約 130,380 件
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/697.html
アムロ「この異常な数の弟達を育てるには、高校に行かず働くしかない……」 シロー「そんな、兄さんの成績なら結構いい高校に行けるじゃないか」 アムロ「悔しいけど、僕は長男なんだ。僕がやらなくちゃいけない……」 シロー「兄さん……」 シロー「兄さん一人に迷惑をかける訳にはいかない、俺は警察学校へ入る!」 ドモン「何で警察学校なんだ? シロー兄さんは警察になりたかったのか?」 シロー「警察学校なら学費がかからない……国が出してくれるからな。 その代わり警察官として国のために働く義務を背負う。 学費も警察官になってから払うようなもんだからな」 ドモン「シロー兄さん……」 ドモン「兄さん達ばっかりの世話になる訳にはいかない。流派東方不敗の技をガンダムファイトで活かしてやる!」 コウ「さすがドモン兄さん、やっぱりそういう道へ進むんだね」 ドモン「うむ! 初のガンダムファイト出場を目指してちょっくら山ごもりしてくるわ」 コウ「ドモン兄さんはいいなぁ、やりたい事をやれる仕事を見つけられて。 僕は今のところガンプラくらいしか趣味無いし。さて、ガンプラ作ろーっと」 コウ「ガンプラ、ガンプラ、ランランラン♪」 カミーユ「今日もコウ兄さんはガンプラ作りか、のん気なもんだな。俺はプチモビでも乗り回しに行くか」 シーブック「コウ兄さんもカミーユ兄さんも自分の趣味に生きてるなぁ。さて、ハングライダーでも作るか」 ロラン「この流れを見るとですね、ドモン兄さんのバトンの渡し方が不味かったと思うんですよ」 ドモン「お、俺のせいか!?」 ロラン「だってあきらかに上の2人と違うじゃないですか! やりたい事を我慢して仕事を選んだ長男次男と全然!」 ドモン「そ、そんな事を言われてもだな、俺だって家に金を入れようって考えはちゃんと持ってガンダムファイトを……」 ロラン「優勝するくらい強かったからいいものの、 弱かったらすずめの涙のようなファイトマネーしかもらえない仕事でしょう!?」 ドモン「そうだけど、でも、やりたい事をやって何が悪い!? それで金を稼げるんなら結構じゃないか!」 ロラン「それはそうですけど、ドモン兄さんの後はやりたい事をただやるだけでしょう!?」 ドモン「ムムムッ……そうだ、悪いのはコウだろ!? 俺は俺なりに兄貴の背中ってもんを見せたはずだ!」 ロラン「それもそうですね……ドモン兄さんならガンダムファイトが駄目だった場合、 体力だけなら誰よりもあるから、土方なり炭鉱なりで働いてくれただろうし……」 ドモン「分かってくれたか、ロラン!」 ロラン「という訳で筋トレも兼ねて、このメモにある工事現場で働いて下さい。 日雇いですからガンダムファイトに出る時は簡単に休めます」 ドモン「ンガッ!? わ、分かった……行ってくる……」 ロラン「これで我が家の収入が少し増えるぞ。次はコウ兄さんを同じような手で責めればアルバイトくらい……」 コウ「さて、今月の新作ガンプラを買うために出かけてこよーっと。 でもちょっと財政厳しいなぁ……もう大学生なんだし、ちょっとくら 小 遣 い の 値 上 げ を頼んで……」 その晩、ガンダム兄弟の食卓はニンジン一色だったそうな。 link_anchor plugin error 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ アムロ・レイ ガンダム一家 ガンダム家 シロー・アマダ ドモン・カッシュ ロラン・セアック 日常
https://w.atwiki.jp/atgames/pages/573.html
https://w.atwiki.jp/alternativemind/pages/289.html
ああ、なにものも滅びぬのに、なにものかが嘆く。 ―――バイロン メタウロのやるべきことは、たくさんある。 朝起きて身だしなみを整えて今日被る帽子と手持ちの杖か傘を選び、五枚のプレーンクラッカーと一杯の珈琲を飲む。 靴を履くときは右足から、自室を出る時にノブに手を掛ける手は左手で、部屋の外に出たらつま先を左右どちらも床に三度打ち付ける。 廊下を歩く時、メタウロは踵を慣らすように歩く。手に持っている杖や傘で床を突くことはしない。走らない。早歩きは許される。 会釈をするときは帽子を必ず軽く上げながら、会釈をする。敬礼をするときは、踵で音を鳴らして敬礼をする。 そうして、日々の仕事に臨む。今日はマッケンジー隊が偵察に出ていて、スカマンドロス隊は即応待機。即応待機状態では各ACの格納庫を中心に行動半径が決まっている。 更衣室でパイロットスーツに着替えている時、メタウロは更衣室でザルカと少しだけ他愛のない話をする。男の愚痴になる度に、メタウロはやんわりと話題を逸らす。 ヒール付きのパイロットスーツに右足から足を入れ、身を包み、メタウロはつま先を左右どちらも床に三度打ち付ける。更衣室から出る時は、左手を。 「ザルカ、メタウロ」 詰所には既にスカマンドロスが居て腕を組み椅子に座っていた。 ベイラムの社是の体現者と謳われるトップエリートなだけあって、真面目だとメタウロはザルカより少しタイミングを遅らせて礼をする。 そうするとスカマンドロスの視線はまずザルカに行く。二番目の小さな女は横目で十分だ。スカマンドロスは気にしないが、ザルカは気にするだろうから。 「今日の資料はそこにあるわ。上層部が偽情報を流したようだから、今日は何か起こりそうよ」 「何が起きても隊長なら対処できますよ。土着どもやアーキバスに後れを取ることはありません」 「もちろん、そのつもりよ」 資料を手に取り、ザルカに渡す。自分の分は次に取る。 やるべきことは、たくさんある。これもその一つ。資料を読む。 マッケンジー隊は解放戦線側へ威力偵察に、アンコール分隊はスカマンドロス隊の四脚MT部隊と共にアーキバス側へ攻撃を。 両手を使って左右の相手を殴っているような状況。こういう時に使われがちな大豊は地元のドーザー拠点への作戦実施中とのことで戦力供出を渋ったとか。 結果、スカマンドロス隊が即応待機。手元にクイーンの駒があるのならと、盤面を見て上層部は餌を撒いたらしかった。 「ザルカはガドリエルと組んで。リオと私がツートップ、メタウロが支援。いつも通りよ」 甲斐甲斐しく珈琲を淹れてきたザルカからカップを受け取り、それに息を吹きかけつつスカマンドロスが言う。 スカマンドロスの位置から一歩引いた位置に椅子を持ってきて、ザルカも彼女に倣って珈琲をふーふーとしだす。 いつも通り、とメタウロはぼそりと言った。いつも通りがいつも通りなのは、シチュエーションがまったく同じでなければならない。 ―――いつも通りがいつも通りに感じるならエージェント向きではないな。 左目の褐色の虹彩がそう言った。僕はどうだったでしょうか、エージェント・シナモン。 さあ、どうだったろうなと色彩は続ける。だがお前は立派に生き残っている、とも。 あなたの善きエージェントの条件は第一に、生き残る事でしたものね。あなたはそれを守れずに死にましたが。 「……相変わらず酷い味」 珈琲に口を付けたザルカが零し、スカマンドロスが苦笑しながら珈琲を飲む。 読み終えた資料を裁断機にかけ、メタウロも珈琲を淹れた。指で塩をつまんで、それを入れた。 ―――僕はフラッペが一番好きですけどね。ここじゃ目立つので長らく飲んでいませんけど。 椅子に座り珈琲を口につけると、声帯がそう言った。あなたは甘いものが好きでしたもんね、エージェント・ショコラ。 そうですとも、と声帯の主はつつましやかな胸を精一杯張って答える。