約 872,618 件
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/384.html
ネクスト・バトルロワイアル ◆XrXin1oFz6 場に三界あり。 一つ、監査官の住む、世界の狭間に存在する赤き世界。 二つ、時の向こうに存在する調停者の力で生まれた。時を重ね作られた世界。 三つ、二つ目の世界が生まれ変わり現れた新たなる世界。 因果律という名の神に仕える大天使ノイ・レジセイアが生み出した完全に近き宇宙。 人の希望と、絶望と、慟哭と、歓喜と、数多の魂を練り込み作った世界。 新たなる世界は、古き世界を飲み込まんと膨らみ始める。 行く末を決めることが出来るのは、今この場に居合わせた者のみ。 ノイ・レジセイアの願いが達成されるのか? ノイ・レジセイアへの反抗者の願いが達成されるのか? それとも、どちらにも属さない者たちの願いが達成されるのか? 遥かなる戦い――開幕(オン・ステージ) ■ 風が世界に吹いた。世界のすべてを駆け抜けていく一陣の風が、偽りの大地を両断する。 めくれ上がり、舞い上がる土が、盛大に土埃を巻き上げた。視界に映るもの全てを叩き割る剛剣が唸る。 「おおおおおああああああああああ!!」 青年の口から放たれる叫びが、白い魔星を揺らす。 もう戻れない。元通りなど願えない。それでも、なおその眼に眩しく映るものがあるならば。 他者と、世界と、自分を捧げてでも叶えたい願いがあるならば。 青年は、その問いに「イエス」と答えた。その選択が、自分の求めたものを汚す行為であっても。 それを知ってなお、青年は「イエス」と答えたのだ。 それは、血みどろの腕で、ウェディングドレスを抱きしめるに等しい。 けど、それでもいいのだ。 だから。 己の血を大地に流し、切り伏せた他人の血を大地に流し、それでも歩みを青年は止めることはない。 青年の視界に移るのは、黒い騎士と、赤い古鉄。 敵の姿をはっきりとその瞳に映す。 音速をはるかに超過する速度であろうとも、もはや敵を、目標を見失うことはない。 紫雲統夜は、目標に向けてのみ動く一本の剣と化した。 黒い騎士が、その手に掲げた鞭を伸ばす。追いすがる鞭を、統夜はいとも簡単に弾き落とした。 統夜の体の一部、延長であるイェッツト・ヴァイサーガが、大地を踏みしめ減速する。 普通なら、装甲や関節の衝撃緩衝が追いつかず、足が砕け散り倒れていただろう。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガは大地を離すことなくつかんでいる。 減速が一定以下になったところで、一気に再びイェッツト・ヴァイサーガが大地を蹴る。 砕けた土が落ちるより早く、背中から噴出されたスラスターが、舞い上がった土を溶かす。 目標は赤い古鉄。かつて闘ったときは、統夜の技量の低さもあって敗北を舐めることとなった。 だが、今は違う。 一瞬にして距離をゼロにし、イェッツト・ヴァイサーガが剣を振り上げる。 それを見上げる赤い古鉄は、攻めるためにあるはずの大出力スラスターを、逃げるために惜しげもなく利用した。 反撃はない。よけるだけで精一杯なほど、今の統夜の一撃は、重く、速く、鋭い。 「なぜだ……先程まで動くことすらままならない状態だったはず、それがこうも……!」 ネゴシエイター、ロジャー・スミスのいぶかしむ声を遮り、イェッツト・ヴァイサーガの投擲したクナイが、凰牙をかすめる。 クナイを投げて空になった手に再びガーディアンソードに滑り出された。 肘の部分で接続されたガーディアンソードは、手を離してもイェッツト・ヴァイサーガからは離れない。 視界の端にかすめる赤い古鉄が、五連チェーンガンを撃つ姿が見えた。 銃口が放たれる眩い光が、火薬の臭気とともに運ばれる。統夜は、身をかがめることでチェーンガンを回避する。 統夜には、分かる。外の爆発音も、火薬の臭いも、何もかもが。 「……人間をやめたのか」 じりじりと間合いを取ろうとする赤い古鉄。 思い出すのは――アキトとの一度目の戦い。 以前の統夜は飛び込むのを躊躇し、駆け引きとも呼べぬ迷いを生じさせた。 その結果、統夜は負けたことを覚えている。だから、統夜は相手の考えの一切をあえて無視し、一直線に切り込んだ。 止められるものなら、止めてみればいい。 向こうがただの古鉄から巨人の名を冠したものに変わっても、ヴァイサーガの変化はそれを上回る。 五大剣とガーディアンソードを交差させ風を集め圧縮、そして解放することで衝撃波を全体に放つ。 その衝撃波に追いつくように、イェッツト・ヴァイサーガが駆ける。 全体をなぐ五大剣の衝撃波でネゴシエイターを足止めし、同時にガーディアンソードのそれで赤い古鉄の逃げ場を防ぐ。 その上で、追撃を加える。絶対必中の確信を持って統夜は攻撃を放った。 赤い古鉄は、クレイモアの発射口こそ開いたが、動かない。 近づく衝撃波を、迎え撃つように泰然と立っている。衝撃波と言えど、イェッツト・ヴァイサーガの繰り出す技である。 当たれば、行動が一拍遅れることは間違いない。続いてイェッツト・ヴァイサーガの剣も受けることになるのは必定。 クレイモアによるカウンター狙いとしても、衝撃波の威力をアキトは見誤っている。 僅かな時間にそれだけのことを思考し、なお直撃を確信した統夜は、スピードを上げた。 もう一秒もかからず赤い古鉄にイェッツト・ヴァイサーガの両手の剣による二連撃が叩き込まれる。 そんな中、赤い古鉄が、統夜から見て向かって右の手を開いた。何をする気かと統夜は視線を赤い古鉄の手に集中させる。 (あれは、宝石?) 赤い古鉄の手の上には、小さな青い宝石が置かれていた。だが、それでどうするというのか。 視線だけはそちらに向けたまま、イェッツト・ヴァイサーガは切り込んでいく。額の角に触れるか触れないかまで剣が迫る。 そして。 赤い古鉄が消えた。 剣は空を切り、大地に突き刺さるのみ。 (―――!?) 一つだけ、アキトが統夜と闘ったとき、使わなかった戦法がある。いや、使えなかったと言うべきか。 アルトアイゼンの受領に際して、主催者側より加えられた制限があったのを覚えているだろうか。 それは、ボソン・ジャンプの禁止。故に、あの戦いではアキトはボソン・ジャンプを統夜に見せることはなかった。 だが、今のアキトに首輪という枷はない。故に。 「ゼロ距離、とったぞ……!」 左後方より聞こえる声。 さっきまで右前方にあった手に集中していたため、視線を向けるのが遅れた。 統夜が、五大剣を横へなぎ回転切りを繰り出すのと、前より肥大化したクレイモアが打ち出されるのは同時だった。 アルトアイゼン・リーゼのアヴァランチ・クレイモアの散弾がイェッツト・ヴァイサーガの装甲を叩き、 イェッツト・ヴァイサーガの剣がアルトアイゼン・リーゼの肩部装甲の一部を削り飛ばす。 「お前がゼストのような存在になったとしても同じだ」 イェッツト・ヴァイサーガの胸板に、赤い古鉄が飛び込んでくる。両者の身長差は約二倍。 ひとたび、懐に潜り込めば、有利になるのは赤い古鉄だった。 「コクピットを抜く」 手を振り上げ、打ち込む時間すら惜しいと判断したのだろう。 赤熱化した角で、赤い古鉄はイェッツト・ヴァイサーガの胸に突撃を仕掛けてきた。 アキトの言葉通り、いかにイェッツト・ヴァイサーガでも、パイロットである統夜を潰されてはどうしようもない。 しかし、浅く突き刺さったところで角の動きが止んだ。それ以上、突き込むことはない。 なぜなら、アルトアイゼンのコクピットの前にも、刃が突きつけられていたからだ。 今のイェッツト・ヴァイサーガの投擲具は、自己生成されている。その機能を使い、装甲表面に烈火刃を発生させたのだ。 大きさ故に装甲表面からコクピットまではアルトアイゼンのほうが短い。踏み込んでいれば、アキトはつぶれている。 剣をふるい、赤い古鉄を統夜は引き剥がそうとする。しかし、それより早く赤い古鉄は再び消えて、自分の背面へ。 「ッ! ちょこまかと!!」 再び振るわれる回転切り。 今度はそれをくぐり、赤い古鉄はリボルビングバンカーを五大剣に打ち込んだ。 さしものジョイントの接合部分も衝撃に耐えられず、五大剣がイェッツト・ヴァイサーガの手から離れ空を舞う。 統夜は、知らない。 アキトが元の世界で黒い王子様と呼ばれ、テロリストとして活動していたことを。 そして、そのテロ活動の間、神出鬼没であることから幽霊とも扱われていたことを。 ――アキトはボソン・ジャンプによる強襲を得意とし、短距離ボソン・ジャンプと突撃仕様の機動力で相手を撹乱してきたことを。 木連が利用するような大型機相手にも、アキトはこうやって闘っていた。 はっきり言って、イェッツト・ヴァイサーガとアルトアイゼン・リーゼの性能差は、とてつもなく大きい。 デビルガンダムと、そこらの突撃仕様のモビルファイターが闘うにも等しい。 だが、それでも。相手の手を知り尽くし、自分が最も得意とする状況に引きずり込み、相手に不利な状況を強要すれば。 その差は、確実に詰まる。 もっとも、徹底したインファイト故、援護が全く見込めない状況になるが、もともと一人で戦ってきたアキトには問題ない。 ネゴシエイターの援護なしでも、アキトは統夜に勝利するつもりでいたのだ。 「ネゴシエイター、そこで見ていろ。手を出すな」 しかし、あくまで援護が難しい状態であって、援護が必要ないわけではない。 それでも、アキトはネゴシエイターにそう通信を出した。オープンチャンネルで行われた通信のため、統夜にもそれが聞こえている。 「そうかよ! 俺なんか、一人でも大丈夫って言いたいのかよ!」 統夜を無視し、アキトはさらにネゴシエイターに声を送っている。 「ネゴシエーションと言うつもりはない。だが、こいつには話したいことが残ってる」 「俺には、あんたに話すことなんてないっ!」 イェッツト・ヴァイサーガの剣を、重量級の赤い古鉄でひらりとかわされた。 翻弄されている。 強くなったはずなのに、全てを殺さなくてはいけないのに。 それでもなお依然と同じように力が詰まっていない錯覚を、統夜は感じていた。 ガウルンにすら勝った自分。確かに強くなったという実感は何だったのか。 「テンカワ、君が何をしようとしているのはわからない。しかし、君が誠実に言葉を尽くすつもりと言うのなら……」 どうせ、この鍔迫り合い同然のインファイトでは、凰牙は手は出せない。 そう思い、血を頭に登らせていた統夜は反応が遅れた。 黒い何かしらの力を称えた球体が、イェッツト・ヴァイサーガに近付いていたことを感じ、統夜は反射的に上に飛ぶ。 しかし、60mオーバーの巨体ではいくら機敏なイェッツト・ヴァイサーガといえど完全な回避は難しく、黒球は下半身をとらえていた。 「私は力を貸そう。先程君に使った力を使わせてもらった」 イェッツト・ヴァイサーガの下半身が動かない。感覚はある。痛みはない。異常もない。 だというのに、その場に固定されている。スラスターを吹かしても、その場から動くことができない。 いや、スラスターを切っても動くことができない。偽物の星とはいえ、ここには擬似的な重力がある。 それによって起こるはずの自由落下すら起こらないのだ。 「なんだよっ! なんだよこれっ! 動け、動けよ!」 いくら操縦桿を動かしても、動くのは上半身だけ。 そもそも、下半身が固定されている以上、せいぜい腕が届く範囲までが有効範囲。これでは、どうしようもない。 アルトアイゼン・リーゼが悠々と足を進めてきた。そして足元から、イェッツト・ヴァイサーガを見上げている。 動けさえすれば、そのまま踏みつぶすこともできるのに、と統夜が顔をゆがめた時。 「テニアは、どうした?」 アキトの妙に平坦な声が統夜に投げかけられる。 嘲るわけでもない。しかし、疑問形でありながら、本当に疑問に思っているようにも聞こえない。 それは――確認だった。 テニア。その言葉を聞いた瞬間、統夜は目の前が真っ赤になるのを感じた。同時に操縦桿を傾けてもいた。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガが動くことはない。何もできないことを再度自覚し、頭が自然と冷える。 「……死んだよ」 死。 そう、テニアは死んだのだ。 その認めがたい事実を覆すため、統夜はこうして足掻いている。もがいている。 「やったのはガウルンか?」 「そうだよ、だから、どうしたって言うんだよ!?」 覆してしまえばいい。自分にとって不都合な真実は、変えてしまえばいいのだ。 今、存在している真実に意味なんてない。塗り替えた後の真実だけに、意味がある。 凰牙が、イェッツト・ヴァイサーガに背を向けた。ロジャー・スミスの声がインセクト・ケージの中に響く。 「そういうこと、か。テンカワ。しかし、それを聞くということは君も……本当はわかっているのではないか?」 「……さっきも言ったはずだ。お前には、関係ないと」 「ならば、そこの統夜には関係があるというのか? ……違うのではないかね」 「…………」 統夜には理解できない問答をしているネゴシエイターとアキトを睨みつけたまま、統夜は無言で待つ。 どんな事情であろうと関係ない。動けるようになった瞬間、目の前の二人を叩き切る。それだけに思考を集中させる。 アキトがまた口を開くのを、統夜はただ見つめていた。 「それで。お前はテニアを生き返らせたい。だからこうやって闘っている」 「そうだよ、それの何が悪い?」 統夜は悪びれない。罪悪を感じる地点はもう過ぎ去った。 手段を正当化するつもりもないが、悪いと指摘されても心は疼かない。 「人間をやめてでも、か?」 「そういうあんたはどうなんだ? まだ自分が人間のつもりか!?」 生体波動の判別すら可能になった統夜には分かる。今のアキトが、通常の人間からはるか離れたものであることが。 そもそも、いくらインファイトとはいえ、いやインファイトだからこそ、ギリギリの反射神経が何よりも重要になる。 先程の戦いでイェッツト・ヴァイサーガの攻撃を裁いたアキトの能力は、もはや人間の枠の外にあるだろう。 「いや、違うだろうな。俺自身、本当に俺が俺なのか分からない。だから、何かが足りないと感じるのかもしれない。 それでも、俺は生き返らせたい。ユリカを。ガウルンに殺された、ユリカを」 「……アキト?」 ずいぶんと親しげなニュアンスで、統夜はアキトの名前を呼んでいた。 今まで名前も呼んだこともなく、面識も薄い相手を。統夜にも、何故そんな呼び方をしたのか分からない。 一瞬、頭をよぎったのは、あのJアークに乗っていたキラだったかと、自分と、アキトの三人が顔を突き合わせて話すシーン。 だが、そんな記憶があるはずもない。そもそも、イメージのアキトは目の前にいるアキトより若かった。 「お前は、その意思が紛れもなく自分だと納得できるか? いらない誰かの横やりでないと……証明できるのか?」 似ている。 統夜と、アキトは似ているのだ。 愛する者を奪われ、復讐に固執し、奪われたものを取り戻すために生き足掻く。 今までろくに交わることのなかった、二本の線。しかし、それが描いてきた軌跡はどこまでも似ていた。 統夜は、歯を食いしばる。 ここで違うと言うのは自分全ての否定だ。 自分が本当に、純然に、純粋に自分と言えるのか。 統夜にも、分からない。統夜は、もう人ではない。さまざまな力をその身に宿した。 その力の一つが意思を持って、自分を動かしているのかもしれない。 そんな想像は、身の毛もよだつものだった。 だが。それでも。 「……だったら、何なんだ?」 テニアが大切な人である事は変わりがないのだから。 例え統夜の意思が誰かのものだったとしても、今まで自分がやってきたことは間違いないのだから。 悩み、怯え、竦み、人を切ったことに戸惑い、後悔し、何度も挫けそうになり、ようやくつかんだ温もり。 ズタボロになった心と身体を引きずりながらも、ここまでやってきた。 それを嘘にはしたくない。 人道的とか心の問題ではなく、もはや存在として人を外れたとしても、そこは嘘じゃない。 きっと、自分はずいぶんいびつな存在なのだろう。 だから、どうした。 イェッツト・ヴァイサーガが再び吠える。 固定された空間でも、なお足掻く。その行為は、統夜の生き写しであった。 空間ごとの固定のため動けない。攻撃することができない。だから、どうした。 なら、変えてしまえばいい。真実は、事実は、世界は、統夜のためにあるのだから。 「!? ……機体ごと割れるだけのはずだ、それを……!」 空間に、ヒビが走る。 ガトリングボアによる時間停止で固定された空間が割れる。空間に寄り添う形で必ず存在する時間が割れる。 イェッツト・ヴァイサーガに備わった機能ではない。純粋に力押しで、己の意思の強さで統夜は押し通る。 そこにはもう、うずくまり、泣いていた少年の影はなかった。 「ヴァイサーガ……フルドライブッッッ!」 そして時は動き出す。 この一歩は時間より早く、光より速い。連続で放つ必要はない。 すれ違いざまの一刀で十二分。放つは絶技、ヴァイサーガの必殺剣。 「光」 再び、ネゴシエイターが腹の猪型のガトリングガンを向ける。 「刃」 しかし、それが放たれるより早く、ヴァイサーガは接近している。 「閃」 煌めく剣筋が、袈裟がけに凰牙に刻まれる。 「斬ッッ!」 ギリギリで一歩下がったため、深くは入らなかったか。もともと、無理な姿勢で放った一撃だった。 それでも、十分だ。凰牙の厄介な兵器は一刀の下、砕け散ったのだから。 たたらを踏む凰牙に、なおも剣をひるがえして切り込むイェッツト・ヴァイサーガ。 タービンの回転により力を受け流され、刃をいなされる。 しかし、その衝撃は凰牙の手に握られていた斬艦刀を弾き飛ばした。 背後から来る気配。 即座に統夜は、失った五大剣の代わりとして空中に浮かびあがった斬艦刀をつかみ、横に体を回しながら振り向いた。 「覚えたぞッ!」 背後まで剣を振っても、まだ止まらない。 そのまま、自分が元々向いていたほうへ、一回転するかたちで剣を振る。 「一度戦った相手には! もう絶対に負けなあああああああいィィィ!!」 「……ッ! 跳躍を読んだ!?」 中空に身を投げているアルトアイゼン・リーゼに逃げ場ない。 咄嗟に左手を盾にしたのが見えた。だが、それごとイェッツト・ヴァイサーガの剛剣は叩き切る。 左手、左肩、頭部。踏ん張りが利かない以上、剣の衝撃が伝えにくい空中でさえ、重装甲の赤い古鉄をやすやすと切り裂く。 飛び石のように地面を跳ねながら、赤い古鉄が遠くに弾き飛ばされる。 「くっ! まだだ!」 「それも、もう見た!」 思い出すのは―-ロジャー、ソシエをガウルンごと切ろうとした戦い。 僅かに右手が持ち上げられる。それだけで統夜は凰牙が次に何を行うのかを理解した。 左腕に誂られたタービンが高速回転を起こし、風を巻き上げる。 だがそれは、ネゴシエイターたちを奇襲した時に、既に見ている。 あの時は、先に撃ったのが自分で、阻んだのは凰牙だった。 今度は、逆。 イェッツト・ヴァイサーガが、両腕のねじりを加えながらまっすぐに剣を突き出す。 それによって一方向に纏まり、円を描き、急速に風は勢力を増していく。 凰牙から放たれた風の竜巻、『波動龍神拳』が、吹き荒び渦を為す風の障壁『風刃閃』によって打ち消される。 二つの竜巻がぶつかり合い、猛烈な突風を起こした後に流れるのは、そよ風のみ。 そんな僅かな静寂の中、凰牙の右腕が地面に落下し、重苦しい音を立てた。 「ぐっ……!?」 「風刃閃・双牙……!」 本来なら、片腕に重心を乗せて放つ両者の技。 しかし、イェッツト・ヴァイサーガは力に任せて両腕から風刃閃を放った。 もう一つの風刃閃は、竜巻を放たぬ凰牙の右腕を、根元からえぐり取っていた。 肩からは紫電が走り、切り口からおびただしい緩衝材の液体を噴出させ、凰牙が膝をつく。 赤い古鉄に視線を向ければ、ぎこちない動きで立ち上がろうとしていた。 いかに重装甲言えど、フレームのどこかが歪みでもしたのかもしれない。 一瞬の、形勢逆転。 イェッツト・ヴァイサーガの装甲が湯気を立てる。すると、装甲の傷が閉じていく。 その様子は、生物の新陳代謝によく似ていた。