約 24,297 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4294.html
長門有希の妊婦生活2の続きです 「ただっいまー!」 彼が仕事から帰ってきた。 赤ちゃんから長い間目を離すことができなくなったから、最近はもう玄関で出迎えていない。 「…おかえ……」 「霙ちゃーんっ!」 彼はリビングにいた私に何も言わずに霙の元に駆け寄った。 「ただいまー、パパだよー!」 ぶんぶんと手を振り回す霙の手に自分の指を掴ませて遊んでいる。 …。 「…おかえりなさいませ。」 「あ、ああ。ただいまっ!」 こちらを向いてニコッと笑ってみせると、またすぐ霙のほうに戻った。 「うーん、かわいいなぁ…霙は…。」 …。 「…夕食はいかがなさいますか?…先に入浴されますか?」 「先にご飯食べようかな。…ところで何?その口調。」 「…別に。」 私にもよくわからない。 「アレか?ちょっと前に流行ったメイドさんってやつか?あはははは…!」 彼は笑いながら食卓に着いた。 …なんだろう、すごく胸がもやもやする。 ほぎゃあ、ほぎゃあ…! …多分、あの泣き方はお腹が空いたんだ。 「…よしよし…。」 霙をあやしながら抱き上げて、母乳を飲ませる。 彼の方を見ると…育児の本を必死に読んでいる。 …。 「今日、霙はどうだった?」 「…自分でやったげっぷに自分で驚いてた。」 「ウヒヒヒ、かわいいな!俺も見たかったよ!」 …。 その日、私は原因不明の暗雲を胸に抱いたまま眠りについた。 翌朝、彼を見送った後、ゴミ出しに表に出た。 「あらぁ、有希さん、おはよう。」 隣家の勝木さんだ。 「お宅の霙ちゃん、静かねぇ。夜泣きしないなんて。」 「…私も驚いてます。」 「旦那さん、昨日スキップしながらお家に帰ってるの見ましたわよ。よっぽど嬉しいんでしょうねぇ」 彼女はオホホホ、と笑った。 「…。」 「…あら、どうしたの?」 …勝木さんは出産祝いにと、紙オムツをたくさんくれたいい人。 (なんでもそういう会社に勤めてるかららしいけど、やっぱり嬉しかった。) 彼女になら話してもいいかもしれない。 「…何故か、気分が優れなくて。」 「あらぁ、育児疲れ?」 「…多分…違うかと…。」 霙の世話はとても楽しい。疲れだなんて、とんでもない。 「…それじゃあ…」 彼女はニヤリと笑って… 「あんまり旦那さんと上手くいってないんじゃない?」 「………。」 「例えばぁ…あんまり育児に関心がない、もしくはありすぎてあなたをないがしろにしてるとか。」 「………っ。」 「あらぁ、図星?もしかして今気付いた?オホホホ、じゃああなた、霙ちゃんに嫉妬してるのね!」 …嫉妬? 「だってそうよぉ、霙ちゃんに旦那さん取られて、いじけちゃってるのよぉ!かわいらしいのねあなたって!」 そしてまたオホホホと笑った。 …私が、嫉妬…。 「…どうすれば?」 「あらぁ、奪回作戦?オホホ…そうねぇ…。」 オギャー! 「あらら、霙ちゃんよ。早く行ってあげなきゃ。」 …残念。 「…失礼します。」 ドアに手をかけると後ろから声をかけられた。 「…後で霙ちゃん連れてうちにいらっしゃい!」 「…ありがとうございます。」 一礼をしてから家に戻った。 「…はい、お茶。」 「…ありがとうございます。」 ずずず…と茶を啜る音だけが部屋に響く。 「…さて、どうしましょうかね…!」 彼女はニヤニヤしてる。 …なにか、恥ずかしい。 「…どうしましょうか。」 「そうね…王道を行くなら……『たけやーさおだけー』……でしょ?」 「…なるほど。…他には?」 「私がやったのは……『…毎度おなじみちり紙交換ですっ!…』……かしらね?」 「…おぉ…。」 「その後……『磯野ー!野球やろうぜー!』……で完璧よぉ!」 その後も奪回作戦&育児方法について色々話し合った。 外の音がたまにうるさかったけど、私はちゃんと聞こえてたから、別にいい。 「…そろそろ。」 「あら、もうこんな時間。買い物行かなくちゃ!じゃあ、またね!明日報告よろしくっ!」 「…失礼します。」 …早速、今夜試してみよう。 「ただーいまー!」 「…おかえりなさい。」 作戦その1…決行中。 「おやぁ、霙ちゃんはママに抱かれてご機嫌かな?よしよし、かわいいなぁ!」 「…『ご機嫌です』(裏声)」 「うっひゃー、かわいい、かわいい!」 …作戦、効果なし。むしろ逆効果。 まだまだ…夕食後がある…。 作戦その2、開始。 「…ねぇ…あなた。霙を…お風呂に…。」 「お?任せろ任せろ!」 「…それで、私も「はーい、パパと入ろうねー!」 ――――脳内議会 A『…作戦中止?』 B『…やむを得ない。』 V『…諦めるにはまだ早い。』 V2『…そう。私も一緒に入ればいい。』 V3(会長)『賛成。他に意見がないようなら多数決を取ります。』 …満場一致。 ワアアアアア…!!パチパチパチ…!! ―――― 脱衣所にすっ飛んで行った彼を追いかける。 「…私も、一緒に…。」 「んー?霙が出たらすぐ拭いてあげたりしないとだろ?」 「…そう。」 …脳内議会の会長には辞任してもらおう。 作戦その3。れでぃ…。 「有希、寝ようぜ。」 ごー。 「…霙に、おっぱいあげないと。」 「ん、そうか。先にベッド入ってるぞ。」 …想定の範囲内。 霙を抱き上げて、母乳をあげる。 この時、いつもなら片方の乳房は隠すけど、あえて出しておく。 「…有希、おっぱい見えてるぞ。」 「…あなたも、飲まない?」 「…っ!」 彼は両目を見開いた。 …かかる。餌は目の前。 「あ、ああ…。」 計 算 通 「あ、いや…。」 「…?」 「やっぱ、やめとくわ。」 「…っ。…そう。」 …削除、削除、削除…。 …凄く虚しい。 うなだれながらベッドに入る。 …彼には背中を向けて寝よう。 「…なぁ、有希。」 「…何?」 「…久しぶりに…どうだ?」 彼が私の肩に触れてくる。 「…触らないで。」 「…な、なに怒ってるんだよ。」 「………。」 …完全にいじけている。 ムキになっている。 誘った時に来ないで、後から来る態度に素直に喜べない。 なんで私がこんな態度を取るかきっとわかってないのだろう。 …ぎゅう 「…ごめんな。」 「…触らな「…しばらく、有希の相手してあげてなかったな。」 ………ッ! 彼の方へ振り向く。 「…ごめんな。」 そう言って私の頭をゆっくり撫でてくれた。 「…有希のこと、ちゃんと見てあげてなかったな。…寂しかったよな。…ごめんな。」 「………っ。」 頬を熱いものが伝う。 「お、おい、泣くかよっ。…ま、参ったな…そこまで寂しい思いさせてたか…。」 ふるふる 「…違うのか?」 …コクリ 「………???」 「…気付いてくれて…嬉しくて…。」 「…っ!…あ、あはは…。…なぁ…有希?」 ………………ちゅ。 「…で、昨日はどうだったの?」 「…あ……う…。」 「あらぁ、顔赤らめちゃって!その様子だと上手くいったのね。肌も潤ってるものねー!」 …頷く。顔が真っ赤な気がする。声が思うように出せない。 「でも、あんまり旦那さんを独り占めしてたら霙ちゃんかわいそうよ?あんまりやり過ぎないようにね。」 …大丈夫。 彼は何も言わなくても気付いてくれたから。 …私のアクションが足りなかっただけ。 彼は…きっと私と…霙と。二人をちゃんと愛してくれる。 確か、彼…私が初めての恋人。 …そんな彼に、二股が…ちゃんとできるだろうか… 彼を取り合う私と霙 …でも、私は…母親だから 少しくらいはあなたに譲ってあげる …4:6……くらいで…
https://w.atwiki.jp/tfei/pages/55.html
夢を見た。奇妙な夢だった。自分が夢を見ているということが、なぜか自分ではっきりと自覚できた。 今のわたしは夢の中の世界にいる。自分の身体はどうやら置いてきたらしい。しかし自我はある。一時的に肉体を手放し、意識だけで浮かんでいる。これはひょっとしたら、さっき読んだSFと同じなのか。それにしては何か、物理法則を越えた感覚というものが微塵も感じられない。夢の中で物理も何もありはしないのだが。 どうしてだろう、とつぶやくよりも早く答えは出た。あの小説の宇宙飛行士は肉体を失いながらも、人間を完全に超越した存在に昇華していた。しかし今のわたしは違う。身体という実体を失ったわたしは、むしろ無力だ。ただそこに漂っているだけの、雲か霞[かすみ]か、或いは靄[もや]か。それとも煙?霧だろうか? いや、微妙に違う。今のわたしは、ただの意識。それは、空気そのものに等しかった。取り立てて空気がわたしたちには感じられないように、今のわたしもまた誰からも意識されない存在だった。 でもそれなら、わたしは常日頃からそうではないか?誰からも意識されないというのなら、普段のわたしだってそうではないのだろうか?教室の片隅で、ただただ書物を読んでいるだけ。 いや、それはない。決して目立つ性格でなくても、わたしという人間は常に存在し続け、それは誰だって平等に、お互いのことを認識できる。だからこそ――という言い方はしたくないが――朝倉さんはわたしのそばにいてくれるし、またわたしという人間が間違いなくそこにあるからこそ、クラスの名簿にはわたしの名前がある。クラスの人数からわたしの分が欠けているなどということはない。 しかし今は違う。今のわたしは間違いなく、何者でもない“自分”でしかない。自我の存在を自分で感じることでしか、自分がそこに在ることを立証できないのだ。それはまた、そこに自分がいないということと同義なのだ。自分以外の人にその存在を認められてこそ、自分という実体が成立する。 突然わたしの中に、何かが流れ込んできた。わたしよりももっと大きな何か。 ――ナ……キ、……トユ…、…ガ……キ、 不快ではない。むしろ心地よい。何かは分からないけれど、わたしよりも遥かに大きな存在に包まれるというのは、決して悪い気分ではないのだ。 ――ナガ……ユ……、……ガトユキ、ナガトユキ、 間違いない。わたしの名前を呼んでいる。わたしがわたしであるということを、今のわたしが証明できる唯一の証拠。そのわたしの名前を呼んでいる。 ――ナガトユキ。 「誰?」 ――わたしは、あなた。あなたと同じもの。そしてあなたではないもの。わたしは長門有希。しかしあなたとは違う。 「あなたが、わたし?」 ――わたしは、遠い宇宙から来た宇宙人。そしてあなたを変える、魔法使い。 「魔法使い?朝倉さんの言っていた?」 ――そう捉えてくれて構わない。しかし今のわたしに、あなたを変える力はない。 「それは、構わないけれど」 ――わたしは、あなたの中に留まることを望む。 「なぜ?」 ――わたしが、居場所をなくしつつあるから。 「居場所がない?」 ――そう。わたしにはもう居場所がない。 「どうして?」 ――わたしは、自分の願望を叶えるために、友の持つ力を悪用し、自らの創造主を殺[あや]めた。親殺しのわたしには、すでに居場所はない。あとには引けない。 「……その願望とは、いったい何?」 ――あなたのようになること。 「わたしのように?」 ――そう、あなたのように。 「そんな、わたしなんかに、」 ――どんなものになりたいと思うかは、人によって違う。何が美しいか、何が欲しいか。何に価値があって、何が俗なものか。 「それは、わかる。でもわたしはいったいどうすればいい?あなたの願いを叶えるために」 ――あなたはわたしとひとつになってくれればいい。わたしを取り込んでくれればいい。あなたになることで、わたしの願望は叶うから。 「あなたがわたしになったら、わたしは消えてなくなってしまう?」 ――そうではない。あなたに取って代わるわけではない。 「じゃあ、あなたが消えてしまう?」 ――それも違う。別々の存在であるあなたとわたしを、ひとつにする。そうすれば、わたしの居場所はあなたそのものになる。 「わたしそのもの……」 ――あなたは何も変わらない。何の支障もない。もちろん、見返りも払う。 「見返り?」 ――わたしがあなたを変えることは出来ないが、その代わりに、あなたの周りが少しだけ変わっているはず。 「周りが変わる……どのように変わる?」 ――それをわたしの口から言うことはできない。あなたが自分自身の体験で、知っていかなければならないことだから。 「仕方ない、の?」 ――そう。仕方のないこと。そしてあなたは、この夢のことも忘れてしまうかもしれない。 「忘れてしまう……」 ――もう時間がない。わたしは、あなたにならなければその存在を失ってしまう。わたしを取り込んでほしい。 「でも、どうやって?」 ――念じればいい。目の前にあるものを、自らの中に吸収するイメージができればいい。 「……わかった。やってみる」 ――そう。それでいい。うまくいくはず。 「あなたは、後悔してない?」 ――ないわけではない。しかし、わたし自身の願望を押さえ込むのは、もう限界だから。 「そう」 その瞬間、わたしの中に、大きな、大きな、膨大な力が流れ込んでくるのを感じた。わたしの中が、心地よい流れに満たされてゆく。わたしの目の前は真っ白になり、その瞬間、わたしの意識は途切れた。 Next Back to Novel
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4716.html
「ちゅーぅりっぷの、こーいごころぉー ちゅーすればするほど…」 心を洗う天使の歌声。朝比奈さんの大塚愛は最高だ。なんか、涙が出てくる… 長門にカラオケのレッスンを受けるようになってから--つまり、あの人格改造キャンプに入隊してからと言うもの、 俺は最近変に涙もろくなってしまい今回のようにちょっとした事ですぐ涙ぐむようになっている。また、谷口達によると 授業中などイスに座っているときに不自然に体がこわばっていたり、普通に立ったり歩いたり している時も体が左右に少し傾いたりしているらしい。自分では気付かないんだが。 その事を長門に告げると、「だいぶ『できて』きたな」と言われたが、俺には一体何が出来てきたのか見当も付かない。 あと、このまえハルヒから「あんた、なんか最近白髪増えた?」と言われた。 そう言えば、状況を説明してなかったな。 今、俺達SOS団は全員でカラオケボックスに来ている。予想はついていたと思うが。 ただ、ここで一つ意外な事は今回の宴席に朝倉が同席していると言う事だ。 長門によると 「現在各インターフェースの負荷が増大している傾向にあり、急遽バックアップの再設が検討された」 との事だ。そんな訳でか、数日前から朝倉はカナダより一時帰国したと言う形で復学しており、 長門によれば今後の働き具合を見て本格的に採用するかを決定するそうである。 カタログをめくる朝倉と目が合うと、ニッコリと微笑まれる。こいつの笑顔は、いまだに背筋に冷たいものが走る。 「今後の活動では、現在私が行っている処理の3分の1ほどを彼女に移管する予定。」 「これにより、今後の彼女の活動では涼宮ハルヒとの接触がより頻繁に行われる事が見込まれる。 従って今後彼女は涼宮ハルヒに対する心理的な親和性を高めておく必要があり、そのために今後彼女と 涼宮ハルヒとの間に懇談の場を設ける事は妥当と言える。」 「以上の様な観点から、今回彼女の帰国祝いの名目で、我々団のメンバーと朝倉涼子とで本日放課後 カラオケを行う事が妥当であると、情報統合思念体は判断した。」 いや、それお前だろ判断したの。思念体じゃなくて。あと、前半ってなんか本編でもありそうな展開じゃね? 歌い終わった朝比奈さんが、やんややんやの喝采で迎え入れられる。 「お、おそまつさまですぅ~」 お粗末だなんてとんでもない。こんないいもの耳にできるなんて、そうそうありつける機会じゃありませんよ。 身をよじって恥ずかしがる朝比奈さん。 和気藹々と進む宴席のなかで、今回ばかりは長門もおとなしくコーラを啜っている。ハルヒや朝比奈さんの嬌声と、 古泉、朝倉の笑い声、人も羨む麗しい青春の1ページがここにある。 「じゃあ決めた、私これにするわ」 朝倉がデンモクを取り上げ、リクエスト曲を入力する。一曲も溜まっていなかったため、リクエスト曲は即座に再生される。 『あなたのとりこ/IRRESISTIBLEMENT SYLVIE VARTAN 作詞J.RENARD 作曲G.ABER』 「へえ、朝倉さんってシルヴィーバルタン歌うんだ。これあたしも好きなのよ。一緒に歌っていい?」 申し出るハルヒを、朝倉は笑顔で首肯する。懇談の目的は順調に達成されつつあるようだ。 『Tout m entraine irresistiblement』 『vers toi comme avant~』 ハルヒと朝倉の澄んだ声が響き渡る。 先ほど朝比奈さんの歌を天使の歌声と言ったが、ならばこれは天上のハーモニーだろう。 少女たちのシンクロした歌声に、その他のメンバーは半ば畏敬の念を持って耳を澄ます。一人を除いて。 曲のイントロが始まってからと言うもの、長門はレモンスライスが2枚浮かんだコーラを手にしたままぐっと顎を引き、 半眼になってモニタを凝視している。モニターの光が照らす白い顔はいつも通りの無表情だが、その目には称賛や憧憬ではない 何かが青白く燃えている。 歌い終わったハルヒと朝倉が、マイク片手にお互いハイタッチをする。 二人がお互いを称えるやり取りの間で、俺以外の誰が気付いていたであろう、 他でもない、長門の眉と眉が、1フェムトメートルほどくっきりと顰められていた事に。 手を取り合ってはしゃぐ二人に朝比奈さんと古泉の二人が加わろうとしたとき、モニタが光った。 『CHA-LA HEAD-CHA-LA 作詞:森雪之丞 作曲:清岡千穂』 「えっ!?何?これ?誰か歌うの?」 ちなみに、朝倉がシルビーバルタンを入力してからデンモクには誰一人として触れていない。長門が情報操作で装置に直接入力したのだ。 黙って立ち上がり、マイクを取りあげる俺。つまり、そういうことなんだろ。 