ヴァニラはおっぱい大きくていいよね、僕より背が小さいのに、とも。 それでもあなたはその慎ましい身体で現地に溶け込む、誰にでも愛される子猫ちゃんでした。最期は声もなく静かに死期を悟った猫のように姿を消しましたが。 「メタウロは調子、どう?」 自分の識別名を呼ばれてみれば、スカマンドロスが肩をすくめながら微笑んでいた。 他愛のないワード。何の変哲もない言葉。部下に接する隊長としての言葉の中で、一番無難なものだ。 控えめに微笑みながら、メタウロは声帯を震わせ言葉を発する。 「調子は良いですよ、隊長」 「そう、それなら良かったわ」 「隊長、わたくしは―――」 「ザルカも好調よね。それは私でも知ってるわ」 「隊長にそこまで気にかけてもらえているなんて、光栄です」 調子のいい笑顔が並んでいる。ザルカは、あれが楽しいのだろう。 ―――人の好き嫌いを拒絶するのは良くねえな。そいつを嫌いになってもいいが拒絶はすんな、目が鈍るぞ。 珈琲を再度飲みながら、頭の中で声がする。あなたの目もなかなか鈍ってましたよね、エージェント・ココア。 だよな、と声の主は口をへの字に曲げて少し不機嫌そうに腕を組む。それでもヴァニラ、お前に眼をかけたのは間違いじゃなかったぜ、とも。 ああ、本当に。あなたは、お前は、本当に厭な人だよ。そうやって人の心の中にまで足先を伸ばして、気安い言葉と態度で振舞う。 僕はお前が眼をかけたから生きてるんだ。生きる羽目になったんだ。お前が僕に、いろんなものを託したんだ。死ぬに死にきれないものを。 そうして、パイロットスーツの手首から出撃を知らせるアラームが鳴る。三人分。カップを手近なところに置いて、三人は駆け出し格納庫へ続く扉を開く。詰所にいなかったガドリエルとリオ・グランデが娯楽室から飛び出してくるのが見えた。 「スカマンドロス隊のACは全機出撃!!」 そう叫びながらスーツの上に羽織っていたジャケットを、スカマンドロスは至近の整備員に投げ渡す。 それぞれのACに走っていくパイロットたち。メタウロもまた、自分のACに走る。分裂型ミサイルをフル装備した、アフォニアン(声なき者)へと。 コクピットに座り、接続し、起動し、動かす。 声なき者の声は聞こえない。静かでクリアで、少し寂しい感触が身体を突き抜ける。 けれど、と彼女は小さな体に力を入れて格納庫から機体を出す。格納庫の入り口に、見えるはずのない人影を感じる。 メタウロは、笑う。 この体を構成するすべての人々が、彼女が死ぬことを許さない。 この体を構成するすべての人々が、彼女が止まることを許さない。 彼女の幸せを願った人々が、彼女の生存を願った人々が、それを許してはくれないのだ。 彼女はそれを知っている。彼女はそれを聞いている。彼女はそれを覚えている。 だからこそ、彼女は戦う。彼女は進む。 継ぎ接ぎの身体で、どこまでも。 関連項目 メタウロ ザルカ スカマンドロス ガドリエル リオ・グランデ
https://w.atwiki.jp/tosyoshitsu/pages/570.html
どちらが先だったろう。 背中を見ていて、ふと、あおひとは、思ったのだ。 真昼の木陰に、酷暑から逃れるのではなく、逃げ込み、子供たちのするような間近さ、耳元で、今は葉ずれを聞いている最中のことである。 視界は、しゃらしゃらと、近くで聞いたら意外に元気すぎるほどの音を奏でている緑色の天蓋に心地良く和らげられ、日差しの中にありながらにして、程良く暗く、まぶしさがない。目の前の背中も、色調を、ほんのりとグレースケールに染められている。若木のように、細身だが、締まった印象の背中だ。 あおひとは、樹上にあって、掌と、足裏に、それぞれ質感の異なる、乾いた樹皮の感触を得ることで、その身を支えていた。いつでも身動きできるよう、重心を掛けた靴裏からは、力強くしなる、細い綺麗な太みが、バランスを崩さないために手を掛けた幹からは、ぽくぽくと、厚く、面白いでこぼこの頼もしみが、合わせて3つ、跳ね返って来ている。唯一空けた自分の片手を、なんとなく、わき、わき。 この背中、綺麗だなー。 樹に登ったのは、どちらが先か? もちろん、この背中が後で、自分が先だ。 しんがりの大事位、いろはの、い、だし、何より今日は、散歩するつもりだったから、ロングスカートを穿いてきてる。翡翠は、動きがどうしても鈍くなりやすい格好をした母親を、下から見守りながら、しっかりと、地表の偵察も並行させつつ、樹に登ってきた。淡々と、事を運ぶ指示を出してきた佇まいが、忠孝さんとはまた、別の形でだけれども、堂に入っていたのが、忘れられない。 がっちょんがっちょん、足元では、舗装された路面に優しくない音を立てて、二人をよそ様の庭木に追いやった元凶が通り過ぎていった。掌を開けたままの、鼻先でさまよう四本の人型巨腕。獲物を求める殺意が、その、レーダーのように、360度を旋回して探る仕草に、無言のうちに、みなぎっていて、毎度、見るたびに、肩を大きく落とすほどの溜息をしたくなる。 何がしたいんだか知らないけど、もうちょっと楽しいことに使えばいいのに。 自分の掌をちらり見た。 樹皮の細かい塵が、払った後なのに、こびりついていて、ちょっと茶色味がかってしまった。 前に目線を移せば、油断なく、緩やかに五指の押し広げられた、造形のよく出来た、手。なぜだか視線は時たま上を向いているので、手庇を作り、ちらちらと翡翠は木の葉の隙間から空の様子も伺っている。樹上なのに、腕を使わずバランスを取っている辺りも、流石だった。あれは真似できない。しかも、残る片手は、さりげなく、母親を庇える位置に下げられているのだ。 身のこなしもそうだけれど、一番素敵に思ったのは、ここ。 向こうの指の方が細く見える時もある位、爪の形まで整っちゃっているくせに、掌の大きさそのものでは、もう、すっかり上回られているところである。背丈が大体同じ位なのに、さすが男の子だな、と、感じてしまった。 「狙われてるね。お母さん」 うん。 なんでかしらんという疑問も同時進行つつ、頭は、ばらんばらんにいろんなことへ向いている。 何しろ時間がもったいない。せっかくの、息子とのデートなんだから。デートなんだから! こんな非日常だからこそ、わかることも、いっぱいあった。 さっきまで話題に上がっていた、柘榴のことも、ちらりと思い浮かびつつ、今日のプランとかもちらほら浮かびつつ、虎のビキニパンツのことも、頭によぎり……うわ、いけない。 なんだかんだと、考えているうちに、あっという間に今のシチュエーションに対して不満が膨れ上がってきたので、言葉を交わし続けながら、あおひとは自然と口にした。 「私はただ、家の中で平和にほのぼのと暮らしたいだけなのにー」 もっとも、その、ほのぼのの中身が、息子の隙を突くかのように、プロテイン、と呟く不意打ちなのだから、翡翠がどんな趣味を秘めていようとも、この母親にして、この子あり、なのだが。 もちろん、呑気にしているつもりはない。けれど、息子と比べてしまうと、自分がどうしてもどっしり構える方向に行きがちなのは、結局、どんどん前に行っちゃう翡翠の背中を、見ている自分が好きで、後ろから、追いぬかれちゃったことを実感している自分が、好きで、そんな気持ちの積み重ねの結果なのかもしれない、そう思った。 こんな心境に変わったのは、いつからかしら。 この子を一番間近で見てきたことは、かなりの特権だったよなあと、手を取られ、塀をよたよたと歩きながらに、そんなことを考えたり。 「お母さんには、子供、一杯居るから、一人じゃないよ」 だから素直に、こう答える。大股に、ぐいぐいと進んでいっちゃう背中を、駆け足で追いかけながら。 「ありがと。でも、私に翡翠は一人だからっ」 後ろから伸ばしてつないだ彼の手は、目指すものと虎のビキニパンツに言及した時、結構、なかなか、びくんとしてた。 まったく、可愛い子だ! /*/ 署名:城 華一郎