内部から、裏返るように装甲が盛り上がり、内部に食い込んだクレイモアの破片を排出する。 暗い青の装甲は、ラズムナニウムにより再生能力を獲得していた。 赤い古鉄の姿が消えた。また跳躍したということか。 急に眼の前に飛び込んできた赤い古鉄。統夜はそのスラスターの輝きを確認し――そっと身を引いた。 赤い古鉄の杭打ち機は、『統夜の目の前にいるイェッツト・ヴァイサーガ』に当たり、すり抜けた。 ヴァイサーガの力を完全に引き出すことで可能にした能力、『分身』。 思い出すのは――白銀の可変機、真・ゲッター2と戦ったときと、インベーダーと戦った時のこと。 足を止めず小刻みに動き、残像を残すことで、的を絞らせない。 本体が分からなければ、下手な跳躍は無防備な姿をさらすだけだ。 統夜の思った通り、アキトはネネゴシエイターと背を合わせ、周囲を警戒するばかりだ。 統夜は、誰よりも闘った。そして、生き延びてきた。 アキトやガウルン、シャギアにジョナサン。そういった手合いに何度となく敗北し、鍛えられてきた。 精神的な伸びしろではキラ・ヤマトもいる。潜在能力ではシャギア・フロストも。 しかし、純粋な戦闘能力に関してだけ言えば、紫雲統夜は誰よりも成長した。過去戦った相手を、ガウルンすら下すほどに。 その成長は、止まっていない。新たな戦い方を見せられれば、それを学び、対処法を編み出す。 そういった天賦の才も持っていた。 左腕を失ったアルトアイゼン・リーゼと、右腕を失った凰牙が背中を合わせた結果、両機とも腕を持たない側面が生まれた。 そこに統夜は烈火刃を投げ込み、分断を図る。しかし、敵同士であったはずの二機は、ぴたりと背中を合わせ離れない。 生き残るためなら咄嗟に手を組むあたり、一流の戦士である証明と言えるだろう。 統夜は、このまま攻め続ければ確実に勝利できた。 牽制とはいえイェッツト・ヴァイサーガの攻撃ならば、風刃閃を含み十分に防御の上から削り殺すことができたのだ。 だが、統夜にはあまり時間がない。いや、あるのだがここまで来たのだから一刻でも早く目的を成したい、 そして、真の敵、最も強く警戒すべきはノイ・レジセイアであり、ここで躓いている暇はないという意識が心の奥でわずかにあった。 故に、統夜は動いた。 腕を失った側面から、最大最速の攻撃である光刃閃で再び切り込む。 向き合う時間など与えず、二機まとめて両断しようという、シンプルで、それでいて強力な戦法。 ラーゼフォンすら撃墜し、真・ゲッターもコクピットまで切り裂いた。ガウルンを下したのもこの変型。 エネルギーの問題が進化により解消された今、統夜が一番信用する業である光刃閃を何度も選択するのは当然だった。 「コード・光刃閃……!」 極度の集中で、引き伸ばされる時間。ヴァイサーガの身体が、矢へと変わる。 掌に刃の重さを感じ、足場を踏みしめ、ヴァイサーガは音を超え、一筋の閃光となって突撃した。 対処する時間すら与えない一撃が二機に迫る。 「やはり、そう来ると思っていた。だからこそ、やりようもある!」 凰牙は、こちらを向いていない。当然だ、向く時間などないのだから。 だが、統夜は見落としていた。相手の腕のない側面から仕掛けるとなれば――もう片方、腕がある側は死角になるということを。 のたうつ紫の光線が、凰牙の左腕側、死角となったところから伸びる。 イェッツト・ヴァイサーガは身をかがめそれを紙一重で回避しようとする。 しかし、光線はさながら野球のフォークボールのように落ちた。 統夜は反射的に剣でそれを防ごうと手を上に突き出した。 今度は剣の直前で曲がると、そのまま腕を這うように回転し、締め付けてくる――! それがバイパーウィップという名であることを統夜は知らない。 しかし、これが自分にとって致命的な何かをもたらすことは理解する。 ぐしゃり、とイェッツト・ヴァイサーガの腕が割れた。 フィードバックされる痛みよりも、必倒の剣である光刃閃が潰されたことに統夜は眼を一瞬見開いた。 手からこぼれ落ちるガーディアンソード。さらに、勢いよく飛び出した体は、鞭のため二機の直前で停止。 目の前には、鞭となった片腕を全力で支え踏ん張る凰牙と、杭打ち機のついた右腕を掲げた赤い古鉄。 「抜き打ちだ。……いくぞ」 あの時は、統夜の逃走によりつかなかったヴァイサーガとアルトアイゼンの抜き打ち勝負。 アルトアイゼン・リーゼの左腕がまっすぐと伸びる。 もう一方の手に握られていたイェッツト・ヴァイサーガの斬艦刀が、下から跳ね上がる。 リボルビングバンカーがイェッツト・ヴァイサーガのコクピットの半ばまで食い込む。 イェッツト・ヴァイサーガの斬艦刀が横からコクピットを両断しようと近付く。 そして―― 「……ここまでか!? だが、まだ――!」 コンマ数秒の差で統夜は勝利を確信する。だが、同時にアキトもまた敗北を悟ったのだろう。 統夜の予想した「真っ二つに砕け散るアルトアイゼン・リーゼ」という光景が訪れることはなかった。 次の瞬間、目を焼く蒼い輝きが周囲にまき散らされ――凰牙とアルトアイゼン・リーゼは統夜の目の前から消失していたのだから。 空間跳躍かと周囲を見回すが、何も起こらない。本当に、その場から二機とも忽然と消えた。 生体波動も、感じることができない。それは、この世界のどこにもいないことを示している。 「どこに消えたんだ……?」 その統夜の呟きも、どこにも届かず消えていくだけだった。 「まあ、いいさ……絶対に倒さなきゃいけないのは……」 一番大きな力を持つ、ノイ・レジセイア。そして、それに匹敵する命の輝きを持つ何か。 そのためには、足を止めている暇など統夜にはない。統夜は、受けたダメージを確認する。 残念だが、片腕は即座に再生は不可能。簡単なものをつかむことはできるが、刀を振り回すだけの握力は戻っていない。 両手に刀を持つことはできないようだ。ガーディアンソードはまだ肘にはジョイントされているが、使用は難しい。 だが、それ以外はまだ再生の範囲内。 手の中にある斬艦刀を統夜は、イェッツト・ヴァイサーガは握りなおす。 目指すは、この星の中心へ。さらに深い、奈落の底へ。 ただ、地獄の果てに希望を夢見て。 ■ 「――断る」 デュミナスに対する、ノイ・レジセイアの答えは非常に短いものだった。たった、四音。文字なら二文字。 ノイ・レジセイアの答えを受けて、デュミナスと名乗ったAI1は次元の裂け目から露出している体を小さく震わせた。 「何故?」 問い返すデュミナスの言葉に答えることなく、ノイ・レジセイアの体は深紅の幽鬼に吸い込まれて消える。 ペルゼイン・リヒカイトの瞳に燃えるような輝きが灯った。仮面と仮面がずれ、骨がきしむような音が鳴る。 そこから生えるのは、一本の大太刀。 さらにきしむ音は止まらず、今度は両肩から浮かんでいた仮面から本体と同じ深紅色をした骨の手と体が現出する。 指揮者の指揮棒のように、振り上げた大太刀をノイ・レジセイアとなったペルゼイン・リヒカイトが振り下ろす。 瞬間、轟音とともに人魂を束ねて燃やしたか如き炎が次元の裂け目に殺到した。 「何、故?」 再び、デュミナスが問う。 次元の裂け目が広がり、濁った桃色の巨大な拳が現れた。 掌の中心に瞳の文様があしらわれたそれを前に差し出し、ノイ・レジセイアの炎をデュミナスは受け止める。 「完全な世界……完全な存在……そうなるための世界……お前は」 大太刀をまっすぐにデュミナスに向けて、一言。 「完全ではない。完全な存在ではない。不完全」 その言葉に、デュミナスが動きを止めた。完全ではない。不完全である。それが、デュミナスにとっての呪い。 あのお方にかけられた呪いを、ノイ・レジセイアに突き付けられ、一瞬思考がフリーズした。 自分が、過ちである。間違いである。それがデュミナスは嫌で嫌でたまらない。 「あなたも……私をデュミナスと……不完全と呼ぶか……なら……」 次元の狭間を引き裂き、デュミナスの全貌が明らかになる。 四つの巨大な掌。下半身はなく、先細る円錐のみが備わっている。そして円錐の先端と、胸に当たる部分には巨大な瞳。 胸にある二つの瞳の上には三つの顔。全身から伸びる黒白の触手が五本。全身の基本カラーは、淀んだ桃色。 かつて、メディウス・ロクスだった時は比べモノにならない醜悪な姿だった。 見るだけで言いようのない不安を増大させ、まるで調和の取れていない肉体はまさに『不完全』。 「私はあなたを取り込むことで完全となろう……そして世界とも交わり究極となろう……」 「もうすぐ生まれる……完全なる世界……何故……その完成を待てない……?」 言葉というお互いの認識を深めるための道具を用いながらも、それは会話ではなかった。 お互いの目的、理由をただ呟くばかりの意味のない単語の羅列にすぎない。 当然だ、なぜなら両者とも人間ではないのだから。 他者という存在を本当に理解する気などどちらにもない。 故に、この衝突は必然。 無から有を、大量の骨の形をしたナニかをノイ・レジセイアは精製し、次々に射出。 しかし、デュミナスはそれを空間に穴をあけることで回避した。 同時にデュミナスは腕の質量を増大させ、両側からノイ・レジセイアを挟みこもうとする。 だが、その手よりも大きな手が全体を包むように顕現。ウアタイル・スクラフトが、デュミナスの腕をいとも簡単に防ぐ。 ないものを、あるものに。小さなものを、強制的に大きなものに。物質が伝導する空間自体を捻じ曲げ、攻撃を変える。 白き魔星を揺るがす二つの超存在の激突は、もはや人間の理解を超えたものだった。 そんな足元を這う、二つの人型。 自分の身長の二倍はあろうかというサイバスターを抱え、よたよたとブレンが地を這う。 元々、目もくらむ閃光で一時的に昏倒していただけのアイビスは、すぐに目を覚まし動くことができた。 しかし、カミーユはそうもいかない。意識こそあるものの、限界を超過してしまったことは間違いない。 機体を立たせるだけで精一杯。闘うなどできそうにもなかった。 「くそっ、くそっ……ここまで来て……ッ!」 カミーユの声は、悔しさで震えていた。アイビスは、無言のままブレンに動くように意思を飛ばす。 アイビスにも、分かる。あの主催者とAI1が、どれだけ桁違いの力を持っているのか。 もし、あのカミーユのコスモノヴァが決まっていれば勝てたのかもしれない。 アイビスは、あの光で気を失ってしまった。 そのため細かい顛末はわからないが、ノイ・レジセイアが無傷である以上いなされたということだろう。 間違いなく、こちらの最大最高の力であるカミーユの一撃すら通用しない。 ブレンのエネルギーが少なく、 サイバスターのほうはと言うとエネルギーだけでとどまらずカミーユの自身の精神まで限界近い今、勝てる見込みはほとんどない。 「ロジャーと一旦合流しよう。それに、あの化け物がお互い傷つけ合って倒れてくれれば……」 それしか勝ち目はない。こちらの持てる力すべてを結集させ、双方、もしくは生き残った片方が弱ったところを叩く。 最終的な勝利のための戦略的撤退と言えば聞こえはいい。しかし、事実上の敗走であることを二人は理解していた。 アイビスは、一度だけ振り向いた。そこには、デュミナスと名を変えたAI1の威容。 ユーゼスが育て、生みだした怪物。それが、今はこうやって自分たちが逃げる盾になっている。 ノイ・レジセイアと直接向かい合って闘える数少ない戦力になっている。 味方とは言い難いが、認めなければいけない事実。 自分たちの敵であり、自分たちを殺し、AI1を成長させようとしたユーゼスの遺したものが自分たちを守り、闘っている。 両者ともこちらなど見ていない。意識を向ける必要もない、殺す価値すらない、そうきっと思っている。 サイバスターがスラスターを吹かせるのに合わせて、ブレンが浮き上がる。 このまま、ひとまず脱出できるとアイビスは考えるが、 「いかせはしない……」 デュミナスの4つある手の一つから、濁った桃色の光球が放たれる。 それはブレンとサイバスターの前に着弾するも、爆発することはなかった。 しかし、 「……な」 光球は見る見るうちに巨大化し、球の表面に人型の影が浮かび上がる。 急いで逃げようにも、登り口は球の後ろ。素通りすれば、この球に背中を見せることになる。 もしも何か起こったときに対処しなければならないという気持ちがアイビスの足を止めてしまった。 球の中から、長大な爪が姿を現した。球をばらばらに引き裂き、中にいる自分を外へと産み落とす。 「あの姿になる前の……メディウス・ロクス……ッ!」 カミーユが絞り出すような声で目の前に現れたそれの名を呼んだ。 確かに、それはアイビスの知るメディウスによく似ていた。ただ、大きさはアイビスの知るそれの半分で、下半身も人型のものだ。 胸の中心にあるべき深紅のコアはなく、そこにはぽっかりと空洞が広がっていた。 「サイバスター……その力は、あのお方が欲した完全へ至る力の一つ。逃がすわけにはいかない。 『私』に代わり『かつて私』だった『私』があなたを手に入れる」 目の前から聞こえてくるのは、AI1、いやデュミナスの声。 「狙いは俺か……!」 「あなたではない。あなたの乗るサイバスターこそが、私の求めるもの」 デュミナスの分体となったメディウス・ロクスが肘から伸びた角を投擲する。 思考が追いついていないアイビスを突き飛ばし、カミーユのサイバスターがディスカッターで受け止めた。 だが、サイバスターはあっけなく吹き飛ばされる。どうにか空中で姿勢を立て直すのがやっとだ。 ふいに、カミーユがせき込んだ。通信でカミーユを確認すると、その口からは血が滴っている。 「カミーユ!?」 「あいつの狙いは俺なんだ。先に行ってくれ」 「でも……ッ!」 「早く行けよ! やらなきゃいけないことがあるんだろ!」 荒い息をつき、胸を抑え、それでも目だけは不屈の意思を宿して。歯を食いしばってアイビスにカミーユが叫ぶ。 サイバスターのほうが本来戦闘力は上だが、今やカミーユもサイバスターも限界だ。先程のうち打ち合いだけでも見てとれる。 だから、本来アイビスが前に出てどうにかしなければならない。だが、カミーユはアイビスに先に行くように促している。 あのメディウス・ロクスがカミーユ、というよりサイバスターを狙っているのはわかる。 おそらく、アイビスだけが行く分には邪魔はしないと読んだのだろう。 「早く!」 カミーユの声にせかされ、アイビスはバイタルジャンプを使い一瞬でメディウスの背後に移動する。 メディウスはこちらを追撃する様子はない。どうやら、本当に狙いはサイバスターだけのようだった。 ブレンがソードエクステンションを構え、その背中へ照準を合わせ、引き金を引いた。 しかし、それはメディウス・ロクスを中心に発生した球形のバリアによってあっさりと阻まれた。 今の自分では力になることができない。そう認識してアイビスは唇をかんだ。 「すぐに戻るから! それまで……」 「分かってるさ、こんなところで死んでたまるかよ」 サイバスターとメディウス・ロクスの激突を背に、ブレンはどこまでも続く暗い縦穴を登っていく。 その先に希望があることを信じて。 →ネクスト・バトルロワイアル(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/376.html
Advanced 3rd ◆VvWRRU0SzU ワインレッドのカラーリングも眩しいF91がJアークの甲板に降り立った。 まるでストライクとその兄弟機、ストライクルージュのようだとキラは思った。 「シャギアさん、来てくれたんですね!」 「別にお前達を助けに来た訳ではない。私は私で、奴らに借りを返さねばならないだけだ」 油断なくゼストとダイゼンガーを見据え、シャギアは戦況を確認する。 ロジャーとアイビスは統夜とテニアに抑えられている。こちらの増援には来れそうにない。 アイビスはともかく、ロジャーの方は劣勢に見える。 同じ陸戦機ではあるが、騎士凰牙とヴァイサーガでは機動性に差があるためかロジャーは統夜を捉え切れてはおらず、細かな損傷が増えていくばかりだ。 なんとか持ち堪えているのは鞭の持つ固有能力らしい幻影、そしてロジャーの腕のおかげだろう。 そして仇たるテニアは、アイビスが技量的に上回っているためかこちらは優勢だ。 しかし時間稼ぎを目的とするテニアと仲間の救援を焦るアイビスでは精神面で前者が勝っている。 どちらも決め手に欠けているというところだ。 次に、眼前のゼストとダイゼンガーを観察。 いくらシャギアが新たな力に目覚めたとはいえ、この二機を同時に相手にするのはきつい。 Jアークの援護があるとはいえ、もう一機は欲しいところだ。 と、遠方で戦っていたサイバスターがこちらへと接近してくる。アキトを撃破したのだろう。 カミーユがここに加わればユーゼス・ガウルンの撃破も可能かもしれない。 だが、先のキョウスケとの戦いでそうだったように、カミーユとシャギアの全力は消耗が大きい。 ユーゼスの機体がキョウスケ並の力を持っているのなら、身動きが取れなくなったところをガウルンに狙われるかもしれない。 やるのなら一撃必殺。ユーゼスとガウルン、もろともに一撃で葬り去るしかない。 Jアークに保管されている反応弾。あれなら可能なプランだが、当然の帰結として爆心地にいるシャギア達も吹き飛ぶことになる。 条件はユーゼス達の機体を破壊するだけの力を持ち、攻撃範囲を任意で指定でき、その上こちらの消耗が少ない――そんな攻撃。 (早速、『アレ』が役立ちそうだな……!) 味方の機体にのみ通じる回線を開く。 ここから先は連携で勝負だ。 「こちらはシャギア、作戦を伝える。 カミーユ、下の統夜とテニアを抑えろ。ロジャー達では分が悪い。 ロジャー、お前は私と共にユーゼスとガウルンを抑える。 キラ、引き続き後方から援護。ただしエネルギーを消費する兵装は使わず言って一定量を確保しておけ。 そしてアイビス、君は一時後退、指定するポイントへ向かえ」 矢継ぎ早に指示を下す。アイビスの機体に座標を転送。 どう言うつもりだ、という声も上がらない。それなりには信頼されていると考えていいだろう。 サイバスターが進路を変更し、凰牙と渡り合っていたヴァイサーガへと斬り込む。 追従していたフラッシュシステム――ファミリア、がテニアを牽制し、その隙にロジャーとアイビスが離脱。 Jアークが後退し、空いた位置をF91が埋めその下方に凰牙が滑り込む。そしてブレンが虚空に消えた。 「おいおい、あんた何でそこにいるんだ? 俺はてっきり、弟を生き返らせようとしてるんだと思ってたんだがな。 それとも死んだ奴の事なんてどうでもいいってか? 薄情な兄貴だねぇ」 「貴様に私達兄弟の何がわかる。たとえ貴様がどう思おうと私の意志は変わらん。それにオルバの事ならお前が心配する必要はないさ。 ――そう、貴様らをオルバと同じ所に……いいや、欠片一つ残さずその存在を消し去ってやるのだからな!」 F91が両手に抜き放ったビームソードとサーベルが唸りを上げる。 過剰なエネルギーを供給され、そのサイズは三倍近くにまで膨れ上がった。 Jアークがゼストへと艦砲射撃を開始し、地を疾駆する凰牙が鞭とハンマーで注意を引く。 フリーになったF91は同じく孤立したダイゼンガーへ。 「動きが鈍い……そこだッ!」 ダイゼンガーはF91の三倍近いサイズ。機動性では遥かにF91が勝る。 一気に懐へ飛び込まれたガウルンは、舌打ちしながらナイフ型へ変形させた斬艦刀で迎撃を図った。 液体金属の剣と荷電粒子の刃がぶつかり合い――拮抗する。 パワーで勝るダイゼンガーは片腕で斬艦刀を振るっているのに対し、F91は両腕でなんとか抑え込んでいる状態。 ガウルンは残る左腕を握り込み、鋭いフックを放つ。 F91は急上昇し避けるが、そこはダイゼンガーの肩にマウントされた熱線砲・ゼネラルブラスターの射線内。 「喰らいなッ!」 「貴様がだッ!」 シャギアの仕込んだ一つ目の『切り札』、発動。 F91の腰部にマウントされた、六基の円盤状フィールドジェネレータ――プラネイトディフェンサー。 それが一気に弾け、F91の前面へと展開。 円盤は互いに位置を調節し、電磁領域を発生させる。 そこにF91のサイコフレームの共振――人の心の光が加わり、莫大な量のエネルギーが流れ込む。 