約 24,300 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3173.html
長門有希 銀河を超えた戦い プロローグ ~宇宙を漂う宇宙船内部 青年「マスター地球です。」 マスター「そうか。ここにフォースを操る女性がいる」 青年「マスターそれはホントですか?」 マスター「確証はない。R2を先に一体送り込んだ。そろそろデータが送られてくるだろう」 ~その頃文芸部室 ホームルームが終わり、掃除当番と指導のあるハルヒを励ましてから俺は いつも通りに、SOS団アジトの文芸部室へと向かっていた。 コンコン・・・返事がない。朝比奈さんはいないみたいだ。 ガチャ キョン「長門だけか」 長門「・・・・・・見て」 突然のことに俺は驚いた。長門が手のひらを向けただけでリンゴが吸いよせられてきた。 古泉「おや、長門さん超能力ですか?」 お前いつきた。 長門「わたしは超能力者ではない。」 超能力者よりすごいぞと言うか迷ったが、ここは言うことが違う。 キョン「いつからそんな事できるようになったんだ?」 長門「あなたも知ってる通り、プログラムにアクセスすれば大抵のことはできる。」 それは、確かに知っている。長門なら一人で野球もできそうだ。 長門「でも、さっきのはプログラムにアクセスしていない。わたしの力」 なんだか長門が嬉しそうに、自分の手のひらを見ている。 バタン みくる「ふぇ~遅れてすいません。あれ?涼宮さんは?」 キョン「あいつは今日掃除の後個人面接です。5時30までに来なければ今日は解散でいいと」 みくる「そうなんですかぁ、もう25分ですし着替えなくてもいいですよね。」 キョン「いいと思いますよ。」 この人もまじめな人だ。毎日メイド服に着替え、帰る時は制服に着替える。 こんなめんどくさいことを、自分からしてるんだから大したもんである。 長門「・・・・・・見て」 めずらしく、長門が朝比奈さんを呼んだ。うれしそうである。 みくる「なんですかぁ?長門さん」 カエルの着ぐるみの頭の部分がロッカーの上にあるわけだが それが、長門が手を上から下に降るアクションをしただけで落ちたのだ。 みくる「ふぇっ、、、長門さん今何か力を使ったんですか?」 長門「使ってはいない。わたしに芽生えた力。」 みくる「・・・キョンくん」 キョン「俺もびっくりしましたよ。リンゴを吸い寄せましたから」 朝比奈さんは、俺がするだけでも驚いている。 古泉「超能力でもなく、思念体の力でもない。なんでしょうね?」 みくる「う~ん、不思議ですね。他に何かできるんですか?」 長門「朝、枕元に置いてあった。」 長門が俺たちに見せたのは、シルバーの短い筒と、長門にはでかすぎる茶色の布でできたかぶり物だった。 キョン「心当たりないのか?」 長門「・・・ない」 キョン「なにかわかるか?」 長門「・・・わからない。」 古泉が勝手にかぶり物をかぶっていた。背の高い古泉でもフードをすると顔が隠れる。 見た目はカッパのような感じだ。 古泉「とても、大きいですね。長門さんが着たら半分以上引きずりますね」 長門「・・・・サイズを調整する。貸して」 そういうと、長門はそれを着た。古泉の言ったとおり長門には半端なくでかい。 小さい子が親の服を着ているみたいな感じだ。かわいいぞ、長門。 長門「~~~~~~~~」長門が呪文を唱えると少し引きずる程度の大きさになった。 キョン「長門似合ってるな。いいぞ」 長門「そう。」コートのようにフードをかぶっている。 みくる「あのぉ、この筒ボタンが付いてますよぉ」 朝比奈さんは、ずっと筒を見ていた。 キョン「未来に似たような何かありますか?」 みくる「未来のものじゃないみたいです。あえて言えば、もっと古いもの…」 古泉「このようなものが昔に?」 みくる「はい、教科書で見たことがあるんです。」 朝比奈さんは、思い出しながら語るように話しだした。 「はるか昔、遠い銀河系の彼方で、ジェダイと呼ばれる騎士の集団があった。 彼らは、光の剣で戦い、光より早い乗り物で移動する・・・」 みくる「こんな感じのお話なんですが・・・」 キョン「朝比奈さん、それは実話ですか?」 みくる「多少実話も入っているかと…」 どうやら、ただのお話らしいな。それもそうだ、こんな話聞いたことがない。 もし事実なら、現代に少しくらいその陰があってもいいだろうよ。 古泉「このボタンなんでしょうね?」 長門「・・・朝は気付かなかった。押してみる。」 ビィィィン!ジリジリジリ さぁ、状況を説明してみようか。 長門がボタンを押した瞬間、筒から光の棒が伸びカエルの頭が乗っていたロッカーを貫通しているのだ。 キョン「なんだこれは!」 R-2「urukoowat-ed」 ~地球上を旋回中の宇宙船 青年「マスター、データが送られてきました。」 マスター「表示しろ」 青年「はい!」カチッ シュルーン そこには、長門・キョン・みくる・古泉が立体映像で映し出されていた。 会話内容は、先ほどの部室での会話である。 青年「このような少女がフォースを…?」 マスター「それより問題は、生まれつきではないフォースの力だ。」 青年「朝目覚めたら急に、だなんて・・・・」 マスター「彼女との接触を試みる。」 青年「了解しました!」 こうして、宇宙船は地球大気圏へと突入した ~文芸部室 長門「・・・ユニーク」 キョン「それどころじゃない!早くそれを消すんだ。」 古泉「触ってはだめです。貫通ですよ?しかも切り口が溶けている・・・」 長門「・・・しまう。」シュルル なんなんだ、この剣は。朝比奈さんが言った光の剣。もしや…! キョン「朝比奈さん!」 みくる「ふぁい?」 まったく気の抜けた返事をする人だ。だが、かわいらしい。 キョン「朝比奈さんの教科書で昔の事って、今のことじゃないですか?」 目をまん丸くして驚く朝比奈さん。 古泉「確かに、話がつながりますね。僕らは知らず、朝比奈さんが知っている昔の話。つまり今の話なんですよ。きっと」 みくる「どうしよう。ほんとなら私未来のこと話しちゃった。」 大丈夫です。あなたはえらくなって同じミスをまたします。 長門「…大丈夫。はっきりしたことではないから。」 みくる「だと、いいんですがぁ」 ふと、外を見るとすっかり暗くなっていた。 時刻は6時を回ったところ。ハルヒは今日は来なかった。 古泉「今日はもう帰りましょうか。」 みくる「そうですね、暗くなってきましたし」 キョン「長門、それはお前が家に保管しといてくれ。」 長門「わかった」 帰り道。4人で歩いてると、俺たちの前に二人の男が現れた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1893.html
それは冬も寒さが増してきてもうすぐ冬休みだ、と期待している俺に立ちはだかる期末試験の壁を越えようとしているとき出来事だ。 俺は放課後にSOS団の部室で勉強をしている。分からないところがあっても万能な仲間たちに教えてもらえるし、天使に入れてもらったお茶を飲みながら勉強することができる。 その上勉強の邪魔になる物はほとんど無く、また集中していなかったり他の事をしているとハルヒが激怒してくるため俺は仕方無しにも集中し、それが良い結果をもたらす事が分かっているためだ。 強制労働のように勉強させられている。しかし頭には凄い入ってくる。少し寒いのが難点だがこの勉強場所は最高だと思っている。もっとも試験期間以外は勉強はしたくないが。 期末試験はすでに始まっていて、残すところあと3日、7科目という状況で本日も3教科の試験を受けて残すところあと4教科となった放課後、いつも通り文芸室で俺は勉強している。 「キョンくんがんばってますね」 そう言ってくれたのはSOS団の天使である朝比奈さん。そうなんです、親に試験の結果が悪かったら家を追い出すと言われまして、と答え、古泉と共に問題を解いていた。 朝比奈さんは試験の残りは得意科目と選択科目らしく、軽い復習をすれば平気らしい。古泉はもともと頭がいいので俺の勉強を手伝わせている。 長門はいつも通りの定位置で読書をしていて、ハルヒはまだいない。 「お前は勉強してるようには見えないが、いつ勉強してるんだ?」 そう俺が聞くと、少し苦い顔をして機関で叩き込まれている事を教えてくれた。成績を上げるためによほどの苦労をさせられているんだろう。 学があることは将来役立つぜ、俺にはムリだが、と言っておいた。古泉はやはりいつものように苦笑いして、あなたらしい、なんて言ってきた。 「ところで長門は勉強する必要はないとは思うがしてるのか?」 そう聞くと、一応勉強らしい事はしているらしい。読書好きな長門なら教科書を1日で全部読んでしまうだろう。しかしどんな勉強すれば試験で楽できるんだろうか。 「簡単に学力は増加できる。問題は理解力。」 そうかい、じゃあ俺にはムリだなと呟くと 「理解力が無い有機生命体が学力を向上させる為には時間をかけて理解するか、より理解しやすい解説が必要。」 なら長門の理解力を分けてくれたらな、とか思いながら今回の今日までに受けた試験は珍しく高得点を狙えそうだった俺は明日の教科の勉強を始めた。 分からないところがあったら長門に聞き、古泉に解説させるというパターンで明日の勉強を終わらせた。 明日は平気そうだが、明後日に俺の苦手科目があるので明後日の分も今のうちに勉強しておくことにしてハルヒがくるまで勉強していよう。 もう少しでキリのいい所、ここまでで今日は勉強を終わらせようとしているとハルヒがやってきた。 これが終わった頃に来てくれるとちょうど良かったのにな、と思いながらもハルヒに挨拶をし、勉強しなさいと怒鳴られた。 かつてないくらいの集中力で勉強していた俺は疲れていたんだと思う。 「じゃあ家に帰って勉強するとしよう」 十分勉強して明日は安泰だと思ったから家着いたらすぐに寝ようと思っていたが、そんな事を言ったら殺されかねないので言わないでおく。 「待ちなさい! あたしがしっかり明日の分を教えてあげるわ!!」 もちろん明日の分は何とかなると思ってるし、明後日の方が不安なので明日の分に時間は割きたくない。どうせするなら明後日の分の勉強を教えてもらいたい。 「明日のは長門に教えてもらって何とかなりそうだから、明後日の分を教えてくれないか?」 ハルヒは明日の教科にそうとう自信を持ってるらしく、教えると言って聞かない。明日の教科を勉強しないと明後日の勉強は教えないと言われた。 「しかしなぁ、全教科平均的にあげたい俺としては明後日の試験が不安なんだよ」 「決裂ね! キョンが明日の勉強をしない限りは明後日の分は教えてあげない。自力でやりなさい?」 ハルヒは俺が折れると思っているのだろう。勝ち誇った顔で言ってきた。正直、明後日の教科は苦手なので1人で勉強しても焼け石に水な事は俺もハルヒもわかっている。 ハルヒはわかっているからこそ、俺が折れるだろうと言ってきた。 俺は今日は帰って寝たかったので、 「なら俺は1人で勉強して平均点とって団長様を驚かせてみせよう」 と言った。ハルヒは不機嫌そうな表情になり、 「できるものならやってみなさい!」 と言い、もう教えないだの平均クリアできなかったら罰ゲームだの言い出した。平均クリアできなかったら1ヶ月間ハルヒを学校帰りに送らなければならない事になった。 そんな約束してまで家に帰りたかった訳ではないが、何となく了承した。 「じゃあ今日はもう帰りなさい!」 不機嫌そうに言われて俺は何となく従った。 家について俺は飯も食わずに寝た。相当集中していたのか、すぐに熟睡できた。 そして弊害として朝早くに起きた俺は罰ゲームの事を思い出して登校時間まで勉強をする。もちろん明後日の教科だ。 ほどよく勉強した俺は早めの朝食を取ろうとリビングに行くと母親に小言を言われた。勉強はしているのか、何で勉強しないであんなに早くに寝るのかなど。 聞き流して学校へ行き、本日の試験を受ける。思った通りの手応えで、あとは明日の試験を残すだけだ、と思って文芸部室に行って勉強をする。 文芸部室には朝比奈さんと古泉が勉強していて長門は本を読んでいる。俺も定位置で勉強を始めるとハルヒが来た。 「どう? 平均クリアできそう?」 ハルヒは俺の厳しい現状を知っていて言ってきた。 「正直、今のままでは厳しい。」 「言っとくけど謝っても許してあげないわよ? そうね、教わりたかったら一発殴らせなさい!」 そんなに怒っているのかと思ったが、殴られるのも罰ゲームも嫌だった。 「殴られるのは困る。そうだな、長門は教えてくれないか?」 「有希! 教えたらダメよ!」 「何でだ? 分からないところを聞くくらいはいいだろう?」 ハルヒはダメと言い張り、結局1人で勉強することになった。1人で勉強するなら家がいいだろうと考えてそのまま帰宅することにした。 家に帰り、部屋で1人で勉強してると親が30分置きくらいで様子を見に来る。集中できないから図書館に行ってくると言い、家を出て行こうとしたら親に非常に怒られた。 学校でも家でも勉強してる様子がない俺が図書館に行って勉強できるはずがない、という事らしい。必死にやってるのに。 今回は今までにないくらい勉強していて疲れている上に、家で勉強できないのは親が様子を見に来るからということもあって文句を言ってると喧嘩になった。 そして最終的に「そんなに家で集中できないならでていけ!」と言われ、売り言葉に買い言葉で「そうする。もう知らん」と言って家を飛び出した。 冬の寒さに震えながら当初の目的地である図書館に着くまでに、厚着してくればよかった、とかこの年で家出か、とか考えていた。 しかし今回は俺は非は無い。その上出て行ってすぐに帰るのはみっともないのでとりあえず図書館で閉館まで勉強しながら考える事にした。 図書館に着くとあいつがいた。今日も寡黙に読書していた無口な宇宙人だ。 「よう長門」 と声をかけるとこちらに振り向いて小さく頷いた。 「あなたは勉強しなければならないはず」 そうなんだ、俺は明日の授業で来月の楽できるか苦労するかが決まる。 俺は家で勉強できない理由を言い、ここで勉強しようと思ったこと、できれば明日の勉強を教えて欲しいということを長門に言った。 「ならあなたはうちへくるべき」 とりあえず、落ち着いて勉強をできる場所を確保した。名言こそしてはくれなかったが長門ならきっと勉強を教えてくれるだろう。 「家族と和解するまではうちにいるといい」 そこまでは考えていなかったが、今さら家に帰るのも嫌だったのでお願いすることにした。 そして俺は長門に勉強を教えてもらっている。普段は古泉の解説がないと理解できないくらい高度な解説をしている長門だが、今日は非常にわかりやすい。 深夜まで勉強をして、手応えを感じた頃に眠りについた。俺はコタツに突っ伏したまま寝ていた。 翌朝に長門に起こされると、朝食を食べてから一緒に登校した。 定番と言えば定番なのであろう登校中にハルヒ含むSOS団や谷口に見つかるといった事もなく登校できたのは朝早くに起こしてくれた長門のおかげだろう。 そして試験前にも最後の追い込みをしてた。が、ハルヒに邪魔をされてはかどらなかった。 試験中にはハルヒの消しカスが飛んできて集中できなかった俺は、平均点をクリアできるか微妙だった。 「あれだけ大見得きったんだから平均点くらいクリアしてみせるんでしょうね!」 わからん、微妙だと言うとやっぱりあたしがいないとダメねなんて言われたが、お前のせいで集中できなかったとは言わずに「そうかもな」と言っておいた。。 最後に、来月は楽しみにしてなさい! と言われていったん会話は終了した。 「ところで今日はSOS団は休みよ!」 「何故だ?」 「打ち上げパーティの準備があるのよ! じゃあ急ぐから! じゃあね!」 そういってハルヒは帰っていった。 俺はいったい何をさせられるんだろうな、何て考えながら中止の旨を伝えるべく文芸部室に向かう。 部屋に入るとハルヒ以外の全員がいた。挨拶もそこそこに、古泉が「どうでした?」なんて聞いてきた。 「正直、微妙だ」 「そうですか。平均点をクリアしているといいですね」 「そうだな、今は祈ることしかできない。ところで今日は活動は休みだそうだ。試験が終わったから打ち上げパーティをするようだが、その準備のためにハルヒは帰った。」 「わかりました。では僕は帰りますけどみなさんはどうしますか?」 「えっと、わたしも帰ります。キョンくんはどうするんですか?」 「古泉も朝比奈さんも帰るのか。俺はどうしようかな。長門、どうする?」 「帰る。あなたは今日もわたしの家に泊まるべき。あなたにやってもらいたいことがある。」 古泉と朝比奈さんは驚いた表情を見せた。それはそうだ。今日も泊まるべきという事は昨日も泊まったことになる。しかも万能選手に頼み事を頼まれた。 俺は簡潔に事情を話したら納得してくれたようだった。古泉から、ハルヒには知られないようにとの忠告を受けて俺は素直に受け取った。 