約 7,335 件
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/17.html
……何だったんだ、今のは。 もっとも端的に表現するならば「夢を見ていた気分」と言えばいいだろう。しかし、まさかこんな場所でこんな時間に夢など見るはずもない。そもそも寝てない。 もう一度、例の本のページをめくる。 目についた記述は、「老砲兵の意地(ZAC2101年)」というもの。その先は空白。 (……歴史書かと思ってたら……、そうでもないらしい) と、思った時。 「っ!」 また、あの感覚。引き込まれるような、包まれるような。 「はあ? 今更戦闘配備ってな、どういうこったよ?」 しゃがれた、しかし強い老人の声が響く。 「摂政直々の命令だ。拒否は許されん。それと、予備役だからといって、その口のきき方は上官反抗に当たる。気をつけたまえ」 暗黒大陸ニクス、ガイロス帝国首都ヴァルハラ。そのはずれに位置する小さな家に、突然、数人の軍人が訪れた。 「集合は明後日、〇九〇〇。遅れないように」 「……了解」 そう返すと、軍人達はさっさと出てゆく。他にも行く所があるのだろう。 「ちっ」 家の主は、舌打ちを漏らした。 フーバー・シュタインベルグ。齢80を超える、ガイロス帝国軍元曹長。かつてこの星で起こった大陸間戦争において、ゼネバス帝国から接収したブラキオスやシーパンツァーで、多大な戦果を挙げた老砲兵である。 彗星衝突後も退役せず、予備役として軍に身を置き続けていた。もっとも、まさかこんな時期になって召集がかかるとは思っていなかったが。 翌々日。兵員輸送車に揺られ、同じく召集をうけた予備役の兵と共に、フーバーはヴァーヌ平野の軍事基地に向かった。 兵員や将校には、彼を知る者が何人もいた。しかしながらフーバーは、話しかけてくる者をことごとく無視する。 そんな気分ではないからだ。 (……確実に勝てた戦を長引かせた挙句、予備戦力の投入、か……) 一昨年の西方大陸戦争に端を発する、この戦争。当初、ガイロス帝国軍は圧倒的に有利だった。戦力は、敵の三倍。戦争において重要な制空権も、レドラーを有する帝国側が一方的に握っていた。勝てるはずの、いや、勝てなければおかしい戦争だった。 それがどうだ。今こうして、ガイロス帝国軍は予備役すら駆り出されている。 西方大陸で敗北した要因はいくつかある。共和国の新型機ストームソーダーの存在。あまりに速い進撃による、兵站の伸び。ロブ基地に仕掛けた奇襲作戦の失敗。これらが絡み合い、帝国軍は敗北した。 (……自滅した、と言っても過言じゃねえんだがな) フーバーはそう思う。ストームソーダーは本来、帝国軍の新型機だった。その設計データを奪われたのは、開発局の怠慢。 兵站の伸びは、上層部の計算違い。 ロブ基地奇襲失敗は、そもそも兵站の伸びが原因。 結局のところ、敗因の半分以上はこちらにあるのだ。 (……着いたか) そうこう考えているうち、基地に着いたようだ。 格納庫には、キャノリーモルガをはじめとする砲撃用ゾイドが並んでいた。その中に一機、姿を異にする機体がある。 「マルダーか……」 フーバーにとっては、やっつけのように大砲を背負った突撃機のモルガより、よほど馴染みのある機体だった。旧大戦の初期にゼネバス帝国によって開発された、カタツムリ型重ゾイド。ガイロス帝国軍も、ディオハリコンを試験的に投与した機体を何機か使用していたはずだ。 「あの機体、誰が乗るんだ?」 手近な整備兵を捕まえて、聞いてみる。 「誰も乗りたがらないんじゃないですか、あんなロートル。曹長の隊の中から、搭乗者を出してくれるんですか?」 まあ、確かにそうだろう。 フーバーは、そのロートルの所に足を向ける。 どこか愛らしさすら感じさせる機体でありながら、間近で見ると意外なほどの迫力がある。 良く見れば、装甲には幾つもの小さな傷が走っている。年式を確認すると、ZAC2033年製とのことだった。 ……面白い。 フーバーは、急にこのマルダーに乗ろうと思い立った。 轟音が響く。空気そのものが振動し、伝播する。 戦場。 (……まさか、また帰ってくるたあな) マルダーのコクピット、気密性の高いそこにいても、ひしひしと感じる。 50年近く忘れていた、思い出そうとしなかった感覚。 「お前さんも思っちゃいなかっただろ?」 口に出して、マルダーに問う。 後の歴史書に記される「ヴァーヌ戦線」の中で、フーバーは重砲隊を率いて戦っていた。 突撃志向の強いガイロス帝国陸軍において、砲兵隊は臆病者の集団と考える輩は少なくない。 しかし、フーバーはそれでいいと考える。人間臆病な位が丁度いい。実際、自分がこうして生き残っていられるのは臆病だったからである。 だが、戦場の女神は気まぐれだ。 布陣の左翼、キャノリーモルガが二機、吹っ飛んだ。 「何っ!」 敵がいる。だがどこに? 四半秒思考を流す間に、また一機、モルガが撃破される。 (……高速機、それもステルスか) おそらく光学迷彩。それも、ヘルキャットの物を上回る。 弾種を選択、まさか使うとは思わなかった「広範囲ペイント弾」を装填。 「……行けよ!」 ミサイルハッチを半開きにして、真上に撃つ。一瞬の間をおいて、上空から大量の塗料がぶちまけられた。敵の姿が露になる。狐型の中型機。おそらく後方撹乱の任務に就いた機体だろう。 「そこか!」 加速ビームランチャーが連射力に物を言わせ、姿を見せた敵に浴びせられる。だが、当たらない。 「ちっ、速え」 おまけに光学迷彩がすぐに復活した。エネルギースクリーンに自機の周囲の映像を移すタイプなので、塗料がかかった「瞬間」は無効化できても、すぐにスクリーンに隠されてしまうのだ。 「下がれ! 無駄に死ぬだけだぞ!」 同士討ちを恐れ、下手に撃てない重砲隊に指示を飛ばす。飛ばしがてら、次の策を考える。余裕を見せているのか、追撃はまだない。 (ペイントが駄目なら……) フーバーは、撃破されたモルガに加速ビームの照準を合わせた。乗員の脱出は確認している。 (すまん……!) 撃つ。搭載された弾薬に引火、モルガが激しく炎上する。 追い討ちをかけるがごとく、榴弾をマルチミサイルランチャーから発射。爆発的な勢いで、戦場は炎に包まれた。 「……見えたぜ!」 それがフーバーの狙いだった。炎により発生する熱、それによって引き起こされる大気の揺らぎ。光学迷彩のスクリーンも、それによって大きく揺らいだ。 マルダーの左ハッチが開く。中口径電磁砲。当たれば、敵の動きを止められる。 同時に、加速ビーム砲も火を噴く。こちらはエサだ。相手を電磁砲の射界に誘導するための。 「そこだ!!」 電磁砲が発射される。一発目、僅かに逸れた。だが二発目は命中。敵の足が止まる。 「こいつで……とどめ!」 最後の一撃、ミサイルランチャーから対ゾイド徹甲ミサイルが撃ち出される。 高速機の装甲は、脆い。弾頭が敵機に突き刺さった。 「……さすがです、曹長」 見ると、一機のモルガが戻って来ていた。 「何をしてる。下がれと……」 不意に、フーバーの総毛が逆立った。 撃破したはずの敵機、既に丸見えとなっている濃紺の狐型ゾイドの背中、バルカン砲と思しき武装が、こちらに狙いをつけていた。 ――奴の武装はまだ生きている!! 発砲される寸前、フーバーはマルダーを横向きに、モルガへの射線を遮った。 一瞬遅れて、徹甲レーザーの雨、それも横殴りの強烈な一撃が、マルダーを、フーバーを襲う。 「そ……、曹長!!」 「いいから逃げろ! 俺に構うな……!!」 装甲がひしゃげてゆく。しかし貫かれはしない。 「行け!!」 フーバーの声に押されるように、モルガが走る。 時間にして数秒、マルダーは射撃に耐えた。その数秒で、モルガは逃げ切ることが出来た。敵の残りエネルギーが少なく、射撃がすぐに止んだからだ。 だが、 「……ここらが、年貢の納め時か」 その代償は、フーバーと、そしてマルダーの命。 装甲は撃ち抜かれ、搭載していた弾薬に引火、射撃が止んで一瞬後、歴戦の砲兵を乗せたマルダーは、爆散した。 フーバー・シュタインベルグ、ヴァーヌ平野で戦死。二階級特進により、中尉に任官。 歴史に記されるのは、たったこれだけの文章。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/70.html