F91がビームシールドを展開し、その周りを周回するディフェンサーが加速、やがて一つの障壁となる。 自身の全長を超える障壁を盾に、ゼネラルブラスターの只中へ突っ込んでいくF91。 ガウルンからは見えなかっただろう。 インベーダーの群れを百単位で消し飛ばす熱線砲の中を、黄金に輝く盾を構え正面から抜けて来るF91の姿など。 「何ィッ!?」 そして、唐突にダイゼンガーの眼前に現れたF91の両手にはヴェスバーの砲門が。 高速で連射されるビームがダイゼンガーの全身に着弾し、フィードバックする痛みがガウルンを灼いていく。 「が……ああああッ!」 「ここまでだ……消えろ、ガウルンッ!」 動きの鈍くなった――その厚い装甲から考えれば、不自然なほど――ダイゼンガーへ、再度抜いたビームの刃を振り下ろす。 「まだ……だぜッ!」 間一髪、その太刀筋の上に斬艦刀が滑り込みF91の刃が押し留められた。 ぎりぎりと、サイズの小さなF91が押し込むという奇妙な形の鍔迫り合いになる。 「クククッ……いいねぇ、ゾクゾクする。あんた、俺の想像とは違うが随分やるようになったじゃねえか」 「褒め言葉だと受け取っておこう。そういう貴様は、機体が変わった割に使いこなせてはいないようだな?」 攻撃を受けた直後や行動に移る瞬間、一呼吸停滞する機動についての事だ。 機体の問題ではないだろう。あの動き、どうもパイロットがまるで自分の身体を操る事に違和感を感じているように見える。 「まあ、ちょいと事情があってな。このまま殺り合ってもいいんだが……残念な事に俺のお目当てはお前じゃないんだな、これが」 「ふん……逃がすと思うのか?」 「最初に会った時なら無理だったろうがな、今のお前ならこうすれば――」 ナイフが大剣へと変化した。 来るか、と思って身構えると、 「――何ッ!?」 大剣が、槍のように『発射された』。 一直線に迫る剣を横に回避。当然、加速のついた剣は彼方へと吹き飛んで行く。 何のつもりだと訝しむ。唯一の武装をこうも簡単に手放す、その訳を。 ビットのように遠隔操縦できるのかとも思ったがそうではない。あれはただ、本当に投げただけだ。 一度発射すれば、突き進んで何かに当たることしかできないはず。 (待て……私の後ろにはッ!?) 振り返る――その先にはJアーク。ユーゼスとの戦いに集中し、迫る大剣に気付かない。 あれ自体は熱を発していないのだからレーダーにも反応しないのだろう。 舌打ちし、F91に後を追わせる。まずいことに剣先はまっすぐブリッジを狙っている。 後方のダイゼンガーを警戒しディフェンサーを配置したが、攻撃は来ない。 (何を考えている……? チッ、しかし今は!) 意識を集中し、ヴェスバーを高速モードに設定。 剣の進路を予測し、ブリッジの20m手前という位置で―― 「間に合えッ!」 発射。 矢のようにJアークを狙った斬艦刀の進路に、それ以上のスピードでビームが割り込む。 一発目。微動だにしない。 二発目。剣先が揺らぐ。 三発目。震動が刀身に伝わった。 そして四発目、ようやく芯を捉えた砲撃は剣に推進力とは異なるベクトルを与えその進路を乱す。 斬艦刀は半端な角度でJアークに衝突し、その船体に喰い込むことなく落下した。 息を吐く間もなく振り返る。だが、同時に違和感も感じていた。 ガウルンがこれだけの隙を見逃すほど間抜けだとは思えない。 なのにシャギアはまだ生きている。追撃らしい追撃もなく、どころか振り返った先にはそもそもガウルンの機体がない。 いや、遠目に後退していく鎧武者が見えた。その方向には統夜もテニアもいないはずだが。 「撤退した、のか? 奴が退く理由などないはずだが」 「シャギアさん、特機が急速に離脱していくのを確認しました。撃破したんですか?」 「いや、押してはいたがそこまでの損傷を与えていないはずだ。何か策があって退いたと見るべきだろう」 「そうですね……でも、とりあえずあの機体は無視していいと思います。こちらの戦闘に加わってもらえますか?」 「了解した」 常になく大人しいガウルンに言い知れない不気味さは感じるものの、あれだけ離れれば致命的な行動はとれないはずだ。 核や長距離砲撃ができる機体ならまだしも、Jアークの甲板に転がっている剣を見るにあの機体は剣戟戦用の機体のはず。 キラの言うとおり、今はより具体的な脅威であるユーゼスを排除する時。 話している間もJアークからは絶えず砲撃が行われているが、ゼストに目立った損傷はない。 それはこちらも同様なのだが、ユーゼスはガウルンにそれなりの期待をしていたのだろう。だから積極的に攻めてこなかった。 しかしそのガウルンがいなくなったとなれば本気で来るはずだ。 ロジャーに無茶を強いた分、ここからシャギアが巻き返さねばならない。 凰牙が飛ばしたハンマーを掴み、ゼストが逆に引っ張り返すのが見えた。 パワーで劣る凰牙はまるで畑の野菜のように引き抜かれ宙に舞う。 腹の砲塔から放たれるダークマター――おそらくはシャギアが乗っていたヴァイクランのべリア・レディファー――を、伸ばした鞭をゼストに巻きつかせ強引に軌道を変えて避ける凰牙。 だがその際ハンマーが巻き込まれ、一瞬で灰燼に帰す。 見て取ったシャギアは咄嗟に斬艦刀を拾い上げ、F91の全身を回して遠心力で持ち上げる。 重さが圧し掛かってくる前に加速。甲板から飛び出すぎりぎりの位置まで加速し、 「受け取れネゴシエイター!」 放り投げた。 大車輪のように回転する大剣がゼストの表面装甲へと突き立った。 そこへ凰牙がゼスト自身の身体を滑り落ちてきて、明らかに自身の全長を超えるサイズの剣へと『着地する』。 落下の勢いを活かし、刀身を蹴り付けた凰牙。 刀身それ自体の切れ味に加え重量400tを超える荷重が高速で圧し掛かり、強固なゼストの装甲をバターのように斬り裂いていく。 「き、貴様らぁっ!」 「どれほど強力な機体に乗っていようと、肝心の中身がお前ごときではな。手を抜いたままで我らを踏み潰せると思ったのか?」 「力に溺れる者はより強い力にて打ち滅ぼされ、呑み込まれる。あなたのことだ、ユーゼス・ゴッツォ」 着地し、斬艦刀を担ぎなおす凰牙。不思議とその姿は様になっているように見えた。 Jアーク、F91、凰牙の三機と相対し、ゼストは確実に疲弊している。 もちろんこちらの消耗も少なくないものの、アキトが敗れガウルンが撤退した今、流れは確実にシャギア達の側にある。 一気に決着をつけようと、無言の内にロジャーとキラがシャギアとタイミングを合わせ動く。 Jアークの反中間子砲が、ミサイルが。 F91のハイパービームソードが、ヴェスバーが。 凰牙のバイパーウィップが、斬艦刀が。 嵐のような攻撃がゼストの全身を少しずつ、だが確実に削り取る。 その渦中――ゼストの中心部で、ユーゼスは、 「……クク、クハハハハッ! いいだろう、認めようではないか。確かに私が甘かった、君達の機体を破壊しない程度に手を緩めようなどと。 これほどの傲慢、私も少々奢っていたのかも知れぬ。まだまだ甘い、目の前のご馳走に我慢できないようではな」 「……降伏する、という事ですか? 協力してくれるというなら、僕達もこれ以上は」 「降伏? フフフ……有り得んな。断じて、否ッ! この私の往く道に後退などないッ! 取り込めんと言うなら仕方ない、全て消し飛ばすまでッ! これだけは使いたくはなかったのだがな……貴様らがそうさせたのだ! 後悔する時間も与えん! 塵一つ残さず――砕け散るがいいッ!」 ゼストが、両腕の爪を伸ばし突き立てる――自身の胴体に。 鋭い刃が装甲を割り、吹き出る体液。否、流体状のラズムナニウム。 巨獣が苦痛の咆哮を上げる。それはまるで、この痛みすらも怒りに変えてお前達に叩き込むという決意の表れのようにも見えた。 「なんだ……何をしているのだ!?」 「キラ、敵機に強力なエネルギー反応を確認した。六つ……、六つのエネルギー源が露出するぞ」 トモロの言葉通り、ゼスト自身の詰めにより強引に割り開かれた胸部から六つの輝きが見えた。 一つ一つが戦艦を動かすに足るエネルギーを発している、円柱形の物体。 それはJアークのデータに残っていた『あるもの』と一致する。 そう、ネルガル重工が建造したオーバーテクノロジーの塊、地球と火星を股に掛けその名を馳せた名艦。 ――ナデシコ級一番艦『ナデシコ』。その心臓部、相転移エンジンと核パルスエンジン。 「テトラクテュス・グラマトン……!」 蒼い輝きが二つ、紅い輝きが四つ。 内部に埋め込まれていたそれらが強引に引っ張り出され、轟音を鳴らしながらその位置をずらしていく。 一つ目の蒼を上に、右下と左下に紅が二つ。 二つ目の蒼を下に、右上と左上に紅が二つ。 互いに繋がる輝きが形成するはヘキサグラム――六芒星。 「空間そのものに干渉する相転移砲の力を以ってすれば、貴様らなど木端も同然! 消し飛ぶがいい!」 ゼストが発するプレッシャーが爆発的に増加する。 その力――Jアークと、サイバスターと、F91と、あるいは先のキョウスケ・ナンブの機体が巨大化したものと。それらを足し合わせたとて届かない――! 「何だ、あの力は……!?」 「エネルギー反応、更に増大。あれが解き放たれれば、このエリア一帯は軽く吹き飛ぶぞ」 「こんな力があるなら……あのゲートだって破壊できるはずなのに! どうしてあなたは!」 「言ったはずだ……これだけは使いたくなかったと。ナデシコから奪った動力炉をフルに使い、それでも一発しか放てない。 一度撃てば蓄えたエネルギーは枯渇し、この形態を維持する力すらなくなる。それだけのエネルギーを喰うのだ。 撃った後に倒される可能性があるから使えなかった――逆に言えば、この一撃で全て消し飛ばせばいいだけの事……ッ!」 「ここにはあなたの仲間が、統夜やテニアだっているんだぞ! それなのに!」 「統夜、テニア、ガウルン、アキト……ふん、所詮は捨て駒だ。私に並ぶ者など――『あの男』を置いて、他にはいないのだッ!」 「貴様一人であの主催者を倒せるとでも思っているのか!?」 「フフフ……その事も考えているさ、ちゃんとな。ネゴシエイター、貴様の持つデータウェポン。その本質は電子生命だ。 たとえ貴様の機体が砕け散ったとしても、物質に干渉する攻撃ではデータウェポンは傷つかない。 貴様という契約者がいなくなればデータウェポンは解放される。どこにいるか知らぬがもう一人の契約者の娘も探し出し、始末すれば……! 銀河を支配する力を持つデータウェポンは全て私の物となる! その力があればゼストは必ず超神へと進化する――絶対の存在となるのだ!」 六芒星が放つ光はいよいよ強まって、今にも溢れ出しそうになる。 止めようとした気配を察したユーゼスは、 「フハハ……無駄だ! これだけのエネルギーが収束しているのだ、貴様らの貧弱な武装では貫けはせん!、」 「キラ、奴の言う通りだ。あのエネルギーは物理的な攻撃をも遮る障壁だ。生半可な攻撃では突破できん。 最低でもサイバスターのコスモノヴァ並の火力が必要だ」 「凰牙のファイナルアタックでは無理なのか!?」 「ダメだ。突破できなければそのエネルギーすら滞留し、奴の力となる。一撃で破壊しなければ」 「じゃあ、カミーユを呼ばないと!」 「待て、あの力は多大な消耗を強いる。今彼に抜けられる訳にはいかん」 カミーユへと連絡しようとしたキラを、一人冷静なシャギアが制止する。 カミーユは今も統夜と剣を交えている。 一体この短時間に何があったのか、蒼い騎士は風の魔装機神と互角にやり合うほどに鋭い動きを見せていた。 剣を交わしたと思えばその姿は陽炎のように揺らめき、サイバスターの背後に。 カミーユのセンスと抜群の機動性を持つサイバスターだからこそその加速についていく事ができる。 地上の、しかも接近戦に置いてはヴァイサーガは今やサイバスターと肩を並べている。 新たに発現したらしいビットは、テニアとそのスレイヴが抑えている。 数にして三対六。個々の力は上回っていても、それを操るカミーユが統夜との戦いに気を取られているためか集中し切れておらず、動きに精彩がない。 「じゃあどうしろって言うんです! 他に方法が……!」 「落ち付け、キラ・ヤマト。戦いとは一手二手先を読んで手を打つものだ。そら――来たぞ。私のもう一つの奥の手だ」 シャギアが指し示す先に現れたのは――バイタルジャンプしてきたネリーブレン。一人後退していたアイビスだ。 ただし、そのブレンが抱えているのはキラとロジャーは初めて見るものだった。 ブレンが背負う、ブレン自身より大きな荷物――ユーゼスが目を剥いた。 「Jカイザーだとッ!?」 「ほう、知っていたか。だとしたら貴様はやはり甘い――こんな大物を、破壊も利用もせずに放りだして行くのだからな!」 「それは奴に……バーニィに破壊されたはずだ!」 「機体の事なら確かに木端微塵だったさ。しかしどういう訳か、この大砲だけは機体が庇うようにして守っていた。 案外、そのバーニィとか言う奴が残したのかも知れないぞ? お前がやってきた事のツケを払わせるためにな!」 Jアークの甲板へF91が着地し、ブレンが運んで来た砲台をその目前に下ろす、というか落とす。 F91が紫電を纏う両腕を振りかぶり、 「カイザァァァァコネクトォッ!」 Jカイザーへと叩き付ける。 カミーユの持つオクスタンライフルと同様、所有機が破壊されたこのJカイザーもまた誰しもが使える武装として開放されたのだ。 だがもちろん、F91単体では莫大なエネルギーを必要とするJカイザーを撃てるはずがない。 シャギアの脳裏に『月の子』と文字が踊る。 この武装はそうやってエネルギーを調達していた。なら話は簡単だ。 月、と言うのも縁起が良い。何故ならそれはシャギア自身にとっても馴染みが深いものだから。 「キラ・ヤマト! JアークのエネルギーをF91へ回せ!」 「えっ……はい、わかりました!」 月の子に匹敵するだけの力は爆発的なエネルギーはここにある。 三重連太陽系・赤の星の遺産。 所有者の命の鼓動――勇気に呼応し、莫大な力を発生させる無限情報サーキット、Gストーン。 そのGストーンをより実戦向きに改良し、破格の高出力を叩きだす規格外のジェネレータ――Jジュエルが。 シャギアの言葉通り温存され、蓄積されていたJアークのエネルギー。甲板に立つF91へと光のラインが走り、流れ込んでいく。 エネルギーを供給され、F91の全身を再び深紅の輝きが包み込む。 翼を広げ、予想される反動に耐える姿勢を取る。 展開された六基のウイング、構えられた巨大な砲身――まるで『あのガンダム』のようだとシャギアは笑う。 ゼストの蓄えるエネルギーからすればごく小さい、しかし一点を突破するには十分すぎる力がJカイザーへと収束する。 ゼストの方はエネルギーがまだ収束しきっていない。 しかし回避するにも機体を動かすだけの力がない。 一撃で葬らんと機体に回すエネルギーを全て攻撃に叩き込んだゆえだ。 「ユーゼス・ゴッツォ……これは貴様の過去だ。貴様が利用し、踏み付け、ボロ屑のように捨てた者達が、貴様を粉砕するッ!」 「馬鹿な……馬鹿な! 今この時になって私を阻むのか、ベガ! バーニィ! 貴様ら如き愚昧が、この私を――ッ!」 泡を喰ったようなユーゼスの声。 ベガ、そしてバーニィという名をシャギアは知らない。 だがわかる事が二つ。 一つは放送で呼ばれた名前である事、もう一つはおそらくユーゼスに利用されたのだという事。 面識もない、さして興味もない。 だが今この瞬間だけはこう思ってやってもいい、とシャギアは思う。 ――お前達の無念、私が晴らそう! この一撃で奴を終わらせる! Jアークからエネルギーを供給される。 騎士凰牙が膝立ちになってF91を後ろから支える。 ネリーブレンがF91の手に自らの手を重ね、少しなりともエネルギーを上乗せする。 キラの、 ロジャーの、 アイビスの、 そして見も知らぬ仮面をつけた女、純朴そうな青年の顔がシャギアの意識を通り過ぎ、 ――マイクロウェーブ、来るッ!―― ――あなたに、力を―― ――月は出ているか―― 「――――〈J〉ジュエルカイザーエクステンションサテライトキャノンッッ!」 フッ、と笑みが零れた。 今だけは、私もお前達に倣おう――! 「発射ァァァァ―――――――――――――――――――――――――――――――――――ァッ!」 →Advanced 3rd(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/305.html
Night of the Living Dead ◆ZbL7QonnV. ごうごうと燃え盛る炎に呑み込まれ、全てが灰の中に消え去ろうとしていた。 木も、草も、花も、なにもかもが燃え落ちていく。 この場で起きた戦いの痕跡を消し去ろうとするかのように、炎の顎は飽く無き暴食を続けていた。 ……だが、それは如何なる悪魔の導きか。 その燃え盛る火よりも尚紅い機体は、炎の中より起き上がろうとしていた。 ガンダムレオパルドデストロイ―― 本来ならば炎の中に消え逝くはずだったそれは、まるで墓場の底から蘇るゾンビのように、ゆっくりと立ち上がり始めていた。 パイロットであるギャリソン時田の命は、既に無い。マスターガンダムとの死闘によって、とうの昔に失われている。 だから今現在機体を操縦しているのは、彼であろうはずもなかった。 だが、それならば誰が? この劫火に覆い尽くされた森の中、レオパルドを操縦しているのは誰なのか? ……その疑問に対しては、こう答える他にない。 かつてギャリソン時田であり、そして今は不死の怪物になった者、と。 そう。レオパルドのコクピットに居るのは、DG細胞に侵食されてゾンビ兵と成り果てた、ギャリソン時田その人であった。 あの時――マスターガンダムに敗れ去った後、ガウルンに植え付けられたDG細胞は、レオパルドを汚染する事に成功していた。 それも、コクピット内部に放置されていたギャリソン時田の死体ごとである。 その結果、ギャリソンの死体はゾンビ兵に変化。DG細胞の自己再生機能によって回復したレオパルドと共に、今一度の“生命”を得る事に成功したのである。 もっとも、それはギャリソン本人にとっては、望まざるべき事だろう。 かつての記憶も感情も無く、ただ目に付く物を破壊する事しか出来ない、DG細胞の操り人形。 そんなものに身体を作り変えられて、喜ぶ人間など居ようはずもない。 だが、皮肉なものだ。DG細胞に全身を犯された今のギャリソンは、もはや何を思う事も、何を感じる事も無い。 ただ、死体を弄ばされているに過ぎないのだから……。 「……………………」 装甲に穿たれた無数の傷跡が、ゆっくりと銀の細胞に覆われていく。 ずしん、ずしんと重厚な足音を轟かせながら、ガンダムレオパルドデストロイは燃え盛る森を後にしていった……。 【ゾンビ兵 搭乗機体:ガンダムレオパルドデストロイ(機動新世紀ガンダムX) パイロット状況:DG細胞感染 機体状況:ダメージ中、コクピット損傷、全武装弾数残少 ヒートアックスとビームナイフは非装備、DG細胞感染 現在位置:B-5密林(大規模な火災が発生中) 第一行動方針:破壊 最終行動方針:??? 備考:DG細胞の働きにより、機体に自己再生機能が備わりました エネルギーと弾薬は自己再生機能により少しずつ回復していきます ゾンビ兵を排除すれば、レオパルドを他の人間が操縦する事も可能です DG細胞に感染した存在(ガウルン、マスターガンダム)に対して反応を示す可能性があります 機体の形状が変化するほどの自己進化は行いません ギャリソン時田の記憶や戦闘経験は完全に失われています】 【初日 20 30】 本編119話 未知との遭遇
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/157.html