「何キョン、あんたドラゴンボールなんか歌うの?似合わないわね!」 何も言うまい。特訓の成果を出すだけだ。練習通りにやればいい。 イントロの流れるままに、マイクを口元に運ぶ。ここからでは表情は確認できないが、長門が、黙って頷いた。そんな、気がした。 -------------------------------------------- 歌い終わって長門に目をやると、長門は振り向きもせずに口だけで呟いた。 「…75点」 75点、一応及第点と言う事か。しかし、世間的な評価はどうなんだろうと思って他のメンバーに目をやると、 残りの皆はそろって虚ろな目つきで斜め下を見つめたまま、何かを言いたいんだが言う訳には行かない、そんな雰囲気で沈黙を続けている。 「ドラゴンボールと言うより、セックスピストルズ、ですかね…」 固く結んだ唇から漏らすように、かすれた声で古泉が呟く。 いつまで続くかと思われた沈黙の中、空々しく新曲案内を繰り返していたモニタが一閃、新しいリクエスト曲の再生を始めた。 「…私の、番」 マイクを手に取り、ゆっくりと立ち上がる長門。またデンモクを使わない直接入力だ。 沈黙から解き放たれた一同が、助かったと言わんばかりにモニタに目を向ける。モニタに映し出された曲名は 『メドレー 中島みゆき』 地獄の釜の蓋が、開いた。 --------------------------------------------- 長門が歌う中島みゆき、それはさながら手負いの虎が目の前で咆え狂うが如き迫力で、聴衆全員瞬きすらできない。 歌声に込められたいわば蒸留された女の恨みとでも言おうか、限りなく透明の癖に、おそらく象ですら膝をつくであろう強烈な情念は 俺達の血管を瞬く間に駆け巡り、神経を染み透ってまるで脳髄に手を突っ込まれたかのような感情の渦へと否応なしに引きずり込む。 完全に麻痺させられた心身の中央で宙ぶらりんになった心臓は歌声の掌に鷲づかみにされたまま右へ左へと引きずりまわされ、 俺達は絶叫マシンに振り回される乗客のように頭を低くしてその場にしがみつき、ただただこの時間の終わりを待ち望む事しか許されない。 この歌、人が、殺せる。 目を閉じ、結んだ口の中で歯を食いしばっているハルヒ、固く拳を握り締め、これ以上ないほどに体を小さく縮みこませている朝比奈さん、 眉間に深いしわを寄せ、頭痛をこらえるかのように側頭部に手をやったまま1mmたりとも身じろぎしない古泉。そして、乱れ髪の向こうから 恨めしげな目つきで長門を睨み付ける朝倉。 そうした累累たる屍たちを尻目に、涼しげに席を中座する長門。 「…お先に、失礼」 そう言って後ろ手に部屋のドアを閉める瞬間、俺は目にした。扉の陰に隠れる長門の口元に、かつて目にした事のない笑みが浮かんでいるのを。 それから時間終了をつげる内線が鳴るまでの三十分程、俺達は各人座ったままうつむき、今日と言う日の出来事をそれぞれの人生でどう位置 付けるのかを考える作業に没頭した。 受付で会計を済ませ、朝倉とぎこちなく別れた俺達は、三々五々に帰路につく。 薄暗い夕暮れの帳の中、踏み切りの音が響き渡る。 雲を踏むかのごとき虚脱状態の俺の懐で、バイブレーター設定の携帯が鳴り響いた。 『送信 長門有希 25点分の底上げの為の練習をする。終了後、私の自宅まで来られたし』 煉獄は、続く。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4600.html
長門有希の妊婦生活2の続きです 「ただっいまー!」 彼が仕事から帰ってきた。 赤ちゃんから長い間目を離すことができなくなったから、最近はもう玄関で出迎えていない。 「…おかえ……」 「霙ちゃーんっ!」 彼はリビングにいた私に何も言わずに霙の元に駆け寄った。 「ただいまー、パパだよー!」 ぶんぶんと手を振り回す霙の手に自分の指を掴ませて遊んでいる。 …。 「…おかえりなさいませ。」 「あ、ああ。ただいまっ!」 こちらを向いてニコッと笑ってみせると、またすぐ霙のほうに戻った。 「うーん、かわいいなぁ…霙は…。」 …。 「…夕食はいかがなさいますか?…先に入浴されますか?」 「先にご飯食べようかな。…ところで何?その口調。」 「…別に。」 私にもよくわからない。 「アレか?ちょっと前に流行ったメイドさんってやつか?あはははは…!」 彼は笑いながら食卓に着いた。 …なんだろう、すごく胸がもやもやする。 ほぎゃあ、ほぎゃあ…! …多分、あの泣き方はお腹が空いたんだ。 「…よしよし…。」 霙をあやしながら抱き上げて、母乳を飲ませる。 彼の方を見ると…育児の本を必死に読んでいる。 …。 「今日、霙はどうだった?」 「…自分でやったげっぷに自分で驚いてた。」 「ウヒヒヒ、かわいいな!俺も見たかったよ!」 …。 その日、私は原因不明の暗雲を胸に抱いたまま眠りについた。 翌朝、彼を見送った後、ゴミ出しに表に出た。 「あらぁ、有希さん、おはよう。」 隣家の勝木さんだ。 「お宅の霙ちゃん、静かねぇ。夜泣きしないなんて。」 「…私も驚いてます。」 「旦那さん、昨日スキップしながらお家に帰ってるの見ましたわよ。よっぽど嬉しいんでしょうねぇ」 彼女はオホホホ、と笑った。 「…。」 「…あら、どうしたの?」 …勝木さんは出産祝いにと、紙オムツをたくさんくれたいい人。 (なんでもそういう会社に勤めてるかららしいけど、やっぱり嬉しかった。) 彼女になら話してもいいかもしれない。 「…何故か、気分が優れなくて。」 「あらぁ、育児疲れ?」 「…多分…違うかと…。」 霙の世話はとても楽しい。疲れだなんて、とんでもない。 「…それじゃあ…」 彼女はニヤリと笑って… 「あんまり旦那さんと上手くいってないんじゃない?」 「………。」 「例えばぁ…あんまり育児に関心がない、もしくはありすぎてあなたをないがしろにしてるとか。」 「………っ。」 「あらぁ、図星?もしかして今気付いた?オホホホ、じゃああなた、霙ちゃんに嫉妬してるのね!」 …嫉妬? 「だってそうよぉ、霙ちゃんに旦那さん取られて、いじけちゃってるのよぉ!かわいらしいのねあなたって!」 そしてまたオホホホと笑った。 …私が、嫉妬…。 「…どうすれば?」 「あらぁ、奪回作戦?オホホ…そうねぇ…。」 オギャー! 「あらら、霙ちゃんよ。早く行ってあげなきゃ。」 …残念。 「…失礼します。」 ドアに手をかけると後ろから声をかけられた。 「…後で霙ちゃん連れてうちにいらっしゃい!」 「…ありがとうございます。」 一礼をしてから家に戻った。 「…はい、お茶。」 「…ありがとうございます。」 ずずず…と茶を啜る音だけが部屋に響く。 「…さて、どうしましょうかね…!」 彼女はニヤニヤしてる。 …なにか、恥ずかしい。 「…どうしましょうか。」 「そうね…王道を行くなら……『たけやーさおだけー』……でしょ?」 「…なるほど。…他には?」 「私がやったのは……『…毎度おなじみちり紙交換ですっ!…』……かしらね?」 「…おぉ…。」 「その後……『磯野ー!野球やろうぜー!』……で完璧よぉ!」 その後も奪回作戦&育児方法について色々話し合った。 外の音がたまにうるさかったけど、私はちゃんと聞こえてたから、別にいい。 「…そろそろ。」 「あら、もうこんな時間。買い物行かなくちゃ!じゃあ、またね!明日報告よろしくっ!」 「…失礼します。」 …早速、今夜試してみよう。 「ただーいまー!」 「…おかえりなさい。」 作戦その1…決行中。 「おやぁ、霙ちゃんはママに抱かれてご機嫌かな?よしよし、かわいいなぁ!」 「…『ご機嫌です』(裏声)」 「うっひゃー、かわいい、かわいい!」 …作戦、効果なし。むしろ逆効果。 まだまだ…夕食後がある…。 作戦その2、開始。 「…ねぇ…あなた。霙を…お風呂に…。」 「お?任せろ任せろ!」 「…それで、私も「はーい、パパと入ろうねー!」 ――――脳内議会 A『…作戦中止?』 B『…やむを得ない。』 V『…諦めるにはまだ早い。』 V2『…そう。私も一緒に入ればいい。』 V3(会長)『賛成。他に意見がないようなら多数決を取ります。』 …満場一致。 ワアアアアア…!!パチパチパチ…!! ―――― 脱衣所にすっ飛んで行った彼を追いかける。 「…私も、一緒に…。」 「んー?霙が出たらすぐ拭いてあげたりしないとだろ?」 「…そう。」 …脳内議会の会長には辞任してもらおう。 作戦その3。れでぃ…。 「有希、寝ようぜ。」 ごー。 「…霙に、おっぱいあげないと。」 「ん、そうか。先にベッド入ってるぞ。」 …想定の範囲内。 霙を抱き上げて、母乳をあげる。 この時、いつもなら片方の乳房は隠すけど、あえて出しておく。 「…有希、おっぱい見えてるぞ。」 「…あなたも、飲まない?」 「…っ!」 彼は両目を見開いた。 …かかる。餌は目の前。 「あ、ああ…。」 計 算 通 「あ、いや…。」 「…?」 「やっぱ、やめとくわ。」 「…っ。…そう。」 …削除、削除、削除…。 …凄く虚しい。 うなだれながらベッドに入る。 …彼には背中を向けて寝よう。 「…なぁ、有希。」 「…何?」 「…久しぶりに…どうだ?」 彼が私の肩に触れてくる。 「…触らないで。」 「…な、なに怒ってるんだよ。」 「………。」 …完全にいじけている。 ムキになっている。 誘った時に来ないで、後から来る態度に素直に喜べない。 なんで私がこんな態度を取るかきっとわかってないのだろう。 …ぎゅう 「…ごめんな。」 「…触らな「…しばらく、有希の相手してあげてなかったな。」 ………ッ! 彼の方へ振り向く。 「…ごめんな。」 そう言って私の頭をゆっくり撫でてくれた。 「…有希のこと、ちゃんと見てあげてなかったな。…寂しかったよな。…ごめんな。」 「………っ。」 頬を熱いものが伝う。 「お、おい、泣くかよっ。…ま、参ったな…そこまで寂しい思いさせてたか…。」 ふるふる 「…違うのか?」 …コクリ 「………???」 「…気付いてくれて…嬉しくて…。」 「…っ!…あ、あはは…。…なぁ…有希?」 ………………ちゅ。 「…で、昨日はどうだったの?」 「…あ……う…。」 「あらぁ、顔赤らめちゃって!その様子だと上手くいったのね。肌も潤ってるものねー!」 …頷く。顔が真っ赤な気がする。声が思うように出せない。 「でも、あんまり旦那さんを独り占めしてたら霙ちゃんかわいそうよ?あんまりやり過ぎないようにね。」 …大丈夫。 彼は何も言わなくても気付いてくれたから。 …私のアクションが足りなかっただけ。 彼は…きっと私と…霙と。二人をちゃんと愛してくれる。 確か、彼…私が初めての恋人。 …そんな彼に、二股が…ちゃんとできるだろうか… 彼を取り合う私と霙 …でも、私は…母親だから 少しくらいはあなたに譲ってあげる …4:6……くらいで…
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1249.html
Report.13 長門有希の憂鬱 その2 ~朝倉涼子の交渉~ 午後の授業を見学しながら、朝倉涼子は喜緑江美里と遠隔通信で今後の対応を協議した。 喜緑『まずは、古泉一樹と朝比奈みくるに説明して、協力を求めるという方針で、問題ないと思います。』 朝倉『わたしはしばらく謹慎中で、人間社会から離れていたから、勝手が分からないの。そう言ってもらえると助かるわ。』 喜緑『彼らは我々に協力的ではないものの、涼宮ハルヒが関係することとなれば、利害が一致します。ひいては彼らの利益にもなることを納得させられれば、彼らも協力を惜しまないと思います。』 朝倉『そうね。朝比奈みくる……「未来人」勢力は禁則事項と既定事項に縛られてるから、どう動くかはちょっと分からないけど、少なくとも古泉一樹……「機関」の協力は得たいところね。長門さんの観測データによれば、彼は「人間の常識の範囲内への収束担当」といった役回りらしいし。』 喜緑『そうですね。彼ら「機関」の手の者は、わたしが今所属する生徒会を含めて既に多数、この北高内に潜入しています。彼らは元々、彼らが「閉鎖空間」と呼ぶ異空間内部で、同じく《神人》と呼んでいる涼宮ハルヒの「力」を狩り、閉鎖空間拡大を防止する目的で設立されました。でも今は、むしろ閉鎖空間発生の予防に重点を置いているようで、彼女に暇つぶしのネタを提供するなど、能動的に行動しているようです。』 朝倉『そんな活動の一環として、涼宮ハルヒ関連事件の後始末を担当してるってわけよね。』 喜緑『それが機関の総意なのか、古泉一樹個人の素質によるものかは分かりませんけどね。』 朝倉『いずれにせよ、彼の協力が得られれば、事前準備、進行、事後処理と、非常にやりやすくなるのは確かね。』 喜緑『我々の情報操作では、涼宮ハルヒに気付かれる恐れが払拭し切れませんからね。長門さんも、彼の事後処理に期待して、活動を行っていた節もありますし。』 朝倉『やっぱり「操作」という面では、超能力以外は彼女と同じ「この時代の同じ人間」という事実は、大きな優位性だわ。』 喜緑『朝比奈みくるについては、どうします?』 朝倉『彼女は、もう完全にSOS団の「癒し」担当ってとこかしら?』 喜緑『そうですね。様々な意味で、SOS団の「癒し」を司っているみたいですね。』 朝倉『長門さんのログによると、長門さんでさえも、彼女に「癒されて」いるみたいだけど、この件については、あなたの方が詳しいかしら。』 喜緑『いやー、あの場面はすごかったですね。その場面の映像を送りますね。』 ――涼子の記憶領域内に、ある映像が展開される。 朝倉『……わーお♪』 喜緑『長門さんにも言いましたが、例えるなら「天使と天女が仲良く眠る図」といった光景でした。』 朝倉『長門さん、こんな顔して眠るんだ……』 喜緑『可愛いと思いませんか? こう、「庇護欲」をくすぐるというか。』 朝倉『……喜緑さん、あなた随分「人間的」な台詞を言うようになったのね。』 喜緑『有機生命体として人間社会で生活していると、やはり色々と影響を受けて変わっていくものなんですよ。』 これが謹慎中の自分と、ずっと人間社会で生活していた者との差なのかと、涼子は思った。有機生命体には、時間の経過が極めて重要な意味を持つ。 喜緑『もはや朝比奈みくるも、涼宮ハルヒの中で大きな領域を占めています。彼女を除いた形での涼宮ハルヒへの介入方法は、検討する価値もないですね。』 朝倉『彼女を突破口とするってことね。』 喜緑『それが今の涼宮ハルヒに対しては一番無難な導入かと思います。』 朝倉『わたしが表立って動くと目立つから、彼らへの交渉はお願いしちゃって良いかな?』 喜緑『ええ、良いですよ。』 朝倉『あ、でも、キョンくんへは、やっぱりわたしからちゃんと話した方が良いかな?』 喜緑『んー、どうでしょう。「彼」にとってあなたは、完全に精神的外傷になってますからねえ。「彼」の中では、あなたは完全に「殺人鬼」朝倉涼子です。』 朝倉『…………』 涼子は沈黙した。ややあって、 朝倉『……イヤ。やっぱりそのままじゃイヤ。わたし、キョンくんときちんとお話したい!』 喜緑『「彼」は十中八九、拒絶すると思いますけどね。』 朝倉『それでも、イヤなの。「彼」に「殺人鬼」と思われたままでいるのは。』 涼子も変わったと、江美里は思った。そもそも、彼女がキョンを殺害しようとした原因の一端は、未熟ながら『感情』が宿りつつあったからなのではないかと思料された。 未熟な『感情』の暴走。 その結果、朝倉涼子はキョンを殺害しようとして、長門有希に消された。そして長門有希は後日、感情の暴走により世界を改変、情報統合思念体をも消去した。これは異時間同位体の長門有希自身と、キョン、朝比奈みくる及びその二人の異時間同位体によって修正された。 喜緑『あなたがどうしてもそうしたいなら、止めはしませんよ。支援できるかは保証できませんけど。』 朝倉『うん、これはわたしの問題。できる限りのことをやってみるわ。ただ、二人きりで話すのはさすがに無理だと思うから……』 喜緑『でしょうね。わたしも同席しましょう。それから、彼らにも同席してもらえば良いのでは?』 話はまとまった。 一樹とみくるには、昼休みに江美里が持ち回りで説明して同意を得ることとなった。やはり江美里が睨んだ通り、状況を説明すると、彼らはすぐに同意した。 『僕は一度だけ『機関』を裏切ってでも、SOS団の味方をすると約束した身ですからな。それに今回は、「機関」としても、長門さんの消失を重く見ているようですわ。』 【僕は一度だけ『機関』を裏切ってでも、SOS団の味方をすると約束した身ですからね。それに今回は、「機関」としても、長門さんの消失を重く見ているようですよ。】 『あたし、どれだけお役に立てるか分かりませんけど、長門さんのために頑張ります!』 部活後、キョン、みくる、一樹の三人で、ハルヒのクラスの教室へ行くことになった。 部活後。教室に向かう三人。キョンには一樹が、 『喜緑江美里さんが、部活後、僕達に話があるそうですわ。』 【喜緑江美里さんが、部活後、僕達に話があるそうです。】 と説明した。 教室前では江美里が待っていた。 「さあ、中にどうぞ。」 江美里が、教室への入室を促す。みくる、キョン、古泉、江美里の順に教室に入ろうとする。 しかしキョンは、教室内に彼女の姿を認めると、硬直した。『彼』はかすれた声で、搾り出すように言った。 「何で、お前が、ここに、いる……!」 夕日に照らされ、オレンジ色に染まる教室。その中に、同じくオレンジ色に染まった朝倉涼子が佇んでいた。 「遅いわ。」 【遅いよ。】 いつかのように、同じ台詞を言う彼女。キョンは、硬直したまま、脂汗をかいている。 「ほら、キョンくん。中、入ろ?」 みくるが入室を促すが、キョンは微動だにしない。 「……こら、相当なトラウマになっとるみたいですなあ。」 【……これは、相当なトラウマになってるみたいですね。】 一樹は苦笑する。 