約 374,253 件
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/628.html
聖‐judgement‐罰 ◆HOMU.DM5Ns 月の下で交わすものでなく 月を肴に交わすものでもなく 月の上で交わされるもの 配点(聖杯交渉)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ● 「あなた方に問います」 虚偽を許さぬ絶対の声だった。 怒りに震えた大声を叫んだわけではない。 むしろ逆。声はあくまでも静かなもの。表情は一切崩れず厳然としている。 静かであるがゆえに、気圧される。余分のない台詞は話題を逸らす事もできずいっそ容赦がない。 こちらを見据える瞳は鋭く、かといって強く睨んでいるという程でもない。 感情に流されず、あるがままの事実のみに焦点を当てる。 見た目だけなら、正純よりもやや年上でしかない金髪の少女。 纏う鎧を排したら、どこにでもいる純朴な田舎娘にも見えるだろう。 「聖杯戦争と戦争をする。その言葉がいかなる意図のものであるか」 それでも放たれた声は絶対だった。 裁定者の器(クラス)に嵌められた英霊の聖性を帯びた言葉で問う。 「此度の聖杯戦争を取り仕切るルーラー、ジャンヌ・ダルクの名において、嘘偽りのない答えを求めます」 真名(な)を明かした聖女の言葉は、この世界で何よりも重い響きをもって本多・正純に届く。 ……元々、予測の内ではあった。 正純達がアンデルセンとアーカードを補足するに至ったのは、深山町錯刃大学付近で起きた暴動のニュースだ。 この時期に、しかも夜に暴動だ。デモ活動が起きたでもあるまいに、聖杯戦争が関与した事件と判断するのはニュースを聞いた全員が一致した。 そんな公共の報道で流されるほど大規模な事件を聖杯戦争に関わる者が起こしたとすれば、ルーラーが現場に向かうのは自然な成り行きだ。 その中に正純達も飛び込む以上、相対することになると想定するのは難しくない。 民衆の暴動に、多数入り乱れるだろうサーヴァントとマスター。これだけでも大変な状況だというのに、そこにルーラーまでも介入してくる。 混迷の極みだ。接触のタイミングを間違えれば目標に辿り着くより前に足止めを喰らう。損だけを被る結果になりかねない。 だからこそ、時期を計った。ライダーからの補給物資(買い足してあったハンバーガー)を口に入れながらその時を待った。 参加者と接触し、その後にルーラーと対面できるようになる為のタイミング。 そして今は予定に概ね沿うルートとなっている。アーカード達との交渉が終え、混乱が収束しつつある矢先に現れた。 交渉を始める為に必要な条件は最低限とはいえ揃っている。だがあくまでもこれは前提。いまだスタートラインにすら立ってはいないのだから。 故に、命を賭けた駆け引きはここからだ。 ジャンヌ・ダルク。 オルレアンの聖女。乙女(ラ・ピュセル)。聖なる小娘(ジャンヌ・デ・アーク)。 フランスの王位を巡りフランスと英国が対立した百年戦争。劣勢に立たされたフランスに突如として神託を受けたと名乗り貴族の前に現れた田舎出の子女。 その存在を正純は知っている。過去の歴史再現でも彼女の功績は大きい。襲名者でなく実在した偉人本人に、畏敬を感じない事もない。 昔話に語られる神話の人物と違う、確かに現実に生きる人間が奇跡を起こしていく光景は、当時の人にはどれほど輝く星に見えただろうか。 曰く、説得力というもの。 軍事であれ治世であれ、指揮者として台頭してくる者が持つ魅力。求心力といってもいい。 暗示や洗脳、自らの意のままに相手の思考を支配、誘導する類のものとは違う。 それもまた指導者が弁舌で引き出す技術の一だが彼女のそれは別の要因だ。 見る側が、その印象から自発的に考えを改めてしまう天性の資質こそが、彼女が保有するもの。 例えるなら、昔の御伽噺に出る真実のみを映し出す鏡。 壁にかけられた聖画を地面に投げ踏みつける行為。 彼女の姿も、声も、後ろ暗い事情を持つ者にとっては全てが毒となる。 自分は何か間違いを犯したかもしれない。彼女の言葉を信じるべきかもしれない。 何の根拠もないままに、少女の言葉には逆らえないと、そう思わせてしまう。 「答えようルーラーよ。 聖杯戦争と戦争をする、という事の意味を」 心の中でのみ息を呑み、それをおくびにも出さず言葉を返した。 こちらを質そうとする威圧は感じる。裁く者であるルーラーとして、裁かれる者である正純と対峙している。 だが武蔵の副会長、交渉人として臨んだ数多の生徒会長や国の代表者と弁の剣を交わし合った身からすればまだ生温い。 この程度で竦むだけの肝は腹に収めてはおらず、また暴かれて怯えるような罪も犯した覚えはない。 「まず先に、誤解なきように一つ弁明をしておく」 だから正純は何一つ気負わずに無くルーラーに向かい合う。一方的に責め立てられるのではない、対等の立場として。 「我等は決して裁定者側との武力衝突による打破と排除、そしてそれによる聖杯の奪取を望むものではない。 聖杯への戦争とは、貴殿らに刃を向け、銃弾を放つ行為のみを意味するのではないということを、理解してもらいたい」 後ろの方で、ライダーが面白そうに口角を上げて笑みを浮かべている気がする。 ……頼むから、今は黙っておいてくれよな。 果たしてルーラーは、僅かに首を縦に下げた。 ……最初の関門は突破したか。 大げさなようだが、ここが大事な分水嶺だった。 この場で最も避けなくてはならない事態は、ルーラーからによる即座の制裁にある。 裁定者に与えられているという絶対特権を用いて、強制的にこちらを排除する視野狭窄な選択。 そんな真似をしでかすような輩を裁定者とはとても呼べまい。しかしそれを真っ先ににやられると終わりなのだ。 なにせ今自分達には後ろ盾というものがない。同盟を組んだサーヴァントも含めて四名、そのうち三は戦闘に秀でているタイプとはいえない。 シャアも正純も一騎にして千の兵に勝る強者ではなく、一個にして万軍を動かす「将」の器だ。 そしてその利もここでは失われている。味方になってくれると安心できる協力者。国家、コミュニティと切り離された状態で方舟に集められている。 ライダーにしても戦力面では大いに不足なのは否めない。まともに運用できるのがアーチャーのみでは分が悪過ぎる。 自らの意に反した者は一片の慈悲なく首を飛ばす、暴君の如き裁定であったならば、いよいよ正純に勝機はない。 横暴さを他陣営に示そうにも先に握り潰される。それを阻む手段がなく後に続く者はいなくなる。こうなっては交渉も答弁も全てがご破算だ。 その為にまず楔が要る。積極的に交戦するわけではないとアピールしておかなくてはいけない。 背を味方に頼めない以上、いつも以上に保身には注意しておくべきだ。 そして話を聞く姿勢を見せた事で同時に収穫も得た。 このルーラーはそこまで強硬には出てこない穏健派であるらしい。嘗めているわけではないが、そうであってくれればこちらとしても都合がいい。 聖女の代名詞のような真名。しかし歴史は必ずしも伝えられてる通りにとは限らない。 むしろ既に一生を終えた英霊は生前には抱かなかった願いを持つようになるかもしれない。 『国に裏切られ世界を呪った魔女』という解釈で、英霊になっている可能性も存在したからだ。 それほどまでに、かの英霊の駆けた生涯は激動だった。 英雄に相応しい活躍から一転、谷底に落とされる悲劇的な末路。 その過程で彼女がどこまで信仰的純潔を守り通せたかは諸説様々だ。 無念に思ったか。救済を求めたか。復讐を望んだか。そればかりは実際に体験した本人でなくては分かるまい。 望んで対立しているわけではない。対立などしなければそれが最良の選択だ。 しかしそれは叶わない。どうしても、どうあっても叶わない。 正純が聖杯戦争を否定する立場を崩さない限り、ルーラーが聖杯戦争を運営する役目を捨てない限り。そしてその可能性の低さは各々で確認するまでもない。 「では改めて申し上げる。ルーラー、ジャンヌ・ダルクよ。後ろに控える者を代表して私、本多・正純は提案する」 対立は避けられない。立場と役目は相容れない。 ならば。存分にぶつかろう。言葉を以て殴ったり殴られたりしよう。 互いの意見に信念、全て突き合わせ、気の済むまで容赦なく叩きつけ合おうじゃないか。 全員の立場をはっきりさせ、主張を纏め上げて、その果てに両者を融和させよう。 線が出揃えば点が新たに打てる。平行線であれ対角線であれ、どの線にも偏りのない平均の点を打てる場所が表れる。そこを我々の境界線にすればいい。 それが正純にとっての戦争の形。正純が望む論争の形。 「我々は、聖杯との交渉を望む」 さあ、戦争の時間だ。 絶対に負けられない交渉が、ここにある。 ● 「交渉……。聖杯を望むのではなく、拒むのでもなく、聖杯と交渉をすると?」 ルーラーの表情に僅かな困惑が浮かぶ。言葉の意味は解しても、その意図を計りかねると。 それはそうだろう。こんな要求をしてくる陣営が他にいたとは思えない。 仮にいたとしても、こうして監督役と直に交わす、などというのは本来なら早々やる事ではない。 ジャッジ 「Jud.我々はこの戦争の形態に疑問を抱いている。正しい戦争の形ではないと考えている」 だが正純は恐れず踏み出す。いつ崩れるかも分からない危険な橋に足を踏み入れる。 最初の一歩が肝心だ。この道は大丈夫だ、間違ってないと示す旗印の役が要る。 「聖杯。方舟。選別。戦争。殺し合い。これらには、ひとつを選べば全てが付随してくるような因果性は無い、どれも独立した要素だ。 それを一個に繋げ、戦争と定めている現状に私は歪みを感じた。アークセルの掲げる種の選別という目的にはそぐわないと感じた」 方舟と聖杯という、別個の伝承が合一している因果関係。 つがいと言いながら男女で組まれていない主従。 冬木という固有の地名。競争には不要なはずのNPC(いっぱんじん)。そして監督役。 ただ一組の勝者を選び抜くにしては不合理な点が数多くある。 「どうしても覆したい現実を抱える者達。奇跡に頼らねばならぬような望みを持っているわけではない者達。 どちらもみな等しく聖杯に支配され、戦い以外に願いは叶わないと、生存の道はないと突き付けられる。 準備もなく、覚悟も持たず、無差別に集められた彼らを"奇跡"の一言で掌握し、己を手に取るに相応しい種を選ぶと宣誓しながら殺し合わせる。 それが貴殿らが主導している、今の聖杯戦争の実情だ」 同じ方向に伸ばされる手を押し退けてまで叶えたい願いを持たぬ、闘争を望まない者達はおそらくはいるだろう。 だが彼らは願いが無い為に積極的に動き出せない。他の陣営を諌めるのに、監督役に睨まれるのに二の足を踏んでしまう。 「……断言しよう。それは本来無用の血だ。許されてはならない喪失だ。 罪無き者を、誰かの貴い願いの為の犠牲者に貶めるものだ。犠牲を出さずに目的を果たせたかもしれない者に、必要の無い罪を背負わせるものだ。 聖杯が真に万能たる器であろうともこの喪失は埋め難い」 必要なものは大義だ。彼らの背中を押して、前に先導するに足るだけの後ろ盾。 願いという、自己完結するが故強固な動機を持つ相手に対抗できるだけの、万人が認める正統性だ。 「故に私は聖杯戦争を"解釈"する」 告げる。 「方舟、サーヴァント、マスター。 いずれも私は否定しない。蔑ろにする気はない。 集められた者が死ぬ事なく望みを叶え、方舟も自らが認めるに足る"つがい"を得る。誰にとっても正しい形の戦争に改める。 これが先の貴殿の問いへの答えだ。"聖杯戦争への戦争"―――マスターの一人として、聖杯の意思との交渉の任を全うすべく、私はここにいる」 言葉を放つ。決定的な宣言を。 「返答を、裁定者(ルーラー)。 我らの要望に、応じるか否か」 目の前のルーラーに。後ろで見ているライダーに。共に進むシャア・アズナブルとアーチャーに。 まだ姿を見せていない、全てのマスターにも、この声が届くように。 今ここにいる人だけに聞かせればいいわけではない。 戦争の形を変えるには聖杯戦争参加者全員を巻き込まなければ実現し得ないのだから。 ……さあ、どう来る? ● ルーラーに言葉を投げかける正純。 シャア達は二人を同時に視界に収められるだけ後方に下がった距離で俯瞰している。 正確に言えば、ルーラーの進行を止めるように正純が先んじて数歩前に出た格好になる。 隣にはアーチャー、逆の隣にはライダーが共に交渉の成り行きを見守っている。 双方の表情は対極。後に起きる展開を読めず困惑を見せるアーチャー。待望の見世物を鑑賞しているように喜悦を隠さないライダー。 盟を組んだ自分達だけでなく、彼女の従者もまた主にこの場を預けている。 同盟を提案したのは正純。方針を掲げ主導しているのも正純。なればこそ、重大な場面では常に矢面に立つ覚悟が要る。 基軸を揺るがせないために彼女は身一つでルーラーに向かい合うのだ。 「…………」 ルーラーは黙したまま何も語らない。 話の始めこそ顔に驚嘆の色を見せていたものの、聞いていくにつれて平静さを取り戻していったのが離れても分かる。 教師に教えを熱心に聞く生徒のように。怠惰に聞き流さず、途中で声を遮りもせず聞いていた。 ……監督役としては、やや真摯に過ぎると感じた。 聖杯戦争への戦争。 台詞のみを受け取れば何とも大胆不敵な宣戦布告に聞こえよう。 実際そう宣言しているのにも等しいし、正純の立てるプランにはその道を選ぶ覚悟も備えている。 それを直に監督役に聞かせるのだから、これはもう外した手袋を投げつけるのにも等しいだろう。即刻処罰されてないだけでも温情だ。 だが今並べた発言の内容に限って言えば、決して聖杯との対立を是認しているわけではない意図で述べられていることが分かる。 今言ったのは要するに改革だ。聖杯戦争を、従来と別の形態へ改変させる要求。 これは単なる敵対行為とは一味違う。あくまでも提案を持ちかけにきている。 アークセルが種の選別を目的とするならもっとよりよい方法があるのではないかという、問いかけだ。 聖杯戦争を破壊するつもりは毛頭なく、まして聖杯を、アークセルを否定する言葉は使っていない。 つまり、明確な叛逆を口にしたわけではないのだ。 "目的の為には手段を選ぶな"とはマキャベリズムの初歩だが、目的の為にはやってはいけない手段というものがある。 非道であればいいというわけではない。効率のみを重視するのではない。 全ては目的を定めた利益が確かに手に入れるがためだ。それを見失えば手段と目的を履き違える羽目になる。 この人間同士での殺し合いで、見合う成果は得られるのか。結果をこそ望むのなら躊躇などせず、方針転換を厭うな。 ―――そう思うのだが、どうか、と。こう聞いているのだ。 詭弁、ではあるのだろう。どの道今の形態を壊す結果には違いないのだ。 しかし監督役は言っている。聖杯戦争についてある程度の質問には応じると。 正純は聖杯戦争についての質問の延長線上として聖杯改革の案を差し出している。従ってルーラーにはこれに応える義務が発生する。 一度話に耳を傾けた以上はもう逃げられない。是か非か、彼女は答えを返さなくてはならない。 しかし答えたところで十中八九出てくるのは『拒否』だろうと、シャアは踏んでいた。 信念と自信を持って訴えようとも所詮は一参加者の言。その程度で揺れる根拠でこの聖杯は稼働していない。 そもそも主要なシステムすら理解していない身で聖杯戦争を語ろうとは烏滸がましいと見なされても仕方がない。 ルーラーはその根拠を持ちだして正純の稚拙な論を一掃するだろう。 ……そして、それこそが狙い目なのだろうな。 ● 首に縄でも回されてる気分だ、 正純は心境を内のみで独白する。 思考の間は返答の選択か、あるいは処罰の厳選か。 どちらにせよこの空白は意義ある時間だ。相手の要求に即座に反応をせず一考してる、考えるだけの余地が向こうにはあるということ。 正純、ひいては一定のマスターには不足しているものがある。 それは個々の能力とは違う、だがある意味この舞台での前提となるべきもの。 聖杯の知識。アークセルに対する正しい認識だ。 事前に情報を纏め自ら月へと臨んだマスターではない、シャアや正純のような巻き込まれた形でのマスター。 そんな者達は事前に聖杯戦争に関する知識を埋め込まれ、与えられた上辺だけの知識を頼りに戦わなくてはならない。 人に個性や能力差がある限り真に公平な状態など存在しない。かといってこれではあまりに分が悪い。 その差を埋める手段として、正純は望んで聖杯戦争に参戦したマスターか、監督役との接触を挙げた。 情報源として確実なのは監督だろう。だがいかに質問を受け付けるといっても聖杯中枢に関わる重要機密を簡単に教えてくれるわけもない。 「聖杯戦争と戦争する」などと宣言をした相手となれば尚更だろう。 だが、こうして真っ向に異論を突きつけられたのなら。 聖杯と、聖杯戦争その根幹を糾弾され、改革を叫ぶ者が目の前に現れれば、どうするか。 武力を以て排除する、選択の一つだろう。しかし向こうは軽々にそれに及べない。 なにせルーラーのお題目としては、マスターとサーヴァント同士での戦いこそ聖杯戦争の本来望まれる形なのだ。 違反者が出るからといって自らの手で処断するのは、なるべくなら取りたくない手段に違いない。 良くてペナルティの発令までだ。それはこれまでの手緩いとすら見える裁定からも分かる。 剣を取れぬのであれば、口を開く他あるまい。 熱に浮かれた者に冷や水を浴びせる真似。憶測で者を言う相手に動かしがたい事実を突き付けて、論を折る。 同じ土俵で論破してこそ敗者に強い敗北感を与えられる。叛逆の芽を一掃するにはまたとない好機。 そして裏返せば、ルーラー直々から言質を取れる最上の機会だ。 欲する精度のある情報を手に入れるにはこうすればいいと思っていた。 監督役こそが聖杯に一番近い側の人物。その彼女達に自分を批判する根拠として、聖杯にまつわる情報を言わせる。 聖杯戦争と反目し排除されるべき異分子に対してならば、通常は開かせない口にも緩みが出る。 お前たちは間違っているとそう断ずる為には、必要な正答を提出しなくては証明されない。 ……当然だが、捨て身戦法も同然だ。 肉を切らせて骨を断つ、とは言うがリスクとリターンが釣り合ってない。これでは肉は向こうで骨はこっちだ。 だがそれで十分。肉まで断てればそれで上等。 少なくとも、肌を傷つけるまでは到達できる。そしてそれはやがて鉄壁を崩す楔に変わる。 理想を言えば、先のアーカード達を味方に引き入れた上でルーラーと見える状況が望ましかった。 狂信者であるアンデルセンに聖杯の真実を教え、抱いた猜疑を確定させ得る。 闘争を望むアーカードは知ったとて行動に大差はない。故にルーラーの処罰対象からも外れ、情報を外に持ち出せる。 知ればその分思考には幅が出てくる。真実は知る人が増えるだけで意味がある。結果は失敗したので今更の話だが。 大学周辺での騒動も収束して時間が経っている。慌ただしい住民の声も遠い。 正純は第一に言う事を言い終え、ライダーとシャア達は俯瞰の立場を通し、そして答えるべきルーラーは未だ口を開いていない。 この一帯だけは、空間ごと切り離されているかのように静謐としていた。 シャア・アズナブルとの同盟、アーカードとアレクサンドル・アンデルセンとの交渉。 これらは目的達成の地盤固めに重要であったが、絶対条件ではない。失敗してもまだ次の一手があった。 だがこれにはない。ここで選択を誤れば正純は終わる。 自分とライダーは処断され、協力していたシャアとアーチャーも罰を受ける。何事もなかったように従来通りの聖杯戦争が進行する。 そうさせない策は用意しているが不確定要素も多い。絶対はない。確率として最悪は常にあり得る。 シャア議員だけでも逃がさなければ―――状況に備え打開案を思案し始めたところで、 「わかりました」 ● 心臓が跳ね上がりそうになるのを抑えつける。 早合点するな。今のはただの返事だ。 ただの確認作業、次に出す答えにワンクッション置いただけのものでしかない。 一息吸うだけの間を空けて、ルーラーは返答した。 「あなた方の言葉は確かに聞き届けました。 ですがルーラーの立場として……その要望には応じる事はできません」 結果は、否定。 にべもない言葉にしかし正純は落胆するでもなく、 ……まあ、そうなるよな。 ここで簡単に折れるほどやわな精神ではない。お互い様に。 上手く行くのに越したことは無かったが、そう楽に事が運ぶのも楽観論だ。 十分に予想できた。だからここまではまだ計算の内だ。 話題を切り出す理由、会話を続けるきっかけを作れただけでいい。 「……我々はより正しく聖杯を担う者を選定する方策を望んでいるだけだ。それを受け入れられないと?」 「ルーラーは聖杯戦争の推移を守る者ですが、聖杯を管理しているわけではありません。 聖杯とはこの世界を創造したもの。舞台から戦いのルールに至るまでを設定したアークセルそのものです。 一度始まった聖杯戦争を取り止め、ましてルールを変更する権限は私達にはないのです」 「それでも他のサーヴァント達よりは聖杯との繋がりも深いはずだ。方舟からの通知伝令のひとつもあるだろう。 そこを経由して貴殿の声を届ける事も可能ではないのか?」 「それは我々の管理を超えています。街の統制等の機能ならともかくシステムそのものへの干渉など到底認められないでしょう」 「では―――」 「いえ―――」 繰り返される質疑応答。 正純が問えば、ルーラーがそれに答える。そんなやり取りが何度か交わされる。 要望は悉く跳ね退けられる。ルーラーから聖杯への進言は不可能だと。 本当だとは思う。が、全てを話してるとは思えない。 報告の際に、一意見として混ぜておくだけでもいい。そうすれば少なくとも可能性だけは提示できる。 あるいは報告の段階を飛ばして直接観察しているのかもしれない。 会場が方舟内部にあるのならそれもまたあり得ることだ。 だとすると……やはり確実なのは、聖杯自体との直接交渉しかないということになる。 「……先に言ったように、我々は現状の聖杯戦争を良しとしない立場を取っている。 貴殿らからすれば、その意図はないとしてもやはり障害として映ってしまう一面もあるかもしれない」 そう思った正純は一端矛先を変えた。 「だが―――それならそもそも呼ばなければ済んだはずだ。なのに、私のように明確な願いを持たない者もこうしてここにいる。 我々のような、聖杯を望まない者と真摯に聖杯を欲する者を一緒くたに混ぜるのは、願いある者からすれば自身の願望を侮辱として受け取られかねない」 背後で控えているシャア・アズナブルにも、聖杯に託すべく願望は持っていなかった。 潜在的に願うものはあったが、それは何もこんな形式でなくともよかったはずだ。正純自身にしてもそうだ。 正直に話すには余りに馬鹿馬鹿しい経緯で方舟に来てしまった。 何故託すものがない者、自身を望まない者に聖杯は資格を与えたのか。 「参加者を招聘するのは私でなく聖杯によるものです。 地上から方舟への道程を繋ぐ切符(チケット)。ゴフェルの木を手にした者をアークセルは己が内部に招きます。 そこに資質や条件、選定の基準があるかは私には図れません。ですが呼び出された時点で彼らは聖杯を得る資格を手にしている。私はそう思っています」 ルーラーは答える。 「聖杯が望むのは最後まで生き残ったマスターとサーヴァント。そこには能力や人格の優劣、願いの有無も関係ありません。 何を願い、何処を目指し、どう動くか、それは各々の自由。因果が導く道は無数にありどれが正答である保証もない。 ルーラーが"相応しい"とする在り方を強制もせず、あなた達の方針にも極力干渉致しません。 全てのマスターとサーヴァントを迎え入れ、全員が勝利者であるのを願うのみです」 ……全員が勝利者である? 最後の言葉の意味が気になるが今は後回しにする。それより思考を充てるべき事がある。 ルーラーはふたつの重要な事実を口にした。 ひとつ目は"聖杯の意思"。参加者を選別したのは聖杯自体が選択したものと確かに言った。 正確には"ルーラーが選別に介在していない"だが、彼女以外に意思があるものならそれは実質聖杯、それに準ずる意思でしかない。 推測が事実へと確証が取れたのは大きい。 そして……ふたつ目。これはどこか引っかかるものを感じる言い回しがあった。 "最後まで生き残ったマスターとサーヴァント"。 方舟の役割を鑑みれば単に強さ……戦闘力のみに重きを置かず、生存力をこそ重視するというのも分かる。 だから、単純に一対一で性能を競い合わせる形式にしない……? 何かが引っかかっている。正純の捉えているものとの食い違いを感じる。 「無論、聖杯戦争を無視し殺戮の混沌を撒き散らす者がいたならばそれを正しに動きます。その為にこそルーラーはいるのですから」 思考を別に働かせつつも、正純はその台詞を見逃さなかった。 「現状、抑止が正しく機能しているものとは私は思わない」 B-4地区のマンションで起きたという違反。そして錯刃大学での暴力騒動。 運営の抑止力としての役割を正純は疑っていた。比較対象がないから何とも言えないが、お世辞にも十全に果たせているとは見られない。 「そうもこの方式を維持するのが正しいと規範する、その根拠を教えてもらいたい」 今が聞き時だろう。 交渉の目的たる核心の追及へと話題を進めた。 「我々は何も知らない。如何なる成り立ちでこの聖杯戦争が始まり、どうしてそれが殺し合いでなくてはいけないのか。 何故、予選が終わった今でも同じ土地を戦場に使用しているのか」 それはライダーやシャアとの話し合いでも共通してる考察の一片だった。 「この戦争の悪なる部分は、賞品となる聖杯の正体があまりに不明瞭だからだ。 ムーンセル、アークセルが何であるかは知っている。だがそれは全て聖杯側から一方的に与えられたものでしかない。 状況も分からぬまま外付けで断片的な情報を脳に刻まれて、それを求めるなどどうして出来るというのか?」 聖杯は貰って嬉しいトロフィーではない。 そうした価値もあるだろうが大多数はその機能に目をつけている。信頼性のない商品など誰が使うものか。 なのに方舟には、聖杯を求め殺し合いを進める者がいる。 そうするしか他にないから。手をどれだけ伸ばしても永久に届かない。一生を懸けてもまだ足りない。 普通では叶わぬ悲願の成就を渇望するからこそ彼らは選び、方舟は選んだのだ。 「そうまでして求めた聖杯に偽りがあれば……これほど彼らに対しての侮辱はない。 善悪に関わらず、餓い抱いた期待を目の前で打ち砕く。願いを虚仮にして嘲弄する」 それはなんと呼ばれるのか。 「最悪と呼ばれる行為だ。人類種の保存という、方舟側の大義すら消失する」 そんな最悪の可能性を避けるにはどうすればいい。 「資格があると言ったなルーラー。その通りだ。 我々には資格がある。情報を要求し、検証し、選択する権利がある」 全参加者の聖杯に関する情報を共有することだ。聖杯についての正しい認識を持たせることだ。 正確性に欠けたものではない、裁定者側からお墨付きのもので、だ。 「そうして考えた上で、我々は選択すべきだ……他者の命を奪う道を進むのか、止めるのか。 それは聖杯という高次の存在から授かるものではなく、個人毎の意思で決めねばならない」 想像の通りではないと知り願いを諦める者。矛盾を知りつつもなお己の道を通す者。 戦争を望む者。厭う者。 多くの道が分かたれるだろう。その過程で立場が明確になる。 