約 3,567,391 件
https://w.atwiki.jp/clownofaria/pages/133.html
第一部 『眠れない二日間』⑬ 〈零時五十分 綺璃斗〉 神社で交戦した蒼月から命からがら逃げた綺璃斗は上空から狂気をまき散らかしていた。 狂気は下で歩いている民間人や局員がその被害をくらい、体調不良で倒れる人や狂気で狂う人が増えてきた。 狂気で開放された人たちが放つ狂気が黒き靄となって、少女の身体に吸い込まれていく。 周囲が錆びた鉄のような匂いや鼻の奥がつんと痺れるような甘ったるい奇妙な臭気が濃くなって行くにつれて少女は身体が修復されていくのを感じた。 数分前に蒼月から受けた〈参乃陣四刃 八咫の黒』の傷は既に修復され、少女の身体自体が別の物に進化していく。 吸い込んだ黒き靄で進化していく彼女ならば、並大抵の魔導師に負ける事はありえないであろう。 しかしある種のうぬぼれに酔っていたさっきとは違い、今はどんな相手にすら全力で立ち向かうだろう。 「……?」 周囲に漂う靄から少女は不自然な物の流れを感じた。 次の瞬間、少女に向かって青い光を放つ線が向かってきた。 咄嗟に少女は周囲の靄を固め、漆黒の壁を形成。 しかしその青い線はその壁を突き抜け、少女の顔面ギリギリで止まる。 遥か下を見ると、とあるビルの屋上に青い魔法陣が展開されていた。 しかし綺璃斗の視覚ではその魔法陣の中心にいる存在を確認する事は出来ない。 その間にも次々と黒い壁に青い棒が突き刺さっていく。 「―――どうにか足止めは成功かな」 クラナガンに多くある高層ビルの一つ。 その屋上で一人の女性局員が空を見つめながら呟いた。 左手に握っているのは俗にボウと呼ばれる洋弓型デバイス。 しかしリムと呼ばれる弓の返る部分とストリングが異様に長いという意味では、和弓のような形状も持ち合わせていた。 青い棒が突き刺さった黒い壁を見つめる女性に念話の連絡が入る。 [えゆ三等空尉……こちらオウル・プリヴェント。集束まで後十秒。足止めをお願いします] 「こちら、えゆ。了解です」 念話でえゆと呼ばれた女性は展開された魔法陣の中で胴造りを行い、矢も無いままで打ち起こしまで行う。 そしてカムで重さを調整する事によって多くのエネルギーを蓄えながら引き分けをする過程で魔力が集束し、長い棒状の矢を作り出す。 サイトで標準を合わせ、空間把握魔法〈アルテミス〉で対象の位置を算出。その魔法で強化された視覚で対象を睨みつける。 対象は靄を固めた壁で身を護りつつ、周囲には黒い球体を配置。 何かが近づくたびに球体は黒い針となって伸び、その針は刃となってその身を鞭のようにしならせながら近づく物に斬りかかる。 えゆは軌道操作魔法〈クイックシルバー〉を矢に組み込む事で対象物以外を回避するように設定する。 「……限定十秒 対象のみを追尾《クイックシルバー》」 発射と同時に対象が移動する可能性も考慮に入れ、軌道操作魔法〈クイックシルバー〉で追尾効果も一緒に矢へ組み込んでおく。 サイトで狙いを合わせ、えゆはある程度の魔力を溜め込んだ矢を射出。発射時の振動と衝撃はスタビライザーで殺したが、タメ撃ちによって掛かった腕の負担でえゆは顔を一瞬だけ歪ませる。 射出された矢は青い光の尾を引きながら対象へと飛んでいく。 しかしその軌道上に浅葱色の魔力光を纏わせた少年局員が割り込む。 対象以外には当たらないように設定された矢は推進力として溜め込まれた魔力を使う事で強引に軌道を変える。 強引に軌道を変えたせいで勢いが衰え、対象の壁に突き刺さるどころか途中で霧散する。 えゆは共同戦線を張っている少年局員に念話を送る。 [ミヤモトくん。先行しすぎです] えゆから念話が送られてきた少年は忌々しげな顔で軽く舌打ちをする。 そして左手に持った日本刀型デバイスへ魔力を注ぎ込みながら黒い壁へと突っ込む。 魔力の込められた居合いがたたきつけられる直前になって、その壁に変化がおきる。 壁に突き刺さった矢を構築する魔力を失う事で消滅すると同時に黒壁が靄へと戻り、少女は靄を無数の黒い飛針に再構築して射出。 射出された針にとって突っ込んでくるミヤモトは格好の獲物。 咄嗟にミヤモトはバリアを展開するが、それが完成する前に針が身体に突き刺さる方が先であった。 顔や心臓はどうにかバリアで防ぐ事は出来たが、それ以外の部分には針が余すところ無く突き刺さる。 針の突き刺さる痛みと身体に狂気が染み込む激痛がミヤモトの脳内を焼き、ほんの数秒だけ思考能力を失わせる。 少女は笑みを浮かべながら、痛みで怯んだミヤモトに突っ込んできた。 その手に握られているのはミヤモトと蒼月が使っていた得物―――刀 鞘を握るような形で握った左手で刀を入れ、右手は刀の柄を握っている。 ミヤモトが刀の射程範囲に入ったとき、少女は刀を握った右手を左から右へ振り抜いた。 「Молния в темноте」 抜刀する事で切れた傷口から出た黒い血か靄か分からない物で滑らせた刃でミヤモトを切ろうとする。 そこでミヤモトは刃が身体に触れるギリギリで強固な結界を展開する。 危機一髪で助かったとミヤモトは思っただろうが、次の瞬間にはその考えは否定される。 野太刀の奔った軌道に沿って集束した狂気が巨大な黒き刃となり、ミヤモトの展開した結界をガリガリと削っていく。 最終的に黒き刃は定規を当てたのごとく綺麗な一文字を描きながら結界を切り裂き、驚愕で顔を強張らせるミヤモトに襲い掛かる。 ミヤモトはアサギの〈ブリッツ・リヒト・シュトライヒェン〉と蒼月の〈参乃陣四刃『八咫の黒』〉を模倣した斬撃によって大きく吹き飛ばされる。 意識が飛びそうになったがミヤモトはどうにか意識を保ち、少女から離れた所で踏みとどまる。 斬られた後を見ると、左の二の腕から右の二の腕にかけて綺麗な直線が入れられていた。 しかしバリアジャケットを着ていたおかげで、薄皮を斬られた程度であった。 ミヤモトが少女から離れて数秒後にタメ撃ちされた青い矢と琥珀色の弾丸が光の尾を引きながら少女の方へ迫る。 しかし少女はそれを持っていた刀でなぎ払った。 魔力を注ぎ込む事でバリアジャケットを修復しながらミヤモトは少女を狙撃する担当をしている一等陸士と遊撃担当のえゆに向かって念話で怒鳴った。 「オウルっ! えゆさんっ! 何で撃たなかったんだ!」 ミヤモトの怒鳴り声に頭が痛くなるのを感じながら狙撃担当のオウル・プリヴェント一途陸士は返した。 「お前が被って、撃てなかったんだ」 [私の位置からだと、ミヤモトくんも巻き込まれちゃうよ] 念話からわずかに震えて聞こえる聞こえる声でオウルは、えゆが撃たなかったのではなく撃てなかったのだと思った。 えゆの位置なら対象を撃つ事も可能であったのだろう。 しかし照準やスピード―――そんな些細な力加減次第で、矢がミヤモトに当たる危険性もあった。 敵の撃墜と、ミヤモトの無事。 えゆはその二つを天秤にかけ――― 矢を撃たないでチャージする事でえゆはミヤモトの無事を取った。 ミヤモトならばちゃんと自身が出来る加減を知っていて、危なくなったらちゃんと下がる事を信じた上での行動であったのだろう。 流石にミヤモトもえゆの気持ちが分かっているだろうと、アンチマテリアル型デバイス『ブリジット』の狙撃用のサイトで対象を狙いながら考えた。 しかしミヤモトから返された念話はオウルの予想とは遥かに反している物であった。 怒りで痛みすら忘れているらしく、ミヤモトは激昂しながら叫んだ。 [うるさいっ! 撃つ事に迷うなっ!] その言い方はまるで、味方の流れ弾に絶対当たらないという絶対の自信があるようにも思えた。 気遣ったえゆにそれは無いだろうと思う一方で、オウルはミヤモトが怒る理由も分からなくはなかった。 今、オウルが狙撃用サイトから見ている少女らしき物―――対象を撃墜。または拘束するのが今回の任務だ。 ならば、ミヤモトと言う一等空士の身を危険に晒すとしても―――狙撃担当のオウル・プリヴェントと遊撃担当のえゆは対象を仕留めねばならない。 例えそれが撃墜しなければいけない対象と一緒にミヤモトを殺すという結果にたどり着くことになろうとも。 共同戦線とはそういうものだ。任務を達成するためには仲間の命―――最悪、自身を進んで犠牲にするくらいの覚悟で望まなければならない。 勝つ為ならば、一人の命など微塵の重さも無い。 全を救うためならば、躊躇わず一を殺さなければいけない。 まさかそれをこんな状況で再確認させられるとは思わなかった。 オウルは魔法陣を展開し、『ブリジット』のチャージを開始する。 自身の魔力を核にして周囲の魔力を集束。むらが出ないように分解。そしてその魔力を圧縮。 それを何度も繰り返す事で、発射された弾が相手を貫くまでのスピードを極限まで加速させる。 一点集中の魔力弾、それに籠められる威力はかなりのものである。 しかし難点は発射後の次弾装填で、リロードしてからの発射が他の銃撃型デバイスよりも遅い為に連射ができない事であった。 特殊な魔法によって照準の精度が上げられたサイトを覗きながら、『ブリジット』の銃口を対象へと向ける。 引き金を絞ろうとしたその時、バリアジャケットを修復させたミヤモトがその軌道線上に割り込んできた。 [うおぉぉぉっ! この化け物があぁぁぁぁ] 流石にマズイかもしれないとオウルは思った。 自身の使う魔法は魔力の圧縮によって弾の威力を上げている。 一点集中型の魔力弾であるから、威力は折り紙つき。きっとミヤモトの身体すら貫通し、対象に着弾するであろう。 最悪、ミヤモトを殺す事になるが対象を仕留める事が出来る。 撃つ事に迷うな―――ミヤモトはそう言って、撃つ事を躊躇った二人を一喝した。 そう言ったのだ。ギリギリで避ける位の自信はあるのだろう。 ならば―――その宣言が嘘でない事をココで証明して貰わなければならない。 軽く息を吐き出したオウルは狙撃用のサイトから対象とミヤモトを睨みつける。 ミヤモトは設置された球体の迎撃トラップと、その隙を縫って攻撃してくる対象に足止めされていた。 遊撃を担当しているえゆというと、ミヤモトが対象の攻撃を凌げるように球体を狙撃している。 しかしその迎撃トラップは矢で安易に破壊する事が出来ても、すぐに修復されてしまう。 防戦一方になっているミヤモトにも聞こえるように、オウルは念話を繋げた。 「はあ、仕方ない。当たってもしらねえぞ……ミヤモト」 オウルは『ブリジット』の引き金を引き、琥珀色の魔力弾を解き放つ。 ドンという鈍い音と共に銃口から砲撃魔法クラスの威力を孕んだ魔力弾が発射され、対象に向けて『ブリジット』を構えていたオウルに衝撃が来た。 