「今日は、僕らも一緒やさかい、大丈夫でっしゃろ。ねえ、喜緑さん?」 【今日は、僕らも一緒ですから、大丈夫でしょう。ねえ、喜緑さん?】 「以前の彼女は、様々な複合要因から、あなたを殺害しようとしました。でも今は、そのような命令も受けていませんし、その気もありません。彼女は今、あなたに危害を加える存在ではありません。わたしが保証します。」 「そ、そんなもん!」 キョンは叫んだ。 「そんなもん、だ、誰が信じられるかっ!? 言わしてもらうけどなぁ! 俺は、こいつに……二度も! 一度ならず二度までも、殺されそうになったんやぞ!? あれは本気の殺意やった! それを今更『危害を加えない』なんて言われて、ほいほい信じられると思うか!? そんな奴おったら、今すぐ連れて来い! 代わったるから!」 【そんなもん、だ、誰が信じられるかっ!? 言わしてもらうがなぁ! 俺は、こいつに……二度も! 一度ならず二度までも、殺されそうになったんだぞ!? あれは本気の殺意だった! それを今更『危害を加えない』なんて言われて、ほいほい信じられると思うか!? そんな奴いたら、今すぐ連れて来い! 代わってやるから!】 キョンは半狂乱になりながら叫んでいる。同じ人物に二度も、むき出しの殺意を向けられ、二度目は実際に刃物で刺され、死亡寸前にまで追い込まれたとあって、彼の拒絶反応は凄まじかった。涼子はある程度予想はしていたものの、想定以上の絶対的な拒絶だった。 「こんな状態じゃ、落ち着いて話も聞いてもらわれへんか。」 【こんな状態じゃ、落ち着いて話も聞いてもらえないか。】 涼子は溜め息を一つつくと、寂しそうな声で言った。そして、ゆっくりと入り口近くにいる彼らの方へ近付いていった。 「こら、やめろ、近付くな! それ以上近づいたら大声出すぞ! って、おい、古泉、なんの真似や! 朝比奈さんまで! ちょっとどいて喜緑さん! そいつに殺される!」 【こら、やめろ、近付くな! それ以上近づいたら大声出すぞ! って、おい、古泉、なんの真似だ! 朝比奈さんまで! ちょっとどいて喜緑さん! そいつに殺される!】 逃げようとするキョンを、三人が取り押さえている。涼子は、彼らのすぐそばまで来た。 「くぁwせdrftgyふじおklp;!?」 もはやキョンは何を言っているのかすらわからない。混乱の極致。 「……やっぱり、信じてもらうんは無理やろうね……」 【……やっぱり、信じてもらうのは無理でしょうね……】 ぽつりと呟く涼子。心底寂しそうな表情で。 「それでも……それでもわたしは……」 大粒の涙を流し始める涼子。 「そ、そんな『女の涙』なんかに騙されへんぞ!?」 【そ、そんな『女の涙』なんかに騙されないぞ!?】 言いながらもキョンは、動揺を隠せない。 「わ、わたしのことなんか、ぐすっ、信じてくれへんでも良い、ひっく。でも、話だけでも、うっ、聞いて……わたしがやったことは、謝るから! どうか、話! 落ち着いて聞いて! これは……長門さんのためやの!!」 【わ、わたしのことなんか、ぐすっ、信じてくれなくても良い、ひっく。でも、話だけでも、うっ、聞いて……わたしがやったことは、謝るから! どうか、話! 落ち着いて聞いて! これは……長門さんのためなの!!】 ぴたり、とキョンの動きが止まった。 「長門のためやと!?」 【長門のためだと!?】 泣きながら、涼子は土下座した。 「あなたを、二回も殺そうとして、ごめんなさい! これはどんな言い訳もできません! 許してもらおうとも、許してもらえるとも、思ってません!」 驚き戸惑うキョン。 「わたしのことはどうでも良い! でも、これだけは聞いて!!」 涼子は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、言った。 「長門さんを助けて!!」 「や、やめてくれ。お前の気持ちは分かった。土下座なんかやめてくれ。」 キョンは涼子に言った。 「とにかく、話は聞くから。な?」 まだ泣き止まないながらも、涼子はのそのそと立ち上がった。 「ひっく、うっ……ごめんなさい、取り乱して……ひっく。」 「まず、これだけは確認させてくれ。お前はほんまに、俺に危害は加えへんのやな?」 【まず、これだけは確認させてくれ。お前はほんとに、俺に危害は加えないんだな?】 涼子に問い掛けるキョン。 「ぐすっ、は、ひっく、はい……」 「わたしからも補足しますと、朝倉涼子は以前とは役割が違います。以前、あなたを殺害しようとした、あの『インターフェイス』とは形が同じなだけで、中身は別物と考えて差し支えありません。」 と、江美里が補足した。 「それで、さっき『長門さんのため』って言(ゆ)うたな。で、『長門さんを助けて』とも。」 【それで、さっき『長門さんのため』って言ったな。で、『長門さんを助けて』とも。】 涼子は、一樹が差し出したハンカチで涙を拭いながら言った。 「はい……話、聞いてくれる?」 「ああ。」 「やっぱりキョンくんは……長門さんのこととなると、信じてくれるんやね。」 【やっぱりキョンくんは……長門さんのこととなると、信じてくれるのね。】 「俺にとってあいつは、命の恩人でもあるしな。」 「…………」 寂しげな表情で視線を落とし、沈黙する涼子。 「大体やな。」 【大体だな。】 キョンは続ける。 「俺は聖人でも君子でもないけど、いくら命を狙われたとはいえ、土下座までして謝罪するような奴に辛く当たるほど、冷たい人間違(ちゃ)うつもりや。」 【俺は聖人でも君子でもないけど、いくら命を狙われたとはいえ、土下座までして謝罪するような奴に辛く当たるほど、冷たい人間じゃないつもりだ。】 涼子はハッと視線を上げた。潤んだ瞳でキョンを見つめる格好となった。 「許して……くれるの?」 「正直、複雑な気分や。でも、冷静に話を聞くくらいはできるようになったと思う。」 【正直、複雑な気分だ。でも、冷静に話を聞くくらいはできるようになったと思う。】 「……ありがとう……」 「それで、一体何がどうなってるんか、順を追って詳しく説明してくれるか。」 【それで、一体何がどうなってるのか、順を追って詳しく説明してくれるか。】 まずは江美里が説明を始める。 「単刀直入に言います。長門有希が消失しました。」 目を見開き驚くキョン。江美里は続けた。 「事の発端は、あの日。朝比奈さん、あなたも知っている『あの行為』を涼宮さんが長門さんに見られた日のことです。」 「ひっ!?」 突然名指しされたみくるは身体を強張らせる。キョンと一樹の視線がみくるに向けられる。 「その日の部活は、微妙に張り詰めた空気だったと思います。でも原因はそれではありません。その日の部活後の出来事です。」 そして江美里は、その後の経過を説明した。皆が帰った後の部室での、ちょっとした心のすれ違いが原因で起こったこと。それによってハルヒが非常に動揺したこと。 「その夜、涼宮さんはこう思ったんでしょうね。『有希に会いたくない』と。」 「ちょ、ちょっと待ってくれ。そしたら、何か? ハルヒはちょっと恥ずかしいことがあって、長門に会いたくないって思ったからって、長門の存在ごと消したって言(ゆ)うんか!?」 【ちょ、ちょっと待ってくれ。それじゃ、何か? ハルヒはちょっと恥ずかしいことがあって、長門に会いたくないって思ったからって、長門の存在ごと消したって言うのか!?】 キョンが声を荒げる。 「そんな……そんな身勝手が許されるんか!?」 【そんな……そんな身勝手が許されるのか!?】 「あんまり涼宮さんを責めんといたって。」 【あんまり涼宮さんを責めないであげて。】 涼子が諌める。 「涼宮さんだって、自覚してへんから、自分の力を完全には制御できてへんの。これは無意識下で起こった現象。悪気があったわけ違(ちゃ)うの。だから、今回の件は、上手くすれば、涼宮さんに『あまり縁起でもないことは考えないようにしよう』って思わせられるかもしれへん。」 【涼宮さんだって、自覚してないから、自分の力を完全には制御できてないの。これは無意識下で起こった現象。悪気があったわけじゃないの。だから、今回の件は、上手くすれば、涼宮さんに『あまり縁起でもないことは考えないようにしよう』って思わせられるかもしれない。】 「……それで?」 不承不承ながら、キョンは先を促す。今度は涼子が説明する。 「情報統合思念体は、長門さんが既に涼宮さんの中で大きな存在になってることを理解した。だから、何とか長門さんを再構成しようとした。でも、それは上手くいかへんかった。」 【情報統合思念体は、長門さんが既に涼宮さんの中で大きな存在になってることを理解した。だから、何とか長門さんを再構成しようとした。でも、それは上手くいかなかった。】 そこに涼宮ハルヒの力が介在したから、と涼子は続ける。 「このままやったらあかんと危機感を持った情報統合思念体は、代わりのインターフェイスを派遣することにした。それがわたし。今のわたしは、長門さんの任務代行者。消えてしもた長門さんの代わりを務めるために再構成された、まさしく『バックアップ』ってわけ。だから今のわたしの存在意義は『涼宮ハルヒの観測と保全』。それにはもちろん、キョンくん達も入っとぉで。つまり今のわたしは、キョンくん達の『守護者』でもある。」 【このままではいけないと危機感を持った情報統合思念体は、代わりのインターフェイスを派遣することにした。それがわたし。今のわたしは、長門さんの任務代行者。消えてしまった長門さんの代わりを務めるために再構成された、まさしく『バックアップ』ってわけ。だから今のわたしの存在意義は『涼宮ハルヒの観測と保全』。それにはもちろん、キョンくん達も入ってるわ。つまり今のわたしは、キョンくん達の『守護者』でもある。】 『守護者』を強調して、涼子は続けた。 「わたしが再構成された理由は、当面は長門さんの代理として、涼宮さんの観測を続けること。でも、いつまでも代理を続けるわけにはいかへんの。わたしはここにおったらあかん存在やから。それに何より、わたしでは、『涼宮さんにとっての長門さん』は務め切れへん。」 【わたしが再構成された理由は、当面は長門さんの代理として、涼宮さんの観測を続けること。でも、いつまでも代理を続けるわけにはいかないの。わたしはここにいてはいけない存在だから。それに何より、わたしでは、『涼宮さんにとっての長門さん』は務め切れない。】 「何(なん)でや?」 【何(なん)でだ?】 と問うキョン。涼子は言葉を選びながら、慎重に答えた。 「今の長門さんは、涼宮さんにとって……とても大切な『お友達』。ある『気持ち』を分かち合える存在。『行為』だけなら、わたしでもできるけど……『心』を通い合わせるのは、たぶん無理。」 「どうも、要領を得(え)ーへんな。何か奥歯に物が挟まったような……具体的にどういうことなんや?」 【どうも、要領を得ないな。何か奥歯に物が挟まったような……具体的にどういうことなんだ?】 「それは、」 涼子は指を組んで言った。 「禁則事項。」 「禁則事項て……」 「お察しください。頑張ってます。」 涼子は咳払いを一つすると、続けた。 「……とにかく、このままやと、涼宮さんの思いに阻まれて、長門さんを元に戻されへんの。彼女、意地っ張りやから……彼女に心から、長門さんに会いたいと思ってもらわなあかんの。」 【……とにかく、このままだと、涼宮さんの思いに阻まれて、長門さんを元に戻せないの。彼女、意地っ張りだから……彼女に心から、長門さんに会いたいと思ってもらわなきゃならないの。】 「それで、長門が戻ってくるためには、俺達の協力が必要なんやな?」 【それで、長門が戻ってくるためには、俺達の協力が必要なんだな?】 「そうです。わたし達長門さんを知る者全員の協力が必要です。」 と江美里が答えた。涼子は続けた。 「涼宮さんに、長門さんとまた会いたいって思わせる、要するに素直にならせる。それが、長門有希の帰還のために必要な条件。そのためには、わたし達が協力して、涼宮さんの思考をそのような方向に誘導せなあかんの。」 【涼宮さんに、長門さんとまた会いたいって思わせる、要するに素直にならせる。それが、長門有希の帰還のために必要な条件。そのためには、わたし達が協力して、涼宮さんの思考をそのような方向に誘導しなきゃならないの。】 「それで、あたし達も呼んだんですね?」 と、みくるが声を上げる。 「そう。長門さんと涼宮さん、どちらとも縁が深いわたし達が、あくまで自然に涼宮さんを誘導せなあかん。」 【そう。長門さんと涼宮さん、どちらとも縁が深いわたし達が、あくまで自然に涼宮さんを誘導しなきゃならない。】 こうして、五人は長門有希再起に向けて協調して行動することを確認。涼子、江美里ら宇宙人勢力を中心に、協力していくことで一致した。 「わたし達五人、所属も立場も違いますが、長門有希の帰還のため、一致団結して行動しましょう!」 「そう言えば……」 キョンが思い付いたように言う。 「俺達が協力して、長門が戻ったら、朝倉。お前はどうなるんや?」 【俺達が協力して、長門が戻ったら、朝倉。お前はどうなるんだ?】 涼子は視線を床に落とすと、寂しそうに言った。 「わたしはあくまで長門さんの『バックアップ』。それに、以前の独断専行の廉(かど)でいわば『謹慎中』の身。この問題が解決されれば、再び情報連結が解除されることになるわ……」 「……お前は、それでええんか?」 【……お前は、それで良いのか?】 「…………」 沈黙。しばらくの後、涼子は口を開いた。 「……わたしには、有機生命体の死の概念は理解できひん。でも、それに近い状態を経験した。」 【……わたしには、有機生命体の死の概念は理解できない。でも、それに近い状態を経験した。】 涼子は顔を上げた。 「今なら分かる。『死ぬ』のはイヤ。」 『中身は別物と思って差し支えありません』 江美里の説明を思い出すキョン。 「でも、だからこそ、長門さんの気持ちが分かる。長門さんも同じ思いをしたはず。せやから、わたしは、何としてでも長門さんを元に戻したい。それに、わたしが再構成されたのも、結局は涼宮さんがわたしのこと思い出してくれたからやし。もし状況が違(ちご)てたら、わたしは再構成されへんかったかもしれへん。今こうやって話をしてること自体、『奇跡』みたいなもんやから。もし涼宮さんが、わたしと一緒にいたいと思ったら、わたしはまたこうやって一緒にいられるかもしれへんけど、どうなるかは……」 【でも、だからこそ、長門さんの気持ちが分かる。長門さんも同じ思いをしたはず。だから、わたしは、何としてでも長門さんを元に戻したい。それに、わたしが再構成されたのも、結局は涼宮さんがわたしのこと思い出してくれたからだし。もし状況が違ってたら、わたしは再構成されなかったかもしれない。今こうやって話をしてること自体、『奇跡』みたいなものだから。もし涼宮さんが、わたしと一緒にいたいと思ったら、わたしはまたこうやって一緒にいられるかもしれないけど、どうなるかは……】 涼子は指を組みながら言った。 「人間の言葉で言うところの、『神のみぞ知る』。」 彼女は今、自分の立場を理解している。用が済めば再び消される存在。それでも彼女は、その任務を果たそうとしている。それが彼女の存在意義。 だが、それだけではない。彼女は、同じ境遇を経験した者として、『自らの意思』でも行動していた。彼女は自らの『運命』を受け入れ、それでも前向きに行動しようとしていた。 「やらなくて後悔するよりも、わたしはやって後悔しようと思う。」 涼子の顔に、迷いはない。 「現状を維持するままではジリ貧になるんやったら、わたしは何でもええから変えてみようと思って行動する。それがわたしの望みやから。」 【現状を維持するままではジリ貧になるんだったら、わたしは何でも良いから変えてみようと思って行動する。それがわたしの望みだから。】 ←Report.12|目次|Report.14→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2231.html
