約 7,335 件
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/26.html
「ウェン・ガーフィールドとシエナ・ホワイトアロー。二人とも、管理局の嘱託」 プテラスから降りてきた二人を、ロナルドが私に紹介した。どちらも、ロナルドの着ている制服ではない。男は作業着に近い厚手の上下、少女はこの荒れ地にそぐわぬブラウスとプリーツスカート。 「嘱託……?」 「……恥ずかしながら、管理局も人手不足でね」 ZAC2111年現在、大規模な戦闘こそ発生していないものの、未だにヘリック共和国とネオゼネバス帝国は戦争状態にある。人手の多くは軍隊に取られるのだろうか。 「ロナルド、このちびっこいのは?」 がっちりとした体格の男……ウェン・ガーフィールドが、ロナルドに聞いた。 「あー……、ちょっと説明が難しいんだが」 そう言って頭を掻くロナルドの代わりに、 「アルフィ」 と、私が答える。 「僕もついさっき会ったばかりで、詳しいことはよく知らないんだ」 「そうか」 頭上から、鋭い目を向けてくる。別に動じることもないが、不快にはならなかった。 「ウェン・ガーフィールドだ。ウェンでいい」 「ん、よろしく」 やり取りはそれだけ。 「シエナ・ホワイトアローです。よろしくお願いしますね」 「うん」 黙っていた少女の方も、手を差し出してきた。加減して握り返す。必要以上の違和感を与えないように。 深夜。月が二つとも赤い。こういう夜は何かが起こると、どこかの伝承で聞いた記憶がある。 管理局の三人は、既に夢の中。 「夢……、か」 あまり、いい思い出のない言葉。 私にとって、夢は現実から逃れるためのものではない。私がしてきた現実を否応なく再認識させられる、私の夢は常に悪夢。 ただの破壊者でいられたなら、どれほど楽か。デススティンガーとして、終焉をもたらすものとして、破壊を振り撒くだけなら。 けれど、それは許されない。 すべてと向き合うと決めたのだから。 「ここが、野良ゾイドが増えている地点なんだが……」 そう言うロナルドの横で、ウェンが双眼鏡を覗き込む。 タウ高原の一角、窪地になっている場所。管理局が調べたという、問題の地点。 「だが、特に何もないように見えるぞ」 ウェンが言う。実際、何もない。私も、何か違和感を覚えることはなかった。ゾイドにしろ人にしろ、何らかの気配があれば察知する自信はある。 「とりあえず、降りてみようか」 ロナルドの提案に、全員が頷く。ゾイドに戻り、急な崖を下った。 「やはり……、何もないな」 降りた先にも、異変はない。 「でも……、何もないって、おかしくないですか?」 おずおずと、シエナが発言する。 「どういうことだ?」 「野良ゾイドが増えている場所なのに、ゾイドが影も形もない、っていうのは……」 「そういえば……そうだな」 確かに、それはおかしい。加えて言うなら、私に反応するゾイドがいないというのも、おかしな話だった。口に出すと、ややこしくなるから言わないが。代わりに、 「……私たちに気付いて、隠れちゃったのかもね」 別に考えていたことを口にする。 「ゾイドが、かい?」 「ゾイドもだけど、あなたが言ってた何者かが、ってこと」 「なるほど……」 ひとしきり、ロナルドが考え込む。 「よし、僕とウェンでもう少し奥まで調べてみよう。すまないが、留守番を頼めるかな」 「ん、わかった」 そう言って、ロナルドとウェンは窪地の奥へ向かった。この場には私とシエナ、そしてグスタフとプテラスのみが残る。 「あの」 不意に、シエナが話しかけてきた。 「アルフィさんは、西方大陸の出身なんですか?」 「ん……、まあ、そうなのかな」 正直な話、正確にどこ出身なのかは今ひとつよくわからない。 「私は中央大陸出身なんですが……、厳しい環境ですよね、ここって」 「慣れちゃえばそうでもない」 人間の身体になって驚いたのは、その適応能力の高さだった。この10年でエウロペ以外の大陸を彷徨うこともあったが、いずれの場所でもひと月もいれば慣れてしまう。 だからこそ、人間はこの星の実質的な支配者たる存在になり得たのだろう。 「……そうですね」 「君はなんでここに?」 何気なく、会話の流れで聞いてみた。 「……父が、共和国の軍人だったんです。10年前の戦争で亡くなって……、それで、いろいろあってそのままこっちに」 「……そうか。