琥珀色の魔力弾は空を翔け上がり、ミヤモトと撃墜対象へ飛んでいく。 狙撃担当のオウルが二人の動きを予想して発射した魔力弾は悪くても、ミヤモトをギリギリでかすめるような弾道で飛んでいた。 いきなりココで、対象の攻撃を凌いでいたミヤモトが位置を変える。 それはオウルの放った魔力弾がミヤモトの心臓を確実に貫く事が出来る位置。 後十秒でその弾がミヤモトの心臓を穿ち抜くだろう。 事前に念話を繋いで宣告したのだから、流石のミヤモトも対象を振り切るか何かして避けるだろうとオウルは踏んでいた。 しかしミヤモトは弾の弾道から退避しようとしない。 まさか―――ミヤモトはオウルからの念話を聞いていないのではないのか。 オウルは自身のデバイスを落とし、念話を接続したまま精一杯の声で叫んだ 「ミヤモトおぉぉぉっ!」 [追尾及び、対消滅《クイックシルバー》!] その声が念話として聞こえるのが先か、魔法が発動されるのが先か分からないが、一筋の青い光が空を翔けた。 青い光は夜空に光の尾を焼き付けながら琥珀色の魔力弾に衝突し、そのまま強引に対消滅させる。 オウルは仲間を射殺しなかったと言う結果に安心しつつも、魔法に魔法をぶつける事で対消滅させられた事にはぞっとした。 軌道操作魔法を使用しているとはいえ、衝突させて魔法を対消滅させる事は容易ではない。 百分の一のタイミングと類い稀な解析能力がないとそれを容易に起こす事は出来ないからだ。 流石、首都防衛部隊所属の三等空尉であるといえるだろう。 その時、えゆからオウルへ念話が飛んできた。 [プリヴェントくん。大丈夫?] 青い矢が空を翔けているのが肉眼で確認出来るところから、矢を撃ちながら念話をしているようだ。 「ええ。大丈夫です」 背筋の寒気が収まらなかったが、オウルは大丈夫だと肯定する。 命を賭けねばならない場所で一つの事にこだわっていたら、それが命取りになりかねない。 軽く深呼吸をして、無理にでもオウルは気を落ち着けさせた。 [なら、大丈夫ね。分析と援護をお願い] 「了解しました」 オウルは取り落とした『ブリジット』を構えなおし、再び魔力の集束開始。 それと並行して、対象の生体をチェックする魔法を起動。 外見は普通の人間のようだが、戦闘力だけは普通の魔導師を凌ぐ物がある。 魔力の暴走と考えればそれまでかもしれないが、オウルが仕事で培ってきた勘と言う物が別の何かであると告げていた。 対象がほとんど未確認生物に近い今は、できる限りの情報を調達しなければならない。 それをもとに味方へとアドバイスを送り、味方が戦いやすいように援護を行う。 それが――――アンチマテリアルライフル型デバイス『ブリジット』で射撃を行う魔導師である自身の役目だとオウルは考えていた。 対象が撃ち込んで来た漆黒の槍でミヤモトが吹き飛ばされるのを空間把握魔法で強化された視覚によって確認すると同時に、えゆは軌道操作魔法で矢に複雑な命令と膨大な魔力を組み込んでいく。 援護射撃と対象の生体解析を同時進行で行わせているからか、オウルから解析による結果はまだ出てこない。 最低限、オウルの解析が終わるまでは時間を稼ごうと考えながらえゆは対象を狙う。 「……爆砕分裂後、多角砲撃《クイックシルバー》」 [えゆさん。何で、オウルの弾を対消滅させたっ!] 対象に狙いを定めたところで、ミヤモトからの念話が割り込んできた。 どうやら、えゆがオウルの魔力弾を対消滅させた事に憤慨しているらしい。 えゆの中では今すぐ弁解したいと言う気持ちがあったが、対象を撃墜するまではそんな余裕などない。 目の前では対象がこっちの攻撃を警戒してか、巨大な盾と球体型の迎撃トラップを作り始めている。 対象の攻撃を迎撃するのであれば、できるだけ早く行わなければならない。 チームであるとはいえ、一人で突っ走るミヤモトの言葉を今だけは無視をしなければならない。 「……話は後です」 [……っ! この――] ミヤモトがまだ何か言おうとしていたが、集中力を高めるためにえゆはあえて念話を切断した。 そして十分な魔力を溜め込んだところで、えゆは矢を離す。 青い矢は光の尾を空に焼き付けながら対象の方へと翔け昇り、完成した漆黒の壁に衝突。爆発する事で迎撃トラップを破壊し、壁に幾つものヒビを入れた。 しかし爆発だけでは終わらない。矢が砕け散っても魔力は破片のような形状を取ったまま対象の近辺に存在し、周囲の魔力を集束し始める。 危険を感じたらしき対象はその破片を壊そうとするが、オウルが魔力弾でえゆの援護を行う。 そして十分な魔力を喰らった破片は青い光線となって、多角度から対象に襲い掛かる。 色んな角度から集束式の砲撃魔法を喰らう事となった対象の身体は爆発によって発生した光と霧散した濃い靄によって見えなくなる。 咄嗟にえゆは目を焼かれないように瞼を閉じた上で、右腕で目の辺りを隠す。 [えゆ三等空尉……] やったのでしょうかと念話で訊ねてきたオウルに、えゆはまだ分からないと答えた。 すこしずつ光が弱くなっていき、えゆは対象のいた位置を見る。 そこはまだ濃い靄が掛かっている性で姿を確認できない。 下手をしたらさっきの攻撃で本当に撃墜してしまい、地面に落下した危険性もある。 しかしそれは靄が晴れれば分かる事だ。風の流れで少しずつ靄が流されて消えていく。 「……えっ?」 〈アルテミス〉で視覚を強化した瞳で確認した驚くべき光景に、えゆは不意に声を上げてしまった。 少女らしき対象が左右に手を突き出した状態で、何事も無かったかのように浮かんでいる。 まるでその少女を護るように球体状で展開されているのは黒い壁ではなく、少し黒ずんだ色をしている虹色のベルカ式魔法陣。 えゆが発動した二段構えの魔法はその魔法陣の前で停止している。 魔法陣を展開した状態で対象の口がゆっくりと動く。 「……掌握支配《コンプレクティ・リアクト》」 今までは意味の分からない音の羅列であったが、今その口から紡がれた音は紛れも無く人の喋る言語であった。 その言葉に従って、魔法陣の前で停止していた青の光線がゆっくりと吸い込まれていく。 そしてそれを吸い込んだ魔法陣はゆっくりと消失して行った。 魔力によって強化された狙撃用のサイトからオウルも、えゆの魔法が対象の展開した魔法陣によって吸い込まれていくのを見ていた。 オウルも陸士部隊の仕事で色んな違法魔導師やテロリストたちと渡り合ってきたが、魔法を吸収する魔法を見た事は無かった。 目の前の光景に驚いているオウルの側で、対象の生体をチェックしていた魔法が解析結果を出した。 「っと…生体センサースキャン終了…か……? なんだこれは…」 対象は身体の体温が異常に低いだけで、生きている事には間違いない。 しかし身体の内部が解析魔法によって検出する事が出来なかったのである。 今まで確認した限りでは対象に魔力を遮断する処理がされているようには思えない。 だが、対象は生きている事以外には何も分からない。 「……奴は、一体……何なんだ?」 魔法によって出た解析結果に、オウルは困惑してしまう。 外見は人間であるのは分かるが、中身が検出されない為に何なのかいまいちわからない。 人間という生き物は思考などを臨機応変に対応するが、戦い慣れてくると仕草などで予測できるようになる。 アンドロイドの場合ならば人間のような仕草が無く心が無い為、その行動などが読めないのである。 戦場では人間や機械問わずとんでもないのが放り込まれている事もあったりするため、分析が出来ないというのは危険極まりない。 そして次に出た解析結果にオウルは再び驚いてしまった。 「!?」 [どうしたの? プリヴェントくん] 驚きが声になって伝わったのだろう。一時的に念話の回線を遮断していたえゆがオウルに話しかけてきた。 オウルは解析された結果をそのまま、えゆとミヤモトに伝える。 「解析の結果。対象が生きている事以外は確認できません。ただし……」 [ただし……なんだ?] 苛立っているミヤモトの問いに、オウルは自身でありえないだろうと思いながらもそれを伝えた。 「さっきの魔法で、いきなり対象がリンカーコアを持ちました」 [……?] [……え?] ミヤモトは意味が分かっていなさそうであったが、えゆはオウル同様に驚いている事が念話からも伝わってきた。 二人が驚いている理由が全く分かっていないミヤモトに、えゆが説明をする。 [いきなりリンカーコアの存在が確認されるのはおかしくない事です。危機的状況によって魔導師として覚醒し、リンカーコアが発生した事例は過去にも数件はあります] 「問題は……」 靄を集束させて攻撃を仕掛けようとする対象を魔法で迎撃しながら二人は話を続けた。 漆黒の槍や針は魔法で破壊する事は出来るのだが、対象になると魔法自体を吸い込まれてしまう。 解析魔法の結果によると、魔法を吸い込む事によって対象の魔力も増して来ているらしい。 [リンカーコアが発生する前は魔法ではない何かを使用していた……という事ですね] 今までの技が魔法であったのなら、魔力に限界が来るのを待つと言う戦術も存在した。他にも、念話でAMFを発生させる事が出来る物を所有する部隊に連絡し、それらが来るの時間稼ぎとして踏ん張ると言う手もある。 しかし黒い壁などが魔法によるものでないのならば、対処方法が分からなくなる。 むしろ戦況がオウルたちにとって悪くなりつつあった。 対象の行使する技は魔力とは違う物で動いているし、対象に魔法を打ち込んだらそのまま吸収されてしまう。 何事においても、いつ決着がつくか分からないと言う状態は意思を持つ存在の精神に多大な負担を掛けて行く。 いつ終わるのか分からない戦闘にオウルたちの精神がすり減らされていった。 ほとんど千日手に近い戦況に痺れを切らしたミヤモトは日本刀型デバイス『鈴音』を抜刀し、刀身に浅葱色の魔力光を纏わせながら少女の方へと飛んでいく。 「うぉおおおおおおおおおおっ!」 少女は向かってくるミヤモトに向かって針を飛ばして来た。 さっきは不意打ちを喰らっただけらしく、今は魔力を纏わせた斬撃でそれらを切り払っていく。 攻撃を捌きながら少女の方へと突っ込んでいくミヤモトにえゆの念話が飛ぶ。 [ミヤモト君。危ないから、先行しちゃ駄目です!] これは一緒に戦う者を心配する声。しかしこの化け物を倒す事にミヤモトは頭が一杯であった。 時には『鈴音』で切り払い、ギリギリで捌き、必死で回避しつつ、その声をミヤモトは一蹴した。 「ココでこの化け物を止めないとやばいんですよ! 貴女こそ分かっているんですか!」 ミヤモトが突っ込んでくる様を眺めつつ、少女は靄を集める事で小さな剃刀を形成。 その剃刀を手首に当てて、躊躇いも無く一気にその刃を引いた。 