約 24,296 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2638.html
長門有希の憂鬱Ⅰ 一 章 やれやれだぜ。俺は朝比奈さんを待ちながら呟いた。このセリフ、何回言ったことだろう。 ハルヒがSOS団を立ち上げてからというもの、このセリフを吐かなかったことはない。 俺はきっと死ぬまでこの言葉を言いつづけるに違いない。 さて、今年も残すところあと数日だが、年が明ける前に俺は朝比奈さんに折り入っての頼みごとをしなければならなかった。 俺は十日前の十二月十八日に戻らなければならないことになっている。 戻ってなにをするのかと言えば、特別なことをするわけじゃない。 ただ自宅から学校に通って、一度やった期末試験を受けなおさなければならないだけだ。 試験はどうでもいいんだが、考えようによっちゃこれ、百点満点を取るチャンスかもしれないな。 ハルヒに国立を受けろと言われたので、ここで成績アップしといても天罰はくだらないだろう。 本当は俺自身の身代わりとして過去に飛ぶだけなのだ。要は、留守番である。 その日、未来の俺に借りを作っちまったのは俺なんだが、安易過ぎた気もする。 朝比奈さんにどう説明したものかずいぶん迷っていた。 これは俺が作った規定事項なのだが、実は未来にはその間俺がどこでなにをしていたのかという事実が残っていないんだ。 「朝比奈さん、ちょっとお願いがありまして」 「なんですか?」 「俺を今月の十八日に連れて行ってほしいんです」 「あれれ、そうなんですか?既定事項?」 「既定ではないんですが、どう説明すればいいのかちょっと難しくて」 「ちょっと上の人に聞いてみますね……OKみたいですよ。 キョン君は私の知らないところでいろいろ働いてるのね」 「いやぁそういうわけでもないんですが」朝比奈さんにそう言われると照れてしまう。 「十八日って、なにか特別なことありましたっけ?」 俺は朝比奈さんにこう言わなければならなかった。 「すいません、禁則事項です」今度は立場が逆だった。 そう、十八日、事の起りは古泉が奇妙な小説を部室に持ち込んでからだった。 ここにいる宇宙人、未来人、超能力者、そして一般人の四人は黙りこくっていた。 古泉が持ち込んだ一冊の文庫本を取り囲んで、四つの組織の代表(俺は一般市民代表だからな)が 正体不明の危機の前触れを感じていた。 長門と朝比奈さんがほとんど同時に、この文庫本の内容が禁則事項に指定された言った。 二つの組織で危険信号が出たということは相当ヤバい本なのか。 「貸して」しばらく考えていた長門が手を差し出した。 「……読んでみる」 「それはまだ待ったほうが……」古泉が止めようとした。 「長門のほうが物知りだし、分析してもらえばいいんじゃないか」 「それはそうですが……これがいづれかの敵対勢力の罠だった場合を考えると」 制するまもなく長門はページをぱらぱらとめくっていた。 数十分間、長門はページをめくりつづけ、俺と古泉と朝比奈さんは長門が何か反応するのをじっと待っていた。 「これは……わたしたちの未来……」読みながら呟いた。 それは一瞬の出来事だった。 長門がスクと立ち上がり、ひざの上から文庫本を落とした。視線が中をさまよった。 「エマージェンシーモード」 長門の影が白い光の球に包まれた。 「長門さん!?」朝比奈さんが叫んだ。 「長門!?どうした!」 俺は椅子から飛び起き、消えていく長門の腕を捕まえようとした。 俺の手は白い光の壁を突き抜けて空を切った。 長門は一瞬、俺を振り向いた。 最後に耳にしたのは長門の呟くような、かすれた声だった。「わたしは……ここにいる……」 文庫だけが床の上に残っていた。 残された三人はしばらく呆然としていた。 「長門さんが……」朝比奈さんは長門が座っていたあたりを、その名残を探すように触れた。 「なんということでしょう。これは緊急事態です。 僕のせいで長門さんが消えたと情報統合思念体に知られたら、 思念体と機関との関係が悪化しかねません」 「それより長門の消息が心配じゃないのか!?」 「もちろんそうですが」 「それにもう知られてるだろう」俺は上を指差して言った。 部室のドアをノックする音に、三人ともビクっとした。 「どうぞ」朝比奈さんが応えた。 「あの、喜緑です……」ドアの向こうから覚えのある声が聞こえた。 「長門さんの件で……突然失礼します」ずいぶんと久しぶりな登場だ。 派閥は違うが情報統合思念体から派遣されたアンドロイド、早い話、長門のバックアップだ。 「今しがた上のほうから連絡が来て、あの……前置きは抜きでよろしいでしょうか」 「ええ、こちらもたった今、目の前で起きた現象にどう対応するべきかと焦っているところでした」 さわやかで、かつ深刻な笑顔の古泉が言った。アンビバレンツかよ。 「この文庫本なんですが、読んでる途中で長門が消えてしまったんです」 俺はもうこれは黒魔術の原書かなにかのようにその本を指でつまんで差し出した。 「再発するかもしれません。内容は読まないでください」古泉が言った。 喜緑さんは表紙、背、背表紙とくるりと回して眺めた。 「上のほうに問い合わせてみましたが、わたしの見る限り、長門さんからの報告以上のことは分からないようです」 「いちおう僕が指紋を照合するつもりにしています」 「そちらの出所のほうはお任せします。問題は長門さんがどこへ行ったのか、なのですけれど」 「長門さんは喜緑さんにはなにかメッセージを残しましたか」古泉が尋ねた。 「いいえ何も。エマージェンシーモードに入ったことだけ知らせてきました。つまり、未知のトラブルです」 「もしかして過去か未来に飛んだんじゃありませんか?」 「そうではないみたいです。情報統合思念体が存在するどの時空にも現れてはいないということなので」 もしかして長門は死んだんじゃないですよね。俺は血の気が引くような質問をしていた。 「わたしたちは情報統合思念体の一部なので、物理的に死ぬ、ということはないと思います。 体が消えても思念体に戻るだけで」 「じゃあどこかで生きているんですね?」 「分かりません……」 これはいったい。 「失礼、ちょっと電話をかけてきます」古泉は席を立って廊下に出た。 数分間、俺は腕組みをしたまま黙っていた。 そこにいる皆が黙り込んでいた。時計を見ると七時を回っていた。 「機関では警戒態勢を敷くことにしました。 喜緑さん、よろしければ連絡用に携帯の番号を教えていただけませんか」 「はい」 「ではまず、僕は機関に戻ってこの本に関する情報を集めます。 朝比奈さんはその、禁則に触れない部分で情報をいただければと思います。 喜緑さんは長門さんの消息について何か分かったら教えてください」 あれれ、古泉が仕切り始めたぞ。まあいいか。 皆はそれぞれうなずいて、とりあえず解散することにした。 こういうとき一般人の俺だけ役に立たない。 もし明日の朝までに長門が戻らなければ、学校には親族の不幸で休むと喜緑さんから連絡をいれてもらうことにした。 不幸なのは長門本人かもしれないが。 その日の夜、風呂に入ったあと、台所で牛乳を飲んでいると電話がかかってきた。 「キョンくん、電話だよ~。お・ん・な、のひとから」 「大声で言わんでいい」最近やけにマセてきてる気がする。 俺はコードレスホンの子機を持って自室に入った。 「こんばんわ、喜緑です。今お時間よろしいでしょうか」 「あ、先ほどはどうも。その後何か進展ありましたか」 「いえ、特に分かったことはないんですが、少しお話しておきたいことがありまして」 「ええ。なんでしょう」 「……地球時間でいうところの数億年前のことなんですが」 突然気が遠くなりそうだった。 「この銀河から二百二十万光年離れたところに次元断層が発生して、 調査に向かったわたしたちのうちのひとりが行方不明になったことがあったんです」 「どこに行ってしまったんです?」 「どこというより、いつ、であるかもしれません。 別の次元の、さらに二億年ほど前に遡っていました」 「その人、じゃなくて思念体は無事だったんですか」 「戻ってきませんでした。最後の通信内容でそこが異世界だと分かっただけで」 ……もしかしたら長門もそこへ? 「長門さんのシグナルがどの時空にもないということは、同じルートを辿ったか、 あるいは似たような境遇にいるか、という可能性はあります」 「その別世界っていうのは、ここからどれくらい離れてるんです?」 「物理的な距離で測ることはできないんです。 たとえば、一枚の紙があるとして、わたしたちが表にいるとします。 向こうの世界は紙の裏側か、もしくは表と裏の間にあるんです」 なるほど。幾何学的知識が低レベルの俺には理解できないことは分かった。 「そういえば、異世界人といえばハルヒが集めようとした残りの人材なんですが。 それとは関係あります?つまり、ハルヒが望んでこの事件が起こった?」 「それはまだ分かりませんわ。経過を見てみないことには」 「あるいは敵対勢力の干渉とか……」 「その可能性も否定できません。実は情報統合思念体が把握している異次元というのも、 実際に存在するんです」 知らなかった。それは初耳です。 「周防九曜さんがいるような世界もそのひとつで、お互いになんとかコミュニケーションを取れている世界もあります」 「その異世界の誰かと連絡取れたりはしないんですか?長門の行方を知る手がかりに」 「情報統合思念体に相当する存在がいる、いくつかの世界にはすでに調査依頼してあります。 大方の異世界とは協定があって、互いに干渉しないことになっているんですが」 こういう事態だ。情報統合思念体には奔走してもらおう。 「それから、これが重要なことなんですが、 思念体に相当する存在がいない世界、地球人がいない世界、 さらに未知の世界も多くあります」 ── もしかしたら、わたしたちが知っているのはほんの一握りなのかもしれません。 喜緑さんは、なぜかそこで少し悲しげな声になった。 「長門なら、どんな方法を使ってでも連絡してきますよ。 それに行方不明になったとしたらハルヒが黙っちゃいません」 「そうですわね」 「いざとなったらハルヒという切り札を使いましょう。 あいつのパワーはどんな世界にでも通用すると、俺は信じてますから」 「……」喜緑さんは笑ったようだった。 それからしばらく世間話をしつつ、俺はおやすみなさいを言って切った。 これまであまり面識はなかったが、喜緑さんは人間に大して理解のある人らしい。 長門が消えて二日目が過ぎた。 文芸部部室には本来の部員ひとり分だけスペースが空いて、実に空虚な感じだった。 ハルヒには、実家に不幸があって帰ったんだろうとごまかしておいたが、信じたかどうかは定かではない。 俺は長門の身を案じていた。 二日ということはタイムトラベルで別時代に行ったわけではないということだ。 なぜなら、戻ってくる可能性があるなら即現れるからだ。 それが一分後でも二分後でもたいした違いはない。ところがそれが二日間ということは、 なんらかの事故が起こって戻って来れないと考えるべきだろう。あるいは、戻る手段がないか。 帰りがけ、俺は朝比奈さんと喫茶店で待ち合わせた。 「長門が消えてからもう二日になります」 「あれから情報開示してくれるよう頼んではみたんですが、 今回のことは私の知る限り、私たちの未来に関わっている事件ではないみたいなんです」 「つまり、長門が無事戻ってくるかどうかは分からない?」 「それは禁則事項なんですが、長門さんそのものが時間的制約を受けない人ですから、 未来に存在してもそれが今回消えた長門さんなのかどうかは分かりません。 情報統合思念体が用意したバックアップコピーかもしれませんし」 「つまり同位体ってやつですか」 「ええ。私たちから見れば異時間同位体です」 つまり長門は未来に存在するわけだ。