約 22,501 件
https://w.atwiki.jp/orz1414/pages/265.html
――ガタガタ。 紅魔館の数少ない窓ガラスが、量と反して大きな音を立てている。 嵐だった。それも、数年に一度というほどに大きな、風と雨の合奏である。 「ねぇ、○○」 「……はい」 そんな紅魔館の中に存在する従業員たちの私室の一室にて、二人分の声が蝋燭の火を揺らしている。 その度に二つの影が揺れ、まるで外から響いてくる乱暴な音楽に、身を躍らせているようだった。 それが、二人の僅かな恐怖心を燻らせている。 「ちゃんと、そこに居るわね?」 「あぁ、ちゃんと――」 少女の問いに答えた青年の声が、近くに響いた雷鳴に遮られる。 その合間に僅かな悲鳴の音を聞いて、青年は微かな笑みと保護欲を心に滲ませていた。 「大丈夫ですか? 咲夜さん」 「だ、大丈夫……よ」 強がりを隠しきれていない、普段とは違う咲夜を前に、青年は今度こそ微笑を顔に出してしまった。 幸い、暗い部屋の中では気付かれなかったようである。 青年は今、咲夜の私室にある椅子の上に座していた。 全ては一瞬で、雷鳴と同時に青年は、この部屋に運び込まれていたのである。 そして、青年は少女らしさの残る咲夜の姿を前に、部屋に残ることしか出来なかった。 それは正に、惚れた弱みというものなのである。 「――っ!」 刹那、狭くは無い部屋の中を、白光が塗りつぶしていた。 泣きそうな咲夜の顔が、雷のそれに照らし出される。 遅れて届く雷鳴と共に訪れた暗闇の中、青年は引きずられるようにベッドへと倒れこんだ。 「咲夜……さん?」 「手……繋いでて……お願い」 普段の姿からは想像もつかない弱音を、咲夜は溢していた。 力強い姿からは想像出来ない細い体躯、凛とした姿とは矛盾した泣き顔。 そんな年相応の少女が、青年の目の前に存在していた。 湧き出す粗野な衝動を、僅かな理性で必死に押さえ込む。 咲夜の髪からは、甘い香りがした。 「いいんですか」 「……」 「俺、男ですよ……」 「――貴方なら、いいわ」 その言葉が、留めていた理性を打ち砕いてしまった。 獣の意思を持った腕が、白い肌をすべる。 少女の身体は温かかった、誘うような甘い香りがした。 そして何より、咲夜の身体は震えていた。 肌を滑り、下着の感触を得た指先が、止まる。 「――あ」 鈍い音を聞きながら、青年は腹部に重い衝撃を感じた。 止まっていた指先が、痛みと共に咲夜のから離れていく。 「そこまでしろとは……言っていないわ」 「ご、ごめん……俺」 脂汗と冷や汗が、同時に青年の背を濡らす。 嫌われただろうかと、指先は僅かな震えを見せていた。 「でも、ちゃんと止めてくれたわね」 暗闇の中、咲夜が微笑む気配を近くに感じた。 思わず、青年は顔を上げる。その唇に、微かな感触を覚えた。 「これでお預け……信用してるからね」 「……は、い?」 長い嵐の夜、熱のこもった青年は眠れそうも無かった。 そして、紅魔館の最上階に閉じこもる吸血鬼の泣き声は、夜明けまで続いたという。 7スレ目 952 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「あ、○○」 長い廊下を歩いていると、何処からともなく声をかけられた 「?」 見回してみるが誰もいない こんな長い廊下、隠れる場所など・・・? 「こっちよ」 この声は咲夜さんか? しかしどこ・・・え? 「さ、咲夜さん!?そんなところで何を?」 窓の外側からぴょこっと頭だけが出ている 「何って割れた窓を直してたのよ・・・あんまり近づくと灰になるわよ」 「え・・・危ない危ない」 うっかり日の光を浴びそうになる、まだ自覚が足りない証拠だ 「よっ、と」 窓を乗り越えて廊下に着地 乗り越える時にスカートの中が見えtげふんげふん 「ねぇ○○・・・今夜時間あるかしら?」 「え、こ、今夜ですか?何か作業が入れば解りませんが、今のところ空いてます・・・何かあるんですか?」 「ちょっとした宴会よ、博麗神社で」 「ああ、噂に聞く宴会ですか・・・面白そうですね」 「でしょ?それじゃあ行けそうだったら日が暮れてから私の部屋に来てちょうだい」 「はい、解りました」 「それじゃあお互いにがんばりましょ」 用件が済んだのか、変な工具類を持って足早に廊下の角を曲がっていった 「・・・宴会かぁ・・・どんな人が来るのやら」 博麗の巫女さんは人間の時に見たことある 鬼がいるらしいけど・・・俺も鬼の端くれだから、友達になれるといいなぁ 紫様には会いたくないな、聞いた話レミリア様より怖いらしい 「おっと、仕事仕事」 俺は足元に置いた荷物を抱えなおした 速めに仕事を終わらせてしまうために、がんばろうではないか 後10分もすれば外に出れる程度の暗さになるだろう レミリア様は行かないらしい フラン様はいつもどおり外出禁止 そういえば・・・パチュリー様は? まぁ大人数で集まるのは苦手そうだし、そもそも外に出るのは嫌いらしいからな こんこん、乾いた木の音が響く 「咲夜さーん、きましたよー」 「○○?ちょっと待ってねー」 言われた通りちょっと待った 「ごめんなさい、待たせたわね」 「いえいえ、問題ないです・・・」 なんか違うと思い、じっくりと見てみた スカートがちっと長い?リボンがちょっと派手? 手首になんかアクセサリーが・・・珍しいと言うか、女の子みたい、じゃなくて女の子だったな 「な、なに?」 「あ、いや、えっと・・・似合ってますよ」 「え?・・・ありがと」 何気ない一言で、ここまで上機嫌になってくれるのか そう思えば、世のモテル男はこれを無意識でやってるんだなぁ、凄いな 「お、メイド長のお出ましだぜ」 「あら、遅かったじゃ無い」 白黒の不法侵入者と、紅白の巫女が出迎えてくれた、その後ろではわいわいがやがやと、いかにも宴会らしい騒ぎ声 「お?○○じゃ無いか、宴会は初めてか?」 「よう魔理沙、酒は飲めるが腹の方が減ってる」 「えっと・・・誰?」 なんと、巫女さんのほうは俺をご存じなかったらしい 館で何度か遭遇してると思うんだが、まぁ扱い的には雑魚の束ね役の雑魚て感じだし 「紅魔館で執事をしている○○です、以後よろしく」 「博麗霊夢よ、ここの巫女をしてるわ・・・よろしく「れーいーむー熱燗マダー」 「・・・まぁゆっくりしていってね」 「さて・・・まあ飲むでも喰うでも早く行かなきゃな、なくなっちまうぜ」 「そうね・・・行きましょ○○」 「は、はい!」 手を引かれて皆の輪に入った いつの間にか握られていた手に、少しどきりと、した この鬼・・・いつになったら潰れるんだ? 最初は気さくに話しかけてきた伊吹さん(年齢不詳) 酒蔵が潰れるぐらいの量を飲んだのではないか?それに酒が入るにしたがって饒舌に・・・五月蝿くなって来る 出来れば酔いつぶれてくれるとありがたいのに・・・全然だ チクショウ!八岐大蛇だって酔いつぶれたのに!! 「どうしたの○○く~ん全然飲んでないじゃんYO!」 「大丈夫ですよ!伊吹さん!どうぞどうぞ!」 「あ、どもども~・・・んぐんぐ」 ちょ、ざるってレベルじゃねぇぞ!? このまま頑張るっきゃないなぁなんて思っていたら、嬉しい助け舟が来てくれた 「ちょっと○○を返してもらうわよ?」 「あー咲夜ずるーい」 ずるずると引き摺られて、端の方に腰を下ろした 「咲夜さん、助かりました」 「ふふ、お疲れ様」 あれ?なんか雰囲気が・・・? 「咲夜さん?なんか酔ってません??」 「酔ってる?私が?・・・大丈夫よ、ふふふ」 大丈夫に見えないです、うふふって笑ってます、何が楽しいんですか? ニコニコしてますよ?上機嫌ですね 「ねぇ○○」 「な、なんですか?」 ちょ、近い近い、顔が近いですって よくみたら目の焦点が合ってないじゃ無いですか?大丈夫ですか? 「ちゅー」 「え?ん、ぐ」 何が起こったか解らなかった だって完全に油断していたから、だってあのメイド長だぜ?酔ってるからと言えこんな破廉恥な、その・・・キスを 「んちゅ、んんっ」 官能小説で言う所の淫らな水音がしております もうなんかドロドロで、べたべたで・・・ 「ぷぁっ」 「ぷはっ・・・ふぅ」 「えへへ、○ー○ー♪」 「おわっ」 咲夜さんは俺に体をあずける様なかたちで抱きついてきた 「さ、咲夜さ・・・ん・・・ね、寝ちゃった?」 抱きつかれたまま固まる俺、抱きついたまま寝てしまった咲夜さん そして・・・周りからの痛い程の視線 「・・・」 「大胆ねぇ」 「写真に収め済みです♪」 「言っとくけどここ神社よ」 色々と終わった、俺の命とか人生とか でもちょっと儲けもん?だって、腕の中の感触と、さっきのキスだけで、お腹いっぱいだぜ、だぜ 今のうちにと、腕の中で眠る咲夜さんを抱きしめておいた 10スレ目 731 ─────────────────────────────────────────────────────────── 今思えば、私は嵌められたのだと思う。 「咲夜さん、これを」 それは普段着ているようなメイド服でもなく、柔らかくさらりとした手触りの光沢のある黒のドレスだった。 普通の女の子なら一度は憧れる代物だ。 身体のラインを強調するような黒のそれは太腿から深いスリットが入っていた上に、胸も必要以上に強調されるようなデザインになっていて、 それを着るには大分勇気を必要としたけれど、レミリアが着ろと言うのだから逆らうことも出来はしない。 美鈴に手伝ってもらいながら何とか四苦八苦してドレスに腕を通した。 「咲夜さん、凄く綺麗です」 そう言って、美鈴は軽くメイクを落としていく。咲夜さんの肌は綺麗ですね、だからあんまり弄らなくてもいいかな。 アイラインを引いて、口紅を差す。 いいですよと言われて目を開ければ目の前の姿見に見知らぬ女が映っていた。 揺るぎない銀の髪が辛うじて自分であることを知らしめる。 「これ、履いてってレミリア様が・・・・」 「・・・・分かったわ」 ドレスと同じ黒のエナメルの靴を履く。 大きく背中の開いたドレスといい、華奢な造りと高い踵の靴といい、全てが心許なかった。 「咲夜さん、その・・・・私たちの事・・・・」 「美鈴、留守を頼んだわよ。・・・・・さあ咲夜、行きましょうか?」 現れたレミリアにはいと頷く。 美鈴はどこか悲しそうな顔をして、私が連れて行かれるのを見ていた。 行きましょうか、と言われたものの、何処へとは聞けなかった。 聞いていいような雰囲気ではまかり間違ってもなかった。 飛行しながら、流れる景色をぼんやりと見つめながら思う。果たして私は、何処に行くのであろうかと。 数分もかからずにレミリアは地上に降り立った。 それを見てこちらもゆっくりと下降する。 先に降り立ったレミリアが促すようにその手を伸ばしてくる。 少し躊躇った後に指先を重ねて動きにくい靴と格闘しながらのろのろと歩いた。 きっと靴擦れが酷いことであろう。 目の前には数回訪れたことのある屋敷があった。 重厚な扉を開いて、人のいない廊下を歩く。 かつかつと信じられないほど大きく足音が響く。柄にもなく緊張しているのかもしれない。 どうしてこんな格好をしているのかは知らないけれど、これから会いに行く人物には心当たりがあった。 こんな屋敷で用のある人物といえば、ただ一人。 「待たせたわね」 思っていた通りの場所でドアを開けたレミリアに、ある種の落胆と絶望が滲む。 「・・・・・待つ時間っていうのは、どうしてこうも長いんだろうね。レミリア、咲夜」 「・・・・・・」 他の給仕も執事も、誰もいない部屋で彼は一人静かに佇んでいた。 明るい茶色の目と視線が合う、と思った瞬間にはすでに彼は目の前にいた。 いつの間にかレミリアに預けていた手は彼に繋がれている。 「最後に会ったのはあの悪魔の妹君と一緒の時だよね、咲夜」 「・・・・っ、△△・・・・」 「○○、だよ。咲夜が呼びやすい呼び方で呼べばいいけど苗字は駄目」 今日から咲夜は俺のお嫁さんになるんだから。 確かな笑みと共に吐き出された言葉に驚愕した。 そんなことは、知らない。 何かの間違いではないのかとレミリアを見遣ったが、ただ静かに微笑み返されただけだ。 それだけで十分だった。彼の言葉が紛れもない真実だということを思い知るには。 目の前が真っ暗になって、力が抜ける。 みっともなく床の上に崩れ落ちるかと思ったけれどそんな無様な姿になる前に、○○に腰を取られた。 そのまま抱え上げられてソファの上に横たえられる。 ふわふわと沈み込む柔らかな感触が、まるで浮世離れしているのではないのかという錯覚を起こさせた。 理由なんて分からない。 けれどこの格好はその為だったのかと合点がいった。 勿論分かったからといって嬉しくも何ともない。 「咲夜」 「レミリア・・・・様」 「こうなったのは私の責任よ。・・・・私が、彼に負けたから。恨む?」 「・・・・・・」 無言で首を振る。 嫌で嫌でたまらなかったがだからといってレミリアを恨むのはお門違いだ。 例え本当にレミリアの言うとおり彼女の行為の何かが原因だったとしても恨めるはずがなかった。 「・・・私は、いいんです」 「・・・私は貴女の幸せを心から願っているわ。貴女が嫌だと言うのならこの話は―――」 「レミリア」 静かな、威圧的な声だった。 ぞっと皮膚が粟立つ。 初めて出会ったとき、この男はこんな声はしていなかった。 震える拳をきつく握り締めて、真っ直ぐに見上げた。 薄らと笑う瞳と視線がかち合う。 それからレミリアを見遣った。・・・悲しそうな、顔をしていた。 「・・・いい、です。結婚でも、何でもします」 「咲夜・・・・」 「紅魔館の皆さんのことを、よろしくお願いします」 それだけしか言えなかった。 覚悟を決めても所詮はその程度ということだ、情けない。 温かなレミリアの手が頭に触れた。 そのまま小さな子供を宥めるように、くしゃりとひとつ髪を掻き混ぜられる。 たったそれだけのことで身を切られるような思いだった。 この温もりはもう二度と手に入れられないのかもしれない。 「○○」 「分かってるって、レミリア。ちゃんと幸せにするよ・・・咲夜」 のろのろと顔をもう一度○○に向ければ毒を持った笑みで返された。 幸せになんてなれるはずがない、美鈴もパチュリーもフランも小悪魔も敬愛する主君であるレミリアもいない世界に自分の望む幸せがあるとは到底思えなかった。 投げ出したままの左手を取って、その薬指に指輪を嵌められる。 細くて華奢でシンプルな指輪だ。 虹色の石が嵌っているがそれが何なのかは生憎と分からなかった。 「オパールだよ。綺麗だろう?似合うと思ったんだ」 そう言って指輪を嵌めた(彼のものになった)手をそっと握って、口付けられる。 そのまま強く指に歯を立てられた。 反射的に逃れようとしたら更に強く手を握られる。 おそらくは血が滲んだのだろう、赤く濡れたものが見えた。 「・・・・っ、あ」 「浮気防止に、もう一つ」 ぺろりと唇を舐めて、爽やかに笑う。 レミリアの表情は悲しげなまま凍りついたように動かない。 だから、それ以上彼女に負担はかけたくなくて、大丈夫ですと言えば無理矢理納得したような顔をしてそれでもしっかりと頷いてくれた。 「・・・・じゃあ、私はこれで」 「いつでも遊びに来ていいって、紅魔館のみんなに言ってあげて」 「お気遣い、結構よ」 それだけ言ってくるりとレミリアは後ろを向く。 その背中が全ての言葉を拒絶していて、だから何も言えなかった。 彼女の後姿がドアの向こうに消えて、その足音すら捕らえられなくなって、もう一度ソファに沈み込んだ。 靴はすでに○○によって脱がされていた。 思考が同じ所で停滞している、何もかも考えるのに疲れた。 張り詰めた神経が緩むこともなくそのままいつか切れてしまいそうだと思いながら、目を閉じる。 とにかく今は眠りたかった。 目が覚めたら全ては夢だったという都合の良い話はないだろうか。 瞼を閉じたらとうの昔に枯れたはずの涙が二粒、頬を流れ落ちた。 補足。 十六夜咲夜 元紅魔館のメイド長。 咲夜に目をつけた○○とレミリアの賭け戦闘でレミリアが負けてしまったため、○○の嫁になることを決定付けられる。 それ以降すこぶる腹黒な旦那に振り回される毎日を過ごすことに。 ○○にあまりいい感情を抱いていない(レミリアを負かしたので)。 ○○ レミリアより強い、最強?な○○。 性格はすこぶる黒い、とにかく黒い。腹の底まで真っ黒。 事実かどうかは分からないが全て計算づくの上で奸計用いて咲夜をゲットしたとかしなかったとかいう、そんな。 多分十中八九本当のこと。 意外にも結婚生活自体にはどちらかと言えば乗り気なようで、ことあるごとにあの手この手と咲夜を虐めては(困ってたり屈辱に打ち震えていたりする姿を見て)楽しんでいるらしい。 心の底から性悪ですね。 でも咲夜のことを本当に心から、 レミリア・スカーレット 親馬鹿、咲夜馬鹿。 ○○との戦闘に負けて泣く泣く咲夜を嫁に出すことになってしまった。 彼女が嫁に行った日は一人で枕を濡らしていたとか何とか。 うpろだ589 ─────────────────────────────────────────────────────────── 俺がプロポーズしてから一月ちょっと 彼女が十六夜に別れを告げて一月弱 特に変わったわけでもなく、ただいつものように、毎日が過ぎて行っている 正直に言えば彼女が来てから店の方も繁盛してるし、人でも増えて楽になった でもまだ何となく、その・・・嫁に来たという実感が湧かないのも事実だ いまだ恋人のまま、同棲しているような感覚 いったい結婚とはなんなのだろうか? 「幻想郷に・・・紅魔館に来て、お嬢様のお世話をして、パチュリー様にお茶を入れたり図書館の掃除をしたり、メイドたちをまとめたり、サボってる美鈴を怒ったり」 彼女はまるで遠い遠い昔の事ように話す、瞳は悲しげに、口調は柔らかく 「霊夢や魔理沙が遊びに来て、たまにそれを撃退したり歓迎したり、異変の時も色々と大変だったわ・・・それでも凄く・・・楽しかった」 俺があまり知らない彼女のメイド生活、だか実に解り易く・・・光景が目に浮かぶようだ 俺の知らない彼女を、見て見たいなんてすこし、思った 「このまま年老いて死ぬのも悪くない、むしろ恵まれているなんて思ってた・・・でも」 俺とであった、俺に恋をしてくれた、そして俺も恋をした 「まさか自分が普通の人間みたいに・・・人を好きになって、体を重ねて、プロポーズまでされちゃって・・・幸せすぎて、夢なんじゃないかって、でも夢じゃなくて」 もし夢でも、俺は夢から現実まで出張って、君をさらいに行くよ 「紅魔館にいたときが一番幸せなんだと思ってた、いろんな人に大切にされて、幸せだった、危険もあったけど、充実してたし、満足してた」 「・・・じゃあ、何で君は俺との生活を選んだ?」 俺は、彼女も俺とおなじ事を言ってくれると信じて、一つの質問を、投げかけた 「それは・・・私はあなたを愛してるから、そして彼方が私を愛してくれるから――」 俺も、同じ気持ちだ 俺達は愛し合ってる、だけどまだ夫婦ではない、まだ俺達は彼氏彼女なのだ 何か区切りが必要なのだ、人によって色々だが、最も一般的なのは結婚式だろう、それと 「・・・古くは蛤の殻などを渡していたらしいが」 「?」 「まぁ一般的に・・・これが一番だと思ってな」 いつ渡そうか、ずっと出番を待っていた控え選手 温めていた身体、待ちわびていた気持ち 「え・・・指輪・・・」 「あんまりいいものじゃ無いが(推定月収8か月分)外から取り寄せてもらうのに金が掛かっちまってな・・・」 「綺麗・・・白金?」 「ああ、君には銀が似合うと思ったんだが・・・まぁいつまでも色あせない二人の愛情と言う意味も込めて・・・白金で」 ああ、俺はなに言ってるんだ、よくもまぁ恥ずかしい台詞をいえたものだ、素面なのに 「あ、ありがとう・・・やだ、嬉しすぎて」 涙が、ぽろぽろと零れ落ちた 俺もつられて泣きそうになるが、其処は男ですから、しっかりと胸で受け止めてやらんといかん 「咲夜、結婚式とやらををあげようか」 「え?・・・な、なんで?」 「区切りをつけよう、それと・・・お世話になってる連中に、幸せになる、って宣言しなきゃ・・・な」 お嬢様と妹様と引きこもりと小と中国とメイドsと霊夢と魔理沙とアリスとそれから、それから・・・ 「そうね・・・うん、皆に自慢しなきゃね、私幸せですよ、ってね」 なんか違う気もするが、彼女はそれでいいのだろう、周りも、俺も・・・たぶん 陽気ぽかぽか、昼寝をするには丁度いい昼下がり あの人がいなくなって、怒られる回数は減ったけど・・・ちょっと、いやだいぶ寂しい 「美鈴、頑張ってるかしら?」 「・・・・・さ、咲夜さん!?きょ、きょうはどおして!?」 「ふふふ、ちょっとね」 久しく聞いたのは、偉く上機嫌で、透き通るように綺麗な声だった 「お嬢様、いらっしゃいますか?」 久しく聞いた従者の声、幻聴かと思ったが間違いなく、其処に姿があった 「咲夜!?まさかもう・・・別居!!?」 「ち、違いますよ!そんなことは全然」 あの男に任せて、良かった、そう思わざるを得なかった 咲夜がこんなに幸せそうに・・・ 少し、いや凄く悔しい 「今日はちょっとした、報告とお願いを」 「報告とお願い?」 「私達・・・結婚式を挙げる事にしました」 To be continued! うpろだ591 ─────────────────────────────────────────────────────────── 理由は特に無かった。 人を好きになることに理由は要らないという言葉は本当らしい。 彼女を目で追い始めたのは何時からだったろうか。 ここは紅魔館のとある一室。 丁寧に掃除をしながら俺はいつものように彼女のことを考える。 十六夜 咲夜、俺の心を捉えて放さない人。 最初はそれほど気になる人ではなかった。 周りのメンバーの印象が強すぎて、常識人に見えたのが彼女くらいだった所為なのだろうが。 話せば長くなる成り行き上、ここで仕事をすることになった俺の上司。 ただ、彼女はそうであるはずだったのに。 何時からか変わっていた。 彼女の性格、仕草、言葉。 そういった何気ないものが俺にとって妙に気になるものになっていた。 「さて、こんなものか」 部屋の隅から隅まで掃除し終えた俺は部屋に置いてあった椅子に腰掛ける。 その状態から椅子にもたれかかり、天井を見上げる。 「何やってんだろう、俺」 彼女を想い続け、数年が経った。 何時までこんな半端な状態を維持するつもりなのだろう。 何度も彼女にこの想いを伝えようと思った。 その度に俺の中にある理性が必ず警告するのだ。 断られればそのあとはどうなるのか、と。 咲夜さんと今までのように接することができなくなる。 それどころか、俺は告白する覚悟など持ち合わせていないのだ。 現状維持――その言葉がいやに俺の頭の中を駆け巡る。 どんなに悩んでも変わらない、もどかしい状態が続いてきた。 彼女を見ていると何時だって俺という存在が霞む気がした。 大した力も無い、ドジを踏む、融通が利かない、器量も普通。 それに比べて彼女は完璧と呼ぶに相応しい。 そんな俺が彼女と共に居たいと思うとはなんともおかしな話だ。 「は、自虐が過ぎるか」 そう弱気な自分を一蹴してみてもやはり皮肉の言葉が沸きあがってくる。 「ああ、畜生。どうしてこんなに愛おしいんだ。どうしてこの感情を伝えられないんだ。どうしていつも踏みとどまっちまうんだ」 自分でも気がつかないうちに言葉が勝手に紡がれる。 少しずつ声が大きくなっていく。 分かっているのに、抑えられなかった。 ガタ…と部屋のドアから音がした。 誰か居るのかと思ったころにはもう遅く、既にその誰かへと呼びかけていた。 「誰だ?」 言い終わった直後に気配を消しながら音を立てずに素早く動きドアを開ける。 そこに居たのは驚いた顔で俺を見つめる、先ほどまで俺が思いを馳せていた咲夜さんその人だった。 「咲夜さん?どうしてここに?」 いきなりドアが開いたことに対して咲夜さんは驚いているようだ。 それもそうか、時間を止めようとしている間にこうなれば。 「え、あ…その…そろそろ掃除が終わったかと思って様子を見に来たのだけれど…」 戸惑いながらも彼女はここに来た理由を告げる。 しかし、何故か妙に落ち着きが無い。 本来の彼女なら既に平静を取り戻しているはずなのに。 ……嫌な予感がする。 俺はその嫌な予感を確かめるために彼女に一つ質問をした。 「あの、さっきの言葉……聞いていましたか?」 「い、いえ。聞いてないけど」 嘘だと直感した。 何故だか分からないが、俺と同じような感じがしたのだ。 「嘘ですね。そもそも、この部屋には防音加工が施されていないですし、あれくらいの声ならば聞こえてもおかしくは無いはずです」 「っ!」 咲夜さんの一瞬見せたその顔で俺は確信した。 「図星ですね」 彼女が慌てて取り繕ってももう遅かった。 それからしばらく言いようの無い、居心地の悪い静寂が辺りを包んだ。 「その・・・ごめんなさい」 「いえ、別に構いませんよ」 言葉が続かない。 さっきからバクバクと早鐘を打つ心臓が酷くうるさい。 彼女に聞かれていた恥ずかしさと、今後の彼女との関係はどうなるのだろうという不安が綯い交ぜになって、本当に落ち着かない。 「あの、私でよければ相談してくれないかしら」 なんとなくわかっていた。 彼女ならそう言うのでは、と。 その言葉を聞いた途端に彼女との距離が遠くなった気がした。 「そういうこと、私には経験が無いけど、私ができる範囲内なら協力してあげるから・・・」 そう言って微笑んだ彼女の表情はまさしく俺を連想させた。 本当に悲しそうで、本当に辛そうな、秘めこんで消してしまおうとする表情を見て、俺はただ、ここで何かを言わなければならない気がした。 「いえ、その必要はありませんよ」 自分の心を奮い立たせて言葉を紡がせる。 何を戸惑う、ここで言わなければ全てにおいて後悔する。 それで本当にいいのか。 「え・・?」 「聞かれていたのなら、もう踏みとどまる必要はありませんからね」 さあ、言おう。 秘め続けたこの想いを。 ただ、その為に今の俺はここにいる。 「咲夜さん、俺は貴女のことが好きです」 一度溢れたら、もう流れは止められない。 なんと思われようが構うものか。 今この瞬間だけはこの想いをぶつけたい。 「咲夜さんの声をもっと聞きたい、咲夜さんの笑顔をもっと見たい、咲夜さんの心に少しでも触れたい、 咲夜さんに少しでも近づきたい、咲夜さんを近くで感じたい、咲夜さんのことを知りたい、咲夜さんを愛したい。――――」 俺の言葉は止まるところを知らなかった。 最初は口をぽかんと開けて呆けた表情を浮かべていた彼女だが、次々と述べられる言葉を理解していく内に、その顔が徐々に赤く染まり、 遂には視線を泳がせて慌てふためき始めた。 「あ、う・・あ、あの・・その・・・」 もはや彼女は、完全に落ち着きを失っている。 その様はいつオーバーヒートしてもおかしくない程だ。 対して俺は、自分の心から次々と湧き上がる言葉をただただ口に出すことに必死なので、まったくといっていいほど彼女の様子を気にしていなかった。 「こんなことをいきなり、しかも勝手に言って迷惑なのは承知しています。けれど・・・駄目でしょうか」 「っ、そんなことない!」 ほぼ即答だった。 「私だって、あなたのことが・・!その・・す、好き・・」 段々と消え入りそうになる声。 しかし、最後の言葉ははっきりと聞こえた。 そう言われて俺は気がついた。 彼女も同じだったのだと。 そう分かると、なんだか顔が一気に熱くなってきた。 たぶん耳まで真っ赤なのだろう。 「えっと・・本当、ですか?」 「嘘でこんなこと、言わないわよ・・っ!」 ああ、これではっきり分かった。 そして、なんとなく顔が綻んでいるのが自分でも分かる。 再び沈黙が辺りを包んだが、今度はあの居心地の悪いものとは違う、どこかむずがゆいような…まあ、悪くない沈黙だった。 「えーっと、咲夜さん、ってあれ?!」 気づいた時には、彼女はもうそこにいなかった。 恐らく時間を止めて何処かに行ったのだろう。 「・・・まあ、いいか」 そう、まだ時間はたっぷりある。 ようやく進展したのだ。 もう恐れる必要は少なくとも無い。 さっそく、彼女を探しに行こう。 どんな顔をして会えばいいか分からないが、とにかく会いたい。 そう思った瞬間、彼女との距離が近づいたような気がした。 さあ、行くか。 11スレ目 58 ─────────────────────────────────────────────────────────── う~ん、今日はヒマだなー 黒白も紅白も来ないし、毎日こんなだといいなー って咲夜さん!?いつからここに? え?ヒマだなーの辺りですか?いや確かにヒマだっていいましたけどサボってたわけじゃ…… ちょ、咲夜さんナイフはやめてください! ~少女説得中~ はあはあはあはあ、た、助かった…… それにしても咲夜さん今日はやけに機嫌、悪いですね さては○○さんと何かありました? え?何で分かったかって?そりゃ分かりますよ これでも私咲夜さんの何倍も生きてるんですからよ 恋をしたことだってありますし結婚だってしましたよ、子供は……できませんでしたけどね …………そんなに珍獣を見たみたいに驚かないでくださいよ まあ彼は人間でしたからもう死んじゃったんですけどね 悲しくなかったのかって?そりゃ当時は泣きましたよ、泣いて泣いて泣いて それこそ泣かなかった日なんてないぐらいでした でも、それでも私はあの人と結ばれたことを後悔はしていません だから、咲夜さんも後悔はしないでくださいね これは人生の先輩からのアドバイスとでも思ってください ○○さん、もう咲夜さん行っちゃいましたよ 私の話、聞いてましたよね?だったら私の言いたい事分かりますよね 咲夜さんにも言いましたけど後悔だけはしないで下さいね ふぅ、二人とも世話が掛かるなぁ でも、あの二人を見てると昔のわたしたちを思い出すなぁ…… あなた、私は今日も元気であなたを愛しています 美鈴は妖怪で長生きだから昔結婚しててもおかしくないんじゃないか? って事で書いてみた美鈴しか喋ってないけどwwww 8スレ目 207 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「フラン!早く部屋に戻りなさい!!」 「やだっ!もうあんな暗いところは飽き飽きよ!!」 紅魔館の中を縦横無尽に走り回るスカーレット姉妹、どうやら妹様があの部屋から脱走なされたようだ 「○○!フランを止めなさい!」 「ええっ!?私が!!?無理です!無理です!!」 「ゴメンね○○」 俺の横を抜ける時に妹様は確かにそういった すぱっ、っと綺麗に腕を切られてしまった 「ちぃっ!あのバカ妹!!」 そう言ってレミリア様も何処かへ行かれてしまった 「・・・切られ損・・・左腕どうしようかなぁ」 俺は吸血鬼(出来損ない)なのでこれぐらいはなんとも無いが・・・痛いorz とりあえず切られた左腕を拾って途方にくれた 「パチュリー様、治癒魔法って使えます?」 仕方がないので図書館へと足を運んだ 紅魔館の頭脳!引きこもり!エレメントマスター!喘息患者! 魔法使いパチュリー・ノーレッジ 彼女に聞けば大抵の問題は解決してしまうのだが 「咲夜に頼めば?彼女裁縫は得意よ?」 「いや・・・治癒力が弱いもので・・・」 「貴方腐っても吸血鬼でしょ?表面さえくっつけば遅くとも1日ぐらいで治るはずよ」 彼女はすぐに読書に意識を向けた、こうなってはもう言葉も届かないだろう 仕方がないので咲夜さんの所へ 「腐っても吸血鬼か・・・ほんとに腐ってるから笑えないなー腐った死体に改名しようか」 「何をブツブツ言ってるのよ、怪しいわよ」 「あ、咲夜さん、丁度いい所に」 「?」 これまでの経緯を説明し左腕の表面をくっつけてくれるようにお願いした 腕の接合なんて嫌がられるかと思ったがすんなり受けてくれた 「貴方も吸血鬼何だから避けるなり受けるなりしなさいよね」 「は、ははは・・・」 「ちょっと!?こんな事で落ち込まないでよ!」 「いや・・・此処に来てから一度も役に立ってないな、と思って」 妹様に逃げられる、侵入者を止められない、掃除も料理も並以下 出来るのは夜の見回りとメイド達が出来ない力仕事ぐらい 「はぁ・・・俺は、駄目だなぁ」 「・・・少なくとも、メイド達は貴方の事頼りにしてると思うわ」 「そう、ですか?」 「優しいし、何でもよく気付くし、力持ちだし、家具の移動とか楽になったわ」 「・・・少しでも役に立ててるなら幸いです」 「私は・・・貴方が此処に来て最初は胡散臭いと思ったけど・・・今は、大好きよ」 「へ?・・・え?大好きってその・・・」 「さぁ、腕もくっついたし、仕事に戻りましょ!」 「あ、ありがとうございます、あ、あの、咲夜さん?」 「ん?」 「それってどういう 彼女は優しく微笑んで部屋から出て行った、俺はその笑顔があまりにもまぶしくて思わず見とれてしまった それ以上に自分で何を言われたかまだ理解できないでいた 「―ッ!」 彼女の言葉と微笑を、理解したと言うか、思い出したというか とたんに恥ずかしくなってその後は仕事にならなかった 「LOVEなのかvery LIKEなのか・・・うーん」 8スレ目 430 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「いらっしゃい・・・なんだ、君か」 里のはずれの方に建つ一軒の怪しげな家、いや正確には店、か 「お客になんだとは失礼ね」 其処に訪れたのはメイド服のパッdげふんげふん、十六夜咲夜だった 「頼んでいおいたのは出来てる?」 「ばっちり、あまり乱暴に使うなよ、すぐ刃毀れするからな」 そう言って数十本の短剣を渡した 「わかってる、けど投げナイフはもともと消耗品でしょ」 代金を払い、短剣を鞄にいれた 「・・・」 「・・・」 じっと見つめあう、よくわからないが張り詰めた雰囲気だ 「わかったよ、お茶飲んでいきなお嬢さん」 「ありがと♪今日もゆっくりしていくわ」 ナイフ研ぎで2時間も3時間も粘られるとは・・・しかし常連さんなのである 「・・・帰らなくていいのか、吸血鬼のお嬢様が待ってるんじゃないのか?」 「いいのよ、今日は一日休みだから」 「ふ~ん、お前さんにも休みがあるんだな」 「○○なんて毎日休みみたいなものじゃない、お客も私ぐらいでしょ?」 「そんなことは無い!へんな爺さんとか二刀流の幼女とかも来るぞ」 数年に一度だがね、週一で来るのは咲夜ぐらいだろう、客が少なすぎるが生活になんら問題はない 「それじゃ帰ろうかな」 「ん、気をつけてな」 店を出て、帰路に着いた 「・・・引き止めてはくれないか」 ため息を吐きながら、自然と言葉が出た 「やだ、これじゃまるで」 そう、彼に・・・恋してるみたい 「いつか、○○のほうから・・・お茶に誘ってくれないかな」 吐く息が白くなる、私の隣は空のままだ 8スレ目 671 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「○○ここの荷物を4倉庫にお願い」 「はい、解かりました」 最近は咲夜さんにあごで使われてばかりだ 掃除も料理もお茶も駄目な俺は重量級の荷物整理、深夜の雑草ぬき、深夜の門番 これぐらいしか仕事がないもんだから暇でしょうがない 暇な時間はフラン様の話し相手をしたり、レミリア様から有難い講釈を受けたり パチュリー様から実験のサンプルを取られたり、そんな感じ 「お疲れ様、休憩にしましょう」 彼女は本当によく出来たメイドだ、一言で言えば堅い でも、時折見せる少女のような一面に、おれはメロメロ(死語)だった 休憩時間のことだった、窓の外に話しかけてる咲夜さんをみた 霊夢さんとでも話してるのかと思ったら、小鳥に話しかけてた いやもう、かわいいね、やばいよあれは けっこう華奢でね、腕なんかすごーく細いのよ 前に大きめの荷物を持とうとしてね、持てたんだけど重くて足の上に落しちゃったみたいなんだよ すっごい涙目でね、でも我慢してるんだよ 人目を忍んで痛かったーとかいってるのよ いや、もうね、あのギャップ、惚れたよ 普段は完璧なメイドを演じてて、実はか弱い年相応の少女ってのはね、おじさんぐっと来るね 「○○ー!この荷物をー」 「はいっ!ただいま」 いけね、へんな妄想をしてしまった 「これとこれを、終わったら今日はおしまいよ」 せっかく腕力があるんだから、こういう仕事でがんばるしかない 咲夜さんが小さい荷物を運ぼうとしててを滑らせた 「ッ!」 落としたのはこの前と同じ足の上 「あ、この前と同じとこ・・・」 「み、見てたのね!?この前私が―」 「わーごめんなさいごめんなさい、偶然見たんですよー」 頭を庇って、下を向いた・・・あれ? 「咲夜さん!?血!足血がでてます!」 咲夜のエロいじゃなくてきれいな足の甲から血が滲み出ていた 「あら、ほんと・・・大丈夫よこれぐら「救護班!手当てをー」 「ちょ!?○○!?」 音より速く、咲夜を抱えて(もちお姫様抱っこ)救護が出来るメイドの所へ駈けた 「はい、これで大丈夫ですよ、意外ですねメイド長がうっかりミスで怪我だ何て」 咲く夜は少し恥ずかしそうに、俺は横で心配そうに、メイドは何だかニヤニヤしながら 「それじゃ私はこれで、あまり足に負担をかけないでくださいね」 「ありがと・・・ほかの子には黙っててよ」 「ふふふ、解かりましたよ」 「・・・よかったー」 「○○さん」 メイドにが耳元でボソッとしゃべって言った 「○○GJ!咲夜フラグげとー!」 意味不明な呪文を呟いて部屋を出て行った、何だあれは? 「○、○○・・・その・・・あ、ありがと」 これはヤヴァイ、いつも気丈な咲夜が、頬を染めて、素直に、礼を言ってる 少し申し訳なさそうな感じが可愛さを更に引き出して、これは・・・がんばれ理性! 「い、いえ、当然のことをしたまでですよ」 「・・・そうね、そうよね、貴方は誰にだって優しいよね・・・」 なぜそんな悲しそうな顔をするんだ、俺は君の笑っている顔がすきなんだ 曇った顔は、暗い顔は 「咲夜さん?なにか・・・」 「はは、なんでもないの、仕事に戻りましょ」 部屋を、出て行こうとした彼女の手を、握った、俺は彼女を引きとめた 「俺で、俺でよければ・・・話してください」 「そう、ね・・・私、好きな人がいるんだけどね、そいつは鈍くて、何処か抜けてるけど・・・とても優しいの、誰にでも・・・誰にでも優しいのよ」 咲夜さんに好きな人?俺は・・・いやだ、そんなのは嫌だ、でも・・・彼女は 「そいつ・・・幸せな奴ですね!咲く夜さんにこんなに想われてて」 黒い感情を押し殺した、でないと俺はきっと酷い事を言ってしまう、醜い 「・・・そうよ、こんなに想ってるのに、あの莫迦鈍くて・・・」 彼女の瞳を涙が濡らす、泣いている姿をみて、不謹慎にも、綺麗だと思った 「咲夜さん・・・泣かないで」 「誰のせいで泣いてると思ってるのよ!!ばかー!!!」 ぱしーん、と勢いよくびんた、そのまま彼女は走っていった いたい・・・なんで俺が 「誰のせいで・・・・鈍くて・・・誰にでも・・・・・・」 彼女の言葉を思い返して整理して 「え・・・俺?もしかして、もしかしなくて俺?」 いや、この結論に至った事を妄想乙とか言われても構わない 彼女の言葉からは、行動からは、それが最も正しい― 「はっははは、俺が・・・咲く夜さんが俺を」 生まれて初めて、嬉しくて泣いた、嬉しすぎて笑った 笑いながら泣いた、そして走って行った十六夜咲夜の後を追って走った 8スレ目 677 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「なぁ咲夜、俺は・・・お前の事が―」 ぴぴぴぴぴぴぴがちゃ 「ん・・・夢だよね、あの人がそんな事・・・」 もう少し時計が鳴るのが遅ければ、あの人のセリフを 溶けるくらい甘いセリフが頭をよぎった、自分で恥ずかしくなった、馬鹿馬鹿しいと思って 「早く着替えなきゃ、仕事が」 すぐに着替え、身支度を済ませ仕事へと向かった 部屋を出た、瞬間何かにぶつかった 「きゃっ!」 どす、っと堅いものにぶつかった・・・あれ? 「大丈夫ですか!?咲夜さん?」 ○○さんの胸、らしい、頭のすぐ上から○○さんの声がする・・・ 「ご、ごめんなさい、私ったら急いでて・・・その」 あんな夢を見てすぐに○○さんに会っちゃうなんて、恥ずかしくて顔が見れない 「咲夜さん?どうしたんですか!?顔が赤いですよ?熱でも」 「大丈夫です、大丈夫ですから」 なんでもないからそんなに近づかないで!今は― 俯いてるのに○○さんの顔が正面に見えた・・・え? おでこが、おでこが あの例のあれ(おでことおでこで熱を測るの) ぱたっ 私は私の倒れる音を聞いた 「あ、メイド長、気がつきましたか」 「ここ、は?」 「医務室ですよ、メイド長いきなり倒れたんですよ?」 「そうだ、○○さんは!?」 とんだ失態を見せてしまった、というか恥ずかしくてしょうがない 「かっこいいですよねーメイド長を軽々と抱えて医務室まで来られたんですけど」 私が知らないうちに私はいい思いをしてたらしい、意識がないのが悔しい所ね 「すっごくあわててましたよー、お姫様抱っこって絵になりますよね」 おおおおお姫様抱っこ!??きゃー 「もう大丈夫ですよ、熱中症という事にしておきますから」 メイドはさっきからニヤニヤしている 「ニヤニヤしないでよ、私だって恥ずかしいんだから」 「あ、いえいえ、そういうことではなくてですね・・・メイド長、いえ咲夜さんは○○さんにとってとても大切な人なんだなぁって」 「な、なにを」 「だっていつもクールで優しい彼があんなに取り乱して、あれだけ思われてる咲夜さんが羨ましいですよ」 「そんなこと・・・ないわよ、彼は誰にだって優しいわ」 「・・・まぁいいですけど、思ってるだけじゃ思いは想いのままですよ?」 「・・・ありがとう、仕事に戻るわ」 「はい、がんばってくださいね咲夜さん・・・陰ながら応援させてもらいます!」 「ふふ、ありがと」 「これからどうなるかwktkしますね」 「わくてか?」 きにしないでください 「咲夜さん!もう動いて大丈夫なんですか!?」 「ええ、全然大丈夫です、すいません、朝から迷惑ばかり」 「いえ、咲夜さんが元気ならそれでいいんですよ!迷惑だなんて、ぜんぜん」 この人が私を好き?私の大好きなこの人が、私を好きでいてくれるの?本当に・ 「○○さん・・・今日は何時まででしたっけ?」 「仕事ですか?確か5時半までだったと」 「・・・6時に・・・中庭で、その・・・待ち合わせしませんか?」 「何か相談とか、ですか?」 「え、ええそんな所です、いいですか?」 「構いませんよ、それでは6時に中庭で」 その後はいつもどおりに仕事をした、仕事をすることで、少しでも気がまぎれればと思った 「メイド長!」 「な、なに?いきなり」 「○○さんを誘ったんですね~!」 「き、聞いてたの!?」 「聞いたんではありません、聞こえたんです、不可抗力であって自己の意思による選択の(ry」 「・・・今朝も言ったけど他のメイドには秘密だからね!?わかってる?」 「ええ、ちゃんと把握してますよ、こういう秘密は秘密にするからこそ面白いんですよ」 「・・・今夜は・・・がんばるわ、どんな結果であれそれを受け入れる」 「がんばってくださいね、私は咲夜さんを応援してますよ」 ほーほー ふくろうが鳴いてる、今は5時45分、私は少し早く来てしまった 待ちきれなかった、期待と不安に押しつぶされそうだった、早く楽になりたかった 楽になれるといいのにな 「せっかちさんですね、約束まであと十分ほどありますよ」 ○○さんが、来た 「呼び出しておいて遅れるの失礼だと思って」 「そうですか・・・それでなぜ私を?」 言おう、言うぞ、言えっ! 「私はっ・・・」 声が震える、上手く声がでない、なんで!? 「私は」 恐怖か不安か、黒い感情で声が震える、悔しくて涙が出た 今朝とは違う、衝突ではなく抱擁、私は、彼に抱きしめられた 「何があってどういうことなのかは解かりません・・・でも泣かないでください」 あったかい、人肌がこんなに心地いいなんて 「○○さん・・・私・・・あなたの事が好きです、大好きなんです」 「咲夜さん・・・俺も言いたい事があるんですけど、いいですか?」 「は、い」 拒絶か、怖くなって身構えた、衝撃で、壊れないように 「俺は、○○は、十六夜咲夜が好きで好きでしょうがない、大好きだ・・・だから」 「○○さん・・・」 また抱きしめられた、いや今度は違う、お互いに、抱きしめ合った 私は、私たちは、自然と、お互いの唇を求め合った 「・・・よかったですねメイド長!ぐすぐす」 遠くから二人の様子を見守っていたメイドがぼろぼろ泣きながら喜んでた レミリア様に朝早く咲夜の部屋を出て行く○○が目撃されてしまうのは別の話・・・ 8スレ目 747・750 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「いらっしゃいませ~」 「こんにちは」 此処は調味料、珍味、漢方原料取扱店「ヰ茶主列度」 「こんにちは咲夜さん、今日は何をお求めですか?」 「パチュリー様の要望でね、この紙に書いてある物を」 「かしこまりました」 十六夜咲夜は既に買出しを終えたらしい、持っている荷物の量からするとうちが最後か 「大変ですね、買出しからお遣いから、館のあれこれ」 「もう慣れたわ、流石にね」 世間話をしながら商品を探し、揃えていく 守宮の尻尾~蜥蜴の青尾~♪コウモリこうもっり♪るるるー 「これで全部です、お化けきのこは切らしてるので、申し訳ない」 「じゃあそう伝えておくわ・・・」 ・・・流石の咲夜さんもお疲れのご様子で 「これオマケしときますね」 「なにそれ?」 「栄養ドリンクヰ茶磨れすぺしゃる、です」 「…怪しすぎる、大丈夫よね?」 「少し飲んでみて駄目だったら門番か魔法使いに上げてください」 拳大ほどの瓶に容れられたワインレッドの液体・・・ とりあえず貰える物は貰う、ポケットにそっと仕舞った 「あの・・・えっと・・・来週がですね・・・その、休みなんですよ」 「久しぶりの休みですね、ゆっくり出来るといいですね」 「そうじゃなくて・・・その・・・よかったら、いえ、時間があればでいいんです!私と・・・その・・・」 ガラス細工を触るように、咲夜の唇に触れた、指だよ? 「お嬢さん、来週もしお時間が有れば、この私と、過ごしてもらえませんか?」 「あ・・・は、はいっ!喜んで!」 その晩、暗い部屋に一人、明かりを灯し瓶を眺める少女 「早く来週にならないかなぁ」 瓶の中で、真紅の液体がころがった 8スレ目 807 ─────────────────────────────────────────────────────────── ドアの閉まる音に首を向けると咲夜が立っていた。 「あれ、レミリア様のところにいなくてもいいのか?」 「ええ。なんだか体調が優れないとか言って、早々に寝ちゃったわ」 「ふうん。――ま、座れよ。紅茶と珈琲どっちがいい」 「それくらいなら私が……」 「いいって、俺にも少しはやらせろよ。で、どっちだ?」 「じゃあ……紅茶。美味しく淹れなきゃだめよ」 悪戯っぽく咲夜は笑う。いつも張り詰めたままの表情も年相応に見えた。 震える手で紅茶を渡すと、微笑んでそれに口をつけた。 「まあまあね。ま、ぎりぎり及第点って所かしら」 「……厳しいなぁ。結構自信あったんだぜ?」 「自信があっても結果が伴うとは限らないのよ。精進することね」 「妙に実感篭ってるな…。――まさか咲夜も昔は?」 「何のことかしら?」 「はは、じゃあ気にしないでおくぜ」 月が照らす部屋で俺と咲夜は小さな声で笑った。 誰が聞くこともない、笑い声が部屋に染み込んでいった。 「なんで私がここに、とは訊かないのね」 「恥ずかしいからな。あえて、だ」 「ふふふ、そう。じゃあ、恥ずかしいついでに踊りましょうか」 「おいおい、俺はステップなんて知らないぜ?」 