「……くそ、思った以上に強情だな」 エクステリアから、古代種コアを制御するための代謝パターンを聞き出す事を依頼された男達は、彼女が中々口を割らない事に苛立っていた。 所詮、良い所のお嬢様であり、少し脅してやればすぐに折れると思っていたが、どうやら見当違いだったようだ。既に何度も冷水をぶっかけているが、まだ話す素振りを見せない。 「おい、いい加減吐いたらどうだ? いつまでもそうやってたら、あんた死ぬぜ?」 だが、エクステリアは寒さで紫に変色した唇をキッと引き結び、男達を睨みつける。 ここで脅しに屈してしまえば、エクステリア自身の命ばかりか、多くの人命に関わる事態に発展してしまう。Zi-ARMSが何かよからぬ事を企んでいるのは、彼女も知っていた。話すわけにはいかない。 「な、何度聞かれようと……、私は貴方達には代謝パターンを教えません……!」 「ああ、そうかよ!」 あらかじめ用意された冷水が、またエクステリアにかけられた。今度は氷入りで、さらに激しくエクステリアの体温を奪う。 スーツどころかその下のブラウス、さらには下着までぐっしょり濡れてしまった。下半身もスカートとストッキング、果ては靴の中まで水浸しになっている。肌に纏わりつく感覚が不快だが、耐えるしかない。 「……おい、お嬢さん。そこまで頑固に拒否するってんなら、こっちもそれなりの方法を使わせてもらうぞ」 そう言うと、男はエクステリアの髪を掴み、頭を乱暴に持ち上げた。別の男が、彼女の頭の下に氷水を張ったバケツを持ってくる。 「ま、まさか……、やっ、やめ……!!」 言い終わる前に、エクステリアの頭がバケツに突っ込まれた。刺すような冷たさがエクステリアの顔全体を襲い、拘束された身体を必死になって暴れさせるが、芋虫のように悶える事しか出来ない。 (……っ、駄目! こ、これ以上はっ……!!) 息が限界になったところで、エクステリアは水から引き上げられる。 「……ぷあっ! ごほっ、はぁ、はぁ……、っ!?」 だが息つく間も与えられず、再び顔をバケツに入れられた。鼻に水が入り、目の奥に痛みを覚える。 (た、助けて! 誰か、誰か助けてっ!!) 何度これを繰り返されたか、再び水浸しの床に転がされ荒い息を整えようとするエクステリアに、男が問う。 「どうだ、話す気になったか? これでもまだ吐かねえってんなら、もっと酷い目に遭ってもらうぜ……?」 「別に俺達としちゃあ、あんたの脳味噌と口が残ってりゃいいんだ。手足の一本や二本、切られてみるか、あぁ!?」 先ほどまでエクステリアの頭を入れていたバケツの中身を撒き散らし、男達は声を荒げた。その手には、小型のチェーンソーが握られている。 ――殺される。エクステリアはそう感じた。 「……やれ」 チェーンソーが、唸りを上げて動き出した。鈍く光る回転刃が、エクステリアの膝に迫る。 「に、25879371!!」 「あ、何だって? もう一回言ってみな」 「25879371、こ、これが代謝パターンのコード!!」 自身に迫った絶対的かつ本能的な恐怖から、エクステリアはついに屈した。 「嘘じゃねえだろうな?」 「ほ、本当よ! 本当です、嘘じゃありませんっ……!!」 なお回転を止めずに迫る鋸刃から目を逸らし、涙声でエクステリアは叫ぶ。 「……よし、格納庫へ行く。お前、この女を見張ってろ。いいか、まだ殺すなよ?」 リーダー格の男が指示を出し、一人を連れて部屋から出た。残りの一人が内側から扉に鍵を掛け、折り畳み式の椅子を広げてそこに座る。 「さて、あんたにはまだ役に立ってもらうぜ」 予想通りの言葉だが、改めてまだ解放されないと聞かされエクステリアは項垂れる。自身の置かれた状況、そして機密を喋ってしまったという事実。その結果起こるであろう事象。この先を考え、エクステリアは絶望した。 ――彼女を、正確には彼女が捕らわれているホエールキング全体を激しい衝撃が襲ったのは、この直後だった。 「じゃあ、アーネさん救出は任せたよ!」 『ああ、お前も無茶はするな!』 デカルトドラゴンを退けたジェットレイズタイガーは、その勢いのままホエールキングに吶喊した。牙を通した内部破壊攻撃……エクスプロード・バイトを放ってなお、余りあるエネルギーをもって撃ち出したレーザーでホエールの下部ハッチを破り、そのまま艦内へ侵入する。 プテロレイズを切り離し、リオーネがそこから降りるのを確認してリエルは行動を起こす。自分の役目は陽動だ。可能な限り敵の目を引き付け、リオーネから……その先にいるエクステリアから引き離す。 すぐに、艦に配された警備兵が駆けつける。だが生身の人間と大型ゾイド、始めから勝負にならない。目障りな虫を払うように、レイズタイガーが前脚を振るう。蜘蛛の子を散らすように、警備兵は逃げ惑った。 「さあ、そこをどいて。あたしはそっちに行きたいんだ」 適度に道が拓けたところで、レイズタイガーは走り出す。その目指す場所は、メイン格納庫。 「……こっちか」 エクステリアの発信機から来る電波を頼りに、リオーネは複雑な艦内通路を進む。一応出撃前に、基本的なホエールキングの艦内レイアウトについては頭に叩き込んだ。しかし実際には使われていない、あるいは塞がれた通路なども存在し、一筋縄ではいかない。 「――ちっ!」 先を急ぐあまり、曲がり角で危うく敵の人間と鉢合わせしかけた。柱の影に身を潜めやり過ごす。 (潜入任務なんて、何年ぶりだ……?) 記憶を辿るが、思い出すことは出来なかった。思い出す前に、目的の場所に到達したからだ。 「ここだな」 与圧こそされているが、空調は効いていないのかえらく寒い。艦底部にほど近い区画の一室、そこからエクステリアの反応がある。 「……よし」 わざと派手な音を立て、扉の前にうつぶせで倒れ込む。予想通り、扉が開いて中から男が出て来た。 「……何だ、コイツ?」 男はリオーネが気絶していると思ったのか、しゃがみこんで起こそうとする。その瞬間、リオーネは男の鳩尾を渾身の力で殴った。 「ぐぇっ」 間抜けな声を上げ、男が気を失う。他の声や音が聞こえない事から、この場にはこの男しか居ないようだ。あの屈強なSP二人を薙ぎ倒したという少女に出くわさなくて良かったと思い、周囲を抜け目無く確認しつつ、リオーネは部屋に踏み込む。 「おい無事か、エクステリア・アーネ!」 「……あ、ふ、フィンチ……さん?」 