約 24,296 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1902.html
暮れてゆく年 去年よりものの増えた部屋 窓から見える変わらぬ景色 空から降り行く無数の粉雪 あの人から、あの人たちからもらったたくさんの大切なもの 言葉にはできないけど、とても大切なもの 私は私の部屋でゆっくりと感じていた - ピンポーン - 突如鳴り響く来訪者のベル 私はゆっくり席を立ち、来訪者を迎え入れた 「おでんできたから一緒に食べましょ?晩御飯はまだだよね?」 「まだ」 前のような偽りではない笑顔 紺色の長い髪 朝倉涼子を、部屋に招きいれる If Story - 朝倉涼子と長門有希の日常 - ……… …… … 「相変わらず、殺風景な部屋ね」 「そう」 朝倉涼子は部屋を見渡し、呆れる様に語る 「ま、キョン君が来てから多少物は増えたかな」 クスクスと笑ってコタツの上におでんの入った鍋を置いた 私は台所から二人分の食器を運んでくる 「さ、食べましょ」 笑顔で私に笑いかける彼女 彼女に促されて私も席に着く 大根 はんぺん こんにゃく etc... 舌が火傷してしまいそうな熱さの物を、ゆっくりと口に運ぶ そして香りと味を感じる 「相変わらずよく食べるわね?太っちゃうわよ?」 朝倉涼子が私を見てからかいながら言う 「問題ない、涼宮ハルヒの観察という任務においてエネルギー消費量は通常より高い」 私はいつもどおりの返事を返す 「そういうこと言ってるんじゃないんだけどなぁ」 「?」 朝倉涼子が少し身を乗り出す 「おいしい?長門さん」 そうやって純粋に聞いてくる 私は無言でうなずいた 「あは、よかった」 その笑顔は、とても綺麗だった 彼が来てから変わったのは私だけじゃない 朝倉涼子も同じように変化した 最初は任務の為に、その結果の為だけに動いてた朝倉涼子 しかし彼との出会いが、彼女に意思と言うものを与えた そう、私と同じように 何事もない、静かな日常 何事もない、緩やかな日々 三年前の私とは違う 何事もない、充実した生活 決して変わることのない運命、命令、任務 しかしそれを遂行していく日常のほうが変化していく これは決して嫌なことではない 私と朝倉涼子の間にあった距離も、確実に縮まっていた それは、何より そう、嬉しいことだった 「長門さん」 朝倉涼子が言葉を発する 「何」 「明日の土曜日、ヒマ?」 無言でうなずく 確か今週の不思議探検は涼宮ハルヒの都合で中止されたはず 「そ?よかった、じゃあ一緒にどっか遊びに行かない?」 「何処へ?」 「まだ行ったことない動物園とか遊園地とか」 その笑顔は無邪気で、まるで子供のようだった でも、その笑顔が、何より好きだった 私は無言で頷く 彼女の笑顔をもっと見ていたかったから 「ホント?じゃあお弁当の準備もしなきゃね」 そのあとは適当な世間話、そしていつもの情報統合思念体に対しての定時報告 そうやっていつもの日常を繰り返す 「じゃ、私はこれで」 朝倉涼子は席を立ち、私にウィンクしながら語る 「そう」 私も、じっと彼女を見送る 彼女を少しでも長く見ていたかったから 私とは違う、私の別の可能性 彼女は私の、大切な”トモダチ” 明日の予定を思いながら、私は窓の外の景色を眺めた 大切な日常 大切な仲間 大切な友達 世界にはありふれたもの でも、ありふれているのは、それが本当に大切なものだから 誰しもが持っていたものを、私は持っていなかった そう、彼が来る前まで 大切な長門有希としての日常 大切なSOS団の仲間 そして、大切な朝倉涼子という友達 私はそれが嬉しかった だから、決して離さないと、離したくないと願った そんな、ありふれた大切な物語 -fin-
https://w.atwiki.jp/hiroki2008/pages/18.html
長門有希の日記Ⅱ 5月某日。涼宮ハルヒによって3つの異なる組織の末端が一同に集められ、 なんとも理解しがたい活動をはじめた数週間後。 情報統合思念体も、いよいよ観察対象が動き始めたというので、内部ではさまざまな思惑が飛び交っていた。 「長門さん、喜緑さん、ちょっとお話があるの」朝倉涼子に呼ばれた。 「涼宮ハルヒの情報爆発の件で主流派が譲歩したみたいだわ」 わたしもそれは聞いていた。情報統合思念体の主流派と急進派の間でちょっとした駆け引きがあったようだ。 「急進派内で、キーパーソンはキョン君なのではないかという意見が出たの」 「それはわたしも感じている」 「観察した結果、涼宮ハルヒをコントロールするには、キョン君の意思が必要。 それでね、わたしと長門さんで一芝居打つことになったの。 わたしがキョン君を襲って、長門さんがそれを助ける。 そうすると長門さんとキョン君の間には信頼関係が生まれるってわけ。 主流派は渋ったけど、情報の奔流が得られるかもしれないと期待して結局は譲歩したわ」 「わたしはそのような計算ずくの信頼関係の成立には賛成しない」 「分かってるわ。そんな信頼はウソだと言うんでしょ。でもキョン君に知られなければいいと思うの」 「仮に成立したとしても、わたしはいつかそれを後悔する可能性が大きい」 「これは任務だから、割り切るしかないわ」 「・・・そう」 「朝倉さんはどうなるんですの?」喜緑江美里が不安そうに尋ねた。 「わたしは情報統合思念体に帰ることになるわ。わたしの任務は終わり。お役ごめんってところね」 「そんな・・・あなたがいなくなってしまうと寂しいですわ」 任務完了ということは、朝倉涼子の昇進を意味する。 わたしも喜緑江美里も、これが喜ばしいことなのか、残念なことなのか、気持ちは複雑だった。 「喜緑さん、わたしがいなくなったら長門さんのことをお願いね」 「分かりましたわ。あなたとはもっと一緒に過ごしたかったですけど、お互い仕事ですものね」 「そうね。でも、また会えるわけだし。これが後生の別れってわけじゃないわ」 「そうですね、昇進おめでとう」 「まだ早いわよ」朝倉涼子はほがらかに笑った。 「そういうわけだから長門さん、決行は明日の放課後ね」 「・・・」わたしは黙ってうなずいた。 眠れない。目を閉じるが、明日起こることのイメージが何度も繰り返された。 わたしは枕を持って朝倉涼子の部屋のドアをノックした。 「あら長門さん、どうしたの?」 「・・・ここで寝たい」 「いいわ。上がって」 お茶でもいかがと言ってくれたが、眠れなくなるからと断った。 「そう」 わたしは朝倉涼子のベットにもぐりこんだ。中は暖かかった。 「わたしのことが心配?」 「分からない。この感情は・・・うまく処理できない」 朝倉涼子はわたしの手を握った。 「心配ないわ。きっとうまくいく」真っ暗な部屋で、朝倉涼子の声が小さく響いた。 17時32分40秒、位相変換のシグナルを検知した。時間どおり。 わたしは1年5組の教室へ空間移動した。 無論、ドアは開かない。これは次元隔壁による空間封鎖。 わたしは隔壁の隙を見つけて崩壊因子エージェントを送り込んだ。 エージェントの一部を経由して再実体化する。空間内部では彼と朝倉涼子が対峙していた。 わたしは瞬間移動し、朝倉涼子のナイフを握り締めた。 「ひとつひとつのプログラムが甘い」 用意されたセリフとは裏腹に、朝倉涼子のプログラムは完璧だった。 空間封鎖、次元隔壁、分子構造改竄。彼女の情報制御はどれもまったく隙がない。 わたしがここに入り込めたのは彼女がバックドアを用意してくれていたからだ。 「あなたはとても優秀」それはわたしの本心だった。 鉄の分子を再構成した無数の槍が彼を襲った。わたしはすぐさま物理シールドを張る。 朝倉涼子は手加減をしない。本気で戦いなさい、彼女の目はそう言っていた。 わたしは後ろに跳び退った。足元に巨大なエネルギーの衝撃が走る。 これは任務だ。だが、わたしには彼女を殺す理由がない。 そんな感情がわたしに隙を作らせた。再び飛んできた槍がわたしの体を串刺しにした。 「長門・・・大丈夫か」彼がわたしを見ていた。 わたしは彼を助けなければならない。それがわたしの任務。それを思い出した。 複数の組織、派閥、思惑が混沌としてうごめく中で、わたしが守らなければならないのは、人間の彼。 朝倉涼子はそう言っていたのだと思う。 「じゃあ、死になさい」 朝倉涼子の手から伸びる量子ビームがわたしの胸を貫いた。 もしかしたら朝倉涼子は本当にわたしを殺すかもしれない。 そのときはじめてわたしは恐怖という感情を知った。それがわたしを動かした。 仕込んでおいたエージェントを呼んだ。すべての構成情報を破壊せよ、と。 「終わった」 朝倉涼子は、わたしの手によって消滅した。 「長門さん、おかえりなさい。大丈夫?」喜緑江美里はわたしの報告を知っているはず。 「・・・問題ない。シナリオどおり」 問題ない。だがわたしの声は、不可解ながら震えていた。 その日の夜、わたしと喜緑江美里は朝倉涼子の部屋を片付けに入った。 ふだん散らかしていた朝倉涼子の部屋はすでに片付けられてあった。 「・・・することがない」 「家具を処分しましょう」 彼女の本棚には、ミニカーコレクションと、かつてそれだった鉄の塊がそこにあった。 「この塊・・・捨てなかったのね。ちょっとしたオブジェみたい」喜緑江美里が悲しそうに笑った。 背後から、長門さんと呼ぶあのやさしい声が聞こえそうな気がしてならない。 喜緑江美里の情報操作により、すべての家具、丁度品は光の粒子と消えた。 ほこりひとつなく、掃除機をかける必要もなかった。 「終わったわね」 「・・・そう」 わたしと喜緑江美里の話し声が、がらんとした空間に虚ろに響いた。 「しばらく・・・ここにいたい」 「分かったわ。鍵は管理人さんに返しておいてね」 喜緑江美里はそう言ってドアを閉めた。 わたしはベランダの窓を開けた。部屋の暖かい空気と外の冷たい空気が入れ替わる。 見上げると、夜空は一面の星で満ちていた。 見つめていると少しずつにじんでいく。 思い浮かぶ彼女の笑顔はやさしい光に満ちていた。わたしのなかで小さな星だった。 880万光年のかなた、ほのかに輝く星は、きっと朝倉涼子のそれに違いない。 END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5428.html
あとがき この作品は、『涼宮ハルヒの憂鬱』の舞台が兵庫県西宮市であることを知った時に着想を得ました。 舞台が西宮ということで、キャラクターの台詞をいわゆる「関西弁」にしたSSはないかと思い、色々とSSを読んでいましたが、単発の雑談ネタで原作の一場面を「関西弁」に訳した例があるくらい。二次創作で「関西弁」を使ったものはありませんでした。 「ないんだったら作ればいいのよ!」とは原作のハルヒの弁ですが、ちょうど担当者は大阪府出身で、兵庫県下にある西宮の近くの街に住んでいた時期もあるし、北口駅のモデルとなった阪急西宮北口駅も行ったことはある。加えて、身近には西宮市出身の友人もいる。条件は揃っていました。 もっとも、後に「関西弁」を使ったSSが皆無な理由を痛感することになりますが。 また、当時職場で大量の文書を校正する必要に迫られていて、校正の練習にもなって趣味と実益を兼ねられるかもと、軽い気持ちで書き始めました。ちなみに、こちらの目論見は成功したと思います。 Report.01 記念すべき第一作目。当時は読み切りのつもりでした。「関西弁」という表記があまり好きではないので、この時から「現地語」と呼称しています。 単に台詞を「現地語」に置き換えただけでは、単発の雑談ネタとあまり変わらないような気がするし、わざわざ「現地語」で書く理由をもっともらしく捏造した方が面白いかと思って、ネタを探していました。 そんな時目に留まったのが、当時繁忙期に入っていた職場で大量に目にしていた報告書。 ちょうど長門をメインにしようと思っていたので、報告書の文章の書き方が長門の語り口によく似ていると思い、『長門有希の報告』という題名が決まりました。報告書はどれも似たような書き出しだったので、それらを分析して導入部分を書きました。内容からではなくて、本当に題名、最初の部分、と順番に思い付きました。 作中でキョンが「(ハルヒは)新たな属性に目覚めたんじゃないか」と言っていますが、後に担当者自身が、この作品で新たな属性に目覚めることになるとは、当時は知る由もありません。 Report.02 読み切りのつもりで投稿した一作目が、意外に反響があったので、調子に乗って急遽書いた二作目。