変なことを聞いてごめん」 「いえ、気にしないで下さい」 もしかしたらの話だが、彼女の父親を奪ったのは、私なのかもしれない。あの時、私はあまりにもたくさんの命を奪った。その中の一つに、彼女の父親がいたかもしれない。 「……ごめん」 「だから、いいですって」 お互いわかってない、そんな会話が少し続いた。 その直後、 「!?」 気配を感じた。ゾイド。小さい。それもかなり。そして多い。 「あ、アルフィさん?」 「しっ」 シエナの口を塞いで、周囲を見渡す。まだ見えない。だが近い。どこだ。 (……来る!) 感じた瞬間、 「きゃあっ!?」 シエナの足元を砕いて、それが飛び出した。 「……リルガ!?」 対人制圧用の、無人超小型ゾイド、リルガ。モルガをそのままスケールダウンしたような姿で、れっきとした軍用ゾイドだ。 それが、地面から無数に湧き出てくる。こいつに削岩機能はなかったはず。とすれば、はじめっから地下に空洞があった可能性も高い。 「……きゃっ!!」 「ちぃ……!」 崩れる地面に足を取られて、シエナが尻餅をついた。リルガがそこに群がる。殺傷性の高い武器は着いてなかったように思うが、主装備のトラップワイヤーは厄介だ。色々な意味で。 仕方ない。 相手の姿勢が低くてやりづらいが、まず一体を蹴り飛ばす。続いて膝を落とし、打撃面を「メッキ化」、叩き潰す。 発射されたトラップワイヤーを外套に纏わり着かせ、そのままぶん回して5,6体まとめて吹っ飛ばしたりもしてみたが、いかんせん数が多すぎる。とてもじゃないが、シエナのことまで気にする余裕がない。というか、すでに私の右腕にもワイヤーが巻きついていたりする。 「この……!」 左のレーザーカッターで叩き切るも、焼け石に水。すぐに両腕封じられる。 「うぅ……、あ、アルフィさん……!」 後ろを見れば、シエナはもう完全に雁字搦めにされている。 「くそ……」 ……やろうと思えば、やれないことはない。だがこの身体で出来るか? ジェネレーターも制御装置もない、純粋なエネルギーのみで? 「……やってやるさ!」 意識を集中、薄皮一枚下の馬鹿げた力を拾い上げ、外に広げる。 瞬間、発生した空間の歪みが、トラップワイヤーを焼き切った。 「……っ」 尋常じゃない感覚。とてもじゃないが、この身体でやることじゃない。もっとも、あと10回もやれば慣れそうな自分がいて怖いが。 「……アルフィさん、い、今のって……」 「ごめん、話してる暇ない」 別の気配。今度は大きい奴。リルガが怯んだ隙に、シエナを抱え上げて、グスタフのコクピットへ逃げる。 Eシールド。かつてデススティンガーの身体で持っていた装備のひとつ。レーザーカッター同様、コアの中に記憶されていた。 発現できるかどうかは微妙だったが、どうやら成功したらしい。 「逃げるよ……!」 ロナルドには悪いが、このグスタフを借りるしかない。手早く機体を立ち上げて、スロットルを全開。 そうして、奇妙な逃避行が始まるのだった。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/56.html
(また……始まったね) ああ。 (そういえば、今回は君の出番、少なかったよね) ……彼女はもう、私を必要としていない。 (それでも、君はいっしょにいるんでしょ?) そうだな……。結局のところ、私は彼女から離れられない。 (羨ましいな……。ボクももっと、あの子と一緒にいたかったんだけど) いずれまた、彼女は会いに来る。約束を果たしてはいないのだから。 (ふふ、じゃあそれを楽しみにしようか) 破壊を終焉に導く……か。 (あの子の出した答え……。初めてだよね、こんなの) ……「神の意志への反逆者」として、彼女は確たる意思を持った。 (そのために……失われた命もあるけど、ね) 全てを救う世界は……、存在し得ないのかもしれんな。 (せめて、次の世界での幸福を) 祈るくらいは、しても良いか……。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/38.html