「安心しろ、今助けてやる」 びしょ濡れで床に転がされたエクステリアに走り寄り、ナイフを取り出して彼女の手足を縛る結束帯を切る。 「立てるか? ……おい、どうした?」 「――っ!!」 「っ、お、おい!?」 項垂れたまま押し黙ったエクステリアを見て、どこか怪我でもしたのかと心配したリオーネだったが、直後いきなり首に抱き付かれ大いに戸惑う。 「こ、恐かった……! 私、わたし、っ……!」 「……ああ、もう大丈夫だ。早くここから逃げるぞ」 緊張の糸が切れたのか、腰が抜けたらしいエクステリアを抱きかかえると、リオーネはプテロレイズを置いてきた下部格納庫へ向かった。 「……せいっ!!」 メイン格納庫で、リエルはレイズタイガーを派手に暴れさせていた。最初にこの機体特性を聞いた時は集光パネルとその攻撃にばかり目が行ったが、どうやら格闘戦におけるレイズタイガーのポテンシャルは想像以上のようだ。現に今も、前脚の一振りで駐機されていたアイアンコングを軽く吹っ飛ばした。 ……この機体、集光ギミック無しでも充分強いんじゃ? そんな疑念がリエルの頭に浮かぶ。もっともそれが無ければデカルトドラゴンを倒せなかったので、あくまで冗談だが。 「さて、そろそろかな……っ!?」 予定通り行けば、リオーネがエクステリアを救出して戻っている時間だ。リエルも戻るべく機体を返すが、そこに得体の知れない、威圧感とも悪寒とも取れる感覚が走った。 「っな、何……!?」 格納庫の扉が開く。薄暗い中でもはっきり見える漆黒の装甲、その間から見える紅いフレーム。がっしりした体格の四足獣型ゾイド。 レイズタイガーと同じ、虎の姿。 「まさか、あいつも……?」 その周りの景色が歪む。まるで、漆黒と紅の虎自身が高熱を発しているかのように。 「リエル、何かあったのか? リエル!?」 『……ごめん、リオーネ。先にアーネさん連れて脱出して』 プテロレイズに辿り着いたリオーネは、先に居るべきだったリエルのレイズタイガーが居ない事に気付き通信を入れた。その結果返ってきたのが、『先に逃げろ』という内容。 「一体何があった?」 『……多分、古代種のコア積んだゾイドに出くわした』 「くそ……、よりによって最悪の想定かよ」 「ご、ごめんなさい! 私が喋ってしまって……」 「いいさ、あんたは悪くない。それよりリエル、どうする気だ?」 古代種が相手となると、これまでのように機体性能まかせの強引な戦闘は出来ないだろう。倒すにしても逃げるにしても、それなりの算段が必要になる。 『……わからない、でも、とにかく今あいつをどうにかしないと、大変な事になる気がする』 リエルの直感力は、時として神がかり的なものを見せる。何度もそれに命を救われてきたリオーネは、よく知っていた。 「……死ぬなよ」 「ふ、フィンチさん!?」 「あいつが『やる』って言ったら、止める事は出来ない」 それも、リオーネはよく知っている。 「ZOITECのネオ・タートルシップが上がってるはずだ。そっちへ行く。狭いが、我慢してくれ」 「は、はい!」 エクステリアを膝の上に乗せる形で、リオーネはプテロレイズのコクピットに収まる。 (死ぬなよ、リエル・フィアット……!) 飛び立つ直前、リオーネは口には出さず繰り返した。 「……っ」 コクピットに居てなお、恐ろしいまでのプレッシャーを感じる。それほど、古代種のコアが発する威圧感は相当なものだった。今までは心強い力だったものが、敵として現れる。想定していたとはいえ、出来れば拝みたくない光景だった。 「まあ……、仕方無いよね」 轟音と共に、ホエールキングのサイドハッチが左右に開いてゆく。閉ざされた空間では、下手をすればホエール自体を落としかねないと判断したのだろう。 「――! 来る!」 紅い虎……装甲色は漆黒だが、何故かリエルはそう感じた……の装甲が跳ね上がる。中に無数の砲塔が見えた、その瞬間にリエルはレイズタイガーを後ろに跳ばした。 一瞬置いて、レイズタイガーが居た場所を無数の熱線が駆け抜ける。着弾していないにも関わらず、熱線が通った下の床は赤熱し、溶けていた。 「っ、全部まともに喰らったらヤバい……!」 光学系兵装を吸収し自身のエネルギーとする集光パネルといえども、許容量には限界がある。かつての大戦時、初めて同装備を施した凱龍輝がセイスモサウルスとやりあった際には、超集束荷電粒子砲を吸収こそしたもののオーバーロードを起こし、集光荷電粒子砲を撃ち返せないという状況に陥ったと聞く。あの熱線がセイスモの砲と同威力かどうかはさておき、喰らわないに越した事は無い。 「なら、接近戦!」 風をまいて、レイズタイガーが紅い虎に迫る。装甲を閉じ、紅い虎がこちらに向き直った。 「っだ!!」 右前脚を振り上げ、爪を叩き込む。必殺の間合い。格闘戦なら、レイズタイガーに勝るゾイドはそう居ない。少なくとも今まで操縦していたリエルはそう思う。だが――。 「なっ!?」 それが、あっさり止められた。それも一度後ろに下がり、空振った右前脚に喰らいつく――文字通り、長い牙を有する口で――という形で。凄まじい反射速度と、状況判断。野性的、と言ってもいい。 そのまま、紅い虎が首を横に振る。一度レイズタイガーを振り上げ、次の瞬間全力で床に叩き付けた。 「ぐぁっ……!!」 衝撃で息が詰まる。 「……っ、この……!!」 あちこち痛む身体を必死に動かし、起き上がる動作で紅い虎に頭突きをかます。入った。頭が上がり、首筋がノーガードになる。機を逃さぬよう、追撃の牙を閃かせる、が、 「――っああ!?」 紅い虎が、猛烈な勢いで頭を振り下ろした。凄まじい衝撃がレイズタイガーの頭部を……コクピットを襲う。 ――冗談抜きで強い。 霞む視界を必死に保ちながら、リエルは紅い虎と距離を取った。あの熱線は連射こそ出来ないようだが、離れるのは危険だ。 (それでも……) 格闘戦で優位(アドバンテージ)を取れないのなら、集光ギミックに懸ける。 「……」 手に汗握りながら、その瞬間を待つ。全てを喰らうのは危険すぎる。だが、片側の集光パネルを全て潰すくらいの気合で行かなければ、恐らく当たり負ける。 「……っ」 だから、勝負は一瞬。熱線が発せられた瞬間に、効果範囲外にレイズタイガーの半身を出せるか。これが勝負の分かれ目。 「……!」 来た。紅い虎が装甲を開く。 「こ、」 砲塔が赤い光を放つ。 「こ、」 レイズと紅い虎の間を、無数の熱線が迸る。 「だっ!!」 その瞬間、レイズタイガーが左斜め前に踏み出した。 圧倒的な熱量が、射線上からレイズを弾き出そうと襲い掛かる。だが意にも介さず、レイズタイガーは突き進んだ。 「……いけぇっ!!」 熱線が止んだ瞬間には、レイズは紅い虎の懐に潜り込んでいた。右半身の集光パネルは完全に焼け付き、只の板と化している。 だが、左の集光ギミックは生きていた。 レイズが、紅い虎に喰らいつく。装甲を開いたままの紅い虎は、振り払おうにも開いた装甲が邪魔をして上手く動けない。心なしか、先ほどよりパワーも落ちている。 牙を通じ、熱線から得た膨大なエネルギーが紅い虎に叩き込まれ―― 「弾けろ、っ、あ!?」 なかった。左半身の集光パネルが、内部の熱量に耐え切れず溶け落ちている。 「――ぅ、ぁ」 次の瞬間、レイズタイガーのエネルギー循環チューブがあちこちで破断した。行き場を失った熱量が、内側から機体を溶かしてゆく。 ――そしてその現象を、同様に紅い虎も起こしていた。