Report.17 長門有希の憂鬱 その6 ~朝比奈みくるの報告(前編)~ 件名:閉鎖空間式空間封鎖内における戦闘について パーソナルネーム長門有希の要請を受けて、朝比奈みくるが観測経過を報告します。 空間封鎖された生徒会室。 ここ『長門有希消失緊急対策本部』では、「朝倉涼子を信用してほしい」という喜緑さんの要請にキョンくんが同意した後も、会議が続いていました。 その会議のさなか、喜緑さんが急に立ち上がりました。 「大規模な閉鎖空間を感知しました。同時に、涼宮ハルヒ、朝倉涼子両名の反応が消えました。」 「何ですと!?」 キョンくんも釣られて立ち上がりました。会議室が騒然とします。 「これは……」 見る見る喜緑さんの表情が困惑に変わりました。 「この閉鎖空間は、涼宮ハルヒの力によるものではありません。別口です。」 「その別口の正体、分かりまっか?」 【その別口の正体、分かりますか?】 古泉くんが問います。 「至急、照合します。しばらくお待ちください。」 喜緑さんはやや思案するような表情で中空を見つめていましたが、しばらくして口を開きました。 「閉鎖空間を発生させた張本人が分かりました。非常に言いにくいことですが……」 息を呑む一同。 「これは、情報統合思念体の一派が行ったものです。」 ざわ……ざわ…… 会議室に戦慄が走りました。 「今回、この閉鎖空間を発生させたのは、過激派。かつての急進派から分かれ、より先鋭化した集団です。彼らの行動理念は、『涼宮ハルヒへの攻撃』。」 「何(なん)やて!?」 【何(なん)だって!?】 「彼らは、これまでに得られた涼宮ハルヒの能力の解析結果を利用して、我々が行う空間封鎖を応用し、巨大な閉鎖空間を作り出した模様です。」 「過激派……」 「あなた方人間と同様、情報統合思念体にも、派閥争いがあります。」 キョンくんの呟きに、喜緑さんが答えました。高度な知性を備えた情報生命体でさえも、派閥争いからは逃れられないのでしょうか……それとも、知性があるゆえに? 「とにかく、現場に向かった方が良さそうです。こんな時は、確かこう言うんでしたね。」 喜緑さんは言いました。 「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんです。」 良い言葉ですね。……あれ? 古泉くんはいつものスマイルなのに、キョンくんは『やれやれ』って……何で? 多分きょとんとした顔になっているあたし。 おかしいな。史料には特に記載がない、この時間平面における普通の言葉なはずなんだけど……この時間平面から四年前よりも更に以前に、何かあったのかな? あたし達は、喜緑さんの誘導で学校を出て、現場に向かいました。 「二人の反応が消えたのは、この近辺です。」 と、喜緑さんが立ち止まって言いました。場所は、北高に続く長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街です。 「そない言わはっても、僕にはさっぱり感じられまへんで?」 【そう仰いましても、僕にはさっぱり感じられませんが?】 古泉くんが言いました。彼には『閉鎖空間』の存在を感じる能力があります。 「発生源が涼宮ハルヒではないので、発生を感知できなかったのでしょう。そして、近付いても感じられない理由は……これですね。」 喜緑さんが何もない空中で何かを掴むような手の動きをして、そのまま手を下に下ろしました。それは、見えない何かを『めくる』動作に見えました。 「! おお、これはこれは。」 驚いた声を上げる古泉くん。 「いつも感じる閉鎖空間の壁が、突然空中に見えよりましたで。」 【いつも感じる閉鎖空間の壁が、突然空中に見えましたよ。】 「今の状態を言語化すると、そうですね。背景と同じ色のシートを被せてあるのを少しめくった状態です。背景と同化して見えなくなっていたものが、シートの隙間から覗いてるんですね。つまり、偽装です。」 「なるほど。いやしかし、これは手強い。これは、涼宮さんが『彼』を連れ込んだ閉鎖空間以上の強度でんな。」 【なるほど。いやしかし、これは手強い。これは、涼宮さんが『彼』を連れ込んだ閉鎖空間以上の強度ですね。】 「外からこの外殻を破って進入するのは、至難の業ですね。」 こんな状況になると、いつも思う。あたしは何て無力なんだろうって。結局最後は、いつも長門さんの力で解決してるようなもんだし。 あたしは思わず『彼女』の姿を思い出していました。いつも無口で、窓辺で本を読んでいる、とても強くて頼りになる『彼女』を。 ………… 出し抜けに、目の前で奇跡が起きました。 表現が淡白過ぎるかな? でも、ごめんなさい。余りの驚きとかいろいろに、ちょっと言葉に詰まっちゃって。 とにかくそれは、何の前触れもありませんでした。感動的な演出も。多分、瞬きしてる間だと思うんです。いつの間にか、そこに『彼女』が立っていました。無言で、儚げで、ショートカットが風に揺れていました。 『…………』 五人分の沈黙。約二名はただの沈黙じゃないかもしれませんけど。 「……な……が、と……さん?」 辛うじて搾り出したような声で、あたしは誰何(すいか)しました。 「そう。」 『彼女』……長門有希が、そこにいました。 あたし達は、長門さんに、何て声を掛けて良いか分かりませんでした。ただ一人を除いて。 「SELECT 長門有希 FROM τφει」 喜緑さんが呪文のように、超高速で彼女達の使用するコードを実行しました。 「個体照合・長門有希……確認。間違いなく長門さん本人ですね。」 「状況が変わり、再構成が成功した。」 どうやら、本当に長門さんが帰ってきたようです。 「時間がない。状況を伝える。協力と彼らへの説明を要請する。」 うん、この極めて平板で無駄が全くない喋り方は、間違いなく長門さんです。 長門さんと喜緑さんが、何やら見つめ合っています。といっても、一分にも満たない時間だったでしょうか。 「了解、把握しました。」 喜緑さんが答えるのを聞いているのかいないのか。長門さんは、さっき喜緑さんが『めくった』空間を見ていました。真っ直ぐに。 「……突入する。」 「ご武運を。」 二人のインターフェイスはごく短いやり取りのあと、揃って呪文のようにコードを実行し始めました。二人の声が見事に調和して、完全五度の美しい和声を作っている様に聞こえます。(そういえば『和音』も、この時間平面の言葉で『コード』って言いますね。綴りも発音も違いますけど。) 『呪文』の詠唱が止み、長門さんが深く腰を落としました。そして腰だめに拳を固め……え? 拳? そのまま長門さんは、声も出さずに、静かに、素早く、拳を前へ突き出しました。ちょうど、『めくった』あたりを突くように。 「これはまた……長門さんらしからぬ、強引な手段ですなあ。」 【これはまた……長門さんらしからぬ、強引な手段ですね。】 古泉くんが苦笑しています。 「一体、何が起こっとぉ?」 【一体、何が起こってんだ?】 キョンくんの問いに、古泉くんは肩をすくめて答えました。 「長門さんは、どうやら閉鎖空間の境界を殴って叩き割るおつもりのようで。今の一撃で、あの辺りの境界に、蜘蛛の巣状にひびが入りましたわ。」 【長門さんは、どうやら閉鎖空間の境界を殴って叩き割るおつもりのようで。今の一撃で、あの辺りの境界に、蜘蛛の巣状にひびが入りましたよ。】 そういうことになってたのか。その後も長門さんは、二度三度と拳、肘を繰り出しました。 「微弱な信号を検出しました。涼宮ハルヒ、朝倉涼子両名と思われます。」 長門さんが突いている空間に手をかざしていた喜緑さんが言いました。中の様子を探ってたんですね。 「……把握した。」 長門さんは短く答えると、今度は鋭く前蹴り。二度、三度、四度……あのー、長門さん? その蹴り方、後ろから見てると、ドラマでやってた『闇金融業者の追い込み』みたいですよ? 『そこにおんのは分かっとんのや。早(はよ)ドア開けんかいこるぁ。』 【そこにいるのは分かってんだ。早くドアを開けやがれごるぁ。】 『借りたモンは返すんが当たり前やろがぁ。ええ加減に観念せぇやぁワレぇ。』 【借りたモノは返すのが当たり前だろがぁ。いい加減に観念しやがれてめぇ。】 ……普段の長門さんの声で想像してしまいました。台詞は棒読みです。うは、すごくシュール…… 「……貫通しました。」 喜緑さんの声と同時に、長門さんは無言で身体を前に進めると……空間の途中から吸い込まれるように姿が消えました。 「突入成功。」 喜緑さんは、ふう、と一つ息をつきながら呟きました。 「それでは、移動しながら説明しましょう。」 あたし達は喜緑さんの誘導で、住宅街を移動しました。 情報統合思念体に存在する過激派のこと。 長門有希再構成計画。 長門有希不在の好機。 涼宮ハルヒ襲撃計画。 閉鎖空間式空間封鎖。 涼宮ハルヒの意識変化。 情報共有。 突入。 喜緑さんの説明が終わる頃には、駅前に着いていました。 「ほなら、僕達は、中に入った長門さんのリアクションを待つしかない、っちゅうことですか。」 【それじゃあ、僕達は、中に入った長門さんのリアクションを待つしかない、ということですか。】 「そういうことになります。」 長門さんが突入するために蹴破った穴は、すぐに塞がってしまった。だから、中で長門さんが状況を確認し、その後何らかの行動を起こす。あたし達はその行動を受けて、その後の自分達の行動を決める。 そうなったみたいです。 ちなみに移動したのは、もし喜緑さんも突入することになった場合に、涼宮さん達の目の前に現れない方が都合が良いから、です。長門さんはそのまま突入しちゃいましたけど。 喜緑さんの説明によると、あの時長門さんは、めちゃくちゃ怒っていたそうです。確かに、いつもの……消失する前の長門さんとは、ちょっと雰囲気が違うように見えたけど……あたしは驚いていたし、再構成された直後だから色々と違うのかな、くらいにしか思いませんでした。 しばらく駅前でたむろしていると、喜緑さんが緊迫した声で言いました。 「境界の状態が変化。突入可能状態……え? 応援要請? 全員で?」 そしてあたし達を見回して、 「長門さんからの応援要請です。全員で突入してほしいとのことです。」 「そんな大変なことになっとぉですか?」 【そんな大変なことになってるんですか?】 キョンくんが緊張した面持ちで問います。 「詳しい状況は不明です。中に入ってみないことには……皆さんは、異論ありませんか?」 あたし達は一様に承諾しました。 「それでは突入します。皆さん、はぐれないように手を繋いでください。」 喜緑さん、古泉くん、あたし、キョンくんの順に、一列になって手を繋ぎます。駅前なのに人通りがないのは……何かの『意思』でしょうか。何にしても好都合です。高校生男女が、一列になって仲良く手を繋いでるなんて、変な画ですからね…… 「空間切開。」 喜緑さんの手刀で十文字に切り裂かれた境界から、あたし達は閉鎖空間に突入しました。 中は、元の世界と『ほとんど』同じでした。違っているのは、空の色。そして、あたし達以外誰もいないだろうということ。 「状況が判明しました。」 喜緑さんが言いました。 「現在、長門有希は、涼宮ハルヒ、朝倉涼子両名と共に交戦中です。涼宮さんの手前、あまり情報操作が行えず、苦戦しているようです。そこでわたし達に別動隊として行動し、敵を攪乱し、戦力を分散させてほしいということです。」 涼宮さんの目の届かないところで、あたし達で戦ってほしいっていうことですか? 「その通りです。」 と言っても、この中でまともに戦闘経験があるのは、恐らく古泉くんぐらいです。『戦って』って言われても、そんなすぐに戦う技術を身に付けられるものではありません。 「もちろん、実際の戦闘に関しては、わたしが最大限支援します。少なくとも、防御に関しては何も問題ないと思ってもらって差し支えありません。」 喜緑さんは穏やかに微笑みながら、そう言い切りました。 「わざわざ僕達も一緒に、別動隊として、ということは、思いっきり派手にやった方がええっちゅうことですわな。」 【わざわざ僕達も一緒に、別動隊として、ということは、思いっきり派手にやった方が良いということですね。】 古泉くんは、何だか楽しそうです。それはあたしの偏見でしょうか。 「少なくとも涼宮ハルヒの思考では、そのように定義されているようです。」 ん? 何でそこで涼宮さんが? 「この空間を作ったのは、過激派です。ですが、長門さんが突入できたのは、涼宮さんの意識が変化したおかげです。つまりこの空間は、涼宮ハルヒの影響も受けているということです。」 「ちゅうことは、ここは《神人》がおらへん閉鎖空間、っちゅう表現が見合いでっしゃろか。」 【ということは、ここは《神人》がいない閉鎖空間、という表現が妥当でしょうか。】 「それに近いと思います。」 こうして、喜緑さんの指揮の下、部隊編成が始まりました。 「この空間は、涼宮ハルヒの能力を解析して得られた情報を利用して構成されています。したがって、『機関』の皆さんが閉鎖空間と呼ぶ場と性状が酷似しています。」 「ということは、あれでっか? 僕の能力が使えると?」 【ということは、僕の能力が使えると?】 「はい。そのままでは使えませんが、あなたの能力とこの空間を繋ぐ変換機構を構築すれば、可能になります。」 そう言うと喜緑さんは古泉くんに近付き、彼の頭の周辺にある空間を両手で探るように動かしました。 「あなたの能力とこの空間を繋ぐために、あなたの能力の出力波形を解析し、インターフェイスを調整しました。それではインターフェイスを供与します。力を抜いて楽にしてください。」 喜緑さんは、呪文のようなものを唱えました。 「インターフェイス、供与。」 ずぶ。 喜緑さんは、両手の親指を古泉くんのこめかみに突き刺しました。 「ひでぶっ!?」 ああ、古泉くんは驚きのあまり、奇声を発しちゃいました。あたしも驚きで声が出ません。 「ナノマシンを注入しました。これであなたは、閉鎖空間内と同様に能力を行使できます。」 言い終わるや否や、古泉くんは赤い光に包まれ、光球と化して宙に浮かびました。同時に、激しい金属音がして、何かが地面に転がりました。転がった物体を見て、キョンくんが言いました。 「……鉄筋?」 「朝倉さんの情報によると、敵は、この鉄筋を見えない場所から次々に撃ってくるようです。」 古泉くんは、光球になっている間は、そのような飛翔体も弾き返せるみたいです。 「これは……『インターフェイス』を挟んでいるせいか、光の色が薄いなど若干勝手が違うようですが、力の行使自体は全く問題ないようですね。じきに慣れるでしょう。」 そう言うと古泉くんは、あたし達の上空を飛び回り始めました。問題はないみたいです。 「あなたは空中戦担当ですね。念のために、あなたの防護壁の強化も施しておきました。」 そう言うと喜緑さんは、あたし達の周囲に防御フィールドを展開しました。その時あたしは、何か心に引っ掛かるものを感じていたけれど、それが何なのかは分かりませんでした。 「朝比奈さん。」 「はぃいっ!?」 いきなり話を振られて、思わず声が裏返っちゃいました。 「あなたの能力も解禁します。」 「ふえぇぇっ!?」 喜緑さんは、つかつかとあたしに歩み寄ります。思わず後ずさりするあたし。 「あなたには、訓練で身に付けた格闘能力の他に、涼宮ハルヒによって与えられた特殊能力もあります。」 特殊能力って何!? ってか、喜緑さん! あたしの格闘能力は禁則事項です! 「格闘能力は、先日の涼宮ハルヒとの戦闘により実証されています。その他にあなたには、以前の映画撮影の時に付与され、長門さんに封印された力がありますね。それを今から解禁します。」 映画の時って……まさか『アレ』!? そんな、あれは長門さんのおかげで使えないようになってるはず…… 「その力を中和している長門さんのナノマシンに情報を与えて、封印を解除し、制御しながら使用できるようにします。すぐ済みますから、力を抜いて楽にしていてください。」 あたしのすぐそばまで来ていた喜緑さんは、そのままあたしの首に抱きつくようにして顔を手で固定すると、 「情報伝達用のナノマシンを注入します。」 噛むんですか。やっぱり噛まれちゃうんですか。喜緑さんはあたしの顔に顔を近付け…… かぷ。 そのまま顔を通り過ぎて、あたしの耳を噛みました。甘噛みしました。はううぅぅ…… 「人間兵器、解禁。」 あたしの耳を噛み、(あたしの精神的に)たっぷりとナノマシンを注ぎ込んだ喜緑さんは、開口一番そう言いました。 「『みくるビーム』等が使用可能になりました。」 『みくるビーム』って…… 「さらに、あなたの格闘能力と組み合わせられるように、制御方式も調整しておきました。」 だからって……『人間兵器』は、あんまりです。 「『歩く凶器』の方が適切だったでしょうか?」 ……もう、いいです。くすん…… 「あなたにも活躍してもらわなければなりません。」 「俺ですか!?」 喜緑さんは、今度はキョンくんにつかつかと歩み寄りました。まさかキョンくんも戦うんですか!? でも確かに、この空間内に同行したということは、やっぱり戦力に数えられているわけですよね。 「んなこと言(ゆ)うても、俺は何の特殊能力もあらへんし……」 【んなこと言っても、俺は何の特殊能力もないし……】 「あなたには、武器を供与します。」 そう言うと喜緑さんは、何もない空間から、何かを掴んで引き出しました。 「これは……銃ですか?」 「MP5A5の形態を模した端末に、インテリジェントデバイスを組み込んであります。状況判断、照準等複雑な操作は、すべてこの端末が行います。あなたはただ、銃身の保持と大まかな管制、最終的な攻撃の意思決定及び命令を行うだけで済みます。」 MP5A5というのは、えっと……サブマシンガン(短機関銃)という武器で、拳銃弾を用いた機関銃。ある事件をきっかけに有名となり、この時間平面における世界各国の軍・警察の特殊部隊で、標準的な装備として制式採用されている、と史料にはあります。 いきなりサブマシンガンを手渡されたキョンくんは、少し戸惑っているようだけど、攻撃に参加することについては、異議がないみたい。『彼』も随分積極的になったなあ。 「要するに、簡単な操作で照準を合わせてくれる、便利な銃ってことですか?」 「簡単に言えばそうなります。ついでに言うと、弾切れもジャムも起こしません。それでは、あなたに必要な処置を施します。歯を食いしばってください。」 またナノマシン注入……え? 『歯を食いしばれ』? 「闘魂注入。」 ずぱーん。 喜緑さんの強烈な平手打ちが、キョンくんの左頬を捉えました。うわ、痛そう…… 「あなたに必要なのは、ナノマシンではありません。もう入っていますしね。この戦いで必要なのは、覚悟と気合です。」 何だかものすごく熱い台詞を吐く喜緑さん。SOS団はいつから熱血スポ魂漫画になったんでしょう。あ、いや、この間『調査』のためにそういう漫画を読んでたので、ついそんな例えをしちゃいましたけど。 「……喜緑さん。それ、絶対ネタ元偏ってますって。」 「そうですか?」 頬を押さえながらぼやくキョンくんに、少し首を傾げて答える喜緑さん。 あ、今の仕草、かなり可愛かったかも。長門さんとはまた違った風情の…… はっ! あたしったら、何を考えているの!? それでなくても、最近上の人から『余り女の子と仲良くし過ぎないように』って注意を受けてるのに。 そうなんです。最近のあたし、ちょっと変なんです。 この前、長門さんがあたしに、普段絶対に見せないような一面を見せてくれた時から。 最近、涼宮さんがあたしにいたずらする時の技が、やけに上手になってきたことから。 あたし、二人を変なふうに意識しちゃうんです。