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腕の良い庭師の職人の手が行き届いた池泉回遊式庭園。 琳とした空間に鹿威しの澄んだ音が響き渡る。 その池にかけられた橋の向こうで淑女が可憐な鼻歌を奏でていた。 「カモン♪ベビィ♪ドゥーザ♪ロコモーション♪」 皺一つ無い真珠のような艶やかな肌に、母性に満ちあふれた女神のような美貌。ふくよかな体つきのハリウッド女優顔負けのスタイル。 客観的にはとても195㎝の身長を誇る、長身の美丈夫の息子がいる一児の母には見えない。 「あ!」 その淑女、空条・ホリィ・ジョースターは脳裏に走った直感に思わず床の間の机の上に置かれた写真立てへ視線を向けていた。 その中に映った最愛の息子は口元に穏やかな微笑を浮かべ、凛々しい視線をこちらに向けている。 「今、承太郎ったら学校で私のこと考えてる……♪今……息子と心が通じ合った感覚があったわ♪」 そう言うとホリィは家事の手を一時休め、写真立てを大事そうに胸の中に掻き抱く。 「考えてねーよ」 「学校行ってないものね」 「残念だったな奥方」 いきなり上がった三者(?)三様の声に 「きゃあああああああ!」 と淑女は驚愕の叫びを上げた。 写真立ての中とはうって変わって最愛の息子は仏頂面でこちらを見ている。 その肩の上にはコートのような学生服を着た全身血塗れの少年が担ぎ上げられていた。 「じょ……承太郎……それにシャナちゃん……が……学校はどうしたの?そ……それにその、その人は!?血……血が滴っているわ。ま……まさか……あ……あなたがやったの?」 その質問には答えず承太郎はホリィに背を向ける。 「テメーには関係のないことだ。オレはジジイを探している……広い屋敷は探すのに苦労するぜ。茶室か?」 「え、ええ。そうだと思うわ」 確認すると承太郎は血だらけの少年を担いだまま檜の床を踏み鳴らして行ってしまった。 ホリィはその背中を心配そうにみつめる。だからシャナの視線に気づいたのはその後だった。 「な、なぁに?シャナちゃん?」 幼い外見に不相応な凛々しい顔立ちと視線だが、何分長身のホリィからすると小さいのでどうしても子供に話しかけるような口調になってしまう。 何よりその瞳に宿る色が昔の承太郎を思い起こさせたせいかもしれない。 「ごめんなさいね。新しい学校だもの。一人じゃ心細いわよね。学校には私の方から連絡を入れておくわ。今日は家でゆっくりしていて。 お昼は何が食べたい?何なら昨日みたいに外に行きましょうか?パパと承太郎も誘ってね」 ホリィの言葉を聞くだけ聞くとシャナはおもむろに口を開いた。 「他人の家族の事に口出しするのは趣味じゃないんだけど」 とまず前置きをし 「ホリィはこの件に関わらない方が良い。冷たい言い方になるけど出来る事ないと思うから。信じられないかもしれないけど、あの血だらけのヤツは私と承太郎を「殺し」にきたの。 承太郎やジョセフと同じ能力を持った人間。だから死にたくなかったら何も知ろうとしないことが得策よ。アイツもそれで何も言わなかったんだと思うし」 ホリィは黙ってシャナを見つめていた。「殺す」という言葉に驚かなかったと言えば嘘になるが目の前の圧倒的な存在感の小柄な少女は、 彼女なりに自分の事を気づかってくれているらしい。不器用だがそのやり方が承太郎と似ていたので思わず口元に優しい笑みが浮かんだ。 「ええ。解ってるわ。あの子は本当はとても優しい子だもの。今回の事だって何か理由があっての事なのよ。母親の私が信じてあげなきゃね」 「優しい、ね」 何故かシャナはその言葉に素直に同意出来ない。脳裏に見ず知らずの女生徒の為に全身血塗れになりながら花京院と闘った承太郎の姿が浮かんだ。 苦痛に耐えながら女生徒のために存在の力を削ぎ取っている姿も。 血糊はトーチで消したので今愛用の制服は新品同然になってはいるが、その傷痕はまだ生々しく残っている筈だ。 「おい」 「はい?」 中庭に設置された花壇を挟んで振り返った承太郎が鋭い眼光でホリィを見る。 「今朝はあまり顔色がよくねーぜ。元気か?」 「…………」 その言葉にホリィはまるで初恋の少女のように顔を赤らめて胸に両手を当てると、 「イエ~~イ♪ファイン!サンキュー!」 と笑顔で可愛く手の平を広げたピースサインで応えた。 「フン」 鼻を鳴らして再び背を向ける承太郎を後目に、 「ほらね♪」 と、ホリィは笑顔でシャナに向き直る。 「まぁ、そういう事にしておくわ」 「我は奥方の賢明な育て方の賜だと」 短くホリィに答えると同時に何故か上がったアラストールの声にシャナがペンダントに視線を向ける。 「あ、いや、うむ」 少し熱くなったペンダントの中で紅世の王、天壌の劫火は咳払いをして押し黙った。 「オイ!シャナ!モタモタしてんじゃあねー!後で文句垂れても聞いてやらねーぞ!」 遠くになった承太郎が振り向いて叫ぶ。 「うるさいうるさいうるさい。誰の所為だと思ってるの!」 シャナは床を鳴らして踏み切ると軽々と中庭を飛び越えた。 「だめだな、これは」 ジョセフは茶室の畳の上に寝かされた花京院を見下ろした。 「手遅れじゃ。この少年はもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」 「死ぬ」という言葉に承太郎の視線が尖った。 「承太郎……お前のせいではない……見ろ……この少年がなぜDIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか……?その理由が……」 ジョセフはいきなり花京院の前髪を手で捲り上げた。 「ここにあるッ!」 花京院の額の表面に異様な物体が蠢いていた。 弾ける寸前の木の実のような形をしているが、まるで生物のように脈動を繰り返している。 その触手らしき部分が花京院の額に埋め込まれ一部は皮膚と癒着していた。 「なんだ?この動いているクモみてーな肉片は?」 「それは彼の者の細胞からなる『肉の芽』、この小僧の脳にまで達している。 この『肉の芽』は生物の精神に影響を与えるよう脳に打ち込まれているのだ」 承太郎の問いにアラストールが答える。 「つまり「コレ」はコイツを思い通りに操る装置なのよ」 シャナが腕組みをしながら言った。 「常に脳に刺激を与え続け、自分を心酔し続けるように精神操作を行ってるの。コイツの養分を吸い取りながら動いてるから殆ど永久機関と変わらないわね。 時間をおけばおく程効果は倍増していって、最終的には自分の命令を麻薬のように追い求める奴隷の一丁上がりってわけ」 「手術で摘出しな」 シャナの説明に承太郎が短く簡潔に応える。 「それが出来たら苦労しないわ。これは脳の中の一番デリケートな部分に打ち込まれてる。 摘出する時ほんの僅かでも触手がブレたら脳は永遠にクラッシュしたまま再起動しなくなるわよ。 外科医は封絶の中じゃ動けないしね。そこまで計算して『アイツ』はこれを生み出したのよ」 「アイツ?」 思わぬシャナの言葉に承太郎の瞳が訝しく尖る。 「どういう事だ?まるで会ったみてぇな口振りだな。あの男……『DIO』のヤローによ」 承太郎の言葉にシャナは俯いて言葉を閉ざす。 「承太郎よ……こんな事があった」 シャナの代わりにアラストールが語り始めた。 「四ヶ月ほど前……我らは北米の地で、彼の者『幽血の統世王』と邂逅したのだ」 「何だと?」 アラストールの言葉に承太郎の視線がますます尖った。 追憶の欠片が脳裏に甦る。 シャナは思い出していた。 自分の受けた「屈辱」を。 それはニューヨークのスラム街で犯罪者の魂を好んで喰らう 紅世の徒を討滅した帰りの事だった。 売店でクレープを買い目元と口元を綻ばせながらジョースター邸への 帰路についていたシャナの前にその男はいきなり現れた。 まるで定められた運命であるかの如く。 人気のない路地、煌々と点る夜の街灯の下にその男は背を持たれ 両腕を組んで静かに立っていた。 心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し。黄金色の美しい頭髪。 透き通るような白い肌。男とは思えないような妖しい色気が首筋に塗られた 香油によって増幅されている。華美な装飾はないが良質な絹で仕立てられた 古代ペルシアの王族がその身に纏うような衣服を着ていた。 シャナはすぐに解った。