「大丈夫、私が教えてあげる」 「そうか、なら安心だな」 「今宵、私の時間は貴方のもの。踊りましょう、日が昇るまで」 9スレ目 411 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「咲夜さーん!俺とつがいになって!!」 「こ、断らせてもらいますっ!」 ここは幻想郷、幻想になったモノが集まったりひっちゃかめっちゃかな場所・・・ 「咲夜さん!俺の愛の歌を聴いてくれっ!!」 どれだけ走っても追いかけてくる男、名前は○○というらしい 「十六夜咲夜さん!俺の名前は○○と言います!結婚を前提に御憑き愛シテクダサイ!!」 「え、ええと・・・その・・・ごめんなさい」 うん、確かそんな出会いだった ○○は里に行くたび、正確に言えば私を発見するたびに、追いかけてくる ナイフを投げようが、時を止めようが、お構い無しに きっと亡霊か何かなんだ、だから物理攻撃は効かないんだ・・・あれを人間とは認めたくない 「嗚呼チクショウ、今日も逃げられた・・・咲夜さーん!まったねー」 彼なりの精一杯の譲歩なのか、紅魔館には入ってこない、買い物中も追いかけてこない 私は買い物をした帰り道に紅魔館まで逃げ切れれば勝ちなのだ、生存的な意味で 「・・・はぁ、疲れるなぁ」 「どうぞ」 「あら、ありがと・・・」 差し出された水は良く冷えていておいしかった・・・あれ? 「うわ、びっくりした、気配を消して背後に立たないでくれる?」 背後には銀のトレイを持ったメイドが・・・でも彼女は救護担当では? 「あらあら、メイド長が息を切らしてご帰還なされたのでせめて冷たいお水を、と思った私のおせっかいでしたね・・・およよよよ」 「も、もう人をおちょくるのもいい加減に」 「およよよよ」 今どきおよよよよなんて泣く人はいない、絶対にいない 「・・・水美味しかったわよ、ありがとう・・・これでいい」 「はい、それでいいんですよメイド長」 部下におちょくられるなんて・・・私もまだまだ 「あ、そうだ救ちゃん」 「はい、何でしょう咲夜さん?」 「じつはかくかくしかじかで」 「しつこくつきまとう男を撃沈し滅するにはどうしたら良いかですって?」 「い、いや、そこまでは・・・」 「あ、咲夜さーん、こんにちは!お買い物ですか?」 「・・・」 「元気ないですか?ど、何処か体が悪いとか」 「・・・い、いい加減にしてくれない?私も暇じゃ無いのよね」 「咲夜・・・さん?」 メイドに教わったとおりに、憶えた言葉をつむいでいく 「いい加減ウンザリなのよ、毎回毎回しつこく付き纏ってきて、私の身にもなってくれないかしら?」 「・・・そうですよね、俺みたいなキモ男の愚図の無職野郎に付き纏われて、そりゃ気持ち悪いし煩わしいですよね」 「え、いや・・・そこまでは」 「すいません、迷惑だとは思ってましたが・・・いけませんね、自分のノリを他人に押し付けて・・・ははは、やっぱり俺は生まれてこの方・・・」 ふらふらと、背を向けて歩き出した、そのとき私は始めて彼の背中を見た 彼は最後に今までご迷惑おかけしました、申し訳ない そう言ってとぼとぼとリストラされた50代後半のサラリーマンのように、歩いていった 「あ・・・ま、待ちなさいよ!」 「・・・え?」 思わず呼び止めた、しかし言うべき言葉は何も考えていない、これはしまった 「え、ええと・・・そ、その程度なの!?私に拒絶されたぐらいで消える愛だったの!?私が拒もうがなに言おうが付き纏って、頑張りなさいよ!」 「さ、咲夜さん??」 自分でもなに言ってるかわからない、さっきとは真」逆のことを言っている、これではまさにあべこべ蛙だ 「私が諦めるぐらいまでがんばりなさいよ!むしろ私を惚れさせてみなさいよ!!どうなの!?」 「・・・」 ○○完全に沈黙 そりゃそうだ、自分でもなに言ってるか解らないのだから、どっちをどう受け取ればいいか混乱もするだろう 付き纏うなといったり、付き纏えといったり 「咲夜さん・・・」 もしかして怒らせてしまったのかもしれない、嫌われたかもしれない、それは少し、寂しい気がした 「え、えっとね○○、何が言いたいかというとね」 「咲夜ぁぁぁぁぁ!!好きだぁぁぁあああああ!!!愛してる!俺と夫婦に!仲睦まじい夫婦になってくれっ!!」 条件反射で私は走り出した、紅魔館に向けて 「待て、俺の話を聞いてくれ!!まず俺が君の何処に惚れたかをだな」 「いい!聞きたくない!」 「まず几帳面な所だ!しかし里に降りてきて雑貨屋などで可愛らしいアクセサリーを見つけたりすると周りを確認してちょっと着けてみたりなんかして」 「や、やめて!というかなんでそんなことまで!!?」 「俺はその雑貨屋の息子だぁぁ!!」 紅魔館はもうすぐだ、門の内に入ってしまえば、美鈴に撃退してもらうなり、なんなりとできる 「おお!?」 「はぁ、はぁ、はぁっ・・・今日も逃げ切ったわよ」 「ぐ・・・残念無念・・・また明日」 とびきりの笑顔で、彼は笑った、そして大きく手を振って帰っていった 「・・・嵐というより竜巻のような、男ね・・・」 「咲夜さん・・・アレはいったいなんなんですか?」 呆気にとられて動けないでいた美鈴が、やっと話せた一言は、当然の疑問だった 「それで、結局元に戻ったというより、余計にパワーアップさせちゃったわけですか」 「わ、笑うなら笑いなさい、私だって莫迦な事をしたと思ってるわ」 莫迦な事をした、そういう割には、いい顔をしていらっしゃる 私を惚れさせてみろ、か・・・なんだ、とっくに・・・ 「・・・咲夜さん、きっと毎日楽しいですよ、今までどおり、これからも」 「救、ちゃん?」 「人生は短いんですから、全力疾走で楽しみましょう」 「太く短く生きろって奴?」 一度きりの人生、彼のように色恋に生きるもよし、私のように人をおちょくるもよし、咲夜さんのようにいっぱいいっぱいでも、それでもよし 「それじゃあ救ちゃん・・・いろいろありがとね、仕事に戻るわ」 ほかの子にはナイショよ、そう言ってメイド長は救護室から出て行かれました 私としてはもう少しドタバタしたほうが面白いと思うのですが、残念な事にあっさりとカップル成立のようです、正確に言えばまだ成立はしてませんが 「あー・・・個人的には傍観が一番楽しいと思うのですがねぇ」 いつも見てばかりですが見られる側をした事が無いのでなんとも言えません でもメイド長を見ていれば、恋とか愛とかも、悪くないのかもしれません 「咲夜さーん!大好きですッ!」 「私もよッ!!」 「・・・・ええっ!!?ちょ、おま」 11スレ目 189 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「……何だ、これ?」 紅魔館の周りを散歩していた所、小さくて円柱状のビンが落ちていた。 いや、落ちていた、というよりは置かれていた、という表現の方が正しいだろうか。 中には液体が入っていた。誰が置いていったのだろうか。 もしかしたら、危ない物とか? どちらにしろ、この怪しい物を放っておく訳にはいかない。 こういうのに詳しそうなのは……パチュリーさんかな。 「……ごめんなさい。これは私には分からないわ」 図書館へと伸びている廊下を歩いているとき、咲夜さんを見つけたのでこのビンについて聞いた所、残念な回答と共にビンが返ってくる。 「そうですか……」 「パチュリー様なら知ってるかもしれないわ」 そう言いながら、咲夜さんは図書館があるであろう方へと目を向ける。 もちろん、俺の目的地は最初からそこだった。そもそもパチュリーさんに聞く予定だったのだから。 「じゃあ、パチュリーさんに聞いてみます。呼び止めてすいませんでした」 咲夜さんの脇をすり抜けて、本来の目的地へと向かう。 「――ちょっと、待っていなさい」 咲夜さんのいた場所から声が聞こえた。 しかし、その声を聞いている間に咲夜さんはいつの間にか俺の目の前にいる。 その手に、ビンを持ちながら。 おかしな話である。 咲夜さんが目の前にいるのに、別の場所から声が聞こえるのだから。 しかも、手に持っていたビンはいつの間にか目の前の人に渡っている。 でも、それはこの人だから出来る。 「……時間弄ったんですか」 自分でも分かるほどに呆れていた。 そんな簡単に時間弄っていいのだろうか。 「えぇ、ここからは少し遠いから……それよりもこのビンの事、パチュリー様から聞いてきたわ」 咲夜さんはそっぽを向きながら話す。 その頬が、少し紅く染まっている気がするのは、気のせいだろうか 「聞いてきてくれたんですか? 何て言ってました?」 俺が聞くと、咲夜さんはその頬の熱を感染拡大させたのか、顔中を紅くした。 何か面白い事でも聞けたのだろうか。そうでも無ければ、いつも冷静に仕事をしている咲夜さんがこんな顔をするはずがない。 しかし、その回答は予想に反した。 「その……パチュリー様にも分からなかったみたい」 ……そうですか。 「でも、毒は無いから、飲んで確かめてみるのが早いと」 ……そうなんですか。 「だから、あなた飲みなさい」 なるほど、俺が飲んで確か――え? 今、なんと仰いましたか。 「ほら、早く飲みなさい」 相変わらず、そっぽを向いたまま、ビンを俺に突き出してくる咲夜さん。 いや、その。 「の、飲めと言われましても」 「だ、大丈夫よ、害は無いんだから、死ぬことは無いわよ」 俺だって疑う人間ですから。 毒は無いけど、何の効果か分からない液体。 そんな物。 「の、飲めるわけじゃないですか! そんなの飲んで変なことになったらどうするんですか!?」 こんなのを疑いも無く飲むなんて、人間としてどうかしてる。 いや、存在するものとして、かな? 「……飲まなかったら一週間不眠不休で働かせるわよ」 「なっ……!?」 どこまで飲ませたいんだ、この人。 メイド長の指導の下で、不眠不休の仕事。 少しでも休もうものなら、問答無用で殺人ドール。 生きていられる訳が無い。 だったら、毒は無くても飲んだほうがいい、の、か? 「わ、分かりましたよ……飲めばいいんですよね?」 「えぇ、よく分かってるじゃない」 瞬間、満面の笑み。顔は相変わらず真っ赤だけど。 ビンを受け取り蓋を開ける。 えぇい、何だ。この間、誰のかも分からない血を原液で飲まされたばかりじゃないか。 そんなのに比べれば、これくらい! ――ゴクッ。 味はしなかった。ただ、少しヌメリとした感触がある。味はしないはずなのに、喉に少し残る感じがある。 あまり、良い気分はしない。一口で飲みきれる量だったのが、せめてもの救いだ。 効果は、その後すぐに現れた。 急激な目眩。立っていられなくなってその場に倒れた。 咲夜さんが顔色を変えて寄ってきた。 飲ませたのは貴女でしょうに。 咲夜さんが呟くように言った。よく聞こえなかったけど、確かに聞こえたのは"言ってなかった"。 くそぅ、やっぱり答え聞いてきたな!? どんな答えかは知らないけど、ここまで苦しむとは思ってなかったのだろうか。 全く、人を何だと思っているんだ。 負の思考全開で苦しみ抜いて、やがて引いてくる目眩。落ち着いた頃には、廊下の天井をボーっと眺めていた。 「う……あ……」 喉が痺れているようで、しっかりと声を出せない。 身体を起こそうとしても、気だるくて起きられない。 どう考えたって、毒入りだった。騙されてしまった訳だ。 横を見ると、咲夜さんがこちらを見ていた。 皮肉気味に笑みを作る。が、上手くいかない。 笑えてはいるんだけど、その大事な「皮肉」部分を表現できていない気がする。 やがて、咲夜さんは呟いた。 「……可愛い」 は? 一人の男に向かって"可愛い"ですと? いつでもどこでもかっこよさを求めている男に向かって"可愛い"は男としてのプライドをひどく傷つけることになる。 もちろん、俺もしっかりとした男ですから、凄く凹む訳でして。 凹んでいると、抱きしめられていた。 全身をしっかりと腕の中で包み込まれて、咲夜さんの中にいる状態。 凄く良い匂いがする。忙しくても、その辺は気を使っているんだなぁ。 相変わらず、すっぽりと包み込まれてしまっている。 ……あれ? 俺そこまで小さかったっけ? しばらくそうしていて、喉の痺れと、全身の気だるさが取れてきた。 「あ、あの……咲夜さん?」 咲夜さんの中から何とか抜け出し、声を出す。その声は、いつもの俺の声ではない。 確かに俺の声に似てはいる。けど、声は高くて、まるで声変わりの前のようで―― 「……うわ!」 自分の身体を見回して状況把握。 ――身体が、巻き戻ってる。 つまり、子供になってしまった。 「ちょ、咲夜さん……この状況、説明してもら……」 目の前の人を見る。 その人の目に、いつもの完全で瀟洒な従者の目は無かった。 これは、ヤバい。この人からは逃げたほうがいい。 本能から警鐘が鳴っている。 「し、失礼しました!」 それに従い、咲夜さんとは逆方向に駆け出してこの場から逃げる。 いつもよりも、地面が近い。 走る足が、いつもより遅い。 巻き戻ることによって、こんなにも不便になるとは。 自分の部屋はどこだったか。ここの突き当たりを右に曲がって最初の扉……! 突き当たりの廊下を曲がったところで、何かにぶつかった。 予期しない衝撃に速度を殺せず、その大きな反動に尻餅をついてしまった。 「ごめんなさ――」 「どうしたの? そんなに慌てて」 「…………」 目の前にいたのは、我らのメイド長、咲夜さま。 また、時間を止めたんですね。 俺が苦笑を浮かべると、 その人は満面の笑みを浮かべながら俺を抱き上げた。 気付けば、メイド服姿で咲夜さんの部屋にいた。 言われて気付いたけど、俺は身体が小さくなっている訳だから服とかぶかぶかな訳で。 「それはそれで凄く萌――いえ、何でもないわ。とりあえず、新しい服を用意してあげるわね」 そんな風に言いくるめられ、まずは咲夜さんの部屋へ。 そして出てきたメイド服に批判したところ、人様には言えないような事をされ、みっちりと身体に仕込まれた。何が、とは言わない。 メイド服は着せられ、一人称を"僕"に改められた。しかし、地まではさすがに調教できないだろう。俺は"俺"である。 更に、咲夜さんの事は名前の後に「おねーさん」を付ける事に。 短時間でここまで仕込まれた。もう俺の心身の八割は咲夜さんに染められている。 「いよいよ最後の仕上げね!」 そう言う膝立ち状態の咲夜さんの表情は今までに見ないくらい、楽しそうだった。 もう逆らえない身体となってしまっている俺は、これで最後、と言う事に対する安堵と、この最後に何をさせるのか、という恐怖感で一杯だった。 ちなみに、咲夜さんの膝立ち状態と俺の立っている背は全く同じである。 「○○、次の言葉を言いなさい。いいわね?」 「いいわね……?」 いや、待て。そこは復唱する所じゃないだろ。しかも首を傾げるオプション付き。 自分でも突っ込んでしまうほど、色々とみっちり仕込まれてしまったらしい。 これは呆れられたか、お叱りかな、と思っていたのだが。 「あぁ、もう可愛い!」 銀髪の弾丸が飛んできた。瞬く間に腕の中へ。 「もう大目に見ちゃう! おねーさん大目に見ちゃう!!」 「…………」 この溺愛ぶり。何と返せばいいのか、分からない。 何というか、新鮮だった。 あの完全で瀟洒だった咲夜さんが、こんな風に変わるなんて。 そんな咲夜さんの違った一面が見れて、何となく嬉しい気持ちになっていたのかもしれない。 気付いたら、俺は既に戻れない状況に立たされている事に気付かないまま。 とりあえず、この状況から一刻も早く抜け出したい。 「あの、咲夜おねーさん。さっきの続きを――」 俺が言うと、咲夜さんはハッと我に返り、俺から離れると膝立ちの状態で言った。 そして、少し焦れ気味に先ほどの続きを始めた。 「『僕のお嫁さんになって下さい』。はい、復唱」 「え、えぇ!?」 何を言わせますか、このメイド長。 とても楽しそうな顔で。 とても期待に満ちた眼で。 その顔が、今はとても怖い。 「はい、復唱」 もう一度、促す。 既に調教し尽くされているこの身体はいとも簡単に言うことを聞いてしまう。 「さ、咲夜おねーさん、僕のお嫁さんになって下さい」 だから、変なオプションを付けるな、と。 変な所でツボ突いちゃダメだろ。 知らない自分が、更に上を目指している。 「あぁ、もう可愛すぎる! しかも名指しなんて!」 そして二発目に打たれた銀髪の弾丸。狙いはもちろん、俺。 今度は頬ずりされながら腕の中へ。 「もうお嫁になっちゃう! おねーさん何度でもお嫁になっちゃう!!」 何度でもお嫁って、結婚して離婚して結婚して離婚してを繰り返すつもりですか。 それはそれで疲れる話だ。 「さぁ、もう一度言うのよ!」 「咲夜おねーさん、僕のお嫁さんになって下さい」 「もっとよ!」 「咲夜おねーさん――」 何度もせがむので、その度に同じことを言ってあげた。 最後の方はほとんど機械的になってしまったが、鼻血を噴いていたので、きっと問題は無いだろう。 で、大変な事になったのはその後で。 咲夜さんは止まらない鼻血を手で押さえながら、興奮冷めやらぬ様子で俺に言い放ったのだ。 「あなたはこの部屋から出ることを一切禁じます。安心しなさい、食事は用意してあげるから」 食事とそういう事が問題なんじゃない。この部屋から出られない事が問題なんだ。 しかし、既に調教完了されている俺にそんな事を言えるはずも無く。 「分かりました。咲夜おねーさん」 と笑顔で答えるしかなかった。 咲夜さんは美人だし面倒見も良いからこれでも良いかな、なんて少しでも思ってしまった自分がいた。 で、これは一体いつになったら戻るんだ? 11スレ目 271 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/620.html
咲夜2 2スレ目 42 声が響く。 時と場を支配する、彼女の声が。 「極意『デフレーションワールド』」 時間が砕ける。 空間が引き裂かれる。 縮小する現在と過去。 膨張する現在と未来。 目くるめく螺旋の回廊を果てしなく。 時は駆け上り、場は駆け下る。 一切が同一であり、 一切が無二であり、 ただそこにあるのは、咲夜という少女の意思のみ。 ならば、それを否定し弾劾し排斥する達意は何ぞ。 唱えよう。 我が、最高のスペルカード。 おお主よ、今のみ黙示の時の先触れ告げること許したまえ。 「極意『トゥ・メガ・セリオン』」 獣が吼える。 なぜ、よりにもよって人間であるこの僕にそんな役目が回ってきたのか。 どう考えても不釣合いなその役目とは、レミリア様の護衛だった。 紅魔館の厨房でゴーヤ入りカレーの製作に精を出していた僕は、なぜか咲夜さんに呼ばれて配置換えを言い渡された。 「あなたは今日から、私と一緒にレミリア様の護衛をしてもらうわ。いいわね」 「はあ」 はあ、としか答えようがなかった。 人選を間違えているとしか言いようがなかった。 よりにもよってただの人間が、あの生粋の吸血鬼であるレミリア・スカーレット様をお守りいたしますですって? 僕より強い妖怪なら、紅魔館に溢れている。 門番の美鈴さんだって、この前森で怪異・お化けキノコに追いかけられていた僕を助けてくれた。 それも弾幕でなく、ただの正拳一発で。 「大丈夫でした? 森は危ないから一人で歩くのは駄目ですよ」 そういって優しく助け起こしてくれた美鈴さんに、危うく惚れそうになったのは内緒だ。 たとえ妖怪でも、女の子に男が助けられたなんて。 嬉しいような、トラウマになりそうな。 魔女パチュリーさんによると、人間にしか扱えない魔術や呪術はあるそうだけれども、そんなものにも僕は縁がない。 せいぜい発火や発光の魔法がちょっと使えるくらいだ。 「魔人にでもなれっていうんですか?」 「ええ、そう。私の肩書きは『完全で瀟洒な従者』。あなたはそうね………… 『異邦の魔人』でやっぱり結構ね。是非そうなってもらうわ」 「ご冗談を」 「残念ながら、本気」 いつもと同じ、一部の隙もなくメイド服に身を包んだ咲夜さんの顔は、たしかに冗談を言っているようには見えなかった。 「でも、見てのとおり僕はただの人間で……しかもこれといった魔術も体術もないんですけど」 「心配ないわ。魔術はパチュリー様が、体術は私が教えるから。 あなたには素質があるの。外から来たものだけが持つ幻想郷にない素質がね」 咲夜さんに真剣にそう言われては、この昇進の機会に僕は頷かないわけにはいかなかった。 「……分かりました。よろしくお願いします」 「ええ、こちらこそ」 咲夜さんが優雅にその右手を差し出したので、僕は軽く握手をした。 けれども。 咲夜さんがたとえ握手という形であれ、誰かに自分の体を触らせることなど滅多にないということに、 僕はそのとき気づいていなかった。 それから、僕の護衛としての訓練が始まった。 もっとも海兵隊の訓練学校のような地獄の厳しさなどはなく、ただひたすら基礎の徹底と強化が繰り返された。 朝は日の出とともに起床して朝食を摂り、湖の周辺をランニング。 戻ってきたら筋トレを一式と、咲夜さんと体術の訓練。 終わったら図書館に行ってパチュリーさんに魔術の講義を受け、午前中はそれで終了。 昼食を食べ終わったら、今度は厨房に戻って夕食の仕込を行い、夕食の後は再び短い講義と軽い実技。 多少の変更はあるけれども、それが大まかな流れだった。 最初の二週間はさすがにきつかったけれども、人間の適応力はすごい。 結果的に規則正しく健康的な生き方も手伝って、僕は徐々に護衛のスキルを身に着けつつあった。 それにしてもすごいのは咲夜さんだ。 朝も僕より先にいつも起きてきているし、講義とか体を休めているときもてきぱきと忙しく館の中を駆け回っているらしい。 時間を止めて体力を回復させているとしても、その意志力は半端じゃないと思う。 つくづく、尊敬に値する人だ。 僕の方も咲夜さんに見習おうと、魔法の勉強に精を出した結果だろうか。 「たいしたものね。この勢いならすぐにスペルカードだって取得できるわよ」 パチュリーさんはそう言って誉めてくれた。 僕はどうも魔術とは相性がよいらしくて、パチュリーさんの説明する魔法概念はわりと頭に入ってくれる。 その日も、図書館の奥で僕はパチュリーさんに講義を受けていた。 「いい? 魔法というものは個人個人で全く根幹から異なるものなの。使い手が自分の心の内をこの世界に投影した影響、それが魔法。 心の中なんて二つと同じものはないでしょう? 心の純粋なカタチである魔法もそれと同じ。 だから私は木火土金水と日と月を用いた精霊魔法を使うけれど、教わるあなたがそれと同じものを使う必要はないわ。 個々で自分に最適の属性を選ぶ、それが練達の基礎なの。あなたは、自分の心が投影するものとして何を選ぶの?」 「パチュリーさんと同じ精霊魔法じゃ駄目ですか? わりと実戦向きですけど」 「いいえ、それはやめたほうがいいわ。私と同じ属性を選ぶと、既にアデプトである私に影響されて自分の属性が引きずられる。 私を真似ようとして、本来私と違うはずのベクトルが私に無理やり傾いてしまう。それはあなたにとってよくないわ。 何か別の―――そうね、あなたの元いた向こう側の知識をなぞったものがいいわ」 「向こう側の――ですか」 僕は立って、本棚に近づいた。 莫大な量の書物が、暗くてよく見えない天井までひたすらに続いている。 手に取ったそれが、目に付いたそれが、僕の属性だったら面白いかもな。 まるで、運命が出会うように導いたかのように。 僕は、とりあえず無作為に一冊の本を手に取った。 終わりの方をめくってみる。 ―ここに、知恵が必要である。思慮のある者は、獣の数字を解くがよい。 その数字とは、人間をさすものである。そして、その数字は六百六十六である― 懐かしいな、学生時代に読んだことのあるヨハネ黙示録か。 これを、僕の属性に選んだらどうなるだろうか。 神に牙を剥く恐ろしい獣と悪魔たち。そして審判の時を告げるラッパを吹く天使たち。 たしかに、ここ幻想郷にはない概念だ。 よし、これを僕はスペルカードにしてみよう。 僕の魔法の行き着く先は、そのとき決まった。 「咲夜さん、それも僕が持ちますよ。重たいでしょ」 「いいえ。その必要はないわ。これくらい平気よ」 「でも…………」 「自分は男だから、ということで気を遣う必要はないわ。私は従者だから、こういう仕事を受け持つのは当然よ。 荷物を持ってもらうのはお嬢様のような方。私たち同士ではそんなにかしこまらなくてもいいわ」 ある日、僕と咲夜さんは二人で買出しに出かけていた。 石鹸や掃除用具など、日常品は紅魔館の中ではまかなうことはできない。こうして数週間に一度まとめて買出しに行く必要がある。 お互いに両手がふさがるほどの荷物を抱えながら、紅魔館への道を歩いて帰っていく。 飛んでいくこともできないこともないが、少々目立つ。 僕は咲夜さんの分も持とうと言ったけれども、あっさりとかわされてしまった。 親切心から言ったんだけどな。 ……でも、たしかに咲夜さんはメイドだ。僕が荷物を持ってしまったら、それはメイドの仕事を奪うことになってしまうだろう。 きちんと線引きができているところが、咲夜さんのえらいところだ。 「でも、時間が余りましたね」 「そうね。思ったよりも手早く済んだわ。……この格好じゃどこか休憩するのも難しいし…………」 咲夜さんが首をかしげるのももっともだ。 咲夜さんはいつものメイド服だし、僕は一応外出用にと執事の服を着ている。 町では少々目立ってしょうがない。 「なら、香霖堂へ行きませんか。あそこは色々品物だけはあって見ていて飽きませんよ」 あの店は奇妙な店だけれども、幻想郷では見られない外の世界の品物を扱っているのだ。 故郷が懐かしくなったときはよく行ったものだけれども、そういえばこのところトレーニングでごぶさたしている。 「あそこ………。ちょっと、胡散臭い店なのよね」 「いいじゃないですか。ただ見るだけですし」 僕が熱心に勧めると、やがて半ば仕方なさそうに咲夜さんはうなずいてくれた。 よし、善は急げだ。 早速香霖堂へと足を運んで敷居をまたいだ僕たちだが、やっぱりその店はいつもどおりだった。 誰もいない店内で、店主の霖之助さんだけがのんびり本を読んでいる。 「こんにちは。少し見てますよ」 「ああ、適当にどうぞ」 と向こうは本から顔も上げはしない。この店、本当に商売する気がゼロだ。 咲夜さんはちょっと呆れたような顔をしたけれども、意外とこまめに陳列棚の中を一つ一つチェックし始めた。 僕も咲夜さんとは反対側の棚から見ていく。 相変わらず節操なく色々なものがある。 ビデオデッキの横にフランス人形。 その上にはトランジスタラジオとチェスの駒が一式。でも肝心の盤がない。 そうやってぼんやり見ているうちに、一つのものが目に留まった。 懐中時計だ。 古い作りのぜんまい式だけれども、デザインはシンプルかつ実に洗練されている。 手にとって見ると、驚くほど軽い。 蓋を開けて文字盤を見ても、うっすらとガラスが埃をかぶっているほかはまるで新品のようにきれいだ。 こりゃ掘り出し物だな。 「すみません、これいくらですか」 僕は懐中時計を手に、店の奥にいる霖之助さんに声をかけた。 「ああ、その懐中時計か。わりと安価かな」 と霖之助さんは値段を告げた。 一瞬聞き違えたのかと思ったほど、その値段は安いものだった。 「そんなに安いんですか? だってこれかなり立派なものですよ」 「ああ、そうだね。でもそれは幻想郷のものなんだ。製作者もはっきりしているし、用途と名称なんか当然知っている。 僕は外から来た品物に興味があってね。あまりそれは興味がわかないんだ」 自分の興味のあるなしで品物に値をつけるとは。 誓ってもいい。 絶対にこの店は繁盛しない。 「じゃ、これ買います」 「あら、個人で?」 いつの間にか、隣に咲夜さんがいた。 「ええ、無論。そうそう、それ、ちゃんと箱に入れて丁寧に梱包してくださいね」 「はいはい、珍しいね。いつも君は包装を嫌がっていたのに」 「…………まあ、心境の変化ですよ」 とっさにそう答える。ちらりと横にいる咲夜さんを見たけれども、幸い気づいていないようだ。 「よし、できたよ」 とカウンターに置かれた小箱を取り、僕は財布からお金を払った。 そして、そのまま。 「はい、いつもトレーニングしてくださる感謝をこめて、咲夜さんに」 隣に立つ咲夜さんに、そっと差し出した。 「プレゼントです。受け取っていただけますか?」 あっ、珍しい。 心底驚いた顔の咲夜さんなんて、始めて見た。 別に、これといった理由はない。 ただ、自分のトレーニングにいつも付き合ってくれて、かつ色々と指導してくれる咲夜さんに何かお礼をしたかっただけだ。 紅魔館にいては、なかなかそれはできない。 ちょうど今、それがチャンスだと思ったのだ。 「いかが…………でしょうか」 さすがに沈黙が少し痛い。 もしかして、懐中時計はお気に召さなかったかな。 なんて思っていた頃、ようやく咲夜さんは僕の差し出した小箱を受け取ってくれた。 「いいの…………?」 「はい、気に入っていただけたら幸いです」 にっこりと、咲夜さんは笑う。 その笑顔が、胸に沁みた。 「ありがとう。こんな言い方しかできないけれど、嬉しいわ」 飾らない一言だったけれども、どんなお礼の言葉よりもそれは僕にとっても嬉しかった。 結局、僕の方もまたプレゼントをもらってしまった。 小さな銀色の十字架のペンダントだ。 聖書神話の概念をスペルカードの基盤としている、と咲夜さんに以前言ったからだろう。 「残念だけど、私は神を信じていないんだけどね」 なんて言いながら。 「僕だって、そんなに信心深くはないんですけどね」 でもありがとうございます、と僕は大事に受け取った。 僕たちのやり取りを見て、霖之助さんがニヤニヤ笑っていたのが気になるけど、気にしないようにしておこう。 いくらなんでもプライベートという語くらいは知っているだろう。 知らなかったら、文々。新聞に『香霖堂全焼!?』の記事が載るだけだけど。 日が徐々に西に傾き始め、空が徐々に夕暮れの赤に染まっていく。 ゆっくりと、僕たちはやっぱり二人で歩きながら紅魔館への家路を一歩一歩埋めていく。 なんか、すごくほっとする時間が二人の間を流れていた。 「でも、ありがとう。こんな風に形のある贈り物をもらうのって、本当に久しぶりだわ」 隣の咲夜さんが、もう何度目だろうか、僕のあげた懐中時計の入った小箱を見ながら言う。 「僕だってプレゼントをもらうのなんて久方ぶりですよ。ましてロザリオなんて」 「ふふっ、あなたになんとなく似合いそうだったから」 「もう気に入っています」 早速僕はペンダントを首にかけていた。大きさも形も、目立たなくてちょうどいいくらいだ。 大きすぎたら神父にされてしまう。 「私も、大事に使わせてもらうわ」 「そう言ってくれるとプレゼントした甲斐がありましたよ」 よほど気に入ってくれたのだろう。 感謝の気持ちって言うのは、ちゃんと形にするべきなんだと僕はつくづく感じた。 「あなたも、だいぶ腕を上げたわ。鍛錬を続ければ、もうじき私の腕に並ぶでしょうね」 ふと、咲夜さんは僕からも小箱からも視線をはずして、どこか遠くを見た。 「そんな。まだまだ咲夜さんにはかないませんよ。実戦で相手してもらってもまだ一回も勝てていないんですよ」 「今はね。でも、いずれあなたは私に勝つ。そうなれば、私から教えることはなくなるわ」 「咲夜さん…………」 なぜだろう。 僕たちはそれを目指していたはずだった。 でも、僕の訓練の終わりが近いことを告げた咲夜さんは、どこか寂しそうだった。 そしてなぜだろう。 僕も心のどこかで、何かを寂しく感じていた。 その寂寞が、なぜ生まれたのかも分からないままに。 「傷符『インスクライブレッドソウル』!」 咲夜さんの両手に持ったナイフが凄まじい勢いで振られると同時に、僕の放った頁は尽く寸断されて散った。 文字通りの紙ふぶきが紅魔館の庭に舞う。 相手の動きを封じ、魔力を奪い、無力化せしめるはずの聖書を書写した頁が。 ただのメイドの持つ、銀のナイフ二振りによって。 空気さえも切り刻むそれは無数の真空を生み出し衝撃波となり、僕自身に襲い掛かってくる。 「聖壁『巡礼の迷路』!」 とっさにスペルカードを宣言と共に展開させる。 周囲に無数の頁が現れ障壁を形成するが、それらも片っ端から切り刻まれて散っていく。 何だよこの威力は。咲夜さんの実力ってどこまであるんだ? 手持ちの頁の殆どが意味を成さない紙くずと散ったとき、既に咲夜さんの姿は目の前から消え、 「はい、チェックメイトよ」 すっと、僕の首筋に後ろからナイフが当てられた。 「また同じ。こちらの攻撃に防御一辺倒。カウンターを狙う気がないの?」 「…………すいません」 時間を止めるメイドは、僕の後ろからひょっこりと姿を現した。 軽くため息をついてから、ナイフをしまう。 「そこさえ改善できれば、あなたはもっと強くなれるのに」 厳しいけれども優しく、咲夜さんは少し居心地が悪い僕を見て告げる。 最初は手も足も出なかった咲夜さんだけれども、最近ようやくまともに戦えるようになってきた。 けれども実力差は見てのとおりだ。まだ一度も勝つことはできない。 どんなにこちらが攻撃しても、一瞬で戦況はひっくり返される。 あの時間を止める能力からは、森羅万象は逃れられない。 「精進します…………」 「でも腕はますます上がっている。それは事実よ。そのことは誇りに思って」 「はい」 「頑張って。――あなたには期待しているわ」 「そうやって励ましてくれると、少しは自信が付きます。ありがとう」 素直に例を言うと、少し咲夜さんは照れたみたいだ。 「べ……別に…………。お嬢様をお守りするにはそれなりの力がないと困るから」 何だか頬も赤くなったような気がするのは、ひいき目だろうか。 「少し休みなさい。魔力の減少は即体調に出ないから無理しがちだけど、しっかりと休まないと後が大変よ」 「分かりました。お疲れ様です」 「ええ、またね」 咲夜さんが紅魔館に戻っていくのを横目で見ながら、僕はとりあえず手近にある樹に背中をもたせ掛けて座り込んだ。 後どれだけ、僕は強くなればいいんだろう。 そして―――― 後どれだけ、僕は咲夜さんと共にいられるんだろう。 だんだんと、僕は気づいてきた。 このトレーニングを通して、僕は咲夜さんのことが好きになりつつある。 あの一部の隙もない、まるで人形のような作り物めいた美しさ。 触れることのできない、ショーウィンドーの向こうの宝石のような可憐さ。 どこまでも、完全で勝者であり続けられる少女。 気がつくと、僕は咲夜さんのことが好きになりつつあった。 だから内心思っている。 いつまでも、このトレーニングが続けばいいな、と。 そうすれば、ずっと咲夜さんと共にいる理由がある。 そうでもしなければ、忙しい咲夜さんのことだ。とても僕のような個人を構ってくれることなどないだろう。 でも、それは勝手な願いだ。僕は強くなって、護衛の任に付かなければならない。 ならば後、どれだけこんな満ち足りた時間が続くんだろう―――― 「お疲れ様です~」 僕がぼんやり空を眺めていると、いきなりそんな声と共にひょいと覗き込まれた。 「あ、美鈴さん」 「えへへ~、ずっと見てましたよ。最近どんどん腕を上げてすごいなーって思ってました」 門番の美鈴さんはにこにこしながら腰をかがめて僕に視線を合わせる。 この人も妖怪らしからぬ人だ。美人だしスタイルもいいし、実は結構こまめで気が利く。 そもそも、最初に行き倒れていた僕を森で拾ってくれたのもこの人だったよな。 「どうしました?」 尋ねた僕の目の前に差し出されたのは、急須に湯のみ、それに饅頭の乗った皿が置かれたお盆。 「休憩するんでしょ。ご一緒にどうですか?」 お茶に誘われて断る理由などない。 「もちろんです。いやむしろご一緒させてください」 「はい、じゃあ、お隣よろしいですか?」 と美鈴さんは僕のとなりにちょこんと腰を下ろす。 門番の業務はいいんだろうか。まあ、こんなのどかな日に紅魔館を強襲する敵なんかいないだろうけど。 魔理沙も霊夢も今日は家でのんびりしているころだろう。 急須から注がれたお茶は日本茶だった。 「てっきり烏龍茶かジャスミンティーかと思っていましたよ」 「ここに来てから覚えたんですよ。この方が受けがいいですし。あなたも日本人ですから紅茶とかよりいいかなって思って」 一口口に含んでみると、爽やかな香りがいっぱいに広がる。 「おいしいです。苦味も少ないし僕は好きですよ」 「ありがとうございます。そう言っていただけると煎れた甲斐がありました」 さっそく饅頭にぱくつきながらもごもごと笑う美鈴さん。 僕もまた、遠慮なく皿に手を伸ばして饅頭をほお張ることにした。 しばらく無言で味覚を楽しませているうちに、ひょいと美鈴さんがこっちを見た。 「さっきの続きですけど、本当にあなたは強くなりましたよ。もう咲夜さんとかかなり焦っているくらい」 「そんな。まだまだ余裕でしょ」 「いいえ。私は咲夜さんと付き合いが長いから分かりますけど、咲夜さんって追い詰められても顔にも態度にも全然出さないです。 だから、ほんの少しの雰囲気の違いで見分けるしかできないんですけど、私の目から見たらだいぶ焦ってましたよ。 やっぱり思い入れがある人を育てるって大事なんですね。それだけ身を入れて教えられるからちゃんと育っているんですよ」 うんうんと美鈴さんはうなずいている。思い入れ? どういう意味だそれ。 「何ですかそれ? 僕はお嬢様の護衛を任じられたから、それに見合うようにトレーニングしてもらっているだけですけど?」 妙なことを美鈴さんが言うと思って聞き返すと、逆に美鈴さんのほうが妙な顔をした。 「お嬢様の護衛ですって? そんなものいりませんよ。全然そんな話私知りません」 「ええ? 僕はてっきりみんな知っていると思って…………」 「全く話題に上ることもないですよ。誰から聞いたんです、そんなガセネタ」 足元に、突然穴が開いたかのような気がした。 いったい、どういうことなんだ。 なぜ、僕はこんなことをしていたんだろう。 「ねえ、誰からなんです?」 自分でもギクシャクしていると分かる動きで、美鈴さんの方を見る。 「さ、咲夜さんからですけど…………」 「ええええっッ!? ど、どうして咲夜さんそんなことを? だって、護衛なんてレミリア様は十分お強いし、それに咲夜さんが既にいるのに…………」 「僕に聞かないで下さいよ。本当に、護衛なんて話はないんですね?」 「ええ、レミリア様からもそんな話は一切聞いていないです。私はてっきり、咲夜さんがあなたに個人レッスンをしているんだとばっかり………」 お互いの顔を見合わせても、そこには疑問以外の何の感情もない。 どういうことなんだ。 咲夜さんの言った、護衛の役というのは全くの嘘だったのか。 美鈴さんが僕をだますことはないはずだ。その必要がない。 でも、それは咲夜さんだってそうだ。だます理由も必要もない。 いたずらならとっくにばらしてもいいはずだし、何よりもこんな大掛かりないたずらをしたら咲夜さんのほうが大変だ。 だったら、なぜ咲夜さんはそんなことをしたんだろう。 わざわざ僕に嘘の昇進をさせて、多忙の合間を縫って僕に付き合って。 「もしかしたら………咲夜さんってあなたのことが好きなのかもしれません」 突然美鈴さんがそんなことを言い始めて、僕の頭は一瞬真っ白になった。 「そ、それはどういう意味なんですか中国さん!?」 「名前を間違えないで下さい! 私は紅美鈴です中国じゃありませんひどいです!」 「あっあっごごごめんなさい! でもいきなり好きだなんてそんなわけがないと思ったらつい混乱しちゃって」 頭を下げて何度も謝ると、少々むくれていたけれども美鈴さんは「じゃあ、しょうがないですね」と機嫌を直してくれた。 「えーとですね、咲夜さんって無駄なことはしない人なんですよ。だから、いたずらとかかつぐ目的とかじゃないです。 それに、私は門番だからずっと見ていましたけど、すごい咲夜さんの指導って熱が入っていたんです」 ああ、それは同感だ。たしかにとても熱心にあれこれと教えてくれた。 ほんと、最初は体術のイロハもダメだった僕がここまで成長できたのも、ひとえに咲夜さんのおかげだと思う。 「こう言っちゃっていいのかな、もう真剣そのもの。あなたは特別な人ですって気がばっちり見えちゃってましたよ」 「気ですか?」 「ええ、私の能力です。感情とか思いとかって気に表れるんですよ。咲夜さんは普段はクールで誰に対してもちょっと冷めているんです」 「僕のときでも同じでしたよ」 「それは自分を抑えているから。気は偽れません。咲夜さんの気の流れは、あなたのときだけは全然別でした。 あなたに関心を持っていることなんて、私から見たら丸わかり。あなたにはちょっと信じられないかもしれませんけど、私には分かります。 誰に命令されるでもなく、あなたの訓練をしているなんて、これはあなたのことを好きだとしか私には思えませんよ」 「僕を………好きだと…………」 「嫌でした? もしかして咲夜さんのこと嫌い?」 「いえ、その…………むしろ………僕も好きかな…………と」 「うわぁ、それって最高じゃないですか。両思いですよ両思い」 手を叩いて喜んでくれる美鈴さんだけれども、僕は突然のことにどう反応していいのか分からない。 あくまでもこれは憶測だけれども、咲夜さんとは両思いになれたのだろうか。 だとしたら、すごく嬉しい。 だとしたら………… 「ならば、きちんと訓練をつんで、咲夜さんを負かしちゃうんですよ」 美鈴さんはそう強く言ってこぶしを握り締める。 「咲夜さんのことですから、生半可なことじゃ気持ちは伝わりません。ここまであなたに付き合ってくれたんですから、 しっかりとその気持ちにこたえなきゃダメですよ」 目が合うと、美鈴さんはうん、と大きくうなずく。 そうだ。 たしかに、そのとおりだ。 だとしたら、僕はなおさら強くならなくては。 咲夜さんの期待に応えられる人にならなくては。 その暁には、きっと。 僕は、咲夜さんに好きだと伝えられるのかもしれない。 「咲夜さん、あなたに伝えたいことがあります」 「…………私も、あなたに言わなければならないことがあるわ」 頁が袖口から引き出される。 ナイフが腰から引き抜かれる。 「始めましょうか。完全で瀟洒な従者!」 「始めましょう。異邦の魔人!」 全てのスペルカードを、突破した。 「時符『プライベートスクウェア』!」 「出でよ、天使召喚『ヨフィエル』!」 止まる時間は、翼を広げ祝福を与える天使の加護によりほぼ無効化する。 「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』!」 「来たれ、堕天使召喚『エリゴール』!」 無数に交錯しつつ飛び交うナイフは、甲冑をまとり槍を手にした堕天使がなぎ払う。 初めてだ。 ここまで戦いが長く続いたのは。 けれども、どちらも体力と精神力を限界まで消費している。 「強く――――なったわね」 「咲夜さんの………おかげですよ」 肩で息をしながら、僕はそれでも笑って見せた。 「変わらないわね。そういうところ」 対する咲夜さんは、傍目から見ると息一つ乱れていないように見える。 けれども、美鈴さんじゃないけれども僕には分かる。 何回となく、スペルカードとスペルカードをぶつけ合わせてきた僕には分かる。 おそらく、これが最後。 咲夜さんが僕に教えるべき、最後の試練。 「ならば、見せてあげる」 引き抜かれる、最後であるはずのたった一枚残ったスペルカード。 「これにあなたが耐えられるならば、もはや全てが終わり」 右手の中で、カードは輝きながら消えていく。 「私があなたに教えられる、最後にして最大のスペルカード――」 静かに、こちらに向けられるナイフ。 咲夜さんが手を離す。 ナイフは地に落ちることなく、ゆっくりとこちらに向かって宙を進んだ。 僕は見た。 宙を這うように進むナイフが、2本に分裂したのを。 2本が4本に。 4本が8本に。 8本が16本に。 16本が32本に。 32本が64本に。 64本が128本に。 128本が256本に。 倍々に増え続けていく。 目の前を覆いつくし、増殖し空間を埋め尽くしていくナイフ。 1024本が2048本に。 生み出される、過去と未来の姿。 あり得たかもしれない可能性を、強制的に引き出し形としていく。 ただの一本のナイフが、決して回避を許さない無慈悲な布陣と化す。 16384本が32768本に。 32768本が65536本に。 65536本が131072本に。 これが、彼女の最高のスペルカードか。 そして、宣言が響く。 「極意『デフレーションワールド』」 世界が、彼女の意思に従う。 時空が縮小する。 誰も知りえない、あまりにも異様な感覚に五感が悲鳴を上げる。 過去、現在、未来が混在して同居して一度に自己を主張する。 逃げ場がない。 今ここにいる自分なんていう明確なものがなくなる。 今? ここ? 自分? それは何だ? 全ては咲夜の世界。 彼女のみが観測を許される絶対固有空間。 ナイフが―――― 空を埋め尽くし、地を埋め尽くし、宙を埋め尽くすナイフが―――― いっせいに、こちらを向く。 全てが同時に襲い掛かる。 分かっているけれども、回避も防御もできはしない。 時空が彼女の支配下に置かれている。 排除されるべきは自分。 だが、唯一支配されていないものがある。 それは、僕自身の意志だ。 応えよう。 彼女の思いに、応えよう。 ならば告げるべし。 我が、究極のスペルカード。 ヨハネの幻視した終末を、ここに具現させる。 おお主よ、我に汝の僕と同じ幻影目にすること許したまえ。 「極意『トゥ・メガ・セリオン』」 ―わたしはまた、一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。 これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、 頭には神を冒涜するさまざまの名が記されていた― 世界が書き換えられる。 いつか起きるべきものなのか、もう既に起きてしまったのか。黙示の時が立ち現れる。 周囲は無限に広がる海。 そこから、一匹の凄まじく巨大な獣が上ってくる。 様々な姿かたちの混ざり合った奇怪な姿の獣が。 その姿は獅子。 その姿は熊。 その姿は豹。 その姿は蛇。 その姿は猿。 その姿は王冠を頂く人。 それは―――― 七頭十角の大いなる獣。 神にさえ牙を剥き、人の世を惑わす悪魔の化身。 「神様なんて(゚⊿゚)イラネ」とか「聖書(・へ・)ツマンネ」とか書いてあるのにはげんなりするけど。 吼える。 七つの頭を振り上げ、獣が吼えた。 人の蛮声にも似た絶叫が森羅万象を怯えさせ、終末の時は来たれりと告げ知らせる。 世界が、砕けた。 十六夜咲夜という個人の支配する世界など、大審判の時には何の意味があるだろうか。 ガラスが割れるかのように、デフレーションワールドが崩壊した。 彼女の意思の支配する世界が終わりを告げ、黙示録の獣に飲み込まれていく。 いつかは、僕たちの住む世界もああなってしまうのだろうか―――― 張り詰めた五感が、正常な世界に戻ったことを教えた。 やがて海は去り、獣の姿は見えなくなる。 そこは再び、いつものトレーニングをしていた紅魔館の庭だった。 立ち尽くすのは、僕だけ。 咲夜さんは、地に倒れていた。 僕は、初めてこの人に勝つことができた。 「あ、気が付いたんですね」 芝生に横になった咲夜さんが眼を開けたので、僕は側に座ったまま身を乗り出した。 「あなた…………」 「よかった。たいした傷もなくてほっとしましたよ。美鈴さんに治療してもらいましたから、あとはしばらく寝ているだけです」 気を操る美鈴さんは、治療だってできる。 いつになくぼんやりとした様子で、咲夜さんはこっちを見ていた。 まだ、この人に勝利したという実感がわかない。 時空を縮小させ、過去と未来を同時に混在させ、それら全てを同時に襲い掛からせる極意「デフレーションワールド」。 けれどもそれは、僕の極意に敗れた。 極意「トゥ・メガ・セリオン」。 黙示録の時を一時的に呼び出し、あらゆる魔法を破壊しあらゆる結界を粉砕する圧倒的なスペルカード。 よくもまあ、そんな大それた魔法を身につけることができたものだ。 あの日、咲夜さんが僕を存在しないはずの護衛の役に任じたときから、何もかもは始まった。 いったい、どうして…………。 僕が黙ったままじっと咲夜さんを見ていると、咲夜さんは視線を逸らして真上を見上げた。 今日も、紅魔館の外はいい天気だ。 「何も聞かないのね」 「え…………?」 「知っているんでしょう。本当は護衛の役なんてないってこと」 きょとんとして咲夜さんを見つめたまま固まっていると、ちょっとだけ笑って 「なんとなくよ。こうして刃を交えているとね、色々なことが分かってくるの。だからなんとなく、そうじゃないかって思って」 「ええ、知っていました。だとしたら、どうしてこんなことをしたんです?」 尋ねると、咲夜さんはごろりと向こうを向いてしまった。 「…………見たかったのよ」 「何をです?」 「あなたが………強くなっていくのを」 何も言えずに、僕は咲夜さんの独白を聞いていた。 「恥ずかしい話だけどね。あなたのことが気になって仕方がなかった。ずっと、あなたのことを考えていた。 でも、私はメイド長であなたは料理係。一緒にいることなんてできない。だから、私は嘘をついたの。 護衛役が回ってきたとしたなら、あなたと私が一緒にいてもおかしくない。 あなたと一緒にいられる理由ができるって、そう思ってしまった。 だって…………私はあなたのことが、好きだから」 「咲夜さん…………」 「変な話よね。こんなの職権乱用だって分かってる。でも……でも…………、 こうするよりほかに、あなたといられる方法なんて思いつかなかった…………」 ああ、そうだったのか。 僕は、どうして気づかなかったんだろう。 ずっと、咲夜さんは完全な人だと思っていた。 人形のように精緻で、華麗で、一部の隙もない完璧な従者だと。 でも、そんなのは間違いだ。 咲夜さんだって、一人の人間だった。 ドジだってするし、迷いもすれば間違っていると分かっていてもやってしまうこともある。 その内面は、普通の女の子だった。 どうして、僕はそれに気づかなかったんだろう。 ただ、咲夜さんの表面しか見ていなかった。 もっと、この人の思いを酌んでいれば、こんなに思いつめることなんてなかったのに。 「咲夜さん、聞いていただけますか」 優しく声をかけると、咲夜さんはゆっくりとこっちを向いてくれた。 少し緊張するけど、目を見てはっきり言った。 「僕も、咲夜さんのことが好きですよ」 咲夜さんの目が、大きく見開かれた。 「……本当、なの……?」 「はい。最初は分からなかったですけど、今ならはっきり言えます。こうやって、咲夜さんとずっといたから言えるんです。 僕は、咲夜さんのことを愛しています」 はっきりと、告げることができた。 決して、咲夜さんとのトレーニングは無駄なものじゃなかった。 ここまで時間を共にできたから、こうして告白することができたのだ。 「受け取って…………いただけますか?」 咲夜さんは、うなずいた。 「はい。喜んで」 その笑顔に、また心が痛いくらいに震わされる。 泣いてしまいそうなくらいに、嬉しさを感じて。 照れ隠しに、僕は立ち上がった。 「よしっ! ならばこのことを紅魔館じゅうに報告しましょう」 言って倒れたままの咲夜さんの背中とひざの裏に手を伸ばして、 「きゃっ!?」 一気に抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこという形だ。 「『僕たち付き合うことにしました!』ってね。きっと祝ってくれますよ」 「ちょっ、ちょっと、そんなの恥ずかしいわよ」 「いいじゃないですか。隠すようなことはないですよ」 こうやって人一人を抱き上げる筋力だって、咲夜さんとのトレーニングで培ったものだ。 咲夜さん、あなたのしてくれたことは、決して無駄なことなんかじゃなかったんですよ。 抱き上げると不意に、咲夜さんは僕の首に手をやった。 「あら、これ…………」 「ええ、いつもつけていますよ。咲夜さんからの贈り物ですから」 例の十字架の首飾りに、咲夜さんは指を滑らせた。 「私も、あなたからもらった時計はいつも使わせてもらっているわ」 「よかった。実際に使えてこそ時計ですから」 かすかに咲夜さんは笑った。 「こんなふうにあなたにめぐり合えたなんて……ちょっとは神様も信じていいかもね」 「あはは、実は信心深くはないですけどね、僕も」 僕たちはそのまま、どんどんと門をくぐって紅魔館のほうへ向かっていく。 咲夜さんは最初恥ずかしがっていたけれども、やがて諦めるように苦笑した。 「もう、仕方のない人ね。でも………そんなところが好きになっちゃったんだけど」 そして、そっと僕の頬に。 頬に触れた唇の感触は、完全で瀟洒な従者からの贈り物ではなく、 十六夜咲夜という女の子からの贈り物だった。