「では朝比奈さん、お邪魔者は帰るとしましょうか」 「ええっ」 そう言って古泉と朝比奈さんは帰っていった。 「それはそうと、俺は何をしたらいいんだ?俺は一泊の恩も勉強を教えてもらった恩もあるし、出来ることならやってあげたいが命に関わる事はやりたくないんだが」 「これは生命には関係ない事。うちに来て」 俺はわかった、と言い長門と長門の家へ向かった。 「ここに座って」 長門の部屋に着き、リビングに通された直後に言われた。 俺は言うとおりに座る。長門はキッチンに消えていく。これから俺はいったい何をすればいいんだろう。 少しするとお茶を持った長門がやってきた。 いつかのようにお茶を3杯ほど飲むと、長門は言った。 「あなたは疲れている。今日は風呂に入ってすぐに寝るといい」 昨日もほとんど寝てないし普段からは考えられないくらい集中して勉強して疲れ果てていた俺は長門の提案を受け入れた。 そして風呂場でその疲れた脳みそを働かせて考える。 もしかしたら長門の頼みごとは肉体労働なんだろうか。だから今日休ませて明日働かせようとしてるのか。 だけど今までの長門の恩を考えれば肉体的にきつくてもやってやろうと考えていた。 風呂から上がって長門の用意した、何故か俺にぴったりの服を借りてリビングに戻ると今度は長門が風呂に入っていった。 入る前に今日は布団が用意してあり、先に寝てていいと言われたので素直に寝ることにした。明日はどんな労働が待っているのかわからないし。 布団の中に入り寝る体勢を整えてから、布団が一つしかない事に気付いて長門はどこで寝るんだろうと考えていたら長門が風呂をでた。 どうするのか聞いてみようと考えてたら長門が寝室に来た。そして俺が口を開く前に布団に入ってきた。 「なっ長門?」 「あなたに頼みたいこと、それはエラーの解消」 またしても俺が口を開く前に長門は俺に寄り添って、言った。 「あなたの近くにいるとエラーが解消される。昨日あなたが来たときにエラーの解消が確認された。あなたは何もせずにそばにいてくれればいい」 俺は心臓をドキドキさせながらも必死で平坦な声をだして、「そうかい、わかったよ」と言い、何だかほっとした。。 長門によると、俺とハルヒが仲良くしているのを見るとエラーが発生するらしい。 それは有機生命体の『嫉妬』という感情だぞ、と教えてやった。そして長門が俺の事を想ってくれている事を感じた。 長門が俺を頼ってくれるのも、そばにいてくれればいいと言う発言もうれしかった。 そして軽く長門を引き寄せて頭を撫でてやると俺の心臓も落ち着きを取り戻した。心臓どころか心も非常に落ち着いた。 そうして長門の頭を撫でていると、最初は嬉しそうな顔をしていたがいずれ眠りに着いた。 そんな表情をする長門を見ていると何だか無性に長門が可愛く思えて、恥ずかしくなって俺も眠りに着いた。 俺が起きた時はすでに昼だった。今日は試験休みというありがたい休日だった。 長門はすでに起きていてリビングで読書をしていたが、俺がリビングまで行くと遅い朝食をだしてくれた。 そして食後に親からの電話で、試験は終わったんだから帰って来いと言われて返事をする前に電話を切られた。 「エラーは昨日の時点でほとんど解消された。あなたは家に帰るべき」 じゃあ俺は夕方には家に帰るよ、夕方までは長門の近くにいると言い、長門は少しうれしそうにしながら俺に寄り添ってきた。 俺に寄り添ったまま本を開いている長門は、たまにでいいからきて、エラーを解消してほしいと言われた。 「なら、たまにとは言わずに行ける時はできるだけ行くようにするさ。それと、エラーを溜めさせない為にもハルヒを2人きりにならないように心がける」 俺も長門が好きだし、長門といると落ち着くからな、とは言わなかった。 長門は頷くと視線をこっちに向けた。 それにしても長門といると心がこんなに落ち着くなんて。俺は軽く長門を抱いてみた。 長門はうれしそうな、それでいて少し困った表情で言った。 「明日以降は昨日までのように私に接することを推奨する」 「情報統合思念体の意思か? それとも長門は嫌なのか?」 「私という個体は今の状態を望んでいる。しかしその結果あなたと涼宮ハルヒが疎遠になることを情報統合思念体は望んでいない」 そうか。でも俺たちにはまだまだ時間はあるんだ、ゆっくりでいいさ。ハルヒの前でだけ前みたいに接すればいいんだろ、いつかはハルヒも思念体もわかってくれるさと思いながら、でも今だけはと思い少し強く長門を抱きしめた。 それから俺は長門の作ったカレーと食べて、親に電話してからもう一泊する旨を伝えた。明日からはハルヒを筆頭にSOS団員の前では今まで通りに接しなければならないし、接しようと決めたからだ。 学校が始まったらSOS団の目に着く可能性のあるところでは今まで通りに接しなければならない。長門と完全に2人きりなんていつなれるかわからない。 それに、今は少しでも長い時間を共有していたかった。 夜になると、もろくも俺の誓いは崩れ去る事になる。 突然かかってきたハルヒからの電話で、今から長門の家で打ち上げパーティをすると言われた。長門に了解を得てないどころか、知らないうちなのに。 その後長門にも同じ電話がかかって来て、30分後に現地集合となった。すでに現地である長門の家にいる俺は早く着いたことにする。 10分もしないうちに、中身は食料品と思われるあり得ないくらいの量の袋を持ったハルヒが来た。 「キョン! なんであんたがいるのよ!」 「お前に呼ばれたから来たんだ」 「早すぎるでしょう!?」 「たまたまここいらを散歩してたんだ。近かったからそのまま来た」 「キョンが最後だと思って罰ゲーム考えてきたのに」 そういうとハルヒは袋を端に置いてコタツに入った。 それから5分くらいすると古泉と朝比奈さんが来た。定例のあいさつをして四人でコタツを囲む。長門はお茶を入れている。 「涼宮さんもあなたもずいぶんお早いお着きでしたね。一緒に来たのですか?」 「断じて違う!俺が一番に着いたんだ。なのに何で俺が一番に来たときに限って罰ゲームはないんだ?」 「それは涼宮さんがあなたに罰ゲームをしてもらいたいと望んでいるからではないですか?」 「ハルヒはそんなに俺の事嫌いなのか?」 「いえ、逆ですよ。好きな人に意地悪してしまうあれですよ」 よくわからん。 長門がお茶を持ってきた時にはハルヒは既に酒を持ってきてた。もう飲まないって言ってたのに。 そして四角形のコタツに4人座っているので座るところがない長門にハルヒが気付いて言った。 「何やってるのよ有希、座りなさい!」 「座るところがないから立ってるんだろ? 俺が退くからここに座っていいぞ」 「そう」 「キョンは退かなくていいわ! 有希、キョンの上に座りなさい!」 「そう」 そう言うと長門は俺の脚の上に座った。足を組んで座っているので変にフィットしている。 古泉と朝比奈さんは知った顔でニヤニヤしている。言い出したハルヒは少し不機嫌そうにして酒を煽った。 「そうだ!」 ハルヒはすでに相当飲んだらしく真っ赤な顔で先ほどの大きな荷物から非常に大きな服を取り出した。 「キョン! 二人羽織しなさい!」 「なぜだ!?誰とだ!?」 「うーん、古泉くんだと入らなさそうだからあたしかみくるちゃんか有希ね」 俺は3分の2であたりを引けると思い承諾した。外れが誰だかは言わない。 「みくるちゃん、やってみる?」 「えぇ??恥ずかしいですぅ」 「大丈夫よ! お酒呑めば恥ずかしさなんて忘れられるわ!」 そう言ってハルヒは朝比奈さんに度数の高い酒を飲ませ、朝比奈さんをノックアウトした。そして確立は二分の一まで下がった。 「みくるちゃ~ん起きなさい!」 「寝させてやれ。無理やり起こすことはないだろう?」 そういうと俺は朝比奈さんを抱えて布団の敷いてある部屋に寝かせた。 「朝比奈さんはダウンでいいじゃないか。」 「それもそうね、じゃあどうする?」 「涼宮さんがやってみてはどうでしょう?」 俺は俺にはずれを引かせようとした古泉に酒を飲ませた。ノックアウトまであと3杯ってとこか? 「ハルヒは俺と二人り羽織やりたいのか?」 「進んでやろうとは思わないわね!」 計算どおり。意地っ張りなハルヒは例え俺と二人羽織したくても素直に言わないと思ったんだ。そして長門なら断らない。 「長門は俺と二人羽織するか?」 「する」 「じゃあハルヒに悪いから長門に頼む」 よかった。外れを引いたら何されるかわからないからな。古泉が何か言ってたので酒を飲ませた。大分つらそうな顔をしてる。あと2杯くらいでノックアウトできるだろう。 そうして俺は非常に大きい服をきて、背中に長門を入れた。 「じゃあ有希! これをキョンに飲ませなさい!」 ハルヒは一杯の透明な、度の強そうな酒を渡した。 長門は見事に俺の口へ運んでくれて、まるで違和感が無かった。しかしきつい酒だな。 「すばらしいコンビネーションですね」 とりあえず俺は古泉に酒を飲ませた。予想よりも1杯早くノックダウンした。そのまま古泉は放置する。 「もう1杯行きましょう!」 ハルヒ、俺はダウンしそうだぞ。 またも非常に違和感なく俺の口へ入ってきた。しかしさっきよりもコップの角度があるため一気飲みに近い形になった。 頭がくらくらする。 「ハルヒ、このお酒は強すぎるんじゃないか?」 「なによ、もうダウンするの? いいわ!有希、出てらっしゃい?」 長門が背中からでてくると、今度は俺の隣に座った。俺はそこで座ってられなくなり、長門の膝の上に頭を乗せる感じで倒れこんだ。 ハルヒが何かを言っているが聞こえない。長門が撫でてくれるのが気持ちいい。そうして俺はブラックアウトした。 俺の目が覚めた時には全員起きていた。長門以外つらそうだった。 「おはよう」 「わかったわ!!」 「朝から何がだ?」 「あんたと有希の気持ちよ!」 「だから何がだ?」 「酒は本性を出すって言うでしょ?」 と前置きをしたハルヒによると、酒を飲んで本性をだした俺と長門を見ていると、どうやらお互い好きあっているらしい。でもお互いに自分の気持ちにも相手の気持ちにも気付いてない、と言った。 酒を飲ませただけでそんなにわかるか! っと言いたかったが半分は当たってるし何も言えなかった。 当たっている半分は、お互い好きあっていること。外れている半分は二日前に気付いたお互いの気持ち。 そうして俺は投げやりに言った。 「そうかい、そういうことにしておくよ」 俺はそう言いながら、ハルヒが認めたってことは思念体も認めざるを得ないと考えて、これからは長門とどうどうと一緒にいれると思って歓喜した。 その後に朝比奈さんに聞いたんだが、ハルヒは俺と長門の気持ちに気付いていたらしい。 そして、やけ酒飲んで忘れようとしたとか。ハルヒは常識的なのか非常識なのかわからない。しかし最大の障害は無くなった。 ハルヒが俺と長門の関係を許すとしたら俺はハルヒの鍵ではなくなったという事になるだろう。 ハルヒの気遣いには感謝しながらこれからは長門と一緒に歩いていこうと思う。きっと長門とならずっと一緒にいれるだろう。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5009.html
「長門、今日おまえんち行っていいか?」 いつも通りの二人きりの部活。俺は解放した気分でメガネをかけた長門に言う。わかってるんだ。断るはずなんてない、と。 「……」 沈黙の頬に赤みが差す。ハードカバーか俺の顔か、どちらを見ていたほうが自然なのか考えている風でもあり、しかし返答は俺も知ってのとおりだった。 「来て」 下校から始まる長門のマンションに着くまでのシーンは今の俺には無意味であり、それゆえに飛ばした。あっという間に長門の部屋の玄関だ。別段、不思議ではない。 「待ってて」 俺を居間に通した長門は、いそいそと台所へお茶を淹れに行く。俺は面白がってその後をそっと追いかけ、緑茶をこぽこぽ入れる長門のすぐ後ろまで来た。 俺に気づいたとき、びっくりしてお茶をこぼすだろうか?それとも、微笑を携えてゆっくり俺の胸にもたれかかってくるだろうか? 俺は迷った。どっちにしよう。 「……あ」 長門は増した影に気づき、俺に向かって振り向いた。また顔を赤くしていたが、お茶はこぼさなかった。 「ごめんな、びっくりさせて」 長門はふりふりと首を横に振った。居間に落ち着いた俺達は、テーブルを挟んで向かい合っている。 湯呑から立ち上る薄い湯気に、長門のカーディガンが少しだけ霞んでいる。俺はその裏にある小さな膨らみを想像し、そして切り捨てた。 長門は俺と目を合わそうとしない。湯呑を覗くことに一所懸命だが、意識して俺の視線を避けていることは丸わかりだ。 俺の長門はこうでなきゃいかん。 「なぁ、なんで俺を見てくれないんだ?」 気持ちの悪い質問も、この長門なら大丈夫。はっとしたように湯呑から目を離し、ついに俺と視線がぶつかった。 「俺のこと嫌いか? 長門と好きな本の話をしてる時だって、長門はあまり俺を見てくれない。なんでだ?」 長門はなにかを言いかけてやめ、少し俯いたあと、 「は……」 その後に続く言葉が手に取るようにわかる。しかし俺はその言葉を、立ち上がる動作で遮った。 怯えた長門の表情が愛らしい。俺が怒ってると思ったのかな? じゃあ、すぐにその誤解を解かないとな。 俺は無言でテーブルを回り、長門のそばにあぐらを掻いた。長門の正座を横から真摯に見つめるも、彼女の眼の先は湯呑と俺とを行き来している。 「なに」 ひざにちょこんと置かれた小さなこぶしが、彼女の吐く息とともに和らいだり固くなったりしている。俺はその手を半ば強引に掴んだ。 「長門」 ぐいっと引っ張ると、長門の体は三歳児の作ったバランスの悪い積み木のように、俺に向かって崩れた。 なにが起きたか分からないでいる長門の顔が、俺の胸にある。俺は長門の男を酔わせるシャンプーの匂いを目一杯吸い込み、 「好きだ」 ずれたメガネを直そうともせず、神秘の輝きを放つ彼女の瞳が俺を見つめた。距離にして15cm。いやもっとあるか。どっちでもいい。 俺の頭はマッシロシロスケだ。今日こそは……。 長門は何も言わず、ほんのりピンクに顔を染めた。普段と染まり方が違う。 長門は黙って目を閉じて、全主導権を俺に預けた。彼女の唇が、もの欲しそうに俺に向かって差し出される。 俺は迷わず、急いで、そこに自分の唇を近付けた―― 朝、無音、自室にて。俺は目を覚ました。 「またあんな夢を」 目をこすり、いったい何度目かという自己嫌悪と、あと少しだったのにという虚無感を同時に味わっていると、 「おっはよ~う、あれ~起きてる~」 妹型ミサイルが俺の基地に突っ込んできたが、不発に終わったらしい。シャミセンを抱えて部屋を出ていった。 カーテンに阻まれた日光が、新たな一日の始まりを告げていた。 今朝のような夢を見始めてから、もう一か月以上になる。 夢の中の俺はどこか傲慢でわかりきったような口調が目立つが、それも一か月というキャリアが成せる技なのだ。 しかし、夢だというのをわかっているのに拒否しないというのは、一体全体脳の構造はどうなってやがるんだ。 俺は朝の身支度、食事にいたるまでをスムーズにこなし、余裕をもって家をでた。 「世界の消失」直後からだった。事件解決、退院したその日の夜から、違う世界の長門との先述した夢が、これまで毎日続いている。 夢は決まってキスする直前で終わり、さらに日がたつごとに、そのリアリティを増していく。 長門のシャンプーの香りが分かったり、長門の手から伝わる緊張さえもつかみ取ってしまうのはなぜだろう。 脳の錯覚? 誰かに説明してもらいたいところだが、あいにく内容が内容なので、聞けば一発というやつには言えないのだ。 すなわち、現実の長門には。 「はて、それはどういうことでしょう」 そんな時の古泉だ。授業をそれなりにこなした後の昼休み、俺は中庭に呼び出して相談を持ちかけた。 もちろん夢の内容は省略しまくりだ。 俺はただ、「毎日長門の夢を見て困る」という非常にアバウトな証言に留めておいた。 具体的な内容を問われると、「いや、違う世界の長門の部屋で一緒にお茶飲んでるだけなんだが」 と、またまた当たり障りのない事実だけを述べた。 古泉は証拠物件の少ない事件を扱う警察官のような微笑みで(これも難しい表情だが、) 「毎日出続けるというのは、やはり本人、ここでいうあなたの強い願望を表しているのではないでしょうか。 つまり、あなたは違う世界の長門さんになにかしら強く惹かれていた。 世界は元に戻ったが、たとえば、今いる長門さんより人間らしさのある彼女を忘れることができない、と」 失礼なことを言うな。今の長門だって十分人間らしいさ。そりゃ、あの時の長門みたいに笑っ―― 「笑っ、なんです?」 目の前を歩いて通り過ぎる大統領を目を丸くして見つめるテロリストのような顔をした古泉が、 ここぞとばかりに俺のプライベートゾーンに頭から突っ込んできた。 「なんでもない。