どこかの場所、いつかの時代。 「……さて、久しぶりに揃ったわけだし、家族会議始めましょうか。そろそろ身の振り方も決めないといけないし」 青い髪の長身の少女が、円形のテーブルに座る残り二人の少女に向けて切り出す。 「そうは言ったってさー、アルテミス姉さん。私、もうすぐゾイドさんと結婚するんだよ? 多分セレナ姉さんよりも先に」 銀髪の少女が、アルテミスと呼ばれた青い髪の少女に言う。 「本当は不満なんでしょう、ディアナ? まあ、あたしが代わってあげてもいいけど」 その言葉に返したのは、アルテミスではなくセレナと呼ばれた赤い髪の少女だった。 「ぐ、まあそうなんだけどさー……」 「大体あなた、こないだ好きな人がいるって言ってなかったっけ?」 悪戯っぽい笑みを浮かべ、銀髪の少女――ディアナにセレナが畳み掛ける。 「ほほう。私がしばらく遠くにいるうちに、なにやら面白そうなことが」 「ち、違うってアルテミス姉さん! 別に好きってわけじゃなくて!」 アルテミスもそれに乗って、セレナと共にディアナを追及する。 「何て名前だっけ? えーっと、ソーンだったっけか」 「わーわーわー!!」 立ち上がって話を打ち切るディアナ。さすがにやりすぎかと感じた二人は、それ以上の追及をやめた。 しかし数ヶ月後、アルテミスとセレナはある知らせに驚愕する。 ディアナがソーンと二人で、死体となって発見された。死因は転落による全身打撲で、心中とみられている。 「……なるほど」 鄙びた町の古本屋。アルフィは偶然見かけたその本を買って、丁度読み終えたところだった。 「これ……、元ネタ正確にわかる人いるのかな?」 何故か、アルフィにはわかってしまったのだが。 古来より、人は星に物語を見出す。西洋の星座しかり、七夕しかり。だからこんな物語があってもいいのかな、とアルフィは思った。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/3.html
更新履歴 取得中です。 ここを編集
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/91.html
人が世界を謳歌するよりも遥か昔、古代ゾイド人の時代の終末期。 徹底的に破壊し尽された煉獄の上で、その惨状を引き起こした2体の存在が何時終わるとも知れない鬩ぎ合い――必然とも言える争いを続けていた。 ――――――! ――――――! 一体は海蠍。 その巨体に似合わぬ俊敏性と絶大的な火力、この惑星の理を崩壊させる“磁力消失”を持って相対する獣を攻め立て、その有り余る火力によって周囲に滅びを振りまく狂った救世主。 一体は獣。 惰弱な四足獣とは思えぬ強力な防御力と獣特有の高い機動性能、そしてこの世の技術の粋として生み出された“磁力制御”によって蠍の猛攻をいなし、蠍の力によって動けぬ周囲の存在を喰らって走り続ける狂気の革新者。 この狭い星の中、いずれ必ず出会う定めにあった二体は、相手の存在を見つけたその瞬間から互いの命(コア)を求めて牙を剥き、300時間以上もの長きに亘って争い続けていた。 ――――――! そして、何百通り目になる攻防の終わりに、機動性で勝る獣が蠍の間隙を縫って自身が背負った巨砲を蠍に叩き込む。 ――――――! 極光の光を放つ光条は海蠍の背に大穴を開けるが、そんな損傷をものともせずに海蠍は獣の数倍とも言える火力で周囲を焼き尽くし、獣の半身を消失させる。 大きな傷を負った獣は攻撃の手を止めて海蠍との距離を開き、手近な所で機能不全を起こしている哀れな獲物(ゾイド)を自身が纏う鎧で分解、その存在を塵一つ残さずに自分のものとする事で傷を癒し、獣の事を追っている海蠍も受けた損傷を修復していく。 自身の力で自身を治す海蠍と、周囲の餌(ゾイド)を使って自身を治す獣。 一見すると何の代価も使わずに再生する海蠍の方が優位であると錯覚できるが、しかし、獣の傷が完治した今になっても、自身の傷を塞ぎきれていない事からも判るように、時が経つにつれて海蠍の再生速度は低下の一途を辿っており、獣は今ので餌となる存在を全て食い尽くしてしまった。 お互いに、もう後が無い。 意思も生まれていない2体の存在がソレを認識した瞬間、再び獣が動いた。 再構築の終わった四肢の磁力制御機構を全力稼働させて海蠍の懐目指して一気に接近する。 対する海蠍は迎撃、尾先の粒子砲の連続照射によって大地を一閃し、その歪な光の剣は伏せるしか避け場の無かった獣の背部巨砲を一瞬にして塵に還す。 ――勝った。 海蠍が牙を蠢かせながらその事実に舌なめずる。 海蠍が体感した今までの経験則――獣が海蠍を傷つけられる術は今ので失われた。 故に海蠍は機動性で勝る獣を逃がさない為に持てる全ての力を持って獣に近接するが、獣は海蠍の意に反して跳躍、海蠍の鋏による迎撃を掻い潜り、その背に着地する。 ――勝った。 