言ってしまえばわざわざこうしてルーラーに直談判してるのもその辺りの曖昧さにあるものだ。 間を空け、次はルーラーの返答を待つ。 ジャンヌ・ダルクには、異端審問の際に専門家が舌を巻くほどの弁で審問側を圧倒したという逸話がある。 これまで投げた問いに対して淀みなく返答してみせたのもそういう理由だ。 それが神の奇跡の一端であれ本人の思慮分別であれ、無知な田舎娘でないということを意味している。 しかし、 「……」 ルーラーは唇を結び、沈黙している。 妙だな、と正純は思う。 黙秘する事自体ではなく、変化したルーラーの表情を。 黙秘権を使用しているでもあるまい。躊躇とも違い、どう答えたものか逡巡しているような様子。 それはまるで―――ではないか。 頭の中である考えが浮かびかけたところで、ルーラーは口を開いた。 「……その質問には答えられません。いえ、そもそも答えようがないともいえます。 裁定者はこの聖杯戦争を恙ない進行の為に存在する。翻せば、それ以外の役割は求められていない。 聖杯戦争が起きた理由、その成り立ち……そうした機密は何も知らされていないのです」 「な……!」 驚きの声。 思考を止めることなく次なる言葉を引き出そうとしていた正純の計算が乱れた音だ。 それでも、それでも正純の耳は常時通り働いていた。一言一句たりとも聞き逃さず、その意味をたちどころに理解する。 理解したからこその反応、狼狽だった。 「ルーラーとして参加者に受け答えするだけの聖杯に関する知識は保有しています。ですが真に秘匿すべき情報については持ち得ません。 僅かな確率であっても、私から情報が漏洩するのを防ぐ措置なのでしょう」 ……どういう、ことだ? あまりにちぐはぐすぎる。 裁定者側が聖杯戦争の正体を知らない。教えられてないなど考えられない。 造反、漏洩を防ぐ為。単なる走狗に対してであればまだよかった。聖杯の端末に等しい、それこそ意思のない機械であれば。 だがそれを意思持つサーヴァントに適用させているのが正純には解せない。面倒だろう、それは。 聖杯の意思の代弁者としてAIなどいくらでも作れたはずだ。それなのに聖杯はわざわざ情報統制を強いた上で、 明確な人格を持ち、過去に生まれた人間、歴と存在している英霊をルーラーに任命し召喚している。 労力を惜しんだから既に在る、条件を満たす英霊を選択した?ものぐさにもほどがあるだろ……! 「疑念を持たないのか、ジャンヌ・ダルク……この方舟に。この聖杯に。聖女である貴殿はこの戦争に納得しているのか? "これ"が貴殿らの信ずる御子の聖遺物足ると言えるのか?」 「承知しています。この"聖杯"は御子の血を受けた正真の杯でなく、ムーンセルという月の頭脳体を称したもの。 その演算処理能力を以て成される願望器としての機能を指して聖杯と字名されているものです。 "方舟"、人がアークセルと呼ぶそれもムーンセルとはまた独立した、魂を擁する揺り籠を目的とした古代遺物(アーティファクト)。 ……聖者ノアが造りたもうた真なる方舟であるかは、私には答えかねますが」 矛盾の根幹を突く言葉。 信仰に傾倒する程縛られる教派の教義にもルーラーは揺るがず。 そう……宗派の相違による衝突など彼女自身が身を以て思い知っている。 「ですが真贋はどうあれ、ムーンセル、そしてそれと接続したアークセルは願望器としての機能を持ちます。 容易く世界を変容させる力。人の望みを汲み上げる知恵の泉。いつしか人は、それを聖杯と呼んだ。 その争奪の経緯を総称して、やがて聖杯戦争という名が生まれました」 つまり、それは。 「……聖杯と名付けられたものを奪い合うのであれば、何であれ聖杯戦争というわけか」 「『私』が存在する世界に限れば、ですがね」 ルーラーは肯定した。 「ですので、贋作であるから、教義に反するからという理由で疑いをかける事はしません。 我欲を求めるのは人の本能。それが災厄をもたらす事がなければ叶えようとしても構いません。 もとよりここに集ったのはそれぞれ別々の人理を紡ぎ上げた世界の住人。信ずるものが異なるのは当然の話。 今の私は主を信じた小娘ではなくルーラーのサーヴァントとして求められたが故に」 知識の差が出始めた。 一世界から出でたに過ぎない正純と、英霊として多数の世界の知識を有するルーラー。 立ち位置からくる認識の差だ。知識の差は視点の差を生み、捉え方の違いを生む。 この場合のルーラーは信仰上の聖杯と願望器の聖杯を分けて考えているように。 あらゆる異世界に同数の宗教があり、同名の教派でも形態が違いそもそも存在すらしない時代と場所がある。 そんな住民を纏め集めた方舟で、ひとつの宗教観を絶対の基準に置けば破綻は避け得ない。 もしくは。はじめからそうした分け方ができる人間をルーラーに選んだのか。 そしてふと思った。 ムーンセル、そしてアークセル。このふたつの聖遺物が存在する、いわば基礎となる世界。 このジャンヌ・ダルクも、その"基礎世界"で生きた英霊なのではないかと。 「確かに私は全てを教えられてるわけではありません。それを承知の上で私はここに今も在ります。 聖杯戦争を恙なく進行させるルーラーとしてここに在る」 鎧姿の少女は厳かに告げる。 「ですが誓えることはあります。聖杯があなた方に伝えた情報―――それに偽りはありません。 肉あるものを集め、人類の種を保ち、使用者の願いを映す月の水面。宙の方舟は輝く魂を載せ天へ至る。それがアークセルの役割。 裁定者(ルーラー)と私(ジャンヌ・ダルク)、双方の名において譎詐せずに誓います」 最大限での潔白の表明だった。 監督役としての権利も、個の英霊としての誇りも全て賭けている言葉。だから軽く翻す事も出来ない。 決意は重圧と変性する。息苦しさを正純に押し付ける。 こうまで言われて疑うようではルーラーの全てを疑問視しなくてはならない。 そうすると今まで引き出した情報も信に置けなくなり、前提の崩壊になる。 「ここでの死を必要な犠牲と許容するのか?」 そして……完全でないにしても把握した。 彼女の行動と主張、その骨子にあるもの。古今の英雄を統制するルーラーのサーヴァントに選ばれた理由を。 「まさか。必要な死など世界にありません」 神への妄信。宗教の執着。一方通行の感情の暴走。 そんなものでは到達し得ない、目の前にすれば足が竦むほどの巨大で強大な意思。 「万人を救おうとも、一人の命を奪った罪が消える事にはなりません。 誰かを救う選択とは、そういう事です」 聖女の信念に正純は触れた。 BACK NEXT 156-b 話【これからのはなし】 投下順 157-b 聖‐testament‐譜 156-b 話【これからのはなし】 時系列順 157-b 聖‐testament‐譜 BACK 登場キャラ:追跡表 NEXT 156-b 話【これからのはなし】 シャア・アズナブル&アーチャー(雷) 157-b 聖‐testament‐譜 本多・正純&ライダー(少佐) ジャンヌ・ダルク
https://w.atwiki.jp/psyren_wars/pages/128.html
右は楽園、左は―― ◆wd6lXpjSKY 鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむら。 三人の魔法少女が参戦した願いを求める聖杯戦争。 選ばれた十四人のマスターだが、その中に魔法少女が三人いる。 それぞれ参加している事実を伏せていたがこうも重なるモノなのか。 異なる時間軸からまるで聖杯に吸い寄せられるかの如く。 知り合いに遭遇する、偶然とはどうも思えない。 点と点を結ぶ線の正体に心当たりはないがどうしようもない因果が働いているのか。 魔法少女の生い立ちに関わっている存在に心当たりは在る。 かと言ってその存在が聖杯戦争に関わっている確証はない。 そもそも打ち合わせなど行わずに手に取ったテレホンカード。 鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむら。 三人がそれぞれ願いを求めた結果なのだろうか。 惹かれ合う運命に逆らうことなど出来ない。 出会ってしまえば敵、参加してしまえば敵になってしまう。 言い伝えどおりならば願いが叶うのは最後の生き残りだけ。 それは大切な人を殺してでも奪い取る――唯一無二の願望器。 最もサーヴァントを失ってしまった暁美ほむらには辿り着く権利を持ち併せていない。 六時間の間に新たな契約を結ばなければ彼女は灰になって死んでしまう。 契約を結ばなければ公衆電話で元の世界に帰るか。 答えはノーだ。戻ってもやることは変わらない。 いつか訪れるであろう愛と勇気が勝つ物語を夢見て何度も何度も世界を繰り返すだけ。 ならば生き残るためにも新たなサーヴァントとの契約が必要である。 キャスターは死んだ。 あんな奴でも願いを叶えるためには必要な存在だった。 考えるだけで厭になる。死んでくれて嬉しいぐらいだ。 短い付き合いであったがどうもあの男はどうも精神に悪い。 良い表現が見つからないが不快の塊のように感じていた。 「……」 振り返るようなイベントや思い出はない。 気味の悪い人形を使役するキャスターは死んだ。それでいい。 最後の最後まで魔力を喰らい尽くしたのだ、死んでも当然だ。 (我ながらどうしてこうもキャスターを嫌っているか解らない) マスターとサーヴァントは何処か惹かれ合うかもしれない。 愛の名の下に彼女と彼は狂っている、黒い程までに総てを塗り潰す偽りの無い愛。 彼女がそれを知ることはきっとないだろう。一生すれ違いのまま。 当然の話しであるがキャスターは生存していて新しい契約を結んでいる。 彼には新しい道が見えている。 彼女には新しい道が見えていない。 生き残るのは彼、死ぬのは彼女。 生き残るために暁美ほむらは学園に向かうためにタクシーに乗った、それが数十分前の出来事である。 ◆ ◆ ◆ 行き先はアッシュフォード学園……近くのコンビニである。 事件が起きた学園に直行する生徒は野次馬か馬鹿か。或いは犯人か。 怪しさしか生まれず何処に他の参加者が潜んでいるか解らない以上慎重に行動したい。 学園に行く理由。 大雑把に言えば新しいサーヴァントと契約するためである。 そのためには他の参加者との接触が必要である。 この聖杯戦争には三人の魔法少女が参戦しており彼女達は知り合いである。 学園で連絡先を把握すれば接触は可能だろう、暁美ほむらは考えた。 無闇に歩き回って他の参加者を当てにするのは愚策過ぎる。 襲われればその時点で終了、彼女の願いは簡単に砕け散ってしまう。 最も美樹さやか或いは鹿目まどかからサーヴァントを奪えるとは思っていない。 鹿目まどかから奪えば彼女がこの世界から消えてしまう。 美樹さやかから奪うとして時間停止の魔法を知っている彼女をどう対処すればいいのか。 正面からの戦闘で彼女に負けるとは思えないが魔力消費の関係上衝突は避けたい。 (協力を求めるしかない。私が生きる残るためには) 既に美樹さやかには同名の提案をしている。 返事は明日の正午に聞くつもりだったが状況が変わってしまった。それも暁美ほむらにとっての最悪に。 キャスターに掻き乱された結果が之、自分の生命が危険に晒されてしまった。 灰になってしまう現象を防ぐためにまずは協力者を集める。 その後助力を得て他の参加者を襲撃しサーヴァントを奪うのが彼女の算段である。 (上手くいくとは思えない、でも……やるしかないわ) 他の参加者に勝てるのか、そもそも美樹さやかは同名に応じてくれるのか。 不安要素は多く存在しており総てが未確定。 考えれば考える程吐き気が身体の中から押し寄せてくる。 だが暁美ほむらは行動を止めれば死に繋がってしまう。 臆病風に吹かれて黙っているよりは傷付いてでも明日を掴み取らなければならない。 今までのようにこれからも足掻いてこの世界を生き残るしか無い。 学園について連絡して行動してから、次の策を考えればいいだけのこと。 魔力の消費が無ければ橋の乱戦にて漁夫の利を狙うことも出来たが仕方が無いことであった。 「……」 橋の乱戦を思い出し一つ引っ掛かる。 架空世界で日常を謳いながら生命を奪い合う聖杯戦争。 その参加者は天戯弥勒の言葉を信じれば十四組である。 だが実際には住民が多く存在している所謂NPC、彼らは一体何者なのか。 天戯弥勒が用意した存在と考えるのが無難であろうが……。 単純に殺し合いをさせるならばNPCは邪魔でしかないだろう。 効率的に行うならば無人島か何処かに参加者を押し込めればいいだけのこと。 ついでに首輪でも嵌めて監視していればいい。 何故殺し合いを行わければならないのか。願いを叶えれるのは最後の一組だけである。 聖杯戦争の知識に疎い暁美ほむらは思う。 一組ならば願いはマスターとサーヴァントでそれぞれ一つずつ、つまり二つの願いが叶えられるのだろうか。 サーヴァントが諦めてくれれば二つの願いを叶えることも可能であろう。 仮にキャスターと契約したままなら確実に無理と言い切れるが。 天戯弥勒はどうやってこの世界を用意したのか。 之については直接聞くか知識有る者と接触をするのが一番であろう。 聖杯戦争に詳しい他の参加者、頭脳に長けている英霊。 そして天戯弥勒と繋がりがあるであろう夜科アゲハ。 彼は幸い学生である。学園にて連絡先を掴める可能性は大いに在る。 自分の状態が万全になれば一度接触を試みたいところ。 NPCの存在価値について。 日常を演出するための記号と暁美ほむらは考えている。 物語の中で特別な役は与えられていないが演出するには必要不可欠な存在。 学園で発生した事件が正にそう。 走るパトカー、集まるマスコミ、広がる噂。 どれも閉鎖された空間では決して起きない日常の流れが形成されている。 日中からサーヴァント同士の戦いを行えば情報は素早く拡散されてしまうだろう。 自分の日常的な立ち振舞も気にしなければこの戦争を生き残れないらしい。 「お客さん……着きました」 「あ……」 時間が過ぎるのは早い。 目的地であるアッシュフォード学園の最寄りコンビニに着いたようだ。 運転手に声を掛けられ間抜けな言葉を放ってしまう。 思えば黙って考え事をしていた。運転手が無口な男で助かった。 暁美ほむらは基本運転手と会話することが無い。 普段の生活にて活用した場合もお喋りな運転手の時はハズレだと内心思っている。 彼女はそんな人間である。 NPCと言えばこの運転手もそうなのだろうか。 無口な男、年は若くはない見た目をしている。 特徴といえば背中越しからでも解る鍛え上げられている肉体。 普通の運転手には必要ないように思えるが鍛錬が趣味なのか。 一人一人雑な人形ではなくそれぞれに個性を持たせてることに意味でも在るのだろうか。 着色された人間は他の参加者との違い、初見で見抜くことは厳しいだろう。 この運転手でさえももしかしたら他のマスターかもしれない。危険は常に身近に潜んでいるようだ。 「ありがとうございました」 料金を払い礼を述べると暁美ほむらは外に出ようとする。 開けられた扉の向こうから流れてくる風が心地良い。 この世界が殺し合いではなく日常であればどれだけ嬉しいことだろうか。 その日常を勝ち取るためにも暁美ほむらは学園へ向かう。 自分のために、日常のために、鹿目まどかのために。 「……お客さん、学生だよな」 「……?」 外に出たところで運転手に話し掛けられる。 支払った額は在っているし忘れ物もしていない。 何を言われるか見当もつかない暁美ほむらは黙って次の言葉を待った。 「……いや、なんでもない。止めて悪かった。ただ、知っているとは思うが学園で事件が起きたらしい。 近付きはしないと信じているが変なことを考えているなら……って思っただけだ。気にしないでくれお客さん」 「は、はぁ……」 結局何が言いたいのだろうか。 運転手は扉を閉めるとそのまま走り去ってしまった。 学園に近付いた自分を心配してくれたと思うが暁美ほむらは感心する。 NPCには思ったよりも感情が豊かである。 物語の進行度合いに関わらず同じ台詞しか発しないゲームとは大違いだ。 やはり魔法的な要素を抜きにして他の参加者を見つけるのは難しいだろう。 キャスターのような監視システムを持ち合わせていれば楽な話ではあるが。 何にせよこれから向かう学園で自分の新しいサーヴァントを見つける第一歩を踏み出す。 気合を入れ直し足を進める暁美ほむら。 「……」 気付けば変な汗を掻いていた。 あの運転手、どうも威厳と言うか貫禄と言うか……何処か強い印象を感じた。 ◆ ◆ ◆ アサシンは現在見回りに出ている。 つまりこの部屋に居るのはエレン一人である。 時間が経過していく度に魔力について適応していく感じが在る。 感じであり言葉に出来なければ状況を理解してもいない。 解ることは近くにアサシンが居ないということ。 お昼のような外出しようとしたらアサシンに止められる、何てことはもう起きない筈だ。 外に出たい思いは彼が居た元の世界に起因する。 コンクリートで固められた居住区は彼に似合わない。 もっと開放的で広々な空気の方がエレンに適応している。 そして扉を開ければ平和な世界で仲間と過ごせるかもしれない。 甘い期待がエレンを動かせる要因となっているのだ。 勿論そんなことは無い。 言ってしまえばエレンの知り合いであるNPCも確認されていない。 当然である、彼は聖杯戦争が始まってから引き篭もっているから。 引き篭もりの現状が彼に幻影を見せるきっかけになってしまった。 快適な生活は元の世界とはかけ離れ過ぎている。 食糧にも困らない、寝床にも困らない、お風呂にも困らない、生活にも困らない。 そして何よりも巨人が存在していない。 異なる世界の日常はエレンにとって甘過ぎる。 黙って寝ていても明日の朝日に怯える必要が無い。 安心して夜を眠れる世界は彼らが追い求めている理想郷だ。 それを一人だけ体感してしまったエレンは元の世界に戻ろうとしないだろう。 殺伐的な世界は必要ない。 ミカサもアルミンも此方の世界に来ればいい。 ジャンやコニー達も、ライナー達も来ればまた皆に会える。 違う。 扉の外に皆が俺を待っているんだ……そんな妄想さえ引き起こしてしまう。 今は邪魔をするアサシンもこの部屋に居ない。 暗殺者とてエレンの邪魔をしようとは思っていなく寧ろ助けている。 無意味な外出を控えるのは生き残る上で重要な作戦である。 しかしその閉鎖的な日常がエレンを動かす要因になってしまったのは皮肉な物であった。 「――ッ!?」 部屋に響く音に警戒するエレン。 その正体は電話である。元の世界には存在しない人類の英知、科学の進歩の象徴。 最初は何もかもが意味不明であったが時間が其れを解決してくれた。 彼も今では買い物も出来るしテレビも、洗濯機も扱えるようになっていた。 無論電話も熟知しているつもりである。 誰からの電話かは不明だがアサシンやコンビニの店員を除けば久し振りの他人との会話だ。 意気揚々としながらエレンは受話器をとった。 「もしもし? 俺、エレン・イェーガーです!」 『エレン君? 具合は大丈夫かしら……ってごめんなさい。担任の『小萌』です』 小萌。 会ったことはないが資料で見たことが在る。 エレンが通うはずだったアッシュフォード学園の先生であり彼の担任だったはず。 桃色の髪をしておりとても小柄な印象があった。 それも自分と同じくらいか下の世代と間違えてしまう程幼い写真だった。 「ど、どうも。先生すいません。初日から休んで」 『気にしなくていいの。それでね、エレン君……申し訳ないけど学園に来れるかしら?』 「は? 今からですか?」 『ニュースで知っているかと思うけど今の学園は事件が起きたあとだけど。 それに休んでいるエレン君には申し訳ないけど……手続きの関係上、少し用事があるの』 体調を崩している学生に。 事件が発生した直後の学園に。 呼び出すとは何を考えているのか。 エレンも訓練生時代は教官に無理矢理しごかれたこともあったが優しい世界でも在るのだろうか。 残酷な世界ではなく優しい世界でも……エレンは即答した。 「行きます! 俺、外に出ます! だから先生は待っててくださいね、それじゃ!」 『は、え、なんで……? 貴方それでいいと思って――』 小萌先生の言葉はエレンに聞こえていない。 話途中で受話器を置いてしまったから。彼は急いでいたから。 外に出れる理由は素直に嬉しい。 体調を崩していようが学園で事件が発生していようが関係ない。 これで外出する大義名分を得た。 ジャケットを羽織り、兵団の代名詞でもある立体機動装置をカバンに詰め込む。 之が無ければしっくりこない。身体に馴染んだ装備を持ち歩く。 念のためであるが装着ではなく持ち運ぶ、優しい世界に武器なんて必要ないから。 靴を履き扉を開けて光を浴び風を感じるエレン。 彼は開放感に満ち溢れている――この世界が残酷な世界とは知らずに。 【A-4/エレン自宅前/一日目・夕方(終盤)】 【エレン・イェーガー@進撃の巨人】 [状態]健康、開放感、笑顔 [令呪]残り3画 [装備]立体機動装置(カバン) [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を勝ち取り巨人をこの世から駆逐する。 1.学園に向かい小萌先生に出会う。 2.ミカサ達を探す。 3.この世界に皆を呼ぶことを考える。 4.願いを叶えるなら何だって……何だって……? [備考] ※アッシュフォード学園中等部在籍予定です。 ※天戯弥勒の通達を聞いていません。 ※学園の事件を知りました。 「事件が起きた学園に来る……信じられないわ」 どの口が言えるのだろうか。 エレンとの電話を済ませた小萌先生改め暁美ほむらは呆れていた。 常識的に考えて有り得ない。 体調を崩した生徒に登校を強制、それも事件発生直後の学園で。 そもそも手続きの関係など何をするのか。出勤簿を整理するだけだろうに。 学園に到着した暁美ほむらは職員室に入り生徒名簿を見つけた。 誰も居ない職員室ならば小萌と書かれた教師の机を漁ってもバレはしないだろう。 見つかった生徒名簿は中等部の物だった。そして付箋が貼ってある。 《暁美ほむら、エレン・イェーガー、鹿目まどか、美樹さやか 欠席》 この付箋を見て暁美ほむらは確信した。 このタイミングで休む生徒、他の生徒は魔法少女の三人。 彼女達は聖杯戦争の参加者、ならば……エレン・イェーガーも参加者と考えれる。 NPCの可能性も有るが学園に来て接触を行い情報を貰えばそれだけも有意義と言えよう。 邪魔になるならば殺せばいいだけの話。何にせよエレンのサーヴァントが新しいサーヴァント候補になるだろう。 彼女は知らないがエレンのサーヴァントは付いて来ない可能性も在る。 それは別として。 小萌先生の机の上には生徒から没収したであろう聖書が置かれていた。 暁美ほむらはそう言った類に興味を熱心に持っている訳ではないが手に取り適当に見つめる。 聖杯戦争、何か手掛かりが記されていても不思議ではないのだ……。 「創世、神、始まりの人間、楽園、兄弟、方舟、バベル……まぁそうよね」 書かれていることはきっと彼女が知っている聖書と同じだろう。 見ても意味は無いようだ。聖書を机に戻し窓を見つめる。 しかし、何か気になるというか引っ掛かることがあった。 ゴフェルという見たことのない単語がどうも頭に残る。 日常でも存在する所謂《響きが強い》単語だろう。 覚えやすいこの言葉はテストで配点が低く正解で当然のような。 男子生徒が大喜利素材として活用し授業を中断させる材料のような。そんな印象を受けた。 「そんなこと今は関係ない……私は」 エレンは学園に来る。サーヴァントを率いて。 暁美ほむらは学園に居る。サーヴァントは居ない。 戦闘になれば不利になるのは彼女。 人間の力でサーヴァントに対向するのは厳しい、基本は無理だろう。 時間を止めれば勝機は在るが突破されれば彼女は死ぬ、未来は覆せない。 ならば。 「美樹さやかかまどか……私が連絡するのはどっち……それとも――」 【C-2/アッシュフォード学園・職員室/一日目・夕方(終盤)】 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]魔力消費(中)、苛立ち [令呪]残り3画 [装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ [道具]グリーフシード(個数不明)@魔法少女まどか☆マギカ(二つ穢れが溜まりきっている) [思考・状況] 基本 聖杯の力を以てまどかを救う。 1.エレンとの接触を行う。 2.美樹さやかか鹿目まどかに連絡……? 3.次に美樹さやかに在ったら『鹿目まどか』について聞く。 4.キャスターに対するかなり強い不快感。 [備考] ※自分の能力の制限と、自動人形の命令系統について知りました。 ※『時間停止』はおよそ10秒。連続で止め続けることは難しいようです。 ※アポリオン越しにさやか、まどか、タダノ、モリガン、アゲハ、流子、ルキア、慶次、善吉、操祈の姿を確認しました。 ※明、ルフィのステータスと姿を確認しました。 ※美樹さやかとの交渉期限は2日目正午までです。 ※美樹さやかの存在に疑問が生じています(見たことのない(劇場版)美樹さやかに対して) ※フェイスレスは武将風のサーヴァント(慶次)に負けて消失したと思っています ※一瞬ソウルジェムに穢れが溜まりきり、魔女化寸前・肉体的に死亡にまでなりました。それによりフェイスレスとの契約が破棄されました。他に何らかの影響をもたらすかは不明です。 ※エレン、さやか、まどかの自宅連絡先を知りました。 ※サーヴァントとの契約破棄を確認(一日目夕方)、これより六時間以内に帰還しない場合灰となります。 BACK NEXT 044 とある戦士の相互理解(ウェイトゥアンサー) 投下順 046-a 新約 魔科学共存理論 044 とある戦士の相互理解(ウェイトゥアンサー) 時系列順 046-a 新約 魔科学共存理論 BACK 登場キャラ NEXT 044 とある戦士の相互理解(ウェイトゥアンサー) 暁美ほむら 050-a 月夜を彩るShuffle Beat 043 裏切りの夕焼け エレン・イェーガー
https://w.atwiki.jp/kakiteseihai/pages/78.html