◆ 素早く、それでいて非常に巧緻に長けた剣閃が迫って来る。受け止め、受け流す。数合切り結ぶ。そして引き際に小さく、それでいて鋭く剣を振るった。空を斬る感触に臍を噛む。 再び距離を開けての対峙。長く細い息を吐く。 手ごわい。少なくとも刃物の扱いに関してはギンガナムを上回り、自身と拮抗していると言っていい。さらに、その妙を得た動きには目を見張るものもある。 黒い機体の後方のただ一点だけを睨みつけ、剣を構える。ギンガナムと他の二機が戦闘を繰り広げている場所だった。そこだけを見ている。目的は一つ。 この黒い機体を避わし、その場へ急行する。 然る後、ギンガナムにこの機体の相手をさせ、他の二人を説き伏せる。それが最善手。 下手にここで戦闘を繰り広げても意味はない。まして、ラプラスコンピューターが破損するようなことがあれば、それは致命的だ。それだけは避けねばならない。 その上で、ギンガナムとあの二人の溝が修復不能になる前に舞い戻らなければならなかった。それが課せられた課題なのだ。 「難儀な話だな……」 「あん? 何がだ?」 「いや、なんでもない」 黒い機体の膂力はギンガナムの機体とほぼ互角。速力と大きさもだ。外見的にも幾らか似通っている。恐らくはこれもガンダムと呼称される機体なのだろう。 力では相手、素早さでは自分ということになる。 全く肝心なときにいない男だ。このような相手こそギンガナムにうってつけであり、黒歴史とやらの知識も役立つというものだというのに。 それを生かすには目の前の男を突破する他ない。 隙は見えない。それでも突破せねばならない。それも速やかに、被害なくだ。心気を澄ませる。掌に刃の重さを感じ、そして、ブンドルは一陣の風となって駆けた。 「悪いが押し通らせて頂く」 「させねぇよ」 ◆ 廃れ、荒れ果てた廃墟で閃光が瞬き、光軸が飛び交う。音響がさらなる音響を導き、廃墟に似つかわしくない喧騒が辺りを支配している。 白桃と浅葱、二色のブレンパワードが織り成す連携を受け、ギンガナムは劣勢を強いられていた。 蒼い機体が視界から消える。ゾクリとしたモノを感じて、振り向き際に左拳を振るった。 頑強な金属音が響き、真っ向から接触する拳と剣。 蒼いほうが動きを変えていた。 それまでの自機の非力さを悟り、単純な押し合いには決して持ち込ませまいとする態度から、真っ向から力勝負を挑むような我武者羅さに変わっている。 二機の足が止まる。押し合い圧し合いの純粋な力勝負。ならばギンガナムに負ける道理はない。 押し切れる。そう思ったその瞬間、白桃色の機体に割って入られ、あえなく距離を取る。 「ちっ!」 蒼い機体がギンガナムを一点に押し留め、足が止まるその隙を白桃色の機体が衝いて来る。それが相対する二機の基本戦術だった。 まったくもってうっとおしい。決め手の放てぬ戦いというのはストレスが溜まるものだ。 だが、ギンガナムは笑っていた。 こういう戦い方もあるのか、という好奇の心が疼いていた。これは一対一では知りえぬ戦い方なのだ。 愉快だった。こみ上げてくる感情を抑えることが出来ない。今、確実に生きていると実感できる。そのことが堪えようもなく愉快だった。 ギム=ギンガナムは、月の民ムーンレイスの武を司り、勇武を重んじるギンガナム家の跡を継ぐべき存在として生れ落ちてきた。 それを当然のように受け入れ、幼少の頃から鍛錬に勤めてきたギムの誇りは、しかし158年前の環境調査旅行を境に裏切られることとなる。 月に帰還したディアナ=ソレルに軍を前面に押し立てた帰還作戦を主張したギムの父の言が、一言の元に退けられたのだ。 同時に『問題の解決に武力を使うことしか思いつかない者は、過去、自らの手で大地を死滅させた旧人類の尻尾である』と言葉を被せられ、ギンガナム家は軍を没収された。 以後、自害した父に代わりギンガナム家を統治することとなったギムであったが、そこには望んだものは微塵も残されておらず、虚しさだけが胸の内を占めていた。 そして、120年前、30代の終わりに差しかかったとき、ギンガナムの鬱屈が限界に達することとなる。離散していた旧臣を集め、クーデターを企てたのだ。 だが、事を起こした末路に待っていたのは無残な敗北だった。結果、形だけの裁判の末、永久凍結の刑に処され、120年の眠りに付くこととなる。 つまり押し込められ、追いやられ、爆発するも報われず、死んだように過ごしてきたのが彼の半生であった。 しかしだ。彼はここに来て生を実感していた。 幼い頃に夢見た乱世がここにある。血湧き肉踊る戦いがここにはある。心憧れた、絵巻物の中の存在に過ぎなかった黒歴史の英霊達がここには存在する。 そして、なによりも今自分は闘っている。闘っているのだ。これほど嬉しいことがあるか。 生まれて初めて、生が実感できる。生きていると思える。幼少の頃に望んだ自分が今ここには存在しているのだ。 だからこそギンガナムはこみ上げてくる歓喜の声を抑えることが出来なかった。 気持ちが高ぶる。全てがよく見える。体に力が漲っているのが実感できた。そして、それに呼応するかのようにシャイニングガンダムの出力が上昇していく。 想いを力に変えるシステム。まったく良く出来た相棒だ、と一人感心する。 相手は二機。蒼が動きを押し留め白桃が隙を衝いて来るのならば、白桃から先に始末するだけのこと。それに白桃の動きは蒼より劣る。サシの勝負で面白いのは蒼のほうなのだ。 蒼が消える。それを合図にギンガナムは猛然と突撃を開始した。 「芸がないな。マニュアル通りにやっていますというのは、アホの言うことだ! このギム=ギンガナムにぃ、同じ手がそういつまでも通用するものかよぉっ!!」 ◇ 突然、弾丸のように突撃を開始したギンガナムを見て、アイビスは考えたものだな、と一人ごちた。 ラキのバイタルジャンプは多少の揺らぎを持たせてはいるものの、死角への移動を基本としている。そして、攻撃は組合に持ち込むための剣戟が主体。 つまり、消えた瞬間に視界が開けている方向に高速で突っ込めば、攻撃に晒される可能性はきわめて低いのだ。そこを衝かれ、なおかつこちらに狙いを定めてきた。 ならばどうする? 決まっている。 (ブレン!) (……) (やるよっ!!) 今度は自分がギンガナムの打撃を受け止め、力勝負に持ち込み、ラキに隙を衝かせる。役どころが入れ替わった。ただそれだけだ。 歯を食いしばり、アイビスは受けの姿勢を取る。巨岩のような圧力を放つギンガナムを目の前に、大地をしっかりと捉え、構える。 「アイビス、受けるな! 避けろっ!!」 クルツの声だったが、遅かった。一度止まった足を動かすには彼我距離が近すぎる。 ならば、とソードエクステンションを両の手で掲げ、受ける。接触の瞬間、刀身を反らし、受け流す。受け流したはずだった。 天と地が逆さまに、視界が反転する。 巨大なダンプ、あるいは列車に撥ねられた人間のように錐揉み回転をしながらヒメ・ブレンが宙を舞う。 ブレンが大地に打ち付けられ、アイビスもまたコックピットにその身を激しくぶつけられる。意識が明滅し、追撃を予想して身を固くした。 が、次の瞬間襲ってきたのはギンガナムの追撃ではなく、クルツの怒声であった。 「馬鹿野郎! 真っ向から受け止めるなんて正気か?」 クルツの顔面越しに投影されたモニターには、ギンガナムと交戦を続けるラキの姿があった。恐らくは追撃をかけられる前に割って入ってくれたのだろう。 結局はまだ足を引っ張っている。その口惜しさが拳を固くした。 「うるさい。ラキは同じブレンパワードで止めてる。なら、私だって……」 「お前には無理だ。あれはお前には向いてねぇ、俺にもだ」 アイビスの抗弁をクルツは軽く受け流す。 そう。アイビスとラキでは受け方が違う。というよりラキの受け方が少々特殊だった。 通常の受けは相手に押し負けぬように足場を、土台をしっかりと安定させて受け止める。 対して、ラキはその場で受けようとせずに前に出る。受けるというよりはぶつけに行っていると言ったほうが正しいのかもしれない。 相手の一番力が乗るところでは決して受けず、前に出ることで打点をずらし、力を半減させ、自身の前に出る力をそこに上乗せさせる。言葉にすればそんなところだろう。 だが、それでようやく四分六で押し切ることが出来る。真っ当な受け方では勝負にならない。 それに互いの足が止まれば、やはりギンガナムの膂力がモノを言う。だから今モニター向うのラキは、受けの後瞬時に弾き、距離を置く戦い方に戻していた。 一機でギンガナムに抗うには、そうする他はない。 (ブレン、悔しいね……あいつらには出来て、私らには出来ない) 俯き、ブレンの内壁に添えた手にギュッと力を込める。 悔しかった。他人には出来て、自分には出来ない。それは落ちこぼれと言われているようで悲しい。悔しい。そしてなによりも自分の不甲斐なさは腹立たしかった。 そんな思いがその手には込められている。 「アイビス、ラキを羨ましがるんならお門違いだ。だが、そうじゃねぇ。そうじゃねぇだろ? ラキにはラキのブレンの扱い方がある。だったらお前にはお前なりのやり方ってもんがあるだろうが。違うか?」 「私なりの……やり方?」 見透かしたように掛けられた声に驚く。考えたこともなかった。 人を羨むのではない自分なりの乗り方。スレイにでも、ラキにでも、誰に対するでもない自分なりのやり方。こんな何でもないことなのに、考えたこともなかった。 No.1に対するNo.4。負け犬という別称。流星という不名誉な字。それらに引け目負い目を感じてきたのは、知らず知らずのうちに誰かに対する自分を意識していた証なのかもしれない。 「クルツ」 「ん?」 「ありがと。ただのスケベ親父じゃなかったんだ」 「おいおい、親父はよしてくれ。俺はまだ二十代だぞ」 「そっちに反応するんだ」 軽口を叩き、笑い、顔を上げる。目にキラリと光が灯る。また一つ憑物が取れた。そんな顔だった。 僅かに見たジョシュアの戦い方は、的を絞らせずに翻弄し攻撃をことごとく避けるものだった。ラキの戦い方は、避けることよりも受けることに重点を置いた戦い方だ。 この二人ですらアンチボディーの扱い方が大きく違う。どちらかが正解というわけではない。アンチボディーと自身の経験との折り合いを付けた場所が、そこというだけなのだ。 ならば自分は……いや、自分とブレンの戦い方は―― (……) (ブレン?) (……) (うん。わかった。やってみよう!) いつからかブレンの声が聞こえるようにもなっている。普通に会話も出来る。そのことに未だ気づかぬまま、アイビスは声を張り上げた。 「いくよ、ブレン!!」 視界の先には、ギンガナムに押しやられ、ついに体勢を崩したネリー・ブレンの姿がある。 そこへ跳び、ネリー・ブレンの真横にジャンプアウトした。叫ぶ。 「ラキ、ブレン同士の手を合わせて!」 「手を?」 「早く!!」 ギンガナムとの距離は既に幾許もない。そんな中、二機のブレンパワードが手をつなぎ、胸を張る。 次の瞬間に顕現するのは二体のブレンパワードが張り巡らすチャクラの二重障壁――ではなく、ただ一重のチャクラシールド。 しかし、二つのチャクラが混ざり合うそれは、強固な分厚い壁である。打ち付けられた拳とチャクラの間で火花が散り、拳を弾かれたギンガナムの姿勢が仰け反るような格好で崩れた。 その瞬間、ヒメ・ブレンは飛び出し、真っ直ぐに距離を詰める。 「ギンガナム、あんたは私の行為を偽善だと言った。でもね、人の為の善と書いて偽善と読むんだ!! なら、私はジョシュアのためにあんたを討つ!!!」 体勢が整う前に畳み掛けると決めていた。擦れ違い様にソードエクステンションによる横薙ぎの一閃。 しかし、ギンガナムもさすがと言うべきか、体勢が不完全ながらも咄嗟にアームカバーを構える。 固い金属音が鳴り、受けたギンガナムの体勢が完全に崩れ、仰向けにひっくり返った。この好機、逃す手はない。 「ラキ、合わせるよ! やり方はブレンが教えてくれる」 「ブレンが? ……ひっつく? くっつくのか?」 二機で小規模なバイタルジャンプを繰り返し、翻弄し、体勢を立て直させる隙は与えない。ラキが次の瞬間何処に現れるのか、それはアイビスにもわからない。 しかし、決め手を放つ瞬間、どこに現れ、どうすれば良いのか、それはブレンが全て教えてくれた。 「1・2・3」 タイミングを計る。体勢の崩れたギンガナムの右後方。ドンピシャのタイミングで二機はそこに現れた。 背中が合わさる。ブレンバーとソードエクステンションが、鏡合わせのように突きつけられる。その動きには寸分のズレさえも存在しない。 「チャクラ」 「エクステンション」 「「シュートオオオォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」」 二つの銃口に光が灯り、濃密で重厚なチャクラの波が放たれる。巨大な破壊の力を携えたそれが、堰が決壊し氾濫した濁流の如くギンガナムへと猛進していく。 その光景の最中、突如として覇気に満ちた笑い声が大地を震撼させた。 「ふはははは……。これをおおぉぉぉ待っていたっ!!」 そう。ギンガナムはこのときを待っていた。かつて相対した男が最後に放つはずだった一撃。 それに酷似したこの一撃を真っ向から打ち破ることには二重の意味がある。すなわち、この戦いとあの男との戦い、二つの勝利。 「貴様らが七色光線ならばぁぁ、小生は黄金の指いいいぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」 押し包み、瞬く間に呑み込まれて消えるその刹那、ゆらりと起き上がったシャイニングガンダムは左腕を無防備に突き出した。その指間接が外れ、隙間から染み出した液体金属がマニピュレーターを覆い、発光。そして―― 「喰らえっ!!! 必いいぃぃぃ殺っ!!! シャアアアァァァイニングフィンガアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」 その光り輝く左腕が荒れ狂うチャクラの波に真っ向からぶつかった。 真っ直ぐに伸びたチャクラエクステンションが、ギンガナムがいる一点で遮られ四方に拡散する。拡散した幾筋ものチャクラのうねりは大地を抉り、暴れ、阻むもの全てを破壊する。 だが、それで終わりではない。三者の激突は未だ続いている。チャクラエクステンションはシャイニングフィンガーただ一つで抑えきれるほど甘くはない。 強大な圧力に押さえ込まれ、ギンガナムは前に出ることが出来ない。いや、むしろ押されている。 重圧を一点で受け止める左腕は断続的に揺れ、ぶれ動き、機体を支える両脚は爪のような跡を残しながら徐々に後ろへと押し流され、爪跡はチャクラの濁流に呑まれて消え去る。 このままでは押し切られ、呑み込まれるのは時間の問題なのだ。だがしかし、ギンガナムに諦めの色はない。あるのはただ狂気的とも言える喜色のみ。 「ぬううぅぅぅぅぅぅっ!! 見事! まさに乾坤一擲の一撃!! 実に見事な一撃よ!!! だがなあぁぁぁっ!!!! この魂の炎! 極限まで高めれば、倒せない者などおおぉぉぉぉっないッッッ!!!!!」 押し流され続けるシャイニングガンダムの足が止まる。エンジンの出力が上がり続け、背面ブースターが限界を超えてなお唸りを上げる。 「シャイニングガンダムよ。黒歴史に記されしキング・オブ・ハートが愛機よ。お前に感情を力に変えるシステムが備わっているというのならああぁぁぁっ! 小生のこの熱き血潮!! 一つ残らず力に変えてみせよおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」 そのギンガナムの雄叫びを合図に、それは始まった。 機体の色に変化が生じる。白を基調としたトリコロールカラーから、色目鮮やかな黄金色へ。そして、機体を構成する全てのものが眩く発光を始め、闇夜を切り裂くチャクラ光の中に黄金が浮かび上がる。 変化は外見のみに留まらない。充溢する気力を喰らい天井知らずに上がり続ける出力は、計測器の針を振り切り、それを受けた推力は前進を可能にしていたのだ。 「ふはははは……このシャイニングガンダム凄いよ! 流石、ゴッドガンダムのお兄さん!!」 爆発的なスラスター光を背に感嘆の声を上げ、七色の輝きの中に飛び込んだギンガナムは激流に逆らい、遡上を始める。 その様は鯉の滝登り等という生ぬるいものではない。天を衝くが如き勢いと圧力を持って遡上し、そして、金色の光がチャクラの波を衝き抜けた。 「なっ!」 阻むものを失ったギンガナムの突進は、限界まで引き絞られた矢が飛び出すようなもの。 弾ける勢いでヒメ・ブレンの頭部を掴んだギンガナムは一筋の閃光となり、建ち並ぶ廃墟の群を物ともせずに突き破る。そして、その終着でヒメ・ブレンを天高く掲げ―― 「絶っ好調であるっ!!!!」 爆発。轟音を残して頭部を粉砕されたヒメ・ブレンが崩れ落ちる。同時に背後で異音。俊敏に反応し、切り結び、同時に飛び退いた。 ◇ 飛び退き、距離を取ったネリー・ブレンが瓦礫の海に足をつける。息を弾ませ、体を覆う疲労感にラキは顔を歪ませた。白い肌には赤み指し、紅潮している。 虚を衝いたはずの視覚外からの攻撃にも対応してみせる油断のなさ。加えて、奴の言をそのまま信じるのならば、あの闘争心がそのまま反映されるシステム。 つくづく厄介だというのが、率直な感想だった。 そう考えて、ふと自分らも似たようなものか、という思いを抱いた。アンチボディーはオーガニックエナジーを糧に動く。そこには人の放つものも含まれているのだ。 ならば、自分やアイビスの感情もまたブレンに力を与えているのだろう。そう思った。疲労感を押し隠し、気を張りなおす。 (ブレン、すまない。大丈夫か?) (……) (よし) 心を落ち着け、ブレンに声をかけると立ち上がらせる。その姿を前にギンガナムから通信が飛んできた。 「ほう。まだ戦う意志を失わぬか……見上げた根性と誉めてやろう。どうだ? ギンガナム隊に入らぬか?」 「悪いがお断りだな」 「ならば死に物狂いで戦うことだな。それにここで小生を倒せばジョシュアとやらの魂も救われるかも知れぬしなぁっ!!」 「ジョシュアはそれを望まない。人には戦いなど必要ないんだ」 本心だった。ジョシュアの弔いの為と思い定めて戦いはしても、どこか違うという思いは常について回っている。 不意にギンガナムが動く。早い。咄嗟に拳をブレンバーで受け止める。 「それは違うな。人は己の内に闘争本能を飼っている。 それを解き放つために戦いは必要なのだ! その為にこのような場が用意されている!!」 「本能の赴くままに戦い続ける姿のどこに人間らしさがある!」 言葉を返し、弾き、距離を取る。早いがついて行けないと言う程ではない。 揺れ動き、翻弄させるような動きを取りながら、ギンガナムが言葉を吐く。その口調には自身を正しいと信じて止まない傲慢さが込められていた。 「ならば聞く! 水槽の中で飼われている魚のような生のどこに人間らしさがある!!」 「どういう意味だ」 「外敵もなく、餌も十分に与えられ、安全で平和な住みやすい環境。それを世界の全てだと思い込んでいる。まるで飼われた魚の様ではないか。 だがなぁ、人間はそのような環境に息苦しさを覚える。だからこそ、ディアナは地上へ帰ることを望んだ。 だからこそ、このギム=ギンガナムは戦い、戦乱をもたらすのだ。人として生きる為になぁっ!!」 突如動きが変わり、強烈な一撃がラキを襲う。それをブレンバーで受け流し、攻撃に転じながらラキは反論を返す。 ギンガナムの言を受け入れることはジョシュアの、人として生きようとした自分の生き様を否定することだ。それは、死んでも受け入れることはできない。 「それは違う。確かに人は生きるために戦うことがある。憎しみにまみれて道を見失う者もいる。 だけど、それだけが人じゃない。それを私はジョシュアから、人から学んだ」 「だが、貴様は戦っているぞ!!」 受けたギンガナムが言う。シャイニングガンダムとネリー・ブレンの双眸が、ギンガナムとラキの眼光がぶつかり火花が散った。 巨大な重圧を伴ってギンガナムは圧し掛かってくる。そのギンガナムの言葉には迷いがない。だからこそ強く、なによりも危険なのだ。気を抜くと押し切られそうになる。 「そうだ。私は戦っている。私はメリオルエッセ……負の感情を集めるだけの働き蜂。所詮、人にはなれない。だから――」 唇を噛み締めて言う。渾身の力で押し返し、再び距離を取ったところで泣き出しそうになり、思わず言葉を区切った。 人にはなれない。