https://w.atwiki.jp/konomikusunoki/pages/179.html
スカイクローバーコンチェルト ブルー アクセサリ:背中 ガチャ:2010年01月【夜空の欠片】 スカイクローバーコンチェルト 交渉ランク【SS】 交渉可能 可動品. 色:青
https://w.atwiki.jp/tsvip/pages/788.html
159 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 04 46.71 ID 8ki53ZQI0 『もう大丈夫だから、泣かないで』 一カ月か、二カ月周期で見る夢がある。 小さな俺は赤いおもちゃのサッカーボールを持っていて、目の前で禿げた中年の男がひいひい言いながら股間を押さえている。 その横には、桃色のカチューシャをした同い年くらいの女の子がいる。 大きな瞳に涙を浮かべて、小さく嗚咽を漏らす。 俺はその子に泣き止んでほしくて、ひたすら大丈夫だ大丈夫だと繰り返した。 ただの夢なのか現実にあったのか、もうよく思い出せない。大切なあの日の思い出。 * * 初夏だった。 照りつける太陽はその明るさと暑さを見事に比例させる。 時折小さく風が肌を掠め、俺は上を向きながら目を瞑って立ち止まった。深呼吸して、ゆっくりと目を開く。 視界に飛び込んでくるのは、ペンキで塗り潰したような青。それにボンドでくっつけられたかのような綿雲。 円を描きながら悠々と飛ぶ鳶の特徴的な鳴き声に、俺は耳を傾けた。 一時間ほど続けていたランニングのお陰で、じんわりと浮き出た汗がシャツに張り付き、俺はバサバサと襟元を掴んで涼しい空気を中に送り込んだ。 肩を回し首を回し足首を回し、乳酸の溜まった筋肉をほぐす。 「あっつー……」 俺より一分ほど遅れて、ジャージの上着を腰に巻いた友人の県が俺のいる体育館裏の手洗い場にやってきた。 すぐに俺の横に立ち、蛇口を捻って生ぬるそうな水で顔を洗う。 そのパシャパシャという音を聞きながら、俺は後ろ向きで両手を手洗い場の縁に着き、大きく息を吐いた。 「もう一周行くか?」 いつの間にか顔を上げたのか、県が首にかけたタオルで顔に付いた水滴を拭き取りながら俺の顔を覗き込んできた。 逆光になって表情が分かりづらいが、自前の薄茶色の髪が金に透けて見える。俺は薄く目を細めた。 「いや……そろそろ昼だし、止めとくかな」 「分かった。じゃあ俺飯取ってくるわ」 校舎に向かって歩き出した県の背中を見送ると、俺はその場にずるずると座り込んだ。 軽い熱中症かもしれない。視界が滲んで、胸がむかむかした。何より頭が痛い。こめかみに手を当てると、嫌な振動が伝わってくる。 俺は立ち上がると、上に捻った蛇口からこれでもかと水を飲んだ。やっぱりぬるい。 160 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 07 53.28 ID 8ki53ZQI0 ◆ 「おい五重、起きてっか?」 顔をしかめつつも首を縦に一度動かすと、県は俺の横に座ってコンビニの袋からパンを取り出した。 ダブルチョコデニッシュ。成長期には涎もののカロリーの塊だ。 けれど、受け取ったそれに一口噛み付いただけで、俺はまたしても酷い頭痛に襲われた。 内側から誰かに頭蓋骨を叩かれているような、脳の中に心臓があるような、嫌な感じだ。 「甘かったか?」 辛党だもんなお前、と言いながら足元に置かれた袋からサンドイッチを取り出し差し出してくる県に、俺は緩慢に頭を振った。 それだけでズキズキと痛みが増す。 やっぱり事前に水分を取っておくべきだったと後悔しながら、俺は口の中に居座る糖分の塊をなんとか噛み砕いた。 ぎゅっと目を瞑りながら飲み込み、すぐさま蛇口から水を飲む。 先ほどより幾分か冷たくなったそれは、喉につっかえた炭水化物を一気に胃袋まで押し流した。 「気分わりーの?」 もう食べ終わったのか、手作りおにぎりと書かれたパッケージの付いたビニールを握りつぶしながら県が聞いてきた。 力無く首部を垂れた俺は僅かに頷き、長い溜め息をついた。 「体力つけなきゃなんねーのに……」 ぼやきにも似た呟きに、県は呆れたように鼻から息を零した。顔は見えないけれど、多分眉根を寄せているに違いない。 静かに両足の間を歩く蟻を見下ろす俺の頭を、強すぎない力で小突く。 「お前気にし過ぎだよ。まだまだ時間あんだから焦ることねーって」 「そりゃお前はもうレギュラーなんだから余裕だろうけどよ……」 「そう卑屈になるなよ」 な、と言いながら背中を叩かれる。 それでも俺は駄々をこねる子どものように卑屈になるしかなくて、あまりの情けなさに鼻の奥がつんとした。 俺はどう足掻いたって県には勝てない。 さっきのランニングだってそうだ。一見俺の方が早く走っていたようだけれど、実際は二周も県に差を付けられていた。 それを縮めようと腕を振っても足を上げても、決して追い付くことが出来ない。本当に情けない奴だ、五重圭祐。 俺がこうして部活の無い日にわざわざ学校に来て自主トレするのも、県に嫉妬するのも、全ては二週間後に控えた大きな大会のためだった。 俺はサッカー部に所属する一年で、レギュラー入りを狙っている。大会毎にレギュラーの入れ替えがあるため、次こそはと意気込んでいた。 県はこの前の試合の時から一年で初のレギュラー入りを果たし、更に実力を付けはじめているためレギュラー落ちの心配もない。 それが俺の焦りに拍車をかけていたりする。 161 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 10 01.34 ID 8ki53ZQI0 俺の方が先に始めたのに。 才能の差だとは分かっている。けれど、小学生時代からクラブでレギュラーを張っていた俺にとってはあまり愉快な気分ではなかった。 そうやってまた醜い嫉妬心を抱く自分に、心底吐き気がする。 「そういえば」と県が呟いた。 俺が膝の上で組んだ腕の間から視線だけをそちらに向けると、県は指に付いた米粒を口に運びながらこちらを向いた。 「今週末に西高と練習試合があるらしくてさ、先輩から聞いたんだけど、監督は一年を大量投入するかもって」 「何でまた」俺は目を見開いた。「よりによって、西高となのに?」 俺の通う東高と、一ブロック先にある西高はすこぶる仲が悪かった。 同じ進学校で部活に力を入れ、学校全体の学業成績も拮抗している。生徒数も大体同じで、敷地も同じくらいだ。 何から何まで似ている二高が反発しあうのは、仕方がないことに思えた。 そのため、両校は互いに顔を合わせる時決して力を抜かないというのが暗黙の了解になっていたのだ。 例えそれが練習試合でも、それぞれの最高のメンバーで本気を出して戦う。 だというのに、うちの監督はそれを一年でやろうと言うのだ。大袈裟な表現になるが、正気の沙汰じゃない。 「俺が思うに、そこで活躍した一年をレギュラーに昇格させたいんじゃないかな」 県の意見に、俺は目を輝かせた。 そうか。その場で俺が目一杯実力をアピールすれば、レギュラーになれるかもしれない。 都合の良いことに(と言ったら悪いが)、先週から二年のレギュラーの先輩が足首を捻挫して部活を見学することになっていた。 それを思えば、県の予想はあながち間違いではないかもしれない。 俄然気合いの入った俺は意気揚々と立ち上がり、すぐさまランニングを再開した。 「おい、待てって!」 後ろで県が声をあげたが、テンションの上がった俺の耳はそれを素通りした。 「じゃーな。また明日」 「おう。