書き手聖杯戦争が行なわれている冬木のようなそうでないような地にて。 「あ ァ ァ ァ ん ま り だ ァ ァ ア ァ ッ!!」 「落ち着け、マスター! 声が大きい!」 自らのサーヴァントに窘められて尚、おんおんと大声で泣き嘆く書き手がいた。 その姿はセリフの元ネタであるエシディシ――ではない。 そもそもエシディシのアバターになれていたのならこんなにも泣き叫ぶことはなかった。 エシディシの原作での立ち位置とジョジョロワ2ndをはじめとした悪名から他人から信用は得にくいだろうな、とか。 そんな風に状況分析でもしていたことだろう。 そうではない、そうではないのだ。 涙する書き手に与えられた容姿はそれ以前の問題なのだ。 人間だとか柱の男だとかサイボーグだとか、百歩譲って犬や亀や猿や猫草ですらない。 「よりによって、スタンドだなんて……!」 スタンドだ。スタンドになってしまったのだ! 幽波紋(スタンド)。それは力あるビジョンである。 守護霊のように使い手の「傍に立つ (Stand by me)」ことから作中キャラにそう命名された具現化した超能力のようなものである。 原作であるジョジョの奇妙な冒険の人気も相まって説明するまでもないかもしれないが。 ともあれである。 スタンドとはあくまでも傍らに立つものであり、本来なら本体は別にある。 いや、一部スタンド自体が自我を持っていたり、一人のキャラクターとして成り立っている存在もいるのだが。 「うう、F・Fとまではいかなくともせめてヨーヨーマッ、いやアヌビス神でもまだ納得できたのにぃ~!」 残念ながらそのスタンドはそれら名だたるキャラクター性のあるものではなかった。 登場人物でもなければ意思持ち支給品としてもカウントされない、通常のスタンドだった。 「ナット・キング・コールだなんてそもそも私、どんな口調で喋ればいいんですか! 一応ジョジョ東方準拠で早苗よりにしてますが! ご丁寧に御柱も担いでますし!」 『ナット・キング・コール』。 その名を聞いてもピンとこない読み手の方も多いだろう。 スタープラチナやザ・ワールドに比べるまでもなく、登場して日が浅いこともありジョジョの中でもまだまだ知名度の低いスタンドだ。 しかし非ジョジョラーのロワ住人よりもジョジョラーのロワ住人の方がより一層首を傾げるに違いない。 あれ? ナット・キング・コールってジョジョリオン(ジョジョ8部)のスタンドだよね? ジョジョリオンの出ているロワなんてあったっけ、と。 その疑問は最もである。 2015年今現在、まとめサイトのあるロワにおいてジョジョリオンがまっとうに参戦しているロワは存在しない。 あのカオスロワにさえ不参加である。 そもそも原作が完結していない上に、主人公についての謎も多く、スタンドもどう進化するのか分からない以上、出しにくい点もあるのだろう。 かのジョジョロワ2ndでは完結前のジョジョ7部SBRも参加作に含まれていたが、出していいのは当時既に死亡済みのキャラのみという決まりがあった。 原作におけるどんでん返しやスタンドの進化に配慮してのことであろう。 ジョジョロワ3rdにおいては、完結に伴いSBRも解禁され、どころかバオー来訪者などの他の荒木作品も参戦したが8部からは未登場である。 ちなみにナット・キング・コールの本体こと東方常秀は原作でも未だ生存していたりする。 では、ジョジョロワの書き手でないと言うのなら、いや、そもそも8部が参戦しているロワがないというのなら。 彼はいったいどこのロワの書き手だというのだろうか? 漫画ロワか。 マルチジャンルロワか。 二次二次聖杯戦争か。 或いはどこかの聖杯系で8部人物の登場話を書き惜しくも敗れた書き手だとでもいうのか。 否、それらのどれでもない。 たった一つ、たった一つだけあるのだ。 ナット・キング・コールが支給されてしまったロワが。 ジョジョ8部は参加していないながらも、ジョジョ8部からスタンドを出してしまったロワが。 「私だって、私だって……。どうせ姿を変えられてしまうなら。 承太郎さんみたいにごつくてかっこいい男の人や、“霊夢さんみたいに可愛い少女”になりたかったですよ。 ねえ、ランサー、分かりますか!? 分からないですよね!?」 「い、一応うちにもジョジョも東方も出てるから分かるって!」 「そういうことじゃないです!」 ジョジョ×東方ロワイヤル。 その名のごとく、参加作品が『ジョジョの奇妙な冒険』と『東方project』の二つのみというロワである。 俺ロワ・トキワ荘にて絶賛継続中であり、名簿とルールこそ 1の手により制定されたが、書き手枠もあるリレーロワである。 が、書き手枠があろうとも、そこにジョジョリオンの姿はない。 出すことが禁止されていたわけではないのだが、結果的にジョジョロワ系列にさえいなかったズィー・ズィーまで登場しようとも、8部からは誰も登場することは無かった。 あくまでも、人物に限れば――。 「酷いですよ……。こんなのってないじゃないですか。私が一体何をしたというのですか。 8部からスタンドを出した? 仕方ないじゃないですか。迷ったけどかなり好きなスタンドだったんですから……」 ここまで言えば分るだろう。 支給品としてついつい未参加の8部からスタンドを出してしまったのである。 ルール上禁止されていたでもなく、他の書き手たちの反対もなかったため、普通に通りはした。 別に悪いことではない。 しかしながら書き手聖杯における彼の容姿はその時点でほぼ決定したと言っていい。 何せ他のどのロワ、どの書き手もなしえなかった唯一無二の個性なのだ。 ナット・キング・コールの容姿とはつまり、彼がジョジョ東方ロワ書き手であり、何よりも◆qSXL3X4ics――クスクル・ジョースターである証なのである。 「あー。いやでも坊主、それとも嬢ちゃんか? その姿、ヒーローみたいでかっこいいじゃねえか」 「後生ですから少女ということにしておいてください……。 この容姿だと御柱付きとはいえあまりにも東方要素が皆無なので……」 「お、おう。嬢ちゃんも大変だな……。けどな、俺だって似たようなものだろ?」 「似てないです! ばりばりの主人公の姿じゃないですか!」 「いや、そうは言っても今の俺の姿はぱっと見化け物みてえなものだしなあ」 確かに。 全身を大量の螺子で穿たれているとはいえ、額にV字型の飾りを持っているためヒーローっぽく見えるクスクルに対し。 ランサーの姿は、仮面の化物としか言い様がない。 誰がどう見ても禍々しいという印象を受けるだろう。 だがそれでいて多くの人間から、彼は主人公と認識される。 何故ならその姿はジョジョの奇妙な冒険と同じくジャンプが産んだ人気漫画――BLEACH、その主人公のものだからだ。 名を黒崎一護。ゴールデンタイムにアニメをやっていたこともあり、ナット・キング・コールとは違い説明不要の有名人ではなかろうか。 正しくは、ランサーが模しているのは一護の完全虚化と呼ばれる状態にミスト・バーンが取りついたような容姿なのだが。 黒崎一護と十分認識してもらえる範囲である。 それだけではない。 「贅沢言わないでください! 確かにちょおっと怖いかも知れませんが。 でもその姿はランサーくんにとって勲章みたいなものじゃないですか!」 黒崎一護が登場するロワはジャンプロワや全開ロワなど、複数ある。 けれどもこと書き手“聖杯戦争”にその姿で呼ばれよう書き手がいるとすれば、それはたった一人だけだ。 三百をも超える登場話候補作の中から、一番多くの票数を獲得し、自作を認めさせた書き手。 ◆DpgFZhamPE――通称、一護の人。 トリップの頭文字的にはデップーとしたいとこだが、それだとまた別のキャラクターになってしまうため、ここはそのまま一護の人とする。 ちなみにデップーも中々に彼の得意キャラではあったりする。 「嬢ちゃんの言うことはごもっともで、確かに誇らしくはあるんだが……。 分かんねえかな? 一護の姿をしてるからこそ、バーサーカーじゃない俺は一護らしく振舞っちまう訳にはいかねえのさ」 「あ……」 そこまで言われてクスクルはようやく気付く。 二次二次において一護の人が書いた黒崎一護はバーサーカーだ。 バーサーカーという理性を失い、喋ることもままならないクラスでありながらも、最高にらしくかっこよく黒崎一護を書いたからこそ、彼の作品は多くの住民を惹きつけた。 その彼が、理性も会話もできるクラスで召喚されたからといって安易に黒崎一護っぽく振舞うことを自分によしとするだろうか。 するまい。彼に限らず多くの書き手は自重するはずだ。 何せもしかしたなら二次二次本編において黒崎一護が理性を取戻し会話する展開もあり得るからだ。 そのような展開があるとすれば間違いなく二次二次における一護の山場であり、見せ場であろう。 それが如何なる展開であるにしろ、あり得る大一番をなんてことなく先取りすることを彼はよしとしなかった。 退場した後ならともかく、一護にはまだまだこれからがあるのだ。 故に一護の人は自らが召喚されるに辺り二刀を封じ、代わりにランサーとして二体のサーヴァントの力を宿し馳せ参じた。 片や光の神子クーフーリン。片や大魔王バーン。 どちらも一護の人の二次二次におけるもう一つの代表作で大活躍したサーヴァントであり、既に脱落済みのキャラクターである。 「つうわけでだ。俺はバーサーカーでもなければセイバーでもなく。ランサーとして兄貴っぽく振舞わせてもらうぜ。 まあ中身が俺だからな。兄貴ほどかっこよくはなれねえだろうが。それでいい。 ここは書き手聖杯なんだ。クーフーリンの二次創作じゃねえ、あんたらが言うところの一護の人として俺という書き手を綴らせてもらうさ」 「で、だ。マスター、少しは落ち着いたみてえだから聞かせて欲しいんだが。 マスターはこの書き手聖杯戦争をどうしたい? 聖杯に託す願いはあるのか?」 「……絶賛容姿変更をしてもらいたいです」 「優勝しちまった時点でこのロワ終わるだろうかあんま意味ないだろ、その願い」 「そうですよねー。ううん……」 腕を組んで考える。 聖杯に託す願い……というのは特にない。 ジョジョ東方ロワは順調だ。 書き手聖杯とやらに願ってまでどうにかしてもらう必要はない。 あ、書き手はいつでも募集中ですが! だから聖杯のために殺し合いに乗る理由はないのだが。 ただ。聖杯を得たいとは思わないが、しかし、◆qSXL3X4icsという書き手としてここにある以上したいことはあった。 ジョジョロワ書き手に会いたいだとか、東方ロワ書き手のサインが欲しいとか。 そういう具体的なことではなくて。欲しいですが。もっと曖昧で抽象的な、けれども彼女にとってはこれでもかという欲求があった。 「私は――何か大きなことがしたいです」 「おっきなこと?」 「はい!」 それは一見、将来の夢は? と聞かれた時に、夢見がちな青少年から返ってきそうな答えだった。 実際彼女がまともに早苗の姿でもしていたなら、今頃目にしいたけが浮かんでいただろう。 しかし彼女の願いは何の当てもないただの夢ではない。 彼女はこれまで既に成し遂げてきたのだ。 その大きなことを。ジョジョ東方ロワにて何度も何度も。 話をしよう。ある書き手の話だ。 ジョジョ東方ロワにおいて最高の書き手が誰かと言われたら多くの人が迷うだろうが。 しかし、最強の書き手はと聞かれたなら、殆どの人が◆qSXL3X4icsのことを思い浮かべるだろう。 それくらいに◆qSXL3X4icsはド派手かつインパクトのある作風な書き手なのだ。 超弩級バトルは言うに及ばず、考察から心理戦、圧巻の心理描写、思わず悲鳴を上げたくなる痛覚表現などなど。 兎にも角にも読み手の心をガンガン揺さぶってくる演出の巧みさと文章力、作風なのである。 何よりも彼女の作品を読んだ者には伝わってくるのだ。 書きたいことをとにかく書く! そのためなら起承転結セルフ全ブッコミで分割だってしまくってやる! と言わんばかりのクスクルの情熱が。 だからこそ彼女が、クスクルが書き手としてここにある以上、長編SS相応の大きなことがしたくてしたくて堪らないのだ。 ……少し子どもっぽい願いだろうか? 具体性に欠けた夢見がちな方針なのを自覚しているクスクルは、恐る恐るランサーの反応を伺う。 「はっ、いいじゃねえか。気に入ったぜ、マスター!」 どうやら杞憂だったらしい。 ばんばんとクスクルと肩を組みながら、ランサーも自らの方針を語りだす。 「俺の願いはただ一つ。一番をとることだ」 「一番、ですか?」 「おうよ。マスターも知ってるんだろ、俺の逸話を。つまりはそういうことさ」 何も一位を取るために登場話を書いたわけではない。 美遊が好きだから。一護が好きだから。この二人を二次二次に登場させたかったから。最高の組み合わせだと思ったから。 かっこいい登場話を書けると踏んだから。書きたかったから。だから、書いた。 勝敗は二の次だった、とは言うまい。 書き手として登場話を書いた以上真剣にこの二人を出すために勝負に出たのは事実だ。 けれどもまさかあんなにも多くの人に読んでもらえて、面白いと思えてもらって、一番の票数を獲得しようとは。 思ってもいなかった。望外の喜びだった。 誰かが言い出してくれた。一護の人と。 誰もが言ってくれた、すごい書き手だと。 遂には英霊の座に記録されるまでに至った。 そんな一護の人として召喚された自分が。 果たして一位以外に甘んじていいだろうか。 嫌だ。 二次二次聖杯を担う者の一人として、多くの者たちに愛された書き手として。 何より、数多の書き手の頂点に立ったこともある我が誇りにかけて。 一護の人は、書き手聖杯にても頂点を望む。 「一番つっても別に優勝しなきゃダメだってことじゃあない。 熱血でもいい。鬱でもいい。感動でもいい。考察でもいい。 最多マーダーとか、最強マーダーを討ち取ったとか。 とにかく何でもいいんだ。 この書き手聖杯でも一護の人は最高の書き手だろって、自分にもみんなにも胸を張れるような。 そんな何かを成し遂げたいんだ。だから」 己がマスターへとニヤリと笑みを浮かべて右手を差し出す一護の人。 「最高にビッグなことをやろうじゃねえか、マスター」 クスクルも笑い返してその手を両手で包み込む。 「はい! 頂点を取りましょう、ランサーくん!」 ここに握手と共に契約が交わされる。 さあ行こう、偉大なる夜を越えて。 【クラス】 ランサー 【真名】 一護の人(◆DpgFZhamPE)@第二次二次キャラ聖杯戦争 【パラメーター】 筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:B 幸運:C 宝具:B 【属性】 混沌・中庸 【クラススキル】 対魔力:C 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない 【保有スキル】 戦闘続行:A 往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、致命的な傷を受けない限り生き延びる。 仕切り直し:C 戦闘から離脱する能力。不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。 チェイン A 物語を繋げる力。フラグ整理もお手の物。 転じて自身の武器を呼び寄せる能力。 手から離れていたとしても念じるだけでその手元に戻ってくる。 超速再生 B 一護やデップー由来の再生能力。 このランクならば腕の欠損、胴体に開けられた穴などを一瞬で回復可能。 破棄のあった難所でさえ書き上げて再生できる。 しかし、再生の規模に応じて相応の魔力を消費する。 アルテミット・ワン B 二次二次聖杯戦争の登場話コンペにおいて、最多票を獲得した逸話が昇華したスキル。 自らの宝具以外のステータスのうち一つを、対応する相手のステータスより一段階上回ることができる。 このスキルは敵一人ごとに発動できるため、相手が多人数の場合、自分のステータスを複数強化することも可能。 【宝具】 『二律背反・矛盾螺旋(アンビバレンツ・デッド・オア・アライブ)』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人 必殺必中の魔槍を正面から受けきった天地魔闘の構え、絶対防御を正面から貫いた刺し穿つ死棘の槍。 最強の矛盾対決を描き切った一護の人の最終奥義。一回の戦闘で一度だけ使用可能。 魔槍による回避防御不能の一撃でカウンターを打ち込むまでは、相手のいかなる攻撃もHP1で耐えしのぐことができる。 この宝具は相手の防御・回避・バフ・デバフ系の宝具・スキルなどを貫通する。 【容姿】 ミスト@ダイの大冒険に取り憑かれた完全虚化黒崎一護@BLEACH 口調はクー・フーリン@Fate寄り 【Weapon】 ゲイ・ボルグ@Fateシリーズ 大魔王バーン@ダイの大冒険の各技 【代表作品】 『美遊・エーデルフェルト&バーサーカー』 『導火線に火が灯る』、『凛として散る戦士の如く』 【書き手紹介】 二次二次登場話投票において最多票を獲得した書き手。 一護の人として有名だが、彼は決して登場話コンペでの一発屋ではなく、二次二次の主力として活躍中である。 二次二次の序盤の山場であり、フラグが複雑に絡み合い、関係者も多く、難所であったバーン包囲網を見事にリレーし次へと繋げた。 【スタンス】 自らと自らを名づけてくれた者達の誇りのために、書き手聖杯でもてっぺんを取る 【基本戦術、方針、運用法】 耐えて殴ることに特化したサーヴァント。 スキル、アルテミット・ワンが最大の強み。 うまく乱戦に乗り込めば宝具以外のステータスオールA+やオールEXも夢ではない。 タイマンにおいても宝具の性質上滅法強い。 注意すべきはステータスは高くないものの、宝具やスキルが強力なタイプのサーヴァント。 宝具もあくまでも瀕死で耐える止まりなので、相手からの更なる反撃には気をつけよう。 【マスター】 クスクル・ジョースター(◆qSXL3X4ics)@ジョジョ×東方ロワイヤル 【マスターとしての願い】 自らの望むがままにおっきなことがしたい。あとできたら容姿も変えたいな― 【容姿及び口調】 容姿:ナット・キング・コール@ジョジョリオン 口調:東風谷早苗@東方シリーズ 【weapon】 御柱@東方風神録 【能力・技能】 ナット・キング・コールの分解、接合能力と早苗の奇跡を起こす程度の能力 【代表作品】 『蓬莱の人の形は灰燼と帰すか』 『Trickster ーゲームの達人ー』 『COUNT DOWN “NINE”』 【人物背景】 ジョジョ東方ロワのエース書き手の一人。 熱血から鬱展、感動、考察まで何でもこなすオールアタッカーだが、さらなる強みは文章による演出力。 文章力自体も高いが、擬音の使い方や視覚効果での魅せ方、意味ありげなカウントダウン表記などなど。 ハッタリが効くとでも言うべきか、ジョジョを小説で表現するというのはこういうことだと言わんばかりの作風である。 【方針】 大きなことをして、頂点に立つ 019:夢物語 投下順に読む 021無限大な夢の後で クスクル・ジョースター 024:連鎖反応 一護の人 024:連鎖反応 ▲上へ戻る
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou/pages/41.html
No.8 魔術師たちの闘争の終焉から半年間が過ぎた。 私が召喚した紅き弓兵、直向きすぎる所がたまにキズな正義の味方の男の子、そして血を別けたたった一人の妹。 様々なものを失ったけれど、それでも本当に大切なものを守ることができた。 ――だが再び聖杯戦争の幕は開く。 倒したはずの強敵たちが立ち塞がり、仮初の街で新たな死闘を繰り広げる。 あの時と同じく、遠坂凛は闘争への一歩を自らの意思で選びとる。 なぜ?どうして? 疑問は尽きない。 だが今度こそ私が終わらせる。あるはずのない戦いを。二度目の聖杯戦争を。 「ここは……私の家、か。」 気がつけばあの言峰教会から自宅へと転移していた。 空間転移の魔術はかなり高等な術なのだが、これも聖杯の力というやつだろうか? だがこれで嫌でも聖杯の存在を信じざるえなくなったわけだ。 そもそもあの教会にいた言峰綺礼は本物なのか…? 何者かが用意した偽物、幻術。本人がなんらかの理由により蘇生した? もしやこれら全てが聖杯の導きにあるものだとしたら……。 「――って、考えても仕方ないわね。まずは情報収集が先決かしら。 士郎も来てくれてれば助かるんだけど……。」 半年前に死亡したはずの言峰綺礼の存在。 再開された聖杯戦争。 ならば遠坂凛がやるべきことはただ一つ。 父の仇、言峰綺礼を討ち、復活した聖杯を破壊する。 だがそのためには戦力がいる。 情報収集と共に協力可能な、信頼に足る人物も探す必要があるかもしれない。 ――そしてサーヴァント。 戦力の中核となる人を超えた“英霊”。 いったい私には『誰』が召喚されたのだろう? 近くに魔力の反応は感じない。だけど遠坂邸内にいるってことは感じ取れる。 自分とサーヴァントを繋ぐ魔力パスの感覚を頼りに行き先を決め、到達したのは私の自室。 もし――この扉の向こうにいるサーヴァントが『あいつ』だったのなら、どんな顔をして迎えてやればいいだろう。 私たちを守るため、黒い影に飲み込まれていった赤い外套のサーヴァント。 皮肉屋なあいつのことだ、私がどう接しても軽口を叩くに決まっている。 ――否応なしに高鳴る鼓動を胸にゆっくりと扉を開けていく。 その向こうに広がっていたのは…… 「あぁ~ん♥はじめましてご主人様ぁ~ん♥ 貴女の忠実なサーヴァント、キャスターよん♥ 以後よろしくねぇ?」 ――レオタード衣装の桃色髪の女が、へべれけ状態で酒盛りをしている光景であった。 ……………………………………… 「あぁん、そんなに怒らないでご主人様ぁん! せっかくの可愛いお顔が台無しよん?」 「あんたがマスターほっぽり出して酒盛りしてるからでしょうがっ!高いものばっかり飲んで…! どれもこれもお父様が遺した秘蔵の葡萄酒だってのに!しかも私の部屋こんな酒臭くしてどうしてくれんのよ!」 とりあえずキャスターの飲み散らかした葡萄酒を片付けさせて一喝。 前回同様マスターとサーヴァントの立場ってやつをはっきりさせておいた方がいい。 でもキャスターか……。全7クラス中最弱と言われるサーヴァント。 このキャスターもその例に漏れず、幸運と魔力以外のステータスは軒並み低ランクとなっている。 「ふふっ…ご主人様、どうせなら一緒に飲みましょぉん? ここで巡り会えたのもなにかの縁。 わたくし、ご主人様のことたくさん知りたいなぁ…って」 えっ、ちょっと待って。こいつまだ酔ってない? キャスターの細い腕が私の背をかき抱き、異様に近い距離感の中耳元で甘く囁く。 葡萄酒の匂いと一緒に、ひどく妖艶なキャスターの優しい声音が脳裏へ何の抵抗もなく入り込む。 力が抜けていくのを感じ、キャスターがワタシの唇をそっと撫でる。同じ女だけど…悔しいくらいにこいつは綺麗だ。 あぁ……だめ、こんなの……いけない。同じ女同士で、出会ったばかりのサーヴァントと、こんな……。 「……っ! ――――Sich Widersetzen(解呪)――――!!」 「あらん、もうちょっとだったのに。ご主人様のいけず……」 危なかった――! 本当に危なかった。もう少しで超えてはいけない一線を悠々と飛び越えてしまいそうだった。 「ああ、あんたっ!私を魅了しようとしたでしょ!? いったいどういうつもり!」 「だってぇん――ご主人様があまりにもウブで可愛らしかったんですものぉ。それにご主人様もノリノリだったからそっちもOKなんだって妾――」 ――閑話休題。 とりあえずこのキャスターには色々質疑応答しなければならない。 そもそも私にはそっちの気はない。……多分、絶対に。 「――で、アンタの真名は? あと宝具についても教えて頂戴。こっちはただでさえ戦力が足りてないの。」 一通りマスターである私のことを教えたあとは、自陣営の中核となるキャスターのことを聞く。 まずは『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』というやつを実践することにした。 「ン~~、それはヒ ミ ツ♥」 「……真名も、宝具の内容も?」 「ご主人さまン、女の子は秘密が多ければ多いほど魅力的になるものよぉん?」 ……ぷちっ。 「あ~ん!ごめんなさいごめんなさいご主人様ン!どうか怒らないで?ねっねっ?」 「うっさい!真名も宝具も教えられないとか作戦の立てようがないでしょうがっ! それとも私が納得いく説明ができるわけ!?」 キャスターというクラスは文字通り魔術師のクラス。白兵戦を苦手とする代わりに豊富な魔力と魔法に近いレベルの超高等魔術を扱うクラスだ。 その最弱とされる理由はセイバー、ランサー、アーチャーがクラス特性スキルとして保有する対魔力スキルにある。 魔力によるダメージを無効、もしくは軽減するこのスキルの恩恵から、三大騎士と呼ばれるこれらのクラスはキャスターの行使する魔術を恐れる必要がない。 弱いキャスターがそれら障害を乗り越え確実な勝利を掴むためには緻密な作戦に加え、要所々々での宝具使用も視野に入れなければならない。 こうなったら令呪を使って無理矢理にでもどこの英霊だか吐かせて……! 「だってぇ……妾の真名を知ったら、きっとご主人様は妾のこと嫌いになってしまうわ……。 せっかくお仕えするために召喚されたのに、そんなの、妾堪えられない……」 ……あぁ、なんだ、そういうことか。 こいつは多分、反英霊なのだろう。 反英霊――崇められ、恐れられ、討伐されることによって平和をもたらす英雄。 勇者に倒されることで名を馳せた彼らは、当然悲劇的な結末を迎えた者が多い。 例えば前回の聖杯戦争に参加していたライダーなどはその典型だ。 「――なら私も、無理して聞き出そうとはしない。あなたが気の向いたときに話してくれればいいから」 「ご主人様ン…。 ウフフっ、お優しいご主人様に会えてよかったわん♥ ならますます妾がんばらなくっちゃ♥」 「……だけどあんたが聖杯にかける願いだけは教えてもらうから。 それ次第で私も色々考えなくちゃいけないし」 私の目的はあくまで聖杯の破壊にある。 それはつまりキャスターの願いは叶えられなくなってしまうということ。 如何に穢れた杯と言えど、万能の願望機には違いない。 ……場合によっては、キャスターを裏切ることになってしまうかもしれない。 「妾の願い? ン~~、特にないかしらん? ここに喚ばれたのだってただの暇つぶしみたいなものだし……。 結構多いのよんそういう英雄ちゃんも。思いっきり暴れたいとか、誰かに仕えてみたいとか、特に願いはないってタイプ。 せっかくのお祭りなんだもの。参加することに意義があるのよぉン♥」 ……暇つぶし、か。納得できないこともない理由だろうか。 そもそも英雄なんて類の輩は大抵二度目の生に興味はないと聞く。 清純な英雄ならば世の安寧だし、反英霊でもライダーは自分と似た桜を幸せにしてやりたいという個人的な願いだった。 「――そう、よかった。なら私の目的とは相反しない。 キャスター、私の目的はただひとつ。聖杯の破壊、これだけよ」 「ワァーオ、なんでも願いの叶う願望機を破壊しちゃうの? もったいなーい。 ううん、でも面白そうね♪ 気に入ったわん、ご主人様♥」 「なんでも願いが叶う……。あ、そっか。これも教えてあげないとダメなんだ。 いい?あんたは知らないだろうから教えるけど、そもそもあの聖杯は―――」 ……………………………………… あぁン、いいマスターに当たってよかったわん本当に♥ 供給される魔力量も十分で実力も一流の魔術師だし、妾も遜色なく力を発揮できるじゃない♥ しかも別の場所で起きた聖杯戦争を経験して生き残ってるだなんて本当に優秀な子。 妾の誘惑の術《テンプテーション》がレジストされたのも納得ねん♥ なら時間をかけてゆっくりじっくり慣れさせましょう。 ガイアと一体化したのはいいけど、やっぱりどうしても暇になるのよねぇ。 せっかく暇つぶしに来たんですもの、オモシロ可笑しく妾がプロデュースしてあげるわぁん♥ 『この世全ての悪(アンリマユ)』なんて楽しそうなのもあるんだし、あぁん妾ウキウキしちゃう♥ ――妾の真名は蘇 妲己。稀代の悪女よぉん♥ 今後ともよろしくねぇん、ご主人様♥ 【参加者No.?:遠坂凛@Fate/stay night】 【サーヴァント:キャスター(蘇 妲己)@藤崎竜版封神演義】 BACK NEXT 007 No.7 投下順 009 No.9 007 No.7 時系列順 009 No.9 BACK 登場キャラ NEXT 聖杯戦争開幕 遠坂凛&キャスター 042 Anything Goes!