獣が喉を震わせ、自分が最良のポイントに辿り着けた事を認識する。 そして次の瞬間、獣の身を守っていた“鎧”――不可視の微粒子群が、受け流すだけの鎧から世界を削る鑢へとその性質を変え、 ――――! 黒き閃光と耳を劈く擦過音、そして蠍の絶叫が響き渡った。 その不快でしかない金切り音と耳障りな悲鳴はたっぷり5秒間続き、それらの残滓が晴れた後、そこには全ての間接を削り消されて“置物”と化した海蠍と、その甲羅の上で自身の身を守る“鎧”を全て失った獣が居た。 ――! 獣は何もできなくなった海蠍を喰らう為に、自身が持つ最後の攻撃方法でも突破し切れなかった甲羅を破壊せんと牙を突き立てるが、全ての力を使い尽くした獣には海蠍の外皮を破るだけの力は無く、力押しでの突破を諦めた獣は海蠍の足があった所に両前足を穿ち、上と下に引き裂こうとする。 ――――! 海蠍が絶叫する。 甲殻類特有の弱点――その絶体絶命の死の恐怖が海蠍の中にある防御システムを揺さ振り、海蠍(ソレ)が初めて感じた“恐怖”により、海蠍の中に僅かに残されていた再生の力が変質し、その結果が背中を割って姿を現す。 ――!? 獣はその変化に気が付くのが遅すぎた。 そして、放たれる僅かな光と、海蠍の巨体を震わせる衝撃、 ソレが過ぎ去った所には何も無く、ただ数百メートル程離れた所に半身を拉げ潰された獣が転がっていた。 まだ、互いに息はある。 だが、海蠍は獣に削り消された関節から先――足の再生が一向に始まらない事から唯一の攻撃手段となった衝撃砲が有効な距離まで近接できず、獣は全ての攻撃手段と優位点を失ったものの、距離が離れた事で僅かな時を得た。 ――――。 獣が牙を噛み締めて、残存していた電磁制御システムを起動させながら海蠍を見据える。 自身の思い通りにならなかった存在を記録するように。 ――――。 海蠍は動かない我が身に歯軋りしながら、逃げる獣を見据える。 自身を殺しえる恐怖の対象を覚えるように。 ――――! 獣が咆哮と共に逃走する。 次に会う時は必ず喰らってやると宣言するように、敗北の憎しみをぶつけるように。 ――――! 海蠍が甲高い声で鳴く。 次に会う時は必ず消してやると宣言するように、そして不甲斐無い自身の身を嘆くように。 この邂逅の後、弱体化した獣は自身を創り上げた者達に再び捕らえられ、“彼ら”の最後の砦となった最深度地下に封じられ、海蠍は暴走する意思のまま世界を滅ぼし尽し、“彼ら”の創り出した最後の存在によって破壊され、残されたコアと身体は別たれ、眠らされる。 それは、遥か昔の出来事。 “彼ら”の行き過ぎた夢によって生み出された存在が、今の世に至るまでの瑣末な記憶である。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/46.html
「……ばれちゃいましたか」 しばらくの沈黙を挟んで、シエナがぽつりと口にした。 「ええ、私は確かに、今回の襲撃に関わっています」 「……何故だ?」 ウェンが聞く。経緯は知らないが、彼はシエナを気にかけていた。 「命令ですから。上の」 「そうじゃない。俺が聞きたいのは……!」 「……少し、黙っててもらえませんか?」 不意に、ある力を感じた。感じて、私はシエナとウェンの間に立つ。 「シエナ……、君は」 彼女が突き出した右腕が、形を変えていた。四本の爪を持つ、金属獣の形へと。 「本当は、もっと長い時間をかけて追い込むつもりだったんですけど……。まあいいです。ここで確保しちゃうのも、同じ事なんで」 爪が振るわれる。咄嗟に、右腕のレーザーカッターを発現させて受け止めた。 「その腕は……っ!」 「ああ、これですか。お察しの通り、ゾイドコア移植による機獣化です」 平然と、シエナは答える。 生憎だが、全然察してない。ゾイドコアの移植だと? 聞いたことも無ければ、考えたことも無い。 というか、考えてる場合じゃない。 「……やっぱり、目的は私か」 「ええ。あなたです」 シエナの左腕が、スカートの中から何かを引き抜く。 直後。右肩に鈍い痛みが走った。 「っ……!」 撃たれたと気付くのに、そう時間はかからない。が、突然右腕から力が抜けた。 「なっ……!?」 押してくる爪を抑えきれず、後ろに飛びすさる。 「……何をした、今」 右腕の、肩から先の感覚が無い。 シエナの左手には、小型の拳銃が握られていた。あれで撃たれたのはわかる。だが、所詮は拳銃だし、私の身体の性質から考えても、撃たれた程度でこうはならない。 