https://w.atwiki.jp/jujutsu/pages/11.html
関連ブログ @wikiのwikiモードでは #bf(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するブログ一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_161_ja.html たとえば、#bf(ゲーム)と入力すると以下のように表示されます。 #bf
https://w.atwiki.jp/jujutsu/pages/10.html
@wikiにはいくつかの便利なプラグインがあります。 RSS アーカイブ インスタグラム コメント ニュース 人気商品一覧 動画(Youtube) 編集履歴 関連ブログ これ以外のプラグインについては@wikiガイドをご覧ください = http //atwiki.jp/guide/
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/61.html
皆様こんにちは、はじめましての方は、はじめまして。イリアスのゾイド講座、始まります。 時に皆様、必殺技はお好きですか? 今回は存在そのものが必殺技、オーバーテクノロジー搭載ゾイド・ヴァルガについての解説です。 ダンゴムシ型ゾイドのヴァルガは、ZAC2056年のグランドカタストロフ後に開発されたガイロス帝国製ゾイドです。開発者はケネス・オルドヴァイン技術将校。 この機体最大の特徴は、前述の通り搭載されたオーバーテクノロジーにあります。それについて、いくつか述べねばなりません。 惑星Zi史上最強を誇ったとされる巨大ゾイド、キングゴジュラス。この機体には、それまで使用されていなかった地球技術が多く使われています。 判明している所では、「エネルギー変換システム」と「重力コントローラー」、そして特殊な操縦系統。この内「重力コントローラー」は、キングゴジュラスの巨体を支え自在に動かすために使用され、さらに防御に転用され「グラビティモーメントバリア」として用いられていたとのこと。 これらの技術が、何故キングゴジュラス以前まで封印されていたのかは不明です。単に惑星Ziでの再現が難しかったのか、はたまた地球移民の保身のためか……。しかしいずれにせよ、キングゴジュラスにこれらの技術が用いられていたのは事実です。 そして、キングゴジュラスはグランドカタストロフによりチェピンで行動不能となり自爆。……ですが、その残骸は残っていました。 それらを解析したのが、他ならぬケネス・オルドヴァイン。その技術でもって開発された機体の一機が、このヴァルガなのです。 ヴァルガに用いられたキングゴジュラス由来の技術は、「重力コントローラー」系統のものです。機体内部に小型の重力発生装置を搭載し、それによって重力場を発生させ、機体を丸めて敵に体当たりする「グラビティアタック」が、ヴァルガの必殺技。その威力は、エクスグランチュラを軽々と吹き飛ばすほど。 当然ながら、自身にかかる負担も半端ではありません。故に、キングゴジュラス同様に重力コントローラーによるメインフレームの強化も行われている模様です。ただし、コンセプトとしては防御ではなく補強のため、バリアとして使用されているわけではないようですね。 負担対策としてもう一つ、目標に激突した瞬間に、衝撃を逃がすために瞬時に機体を伸ばすという機構があります。しかしこれは欠点にもなり、リーバンテ島戦では塹壕にグラビティアタックを阻まれ、各個撃破されるという結果を生むことになってしまいました。 グラビティアタックにより、「機体そのものが武装」と言えるヴァルガには、重火力は搭載されていません。後付武装は機体側面のミサイルポッドのみで、他の火器は全て埋め込み式。このことからも、ヴァルガが一芸特化型であることが窺えます。 前述の通り、グラビティアタックには一度ぶつかると形態を解除されてしまうという欠点がありますが、他にもいくつか欠点を見ることができます。 まず、加速を得るためにある程度のスペースが必要である点。これは縦方向の回転攻撃、突撃の宿命ではあります。ちなみに言うと、横方向の回転攻撃であるドスゴドスとバリゲーターTSの「ターボアクセレイション・ハンマーアタック」は、この二機が回転出来るだけのスペースがあればいいので、そういう観点から見ると、回転攻撃は横の方が優れている……んですかね? さらに、使用を読まれやすいという問題。一度後退し丸まらないといけないので、バレバレと言えばバレバレです。事実、リーバンテ島から帰還したウィル・クレイグ大尉は、鹵獲機が暴走した際にグラビティアタックの発動を見抜いていますからね。何度か対峙したことがあるゾイド乗りなら、タイミングを図るのは容易いことなのでしょう。 鹵獲機、という話が出ましたが、ヴァルガの操縦系統には一種のシステムトラップが仕掛けられており、鹵獲され操縦系統へのハッキングが確認された場合、自動的に暴走するというシステムになっています。どの機体が鹵獲されるかは定かではないため、恐らく全ての機体にこのトラップが施されていると思われます。用意周到ですね、機体を奪われまくるどこかのガンダムと違って……。いえ、独り言です。何でもありませんよ? 地球技術の落とし子、ヴァルガ。しかし、この機体は決してオーパーツのような、未知の技術の集合体ではありません。少なくとも、人間が開発したゾイドである以上は、その技術は既に解明されている技術……。故に、オーバーテクノロジーという呼称も、ふさわしくはないのかも知れません。 存在してはならないモノ。キングゴジュラスを、時のヘリック大統領はこう呼びました。彼は、これらの技術がさらなる戦いを生むと理解していたのでしょう。彼は為政者ですから。 けれど、オルドヴァインは技術者でした。彼にとって、技術は解明されるべきもの。使用すべきもの。その結果は、二の次。 技術自体に、罪はありません。それに技術がなければ、人は発展出来なかった。しかし、時として技術は全てを滅ぼしかねない。 ……すみません、私にも思うところがあって、つい支離滅裂な言葉を発してしまいました。 人と技術の付き合い方。もう一度、考えなければならないのかも知れません。 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。では皆様、御機嫌よう。イリアスでした。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/29.html