朝比奈さんは遠まわしにそう言っている。 「以前長門が暴走したとき、俺がハルヒ一同SOS団が存在しない世界に行ったときのことですが」 「ええ」 「未来からの干渉で修復しましたよね」 「ええ。それが既定事項でした」 「あのときと同じようにいかないんですか。つまり、長門が消えてしまう前に止めに入るとか」 「それが、今回のは既定ではないんです。 つまり、そのとき私が止めに入ることは既定事項ではないということです。 それに長門さんの組織とは干渉しない暗黙のルールみたいなものがあって、簡単には手が出せません」 「なるほど」 「それに私たちが干渉するのは時空震が起るような場合だけですから」 「つまり今回は長門個人に降りかかった災難だと」 「そういうことになります。今のところは静観するしか」 「そうですね」 「でも、できるかぎりの支援はするつもりです。長門さんは親しい友達ですから」 ふたりともしばらく無言のままお茶をすすっていた。 たぶん朝比奈さんも、長門やハルヒたちと遊んだ日々を思い出しているのだろう。 「未来からも今回の件を観測しています。未来でも情報統合思念体とは接触できますから」 朝比奈さんとしゃべっているうち、三十分ほどして古泉が現れた。 「遅れてすいません。あの本に関する調査結果を機関から受け取ってまいりました」 「古泉くん、おつかれさま」 「ありがとうございます、朝比奈さん」 「単刀直入に申しますと、あの本の著者は存在しません」古泉は本題を切り出した。 「存在しない!?」 「谷川流なる人物は、角川書店はおろか、住基ネット、警察、FBI、CIA、 果てはインターポールのデータベースにも存在しません。 それから指紋の照合結果も、やはり同じです。 あなたと僕と長門さんの指紋を除き、異なる二名の指紋を検出しましたが、 機関で知りえる限りでは存在しない人物のものです」 それだけの情報を簡単に入手できるなんて、機関は地球最大の諜報組織じゃなかろうか。 「異なる二名か……気になるな」 「それと、先日は見落としていた、重要な点があります。 奥付の日付に気が付かれましたか。あの版の日付は一年後、我々から見ると未来です」 「ということは未来から送られてきたわけか」俺と古泉は朝比奈さんを見た。 「未来での敵対する組織とは関係ありませんか?」 「ええと……それは禁則事項に抵触するので言えないんですが……」 朝比奈さんは手を右の耳に当てて、遠くのなにかを聞くような仕草をした。 「許可が下りました。お教えできるのは、十年後、あるいは二十年後の未来にもこの人は存在しない、ということです」 「未来にも存在しないっていうのは、ええとつまり」俺はまた頭痛がはじまりそうだ。 「となると、別の時空、別の次元からの贈り物と考えるのが妥当でしょうか」古泉が割り込んだ。 「贈り物って、俺には罠を仕掛けられたとしか思えないんだが」 「その可能性は大いにあります。僕を狙ったものか、長門さんを狙い撃ちしたものなのかは分かりませんが」 「お前に送られてきたのなら、機関の敵対勢力じゃないのか」 「今のところは分かりません。その懸念もあって、僕には今、二十四時間監視がついています」 古泉はタイピンを指で示した。おそらく小型カメラかマイクか、あるいは発信機なのだろう。 「朝比奈さんとさっき話してたんだが、未来にいる長門は俺たちの知る長門だという保証はできない、らしい」 「そうなんです。情報統合思念体はいくつもの長門さんの同位体を持っていますから」 古泉はしばらく考えた末、口を開いた。 「長門さんの連続性が途絶えると、この時空の未来には僕たちの知っている長門さんは存在しない。 朝比奈さんの知る歴史にこの事件がないとすれば、なんらかの異変があり僕たちの記憶には残らない」 それから古泉が放った言葉は、俺に衝撃を与えた。 「だとすると、僕たちの長門さんはこの時空から消えてしまうことになります」 「そんな……」 俺は言葉を失った。古泉も朝比奈さんも。 次元の狭間に消えてしまいそうな、長門の小さな背中が脳裏に浮かんだ。 喫茶店を出て駅まで行って、朝比奈さんとはそこで別れた。手を振る姿がまぶしい。 「情報不足の現状では、当面は様子を見るしかありませんね。ともかく、長門さんの無事を祈るしか」 「そうだな……」 俺は古泉と別れてそのまま自宅へ帰ることにした。 長門のいない俺たちに、いったい何ができるというのだろう。 改めて気づく。いままでどんなトラブルも乗り越えることができた俺たちにとっての、あいつの存在の大きさを。 その夜、俺は夢を見た。 街灯の下、公園のベンチで誰かが俺の袖を引く。 振り向くとメガネをかけたあの長門がそこにいた。 悲しそうな、なにか言いたげな表情を見せた。 「なんだ?」俺は尋ねた。 長門はなにも言葉にしなかった。ただ、俺の袖を引いていた。 長門の白い肌がまわりの闇に溶け込み、少しずつ色あせていった。 「おい長門!」俺は長門の手を握った。 薄く悲しげな表情が見えなくなり、徐々に体の輪郭が消えていく。 そして最後に、手の中のぬくもりだけが残った。 目を覚ましたとき、俺はじっとりと寝汗をかいていた。 「長門……」暗闇の天井に向かって呟いた。 そのままじっと、夢の中の長門の表情を思い出そうとした。あいつ、なにかを言いたがっていた。 時計を見ると一時を回っていた。 俺は携帯をつかんで電話をかけた。古泉、早く出ろ。 「夜中にすまん、俺は長門を追うぞ。同じ手順で」 「そう来ると思ってました」古泉は半分眠い声で言った。てっきり止められるかと思ったが。 「あいつをひとりにすると心配だ。また暴走しかねん」 「理由はそれだけではないと思いますが、まあいいでしょう。なにかご入り用なものは?」 「例の文庫本、取り戻せるか?」 「今手元にあります」 「それを持って迎えに来てほしいんだが」 「了解しました。ご自宅に伺います。三十分後に」 こういうときの古泉は頼もしく感じる。いや、はじめてか?。 バックパックの口を開いて俺は考え込んだ。果たして何を持っていったらいいのか。 どこに行くのか、どんな世界に行くのかすら分からないのに考えても仕方がない。 下着の着替え、懐中電灯、台所にあったカロリーメイト、マッチ、救急セット、俺は手当たり次第に詰め込んだ。 車の音がして窓の外を覗くと、家の前に黒塗りのタクシーが止まっていた。 足音を潜ませて降りていくと古泉がドアを開けた。 「新川さん、夜中にすいません」俺は運転席に向かって声をかけた。 「いえいえ。お安い御用です」帰ってきたら菓子箱でも送ろう。 「とりあえず乗ってください。新川さん、学校までお願いします」古泉が言った。 車のシートで、俺はこれから起るであろうことを予想して少し震えていたかもしれない。 「あいつを見つけるまで戻らないつもりだ。いつ帰れるか分からない」 「ですが、学校と家族にはどう説明します?」 「冬休みに入ったら朝比奈さんに頼んで、俺をこの時間にタイムトラベルさせてもらえばいい。 俺自身が事情を知ってるわけだし」 「それは無事に帰ってこれたら、ですが。分かりました。 ただし帰ってくるとき、ご自分と衝突しないように注意してください」 「分かった」 車が校門前に着いた。 「鍵がかかってたらどうしようか」 「部室棟の鍵はここにあります。校舎の防犯センサーは一時的に切ってあります」 手回しがいい。俺と古泉は誰もいない校舎に忍び込んだ。 夜の校舎には前にもハルヒと来たことはあるが、あまり歩き回ってみたいと思う風景ではないな。 部室の鍵を開けた。 俺は、ほかにいるものはと部屋を見回した。 壁に貼ってある、長門とハルヒが写っている写真に目を留めた。 去年の夏休みに孤島に行ったときのものだ。 別に形見というつもりでもなかったのだが、俺はそれを剥がしてポケットに入れた。 「これを」古泉がジップロックに入った文庫本を差し出した。 「それからこれを」 さらに茶封筒を俺に渡した。空けてみると万札が入っている。 「なんだこの大金は」 「五万円ほどあります。突然だったんでそれだけしかかき集められませんでした。 向こうの世界の具合によっては、もしかしたら必要になるかもしれませんので」 「そうか。これは預かっておく。帰って来たら耳揃えて返すからな」 突然ドアをノックする音がして二人ともビクッとした。こんな夜中に誰だ。背筋に冷たいものが走った。 「ど……どなたですか」俺の声か、古泉の声か分からないが裏返っている。 「……喜緑です」消え入りそうな声がした。 「驚かせてごめんなさい」 喜緑さんがドアを開けておずおずと入ってきた。 「あの……長門さんを探しに行かれるんですか」情報統合思念体には隠し事はできないようだ。 「そうです。長門がやったのと同じ方法で」 「これを言付けに来たんです」 喜緑さんは手元のカバンからソフトボールくらいの球を取り出した。つやのない、漆黒の球だ。 「それはなんですか」古泉が尋ねた。 「ちょっと説明するのが難しくて、でも長門さんに渡せば分かると思います」 受け取るとずっしりと重い。 「分かりました」たぶん長門を助け出すためのスペシャルアイテムだろう。 思念体もたまには気の効いたことをするじゃないか。 「情報統合思念体はあなたを全面的に支援しています」 「長門を必ず連れて戻ると伝えてください」 「伝えます。気をつけて。無事に帰ってきてくださいね」 ささやくような喜緑さんのやさしい声にうなずいた。ええ、必ず戻ってきますとも。 「古泉、朝比奈さんに伝えてくれ。黙って行ってしまってごめんなさい、とな」 「分かりました。こういう事態ですし、彼女も分かってくれるでしょう」 「じゃあ、はじめるか」 「もし一週間経って帰って来れないようなら、切り札として涼宮さんを動かします」 「そうならないように願う」 「幸運を」古泉はそう言って、俺と最初に出会った日のように手を差し出した。 俺はうなずいて手を握った。 古泉は笑ってはいなかった。 長門有希の憂鬱Ⅰプロローグ 長門有希の憂鬱Ⅰ二章 長門有希の憂鬱Ⅰ三章 長門有希の憂鬱Ⅰ四章 長門有希の憂鬱Ⅰおまけ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4562.html