https://w.atwiki.jp/seihainarikiri/pages/32.html
「私は聖杯戦争の監視役であり、神父であり、君達を保護する者だ。人としての感情はあるが、今はNPCと考えておいてくれればいい」 路定 想武郎 第三次聖杯戦争の監視役にして、聖堂教会の神父。 ショートの黒髪、胸から下げるは十字架のペンダント。悠然とした立ち振る舞いは自信にあふれていて、見る物を安心させる。謂わば典型的な神父。 その信仰心に偽りはなく、素性があまり見えない所から信用できるかは別として、神父としては利用できるだろう。 前述通り、利用できるNPCと考えてくれとの事。ただ、私情を一切持ち込まないという訳ではなく、そう割り切ってくれと言う意味だろう。裏を返せば面倒な事を持ち込んでも解答できるかは別だ、という意味でもあるが。 話を尋ねれば教えてくれるし、保護を頼めば返事ひとつで承諾してくれるだろう。悩み事も、まあ神父だから聞いてくれるだろうし。 一応、戦闘もできるようだ。やはり黒鍵を使って戦う様子。
https://w.atwiki.jp/grailwar/pages/14.html
GMは、聖杯戦争の監督役(GM)になって、セッションを進める。 監督役(GM)は円滑に進行する為にありとあらゆる場面で裁量する権限を持つ。 以下に例を挙げる(これ以外の状況でも必要だと判断した場合、監督役(GM)は裁量する権限を持つ)。 進行に支障が出ると判断した場合、遭遇フェイズや戦闘フェイズに介入する 円滑に進行する為、遭遇フェイズに時間制限を設ける 監督役(GM)はセッション開始前に以下の準備を行う。 シナリオの作成 エリアの作成 マスター(PL)にマスターの職業を割り振り(主人公と異能者、監督役(PL)は重複を避ける) マスター(PL)にサーヴァントのクラスを重複を避けて割り振り マスター(PL)のキャラシートの添削 マスター(PL)をSkypeのコンタクトに追加 ダイスアプリケーションのダウンロード 拡張ルール 監督役(GM)は、拡張ルールを作成する事が出来る。 以下に例を上げる(これ以外の拡張ルールを作成する事も可能)。 職業とクラスと共に、マスター(PL)の初期状況を解説したハンドアウトを配付する(PL1とPL2は敵対している等) 遭遇フェイズで連絡先を交換したマスター(PL)は、移動フェイズで連絡を取り合う事が出来る 監督役(PL)を含めて8人のマスター(PL)がセッションに参加する ターンの経過と共に、特定のエリアが移動不可になる HPが回復する等、特殊な効果のエリアを配置する 令呪の使用方法を追加する 拡張ルールは、進行に慣れてから作成する事を推奨する。 拡張ルールの是非は監督役(GM)に一任する。
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/556.html
角笛(確かに) ◆ysja5Nyqn6 03/ ある記憶/矛盾聖杯 ――――――――剣戟の音が聞こえる。 青い海の底/眩い月明かりの下、彼らは戦っていた。 疾しる青い躰。応じる赤色の人影。 赤い閃光が幾度も奔り、その度に火花が飛び散る。 二つの人影は縦横無尽に戦場を駆け回り、幾度も武器を重ね合う。 その光景は、まるでピントが合っていないかのようにぼやけていた。 戦っているのが、サーヴァントだということはわかる。その背後に、マスターが控えているのも見える。 だが判るのはそれだけだ。 周囲の詳細を知ろうと目を凝らしても、どこかが致命的にズレていてどうにもはっきりしなかった。 そんな光景の中で、比較的鮮明に見えるものは二つだけあった。 私のサーヴァントである青いランサーと、わたしが成長したような姿の“私”だけだ。 とは言っても、やはりその姿も、輪郭がどこかぼやけていたのだけど。 それに比べて、ランサーと対峙しているサーヴァントは、特に輪郭のブレが激しかった。 長柄にも二刀にも見える武器を持っていて、体つきは痩躯にも巨躯にも見えた。色調が赤色ということだけが一貫している。 一方“私”と対峙しているもう一人のマスターは、なぜか薄く透けて見えた。 目を凝らしても輪郭すらよく見えず、小柄な体つきということだけがどうにかわかった。少なくとも“彼”ではないらしい。 …………そうか。 これは“彼”の記憶だ。わたしはまた、“彼”の断片に触れているのだ。 “彼”は言っていた。月の聖杯戦争で、わたしたちと出会っていたと。 だとすればこの記憶は、“彼”が出会った“私”と、そのサーヴァントだったランサーが戦っている姿なのだろう。 ……けれどこの記憶には、なぜか奇妙な違和感を覚えた。 その違和感の正体が何なのかを確かめようと、目の前の光景をよく見据え、気付く。 ……ああ、そうか。 違和感の正体は、ランサーに対する“私”の立ち位置だ。 “私”はある場面ではランサーを見守るように彼の背後にいたのに、 違う場面ではランサーと対峙するように彼と向かい合っていたのだ。 まるで二つの違う映像を同時に流して、無理矢理ピントを合わせたかのような矛盾。 だからこの記憶は、前の時のようなノイズではなく、ピンボケした状態になっているのだろう。 ……だとすれば、“私”の立ち位置の違いには、一体どんな意味があるのだろう――――。 不意に剣戟が止み、間隙が生じる。 ランサーが槍を構え、力を籠め始める。 他人の記憶越しでも感じ取れる、大気が凍り付くような、魔力の胎動。 その様子だけは共通していたのか、ランサーの姿が、より鮮明になる。 同時にわたしは、同じ存在でありながらも細部が異なる、ランサーの二つの姿を認識し―――― ――――聞きなれない電子音に、記憶の終わりを告げられた。 “私”の立ち位置の違いと、ランサーの二つの姿の意味。 その答えを見つける間もなく、“彼”の記憶が遠ざかっていく。 あっさりと意識が覚醒したのは、眠りが浅かったせいだろう。 だとすれば、もっと深い眠りにつけば、この疑問の答えがわかるのだろうか……。 そんな風に思いながら、私はゆっくりと、戦いの待つ現実に目を覚ました――――。 † ―――あれから更に一時間以上が経ったが、ルーラーたちからの連絡はまだ来ていなかった。 何か事情があるのだろうが、さすがに少し気にかかる。 だがランサーが言ったように、いつまでも待ち続けることは出来ない。 なるべく早めに連絡が来るといいのだが……。 一方の凜は今、魔術回路を励起させた状態で、ベッドで仮眠を取っている。 ランサー曰く、起きているよりは寝ている時の方が、魔力の回復量が上昇するらしい。 とは言っても、気休め程度でしかないらしいのだが、まぁしないよりはましだろう。 ……ちなみに、魔力の貯蓄量という意味では、凜のそれはすでに岸波白野の総量を上回っている。 まだ半分程度しか回復していないらしいのにそうなのだから、彼女の才能には本当に驚かされる。 もっとも、ランサーの分も考慮すれば、完全な回復にはまだまだ時間が掛かりそうではあるのだが。 それはそうと、作戦決行の予定時刻まで、まだしばらく時間がある。 凛たちを置いて外へ出るわけにもいかない以上、出来ることは限られている。 自分は―――― 1.少しでも休憩を取ろう。 2.キャスターへの対策について考えよう。 >3.聖杯戦争について考えよう。 キャスターに対する作戦は、やはり凛たちと一緒に考えるべきだ。 ここは丁度いい機会だから、この聖杯戦争について考えよう。 ―――“月を望む聖杯戦争”。 そう銘打たれたこの戦いは、その名の通り、月――ムーンセルへと至るための生存競争だ。 何かしらの望みを持った人物が“ゴフェルの木片”を手にした時、“方舟(アーク・セル)”はその人物を招き入れ、サーヴァントを与えて殺し合わせる。 そうして最後の一組となった時、彼/彼女等は月へと至り、聖杯を一度だけ使用できるという。 ……月の聖杯(ムーンセル・オートマトン)。 月の内部にある巨大な観測機械。全地球の記録にして設計図。神の遺した自動書記装置。 過去、現在、未来を問わず、無限ともいえる“可能性(if)”のシミュレートを演算し続ける、七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)―――。 神の頭脳とも言うべきそれは、確かにあらゆる願いを叶えられるだろう。 その代償と考えれば、確かに27人ものマスターを犠牲にするのも――感情的な面は別として――理解できる話だろう。 なにしろ月の聖杯戦争の場合は、128人以上の魔術師(ウィザード)たちが参加し、そして死んでいったのだから。 ……だがそれは、この聖杯戦争に、マスター全員が納得した上で参加していた場合の話だ。 ルーラー達にも話したように、“方舟”は願いを持つ人物を、半ば無差別に招き入れている可能性がある。 それはつまり、聖杯に頼らずとも、あるいは、誰かを犠牲にせずとも叶えられたかもしれない願いに対し、他者の犠牲を強いて聖杯に願わせることを強いている、と捉えることが出来る。 もし勝ち残ったマスターの願いがそういったものであった場合、それは果たして、失われたものに対する正当な報酬と言えるのだろうか。 覚悟の伴わない喪失。欠落に見合わない報酬。 それは心に生じた隙間を、より克明に浮き彫りにするだけだ。 ましてや失われたものが掛け替えのないモノだった場合、その欠損は、いかなる報酬を以てしても埋め難い。 あるいは、もし仮にその欠落をなかったことにするとしても、聖杯を使用できるのは一度だけ。 勝者には聖杯戦争を戦い続けた理由(ほうしゅう)は失われ、他者を殺したという罪科だけが残されることになる。 そしてその喪失は、箱舟に招かれなかった人たちにも当て嵌まる。 唐突な家族や友人の消失。交通事故のような、理不尽な死。そして仮に彼/彼女が帰ってきても、その人は罪を背負っている。 たとえ本人の意思でなかったとしても、そんな状態で果たして、元の関係のままでいられるだろうか。 この聖杯戦争はすでに、そういった歪みを生み出してしまっている。 それでどうして、この聖杯戦争が正しいと言えるのか。 それとも、そう言うに足る理由が、この聖杯戦争にはあるのだろうか。 …………それに実のところ、もう一つ気になっていることがある。 この聖杯戦争の報酬である、聖杯(ムーンセル)そのものについてだ。 ムーンセルは、手に入れた者の願い通りに未来を変革させる神の眼だ。 だがしかし、その聖杯としての機能は既にないはずだ。 なぜならムーンセルは、岸波白野の欲望に沿って地上との繋がりを断ち、その在り方を変貌させたからだ。 そう。 岸波白野という、月の聖杯戦争の勝者が存在した事実がある限り、現在のムーンセルは聖杯にはなり得ない。 ……だというに、ムーンセルの使用権をめぐる聖杯戦争が、こうして今、箱舟で行われている。 これは一体どういう事なのか。 ムーンセルが繋がりを断ったのは、あくまで地上とだけだったのか。 ――――それならば、地上から招かれたマスターの願いは叶わない。 それともこの聖杯戦争で至る月は、未だ地上と繋がっている、平行世界(べつ)のムーンセルなのか。 ――――だとすれば、岸波白野(じぶん)がここにいるはずがない。 あるいはムーンセルにとって、月の聖杯戦争と方舟の聖杯戦争、それによって叶えられた願いは、無関係な物として扱われているのか。 ――――もしそうなら、岸波白野の伝えた(インプットした)願いは、完全に無意味なものとなってしまう。 故に、ムーンセルにはもはや、聖杯戦争が起きる理由がない。 岸波白野を基準とした予測では、この戦いは聖杯戦争として破綻してしまう。 ……ではもし、ムーンセルとは関係のないところに理由があるとすれば、どうだろう。 そう。今回の聖杯戦争の舞台、“方舟(アーク・セル)”が原因だとすれば、それは一体どんな…………。 …………。 ……………………。 …………………………………………。 ……ダメだ、情報が足りない。 ムーンセルの事は知っていても、アークセルの事を知らなさ過ぎる。 現在把握している情報では、手掛かりの予想すら付けられない。 となると、アークセルについて調べる必要があるわけだが…… それに詳しそうな人物といえば、やはりルーラーたちが思い浮かぶ。 図書館などの施設で調べられないこともないだろうが、彼女たちに直接聞いた方が確実だろう。 彼女たちから連絡が来た時にでも、ついでに訊いてみるとしよう。 そんな風に考えていると、携帯端末から、聞きなれた電子音が響いてきた。 「ん、んん……。今の、何の音?」 その音に反応してか、仮眠を取っていた凛が目を覚ました。 そんな、どこか寝ぼけ眼の彼女に、端末の着信音だと答えると、凛はすぐに意識を覚醒させた。 そしてもう気を引き締めている凛に感心しながらも、端末を取出して通知内容を確認する。 ::遠坂凛の要請に対し返答します。 応答が可能であれば、返信してください。 [REPLY] 端末の画面には、そう文面が表示されていた。 ルーラーたちの答えがようやく決まった、という事だろう。 「やっと返事が来たか。ったく、何をチンタラやってたのかね。 ……だがまあ、これでようやく始まるってわけだ」 回復のために霊体化していたランサーが実体化し、気負った様子もなくそう呟く。 かと言って気が緩んでいる訳ではないらしく、その眼には獰猛な野生が垣間見えた。 彼の心はすでに、キャスターとの戦いの中にあるのだろう。 「なら、はやく返信しちゃいましょう。 あっちの行動に合わせて、私たちも準備する必要があるかもしれないし」 それは凜も同じなのか、待ってましたと言わんばかりに声を上げる。 だがランサーと違い、すこし緊張しているようにも見える。 どこか強気な口調は、それを誤魔化すためのものなのだろう。 返信を後回しにする理由はない。 凜の言葉にうなずき、画面内の返信(REPLY)ボタンを押す。 ……その直前。不意に、端末のものとは異なる電子(コール)音が響いてきた。 「む。一体誰よ、こんな時に」 その音を聞いた凛が、少し苛立たしげに顔を顰める。 どうやら、この家の電話機だったらしい。 「……はあ、しかたない。どっちも後回しにはできないし。 ルーラーたちの返答は白野が聞いておいて。わたしは電話の方に対応するから」 凜はそう言うと、部屋の外へと出て行った。 それを見届けてから、改めて画面内の返信ボタンを押す。 すると数回電子音が鳴り、聞き覚えのある少女の声が返ってき来た。カレンだ。 『私です。遠坂凛の要請に対してですが、私が同行するという形で受けることになりました。つきましては、待ち合わせの時刻を教えてください』 端末から響く事務的なカレンの声に、16時から行動を開始し、17時にキャスターの拠点を攻める予定だ、と返答する。 『了解しました。ではその時刻にキャスターの拠点で合流する、という事でよろしいですね』 ああ、と端末越しに頷く。 だがカレンは拠点の場所は知っているのだろうか。 『問題ありません。こちらも大凡の位置は把握していますし、貴方のサーヴァントは目立ちますから』 確かに。 元より相当な美人であり、さらに竜の魔人と化しているエリザベートはたいへん目立つ。 何か急いでいるとか、何かに気を取られているといった事でもない限り、そうそう見落とすことはないだろう。 『ではそのように。緊急の予定が入れば、また連絡します』 カレンは最後にそう告げると、あっさりと通信を切ってしまった。 ……しまった。 アークセルについて、彼女に話を聞いてみたかったのだが……。 仕方がない。アークセルの事は、機会があればその時に訊いてみよう。 それから少しして、凛が部屋へと戻ってきた。 「それで、ルーラーたちは何て?」 そう問いかけてくる凛に、16時から17時に、キャスターの拠点でカレンと合流することになったと伝える。 それに合わせて、こちらの作戦も調整する必要があるだろう。 「リンの方こそ、電話の相手は誰だったの?」 「初等部で授業を手伝ってくれている、高等部のバイトの人。私が欠席したのを心配してくれてたみたい。 いちおう風邪を引いたってことにして誤魔化しておいたから、大丈夫だと思うわ。……たぶん」 凜はそう、若干目線を逸らしながら口にした。 ……………………。 彼女の言葉尻に、そこはかとなく不安を覚えるが……なるほど。日常を再現していた以上、そう言った繋がりも生じてくるのか。 そう言えば、自分もまだ学校に連絡を入れていなかった。一成たちにも心配を懸けているかもしれない。 ……だが、今はキャスターとの戦いを優先しよう。 なにしろ、戦いはすでに始まっている。 敵の能力は完全に未知数。作戦内容や、使用する礼装の確認など、するべきことは沢山ある。 「それじゃあ白野。見せてもらうわ、聖杯戦争の優勝者の実力を」 凜がそう言って、岸波白野へと笑みを浮かべる。 その瞳には、自分の知る“遠坂凛”のような、確かな戦意が宿っている。 キャスターを倒せなければ彼女に明日はない。この戦いにかける意気込みは並ならぬものがあるのだろう。 そんな少女へと頷きを返し、準備を整えるために立ち上がる。 キャスターとの対決に向けて気合を入れているのは彼女だけではない。 自分もまた、この望みを果たすまで負けるわけにはいかないのだから。 【B-4 /遠坂邸/1日目 午後】 【岸波白野@Fate/EXTRA CCC】 [状態]:健康、強い決意 [令呪]:残り三画 [装備]:なし [道具]:携帯端末機 [所持金] 普通の学生程度 [思考・状況] 基本行動方針:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。 0. 休息中の遠坂凜とランサー(クー・フーリン)を護りつつ、決戦の準備を整える。 1. 遠坂凛とランサーを助けるために、足立透とそのキャスターを倒す手助けをする。16時より決行予定。 2. 機会があれば、ルーラーたちにアークセルの事を訊いてみる。 3. 狙撃とライダー(鏡子)を警戒。 4. 聖杯戦争を見極める。 5. 自分は、あのアーチャーを知っている───? [備考] ※遠坂凛と同盟を結びました。 ※エリザベートとある程度まで、遠坂凛と最後までいたしました。その事に罪悪感に似た感情を懐いています。 ※遠坂凛とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、遠坂凛の記憶の一部と同調しました。 ※クー・フーリン、ジャンヌ・ダルクのパラメーターを確認済み。クー・フーリンの宝具、スキルを確認済み。 ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」、およびランサーから聞いたアーチャーの特徴に、どこか既視感を感じています。 しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】 [状態]:健康 [装備]:監獄城チェイテ [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。 0. 休息中の遠坂凜とランサー(クー・フーリン)を護る。 1. 岸波白野のついでに、遠坂凛も守る。 2. 撤退に屈辱感。 [備考] ※岸波白野、遠坂凛と、ある程度までいたしました。そのため、遠坂凛と仮契約が結ばれました。 ※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。 ※カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。彼女の手料理に何か変化がある……かもしれません。 【遠坂凛@Fate/Zero】 [状態]:健康、魔力消費(中)、強い決意 [令呪]:残り二画 [装備]:アゾット剣 [道具]:なし [所持金]:地主の娘のお小遣いとして、一千万単位(詳しい額は不明) [思考・状況] 基本行動方針:遠坂家の魔術師として聖杯を得る。 0. 休息しつつ、準備を整える。 1. 岸波白野から、聖杯戦争の経験を学ぶ。 2. ルーラー達からの連絡を待つ。 3. 勝利するために何でもする。 4. カレンの言葉が気にかかる。 [備考] ※岸波白野と同盟を結びました。 ※エリザベートとある程度まで、岸波白野と最後までいたしました。そのため、エリザベートと仮契約が結ばれました。 ※岸波白野とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、岸波白野の記憶が流入しています。 どの記憶が、どこまで流入しているかは、後の書き手にお任せします。 ※鏡子、ニンジャスレイヤー、エリザベート、ジャンヌ・ダルクのパラメーターを確認済み。エリザベートの宝具、スキルを確認済み。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 【ランサー(クー・フーリン)@Fate/stay night】 [状態]:健康、魔力消費(中) [令呪] 1. 『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害。出来なければ自害せよ』 [装備]:ゲイ・ボルク [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:遠坂凜のサーヴァントとして聖杯戦争と全うする。 0. 休息し、30分毎にキャスターの位置を探る。 1. 凜に勝利を捧げる。 2. 足立、もしくはキャスター(大魔王バーン)を殺害する。16時より決行予定。 3. あのライダー(鏡子)にはもう会いたくない。最大限警戒する。 4. アサシン(ニンジャスレイヤー)にリベンジする。 [備考] ※鏡子とのセックスの記憶が強く刻み込まれました。 ※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。 ※自害命令は令呪一画を消費することで解除できます。 [共通備考] ※遠坂邸の凜の自室に、盗聴・透視などを防ぐ陣が張ってあります。陣を破壊した場合、術者のクー・フーリンに察知されます。陣を破らずに盗聴・透視を行うのは極めて困難です。 ※16時まで、30分置きにクー・フーリンが探索のルーンで大魔王バーンの居場所を探知する予定です。 ※下記がキャスター撃破作戦の概要です。16時から作戦を行動する予定です。 一.B-4の高層マンションに赴く。 二.エリザの『竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)』で周辺NPCを避難誘導する。 (1時間必要と予測) 三.エリザの『竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)』で、キャスターの陣地を攻撃する。 四-A.キャスターが陣地から出てきた場合、エリザが交戦。 五-A.クー・フーリンが不意を突いて攻撃する。 四-B.キャスターが陣地から出てこない場合、エリザとクー・フーリンが侵入する。 五-B.陣地内にいるキャスターをエリザとクー・フーリンが撃破する。 04/ 心理考察 「…………ルーラーはもう出発しましたか。本当、まじめによく働くこと」 教会の奥、細い階段を上った先にある一室で、カレンはそう呟いた。 「それにしても、先ほどは面白い話が聞けました。 まさか、聖杯が間違っているかどうかを問われるとは。 ルーラー(かのじょ)からすれば、実に耳に痛い話だったでしょうね」 そう口にしながら小さく笑うカレンの脳裏には、東風谷早苗との会話が思い起こされていた。 ……いや、より正確に言うのであれば、彼女の問い掛けを聞いていたであろう、ルーラーの様子を、だ。 この教会には、構造的な欠陥故か、礼拝堂での会話が筒抜けになる一室がある。 単なる偶然か、それとも来訪者に対応できるようにか。東風谷早苗が教会に訪れた時、ルーラーはその一室にいたのだ。 そしてそこで何をしていたかというと、聖水を用いた、冬木市全域に及ぶサーヴァントの探索だ。 そもそも、遠坂凛への返答がここまで遅れた理由がそれだった。 【B-4】に違反者がいるという通達を聞けば、マスターとサーヴァントは少なからず行動を起こす。 その行動の如何によって、遠坂凛の要請に対する返答を決めようとしていたのだ。 東風谷早苗が訪れたのは、その最中の事だった。 「あの話を聞いて何を思ったのか。 それを訊くことは出来ませんでしたが、だからこそ、実に興味深いです」 裁定者として振る舞っている時のルーラーは、そう容易くは揺るがない。 何しろ生前からして、根拠などないに等しい啓示に従い、苛烈に戦ってきたのだ。一度決めた事は簡単には覆さないだろう。 ……だが、それでもその根底には、ごく当たり前の少女としての貌がある。 当然の話だ。そもそも神の啓示を信じると決めたのは、その少女自身なのだから。 故に、その少女としての部分が揺るがされると、裁定者としての振る舞いが乱れるのだ。 「そして、この聖杯戦争には、ルーラーを揺るがし得る要素が幾つもある」 ゴルフェの木片による無差別な召喚。 戦争に参加するには明らかに幼い子供のマスター。 あまりにも多すぎる反英雄の素養を持つサーヴァントたち。 東風谷早苗が、聖杯は間違っているのでは、と疑問に思うのも当然だろう。 東風谷早苗の話を聞いてルーラーが何を思ったのか、カレンは知らない。 なぜならカレンがルーラーの元へと戻った時にはすでに、彼女は裁定者の貌をしていたからだ。 しかしだからこそ、“何かを思った”のだとカレンは確信していた。 そしてその“何か”を知るには、裁定者の仮面を剥がす必要があるのだが……。 「その辺りは、今のところ岸波白野が期待できるでしょうか」 他にもルーラーを揺るがし得る人物はいるかもしれないが、今のところは彼が有力と言える。 ……そう。 岸波白野はその善性が故に、ルーラーの心を暴き立てるだろう。 その結果がどうなるかは、カレンには興味がない。 あるのは仮面の下に隠されているだろう、ルーラーの“傷”に対してだけだ。 裁定者の仮面で隠していた“傷”が露わになった時、ルーラーは一体どのような顔をするのかを、カレンは観てみたかった。 もっとも、だからと言って裁定者の役割を放棄するつもりも、カレンにはないのだが。 「確か……ベルク・カッツェ、と言いましたか。厄介なサーヴァントが向かっているようですね」 “形なき悪意の体現者”とも呼ばれるその存在は、ルーラーによると人の悪性がその正体らしい。 加えて人々を先導する能力を持つらしく、下手に善良なマスターからすれば厄介極まりない存在だろう。 何しろ場合によっては、NPCが自らの意思でマスター達の敵になってしまう可能性があるのだから。 そしてそうなれば、おそらく聖杯戦争どころではなくなってしまうだろう。 当初の予定では、【B-4】にサーヴァントが集まれば要請は断り、逆に集まらなければルーラーが応じる手筈だった。 その程度には、大魔王バーンは放置するには少々危険な存在であるとルーラーは認識していた。 ……だがそこに、ベルク・カッツェがやってくるとなると話は別だ。 バーン一人でさえ手に余りかけているというのに、場を滅茶苦茶に引っ掻き回されては裁定どころではなくなる。 「だからこそ、遠坂凛の要請には私が対応することになったのですが……」 サーヴァントを律することが出来るのはそのマスターがルーラーだけ。 であれば、ベルク・カッツェに対処するためにルーラーが動くのはおかしなことではない。 だがそれだけなら、カレンが動く必要はない。 カレンが要請に応じることになった理由は、不確定要素は可能な限り減らしておくためだった。 その不確定要素とは即ち、“大魔王バーンとベルク・カッツェが手を組む”という可能性だ。 どちらも共に、完全な反英雄――人類の敵対者だ。聖杯戦争のルールなど守らないだろう。 現にバーンはすでに違反を犯しているし、そして新都でもベルク・カッツェが原因だと思われる暴動が起きている。 そんな二人が手を組めば、聖杯戦争は破綻しかねない。 であれば、どちらか一方だけにでも、より確実な軛を穿つ。そうすれば、たとえ二人が手を組んだとしても、多少は被害を抑えられるだろう。 そういった判断から、遠坂凛にはカレンが同行することになったのだ。 大魔王バーンの、不正の証拠を見つけ出すために。 ……しかしカレンは、そこにもう一つ、ある要素を含んで考える。 それは即ち――― 「……岸波白野との接触を、可能な限り避けるため……でしょうか」 本気でバーンを罰しようと思うのであれば、やはりルーラーが要請に応じればいい。 確かにその間ベルク・カッツェを放置することにはなるが、証拠さえ見つかれば、バーンに確実にペナルティを与えられるのだから。 だがルーラーは、相当悩んだ様子ではあったが、結局自分に任せることを選択した。 現状で考えられるその理由は、一つ。 岸波白野の問い掛けだ。 あの問いに対する答えがまだ出ていないのだとすれば、確かに彼とは顔を合わせ辛いだろう。 だが。 「……あるいはもし、その答えが裁定者としての彼女を揺るがすものだとすれば……」 それはむしろ、答える訳にはいかない問いだ。 一度その気持ちを自覚してしまえば、自身の心と裁定者としての在り方の矛盾に、ルーラーは苛まれることになる。 なにしろ裁定者として行動すればするほど、彼女は自身の心に嘘を吐くことになるのだ。 そしてそうなれば、いずれは裁定者としてのルーラーの在り方も破綻するだろう。 なぜなら、物事を裁定する基準となる心が歪んでしまうのだから。 ………しかし。 「まあもっとも、実際どうなのかはわかりませんけどね」 いくら考えたところで、結局は他者の心。想像の域を出ることはない。 ルーラーの本心を確かめたければ、やはりその仮面を剥がすしかないのだ。 だがそれは、自分がやることではなく、ルーラーをどうにかしたいと考える者がやるべきことだ。 故に。 「……さて。私もそろそろ、準備を始めましょう」 カレンは衣装ケースから、戦闘用の服装を取り出す。 聖女の仮面が剥がれる時を、少女は静かに待ち続ける――――。 【D-5/教会/1日目 午後】 【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】 [状態]:健康 [令呪]:不明 [装備]:マグダラの聖骸布 [道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、??? [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味。 1. 遠坂凛たちと行動するための準備を整える。 2. ルーラーの裁定者としての仮面を剥がしてみたい。 [備考] ※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。 そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。他に理由があるのかは不明。 BACK NEXT 113-a 角笛(届かず) 投下順 114 days/bugs disillusion 113-a 角笛(届かず) 時系列順 097 近似値 BACK 登場キャラ:追跡表 NEXT 087 卓袱台会議 岸波白野&ランサー(エリザベート・バートリー) 116 導火線に火が灯る 遠坂凜&ランサー(クー・フーリン) 113-a 角笛(届かず) カレン・オルテンシア ▲上へ