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/626.html
咲夜8 うpろだ589 今思えば、私は嵌められたのだと思う。 「咲夜さん、これを」 それは普段着ているようなメイド服でもなく、柔らかくさらりとした手触りの光沢のある黒のドレスだった。 普通の女の子なら一度は憧れる代物だ。 身体のラインを強調するような黒のそれは太腿から深いスリットが入っていた上に、胸も必要以上に強調されるようなデザインになっていて、 それを着るには大分勇気を必要としたけれど、レミリアが着ろと言うのだから逆らうことも出来はしない。 美鈴に手伝ってもらいながら何とか四苦八苦してドレスに腕を通した。 「咲夜さん、凄く綺麗です」 そう言って、美鈴は軽くメイクを落としていく。咲夜さんの肌は綺麗ですね、だからあんまり弄らなくてもいいかな。 アイラインを引いて、口紅を差す。 いいですよと言われて目を開ければ目の前の姿見に見知らぬ女が映っていた。 揺るぎない銀の髪が辛うじて自分であることを知らしめる。 「これ、履いてってレミリア様が・・・・」 「・・・・分かったわ」 ドレスと同じ黒のエナメルの靴を履く。 大きく背中の開いたドレスといい、華奢な造りと高い踵の靴といい、全てが心許なかった。 「咲夜さん、その・・・・私たちの事・・・・」 「美鈴、留守を頼んだわよ。・・・・・さあ咲夜、行きましょうか?」 現れたレミリアにはいと頷く。 美鈴はどこか悲しそうな顔をして、私が連れて行かれるのを見ていた。 行きましょうか、と言われたものの、何処へとは聞けなかった。 聞いていいような雰囲気ではまかり間違ってもなかった。 飛行しながら、流れる景色をぼんやりと見つめながら思う。果たして私は、何処に行くのであろうかと。 数分もかからずにレミリアは地上に降り立った。 それを見てこちらもゆっくりと下降する。 先に降り立ったレミリアが促すようにその手を伸ばしてくる。 少し躊躇った後に指先を重ねて動きにくい靴と格闘しながらのろのろと歩いた。 きっと靴擦れが酷いことであろう。 目の前には数回訪れたことのある屋敷があった。 重厚な扉を開いて、人のいない廊下を歩く。 かつかつと信じられないほど大きく足音が響く。柄にもなく緊張しているのかもしれない。 どうしてこんな格好をしているのかは知らないけれど、これから会いに行く人物には心当たりがあった。 こんな屋敷で用のある人物といえば、ただ一人。 「待たせたわね」 思っていた通りの場所でドアを開けたレミリアに、ある種の落胆と絶望が滲む。 「・・・・・待つ時間っていうのは、どうしてこうも長いんだろうね。レミリア、咲夜」 「・・・・・・」 他の給仕も執事も、誰もいない部屋で彼は一人静かに佇んでいた。 明るい茶色の目と視線が合う、と思った瞬間にはすでに彼は目の前にいた。 いつの間にかレミリアに預けていた手は彼に繋がれている。 「最後に会ったのはあの悪魔の妹君と一緒の時だよね、咲夜」 「・・・・っ、△△・・・・」 「○○、だよ。咲夜が呼びやすい呼び方で呼べばいいけど苗字は駄目」 今日から咲夜は俺のお嫁さんになるんだから。 確かな笑みと共に吐き出された言葉に驚愕した。 そんなことは、知らない。 何かの間違いではないのかとレミリアを見遣ったが、ただ静かに微笑み返されただけだ。 それだけで十分だった。彼の言葉が紛れもない真実だということを思い知るには。 目の前が真っ暗になって、力が抜ける。 みっともなく床の上に崩れ落ちるかと思ったけれどそんな無様な姿になる前に、○○に腰を取られた。 そのまま抱え上げられてソファの上に横たえられる。 ふわふわと沈み込む柔らかな感触が、まるで浮世離れしているのではないのかという錯覚を起こさせた。 理由なんて分からない。 けれどこの格好はその為だったのかと合点がいった。 勿論分かったからといって嬉しくも何ともない。 「咲夜」 「レミリア・・・・様」 「こうなったのは私の責任よ。・・・・私が、彼に負けたから。恨む?」 「・・・・・・」 無言で首を振る。 嫌で嫌でたまらなかったがだからといってレミリアを恨むのはお門違いだ。 例え本当にレミリアの言うとおり彼女の行為の何かが原因だったとしても恨めるはずがなかった。 「・・・私は、いいんです」 「・・・私は貴女の幸せを心から願っているわ。貴女が嫌だと言うのならこの話は―――」 「レミリア」 静かな、威圧的な声だった。 ぞっと皮膚が粟立つ。 初めて出会ったとき、この男はこんな声はしていなかった。 震える拳をきつく握り締めて、真っ直ぐに見上げた。 薄らと笑う瞳と視線がかち合う。 それからレミリアを見遣った。・・・悲しそうな、顔をしていた。 「・・・いい、です。結婚でも、何でもします」 「咲夜・・・・」 「紅魔館の皆さんのことを、よろしくお願いします」 それだけしか言えなかった。 覚悟を決めても所詮はその程度ということだ、情けない。 温かなレミリアの手が頭に触れた。 そのまま小さな子供を宥めるように、くしゃりとひとつ髪を掻き混ぜられる。 たったそれだけのことで身を切られるような思いだった。 この温もりはもう二度と手に入れられないのかもしれない。 「○○」 「分かってるって、レミリア。ちゃんと幸せにするよ・・・咲夜」 のろのろと顔をもう一度○○に向ければ毒を持った笑みで返された。 幸せになんてなれるはずがない、美鈴もパチュリーもフランも小悪魔も敬愛する主君であるレミリアもいない世界に自分の望む幸せがあるとは到底思えなかった。 投げ出したままの左手を取って、その薬指に指輪を嵌められる。 細くて華奢でシンプルな指輪だ。 虹色の石が嵌っているがそれが何なのかは生憎と分からなかった。 「オパールだよ。綺麗だろう?似合うと思ったんだ」 そう言って指輪を嵌めた(彼のものになった)手をそっと握って、口付けられる。 そのまま強く指に歯を立てられた。 反射的に逃れようとしたら更に強く手を握られる。 おそらくは血が滲んだのだろう、赤く濡れたものが見えた。 「・・・・っ、あ」 「浮気防止に、もう一つ」 ぺろりと唇を舐めて、爽やかに笑う。 レミリアの表情は悲しげなまま凍りついたように動かない。 だから、それ以上彼女に負担はかけたくなくて、大丈夫ですと言えば無理矢理納得したような顔をしてそれでもしっかりと頷いてくれた。 「・・・・じゃあ、私はこれで」 「いつでも遊びに来ていいって、紅魔館のみんなに言ってあげて」 「お気遣い、結構よ」 それだけ言ってくるりとレミリアは後ろを向く。 その背中が全ての言葉を拒絶していて、だから何も言えなかった。 彼女の後姿がドアの向こうに消えて、その足音すら捕らえられなくなって、もう一度ソファに沈み込んだ。 靴はすでに○○によって脱がされていた。 思考が同じ所で停滞している、何もかも考えるのに疲れた。 張り詰めた神経が緩むこともなくそのままいつか切れてしまいそうだと思いながら、目を閉じる。 とにかく今は眠りたかった。 目が覚めたら全ては夢だったという都合の良い話はないだろうか。 瞼を閉じたらとうの昔に枯れたはずの涙が二粒、頬を流れ落ちた。 補足。 十六夜咲夜 元紅魔館のメイド長。 咲夜に目をつけた○○とレミリアの賭け戦闘でレミリアが負けてしまったため、○○の嫁になることを決定付けられる。 それ以降すこぶる腹黒な旦那に振り回される毎日を過ごすことに。 ○○にあまりいい感情を抱いていない(レミリアを負かしたので)。 ○○ レミリアより強い、最強?な○○。 性格はすこぶる黒い、とにかく黒い。腹の底まで真っ黒。 事実かどうかは分からないが全て計算づくの上で奸計用いて咲夜をゲットしたとかしなかったとかいう、そんな。 多分十中八九本当のこと。 意外にも結婚生活自体にはどちらかと言えば乗り気なようで、ことあるごとにあの手この手と咲夜を虐めては(困ってたり屈辱に打ち震えていたりする姿を見て)楽しんでいるらしい。 心の底から性悪ですね。 でも咲夜のことを本当に心から、 レミリア・スカーレット 親馬鹿、咲夜馬鹿。 ○○との戦闘に負けて泣く泣く咲夜を嫁に出すことになってしまった。 彼女が嫁に行った日は一人で枕を濡らしていたとか何とか。 ───────────────────────────────────────────────────────── うpろだ591 俺がプロポーズしてから一月ちょっと 彼女が十六夜に別れを告げて一月弱 特に変わったわけでもなく、ただいつものように、毎日が過ぎて行っている 正直に言えば彼女が来てから店の方も繁盛してるし、人でも増えて楽になった でもまだ何となく、その・・・嫁に来たという実感が湧かないのも事実だ いまだ恋人のまま、同棲しているような感覚 いったい結婚とはなんなのだろうか? 「幻想郷に・・・紅魔館に来て、お嬢様のお世話をして、パチュリー様にお茶を入れたり図書館の掃除をしたり、メイドたちをまとめたり、サボってる美鈴を怒ったり」 彼女はまるで遠い遠い昔の事ように話す、瞳は悲しげに、口調は柔らかく 「霊夢や魔理沙が遊びに来て、たまにそれを撃退したり歓迎したり、異変の時も色々と大変だったわ・・・それでも凄く・・・楽しかった」 俺があまり知らない彼女のメイド生活、だか実に解り易く・・・光景が目に浮かぶようだ 俺の知らない彼女を、見て見たいなんてすこし、思った 「このまま年老いて死ぬのも悪くない、むしろ恵まれているなんて思ってた・・・でも」 俺とであった、俺に恋をしてくれた、そして俺も恋をした 「まさか自分が普通の人間みたいに・・・人を好きになって、体を重ねて、プロポーズまでされちゃって・・・幸せすぎて、夢なんじゃないかって、でも夢じゃなくて」 もし夢でも、俺は夢から現実まで出張って、君をさらいに行くよ 「紅魔館にいたときが一番幸せなんだと思ってた、いろんな人に大切にされて、幸せだった、危険もあったけど、充実してたし、満足してた」 「・・・じゃあ、何で君は俺との生活を選んだ?」 俺は、彼女も俺とおなじ事を言ってくれると信じて、一つの質問を、投げかけた 「それは・・・私はあなたを愛してるから、そして彼方が私を愛してくれるから――」 俺も、同じ気持ちだ 俺達は愛し合ってる、だけどまだ夫婦ではない、まだ俺達は彼氏彼女なのだ 何か区切りが必要なのだ、人によって色々だが、最も一般的なのは結婚式だろう、それと 「・・・古くは蛤の殻などを渡していたらしいが」 「?」 「まぁ一般的に・・・これが一番だと思ってな」 いつ渡そうか、ずっと出番を待っていた控え選手 温めていた身体、待ちわびていた気持ち 「え・・・指輪・・・」 「あんまりいいものじゃ無いが(推定月収8か月分)外から取り寄せてもらうのに金が掛かっちまってな・・・」 「綺麗・・・白金?」 「ああ、君には銀が似合うと思ったんだが・・・まぁいつまでも色あせない二人の愛情と言う意味も込めて・・・白金で」 ああ、俺はなに言ってるんだ、よくもまぁ恥ずかしい台詞をいえたものだ、素面なのに 「あ、ありがとう・・・やだ、嬉しすぎて」 涙が、ぽろぽろと零れ落ちた 俺もつられて泣きそうになるが、其処は男ですから、しっかりと胸で受け止めてやらんといかん 「咲夜、結婚式とやらををあげようか」 「え?・・・な、なんで?」 「区切りをつけよう、それと・・・お世話になってる連中に、幸せになる、って宣言しなきゃ・・・な」 お嬢様と妹様と引きこもりと小と中国とメイドsと霊夢と魔理沙とアリスとそれから、それから・・・ 「そうね・・・うん、皆に自慢しなきゃね、私幸せですよ、ってね」 なんか違う気もするが、彼女はそれでいいのだろう、周りも、俺も・・・たぶん 陽気ぽかぽか、昼寝をするには丁度いい昼下がり あの人がいなくなって、怒られる回数は減ったけど・・・ちょっと、いやだいぶ寂しい 「美鈴、頑張ってるかしら?」 「・・・・・さ、咲夜さん!?きょ、きょうはどおして!?」 「ふふふ、ちょっとね」 久しく聞いたのは、偉く上機嫌で、透き通るように綺麗な声だった 「お嬢様、いらっしゃいますか?」 久しく聞いた従者の声、幻聴かと思ったが間違いなく、其処に姿があった 「咲夜!?まさかもう・・・別居!!?」 「ち、違いますよ!そんなことは全然」 あの男に任せて、良かった、そう思わざるを得なかった 咲夜がこんなに幸せそうに・・・ 少し、いや凄く悔しい 「今日はちょっとした、報告とお願いを」 「報告とお願い?」 「私達・・・結婚式を挙げる事にしました」 To be continued! ─────────────────────────────────────────────────────────── 11スレ目 58 理由は特に無かった。 人を好きになることに理由は要らないという言葉は本当らしい。 彼女を目で追い始めたのは何時からだったろうか。 ここは紅魔館のとある一室。 丁寧に掃除をしながら俺はいつものように彼女のことを考える。 十六夜 咲夜、俺の心を捉えて放さない人。 最初はそれほど気になる人ではなかった。 周りのメンバーの印象が強すぎて、常識人に見えたのが彼女くらいだった所為なのだろうが。 話せば長くなる成り行き上、ここで仕事をすることになった俺の上司。 ただ、彼女はそうであるはずだったのに。 何時からか変わっていた。 彼女の性格、仕草、言葉。 そういった何気ないものが俺にとって妙に気になるものになっていた。 「さて、こんなものか」 部屋の隅から隅まで掃除し終えた俺は部屋に置いてあった椅子に腰掛ける。 その状態から椅子にもたれかかり、天井を見上げる。 「何やってんだろう、俺」 彼女を想い続け、数年が経った。 何時までこんな半端な状態を維持するつもりなのだろう。 何度も彼女にこの想いを伝えようと思った。 その度に俺の中にある理性が必ず警告するのだ。 断られればそのあとはどうなるのか、と。 咲夜さんと今までのように接することができなくなる。 それどころか、俺は告白する覚悟など持ち合わせていないのだ。 現状維持――その言葉がいやに俺の頭の中を駆け巡る。 どんなに悩んでも変わらない、もどかしい状態が続いてきた。 彼女を見ていると何時だって俺という存在が霞む気がした。 大した力も無い、ドジを踏む、融通が利かない、器量も普通。 それに比べて彼女は完璧と呼ぶに相応しい。 そんな俺が彼女と共に居たいと思うとはなんともおかしな話だ。 「は、自虐が過ぎるか」 そう弱気な自分を一蹴してみてもやはり皮肉の言葉が沸きあがってくる。 「ああ、畜生。どうしてこんなに愛おしいんだ。どうしてこの感情を伝えられないんだ。どうしていつも踏みとどまっちまうんだ」 自分でも気がつかないうちに言葉が勝手に紡がれる。 少しずつ声が大きくなっていく。 分かっているのに、抑えられなかった。 ガタ…と部屋のドアから音がした。 誰か居るのかと思ったころにはもう遅く、既にその誰かへと呼びかけていた。 「誰だ?」 言い終わった直後に気配を消しながら音を立てずに素早く動きドアを開ける。 そこに居たのは驚いた顔で俺を見つめる、先ほどまで俺が思いを馳せていた咲夜さんその人だった。 「咲夜さん?どうしてここに?」 いきなりドアが開いたことに対して咲夜さんは驚いているようだ。 それもそうか、時間を止めようとしている間にこうなれば。 「え、あ…その…そろそろ掃除が終わったかと思って様子を見に来たのだけれど…」 戸惑いながらも彼女はここに来た理由を告げる。 しかし、何故か妙に落ち着きが無い。 本来の彼女なら既に平静を取り戻しているはずなのに。 ……嫌な予感がする。 俺はその嫌な予感を確かめるために彼女に一つ質問をした。 「あの、さっきの言葉……聞いていましたか?」 「い、いえ。聞いてないけど」 嘘だと直感した。 何故だか分からないが、俺と同じような感じがしたのだ。 「嘘ですね。そもそも、この部屋には防音加工が施されていないですし、あれくらいの声ならば聞こえてもおかしくは無いはずです」 「っ!」 咲夜さんの一瞬見せたその顔で俺は確信した。 「図星ですね」 彼女が慌てて取り繕ってももう遅かった。 それからしばらく言いようの無い、居心地の悪い静寂が辺りを包んだ。 「その・・・ごめんなさい」 「いえ、別に構いませんよ」 言葉が続かない。 さっきからバクバクと早鐘を打つ心臓が酷くうるさい。 彼女に聞かれていた恥ずかしさと、今後の彼女との関係はどうなるのだろうという不安が綯い交ぜになって、本当に落ち着かない。 「あの、私でよければ相談してくれないかしら」 なんとなくわかっていた。 彼女ならそう言うのでは、と。 その言葉を聞いた途端に彼女との距離が遠くなった気がした。 「そういうこと、私には経験が無いけど、私ができる範囲内なら協力してあげるから・・・」 そう言って微笑んだ彼女の表情はまさしく俺を連想させた。 本当に悲しそうで、本当に辛そうな、秘めこんで消してしまおうとする表情を見て、俺はただ、ここで何かを言わなければならない気がした。 「いえ、その必要はありませんよ」 自分の心を奮い立たせて言葉を紡がせる。 何を戸惑う、ここで言わなければ全てにおいて後悔する。 それで本当にいいのか。 「え・・?」 「聞かれていたのなら、もう踏みとどまる必要はありませんからね」 さあ、言おう。 秘め続けたこの想いを。 ただ、その為に今の俺はここにいる。 「咲夜さん、俺は貴女のことが好きです」 一度溢れたら、もう流れは止められない。 なんと思われようが構うものか。 今この瞬間だけはこの想いをぶつけたい。 「咲夜さんの声をもっと聞きたい、咲夜さんの笑顔をもっと見たい、咲夜さんの心に少しでも触れたい、 咲夜さんに少しでも近づきたい、咲夜さんを近くで感じたい、咲夜さんのことを知りたい、咲夜さんを愛したい。――――」 俺の言葉は止まるところを知らなかった。 最初は口をぽかんと開けて呆けた表情を浮かべていた彼女だが、次々と述べられる言葉を理解していく内に、その顔が徐々に赤く染まり、 遂には視線を泳がせて慌てふためき始めた。 「あ、う・・あ、あの・・その・・・」 もはや彼女は、完全に落ち着きを失っている。 その様はいつオーバーヒートしてもおかしくない程だ。 対して俺は、自分の心から次々と湧き上がる言葉をただただ口に出すことに必死なので、まったくといっていいほど彼女の様子を気にしていなかった。 「こんなことをいきなり、しかも勝手に言って迷惑なのは承知しています。けれど・・・駄目でしょうか」 「っ、そんなことない!」 ほぼ即答だった。 「私だって、あなたのことが・・!その・・す、好き・・」 段々と消え入りそうになる声。 しかし、最後の言葉ははっきりと聞こえた。 そう言われて俺は気がついた。 彼女も同じだったのだと。 そう分かると、なんだか顔が一気に熱くなってきた。 たぶん耳まで真っ赤なのだろう。 「えっと・・本当、ですか?」 「嘘でこんなこと、言わないわよ・・っ!」 ああ、これではっきり分かった。 そして、なんとなく顔が綻んでいるのが自分でも分かる。 再び沈黙が辺りを包んだが、今度はあの居心地の悪いものとは違う、どこかむずがゆいような…まあ、悪くない沈黙だった。 「えーっと、咲夜さん、ってあれ?!」 気づいた時には、彼女はもうそこにいなかった。 恐らく時間を止めて何処かに行ったのだろう。 「・・・まあ、いいか」 そう、まだ時間はたっぷりある。 ようやく進展したのだ。 もう恐れる必要は少なくとも無い。 さっそく、彼女を探しに行こう。 どんな顔をして会えばいいか分からないが、とにかく会いたい。 そう思った瞬間、彼女との距離が近づいたような気がした。 さあ、行くか。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 207 う~ん、今日はヒマだなー 黒白も紅白も来ないし、毎日こんなだといいなー って咲夜さん!?いつからここに? え?ヒマだなーの辺りですか?いや確かにヒマだっていいましたけどサボってたわけじゃ…… ちょ、咲夜さんナイフはやめてください! ~少女説得中~ はあはあはあはあ、た、助かった…… それにしても咲夜さん今日はやけに機嫌、悪いですね さては○○さんと何かありました? え?何で分かったかって?そりゃ分かりますよ これでも私咲夜さんの何倍も生きてるんですからよ 恋をしたことだってありますし結婚だってしましたよ、子供は……できませんでしたけどね …………そんなに珍獣を見たみたいに驚かないでくださいよ まあ彼は人間でしたからもう死んじゃったんですけどね 悲しくなかったのかって?そりゃ当時は泣きましたよ、泣いて泣いて泣いて それこそ泣かなかった日なんてないぐらいでした でも、それでも私はあの人と結ばれたことを後悔はしていません だから、咲夜さんも後悔はしないでくださいね これは人生の先輩からのアドバイスとでも思ってください ○○さん、もう咲夜さん行っちゃいましたよ 私の話、聞いてましたよね?だったら私の言いたい事分かりますよね 咲夜さんにも言いましたけど後悔だけはしないで下さいね ふぅ、二人とも世話が掛かるなぁ でも、あの二人を見てると昔のわたしたちを思い出すなぁ…… あなた、私は今日も元気であなたを愛しています 美鈴は妖怪で長生きだから昔結婚しててもおかしくないんじゃないか? って事で書いてみた美鈴しか喋ってないけどwwww ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 430 「フラン!早く部屋に戻りなさい!!」 「やだっ!もうあんな暗いところは飽き飽きよ!!」 紅魔館の中を縦横無尽に走り回るスカーレット姉妹、どうやら妹様があの部屋から脱走なされたようだ 「○○!フランを止めなさい!」 「ええっ!?私が!!?無理です!無理です!!」 「ゴメンね○○」 俺の横を抜ける時に妹様は確かにそういった すぱっ、っと綺麗に腕を切られてしまった 「ちぃっ!あのバカ妹!!」 そう言ってレミリア様も何処かへ行かれてしまった 「・・・切られ損・・・左腕どうしようかなぁ」 俺は吸血鬼(出来損ない)なのでこれぐらいはなんとも無いが・・・痛いorz とりあえず切られた左腕を拾って途方にくれた 「パチュリー様、治癒魔法って使えます?」 仕方がないので図書館へと足を運んだ 紅魔館の頭脳!引きこもり!エレメントマスター!喘息患者! 魔法使いパチュリー・ノーレッジ 彼女に聞けば大抵の問題は解決してしまうのだが 「咲夜に頼めば?彼女裁縫は得意よ?」 「いや・・・治癒力が弱いもので・・・」 「貴方腐っても吸血鬼でしょ?表面さえくっつけば遅くとも1日ぐらいで治るはずよ」 彼女はすぐに読書に意識を向けた、こうなってはもう言葉も届かないだろう 仕方がないので咲夜さんの所へ 「腐っても吸血鬼か・・・ほんとに腐ってるから笑えないなー腐った死体に改名しようか」 「何をブツブツ言ってるのよ、怪しいわよ」 「あ、咲夜さん、丁度いい所に」 「?」 これまでの経緯を説明し左腕の表面をくっつけてくれるようにお願いした 腕の接合なんて嫌がられるかと思ったがすんなり受けてくれた 「貴方も吸血鬼何だから避けるなり受けるなりしなさいよね」 「は、ははは・・・」 「ちょっと!?こんな事で落ち込まないでよ!」 「いや・・・此処に来てから一度も役に立ってないな、と思って」 妹様に逃げられる、侵入者を止められない、掃除も料理も並以下 出来るのは夜の見回りとメイド達が出来ない力仕事ぐらい 「はぁ・・・俺は、駄目だなぁ」 「・・・少なくとも、メイド達は貴方の事頼りにしてると思うわ」 「そう、ですか?」 「優しいし、何でもよく気付くし、力持ちだし、家具の移動とか楽になったわ」 「・・・少しでも役に立ててるなら幸いです」 「私は・・・貴方が此処に来て最初は胡散臭いと思ったけど・・・今は、大好きよ」 「へ?・・・え?大好きってその・・・」 「さぁ、腕もくっついたし、仕事に戻りましょ!」 「あ、ありがとうございます、あ、あの、咲夜さん?」 「ん?」 「それってどういう 彼女は優しく微笑んで部屋から出て行った、俺はその笑顔があまりにもまぶしくて思わず見とれてしまった それ以上に自分で何を言われたかまだ理解できないでいた 「―ッ!」 彼女の言葉と微笑を、理解したと言うか、思い出したというか とたんに恥ずかしくなってその後は仕事にならなかった 「LOVEなのかvery LIKEなのか・・・うーん」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 671 「いらっしゃい・・・なんだ、君か」 里のはずれの方に建つ一軒の怪しげな家、いや正確には店、か 「お客になんだとは失礼ね」 其処に訪れたのはメイド服のパッdげふんげふん、十六夜咲夜だった 「頼んでいおいたのは出来てる?」 「ばっちり、あまり乱暴に使うなよ、すぐ刃毀れするからな」 そう言って数十本の短剣を渡した 「わかってる、けど投げナイフはもともと消耗品でしょ」 代金を払い、短剣を鞄にいれた 「・・・」 「・・・」 じっと見つめあう、よくわからないが張り詰めた雰囲気だ 「わかったよ、お茶飲んでいきなお嬢さん」 「ありがと♪今日もゆっくりしていくわ」 ナイフ研ぎで2時間も3時間も粘られるとは・・・しかし常連さんなのである 「・・・帰らなくていいのか、吸血鬼のお嬢様が待ってるんじゃないのか?」 「いいのよ、今日は一日休みだから」 「ふ~ん、お前さんにも休みがあるんだな」 「○○なんて毎日休みみたいなものじゃない、お客も私ぐらいでしょ?」 「そんなことは無い!へんな爺さんとか二刀流の幼女とかも来るぞ」 数年に一度だがね、週一で来るのは咲夜ぐらいだろう、客が少なすぎるが生活になんら問題はない 「それじゃ帰ろうかな」 「ん、気をつけてな」 店を出て、帰路に着いた 「・・・引き止めてはくれないか」 ため息を吐きながら、自然と言葉が出た 「やだ、これじゃまるで」 そう、彼に・・・恋してるみたい 「いつか、○○のほうから・・・お茶に誘ってくれないかな」 吐く息が白くなる、私の隣は空のままだ ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 677 「○○ここの荷物を4倉庫にお願い」 「はい、解かりました」 最近は咲夜さんにあごで使われてばかりだ 掃除も料理もお茶も駄目な俺は重量級の荷物整理、深夜の雑草ぬき、深夜の門番 これぐらいしか仕事がないもんだから暇でしょうがない 暇な時間はフラン様の話し相手をしたり、レミリア様から有難い講釈を受けたり パチュリー様から実験のサンプルを取られたり、そんな感じ 「お疲れ様、休憩にしましょう」 彼女は本当によく出来たメイドだ、一言で言えば堅い でも、時折見せる少女のような一面に、おれはメロメロ(死語)だった 休憩時間のことだった、窓の外に話しかけてる咲夜さんをみた 霊夢さんとでも話してるのかと思ったら、小鳥に話しかけてた いやもう、かわいいね、やばいよあれは けっこう華奢でね、腕なんかすごーく細いのよ 前に大きめの荷物を持とうとしてね、持てたんだけど重くて足の上に落しちゃったみたいなんだよ すっごい涙目でね、でも我慢してるんだよ 人目を忍んで痛かったーとかいってるのよ いや、もうね、あのギャップ、惚れたよ 普段は完璧なメイドを演じてて、実はか弱い年相応の少女ってのはね、おじさんぐっと来るね 「○○ー!この荷物をー」 「はいっ!ただいま」 いけね、へんな妄想をしてしまった 「これとこれを、終わったら今日はおしまいよ」 せっかく腕力があるんだから、こういう仕事でがんばるしかない 咲夜さんが小さい荷物を運ぼうとしててを滑らせた 「ッ!」 落としたのはこの前と同じ足の上 「あ、この前と同じとこ・・・」 「み、見てたのね!?この前私が―」 「わーごめんなさいごめんなさい、偶然見たんですよー」 頭を庇って、下を向いた・・・あれ? 「咲夜さん!?血!足血がでてます!」 咲夜のエロいじゃなくてきれいな足の甲から血が滲み出ていた 「あら、ほんと・・・大丈夫よこれぐら「救護班!手当てをー」 「ちょ!?○○!?」 音より速く、咲夜を抱えて(もちお姫様抱っこ)救護が出来るメイドの所へ駈けた 「はい、これで大丈夫ですよ、意外ですねメイド長がうっかりミスで怪我だ何て」 咲く夜は少し恥ずかしそうに、俺は横で心配そうに、メイドは何だかニヤニヤしながら 「それじゃ私はこれで、あまり足に負担をかけないでくださいね」 「ありがと・・・ほかの子には黙っててよ」 「ふふふ、解かりましたよ」 「・・・よかったー」 「○○さん」 メイドにが耳元でボソッとしゃべって言った 「○○GJ!咲夜フラグげとー!」 意味不明な呪文を呟いて部屋を出て行った、何だあれは? 「○、○○・・・その・・・あ、ありがと」 これはヤヴァイ、いつも気丈な咲夜が、頬を染めて、素直に、礼を言ってる 少し申し訳なさそうな感じが可愛さを更に引き出して、これは・・・がんばれ理性! 「い、いえ、当然のことをしたまでですよ」 「・・・そうね、そうよね、貴方は誰にだって優しいよね・・・」 なぜそんな悲しそうな顔をするんだ、俺は君の笑っている顔がすきなんだ 曇った顔は、暗い顔は 「咲夜さん?なにか・・・」 「はは、なんでもないの、仕事に戻りましょ」 部屋を、出て行こうとした彼女の手を、握った、俺は彼女を引きとめた 「俺で、俺でよければ・・・話してください」 「そう、ね・・・私、好きな人がいるんだけどね、そいつは鈍くて、何処か抜けてるけど・・・とても優しいの、誰にでも・・・誰にでも優しいのよ」 咲夜さんに好きな人?俺は・・・いやだ、そんなのは嫌だ、でも・・・彼女は 「そいつ・・・幸せな奴ですね!咲く夜さんにこんなに想われてて」 黒い感情を押し殺した、でないと俺はきっと酷い事を言ってしまう、醜い 「・・・そうよ、こんなに想ってるのに、あの莫迦鈍くて・・・」 彼女の瞳を涙が濡らす、泣いている姿をみて、不謹慎にも、綺麗だと思った 「咲夜さん・・・泣かないで」 「誰のせいで泣いてると思ってるのよ!!ばかー!!!」 ぱしーん、と勢いよくびんた、そのまま彼女は走っていった いたい・・・なんで俺が 「誰のせいで・・・・鈍くて・・・誰にでも・・・・・・」 彼女の言葉を思い返して整理して 「え・・・俺?もしかして、もしかしなくて俺?」 いや、この結論に至った事を妄想乙とか言われても構わない 彼女の言葉からは、行動からは、それが最も正しい― 「はっははは、俺が・・・咲く夜さんが俺を」 生まれて初めて、嬉しくて泣いた、嬉しすぎて笑った 笑いながら泣いた、そして走って行った十六夜咲夜の後を追って走った ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 747・750 「なぁ咲夜、俺は・・・お前の事が―」 ぴぴぴぴぴぴぴがちゃ 「ん・・・夢だよね、あの人がそんな事・・・」 もう少し時計が鳴るのが遅ければ、あの人のセリフを 溶けるくらい甘いセリフが頭をよぎった、自分で恥ずかしくなった、馬鹿馬鹿しいと思って 「早く着替えなきゃ、仕事が」 すぐに着替え、身支度を済ませ仕事へと向かった 部屋を出た、瞬間何かにぶつかった 「きゃっ!」 どす、っと堅いものにぶつかった・・・あれ? 「大丈夫ですか!?咲夜さん?」 ○○さんの胸、らしい、頭のすぐ上から○○さんの声がする・・・ 「ご、ごめんなさい、私ったら急いでて・・・その」 あんな夢を見てすぐに○○さんに会っちゃうなんて、恥ずかしくて顔が見れない 「咲夜さん?どうしたんですか!?顔が赤いですよ?熱でも」 「大丈夫です、大丈夫ですから」 なんでもないからそんなに近づかないで!今は― 俯いてるのに○○さんの顔が正面に見えた・・・え? おでこが、おでこが あの例のあれ(おでことおでこで熱を測るの) ぱたっ 私は私の倒れる音を聞いた 「あ、メイド長、気がつきましたか」 「ここ、は?」 「医務室ですよ、メイド長いきなり倒れたんですよ?」 「そうだ、○○さんは!?」 とんだ失態を見せてしまった、というか恥ずかしくてしょうがない 「かっこいいですよねーメイド長を軽々と抱えて医務室まで来られたんですけど」 私が知らないうちに私はいい思いをしてたらしい、意識がないのが悔しい所ね 「すっごくあわててましたよー、お姫様抱っこって絵になりますよね」 おおおおお姫様抱っこ!??きゃー 「もう大丈夫ですよ、熱中症という事にしておきますから」 メイドはさっきからニヤニヤしている 「ニヤニヤしないでよ、私だって恥ずかしいんだから」 「あ、いえいえ、そういうことではなくてですね・・・メイド長、いえ咲夜さんは○○さんにとってとても大切な人なんだなぁって」 「な、なにを」 「だっていつもクールで優しい彼があんなに取り乱して、あれだけ思われてる咲夜さんが羨ましいですよ」 「そんなこと・・・ないわよ、彼は誰にだって優しいわ」 「・・・まぁいいですけど、思ってるだけじゃ思いは想いのままですよ?」 「・・・ありがとう、仕事に戻るわ」 「はい、がんばってくださいね咲夜さん・・・陰ながら応援させてもらいます!」 「ふふ、ありがと」 「これからどうなるかwktkしますね」 「わくてか?」 きにしないでください 「咲夜さん!もう動いて大丈夫なんですか!?」 「ええ、全然大丈夫です、すいません、朝から迷惑ばかり」 「いえ、咲夜さんが元気ならそれでいいんですよ!迷惑だなんて、ぜんぜん」 この人が私を好き?私の大好きなこの人が、私を好きでいてくれるの?本当に・ 「○○さん・・・今日は何時まででしたっけ?」 「仕事ですか?確か5時半までだったと」 「・・・6時に・・・中庭で、その・・・待ち合わせしませんか?」 「何か相談とか、ですか?」 「え、ええそんな所です、いいですか?」 「構いませんよ、それでは6時に中庭で」 その後はいつもどおりに仕事をした、仕事をすることで、少しでも気がまぎれればと思った 「メイド長!」 「な、なに?いきなり」 「○○さんを誘ったんですね~!」 「き、聞いてたの!?」 「聞いたんではありません、聞こえたんです、不可抗力であって自己の意思による選択の(ry」 「・・・今朝も言ったけど他のメイドには秘密だからね!?わかってる?」 「ええ、ちゃんと把握してますよ、こういう秘密は秘密にするからこそ面白いんですよ」 「・・・今夜は・・・がんばるわ、どんな結果であれそれを受け入れる」 「がんばってくださいね、私は咲夜さんを応援してますよ」 ほーほー ふくろうが鳴いてる、今は5時45分、私は少し早く来てしまった 待ちきれなかった、期待と不安に押しつぶされそうだった、早く楽になりたかった 楽になれるといいのにな 「せっかちさんですね、約束まであと十分ほどありますよ」 ○○さんが、来た 「呼び出しておいて遅れるの失礼だと思って」 「そうですか・・・それでなぜ私を?」 言おう、言うぞ、言えっ! 「私はっ・・・」 声が震える、上手く声がでない、なんで!? 「私は」 恐怖か不安か、黒い感情で声が震える、悔しくて涙が出た 今朝とは違う、衝突ではなく抱擁、私は、彼に抱きしめられた 「何があってどういうことなのかは解かりません・・・でも泣かないでください」 あったかい、人肌がこんなに心地いいなんて 「○○さん・・・私・・・あなたの事が好きです、大好きなんです」 「咲夜さん・・・俺も言いたい事があるんですけど、いいですか?」 「は、い」 拒絶か、怖くなって身構えた、衝撃で、壊れないように 「俺は、○○は、十六夜咲夜が好きで好きでしょうがない、大好きだ・・・だから」 「○○さん・・・」 また抱きしめられた、いや今度は違う、お互いに、抱きしめ合った 私は、私たちは、自然と、お互いの唇を求め合った 「・・・よかったですねメイド長!ぐすぐす」 遠くから二人の様子を見守っていたメイドがぼろぼろ泣きながら喜んでた レミリア様に朝早く咲夜の部屋を出て行く○○が目撃されてしまうのは別の話・・・ ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 807 「いらっしゃいませ~」 「こんにちは」 此処は調味料、珍味、漢方原料取扱店「ヰ茶主列度」 「こんにちは咲夜さん、今日は何をお求めですか?」 「パチュリー様の要望でね、この紙に書いてある物を」 「かしこまりました」 十六夜咲夜は既に買出しを終えたらしい、持っている荷物の量からするとうちが最後か 「大変ですね、買出しからお遣いから、館のあれこれ」 「もう慣れたわ、流石にね」 世間話をしながら商品を探し、揃えていく 守宮の尻尾~蜥蜴の青尾~♪コウモリこうもっり♪るるるー 「これで全部です、お化けきのこは切らしてるので、申し訳ない」 「じゃあそう伝えておくわ・・・」 …流石の咲夜さんもお疲れのご様子で 「これオマケしときますね」 「なにそれ?」 「栄養ドリンクヰ茶磨れすぺしゃる、です」 「…怪しすぎる、大丈夫よね?」 「少し飲んでみて駄目だったら門番か魔法使いに上げてください」 拳大ほどの瓶に容れられたワインレッドの液体・・・ とりあえず貰える物は貰う、ポケットにそっと仕舞った 「あの・・・えっと・・・来週がですね・・・その、休みなんですよ」 「久しぶりの休みですね、ゆっくり出来るといいですね」 「そうじゃなくて・・・その・・・よかったら、いえ、時間があればでいいんです!私と・・・その・・・」 ガラス細工を触るように、咲夜の唇に触れた、指だよ? 「お嬢さん、来週もしお時間が有れば、この私と、過ごしてもらえませんか?」 「あ・・・は、はいっ!喜んで!」 その晩、暗い部屋に一人、明かりを灯し瓶を眺める少女 「早く来週にならないかなぁ」 瓶の中で、真紅の液体がころがった ─────────────────────────────────────────────────────────── 9スレ目 411 ドアの閉まる音に首を向けると咲夜が立っていた。 「あれ、レミリア様のところにいなくてもいいのか?」 「ええ。なんだか体調が優れないとか言って、早々に寝ちゃったわ」 「ふうん。――ま、座れよ。紅茶と珈琲どっちがいい」 「それくらいなら私が……」 「いいって、俺にも少しはやらせろよ。で、どっちだ?」 「じゃあ……紅茶。美味しく淹れなきゃだめよ」 悪戯っぽく咲夜は笑う。いつも張り詰めたままの表情も年相応に見えた。 震える手で紅茶を渡すと、微笑んでそれに口をつけた。 「まあまあね。ま、ぎりぎり及第点って所かしら」 「……厳しいなぁ。結構自信あったんだぜ?」 「自信があっても結果が伴うとは限らないのよ。精進することね」 「妙に実感篭ってるな…。――まさか咲夜も昔は?」 「何のことかしら?」 「はは、じゃあ気にしないでおくぜ」 月が照らす部屋で俺と咲夜は小さな声で笑った。 誰が聞くこともない、笑い声が部屋に染み込んでいった。 「なんで私がここに、とは訊かないのね」 「恥ずかしいからな。あえて、だ」 「ふふふ、そう。じゃあ、恥ずかしいついでに踊りましょうか」 「おいおい、俺はステップなんて知らないぜ?」 「大丈夫、私が教えてあげる」 「そうか、なら安心だな」 「今宵、私の時間は貴方のもの。踊りましょう、日が昇るまで」 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/619.html