『長門有希の密度』を踏まえています。 ======== 『長門有希の夏色』 「キョンくーん、早くー、行くよー」 わかった、わかった、ちょっと待てって。 玄関先で叫ぶ妹に向かってなだめるように答えながら、俺は急いでサンダルを履いていた。 なぜか、今日は妹と一緒に市民プールへ行くことになった。もともとは妹とミヨキチが二人でいくつもりだったらしいが、ミヨキチが夏風邪かなんか知らないが、少しばかり発熱してキャンセルになったそうだ。そのため、どうしてもプールに行きたい妹のお相手として俺に白羽の矢が立てられたわけだ。 ふん、うちの親も勝手なことをしやがる。せっかくSOS団活動がお休みで、ゆっくりと寝ていられると喜んでいたのに、妹の面倒を見ろとはね。この時期の市民プールには子供しかいない。朝比奈さん(小)や(大)レベルの女性がいれば目の保養になって、妹の相手といういささか退屈でしんどい作業に対するモチベーションも上がるんだが、まず望み薄だ。 まぁ、いいさ。妹の相手はほどほどに済ませてしまって、プールサイドの日陰のチェアで、長門に借りているロボット物の古典SFの文庫本でも読んでのんびり過ごさせてもらおう。 案の定、市民プールは、子供とその付き添いの親、それに健康づくりに励むお年寄りの姿が目立つばかりで、高校生や大学生クラスの若者は誰もいない。たぶん、もっと遠くにある、流れるスライダーなどの施設の整った遊園地のプールか海にでも行っているんだろう。 妹は更衣室で学校の友達と出会った様で、シャワー室から出てくると、「遊んでくるー」といって二・三人で連れ立って行ってしまった。なんだよ、これなら俺が来る必要なかったな。いきなり、やれやれだよ。 昼にはまだ時間があるためか、プールはまだそれほど混んでいなかった。とりあえず俺は、午後も日陰になりそうなプールサイドの椅子を見つけ出すと、その場所をキープするために、文庫本とバスタオルを手に近づいていった。 近くまで来て気づいたのだが、俺が狙っていた椅子の隣のビーチパラソルの影の椅子には、こんな市民プールには似つかわない硬い表紙の分厚い本に目を落としている、落ち着いた雰囲気を漂わせた水着姿の女性がいた。 それにしてもこんなところでハードカバーを読むなんて、世の中には長門みたいな女性もいるもんだ、珍しいね。 などと考えながら、空き椅子にタオルを置いて、ふと隣のショートカットの女性を見ると、本当に長門だった。 「な、長門ぉ? 何してんだぁ?」 驚いて思わずのけぞってしまった俺が声をかけると、長門も驚いたように一瞬体をびくっとさせた後、ゆっくりと俺の方に振り向くと、 「……読書」 と一言だけ答えて、大きな瞳をさらに大きくして俺のことを見つめていた。 読書中であることは一目瞭然だ。俺が言いたいのは、なぜ長門がこの市民プールのプールサイドにいるのか、ということだ。読書するなら図書館でもできるだろう。 「図書館は今日は休み。それでここに来た」 それでも腑に落ちないな。マンションの部屋でも十分読書はできる。あのリビングの部屋にはエアコンはあったはずだ、プールサイドより快適に読書に励むことができると思うが……。 ひょっとして、誰かと一緒なのか? 「わたし一人で来た」 なんとなくほっとした。万が一でもあの長門が男と一緒なら天変地異の前触れなんだが、杞憂でよかった。しかし、高校生の女子がたった一人で市民プールに来ているのもどうかと思うぜ。いずれにせよ、普段どおりの穏やかな一日なりそうだ、よかった。 丸いテーブルを挟んで長門の隣に座った俺は、あらためて長門の様子を確かめてみた。ビーチチェアに腰掛けて再びハードカバーを読み始めた長門は、水色ベースのシンプルなワンピースの水着で腰の辺りにはきれいな青いグラデーションのパレオを巻いていた。さすがにスクール水着ではなかったが、恐らくマンションからこのプールまではいつもの制服で来たに違いない。 うん、なかなかいい感じのかわいい水着だ。しかし、そんな長門の姿を見ていると、なんとなく俺の胸の中にモヤモヤした違和感がわいてくる。この妙な感覚はいったいなんだろうと考えていると、俺の視線に気づいたのか、振り向いた長門が静かに言った。 「胸を構成する有機情報因子を増量した。どう?」 ぐはぁ、そういうことだったか。この違和感はそれだったのか。 あまりじろじろ見るわけには行かないが、でもしっかりと目に焼き付けているわけだが、確かに大きくふくらんだ水着の胸元に、はっきりと谷間まで見える。さすがに朝比奈さんやハルヒほどのことは無いが、そうだな、いち、いや二カップ増量といったところか。AAならB、AならCだ。そもそも全体的にスレンダーな身体つきだから胸の大きさが際立って見える。 「ど、どう、と言われてもだなぁ……」 俺は返答しようとして言葉に詰まってしまった。 「あなたが胸を大きくした方がよいと言ったので、情報統合思念体に有機情報因子の増量を要請し許可された」 「う、うん、それはすまなかったな、俺のために……」 とはいったものの、俺は明示的に胸を大きくしろ、と言った覚えは無いんだが……。 少し困惑する俺に向かって、長門はわずかに首をかしげた。 「いい、気にしないで……。それより、確かめてみる?」 「何を?」 「感触」 「へ?」 「先日は二の腕で簡易的な対応を実施し状態を確認してもらったが、今回、有機情報因子を増量することで本質的な対応を行った。おそらく以前の二の腕とは触った感じも異なるはず」 そうだった、あの時調子に乗って長門の二の腕をぷにぷにしていたら、ハルヒに見つかってエライ目にあったんだ。その後ハルヒをなだめるのにすごい苦労と散財したことを思い出した。 「どう?」 「待て、待て! それは胸を触ってもいい、ということか?」 「そう」 うーん、この有機アンドロイドは、自分で言っている意味がわかっているのかね。そりゃ俺だって触れるものなら触りたいさ。でも、市民プールのプールサイドでそのような行為に及ぶことはできない。ここは痴性より理性を総動員しなければならない。 「いや、あのなぁ……」 俺がどうやって長門に説教しようか考えていると、プールから上がった妹が走ってきた。 「わー、有希ちゃんだー、こんにちはー」 ちらっと振り向いた長門は、いつものように三ミリほど頭を下げて妹に挨拶をした。 俺たちが座っているテーブルのところにやってきた妹は、長門の前に立つと少し体をかがめて長門の胸元を覗き込んだ。 「あれぇ、有希ちゃん、胸おっきいぃー」 そう言うと、妹は長門の大きくなった胸を小さな手でつかんで楽しそうにぷにぷにし始めた。 「みくるちゃんみたーい。いいなぁ、わたしもこんなに大きくなりたいなぁ」 こ、こらー、妹よ、なんという、うらやましいことを、いや、失礼なことを……。それになんだ、「みくるちゃんみたい」ということは朝比奈さんの胸もぷにぷにしたことがあるというのか? ちくしょーめ! 妹に胸をぷにぷにされながら、長門は漆黒の瞳を少し潤ませた無表情で俺のことをじっと見つめていた。そ、そんな目で見ないでくれよ……。 無事にぷにぷにが終わった妹は、タオルですこし顔を拭きながら、 「ふーん、キョンくん、有希ちゃんとデートだったんだぁ」 「いや、これは偶然……」 「じゃあ、また遊んでくるねー、バイバイ、有希ちゃん」 それだけ言うと妹はあっという間にプールに戻っていった。こら、人の話はちゃんと聞きなさいって……。 俺は、妹の後姿から隣の長門に視線を移しながら、少し恐縮していた。 「すまんな、長門」 「構わない」 なんとなく長門の横顔がくすっという感じで微笑んでいたように見えたのは気のせいかもしれない。 その後はお互いに読書タイムとなったが、一時間に一回の休憩タイムがやって来た。やがてラジオ体操が終わったので、俺は、椅子から立ち上がると、うーん、と背伸びをしながら長門に話しかけた。 「ちょっと、ひと泳ぎしてくる」 「では、わたしも」 長門も椅子から立ち上がり、腰に巻いていた青いパレオをはずした。ほっそりとした白い素足が俺の目に飛び込んできて、うーん、ま、まぶしいじゃないか……。 俺が逃げるようにプールに近づくと、長門も俺のあとを追って、ととと、と水際にやってきた。 「泳げた、よな?」 「当然」 聞くまでも無いな。なんていったって情報統合思念体が誇る万能有機アンドロイドだ、水泳だって完璧にこなすに決まっている。 ザッバーン! 『飛び込み禁止』の看板を無視して完璧なフォームで飛び込んだ長門は、世界記録を上回るような勢いで、人混みをかき分けてクロールで泳いで行ってしまった。 なんて奴だよ、まったく。 俺は、ちょっと冷たく感じられる水を胸にばしゃばしゃとかけて、足からそろりとプールに入ると、長門の後を平泳ぎで追いかけた。 しばらく泳いだり、妹やその友達と一緒に水中鬼ごっこなどで遊んでいるうちに、昼飯の時間になった。こんなプールなのでたいした食べものは売っていないは仕方がない。ということで妹と長門は具の少ないカレーだ。俺はカップラーメンを買った。運動した後は、ぬるいお湯で作られたカップラーメンでさえおいしく感じるね。 「有希ちゃんもカレー好きなんだ」 「好き」 「給食のカレーシチューとか、とってもおいしいんだよ」 懐かしい、カレーシチューは今でも給食の人気メニューなのか。そういえば長門は学校の昼飯には何を食っているんだろう。弁当を食っているところも、食堂で食っているところも見たことが無いな。昼休みも部室で本を読んでいるだけなのか? 午後のひと時はお昼寝タイムだ。このために、午後にこそしっかり日陰になる場所を選んでいたんだから。俺は、ビーチチェアを少し倒すとその上で仰向けになった。テーブルの向こう側の長門は、相変わらず分厚い本を読んでいるようだ。眠たくならないのかね、なんて考えているうちにあっという間に俺は眠りに落ちた。 寝ていたのは三十分ほどだろうか。また、ラジオ体操の放送で目が覚めた。隣の長門はというと、ハードカバーをお腹の上に乗せて、やっぱりお昼寝モードに入っていた。 それにしても、仰向けに寝ていても胸のふくらみがはっきりわかるぐらいだから、情報統合思念体も思い切って増量したらしいな。 ぼんやりと長門の寝顔を見ていたが、休憩タイムが終わって子供たちが歓声を上げてプールに飛び込み始めたので、長門も目を覚ましたようだ。両手を上げてクーッと背筋を伸ばしていたが、俺の視線に気づいたのか、慌てた様に上げていた手を下ろしてこっちに振り向いた。そして少し恥ずかしげに首を傾けてつぶやいた。 「気持ちよかった」 「うん、そうだな」 俺は、長門のなんとなく人間らしい仕草を見ることができて、少しばかりハッピーな気分に浸ることができた気がした。 その後も少し泳いだりしながら過ごしたが、三時の休憩タイムをきっかけに俺たち兄妹は帰ることにした。長門も「わたしも帰る」と言って一緒にプールサイドを後にした。 先に着替え終えた俺がプールのエントランスホールで待っていると、妹に手を引かれて長門がやってきた。近づいてくる長門の姿を見て、俺はまたしてものけぞってしまった。 なんと定番の制服ではなく、白のタンクトップにデニムのミニスカート、少しヒールのあるミュールという夏真っ盛りという感じの長門にしては大胆な格好だった。増量中の胸がいやでも眼について離れない。どうにかしてくれ。 「せ、制服じゃないんだな」 長門は、体の前にした両手でバッグを持ち、何かを待つようにじっと俺の事を見上げている。うん、いくら鈍感と言われる俺だって、次にどうすればいいのかはわかるさ。 「かわいいな、そのカッコ……」 普通の女の子なら、ここでにっこりと微笑んでくれるんだろうが、さすがに長門はそんなことはしないし、されると俺が困る。その代わり、いつものようにミリ単位で首をかしげてくれた。そう、それで十分だ。 市民プールの建物の外は、まだまだ暑い昼下がりだったので、俺たち三人は、プールの近くの喫茶店に入ってカキ氷を食べた。プールの後はやっぱりカキ氷だよな。 キーンとなる痛みを頭に感じながらカキ氷を食べていて気づいたんだが、俺や妹は少しばかり日焼けして腕が赤くなっていたが、長門は真っ白のままだった。うーん、さすがだな、有機アンドロイドは……。 「有希ちゃんねー、お肌真っ白なんだー」 妹はいちごのシロップで口の中を真っ赤にしていた。 「それにね、やっぱり、すごく胸、大きかったよー」 うぐぐぐ、そんなことを急に言うな、むせてしまうではないか。 「プールの更衣室でね、触っていいよって、また触らしてくれたのー」 長門―、お前、そんなに胸が大きくなったのがうれしいのか? 目の前で、黙々とメロン味のカキ氷を口に運んでいる長門を見つめてみたが、まったくの無表情だった。こいつは、あのスピードでカキ氷を食っても、頭は痛くならないんだな。 い、いかん、俺の方がますます頭が痛くなってきた……。この痛みはカキ氷の冷たさのせいだけではないな、たぶん…………。 その夜のことだ。 そろそろ寝ようかと思っていると、携帯がうなりを上げた。見てみると珍しく長門からのメールだ。題名もなく、いかにも長門らしい簡潔なメールだった。 『今日はありがとう。 また、市民プールに……』 な、長門…………。 そうだな、せっかくだから「市民プール」なんてけちなことは言わずに、海にでも行くか。 長門の簡単明瞭な文面を見ながら、どう返信しようかと考えているうちに、胸の増量と共に少しばかり大胆かつ積極的になった夏色に輝く有機アンドロイドの笑顔が、携帯の液晶画面の中に浮んで見えた。 Fin.