https://w.atwiki.jp/chaos_seihai/pages/2.html
メニュー トップページ 登場人物 ストーリー 用語・設定 カオス聖杯戦争用掲示板 リンク @wiki @wikiご利用ガイド ここを編集
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/413.html
【英数字】【あ行】【か行】【さ行】【た行】【な行】【は行】【ま行】【や行】【ら行】【わ・を・ん】 【サーヴァント】 今更説明するまでもないが、聖杯戦争においてマスターが使役する唯一にして最強の従者。 ここでは主にベースとなったFate/Extraの設定に準拠で解説。 実在・架空を問わず、ムーンセルが人類史に存在する英雄を一時的に誇張・再現して召還した存在。 人類史を記録したムーンセルのデータベースから再現された英霊である。 その英雄またはマスターの特性に応じて、7つのクラス「セイバー」「ランサー」「アーチャー」「ライダー」「アサシン」「バーサーカー」「キャスター」のいずれかに据えられる。 基本的には召喚者であるマスターと何らかの縁がある英霊もしくは相性の良い英霊が選ばれるとされている。 二次二次においては(例外はあるが)予選を突破することで初めてサーヴァントを召還する事が出来る。 版権クロスオーバーということもあって、あらゆる漫画、アニメ、ゲーム等からキャラが召還されており非常にバラエティ豊か。 パロロワ常連から滅多に見かけないレアキャラまで人選は様々である。 尚ムーンセルの聖杯戦争がベースではあるもののエクストラスキルの存在も確認されており、 作中ではオルステッドが二重召還スキルによってアヴェンジャーとしてのスキルや宝具を備えている。 【裁定者】 聖杯戦争を管理する監督役。ルーラー(ジャンヌ・ダルク)、カレン・オルテンシアが該当する。 主な業務はNPCの保護、残り人数の通達、ルールを破ったチームに対する警告・処罰。 ただし処罰に関しては「啓示スキルを頼りにルーラー自ら現場に赴き状況を判断する」という傾向が強く、 違反の証拠を掴めず対応が出来ないという状況も確認されており参加者の動向を完璧には把握していない。 接触さえ出来れば聖杯戦争に関する質問も行える模様。 ルーラーは全てのサーヴァントに対する令呪を二つずつ所持しており、令呪による処罰を行うこともある。 カレンも令呪を所持しているが、ルーラーと同等の効果であるかは不明。 パロロワ風に言えば「進行役」なのだが、参加者に対して積極的な介入を行うという点で大きく異なる。 参加者達にもその存在は当然認知されており、裁定者による処罰を恐れて慎重に行動する者、 裁定者に関する考察を行う者、裁定者打倒を視野に入れる者など様々な動きを見せている。 裁定者の詳細な権限は聖杯側によって秘匿されている。尚、カレンはルーラーのマスターではない。 【参戦サーヴァントの傾向】 全体的に何故か邪悪。 反英雄要素を抱えるなど、やたら悪役じみたサーヴァントが多い。 主な例を挙げると 魔界の神の異名を持ち、地上界の消滅を目論む大魔王バーン ナチス残党でありロンドンを焦土に変えた戦争狂少佐 15年以上に渡り48人の女性を殺害してきた連続殺人鬼吉良吉影 扇動によって自らの手を汚さず幾つもの惑星を滅ぼしてきたベルク・カッツェ 箍の外れた愛の力で世界の理を変貌させてしまった暁美ほむら 無論まともな英雄も存在するが。 【サンドイッチ】 パンに肉や野菜等の具を挟んだり、乗せたりした料理のこと。 食べる際に食器や食卓などを必要とせず、手づかみで食べられる。 簡単に調理でき、携帯も容易。 工夫次第で栄養バランスも取れる。 などと言った理由から世界中でよく食され、この『方舟』でも重宝されている。 具体的にどのくらい重宝されているかというと 029[初陣]佐倉杏子 033[新しい朝が来た、戦争の朝だ]武智乙哉 034[既視の剣]岸波白野、エリザベート・バートリー 046[何万光年先のDream land]ホシノ・ルリ、ジャンヌ・ダルク 053[落とし穴の底はこんな世界]寒河江春紀 061[戦場に立つ英雄/台所という名の戦場]衛宮切嗣 076[衛宮とエミヤ]衛宮切嗣 078[aeriality]岸波白野、クー・フーリン 081[そして、もう誰にも頼らないのか?]吉良吉影 082[最初の使者]少佐(ホットドッグ) 58人中11人。実に、参加者の約2割がサンドイッチを食べている。 なお、サーヴァントは食事を必要としないことを改めて追記しておく。 【セイバー】 『剣士』のクラス。参戦数は三体。 高いステータスと対魔力が保証されることから最優のクラスと呼ばれる。聖杯戦争の花形サーヴァント。 その能力値からどんな状況にも対応できる万能さがウリとされている。 初代セイバーであり今や型月一のドル箱アイドルのアルトリアの原作での(諸々の制約による)苦戦続きから一時最優の称号が疑問視されていたが、他セイバーの数が増えるにつれその評価も改められ、相対的にアルトリアさんの名誉も守られるに至っている。 今回選ばれた三体のセイバーもいずれも劣らぬ強力な英霊で、現実での知名度も相応のものとなっている。 眩しいくらいの正統派勇者、その暗黒面ともいえる元勇者の魔王、そしておっぱいもとい最大出力なら随一のおっぱい聖人。 強いだけでは務まらないのが聖杯戦争とはいえ、単騎でも形勢をひっくり返せるような信頼感は流石の一言だろう。 【聖杯狙い】 参加者のスタンスの一つ。聖杯を手に入れるべく行動する方針のこと。対義語は対聖杯。 戦争に勝ち残ることが聖杯入手の条件なので、聖杯狙い=マーダーと考えて差し支え無い。 通常のパロロワと違う点は聖杯で願いを叶えるべく戦う決意をした者が多いということ。 願いを抱えていた為に方舟へ転送された者、自ら情報を集めてゴフェルの木片を入手した者などその経緯は様々。 何にせよ、聖杯狙いのスタンスを掲げる参加者は対聖杯に比べて圧倒的に多い。 積極的に攻撃を行うチーム、情報収集や様子見に徹するチーム、策謀を張り巡らすチームなど様々な動きを見せている。
https://w.atwiki.jp/psyren_wars/pages/126.html
裏切りの夕焼け◆wd6lXpjSKY 「それで、まどかちゃんも天戯弥勒の声を聞いたんだね」 「はい。頭の中に響くような感じで……」 事件が発生した間桐邸の調査に乗り込もうとしていたタダノは鹿目まどかと共に喫茶店に居た。 本来ならば職務を全うするために働いてなければならないが事態は動いている。 そもそも事件を起こしたのは鹿目まどか及びそのサーヴァントであるため報告書は適当に仕上げなければならない。 聖杯戦争だけの仮初めの職だ、そこまで力を入れなくてもどうにかなるだろう。 変化を迎えた状況は二つ。 一つに天戯弥勒からの通達。 告げられた参加者は十四組の主従、早々に脱落したアサシン。 マスターは生存中らしいが十中八九テレホンカードを使い帰還するだろう。 本当に帰還出来るか怪しい部分もあるが、天戯弥勒の言葉どおりだと帰還しなければ死んでしまう。 身体が灰になる。信じるも信じないも参加者次第ではあるが、用心は必要だろう。 もう一つが署からの連絡であるアッシュフォード学園で起きた事件。 校内の破損及び屋上で爆発事故が発生したとの連絡がタダノの元へ入っている。 間桐邸の調査よりも優先の命令を下され、彼は学園に向かうことになった。 此処でタダノは考えた。 間桐邸の事故はサーヴァントの仕業であった。 ならば学園の事件もサーヴァントの仕業である可能性がある、それも高い部類と推測。 道中で別れた鹿目まどかを呼び喫茶店にてこの情報を伝えた。 「天戯弥勒の言葉は真実に近いだろう。嘘をつくメリットもデメリットもないけど。 僕はこのまま学園に向かうつもりだけどまどかちゃんはどうする? 一緒に来るかい?」 「……行けば、戦うことになるんでしょうか」 「それは解らない、けど確率は高いだろうね」 「私は出来るなら争いたくないです。聖杯戦争に参加しているのに……ごめんなさい」 聖杯戦争に参加している者は何らかの願いを持っている――筈だ。 巻き込まれだろうが自主参加だろうが彼らは何かしら叶えたい想いを秘めている。 鹿目まどかにとっての願い。彼女は森の中を彷徨うに悩んでいた。 願いと他者の脱落を天秤に委ねた時、どちらが優先されるのか。 一般的な思考を持っているなら答えは明白である。人殺しの罪など背負いたくない。 「それでも……じっとしてるだけじゃ何も始まらないと思うんです」 「――!」 鹿目まどかの周囲は常識から逸脱している。 魔法少女、幼き子供なら誰だって憧れる夢の存在に囲まれていた。 人々を守るために魔女と戦う。お伽話のような甘い、とても甘い響きである魔法少女。 魔法少女――願いを叶えてもらった少女が奉仕として行う魔女退治。 人々に害を与える悪い魔女を倒す。 日曜の朝にでも放送されていそうな甘美な響きである。 魔法少女――願いと引き換えに不幸を振り撒くメビウスの輪に組み込まれた哀れな末路。 魔女を倒す理由は魔女が人々に――。 最悪だ。 宿題を完全に終わらせたが読書感想文が終わっていない。 最後の最後に忘れたくてそのまま放置していた状況が襲い掛かってくる。 (キャスター……美樹さやかに選択を迫っていたのに邪魔されるなんて) そんな気分に暁美ほむらは陥っていた。 時は遡り美樹さやかとの交渉が終了し彼女が遊園地を後にした時。 戦力の補強、手駒の確保、捨て牌の布施……様々多種多様の糸を張り巡らせる予定だったが失敗に終わる。 総ては鹿目まどかを守るため、一つの手段として美樹さやかに同盟を持ち込むも選択を渋られた。 元々彼女は良くも悪くも等身大の少女だった。だから鹿目まどかのために簡単に交渉が終わると考えていた。 だが美樹さやかは暁美ほむらの想定よりも頭が回っているらしく、返事を渋られる。 今までの態度、行い。総てが蓄積された美樹さやかの中に存在する暁美ほむらのビジョンは色で例えれば若干の白が混じった黒。 黒は敵ではないが感じは悪く、頼み事も極力行いたくないし肩を並べられるとも思えない。そんな印象。 白はそれでも信じたい、同じ人間であり魔法少女としての、人としての感情だろうか。 美樹さやかは暁美ほむらの魔法を知っており、サーヴァントであるバーサーカーは狂化に飲み込まれていない。 寧ろ感情が高ぶった美樹さやかを抑え込める程の存在であり狂戦士とは思えない。 結果として交渉は引き伸ばされ彼女を利用した計画は光を浴びること無く再び水底に沈む。 「ねぇ、マスター。これ見てご覧」 「……なにかしら」 「左上が監視の映像でその右隣が普通のニュースさ」 計画の失敗となった要因であるキャスターにそう言われると暁美ほむらはモニターに視線を移す。 キャスターの顔が見たくないため極力頭を動かさず、視線のみの移動で。 映されているのはどちらも学園――暁美ほむらが通う予定であるアッシュフォード学園だった。 ニュース映像では一人の記者が学園の前にて実況を行っている最中である。 テロップではテロか何かの関連性、日本らしくない文字が映し出されていた。 聖杯戦争の会場は視界に捉えている範囲では日本を元に造られていると考察していたが何でもありのようだ。 『こちらにあるアッシュフォード学園では学園内の窓が一部破損しており、屋上では爆発があったと通報されています。 体育館裏では地面が大きく陥没しておりクレーターのような跡が出来ているとの情報もあります。 誰も目撃者はおらす、依然として状況は謎ですが、爆発物の関係から国外の犯行による可能性も――』 アナウンサーの発言から幾つかの情報を読み取る。 屋上で爆発――自分のように爆発物を多数所有している学生が何人も居るとは思えない。 ならばテロリスト、妄想なら確定だが此処は聖杯戦争だ。常識は通用しない。 自分のような魔法少女がマスターとして参加している。美樹さやかも同様であり鹿目まどかもきっと。 一般から逸脱している参加者は多いだろう、大半を占めていると仮定して爆発の一つや二つなら想定の範囲だ。 クレーター――痕跡も残さないとなると魔法に近い能力が必要となるだろう。 大規模な機械を使わない、一瞬で発動出来る魔法は犯罪の大きな力となる。 実際暁美ほむらの知り合いにも犯罪に手を染めている魔法少女が居る。最も人的被害は出していないが。 国外の反応――この言葉からNPCは本当に日常の一部として組み込まれていると確信する。 聖杯戦争のために用意された、言ってしまえばメタ的な存在であり聖杯戦争を認識していると仮定していた。 ならばこの事件を聖杯戦争として報道するはずだが、日常に起こった非現実的な現象として報道している。 NPCはオブジェ、日常感を出すためだけの存在に過ぎず、魂の無い容れ物と考えるのが妥当だろう。 次に監視映像を見る。 映しだされているのは学園の屋上。 男女二組の交戦と撤退を捉えており男の一人は見覚えがある。 「この男は……そう」 「知り合い? マスター、さやかちゃんもそうだけど知り合い多くない? 辛くない? 大丈夫?」 「次言ったら私は貴方に令呪を使うわ」 「それ前にも聞いた気がするよーん。違ったらゴメンね」 始まりの場において天戯弥勒へ叫んでいた男の姿が確認出来る。 サーヴァントは女、振り回している獲物からセイバーと仮定。 情報を集める事に関しては主催者の知り合いに接触出来れば効率が大きく増すだろう。 聖杯戦争は知っている、だが主催である天戯弥勒の情報は限りなく無に近い。 この男と接触出来れば――学園に赴くべきであろうか。 (今学園に向かえば確実に面倒事に巻き込まれる、それに到着は遅くなりそうね。 なら、今日はこのまま動かない方が安全ね。明日には美樹さやかからの返答もある。 まだ焦るべきでは……まどかが無事ならそれに越したことはない。夜も今日は大人しく待機するべき、ね) 学園に向かえば確実に情報の手掛かりが掴める、そして危険も大きく伴う。 犯行者は犯罪現場に戻る。この世界における警察の警備が張られており侵入等は難しいだろう。 魔法を使えば用意に済むが消費する魔力を考えれば無駄遣いは避けたい所。 美樹さやかのような感情で動ける人物が既に動いているだろう。鉢合わせは御免である。 故に今回は静観の方針であり、黒髪の男との接触は日を改めるとしよう。 「それでねぇマスター」 不快な笑みを浮かべてキャスターは私に話しかける。嫌な予感しかしない。 ◆ ◆ ◆ 「セイバー、魔力を感じるか?」 「全然解かんねえ、足で探すのが一番だろ」 亡くしてしまったサーヴァントの仇を取るために。 男の意地を貫き通すために人吉はキャスターの居場所を探している。 人の心を操る凶悪な宝具を持った女狐に対向するために人吉はセイバーと共に行動。 夜科アゲハから預かり受け、仮に自分がもう一度操られたとしても対魔力を持っているセイバーなら問題はない。 アサシンを失った時のように黙って負けるわけにはいかないのだ。 サーヴァントを失ったマスターは紅いテレホンカードを使用すれば帰還出来る、と言う話である。 真偽は不明だが戦争から離脱出来ると考えれば実に有難い。 期限は六時間、それまでにキャスターを発見し討伐する。 それが人吉善吉の最後の使命であった。 「アサシンとキャスターは知り合いだったんだろ? そりゃあ手の内解ってる奴をほっとくワケねぇよな」 「あぁ。真命がバレたらサーヴァントってやばいんだろ?」 「対策とか取られたりすっからなぁ」 (じゃあお前とアゲハは何で隠さず名前で呼び合ってんだよ……) 夜科アゲハとセイバー改め纒流子の方針に疑問を抱くも今は置いておこう。 キャスターの居場所は掴めず、地道に校内を散策するしか手段はない。 セイバーと人吉は契約を結んでおらず、キャスターの目を欺くための格好に過ぎない。 そのため念話は行えず、セイバーは実体化して行動を共にしている。早く動けるために。 校内を彷徨いている生徒は殆ど見かけない。 先の学園戦で一部校舎が破損されたため授業は全て停止、強制下校の時間になっている。 マスコミはテロだのなんだの報道しているが、何一つ証拠が掴めていない。 監視カメラにも何一つ映っていないとなると神隠しの一種として考える輩も居るだろう。 「対策か、だったらキャスターは頭が回る奴だぜ。 生徒が一人死んで屋上で爆発が起きてんだ。でもそこまでパニックになっちゃいねえ」 「痕跡全部揉み消したってか、人ン心操るってのは卑怯地味てんなぁオイ」 警察も全く校舎内に介入していないことを考えるとキャスターが根回しをした可能性が高い。 強制下校も校内アナウンスを終えた後に数分のホームルームだけだ。まるで機械のように。 プログラムを組み込まれた操り人形が仕組んだのだろう。 目的は不明だが学園は確実にキャスターの根城になりつつある。 この辺りで一度食い止めないと明日から学園に通うのは不可能に近くなるだろう。 わざわざ敵の本拠地に突っ込む馬鹿は多くない方が好ましい。 「生徒の気配が全然しねー。もしかしてキャスターは外にいんのか?」 「知らねえ、探すしか無いだろ」 探知能力を持ち合わせていれば探索は優位に進むだろうが現実は甘くない。 魔力の反応も乏しく、足でキャスターを探しているのが現状。 時間だけが過ぎ去って行くものの打開策は特に存在するはずもなく黙って動き回るのみ。 現に人吉善吉の生存時間は浪費され確実に死の時が迫っていた。 近くの扉を荒く開け教室の中を調べ回るために入室する。 セイバーは掃除用具入れを開け中にキャスターが隠れていないか覗くも居る筈がなかった。 解ってはいたが収穫が何もない状況に嫌気が差していたのだ。 「……」 人吉は教壇に上がり机に肘を付けながら教室を眺める。 アッシュフォード学園は人吉が通っている学園ではなく、名前も聞いたことがない。 生徒会の役職を与えられていても彼にとってこの学園は馴染み深いものではない。 会長も彼が知っている黒神めだかではなく鬼龍院皐月だ。 どちらも凛々しい女性ではあるが性格、態度、仕草、声色と全てが違う。異なる人物のため当然である。 もう一人の生徒会長であるミレイという人物は長期間学園を開けているため会うことはないが、勿論彼女も知らない。 会計の役職を与えられていた紅月カレンも知らず、聖杯戦争の参加者であることも先ほどまで知らなかった。 NPCと呼ばれる住人に知り合いはいない。仮初めの存在でも見知った顔がいない。 自分だけが異空間に放り込まれた孤独感と知り合いに見られないで済む安心感が鬩ぎ合う。 願いを叶えるための殺し合い、人吉は参加者を殺すつもりはないが勝つつもりでいる。 戦いの末に勝敗を決め、殺すならばサーヴァント。殺したならばテレホンカードで帰還させる。 願いのために他人を殺す――決して等価値になることのない選択を強いる聖杯戦争。 天戯弥勒が用意した聖杯は現実では行われない架空世界での戦争だ。 妄言かも知れないがテレホンカードで帰還可能の情報は少なくとも人吉を安心させるには十分過ぎる情報だった。 「キャースーター」 忘れ物と予想されるコートを捲りながら覗きこむセイバー。 キャスターは当然いない。言ってしまえば見つからないこの状況に飽きている。 椅子を引き腰を降ろすとダルそうに机へ上体を寝かせ悪態をつく。 「見つかんねーぞキャスター、お前の時間もあるってのにこれじゃあ進まねえ」 「このままタイムリミット残念無念また来てねんは避けたい、っつーか馬鹿過ぎてヤベえ」 「その通り、宣言したからにはやんなきゃ男じゃない――そうだろ?」 態度は腐っていても中身は真剣であり、セイバーは人吉に最後まで付き合うつもりだ。 笑いながら人吉の背中を押すように言葉を掛け座ったばかりだが立ち上がる。 体内に溜まった怠さを吹き飛ばすように伸びると肩を回し気分を一心させていた。 人吉はそんなセイバーを見て、どんな感情を抱くのか。 もしアサシンが生きていれば。セイバーのように解りやすい男ではなかったが悪い奴には見えなかった。 話を聞けば暗部だのクラスはアサシンだの世間体で言う闇に染まっていた人間だが力は貸してくれた。 隣に居てくれれば頼りになる存在だったのかもしれない、いや、そうだ、そうに違いない。 アサシン■■■■は人吉自身が呼び寄せたサーヴァントだ、ハズレの訳がない。 故にそのアサシンを殺したキャスターは許せない、既に死んでいる英霊の敵討と行こうじゃないか。 このまま下がれば自分は何をしに聖杯戦争に来たのか、遊びじゃあない。 アサシンを殺した直接的な要因は人吉による令呪の命令、審判は自害の提示。 無論人吉自身が望んだ命令ではなくキャスターによる操り、宝具による対象への傀儡命令。 人形となった人吉はアサシンを自害させ、アサシンに関する記憶は全て消去されている。 これは彼がキャスターとの知り合いであり、打開策の突破口にならないよう立ち振る舞ったキャスターの仕業である。 仮に■■■■から己の情報を人吉善吉に与えられていたら……危険因子は誰だって排除するだろう。 (俺の落ち度が一番の原因だよな……謝っても許されるとは思ってねえ、けど済まなかった) 操られていようと死因は人吉による絶対命令の行使であり、覆ることはない。 キャスターを討ち取ろうと彼がアサシンを殺した事実は消えること無く永遠に彼の中で生き続ける。 罪悪感の鎖に絡まれようが此処で腐る必要はなく、男は前に進む決断をした。 協力者もいる。夜科アゲハとその相方であるセイバー、纒流子が彼に協力しているのだ。 いつまでも自分が腐っている訳にもいかず、彼女の声に彼も立ち上がりながら答える。 「やんなきゃ男じゃない……その通り過ぎて黙っちまったぜ」 「分かりゃいいんだよ、さっさとキャスター殺して帰るぞ」 「そうだな、このまま終わるなんてデビルカッコ悪いぜ……ん?」 奮起の決意を固めた所だが窓の外に小さな異変を感じた。 小さな、それは大きさの問題と些細な違和感の表現である。 一つに校庭に小さな影が見える。背丈から察するに男、それも大柄。 もう一つは大勢の生徒が下校している中、何故校庭に立っているのか。 その男の正体を知っているため、疑問は更地のように無くなるのだが。 「アイツ……セイバー、校庭を見てみろよ」 「校庭だぁ? ンなモン見てどうすん……あァ!?」 「なんだ、お前も知ってんのか」 その姿は互いに見覚えがあった。この聖杯戦争で出会った一人の豪傑。 歴史上の人物像とは異なる砕けた喋り口。 セイバーやアサシンは現代的な英霊であるが校庭にいる男は正真正銘の歴史に眠る英雄だ。 聖杯に招かれし役職は槍兵、刀と槍を扱う男。 人吉は悪い印象を持っていない。少なくともキャスターよりは会話が通じる相手だと認識している。 屋上での会話を思い出すにキャスターの事を少しは知っている様に感じた。 ならば、接触を図り新しい情報を求めようとしよう。 「結構イイ奴だと思うけどよ、屋上から投げ飛ばすのはNGだぜ……!」 纒流子はその男と一度手合わせをしている。 男は強い。勿論自分も強い、負ける理由はない。 先の戦いは中断された。なんでも男のマスターからの命令らしい。 校庭に立っている今、キャスターの件を知らない訳でもないだろう。 現に人吉と面識があるならそれは件の後であり、事情は知っていると察する。 ならば、今校庭に居るのは何故か。それは誘っているからだろう。 「今から行くから待ってな――戦国武将さんよ」 「俺が通う学園で事件……?」 自室に篭っていたエレンはニュース番組で己が通うアッシュフォード学園の事態を目にしていた。 ベッドに潜り込み顔だけを露出させながらテレビを眺めていたエレン。 特にやる気も起きず時間が過ぎるのを待っていた彼はトイレ以外に布団から出ていない。 そんな状況に神様は嫌気でもさしたのか、強制的にエレンに興味を惹かせるイベントを発生させた。 テレビに表示されるアッシュフォード学園の文字は彼にどんな影響を与えたのか。 実際に学園へはまだ通っていないが、流石に名前ぐらいは把握している。 訓練生時代に通っていた物を連想していたが思ったよりも近代的、謂わば彼の世界とは程遠い。 木造が主体ではなく、文明が発達している架空世界の世界観に近い建物だった。 国外の犯行――エレンに言わせてみれば壁の住民達が身内で争っている感覚だろう。 巨人の襲来により壊滅した街の生き残りは新たな壁《保険》を求めて移住する。 その場所で起きる原住民と余所者の争い。人間同士で争っている場合ではないが生きていくためにはしかたがないことだ。 彼の世界の話は置いておき、自分の宿舎が何者かに攻められているのだろう。 許し難いことではあるが、残念ながらエレンにとってアッシュフォード学園は重要な場所ではない。 記憶も無ければ思い出も無く、別に破損しようが爆発が起きようが彼には関係ない話しである。 念の為にだが、エレンは腐っている人間ではなく、寧ろこのような事件が起きれば燃える類の人間だ。 今の彼には自ら動く意思も力も使命も。何一つ感じることが出来ず空っぽの器と呼ぶのが相応しい状態であった。 「もう昼過ぎてんのか……何か食うか」 時計を見ると針は十二を超えていた。 どれだけの時間を無駄にしたかは不明だがエレンは腹に物を入れるため布団から出る。 その足取りは軽くなく、少しよろけていて何処か心配になってしまう。 しかしこの場には彼しかおらず、誰も構ってくれる姿はなかった。 見回りから戻ってきたアサシンは一切口を動かしていない。 壁際のいぶし銀、監視するようにエレンを見つめ、外に出さないようにしている。 エレンの精神状況を考えると交戦が発生する段階で急激な所謂ショック現象に近い事象が発生するかもしれない。 巨人が巣食う悪夢から開放された少年にとって、偽りであるこの世界は優しさに満ち溢れている。 聖杯戦争の視野から逸れれば生活に不満がない、壁の中の住人にとって最高の世界だ。 永遠に住んでいても問題ない。そう思ってしまった彼はもう血腥い世界には戻れない。 だが自室に閉じ籠もっていては空気が悪い。 アサシンの特性から察するに彼が主役になる時、それは夜。 夜は死神の物語であり世界、此処まで交戦していない彼は戦闘を仕掛けに行くだろう。 つまり、夜の間は誰もエレンを止める、守る存在はいない。 外の空気を吸うなら夜だ。大丈夫、出歩いた先で敵と出会う確率などこの優しい世界なら――。 夜科アゲハは学園を後にすると付近の公衆電話を探すため街に出ていた。 地図で表記する所のB-3地点、アッシュフォード学園にも近い場所にて苦労すること無く発見した。 公衆電話は夜科アゲハにとって馴染み深い、本人にとっては良い思い出と断言出来ないが関わりがある。 彼が行っていたサイレンのゲームは荒れ果てた未来の世界を舞台に公衆電話の終着点を目指すものだった。 現代と未来を行き来しながら世界の終焉を回避した夜科アゲハは脳の酷使によって深い眠りにつく。 