咲夜1 1スレ目 38 「咲夜さん!オレを第二のメイド長にしてください!」 1スレ目 179 咲夜さんに 「あなたの微乳は最高です!!」 って言って告白 命の保障はできないけど( A`) 1スレ目 199-202 「失礼します」 そう言って俺は目の前の重厚な扉を開けた。 扉の向こうは真紅の部屋。 中央に置かれた豪奢な椅子の肘掛に頬杖をつき、薮睨みの視線で僕を縫い止めているのがこの館の、そして俺達使用人の主であるスカーレット御嬢様だ。 白磁よりも白い肌と、紅玉よりも紅い瞳。 すらりとした切れ長の眉は意志の強さを如実に表わしている。 眉を通り、整った目鼻立ちの下にある柔らかそうな唇から覗くのは、明らかに人外の種である証の牙。 外見の幼さからは想像もつかない強烈な威圧感と、魔性の者のみが持ち得る傾国の美貌。 俺如き脆弱な人間風情には、濫りに近付く事さえ許されない――――俺がそんな錯覚を覚えるのに、十二分にしてお釣りが来る程の魅力を、スカーレット御嬢様は備えていた。 「何をしているの。さっさと入りなさい」 不機嫌さを隠そうともしない声で、萎縮してしまった僕を呼びつける御嬢様。 視認出切るほどの不機嫌オーラを纏う御嬢様に近付くのは、はっきり言って泣きたくなるくらい怖い。 俺は、使用人魂で恐怖をねじ伏せ歩を進めた。 それと同時に、僕は何故御嬢様の御部屋に呼ばれたのか考えていた。 俺の仕事は基本的に雑用や外回りの警備ばかりで、御嬢様の身の回りのお世話に直接関わるような機会は無い。 仕事では大きな失敗もしていないし、呼びつけられる様な原因が思いつかない。 しかし、それでも俺は外勤組の中では格段に御嬢様と出会う人間らしい。 一日に三度は廊下で擦れ違ったり視線が合ったりすると仲間内で話したら、皆一様に驚いていた。 曰く、外勤は一週間に一度御嬢様をお目にかかれたら上出来、なのだそうだ。 もしかしたら、その辺りが今回呼ばれた原因なのかもしれない。 余りにも顔を合わせる回数が多いから、サボってるんじゃないかと思われてたりして。 内心で首を捻る俺に、御嬢様は言い放った。 「単刀直入に聞くわ。貴方、咲夜に何をしたの」 心臓が跳ね上がった。口から飛び出たかと思った。 十六夜咲夜さん。 ここ紅魔館の使用人と侍女の頂点に立ち、人知を超越した能力を持つ、文字通り完全で瀟洒なメイド長。 御嬢様が紅魔館の象徴であれば、咲夜さんは紅魔館の中枢と言ってもいい。 「……い、いえ。特にこれといって何かをしたという記憶はありませんが」 俺の短い人生の中でも最大の集中力と精神力を振り絞り、可能な限りの平静を装って俺は答えた。 誰よりも御嬢様に忠節を誓う咲夜さんだけど、まさか咲夜さんてばあんな事まで御嬢様に言うのか。 俺は一週間前の出来事を思い出していた。 今、俺が咲夜さんと聞いて思い出すのはそれしかない。 一週間前――――咲夜さんに告白して、思いっきりフラれた事を。 勿論、OKなんてもらえるとは思っていなかった。 ただ、咲夜さんに自分の想いを知ってもらえればと、それだけが望みの告白だった。 この気持ちは、好きというより、むしろ憧れに近いものだったのだろう。崇敬と言い換えてもいいかもしれない、そんな一方通行の想いだった。 それでも返答が『そう……それじゃ』だけでくるりと踵を返して去ってしまったのは流石に多少傷付きもしたけれど。 ダメでもせめてもう少しリアクションが欲しかった。 高望みだとか無謀だとか言いつつも撃沈した俺に同僚達が奢ってくれた酒は少ししょっぱい味がした。 兎に角、あれ以来咲夜さんとは全く顔を合わせていない。 むしろ避けられているような風潮さえある。本当にちらりとも姿を見ないのだ。 現に、今だって普段は御嬢様の御付である筈の咲夜さんなのに、どこにも姿が見当たらない。 気が滅入りそうになるが、これはどう考えても嫌われてしまったと見るのが妥当なんだろう。 …………やばい、また涙が出そうになってきた。耐えろ俺。 だけど、よくよく考えてみると何もしていないというのは間違いじゃないのだ。 咲夜さんからしてみれば、俺はどうでもいい人間なのだから。自分で言うのも悲しいが、告白なんてされようが関係ないのだし。 そんな俺の発言に、しかし御嬢様は苛立たしそうに席から立ち上がると目にも止まらぬ速さで俺の眼前へと移動し、 「てぃ」 「ぅぁ痛゛ぁっ!!?」 デコピンを頂戴してしまった。 あまりの痛さに頭が割れたかと思った。 「お゛お゛お゛お゛お゛……」 そのまま御嬢様の前である事も忘れもんどり打って転げまわる俺。 鼻息を荒げ腕を組みながら御嬢様が言う。 「この私に嘘とはいい度胸ね。貴方が咲夜に何かけしかけたのはお見通しなのよ!」 「ええっ!?」 「私の能力を知らないの? いいわ、特別に貴方にも見えるようにしてあげる」 ぱちん、と御嬢様が指打ちをすると、俺の視界が一瞬、真っ赤に染まり―――― 気付くと、俺の腕といい首といい脚といい、身体中のありとあらゆる部分から、細長い糸が張り巡らされていた。 糸は部屋の壁をつきぬけ、思い思いの方角へと一直線に伸びている。 太さや色は様々で、緑、青、白、黄、紅、茶、黒、そして、 「……この糸だけ、やたら太っといですね。あの御嬢様、これは一体……?」 「俗に言う『運命の糸』って奴よ。貴方と周囲の人間のエニシを可視化したの」 成る程。これは確かに、運命を操る御嬢様にしか出来ない業だ。改めて御嬢様の力の一角を見せ付けられ、俺は感嘆した。 「視覚化ついでにちょっと手品を加えておいたわ。貴方、ちょっとその糸引っ張ってみなさい」 「え?はい」 俺は言われた通りに手首から出ている紅い糸、いやもう綱と言っていいようなそれを引いてみた。 部屋の窓際、紅色のカーテンの向こうに繋がっていた綱がぴんと張り、その次の瞬間。 「きゃっ!」 小さな悲鳴と共にカーテンの裏側から転げそうになって飛び出てきたのは、俺と同じく手首に綱を結わえた咲夜さんだった。 「あ……」 「う……」 何故そんな場所に隠れていたのか。 この糸の太さは何なのか。 そんな疑問を吹き飛ばして瞬時に蘇る一週間前の記憶。 赤熱化する頬が分かる。 対する咲夜さんはと言うと、一週間前と同じくあっという間に背を向けてこちらを見てもくれない。 呆然とする俺に、御嬢様が御不満ここに極まれリといった声で、とんでもない発言をしてくれた。 「この一週間、咲夜ったら酷かったんだから。掃除は手につかない、料理は失敗する、ぼーっとして私の言葉さえ聞き逃し、あまつさえこの咲夜が、咲夜がよ? まさか寝坊をするなんて思っても見なかったわ」 「おっ、御嬢様!」 その時、俺ははっきり見てしまったのだ。 反射的に振り返ってしまった咲夜さんの、あの氷のように澄んだ咲夜さんの綺麗な横顔が、真っ赤に染まってしまっているのを。 それって、つまり―――― 「咲夜さん、俺の事を嫌って避けてたんじゃなくて……」 「…………から」 「え?」 「ど、どんな顔をして貴方と会えばいいのか分からなかったから……」 この時、俺は初めて知った。 人間、理解能力の限界値を超えると意識が飛ぶって事を。 薄暗くなっていく視界の中、俺は慌てて俺の方に駆け寄る咲夜さんの姿を見たような気がした。 1スレ目 848 湖の真ん中に位置する紅魔館――そこのある一室に俺は倒れていた。 無論、誰かに倒されたと言うわけではない。ここで働いて数ヶ月、俺の身体の 一時的な限界が訪れていたというだけだ。 「あのメイド長…人を散々こき使いやがって…」 何故かここで働く羽目になっており、俺は有給やら昼寝やら休日やら そんな物が無いという、ある意味では地獄のような職場で働いている。 制服貸与と書かれていたが、それもよりにもよって始めはメイド服だったから 性質が悪い。今は執事用の服という物を着せられているが、当初はそれも埃を被っていた。 「…休日なしだからなぁ」 今日も警備やら図書整理の手伝いやら、タダ働きの割に合わない事をしないとならない。 そう、そのはずだったんだ。 「あら、今日はどうしたのかしら」 いつの間にか俺の部屋の中に、諸悪の根源が居た。 ベッドから起き上がらない俺を見て、メイド長――十六夜咲夜は不審そうな目で見ている。 「…誰かさんの忙しい予定のせいで、ちょいと身体を壊しただけですが?」 その言葉をたっぷりと皮肉をこめて返す。 「そう、それじゃあ」 起き上がって館内の警備に行きなさい、とでも言われるのかと思い言葉に耳を傾ける。 「今日は少し休んでいなさい」 ……何ですと? あの鬼のようなメイド長が休め?普通、メイド長が言う筈無いよな。 …もしかしたら夢かもしれない、いや、もしかしたらこのメイド長はニセモノか? 「何をそんなにじっと見てるのかしら?」 「…や、なんでもない」 この言う言葉に殺気を込めるやり方。間違いなく本物のメイド長だ。 「…ここで寝てなさい」 そう言って、メイド長は俺の部屋から出て行った。 「待たせたわね」 戻ってきたメイド長はいつものメイド長だった。 さっきとの唯一の違いは手にお盆と料理らしきものを持っていることくらいか。 「…で、何のつもりっすか?」 「せっかく人が厨房を借りて病人食を作ってきたんだけど、いらないのかしら?」 「………いりますよ。そりゃ」 館の中でもしかしたらこの人は最強かもしれない。 紅魔館の全てを統べるメイド長、十六夜咲夜。…なんか強そうだ。 「お嬢様にも言って許可貰ったからから、今日は休みなさい。この館のほとんど居ない男手なんだから」 「…りょーかい。で、その料理は食べられるんだろうな?」 嬉しい事は嬉しいんだが、万が一にも毒なんて盛られていたら、泣くに泣けない。 いやその前に亡くなってしまうこと確実だ、俺は妖怪じゃないんだから。 「…毒なんて盛ってないから安心しなさい」 「何で俺の考えてる事が!?」 「その間抜けな顔を見たら誰でも気付くわ」 そこまで分かりやすい顔してたのか… メイド長からそのお盆ごと受け取り、レンゲを手に取る。 「見ての通り、お粥だけどね」 「病人食なら普通だろ?」 レンゲでまだ熱々の粥をすくい、すぐさま口に運ぶ。 作法とかなんてこの際関係ない。ただ我武者羅に食べ続ける。 「どうかしら?」 「…さすがメイド長だと思うぜ。普通に美味い」 「そう、なら良かった」 心の底からホッとしたように、メイド長は安堵の息を吐く。 …その表情を、妙に可愛く見えた自分がいた。 夜になった。 いつもは夜になっても図書整理が終わらずに篭っているはずなんだが、 今日は休めといわれて、ずっと横になっている。 昼間に門番や図書館の館長やら司書やらが来て、見舞いをしてくれたから 暇は潰れたが、今は何も無い。 「暇だ…」 と言った所で何が変わるわけでもない。それにしてもいつも俺を玩具にして遊んでいる お嬢様が休みをくれた事が意外だった。メイド長が言ってくれたからか? 「入るわよ」 と言いながら既に入っているメイド長。 また粥を持ってきたらしい。飽きない味とは、ああいうものだろうな。 「…晩飯か?」 「えぇ、同じものになるけど、病人食だから仕方ないわよね」 「…ありがたく頂く」 俺がお椀を取ろうとすると、それをメイド長はお預けをするような形で持ち上げた。 その手はむなしく空を切って硬直する。 「もう少しくらい休みなさい。最初で最後の奉仕活動くらいはしてあげるから」 そう言って、レンゲで俺の代わりに粥をすくう。 「ほら、あーんして」 …そう来たか。 「…あんたは――」 「あら、恥ずかしいのかしら? 普段はもう少し素直なくせに」 「…分かったよ。 ったく、どういう神経してんだアンタは」 結局、俺の方が折れて口を開ける。素早く中にレンゲが入る。 正直言って、恥ずかしさのあまり味覚が麻痺したのか味は分からなかった。 「…あんた、いい嫁になれるぜ」 わざわざそっぽを向いて、ぶっきらぼうに言う。…無意味に恥ずかしいだけだが。 それにしても彼女――咲夜は子育てとか得意そうだ。それにあれくらい飯が美味ければ 申し分ない。 「そうね。あなたはお嫁に貰ってくれるかしら?」 「…はっ、あんたみたいな美人なら喜んで、だな」 まぁ、咲夜の事は嫌いじゃない…むしろ好きな部類に入る。 仕事に対して厳しいというか何というか、そこがネックだがそういうところも割と気に入っている。 「それじゃ、これにサインして」 と、一枚の紙を差し出した。 「…ってオイ! これ婚姻届だろうが!」 そんなものが幻想郷にもあることが驚きだ。 いや、もしかしてこういう隔離された場所だからこそあるのか? 「あんたの事は確かに好きだけどさ、もっと、こう…人を選んだらどうだ?」 「色々知っている人間を比べた上で、あなたに当たったのよ」 そりゃ嬉しい事で…。 と冗談で返せれば良かったんだが、咲夜の目は…本気だった。 結構長い時間、俺は黙っていた。今までの事を振り返りながら決断をしようとしていたのだ。 問題を先送りにするような事はしたくないし、答えは早く出すべきだから。 「…ま、あんたの事は嫌いじゃねえよ」 むしろ嫌いになんてなれるか。 「そう、なの」 「…安心しな。結婚しねえって言ってるわけじゃねえって」 「え?」 「アレだ。こう言うときは俺の方から言わせてもらった方が嬉しいんだけどな…」 まさか、先に言われるとは思ってなかったし 「あー…っと、メイド長…もとい、咲夜。あんたの事、結構好きだぜ? 俺にとっての嫌いじゃないと好きってのはイコールなんだ。だからさ、こき使われるのはヤだけど 俺は…あんたが好きだ」 「本…当?」 それだけ言い終わると、咲夜は口元を押さえて涙を流していた。 「…結婚、するか?」 「…えぇ」 俺は、彼女と共に永遠を誓う口付けをした。 1スレ目 951-953 「貴方、今まで相手した中で最低ね。試験を受けようと考えた事自体が間違いだわ」 …そうして彼は紅魔舘から暇を頂く事になった。要するにクビである。 きっかけは舘内の知らせで、『昇格試験の案内』という張り紙を見て目をとめたのが始まりだった。紅魔舘に就職し、メイド長の十六夜咲夜に一目惚れした彼は「試験監督‐十六夜咲夜」の項目に惹かれて即座に申し込んだ訳だが・・・。 結果は惨敗。いきなり戦闘力のテストをされて何も出来ずにダウン。余りの不甲斐無さにメイド長直々に解雇を言い渡される事となったのである。 里へ帰る途中、彼の中では変化が起こっていた。 自分の至らなさを恥じる心は他人への責任転嫁に。 一方的な憧れは一方的な憎しみへ。 メイド長の目に止まる事がなかった男は、里へ帰る事なくいずこかへ消えていった。 それから数年、紅魔舘に紅白や白黒以外の侵入者がいるという話が持ち上がる。 曰く、侵入者は投げナイフを得意とするらしい。 曰く、侵入者は門番に気付かれずに中へ入る事ができるらしい。 曰く、侵入者は一瞬で別の所へ移動できるらしい。 曰く、侵入者は毎月一度忍び込むらしい。 これだけの特徴を兼ね備えた人物を、紅魔舘では知らない者がいなかった。 しかしその人物はメイド長。侵入者を撃退する役目を持つ人である。 「咲夜。最近舘内に貴方のドッペルゲンガーが出没するって噂ね?」 深夜のティータイムに、レミリアが咲夜に半分からかい口調で話し掛ける。半分は真面目であることを察した咲夜は黙って頷いた。 「面白そうだけど、咲夜の問題みたいだしね。そうそう。・・・・私はもう寝るから、館の見回りをお願いね。今夜は「2人」が見回りするでしょうから、早く終わるでしょう」 そう言ってレミリアは寝室へと姿を消す。瀟洒な従者は主の意図をつかんだらしく、館内の見回りへと出かけて行った。 館内を一通り見回ったところで図書館へと向かう。しかしここにも異常はなかったため、残すは時計台のみとなった。扉を開けると柔らかな月光が降り注ぐ。 「そういえば、昨日は満月だったわね」 そう呟いた咲夜に、暗がりから声が帰ってくる。 「今夜は十六夜・・・と言うそうですね。満月の輝きには及ばないとされているが、充分に眩しく、そして美しい」 「それは月だけかしら?」 「いえいえ、どちらの十六夜も私には満月より輝いて見える」 「それは間違いね。満月より輝く月など存在しないわ」 言葉だけなら月下の語らい―――しかしその実は殺気の応酬である。 「眼鏡もかけているのですけどね。度が合わないのかな?」 「それは元から治すしかないわね。尤も、ここで倒されるから治しようがないけど」 「何、これで私には良いのですよ。治すにしてもこの後図書館でも行って調べます」 2人はどちらともなく距離をとりはじめ、ナイフを抜き合う。 「呆れるほど大した自信ね。なら――――」 「そのような瑣末な事より、今は――――」 「返り討ちにされるといいわ、黒き賊!」 「貴方を倒したいのですよ、瀟洒な従者!」 ―――――そうして、十六夜の月の下、2つの影が交差した。 3本同時投擲からの接敵、離れる時の目くらましに投げた内1本のみ相手の急所を狙う、1本だけと思わせて同じ軌道で2本目を投げる・・・ナイフの応酬は互角だった。いや、その戦いは余りに・・・・・互角すぎたのである。 「どういうこと・・・?まるで鏡に映したようにナイフが飛んでくる。お嬢様の言っていた冗談もこれなら本気にしてしまうわね・・・ならこれを使わせてもらうわ」 ――――幻世「ザ・ワールド」 世界が凍る。咲夜は今、時を止めた。紅魔舘メイド長の能力にして奥義である。 もちろん相手は微動だにしない。この世界で動けるのは咲夜を除いてはいないのだ。 「チェックメイトね、侵入者さん。中々面白い戦い方だったわ」 急所に向かって的確にナイフを投擲する。後は世界を開放すればお終いだ。自分と同じナイフ術には興味があったが、明日の予定を考えるとそれを詮索するのも手間に思えた。 男が立ち上がってくるまでは。 「・・・なぜ?急所に当たって倒れないなんて、貴方人間?」 自分の必殺パターンを崩されてか、咲夜は苛立ちを隠さずに男に問い掛ける。その様を見て男は満足そうに、不敵な笑みを浮かべて答えた。 「いいえ?どこにでもいる無様で「最低」な人間ですよ。ただ、ちょっと誤魔化すのが上手いだけです。・・・・防護魔法ってご存知ですか?狙ってくるのが確実に急所なら、そこだけを集中して防護すれば致命傷にはなりませんしね」 「・・・・ご高説感謝するわ。お代は地獄への片道切符で支払わせていただきますね」 ――――幻符「殺人ドール」 急所のみをガードしているなら無差別・乱反射のナイフに対応できる道理はない。全方位からの攻撃に、男は――― 「ありがとう。それでこそ貴方は十六夜咲夜だ」 と呟き、避ける動作も見せず。悔しそうな表情も浮かべず。ただ、微笑んで全てのナイフをその身に受けた。 「え・・・?ちょ、ちょっと!?」 余りのあっけなさに咲夜は男に近寄る。先ほどまで頭にあった明日の予定より、今はこの男の不可解さが気になって仕方がなかったからだ。 「・・・どうしました、そんな不思議な顔をなさって」 致命傷を負っていても男の態度は変わらない。その一貫した態度に腹が立ち、咲夜は男を怒鳴りつける。 「不思議な顔にもなるわよ!戦った相手にこんな事言うのも変だけど、あの攻撃は避けられたはずでしょう!?」 ヘイスト プロテクション 「ああ、さっきまでの私ならね。・・・速度増加も防護魔法も時間切れですし、そうでもしなければ貴方と戦う事すらできない。いつぞやの様に一瞬で倒されてしまう事でしょう」 「貴方は、あの時の・・!」 自分の事を思い出してくれたのか、男は嬉しそうに、しかし弱った声で話を続ける。 「ああ、今は貴方の瞳に私が映っている。私を見る事すら面倒に感じられたあの時に比べて、今はなんと幸せなのだろう。ドアを開けて私の声に反応する時など、体の震えが止まりませんでした」 複雑な表情で咲夜は男に話かける。 「馬鹿ね・・・そこまでして私に復讐したかったの?」 「・・・冗談を。私は貴方に一目惚れしてしまったのですよ。エゴですが、愛してると言ってもいい。そこまで慕う相手の瞳に映らない、まして仕える事もできないのなら、一瞬でも長く、私を意識し、見続けてもらうよう生きただけです」 「・・・・」 「憧れ、慕い続けた貴方の技を使いたかった。修行をしている時も、貴方に近づいていくようで楽しい日々でしたよ・・・最初は復讐のためだったのですけどね、『自分の技で死ぬがいい』って」 咲夜は何も答えない。自分のした事を後悔しているのか、男の行動に呆れているのか、自分でもわからないのである。 「さて、そろそろお迎えのようです・・・最後にもう一度顔を見せてくださいませんか」 咲夜が男を見直すと、不意に男は体を起こし―――咲夜に口づけをした。 「!?」 「―――――時よ止まれ、・・・貴方は美しい」 そこで男の時は止まった。 名も告げない、相手にとって1日にも満たない男の恋は報われたのだろうか? 咲夜は次の日、何事もなかったように仕事を進めている。 ただ、その日紅魔舘のメイド達は昼休みにこんな会話を交わしていた。 「侵入者が退治されたみたいですね。昨夜メイド長が夜の見回りの時に倒したそうです」 「あ、私丁度早番で起きてきた時にメイド長とすれ違いましたよ。私初めて見たんですが、倒した侵入者を抱えてました」 「・・・いつもは片付け、私たちにやらせるのに。『メイド服が汚れるでしょ?』って言ってましたしね」 「珍しい事もあるんですね・・・。綺麗好きで有名なのにどうしたんでしょう?・・・あ、そろそろ休み時間も終わりですね」 それきり、男の話題が出てくる事は無かった。ここでそんな話は日常である。侵入者をメイド長が退治した、ただそれだけの話。 ―――――――紅魔舘は今日も、概ね平和だった。
https://w.atwiki.jp/tamakagura_battle/pages/265.html
H咲夜 タイプ:鋼 スキル1 完全で瀟洒なメイド 戦闘中のコダマの能力値が5%上昇します。 スキル2 紅魔館のメイド 混乱しません。 重複弱点(3倍): 弱点(2倍):闘地炎 抵抗(1/2倍):無樹風虫岩鋼霊氷理神闇 重複抵抗(1/3倍): 無効:毒 種族値・同タイプ比較 (鋼) HP 攻撃 防御 特攻 特防 速度 合計 H咲夜 110 90 90 80 90 85 545 Aゴリアテ 130 140 100 70 80 40 560 る~こと 85 60 65 80 130 60 480 スペル スペル名 属性 分類 威力 命中 消費 詳細 ジャック・ザ・ルドビレ 鋼 物理 60 100 0 - ルナクロック 氷 物理 80 100 0 10%の確率で、相手を凍らせます。 幻惑ミスディレクション 鋼 物理 100 200 20 相手が空中・地中・亜空間のいずれかにいる場合を除き、使用ターンのみ相手の回避値が0になります。 咲夜特製ストップウォッチ 氷 変化 - - 0 5ターンの間、お互い先攻・後攻を入れ替えます。ただし優先度を覆すことはできません。 クロースアップマジック 鋼 変化 - - 0 相手の周りにナイフを設置します。相手がコダマを交代する度、交代後のコダマに最大HP÷6の固定ダメージを与えます。4回ダメージを与えると効果がなくなります。 デフレーションワールド 氷 変化 - 100 10 相手のVPを最大値の1/4減少させます。 インフレーションスクウェア 鋼 特殊 100 100 10 相手の速度を下げます。 咲夜の世界 氷 変化 - 100 40 相手を凍らせます。 考察 基本評価 咲夜系統で最も地味なコダマ。 スキルやスペルは軒並み高性能だが、両刀故の火力不足、攻撃範囲の狭さ、戦果が周りのコダマに左右され過ぎる点が評価を下げている。 しかしあくまでも鋼の耐性を持ち、5%上昇とナイフを両立し、さらにはトリルや確定凍結持ちであり、搦め手に関してのスペックはとても高い。 それを引き出すのが難しいのが困った点である。 運用方法 基本的には受け出しからストップウォッチとナイフを置いて、咲夜の世界による凍結をループさせる。そうして時間を稼ぐ。 (例)ストップウォッチ→世界→ナイフ→世界(VP黄)→ストップウォッチ→世界(VP赤) 命中率は半減するが、以後先手から凍結させられ続ける。 上手くハマれば封殺可能だが、切りの良い所で交代するのが吉。 同時に欠点だらけである。 まず凍結が通らないと苦しい。無論、シンクロ持ちも駄目。 更に先行スペル持ちにも非常に弱い。 PTを全体的に炎と氷を出し辛い編成にした上で、スキル消去と装備消去のあるコダマ、装備を組み込むと良い。更に主にはトリル下の運用であるため、それらは中速~低速であることが望ましい。 BP振り 耐久全振りを推奨。 アタッカーとしては機能し辛い。 迷ったらH64BD32でいいかも。 装備候補 セラフィムリング 必携級装備。凍結で時間を稼ぎ、味方を回復させる。 命中上昇系 凍結ループする場合の補助。 呪い子カード 能力低下によって交代の圧力をかける。 軽減系 受け出しの安定化。 異常回復系 シンクロ事故の緩和や麻痺、催眠の対策に。
https://w.atwiki.jp/orz1414/pages/381.html
「メ、メイド長……どうしてここに……」 コンビニで立ち読みした後に少々買い物を嗜み、アパートに帰った〇〇を待ち構えていたのは かつて幻想郷に迷い込んだ自分を迎え入れてくれた紅魔館のメイド長、十六夜咲夜その人であった。 幻想郷から戻って半年経った今でも、銀髪でメイド服を来た瀟洒な女性を忘れよう筈が無かった。 「久しぶりね、〇〇……こちらとあちらの時間軸が同じなら、半年ぶりくらいになるかしら?」 「はぁ……」 「相変わらず呆けた顔ね。だらしないからやめなさい……と、これは前にも言ったわね」 「いや、いやいや……なんで外の世界に……」 「ああ……解雇されたから、ここに泊めてもらおうと思って」 「……へぇー」 〇〇はそれほど頭の回転が良くなかったので、彼女が何を言っているのか理解できなかった。 とりあえず彼は、最近観た番組で使用されていた「へぇボタン」を叩く真似をしてみせた。 「って……解雇? メイド長が? まさかのクビ?」 「もうメイド長ではないわ……ふふっ、笑いたければ笑いなさい……」 「クビっすか!! HAHAHAHAHA!!」 外国人を下手に真似た笑いは、自虐的な咲夜の言葉によって作られた微妙な雰囲気を吹き飛ばすための 彼の精一杯の努力であった。それがより微妙な雰囲気を醸し出してしまったことは言うまでもない。 「…………なんか、すいません……で、なんでまたクビに……?」 「……まぁ、恥ずかしい話なんだけど……お嬢様の度を過ぎた我侭にうんざりして、つい……」 「え……? 普段お嬢様にヘーコラしてる咲夜さんが、うんざり?」 「へーこら……そう見られてたのね、私……」 紅魔館当主、レミリア・スカーレットの命令には誰一人として逆らえない。 それは紅魔館に与する者にとって絶対遵守の理であり、完全で瀟洒な従者である十六夜咲夜には 生命体の呼吸と等しいと言って過言では無い程、当然の事柄でもあった。 「……それで、つい……何ですか?」 「……つい、『カリスマも無い癖に偉そうに』って言ってしまって……」 「うわぁ、これはひどい」 「あと、場の勢いで『妹様の方が強いのに』『ただの引きこもり』的なことを……」 「ひどいって言うか、もうボロクソじゃないですか……」 「時を止めてないのに場が固まったわ」 「能力いらずですね……」 珍しく瀟洒な従者が放ったささやかな冗談ですら、〇〇には痛々しく見えるだけであった。 かつて彼女が紅白の巫女や黒白の魔法使い、半人半霊や月の兎と鎬を削ったことなど、 誰が今の弱々しい彼女から想像できるだろうか。その燦然と輝く歴史はもはや過去の栄光でしか無かった。 「……それで、気付いた時には辞表をお嬢様の顔に叩きつけて、紅魔館を飛び出していた……」 「…………ストレス溜まってたんですね、メイド長……」 「いい音がしたわ……スパーン、って……」 〇〇は「それは厳密にはクビではなく辞めてきたのではないか」と考えていたが、 そのような言動や振舞いをあの唯我独尊・傍若無人な当主が許すわけもないだろうし、 本人はそれも分かってクビだと言い張っているのだと思って、言うのを止めた。 「……だからって、何も外の世界に出なくても……」 「だってあなたの家くらいしか、行くアテが無いし……」 「……メイド長の、わずかな知り合いに選ばれて光栄な反面……複雑な気分です……」 「わずかな、って失礼ね。否定はしないけれど」 幻想郷は全てを受け入れる場所ではあるが、それは行けたら、という仮定の話である。 通常、平平凡凡な人間では行くも帰るも容易いものではなく、十六夜咲夜とて例外ではない。 一度こちらへ来てしまった以上、彼女は二度と幻想郷へ戻れないかもしれない。 「時を操るメイド長」なる肩書きが平平凡凡であるか、という疑問はあるが…… 「神社とか、永遠亭とかに駆け込めば……」 「お嬢様ならともかく、私が言ってまかり通るわけないでしょう」 「けど、友達の友達は友達ですよ?」 「お嬢様とあの巫女はともかく、私とお嬢様は友達じゃないわ……」 「まぁ、確かに。主従関係ですしね」 「ふふっ、今や主従ですらないわ……赤の他人よ」 〇〇は言ってから後悔した。今の彼女に追い討ちをかけるのは非常によろしくない。 彼女は幻符「殺人ドール」の使い手だが、精神的「殺人ドール」には耐性が無いらしい。 「……それにしても、思い立ったら早いものだったわ」 「どうやってこっちに出てきたんです? しかも俺の家の前……なんとなく予想はつきますけど」 「とりあえずマヨヒガに行ったの」 「もう分かったので結構です。でも、よりにもよって俺の家か……」 「……やっぱり、迷惑だったかしら」 やはり後ろめたいのか、咲夜はしょぼんと項垂れてしまった。 「とんでもない。ただ、アパートはあまり広くないとは言っておきます。あと散らかってます」 「どこかの魔法使いの家ほどじゃないでしょう?」 「たぶん……まあ玄関で話すのも何ですから、とりあえず上がってくださいよ」 「ありがとう……お邪魔します……」 幻想郷、紅魔館――― 「小悪魔、レミィは部屋にいた?」 パチュリー・ノーレッジは自分の使い魔である小悪魔に、当主レミリア・スカーレットの状態(主に精神的な)を 確認するよう指示していた。忠実な下僕を失った友人の状態によっては、何らかの対処をせねばなるまい、 と彼女は考えていたのである。 「一応、いるにはいるのですが……責任を感じておられるのか、随分と落ち込んだご様子で」 「布団にくるまってなかった?」 「くるまってました。引きこもりの構えですね、あれは」 「やっぱりね……普段強気に振舞ってる分、打たれ弱いのよね、レミィ……」 以前、パチュリーが大切にしていた魔導書にレミリアが紅茶を零した事があった。 パチュリーはあまり寛大では無いので当然怒ったが、レミリアは開き直って 零す様な場所に置いているのが悪い、と主張した。これがパチュリーの神経を逆撫でし、 彼女は般若のような形相で紅魔館を出ていった。小悪魔はおろおろするばかりで、結局残ったが。 しかし、咲夜が魔理沙の下に身を寄せていたパチュリーに泣きつくまでには、数日とかからなかった。 食事も摂らず、布団にくるまって部屋から出てこない友人に流石の咲夜もお手上げだったようだ。 紅魔館に戻り彼女の部屋を訪れるなり泣いて抱きつかれた時は、冷静なパチュリーでもかなり動揺した。 そして、涙を流して謝る友人を胸に抱きつつ、そういえば以前にもこんなことがあったと思い返し――― 「キリがないわ」 「はい?」 「なんでもない。他に気付いたこととかある?」 「えーと……あとですね、ただでさえ赤い部屋が更に真っ赤になってました」 「……何故?」 「あまりにも鬱だったようで、ナイフで手首を切ったとか」 「自殺? はぁ、莫迦ねぇ……」 「ほんと莫迦ですよね。そんな程度じゃ死なないのに。プフー!」 腕一本吹っ飛んでも死なない吸血鬼が、手首を切った程度で死ぬわけもない。 しかしパチュリーにとっては、レミリアが自殺できなかったという事実よりも、 彼女がそこまで追い込まれている、ということの方が遙かに問題であった。 「ずっと凹まれてても困るのよね……」 「はぁ、そうなんですか? 静かでいいですけど」 「あのね……」 どうにも自分の使い魔は、組織の階層構造が保たれていることの重要さが まるで分かっていないらしい。そう思ったパチュリーが頭を抱えるのは至極当然の流れである。 上から指示や権限を与えられて初めて下は機能する。実際、現状の紅魔館は 当主とメイド長を失い、指揮系統がひどく混乱しているというのに。 「事実上、パチュリー様がトップですよね」 「私は客人よ。だから、何かあった時の責任は取れないわ」 「じゃあ、美鈴さんがトップですか?」 「あら凄い。門番が紅魔館全体に指揮を出して、周りの問題も全て解決してくれるだなんて。 あの門番のどこにそんな潜在能力があるのかは知らないけど、小悪魔ったら物知りなのね?」 「え……ご、ごめんなさい……」 「……だからあの二人には早急に元の状態に戻ってもらわないと困るの」 パチュリーの皮肉で、ようやく小悪魔も気付いたらしい。 妖精メイド達だけに任せていては、最悪の場合、紅魔館の機能が停止する、ということに。 「あ……そ、そうなるとまずいです……咲夜さんが外の世界に出た、って報告が」 「は!?」 「ひぃ!?」 「……ちっ、咲夜、思い切ったわね……神社あたりにでも行くかと思ってたけど、そう来るとは……」 「や、やっぱり〇〇さんのところでしょうか……」 「他に行くところ無いでしょう。半年前、〇〇を外へ送ったのはあのスキマ妖怪だから…… 咲夜もアイツに頼んだに違いないわね。〇〇の場所も知ってるだろうし」 外の世界は、幻想郷の住人にとって未知の世界である。 そんなところに飛び込んで行くのに、彼女は何の躊躇も無かったのだろうか。 それとも、考えている余裕が無かったのか。パチュリーや小悪魔には知る由も無かった。 「どうします? 咲夜さんは戻ってこないでしょうから、こちらから出向くしか……」 「そうね……けど外の世界がどうなってるか分からない以上、レミィは……」 「太陽の光が危ないですし、そもそもあの引きこもりには何も期待できないです。 かと言って、妖精メイドでは些か頼りないですよね……」 パチュリーにとっては小悪魔も頼りないものであったが、面倒なので言わなかった。 そして、小悪魔が先ほどから友人に対して辛辣な言葉ばかり吐くのが気に食わなかったが、 莫迦なのも引きこもりなのも真実なので、やはり言わなかった。 「じゃあ何? 向かえそうなのは、私とあなたと門番ぐらいしかいないの?」 「門番は門番だから門番なんですよ?」 「ごもっともね……それじゃ、私とあなただけ?」 「そうですね……外の世界への遠征だっていうのに、二人しかいないなんて……」 「はぁ……」 翌日、紅魔館――― いつものように門前に仁王立ちしている紅美鈴。 「今やこの紅魔館も、私と妖精メイドだけ……あ、お嬢様もいたっけ」 と、そこに響く轟音。 「……館の中から? パチュリー様の新しい実験かな?」 「美鈴さぁーん!」 そこには、茫然とする美鈴に駆け寄る妖精メイドの姿が! 「もう妹様なんてこりごりさ! 二度と食事の差し入れなんてしないよ!」 「あら、妖精メイドAじゃない。なんとなく事情は分かるけど、どうしたの?」 「大変なんです美鈴さん! 妹様が目を放したスキに扉を破壊して……」 目を放したスキに出ていくのなら扉は破壊しなくていいと思うが、 そこは妹様、次の犯行に備えてキッチリ壊していくんだな、と美鈴は感心していた矢先。 今度は、轟音というよりも、爆音が辺りを揺るがした。 「あ、今壊れたの美鈴さんの部屋ですよ」 「…………」 同時に、美鈴は咲夜の存在が如何に大事であったかを思い知らされた。 通常、このような事態が起こった場合、メイド長である咲夜に指示を仰ぎに行くのが規則だ。 この妖精メイドが昨日の咲夜の事件を知っており、咲夜が不在だと分かっていても、右往左往した後、 美鈴に助けを求めに来るまでには、幾ばくかの遅延時間が生じただろう。 この時間が、妹様、すなわちフランドール・スカーレットの脱走においては "このような"致命的な問題と成り得るのである。 そもそも、食事の差し入れ自体、時を止められる咲夜でなくては務まらない仕事であったので、 別のメイドがそれを行っている時点で、これはある意味、当然の結果だと言える。 「じゃあパチュリー様にお願いして雨を……あ、いないんだっけ」 「どどどどうしましょう!?」 「落ち着いて、まだ慌てるような時間じゃないわ。それならお嬢様にお願いして……」 「お嬢様はまだ布団にくるまってます!」 「ああ、そうだった……必要な時に役に立たない……」 「も、もうおしまいです……紅魔館、バンザーイ!!」 咲夜やパチュリー、小悪魔がここに帰ってきた時、紅魔館が無くなっていたら顔向けができない。 何より自分が、職を失いたくはない。そう考えた紅美鈴は、ある決心をした。 「……安心なさい。私が妹様を止めるわ」 「め、美鈴さんが!? 無茶です! 細切れの肉片にされますよ!?」 「大丈夫よ。そんなウルフマンみたいなことにはならないから」 だが彼女の頭の中では、スプリングマンにバラバラにされるウルフマンと自分が重なって見えていた。 もちろん先ほどの発言は虚勢である。しかし美鈴には退くことは許されない。 「肉片にされない、って……肉片も残らないってことですか!?」 「いや、なんでマイナス方向の解釈なの?」 「だ、だって……」 「ふふっ、忘れたの? 私には虹符「彩虹の風鈴」があるのよ……?」 「あ、やっぱりダメじゃないですか……」 「どういう意味だゴルァ」 自分のスペルカードが自分より圧倒的に弱い妖精メイドにさえ弱小と認識されているのは、 門番としての役割が果たせていないと莫迦にされ続けている美鈴でも、流石にショックであった。 「あ、妹様が来ましたよ!」 「ええ、壁という壁をぶち破ってくるあの赤いお姿はまさに妹様」 赤いものが凄い速度でこちらに向かってくると、もしかしたら何かが三倍なのではないか、 と現実逃避を始める妖精メイドA。しかし美鈴は未だ毅然としていた。 「ほ、ほんとにどうするんですかぁ!」 「ふ……最初から勝てないと思うから勝てないのよ」 「……心構えの問題ってことですか?」 「そう……まぁ見ていなさい。私のスペルカードを……!」 ─────── 「ひどい……」 〇〇の部屋(アパートの一室)に入って開口一番、そう呟く十六夜咲夜。 それが心からの言葉であったことが、彼女の表情からも伺える。 「だから言ったじゃないですか」 「狭いし、散らかってるし、人の住むところじゃないわ」 「……そこまで言わなくても……」 〇〇のガラスのハートにヒビが入ったが、咲夜がそのようなことを気にかける訳もなく。 広く、そして清潔に保たれていた紅魔館に長く住んでいた咲夜は、 〇〇の部屋に対してあからさまに嫌悪感を示していた。 「とりあえず、今すぐ掃除しなさい……」 項垂れながら咲夜が言った。 「はあ……あのですね、メイド長」 「何?」 「掃除が面倒だから、こんな風になってるんじゃないですか」 「でしょうね」 「それで、やれと言われて、やるわけないでしょう」 胸を張って誇らしげに言う〇〇。 「……開き直るつもり? あなた、私に逆らえる身分じゃ……」 咲夜はいつもの調子でそこまで言って、後悔した。今の咲夜は所詮ただの客人であり、 彼女だけでなく〇〇すらも、既に紅魔館におけるヒエラルキーとは関係が無いのである。 加えて仮に階層構造が成り立っていたとしても、今の二人の立場は…… 「…………」 無言で掃除を始めようとする咲夜。 「ちょっと、メイド長……」 「いいわ、私がやるから。あなたはくつろいでて」 「いやいや従者、そういう訳にもいきません。お客人に働かせるなんて」 「無償で宿を借りるのだから、これぐらいはさせて」 「俺も手伝いますって」 「……気持ちだけ、受け取っておくわ」 「いや、だから――」 ―――――― 結局〇〇が気付いた時には、散乱していた本が本棚に綺麗に収まり、広告や新聞紙が紐で纏められ、 多量のゴミが袋詰めで外に置いてあり、エロ本が机の上に並べてある、という有様であった。 咲夜は時間を操ることができる、ということを〇〇は完全に失念していた。 特に紅魔館にいた頃は、掃除をする時は埃が散らないよう、彼女は必ず時を止めていたというのに。 「なるほど、俺ができることなんて無かったわけですね……」 「だから気持ちだけ、って言ったじゃない」 「腐っても鯛、とはよく言ったもんです」 「……何が?」 「職を失っても、やっぱりメイド長はメイド長だなぁ、って感心してたんです」 「…………あ、そ」 〇〇の言葉が恥ずかしかったのか、咲夜はぷいっとそっぽを向いてしまった。 「……さて、綺麗になったし……次はこの部屋を広くしましょう」 「流石に無理です。スキマ妖怪でも無理です」 「さあ、それはどうかしら」 なんということでしょう! 咲夜(匠)が不敵な笑みを浮かべそう呟いた瞬間、 途端に部屋の広さが2倍程にも拡張したではありませんか! 「どう?」 「…………ああ、そういえば……」 時間を操る者は空間をも操る。紅魔館が見た目より広いのは 咲夜が空間をいじっていたからだということも、やはり〇〇は忘れていた。 「これで、健康で文化的な最低限度の生活ができるわね」 「俺の部屋は今まで、生存権すら保障されない魔境だったんですか……」 〇〇は咲夜が日本国憲法第25条を知っていることを不思議に思ったが、 「まあ、メイド長だしな」ということで無理矢理自分を納得させた。 「それじゃ一段落したし、お茶でも淹れますよ」 「お茶? いえいえ、僭越ながら私めが」 「あの、メイド長。本当に気を遣わなくていいですから。普通逆ですから」 「お言葉ながら、既にメイド長ではありません故に……不肖の身ではありますが、どうか」 急に敬語を使い始めた咲夜は、そう言った後、深々とお辞儀をした。 「うわぁ、頭なんか下げないで下さい!」 「いえいえ……この家のご当主はあなた様であるからして、瀟洒な振舞いは至極当然と言えましょう」 「ぬぅ……もう当主でも何でもいいから、その態度と敬語はやめてください、メイド長……」 〇〇は、咲夜が悪乗りを始めたことには気付いていたが、 咲夜自身が解雇されたショックを忘れるために気丈に振舞っているのだと思い、水を差すようなことはしなかった。 一方咲夜の本心はと言うと、泊まるどころか完全に住むつもりになっていたので、 その冗談めいた言葉の中には感謝と敬服の意も込められていた。だから、このようなことも言ってみせたりした。 「あ、それと……名前で、呼んで」 「はい?」 「お嬢様だって、私を「メイド長」とは呼んでいなかったでしょう?」 「ああ、また俺が当主だから、って話ですか」 「もちろん。あと、敬語も禁止」 実は〇〇は、咲夜がそう言い出すであろうことをなんとなく予想していた。 この完全で瀟洒な従者が、主人が敬語や敬称を用いることなど許すはずもない。 「お断りします」 「どうして?」 「だって……俺はずっとメイド長の下で働いていたわけですから。俺が主人だなんてとてもとても」 「……確かに、長年染みついた癖は離れ難いものだけど」 「でしょう?」 「…………なら敬語はともかく、名前……これが最大限の譲歩」 なんで従者に譲歩されてるんだろう、とは言えない〇〇であった。 言えば主従関係を認めたとされて、結局敬語も止めさせられるだろうから。 〇〇は半年前どころか今でも、心から彼女を尊敬していたから、それだけは譲りたく無かった。 ―――― 「お風呂、いただいてもいいかしら?」 こちらの世界に出た後、てんやわんやで疲れの溜まっている咲夜がそう言い出すのも無理は無かった。 「いいですよ。でも着替えとか持ってます?」 「そういえば、メイド服以外持ってきて無いわね……失敗したわ」 おそらく無いだろうと思いつつ、〇〇は聞いていた。 彼女の手荷物と言えば、スペルカードと銀のナイフ、他に少々の小道具程度だったからだ。 「じゃあ、俺のシャツでもいいですか? ちょっと大きいと思いますけど」 咲夜は何の躊躇もなく「それでいい」と言おうとした。 が、迂闊にも、白い素肌の上に〇〇の普段着ている衣服を纏う、という行為を鮮明に思い描いて。 「しょ、しょうがないわね……早く持ってきなさい」 少しばかり動揺したり、色白の顔にやや赤みがさしたりするのも、しょうがなかった。 ―――― 咲夜が体を清めている間に、〇〇は咲夜の衣服を洗ってしまおうと考えた。 しかし、綺麗に畳まれて洗濯籠に入れられているメイド服を手に取ったところで、〇〇はふと疑問に思った。 「……これ、洗濯機で洗っていいのか……?」 洗濯機には「手洗い」という項目もあるが、彼女の意見も聞かずにそれを行うのは暴挙だろうか。 やはり、手で直に洗うべきなのだろうか。まだ持ち主の温もりが残る衣服を手にしたまま、〇〇は葛藤していた。 そんな中、〇〇はその疑問を抱えると同時に、半年前まで抱えていた疑問を一つ解決できた。 籠の底に入れられていた、彼女の肌着を見て、こう呟く。 「……パッドじゃ、なかったんだ……」 その直後、風呂場から「ガン!」という激しい音がした。 咲夜が風呂桶だか持っていたシャワーだか、とにかく何かを落としたらしい。 しかし、〇〇にとって大事なのは何を落としたか、という事より。 「……あれ……聞こえ、て……」 〇〇は「血の気が引く」という言葉を、今身を持って体感した。 女性の脱いだ衣服を手に取り、あまつさえ肌着を観察し、その持ち主に感想を述べるなど。 彼の脳裏には、つい最近読んだ漫画の「変態!変態!」という一コマが映し出されていた。 いたたまれなくなった〇〇は、その場から脱兎の如く逃げ出した。 とは言っても、おそらく彼に科されるであろう制裁を、潔く待つしかないのだが。 どうせこの部屋は倍の広さになったところで、逃げるような場所も無いのだから。 ―――― 幻想郷、紅魔館――― 「もうおしまいなの? つまんなぁい」 「さ、咲夜さん、パチュリー様……早く、帰ってき、て……」 そう呟いて、紅美鈴は地に倒れ伏した。 美鈴は、痛みに耐えてよく頑張った。妖精メイドAも感動した。 しかし悲しいかな、彼我実力差は如何ともし難いものであった。 「勝てないと、思うから……勝てない……」 「でもさ、勝てると思ったら勝てるの?」 「そんなわけ……ないですよ、ね……」 「でしょー?」 スペルカードルールで勝敗が決まった場合は、相手の命までは取らないのが原則である。 が、狂気の吸血鬼、フランドール・スカーレットにそのような常識は通用しない。 何の気まぐれか今は美鈴との会話に興じているが、これがいつキュッとされるとも限らない。 「ねーねー、お姉様は? 咲夜は? パチュリーは?」 フランの機嫌を損ねたくない美鈴は、とりあえず紅魔館の現状を嘘偽りなく伝えることにした。 ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持つ彼女が「じゃあ私も行く!」などと言い出さないことを祈りつつ。 ―――― 〇〇の部屋――― 上気した顔の咲夜が、少し大き目のYシャツを纏って居間に現れた。 〇〇は彼女の纏められている髪が下ろされている姿を初めて見たが、 先程の一件でいっぱいいっぱいだったので、そんなことに気を取られている余裕など無かった。 ちなみに、ボタンの外れたYシャツの隙間から咲夜の美しい鎖骨が見えていたり、 下に至ってはあらかじめコンビニで買ったインナーを着けているだけなので 生足が艶めかしく伸びていたりしたが、やはり〇〇の視界に入ることは無かった。 「さっぱり、したわ……」 「………………」 「……羽織るもの、ある? 湯冷めはしたくないの」 「あ、はい……」 とは言ったものの特にそれっぽいものが無いので、とりあえずジャケットを渡す〇〇。 〇〇は罵詈雑言を浴びせられた挙句引っ叩かれるぐらいの覚悟をしていただけに、 咲夜があからさまに話題を避けているのがかえって不気味であった。 「ありがとう……」 「いえ……それより、あの」 本当は、咲夜は全然そんなことを気にしていないのではないか、と思った〇〇は、 自分から先手をうって謝ることにした。どちらかと言えば、この空気に耐えられなくなった意味の方が強かったが。 「詰めてないわ」 「…………」 あっさりとその目論見は崩れ去った。結局行く手を遮られて、いっそ開き直る〇〇の姿は実に滑稽かな。 「詰めてるって噂があったので、つい」 「『つい』じゃない……ちょっとした犯罪者よ」 「本当にごめんなさい」 咲夜は、自身も『つい』元主人に暴言を吐いてしまったことを未だ後悔していたし、 素直に謝られては怒るに怒れなくなってしまい、結局それ以上〇〇を追い詰めるようなことはしなかった。 同時に、もし仮に、紅魔館に帰ることがあったとしたら……その時は噂の元に制裁を科すことを固く決心した。 ―――― 波乱の一日であった為か、〇〇はいつも以上に腹を空かせていた。 それは咲夜も同じだったようで、〇〇が夕食の提案をすると即座に乗ってきた。 咲夜は料理の腕前に定評があったので〇〇としても任せたいところだったが、 こちらの世界は久方ぶりということで見慣れないものが多いらしく、結局〇〇が調理することになった。 そこまでは、良かった。しかし、夕食ができるなり咲夜が満面の笑みで。 「はいご主人様、あーん」 「じ、自分で食べられますから」 「紅魔館ではこうしてたのよ? はい、あーん」 少なくとも自分が知っている限り、お嬢様はこのような事をさせていない。 自分が尊敬していたメイド長は、こんな俗っぽい人だっただろうか。 解雇されたことでショックのあまり、何か大事なものを失ってしまったのだろうか。 そんな不安感を抱きつつも、また悪乗りが始まった事実を認識した〇〇は、心の中で大きな溜息を吐いた。 「……そんなに、嫌?」 上目使いで〇〇を見る咲夜。子犬のような表情は普段の毅然とした態度からは想像もできない。 これで〇〇が断れないことを分かっていてそうしているのであれば、かなりタチが悪い。 「……咲夜さんは、ずるいです」 〇〇がそう言うと、咲夜はまた元の笑顔に戻って。 「ごめんなさい。はい、あーん」 「……もうどうにでもなーれ……」 〇〇は覚悟を決めて、美味しくいただくことにした。無論、味など分からなかったが。 その後、仕返しとばかりに咲夜に「あーん」を強要したが、これが完全に逆効果で、 むしろ〇〇への精神的ダメージが倍になっただけであった。 ―――― 「ご馳走様でした」 「お粗末様でした……」 げんなりしている〇〇に、咲夜が思い出したように言う。 「やっと、呼んでくれた」 気恥ずかしかった〇〇は、あえて聞こえない振り。そんな下手な演技に気付かない咲夜ではなかったが、 自分も思い出して少し恥ずかしくなったのか、それきり黙りこくってしまった。辺りに流れるなんとも温い空気。 「……あの……」 「な……なに?」 こういう空気が苦手な〇〇は、なんとか空気を変えたかったので、妥当そうな話題で流れを切った。 「……今日は疲れたんで、もう寝ます」 「あ……もうそんな時間なのね。ごめんなさい、色々」 「いえいえ。ああ、そうだ……寝床、は……」 〇〇と咲夜の視線の先には、最近買い換えたものの万年床となりつつある布団が一式。 一人暮らしの家に、布団が二式以上無いのは当然のこと。〇〇もそんなことは分かっていたし、 だからこそ自分は毛布にでもくるまって寝るか、なんて考えていた矢先に。 「……いい、わよ……」 「…………」 「…………」 「……何が、ですか……」 〇〇はなんとなく分かっていたが、一応言ってみた。顔に赤みを差しながら。 