ネタを探していたところ、職場に新聞記者が来て、何やら金切り声を上げているのを聞いたのがきっかけです。 直接取材を受けていなくても、使えるコメントが取れなかったからといって恫喝したり、執拗に怒鳴り声を上げられたりすると、本当に仕事の邪魔になります。そこで、週刊誌の取材による被害などを思い出し、そこに『涼宮ハルヒの溜息』の映画撮影の話を合わせて、こんな内容になりました。 思いがけず話が続いたので、話数を付ける必要が生じましたが、メインタイトルは変えずに連作短編にするつもりだったので、『GS美神 極楽大作戦!!』から採りました。何の因果か、ネタ元と同様に、長く続く話がほとんどになりましたが。 Report.03、04 本当は前後編で終わらせ、現地語表記も終了する予定でした。しかし、まず話が長くなって中編と後編になりました。 そして、まとめの方にも掲載されたのですが、そこの注意書きに、台詞が一部現地語で書かれていることが記載されていました。それで引っ込みがつかなくなった……もとい、わざわざ注意書きまでしてもらったのに、今更やめるのもどうかということと、ここでやめたら他に例を見ないユニークさが失われてしまうということに気が付き、今後も現地語で通すことを決めました。 また、この頃になると、書いた作品に誘導されるように、話のネタが沸いてくるようになり、もうしばらくこの作品に付き合おうと決めました。 Report.05 この作品での長門のキャラが固まった、また、言い換えれば、長門のキャラが壊れたのが、この話。 SS読みの立場としては、担当者はどちらかと言うと原作重視派に属するのですが、実際に書くとなると大変で、また生来のお笑い好きも影響して、話としての面白さを優先するようになり、こんな長門になってしまいました。長門、ごめん。 長門とハルヒが精神的に急接近するなど、その後の話の方向性を決定付けた、この作品の転換点となった話です。 また、この頃はまだ抵抗していますが、担当者自身、何かに覚醒し始めています。 Report.06 ……やらかしてしまいました。当初は前の話を受けて「エロス×ワロス」を目指していましたが、筆が滑ってどうにもエロスが強くなり過ぎました(現在はエロスの部分はかなり省略して改稿しています)。プリンスレのコンセプトである「甘い」作品に仕上げたつもりでした。そして頂いた感想は、 『甘いってかエロいww』『長門暴走しすぎだろwwwwww』『素晴らしいエロww』 長門が完全にぶっ壊れました。そして担当者も何かが吹っ切れました。 Report.07 路線を明確に自覚した話。担当者は完全にユキハル及び百合に目覚めました。長門の現地語会話、解禁。頂いた感想を総合すると、『和みながら勃つ百合布教作品』だそうです。 途中の「流布された情報に付加情報を付ける」のくだりは、学術論文を想定しています。様々な事象について研究が進んだ現代社会においては、全く独自の理論や研究というものは、そうそうありません。何かしら、先行する研究が存在するものです。 論文を書くに当たっては、そういった先行研究や類似研究の調査はとても重要です。やろうとしていることが既に研究されてしまっていれば、内容の修正を迫られますし、少しでも違っていれば、先行研究を踏まえた上で、自分の独自の考察を追加することになります。 そういった人間の営みを、長門に語らせてみました。 Report.08 基本的にこの作品は『現地語』、担当者は『現地語の人』として認識されていますが、とうとうこの話で『百合作者』とも呼ばれるようになりました。筆のおもむくままに書いていたらこうなった。今は反省も後悔もしていない。 Report.09 仕事の繁忙期も終わり、ハルヒと有希のデートを書きました。そして第2話から続いていた話もようやく完結。ハルヒがSOS団団長職に復帰しました。最後のキョンの台詞には、ようやくSS書きに復帰できたという担当者の喜びも表れています。シリーズを終わらせるつもりもなくなっていました。 ちなみに、駅前のショッピングモールの様子は、西宮北口駅前に実在する店舗のフロアガイドと、実在する店舗のメニューに従っています。 Report.10 インターミッションとなる実験作。 エロパロスレのハイテンションユッキーと、まとめにあるリスペクト・ザ・ハイテンションユッキーに触発された話。 とにかく色々やってみたくて、原作でも出てきたSQLと、コマンドプロンプトのメッセージを組み合わせています。声については、アニメ版の中の人の地声を想定。 この時の長門の台詞「人形にも人間にもなれない半端者」は、思わぬ伏線となって、後に第20話の朝倉の台詞と、第25話の長門の台詞で回収されました。 この頃から、「誰か(女)×長門」という構図が定着しました。 Report.11 第二部導入。後になってみれば、ですけど。当時はそこまで考えていませんでした。 話を考えている時期と前後して、プリンスレではちょうど朝倉のターンが来ていました。その時流に乗って、というわけではありませんが、何となく朝倉を出したいと考えていました。しかし、朝倉が復活する理由が弱くて考え込んでいたところ、その前段として、この話を思い付きました。 第2話でもそうでしたが、話の基点がオリジナルキャラになる傾向があるのかもしれません。 Report.12 ある意味TFEI端末編、の第二部開始。第一部で一気に距離が縮まったハルヒと長門が、今度はぶつかり合うような話。ハルヒの浮気現場を目撃してジェラシーな長門とか、ハルヒと長門の痴話喧嘩とか、痴情のもつれとか。そんな雰囲気が出せればと。 初めて全体の構成を考えて書き始めた話。この時点で既に、最終話の骨格は出来上がっていました。 また、この辺りで『長門有希の報告』シリーズ全体の長さを2クール分(全26話)にできたら面白いかな、と意識し始めています。 Report.13 議事録形式がやりたかった話。ただ話を書くだけでは物足りなくて、何かしら変わった要素を入れようとしています。特に文書構造での遊びが顕著ですね。 Report.14 じわじわと盛り上げていく回。三人称だからできる、ハルヒの様子の描写とハルヒ以外の人物たちの会話との対比や、複数場面の多元中継に焦点を置いています。それから、投稿時には外しましたが、思わせぶりな繋ぎが入っています。一度やってみたかった。 Report.15 やはり戦闘ものが好きなのでしょう。書かずにはいられませんでした。消失した長門が復活するお膳立てにも使っています。 朝倉の頭脳戦が好評でした。本当に書いていて楽しかった。 Report.16 できる限り全員の視点で書きたいと思って書いた、朝倉視点。原作での登場期間が短かったせいか、キャラクターに色が付いていなくて書きやすかったです。思えば、朝倉は本当に物語を引っ張ってくれました。 また、当時はプロバイダ規制が頻繁かつ長期で、投稿したくてもできない状態が続きましたが、続きを待っていると言ってくれる人がいて、プロバイダ規制に耐える力をもらいました。 Report.17、18 みんなの視点で書こうシリーズ。長門がいなかった喜緑隊の話をみくるに報告してもらいました。もう本編とは思えないほど、ネタ盛りだくさんです。鶴屋さんまで登場して、もう。 Report.19 ちょうど『涼宮ハルヒの分裂』が書店に並び始めた頃で、その内容に戦々恐々としていた頃に書いた話。第二部を書き始めた時には既に構想にあった展開ですが、実際の肉付けは困難を極めました。 ついにハルヒが長門に告白しますが、長門は立場上、ハルヒの告白を受け入れられません。でも長門の個人的な意思としては、ハルヒの告白を受け入れたい。そんな「許されざる恋」を書きたいと思ったのでした。 Report.20 この作品で一番苦労した話。本当に、寝ても醒めてもこの話のことを考えていましたから。 物語をぐいぐい引っ張ってくれて、本当に大活躍してくれた朝倉の、花道を作ろうと頑張りました。 終わり3分の1で雰囲気がガラッと変わります。読者の感想が、『やっぱりエロい』に始まり、『これは泣ける……』、そして『非常にエロ哀しいお話だった……』と変化していく様に、「計画通り」と担当者がほくそ笑んだかどうかは、定かではありません。 Report.21 長門とみくるが急接近。というのは本筋ではありませんが、この二人ももっと仲良くなってほしいなと思い、第10話以来の描写です。第19話の締めに当たり、相当早い段階で話は出来上がっていました。しかし、第20話が難航したため、なかなか投稿できなかった話。 『笹の葉ラプソディ』でハルヒが短冊に書き、原作で重要な場面に登場する言葉、「私は、ここにいる」に呼応して、長門に「あなたがここにいる。だからわたしもここにいる」と言わせることは、ずっと前から決めていました。 結局、第20話の難航のおかげで担当者は生みの苦しみを味わい、熟成の進んだ第21話にも良い影響を与えたと思っています。 Report.22、23 みんなの視点で書こうシリーズ、いよいよ観測対象本人の視点による報告です。全員の視点で書こうと思った時から、ハルヒ視点はこの形式しかないかなと思っていました。 しかし、そういった文書構造いじりだけではなく、書きたかった話も詰め込んでいます。それが、『涼宮ハルヒの手紙』と、第21話を受けた『追伸』。ハルヒの告白と、ハルヒ版の「長門は俺の嫁」宣言です。 Report.24 「最終話まで、あと2回!」な話。最終話までの投稿予告を打っての投稿でした。ここからの話は特に、『機械知性体たちの輪舞曲』の影響がとても強いと思います。 最終3話は、TFEI端末たちの「独立宣言」になっています。 Report.25 第二部『長門有希の憂鬱』完結編。喜緑江美里の心に革命が起きました。 担当者は、朝倉は原作で復活すると思っています。たとえそれが、ただの夢であっても。 Report.26 『長門有希の報告』最終話。 挿話自体はずっと前に書き上げていて、後はどこに入れるか、という段階でしたが、入れる場所がなくて最終話まで持ち越しました。おかげで所見に入りやすくなりましたが。 すべての始まりである第1話が、完全に「報告書」の形で始まっているので、すべての終わりである最終話は、やはりそれを受けた形にして、「報告書」として完成させたいと思っていました。報告書の締めは「所見」です。 この話を書いている時に、『情報統合思念体は、この報告を読んでどう思ってるんだろう』という感想があって、びっくりしました。やばい、展開を読まれてる、と。 Extra.01 『古泉の関西弁がおかしいw』とか『西宮はこんな言葉じゃねえw』とさんざん言われていたので、釈明というかボヤきをノリで書きました。まさかこの番外編もシリーズ化するとは思いませんでしたが。 Extra.02 最終回予想その1。原作の「宇宙人と未来人が仲良くお茶を点てている光景」というくだりを読んで思い浮かんだ話を、形にしてみました。 現地語訳は、いくらネイティブの人間でも、実際には相当疲れます。その理由は、第1話の冒頭に書いた通り、書き言葉が方言の表記に適していないからです。 そういった鬱憤を晴らすかのごとく、全編共通語で書いていました。本当に楽です。 とはいえ、この作品の肝はやはり「現地語」。夢オチということで現地語世界に帰ってきます。その結果、「夢の中は共通語」という裏設定が生まれ、番外編第3話にも採用されました。 Extra.03 最終回予想その2。これを念頭に、本編第7話が出来上がりました。 番外編第2話と同様、夢の中の話なので全編共通語です。 Extra.04 みんなの視点で書いてみようシリーズの端緒。 ハルヒとみくるの熱い女の友情を書こうとしたら、なぜか肉弾戦になってしまいました。なんでやねん。 『HERO‘Sを見ながらこれを読む。リアルだwww』『カカオ99%だなw』『これ、何てHERO‘S?』との感想を頂きました。 Extra.05 番外編第4話の長門視点と、その後の話。何か鼻血ネタが多いですね。 Extra.06 『方言表記は読む気がしない』という意見や、担当者自身も他の方言圏の人には意味が通じない箇所が多々あるだろうと思っていて、いつかは出そうと思っていた共通語版です。 『まるで吹き替え版を見ているような』という意見や、その他に色々頂いた意見やアイディアを元に、現在の「現地語・字幕併記」の形が生まれました。 Extra.07 みんなの視点で書いてみようシリーズ。 