しきものよな、グリさんや……」 同盟の重鎮たる藤神門老とグリアノール老、共々に寄せられた報告の数々と、現場で命を賭ける者達に、 想いを馳せる。 しばし沈黙があって、藤神門老が声を上げる。 「……だとしても、だとしてもじゃ! 今日この日を人類の終わりになどしてたまるものか! よいか各々方、 今ここで絶望し、諦め、果ててしまうようであれば、わしらは戦地に向かった彼らに地獄で顔向けできぬぞ! 最後の最後まで足掻いて、もがいて……藁の一束で構わん、彼奴等への反抗に繋がるものを、見つけ出すぞ!」 齢百に近しいとは思えぬほどに、力強く、高らかに、猛る藤神門老。 その一喝で、場の機運が再び燃え上がる。 ここで止まるわけには行かない。明日を、未来を、勝ち取らなければならない。 それが、この運命の年を迎えるまで生きながらえ、未知なる驚異と戦う力を多き少なきによらず手にした者たちに 天より与えられた宿業ではないだろうか。 再び反抗の炎を燃やす同志に、新たなる報がもたらされる。 大西洋上のエンブリオ、爆裂四散 原形質、体内物質他は広域に拡散、海流に乗り尚も拡散を続ける エベレスト頂上のエンブリオ、対流圏にて爆砕 非常に細分化された原形質はそのまま大気流動に乗り、やがては世界全域に拡散することが見込まれる おそらくは、この後世界は彼奴等の存在を今まで以上に確固たる形で許すことになるのだろう。 だが、それがどうした。 彼奴等が人に仇為すものであるならば、我々は戦う。 そうでないならば、融和の道を探ろう。 今我々にできるのは、この日この時を世界の終わりとしないためにもがくことだ。 「急げよ、アレの爆砕がもたらす意味を探るのじゃぞ! ……フジさんや、ワシは行くでの」 「ゆめゆめ、ご無理はされぬよう……彼らはきっと、此処に集いし我等のような、未知なる力をその身に宿し 生まれてくる子らの道しるべとなるはずじゃ。頼みまするぞ、グリさん」 グリアノールは数名を引き連れて、戦地に赴いた彼らの救出に当たる。 「さて、この後、世界はどうなるかの……?」 子々孫々に至るまで、戦うことになるのか。 それとも、戦いの連鎖は止まるのか。 始まりの瞬間に立ち会おうとしている今時分の彼らには、知る由もない。 ―――※――― 「ん、あ……あ?」 「やっと起きたぁ……心配しましたよぉシズマ様ァ!」 「全く、倒れても担いではやらん、と言ったばかりだというのに」 「あ……ああ。悪ぃな、堂雪にテンペっちゃん。にしても、何か変な感じだな。何が起こってる?」 「分からぬ。だが間違いないのは」 「エンブリオ全体が壊れそうなんですよぉ! なんかあっちこっちが裂けたり気持ち悪い液体が染み出したりして、 まるで潰れようとしてるみたいに」 言われて、静馬は周囲を振り返る。 金剛仁王の掌に乗せられて、三人は当てのない道をただひたすらに進んでいる。 そこらじゅうがひび割れて体液っぽい何かが流れ出ているのも確認できた。 この通路が、この空間が、押しつぶされるような圧迫感を覚える。 「なぁ堂雪、さっき確か、この空間って圧縮してこの広さを確保してるんだろう、っつってたよな?」 「あくまで仮説に過ぎんがな……静馬、お前の勘も、当たってるかも知れんぞ」 得心する二人に対し、一人ハテナ顔のテンペスター。 「もう、何なんですか! 男二人で理解しあっちゃって! 不健全です!」 「いや、まだ結論って訳じゃないんだけどな……多分だけど、コレ、限界圧縮したあとに、空間復元の反動を 使って爆発するんだろう、な」 「ってことは……」 「少なくとも、脱出しない限りは生存の保障はないだろうな」 そのとき、静馬だけが、直感的に何かを感じ取る。 「……なぁ堂雪、テンペスター、二つほどお願いがあるんだが」 「なんだ静馬」 「はい?」 「何があっても、とにかく前に走ってくれ。後ろは俺がどうにかする」 「何だ? 藪から棒に何を言い出すかと思えば」 「どうかしたんですか? シズマ様も一緒です、よね?」 「で、二つ目。俺が道を作る。お前らは―――絶対に、生きろよ」 「え?」 言うが早く、静馬は剣を実体化させ、下から救い上げるように大きく切り上げ、そのまま後方、金剛仁王の 背中をバック宙で飛び越す。 目の前、静馬の剣が生み出した空間の断絶の向こうには、夜の帳が下りた空が見える。 「静馬!? お前、何を」 「前を見ろ! 走れ! 立ち止まるなぁ!」 「シズマ様はどうされるんですか!?」 「野暮用が出来たんで、あとから行くさ! 早く行け!」 「……静馬、約束は、守れよ?」 尚も叫ぶテンペスターは堂雪に抑えられ、金剛仁王は空間の断絶の向こう、彼らのあるべき世界へと帰還する。 「分かってるさ……出来るかどうかは別にして、努力したことだけは察してくれよな」 先ほどまで疲弊しきっていたとは思えないほどに、体が軽い。 これほどまでに鮮やかに着地が決まるとは、思っていなかった。 「で、だ。決着のひとつもつけないと、帰れないよな、お互いに」 立ち上がり、背後に待つモノに、剣を突きつける。 「だよなぁ、セルグライデ!」 「キタガミぃ! 貴様は世界を革命する力に取り込まれ、滅ぶがいいわぁ!」 「吼えてろよキ印ペドが! テメェこそ、ここでロリの楽園の夢でも見ながらくたばりやがれぇ!」 どす黒く赤く濁った瞳と、燃え盛る轟炎の如き真紅の瞳が交錯する。 ―――※――― 数名の帰還不能者を内に宿し、太平洋上のエンブリオも、例に漏れることなく、爆砕した。 記録によれば、作戦参加者の内、北神 静馬、セルグライデ・モントゥーロ、アルファリード・ノブリスの3名に 関しては、他の戦死者と違い、肉体の一部も、遺品と思しき物も、見つけられることはなかったという。 かくして、世界は、後に魂源力(アツィルト)と呼ばれる力を源泉とする異能力者と、未知生命体改めラルヴァとの、 種の存続を賭けた、余人の知らぬ戦乱の火蓋が切られることとなった。 あるものは、これこそが世界の終わりの始まりだと言った。 あるものは、これこそが世界の革命の瞬間だと言った。 真実はどちらなのか、それともまた別のものか、それは今でも分からない。 だが、間違いなく言えるのは、1999年を境にして、世界のありように変化があった、それだけである。 ―――※――― 「あら? これは……随分と面白いお客様ね? ようこそ、……………へ……」 全力を使い果たし、気力も体力も使いきり、床に這い蹲る静馬が最後に聞いたのは、そんな少女の言葉だった。 ような気がする。 その1へ その3へ トップに戻る 作品保管庫に戻る