「聞かれて、答えると思いますか?」 「……思わない」 右の爪をかざし、シエナが距離を詰めてくる。離れようとする、が、 「ぐっ!」 また撃たれた。今度は右大腿部。 「うぁ……!」 すぐに、そこから先の感覚が消える。バランスを崩し、倒れこんだ。 続けざま、左足にも銃撃。四肢のうち、みっつを失ったも同義。 「……三発撃って、まだ意識があるんですね。そりゃ、人間には効かない弾丸ですけど」 ゆっくりと、シエナが私に近づく。 「でも、あなたはもう動けない」 銃口が、私の眼前に来る。 「……以前した昔の話、本当ですよ?」 ぽつりと、シエナが言った。彼女が、管理局に入った理由。戦争で父が死んだという話。 「父さんが死んで……、私は母さんに捨てられた。……いいえ、売られた」 淡々と、彼女は過去を紡ぐ。 「……機関に売られて、融合実験の素体に使われて、この身体になった。私は……、もう戻れないんです。どこにも」 誰に対する告白なのか、それとも独白かわからない。シエナ自身も、理解していないのかも知れない。 「終わりにします。……本体が残ってさえいれば、目的に支障はありませんし」 指が、引き金にかかる。 不意な既視感。場所も相手も違う、けれど。 あの夢。 ――私の中の、私じゃない私。 視界が光に染まる。 瞬間――私の意識は、そこから離れた。 気付いた時、私は血塗れで立っていた。 身体が重い。 頭の中に、霧がかかっているみたいに。 「……?」 足元に、肉塊が転がっている。 「――……っ!!」 これ、は。 「っ、あ」 この、人の形をしていたモノは。 「あ、あぁ」 髪に、頬に、腕に付着する赤い液体は。 「うぁ、あ、っ……!」 場所も相手も違う、だけど。 あの夢と同じ。 白い髪に青い瞳。私じゃない私。 何の感情も無く、銃弾を弾いて、返す刀で左腕を切り落として。悲鳴が聞こえて。無視して。腹を刺して、そのまま横に切り開いて。血と、赤黒い何かが出てきて。右腕を掴んで投げて。転がった相手の胸を、踏み抜いて。口から飛び散った血が、身体中にかかって。そして、首と胴体を切り離して。 身体中に、感覚が残っている。 これを、やったのは。 シエナを殺したのは。 「私が……、やった……?」 金属音。後ろで、誰かが拳銃の撃鉄を起こした。シエナのとは違うタイプ。 「貴様……!」 ウェンの声。そう、彼はシエナを気にかけていた。 「よせ、ウェン! あれは正当な……」 「ロナルド、確かに正当防衛かも知れん……、だが、あそこまでする必要がどこにある!?」 どこにもない。わかってる。わかってるんだよ、そんな事。 「シエナのした事が許されるとは言わん。だが……! あいつの言った事が本当なら、あいつも被害者じゃないか!!」 じゃあ、私にどうしろって言うんだ? 今更私に何が出来る? ……ああ。 「そうか……」 後ろを向く。 今の私が、どんな表情をしているか、自分でもわからない。 怒りに震えるウェンの顔に、若干の恐怖が走った。 「いいよ、撃って」 一歩。 「……動くな」 「撃って。早く」 また一歩。 「く、来るな……」 「ねえ、撃ってよ」 もう一歩。 「来るな……っ!」 閃光。銃声。痛み。 足りない。 「まだ」 さらに一歩。 「やめろおぉっ!!」 連続して銃声。あっちこっちから血が噴き出た。 少し遅れて、全身に激痛。 意識が手放せるほどの。 再び意識が戻る頃には、既に全身の傷が再生していた。 「……身体、洗いたいな……」 傷が治ったと言っても、全身に付着した血その他がなくなるわけではない。 ポツン、と。 「……雨?」 何とはなしに、暦を思い出す。丁度、リッツと会って、片腕のレドラーと別れて一年。 雨季の到来。 「いいよね……」 どうせ誰も見ていない。それに誰か通りかかっても、今更気にはならない。 外套を放り出し、着ている物を全て脱ぐ。何も纏わず地面に仰向けになる。 「……流せたらいいのに。全部……」 雨は強くなる一方。 開けたままの目から流れた滴は、雨粒か、涙か。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/9.html
関連ブログ @wikiのwikiモードでは #bf(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するブログ一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_161_ja.html たとえば、#bf(ゲーム)と入力すると以下のように表示されます。 #bf