……どこかで見た光景だった。 気が付けば、私はレドラーから放り出されて、瓦礫の上に転がっていた。 『……』 そして眼前に、拳銃を持った男の姿。黒髪。冷たい紫の瞳。 『……撃てば?』 半ば自棄になって、挑発的に言った。 『いいよ、撃っても。私、どうせ死ねないから。動けなくなるくらい撃って。痛くてどうしようもなくなって、ずっと眠っていられるくらいに……!』 出来っこないのは、わかっていた。どんなに痛くても、いずれ私は目覚めてしまう。 でも。 『撃ってよ……! 早く、撃ってってば!!』 それでも。 『楽にしてよ! 死にたいよ、私だって!! せめて、あの子達と同じ思いをさせてよぉ!! 気付いてるでしょ!? あなたなら、あの時私を殺したあなたなら、私が何なのか!! だから……!』 ……夢? それもごく最近、そう、リッツと会った時の。 じゃあ、この後は。 『……わかった』 ……え? 違う、これは……。 直後、銃声。 『……っ!!』 激痛。 二発、三発、四発と、私の身体に銃弾が叩き込まれる。 (……これも、報いなのかな?) 意識が飛んでゆく。 (死ねる……?) ある意味で、望んだ事。あの子達のいる場所へ、行けるかもしれない。 (……いや、ダメか) あの子達には何の罪もない。そんなあの子達と同じ場所へ、私が行けるわけがない。 (痛いな……、痛いよ……!) でもこれで、解放されるなら。私はそれでも……。 刹那、私の意識は飛んだ。 身体の外側で、私は見ていた。 最後の、恐らく致命となる銃弾を弾いた、私じゃない私の姿を。 白い髪に青い瞳。その顔に、表情らしきものは何も浮かんでいない。相当な痛みが走っているはずなのに。 その私が、瞬間、跳んだ。 一瞬で、リッツとの距離を詰めて。 何の躊躇いもなく、彼の首を両手で握り潰した。 『……』 彼の命が消えたのを確認するでもなく、無表情に、ジェノブレイカーに向き直る。 あくまで、何の感情も抱かず。 ただそこで、破壊を振り撒いていた。 「うわあああああぁぁぁっ!!」 絶叫して、飛び起きた。 夢にしては、あまりにリアルな感覚。いや、リアルとかそういうレベルの話じゃなく、間違いなくその感触が身体中に残っている。 リッツの首を潰した感覚は、両手に。 ジェノブレイカーを蹴り抜いた感覚は、左足に。 血と肉片、金属塊とオイルが残る光景は、両目に……。 「……っ!」 吐き気がした。 これではまるで……、 (……ここじゃない、どこかで……、私は、彼を殺した……?) そう、あの時。 私じゃない私の破壊が終わって、気付いたら血塗れで立っていた。 覚えている。 「……アルフィ、さん?」 ふと気付けば、シエナが眠そうな目でこっちを見ていた。 「あ、ごめん……。起こした?」 「いえ……、あの、何か?」 「ううん……、何でもない」 完全に寝静まった、夜の街。 不審者扱いを覚悟の上で、私は昼間出会ったリンネの元へ向かった。 理由は特に無い。ただ、眠るのが怖くなっただけ。 これまでも、悪夢にうなされる事は何度もあった。悪夢を見ない事の方が少ない。 だけど、今回はそれとは違う。 どうしても、夢とは思えない。夢で片付けるには、身体に刻まれた感覚が強く残りすぎている。 そう、この今も。 (……アルフィ?) 聞こえた。 「よかった……」 思わず、安堵した。と同時に、嬉しくもあった。まさかこんな時間に、起きていてくれるとは思わなかったから。 (何が?) 「何でもない」 暗闇の中、ギシリと軋む音。リンネが首をこっちに向ける。 「……少し、話し相手になってくれる?」
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/67.html
『久しいな、古き友……アインヘリアル・イリアステル、竜王の娘よ』 「ええ、本当ね」 東方大陸の、どこかの荒野。そこに不思議な四つの姿があった。 一つは人間の少女。銀髪碧眼の、小柄な娘だった。 「……まさか、こうして貴方たちがもう一度揃うなんて、思ってもみなかったわ」 『言ってくれるな……。何より驚いているのは我ら自身だ』 三つはゾイド。虎の姿。それぞれが白、蒼、紅を纏った大型機。 「ふふ、そうね……。今の世で、こうしてオリジンが身体を保っているだけでも奇跡なのに」 『長くは無さそうだがな。時が来れば、我々は再び地の底へと還るだろう』 見る人間が見れば、これらの機体がそれぞれZOITEC、ZI-ARMSの新型機……ワイツタイガー、レイズタイガー、ブラストルタイガーであると気付くだろう。 「……それじゃあその時まで、思い出話に花を咲かせるとしましょうか?」 『……囲い込んで!! こっちの準備が出来る前にアレを発動されたら、一巻の終わりよ!!』 まただ。 (……また、この夢……) 夢だとわかって見る夢……明晰夢と言うらしい……の声。広がっている光景は、荒唐無稽なものだった。 無数の金属生命体の屍、その中に屹立する、黒い巨大な影。シルエットから、直立二足歩行の恐竜型に見える。 それを囲む、十数体のゾイド。種類はバラバラ。紅い虎が焔を吐く。白銀の龍が雷(いかづち)を落とす。蒼い虎が光を放つ。青と金の獅子が牙をむく。白い虎が、暴風を巻き起こす。 その中に居る黒い小さな竜、声はそこから聞こえる。 『……今よ! 位置を維持したまま押さえ込んで!!』 猛烈な光が、網膜を焼き尽くす勢いで広がり、そして……。 「……える、リエル!」 不意に聞こえた名前を呼ぶ声に、あたしは目を覚ました。 「あ……。おはよ、リオーネ」 「おはようじゃない、もうとっくに昼だ」 そりゃそうだ。昨夜は夜番で、寝に入ったのは夜明けの直前だったのだから。 「そう……」 さっきの夢を、ぼんやりと反芻する。ここ最近、急によく見るようになったものだ。 「またあの夢か?」 「ん……、多分、そうだと思う」 「夢もいいが、きちんと仕事もしてくれよ? リエル・フィアット」 こういう時にフルネーム呼びをするのは、彼の……リオーネ・フィンチの癖だ。彼なりに、あたしに気合を入れてくれてるんだと思う。 「……よーし、頑張りますか」 あたし達の仕事は、世間一般に猟兵と呼ばれる。依頼を受けて動く、現代の傭兵。 今回の依頼は、ブルーシティへと続く道に出没する盗賊団の討伐だ。 「やっぱ、これだとエサとしては小さいかな?」 『……かもな』 仕事に入って今日で三日目。あたしとリオーネは、その結論に達した。盗賊団に見つかるように、わざとグスタフを走らせる。積荷はそれっぽく偽装したあたしのゾイドなのだが、どうにも食いついてこない。 『俺らの情報が流れてるって事は無いよな?』 「……大丈夫だと思うよ」 根拠は無いけど、可能性はもっと無い。無い可能性を考えるより有る可能性を考えた方がずっと良い、と昔誰かから聞いたことがある。 『気楽な奴め』 「リオーネが神経質すぎるんだよ」 他愛無い会話を、コクピット越しに交わす。グスタフの操縦はリオーネだ。あたしは、愛機ハンマーロックのコクピットで揺られるだけ。 「ねえ、寝ても良い?」 『駄目』 む、即答された。 「なんだよー、寝不足は美容の大敵なんだぞー」 『今更そんなの気にしてどうする……』 リオーネは呆れ顔。実際、あたしも大して気にしてないんだけど。ただ、眠いのは事実。 「ねー、30分でいいからさー……」 『待て、リエル』 急に、リオーネの表情が引き締まった。こういう時は、何かが起こる。 『あれは……輸送キャラバンか? グスタフと、牽引式の大型キャリアー……』 「リオーネ、映像回して」 『おう』 程なく、ハンマーロックのモニターにリオーネから映像が送られる。質は悪いが、『音』も一緒に。 「……結構大物を運んでるっぽいね。少なくともコマンドウルフより大きい、けどライガー級じゃない……。ライトニングサイクスが近いけど、あのキャリアーは旧ヘリック寄りの奴だし……」 『新型の可能性アリ、ってか?』 「そゆこと」 って事はだ。もしかすると、いい具合にエサになってくれるかも知れない。 「リオーネ?」 『ああ、あのキャラバンを張るぞ』 以心伝心。