それはある意味では分かっていたことだ。いくら憧れ、恋焦がれようとも、蛾に生まれついた者が蝶になることは適わない。 同じだ。私もメリオルエッセに生まれついたからには、人になることなど適わないのだ。 分かっていた。分かっていたが、どこかでそれを受け入れてない自分がいたことは、確かだった。 それなのに、今自分の言葉で肯定し、受け入れてしまった。それがどうしようもなく悲しい。 でも、それよりも受け入れ難いことが存在する。だからこそ泣き出したい思いで受け入れた。 人は私とは違う。私の周りにいた人は、負の感情を集めるためだけに作られた私に、それだけが人ではないと教えてくれた。 そんな人間が、憧れ恋焦がれた人間が、戦いを自ら望むような者であって良いはずがない。 私の傍にいた人が与えてくれたぬくもりは、そんな人からは決して得られないものだ。そう信じたい。 「だからこそ、貴様は私の手で止めてみせる!!」 「それは結構。だが、できるのか? このギム=ギンガナムをぉ!!」 切り結び、跳び、かわし、攻め、守る。目まぐるしく入れ替わる攻防ではあったが、バイタルジャンプを縦横無尽に駆使して、ギンガナムの動きをようやく幾らか上回れるという状態だった。 初手を合わせたときから比べ、ギンガナムの気力は満ち溢れている。それに伴ってシャイニングガンダムの基礎能力が桁外れに上がっていた。 動きが殆んど互角でも、力では圧倒されている。単機ならまだ渡り合えるという自負があったが、交戦能力を失った味方を二機も抱えていた。それは決定的に不利な要素なのだ。 それでも方法はあった。死ぬ気になればやることができるただ一つの方法が。 (……) (ブレン、落ち着け。仇は私が討たせてやる。それと私に遠慮はするな) (……) (恍けるな。お前が私を気遣ってくれているのは分かっている。でも、それじゃ駄目なんだ) 分かっていたことだ。ネリー・ブレンが自分を気遣い、自分の周辺に集まり渦巻いている負の感情のオーガニックエナジーを主として動いていたことは。 それはラキの負担を減らすためだろう。それに造られた生命であるラキのオーガニックエナジーは、自然の生命に比べると驚くほど希薄で弱いのだ。だがそれでも―― (……) (いいさ。ここで全て吸い尽くしていけ) (……) (すまないな。ありがとう) ブレンの説得を終え、しかし、息をつく暇もない。攻防は続いているのだ。 視界の端でギンガナムを捉えつつ、隙を見て通信をヒメ・ブレンへと試みる。 頭部を失ったヒメ・ブレン相手に通信が繋がるか不安はあったが、程なくそれが要らぬ心配だったということが証明された。通信は繋がった。 「アイビス……無事か?」 「うん。私は大丈夫。でもブレンが……ブレンが私のせいで……」 ギンガナムの攻撃を受けるその一方で盗み見たアイビスの表情は暗く沈んでいる。 アンチボディーは半分機械半分生物という特殊な存在だ。頭部を失うということは死を意味している。 それを自分のせいだと思い込み、責任と重荷を背負い込んでいるといった感じだった。その姿に一瞬頬を緩ませる。 やはり人間は優しく暖かいのだ。ブレンはきっとそんな人の優しさに魅かれたからこそ、人を必要とする体に生まれたのだろう。そう思った。 その一方で、無理だろうなとは思いつつ慰めの言葉をかける。 「気にするな。お前は精一杯やった。だれもお前を責めやしない。お前のブレンもきっとお前を恨んでやしない。 そして、これから起こる事もお前のせいではない。だから、気に病まないでくれ……そうなると、私は悲しい」 「えっ?」 伏せていた顔が上がるのを目の端が捉えた。バルカンを二発三発とかわしつつラキは言う。 「……私のブレンを頼む。こうみえても寂しがりやなんだ。きっとお前の力になってくれる」 「ラキ、あんた……」 「ジョシュアが最後に守った者を私も守れる。それだけで十分だ」 「違う。違うよ……ラキ」 顔を左右にふるふると振るわせるアイビスを無視して、言葉を続ける。 自分の声が湿り気を帯びていくのに辟易しながらも、どうすることも出来ない。 「アイビス、会えてよかった」 「ラキ、ジョシュアが本当に守りたかったのは私じゃない! あんたなんだ!! だから、だから一緒に生き延びよう……二人で生き延びる道もきっと見つかるからっ!!!」 耳に飛び込んできた声にハッと目を見開き、俯いた。出来ることならそうしたかった。でも目の前の現状はそれを許すほど甘くはない。 だから、ラキは一度だけギンガナムから視線を外し、アイビスを見て声を掛ける。努めて明るく、精一杯の笑顔で。 「本当はもっと落ち着いて話がしたかった。でも時間がない。アイビス、お別れだ」 「ラキ!!」 「盛り上がってるとこ悪いがな。お前らは死なねぇよ」 「「クルツ!!」」 突然割って入った声にラキとアイビス――二人から驚きの声が上がった。そんな二人に構うことなくクルツは飄々と言葉を繋げる。 「ラキ、お前がろくでもないことを考えてるのは分かってる。でも悪いな。こいつは俺が貰う。お前はアイビスと行け」 「何、無茶なことを言っている。その半壊した機体でこいつを押さえられるはずがないだろう」 「無理だよ、クルツ。あんた一人ならまだ逃げられる。機体が動くのなら逃げて」 「うるせぇっ!!! うるせぇよ……行きたいんだろ? 本当はそいつと行きたいんだろうが!!!」 「それは……」 言い澱み、覚悟が揺らぐ。 諦めたはずの先を突きつけられ、そこにいる自分を連想してしまい、生きたいという衝動が膨らむ。思わずクルツの言葉に縋りつきたくなり、浅ましいと自分で一喝する。 そんな心の機微を見通してか、クルツは言葉を畳み掛けてきた。 「行けよ。とっとと行っちまぇ! いいか? 勘違いするんじゃねぇぞ。俺はお前の代わりにこいつの相手するんじゃねぇ。誰かの代わりなんて真っ平ごめんだ。 俺は俺が好きでこいつの相手をするんだ。こいつは俺の我侭なんだよ。あいつと一緒に行くのはお前の我侭だ。だったら、我を張れよ。押し通せ。 会ったときからお前は我侭尽くしだったんだ。いまさら変に遠慮なんてしてんじゃねぇっ!!」 「しかし、お前は……」 「俺は俺の我を通してここに残る。お前はお前の我を通してあいつと行く。それで全部まとめてオールO.K。円満解決。大団円だ。違うか? 違わねぇだろ。 分かったか? 分かったら、さっさと行っちまえよ。お前らがいると邪魔なんだよ。気になっちまって、切り札が切れねぇ」 「ならばそのカード、小生が切りやすくしてやろおっ!!」 「ッ!!」 クルツに気を取られすぎていた。気がつけばギンガナムが間近に迫っていたのだ。 近いっ! 近過ぎる。回避も何も、全てが間に合わない。直撃? 当たるのか? くらうのか? くらえば―― 豪腕を目前にぞっと全身が怖気立ち、肝が冷えた。思わず目を閉じ、首を竦める。身を固く小さくして来るべき衝撃に備える。 しかし、その瞬間はついぞ訪れなかった。変わりに怒声が飛んで来る。 「何やってんだ! 早く行け!! ちんたらしてんじゃねぇ! 今すぐ走れ!!」 恐る恐る開けた視界に、いつの間に忍び寄ってきたのか、ギンガナムに背後から組み付くラーズアングリフの姿が映しだされる。 「ク……ルツ?」 「さぁ行け! 行くんだ! 行って、俺の代わりに二人であの化け物に一発かましてこい……頼んだぞ」 目が合い、気圧された。その目には一本の筋が通った、ぴんと背筋の伸びた胸に迫る何かがある。 それに抗おうと胎に力を込めたが、一度揺れた覚悟はそれを押し返すまでの強さを持ってはいなかった。 乾いた口が動く。何度か唾を飲み込み、何度も言葉を喉元で押し殺したその口は、しかし最後には辛うじて聞き取れる程度の声で喉を震わせた。 「……すまない。頼む」 「いいってことよ。任せろ」 陽気な、いつもと変わらぬ声が耳朶を打つ。悲壮さなど微塵も感じさせない、ちょっとした用事を引き受けるような、そんな声だった。 クルツとギンガナムに背を向け、ネリー・ブレンが跳ぶ。 決めた以上、戸惑ってはならない。速やかに動かなければクルツの覚悟に水をさすことになる。それが、似たような覚悟をほんの少し前まで決めていたラキには、痛いほど分かっていた。 ジャンプアウト。物言わぬヒメ・ブレンを抱え上げる。アイビスが文句を言ってきた。その気持ちも、やはり痛いほどに分かる。 だがそれに耳を貸すわけにはいかない。例え恨まれようと構わない、とラキはその場からの離脱を開始する。 普通に長距離のバイタルジャンプを行う余力は、もう残されていなかった。 ◆ 赤い戦車のような人型機動兵器が投げ飛ばされ、瓦礫の海に埋没した ラキとアイビスが離脱を開始して数分。ずぶずぶと上下逆さに埋没していく機体の中、クルツは一人ぼやく。 「やれやれ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。こういうのを親心って言うのかね」 本当に初めて会ったときから世話のかかる奴だった。意見は食い違うわ、一度決めたら梃子でも動かねぇわ、自分勝手に動き回るわで、本当に面倒ばかり掛けやがる。 でも気持ちのいい奴らだった。 にしてもついてねぇな。こんなとこに呼び出されてまでして、俺、何やってるんだろうな……。 「……まぁいいさ。悪かぁねぇ」 がばっと起き上がり、コンクリートの破片を跳ね除けながら呟いた。 ああ、そうさ。悪かぁねぇ。女を守って死ぬ。男として最高の死に様じゃあねぇか。あんたもそんな気分だったんだろ? ジュシュア=ラドクリフ。 ふぅ~っと長い息を吐く。横目でちろりとこれから命を賭ける相手を見やり、リニアミサイルランチャーを突きつける。 「悪いな、大将。俺の我侭に付き合ってもらってよ」 「貴様がその半壊した機体で何をするのか興味があってな。だが、空の銃では小生は倒せぬ。そこのところは分かっているのか?」 クルツが最も懸念していたこと、それは無視をされ二人の後を追われることだったが、どうやらその心配はなさそうだった。人知れず胸を撫で下ろす。 敵さんは、こちらの手札に興味津々なご様子。ならどうすればいい? 簡単だ。挑発して好奇心を呷ってやればいい。そうすればもう少し時間を稼ぐことが出来る。 「知ってるか? プロってのは、弾を撃ち尽くしても最後の一発ってのは取っておくもんだ。本当にどうしようもなくなっちまったときに自分の頭を撃ち抜く為にな」 「下らんな。己の頭を自ら撃ち抜くぐらいなら、その一発で相手を倒すことを考えるべきだ。 最後まで相手の喉下に喰らいついて初めて一人前の兵士と言える。貴様もそうだろう……違うか?」 「そういう考え方もありっちゃありなんだが……。勿体つけといて悪りぃんだけど、実は弾なんか残っちゃいねぇんだな、これが」 リニアミサイルランチャーを手放す。瓦礫で跳ねたそれが乾いた音を立てた。 からかわれたとでも感じたのかモニター越しの表情が怒り、睨みつけてくる。想像以上に単純な奴だ、とほくそえんだ。話術では負ける気がしない。 「短気は損気。そう怒りなさんなって……。代わりにギンガナム、あんたには別のもんをぶつけてやるよ」 「ふんっ! 貴様のごとき雑兵の命一つで小生を止められると本当に思っておるのか?」 完全に臍を曲げたらしい男を前に急にクルツの目つきが変わった。 「馬鹿言っちゃいけねぇな。あんたに生き残られちゃ、せっかくのお涙頂戴シーンが台無しだ。 それになぁ、お前さん自分のこと買いかぶり過ぎだ。こちとら戦争屋。弾なんざなかろうが、手前を倒す手段なんざいくらでも思いつくんだよ。塵一つ残さねぇから覚悟しろい」 「吠えたな」 「吠えたさ」 売り言葉に買い言葉。睨み合い。互いの鼻が白み。直ぐに二つの哄笑が廃墟に木霊し始めた。カラッとした笑い声が大地を包む。 「面白い! ならばきっちり殺してみせろよ!!」 「上等だ! そろそろ行くぜ!!」 時間は十分とは言えないが稼いだ。もう巻き込む心配も多分ない。あとは俺が上手くやれば万事オッケー、全ては上手く収まる。 シザースナイフを抜き放ち、握り締める。 接近戦の不利は百も承知。格闘戦における技量の低さは自覚していた。だがそれでもラーズアングリフに残された武器はそれしかない。 「来いっ!!!」 腰を低く落とし、ギンガナムの声を合図に猛然と突進を開始する。敢行したのは命がけの接近戦。 だが、それは余りにも馬鹿げた行為だった。ただでさえ鈍重なラーズアングリフである。脚部を損傷した現在、ギンガナムと比べるまでもなく動きは鈍重を極めている。 動きは鈍く、勢いも無ければ、切れも伸びも無い。ギンガナムから見れば凡庸も凡庸。ただ愚鈍なだけの特攻としか映らなかった。 ゆえにギンガナムは激昂した。軽んじられた。甘く見られた。そういう思いが有り、自尊心についた傷が感情を刺激したのだ。 「どんな隠し玉があるのかと思えば、ただの特攻とは……実に下らん!!」 ギンガナムが動く。ラーズアングリフの鈍重さに比べ、その動きは遥かに素早い。 「小生を愚弄した罰だ!! DNAの一片までも破壊しつくしいいぃぃぃいいいい、鉄屑にしてやるっ!!!」 間合いが瞬時に潰れる。ギンガナムが放った手刀は、頑強な装甲の継ぎ目を狙う一突き。 右胸を貫かれるその寸前、クルツはシザースナイフを投げ捨てた。右腕で逃さぬようシャイニングガンダムを抱きしめる。 「野郎に抱きつくなんざ趣味じゃねぇが……この時を待っていたんだよ!」 「何だこれは! この馬鹿げた熱量は!! 貴様ぁ、一体何をした!!!」 キーボードに指を滑らせ、一つの文字列を叩き込んだ。それは祈祷書の『埋葬の儀式』の一節を捩ったシャドウミラーの自爆コード。 その真髄は機密保持の為、後には何も残さない絶対の破壊。文字通り全てを無に帰す力。 即ちコード名―― ――Ash To Ash―― 「別に大したことなんざしてねぇよ。ただ土に還るだけさ。俺もお前もなっ!!」 勝利を確信し、誇らしげに笑ったクルツを光の海が包み込んだ。 →Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―(4)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/39.html
ホワイトドール ◆caxMcNfNrg 「これ・・・髭のない、ホワイトドール?」 それが、支給された機体に対する少女の感想だった。 白を基調とした色の機械人形・・・ホワイトドール。 機体の姿形こそ、彼女の知識にあるものとは違うが、 それは少女のよく知る黒歴史の遺産と酷似していた・・・ 数十分後、素早く操縦法をマスターしたソシエは、 南北に走る道路の上空を、南へと向けて下っていた。 (他の人たちと・・・皆と力を合わせれば、あんな化物でも倒せる!) そう、それに、こちらにはホワイトドールがあるのだ。 「髭が無くったって、ホワイトドールはホワイトドールよ!」 少女は知らない。その機械人形は黒の暦に記されているような物ではないという事を。 ―――――――――皆様、類似品にはご注意しましょう――――――――――― 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:機鋼戦士ドスハード(戦国魔神ゴーショーグン) パイロット状況:良好(機体がガンダム系だと勘違いしています) 機体状況:良好(AIは取り外され、コクピットが設置されています) 現在位置:E-5空中を南下中 第一行動方針:仲間を集める 最終行動方針:主催者を倒す】 【時刻 12 30】 BACK NEXT 金髪お嬢とテロリスト 投下順 邪龍空に在り 護るために 時系列順 黄色い幻影 BACK 登場キャラ NEXT ソシエ パンがなければお菓子をお食べ
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/336.html
獣の時間 ◆VvWRRU0SzU 三重連太陽系を構成する星のひとつ、赤の星の遺産――Jアーク。 本来の主なき白亜の艦の格納庫に、カタカタとキーを叩く音が反響する。 「これでよし……っと。アムロさん、ガンダムの調整、終わりました」 ガンダムF91から、歳の割に幼さの抜けない顔の少年――キラが顔を出す。 呼びかけた相手は、床に横たわる青いアンチボディ――ネリー・ブレン――の上に立つ青年。 かつて連邦の白き流星と呼ばれた伝説的なパイロット、アムロ・レイ。 「ああ、こっちも終わった。と言ってもブレンは多少の傷なら勝手に治るそうだから、俺がやったのは装甲を磨いたことだけだがな」 アムロは雑巾代わりの布切れを片手にネリー・ブレンから降りた。 「埃を落とした程度だが、喜んでる……無邪気さを感じる。このブレンはまだ子どものようだ」 「アンチボディ……生体メカっていうんでしょうか。僕の世界では考えられない概念です」 感心しきりという体のキラに俺もだ、と笑いかけ、使った道具を片付ける。 アムロがキラ、アイビスと合流した後。 Jアークは集合予定地であるE-3へと移動し、ロジャーの帰還とナデシコの来訪を待っていた。 D-3に留まるよりも、地図を縦に貫く道の方が誰かが通る可能性があると三人の意見が一致したからだ。 機体の整備は終了。酷使したF91のメンテナンスが長引きそうだったのでネリー・ブレンを洗ってやることにしたのだが、思いの他リラックスできた。 予想より時間がかかってしまったが、ともあれこれで首輪の解析に取り掛かれる。 機材に放り込んでおいた首輪を見やる。 トモロがざっとチェックしたところによると、首輪そのものの材質はただの鉄らしい。 やはり怪しいのは内部をスキャンできなかった赤い宝玉。爆発を制御する役割を持っているとすればここだろう。 分解できれば手っ取り早いのだが、最初の場所でアルフィミィと名乗る少女は「力づくで外そうとしたり強い衝撃を与えると爆発する」と言った。 果たしてその条件が死者から取り外された首輪にも適用されるのかは分からないが、一つしかないサンプルを失ってしまっては笑うに笑えない。 現状物理的に外す手段がないとなると、プログラム的な面で攻めるしかない。 禁止エリアに侵入したり24時間の制約があることからして、首輪は単なる時限式の爆弾ではない。 条件を判定するための何らかの発信機なりAIなりが搭載されているのだろう。 それを押さえることができれば、爆発指令を止めつつその間に首輪を解体できるかもしれない。 キラにF91の整備を任せたのは、本人が言うだけありプログラミングがアムロより上手だったからだ。 最終的なチェックはアムロが行うものの、アムロ本人がやるより数十分は早く終わったことは間違いない。 キラなら時間をかければ首輪の解析も可能かもしれない。ここからはその時間をどれだけ取れるかがカギになる。 キラに声をかけ、交代してF91のシートに座る。キラの調整したシステムをチェックしようとして、バイオコンピューターを立ち上げたところ―― 「ん? これは……」 数時間前にガウルンと戦ったときと比べ、意識が拡大する感覚は収まっている。 今はあのときのように1エリア全域を知覚するようなことはできない。だが、その知覚範囲の外から何かが向かってくると感じることができる。 その何かの発する気配が大きすぎるのだ。アムロの感覚を遠くまで見える目だとすれば、その何かは山や塔など背の高いものというのが近い。 「キラ、F91を出す。君はブリッジに行ってくれ」 首輪の解析を始めようとしていたキラは怪訝そうに見返してきたものの、何も言わずに走っていった。 彼が格納庫から出たことを確認して、ハッチを開ける。 甲板に出てブリッジに回線を開く。 「アイビス、今から俺の言う方向へ向けて探知波を集中させてくれ。何かが来る」 □ ナデシコが収束させた重力波を解き放つ。受けるJアークの展開したジェネレイティングアーマーは貫かれ、船体が圧壊していく様を呆然と見つめる。 ダメージリポート――大破。 崩れゆくJアーク。内部から炎が吹き上げ、一際大きな爆発が起こる寸前。 『戦闘終了。アイビス、君の13敗目だ』 無常に告げるトモロ。同時にモニターの中、Jアークの最期の瞬間を示す映像も消える。 言い返す気力も湧くこともなく、アイビスはコンソールに突っ伏した。 