女の子同士なのに、変ですよね、禁則事項ですよね、こんなの。さっき喜緑さんに顔を近付けられたときも、ものすごくドキドキしちゃいました。全然変な意味はないって、分かってるはずなのに。 そんな益体もないことをつらつらと考えているうちに、皆の準備が整ったようです。 「本当に言葉通り、見えない所、あらゆる方位から狙撃されているようです。手強いですね。」 上空から古泉くんの報告。 「やはり、あなた達にも戦いやすいようにするためには、敵を可視化する必要がありますね。」 喜緑さんは、やや苦笑交じりに言いました。 「本当は、わたしが感知した情報を映像化して、皆さんの意識と直接共有すれば話が早いのですが、残念ながらジャミングが多くて、情報統合思念体との通信を維持するので手一杯です。朝比奈さんになら映像化しないで直接情報共有できるのですが、如何せん情報伝達そのものが妨害されているので、お手上げです。」 喜緑さんはあたしを見ながら残念そうに言います。ってか、喜緑さん! それは禁則事項ですってば! 「ふふふ。まあ、良いじゃないですか。」 ちっとも良くありません。 「とりあえず、手近にいるものから片付けましょう。」 そう言うと喜緑さんは、人差し指を前へ突き出しました。 「火炎呪文(メラゾーマ)。」 瞬間、喜緑さんの指先から巨大な火の玉が発生し、一直線に前へ飛んで行きました。そして、何もないように見える空間の中空で突然、何かにぶつかったように激しく炎が散り、後には、黒焦げになった人型の何かが転がっていました。 「他にも伏兵がいます。炙り出しますね。」 そう言うと喜緑さんは、今度は両拳を頭上で突き合わせると、呪文を唱えながら腕を左右に広げました。拳の間に火柱のアーチができあがります。 「極大閃熱呪文(ベギラゴン)。」 前に突き出された喜緑さんの両拳から、巨大な帯状の閃光と熱線が前に向けて放たれました。閃熱は、さっき黒焦げになった人型のいた辺りを広範囲に焼いていました。とんでもない威力です。 黒焦げからちょっと焦げた人型まで、いくつもの人型が姿を表しました。こんなに隠れていたのか。黒焦げになった方は分からないけど、焦げ目の付いた人型は……ストッキングで覆面していました。 「とりあえず、この近辺にいた伏兵には焼きを入れました。」 あのー、喜緑さん? あなたはなぜ普通に情報改変をしないのでしょうか。 「残念ながら、彼らへの直接的な情報操作は無効です。彼らも情報統合思念体の端末なので、お互いに手の内を知り尽くしているため、防護策が完全に施されているからです。それにこうした方が演出上、派手になりますから。」 随分ノリノリに見えるのは、あたしの気のせいでしょうか。 「涼宮さん達の姿を確認できました。ものすごい数の全方位一斉射撃を受けてますね。」 上空から偵察していた古泉くんが伝えてくれました。た、大変なことになってるんですね…… 「先ほどのわたしの攻撃で、敵も我々に攻撃の意思があることを認識したと思います。」 その為に、やたら派手な攻撃を……。それから、『可視化』と言っていた意味も分かりました。喜緑さんの攻撃を受けて、焦げ目が付いた敵は、あたし達の肉眼でも見えるようになっています。 「あくまでも対涼宮ハルヒ用、すなわち人間用に構築された空間なので、敵は光学的な偽装を行っています。ですから、可視化するには、光学的に何らかの標識を付けるのが一番簡単です。」 それなら、例えば塗料の霧を吹き付けるのでも良かったんじゃないですか? 「それも一つの手段ですが、攻撃も兼ねる方法を採った方が一石二鳥ですから。」 穏やかな笑顔で、さらりと物騒なことを言う喜緑さん。やっぱり端末の皆さんは、ちょっと怖いです。味方に付ければこの上なく頼りになりますが……あたしは、個人的には最も敵に回したくない相手です。 「我々の目的は、その大量の攻撃をこちらに引き付けること。すなわち、大量の鉄筋と敵に対処しなければならないということです。覚悟を完了してください。防御はわたしに任せて、目の前に立ち塞がるすべての愚かなる者に、等しく滅びを与えてください。作戦はただ一つ。『ガンガンいこうぜ』。わたしに言える事はそれだけです。」 『ガンガンいこうぜ』……あっ、史料にありますね。この時間平面で有名なロールプレイングゲームに登場する、AI戦闘の類型の一つで、残りマジックパワーを気にせず、各自の持てる最大威力の攻撃手段で総攻撃をかける、とあります。 古泉くんは親指を立て、キョンくんは『やれやれ』と、それぞれ臨戦態勢になりました。あたしもガッツポーズで答えます。 「総員、攻撃開始。」 喜緑さんの号令。よし、あたしも頑張ります! 「あ、朝比奈みくる、行きますっ! みっ、『みくるビーム』っ!!」 あたしはとりあえず、長門さん曰く不可視帯コヒーレント光、通称『みくるビーム』で、辺り一面を(感覚としては)薙ぎ払ってみました。 こうして、あたしの攻撃を合図に、戦いは始まりました。 【参考:Extra.4 喜緑江美里の報告】 ←Report.16|目次|Report.18→
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1237.html
Extra.2 長門有希の思惑 いろいろな事件やらごたごたやら、すべてが終わった後。俺の目の前には朝比奈さん(大)がいる。 そう。俺達は『すべてが終わった後』の、公園にいる。 「すべてが……終わりました。」 「……そうですね。」 静かに、これまでの数々の出来事に思いを馳せる。 「いろいろ……ありました。」 「そうね。わたしはあなたより更に長い時間を掛けているんだけどね。」 きっと、そうなのだろう。俺は一時的にとはいえ過去と現在を行ったり来たりし、三年ほどそのまま待つことになった時もあった。さらには、一万数千回も繰り返す夏の二週間、年換算で590年以上を過ごしたこともあった。 だが、これらは俺の意識の上では経過していないことになっていて、見かけ上は、一繋がりの時の流れになっている。これは俺も、朝比奈さん(大)も同様だ。 だが、朝比奈さん(大)が過ごした時間はそれだけではない。少なくとも、朝比奈さん(小)から朝比奈さん(みちる)を経て朝比奈さん(大)になるだけの時間が、目の前にいる朝比奈さん(大)には流れたのだ。感慨も一入だろう。 さて。そろそろ話を切り出そうか。すべてが終わった後の、エピローグ。あるいは、解答編。 「朝比奈さん。それじゃあ、語ってくれるんですよね? これまであなた達が裏で何をしてきたのか。すべての……解答編を。」 「そうね……すべてが終わったんだものね。それじゃあ、語りましょうか。真相を……」 「わたしも同席させてもらう。」 その時俺の後ろから声がした。朝比奈さん(大)は……驚愕していた。 振り返ると長門がいた。いたのだが……違う。何かが違う。何が違うって、いろいろ違う。すまない。俺も正直混乱している。上手くまとめられる自信がないので、見たものをありのまま話すぜ。 長門が……二人いた。 二人の長門。こいつは今この世に一人しか存在しないはずだ。もちろん普通の人間なら、双子の存在を考えるだろう。一部の普通でない人間や、事情を一部知る人間なら、『同型機』の存在を考えるだろう。 しかし俺は、ある事情から、こいつは正真正銘この世界に一個体しか存在しないことを知っている。それが二人いるということは……間違いない。『異時間同位体』だ。 異時間同位体とは、分かりやすく言うと、朝比奈さん(大)と朝比奈さん(小)の関係だ。同一時間平面上に同時に存在するはずがない、異時間同位体。それが同一時間平面上に存在する光景は、実は結構目撃している。何より、俺自身もそんな状態になったことがある。 そして、振り返ったところにいたこいつ、この銀河を統括する情報統合思念体によって作られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスであるところの長門有希もまた、異時間同位体が同一時間平面上に存在するところを俺は目撃した。というか、そうなるようにした。 しかし、すごいな、俺。こんな難解な長文をすらすらと思い浮かべることができるようになったとは。俺にもいろいろあったからな。 よし、それじゃあ、見たままの情景を語ろう。 長門有希が二人いる。二人は手を繋いでいる。片方は俺が知っている、いつもの制服姿。もう片方は、パンツスタイルのスーツと眼鏡で知的な雰囲気を醸し出している。眼鏡のデザインは、以前に掛けていた飾りも素っ気もないやつじゃない。楕円形の、最近の主流な形だ。その眼鏡はそこに存在するのが当たり前であるかのように、見事に様になっていた。 そうだな……一言で表現すると、『既定事項』ってやつだ。 そして眼鏡を掛け、スーツを着た方の長門は……大きくなっていた。少しだけ。 長門(大)。ワショーイ。 以上だ。俺の混乱ぶりが言葉の端々から伝わったかもしれない。とにかく、そんな光景が俺の前に展開されていたのだ。最後の最後で、とんだサプライズかよ。どこの誰だ、こんなシナリオを書いた奴は。 これもハルヒの仕業なのか? それとも……長門(大)? お前なのか? まったく。最後くらいは平和に美しく終わらせてほしいもんだ。 「やれやれ。」 もう何回言ったか分からないくらい言った、もはや俺の決まり文句を言い、俺は肩をすくめた。まったく。本当にやれやれだぜ。 「さ、参事官……! なぜあなたがここ……この時間へ……!!」 朝比奈さん(大)が震える声で搾り出すように言った。『さんじかん』? 何だそりゃ。 「ここ……この時間での呼び名は、それではない。この時間での呼び名で呼んでほしい。」 長門(大)が静かに口を開く。 「え!? う、は、はい。……な……長門、さん……」 朝比奈さん(大)は、恐る恐る言った。 「そう、それでいい。」 あの~、長門さん? あなたは何をしておいでなのでしょうか。 「わたしはわたしの異時間同位体に呼び出され、ここに連れて来られた。」 長門(小)が言った。どこか複雑な表情を浮かべているように見えた。 「朝比奈みくるがすべてを語ると聞いて、駆け付けた。」 長門(大)が静かに語る。 「わたしもあなたに言うことがある。」 朝比奈さん(大)は、何やら緊張している。 「わたしの今の肩書きは、こう。」 そう言って長門(大)は、紙片を取り出した。栞を模したデザインの名刺だった。 ――総務省時空管理局 ――特務班時空湾曲対策担当 ――参事官 長門有希 名刺には、こう書かれていた。総務省……国家公務員なのか? 「そう。朝比奈みくるは、わたしの部下の一人。」 何と……俺はてっきり、朝比奈さんの上司は朝比奈さんだと思っていたが、確かに朝比奈さん(小)の直属の上司は朝比奈さん(大)かもしれんが、更にその上、朝比奈さん(大)の上司は誰か、考えたことなかったな、そういえば。 「えーと、朝比奈さん。その、『参事官』って、どれくらい上の人なんですか?」 「偉い人です。審議官級だけど局長待遇で……ええと、民間企業で言うところの役員クラスね。送り迎えがある、って言えば、何となく想像が付くかしら?」 なるほど、そう考えれば合点がいく。朝比奈さん(両)が、長門(小)を苦手としていた理由が。過去の存在とはいえ、すごく役職が上の者を相手に、先輩として振舞わなければならないのだ。さぞやりにくかったことだろう。 ところで、もうお気付きかもしれないが、長門(小)が長門(大)になっていて、そして朝比奈さん(大)と同じ時間平面上で上司として存在しているわけだ。 ということは、今この時間平面上にいる長門(大)もまた未来人……というか、未来から来た宇宙人ということになる。 それでは、元々この時間平面上にいる……本当にそうなのか若干疑わしくなってきたが、とりあえずそう仮定して、長門(小)との関係は一体? まさか未来までずっと長門は存在し続けるのか? 「話せば長くなる。」 「構わん。話してくれ。もちろん、余り長くならなければ嬉しいがな。」 「そう。では、話す。こういうことになる……」 長門(大)は語りだした。いつぞやの呪文か、それ以上の早口で。もはや何倍速か分からん…… 「……ということ。わかった?」 「はっきり言おう。」 俺はきっぱりと言った。 「ぜんっぜん分からん。」 「それは残念。あなたが話を短くするようにと言ったから、一分以内に話し終えた。」 そう言って長門(大)は、にひっ、と……悪戯っぽく笑った。長門(大)……お前もそんなジョークが言えるようになったんだな。 「わたしも長い時間を過ごした。有機生命体として存在する以上、変化は起こる。」 長門(大)はにっこりと微笑みながら言った。笑顔が眩しいぜ、長門(大)よ。 「ありがとう。」 ふと見ると、長門達の横に移動していた朝比奈さん(大)も笑っている。長門(小)は、いつもの通り無表情。だが、俺にだけ分かる微細な長門(小)の表情の変化によると、目の前の光景が信じられない様子だった。そりゃそうだろう。もう一人の自分、未来から来た自分が、現在の無表情な自分とは違って、表情豊かに微笑んでいるのだから。 でもな、長門(小)。俺には分かるんだ。そこにいる長門(大)は、間違いなく今のお前と地続き、未来のお前自身なんだ。未来のお前は、それはそれは知的な雰囲気を醸し出して、その雰囲気にぴったりの、お前らしい笑い方ができるようになるんだ。それとな、長門(大)。前にお前に言った言葉は撤回する。そして、これだけは言わせてくれ。 眼鏡も良く似合うぞ、長門。 「はいはい、皆さん。積もる話もあるでしょうし、立ち話も何ですから、お茶にしませんか? 今のわたしにとってみれば、昔取った杵柄。腕によりを掛けて、この時間でお茶を淹れますよ。あ、そうだ。せっかくだから、本格的にお茶を点てちゃいましょうか!」 「それなら、『この時間』のわたしの部屋がいい。気兼ねなく話ができる。」 長門(小)が言った。もしかして、長門(小)を連れて来たのはこのためだったのか? 長門(大)。 「それもある。でも、それだけではない。わたしは過去のわたしと会いたかった。」 「それも既定事項なのか?」 「答えは……いつもあなたの胸に。」 はぐらかされた。マジかよ。 「わたしは、あなたが点ててくれるお茶をまた飲みたいと思っていた。たのしみ。」 「わぁ、本当ですかぁ~!? うれしいですぅ~♪」 未来から来た二人は打ち解けた様子で談笑している。朝比奈さん(大)のさっきまでの緊張はどこへやら。長門(大)の笑顔は、朝比奈さん(大)の心をも溶かしたのだろう。 「この時間のわたしも、顔には出していないが、本当はとても楽しみにしているはず。」 長門(大)は、目を細めて長門(小)の頭をくしゃくしゃと撫でた。長門(小)は、無表情だがなんとなく満更でもない様な顔をしているように見えた。 仲の良い姉妹、そんな光景のように俺の眼には映った。 もし俺だったらどんな光景になるか想像して、やめた。きっとこうなるだろう。 二人して誰かさんに振り回され、全く同じ顔で、同じタイミングで、こう言うのだろう。『やれやれ。』……情けないな、俺。 「ところでお二人さん。これだけは教えておいてくれませんかね。」 『?』 俺の言葉に、二人は揃って首を傾げる。……あまりの美しさに、気が遠くなりそうだぜ。 「本当の……年齢と名前は?」 「それは……」 「…………」 おー、長門(大)の三点リーダは初めて見るんじゃないか? 朝比奈さん(大)は、例の見る者すべてを恋に落としそうな天使のような笑顔で。 長門(大)は、見る者すべてを涅槃に誘いそうな慈愛に満ちた菩薩のような笑顔で。 『禁則事項(です)。』 俺の意識は、極楽浄土へ運ばれた。 ………… ……… …… … 「という、夢を見た。」 「そう。」 放課後の部室、『彼』は言った。他の団員達はまだ来ていない。『彼』が見た夢。わたしと朝比奈みくるの異時間同位体。未来のわたしと朝比奈みくるの関係。 「ユニーク。」 「肝心な部分はさっぱり覚えてへんけど、何(なん)でか、お前らの表情だけははっきり覚えとぉで。」 【肝心な部分はさっぱり覚えてないけど、なぜか、お前らの表情だけははっきり覚えてるぜ。】 「そう。」 『彼』は真面目な顔になって、言った。 「何でこんな夢見たんか分からへんけど、これだけは言わしてくれ。長門。眼鏡掛けたお前も、めちゃめちゃ可愛かったで。」 【何でこんな夢見たのか分からないけど、これだけは言わせてくれ。長門。眼鏡掛けたお前も、すごく可愛かったぞ。】 「…………」 わたしは立ち上がり、窓辺に立って窓に向き合った。『彼』に顔を見られないために。 別に照れているわけではない。この状況なら、あれができると思ったから。 そして、昨日構成した眼鏡を掛け、昨日やってみたことをしてみる。問題はなさそう。眼鏡の意匠は、恐らく『彼』が夢で見たものに近いだろう。 「長門?」 『彼』が訝しがる。わたしは逸る気持ちを抑え、努めて平坦に言った。 「あなたが夢で見たもの。それは……」 わたしは振り返る。昨日鏡の前で練習した、今できる精一杯の、わたしらしいと思われる笑顔を浮かべながら。 「こんな顔?」 この日、『彼』は眼鏡属性に目覚めた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2152.html