ある日ふと思った、『なぜ古泉一樹ら「機関」の人間は、何の見返りもなく閉鎖空間に向かうのか』という疑問を掘り下げてみました。 世界を守らなければならないという義務感とか、そういった辛いものではなくて、「機関」や超能力者も、ちょっとした『いいもの』をハルヒから受け取っている、という関係ならいいなと思います。 『ますます古泉が好きになった』という感想を頂きました。担当者は基本、登場人物は全員好きです。カップリング話などではしょっちゅう他のキャラを貶す発言が出ますが、そのような発言を見ると、とても悲しくなります。この作品を通じて、キャラクターの魅力が再発見されて好きになる人がいたなら、幸いです。 Appendix 感想で既に先を読まれてしまっていた、情報統合思念体視点の話。 「情報統合思念体=父」というネタは特に長門スレでよく見掛けますが、「情報統合思念体=母」というネタは見たことがなかったので、天邪鬼な担当者としては、当然母バージョンなわけで。独白であれだけ硬いことを言っておきながら、端末に入ると極めてファンキーなのは、仕様です。 この作品の、特に後半が思いっきり影響を受けた『機械知性体たちの輪舞曲』では、情報統合思念体と長門有希との関係が「父と娘の和解」として描かれていますが、この作品では、「母と娘」になっています。しかも母親の方は最初から分かっててやってるということで、ある意味「娘」を手玉にとっています。朝倉の「家出」さえも織り込み済みです。母は強し。 ほんの思い付きで始めた「現地語」による記述。それがあれよあれよと回を重ね、終わってみれば本編26話、番外編7話、後日談1話、連載期間10ヶ月という、長い旅になりました。担当者の筆の遅さと、珍しい「現地語」表記による読みづらさ。それにもかかわらず読んでくれ、また応援もしてくれて、いろいろとネタを提供してくれた読者さんたち。刺激を与えてくれた職人さんたち。本当に、ありがとうございました。 そして、そのような情熱を人々に与える作品を生み出した谷川流先生に、万歳。 |目次|
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1207.html
いつもの朝。ジリリリリと鳴る目覚まし。それによって起こされる俺。 あぁ、すがすがしい朝だ。 妹爆弾も回避できたしな。 と、枕元に置いてある携帯が鳴る。 み、み、みらくる、みっくるんr 長門だ。何の用だろう? 「なんだ?」 「今すぐ来て欲しい。私のマンション。」 「制服でいいか?」 「いい」 「わかった、今すぐ行く」 「…そう………あと…」 「?」 「もし私が変わっても、動揺せずに接して欲しい。」 「なんのことだ?」 「……早く。」 長門の言葉を聞くと俺は電話を切り、すぐさま制服に着替え、 朝飯も済ませないまま家を出た。 自転車で行くこと25分。こんなもんか。 長門のマンションに着いた。 確か長門の部屋の番号は……708、だったな。 ピンポーン…… 「……」 「俺だ」 「……」 …ガチャ そしてエレベーターに乗る俺。7階を押す。 そういえば、小さい頃はエスカレーターとエレベーターの違いを区別してなかったよな…。 誰だって小さい頃はそんなもんだろう。 そんなことを考えているうちに7階に着いた。早いな。 ドアの前まで行く。ベルを鳴らす。ピンポーン。 俺は「はーい」なんて可愛い声聞けたらいいなとか長門だからありえないかとか考えていたら…… 「はーい」 ?!今のは長門の声……だよな…?しかもハートマークが付きそうな感じだ…。 ガチャ 「おっはよー、キョン君♪」 と、長門が抱きついて来た。気持ちいい。でもほんの少し柔らかさが足りないか?それは失礼だな。 ってあれ?ホントにこいつ長門か? 「なんでそんな顔してるのかなぁー?」 ふと、長門が顔を覗き込む。見た目は長門だよな。あ、目が合った。 「んもぅ、朝からそんな顔で見ないで……」 顔赤いな。ていうか何の真似だろうね、これは。 「お前、本当に長門か?」 「……あっ!そっかぁ~!まだ言ってなかったね~。さ、入って入って!」 言われるがままに部屋に入る。ん、いつもの無機質な部屋だ。そしていつものこたつに入る。 いつもと違うのは…… 「それじゃあ、説明するね!」 長門だけか。 「ついさっきね、私が起きたら思念体さんからね、伝達が来たの。 内容は詳しくは教えてあげられないけど…… それをまとめるとねー、え~と、『もうちょっと明るい性格になって ハルヒちゃん達と仲良くしなさい』、だって~。」 思念体もまた無茶しやがって……。 「むちゃくちゃだな。」 「でもでも、思念体さんは私がもともとこんな感じだったように皆の記憶を変えちゃったみたい。 でもあなただけは、キョン君だけは私が阻止したよ。」 「なぜだ?」 「んもう、キョン君ったら、にぶにぶさんなんだからぁ~」 がばっ!うおっ!急に抱きついてくるなよ。俺はうれしいが、違和感が。 「……どういうことだ」 「……こういうこと……」 長門は腕を首に廻してきた。顔、近いぞ。 目を閉じて、ちゅーをしてきた。ちゅーだぜ、ちゅー。あの長門が。 と思ったが、俺の顔の前で止まった。あとは俺に任せたということか? 今、俺の頭の中では理性と本能もとい煩悩がせめぎあっている……。 惜しい。実に惜しいながらも理性が勝った。 「よせっ、長門。」 そう言って俺は長門を俺の体から引き剥がした。 「もう、恥ずかしがり屋さんなんだからぁ」 というか、ここまで表情豊かな長門を見たのは初めてだ。 多分俺の顔は真っ赤だ。が、しかし長門も真っ赤だ。 もしかして長門は無理してやってんじゃないのか? 「長門。お前、昨日までの記憶、あるか?」 「もちろんあるよ~。」 「じゃあなんでこんなこといきなりすんだ?」 「これは……昨日までの言い方で言うと 『私という個体もあなたとこうありたかった』っていう感じなの。」 「まさか……」 「……とにかくっ!もう時間みたいよ!学校、行きましょ!」 「あ、あぁ・・・」 俺は手を引かれながら長門のマンションを後にした。 俺達は喋りながら学校へ歩き出した。肩を並べて。 正直、この長門も嫌いじゃないな。 それにしても、こんなによく喋る長門は初めて見た。 にこやかな、健康的な笑顔で俺に語りかけてくる。ちくしょー、可愛いぜ。 でもやっぱり長門は長門なんだな、話してる内容が全部、最近の本のことだ。 「―――でね、今、私が読んでる本はね、恋愛モノなの! たまにはいいかなぁーってね!ほら、コレ!」 長門は鞄の中からゴソゴソと一冊の本を取り出した。 その本はいつものように分厚いハードカバーに包まれたものではなく――― 「……谷川流の憂鬱?」 「そ!なんかスニーカー大賞を取ったとかで有名なのよ~。 主人公の流がどんな女の子にでも優しく接するばかりに泥沼状態に!っていう小説なの!」 「……面白いのかソレ?」 「もっちろん!私も太鼓判押しちゃうくらい!」 「……まぁ、長門がそういうんだから面白いんだろうな。」 「読み終わったら貸してあげる!」 「……ありがとな」 俺は長門に戸惑いつつも少しだけ好感を持つようになった。 ――と、学校に着いた。 なんか久々にこの坂がキツくなく感じたな。長門のおかげか? クツ箱にクツを入れる。 「それじゃあ、また放課後!あ、昼休みも部室にいるから!」 「…またな。」……やれやれ。 そろそろ始業のベルが鳴りそうなので急いで教室に向かう。 「うぃ~っす」 「よぉ、谷口」 谷口だ。なんか元気無さそうだ。ん、いつもこんな感じだっけか? 「どうした?元気無いぜ?」 「……お前のせいだよぉぉおおおおお!!」 クラスがざわつく。視線が痛いぜ。 「落ち着けって、谷口。なにがあった?」 「…………朝から……ランクAA+の……長門有希と…一緒に…」 「わかった、わかったからみなまで言うな。そして泣くな。」 「なぜお前だけぇぇぇえええええ!!」 不本意だが谷口はほっとく事にする。 それにしてもなんか長門のランクが上がってないか?微妙に。 ガタン、ドスッ 俺の後ろで物音が聞こえた。わざと聞こえるようにしてるな。 「……よ、よう、ハルヒ」 「おはよ」 それだけ言ってハルヒはふてくされた表情を見せて空の方へとそっぽを向いてしまった。 「どうしたんだ?ハルヒ」 なんかさっきも似たようなセリフ言ったばっかのような気もするが。 「なんでも無いわよ……。」 今日のハルヒはなんとなく話しづらい雰囲気を作っていた。 だから何も話せずに時が過ぎていき、いつの間にやら昼休みのチャイムが鳴った。 「おいハルヒ、お前はまた学食か?」 「そうよ、じゃ」 それだけ言うとハルヒは嵐のように去っていった……わけでもなく、とぼとぼと歩いていった。 チラチラこっちを向いていたが、何が言いたいんだろうか。 その行動はまるで俺について来いとでも言いたげだったが、気のせいだろう。 一応学食行ってみるか。長門と一緒に。だからまずは部室行くかな。 ガチャ 「おい長門ー。」 「待ってたよぉ~!もしかしたら来ないかと思ったぁ!」 「……そうか、ところで、学食行こうぜ。」 「いいよぉ!一緒に行こー!」 やばい。まさかここまでの笑顔を見せてくれるとは。 食堂についた。~っと、ハルヒハルヒと、あ、いた。 一人ぼっちだな。そばすすってる。 「隣、いいか?」 ハルヒをはさむように陣取る俺と長門。 「ハルヒちゃん、どうしたの?元気ないねぇ?」 「俺、なんか買ってくるけど、長門、なんかいるか?」 「じゃあ、お茶を頼んじゃおうかな~」 「あ!あたじも゙!ぼげぁ!ゴホッゴホッ」 「食べながら喋るな、ハルヒ。」 俺も弁当持ってきてるからお茶でいいや。 「おばちゃん、お茶3つ」 「あいよ……お茶3ー!」 「「「あいよー!」」」 うお、なかなかいい商売してくれてるな。 「はい、お茶3つで150円ね。」 お茶3つ抱えてハルヒ達のところへ帰ろうとすると、 ハルヒと長門が仲良く話している。朝からのハルヒの不機嫌はどこへ吹き飛んだやら。 「―――っていうのを考えてるんだけど」 「面白そうだね!」 笑いながらハルヒが話す。それを笑顔で長門が聞く。 ………思わず一人で和んじまった。 「ほい、お茶だ。」 「それでこそ私の奴隷よ!」 「ありがとねー!」 それにしても俺はいつの間にハルヒの奴隷になったっていうんだ? 長門はそれをひょいっと手に取り、こくん、と飲む。 さてと、俺も弁当食うか。腹減った。 二人が話してる横で俺は弁当をパクパク食っていた。話しかけてくれてもいいじゃないか。 食べ終わった。お茶をかたむける。うまいな、だがしかし、それも井の中の蛙だ。 朝比奈さんの淹れてくれるお茶の足元にも及ばぬわ!とはいっても、これも十分うまいんだがな? おっとそろそろ午後の授業の始業のベルがなるな。 「おい、そろそろ行くぞ。」 「もう?早いわね。」 「また放課後部室でねー!」 教室に歩いてハルヒと戻る。 「なぁハルヒよ」 「何?」 「いったいどんなこと長門と話してたんだよ」 「映画の話よ!次は有希ちゃんがアクションシーンやるって。それも――」 まったく、午前中は自ら話しかけにくい雰囲気作っておいてこれか。 でも、SOS団の無口キャラがいなくなったのは結構痛いな。 っていうか俺が結構無口キャラになってないか?まぁいい。 「――ってキョン!聞いてた!?」 「あぁ、聞いてたよ、もちろん。」 聞いてないけどこう答えるのが俺だ。聞いてないなんていったらどうなることやら。 「それよりも、始業のベル鳴ったから急ぐぞ」 「う、うん。」 午後の授業は俺の耳にはなぜかあまり入らなかった。 いや、理由は分かっている。長門だ。 あいつは可愛くなった。いや、元から可愛いんだが、違うんだ。 笑う長門。よく喋る長門。抱きついてくる長門。たまらない。 いつの間にか俺の頭の中は長門でいっぱいになっていた。 放課後になった。 「あたしは少し用事あるから先言ってて!」 言うが早いか行うが早いか。ともかくハルヒはどこかへ走り去っていった。 俺は一人でSOS団の部室へと向かう。 ガチャ 部屋の中にいるのは……長門だけ……か。 「キョン君おっそい!早く顔見たかったよぅ~」 長門が抱きついてきた。 「顔、近いぞ」 冷静を装いつつも理性の壁にヒビが……。 やばい。心臓バクバクだ。俺は以前ここまで長門に対してドキドキしたことがあるか? いや、無い。多分無い。 それにしても長門からは良い匂いがするな。 頭がクラクラしてくる。理性?なにそれ?おいしいの? 長門にキスをしようと顔を近づける。 「だ~め。」 長門はそういって俺の唇に人差し指をチョン、とつける。 俺はねんがんの理性を手に入れた!