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【作品名】灼眼のシャナ 【ジャンル】漫画 【名前】シャナ(漫画) 【属性】フレイムヘイズ(人外) 【大きさ】少女並 【攻撃力】贄殿遮那:大太刀装備。 炎を放ち、20m程度の植物を粉々に出来る。一瞬で数十m先まで届く。 地面を斬るだけでコンクリの床に2m程度のヒビを入れた。 蹴りで2m程度の生物を10m以上吹っ飛ばす。 【防御力】十数mの爆破に耐える。 【素早さ】常人には何をしたか全く分からない速度で、 3人の人間を斬る事が可能なソラト(3人は一気に斬られた訳ではなく胴体や両足等1人1人別の部分を斬った)と、 互角な戦闘が可能なマージョリー相手に、互角以上の戦闘が可能。 一瞬で数十mの移動及び跳躍が可能。 【特殊能力】 飛行可能。 封絶: 周囲との繋がりを絶ち、因果孤立空間を作り上げる。 紅世(異世界)に関わるモノ以外のあらゆる存在は停止する。思考も不可能。 封絶外から内部を認識するのは不可能。即発動可。有効距離半径数十m程度。 【長所】封絶が強い。 【短所】原作のシャナの方が遥かに強い。 参戦vol.118 vol.118 366格無しさん2017/12/28(木) 15 31 48.24ID g3ZqPdwN 367 シャナ(漫画)考察 反応は0.166秒くらいか 達人思考発動までは封絶からのフルボッコで勝てる ~○メイゼル・アリューシャ 瞬殺 ×久遠 雷撃で感電死 ○天ケ瀬大樹 直接殴り殺して勝ち ○草壁遼一 封絶から滅多切り勝ち ○ホオク 同上 ×草壁健一郎 霊能力負け ×沢渡真琴 奇跡負け ○斬山斬十郎 耐えて封絶からのフルボッコ勝ち ×ハウゼ 咆哮負け ×アッシュ 超振動負け ○沢渡憂作 耐えて封絶ry ○志村時生 封絶からのフルボッコ勝ち ○久世響希 ギリギリ勝てる ×皆人&結 祝詞負け 絶無VS霊峰… ×キャリー・ホワイト いくら熱耐性があっても体内発火は無理 ○しんちゃん 蹴っ飛ばされてぶっ飛んで、地面に叩き付けられる前に封絶発動して勝ち ○ガリアノス 耐えて封ry ○護塚御月 妖魔…じゃないよね、勝てる ×レイナ 真っ向からぶった切られ負け 虚無VS惑星… ×本郷猛 ライダーキック負け ×麦野ちか 酔拳負け 平原VS山脈… 流浪の戦士レイナ(漫画)>シャナ(漫画)>護塚御月 いやー美女三人が並ぶとは目のお正月だねー(一部から目を反らしつつ)
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568 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 30 38 ID ??? 腕の良い庭師の職人の手が行き届いた池泉回遊式庭園。 琳とした空間に鹿威しの澄んだ音が響き渡る。 その池にかけられた橋の向こうで淑女が可憐な鼻歌を奏でていた。 「カモン♪ベビィ♪ドゥーザ♪ロコモーション♪」 皺一つ無い真珠のような艶やかな肌に、母性に満ちあふれた女神のような美貌。ふくよかな体つきのハリウッド女優顔負けのスタイル。 客観的にはとても195㎝の身長を誇る、長身の美丈夫の息子がいる一児の母には見えない。 「あ!」 その淑女、空条・ホリィ・ジョースターは脳裏に走った直感に思わず床の間の机の上に置かれた写真立てへ視線を向けていた。 その中に映った最愛の息子は口元に穏やかな微笑を浮かべ、凛々しい視線をこちらに向けている。 「今、承太郎ったら学校で私のこと考えてる……♪今……息子と心が通じ合った感覚があったわ♪」 そう言うとホリィは家事の手を一時休め、写真立てを大事そうに胸の中に掻き抱く。 「考えてねーよ」 「学校行ってないものね」 「残念だったな奥方」 いきなり上がった三者(?)三様の声に 「きゃあああああああ!」 と淑女は驚愕の叫びを上げた。 写真立ての中とはうって変わって最愛の息子は仏頂面でこちらを見ている。 その肩の上にはコートのような学生服を着た全身血塗れの少年が担ぎ上げられていた。 「じょ……承太郎……それにシャナちゃん……が……学校はどうしたの?そ……それにその、その人は!?血……血が滴っているわ。ま……まさか……あ……あなたがやったの?」 その質問には答えず承太郎はホリィに背を向ける。 「テメーには関係のないことだ。オレはジジイを探している……広い屋敷は探すのに苦労するぜ。茶室か?」 「え、ええ。そうだと思うわ」 確認すると承太郎は血だらけの少年を担いだまま檜の床を踏み鳴らして行ってしまった。 569 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 35 09 ID ??? ホリィはその背中を心配そうにみつめる。だからシャナの視線に気づいたのはその後だった。 「な、なぁに?シャナちゃん?」 幼い外見に不相応な凛々しい顔立ちと視線だが、何分長身のホリィからすると小さいのでどうしても子供に話しかけるような口調になってしまう。 何よりその瞳に宿る色が昔の承太郎を思い起こさせたせいかもしれない。 「ごめんなさいね。新しい学校だもの。一人じゃ心細いわよね。学校には私の方から連絡を入れておくわ。今日は家でゆっくりしていて。 お昼は何が食べたい?何なら昨日みたいに外に行きましょうか?パパと承太郎も誘ってね」 ホリィの言葉を聞くだけ聞くとシャナはおもむろに口を開いた。 「他人の家族の事に口出しするのは趣味じゃないんだけど」 とまず前置きをし 「ホリィはこの件に関わらない方が良い。冷たい言い方になるけど出来る事ないと思うから。信じられないかもしれないけど、あの血だらけのヤツは私と承太郎を「殺し」にきたの。 承太郎やジョセフと同じ能力を持った人間。だから死にたくなかったら何も知ろうとしないことが得策よ。アイツもそれで何も言わなかったんだと思うし」 ホリィは黙ってシャナを見つめていた。「殺す」という言葉に驚かなかったと言えば嘘になるが目の前の圧倒的な存在感の小柄な少女は、 彼女なりに自分の事を気づかってくれているらしい。不器用だがそのやり方が承太郎と似ていたので思わず口元に優しい笑みが浮かんだ。 「ええ。解ってるわ。あの子は本当はとても優しい子だもの。今回の事だって何か理由があっての事なのよ。母親の私が信じてあげなきゃね」 「優しい、ね」 何故かシャナはその言葉に素直に同意出来ない。脳裏に見ず知らずの女生徒の為に全身血塗れになりながら花京院と闘った承太郎の姿が浮かんだ。 苦痛に耐えながら女生徒のために存在の力を削ぎ取っている姿も。 血糊はトーチで消したので今愛用の制服は新品同然になってはいるが、その傷痕はまだ生々しく残っている筈だ。 570 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 37 42 ID ??? 「おい」 「はい?」 中庭に設置された花壇を挟んで振り返った承太郎が鋭い眼光でホリィを見る。 「今朝はあまり顔色がよくねーぜ。元気か?」 「…………」 その言葉にホリィはまるで初恋の少女のように顔を赤らめて胸に両手を当てると、 「イエ~~イ♪ファイン!サンキュー!」 と笑顔で可愛く手の平を広げたピースサインで応えた。 「フン」 鼻を鳴らして再び背を向ける承太郎を後目に、 「ほらね♪」 と、ホリィは笑顔でシャナに向き直る。 「まぁ、そういう事にしておくわ」 「我は奥方の賢明な育て方の賜だと」 短くホリィに答えると同時に何故か上がったアラストールの声にシャナがペンダントに視線を向ける。 「あ、いや、うむ」 少し熱くなったペンダントの中で紅世の王、天壌の劫火は咳払いをして押し黙った。 「オイ!シャナ!モタモタしてんじゃあねー!後で文句垂れても聞いてやらねーぞ!」 遠くになった承太郎が振り向いて叫ぶ。 「うるさいうるさいうるさい。誰の所為だと思ってるの!」 シャナは床を鳴らして踏み切ると軽々と中庭を飛び越えた。 571 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 41 52 ID ??? 「だめだな、これは」 ジョセフは茶室の畳の上に寝かされた花京院を見下ろした。 「手遅れじゃ。この少年はもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」 「死ぬ」という言葉に承太郎の視線が尖った。 「承太郎……お前のせいではない……見ろ……この少年がなぜDIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか……?その理由が……」 ジョセフはいきなり花京院の前髪を手で捲り上げた。 「ここにあるッ!」 花京院の額の表面に異様な物体が蠢いていた。 弾ける寸前の木の実のような形をしているが、まるで生物のように脈動を繰り返している。 その触手らしき部分が花京院の額に埋め込まれ一部は皮膚と癒着していた。 「なんだ?この動いているクモみてーな肉片は?」 「それは彼の者の細胞からなる『肉の芽』、この小僧の脳にまで達している。 この『肉の芽』は生物の精神に影響を与えるよう脳に打ち込まれているのだ」 承太郎の問いにアラストールが答える。 「つまり「コレ」はコイツを思い通りに操る装置なのよ」 シャナが腕組みをしながら言った。 「常に脳に刺激を与え続け、自分を心酔し続けるように精神操作を行ってるの。コイツの養分を吸い取りながら動いてるから殆ど永久機関と変わらないわね。 時間をおけばおく程効果は倍増していって、最終的には自分の命令を麻薬のように追い求める奴隷の一丁上がりってわけ」 「手術で摘出しな」 シャナの説明に承太郎が短く簡潔に応える。 「それが出来たら苦労しないわ。これは脳の中の一番デリケートな部分に打ち込まれてる。 摘出する時ほんの僅かでも触手がブレたら脳は永遠にクラッシュしたまま再起動しなくなるわよ。 外科医は封絶の中じゃ動けないしね。そこまで計算して『アイツ』はこれを生み出したのよ」 「アイツ?」 思わぬシャナの言葉に承太郎の瞳が訝しく尖る。 572 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 46 24 ID ??? 「どういう事だ?まるで会ったみてぇな口振りだな。あの男……『DIO』のヤローによ」 承太郎の言葉にシャナは俯いて言葉を閉ざす。 「承太郎よ……こんな事があった」 シャナの代わりにアラストールが語り始めた。 「四ヶ月ほど前……我らは北米の地で、彼の者『幽血の統世王』と邂逅したのだ」 「何だと?」 アラストールの言葉に承太郎の視線がますます尖った。 追憶の欠片が脳裏に甦る。 シャナは思い出していた。 自分の受けた「屈辱」を。 それはニューヨークのスラム街で犯罪者の魂を好んで喰らう 紅世の徒を討滅した帰りの事だった。 売店でクレープを買い目元と口元を綻ばせながらジョースター邸への 帰路についていたシャナの前にその男はいきなり現れた。 まるで定められた運命であるかの如く。 人気のない路地、煌々と点る夜の街灯の下にその男は背を持たれ 両腕を組んで静かに立っていた。 心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し。黄金色の美しい頭髪。 透き通るような白い肌。男とは思えないような妖しい色気が首筋に塗られた 香油によって増幅されている。華美な装飾はないが良質な絹で仕立てられた 古代ペルシアの王族がその身に纏うような衣服を着ていた。 シャナはすぐに解った。すでにジョセフと知り合っていたので こいつが大西洋から甦った男、DIOだと。 月影に反照し官能的に光る口唇をおもむろに開くと男は静かに シャナに向かって話し始めた。 573 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 51 35 ID ??? 「古き友を訪ねてこの地に来たが……まさか君と逢えるとはな…… 初めまして『紅の魔術師(マジシャンズ・レッド)』……いや…… 『炎髪灼眼の討ち手』と言ったほうが良いかな……?」 その男を本当に恐ろしいと思ったのはその時だった。 その男が話しかけてくる言葉は心が安らいだ。 魔薬のように危険な甘さがあった。しかしだからこそ恐ろしかった。 「全く驚いたよ……私の配下の『幽波紋(スタンド)使い』達を始末した 魔術師が、まさか本当にこんな可愛らしいお嬢さんだったとは……」 DIOの言葉が終わる前にシャナは足裏を爆発させて跳んでいた。 刹那に身を覆った黒衣の内側から抜き出した大太刀、 贄殿遮那が空気を切り裂く空中で髪と瞳が炎髪灼眼に変わる。 「でやぁッ!」 DIOは至近距離で唸りを上げながら迫る大太刀の一閃を余裕の表情でかわす。 「性急な事だ……」 滑りながら道路に着地したシャナの黒衣の裾が舞い上がり、 真紅の髪が火の粉を撒いた。 「こいつ……『こいつがッ』!今!目の前にいるこの男がッ!」 その男はシャナが想像していたよりもずっと美しい風貌をしていた。 だが、その男の顔の裏側はどんな罪人よりもドス黒く呪われていた。 その瞳の奥はこの世のありとあらゆる邪悪を焼きつけ、 王族のように艶めかしい指は数え切れないほどの人の死と運命を弄んできた。 何年も。何年も…… 何人も。何人も…… そしてその存在が世界の歪みを増大させている。 574 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 55 46 ID ??? 「私の目の前にいるこの男がッ!」 「馬鹿な……」 胸元でアラストールも動揺を押し隠せないらしい。 多くの紅世の徒、例え王であったとしても自分の存在は なるべく隠そうとするのが普通だ。自由に好き勝手に行動を続けていれば すぐに自分達フレイムヘイズに居場所を察知され、残らず討滅されてしまうからだ。 『封絶』も『トーチ』もその事を回避する為に生まれた術。なのに目の前のこの男は、 自分を追っている天敵の前にあっさりとその身を現した。 「この者が……幽血の……統世王……!」 「DIOッ!!」 シャナは大刀を両手に構え、大地に屹立した。 燃え上がる灼眼は鋭くDIOを射抜いている。 「封・絶!」 その小さな口唇から勇ましい猛りが上がると共に、 シャナの足下から火線が走り道路の上に奇怪な文字列からなる紋章が描かれた。 シャナとDIOを中心として紅いドーム状の陽炎が形成される。 「『封絶』……因果孤立空間か。なかなか面白い能力を持っているね? 君達『紅世の徒』は。ひとつ……それを私に見せてくれるとうれしいのだが」 穏やかな声に心臓の凍る思いがした。 しかし同時に心の一部分がその声に強く惹かれ形を蕩かす。 刹那とはいえ心を魅入られた自分自身に凄まじい、 まさに燃えるような怒りを感じ、風に靡く黒衣にそれを纏わせた。 (この男が全ての元凶!多くの王を下僕に誣いた全ての根元!) 燃え上がる使命感にDIOを見つめる瞳が灼熱の煌めきを増し、 髪から鳳凰の羽ばたきのように火の粉が舞い上がる。 (討滅!討滅する!!) 575 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 02 06 ID ??? 足元のコンクリートを鋭く踏み切り、紅い弾丸のように飛び出したシャナは DIOの首筋に向けて空間に残像が映るほど高速の袈裟斬りを繰り出した。 