剃刀の刃は少女の肌を切り裂き、その傷から血の代わりに黒い靄が噴き出す。 「Бешеные собаки」 少女の傷口から出ていた靄が集束して犬の形を取り、ミヤモトにその牙を突き立てるために突っ込んだ。 バリアジャケットを貫いて、ミヤモトの身体に牙が食い込む。傷口から狂気が流し込み、少しずつ溶かしていく。 噛み付いてきた犬を振り払おうと足掻くたびに犬の牙がミヤモトに食い込み、身体の自由を奪っていった。 しかし少女は手首の傷口から黒い靄を噴出しながらぼんやりとミヤモトを眺めている。 見つめるその目からは感情が全く感じられなす、ただ見ているだけのような感じであった。 それでもミヤモトは、痛みに耐えながら少女の方へと進んでいく。 黒い靄の濃度がある程度まで濃くなった所で少女は口を動かした。 「Дожди преступности」 黒い靄は細い針となって、ミヤモトに喰らい付いている犬ごと刺していく。 その針がミヤモトに降り注いで刺していく勢いはまるで豪雨。 針は刺し傷から身体の中に溶けていく激痛と狂気でミヤモトを蝕んでいく。 肌は徐々に黒ずんでいき、身体も言う事を効かなくなっていく。 ミヤモトは身体を動かせないまま、降り注ぐ黒い雨と自身の身体に美味しそうに噛んでいる犬を眺めていた。 出血のせいで徐々にミヤモトの身体が冷たくなっていく。まるで雨に打たれてずぶ濡れになっていくかのように。 少しずつ意識が薄れ行く中で、ミヤモトは少女に怒鳴った。 「この化け物がっ!」 今まで何をしても反応しなかった少女が、ミヤモトの罵倒に近いその一言に反応した。 白目と黒目が反対になっていた瞳が元に戻り、身体がビクリと震えた。 「私……化けも」 それと同時に黒い犬や身体に突き刺さった針が消える。 ミヤモトは消えたその隙に前へ突っ込み、魔力を纏わせた『鈴音』で少女を斜めに斬った。 切り口からは血の代わりに黒い靄が勢いよく噴き出し、黒い大型犬となってミヤモトに襲い掛かる。 不意打ちに近い攻撃の勢いに押されるミヤモト。噛み付かれないように防戦する。 その隙を突いて、少女の身体から噴き出した靄が大きな針となってミヤモトの身体に突き刺さった。 「ぐあっ……」 そのままミヤモトはゆっくりと落ちていく。既に意識は朦朧としており、後は重力に任せて落下していくのみ。 あと数秒でミヤモトがその硬いアスファルトの地面に叩きつけられて、ただの肉塊に変わってしまう状況。 「対象を追尾。および、接触後は対象をポイントBへと強制輸送《クイックシルバぁっ》!」 青い光を放つ矢が黒い靄に覆われた夜空を駆け抜ける。 「よしっ……!」 オウルはミヤモトが対象に攻撃を加えた事に小さくガッツポーズをした。 しかし次の瞬間には犬の突進を喰らい、その隙を縫うように黒い針を喰らったミヤモトが落下していく事にギョッとする。 助けに行きたいのは山々だが、空戦の資質が余りない自分が飛行魔法でミヤモトの救援に向かう事は難しい。 出来るしたら、自身のデバイスを浮かせる事くらいだ。 どうしたものかと考えあぐねるオウルにえゆの声が念話として割り込んだ。 [対象を追尾。および、接触後は対象をポイントBへ強制輸送《クイックシルバー》!] えゆのいるポイントから青い光が夜空を翔ける。 青き光を放つ矢は落下していくミヤモトを追尾し、その先をバリアジャケットの襟に引っ掛けた。 どうにかミヤモトを何も言えぬ肉塊に変わるという事態を回避できた事に安心すると同時に、その青い矢が自身のいる場所に突っ込んで来ている事に唖然とする。 急いでオウルは『ブリジット』を地面に下ろし、矢とともに突っ込んでくるミヤモトをキャッチ出来るような体勢をとる。 切っ先にミヤモトを引っ掛けた矢はオウルの近くでゆっくりと消滅する。 矢自体は無くなっても勢いは残っているらしく、ミヤモトの身体はオウルの方に飛び込んできた。 その勢いでオウルまでもが身体を持っていかれて、屋上を転げまわる羽目になったがどうにか受け止める。 屋上の硬い地面を転がったせいで体中が無性に痛かったが、その痛みに耐えつつ『ブリジット』を置いたところまで歩く。 狙撃位置に戻ったオウルは改めて念話を繋ぎなおす。 「こちら、オウル・プリヴェント。ミヤモトの回収完了です」 [そう……了解です。多重弾殻であれば、効果があることを確認] ちゃんとミヤモトを回収された事に、念話の向こうで安心したえゆ。 その安堵は念話として声と一緒に伝わってきた。 「情報提供感謝します。こちらも多重弾殻射撃に切り替えます」 オウルは『ブリジット』に装填していたカートリッジをロード。 環状魔法陣の代わりにターゲットリングを展開。同時に展開されたレーザーサイトを使用することで命中率を高める。 自身の魔力を核にして再び魔力を集束。今回は圧縮と分解の工程を行う代わりに膜状バリアでその魔法を覆う事で多重弾殻の処理を行う。 その魔法を発動させるに十分な魔力をチャ-ジさせたオウルは、魔法で視覚強化された狙撃用サイトとレーザーサイトの併用で照準を合わせながらその魔法を紡ぎだした。 「幽玄の灯《ファントムブレイズ》」 引き金が絞られる事で開放された遠距離狙撃型砲撃魔法は琥珀色の線となって対象へと伸びていく。 対象は右手で顔を覆いながら、オウルの放った〈幽玄の灯《ファントムブレイズ》〉へと左手を突き出す。 その手には少し黒ずんだ色をしている虹色のベルカ式魔法陣が展開されている。〈掌握支配《コンプレクティ・リアクト》〉でそれを吸収しようとしているらしい。 しかし琥珀色の一閃は吸収される事はなかった。 それどころか、対象の上半身右半分が円状に抉り取った。 「……っ!」 人を殺してしまったという嫌悪感にオウルは一瞬だけ足場が揺らぐような感覚を覚えた。 時空管理局は容赦ないとは言われていても、犯人を容赦なく殺すまでには至らない。 今、対象に放った魔法も非殺傷設定で威力を抑えてある。 だから、オウル自身も威力を抑えてある魔法で対象の上半身右半分が消し飛ぶとは思わなかった。 しかし次の瞬間には周囲の靄が対象にまとわりつき、失った部分を補修する。 それには別のポイントにいたえゆだけではなく、オウルも唖然とした。 対象が自身の身体すら靄で修復できてしまう事は、オウルたちの予想を遥かに超えていたからだ。 茫然自失しているオウルの背後でミヤモトがうめき声を上げる。 「うっ……」 どうやら意識を取り戻したようだ。多重弾殻処理を行った魔力弾を出来るだけ早く叩き込みつつ、オウルはミヤモトに訊ねた。 「大丈夫ですか?」 しかしミヤモトはオウルの問いに気にも留めずに対象を睨みつける。 それはまるで対象は自身が絶対に倒さなければいけない敵であるかと言うような目であった。 そしてミヤモトは足元に浅葱色のベルカ式魔法陣を展開。 黒い針が刺さっていた部分には黒い刺青らしき物が走っていた。 またもや独断で対象を止めるつもりだと、ミヤモトの殺気走った気配からオウルは察知する。 オウルはミヤモトを引き止めるように怒鳴った。 「お前にそいつを止める力があるのか? お前一人でそいつを止められるのか?」 しかしその問いに対してミヤモトは何も言わなかった。 殺気を押し殺すどころか、むしろ叩き付けながらミヤモトは少女の方へと飛んでいく。 少女も自身の身を護るために向かってくるミヤモトを迎撃する。 黒い靄が集束し、黒い槍をいくつも作り出して射出。 ミヤモトは鞘をつけっぱなしの『鈴音』でそれを打ち落とす。 しかしそこで気を抜いてしまったのが間違いであった。 上から黒い球体が落下し、ミヤモトの頭を打つ。その球体は一瞬だけミヤモトの意識を奪い、行動を微かに鈍らせた。 ミヤモトの頭を襲った球体の落下を合図に漆黒の球体が雨のように落下して進行を阻む。 黒い球体が身体を打ち付けてくる中で、ミヤモトはとある肉弾専門の教導官の技を思い出した。 それはアキの〈星堕ちつ日《スターライトフォーリングダウン》〉。 物量と落下速度によってミヤモトの進行を滞らせる球体は少女の周囲に集まって新たな形となる。 球体が泡を立てて膨らみながら空中で回転し、黒い靄を纏う漆黒の鮫を生み出す。 そして少女はアキとアサギの合体魔法である〈破軍鮫陣《ストレイト・オーヴァ》〉を再現し、それらを広域に展開した。 横に腕を振り抜いたのを合図に、黒の鮫たちはその役割を果たすために動き出す。 半分は弾丸のように突っ込み、残りの半分はその身を跳躍させて自重で周囲を潰しにかかる。 「第一幕……剣の舞」 カートリッジロードと同時にミヤモトは居合いの如く『鈴音』を右へ振り抜く。 シャンと言う鈴のような音がなると同時に抜刀され、浅葱色の魔力を纏った刃が空を切る。 その軌線に沿って剣の形をかたどった魔力の塊が扇状に配置され、ミヤモトが刀を振りぬくと同時に射出。 ミヤモトに向かってくる黒い鮫たちの一部がそれによって削り取られた。 「第二幕! 魔王っ!」 突き出した左の手の平にミッドチルダ式の魔法陣を展開。 浅葱色の魔法陣から少女をかたどった魔力の固まりが射出され、鮫のいる方へと一直線に奔った。 その魔力に接触した鮫だけではなく、周囲にいた鮫までも一緒に爆発する。 これによって少女に配置された鮫の一群を扇状に消滅した。 [ミヤモト……ペースが速すぎだ。途中で潰れるぞ] 「……第四幕。炉心融解」 オウルの念話になど耳も貸さず、ミヤモトはカートリッジロードを行うと同時に新たなる魔法を発動。 鮫の一群の中に魔力の球体が配置され、しばらく膨張してからその固まりが爆発。 つんざくような爆音と共に、少女が配置した鮫の大体が飲み込まれた。 振り抜いた『鈴音』を納刀したミヤモトはあえて粉塵へと突っ込み、少女を確実に撃墜するために鞘を握った左手に魔力を集中させる。 [一人で先行しちゃ駄目です。やられますよ] えゆから入った念話をミヤモトはあえて無視。 沈黙を貫きながら先行する一等空士についに堪忍袋の緒が切れたらしく、えゆはその相手に怒鳴った。 [そんなに空曹長になりたいのですか!] 「俺は堕ちねぇ! 絶対になっ!」 そう言ってミヤモトはえゆとオウルに繋いでいた念話を強制的に切断。 「くたばれぇっ! この化け物がぁっ!」 広域爆発魔法〈炉心融解〉で発生した粉塵を抜けた先でミヤモトが見たのは、口に壊れた笑みを浮かべた少女の姿。 少女の背中に生えていた漆黒の翼が肥大し、水晶の刃が生えた剣山を髣髴させるような羽となって扇状に広げられる。 剣を思わせる羽の先はミヤモトの方へと伸び、その身体に突き刺さった。 「わタし……バケMOの……?」 そう呟いた少女は更に黒い羽の切っ先をミヤモトに突き刺し、上へと掲げる。 傷口から狂気が注ぎ込まれる激痛と狂気で壊されていくのを感じながら、ミヤモトは少女に侮蔑の言葉を吐きかける。 「お前は……バケモン……だ…」 「……っ!」 少女の顔が苦痛を感じているかのように歪む。 ミヤモトを突き上げていた羽に力が無くなり、ゆっくりと下に落ちていく。 それによってミヤモトの身体に突き刺さっていた羽が血のぬめりでズルリと落ち、そのまま落下する。 「対象を追尾。および、接触後は対象をポイントBへ強制輸送《クイックシルバー》!」 しかしえゆが軌道操作魔法〈クイックシルバー〉を発動し、再び矢がミヤモトをオウルのいるポイントへと持っていく。