自分で言うのもアレだけど、さすがに腐れ縁だけあって意見はすぐ一致する。 「りょーかいっ」 キャラバンを張り始めて30分もしないうちに、事が動いた。 「出たね」 砂中に隠れていたと思しき、ステルスバイパーとガイサック。合わせて10数機が輸送キャラバンに襲い掛かった。キャラバンの護衛をしていたゴドスが応戦するけど、先手を取られたのと数的不利が祟って防戦一方。一機また一機と、数を減らしていく。 『ああ。じゃ、こっちも出るぞ』 「おっけー」 光学迷彩が解除される。 「緊急起動シークエンス開始。メインエンジン始動、電源接続、手順7番から15番まで省略……ウェイクアップ!」 我流の始動方法でハンマーロックを起こし、荷台の幌を振り払って飛び出す。 「先行するよ! 火力支援よろしく!」 まずは賊の機体をキャラバンから引き離すのが先決。 「てえい!!」 こっちに気付いたガイサックに、上から飛び乗る。ガイサックはそれだけで脚部に重大な損傷を被ったか、その場に動かなくなった。 (……やっぱり、それほど整備状況が良くないんだ) 最初に『音』を聞いた段階である程度予想はついていたけれど、まだまだあたしの耳は絶対じゃ無い。確かめるに越した事はないのだ。 「つ、ぎ!」 動かなくなったガイサックを持ち上げ、盾の代わりにして数機からの砲撃をやり過ごす。もっともガイサックは脆いから、大して持ち堪えてくれなかったけど。 左肩のバルカンバッグで牽制しながら、キャラバンを背にするように移動する。賊の獲物……積み荷を背にしてしまえば、迂闊には砲撃できないはずだ。 予想通り砲撃が止む。 「そこっ!」 目の前でボケッと突っ立っていたガイサックを撃つ。うん、やっぱガイサックって脆い。 「っ、と!」 なんて考えてたら、横合いからステルスバイパーが飛び出してきた。けど、一瞬遅い。避けてしまえばそこにあるのは、無防備にお腹を晒した蛇の身体。 「南無三」 右肩の2連装ビームを至近距離。もちろん狙ったのは中央ブロック。そういえば以前の仕事で、中央より下のブロックを破壊したはいいが、そこから身体を切り離して上半身(?)だけで戦闘を継続しようとしたゾイド乗りとやり合った事もあったっけか。マニューバーリキッドが漏れて自滅したけど。 そんな事を考えているうちに、キャラバンとの距離は結構離れていた。賊の連中はまずあたしを片付ける事にしたのか、追う気配は無い。追えばいいのに。 「……リオーネ、トリカゴ!」 そしてあたしが発するのは、チェックメイトの言葉。 数瞬遅れて、四方から賊の機体に砲撃が降り注いだ。 「……危ない所を助けて頂き、ありがとうございました」 片がついて、あたしは先行していたキャラバンに追いつく。キャリアーから降りてきたのは、この荒地には似つかわしくないきっちりとしたスーツを着た女性だった。歳は多分、あたしと同じか少し下。 「いや、お互い様だよ。あたし達も、あなた達を囮にしちゃったようなものだから」 とりあえずこの女性に、あたしの仕事及び今回の依頼内容を説明した。 「そうですか……、先程の砲撃を見るに、それなりの規模の猟兵団なのですね」 「いや、あいにく二人だけ」 女性の目が丸くなる。 「種明かしをするとね、アレはこういうことなんだよ」 苦笑しながら、あたしは地平線を指差した。あたしたちのグスタフに先行して、四つの飛行物体が飛んでくる。その形を見とめ、女性は言った。 「コマンドウルフのビーム砲座……ですか」 「そ。只の砲台と侮るなかれ、貧乏猟兵には結構重宝するんだよ~?」 ぶっちゃけて言うと、ゾイドは高い。言うまでも無く値段が。だから世の猟兵はブロックスなり何なりとコストダウンに勤しんでるわけだけど、正直ウチはそれすらキツい。 となると、ゾイドではない装備も活用するほか無いわけで。幸いな事に、コマンドウルフの砲座はAC装備にすると余るから、割合格安で手に入る。もっとも、パワーの供給源が無いから多用は出来ないんだけど。 その辺を補って上手く使うのが、あたしの相棒・リオーネの役目だ。世が世なら、きっと名指揮官になってたんだろうね。 「あ……、申し遅れました。私は、エクステリア・アーネといいます」 「あたしはリエル、リエル・フィアット。よろしくね、アーネさん」 それにしても、あたしとしてはこのキャリアーの中身が凄く気になる。そんな思いが視線に乗って駄々漏れだったらしく、アーネさんが先に話を振ってきた。 「……やはり気になりますよね、この中身」 「え、あー……、うん」 「では、御仕事の依頼をさせて頂いてもよろしいでしょうか」 お、そうきたか。一応、さっきの仕事は終わったと言えば終わった。まだ細々とした手続きは残ってるけど。 「いいよ、後でちゃんと文面にしてもらうけど」 「もちろんです。……まず、ブルーシティまで我々の護衛をして頂けないでしょうか?」 「当面の脅威、盗賊団はあたし達が片付けたよ。その上で護衛を頼む、その理由を教えてくれるなら」 この返しに、アーネさんは明らかに動揺した。とはいえ、あたしたちも慈善事業で猟兵稼業をやってるわけじゃない。国家という存在は形骸化し、各地の都市がさながら大昔、地球に存在したという『都市国家』のような形を取り始めた昨今、おおむね世界は平和。盗賊団みたいな無法者にしたって、そうそう出没するわけじゃない。 つまるところこの中身は、割とヤバい代物である可能性が高いわけだ。 「……他言は、無用に願えますか?」 「それはもちろん、守秘義務はあるよ」 「このキャリアーには、ZOITEC社の新型機が搭載されています。機体名はワイツウルフ」 「ああ、今度の展示会で発表予定の新型? ワイツウルフっていうんだ」 納得半分、首傾げ半分。確かにZOITECが久々にリリースする大型機、神経質になるのもわかる反面、所詮一新型機、一ゾイドだ。 そんな疑問を突き付けると、 「……『この』ワイツウルフには、これまでのゾイドとは違うゾイドコアが搭載されているのです」 そして聞かされた内容に、あたしは興味半分後悔半分という感覚を味わった。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/43.html
「チーフ! 配置完了です。突入の合図を」 部下の言葉を聞き、アラド・イクサスは意識を集中する。大戦中に放棄されたと思しき城砦に立てこもった「目標」は、未だ動きを見せない。 「……もう少し待とう。我慢比べだ」 可能ならば、双方に犠牲を出さずに終わりたい。こちらの戦力はアロザウラー6機、ゴルヘックス3機と十分だが、ゾイド同士の戦闘になってしまえば少なからず損害が出る。敵の補給も断った。甘い考えかもしれないが、投降してくるかもしれない。 戦争がなくなったとはいえ、辺境は未だに治安が良いとは言えない状況にあった。 そこに生きる人々は、様々な目的で、法から逸脱した行動に出ることがある。食べるため、治すため、あるいは稼ぐため。 手っ取り早く目的を満たすため、彼らが行う行為の一つが略奪。都市間を物資を運んで行き来する輸送業者を襲い、物品を強奪する。 アラド達、治安維持局機動隊が相対している「目標」も、そういった略奪者の集団だった。 アラドとしても、彼らがそういった行為に出ざるを得ない状況に置かれているのは理解している。だが、だからといって法を犯していいわけではない。それは彼らのみならず、自らに対しても常に言い聞かせてきた。 