https://w.atwiki.jp/suzusinayuriko/pages/22.html
/ \. / / / / \ 丶. / / / / , / .i 丶 ヽ ヽ //. / / . / . | . l 、 . . ヽ .. ', .ハ. 〃/. / . / . ,' . / . ! { \ . ヽ . l l . . ハ l. ,' . l l l { ヽ \ ヽ .. .. l l . l. l | /! . | ハ ∧ 八. . i\.. l \ \ l l ! | |{│. . | ハ l ヽl ', | ヽ l _\{-ヽ| | i l ! ! . ;小、. { 代ート、 ヽ .. l >七´__,ィ=-、.」 j ; l ,' ', l \ ムx≠于=ミ、\ヽ x=≠旡丁 `ドレ! ;イヽ i リ ヽ lヽ \ ヾハ{. ヽヽ _ { V、 .}├| ∧ l ,' . / \l ∨ {!ハ Vzイ} {!⌒ヘ} r'zィリ / l . / } ,ノ/l / ` ', ゝム ー' / ヽ、  ̄ノ' | / フ´ / ル′ ヽ `ヘー ‐ '´ '  ̄ |. /´; 〃/ ヽ {\///. ャ‐、 /// .jl / / / ″ \ ヘ ヽ 、 ¨ //イ /V \! ヽ>,、 , イ 〃 | ト、 ヽj父rー< { l) ヽ、 /... | 'y' \ / . /ノ / \ / . {′ / \【ステータス】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┃【武力】35 【知力】95 【政治】60 【魅力】25┃ 長門 有希 武経七書を暗記するほどの天才少女┃ 在野で、学問に励んでいる際やる夫に魅了され魏に加わる┃ ナイスちっぱい3号 割とマジでやる夫を狙っている┃┃スキル┃┃○武経七書・・・戦闘の時に、その状況にあった策を1つ提示する┃┃○統合思念・・・6ヶ月に1回だけ、全員の内政行動を二回にする┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ 友好度・・・5 兵力 1000/13500 訓練 0
https://w.atwiki.jp/sosclannad9676/pages/75.html
【ながと-ゆき】 県立北高校に通う。高校生、女。 1年6組 三年前、情報統合思念体に生みだされた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。 平たく言えば、宇宙人で主流派に属する→派閥 はじめはメガネをかけており、とても無口でおとなしい文芸部部員といった感じだったが、朝倉涼子に殺されかけたキョンを助けたとき、メガネナシの方がいいと言われたことから掛けなくなった。 SOS団団員であり、唯一の無口キャラ。 家は一人暮らし。→長門のマンション。 文芸部の部長もしており、コンピュータの操作が異常にうまく、コンピュータ研究部にお呼ばれにもなっている。 服装はほとんど、制服。また、エンドレスエイトでは繰り返した全ての記憶を持っている。 情報操作や、改ざんに優れており、バットをホーミングモードにしたり、時間を凍結させたりするこもできる。→時間凍結 キョンいわく、徐々に感情表現が豊かになっているという。 そのためか、中河の一目ぼれの時には、少し残念だと感じる一面も。→一目惚れLOVER 痛みや、感覚を遮断することができるが、相手の心を読むことはできない。 異時間同位体に同期をし、未来のできごとを知る手段を持つが、7巻 陰謀以降、自立活動に齟齬をきたす可能性があるとして、自ら禁止処理コードをつけて、封印する。そうすることによって、自立機動をより自由化する権利を得、現時点の自分の行動により意思を決定することができる。 同じ団員からの信頼も厚く、涼宮ハルヒからは万能選手と思われいる。 そのため、長門が倒れた時は全力で介護し、長門が危険にさらされたら何をしてでも取り返すとキョンと会話していることからかなり好友だと思われる。 長門もハルヒを取り巻く各組織からハルヒやキョンと同じくらいの重要人物と見なされるようになってきており、接触したがっている組織が多数存在することが古泉一樹の台詞にて示唆されている。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1146.html
「何よ!キョンのバカ!いいわよもう!」 そうまくしたて、涼宮ハルヒは部室を飛び出した。 「ちょ、おい!待てよハルヒ!」 続いてキョンと呼ばれた少年が彼女を追い、部室を出る。 いつもどおり、というには多少の御幣があるかもしれない。 しかしそれは見慣れた日常。 「やれやれですね、ちょっと用事ができたのでお先に失礼します。」 古泉一樹はいつもの表情でそう言い残し、二人の消えた部室の扉をくぐる。 おそらく閉鎖空間。 涼宮ハルヒが生み出した超空間。 彼はそこで彼女の生み出した神人と呼ばれる巨人を退治する。 神人は涼宮ハルヒの精神とリンクしていて、彼女の精神に苛立ちという異常が現れた際に閉鎖空間と共に現れる。 「あのー、私も、もう今日は帰りますね。」 遠慮しがちに朝比奈みくるは私を見て言った。 返事を待っているのだろうか。 数秒の沈黙が場を支配する。 そう。 私はそう述べると、朝比奈みくるは少し安堵の表情を浮かべ、席を立つ。 誰も居なくなった部室。 私だけしかココにいなかった数週間を思い出した。 なぜ? 私は思考を止める。 なぜ今あの時のことを思い出したのだろう。 停止した思考、まるで時が止まったかのような静寂。 窓の外に目をやると、いつもどおりの空が広がっていた。 本を読もう。 そう思い、先程まで読んでいた書物に目を戻す。 字の一つ一つに思考を合わせる。 世界が揺れ、私は書物に刻まれた著者の思考と一体化する。 夢。 異世界。 冒険。 この時間が一番気に入っている。 私はこの時間、物語の主人公になる。 私はこの時間を好む。 好む。 好む、筈なのに。 エラー。 なぜ?何故? 書物に目を戻しても、もう思考に入り込むことができなかった。 頭の隅が重い。 それは、人が言う、感情。 私にもわずかだが感情が持たされている。 でも普段はそれを重要視することなどない。 朝倉涼子のように感情に身を任せることなど、しない。 絶対に。 本当に? まるで心臓をつかまれているように。 私を取り込んでいく感情。 これは、何。 これはなにこれはなにこれはなにこれはなにこれはなに 落ち着いて。 私は必死に理性の糸を手繰る。 まるで濁流の中で蜘蛛の糸を紡ぐ感覚。 私は思考をめぐらせる。 思考することで感情を押しとどめる。 恐怖。 私は恐怖しているのだろうか。 だとしたら何に。 そんなもの知らない、私は私。 ただのヒューマノイドインターフェイス 「それは、逃げよ?」 幻覚。 そう、それは幻覚。 私の中の朝倉涼子が呟く。 「自分に、素直になりなさい?」 イヤ。 「なんで?」 朝倉は寂しそうに尋ねる。 イヤ。 「私は知っている」 何を。 「あなたが感情から逃げる理由。」 私が、逃げる、理由? 「そう、あなたが逃げる理由。」 イヤ、聞きたくない。 「あなたはね、」 やめて、お願い。 やめて、やめてやメてヤめテヤメてヤメテヤメてヤメテヤメテ 感情が心臓を握りつぶす。 自分でもわかるぐらい、顔をしかめる。 隠していたはずの表情が、顔に表れる。 「皆が好きなのよ。」 ス……キ? 「だから、誰も傷つけたくないの。」 私は彼女を見上げる。 夕方だからだろうか、その表情は陰に隠れて読むことができない。 しかし、こころなしか、寂しそうに感じた。 「誰も傷つけたくないから、感情を押し殺す。」 そう。 私は誰も、傷つけたくないの。 だからこれでいい。 これでいい、これでいいの。 そう思考するたびに、胸が痛くなるのは、なぜ? 「本当にいいの?」 朝倉涼子の手が私の頬に触れる。 「いいわけないじゃない。」 今度ははっきり表情が読み取れた。 彼女は泣いていた。 なぜ? 私の思考は完全に停止した。 朝倉涼子は寂しそうな、悲しそうな、哀れむような、そんな目で私を見た。 彼女の言葉に耳を傾ける。 「私はあなたの影、だからわかるの。」 何を? 「あなたは、望んでいるの。」 何を? 「あなたは、願っているの。」 何を? 「寂しいんでしょ?」 サミシイ? 私は、寂しいの? そんなはずはない。 生まれてから三年間、私は一人だった。 「変わったのよ。」 何が? 「あなたが」 私が? 「そう、あなたが」 どうして? 「それは知らないわ。」 教えて。 「だめ」 教えて、このままじゃ、私。 朝倉涼子の頬に手を伸ばす私。 わたしは、こわれてしまう。 「ごめんね」 姿をかき消す朝倉涼子。 宙を掴む、私の手。 心臓がつぶれる。 エラーに、感情に押しつぶされる。 誰 か 私 を 「…な………と」 ……? 「……がと」 ………誰? 「長門!」 …………!!! 「長門、起きたか?」 彼がそこにいた。 私は、寝ていたらしい。 机に突っ伏して。 隣で彼が座っていた。 彼は心配そうに私を覗き込む。 「うなされてたぞ」 私が? 「宇宙人でも夢、見るのか?」 記憶中枢がある限り、生命体は皆、夢を見る。 「そうか」 私は、彼を見上げた。 「長門?」 寂しかった。 不意に、私の頬を何かが伝う。 「長門?」 涙? 私の? 「どうした?」 顔を逸らす、彼の顔をまともに見ることができない。 なんでもない。 「本当か?」 大丈夫。 「そうか。」 そう。 数秒間の沈黙が場を支配した。 これでいい、これでいいはず。 私は対有機生命体コンタクト用インターフェイス。 これでいいはず、これで、いい。 「何か、できることはないか?」 私は彼を再び見上げた。 私を心配している。 心配、してくれている。 私の体を支配していた、エラーが取り除かれる。 理解、した。 私は不意に、彼の胸に顔をうずめる。 「長門?」 5度目の呼びかけ。 少し驚いたような声 もう少し、このままで。 そう呟き、私は目を閉じる。 「……わかった」 彼の手が、私の頭を撫でる。 暖かい。 暖かい、暖かい。 ありがとう。 -長門有希の深淵 完-
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5816.html
あとがき この作品は、『涼宮ハルヒの憂鬱』の舞台が兵庫県西宮市であることを知った時に着想を得ました。 舞台が西宮ということで、キャラクターの台詞をいわゆる「関西弁」にしたSSはないかと思い、色々とSSを読んでいましたが、単発の雑談ネタで原作の一場面を「関西弁」に訳した例があるくらい。二次創作で「関西弁」を使ったものはありませんでした。 「ないんだったら作ればいいのよ!」とは原作のハルヒの弁ですが、ちょうど担当者は大阪府出身で、兵庫県下にある西宮の近くの街に住んでいた時期もあるし、北口駅のモデルとなった阪急西宮北口駅も行ったことはある。加えて、身近には西宮市出身の友人もいる。条件は揃っていました。 もっとも、後に「関西弁」を使ったSSが皆無な理由を痛感することになりますが。 また、当時職場で大量の文書を校正する必要に迫られていて、校正の練習にもなって趣味と実益を兼ねられるかもと、軽い気持ちで書き始めました。ちなみに、こちらの目論見は成功したと思います。 Report.01 記念すべき第一作目。当時は読み切りのつもりでした。「関西弁」という表記があまり好きではないので、この時から「現地語」と呼称しています。 単に台詞を「現地語」に置き換えただけでは、単発の雑談ネタとあまり変わらないような気がするし、わざわざ「現地語」で書く理由をもっともらしく捏造した方が面白いかと思って、ネタを探していました。 そんな時目に留まったのが、当時繁忙期に入っていた職場で大量に目にしていた報告書。 ちょうど長門をメインにしようと思っていたので、報告書の文章の書き方が長門の語り口によく似ていると思い、『長門有希の報告』という題名が決まりました。報告書はどれも似たような書き出しだったので、それらを分析して導入部分を書きました。内容からではなくて、本当に題名、最初の部分、と順番に思い付きました。 作中でキョンが「(ハルヒは)新たな属性に目覚めたんじゃないか」と言っていますが、後に担当者自身が、この作品で新たな属性に目覚めることになるとは、当時は知る由もありません。 Report.02 読み切りのつもりで投稿した一作目が、意外に反響があったので、調子に乗って急遽書いた二作目。ネタを探していたところ、職場に新聞記者が来て、何やら金切り声を上げているのを聞いたのがきっかけです。 直接取材を受けていなくても、使えるコメントが取れなかったからといって恫喝したり、執拗に怒鳴り声を上げられたりすると、本当に仕事の邪魔になります。