すでにジョセフと知り合っていたので こいつが大西洋から甦った男、DIOだと。 月影に反照し官能的に光る口唇をおもむろに開くと男は静かに シャナに向かって話し始めた。 「古き友を訪ねてこの地に来たが……まさか君と逢えるとはな…… 初めまして『紅の魔術師(マジシャンズ・レッド)』……いや…… 『炎髪灼眼の討ち手』と言ったほうが良いかな……?」 その男を本当に恐ろしいと思ったのはその時だった。 その男が話しかけてくる言葉は心が安らいだ。 魔薬のように危険な甘さがあった。しかしだからこそ恐ろしかった。 「全く驚いたよ……私の配下の『幽波紋(スタンド)使い』達を始末した 魔術師が、まさか本当にこんな可愛らしいお嬢さんだったとは……」 DIOの言葉が終わる前にシャナは足裏を爆発させて跳んでいた。 刹那に身を覆った黒衣の内側から抜き出した大太刀、 贄殿遮那が空気を切り裂く空中で髪と瞳が炎髪灼眼に変わる。 「でやぁッ!」 DIOは至近距離で唸りを上げながら迫る大太刀の一閃を余裕の表情でかわす。 「性急な事だ……」 滑りながら道路に着地したシャナの黒衣の裾が舞い上がり、 真紅の髪が火の粉を撒いた。 「こいつ……『こいつがッ』!今!目の前にいるこの男がッ!」 その男はシャナが想像していたよりもずっと美しい風貌をしていた。 だが、その男の顔の裏側はどんな罪人よりもドス黒く呪われていた。 その瞳の奥はこの世のありとあらゆる邪悪を焼きつけ、 王族のように艶めかしい指は数え切れないほどの人の死と運命を弄んできた。 何年も。何年も…… 何人も。何人も…… そしてその存在が世界の歪みを増大させている。 「私の目の前にいるこの男がッ!」 「馬鹿な……」 胸元でアラストールも動揺を押し隠せないらしい。 多くの紅世の徒、例え王であったとしても自分の存在は なるべく隠そうとするのが普通だ。自由に好き勝手に行動を続けていれば すぐに自分達フレイムヘイズに居場所を察知され、残らず討滅されてしまうからだ。 『封絶』も『トーチ』もその事を回避する為に生まれた術。なのに目の前のこの男は、 自分を追っている天敵の前にあっさりとその身を現した。 「この者が……幽血の……統世王……!」 「DIOッ!!」 シャナは大刀を両手に構え、大地に屹立した。 燃え上がる灼眼は鋭くDIOを射抜いている。 「封・絶!」 その小さな口唇から勇ましい猛りが上がると共に、 シャナの足下から火線が走り道路の上に奇怪な文字列からなる紋章が描かれた。 シャナとDIOを中心として紅いドーム状の陽炎が形成される。 「『封絶』……因果孤立空間か。なかなか面白い能力を持っているね? 君達『紅世の徒』は。ひとつ……それを私に見せてくれるとうれしいのだが」 穏やかな声に心臓の凍る思いがした。 しかし同時に心の一部分がその声に強く惹かれ形を蕩かす。 刹那とはいえ心を魅入られた自分自身に凄まじい、 まさに燃えるような怒りを感じ、風に靡く黒衣にそれを纏わせた。 (この男が全ての元凶!多くの王を下僕に誣いた全ての根元!) 燃え上がる使命感にDIOを見つめる瞳が灼熱の煌めきを増し、 髪から鳳凰の羽ばたきのように火の粉が舞い上がる。 (討滅!討滅する!!) 足元のコンクリートを鋭く踏み切り、紅い弾丸のように飛び出したシャナは DIOの首筋に向けて空間に残像が映るほど高速の袈裟斬りを繰り出した。 周囲の空気を切り裂きながら星形の痣が刻まれた首筋に迫る白銀の刃。 意外。 DIOはそれをあっさりと右手で受け止めた。 戦慄の美で光る刀身が手の平の肉を音もなく切り裂き、骨に食い込む。 「っ!?」 驚愕。 全身が燃えるように猛っていてもシャナの頭の中はクールに冷め切っていた。 まさか『手で』受け取めるとは思わなかった。当然避けるものと考えていた。 その後の攻防の応酬果てに必殺の一撃を頭蓋に叩き込もうと 脳裏にもう数十手先の動きまで構築していたというのに最初の一撃で 全て計算が狂った。 速度はあったが様子見程度の撃ち込みだったので 手は切断されず中程まで食い込み刃はそこで動きを止める。 今までこんな敵はいなかった。 どの紅世の徒の中にも。王の中にも。 『贄殿遮那の一撃を真正面から素手で受け止めた相手は』 (こ、こいつバカ!?このまま刀を引き抜いたら、) 考えるのとほぼ同時に身体が動く。刀を掴んだDIOの手を支点にして 一瞬の躊躇もなくシャナは素早く柄を引いた。 だが。刀身は動かなかった。 まるで『その場で凍りついたように』動きを止めていた。 「貧弱……」 DIOの美しい口唇に絶対零度も凍り付く冷酷な微笑が浮かぶ。 貴公子の仮面に罅が入り残虐な本性がその姿を垣間見せた。 「貧弱ゥゥッ!!」 いきなり周囲に白い膨大な量の水蒸気が暴発したボイラーのように巻き起こった。 大太刀『贄殿遮那』の刀身を掴んだDIOの手から肘の辺りまでが いつのまにか超低温に冷やされた鋼のような質感に変わっていた。 その腕から発せられる冷気に周囲の全てが凍り付く。 大気が凍り大地が凍り、贄殿遮那が凍った。封絶すら凍った。 「こ、凍る!?」 冷気が刀身を伝達して柄を握るシャナの手にまで侵蝕してくる。 「『気化冷凍法』。使うのは実に100年振りだ。 『波紋使い』以外に使うこともないだろうと思っていたが」 DIOは渦巻く冷気よりも冷たい微笑を浮かべてシャナの灼眼をみつめる。 冷気が柄を越えシャナの腕にまで達し熱疲労でその皮膚が引き裂かれる瞬間、 「ムゥンッ!」 胸元のペンダントを中心にして巻き起こった柔らかな炎が 一瞬でシャナの身体を包み込んだ。冷気で柄に張り付いた皮膚を、 アラストールが『浄化の炎』で解き剥がす。 「!」 アラストールに意識がそれたDIOの手から刀身を引き抜くと、 シャナは腕の温度の上がった部分を足場にし身軽に宙返りをして距離を取った。 「ありがと。アラストール」 水滴に濡れた手を黒衣で拭い、同じく水で濡れた大刀を 構えなおしながら短くシャナは言う。 「今のが彼奴の身体を流れる幽血の一端か。油断するな。 まだどんな力を隠し持っているのか予測がつかん」 「解ってる」 シャナは短く言うと刀身に付いた水滴を一振りで全て叩き落とした。 「……ククク、100年も眠っていたので忘れていたよ。 己の力を存分に開放する事の出来るこの得も言われぬ充足感。 久しく戦いから離れていたので血が滾るというやつか?フフフ…… 凍てついた私の血も君の炎に炙られてどうやら融け始めたようだ」 DIOはその悪の華と呼ぶに相応しい美貌に邪悪な微笑を浮かべる。 「もっとくべてくれ。私の凍てついたこの心に。君の炎を。君の熱を」 そう言うとDIOは超低温の冷気に覆われた両手を前に差し出し、 緩やかに構えを執る。 その構えは華麗にて美しくそして流麗な力強さを併せ持っていた。 そしてそれに劣らぬ畏怖も。 それはシャナの両手に握られている贄殿遮那と全く同じ戦慄の美。 否、威圧感だけならそれを上回った。 「さあ!手合わせ願おうかッ!!」 そう叫ぶとDIOはいきなりアスファルトが陥没するほど 地面を強く蹴りつけ、一瞬でシャナの眼前に迫った。 「UUUUUUURYAAAAAAAAッッ!!」 周囲のガラスに罅が走るような奇声を上げながら シャナの身体に向け凍った掌で貫き手の連打を繰り出してくる。 着痩せして見えるその身体からは想像もつかない、 途轍もない怪力の籠もった強い撃ち込みだった。 だが砕く事を目的とした動作ではない、 明らかに掴む事を念頭においた撃ち方だ。 どこでもいいからシャナの身体の一部を掴み、 先程の冷気で全身を凍りつかせる為に。 「っくう!」 素早く複雑な軌道を描く精密な足捌きで身体を高速で反転させながら DIOの暴風のような撃ち込みをかわすシャナ。 だが、同時に舞い上がる黒衣の裾にまで気を配らなければならないので 避けづらい事この上ない。 「フハハハハハハハハ!!どうした!どうしたぁ!! 自慢の炎は出さんのかッ!逃げてばかりでは永遠に私には勝てんぞッ! もっと私を楽しませろッ! UREEYYYYYYYYYYYYYYYーーーーーッッ!!」 更にDIOの心理状態が微塵も読めないので次の攻撃が全く予測出来なかった。 紳士然としていたかと思うといきなり何の脈絡もなく狂戦士のような風貌に変わる。 こんな異常な心理を持つタイプには今まで遭遇した事はない。 「こ、この!誰が逃げてなんか!」 