聞き流せ」 しばらくの間、俺の仏頂面と古泉のフレッシュスマイルが火花を散らしていたが、 古泉がとうとう両手を挙げて敗北を宣言した。 「あなたには敵いません。わかりました。もう突っ込みません」 わかればいい。 「あなたがそんな悩みを抱えていたとは。しかし、それなら先日の事件も納得がいきますね。 一か月も同じ夢を見続けていたら、少しはリアルにも影響しますか」 3日前の放課後、文芸部部室。 古泉の先日という言葉で、俺はその時のことを光よりもはやいんじゃないかというスピードで脳に浮かべた。 3日前の放課後。俺は部室に入るなり、他のSOS団員がいるにも関わらず、大声で、 「長門、今日おまえんち行っていいか?」 などとたわけたことをぬかしてしまったのだ。 ハルヒはぴくぴくと顔中の部位を動かし、朝比奈さんは持っていた俺の湯呑をぱりんと落とし、 古泉ですらがいつもの微笑みを忘れていた。 そして、長門。 窓際の定位置についていた長門は、本から顔を上げ、不思議そうな眼で(俺や他の団員にしかわからないだろうが)俺を見つめた後、 「そう」 とだけ呟き、また読書にふけり始めた。 「あ……いや……」 俺はすぐにまずいという雰囲気を感じ取った。ハルヒが噴火の5秒前だ。 「堂々とぬけがけなんて、いい度胸じゃないっ!!」 あれから、いや正確にはその翌日から、ハルヒは俺と口をきいてくれない。 俺に命令する時も、朝比奈さんや古泉を使っての間接的な接触しかしようとしないのだ。 いつもの、撃つことを躊躇しない殺し屋から放たれた弾丸のように迫るハルヒがいないのは、さびしいことだった。 そして、長門までがその日以降、ぷつんと学校に来なくなってしまった。これはまったくの予想外だった。 言っておくが、叫んでしまったその日、もちろん長門の部屋には行かなかったからな。 おそらくハルヒの徹底した無視ぶりの決め手は、長門の休みにあるだろうと俺は予測している。 最近の女っこ三人は仲がいい。入学したてのころのハルヒは、長門のことをあんた呼ばわりしていたからな。 それに比べるとすさまじい進歩ぶりだ。ハルヒにしては。 「ふむ……誤解を解こうにも、涼宮さんにそのまま話すのは懸命とはいえませんね。 もしかしたら、もっと状況が悪化するかもしれない。 このところ、バイトが大忙しでして」 正直、今回はすまない。 「いえ、いいんですよ。それが僕たちの仕事ですから。 しかし、夢を見るのをやめさせるだけでは、涼宮さんのほうは解決しませんね。あなたがうっかりしていたばかりに」 気にすんなと言っておいて結局ねちねちとうるさいやつだ。 「すいません。でも、もしかしたら、長門さんが学校に来てくれれば――」 あとの言葉は、あいつ特有の無言オーラにかき消された。ざわざわしていた風がとんと止んだような、そんな錯覚を受けるほどだった。 いつの間にか制服姿の長門がそばに立っていて、俺を見つめている。 「これ。読んで」 差し出された手には、文庫サイズの本。俺は言われるがままに受け取る。「ボッコちゃん」と書かれていた。 長門がそのまま立ち去ろうとしたので、俺が止めに入る。 「長門。来てたのか」 座っている俺と古泉の頭とほとんど同じ高さにある後頭部は、微動だにしない。 「こないだは本当にすまなかったよ。妄言も妄言、妄言甚だしい。部室に来いよ。みんな待ってる」 チャイムが鳴り始めた。周囲の動きが慌ただしくなる中、長門だけが時を止めたように動かない。 そして、なんとチャイムが鳴り終わるまで沈黙を守り続けた。 「読んで」 やっと喋ったと思ったら、ぽつりとそれだけ。歩き始めた長門の背中に、俺はもう声をかけなかった。 「……授業が始まります。行きましょう」 古泉の声に押されて、俺は立ち上がった。 本には思ったとおり栞がはさまれていて、今日の放課後に当たる時間、いつもの公園にて待つという旨が書かれていた。 数学教師の声はまったく届かず、俺のすべての関心は栞に向けられている。今日は部活を休まなければ。 「なあ、ハルヒ。今日はちょっと用があってな。部室に行けないんだ」 こそこそ振り返った俺を、太古からそうであったようなむっすり顔が出迎えた。 ハルヒはあからさまに俺から視線を逸らし、包み隠さずのどでかい溜息をこれ見よがしに吐いた。 さびしいことはさびしい。「なんで?」くらいは帰ってくる気がしてたので、その口実まで考えてあったのに。 だが、今回に限って言えば、この反応はラッキーだ。 「ごめんな」 できるだけ申し訳なさそうに体を前に戻すと、小さな舌打ちが裏から聞こえた。 まったく、なんだってんだ。 夕日に染められたいくつもの歴史が交差した公園に、俺は書かれた予定時刻よりもずっと早い時間に着いて、例のベンチに座っていた。 ハルヒを除く今日の文芸部室に直行するであろう二人には、あらかじめ事情を話しておいた。 朝比奈さんは俺のどじっこ発言に少なからずショックを受けていたようだが、 「心配してますから……はやく元のSOS団に戻りましょうね」 ハルヒの不機嫌モードと長門の不登校モードに挟まれ心苦しいようで、一刻も早い問題改善を願ってくれた。 古泉はにやけ面にすべてを覆い隠してなにを考えているのかわからなかったが、 「長門さんの目的がつかめませんね」 楽観的に疑問を述べた。 「あ……」 古泉の呟きを元にいろいろな予想をしていると、透明感のある声が聞こえた。……ん? どうした長門。お前は、現実の長門のはずだろ? コンビニ袋を提げた長門は、帰宅途中に偶然俺と出くわしたという表情で、なんと眼鏡をかけていた。 口をぽかんと開けた長門に、俺は世界改変後の彼女の姿を想起せざるを得ない。なにがどうなってる。お~い。 「な、長門?」 俺はなぜか遠慮がちに言う。ベンチに座る俺との距離は3メートルほどだろうか。 見えないベルリンの壁があるかのように、両者は止まった位置から動こうとしない。 「なに」 普通の長門も、同じことを言われたらこう言うかもしれない。しかし、今俺の目の前にいる長門は、直感でわかる。 偶然の出会いに驚いたらしい“違う”長門の抑揚のない声には、確かに、嬉しさの感情がこもっていた。 「なぜここにいるの」 俺がしどろもどろしているうちに、長門は乾き始めた雑巾から無理やり搾り取られた水分のような、か細い声をだした。 どう答えよう。この短い一言から察するに、この長門は俺をここに呼び出したことを知らないらしい。 長門が世界に二人いる?俺はそんなことを思ったりしたが、理由がわからない。 いやいや。もしかしたら、長門がイメチェンを希望しているのだろう。男受けしそうな宇宙人になってやろう、と。あほか。 断固保証する。長門はそんなことしない。勘だが、自信はありあまる。 「あぁ~。よく来るんだ。うん。落ち着くしな」 結局俺は、昼休みの長門を信じることにした。つまり、流されるままになってやろうというのだ。 「そういう長門だって、なんでここにいるんだ?ここ通ったら家まで遠回りじゃないか」 言ったあと、しまったと思った。 「今日は偶然」 しかし、長門は俺の予想したlook at ザ・ストーカーな顔をせず、淡々と答えた。 どうやら、俺は長門の自宅の所在を知っていてもいいようだ。 「そうか……それは、夕飯か?」 俺は座っていたことを思い出して立ち上がった際、コンビニ袋を指差した。 「そう」 俺の顔をじっと見つめてきたので、俺もそれに倣う。 途中までずっとそうしていたが、スタートの合図のなかったにらめっこ対決は俺に軍配が上がり、 長門は夢のなかのそれと一寸違わぬ赤みを見せてくれ、視線をそらした。 長門はもじもじと、俺の足の辺りを見つめている。 これがたまらなく可愛いのだが、すべてを文に起こそうとすると朝比奈さんのそれと同じくらい行数を取ってしまうため、割愛させてもらう。 「あぁ~……」 それで俺は、どうしたらいいんだ。帰ったほうがいいのか。 「ひ、暇だな、長門」 とりあえず言ってみただけなのだが、これがいいほうに命中した。 もし俺が自宅に帰るのが昼休みの長門の狙いなら、この長門は「そう」とか言ってここで別れようとするはずであり、 それとは逆に、長門と俺がマンションの一室に行くことがシナリオなら、長門は「そう」といった後、「来る?」などと誘ってくれるはずだ。 それ以外にもパターンはいくらでもあるだろうが、あとはもう、なるようになれだ。 そして、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドなんたらかんたらの出した返答は―― 「そう」 長門は意を決したように俺を見た。 「来る?」 「おなか、減ってる?」 「ん?あ、ああ、減ってる。食べてっていいのか?」 「いい」 「悪いな」 「いい」 「メニューはなんだ?」 「カレー」 「そうか」 「そう」 これがエレベータでの会話の全記録である。俺に背を向けて立つ長門の小さな体は、 こんな密室にあったら男にどんな妄想を掻き立てさせるかわからないほど繊細に見えた。 チンという音ともに両開きのドアが開き、長門はとてとてと今では見慣れた玄関に向かう。 鍵を取り出すのに袋が邪魔していたので、俺がそれを持ってやった。 「あ……」 この長門は緊張しっぱなしだ。顔も俺が見るときはいつだって赤い。 「礼ならいいさ。早く開けてくれ」 「あ」の続きが言えないでいる長門に俺はにっこり微笑み、彼女の表情に癒しを得た。 夢の中の別人のような俺に、なにか共感できるものを感じた瞬間だ。 「待ってて」 夢の中と同じセリフをはいた長門がキッチンへ消えていく。 ただ違うのは、消えた理由がお茶くみだけではなく、カレーの準備というところだ。 おそらくレトルトだろうが、それでも常人の作るものと長門の作るものでは、心の差が大きい。。 やがて長門が盆に載せた二つの湯呑をもって現れた。 「……」 テーブルを挟んでの対峙。出どころのはっきりしたデジャヴに、俺はいささか緊張する。 「すぐできるから」 「あぁ」 夢とまったく同じくして、湯呑を盾に視線を避ける長門を見ていた俺は、どこか頭のねじが外れていたんだろう。 夢の続きをしたい。そう、思ってしまったのだから。 俺は景気づけにお茶を一気飲みしようとした。ぶはっぶへっ。あ、熱すぎだ。 俺の口を発射口とした緑茶がテーブルと床、及び俺のズボンなどにかかる。 「悪い、悪い、いやほんと――」 長門がすぐに俺のそばに駆けつけて正座し、テーブルに置いてあった布巾でこぼれた個所をふき始めた。 少しびっくりして見ていると、長門はそれに気づき、上目づかいで俺を見上げたあと、また作業に取り掛かる。 彼女の呼吸が聞こえる。少し荒れていて、それはもう、俺の理性の半壊に油を注ぐだけだった。 気づくと俺は、濡れたズボンを拭きにかかった彼女の腕をつかんでいた。 「長門」 長門の体が、俺がつかんだ瞬間びくんと振動するのがわかった。布巾が彼女の手からこぼれ落ちる。 長門は目を丸くして、俺のつかんだ箇所をみている。 「長門」 もう一度俺は名を呼ぶ。長門は今度は、すぐそこまで迫る俺の顔を見つめた。 少しだけ自分のほうに引き寄せてみた。長門が抵抗すれば振りはらえるような、本当にわずかな力で。 そして彼女の体は、いとも簡単に俺の胸に吸い寄せられた。抵抗など、ミジンコほども感じなかった。 こんなことしていいんだろうか。残った理性が俺に訴えかける。 しかしそんなものは、制服越しに伝わってくる長門の熱い息に吹き飛ばされてしまう。 俺はたまらず長門を抱きしめ、態勢が不安定な彼女の体をさらに引き寄せる。 「んっ……」 抱き寄せられた反動で出た長門の声。俺の胸に押しつけられているため、それは少しくぐもって聞こえた。 無理に力を入れすぎていたんだろう。長門がくぐもった声のまま、 「苦しい」 それで俺は力を緩め、少しうるんだ瞳をした長門を自分から引き離した。 「すまん」 長門は俺に何も言わず、少し息を整えていたかと思うと、なんと片方の腕を俺の首に絡めてきた。 首からぶら下がった長門の細っこい体を支える俺はまさに、お姫様だっこ現在進行形王子だろう。持ち上げてはいないが。 頬は紅潮しているのに、長門は俺から目を離さない。 変なところで積極的だった、あの長門とそっくり、いや、そのものだ。 「……」 長門が無言で訴えかけてくる。ああ、ああ、わかってるとも。俺はもう止まらないぜ。 これは夢じゃない、現実の出来事だ。現実から覚めるなんて妙な日本語あるわけがない。 俺はごくりと唾を飲み込み、長門は静かに目を閉じた。 二つの唇が、少しずつ、少しずつ接近していって―― そして、重なった。 唇だけでは我慢できなかった俺は、すぐに長門のマシュマロ唇の中に舌を入れる。それだけで脳味噌がトロけちまいそうだ、まったく。 長門の前歯をなぞると、俺の腕を掴む彼女の手に力が加わり、そして一瞬で緩む。この緩急がたまらん。 舌同士も絡めたが、長門の舌はなぜか消極的で、自ら絡めてくるようなことはなかった。 おかげで俺はずいずいと長門の口の奥まで進んでしまい、キスの激しさは増していく。 どちらのともつかぬよだれが、互いの口の隙間から溢れた。 俺は長門の熱い唾液を吸い、飲み込む。彼女の鼻息が不安定なリズムで俺の顔にかかる。 長門の興奮が伝わってきて、俺はそれよりもっと興奮した。 今の俺に赤い布を振って生きていられる闘牛士はいないだろうと、そう断言できるほどの興奮ぶり。いやほんと。 そして俺は、それ以上を求めて、彼女の胸をまさぐろうと、手を伸ばした―― 「自己改変プログラム解除。問題の修正を確認」 ……なんですと? “普通の”長門が、自然に俺との口づけを剥がしたかと思うと、眼鏡を外しながらそんなことを言い出しやがった。 頬に赤みなんてどこにもない。マグロ一匹持ってこいと言いたくなるほど、長門の肌を染める色などなかった。 長門は口についたよだれを袖で拭きながら、ちょこんと正坐した。 「この三日間、情報統合思念体はあなたの言動に対する調査及び問題の確認、その解決策の準備に追われていた。 私はその実行役。あなたの脳内に残ったウィルスを、ワクチンを送り込むことによって消去、状況を改善した」 うむ、相変わらずなにを言っているのかわからない。もう少し詳しく聞いてみようじゃないか。 今のおれは、夢のときなどとは比べ物にならないほどの虚無感と、そして新しく羞恥心が満ちているが、 だからと言って何もする気が起きないでいるわけではない。やはりすべては長門の思惑だったのだ。 そういうことにしておかないと身が持たない。 「その、だな。言動、っていうのは、三日前の部室のときの、あれか?」 「そう」 よく無表情でいられると、失礼ながら思ってしまうね。ほんの秒前までキスしてたのに。 そこから長門の説明が始まった。できるだけわかりやすいように言ってくれと、念を込めたうえで。 「我々はまず、あなたの夢の観察を行った。その結果、あなたの脳に、私が改変した世界のデータが一部残っていたことがわかった」 それは、記憶のことじゃないのか?あの数日間のことならいくらでも覚えてる。 それからやっぱり、長門には言わずとも事の成り行きがわかっていたらしい。あの夢を見られていたか。……。 「記憶とは違う。世界、そのもの」 長門は慎重に言葉を選んでいるようだった。区別の説明が難しいのだろうか。 「それはあなたの中で生き、増殖を続けていた。そのままにしておくと、夢を媒体として、改変されたデータが世界に出回ってしまう可能性があった。 あなたの発言は、その予兆ともいうべきもの」 夢。増していくリアリティ。現実と夢の狭間。 「最終的には、世界が終るかもしれなかった?長門が異変に気づかなければ?」 長門はこくんと頷いた。そして、 「すまない」 ぽつりと言った。 おいおいおいおい。お前が謝ることなんてなにもないぞ。むしろ、責められるべきは俺だ。 俺があの世界に未練がなかったと言えばウソになるからな。そんな心のわだかまりが、そのデータをホイホイしちゃったんじゃないのか? 「原因は不明。ただの偶然かもしれない」 長門が落ちていた布巾を取り、俺のほうに差し出した。 「拭いて」 淡々という長門に、今度は俺が赤面する番だった。おずおずと受け取った俺は、口周りを拭く。 苦し紛れに会話を切り出した。 「ウィルスってのは、じゃあその改変データのことか?」 こくんと長門。なにもウィルスと呼称することもないだろうに。 「じゃあ、ワクチンは?」 長門はゆっくりと、自分の唇に人差し指を当てる。その仕草にぞくりとくる俺。 こんなにも長門が魅力的に見える日もないだろう。 「ワクチンは液状」 それだけ言って、膝の上に手を戻す。なるほどね。あんなワクチンだったら毎日でも注入されたいぜ。 「ただ注入するだけでは効果はあまり期待できない。できるだけあなたの見ている夢の状況に合わせる必要があった。 結果、うまくデータをおびき寄せることに成功」 あまり似てなかったけどな。放課後の部室から始めなくてよかったのか? 「重要なのは、あなたの願望が一番顕著になっているシーン」 恥ずかしいことをびしばし言ってくれるな、この長門は。