ってな感じだったが、まだ長門が愛らしくてたまらない。 「今度してあげるから……ね?」 「……あぁ。」 俺はふてくされたような顔をした。 「そんな顔してるとハルヒちゃんに『死刑!』て言われるよ~?」 『死刑!』て言うときに指を指してハルヒっぽく言ったつもりらしい。 そして長門はいつもの席の戻ると本を読み始めた。 読んでる本は……「谷川流の溜息」……続編か? バアアアアアアン! 「遅れてゴメーン!」 ハルヒが来た。朝比奈さんも。そして古泉も。 俺はいつものように古泉とオセロに興じることにした。 朝比奈さんは今日は制服のままのようだ。 やっぱり朝比奈さんの淹れてくれるお茶はうまい。 しばらく過ごしていると、パタン、という長門の合図が。 こうしていつも通りの活動は終わった。 さて、帰るかな。 「んじゃあたし、もう帰るわ。」 「僕もお先に」 じゃあ俺も帰ろうかな。 「んじゃ俺も。」 「ちょっと待って」 引き止めたのは長門だ。 「コレ、貸してあげる。すぐに読んでね?」 差し出したのは朝の例の本だ。 「ありがとな。んじゃ。」 「じゃあね、キョン君!」 と、俺は一直線に家に帰った。 ん?携帯に未読メールがあるぞ?さっきまで無かったのに。 ……長門からだ。あれ?メールが来た日付がおかしいぞ。 明日の日付だ。まぁ、いい。読んでみるか。 『あなたが一番やりたい事を』 それだけだ。何だろうね、これは。長門が言うことだから、何かあるだろう。 と、そこで気がついた。自転車、長門の家に置きっぱなしだ。 取りに行く前にさっき借りた本でもパラパラと読んでみるか。 ふむふむ。こんな感じか。俺は小説とかの絵はとりあえず先に見ておく派なんだ。 って?なんだこれ……栞だ。デジャヴを感じた。なんか書いてあるぞ。 『7時に○○公園で。』 ……走ったら間に会うか? ……間に合った。間に合ったハズだ。 間に合ったハズなんだが――― ―――誰もいないぞ? あれ?おかしい。この公園は狭いからいたとしたらすぐに見つかるのに。 呼んだら出てくるかもな。 「おーい、長門ー。いるかー?」 返事がない。やっぱいないのか? 仕方がないのでベンチに座って待つことにするか。 ……待つこと10数分。 来た。長門にしちゃ遅いな。 「ごめんね!準備してたら遅くなっちゃった!」 「準備?なんだそりゃ?」 「なんでもないの!」 「…そうか。」 「それじゃあ私のマンション行きましょ!」 「お、おう。」 うーん。やっぱこの笑顔は何物にも変えがたいな。 長門のマンションまで歩いていく。 前一緒に行った時はなんにも思わなかったのに、今は違う。 なんだろうか、ドキドキする。 着いた。 長門が鍵で開ける。ガチャリ。 エレベーターに乗る。ウィイイイン。 ドアの前まで来た。 「さ、入って入って。」 「おじゃまします。」 部屋の中はいかにも以前の長門らしい、無機質な部屋だった。 「お茶、淹れたの。飲んで♪」 「……あぁ…。」 ゴクゴクゴク、と飲み干す。 コト、と湯のみを置く。 長門がおかわりいる?と目で言っているようだ。 俺は首を横に振った。 「俺になんか話でもあるのか?」 「うん。一つ聞きたいことがあるんだけど……。」 急にもじもじし出す長門。頬がほんのり赤い。 まるで告白でもするみたいじゃないか。 「なんだ?」 「キョン君は……私のこと……どう思う…?」 まるで金槌で頭を叩かれたような衝撃が走る。 こ、これは遠まわしの告白なのか? 「お、俺は……まぁ…」 「……」 「好き…か、な」 「私も!」 ガバッ!抱きついてきた。 「大好きぃ……」 「俺も…だ…」 この『大好き』は以前の罰ゲームでの大好きとは程遠い、感情のこもったような『大好き』だった。 俺と長門は抱き合っている。良い匂いだ。柔らかい。 ここでなぜか、俺はさっきのメールを思い出した。 『あなたが一番やりたい事を』 待て。今気付いたが言葉遣いが今の長門と違うような気がしないか?! 以前の長門のような…、そう、以前の長門だ。 明日の日付……未来からのメールか?! あり得ん……だが長門ならやりかねん。 自分自身を過去へ行かせることは不可能でも メール、つまり電子情報だけ過去へ飛ばすということは可能なんじゃないか?! だが、その内容はサッパリだ…。まったく分からん。 一番やりたい事?なんだろう?今の俺には今の長門しか見えない。 長門。可愛い。やわらかそうな唇。キスしたい。長門を感じたい。 そういう事か?長門。くそ、なんか頭がぼやけてきた。 目の前の長門。俺の腕の中の長門。いつの間にか目を瞑ってる。 キス?俺にしろって言うのか?あぁ、好きだ、長門。 俺は長門の唇に自分のそれを近づける。俺も目を瞑る。 「好きだ……長門…」 「私もっ」 ムニュ。唇同士が触れ合う。柔らかい。 舌を出す。長門の唇をなぞる。開いた。舌を押し込む。 「ンッ……!」 歯をなぞる。歯茎をなぞる。舌と舌を絡ませ合う。 チャプ… 「ん…ぁ…ふ…ん…」 チュプ… 唾液と唾液を交換する。 その直後、ピカッという擬音が聞こえそうなほど強烈な光が俺の目を覆う。 ――――どうやら俺は気絶していたようだ。 目を開けて、周りを見渡す。 すると、長門と朝倉がいた。なぜ朝倉がここにいる?! それに上半身だけしかない。下半身は光の粒になって消えていっている。 「あら、やっと起きたのね。」 「朝倉……なぜお前がこんなところに…!」 「大丈夫」 「長門!お前…」 「キョン君はお変わりなさそうね。」 なんだってのんきな奴だ。そして、長門は以前の長門に戻っていた。 なんかもうワケ分からん。 「私は朝倉涼子に操られていた。正確には意識はあった。しかし行動が伴わない。 急進派の思念体が情報改変までした。 元に戻るための方法は私があなたの体液を受け取る事だった。」 「?なぜそんなややこしい事を。」 「決まってるじゃない。」 朝倉が言う。 「私がちょこっと長門さんの恋心からのエラーを解消してあげたんじゃない。 それに涼宮ハルヒが嫉妬するとなにかしらの変化が観測されるかもしれないわ。」 もう胸まで消えかかっている。 「しかし、お前は俺に自分から…キスをしようとしたじゃないか」 「演出よ、え・ん・し・ゅ・つ。」 「でも、俺がキスをしたときには抵抗しなかったのは?」 「それは……」 「私という個体がそれを…望んだ……から」 「長門さん本来の意識に流されちゃって……ね。」 「長門……。」 「それじゃ、さよならキョン君。長門さん。」 もう首まで消えている。 「お、おい!」 「長門さん、私はあなたを応援してるわ!」 「……ありがとう」 ……そして朝倉は完全に消えきった。 「長門……」 「何」 「俺は…お前のことが…」 「言わなくていい」 「長門有希のことが…」 「言わないで」 「……す」 「だめ!」 ギュ。 さっきまでの長門とは違う、控えめ、だけど優しい抱き方だ。顔は見えない。 「だめ……それ以上…言うと…私は……」 「俺は長門のことが好きだ!」 言い切った。それはあまりにも清々しいほどに。 長門は困惑と歓喜と悲しみを混ぜたような表情を俺に見せた。 「私はそれに…答えられない……」 「答えなんていらない。お前だけが欲しい。」 それを聞いた直後にこちらをみる長門。 ちらりと見せる長門の涙。 長門は少しだけ抱きついた力を強めた。まるで答えを示すかのように。 俺は長門を思いっきり抱く。唇を近づける。 長門は俺の首に腕を廻してきた。 「…………すき」 チュ…… それは聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声だったが、俺には確かに聞こえた。 長い時間唇を合わせたままだ。どれだけキスをしていたのだろう? 息が苦しくなって唇を離す。息を吸う。 「今だけ…今だけは…有希と呼んで…欲しい…もう一回…好きって…言って…」 「…有希……好きだ…」 小さく震える長門、ではなく、有希。 「…そして……キスして…」 「あぁ…」 もう一度、俺達はキスをした。 息が苦しくなったら、口を離して、息をして、もう一度した。 何回も、何回も、何回も、俺達はキスをした。 そのうち、有希のほうから求めるようになった。 「あむ…ん…ぷはぁ…」 「可愛いぜ、有希…。」 「……」 黙って頬をほんの少し赤くする有希。 俺はやっぱりこっちの有希がいい。 携帯がなる。 家からだ。母さんか? 「…家からだ。」 「……」 空気読め。母親よ。 「―――じゃあ」 プチッ 「そろそろ遅いから帰って来いって…」 「帰って」 「分かった、じゃあまた明日な。」 そう言って俺は長門のマンションを出た。あった、俺のチャリ。 急いで家に帰る。 そして次の日、学校に行き、いつしか放課後になる。 俺はSOS団の部屋に行った。 長門だけだ。 「よう、有希。」 「……もう…いい…」 「お前はそれでいいのか?」 「私は涼宮ハルヒの観察者。あなたは重要なキー。本来は深い干渉はできない。」 「それでも、俺はお前のことが好きだぞ。」 「……キョン…くん」 バアアアアアアン! 「あら?キョンと有希だけ?せっかくみくるちゃんに新しい服を買ってきたのに」 こいつ…空気読めよ…。 俺は有希の耳元で囁いた。 「有希、世界とお前を天秤にかけるなら、俺はお前をとる」 「……ありがとう」 ここからは後日談になるのだが、俺と有希は付き合っている。 もはやハルヒにも知られている。他の二人にもな。 ハルヒはどうやら超巨大な閉鎖空間を一回出した後、それ以降何も無いそうだ。 北半球まるまるだったらしいな。すまんな、古泉とその仲間達。 ハルヒは古泉と付き合っているらしいのだが…。まぁ、いい。 古泉いわく「できるだけあなたの代わりを務めますよ」とのことだ。ありがたい。 そして今日も俺は放課後、SOS団の部室に向かっている。 何が楽しみって?そりゃあもちろん…… 有希の最高の笑顔を見るためだ! ~fin~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1833.html
暮れてゆく年 去年よりものの増えた部屋 窓から見える変わらぬ景色 空から降り行く無数の粉雪 あの人から、あの人たちからもらったたくさんの大切なもの 言葉にはできないけど、とても大切なもの 私は私の部屋でゆっくりと感じていた - ピンポーン - 突如鳴り響く来訪者のベル 私はゆっくり席を立ち、来訪者を迎え入れた 「おでんできたから一緒に食べましょ?晩御飯はまだだよね?」 「まだ」 前のような偽りではない笑顔 紺色の長い髪 朝倉涼子を、部屋に招きいれる If Story - 朝倉涼子と長門有希の日常 - ……… …… … 「相変わらず、殺風景な部屋ね」 「そう」 朝倉涼子は部屋を見渡し、呆れる様に語る 「ま、キョン君が来てから多少物は増えたかな」 クスクスと笑ってコタツの上におでんの入った鍋を置いた 私は台所から二人分の食器を運んでくる 「さ、食べましょ」 笑顔で私に笑いかける彼女 彼女に促されて私も席に着く 大根 はんぺん こんにゃく etc... 舌が火傷してしまいそうな熱さの物を、ゆっくりと口に運ぶ そして香りと味を感じる 「相変わらずよく食べるわね?太っちゃうわよ?」 朝倉涼子が私を見てからかいながら言う 「問題ない、涼宮ハルヒの観察という任務においてエネルギー消費量は通常より高い」 私はいつもどおりの返事を返す 「そういうこと言ってるんじゃないんだけどなぁ」 「?」 朝倉涼子が少し身を乗り出す 「おいしい?長門さん」 そうやって純粋に聞いてくる 私は無言でうなずいた 「あは、よかった」 その笑顔は、とても綺麗だった 彼が来てから変わったのは私だけじゃない 朝倉涼子も同じように変化した 最初は任務の為に、その結果の為だけに動いてた朝倉涼子 しかし彼との出会いが、彼女に意思と言うものを与えた そう、私と同じように 何事もない、静かな日常 何事もない、緩やかな日々 三年前の私とは違う 何事もない、充実した生活 決して変わることのない運命、命令、任務 しかしそれを遂行していく日常のほうが変化していく これは決して嫌なことではない 私と朝倉涼子の間にあった距離も、確実に縮まっていた それは、何より そう、嬉しいことだった 「長門さん」 朝倉涼子が言葉を発する 「何」 「明日の土曜日、ヒマ?」 無言でうなずく 確か今週の不思議探検は涼宮ハルヒの都合で中止されたはず 「そ?よかった、じゃあ一緒にどっか遊びに行かない?」 「何処へ?」 「まだ行ったことない動物園とか遊園地とか」 その笑顔は無邪気で、まるで子供のようだった でも、その笑顔が、何より好きだった 私は無言で頷く 彼女の笑顔をもっと見ていたかったから 「ホント?じゃあお弁当の準備もしなきゃね」 そのあとは適当な世間話、そしていつもの情報統合思念体に対しての定時報告 そうやっていつもの日常を繰り返す 「じゃ、私はこれで」 朝倉涼子は席を立ち、私にウィンクしながら語る 「そう」 私も、じっと彼女を見送る 彼女を少しでも長く見ていたかったから 私とは違う、私の別の可能性 彼女は私の、大切な”トモダチ” 明日の予定を思いながら、私は窓の外の景色を眺めた 大切な日常 大切な仲間 大切な友達 世界にはありふれたもの でも、ありふれているのは、それが本当に大切なものだから 誰しもが持っていたものを、私は持っていなかった そう、彼が来る前まで 大切な長門有希としての日常 大切なSOS団の仲間 そして、大切な朝倉涼子という友達 私はそれが嬉しかった だから、決して離さないと、離したくないと願った そんな、ありふれた大切な物語 -fin-