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/18.html
並べられている書籍の中から、「ガイロス帝国軍戦死者名簿」を引っ張り出し、片っ端からページを繰って、見つけた。 フーバー・シュタインベルグ。間違いない。 「……どういう、ことだ?」 訳がわからない。なぜ、あの本を読んだだけで、この人物の最期を「追体験」することになるのか。 もう一度、あの本をめくる。目に入った一文は、「蒼穹の挑戦者」。 ヘリック共和国軍が実戦配備したストームソーダーの衝撃は、ガイロス帝国空軍全体を大きく揺さぶった。 彼らの主力戦闘機であるレドラーとのキルレシオは、5対1から10対1。いくら共和国軍との戦力差が大きいとはいえ、このままではいずれ西方大陸全土の制空権を奪われてしまう。 エミリオ・スパークの乗っているレドラーは、そういった経緯で強化された機体だった。 左右主翼の上に、でかいビームキャノンが2門。キャノンの後方にはロケットブースターが一体化されている。 機体名は「レドラーBC」とされていたが、現場では愛称の「ストライクレドラー」と呼ばれることが多かった。実際、エミリオもそう呼んでいる。 「巡航速度での試験終了……。全力試験に入る。通信切るぞ」 管制に連絡。返事を確認しない内に通信をカットし、高度を上げ、スロットルを全開。 マグネッサーウイングが吼え、ロケットブースターが火を噴く。たちまち機体は音速を超え、爆発的に加速する。 (……やはり、空気抵抗が半端じゃない!) ノーマル機の最高速度であるマッハ3に達するあたりで、機体の振動が激しさを増した。あれほど巨大な、かつ空気抵抗を無視した砲塔を乗っけているのだから、当然といえば当然なのだが。 それでも、レドラーは加速を続ける。水平飛行でマッハ3.3まで出た。そのまま機首を下に向ける。 「マッハ3.3、3.4、3.45……」 そこまで行った時、警報が響いた。スロットルを緩めながら、ゆっくりと機体を引き起こす。 「熱に耐え切れなくなる前に、やはり空気抵抗で機体がビビるか……」 また整備の連中に文句を言われるかもしれない。 「管制室、試験終了。最後にいつものをやって、帰投する」 『またか……。事故らん程度にな』 アフターバーナーを切って、巡航速度からさらに減速。マッハ0.8前後で水平飛行。 その状態で、右側のロケットブースターだけを急点火。 通常のマニューバーでは絶対有り得ない回転半径で、レドラーが左旋回した。 (……まだだ。音速出して成功しなけりゃ、あの翼竜は落とせない……!) ゴートンターン、という特殊な空戦機動がある。 かつての中央大陸戦争時代。旧ゼネバス帝国空軍が、シンカーを主力機に使用していた頃、ゴートン大尉というエースパイロットがいた。 そのゴートンが編み出した空戦機動が、ゴートンターン。 具体的な方法が定義されているわけではない。要は何らかの方法で急旋回し、敵機の背後を衝く戦法である。 たとえば、わざと敵に背を見せ、射程に入った瞬間に、360度のループをする方法。直進している敵機はすぐに方向転換できず、前後関係が逆転するという仕掛けだ。もっともこれは、自機がシンカー、敵機がペガサロスという、旋回性能の差が大きい場合にのみ成立する戦法だが。 そしてもうひとつ、シンカーの機体特性を生かした急旋回の方法。巡航速度から、片側のロケットブースターのみを急点火し、左右の推力差で強引に向きを変えるというやり方がある。 先ほど、エミリオが行った旋回機動は、これである。 発端は、エミリオがもともとシンカー乗りであったことだった。マグネッサーウイングのみで飛行から戦闘機動までをこなし、アフターバーナーの概念がないレドラー。そのパイロットよりも、ロケットブースターが装備されているシンカーのパイロットの方が、試験には向いているとの理由から、エミリオが抜擢されたのである。 亜音速機であるシンカーと、超音速機のレドラー。当初はその操縦感覚の違いに戸惑ったエミリオだったが、すぐに慣れた。音速に関しても、シンカーで急降下中に何度か突破していたこともあったため、問題はほぼ無かった。 そしてストライクレドラーにも慣れた頃、エミリオはふと気付いた。 