殺さず、壊さず、盗まず。 だからこそ、投降してほしかった。 だが、部下の報告が彼の考えを打ち砕く。 「チーフ、本局機動部隊が20分後に到着予定です」 「なっ……、馬鹿野郎!! 誰が本局に連絡しろと言った!?」 「い、いえ、規定に従ったまでで……」 本局――治安維持総合本部は、アラドらの隊とは完全に独立した指揮系統を持つ組織であり、より上位に位置している。 そして、この世界の治安維持、その暗部を一手に担う存在でもある。 「……全チャンネルで回線を開け! 投降を勧告する!!」 「り、了解……!? 駄目ですチーフ、電波妨害発生!」 「何だとっ!?」 発生源は眼前の城砦ではない。とすれば、 「こんな遠距離から妨害だと……!? 本局の連中、何を考えている!?」 「チーフ! 本局の艦を視認しました。ホエールキング級4番艦です!」 「光通信で応答を呼びかけろ!」 部下のアロザウラーが、肩に装備したパトライトを用いた光通信を試みる。 「チーフ、応答ありません!」 その後に展開された光景を、アラドは今でも鮮明に思い出す。 9機ものゴジュラスギガ、それも無人操縦機をもって、略奪者が立てこもった城砦は完膚無きまでに破壊された。 殺傷設定にセットされた上、対城砦用装備を施された無人のゴジュラスギガが、なんの感情も無く、破壊してゆく。 許される事ではない。そう思った。 件の任務が終了した後、直接の上司に聞いた。 『本局に逆らうのは不可能だ。奴らの情報統制は完璧で、崩す隙もない』 何度か内部告発を試みた事もある。しかし、ことごとく握りつぶされた。 その結果が、今回の異動だ。体のいい左遷、といったところか。 「……ニカイドス島、か……」 人口の集中するニビル市を除けば、後は砂漠と古代遺跡の島。 そこに、アラドは降り立った。 ニビル市はずれに位置する、治安維持局ニカイドス本部には、人事部が存在していなかった。窓口で、アラドは事務室へ向かうよう指示される。 廊下を進んだ先、突き当たりにある事務室では、局の制服ではない、地味な服装に身を包んだ少女が、幾束もの書類と格闘していた。服装に比して目立つ銀髪に加え、そこに一対の角のような何かが付いている。アラドは髪飾りだろうと解釈した。 その少女がアラドに気付いたのか、書類から目を離す。 「……何か御用ですか?」 少女の碧眼がアラドを捉える。 「人事異動の手続きをしたいんだが……」 「ああ、今日でしたか。少々お待ちを。たしかここに……」 そう言って、無造作に積まれているファイルから一冊を抜き出す。それをめくり、中から一枚、取り出す。 「はい、責任者のサインは頂いているので、あとは貴方のサインを頂ければ」 「わかった」 クリップボードと共に渡された用紙に、必要事項と名前を記入して、少女に返す。 「忙しいところすまなかったな、えっと……」 「イリアスです。イリアス・パーファシー。ここの事務仕事を委託されています」 委託職員なら、ここの制服を着ていないのも納得出来る。 「人手が足りないというのは、どうやら本当らしいな」 「そうですね。ニビル市も決して大きくないですし、回される人員が少ないのは、昔からだったようです」 ここに来る間、一人の職員ともすれ違わなかったことを思い出す。 (……それだけ平和ということか) 平和なら、それに越した事はない。アラドはそう考えようとする。 「えっと……、あ、あったあった」 「何か?」 「ここの保有ゾイドと、常勤非常勤含めた機動隊員のリストです。よろしければ」 「ああ……すまんな、色々と」 「いえいえ」 数枚の書類を受け取ると、アラドは地下格納庫へ向かう。ゾイド含む装備の確認、および、可能なら隊員達との顔合わせも行いたい。 ZAC2312年。アラドの運命を大きく変える事件が起こるまで、あと20日を切った頃。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/34.html
「……」 電子情報の海の中、その少女はふと気付く。 「回顧録に反応……。適合者かな」 ここ300年ほど、彼女の「母」が記したあの書物を「読む」ことができた者はいない。 「反応があったのは過去……、現在から見ての、過去の案件。ってことは、ステージ2レベル。なるほどなるほど」 別に、この空間でいちいち声に出して確認する必要はない。周囲は情報の波だし、自分自身、その情報を黙っていても受け取る、いや、受け入れることができる。実際、昔は……、気の遠くなるような昔は、そうだった。 「……いつからかな。こうして言葉にするようになったのは」 その気になれば、記憶の中から正確な時期を「検索」することもできたのだが、彼女はあえて、それをしない。 人間の真似事をしているつもりもない。時には「思い出さない」ことも必要だと、経験測から考えただけのこと。 結果として、彼女の行為が人間のそれに近づいただけ。 彼女は、人間ではない。 気の遠くなるような時間を経て、彼女はいつの間にか、人間に近づいているのかも知れない。 「……トライアングルダラス、ここの所ますます磁気嵐が強くなってるな」 別の情報に気を向ける。 惑星Ziの中央大陸デルポイと暗黒大陸ニクス、その間に横たわる強電磁海トライアングルダラス。もともと強い磁気嵐が発生している海域であったが、百数十年前の大異変(月への彗星衝突)により、現在は人もゾイドも立ち入ることすら出来ない、「魔の海域」へと変貌していた。 その磁気嵐が最近になってさらに強くなってきている。 「気になるな……。行ってみるか」 ニクスの南側沿岸線を、赤いレドラーが飛ぶ。そのコクピットには、さっきの少女の姿があった。 「大陸近辺では異常なし……。やっぱもっと接近しないと、わかんないね。行くよ、スレイプニール」 感覚を、彼女がスレイプニールと呼ぶレドラーに同調させ、異変を探る。しかし、ここでは何も感じない。 スレイプニールが翼を傾け、大きく進路を変える。沿岸線から離れ、外洋へ。 やがて、プラズマ嵐吹き荒れる、トライアングルダラスが見えた。 暴風、荒波、雷、磁気異常。 ここに入るのは初めてではないが、相変わらず、形容し難い不安を覚える。 「……変な話だよね。人間でもないのに『不安』だってさ」 自分で自分に突っ込む。そうでもしないとやっていられないほど、この海は暗い。 しかも明らかに、暗さが増していた。磁気嵐の強さも、ここでは肌で感じられるほど、強くなっているのがわかる。 そもそも何故、トライアングルダラスは魔の海域と呼ばれるのか。 「磁気嵐と、それに伴う強電磁波、そして荒波」 これらが絡み合い、一度足を踏み入れたが最後、二度と出ることは出来ない。もっとも、例外はいくらでもある。彼女自身がその最たる例でもあるが。 何故、磁気嵐が発生しているのか。 「ひとつの説は、惑星上の磁気風の発生源であるということ。もうひとつは、磁気風がぶつかるポイントであるということ。……ボクからしたら、どっちでもいいけど」 言葉にしながら、確認してゆく。 「……いずれにしろ、ここがなければボクもこうして楽に飛んでいられないわけで」 飛行ゾイドの持つ基本的なシステム、マグネッサーは、その名の通り磁力の反発を利用する。ひとつは地磁気。もうひとつが、磁気風。 このどちらかだけで飛ぼうと思うと、かなりの労力を必要とする。