Report.17 長門有希の憂鬱 その6 ~朝比奈みくるの報告(前編)~ 件名:閉鎖空間式空間封鎖内における戦闘について パーソナルネーム長門有希の要請を受けて、朝比奈みくるが観測経過を報告します。 空間封鎖された生徒会室。 ここ『長門有希消失緊急対策本部』では、「朝倉涼子を信用してほしい」という喜緑さんの要請にキョンくんが同意した後も、会議が続いていました。 その会議のさなか、喜緑さんが急に立ち上がりました。 「大規模な閉鎖空間を感知しました。同時に、涼宮ハルヒ、朝倉涼子両名の反応が消えました。」 「何ですと!?」 キョンくんも釣られて立ち上がりました。会議室が騒然とします。 「これは……」 見る見る喜緑さんの表情が困惑に変わりました。 「この閉鎖空間は、涼宮ハルヒの力によるものではありません。別口です。」 「その別口の正体、分かりまっか?」 【その別口の正体、分かりますか?】 古泉くんが問います。 「至急、照合します。しばらくお待ちください。」 喜緑さんはやや思案するような表情で中空を見つめていましたが、しばらくして口を開きました。 「閉鎖空間を発生させた張本人が分かりました。非常に言いにくいことですが……」 息を呑む一同。 「これは、情報統合思念体の一派が行ったものです。」 ざわ……ざわ…… 会議室に戦慄が走りました。 「今回、この閉鎖空間を発生させたのは、過激派。かつての急進派から分かれ、より先鋭化した集団です。彼らの行動理念は、『涼宮ハルヒへの攻撃』。」 「何(なん)やて!?」 【何(なん)だって!?】 「彼らは、これまでに得られた涼宮ハルヒの能力の解析結果を利用して、我々が行う空間封鎖を応用し、巨大な閉鎖空間を作り出した模様です。」 「過激派……」 「あなた方人間と同様、情報統合思念体にも、派閥争いがあります。」 キョンくんの呟きに、喜緑さんが答えました。高度な知性を備えた情報生命体でさえも、派閥争いからは逃れられないのでしょうか……それとも、知性があるゆえに? 「とにかく、現場に向かった方が良さそうです。こんな時は、確かこう言うんでしたね。」 喜緑さんは言いました。 「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんです。」 良い言葉ですね。……あれ? 古泉くんはいつものスマイルなのに、キョンくんは『やれやれ』って……何で? 多分きょとんとした顔になっているあたし。 おかしいな。史料には特に記載がない、この時間平面における普通の言葉なはずなんだけど……この時間平面から四年前よりも更に以前に、何かあったのかな? あたし達は、喜緑さんの誘導で学校を出て、現場に向かいました。 「二人の反応が消えたのは、この近辺です。」 と、喜緑さんが立ち止まって言いました。場所は、北高に続く長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街です。 「そない言わはっても、僕にはさっぱり感じられまへんで?」 【そう仰いましても、僕にはさっぱり感じられませんが?】 古泉くんが言いました。彼には『閉鎖空間』の存在を感じる能力があります。 「発生源が涼宮ハルヒではないので、発生を感知できなかったのでしょう。そして、近付いても感じられない理由は……これですね。」 喜緑さんが何もない空中で何かを掴むような手の動きをして、そのまま手を下に下ろしました。それは、見えない何かを『めくる』動作に見えました。 「! おお、これはこれは。」 驚いた声を上げる古泉くん。 「いつも感じる閉鎖空間の壁が、突然空中に見えよりましたで。」 【いつも感じる閉鎖空間の壁が、突然空中に見えましたよ。】 「今の状態を言語化すると、そうですね。背景と同じ色のシートを被せてあるのを少しめくった状態です。背景と同化して見えなくなっていたものが、シートの隙間から覗いてるんですね。つまり、偽装です。」 「なるほど。いやしかし、これは手強い。これは、涼宮さんが『彼』を連れ込んだ閉鎖空間以上の強度でんな。」 【なるほど。いやしかし、これは手強い。これは、涼宮さんが『彼』を連れ込んだ閉鎖空間以上の強度ですね。】 「外からこの外殻を破って進入するのは、至難の業ですね。」 こんな状況になると、いつも思う。あたしは何て無力なんだろうって。結局最後は、いつも長門さんの力で解決してるようなもんだし。 あたしは思わず『彼女』の姿を思い出していました。いつも無口で、窓辺で本を読んでいる、とても強くて頼りになる『彼女』を。 ………… 出し抜けに、目の前で奇跡が起きました。 表現が淡白過ぎるかな? でも、ごめんなさい。余りの驚きとかいろいろに、ちょっと言葉に詰まっちゃって。 とにかくそれは、何の前触れもありませんでした。感動的な演出も。多分、瞬きしてる間だと思うんです。いつの間にか、そこに『彼女』が立っていました。無言で、儚げで、ショートカットが風に揺れていました。 『…………』 五人分の沈黙。約二名はただの沈黙じゃないかもしれませんけど。 「……な……が、と……さん?」 辛うじて搾り出したような声で、あたしは誰何(すいか)しました。 「そう。」 『彼女』……長門有希が、そこにいました。 あたし達は、長門さんに、何て声を掛けて良いか分かりませんでした。ただ一人を除いて。 「SELECT 長門有希 FROM τφει」 喜緑さんが呪文のように、超高速で彼女達の使用するコードを実行しました。 「個体照合・長門有希……確認。間違いなく長門さん本人ですね。」 「状況が変わり、再構成が成功した。」 どうやら、本当に長門さんが帰ってきたようです。 「時間がない。状況を伝える。協力と彼らへの説明を要請する。」 うん、この極めて平板で無駄が全くない喋り方は、間違いなく長門さんです。 長門さんと喜緑さんが、何やら見つめ合っています。といっても、一分にも満たない時間だったでしょうか。 「了解、把握しました。」 喜緑さんが答えるのを聞いているのかいないのか。長門さんは、さっき喜緑さんが『めくった』空間を見ていました。真っ直ぐに。 「……突入する。」 「ご武運を。」 二人のインターフェイスはごく短いやり取りのあと、揃って呪文のようにコードを実行し始めました。二人の声が見事に調和して、完全五度の美しい和声を作っている様に聞こえます。(そういえば『和音』も、この時間平面の言葉で『コード』って言いますね。綴りも発音も違いますけど。) 『呪文』の詠唱が止み、長門さんが深く腰を落としました。そして腰だめに拳を固め……え? 拳? そのまま長門さんは、声も出さずに、静かに、素早く、拳を前へ突き出しました。ちょうど、『めくった』あたりを突くように。 「これはまた……長門さんらしからぬ、強引な手段ですなあ。」 【これはまた……長門さんらしからぬ、強引な手段ですね。】 古泉くんが苦笑しています。 「一体、何が起こっとぉ?」 【一体、何が起こってんだ?】 キョンくんの問いに、古泉くんは肩をすくめて答えました。 「長門さんは、どうやら閉鎖空間の境界を殴って叩き割るおつもりのようで。今の一撃で、あの辺りの境界に、蜘蛛の巣状にひびが入りましたわ。」 【長門さんは、どうやら閉鎖空間の境界を殴って叩き割るおつもりのようで。今の一撃で、あの辺りの境界に、蜘蛛の巣状にひびが入りましたよ。】 そういうことになってたのか。その後も長門さんは、二度三度と拳、肘を繰り出しました。 「微弱な信号を検出しました。涼宮ハルヒ、朝倉涼子両名と思われます。」 長門さんが突いている空間に手をかざしていた喜緑さんが言いました。中の様子を探ってたんですね。 「……把握した。」 長門さんは短く答えると、今度は鋭く前蹴り。二度、三度、四度……あのー、長門さん? その蹴り方、後ろから見てると、ドラマでやってた『闇金融業者の追い込み』みたいですよ? 『そこにおんのは分かっとんのや。早(はよ)ドア開けんかいこるぁ。』 【そこにいるのは分かってんだ。早くドアを開けやがれごるぁ。】 『借りたモンは返すんが当たり前やろがぁ。ええ加減に観念せぇやぁワレぇ。』 【借りたモノは返すのが当たり前だろがぁ。いい加減に観念しやがれてめぇ。】 ……普段の長門さんの声で想像してしまいました。台詞は棒読みです。うは、すごくシュール…… 「……貫通しました。」 喜緑さんの声と同時に、長門さんは無言で身体を前に進めると……空間の途中から吸い込まれるように姿が消えました。 「突入成功。」 喜緑さんは、ふう、と一つ息をつきながら呟きました。 「それでは、移動しながら説明しましょう。」 あたし達は喜緑さんの誘導で、住宅街を移動しました。 情報統合思念体に存在する過激派のこと。 長門有希再構成計画。 長門有希不在の好機。 涼宮ハルヒ襲撃計画。 閉鎖空間式空間封鎖。 涼宮ハルヒの意識変化。 情報共有。 突入。 喜緑さんの説明が終わる頃には、駅前に着いていました。 「ほなら、僕達は、中に入った長門さんのリアクションを待つしかない、っちゅうことですか。」 【それじゃあ、僕達は、中に入った長門さんのリアクションを待つしかない、ということですか。】 「そういうことになります。」 長門さんが突入するために蹴破った穴は、すぐに塞がってしまった。だから、中で長門さんが状況を確認し、その後何らかの行動を起こす。あたし達はその行動を受けて、その後の自分達の行動を決める。 そうなったみたいです。 ちなみに移動したのは、もし喜緑さんも突入することになった場合に、涼宮さん達の目の前に現れない方が都合が良いから、です。長門さんはそのまま突入しちゃいましたけど。 喜緑さんの説明によると、あの時長門さんは、めちゃくちゃ怒っていたそうです。確かに、いつもの……消失する前の長門さんとは、ちょっと雰囲気が違うように見えたけど……あたしは驚いていたし、再構成された直後だから色々と違うのかな、くらいにしか思いませんでした。 しばらく駅前でたむろしていると、喜緑さんが緊迫した声で言いました。 「境界の状態が変化。突入可能状態……え? 応援要請? 全員で?」 そしてあたし達を見回して、 「長門さんからの応援要請です。全員で突入してほしいとのことです。」 「そんな大変なことになっとぉですか?」 【そんな大変なことになってるんですか?】 キョンくんが緊張した面持ちで問います。 「詳しい状況は不明です。中に入ってみないことには……皆さんは、異論ありませんか?」 あたし達は一様に承諾しました。 「それでは突入します。皆さん、はぐれないように手を繋いでください。」 喜緑さん、古泉くん、あたし、キョンくんの順に、一列になって手を繋ぎます。駅前なのに人通りがないのは……何かの『意思』でしょうか。何にしても好都合です。高校生男女が、一列になって仲良く手を繋いでるなんて、変な画ですからね…… 「空間切開。」 喜緑さんの手刀で十文字に切り裂かれた境界から、あたし達は閉鎖空間に突入しました。 中は、元の世界と『ほとんど』同じでした。違っているのは、空の色。そして、あたし達以外誰もいないだろうということ。 「状況が判明しました。」 喜緑さんが言いました。 「現在、長門有希は、涼宮ハルヒ、朝倉涼子両名と共に交戦中です。涼宮さんの手前、あまり情報操作が行えず、苦戦しているようです。そこでわたし達に別動隊として行動し、敵を攪乱し、戦力を分散させてほしいということです。」 涼宮さんの目の届かないところで、あたし達で戦ってほしいっていうことですか? 「その通りです。」 と言っても、この中でまともに戦闘経験があるのは、恐らく古泉くんぐらいです。『戦って』って言われても、そんなすぐに戦う技術を身に付けられるものではありません。 「もちろん、実際の戦闘に関しては、わたしが最大限支援します。少なくとも、防御に関しては何も問題ないと思ってもらって差し支えありません。」 喜緑さんは穏やかに微笑みながら、そう言い切りました。 「わざわざ僕達も一緒に、別動隊として、ということは、思いっきり派手にやった方がええっちゅうことですわな。」 【わざわざ僕達も一緒に、別動隊として、ということは、思いっきり派手にやった方が良いということですね。】 古泉くんは、何だか楽しそうです。それはあたしの偏見でしょうか。 「少なくとも涼宮ハルヒの思考では、そのように定義されているようです。」 ん? 何でそこで涼宮さんが? 「この空間を作ったのは、過激派です。ですが、長門さんが突入できたのは、涼宮さんの意識が変化したおかげです。つまりこの空間は、涼宮ハルヒの影響も受けているということです。」 「ちゅうことは、ここは《神人》がおらへん閉鎖空間、っちゅう表現が見合いでっしゃろか。」 【ということは、ここは《神人》がいない閉鎖空間、という表現が妥当でしょうか。】 「それに近いと思います。」 こうして、喜緑さんの指揮の下、部隊編成が始まりました。 「この空間は、涼宮ハルヒの能力を解析して得られた情報を利用して構成されています。したがって、『機関』の皆さんが閉鎖空間と呼ぶ場と性状が酷似しています。」 「ということは、あれでっか? 僕の能力が使えると?」 【ということは、僕の能力が使えると?】 「はい。そのままでは使えませんが、あなたの能力とこの空間を繋ぐ変換機構を構築すれば、可能になります。」 そう言うと喜緑さんは古泉くんに近付き、彼の頭の周辺にある空間を両手で探るように動かしました。 「あなたの能力とこの空間を繋ぐために、あなたの能力の出力波形を解析し、インターフェイスを調整しました。それではインターフェイスを供与します。力を抜いて楽にしてください。」 喜緑さんは、呪文のようなものを唱えました。 「インターフェイス、供与。」 ずぶ。 喜緑さんは、両手の親指を古泉くんのこめかみに突き刺しました。 「ひでぶっ!?」 ああ、古泉くんは驚きのあまり、奇声を発しちゃいました。あたしも驚きで声が出ません。 「ナノマシンを注入しました。これであなたは、閉鎖空間内と同様に能力を行使できます。」 言い終わるや否や、古泉くんは赤い光に包まれ、光球と化して宙に浮かびました。同時に、激しい金属音がして、何かが地面に転がりました。転がった物体を見て、キョンくんが言いました。 「……鉄筋?」 「朝倉さんの情報によると、敵は、この鉄筋を見えない場所から次々に撃ってくるようです。」 古泉くんは、光球になっている間は、そのような飛翔体も弾き返せるみたいです。 「これは……『インターフェイス』を挟んでいるせいか、光の色が薄いなど若干勝手が違うようですが、力の行使自体は全く問題ないようですね。じきに慣れるでしょう。」 そう言うと古泉くんは、あたし達の上空を飛び回り始めました。問題はないみたいです。 「あなたは空中戦担当ですね。念のために、あなたの防護壁の強化も施しておきました。」 そう言うと喜緑さんは、あたし達の周囲に防御フィールドを展開しました。その時あたしは、何か心に引っ掛かるものを感じていたけれど、それが何なのかは分かりませんでした。 「朝比奈さん。」 「はぃいっ!?」 いきなり話を振られて、思わず声が裏返っちゃいました。 「あなたの能力も解禁します。」 「ふえぇぇっ!?」 喜緑さんは、つかつかとあたしに歩み寄ります。思わず後ずさりするあたし。 「あなたには、訓練で身に付けた格闘能力の他に、涼宮ハルヒによって与えられた特殊能力もあります。」 特殊能力って何!? ってか、喜緑さん! あたしの格闘能力は禁則事項です! 「格闘能力は、先日の涼宮ハルヒとの戦闘により実証されています。その他にあなたには、以前の映画撮影の時に付与され、長門さんに封印された力がありますね。それを今から解禁します。」 映画の時って……まさか『アレ』!? そんな、あれは長門さんのおかげで使えないようになってるはず…… 「その力を中和している長門さんのナノマシンに情報を与えて、封印を解除し、制御しながら使用できるようにします。すぐ済みますから、力を抜いて楽にしていてください。」 あたしのすぐそばまで来ていた喜緑さんは、そのままあたしの首に抱きつくようにして顔を手で固定すると、 「情報伝達用のナノマシンを注入します。」 噛むんですか。やっぱり噛まれちゃうんですか。喜緑さんはあたしの顔に顔を近付け…… かぷ。 そのまま顔を通り過ぎて、あたしの耳を噛みました。甘噛みしました。はううぅぅ…… 「人間兵器、解禁。」 あたしの耳を噛み、(あたしの精神的に)たっぷりとナノマシンを注ぎ込んだ喜緑さんは、開口一番そう言いました。 「『みくるビーム』等が使用可能になりました。」 『みくるビーム』って…… 「さらに、あなたの格闘能力と組み合わせられるように、制御方式も調整しておきました。」 だからって……『人間兵器』は、あんまりです。 「『歩く凶器』の方が適切だったでしょうか?」 ……もう、いいです。くすん…… 「あなたにも活躍してもらわなければなりません。」 「俺ですか!?」 喜緑さんは、今度はキョンくんにつかつかと歩み寄りました。まさかキョンくんも戦うんですか!? でも確かに、この空間内に同行したということは、やっぱり戦力に数えられているわけですよね。 「んなこと言(ゆ)うても、俺は何の特殊能力もあらへんし……」 【んなこと言っても、俺は何の特殊能力もないし……】 「あなたには、武器を供与します。」 そう言うと喜緑さんは、何もない空間から、何かを掴んで引き出しました。 「これは……銃ですか?」 「MP5A5の形態を模した端末に、インテリジェントデバイスを組み込んであります。状況判断、照準等複雑な操作は、すべてこの端末が行います。あなたはただ、銃身の保持と大まかな管制、最終的な攻撃の意思決定及び命令を行うだけで済みます。」 MP5A5というのは、えっと……サブマシンガン(短機関銃)という武器で、拳銃弾を用いた機関銃。ある事件をきっかけに有名となり、この時間平面における世界各国の軍・警察の特殊部隊で、標準的な装備として制式採用されている、と史料にはあります。 いきなりサブマシンガンを手渡されたキョンくんは、少し戸惑っているようだけど、攻撃に参加することについては、異議がないみたい。『彼』も随分積極的になったなあ。 「要するに、簡単な操作で照準を合わせてくれる、便利な銃ってことですか?」 「簡単に言えばそうなります。ついでに言うと、弾切れもジャムも起こしません。それでは、あなたに必要な処置を施します。歯を食いしばってください。」 またナノマシン注入……え? 『歯を食いしばれ』? 「闘魂注入。」 