周囲の空気を切り裂きながら星形の痣が刻まれた首筋に迫る白銀の刃。 意外。 DIOはそれをあっさりと右手で受け止めた。 戦慄の美で光る刀身が手の平の肉を音もなく切り裂き、骨に食い込む。 「っ!?」 驚愕。 全身が燃えるように猛っていてもシャナの頭の中はクールに冷め切っていた。 まさか『手で』受け取めるとは思わなかった。当然避けるものと考えていた。 その後の攻防の応酬果てに必殺の一撃を頭蓋に叩き込もうと 脳裏にもう数十手先の動きまで構築していたというのに最初の一撃で 全て計算が狂った。 速度はあったが様子見程度の撃ち込みだったので 手は切断されず中程まで食い込み刃はそこで動きを止める。 今までこんな敵はいなかった。 どの紅世の徒の中にも。王の中にも。 『贄殿遮那の一撃を真正面から素手で受け止めた相手は』 (こ、こいつバカ!?このまま刀を引き抜いたら、) 考えるのとほぼ同時に身体が動く。刀を掴んだDIOの手を支点にして 一瞬の躊躇もなくシャナは素早く柄を引いた。 だが。刀身は動かなかった。 まるで『その場で凍りついたように』動きを止めていた。 「貧弱……」 DIOの美しい口唇に絶対零度も凍り付く冷酷な微笑が浮かぶ。 貴公子の仮面に罅が入り残虐な本性がその姿を垣間見せた。 「貧弱ゥゥッ!!」 いきなり周囲に白い膨大な量の水蒸気が暴発したボイラーのように巻き起こった。 576 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 04 54 ID ??? 大太刀『贄殿遮那』の刀身を掴んだDIOの手から肘の辺りまでが いつのまにか超低温に冷やされた鋼のような質感に変わっていた。 その腕から発せられる冷気に周囲の全てが凍り付く。 大気が凍り大地が凍り、贄殿遮那が凍った。封絶すら凍った。 「こ、凍る!?」 冷気が刀身を伝達して柄を握るシャナの手にまで侵蝕してくる。 「『気化冷凍法』。使うのは実に100年振りだ。 『波紋使い』以外に使うこともないだろうと思っていたが」 DIOは渦巻く冷気よりも冷たい微笑を浮かべてシャナの灼眼をみつめる。 冷気が柄を越えシャナの腕にまで達し熱疲労でその皮膚が引き裂かれる瞬間、 「ムゥンッ!」 胸元のペンダントを中心にして巻き起こった柔らかな炎が 一瞬でシャナの身体を包み込んだ。冷気で柄に張り付いた皮膚を、 アラストールが『浄化の炎』で解き剥がす。 「!」 アラストールに意識がそれたDIOの手から刀身を引き抜くと、 シャナは腕の温度の上がった部分を足場にし身軽に宙返りをして距離を取った。 「ありがと。アラストール」 水滴に濡れた手を黒衣で拭い、同じく水で濡れた大刀を 構えなおしながら短くシャナは言う。 「今のが彼奴の身体を流れる幽血の一端か。油断するな。 まだどんな力を隠し持っているのか予測がつかん」 「解ってる」 シャナは短く言うと刀身に付いた水滴を一振りで全て叩き落とした。 577 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 09 19 ID ??? 「……ククク、100年も眠っていたので忘れていたよ。 己の力を存分に開放する事の出来るこの得も言われぬ充足感。 久しく戦いから離れていたので血が滾るというやつか?フフフ…… 凍てついた私の血も君の炎に炙られてどうやら融け始めたようだ」 DIOはその悪の華と呼ぶに相応しい美貌に邪悪な微笑を浮かべる。 「もっとくべてくれ。私の凍てついたこの心に。君の炎を。君の熱を」 そう言うとDIOは超低温の冷気に覆われた両手を前に差し出し、 緩やかに構えを執る。 その構えは華麗にて美しくそして流麗な力強さを併せ持っていた。 そしてそれに劣らぬ畏怖も。 それはシャナの両手に握られている贄殿遮那と全く同じ戦慄の美。 否、威圧感だけならそれを上回った。 「さあ!手合わせ願おうかッ!!」 そう叫ぶとDIOはいきなりアスファルトが陥没するほど 地面を強く蹴りつけ、一瞬でシャナの眼前に迫った。 「UUUUUUURYAAAAAAAAッッ!!」 周囲のガラスに罅が走るような奇声を上げながら シャナの身体に向け凍った掌で貫き手の連打を繰り出してくる。 着痩せして見えるその身体からは想像もつかない、 途轍もない怪力の籠もった強い撃ち込みだった。 だが砕く事を目的とした動作ではない、 明らかに掴む事を念頭においた撃ち方だ。 どこでもいいからシャナの身体の一部を掴み、 先程の冷気で全身を凍りつかせる為に。 578 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 14 02 ID ??? 「っくう!」 素早く複雑な軌道を描く精密な足捌きで身体を高速で反転させながら DIOの暴風のような撃ち込みをかわすシャナ。 だが、同時に舞い上がる黒衣の裾にまで気を配らなければならないので 避けづらい事この上ない。 「フハハハハハハハハ!!どうした!どうしたぁ!! 自慢の炎は出さんのかッ!逃げてばかりでは永遠に私には勝てんぞッ! もっと私を楽しませろッ! UREEYYYYYYYYYYYYYYYーーーーーッッ!!」 更にDIOの心理状態が微塵も読めないので次の攻撃が全く予測出来なかった。 紳士然としていたかと思うといきなり何の脈絡もなく狂戦士のような風貌に変わる。 こんな異常な心理を持つタイプには今まで遭遇した事はない。 「こ、この!誰が逃げてなんか!」 負けず嫌いの性格故に思わず声が口をついて出るが、 確かにDIOの言うとおりだった。でも攻撃は出来ない。 どんなに鋭い斬撃だったとしてもこの男は躊躇せずにまた それ掴んでそこから冷気を送り込んでくるだろう。 『浄化の炎』があるにはあるが同じ手が二度通用するとは思えない。 それに次は恐らく胸元のアラストールの方が先に凍らされる。 しかし今のままだと防戦一方なので永遠に勝機は訪れない。 時間を置けば置くほど回避によって神経がどんどん摩耗していき 最終的には僅かに生まれた隙に全連撃を一気に捻じ込まれる。 (それなら……) 決意の光が灼眼が煌めく。 (『遅かれ早かれ擦り切れるなら!』) 579 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 18 11 ID ??? 「はああぁっ!!」 鋭い猛りがシャナから上がる。 過負荷により神経の電気伝達がショートし目の中で火花が弾けた。 だがその甲斐はあった。 贄殿遮那の刀身が渦巻く紅蓮の炎で覆われていた。 火炎が刀身を焼き焦がし発する熱気が周囲の冷気を全て弾き飛ばす。 すぐさまに横薙ぎの一閃がDIOに向かって放たれた。 ガギュンッ!!と鋼鉄の城塞に灼熱の破城鎚でも撃ち込んだかのような 異様な音と共に重い手応えが柄を握るシャナの手に跳ね返ってくる。 「美しい……これが君の生み出す炎か。マジシャンズ!」 胴体に向けて放たれた炎刃の一撃を先程同様凍った掌で受け止めた DIOは炎に照らされた微笑でもって応える。 その手の中で冷気と熱気が音を立てながら互いに弾けた。 炎と氷の混ざり合った靄がDIOの内なる火勢を更に煽る。 かなり無理をしたがシャナのやった事は功を奏した。 受け止められはしたが今度は冷気が身体に廻ってこない。 これでようやくこちらからも攻撃出来る。 「おまえを討滅する!幽血の統世王!!」 シャナは凛々しく激しい瞳で眼前のDIOを射抜いた。 湧き上がる熱気と共にその全身が火の粉を撒く。 DIOは精神の高揚で牙が飛び出した口元に笑みを浮かべると 大刀を掴んだ手を振り払った。 怪力によって飛ばされたシャナは空中で体を返し軽やかに着地する。 「やあああァァァッッッてみろおおおォォォーーーーー!! 青ちょびた面のガキがあああァァァーーーーッッッ!!」 理性の仮面が完全に破壊されこの世のどんな暗黒よりもドス黒い 本性を剥き出しにした邪悪の化身、DIOは、 凍りついた両腕を広げ殺戮の歓喜に身を震わせながらシャナに向かって叫んだ。
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【種別】 宝具 【初出】 V巻 【解説】 銀でできた水盤型の宝具。“紅世の徒”を、本来必要な“存在の力”を消耗させずに、この世に留め置くことができる。ただし“徒”は水盤の上からは動けず、外へと力を振るうこともできない。 かつて『天道宮』を建造した“髄の楼閣”ガヴィダが、ともにその作業に当たった人間の同志たちと永の語らいを持つために作った。『星黎殿』における『ゲーヒンノム』と同様、『秘匿の聖室』を含めた『天道宮』の制御機能も付与されていた。 彼の亡き後、天罰神“天壌の劫火”アラストールが『天道宮』ごとこれを受け継ぎ、新たな『炎髪灼眼の討ち手』の養成に当たっていた。 『天道宮』が[仮装舞踏会]のウィネが所持していた『非常手段』によって崩壊した際に、共に破壊されたと思われていたが、数年後に[仮装舞踏会]との決戦のためにヴィルヘルミナが再訪した際には自動修復が完了していた。『カイナ』それ自体に修復機能があるのか、修復機能を持つ『天道宮』の一部であったためかは詳細不明。 【由来・元ネタ】 名前の由来は、ダンテの『神曲』に登場する地獄界の第九圏「コキュートス」を構成する四つの円の一であるカイーナ(Caina)のことだろうか。 【コメント】 ☆アニメ版から登場・使用されていた。 ☆『天道宮』はアラストールが動かしているような描写も以前にあった。 ☆大太刀型宝具『贄殿遮那』の製作も相槌に“王”を据えたとあったし、案外人間と“徒”の交流はよくあったことだった。 ☆制作者であるガヴィダがこれを利用しこの世にとどまり、人間達(ドナートを含む)と芸術に関して熱き言葉を交わしていた風景が目に浮かぶな。 ☆ラミー師匠といい、こういう因縁や過去の出来事が散りばめてあると読者的にはいろいろ想像できて楽しいな。 ☆これ一人乗りかな? ☆↑一人乗りというか一人乗れるくらいの大きさに“徒”がなるんじゃないかな?じゃなきゃアラストールが実物(魔神)大の大きさで乗ってることになってしまうから・・・。小さい“徒”は知らんがな。 ☆これってトーチに組み込む形で使えたのかな。 ☆創造神“祭礼の蛇”伏羲がこの宝具に座っている姿を見たかったな。 ☆[宝石の一味]のコヨーテやフックスやトンサーイがこの宝具に絡んでいたら面白そうだったのにな。
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【作品名】灼眼のシャナ 【ジャンル】漫画 【名前】シャナ(漫画) 【属性】フレイムヘイズ(人外) 【大きさ】少女並 【攻撃力】贄殿遮那:大太刀装備。 炎を放ち、20m程度の植物を粉々に出来る。一瞬で数十m先まで届く。 地面を斬るだけでコンクリの床に2m程度のヒビを入れた。 蹴りで2m程度の生物を10m以上吹っ飛ばす。 【防御力】十数mの爆破に耐える。 【素早さ】常人には何をしたか全く分からない速度で、 3人の人間を斬る事が可能なソラト(3人は一気に斬られた訳ではなく胴体や両足等1人1人別の部分を斬った)と、 互角な戦闘が可能なマージョリー相手に、互角以上の戦闘が可能。 一瞬で数十mの移動及び跳躍が可能。 【特殊能力】 飛行可能。 封絶: 周囲との繋がりを絶ち、因果孤立空間を作り上げる。 紅世(異世界)に関わるモノ以外のあらゆる存在は停止する。思考も不可能。 封絶外から内部を認識するのは不可能。即発動可。有効距離半径数十m程度。 【長所】封絶が強い。 【短所】原作のシャナの方が遥かに強い。 参戦vol.118 vol.118 366格無しさん2017/12/28(木) 15 31 48.24ID g3ZqPdwN 367 シャナ(漫画)考察 反応は0.166秒くらいか 達人思考発動までは封絶からのフルボッコで勝てる ~○メイゼル・アリューシャ 瞬殺 ×久遠 雷撃で感電死 ○天ケ瀬大樹 直接殴り殺して勝ち ○草壁遼一 封絶から滅多切り勝ち ○ホオク 同上 ×草壁健一郎 霊能力負け ×沢渡真琴 奇跡負け ○斬山斬十郎 耐えて封絶からのフルボッコ勝ち ×ハウゼ 咆哮負け ×アッシュ 超振動負け ○沢渡憂作 耐えて封絶ry ○志村時生 封絶からのフルボッコ勝ち ○久世響希 ギリギリ勝てる ×皆人&結 祝詞負け 絶無VS霊峰… ×キャリー・ホワイト いくら熱耐性があっても体内発火は無理 ○しんちゃん 蹴っ飛ばされてぶっ飛んで、地面に叩き付けられる前に封絶発動して勝ち ○ガリアノス 耐えて封ry ○護塚御月 妖魔…じゃないよね、勝てる ×レイナ 真っ向からぶった切られ負け 虚無VS惑星… ×本郷猛 ライダーキック負け ×麦野ちか 酔拳負け 平原VS山脈… 流浪の戦士レイナ(漫画)>シャナ(漫画)>護塚御月 いやー美女三人が並ぶとは目のお正月だねー(一部から目を反らしつつ)
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『邪裂爆霊傀儡殺(スレイヴィング・エクス・マリオネーション)ッッ!!!!』 何よりも邪悪な笑みをその耽美的な口唇に浮かべ、 白い存在の闘気(オーラ)を全身から迸らせながら魔性のハンドベル ”ダンスパーティー”を手にした両腕で鋭く十字型の構えを執る 紅世の王”狩人”フリアグネ。 その動作に呼応して奏でられる、澄んだ鐘の音。 その神聖な音色は、何よりも残虐な破壊の大惨劇を学園の屋上で引き起こした。 ヴァッッッッグオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッッ!!!! 途轍もない破壊力の大爆裂音が屋上、否、学園全体に轟いた。 巻き起こった破壊衝撃破で屋上のコンクリートの石版が夥しい数で まとめて捲れ上がって吹き飛び、更に周囲を囲っていた網の目状の青いフェンスが 爆風で歪んで押し倒される。 その凄まじいまでの破壊惨劇の中心部。 垂直ドーム状で激しく天空へと駆け上っていく白い火柱の真柱部に彼女はいた。 そして、渦巻く白炎の嵐の中でその躰を灼かれながら、 少女の瞳はもう輝きを無くしていた。 その精神活動すらも、完全に停止していた。 最早己の躰を灼き焦がす苦悶すらもどうでもよかった。 『本当にどうでもよかった』 ただ、一つの、残酷な事実だけが少女の胸中を支配していた。 ”終わった” と。 そして大爆裂の破壊衝撃破によってフリアグネが屹立する給水塔以外の 全てが破壊され、蹂躙の限りを尽くされて瓦礫の海と化した屋上の残骸の水面の上に シャナは激しい落下音と共に着弾した。 その小さな躰が着弾衝撃で一度大きくバウンドし、反動で砕けたコンクリートの 飛沫が巻き上がる。 もう、落下衝撃を分散する「体術」すらも使わなかった。 否、使えなかった。 白炎の焦熱によりボロボロに焼け焦げた黒衣とその中の真新しいセーラー服。 裾が引き千切れたスカートと爆炎でズタズタに引き裂かれた黒いニーソックス。 戦意を完全喪失し、まるで糸の切れた操り人形(マリオネット)のような表情の 少女の躰の上に自分の身と一緒に巻き上がったコンクリートの飛沫と土砂とが 豪雨のように降り注ぎその身を汚していく。 そんな中、少女の超高密度の灼硬の色彩の双眸、 ”真・灼眼” がゆっくりと 元の色彩に戻っていった。 