戦闘シミュレーション。だがそのあまりにもリアルな光景に、実戦ではなくて本当に良かったと思う。 「無理……私には無理! 戦艦の操縦なんてできないよ」 『たしかに、君には素養がないと言わざるを得ない。ここまで見事に連敗を喫するとは、私の想定外だった』 淡々とした声にさらに落ち込む。元々アイビスは機動兵器乗り、得意分野は高速域での機体制御だ。 戦場全体を大局的に見通すことや、敵の次の手を読んで戦略戦術を構築することなど不慣れもいいところ。 一通りの操縦の仕方はマスターしたものの、いざ戦闘となればやってみせる自信はまったくと言っていいほどなかった。 『さあ、14回目だ。今の戦闘の問題点を踏まえて、最良の判断を下せ』 「あうぅぅ……わかったよ。やればいいんでしょ、やれば」 顔を上げモニターを見据える。相手として選んだナデシコは、この13戦の間一度として轟沈していない。 トモロが思考レベルを高めに設定していることもあるが、やはり畑の違うアイビスには荷が重かった。 それでもやるからには手は抜かない。持ち前の生真面目さからか、意気込んでコンソールへと手を伸ばす。 そしてトモロが戦闘開始を告げようとした瞬間。 『アイビス、今から俺の言う方向へ向けて探知波を集中させてくれ。何かが来る』 アムロから通信。返事をする前にトモロが即座にシミュレーションを終了させ、指示を実行する用意を整えた。 アムロの言う通りに探知波を東……やや南東へと集中させる。しかし、特に何かを検知することはなかった。 「トモロ、何か見つけた?」 『いいや。索敵エリアに反応はない』 アムロの勘違いだろうか。問いかけようとしたところで、キラがブリッジに入ってきた。 どういうことかと目で問いかけたが、彼もわからないと言いたげに首を振る。 『キラ、Jアークを東に向けて移動させてくれ。アイビスはネリー・ブレンで待機だ』 「え、いやちょっと。敵が来たの? こっちは何の反応もないんだけど」 『敵かどうかはわからん。ただJアークの探知波を利用してF91のセンサーで長距離まで索敵したが、何かが来るということははっきりわかった。 よほど興奮しているのか……荒々しい気配だ。先手を取られる前にこちらから迎えに行きたい』 納得がいき、シートをキラと交代する。そのまま格納庫へ向かうべくブリッジを出ようとしたところで、 『この感じ……俺は、この気配を知っている……?』 そんな、独り言のようなアムロの声が聞こえた。 □ E-4、一軍が通れそうなほど幅を持つ大道の上で、J[アーク、F91、そしてネリー・ブレンは接近する反応を待ち受けていた。 やがて彼方から一機の戦闘機が姿を現す。こちらから100mほど離れたところで停止し、人型へと変形した。 その変形のプロセスを見て、キラはオーブで交戦した地球軍の新型を思い出す。 知人のオーブ軍人キサカが調べてくれた情報では、GAT-X370――レイダーだったか。 アスランの機体GAT-X303イージスの後継機らしいそれは、イージスをより発展させた可変機構を有していた。 しかし眼前の戦闘機――アムロはバルキリーか、と言ったが――が見せた変形は、更にその上を行っているような流麗さだった。 『こちらはカミーユ・ビダン。戦う気はない。そちらはJアークか?』 少年の声が聞こえる。感じからして自分とさほど変わらない年頃だろう。 そしてカミーユという名前には心当たりがある。アムロが仲間だと言っていた、ニュータイプと目される少年。 『こちらはガンダムF91、アムロ・レイ。カミーユ、無事だったか』 『アムロ大尉!? 大尉もここに来ていたんですか?』 『ああ……まあ、話は後だ。とりあえずJアークに来い。キラ、誘導を頼む』 「あ、はい。こちらはJアーク、キラ・ヤマトです。誘導します、着艦して下さい」 青い機体が着艦する。続いてF91、ネリー・ブレンも。 数分後、ブリッジに四人が集まった。 自己紹介を済ませ情報を交換しようとしたところで、先にカミーユが切りだした。 「早速で悪いんだが、基地へ向かってくれないか? あそこには今主催者の側の敵がいるんだ」 「何? 奴らが介入してきて基地を押さえたというのか?」 「……はい、そうです。どこかへ移動される前に叩かなきゃならない。一人じゃ手に余るから、力を貸して下さい」 「いや、待て。まずは情報を交換してからだ。どのような経緯でそんなことになったんだ?」 カミーユという少年はアムロの知り合いだというから、アムロが会話の進行役であるのは何ら不満はない。 だが、カミーユは敢えてキラを見ないようにしている――そんな気がする。 時折り向けられる視線は鋭いものだ。まるで警戒されているような。 まずアイビスがここに来てからの顛末を語りだす。 途中でアムロと合流し、共闘するようになったくだりで。 「じゃあ、あなたはクワトロ大尉と一緒にいたんですか? それなのに、あの人を守れなかったんですか!」 「……その通りだ。俺のミスだ、済まない」 「あの人が地球圏に取ってどれだけ必要な人だったか、あなただって知っているでしょう! なのに……ッ!」 カミーユが激しくアムロを責め立てる。シャアという人は二人の共通の知り合いで、彼らの世界では重要な人物だったらしい。 アムロは言われるがまま反論しない。仲裁しようと足を踏み出すも、 「待ってよ! アムロは私達を逃がすために戦ってたんだ。悪いのは、助けてもらってばかりだった私の方だ!」 アイビスが割って入った。カミーユは彼女を睨みつけたものの責めはせず、一つ息をついて話の続きを促す。 「彼女たちと別れた後、俺はブンドルという男に会った。お前も知っているだろう?」 「ブンドル……サイバスターに乗ってた人ですね。そういえばマサキが追って行ったけど、あいつはどこにいるのかな……」 カミーユが何気なく呟いた言葉にキラは身を固くした。マサキと言ったが、彼は放送で名前を呼ばれた。聞き逃したのだろうか? だとすれば、これはキラから告げなければならない。 アイビスとアムロが一通り説明を終えて。 マサキの名前を出した途端、逸らしていた顔を向けられる。 仲間たちと出会い、別れ。誤解からダイやナデシコと戦い。 そしてロジャー・スミスとの交渉の末彼に二つの依頼をしたこと。 ここに多くの人を集め、ナデシコと和解すること。そのために今はロジャーと別行動していること。 その後アイビス、アムロと合流し、今に至るまで。一連の顛末を語り終え、最後に二回目の放送でマサキの名前が呼ばれたことを伝えた。 カミーユは唇を噛み締め、拳を壁に叩きつけた。彼はカズイと会っていたらしいが、これで初期の仲間は全滅したのだ。気持ちは痛いほどわかった。 「……次はカミーユ、お前の番だ。基地で何があった?」 アムロに促され、カミーユが語り出す。 基地に多くの人が集まり、崩壊し、そして彼の仲間がアインストとなったこと。 キラ達がダイ、ナデシコといった戦艦を所有する集団と交戦していた間、あの基地でも壮絶な戦いがあったようだ。 たしかに放置できない事態。キョウスケ・ナンブという男は早急に駆逐せねばならない――だが。 「……悪いけど、今すぐ動くことはできない。ナデシコと和解してからじゃ駄目かな?」 「そんな悠長なことを言ってられる状況じゃない! 今この瞬間にだって、あの人は誰かを襲っているかもしれないんだ!」 「君の言ってることもわかるけど……主催者に繋がる敵なら、それこそ万全を期して当たるべきだ。ナデシコの戦力を加えてからの方がいいよ」 「万全? 話を聞いた限りじゃ、ナデシコを先に撃ったのも、ダイって戦艦を誤解して戦闘を仕掛けたのもお前からじゃないか。それでよく和解したいなんて言えるな。 大体向こうがそんな相手と対話してくれるって本気で思ってるのかよ。罠を疑って来るかどうかも分からないのに」 「ロジャーさんなら、きっと彼らを連れてきてくれます。その後は……まだ、何とも言えません」 「……話にならない。アムロ大尉、行きましょう。俺とあなただけで十分です」 舌打ち一つ、カミーユは興味が無くなったとばかりにキラからアムロへと向き直った。 「俺にも、基地でブンドルと合流する約束はあるが……いや、やはり今は駄目だ」 「どうしてです!?」 「ブンドルなら基地でそのキョウスケという男に襲われたとしても切り抜けるだろう。その後、彼が目指すのは俺が向かうと言っておいたD-3の市街地だろう。 サイバスターのスピードなら今頃基地へ到達していてもおかしくはない。生きていれば、やがて落ちあえるはずだ。 ……こういう言い方はしたくないが、ブンドル一人とナデシコとなら、俺は後者と合流することを優先する。彼もそれを望むだろう」 しかしアムロは断った。ナデシコとの交渉の時、彼がいてくれれば心強い。その申し出はありがたかった。 カミーユは苛立った様子で足元を蹴りつける。 「だったら、結構です。他の人を探しますから」 言い捨て、ブリッジから出て行こうとするカミーユ。キラは慌ててその前を塞いだ。 「どこに行くんですか!? 一人で行動するのは危険ですよ!」 「俺がどうしようとお前には関係ないだろう」 「待て、カミーユ。俺が基地へ行かないもう一つの理由はお前だ。少し冷静になれ」 「俺は落ち着いてます!」 「そう見えないから言ってるんだ、ここに来るまでにだいぶ消耗しているだろう。そんな状態では誰と戦っても勝てる見込みはないぞ」 そう、傍目から見てもカミーユは憔悴している。なのに意識だけがギラギラと研ぎ澄まされているような、危険な状態だ。 それは自覚していたのか、押し黙ったカミーユ。一つ息をついて、 「補給したら適当にどこかで休憩を取ります。それでいいでしょう」 「休憩するなら、ここで」 「お断りだ。アンタ達の夢みたいな理想論につき合う気はない」 アイビスの提案をばっさりと切り捨てて、キラを手で押しやるカミーユ。 背中を壁にぶつけた痛みよりも、気になったのは。 「理想論……かな?」 呟いた言葉を聞きつけたのか、カミーユが振り返った。 「たしかに皆が手を取り合えるならそれが一番いいさ。でもこの世界では弱ければ死んでいくんだ。必要なのは、理想を叶えるための力だ。 ただこうしたい、ああしたいっていう言葉じゃない。もしナデシコが来たとして、交渉が決裂したらお前はどうするんだ? 相手は撃ってくるのに話し合いましょうって言い続けるのか? 違う、守るための力は必要なんだ。たとえそれが、誰かの命を奪う力でも」 一気にまくし立てられる。それはキラがここに来る前からもずっと考えていたことでもあった。 守るための力は必要――その通りだ。和解だ交渉だと言ったところで、それを言う前に倒されては何の意味もない。 だからこそ―― 「……じゃあ、カミーユ。僕にその力が、理想を叶えるだけの力があるって証明できれば、協力してくれる?」 「何?」 「君と戦って、殺さずに止められるかどうか。僕が勝ったら、一緒に来てほしい」 考えるより先に口が動いた。 戦いたい訳ではないが、今の彼とわかり合うためにはそれが必要な気がしたから。 「アムロさん、F91を貸して下さい。Jアークはさすがに使えないから」 「ちょ、キラ!?」 「……いいのか? 何なら俺がやってもいいが」 「いえ、僕がやらなきゃいけないことですから。……どうかな、カミーユ?」 「いいさ、やってやる。俺が勝ったらこのまま基地へ向かってもらうぞ」 「うん、わかってる。君一人を説得できないようじゃ、ナデシコと和解するなんて無理だろうしね」 こうして、急遽キラとカミーユの模擬戦――使うのは実弾だが――を、行うことになった。 □ 場所は変わってD-3市街地。キラがラクスの眠る場所を戦場にするのは嫌だという訳で移動したのだ。 補給ポイントにてVF-22Sの補給が完了。これで準備は整った。 振り返れば白い小型のガンダム。カミーユの愛機Zガンダムより二回りは小さいが、変形せずに飛行するところをみるとよほど高性能のようだ。 アムロはJアークにて周辺の索敵を担当している。横槍を入れてくるものがいないかどうか警戒するためだ。 アイビスという少女は自分の機体で待機している。念のためと言っていたが、キラの援護をするためだろうか。 「いつでもいいよ」 当のキラから通信が入る。 これから戦うというのにその顔には特に気負った様子もなく、少なくとも自分と同じかそれ以上の戦闘経験があるのだと感じさせる。 操縦桿を握る腕に力がこもる。 先に交戦したワイズマンやテニア、模擬戦とはいえある意味彼らと戦ったとき以上に負けられない戦いではある。 「すぐに終わらせてやる」 呟いて、機体を加速。 あの機体は本来アムロの乗機らしい。この先基地に向かうことを考えると、不用意に傷つけるわけにはいかない。 バトロイド形態のまま市街地を駆け抜ける。 F91がビームライフルを掲げるのが見えた。咄嗟に廃ビルの陰に機体を潜り込ませる。 閃光は虚空を貫き、後方のビルに直撃。大穴を開け、粉塵をまき散らした。 どうやらあのライフルはカミーユの体感してきたものとは次元が違う。Zのビームランチャー並とまでは言わないものの、一発でもまともに受ければそこで終りだ。 ビル陰から躍り出る。 すかさずビームが飛んできた。ピンポイントバリアを左腕部に集中させ、簡易シールドとして用いる。 力場にビームが衝突。だが、圧縮された力場はなんとかビームを弾いてくれた。 右腕にガンポッドを構え射程内に入るまで前進しようとしたとき、F91の両腰に新たに砲身がせり出しているのが見えた。 その間も変わらずライフルの砲撃は続いている。バリアを強め、構わず突っ込む。 F91の砲身が輝きを灯す。 ぞくり、と背筋を駆け上がった悪寒に突き動かされ、バリアを機体側面に展開しそのまま左手のビルに突っ込んだ。 舞い散るガラス、崩れたビルの残骸の中で衝撃に呻くカミーユの視界いっぱいに、純白の光が満ちる。 傍らを駆け抜けたビームはさっき破損したビルにまたも直撃し、だが今度はその後方のビルいくつかまでも諸共に消し飛ばすのが見えた。 凄まじく高出力のビームだ。あれはいかにバリアを集中させても防げない。 が、一度見たからにはそう易々とは当たるわけにはいかない。 発射されたと認識してから回避できたところからするに、弾速そのものは速くはない。 そして腰部から回転するようにせり出した砲身は、その構造上腰から上は狙い撃てない。 ならばとビルから飛び出しざまファイター形態に変形、瞬く間に空へと駆け上がる。 十分な距離を取ったところでバトロイドへ。太陽を背にオクスタン・ライフルを構え、地上のF91を狙い定める。 モードB、実体弾をセレクト。 F91はヴェスバーを納め、ビームライフルを片手にジャンプ。高架の上に陣取り、迎撃の態勢を見せた。 実体弾とビームが交錯する。 陽光に目が眩んだか、先程より狙いが甘い。バリアを使わずとも回避できた。 対するキラも、巧みに機体を操り弾丸を避けていく。地上での加速性能はバトロイド形態のVF-22Sより上かもしれない。 この距離ならビームライフルの回避は容易いとわかった。ライフルをモードEに変更、余裕を持ってチャージを開始するカミーユ。 と、F91が大きく後退する。そして高架の端に来たところで、猛然とダッシュをかけた。 そのままくるりとターン――地面と水平に。背面跳びの姿勢のまま、高架の上をなぞるように滑空していく。 何を、と思った瞬間に気付く。ヴェスバーがこちらを狙っている! だがカミーユは、あの低速のビームならかわせると判断しチャージを優先。 動きの止まったVF-22S目掛け、F91のヴェスバーが解き放たれる――細い針のような、高速のビームの嵐。 「うわあっ!?」 全身を包むよう展開していたピンポイントバリアを貫かれ、張り出した肩の装甲が吹き飛んだ。 衝撃に機体が傾ぎ、チャージ中だったオクスタン・ライフルが手からこぼれ落ちていく。 カミーユは自分の認識の甘さを思い知った。 あの武装は低速・高出力のビームだけでなく、高速で一点に集中された貫通力の高いビームも撃てるということか。 そして、キラ・ヤマト。あの不安定な姿勢から、上空の点のようなVF-22Sを正確に狙い撃ってきた。 こいつは――強い。遅まきながらもそう思い、気を引き締め直す。 しかし、そんな思いは霧のように掻き消える。F91が落下するオクスタン・ライフルを拾い上げ、構えるのが見えたからだ。 チャージ中だったライフルの出力は既に臨界目前にまで達していた。 数秒間を空けた後、赤い閃光がカミーユ目掛け放たれた。ビームの濁流が迫る、だがそんなことよりも―― 「――お前が、それを使うなッ!」 意識が赤い靄のようなもので塗り潰された。 キョウスケから託されたものを、撃ち貫く槍を――俺に向けるのか、と。 脚部のスラスターを全開にし、弾かれるようにビームを回避する。 無理な姿勢での強引な機動に一瞬気が遠くなる。 だが沸き上がる怒りがそれを封殺し、腕は考えるより早く操縦桿を倒す。ファイターへと変形、F91に向けて逆落としに突撃していく。 威力がありすぎるのを嫌ったか、F91はモードBにて迎撃を図る。 相対的に凄まじい速度になった弾丸を、だがカミーユは、 「当たるものかッ!」 機体を僅かにロールさせ、弾丸の通り道を開けてやるようにかわしていく。 弾丸と弾丸の隙間を縫うように――ただの一発も被弾しない。 一気にガンポッドの射程に入る。だが、カミーユはそれを使わない。 激しく揺れるレティクル、その中央のF91目掛け。 寸前でガウォーク形態に変形、体当たりを仕掛けた。 「それを……返せぇッ!」 激突の瞬間、F91が一瞬早く機体を引いた。 F91の頭部のバルカン砲が展開するも、撃たれない。 この距離で撃てば確実にカミーユのいるコックピットへ直撃する。機体の接触を通し、キラの躊躇いの声が聞こえた。 その隙を見逃さず、VF-22Sは左手でライフルを掴み、残る右手で思い切りF91を殴りつけた。 胴部を強打され、F91が吹き飛んで行く。 カミーユは追わず、バトロイドに戻した腕でライフルを構える。チャージした分のエネルギーは3割ほどしか消費されていない。 離れていくF91に向けて叩き込む。もはや手加減や機体を傷つけずに、などという考えは失せていた。 F91が着弾の寸前、右腕を突き出した。手甲の部分が輝き、ビームで形成されたシールドが展開する。 VF-22Sのピンポイントバリアと似たようなものかと推測。だが関係ない――破壊するだけだ。 ライフルを落とし、両腕にガンポッドを構えた。噴煙の中うっすらと光るF91のシールドへ向けて、乱射する。 風が煙幕を吹き払う。F91は地面に膝をつき、なんとかシールドの範囲内に機体全てを納めていた。 完全に捕らえた、これでF91は一瞬でもシールドを解除すればズタズタに引き裂かれる。 模擬戦ならば勝ったとみていい状況で、しかしカミーユの引き金を引く指は固まったかのように動かない。 時折りビームライフルを握る腕を突き出し、牽制の砲撃を返してくるからだ。 F91はまだそこにある。キラはまだ生きている。 なら、破壊するだけだ。カミーユの目の前から、意識から、記憶から。ただの一つの欠片もなく、完全に消え去るまで。 一枚の絵画のように静謐に、ただひたすらに撃ち続ける。 □ 「ねえ、止めた方がいいよ! これ模擬戦なんかじゃない! 二人とも本気で戦ってる!」 Jアークのブリッジに、アイビスの焦りに彩られた声が響く。 アムロの見つめるモニターの中では白と青の機体が激しく砲火を交わしている。 その一射一射にひやりとする――直撃すればただでは済まない威力。 アムロとしても、これ以上続けさせるべきではないか、とは思う。だがもしここで止めれば、カミーユは即座に行方を眩ますだろう。 今の彼を一人にはしておけない。さりとて、シャアを死なせた自分の言葉は、カミーユには届かない。 キラに任せるのは大人として心苦しいが、この中でカミーユの気持ちが一番理解してやれるのもキラなのではないかと思うのだ。 歳の近さ、戦いに身を投じるようになった環境、経緯。そしてここに来て大事な人を失った悲しみ。 アムロならある程度心の奥に沈めておけるそれも、未だ若い二人には酷なことだろう。 鬱憤を吐きだす意味でも、秘めた思いを全力でぶつけあうことは有効だ。 