その後、旅で得た全てのふれあいと思い出の力により眠りから覚める――はずだった。 彼の意識が深く閉ざされた棺桶から脱出した時、瞳に映る光は明るい未来ではなく荒れた荒野の再臨。 おまけに最後には和解……とまではいかないがある程度歩み寄れた天戯弥勒の宣言付きである。 頭痛が痛い、よく解らないが痛いことだけは伝えたい、そんな感覚に陥った。 処理は追いつかないが脳裏に焼き付く聖杯戦争のルール。 隣に居る知らない女はサーヴァント。同世代に見えるが既にこの世から去っている過去の英霊。 学園に潜む他の参加者、新たに誕生した友も参加者、その友に絶望を与えるキャスター。 この世界も混沌に満ちている。それでも人々が日常を過ごしているのが更に狂気感を引き立たせていた。 公衆電話を見つけるとアゲハは赤いテレホンカードを問答無用で差し込む。 ダイヤルは押さず受話器を耳元に当てる。聞こえてくる音はツーツー……機械的な音声のみ。 繋がっていない。それに声も聞こえない。 聖杯戦争の参加者においてテレホンカードの本質を知っているのは夜科アゲハだけである。 時間軸の違いによっては天戯弥勒ですら赤いテレホンカードの存在を知らない可能性もある。 最も全参加者に天戯弥勒から配られている節があるため、杞憂ではあるが。 「繋がらねえ……」 受話器を戻し外の空気を吸う夜科アゲハ。 元々サイレンの赤いテレホンカードはとあるサイキッカーのPSI能力により生まれた物である。 このテレホンカードが存在しているということはそのサイキッカーも聖杯戦争に絡んでいる可能性がある。 しかし彼女は殺し合いに加担するような人間ではない、ならば何故――謎は謎を呼び新たな疑問を発生させる。 一度情報の整理が必要だろう。状況が落ち着いたら纒流子と人吉善吉に知っていることを全て話そう。 「そんじゃもう一回学園に戻るとするか」 公衆電話の設置場所は幸い学園から近い。 これならば最悪キャスターを仕留められなかった場合でも人吉を帰還させることは可能だろう。 実際に帰還出来るかどうかは不明だが初期のサイレンゲーム同様の扱いならば戻れるはず。 何とかなる、前向きに思考を置きつつアゲハは学園に向かう。 「少しいいかしら?」 「――ッ!」 此処は街で今はお昼時だ。行き交う人々がアゲハに話しかける光景は別に可怪しいことではない。 感じる魔力を除けばの話し、彼に言葉を掛けた少女はサーヴァント。 日傘をさしている少女は不思議を含んでいるような笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。 「貴方は天戯弥勒に話しかけていた人で間違いない」 「だったらどうすんだよ。今此処で俺と戦るってのか?」 「誰も戦う何て言ってないじゃない。それとも覚悟は既に完了ってところかしら?」 「何が言いたいかサッパリ解かんねぇけど敵なら――」 腕に力を、戦う力を。 神経を集中させ黒き稲妻の如く溢れるPSIを具現化させるアゲハ。 サーヴァント相手に通用しない――少なくとも屋上での戦いで緑のセイバーの盾には防がれた。 盾の特性上、特別な力が宿っていたのかもしれないがサーヴァントに己の力が通用するかどうかは正直に言って怪しい。 前田慶次にも避けられている前例があるため、彼の暴王の月では太刀打ちは辛いかもしれない。 しかしそんな事を言っていられる状況ではない。 戦わなければ死ぬ。 ならば殺される前に殺す。 世界のゲームは人間にとって優しいプログラムで構成されていない。 「血の気が多いこと……何もこっちだって戦うつもりじゃないわ」 「……は?」 「天戯弥勒について知っていること、教えてもらえるかしら?」 戦闘態勢準備完了バリバリなアゲハは目の前のサーヴァントの言葉に対し間抜けな返答をする。 基本マスターはサーヴァントに敵わない。英霊とは神格なる存在である。 現状、アゲハの近くにサーヴァントはいない。相手が気付いているかは不明であるが。 「……逆に聞くけどやっぱサーヴァントはアイツの事を知らないのか?」 「質問を質問で返す……まぁいいわ。ええ、知らない。貴方のサーヴァントの事も知らないけれど」 夜科アゲハは考える。彼がこの会場で出会った人々は誰一人として天戯弥勒を知らない。 つまりサイレンドリフトでもなければ、未来の世界に居たわけでもなく、再生の日を迎えた世界の住人でもない。 あの世界を知らない人間が多いのは嬉しい事である。何も生きていく上でわざわざ絶望を体験する必要もないだろう。 「俺だけ答えるのは不公平だろ」 「今すぐ貴方を殺すことだって出来る、解っているでしょ?」 「……解ったよちくしょう」 近くに纏はいない。人吉善吉の傍にいるから。 戦闘が始まってしまえば夜科アゲハは確実に負ける、そして死ぬ。 何も解らず真実に辿り着けないまま死ぬのは御免だ。 それに情報を開示したところで、目の前にいる少女のサーヴァントが敵になるとは限らない。 「天戯弥勒はサイキッカーだ」 「サイキッカーって何かしら」 「超能力者ってこと。昼に聞こえてきた声もPSIの力だと思う」 「そう……天戯弥勒は聖杯をどのようにして――」 「悪い、聖杯とかは聞いたことがねえ。そもそも願いを叶える何て有り得ねえだろ」 「……貴方の名前も」 「夜科アゲハ……俺の名前だ」 夜科アゲハが知っている天戯弥勒は聖杯の事など一切話していない。 仮に隠していたとしても願いを叶える、事実ならば天戯弥勒はとっくに使用している。 「ついでに言えばアイツが今何処に居るかも知らない、正直俺も情報がほしい」 「……じゃあ貴方も《知り合い》以外に有用な情報を持っていないのね」 「悪かったな、俺も手探りなんだ」 「まぁいいわ。超能力者ってことを知れただけでも前向きに捉えることとするわ」 大した情報も渡していないが少女のサーヴァントは納得してくれたらしい。 表面、それも薄い情報しか言っていないが。 夜科アゲハにとって問題はこれからである。 少女のサーヴァントの出方が解らない。 このまま立ち去ってくれるのが一番ベストな展開である。 協力体制を取れるなら大いに助かるが望み過ぎも良くない。 殺しの脅しをしてきた相手だ、友好な関係を築くのは難しいだろう。 戦闘になるとして先手を放ち通用しなかったら詰みだ。 「ありがとう……私のクラスはランサー。交換する情報はこれ」 「おいおい、流石にクラスは視認出来てるぜ」 適当な返答をされて尻尾を巻かれてしまえば此方側に有益な情報が入ってこない。 己の生存率を優先させようとしていたが反射的に突っかかってしまった。 「生命があるだけ感謝しなさい、それと―― ――夜は睡眠をしっかり取ることをおすすめするわ。 昼が貴方達学生の時間なら夜は私の時間――出歩いていたら生命を落とすかもしれないわよ?」 クスリと一つ笑みを零すと少女のサーヴァントはその姿を消した。 一体彼女は何をしたかったのか。 夜科アゲハを発見しそのまま殺すことも可能だっただろう。だが手を出していない。 情報を聞き出してから幾らでも殺す方法はあったと言うのにも関わらずだ。 「夜は私の時間って梟か何かかよ……ッ」 忠告の類なのか。 言葉通りに受け取ると夜に出会うと殺されるらしい。 サーヴァントに単独で出逢えば昼夜関係なく殺されるとは思うが、今回は運が良かった。 夜になると活発的になる人間は存在する。あのランサーは夜行性だった英霊かもしれない。 結果とした与えた情報は天戯弥勒が超能力者と言う事と自分の名前だけ。 聞き出すならもっと引出されるかと思ったがあっさりと退いてくれた。 夜行性の予測は間違いではないのかもしれない。 まさかな。言葉を零しながら首を振る夜科アゲハ。 「死ぬかと思ったぜ……」 口では軽いことを喋るがその身体は大きく汗をかいていた。 少女の姿とはいえ彼女もまた英霊の一人であるサーヴァント。 溢れ出る魔力と底知れない空気はただの会話でも夜科アゲハにプレッシャーを与えていた。 開放された感覚に酔いたいのかアゲハは公衆電話に寄り掛かり空を見上げる。 お昼が過ぎもう少しで夕焼けに染まる頃。 夜になれば月が浮かび上がりその光を除き辺り総ては常世闇の世界に成り果てる。 ランサーの言葉を守る、という訳でもないが夜は睡眠に回す予定だ。 最も人吉善吉の生還を見届けた後になるが。 『――ん? どうした纏……』 「不思議な力は超能力……呼び方はどうでもいいけれど何かしらの力は持っているらしいわね」 夜科アゲハから天戯弥勒の情報を聞き出したサーヴァント、レミリア。 本来ならもっと多くの情報を盗もうとしたが昼は彼女にとって天敵である。 別段今すぐ屋内に避難、という訳でもないが。 館への帰り道、一度マスターであるウォルターに対し念話を行う。 得た情報、価値こそ微々たる物かもしれない。 だが夜科アゲハの名前を知れた。 天戯弥勒と関わりがある人物、殺すにはまだ早いだろう。 時が過ぎれば主催者である天戯弥勒と対峙する時が来る。その時のために保険がほしい。 次に夜科アゲハと出会った時、限界まで情報を引き出せばいい。どんな手段を使ってでも。 『聞こえるかしら、ウォルター』 『ええ、お嬢様』 『貴方は今何処にいる』 『館に向かっている最中でございます』 夜科アゲハに出会う前に念話をした時、彼は病院の近くに居ると言っていた。今から呼び戻せば到着は夜になるだろう。 夜になれば本来の力を発揮出来る、言ってしまえばレミリアが主役となる時が来る。 それまでの間に一度情報を共有し一度策を練る、そのための呼び出しである。 『解ったわ、そのまま館まで来て頂戴』 『かしこまりました。それで一つ、他の参加者と接触いたしました』 『奇遇ね。私も接触をしたわ、館で一度打ち合わせが必要ね』 ウォルターはとあるアーチャー組との接触。 レミリアはこの聖杯戦争の核心に一番近いであろう夜科アゲハと接触。 夜を主とする彼女達が昼に入手した情報は決して無駄ではない。 夜が到来すればその時の主役は彼女達だ。 ならば日が落ちかけている今、彼女達は拠点である館に集合する。 ◆ ◆ ◆ 地図で表わす座標はC-6。此処は美樹さやかが住む仮初めのマンションがある場所だ。 自室のベッドに座り込むと彼女はサーヴァントであるバーサーカーの不動明に話しかける。 「あたしはほむらの提案を受け入れようと思ってる」 遊園地で旧友である暁美ほむらから同盟の申し込みがあった。 内容は鹿目まどかを守るためのもの。中心は美樹さやかではなく鹿目まどか。 彼女に危険が及んでいる……と推測するべきだが本当なら暁美ほむらは手段を選ばない。 同盟の期限を明日の正午まで伸ばしている。つまり鹿目まどかは緊急事態に陥っている訳ではない。 そして重要なのが鹿目まどかが聖杯戦争に参加している事実だ。 暁美ほむら同様彼女も聖杯戦争に参加しているならば。 この世界に置ける時間軸の混ざり具合は混沌と呼ぶべきだろう。 暁美ほむらは悪魔ではなく、鹿目まどかも女神ではない。 「そうか……俺はさやかとほむらの関係を知らないからな」 「話したでしょ? あいつは転校生で魔法少女で、鉄仮面みたいでムカつく奴で」 「友達、だろ?」 「……うん」 友達。 悪魔だろうと気に入らない奴であろうと暁美ほむらは友達だ。 対面した彼女が悪魔ではないのなら、道を踏み外さないように助けるのが友達の役目。 彼女がどんな状況かは知らないが鹿目まどかを中心に考えているならまだ大丈夫だ。 NPCの可能性も否めないが自分と暁美ほむら、二人の魔法少女が参加しているなら鹿目まどかが居ても可怪しくない。 それに魔法少女は他にも居る。魔力や魔術、魔法と重なる単語は存在する。 惹かれ合うのか呼び寄せられているのか。聖杯の意思とでも呼んでおこう。或いは天戯弥勒の気まぐれ。 バーサーカーも自分の提案を受け入れてくれたため安心する。 どう転ぶかは不明だが鹿目まどかに対する気持ち、暁美ほむらは嘘をつくことがない。 「私は信じたい、だからヤバくなった時は力を貸して」 「今更確認を取ることもないだろ。当然だ、間に合うなら何だってする」 「今、何でもって……えへへ、ありがと」 自分のサーヴァントが彼で良かった。 バーサーカーと聞くと対峙した白髪の英霊のように暴れまわる狂戦士のイメージが強い。 暴れ狂う戦士は昔の自分を思い出し、重ね、気分が後退してしまう。 考えてみれば暁美ほむらには多くの時間軸で多大な迷惑をかけてしまった。 その彼女が自分に同盟を申し込むのだ、聖杯戦争とは恐ろしいものである。 バーサーカーなのにコミュニケーションが取れる。 彼曰く宝具を発動したら危険な状態になるらしいが今一つ実感が沸かない。 『アッシュフォード学園で事件が発生しました』 テレビから聞こえる何気ないニュースの一報が彼女たちの注目を集める。 アッシュフォード学園と言えば本来通うべき場所だ。 与えられた役割を放棄して天戯弥勒の出方を伺う予定だったが現れる気配がない。 彼が取ったと行動といえばお昼に聞こえてきた通達のみ。 「その鹿目まどかって子は学園に通っているんじゃないか?」 「そうかも……でも、それならほむらが動いていると思うし」 「そうか、じゃあ学園での事件は他の参加者の仕業だろう。日本の屋上で爆発何て非日常過ぎる」 (この状況が非日常なんだよなー) 「……どうした? 学園に向かうって言うなら行くことも出来る」 「何でも、それで学園には――行かない。今行っても面倒事にしかならないと思う。 今日はもうゆっくりしよう。夜が明けてからあたし達は遊園地に向かう。それで暁美ほむらと話す」 仮に学園での事件がサーヴァントの仕業だとして。 戦火に飛び込むのは無謀過ぎる。敵が何処に潜んでいるかも解らないのだ。 アサシンが一人脱落しているが、マスターの生存は明かされていない。 つまり、再契約を狙っている可能性もある。外を無闇に出歩いていれば危険が増すだけだ。 現実的に考える。常識というものだ。 事件が発生しているなら学園にもう生徒はいないだろう。 其処に今から向かう、怪しすぎる。自分が聖杯戦争の参加者と言っているようなものだ。 そうでしないにしろ、警察に不審者や犯人候補として目を付けられるのが目に見えている。 「解った。話は変えるがほむらのサーヴァント……あの老人についてだ」 「キャスターだね。正直胡散臭いしあんな悪趣味な人形を作ってる奴が良い英霊なワケがないと思う」 「ああ、裏があるタイプだ。それもドス黒い底なしレベル」 遊園地に巣食う不気味な笑みを浮かべていた老人が暁美ほむらのサーヴァント、クラスはキャスターである。 悪趣味な人形を大量生産させ徘徊させている、狂気に満ち溢れているあの光景はもう見たくない。 暁美ほむらと上手くやっているのか。関係はないが心配してしまう。 「あ」 「何か言いたそうな顔をしているな」 暁美ほむらの心配を考えて一つ、接触した時のことを思い出す。 あの時暁美ほむらはどのようにして会話していたのか。 勿論会話なのだから声を出しているには違いない。彼女だけの世界だ。 「ほむらはサーヴァントに自分のことを説明していないと思う」 「根拠は?」 「時を止める魔法のことを黙っているだって。だからあたしにも黙ってろって時間止めながら話してた」 「時間を止めながら……サーヴァントが言う台詞でもないが魔法少女も何でもアリみたいだな」 「魔法は最強、みたいな? だから多分だけどもし戦うことがあるならほむらを上手く説得すれば回避出来るかも」 「令呪の力だな。確かに自害させた後に帰還してもらえれば大分楽になる。よく思いついたな」 「そ、そう?」(自害させるとかは思い浮かばなかったけど……まぁいいか) ◆ ◆ ◆ 「俺は君を守る……だから安心していてくれ」 一人呟くと間桐雁夜は寝てしまった間桐桜の身体に毛布を掛けた。 間桐桜がNPCとして存在している。この事実は間桐雁夜の心の闇を明るく照らす。 晴れる訳ではない。だが絶望に面している彼の精神は少し救われた。 仮の生命だろうと見た目は間桐桜そのもの。 偽物だろうと見捨てることは出来ない、最後まで守りぬくだけ。 幸いにも己の身体の調子は良く、魔力の量も確実に増えている。 天戯弥勒の言葉をそのまま受け止めると蟲の使役をした段階で身体が崩壊するらしい。 回数に制限が生まれた。元々サーヴァント頼りだが更に頼ることになる。 魔力の量が増えたことは本当に不幸中の幸いであった。 必要以上にサーヴァントを現界させず、今は霊体の状態を保たせている。 この夜時は眠る、勝負を仕掛けるなら回復した後だ。 彼の身体もバーサーカーも連戦により消耗がある。もし今戦えば余計な損傷になってしまう。 もう一度悪魔のようなバーサーカーと戦えば命の保証はない。 脱落したサーヴァントは一人、夜になれば更に戦況は加速するだろう。 無闇に顔を出さず今は来るべき時を待つのが正しい行動だ。彼はそう思っている。 警察のNPCは日付が変わる直後付近までは辺りを見回るらしい。 ならば襲撃者がいてもその時間帯は安全、或いはその存在に気付くだろう。 休むなら今。 間桐桜はソファーで眠っている。 間桐雁夜はその横に座る形で仮眠を取ることにした。 嘘や闇、血や妬みで固められた聖杯戦争、せめてこの時だけでも幸せな夢を見たいものである。 瞳を閉じた空間に見える未来は希望か絶望か。 来るであろう夜の血戦、暴れ狂う戦士が齎すのは聖杯か――それとも。 連戦を終えた虹村形兆とライダーは座標B-2にある拠点に戻り休憩を挟んでいた。 休憩と言っても通っている予定になっていた学園のニュースを見れば安らぎも得られない。 「天戯弥勒の声が聞こえたと思えば学園で爆破、おいおい日常ってのはないのか?」 「コイツは戦争だ。しかも時間はそう掛からねえぞ、脱落が一人ってのは遅え」 「落ちたのはアサシン……暗殺者が最初に落ちる? 馬鹿かソイツは。 どんな奴かは知らんが最初に落ちた奴だ、どうせ大した英霊でもないんだろ」 天戯弥勒の声から判明した参加者の人数、そしてアサシンの脱落。 隠密に重点を置くアサシンが最初に落ちる予想はしておらず、結果として面を喰らう。 溜息混じりに話す形兆、吸血鬼にサキュバスとお伽話のような相手と戦っていて疲労が溜まっていたのだろう。 愚痴のように見たこともないアサシンについてボロクソ言葉を紡ぐ。 「先入観で総てを決め込むたぁ随分な言い回しじゃねえか……。 英霊ってのは何かしら『証』を立てた奴だ、その英霊に大したこと無えとは冗談が過ぎる」 「……気にでも触れたか?」 「勝手に決め込んでると足元救われっぞって事だ」 ライダーの発言は正論だ。返す言葉が見付からない。 結果論ではあるがアサシンは例えば、例えの話として激戦の果てに死んだ可能性がある。 スタンドやサーヴァントが入れ乱れる問答無用のバトルロワイアル、その最中に死亡した。 そう仮定すれば口が裂けても雑魚とは言い切れない。 しかし考えれば考えるだけ無駄、言ったもん勝ちの思いもん勝ちである。 ライダーはテレビを見つめると一つ話を零す。 「行ってみるか、此処」 「今行けば確実に面倒事になるだろうが、それにお前は連戦で消耗してる」 「テメェの言葉どおり休憩してんだ、それでも不服か?」 「聖杯戦争ってのは時間が掛からない、そう言ったよな? だったら少しでも休める時に休むってのが定石だろ、今は敵が近くに居ない」 「口ばっかり回るじゃあねえか形兆……まぁテメェも魔力使ってんだ、休んどけ」 喧嘩を売るわけでもない。ライダーはただ甘く見ている形兆に忠告をしただけ。 それに状況を甘く見ている訳でもなく、彼らは休息を、体勢を整える手段を選ぶ。 夜が来る――黙っていても宴《イクサ》に呼ばれると確信しているから。 多くの参加者がアッシュフォード学園に関するニュースを見ているなら。 病室で寝ている浅羽の部屋に流れていても何ら不思議な事はない。 点滴を受けベッドで横になっている浅羽はその意識を眠りに委ねる。 移動中の救急車の中で既に疲労とPSI粒子の効果が作用し彼の脳には絶大な負担が掛かっていた。 (経過した時間から計算して日付が変わる前には起きる) ベッドに腰掛けていた状態から立ち上がり空を見つめるアーチャー。 思えば浅羽は空をよく眺めていた。 その眼差しは憧れや理想といった崇拝的な心は宿っておらず、何処か寂しさを残していたような。 その瞳を潤いで満たすには聖杯の光が必要になるだろう。 過程はどうであれ手にした者の願いを叶える唯一無二の存在である聖杯、手に取れるのは一人のみ。 天戯弥勒の通達を受け一人の脱落を確認したが残りはまだ十三組存命している。 脱落した情報もアサシンのみであり、マスターの生死は明かされていない。 何処かに息を潜め、再契約を狙い嗅ぎ廻っている可能性もある。 窓の縁に腕を置く。遠くを見つめるように、蒼い空を。 この空の向こうには何が存在しているのか。それは宇宙だとか地平線の話ではない。 創られた、或いは用意されたこの架空世界は現世から切り離されているのだろうか。 外からの干渉を受けない孤島の離島、聖杯戦争《殺し合い》には丁度いい。 NPCと呼ばれていても所詮は日常の演出に過ぎない彼らは害ではなく無と表現しよう。 敵は他の参加者のみ。アーチャーが出会ったのは三組、六人ではないが。 一人は老人、もう一人は少女とバーサーカー、更にバーサーカーと白い男。 全参加者は十四組であり人数で表記すればその数は二十八。 その中の五人と接触しているのは運が良いのか悪いのか。 アーチャーは知らないが他の参加者と接触していない者も存在するため恵まれている。 これまで主な魔力を消費せずに他参加者の情報を持っている参加者の数は極端に少ない。 (これからどうするか、起きたら天戯弥勒の話をしないと) 一度情報を整理しよう。 踵を整えながらアーチャーは通達を思い出す。 天戯弥勒の姿は見えなかった、しかし声は確かに聞こえた。 反響するかのように脳内を駆け巡った音声、眠っている浅羽には聞こえたのだろうか。 その確認を踏まえ、目が覚めたら一度相談の意味合いも含め通達の話をする必要がある。 天戯弥勒の言葉を信じるなら再三繰り返すが脱落したのはアサシン、参加者は十四組。 そしてアーチャーが出会ったサーヴァントは二人の狂戦士である。一人は目撃に過ぎないが。 本来の聖杯戦争は七騎のサーヴァントを招ねき欲に汚れた人間の戦いである。 今回のサーヴァントは十四騎、正規よりも倍の数に膨れ上がっているのだ。 出会ったサーヴァントが既に狂戦士、それも二人。招かれているサーヴァントは各クラス二人ずつと考えられる。 暗殺者が減った事実は生身の人間、自分のマスターを含む魔術師とは関係ない存在にとって明るい話題だろう。 気配を消され後ろから生命を狙われる。常に恐怖と戦う心境は度が過ぎれば精神を壊してしまう。 夜が来れば尚更人間の恐怖心は煽られ、正常な判断が下せないかもしれない。 通達の内容が真実であればの話だが、此処で嘘をつくメリットもなく、この情報は前向きに捉えるべきだろう。 天戯弥勒の真理は解らない。答えと言えばマスターの病状も不明である。 この地特有の風土病などと説明されたが、天戯弥勒が用意した世界ならばこの病状は彼からの贈り物《嫌がらせ》かもしれない。 発熱を含むその症状は確かに風邪の位置付けは可能であるが不自然とも捉えれる。 第一に世界の場所が解らないこの架空世界で『特有』など信用出来る物ではない。罠か何かだろうか。 しかし点滴を行っていると浅羽の顔色は元に戻り始めているため本当に風邪なのかもしれない。 疑いを重ねればこの点滴そのものが一種のウイルス的な可能性もある。 小さな疑問が幾つも重なりやがては大きな壁となること。 情報が少ないこの状況で解を求めるのも無理な話だが一度、他参加者と会話が必要だろう。 人が変われば視点も意見も総てが異なり、己の意識に対して他者の介入は時として思いもよらぬ収穫があるかもしれない。 浅羽の状況にもよるが目を覚ましたら一度、外を出歩く提案を決意。 彼の精神的負担も考えて外の空気を吸う意味合いも重ねて一度打診してみるべきか。 他の参加者に出会い、会話或いは同盟が組めれば御の字。 例え戦闘に発展したとしても此処は聖杯戦争、一度の戦闘も行わずして勝ち上がれる程甘くはない。 この身でマスターを守り聖杯を捧げる。それが従者、サーヴァント。 (謎の症状と浅羽くんの力……天戯弥勒……聖杯戦争……PSYREN……。 必ず共通点はあるはず。だけど、今は点同士が独立していて線にならない。 夜に出歩いて他の参加者と接触すれば答えに近づくかもしれない。やってみる価値は――ある) 【A-4/エレン自宅(マンション)/一日目・夕方】 【エレン・イェーガー@進撃の巨人】 [状態] [令呪]残り3画 [装備]立体機動装置 [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を勝ち取り巨人をこの世から駆逐する。 0.夜になったら外出する 1.今後の方針を考える。 2.明日になったら登校する。 3.生きている人間を……殺す? [備考] ※アッシュフォード学園中等部在籍予定です。 ※天戯弥勒の通達を聞いていません。 ※学園の事件を知りました。 【アサシン(ジャファル)@ファイアーエムブレム烈火の剣】 [状態] [装備] [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:獲物を殺す 1.夜になれば戦闘を開始する。 2.甘さは捨てろ……。 [備考] ※ランサー(レミリア)、ウォルター及びライダー(白ひげ)、虹村形兆の姿を確認しました(名前は知りません) ※奇妙な兵隊(バット・カンパニー)を視認しました。 ※公衆電話の異変を感じ取りました。 ※アーチャー(モリガン)を確認しました。 ※学園の事件を知りました。 【B-3/一日目・夕方】 【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方project】 [状態]ダメージ(小、スキル:吸血鬼により現在進行形で回復中) [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:ウォルターのためにも聖杯戦争を勝ち抜く 1.夜になるまでは拠点で休息 2.ウォルターと合流後、今後の方針を決める 3.アッシュフォード学園に使い魔を……? [備考] ※アーチャー(モリガン)を確認しました。 ※夜科アゲハを確認しました。 ※天戯弥勒がサイキッカー(超能力者)と知りました。 【C-5・市街地/一日目・夕方】 【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】 [状態]健康、魔力消費(微小) [令呪]残り3画 [装備]鋼線(ワイヤー) [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:全盛期の力を取り戻すため、聖杯を手にする 1.館に向かう 2.アシュフォード学園内での情報集手段の模索 3.アシュフォード学園近隣で監視に使えそうなポイントの捜索 [備考] ※浅羽、アーチャー(弩)を確認しました。 [共通備考] 虹村刑兆&ライダー(エドワード・ニューゲート)と交戦、バッド・カンパニーのビジョンとおおよその効果、大薙刀と衝撃波(震動)を確認しました。 発言とレミリアの判断より海賊のライダーと推察しています。 【C-6/自室/一日目・夕方】 【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】 [状態]魔力消費(小) [令呪]残り三画 [装備]ソウルジェム [道具]グリーフシード×5@魔法少女まどか☆マギカ、財布内に通学定期 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる 1.明日の正午までに暁美ほむらへ回答する。 2.与えられた役柄を放棄し学校に行かないことに加え、あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う [備考] ※浅羽直之、アーチャー(穹撤仙)を確認、フェザーと名乗られました。 ※暁美ほむらが昔(TV版)の存在である可能性を感じました。 ※暁美ほむらが何かしらの理由で時間停止に制限が掛かっていることを知りました。 【不動明(アモン)@デビルマン】 [状態]ダメージ(小)、魔力消費(小) [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる 1.さやかに従い行動 2.あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う 3.マスターを守る [備考] ※穢れの溜まったグリーフシードを『魂喰い』しました。今のところ影響はないですが今後何らかの影響があるかは不明です。 ※キャスター(フェイスレス)に不快感を覚えています。 [共通備考] ※マップ外に出られないことを確認しました。出るには強力な精神耐性か精神操作能力、もしくは対界宝具や結界系宝具が必要と考えています ※マップ外に禁人種(タヴー)を確認しました。不動明と近似した成り立ちであるため人間に何かがとりついた者であることに気付いています。