しかし、その内に最早元の燃えるような灼熱の使命感も闘争心も微塵も存在せず、 無限の虚空のみがただそこに在るだけだった。 全ての望みを跡形もなく砕き尽くされた「絶望」の表情と共に。 その白磁のように清冽な素肌すらも、白炎の高熱で灼き焦がされたその無惨なる姿は、 普段の冷たい清水で磨かれた名刀のように鮮烈な少女の印象と引き較べてみれば、 まるで折れたまま戦場に打ち捨てられ、永い風雪に寂びて朽ち果てた剣を想わせた。 これ以上無いという位の完璧なタイミングとキレとスピードで 完全に極まった紅世の王”狩人”フリアグネの最大最強焔儀。 『邪裂爆霊傀儡殺(スレイヴィング・エクス・マリオネーション)』 その ”王” の真名に恥じない、途轍もない威力の爆炎儀だった。 その白い神聖な気に身を包んだ紅世の王が、自分が今まで立って給水塔から 瓦礫の海と化した屋上へと純白の長衣をフワリと揺らして静かに舞い降りる。 勝者の微笑をその耽美的な口唇に浮かべて。 種々の花々が調香された芳香を破壊の乱風に靡かせながら。 ゆっくりと、ゆっくりと、シャナに歩み寄る。 「ほう?5体満足で焼け残ったか?まぁ少々加減したからね。 咄嗟に「結界」を張ってくれたアラストールに精々感謝する事だな」 頭上から忌むべき男の声がする。 その全身から発せられる香水の香りがシャナの周囲に靡いていた。 「彼」のつけているモノとは全く対照的な香り。 ”キモチガワルイ” 種々の花々の高貴な香りも、今のシャナにはそう感じられた。 「まぁ腕でも脚でも焼き落ちてくれていれば、悲愴感が倍増して良かったかな? アァァァァハハハハハハハハハハハハ!!」 再び頭上で調律の狂った弦楽器のような声が聞こえる。 勝者の声。 そう。 自分は、敗者。 また、負けた。 しかも、最も憎むべき「アノ男」の奴隷に過ぎない者に。 『アノ男の存在に二度負けたも同然だ』 「貴様……!」 シャナの胸元のペンダント、紅世の王”天壌の劫火”アラストールは、 何よりも何よりも大切に育てた愛娘に等しい存在を惨たらしく蹂躙した 男に対し悔恨を滲ませた言葉で呟いた。 その言葉を意図的に無視したのか、或いは端から聞こえていなかったのか、 フリアグネは口元に笑みの余韻を浮かべたまま純白のシルクの手袋をはめた右手の拳、 その握り込んだ親指を勢いよく上に向けて弾いた。 ピィンッ。 手袋で弾いたとは想えないほど、澄んだ音色を響かせて、宙に舞った一枚の金貨。 その金貨は、回転運動を続けて廻りながら残像を残してどこまでも上がっていく。 次の刹那。 その残像に向けて手練の手捌きで真一文字に薙ぎ払ったフリアグネの手の中に、 煌めく金の残像がしなやかな鎖となって瞬現した。 ”狩人”フリアグネ。 この男もまた、シャナとは対極の領域に位置する同格、否、それ以上の存在の魔術師。 『白炎の魔導師(マジシャンズ・ホワイト)』 「君にはまだ死んでもらっては困るのだよ?」 ペルシャ猫のように瞳を細め、甘い口調と吐息でフリアグネは 問いかけるようにシャナにそう告げる。 「君とは戦闘の「相性」が実に良かった。無論、私自身にとっての話だが 君のような近接戦闘を得意とする「刀剣使い(ブレイダー)」に とって私のような「幻影暗殺者(インビジブル・ナイトレイダー)」は まさに「天敵」と言っての良い存在だからね。更に性格の「相性」も実に良かった」 そこでフリアグネは一度言葉を切り、純白の長衣を大仰な手捌きで緩やかに翻す。 「感情を露わにして戦う者はその戦闘殺傷能力こそ凄まじいまでのモノが あるが、同時にまたその「弱さ」をも剥き出しにする。 勢いに任せて戦い過ぎるあまりその動作は単調になり さらに我を失っている為に自分の身体の状態すらも満足に認識する事が出来ないんだ。 今、君が、身を以て知っている通りだよ」 フリアグネは涼やかな声で先刻のシャナの敗因を静かに反芻する。 シャナの心の疵を、さらに切り刻むように。 何度も。 何度も。 抉り込むように。 そして言葉を終えるとフリアグネはもう一度長衣を真一文字に翻す。 「だが、もう一人の「標的(ターゲット)」『星の白金』は話が別だ」 そう言ってフリアグネは今度はその耽美的美貌を引き絞られた 強力な弓矢の弦のように引き締める。 「本来在り得ない事ではあるが、私が崇拝するあの御方が唯一懼れる程の強力な存在。 更に私と互角の能力を持つ筈の私の「友人」を相手に戦闘経験値、技術値で遙かに劣る 立場でありながら勝利するほどの相手に真正面から勝負を挑むのは得策ではない」 『星の白金』 スタープラチナ。 「彼」の事、だ。 ”指一本触れさせない”と己に誓った。 ”こっちは任せて”と彼に誓った。 だが、しかし、「現実」は、 何よりも、何処よりも、 遠くなる……!! 悔恨で悔しさで瞳に涙を浮かべるシャナを後目にフリアグネは意気揚々と 言葉を続ける。 「だからこの鎖、宝具”バブルルート”で君を縛り、そして、そうだな。 アノ給水塔の上にでも括りつけて獲物が誘き寄せられるのを待つ。 そしてヤツが来たのなら、コレ」 シルクの手袋に包まれた左手に金の鎖を携えたまま、 純白のスーツの内側に右手を潜り込ませたフリアグネのその右手に、 クラシックなデザインのダブルアクション方式のリヴォルバーが握られて来た。 その「銃」の本質は”フレイムヘイズ討滅(フレイミング・キラー)”のみを 目的に創りあげられた戦慄の拳銃。 焔塵殲滅。完殺の魔弾。 ”紅世の宝具” 『トリガーハッピー』 破壊力-A(フレイムヘイズのみ) スピード-B 射程距離-A 持続力-A(フレイムヘイズのみ) 精密動作性-B 成長性-なし 「”フレイムヘイズ殺し”の能力を持つこの銃で君を撃つ。 我が愛銃『トリガーハッピー』の”装填されない”「弾丸」は全てのフレイムヘイズの 内部に宿る”王”の休眠を強制解除する効果がある。 つまり、いつでも、私の気分次第でこの屋上全体を先刻以上の紅蓮の劫火の地獄に 出来るというワケさ。「器」を破壊されて暴走したアラストールの劫火に焼かれては アノ方が唯一懼れるというさしもの『星の白金』も一溜まりもあるまい! そして、紅世ではない現実世界ではその存在を維持できないアラストールは 私に復讐することすら出来ずにそのまま紅世に還るしかない!つまりは! もう既にして私とあの方の完全勝利というワケさ! アアアアァァァァァァハハハハハハハハ!!!!」 白く神聖な存在のオーラをその身を覆い、何よりも邪悪な笑みをその 耽美的な口唇に浮かべてフリアグネはシャナにそう言い放った。 そして。 鋭いエコーの残響を鳴り響かせる、狂った弦楽器の勝利の歓声が 白い封絶で覆われた屋上全体に響き渡る。 「貴様……!何たる卑劣な……!敗者に鞭打つばかりかその身を灰燼に帰して 「罠」に変えようとは!」 激高したアラストールの声をフリアグネは愉しむように受け止め その邪気に充ち溢れた微笑を己が同胞である”天壌の劫火”へと向ける。 「これはこれは、天壌の劫火の御言葉とは想えない発言だな」 気怠げな甘い声色でそう言い放ち、慇懃無礼を絵に描いたような大仰な振る舞いで、 純白の長衣が絡みついた右腕を清廉に前に差しだし深々と頭を垂れ最上級の 一礼をアラストールに向けて捧げる 「戦いとは須く「結果」のみが全て。敗者は勝者に何をされても仕方がない。 その鉄の掟をお忘れか?君の言ってる事は、敗者の遠吠えに過ぎないよ」 そう言ってフリアグネは純白の長衣で邪の微笑を浮かべる口元を上品に覆い 「それとも、まさか、 『星の白金』 に何か ”特別な感情” でもお在り、でも?」 瞳を妖しく細めてアラストールを真上からの視線で睨め付ける。 「!」 想わぬフリアグネの言葉にアラストールは、一刹那口籠もるが 「戯けた事を……」 そう言って押し黙った。 「ふぅん」 フリアグネは蕩けるような甘い声で一言呟き、幻想的とも呼べる 悩まし気な流し目でアラストールを見つめた。 紅蓮と白蓮。 二人共強力な紅世の王ではあるが、その言葉遣いや立ち振る舞いは まるで対極だった。 「…………」 「…………」 両者の間に沈黙の帳が舞い降りる。 フリアグネはまだ己の戦果について話したりない様子だが、 ソレを見越してアラストールは小康状態維持を選択した。 全てはシャナの回復の時間を図る為。 そして、間に合うかどうかは解らないが「あの男」の到着を待つ時間を 少しでも稼ぐ為の選択だった。 かつて、この世界の致命的な危機を二度も救った偉大なる血統の末裔。 そして、今再びその世界の存在全てが「幽血」の脅威に染まりつつある この世界唯一の希望。 煌めく白金、そして遍く星々の存在の力をその身に携える救世者。 『星の白金』 空条 承太郎、を。 「イヤ、それにしても正直、君の焔儀には肝を冷やしたよ」 アラストールが喋らないのでジレたのか、フリアグネは右手で 絡まった純白の長衣を滑らかに梳き流しながら、同じく純白のシルクの手袋で 包まれた左手を露わにした。 その左手薬指に精巧な彫刻の入った純銀の台の上に、 同じく精巧な研磨技術でカットされたであろう神秘的な輝きを宿す 紺碧の宝玉が嵌め込まれた指輪が在った。 ”あろう”というのは今はその神秘的な光を灯す宝玉には、 惜しむらくかな、その頂点部分から細かな亀裂が走っていたからだ。 「まさかこの火除けの指輪。 ”アズュール” に罅が入るとはね。 もう二、三発同じ焔儀を撃たれたら危ない処だったよ」 そう言ってフリアグネはシャナをからかうようにそのアズュールが嵌められた 指先を艶めかしく振ってみせた。 「貴様。やはり先刻この子の最大焔儀を防いだのは”自在法”ではなかったのだな?」 そのフリアグネの防御の本質を見抜ききれなかったアラストールは 口惜しく歯噛みする。 「フッ、己のキリ札は決して敵に晒すな、さ。私がフレイムヘイズの焔儀に 対して絶対の防御式自在法を持っていると相手に「錯覚」させておけば、必ず相手は 武器を持っての近接戦闘を仕掛けてくるだろう?後は適当に使い捨ての燐子に相手を させて私の最大最強焔儀『邪裂爆霊傀儡殺(スレイヴィング・エクス・マリオネーション)』 の布石を造ってもらうだけさ。他でもない『フレイムヘイズ自身』に、ね」 そう言ってフリアグネはアラストールに向けて艶麗な仕草で 片目を瞑って魅せる。 「コレが、私の「必勝の秘密その2」 さ。そう言えばこの事は「彼」にも話して なかったな。実際に魅せて説明しようとしたのだが仇となったか、次はここまで 完璧に極まるかどうかは正直自信がないよ」 そう言ってフリアグネは目の前で横たわるシャナに、長衣で口元を覆って クスクスと微笑って見下ろす。 シャナの存在の全てを嘲笑うかのように。 「彼?彼の者 『幽血の統世王』の事か?」 「君には関係のない事さ。ソレに、幾ら時間稼ぎをしても もうこの子は起きそうにはないよ」 「!!」 いつかは見抜かれると想っていたが、こうも早く感づかれたのは誤算だった。 否、寧ろ最初から見抜かれていて、ソレを承知でフリアグネが喋っていたと 考えるのが妥当、か。 その悪魔の狡猾さと王の老獪さでシャナは敗れたのだ。 「……………………………………………………………………………」 その ”狩人” 傍らで、無限の荒野と化した絶望の瞳で 完全に戦意を喪失した少女が頭上の空を見上げる形で仰向けに倒れていた。 その少女に、二人の声は、もう、届かない。 瞳にも見上げる空は映っていない。 白い封絶に囲まれた大破壊現象が起こった屋上で、 少女の時間(とき)は完全に停止していた。 その心の内では、自虐的な自問自答が終わる事なく延々と繰り返されていた。 自我のフィルターが消失した、生の本音の言葉で。 次々に湧き起こる真実の言葉の羅列は、皮肉にも絶体絶命の窮地陥って 初めて少女の心の底から静かに滔々と湧き出した。 私は……一体……誰……? 私は……紅世の王……天壌の劫火……アラストールの……フレイムヘイズ…… でも……もう……私に……その資格は……ない…… こんなに……弱い……フレイムヘイズ…… こんなに……弱い……炎髪灼眼の討ち手…… 敵わないと知ると……逃げる……臆病な……戦士…… フレイムヘイズの……面汚し…… こんな私を……認めてくれる者なんて……もう……この世界の…… 何処にも……いない…… この……私……自身……すら……も…… ソレ……なら……いっそ…… いっそ…… それならせめてアラストールの名誉だけは護りたい。 過去に深く刻まれた心の疵痕(トラウマ) だが、何人かの人間との関わりにより 最近ようやく癒えだしたその全く同じ箇所に再び悪意の刃が情け容赦なく抉り込まれ、 少女の、シャナの心は今限りなく死に近い状態にあった。 幾ら五体満足でも。 心が死んだ者はもう戦えない。 戦場とは、そのような絶対零度の雰囲気(オーラ)で満たされた 冷酷非情の場所。 シャナの脳裏に、一人の人間の姿が浮かんだ。 「?」 何でこんな時に「彼」の事が思い浮かぶんだろう? でも、自分が生きていればきっと「彼」を窮地に追い込む事になる。 『自分が原因で追い込むことになる』 初めて、自分の存在を認めてくれた人。 初めて、フレイムヘイズとしてではなく、一人の少女「シャナ」として 自分に接してくれた人。 同じような存在の力をその身に携えた「対等」の立場の人。 勝利の手合わせが楽しいと教えてくれた人。 意外な表情を引き出すのが面白いと教えてくれた人。 切なさという感情を教えてくれた人。 強さに対する脅威と敬意を教えてくれた人。 麦酒(ビール)の苦さを教えてくれた人。 メロンパン以外のパンの美味しさを教えてくれた人。 共に闘う事が嬉しいと教えてくれた人。 他の誰かを護る事が素晴らしいと教えてくれた人。 ほんの二日前に出逢ったばかりだというのに、その想い出は尽きる事がない。 手のひらの温もりを、教えてくれた人。 大切な、人。 そう。 時間なんて、関係ない。 何よりも誰よりも「大切」な人だから。 もう。 その事に気がついてしまったから。 少し、遅過ぎたのかも、しれないけれど。 霧が晴れるようにシャナの脳裏に一つの「真実」が 浮かび上がってきた。 どうして?人は?自分の本当の気持ちに素直になれないのだろう? どうして?何もかもどうしようもなくなってから、 本当の気持ちに気がつくんだろう? 一番、大切な、人ですらも。 「承……太郎……」 か細い声でその人の名を呟く。 自然と涙が、瞳から溢れる。 構わない。 いっそ、涸れるまで流れ落ちてしまえば良い。 全てが灰になってしまうまで…… 全てが終わってしまうまで…… 今まで…… ずっと……一人で良いと想っていた…… 人と関わらず……交わらず…… 街路で楽しそうに言葉を交わす多くの人々を後目に…… 永遠に死ぬまで孤独でも構わないと…… でも…… 本当は…… 本当、は…… ”今まで誰かに傍にいて欲しかった……ッッ!!” そのシャナの脳裏に、己の内に宿る紅蓮の劫火に覆われる彼の姿が過ぎる。 「……イ……ヤ……」 か細い呟きが少女の口から漏れる。 「ソレ……だけ……は……絶……対……イヤ……」 シャナの震える手がゆっくりと傍に転がっている贄殿遮那に伸びる。 その意図を解したフリアグネは黙って腕組みをしながらその様子を見つめていた。 (ほう?生き恥を晒す事を嫌い自ら死を選ぶ、か?幼いながらも骨の髄まで フレイムヘイズのようだな。まぁ、それもよかろう。生きていようが死んでいようが 『それらしく』見えれば問題はない。自在法でマリオネットのように操れば 良いのだからな。