そこで、週刊誌の取材による被害などを思い出し、そこに『涼宮ハルヒの溜息』の映画撮影の話を合わせて、こんな内容になりました。 思いがけず話が続いたので、話数を付ける必要が生じましたが、メインタイトルは変えずに連作短編にするつもりだったので、『GS美神 極楽大作戦!!』から採りました。何の因果か、ネタ元と同様に、長く続く話がほとんどになりましたが。 Report.03、04 本当は前後編で終わらせ、現地語表記も終了する予定でした。しかし、まず話が長くなって中編と後編になりました。 そして、まとめの方にも掲載されたのですが、そこの注意書きに、台詞が一部現地語で書かれていることが記載されていました。それで引っ込みがつかなくなった……もとい、わざわざ注意書きまでしてもらったのに、今更やめるのもどうかということと、ここでやめたら他に例を見ないユニークさが失われてしまうということに気が付き、今後も現地語で通すことを決めました。 また、この頃になると、書いた作品に誘導されるように、話のネタが沸いてくるようになり、もうしばらくこの作品に付き合おうと決めました。 Report.05 この作品での長門のキャラが固まった、また、言い換えれば、長門のキャラが壊れたのが、この話。 SS読みの立場としては、担当者はどちらかと言うと原作重視派に属するのですが、実際に書くとなると大変で、また生来のお笑い好きも影響して、話としての面白さを優先するようになり、こんな長門になってしまいました。長門、ごめん。 長門とハルヒが精神的に急接近するなど、その後の話の方向性を決定付けた、この作品の転換点となった話です。 また、この頃はまだ抵抗していますが、担当者自身、何かに覚醒し始めています。 Report.06 ……やらかしてしまいました。当初は前の話を受けて「エロス×ワロス」を目指していましたが、筆が滑ってどうにもエロスが強くなり過ぎました(現在はエロスの部分はかなり省略して改稿しています)。プリンスレのコンセプトである「甘い」作品に仕上げたつもりでした。そして頂いた感想は、 『甘いってかエロいww』『長門暴走しすぎだろwwwwww』『素晴らしいエロww』 長門が完全にぶっ壊れました。そして担当者も何かが吹っ切れました。 Report.07 路線を明確に自覚した話。担当者は完全にユキハル及び百合に目覚めました。長門の現地語会話、解禁。頂いた感想を総合すると、『和みながら勃つ百合布教作品』だそうです。 途中の「流布された情報に付加情報を付ける」のくだりは、学術論文を想定しています。様々な事象について研究が進んだ現代社会においては、全く独自の理論や研究というものは、そうそうありません。何かしら、先行する研究が存在するものです。 論文を書くに当たっては、そういった先行研究や類似研究の調査はとても重要です。やろうとしていることが既に研究されてしまっていれば、内容の修正を迫られますし、少しでも違っていれば、先行研究を踏まえた上で、自分の独自の考察を追加することになります。 そういった人間の営みを、長門に語らせてみました。 Report.08 基本的にこの作品は『現地語』、担当者は『現地語の人』として認識されていますが、とうとうこの話で『百合作者』とも呼ばれるようになりました。筆のおもむくままに書いていたらこうなった。今は反省も後悔もしていない。 Report.09 仕事の繁忙期も終わり、ハルヒと有希のデートを書きました。そして第2話から続いていた話もようやく完結。ハルヒがSOS団団長職に復帰しました。最後のキョンの台詞には、ようやくSS書きに復帰できたという担当者の喜びも表れています。シリーズを終わらせるつもりもなくなっていました。 ちなみに、駅前のショッピングモールの様子は、西宮北口駅前に実在する店舗のフロアガイドと、実在する店舗のメニューに従っています。 Report.10 インターミッションとなる実験作。 エロパロスレのハイテンションユッキーと、まとめにあるリスペクト・ザ・ハイテンションユッキーに触発された話。 とにかく色々やってみたくて、原作でも出てきたSQLと、コマンドプロンプトのメッセージを組み合わせています。声については、アニメ版の中の人の地声を想定。 この時の長門の台詞「人形にも人間にもなれない半端者」は、思わぬ伏線となって、後に第20話の朝倉の台詞と、第25話の長門の台詞で回収されました。 この頃から、「誰か(女)×長門」という構図が定着しました。 Report.11 第二部導入。後になってみれば、ですけど。当時はそこまで考えていませんでした。 話を考えている時期と前後して、プリンスレではちょうど朝倉のターンが来ていました。その時流に乗って、というわけではありませんが、何となく朝倉を出したいと考えていました。しかし、朝倉が復活する理由が弱くて考え込んでいたところ、その前段として、この話を思い付きました。 第2話でもそうでしたが、話の基点がオリジナルキャラになる傾向があるのかもしれません。 Report.12 ある意味TFEI端末編、の第二部開始。第一部で一気に距離が縮まったハルヒと長門が、今度はぶつかり合うような話。ハルヒの浮気現場を目撃してジェラシーな長門とか、ハルヒと長門の痴話喧嘩とか、痴情のもつれとか。そんな雰囲気が出せればと。 初めて全体の構成を考えて書き始めた話。この時点で既に、最終話の骨格は出来上がっていました。 また、この辺りで『長門有希の報告』シリーズ全体の長さを2クール分(全26話)にできたら面白いかな、と意識し始めています。 Report.13 議事録形式がやりたかった話。ただ話を書くだけでは物足りなくて、何かしら変わった要素を入れようとしています。特に文書構造での遊びが顕著ですね。 Report.14 じわじわと盛り上げていく回。三人称だからできる、ハルヒの様子の描写とハルヒ以外の人物たちの会話との対比や、複数場面の多元中継に焦点を置いています。それから、投稿時には外しましたが、思わせぶりな繋ぎが入っています。一度やってみたかった。 Report.15 やはり戦闘ものが好きなのでしょう。書かずにはいられませんでした。消失した長門が復活するお膳立てにも使っています。 朝倉の頭脳戦が好評でした。本当に書いていて楽しかった。 Report.16 できる限り全員の視点で書きたいと思って書いた、朝倉視点。原作での登場期間が短かったせいか、キャラクターに色が付いていなくて書きやすかったです。思えば、朝倉は本当に物語を引っ張ってくれました。 また、当時はプロバイダ規制が頻繁かつ長期で、投稿したくてもできない状態が続きましたが、続きを待っていると言ってくれる人がいて、プロバイダ規制に耐える力をもらいました。 Report.17、18 みんなの視点で書こうシリーズ。長門がいなかった喜緑隊の話をみくるに報告してもらいました。もう本編とは思えないほど、ネタ盛りだくさんです。鶴屋さんまで登場して、もう。 Report.19 ちょうど『涼宮ハルヒの分裂』が書店に並び始めた頃で、その内容に戦々恐々としていた頃に書いた話。第二部を書き始めた時には既に構想にあった展開ですが、実際の肉付けは困難を極めました。 ついにハルヒが長門に告白しますが、長門は立場上、ハルヒの告白を受け入れられません。でも長門の個人的な意思としては、ハルヒの告白を受け入れたい。そんな「許されざる恋」を書きたいと思ったのでした。 Report.20 この作品で一番苦労した話。本当に、寝ても醒めてもこの話のことを考えていましたから。 物語をぐいぐい引っ張ってくれて、本当に大活躍してくれた朝倉の、花道を作ろうと頑張りました。 終わり3分の1で雰囲気がガラッと変わります。読者の感想が、『やっぱりエロい』に始まり、『これは泣ける……』、そして『非常にエロ哀しいお話だった……』と変化していく様に、「計画通り」と担当者がほくそ笑んだかどうかは、定かではありません。 Report.21 長門とみくるが急接近。というのは本筋ではありませんが、この二人ももっと仲良くなってほしいなと思い、第10話以来の描写です。第19話の締めに当たり、相当早い段階で話は出来上がっていました。しかし、第20話が難航したため、なかなか投稿できなかった話。 『笹の葉ラプソディ』でハルヒが短冊に書き、原作で重要な場面に登場する言葉、「私は、ここにいる」に呼応して、長門に「あなたがここにいる。だからわたしもここにいる」と言わせることは、ずっと前から決めていました。 結局、第20話の難航のおかげで担当者は生みの苦しみを味わい、熟成の進んだ第21話にも良い影響を与えたと思っています。 Report.22、23 みんなの視点で書こうシリーズ、いよいよ観測対象本人の視点による報告です。全員の視点で書こうと思った時から、ハルヒ視点はこの形式しかないかなと思っていました。 しかし、そういった文書構造いじりだけではなく、書きたかった話も詰め込んでいます。それが、『涼宮ハルヒの手紙』と、第21話を受けた『追伸』。ハルヒの告白と、ハルヒ版の「長門は俺の嫁」宣言です。 Report.24 「最終話まで、あと2回!」な話。最終話までの投稿予告を打っての投稿でした。ここからの話は特に、『機械知性体たちの輪舞曲』の影響がとても強いと思います。 最終3話は、TFEI端末たちの「独立宣言」になっています。 Report.25 第二部『長門有希の憂鬱』完結編。喜緑江美里の心に革命が起きました。 担当者は、朝倉は原作で復活すると思っています。たとえそれが、ただの夢であっても。 Report.26 『長門有希の報告』最終話。 挿話自体はずっと前に書き上げていて、後はどこに入れるか、という段階でしたが、入れる場所がなくて最終話まで持ち越しました。おかげで所見に入りやすくなりましたが。 すべての始まりである第1話が、完全に「報告書」の形で始まっているので、すべての終わりである最終話は、やはりそれを受けた形にして、「報告書」として完成させたいと思っていました。報告書の締めは「所見」です。 この話を書いている時に、『情報統合思念体は、この報告を読んでどう思ってるんだろう』という感想があって、びっくりしました。やばい、展開を読まれてる、と。 Extra.01 『古泉の関西弁がおかしいw』とか『西宮はこんな言葉じゃねえw』とさんざん言われていたので、釈明というかボヤきをノリで書きました。まさかこの番外編もシリーズ化するとは思いませんでしたが。 Extra.02 最終回予想その1。原作の「宇宙人と未来人が仲良くお茶を点てている光景」というくだりを読んで思い浮かんだ話を、形にしてみました。 現地語訳は、いくらネイティブの人間でも、実際には相当疲れます。その理由は、第1話の冒頭に書いた通り、書き言葉が方言の表記に適していないからです。 そういった鬱憤を晴らすかのごとく、全編共通語で書いていました。本当に楽です。 とはいえ、この作品の肝はやはり「現地語」。夢オチということで現地語世界に帰ってきます。その結果、「夢の中は共通語」という裏設定が生まれ、番外編第3話にも採用されました。 Extra.03 最終回予想その2。これを念頭に、本編第7話が出来上がりました。 番外編第2話と同様、夢の中の話なので全編共通語です。 Extra.04 みんなの視点で書いてみようシリーズの端緒。 ハルヒとみくるの熱い女の友情を書こうとしたら、なぜか肉弾戦になってしまいました。なんでやねん。 『HERO‘Sを見ながらこれを読む。リアルだwww』『カカオ99%だなw』『これ、何てHERO‘S?』との感想を頂きました。 Extra.05 番外編第4話の長門視点と、その後の話。何か鼻血ネタが多いですね。 Extra.06 『方言表記は読む気がしない』という意見や、担当者自身も他の方言圏の人には意味が通じない箇所が多々あるだろうと思っていて、いつかは出そうと思っていた共通語版です。 『まるで吹き替え版を見ているような』という意見や、その他に色々頂いた意見やアイディアを元に、現在の「現地語・字幕併記」の形が生まれました。 Extra.07 みんなの視点で書いてみようシリーズ。 ある日ふと思った、『なぜ古泉一樹ら「機関」の人間は、何の見返りもなく閉鎖空間に向かうのか』という疑問を掘り下げてみました。 世界を守らなければならないという義務感とか、そういった辛いものではなくて、「機関」や超能力者も、ちょっとした『いいもの』をハルヒから受け取っている、という関係ならいいなと思います。 『ますます古泉が好きになった』という感想を頂きました。担当者は基本、登場人物は全員好きです。カップリング話などではしょっちゅう他のキャラを貶す発言が出ますが、そのような発言を見ると、とても悲しくなります。この作品を通じて、キャラクターの魅力が再発見されて好きになる人がいたなら、幸いです。 Appendix 感想で既に先を読まれてしまっていた、情報統合思念体視点の話。 「情報統合思念体=父」というネタは特に長門スレでよく見掛けますが、「情報統合思念体=母」というネタは見たことがなかったので、天邪鬼な担当者としては、当然母バージョンなわけで。独白であれだけ硬いことを言っておきながら、端末に入ると極めてファンキーなのは、仕様です。 この作品の、特に後半が思いっきり影響を受けた『機械知性体たちの輪舞曲』では、情報統合思念体と長門有希との関係が「父と娘の和解」として描かれていますが、この作品では、「母と娘」になっています。しかも母親の方は最初から分かっててやってるということで、ある意味「娘」を手玉にとっています。朝倉の「家出」さえも織り込み済みです。母は強し。 ほんの思い付きで始めた「現地語」による記述。それがあれよあれよと回を重ね、終わってみれば本編26話、番外編7話、後日談1話、連載期間10ヶ月という、長い旅になりました。担当者の筆の遅さと、珍しい「現地語」表記による読みづらさ。それにもかかわらず読んでくれ、また応援もしてくれて、いろいろとネタを提供してくれた読者さんたち。刺激を与えてくれた職人さんたち。本当に、ありがとうございました。 そして、そのような情熱を人々に与える作品を生み出した谷川流先生に、万歳。 |目次|