負けず嫌いの性格故に思わず声が口をついて出るが、 確かにDIOの言うとおりだった。でも攻撃は出来ない。 どんなに鋭い斬撃だったとしてもこの男は躊躇せずにまた それ掴んでそこから冷気を送り込んでくるだろう。 『浄化の炎』があるにはあるが同じ手が二度通用するとは思えない。 それに次は恐らく胸元のアラストールの方が先に凍らされる。 しかし今のままだと防戦一方なので永遠に勝機は訪れない。 時間を置けば置くほど回避によって神経がどんどん摩耗していき 最終的には僅かに生まれた隙に全連撃を一気に捻じ込まれる。 (それなら……) 決意の光が灼眼が煌めく。 (『遅かれ早かれ擦り切れるなら!』) 「はああぁっ!!」 鋭い猛りがシャナから上がる。 過負荷により神経の電気伝達がショートし目の中で火花が弾けた。 だがその甲斐はあった。 贄殿遮那の刀身が渦巻く紅蓮の炎で覆われていた。 火炎が刀身を焼き焦がし発する熱気が周囲の冷気を全て弾き飛ばす。 すぐさまに横薙ぎの一閃がDIOに向かって放たれた。 ガギュンッ!!と鋼鉄の城塞に灼熱の破城鎚でも撃ち込んだかのような 異様な音と共に重い手応えが柄を握るシャナの手に跳ね返ってくる。 「美しい……これが君の生み出す炎か。マジシャンズ!」 胴体に向けて放たれた炎刃の一撃を先程同様凍った掌で受け止めた DIOは炎に照らされた微笑でもって応える。 その手の中で冷気と熱気が音を立てながら互いに弾けた。 炎と氷の混ざり合った靄がDIOの内なる火勢を更に煽る。 かなり無理をしたがシャナのやった事は功を奏した。 受け止められはしたが今度は冷気が身体に廻ってこない。 これでようやくこちらからも攻撃出来る。 「おまえを討滅する!幽血の統世王!!」 シャナは凛々しく激しい瞳で眼前のDIOを射抜いた。 湧き上がる熱気と共にその全身が火の粉を撒く。 DIOは精神の高揚で牙が飛び出した口元に笑みを浮かべると 大刀を掴んだ手を振り払った。 怪力によって飛ばされたシャナは空中で体を返し軽やかに着地する。 「やあああァァァッッッてみろおおおォォォーーーーー!! 青ちょびた面のガキがあああァァァーーーーッッッ!!」 理性の仮面が完全に破壊されこの世のどんな暗黒よりもドス黒い 本性を剥き出しにした邪悪の化身、DIOは、 凍りついた両腕を広げ殺戮の歓喜に身を震わせながらシャナに向かって叫んだ。
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【種別】 宝具(?)、我学の結晶 【初出】 VII巻 【解説】 正式名称は『我学の結晶エクセレント7931-阿の伝令』。 紋様を刻みネジを埋め込んだマンホールの蓋という形状の我学の結晶。上方に立体映像を表示することで『吽の伝令』との間で通信を行うことができ、『吽の伝令』側に接続されたマジックハンドも操作可能。 非常脱出装置でもあり、これが破壊されると周囲の存在を『阿吽の伝令』へ転送することが出来るようになる。 フレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』シャナの炎を帯びた大太刀『贄殿遮那』での攻撃にど真ん中を貫かれ、『夜会の櫃』の大爆発に巻き込まれても、その脱出機能は全く問題なく稼働していた(通信は途絶した)。 二十世紀初頭の頃は、古いオーク材で出来た大きな樽という形状だった。奇怪な紋様が刻まれており、なぜか所々に短剣が刺さっていた。こちらは通信機能が描写されていないものの、脱出に『阿の伝令』の破壊が必要なく、使用者が脱出した後はその輪郭がゆっくりと消えていった。おそらく『阿の伝令』自体も遅れて『阿吽の伝令』側へ転送されるものと思われる。 【コメント】 ☆アニメシリーズには未登場。 ☆単行本VII巻の裏表紙を飾った宝具と思われるが、阿・吽・阿吽は3つとも同じ形状なので、どれがどれだか見分けがつかなかった(汗)。 ☆完全に「黒ひげ危機一髪」のパクリだったな。 ☆パクリっつーかモチーフだろうな。阿吽のふたつを合わせて『阿吽の伝令』じゃないか? ☆『棺の織手』ティスやノースエアや『儀装の駆り手』カムシンやヒルデガルドやダン・ロジャース相手にも使用してほしかったな。 ☆[仮装舞踏会]の布告官デカラビアの自在法『プロビデンス』と通信の仕方が似ていたな。
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【灼眼のシャナ】からの出典 グリモア コキュートス 神鉄如意(しんてつにょい) 贄殿遮那(にえとののしゃな) 玻璃壇(はりだん) 吸血鬼(ブルートザオガー) 零時迷子(れいじまいご) 【灼眼のシャナ】支給品解説物資リスト【Dクラッカーズ】【Missing】【されど罪人は竜と踊る】【ウィザーズ・ブレイン】【エンジェル・ハウリング】【キーリ】【キノの旅】【ザ・サード】【スレイヤーズ】【チキチキ (神仙伝/烈風伝)】【デュラララ!!】【バイトでウィザード】【バッカーノ!】【ブギーポップシリーズ】【ブラッドジャケット】【フルメタル・パニック!】【マリア様がみてる】【リアルバウトハイスクール】【ロードス島戦記】【終わりのクロニクル】【機甲都市伯林】【戯言シリーズ】【涼宮ハルヒシリーズ】【十二国記】【〈卵王子〉カイルロッドの苦難】【撲殺天使ドクロちゃん】【魔界都市ブルース】【魔術士オーフェンシリーズ】【楽園の魔女たち】【現実世界】【ラノロワオリジナル】 グリモア 【被支給者】ミズー・ビアンカ 【外見】異様に大きく、分厚い本。 画板を幾つも重ねたと例えられる。表紙は青緑色で、四隅が補強されている。 鞄のような下げ紐を付けたブックホルダーもどきに収められており、肩から提げることができる。 羊皮紙の各ページには古めかしい文字がびっしりと書かれている。 【初出】第021話:絶対殺人武器の憂鬱 【原作】2巻~ マージョリーが所持。 マージョリーの内部に存在するマルコアシスの意志を表出させる神器。 これ自体は頑丈なだけで、特殊な力はない。 マージョリーは本文の文言を利用して自在式の補助を行っている。 また浮かべて乗り物にしたり、振り回して鈍器としても利用している。 破壊されてもマルコアシスに影響はなく、新たに作り出すことも可能。 【↑1UP】 【TOP】 【1DOWN↓】 コキュートス 【被支給者】小早川奈津子 【外見】交差する二つの金のリングがかけられた指先大の黒い球に、銀の鎖を繋いだペンダント。 【初出】第007話:独善の天使と賢者の石 【原作】1巻~ シャナが所持。 シャナの内部に存在するアラストールの意志を表出させる神器。 これ自体は頑丈なだけで、特殊な力はない。 破壊されてもアラストールに影響はなく、新たに作り出すことも可能。 核となる部分は黒い玉で、チェーンを外しても問題はなかったはず。 【↑1UP】 【TOP】 【1DOWN↓】 神鉄如意(しんてつにょい) 【被支給者】ハックルボーン 【外見】二メートルをゆうに超える鈍色の槍。かなり太い。 【初出】第068話:逃げ犬 【原作】8巻~ [仮面舞踏会]が所持。紅世の王・シュドナイが使用していた。 巨大な剛槍。石突きで鉄を凹ませるほど重量がある。 存在の力を込めればさらに巨大化する。 【↑1UP】 【TOP】 【1DOWN↓】 贄殿遮那(にえとののしゃな) 【被支給者】ヘラード・シュバイツァー 【外見】抜き身の日本刀。 優美な反りを持つ長大な刃と、それに比べて異常に短い柄で構成された大太刀。 【初出】第068話:逃げ犬 【原作】1巻~ シャナの使用武器。 ある刀匠が“強者”のために存在の力を繰って作り上げた大業物の刀。 あらゆる力の干渉を受けない。 シャナの名前はこの武器から取られた。 【↑1UP】 【TOP】 【1DOWN↓】 玻璃壇(はりだん) 【被支給者】F-1の格納庫に設置されている。 【外見】木々の一本一本まで精巧に作られた、地下含む島全域の模型。 半透明にぼやけた人型が、参加者達の動きをリアルタイムで模している。 模型と像を作り出す本体は、両手のひらほどの大きさをした銅鏡の形をしている。 【初出】第399話:神の叡智 【原作】1巻~ 紅世の王・“祭礼の蛇”が製作。現在はマージョリー達が使用している。 島全域と参加者の動きを把握できる監視用の宝具。 人型は大雑把で、性別すら判別できない。 原作ではフレイムヘイズや徒などの人外(トーチは除く)は映らなかったが、ロワ内でどうなっているかは今のところ不明。 【↑1UP】 【TOP】 【1DOWN↓】 吸血鬼(ブルートザオガー) 【被支給者】竜堂終 【外見】西洋風の大剣。振るう度に、刀身に不気味な血の色の波紋が揺れる。 【初出】第109話:邂逅 【原作】3巻~ 紅世の徒・ソラトが使用していた。現在は“祭礼の蛇”が所持。 広い刀身を持つ大剣の宝具。 握りが短いため片手剣として扱うが、数十kgもあるため普通の人間には使えない (が、ボルカンが普通に持ち歩いているので、制限によって軽量化されている模様)。 存在の力を込めると、剣に触れている者に裂傷を与える。威力は込める力の量に比例。 【↑1UP】 【TOP】 【1DOWN↓】 零時迷子(れいじまいご) 【被支給者】坂井悠二の体内にあったものが、死後無名の庵に転送された。 【外見】 【初出】第462話:世界の裏側 【原作】1巻~ 坂井悠二の体内に存在。 【↑1UP】 【TOP】 【1DOWN↓】 ←【涼宮ハルヒシリーズ】 ↑支給品解説 【十二国記】→