咲夜もまた赤くなりつつ「一緒に……」などとぼそぼそと呟いている。 〇〇には、咲夜の考えがまるで理解できなかった。また悪乗りなのか。それとも完全で瀟洒なメイドは、 この何の取り柄もないただの青年に、まさか気でもあるのだろうか。 半年前、幻想郷を出る際にもう二度と会うことは無いと思っていた人と、再会を果たした。 しかし彼女が自分の元へ来た理由も所詮、自分がこちらの世界で、唯一頼れる人間であったからに過ぎない。 名前で呼ばせたり、飯を食べさせたりなんていうのは、彼女の気まぐれか道楽だろう…… と考えたところで、〇〇は毛布を被って床に転がった。簡潔に言えば、逃げた。 自分に気があるのではないか、など世迷い事にも程があると、気付いてしまって虚しくなったのと。 上も下も布一枚、しかも下は最低限しか覆われていない女性と寝床を共にして、 一晩中耐えられる自信が無かったから。彼女がどれだけ魅力的な女性か、知っているから尚更。 明日服を買ってきます、とだけ言って、〇〇は目を閉じて考えるのをやめた。 「…………」 咲夜は悲しげな表情で何も言わぬまま、本来の持ち主がいない布団に身を沈めていった。 ─────── 床に着いたはいいものの全く眠れなかった二人は、 少しぎくしゃくした関係のまま、翌日の朝を迎えた。 しかし、それから一日二日はそんな関係が続いたものの、後はそう悪いようにはならなかった。 それも当然の話で、元々二人はお互いの事が嫌いではない。 紅魔館ではメイド長と下っ端という関係ではあったものの、私的な会話を交わす程度の 交流はいくらでもあったし、お互い少なからず好意を持っていたことも事実であった。 だから、ちょっとした心の隔たりなど、無いも同然だった。 〇〇の買ってきた服がセンスの欠片も無かった為、後日一緒に買いに行って、 あれでもないこれでもないと目移りする咲夜を微笑ましく見守る〇〇、などという光景も見られたり。 そういった共同生活を通して、〇〇はなんとなくだが理解した。 紅魔館では見られなかったような笑顔を、今、自分に向けてくれる咲夜。 自惚れで無いならば、咲夜は僅かばかりにせよ自分に想いを寄せてくれているのだということを。 朴念仁ならあのような行動も「またまた御冗談を」で済ませるのであろうが、 幸か不幸か〇〇はむしろ敏感な方だった為、共に過ごす時間が多ければ気付いてしまうのは当然だった。 しかし、〇〇は気付かない振りをした。彼女への親愛、尊敬、憧れといった情に 静かに混ざり溶け込んでいる、咲夜への好意に気付いていながらも。 彼は、知っていた。出会いがあれば別れがある、その怖さ。 そして親密になってしまえば、それだけ別れも辛くなってしまうことの辛さを。 だから、咲夜とはこれからも紅魔館に居た時の様に、多忙な毎日でありながら、 働く喜びを共有できる同僚、欲を言えば気の置けない友人のような関係でありたいと思っていた。 ―――― 「私のこと、どう思ってる?」 が、その〇〇の願いは咲夜によって、無残にも打ち砕かれた。 「そこで問題だ! この咲夜さんの質問をどうかわすか?」 3択 1つだけ選びなさい。 答え①賢い〇〇は突如打開のアイデアがひらめく。 答え②お嬢様が来て助けてくれる。 答え③かわせない。現実は非情である。 「私は、あなたが……好き……」 「!?」 「かも、しれない……」 咲夜自身が未だ自分の気持ちを本当に理解できてはいないからか「かもしれない」という あやふやな言葉ではあったが、それでも〇〇の道を塞ぐには十分過ぎるものだった。 結局この追撃により、〇〇は強制的に③を選ばされることとなった。 ―――― 〇〇が紅魔館を離れると聞かされた時は、頭が真っ白になって、心も酷く乱れたものだった。 「悲しい」だとか「行って欲しくない」だとか、そういう感情がごちゃ混ぜになって。 けれどそれは、小悪魔が〇〇との別れの際に涙した理由と同じ、 友人、同僚、家族と離れるのが辛いとか、そういう感覚なのだろうと思っていた。 〇〇がいなくなった後、毎日なんとなく物足りないと思っていたのも、そうに決まっている。 それから数ヶ月が経ったが、その心のスキマは埋まらなかった。 小悪魔はとうにいつもの調子に戻り、しっかりと仕事をこなしているというのに、 私ときたら効率が落ちているなんてものではない。失敗して、マイナスになることも多々あった。 久方ぶりにお嬢様に烈火の如く怒られて、初めて私は自覚した。 〇〇の存在が、自分の中で予想以上に大きくなっていたこと、 そして彼に会えないことが、辛くて悲しくてしょうがないのだということを。 私は、誰かを恋愛感情的な意味で好きになったことは無い。 だから、これがそういう気持ちなのかは自分でも分からない。 ただ、会いたいと思った。顔を見たいと思った。声を聞きたいと思った。 しかし、私は紅魔館に尽くす身であるが故、 片道切符の外の世界への旅など、お嬢様に許していただけないだろう。 いや、仮に出られたとしても、私が居た頃と大きく変わってしまったであろう向こうの世界で、 生きていける自信が正直なところ、まったく無い。 ―――― 「……だから紅魔館を出た時、あなたのところへ来たの。 念願の外の世界へ、経緯はどうあれ出ざるを得なくなってしまったのだから…… あなたにまた会えて、本当に良かった。本当は、はしゃぎたいくらい嬉しかった」 「……それで、あんなことを?」 揃って「あんなこと」を思い出し、赤くなる二人。 「……けれど、あなたは何をしたって、全然相手にしてくれない」 「…………」 至極当然である。〇〇の取った行動と言えば、 彼女の想いに気付く前は、咲夜の事があまりにも分からなさ過ぎて、ひたすら突っぱねた。 気付いた後も、今までの関係を保つことにひたすら努めてきた。 つまりこの状況こそ咲夜が〇〇を追い詰めているようにも見えるものの、 その実、事態を引き起こしたのは〇〇が咲夜を追い詰めたのが原因であったのだ。 「いつか、あなたが振り向いてくれると思ってた…… だけど、あなたが私を迷惑だと思うだけなら、こんなのただの空回り……」 「……咲夜さん……」 「拒絶されたくない、嫌われたくない……こんな気持ちになるの、自分でも不思議だと思う。 ふふっ、完全で瀟洒な従者なんて、とんだお笑い草……」 「………………」 「私なんて、いない方が良かった?」 「……そんな訳が無い。美人で可憐で優しい咲夜さんが 俺みたいなのと一緒にいてくれる、それだけで人生の幸福全てを使い果たした気分です」 「…………」 咲夜の白い肌がまた朱に染まっていく。満更でも無く思えるのは、惚れた弱みの所為なのだろうか。 「……でも……咲夜さんの気持ちには、応えられません……」 「え……」 一転して泣きそうな顔をする咲夜に、〇〇は心を痛ませた。 気丈に振舞ってはいるものの、内心〇〇も泣きたい気分だった。 自分を好いてくれている人がいて、自分もその人が好きなのに、 なぜそれを不意にする言葉を自分で言わなければいけないのか。 「咲夜さんは、俺とは少し違う世界に住む人で……俺なんかとは、その存在価値も雲泥の差です」 「………………」 「近いうちに「お迎え」が来ることは確実でしょう……というか、もう向かっているかもしれない」 「………………」 「どのような関係になろうと、俺と咲夜さんはもうすぐ別れることになる。 なら、俺は咲夜さんの気持ちを知らない、咲夜さんも俺の気持ちを知らない。 それでいいじゃないですか。これから、と言っても短い間でしょうが、このままの関係で」 「絶対、嫌」 目に涙をいっぱいに溜めながら、咲夜が言った。 「あの、だから……」 「そんなの関係ない。あなたの気持ちを聞いてるの」 「………………」 「もう一回聞くわ。私のこと、どう思ってる?」 逃げに逃げた〇〇も年貢の納め時らしかった。そもそも〇〇が話の方向を変えようとした時点で、 咲夜もまた、〇〇が咲夜のことを本当は嫌いではない、ということに気付いてしまった。 だから、言ってみれば〇〇は自爆したのである。それで観念したというのもあるが、 やはり〇〇もただの人間であり、咲夜から向けられる純粋な想いに気付かない振りをして逃げるよりは、 真っ直ぐに受け止めて、そして自分の想いを伝えたかった。 「……すぐに、離れ離れになるかもしれませんよ」 「ならないわよ」 「「お迎え」が来たらどうしますか?」 「撃退するわ」 「俺、だらしないですよ」 「知ってる」 「部屋散らかってますけど」 「毎日掃除しましょう」 「あと、狭いです」 「広くすればいいじゃない」 「………………」 「他に解決して欲しいこと、ある?」 〇〇は、ふぅ、と溜息をついて。 「……あと一つだけ」 「なに?」 「あなたが好きで好きでしょうがないんですが、どうしましょう」 「恋人から始めればいいじゃない」 「友達からではなく?」 「お互い好きなのに、そんな遠回りしてられないわ」 「好き、かもしれない……じゃ、なかったんですか?」 「……意地悪。好き、大好き……」 〇〇に抱きつく咲夜。〇〇はそれをしっかりと受け止めて、優しく抱き返した。 咲夜は涙する自分の顔を、〇〇は真っ赤になった自分の顔を見られたく無くて、 顔を相手の肩口に埋めていた。お互いの温もりを感じながら。 「ずっと……一緒に居てくれますか?」 「……こんな風になって……もう完全でも瀟洒でも何でもない私なんかで、本当にいいの?」 「俺の前では、ありのままの咲夜さんでいてくれると嬉しいです」 「じゃあ、いつものメイド長だった私は、嫌いだった?」 「まさか。最初に俺が惚れたのは、そういう咲夜さんだったんですよ? ただ……飾っていない咲夜さんはもっと可愛くて、こっちの咲夜さんは独り占めしたいなって」 「欲張りね。でも、私も他の人には見せたくない。あなただけに、知っていて欲しい……」 「嬉しいです。でも俺は強欲なんで、他にも欲しいものがあります」 「私も、まだあげたいものが沢山あるわ。本当に好きな人ができるまで、取っておいた大切なもの」 そう言うと咲夜は〇〇の顔を自分と向き合わせ、有無を言わせず〇〇の唇に自分のそれを重ねた。 突然で〇〇は戸惑ったが、すぐにそれを受け入れ、やがて二人はお互いの唇を啄み始めた。 何分かそうしているうちに、やっと咲夜が満足したのか、〇〇の顔から自分の顔を離した。 「ぷはっ……い、いきなりですね……」 「ふふ、さっきも言ったじゃない……遠回りは嫌いなの」 「最初がこれだと、後が凄いことになりそう……」 「大丈夫よ……時間はいくらでもあるもの」 「……そうですね。じゃあとりあえず、もう一回……」 「んっ…………」 ―――― その頃――― 〇〇の部屋の玄関前には、二つの陰。 「入りづらい」 「そうですねぇ」 「今入ると完全に悪役よね」 「いつ入っても悪役じゃないでしょうか……」 「あなた、小さくても悪魔でしょ。悪役らしく行ってきなさい」 「嫌ですよ! 咲夜さんに殺されちゃいますよ!」 「あなたが死んでも代わりはいるもの」 「酷い……」 某妖怪の大サービスで、〇〇のアパートの前に出してもらったパチュリーと小悪魔。 しかし様子を探ろうと耳をすませてみれば、聞こえてくるのは 大好きだのずっと一緒だの可愛いだの惚れただの、糖分高めの会話ばかり。 来るやいなやこれでは、うんざりするのも無理はない。 やがて諦めたように、パチュリーが言った。 「……まあ、折角ここまで来たんだし、お茶の一杯でもいただかないとね」 「お、行きますか?」 「あなたも行くのよ……」 「ですよねー。はぁ……戦いたくないなぁ」 「莫迦。誰も戦うなんて言ってないでしょう」 「え? 今の、そういう流れでしたよね?」 「弾幕ごっこで全部解決しようとするのは、ただの愚行よ」 ―――― 一ヶ月後、紅魔館――― 「……あと二ヶ月。はぁ……」 咲夜の盛大な溜息。椅子に座った彼女の背中からは哀愁が漂っている。 「パチェ……あれ、なんとかならない?」 「彼女のこと? 無駄よ、ああなったら何言っても聞こえないもの」 「咲夜がここに帰ってきてから一月経つけれど、毎日あんな調子…… 前と違って仕事にミスは無いようだけれど、あれじゃこっちまで滅入ってしまう……」 パチュリーが二人に示した案は、咲夜が紅魔館を離れられないなら、 〇〇が紅魔館に住めばいいじゃない!というものであった。 当然ながら、急に言われてすぐ了承できる内容でもないので、 〇〇は様々な身支度や手続きに時間が欲しいと告げた。 しかし境界を操る妖怪、八雲紫がそろそろ冬眠の時期に入ってしまうため、 結果として咲夜が先に紅魔館に戻り(当主のカリスマを即座に取り戻す為にも)、 紫の目覚める三ヶ月後に〇〇が後を追う形で紅魔館に向かうことになった。 今回の騒動で一番迷惑を被った紫に対し、それを引き起こした原因のレミリアが 相応の謝礼を用意させられたのは言うまでもない。 「……だけどね、レミィ。これからが本当の地獄よ」 「あら、何故?」 「〇〇がこっちに来たら……いえ、帰ってきたらと言うべきかしら。 とにかく、咲夜と〇〇が再会を果たした時の事を考えてみなさい」 「いいじゃない。咲夜やパチェが居れば、私だって文句は言わないわよ」 「その日から毎日のように、人目も憚らずイチャイチャする二人を見ても、同じことが言えるかしら?」 「……なん……だと……」 「ああ、考えただけでも恐ろしい。本当に「はい、あーん」とかやったりするのかしらね」 「……それが何かは分からないけど……何となく、私にとって良くないものなのは、分かる……」 レミリアは先行き不安ながらも、自分に仕える者たちが、経緯はどうあれ 幸せになってくれるというのはそう悪くないものだと思えていた。 「〇〇が帰ってきたら、少しぐらいは祝ってあげましょうか」 「へぇ……レミィがそんなこと言うなんて、明日は槍でも降るの?」 「槍なら間に合ってるわ……パチェ、私、変わったかしら?」 「ええ、とてもね。でもそれはきっと良い事よ」 「そう……変わったとしたら、きっと人間のせい。全く困ったものね……」 レミリアとパチュリーは、また溜息をついている咲夜を一瞥すると顔を見合せて、やれやれ、と呟いた。 二ヶ月後、紅魔館でまた一騒動あるのは、別の話である――― ~ FIN ~ ―――― 二ヶ月後、紅魔館――― 「なあ、〇〇」 「な、何でしょう」 レミリアに招かれ、お茶の時間を彼女と共に過ごす〇〇。 当主が下っ端を誘うなど前例が無く、〇〇は自分の態度が気まぐれなレミリアの機嫌を 損ねやしないかと、かなり緊張気味であった。 「……そう固くなるな。取って食べようってわけじゃない。お望みとあらば話は別だけど」 「望んでませんから」 「心配しなくても、お前は良く働くし人当たりも悪くない。人間の中では割と好きな方。5番目くらい?」 「恐縮です……」 「それで、本題だけど……とりあえず、お前達の行動は少し目に余る。 咲夜はいい従者だし、お前も知らない仲では無いから多少は目を瞑るつもりでいたけど」 「……何の事でしょう」 「分かってるでしょう? 具体的に言うと、出会い頭に見つめ合ったり、 廊下で人目も憚らず抱き合ったり、飽きもせず綺麗だとか可愛らしいとか褒めちぎったり…… 咲夜も咲夜で、拒否するどころかもっと褒めてと言わんばかりのオーラを出してるし」 外面だけ装って自分の気持ちを誤魔化し続けて、耐えに耐えていた二人が、 遂にその束縛から解放された。そして結ばれたと思いきや、諸事情により すぐに離れ離れにたってしまい、三ヶ月のインターバルを挟んで、念願の再会を果たした。 その反動からか、二人は所構わずイチャつくようになり、今や紅魔館全体が砂糖成分で汚染されつつあった。 レミリアは最初こそ自分にも責任が無いとは言えないため黙殺していたが、 流石に毎日毎日甘ったるい会話を垂れ流されては敵わない。 そこで直々に本人を呼び出して、ちょっと苦言を呈しようと思ったのだが、これが良くなかった。 「……ああ、そんなことですか。それはしょうがないです。まず、自分がふと咲夜さんの方を見ると、 向こうも何故かこちらを見ていることが多いので、自然と見つめ合う回数は増えてしまいます。 加えて、咲夜さんが俺に気付いていない時に咲夜さんの方を見ると、これも何故か分かりませんが、 咲夜さんがこっちに気付いて俺を見てくれるんですよね。それで、咲夜さんの顔を見れば その吸い込まれそうな瞳に心が奪われてしまうのは当然ですから、見つめ合っている時間も 自然と長くなってしまうと。いや、俺にとっては全然短いくらいなんですが、色々と仕事もありますし。 次に、抱き合っていると仰られましたが、これにも理由がありまして、近くにいれば その全てを包み込むような母性を感じさせられるが為に気がつけば抱きついているという有様で、 いやはやお恥ずかしい。とは言っても実際そうなのは半分くらいで、あとの半分は 咲夜さんから抱きついてくるんですけど。まあ結果的にお互いが抱きしめ合う形になるわけですから、 そういう過程にはあまり意味が無いですよね。お互いそうなることを望んでいるわけですから。 あと褒めちぎったって仰られましたけど、芸術作品を鑑賞して美しいと愛でることを 褒めちぎったとは言わないでしょう。過度に褒めた場合は褒めちぎったと言うかもしれませんが、 咲夜さんは実際綺麗だし、やはりお嬢様が完全で瀟洒な従者と誇るだけのことはあるのですが、 時に見せる仕草も実に可愛らしいのもまた事実。特に俺が好きなのは本当に心から笑っている時で、 俺が以前紅魔館に居た時には見れなかった笑顔が俺に向けられていると思うと光悦至極です。 そういったところも全部含めて俺は咲夜さんが好きになったわけですけど。あの、聞いてます?」 砂糖を見るのも嫌になるような惚気を聞かされて腹が立ったので、 とりあえず瓶に入った紅茶用の砂糖をまるまる〇〇のカップに注ぎ込むレミリア。 「真っ白で紅茶が見えないんですけど」 「一度、医者に見てもらった方が……いえ、もう手遅れかしら……」 「まあ、恋の病は医者には治せないでしょうし」 「……だめだこいつ……早くなんとかしないと……」 「で、何の話をしてたんでしたっけ」 「もういい……ああ、そういえば、お前の惚気話を聞いていて思い出した」 「惚気だなんてとんでもない。普段の行動にはちゃんと理由が」 「それはもういい。それで、パチュリーが言ってたんだけど…… お前達は俗に言う「はい、あーん」もやるの? 私には何のことだか分からないけれど」 「ああ、毎日やりますよ」 「毎日……何を示しているの、その名称は」 「う~ん……実際にやってみた方が早いですね。ただ相手が必要なんで、誰か呼びましょうか」 「……私でいいじゃない?」 「え……あ、いや……これ、いいのか……?」 「私がいいって言ってるんだからいいでしょ。それとも私じゃ不満?」 「いえ、そんなことは……」 「なら、さっさとしなさい」 〇〇は渋々、お茶請けに用意されていたチョコレートクッキーを一つ摘んで レミリアの口元に運んだ。何をしているのか分からないといった様子のレミリア。 「はい、あーん……あ、口開けて下さい」 「…………!」 〇〇はクッキーを口元に運んで、口を開けろと言う。 即座にその意味を理解したレミリアは一瞬で真っ赤になった。 だが恥ずかしくはなったものの、やれと言ったのは自分だし、 ここで撤回するのも彼女のプライドが許さなかった。 「……分かっていただけたなら、もういいですよね」 「…………」 「って、なんで口開けてるんですか」 「……早くして」 「え?」 「恥ずかしいからさっさとしろって言ってるの」 ―――― 「なんだかんだで、もう4個食べてますよ」 「うるさい、次」 「はいはいっと」 〇〇は今までレミリアに対し畏敬や恐怖という感情しか抱けなかったが、 こうして接してみると割と普通の(?)少女のようにも思えて、しょうがないな、という感じで 自然とくだけた態度になってしまっていた。 レミリア自身も何故か悪い気はしていなかったので、それを咎めはしなかった。 「……ふむ、むぐ……なる、ほど……」 「物を食べながら話さないでください」 「ふん、この紅魔館では私がルールよ」 「そんなこと言うのなら、6個目はお預けです」 「私としたことが作法がなって無かった」 「分かっていただけて嬉しいです」 〇〇に与えられた5個目のクッキーを咀嚼しながら頷いているレミリア。 レミリアは、咲夜が〇〇と毎日のようにこれをしている理由が、なんとなく分かった。 自分ももし好意を持っている相手がこれをやってくれたら、ちょっとカリスマが危ないかもしれない、 などと考えて一人で悶えている彼女は、〇〇に奇異の目で見られていたが。 「……それより、お前の指」 レミリアがクッキーを食べる際にそれを持った〇〇の指も咥えてしまうので、 〇〇の指はクッキーの粉よりもレミリアの唾液に塗れてしまっていた。 「ああ、お気になさらず……」 そう言いつつ、自分の指を口に含む〇〇。 〇〇にとっては、クッキーの粉がついていたから思わず舐めてしまった、 くらいの感覚だったのだが、口から離れた指にはブレンドされた二人分の唾液が。 「待て、お前は何をしている」 「え、いや……特に深い意味は無いです」 「意味もなく人の唾液を味わう習慣があるのか、お前は」 「……一度、手を洗ってきます」 「まぁ、待て」 席を立つなりレミリアに呼び止められ、立った体勢のまま硬直する〇〇。 レミリアのニヤニヤした顔に、〇〇は悪意を感じずにはいられなかった。 「6個目」 「……それは、これを洗い流した後で」 「お前だけ、私の体液の味を知っているのはずるいわ」 「……嫌な予感しかしない」 「〇〇は賢いな。さぁ座れ、そしてその指を私に捧げろ」 「一応言っておきますけど、捧げるのはお茶請けの方であって、指じゃないですよ」 「どっちも頂くから関係ないわ。ほら、早く」 「分かりました、分かりましたよ……はい、あーん……」 「あー……」 その時、この空気に不釣り合いな、カシャン、という何かが割れる音が響いた。 二人が扉の方を見ると、茫然と立ち尽くす咲夜。その足元には割れたカップ、赤い絨毯に染み込む紅茶。 レミリアは咲夜にあらかじめ、ある程度時間が経ったら無くなった紅茶を足しに来い、と告げていたのだが、 行為に夢中になり過ぎた所為か、それはとうに記憶から消え去っていた。無論、最初に咲夜に淹れられた 紅茶もほとんど減っていない(〇〇の紅茶は砂糖の山に覆い尽くされていて、既に飲むことは叶わないが)。 「さ、咲夜さん……いつから……」 「……咲夜……これは、その……」 「…………どうして……二人が……」 ―――― 紅魔館に咲夜が戻った時の話 「あ、咲夜さん……お帰りなさい」 「ただいま美鈴。お嬢様は?」 「自室に君臨する皇帝となっておられます」 「……なるほど」 「それにしても、戻ってきてくれるとは思いませんでした。 私、てっきり咲夜さんは〇〇さんと一緒になって、戻ってこないものだと」 「実際、お嬢様に嫌われて、もう戻れないものだと思っていたわ…… ところが、お優しいお嬢様は私のような人間風情がいなくなってしまっただけでも 悲しんで下さった。勿論、あの非礼を詫びて許して貰えるとは思っていないけれど……」 「許していただけますよ。というか多分、逆になると思います」 「……それに、パチュリー様にも申し訳ないし。パチュリー様が私の元を訪れた時の気持ちは、 以前私がパチュリー様に戻ってくださるように懇願した時のものと、同じだったかもしれないし……」 「恩を仇で返すようなことは、したくないですよね」 「お嬢様に関しては、完全に仇で返した形になるけどね……」 「それを言っちゃあおしまいです……」 ―――― 「ねーねー、咲夜」 「何でしょう、妹様」 「この間さ、〇〇とキスしてたよね」 「……見ておられたのですか。ですがこの間と申されましても、 それは日課ですので、いつ頃の事を示しておられるのか」 「ああ、そう……まあそれはいいの。それより、キスって美味しいの?」 「……美味しいですよ」 「魚のキスとどっちが美味しい?」 「そういう知識はどこで覚えてくるんですか?」 「ね、どっち?」 「……9:1くらいで、彼とのキスの方が美味しいです」 「ふーん。そんなに美味しいなら私も」 「駄目です」 「……どうして?」 「駄目なものは駄目です。人間が彼とキスすればかなりの活力回復になるのですが、 吸血鬼がキスするとたちまち猛毒に侵されて死んでしまうのです」 「あ、それ知ってるよ。和尚さんと水飴の話だ」 「だからどこで覚えてくるんですか?」 「むー、独り占めするなんてずるいよ……あ、でもその話だと一休さんは結局食べちゃうんだよね」 「そうですね……って」 「ちょっと〇〇のところまで行ってくるね!」 「だから駄目ですって!」 ―――― 「唾液を交換だなんて、不潔」 「咲夜さん、機嫌直して下さいよ……」 「私だって、そんなことしてないのに……」 「……じゃあ、しますか?」 「……そ、そんなこと言っても、懐柔されないわよ」 「咲夜さんとなら、違う交換の仕方がありますけど」 「え?」 「間接じゃなくて、直接……」 「え、ちょ、んっ」 (省略されました・・全てを読むにはあなたの妄想をスレにぶちまけて下さい) うpろだ1342、1346、1359 ─────────────────────────────────────────────────────────── 門番に賄賂を渡し、一気に走り抜けるとそこは愛しの桃源郷。 大福2個とは、紅魔館の門も安いものだ。 妖精メイドと軽く挨拶を交わすと、目当てのその人が見えた。 「さっくやさーーーん!」 声をあげると、彼女が気づいてくれた。 「あら、いらっしゃい。」 「こんにちは咲夜さん。紅茶を――」 「ごめんなさい。いまちょっと忙しいの」 本当に忙しそうな表情で、笑えるほどの即答だった。 「それなら仕方ない。日を改めますか」 肩をすくめ、そういって踵を返すと、不意に声をかけられた。 「待って。せっかく来ていただいたお客様を手ぶらで帰らせては、紅魔館の名が廃ります。 幸いもうすぐ終わりそうですし、そうね……図書館で待っていてくださる?」 「喜んでぇっ!!」 そんなことをにっこりと言われたら、これ以外の選択肢はない。 予想外の展開だ。今日は何かいいことがあるに違いない。 諸君、私は本が好きだ。漫画が好きだ。小説が好きだ。歴史本が好きだ。学術書……はあんまり好きじゃない。 魔理沙からこの図書館を聞いたときは心が躍って、体まで踊りだしそうだった。 そうだ、咲夜さんに始めて会ったのもあのときが最初だったな―― 「何やってるの○○?ぼーっとして」 「あ、パチュリー様。」 図書館の主に声をかけられ、トんでいた意識が戻ってくる。 「いえ、ちょっと昔を思い出していて…」 「なにジジくさいこと言ってるのよ。私よりずっと幼いくせに」 そうだった。見た目にだまされがちだけど、この屋敷の人々は大半が年上なんだ。 備え付けの椅子に腰掛けると、小悪魔が紅茶をくれた。礼を言って喉を潤す。 「で?今日は何を借りるの?」 「あ、今日は借りません。咲夜さんのお仕事の終わりを待たせていただきます」 「あらそう?」 なんだか残念そうな顔をされた。 と思いきや、真剣な顔つきになっている。今日は表情の忙しい日のようだ。 「ねえ」 「ん、何ですか」 「あなたって、咲夜が好きなの?」 紅茶吹いた。 「……行儀が悪いわよ。」 「すみません……でも、いきなりなんですか」 「いきなりかしら?私は、切り出すのにずいぶん時間をかけたつもりよ」 心なし、不機嫌な顔をしている。 考えてみれば、そうかもしれない。半年、いや、もっとか。彼女に会ってから、俺は―― 「返事が無いのが、一番失礼よ」 顔を上げる。どうやら、また呆けていたらしい。 「で、どうなの」 やたら真剣な表情でこちらを見つめてくる。これは―― 「…パチュリー様。俺、実は――」 ――これは、答えないわけにはいかない類の話だ。 「実は、メイドさん萌えなんです」 「…………は?」 「ヘッドトレスとかエプロンドレスとか、そういうものになんかこう…リビドーを感じるんです」 「ちょ、いや…え?」 困惑している。まあそりゃあそうだろうな。 だけど、こうなりゃ意地だ。止めるわけにはいかない。 「この図書館に来て、彼女に会って……始めはもの珍しさで。 だんだん、ヘッドトレスを見てると、綺麗な銀髪やかわいいみつあみに目が行って、 エプロンドレスを見てると胸に目が行って、さすがにまずい、と顔を上げると目が合って……。 そうこうしているうちに、もう目が離せなくなっちゃったんです」 パチュリー様は黙って聞いている。下を向いていて、表情は見えない。 「動機は不純ですけど、道理は純粋です。俺は……彼女が、十六夜咲夜が好きです」 俺が黙ってから、図書館はしばらく静かだった。 こんな空気は嫌いだった。昔からこんな空気になると、壊してしまおうと適当なことを話していた。 今は違う。これは、俺が壊していい空気じゃない。 パチュリー様が、何かを言おうとしているのが感じて取れた。 「あの子は……レミリアの大事なもの。貴方が適当な人なら、あの子はきっと壊れてしまうと思った。 そうなればレミィはとても、とても傷つく。 なんてこと。この私が杞憂なんてすると思わなかったわ」 「……」 びしっ、とでも擬音の付きそうな指を突きつけられた。 「合格点にしておいてあげる。頑張りなさい」 「……はい」 自然と、笑みが顔に浮かんだ。 「そろそろあの子の仕事も終わっているでしょう。いってらっしゃい」 返事をして椅子から立ち上がる。 「それと、今貸してる本に紅茶なんかかけないでよ?」 信用が無いのか。思わず苦笑が浮かんだ。 「本当なら、貸し出しなんかしてないのよ?貴方は特別。あの黒白から本を取り返してくれたんだから」 「大丈夫ですよ。――いってきます」 扉をぬけ、ロビーを目指す。 ○○が図書館を出たら、私は一人になってしまった。 小悪魔には仕事を言いつけていたから、きっと奥のほうにいるのだろう。 「……はぁ」 彼が出て行った扉に額を寄せる。 『私は?』 それが聞けない私は、きっと長く生きすぎて臆病になってしまったのだろう。黒白がうらやましい。 「そうよ。貴方は……特別、なんだから」 ため息は、冷たい扉が吸い込んでくれた。 涙は、絨毯に染み込んでいった。 「あら丁度いい。これから呼びにいこうと思ったところよ。」 廊下を走っていると、妖精メイドに走るなと怒られた。 仕方ないので早歩きをしていると、曲がり角で咲夜さんに出くわした。これはなんだ。運命か。 「じゃあ、テラスにでも行きましょうか。」 春の二時過ぎの陽気は、人をやわらかくする何かがあると思う。 そんな優しい日差しの中で、好きな人と紅茶を嗜む。なんという幸福だろう。 これは俺が始めて紅魔館に来たときに、パチュリー様の『咲夜の紅茶はおいしいわよ』の一言から始まった。 それが本当においしくて。 たしかにおいしいけど、なんだか最近は手段と目的が入れ替わってる気もする。まあいいか。 「魔理沙に連れてこられたのよね、あなた」 いまの話題は、俺がここに初めて来たときの話だ。 「そんな拉致みたいな言い方……でも、そうです。面白い図書館があるからこないか?って。 もともと本が好きでしたし、断る理由も無くて」 「そういえば、どうやってあいつから本を取り返したの?まさか力づくってわけじゃないでしょう?」 「それはですね、あの直前に宴会があったでしょう?」 ふんふん、と咲夜さんは話に食いついてくる。気にされてるって、いいなあ。 「酔っ払ってるうちに、こう持ちかけたんです。『なあ魔理沙、お前が持ってる本、貸してくれないか?』」 「……それ、やってることは一緒じゃない?」 あ、あきれた目してる。 「失礼な。正当な持ち主に返しただけですよ。」 「それもそうね。パチュリー様も助かってるし」 ああもう、ほんとうに咲夜さんは笑顔が似合う人だ。 ああ、本当に幸せだ。いつまでもこうしていたい。 けど、俺は今、この手でこの幸せを壊そうとしている。 「ところで、咲夜さん」 一か無か。 懸けてみるのも――悪くない 「今、好きな人とかいますか?」 なにを言われたのか、よくわからなかった。 好きな人?なにを言っているのだろう、この人は。 そんなこと、考えたことも無かった。 本当に? 思い返してみる。いつの間にか、彼がいるのが日常になっていた。たった半年程度なのに。 あるいは、それだけ彼が大きな存在になっていたのかもしれない。 ○○が来ない日は注意が散漫になっていた。 来ないと事前に聞かされたのに、時計を何度も確認したりした。 「私、は……」 言いよどむ。だって―― ――こんなの、初めてなんですもの 「……わからない。」 期待した答えでも、最悪の想定でもなかった。ある意味、一番困る。 そして、それが顔に出てしまったらしい。 「そんな顔しないで。私だって、わからないことくらいあるわ。自分のことなんて、特に。 教えて。あなたを見てるとどきどきするの。 あなたが来ないと不安になるの。 あなたがいると、安心するの。 これは――好きってことなの?」 小さな机で助かった。 その答えを聞いた瞬間、机越しに抱きしめてしまっていたから。 「……紅茶、こぼれちゃうわ」 「拭けばいいさ」 背中に手が回ってきた。 「私、普通じゃないのよ?」 「普通の人間がじゃない、十六夜咲夜が好きなんだ。」 力を込める。あわせて、強く抱きしめられる。 「教えて。あなたは、私が好き?」 「好きだよ。世界中の誰よりも」 見詰め合えば、あとは一瞬だった。 二つが一つになるのに、時間なんて概念は無粋なだけ。 能力なんて使わなくても、時は止められた―― 「これがあの人と私の馴れ初めよ」 老婆は二人の孫に語りかける。おしどり夫婦として評判だった私たちの話に興味を持ったらしい。 「それから!?それから!?」 少女は興味津々なのか、目を輝かせて続きを促す。 「おねぇちゃん、きっともうおばあちゃん疲れてるよ。ぼく達ももう寝よう?」 男の子は優しく姉を諭す。 少女は、しぶしぶといった風に、つかんでいた私の服を離し、おやすみなさいを告げた。 たくさん喧嘩をした。それ以上に愛し合った。 少し前にその旦那に先立たれてからも、子供たちのおかげで寂しいことだけは無かった。 孫の成長も見れた。思い残しなんて何も無い。 ああ、○○。愛しい私のあなた。 もうすぐ、そちらへ行きますわ。 瞳を閉じ、肘掛に手をやる。 その手は空を切り、力なく垂れ下がった。 冥界にうっとうしいカップルができた、と西行寺が八雲に愚痴をこぼすのは、また別のお話。 うpろだ1430 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「・・・ぅん」 新年早々、寝不足だ 今日が楽しみで眠りが浅かったか、子供じゃあるまいし 時間に遅れるといけない、そう思いベットから出ると、とても寒い カーテンを開け、外を見た 「・・・ホワイトロックが頑張ってるわね」 これだけ積もっていれば寒いのは納得だ 着替えを済ませると、外出のために、少し用意をした 「咲夜さん明けましておめでとう御座います!」 部屋を出ると美鈴と出会った 「おめでとう、今日は冷えるわね」 「外は辛いですよ~。あ、そういえば○○さんがいらしてますよ」 ちょうど約束してたぐらいの時間か 「ありがと・・・行ってくるわね」 言ってらっしゃいという美鈴の声を背に受け、私は彼の元に向かった 「やぁ咲夜、明けましておめでとう」 「お、おめでとう御座います」 一昨日あったはずなのだが、少しの緊張 しかし、新しい年に出会う彼は、いつも通りで少し、安心した 「あ、○○さん、少ししゃがんでもらえますか?」 「ん?」 私は彼の髪についていた雪を払った どうやら雪が降っているようで、溶けていないという事はまだ来たばかりと言う事か 待たせなくて良かった、なんて思ったり 「ありがとう・・・じゃあ行こうか」 「あら、珍しいものを見たわ」 思わずそんな台詞が口からこぼれた 「初詣なんて柄じゃないでしょうに・・・やっぱり男ができると違うわね」 「ち、ちがっ!?」 「ああ、違うの」 「いやちがわなくもないことも・・・・」 顔を赤くして何やらごにゃごにょ言ってるが、独り身としてはちょっと嫉妬しちゃうわね 「・・・まぁその幸せを分けると思ってお賽銭のほうよろしくね」 「お、霊夢、あけましておめでとう」 「ん、おめでと・・・ほら二人でなんか願掛けでもしてきなさい」 もうちょっとからかっていたかったが、今年は忙しいのだ、特に金銭面で重要な一日である 賽銭箱に向かう二人を見送りながら、小さなため息をついた ちゃりん がらんがらん ぱん ぱん 「何をお願いしました?」 彼が熱心に祈っていたようなので、気になってきいてみた 「今年も面白おかしく異変を眺めていられますように、ってね」 なるほど、彼らしいといえばそうか 彼は私はなにを?ときいてきたが、それは恥ずかしくていえない 食い下がる彼に、乙女の秘密です、と言ったのだがそれのほうが恥ずかしかった お神酒を飲んで、お守りを買って、甘酒を飲んだ おみくじも引いた こんな普通の人間みたいな事をしている自分を、不思議に思う 少し前ならば考えられなかっただろう、隣が、暖かいなんて 「あの・・・○○さん・・・これどうぞ」 神社からの帰り道、彼にあるものを渡した 「?・・・おお、マフラーか」 袋から出して全体を繁々と見ている、私も改めて見てみる どこか不出来なほうが編み出しか、最後のほうはだいぶ上手くなっているが・・・アンバランスだ 「ちょっと長いね、最後のほうはコツがつかめてきて思わず余分に編んだって感じかな」 完全にお見通しのようだ この寒いのに体が熱くなる、もしかしたら湯気が出ているのではないだろうか 「○○、さんが首元が、さむそうだったから・・・」 「・・・ありがとうな、咲夜」 彼は首にいろんな感じで巻いて試行錯誤するが微妙な長さが残る 「・・・嗚呼、こりゃあ良いな」 何を思いついたのか私の隣に来ると、そのマフラーを私の首にも回した 「え?え?ふ、二人でするには短いです、よ?」 「ほら、こうやってくっつけば、ちょうど良いだろ?」 彼と私は、非常に密着した状態である 「ああ、歩きづらくないですか?」 「問題ない・・・この方があったかいじゃん」 心臓が2倍速ぐらいで鼓動しているようだ どきどきと、彼と触れている場所をいしきしてしまう 「咲夜、どきどきしてるな」 そう言って笑うと、最後に俺もだよ、とつけたした 雪が積もった道を、二人でぎこちなく歩く 歩き辛いけど、暖かくて この動き辛さも良いかもしれないと思った だってその分長く、彼とこうしていられるのだから うpろだ1489 ─────────────────────────────────────────────────────────── ―紅魔館 咲夜「お疲れ様○○。あとは私がやっておくから、そろそろ休みなさい」 ○○「ああ、でも咲夜さんも休んだほうが・・」 咲夜「私は大丈夫よ、ずっとやってきてる事ですから。」 ○○「じゃあ、甘えます。お疲れさまっす」 紅魔館で働くようになってから数ヶ月経つけど 咲夜さんっていつ休んでるんだろうか・・ 夜中もお嬢様の相手だし、24時間働いてるんじゃ・・ 要領が良く、無駄も無く、隙も無く、一度も疲れた顔すら見せない彼女。 ○○「メイド長の鑑なんだろうな、憧れるなあ」 それでもやっぱり心配ではある。 無理してポーカーフェイスしているんじゃないかとね。 俺は与えてもらった部屋へ足を運ぶ。 ○○「あー疲れたぁ、今日はもう早めに寝よう。」 俺は布団にもぐりこみ、死んだように眠りに付いた。 その時、なんの夢を見たかは覚えていなかったが すごくいい匂いがして、そしてすごく居心地がいい。そんな夢を見た。 ―早朝。 ガチャ ドアの開く音で目が覚める。 入ってきたのは紅魔館の主、レミリアお嬢さんだった。 レ「あれ~?いないか~」 ○○「・・ん。どうしたんすか、まだ朝早いっすよ」 レ「ああ寝てたの、ごめんごめん、ところで咲夜見なかった?」 ○○「咲夜さん?いや、知らないけど・・」 レ「そっかー、いやね、昨日の晩からずっと居なかったのよね~ 今までこんな事なかったのに。」 ○○「はぁ。確かに珍しいすね・・」 レ「なのよー。んでこっちに来てないかと思ったんだけど、 まあ、邪魔したわね、それじゃ」 バタン ていうか、こんな所に居るわけないのにな。 それだけレミリアお嬢さんも必死って事か・・ でも本当にどうしたんだろう、あの後、夕方くらいに別れて、その後姿を消したのかな。 まさか過労で嫌になって・・ ハハ、咲夜さんに限ってそんなわけないか。 まだ少し早いのでもう少しだけ横になろう・・ふぁ・・あぁぁ~。 俺はもう1度布団にもぐり横になった。 ・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 寝返りをうつと鼻先に生温かい風が当たった。 目を開けると、そこには熟睡している咲夜さんの顔があった。 咲夜「すぅ・・すぅ・・」 ○○「・・!!!!!?????」 ワケが分からなかった。 なんで俺のベッドに咲夜さんが・・?そしてこのゼロ距離! ○○「え・・ちょ・・咲夜さん!?何でここに・・!?」 咲夜「・・ん、なんか騒がしいわね・・」 目を覚ました咲夜さんと目が合う。 キョトンとした咲夜さんの目。普段みせた事のない表情。 そして次第に顔が赤くなっていく咲夜さん。 咲夜「えっ・・!? えぇぇぇーー!?なんでなんで!?」 ○○「・・俺の台詞っすよ・・」 咲夜「って、なんで朝になってるの!?って何で○○が動いてるのよっ」 こんなに取り乱す咲夜さんは初めてみたかもしれない。 しかし何をわけのわからない事を言っているのやら・・ 咲夜「・・こんな事って・・。・・・まさか・・あ、やっぱり・・」 ○○「・・・もしかして・・・ 時間を止めたつもりで、ちゃんと発動してなかったとか・・?」 後ろ向きに座り込んだままの咲夜さんが、小さくコクっと頷いた。 ○○「は・・はは、咲夜さんもそんなミスするんだ・・」 咲夜「う、うるさいわねっ、多分疲れてたから発動忘れたのよっ はぁ~、もうなんでこんな情けない所を・・しかも貴方に見られてしまうなんて・・ あ”ぁ~~~もう最悪よーーーーー!!」 自分の頭を両手でくしゃくしゃ掻きながら悶える咲夜さん。 その姿がまた可愛かった。 ○○「いいじゃないすか、俺は安心しましたよ。」 咲夜「どういうイミですか・・」 頭がボサボサになって言う咲夜さん ○○「咲夜さんもやっぱり人間だったんだな~って、 人間らしいミスもすれば、人間らしく体力も限界があって」 咲夜「・・あなたずっと私を妖怪と思ってたのね・・失礼ねえ・・」 ○○「あ、はは、そんな事ないすよ、・・あ、でもちょっと思ってたかも。」 咲夜「もう・・これ内緒よ・・?特に美鈴とかに知られたら何て言われるか・・ はぁ・・私の完璧なメイド長が・・こんな所で崩れてしまうなんて・・」 ○○「・・・・」 俺は苦笑した。 ―そして 咲夜「お嬢様、申し訳ありませんでした。ただいま戻りました」 レ「おかえり咲夜、○○もおはよう」 ○○「おはようございまっす」 レ「あ~、さっそくだけど最近この椅子がキシキシ言うから 新しいのと取り替えて欲しいんだけど、あ、それとこのテーブルあちこち傷が・・あとは、」 咲夜さんに今までどこで何していたかレミリアさんに問われると思ったが・・ 咲夜さんもそう思ってたのか、不思議そうな顔をしていた。 ―昼休み。 ○○「モグモグ、そういえば咲夜さん」 咲夜「ん?何かしら」 ○○「寝る時は毎晩、俺の部屋で時間止めて寝てるんすか? いやぁ、なんで俺の部屋なのかなーと思って。」 咲夜「・・・・・」 そう聞くとみるみる咲夜さんの顔が赤くなっていったと思ったら ○○「咲夜・・さん・・?ってうお!」 ヒュン! カッ! カッ! カッ! カッ! ○○「ひぃ!?」 咲夜さんが顔を真っ赤にしながらナイフを飛ばしてきた。 俺は慌てて逃げる ○○「うわぁああああ!ちょっと~~、えぇー俺何かマズイ事言ったかなぁー!?」 メイド妖精1「こら~、廊下走るとメイド長に怒られますよー?」 メイド妖精2「あ、あれ?今、メイド長も一緒に走っていったような・・」 メイド妖精3「えー、まさかぁ~」 今日も紅魔館は騒がしい。 新ろだ47 ─────────────────────────────────────────────────────────── 豪奢な調度がいたるところに置いてあるホテルのロビーで、○○は自分一人が浮いた存在のように感じていた。 場違いもいいところじゃないかと……。 紫主催の『神無月限定外界デート』に申し込んだところ咲夜がこの日じゃなくてはダメだと押しに押してきたため その日に決めたのはいいがまさかこんなホテルだったとは○○は思わなかった。 ○○は分不相応な気がしてロビーの隅っこで俯き加減に固まっていた。 「○○、おまたせ」 不意に咲夜の優しげな声が聞こえて、○○は顔をあげた。 と、同時に口をぽかんと開けて、目の前の女性を食いいるように見つめる。 そこには、ドレスアップした咲夜の姿があった。 彼女は、一見素顔のようなナチュラルメイクを施し、瀟洒なドレスを身にまとっていた。 細い鎖骨と片方の肩をおしげもなくさらけだしている。 肩を覆った側の袖は大きく膨らみ、まるで中世の姫君のようだ。 襟元は繊細なレースがいく重にも折り重なっており彼女の胸を優しく覆っていた。 裾は長く、彼女の足元まで覆っている。ここにも襟元と同じ種類のレースが存分にあしらわれている。 「綺麗……です」 不意に○○の口から正直な感想がもれでた。 たちまち、咲夜の頬がバラ色に染まる。 「……あ、ありがとう」 はにかみながら、咲夜は○○にそっと手を差し伸べた。 ○○は己の心臓が高まるのを感じながら、そのほっそりとした小さな手を握りしめる。 まるで骨がないように柔らかだった。 「さ、今夜は存分に楽しみましょう」 特別な夜が今、始まろうとしていた。 「あ、あの、俺こんな豪華なところ来るの初めてなんですけど……」 「私だってそうよ」 「でも咲夜さん平気そうじゃないですか」 「いつもお嬢様の傍に付き添っているからこういう雰囲気に慣れているだけよ」 緊張でがちがちになっている○○に普段と変わらない咲夜。 二人は窓際の席に座っていた。 大きな観覧車を中心に、色とりどりのネオンが煌めいているが、その光の瞬きを楽しむ余裕が○○にはいっさいなかった。 (うへぇ……テーブルマナーなんて俺知らないぞ) ずらりと目の前に並べられたカラトリーを不安そうに見つめる○○。 そんな彼に笑いかけると、咲夜はささやいた。 「大丈夫よ。そんな緊張しなくても。食べ方やマナーなら私が教えてあげるから。せっかくの料理が美味しく感じられないのはつまらないじゃない?」 シャンパングラスを手にすると、咲夜は○○に向かってその手を差し出した。 ○○も慣れない手つきでグラスを手にして、彼女のグラスに近づける。 澄んだ音を立ててグラス同士が軽く触れ合った。 前菜が運ばれてきて、優雅な咲夜の仕草を見よう見まねで○○は必死にナイフとフォークを動かす。 そんな様子を、咲夜は目を細めてうれしそうに眺めている。 「う……? ど、どうしたんですか? そ、そんなに見て……。どこか変ですか?」 「ねぇ、何で今日を選んだか分かる?」 考えつくかぎりでは○○の頭には何も浮かばない。 その様子から分かってないと察した咲夜は軽くため息をついて○○を睨んだ。 「あのね、今日はあなたと私が出会ってちょうど1年になるのよ」 「あ……!」 「……まぁ、今回は許すけど、次忘れたら承知しないわよ……?」 咲夜は射るような視線を○○に向け微笑む。 場所が場所ならナイフが飛んできただろう。 ○○は絶対忘れないようにしようと肝に命じた。 咲夜は、うっとりとした表情で夜景を眺めている。 ネオンが彼女の群青の瞳に映ってゆらぐ。 「今日までいろいろあったわね……良いことも、悪いことも」 「悪いことって俺が間違えてお風呂に入ってきたことですか?」 