明日なー」 互いに軽く手を振り、俺と県は駅で別れた。 県の家は割と遠く、電車で二十分ほどかかる。 一方俺は駅近くの住宅地に住んでいて、別段急ぐわけでもない。ゆっくりと落ちる夕焼けを背に、立ち読みでもしようと近くのコンビニに入った。 「あ、五重」 聞きなれた声に顔を上げると、俺はあからさまに渋面を作った。 「紫藤……」 162 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 13 29.05 ID 8ki53ZQI0 俺が呟くと、紫藤はニヒルな笑みを張り付けながら片手を上げ、「足どうよ?」と話しかけてきた。 「別に……」素っ気ない返事をし、スポーツバックの紐をかけ直す。 俺が立ち読みをしようとしていたスポーツ雑誌のコーナーに紫藤が陣取っていたため、俺は浅く溜め息をつきながら隣の漫画雑誌の方へと足を向けた。 適当に積まれている内の一つを手に取り、パラパラとページを捲る。すると、紫藤が横からそれを覗きこんできた。俺より幾分か目線が高い。 「んだよ」 「別にー?」 飄々とした態度で口笛を吹きながら演技くさい返事をする。こういうところは苦手だ。 紫藤は西校のサッカー部員で、中学時代は同じサッカー部に所属していた奴だ。ワックスで立たせた暗めの茶髪に、女顔寄りの端正な容姿をしている。 足の長さを生かした俊敏な動きが癪に障る奴で、サッカーで一対一になった時なかなか抜くことができない。 はっきり言えば俺の方が実力は劣るというのに、紫藤は俺を勝手にライバルと決めつけ、俺と戦いたいからというはた迷惑な理由で西校に進学した。 しかし、未だその野望は果たされていない。 それは、俺が高校に入ってすぐ靭帯をやってしまったからだった。 幸い全治三週間程で、さほど日常生活や部活にも支障がなかったし、それを言い訳にしたくもなかった。 けれど、やはりその怪我は少なからず俺のサッカーに影響を与えていた。 「お前聞いたか? 来週の練習試合……」 ぼうっとしていたのか、俺の口からは言うつもりのなかった言葉が勝手に飛び出してしまった。 やべえと思って片手で口を押さえると、紫藤の嬉しそうな声が耳に入って来た。 「そうそう! うちでやるからな。今度こそお前をふるぼっこにしてやる」 暑苦しい位の熱意が伝わってくる。なぜそこまで俺との勝負に執着するのか、俺にはよく分からなかった。 中学時代は俺と県と紫藤の三人で、よく馬鹿をやっていた。 元々性格や嗜好が似ていたのか、俺達は中学の三年間で超が付くほど仲良くなり、強い絆を結んでいた。 紫藤なんてクラブ時代から一緒にいたから、お互いの癖や弱点を熟知し合っている。 そんな部分を補い合ってサッカーをすることが楽しくて仕方がなかった。 それなのに、当然同じ東校に行くものとばかり思っていた紫藤から、西校行きを告げられた時のショックは相当のものだった。 それから、俺達の関係は微妙に変化しだした。 紫藤は俺をライバルだと、俺は紫藤を裏切り者だと認識するようになっていった。 間に挟まれた県には悪いことをしたと思っている。けれどもう、昔みたいに友好的な目を、紫藤には向けられなくなってしまった。 紫藤も紫藤で、こうしてたまに会う度やたらと嫌なちょっかいをかけてくる。 もう昔のような関係には戻れないと、無意識の内に思ってしまっていた。 「五重、お前これからどっか行くのか?」 164 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 18 52.73 ID 8ki53ZQI0 唐突に話しかけられ、俺は声とも呻きともとれないおかしな返事をしてしまった。 「あ、いや……今日は俺が夕飯作る日だから、もう帰るけど」 俺がそう言うと、紫藤はふーんと視線を外に投げ、何か思案するようにしていた。それから一度目を閉じ、こちらに向き直る。 「じゃあさ、久しぶりに一緒に帰っか?」 なんでお前なんかと、という反発的な言葉で喉まで来たが、それを抑え込み、俺は別にいいけど……と曖昧な返事をした。 なんとなく、昔のように話したかったのかも知れない。 ビルの間に沈む夕日は、俺たちの影をどこまでも長く伸ばす。特に何か話すでもなく、俺と紫藤は家路を歩いていた。 車の通りが激しいため、何を喋ってもろくに聞こえないからだ。そして、何を話すべきか思い付かないというのもまたあった。 距離にして一歩半ほど先を歩く紫藤を、俺は口を噤みながら見ていた。東高と西高の少ない相違点である紺のブレザーがオレンジ色に染まっている。 紫藤と会うのは一カ月振りだ。 高かった身長はまた更に伸び、前に見た時よりも髪が短くなっている。試合に対して本気で取り組んでいる証拠だろう。 「なあ」 俺の目線より少し上にある紫藤の口が開いた。 「……何だよ」 「お袋さん元気か?」 「あー……まあ、そこそこ」 「そっか」 再びの沈黙。気まずいと同時に、俺は紫藤がうちの母親のことを覚えていた事実に内心驚いていた。 いや、覚えていて当然か。 家が近くてよくうちに遊びに来ていたし、あの母をもって息子が二人出来たみたいと言わしめるほどによく懐いていた。 そんな紫藤が忘れるわけがない。多分そう、中身は相変わらずの紫藤なのだろう。馬鹿で不器用な紫藤のままだ。 なんとなくしんみりしてしまった俺は、しかし再び昼頃の頭痛に襲われ、唐突に立ち止まった。荒く息をつき、額に手をやる。 「五重?」不審な気配を感じ取ったのか、紫藤が振り返り訝しげに聞いてきた。 俺は平気だという旨を伝える為に片手をあげ、左右に振ろうとした。 「あーっ! 圭祐に紫藤じゃん! 久し振りー」 突然爆発的な明るさを持った声が響き、しばし呆然とする。 「あ、湯地先輩」 俺の横で紫藤が嬉しそうな声を上げた。 その視線の先では、ツインテールで誰もが振りかえりそうな可愛らしい顔立ちをした少女が、朗らかな笑みをたたえて手を振っている。 165 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 22 15.87 ID 8ki53ZQI0 幼馴染で隣の家に住む湯地宏美だった。 「珍しいなあ、二人が一緒にいるところ見たの卒業式以来」 俺と紫藤両方の顔を見ながら楽しそうに笑っている。 宏美は俺たちよりも二つ年上で、ここから駅三つ分ほど離れた商業高校に通っている。 可愛らしい見た目とは裏腹に、芯がしっかりしていて頼りがいのある兄貴分だ。 そう、兄貴分。 宏美は、俺の周りでの数少ない『女体化者』の一人だった。 「たまたま駅で会ったんだよ」 なかなか口を開かない俺に代わって紫藤が答えた。俺は右手で額を包む様に触ると、そっと近くの街灯の柱にすがった。 「圭祐、どうした? 気分悪いのか?」 宏美が顔を覗きこんで聞いてくる。昼間の県と何となくダブって、弱々しいものだったが自然と笑みがこぼれた。 「ちょっと頭痛くて……」 「大丈夫か? 顔真っ青だぞ」 そう言いながら俺の手を外し額に当てられた博巳の小さな手は、間違いなく女の子のものだった。 「ちょっと熱があるかもなあ……今日暑かったし」 宏美の声は鈴が転がるようだ。その音を聴くだけで、少しずつ痛みが引くような気がした。 宏美が女体化したのは、俺達が中二の頃だった。 その時の宏美は俺達と共にサッカーボールを追いかけながらグラウンドを駆け回っていて、唐突につき付けられた女体化という現象に、そうとう取り乱した。 俺は俺で、まさか宏美が、という気持ちが強くて、なかなかフォローに回ってやることもできなかった。 当時の俺達の学校で一番モテていたのが宏美だ。けれど決して彼女を作らず、俺達とグラウンドを走ることが何よりも楽しいと言っていた。 