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/636.html
「masterbation? 始めて見るな、この単語は。佐々木、ちょっと意味を教えてくれ」 佐々木はくっくっと誰にも真似できない笑いを、して俺に話し掛ける。 「そうだね、キョン。僕は毎日キミを思いながら行なっている行為だよ。昨日のキミは強引に襲い掛かって…僕を肉便器にしたのだよキョン」 すまん、それでは意味が解らない。 「もう少し具体的に言ってくれないか?俺には訳解らないのだが…それに俺は強引に何かをするのは嫌いなのだが」 佐々木はニヤリとしながらも顔を赤くして話を再開したのだ。 「昨日は委員会が終わり、塾へ行こうとするとキョン、キミが現われてね。僕の腕をつかみどこかへ連れていこうとするんだ。でも、その時は一緒に塾に行くのだろうと、たかをくくっていたのさ… すると体育館に連れてこられるのが解って僕は何かがおかしいと思ったよ。しかしキミは笑顔で僕の手を取り倉庫前に着くと強引に僕を倉庫内に入れたのさ その後キミは、僕の唇を奪いながら制服を脱がせる。流石にびっくりして抵抗しようとしたのだけどね。キョン…キミにならあげても良いと思ったよ」 「キョン、君は夢を見ていたら気になるところで目を覚ました経験は有るかい?」 「んー、そうだな、たまに有る、つっても直ぐに忘れちまうからあんまり気にならないけどな」 「実はそういった夢の続きを見る事は可能なのだよ、レム睡眠のとき意識を働かせる事が出来れば自分が好きな夢を見る事ができるからね」 「いや、寝てる時って意識ないんじゃないか?」 「それがそうでも無いのだよ、実際に何人もの睡眠学者が成功しているし僕も最近出来るようになったしね」 「……本当か?」 「本当だとも、スティーブン・ラバージによれば訓練次第で誰でも出来る行為らしいからね、キョンでも出来るんじゃないかな?」 「いや、訓練してまで夢を見たいとは思わないんだが」 「そうかい? 自分の好きな夢を見られるのはなかなかに面白いことだよ、僕なんかは最近よく君に無理矢理犯される夢を見るから朝起きると下着がグチャグチャでね、シーツも何枚か駄目にしてしまったよ」 「……………………」 ・ ・ ・ 「……ということが有ったのだがな国木田よ、俺は佐々木に無理矢理襲いかかりそうな程欲求不満の犯罪者っぽいか?」 「……(佐々木さんとキョン、一体どっちに突っ込むべきかなぁ?)」 その後三十分話を聞かされてどう反応したら良いか悩んでしまった。 俺って佐々木に変質者に思われていたとは、思わなかった 「…と言う話があったんだよ。涼宮さん」 え?佐々木さんがキョンに襲われたの!あのエロキョン! 「信じられないわ。あいつ今度会ったら死刑決定ね!その話は本当なんでしょうね?」 嘘だったらあんた解っているわよね?」 「ほ、本当だよ!僕だって命は惜しいしね…」 でも何故だろう?佐々木さんのオカズの話なのに少しズレているような気がするけど…まぁ僕には関係ないし キョンがはっきりしないのが悪い。佐々木さんと涼宮さんも大変だね。 すると空気がまるで読めてない男キョンが来たみたいだ。 「おーい!話は終わったのか?早く帰りたいのだが?」 涼宮さんは凄い笑顔になっていた。でも…目が笑っていない… 「あんたは残りなさい。重要な話があるから…ね!」 次の日キョンは学校を休んだ それから数週間後、俺たちSOS団はいつもの不思議探索の為、午前九時に駅前集合とあいなった。 いつもの様に駅に自転車を止めて待ち合わせの場所に行く。 また俺がビリなのだろうと考えながら歩いていると、そこに佐々木が居た。 「おはよう!あなた。ほらパパでちゅよ」 おいおい佐々木さん?いつから俺は父親になったのでしょうか? 「朝から面白くないジョークとは…まったくやれやれだな」 だが、俺は佐々木が抱いている物体をみて凌駕したのだ! 「まったく、キミは自分の子供を忘れていたのではあるまいね? 僕に中学時代何をしたのか考えたことあるのかな?くっくっ」 えーと? 「俺何かしたかな?まったく身に覚えが無いのだが…」 すると後ろからハルヒや長門達が般若の形相でこちらを見ている。 「おはよう、涼宮さん。それとみなさん。今日は悪いけど親子水入らずで出掛けるから、諦めてくれるかな?」 まてまてまて、俺はまだ認めてないぞ。 「俺はまだ童貞だし、佐々木の勘違いじゃないか!なぁ長門?」 「…この子のDNAはあなたとあの女の遺伝子。99%確定…それに…わたしはあなたに絶望した。このケダモノ」 どうやら、俺は夢を見ているらしい。 「おい、ハルヒよ。俺を殴ってくれ。まだ寝呆けているようだ」 ハルヒは夜叉の如く俺に遠慮なく蹴を入れたのだった。 実は、俺は心当たりがあった。 ハルヒの蹴りを受ける時、橘に連れられて佐々木の閉鎖空間に入った時のことが走馬灯のように蘇った。 俺はあの時、オクスフォード・ホワイトの空の下で、言い様の無い既視感と、心に湧き上がる一つの仮説を無意識の内に否定していた。 いや、必死で否定したかった、というのが正しい表現だろう。 それは、ハルヒの閉鎖空間に入った時も全く同じだった。 ハルヒの蹴りが・・・・・痛い・・・・・やっぱり夢じゃない。 そして、長門が何時の間にか拳につけているのは、カイザー・ナッ・・ 止めて長門さん、それは死にます。本当に 「ちょっと、そんなので殴ったら僕のキョンが死んじゃうじゃないの」 長門さんがパンチの素振りしているよ。もしかして音速超えていませんか?あんな速いパンチ避けれないよ。 「佐々木さん。自分の子供を認知しようとしない、そんな酷い無責任女たらし強姦魔は死んだほうが良いのよ。有希、やっていまいなさい」 佐々木の言葉を信じたとしても強姦魔とは酷い。やだよー、死にたくないよー 「了解」 あわてて佐々木は俺に言う。 「キョンの言葉は冗談だよね?僕のこの前の悪戯の仕返しだろう。そうだよね?」 「そう、そうだよ。ちょっと冗談が過ぎたかなー、あはは。俺が自分の子供を認知しないような軽薄な男に見えるか?」 「悪質すぎるよ、キョン。これで、この前のが無くなって、君は僕に大きな借りができたということだね。くつくつ」 団長と宇宙人は相変わらず夜叉のような瞳で俺を睨む。そして、エンジェル朝比奈さんは古泉の胸で泣いている。 「きっちり見えるわ。佐々木さんと子供作っているのに、あたしやみくるちゃんや有希に色目を使って」 「お前は、俺が友人としてお前らの為に頑張ってやったことを、そんないやらしい解釈していたのか?」 「そうだったの?」 その時、ハルヒの目が怒りから悲しみに変わったような気がした。 「お前は俺のことが嫌いだったかもしれないが、俺はお前や長門や古泉、朝比奈さんのことを一生無くしたくない大切な友達と思っている。 それが、そんなに嫌われていたなんてな」 「嫌いだなんて。あたしはキョンのことは好きよ。キョンがあたしを思うよりずっと。 もしかしたらキョンの彼女になれるかもしれないと一人で浮かれて、みくるちゃんや有希が好きなんじゃないかと思って落ち込んで。 夢でキスされて一人で舞い上がって、佐々木さんと会って絶望して。でも、あたし達は一生友達だね。それだけで満足だわ」 「キョン君が、キョン君が佐々木さんと。えーん」 朝比奈さんは古泉の胸でまだ泣いている。 「それから、キョン。友情も大事だけど佐々木さんはあなたの奥さんなのだから寂しい思いをさせたら駄目よ。 さー皆、そろそろ不思議探索に行くわよ」 朝比奈さんは既に泣いていたが、ハルヒと長門の後ろ姿も泣いているように見えた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ こうして俺は佐々木と二人きり、いや子供を入れて三人きりになった。俺その子を認知しちゃったよ。 「すまん、佐々木。気に障ったら殴っても良いから教えてくれ。俺は本当に記憶が無いんだ、せめていつヤッタかを教えてくれ」 「何回もやったからね。キョンは場所の方は覚えているんじゃないのかね」 「早く教えろよ」 「オクスフォード・ホワイトの空の下。夢と思われるような現実」 やっぱりアレだったか。そういや国木田に言われたことあるな。佐々木とヤル夢を見るんなら正式に付き合ってやらしてもらう方が良いと。 ハルヒと会うようになってから佐々木とヤル夢を見なくなったのはもしかしてハルヒの力かな? 「君も僕も夢だと思っていたけど、夢じゃなかったらしいな」 「教えてくれてありがとう。すまん、佐々木。俺なんかの子供を産ませてしまって。許してくれ」 「僕はキョンの子供しか産みたくないよ。これからもずっと」 その後、俺たちはもちろん籍を入れた 子供かわいいな。妹の小さかった頃を思い出す。毎日妹のおしめを代えた経験と両親と妹の協力で、俺達は子供を普通に育てられている。 「でも、何でずっと黙っていたんだよ、佐々木。妊娠した時に相談してくれても良いのじゃないか」 「マジレスすると、涼宮さんの妄想と僕の願いが過去に作用し、僕と君が閉鎖空間で子作りした事実から、僕達の子供が生成されたのだよ」 そうですか、納得。って俺達の子供はまともに育つのか? 「九曜さんによれば大丈夫らしいよ」 本当か?本当なら良いのだが 「そう言えば、君は涼宮さんの閉鎖空間に二人きりでいたことあるんだよね」 「あれはキスしかしてないぞ。何ならハルヒに聞けよ。その後もハルヒとヤル夢なんて全く見たことないぞ」 「そういうことなら、許してあげるよ。くつくつ」 俺達の子供に幸あれ。
https://w.atwiki.jp/new-genre/pages/195.html
何の脈絡もなく変なところにいたり変なところからでてきたり変なものがでてきたり。 新ジャンル「イントルード」 新ジャンル「埋まった女」 新ジャンル「げえっ!関羽!」 新ジャンル「降臨」 新ジャンル「スカートからイワシがはみ出ている」 新ジャンルっつーか……その、なんだろう 新ジャンル「タライ」 新ジャンル「デデレデレデレ」 新ジャンル「トイレ女」 暗くてお靴がわからないジャンル「どうだ明るくなつたろう」 新ジャンル「どこでも入浴」 新ジャンル「メテオ」 新ジャンル「ロッカー」 新ジャンル「|´・ω・`|HELP!」