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第068話:逃げ犬 作:◆E1UswHhuQc 「きゃあああ!」 「どうしたっ!」 悲鳴を聞いて、ベルガーは背後の岩陰を覗き込んだ。と、何かがぶつかってくる。 テレサ・テスタロッサだ。下着姿の彼女を抱きとめ、ベルガーは問う。 「何があった?」 「だ、誰かがこっちを覗いて――」 そこまで言って、テッサの視線の先が自身の身体に移る。下着姿。 「――き、」 「叫ぶなバカ。何でこんなところに居るのか忘れたのかテレサ・テスタロッサ」 「う……」 殺し合いのゲーム。それを思い出して、テッサが言葉無くうずくまる。 ベルガーはまだ生乾きの上着を掴み、彼女に被せた。 「あ……」 「まだ乾いちゃいないが、ハズかしいならそれ羽織っとけ」 「……ありがとうございます」 一礼するテッサに、ん、と頷き、ベルガーはデイバッグを手に取った。中に手を入れ、まだ見ていない支給品を確かめる。 取り出されたものは。 「……一つ聞くぞ、テレサ・テスタロッサ。――これは武器か?」 「ええと……仮に武器だとしても、私の知識にはないです」 取り出された黒い卵を見てのテッサの言葉に、ベルガーは溜息で返した。そして聞く。 「君の武器は?」 「まだ確かめてないです……」 「なら確かめるぞ。武器がいる。視線を感じたんだろう?」 「え、ええ」 頷くテッサの目の前で、ベルガーは生乾きの衣服を身につけた。黒い卵はポケットに入れておく。 テッサを後ろに、背後の岩陰へと回った。用心深く。 焚き火の灯りがつくる視界に、二人は共通のものを見つけた。 分厚い筋肉の鎧を持った、傷だらけの体を持つ巨漢だ。装飾がなされた、一本の棒を手にしている。 「……どう思う?」 「海兵隊に入るといいんじゃないでしょうか」 当然のように巨漢を警戒しながら、テッサのデイバッグを掴む。と、巨漢が口を開いた。厳かな声で、 「主は申された」 棒を大上段に振り上げた巨漢に、ベルガーは一言。 「……何て?」 「――汝、姦淫するなかれ」 棒が振り下ろされた。 「俺は子供に興味ないって――」 言う間にテッサを小脇に抱えて、真横に飛ぶ。充分に避けられるタイミングだ。通常ならば。 横に飛んだベルガーの視界、豪速で振り下ろされる棒が、いきなり巨大化した。 「――!」 避けられない。そう判断した時だ。 視界がブラックアウトした直後、二人の姿が消え失せ、棒――宝具『神鉄如意』が地面を撃砕した。 視界が開けた先にあったのは、知り合いの死体だった。 「ヘラード・シュバイツァー?」 どうやって危地を抜け出したのかという疑問はあった。だがそれよりも、眼前に倒れ付した男の死体に言葉を投げ掛ける。 首筋の斬撃痕と地を塗らす血液。ベルガーはシュバイツァーの手を取り、脈を見る。 「……何こんなところで死んでるんだヘラード・シュバイツァー。レーヴェンツァーン・ネイロルが泣くぞ」 呟きは夜の闇に紛れ、消え去る。 ベルガーは溜息一つで感傷を打ち消し、遺体の傍らに転がるデイバッグを手に取り、開けた。 シュバイツァーの遺した支給品は、東洋風の剣だった。 一目で業物と分かる気配の、カタナだ。柄の辺りにラベルが張ってある。 『贄殿遮那』。 「……あの、ベルガーさん」 「なんだテレサ・テスタロッサ。服が欲しいから戻りましょうとか言うなら一人で行けよ。何処だか知らんが」 「違います! いえ、服も欲しいですけど……その、その方は……」 「知り合いだ」 一言で答えてベルガーは立ち上がり、カタナを手にした。 「ちょっと手伝ってくれテレサ・テスタロッサ。このバカを埋める」 「あ……はい」 テッサは答え、辺りを見回して穴掘りに使えそうなものを探す。と。 「君の支給品は何だ? スコップだといいんだが」 「そうでした。ええと……」 言われ、自分のデイバッグを開ける。中には、 「……服で穴は掘れないな」 「……ええ」 【G-3/林の中/02:30】 【ダウゲ・ベルガー】 [状態]:平常を保とうとしている [装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ 黒い卵(天人の緊急避難装置)@オーフェン [道具]:デイバッグ×2(支給品一式) [思考]:シュバイツァーを埋葬する。 天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。 【テレサ・テスタロッサ】 [状態]:動揺 [装備]:なし [道具]:デイバッグ(支給品一式) UCAT戦闘服 [思考]:シュバイツァーの埋葬を手伝う。 【C-7/湖のほとり/1日目・02 30】 【ハックルボーン】 [状態]:健康 [装備]:宝具『神鉄如意』@灼眼のシャナ [道具]:デイパック(支給品一式) [思考]:神の導きに従って天罰を下す。 【残り102名】 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第067話 第068話 第069話 第064話 時系列順 第081話 - 神父 第069話 第046話 テッサ 第180話 第046話 ベルガー 第180話
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【種別】 宝具 【初出】 VIII巻 【解説】 “壊刃”サブラクの所持していた、両手持ちの西洋風大剣型宝具。宝具としての本来の能力は不明。 ダンタリオン教授によって無断でドリルに改造され、台無しになった。この一件が原因で、サブラクは激怒して教授と袂を別った。 以降は“燐子”ドミノの中に収納される形で教授が所持しており、教授が付けた名称は『浪漫の結晶ドォーリル付き西洋風の両手剣』。 はっきりは描写されていないが、最終巻で教授やドミノと共に『揮散の大圏』によって消滅したと思われる。 【由来・元ネタ】 元ネタはラテン語や古代ギリシャ語で『ヤマアラシ』を意味するヒュストリクス(hystrix)と思われる。 【コメント】 ☆アニメ第2期では登場しなかった。 ☆シャナの『贄殿遮那』と鍔迫り合いさせたら面白かったのにな。 ☆ギヴォイチスの『スクレープ』やアレックスの剣型神器“コルタナ”やジョージの剣型神器“フラガラック”と似たり寄ったりだったな。 ☆剣型の宝具は他にソラトと坂井悠二の『吸血鬼』やフリアグネの『ラハット』がある。 ☆「ヤマアラシ」という名称から察するに、周囲の物体を長大な剣山にでもする宝具だったのだろうか? ☆剣を使い潰す戦い方をするサブラクにしては、珍しく愛着があったようだ。 ☆[巌楹院]のゴグマゴーグや[とむらいの鐘]のアシズがこの宝具に絡んでいたら面白そうだったのにな。 ☆サブラクが特別視していた事からも何かしらの強力な能力があった事が伺えるため、ある意味この宝具を台無しにした教授はシャナ達の勝利に一役買っていると言える。 ☆↑台無しにしたんじゃない!「ものすごーく超・強力でカッコよく改良してあげた」んだ! ☆もし仮に上から二番目のコメントのような能力だったとして、それを自在法『スティグマ』のあるサブラクが使うと考えたら……怖っ!