『お前らとサッカー出来ないんだったら、俺死んでもいいよ』 それが口癖となっていた宏美は、死ぬことはしなかったが(勿論説得には大変な時間を要した)、大好きだったサッカーから離れてしまった。 「こんなところでぼやぼやしてる場合じゃないだろ? 家に帰ろう」 ぼうっとしていたらしい。はっと気が付くと、俺は宏美に手を引かれずんずんと歩いていた。 いつの間にか俺達の住む住宅地と紫藤の住むマンションまでの道を分かつ十字路の前まで来ている。 大通りから外れた場所のため人通りは少なく、夕日が落ちてエメラルドグリーンの夜空が広がっている。一番星が見えた。 軽く後ろに視線を投げると、紫藤がズボンのポケットに両手を突っ込みながら信号待ちをしているところだった。 こちらの信号が青に変わり、戸惑いつつも歩く俺に、宏美が横断歩道のど真ん中でいきなり立ち止まって振り返った。 「圭祐、ちゃんと紫藤にさよなら言ったか?」 「え? いや……」 166 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 28 48.14 ID 8ki53ZQI0 少し驚いてしどろもどろになった俺に、宏美は大げさな溜め息をついた。 「だめじゃん久しぶりに会ったんだから、ほら」 そう言ってあばらの辺りをばんばん叩いてくる幼馴染に、俺は困惑する。 「い、いいよ別に……来週連中試合で会うから」 「そう? なーんだ。しどー! まーたなーっ!」 俺の肩越しに、宏美が紫藤に向かって手を振った。 なんだかおかしな感じだ。ほんの二年前までは見上げていた宏美が、今は俺の肩に届くか届かないかの位置にいる。 「またなー先輩。五重! 体調管理もスポーツマンの仕事だぞー」 後ろから紫藤の声が聞こえる。俺は紫藤に見える程度に軽く右手を振ると、そのまま振り返らずに歩きだした。 俺は知らない。俺の背中を見ながら、紫藤が悲しげに溜め息をついていたことを。 「紫藤は相変わらずだったなー」 感慨深げに頷きながら、宏美が表札の下に取り付けられた郵便ポストの中を覗きこんだ。 そこに入っていたいくつかの手紙を抜き取ると(半分がダイレクトメールだ)、一枚ずつ丹念に調べながら玄関に向かって歩き出す。 「相変わらず、悲しそうだ」 ぽつりと漏らした言葉に首を捻ってみせると、宏美はへへへと笑って家の中へ消えてしまった。 俺は俺で、釈然としないまま自分の家のドアノブに手をかけ、ただいまの聞こえない玄関へと入って行った。 家に帰ってまずすることは、洗濯物の取り込みだ。その後風呂を掃除して、リビングに軽く掃除機をかけて簡単な夕食を作る。 一連の動作は慣れたもので、八時過ぎにはテレビを見ながらぼうっとしていた。 「……俺最近ぼけっとし過ぎじゃないか?」 呑気な独り言はテレビの中の司会者の声に飲み込まれてしまう。何となく白けた俺はスイッチを切り、冷蔵庫から麦茶を取り出した。 蛍光灯を反射しながらコップの中に吸い込まれる液体を見ながら思うことは、やはり部活のことだった。 県のこと、紫藤のこと、宏美のこと。頭の中で螺旋に繋がった悩みが所在なさげに渦巻いている。 「うまくいかねえなあ……」 溜め息混じりに出た言葉が、更に自分を悩みの沼へと沈ませた。 独りでいると余計に気が滅入る。一度は切ったテレビの電源を再び入れた。 俺の母親は気難しい人間で、それが災いして俺が二歳になる頃に父親と離婚した。 以来女手一つで俺を育ててくれている。それに報いるためにも、俺は早く帰れた日には自主的に家事をこなすようにしていた。 そういえば、最近まともな会話をしていない。 167 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 35 42.36 ID 8ki53ZQI0 決して仲が悪いわけではない。けれど俺と母親の間には、埋めようのない小さな溝がいつまでもその存在を主張し続けていた。 そんなことを延々と考えていたせいで気が滅入ってしまった。 慣れたはずなのに、事あるごとに慣れたと言い聞かせてきたのに、いつまで経っても順応することが出来ない。 情けない。下らない。 すっかり意気消沈した俺は、簡単にシャワーを浴びると早々にベッドへ潜り込んだ。 頭痛はとっくに引いている。その代わりに顔が火照っていた。シャワーのせいだろうか? いつまでも引かない熱を引きずったまま、俺は眠りについた。 朝。騒がしく携帯にセットしているアラームが鳴り響き、俺は目をこすりながら起き上った。 リビングの方から少々慌ただしい空気が伝わってくる。母親だ。いつ帰ってきたのかは知らないが、また顔を合わせることなく仕事に行くのだろう。 これで記録が最長の六日になった。数えても何の意味も持たない、つまらない習慣だ。 玄関の扉が騒々しく閉められたのを合図に、俺はずり落ちそうになるパジャマを引っ張りながら昨日着ていたシャツを手に部屋を出た。 俺の朝は洗濯から始まる。時刻はまだ六時半。白いカーテンの引かれたリビングを横切ると、爽やかな朝日が射し込んでいた。 乾燥機の横に置いてあった母親の洋服とシャツを隣の洗濯機に雑多に投げ込み、適当に洗剤を垂らす。 あとはスイッチを入れておまかせに設定すればいい。手慣れたものだ。いつでも独り暮らしを始められるだろう。現に、今もそのような生活なわけで。 ごうんごうんと規則正しく回る洗濯機の音を聞きながら大きく欠伸をすると、キッチンに行く。 テーブルの上には母親の作ったと思われる簡単な朝食が用意されていた。それに万札が何枚か。 そういえば今日から七月だ。カレンダーを確認しながら、俺はその正直言って多すぎる“小遣い”をズボンのポケットにねじ込んだ。 少し焦げたスクランブルエッグをのろのろと口に運んでいると、段々とぼやけた思考が明瞭になっていく。 そして、何となくいつもとは違う雰囲気を自分に感じた。 「あれ……」 フォークを握った自分の手。あれだけ外で走っておいて、不自然なほど色白だ。それに、ぷにぷにとして柔らかい。 「何だこれ……」フォークを置いて、じっと手を見る。 握って開いて、握って開いて。思ったように動く。間違いなく俺の手。それなのに、なぜこんなに小さくなっているんだ? 食べかけのスクランブルエッグへの意識は完全に薄れてしまった。その手を食い入るように見つめながら席を立つ。 「あ」 まただ。ズボンがずり落ちる。少し痩せたのだろうか。俺は紐をきつく縛りなおすために俯いた。すると、何やら視界に黒いものが。 「ひぁっ!」 情けない悲鳴が出た。まるで女のようだ。落ち着け。黒いものは単なる髪だ。少々長めの、女のような……。 「……え」 169 :『真実は俺の背中を見ている』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/29(土) 14 39 09.56 ID 8ki53ZQI0 瞬間、俺は猛烈な勢いで洗面所に走っていた。ぴったりだったはずのズボンの余った裾が滑る。長い髪が弾んだ。胸に違和感。 ああそんな、嘘だ。もしかして、もしかして……っ! 「女に……なってる、なんて……!」 そっと鏡に両手を添えてみる。鏡の中の少女も同じようにしてきた。他人と手を合わせているようなおかしな感じだ。 次に、恐る恐る顔に触れてみる。やはり同じように、向こう側の少女も同じ動作をする。 ……すべすべだ。思春期の男子にはなかなか身近ではない感覚に、驚きよりも戸惑いが濃くなっていく。 髪の束を掴み、上に持ち上げる。ぱっと手を離すと、はらはらと絹糸のように重力に従って肩に落ちる。 「……マジかよ……」 鏡の中にいる少女は華奢だ。長い黒髪に、長い睫毛に縁取られた大きな二重の瞳。小さな鼻、薄い唇。 間違いなく、俺だ。昨日までの中肉中背の男はどこかに消え、人格はそのままに見た目だけがもろに変わってしまった。 宏美を見ながら多少の危機感を抱いてはいたものの、部活にかこつけて直視することを避けていた。 まさかこんなに早く女体化してしまうとは。 「彼女作っときゃ良かったかなぁ」 いや、そんな暇はどこにも無かったのだけれど、でも。 石のような後悔が背中にのしかかってくる。 そして回転の遅くなった頭でようやく思いついたのが、サッカーのことだった。 「嘘だろぉ……?」 自分でも驚くほどの小さく弱々しい声を上げながら頭を抱えてしまう。この体で、どうやってサッカーしろっていうんだ。 サッカーが出来ないなんて、もう生きている意味がない。今更ながら、宏美の苦しみがひしひしと伝わって来た。 「……そうだ」 宏美。今家には親がいなくて、遅刻するような時間でもなくて、宏美は女体化者で。 頼れるのは宏美しかいない。俺はパジャマのまま家を飛び出した。