咲夜が○○の言葉に噴き出した。 広い大浴場で誰が入っているかなどは解るはずもなく、みごとに中で鉢合わせしたのであった。 思いっきり頭に桶をぶつけられたのは言わずもがな。 「まったく……そういうどうでもいいことは覚えているんだから」 そう微笑むいつもの咲夜がそこにいた。 「ケンカもたくさんしたわね。でも、いつも○○から謝ってきてくれて。私、我が強くて自分から謝れなくて…… あと、風邪引いたときも看病してくれたわね。初めてにしては悪くなかったわ……あの御粥。 美鈴と一緒に薬草取りに行っただけなのにやきもち焼いて困らせたわね。 それから……」 次から次へと彼女の口からは、二人の思い出が紡ぎだされる。 ○○もそのときのことを思い出しながら何度も何度もうなずく。 どれ一つとして全てが一致する思い出などはない。受け取る人によって、思い出の細部はまるで変わってくるからだ。 気がつけば○○の緊張は完全にほぐれていた。 ただ、ひたすら夢中になって彼女と出会ってから今に至るまでの話に花を咲かせる。 おいしい料理にワインを楽しみながら、二人は二人だけのまったりとした特別なひと時を過ごしたのだった。 フルコースを堪能した二人は、今ホテルの最上階に来ていた。 予約してあった部屋は、なんとスイートルームだった。 今まで紅魔館で働いていた仕事の量から換算して紫から円に換金してもらったらしいのだが、まさかこれほどとまでは○○は思わなかった。 広さはレミリアの部屋と同等くらいあるだろうか。 天井は高く、えんじ色のじゅうたんはふかふか。凝った細工がいたるところにちりばめられているいかにも高そうな調度品がそこここに構えている。 ホテルの部屋を予約している。その意味するところは一つしかないだろう。 ○○ははるか彼方に広がる夜景を見つめながら、体を硬直していた。 「シャワー終わったわ。○○も浴びる?」 咲夜の涼やかな声がする。窓ガラスは夜景を存分に楽しめるよう、全面ガラス張りになっているため、咲夜の全身も映っている。 ガウンを羽織った彼女が○○にゆっくりと近づいてきた。 不意にふわりと彼女の両手が○○に差しのべられた。 咲夜はそのまま背中から手をまわすと、彼をそっと抱きしめた。 咲夜の濡れた髪としなやかな手と、密着した乳房を背中に感じて更に体を硬くする。 「ふふっ、そんなに緊張しなくても」 「あぅあぅ……。今日の咲夜さん大胆ですね……」 「んー? 酔っているからかしら?」 咲夜が○○の耳もとで熱い吐息まじりの声でささやいた。 ○○はぞくりとして首をすくめる。 咲夜のつややかな声が耳から侵入して、彼の体全体へとひろがっていく。 「○○、抱いて……」 「はははは、はいぃっ!?」 咲夜がつぶやいた言葉に○○は絶句した。あまりにもストレートな愛情表現だったからだ。 ○○は窓ガラスに映る咲夜の姿を食い入るように見つめる。 その目をまっすぐに見つめ返してくる咲夜の目は熱っぽく大きく潤んでいる。 「私、○○のこと、好きなのかもしれない。こういうこと初めてだからよくわからない……。 けどあなたはもう私の中で欠かせない存在なの……好きって言葉じゃ足りないくらい……そうね、たぶん愛しているって言った方がいいかしら……」 かすかに震えているのだろう。肩が小刻みに揺れている。 初めての告白に咲夜も緊張しているのだろう。 ○○は振り返ると咲夜の細く、火照った体を力いっぱい抱きしめた。 「ずるいですよ……。俺だって咲夜さんのこと好きで好きで堪らないのに……そんな告白の後じゃ何言っても陳腐にしか聞こえないじゃないですか」 「そんなの気にしないわ……。あなたの言葉で私に伝えてくれればいいの」 「……好きです。大好きです。あなたのこと、好きすぎて狂ってしまいそうなくらい……」 「ああ……うれしい。好きよ○○。大好き……」 頬を真っ赤に染めた咲夜が胸の中で幸せな表情を浮かべる。 ○○は彼女の顔を上に向かせて、唇を寄せた。 柔らかな互いの唇を感じながら、二人は情熱的に舌を絡めていく。 唾液が絡み合い、舌は生き物のように口内をまさぐる。 「んっ……ふぁっ……んぅっ!」 吐息まじりの喘ぎ声が咲夜の口からもれでる。 ○○は彼女の下唇を軽く甘噛みしながら、ガウンのベルトに手をかけた。 緩く結んであるだけのベルトは、すんなりと床に落ち、同時に咲夜の前衣が大きくはだけた。 純白のブラジャーやショーツに派手な装飾はない。それが咲夜の美しさに拍車をかけている。 すらりと伸びた脚は黒のガーターベルトとストッキングをまとっている。 白黒のコントラストが妖艶で、なおかつ清らかさをけして損なわない品のある最高のデザインの下着を身につけた咲夜はひどく魅惑的だった。 「さぁ、これから先は私の時間は○○のもの……。好きなように私をあなた色に染め上げて……」 ○○がゆっくりと咲夜をベットに横たえたところでプツリと映像が途切れた―― 「はいざんねん!! ここから先はそこまでよ! になるので映像はおしまいでーす」 「えーーーー!!!!」 宴会で各々のデートシーンが流され、他のカップルもそうだが自分たちの番になって紫はこんなところまで見ていたのかと改めて彼女のデバガメ癖に気がついた。 酔いまくった酔っ払いどもの大ブーイングの中、○○は俯いて震えている咲夜に声をかけた。 「だ、大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫よ。ちょっとあの妖怪を黙らせてくるから」 ゆらりと立ち上がった咲夜を慌てて羽交い絞めにする。 「さ、咲夜さん! 落ち着いてください!!」 「は、離して○○! あの紫ババア一回痛い目みせてやらないと気が済まないのよー!!」 暴れる咲夜を止めるため○○は彼女の弱点を攻撃した。 ふぅっ、と耳に息を吹きかけささやく。この間のデートで見つけた咲夜の弱いところだ。 びくびくっと身体を震わせポロリとナイフが手から落ちる。 「ダメですよ。あんまり暴れちゃ」 「いやぁん、でも○○これじゃオチがつかないわ……」 「もうこの状態で十分落ちてますよ」 あむあむと耳を甘噛みされるたびに猫撫で声をあげ、身をくねらせる。 「ああん、そういう強引なところもすきすきぃ。もっと噛んでぇ」 完全に別世界に行ってしまった二人の空気にやられ、早々と宴会はお開きになりみんな自分のうちでイチャイチャはじめたそうだ。 新ろだ54 ─────────────────────────────────────────────────────────── 秋晴れの風が気持ちいい日。紅魔館の庭では咲夜が洗濯物を干していた。 白いシーツが秋風になびき、鼻歌が風に乗る。 「ん~♪ ふんふ~ん♪ ふふ~ん♪」 「ご機嫌ですね。咲夜さん」 そこに執事長の○○がやってきた。 しかしいつもの燕尾服ではなくつなぎにTシャツ、手ぬぐいを頭に巻いたまるで用務員のような格好だった。 「そうね。天気がいいから久しぶりにいっぱい洗濯物を片づけたわ」 「お嬢様にはあまり良いとは言えませんけどね」 「そうね。○○は?」 「庭の手入れです。結構枝が伸びていたので剪定を」 しばらく軽い世間話を続け、ふと空白がうまれ二人の視線がからまる。 顔を赤らめて、○○に近づくと咲夜は彼と口づけを交わす。 「……んっ」 ○○が目を開けると爪先立ちで肩に手を置いて懸命にキスをする咲夜の顔が近くにある。 ふんふんと鼻で息をして上気した顔は普段の凛としたメイド長からは考えられない可愛さだった。 「んっ、んん、ちゅっ……んふぅ、くちゅっ……ふうんっ、ちゅぴ、んんん……んっ」 どれ位の時が経ったのであろう。名残惜しげに咲夜の唇が離れると頬を赤くしたままはにかむ。 「うふふ……」 指で唇を撫で笑顔になる彼女を見て○○も笑みがこぼれる。 胸の前で握りしめているのが自分の下着だというのもなんだか照れくさい。 そこに一陣の風が吹き、洗濯物が翻ると―― 目を丸くした小悪魔がいた。 「ひゃわああぁぁあぁぁっ!?」 「はひぃいいいぃぃっ!?」 両者驚きで声をあげて真っ赤になる。咲夜なんて茹でダコのようになり、わたわたと○○の下着を振り回し小悪魔も洗濯カゴを持ったままモジモジとしている。 確かにここまで接近されていれば洗濯物など遮蔽物にすらならないだろう。 「こぁ? どこまで見てたんだい?」 「はははは、はいいっ! さ、咲夜さんがは、鼻歌を歌っていたところからですっ!」 つまり全部見られていたということか。 「わわわ、私のことはお気になさらずどうぞごゆっくり~~~~!!」 すごい速さで駆けていってしまった。 「…………」 しばらく二人とも恥ずかしさで動けなかった。 咲夜の紅茶の入れる手つきは慣れたもので優雅さと気品さが溢れ、最近では優しさも追加された。 「その紅茶は誰に持って行くんですか?」 「パチュリー様に頼まれたのでこれから持っていくのよ」 紅茶の良い香りが漂い、○○はカップに鼻を近づける。 それを咲夜はそっと手で制す。 「行儀悪いわよ。これ運び終わったら入れてあげるわよ」 「ああ、ありがとう。咲夜さんの紅茶は美味しいから」 「○○も腕は悪くはないけどね。精進すればまだまだ伸びるわ」 と、またしても視線が絡む。 今度は○○から咲夜に口づけをする。 「……んっ」 彼女の吐息はまるで最高級の紅茶のような香りがした。 しかしそのなごりを楽しむ猶予もなくパチュリーの睨む視線に気づく 「きゃあぁぁあああっ!?」 今度は咲夜だけが声をあげる。 ○○はまたか、という顔だしパチュリーは未だ○○と咲夜を睨んでいる。 「……遅いと思ったらやっぱり乳繰り合っていたわけね」 「ちちちち、乳繰り合ってなんか!」 「パチュリー様、いったいどうしたんですか?」 「ああ、魔理沙が来たからもう一杯紅茶を頼むわ。今度は早めにね」 言いたいことをいうとパチュリーは台所を後にするが最後にドアのところで振り向いて忠告をした。 「それと、所かまわずちゅっちゅしてたら色ボケ夫婦にしか見えないわよ」 その忠告に咲夜はまた気落ちしてしまう。 ○○は変わらないが。もう完全に開き直っている。 「あうう……」 ○○が買出しに向かうということで咲夜は必要なものを纏めたメモを読み上げていた。 「と、早急に必要なものはこれくらいね。はい、これメモね」 渡されたメモを受け取る時、○○と咲夜の指が触れる。 少しあかぎれがあるがそれでも柔らかく、細い指が透けるように白い。 またしても視線が絡まる。そうなればやることは一つだ。 「あ、あと、これもお願いね……」 ポケットから新しいメモを取り出す。 ○○はそのメモを覗き込む。 「……す、少しでいいから」 「……少しでいいんですか?」 「……うん、…………んっ」 今回は軽く触れるだけのキス。 これなら誰にも見つかることはないはず……だったのだが扉から顔を覗かせているフランがいた。 声はあげなかったがずざざざっと○○から遠ざかる咲夜。若干涙目なのが潤んだ瞳から分かる。 やれやれとため息をついてフランに○○は近づいた。 「どうしました? 妹様?」 「あ、え、う、うん……○○がお買いもの行くって聞いたからお菓子買ってきてほしかったの」 「分かりました。いつものでいいですか?」 「うん、いいよ。……○○と咲夜、ちゅーしてたの?」 「はい、そうですよ」 もはや隠す気もない○○。 フランはほにゃっと可愛らしい表情になった。 「いーなー。私もちゅっちゅしたいー」 「そのうち誰か妹様を好きになってくれる人が現れますよ」 「そうかな?」 「そうです」 「早く会えるといいなー。私だけのひと」 そのまま機嫌良く、スキップしながら去っていくフラン。 ○○はヘナヘナと崩れ落ちていた咲夜に手を差し出し、起こしてあげた。 「はぁ……どうしてこう……」 「それじゃ今後いっさい口づけしないことにします?」 その言葉を聞いた咲夜は見る見るうちに不安げな顔になっていく。 今にも泣きそうな咲夜を見て、慌てて○○は取り消す言葉を口にする。 「じょ、冗談ですよ」 「……言っていいことと悪いことがあるわ」 膨れっ面で腰に手を当てて可愛らしいスネかたをする咲夜であった。 「それじゃ行ってきます」 「気をつけてね」 「分かりました」 門まで見送りに来てもらい○○は扉に手をかけるがキョロキョロと辺りを見渡し誰もいないことを確かめると不意打ちで咲夜の唇を奪う。 「きゃっ」 「油断してましたね」 そしてもはやお約束。お手洗いから帰ってきた美鈴と鉢合わせする。 いきなり姿が消えたかと思うと咲夜は美鈴にナイフを突き付けていた。 「いいいい、いきなり何するんですかぁ!?」 「いい? 今会ったことは忘れるのよ。いいかしら?」 「わわわ、分かりました!」 解放され息をつく美鈴。 「そんなに恥ずかしいのならしなければいいのに」 「それじゃ我慢できないんだよ。俺も咲夜さんも」 「ひゃーラブラブですねー。羨ましいです」 「それじゃもう一回みせてあげようか?」 「はいっ!」 「えっ!? ちょっ!」 咲夜に近づき顎をくいと持ち上げ上向きにさせるとじっと瞳を見つめる。 咲夜は顔を赤くして目を閉じると○○のキスを今か今かと待ちわびる。 ○○は顎からすっと手を離し門を開ける。美鈴と咲夜はぽかーんと間の抜けた顔をしていた。 「ふふっ、ああいうものは何度も見せるものじゃないんです。だからさっきのでお終い」 「なっ! き、期待させておいてそれはないでしょ!!」 「咲夜さん! 励むのです!! ○○さんがメロメロになるまで励むんです!」 「ええ! 貴女に言われるのは癪だけど!」 二人のやり取りにくすっと笑うと○○は里に向けて歩き出した。 「……ところで励むってのは……よ、夜の営みのことかしら……?」 「え? もうそこまでいったんですか!」 「わー!! く、口が滑っただけよー! こ、これも忘れなさい!!」 みなの話を聞いてレミリアはため息をついた。 「まったく、あの二人はしょうがないわね。暇さえあればちゅっちゅちゅっちゅして」 「で、どうするの? レミィ」 「決まってるでしょう? 二人を引き離して私が○○を『異議ありです!!』咲夜っ!?」 ドカーンとけたたましい音を立てて扉を開け咲夜が乗り込んでくる。 「いきなりなんでそんな展開になるんですか!」 「いいじゃないの! 咲夜のものは私のもの、私のものは私のものなのよ!」 「どこのガキ大将のセリフですか!」 結局いつものやりとりが始まる。 レミリアも○○のことが気にいっていたのだが、咲夜に先を越されてしまったため何かと理由をつけ○○を奪おうとする。 もはや日常じみた二人の口喧嘩に他のメンバーは静観する。ヒートアップしてきた二人はだんだんマズいことを口走る。 「だいたいその胸はなによ! 詰め物まで入れてまで大きく見せたいの!? ああ、そうでもなきゃ○○が振り向く訳ないわよねぇ」(そこまでよ!) 「これは自前です! ○○が弄ってくれたおかげで詰めなくてもよくなったんです!! それよりお嬢様みたいな幼児体型じゃ彼を満足させることなんてできません!」(そこまでっていってるでしょ!) 「ふん、味わってみなければこの身体の良さは解らないわ! むしろ幼女じゃなきゃ欲情できなくさせてあげるわ!」(ちょっと聞いてるの!) 「おっぱいって触ってくれる人がいないと邪魔なだけですよね」 「肩こりの原因の一つですしね」 二人を止めようと息巻くパチュリーと何処かズレた話を始める美鈴と小悪魔。 そんな中ドアを開けてフランが中を覗き込む。 「やっぱりみんなここにいたんだ。またいつもの喧嘩?」 「あ、妹様。何か御用ですか?」 「うん。○○がおやつ作ったからどうですか、だって」 「それじゃ二人は放っておいてお茶にしましょうか」 「ほらパチュリー様も行きましょう」 「は、離してっ! 私は秩序を守るのよーっ!!」 この言い争いは明け方まで続いていく…… 「ふぅ、お嬢様にも困ったものだわ……」 「あはは」 ○○は睦み合った後にこうして布団の中で話を聞く。主に咲夜が淡々と愚痴を零すのだが○○は嫌な顔一つしない。 それが彼女のストレス発散になっているのだし、聞いてあげることで少しでも負担が軽くなればいいと思っているからでもある。 「ごめんね……毎回愚痴ばっかりで」 「いいですよ。それで咲夜さんの気が晴れるなら」 「……そういうとこ、好きよ。甘えたくなるじゃない」 胸に顔をすりよせ微笑む。○○はすっと手を伸ばして何もつけてない胸をつんと指で突く。 大きくはないが柔らかく張りのある乳房がぷるんと揺れる。 「やんっ。えっち」 「だって咲夜さんが可愛いから」 「褒めてもなにも出ないわよ」 胸板に顔を埋めて上気した顔でほう、と息をつく。 「○○、愛してるわ」 「俺もです」 「眠るまで顔見つめていていい?」 「いいですよ」 「それじゃおやすみ……いい夢を」 しばらくして彼女の重みと温もりに包まれてすうすうと寝息を立てる○○を見つめ、何度か起こさぬようにキスをして咲夜も眠りにつく。 この二人にさすがお嬢様のグングニルも割り込むことはできないようだ。 新ろだ100 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/orz1414/pages/123.html
■咲夜1 「咲夜さん!オレを第二のメイド長にしてください!」 1スレ目 38 ─────────────────────────────────────────────────────────── 咲夜さんに 「あなたの微乳は最高です!!」 って言って告白 命の保障はできないけど( A`) 1スレ目 179 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「失礼します」 そう言って俺は目の前の重厚な扉を開けた。 扉の向こうは真紅の部屋。 中央に置かれた豪奢な椅子の肘掛に頬杖をつき、薮睨みの視線で僕を縫い止めているのがこの館の、そして俺達使用人の主であるスカーレット御嬢様だ。 白磁よりも白い肌と、紅玉よりも紅い瞳。 すらりとした切れ長の眉は意志の強さを如実に表わしている。 眉を通り、整った目鼻立ちの下にある柔らかそうな唇から覗くのは、明らかに人外の種である証の牙。 外見の幼さからは想像もつかない強烈な威圧感と、魔性の者のみが持ち得る傾国の美貌。 俺如き脆弱な人間風情には、濫りに近付く事さえ許されない――――俺がそんな錯覚を覚えるのに、十二分にしてお釣りが来る程の魅力を、スカーレット御嬢様は備えていた。 「何をしているの。さっさと入りなさい」 不機嫌さを隠そうともしない声で、萎縮してしまった僕を呼びつける御嬢様。 視認出切るほどの不機嫌オーラを纏う御嬢様に近付くのは、はっきり言って泣きたくなるくらい怖い。 俺は、使用人魂で恐怖をねじ伏せ歩を進めた。 それと同時に、僕は何故御嬢様の御部屋に呼ばれたのか考えていた。 俺の仕事は基本的に雑用や外回りの警備ばかりで、御嬢様の身の回りのお世話に直接関わるような機会は無い。 仕事では大きな失敗もしていないし、呼びつけられる様な原因が思いつかない。 しかし、それでも俺は外勤組の中では格段に御嬢様と出会う人間らしい。 一日に三度は廊下で擦れ違ったり視線が合ったりすると仲間内で話したら、皆一様に驚いていた。 曰く、外勤は一週間に一度御嬢様をお目にかかれたら上出来、なのだそうだ。 もしかしたら、その辺りが今回呼ばれた原因なのかもしれない。 余りにも顔を合わせる回数が多いから、サボってるんじゃないかと思われてたりして。 内心で首を捻る俺に、御嬢様は言い放った。 「単刀直入に聞くわ。貴方、咲夜に何をしたの」 心臓が跳ね上がった。口から飛び出たかと思った。 十六夜咲夜さん。 ここ紅魔館の使用人と侍女の頂点に立ち、人知を超越した能力を持つ、文字通り完全で瀟洒なメイド長。 御嬢様が紅魔館の象徴であれば、咲夜さんは紅魔館の中枢と言ってもいい。 「……い、いえ。特にこれといって何かをしたという記憶はありませんが」 俺の短い人生の中でも最大の集中力と精神力を振り絞り、可能な限りの平静を装って俺は答えた。 誰よりも御嬢様に忠節を誓う咲夜さんだけど、まさか咲夜さんてばあんな事まで御嬢様に言うのか。 俺は一週間前の出来事を思い出していた。 今、俺が咲夜さんと聞いて思い出すのはそれしかない。 一週間前――――咲夜さんに告白して、思いっきりフラれた事を。 勿論、OKなんてもらえるとは思っていなかった。 ただ、咲夜さんに自分の想いを知ってもらえればと、それだけが望みの告白だった。 この気持ちは、好きというより、むしろ憧れに近いものだったのだろう。崇敬と言い換えてもいいかもしれない、そんな一方通行の想いだった。 それでも返答が『そう……それじゃ』だけでくるりと踵を返して去ってしまったのは流石に多少傷付きもしたけれど。 ダメでもせめてもう少しリアクションが欲しかった。 高望みだとか無謀だとか言いつつも撃沈した俺に同僚達が奢ってくれた酒は少ししょっぱい味がした。 兎に角、あれ以来咲夜さんとは全く顔を合わせていない。 むしろ避けられているような風潮さえある。本当にちらりとも姿を見ないのだ。 現に、今だって普段は御嬢様の御付である筈の咲夜さんなのに、どこにも姿が見当たらない。 気が滅入りそうになるが、これはどう考えても嫌われてしまったと見るのが妥当なんだろう。 …………やばい、また涙が出そうになってきた。耐えろ俺。 だけど、よくよく考えてみると何もしていないというのは間違いじゃないのだ。 咲夜さんからしてみれば、俺はどうでもいい人間なのだから。自分で言うのも悲しいが、告白なんてされようが関係ないのだし。 そんな俺の発言に、しかし御嬢様は苛立たしそうに席から立ち上がると目にも止まらぬ速さで俺の眼前へと移動し、 「てぃ」 「ぅぁ痛゛ぁっ!!?」 デコピンを頂戴してしまった。 あまりの痛さに頭が割れたかと思った。 「お゛お゛お゛お゛お゛……」 そのまま御嬢様の前である事も忘れもんどり打って転げまわる俺。 鼻息を荒げ腕を組みながら御嬢様が言う。 「この私に嘘とはいい度胸ね。貴方が咲夜に何かけしかけたのはお見通しなのよ!」 「ええっ!?」 「私の能力を知らないの? いいわ、特別に貴方にも見えるようにしてあげる」 ぱちん、と御嬢様が指打ちをすると、俺の視界が一瞬、真っ赤に染まり―――― 気付くと、俺の腕といい首といい脚といい、身体中のありとあらゆる部分から、細長い糸が張り巡らされていた。 糸は部屋の壁をつきぬけ、思い思いの方角へと一直線に伸びている。 太さや色は様々で、緑、青、白、黄、紅、茶、黒、そして、 「……この糸だけ、やたら太っといですね。あの御嬢様、これは一体……?」 「俗に言う『運命の糸』って奴よ。貴方と周囲の人間のエニシを可視化したの」 成る程。これは確かに、運命を操る御嬢様にしか出来ない業だ。改めて御嬢様の力の一角を見せ付けられ、俺は感嘆した。 「視覚化ついでにちょっと手品を加えておいたわ。貴方、ちょっとその糸引っ張ってみなさい」 「え?はい」 俺は言われた通りに手首から出ている紅い糸、いやもう綱と言っていいようなそれを引いてみた。 部屋の窓際、紅色のカーテンの向こうに繋がっていた綱がぴんと張り、その次の瞬間。 「きゃっ!」 小さな悲鳴と共にカーテンの裏側から転げそうになって飛び出てきたのは、俺と同じく手首に綱を結わえた咲夜さんだった。 「あ……」 「う……」 何故そんな場所に隠れていたのか。 この糸の太さは何なのか。 そんな疑問を吹き飛ばして瞬時に蘇る一週間前の記憶。 赤熱化する頬が分かる。 対する咲夜さんはと言うと、一週間前と同じくあっという間に背を向けてこちらを見てもくれない。 呆然とする俺に、御嬢様が御不満ここに極まれリといった声で、とんでもない発言をしてくれた。 「この一週間、咲夜ったら酷かったんだから。掃除は手につかない、料理は失敗する、ぼーっとして私の言葉さえ聞き逃し、あまつさえこの咲夜が、咲夜がよ? まさか寝坊をするなんて思っても見なかったわ」 「おっ、御嬢様!」 その時、俺ははっきり見てしまったのだ。 反射的に振り返ってしまった咲夜さんの、あの氷のように澄んだ咲夜さんの綺麗な横顔が、真っ赤に染まってしまっているのを。 それって、つまり―――― 「咲夜さん、俺の事を嫌って避けてたんじゃなくて……」 「…………から」 「え?」 「ど、どんな顔をして貴方と会えばいいのか分からなかったから……」 この時、俺は初めて知った。 人間、理解能力の限界値を超えると意識が飛ぶって事を。 薄暗くなっていく視界の中、俺は慌てて俺の方に駆け寄る咲夜さんの姿を見たような気がした。 1スレ目 199-202 ─────────────────────────────────────────────────────────── 湖の真ん中に位置する紅魔館――そこのある一室に俺は倒れていた。 無論、誰かに倒されたと言うわけではない。ここで働いて数ヶ月、俺の身体の 一時的な限界が訪れていたというだけだ。 「あのメイド長…人を散々こき使いやがって…」 何故かここで働く羽目になっており、俺は有給やら昼寝やら休日やら そんな物が無いという、ある意味では地獄のような職場で働いている。 制服貸与と書かれていたが、それもよりにもよって始めはメイド服だったから 性質が悪い。今は執事用の服という物を着せられているが、当初はそれも埃を被っていた。 「…休日なしだからなぁ」 今日も警備やら図書整理の手伝いやら、タダ働きの割に合わない事をしないとならない。 そう、そのはずだったんだ。 「あら、今日はどうしたのかしら」 いつの間にか俺の部屋の中に、諸悪の根源が居た。 ベッドから起き上がらない俺を見て、メイド長――十六夜咲夜は不審そうな目で見ている。 「…誰かさんの忙しい予定のせいで、ちょいと身体を壊しただけですが?」 その言葉をたっぷりと皮肉をこめて返す。 「そう、それじゃあ」 起き上がって館内の警備に行きなさい、とでも言われるのかと思い言葉に耳を傾ける。 「今日は少し休んでいなさい」 ……何ですと? あの鬼のようなメイド長が休め?普通、メイド長が言う筈無いよな。 …もしかしたら夢かもしれない、いや、もしかしたらこのメイド長はニセモノか? 「何をそんなにじっと見てるのかしら?」 「…や、なんでもない」 この言う言葉に殺気を込めるやり方。間違いなく本物のメイド長だ。 「…ここで寝てなさい」 そう言って、メイド長は俺の部屋から出て行った。 「待たせたわね」 戻ってきたメイド長はいつものメイド長だった。 さっきとの唯一の違いは手にお盆と料理らしきものを持っていることくらいか。 「…で、何のつもりっすか?」 「せっかく人が厨房を借りて病人食を作ってきたんだけど、いらないのかしら?」 「………いりますよ。そりゃ」 館の中でもしかしたらこの人は最強かもしれない。 紅魔館の全てを統べるメイド長、十六夜咲夜。…なんか強そうだ。 「お嬢様にも言って許可貰ったからから、今日は休みなさい。この館のほとんど居ない男手なんだから」 「…りょーかい。で、その料理は食べられるんだろうな?」 嬉しい事は嬉しいんだが、万が一にも毒なんて盛られていたら、泣くに泣けない。 いやその前に亡くなってしまうこと確実だ、俺は妖怪じゃないんだから。 「…毒なんて盛ってないから安心しなさい」 「何で俺の考えてる事が!?」 「その間抜けな顔を見たら誰でも気付くわ」 そこまで分かりやすい顔してたのか… メイド長からそのお盆ごと受け取り、レンゲを手に取る。 「見ての通り、お粥だけどね」 「病人食なら普通だろ?」 レンゲでまだ熱々の粥をすくい、すぐさま口に運ぶ。 作法とかなんてこの際関係ない。ただ我武者羅に食べ続ける。 「どうかしら?」 「…さすがメイド長だと思うぜ。普通に美味い」 「そう、なら良かった」 心の底からホッとしたように、メイド長は安堵の息を吐く。 …その表情を、妙に可愛く見えた自分がいた。 夜になった。 いつもは夜になっても図書整理が終わらずに篭っているはずなんだが、 今日は休めといわれて、ずっと横になっている。 昼間に門番や図書館の館長やら司書やらが来て、見舞いをしてくれたから 暇は潰れたが、今は何も無い。 「暇だ…」 と言った所で何が変わるわけでもない。それにしてもいつも俺を玩具にして遊んでいる お嬢様が休みをくれた事が意外だった。メイド長が言ってくれたからか? 「入るわよ」 と言いながら既に入っているメイド長。 また粥を持ってきたらしい。飽きない味とは、ああいうものだろうな。 「…晩飯か?」 「えぇ、同じものになるけど、病人食だから仕方ないわよね」 「…ありがたく頂く」 俺がお椀を取ろうとすると、それをメイド長はお預けをするような形で持ち上げた。 その手はむなしく空を切って硬直する。 「もう少しくらい休みなさい。最初で最後の奉仕活動くらいはしてあげるから」 そう言って、レンゲで俺の代わりに粥をすくう。 「ほら、あーんして」 …そう来たか。 「…あんたは――」 「あら、恥ずかしいのかしら? 普段はもう少し素直なくせに」 「…分かったよ。 ったく、どういう神経してんだアンタは」 結局、俺の方が折れて口を開ける。素早く中にレンゲが入る。 正直言って、恥ずかしさのあまり味覚が麻痺したのか味は分からなかった。 「…あんた、いい嫁になれるぜ」 わざわざそっぽを向いて、ぶっきらぼうに言う。…無意味に恥ずかしいだけだが。 それにしても彼女――咲夜は子育てとか得意そうだ。それにあれくらい飯が美味ければ 申し分ない。 「そうね。あなたはお嫁に貰ってくれるかしら?」 「…はっ、あんたみたいな美人なら喜んで、だな」 まぁ、咲夜の事は嫌いじゃない…むしろ好きな部類に入る。 仕事に対して厳しいというか何というか、そこがネックだがそういうところも割と気に入っている。 「それじゃ、これにサインして」 と、一枚の紙を差し出した。 「…ってオイ! これ婚姻届だろうが!」 そんなものが幻想郷にもあることが驚きだ。 いや、もしかしてこういう隔離された場所だからこそあるのか? 「あんたの事は確かに好きだけどさ、もっと、こう…人を選んだらどうだ?」 「色々知っている人間を比べた上で、あなたに当たったのよ」 そりゃ嬉しい事で…。 と冗談で返せれば良かったんだが、咲夜の目は…本気だった。 結構長い時間、俺は黙っていた。今までの事を振り返りながら決断をしようとしていたのだ。 問題を先送りにするような事はしたくないし、答えは早く出すべきだから。 「…ま、あんたの事は嫌いじゃねえよ」 むしろ嫌いになんてなれるか。 「そう、なの」 「…安心しな。結婚しねえって言ってるわけじゃねえって」 「え?」 「アレだ。こう言うときは俺の方から言わせてもらった方が嬉しいんだけどな…」 まさか、先に言われるとは思ってなかったし 「あー…っと、メイド長…もとい、咲夜。あんたの事、結構好きだぜ? 俺にとっての嫌いじゃないと好きってのはイコールなんだ。だからさ、こき使われるのはヤだけど 俺は…あんたが好きだ」 「本…当?」 それだけ言い終わると、咲夜は口元を押さえて涙を流していた。 「…結婚、するか?」 「…えぇ」 俺は、彼女と共に永遠を誓う口付けをした。 1スレ目 848 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「貴方、今まで相手した中で最低ね。試験を受けようと考えた事自体が間違いだわ」 ・・・そうして彼は紅魔舘から暇を頂く事になった。要するにクビである。 きっかけは舘内の知らせで、『昇格試験の案内』という張り紙を見て目をとめたのが始まりだった。紅魔舘に就職し、メイド長の十六夜咲夜に一目惚れした彼は「試験監督‐十六夜咲夜」の項目に惹かれて即座に申し込んだ訳だが・・・。 結果は惨敗。いきなり戦闘力のテストをされて何も出来ずにダウン。余りの不甲斐無さにメイド長直々に解雇を言い渡される事となったのである。 里へ帰る途中、彼の中では変化が起こっていた。 自分の至らなさを恥じる心は他人への責任転嫁に。 一方的な憧れは一方的な憎しみへ。 メイド長の目に止まる事がなかった男は、里へ帰る事なくいずこかへ消えていった。 それから数年、紅魔舘に紅白や白黒以外の侵入者がいるという話が持ち上がる。 曰く、侵入者は投げナイフを得意とするらしい。 曰く、侵入者は門番に気付かれずに中へ入る事ができるらしい。 曰く、侵入者は一瞬で別の所へ移動できるらしい。 曰く、侵入者は毎月一度忍び込むらしい。 これだけの特徴を兼ね備えた人物を、紅魔舘では知らない者がいなかった。 しかしその人物はメイド長。侵入者を撃退する役目を持つ人である。 「咲夜。最近舘内に貴方のドッペルゲンガーが出没するって噂ね?」 深夜のティータイムに、レミリアが咲夜に半分からかい口調で話し掛ける。半分は真面目であることを察した咲夜は黙って頷いた。 「面白そうだけど、咲夜の問題みたいだしね。そうそう。・・・・私はもう寝るから、館の見回りをお願いね。今夜は「2人」が見回りするでしょうから、早く終わるでしょう」 そう言ってレミリアは寝室へと姿を消す。瀟洒な従者は主の意図をつかんだらしく、館内の見回りへと出かけて行った。 館内を一通り見回ったところで図書館へと向かう。しかしここにも異常はなかったため、残すは時計台のみとなった。扉を開けると柔らかな月光が降り注ぐ。 「そういえば、昨日は満月だったわね」 そう呟いた咲夜に、暗がりから声が帰ってくる。 「今夜は十六夜・・・と言うそうですね。満月の輝きには及ばないとされているが、充分に眩しく、そして美しい」 「それは月だけかしら?」 「いえいえ、どちらの十六夜も私には満月より輝いて見える」 「それは間違いね。満月より輝く月など存在しないわ」 言葉だけなら月下の語らい―――しかしその実は殺気の応酬である。 「眼鏡もかけているのですけどね。度が合わないのかな?」 「それは元から治すしかないわね。尤も、ここで倒されるから治しようがないけど」 「何、これで私には良いのですよ。治すにしてもこの後図書館でも行って調べます」 2人はどちらともなく距離をとりはじめ、ナイフを抜き合う。 「呆れるほど大した自信ね。なら――――」 「そのような瑣末な事より、今は――――」 「返り討ちにされるといいわ、黒き賊!」 「貴方を倒したいのですよ、瀟洒な従者!」 ―――――そうして、十六夜の月の下、2つの影が交差した。 3本同時投擲からの接敵、離れる時の目くらましに投げた内1本のみ相手の急所を狙う、1本だけと思わせて同じ軌道で2本目を投げる・・・ナイフの応酬は互角だった。いや、その戦いは余りに・・・・・互角すぎたのである。 「どういうこと・・・?まるで鏡に映したようにナイフが飛んでくる。お嬢様の言っていた冗談もこれなら本気にしてしまうわね・・・ならこれを使わせてもらうわ」 ――――幻世「ザ・ワールド」 世界が凍る。咲夜は今、時を止めた。紅魔舘メイド長の能力にして奥義である。 もちろん相手は微動だにしない。この世界で動けるのは咲夜を除いてはいないのだ。 「チェックメイトね、侵入者さん。中々面白い戦い方だったわ」 急所に向かって的確にナイフを投擲する。後は世界を開放すればお終いだ。自分と同じナイフ術には興味があったが、明日の予定を考えるとそれを詮索するのも手間に思えた。 ・・・・男が立ち上がってくるまでは。 「・・・なぜ?急所に当たって倒れないなんて、貴方人間?」 自分の必殺パターンを崩されてか、咲夜は苛立ちを隠さずに男に問い掛ける。その様を見て男は満足そうに、不敵な笑みを浮かべて答えた。 「いいえ?どこにでもいる無様で「最低」な人間ですよ。ただ、ちょっと誤魔化すのが上手いだけです。・・・・防護魔法ってご存知ですか?狙ってくるのが確実に急所なら、そこだけを集中して防護すれば致命傷にはなりませんしね」 「・・・・ご高説感謝するわ。お代は地獄への片道切符で支払わせていただきますね」 ――――幻符「殺人ドール」 急所のみをガードしているなら無差別・乱反射のナイフに対応できる道理はない。全方位からの攻撃に、男は――― 「ありがとう。それでこそ貴方は十六夜咲夜だ」 と呟き、避ける動作も見せず。悔しそうな表情も浮かべず。ただ、微笑んで全てのナイフをその身に受けた。 「え・・・?ちょ、ちょっと!?」 余りのあっけなさに咲夜は男に近寄る。先ほどまで頭にあった明日の予定より、今はこの男の不可解さが気になって仕方がなかったからだ。 「・・・どうしました、そんな不思議な顔をなさって」 致命傷を負っていても男の態度は変わらない。その一貫した態度に腹が立ち、咲夜は男を怒鳴りつける。 「不思議な顔にもなるわよ!戦った相手にこんな事言うのも変だけど、あの攻撃は避けられたはずでしょう!?」 ヘイスト プロテクション 「ああ、さっきまでの私ならね。・・・速度増加も防護魔法も時間切れですし、そうでもしなければ貴方と戦う事すらできない。いつぞやの様に一瞬で倒されてしまう事でしょう」 「貴方は、あの時の・・!」 自分の事を思い出してくれたのか、男は嬉しそうに、しかし弱った声で話を続ける。 「ああ、今は貴方の瞳に私が映っている。私を見る事すら面倒に感じられたあの時に比べて、今はなんと幸せなのだろう。ドアを開けて私の声に反応する時など、体の震えが止まりませんでした」 複雑な表情で咲夜は男に話かける。 「馬鹿ね・・・そこまでして私に復讐したかったの?」 「・・・冗談を。私は貴方に一目惚れしてしまったのですよ。エゴですが、愛してると言ってもいい。そこまで慕う相手の瞳に映らない、まして仕える事もできないのなら、一瞬でも長く、私を意識し、見続けてもらうよう生きただけです」 「・・・・」 「憧れ、慕い続けた貴方の技を使いたかった。修行をしている時も、貴方に近づいていくようで楽しい日々でしたよ・・・最初は復讐のためだったのですけどね、『自分の技で死ぬがいい』って」 咲夜は何も答えない。自分のした事を後悔しているのか、男の行動に呆れているのか、自分でもわからないのである。 「さて、そろそろお迎えのようです・・・最後にもう一度顔を見せてくださいませんか」 咲夜が男を見直すと、不意に男は体を起こし―――咲夜に口づけをした。 「!?」 「―――――時よ止まれ、・・・貴方は美しい」 そこで男の時は止まった。 名も告げない、相手にとって1日にも満たない男の恋は報われたのだろうか? 咲夜は次の日、何事もなかったように仕事を進めている。 ただ、その日紅魔舘のメイド達は昼休みにこんな会話を交わしていた。 「侵入者が退治されたみたいですね。昨夜メイド長が夜の見回りの時に倒したそうです」 「あ、私丁度早番で起きてきた時にメイド長とすれ違いましたよ。私初めて見たんですが、倒した侵入者を抱えてました」 「・・・いつもは片付け、私たちにやらせるのに。『メイド服が汚れるでしょ?』って言ってましたしね」 「珍しい事もあるんですね・・・。綺麗好きで有名なのにどうしたんでしょう?・・・あ、そろそろ休み時間も終わりですね」 それきり、男の話題が出てくる事は無かった。ここでそんな話は日常である。侵入者をメイド長が退治した、ただそれだけの話。 ―――――――紅魔舘は今日も、概ね平和だった。 1スレ目 951-953 ─────────────────────────────────────────────────────────── 声が響く。 時と場を支配する、彼女の声が。 「極意『デフレーションワールド』」 時間が砕ける。 空間が引き裂かれる。 縮小する現在と過去。 膨張する現在と未来。 目くるめく螺旋の回廊を果てしなく。 時は駆け上り、場は駆け下る。 一切が同一であり、 一切が無二であり、 ただそこにあるのは、咲夜という少女の意思のみ。 ならば、それを否定し弾劾し排斥する達意は何ぞ。 唱えよう。 我が、最高のスペルカード。 おお主よ、今のみ黙示の時の先触れ告げること許したまえ。 「極意『トゥ・メガ・セリオン』」 獣が吼える。 なぜ、よりにもよって人間であるこの僕にそんな役目が回ってきたのか。 どう考えても不釣合いなその役目とは、レミリア様の護衛だった。 紅魔館の厨房でゴーヤ入りカレーの製作に精を出していた僕は、なぜか咲夜さんに呼ばれて配置換えを言い渡された。 「あなたは今日から、私と一緒にレミリア様の護衛をしてもらうわ。いいわね」 「はあ」 はあ、としか答えようがなかった。 人選を間違えているとしか言いようがなかった。 よりにもよってただの人間が、あの生粋の吸血鬼であるレミリア・スカーレット様をお守りいたしますですって? 僕より強い妖怪なら、紅魔館に溢れている。 門番の美鈴さんだって、この前森で怪異・お化けキノコに追いかけられていた僕を助けてくれた。 それも弾幕でなく、ただの正拳一発で。 「大丈夫でした? 森は危ないから一人で歩くのは駄目ですよ」 そういって優しく助け起こしてくれた美鈴さんに、危うく惚れそうになったのは内緒だ。 たとえ妖怪でも、女の子に男が助けられたなんて。 嬉しいような、トラウマになりそうな。 魔女パチュリーさんによると、人間にしか扱えない魔術や呪術はあるそうだけれども、そんなものにも僕は縁がない。 せいぜい発火や発光の魔法がちょっと使えるくらいだ。 「魔人にでもなれっていうんですか?」 「ええ、そう。私の肩書きは『完全で瀟洒な従者』。あなたはそうね………… 『異邦の魔人』でやっぱり結構ね。是非そうなってもらうわ」 「ご冗談を」 「残念ながら、本気」 いつもと同じ、一部の隙もなくメイド服に身を包んだ咲夜さんの顔は、たしかに冗談を言っているようには見えなかった。 「でも、見てのとおり僕はただの人間で……しかもこれといった魔術も体術もないんですけど」 「心配ないわ。魔術はパチュリー様が、体術は私が教えるから。 あなたには素質があるの。外から来たものだけが持つ幻想郷にない素質がね」 咲夜さんに真剣にそう言われては、この昇進の機会に僕は頷かないわけにはいかなかった。 「……分かりました。よろしくお願いします」 「ええ、こちらこそ」 咲夜さんが優雅にその右手を差し出したので、僕は軽く握手をした。 けれども。 咲夜さんがたとえ握手という形であれ、誰かに自分の体を触らせることなど滅多にないということに、 僕はそのとき気づいていなかった。 それから、僕の護衛としての訓練が始まった。 もっとも海兵隊の訓練学校のような地獄の厳しさなどはなく、ただひたすら基礎の徹底と強化が繰り返された。 朝は日の出とともに起床して朝食を摂り、湖の周辺をランニング。 戻ってきたら筋トレを一式と、咲夜さんと体術の訓練。 終わったら図書館に行ってパチュリーさんに魔術の講義を受け、午前中はそれで終了。 昼食を食べ終わったら、今度は厨房に戻って夕食の仕込を行い、夕食の後は再び短い講義と軽い実技。 多少の変更はあるけれども、それが大まかな流れだった。 最初の二週間はさすがにきつかったけれども、人間の適応力はすごい。 結果的に規則正しく健康的な生き方も手伝って、僕は徐々に護衛のスキルを身に着けつつあった。 それにしてもすごいのは咲夜さんだ。 朝も僕より先にいつも起きてきているし、講義とか体を休めているときもてきぱきと忙しく館の中を駆け回っているらしい。 時間を止めて体力を回復させているとしても、その意志力は半端じゃないと思う。 つくづく、尊敬に値する人だ。 僕の方も咲夜さんに見習おうと、魔法の勉強に精を出した結果だろうか。 「たいしたものね。この勢いならすぐにスペルカードだって取得できるわよ」 パチュリーさんはそう言って誉めてくれた。 僕はどうも魔術とは相性がよいらしくて、パチュリーさんの説明する魔法概念はわりと頭に入ってくれる。 その日も、図書館の奥で僕はパチュリーさんに講義を受けていた。 「いい? 魔法というものは個人個人で全く根幹から異なるものなの。使い手が自分の心の内をこの世界に投影した影響、それが魔法。 心の中なんて二つと同じものはないでしょう? 心の純粋なカタチである魔法もそれと同じ。 だから私は木火土金水と日と月を用いた精霊魔法を使うけれど、教わるあなたがそれと同じものを使う必要はないわ。 個々で自分に最適の属性を選ぶ、それが練達の基礎なの。あなたは、自分の心が投影するものとして何を選ぶの?」 「パチュリーさんと同じ精霊魔法じゃ駄目ですか? わりと実戦向きですけど」 「いいえ、それはやめたほうがいいわ。私と同じ属性を選ぶと、既にアデプトである私に影響されて自分の属性が引きずられる。 私を真似ようとして、本来私と違うはずのベクトルが私に無理やり傾いてしまう。それはあなたにとってよくないわ。 何か別の―――そうね、あなたの元いた向こう側の知識をなぞったものがいいわ」 「向こう側の――ですか」 僕は立って、本棚に近づいた。 莫大な量の書物が、暗くてよく見えない天井までひたすらに続いている。 手に取ったそれが、目に付いたそれが、僕の属性だったら面白いかもな。 まるで、運命が出会うように導いたかのように。 僕は、とりあえず無作為に一冊の本を手に取った。 終わりの方をめくってみる。 ―ここに、知恵が必要である。思慮のある者は、獣の数字を解くがよい。 その数字とは、人間をさすものである。そして、その数字は六百六十六である― 懐かしいな、学生時代に読んだことのあるヨハネ黙示録か。 これを、僕の属性に選んだらどうなるだろうか。 神に牙を剥く恐ろしい獣と悪魔たち。そして審判の時を告げるラッパを吹く天使たち。 たしかに、ここ幻想郷にはない概念だ。 よし、これを僕はスペルカードにしてみよう。 僕の魔法の行き着く先は、そのとき決まった。 「咲夜さん、それも僕が持ちますよ。重たいでしょ」 「いいえ。その必要はないわ。これくらい平気よ」 「でも…………」 「自分は男だから、ということで気を遣う必要はないわ。私は従者だから、こういう仕事を受け持つのは当然よ。 荷物を持ってもらうのはお嬢様のような方。私たち同士ではそんなにかしこまらなくてもいいわ」 ある日、僕と咲夜さんは二人で買出しに出かけていた。 石鹸や掃除用具など、日常品は紅魔館の中ではまかなうことはできない。こうして数週間に一度まとめて買出しに行く必要がある。 お互いに両手がふさがるほどの荷物を抱えながら、紅魔館への道を歩いて帰っていく。 飛んでいくこともできないこともないが、少々目立つ。 僕は咲夜さんの分も持とうと言ったけれども、あっさりとかわされてしまった。 親切心から言ったんだけどな。 ……でも、たしかに咲夜さんはメイドだ。僕が荷物を持ってしまったら、それはメイドの仕事を奪うことになってしまうだろう。 きちんと線引きができているところが、咲夜さんのえらいところだ。 「でも、時間が余りましたね」 「そうね。思ったよりも手早く済んだわ。……この格好じゃどこか休憩するのも難しいし…………」 咲夜さんが首をかしげるのももっともだ。 咲夜さんはいつものメイド服だし、僕は一応外出用にと執事の服を着ている。 町では少々目立ってしょうがない。 「なら、香霖堂へ行きませんか。あそこは色々品物だけはあって見ていて飽きませんよ」 あの店は奇妙な店だけれども、幻想郷では見られない外の世界の品物を扱っているのだ。 故郷が懐かしくなったときはよく行ったものだけれども、そういえばこのところトレーニングでごぶさたしている。 「あそこ………。ちょっと、胡散臭い店なのよね」 「いいじゃないですか。ただ見るだけですし」 僕が熱心に勧めると、やがて半ば仕方なさそうに咲夜さんはうなずいてくれた。 よし、善は急げだ。 早速香霖堂へと足を運んで敷居をまたいだ僕たちだが、やっぱりその店はいつもどおりだった。 誰もいない店内で、店主の霖之助さんだけがのんびり本を読んでいる。 「こんにちは。少し見てますよ」 「ああ、適当にどうぞ」 と向こうは本から顔も上げはしない。この店、本当に商売する気がゼロだ。 咲夜さんはちょっと呆れたような顔をしたけれども、意外とこまめに陳列棚の中を一つ一つチェックし始めた。 僕も咲夜さんとは反対側の棚から見ていく。 