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第180話:大佐と逃がし屋の決意 作:◆Sf10UnKI5A 朝日が差し込み始めた森の中、土が盛られた場所がある。 盛り土の中央には折られた枝が立てられている。 それは、酷く簡素な墓だった。 横には黒衣を纏った男、ダウゲ・ベルガーが座り込んでいる。 そこから少し離れた木に背を預け寝息を立てるのは、テッサことテレサ・テスタロッサだ。 ――もう朝か。早いものだな。 シュバイツァーを埋葬した二人だが、道具も無しに人一人埋める穴を掘るのは、随分な大仕事だった。 途中でテッサを寝かせたのだが、果たしてそれは一体いつ頃だっただろうか。 軽い疲労を感じながら、ベルガーは呟いた。 「……仇くらいは取ってやるさ。だから成仏しろよ、へラード・シュバイツァー」 そして数分後、放送が流れる。 「――051ユージン、057ガウルン、058クルツ、063島津由乃――――では、諸君の健闘に期待する――」 死亡者と禁止エリアを紙に書き取り、この声はテッサにも聞こえていたのだろうか、と彼女を見やる。 どうやらその通りらしく、テッサは目を覚まし、――その小さな体を震えさせていた。 「そんな……ウェーバーさんが……」 「おい、どうしたテレサ。まず落ち着け。何があった?」 その一言で、テッサは――表面上だけでも――落ち着きを取り戻す。 どんな異常事態にあっても、彼女は軍人であった。 「……058番、クルツ・ウェーバー。彼は有能な軍人で、……私の部下でした」 彼女が名乗った『大佐』という肩書きをベルガーは内心疑っていたのだが、 それを抜きにしても、彼女にとってクルツという男が大切な人間だということが理解出来た。 「君も親しい人を失ったのか……」 何か考えるように少し間を置いて、ベルガーはまた口を開いた。 「聞いてくれ、テレサ・テスタロッサ」 呼びかけに、少女はうつむいていた顔を上げる。 「放送が事実ならば、この島で既に23人もの人間が死んでいる。 ということは、俺達を襲ったあの大男のような殺人者が他にもいると考えていいだろう。 ――質問だ、テレサ。君は、生きて帰りたいと思っているか?」 「と、当然です。何故そんな……」 「親しい人を見殺しにしてでも逃げる。君にその覚悟はあるのか?」 「…………」 長い沈黙が続き、そしてテッサは答えた。 「……私は、仲間を何度も失っています。私を守る、そのためだけに死んだ人もいます」 トゥアハー・デ・ダナンでの痛ましい事件を思い出し、言葉が詰まる。 しかし、またすぐに口を開いた。 「……ですが、私はただ守られるだけの人間でいたつもりはありません。 まだ生きている二人の友人と、共に帰りたい、……いいえ、絶対に帰ってみせます」 そう答える彼女の目には、強い意志の光が宿っていた。 その光が、歴戦の中で培われてきたことをベルガーは知らない。が、 ――歳の割りに良い目をしているのは、あいつと同じだな。 ヘイゼル・ミリルドルフ。この島にいないベルガーの恋人は、十五歳の時に一つの戦争の中心に立たされた。 平凡な女学生だった彼女も、自分で進む道を選び、成長していったではないか。 そのことをベルガーは思い出す。 「……自分の命を大切にしなければならない場面では、その答えは零点だ。 だが、だがな、テレサ・テスタロッサ」 言葉を一度切り、そして続ける。 「他人を救おうとする人間は、その時点で既に『強さ』を持っている。 そして、他人と自分、両方を救うことが出来た時、その人間は真の『強者』となる。 こんなふざけた島から逃げるとしたら、それを成せるのは強者だけだ。 二度は言わない、忘れるな」 「ところでテレサ。俺は昔、『逃がし屋』なんて商売をやっていてな」 ベルガーは立ち上がり、大太刀『贄殿遮那』を手に取った。 「君が友人と逃げたいと言うのなら、それに協力させてもらおう。今回限りの特別サービスで、料金はタダにしてやる」 「え? ですが……」 「この島に共に連れてこられた、たった一人の友人はもはや土の下だ。 最後の一人になるための殺し合いに参加するつもりも無いし、それならば精々他人のために働いてやるさ。 君みたいな少女を一人にするわけにもいかないしな」 「……ありがとうございます、ベルガーさん」 頭を下げるテッサに向けて、ベルガーは軽く手を振ってみせた。 【残り94人】 【G-3/林の中/06:05】 【ダウゲ・ベルガー】 [状態]:心身ともに平常 [装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ 黒い卵(天人の緊急避難装置)@オーフェン [道具]:デイバッグ×2(支給品一式) [思考]:テレサ・テスタロッサを護衛する。 天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。 【テレサ・テスタロッサ】 [状態]:心身ともに平常 [装備]:なし [道具]:デイバッグ(支給品一式) UCAT戦闘服 [思考]:宗介とかなめを探す。 2005/06/13 改行調整、口調修正 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第179話 第180話 第181話 第204話 時系列順 第186話 第068話 テッサ 第189話 第068話 ベルガー 第189話
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【種別】 能力(?) 【初出】 I巻 【解説】 天罰神“天壌の劫火”アラストールのフレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』が身に纏う黒衣。 アラストールの翼の黒い皮膜の一部を部分的に顕現させたもので、着用者の意思に応じて変形し、サイズや形状は自由で、物に巻きつけたりするなど、ある程度動かすことも可能だった。 二代目のシャナはコート状、初代のマティルダ・サントメールはマントの形を基本の形としていた。 内部に多量の荷物を収納できる。イメージ的には、畳んだ皮膜の隙間に押し込むようにしているとのことである。手の先に一瞬だけ出して、荷物の出し入れを行うことも可能(例:『贄殿遮那』など)。 強度はそれなりに高く、銃弾やカード型宝具『レギュラー・シャープ』では小揺るぎもしなかった。シャナは専ら盾として用いており、その際には自身に何重にも『夜笠』を巻き付けたりしていた。また、マティルダは飛翔の自在法を『夜笠』に掛けて飛行したこともあった。 【コメント】 ☆アニメ版から登場・使用されていた。 ☆フレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』の神器“コキュートス”やマティルダの自在法『騎士団』と併せて格好良かったな。 ☆裸マントという新たなジャンルを作り出した。 ☆ついに商品化。品質によっては、一般用途も可能なスペックなので、密かに期待した。 ☆女性向け仕様しかないのは残念だった。 ☆値段は2万、いかない位だった・・・。 ☆坂井悠二の凱甲型宝具『莫夜凱』やフリアグネの『長衣』と、どれが防御力が高いかな。 ☆[巌楹院]のゴグマゴーグや[とむらいの鐘]のアシズがこの能力とも絡んでいたら面白そうだったのにな。 ☆むしろマティルダ仕様が欲しかった。 実寸サイズ、男性陣は参考にすべし(大きめに余裕を見ること)。 着丈 バスト ウエスト 肩幅 袖丈 Lサイズ・・・ 124 108 96 46 59 XLサイズ・・ 128 115 103 48 61