いや、いつも通りだからいいんだよ。うん。 「う~ん。それじゃ、それらの準備に大忙しで、学校に来られなかったのか?」 長門はここで少し黙った。飄々とした物腰で俺を見つめるのはやめてくれ。赤面長門の気持がわかるってもんだ。 「問題の確認とワクチンの作成に時間はかからなかった。 一番の原因は、自己改変プログラムの作成」 自己改変プログラム。その響きだけでそれがどういうもんか分かる気がするが、そんなに時間をかけるものなのか。 長門なら、どんなギネス記録でも三秒で塗り替えられる気がするんだがな。 「自分を変えるのは難しい」 長門は単調に言う。 「作成手順の問題ではなく、わたしがどのような人物になればよいのかわからなかった。 あなたの夢のなかの私を見て研究したが、それでも学校に行く余裕がなかった」 ゆっくりやればよかったじゃないか。みんな心配してたんだぜ。そんなすぐに改変データが出回ることはないんだろ? 「私のまいた種だから」 長門はそれだけ言って、台所へ向かった。 ルーがすべてを覆い尽くした長門家特製レトルトカレーは、居間に運ばれたとたん俺の空腹感を呼び覚ました。 「食べて」 言われずもがな。一種のやけ食いのような心持でカレーにかぶりつく俺を、長門はじっと見ていた。食わないのか? 「キスしていた最中のことは覚えていない。安心して」 ぶはっと俺は口に含んでいたカレーを皿に吐き出した。もう放っておいてほしいことをずけずけ言いやがるやつめ。 「今回の改変プログラムは記憶の受け継ぎができないように設定してある」 ああ、そうかい。でも、最後のほうは覚えてるだろ。 「そう」 長門はやっとスプーンを持った。 「では、それも覚えていないことにする」 パクリと一口目。 「あなたと涼宮ハルヒの関係の修復を希望する」 その日の夜は、それでおしまいだった。そして、とうとう夢を見ることもなかった。問題は修正されたのだ。 「おめでとうございます。それでは、長門さんの特製カレーワクチンで、改変世界のデータの消去に成功したのですね」 昨日の夜のいろいろな出来事を混ぜ合わせ、結果としてねつ造という聞こえの悪くなった我が告白に騙された古泉が、のほほんと微笑んでいる。 「カレーの中に含まれるいくつかの香辛料との調和が、ヒューマノイドインターフェイスでも難しいとされるワクチン製造の秘訣だったとは。 驚く限りです」 本当に信じているのだろうか。まぁ、いい。こいつはこれ以上踏み込んでこないだろう。 長門ワクチン注入から翌日、ハルヒに置いてけぼりにされた放課後、俺は部室へ行く途中で一緒になった古泉と肩を並べて歩いている。 「昨日、夢は?」 見てない。 「よかったですね。リアルに影響が及んだかも、ですか。そういえば最近、僕もいやにリアルな夢を……」 気のせいだ。間違っても長門に相談なんかするんじゃないぞ。 「冗談ですよ」 すれ違った二年生が振り返るほどの微笑を携えたこの男は、それ以上はしゃべらなかった。 部室のドアを慎重に開け、朝比奈さん印のお着替えシーンが行われていないかチェックする。朝比奈さんはすでにメイド服だった。 「こんにちは、朝比奈さん」 「あ……こんにちは、キョンくん」 どこか遠慮がちだが、それは俺がまだ彼女に事件の真相を伝えていないからであり、 それを話せば俺は再び朝比奈さんの屈託のない笑顔を拝むことができるのだ。そうであってほしい。 「よう、長門」 たった三日休んだだけなのに、この姿が窓際の椅子に飾られていると、迫りくる新鮮さが半端じゃない。 メガネはもちろん外している。俺をちらっと見ただけで本に視線を落とした長門は、やはり元の世界の長門だった。 「ハルヒ」 かちかちとパソコンをいじっていたハルヒが、ぶすっとした顔でこっちを見る。 「なによ」 なんと、無視しないではないか。長門が来たからであろうか。 「有希にショック受けさせて三日も休ませた男がな~にすっとぼけた顔でいんのよ。 結局勘違いだったって昨日電話で有希から言われたけど、あたしは許さないんだからねっ」 オッケー長門、打ち合わせ通りだ。 「悪かったよ。この通り。あの時は頭がぼんやりしててな。あれ、実はお前に言おうとしてたんだ」 俺は昨日の夜から温めておいた無謀すぎるプランを実行に移す。失敗したら、そんときゃそん時だ。 「あたしに……?」 不信感が目からあふれている。この一言だけでなんとかなるなんて思っちゃいない。決め手は次だ。 「悲しいかな、俺は、自分の学業成績がどんぞこに落ちていく夢を、ここ一か月毎日見ていたんだ。 母親からの塾への催促、担任岡部の「こんままじゃやばいぞ」、谷口の「お前も俺と同じだな」、 さまざまなプレッシャーが俺を襲った結果、心身ともに疲弊しきった俺は、部室に入るなりお前と長門を見間違えたってわけさ。ついでに名前も」 ハルヒの目つきは変わらなかったが、奥のほうで瞳が和らいでいるような気がした。 「確かにあんた、成績は落ち込んでるわよね。それで、なんであたしの家に来るって結論になるわけ?」 窓際の長門が、本を読む手を休め俺を見ていた。 「勉強を教えてくれよ。中間まで一週間きってるんだ。つきっきりで頼む」 手を合わせ頭も下げた俺に、ハルヒはどう答えるだろう。こんなことで、関係の改善はできるだろうか。 俺がなにもかもに疑心暗鬼になっていると、ハルヒの声が下げた頭に降り注ぐ。 「部室じゃだめなの?」 だめだ。マンツーマンだかワンツーマンじゃないと。それに、俺がおまえんちに行ってみたいってのもある。 あらゆる神々に祈りを捧げる俺をみて、とうとうハルヒは観念したようだった。 「まあ、いいわ。そんなに来たいっていうなら来させてあげる。ただし、夜食のお菓子は全部あんた持ちだからねっ!」 泊まらせる気か、こいつは。 end
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4693.html
「長門、今日おまえんち行っていいか?」 いつも通りの二人きりの部活。俺は解放した気分でメガネをかけた長門に言う。わかってるんだ。断るはずなんてない、と。 「……」 沈黙の頬に赤みが差す。ハードカバーか俺の顔か、どちらを見ていたほうが自然なのか考えている風でもあり、しかし返答は俺も知ってのとおりだった。 「来て」 下校から始まる長門のマンションに着くまでのシーンは今の俺には無意味であり、それゆえに飛ばした。あっという間に長門の部屋の玄関だ。別段、不思議ではない。 「待ってて」 俺を居間に通した長門は、いそいそと台所へお茶を淹れに行く。俺は面白がってその後をそっと追いかけ、緑茶をこぽこぽ入れる長門のすぐ後ろまで来た。 俺に気づいたとき、びっくりしてお茶をこぼすだろうか?それとも、微笑を携えてゆっくり俺の胸にもたれかかってくるだろうか? 俺は迷った。どっちにしよう。 「……あ」 長門は増した影に気づき、俺に向かって振り向いた。また顔を赤くしていたが、お茶はこぼさなかった。 「ごめんな、びっくりさせて」 長門はふりふりと首を横に振った。居間に落ち着いた俺達は、テーブルを挟んで向かい合っている。 湯呑から立ち上る薄い湯気に、長門のカーディガンが少しだけ霞んでいる。俺はその裏にある小さな膨らみを想像し、そして切り捨てた。 長門は俺と目を合わそうとしない。湯呑を覗くことに一所懸命だが、意識して俺の視線を避けていることは丸わかりだ。 俺の長門はこうでなきゃいかん。 「なぁ、なんで俺を見てくれないんだ?」 気持ちの悪い質問も、この長門なら大丈夫。はっとしたように湯呑から目を離し、ついに俺と視線がぶつかった。 「俺のこと嫌いか? 長門と好きな本の話をしてる時だって、長門はあまり俺を見てくれない。なんでだ?」 長門はなにかを言いかけてやめ、少し俯いたあと、 「は……」 その後に続く言葉が手に取るようにわかる。しかし俺はその言葉を、立ち上がる動作で遮った。 怯えた長門の表情が愛らしい。俺が怒ってると思ったのかな? じゃあ、すぐにその誤解を解かないとな。 俺は無言でテーブルを回り、長門のそばにあぐらを掻いた。長門の正座を横から真摯に見つめるも、彼女の眼の先は湯呑と俺とを行き来している。 「なに」 ひざにちょこんと置かれた小さなこぶしが、彼女の吐く息とともに和らいだり固くなったりしている。俺はその手を半ば強引に掴んだ。 「長門」 ぐいっと引っ張ると、長門の体は三歳児の作ったバランスの悪い積み木のように、俺に向かって崩れた。 なにが起きたか分からないでいる長門の顔が、俺の胸にある。俺は長門の男を酔わせるシャンプーの匂いを目一杯吸い込み、 「好きだ」 ずれたメガネを直そうともせず、神秘の輝きを放つ彼女の瞳が俺を見つめた。距離にして15cm。いやもっとあるか。どっちでもいい。 俺の頭はマッシロシロスケだ。今日こそは……。 長門は何も言わず、ほんのりピンクに顔を染めた。普段と染まり方が違う。 長門は黙って目を閉じて、全主導権を俺に預けた。彼女の唇が、もの欲しそうに俺に向かって差し出される。 俺は迷わず、急いで、そこに自分の唇を近付けた―― 朝、無音、自室にて。俺は目を覚ました。 「またあんな夢を」 目をこすり、いったい何度目かという自己嫌悪と、あと少しだったのにという虚無感を同時に味わっていると、 「おっはよ~う、あれ~起きてる~」 妹型ミサイルが俺の基地に突っ込んできたが、不発に終わったらしい。シャミセンを抱えて部屋を出ていった。 カーテンに阻まれた日光が、新たな一日の始まりを告げていた。 今朝のような夢を見始めてから、もう一か月以上になる。 夢の中の俺はどこか傲慢でわかりきったような口調が目立つが、それも一か月というキャリアが成せる技なのだ。 しかし、夢だというのをわかっているのに拒否しないというのは、一体全体脳の構造はどうなってやがるんだ。 俺は朝の身支度、食事にいたるまでをスムーズにこなし、余裕をもって家をでた。 「世界の消失」直後からだった。事件解決、退院したその日の夜から、違う世界の長門との先述した夢が、これまで毎日続いている。 夢は決まってキスする直前で終わり、さらに日がたつごとに、そのリアリティを増していく。 長門のシャンプーの香りが分かったり、長門の手から伝わる緊張さえもつかみ取ってしまうのはなぜだろう。 脳の錯覚? 誰かに説明してもらいたいところだが、あいにく内容が内容なので、聞けば一発というやつには言えないのだ。 すなわち、現実の長門には。 「はて、それはどういうことでしょう」 そんな時の古泉だ。授業をそれなりにこなした後の昼休み、俺は中庭に呼び出して相談を持ちかけた。 もちろん夢の内容は省略しまくりだ。 俺はただ、「毎日長門の夢を見て困る」という非常にアバウトな証言に留めておいた。 具体的な内容を問われると、「いや、違う世界の長門の部屋で一緒にお茶飲んでるだけなんだが」 と、またまた当たり障りのない事実だけを述べた。 古泉は証拠物件の少ない事件を扱う警察官のような微笑みで(これも難しい表情だが、) 「毎日出続けるというのは、やはり本人、ここでいうあなたの強い願望を表しているのではないでしょうか。 つまり、あなたは違う世界の長門さんになにかしら強く惹かれていた。 世界は元に戻ったが、たとえば、今いる長門さんより人間らしさのある彼女を忘れることができない、と」 失礼なことを言うな。今の長門だって十分人間らしいさ。そりゃ、あの時の長門みたいに笑っ―― 「笑っ、なんです?」 目の前を歩いて通り過ぎる大統領を目を丸くして見つめるテロリストのような顔をした古泉が、 ここぞとばかりに俺のプライベートゾーンに頭から突っ込んできた。 「なんでもない。聞き流せ」 しばらくの間、俺の仏頂面と古泉のフレッシュスマイルが火花を散らしていたが、 古泉がとうとう両手を挙げて敗北を宣言した。 「あなたには敵いません。わかりました。もう突っ込みません」 わかればいい。 「あなたがそんな悩みを抱えていたとは。しかし、それなら先日の事件も納得がいきますね。 一か月も同じ夢を見続けていたら、少しはリアルにも影響しますか」 3日前の放課後、文芸部部室。 古泉の先日という言葉で、俺はその時のことを光よりもはやいんじゃないかというスピードで脳に浮かべた。 3日前の放課後。俺は部室に入るなり、他のSOS団員がいるにも関わらず、大声で、 「長門、今日おまえんち行っていいか?」 などとたわけたことをぬかしてしまったのだ。 ハルヒはぴくぴくと顔中の部位を動かし、朝比奈さんは持っていた俺の湯呑をぱりんと落とし、 古泉ですらがいつもの微笑みを忘れていた。 そして、長門。 窓際の定位置についていた長門は、本から顔を上げ、不思議そうな眼で(俺や他の団員にしかわからないだろうが)俺を見つめた後、 「そう」 とだけ呟き、また読書にふけり始めた。 「あ……いや……」 俺はすぐにまずいという雰囲気を感じ取った。ハルヒが噴火の5秒前だ。 「堂々とぬけがけなんて、いい度胸じゃないっ!!」 あれから、いや正確にはその翌日から、ハルヒは俺と口をきいてくれない。 俺に命令する時も、朝比奈さんや古泉を使っての間接的な接触しかしようとしないのだ。 いつもの、撃つことを躊躇しない殺し屋から放たれた弾丸のように迫るハルヒがいないのは、さびしいことだった。 そして、長門までがその日以降、ぷつんと学校に来なくなってしまった。これはまったくの予想外だった。 言っておくが、叫んでしまったその日、もちろん長門の部屋には行かなかったからな。 おそらくハルヒの徹底した無視ぶりの決め手は、長門の休みにあるだろうと俺は予測している。 最近の女っこ三人は仲がいい。入学したてのころのハルヒは、長門のことをあんた呼ばわりしていたからな。 それに比べるとすさまじい進歩ぶりだ。ハルヒにしては。 「ふむ……誤解を解こうにも、涼宮さんにそのまま話すのは懸命とはいえませんね。 もしかしたら、もっと状況が悪化するかもしれない。 このところ、バイトが大忙しでして」 正直、今回はすまない。 「いえ、いいんですよ。それが僕たちの仕事ですから。 しかし、夢を見るのをやめさせるだけでは、涼宮さんのほうは解決しませんね。あなたがうっかりしていたばかりに」 気にすんなと言っておいて結局ねちねちとうるさいやつだ。 「すいません。でも、もしかしたら、長門さんが学校に来てくれれば――」 あとの言葉は、あいつ特有の無言オーラにかき消された。ざわざわしていた風がとんと止んだような、そんな錯覚を受けるほどだった。 いつの間にか制服姿の長門がそばに立っていて、俺を見つめている。 「これ。読んで」 差し出された手には、文庫サイズの本。俺は言われるがままに受け取る。「ボッコちゃん」と書かれていた。 長門がそのまま立ち去ろうとしたので、俺が止めに入る。 「長門。来てたのか」 座っている俺と古泉の頭とほとんど同じ高さにある後頭部は、微動だにしない。 「こないだは本当にすまなかったよ。妄言も妄言、妄言甚だしい。部室に来いよ。みんな待ってる」 チャイムが鳴り始めた。周囲の動きが慌ただしくなる中、長門だけが時を止めたように動かない。 そして、なんとチャイムが鳴り終わるまで沈黙を守り続けた。 「読んで」 やっと喋ったと思ったら、ぽつりとそれだけ。歩き始めた長門の背中に、俺はもう声をかけなかった。 「……授業が始まります。行きましょう」 古泉の声に押されて、俺は立ち上がった。 本には思ったとおり栞がはさまれていて、今日の放課後に当たる時間、いつもの公園にて待つという旨が書かれていた。 数学教師の声はまったく届かず、俺のすべての関心は栞に向けられている。今日は部活を休まなければ。 「なあ、ハルヒ。今日はちょっと用があってな。部室に行けないんだ」 こそこそ振り返った俺を、太古からそうであったようなむっすり顔が出迎えた。 ハルヒはあからさまに俺から視線を逸らし、包み隠さずのどでかい溜息をこれ見よがしに吐いた。 さびしいことはさびしい。「なんで?」くらいは帰ってくる気がしてたので、その口実まで考えてあったのに。 だが、今回に限って言えば、この反応はラッキーだ。 「ごめんな」 できるだけ申し訳なさそうに体を前に戻すと、小さな舌打ちが裏から聞こえた。 まったく、なんだってんだ。 夕日に染められたいくつもの歴史が交差した公園に、俺は書かれた予定時刻よりもずっと早い時間に着いて、例のベンチに座っていた。 ハルヒを除く今日の文芸部室に直行するであろう二人には、あらかじめ事情を話しておいた。 朝比奈さんは俺のどじっこ発言に少なからずショックを受けていたようだが、 「心配してますから……はやく元のSOS団に戻りましょうね」 ハルヒの不機嫌モードと長門の不登校モードに挟まれ心苦しいようで、一刻も早い問題改善を願ってくれた。 古泉はにやけ面にすべてを覆い隠してなにを考えているのかわからなかったが、 「長門さんの目的がつかめませんね」 楽観的に疑問を述べた。 「あ……」 古泉の呟きを元にいろいろな予想をしていると、透明感のある声が聞こえた。