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4293.html
長門有希の妊婦生活の続きです 「…あ…。」 「んー?どしたー?」 リビングの隅にあるパソコンを弄っている彼。 顔をこちらに向けずに画面に食いついてる。 「…動いた。」 「なにィィィィ!!?」 一瞬彼の顔が劇画チックに見えた。昼に読んだ漫画のせいかも。 「このッ!俺にもッ!『命』を体験させろッ!」 リビングの絨毯をずらす勢いでスライディング。…ユニーク。 「…もう動いてない。」 「…うー、悔しいなぁ…。」 「きっとすぐ動く。…来て。」 彼を抱きしめて、耳を私のお腹に当てる。 ぽっこりと大きくなった私のこのお腹には、彼との愛の結晶がいる。 どくん 「あ…。…今の?」 「…動いた。」 どくん、どくん 「あ…また……ウヒヒヒ…!」 感極まっているのか、私が妊娠を告げた時のように子供のような笑い声をあげた。 「…ふふふ…。ほーら、パパだよー。元気に育てよー。」 私のお腹をぽふぽふと叩きながら語りかける。 「…ママも、いる。」 彼が顔をあげて見つめてきた。 …ちゅ 「ずーっとご無沙汰だなぁ…。」 私の胸をつつく。 妊娠から8ヶ月、私の胸はその影響で大きく膨らんできている。 「………。」 無言で、目で語りかけてくる。 『やりたいなー…』 もにゅもにゅ… 「…産まれたら…また…。」 言ってすぐに強く彼の肩を押して遠ざける。 …恥ずかしい。 彼はにっこり笑うと(かっこいい…)、私の頭をぽんぽんと叩いて再びパソコンの前に腰かけた。 二ヶ月後――― 「なぁ、いい加減教えろよー!男か?女か?」 「…じき、わかる。それまで秘密。」 「うー、名前決められないじゃないか。」 「…両方考えればいい。」 実は私もどちらか知らない。お医者さんには伝えないでと言ってあるから。 「一応候補はあるんだぜ。」 彼は仕事鞄をゴソゴソ探ると、一枚の紙を出してきた。 「…これは、候補?」 「ああ。…どっちかわかってればもっと絞り込めるのになぁ。」 …紙には、男女の名前。合わせて100以上が載せられている。 仕事中にこんなことを…。 叱りたい半面、嬉しい気持ちもあった。 だから、頬を軽く抓ってそこにキス。 「ふふふ…。なぁ、どれがいいと思う?冬だし、やっぱりそれにちなんだ名前がいいと思うんだ。」 「…これ。」 ひとつの名前を指差す。 …男の名前候補と女の名前候補の真ん中あたりに書かれていた。 「ああ、それか。『男にも女にもつけられそうな名前候補』の中でのイチ押しだっ!」 「…綺麗。」 …う 「…どうした?」 「…産まれそう。」 「な、な、ほんとか!?き、救急車っ!いや、車で病院に直行かっ!」 「…痛い…。」 彼は寝間着の上に私の編んだセーターを着込むと、冷静な動きで支度をしてくれた。 「もしもし、森下産婦人科病院ですか!?…えぇ、私です!あ、赤ん坊が産まれそうなんです!すぐにそちらに向かいます!」 「大丈夫か、すぐ出発するぞ!」 彼は私を支えながら車に乗せてくれた。 霞む視界で車の窓から外を見ると、ちらちらと雪が降っていた。 「すぐ着くからな、それまで頑張れ!」 病院に着くとすぐに分娩室に運ばれた。 …凄く痛い。内臓を直接素手で捻られているかのよう…。 「ほら、頑張って!頭が見えてる!もうすぐあなたは母親になるのよっ!」 母…親… 私にはいない、親。 憧れていた…親子関係。 それが…もうすぐ…。 「それ、もうひとふんばりよっ!」 …っ!! …ぎゃあ、ほぎゃあ…! 産声が分娩室中に広がった。 「頑張ったわね、元気な女の子よ…!おめでとう…!」 「…良かっ…た…。」 「有希…でかしたぞっ…!」 いつの間にか入ってきていた彼は、私の手を握って涙を流している。 …私の、私たちの赤ちゃんは…? 「この子ですよー…抱いてあげてください。……はい、ママですよー?」 赤ちゃんを手渡された。…彼と、私の…赤ちゃん。これで…私は、母…親…。 「お名前は決めてあるんですか?」 「「…はい。」」 彼が言うには、外は…まだ雪が降っていたらしい。 ちらり、ちらりと… 彼と初めて結ばれた あの日のように… 「…みぞれ。……霙。」 長門有希の嫉妬生活へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4861.html
『長門有希の秋色』 「キョンくん、長門さん、どこか悪いんでしょうか」 「えっ、長門が、ですか?」 ハルヒと古泉は掃除当番でまだ部室には来ていない。すでにメイド姿の朝比奈さんが淹れてくれたおいしいお茶を、いつものようにまったりといただきながら、午後のひと時を過ごしていたときのことだ。 お盆を片付けた朝比奈さんが俺の隣の椅子に腰掛けると、そのかわいらしいお顔を俺のほうに近づけて、そっと耳打ちするように話かけてきた。 少し驚いた俺は、いつものように窓際の丸テーブルのところに座っている長門の姿に目を向けた。 残暑の時期も過ぎ、すっかり秋の気配に支配された見慣れた窓の外の景色の前で、分厚い本をひざの上に置いた長門は、ただぼんやりと窓の外を眺めていた。 「ほら、本を読んでいる様子がないんです」 「うーん……」 確かに、いつものように本は読んでいないが、特別何かおかしいようには見えない。長門だって、たまには目を休ませることもあるだろうし。 「でも、ここ数日、ほとんどずっとあんな感じで……」 俺に寄り添うようにして小声で話しかけてくれる朝比奈さんのほわっとした雰囲気を感じつつ、 「そうなんですか?」 「ええ、気づきませんでした?」 「……」 長門の表情専門家を自称する俺として、長門の様子がおかしいことを朝比奈さんに指摘されるとは少しばかりショックだ。 ただ単に、いつもの場所にいつものように座っている長門の姿を確認しただけで、何の問題も異常も感じないぐらいに油断していたのかもしれない。ううむ、いかん、いかん。 「昨日は普通に本を読んでいたようでしたけど?」 俺は昨日の放課後のことを思い出していた。 古泉とオセロ勝負をしていた背後で、長門はひたすら本のページをめくっていた。ごく普段どおりの姿だったので、俺はほとんど気にならなかったが。 「ええ。でもすごい速さでページをめくっていましたよね。それでわたし不思議に思ってそっと覗き込んでみると、何か細かい文字で数字がいっぱい並んだ少し厚めの本だったんです」 細かい文字で数字がいっぱいって……。いったい何を読んでいたんだろう? 乱数表か? 「その後しばらくすると、今度は何か遠い目をして窓の外を見つめていました。それで、わたし『どうしたんですか』って尋ねたんです。すると……」 そこまで話した朝比奈さんは、窓際の長門の方をチラッと見たあと、少しうつむいて次に口にする言葉を選んでいるようだった。 「どうしたんです?」 朝比奈さんは俺の方に振り向いて、長門のようにわずかに首を傾けながら微笑んだ。 「じっと私を見つめただけでした、いつもの無表情で……」 「えっと、それじゃ、全然普段の長門じゃないですか」 「そ、そうですね……」 朝比奈さんはくすっと笑って肩をすくめた。 「わたしが気にしすぎなのかなぁ」 右手の人差し指をつややかな唇に当てながら席を立った朝比奈さんは、 「ちょっと洗い物を」 と言い残すと、湯飲みをいくつか持って部室を出て行った。 残された俺は、あらためて定位置にいる長門を眺めてみた。確かに本も読まずに座っているだけの今日の長門は何か違和感がある。朝比奈さんが心配するのも無理はないな。 少し冷めてしまったお茶を飲み干すと、俺は窓際に足を運んだ。 「長門?」 「……!」 俺が声をかけて初めて長門は俺がすぐ横に立っていることに気づいたようだ。うん、確かに少し変だ。 「どうした、どこかからだの調子が悪いのか? 朝比奈さんも心配していたけど」 俺の目をじっと見つめた長門は、ひとつ瞬きをした。 「大丈夫」 「そうは見えないが」 「…………」 「またどこかの対抗勢力の類が何か企んでいるとか」 「そのような兆候はない。安心して」 「じゃ、どうしたんだ? いつものように本を読んでいるようにも見えないけど」 長門は膝の上に置かれた本に視線を落とすと、硬い表紙をめくって中表紙に書いているタイトルをそっと指でなぞった。『火星にて大海を思う』と読めた。著者は『T・フロゥイング』か? 「この本も全部読んだ」 「……そうか。次に読む本もなにかあるんだろ?」 長門は少しの間、読み終えたという膝の上の分厚い本に穴でも開けるような視線を突き刺した後、小さく息を吐くと、そっとつぶやいた。 「……読む本がなくなった」 「へ!?」 「もちろん、地球上で出版されたすべての書籍を読み終えたというわけではない」 いや、そりゃそうだろう。いくら万能有機アンドロイドでもそんなことはできないはずだ。でも長門なら、やれと言われればやりかねないかもしれないが。 長門は、座ったまま俺を見上げると、今度は俺の視線を押し返すような勢いで見つめ返してきた。 「情報統合思念体の自律進化の可能性に少しでも関連があるようなものから単なる娯楽作品まで、あらゆるジャンルのさまざまな代表的な書籍を読了し、傾向と対策についてはほぼ把握した」 「け、傾向と対策って……」 長門の鋼の無表情の中に確固たる自信がみなぎっている様に見える。 「読むべき本がなくなった」 「いや、そんなことはないだろう?」 「昨日はこの地域の電話帳を読んだ」 「な、なに?」 そうか、朝比奈さんが言っていた細かい数字が並んだ本って、電話帳だったのか。いったい長門は電話帳を読んでどうするつもりだったんだ? ところで、朝比奈さんは電話帳というものの存在を知らなかったのか? 「記載された内容を記憶し、電話番号の下四桁で昇順に並べ替えた。その結果を解析したところ、重複も少なくほぼ一様に分布していることがわかった。ただし、数字個々に見ると、四と九の発現頻度がやや少ない傾向が見られた」 「あ、あのぅ、長門……」 お前、そんなことやっていたのか。そこまで追い詰められていたってことなのか。朝比奈さんに声をかけられたときには、きっと頭の中で数字の並べ替えでもやっていたんだろう。だから、少し遠い目をしていたってことか……。 俺はそんな長門にかける言葉が見つからなかった。 「興味深い結果だった」 「そ、そうか、それはよかったな」 何がよかったのかはわからないが、俺はそう答えるしかなかった。 少しの間、長門は黙って俺を見上げていた。やがて、ポツリと話し出した。 「もし……」 「ん?」 「もし、おすすめの本があれば紹介して欲しい」 そう言う長門の黒い瞳は、いつもより少し輝きを失っているようにも感じられた。 「俺がお前に本を紹介って……」 普段からたいして本なんか読んだことない俺が、目の前の読書マシーンに紹介できるはずはないだろう。俺が読んだことがあるような本は、長門もすでに読み終えているはずだ。 「なんでもいい」 「なんでも、って言われてもだなぁ……」 俺をじっと見つめる長門の真摯な瞳に期待を込めた一縷の光を見たような気がした。世話になっている長門の求めにはなんとか応じてやらなければなるまい。 「わかったよ、何か探しておくよ」 長門はわずかに首を傾けると、ほっとしたように口元をわずかにほころばした。 「でもな、長門……」 俺はさらに続けた。 「別に『読書の秋』だけじゃないぜ。せっかくいい季節になってきたんだから、本読むのもいいけど、どこか出かけたほうがいいと思うぞ」 「国立国会図書館に行ってみたい」 「いや、だからな、そうじゃなくて、ハイキングに行くとかだなぁ」 「……紹介して」 「え?」 「秋のお出かけにふさわしいところ」 ううーん、まぁ確かに、俺が長門に紹介できるのは、本よりも行楽地のほうがいいにきまっている。 「よし、じゃ、今度の休みにどこか行こう。『行楽の秋』だな」 「…………」 静かに立ち上がった長門は、窓から少し乗り出す様に外の景色を見つめている。その長門の小さな後姿を見つめながら、俺はどこか気晴らしになりそうないいところがないか考え始めた。 しばらくして振り返った長門の俺を見つめる瞳には再び輝きが戻りつつあった。 「楽しみ……」 小さな声でひとことだけつぶやいた長門の無表情の中にわずかに芽生えた微笑が、秋色たっぷりのさわやかな青空を背景に、どんどん大きくなっていくような気がした。 Fin.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1174.html