寧ろ口を塞ぐ手間が省けるというもの) 身の丈を超える大刀を自在に操る、可憐な少女の「自決」というのも そう滅多に見れるモノではないので、背徳的な嗜好を持つフリアグネは興味深そうに その様子を見つめていた。 やがて。 シャナの手が、弱々しくも贄殿遮那の柄を掴む。 (私の……承太郎……は……) 脳裏に浮かぶ彼の姿。 その存在が躰に微かに遺った最後の力を呼び熾し、灼熱の決意と共に強く大刀を握る。 (私が護る……ッッ!!) この生命に換えても! 絶対に! そのとき。 猛々しい咆吼が。 シャナの真下から轟いた。 『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァーーーーーーッッッッ!!!!』 激しい破壊音と共に2階のコンクリートの爆砕する強烈な音がシャナの身に響く。 特に、想う事は、何もなかった。 ただ ”アイツ” だ。 そう想った。 そこに届く耳慣れた響きの高潔な声。 「シャナッッ!!聞こえてンだろッッ!!返事はいらねーから聞けッッ!! いいか!!ソイツの持ってる「銃」には当たるんじゃあねー!! 当たればテメーの身体は着弾箇所がどこだろーと爆弾みてーに木っ端微塵に弾け飛ぶ!! 相手に距離をとらせんな!!一気に接近してブッた斬れ!!」 「……フ……フフフ……フ……フ……」 その声を聞いたシャナは、ただ、安らかに、微笑った。 切なさよりも儚く。 愛しさよりも尚強く。 満身創痍の身体からか弱い微笑みが涙と共に力無く零れる。 ひとり、いた。 いて、くれた 何が起きても、何が在っても、絶対自分を見捨てない「人間」が。 誰かが傷つけば傷つくほど。 失敗すれば失敗するほど。 躍起になって必至になって、まるで当たり前の事のように全身ズタボロに なってでも助けようとする、底無しに甘い「大バカ」が。 シャナがそう想う間にも声は尚猛々しく響き渡る。 「あとソイツの持ってる「鐘」は周囲のマネキンの起爆装置だ!! 今こっちでも確認したから間違いねー!!『音自体が射程距離だから』 爆発は防ぎようがねぇ!!だから人形に「形」を残すな!! 昨日の「あの剣」で跡形もなく蒸発させろッッ!!」 的確な指示と、正鵠な忠告。 そして、本当に本当に自分の身だけを心の底から案じてくれているその「優しさ」 その全てが緩やかな雨露のように静かに傷ついた躰に温かく沁みいってくる。 頬を伝う透明な雫をその肌に感じながらシャナは笑みを浮かべて頷いた。 何度も。 何度も。 何度も。 傍に、いてくれなくても良い。 ただ、この世界のどこかに生きて存在さえしてくれていれば。 ただ、 それだけで、 (嬉しいッ!) 「この階にいる人形を全部ブッ潰したらオレもそっちにいってやる!! それまでやられんじゃあねー!!死んだら殺すぞッッ!!じゃあな!!」 革靴の踵が鳴る足音と長鎖の擦れる澄んだ音の残響が聞こえる。 ソレと同時に何かが爆砕したかのような強烈な破壊音。 「邪魔すんじゃあねぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーッッ!! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーーーーーーッッ!!」 「………………………」 階下から聞こえるスタープラチナの咆吼に合わせ、シャナの小さな口唇も微かに動く。 そしてその胸の中では先刻の彼の言葉を何度も何度も反芻していた。 (勝手な……こと……言って……くれちゃってぇ……アレ……は……”煉獄”……は…… 存在の……力を……大きく……消……耗……する……上に……集中……力を…… 極限……まで……研ぎ……澄まさ……なきゃ……いけない……から……持続……力が…… スゴク……短い……のよ……昨日……アノ……後……私……が……どれ……だけ…… 疲れた……か……お……まえ……は……知ら……ない……くせ……に……) でも、力が、湧いてくる。 黄金の輝きを放つ無限の精神のエネルギー「勇気」が。 アイツが、たったいま、与えて、くれた。 (だけど……おまえの……御陰で……ひとつ……良い手を……思い出したわ…… イヤな……思い出が……あるから……アレ……以来……封印……してた…… けど……四の五の……言ってる……場合じゃない……要は……使い要…… よ……ね……) 「そ……う……で……しょ……?」 剣を杖代わりにして立ち上がる。 「承……太郎……ッッ!!」 そして。 二人で共に見た空に彼の姿を重ねて問いかける。 ”一人じゃない” その事実をシャナは今何よりも強く実感した。 そう。 いま。 自分は。 決して。 ”一人なんかじゃない!!” ただそれだけの当たり前の事実がシャナの心に巣くった 呪いのような精神の絶望を全て跡形もなく吹き飛ばす。 そして、シャナのその虚空の瞳に再び灼熱の炎が、何よりも熱く 何よりも激しく燃え上がった。 (逢いたい、な) 穏やかな微笑をその口唇に浮かべ、灼きつく躰を無理矢理引き起こしながら シャナはただ純粋にそう想った。 まだ、さっき別れてから、1時間も経ってないけれど。 でも、逢いたい。 いま逢いたい。 すぐ逢いたい。 因果の。 交叉路の。 真ん中で! 「うぅっ!」 全身を蝕むダメージにより気持ちとは裏腹に膝を支える力が抜けてシャナは もう一度抉れた地面にヘタリ込んでしまう。 その様子を心の中のもう一人の自分が激しく叱咤した。 (バカッ!立つのよッ!立ちなさい!シャナ! アイツが「勇気」をくれたんだから!それを無駄にするのは私が赦さない!) 「ッッ!?」 その、自分の「背後」に、もう一人の自分がいた。 脳へのダメージによる影響が生み出す幻覚なのか? それとも自分の心理の中のなにかを無意識の内に存在の力で 投影しているのか?とにかく陽炎のように朧気だが確かな存在感を持ってそこに居た。 まるで”アイツ”の『幽波紋(スタンド)』と同じように。 灼眼ではない黒い瞳と炎髪ではない黒い髪、そして今自分が着ている 制服とは違う白い半袖のセーラー服。 「なんで……立つ、の……?」 再び無理に躰を引き起こしながら、その答えの解りきった質問を、 シャナは背後の、もう一人の自分に問いかける。 (そんなの……決まってる……) 静かに答えて、自分が自分に歩み寄る。 そして同時に口を開く。 (アイツが) 「アイツが」 「「待ってるからッッ!!」」 二人の自分の声が重なった。 同時に沈黙していた贄殿遮那の刀身が激しい紅蓮の炎で覆われる。 炎刃合一。灼熱の紅刃 『贄殿遮那・炎霞ノ太刀』 破壊力-A スピード-シャナ次第 射程距離-C 持続力-A 精密動作性-シャナ次第 成長性-A 「私は、一人じゃない!!」 一際強くそう叫び、もう大刀の支えも必要とせず、シャナは凛とした表情で 力強く立ち上がった。 そう。 死しても再び紅蓮の炎の中からより強くより美しい姿で甦る不死鳥のように。 その全身から火の粉が鳳凰の羽ばたきのように一斉に舞い上がり空間を灼き焦がす。 フリアグネはその様子に一瞬そのパールグレーの双眸を丸くするが、 すぐに己を諫めてその表情を清廉に引き締める。 「ほう?満身創痍のその状態でまだ立ち向かう気かい? 一体何がそこまで君をそうさせるのかな?」 問いかけるフリアグネに。 「それは 」 一瞬、口ごもるがすぐにその必要がない事にシャナは気づく。 そう。 自分の本当の気持ちに口を閉ざす必要なんか全くない。 「それは。私が。アイツの『星の白金』の「片割れ(パートナー)」だから!」 右手を黒衣の左胸の位置に当て、微塵の違和感も感じない言葉が 自然にシャナの口をついて出る。 無論、アイツの了承はまだ取ってない。 でも。 もう決めた。 いま決めた。 アイツが望もうが望むまいが。 もう絶対完全決定事項。 殴ってでもそうさせる。 今までは、フレイムヘイズの「使命」の為に剣を振るってきた。 でも、これからは、 ”アイツ” の為に剣を振るっていきたい。 ソレがきっと、何よりもかけがえのない、黄金に輝く運命の 『正義』 に 繋がっているはずだから。 「フッ……腐ってもアラストールのフレイムヘイズ。腐っても炎髪灼眼の討ち手と いう事、か。哀れな。これ以上続けてもただ苦しみが増すだけだというのに 」 そのフリアグネの皮肉めいた物言いをシャナは甦ったその紅蓮の双眸で 凛と受け止める。 そして、同じように口元にも凛々しい微笑を浮かべ、 「そう。私はフレイムヘイズよ。でもおまえ? 私の ”もう一つの名前” は知らないでしょう?」 何よりも強く己を誇り、シャナはフリアグネにそう告げる。 「もう一つの、名前?」 微かに眉を怪訝に顰めるフリアグネにシャナは 「教えて、あげる!」 そう叫び、その紅蓮の灼眼でフリアグネのパールグレーの光彩を鋭く 真正面から射抜く。 まるで己が全存在を刻みつけるように。 「 ” 空条 シャナッッ!! ” 叉の名を!」 言葉と同時に左手が鋭く真一文字に薙ぎ払われる。 「 『紅の魔術師(マジシャンズ・レッド)ッッ!!』 」 シャナはそう叫んで黒衣を靡かせながら紅蓮の炎で覆われた 贄殿遮那を火の粉と共に鋭く前に突き出した。 「フッ……だが、しかし、そのダメージだらけの躰では、ね。 最早私が相手をするまでもあるまい。お前達 」 微かに俯いた表情でそう静かに呟き、フリアグネは小気味よく指を鳴らす。 その合図に合わせてフリアグネの周囲にいた武装燐子達が剣を両手に携えて蠢き出す。 シャナはその燐子達になど目もくれず、あくまで王、フリアグネのみを 鋭く射抜いていた。 その紅蓮の炎が宿る、誇り高き灼熱の灼眼で。 そして。 止まった瞬間(とき)が、刹那(いま)動き出す。 シャナは右手に握っていた大刀をそのまま宙に軽やかに放った。 宙に放たれた身の丈に匹敵する大刀が軽やかに反転して紅蓮の弧を描く。 そして自分の目の前に来た大刀をシャナは素早い手捌きで逆手に掴み直すと、 「オオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッッッ!!!」 逆手で大刀を前に差し出したシャナの口唇から勇ましく猛々しい 灼熱の息吹が湧き上がり、同時に炎髪が大量の火の粉、否、 炎気を撒き熾し空間を縦横無尽に灼き尽くす。 ” 炎妙ノ太刀 ”の要領で柄頭を透して刀身内部に炎気を込め、 そして同時に剣気と闘気とアイツから貰った何よりも大切な「勇気」を込める。 そしてシャナは武器を逆手に携えたまま、居合い斬りの要領で 腰を拈りながら落とした構えを執り、同時に左手は絡めながら前方に押し出し そしてやや捻る。 揺らめく炎の陽炎に紅蓮の刃の残像が映るかのようなその無駄のない動作に 呼応するかのように贄殿遮那に集束した三種の「気」の融合体がやがて 周囲の分子の配列を変異させて紅い放電現象を引き起こし始める。 その。 戦慄の美を流す大太刀、贄殿遮那の中で。 いま。 『スタンド使い』と”フレイムヘイズ” 『星の白金』と”炎髪灼眼の討ち手” その二つの存在の力が一つとなる。 星炎融合。流星の灼撃。 『贄殿遮那・星屑焔霞ノ太刀』 使い手-空条 シャナ 破壊力-A+ スピード-A+ 射程距離-B(最大20メートル) 持続力-A+ 精密動作性-B 成長性-A+ 「オッッッッッッッッッッッッッラァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」 その背後にアイツの持つ幽波紋(スタンド)のように最愛の者の存在を、 逆水平に指を構えたその高潔な姿を強く感じながら、シャナは乾坤一擲の一撃を 渾心の力を込めて全力で撃ち放った。 駆け声と共に音速で刳り出された抜刀斬撃術の、 その紅蓮の真空波が瞬時に具現化して焔の烈刃と化し、 贄殿遮那の刀身から唸りを上げて途轍もない存在の猛威となって飛び出し、 標的に、紅世の王”狩人”フリアグネに向けて縛鎖を引き千切った魔獣のように 襲いかかる。 「何ィッッ!?」 前方の燐子6体を瞬断した紅蓮の焔刃に、フリアグネは咄嗟に長衣を前に突き出し、 その三日月状の紅蓮の烈刃を真正面から受け止めた。 奇怪な紋章と紋字の浮かび上がった、白い円球ドーム状の防御障壁が 瞬く間の無くフリアグネの前に出現している。 しかし。 その三日月状に音速発射された紅蓮の討刃が放つ衝撃の余波である、 紅い放射状の閃光により射程距離外の燐子達が側部から、そして背後から、 否、ありとあらゆる角度から撃ち抜かれまとめて爆散する。 更に、炎の攻撃に対してはありとあらゆるモノに対抗出来る筈の 絶対防御の「宝具」”アズュール”ですらもその紅蓮の討刃の突進を押し止めただけで その「本体」の消滅させる事は出来なかった。 「効果」は確実に出ている筈だった。 フリアグネの前方で紅蓮の烈刃は巨大な岩石に圧し当てられた鎖鋸(チェーン・ソー) のように、けたたましい摩擦音と狂暴な火花を夥しく散らして、徐々にその先端から 刃全体の絶対量を減らして来ている。 だが。 しかし。 討刃自体があまりに巨大過ぎるのと、その磨耗の速度が致命的に遅かった。 そう。 遅過ぎた。 そし、て。 ピシィッ、 火除けの指輪”アズュール”のその魔力の核(コア)である紺碧の 宝玉が官能的とも言える澄んだ音を立てて砕け散り。 ピキィィィィィィィィ。 煌めく貴石の破片が空間へと散華する。 「ア、アズュールがッッ!? バ、 」 フリアグネの驚愕の声とほぼ同時に白炎の防御障壁は音もなく霧散して立ち消え、 代わりに火除けの結界が消えた瞬間それまでその位相空間に滞っていた破壊衝撃波が 全部まとめて前方へと弾き飛ばされ、シャナの放った紅蓮の討刃を爆発的に 後押ししてフリアグネの胴体を音よりも疾く斬り飛ばす。 「バ……カ……な……!」 同時にその切断面を起点にして紅蓮の炎が燃え上がり、 二つに別れたフリアグネの上半身と下半身を刹那に覆い込んだ。 更にその紅蓮の討刃はフリアグネの背後にあった給水塔の土台のコンクリートに 叩き込まれて抉り込まれ、コンクリート内部で爆破、粉砕、融解を繰り返しながら 最終的には激しく爆裂する。 瞬時に土台全体に夥しい数の亀裂が刻み込まれ、その前方の瓦礫の大地の上に 二つに別れて燃え上がりながら横たわる純白の貴公子の上に倒壊を始めた 残骸が嵐のように降り注ぐ。 まるで、墓標のように、破滅の墓碑銘をそこに刻む。 ズンッッッッ!!!! そして給水塔本体が積み上がる残骸の最上部に突き刺さり、 その事を確認したシャナは 「私達二人は最強よ!! 絶対誰にも負けないッッ!! 」 手にした紅蓮渦巻く大太刀を勢いよく足下の瓦礫の上に突き立て、 黒衣を先鋭に揺らしながら再び右手を逆水平に構えて 目の前の破滅の墓標を鋭く指差した。 そのシャナの燃え上がる紅蓮の双眸に、無限の精神の輝きが生み出す黄金の光が宿る。 熱く。激しく。閃光のように。 何よりも気高く、少女の歩み出した「運命」の道を照らしていた。 ←TO BE CONTENUED…… 次回予告。 遂に、決着を迎える紅世の王”狩人”フリアグネとの死闘。 その白き波濤の果てに彼らは果たして何を視るのか? 承太郎は。 シャナは。 花京院は。 そして。 『DIO』は。 次回 連載コラボSS ジョジョの奇妙な冒険×灼眼のシャナ STARDUSTφFLAMEHAZE* 第一部最終回 【CHAPTER#18 戦慄の暗殺者FINAL ~LAST IMPRESSION ~ 】 ご期待下さい……! ””オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァーーーーーーーッッッッ!!!!”””
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想いは百秒で砕け散る◆S4WDIYQkX. 一人早く起きているリンクは皆の眠りを妨げぬよう、部屋の外に居た。 放送までの時間はそれほど無い。 仮眠に戻る事なくそのまま起き続け、思考していた。 自分が何をすべきなのか。 自分の役割が何であるかを噛みしめて、想う。 (僕の役目はみんなを護る事だ) それは間違いの無い前提だ。 リンクは仲間達を護らなければならない。 数多の戦いを乗り越えてきたリンクの最大の役目だ。 問題はナニから護るのかという事である。 (襲い来る敵、殺し合いに乗ってしまった人から。 あるいは“殺し合いそのもの”から) 殺し合いから護る、という言葉には二つの意味合いが有る。 殺し合いに巻き込まれ誰かに殺されてしまわないよう安全を護るという意味。 もう一つは、 (仲間が殺し合いに心を呑まれてしまわないように護らなくちゃいけない) 殺し合いに巻き込まれ誰かを殺してしまわないように精神を護るという意味だ。 それは殺人鬼に堕ちるような過激な意味ではなくとも、 殺し合いを許容し、仲間以外の全てを殺しても構わないといった危険な思想に染まらないよう護る意味でもある。 (高町なのは) その思想を否定したはずの仲間を連想する。 そう、彼女はリンクの目の前で危険すぎる思想を否定したはずだった。 なのに何時しか全てが嘘に包まれて見えている。 彼女は本当に殺し合いを否定してくれたのだろうか。 (君は一体、どんな想いを秘めているんだ) それすらも解らないままに想いを秘めて。 朝を待つ。 廊下の窓から外を見てみれば、もう東の空が白くなりはじめている。 放送は目の前に迫っている。 朝焼けだろうか、眩い輝きが木々の合間から見えて……。 (待て) まだ日は昇りきっていない。 朝日には少々早すぎる。 それならこの輝きは一体何だ!? 「何か、来る!!」 数秒後、光り輝く最悪の敵が廊下の壁をぶち抜いた。 「みんな起きて! 敵だ!!」 警告の叫びを上げてリンクは剣を抜き放つ。 コキリの剣。 子供の姿の自分にとっては丁度良い、長く使い慣れた剣だ。 自分の剣が手元に回ってきたのは幸運だった。 この島では愛用の武器と再会出来る可能性など極めて低いのだから。 大人の姿になれたなら最良の剣は聖剣マスターソードになるのだろうが、 (この姿の僕としてはこれが最良の剣だ) 子供の姿のリンクにとっては、コキリの剣こそ最良の武器だった。 自らの実力を引き出せる得物を手に敵を見据える。 濛々と上がる粉塵の中を視認する。 ソレは熱を帯びた赤銅の肌をしていた。 淡く輝く螢火の髪をしていた。 髪はまるで生き物のように蠢いて見える。本来の長さまで再生しようとするように。 絡み付いていた銀髪のウィッグが、伸びる髪に押されて落ちた。 喪服か、あるいはゴスロリ調の、黒いドレスを身に纏っている。 しかしズタズタのドレスだ。 心臓の直上には膨らみの無い肌が覗き、奇妙な黒い文字──∀IIIが浮かび上がっている。 左腕の袖も途中から無いし、他の部分もそこら中に破れ目が覗いている。 奇妙なことに、破れ目の下の赤銅色の肌には傷跡一つ見当たらなかった。 そして右手には巨大な突撃槍が握られていた。 穂先は何処かしら龍のような形状で凶悪な“顔つき”をしている。 怪物の手にあるそれは、ともすれば怪物の一部にも見える。 その石突から伸びる飾り布は途中からエネルギーに転じ、光り輝いている。 まるで太陽の光のような、美しい山吹色に。 ヴィクター・スリー……セカンド。 グレーテル。 残酷極まりない愉悦を浮かべて、少女の姿をした怪物は槍先を向ける。 幼き時の勇者へと、その切っ先を。 猛烈な殺意が吹き荒れていた。 知らない。 リンクはこんな怪物を知らない、はずだ。 だけどどうしてだろうか、見たことが有るように思える。 目の前の少女のような誰かと、何処かで戦った記憶、が。 (敵だ) 何にせよそれだけは判る。 残念ながら殺し合いを否定するしないという段階ではない。 目の前に顕れた怪物はきっと、この島に居なくとも人間を殺戮し愉悦とともに貪るだろう。 殺す気で挑まなければ殺されるだけだ。 リンクと、仲間たちが。 果たして怪物は歓びに歪めた口元から、天使のような声で囁いた。 「天使を呼んであげましょう」 襲来から十秒。 それが開幕のベルだった。 グレーテルは巨大な槍を手に突撃する。 リンクはそれを正面から迎え撃った。 半身だけずれて突撃を回避しながら、コキリの剣を振り下ろす。 グレーテルは、停止していた。 「くっ」 読まれた。いや、力ずくで止まられた。 小さく息を吐く。 槍が届く間合いで視線が絡み合う。 それでも体勢は崩れていない。コキリの剣は小回りが利く、振りを戻すのは一瞬だ。 槍が振るわれた。 剣が振るわれた。 速度はグレーテルの方が上だったが、技量を合わせればリンクも大差はない。 斬り合いに関して言えば互いの速度はほぼ同等、ほんの僅かにリンクの方が上だった。 つまり。 (ダメだ、押し切られる!!) 巨大な突撃槍を手斧の如く振るえる圧倒的な剛力分、グレーテルの方が上だった。 数合でリンクは後退り、それでも。 反撃に転じた。 相手が槍を振りかぶった瞬間に懐へと飛び込んで脱力感を堪えて剣を一閃し手応えを感じたその瞬間に 衝撃が走り視界が弾み白く染まり重力を見失い居場所を見失い状況を見失い──。 皆が眠る部屋の壁に叩きつけられていた。 「ぐぁ……!?」 戦況に理解が追いつかない。 視界が揺れて意識が酔いに冒される。 脳が揺れて体が動かない。 (一体……なにが……!?) 揺れる視界に映るのは胸元から出血するグレーテルの姿。 だけどあまりにも浅い傷だ。 手元を誤ったのか、いやそんなハズは無いと思考が巡る時間、さえもが惜しい。 襲撃から二十秒余り。 リンクが体勢を立て直すまではしばらくかかる。 グレーテルは槍を動けぬリンクに向けて飾り布のエネルギーを点火し一撃必殺の突撃を仕掛けようと。 「させるかぁっ!!」 すぐ横の扉が開き、アリサ・バニングスが飛び出した。 左手にステッキ、右手に秀麗な刀を握り締め、リンクの前に立って壁となる。 グレーテルはくすりと笑い、右手に突撃槍を握ったまま左手で何かを取り出した。 片手で握れるサイズの金属塊。 リンクにはそれが何かは判らなかった。 しかしアリサの気配が緊張に強張る。 それは、拳銃である。 引き金が引かれた。 轟音と共に銃弾が放たれる。 射線上にはアリサとリンク。 アリサが避ければ鉛弾はリンクの体を穿つだろう。 その状況でアリサの持つ贄殿遮那の白刃が。 受け止めた。 甲高い金属音が響いた。 続きカラカラと軽い音を立てて鉛の小粒が床を打つ。 カレイドステッキに支えられたアリサの剣技は、贄殿遮那の刀身で銃弾を凌いだのだ。 絶対不変にして堅牢無比なる贄殿遮那の刀身が有っての話とはいえ、 咄嗟に射線上に刀身を構え、銃弾の強烈な運動量を受け止め弾ききった膂力は見事という他にない。 グレーテルは驚愕に目を見開き、しかし表情を笑みに戻して、続けざまに数度引き金を引いた。 アリサには、それ以上は防げない。 その表情には銃弾への怯えが浮かぶ。 その足膝には恐怖からの震えが見える。 僅かに崩れた体勢が“付け焼刃の達人”の限界だった。 ならば二度三度繰り返せば良いだけだ。 引き金は引かれ、銃弾は二度三度と放たれて。 見えない壁に防がれた。 部屋から飛び出してきたのはアリサだけではなかった。 高町なのはも目を覚まし、転がり出るように部屋から出てその片腕をかざしていたのである。 プロテクション。 物理攻撃に強力な耐性を誇る魔法の壁が続く銃弾を防いでいた。 数瞬の攻防だった。 グレーテルは笑う。 哂う。 嘲り嗤う。 「森鹿のシチュー。フィッシュアンドライスに紅茶を添えて」 目の前にごちそうが並んでいると歓喜する。 拳銃を懐に戻し、突撃槍を両手で握り締める。 ヴィクター・スリーの手で振るわれる武装錬金の突撃ならば、プロテクションなど紙にも等しい。 戦車砲の如き一撃は障壁ごと三人を粉砕しても余りある。 「ブレックファーストには贅沢かしら?」 「ワケわかんないこと言ってんじゃないわよ!!」 させまいとアリサが突っ込んだ。 贄殿遮那が振るわれる。 銃弾を鎬で受け止めはじいても刃こぼれ一つ歪み一ミリ有りはしない。この刀は完全なる強度を誇っている。 その斬撃に襲われてグレーテルは突撃を中止した。 代わり槍が振るわれて、宝具贄殿遮那と武装錬金サンライトハートが切り結ぶ。 襲撃からはまだ僅かに三十秒。 力はやはりグレーテルが圧倒していた。 それでもアリサは耐え凌ぐ。 付け焼刃でも今のアリサは達人だ。 しかも最初から人外の達人の為に鍛えられた贄殿遮那を振るえる腕力も与えられている。 アリサの身長近い大太刀が鮮やかに舞い踊る。 人間を一薙ぎで粉砕する化物であっても、カレイドステッキの力があれば立ち向かえる。 斬撃が服を食み、刺突が髪を掠めても、致命傷だけは受けまいとする。 その殺陣にグレーテルは笑みすら浮かべ。 笑みは油断か、アリサの前に一瞬の隙が晒される。 (今だっ!) 殺人が良い悪いなど斬り合いの最中には考える暇も無い。 アリサは渾身の斬撃をグレーテルの胸部に叩き込み。 切れ味の悪い包丁で大型トラックのタイヤに斬りつければこんな感覚が返るだろうか。 「な……っ」 切れなかったわけではない。 確かに切れた。 リンクの付けたそれと交差する十字傷がグレーテルの胸元に走っている。 皮膚を切り裂き、何もかも違うのに変色していないことが奇妙に思えるほど真っ赤な血を噴き出している。 しかしその傷は、信じられないほどに浅かった。 「私は、殺せないわ」 果たしてグレーテルは恍惚とした笑みを浮かべて。 確信と信仰に満ちた笑顔で突撃槍を振りかざす。 そして、 「だってたくさん殺してきたんだもの。たくさん命を取り込んだんだもの」 破滅は振り下ろされた。 辛うじて贄殿遮那を間に挟み、それでも圧倒的な打撃が全身を駆け降りる。 腰が、膝が、体勢が崩れる。 ディバインシューターという叫びが響いた。 続く刺突が、突き立った。 アリサの右肩に深い傷が穿たれて、悲鳴と共に贄殿遮那を取り落とす。 「Never Die。そう、私たちはNever Dieなのよ」 更なる刺突が襲う二瞬前に、魔弾の一つがアリサの懐に飛び込んで一瞬静止して。 刺突が床を穿つのとアリサの体が跳ね飛ばされるのは同瞬だった。 なのはがアリサを受け止めて倒れこむ。 死んではいない、けれど。 グレーテルはコンクリート床に突き刺さった槍をあっさりと引き抜いた。 その視線が獲物の群れを品定めするように舐っていく。 リンクは立ち上がり、再び剣を構えていた。 事実上、現在グレーテルに立ちはだかれる敵は彼だけだった。 右肩から出血し粗い息を吐いて倒れているアリサは、既に戦力外だった。 出血量からして急ぎ治療しなければ命に関わるかもしれない。 奇妙なステッキがアリサさんと名を叫び、心配している様子だった。 遅れて起きてきたインデックスがアリサに駆け寄っている。 熱で消耗したその動きは遅く頼りなく、何の障害にもなりえない。 なのははアリサを抱き続けることもできず腕からこぼし、ただ呆然となっていた。 彼女は大凡無力だったのだから。 そう、高町なのははディバインシューターを放ちアリサを支援した。 グレーテルの攻撃を止めようとしたのだ。 放たれた魔力弾の数は三つに及ぶ。 しかし槍を狙った一つはグレーテルが振るう腕と交差しただけで砕け散った。 槍に直撃したもう一つが心臓を狙った槍の狙いを逸らし、 遅れた一つを使いアリサの救出したのは見事な芸当だったが、殆ど被害を与えられなかったのには変わりない。 なのはに殺意が無かった事など言い訳にもならない。 デバイス無しのディバインシューターはグレーテルを傷つけることすらできなかった。 ヴィクタースリー・セカンド。 その赤銅の肉体が恐るべき強度で攻撃を阻む。 高町なのはにデバイスやミニ八卦炉は無く、リンクに大人の体とマスターソードは無い。 襲撃から僅か一分足らず。 アリサは倒れ、グレーテルを斃しきるほど強力な武器は無い。 ──完全に追い詰められていた。 (どうすればいい!?) リンクは刹那の時間で疾く思考を巡らせる。 アリサの敗北を見て、リンクは一つ理解していた。 今のがさっきの自分だ。 リンクはグレーテルに斬撃を命中させた肌を切り裂いたが、グレーテルは意に介さず槍を振るったのだ。 その成果がグレーテルの胸元に付いた浅い十字傷と、アリサ達に助けられなければ確実に死んでいたリンクだ。 どこまでも一方的な蹂躙だった。 圧倒的な戦力差に歯噛みし、苦悩し、それでも。 剣を握り対峙する。 仲間を置き去りにして逃げるなんて選択肢にすら浮かばない。 どうやって仲間を逃がすかなら考えた。 それにインデックス達を逃がせば、一応勝ち目は有ると言えなくもない。 (傷を負わせられない相手じゃないんだ、一対一なら少しずつでも削り取っていけばいいっ) 恐ろしく困難だが完全に不可能とも言えないはずだ。 だけどそもそもの前提となる、仲間を逃す手段が思いつかない。 アリサは深手を負ったし、インデックスは高熱で消耗している。 足止めをするにしたって、まともな傷を付けられない現状では難しい。 やろうと思えば横合いからの脆弱な攻撃など無視して逃げる者を襲えるのだから、どうしようもない。 (せめて一度。一度でいいからもっと深手を与えなきゃいけない) そうすればグレーテルもリンクに背を向けられなくなる。 ゆっくりでも仲間が逃げる時間を稼げる。 問題は深手を与える手段だ。 腕に嵌っているリング、勇者の拳も考えてみたが、 緊張した状態から十分な威力を出す自信は無いし──リンクにはユーモアが足りない──攻撃の範囲も面だ。 当たりやすいのは良いけれど、一点は突けないし、相手の攻撃にも正面からぶつかってしまう。 ヴィクターと化し圧倒的破壊力を誇るグレーテルの突撃槍に正面から拮抗出来る者は、そうそう居ない。 剣の方が上手く立ち回れる。 だけど剣では硬すぎる。 (高い威力が無いなら……相手の弱いところを突いたら?) リンクの視線が、グレーテルの胸元で止まった。 アリサとリンクの剣戟が交差した、十字傷を刻まれた胸元だ。 十字傷分だけ皮膚が破れ肉が薄くなっている部位だ。 あの一点にもう一度刺突を打ちこめば? 上手くいけば瀕死の重傷に追い込めるほどの深手を与えられるのではないだろうか? (だけど、そんなこと出来るのか!?) 確かにリンクもアリサもグレーテルに一撃を命中させていた。 グレーテルの方も自らの強度を理解したのか、アリサに対しては威力を測りわざと隙を作った節がある。 それでも当てられるのは、どこかに当たれば良いという攻撃だ。 動いている相手の一点を正確に狙うのとは話が違う。 しかも全体重をぶつける必殺の突きでなければ話にならないだろう。 自殺覚悟で突撃しても成功するかわからなかった。 (せめて動きを止められれば) さっきもなのはの攻撃は槍先を狙い撃てた。 アリサにトドメを刺そうとした瞬間、遠距離からの攻撃は不意打ちの狙撃にも等しかったのだ。 だから当たった。 何らかの手段で動きを止めることさえ出来れば当てられる。 (そういえば、なのはは?) リンクは脇目でなのはを見て……息を呑んだ。 ◇ 「…………ごめんなさい…………」 高町なのはは呆然となっていた。 襲来したグレーテルを見て、思い出していた。 それが誰であるかを。 「ごめんなさい……ごめんなさい……」 自分が殺した一人の少年の事を思い出していた。 学校で遭遇した災厄の化身。 江戸川コナンを犠牲にしてまでして殺した少年。 