https://w.atwiki.jp/rooper/pages/26.html
【名前】入院患者 【初期配置】病院 【不安臨界】2 【属性】少年 【友好能力】なし 【特殊】神社・都市・学校へ移動できない 【所感】病院から出られない。医者の2つ目の能力を使うと退院患者になる。 よく病院と一緒に爆破されるし、ラバーズにもされる(病院の事件with暗躍)。 友好能力がないため、絶対友好無視でも分からない。(うめゆ) コメント 名前 基本的には動かないので、シリアルキラーにされて固定シュレッダーにされることもあるw - じーちゃん 2016-03-09 10 11 10
https://w.atwiki.jp/bamboo-couple/pages/308.html
146 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/04/23(水) 10 33 00 ID PeFYKAkc IHの翌日。昨日全て終わったら大泣きしたキリノ コジロー「なあキリノもう大丈夫か?」 キリノ「大丈夫っすよー。恥ずかしい所見せちゃいましたねー」 コジロー「やっぱり最後だと思うと感極まったか?」 キリノ「それも勿論あるんですけど、何て言うか…」 コジロー「ん?どうした?」 キリノ「もう先生と顧問と部員じゃないんだ。それで卒業したら接点が無いんだと思うと何か…急に…」 コジロー「え?」 キリノ「夫と妻になってくれないとまた泣くかもしれないっすよ(ニッコリ)」 コジロー「い、いや、まま、まずは彼氏と彼女が先じゃないのか?」 キリノ「OKってことなんすねー(ガバッ)」 コジロー「い、いやあくまで一般」はぐはぐすりすりされてこの後の言葉が出ないコジローw
https://w.atwiki.jp/www-iris/pages/717.html
【名前】 切れない絆 【読み方】 きれないきずな 【登場作品】 「P.o.N」 【詳細】 Mr.ハットの代表的なマジックの一つ。 お客を舞台にあげて行うタイプのマジックで、二人のお客が持ったリボンをハットが切断。 しかし、切れずにリボンがつながったままであれば、二人の絆は永遠につながったままだという。 その前評判ゆえにカップルに人気が高く、桜井メイルも密かに憧れていた。
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/9915.html
951 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/10/22(水) 23 55 14.01 ID mdSDsIBp0 スレも終わりに近いけど報告 ルールブックの内容を間違えたり忘れてるヴァカが奴がいる 素直にヴァカだからルールを覚えられないって言えばいいのに、俺(困)が正しいとかわめきやがる しかも言い訳がサイコーに狂ってて、「(現在は入手不能な)初版にはこう書いてある、自分が持ってるのはその初版だ」とかわめく じゃあその初版を見せてみろと言っても「見せても無駄だから見せない」とか理由にならない理由をわめく そんなガイキチがマジでいた 953 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/10/23(木) 00 01 27.19 ID RfWWVXRV0 [4/4] 初版=エラッタが一切適用されたないだから逆に当てにならんと思うんだが 956 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2014/10/23(木) 00 11 34.18 ID VMeDdbm80 [2/2] 951 「(現在は入手不能な)初版にはこう書いてある、自分が持ってるのはその初版だ」 ああ、手書きコピーされるクトゥルフの魔道書は原典に近いほど強力だ的な… ってアホかそいつはw 955はミスですすまんそ スレ399
https://w.atwiki.jp/clownofaria/pages/118.html
第一部 『眠れない二日間』⑧ 〈二十二時三十七分 綺璃斗〉 陸士部隊が陣取っているエリア。通称【屋台群「冬天市場」】。 そこから楽しそうに会話する女性二人の姿があった。 一人は金髪を縦ロールにして、スカートが足首の辺りまである黒いワンピースを着た女性。スカートには膝辺りまでスリットが入り、防寒の為にファーのついた白いコートを着ていた。 もう一人は茶髪をポニーテールにし、チェックのミニスカートとワイシャツの上に制服のブレバーに似た群青色の上着を着た少女。寒さを防ぐ為か、その上に群青色のダッフルコートを羽織っていた。 それは新聞記者のあい・R・アイランドと、その部下であり長年の知り合いであるこっとん。 「久し振りにまともな物を食べれましたね。あいお姉さま」 「そうですわね。最近はコンビニのお惣菜が多かったから…」 肌の状態が心配なのか、自身の頬に手を当てるあいとこっとん。 仕事による取材でも見た目というのは重要であるが、あいらんどとこっとんはまだ若々しい女性。 二人は外聞にも気を使っているようだ。 「でも、今から帰るのは私たちの部屋じゃなくて……会社なんですけどね」 「それは言わない約束よ。こっとん」 肩を落とすこっとんに、あいらんども少し疲れを感じさせるような思いため息をつく。 半分ぐらい家に近い会社には仮眠室という上等な物は無く、寝るとしたら寝袋にくるまって職場の床で寝るしかない。 しかし仮眠室が無い代わりに何故かシャワー室が存在する。 「あいお姉さま。借りている部屋……解約しませんか?」 「会社を職場兼自宅にする気?」 腰に両手を当て、怒ったような仕草を見せるあいらんど。 あいらんどを怒らせるつもりなどなかったこっとんは捨てられた犬のようにうな垂れる。 「ごめんなさい」 うな垂れるこっとんの頭にぺたんと垂れた犬耳の幻覚らしき物を見たあいらんどは苦笑しながら付け加えた。 「…でも、会社に近い場所のアパートに移りたいですわね……」 その一言によってこっとんの顔が一瞬にして明るくなり、何かを決意したかのように言う。 「じゃあ、余裕がある時に探しておきますね。 だいじょうぶですっ! ちゃんと値切り倒しますから」 「まぁ……程々に頼みますわ」 こっとんは自身が止めるか、よほどの事がある以外は有言実行する事を知っていたあいらんどは苦笑いをしつつ釘を刺す。 「楽しそうですね? 『ミッドタイムズ』のあい・R・アイランドとこっとん?」 あいらんどとこっとんの背後から妙にしつこさを感じさせる声がかけられる。 振り向いた二人は苦々しそうな顔を浮かべ、その唇から呻き声に似た声が出る。 「週刊誌『ランデブー』のレオ……」 「覚えて頂いて光栄ですよ」 レオはわざとらしく恭しく礼をする。 「何か面白いネタを頂けませんか? 例えば、スキャンダルとか」 「スキャンダルなんてありません事よ?」 黒い笑顔で返すあいらんどに、レオはいやらしそうな目つきで笑い声で言う。 「私どもはスキャンダルで飯を食わせてもらってるものでね」 そう言ってレオはあいらんどの方へ詰め寄り、その手首を掴む。 「……あんたはその身体を使って情報を受け取っているんだろぅ? それをほんの少しくれよ……」 そう言いながらあいらんどの身体を舐め回すように舌なめずりをするレオ。 レオの仕草に嫌悪感を感じているのだが、腕を強く掴まれているせいでふりほどけないあいらんど。 あいらんどにキス寸前まで顔を近づけて息を吹きかけるレオにこっとんは立てた人差し指と中指を向け、いたって静かな声で言った。 「撃ちますよ? このゲスが」 そう言ったその時だった。 黒い雲で覆われた空から少女が落ちてきたのは。 少女はぐしゃっという音を立てて地面に衝突。そのまま動かなくなる。 突然の出来事に驚くあいらんどとこっとん。レオは掴んでいたあいらんどの手首を離し、地面に落ちた少女の方へ楽しそうな顔で向かう。 そしてレオが少女に触れようとした瞬間にそれは起こった。 地面に衝突したまま動かなかった少女がいきなり起き上がる。 少女の手に巨大な黒い十字架が生まれたかと思うと、レオはフルスイングでその十字架をたたきつけられる。 十字架をたたき付けられたレオは弾き飛ばされ、何度か地面をバウンドしてからあいらんどたちの方へ転がってきた。 存在に気づいた少女と目が合ったこっとんとあいらんど。 少女は二人を見ながら楽しそうに笑った。 余りにも嬉しそうな声で。悦楽するような響きで。 まるで新しい獲物をいた事を喜んでいるかのように。 そして二人の方へ迫ってくる少女。その瞳は白と黒が逆になり、法衣に似た衣服が風に揺れている。 顔に笑顔を貼り付け、口からは壊れたレコードのように笑い声を吐き出して。 「お姉様は先に逃げて下さい」 あいらんどを庇うように前に出るこっとん。 その手にはいつの間にか一本の箒が握られていた。 「こっとん!?」 自身を庇うこっとんの言葉にあいらんどは仰天した。 こっとんが箒を持つという事。 それはこっとんが歩み寄ってくる少女と戦うという事を意味していた。 「こっと……」 「早く!」 声を掛けようとするあいらんどにこっとんは一喝する。 その間にも少女は近づいてくる。黒いもやが集まってレイピアのような鋭い武具と化した。 「ちゃんと無事に戻ってくるのよ!」 あいらんどは気絶しているレオの身体を肩で抱えながら歩き出す。 「お姉様の御心のままに」 瞼を閉じ、箒の柄を握りながらこっとんは答えた。 歩み寄ってくる少女は武具の切っ先をこっとんに向ける。 「お姉様が逃げきるまでお相手いただきますね」 箒を握り、こっとんは呟いた。 「私の全てはあいお姉様の為に……」 〈畏まりました。お嬢様〉 こっとんの呟きに対し、箒がしゃべった。 そしてこっとんは箒の真名を紡いだ。 「ライトニングブルーム!」 こっとんの足元に水色の魔法陣が浮かぶ。光が放たれた時、こっとんの姿は変わっていた。 左右の前髪を球体状の髪飾りでまとめ、後ろの髪はリボンで一つにまとめられている。 身体は黒いインナーで包まれ、下はロングスカートの上に独特な意匠のベルトがつけられている。 上はセーラー服のような意匠。袖は別途腕に括りつけ、肩の部分を露出させ、両手には黒いグローブがはめられている。 