……ん? どうした長門。お前は、現実の長門のはずだろ? コンビニ袋を提げた長門は、帰宅途中に偶然俺と出くわしたという表情で、なんと眼鏡をかけていた。 口をぽかんと開けた長門に、俺は世界改変後の彼女の姿を想起せざるを得ない。なにがどうなってる。お~い。 「な、長門?」 俺はなぜか遠慮がちに言う。ベンチに座る俺との距離は3メートルほどだろうか。 見えないベルリンの壁があるかのように、両者は止まった位置から動こうとしない。 「なに」 普通の長門も、同じことを言われたらこう言うかもしれない。しかし、今俺の目の前にいる長門は、直感でわかる。 偶然の出会いに驚いたらしい“違う”長門の抑揚のない声には、確かに、嬉しさの感情がこもっていた。 「なぜここにいるの」 俺がしどろもどろしているうちに、長門は乾き始めた雑巾から無理やり搾り取られた水分のような、か細い声をだした。 どう答えよう。この短い一言から察するに、この長門は俺をここに呼び出したことを知らないらしい。 長門が世界に二人いる?俺はそんなことを思ったりしたが、理由がわからない。 いやいや。もしかしたら、長門がイメチェンを希望しているのだろう。男受けしそうな宇宙人になってやろう、と。あほか。 断固保証する。長門はそんなことしない。勘だが、自信はありあまる。 「あぁ~。よく来るんだ。うん。落ち着くしな」 結局俺は、昼休みの長門を信じることにした。つまり、流されるままになってやろうというのだ。 「そういう長門だって、なんでここにいるんだ?ここ通ったら家まで遠回りじゃないか」 言ったあと、しまったと思った。 「今日は偶然」 しかし、長門は俺の予想したlook at ザ・ストーカーな顔をせず、淡々と答えた。 どうやら、俺は長門の自宅の所在を知っていてもいいようだ。 「そうか……それは、夕飯か?」 俺は座っていたことを思い出して立ち上がった際、コンビニ袋を指差した。 「そう」 俺の顔をじっと見つめてきたので、俺もそれに倣う。 途中までずっとそうしていたが、スタートの合図のなかったにらめっこ対決は俺に軍配が上がり、 長門は夢のなかのそれと一寸違わぬ赤みを見せてくれ、視線をそらした。 長門はもじもじと、俺の足の辺りを見つめている。 これがたまらなく可愛いのだが、すべてを文に起こそうとすると朝比奈さんのそれと同じくらい行数を取ってしまうため、割愛させてもらう。 「あぁ~……」 それで俺は、どうしたらいいんだ。帰ったほうがいいのか。 「ひ、暇だな、長門」 とりあえず言ってみただけなのだが、これがいいほうに命中した。 もし俺が自宅に帰るのが昼休みの長門の狙いなら、この長門は「そう」とか言ってここで別れようとするはずであり、 それとは逆に、長門と俺がマンションの一室に行くことがシナリオなら、長門は「そう」といった後、「来る?」などと誘ってくれるはずだ。 それ以外にもパターンはいくらでもあるだろうが、あとはもう、なるようになれだ。 そして、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドなんたらかんたらの出した返答は―― 「そう」 長門は意を決したように俺を見た。 「来る?」 「おなか、減ってる?」 「ん?あ、ああ、減ってる。食べてっていいのか?」 「いい」 「悪いな」 「いい」 「メニューはなんだ?」 「カレー」 「そうか」 「そう」 これがエレベータでの会話の全記録である。俺に背を向けて立つ長門の小さな体は、 こんな密室にあったら男にどんな妄想を掻き立てさせるかわからないほど繊細に見えた。 チンという音ともに両開きのドアが開き、長門はとてとてと今では見慣れた玄関に向かう。 鍵を取り出すのに袋が邪魔していたので、俺がそれを持ってやった。 「あ……」 この長門は緊張しっぱなしだ。顔も俺が見るときはいつだって赤い。 「礼ならいいさ。早く開けてくれ」 「あ」の続きが言えないでいる長門に俺はにっこり微笑み、彼女の表情に癒しを得た。 夢の中の別人のような俺に、なにか共感できるものを感じた瞬間だ。 「待ってて」 夢の中と同じセリフをはいた長門がキッチンへ消えていく。 ただ違うのは、消えた理由がお茶くみだけではなく、カレーの準備というところだ。 おそらくレトルトだろうが、それでも常人の作るものと長門の作るものでは、心の差が大きい。。 やがて長門が盆に載せた二つの湯呑をもって現れた。 「……」 テーブルを挟んでの対峙。出どころのはっきりしたデジャヴに、俺はいささか緊張する。 「すぐできるから」 「あぁ」 夢とまったく同じくして、湯呑を盾に視線を避ける長門を見ていた俺は、どこか頭のねじが外れていたんだろう。 夢の続きをしたい。そう、思ってしまったのだから。 俺は景気づけにお茶を一気飲みしようとした。ぶはっぶへっ。あ、熱すぎだ。 俺の口を発射口とした緑茶がテーブルと床、及び俺のズボンなどにかかる。 「悪い、悪い、いやほんと――」 長門がすぐに俺のそばに駆けつけて正座し、テーブルに置いてあった布巾でこぼれた個所をふき始めた。 少しびっくりして見ていると、長門はそれに気づき、上目づかいで俺を見上げたあと、また作業に取り掛かる。 彼女の呼吸が聞こえる。少し荒れていて、それはもう、俺の理性の半壊に油を注ぐだけだった。 気づくと俺は、濡れたズボンを拭きにかかった彼女の腕をつかんでいた。 「長門」 長門の体が、俺がつかんだ瞬間びくんと振動するのがわかった。布巾が彼女の手からこぼれ落ちる。 長門は目を丸くして、俺のつかんだ箇所をみている。 「長門」 もう一度俺は名を呼ぶ。長門は今度は、すぐそこまで迫る俺の顔を見つめた。 少しだけ自分のほうに引き寄せてみた。長門が抵抗すれば振りはらえるような、本当にわずかな力で。 そして彼女の体は、いとも簡単に俺の胸に吸い寄せられた。抵抗など、ミジンコほども感じなかった。 こんなことしていいんだろうか。残った理性が俺に訴えかける。 しかしそんなものは、制服越しに伝わってくる長門の熱い息に吹き飛ばされてしまう。 俺はたまらず長門を抱きしめ、態勢が不安定な彼女の体をさらに引き寄せる。 「んっ……」 抱き寄せられた反動で出た長門の声。俺の胸に押しつけられているため、それは少しくぐもって聞こえた。 無理に力を入れすぎていたんだろう。長門がくぐもった声のまま、 「苦しい」 それで俺は力を緩め、少しうるんだ瞳をした長門を自分から引き離した。 「すまん」 長門は俺に何も言わず、少し息を整えていたかと思うと、なんと片方の腕を俺の首に絡めてきた。 首からぶら下がった長門の細っこい体を支える俺はまさに、お姫様だっこ現在進行形王子だろう。持ち上げてはいないが。 頬は紅潮しているのに、長門は俺から目を離さない。 変なところで積極的だった、あの長門とそっくり、いや、そのものだ。 「……」 長門が無言で訴えかけてくる。ああ、ああ、わかってるとも。俺はもう止まらないぜ。 これは夢じゃない、現実の出来事だ。現実から覚めるなんて妙な日本語あるわけがない。 俺はごくりと唾を飲み込み、長門は静かに目を閉じた。 二つの唇が、少しずつ、少しずつ接近していって―― そして、重なった。 唇だけでは我慢できなかった俺は、すぐに長門のマシュマロ唇の中に舌を入れる。それだけで脳味噌がトロけちまいそうだ、まったく。 長門の前歯をなぞると、俺の腕を掴む彼女の手に力が加わり、そして一瞬で緩む。この緩急がたまらん。 舌同士も絡めたが、長門の舌はなぜか消極的で、自ら絡めてくるようなことはなかった。 おかげで俺はずいずいと長門の口の奥まで進んでしまい、キスの激しさは増していく。 どちらのともつかぬよだれが、互いの口の隙間から溢れた。 俺は長門の熱い唾液を吸い、飲み込む。彼女の鼻息が不安定なリズムで俺の顔にかかる。 長門の興奮が伝わってきて、俺はそれよりもっと興奮した。 今の俺に赤い布を振って生きていられる闘牛士はいないだろうと、そう断言できるほどの興奮ぶり。いやほんと。 そして俺は、それ以上を求めて、彼女の胸をまさぐろうと、手を伸ばした―― 「自己改変プログラム解除。問題の修正を確認」 ……なんですと? “普通の”長門が、自然に俺との口づけを剥がしたかと思うと、眼鏡を外しながらそんなことを言い出しやがった。 頬に赤みなんてどこにもない。マグロ一匹持ってこいと言いたくなるほど、長門の肌を染める色などなかった。 長門は口についたよだれを袖で拭きながら、ちょこんと正坐した。 「この三日間、情報統合思念体はあなたの言動に対する調査及び問題の確認、その解決策の準備に追われていた。 私はその実行役。あなたの脳内に残ったウィルスを、ワクチンを送り込むことによって消去、状況を改善した」 うむ、相変わらずなにを言っているのかわからない。もう少し詳しく聞いてみようじゃないか。 今のおれは、夢のときなどとは比べ物にならないほどの虚無感と、そして新しく羞恥心が満ちているが、 だからと言って何もする気が起きないでいるわけではない。やはりすべては長門の思惑だったのだ。 そういうことにしておかないと身が持たない。 「その、だな。言動、っていうのは、三日前の部室のときの、あれか?」 「そう」 よく無表情でいられると、失礼ながら思ってしまうね。ほんの秒前までキスしてたのに。 そこから長門の説明が始まった。できるだけわかりやすいように言ってくれと、念を込めたうえで。 「我々はまず、あなたの夢の観察を行った。その結果、あなたの脳に、私が改変した世界のデータが一部残っていたことがわかった」 それは、記憶のことじゃないのか?あの数日間のことならいくらでも覚えてる。 それからやっぱり、長門には言わずとも事の成り行きがわかっていたらしい。あの夢を見られていたか。……。 「記憶とは違う。世界、そのもの」 長門は慎重に言葉を選んでいるようだった。区別の説明が難しいのだろうか。 「それはあなたの中で生き、増殖を続けていた。そのままにしておくと、夢を媒体として、改変されたデータが世界に出回ってしまう可能性があった。 あなたの発言は、その予兆ともいうべきもの」 夢。増していくリアリティ。現実と夢の狭間。 「最終的には、世界が終るかもしれなかった?長門が異変に気づかなければ?」 長門はこくんと頷いた。そして、 「すまない」 ぽつりと言った。 おいおいおいおい。お前が謝ることなんてなにもないぞ。むしろ、責められるべきは俺だ。 俺があの世界に未練がなかったと言えばウソになるからな。そんな心のわだかまりが、そのデータをホイホイしちゃったんじゃないのか? 「原因は不明。ただの偶然かもしれない」 長門が落ちていた布巾を取り、俺のほうに差し出した。 「拭いて」 淡々という長門に、今度は俺が赤面する番だった。おずおずと受け取った俺は、口周りを拭く。 苦し紛れに会話を切り出した。 「ウィルスってのは、じゃあその改変データのことか?」 こくんと長門。なにもウィルスと呼称することもないだろうに。 「じゃあ、ワクチンは?」 長門はゆっくりと、自分の唇に人差し指を当てる。その仕草にぞくりとくる俺。 こんなにも長門が魅力的に見える日もないだろう。 「ワクチンは液状」 それだけ言って、膝の上に手を戻す。なるほどね。あんなワクチンだったら毎日でも注入されたいぜ。 「ただ注入するだけでは効果はあまり期待できない。できるだけあなたの見ている夢の状況に合わせる必要があった。 結果、うまくデータをおびき寄せることに成功」 あまり似てなかったけどな。放課後の部室から始めなくてよかったのか? 「重要なのは、あなたの願望が一番顕著になっているシーン」 恥ずかしいことをびしばし言ってくれるな、この長門は。いや、いつも通りだからいいんだよ。うん。 「う~ん。それじゃ、それらの準備に大忙しで、学校に来られなかったのか?」 長門はここで少し黙った。飄々とした物腰で俺を見つめるのはやめてくれ。赤面長門の気持がわかるってもんだ。 「問題の確認とワクチンの作成に時間はかからなかった。 一番の原因は、自己改変プログラムの作成」 自己改変プログラム。その響きだけでそれがどういうもんか分かる気がするが、そんなに時間をかけるものなのか。 長門なら、どんなギネス記録でも三秒で塗り替えられる気がするんだがな。 「自分を変えるのは難しい」 長門は単調に言う。 「作成手順の問題ではなく、わたしがどのような人物になればよいのかわからなかった。 あなたの夢のなかの私を見て研究したが、それでも学校に行く余裕がなかった」 ゆっくりやればよかったじゃないか。みんな心配してたんだぜ。そんなすぐに改変データが出回ることはないんだろ? 「私のまいた種だから」 長門はそれだけ言って、台所へ向かった。 ルーがすべてを覆い尽くした長門家特製レトルトカレーは、居間に運ばれたとたん俺の空腹感を呼び覚ました。 「食べて」 言われずもがな。一種のやけ食いのような心持でカレーにかぶりつく俺を、長門はじっと見ていた。食わないのか? 「キスしていた最中のことは覚えていない。安心して」 ぶはっと俺は口に含んでいたカレーを皿に吐き出した。もう放っておいてほしいことをずけずけ言いやがるやつめ。 「今回の改変プログラムは記憶の受け継ぎができないように設定してある」 ああ、そうかい。でも、最後のほうは覚えてるだろ。 「そう」 長門はやっとスプーンを持った。 「では、それも覚えていないことにする」 パクリと一口目。 「あなたと涼宮ハルヒの関係の修復を希望する」 その日の夜は、それでおしまいだった。そして、とうとう夢を見ることもなかった。問題は修正されたのだ。 「おめでとうございます。それでは、長門さんの特製カレーワクチンで、改変世界のデータの消去に成功したのですね」 昨日の夜のいろいろな出来事を混ぜ合わせ、結果としてねつ造という聞こえの悪くなった我が告白に騙された古泉が、のほほんと微笑んでいる。 「カレーの中に含まれるいくつかの香辛料との調和が、ヒューマノイドインターフェイスでも難しいとされるワクチン製造の秘訣だったとは。 驚く限りです」 本当に信じているのだろうか。まぁ、いい。こいつはこれ以上踏み込んでこないだろう。 長門ワクチン注入から翌日、ハルヒに置いてけぼりにされた放課後、俺は部室へ行く途中で一緒になった古泉と肩を並べて歩いている。 「昨日、夢は?」 見てない。 「よかったですね。リアルに影響が及んだかも、ですか。そういえば最近、僕もいやにリアルな夢を……」 気のせいだ。間違っても長門に相談なんかするんじゃないぞ。 「冗談ですよ」 すれ違った二年生が振り返るほどの微笑を携えたこの男は、それ以上はしゃべらなかった。 部室のドアを慎重に開け、朝比奈さん印のお着替えシーンが行われていないかチェックする。朝比奈さんはすでにメイド服だった。 「こんにちは、朝比奈さん」 「あ……こんにちは、キョンくん」 どこか遠慮がちだが、それは俺がまだ彼女に事件の真相を伝えていないからであり、 それを話せば俺は再び朝比奈さんの屈託のない笑顔を拝むことができるのだ。そうであってほしい。 「よう、長門」 たった三日休んだだけなのに、この姿が窓際の椅子に飾られていると、迫りくる新鮮さが半端じゃない。 メガネはもちろん外している。俺をちらっと見ただけで本に視線を落とした長門は、やはり元の世界の長門だった。 「ハルヒ」 かちかちとパソコンをいじっていたハルヒが、ぶすっとした顔でこっちを見る。 「なによ」 なんと、無視しないではないか。長門が来たからであろうか。 「有希にショック受けさせて三日も休ませた男がな~にすっとぼけた顔でいんのよ。 結局勘違いだったって昨日電話で有希から言われたけど、あたしは許さないんだからねっ」 オッケー長門、打ち合わせ通りだ。 「悪かったよ。この通り。あの時は頭がぼんやりしててな。あれ、実はお前に言おうとしてたんだ」 俺は昨日の夜から温めておいた無謀すぎるプランを実行に移す。失敗したら、そんときゃそん時だ。 「あたしに……?」 不信感が目からあふれている。この一言だけでなんとかなるなんて思っちゃいない。決め手は次だ。 「悲しいかな、俺は、自分の学業成績がどんぞこに落ちていく夢を、ここ一か月毎日見ていたんだ。 母親からの塾への催促、担任岡部の「こんままじゃやばいぞ」、谷口の「お前も俺と同じだな」、 さまざまなプレッシャーが俺を襲った結果、心身ともに疲弊しきった俺は、部室に入るなりお前と長門を見間違えたってわけさ。ついでに名前も」 ハルヒの目つきは変わらなかったが、奥のほうで瞳が和らいでいるような気がした。 「確かにあんた、成績は落ち込んでるわよね。それで、なんであたしの家に来るって結論になるわけ?」 窓際の長門が、本を読む手を休め俺を見ていた。 「勉強を教えてくれよ。中間まで一週間きってるんだ。つきっきりで頼む」 手を合わせ頭も下げた俺に、ハルヒはどう答えるだろう。こんなことで、関係の改善はできるだろうか。 俺がなにもかもに疑心暗鬼になっていると、ハルヒの声が下げた頭に降り注ぐ。 「部室じゃだめなの?」 だめだ。マンツーマンだかワンツーマンじゃないと。それに、俺がおまえんちに行ってみたいってのもある。 あらゆる神々に祈りを捧げる俺をみて、とうとうハルヒは観念したようだった。 「まあ、いいわ。そんなに来たいっていうなら来させてあげる。ただし、夜食のお菓子は全部あんた持ちだからねっ!」 泊まらせる気か、こいつは。 end