『左右にロケットブースターがあるなら、ゴートンターンが出来るんじゃないか?』 シンカー乗りであるエミリオは、早速試してみた。ブースターの出力が若干シビアだったが、亜音速域ならばまったく問題なく、急旋回が可能だった。 しかし、超音速域となると、話は違ってくる。 もともとアフターバーナー無しで、レドラーはマッハ3の飛行が可能である。ストライクレドラーにしても同じで、マグネッサーウイングだけでマッハ2.8前後まで加速可能な試験結果が出ていた。 当然、その状態から「直線に」加速するだけなら、問題はない。しかし、片方だけ点火し急旋回した場合、どうなるかわからない。超音速でのゴートンターンなど、誰もやったことがないのだから、当然と言えば当然だ。 エミリオ自身は、どうなっても構わなかった。元々覚悟の上でやっているからだ。しかし、今乗っているレドラーを傷つけるような結果にはしたくなかった。 そんな理由で、音速での試験にどうしても踏み切れないでいた。 試験最終日。良く晴れた日。これが終われば、もうエミリオがストライクレドラーに乗ることはない。空軍から転属の打診もあったが、エミリオは海軍に戻ることを決めていた。 「試験終了、帰投する」 その試験も、問題なく終了した。いつもと違うのは、エミリオが最後のゴートンターンの試験をしないことだけ。 最後はこいつに負担をかけずに終わりたい。そう思って、エミリオは操縦桿を倒した。 「……レドラー?」 だが、レドラーがそれに従わない。何かを訴えている、操縦桿からそんな感覚が伝わった。 「お前、まさか……」 ゴートンターンをしろ、そう言うのか? 希望なら、断るのも気が引けた。亜音速域で水平飛行、ブースターを片側だけ点火。急旋回。 「これで満足か?」 だが、操縦桿から伝わる不満は収まっていない。 「いったい何だ、レドラー……?」 不意に、レドラーが一発羽ばたいた。まるで「加速しろ」とでも言いたげに。 「やれって言うのか? 超音速のゴートンターンを……?」 こちらの言葉を感じたかのように、レドラーが首を縦に一振り。 「だが……」 断ろうとして、ふと気付いた。こいつはエミリオのためだけにこんな提案をしているわけじゃない。やりたいのだ、レドラー自身も。 そして、レドラーにかかる負担はレドラー自身が一番良くわかっているはず。自分は大丈夫、だから躊躇うな。 「そういうことか?」 もう一度、レドラーが頷く。 「そうか……。じゃあ、行くぞ!」 マグネッサーウイングの出力を上げる。音速突破。ソニックブームを響かせ、レドラーが蒼穹を駆ける。 アフターバーナー無しでの最高速度まで達したところで、エミリオは覚悟を決める。 「……回れ!!」 左のロケットブースターを急点火。 その瞬間、エミリオを右側からとんでもない力でGが襲う。亜音速での旋回とは比べ物にならない。 だが、意識は手放さない。一瞬を置いて、右のブースターも点火。左右の推力をそろえる。 姿勢は安定。進行方向は、見事に180度逆転している。 成功だった。 超音速でのゴートンターンは、確かに成功した。しかし、これが実際の戦場で使用されることはなかった。 可能なことは可能なのだが、機体にかかる負担がやはり尋常ではなく、またパイロットの方にも相当の熟練を必要とする、との理由だった。そもそもシンカー乗りの技能であるゴートンターンを、レドラー乗りがすぐに会得出来るわけもなかった。 しかし、エミリオが最後に成功させた超音速ゴートンターンは、空軍内で語り継がれる逸話となる。 蒼穹の挑戦者、との肩書きで。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/49.html
第一回 ドスゴドス 第二回 エクスグランチュラ 第三回 コマンドウルフ 第四回 レッドホーン 第五回 ヴァルガ 第六回 バリゲーターTS 第七回 ゴジュラス
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/25.html