https://w.atwiki.jp/007110/pages/125.html
【選手名】 長門 【所属チーム】 SOS団 【守備位置】 外野手/捕手 【フォーム】 【利き腕】 右投げ右打ち 【弾道】 4 【ミート】 A 【パワー】 A 【走力】 F 【肩力】 A 【守備力】 A 【エラー回避】 A 【特殊能力・野手】 送球4、アベレージヒッター、パワーヒッター、広角打法、レーザービーム 【背番号】 【備考】 2スレ目 340査定 【選手名】 長門 【所属チーム】 SOS団 【守備位置】 中堅手/捕手 【フォーム】 【利き腕】 右投げ右打ち 【弾道】 2 【ミート】 F5 【パワー】 C100 【走力】 F5 【肩力】 A15 【守備力】 C10 【エラー回避】 C10 【特殊能力・野手】 送球4、ケガ4、チャンスメーカー、意外性、ささやき戦術、慎重打法 【背番号】 【備考】 2スレ目 380査定
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2641.html
長門有希の憂鬱Ⅰ 三 章 俺はひどい頭痛と轟音とともに目が覚めた。 自分がどこにいるのかしばらく分からず、起き上がったところで天井に頭をぶつけた。 あれ、こんなところに天井があったかな。 そうだった。俺は泊まるところがなくてホームレスに段ボール箱を借りたんだった。 頭上では電車がひっきりなしに行き来している。 俺はそろそろと箱の外に出た。寒い。震え上がってまた中に戻った。 段ボール箱の中、意外に保温性があるんだな。手放せないわけだ。 俺はジャンパーを着込み、身をすくめてやっと外に出た。 一晩の宿は冷蔵庫の箱だった。それを見てまた寒気がした。 時計を見ると七時だった。おっさんたちはまだ寝息を立てているようだ。 俺はサンちゃんの家に、その玄関らしきところからありがとうと書いたメモに千円札を挟んで差し込んだ。 もしかしたら明日も世話になるかもしれない、などと不安と期待の入り混じった気持ちを残しつつ、その場を離れた。 俺は駅のコインロッカーに荷物を取りに行った。 重たい文庫の山が入ったバックパックを取り出した。 財布の中身を確かめた。残りはあと三万ちょいだ。 確かに金がないと身動きが取れない。古泉、恩に着るぜ。 俺は極力節約することにした。簡単に考えていたが、五万という金額はあっという間に消えてしまうだろう。 このままいけば金は確実に底をつく。それまでに長門を見つけないとな。 背伸びをしても腰が痛い。 風呂にも入りたいが、この辺に安い銭湯とか健康ランドみたいな施設はないだろうか。 この時間にやってるはずもないよな。 二十四時間営業のネットカフェならシャワーがあるな。 もう七時だから十八才未満でもかまわんだろう、ついでに飯も食おう。 俺は六時間パック料金を払い、とりあえず昼まではここで過ごすことにした。まだ眠い。 シャワーのお湯はややぬるいが、ホコリと排気ガスにまみれた俺にとっては天使の水がめから流れ落ちる滝だった。 ほんとはブースとかフラットシートでゆっくりしたかったが、料金が安いオープン席にした。 パソコンの前に座り、ヘッドホンをかけて音量をミュートにし、そのまま腕を組んで眠り込んだ。 画面にはスクリーンセーバが写っているだけだった。 「── お客様、お客様」 店員に起こされた。 「そろそろお時間ですが、延長なさいますか?」 ああ、もうそんな時間か。俺は口から垂れていたよだれを拭いて、一旦出ますと断った。 六時間もこの姿勢でよく眠れたもんだ。立ち上がって背伸びをした。夢さえも見なかったようだ。 朝飯を食うのを忘れていたせいか、心地よい空腹感を感じた。 ちょうど一時だ。飯を食ってサイン会場に向かおう。 昨日訪れた書店に向かった。 エスカレータを降りてすぐ、もう人だかりが出来ているのが見えた。 谷川流先生サイン会にお越しのお客様は並んでお待ちください、と立て札に書いてあった。 しょうがない、最後尾で待つか。先着百五十名とあったから、俺は百五十番目くらいか。 女子学生やら、見るからにアニオタ少年やら、中年のオバさんやらに混じって耐えること耐えること小一時間。 二時十五分ごろ、行列にようやく動きがあった。前のほうで拍手が沸いたので、先生とやらが登場したのだろう。 ポップやら登りやらが取り囲む中で、テーブルについた中年の(おっさんと言っちゃ失礼かもしれないが) 痩せ型の青年がいた。中年の青年って何だ?まあその間くらいか。 テーブルには文庫が平積みしてあった。そこには俺が持っている十三巻はなかった。 行列も終盤、谷川氏の笑顔にやや疲労が見える。 「谷川……さんですか」 「そうです」 「サインお願いします」俺はバックパックから昨日買った文庫を取り出した。 「はい、お宛名は?」谷川氏はマジックを取り出してキャップを外した。 「キョンです」 「え?キョン君?」ウケを狙ったわけじゃないんだが、谷川氏は笑いそうになった。 それから俺はバックパックから例の文庫本を出して見せた。 「ちょっとこれのことで内々にお話したいことが」 「……」谷川氏には分かったようだ。俺が持っているこの十三巻は、まだ存在していないはずだ。 「十五分ほど時間取っていただけませんか。重要なんです」 「あそう。……じゃあ、五時ごろマルビルのスタバで会えるかな?」谷川氏はこっそり耳打ちした。 「分かりました。じゃあ五時に」 俺は礼を言ってその場を離れた。 谷川氏は次の客がサインをせかすのに笑顔を見せながら、片方で怪訝な顔をしていた。 ええと、マルビルってどっちだ。 俺はそれからの小二時間を一杯のチャイラテで過ごした。 こないだまとめ買いしたハルヒの文庫本を読みつづけた。 これに書いてあることは、すべて事実だ。 俺にもよく分からんのだが、ここまで忠実に表現できるのは、 谷川氏と俺のいた世界には密接なかかわりがあると考えるのが妥当だろう。 店員がチラチラとこっちを見るので、チャイラテをもう一杯頼もうかどうしようかと考えていたら、腕時計が五時を回った。 しばらくして谷川氏が入ってきた。こっちに気がついて手を振った。俺は椅子から立ち上がって深くお辞儀をした。 たぶんこの人にしか助けてもらえない、そんな気がしていた。 「お忙しいところすいません」 「いやいや、かまわないよ。今日はもう一仕事終えたから」 谷川氏がチラチラと俺の手元を見ている。気になっているようだ。 「ああ、これは昨日買い集めたんです。見せたいのはこっちのほうです」 十三巻を取り出した。 「日付を見てもらえますか」 「これ、一年後だね。同人がネタで作ったの?」 「そうじゃありません。実物だと思います。未来から送られてきた」“未来”というところをわざと強調した。 谷川氏が唖然としていた。いつもの俺ならそうする。 「それに、発行が角川と書いてあります。 同人サークルは出版社を騙ることはしませんし」これは古泉の受け売りだ。 俺は自分のいた世界のことを話した。SOS団、ハルヒ、その周辺。 「驚かれるかもしれませんが、あなたの書いた小説は俺の身に実際にあったことなんです」 「キミの話だと、まるで僕の本から出てきたような印象を受けるが……」微妙に、不審者を見る目だ。 「そうとも言えます。よく分かりませんが、あなたの作った世界は実在するんです」 「よくわからん……というより信じられん。最近は成りきりキャラみたいな人が多いんでね。コスプレとか声真似とか」 「ええ。俺も昨日、アニメオタクと間違われました」 「なにか確信を得られるようなものはあるかな?証拠というか」 「証拠ですか……向こうでの俺の記憶くらいでしょうかね」 「キミの本名は?本編には書いてないんで誰も知らないはずだが」 俺は自分の名前を告げた。 「……」谷川氏は無言で俺を見つめた。 「全部、とりあえず保留でいいかな。別世界とか、この存在しないはずの十三巻とか」 前に似たようなセリフを誰かに言った覚えがあるな。 「ええ。俺はその、なにか特殊な能力があるわけじゃなくて、ふつーにその辺にいる高校生と同じですから」 「それを聞いて安心した」 「このシリーズのストーリーはどうやって思いついたんですか?」 「四、五年前だったか、新聞記事にとある事件が載っていてそれで閃いたのがきっかけかな」 「とある事件といいますと」 「地元の中学校のグラウンドに謎の地上絵が出現した」 俺の髪の毛がピクリと動いた。 「記事によれば子供のいたずらだろうってことで、結局犯人は分からなかったらしいんだが。 それが子供が描いたにしちゃえらく精密に描かれていてね」 「その絵ってもしかしてこれですか」俺は十三巻の挿絵を示した。 「そうそう、それ。アニメにも出てたよね」 「ちょうどこの挿絵にかかったところで、こっちの世界に飛ばされたんです」 「そんなことが起るとは……」 谷川氏は腕を組んでしばらく考え込んだ。 もうここまできたら、本来の目的を言うしかない。 「それで、長門有希のことなんですが、あいつはすでにこっちの世界に来ているかもしれません」 「それはほんとか」 「長門が消えたのは俺のいた時間で三日前なんですが、あいつから接触はありませんでしたか」 「うーん……ファンの女の子は多いし、イベントでもコスプレしてる子が多いし。 もしそんな子が接触してきてたとしても覚えていないかもしれない」 「なにか特別なメッセージとか、手紙とか」 「どうだろうね」谷川氏は考え込んでいた。 俺が長門ならどうするだろう?唯一の接点である谷川氏とコンタクトを取るには?そして俺にメッセージを残すには? 「長門を探し出すために手を貸してもらえませんか」 「ちょっと考えさせてもらっていいかな。調べたいこともある」 「明日また会えますか?」 「明日は三時から一時間くらいまでなら時間取れるよ」 「じゃあまた明日ここに来ます」 「一応連絡先を教えてくれないか」 「ええと、今こっちの世界では連絡手段が何もなくて。俺の携帯も使えないんです」 「え、じゃあ今どこに住んでるの?」 「住んでるところはありません。カプセルホテルやらネットカフェやらをはしごしてます」 さすがに高架ガード下で寝ましたとは言えなかった。 「そりゃ体壊すよキミ……」 「ええ。でも身寄りもありませんし」 「なんとかしてやりたいけど、……キミさえよければうちの客間に泊まってもらってもかまわないが」 願ったりだ。もうあの段ボールで寝たときの腰の痛さときたら。 「ほ、ほんとですか。助かります」 もうがっついていた、俺。このときほど人の親切が身に染みたことはなかった。 「とりあえず、うちに行こう。うちというか、僕の祖母の家なんだけどね」 谷川氏とタクシーに乗り込んだ。運転手は残念ながら新川さんではない。 「谷川さんて西宮が地元なんですか」 「そうだよ。北高出身だし」 「え……北高ってこっちにも実在するんですか?」 「いちおうモデルになったのはある。 僕が通ってたのは、ふた昔くらい前だから若干雰囲気違うけど」 「じゃあこの小説に出てくる建物やら、街はみんな実在する?」 「するよ」 「知りませんでした。昨日、思い当たる節があって図書館と甲陽園駅に行ってみたんです。 俺の知ってる風景とそっくり同じだったんで安心したというか、驚いたというか」 「そう。あの辺はファンがよく観光してるらしいね」 「うわ……それでですか」 「なにかあったのかい?」 「実は、長門が住んでるんじゃないかと思ってマンションのインターホンを押したんです。 オバさんに怒鳴りつけられました」 谷川氏はあははと笑った。 