NPCは皆禁人種(タヴー)の材料として配置されたと考えています ※間桐雁夜(名前は知らない)、バーサーカー(一方通行)を確認しました。 ※暁美ほむらとの交渉『鹿目まどかを守るための同盟』の回答期限は2日目正午までです。 ※キャスター(フェイスレス)を確認しました。 ※学園の事件を知りました。 ※夜は眠る方針を取っています。 【D-4・間桐邸/一日目・夕方】 【間桐雁夜@Fate/zero】 [状態]肉体的消耗(中)、精神的消耗(小)、魔力消費(小)、PSIに覚醒 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を取り、間桐臓硯から間桐桜を救う。 1.間桐桜(NPCと想われる)を守り、救う。 2.夜は外を出歩き敵を探す。 3.蟲の使役に注意する。 [備考] ※ライダー(ルフィ)、鹿目まどかの姿を確認しました。 ※バーサーカー(一方通行)の能力を確認しました。 ※セイバー(纒流子)の存在を目視しました。パラメータやクラスは把握していません。 ※バーサーカー(不動明)、美樹さやかを確認しました。 ※PSI粒子の影響と一方通行の処置により魔力量が増大しました。 ※お茶は戦闘を行ったD-4の公園に放置してきました。 ※PSI粒子の影響により身体能力が一般レベルまで回復しています。 ※生活に不便はありませんが、魔術と科学の共存により魔術を行使すると魔術回路に多大な被害が発生します。 ※学園の事件を知りました。 【バーサーカー(一方通行)@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:■■■■─── 1.───(狂化により自我の消失) 2.マスターを休息させる [備考] ※バーサーカーとして現界したため、聖杯に託す願いは不明です。 ※アポリオンを認識し、破壊しました。少なくとも現在一方通行の周囲にはいませんが、美樹さやかの周囲などに残っている可能性はあります。 【B-2/自室/一日目・夕方】 【虹村刑兆@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]疲労(小)、魔力消費(小) [令呪]残り3画 [装備]いつもの学ラン(ワイヤーで少し切れている) [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:おやじを殺す手段を探す。第一候補は聖杯。治す手段なら……? 0.吸血鬼の次はサキュバスかよ… 1.休養後、夜の戦いへ備える。 2.登校するかどうかは気分次第。 3.そのうち海に行ってみるのもやぶさかではない。 4.公衆電話の破壊は保留。 [備考] ※バッド・カンパニーがウォルターに見え、ランサーに効かなかったのを確認、疑問視しています。 →アーチャーとの交戦を経てサーヴァントにはほぼ効かないものと考えています。 ※サーヴァント保有時に紅いテレホンカードを使用しても繋がらない事を確認しました。 ※サキュバスなどのエネルギー吸収能力ならばおやじを殺せるかもしれないと考えています。 ※学園の事件を知りました。 【ライダー(エドワード・ニューゲート)@ONE PIECE】 [状態]ダメージ(中)、疲労(小)、魔力消費(小) [装備]大薙刀 [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:刑兆の行く末を見届ける 1.行動に移すべきと考えているが… 2.麦わらの男が気になる。 3.いずれ海に行きたい。 [備考] ※NPCの存在、生活基盤の存在及びテレカのルールは聖杯、もしくは天戯弥勒の目的に必要なものと考えています。 [共通備考] ※ウォルター&ランサー(レミリア・スカーレット)と交戦、宝具なしでの戦闘手段と吸血鬼であることを把握しました。 ※アーチャー(モリガン)と交戦、宝具『闇より出し幻影の半身(アストラルヴィジョン) 』とサキュバスであることを把握しました。 ※B-2近辺にこの世界における自宅があります。 【C-7・病院/一日目・夕方】 【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】 [状態]気絶 [令呪]残り3画 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯の獲得を目指す [備考] ※PSI粒子の影響を受け、PSIの力に目覚めかけています。身体の不調はそのためです。 →念話を問題なく扱えるようになりました。今後トランス系のPSIなどをさらに習得できるかは後続の方にお任せします。 ※学園の事件を知りました。 【穹徹仙@天上天下】 [状態]健康 [装備]NATO製特殊ゴム [道具]ダーツ×n本 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を目指す 1.目覚めを待つ 2.浅羽の体調が戻ったら今後のことを話しあう(夜の提案をする) [備考] ※学園の事件を知りました。 [共通備考] ※美樹さやか、不動明、間桐雁夜、一方通行の戦闘を目撃しました。 ◆ ◆ ◆ 『やぁやぁやぁ、みなさん。こんにちはとでも言おうか』 『こんばんはでもおはようでもいい。業界用語でも何でも、ね』 『今回の幕間は僕が担当する。こんな所で僕を見れるなんて君たち最高に憑いてるぜ?』 『こう書けば凄い球磨川くんみたいだぜ……って前置き的なのはこの辺にしといて』 『昼の舞台は学園パートを主体とした所謂キャスターの企みが目立っていたね』 『心を操る下衆な能力……僕の数は自慢な能力の中にもあるけど。強いぜ? 個人的には使わないけど』 『学園都市の超能力者同士の対決はまさかの結末。本来なら有り得ないだろう物語が展開されるのが聖杯戦争さ』 『誰も結末を知らない。知っているなんて言ってる奴は妄想を吐き出しているだけの奴だから相手をするな……話が逸れたね』 『さっきまで短いスパンでスポットが当てられた役者の多くは夜に行動を開始する方針を取った』 『昼の主役が学園に通う学生なら、夜はその他……役者の演目が変わるってこと』 『だけどこの物語には筋書きが存在しないんだ。でも全部がアドリブって訳でもない』 『予定よりも遅く幕が上がった今回の物語、筋書きはありきたりかも知れないけど《役者》が素晴らしい』 『舞台に上がっている役者は誰もが一級品さ。眩しいぐらいに、ね』 『だからもしも君たちに時間があるなら最後までこの物語と役者達を見届けて欲しい。それで最後に最高の拍手喝采――なんてね♪』 『何もこんな事を言うために僕は出て来たんじゃない。此処は後書きじゃあないんだ。次から始まる学園の物語、人吉善吉くんの行く先が気になる』 『なんせこの舞台には主人公が存在しないからね。生き残るには《神様の気まぐれ》がとても重要になってくる』 『ただ――こんな所で終わる男とは思っていないけどね』 ◆ ◆ ◆ 少しだけ吹いている風が男の髪をそっと揺らしている。 この風、弱々しいがやがて嵐となり戦場を荒れ回すだろう。 そしてその時は今、校庭に立つ戦国武将と到着したセイバーが睨み合う。 「まった会ったな……仲の良い兄ちゃんはどうした?」 「アゲハか? アイツはどうしようもねえ野郎だった。だからマスターを変えた」 「……詳しくは聞かないけどよ、人吉だっけ。お前が新しいマスター?」 「リベンジマッチと行こうぜ戦国武将、屋上からぶん投げられた分のな」 以前ランサーとセイバーが戦った時、セイバーの隣に居たのは夜科アゲハだった。 人吉善吉ではなく夜科アゲハ、前者はサーヴァントを失っていた。ならば再契約と考えるのが妥当である。 しかし夜科アゲハとセイバーの仲は良好に見えた記憶がある。従者と主の関係ではなく対等的な関係だった。 喧嘩別れなら納得出来ような気がするが果たしてそれは良いことなのだろうか。 「投げたのは悪い。けど怪我しなかったろ?」 「結果論じゃねえか! 痛かったんだよ!」 「ちゃーんと計算して投げたんだ、許してくれ」 ランサーが人吉を屋上から投げたのは再度キャスターの魔の手に掴まされないため。 もう一度操られてしまえば心の傷は深くなり立ち上がれなくなるかもしれない。 「計算ってマジかよ……」 「おいおい、納得すんなって」 ランサーが想像よりも頭が回る男で戸惑う人吉とは対照的に平常心を保つセイバー。 その服は黒いセーラー服に変わっており学園ということも相まって女子高生に見える。 一歩踏み出し前に出ると敵に言葉を吐く。 「お前キャスターの味方なんだよな? 人吉がどうなったか知ってるだろ、それでも味方のままでいんのか?」 他者の心を操るキャスター。 実際に見たことはないが人吉から話は聞いてある。 自分にサーヴァントを自害させる行い。外道と呼ぶ他に何があると言うのか。 「……一度結んだ同盟はそう簡単に切れないさ」 「戦国武将が言うと深く聞こえるな、でも……分かったよ――テメェはあたしの敵だ!」 言葉を言い切る前に一歩二歩と踏み出しそのまま加速するように走る。 右手に握るは彼女の代名詞である片太刀バサミ。それを斜めに斬る。 ランサーもまた武器である刀を振り回す。 身の丈以上あるその刀の扱いは振り回すと表現しても差し支えない。 両者に到達する前に武器は重なりランサーが言葉を回す。 「敵は元々之は聖杯戦争。相手になるのは問題ないってなァ!」 「否定しねえよ、あたしはただそのキャスターって奴がムカつくだけなんだよォ!」 一歩引くともう一度踏み込み再び武器が重なる。 均衡状態、両者退かず何度も何度も己の武力を振り回す。 均衡状態から流れるように左へ移動するセイバー。 前に身体を押しこみ脇腹を斬り裂くように鋏を振るうもランサーは防ぐ。 地面に刀を突き刺し己の身体の自由を確保した上で鞘でセイバーを吹き飛ばす。 身体に鞘の一撃を受けたセイバーは大地を数回転がるが立ち上がり血を吐く。 傷は深くもなければダメージの蓄積もありゃしねえ――片腕を構えると彼女は吠えた。 「テメェを倒さなきゃキャスターの所へ行けねえ邪魔すんな! それでも戦うってんなら早く終わらせる、人吉がケリ着けられないから――人衣一体!」 赤手甲の栓を抜くと彼女の身体は神衣である鮮血と同化する。 サーヴァントであり宝具であり人間であり服でもあるのが彼女達。 血《繊維》はセイバーの身体を巡り回って彼女はそれを纏う。 身体の露出は増えようと恥ずかしさはない。ありのままの姿を恥じる必要など無いのだから。 「神衣鮮血!」 之がセイバーの宝具であり彼女の戦闘スタイルであり纒流子である。 鋏を肩に乘せ人吉に一度視線を移した後、ランサーの方に向き直す。 「戦国武将だか何だか知らないけど歴史に眠ってろおおおおおおおおおおお!」 「サーヴァント何だからお前も一緒だってのッ!」 鋏を上げず大地を削りながらランサーの元へ走るセイバー。 対するランサーは刀を構え迎撃の体勢に移行する。 その姿に隙は存在せず、正面から一撃を加えるには厳しいだろう。 「ッラァ!!」 隙がないなら創ればいいだけのことだ。言葉にするぐらいなら実行しろ。 鋏を勢い良く振り上げると同時に自分は高く飛翔。 空中では身動きが取れなくなる。ランサーはその隙を狙い刀を振ろうとするが思わぬ攻撃を受けた。 「す、砂」 大地から振り上げられた鋏は砂塵を纏いランサーに襲い掛かった。 ダメージは与えられないものの戦場において視界を奪われるのは行動に多大な影響を及ぼす。 前が見えないランサーだがセイバーが上空に上がったのは覚えている。 そして影も見えているのだ、刀を鋏が来るであろう場所に構えた。 「防ぐとはやるじゃねえか、卑怯とは言わせねえからな?」 「そうかい、そうかい。面白い奴だなァ!」 セイバーの一撃を防いだランサーはその体勢のまま刀を押し出し均衡状態を崩す。 その後踏み込み斬り裂かんと刀を振るうがセイバーも同じ考えを持っていた。 再び鍔迫り合う二人の英雄。両者一歩も退かずこの状況に対して笑みを零していた。 「これがサーヴァント同士の戦い……」 人吉善吉は思う。彼らは本当に人間の枠を超えている存在だと。 彼の周りにも飛び抜けている異常者達は存在していたがどうも解り難い存在だった。 能力的に考えて《凄い事実は解るが実際どの程度凄いのかよく解らない》人達が多かったのだ。 戦闘を行っているサーヴァントの強さは説明不要の能力でありとても解りやすい。 「此処から離れる訳にはいかねえ、けどキャスターの奴も探さないと」 ◆ ◆ ◆ 食堂にて羽を休ませる犬飼伊介とそのサーヴァントであるキャスターこと食蜂操祈。 宝具の使用は魔力の消費を伴う。 それは宝具以外でも適用されサーヴァントはマスターの力無くして力を発揮出来ない。 補うスキルや能力を持っていれば話は別だが生憎キャスターは持ち併せていない。 「ニュースになってるけど警察やマスコミが中に入って来てないのは?」 「聞かなくても……解るよね☆」 キャスターの宝具は他者の心を操る力。 彼女は外の人間に対して学園に干渉しないように手を回していた。 勿論総ての人間ではなく命令権利等を所有している一部の管理職や現場指揮官のみだ。 全員に使っていては魔力の消費と実績が噛み合わず最後には馬鹿を見てしまう。 マスターである犬飼伊介は思う。 この女はあろうことかマスターである自分を見捨てて一度逃走しているのだ。 アサシンが知り合いだったらしいがそれを理由にするのもどうかと思う。 カップを揺らしながら中を見つめる。黒い、キャスターの心も黒いのだろうか。 根まで黒い人間には見えないが一度裏切られた事実は重く心に残っている。 サーヴァントは人間の事を軽く見ているのか、そんな疑問まで生まれてくる。 「あ、ランサーがセイバーと交戦……っ」 携帯の画面を見て呟くキャスター。 洗脳した生徒から携帯を貰い受け情報収集をさせている他の生徒から連絡が入った。 中身は校庭にてランサーとセイバーが交戦を開始した旨、書かれている。 報道の影響から他の参加者が来る事を予測したキャスターはランサーを校庭に配置した。 理由は単純であり目立つから。中を散策するよりかは目立つだろう。 案の定セイバーが釣られ戦闘が開始したのだ、頃合いを見て伺ってみようか。 そう思っていたが状況は思ったよりも奇妙になっていた。 「どうしたの♥」 「セイバー……纒流子のマスターは夜科アゲハから人吉善吉に変更されたって」 天戯弥勒の通達から明かされた十四の参加者。 正規の数は七。その倍である今回の聖杯戦争は各クラス二名と考えるのが自然である。 セイバーは緑の剣士と学生のような女の二名、顔は割れている。 前者は既に学園から出ているとの情報がある。そこから先は掴めていないが。 後者であるセイバーは一度ランサーと交戦経験があった。 血気盛んと呼べばいいのだろうか、再戦にしては早過ぎる。 「人吉善吉……アサシンのマスター?」 「あいつ……生かしといたのは失敗だったかな?」 夜科アゲハが何処かへ消えたかは不明だが人吉善吉は纒流子の新たなマスターになったようだ。 サーヴァントが失われてから六時間は生命の保証がある。 その猶予の中で新しい契約を結ぶことは可能だ、寧ろ願いを求めるのだ、そのぐらいの意地を見せろ。 「まぁいいや☆ ちょっと行ってくるねー」 席から立ち上がったキャスターは演技のような笑顔をマスターに向け手を振った。 そのまま扉へ向かい、言葉から察するに校庭に行くようだ。 「ちょ、ちょっと――」 「何かの外部因子で記憶が戻って私の事を話されたら面倒でしょ? だから先手を打って戦闘中にもう一度心を操って自害させるの――邪魔しないで?」 「――っ」 それだけを言い残し扉から出て行くキャスター。 その言葉には軽い意思は籠もっておらず真剣其の物――記憶の有無はサーヴァントにとって脅威だ。 真命から対策を練られては太刀打ちの仕様がないのだ、キャスターならば尚更である。 正面からの戦闘に向かない魔術師は決して己の素性を明かしてはならない。 勝ちたいのだろう? 生き残りたいのだろう? 醒めない夢を見ていたいのだろう? 願いを叶えたいのだろう? ならば最後まで手を抜かず戦い抜けろ。 「……そんな目が出来るなら裏切りみたいなことしないでよ」 ◆ ◆ ◆ 学園の近くまで来ていたのはタダノと鹿目まどか。 両者の共通点と言えば同じ聖杯戦争の参加者であり同盟も組んでいる。 故に一緒に歩いていることに問題は存在しない。 「もう一度聞くけどいいんだね、まどかちゃん」 「はい。私はいつも誰かの後ろに隠れていました」 喫茶店にて会話を行った時、タダノは事件があった学園に向かうと言った。 警察という与えられた役職柄、向かう必要性が生まれたが何も理由はそれではない。 犯人は犯行現場に戻る――でもないが、確実に誰かは学園に来るだろう。 或いはそのまま潜んでいる可能性もある。つまり敵が居るのだ。 黙っていては何も始まらない。行動を起すべきだ。 その点では鹿目まどかにとって辛い出来事になるだろう。 聞けば彼女は聖杯戦争に巻き込まれた参加者だという。 殺し合いの強要をさせられているようなものであり、中学生には辛い環境を強いられている。 だが彼女は内容こそ明白にしないものの、言葉や表情から何か《裏》を感じさせる。 まるで似たような体験をしてきたかのように、現実は甘くないことを知っているようだった。 「でも自分から動かないときっと後悔するって……ライダーさんを見て思ったんです」 「分かったよ、ただ気を付けてね」 中学生で今を未来の為に動く、後悔しないための選択を視野に入れる子は中々いない。 鹿目まどかは違う、彼女は魔法少女の運命に巻き込まれているから。 「……あんな風にならないためにも、ね」 バイクをノーヘルメットで乗っていた男女二人を見ながらタダノは笑う。 これから向かう先は闇が巣食う魔の学園だが行く前から気負う必要はない。 場を和ませるのも大人の仕事……犯罪者だが今の男女には助けられた。 「学園はどうやら明日は普通にあるらしい。信じられないね」 署からの連絡では学園の復旧作業は今夜の内に終了するらしい。 正直に言って有り得ない。着工までの間が短すぎる。常識の欠片もない。 この世界の治安管理はどうなっているのか。天戯弥勒が創りだした世界なら彼が管理しているのか。 だとすれば納得が出来なくもないが、NPCの存在性を疑う。 「爆発が起きた学園には行きたくないですよね……」 困ったように笑う鹿目まどか。 登校禁止が当たり前だが学園側の判断に理解を示すことが出来ない。 たしか生徒会長はミレイと鬼龍院皐月と呼ばれる二人の女性が担当していたはず。 前者は外国に行っているらしいが後者は規律を守る人間であると聞いている。 そんな彼女なら明日は休校日にすると思う。ここまで考えて鹿目まどかは気付く。 (生徒会長さんがそんな権利持つ訳ないよね) 当然である。 だが彼女達のオリジナルは方向性は違うが決定権に近いナニカを握っていた。 両者が揃ってイエスと言えば大抵の事はどうにかなるだろう。 などと会話をしている間に学園前まで到着した。 感じられる魔力からサーヴァントが居るのは確実だろう。 それも聞こえてくる音は戦闘のモノであり複数いると予想出来る。 「じゃあ行ってくる!」 「え、ええ!?」 戦闘に刺激でも受けたのか霊体化していたライダーは許可も得ずに走っていた。 校門を抜け戦闘が起きているであろう校庭へ一直線だ。 「タダノさん。す、すいません……」 「頭が痛くなる話だけどまどかちゃんは悪く無いからね」 正直に言えば馬鹿な男だとは思うが口にはしない、出来ない。 直感的に動くライダーは生前も世界を駆け巡っていたのだろうか。 猪突猛進勇猛果敢。流石は英霊、怖いもの知らずといったところか。 「あら魅力的な男性ね」 「ふぇ!?」 「心配しないで。僕のサーヴァント、アーチャーさ」 新たに現れたサーヴァントはアーチャー。 鹿目まどかは突然の襲来に驚くもタダノサーヴァントと知って安心する。 タダノからは別行動を取っていると聞いていたが合流したようだ。 「僕はこれから学園の中に入る。アーチャーは此処でまどかちゃんと一緒に待っていてくれ」 「私はダメかしら。宴に混じりたいんだけど?」 「危険になったら呼ぶからその時は来てくれ」 「わ、私も一緒に行きます」 「いや、危険だからちょっと見てくるだけさ。だから此処で待っていてくれ」 「男の人のちょっとはあまり信用にならないけど……いってらっしゃい」 流石に鹿目まどかを一緒に連れて学園に入るのは気が引ける。 そもそも彼女はタダノに出会わなければ恐らく学園に向かう選択をしなかっただろう。 責任を感じているわけでもないが、危険を調べてからでも遅くはない。 「それと一つ言いたいことがあるの」 背を向け歩き出していたタダノをアーチャーは止めた。 何だ、そう思い振り返る。 返ってきた言葉は予想出来ていなかった。 「さっきすれ違ったバイクの男女、聖杯戦争の参加者よ」 「……もっと頭が痛くなったよ」 ◆ ◆ ◆ 「何だか疲れたね」 バイクを止め休憩する紅月カレンとセイバー。 今の学園に居座るのは危険過ぎる。 精神を乗っ取られては安心して過ごすことが出来ないから。 加えて天戯弥勒の通達もある。 一度何処かで情報を整理しなくてはパンクするだろう。 パンクしてしまったらもう一度走りだすには時間が掛かる。 この夜で一度深く聖杯戦争について考えなくては――。 【B-3/アッシュフォード学園外/一日目・夕方】 【紅月カレン@コードギアス 反逆のルルーシュ】 [状態]疲労(中)、魔力消費(中) 、脇腹に切り傷(止血済み) [令呪]残り3画 [装備]鞄(中に勉強道具、拳銃、仕込みナイフが入っております。(その他日用品も)) [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:願いのために聖杯を勝ち取る。 1.ひとまず学園から離れる。 2.食蜂操祈に強い敵意。 [備考] ※アーチャー(モリガン)を確認しました。 ※学校内での自分の立ち位置を理解しました。 ※生徒会の会計として所属しているようです。 ※セイバー(纒流子)を確認しました。 ※夜科アゲハの暴王の流星を目視しました。 ※犬飼伊介、キャスター(食蜂操祈)を確認しました。 ※人吉善吉、アサシン(垣根帝督)を確認しました。 ※垣根帝督から食蜂操祈の能力を聞きました。 ※朽木ルキア、ランサー(前田慶次)を確認しました。 【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】 [状態]魔力消費(小)、疲労(小) [装備]なし [道具]バイク(盗品) [思考・状況] 基本行動方針:マスターに全てを捧げる 1.マスターに委ねる 2.ひとまず学園から離れる 3.消耗を補うためにマスターを休息させるが、最悪魂喰いも…? [備考] ※マスター同様。 ※どこへ向かっているのかは後続の方にお任せします。 「もらったああああああああああああああああああああああ!」 「そうはさせねえェ!」 鞭のように鋏を自由自在に振り回すセイバーの一撃を防ぐランサー。 セイバーは足を振り上げ一歩踏み込むと鋏を左から右へ斬り裂く。 この攻撃を後退することで避けたランサーは突きの要領でセイバーの左肩を貫いた。 「ぐッ!」 「もらったのはこっちだぜッ!」 「でも捕まえた、ぜ?」 左肩から刀を抜くランサー。その瞬間をセイバーは見逃さない。 彼の右肩を斬り裂こうと鋏を振るうが之も回避されてしまう。だがランサーの体勢を崩すことには成功した。 彼女はそのまま前進すると頭突きをかまし、よろけた体勢に追い打ちを掛けるようにタックルをかます。 ランサーに尻もちを付かせると彼女は跳躍からの斬り下ろしを仕掛ける。 だがそう上手く連撃になる訳もなくランサーは之を回避すると足払いで彼女の体勢を崩す。 そのまま走り刀を回収すると構え直し彼女の出方を伺う。 「大丈夫か流子?」 「心配すんな鮮血。あたしの頑丈さは知ってんだろ?」 「そうだったな……来るぞ!」 鮮血と軽口を叩いていたがランサーの方から仕掛けてくるようだ。 思えば纒流子は無傷で勝利したことがない……ある。 だが彼女は多くの戦いで血を流し限界を超えて戦ってきた。 今更この程度の傷では止まらない。故に心配などいらない。 「前から気になっていたけど誰と話してんだ?」 流れる斬撃を鋏で防ぐ。 「気にすんな。それよりもテメェの心配をしろ!」 「心配するのは貴方☆」 声に反応し後ろを振り返ると一人の女子高生が居た。 だが感じる魔力から――キャスターだ。 「テメェの噂は聞いてるぜ、クソ野郎の魔女野郎だな?」 鋏を向け敵意を全開にする纒流子。 「よぉ、リベンジマッチと行こうぜキャスター……ッ!」 己の不甲斐なさを思い出し怒る人吉。 今の彼にはアサシンの仇を取る使命がある。簡単には負けられない。 「……俺に任せるって話じゃなかった?」 「来ちゃった……だって人吉くんがいるんだもん☆」 キャスターの目当ては人吉善吉である。 彼の心を再び折るため彼女はわざわざ校庭まで足を運んだのだ。 「俺はお前を倒す……だからセイバーと契約を交わした」 「嘘つき」 「アゲハには悪いことをしちまったけど……しょうがない。 願いを叶えたいのは俺も一緒なんだ、アイツの分も俺は――は?」 「嘘でしょ。貴方はセイバーと契約何て交わしてない」 キャスターの発言により心が固まる人吉善吉。 彼の思考は《やらかしたことがバレてしまい焦っている》時に似たような感覚に陥っていた。 何故キャスターはセイバーが偽りのサーヴァントだと見抜いたのか。 「おいおい、急にハッタリかますのk「残念だけど操るだけじゃなくて覗ける力もあるの。舌噛みきって死んで☆」」 キャスターの宝具によって心を操られた人吉善吉。 その内容は舌を噛みきって死ね。 己の意思は欠片も残らず涙を浮かべそうになりながら口を開ける。 駄目だった。アサシンの時と同じで。何一つ成果を得ることが出来なかった。 このまま死ぬ。デビルカッコ悪い……今となっては総てが夢のようだった。 無かったことにしたい。そしてもう一度めだかちゃんと……? 「口開けろやああああああああああああああああああ」 気付けば纒流子は人吉善吉の口へ両腕を突っ込み、歯が到達するのを防いでいた。 「どうやったら元に戻せるか知らねえ! けど諦めてんじゃねええええええええええ!」 ランサーとの戦闘を放棄しマスターの救援に向かった纒流子。 人吉善吉は彼女のマスターではない。だが見捨てる理由にもならない。 ダチだ。コイツはアゲハのダチなんだ。なら悪い奴じゃない。死ぬな。諦めるな。 対処法や解除方法は一切知らない。 出来る事と言えば舌を噛み切らないように力で防ぐだけ。 だがこの方法では永遠に解決は生まれない。時間が過ぎれば何とかなる保証もない。 それにこの場には彼がいる。故に背中を晒し続ける事は死を意味する。 「ちょっと待ってろ戦国武将! こちとら取り込んでんだ!」 「戦場で言い訳すんのか、纏?」 刀を構え一歩、確実に一歩ずつ近づくランサー。 セイバーの言いたいことは解る。 人吉善吉の状況も理解している。 キャスターが気に喰わない奴なのも当然知っている。 それでも戦場で敵に背中を晒す相手に情けなど必要もなく彼は無言で彼女達を見つめる。 「怖い怖い☆」 リモコンを持ちながら笑うキャスター。 此処まで総てが自分の思う通りに進んでいるのだ、笑みも零れる。 アサシンが垣根帝督だった時、彼女は死を感じた。 圧倒的戦力差。貧弱な彼女が一時的とはいえあの一方通行を超えた男に勝てる理由など存在しない。 それは学園都市の話であり聖杯戦争にはマスターの足枷が存在する。 彼女の力は対魔力を持っているサーヴァントには無意味だがマスターは例外だ。 それこそ学園都市の高位能力者でもなければ不可能である。 結果として彼女が知る限りでは自分が下手を撃たなければ基本は勝てるのだ。 「見損なったぜ戦国武将! 教科書から消えろ!」 「……」 「見りゃわかんだろ!? テメェの相手してる時間はねぇ!」 「……」 「人吉を死ねせたくねえんだよ! コイツは仇撃てなくてもそのまま帰してやりてえんだ! 邪魔すんな!」 「ひへろらろい!」(逃げろ纏) 纒流子の言葉は戦国武将であるランサー前田慶次には届かない。 最も彼は彼女の敵であり従う道理はない。寧ろ敵を殺すチャンスである。 この好機を逃す程彼は馬鹿ではない。 「やっちゃえー☆」 他人ごとのように傍観者を気取るキャスター。 口からは野次が溢れ我関せず。総ての発端は彼女に在るというのに。 之ぐらいの事を流せないとお嬢様の頂点には登れないのだろうか。 「これで一組消えることになるのね……残るは十三く――みッ!?」 「か、雷か!?」 キャスターはこの後の展開を考えていた。人吉善吉が死ぬ前提で。 しかし訪れたのは彼の死ではなく白い雷が流星のように彼女の腕を貫いた。 傷などの影響は発生していないがリモコンを落としてしまい人吉善吉の心が開放された。 何処から狙撃された、犯人は誰だ、この状況は何だ。 夜科アゲハが流星のような能力を持っていることは既にしっていた。 だが彼の力は黒であり白ではない。