時々、自問することがある。果たして自分は何者なのかと。 時々、自答することがある。そんな問いに意味などないと。 「……何者でもない。私は私、アルフィ。それだけ」 数多くの古代遺跡が眠る、西エウロペ。あまりに厳しい自然故に、人の営みが行われてこなかったのがその理由のひとつ。 それはつまり、野生やら野良やらの、ゾイドの巣窟にもなりかねないということで。 「……っと!」 現在進行形で、私はガイサックに襲われていた。 (考え物だな……、この身体も) 不用意にテリトリーを侵さない限り、攻撃することはない。ゾイドとはそういうものだ。よほど凶暴だったり好戦的でもない限り、戦うことより命を繋ぐことを選ぶ。子を成すことが出来ない戦闘用ゾイドにも、この傾向はある。 だが、こと私に関しては、その傾向は当てはまらない。 何故なら、私がゾイドであり、ゾイドコアでもあり、おまけに周囲のゾイドコアを活性化させてしまうから。 オーガノイド。 古代の生命操作技術。究極の汎用ゾイドコア。あらゆるゾイドの形質を受け入れ、書き換え、進化を促す力。 この星に終焉をもたらす力。 それが、ゾイドを狂わすことが多々ある。今もそんな状況。 「とはいえ……、さすがにヤバイか」 標的が小さすぎるからか、辛うじてガイサックの鋏は私を捉えていない。だがそれも時間の問題。長く続けば、いずれは私の限界が先に来る。 「仕方ない……、ごめんよ!」 外套を放り捨てる。前腕に、あるゾイドのイメージを重ね、意識を集中。仮初の皮膚を突き破って、「あるモノ」が飛び出す。 一太刀、それをガイサックのコクピットに叩きつける。キャノピーが砕けた。 返す刀、コンソールを引き裂く。制御を失ったガイサックが、動きを止めた。 「ふう……」 一瞬、気が抜けた。だからだろうか、普段なら気付くはずの気配に、気付けなかったのは。 その男は、明らかに私を見て言葉を失っていた。 ……無理も無い。「前腕からレーザーカッターが生えている」人間なんぞ、この世のどこを探してもいるわけがない。……今現在の私以外は。 「……最近、野良ゾイドが多くてね。その調査に来てたんだが……」 青白い火を輝かすガスバーナーの前で、ポットを手にした男が言った。 「君の名前は?」 「アルフィ」 最近となっては、淀みなく出てくるこの名前。いつの間にやら、自分でも気に入っているのだろうか。 「僕はロナルド・キーン。ゾイド管理局の人間だ」 「管理局……?」 ロナルドなる男の説明によると、野生体の保護や個体数調査、野良ゾイドや目的を失ったスリーパーの回収などを仕事としている組織らしい。 「しかし……、君はいったい何者なんだ?」 「教えない。教える義理も理由もない」 どうせ詮索されるのはわかりきっていたから、すかさずそう答えてやる。 「そ、そうか……。あ、飲むかい?」 「ん」 湯気の立つカップを二つ手にしたロナルドが、一つを私に差し出す。 「……」 受け取って、口をつける。思いのほか、いい味だった。 「……コーヒーのお礼に、ひとつだけ教えてあげる」 「へ?」 ロナルドが間の抜けた声を上げる。 「私は人間じゃない。それだけだよ」 また、ロナルドが唖然とする。 「あ、それともう一つ。野良ゾイドが増えたのって、半月前じゃないかな?」 疑問ではあるが、半ば確信。私が再び西エウロペに入った時期だからだ。 だが、 「いや……、違う。データでは、3ヶ月前から増えている」 「えっ?」 今度は、私が間抜けな声を上げる番だった。 「タウ高原の一地点から、放射状に広がってゾイドが増えているんだ。その調査の先発として、ここに来たんだよ」 つまり、原因の大元は私ではない可能性が高い、ということか。しかしだとしたら、いったい何が原因なのだろうか。 何か引っかかる。 「……私も一緒に行っていいかな」 少し考えた末、私はそう口にした。 タウ高原をひた走る、管理局仕様のグスタフ。その荷台に寝転がって、私はさっきのロナルドの言葉を反芻していた。 ある一点から、放射状にゾイドが増えてゆく。 明らかに自然現象ではなく、何者かの作為を感じると、彼は言った。それについては、私も同感。 とすれば、その目的は何か。野良ゾイドが増加する、それ自体が目的なのか。それとも、なんらかの別の目的のため、結果として野良ゾイドが増えているのか。 結論を出すには、与えられた情報が少なすぎる。 と、不意に視界が翳った。上空から何かが降下してくる。 「この音は……、プテラス?」 若干、正規仕様の機体とは排気音が違う。また野良ゾイドか。 しかしながら、そのプテラスに呼応するように、グスタフが止まる。 プテラスは、申し合わせたかのように、グスタフの隣に着陸した。コクピットが開く。中から出てきたのは二人。 一人はロナルドと同年代の男。もう一人は、10代後半くらいの少女。 いつの間にか、ロナルドもグスタフから降りている。 「紹介するよ。僕の仕事仲間だ」