髪の色も肌の色も違うし、少年でなく少女だけれど、決して見間違える事はない。 忘れられるはずもない。 彼と江戸川コナンは、高町なのはが初めて命を奪った相手なのだから。 友人であるヴィータの腕を焼いたのが地獄の始まりだった。 だけどもう一つ始まりが有るとすれば、自らの意思で三つの命を奪った学校の惨劇だろう。 ヘンゼルを殺すためにコナンを殺し、それでも救えない二人の片割れを助ける為に一人を切り捨てた地獄。 なのはは彼らの名前さえ知らない。 ただ、理解はしていたのだ。 わるい人だから殺していいわけじゃないし、そもそもわるい人でもなく、 ただ狂っていただけなのだと理解していたのだ。 それでも殺した少年だから、その死は高町なのはが背負わなければいけない死だった。 プロテクションで銃撃を防いだ時、その存在に気がついた。 アリサが殺されそうになって咄嗟にディバインシューターを放つことさえ戸惑いがあった。 例えどんな怪物であろうとも、高町なのはは彼女に対して罪を背負っている。 「さっきは撃ってしまってごめんなさい。 あなたを……ううん、お兄さんを殺してごめんなさい。 こんな言葉に意味を感じない人だって知っています。 あなた達がどういう人間なのかを知っています。 ずっと、生きることと殺すことが同じところに居たからそうなったことを知っています。 たぶん、わたしのことも仇じゃなくて獲物でしかないってことを知っています。 でも」 今のなのはにはどうすれば良いのか判らなかった。 こんな時、少し前のなのはなら殺そうとしていた。 あるいは打ち倒し、戦う力を奪おうとしていた。 なのははそれを、否定した。 その時点で、なのはの中には何の指針も残ってはいなかった。 アリサ達への友情はとても深いものだった。 インデックスもリンクもカレイドルビーも大切に思っていた。 本来の高町なのはらしく生きたいと思っていた。 生きて果たすべき目的は取り戻していた。 だけどそれでも、目的とするところへどう向かえば良いかがわからない。 当然の話だ。 だってなのはは、一人でもたくさんの人を救おうとしてたくさんの人を殺してしまったのだから。 誰かをたすけようと思って行動しても、誰かを殺してしまうかもしれない。 誰かをまもろうと思って行動しても、誰かを殺してしまうかもしれない。 誰かに生きてほしいと想って行動しても、誰かの命を奪ってしまうかもしれない。 なのはには最早、自らの判断の一切を信じることができない。 だからなのはは仲間にすがった。 『はやてに、謝ろう。コナンに、アイに謝りに行こう。 君はコナン達に一度も謝っていない。死んだ人たちに謝っていない』 なのはの脳裏に反響したのはリンクの言葉だ。 なのははリンク達に依存することで殺し合いを否定したのだ。 それによって、どんな人間でも殺すのはいけないことだと信じられた。 その結論がこの行動だった。 相手が狂った殺人鬼であることなんて、今のなのはにとっては判断材料にもならない。 なのはは目の前の相手に自分の言葉が通じるはずなんてないと、知識として知っている。 でもそんな知識に依存した末があの暴走だったのだ。 もう、なのははそんな末路を辿りたくはなかった。 理性ではなく感情に従いたかった。 リンクの言葉を信じたかった。 それが依存という歪なカタチでも、いつかほんとうのカタチを取り戻せると信じたかった。 「ごめんなさい。 でもおねがいです。みんなを殺さないで」 進む道を変えるために罪の意識を薄めてしまったこの心で、それでもあやまろう。 入れる中身の足りない薄っぺらな言葉でも、謝罪という行為は正しく必要なことだから。 彼女の家族を殺害したのだろうこの体で、それでもわたしの友達を殺さないでとおねがいしよう。 どれだけちぐはぐで筋の通らない行為でも、それが今のわたしだから。 自分らしく生きたいという歪な理由で、それでも話し合いをしよう。 この想いがどれほど身勝手で醜いとしても、戦わず話し合う行為は正しいはずだから。 一歩一歩にその想いを篭めて、ゆっくりと歩み寄る。 今度こそ話し合いを試みるために。 それがきっと正しい行動なのだと信じて──ううん、信じるために。 高町なのはは自らの意思で、高町なのはであろうとし続けていた。 その行為を前にしたグレーテルは驚きの表情と、次いで楽しげな表情を浮かべて。 なのははそれでも祈り続けて。 「あなた達にとってこんな話は笑い話なんだと思います。 それでも、おはなしを」 突撃槍が振るわれた。 高町なのはは叩きつけられように床に倒れた。 襲撃から八十五秒。 グレーテルが嘲嗤う。 高町なのはの愚かさと無謀を嘲う。 「ねえ、東の方の国に踊り食いっていうものがあるそうよ」 リンクには理解できない。 邪悪に過ぎてあまりに装飾的な言葉を、断片からは理解できない。 グレーテルはその可憐な唇から愉しげに続きを綴る。 「海産物を生きたままお刺身にしたり、殻を剥いて食べるそうよ。とっても美味しいそうね。 学校でも素敵な勇者さまでやってみたけど、この子も最後まで今の話を続けられるのかしら?」 「な……おまえ、まさかっ!?」 突撃槍が振りかざされた。 九十五秒。 そして、五秒間が始まる。 「くそっ」 リンクは仕方無しに距離を詰める。 それを予想していたグレーテルが向き直る。 結局リンクは十字傷の一点を貫く狙う術が見いだせない。 それでも一縷の望みに賭けて挑もうとして。 九十六秒。 「っ!?」 グレーテルの動きが鈍る。 殴り倒されたはずの高町なのはが倒れこむように這いずってグレーテルの腰にしがみついていた。 微かに聞こえるもうやめてというか細い言葉。 九十七秒。 「そのまま抑えてて!!」 リンクはそれを、高町なのはがグレーテルを抑えたのだと思い込む。 素養が、あったのだ。 なのはは迫真の演技で自らの本心を隠したのかもしれない人物だった。 だったらやはりこの行動も、グレーテルを油断させて嵌めたのかもしれないと思ったのだ。 (どっちにせよこれで狙えるもう少し抑えてくれればあの傷口をコキリの剣で──) 九十八秒。 「ぁ……」 高町なのはは何故か急速に薄れゆく意識の中でリンクの姿を見つめる。 剣を構えグレーテルに突撃する姿を見てまるで氷の刺が刺さったみたいな冷たい悲しみとかすかな失望が 胸に広がるのを感じてでもそれがどうしてかわからなくて意識が見る見るうちに暗く──。 九十九秒。 なのはが今度こそ崩れ落ちる。 開放されるグレーテルを見てリンクの心中に一瞬焦りが走る。 高町なのはを信じたのは失敗だったのか? すぐにそれを否定する。 彼我の距離はほんの僅か、動きを止められていたグレーテルが回避するには間に合わない。 だから間に合うはずだ。 貫けるはずだ。 果たしてリンクの刃はグレーテルの胸に届いた。 狙いたがわず正確に一点へと鋭い突きを叩き込む。 その動きは完璧でグレーテルの行動はそれに一瞬間に合わなくて。 襲撃から百秒が経過した。 ザッという音がした。 グレーテルが壁に開けた穴を抜け、人影が一つ飛び込んできたのだ。 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。 自称最強の悪の魔法使い。 リンク達を護るため、他の悪を討つために、魔女たちに同盟を示唆しながら四散させた張本人。 つい先ほどヴィクターと化す前のグレーテルと戦い撃退した、夜に生きる吸血鬼である。 彼女は変貌したグレーテルが工場の方角に向かうのを見て、それを追ってここに来たのだ。 しかしグレーテルがヴィクターの飛行能力を使いこなし始めた挙句にサンライトハートで加速したため、 彼女の飛行能力では若干の遅れが生じ、出発の時間差も含めて百秒の遅れが生じた。 たったの百秒だ。 例えば廊下など見晴らしの良い場所に出ず適当な部屋に隠れて、迎撃に出るのではなく待ち伏せれば過ぎ去る程度の時間。 救援の見込みなど薄いのだからそんな可能性は低かったが、一つ違えば何事も無く間に合ったほどの時間。 それだけの時差で彼女は戦場に辿り着き。 その光景を視た。 リンクの剣は確かに狙いたがわず一点を貫いた。 グレーテルが傷を負っていたその場所を。 そこからならリンクの刺突はグレーテルの肉を深く穿ち、上手くすれば致命傷に至る程の傷になっていたかもしれない。 その切っ先が、ほんの少し肉に埋まっただけで止まっていた。 リンクは幾つか気づくべきだった。 何よりも高町なのはが冷静な判断で戦術的行動を取っていたわけではない事に気づくべきだった。 この状況における高町なのはは何処までも無力な少女でしかなかった。 その行動に作戦を見てはいけなかったのだ。 高町なのはがグレーテルにしがみついたのは動きを抑えるためではない。 だから、その力は動きを妨げるにはあまりにも弱かった。 回避行動を妨げる事が出来ても、攻撃の邪魔まではできない程に。 そして今の高町なのはは人間的な感情に素直になった代償として、冷徹なまでの理性的判断力と観察眼を失っていた。 だから高町なのはは気づいていなかったし、 なのはの行動を信じられるかどうかという言ってみれば 戦闘とは無関係な方向に思考が逸れてしまったリンクも気づいていなかった。 背後で、アリサを安全な場所に運ぼうとしたインデックスがいつの間にか二人して倒れている事と、その理由。 それが何をもたらすのかに。 高町なのははヴィクターと化しているグレーテルにしがみつき、密着した。 高町なのはの意識を奪った最終的な要因は、ヴィクター化によるエネルギードレインである。 ヴィクターと化した者はそのエネルギーで武装錬金を振るい。 あるいは自らの肉体を再生する。 僅かに血が滲む程度の掠り傷など、ほんの数瞬なのはが密着していた分で十分だったのだ。 リンクの剣が届く前に再生は完了し、赤銅色の皮膚はリンクの剣を受け止め貫通力の殆どを奪い去った。 そしてさっきまでの様に、攻撃に頓着せず振るわれたグレーテルの突撃槍が。 リンクの頭部を粉砕していた。 紅い液体と赤い塊と白くて硬い欠片と白くて柔らかい欠片と灰色の塊と白く小さな球体と細い金糸の生えた肌色が リンクの頭部だった場所から四散して壁にへばりつき少女達を赤く紅く染めていた。 それが一つの結末だった。 「そういう、事か」 エヴァは呟く。 悲壮と共に。 怨嗟と共に。 哀哭と共に。 「やはりそういうものか」 絶望と共に。 苦痛と共に。 悲嘆と共に。 「やはり正義とは、勇者とは、そんなものか」 正義の勇者の敗北を、続けざまに知った。 その儚さと、無力さとを識った。 確かめ、実証されるところを観せられた。 何が悪の中ボスだろう。 全てが今この瞬間だけは、どうでもよくなっていた。 だから正直に、胸の奥から溢れくる感情に身を委ねていた。 「良いさ。貴様は私が殺してやる」 グレーテルに向けて氷のように凝固した憤怒を、叫んだ。 ◇ インデックスはそれを見ていた。 倒れ伏し、息苦しいほどに消耗しながら。 喘ぎ、悶えながら見ていた。 (ダメだよ、エヴァ……) そして恐怖していた。 襲撃者の持っている能力と、この状況がもたらす最悪の組み合わせに。 インデックスは戦いに巻き込まれないよう、なのはの腕から零れたアリサを仮眠室に引きずり込もうとしていた。 呻き声を上げていたが、出血で一時的に意識が飛んでいたのか抵抗は無かった。 その途中で急激な脱力感に襲われ倒れてしまったのだ。 戦況を観察し続けて、やがてその原因を理解した。 しがみつきすぐに倒れたなのはと、グレーテルの胸の傷を見て。 グレーテルは周囲から生命力を吸い上げて自らの傷を再生していた。 即ち、エナジードレインだ。 その生命力は戦う力にも使われているのだろう。 グレーテルはそこに居るだけで周囲の者達を衰弱させ、力を増し続けていた。 とはいえ、本来は至近距離でなければこうも即効性を持つ力ではなかった。 健康な者ならこの距離でやられはしなかったはずだ。 だがインデックスは高熱と貧血で消耗していた。 微弱なエナジードレインに耐える体力すら残っていなかったのである。 深手を負ったアリサも似たようなものだろう。 エナジードレインを直接受けて倒れたなのはに至っては言うまでもない。 インデックスもアリサもなのはもまともに行動出来ず、しかしまだ生きている。 それこそが最悪だった。 (私たちの事は見捨てなきゃいけないんだよ……) それは裏を返せば、生命力のまだある、無力な存在が転がっているという事だ。 インデックスはグレーテルが周囲から力を吸い上げている現象に気づき、その“最悪”に気がついた。 この戦場で戦う限りグレーテルは力を増し続け、回復を続けるのだ。 (いくらエヴァでも、ここじゃ勝てないんだよ……!) この消耗では警告を叫ぶことさえ難しい。 だからインデックスは祈る。 戦況が不利になれば、エヴァが苦渋の選択で自分たちを見捨ててくれる事を。 せめて一人でも生き延びてくれることを。 悪夢は百秒で訪れた。 【リンク(子供)@ゼルダの伝説 時のオカリナ 死亡】 【A-3/工場/2日目/早朝】 【グレーテル@BLACK LAGOON】 [状態]:健康、ヴィクター化、血塗れ、胸に小さな傷。 喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている。 [装備]:サンライトハート@武装錬金 ソードカトラス×2(1+12/15)(銀10/15)@BLACK LAGOON、ソードカトラス専用ホルダー [道具]:基本支給品一式、塩酸の瓶×1本、毒ガスボトル×1個、ボロボロの傘 ソードカトラスの予備弾倉×3(各15発、一つだけ12発)、バット、 蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、救急箱、エルルゥの薬箱の中身@うたわれるもの (カプマゥの煎薬(残数3)、ネコンの香煙(残数1)、紅皇バチの蜜蝋(残数2))、100円ライター スペクタルズ×8@テイルズオブシンフォニア、クロウカード『光』『剣』@CCさくら、 コエカタマリン(残3回分)@ドラえもん、 [服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空き、更に大きく十字に切られている。雨に濡れて湿っている。 [思考]:うふふ……あははは…… 第一行動方針:エヴァと周囲の連中を殺す? 第二行動方針:千秋との再会を楽しみにする。千秋が「完全に闇に堕ちた」姿を見届けたい。 第三行動方針:機会があればまた紫穂と会いたい。2人きりで楽しく殺し合いたい。 基本行動方針:効率よく「遊ぶ」。優勝後はジェダに「世界のルール」を適用する(=殺す)。 [備考]:シルバースキンの弱点(同じ場所をほぼ同時に攻撃されると防ぎきれない)に勘付きました。 「殺した分だけ命を増やせる」ことを確信しました。ただし痛みはあるので自ら傷つこうとはしません。 銀の銃弾は微妙に規格が違う為、動作不良を起こす危険が有ります。使用者も理解しています。 【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル@魔法先生ネギま! 】 [状態]:全身に痛み、左腕が殆ど動かない、魔力消費(中) [装備]:フェアリィリング@テイルズオブシンフォニア [道具]:支給品一式、手足の無いチャチャゼロ(半永眠)@魔法先生ネギま! [思考]:殺してやる、殺してやるさ 第一行動方針:グレーテルを殺す 第二行動方針:リリスと遭遇することがあったら、リリスを倒し身柄を押さえ、情報を得る。 第三行動方針:ジェダの居場所に至る道を突き止め、露払いをする。 第四行動方針:ジェダを倒そうと挑む者たちの前に立ち塞がり、討たれる。 