https://w.atwiki.jp/slowlove/pages/2075.html
前ページから 夕方頃、暖かさで目が覚めました。 熱いはずなのに、心地よく暖かいと感じるなど、夏には無いはずですのに――― 体が、何かとても感触のよいものに挟まれていたのでした。 「紫様?」 「おはよう」 「おはよう、らんしゃま………」 忘れもしません。 後頭部には、均整の取れた霊夢殿の胸。 目の前は――――初めておんぶしてもらった時、まるで高原の様、 と感じた紫様の背中でした。 夕暮れの中、空も飛ばず、紫様は、霊夢殿を負ぶって歩いているのです。 私は、紫様に背負われた霊夢殿の胸に、すっぽりと抱かれていたのでした。 ――――何という、幸せな位置に、私はいるのでしょうか―――― ルーミアさんは確かに一緒にいて楽しい相手でしたが、こうして包み込むように触れ合う所まではしていません。 思えば、こうして誰かと密着できるのは、霊夢殿が「指圧教室」に向かう前からです。 「霊夢殿? ―――あのね? らんはね?」 「あー…… ごめんね。らんしゃま。話は帰ってから」 「ゆ?」 「お説教なら、さっきたんまり紫からもらったし、謝られるのも、謝るのも疲れたわ」 「本当ね。 博麗の巫女としてあなたは……」 「ごめん紫。もっと説教されなきゃいけない事も解ってるから…… だから」 それは―――私も同じ気持ちでした。 「紫様。 ―――もう少しこのままでいい?」 「私も。 いや、何か寝すぎたり弾幕いつの間にか食らったりで疲れたからであって……」 「2人とも甘えん坊ねえ」 本当に、暖かい。 昨日、お茶を淹れている紫様のお背中を見て、あれほど2人で求める気持ちになってしまった訳が解ります。 それは、劣情をそそられるとか、そうした理由だけではなかったのです。 「―――こんなに華奢なのに、あんたの背中って広いわね」 「まるで―――なんだろ、これ……」 「負ぶってもらってあれだけど、重くない?これ」 「2人くらい平気ですわ」 いつまでもこうしていたい――――― ただ、それでも気になる事はあります 「ああ、―――安心なさい。ルーミアちゃんなら、酷い事はしてないから今は無事よ?」 「ゆう……」 見透かしたように、紫様は説明して下さいました。 怒ったルーミアさんが暴れて、鬼さんが本気を出してしばらくあの小屋の中で手がつけられない乱闘が続いた そうで――――我を失ったルーミアさんと鬼2人を霊夢殿一人で無理やり下し、少し早目に目を覚ました紫様 は、山の麓の粉々になった小屋の跡地で、倒れている私達を拾い上げて下さったそうなのです。 「あのゆっくり達には、きつくお灸をすえましたからね」 「ああ……助かりはしたのか・・・」 いっその事、あの紫ババアの方は放置どころか、始末してしまっても良い気が……… 「そうだ。霊夢ったら、私を気持ちよくさせたくて――――」 「……そういう直接な言い方はやめい」 「帰ったら、早速指圧してもらおうかしら?」 「いや、さわりの部分教えてもらっただけだから………」 激しく紅潮して、紫様のうなじに額を置いてしまう霊夢殿 これは恥ずかしい――――とお気持ちを察していると――――――私も同じ状態になるハメになりました 「ところで今日はドレスじゃないんだけど」 「うん」 「2人ともやっぱり生の背中が良かった?」 了 【おまけ】 結局、記念という事で、私達は夕飯を藍様の喫茶店で摂る事にしました。 どこから調達しているのか、とても美味しい蟹料理を出してくれるというのです。 「たのもー」 流石に霊夢殿は紫様の背中から降り、私は霊夢殿に抱えられて店内に入りました。 カウンターには――――たくさんのお客さんが揃っていました。 怪我を負い、少し憂鬱そうな顔の 勇儀さん。 同じく、俯きながら蟹の入ったフルーツパフェらしきものを貪る ルーミアさん。 寝覚めの様な 小傘さん。 苛立っている 早苗さん。 他に、霊夢殿を見るなり少し表情が明るくなった、バーテンダーの様な赤い髪の妖怪 恐ろしく落ち込んでいる、妊婦のような体型ながらも、妖艶な空気の妖怪 全員、何故か大汗をかいています 非常に気まずそうに 「―――…… 小悪魔だっけ? それに黒谷キスメも」 「お久しぶりです」 「あたしゃヤマメだよう……」 そして、カウンターの中では……… 「いらっしゃい。 漸く来てくれたわね」 藍様は、満面の笑みで、コーヒーゼリーに蟹をねじ込んでいました。 違和感どころではありません。 尋常な様子ではありませんでした。 ―――紫様が事前に連絡を入れられたのか、霊夢殿が来られる事を知っていたのでしょう。 ――やや青みもかかった真っ赤な口紅 ――元々短いのに、項を強調するように結い上げた髪 ――いつもの服を若干夏仕様にアレンジしたと思われるワンピース ――長い手袋 大体紫様の影響という事は一目瞭然ですが、後を向いてカップを出そうとしている所を見て、 私達は絶句しました。 背中が、もう強調するというより、そもそも布自体が存在しない作りとなっていました。 夏なのに、何だか寒ささえ感じます。 更に更に、尻尾を引っ込めているため、その下の尾てい骨が見えるか見えないかといったレベル まで……… 「ら、藍様…………」 「紫様も、らんも―――霊夢も、皆で来てくれて嬉しいわ」 藍様。 いくらなんでも、これは短絡的というものです。 ただ、出せばいい―― 露出していればいい―― それは色香とは言えません。 それに、霊夢殿は単純に紫様の色気にかまけていたのではないのです。 紫様の、アフリカの大地の様に広い背中が持つ包容力に、母親のようなそれを感じたり、 その暖かさと、ほんの少し加味された妖艶さに心を奪われていたに過ぎないのです。 単純で過剰なお色気を出せば、なびくと思ったら大間違いなのです……… 私は、何とかそれを伝えられないかと、一同ドン引きしているカウンターの一角に座った、霊夢殿の 膝の上に座りました。 (―――-藍様にはわるいけど、こんなことでなびいちゃう霊夢殿じゃないよね!) と、霊夢殿、震える手でコーヒーを飲み、噴きそうになってしまいます。 「あらあら、ちゃんと飲まなきゃ勿体無いじゃない…………」 紫様を見習った、肩口の広いワンピース。 藍様は、不自然なほど腰をかがめると、ハンケチを出して、霊夢殿の口を拭き始めました。 見上げれば――――そう、一つが、大体バレーボール程度の大きさでしょうか? つまり、私が2体並んでいるかのような……… 信じられないほど絶景の谷間が、そこに展開されているのです。 ―――霊夢殿は、為されるがまま……… 「れ、霊夢殿!!?」 私を乗せた膝が、小刻みに震えていました。 ガタリ、と大きな音がして、カウンターの一同全員が立ち上がりました。 藍自重しろw -- 名無しさん (2010-09-02 23 38 11) ルーミアの乙女っぷりが可愛いです。 超高濃度の闇の下りはこういう戦術もあるのかと目から鱗でした。 しかしゆかれいむなだけあって報われないなぁ、そこがいいんだけど。 -- 名無しさん (2010-09-04 12 30 11) みんなでドタバタやってのほほんと休んでなところが面白い キャラに味がある -- 名無しさん (2010-09-11 11 01 02) 早苗さん(本物)が自重するどころか、回を増すごとにどんどん酷くなってる件。 小傘に関してはもはや悪堕ちレベルだよ!! -- 名無しさん (2010-09-15 16 39 06) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/dragonquest10/pages/299.html