そもそもこの場には見当たらない。 ならば一体誰がキャスターを攻撃したのか。答えは登場と共に明かされる。 「これ以上貴様は放置しておけん。恥を知れ魔女め」 彼女の存在を纒流子は知らない。 故に何が起きているか理解していない。 彼女とは一度だけ会ったことが在る。 しかしそれがどうした。人吉善吉は状況を理解していない。 前から好きになれないタイプだとは思っていた。 理解は出来るが受け入れたくない現実がキャスターを襲う。 来ると信じていた。 「変に話せばキャスターにバレるからなぁ。よく動いてくれた」 ランサーは彼女が動くことを待っていた。 「伝える方法は他にもあっただろう。このたわけが」 名を朽木ルキア。 今宵の聖杯戦争では前田慶次のマスターとして聖杯に招かれた。 キャスターの腕を貫いた白い雷はその現象通り白雷と呼ばれている。 死神の力は無い。しかし戦える力が無いとは一言も言っていない。 「助かった……ありがとうな」 「礼はいらん。私もキャスターには腹が立っていた所だからな」 人吉善吉の礼を受けるも彼女は顔色一つ変えずにキャスターを見つめている。 「おかげで俺も動けるぜ――行けるか纏?」 「当然よ。一撃で終わらせてやらぁ」 ランサーもキャスターが行っている悪行を快くは思っていなかった。 他者の心を操る能力。存在自体は納得可能な範囲であるが悪用に回すのは別の話。 しかし彼女は操るだけではなく心を覗く力も持ち合わせていた。 下手にマスターと会話すると情報が漏れてしまい取り返しの付かない状況を招いてしまう危険がある。 警戒しといて正解だった、ランサーは己を心の中で少し褒めていた。 「ランサーよ。お前の考えは解ったが……まぁいい。まずはキャスターが先だ」 「おうよ! 説教なら後で幾らでも聞くからさ。 そんじゃキャスター、ちっとばかし痛い目見るとするか!」 (勝手に仲が直った、みたいな空気だしても知らないのこっちは! この状況はヤバイ……打開策が見当たらない) キャスターの想定では人吉善吉殺害後にランサーがセイバーを倒せば総てが終了するはずだった。 蓋を開ければ人吉善吉は生存、ランサーとの同盟は破棄されたと見て問題ない。 正面からの戦闘では三騎士に勝てる奇跡も存在しない。 「一つ聞きたいことが在る。どうして報道関係者が学園内にいないのだ」 朽木ルキアはこれから消えるであろうキャスターに問を投げる。 一般的な社会ならば学園の爆発事件を取り上げない、なんてことは起きないであろう。 之も宝具の影響なのか。朽木ルキアは尋ねた。 「ええ。変に人が増えたら大変でしょ? 私も貴方もみーんなも☆」 「此処に来てまで猫を被ると言うのか……」 キャスターの態度に頭が痛くなるが本質は違う。 報道関係者の数は多い。その総ての心を操っているとしたらその範囲は強大だ。 能力、範囲。彼女の力は周りの人々を不幸にしてしまう。 「人が増えたら大変? あたしはテメェが居る方が大変だっつーの」 纒流子は当初の目的であるキャスター討伐のために鋏を掲げていた。 目の前の魔女を斬り裂けば人吉善吉は安心して元の世界に帰れる。 彼女からしてみれば此処でキャスターがどれだけ命乞いしようと関係のない話。 「聖杯戦争で巻き込まれた人達の分……NPCやアサシン達の事を俺は忘れねえ。 でも俺が出来るのは此処までだ。後は任せたぜ纏……って俺は何一つ出来てなかったけどな!」 「何言ってんだ。お前がいなけりゃ俺と纏が戦っていない。つまりこの状況が生まれていないんだよ」 己の無力さを嘆く人吉。 それを即座に励ますランサー。 人吉善吉の行動が無ければ、彼の諦めない気持ちが無ければこの状況は生まれていない。 そうでなければ遅かれ早かれ朽木ルキアもキャスターの毒牙に――。 「そう言って貰えると有難い……んじゃ任せた」 纒流子と前田慶次は既にキャスターの目の前まで移動していた。 セイバーとランサー。クラスの名に恥じない英雄が目の前に存在しているのだ。 キャスターの心は絶望に近い黒い色で塗り潰されている。 「そ、そんな……」 口から漏れる言葉は弱々しい。人間一度崩れればそんなものか。 勝算は無い。元々単純なステータスで言えばキャスターは飾りのソレに近い。 振り上げられる鋏と刀。 之が振り下ろされればキャスターは絶命するだろう。 「あ、ああ……ああ!」 死ぬ。 英霊故に一度死んでいる。だがその記憶は薄い。 例え一度死を経験したからといって慣れたことにはならないのだ。 怯えている。 キャスターは聖杯戦争を通して初めて怯えていた。 「最後に言い残すことはあるか?」 「助けて……助けて」 「……その力を悪用したお前が悪かった。 今度会えた時には一緒に酒でも飲むとしようぜ――じゃあな」 「お前ら二人揃って女の子をイジメているのかーッ!!!!」 「は? お前一体誰――っておい!?」 キャスターがこの世を去ろうとしていた時。狙っでいたかのように一人の男が割り込んだ。 その男は麦わら帽子が特徴的であり、ランサーを殴り飛ばした。 大地を転がるランサーは即座に受け身を取り立ち上がる。傷は深くない。 目の前の男は不明だがサーヴァントと見て間違いない。 朽木ルキアから飛ばされた念話によるとクラスはライダーと判明した。 「泣きそうになっている奴に刀を向けてるのかッ!!」 乱入してきたライダーからして見ればこの状況は最悪である。 弱っているサーヴァントを二人で殺そうとしているのだ。セイバーとランサーが悪に見える。 彼の言っていることは事実である。 キャスターの悪事を彼はきっと知らないのだろう。故に事態はややこしい。 「無事か慶次?」 「ああ……でも、面倒な状況になっちまった」 あと一太刀。 たった一度の攻撃があればキャスターはこの世から消え去る。 その瞬間を狙われた。偶然にしては出来過ぎているが偶然なのだろう。 此処まで仕組んでいたとしたらキャスターは大した役者だ――そのキャスターは。 「令呪を以って命じる――ランサーよ、これからはキャスターの命令を聞け」 再び毒素を人間に浴びさせ自分の玩具《人形》を創り上げる。 纒流子、人吉善吉、前田慶次、モンキー・D・ルフィ。 彼らの時間は一斉に止まる。まるでこの世があと二日で終わる事実を知ったように。 「キャスターの言う事を聞け……なぁ刀男。お前のマスター大丈夫か?」 「そう思うならアンタは少し黙っていてくれ……ッ!」 ランサーの問は御尤もであるがお前が言うな。誰もが思っている。 キャスターに早くトドメをささなかった彼らが悪い。しかし乱入者の存在など考慮していない。 状況は最悪だ。 乱入してきたライダーは別にしてランサーの行動圏を握られてしまった。 この場で起きる悪夢――セイバーとランサーの潰し合いだろう。 (俺に出来る事ってなんだ……このままだと纏と戦国武将の殺し合いが起きちまう) 「誰もそんなことさせないぞ☆」 「俺の心を読んでいるのか……ッ」 人吉善吉の心を覗き彼の問に答えるキャスター。 彼女は此処でランサーを戦わせないと言う。ならば彼女は何を企んでいるのか。 我慢出来ない。そう思った纏が斬り掛かろうとした時再び乱入者がこの場に介入する。 「世話が焼けるんだから……乗って!」 「信じてた☆ 流石はマスターね☆」 爆速で校庭に突っ込んできたリムジン。 速度を緩めること無く後部席のドアが開けられると其処には先客が二名。 キャスターである犬飼伊介が洗脳していたNPCに連絡を取り退路の確保をしていた。 その奇跡な流れはキャスターに吹いており女神は彼女に微笑んでいる。 「心配なら貴方も来てね……麦わら帽子のライダーハート」 「ま、まどか!?!?!?」 犬飼伊介が悪い笑みを浮かべたその奥に。 気絶している鹿目まどかの姿が見えた。 「まどかを返せーッ!!」 「なら鬼さんこちら☆ 追ってきなさい」 ライダーを挑発するとリムジンは再び加速を始め校庭空抜け出していく。 このまま行ってしまっては手掛かりが掴めなくなる。 纒流子、人吉善吉、前田慶次、朽木ルキア。 誰もがこの状況に適応出来ていない中ライダーは既に行動を開始していた。 「ギア――2」 大地に拳を降ろしたライダーは一言。たった一言だけ呟いた。 誰もが聞き漏らした静かなる闘志は蒸気となって彼の身体から吹き上がる。 この発熱は彼の怒り、マスターは俺が守る、だから動け、動け、動け。 「何か俺、邪魔しちまったみたいだな。その代わりに――俺がアイツをぶっ飛ばす!」 怒りを起爆剤に変えて。 その速度は加速し彼の早さは普段とは比べ物にならない。 その呟き通り彼のギアは切り替えられ一度回り始めた歯車は止まらない。 リムジンを追いかけるライダー。 距離は離れているが見失うことはないだろう。 その少し先に。車を拝借したタダノとアーチャーが追尾を開始していた。 【C-2/アッシュフォード学園門前/一日目・夕方】 【タダノ ヒトナリ@真・女神転生 STRANGE JOURNEY】 [状態]魔力消費(小) [装備]乗用車 [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争に勝利する 1.キャスターを追跡し鹿目まどかを救出する。 [備考] ※警察官の役割が割り振られています。階級は巡査長です。 ※セイバー(リンク)、カレン、ライダー(ニューゲート)、刑兆について報告を受けました。(名前は知らない) ライダー(ニューゲート)のことはランサーと推察しています。 ※ルフィの真名をルーシーだと思っています。 ※ノーヘル犯罪者(カレン、リンク)が聖杯戦争参加者と知りました。 【アーチャー(モリガン・アーンスランド)@ヴァンパイアシリーズ】 [状態]魔力消費(小) [装備]タンクトップ、ホットパンツ [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を堪能しマスターを含む男を虜にする 1.キャスターの追跡。 [備考] ※セイバー(リンク)、カレンを確認しました。(名前を知りません) ※リンクを相当な戦闘能力のあるサーヴァントと認識しています。 ※拠点は現段階では不明です。 ※NPCを数人喰らっています。 ※現在の外見はポイズン@ファイナルファイトシリーズ(ストリートファイターシリーズ)に近いです。 ※ライダー(ニューゲート)、刑兆と交戦しました。(名前を知りません) ※現在C-4の北東部を飛行しています。 ※C-4の北東部から使い魔の蝙蝠を放ち、バーサーカー(一方通行)を探させています。 タダノから指示を受けたため、他の用途に使うつもりは今のところありません。 [共通備考] ※まどか&ライダー(ルフィ)と同盟を結ぶました。 自分たちの能力の一部、連絡先、学生マスターと交戦したことなどの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。 ※人吉、セイバー(纒流子)、ルキア、ランサー(慶次)、キャスター(操祈)を確認しました。 ※車は学園から拝借(無許可)しています。 残されたセイバーとランサー。 彼らは言葉を交わさず睨み合っていた。 ランサーの主導権は彼でもなければマスターでもなくキャスターが握っている。 この場で戦闘が起きても不思議ではなく一触即発の事態だ。 動けない。 動きたくても動いてしまえばキャスターにどんな指令を下されるのか。 「もう動いてもいいだろ、っと」 その均衡を崩すように人吉善吉は肩に担いだ朽木ルキアを優しく大地に降ろす。 その光景に目を丸くするセイバーとランサー。 「あの状況の中で俺は……悪いけどお前のマスター気絶させた、すまん!」 リムジンが走り去りライダーが追跡を開始した時。 人吉善吉はキャスターが此方側を把握出来ない瞬間を狙って朽木ルキアを気絶させていた。 説明途中にランサーと目が合う。頭を下げ無礼を詫びる、そもそも女性に手を出すとは何事か。心で己を責める。 「いや、助かった……それで今後はどうする? 俺はマスターを連れてリムジンを追ってみる」 「おい、それじゃ危険だろ」 「それでいいんだよ人吉。此処に残っていてもコイツは命令されんだろ? なら近くまで行って一発ぶん殴ったほうが速い……それよりお前もどうすんだ?」 ランサーはこの状況に対しキャスターの追尾を選択していた。 黙っていても何も始まらない。 己の生命が握られているなら潰される前に潰す。 問題は人吉善吉である。 彼の存命時間は日付が変わる前に終わってしまう。 空を見上げれば夕暮れ時、多く見積もって彼の生命はあと二時間だろう。 「俺も行く……「も」っていうか俺「は」だな。 世話になったな纏……アゲハにも伝えてくれよな」 彼もまた諦めていない。 このまま帰ってしまったら一生後悔するだろう。 そんな気持ちを背負い続けるなら、まだ可能性があるなら。 最後まで抗ってみせる、それが彼の決意。 その行いにセイバーは必要ない。 元々セイバーとアゲハには無理を頼んでいるのだ。 それに加えてもう一度協力してくれ、口が裂けても言えない。 「なーに言ってんだ。アゲハもリムジン見つけて追っかけているからよ、行くぞ」 セイバーの返答もまたキャスターの追跡である。 このまま逃しては負けたことになる。それが気に喰わない。 他人の心を操る女だ。生かしておいても碌な事にならないだろう。 「いいのか……また俺に」 「いいって言ってんだろ、だから――行くぞ」 「そんじゃ追うとしますか。俺も人吉も時間は少ないみたいだからな」 こうして学園で発生したキャスター討伐指令は意外な形を以って次へ持ち越す。 その舞台は不明だが他者を巻き込んだ戦闘に代りはないだろ。 戦力――と表現するのは適切かどうかは不明である。 ランサーの実質的な行動権はキャスターが握っている。 セイバーのマスター鞘替えも見抜かれてしまった。 麦わら帽子のサーヴァントが味方かどうかも解らない。 状況は悪くなっているだろう。 だが弱音を吐いている時間はない。 黙っていては人吉善吉が消えてしまう。 それを差し引いてもキャスターを放置する事は危険であり戦争を引き起こす。 彼らは校庭を駆けるとキャスターの追跡を開始する――総ては未来の為に。 【C-2/アッシュフォード学園校庭/一日目・夕方】 【人吉善吉@めだかボックス】 [状態]健康 [令呪]残り二画 [装備]箱庭学園生徒会制服 [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:キャスターを討伐し、アサシンの仇を取る 1.キャスターを追跡し討伐、その後帰還する。 [備考] ※アッシュフォード学園生徒会での役職は庶務です。 ※相手を殺さなくても聖杯戦争を勝ち抜けると思っています。 ※屋上の挑発に気づきました。 ※学園内に他のマスターが居ると認識しています。 ※紅月カレンを確認しました。 ※キャスター(食蜂操祈)を確認しました。 →加えて食蜂操祈の宝具により『食蜂操祈』および『垣根帝督』を認識、記憶できません。効果としては上条当麻が食蜂操祈のことを認識できないのに近いです。これ以上の措置は施されていません。 ※セイバー(リンク)を確認しました。 ※朽木ルキア、ランサー(前田慶次)を確認しました。 ※ライダー(ルフィ)を確認しました。 ※サーヴァント消失を確認(一日目午前)これより六時間以内に帰還しない場合灰となります。 ※残り二時間で彼の身体は灰になります。 【夜科アゲハ@PSYREN-サイレン-】 [状態]魔力(PSI)消費(小) [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く中で天戯弥勒の元へ辿り着く。 1.リムジンの追跡。 2.何かあれば流子と念話で連絡 [備考] ※セイバー(リンク)を確認しました。 ※ランサー(前田慶次)を確認しました。 ※ランサー(レミリア)を確認しました。 【セイバー(纒流子)@キルラキル】 [状態]魔力消費(中)疲労(中)背中に打撲 、左肩に刺傷(修復済み) [装備]片太刀バサミ、鮮血(通常状態) [道具] [思考・状況] 基本行動方針:アゲハと一緒に天戯弥勒の元へ辿り着く。 1.キャスターを追いかけ潰す。 2.何かあればアゲハと念話で連絡 [備考] ※間桐雁夜と会話をしましたが彼がマスターだと気付いていません。 ※セイバー(リンク)を確認しました。 ※ランサー(前田慶次)を確認しました。 ※乗ってきたバイクは学園近くの茂みに隠してありましたが紅月カレン&セイバー(リンク)にとられました。 ※キャスター(操祈)ライダー(ルフィ)を確認しました。 【朽木ルキア@BLEACH】 [状態]気絶中 [令呪]残り二画 [装備]アッシュフォード学園の制服 [道具]学園指定鞄(学習用具や日用品、悟魂手甲や伝令神機などの装備も入れている) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を通じて霊力を取り戻す。場合によっては聖杯なしでも構わない 1.気絶中 [備考] ※外部からの精神操作による肉体干渉を受け付けなかったようです。ただしリモコンなし、イタズラ半分の軽いものだったので本気でやれば掌握できる可能性が高いです。 これが義骸と霊体の連結が甘かったせいか、死神という人間と異なる存在だからか、別の理由かは不明、少なくとも読心は可能でした。 ※夜科アゲハ、セイバー(纏流子)を確認しました。 ※通達を一部しか聞けていません。具体的にどの程度把握しているかは後続の方にお任せします。 ※キャスターから『命令に従うよう操られています』 【ランサー(前田慶次)@戦国BASARA】 [状態]疲労(小)魔力消費(小) [装備]超刀 [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:この祭りを楽しむ 1.キャスターを追跡し倒す。 2.マスターが用済みとなって消される前に勝負を決める。 [備考] ※キャスターを装備と服装から近現代の英霊と推察しています。 ※読心の危険があるため、キャスター対策で重要なことはルキアにも基本的には伏せるつもりです。 ※中等部の出欠簿を確認し暁美ほむらの欠席、そのクラスにエレン・イェーガーが転入してくることを知りました。 エレンについては出欠簿に貼ってあった付箋を取ってきたので更新された名簿などを確認しないかぎり他者が知ることは難しいでしょう。 ※令呪の発動『キャスターの命令を聞くこと』 [共通備考] ※犬飼伊介&キャスター(食蜂操祈)と同盟を結びました。マスターの名前およびサーヴァントのクラス、能力の一部を把握しています。 基本的にはキャスターが索敵、ランサーが撃破の形をとるでしょうが、今後の具体的な動きは後続の方にお任せします。 ※紅月カレン&セイバー(リンク)と交戦しました。 ※人吉善吉を確認しました。 ※ライダー(ルフィ)を確認しました。 ※キャスターとの同盟を破棄する強い決意を持っています。 リムジンの中でキャスターは安堵の表情を浮かべている。 乗り込んだ瞬間、開放感と安心感に襲われ身体から汗が浮き上がっていた。 「あーつーい☆ でも助かった……ついでに人質なんてやるぅー」 「保険よ……それよりも行き先は?」 彼女が助かったのもマスターである犬飼伊介が移動手段を用意していたから。 この可能性が無かったらキャスターはランサーに時間を稼がせようとしていた。 それでも勝算は薄く、現に乱入者のライダーにまで敵対されたら確実に絶命していたであろう。 犬飼伊介の問に考えるキャスター。 少し悩むが答えは簡単に、それも早く出て来た。 「病院……人も多いし迂闊に手出し出来ないから身を潜めるには最適ね☆」 (――そう) 病院。 キャスターが決めた行き先、其処で発生するであろう英霊同士の戦い。 再び舞い上がる戦火は関係のない人々を多く巻き込むだろう。 【C-2/アッシュフォード学園外/一日目・夕方】 【犬飼伊介@悪魔のリドル】 [状態]疲労(小)魔力消費(小) [令呪]残り三画 [装備]ナイフ [道具]バッグ(学習用具はほぼなし、日用品や化粧品など) [思考・状況] 基本行動方針:さっさと聖杯戦争に勝利し、パパとママと幸せに暮らす 0.食蜂操祈に心を許さない。 1.病院に向かう 2.このままでは――。 [備考] ※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』によってキャスターに令呪を使った命令が出来ません。 ※一度キャスターに裏切られた(垣根帝督を前にしての逃亡)ことによりサーヴァント替えを視野に入れました。 【キャスター(食蜂操祈)@とある科学の超電磁砲】 [状態]健康、魔力消費(中) 、焦り [装備]アッシュフォード学園の制服 [道具]ハンドバック(内部にリモコン多数)、購買で買い占めた大量の食品、生徒名簿 [思考・状況] 基本行動方針:勝ち残る。聖杯に託す願いはヒミツ☆ 0.このまま上手く立ち回る。 1.洗脳した生徒を使い情報収集を行う。 2.病院へ逃げ込みこれからの対処を考える。 3.ランサー一行及び犬飼伊介には警戒する。 [備考] ※高等部一年B組の生徒の多くを支配下に置きました。一部他の教室の生徒も支配下に置いてあります。 ※ルキアに対して肉体操作が効かなかったことを確認、疑問視及び警戒しています。 ※垣根帝督が現界していたことに恐怖を抱きました。彼を消したことにより満足感を得ています。 ※人吉善吉に命令を行いました。後始末として『食蜂操祈』および『垣根帝督』のことを認識できなくしました。現在は操っておりません。 ※ランサー(慶次)とセイバー(流子)の戦闘を目撃した生徒を洗脳し、その記憶を見ました。 それにより、慶次の真名とアゲハの能力の一部を把握しました。流子の名を聞いたかについては後続の方にお任せします。 ※天戯弥勒、および聖杯戦争について考察する必要があると感じ始めました。 今の仮説は1、ガイアの怪物以上のなにかを御そうとしている 2、参加者と主催者のために14騎いる 3、参戦しているサーヴァントは一流の英霊ではない 4、アッシュフォードに二人のレベル5がいたのには意味がある [共通備考] ※車で登校してきましたが、彼女らの性格的に拠点が遠くとは限りません。後続の方にお任せします。 ※朽木ルキア&ランサー(前田慶次)と同盟を結びました。マスターの名前とサーヴァントのクラスを把握しています。 基本的にはキャスターが索敵を行い、ランサーに協力、或いは命令する形になります。 ※人吉善吉、アサシン(垣根帝督)を確認しました。 ※紅月カレン、セイバー(リンク)を確認しました。 ※夜科アゲハ、セイバー(纒流子)の存在を知りました。 ※洗脳した生徒により生徒名簿を確保、欠席者などについて調べさせています。紅月カレン、人吉善吉、夜科アゲハの名簿確保済み。 ※ライダー(ルフィ)を確認しました。 ※ランサー(慶次)への絶対命令権を所有しています(宝具による) 「話ってのは今見た映像ってこと」 遊園地で暁美ほむらとキャスターは学園の総てを目撃していた。 セイバーとランサーの戦いからキャスターの逃亡の瞬間まで。 多くの情報を抱えているフェイスレスは底知れぬ笑顔をマスターに向けていた。 (まどかが攫われた……ッ!!) その心境、焦り。 彼女の中に置いて一番大切な存在が誘拐されているのだ。 宇宙の真理とも呼べる大切な存在、決して汚されることのない聖域への侵入。 許されることではない。許されることではない許されることではない。 「それでマスターに今後の方針を聞きたいんだけど」 「あのリムジンを追うわ。他人の心を操るなんて許せない」 それは嘘だ。 鹿目まどかが攫われた。それが総てである。 しかし口には出さない、この男には知られたくない。 こんな男の耳に入れば何かしら嫌なことが起きる、絶対に、確信している。 故に建前は魔女であるキャスターの討伐を掲げて追跡を発言した。 その言葉にフェイスレスはまたも笑みを浮かべる。 暁美ほむらはその表情に怒りを覚えるが此処で爆発しても解決には繋がらない。 今は耐えるべきだ。出来るなら美樹さやかと連絡を取りたいと思う。 (フェイスレスに気付かれないように美樹さやかと連絡は――無理ね) 時間停止を多用すれば可能であるが本調子ではないため危険である。 普段通り時間を止めれれば簡単に事は終わるが、制限されている状況では危険だ。 フェイスレスに気付かれるリスクを考えた場合――鹿目まどかの生命と天秤に掛けている時点で悔しさが込み上げる。 「解った、じゃあ行こうよ。僕も他人を見下した態度が気に喰わないよーん」 「……耳の調子が悪いみたい」 「マスターも人が悪いなー。僕だって英霊なんだよ? ほむらの名前みたいに燃え上がっているワケ?」 「次言ったら殺すと記憶しているけど……その時間も惜しいわ」 「そんなに思い詰めた顔しないでよ。今の僕はマスターの味方だからさ!」 どの口からそんな言葉が出てくるのだろうか。 彼には終始呆れ怒りを覚えている暁美ほむら。 それでもサーヴァント同士の戦いになれば彼に頼らなければならないのが辛いところである。 鹿目まどか救出作戦。 恐らく映像で監視していたセイバーとランサーも現れるだろう。 加え鹿目まどかと一緒に行動していた男とサーヴァントも来る、これは確定だ。 多くのサーヴァントが入り乱れるこの事態、自分のサーヴァントを信頼出来ないのはどう響くのか。 不安しか生まれない。 だがそんな弱音を吐くことは出来ない。 鹿目まどか。 彼女を救うために暁美ほむらは生きてきた――今までも、これからも。 【D-4・遊園地/一日目・夕方】 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]魔力消費(中)、苛立ち [令呪]残り3画 [装備]ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ [道具]グリーフシード(個数不明)@魔法少女まどか☆マギカ [思考・状況] 基本 聖杯の力を以てまどかを救う。 1.鹿目まどかの救出へ向かう。 2.正午までの交渉に失敗した場合、美樹さやかのサーヴァントを奪う。 3.キャスターに対する強い不快感。 ※自分の能力の制限と、自動人形の命令系統について知りました。 ※『時間停止』はおよそ10秒。連続で止め続けることは難しいようです。 ※アポリオン越しにさやか、まどか、タダノ、モリガン、アゲハ、流子、ルキア、慶次、善吉、操祈の姿を確認しました。 ※明、ルフィのステータスと姿を確認しました。 ※グリーフシードを一つ持った自動人形を美樹さやかの下へ向かわせました。伝言は『『彼女を助けるのに協力してほしい。遊園地で待つ』と言っている魔法少女がいる』 ※美樹さやかとの交渉期限は2日目正午までです。 ※美樹さやかの存在に疑問が生じています(見たことのない(劇場版)美樹さやかに対して) 【キャスター(フェイスレス)@からくりサーカス】 [状態]魔力消費(小) [装備]特筆事項無し [道具]特筆事項無し [思考・状況] 基本 聖杯を手に入れる。 1.病院に向かってピンク色の少女を救うと思う。 2.さやかちゃんの回答を待ってるよーん。 3.ほむらの動きを一応警戒。 [備考] ※B-6に位置する遊園地を陣地としました。 ※冬木市の各地にアポリオンが飛んでいます。 現在、さやか、まどか、タダノを捉えています 。 ※映像越しにサーヴァントのステータスを確認するのは通常の映像ではできないと考えています。 ※ほむらから伝聞で明とルフィのステータスを聞いています。明についてはある程度正確に、ルフィについては嘘のものを認識しています。 ※バーサーカー(不動明)を己の目で確認しました。 ※暁美ほむらは何か隠し事をしていると疑っています。 ※美樹さやかと暁美ほむらの関係を知りたがっています。 ※ピンク髪の少女と暁美ほむらには繋がりがあると確信しています。 BACK NEXT 042 魔科学共存理論 投下順 044 とある戦士の相互理解(ウェイトゥアンサー) 042 魔科学共存理論 時系列順 044 とある戦士の相互理解(ウェイトゥアンサー) BACK 登場キャラ NEXT 038 闇夜に生ける者たち エレン・イェーガー 045 右は楽園、左は―― アサシン(ジャファル) 050-a月夜を彩るShuffle Beat ウォルター・C・ドルネーズ&ランサー(レミリア・スカーレット) 039 わが臈たし悪の華 紅月カレン&セイバー(リンク) 朽木ルキア&ランサー(前田慶次) 044 とある戦士の相互理解(ウェイトゥアンサー) 犬飼伊介&キャスター(食蜂操祈) 040 負けたまんまじゃいられねぇ 人吉善吉 夜科アゲハ&セイバー(纒流子) 033 戦争と平和 タダノヒトナリ&アーチャー(モリガン・アーンスランド) 鹿目まどか&ライダー(モンキー・D・ルフィ) 虹村形兆&ライダー(エドワード・ニューゲート) 041 機械仕掛けの運命―回る歯車― 暁美ほむら&キャスター(フェイスレス(白金)) 美樹さやか&バーサーカー(不動明) 046-b 世界を変える力が、その手にあると囁く 042 魔科学共存理論 間桐雁夜&バーサーカー(一方通行) 054 MEMORIA