基本行動方針:ジェダ打倒のために暗躍。ただし仲間は作らない。誇り高き悪として、正義の前に散る。 [備考]:梨花の血を大量に吸いました。雛見沢症候群、及び女王感染者との関連は不明です。 ジェダ打倒を目指している者として、ニアの名前をグリーンから聞いています。 パタリロを魔族だと思っています。名前は知りません 紫穂の『能力』が、触れることで発動することを見抜きました。詳細までは把握していません。 雲に隠れていても満月による補正は有るようです。 【インデックス@とある魔術の禁書目録】 [状態]:高熱&貧血&エナジードレインによる消耗で行動不能、全身に軽度の凍傷、 背中に大きな裂傷跡と火傷、足裏に擦過傷(共に応急手当て済み) [装備]:水の羽衣(背部が横に大きく裂けている)@ドラゴンクエストⅤ [道具]:支給品一式(食料-1日分、時計破損)、ビュティの首輪、鉄製の斧@ひぐらしのなく頃に(?) [服装]:私立聖祥大付属小学校の制服の下に水の羽衣。背中と足にシルクの包帯。 [思考]:逃げて、エヴァ……! 第一行動方針:どうにか、したい 第二行動方針:ヴィータを捜し、説得する。 第三行動方針:ニケ達と合流する。 第四行動方針:紫穂の行方の手掛かりを探す。エヴァの説得も諦めていない。名前しか知らないヤムィヤムィが少し気になる。 第五行動方針:落ち着いたら、明るい所でじっくりビュティの首輪を調べたい。 基本行動方針:誰にも死んで欲しくない。状況を打破するため情報を集め、この空間から脱出する。 [備考]:拾った双葉の型紐が切れたランドセルに荷物まとめて入れています。 インデックス自身のランドセルは壊れているので内容物の質量と大きさを無視できません。 深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。 【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのは】 [状態]:全身に軽い火傷(右腕と顔は無事)、左腕出血(軽度打撲)、背中出血(深い切り傷)、以上応急処置済み。 精神負担中、足と両手に軽度の凍傷、右肩に深い刺し傷、腹部打撲、出血と軽度エナジードレインで行動不能? [装備]:カレイドステッキ@Fate/stay night [道具]:なし [服装]:パジャマ。変身を解いたらショーツ一枚。 [思考]:?????? 第一行動方針:この状況をどうにかしたい。 第二行動方針:リンク、インデックスと情報交換する。 基本行動方針:はやての遺志を継いで、なんとかする。(なのはと一緒に)ゲームからの脱出。 [備考]:深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。 カレイドルビーは臨時放送を聞いています。 贄殿遮那@灼眼のシャナはグレーテルの足元に転がっています。 【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】 [状態]:魔力消費(中)、両手首に浅い傷、背中に軽度の凍傷(治療済み)、頬骨と肋骨一本にヒビ、 胴部打撲、密着エナジードレインにより昏倒 [装備]:なし [道具]:なし [服装]:シーツでできた服 [思考]:………………。 第一行動方針:これまでに殺した人たちに謝る…… 基本行動方針:自らの罪を償う。自身の想いに素直になる。それから…… [備考]:深夜12時の臨時放送を完全に聞き逃しました。 ≪279 死が二人を分かつとも 時系列順に読む 281 それぞれの再会 -ongoing-(前編)≫ ≪279 死が二人を分かつとも 投下順に読む 281 それぞれの再会 -ongoing-(前編)≫ ≪273 つながり(前編) リンクの登場SSを読む GAME OVER インデックスの登場SSを読む 282 第二回定時放送≫286 怨鎖の雷と光の矢≫ ≪274 目撃者と追跡者 グレーテルの登場SSを読む エヴァの登場SSを読む ≪265 高町なのはの過ごした一日 高町なのはの登場SSを読む ≪254 ワスレナグサ アリサ・バニングスの登場SSを読む
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【種別】 宝具 【初出】 VIII巻(名称や機能は公式ガイドブック完結編『灼眼のシャナノ全テ 完』) 【解説】 [仮装舞踏会]の禁衛員“嵐蹄”フェコルーが腰に下げていた湾曲刀型の宝具。操作は目分量で行う。 その能力は「空間を越えて斬撃を放つ」という凄まじいものだが、この宝具をフェコルーが抜いたことは数度しかなかったようだ。 【由来・元ネタ】 「オレイカルコス(Oreikhalkos)」は、古代ギリシア・ローマの文献にしばしば登場する伝説の金属。オリハルコンとも呼ばれる。 ギリシア語で「オレイ」が山で「カルコス」が銅なので、直訳は「山の銅」となる。 【コメント】 ☆アニメ第2期とアニメ第3期では使用されなかった。 ☆フェコルーが“天目一個”に襲われた時に、とっさに自在法『マグネシア』でなくこの剣で受け止めることを選んでいれば、致命傷は避けられたのではないだろうか。本人も含めて、「フェコルー=『マグネシア』」という固定観念が強すぎたのかもしれないな。 ☆『マグネシア』の内側から、外側の敵を一方的に攻撃できる反則気味な宝具だ。しかし大抵の相手は『マグネシア』でどうにでもなる以上、ほぼ出番は無かった。この剣を抜くとしたら、『大地の四神』の一人センターヒルの『トラロカン』のような自在法を打ち消してくる相手かもな。 ☆フレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』シャナの『贄殿遮那』やフリアグネの『ラハット』やソラトと坂井悠二の『吸血鬼』との鍔迫り合いが見たかったな。 ☆『オレイカルコス』は明らかに遠距離攻撃用だろ。鍔迫り合いに持ち込まれるようなのは、使い方を間違ってる。 ☆『マグネシア』の内側から攻撃できるということは、逆説敵に使われると『マグネシア』が防壁の意味を為さなくなるという事でもある。フェコルーはこの宝具を、自身で使うためではなく、他人に使わせないために所持していたのではないだろうか。 ☆『棺の織手』ティスやノースエアや『儀装の駆り手』カムシンやザムエル・デマンティウスやゾフィー・サバリッシュやアレックス相手に使用していたら面白そうだったのにな。 ☆[とむらいの鐘]の『左翼』イルヤンカの『幕瘴壁』や『九垓天秤』ソカルの『碑堅陣』やダン・ロジャースの『プレスキット』とも対決していたら面白そうだったのにな。 ☆番外編『かぐやひめのしゃな』には登場しなかった。 ☆番外編『おじょうさまのしゃな』にも登場しなかった。 ☆番外編『さんじゅうしのしゃな』にも登場しなかった。
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「灼眼のシャナ?×テイルズ」タイアップ宝箱の期間限定再販売 アイテムショップにて「灼眼のシャナ?宝箱『炎髪灼眼』」の再販売を期間限定で開始しました。 宝箱「炎髪灼眼」には「灼眼のシャナ?」に関連するアイテムのみ出現します。 「灼眼のシャナ?×テイルズ」タイアップイベントや宝箱「炎髪灼眼」で取得できた一部アイテムを SHOWアイテムにリニューアルしました。 【販売期間】 2012年5月30日(水)メンテナンス後 〜 2012年6月13日(水)メンテナンス前 【販売内容】 ・宝箱「炎髪灼眼」1個 300P/30日 ・宝箱「炎髪灼眼」5個 1500P/30日 ・宝箱「炎髪灼眼」11個 3000P/30日 ・宝箱「炎髪灼眼」40個 10000P/30日 ■宝箱「炎髪灼眼」から出現する全アイテム 【リニューアルしたアイテム】 以下のアイテムをREALアイテムからSHOWアイテムに変更しました。 †ちっちゃなシャナ †ちっちゃなヘカテー †シャナ変身マント †シャナといっしょ †一美といっしょ †ヘカテーたん †みかん箱シャナB †シャナたん †りんご箱ヘカテー †贄殿遮那 †吉田専用(ルシアン) †吉田専用(ボリス) †吉田専用(マキシミン) †吉田専用(シベリン) †吉田専用(ミラ) †吉田専用(イスピン) †吉田専用(ティチエル) †吉田専用(ナヤトレイ) †吉田専用(ランジエ) †吉田専用(ジョシュア) †吉田専用(クロエ) 【その他のアイテム】 †漂うコキュートス †みかん箱シャナA †ちっちゃなヴィルヘルミナ †紅蓮の双翼 †ヘカテー帽子 †ドジっ娘専用 箱入りシャナ 箱入りヘカテー [炎の下級鍛錬]シャナ [炎の中級鍛錬]シャナ [炎の上級鍛錬]シャナ [炎の伝説鍛錬]シャナ [雷の下級鍛錬]シャナ [雷の中級鍛錬]シャナ [雷の上級鍛錬]シャナ [雷の伝説鍛錬]シャナ コキュートス アズュール エモーション(シャナたん)(30日有効) エモーション(ヘカテーたん)(30日有効) ※宝箱「炎髪灼眼」から出現する一部のアイテムはリサイクルすることが可能です。 【アイテムリサイクル手順】 宝箱「炎髪灼眼」から入手した一部のアイテムをリサイクルすることで、 新たにアバター宝箱「百花繚乱」を受け取ることができます。 1)宝箱「炎髪灼眼」から入手したアイテムを所持した状態で、 NPC「ゼリッP交換所」に話しかけます。 2)リサイクルメニューを選択します。 3)「アバターリサイクルチケット」を受け取ります。 4)「アバターリサイクルチケット」をダブルクリックした後、 宝箱「炎髪灼眼」から入手した装備アイテムにカーソルを合わせ、クリックします。 クリックすると「アバター宝箱交換チケット(補助券)」を1枚入手できます。 5)「アバター宝箱交換チケット(補助券)」を10枚所持した状態で、 NPC「ゼリッP交換所」に話しかけると、アバター宝箱「百花繚乱」を1個入手できます。 参考:「灼眼のシャナ×テイルズ」タイアップイベント りたーんず :「灼眼のシャナ×テイルズ」タイアップイベント 装備 今回、REALアイテムからSHOWアイテムに変更されたアイテムは、新規実装アイテムという形で、既存のアイテムがSHOWアイテムになる訳ではないので注意。 [部分編集] 取得場所 価格 耐久 硬度 突き 斬り 物防 魔攻 魔防 命中 回避 敏捷 Cri補正 合成回数 条件 交換可否 ルーレット(MR)費用/備考 †漂うコキュートス 効果 宝箱「炎髪灼眼」 Sell 47 47 2-5 2-5 1-4 2-5 1-4 2-5 2-5 2-5 2-5 MAX 無し 可 5,000,000MR券 10,000床置き可 †みかん箱シャナA 効果 宝箱「炎髪灼眼」 Sell 1,837,500 33 33 2-5 2-5 - 3-5 - - 3-4 3-4 1-4 MAX 無し 可 TOM可MR費用5,000,000遠隔券費用10,000seed †シャナたん 兜+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †ヘカテーたん 兜+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †ヘカテー帽子 兜+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †ドジっ娘専用 頭+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †贄殿遮那 体+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †紅蓮の双翼 体+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell 100 100 - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †みかん箱シャナB 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †りんご箱ヘカテー 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †シャナ変身マント 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell Locked 100 100 - - - - - - - - - MAX 無し 不可 見た目がシャナに変身 †ちっちゃなシャナ 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell Locked 100 100 - - - - - - - - - MAX 無し 不可 見た目が小さいシャナに変身 †ちっちゃなヘカテー 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell Locked 100 100 - - - - - - - - - MAX 無し 不可 見た目が小さいヘカテーに変身 †ちっちゃなヴィルヘルミナ 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - - - MAX 無し 不可 見た目が小さいヴィルヘルミナ変身 †シャナといっしょ 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †一美といっしょ 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †吉田専用(各キャラ11種) 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 イサック、アナイス以外 情報提供 ※ 情報提供以外の感想、質問等は別の掲示板等をお使いください。 名前 †みかん箱シャナA:遠隔券費用10,000seedでした --