ただし、命を奪わない範囲では、だが。 カミーユはともかく、キラも引きずられて熱くなっているように見える。やはりここは止めるべきか―― 『ミサイルランチャー、反中間子砲ともに補給は完了している。いつでも介入は可能だ』 トモロの声。彼もやはり静止すべきと考えているのか。 「……アイビス、待機だ。横槍を入れるなよ」 「ッ、アムロ!」 「キラを信じろ。彼なら負けはしない……最悪の結末は来ないと信じるんだ。トモロ、砲撃準備は解除だ。二人の気を散らすな」 逡巡を呑み込み、指示を出す。了解、とトモロ。続くアイビスの声は納得などしていないようで、何故だと必死に問いかけてくる。 「俺達はキラの理想を信じてここにいる。これはキラの力と想いを試す試金石でもある。 正義のない力がただの暴力であるのと同じように、力のない正義はただの理想論だ。どちらが欠けてもいけない……」 もしここでキラがカミーユに破れる、あるいはカミーユを殺してしまうようならこの先で生存者をまとめていくことなどできるはずもない。 カミーユほどその力を見知っているわけではないが、それでもアムロは信じられると思っていた。 キラはまだ16歳という若さで戦うことの重さを知っている。かつて自分も通った道、その辛さは誰よりも知っているつもりだ。 だからこそ、彼と戦うことでカミーユにも新たな道が開けることを望む。 見守ることしかできない自分に歯痒さを感じつつも、アムロは拳を握り締めモニターを見つめ続けた。 □ F91は動けない。 シールドがそろそろ限界だ。かといって、今解除すればあっという間にハチの巣にされる。 ヴェスバーを使える体勢ではない。どうにかビームライフルで牽制するのが精一杯だ。 考える。F91の武装でできることを。 考える。地形の情報、自機の位置、敵機の位置。 警告音。ビームシールド使用限界まであと5秒―― 「迷ってる暇なんてないじゃないか……!」 右手のビームライフルを戻し、代わりにビームサーベルを構える。同時にバルカン砲、メガマシンキャノンをスタンバイ――ここで一秒。 地面に押し当て、出力を上げて発振させた。やはり同時にバルカン、キャノンを地面に向けて叩きこむ――さらに一秒。 膝をつくF91の周囲、円を描くように腕を回す。砕かれ、ドーナツ状に焼き切られた高架は、ミシミシと音を立てる――二秒かかった。間に合え……! シールドが限界を迎えた。無防備になったF91を睥睨するVF-22S。 ガンポッドから弾倉が吐き出され、新たなそれが挿入される。 構えられたそれが火を噴く、その一瞬前に。 「このぉおおおおおッ!」 座り込んだまま下方向へ向けて加速するF91。足元に凄まじい負荷がかかる。 ビシッ、という音の後。 地面に地割れのようにヒビが広がり、F91ごと砕け、落下していく。 高架を挟みVF-22Sの姿が見えなくなる。この一瞬が考える好機だ。 先程、落下してきたライフルを掴んだ時からカミーユは別人のように鋭い動きを見せてきた。 その後の攻防でこちらを撃破することよりもライフルの奪回を優先したことから、何らかの思い入れがあるものにキラは触れてしまったのだろう。 スイッチを入れてしまった、というの正しいのだろうか。 ともあれ、何とか互角に戦えていたはずがこのままでは一気に押し込まれそうだ。 全力を出し切らねば勝てない――どころか、命も危うい。 F91はいい機体だ。カミーユの機体に、決して負けてはいないだろう。 ではキラがその性能を十二分に発揮できているか――否。 今この機体はアムロが乗ることを想定したセッティングのまま戦っている。 変更する時間もなく、またその必要もないと思っていたからだが……もうそんなことは言っていられない。 VF-22Sに追い詰められる前に、OSを書き換えねばならない。 そして、もう一つ。バイオコンピューターだ。 このガンダムF91に搭載されたバイオコンピューターは、人と機械の仲介を果たす役目を持っている。 操縦者の意志を機体が感じ取り、また機体のセンサーが感知した情報を文字や映像という過程を経ず操縦者に直接フィードバックする。 肌で敵の存在を感じる、というのだろうか。機体と一体になるという点で画期的なシステムと言えるだろう。 だがそれに対応できるのは、一握りの人間だけ。 普通の相手ならそれでもカバーできる。だがカミーユ相手では、僅かな情報の取りこぼしがすなわち敗北につながることになる。 常人ではバイオコンピューターのもたらす情報を処理しきれないのだ――拡がっていく感覚を自然に受け入れることのできる、ニュータイプと呼ばれるものでもなければ。 そしてその素養はキラにはない。いかに反射神経や思考速度に優れていようと、コーディネイターに人知を超える超常的な力はないのだから。 だが、構わないとキラは思う。足りないのなら、別の方法で補えばいい。 バイオコンピューターが全方位から情報を伝えてくるから、捌ききれない。 「だったらッ!」 コントロールパネルを引き出す。膝の上で固定、どんなに揺れても動かないように。 同時にヴェスバーを高速連射モードに。フットペダルを蹴り付け、スラスター出力を上げる。 右手でグリップを握る。ライフルとヴェスバーの同時制御。 そして左手をパネルの上へ。 指先がキーボードの上を跳ね回り、速射砲のごとき勢いでタイプする。 高架を回り込み、青い影が迫る。槍のごときライフルを、突き刺さんばかりの勢いで振り上げ、構える――その前に。 二門のヴェスバーが閃光を放つ。重く収束されたビームではなく、軽く拡散する光のシャワー。 機を逸したバルキリーが後退する。時間を稼いだ。何秒、と考える暇もない。 洪水のように溢れる情報の取捨選択。並行して、OSのブラッシュアップ。 動作プログラムをチェック。遅い、これなら自分で動かす方が早い。必要ないと思われるプログラムを凍結、少しでも手間を減らす。 新たなウィンドウが現れ、目を通すと同時に処理。表示されてから消えるまで2秒間。 眼球が絶えず動き回る。もどかしい、両手が使えたらもっと速いのに。 ちらと見えたモニターで、その原因が銃を向けている。あの長物はビームと実体弾を使い分けることができるらしい。 ろくに狙いも定めず撃ち放たれるヴェスバーを易々とかわし、そのライフルが火を吹いた。 機体を囲むように弾が散らばり、逃げる空間が潰された。動きが止まり、そこへ満を持してF91へ向けて放たれる弾丸。 ビームライフルが貫かれた。咄嗟に放り捨て、シールドを展開。爆風から身を守る。 衝撃に歯を食いしばり、敵機を見据える。そのライフルの先には、赤い光が灯っている――高密度のビーム。 シールドでは受け止めきれないだろう。かわすしかない、が銃口は糸でつながったようにこちらを追尾する。 動きを読まれている。もっと速く動かなければ。 牽制のヴェスバーをばらまく。敵機は縫うように避けていく。 警告、砲身の加熱。冷却のためヴェスバーが沈黙した。同時に敵機も回避の必要がなくなり、完全なる狙撃の体勢を取る。 撃たれる。負ける。死ぬ―― 刹那にも満たない時間。キラの脳裏をよぎる、親友の顔。ただひたすらにお互いの命を奪い合おうとした、アスランの。 今のカミーユは、あのときの自分たちと同じだ。戦うことで、目の前の敵を排除することで何かが変えられると信じている。 そして、いつか行き着く先に何もないことを知る。それを思い知ったはずなのに、また同じことを繰り返そうとしている、自分。 死とは解放である。その身に背負った業も、後悔も。すべて消える――楽になれる。 アスランとラクスもそこにいる。なら、いっそ。 光が膨張し、一直線に伸びてくる。その向かう先はF91、キラのいるコックピット。 全てがスローをかけたように感じられ、キラは笑った。これで終わる、そんなことを考え。 「認めない……そんなことはッ!」 甘い夢のような弱い考えを、意志の力でねじ伏せる。 そして、頭の中で何かが弾けた。 思考が冴え渡り、圧倒的な全能感が体を包む。迫る荷電粒子、撒き散らされるその一つ一つを知覚できるような気さえする―― F91の右腰にあるウェポンラック。予備のビームシールドを掴み、放り投げる。 濁流のようなビームに、シールドは展開と同時に貫かれた。一瞬、だがそれで充分。 そしてF91の左手にはビームサーベル。リミッター解除、最大出力。焼き付いたって構わない。 過剰なエネルギーを供給され、剣と言うより槌と呼ぶにふさわしいビーム力場。 叩きつける――シールドを突破し、減衰したビームへ。 凄まじい負荷。表示される情報、現状のままならサーベルの溶解まで残り6秒。 待ち望んでいた膠着の瞬間。右手を固定したグリップから離す。左手も追随、存分に動かす。 4秒が過ぎ、5秒が過ぎ。唐突に負荷が消え、そのまま振り切ったサーベルには刀身がなく柄頭が溶けていた。 灼熱の奔流を切り裂いた代償だ。が、代わりに得た物は大きい。 今の一撃にカミーユも勝負を賭けていたようだ。呆然としたように動きが止まっている。好都合。 先程から組み上げていた情報を連結。新しいプログラムの構築――完了。 全方位からではなく、一か所から。 歩く歩幅を小さくしても、足を踏み出す速さを上げれば最終的な速度は変わらない。 センサーのもたらす情報を全て言語化しモニターへ表示する。機体管制と同時に無茶な処理を押し付けられたOSが悲鳴を上げた。 このOSはそのような使い方は想定されていない。警告表示が画面を埋め尽くす、その前に。 「これで……応えてくれ、ガンダムッ!」 プログラムのインストール――終了。 モニターを占拠する警告表示が一斉に消えた。代わって一つ、生み出されたウィンドウ。 『プログラム稼働率95%。未定義情報の処理を開始』 表示される文字の羅列。だがそれは一瞬で別の文字に切り替わる。その文字が残るのもまた、一瞬。 しかし、キラの鋭敏な視覚はそれを捉える。 バイオコンピューターの感知する感覚的情報、その全てをこうして具現化する。常人が確認すらできないそれをキラは次々と把握し、理解する。 頭の中がひどくクリアになっている。現れては消える情報も、全て読み取れる―― カミーユが動き出した。ライフルを構え、突進してくる。エネルギーが尽きたか、実体弾の乱射。 だが、今度はかわせた。先程とは違い、銃口の向きで射線が読み取れる。 しかもあれだけの長物だ、両手で保持するその姿は実に読みやすい。 ライフルの動きを注視し、発砲の一呼吸前に回避運動。一瞬前のF91の位置を弾丸が通過していく。 読まれやすいライフルで仕留めることは無理だと悟ったか、バルキリーがライフルを放り捨てた。そのまま戦闘機へと変形し、急速に距離を詰めてくる。 アムロが最初に乗っていたバルキリーにはガンポッドとミサイルが装備されていたという。なら、あの機体にも同じかそれ以上の武装があるはずだ。 射線が読まれるのなら物量で押す、正しい判断だ。 F91の武装は今やサーベル一本にヴェスバーのみ。そして取り回しの悪いヴェスバーでは対応できない。 「これで終わりだッ!」 「まだだ……まだ終わりじゃない!」 咆哮とともに、F91が光を放つ。フェイスオープン、放熱フィン展開。 バイオコンピューターは最大稼働率を示している。 輝きとともに機体表面の装甲が剥離、MEPE現象が発動した。 バイオコンピューターはサイコミュ的装置ではなく、必ずしもニュータイプを必要としない。 その機能を完全に引き出せるのはニュータイプくらいだということだ。 なら、ニュータイプでなくともニュータイプ並みの力を持つ者なら、その能力を使いこなすことは、可能。 波間に消える泡のような情報を余すところなく読み取っていくキラの情報処理速度は、F91の全力稼働に耐え得ると――ニュータイプに比肩しうると、バイオコンピューターは認定した。 故に、F91はその力の全てをキラに委ねる。金色の輝き、人の可能性の体現を。 幾重にも重なるF91の虚像がVF-22Sを取り囲む。 「なんだ……分身!?」 「カミーユッ!」 「やらせるかッ! いくら見える数が増えたって、本物は一つだけだ!」 だが、驚いたことにカミーユは十数のF91の中から正確にこちらを狙い撃ってきた。 シールドで弾丸を受け止める。分身に惑わされてはいない。 効果がないわけではないだろうが、この様子では少ないと考えた方がいい。 今のF91の機動力は愛機フリーダムと互角かそれ以上のはずだ。なのに決定的な差とならない――やはりカミーユは強い。 己に一層の注意を喚起するキラ。サーベルを構えバルキリーへと躍りかかる。 もうエネルギーは残り少ない。勝負をかけるなら今だ。 カミーユも同じ考えなのか、人型へと変形。正面から向かってくる。 VF-22Sのピンポイントバリアパンチ。ぎりぎり拳が届かない位置へと、半歩機体を引かせる。 連続する分身。そこには変わらぬF91の姿――いかに分身に惑わされずとも、視覚的な情報を全て遮断することはできない。 F91に届く寸前、VF-22Sの腕が伸び切った。その腕を斬り飛ばすべくサーベルを振り下ろそうとした瞬間。 分身を突き抜けてくる何かを感知。高速の熱源、ミサイルだと推測。 とっさにバルカンで迎撃するも、その間にVF-22Sは後退していた。 追撃のヴェスバーを放つ。VF-22Sは再びファイター形態へと変形、機体を傾けることでヴェスバーの間をすり抜けた。 交差するように放たれた二条のレーザーをサーベルで弾く。 上方から回り込むように向かってくるVF-22S、射角を下にとるヴェスバーでは狙い撃てない。 メガマシンキャノン、バルカンを一斉掃射。閃く火線に捕らえられる寸前、VF-22Sが足を投げ出す――ガウォーク形態。 本来は地上戦用の形態ではあるが、重力制御を駆使した機動は空中にあったとて何らマイナスになり得ない。 変則的な機動で振り切るようにかわされ、返礼としてガンポッドが凄まじい量の弾丸を吐き出す。 さすがにこれは斬り払えず、シールドを展開する。一瞬の後、キラは動きを止められたことに気付く。 一気に接近戦の距離へと潜り込まれた。VF-22Sの上半身が持ち上がりバトロイド形態へ。 「墜ちろォッ!」 拳が迫る。キラは機体を半身に傾け、拳の内側――敵機正面へとぶつからんばかりの勢いでF91を前進させた。 ピンポイントバリアパンチがここで炸裂すれば危ないと直感したか、カミーユは咄嗟にバリアを解除した。 空の拳が肩口を叩く。損傷――問題ない、このまま行ける。サーベルを放棄し、F91は舐めるような動きでバルキリーの側面へ。 カミーユを殺さず、また自分も殺されないで戦闘を終わらせるためには。 「ここだ……勝負だ、カミーユ!」 F91がVF-22Sに組みついた。そのままスラスターを全開、地面へ向かって降下する。 「何をする気だ、お前!」 「君を止める、それだけだ!」 VF-22Sも黙ってはいない。ブースターを吹かし、上昇しようとする。 推進力は異なる二つのベクトルを示し、絡み合う二機は無秩序に空中を動き回る。 制御できない運動に、その中心にいる二人の少年は苦悶の声を上げる。 「うわあああああッ!」 「ぐ、くうっ……ッ!」 まるで何百年も前に流行ったというUFOのような軌道を描き、ガンダムF91とVF-22Sは地上へと落ちていった。 →獣の時間(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/34.html
護るために ◆tgy0RJTbpA 背の高い木々が乱立する森林がある。 その合間を縫うように陽光が差し込み、薄く森の中を照らしている。 光を受けるのは木々だけではない。 地にひざまずくようにしている緑色と白に塗り分けられた巨人が光の下にあった。 腕の外側、折り畳まれたアームが特徴的な巨人は森林に影を投げかける。 その影に隠れるように立っているのは黒髪の少年だ。少年は腕を震わせ、巨人を殴りつける。 「ざけんな……」 呟くような声だが、力ない声ではない。どこかから聞こえる川音を除けば、他に音は聞こえない。 風さえも、吹いてはいなかった。 「ざけんな、ざけんなッ!」 少年は巨人に思いをぶつけるかのようにして口を開く。まるで、呪詛の言葉を紡ぐようだ。 夢だと思いたかった。悪夢だと信じたかった。 だから、もう一度巨人に拳を叩きつける。返ってくるのは鈍い音と痛みだ。 あくまでこれは現実として、少年――神名綾人にのしかかる。 逃げ出したかった。だが、それは容易ではない。確かな戒めが、ひんやりと首に巻きついているからだ。 常に死神の鎌を首に当てられている。そんな感覚が、現実になったようだ。 とてつもなくリアルだった。 以前、ドーレムによって現実とは違う世界に送り込まれたことがある。 あのときは、リアルではなかったために心を掻き毟られた。だが、今は正反対だ。 あまりにも鮮明なリアリティが、綾人を掻き乱している。 不安だった。そして、その不安を共有出来る人はいない。自分は、一人ぼっちだ。 綾人は思う。朝比奈もこんな気持ちだったのだろうか、と。 そのことを考えた瞬間、綾人は弾かれたように顔を上げる。現実を恐怖するあまり、大切なことを忘れていた。 「朝比奈……」 呟くと、背筋がゾッとした。恐れが原因ではない。ここにいない人のことを想っての震えだ。 今、自分はここにいる。たった一人で、ここにいる。 ならば。 朝比奈浩子は、今も一人で震えているのではないだろうか。 あの部屋でたった一人、孤独と恐怖に押しつぶされているのではないだろうか。 自分たちの住んでいた世界が偽りの箱庭だったこと。心を許せる人がいないということ。 そして――青い血が流れているということ。 知らない世界で、そんなことを心に燻らせ、震えているのではないだろうか。 綾人は巨人に叩きつけたままの手を離し、見上げる。 こんなことをしている場合ではなかった。早く帰って、朝比奈のところに行かなければ。 生き残らなければならない。決めたのだから。必ず護ると、決めたのだから。 だから、戦おう。生き残って、元の世界へ帰ろう。 「護るんだ。俺が、朝比奈を」 力を込め、そう呟く。自分自身を鼓舞するために。決意を染み込ませるように。 「やってやる。やってやるよ……!」 綾人は巨人に乗り込む。護るために、戦うことを決意して。 【神名綾人(ラーゼフォン) 搭乗機体:アルトロンガンダム(新機動戦士ガンダムW Endless Waltz) 現在位置:B-5森林地帯 パイロット状態:健康 機体状態:良好 第一行動方針:帰るために他の参加者を探し、殺す。 最終行動方針:ゲームに乗る。最後まで生き残り、元の世界へ帰る】 【初日:12 30】 BACK NEXT 赤い彗星 投下順 人とコンピューター 仮面の舞踏会 時系列順 ホワイトドール BACK 登場キャラ NEXT 綾人 黄色い幻影
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/369.html