「アニメがヒットして、住民はえらく迷惑してるだろうね。 あのマンション、現物が分からないように絵の位置を変えたりはしたんだけど」 「これじゃうかつに探して回れないですね」 「あの辺はうろうろしないほうがいいかもねえ」 しかしまあ、俺とこの世界との接点が見えてきて、ちょっと安心した。 長門がいるとしたら、あいつもその繋がりに気付いたに違いない。 一時間くらいしてタクシーが止まった。 「着いたよ」 俺はドアから降りた。 「こっちだ」谷川氏が指したのは日本建築のお屋敷だった。 「こ……これ、もしかして鶴屋さ……」 「ああ、そうそう。鶴屋家の屋敷のモデルはここなんだ」 あれと同じ漆喰の壁が続いている。俺は感激した。知っている、これならよく知っている。 ハルヒの映画で舞台に使わせてもらい、朝比奈みちるさんをかくまってもらい、それからそれから。 くぐり戸から母屋の玄関までがやたら遠い、あの鶴屋邸だ。 「もしかして鶴屋さんもいるんですか?」 「さあ、それはどうかな」谷川氏はプッと笑った。 重たい玄関の戸を開けて中に案内された。土間だけで軽く俺の部屋くらいはある。 和服を着付けた鶴屋さんが今にも出てきそうな雰囲気だった。 「ばあちゃん!ばあちゃんいるかい?」谷川氏は奥に向かって叫んだ。 和服に身を包んだ小柄なおばあちゃんが、しゃなりしゃなりと出てきた。 「おやまあ珍しいじゃないか、お友達かい?上がっとくれっ」 な、なんか微妙に鶴屋さんっぽい。 「観光に来た友達のキョン君なんだけど、今日、泊めてもらえる?」 「いいともさ。ささ、奥にお上がり。お湯もたんっと沸いてるさね」 俺はおばあちゃんに向かって、すいませんお邪魔しますと言って靴を脱いだ。 廊下を進むと木と漆喰の匂いがした。この匂い、鶴屋さんちと同じだ。 「キョンさんは、」おばあちゃんがふと振り向いて言った。 「スモークチーズは好きかい?」 もう笑うしかなかった。 二十帖くらいはありそうなお座敷に通された。 俺は部屋の隅にバックパックを置いて、所在なさげに見回した。どこに座ればいいのか迷う。 「あの、離れってあるんですか?」 「隠居のことかな、たぶん空いてるよ。そっちがいい?」 「ちょっと、落ち着かなくて」まるで朝比奈さんみたいな口調の俺だ。 茶室みたいなこじんまりした造りの、離れに案内された。 「鶴屋さんちとまったく同じですね」 「うん。わりと凝った和建築の様式らしいよ。こまごました、明かりとり用の窓とか、この欄間とか建具類も」 「へえ」築百年くらいは年季が入っている気がする。 「先に風呂を案内するから、来て」 風呂ですか、ありがたい。鶴屋家はたしか、檜風呂だった気がする。 「残念ながら風呂だけはステンレスなんだ。檜はカビたり腐ったり、手入れがたいへんでね」 そうなんですか。鶴屋家も屋敷のメンテナンスに苦労してるんだろうな。 「お湯がぬるかったら蛇口ひねれば出るから。あと、浴衣置いとくから使って」 まったくかたじけない。 突然現れてあっちの世界から来ましたなんて延々電波なことを言ったあげく、 泊まるところがないからと上がり込んだりして、風呂まで借りて、俺ってなんて図々しいんだ。 大人四人が楽に入れそうな浴槽に浸かりながら、俺は体の疲れをほぐした。 今日はネットカフェで寝ていただけで、たいしたことはしてないが、繁華街を歩いてるだけで疲れる気がする。 谷川氏の好意で、しばらく、といってもいつまでかは分からないが、綿の入った布団で眠れそうだ。 まったく、外で寝るのは体力も気力も消耗する。 あのホームレスのおっさん、風邪ひいてないだろうか。 渡された浴衣を着込むと、気持ちまで和風になってきて、その雰囲気に馴染んでる自分がいた。 こういう純日本人らしい生活スタイルもいいよな。 浴室を出ると、おばあちゃんがそのままじゃ風邪を引くだろうからと半纏を貸してくれた。 なんてやさしいおばあちゃんだ。感涙だ。 食堂に呼ばれて中に入ると先に谷川氏が来ていた。食卓には漆塗りの食器が並んでいた。 「若い人が好むようなものは、ないんだけどね」 いえいえ、ファーストフードで飢えをしのいでいた俺には、天皇の料理番が作るほどの高級料理ですよ。 味噌汁が、うまい。おふくろには悪いが、うちの味噌汁よりうまい。 そう言うとおばあちゃんは顔をくしゃくしゃにして笑った。 「キミの世界の話を聞かせてくれないかな。家族とか、友達とか」 そうですね、と口を開きかけてチラとおばあちゃんを見た。 「ああ、気にしないでいいよ。おばあちゃんは他人の秘密には干渉しない人だから」 またしても鶴屋さんスタイルだな。 「干渉しないから、かえって秘密が舞い込んでくるんだけどね」 それはうらやましい。情報通ですね。 「ええと、俺の家族は親父とおふくろと、妹がひとり、これが最近マセてきて小うるさくて。 あとは拾った三毛猫が一匹」 この辺は谷川氏も知ってるだろう。あの文庫に書いてないようなことを言わなくてはな。 シャミセンに彼女らしきものが出来たとか、妹の部屋でつい日記を盗み読んでしまって 片思いの相手がいることを知ったとか、まあ家族の細かい話だ。 「初耳だ。その辺は僕の小説にはないね」 こういう日常的な仔細を小説の中で表現するには限界があるかもしれない。 「キミには彼女はいないのか?」 話の展開からすると、ここでギクリとするべきなんだろうが、あいにくとそういう関係はなかった。 「それは谷川さんがいちばん知ってることでしょうに」 「そういえばそうだね」谷川氏は頭をかいた。 「キミはハルヒと長門有希、どっちがいいと思う?」 答えに詰まる質問だ。 「どっちと聞かれても、そういう目で二人を見たことはないんです」 って谷川さん、朝比奈さんって線はまったくないんですか。 「なにかこう、伏線があったはずじゃないか」谷川氏の目は、ちょっとワクワクしている。 「伏線……ね。そういえば雪山の山荘とか、長門の暴走とか、バレンタインデーとか、 二人が妙な行動をすることはありましたが。もしかしてあれ、そうなんですか」 「まあ、キミには一切が分からないように話を展開させてるから、しょうがないんだけどね」 「俺の知らない水面下でそんな話が進んでたりするんですか」俺は苦笑した。 「って、あれ!?僕はまだキミが向こうの世界から来たと確信したわけじゃないんだが」 谷川氏は、はははと笑った。 「こうやって自分の頭の中で組み立ててることを他人とまじめに会話するってのは、楽しいね。 新しい発見があるかもしれない。今後の展開の参考にしよう」 なにやらメモをはじめた。 「キミが話してくれた事件もメモっとくよ」 なにやら謎めいた記号みたいなもの書いている谷川氏を見て、俺はふと思いついた。 「これ、もしかして既定事項なんじゃありませんか」 「というと?」 「俺が話した内容で、谷川さんがこれから十三巻を書くわけです」 「なるほどね」ちょっと考え込んだふうだった。 「ええと、じゃあ僕がキミから話を聞いて十三巻を書くとして、 キミが持ってきた十三巻を最初に書いたのは誰?」 えーと……。これは重大な問題だった。卵が先かニワトリが先か。 谷川氏は笑った。「これはタイムトラベルをする者の、悲しいサガ、だね」 俺はそのセリフになぜかデジャヴを感じた。 二人で考え込んでいると、あの部室でのことを思い出した。 「あの十三巻は、読んでると話がループするんです」 「そうなのか」 「つまり、俺が読んでるシーンを読んでる俺が、それを読んでるシーンをまた俺が、」 頭痛くなってきた。 「二枚の合わせ鏡みたいで、まともに読みつづけられないんです」 「それ、作中の人物がその物語を読むパラドクスだね。似たような話はある」 「それじゃ物語が進まないですね」 「……もしかすると、そのループが次元の歪みを生んだのでは?」 「俺にはちょっと難しいです」 「つまり、二枚の鏡に写った最初の映像はどっち?終わりはどこへ?光が無限に往復する」 谷川氏は人差し指を左右に往復させた。 「……難しいですね」 「ほかにも似たような現象はある。ビデオカメラでテレビを撮ると、映像の中に映像が延々と生じる」 「三次元のループですね」 「そう。これがもっと高次元のループだとしたら、キミは渦の中に巻き込まれているということになる」 「……」 「いいアイデアだ。メモしとこう」 って、ネタだったのかよ。どうも作家の考えることは分からない。頭の中、どうなってんだろ。 そんなSFとも数学ともつかない話をしながら時は過ぎていった。 十一時を回ったところで谷川氏は腰を上げた。 「僕は自宅に戻るから。気兼ねしないでいいよ」 「ご自宅、ここじゃないんですか」 「ここはおばあちゃんがひとりで住んでる家でね。僕は仕事場兼自宅を持ってる」 なるほど。作家ですもんね。 俺はおやすみなさいを言って谷川氏を見送った。 寒空に星がまたたいている。明日は晴れそうだ。 翌朝、おばあちゃんに呼ばれて食堂で朝飯を食った頃、谷川氏がやってきた。 「よく眠れたかな」 「ええ、ありがとうございます。おかげさまでぐっすり」 「そう、僕は枕が変わると眠れないたちでね。だから他所んちにはできるだけ泊まらない」 俺は石の上でも寝れそうな気がしますよ。一昨日は紙の上でしたが。 「昨日話した、例の地上絵の新聞を探しに行こう」 「どこへですか?」 「市立図書館に。あそこには過去十年分くらいの新聞があるから。 もしかしたら頼めば二十年前くらいは見せてくれるかもしれない」 なるほど、そういう探し方もあるのか。昨日は長門の後ろ姿しか追いかけなかったからな。 図書館には二度目の参上だ。一昨日のことを思い出すと今でも赤面する。 もしかして長門がいてやしまいかとキョロキョロと見回してみたが、それらしい風体の女の子はいなかった。 谷川氏はカウンターで保存資料閲覧を申し込んでいた。 しばらく待って、奥にある書架に通された。 パソコンの端末でマウスを動かしている。 「新聞というから古新聞が束になって積んであるのかと思いました」 「過去数年分のは全部電子化されていてね。 インデックスもついてて目的の記事を探し出すのも簡単だよ」 「あったよ。これだね」谷川さんが画面を指さした。 その記事のタイトルは“学校の運動場にミステリーサークル出現”だった。 「ミステリーサークルじゃなくて地上絵なんだけどね」 この絵文字、挿絵と同じものだ。そう、七夕のときハルヒが東中のグラウンドに描いたアレだ。 正確には俺が描いたんだったが。 「これ、子供が描いたんじゃないかって推測してるけど。 まっすぐな定規もない、見下ろす場所もない広い地面に絵を描いたことあるかい? これは図形と幾何学の知識がないとできないんだよね」 もしかしてハルヒがこの世界に存在しているのか?そんなはずはあるまい。じゃあ誰だ?。 「この絵、挿絵とちょっと違うところがありますね。この右下のやつ、花に見えませんか」 「どう……だろう。言われてみればそう見えなくもないけど」モノクロの荒い写真だから分かりづらいが。 「長門が残した栞に印刷してあった花の絵じゃないでしょうか」 とすれば、これを描いたのはあいつしかありえない。 俺は長門が部室から消える直前に言った言葉を思い出した。 「わたしは……ここにいる」 これは救助要請だ。俺はうなずいた。 「これを描いたのは長門です。それ以外考えられない」 「そうなのか。でもこれ、五年も前だよ」 確かに新聞の日付は五年前の十二月になっている。 「仮に、こっちと向こうの世界の時間がズレたとしたら、理屈は通りませんか」 「……うーん。どうだろうね」 五年も前にあいつがこっちに来たのだとしたら、無事に生きているかどうか不安になった。 ハルヒも俺もいない世界で、目的を失って自らの情報連結を解除したりしないとも限らない。 「谷川さん、長門が暴走したときの話覚えてますよね」 「ああ、消失ね」 「俺が言うのもなんですが、長門はどんなときでも必ずメッセージを残すやつなんです。 それも本人にしか分からないやり方で」 「なるほど」 「北高の文芸部の部室って存在するんですか」 「……ははあ。キミの考えていることは分かった」 俺はそこに侵入することを考えていた。 「昨日も言ったけど、当時とはずいぶん変わってるしね。 一度取材に行ったけど、そのときにはもう僕が思い描いている部室はなかったね。 むかし文芸部だった部室はあるけど」 「ちょっとだけ覗いてみるわけにはいきませんか」 「うーん……。いちお学校の関係者に聞いてはみるけど、期待しないほうがいいと思うよ。 なんせアニメに出たもんだからピリピリしててね」 そうなんですか。 