いつもの朝。ジリリリリと鳴る目覚まし。それによって起こされる俺。 あぁ、すがすがしい朝だ。 妹爆弾も回避できたしな。 と、枕元に置いてある携帯が鳴る。 み、み、みらくる、みっくるんr 長門だ。何の用だろう? 「なんだ?」 「今すぐ来て欲しい。私のマンション。」 「制服でいいか?」 「いい」 「わかった、今すぐ行く」 「…そう………あと…」 「?」 「もし私が変わっても、動揺せずに接して欲しい。」 「なんのことだ?」 「……早く。」 長門の言葉を聞くと俺は電話を切り、すぐさま制服に着替え、 朝飯も済ませないまま家を出た。 自転車で行くこと25分。こんなもんか。 長門のマンションに着いた。 確か長門の部屋の番号は……708、だったな。 ピンポーン…… 「……」 「俺だ」 「……」 …ガチャ そしてエレベーターに乗る俺。7階を押す。 そういえば、小さい頃はエスカレーターとエレベーターの違いを区別してなかったよな…。 誰だって小さい頃はそんなもんだろう。 そんなことを考えているうちに7階に着いた。早いな。 ドアの前まで行く。ベルを鳴らす。ピンポーン。 俺は「はーい」なんて可愛い声聞けたらいいなとか長門だからありえないかとか考えていたら…… 「はーい」 ?!今のは長門の声……だよな…?しかもハートマークが付きそうな感じだ…。 ガチャ 「おっはよー、キョン君♪」 と、長門が抱きついて来た。気持ちいい。でもほんの少し柔らかさが足りないか?それは失礼だな。 ってあれ?ホントにこいつ長門か? 「なんでそんな顔してるのかなぁー?」 ふと、長門が顔を覗き込む。見た目は長門だよな。あ、目が合った。 「んもぅ、朝からそんな顔で見ないで……」 顔赤いな。ていうか何の真似だろうね、これは。 「お前、本当に長門か?」 「……あっ!そっかぁ~!まだ言ってなかったね~。さ、入って入って!」 言われるがままに部屋に入る。ん、いつもの無機質な部屋だ。そしていつものこたつに入る。 いつもと違うのは…… 「それじゃあ、説明するね!」 長門だけか。 「ついさっきね、私が起きたら思念体さんからね、伝達が来たの。 内容は詳しくは教えてあげられないけど…… それをまとめるとねー、え~と、『もうちょっと明るい性格になって ハルヒちゃん達と仲良くしなさい』、だって~。」 思念体もまた無茶しやがって……。 「むちゃくちゃだな。」 「でもでも、思念体さんは私がもともとこんな感じだったように皆の記憶を変えちゃったみたい。 でもあなただけは、キョン君だけは私が阻止したよ。」 「なぜだ?」 「んもう、キョン君ったら、にぶにぶさんなんだからぁ~」 がばっ!うおっ!急に抱きついてくるなよ。俺はうれしいが、違和感が。 「……どういうことだ」 「……こういうこと……」 長門は腕を首に廻してきた。顔、近いぞ。 目を閉じて、ちゅーをしてきた。ちゅーだぜ、ちゅー。あの長門が。 と思ったが、俺の顔の前で止まった。あとは俺に任せたということか? 今、俺の頭の中では理性と本能もとい煩悩がせめぎあっている……。 惜しい。実に惜しいながらも理性が勝った。 「よせっ、長門。」 そう言って俺は長門を俺の体から引き剥がした。 「もう、恥ずかしがり屋さんなんだからぁ」 というか、ここまで表情豊かな長門を見たのは初めてだ。 多分俺の顔は真っ赤だ。が、しかし長門も真っ赤だ。 もしかして長門は無理してやってんじゃないのか? 「長門。お前、昨日までの記憶、あるか?」 「もちろんあるよ~。」 「じゃあなんでこんなこといきなりすんだ?」 「これは……昨日までの言い方で言うと 『私という個体もあなたとこうありたかった』っていう感じなの。」 「まさか……」 「……とにかくっ!もう時間みたいよ!学校、行きましょ!」 「あ、あぁ・・・」 俺は手を引かれながら長門のマンションを後にした。 俺達は喋りながら学校へ歩き出した。肩を並べて。 正直、この長門も嫌いじゃないな。 それにしても、こんなによく喋る長門は初めて見た。 にこやかな、健康的な笑顔で俺に語りかけてくる。ちくしょー、可愛いぜ。 でもやっぱり長門は長門なんだな、話してる内容が全部、最近の本のことだ。 「―――でね、今、私が読んでる本はね、恋愛モノなの! たまにはいいかなぁーってね!ほら、コレ!」 長門は鞄の中からゴソゴソと一冊の本を取り出した。 その本はいつものように分厚いハードカバーに包まれたものではなく――― 「……谷川流の憂鬱?」 「そ!なんかスニーカー大賞を取ったとかで有名なのよ~。 主人公の流がどんな女の子にでも優しく接するばかりに泥沼状態に!っていう小説なの!」 「……面白いのかソレ?」 「もっちろん!私も太鼓判押しちゃうくらい!」 「……まぁ、長門がそういうんだから面白いんだろうな。」 「読み終わったら貸してあげる!」 「……ありがとな」 俺は長門に戸惑いつつも少しだけ好感を持つようになった。 ――と、学校に着いた。 なんか久々にこの坂がキツくなく感じたな。長門のおかげか? クツ箱にクツを入れる。 「それじゃあ、また放課後!あ、昼休みも部室にいるから!」 「…またな。」……やれやれ。 そろそろ始業のベルが鳴りそうなので急いで教室に向かう。 「うぃ~っす」 「よぉ、谷口」 谷口だ。なんか元気無さそうだ。ん、いつもこんな感じだっけか? 「どうした?元気無いぜ?」 「……お前のせいだよぉぉおおおおお!!」 クラスがざわつく。視線が痛いぜ。 「落ち着けって、谷口。なにがあった?」 「…………朝から……ランクAA+の……長門有希と…一緒に…」 「わかった、わかったからみなまで言うな。そして泣くな。」 「なぜお前だけぇぇぇえええええ!!」 不本意だが谷口はほっとく事にする。 それにしてもなんか長門のランクが上がってないか?微妙に。 ガタン、ドスッ 俺の後ろで物音が聞こえた。わざと聞こえるようにしてるな。 「……よ、よう、ハルヒ」 「おはよ」 それだけ言ってハルヒはふてくされた表情を見せて空の方へとそっぽを向いてしまった。 「どうしたんだ?ハルヒ」 なんかさっきも似たようなセリフ言ったばっかのような気もするが。 「なんでも無いわよ……。」 今日のハルヒはなんとなく話しづらい雰囲気を作っていた。 だから何も話せずに時が過ぎていき、いつの間にやら昼休みのチャイムが鳴った。 「おいハルヒ、お前はまた学食か?」 「そうよ、じゃ」 それだけ言うとハルヒは嵐のように去っていった……わけでもなく、とぼとぼと歩いていった。 チラチラこっちを向いていたが、何が言いたいんだろうか。 その行動はまるで俺について来いとでも言いたげだったが、気のせいだろう。 一応学食行ってみるか。長門と一緒に。だからまずは部室行くかな。 ガチャ 「おい長門ー。」 「待ってたよぉ~!もしかしたら来ないかと思ったぁ!」 「……そうか、ところで、学食行こうぜ。」 「いいよぉ!一緒に行こー!」 やばい。まさかここまでの笑顔を見せてくれるとは。 食堂についた。~っと、ハルヒハルヒと、あ、いた。 一人ぼっちだな。そばすすってる。 「隣、いいか?」 ハルヒをはさむように陣取る俺と長門。 「ハルヒちゃん、どうしたの?元気ないねぇ?」 「俺、なんか買ってくるけど、長門、なんかいるか?」 「じゃあ、お茶を頼んじゃおうかな~」 「あ!あたじも゙!ぼげぁ!ゴホッゴホッ」 「食べながら喋るな、ハルヒ。」 俺も弁当持ってきてるからお茶でいいや。 「おばちゃん、お茶3つ」 「あいよ……お茶3ー!」 「「「あいよー!」」」 うお、なかなかいい商売してくれてるな。 「はい、お茶3つで150円ね。」 お茶3つ抱えてハルヒ達のところへ帰ろうとすると、 ハルヒと長門が仲良く話している。朝からのハルヒの不機嫌はどこへ吹き飛んだやら。 「―――っていうのを考えてるんだけど」 「面白そうだね!」 笑いながらハルヒが話す。それを笑顔で長門が聞く。 ………思わず一人で和んじまった。 「ほい、お茶だ。」 「それでこそ私の奴隷よ!」 「ありがとねー!」 それにしても俺はいつの間にハルヒの奴隷になったっていうんだ? 長門はそれをひょいっと手に取り、こくん、と飲む。 さてと、俺も弁当食うか。腹減った。 二人が話してる横で俺は弁当をパクパク食っていた。話しかけてくれてもいいじゃないか。 食べ終わった。お茶をかたむける。うまいな、だがしかし、それも井の中の蛙だ。 朝比奈さんの淹れてくれるお茶の足元にも及ばぬわ!とはいっても、これも十分うまいんだがな? おっとそろそろ午後の授業の始業のベルがなるな。 「おい、そろそろ行くぞ。」 「もう?早いわね。」 「また放課後部室でねー!」 教室に歩いてハルヒと戻る。 「なぁハルヒよ」 「何?」 「いったいどんなこと長門と話してたんだよ」 「映画の話よ!次は有希ちゃんがアクションシーンやるって。それも――」 まったく、午前中は自ら話しかけにくい雰囲気作っておいてこれか。 でも、SOS団の無口キャラがいなくなったのは結構痛いな。 っていうか俺が結構無口キャラになってないか?まぁいい。 「――ってキョン!聞いてた!?」 「あぁ、聞いてたよ、もちろん。」 聞いてないけどこう答えるのが俺だ。聞いてないなんていったらどうなることやら。 「それよりも、始業のベル鳴ったから急ぐぞ」 「う、うん。」 午後の授業は俺の耳にはなぜかあまり入らなかった。 いや、理由は分かっている。長門だ。 あいつは可愛くなった。いや、元から可愛いんだが、違うんだ。 笑う長門。よく喋る長門。抱きついてくる長門。たまらない。 いつの間にか俺の頭の中は長門でいっぱいになっていた。 放課後になった。 「あたしは少し用事あるから先言ってて!」 言うが早いか行うが早いか。ともかくハルヒはどこかへ走り去っていった。 俺は一人でSOS団の部室へと向かう。 ガチャ 部屋の中にいるのは……長門だけ……か。 「キョン君おっそい!早く顔見たかったよぅ~」 長門が抱きついてきた。 「顔、近いぞ」 冷静を装いつつも理性の壁にヒビが……。 やばい。心臓バクバクだ。俺は以前ここまで長門に対してドキドキしたことがあるか? いや、無い。多分無い。 それにしても長門からは良い匂いがするな。 頭がクラクラしてくる。理性?なにそれ?おいしいの? 長門にキスをしようと顔を近づける。 「だ~め。」 長門はそういって俺の唇に人差し指をチョン、とつける。 俺はねんがんの理性を手に入れた!ってな感じだったが、まだ長門が愛らしくてたまらない。 「今度してあげるから……ね?」 「……あぁ。」 俺はふてくされたような顔をした。 「そんな顔してるとハルヒちゃんに『死刑!』て言われるよ~?」 『死刑!』て言うときに指を指してハルヒっぽく言ったつもりらしい。 そして長門はいつもの席の戻ると本を読み始めた。 読んでる本は……「谷川流の溜息」……続編か? バアアアアアアン! 「遅れてゴメーン!」 ハルヒが来た。朝比奈さんも。そして古泉も。 俺はいつものように古泉とオセロに興じることにした。 朝比奈さんは今日は制服のままのようだ。 やっぱり朝比奈さんの淹れてくれるお茶はうまい。 しばらく過ごしていると、パタン、という長門の合図が。 こうしていつも通りの活動は終わった。 さて、帰るかな。 「んじゃあたし、もう帰るわ。」 「僕もお先に」 じゃあ俺も帰ろうかな。 「んじゃ俺も。」 「ちょっと待って」 引き止めたのは長門だ。 「コレ、貸してあげる。すぐに読んでね?」 差し出したのは朝の例の本だ。 「ありがとな。んじゃ。」 「じゃあね、キョン君!」 と、俺は一直線に家に帰った。 ん?携帯に未読メールがあるぞ?さっきまで無かったのに。 ……長門からだ。あれ?メールが来た日付がおかしいぞ。 明日の日付だ。まぁ、いい。読んでみるか。 『あなたが一番やりたい事を』 それだけだ。何だろうね、これは。長門が言うことだから、何かあるだろう。 と、そこで気がついた。自転車、長門の家に置きっぱなしだ。 取りに行く前にさっき借りた本でもパラパラと読んでみるか。 ふむふむ。こんな感じか。