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1239.html
最近毎日同じ夢を見続けている、終わらない悪夢を。 そこはとても暗いところ。そこにわたしは一人で立っている。 その夢は私を酷く攻める。そこでわたしを攻める声が私に突き刺さる。 「ねぇ何であなたは存在し続けているの?」 「どうして?」 「私は消されたのに、何故?」 「黙ってないでさ、答えてよ!」 そう、この声の主は朝倉涼子、四方八方から彼女の声が聞こえる。 わたしは彼女からこのような事を言われても仕方がない事をした。 だから彼女から何を言われても言い返せない。 「なんであなただけ特別なの?」 「あなたはあれだけの事をしたのに、何故?」 「何であなただけが………ずるいずるいずるいずるいずるい!!私だってまだ生きていたかったのに。」 「あなたは卑怯よ!!」 わたしは耐えられなくなり両手で耳を塞いだ、しかしその声は頭の中に直接響いてくる。 その呪う様な、妬む様な悲痛な叫び声がわたしの心を抉る。分かっているわたしは卑怯者だ。 (お願いもうやめて)心の中で呟く。 「どうしてどうしてどうしてどうして!?」 「ねぇ! 何とか言いなさいよ!!!」 目が覚めた、そしてわたしは布団にうずくまり呟いた。 「もう……許して…」 その夢を見始めたのはわたしが2年生になって数週間後だった。 最初その夢を見たときわたしは驚いた、何故なら朝倉涼子という存在はこの世に居ないからだ。 彼女が彼を襲った事件の後、情報統合思念体の主流派は急進派に対して、 朝倉涼子の情報を全て消去するように命じた…… だから、ありえない事だった。 「どうしたの長門さん? そのありえない物でも見るかのような顔は」 分からなかった、彼女はもうこの世に居ないはず、 彼女を構成する情報は全て消滅したはずなのに何故? 「私がここに居るのが不思議? クスッそんなのどうでもいい事じゃない。 そんな事よりさ、ねぇ長門さん、どうしてあなたはまだ存在しているの?」 ??私は質問の意図が分からなかった。 「分からない? 私が言っているのはね、何故あなたが情報連結を解除されるでもなく、 全てのデータを初期化するでもなく、エラーデータを残したままのあなたが、 有機生命体として存在しているのかってことよ!」 ようやく質問の意図が分かった、しかし何故彼女がわたしが世界改変した事を知っているのか、 それについては分からなかったが私は答えた。 「私が急に居なくなると涼宮ハルヒが騒ぎ出す、それに……彼が許してくれた。だから私はここにいる」 「それだけ?そんなことで?涼宮ハルヒが騒ぐ?彼が許してくれたから?笑わせないで!」 そう言うと彼女は俯き体を震わせていた。そして怒りをあらわにして言った。 「確かに私は重要な存在である彼を襲ったわ! でも結果的には彼は死ななかったし、 怪我すらしていないわ。それに私が彼を襲ったのはあなたの為にした事だった。 あなたの話を信じようとしない彼に現実を見せる為に行ったこと。 私が彼を殺そうと思えば一瞬で終わっていた、そんなことはあなただって分かっていたでしょ? それなのにあなたは私が全てを消されるとき何て言ったか覚えてる?」 わたしは記憶を検索し言った。 「自業…自得…」 「そう『自業自得』あなたはそう言ったのよ! それならば何故あなたは存在しているのよ! 自分でやった行いの報いを自分が受けるならば、あなたはもう存在してないはずでしょ!?」 彼女の言葉が心に突き刺さる。あの時のわたしは心や感情といったものをあまり理解していなかった。 だからあの時の彼女の行動が理解できなかった、彼女が何故手加減していたのかを。 それでも、彼を襲うことはいけないことだった、だから言った『自業自得』と。 でも、今なら分かる彼女のとった行動の意味を……わたしは彼女に感謝しなければならなかったのだ。 事実あの事件の後、彼は現実を受け入れ、そしてわたしを、命の恩人であるわたしを一番信頼してくれる。 ああ、わたしは彼女になんて酷いことを言ったのだろう。悔やんでも悔やみきれない。 色々考えていると、彼女が追い討ちをかける様に言った。 「あなたのした事は決して許せる事ではないわ、世界改変をし大勢の人の記憶をいじくり、 あまつさえ情報統合思念体の存在を消した。私はあなたの為にと思ってやったことで 全てを消されたのに……なのに、何故あなたはエラーデータを蓄積したまま自由に生きているの? 情報統合思念体の意思を無視して、自分で決めて、選んだ道を!! 独断専行は……勝手な行動は許されないんじゃなかったの!?あなたは卑怯よ!!」 わたしは俯いた、反論できなかった。そのとおりだったからだ。事実そのように行動している。 2年生になったとき情報を操作し鍵である彼と同じクラスになるようにしたことも、 席替えで、隣の席になるようにしたることも、彼に必要以上に接触し会話をしているのも、 これらは情報統合思念体の意思を無視した行動。彼女に勝手な行動はとるなと言いながら、 わたしは自分勝手な行動をしている。 そして『卑怯』……その言葉がわたしの心を抉った 世界改変の事件が終わった時、わたしは処分される筈だった、しかし彼がそれを許さなかった。 彼は言った、わたしが消えることになったら、涼宮ハルヒを焚き付け もう一度存在を消すぞと、それはわたしが想像したとおりの言葉だった。 わたしはその言葉を情報統合思念体に伝え処分を免れた。 わたしは自身が処分されることが嫌だった、SOS団という心地よい場所から離れたくなかった。 わたしは処分されたくないがため、彼と涼宮ハルヒを利用した。 わたしは彼女にあんなことを言っておきながら、彼女のように潔く消えることが出来なかった。 ………わたしは卑怯者だ。 「ねぇ黙ってないで何とか言ったらどうなの?」 彼女の声がする、わたしは何て言ったらいいか分からない。 「あなただけのうのうと生きているなんて……私はあなたを許さない。 苦しんで苦しんで苦しみぬかせてやる。あなたに安らぐ時なんて与えない。 あなたには終わることの無い悪夢を見てもらうから。」 そこでわたしは目覚めた、そしてすぐに自分自身をスキャンした、 が、何も検出されなかった。ほっと息をついた。が頭の中で声がした、 彼女の声が。 「あら長門さん、何を安心しているのかしら?言ったでしょ? 『安らぐ時なんて与えない』って」 わたしは訳が分からなかった。わたしの身体は何の異常も見られなかったからだ。 だが、彼女の…朝倉涼子の声が直接頭の中に響いてきた。 「あなたは今まで楽しい時を過ごしていた、でもこれからは苦しんでもらう。 あなたの精神をいたぶってあげる。」 そう言うと彼女は笑い出した、そしてこれがわたしの悪夢の始まりだった。 「あなただけのうのうと生きているなんて……私はあなたを許さない。 苦しんで苦しんで苦しみぬかせてやる。あなたに安らぐ時なんて与えない。 あなたには終わることの無い悪夢を見てもらうから。」 そのときから彼女の声が四六時中するようになった。 時たま飽きたのかどうか判らないが彼女の声が止むときがあるが、それはすぐに終わるつかの間の平穏。 だがそれは平静を保つので精一杯なわたしにとっての唯一の安らぎ。 彼女の声は登校しているときや授業中、部活中にもしてくる。 勿論、情報統合思念体にもわたしの身体を診てもらったが、何の異常もないとのことだった。 わたしは恐怖というものを初めて感じた。わたしはすぐにでも消えたかった。 この耐え難い精神的苦痛から逃げ出したかった。でも、それは無理なことだ。 彼と涼宮ハルヒを利用して処分を免れたのだ。 彼が『お前がいなくなったらハルヒを焚き付けもう一度存在を消してやる』と言っていたのを 伝えてしまってあるので、わたしは消えることを許されない。 そんなことを考えていたら、もう学校へと行く時間になっていた。 わたしは正直行きたくなかった。この部屋に引き篭もっていたかった。 だが、そんなことをすると涼宮ハルヒが騒ぐし、何より彼に心配を掛けたくなかった。 「さあ長門さん今日もいっぱいいっぱい楽しみましょうね」 彼女の…声がする。いったいいつになったら許してくれるのか。 でもわたしにも誰にもどうすることも出来ない。この声はわたしにしか聞こえないのだから。 わたしは頭の中の声を振り払い、学校に行った。 教室へ入り、彼の隣の席に着いた。 「お、珍しいな長門が俺より遅れてくるなんて、大丈夫か? 身体の調子が悪いのか?だったら無理はするなよ」 「別に何でもない、ただ少し寝坊しただけ。心配する必要はない」 「そうかい、でも最近のお前は何か変だぞ?何か悩みでもあるのか?」 彼はわたしの様子がおかしいことに気づいている。 わたしは彼に心配を掛けまいと嘘をついた。それに彼に話したところで彼には…… 「あら長門さん、酷いんじゃない?せっかく彼が心配してくれるのに。 まあはっきり言って彼にはどうすることも出来ないけどね。」 わたしは彼女の声を無視していた。 そして授業が始まった。授業に集中して、彼女の声から意識を遠ざけて何とか我慢が出来た。 でも昼休みになりわたしはとうとう耐えられなくなった。 それは文芸部の部室で昼飯を食べているときだった。そこには彼も居た。 「あ~あ、羨ましいな、私は物を食べたり、おいしいと感じたりすることも出来ない。 でもあなたは食べておいしいと感じることが出来る。ほんとうに羨ましい」 途端にわたしの手が止まる。 「ん?どうした長門、何か変なものでも入っていたか?」 「どうしたの?箸が止まっているわよ?彼が心配しているわ。 さあ早くその箸を口の中に持っていきなさいな。そしておいしいと感じなさいよ」 (ヤメテ、お願い、これ以上わたしを苦しませないで。 ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ……) 「おい、本当に大丈「ヤメテ!!!!!」 「な、長門?」 「あ、………」 「酷いわね~長門さんせっかく彼が心配してくれるのにその言い方はないんじゃない? 朝から彼があなたのことを心配しているのに。あなたって本当に人の気持ちを踏み躙るのが好きね」 (チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ……) 「やっぱお前変だz「黙って!もうわたしに話しかけないで!」 「あ…ち、違っ…あなたに言ったわけじゃ……」 「あら、何が違うって言うの?ここにはあなたと彼しか居ないじゃない。 彼はそうは思わないんじゃないかな?どうするの?このままじゃ彼に嫌われるわよ?」 わたしは逃げた、とにかく一人になりたかった。 わたしは急いで部室を出て、学校を出て自分の家へと行き部屋に入ると鍵を掛け 布団の中で両耳を塞ぎうずくまった。 「お願い、もう止めて!わたしが…悪かった……」 「これぐらいのことで根をあげないでよね。あなたに分かる? 自分の全てが消えていくのが、自分という存在が消えていくのを見る気持ちが! 私だってまだやりたいことはたくさんあった。 退屈な三年間の待機期間を終えて、やっと学校へ行けるようになって、 友達と、なんてこともないくだらない話をしたり、一緒に食事をしたり 買い物に行ったりするのが楽しかった。 正直言って、涼宮ハルヒのことなんてどうでもよかった。」 彼女の叫び声は悲痛なものだった。 「私が消えるとき、あなたは擁護の一つもしてくれなかった、 『彼女の行為はわたしのためにしたことだ』と そう言ってくれたら私は消えずにすんだかもしれないのに! もしそれでも…消えることになっても、私は満ち足りた心で消えることが出来た! なのに…なのに…あなたはっ…あなたはっ!!……」 「もう許してわたしが悪かったから謝るから、たくさん…たくさん謝るから 御免なさい御免なさいご免なさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ ゴメンナサイゴメンナサイ………」 わたしはその言葉だけを呟き続けた。何日も何日も、ただその言葉だけを。 時折呼び鈴や扉をたたく音をしたが全て無視した。 いつまでそうしていたのか、気付いたときには彼女の声がしなくなっていた。 許してくれたのだろうか、とりあえず洗面所にいった、わたしは鏡を見て驚いた。 頬はこけ、目の下には大きな隈ができ、ガリガリに痩せていた。 髪の毛は大量に抜け落ちていた。まるで別人だった。 「あ、ああ……」 「長門さん気が付いた?あなたずっとあんな状態だったから暇で暇でしょうがなかったわ」 「…な、なんで?消えたはずじゃ……」 「何言っているの?私が消えるわけないじゃないの。それにしても長門さんよかったね」 「え?何を…言って……」 「何って?あなた情報統合思念体からのリンクが切れて晴れて人間に成ったじゃない。 あの改変世界の様にあなた唯の人間に成れたのよ。喜びなさいよ」 気が付いた。わたしは情報統合思念体とのリンクが切れていて情報操作能力が一切使えなくなっていた。 何日も部屋に篭っていたため、わたしは見捨てられたのだ。 「あっそうそう涼宮さん達ね、あなたのことはもう諦めたみたいよ。 あなたが部屋に篭っている間にあなたは転校したことになったみたい。 今では別のインターフェースが任務に就いて皆と楽しくやっている。 あなたの従姉妹っていう設定だから涼宮さん喜んでSOS団に入れたわ。 キョン君は最初渋っていたけど理由を聞いて何とか納得して、今はかつてのあなた程信用しているわ」 彼女の声がわたしを更に追い詰める。 「……う、うそ……」 「嘘じゃないわ。でも良かったじゃない、あなた人間に成りたがっていたもの、世界を改変するほどにね。 これからあなたは自由よ。涼宮ハルヒの観察なんてしないで自由に生きられるの。 ほら、もっと喜びなさいよ。アハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハ……」 彼女の笑い声が聞こえる中わたしは絶望した。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1154.html
ガーー 自動ドアが開き目に飛び込んできたのは見知った顔だった 店員「あのお客様?」 長門「・・・・」 長門である、長門もセブンイレブ○にくるのか 夕飯でも買いに来たのかな? ハルヒのこと以外で長門と会うのは少ない気がする 店員「えっと、630円になります」 長門「・・・・」 なにやら様子がおかしいのか? 店員が困った顔している、なにかあるのだろうか? キョン「よ、長門」 長門「・・・・ぁ」 店員「ぁ、ぁの~、630円になるのですが・・・・」 630円?だいたい弁当の値段くらいだが、 なぜこの場はフリーズしている 長門は無表情である っと目線をさげると長門の手にはがま口の財布が握られている また懐かしい財布を・・・っと 口が開いて中身がみえるのだが・・・ キョン「5円!?」 店員「へ?」 キョン「い、いえ、なんでもありません」 5円って、長門、今目の前にレジにだしている弁当は630円だぞ あとの625円はどこからおぎなうんだ あぁーなるほど もしやこの状況はこれが原因か? キョン「あのー630円ですよね?」 店員「え?あ、630円になります」 キョン「えっと・・・っと、630円っと・・・丁度でお願いします」 長門 「・・・・」 店員 「あ、はいー、630円丁度お預かりします」 キョン「レシートはいら」 !?、すそを長門にひっぱられているのだが 長門「・・・・」 長門は何も言わず店員が差し出そうしているレシートを見ている もしかしてこれか? キョン「あぁーレシートください」 店員 「レシートでございます」 レシートを受け取りそれを袋にいれた おそらくこれでよかったのだろうか さっきまでひっぱられていたすそはもとにもどっている 店員「ありがとうございましたー」 外は蒸し暑い・・・・ 長門は無表情で俺のあとについてきた 余計なことは・・・してないと思うかな? キョン「まぁーたまにあるよな」 一度もしたことはないがここはあると言っておこう それが俺のクオリティーである キョン「じゃ、俺こっちだから、また学校で」 またすそを引っ張られる感じが・・・って長門がひっぱているのか キョン「どうした長門?」 長門「ぁ・・」 キョン「?」 長門「・・・・」 長門「ぁ・・・ぁりがと・・・」 キョン「ぇ?あぁーぉ、おう」 長門の口からでた言葉に驚いた 長門は俺のほうを見てそう言った しかしその上目づかい反則だぞ長門 なんとも恥ずかしくなってきた キョン「ぁーひとつ聞いていいか?」 まぎらわせに話題を変えてみたが・・・・なにかあったか? キョン「長門はレシートをいつももらっているのか?」 長門「・・・・」 無言に首を横にふる キョン「じゃー今日はどうして?」 長門「・・・・」 無言である、まぁーたいした意味ないだろう っと長門を引き止めてるみたいだな キョン「じゃ俺はいくよ」 長門 「・・・・」 長門は無言でうなずく キョンが見えなくなった跡、長門はつぶやいていた 「想い出」 誰にも聞こえない、小さなつぶやきで 補足 キョンは涼みにセブンイレブ○にはいった 長門が買っていったのは牛丼(スレ参考) 残念ながら古泉はいなかった