称号(背中で語る男/ツンデレラ) TOP 称号 称号(背中で語る男/ツンデレラ) [#aa72f462] 関連項目 [#cc1641c9] 「おしゃれ」−「みりょく」が250以上じゃないと称号獲得できない。 獲得のポイント:キラキラ光るものが条件を満たしやすい。すずしそうな名前の装備品もポイントが高い。 データによる「クールさ最大」の組み合わせはここに記載。(*1) 武器:セラフィムの弓(95) 盾:ウロボロスの盾(60) 頭:ロトのかぶと・あきさめのぼうし・ふゆぞらのぼうし(50) 体(上):セラフィムのローブ(120) 腕:かみわざのてぶくろ(36) 体(下):ぜったいのズボン(50) 足:てんていのブーツ(40) 飾り:スーパースターの証(50) 総合:501 性別 職業 Lv ぶき 盾 アタマ からだ(上) ウデ からだ(下) 足 アクセサリー おしゃれさ 備考 ♂ 旅芸人 46 はやぶさの剣改 オーガシールド ぎんぶちメガネ しんぴのよろい改 ヘビーガントレット まもりのスパッツ ばんぜんぐつ ごうけつのうでわ 398 同時に称号『伝説の紳士』も取得 45 きせきのつるぎ ダークシールド いやしのメガネ しんぴのよろい改 くらやみのミトン ビクトリーパンツ かんぜんぐつ しょくにんベルト 401 ♀ 43 つきのおうぎ ダークシールド ミスリルヘルム しんぴのよろい改 ミドルガントレット とうめいタイツ かんぜんぐつ エルフのおまもり 372 52 ロトのつるぎ ロトの盾 天使のわっか ドラゴンメイル あつでのグローブ まもりのスパッツ ようせいのくつ はげんのリング 『自然体クイーン』も同時取得 46 メタスラの剣 メタスラの盾 プラチナヘッド ミラーアーマー ライトガントレット まもりのスパッツ 竜戦士のブーツ まよけの聖印 430 ほのおのつるぎからの変更で取得、『自然体クイーン』も同時取得 ♀ 戦士 1 きせきのつるぎ みかがみの盾 古強者のかぶと しんぴのよろい カグツチのこて まもりのスパッツ 竜戦士のブーツ エルフのおまもり 278 同時に称号『かっこつけ美少女』『社交界のバラ』も取得 23 はやぶさの剣改 ダークシールド 古強者のかぶと しんぴのよろい ヘビーガントレット アマゾネスボトム あんぜんぐつ 命のゆびわ 277 ♂ 42 はやぶさの剣 ダークシールド しっぷうのバンダナ ミラーアーマー とうしのうであて まもりのスパッツ ばんぜんぐつ しょくにんのベルト ♀ 僧侶 28 いなずまのやり ホワイトシールド セティアコサージュ ラダドームよろい マーニャのリスト ククールズボン セティアブーツ スライムピアス 297 トライデントからの変更で取得 40 きせきのつるぎ ダークシールド アリーナハット 竜戦士のよろい かたてグローブ むてきのズボン 竜戦士のブーツ インテリのうでわ 328 61 デーモンスピア ちからの盾・改 シルクのベール 竜戦士のよろい くらやみのミトン むてきのズボン 竜戦士のブーツ インテリのうでわ 友人のソフトから確認 ♂ 盗賊 6 フェンリルのキバ オーガシールド しっぷうのバンダナ ミラーアーマー げんまのこて まもりのスパッツ せいじゃくのブーツ エルフのおまもり 301 45 ブリザードアックス みかがみの盾 天使のわっか ミラーアーマー やみわだのミトン てっぺきのレギンス てつゲタ 女神のゆびわ 320 ♀ 53 きせきのつるぎ改 − がいこつマスク ミラーアーマー くらやみのミトン まもりのスパッツ ようせいのくつ しょくにんのベルト ピンヒールから履き替えたところ取得/『自然体クイーン』も同時取得 ♂ バトルマスター 57 はやぶさの剣改 ダークシールド 天使のわっか ラダトームよろい ライトガントレット 竜戦士のズボン スパイクレガース ごうけつのゆびわ 329 同時に称号『かっこつけマン』も取得 ♀ 魔法戦士 17 きせきのつるぎ せいきしの盾 ちりょくのかぶと ミラーアーマー きふじんのてぶくろ 剣士のズボン おしゃれなブーツ まよけの聖印 331 48 きせきのつるぎ メタスラの盾 ククールヘア ククールの服 ククールのグローブ ククールズボン ルイーダのくつ しょくにんのベルト 458 ♂ レンジャー 50 ふぶきのオノ みかがみの盾 もうぎゅうヘルム ゆうしゃの服 マタドールグラブ グリーンタイツ ゆうしゃのブーツ エルフのおまもり ♂ パラディン 20 ロトのつるぎ ダークシールド スライムのかんむり ミラーアーマー ヘビーガントレット 竜戦士のズボン 竜戦士のブーツ エルフのおまもり 305 38 はやぶさの剣改 ダークシールド しっぷうのバンダナ ミラーアーマー 竜戦士のこて まもりのスパッツ 竜戦士のブーツ 女神のゆびわ 319 同時に称号『かっこつけマン』も取得 ディバインスピア ダークシールド メタスラヘルム おうじゃのマント ライトガントレット まもりのスパッツ メタスラブーツ ラッキーペンダント 同時に称号『伝説の紳士』も取得 ♀ 1 デーモンスピア みかがみの盾 ミスリルヘルム チェインドレス ヘビーガントレッド チェインニーソ オベロンのくつ エルフのおまもり 303 同時に称号『かっこつけ美少女』も取得 20 きせきのつるぎ ダークシールド ミスリルヘルム しんぴのよろい とうしのうであて とうめいタイツ たまはがねグリーブ まよけの聖印 291 45 はやぶさの剣改 みかがみの盾 インテリクラウン チェインドレス アリーナのてぶくろ まもりのスパッツ ホーリーグリーブ ごうけつのうでわ 317 52 デーモンスピア ダークシールド インテリクラウン チェインドレス とうしのうであて まもりのスパッツ ホーリーグリーブ まよけの聖印 ♂ バトルマスター 93 はやぶさの剣 聖女の盾 ロトのかぶと しんぴのよろい 竜戦士のこて 竜戦士のズボン ゆうしゃのブーツ エルフのおまもり 377 同時に「伝説の紳士」「かっこつけマン」 ♀ 賢者 1 ガナンのおうしゃく みかがみの盾 天空の兜 天使のローブ 貴婦人の手袋 ホワイトタイツ 悟りのブーツ エルフのお守り 305 Wi-Fiショッピングをフル活用 99 えいゆうのやり 女神の盾 おうごんのティアラ エンプレスローブ きふじんのてぶくろ きわどい水着下 ギャルいミュール 女神のゆびわ 689 関連項目 pgid); pgid); pgid); pgid); pgid);
https://w.atwiki.jp/pawapokerowa/pages/231.html