相変わらず節操なく色々なものがある。 ビデオデッキの横にフランス人形。 その上にはトランジスタラジオとチェスの駒が一式。でも肝心の盤がない。 そうやってぼんやり見ているうちに、一つのものが目に留まった。 懐中時計だ。 古い作りのぜんまい式だけれども、デザインはシンプルかつ実に洗練されている。 手にとって見ると、驚くほど軽い。 蓋を開けて文字盤を見ても、うっすらとガラスが埃をかぶっているほかはまるで新品のようにきれいだ。 こりゃ掘り出し物だな。 「すみません、これいくらですか」 僕は懐中時計を手に、店の奥にいる霖之助さんに声をかけた。 「ああ、その懐中時計か。わりと安価かな」 と霖之助さんは値段を告げた。 一瞬聞き違えたのかと思ったほど、その値段は安いものだった。 「そんなに安いんですか? だってこれかなり立派なものですよ」 「ああ、そうだね。でもそれは幻想郷のものなんだ。製作者もはっきりしているし、用途と名称なんか当然知っている。 僕は外から来た品物に興味があってね。あまりそれは興味がわかないんだ」 自分の興味のあるなしで品物に値をつけるとは。 誓ってもいい。 絶対にこの店は繁盛しない。 「じゃ、これ買います」 「あら、個人で?」 いつの間にか、隣に咲夜さんがいた。 「ええ、無論。そうそう、それ、ちゃんと箱に入れて丁寧に梱包してくださいね」 「はいはい、珍しいね。いつも君は包装を嫌がっていたのに」 「…………まあ、心境の変化ですよ」 とっさにそう答える。ちらりと横にいる咲夜さんを見たけれども、幸い気づいていないようだ。 「よし、できたよ」 とカウンターに置かれた小箱を取り、僕は財布からお金を払った。 そして、そのまま。 「はい、いつもトレーニングしてくださる感謝をこめて、咲夜さんに」 隣に立つ咲夜さんに、そっと差し出した。 「プレゼントです。受け取っていただけますか?」 あっ、珍しい。 心底驚いた顔の咲夜さんなんて、始めて見た。 別に、これといった理由はない。 ただ、自分のトレーニングにいつも付き合ってくれて、かつ色々と指導してくれる咲夜さんに何かお礼をしたかっただけだ。 紅魔館にいては、なかなかそれはできない。 ちょうど今、それがチャンスだと思ったのだ。 「いかが…………でしょうか」 さすがに沈黙が少し痛い。 もしかして、懐中時計はお気に召さなかったかな。 なんて思っていた頃、ようやく咲夜さんは僕の差し出した小箱を受け取ってくれた。 「いいの…………?」 「はい、気に入っていただけたら幸いです」 にっこりと、咲夜さんは笑う。 その笑顔が、胸に沁みた。 「ありがとう。こんな言い方しかできないけれど、嬉しいわ」 飾らない一言だったけれども、どんなお礼の言葉よりもそれは僕にとっても嬉しかった。 結局、僕の方もまたプレゼントをもらってしまった。 小さな銀色の十字架のペンダントだ。 聖書神話の概念をスペルカードの基盤としている、と咲夜さんに以前言ったからだろう。 「残念だけど、私は神を信じていないんだけどね」 なんて言いながら。 「僕だって、そんなに信心深くはないんですけどね」 でもありがとうございます、と僕は大事に受け取った。 僕たちのやり取りを見て、霖之助さんがニヤニヤ笑っていたのが気になるけど、気にしないようにしておこう。 いくらなんでもプライベートという語くらいは知っているだろう。 知らなかったら、文々。新聞に『香霖堂全焼!?』の記事が載るだけだけど。 日が徐々に西に傾き始め、空が徐々に夕暮れの赤に染まっていく。 ゆっくりと、僕たちはやっぱり二人で歩きながら紅魔館への家路を一歩一歩埋めていく。 なんか、すごくほっとする時間が二人の間を流れていた。 「でも、ありがとう。こんな風に形のある贈り物をもらうのって、本当に久しぶりだわ」 隣の咲夜さんが、もう何度目だろうか、僕のあげた懐中時計の入った小箱を見ながら言う。 「僕だってプレゼントをもらうのなんて久方ぶりですよ。ましてロザリオなんて」 「ふふっ、あなたになんとなく似合いそうだったから」 「もう気に入っています」 早速僕はペンダントを首にかけていた。大きさも形も、目立たなくてちょうどいいくらいだ。 大きすぎたら神父にされてしまう。 「私も、大事に使わせてもらうわ」 「そう言ってくれるとプレゼントした甲斐がありましたよ」 よほど気に入ってくれたのだろう。 感謝の気持ちって言うのは、ちゃんと形にするべきなんだと僕はつくづく感じた。 「あなたも、だいぶ腕を上げたわ。鍛錬を続ければ、もうじき私の腕に並ぶでしょうね」 ふと、咲夜さんは僕からも小箱からも視線をはずして、どこか遠くを見た。 「そんな。まだまだ咲夜さんにはかないませんよ。実戦で相手してもらってもまだ一回も勝てていないんですよ」 「今はね。でも、いずれあなたは私に勝つ。そうなれば、私から教えることはなくなるわ」 「咲夜さん…………」 なぜだろう。 僕たちはそれを目指していたはずだった。 でも、僕の訓練の終わりが近いことを告げた咲夜さんは、どこか寂しそうだった。 そしてなぜだろう。 僕も心のどこかで、何かを寂しく感じていた。 その寂寞が、なぜ生まれたのかも分からないままに。 「傷符『インスクライブレッドソウル』!」 咲夜さんの両手に持ったナイフが凄まじい勢いで振られると同時に、僕の放った頁は尽く寸断されて散った。 文字通りの紙ふぶきが紅魔館の庭に舞う。 相手の動きを封じ、魔力を奪い、無力化せしめるはずの聖書を書写した頁が。 ただのメイドの持つ、銀のナイフ二振りによって。 空気さえも切り刻むそれは無数の真空を生み出し衝撃波となり、僕自身に襲い掛かってくる。 「聖壁『巡礼の迷路』!」 とっさにスペルカードを宣言と共に展開させる。 周囲に無数の頁が現れ障壁を形成するが、それらも片っ端から切り刻まれて散っていく。 何だよこの威力は。咲夜さんの実力ってどこまであるんだ? 手持ちの頁の殆どが意味を成さない紙くずと散ったとき、既に咲夜さんの姿は目の前から消え、 「はい、チェックメイトよ」 すっと、僕の首筋に後ろからナイフが当てられた。 「また同じ。こちらの攻撃に防御一辺倒。カウンターを狙う気がないの?」 「…………すいません」 時間を止めるメイドは、僕の後ろからひょっこりと姿を現した。 軽くため息をついてから、ナイフをしまう。 「そこさえ改善できれば、あなたはもっと強くなれるのに」 厳しいけれども優しく、咲夜さんは少し居心地が悪い僕を見て告げる。 最初は手も足も出なかった咲夜さんだけれども、最近ようやくまともに戦えるようになってきた。 けれども実力差は見てのとおりだ。まだ一度も勝つことはできない。 どんなにこちらが攻撃しても、一瞬で戦況はひっくり返される。 あの時間を止める能力からは、森羅万象は逃れられない。 「精進します…………」 「でも腕はますます上がっている。それは事実よ。そのことは誇りに思って」 「はい」 「頑張って。――あなたには期待しているわ」 「そうやって励ましてくれると、少しは自信が付きます。ありがとう」 素直に例を言うと、少し咲夜さんは照れたみたいだ。 「べ……別に…………。お嬢様をお守りするにはそれなりの力がないと困るから」 何だか頬も赤くなったような気がするのは、ひいき目だろうか。 「少し休みなさい。魔力の減少は即体調に出ないから無理しがちだけど、しっかりと休まないと後が大変よ」 「分かりました。お疲れ様です」 「ええ、またね」 咲夜さんが紅魔館に戻っていくのを横目で見ながら、僕はとりあえず手近にある樹に背中をもたせ掛けて座り込んだ。 後どれだけ、僕は強くなればいいんだろう。 そして―――― 後どれだけ、僕は咲夜さんと共にいられるんだろう。 だんだんと、僕は気づいてきた。 このトレーニングを通して、僕は咲夜さんのことが好きになりつつある。 あの一部の隙もない、まるで人形のような作り物めいた美しさ。 触れることのできない、ショーウィンドーの向こうの宝石のような可憐さ。 どこまでも、完全で勝者であり続けられる少女。 気がつくと、僕は咲夜さんのことが好きになりつつあった。 だから内心思っている。 いつまでも、このトレーニングが続けばいいな、と。 そうすれば、ずっと咲夜さんと共にいる理由がある。 そうでもしなければ、忙しい咲夜さんのことだ。とても僕のような個人を構ってくれることなどないだろう。 でも、それは勝手な願いだ。僕は強くなって、護衛の任に付かなければならない。 ならば後、どれだけこんな満ち足りた時間が続くんだろう―――― 「お疲れ様です~」 僕がぼんやり空を眺めていると、いきなりそんな声と共にひょいと覗き込まれた。 「あ、美鈴さん」 「えへへ~、ずっと見てましたよ。最近どんどん腕を上げてすごいなーって思ってました」 門番の美鈴さんはにこにこしながら腰をかがめて僕に視線を合わせる。 この人も妖怪らしからぬ人だ。美人だしスタイルもいいし、実は結構こまめで気が利く。 そもそも、最初に行き倒れていた僕を森で拾ってくれたのもこの人だったよな。 「どうしました?」 尋ねた僕の目の前に差し出されたのは、急須に湯のみ、それに饅頭の乗った皿が置かれたお盆。 「休憩するんでしょ。ご一緒にどうですか?」 お茶に誘われて断る理由などない。 「もちろんです。いやむしろご一緒させてください」 「はい、じゃあ、お隣よろしいですか?」 と美鈴さんは僕のとなりにちょこんと腰を下ろす。 門番の業務はいいんだろうか。まあ、こんなのどかな日に紅魔館を強襲する敵なんかいないだろうけど。 魔理沙も霊夢も今日は家でのんびりしているころだろう。 急須から注がれたお茶は日本茶だった。 「てっきり烏龍茶かジャスミンティーかと思っていましたよ」 「ここに来てから覚えたんですよ。この方が受けがいいですし。あなたも日本人ですから紅茶とかよりいいかなって思って」 一口口に含んでみると、爽やかな香りがいっぱいに広がる。 「おいしいです。苦味も少ないし僕は好きですよ」 「ありがとうございます。そう言っていただけると煎れた甲斐がありました」 さっそく饅頭にぱくつきながらもごもごと笑う美鈴さん。 僕もまた、遠慮なく皿に手を伸ばして饅頭をほお張ることにした。 しばらく無言で味覚を楽しませているうちに、ひょいと美鈴さんがこっちを見た。 「さっきの続きですけど、本当にあなたは強くなりましたよ。もう咲夜さんとかかなり焦っているくらい」 「そんな。まだまだ余裕でしょ」 「いいえ。私は咲夜さんと付き合いが長いから分かりますけど、咲夜さんって追い詰められても顔にも態度にも全然出さないです。 だから、ほんの少しの雰囲気の違いで見分けるしかできないんですけど、私の目から見たらだいぶ焦ってましたよ。 やっぱり思い入れがある人を育てるって大事なんですね。それだけ身を入れて教えられるからちゃんと育っているんですよ」 うんうんと美鈴さんはうなずいている。思い入れ? どういう意味だそれ。 「何ですかそれ? 僕はお嬢様の護衛を任じられたから、それに見合うようにトレーニングしてもらっているだけですけど?」 妙なことを美鈴さんが言うと思って聞き返すと、逆に美鈴さんのほうが妙な顔をした。 「お嬢様の護衛ですって? そんなものいりませんよ。全然そんな話私知りません」 「ええ? 僕はてっきりみんな知っていると思って…………」 「全く話題に上ることもないですよ。誰から聞いたんです、そんなガセネタ」 足元に、突然穴が開いたかのような気がした。 いったい、どういうことなんだ。 なぜ、僕はこんなことをしていたんだろう。 「ねえ、誰からなんです?」 自分でもギクシャクしていると分かる動きで、美鈴さんの方を見る。 「さ、咲夜さんからですけど…………」 「ええええっッ!? ど、どうして咲夜さんそんなことを? だって、護衛なんてレミリア様は十分お強いし、それに咲夜さんが既にいるのに…………」 「僕に聞かないで下さいよ。本当に、護衛なんて話はないんですね?」 「ええ、レミリア様からもそんな話は一切聞いていないです。私はてっきり、咲夜さんがあなたに個人レッスンをしているんだとばっかり………」 お互いの顔を見合わせても、そこには疑問以外の何の感情もない。 どういうことなんだ。 咲夜さんの言った、護衛の役というのは全くの嘘だったのか。 美鈴さんが僕をだますことはないはずだ。その必要がない。 でも、それは咲夜さんだってそうだ。だます理由も必要もない。 いたずらならとっくにばらしてもいいはずだし、何よりもこんな大掛かりないたずらをしたら咲夜さんのほうが大変だ。 だったら、なぜ咲夜さんはそんなことをしたんだろう。 わざわざ僕に嘘の昇進をさせて、多忙の合間を縫って僕に付き合って。 「もしかしたら………咲夜さんってあなたのことが好きなのかもしれません」 突然美鈴さんがそんなことを言い始めて、僕の頭は一瞬真っ白になった。 「そ、それはどういう意味なんですか中国さん!?」 「名前を間違えないで下さい! 私は紅美鈴です中国じゃありませんひどいです!」 「あっあっごごごめんなさい! でもいきなり好きだなんてそんなわけがないと思ったらつい混乱しちゃって」 頭を下げて何度も謝ると、少々むくれていたけれども美鈴さんは「じゃあ、しょうがないですね」と機嫌を直してくれた。 「えーとですね、咲夜さんって無駄なことはしない人なんですよ。だから、いたずらとかかつぐ目的とかじゃないです。 それに、私は門番だからずっと見ていましたけど、すごい咲夜さんの指導って熱が入っていたんです」 ああ、それは同感だ。たしかにとても熱心にあれこれと教えてくれた。 ほんと、最初は体術のイロハもダメだった僕がここまで成長できたのも、ひとえに咲夜さんのおかげだと思う。 「こう言っちゃっていいのかな、もう真剣そのもの。あなたは特別な人ですって気がばっちり見えちゃってましたよ」 「気ですか?」 「ええ、私の能力です。感情とか思いとかって気に表れるんですよ。咲夜さんは普段はクールで誰に対してもちょっと冷めているんです」 「僕のときでも同じでしたよ」 「それは自分を抑えているから。気は偽れません。咲夜さんの気の流れは、あなたのときだけは全然別でした。 あなたに関心を持っていることなんて、私から見たら丸わかり。あなたにはちょっと信じられないかもしれませんけど、私には分かります。 誰に命令されるでもなく、あなたの訓練をしているなんて、これはあなたのことを好きだとしか私には思えませんよ」 「僕を………好きだと…………」 「嫌でした? もしかして咲夜さんのこと嫌い?」 「いえ、その…………むしろ………僕も好きかな…………と」 「うわぁ、それって最高じゃないですか。両思いですよ両思い」 手を叩いて喜んでくれる美鈴さんだけれども、僕は突然のことにどう反応していいのか分からない。 あくまでもこれは憶測だけれども、咲夜さんとは両思いになれたのだろうか。 だとしたら、すごく嬉しい。 だとしたら………… 「ならば、きちんと訓練をつんで、咲夜さんを負かしちゃうんですよ」 美鈴さんはそう強く言ってこぶしを握り締める。 「咲夜さんのことですから、生半可なことじゃ気持ちは伝わりません。ここまであなたに付き合ってくれたんですから、 しっかりとその気持ちにこたえなきゃダメですよ」 目が合うと、美鈴さんはうん、と大きくうなずく。 そうだ。 たしかに、そのとおりだ。 だとしたら、僕はなおさら強くならなくては。 咲夜さんの期待に応えられる人にならなくては。 その暁には、きっと。 僕は、咲夜さんに好きだと伝えられるのかもしれない。 「咲夜さん、あなたに伝えたいことがあります」 「…………私も、あなたに言わなければならないことがあるわ」 頁が袖口から引き出される。 ナイフが腰から引き抜かれる。 「始めましょうか。完全で瀟洒な従者!」 「始めましょう。異邦の魔人!」 全てのスペルカードを、突破した。 「時符『プライベートスクウェア』!」 「出でよ、天使召喚『ヨフィエル』!」 止まる時間は、翼を広げ祝福を与える天使の加護によりほぼ無効化する。 「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』!」 「来たれ、堕天使召喚『エリゴール』!」 無数に交錯しつつ飛び交うナイフは、甲冑をまとり槍を手にした堕天使がなぎ払う。 初めてだ。 ここまで戦いが長く続いたのは。 けれども、どちらも体力と精神力を限界まで消費している。 「強く――――なったわね」 「咲夜さんの………おかげですよ」 肩で息をしながら、僕はそれでも笑って見せた。 「変わらないわね。そういうところ」 対する咲夜さんは、傍目から見ると息一つ乱れていないように見える。 けれども、美鈴さんじゃないけれども僕には分かる。 何回となく、スペルカードとスペルカードをぶつけ合わせてきた僕には分かる。 おそらく、これが最後。 咲夜さんが僕に教えるべき、最後の試練。 「ならば、見せてあげる」 引き抜かれる、最後であるはずのたった一枚残ったスペルカード。 「これにあなたが耐えられるならば、もはや全てが終わり」 右手の中で、カードは輝きながら消えていく。 「私があなたに教えられる、最後にして最大のスペルカード――」 静かに、こちらに向けられるナイフ。 咲夜さんが手を離す。 ナイフは地に落ちることなく、ゆっくりとこちらに向かって宙を進んだ。 僕は見た。 宙を這うように進むナイフが、2本に分裂したのを。 2本が4本に。 4本が8本に。 8本が16本に。 16本が32本に。 32本が64本に。 64本が128本に。 128本が256本に。 倍々に増え続けていく。 目の前を覆いつくし、増殖し空間を埋め尽くしていくナイフ。 1024本が2048本に。 生み出される、過去と未来の姿。 あり得たかもしれない可能性を、強制的に引き出し形としていく。 ただの一本のナイフが、決して回避を許さない無慈悲な布陣と化す。 16384本が32768本に。 32768本が65536本に。 65536本が131072本に。 これが、彼女の最高のスペルカードか。 そして、宣言が響く。 「極意『デフレーションワールド』」 世界が、彼女の意思に従う。 時空が縮小する。 誰も知りえない、あまりにも異様な感覚に五感が悲鳴を上げる。 過去、現在、未来が混在して同居して一度に自己を主張する。 逃げ場がない。 今ここにいる自分なんていう明確なものがなくなる。 今? ここ? 自分? それは何だ? 全ては咲夜の世界。 彼女のみが観測を許される絶対固有空間。 ナイフが―――― 空を埋め尽くし、地を埋め尽くし、宙を埋め尽くすナイフが―――― いっせいに、こちらを向く。 全てが同時に襲い掛かる。 分かっているけれども、回避も防御もできはしない。 時空が彼女の支配下に置かれている。 排除されるべきは自分。 だが、唯一支配されていないものがある。 それは、僕自身の意志だ。 応えよう。 彼女の思いに、応えよう。 ならば告げるべし。 我が、究極のスペルカード。 ヨハネの幻視した終末を、ここに具現させる。 おお主よ、我に汝の僕と同じ幻影目にすること許したまえ。 「極意『トゥ・メガ・セリオン』」 ―わたしはまた、一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。 これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、 頭には神を冒涜するさまざまの名が記されていた― 世界が書き換えられる。 いつか起きるべきものなのか、もう既に起きてしまったのか。黙示の時が立ち現れる。 周囲は無限に広がる海。 そこから、一匹の凄まじく巨大な獣が上ってくる。 様々な姿かたちの混ざり合った奇怪な姿の獣が。 その姿は獅子。 その姿は熊。 その姿は豹。 その姿は蛇。 その姿は猿。 その姿は王冠を頂く人。 それは―――― 七頭十角の大いなる獣。 神にさえ牙を剥き、人の世を惑わす悪魔の化身。 「神様なんて(゚⊿゚)イラネ」とか「聖書(・へ・)ツマンネ」とか書いてあるのにはげんなりするけど。 吼える。 七つの頭を振り上げ、獣が吼えた。 人の蛮声にも似た絶叫が森羅万象を怯えさせ、終末の時は来たれりと告げ知らせる。 世界が、砕けた。 十六夜咲夜という個人の支配する世界など、大審判の時には何の意味があるだろうか。 ガラスが割れるかのように、デフレーションワールドが崩壊した。 彼女の意思の支配する世界が終わりを告げ、黙示録の獣に飲み込まれていく。 いつかは、僕たちの住む世界もああなってしまうのだろうか―――― 張り詰めた五感が、正常な世界に戻ったことを教えた。 やがて海は去り、獣の姿は見えなくなる。 そこは再び、いつものトレーニングをしていた紅魔館の庭だった。 立ち尽くすのは、僕だけ。 咲夜さんは、地に倒れていた。 僕は、初めてこの人に勝つことができた。 「あ、気が付いたんですね」 芝生に横になった咲夜さんが眼を開けたので、僕は側に座ったまま身を乗り出した。 「あなた…………」 「よかった。たいした傷もなくてほっとしましたよ。美鈴さんに治療してもらいましたから、あとはしばらく寝ているだけです」 気を操る美鈴さんは、治療だってできる。 いつになくぼんやりとした様子で、咲夜さんはこっちを見ていた。 まだ、この人に勝利したという実感がわかない。 時空を縮小させ、過去と未来を同時に混在させ、それら全てを同時に襲い掛からせる極意「デフレーションワールド」。 けれどもそれは、僕の極意に敗れた。 極意「トゥ・メガ・セリオン」。 黙示録の時を一時的に呼び出し、あらゆる魔法を破壊しあらゆる結界を粉砕する圧倒的なスペルカード。 よくもまあ、そんな大それた魔法を身につけることができたものだ。 あの日、咲夜さんが僕を存在しないはずの護衛の役に任じたときから、何もかもは始まった。 いったい、どうして…………。 僕が黙ったままじっと咲夜さんを見ていると、咲夜さんは視線を逸らして真上を見上げた。 今日も、紅魔館の外はいい天気だ。 「何も聞かないのね」 「え…………?」 「知っているんでしょう。本当は護衛の役なんてないってこと」 きょとんとして咲夜さんを見つめたまま固まっていると、ちょっとだけ笑って 「なんとなくよ。こうして刃を交えているとね、色々なことが分かってくるの。だからなんとなく、そうじゃないかって思って」 「ええ、知っていました。だとしたら、どうしてこんなことをしたんです?」 尋ねると、咲夜さんはごろりと向こうを向いてしまった。 「…………見たかったのよ」 「何をです?」 「あなたが………強くなっていくのを」 何も言えずに、僕は咲夜さんの独白を聞いていた。 「恥ずかしい話だけどね。あなたのことが気になって仕方がなかった。ずっと、あなたのことを考えていた。 でも、私はメイド長であなたは料理係。一緒にいることなんてできない。だから、私は嘘をついたの。 護衛役が回ってきたとしたなら、あなたと私が一緒にいてもおかしくない。 あなたと一緒にいられる理由ができるって、そう思ってしまった。 だって…………私はあなたのことが、好きだから」 「咲夜さん…………」 「変な話よね。こんなの職権乱用だって分かってる。でも……でも…………、 こうするよりほかに、あなたといられる方法なんて思いつかなかった…………」 ああ、そうだったのか。 僕は、どうして気づかなかったんだろう。 ずっと、咲夜さんは完全な人だと思っていた。 人形のように精緻で、華麗で、一部の隙もない完璧な従者だと。 でも、そんなのは間違いだ。 咲夜さんだって、一人の人間だった。 ドジだってするし、迷いもすれば間違っていると分かっていてもやってしまうこともある。 その内面は、普通の女の子だった。 どうして、僕はそれに気づかなかったんだろう。 ただ、咲夜さんの表面しか見ていなかった。 もっと、この人の思いを酌んでいれば、こんなに思いつめることなんてなかったのに。 「咲夜さん、聞いていただけますか」 優しく声をかけると、咲夜さんはゆっくりとこっちを向いてくれた。 少し緊張するけど、目を見てはっきり言った。 「僕も、咲夜さんのことが好きですよ」 咲夜さんの目が、大きく見開かれた。 「……本当、なの……?」 「はい。最初は分からなかったですけど、今ならはっきり言えます。こうやって、咲夜さんとずっといたから言えるんです。 僕は、咲夜さんのことを愛しています」 はっきりと、告げることができた。 決して、咲夜さんとのトレーニングは無駄なものじゃなかった。 ここまで時間を共にできたから、こうして告白することができたのだ。 「受け取って…………いただけますか?」 咲夜さんは、うなずいた。 「はい。喜んで」 その笑顔に、また心が痛いくらいに震わされる。 泣いてしまいそうなくらいに、嬉しさを感じて。 照れ隠しに、僕は立ち上がった。 「よしっ! ならばこのことを紅魔館じゅうに報告しましょう」 言って倒れたままの咲夜さんの背中とひざの裏に手を伸ばして、 「きゃっ!?」 一気に抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこという形だ。 「『僕たち付き合うことにしました!』ってね。きっと祝ってくれますよ」 「ちょっ、ちょっと、そんなの恥ずかしいわよ」 「いいじゃないですか。隠すようなことはないですよ」 こうやって人一人を抱き上げる筋力だって、咲夜さんとのトレーニングで培ったものだ。 咲夜さん、あなたのしてくれたことは、決して無駄なことなんかじゃなかったんですよ。 抱き上げると不意に、咲夜さんは僕の首に手をやった。 「あら、これ…………」 「ええ、いつもつけていますよ。咲夜さんからの贈り物ですから」 例の十字架の首飾りに、咲夜さんは指を滑らせた。 「私も、あなたからもらった時計はいつも使わせてもらっているわ」 「よかった。実際に使えてこそ時計ですから」 かすかに咲夜さんは笑った。 「こんなふうにあなたにめぐり合えたなんて……ちょっとは神様も信じていいかもね」 「あはは、実は信心深くはないですけどね、僕も」 僕たちはそのまま、どんどんと門をくぐって紅魔館のほうへ向かっていく。 咲夜さんは最初恥ずかしがっていたけれども、やがて諦めるように苦笑した。 「もう、仕方のない人ね。でも………そんなところが好きになっちゃったんだけど」 そして、そっと僕の頬に。 頬に触れた唇の感触は、完全で瀟洒な従者からの贈り物ではなく、 十六夜咲夜という女の子からの贈り物だった。 2スレ目 42 ─────────────────────────────────────────────────────────── 2スレ目 42 おまけ その日、上白沢慧音は血相を変えて転がり込んできた猟師二人を、自分の庵に保護した。 二人とも里で名の知れた猟師で、この付近の山ならば知り尽くしているベテランだ。 それが、慧音の庵に逃げ込んだときは、まるで恐怖に怯える子供のようだった。 「どうした、何をそんなに怖がっている。熊でも出たのか?」 最初、二人の猟師は文字通りの錯乱状態で、庵に駆け込むなり部屋の隅までゴキブリのように逃げ込み、 そこで四肢を丸め頭を覆い、ひたすら何かに怯えているような様を示していた。 後から主人の後を追って庵に飛び込んだ猟犬三匹も、様子はほぼ同じだった。 三匹とも狂ったように駆け回り、口から泡を吹いて死なんばかりの怖がりようだ。 これを見て、さすがに慧音も何か異常な事態が起こったのだと感じた。 妖怪の類が出たのかと庵から顔を出して周囲をうかがってみたが、何か強力な妖気のようなものは感じられない。 「慧音様……庵から出ちゃあならねえ…………奴に食われちまう…………」 入念に気配をうかがう慧音の背中に、猟師の一人の声がかけられた。 普段は、 「ほれ、慧音様も一つ召し上がるといいだ。精が付いていいぞ。がははははは!」 といった無遠慮な大声と共に、鉄砲で撃ち殺した雉や野兎を投げ与えるような大男が、今はまるで瀕死の病人のようだった。 「奴だと?」 振り返ると、青ざめた顔ががくがくとうなずいた。 まるで、二回りも痩せてしまったかのようだ。 恐怖というものは、ここまで人を醜くしてしまうものなのか。慧音は少しぞっとした。 「そうだ。…………化け物が出た。黒い……群れが出た…………」 もう一人の猟師も、こちらは完全に虚ろになった目でどこかあらぬ方向を見ながらぶつぶつと呟いている。 「しっかりしろ。里で名の知れた猟師がそんなことで怯えてどうする。奴とは何だ?」 「…………分からねえ…………最初は人だと思ったから、鉄砲を下ろした。…………けど、 いきなり人だと思った影が溶けて…………群れが俺たちを襲ってきた…………」 軽く肩に手をかけてゆすぶっても、猟師は全く反応を示さずにただぶつぶつと呟き続けている。 「山犬……大蛇……猪……鹿……鷲…今まで俺たちが殺生してきた獣たちが一度に俺たちに向かってきた …………ああ、あれはきっと山の神様が俺たちに罰を与えに来たんだ…………。 恐ろしくて恐ろしくて…………食われちまうって本気で思って必死で走ったら……やっとこの庵が見えて…………」 ぎゅっと猟師は両手で自分の肩を抱くと、そのまま動かなくなってしまった。 慧音が何度呼びかけても、完全に反応はなくなった。 まるで、重度の自閉症の患者のような姿だった。 仕方なく、慧音は二人のその日の歴史を消去して、二人を助けてやることにした。 もちろん、あのかわいそうな犬たちもだ。 「何だ…………黒い、群れだと…………?」 日も落ち、ろうそくの明かりの下書物を読みながら、慧音はもう一度首をかしげた。 さっぱり分からない。人のようにも見え、かつ群れとして獲物に襲い掛かるらしい。 構成要素は様々で、狼や蛇、それに鹿なども含まれているとか。 なぜそこに草食動物が混じる? 「心当たりのある妖怪はいないのだがな」 あの猟師の怯え方は半端ではなかった。彼らが遭遇したものは、今まで一度もお目にかかったものではないのだろう。 しかし、彼らはベテランだ。 おまけに、それなりの魔よけも持ち合わせている。 そんな二人に魑魅魍魎が襲い掛かり、しかも発狂寸前まで追い詰めたのだろうか。 「ありえない話だが、そうとしか結論付けはできないか」 せめて満月の夜ならば、幻想郷全ての歴史を把握するハクタクの力でもってその元凶を確かめることができるのに。 「ワーハクタクといえど、万能とは程遠いな。情けない…………」 慧音は一人、やるせない思いを抱えたまま、自分の力の至らなさを実感していた。 想像せよ。 遍く三千世界に満ちる、命の輝きを。 何人も知りえぬ摂理に従って、それらは寄り集まり一つの型を描く。 すなわち、それは大いなる系統樹。 理解せよ。 一つ一つの命の存在を。 比類なきそのきらめきは、夜空に満ちる星の如く。 すなわち、それは天恩の証。 構築せよ。 命を理解し、命を配置し、命を蒐集する。 この身を、ありとあらゆる命の渦巻く一つの世界とする。 すなわち、それはたゆたう原初の海。 我を知るか、人よ。 我は666の獣の数字を解きしもの。 我は666の獣の因子を宿すもの。 我は――――混沌(カオス)なり。 「あら、どうしたんですかその犬?」 すっかり日の落ちた夜。湿気が強くじめじめとした空気は体にまといつき、門番の制服を肌に張り付かせる。 まさに、魔夜という言葉にふさわしい、そんな夜のことだった。 消灯時間には未だ早い。 見張り役の美鈴は、門をくぐろうとした青年が連れている犬に目を留めた。 足を止めない青年の足元に、一匹の黒い犬が影のように付き添っている。 どこに行っていたんだろう。今まではこんなに夜遅くまで出歩くことはなかったのに。 呼び止められた青年は、足を止める。 風が、コートの裾をはためかせる。 いつの頃からか、この青年は闇夜のような色のロングコートを身にまとうようになった。 今日はこんなに蒸し暑いのに、コートのボタンは全部しっかりと止められている。 「ああ、飼うことにしたんですよ」 青年はそう言うと、軽々とその犬を抱き上げて美鈴の顔に近づけた。 大きい。 シベリアンハスキーよりもさらに一回り大きいくらいだ。 しかも、その全身から放つ鬼気。 とても、飼いならされている犬とは思えない。狼の類だろうか。 けれども全身真っ黒の狼なんて聞いたことがない。 「結構可愛いでしょ?」 青年はけろっとしているが、どう見ても獰猛極まりない獣の鼻面を突きつけられた美鈴としては、 「ええ、とっても」 とは言えない雰囲気だった。 犬が口を開ける。 異様なことに口の中まで黒い。 だらりと長い舌が伸びて、美鈴の顔を舐めた。 「ひっ……………………」 一歩後ろに下がる美鈴。必死に頭を捻って、何か口にしようともがく。 「レ、レミリア様がいいっておっしゃらないかも…………」 「おやおや、それは困ったな」 青年は心底困ったような顔で犬を足元に下ろした。犬はこちらを赤く光る目で睨みながら、彼の足元に控える。 「実は、一匹だけじゃないんですよ。たくさんいるんです」 なんか、今日のこの人は変だ。 ようやく、美鈴はそう感じ始めた。 物腰はいつもと同じだ。丁寧で静かな、ごく普通の好青年。 それは、初めて出会ったときと変わらない。 でも、何かが違う。 こっちを見る目が、どこか違う。 「困ったな。もう僕にすっかり懐いて一緒にいるっていうのに」 はっきり言って、あまりにも不気味だった。 「ど……どこに? どこにいるんです?」 「おや、気づかないんですか。ここにいるじゃないですか。沢山沢山」 人ではない、むしろ妖怪のような気の流れ。 いや、妖怪なんてレベルのものじゃない。 青年の言葉に、美鈴は震えながら周囲を見渡す。 けれども、足元の犬以外には一匹も獣の姿は見えない。気さえも感じない。 けれども、青年は沢山いるという。途方にくれた顔で青年をまた見ると、彼はにっこりと笑った。 「仕方がないな。ならばお目にかけましょう」 コートのボタンが、ひとりでに外れる。 その隙間から見えるものは、周囲の闇と同じ質感のない黒。 美鈴は、自分が後ずさりしていることに気づいた。 この、禍々しいまでの気の流れ。 ああ、この気はまるで―――― 「僕の蒐集した命たちを――――六百六十六の渦巻く生命の深海を」 黒の中から、光る目。 目。目。目。目。 こちらを睨みつける、獣たちの目。 ずるり、とコートの隙間からその黒が溢れ出す。 地面に流れ、這い、形を徐々に持って立ち上がる。 狼。蜥蜴。豹。熊。 ようやく、美鈴は理解した。 この気の流れは、レミリア様にそっくりだ。 吸血鬼と、そっくりだ。 理解してから、美鈴は悲鳴を上げた。 自分が、たった一人でおびただしい数の獣の群れに囲まれていることを理解してしまって。 彼女の悲鳴に呼応するかのように、獣たちがいっせいに吼える。 そして青年は、呟く。 「さあ――――まずは館ごと前菜といきましょうか、咲夜さん」 獣の臭いが、周囲に満ちている。 廊下のあちこちに転がる紅魔館のメイドたち。 彼女たちに群がるのは、様々な獣だ。 抵抗するものはいない。 時折、思い出したかのように数人が小さな声を上げるが、それもじきに静まる。 阻むものもいなくなった長い廊下を、悠々と一人の青年が歩いている。 長身を長い黒のロングコートに包み、両手には何も持ってはいない。 ただ、不可解なのはコートの隙間から覗く彼の体だ。 まるで、コートの中には何もないかのように、そこには妙に質感を持った暗闇だけが広がっている。 青年の目はまっすぐ廊下の向こうを見据えたまま。 廊下を埋め尽くす獣と、横になったメイドたちには目もくれない。 「僕の可愛いペットたちは気に入ってくれました?」 一言、かすかに呟く。 「たとえ警備が万全であったとしても、この群れを阻むことはできない」 突然、廊下の向こうから激しい光が押し寄せ、辺りがまぶしいくらいに照らされた。 群がる獣たちの姿が、いっせいにはっきりと照らし出される。 それは―――― 「僕に従う百を超える結束を解放して生まれる結界、愛玩『猫好きの楽園』」 それは、おびただしい数の子猫だった。 白、黒、斑、三毛、縞々、長毛、短毛、ありとあらゆる種類の子猫がいる。 その猫たち全てが、メイドたちにまとわり付いて首を擦り付け、喉をゴロゴロ鳴らしているのだ。 ふかふかの子猫が四方から取り囲み、いっせいに擦り寄り、なかにはそのままころんと手の中で眠ってしまうものまでいる。 ああ、これほど強力な結界があるだろうか。 ちょっとでも動いたら、今胸元で寝息を立てている子猫が目を覚ましてしまうかもしれない。 いや、それよりもあらゆる寝具を上回るこのふかふか感。 もはや、これに捕らえられたメイドたちは決して動くことができないのであった。 猫と一緒に寝てしまったものまでいる。 しかし、唐突に廊下をぎらぎらと照らすこの光の源は。 「図書館へは、行かせないわ」 「いや、図書館じゃなくて咲夜さんがどこにいるのか知りたいんですけど」 「咲夜ならこの上の階。とにかく、この先は進ませないわ。さっさと帰って」 太陽がそこにあるとさえ錯覚する輝きが、彼女の手にある。 動かない大図書館、あるいは知識と日陰の少女、パチュリー・ノーレッジ。 いつものネグリジェのような衣装と、護符の留められた帽子。 そして、片手には分厚い魔導書。 「そっちに行けば近道なんですけど」 「絶ッッッッ対に駄目! 動物が図書館に入ってくるだなんて………考えただけでおぞましいわ。 本を齧るし、ところかまわずマーキングするし、臭いが付くし……絶対に進ませない」 想像しただけで怖気がするのか、パチュリーは普段からは考えられないほどの大声で青年の言葉を否定する。 想像を振り払うかのように、頭を必死で左右に振っている。 「もし進むって言うなら………この場でウェルダンに焼いてあげる」 「僕は昔はウェルダンが好きだったんですけど、こんな魔法使ってから急にレアが好きになったんですよ。なぜです?」 「当たり前よ。あなた使い魔として体に獣なんかくっ付けているからそんなことになるの。 さっさとはずしなさい。そのうち好きでもないのに獣と一体化してしまうわよ」 「使い魔?」 「そう。自分の肉体と偽って獣の体を肉体に補充しているんでしょ。体を削ってわざわざくっつけるなんて、ちょっと野蛮よ」 その言葉に、青年はなぜか口元に笑みを浮かべた。 笑いとは、もともと攻撃的な動作であるとか。 「これを使い魔とおっしゃいますか、パチュリーさん」 コートの裾が、風もないのにはためく。 青年はコートの襟に手をやり、ぐっとその隙間を広げる。 見えるのは、闇。 その闇の中から、のっそりと姿を現した獣がいる。 三頭の豹だ。 今産まれたばかりであるかのように、豹は首を振り、頭を上げて空気を嗅ぐ。 「まあ、行ってみて」 その言葉と共に、三頭は疾風となった。 一頭はそのまままっすぐに。 もう一頭はジャンプして頭上へ。 そして最後の一頭は、信じがたい膂力で壁を走り横から。 同時に、三方向からパチュリーに襲い掛かる。 けれども、パチュリーは動きもせずに一言だけ口にする。 手の中の光の球が消える。 「土符『トリリトンシェイク』」 彼女の操るものは、万物の構成要素。 瞬時に紅魔館の廊下を構成する石材が形を変える。 一瞬で突き出す無数の結晶のような形の杭が、三頭の豹を貫いた。 断末魔のもがきさえない。 まるで水を入れた風船であるかのように、豹は形を失い溶けて流れる。 青年は、笑みを浮かべたままパチュリーの方を見る。 パチュリーもまた、青年の方を見る。 「ならば見せてあげましょう。この生ける混沌の力を」 「ならば見せてもらおうかしら。あなたの魔法の力を」 青年の影が形となって次々と猛獣たちが姿を現す。 這い出る鰐。唸り声を上げる狼。前足で床を掻く猪。 互いに間合いは離したまま。 遠距離の攻撃を軸とする魔法使いらしいスタイルだ。 生み出された猛獣たちはひるむことなくパチュリーにむかって突進する。 けれども、書物を手にした少女はまるで意に介さず、淡々と自らのスペルカードを引く。 「火符『アグニシャイン』!」 蛇行する炎の列が、一匹残らず突進した猛獣たちを液体に変える。 「次よ。水符『ベリーインレイク』!」 上空に向かって噴水のように吹き上がるウォーターカッターが、滞空しつつ攻撃の機会を狙っていた鴉たちをまとめて叩き落す。 けれども、まだ青年の操る獣たちはストックがあるらしい。 「それじゃ、出番だ」 角を振りかざす鹿。疾走するチーター。なぜかのそのそ出てくるゾウガメ。 「金符そして水符『マーキュリポイズン』!」 空気中に突如出現した六価クロムをベースとした毒素が、獣たちの動きを止める。 「ええと………ならこれ!」 影が丸ごと持ち上がるなり、廊下を埋め尽くさんばかりの巨大な鮫の姿となる。 辺りの置物をなぎ倒しながら、鮫は牙を剥いてパチュリーを飲み込もうとして大口を開ける。 「焼き魚にしてあげるわ、日符『ロイヤルフレア』!」 まばゆい閃光が一薙ぎした後には、廊下には黒焦げの干物のようなものが転がっていた。すぐに溶けて流れる。 「あらら…………やっぱり耐久力が弱いな。どうも」 さすがに出尽くしたのか、青年の方からは獣の応酬はない。 どうやら、打つ手なしか。パチュリーは勝手にそう結論付けた。 なるほど、たしかに彼のレベルは上がった。これだけの数の獣を使い魔として使役するのはなかなかの実力だろう。 でも、ただ単にこれは獣をけしかけているだけ。 落ち着いて対処すれば、全然怖くなんかない。 パチュリーは余裕を見せる意図もこめて、わざと魔導書を開くとそこに目を落とした。 「ほら、見なさい。ただの獣じゃこの程度でおしまい…………きゃっ!?」 突然全身を濡らす液体の感触に、パチュリーは飛び上がった。 「うぇ………なにこれ?」 顔から滴る白濁の液体。実はどうにも苦手な臭い。 「ミ、ミルク…………?」 「そう、子猫の大好物です」 はっと前を見ると、どこから持ち出したのか両手に牛乳瓶をやたらと持った彼がいる。 蓋が全て開いて、中身はない。これをいきなりぶっ掛けたのか。 なんてことを、とパチュリーが怒りを覚えるその前に、 「行け、今度こそ出番だ」 突然、今までただの液体だったあちこちに広がる黒い塊が爆ぜた。 無数の滴となって散ったそれは、空中でおびただしい数の子猫に姿を変える。 いっせいに、四方八方からニャーニャーという心に訴える鳴き声と共にパチュリーに殺到する子猫たち。 「きゃ………きゃあああああああんッ!?」 たちまち、子猫にまといつかれて床に転がるパチュリー。 後から後から子猫はパチュリーにのしかかり、よっぽど空腹なのか体中に付いたミルクをその舌で次々と舐め始める。 「い……いやあああッッ! ちょっ! そんな……ザラザラが………やだ、もう…………くすぐったい…… ……あ、足の裏は…………だ、だめ…………そこぉ…………!」 じたばたともがいているが、もはや子猫たちの結束は固い。 猫たちの舌に全身をくすぐられているパチュリーは、明らかにもはや戦闘不能だった。 「これはね、使い魔なんかじゃないんですよ」 その横で、聞いていないにもかかわらず青年は律儀に説明をする。 「僕と一体化した混沌の中に澱み凝る命たち」 ずるずると、他の黒い塊が青年の影の中に消えていく。 「いわば、六百六十六の群体みたいなものなんですよ。だから個を倒しても、残り六百六十五が生きていますから無意味」 猫団子となってもがくパチュリーを尻目に、青年は奥に向かって歩いていく。 「さて、咲夜さんに通じるでしょうか。どう思います、パチュリーさん?」 無論、返事はなかった。 ただ、ぴちゃぴちゃという舌の舐める音だけが、いつまでも廊下に響いていた。 「ああああッッ! な、なんてことを…………!」 これぞ必殺、とばかりに作り上げた我が結界、愛玩「猫好きの楽園」。 選りすぐりの人懐っこい猫のみを集め、解放と同時にいっせいにまとわり付かせて、いかなるものも無力化するはずのスペルカードだ。 それが、それが………… 「メイド秘技『操りドール』!」 木の葉のように飛び交う無数のナイフにスライスされ、元の混沌に返っていくかわいい子猫たち。 いくら混沌に戻れば再び蘇生するとはいえ、これは僕の方が傷つくよ咲夜さん。 今、分かった。 このスペルカードは、返されるとこっちの方に心理的ダメージが行く。 僕、猫大好きだし。 「ど、動物虐待ですよ咲夜さん!」 心が抉られるようだ。ああ、あんなに僕に懐いていたミケちゃんまでナイフの餌食に…………ごめんよ、頼りないマスターで。 「あら、でもあなたの中に戻れば大丈夫でしょ?」 「そ、そりゃあそうですけど…………もしかして咲夜さん、猫嫌いなの?」 咲夜さんは、ナイフを繰る手を休めずに言い放つ。 「私、動物アレルギーなの!」 頭を、鈍器で殴られたかのような衝撃。 そーだったのかー。 せっかく格好つけて「我は六百六十六の獣なり」なんて言ってみたけど、実際使えるのはせいぜい獣を飛ばしたり、猫を操ったり。 ましてや、咲夜さんは動物アレルギーだとか。 それじゃあ、せっかく作った子猫の結界だって無意味じゃないか。 ショックだ。 何のためにここまで苦労して混沌を練り上げ、我が身と同化させ、一つの世界まで作り上げたんだろう。 そして、こんなに沢山の猫を集めたんだろう。 実は…………混沌の性能がいまいち微妙で、再生に時間がかかる。 もう、手持ちの獣はせいぜい五十頭前後。 見境なく乱射しても、たぶんナイフの餌食だろう。 「奇術『ミスディレクション』!」 「ひえぇ…………なんてひどい」 「当然よ。もうくしゃみが出そうで仕方ないわ」 ついに、子猫たちは一匹残らず混沌に戻ってしまった。正直、涙が出てきそうだった。 「さあ、殺し合いましょうか」 「いや、そんなナイフ逆手に持って殺人貴みたいにポーズ決めないで下さいよ」 ていうか、咲夜さん知っているんですね月○。 ええい、でも向こうがリクエストしているなら、原作に沿ってみるか。 「さあ…………生を謳歌しろ!」 うわ、我ながら声が全然合わない。でも、こうなればやけだ。 すでに、愛玩「猫好きの楽園」が敗れた僕は、実質咲夜さんに負けているんだけど。 体に残った五十頭の獣たちが、それでも寄り集まって鎧となる。 無駄に高まる体力と破壊力。でも心は寂しいままだ。 ああ、やっぱり駄目だ。子猫たちの幻影が胸をちらつく。 「ミケ、トラ、タマ、その他大勢の敵ぃ――――!」 やけくそに叫びながら、突進。 無意味にスピードだけある。 床が砕け、衝撃波が壁を引き裂いていく。 咲夜さんは、瀟洒に立ったまま。 絶叫しながら、貫手を突き出す。 瞬間、指先が音速を超えて焼け焦げる。 当たる―― と思ったのは幻影か。 伸ばした手は、空を切る。 頭上か。 そう理解できたのは、僕の頭のてっぺんに咲夜さんの手が触れたのとほぼ同時。 空中で、恐らく倒立する咲夜さん。 そして、スペルカードの名が。 「極死『七夜』」 ごき、と。 手が捻られ、同時に首が…………嫌な方向に曲がった。 死の点を突くのではなくて、こっちですか。 薄れゆく意識の中、僕は心底後悔した。 やっぱり、ネタのパクリはやめよう、と。 極意「トゥ・メガ・セリオン」開眼の前に、こんなことがあったとかなかったとか。 2スレ目 174 備考: 50 51 50 名前: 前スレ951な人 投稿日: 2005/11/15(火) 03 00 50 [ xqEixf7g ] 42 戦闘シーンかっこいいよママン・・・ 俺もこれくらい書き込める能力があれば。 主人公がスペル形態を選ぶ時に666の文字が出てきたので、つい混沌な教授になるのかと思ってしまった(゜∀。) 51 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/11/15(火) 08 27 49 [ gl6EvV4. ] 42 思わず時間も忘れて見入った。なんてかっこいいんだ戦闘シーン。 思慮のあるものは―の下りは某混沌教授でしか見たこと無かったから 俺も混沌教授ぽくなると思ってしまったw(。A。)^(゚∀゚ ) ……混沌『武装999』?