その見た目はまるで幼い少女が憧れる可愛い魔女のような姿をしていた。 デバイスも箒の形状から無骨な杖の様な形状に変わっていた。 穂の部分は機械のワニを思えるような形状に変わり、付け根には水色のコアとリボルバー機構が取り付けられている。 『ライトニングブルーム』を少女に向け、魔法の銘を紡ぐ。 「フォトンランサー!」 こっとんの周囲に水色の円錐が精製される。その数は計二十発。 円錐の切っ先は全て少女に向けられていた。 「ファイア!」 こっとんは『ライトニングブルーム』を振り下ろす。 二十発の円錐が少女に迫る。 「gaリュge〆-」 少女は人間の出す音ではないような奇妙な言葉を呟く。 もやが集まって凝固し、黒い槍が撃ち出される。 対峙する二人の中心でこっとんの〈フォトンランサー〉と少女の槍がぶつかり合い、お互いに相殺し合う。 粉塵が巻き起こり、相手を覆い隠す。 結果を確かめずにこっとんは『ライトニングブルーム』にまたがる。 〈ナパームスウィープ〉 機械で出来たワニのような穂が開口し、魔力を勢い良く吐き出す。 こっとんの周囲に風が巻き起こり、こっとんが空を飛ばす。 次の瞬間、少女が粉塵から現れる。 しかし開口部から放出された魔力が少女に襲い掛かった。その魔力はいきなり爆発し、再び粉塵を撒き散らした。 その爆発を推進力にし、こっとんは上へ飛ぶ。 襲ってきた少女を迎撃出来ていない事を想定し、こっとんは上空を旋回する。 しばらく経ってから粉塵を破って黒い槍が飛んできた。 「ライトニングブルーム!」 〈了解いたしました〉 『ライトニングブルーム』の穂先から魔力が放出される。 こっとんは『ライトニングブルーム』を操り、槍を回避していく。 飛んでくる槍の数は徐々に増していき、いつの間にかその数は百を越えていた。 しかし弾幕が薄くなる様子はない。 「アクセルシューター」 こっとんは槍を避けながらも隙を縫って〈アクセルシューター〉を撃つ。 水色の魔弾は黒い槍の弾幕を避けながら進み、少女へと飛んでいく。 「!」 目の前に黒い槍の穂先が飛んでくる。 どうやら魔弾の操作で注意散漫になっていたらしい。 こっとんは身体を右に倒す事で槍をかわす。 しかしタイミングが悪かったからか、黒い槍の穂先がこっとんの頬をかすめる。 息を抜く間もなく、次の槍が顔面を目がけて飛んできた。 瞬時にこっとんは防御魔法を展開し、槍を受け止める。 槍は防御魔法によって発生した盾に突き刺さるが、危機一髪で身体は防ぎきった。 こっとんは地上にいる少女の方を見る。 口元には壊れたような笑顔を浮かべていた。 白と黒が反対になっている眼球は忙しなく動いている。 その口からは涎が垂れ、壊れたレコードのような笑い声が響く。 やはりその口から出てくるのは人間の言葉とは認識しがたい音であった。 こっとんは恐怖を感じた。 目の前にいる少女が人間であるように見えなかったからだ。 しかし大切な人を守るためにこっとんは少女を倒さないといけない。 こっとんは新たなる魔法を紡ぐ。 「スター……ライト……シューター……」 こっとんの手のひらに魔法陣が展開される。 魔法陣が展開されると同時に周囲の魔力が集束する。 そして七つの球体を精製した。 「シュート!」 球体は少女に飛ぶ。 ある弾は飛んできた槍を破壊し、ある弾は槍を避けながら少女に肉薄する。 少女は手に握っているレイピアを振るう。 レイピアの刃は鞭のようにしなり、飛んでくる弾を打ち据えた。 仰天するこっとんに向けてレイピアを突く。 引き延ばされたようにレイピアの刃が伸び、切っ先がこっとんの心臓に迫る。 生存本能でこっとんは回避するが、レイピアによって前髪の一房を持っていかれた。 髪飾りと一緒に一房が地面に落ち、頬に紅いラインが引かれる。 その攻撃によってこっとんの堪忍袋の緒が切れた。 魔力がこっとんに集束していく。 怒った原因は落とされた一房の髪でも、頬に付けられた傷でもない。 一房についていた髪飾りを落とされた事だ。 あの髪飾りはあいらんどが買ってくれたものをこっとんがバリアジャケットの一部として入れたもの。 それはこっとんの宝物であった。 バリアジャケットの一部であるが為に何度でも再構築できるが、壊された事に憤りを感じていた。 こっとんは歯を強く噛む。 そして叫んだ。 「星の光に飲み込まれて沈め……」 少女の近くで魔力球が発生する。 「スターライト……エミッション!」 怒りに任せたこっとんの叫びによって魔法が発動した。 魔力球が膨張する事で少女を押し潰し、そして爆発する。 「ふぅ……」 少女を巻き込んで起きた粉塵を眺めながら、こっとんは息を吐き出す。 これが民間で働く魔導師最強の一角と謳われる魔導師。 通称、『恋する魔法使い』こっとんの実力であった。 息を吐き出したこっとんは『ライトニングブルーム』を握り、粉塵を睨みつける。 そしてこっとんは更に迫撃を行った。 「スターライトエクスプレス!」 『ライトニングブルーム』は魔力を吸収し、それを勢い良く放出しながら少女へと迫る。 「ディヴァインランサー……」 少女の戦闘不能を確かにする為に更なる魔法を発動。 『ライトニングブルーム』に乗るこっとんの周囲に魔力製の巨大な槍が無数に出現する。 こっとんは槍の一つを掴み、太ももで『ライトニングブルーム』の柄を挟みながら腰を捻った。 槍を投擲する為に肩を振り上げた時にそれは起こった。 粉塵を吹き飛ばして現れた一本の黒い槍がこっとんの肩に突き刺さった。 こっとんは肩の痛みに耐えながら槍を投擲する。 巨大な槍の大群はこっとんが槍の一つを投げたのを合図にし、敵である少女へ飛んだ。 肩に槍が刺さったままで槍を投げたせいでこっとんはバランスを崩す。 しかし無事な方の腕で『ライトニングブルーム』の柄を掴む事で事なきを得る。 徐々に発生した粉塵が晴れていく。 沢山の穴が開いた道路。 地面に突き刺さった巨大な槍。 そして身体に槍が突き刺さった少女。 少女はまたもや聞き取れない奇怪な発音で笑う。突き刺さった槍はもやと化して少女の身体に吸い込まれていく。 その一部始終を見たこっとんは静かな声で『ライトニングブルーム』に命令を下した。 「……ライトニングブルーム。カートリッジロード」 〈かしこまりました〉 こっとんの言葉に従ってリボルバー機構が発動。 シリンダーが回転し、ハンマーがカートリッジの底部を叩いた。 リボルバー機構と共につけられた排気口から魔力が排気ガスのように噴出される。 「――我が汝に与えるのは月光――」 肩に突き刺さった槍が痛かったが、こっとんはその腕を大きく振るう。 「――夜天の覇者なる月は全てを穿ち抜く――」 五つ位の魔法陣が並ぶように展開される。 「――天より注ぐ殲滅の閃光となれ――」 その魔法陣に中心に魔力球が生成されて膨らんでいく。 〈レイディアントファランクス〉 魔法の銘を『ライトニングブルーム』が告げた時。 展開された魔法――『レイディアントファランクス』は発動した。 水色の魔法陣から放たれた複数の砲撃魔法が地上にいる少女に照射される。 砲撃魔法が残した軌跡はまるで槍の様であった。 ここでこっとんの力は尽き、『ライトニングブルーム』の柄を握る手が汗で滑り落ちた。 こっとんはそのまま落下し、身体が地面へと落ちていく。 重力に引かれながらこっとんは呟く。 「あいらんど……お姉様……ごめんなさい……」 こっとんが最後まで考えていたのは上司であり、大切な人であるあいらんどの事であった。 瞼を閉じるこっとん。まるで死を覚悟したかのようであった。 しかし神様は平等に優しかった。 「マッハキャリバー!」 〈ウィングロード〉 女性とデバイスの声が響く。 こっとんは柔らかい何かの上に落ちる。 ゆっくりとこっとんは瞼を開く。 そこには青い髪をした女性がいた。 「もう大丈夫だよ」 青い髪の女性はこっとんに笑いかける。 それは管理局で「ストライカーズ」と呼ばれる者たちの一人。 スバル・ナカジマであった。 〈二十二時五十分 【屋台群『冬天市場』】〉 割と安い金額で色んな物が食べられる事で人が集まる陸士隊の【屋台群『冬天市場』】。 その一方で、陸士隊の隊長たちは謎の魔導師が災害を撒き散らしている為に神経を尖らせていた。 緊迫とした空気の中で男物の黒スーツに白衣を羽織った女性の声が割り込む。 「こんばんは」 「……雫・鏡月主任」 そこにいたのは時空管理局本局の開発部主任である雫・鏡月だった。 割り込まれた声にギョッとする部隊長たち。 何故なら後ろから声が掛けられるまでその存在に気づけなかったからだ。 まるでいきなり現れたようであった。 「何かありましたか?」 「いや……」 言いよどむ隊長たち。 雫は澄んだ漆黒の瞳をスッと細め、静かな声で陸士の部隊長たちに問いかけた。 「今は二件であると思いますが、大規模な市街戦が行われている事でしょうか?」 目の前にいる開発部主任の口から出た言葉に驚く陸士部隊の部隊長たち。 教導隊の和泉アサギと篠鷹アキが犯人と接触した事によって明るみに出た事件。 今は魔導師の素質がある人が暴走した事によって起きたのだと言われている。 それを陸士隊や武装隊などの戦闘任務に出ないといけない局員でなく、開発部と言う仕事に戦闘が存在しない部署の局員である雫にその事件の情報を掴まれているとは思わなかったからだ。 冷や汗をかき始める隊長たちの前で雫は更に付け加える。 「ああ……和泉教導官と篠鷹教導官が接触する前の一件も含めれば、三件でしょうか」 「!?」 自分たちも知らない情報まで把握しているとは思わなかった隊長たちは唖然とする事しか出来ない。 「……流石、元長月諜報部部隊長の副官か」 「こんばんは。ゲンヤ・ナガジマ三佐」 陸士108部隊の部隊長のゲンヤ・ナカジマは雫の言葉に感心しているような声を上げる。 そして苦笑しながらゲンヤは雫に状況を説明する。 「おめぇの言うとおりだ。アサギとアキの後に民間会社勤務の魔導師が交戦している。そろそろ俺の娘が到着する頃だろう」 「そうですか」 ゲンヤから報告を聞いても、雫は全く表情を変えない。 「通常の武装局員を一個小隊投入しても鎮圧は不可能だからな……そろそろ、お前もお呼びが掛かるんじゃないのか?」 目の前にいる男物スーツに白衣の女性を見ながらゲンヤは笑う。 「管理局開発部主任『無色の掃討者《ゼロ・フラグメント》』の雫・鏡月?」 「買い被り過ぎですよ。古狸《ゲンヤ・ナガジマ》三佐」 雫は口元に笑みを浮かべながら返す。 豪快に笑いながらゲンヤは微笑む雫に言う。 「そう言うな。雫・鏡月《アインソフオウル》」 雫と陸士部隊の隊長たちと話している間、幽霧は空腹を満たす為にアルフィトルテと【屋台群『冬天市場』】を歩いていた。 