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【名前:贄殿遮那】 【暇人度/87%】 ●主な生息地 入り口 精神 ●かなりの暇人で、よく喧嘩してる風景などが見られる ●元、話題別 オロチ 【名前:撲殺天使ドクオちゃん】 【暇人度/65%】 ○主な生息地 入り口 ヲタ 精神 ○中々の古参。この人の暇人っぷりは日本の将来が揺らがす程。 ○大部屋は見にくいと語っていた。シモネタをよく多用する。 ○知り合いが多く、もなちゃと生活4年目。 ○真性ロリコン。三次元の女には興味が皆無(幼女は大好き)。 ○重度の二次元(アニメなどの)ヲタであり趣味ではなく生きがいの領域。 ○ほか弁の「からあげカレー弁当」が大好き 【名前:ぴ】 【暇人度/49%】 ●主な生息地 入り口 精神等 ●プロフを宣伝するほどの暇人。こいつは超(スーパー)暇人野郎だぜ。 ●戦国無双を面白いと主張。 ●もなちゃと生活は1年ちょいらしい。 【名前:ブン】 【暇人度/58%】 ○主な生息地 メイン ○入り口には知り合いが少ないらしい。つまり人望が少ない暇人。 ○こいつの暇人っぷりはエビで鯛を釣る程。 ○超機械音痴 【名前:(゜∀。)】 【暇人度/84%】 ●主な生息地 入り口 樹海 精神 ●自らこのリストに『載せて』と志願してきた暇人野郎。 ●こいつの暇人度は周囲を呆れさせる程。 ●毎日もなちゃとに来てるらしい。 【名前:壊】 【暇人度/72%】 ○主な生息地 入り口 精神 ○バイトもあり、学校もあると言うのにかなりな暇人。 ○こいつに暇人と言う名前は似合わずにはいられない。 ○かなり暇人だから相手にしてあげるとヨロシイ。 【名前:裏伝】 【暇人度/82%】 ●『IP抜くよ?』など『チキンだな。』などを発言してきた。 ●こいつの暇人っぷりっと言うともう、チキンバーガー。 ●ゾヌのAAで緑色で居る事が多い。 【名前:名無し様】 【暇人度/77%】 ○AAの色は赤色で居る事が多い。 ○AAのキャラはマヌケ顔みたいなキャラである。 ○こいつは暇人と言うよりも廃人であり、近づかないで下さい。 ○口臭がきつい。
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腕の良い庭師の職人の手が行き届いた池泉回遊式庭園。 琳とした空間に鹿威しの澄んだ音が響き渡る。 その池にかけられた橋の向こうで淑女が可憐な鼻歌を奏でていた。 「カモン♪ベビィ♪ドゥーザ♪ロコモーション♪」 皺一つ無い真珠のような艶やかな肌に、母性に満ちあふれた女神のような美貌。ふくよかな体つきのハリウッド女優顔負けのスタイル。 客観的にはとても195㎝の身長を誇る、長身の美丈夫の息子がいる一児の母には見えない。 「あ!」 その淑女、空条・ホリィ・ジョースターは脳裏に走った直感に思わず床の間の机の上に置かれた写真立てへ視線を向けていた。 その中に映った最愛の息子は口元に穏やかな微笑を浮かべ、凛々しい視線をこちらに向けている。 「今、承太郎ったら学校で私のこと考えてる……♪今……息子と心が通じ合った感覚があったわ♪」 そう言うとホリィは家事の手を一時休め、写真立てを大事そうに胸の中に掻き抱く。 「考えてねーよ」 「学校行ってないものね」 「残念だったな奥方」 いきなり上がった三者(?)三様の声に 「きゃあああああああ!」 と淑女は驚愕の叫びを上げた。 写真立ての中とはうって変わって最愛の息子は仏頂面でこちらを見ている。 その肩の上にはコートのような学生服を着た全身血塗れの少年が担ぎ上げられていた。 「じょ……承太郎……それにシャナちゃん……が……学校はどうしたの?そ……それにその、その人は!?血……血が滴っているわ。ま……まさか……あ……あなたがやったの?」 その質問には答えず承太郎はホリィに背を向ける。 「テメーには関係のないことだ。オレはジジイを探している……広い屋敷は探すのに苦労するぜ。茶室か?」 「え、ええ。そうだと思うわ」 確認すると承太郎は血だらけの少年を担いだまま檜の床を踏み鳴らして行ってしまった。 ホリィはその背中を心配そうにみつめる。だからシャナの視線に気づいたのはその後だった。 「な、なぁに?シャナちゃん?」 幼い外見に不相応な凛々しい顔立ちと視線だが、何分長身のホリィからすると小さいのでどうしても子供に話しかけるような口調になってしまう。 何よりその瞳に宿る色が昔の承太郎を思い起こさせたせいかもしれない。 「ごめんなさいね。新しい学校だもの。一人じゃ心細いわよね。学校には私の方から連絡を入れておくわ。今日は家でゆっくりしていて。 お昼は何が食べたい?何なら昨日みたいに外に行きましょうか?パパと承太郎も誘ってね」 ホリィの言葉を聞くだけ聞くとシャナはおもむろに口を開いた。 「他人の家族の事に口出しするのは趣味じゃないんだけど」 とまず前置きをし 「ホリィはこの件に関わらない方が良い。冷たい言い方になるけど出来る事ないと思うから。信じられないかもしれないけど、あの血だらけのヤツは私と承太郎を「殺し」にきたの。 承太郎やジョセフと同じ能力を持った人間。だから死にたくなかったら何も知ろうとしないことが得策よ。アイツもそれで何も言わなかったんだと思うし」 ホリィは黙ってシャナを見つめていた。「殺す」という言葉に驚かなかったと言えば嘘になるが目の前の圧倒的な存在感の小柄な少女は、 彼女なりに自分の事を気づかってくれているらしい。不器用だがそのやり方が承太郎と似ていたので思わず口元に優しい笑みが浮かんだ。 「ええ。解ってるわ。あの子は本当はとても優しい子だもの。今回の事だって何か理由があっての事なのよ。母親の私が信じてあげなきゃね」 「優しい、ね」 何故かシャナはその言葉に素直に同意出来ない。脳裏に見ず知らずの女生徒の為に全身血塗れになりながら花京院と闘った承太郎の姿が浮かんだ。 苦痛に耐えながら女生徒のために存在の力を削ぎ取っている姿も。 血糊はトーチで消したので今愛用の制服は新品同然になってはいるが、その傷痕はまだ生々しく残っている筈だ。 「おい」 「はい?」 中庭に設置された花壇を挟んで振り返った承太郎が鋭い眼光でホリィを見る。 「今朝はあまり顔色がよくねーぜ。元気か?」 「…………」 その言葉にホリィはまるで初恋の少女のように顔を赤らめて胸に両手を当てると、 「イエ~~イ♪ファイン!サンキュー!」 と笑顔で可愛く手の平を広げたピースサインで応えた。 「フン」 鼻を鳴らして再び背を向ける承太郎を後目に、 「ほらね♪」 と、ホリィは笑顔でシャナに向き直る。 「まぁ、そういう事にしておくわ」 「我は奥方の賢明な育て方の賜だと」 短くホリィに答えると同時に何故か上がったアラストールの声にシャナがペンダントに視線を向ける。 「あ、いや、うむ」 少し熱くなったペンダントの中で紅世の王、天壌の劫火は咳払いをして押し黙った。 「オイ!シャナ!モタモタしてんじゃあねー!後で文句垂れても聞いてやらねーぞ!」 遠くになった承太郎が振り向いて叫ぶ。 「うるさいうるさいうるさい。誰の所為だと思ってるの!」 シャナは床を鳴らして踏み切ると軽々と中庭を飛び越えた。 「だめだな、これは」 ジョセフは茶室の畳の上に寝かされた花京院を見下ろした。 「手遅れじゃ。この少年はもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」 「死ぬ」という言葉に承太郎の視線が尖った。 「承太郎……お前のせいではない……見ろ……この少年がなぜDIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか……?その理由が……」 ジョセフはいきなり花京院の前髪を手で捲り上げた。 