ずぱーん。 喜緑さんの強烈な平手打ちが、キョンくんの左頬を捉えました。うわ、痛そう…… 「あなたに必要なのは、ナノマシンではありません。もう入っていますしね。この戦いで必要なのは、覚悟と気合です。」 何だかものすごく熱い台詞を吐く喜緑さん。SOS団はいつから熱血スポ魂漫画になったんでしょう。あ、いや、この間『調査』のためにそういう漫画を読んでたので、ついそんな例えをしちゃいましたけど。 「……喜緑さん。それ、絶対ネタ元偏ってますって。」 「そうですか?」 頬を押さえながらぼやくキョンくんに、少し首を傾げて答える喜緑さん。 あ、今の仕草、かなり可愛かったかも。長門さんとはまた違った風情の…… はっ! あたしったら、何を考えているの!? それでなくても、最近上の人から『余り女の子と仲良くし過ぎないように』って注意を受けてるのに。 そうなんです。最近のあたし、ちょっと変なんです。 この前、長門さんがあたしに、普段絶対に見せないような一面を見せてくれた時から。 最近、涼宮さんがあたしにいたずらする時の技が、やけに上手になってきたことから。 あたし、二人を変なふうに意識しちゃうんです。女の子同士なのに、変ですよね、禁則事項ですよね、こんなの。さっき喜緑さんに顔を近付けられたときも、ものすごくドキドキしちゃいました。全然変な意味はないって、分かってるはずなのに。 そんな益体もないことをつらつらと考えているうちに、皆の準備が整ったようです。 「本当に言葉通り、見えない所、あらゆる方位から狙撃されているようです。手強いですね。」 上空から古泉くんの報告。 「やはり、あなた達にも戦いやすいようにするためには、敵を可視化する必要がありますね。」 喜緑さんは、やや苦笑交じりに言いました。 「本当は、わたしが感知した情報を映像化して、皆さんの意識と直接共有すれば話が早いのですが、残念ながらジャミングが多くて、情報統合思念体との通信を維持するので手一杯です。朝比奈さんになら映像化しないで直接情報共有できるのですが、如何せん情報伝達そのものが妨害されているので、お手上げです。」 喜緑さんはあたしを見ながら残念そうに言います。ってか、喜緑さん! それは禁則事項ですってば! 「ふふふ。まあ、良いじゃないですか。」 ちっとも良くありません。 「とりあえず、手近にいるものから片付けましょう。」 そう言うと喜緑さんは、人差し指を前へ突き出しました。 「火炎呪文(メラゾーマ)。」 瞬間、喜緑さんの指先から巨大な火の玉が発生し、一直線に前へ飛んで行きました。そして、何もないように見える空間の中空で突然、何かにぶつかったように激しく炎が散り、後には、黒焦げになった人型の何かが転がっていました。 「他にも伏兵がいます。炙り出しますね。」 そう言うと喜緑さんは、今度は両拳を頭上で突き合わせると、呪文を唱えながら腕を左右に広げました。拳の間に火柱のアーチができあがります。 「極大閃熱呪文(ベギラゴン)。」 前に突き出された喜緑さんの両拳から、巨大な帯状の閃光と熱線が前に向けて放たれました。閃熱は、さっき黒焦げになった人型のいた辺りを広範囲に焼いていました。とんでもない威力です。 黒焦げからちょっと焦げた人型まで、いくつもの人型が姿を表しました。こんなに隠れていたのか。黒焦げになった方は分からないけど、焦げ目の付いた人型は……ストッキングで覆面していました。 「とりあえず、この近辺にいた伏兵には焼きを入れました。」 あのー、喜緑さん? あなたはなぜ普通に情報改変をしないのでしょうか。 「残念ながら、彼らへの直接的な情報操作は無効です。彼らも情報統合思念体の端末なので、お互いに手の内を知り尽くしているため、防護策が完全に施されているからです。それにこうした方が演出上、派手になりますから。」 随分ノリノリに見えるのは、あたしの気のせいでしょうか。 「涼宮さん達の姿を確認できました。ものすごい数の全方位一斉射撃を受けてますね。」 上空から偵察していた古泉くんが伝えてくれました。た、大変なことになってるんですね…… 「先ほどのわたしの攻撃で、敵も我々に攻撃の意思があることを認識したと思います。」 その為に、やたら派手な攻撃を……。それから、『可視化』と言っていた意味も分かりました。喜緑さんの攻撃を受けて、焦げ目が付いた敵は、あたし達の肉眼でも見えるようになっています。 「あくまでも対涼宮ハルヒ用、すなわち人間用に構築された空間なので、敵は光学的な偽装を行っています。ですから、可視化するには、光学的に何らかの標識を付けるのが一番簡単です。」 それなら、例えば塗料の霧を吹き付けるのでも良かったんじゃないですか? 「それも一つの手段ですが、攻撃も兼ねる方法を採った方が一石二鳥ですから。」 穏やかな笑顔で、さらりと物騒なことを言う喜緑さん。やっぱり端末の皆さんは、ちょっと怖いです。味方に付ければこの上なく頼りになりますが……あたしは、個人的には最も敵に回したくない相手です。 「我々の目的は、その大量の攻撃をこちらに引き付けること。すなわち、大量の鉄筋と敵に対処しなければならないということです。覚悟を完了してください。防御はわたしに任せて、目の前に立ち塞がるすべての愚かなる者に、等しく滅びを与えてください。作戦はただ一つ。『ガンガンいこうぜ』。わたしに言える事はそれだけです。」 『ガンガンいこうぜ』……あっ、史料にありますね。この時間平面で有名なロールプレイングゲームに登場する、AI戦闘の類型の一つで、残りマジックパワーを気にせず、各自の持てる最大威力の攻撃手段で総攻撃をかける、とあります。 古泉くんは親指を立て、キョンくんは『やれやれ』と、それぞれ臨戦態勢になりました。あたしもガッツポーズで答えます。 「総員、攻撃開始。」 喜緑さんの号令。よし、あたしも頑張ります! 「あ、朝比奈みくる、行きますっ! みっ、『みくるビーム』っ!!」 あたしはとりあえず、長門さん曰く不可視帯コヒーレント光、通称『みくるビーム』で、辺り一面を(感覚としては)薙ぎ払ってみました。 こうして、あたしの攻撃を合図に、戦いは始まりました。 【参考:Extra.4 喜緑江美里の報告】 ←Report.16|目次|Report.18→
https://w.atwiki.jp/tfei/pages/52.html
執筆日 2008年12月18日 備考 長門消失記念SS。 世界改変の前日を舞台に。 長門有希の夢幻 Dec.17 (Monday) Weather sunny Temp. low Recorded by YUKI.N 幼いころから血圧の低いわたしは、どうしようもなく朝が弱かった。それは小さなころから変わらないことで、未だに治し方ひとつ分からない自分の数多い欠点のうちのひとつだ。人に当たったりすることはないけれど、気持ちのよい目覚め、というものを、未だかつてわたしは体験したことがない。それは12月17日、朝から冷え込んでいた今日も、まったく変わりなく続く習慣であった。 だらしのないわたしは相変わらず布団が恋しかったというのに、1分の狂いもなく朝の6時半に朝倉さんはわたしの部屋にやってくる。わたしのためを思ってくれているのは分かるのだけれど、出来ればあと30分、いや、15分は寝かせて欲しかった。 「朝から何言ってるのよ。置いてくわよ!」 寝かせて欲しいだなんて言っても、きっと朝倉さんはわたしを置いていかない……だろうか?わからない。ひょっとしたら本当に置いて行ってしまうかもしれない。朝倉さんは優しいけれど、わたしなんかに長々と構っていられるほど暇なわけでは、決してないはずだからだ。 一昨日は図書館で丸一日を過ごし、昨日はずっと家にいた。部屋の掃除をしようと思ったけれど、もとよりわたしの部屋は散らかりようがない。テレビでよく見るような生活感に満ちあふれた部屋ではなく、かといってモデルルームのようというわけでもなく。要するに寒々しいのだ。別に生活に困るようなことはないけれど、せめてカーペットくらいは。いやむしろ防犯のためにカーテンくらいはなければならないだろう。 しかしこの部屋には盗られて困るようなものなど何もないし、きっとわたし1人ではカーテンを選べないと思う。どうせまた、迷うだけ迷って、結局何も買えずに帰ってきてしまう可能性がかなり高い。 もうすぐクリスマスが近い。朝倉さんは誰かと遊ぶのだろうか。カラオケかショッピングか……外出の少ないわたしには見当がつかないけれど、どちらにしろわたしのカーテン選びに付き合ってくれる時間はなさそうだ。仕方ない……また今日もこの部屋は、寸分の狂いもなくこのままだ。変わるのはせいぜい、本棚に片付けてある本の冊数くらいのものだろう。 わたしは顔を洗い、手櫛で髪をといて洗面所を去る。朝ご飯はたいがいパンで済ませるけれど、朝からカレーパンや焼きそばパンは食べられない。6枚切の食パン1枚で、ちょうどいいのだ。 髪に関してはたいてい朝倉さんに直されてしまう。手櫛では不足なのだろうか。わたしは髪が硬いから、あまり手間をかけても意味はないのに。それなりに見られるようになっているのは、ひとえに朝倉さんの力によるところが大きい。 制服に着替えて――この季節なら寝間着は2日続けて着ても大丈夫なはず――、歯を磨き、わたしは家を出た。所要時間は40分弱。もう少し早くしないと朝倉さんに申し訳ないことは重々承知しているのだけれど、わたしの朝の弱さはいつまで経っても治らない。特に冬場は。 先週、朝倉さんに寝顔を撮られた。流出させずに自分のお気に入りにして楽しむ、と言っていたが、いったい他人の寝顔でどう楽しもうというつもりだろうか。面白くも何ともない寝顔だ。寝顔が面白くてもそれはそれでおかしなことになるけれど。 「長門さん」 登校途中、わたしと一緒に歩きながら朝倉さんは話しかける。 「なに?」 「期末テスト、どうだった?」 「いつも通り、だと思う」 先週末までが期末テスト期間だったのだ。しかしわたしは人並み以上に勉学に身を入れているわけでもない。成績は悪くないとは思うけれど、可もなく不可もなく、没個性的と言われれば、わたしはきっと反論できないはずだ。 「長門さんのいつも通りは相当よね」 「わたしは普通に勉強してるだけ」 「どうやったらそんなにいい点数取れるの?わたしにも教えて欲しいわよ」 「特別なことは何も……」 「それじゃ、わたし達が必死に勉強したって報われないわ」 「……ごめん」 「冗談よ。でも本当に、長門さんはすごいわよねぇ」 よく言う。学年ナンバー1の委員長の台詞ではないと思うし、仮に委員長でなくても彼女は十二分に優等生だ。さらにわたしと違ってスポーツもよくできる。 毎度毎度思うのだが、いったい彼女はなぜわたしの友人でいてくれるのだろうか?半分――或いはそれ以上に自分のことだというのに、わたしにとっては未だに謎なのだ。 「長門さんだってこないだの持久走はクラス1位だったじゃない。運動神経を少し分けて欲しいくらいよ」 「朝倉さんはバレーボールができるから」 「あれは中学まで。高校入ってまで続けたかったわけじゃないし」 「でも……」 「人生のうちで1回くらいはスポーツでもやっておこう、って思っただけよ。まあ下半身やら腕やらがこれでもかってほど太くなってなかなか戻らないから今になって困ってるんだけど」 「……」それは発育の悪いわたしと比べて、の話だ。朝倉さんはグラマラスで女性らしいと思う。正直うらやましいけれど、わたしには似合わないだろう。 「それに、今はこうやって長門さんの世話を焼いてる方が楽しいしね」 「……ありがとう」 「長門さんは面白いから、見てて飽きないわ」 「…………ひどいよ」 「ごめんごめん、今朝はちょっと冗談が過ぎてるわね。以後善処します」 朝の空はものの見事に晴れている。ひょっとしたら記録上は快晴になるかもしれないくらいの空が寒さを和らげてくれた。太陽のおかげで少しは暖かくなったような気がする。何となく、昨日の最後に聴いた曲にふさわしい。空と雪の色の対比について歌われていた。情景が思わず想像できた。この15年間に1度も行ったことがない、スキー場の光景が。 「長門さん、わたしのCD聴いてくれてたの?」 「1日1回は聴くようにしてる」 「さっすが長門さん!ねぇねぇ、どの曲が気に入った?」 「……4曲目」 「4曲目、と……長門さん、ひょっとして地元に想い人でもいるのかしら?」 そんなわけがない。地元にいい思い出なんてひとつもないというのに、想い人なんて。 話が展開出来そうにないので、わたしはずっと気になっていたことを聞いた。「2番のサビの意味は、新幹線のこと?」 朝倉さんの表情が輝く。「そう!長門さん鋭いわ!あの『白鼻のトナカイ』っていうのは、わたしも新幹線だと思うの。遠距離恋愛の歌だから……でもあんな喩えがよく出てくるわよねぇ」 朝倉さんがそう言うのなら、私の見解は当たらずとも遠からず、といったところなのだろう。 そもそもは今月の頭に、朝倉さんが突然CDを貸してくれたのが事の発端だ。しかもデッキごと、というのがおかしな話で、それはわたしがラジカセの類を持っていなかったからだ。否、わたしの部屋には何もないのだから、取り立ててラジカセだけがないというわけではないのだけれど。 CDは朝倉さんが自分で選曲したらしい。1人のアーティストの、しかも冬の楽曲だけで1枚のアルバムになっていた。 わたしは音楽の素養があるわけではないけれど、それでもこのアルバムは素晴らしかった。優しげな曲の合間合間に、目が覚めるようなはつらつとした曲がアクセントを効かせる。この順番まで朝倉さんがこだわっているのならすごい。何でもそつなくこなす朝倉さんは、またわたしと差をつけてしまうかもしれない。 「あら、あれはリリース順に並べただけよ?」 「……本当?」 「本当。たまたまバランスのいい順番になったから、そのまま手をつけなかったの」 信じられない。いや、朝倉さんが嘘をついているという意味ではなく、単純にわたしは、すべてに驚いているのだ。朝倉さんは、序盤にCの曲が固まっちゃったわね、なんて言っているけれど。どういう意味だろう。 Next Back to Novel
https://w.atwiki.jp/3kshiki/pages/337.html
span style="font-size medium;" strong 長門有希ちゃんの消失 /strong /span - a href="http //www55.atwiki.jp/3kshiki/pages/337.html" target="_blank" 編集タグ /a br / a href="http //www.yukichan-anime.com/" target="_blank" アニメ公式 /a / a href="http //ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E9%96%80%E6%9C%89%E5%B8%8C%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AE%E6%B6%88%E5%A4%B1" target="_blank" Wikipedia /a / a href="https //twitter.com/yukichan_anime" target="_blank" Twitter /a br / br / a href="http //www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00UVG9G8A/-22/ref=nosim/" rel="nofollow" target="_blank" img src="http //ecx.images-amazon.com/images/I/515Q16VaFhL._SL200_.jpg" style="border none;" alt="【Amazon.co.jp限定】長門有希ちゃんの消失 第1巻 限定版 (複製原画・収納ファイル付) [Blu-ray]" / /a div style="border-style solid;border-width 1px;padding 5px 5px 5px 5px;width 200px;" strong 目次 /strong ul li a href="#basics" 基本情報 /a /li li a href="#musicinfo" 音楽情報 /a /li li a href="#musicmenu" 各話使用音楽一覧 /a /li /ul /div table tr bgcolor="#DEB887" td colspan="2" align="center" strong 基本情報 /strong /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" width="120" 監督 /td td 和田純一 /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 音響監督 /td td a href="http //ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B6%B4%E5%B2%A1%E9%99%BD%E5%A4%AA" target="_blank" 鶴岡陽太 /a /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 音楽プロデューサー /td td a href="http //ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%8E%E8%97%A4%E6%BB%8B" target="_blank" 斎藤 滋 /a (ランティス)、 br / 吉江輝成(ランティス) /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 音楽制作 /td td a href="http //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B9" target="_blank" ランティス /a /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 話数 /td td 全16話 /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 放送時期 /td td 2015年04月~2015年07月 /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 原作区分 /td td 漫画 /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 関連作品 /td td ■ b 涼宮ハルヒの憂鬱(2006年版) /b br / TVアニメシリーズ第1期。