「ママ……おなかすいたね」 「そうだね」 のんびりと歩いていた二人は周囲を眺める。 屋台からは焼きそばや豚汁の良い匂いと共に真っ白な湯気が上がる。 親とはぐれて迷子になる子供も多いらしく、周囲の局員もその対応に追われている。今も迷子の呼び出しが放送で行われている。親と手を繋ぐ者、足元を歩く者、やたらと走り回る者。 祭りの雰囲気を出す為に吊るされた無数の紙灯篭が屋台の間で夜風に揺れる。その度に屋台群を歩く人々の影も同じように揺れ、祭りの風景をより一層懐かしげに、より神秘的に彩る。 まだ少し小さかった頃、祭りの日になると雪奈と雫が仕事を早く切り上げて幽霧たちをお祭りに連れて行ってくれた。 幽霧とノインは迷子になる事は少なかったが、萌夜たちがよく迷子になっていた事を覚えている。 そんな幽霧も一度だけ迷子になった事があった。 しかしそのときに事について幽霧は上手く憶えていない。 憶えているとしたら、鮮血で作った様な鮮やかな真紅の髪と蒼い石がはまった白銀の指輪。 幽霧がその光景を具体的に思い出そうとしたその瞬間、頭が軋む様な痛みに襲われる。 「うっ……」 道にしゃがみ込む幽霧。 「ままっ!」 隣にいたアルフィトルテの声すら、幽霧には遠くのものに聞こえた。火で炙られる様に胸部が熱くなり、体内で何かが軋むような音が聞こえた。 「かはっ……」 胸が圧迫される様な感覚に幽霧の口から小さな笛のような音が吐き出される。 「ママぁっ!」 幽霧の余りにも痛々しい姿にアルフィトルテは更に叫び声を上げる。 しばらく幽霧は喘ぎ声を上げていたが、少しずつ呼吸が落ち着いていく。 「――ごめん」 アルフィトルテの肩を借りながら幽霧は立ち上がった。 呼吸は落ち着いているが、まだ胸の辺りに手を当てている。 「それじゃあ、行こうか」 「……うん」 苦し紛れの微笑の幽霧にアルフィトルテは手を繋ぎ、躊躇いがちでありながらも弱々しく頷いた。 ちょうどその時だった。 「――幽霧さんっ!」 二人の前方から紫紺の髪をしたメイドが人混みを掻き分けて走ってきた。 髪の後ろに漆黒のリボンを付け、青みがかった黒のエプロンドレスにフリルのついたエプロンを付けていた。 そしてワンピースドレスの下にはパニエをつけ、足には真っ白なガーターストッキングと黒いエナメルシューズをはいている。 走っているせいで真っ白な太腿や服の下にはいているパニエのフリルがチラリと見え、道行く男性たちの目を釘付けにしていた。 「こんばんは。ギンガ・ナガジマ陸曹」 幽霧はさっきの喘ぎを感じさせない安らかな微笑みでギンガに挨拶をする。 「ついさっき、気分を悪そうにしている女性がいると連絡が入ったのですが―――幽霧さんじゃないでしょうか?」 「女性……ですか」 勘違いされて通報されたんじゃないかと思った幽霧は苦笑する。 「もしかしたらと思ったのですが、本当に幽霧さんだったようですね。顔が真っ青ですよ?」 そう言って幽霧の手首を掴むギンガ。 「あっ……もう大丈夫ですから」 「【屋台群『冬天市場』】の手伝いとして来ている諜報員さんたちから聞きましたよ? 幽霧さんには休みが少ないって」 強引に引っ張るギンガに幽霧にはなすすべもなく、そのまま連れて行かれてしまう。 「はい、幽霧さん」 「……ありがとうございます」 朱色の布を敷いた長いすに座り、ギンガから番茶の入った湯飲みを受け取った幽霧。 湯飲みから上がる湯気が揺れながら空にのぼって溶ける様に消える。 番茶を口に含む幽霧。周囲の寒さで番茶も適度な熱さになっており、温かい液体が冷えた身体を温めてくれる。 その温かさで身体の力が抜けていくのを感じながら幽霧は深い息を吐き出す。 お茶を飲み干した幽霧は湯飲みを長椅子に置く。 「じゃあ、そろそろ行きますね」 立ち上がろうとする幽霧をいきなり押し留めるギンガ。 そのままギンガは意味が分からなくてきょとんとする幽霧の右手を握り、手の甲を撫でながら呟くような小さな声で言う。 「幽霧さんは―――強いんですね」 「自分は弱いですよ」 手の撫でられる事にくすぐったさを覚えながらも幽霧は淡々と返す。 「いいえ。幽霧さんは強いですよ」 そう言ってギンガは幽霧の左手も引き寄せて両手で幽霧の手を包み込み、胸元に引き寄せる。 包み込まれた幽霧の冷たい両手にギンガの体温が移るが、一向に温まる気配がない。 ギンガが両腕を胸元へ引き寄せた事で引っ張られるような形になった幽霧は強引に立たされる。 同時にギンガと幽霧の顔が間近に接近した。 「どんな事があろうとも前に進み続ける幽霧さんは強いと思います。その過程で自身が壊れる事があろうとも」 真剣な顔でギンガは感情が見えない幽霧の瞳をじっと見つめる。 それでも幽霧は顔を赤らめる事も表情を変える事もしない。 ただ、無表情でぼんやりとギンガの顔に視線を向けているだけ。 「でも幽霧さんって、死ぬ時は一人のような気がします」 そう言ってギンガは胸元に引き寄せた幽霧の両手を自身の唇に持って行き、その指先に口付けをした。 これには流石の幽霧も頬を赤らめ、包み込まれた手がじんわりと温かくなる。 「貴方は自身の事を理解出来る人は、ほんの一握りだと思っているかもしれませんが……幽霧さんが心配な人はそれなりにいるんですよ?」 長くて細い幽霧の指が温かくなったところで指先から唇を離し、ギンガはそう言って笑顔を浮かべる。 ギンガの浮かべたその笑みは紡がれた言葉と共にとても意味深長であった。 「それは……どう言う事ですか?」 頬を微かに紅潮させながらも怪訝そうな表情を浮かべる幽霧。 「秘密です♪」 ギンガから離れた今でも幽霧の頬はまだ上気していた。 「ママっ……まだほっぺ赤いよ?」 「気にしなくても大丈夫だよ。アルフィトルテ」 幽霧の着ているメイド服の裾をギュッと握りながら心配そうな顔をするアルフィトルテ。 きっと、さっきと同じ様にいきなり倒れないか心配なのだろう。 「ほんとに?」 「大丈夫だから心配しなくてもいいよ」 不安を払拭する為か、幽霧はアルフィトルテの頭に手を乗せて髪を梳くように撫でる。 頭を撫でられるのが嬉しいのか、猫のように幽霧の方へ擦り寄るアルフィトルテ。 すり寄ってくるアルフィトルテによって少し歩きにくくなった事に苦笑いをする幽霧であったが、それについて口にする事はせずに頭を撫でながら歩く。 「……ん?」 少し歩いたところで幽霧は見覚えのある人の姿を見た。 その女性は朱色の布が掛けられた長椅子に座りながら俯いていた。 金で造ったかのような綺麗な髪が顔を隠していたが、幽霧は着ている修道服によってそれが誰か分かった。 幽霧は女性の方に歩み寄り、気軽を装いながらも丁寧に声をかける。 「こんばんは。カリム・グラシアさん。お久しぶりですね」 声を掛けられるまで幽霧の存在に気づいていなかったらしく、カリムは驚いたような顔をする。 そして少し目を伏せながらカリムは挨拶を返した。 「えっと、こんばん……は。えっと……」 「幽霧。諜報部所属の幽霧霞三等陸士です」 会ったのは二ヶ月ぐらい前であるし、三等陸士である自身の事など憶えているわけはないだろうと思いながら幽霧は自己紹介する。 しかしカリムはその自己紹介にハッとし、申し訳なさそうに深く頭を下げた。 「すみません…幽霧さん。ちょっと考え事をしていたので……」 「もしかして、和泉アサギ教導官と篠鷹アキ教導官の事ですか?」 幽霧の言葉に驚くカリム。 じっとカリムの目を見つめながら幽霧は問う。 「二人が心配ですか?」 その問いにカリムは無言で幽霧から視線をそらす。 視線をそらしてしまったカリムに幽霧はくすりと笑い、膝に置かれた両手を包み込んで持ち上げる。 その手はずっと氷水に浸かっていたかのように冷たかった。 いきなり両手を握られて驚くカリムに幽霧は言った。 「大丈夫です」 「でも……」 そう言われても二人の無事を信じられないカリムはか細い声で言う。その目には涙が浮かんでいる。 あえて幽霧はカリムの手に力を入れ、念を押すように言った。 「大丈夫です。カリム・グラシアさん」 まだ躊躇しているらしく、カリムは首を縦に振らない。 目に怯えがあるカリムをじっと見ながら幽霧は別の問いかけをする。 「二人がやられると思いますか?」 今度は弱々しくであるが、カリムは首を横に振った。 「なら、大丈夫です」 ぎこちないが、カリムを見ながら笑顔を浮かべる幽霧。 カリムは目を大きく開き、幽霧のぎこちない笑顔に見惚れているかのように硬直してしまう。 「ん……まだ手が冷たいですね」 カリムの硬直に気づいていない幽霧はポツリと呟き、さっきのギンガと同じようにカリムの両手に顔を近づけ、その指先に口付けをした。 「ひゃぁっ!」 冷たい指先に温かくて柔らかい物が押し付けられた感触にカリムは可愛らしく悲鳴を上げる。 そしてそれが幽霧の唇だと気づくと、顔を見る見る内に赤くなっていく。同時に羞恥で血の巡りが早くなる事で身体が熱くなっていった。 「んっ……これで大丈夫ですね」 十分にカリムの手が温かくなった所で幽霧は顔を戻して手を放す。 離れた幽霧の手をカリムは切なそうに見る。 「ゆう…ぎり…さん……」 「何でしょうか?」 恥ずかしそうに顔を赤らめるカリムに首を傾げる幽霧。 「あの……」 カリムがその続きを紡ごうとしたその時。 その空気を壊すかのようにお腹の音が聞こえた。 「……あっ…」 顔を赤くしたのはカリム。恥ずかしそうに俯く。 「分かりました」 カリムが何を言いたかったのかは良く分からないが、空腹である事が分かった幽霧はコクリと頷いた。 何か食べ物を買ってくるのも手だが、周囲には食べ物の屋台がない。 軽く考えてから幽霧はカリムに言った。 「……よく見ていて下さいね」 カリムは意図がよく分からなさそうだったが、幽霧をじっと見つめる。 幽霧は人差し指を曲げて爪を親指の付け根につけた左手を自身の口に当てて息を吹き込むような真似をする。 すると何も無かった左手から赤い風船が生まれ、幽霧が呼気を吹き込むごとに大きく膨らんでいく。 ある程度膨らむと、幽霧は風船の口を縛って長い紐をくくりつける。 ガスが入っているかのようにふわふわと浮かんでいる風船を幽霧はカリムに差し出す。 「はい。どうぞ」 「あっ……はい」 ほんの数秒間で起きた現象にカリムは呆然とする事しか出来ない。 驚きながらもカリムは幽霧から風船を受け取った。 「ちょっと食べ物を買ってくるので、これを持って待ってて下さい。 アルフィトルテ。カリムさんをよろしくお願いします」 「えっ、ゆうぎ……」 「うんっ♪」 状況が上手く判断できていないカリムはうろたえるが、アルフィトルテは元気に頷いた。 「じゃあ、行って来ます」 「あっ! えっ、幽霧さん!?」 