特に、高空になればなるほど、地磁気の反発を受けるのは難しい。 ふと思い出す。 以前、ふたつの仮説を基にして、トライアングルダラスが無くなった場合をシミュレートしたことがある。結果は、どちらにしても惑星上の磁気風が劇的に弱くなるというものだった。 「ボクの行動は……、すべて経験に基づいて行われている……」 強電磁波による嫌な感覚を遮断しながら、彼女はまた言葉を発する。 「……終わりを迎えるものは、その直前に、より一層強い輝きを見せる。燃え尽きる前の蝋燭……。切れる直前のフィラメント……。そして戦争も。全部、経験してきた」 こうして言葉にすることで、漠然と感じていた「不安」が、輪郭を持った「懸念」に変わる。 「……トライアングルダラスが、消える?」 有り得ない。そんな事が、起こり得るはずがない。今までの観測データから考えても、せいぜい磁気嵐の強さが増しているだけ。突然この海域が消えるなど、世迷い事か夢物語のような話。 ……なのに。 「もし、そうなったら」 考えずにはいられない。そうなってからでは遅い。 彼女の心情を映すかのように、黒い雷雲から、一閃、雷鳴が轟いた。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/24.html
飛んだ。飛び掛った。殴りつけた。斬りつけた。 「――……!!」 言葉にならない叫びを発して。 この子の残った右腕を叩きつける度に。尻尾の切断翼で斬りかかる度に。 私の中で、何かが壊れていった。 気が付けば、私はレドラーから放り出されて、瓦礫の上に転がっていた。 「……」 そして眼前に、拳銃を持った男の姿。黒髪。冷たい紫の瞳。 「……撃てば?」 半ば自棄になって、挑発的に言った。 「いいよ、撃っても。私、どうせ死ねないから。動けなくなるくらい撃って。痛くてどうしようもなくなって、ずっと眠っていられるくらいに……!」 出来っこないのは、わかっていた。どんなに痛くても、いずれ私は目覚めてしまう。 でも。 「撃ってよ……! 早く、撃ってってば!!」 それでも。 「楽にしてよ! 死にたいよ、私だって!! せめて、あの子達と同じ思いをさせてよぉ!! 気付いてるでしょ!? あなたなら、あの時私を殺したあなたなら、私が何なのか!! だから……!」 理不尽で、矛盾して、どうしようもない言葉。叫ばずにはいられなかった。叫ぶことが出来るから。あの時と違って、言葉に出来るから。 「……リッツだ」 男が口を開いた。 「リッツ・ルンシュテッド。元ガイロス帝国軍中尉」 淡々と、感情のこもらない声で。 「……君は、デススティンガーなのか?」 「そう……だよ」 私は、現状私がこうなっている理由を彼に話した。 「ならば、いきなり襲われても文句は言えないな……」 リッツは顔を伏せる。 「だが、君も相応の業を背負うだけのことはしたはずだ。一体いくつの命を奪った? 人、ゾイド、問わずに」 「わかってる……。死ねないのも、子供達を失ったのも、全部報いだって」 「いや、わかってない」 リッツの声に、鋭さが増した。 「今だって君は、ひとつの命を奪いかけている」 そう言って、視線を向けた先。 「あ……!」 片腕のレドラー。 「君はまだ、自分しか見えていない。かつての俺のように。傍にいる者の気持ちを、感じようとしていない」 よろよろと、私はレドラーに向かう。 「あ、あぁ……」 傷だらけだった。致命傷こそないが、このままいけば、いずれ衰弱が取り返しの付かない度合いまで進行するだろう。 「……どうすればいいの?」 振り返る。 「君には出来るはずだ。同じものとして、俺よりも確実に、そのレドラーの気持ちを感じ取れるだろう」 リッツの声。やはり、淡々と。 「……ダメ、だよ。だって、拒まれたら……」 「それでも、だ。感じなければいけない。そうしなければ、君は永遠にこの苦しみから抜け出せない」 逡巡したまま、もう一度、レドラーに向き合う。 「……っ!」 瞬間、左腕に激痛が走った。 「え……!?」 流れ込んでくる、この子の気持ち。 無いはずの左腕を駆け抜ける痛み。 「ファントム、ペイン……?」 幻肢痛。聞いたことがあった。切断したはずの、本来無いはずの体の部位が、痛みを覚える症状。 「……教えて、くれないかな」 断片的に浮かぶ映像。この子の記憶。 被弾の衝撃。パイロットが、射出座席で脱出する。すまん、と言い残して。でも、直後に左腕付け根が小爆発を起こし、吹き飛んだ左腕が、パラシュートを開く直前のパイロットを直撃して……。 「……辛かったね」 この子は、その人が好きだった。その人と飛ぶのが、大好きだった。 「ううん、今も、辛いよね……!」 だから、自分の左腕がその人を殺したことを、忘れられない。忘れようとしない。左腕を治すことを拒絶するのは、そのため。 治せば、ファントムペインも治まるかもしれないのに、それでも。 「でも、いいんだよ。きっと、その人は君を待ってる」 無責任な言い方だけど、今この子を苦しみから解放出来るのは、リッツの言葉を借りるなら、私しかいない。 「また、君と飛ぶことが出来る日を待ってる……。だから、もう……!」 そこから先は、言葉にならなかった。 少しして、 「……?」 不意に、私の体の奥底、そこに眠るゾイドコアに、何かが流れ込んできた。 「これ、は……」 浮かぶ映像、そこにいたのは、レドラーと良く似たシルエットの、しかし人と同じくらいの大きさの、小さなゾイド。 それが私自身の姿、オーガノイドとして私が得た姿であると気付くのに、それほど時間はかからなかった。 オーガノイドとは、究極の汎用型ゾイドコアの総称。既存のゾイドの遺伝情報を受け取り、書き換え、進化を促す。 この子から受け取った、私の姿。 そして、 「……さあ、飛ぼうよ」 眩い光が、私とレドラーを包む。オーガノイドの力。ゾイドコアの活性化。傷を癒し、力を与える力。 飛ぶことを、この子が望んだから。 傷が癒えていく。あれほど拒んでいた、左腕の復元も行われる。 力強く羽ばたいて、飛び立つ。 私も飛ぶ。この子がくれた姿になって。翼を広げて。 別れ際、こう聞こえた。 ありがとう、と。 再び、墓標の前に降り立つ。いつしか私は、人の姿に戻っていた。 「……わかってなかったんだな、私」 後ろにリッツが立っている。私は振り返らず、呟いた。 「これからわかっていけばいいさ。少しずつ、な」 少しだけ、感情のこもった声。懐かしんでる、のかな。 「……ん」 頷く。 「でも、やっぱり私は、人間が嫌いだ」 後ろで、リッツが若干苦笑したらしい。息の漏れる音が聞こえた。 「俺を殺すか?」 「いや。やめとく。人間は嫌いだけど、ゾイドに好かれてる人間を殺す気はもうない」 後ろを向く。 「これからどうする?」 「あなたと同じ。私に出来る形で、ゾイド達を苦しみから救っていく」 「知ってたのか」 また、リッツが苦笑いする。 「あなたがオーガノイドシステムを止めようとしてたってことはね」 歪んだ力の、歪んだ使い方。それを正そうとしている人間がいると、いつか聞いたことがある。 名乗られてから気が付いた。 「なら……、またいずれ、会うこともあるだろう」 「……だね」 墓標に花を手向けて。 ジェノブレイカーが遠ざかる。それを見届けて。 「……行こう」 私は、子供達が眠る遺跡をあとにした。 私の本当の体を探すため。 探して……破壊するため。