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第426話:学生服と日本刀 作:◆Sf10UnKI5A マンションの一室は、重苦しい空気に包まれていた。 仲間を探すため、そしてゲームからの脱出を目的に集まった面々だったが、 情報交換も終わった今は会話も少なくなっている。 それでも、まだマシな状況なのだろうとベルガーは思う。 テッサとダナティアの消息が知れずとも。 そして、シャナが吸血鬼へと変貌しつつある現状だとしても、だ。 ベルガーが過去数年間で潜った修羅場の数は、常人の比ではない。 彼が経験した戦場と質は大きく異なるが、それでも彼はこのゲームで生き残るつもりでいる。 (だが殺さずに生き残れるか? ここはただの戦場じゃない) 不安だけではない、具体的な問題要素が大量にある。 しかしベルガーは、――“野犬”は、ただ隠れて時が経つのを待つような男ではなかった。 「リナ、あと保胤。ちょっといいか?」 時計の針が五時を指す少し前。 ベルガーは二人を廊下に連れ出すと、新たな行動について話し始めた。 「シャナを連れて港に偵察に行ってみる。雨も少しは弱まったみたいだからな。 距離も近いし、何も無ければ放送前に戻ってこれるだろう」 「あの女が起きる前に動くっての? それに、ダナティアとテッサだって……」 「俺とシャナとエルメスだけだ。君らにはあの吸血鬼の見張りと留守番を頼みたい。 半日ってのは長そうで短いからな。時間が惜しい」 「ちょっと待って下さい」 慌てて、しかし部屋に届かぬ小声で保胤が口を挟んだ。 「吸血鬼化の細かい原理がどうであれ、下手に動くことは控えるべきです。 シャナさんの肉体・精神がどれほど強かろうと、疲労すればそれに伴い――」 「そのシャナの精神状態ってのが問題だ」 ベルガーは保胤の言葉に割り込んで話し始めた。 「彼女は、どうやら『悠二』って奴に相当依存している。だよな、リナ?」 「まあね。最初に会った時もそいつを探してるって言ってたけど、体力任せに随分無茶やってたから……」 散弾銃を喰らいながら、当ても無く走り回っていたというシャナの姿を思い出す。 それを聞くと、ベルガーは溜め息をついて続きを語った。 「何もせずにただあの二人を待っていたら、あいつの不満は溜まる一方だ。 体力が増しているのなら、勝手に飛び出して行きかねない。 そうなる前にガス抜きしとけば、多少はマシになるだろうからな」 「確かに、もし彼女が暴走してこっちを襲ったりしたら あたしでも互いに無傷でってのは難しそうね。打てる手は打っときましょ」 「ですが、もし彼女が突然自我を失いでもしたらどうしますか? 恐らく今しばらくは平常でいられるでしょうが、僕の見立て自体が間違っている可能性もあります」 未知の妖物に対する不安を保胤は正直に口にするが、 「もしそうなっても、死ぬのは俺か彼女だけで済む。ここで暴れられるよりはよっぽど良いさ」 「……それ、本気で言ってる?」 眉をひそめるリナと保胤に対し、ベルガーは苦笑を浮かべ、 「そうならないために考えた案なんだがな。まあ、その時はその時だ」 シャナはベルガーの案を素直に受け入れた。 表には出していないが、やはり動けないことでストレスが溜まっていたのかもしれない。 セルティにはリナと保胤が説明をすることにして、二人と一台は外に出た。 「雨かあ。錆びたらちゃんと整備してくれるかい?」 「保証は出来んが覚えておくよ。バイクに生まれた宿命だと思って走ってくれ」 「バイクじゃなくてモトラドだって。それは両者に対する侮辱だよ」 「すまん、違いが判らなくてな。――ああ、そうだシャナ」 「何?」 既にサイドカーに乗り込んだシャナに対し、贄殿遮那が差し出されていた。 「大分遅れちまったが返す。どうせ運転に集中しないといけないからな」 「あっ……」 「礼はいらない」 シャナに押し付けるように渡し、ベルガーはエルメスにまたがった。 「どうせ君の物だったんだからな。だろ?」 「別に礼なんか言おうとしてないわよ! 早く出しなさい!」 へいへいと相槌が返り、モトラドが発進した。 何故ベルガーがこんなことを提案したのか、シャナは理解出来なかった。 時間が経つのを待つことが苦痛にしかならないシャナにとって、ベルガーの申し出は渡りに船だ。 (でも、何で……?) 吸血鬼になりつつある自分と二人きりで。 罵って、乱暴までした自分にあっさり贄殿遮那を返して。 モトラドに揺られ雨に打たれる二人は、ただ前を見つめている。 ベルガーは運転に集中するために。 シャナは――他人を見ることで吸血衝動が沸くのをひそかに恐れて。 ふと、顔は前に向けたままベルガーが話しかけた。 「なあシャナ」 「何よ」 「吸血鬼って言うが、あまり考えすぎない方がいい。どうせこのゲーム自体が狂ってるんだ。 一人で全て解決しようとするな」 「……私は、助けなんか必要無い」 「その態度を改めろとは言わないが、君は少し頼ることを覚えた方が良いな」 「…………ッ」 まるで説教のようなベルガーの物言いに、シャナは反発心を抱いた。 「――何様のつもりよ? テッサやダナティアにも調子の良いこと言っといて」 「調子の良いこと、か……」 ベルガーはわずかに黙り、そしてまた口を開いた。 「参加者に俺の友人が一人いたんだが、そいつはとっとと殺されちまった。 元の職業は軍人だから、いつ死んだっておかしくない奴だ。 だが、こんなゲームで死ぬなんてのは考えてなかっただろうな?」 (友人の、死……) 自分が今、最も恐れていることを、この男は既に経験している。 「最初の放送前、随分早い時間に殺されていた。 俺はそいつを埋めてやったんだが、助けられなかったのか、とは思ったな」 友人が死んで、それでも平然と、誰かを助けるために動いている。 「……何で、そんな風に出来るの……?」 雨に消えそうなシャナの呟きだったが、ベルガーは口元を歪め、 「――ガキが困っていたら、大人が助けるものだろう?」 「タメゴロウより腰の方ってやつだね」 「……亀の甲より年の功」 「そうそれ」 モトラドが言い間違える横で、シャナは顔をうつむかせ、 「……私は、困ってなんかいない」 「別に君の主観はいいんだ。俺が勝手に手を貸すだけだからな。 っと、もう着いたか。一応気をつけてくれよ」 「言われなくても判って――――!?」 「おい、どうかしたか?」 ベルガーの問いかけに答えず、シャナはあたりを見回した。 (今のは悠二の存在の力? でも弱すぎるし、何で一瞬だけ……) 二人と一台は港に到着した。 既に事切れた坂井悠二と、彼を殺した殺人鬼の存在を知らぬままに。 【C-8/港/1日目・17:00過ぎ】 『ポントウ暴走族』 【シャナ】 [状態]:平常。火傷と僅かな内出血。吸血鬼化進行中。 [装備]:贄殿遮那 [道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml)) [思考]:聖を発見・撃破して吸血鬼化を止めたい。 ベルガーを信用していいのか迷う。悠二の気配? [備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。 手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。 吸血鬼化は限界まで耐えれば2日目の4~5時頃に終了する。 ただし、精神力で耐えているため、精神衰弱すると一気に進行する。 【ダウゲ・ベルガー】 [状態]:心身ともに平常 [装備]:エルメス、鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)携帯電話 [道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml)) [思考]:仲間の知人探し。不安定なシャナをフォローする。 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。 ※携帯電話はリナから預かりました [チーム備考]:港を探索し、放送までにC-6のマンションに戻る。 【C-6/住宅地のマンション内/1日目/17:00頃】 『不安な一室』 【リナ・インバース】 [状態]:平常。わずかに心に怨念。 [装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン) [道具]:支給品二式(パン12食分・水4000ml)、 [思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。 千絵が起きたらアメリアの事も問いつめ、内容によって処遇を判断する。 【セルティ・ストゥルルソン】 [状態]:やや疲労。(鎌を生み出せるようになるまで、約3時間必要です) [装備]:黒いライダースーツ [道具]:携帯電話 [思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 【慶滋保胤】 [状態]:不死化(不完全ver)、疲労は多少回復 [装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている [道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ [思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 島津由乃が成仏できるよう願っている。 シャナの吸血鬼化の進行が気になる。あと30分後に由乃の綿毛を飛ばす。 【海野千絵】 [状態]:吸血鬼化完了(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ、厳重な拘束状態で気絶中 [装備]:なし [道具]:支給品一式(パン6食分・シズの血1000ml)、カーテン [思考]:気絶中。聖を見限った。下僕が欲しい。 甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。 吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。 死にたい、殺して欲しい(かなり希薄) [備考]:首筋の吸血痕は殆ど消滅しています。 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第425話 第426話 第427話 第471話 時系列順 第428話 第420話 海野千絵 第483話 第420話 リナ 第483話 第420話 セルティ 第483話 第420話 慶滋保胤 第483話 第420話 ベルガー 第454話 第420話 シャナ 第454話 第420話 エルメス 第454話
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【種別】 自在法 【初出】 XIII巻 【解説】 [仮装舞踏会]の禁衛員“嵐蹄”フェコルーの使用していた防御系自在法。彼が『偉大なる嵐の支配者』と呼ばれる理由と思われる。 臙脂色に色付く半透明の微細な粒子を数多生み出し、それを自在に流動・循環・凝固させ、粒子の嵐を形成した。 生み出された粒子はその細かさに反して、見た目の数十倍または数百倍という超重量を持ち、密度と流動の速度を上げることで、範囲内全域を吹き荒れる粒子の暴嵐を形成するという、鉄壁の防御陣。 圧倒的な「防御」によって攻撃をも行う、攻防一体の強力な自在法であった。 強力無比な防御系自在法として共に名が挙がる『幕瘴壁』との比較では、防御の硬さの面で優れているとのこと。「大きな盾のごり押し」と例えられた。 粒子の質量と速度によって、滝の落水で打たれて鑢がけされるかの如き強烈な打撃の濁流を、『マグネシア』の嵐の内部に留まろうとする者に常時与え続け、しかも粒子はぶつかったところにこびり付き、焼き払われても消滅することなく、その質量で飛行の枷となり続けた。 さらに粒子を凝固させて作り出された、トラックをも軽く一敷きする程の大きさの大質量の立方体も、粒子の暴嵐と共に猛烈なスピードで大量に放たれていた。 この嵐の内部に留まる者は、粒子の暴風による常時続く打撃によるダメージと、こびりつく粒子の質量、そして高速で舞う大量の巨大立方体による圧倒的な質量のごり押しにより、遂には押し戻されてしまった。 また、嵐を展開しなくとも、凝固させた粒子の立方体を飛ばすことによる直接的な攻撃も可能であった。 生成できる物体の大きさはかなりのもので、フェコルーが粒子を巨大な球状に凝固させた時、彼が上空にいたにも関わらず、御崎高校の校庭を押し潰し、校舎すらも半壊してしまった。 嵐の内部にいれば外部から業火に包まれても一切の影響を受けず、自分を中心に粒子を凝固させれば防壁の機能を果たすと共に、凝固させた粒子を球状に膨れ上がらせることで、生成の勢いで周囲のものを弾き飛ばし押し潰すこともできた。 その「防御」は、シャナとマージョリーの全力の炎を『万条の仕手』ヴィルヘルミナが融合・増幅・循環させた炎の溶鉱炉の破壊力すらをも軽く上回ってなお有り余るほどの圧倒的破壊力と防御力を持ち、さらにフェコルーはそれをほんの一拍で生み出すことが出来た。 大規模な展開も恐ろしく早く、ほんの一瞬で『星黎殿』を包む『秘匿の聖室』の内側を覆い尽くすことができた。 このように広範囲に薄く展開した状態でも、カムシンの大威力の攻撃『ラーの礫』やレベッカの爆破攻撃に小揺るぎもしない強度を誇った。 さらに、フェコルーが瀕死状態からの展開でも、ゾフィーが全力を注ぎ込んだ落雷蹴りを、嵐の表面を乱しもせず容易に弾くほどであった。 無風の「安全地帯」を作り出すことで味方も共に防御することができるが、その影響範囲の広さ故に、乱戦において仲間の位置を把握せずに使うと味方をも巻き込む危険があるという欠点も持っていた。 [仮装舞踏会]下位構成員に対して姿を隠しているフェコルーが、“嵐蹄”として彼らの前に姿を見せなければならなくなった時は、自らの身体をこの自在法によって生成した臙脂色の直方体で覆っていた。 【アニメ版】 原作と比べて、以下の違いがあった。 最初に登場した立方体がやたら巨大 通常展開時の粒子の数が少なく、数mほどの立方体も飛んでいなかった(帯のように粒子が集まって流れる程度) 粒子自体の性質が異なった(粒子というより小さな立方体、臙脂色でない、こびり付かないなど) そもそも防御用の自在法でなく、立方体で防御も可能、程度の自在法になっていた アニメ第3期では“天目一個”が自在法無効という特性ではなく、『贄殿遮那』で『マグネシア』を切り裂いていた(原作の設定では『贄殿遮那』で『マグネシア』を切り裂くのは不可能だと思われる) 【由来・元ネタ】 プラトンが著書『イオン』で言及した「マグネシアの石(magnesia lithos)」=磁石のこと。マグネシア半島は、ギリシア共和国テッサリア地方の南東部に位置する県。 「マグネシア」は、マグネット・マグネシウム・マンガンなどの語源ともなった(異説有り)。 酸化マグネシウムの通称「マグネシア」は、マグネシア地方で産出されたためと言われる。 性質は、悪魔フェコル(=フェコルー)の能力が由来と思われる。 →フェコルーの【由来・元ネタ】の項参照。 【コメント】 ☆瞬間的な攻撃力がトップクラスのゾフィーの蹴りさえ通じないとなると、あの化け物トーチ以外にこの防御を抜ける攻撃力の持ち主はいないんじゃないか? ☆↑シャナの『断罪』や[とむらいの鐘]の『右翼』メリヒムの『虹天剣』あたりなら「技の性質上」ぶち抜けると思うが、そのぐらいだろうな。 ☆[とむらいの鐘]の『左翼』イルヤンカの『幕瘴壁』や捜索猟兵レライエの『ニムロデの綺羅』と比べて、どれが一番強力だったかな。 ☆総合的防御力でなら、間違いなく『マグネシア』だな。 ☆風を操れるフィレスなら、嵐の中にむりやり無風地帯を作り出せるかもしれない。 ☆働きまくった後とはいえサイズも存在も強大なデカラビアを一撃で倒した落雷蹴りを瀕死の状態から余裕で防ぐ。相手からしたらふざけんなって言いたくなる防御力だよな。 ☆フェコルーとサブラクは、作者も殺しあぐねてあんな最期になったんじゃないかと思ってる。 ☆数少ない相性の悪そうな自在法は、豪雨の大結界『トラロカン』だろうか。元々範囲系自在法を消去する上に、その効果が効かないとしても、降りしきる雨で粒子が固まって泥になってしまいそうだ。 ☆普通なら宝具『オレイカルコス』だけでチートなはずなのだが、この自在法は『オレイカルコス』の存在すら霞ませる超級のチート。作中、通常の手段で破られることはついになかった。 ☆御崎高校の時、フェコルーはヘカテーに害が及ぶことをシュドナイに知られた場合を非常に恐れていたことから、狂乱状態のシュドナイはこの自在法すらぶち抜いてしまうのではなかろうか? ☆『棺の織手』ティスやノースエアや『儀装の駆り手』カムシンやザムエル・デマンティウスやピエトロ・モンテベルディやアレックスやドゥニやフランソワ相手に使用していたら面白そうだったのにな。