俺は小説とかの絵はとりあえず先に見ておく派なんだ。 って?なんだこれ……栞だ。デジャヴを感じた。なんか書いてあるぞ。 『7時に○○公園で。』 ……走ったら間に会うか? ……間に合った。間に合ったハズだ。 間に合ったハズなんだが――― ―――誰もいないぞ? あれ?おかしい。この公園は狭いからいたとしたらすぐに見つかるのに。 呼んだら出てくるかもな。 「おーい、長門ー。いるかー?」 返事がない。やっぱいないのか? 仕方がないのでベンチに座って待つことにするか。 ……待つこと10数分。 来た。長門にしちゃ遅いな。 「ごめんね!準備してたら遅くなっちゃった!」 「準備?なんだそりゃ?」 「なんでもないの!」 「…そうか。」 「それじゃあ私のマンション行きましょ!」 「お、おう。」 うーん。やっぱこの笑顔は何物にも変えがたいな。 長門のマンションまで歩いていく。 前一緒に行った時はなんにも思わなかったのに、今は違う。 なんだろうか、ドキドキする。 着いた。 長門が鍵で開ける。ガチャリ。 エレベーターに乗る。ウィイイイン。 ドアの前まで来た。 「さ、入って入って。」 「おじゃまします。」 部屋の中はいかにも以前の長門らしい、無機質な部屋だった。 「お茶、淹れたの。飲んで♪」 「……あぁ…。」 ゴクゴクゴク、と飲み干す。 コト、と湯のみを置く。 長門がおかわりいる?と目で言っているようだ。 俺は首を横に振った。 「俺になんか話でもあるのか?」 「うん。一つ聞きたいことがあるんだけど……。」 急にもじもじし出す長門。頬がほんのり赤い。 まるで告白でもするみたいじゃないか。 「なんだ?」 「キョン君は……私のこと……どう思う…?」 まるで金槌で頭を叩かれたような衝撃が走る。 こ、これは遠まわしの告白なのか? 「お、俺は……まぁ…」 「……」 「好き…か、な」 「私も!」 ガバッ!抱きついてきた。 「大好きぃ……」 「俺も…だ…」 この『大好き』は以前の罰ゲームでの大好きとは程遠い、感情のこもったような『大好き』だった。 俺と長門は抱き合っている。良い匂いだ。柔らかい。 ここでなぜか、俺はさっきのメールを思い出した。 『あなたが一番やりたい事を』 待て。今気付いたが言葉遣いが今の長門と違うような気がしないか?! 以前の長門のような…、そう、以前の長門だ。 明日の日付……未来からのメールか?! あり得ん……だが長門ならやりかねん。 自分自身を過去へ行かせることは不可能でも メール、つまり電子情報だけ過去へ飛ばすということは可能なんじゃないか?! だが、その内容はサッパリだ…。まったく分からん。 一番やりたい事?なんだろう?今の俺には今の長門しか見えない。 長門。可愛い。やわらかそうな唇。キスしたい。長門を感じたい。 そういう事か?長門。くそ、なんか頭がぼやけてきた。 目の前の長門。俺の腕の中の長門。いつの間にか目を瞑ってる。 キス?俺にしろって言うのか?あぁ、好きだ、長門。 俺は長門の唇に自分のそれを近づける。俺も目を瞑る。 「好きだ……長門…」 「私もっ」 ムニュ。唇同士が触れ合う。柔らかい。 舌を出す。長門の唇をなぞる。開いた。舌を押し込む。 「ンッ……!」 歯をなぞる。歯茎をなぞる。舌と舌を絡ませ合う。 チャプ… 「ん…ぁ…ふ…ん…」 チュプ… 唾液と唾液を交換する。 その直後、ピカッという擬音が聞こえそうなほど強烈な光が俺の目を覆う。 ――――どうやら俺は気絶していたようだ。 目を開けて、周りを見渡す。 すると、長門と朝倉がいた。なぜ朝倉がここにいる?! それに上半身だけしかない。下半身は光の粒になって消えていっている。 「あら、やっと起きたのね。」 「朝倉……なぜお前がこんなところに…!」 「大丈夫」 「長門!お前…」 「キョン君はお変わりなさそうね。」 なんだってのんきな奴だ。そして、長門は以前の長門に戻っていた。 なんかもうワケ分からん。 「私は朝倉涼子に操られていた。正確には意識はあった。しかし行動が伴わない。 急進派の思念体が情報改変までした。 元に戻るための方法は私があなたの体液を受け取る事だった。」 「?なぜそんなややこしい事を。」 「決まってるじゃない。」 朝倉が言う。 「私がちょこっと長門さんの恋心からのエラーを解消してあげたんじゃない。 それに涼宮ハルヒが嫉妬するとなにかしらの変化が観測されるかもしれないわ。」 もう胸まで消えかかっている。 「しかし、お前は俺に自分から…キスをしようとしたじゃないか」 「演出よ、え・ん・し・ゅ・つ。」 「でも、俺がキスをしたときには抵抗しなかったのは?」 「それは……」 「私という個体がそれを…望んだ……から」 「長門さん本来の意識に流されちゃって……ね。」 「長門……。」 「それじゃ、さよならキョン君。長門さん。」 もう首まで消えている。 「お、おい!」 「長門さん、私はあなたを応援してるわ!」 「……ありがとう」 ……そして朝倉は完全に消えきった。 「長門……」 「何」 「俺は…お前のことが…」 「言わなくていい」 「長門有希のことが…」 「言わないで」 「……す」 「だめ!」 ギュ。 さっきまでの長門とは違う、控えめ、だけど優しい抱き方だ。顔は見えない。 「だめ……それ以上…言うと…私は……」 「俺は長門のことが好きだ!」 言い切った。それはあまりにも清々しいほどに。 長門は困惑と歓喜と悲しみを混ぜたような表情を俺に見せた。 「私はそれに…答えられない……」 「答えなんていらない。お前だけが欲しい。」 それを聞いた直後にこちらをみる長門。 ちらりと見せる長門の涙。 長門は少しだけ抱きついた力を強めた。まるで答えを示すかのように。 俺は長門を思いっきり抱く。唇を近づける。 長門は俺の首に腕を廻してきた。 「…………すき」 チュ…… それは聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声だったが、俺には確かに聞こえた。 長い時間唇を合わせたままだ。どれだけキスをしていたのだろう? 息が苦しくなって唇を離す。息を吸う。 「今だけ…今だけは…有希と呼んで…欲しい…もう一回…好きって…言って…」 「…有希……好きだ…」 小さく震える長門、ではなく、有希。 「…そして……キスして…」 「あぁ…」 もう一度、俺達はキスをした。 息が苦しくなったら、口を離して、息をして、もう一度した。 何回も、何回も、何回も、俺達はキスをした。 そのうち、有希のほうから求めるようになった。 「あむ…ん…ぷはぁ…」 「可愛いぜ、有希…。」 「……」 黙って頬をほんの少し赤くする有希。 俺はやっぱりこっちの有希がいい。 携帯がなる。 家からだ。母さんか? 「…家からだ。」 「……」 空気読め。母親よ。 「―――じゃあ」 プチッ 「そろそろ遅いから帰って来いって…」 「帰って」 「分かった、じゃあまた明日な。」 そう言って俺は長門のマンションを出た。あった、俺のチャリ。 急いで家に帰る。 そして次の日、学校に行き、いつしか放課後になる。 俺はSOS団の部屋に行った。 長門だけだ。 「よう、有希。」 「……もう…いい…」 「お前はそれでいいのか?」 「私は涼宮ハルヒの観察者。あなたは重要なキー。本来は深い干渉はできない。」 「それでも、俺はお前のことが好きだぞ。」 「……キョン…くん」 バアアアアアアン! 「あら?キョンと有希だけ?せっかくみくるちゃんに新しい服を買ってきたのに」 こいつ…空気読めよ…。 俺は有希の耳元で囁いた。 「有希、世界とお前を天秤にかけるなら、俺はお前をとる」 「……ありがとう」 ここからは後日談になるのだが、俺と有希は付き合っている。 もはやハルヒにも知られている。他の二人にもな。 ハルヒはどうやら超巨大な閉鎖空間を一回出した後、それ以降何も無いそうだ。 北半球まるまるだったらしいな。すまんな、古泉とその仲間達。 ハルヒは古泉と付き合っているらしいのだが…。まぁ、いい。 古泉いわく「できるだけあなたの代わりを務めますよ」とのことだ。ありがたい。 そして今日も俺は放課後、SOS団の部室に向かっている。 何が楽しみって?そりゃあもちろん…… 有希の最高の笑顔を見るためだ! ~fin~
https://w.atwiki.jp/hsuzumiya/pages/19.html
長門有希の雨雫 夢を見ていた。 夢、そんなものみないはずなのに、見ていた。 なぜだろうか?なんでそんなことがありえるのだろうか? まず、今のが夢というものなのだろうか、みたことがないので彼女は、 理解することはできるはずがなかった。加えて、内容も理解することができなかった。 いや、理解したくもなかったのだ。あまりにも、突飛すぎていたし、 何よりも凄惨なものだった。 が、しかしこの夢はすぐに消えてしまった。 学校はいつものように、文芸部の部室、兼SOS団の部室に入り、 パイプ椅子にすわって本を読む。それを繰り返していく毎日。 その毎日にいつも彼からの話かけられることがあった。 自分の正体を知りながらも、やさしく声をかけてくる彼。 「今日は何の本をよんでいるんだ?」 「………SF」 「そうか。」 「読む?」 「いや、その量は読める気がしない。」 「……そう」 なぜだろう?もうすこしだけ話していたかった。 彼と話していたかった。人の気持ちなんかもってないはずなのに…… 自分は、少しずつ壊れている。そんな気がした。どうしてこんなに胸がいたいのだろう? 彼は、私を壊すイレギュラーなのだろうか?敵性なのだろうか? 考えを巡らしている間の途中、意識は消えた。 気がついたときには、もう空虚な空間の中にぽつんとすわっていた。 自分はなにをしていただろう?あの後は何をしたのだろう? まったくおぼえていなかった。 やはり、私は壊れてきているのだろうか? 翌日、いつものように、いつもの場所で本を読んでいた。 そして、いつものようにガラっと扉をあけ、いつものように、カバンを下ろし、 いつものように、やさしく話しかけてきた。 「よう。今日も元気そうだな。」 「……元気。」 「そうか。元気でうれしい。」 「…どうして?」 「どうしてっていわれもな。」 「どうして、人が元気だったら、あなたはうれしい?」 「大好きな仲間が、元気じゃなかったらいやだろう?」 「……そう」 大好き?それはなんだ?人の感情? 私が持ち得ることができない。そういう類のものか。 「私は、感情の概念を持っていない。」 「そんなことはないぞ。長門おまえだって絶対あるはずだ。 絶対なくしたくないものが。ほしいものが。」」 「…………」 なくしたくないもの・・・・・ 絶対に無くしたくないもの、ほしいもの・・・・それは・・・・? なんだろうか?私にもそんなものあるのだろうか? 唐突にガラっと、大きい音がした。 涼宮ハルヒだった。彼に話しかけている。 それがなぜか嫌だった。見ていて嫌だった。・・・・・どうして? …………私が、絶対にほしいもの、なくしたくないものは彼なのか? そんなことはあるはずがない。そんな感情、プログラムされていない。 時間がきた。帰る時間だ。涼宮ハルヒは用事があったらしくとっくに帰っていた。 残っていたのは、彼と私だけだった。 きれいなオレンジ色の夕焼けをみながら帰り支度をしていた。 「一緒に帰るか。」と彼。 私は、こくりとうなずいた。 さっきの夕焼けの残影をのこした帰路につきながら、 「欲しいもの……」 「……?。みつかったのか?」と彼 「それは、…あなた。」 「……!」 自分は何を言っているのだろう?こんなことありえない。 でも、制御ができない。彼が欲しい。欲しい。…………欲しい。 涼宮ハルヒには…………。 その時、プツっと意識が途切れた。 フっと、意識を取り戻した。 目の前にあるのは、彼の死体だけ。 ふと少し前の記憶が怒涛のように流されてきた。 なんだ?これはなんだ? なにをしている?「やめろ!やめて!“」 私はなにをしていた!? 私は、彼を殺したのか?なぜ?どうして?彼がほしかったのに。無くしたくなかったのに。 彼と一緒にいたかったのに。なぜ殺した? 涼宮ハルヒにわたしたくなかったからなのか? それを教えてくれる彼はいない。 それを教えてくれる彼を私は…………殺した。 あの夢を思い出す。あの凄惨な夢を。 私は、もう何も見えない。何かが目からながれている。 なんだろう?いつも、そういうことを教えてくれていた彼は、もういない。 いろんなことを、伝えてくれていた彼は、もういない。 大好きな彼は、もういない。 その時。美しい出で立ちをし、きれいな涙を流す彼女は自問自答する。 そして、その答えは、彼が、彼女が言った言葉を答えたものと同じものだった。 「……………情報連結解除。」 「Yes。」 彼女はやさしくそう言って、彼と消えていった。 そう。最後の彼の言葉を思い出しながら。 もうその場所には、二人の影はない。 いまだ夕焼けの残影を残す帰路。二人の影を失った空は、ただいたずらに反転していく。