私の背中には羽がある。 空高く昇った満月を、とあるビルの一室から見上げていた。 今私のいる部屋は、社長室。 四つの壁のうちの一つがガラス張りの窓になっていて、部屋には、高そうな机や椅子が置かれている。 私はそのガラス張りの窓から見える満月を眺めていた。 『あの人』もこの月を見ているだろうか?と想いながら 私はこの会社の社長。昨年冬に先代の社長であるお父様の跡を継いで、この会社の社長に就任した。 私の会社は、ここ十数年でIT企業として、急成長した会社。 オオガミやジャジメントほどではないが、世界中に支社も持ってる。 ふぅ、と私はため息をついて椅子に座った。 社長就任後は忙しくて、大好きな本もあまり読めていない。かなり不満だ。 それに、時々、私はいつまでたっても自分の羽でカゴの外を、自由な空を飛び回れないんじゃないかと不安になる。逃げたくなる。 だけど、私は決して俯かない。逃げない。 カゴの外には、今の不自由な空の上には、『あの人』がいるから…… カゴの中で、物心ついた時から背負わされた鎖に縛られ、羽を広げる事を諦めて、誰かがそれを引きちぎってくれる事を待っていた私に、鎖を引きちぎるのは自分自身だという事、もがく事を教えてくれた『あの人』。 未来の決められていた世界、感情なんか二の次だった世界から私を連れ出して欲しいと言ったら、 「君が望むなら、この世界から連れ出してあげる。」 と約束してくれた。 私の鎖の正体を教えたら、 「そんなの無視すればいい。自分の道を歩けばいいじゃないか。」 と言ってくれた。 羽を広げようとしてもダメで、諦めかけた時、 「羽が動かせないからなんだ? 前に進む事は、自分の道を進むって事は鎖を引きちぎる事だけじゃない! それを引きずりながらでも、人は進む事ができるんだ! 空を飛べなくたって俺達は地を歩いていける。」 と励ましてくれた。 物心ついた時から歩かされていた道で、みんなが同じ方向を指差す中で、 ただ一人、初めて違う方向を指差してくれた。 生きてきて、初めて良かったと思える幸せな時間、毎日が特別な日々をくれた。 彼のその言葉の一つ一つが私の羽を大きくしてくれた。 彼との幸せな日々が私の羽に鎖を背負っても飛び回れる力をくれた。 机の引き出しを開けて、大事に使っている枝折りを手に取る。 私の誕生日に、『あの人』からもらった四つ葉のクローバーの枝折り。 今までで一番温かかった、心のこもったプレゼント。 私の宝物。 この宝物を見て、あの幸せだった日々、あの聖夜を思い出す。 そうすれば、私の羽に力が戻ってくる。 私はまた上を目指して羽を広げられる。 いつか、『あの人』と肩を並べて飛べるように。 私の羽に縛り付けられた鎖は、まだ私には重すぎるけど、 いつか必ず、自由な空へ羽ばたいて『あの人』の元へ…… そう約束したから…… ◇ ◇ ◇ ◇ ここは、どこだろう? 何もない。本当に何もない草原。 ただ、見上げれば、無限の空が広がっている。 気づけば、私の背中には、羽がある。 でも、その羽には鎖が何重にも縛り付けられていた。 一つのグループ企業の社長という鎖。 試しに、羽を広げようとする。 羽は……広がった。 次に、羽ばたいてみる。 …少し飛べた。 もっと強く羽ばたいてみる。 もっと高く飛べた。 もっと、もっと強く羽ばたいてみる。 もっと、もっと高く飛べた。 でも、ある高さまで来て、急に、一段と羽が重くなった。 私は、そのまま、地に落ちた。 羽が痛む。 「……………さ…。」 けど、大丈夫。 羽が傷つくことは恐れないと決めたから。 「……………さん。」 もう一度、羽ばたいてみる。 だけど、またあの高さまで来て、地に落ちた。 私はまだ、不自由な空にいるのだろうか? 「………り…さん。」 そういえば、さっきから誰かが私を呼んでる気がする。 「………お…り…さん。」 上からだ。 誰だろう?と上を見上げる。 そこにいたのは…… 「……維織さん。」 「九条……くん?」 九条くんだ。 何でここにいるのか、何で九条くんにも羽があるのかなんて、どうでも良かった。 ただ、九条の飛んでる高さまで行きたくて、痛む羽を羽ばたかせる。 あと少し、もう少しで九条くんの元へ。 幸せだった日々、九条くんの言葉、九条くんへの想い、 それらを力に変えて羽ばたく。 そして、やっと、 「九条くん……」 「維織さん……」 この時をどれだけ待ちわびたか。 今私は、九条くんと一緒の高さを飛んでいる。 話したい事がたくさんある。 社長になってからの事。 少し前に読んだ本の事。 料理のレパートリーが増えた事。 最近、少しずつ笑えるようになった事。 私が何を話そうか悩んでいると、九条くんが話し始めた。 「維織さん……俺は、維織さんに謝らないといけないことがあるんだ。」 「え?」 九条くんが私に謝る事ってなんだろう? 「……維織さん……俺は、君が俺の元に来る時まで待ってるって約束したけど……」 そこまで言って、九条くんは俯いた。 こんな九条くんを見るのは初めてだ。 「……その約束を守れそうにないんだ。」 「え?」 何を言ってるんだろう、九条くんは。 九条くんが約束を破る? そんな事、一度もなかった。 第一、私は九条くんと同じ所にいる。 「覚えてる?維織さん。 俺が鎖を引きちぎるのは自分自身だって言った事。 でも人はその鎖を背負っても歩いていけるって言った事。」 「覚えてる。忘れるわけないよ。 そして、今私は自分の鎖をそのまま背負って飛んで、九条くんと同じ所にいる。」 「ありがとう、維織さん。 君はもう自分の道を歩いていける。君の意志で、君の力で。」 「……うん。」 本当に、九条くんはさっきから何を言ってるんだろう? これじゃまるで…… 「維織さんのカレー…美味しかったなぁ…」 別れのあいさつみたい。 「維織さんのピアノ…上手だったなぁ…」 よく見ると、九条くんの目が充血している。 「維織さんの…満漢全席…食べたかっ…たなぁ…」 九条くんは、涙をこらえているのだろうか? 「会えなくなる前に、維織さんの最高の笑顔…見たかったなぁ…」 「え?」 会えなくなるって、どうゆう事? 「じゃあね、維織さん。 もう、会えないけど…俺は、君が無限の空を自由に飛び回る事を心から願っているから…」 そこまで言って、九条くんは、更に高い所に飛んで行こうとした。 「待って!」 九条くんがこっちを向いた。 さっきから何を言ってるの? もう会えないって何? どこに行くの?…… ダメだ。聞きたいことが多すぎる。 だから…… 私は笑って見せた……九条くんが見たいと言った、私の笑顔を。 今できる、最高の笑顔を。 また、「笑うのが下手だね」って九条くんに言われるだろうか? 「……ありがとう。最高の笑顔だよ………維織………」 そう言って九条くんは飛び去ってしまった。 どこか満ち足りたような、でもなんだか寂しそうな顔をして……… 私も、九条くんを追って行こうとしたけど… また急に羽が重くなって……また、地に落ちた…… ◇ ◇ ◇ ◇ そこで私は目を覚ました。 どうやら、私は、眠っていたようだ。 さっきのは夢だったらしい。 変な夢だ。 あれは何だったのだろう? コンコンとドアをノックして、秘書が入ってきた。 「社長、応接室にて雪白家のお嬢様がお待ちです。」 「わかった。今行く。」 九条くんの身に何かあったのだろうか? もう会えないってどうゆう事だろう? 最後に見せたあの顔は何を意味していたのだろう? 私は、四つ葉のクローバーの枝折りを、机の引き出しにしまい、社長室を後にする。 先ほどまで見えていた満月は雲が差して見えなくなっていた……
https://w.atwiki.jp/konomikusunoki/pages/192.html
暗黒呪印の開放 ブラック アクセサリ:背中 イベント:2010年02月【ドキドキ宝探しキャンペーン】 交渉ランク【S】 交渉可能 可動品. 暗黒呪印の開放 色:黒