「ここにあるッ!」 花京院の額の表面に異様な物体が蠢いていた。 弾ける寸前の木の実のような形をしているが、まるで生物のように脈動を繰り返している。 その触手らしき部分が花京院の額に埋め込まれ一部は皮膚と癒着していた。 「なんだ?この動いているクモみてーな肉片は?」 「それは彼の者の細胞からなる『肉の芽』、この小僧の脳にまで達している。 この『肉の芽』は生物の精神に影響を与えるよう脳に打ち込まれているのだ」 承太郎の問いにアラストールが答える。 「つまり「コレ」はコイツを思い通りに操る装置なのよ」 シャナが腕組みをしながら言った。 「常に脳に刺激を与え続け、自分を心酔し続けるように精神操作を行ってるの。コイツの養分を吸い取りながら動いてるから殆ど永久機関と変わらないわね。 時間をおけばおく程効果は倍増していって、最終的には自分の命令を麻薬のように追い求める奴隷の一丁上がりってわけ」 「手術で摘出しな」 シャナの説明に承太郎が短く簡潔に応える。 「それが出来たら苦労しないわ。これは脳の中の一番デリケートな部分に打ち込まれてる。 摘出する時ほんの僅かでも触手がブレたら脳は永遠にクラッシュしたまま再起動しなくなるわよ。 外科医は封絶の中じゃ動けないしね。そこまで計算して『アイツ』はこれを生み出したのよ」 「アイツ?」 思わぬシャナの言葉に承太郎の瞳が訝しく尖る。 「どういう事だ?まるで会ったみてぇな口振りだな。あの男……『DIO』のヤローによ」 承太郎の言葉にシャナは俯いて言葉を閉ざす。 「承太郎よ……こんな事があった」 シャナの代わりにアラストールが語り始めた。 「四ヶ月ほど前……我らは北米の地で、彼の者『幽血の統世王』と邂逅したのだ」 「何だと?」 アラストールの言葉に承太郎の視線がますます尖った。 追憶の欠片が脳裏に甦る。 シャナは思い出していた。 自分の受けた「屈辱」を。 それはニューヨークのスラム街で犯罪者の魂を好んで喰らう 紅世の徒を討滅した帰りの事だった。 売店でクレープを買い目元と口元を綻ばせながらジョースター邸への 帰路についていたシャナの前にその男はいきなり現れた。 まるで定められた運命であるかの如く。 人気のない路地、煌々と点る夜の街灯の下にその男は背を持たれ 両腕を組んで静かに立っていた。 心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し。黄金色の美しい頭髪。 透き通るような白い肌。男とは思えないような妖しい色気が首筋に塗られた 香油によって増幅されている。華美な装飾はないが良質な絹で仕立てられた 古代ペルシアの王族がその身に纏うような衣服を着ていた。 シャナはすぐに解った。すでにジョセフと知り合っていたので こいつが大西洋から甦った男、DIOだと。 月影に反照し官能的に光る口唇をおもむろに開くと男は静かに シャナに向かって話し始めた。 「古き友を訪ねてこの地に来たが……まさか君と逢えるとはな…… 初めまして『紅の魔術師(マジシャンズ・レッド)』……いや…… 『炎髪灼眼の討ち手』と言ったほうが良いかな……?」 その男を本当に恐ろしいと思ったのはその時だった。 その男が話しかけてくる言葉は心が安らいだ。 魔薬のように危険な甘さがあった。しかしだからこそ恐ろしかった。 「全く驚いたよ……私の配下の『幽波紋(スタンド)使い』達を始末した 魔術師が、まさか本当にこんな可愛らしいお嬢さんだったとは……」 DIOの言葉が終わる前にシャナは足裏を爆発させて跳んでいた。 刹那に身を覆った黒衣の内側から抜き出した大太刀、 贄殿遮那が空気を切り裂く空中で髪と瞳が炎髪灼眼に変わる。 「でやぁッ!」 DIOは至近距離で唸りを上げながら迫る大太刀の一閃を余裕の表情でかわす。 「性急な事だ……」 滑りながら道路に着地したシャナの黒衣の裾が舞い上がり、 真紅の髪が火の粉を撒いた。 「こいつ……『こいつがッ』!今!目の前にいるこの男がッ!」 その男はシャナが想像していたよりもずっと美しい風貌をしていた。 だが、その男の顔の裏側はどんな罪人よりもドス黒く呪われていた。 その瞳の奥はこの世のありとあらゆる邪悪を焼きつけ、 王族のように艶めかしい指は数え切れないほどの人の死と運命を弄んできた。 何年も。何年も…… 何人も。何人も…… そしてその存在が世界の歪みを増大させている。 「私の目の前にいるこの男がッ!」 「馬鹿な……」 胸元でアラストールも動揺を押し隠せないらしい。 多くの紅世の徒、例え王であったとしても自分の存在は なるべく隠そうとするのが普通だ。自由に好き勝手に行動を続けていれば すぐに自分達フレイムヘイズに居場所を察知され、残らず討滅されてしまうからだ。 『封絶』も『トーチ』もその事を回避する為に生まれた術。なのに目の前のこの男は、 自分を追っている天敵の前にあっさりとその身を現した。 「この者が……幽血の……統世王……!」 「DIOッ!!」 シャナは大刀を両手に構え、大地に屹立した。 燃え上がる灼眼は鋭くDIOを射抜いている。 「封・絶!」 その小さな口唇から勇ましい猛りが上がると共に、 シャナの足下から火線が走り道路の上に奇怪な文字列からなる紋章が描かれた。 シャナとDIOを中心として紅いドーム状の陽炎が形成される。 「『封絶』……因果孤立空間か。なかなか面白い能力を持っているね? 君達『紅世の徒』は。ひとつ……それを私に見せてくれるとうれしいのだが」 穏やかな声に心臓の凍る思いがした。 しかし同時に心の一部分がその声に強く惹かれ形を蕩かす。 刹那とはいえ心を魅入られた自分自身に凄まじい、 まさに燃えるような怒りを感じ、風に靡く黒衣にそれを纏わせた。 (この男が全ての元凶!多くの王を下僕に誣いた全ての根元!) 燃え上がる使命感にDIOを見つめる瞳が灼熱の煌めきを増し、 髪から鳳凰の羽ばたきのように火の粉が舞い上がる。 (討滅!討滅する!!) 足元のコンクリートを鋭く踏み切り、紅い弾丸のように飛び出したシャナは DIOの首筋に向けて空間に残像が映るほど高速の袈裟斬りを繰り出した。 周囲の空気を切り裂きながら星形の痣が刻まれた首筋に迫る白銀の刃。 意外。 DIOはそれをあっさりと右手で受け止めた。 戦慄の美で光る刀身が手の平の肉を音もなく切り裂き、骨に食い込む。 「っ!?」 驚愕。 全身が燃えるように猛っていてもシャナの頭の中はクールに冷め切っていた。 まさか『手で』受け取めるとは思わなかった。当然避けるものと考えていた。 その後の攻防の応酬果てに必殺の一撃を頭蓋に叩き込もうと 脳裏にもう数十手先の動きまで構築していたというのに最初の一撃で 全て計算が狂った。 速度はあったが様子見程度の撃ち込みだったので 手は切断されず中程まで食い込み刃はそこで動きを止める。 今までこんな敵はいなかった。 どの紅世の徒の中にも。王の中にも。 『贄殿遮那の一撃を真正面から素手で受け止めた相手は』 (こ、こいつバカ!?このまま刀を引き抜いたら、) 考えるのとほぼ同時に身体が動く。刀を掴んだDIOの手を支点にして 一瞬の躊躇もなくシャナは素早く柄を引いた。 だが。刀身は動かなかった。 まるで『その場で凍りついたように』動きを止めていた。 「貧弱……」 DIOの美しい口唇に絶対零度も凍り付く冷酷な微笑が浮かぶ。 貴公子の仮面に罅が入り残虐な本性がその姿を垣間見せた。 「貧弱ゥゥッ!!」 いきなり周囲に白い膨大な量の水蒸気が暴発したボイラーのように巻き起こった。 大太刀『贄殿遮那』の刀身を掴んだDIOの手から肘の辺りまでが いつのまにか超低温に冷やされた鋼のような質感に変わっていた。 その腕から発せられる冷気に周囲の全てが凍り付く。 