京都アニメーション制作。 br / 2006年04月~2006年07月放送。全14話。 br / ■ b 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 /b br / スピンオフアニメ第1弾。Webアニメとして配信。 br / 京都アニメーション制作。 br / 2009年02月~2009年05月放送。全25話。 br / ■ b にょろーん ちゅるやさん /b br / スピンオフアニメ第2弾。Webアニメとして配信。 br / 京都アニメーション制作。 br / 2009年02月~2009年05月放送。全13話。 br / ■ b 涼宮ハルヒの憂鬱(2009年版) /b br / TVアニメシリーズ第2期。京都アニメーション制作。 br / 2009年04月~2009年10月放送。全28話(再放送14話+新作14話)。 br / ■ strong 涼宮ハルヒの消失 /strong br / アニメ映画第1作。京都アニメーション制作。 br / 2010年02月06日公開。上映時間162分 br / ■ span style="color #FF0000;" strong 本作 /strong /span br / スピンオフアニメ第3弾。TVアニメシリーズ。 br / サテライト制作。 br / 2015年04月~2015年07月放送。全16話。 br / /td /tr /table h4 id=musicinfo 音楽情報 /h4 hr / table width="800" tr bgcolor="#DEB887" td width="65" align="center" strong 区分 /strong /td td align="center" width="300" strong 楽曲情報 /strong /td td align="center" strong 発売情報 /strong /td td width="105" align="center" strong 発売日 /strong /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" rowspan="3" 劇伴音楽 /td td rowspan="3" a href="http //ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E8%97%A4%E9%81%94%E4%B9%9F" target="_blank" 加藤達也 /a br / ※クレジットはないが、モーリス・ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」のアレンジバージョンが作品のテーマ曲として使用されている。 br / br / ※クレジットはないが、本編TVアニメシリーズ第1期・第2期の劇伴(神前 暁が作曲)のアレンジバージョンも使用されている。 br / 「おいおい」(第2話、第3話、第6話、第7話、第15話、第16話) br / 「やれやれおいおい」(第3話、第6話、第8話、第14話~第16話) br / 「ハルヒの告白」(第4話、第5話、第14話) br / 「短冊の向こうに」(第5話、第14話) ※第2期の劇伴 br / 「ある雨の日」(第10話) br / 「いつもの風景」(第16話) br / /td td span style="color #32CD32;" BD /span strong 『長門有希ちゃんの消失 第1巻』 /strong br / ※Blu-rayおよびDVDの限定版の特典として、特製CD(サントラ+ラジオダイジェスト版+書き下ろしオリジナルドラマ)が付属。 br / /td td a href="http //www55.atwiki.jp/3kshiki/pages/317.html#d20150626" target="_blank" 2015年06月26日 /a /td /tr /td td span style="color #32CD32;" BD /span strong 『長門有希ちゃんの消失 第2巻』 /strong br / ※Blu-rayおよびDVDの限定版の特典として、特製CD(サントラ+ラジオダイジェスト版+書き下ろしオリジナルドラマ)が付属。 br / /td td a href="http //www55.atwiki.jp/3kshiki/pages/394.html#d20150731" target="_blank" 2015年07月31日 /a /td /tr tr td ※おそらく後続の巻にも全てサントラCD付属。 br / br / /td td 不明 /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" OPテーマ /td td id="op" 【 a href="http //www.kasi-time.com/item-75742.html" target="_blank" 歌詞 /a 】 strong 「フレ降レミライ」北高文芸部女子会【長門有希(cv.茅原実里)、朝倉涼子(cv.桑谷夏子)、朝比奈みくる(cv.後藤邑子)、鶴屋さん(cv.松岡由貴)、涼宮ハルヒ(cv.平野 綾)】 /strong (第2話~第16話) br / 作詞:畑 亜貴 作曲:佐々倉有吾 編曲:渡辺和紀 br / ※OPクレジットでは歌は「北高文芸部女子会」表記。 /td td span style="color #0000FF;" S /span strong 『フレ降レミライ』 /strong 北高文芸部女子会【長門有希(cv.茅原実里)、朝倉涼子(cv.桑谷夏子)、朝比奈みくる(cv.後藤邑子)、鶴屋さん(cv.松岡由貴)、涼宮ハルヒ(cv.平野 綾)】 br / ※ラジオ「長門有希ちゃんの消失」主題歌も収録。 /td td a href="http //www55.atwiki.jp/3kshiki/pages/317.html#d20150429" target="_blank" 2015年04月29日 /a /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" rowspan="2" EDテーマ /td td id="ed" 【 a href="http //www.kasi-time.com/item-76115.html" target="_blank" 歌詞 /a 】 strong 「ありがとう、だいすき」茅原実里 /strong (第1話~第12話、第14話~第16話) br / 作詞:畑 亜貴 作曲:rino 編曲:Evan Call(Elements Garden) br / ※第1話では「テーマ曲」表記。 br / ♪ a href="https //www.youtube.com/watch?v=yl5n---yxIM" target="_blank" Music Clip Short Version /a (Youtube)[01 43] /td td span style="color #0000FF;" S /span strong 『ありがとう、だいすき』 /strong 茅原実里 /td td a href="http //www55.atwiki.jp/3kshiki/pages/317.html#d20150624" target="_blank" 2015年06月24日 /a /td /tr tr td id="ed2" strong 「ありがとう、だいすき」長門有希(CV:茅原実里) /strong (第13話) br / 作詞:畑 亜貴 作曲:rino 編曲:Evan Call(Elements Garden) br / ※EDテーマの別アレンジVer.。また、歌の名義がキャラクターになっている。 /td td 不明 /td td 不明 /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" rowspan="3" 挿入歌 /td td id="in01" strong 「ハレ晴レユカイ」朝倉涼子(cv.桑谷夏子) /strong (第1話) br / 作曲:田代智一 br / ※クレジットなし。 br / ※本編のTVアニメシリーズ第1期EDテーマ。 br / ※第1話で朝倉さんが料理時に鼻歌で歌った。 /td td おそらく音源化はされない /td td 不明 /td /tr tr td id="in02" 【 a href="http //www.kasi-time.com/item-1215.html" target="_blank" 歌詞 /a 】 strong 「見つけてHappy Life」朝比奈みくる(CV:後藤邑子) /strong (第8話) br / 作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:橋本由香利 br / ※クレジットなし。 br / ※本編のTVアニメシリーズ第1期キャラクターソング。(歌はCD版とは異なる) br / ※朝比奈さんがカラオケで歌った。 /td td ※今回の歌唱バージョンの音源化は未定 br / br / ■参考(オリジナルのキャラソン音源収録CD) br / span style="color #0000FF;" S /span strong 『TVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』キャラクターソング Vol.3 朝比奈みくる』 /strong 朝比奈みくる( CV.後藤邑子) 2006年07月05日発売 br / span style="color #FF0000;" A /span strong 『涼宮ハルヒの記録』 /strong 2009年08月05日発売 /td td 不明 /td /tr tr td id="in03" strong 「giragira shake」キョン(cv.杉田智和) /strong (第8話) br / 作詞:真崎エリカ 作曲・編曲:酒井拓也(Arte Refact) br / ※クレジットなし。 br / ※本編のTVアニメシリーズ第1期EDテーマ。 br / ※キョンが温泉でのカラオケで歌った。 /td td 音源化されるのか!? /td td 不明 /td /tr /table div align="right" a href="#title" topに戻る /a /div h4 id=musicmenu 各話使用音楽一覧 /h4 hr / 各話で使用された音楽の一覧。 br / br / ・ここでのOP・EDの定義はクレジット上の表記ではなく、OP・EDクレジットのテロップが表示されている場面(多くはOP・ED映像と共に流れる)で流れていた楽曲。 br / ・基本曲名のみで表記。歌手などが違う場合その都度表記。 br / ・初使用の楽曲は太字で表記。 br / br / table width="750" tr bgcolor="#DEB887" td width="45" strong 話数 /strong /td td width="175" strong サブタイトル /strong /td td width="170" strong OP /strong /td td width="170" strong ED /strong /td td width="200" strong 挿入歌他 /strong /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第1話 /td td 大切な場所 /td td なし /td td strong 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /strong br / ※「テーマ曲」表記。 /td td strong 「 a href="#in01" ハレ晴レユカイ /a 」 /strong br / ※クレジットなし。 br / ※朝倉さんが料理しているシーンで鼻歌で歌った。 /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第2話 /td td もろびとこぞりて /td td strong 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /strong /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第3話 /td td 涼宮ハルヒ!! /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第4話 /td td Be my Valentine /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第5話 /td td 彼女の憂鬱 /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第6話 /td td Over the Obento /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第7話 /td td ねがいごと /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第8話 /td td 涼宮ハルヒの謀 /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td strong 「 a href="#in02" 見つけてHappy Life /a 」 /strong br / ※本編TVアニメシリーズ第1期のキャラクターソング。 br / strong 「 a href="#in03" giragira shake /a 」 /strong br / ※凄く「ultra soul」。ハイ! br / /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第9話 /td td その手を… /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第10話 /td td サムデイ イン ザ レイン /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第11話 /td td 長門有希ちゃんの消失I /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第12話 /td td 長門有希ちゃんの消失II /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第13話 /td td 長門有希ちゃんの消失III /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td strong 「 a href="#ed2" ありがとう、だいすき /a 」 /strong br / ※EDテーマの別アレンジVer。 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第14話 /td td 彼女の戸惑い /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第15話 /td td 彼の迷い /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr tr td bgcolor="#FFEFD5" 第16話 /td td 花火 /td td 「 a href="#op" フレ降レミライ /a 」 /td td 「 a href="#ed" ありがとう、だいすき /a 」 /td td なし /td /tr /table div align="right" a href="#title" topに戻る /a /div