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1857.html
ソレは突然起こり突然終わった 情報統合思念体内で急進派が主権を握り ハルヒを拉致・解剖しようと乗り込んできたのだ 小泉・朝比奈 両名はその場で殺され ハルヒはどこぞに連れて行かれた そして俺と力を封印された長門は 不滅のゾンビ女・朝倉涼子の手により 囚われの身となってしまった 長門が別の場所に連れて行かれる 長門と目が合った あんな怯えた目の長門は始めてみた キョン「・・・・・なんで俺達を殺さない」 元1年5組の委員長に聞いてみる 朝倉「だってずっと消えてたんだもん♪ 私も少しは遊びたいわ・・・・・」 この時俺は もう長門と会えないんだろな と悟った・・・・・ 長門は床のの上に転がされていた 長門が動くような気配は無い、気絶しているのだろう その姿はあまりに無残であった 朝倉から”遊び”という拷問を受けたからである 長門の全身はいたるところ傷だらけで血がにじみ、皮膚は赤く腫れ上がっていた 鞭で打たれ衣服はぼろぼろになっていた コツ、コツ、コツ、 足音が近づいてくる この足音は朝倉だ また”遊び”をはじめようというのだろうか 長門の捕らえられている部屋に電灯は無い 扉についている鉄格子の隙間からもれる光が唯一の光だ 鉄格子からもれる光に人影が映る、朝倉が扉の前に立っているのだろう ガチャリとカギが開く音が聞こえ、扉が開く 朝倉「おはよう!! 長門さん、ご機嫌いかが?」 扉が開き廊下の電灯の光が暗い牢屋に入った 牢の中はすこし明るくなり、長門の姿が見えるようになる 長門を拘束するものは何も無かった 手錠も、足かせも何も身につけていない 衣服すら纏っていない もはや彼女を拘束する必要は無いのだ 手も足も思うように動かせないのだから 両足の腱は切断されていた 両手の指はありえない方向に曲がっている 全身の傷は紫色に変色していた 長門「・・・・・・・・・彼はどこ?」 まだ潰されていない まだ腐っていない 綺麗な目で睨む 朝倉「まだキョン君のこと考えてるの?」 朝倉はやれやれと手でジェスチャーして 朝倉「しょうがないわね、また遊んであげるわ」 長門は牢屋から引っ張り出され、”遊び”を受ける 長門の入れられている牢獄には何も無い 床に排泄物用の穴があいているだけで、それ以外は突起物すらない 今の長門は自分で体を動かすことすら難しい それゆえに排泄があっても垂れ流しであり、長門の全身は傷と汚物にまみれている 長門の汚れは基本的にはそのままだ 長門の汚れは”遊び”の時にだけおとされる それは長門が犯されるときだけであった 大きさ2m程の二足歩行をする犬達それが長門の遊び相手だ 朝倉「人間が相手じゃつまらないでしょ?わざわざ作ったのよw」 笑いながら言っていたのを思い出した 犬達が長門を犯すときはまず牢獄から水のあるところに連れて行き ホースで長門に水を浴びせかけ、デッキブラシで長門の汚れを落とす 針の先のようなデッキブラシは、傷だらけの長門の全身に苦痛を与える 長門はその苦痛で顔をゆがめるが、犬達は容赦なく長門の全身をデッキブラシで洗っていく そして一通り長門の全身の汚れが落ちたら、犬達は長門を陵辱するである はじめは抵抗もした、しかし犬達に押さえつけられすぐに動けなくされた そして抵抗すればすれほど、犬達はさらに非道な行為を長門に加えるのである それを理解してから長門は抵抗しなくなった 陵辱が終われば再び汚れを落とされ牢に戻される いつのころからだろうか長門に生理がこなくなった ストレスと栄養不足によるなのか妊娠したためかは今となってはもうわからない ザッ、ザッ、ザッ 誰かの足音が近づいてくる この足音は犬だと長門は感じた 犬が来る場合はほとんどが食事か陵辱だ 食事の方がいい 長門はそんなことを思っていた 扉が開くとそこには犬が立っていた 犬「・・・クエ」 そう言っては右手に持った大き目のお椀をひっくり返す 中身が床に落ち、つぶれた泥団子のようなものが床にできあがる これが長門の食事であった 床に落ちたものはもう食べ物というようなものではなくもはや汚物であった 長門は芋虫のように這いながら食べ物のところまで行き、それを食べる ぴちゃ・・ぴちゃ・・ 長門は舌を出してそれを口の中にわずかづつ入れる 皮肉ながらほとんどの歯を抜かれてしまった長門にとって この汚物のような食事しか食べることができなかった 硬いものなどもう摂取することはできなくなっていた どれだけ時間がたっただろう・・・・ 朝倉「ねぇw すこしは身だしなみに気を使ったらどうw?」 ひさしぶりに長門と遊ぼうとした朝倉であったが、朝倉はは長門の姿を見て大笑いした そして朝倉は犬達に命じ長門を牢から連れ出す 犬達に抱えられ、長門はいつもとは違う部屋に連れて行かれた そこは20畳ほどの広さの部屋、部屋の中には何も無い いや、ひとつだけ壁に大きな鏡がかかっていた 朝倉「今の自分の姿を見てみなさいw」 鏡には長門らしいものが映っていた 髪の毛はほとんど抜け落ちていた 左眼は潰れて 腐り落ちている 骨と皮でガリガリになりアバラがうきでている 全身はドス黒く変色し、どこに傷があるのかさえわからない 長門「う・・ぁ・・・あ・・」 長門は泣いた、しかしもう涙はもうでてこなかった このころになると犬達はもう長門を陵辱するどころか触れることさえ嫌がっていた 長門は床にはいつくばり食事をした 汚物のような物を何とか食べ終えると長門はそのまま眠りに落ちた 朝倉「・・・・・ん!・・さん!長門さん!」 それは朝倉の声であった わずかに右目を開き、長門は朝倉を確認する 朝倉「長門さん、まだキョン君の事が気になるの・・・?」 長門はかすれた声で答えた 長門「・・・彼・・・を・・・・解放・・・・・し・て・・」 朝倉「長門さん、そこまでキョン君のことを・・・」 長門「・お・・ねがい・・」 朝倉「・・・わかったわ」 長門「・・・・・・・・・・あ・・」 朝倉「もうこんなことやめる!あなたの思いはわかったわ!」 長門「あ・・・あ・・」 朝倉「キョン君も全部なくなっちゃったしねww」 長門「あ・・う・・ぇ?」 朝倉「もうキョン君はないの」 残念そうな顔をする元委員長 朝倉「あんなにいっぱいあったのに・・」 長門「ど・・う・・い・・う・・」 朝倉「あれ、気がつかなかったのw?あなたいつもキョン君を食べてたじゃないw、残さずに」 長門「・・・・!!!!」 朝倉「キョン君はおいしかった?」 朝倉のその言葉を聞いたとたん、長門は痙攣し始めた 長門の口から何かが吐き出される それは先ほど食べた”食事”であった 朝倉「あらあら、残しちゃだめでしょう!どこの部分かわからないけど”キョン君”なんだから!」 朝倉はそういうと靴の先で”キョン君”をつつき長門の口のそばまで持っていった 朝倉「ほら、いつもみたいにw♪ 残さず食べてw♪」 長門「ぇあ・・う・ぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 絶望 まさにそうとしか呼べない顔をした物がそこにはあった もう彼女は何も感じない そして何も考えない 長門の心は崩壊した 圧迫。 皮膚感覚につよい圧迫を感知した。 覚醒する。 視野は暗いまま。 私は睡眠から覚醒した。 場所は、私のマンションの一室。 抱きついているのは私の一番大切な人。嗅覚で判る。 その人が、激しく動揺しながら私に抱きついている。 長門「どうしたの」 尋ねる。 彼は普段は至って平静で、このような行為をすることはない。 キョン「長門……な、長門……」 動揺と安堵の混じった声がする。 長門「落ち着いて」 キョン「スマン。悪い夢を見てた」 長門「どのような夢」 夢には人間の精神構造が反映されるという。 ならば彼の夢を聞くことで彼の精神構造の一端を知る事が出来るだろう。 それは私にとってとても大切な事だ。 キョン「俺が、殺されて、お前も何かに捕まってて、俺が食事にされちまってお前がそれを知らずに食っちまう夢だ」 長門「その夢で私はどうしたの」 キョン「わからん。まるでおかしくなったみたいに、発狂したみたいに叫んでた。イヤだった」 長門「そう」 キョン「俺が死ぬより、お前が叫ぶ事のほうがイヤだった。 ゆ、夢で、悪夢でよかった。よかった……長門……」 彼は寝汗をびっしょりとかきながら、私を腕の中に固く抱きしめている。 いつもの事だが、彼の肉体は皮膚接触するだけで私の肉体に多幸感を発生させる。 このような歓喜を与えてくれる彼に対し、私は可能な限り幸福を与えたいという欲求に駆られる。 キョン「そ、その……スマン。なんか、怖い夢見たってだけでお前を起こしちまって……ま、まるでガキみたいで……アホだな俺」 今度は彼は羞恥と自省に凝り固まっている。 経験上、こういう状況の彼を普段の彼に復帰させるには一つの最適解がある。 私は彼の顔を両頬に手を当てて固定する。 そしてゆっくりと顔を近づけていく。 瞼を閉じる。 彼がこうするときはそうするものだと言ったから。 唇に柔らかい感触。彼の唇。彼の匂い。彼の鼓動。彼の唾液。彼の昂ぶり。 胸の中に去来する限りない幸福感。 彼の唇から感じる、耐えられないほどの快美感。 上手く言語化できない私の想念を、可能な限り彼に伝える。 長門「……大好き」 朝倉「・・・・・ん!・・さん!長門さん!」 長門「う、ぁ・・・!!??」 朝倉「駄目よ、気絶なんてしちゃw♪」 長門「そん・・な・・・・・・・」 そう、夢だったのだ。うたかたの夢。 ひょっとしたらそれは≪かみさま≫の最後の慈悲だったのかもしれない。 朝倉「さ、た、べ、てw♪」 もう、長門には朝倉に抵抗する力も心もなかった。 長門「ふ、うぐぅぅぅぅ・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・」 そして今度こそ長門は目を覚ますことはなかった。 <<完>>
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1272.html
最近毎日同じ夢を見続けている、終わらない悪夢を。 そこはとても暗いところ。そこにわたしは一人で立っている。 その夢は私を酷く攻める。そこでわたしを攻める声が私に突き刺さる。 「ねぇ何であなたは存在し続けているの?」 「どうして?」 「私は消されたのに、何故?」 「黙ってないでさ、答えてよ!」 そう、この声の主は朝倉涼子、四方八方から彼女の声が聞こえる。 わたしは彼女からこのような事を言われても仕方がない事をした。 だから彼女から何を言われても言い返せない。 「なんであなただけ特別なの?」 「あなたはあれだけの事をしたのに、何故?」 「何であなただけが………ずるいずるいずるいずるいずるい!!私だってまだ生きていたかったのに。」 「あなたは卑怯よ!!」 わたしは耐えられなくなり両手で耳を塞いだ、しかしその声は頭の中に直接響いてくる。 その呪う様な、妬む様な悲痛な叫び声がわたしの心を抉る。分かっているわたしは卑怯者だ。 (お願いもうやめて)心の中で呟く。 「どうしてどうしてどうしてどうして!?」 「ねぇ! 何とか言いなさいよ!!!」 目が覚めた、そしてわたしは布団にうずくまり呟いた。 「もう……許して…」 その夢を見始めたのはわたしが2年生になって数週間後だった。 最初その夢を見たときわたしは驚いた、何故なら朝倉涼子という存在はこの世に居ないからだ。 彼女が彼を襲った事件の後、情報統合思念体の主流派は急進派に対して、 朝倉涼子の情報を全て消去するように命じた…… だから、ありえない事だった。 「どうしたの長門さん? そのありえない物でも見るかのような顔は」 分からなかった、彼女はもうこの世に居ないはず、 彼女を構成する情報は全て消滅したはずなのに何故? 「私がここに居るのが不思議? クスッそんなのどうでもいい事じゃない。 そんな事よりさ、ねぇ長門さん、どうしてあなたはまだ存在しているの?」 ??私は質問の意図が分からなかった。 「分からない? 私が言っているのはね、何故あなたが情報連結を解除されるでもなく、 全てのデータを初期化するでもなく、エラーデータを残したままのあなたが、 有機生命体として存在しているのかってことよ!」 ようやく質問の意図が分かった、しかし何故彼女がわたしが世界改変した事を知っているのか、 それについては分からなかったが私は答えた。 「私が急に居なくなると涼宮ハルヒが騒ぎ出す、それに……彼が許してくれた。だから私はここにいる」 「それだけ?そんなことで?涼宮ハルヒが騒ぐ?彼が許してくれたから?笑わせないで!」 そう言うと彼女は俯き体を震わせていた。そして怒りをあらわにして言った。 「確かに私は重要な存在である彼を襲ったわ! でも結果的には彼は死ななかったし、 怪我すらしていないわ。それに私が彼を襲ったのはあなたの為にした事だった。 あなたの話を信じようとしない彼に現実を見せる為に行ったこと。 私が彼を殺そうと思えば一瞬で終わっていた、そんなことはあなただって分かっていたでしょ? それなのにあなたは私が全てを消されるとき何て言ったか覚えてる?」 わたしは記憶を検索し言った。 「自業…自得…」 「そう『自業自得』あなたはそう言ったのよ! それならば何故あなたは存在しているのよ! 自分でやった行いの報いを自分が受けるならば、あなたはもう存在してないはずでしょ!?」 彼女の言葉が心に突き刺さる。あの時のわたしは心や感情といったものをあまり理解していなかった。 だからあの時の彼女の行動が理解できなかった、彼女が何故手加減していたのかを。 それでも、彼を襲うことはいけないことだった、だから言った『自業自得』と。 でも、今なら分かる彼女のとった行動の意味を……わたしは彼女に感謝しなければならなかったのだ。 事実あの事件の後、彼は現実を受け入れ、そしてわたしを、命の恩人であるわたしを一番信頼してくれる。 ああ、わたしは彼女になんて酷いことを言ったのだろう。悔やんでも悔やみきれない。 色々考えていると、彼女が追い討ちをかける様に言った。 「あなたのした事は決して許せる事ではないわ、世界改変をし大勢の人の記憶をいじくり、 あまつさえ情報統合思念体の存在を消した。私はあなたの為にと思ってやったことで 全てを消されたのに……なのに、何故あなたはエラーデータを蓄積したまま自由に生きているの? 情報統合思念体の意思を無視して、自分で決めて、選んだ道を!! 独断専行は……勝手な行動は許されないんじゃなかったの!?あなたは卑怯よ!!」 わたしは俯いた、反論できなかった。そのとおりだったからだ。事実そのように行動している。 2年生になったとき情報を操作し鍵である彼と同じクラスになるようにしたことも、 席替えで、隣の席になるようにしたることも、彼に必要以上に接触し会話をしているのも、 これらは情報統合思念体の意思を無視した行動。彼女に勝手な行動はとるなと言いながら、 わたしは自分勝手な行動をしている。 そして『卑怯』……その言葉がわたしの心を抉った 世界改変の事件が終わった時、わたしは処分される筈だった、しかし彼がそれを許さなかった。 彼は言った、わたしが消えることになったら、涼宮ハルヒを焚き付け もう一度存在を消すぞと、それはわたしが想像したとおりの言葉だった。 わたしはその言葉を情報統合思念体に伝え処分を免れた。 わたしは自身が処分されることが嫌だった、SOS団という心地よい場所から離れたくなかった。 わたしは処分されたくないがため、彼と涼宮ハルヒを利用した。 わたしは彼女にあんなことを言っておきながら、彼女のように潔く消えることが出来なかった。 ………わたしは卑怯者だ。 「ねぇ黙ってないで何とか言ったらどうなの?」 彼女の声がする、わたしは何て言ったらいいか分からない。 「あなただけのうのうと生きているなんて……私はあなたを許さない。 苦しんで苦しんで苦しみぬかせてやる。あなたに安らぐ時なんて与えない。 あなたには終わることの無い悪夢を見てもらうから。」 