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/623.html
咲夜5 4スレ目 433(うpろだ0024) //////////////////////////////// 明るい将来設計と家族計かk(ry 『レミィ?用事って?』 「夜分遅く済まないね、パチェ」 『テレパス会話なんて何年振り?』 「百から先は数えて無い―――咲夜に内緒話するなんて、あんまり無いわ」 『それも、盗聴含めて絶対にバレない方法で? ―――で、何をすれば良いのかしら』 「恩に着る―――愛してるわ、パチェ」 『感謝の極み、とでも言っておくわ、マイスイート』 「で、本題だけれど―――用意して欲しいものが有るの。 一つは簡単だけれど、直ぐ用意すべき品。 もう一つは急がなくて良いけど、とてもとても難しい品。 多分、私達だけでは無理なものね」 『―――必要なのね。あの子の為に』 「ええ―――急ぎ足の灰被りが、どんなに急いでも、絶対に帳尻を合わせる時計よ」 「お早う御座います、お嬢様」 「今晩は、咲夜。いつも御苦労様」 広く深い紅魔間の一室、一面深い紅で塗られた部屋。 中央にベッド、壁際に箪笥、その他諸々。 もはや語るまでも無く、当館が主、レミリア=スカーレットの寝室である。 「ふわぁ~……」 「今日は少々お早いですね」 欠伸に合わせて寝巻きから細く小さな腕と、一対の蝙蝠羽が、可愛らしく伸び上がる。 そこへさり気無く手を伸ばし、慣れた手並みで召し物を替える従者の姿も、また定番。 「ん。今日は咲夜に言って置く事があったからね」 「私に、でしょうか?」 一声交わす間に、着替えは完了。 姿見の前で『完璧』と誉のお言葉も、何時もの光景である。 「そうねぇ―――あ、そーだ」 「はい?」 ただ、最近の紅魔館にも、ちょっとした変化が訪れていた。 「指輪は、ちゃんと着けなさいな?」 「しかし」 「私を嘗めてんのか。んな安物の銀製品何ざ堪えないわ」 ぴくり、と従者の目尻が引き攣る。 それを横目で眺めつつ、紅の悪魔の、 「それとも―――嫌いなのかしら?それ―――」 あっさりとした一言を。 「―――そんな事ありませんッ!!」 瀟洒とは程遠い態度で、従者は遮る。 瞳は激情に踊り、主を見る視線は、まるで親の敵を見るかのよう。 「―――んなムキにならんでも……っふふ」 「え―――っあ」 一瞬の従者の変わりように、くつくつと抑えた笑いを隠せない悪魔嬢。 直ぐに従者の顔も、『やられた』と伏せられてしまう。 ―――控えめな、ノックの音がした。 「聞いてた?」 その一言を許諾とし、控えめな音を立ててドアが開く。 「……お嬢様よぉ、人が悪いにも限度があるぞ、それ」 扉からおずおずと入ってきたのは、窮屈そうに着崩した礼服が目立つ、一人の男。 片手で顔を覆うように翳し、指の隙間からは、壁の色に負けない程度の赤面が覗く。 彼、○○は幾年程前に、幻想郷へと迷い込んできた客人。 紅魔館に身を置く理由は『働かざるもの食うべからず』のもと、彼が選択した居住先が此処だった、だけのこと。 幸いにして、その手の仕事を向こうで日雇い程度には稼いでいる為か、『使えない』と言う理由で 放り出される事も無かった。 そして現状の通り、紅魔館が誇るパーフェクトメイド・十六夜咲夜に御執心らしく、 また彼女も、プレゼントの2、3は受け取る程度の関係までにはなっていた。 ―――指輪を渡したのは、つい最近のことである。 「お、お嬢様っ」 事の次第を理解した途端、従者の顔が茹で上がる。 こちらは壁など勝負にならない程に赤かった―――とは後の悪魔嬢の談。 「あーあどーしよ、咲夜取られちゃったーしくしく悲しいなー♪」 それはもう腹黒兎のかくやのしたり顔で、扉の側へと歩いていくお嬢様。 「あ、あの、こ、これは」 「諦めろ咲夜さん……全ては『運命通り』と言う奴なんだろ―――この人のな」 どちらも羞恥のあまり半泣きの体を顕してきた従者二人。れ・みぜらぶる。 「うわーんこーしてやるぅ♪」 「あ゛ッ痛っ!?」 片手で『噴水のような涙を流してランナウェイ』のポーズを構えると同時、 もう一方の手で、従者崩れの男を後ろから張る。 悶絶して体勢を崩した男の倒れた先には、面食らった従者と―――大きなふかふかベッド。 「ひゃあ!?」 「おふぁ!?」 暗黙の了解のような『お約束』か、○○に押し倒される格好になるメイドさん。 振り向けば――― 「でも悲しいけれど~♪悪魔と人間ですものね~♪ならば私はあなたの為に身を引くわ~♪」 相も変わらず似非オペラ風味のイントネーションをつらつらと吐くお嬢様。 既に部屋の外、ドアの隙間からハンカチ片手に目元を拭う可憐な少女―――無論芝居である。 「―――とゆーわけで、私はこのハートブレイクをフランやパチェに慰めてもらうから♪ さくやー、あなた今日はお休みで良いわ」 嘘泣きをはたと止め、ちろりと赤い舌を出して、 「ちょ、お嬢―――」 「反論は一切聞かないのであしからず。あ、出血大サービスで部屋は自由に使って良いわよ」 形容するなら『あくまの笑み』を浮かべて、 「では、ごゆっくりー(はぁと)」 部屋の扉を閉じた。 ご丁寧に、鍵付きで。 「……つーか咲夜さん。何故に向こうから鍵掛けられるんか?」 「お、お嬢様がお忍びで不意に外出したりするから―――っていい加減退きなさいっ」 「と、とは言っても―――っわわ、動くな色々と当た―――ご」 最高の角度で、○○の鳩尾に肘鉄が入った。 「おお゛お゛お゛お゛お゛ッ……」 「あーもう、お嬢様ったらこんな結界の類何処で……」 悶絶する○○を他所に、咲夜は扉の検分を始める。 だが当然といえば当然か、華奢な造りの筈の扉はびくともしない。 「せめて、洗面所や火の元その他全て完備なのが、幸いかしらね」 「っ……あと飯も酒もな。言われて運んで来た」 こうなると最早完璧なスイートルームである。 「はぁ……」 眉間に手を当て、途方に暮れる瀟洒な従者。 さしものパーフェクトメイドも、こうなるとほぼお手上げである。 「ま、しゃーないさ」 一方の○○は、一転して降参のご様子。 ベッドに腰掛け、自分が持ってきたワゴンの中身を改め始めた。 「仕様が無い、って―――」 「それよりも―――っと失礼」 詰め寄ろうとした咲夜を制し、その左手を取る。 「……何時の間につけたんだか」 「あ……」 その薬指には、如何にも安物です、と言わんばかりの銀の指輪。 「古道具屋でパン一斤が化けたような代物だってのに……有り難い事で」 言葉も無い、という表情で、その手を優しく諸手で包む。 その表情に咲夜は無言。ただ僅かに頬を染め、呆けた目で○○の顔を眺めていた。 「……俺で、良かったのか」 ふと漏れた、自嘲交じりの、消え入りそうな声。 その一言に、咲夜は悪戯っぽく微笑む。 「そうね―――確かに色々足りないわね」 「ったく、容赦ないな」 「ええ、なって無いわ、全然」 そのまま○○の隣に座り、見せ付けるように指輪を翳す。 ふと○○気が付けば、右手にはナイフ。 「だから、こうしちゃう」 「は?」 かつん、と。ナイフの切っ先が指輪に立てられ――― ―――次の瞬間には、膝の上に、二つに増えた指輪が転がっていた。 「うわ、また手の込んだ」 手にとって見れば、銀の指輪は螺旋状、丁度互いに噛み合う形でスライスされていた。 中程で一端斬り飛ばされ、完全な輪にはなっていない。 「ええ、私から見たらその指輪程度。 ここに転がり込んで精々数年。未だ弾幕の一つ飛ばせず空も飛べず、弾除けとしては毛玉にも劣る。 貴方が掃除をすれば、舞う埃の方がだいぶ多くて、猫イラズにもなりはしない。 外から持ってきた土産話も、果たして何時底を付くのやら」 「……うわーい、舌先だけで薄っぺらい俺のプライドボッコボコ」 「ボコボコになる程あるの?」 ○○のハートが廃棄決定の針休めのようになって来たところで、 「でもね」 と、項垂れた○○の手を取る。 「それでも、初めて会ってから今までずっと。 私を等身大の人間として接し、気に掛けてくれたのよね」 目を伏せ、その両手を抱くように包み、静かに頬に当てる。 ○○は、赤ら顔を背け、蚊の鳴くような声で呟く。 「……だってあんた、お嬢様の事になるとテンパリがちだし、 意外に抜けてる事あるし……休んでる姿とか、あんま見ないし」 「余計なお世話よね。これでも生涯現役・悪魔の狗よ?」 「で……一生死ぬ人間、なんだよな」 背けた眼を再び戻し、真摯な視線を咲夜に向ける。 彼女はただ頷くのみで、続く言葉を待つ。 「あんたに何かあれば、あのお嬢様も、妹様も、本の虫も、美鈴も。 そしてあの巫女さんや白黒―――あんたを知る人皆が悲しむ」 「そんなに縁深い人妖関係を築いたつもりは無いのだけれど?」 浴びせられるのは、突き放すような冷たい声。 「さ、私にこの指輪を渡すまでは良いわ。 あとは、その契約が、私が受けるに足るかどうか。 ―――言って御覧なさい? どんな口上で、この悪魔の狗を従えるのかしら?」 それまでとは一変。 それこそ、彼女の象徴の一つであるナイフの様な鋭さを以って、 彼へと詰め寄る。 だが○○は首を振り、優しい表情で続ける。 「時を操るあんたにとって。 自分が死んだ後、あの人たちがどうなるのか。悲しむのなら、その人をどれだけ苛むのか。 そして、自分に続く者は、ちゃんと現れるのか―――怖いことといったら、そのくらいだろ」 何より、と顔を寄せ、手を優しく解き、 「それをあのお嬢様に当て嵌めて考える。その事が何よりも、それこそ想像するのも恐ろしく、辛い――― ……と、俺は勘違いを承知で思ったんだが」 肩から、浅く、柔らかく抱きしめた。 「育ての親であり、遺す娘であり―――必ず置いて逝く、家族だものな」 「何が出てくるのかと思えば―――とんだ妄想ね」 辛辣な口調は変わらないが。 その眼は潤み、表情は、温かい笑みに変わっていた。 「でも面白い話。―――で、そんな私に対して、貴方の売りは何?」 「紅魔館で、あんたと同じ時間単位の人間が増える。 そーすりゃ、節度わきまえて休み取るようになるし、能力に任せた無茶もやらなくなる」 「私がどうもしなければ意味ないじゃない―――他に無いの?」 「単純に人手が一人増える。あんたの手間が減る」 「そこまで鍛え上げる手間も考えなさい―――次」 「あんたの世話係に、一切の遠慮なく使える人手だ。それも今すぐ」 「余計なお世話よ」 そのうち咲夜も腕を回し、彼の背に手を置く。 「もう無いのかしら?」 「ある。ここからは取っておきだ」 どっかの本で見たかもしれない。ただの二番煎じかもしれない、と。 そう前置きして、優しく言う。 「仮にあんたに置いてかれても、俺は絶対に悲しまない。あんたの為に」 「その時にならないと解らないわね」 「出来ないことは無いさ。その時は確実に、あんたが待ってるんだから」 「天国と地獄で別れたら?」 「閻魔に伝言と花束ぐらいは頼むとしようか。 他に、泣いている奴が居たら、叩いて引き摺り立たせて、そして笑顔に変えてやれる」 「他の誰かでも、出来るわね」 「応とも。が、ここが肝だ。 ―――絶対にあんたより長生きして、あんたに出来ないフォロー済ませて。 そして必ず、あんたの所に辿り着く。あんたの待っている所に。 ―――この約束を出来るポジション、今の俺以外に早々無いと思うんだが?」 「―――自惚れにも限度があるわ」 「先刻承知」 「皮算用って知ってる?」 「出来なくても差し引き零。マイナスにはならんな」 「―――前置きのせいで、興醒め、よ」 「元より以下略。俺にゃどーも似合わないし、取って付けた感があるんでな」 ○○の背に、より強い力が掛かる。 「……俺だけで用意できるのは、もう打ち止めだ」 「じゃあ、一つ、質問」 いつの間にそうしていたのか。 ○○の胸に埋められていた、咲夜の顔が上がる 「それだけ……用意されて……断ったら、わた、し、どん……っな、女に、見られるのよ」 ―――涙でぐしゃぐしゃになった、満面の苦笑が。 「それこそ、俺のマイハートブレイクで済む問題だ。 他の誰にも、文句は言わせないし―――」 ○○はすかさずハンカチを取り出し、涙その他で色々当てられなくなった顔を整えてやる。 「自分を貫く為なら、お嬢様の為なら、神様だってナイフ一本で捌いちまう。 そんな怖い怖いメイドさんが―――」 最後に、涙の跡さえ拭い去り、満足げに微笑み、言い切る。 「俺の―――愛しい愛しい十六夜咲夜だ」 「―――申し分無いわ。―――お受けしましょう」 次に現れたのは、言うまでも無く。 元通りの『完全で瀟洒な微笑み』を浮かべる、可憐な乙女だった。 「そっ―――か」 途端、脱力する○○。音を立ててベッドに背を投げ出す。 見る見るうちにその表情が綻び、やがて汗がだらだらと流れ―――そして耳まで赤ら顔へ。 「うへー、すっげ恥ずかしい上に臭ぇ台詞吐いちまったー…… しかも、もしかしなくても俺って滅茶苦茶キモイー?」 「撤回は許さないわよ?」 「当たり前だっての―――ただ、俺今すごーいイタタタタな人だよなーって」 「んな事何時までも言ってると、色々と当てられなくするわよ? 『歯医者』って知ってる?」 「げ、やめてそれマジ勘べ―――ッ!??」 ○○の口は、より積極的且つ情熱的且つディープな方法で塞がれた。 ―――つまりは、咲夜の唇によって直接、である。 「―――っは」 艶やかな残滓を伴って、二人の顔が離れる。 一体どれだけ、組み伏せていたのか。 ○○の顔に羞恥とは違う赤みが混じる辺り、決して短くは無い。 「ふふ……こっちの方が良いわね、やっぱり」 「さ、咲夜さ―――」 間髪居れず。但し先程より長く。 「―――っふ、私は息継ぎなんて『停めれば』問題ないけど、貴方はどう?」 「……そう、くるか……っ何で……」 鼻は使えるが、向こう側から『吸われて』いる為、 流石に三度目となると、人類の肺活量記録に挑戦することになる。 「色々あるんだけれど……そうね、先ず一つだけ」 紅潮した、妖艶さの滲む笑みで、上から○○を見つめる咲夜。 「咲夜、って呼んでくれるなら、止めてあげる」 「……それ、いまいちデメリットが良く解らんのだが……」 「あら失礼、なら皆まで言ってあげるわね」 「……呼んでくれたら止めてあげる―――その後は、貴方のものよ」 (省略されました。全てを読むにはここにFINAL波動砲を16連射してください:猶予時間2秒) 「で き る か ーーーーーーーーーッ!!!?」 「ブブーハイ残念時間切れー」 「あ゛ーーーーーーーーー!!!?」 「はいはい出歯亀出歯亀」 レミリアの一言により、水晶球が曇り、何も写さなくなった。 彼女の力により件の結界を介し繋がっていた『糸』が、断ち切られた為である。 「そして証拠隠滅&記録防止ちょっぷー」 パチュリー御用達の高級水晶球が、極超音速のギロチンドロップにより木っ端微塵に粉砕された。 「うわぁい徹底しているわね高級品よ10年ものよロイヤルフレアすんぞこの悪魔」 「じゃあ残してたらどーしたの?」 「無 論 百 万 回 保 存 す る」 「オーケィ、パチェ。お前とは後で弾幕言語で熱烈に愛を確かめ合う必要があるらしい」 「それは良いわね。向こうよりも熱烈になるよう、腕によりを掛けるわ」 素敵な友人関係である。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよアンタッ!?」 半泣き状態の顔のまま、本日の来客者が異議申し立てに入った。 「承諾条件の一つにこんな千年に一度あるかないかのディープシチュエーション閲覧権限があったから わざわざ永遠亭まで来たってのに!?意義有りッ! ニアそ」 「やかましいぞ永遠の引き篭もり。立会人になる権限をやるとは言ったが、そこまでは範囲外。 それともあの中に乱入するか?永遠に魂刻まれるのがお好みなら止めないが」 「そ れ も ま た 良 し ッ Σd( ゚皿゚ )」 「正直なのは良い事だ。気に入った。―――おい隙間」 「はいはい地下室一名ごあんなーい」 「ギャーーーーーッ!!!?えーりんえーりんたすけてえーr(とす)あふぅ」 「姫、ぶっちゃけたい所を敢えてオブラードに包みまくって控えめに言いますと、 今作業の邪魔しやがりますなら、今直ぐにでも蓬莱の薬中和剤開発に着手しますが。 参考程度に、今の心境なら姫専用一人分限定で10秒で仕上がります」 「死刑宣告ッ!!!?」 「魔理沙、ウザイから即効性でお願い」 「人の恋路を以下中略、ファイナルスパークッ!!!!!!」 凄まじくごたごたとした喧騒(約一名分)を、虹色の魔砲が光に還元していく。 後に残った灰は小悪魔が掻き集め、隙間に放り込んでいった。 「で、開発部、どのくらい掛かるのかしら」 邪魔者に一瞥くれてやった後に、レミリアは『開発部』要員に呼びかける。 図書館内の閲覧室一つ分をちょろまかし、永琳の術によって咲夜の空間操作に便乗、改竄を行い、 隙間に蓋を仕上げさせ、留めに知識人に隠させて作った区画。 「彼女の能力の歴史のみ抜き出せとは……極上の無茶を言うものだ」 咲夜の近辺の消耗品を検分しているのは、歴史を操る半獣。 「あら、無理ではないのね?」 「当然だ。胸焼けするほど良い歴史を拝ませてもらったし―――蔵書を幾つ見ても良いのだろう? 甲斐はある」 「能力の複製も、そこまで手間は掛からないわね。正直、姫が居なければ一生掛かっても無理だったわ。 報酬、期待しているわよ?」 永琳が断片化した能力の残滓を部品と呼べる段階まで術式変換し、輝夜の術によりそれを固着化する。 「んー、式はこんなものでよいかしら」 「紫様……それでは術者の負荷が大きすぎるのでは」 「えー?また効率化?これ以上自由度を減らすのは勿体無いわよ?」 「限定的で良いんですってば。大き過ぎるモノだとあの巫女でも感化できません」 固着した能力の断片を配置する回路としての式を編むのは、八雲の仕事。 「緋々色金じゃ駄目ね。これだけ精密な装置だもの、もっと軽く高純度でも魔的位階が高いモノでないと」 「げげ、後はミスリル位しか残ってないぞ?」 「当て、ある?」 「……事情を霊夢に話して、陰陽玉一つ頂くしかないかもな」 「アレを核にするのー!?設計から練り直しじゃない!?」 膨大且つ強大なそれらを、実像として結び支える『器』を用意するのは、寄蒐家二人。 「……ふーっ、神酒や霊薬でドーピングしても、これだけの負担……厳しいわ」 その全工程で消耗される魔力を、七曜の賢者が一手に担う。 「パチェ、大丈夫?」 「問題ないわ―――たかが大奇跡程度、悪魔の加護の前に敵ではない。 ええ、それこそ一週間で形にしてみせようとも」 疲労の色を隠せない表情で、しかし何時もの半眼ではなく、覇気ある眼で友に応える。 周囲も、それに続く。 「一週間とは言ってくれる」 「貫徹決定ね、私はともかく、他は大丈夫?」 「なら敢えて今のうちに寝ておこうかしら。後で問題が出たら事だわ」 「解りました、お休みなさいませ―――橙、屋雀の屋台にひとっ走り頼む」 「あいあいさー♪」 「八卦炉は仕組みから全然違うしなぁ……あ、肝吸いを頼む」 「頭に栄養が欲しいわねー、冥界のに茶菓子もお願い」 「ぐはぁーーッ!!!?」 ずばむ、と扉を開け放ち、全身真っ黒焦げの輝夜が帰ってきた。 「Wellcome back, Etarnal Lunatic "NEET".」 「誰が永狂ニートかこの悪魔ッ!?つまるところ同類の分際でッ!! ―――あ、素材ならウチにあるミステリウムから漁って良いわよ―――けふぅ」 そこまで言って力尽きたか、口から煙を吐き、尻餅をつく。 「悪いわね―――妹は落ち着いた?」 「今はまた妹紅が相手してるわ。引っ張ってきて正解。―――何をやったのよ?」 「ちゃっちゃっと、時空間操作の能力のうち、『パラドックス自動解決』っぽい部分をちょっとだけ、ね。 因果上、この世に一つの能力を、間借り出来るようにしてみたわ」 ぼすん、と盛大な音を立てて五体倒地する月の姫。 「んな発狂ギリギリ、禁忌的にも完全ビーンボールすりゃ、反動でパニック症状も起こすわよ。 ―――素面のアンタのほうがおかしいわ」 フランドールの能力はありとあらゆる物を、望む規模で破壊することさえ可能だとされる。 ただ、それを認識・知覚する必要があり。 ―――万物の法則を超える能力のピンポイントとなると、それこそ姉の領分のほうが都合が良い。 「そーでもないわ。今は日光どころか月光も毒ね。もースカスカ」 「閻魔は黙認?」 「寧ろこっそり支援されたかも―――理由は多分、私の動機と同じだろうがね」 ―――ぴくり。 動機、という言葉に、全員が反応する。 「そーいやそうね。これ何のために作るのよ?」 「ウチの可愛い狗を嫁に取ろうなんて言い出す馬鹿に、のしつける為よ」 「だーかーらー、何で普通の人間にあのメイドの能力をのしつける必要が有るの?」 「何だ、私なんかより倍以上生きていて、そんなことも見当付かないのか」 途端、レミリアの表情が満面の笑みに変わる。 「そう遠くないうちに、咲夜に長い暇を出す日が来る―――具体的には、一年程」 「―――ん~成る程~」 思い至ったか、蓬莱の姫も全く同じ表情を浮かべる。 他の面々も、気付いたものは、頬の笑みを隠せない。 「何が可笑しい?」 「悪魔でも楽しみなのね、そういうの」 「ああ、楽しみだともさ―――うふ」 「ふっふふふふ」 「「うふ、うふふふふふふふふふふふ―――」」 余りにも不似合いな笑みを浮かべる大物二人にさえも。 気に障る者等、一人も居なかった。 「うふ、うふふふふ、うふふふふふ―――」 「いやいや魔理沙」 誘爆したもの一名。 「いやいや、気の早いことだけれど、笑みが止まらない」 すっかり笑みに細まった眼で、作業代の『ソレ』を見つめる。 ―――ほんの、一年で良い。 その時間を買う為なら、どのような財でも投げ打とう。 ―――たかだか人間でも、我が愛娘も同然。 その一年で、彼女の幸せを『買える』のだ。 財を払う範囲で得られる幸せなら、安いものだ。 その幸せを運んでくれる、あの婿への礼にも丁度良かろう。 精々、幸せな日々に馬車馬よりも働くがいい。 ―――そこでふと、思い出す。 「そういえば、奇遇ね」 「何が?」 不便だと半ば戯れに定めた、愛娘の誕生日。 その初めての記念日に渡したものと、結果的に同じものとなってしまった。 ―――流石にこれは、読めなかった。 全く、『縁とは異なるもの』とは悪魔にも適応されると言うのか。流石は幻想郷。 「あの子に初めて贈ったプレゼントと同じか―――懐中時計」 「小町」 「何です、映姫様」 「子供を愉しみにし、それが産まれて来る幸いを守ること。それはまっこと尊い善行なのです」 ―――ええ、子供は世の宝ですとも。それが安息に世に生まれ落ちるなら、閻魔様の眼も緩みますとも」 「何回目ですかその台詞。そりゃーそんな糸目じゃ何も見えないでしょーに」 「あらやだ小町ったら正直者ねぇ」 「(うへぇ、気持ち悪い)」 ―――二十四時間後。 「お休みはどうだったかしら、咲夜」 「ええ、実に充実した一日でしたわ」 「一日と3時間、でしょう?」 「流石はお嬢様、お見通しでしたか」 「FINAL16連射は失敗だったけれどね」 「あら、意外と片付いているのね、部屋」 「立つ鳥跡を濁さず、と言います」 「―――随分と長く、延長試合に縺れ込んだようだけれど」 「お互い、決定的リードを奪えずに―――熱烈な一戦でしたわ」 「点取り合戦?」 「守備に回ることなど、頭に有りませんでした」 「……そこで徹底的にスルー?動じなくなったわね」 「それはそうですとも」 「瀟洒な母にならなくてはいけませんから」 「(ぱーちぇー……予定早めないと拙いわ。五日で出来る?)」 『(むりぽ)』 ////////////////////////////// 本日の基本コンセプト。 →咲夜さんを幸せ一杯に泣かせたい。 本日の発展系コンセプト。 →親心全開なお嬢様が見たい。 結局のところ、この二つで全てです。 途中からオーバーな部分も出ましたが、後悔だけはしておりません。 ……さて、愛しの霊夢は何処行ったOTL 浮気御免なs(夢想転生 4スレ目 668 「悪魔の狗ってお前が呼ばれるなら、俺は悪魔の狗の狗になってやる!」 せっかくだから俺は下僕フラグを立てるぜ! 4スレ目 853(うpろだ0048) 変人と言ったら変かもしれないが、一風変わった店を経営している知り合いがいる。 そいつの店は何とも奇妙な品ばかりが並んでいて、まさしく趣味でやっているような店だった。 「こーりん元気か?」と、お決まりのセリフとともに店へ入る。 すると、そこには、こーりんの他に見慣れた紅白の巫女と白黒の魔女、そして初めて見る客がいた。 そして、この時が俺と彼女の最初の出会いだった。 最初、その見慣れない客は、他の二人の客と話をしていた。そして、俺は客がきていても暇そうにしている こーりんに小さな声で話しかけた。 「こーりん、あのお客さんは?」 「ああ、霊夢達の知り合いで、湖に大きな館があるだろう?そこで働いているメイドだよ」 「へぇー」 俺はじっと、そのメイドの横顔を見ていた。すると突然、こちらの視線に気付いたのか、横目で鋭い眼差しを向けてきた。 それは一瞬だったが、俺はその目から発するプレッシャーの様なものに負けて、思わず顔をそむけた。 「お前、ほれただろう」 目の前のこーりんがニヤニヤした目で言った。そう言われた時、俺の顔、特に耳が熱くなった。・・・そして、こーりんの言葉を否定することはできなかった。 あの人の目は鋭く、威圧感もある。だけど落ち着いてもいて、どこか優しそうな雰囲気も併せ持っている。なんとも不思議だ。 しかし、ずっと見とれたまま、再び目が会うと気まずそうな予感がしたので、適当にこーりんと下らない話をして、店の品を眺めることにした。 趣味が悪いと思える物、昔から売れ残っているもの、買わないけれどお気に入りのモノ、様々なものが不規則にならんでいる。 「失礼、そこを通らせて頂いてよろしいかしら」 彼女の声は突然聞こえた。俺は申し訳なさそうな顔をして、急いで通路からどく。すると、彼女は微笑しながら一言ありがとう、と言って店から去っていった。 気付けば紅白も白黒も店から出ていく所だった。 「やはり気になるか」 こーりんは後から声をかけてきた。そして、俺は彼女は普段店にくるのかと訪ねると、何度か店に来た事はあるが、 殆ど店でたむろしている、霊夢や魔理沙が目的だと教えてくれた。また、霊夢がこーりんに対して、館の主である吸血鬼が いつも神社でたむろしていて、時々だが従者である彼女が迎えにくることがあることも、伝えてくれた。 ただ、これを聞いても俺にはどうしようもなかった。ただ、こーりんの言っていた通り、神社に主を迎えにきた彼女を遠くから見ることだけはできた。 いや、それだけしかできなかったと言うべきか。俺は、彼女は、ずっと遠いままの存在で終わることを予感していた・・・。 そのまま、月日が流れ、いつしか俺の心の中の彼女は消えそうになっていた。人の心とは移ろいやすいものだ。 だが、事件は突然やってくるものだ。それは俺が再びこーりんの店へ行って帰る道中の出来事。 薄暗い林道の中を歩いていると、茂みの方から小さなうめき声が聞こえた。その声には聞き覚えがあった。 …彼女だ! 気がついたら、俺は無我夢中になって彼女を探していた。そして、ようやく見つけた彼女は、全身傷だらけで倒れていた。俺は急いで彼女の元へと駆けつける。 「だ、大丈夫か!?」 俺は大声で呼びかけた。すると、彼女はまた小さな声で苦しみながらも、やがて俺の声に気付いて目を覚ます。 ただ、同時に彼女は驚き、とっさに俺を突き飛ばして、距離を取った。そして、服に隠し持っていたナイフを取り出して構える。 が、俺の顔をよく確かめると、彼女は平静を取り戻し、ナイフをしまった。 「ごめんなさい」 彼女は申し訳なさそうに言った。それに対して俺は気にしないでと返す。 どうやら、彼女はお嬢様と呼ぶ、館の主を迎えにいく途中、妖怪に襲われたらしい。それで彼女は闘い、妖怪は退けたものの、彼女自身も疲れ果て、気を失ってしまったようだ。 落ち着いた彼女は、再び膝を地につけた。まだ力が出ないらしい。ひとまず、ここでじっとしている訳にもいかないので、彼女を抱いて家のある村へ向かった。 道中、俺と彼女は様々な話をした。例えば、館の話、主の話、巫女の話なんかもした。また、以前、神社の近くで俺が彼女を見ていたことに気付いていた、という事にも触れた。 俺はそれを聞いて、凄く恥ずかしく思ったが、彼女は悪い気はしなかったと笑った表情で言ってくれた。 俺達は、陽が沈んだ後、ようやく村につき、落ち着いた。しかし、ホッとした次の瞬間、俺は村の入り口に一人の少女が居ることに気付いた。 彼女もこれに気付き、慌てた様子で少女に声をかけた。 「お嬢様!」 「…全く、迎えにもこないと思ったら、館にも居ないし、ずいぶん探したわよ」 「…申し訳ありません。」 彼女は急いで俺の腕から離れ、少女の元へと向かった。それから彼女の側へ寄ると、こちらに振り向いて言った。 「咲夜と申します。今日はありがとうございました」 そして、彼女は少女と共に闇へと消えていった。 後日、俺が自宅で暑さに倒れていると、突然、客がきた。急いで服装を直して玄関に迎え出てみると、 そこには以前にも増して魅力的な瞳を輝かせた彼女が居た。 「何故か、急にお暇を頂いたので、先日のちゃんとしたお礼に参りました」 とりあえず、玄関で立たせたままなのも申し訳ないので、挨拶をすませると家の中へと招き入れた。 そこから、俺が背を向けて奥へ案内しようとした時、いきなり彼女は肩から腕を回して抱きついてきた。 「今日は一日、あなたの側に置かせて貰ってよろしいでしょうか」 無論、俺にはそれを断ることなどできなかった。 4スレ目 861 俺なんて一行告白が精一杯だぜ。 「時を操るからなんだってんだ。 あんたは一人の女性で…… 俺が惚れてしまうほどにいい女なんだ」 →咲夜 うーん?うまくいかないなあ。 4スレ目 862 俺も咲夜に一言いっておくか。 「能力の所為じゃない、俺の時間は君の魅力のおかげで止まってしまったんだ。」 ξ・∀・)<臭いセリフ 5スレ目 304 「咲夜お手」 「わん」 「咲夜おすわり」 「わふん」 「うぎぎぎぎgかぁわいいなぁー咲夜はぁ~」 「??」 「よーし、パパ咲夜と一緒に風呂に入るぞぉ~」 カポーン 「こら咲夜!あばれるんじゃない!風呂桶に毛が入るじゃないか!」 「く~ん」・・・ 「ほ~らよしよし良い子良い子、あとでジャンキー食わせてやるよ」 「わん!わん!」 5スレ目 585 月がこんなに綺麗だから、思わず紅魔館の屋根に登ってしまった。 何で紅魔館かって?消去法でここしか残らなかったんだよ。 まず候補に入ったのが永遠亭。だが、月見だんごに何を盛られるか分かったもんじゃないから却下。 次に候補として上がったのは博麗神社。毎年毎年どんちゃん騒ぎで収集が付かなくなるから却下。 あと、萃香に月見酒の呑み比べなどを挑まれようものなら最悪だ。月見酒はしんみりと嗜むのが通なのだよ。 で、残るは紅魔館。ここは湖が近くて涼むには最高の場所だ。レミリアは霊夢の所に行ってて不在だけど。 ちなみに正式に招待されてないから不法侵入扱いなんだなこれが。カリオストロよろしく壁をよじ登って潜入する。 「よっ、と。おぉ、絶景かな絶景かな」 遠くの山やら空の雲やらが月明かりに照らされて浮かび上がる。手を伸ばせば月さえも掴めそうだ。 しかし風が強い。庭の木々はざわめき、空の雲はもの凄い勢いで流れて行く。 「あら、あなたも涼みに来たの? 呼んだ覚えは無いんだけれどね…」 どうやら先客がいたようだ。屋敷のメイド長が屋根の上で佇んでいた。 この強風でも靴下とスカートの間の絶対領域は揺ぎ無い。少しくらい見えても良いものの… え?何がって?そりゃあ旦那、こっちはスカートを履いたメイドさんを見上げる形になるんだぜ? 「屋根とメイドと夕涼み、か。なんかミスマッチで面白いな」 「もう深夜よ? それに、招待していない客人には即刻退場して頂かないとね」 「堅いこと言うなって。隣座るぞ? だめか?」 そう言いながら腰を降ろす。世の中やったもの勝ちなのだよワトスン君。 「言いながら座らないの。……仕方が無いわね。今夜の月に免じて特別よ?」 「サンキュ。いやぁ、屋根の上から見る夜景はいいなぁ」 「この辺りにはここ以外に建物が無いから、見渡す限り真っ暗よ?」 「なあに、どんなに暗い夜でも俺の北極星はいつでも輝いているから問題無い」 そう言いながら咲夜の肩を抱き寄せ……ようとしたが逃げられた。 「……その程度じゃあ口説いている内には入らないわね」 そうは言っているが、頬が少し紅く染まっているように見えるのは、屋敷の壁の色のせいだろうか? 「その割には顔、真っ赤だぞ?」 「えっ? あ、そ、そんなことは……」 「嘘。暗くて見えないよ」 「っ!?」 おぉ慌ててる慌ててる、こんな珍しい光景滅多にお目に掛かれないからな。いやぁご馳走様でした。 「ま、いつもお仕事お疲れ様ってことで」 「言うようになったわね……仕返しよ」 刹那、時の流れが止まったかと思うと ちゅ 頬に何か柔らかいものが触れた感触と同時に時が動き出す。 「……真っ暗で見えないわね?」 「そ、そうだな……」 「……ふふっ」 「あれ、今珍しく笑った? 笑ったよな?」 「…………さぁ」 うーむ、どうも咲夜さんは難しいな…… 5スレ目 599 「お嬢様の命令なの。ごめんなさい…」 咲夜さんの声に、いつもの優しさは……ない。 何かの冗談かと思いたかった。しかし、咲夜さんの目の色を見て冗談でないというは分かった。 「…っはは、何でさ」 乾いた笑い。 普段の「オレ」を演じるコトは、できなかった。 「自分では気付いていないみたいだけど、あなたはイレギュラーな存在。 スキマ妖怪の能力もお嬢様の運命操作も通用しない。そんなあなたが負の方向へ目覚めたら……」 幻想郷のパワーバランスは崩れて、世界そのものが崩壊する……か。図書館の主も言っていたな。 つまり、スキマ妖怪の力で元の世界へ戻せないのなら―― あとは俺を殺すしか方法が無いというのか。 いくらイレギュラーな存在とはいえ、今の肉体は生身の人間そのもの。殺すなら今のうちという訳だ。 ぶしゅり。 そんな音と共に、オレは地に伏した。どうやら右足を斬られたらしい。 ……逃がすつもりは毛頭無いってことか。 「他に方法が無かったの。容赦はしないわ」 二度目の衝撃。 銀色に光るナイフの刃が、今度は左足を切り裂いた。 容赦しているんだかしていないんだか、わからない。 足を刺すなんて面倒な事をする前に、腹でも頭でも刺せたのに。 そう。その気になれば、赤子の手をひねるぐらい簡単に、俺を殺せる。 時を止めて、1080度全方位からナイフの集中砲火を浴びせればいい。 何故だか、俺は。 咲夜さんに看取られて最期を迎えられるなら、幸せかなぁ……などと考え始めていた。 それで、気付いてしまった。 つまりオレは、どうしようもなく咲夜さんのコトが好きだったというコトに。 「これで最期ね。何か言い残すことはあるかしら? もう少し抵抗するかと思ったけど、何もしてこないのね」 見れば、咲夜さんはナイフを振り上げている途中だった。 ここで何も言わなければ、彼女はナイフを振り下ろすだろう。 ……だけど、そんなコトは、出来るはずがない。 「馬鹿なこと言うな。俺が、あなたの事を傷つけられる筈が無い。 それに、オレはあなたに殺されたって別に構わない。 最期まで昨夜さんの傍にいられて、オレは本当に幸せだったんだからさ これだけは最期に言っておく」 俺はな。…お前に殺されるなら、後悔なんて一つたりともないんだか…r 急に目の前が真っ白に染まり、俺の身体は地面に崩れ落ちた。 どうやら両足からの出血が予想を遥かに上回る量で、体中の血液が抜け落ちたらしい。 これがウワサの出血多量ってヤツか。 ――ナイフは、いつまでたっても落ちてこない。 当然だ。 咲夜さんは、ナイフを捨てて俺の身体を抱き起こしているのだから。 もう目の前は白一面の世界で何も見えないハズなのに、ふと瞼を開いてみると… 咲夜さんは泣いていた。 あぁ、もう少しだけ……この顔を眺めていたい。 …でも、そろそろ限界だ。 まぁ、単なる貧血に過ぎないだろう。 咲夜さんは必死に何かを叫んでいるけど、もう何も聞こえない。 ――次に目が覚めて、紅魔館か永遠亭のベッドで起きた時に、また彼女に会えると期待して 俺は瞳を閉じた。 Ending No.19 伝えられなかった想い(咲夜編) (後日談を見たければ、ノーマル以上でノーコンティニュークリアをめざそう!!) 5スレ目 823 咲夜さんにアタックをしかける事数週間 努力の甲斐あってか、遂に向こうからアプローチが来た! そう、それは激しい雨の降る日だった…… ……雨は雨でも、ナイフの雨だったけどな! 「う! あああああああああ…… ヒトゴロシーーーッ!! ハァ、ハァ、ハァ いきなり何をするんですか咲夜さん!! 死んでしまうじゃないですか!!」 「あら? 少し激し過ぎたかしら? ごめんなさい。 うふっ、あなたって案外ノーマルなのね。 でも人殺しよばわりはひどいわ。 また今度、あなたの準備が出来てから、ゆっくりと愛を確かめあいましょう、○○」 「さ、咲夜さん! そんな! それが君の愛し方だなんて! 激しいよ咲夜さん! 激し過ぎるでヤンス~~~~~~!!」 正直、反省してる だが俺は謝らない
https://w.atwiki.jp/viptoho/pages/197.html
VIP東方キャラスレ咲夜厨 【咲夜厨><】 混沌板に巣食う筆頭ホモ。詳細は個別にて。 【咲夜にしたいされたい】[消滅] 「咲夜にしたいされたい」「咲夜に○○したい××されるのもいい」という定型文句を持つ。 定型専でなく、定型を使わない普通の文章も書く。 「したいされたい」の内容は、咲夜のケツを足蹴にしたり咲夜にケツをキメられたり、マゾとサドの間を行ったり来たり。 ただ、咲夜を責めた時は多くの場合反撃されているので本質は受けであると思われる。 咲夜を呼び捨てにしない「これは咲夜さん」「スペース咲夜さん愛してる」とは多分別人。 【咲夜かわいいようふふ】[消滅] 「瀟洒な咲夜さん」「咲夜かわいいようふふ」という定型の文句をもつ。 VIP東方避難所に住んでおり、コメントも中の人を露わにして投下していた。 【ここは明らかに咲夜】[消滅] 「好きなキャラは咲夜だが… ここは明らかに○○だろう。」と書き、あとはひたすら「というわけで美鈴×咲夜のスケベ画像下さい。 」を連投する。 文脈によっては、なにが「というわけで」なのかよくわからないときもあるが、そこは定型の常である。 『○○』の中には『咲夜』があたるときも当然あり、その折は定型文章を少しばかり弄るのだが 単に忘れたのか修正するのがめんどくさいのか、たまにそのまま『咲夜』を入れることがある。 そうなると、今度は『なにが「だが」なのか?』という事になってしまい、読んでる側としては非常に収まりが悪いのだが やってる本人も違和感を覚えているようなのでイーブンである。 【スペース咲夜さん愛してる】[消滅] 宇宙のことではない。文章を書いたあといくつか改行をし(四行が基本だが、増減することも)、最後に「咲夜さん愛してる」という定型を以って〆る。 こうした一連の流れが、全体として定型を為している。パターンと言った方が適切かもしれない。 他の咲夜厨の多くに漏れず、彼もドM嗜好の人間である。 温泉の素を入れた風呂で本物を味わった気分になってそうな東方キャラ 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/05/27(木) 21 34 27.99 ID 7xOWjwbE0 [1/1回発言] きっと咲夜さんは紅魔館の従者の躾の為に様々な技を身につけている ソバットでみぞおちやられたい 咲夜さん愛してる 幸せそうでなにより。 【瀟洒な咲夜さん】[消滅] 一行目に『瀟洒な咲夜さん』と置いてから二行目以降に文を展開する。 10年以降、定型組がやや失速した頃に登場した、『定型+文章』型のハイブリッド東方厨。 某キングの言う「定型書いたあと作文してるやつら」、その一人。 文が全体的にかなりナルシスト入っていた。でも長文組の中では頑張ってたと思う。 東方キャラ「…先に行ってて。後から必ず追いつくから…」 3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 08 00 50.73 ID YG9P7yeHO [1/1回発言] 瀟洒な咲夜さん それは俺の役目だ 咲夜にはまだまだやる事がいっぱいあるだろう? 先に行くのは咲夜だ 俺じゃない 大丈夫心配はいらない すぐに追いつく 必ず 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/dgsl/pages/84.html
←陽影みちひ 迷惑ロボ2号→ 咲夜 ■性別:女 ■攻撃力:15 ■防御力:8 ■体力:6 ■精神力:1 ■瀟洒:0 ■所持プリン:3 ■特殊能力名 血とメイドの懐中時計 ■特殊能力内容 [発動率65% 成功率100%] 同マスの、特殊能力によりターン制限つきで召喚されたキャラ1体に効果。 マップ上にとどまっていられる時間を1ターン延長する(バステ扱い) 制約なし。 効果:バステ付与 バステ効果:召喚キャラをその場に引き留める 範囲:同マス一体 時間:1ターン 制約:制約なし 調整:シンプルボーナス