「部室でなにを探そうっていうんだい?」 「あのときと同じ本があるんじゃないかと」 「ハイペリオンかい?」 「ええ、それです」 「実はあのハードカバーが出たのは相当前の話なんだ。今は文庫しかないんじゃないかなぁ」 「だったら、なおさらです。それが存在すれば長門からのメッセージがあるかもしれない」 「そうか。聞いてみとくよ。父兄の見学ってことで」 「お願いします」 記憶を蘇らせるために、俺はまた同じ道を辿る、だ。 「ああそうだ、ハイペリオンならここにもあるはずだよ。探してみたかい?」 「ええ!そうだったんですか。それは気がつきませんでした」 俺はめったに来ないであろうSFのコーナーを探した。長門に借りてそのままだ。 二人でSF、ミステリーのあたりを探したんだが、結局見つからなかった。 パソコンの端末の蔵書データベースで調べてもらったが、確かにあるらしい。 「誰かが借りてるんだろね。長門有希の百冊に入ってたし」 「なんですかそれ」そういやぐーぐる様もそう言ってたな。 「長門有希が作中で読んでるって設定の百冊を僕がピックアップした。その中にあれも入ってた」 なるほど。人気あるわけか。 「しょうがない。今日のところは帰ろうか」 「そうですね」 俺は先日とんでもない人違いをした棚のほうを見た。突然話し掛けられたほうも驚いただろう。 俺はハルヒの文庫が入ってるかどうかを見ようと、文庫の棚の前をそろそろ歩いた。 そのとき、なぜかその本だけが目に入った。“ハイペリオン ダン・シモンズ” とっさにページをめくった。ハラリと何かが落ち、俺は稲妻に打たれたかのような衝撃が走った。 あのときの、栞だった。 「こっこっこっ」 「こけこっこー?」 「違います、これ、長門です。ぜったい、長門です」 俺は栞を見せた。今度は大声を出してもはばからなかった。これは断じて長門だ。 図書館の本に手製の栞を挟むやつは、まずいない。これは長門、絶対に長門だ。 栞には例の絵文字と、薄紫の花が描いてあった。文字は書かれていない。 長門が暴走したとき、部室にあったやつと同じだ。 「消失のときのと同じだね」谷川氏にも分かったようだ。 「ぜったいそうですよ」 「これの意味は、知ってるよね」 「わたしは、ここにいる、です」 「これが憂鬱のときの栞ではないということは、つまり、消失のときと同じ、キミへのメッセージだね」 「で、ですよね」俺はワナワナ震えていた。もう長門を見つけたも同然だ。近くにいる。 「ちょっと来て」谷川氏はその本を持ってカウンターに向かった。 なにやら受付のお姉さんとボソボソ話したあと、俺のほうに向き直った。 「過去にこれを借りた人を調べてもらってる」それはすごい。電子戦ですね。 「この文庫本が出たのが約七年前、ハードカバーはそれより前。 この本が入庫したのが三年前で、借りたのはトータルで二百人くらいだそうだ。 残念ながら借りた人の名前は明かせないらしい。個人情報だからね」 ああ、こっちの世界でもその辺が厳しいんですね。 「最後に借りたのはいつか分かります?」 「二週間ほど前らしい」 ……それは長門だろうか?その可能性はあるだろうか? 「すいません」俺は受付のお姉さんに話し掛けた。 「ちょっとこの写真見ていただけませんか」俺は長門とハルヒが写っている写真を見せた。 「この、髪の短いほうの子、見かけませんでしたか」 お姉さんは、うーんともふーむともつかない声を出した。 遠目に近目に写真を見ていたが、ちょっと覚えていないと言った。 これだけ人が出入りするんだ、覚えていろというのが無理な話かもしれない。 「写真持ってたんだ?」 「あ、まだ見せてませんでしたね。すいません」 「これはまた美人だな。僕はアニメでしか見たことないから」 「そうなんですか」まあ当然っちゃ当然だが。アニメでないならただのコスプレだろう。 「実写版やるとしたら、まさにこんな感じだよなぁ」 実写ドラマやるのか……かなり映像に無理があるんじゃ。閉鎖空間とか。 俺は図々しくもお姉さんに、もしこいつが来たら俺が来たことを伝えてくれるよう頼んでおいた。 長門ならそれだけで十分だろう。あとは情報操作とやらで俺の居場所は分かるはずだ。 図書館で重要な手がかりを得たあと、午後には屋敷に戻った。 「東中のグラウンドを見てみたいんですが」 「中に入ってみたいかい?」 「ええ、できれば」 「教師にひとり同級生がいるから、聞いてみよう」 谷川氏は電話でしばし世間話をしたあと、グラウンドを見てみたいんだが、と切り出した。 「四時頃ならいいらしい」 「ありがたい」 「とはいっても、ただのモデルだからね。名前は違うし、見た目も若干も違うけど」 あの場所は忘れようにも忘れられない。ハルヒが俺とはじめて出合った場所だ。 過去の七夕には朝比奈さん(小)を背負って歩かされた。 谷川氏の車で中学校まで乗りつけた。谷川氏の同級生という男性教師が迎えてくれた。 「ここも舞台になってるんだけど、北高ほどは知られてないんだよね」 作中の東中は若干位置がわかりづらいらしい。 谷川氏と俺は校舎から出てネット越しに運動場を眺めた。 「最近は関係者以外は中には入れないけど。むかしはよくここで遊んだよ」 確かに広い。昼間見るのは、はじめてだ。 「こんな広いところによく地上絵を描いたな」実際は向こうの世界のここだが。 「地上絵を描くのって意外に難しいんだ」 「ハルヒの頭の中では文字すべての線の長さと角度が計算されてたんですね」 「ハルヒは数学が得意だからね」 「よく知ってますね」 「そりゃまあ、僕が生みの親だし」 もっともだ。 冷たい風が吹きぬけた。俺は襟を立てた。 グラウンドの向こう側で陸上部らしい女子生徒が走り回っていた。 ハルヒの中学時代はこんな感じだったんだろうか。俺は校区が違うから、ここにはなじみはないんだが。 中学生のハルヒは奇妙なことばかり繰り返していたらしい。 谷口曰く、かわいいからと思って話し掛けるとトゲのある答えしか返ってこない、バラみたいなやつだったと。 親しい友達もなく、親にも打ち明けられず、ひたすら孤独だったことだろう。 あいつはあれからずっと、ジョン・スミスを探していたのかもしれない。 柄にもなく、昔のハルヒを思い浮かべた。あいつの顔じゃ、あんまり郷愁は感じないが。 俺が探さないといけないのは、ハルヒとの接点じゃなかった。俺と長門を結ぶ接点だ。 だからここにはなにもない。俺たちは三十分くらいでその場から引き上げた。 この屋敷にやっかいになって三日が経とうとしている。 翌朝、谷川氏が言った。 「北高の見学、聞いてみたけどね、やっぱり無理らしい。今ちょうど受験シーズンで、 先生も生徒もピリピリしてるから、年が明けてからにしてくれってことらしい」 「そうですか」予想はしていたが。年明けまではとても持ち越せない。 まあ俺が中に入れないってことは長門も予想できただろうし、 ということはメッセージは何も残してない可能性が高い。 そう考えて納得することにした。最近はあきらめるのにも理由を考えるようになった。 谷川氏は今日は出版社で打ち合わせがあるので、調査には付き合えないとのことだった。 執筆の仕事もあるだろうに、毎日つき合わせては申し訳ない。 俺は自転車を借りて町並みを回ってみることにした。 ハルヒが超監督で撮った映画の舞台を追ってみた。 長門と朝比奈さんが対決した森林公園、朝比奈さんと谷口が飛び込んだ新池、桜並木がある夙川公園。 朝比奈さんがトンデモ告白をしてくれたベンチもちゃんとあった。 同じだ。何も変わりがない。 こういう自然の風景にはさほど違和感を感じない。感じるのは人工の建物だけなのかもしれない。 そういえば俺の自宅はいったいどうなってるんだろう?昨日からずっと考えていた。 俺の知らないところで、俺を除いた俺の家族がそのまんま別の人生を過ごしているんだろうか? それとも家そのものがないんだろうか。 俺は自宅近くまで行って、そこから通学路を辿って北高まで行ってみることにした。 谷川氏は道順も場所も同じだと言っていた。 俺は線路を越えて自宅がある(と信じている)場所へ自転車を走らせた。 後ろに過ぎてゆくのは見慣れた景色だった。風景だけが同じ、そこにいる人間は誰も知らない。 猫は飼い主よりも場所に執着するというが、俺はどっちかといえばそこにいる人間に愛着を感じる気がする。 俺にとっての自分の居場所は建物や地理なんかじゃなくて、たとえばSOS団のメンツや、親や妹や、 シャミセンがまとわりついてくる日常。そんな他愛もない時間そのものなのだろう。 馴染んでしまったり忘れることが出来ないものというのは、特定の場所や風景なんかではなくて、 むしろ、そのとき誰かと触れた流れる空気みたいなものだ。 時間と空間は同じ、と長門は言っていた。今は少しその意味が分かる気がする。俺なりにだが。 馴染みの町内にたどり着いた。 俺は自転車にまたがったまま、前方にある俺の自宅っぽい地所を見つめていた。 そこに、まったく同じ、俺の家がある。どうしたらいいんだろう。 玄関を開けてそのまま、ただいまと中に入ってしまいそうだ。 俺は携帯をいじるふりをして、その場に自転車を止めた。 家の様子を見ていると、ドアが開いて誰かが出てきた。 まったく知らないオバさんだった。あわてて目をそらす。 不意に、俺の家に知らない人が住んでいる感覚に襲われた。 本当はそこにいるべきは俺なんじゃないか。 ドアから出てくるのは本当は俺のおふくろなんじゃないか。 俺は頭を振り払ってその思いを消した。 住んでる人は違うのに、なぜあの家はあんなに似通ってるんだろうか。 それだけが疑問として消えなかった。 そこから駅に向けて自転車をこいだ。制服を着ていないのがなんだか違和感を感じる。 甲陽園駅まで乗りつけた。こないだのマンションが見えた。 あのときは長門とはなんら関係ない赤の他人を呼び出すなどと、血迷ったマネをしてしまったが。 いつもはここで自転車を止めるんだが、今日はそのまま乗って坂道を登った。 この坂の勾配はハイキング並にきつくて、入学したての頃は入る学校を誤ったと後悔したものだ。 自転車だと階段のないルートを辿らないといけないので、さらにきつい。 俺はとうとう押して歩いた。こんなことならいつものように駐輪場に止めておけばよかった。 途中、短大と私立の進学校の前を通った。似ているっちゃ似ている。名前は違うんだが。 この微妙な、心理的な部分で納得がいかない類似が俺を不安にさせた。 さらに坂を登り、北高らしき建物にたどり着いた。よくよく見ると名前が西宮北高になっちまってる。 正門には生徒がいたので俺はそのまま通り過ぎて、坂を登りつづけた。制服が違うな。 敷地をぐるっと回って西門まで行こう。俺の予測が正しければ、そっちのほうが人は少ないはず。 途中で見上げると、部室棟らしき校舎が見えた。あれか。 俺たちの文芸部部室がどうなっているのか、ここからでは分からなかった。 今すぐ校舎の階段を駆け上って、あの部屋のドアを叩いてみたい衝動に駆られた。 夜になるのを待って部室棟に忍び込んでみようかとも考えた。 でも俺は自分を抑えた。忍び込んで捕まったりしたら谷川氏にとんだ迷惑をかけてしまう。 血迷ったアニメオタクが県立高校に侵入。そんな三面記事、俺も読みたくない。 結局、歩道橋の交差点まで登ってそこから南西に坂道を下る。 西側からは校舎の剥き出しのコンクリが見えるだけで、なにも分からなかった。 こんなことをやっていてもなにも得られないのは分かっていた。 俺が中に入れない以上、長門もそこには行かないだろう。 長門との接点は場所じゃないんだ。過去に二人が共有したなにかだ。 俺は来た道は戻らず、坂道をそのまま下り、回り道をして甲陽園駅に戻った。 ひとつだけ忘れていた場所があった。長門に呼び出されて待ち合わせた、駅前の公園だ。 果たせるかな、街灯の下にベンチはあった。このベンチにはいろんな思い出がある。 最初のは“午後七時、光陽園駅前公園で待つ”だったか。 あんときの俺は俗っぽい生活の代名詞みたいな人生で、 宇宙論やら時間論やらとは遠いかけ離れた生活をしてたからな。 もっとまじめに聞いてやればよかった。 帰ろうとする俺を見る長門の表情に広がる、小さな波紋。 今ならあの微妙な表情の意味は分かる。 部屋の一角に、時間ごと冷凍保存した俺を三年間待ちつづけていた。 ── ただ待っているだけの人生なんて嫌 そう言いたかったんじゃないか。 俺はベンチに座り、長門と出会ってからのことを思い返していた。 あいつをひとりにしてはいけない。それが俺がここにいる理由。