そこでわたしは目覚めた、そしてすぐに自分自身をスキャンした、 が、何も検出されなかった。ほっと息をついた。が頭の中で声がした、 彼女の声が。 「あら長門さん、何を安心しているのかしら?言ったでしょ? 『安らぐ時なんて与えない』って」 わたしは訳が分からなかった。わたしの身体は何の異常も見られなかったからだ。 だが、彼女の…朝倉涼子の声が直接頭の中に響いてきた。 「あなたは今まで楽しい時を過ごしていた、でもこれからは苦しんでもらう。 あなたの精神をいたぶってあげる。」 そう言うと彼女は笑い出した、そしてこれがわたしの悪夢の始まりだった。 「あなただけのうのうと生きているなんて……私はあなたを許さない。 苦しんで苦しんで苦しみぬかせてやる。あなたに安らぐ時なんて与えない。 あなたには終わることの無い悪夢を見てもらうから。」 そのときから彼女の声が四六時中するようになった。 時たま飽きたのかどうか判らないが彼女の声が止むときがあるが、それはすぐに終わるつかの間の平穏。 だがそれは平静を保つので精一杯なわたしにとっての唯一の安らぎ。 彼女の声は登校しているときや授業中、部活中にもしてくる。 勿論、情報統合思念体にもわたしの身体を診てもらったが、何の異常もないとのことだった。 わたしは恐怖というものを初めて感じた。わたしはすぐにでも消えたかった。 この耐え難い精神的苦痛から逃げ出したかった。でも、それは無理なことだ。 彼と涼宮ハルヒを利用して処分を免れたのだ。 彼が『お前がいなくなったらハルヒを焚き付けもう一度存在を消してやる』と言っていたのを 伝えてしまってあるので、わたしは消えることを許されない。 そんなことを考えていたら、もう学校へと行く時間になっていた。 わたしは正直行きたくなかった。この部屋に引き篭もっていたかった。 だが、そんなことをすると涼宮ハルヒが騒ぐし、何より彼に心配を掛けたくなかった。 「さあ長門さん今日もいっぱいいっぱい楽しみましょうね」 彼女の…声がする。いったいいつになったら許してくれるのか。 でもわたしにも誰にもどうすることも出来ない。この声はわたしにしか聞こえないのだから。 わたしは頭の中の声を振り払い、学校に行った。 教室へ入り、彼の隣の席に着いた。 「お、珍しいな長門が俺より遅れてくるなんて、大丈夫か? 身体の調子が悪いのか?だったら無理はするなよ」 「別に何でもない、ただ少し寝坊しただけ。心配する必要はない」 「そうかい、でも最近のお前は何か変だぞ?何か悩みでもあるのか?」 彼はわたしの様子がおかしいことに気づいている。 わたしは彼に心配を掛けまいと嘘をついた。それに彼に話したところで彼には…… 「あら長門さん、酷いんじゃない?せっかく彼が心配してくれるのに。 まあはっきり言って彼にはどうすることも出来ないけどね。」 わたしは彼女の声を無視していた。 そして授業が始まった。授業に集中して、彼女の声から意識を遠ざけて何とか我慢が出来た。 でも昼休みになりわたしはとうとう耐えられなくなった。 それは文芸部の部室で昼飯を食べているときだった。そこには彼も居た。 「あ~あ、羨ましいな、私は物を食べたり、おいしいと感じたりすることも出来ない。 でもあなたは食べておいしいと感じることが出来る。ほんとうに羨ましい」 途端にわたしの手が止まる。 「ん?どうした長門、何か変なものでも入っていたか?」 「どうしたの?箸が止まっているわよ?彼が心配しているわ。 さあ早くその箸を口の中に持っていきなさいな。そしておいしいと感じなさいよ」 (ヤメテ、お願い、これ以上わたしを苦しませないで。 ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ……) 「おい、本当に大丈「ヤメテ!!!!!」 「な、長門?」 「あ、………」 「酷いわね~長門さんせっかく彼が心配してくれるのにその言い方はないんじゃない? 朝から彼があなたのことを心配しているのに。あなたって本当に人の気持ちを踏み躙るのが好きね」 (チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ……) 「やっぱお前変だz「黙って!もうわたしに話しかけないで!」 「あ…ち、違っ…あなたに言ったわけじゃ……」 「あら、何が違うって言うの?ここにはあなたと彼しか居ないじゃない。 彼はそうは思わないんじゃないかな?どうするの?このままじゃ彼に嫌われるわよ?」 わたしは逃げた、とにかく一人になりたかった。 わたしは急いで部室を出て、学校を出て自分の家へと行き部屋に入ると鍵を掛け 布団の中で両耳を塞ぎうずくまった。 「お願い、もう止めて!わたしが…悪かった……」 「これぐらいのことで根をあげないでよね。あなたに分かる? 自分の全てが消えていくのが、自分という存在が消えていくのを見る気持ちが! 私だってまだやりたいことはたくさんあった。 退屈な三年間の待機期間を終えて、やっと学校へ行けるようになって、 友達と、なんてこともないくだらない話をしたり、一緒に食事をしたり 買い物に行ったりするのが楽しかった。 正直言って、涼宮ハルヒのことなんてどうでもよかった。」 彼女の叫び声は悲痛なものだった。 「私が消えるとき、あなたは擁護の一つもしてくれなかった、 『彼女の行為はわたしのためにしたことだ』と そう言ってくれたら私は消えずにすんだかもしれないのに! もしそれでも…消えることになっても、私は満ち足りた心で消えることが出来た! なのに…なのに…あなたはっ…あなたはっ!!……」 「もう許してわたしが悪かったから謝るから、たくさん…たくさん謝るから 御免なさい御免なさいご免なさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ ゴメンナサイゴメンナサイ………」 わたしはその言葉だけを呟き続けた。何日も何日も、ただその言葉だけを。 時折呼び鈴や扉をたたく音をしたが全て無視した。 いつまでそうしていたのか、気付いたときには彼女の声がしなくなっていた。 許してくれたのだろうか、とりあえず洗面所にいった、わたしは鏡を見て驚いた。 頬はこけ、目の下には大きな隈ができ、ガリガリに痩せていた。 髪の毛は大量に抜け落ちていた。まるで別人だった。 「あ、ああ……」 「長門さん気が付いた?あなたずっとあんな状態だったから暇で暇でしょうがなかったわ」 「…な、なんで?消えたはずじゃ……」 「何言っているの?私が消えるわけないじゃないの。それにしても長門さんよかったね」 「え?何を…言って……」 「何って?あなた情報統合思念体からのリンクが切れて晴れて人間に成ったじゃない。 あの改変世界の様にあなた唯の人間に成れたのよ。喜びなさいよ」 気が付いた。わたしは情報統合思念体とのリンクが切れていて情報操作能力が一切使えなくなっていた。 何日も部屋に篭っていたため、わたしは見捨てられたのだ。 「あっそうそう涼宮さん達ね、あなたのことはもう諦めたみたいよ。 あなたが部屋に篭っている間にあなたは転校したことになったみたい。 今では別のインターフェースが任務に就いて皆と楽しくやっている。 あなたの従姉妹っていう設定だから涼宮さん喜んでSOS団に入れたわ。 キョン君は最初渋っていたけど理由を聞いて何とか納得して、今はかつてのあなた程信用しているわ」 彼女の声がわたしを更に追い詰める。 「……う、うそ……」 「嘘じゃないわ。でも良かったじゃない、あなた人間に成りたがっていたもの、世界を改変するほどにね。 これからあなたは自由よ。涼宮ハルヒの観察なんてしないで自由に生きられるの。 ほら、もっと喜びなさいよ。アハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハ……」 彼女の笑い声が聞こえる中わたしは絶望した。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4597.html
俺が部室に入ると、そこは異様な光景を呈していた。 「――デュクシ! デュクシ!」 「ひぇっ! 長門さん辞めて下さい」 あの長門が効果音つきで朝比奈を殴打している。 あまりの事態に思考回路が強制終了した俺はドアの前に立ち尽くした。 「キョ、キョン君。助けて下さい」 「へ? あっ。はい」 その言葉で我に返った俺は、朝比奈さんを襲う悪漢をはがい絞めに捕らえた。 「アババババ!」 俺の腕に捕らえられて尚、長門は両手をわきわきと動かして反抗する。 「おい、長門。どうしたんだ?」 不思議そうな表情を浮かべて、首を九十度に傾けた長門は動きを停めた。 「あでゅー?」 俺は絶句する以外にこの感情を表す術を知らない。 いったい、どうしたんだ。 「分かりません。私が部室に入ったら、長門さんがいきなり襲ってきて……」 とうとう、涙目だった朝比奈さんが泣き出してしまった。 まあ。俺だってこんな宇宙人に殴られたら腰を抜かすだろう。 「あいー」 ふと俺が腕から力を抜いた隙に、長門はその束縛から逃れてしまった。 「あっ。こら」 と、追いかけると長門は脱兎の如くすり抜け、部室の一面に堆く聳える本棚に駈け登った。 「頼むから降りてくれ」 「あうあうあー」 俺の言葉に一切耳を貸さず、長門はチンパンジーよろしく本棚を揺すり始める。 バサバサと降ってくる殺人的な大きさを誇る書物に二の足をふまされていると、落下した本の中に一枚のルーズリーフが挟まれているのに気付いた。 頭を庇いながら書物の雨の中から、そのルーズリーフを抜き取る。 そこには『重大なエラーを発見。本日四時より学習回路の改修を行なう為、一部機能を停止する』と、パソコンで出力したような明朝体の文字が踊っていた。 電気工事みたいに書いてるんじゃねえよ。 グシャグシャに丸めて投げ捨てようとしたとき、その下にも文章があることに気付く。 『尚、不良動作が認められた場合、あなたの判断で停止を願う。部室内の電子計算機に入力済み』 俺は読み終えると、既に立ち上げてあったパソコンを覗き込んだ。そこにはBIOSメニューのような画面が表示されており、Please Enterという文字が点滅している。 迷わずエンターキーを押すと膨大な文字が一瞬で流れていき、本棚の上で雄叫びを上げていた長門がぴたりと停止した。 危うく落下しかけた長門をゆっくりと下ろしてから、俺は深々と溜め息をついた。 「大丈夫ですか? 長門さん」 「ええ。まあ、ちょっと電源が落ちてるみたいです」 「……そうなんですか。あっ、お茶淹れますね」 変なところでしっかりした朝比奈さんだな。しかし、いつ長門が復活するかも知れんし、その時長門が今みたいに暴れだしたらことだ。 「いえ、俺は長門を家まで送りますから、朝比奈さんはハルヒに俺と長門は帰ったと伝えておいて下さい」 「ふぇ? 分かりましたぁ」 そうなればこの場に長くとどまるのは、いつまでも時限爆弾の上に腰掛けているが如く不味い。 俺はさっさと長門をおんぶすると、外を伺う。幸運にも人影はなく、こっそりと部室を跡にすることに成功した。 「―――うあ?」 長門が自分の部屋で目覚めたのはあれから一時間程経っていた。 俺は出来るだけ人目を避け、惚けかけた管理人に長門の部屋を開けてもらったのだが、もう精魂尽き果てた。 「何とか改修は終ったのか?」 「あでゅー?」 そう言って首を九十度捻る仕草はやはり、いつもの長門ではない。 ってことは、まだ終ってないのか。いつになったら普段の長門に戻るんだよ。 暗澹たる気分で見つめていると、長門は思い切りよく伸びをして大きな欠伸をかいた。 呑気なもんだな。まあ、ここなら多少暴れたところで迷惑にはならないか。 そんなことを考えたのが不味かったのか、長門はむくりと起き上がって本棚に駆け寄った。 「おい、本棚を揺らすなよ」 それが通じたかどうかは怪しいが長門は本棚によじ登ることなく一冊の本を抜き取ると、俺の元へと戻ってきた。 「あいー」 手渡された薄い本には人魚姫と銘打たれている。 長門はこんなのも読むのか、と驚き半分興味半分でぺらぺらと捲っていると長門は当然の如く胡座を組む足の上に座った。 「読んで欲しいのか?」 「あいー」 冗談で聞いたのだが、どうやらほんとうに御所望らしい。 仕方なく、ひらがなばかりの文字を音読する。 むかしむかし。あるところに、かわいらしい人魚のお姫さまがいました。 ……そうして、人魚のお姫さまは王子さまをナイフで刺すことが出来ずに泡となって消えてしまいましたとさ。 読み終えて絵本を閉じようとしたとき、ポタポタと水滴が落ちて泡となった人魚姫を濡らした。 「ひっ……うっ……」 見れば長門が声をおし殺して泣いている。その頭を優しく撫でていると、 「うあー」 と、完全に泣き出してしまった。 振り向いた長門は涙やら鼻水やらに塗れた顔を俺のシャツに押しつけてわんわんとぐずる。 一時間もそうしていただろうか。ひとしきり泣き切ったあとで、ふと長門が立上った。 「改修完了」 震える声がそう告げる。たしかに真っ赤な目と、ぐちゃぐちゃになった顔にはいつもの無表情が戻っていた。 「終わったのか」 僅かに首が縦に振られる。 「なあ、原因は何だったんだ?」 「この本」 そう言って長門は俺がさっきまで読まされていた絵本を指差した。泡となった人魚姫の挿絵が半渇きで歪んでいる。 「どういうことだ?」 「この本を読んだ際、私にエラーが生じた。思考が一切停止し、眼球分泌液が異常分泌された」 「自分と重ねたのか?」 長門は答えず、愛しげに本を畳んでからそれを本棚にしまおうと俺に背を向けた。 お前を泡になんかさせないからな。 数ミリ動かされた長門の顔から涙の残滓が落ちてフローリングを跳ねた。 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1152.html
長門「・・・・・・」 女子A「へぇ~アンタでも微笑むことってあるんだ。何眺めてんの?ちょっと貸しなさいよ!」 長門「!!」 女子B「何ソレェ?入部届ェ??」 長門「やめて・・・・!」 女子A「もう書き込んであるじゃない。物好きな奴もいるもンねぇ~」 女子B「こんな根暗しかいない部活に入りたいヤツがいるなんてネェ」 長門「お願い・・・・返して・・・・!」 女子A「キモッ!あんた何必死になってんのぉ?」 女子B「いいじゃない、どうせこれ冷やかしでしょ?ちょうどいいわ。これ私達が捨てといてあげるわwww」 長門「!!・・・・やめて!お願いだから返して!!」 女子A「アァッ?触るんじゃねえよ!この根暗女!」ドゴッ 長門「っつ!!・・・うぅっ・・・!」 女子A「あ~キモイキモイ。根暗がうつるってーの。あ~っなんか冷めたっ!根暗がうつる前に行こっ!」 勇気を出して彼に渡した入部届。 あの入部届は「どうせ暇だし入ってもいい」と彼が書いてきてくれたものだった。 当然だが入部届は本人の直筆でないと学校側に提出できない。 長門「(・・・・・もう一度書いてくれるだろうか)」 そう思い長門は放課後、文芸部で一人彼を待っていた ガラガラッ 長門「・・・あ・・・・・」 キョン「よぉ、長門」 長門「・・・・・・(今日もきてくれた)」 まず謝ろうと思った。 せっかく書いてくれた入部届をむざむざと奪われたのだから。 でも彼には無くしたと言っておこう。彼にだけはイジメを受けてることは知られたくなかった。 長門「・・・・あの・・・・・」 キョン「長門」 何故だろうか・・・・嫌な予感がした。 キョン「笑えないな。」 そう言うと彼が紙くずを机に広げた。いや紙くずではない ・・・・それは破り捨てられた入部届だった。 キョン「驚いたよ。体育から帰ってきたら。こいつが机の上にぶちまけてあるんだもんな。」 キョン「クラス中の奴等に馬鹿にされたよ。お前の方はおもしろかったんだろうな。」 キョン「これで満足か?自分から渡しといて・・・破り捨てるとはね。。」 ――違う。私ではない。 キョン「俺から届を受け取ったのはお前だろ。他に誰がいるってんだ。」 ――それは・・・・ 言えなかった。 ゴミを投げられてもいい。靴を燃やされたっていい。一方的に殴られたってかまわない。 けれど彼にそのことを知られるのは嫌だった。 キョン「お前は冗談なんだろうがな・・・・・」 ――違う キョン「俺は結構マジだったんだけどな。文芸部。」 ――違うの キョン「・・・誘われたとき・・・・少しでもうかれた自分が忌々しいよ」 ――お願い・・・行かないで・・・・ キョン「じゃあな。もう2度ここにはこねぇよ。」 バタンッ! ・・・何も変わらない。 ただ今までと同じなだけだ。 私はそう自分に言い聞かせ続けた。 何も変わらない。変わっていない。 悲しむことなんて何も無い。 ただ今と同じ日常が続くだけ。 ・・・・・彼が去ったドアの前で私は泣き崩れていた 古泉「全くゥ!僕のキョンたんに色目を使うからこうなるんだヨっ!」