大気が凍り大地が凍り、贄殿遮那が凍った。封絶すら凍った。 「こ、凍る!?」 冷気が刀身を伝達して柄を握るシャナの手にまで侵蝕してくる。 「『気化冷凍法』。使うのは実に100年振りだ。 『波紋使い』以外に使うこともないだろうと思っていたが」 DIOは渦巻く冷気よりも冷たい微笑を浮かべてシャナの灼眼をみつめる。 冷気が柄を越えシャナの腕にまで達し熱疲労でその皮膚が引き裂かれる瞬間、 「ムゥンッ!」 胸元のペンダントを中心にして巻き起こった柔らかな炎が 一瞬でシャナの身体を包み込んだ。冷気で柄に張り付いた皮膚を、 アラストールが『浄化の炎』で解き剥がす。 「!」 アラストールに意識がそれたDIOの手から刀身を引き抜くと、 シャナは腕の温度の上がった部分を足場にし身軽に宙返りをして距離を取った。 「ありがと。アラストール」 水滴に濡れた手を黒衣で拭い、同じく水で濡れた大刀を 構えなおしながら短くシャナは言う。 「今のが彼奴の身体を流れる幽血の一端か。油断するな。 まだどんな力を隠し持っているのか予測がつかん」 「解ってる」 シャナは短く言うと刀身に付いた水滴を一振りで全て叩き落とした。 「……ククク、100年も眠っていたので忘れていたよ。 己の力を存分に開放する事の出来るこの得も言われぬ充足感。 久しく戦いから離れていたので血が滾るというやつか?フフフ…… 凍てついた私の血も君の炎に炙られてどうやら融け始めたようだ」 DIOはその悪の華と呼ぶに相応しい美貌に邪悪な微笑を浮かべる。 「もっとくべてくれ。私の凍てついたこの心に。君の炎を。君の熱を」 そう言うとDIOは超低温の冷気に覆われた両手を前に差し出し、 緩やかに構えを執る。 その構えは華麗にて美しくそして流麗な力強さを併せ持っていた。 そしてそれに劣らぬ畏怖も。 それはシャナの両手に握られている贄殿遮那と全く同じ戦慄の美。 否、威圧感だけならそれを上回った。 「さあ!手合わせ願おうかッ!!」 そう叫ぶとDIOはいきなりアスファルトが陥没するほど 地面を強く蹴りつけ、一瞬でシャナの眼前に迫った。 「UUUUUUURYAAAAAAAAッッ!!」 周囲のガラスに罅が走るような奇声を上げながら シャナの身体に向け凍った掌で貫き手の連打を繰り出してくる。 着痩せして見えるその身体からは想像もつかない、 途轍もない怪力の籠もった強い撃ち込みだった。 だが砕く事を目的とした動作ではない、 明らかに掴む事を念頭においた撃ち方だ。 どこでもいいからシャナの身体の一部を掴み、 先程の冷気で全身を凍りつかせる為に。 「っくう!」 素早く複雑な軌道を描く精密な足捌きで身体を高速で反転させながら DIOの暴風のような撃ち込みをかわすシャナ。 だが、同時に舞い上がる黒衣の裾にまで気を配らなければならないので 避けづらい事この上ない。 「フハハハハハハハハ!!どうした!どうしたぁ!! 自慢の炎は出さんのかッ!逃げてばかりでは永遠に私には勝てんぞッ! もっと私を楽しませろッ! UREEYYYYYYYYYYYYYYYーーーーーッッ!!」 更にDIOの心理状態が微塵も読めないので次の攻撃が全く予測出来なかった。 紳士然としていたかと思うといきなり何の脈絡もなく狂戦士のような風貌に変わる。 こんな異常な心理を持つタイプには今まで遭遇した事はない。 「こ、この!誰が逃げてなんか!」 負けず嫌いの性格故に思わず声が口をついて出るが、 確かにDIOの言うとおりだった。でも攻撃は出来ない。 どんなに鋭い斬撃だったとしてもこの男は躊躇せずにまた それ掴んでそこから冷気を送り込んでくるだろう。 『浄化の炎』があるにはあるが同じ手が二度通用するとは思えない。 それに次は恐らく胸元のアラストールの方が先に凍らされる。 しかし今のままだと防戦一方なので永遠に勝機は訪れない。 時間を置けば置くほど回避によって神経がどんどん摩耗していき 最終的には僅かに生まれた隙に全連撃を一気に捻じ込まれる。 (それなら……) 決意の光が灼眼が煌めく。 (『遅かれ早かれ擦り切れるなら!』) 「はああぁっ!!」 鋭い猛りがシャナから上がる。 過負荷により神経の電気伝達がショートし目の中で火花が弾けた。 だがその甲斐はあった。 贄殿遮那の刀身が渦巻く紅蓮の炎で覆われていた。 火炎が刀身を焼き焦がし発する熱気が周囲の冷気を全て弾き飛ばす。 すぐさまに横薙ぎの一閃がDIOに向かって放たれた。 ガギュンッ!!と鋼鉄の城塞に灼熱の破城鎚でも撃ち込んだかのような 異様な音と共に重い手応えが柄を握るシャナの手に跳ね返ってくる。 「美しい……これが君の生み出す炎か。マジシャンズ!」 胴体に向けて放たれた炎刃の一撃を先程同様凍った掌で受け止めた DIOは炎に照らされた微笑でもって応える。 その手の中で冷気と熱気が音を立てながら互いに弾けた。 炎と氷の混ざり合った靄がDIOの内なる火勢を更に煽る。 かなり無理をしたがシャナのやった事は功を奏した。 受け止められはしたが今度は冷気が身体に廻ってこない。 これでようやくこちらからも攻撃出来る。 「おまえを討滅する!幽血の統世王!!」 シャナは凛々しく激しい瞳で眼前のDIOを射抜いた。 湧き上がる熱気と共にその全身が火の粉を撒く。 DIOは精神の高揚で牙が飛び出した口元に笑みを浮かべると 大刀を掴んだ手を振り払った。 怪力によって飛ばされたシャナは空中で体を返し軽やかに着地する。 「やあああァァァッッッてみろおおおォォォーーーーー!! 青ちょびた面のガキがあああァァァーーーーッッッ!!」 理性の仮面が完全に破壊されこの世のどんな暗黒よりもドス黒い 本性を剥き出しにした邪悪の化身、DIOは、 凍りついた両腕を広げ殺戮の歓喜に身を震わせながらシャナに向かって叫んだ。
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御崎市で平凡な日常を過ごしていた高校生、坂井悠二。 彼は“燐子”と呼ばれる怪物の出現と共に非日常の世界に巻き込まれ、名も無き少女と出逢った。 その名も無き少女は、人知れず人を喰らう異世界人“紅世の徒”を探し討滅するフレイムへイズの一人。 彼女は、悠二が自覚のないまま死んでいることを告げ、訳あって“紅世の徒”から狙われるようになった悠二を護る様になる。 そんな彼女に悠二は、彼女の刀「贄殿遮那(にえとののしゃな)」から「シャナ」という名前をつける。 2人は反発しながらも、少しずつ惹かれ合っていく。 世界観 本作では現実と同様の性質をもつ「この世」と架空の異世界“紅世”(ぐぜ)とが設定され、物語は日本の架空の都市である御崎市を中心に展開する。 “紅世”から渡り来た住人“紅世の徒”は、人知れずこの世に存在するための根源的なエネルギー“存在の力”を人間から奪う(喰らう)。喰われた人間は元々いなかった事になり、人間を喰らうことで得た“存在の力”を使って“徒”は本来起こるはずのない出来事を引き起こす(自在式・自在法の利用)。 “徒”の中でも強い力を持つ“王”たちの一部は、こうして生まれた存在の欠落や矛盾が世界のバランスを崩し、いつか決定的な破滅が起きることを危惧して人間と契約を交わし、フレイムヘイズと呼ばれる異能力者を生み出すことで、人を喰らう“徒”を討ち、この世と“紅世”のバランスを保とうと、戦いを繰り広げている。 アニメ 独立UHF放送局の『アニメコンプレックスNIGHT』枠内で2002年10月-3月にまで、放送され、初映画化された。全24話。 そしてテレビアニメの第2期シリーズ『灼眼のシャナII (Second) 』が、同年10月から2008年3月までMBS・TBS系列で放送された。 現在も、深夜番組として、ケーブルテレビで放送中 灼眼のシャナへ戻る