あいつを追いかけてきた理由。 気が付くと四時を過ぎていた。だいぶ冷え込んできたので駅近くのコンビニへ行った。 俺はホットのお茶をレジに置いた。朝比奈さんの点てた暖かいお茶が飲みたい。 ものはついでだ、俺は店員に尋ねた。 「すいません。実は人を探してるんですが、ちょっと写真見てもらえないでしょうか」 レジの若い店員は珍しいものを見るように俺を見た。 「え……人探しですか」 俺は長門とハルヒが写っている写真を見せた。 おっさんたちに握り締められてだいぶよれよれになっている。 「身長は俺より低い、小柄な子です。名前は長門と言うんですが」 店員は遠目に近目に、しばらく写真を見ていたが、奥にいるらしい誰かに向かって声をかけた。 「店長、これ、前ここで働いてた子じゃないっすかね?」なんですとぁ!!? 「どれ……。どうだろ。覚えてないなぁ」初老のおっさんが出てきて写真を見た。 「ほら、例の、三年くらい前の事件」 「ああ、あの子か、思い出した。確か名前は田中とかじゃなかったかな」頭に乗っていた老眼鏡をかけなおした。 「ええと、田中は母親の苗字なんです。小さいとき両親が離婚して離れ離れになりまして。実の妹なんです」 とっさに口からでまかせを言ったが、我ながらもっともらしい嘘だったと思う。 「ああ。思い出した。セーラー服で突然やってきて、ここで働かせてくれと言った。やたら無口な子でね。 まあ連絡先はちゃんとしてたし、まじめな子っぽかったんで雇ったんだけど。 ワケアリみたいなんで詳しくは聞かなかったけどね」 「いつごろですか」 「働き出したのは四年か五年くらい前かなあ」 「あんまり大声じゃ言えないことだけど、……三年前に強盗が入ったんですよここ」若い方が声をひそめて言った。 そのときに犯人を退治したのがその子だったらしい。 「巴投げとか言うのかな、あの技?包丁を振り回す犯人をぶん投げて、こう!」店長が腕だけ実演して見せた。 「かっこよかったですよね。なんか合気道の心得があるんだとか言ってましたっけ」 巴投げは柔道だと思うが、そのトンデモでまかせは長門流かもしれない。 その後、テレビやら新聞やらの取材があったのだが、ふつとかき消すようにバイトをやめたらしい。 「翌日から来なくなってしまってね。思えば、あれが原因でやめたんだ。いい子だったのに残念だった」 「今どこにいるか分かります?」 「ずいぶん前のことだからね。隣の駅くらいに住んでるとは聞いてたけど、それ以外のことは覚えてないねえ」 「そうですか。もし見かけたらこの連絡先を伝えてもらえませんか」俺は谷川氏の電話番号を伝えた。 「ああ、いいよ」 長門の気配が急に濃くなった気はするが、まだ道は遠い。あいつ、ここで何をしていたんだろう。 食うためのしのぎ以外に、誰か知ってる人間が通りかかるのを監視していたのかもしれない。 少なくとも存在だけは確認できた。三年前という遠い過去のことだが。 俺はお茶を受け取ってコンビニを出ようとした。自動ドアにバイト募集の貼り紙がしてあるのに気が付いた。 俺はふと思い立って、店長と呼ばれたおっさんに尋ねた。 「すいません、これまだ募集してますか」 「ああ、いつでもしてるよ」 「自分もバイト探してまして、面接お願いしたいんですが」 「じゃ履歴書書いてきて。来週くらいでどうかな」 「できれば今日お願いできないでしょうか」時間が惜しい。俺にはそれがあまり残されてない気がする。 「キミも急いでるの?じゃあ六時ごろシフト抜けるからその頃来て」 俺はその場で履歴書とボールペンを買った。証明写真をどこかで撮らないとな。ああ、あと三文判も。 駅前の証明写真ブースで顔写真を撮り、喫茶店で履歴書を書いた。ここで六時まで時間を潰さないとな。 自分の顔写真を見て少しやつれていることに気がついた。このところ毎日出歩いてるからだろう。 写真を切るものがなにもないことに気が付いて、ウェイトレスに声をかけた。 「お姉さん、ハサミ貸して~」なんだかうちの妹みたいな口の利き方になってしまったが。 さっきの店員にどうもと頭を下げると事務所に通された。 「缶コーヒーでも飲む?」 「あ、いえ、さっき喫茶店で飲んだところなので」俺は履歴書の入った封筒を差し出した。 おっさんはうやうやしく履歴書を開いて読んだ。 「高校二年生ね。学校によっちゃバイト禁止なんだけど、キミんとこは大丈夫なのかな」 「ええ。一応申請するんですが、たいていは許可がおります。素行が悪くない限りは」 レジのほうから声がした。「店長、受け取りお願いします」 「ああ、ちょっと待っててね」おっさんが席を立った。 長門、頼む。俺に二十秒だけ時間をくれ。 俺はスチール机のいちばん下の引出しを漁った。 果たしてそれがそこにまだ残ってるのかどうか俺に確信はなかった。 何通もの古い履歴書の束を見つけ、下から順にめくった。 当たりだ、長門の履歴書だ。写真も丁寧な明朝体もあいつのものに間違いない。 俺は急いでバックパックに放り込んだ。 それからの俺はおっさんとの面接も上の空、話はほとんど聞いちゃいねえ。 もう、ただただ長門の直筆を手にしたという安堵感と、 早くくだらないおしゃべりを切り上げてこの住所に行って確かめたいという焦燥感とが、俺の頭の中を入り乱れていた。 礼もそこそこにコンビニを後にした。 俺の連絡先も電話番号もどうせニセモノだ。やる気になればこっちから電話すればいい。 長門の履歴書に書かれている住所は、確かに隣の駅に近かった。 偽名を使った長門が正しい住所を書くだろうかと疑問に思ったが、 今は考えるより確かめに行くほうが先だった。他に手がかりがないこの状況では。 俺はタクシーを止めて乗り込んだ。 長門有希の憂鬱Ⅰプロローグ 長門有希の憂鬱Ⅰ一章 長門有希の憂鬱Ⅰ二章 長門有希の憂鬱Ⅰ四章 長門有希の憂鬱Ⅰおまけ
https://w.atwiki.jp/yaruopokenaru/pages/355.html
__ __ ..ィ. ´ . . . . . . . . . . . .` . ...、 ,..イ . . . . . . . . . . . . . . . . .` ヽ . . . ヽ、 / . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . \. . . ヽ. ,. イ . . . . . . . .l. . . . . . . . . . . . . . . . . .ヽ. . . . . . . . . ', / . . . . . . . . . . i. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .ヽ . . . . . . . . ',. / . . . . . . . . i . .ヘ. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . '; . . . . i. . . .', / . . . . . . . i . .! . . ハ. . . . ! . . . . . . .l. . . . . . . . . l. . . . .l . . ハ. / . . . i . . . .l . |! . .l ヽ . ヽ .\ . . ヽ;. .ト、 _ . l . . . . l. . . ハ. // / . | . . . .l`lト .i._ ヽ. . \ ヾ、 .;.イ´ . . l. . . . .l . . . . .ト、 /イ/ . . .! . . . l .i ∨' `ヽ、\! イ\!\`ヾ!. . . . l . . . . j`ヽ | . . . .ヘ . . . .|ィニニミ、 ,.ィニニミ、!. . . . i、 . . / | .| . . /ヘ\!ヾ{ ゚ ;; ヾ .. 〃 { ゚ ;; }イ. . . ./ } / ヾ!ヘ ヘ,, イへ ヽc リ ,i. ~ !, ゝc ソ }. . ./イ/ ヽ ヽヘ! . .ヘ ` ̄ 丿 i ヽ、 ` ̄ イ . /.;イ′ | . .ハ.` ー ´  ̄ /. / / | . | . | .ヽ、 ` ´ ,イ ./|/ | .从!∨W> 、 .イソ'// ! |/ ,j ` ´ lメ.′ ′ / ノ /∨ \ __... 、.- ─ ´ ク .... ∨ ` ー ..、 | ヘ i / ´ ` \l `>,. /∨ヘ l/ ´  ̄ ` \j / /ヽ 108スレ目(90日目)に登場。 リッシ湖の畔にあるワグナリア本店の店員。 112スレ目(109日目)に涼宮ハルヒと共に正式にやる夫と邂逅。 やる夫を不審者と間違えたハルヒが狼藉を働いたところに居合わせ、ハルヒのフォローを行った。 仕入れ先であるトリコからやる夫のことを聞いており、ハルヒに紹介してくれた。 少々引っ込み思案な部分はあるが、常識人。時に暴走しがちなハルヒに対してツッコミ(物理含む)を入れてくれる。 趣味で占いをしており、露店街で辻占いをしている(ハルヒにさせられている)ことがある。 126スレ目(167日目)、ノモセシティ豊穣祭のワグナリア出張所の側では丁度その場面に遭遇し、やる夫に同行していたターニャとお互い恋心を抱いている者同士通じ合うものがあった。 131スレ目(178日目)、錫華姫の宴会の手伝いの依頼で楠舞神社に訪れたところ、同じく料理担当として駆り出されていたワグナリアの面々と遭遇。 手伝いで優れた結果を出したやる夫に対し、ハルヒによって恋心を暴露された上で、やる夫の恋人として黒の騎士団入りした。 数年前記憶を失って浜に流れ着いていたところをハルヒに拾われ、以後保護者になってもらっている。バトルに関しても鍛えられている模様。 記憶に関しては既に諦めており、新しい人生を頑張っていこうと決意しているようだ。 138.5スレ目(201日目)、ヨスガシティのイベント終了後の親睦会で会話したとき、手持ちポケモンがアイアンメイデンと判明(ニックネーム不明)。 有希のデータをコピーして外見を作っているため、たまにうっかり有希の個人情報を漏らしてしまうことがあるのが悩みの種。 所持スキル 名称 説明 洋食料理人Lv5 料理人としての極致のレベル。お値段も究極レベルである。 日本料理人Lv4 料理人として凄いレベル。高い金額に換金する事ができる。 中華料理人Lv4 料理人として凄いレベル。高い金額に換金する事ができる。 パテシエLv4 料理人として凄いレベル。高い金額に換金する事ができる。
https://w.atwiki.jp/nikonemiku/pages/119.html
涼宮ハルヒの憂鬱シリーズに登場する宇宙人(情報統合思念体)によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース(TFEI)である。 彼女のキャラクターソング「雪、無音、窓辺にて」はその楽曲自体のクオリティー、担当声優である茅原実里の歌唱力によって高く評価されると共に、多くのMADや替え歌を産んでいる。特にスネークを真似て歌ったものが有名。 「長門は俺の嫁」という言葉によって語られることが多く、そのファンの多さが伺える。
https://w.atwiki.jp/yaranaioheroine/pages/63.html
◎ やらない夫と黒いおり(完) ◎ やらない夫と最後のデート(完) ◎ やらない夫と洋上の裏切り者(完) ◎ デュエル代行人ニュー速出やる夫 ◎ やる夫が葉隠武士になるようです(完) ◎ やる夫は時を駆ける法術士のようです(完) ○ 契/約者 やらない夫 (※NGワードが入っていてスレでは書き込めないので/を入れています) ○ ヤラナイオは紅き英雄だったようです ○ やる夫が廃人の世界に足を踏み入れるようです ○ やる夫がフラグを回収したいようです △ 異世界転生したから、チートではない自前の筋肉でプロレスをする(完) △ 【TES】 狼の女王 【スカイリム】 △ STUDENTやらない夫(完) △ 3日間の奇跡(完) △ やらない夫はムーンセルで目覚めたようです(エ) △ やらない夫はMMとして召喚されたようです(完) △ やる夫がフロンティアでハンターになるようです(エ) △ やる夫(達)は、たぶん次の王様を目指すようです(完) △ やる夫は忠誠を尽す事を誓った様です ◇ やらない夫先生の次回作にご期待ください(完) ◇ やらない夫は記憶喪失の街で交渉人になるようです ←長門(艦隊これくしょん) ナに戻る 中野梓→