混乱しているカリムが声をかけようとしたその時には既に幽霧は人混みの中に消えていた。 「幽霧さん……どうしたんですか?」 メイド姿で【屋台群『冬天市場』】の中を巡回していたギンガは一人で歩いている幽霧に声をかける。 「あっ。ギンガ・ナカジマ陸曹」 「何かお探しでしょうか?」 可愛く首を傾げるギンガに幽霧は苦笑しながら答える。 「カリム・グラシアさんに美味しいものを食べさせてあげたいんですが……良い物がなくて」 その言葉にギンガはニヤリと笑い、幽霧にこんな申し出をした。 「じゃあ、新メニューを作ってくれませんか? 何か新メニューが出来れば、客足も増えそうなので」 「はい。分かりました」 幽霧は新メニューを作ってほしいと言う依頼をあっさりと頷いて了承する。 それには言ったギンガですら驚いた。 「良いんですか!?」 「ええ、自分の作るもので良ければ」 「じゃあ、お願いしますっ!」 ギンガは『ブリッツキャリバー』を起動し、幽霧を引っ張る形で空に展開した〈ウィングロード〉で走り出した。 新メニューを作って販売する事になり、幽霧の為に屋台が一つ開けられた。 メイド二人の屋台を通行人たちは好奇の目で見て行った。 「……で、どの様な物を作ればよろしいでしょうか?」 女性局員から借りた白いエプロンをつけた幽霧にギンガが訊ねる。 「先に手本を作るので、ちょっと見て下さい」 そう言って幽霧は寸胴鍋で小麦粉とお好み焼きを作っている屋台から貰ってきた出し汁をダマが出来ない様に溶き、鶏卵と摩り下ろした山芋を混ぜて生地を作る。 「手際……良いですね」 「慣れてますから」 感嘆するギンガに幽霧は熱した鉄板に作った生地を流し、同時進行で焼きそばを作りながら返す。 そして薄く焼いた生地に作った焼きそばを巻き、その上にソースを塗る。 発砲スチロールにそれを乗せ、更にマヨネーズをかける。 「乗せ巻き焼きのモダン焼き風完成です」 ギンガは幽霧の差し出した乗せ巻き焼きを差し出された割り箸で切りながら食べる。 出し汁の入った生地もふわふわとしていて、焼きそばも余り油っぽさを感じない。 「……美味しいです」 「それは良かったです」 幽霧は小麦粉とベーキングパウダーを入れた寸胴鍋に卵と牛乳を入れて混ぜながら言った。 「次は何を作っているのですか?」 ダマが出来ない様にしっかりと混ぜながら幽霧はギンガの問いに答える。 「流石にモダン焼き風の乗せ巻き焼きだけでは味気ないので、クレープ風の生地も作ってんですよ」 「なるほど……」 クレープ生地とお好み焼き風の生地を同時進行で焼きながら幽霧は言う。 「食べ終わったら、お金の受け取りとか頼みますね」 そう言っている間に幽霧は大きなコテを両手で駆使して乗せ巻き焼きを作っていく。 同時に乗せ巻き焼きという未知なるメニューに興味を抱いた通行人が行列を作り出す。 「あっ! はいっ!」 ギンガは発泡スチロールの皿に乗った残りを急いで片付ける。 ほんの数分で美女のメイド二人の屋台と言う口コミが広がり、三十分待ちという状態となっていた。 「幽霧?」 無言でせっせと乗せ巻き焼きを作っていた幽霧に声がかけられる。 「……鏡月主任」 目の前にいたのは陸士部隊の隊長と話しに行っていた雫。 幽霧とギンガを見ながら雫は呟く。 「美少女二人の屋台って、ここだったんですね」 しばらく考えた後、雫は二人に訊ねる。 「お手伝いいたしましょうか?」 「……お願いします」 雫は隣でお汁粉を売っている女性から予備の白いエプロンを借り、幽霧の隣で調理を開始する。 その手さばきは素人の動きではなく、既に玄人の動きであった。 幽霧も雫の動きに合わせて次々と乗せ巻き焼きを作っていく。 「おぃ。作っている奴らの速度が異常じゃね?」 「というか可愛くない?」 「動きがシンクロしてるし……」 「雫さんっ! 幽霧さんっ! 後もうちょっとです」 「乗せ巻き焼き……完売ですっ!」 お好み焼き風の生地とクレープの生地が入った二つの寸胴鍋が空になった時点で完売となった。 変えなかった客からも惜しげない拍手が送られ、周囲の屋台で商品を売り捌いていた陸士部隊の局員からも拍手が送られていた。 そんな中で幽霧は残った卵を白身と黄身に分けていた。 「何しているんですか?」 砂糖と白身を混ぜてメレンゲを作っている幽霧に訊ねるギンガ。 泡の様にふわふわになるまで勢い良く混ぜながら幽霧は答える。 「メレンゲに黄身を混ぜて焼くとふわふわのオムレツが作れるんですよ。 カリムさんに食べ物を買うと言ってそのままでしたから」 「あっ……」 そこでやっとギンガはカリムをそのままにしていた事を思い出した。 朱色の布が掛けられた長いすに座りながらカリムとアルフィトルテはのんびりと幽霧の帰りを待っていた。 カリムが幽霧から貰った赤い風船は紐を離した状態でもそこに留まっていた。 「…幽霧さん……遅いですね」 「きっとママはおしごとをしているんだよ」 アルフィトルテは足をブラブラさせながらカリムの呟きに答える。 「もしかして……ママって、幽霧くん?」 あの外見からそう呼ばせているのだろうかと思いつつカリムはアルフィトルテに訊ねる。 アルフィトルテは顔をキョトンとさせ、小さく首を傾げながらカリムを見る。 「ママはママだよ?」 まるで質問するのがおかしいと言うかのようであった。 カリムは内心、実は幽霧が性同一性障害なのではないかと思い始めてきていた。 「お~い! かぁ~りぃ~むぅ~!」 その空気を吹き飛ばすように人混みを掻き分けてアサギが現れる。 「おい、アサギ…カリムさんが困っているだろ」 「アサギさん……アキさん……」 カリムは二人の姿に目を潤ませ、両手で口を押さえる。 目を潤ませるカリムに二人は笑顔で言った。 「カリム。戻ったぞぉ~」 「ただいまです。カリムさん」 勢いよく長椅子から立ち上がり、カリムは二人に抱きつく。 「わっぷ!」 「うぉっ!」 いきなり抱きつかれたアサギとアキは驚いているような声を出す。 二人に抱きつきながらカリムは呟いた。 「……良かった」 ポツリと言ったその言葉に二人は苦笑する。 「もう、カリムは泣き虫だなぁ~」 「そうですよ。カリムさんは心配性過ぎです」 二人はそう言いながらカリムの背中をぽんぽんと叩いた。 「すみませ~ん。遅れました」 「ママっ!」 人波を掻き分けて幽霧たちが歩いてきた。 何故か幽霧は更に金属の蓋をかぶせた物を持っていた。 アルフィトルテは顔を明るくして幽霧に抱きついた。 いきなり抱きつかれた事によって持っていた皿に落しそうになるが、幽霧はどうにか押し留まる。 「幽霧さん。どこまで行っていたのですか?」 怪訝そうに訊ねたカリムに幽霧は微笑みながら答える。 「これを作ってました」 そう言って幽霧はカリムの前で蓋を開く。 中に入っていたのは湯気を立てた大きなオムレツ。 「これを作るために色々と時間が掛かってしまいました」 「えっと…食べても……」 「良いですよ」 幽霧はカリムにオムレツを食べるためにフォークを差し出す。 長椅子に座ったカリムはフォークでオムレツを切り分け、それを口に入れる。 砂糖が入っているのか、ほんのりとした甘みが口いっぱいに広がった。 そしてふんわりとした食感がそのオムレツの甘さをよくマッチしていた。 まるでそれはケーキのようであった。 「甘くて美味しい…です……」 「それは良かったです」 驚きながらも唇をほころばすカリムに幽霧も頬を緩ませた。 「私にもくれないか?」 幽霧のオムレツを美味しそうに食べるカリムにアサギも羨ましくなったらしく、口から涎をだらだらと流しかねない勢いで訊ねる。 「良いですよ。はい、どうぞ」 カリムは微笑みながらオムレツの皿と一緒にフォークも差し出す。 貪るように幽霧の作ったオムレツを食べ始めるアサギ。 アキは行儀が悪いぞてめぇと言ってアサギを羽交い絞めにする。 二人のじゃれあいを眺めながらカリムはくすりと笑い、幽霧の方へ視線を向ける。 幽霧はのんびりと湯飲みを啜っていた。 カリムは幽霧の方に寄って話しかける。 「……幽霧さん」 「何でしょうか?」 湯飲みを長椅子に置いてカリムを見る幽霧。 「あれ…どうやったのですか?」 「……えっと。これでしょうか?」 幽霧は人差し指を曲げて爪を親指の付け根につけた左手を自身の口に当てて息を吹き込むような真似をする。 すると何も無かった左手から緑色の風船が生まれ、幽霧が呼気を吹き込むごとに大きく膨らんでいく。 ある程度膨らんだところで風船を口を縛り、紐にくくりつける。 「小さい頃に行った遊園地で、休憩中の従業員さんから習ったんですよ。 風船を袖に隠し持って、人差し指で作った隙間にちょっとした小細工をして膨らますと……」 再び幽霧は親指と人差し指で作った小さな輪に呼気を吹き込む。今度は青色の風船が膨らんだ。 口を縛ってから紐をくくりつけ、さっきの緑の風船と一緒に青い風船も渡す。 「そろそろ行きますので、これで失礼します。では」 幽霧はそう言って長椅子から立ち上がり、カリムたちの前から去っていった。 後に続くようにアルフィトルテも椅子から降り、幽霧についていった。
https://w.atwiki.jp/pati8meigen8/pages/8.html
スバルくんがイチゴ取ったー泣。 僕、イクラ食われへんねん……でも、おいちーの♡ リスペクト やっかし (フォーラムのステージ上でリハ前に手を広げて目を輝かせて) ここで俺らのコンサート出来んねや! ほぼ正解。。 (やぐらの特番にてジェスチャーゲームなのに言った言葉。めっちゃ笑えるw 反則ですけどね)
https://w.atwiki.jp/mh_rifujin/pages/539.html
Q: 884 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/09/16(日) 16 39 46 ID l1opg7q8 酒場や大老殿の椅子に座ると、お酒は飲み放題なのに テーブルに盛られたご馳走が食べられないのは悔しいです。 誰も食べないのにどうしてテーブルにご馳走が起きっぱなしなの? A: 885 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/09/16(日) 20 04 37 ID zs3AcSuJ サンプルだからです 886 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/09/16(日) 20 45 24 ID R5H4cK3p 884 逆に考えてみてください 起きっ放しの食べ物を食べたいと思う人が居るでしょうか? 食べられない