機体がビルの側面に叩きつけられるのをすんでのところでアムロは回避する。 スラスターを、オーバーヒートを起こさんばかりに放出し、どうにかF-91を破壊から遠ざける。 「これが……ノイ・レジセイアの力だというのか……!?」 圧倒的なほどの強さだった。 今、アムロ達は五機がかりでレジセイアに立ち向かっている。 だというのに、『戦っている』という実感すらなかった。 獣のような読めない動きと異常なまでの俊敏性。そして異常過ぎるスラスターの出力。 直撃を当てることはおろか、小技がかすることさえまれ。 だというのに、当たっても通じない。 しかも、再生機能までついている。 「ハハハ……それが……完全の欠片か……」 「言っている意味が分からないな!」 「分かる必要もない……」 蒼い孤狼のスラスターの横の姿勢安定用ウィングが展開。 鈍重に見える外見からは想像も出来ない程のスピードで疾走を始める。 先ほどシャギアがへし折ったはずの角が再生し、赤熱化だけに留まらず電光を纏い振り上げられる。 目の前で戦っていたフォルテギガスが、その目標だった。 回避が間に合わない。さりとて、援護も間に合わない。 フォルテギガスが腰をおろし、その場で姿勢制御用のフィンを展開した。 そのまま、角を避けて体当たりを仕掛けるつもりだとアムロには分かった。 大型機同士の大質量が衝突し、衝撃波で空気を震わせる。 だが、こう着の後吹き飛んだのはフォルテギガス。 全身から脱落した装甲を周囲にふりまきながら、車か何かにひかれた人のように吹き飛び大地を転がる。 身長は、フォルテギガスは蒼い孤狼の1,5倍もあるにも関わらずだ。 だというのに、フォルテギガスが痩躯の人間、蒼い孤狼は大型トラック。 それだけの差があった。 「脆い……無限ではない……!」 蒼い孤狼の背後に、バイタル・グロウブの僅かな歪みによる光が洩れた。 アムロもそれに合わせて、ヴェスバーを牽制に発射する。 重力を感じさせない軽やかな動きで何度となくアイビスのブレンパワードが切りつける。 着弾するヴェスバーをすり抜けるように何度も何度も。 蒼い孤狼は、その中笑っていた。 蒼い孤狼の左腕が、消える――いや、こちらの認識を超える速度で振るわれる。 バイタルジャンプによる回避は間に合わない。アイビスのブレンが一直線にビルへと激突した。 「ブレンパワード……似ているが……我ほど完全ではない……」 蒼い孤狼には、寸分のダメージも感じられない。 小柄なブレンやガンダムのそよ風のような攻撃では、孤狼という大木を揺るがすことはできない。 蒼い孤狼が、吹き飛ばしたブレンをカメラ追った隙に、 ブレンとガンダムより大きなサイバスターと凰牙が格闘を仕掛ける。 「中尉! あなたはもういないんですかッ!?」 カミーユの言葉をあざ笑う蒼い孤狼。 二人に追撃する形でアムロも操縦桿を前に倒しF-91を動かした。 ギンガナムが遺したビームソードを引き抜く。 「立って、ブレン!」――ブレンも、アイビスの言葉を受けて傷ついた体を動かし、飛び込んでいく。 ニュータイプのアムロには、ブレンの痛みが分かった。 フォルテギガスも、フィガをツインブレード状に変えて切りかかった。 五機一斉の集中格闘攻撃。 「とどけぇぇぇぇ!!」 アイビスの声が、鼓膜を打つ。 回転し唸りを上げる凰牙の拳が蒼い孤狼の顔を。 フォルテギガスのストームブレードが蒼い孤狼の左肩を。 サイバスターのディスカッターが蒼い孤狼の右腕を。 ブレンのソードエクステンションが蒼い孤狼の背中を。 そして、F-91のビームソードが蒼い孤狼の脚部を。 「ハハハ……ハハハハハ……! それが……銀河を変える……力……!? 」 音無き鋼鉄の咆哮。 全身を抑えつけられているのを無視し、体を振るう。 振り回される腕。開口した肩。両腕にある無骨な5連チェーンガンとハンマー。 全身の火器がまとめて火を噴いた。 花火がさく裂したように昼間の明るさに変わる。 「ぐああ……っ!」 千差万別、古今東西の別種の機体が、一様に吹き飛ばされる。 まずい。最初は疲れがなくかわせていたが、全員少しずつ動きが鈍り被弾が増えてきている。 もし誰かが撃墜されれば、即座に詰みだ。 五 対 一 だからこそできている拮抗状態は、あっさりと崩れ去るだろう。 「―――あれさえ決められれば……」 口から自然と漏れる呟き。 ギンガナムを倒したあれを決められれば、おそらく勝ち目も見える筈だ。 今は攻撃を気ままに受けてくれている。 だが、先ほどのシャギアのライアットバスターから分かるように、 おそらく危険な攻撃となれば回避しようとするだろう。 そうなれば、あの異常なスラスターなら緊急回避もたやすいはずだ。 フォルテギガスとサイバスターが何度も果敢に突っ込んでいく。 「弟を殺したことを……後悔するがいい!」 「やっちまえ、シャギアさん!」 「中尉……もう、あなたがいないというなら俺は躊躇しない!」 勝ち目が見えぬまま、突っ込んでいく三人。 アムロは、自分が一歩引いてしまっていることを自覚した。 あれほど我武者羅に突撃できない。冷静な戦略が、などと言いながら下がってしまう。 今、一番エネルギー消費や機体の新しい消耗が少ないのはアムロだろう。エネルギーは8割近く残っている。 ゴッドフィンガーは一撃限りの必殺技だ。気力、エネルギーともにほぼ限界まで消耗してしまう。 つまり、事実上戦線離脱は確実。 だからこそ、アムロは決め切れない。 もしも自分が外せばどうする? それこそ、敗北の決定的な一歩を作ってしまう。 敗北できない戦いなのだ。うかつなことはできようもない。 「飛んで、もっと、もっと――!」 何度もはじかれる二機への追撃を許すまいと、アイビスのブレンが距離を詰める。 その動きは、さながら戦闘機の妖精だ。高速機動と瞬間移動を組み合わせ、一定の距離を保ち蒼い孤狼を翻弄している。 シャアとともに初めて会った時の弱気さと、自信のなさが嘘のようだ。 アイビスも必死に、ひたむきに、ブレンと力を合わせ眼前にある最悪の現実と戦っている。 下手にもらえばそこで終わるというのに、そのことを恐れずに。 ―――俺は、どうだ? アイビスと似たり寄ったりの状況だというのに日和ってはいないか。 戦いに雑念を混じらせれば死ぬだけ。なのに、これはどういうことなのか。 「……届かない……足りない……」 ついに、アイビスが被弾する。 『く』の字に体を降り、吹き飛んで行くブレン。 しかし、それが大地に激突するより早く、凰牙が拾い上げた。 「ごめんなさい……!」 「気にすることはない。君はよくやっている」 凰牙が全体を見据え、腕から放つ竜巻でけん制しては動き回って別の機体のフォローをする。 黒ずくめの伊達男、ロジャー・スミス。交渉術で培った冷静さで、必死に戦っている。 「ロジャー、そちらはどうだ!?」 「まだ、ファイナルアタックを使用するだけのエネルギーは残しているつもりだ。だが……」 ロジャーも、アムロのゴッドフィンガーに似た攻撃としてファイナルアタックを持っている。 だからこそこういう立ち回りをしているのだろう。 だが、という言葉の後はアムロにも分かる。おそらく、同じ苦悩をロジャーも感じているのだろう。 その時、気付いた。ロジャーの腕が震えている。 そのことに、声を失ったアムロを見て、ロジャーは食いしばりながら答えた。 「恐怖は、この謂われのない不条理な感情は、生理反応でしかない。……理性で克服できるはずだ」 ロジャーもまた、蒼い孤狼が口を広げる領域に飛び込んでいく。 蒼い孤狼と凰牙が撃ち合うたびに、火花が散る。その中、何度倒れても起き上がりフォルテギガスが突撃していく。 サイバスターも、不死鳥へ姿を変えて突進する。 誰もが、戦っているのだ。 恐怖そのものと。恐怖を塗りつぶすほどの怒りの中。 恐怖を乗り越えた情熱で。 ―――俺は、どうだ? ただ、気配に呑まれていただけじゃないか? ギンガナムと戦い黒歴史を知り、 ガロードを失ったことを突き付けられ、 シャギアに憎しみをぶつけられ、 目の前の大きな恐怖に呑まれていただけではないのか? キラを戦いに遠ざけた時から何かずれていなかったか? 「情けない奴……!」 かつてシャアに言った言葉がそのまま自分に跳ね返る。 賢いフリ、賢明なフリをして下がって傍観する。若い時、自分が憤った大人の姿そのものではないか。 若者――未来が戦うならば、俺たちはそれを守るのが役目だろう。 だというのに、戦うことそのものを奪ってしまって何の意味がある。 これが年を取るということかと納得まではしたくはない。 だが、それでも。 何度でも立ち上がり勝利を目指す者たちの道を切り開く。 ――それが、俺たちの役目だろう、シャア。 F-91が光輝に包まれる。 展開される三枚のフィン。金色の輝きが、全身を包み込んでいた。 ギンガナムを一方的に屠り去ったバイオコンピューターの最終形態――F-91・スーパーモード。 それが今、蒼い孤狼を前にして再び現出する。 このまま消耗を続けていては、勝ち目はないなんてことは分かっていた。 仮に勝っても、残り二つの壁を越えることなどできようか。 なら、どこかで勝負の流れを引き寄せる一手が必要になるのは当然なのだ。 それを躊躇していた自分をアムロは恥じる。 金色の矢となってアムロは突き進む。蒼い孤狼も危険を察知したのだろう。 目の前に相対していたフォルテギガスを無視し、F-91に向き合った。 その拳を、蒼い孤狼が受け止める。 「これか…… これが……」 蒼い装甲が砕け、中から爆ぜる。それとともに、大地に落ちて音を立てる銃口の花束。 ついに、孤狼にダメージらしいダメージが通った。F-91がビームソードを引き抜き、叩きつけようとする。 だが、それより前に、蒼い孤狼の肩から無数のベアリング弾が飛び出した。 装甲解放、射出のタイムラグは先ほどまでと変わって、まったくない。 F-91のバリアフィールドとクレイモアがぶつかり合う。 「ぐっ……!」 その規格外の巨大なクレイモア。 最初バリアで逸らせたが、徐々に貫通しかねない勢いになっていく。 ベアリングの嵐で動くこともできない。このままでは、やられる。 だがそれも一人だけならば、だ。 F-91のバリアの陰に隠れるようにブレンが現れる。 次の瞬間、バイタルジャンプが再び行われクレイモアの中からF-91を救いだした。 ベアリングをばらまきながら方向転換をする蒼い孤狼。無差別に破壊が周囲にまき散らされる。 しかし、再び破壊がF-91を捕らえるよりも速く、蒼い孤狼の肩が爆ぜる。 離れた場所で倒れながらもオクスタンライフル・Wモードを構えるサイバスター。 その一発が、正確に肩の爆薬を打ち抜き、誘爆させた。 蒼い孤狼は爆発にのけぞる勢いを利用し、武器のハンマーを振り回す。 ハンマーの鎖が、別所から飛んできたハンマーのビームワイヤーにからめとられた。 バランスを崩しつつあった状況のため、踏ん張りがきかずガンダムハンマーはその手から引き抜かれる。 大地にがっしりと足を降ろし、ハンマーのワイヤーを引くフォルテギガス。 行ける、押し切れる! ブレンから離れ、F-91は再び蒼い孤狼の支配する距離へ飛び込んでいく。 「完全に近い……生命の……欠片!」 「うおおおおおおおおおおおッッ!」 ビームソードにその力を収束させる。伸びるゴッドフィンガーソードが、空を割る。 蒼い孤狼もいまだ戦意は失せていない。大地で待つ気もなく、スラスターの加速で空へ走る。 裂帛の勢いで放たれる右手の杭打ち機。凰牙のタービンから放たれる竜巻が、蒼い孤狼をあおる。 大地に足を下ろしてのインファイトなら、この程度ではびくともしないだろう。 しかし、今蒼い孤狼がいるのは空。僅かではあるが風で蒼い孤狼の姿勢が崩れた。 杭打ち機は、バリアを容易に引き裂きはしたが、F-91の本体には届かない。 アムロの目の前にあるのは、がら空きになった蒼い孤狼の胸。 (すまない……今は、そちらごと!) 心の中で、ノイ・レジセイアに乗っ取られた哀れな男に謝罪する。 そして、アムロは赤い球の下にある、コクピットブロックに深くゴットフィンガーソードを差し込んだ。 蒼い孤狼の、全身の間接から光が漏れる。 ゴッドフィンガーソードに、バチリと雷光が起こる。 「これは……!?」 次の瞬間、超高電流がアムロの体を打った。 →moving go on(3)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/303.html
獅子は勇者と共に ◆ZbL7QonnV. 「ひゃーっはっはっはは! 死ねぇ! 死ね、死ね、死ね、死ねぇぇぇぇいっ!」 その巨大な豪腕を振り回し、スターガオガイガーはバルキリーに殴り掛かる。 技も、駆け引きも、何も無い、力と勢い任せの殴打。 だが、ウルテクエンジンのパワーで振り回される巨大な腕は、それだけで巨大な脅威となってアムロの身に襲い掛かっていた。 「くっ……!」 紙一重の所で攻撃を避けながら、アムロは現状の打開策について考え続ける。 状況は最悪とまでは言わないが、かなり劣悪な事に変わりは無い。 バルキリーの火力では、スターガオガイガーの強靭な装甲を撃ち抜く事が出来ない。まして、弾数には限りがある。 それに対して、スターガオガイガーの攻撃はバルキリーにとって一撃で致命打となりかねない。 つまり、このままズルズルと持久戦に持ち込まれるようなことになってしまえば、こちらに勝ち目は無いと言う事だ。 その狂気を孕んだ過剰な攻撃性はともかくとして、ゴステロの操縦技能は決して低くない。 アムロが攻撃を危うげなく回避出来ているのは、スターガオガイガーの攻撃手段が単発的である事が大きい。 バルキリーの機動性に、ニュータイプとしての直感力。二つの利点を活かして回避行動を続ける事は、さして難しいわけではなかった。 もっとも、それとて限界が無くはない。長期戦で集中力に乱れが来れば、いつかは攻撃を避け切れなくなってしまう事もあるだろう。 もちろん、アムロとて“連邦の白い悪魔”と呼ばれたエースである。そう易々と、被弾を許すわけがない。 だが―― 「ちぃっ……! ハエみてぇに飛び回りやがって……! うざってぇんだよ、てめぇはぁぁぁぁっ!!」 あまりにも激しく、そして執拗に繰り返される攻撃を前に、なかなか突破口を切り開く事が出来ない。それが、今の状況だった。 「どうする……いっそ、逃げるのも手だが……」 長高々度の飛行能力ならば、おそらくバルキリーに分があるだろう。 ありったけの弾薬を目晦ましにすれば、それで十分な隙は作れるはずだ。 しかし、この危険な男を野放しにして、本当に良いのだろうか……? ……いや、良くはない。 ニュータイプとしての研ぎ澄まされた神経が、黒い悪意を感じ取っている。 この男は、あまりにも危険過ぎる。今の内に仕留めておかなければ、どれだけの犠牲者を生むか分からない奴だ。 ならば……! 「使うか……? 反応弾を……!」 バルキリーに搭載された最強の武装。その威力は、ガンポッドやマイクロミサイルとは比べ物にならない。 それを直撃させる事が出来さえすれば、この状況を引っ繰り返す事も不可能ではないだろう。 シャアとアイビスは、もう十分遠くに行っているはずだ。 後は反応弾の威力に巻き込まれないだけの、十分な間合いを取れさえすれば……。 「ブロウクン……ファントォォォォムッッッ!!!」 「っ…………!」 唸りを上げて迫る拳。それを回避した所で、アムロは機体の異常に気が付いた。 ほんの僅かにだが、ガタがきている。 片腕を失った状態で、無茶な回避行動を取り続けていたせいだろう。機体のバランスが、ほんの僅かに崩れ始めていた。 「まずいな……早めに勝負を決めなければ……」 ……腹を括る。 機体の不調が、むしろ覚悟を決めさせた。 「畜生がッ……! あの野郎、チョコマカと逃げ回りやがってぇ……!」 バルキリーの機動性に舌を巻きながら、ゴステロは苛烈な攻撃の手を休めようとはしていなかった。 ゴステロとて、無能ではない。あの赤い機体が何かを企んでいる事には、薄々ながら気付いていた。 だが、それがどうした。あの機体が自分に対して有効な攻撃を与えられない事は、これまでの攻防から明らかになっている。 ならば、焦る事は無い。勝利は、じっくりと味わうものだ。逃げる気が無いと言うならば、むしろ自分にとっては好都合というものだ。 あの機体が何を企んでいるかは知らないが、所詮は雑魚の足掻きに過ぎない。 そうだ……このスターガオガイガーの圧倒的な力さえあれば、あんな飛ぶ事しか能の無い機体など敵ではない……! 「おらぁぁぁぁぁぁっ!」 GSライドのパワーに身を委ね、ゴステロは力任せの攻撃を繰り返す。 ……だが、彼は気付いていなかった。 勇気を力の源とするGストーン。ゴステロの歪んだ精神に触れ続けていたそれが、少しずつ輝きを失い始めていた事に……。 「なんだ……? 奴の攻撃……さっきまでと比べて、ほんの僅かに弱まっている……?」 スターガオガイガーの熾烈な攻撃を神業的な機体操作で回避し続けるバルキリー。 機体表面に幾つもの損傷を作りながら、これまで反撃の機会を辛抱強く待ち続けていたアムロは、だからこそ敵機の異常に気付く事が出来ていた。 誘っているのか……? ……いや、恐らくは違うだろう。 あの巨大な機体から湧き上がる悪意は、その勢いを弱めていなかった。 恐らくは、自分でも気付いてはいない。 ならば……仕掛ける好機は、今を置いて他に無い! 「よし……!」 もう殆ど使い果たしてしまったマイクロミサイル。その全てを“一点”に向けて、バルキリーは一気に射出する。 スターガオガイガー、ではない。その足元に広がる荒野に向けて、ミサイルの雨は降り注ぐ。 轟、と大きな音を立て、砂の嵐が巻き起こる。 「なぁっ……!?」 足場に走った衝撃と、巻き上げられた砂の煙幕。その二つに、スターガオガイガーの攻撃が思わず途絶えた。 その隙を見逃さず、バルキリーは遙か高くに舞い上がる。 最大速度で空を切り裂き、赤の戦闘機は迷う事無く“それ”を目指す。 目指す先は、光の壁だ。あの向こう側に抜けてしまえば、反応弾の威力に巻き込まれる事は無い――! 光の壁を抜ける直前、バルキリーは急激に機体を旋回させる。 そして砂煙で隠れた悪意に向けて、最後の切り札――反応弾を撃ち放った。 「これで……終わりだ!!」 閃光、轟音、そして―― その結果を見届ける事無く、バルキリーは光の壁を抜けて行った。 「うおおおおおおっ!?」 足場を走った衝撃に、ゴステロは思わず叫び声を上げていた。 物凄い勢いで巻き上げられた砂煙が、ゴステロの視界を覆い隠す。 目晦ましか――なめた真似を――! 下らない小細工に、ゴステロの怒りは膨れ上がる。 「何か企んでいるとは思っていたが、こんな煙幕程度で俺様を――――!?」 「……やった、か」 反応弾の確かな手ごたえに、アムロは安堵の溜息を吐いた。 恐ろしい敵だった。まるで悪意と憎悪の塊のような、とてつもないプレッシャーを放つ相手だった。 彼が何者で、どんな人生を歩んできたのか、自分には窺い知る事が出来ない。 だが、ろくなものではないのだろうと言う事は、容易に想像する事が出来た。 ニュータイプとしての直感が感じ取った巨大な悪意ばかりではない。 あの男の戦闘技術は、間違い無く数多くの実戦を踏んだ人間のそれだった。 戦う事……いや、相手を痛め付ける事に喜びを見出す危険人物、か……。 もしこの場にカミーユがいれば、こう彼の事を評していただろう。 生きていてはいけない人間、と。 「ともあれ、これで……」 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」 「――――――――っ!?」 ――それは、完全な油断だった。 輝く壁の向こう側から雄叫びと共に現れた、先程の巨大な機体よりも一回り小さい、スマートな印象の白い機体。 だが、アムロには分かる。あの機体に乗っているのは、先程の機体に乗っていた男と同一人物だ。 この巨大な悪意――忘れられるわけがない! 「っ…………!」 バルキリーを急旋回させ、アムロは迫り来る一撃を避けようとする。 だが、遅い。 ほんの僅かな油断を突かれて、どうしても反応が間に合わない。 「まずい――追い付かれ――――!」 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」 ドゴォォォォォォォ…………! ガイガークローがバルキリーを貫き、赤の戦闘機は炎に包まれた。 ……アムロ・レイは生きていた。 バルキリーが破壊される一瞬前に、緊急脱出装置を起動させていたのだ。 もっとも、それはアムロの命を数分だけ延ばす結果にしかならないだろう。 アムロが爆破寸前の機体から脱出した事は、ゴステロの目にも映っていたからだ。 「ひゃーっはっはっはっは! しぶてえなぁ、お互いによぉ!」 反応弾が命中する寸前に取った行動を思い出しながら、ゴステロは大きく笑い声を上げていた。 砂煙が巻き起こった次の瞬間、ゴステロを突き動かしていたのは動物的な生存本能だった。 ヤバい―― そう思った瞬間にゴステロが取った行動は、ブロウクンファントムを打ち出す事だった。 それも、ただ普通に打ち出したのではない。ブロウクンファントムにプロテクトリングを重ね掛けした上で、渾身の一撃を繰り出していた。 計算しての事ではない。ゴステロ自身、咄嗟の事だ。 だが、結論から言うのなら、その行動は間違っていなかった。 プロテクトリングが作り出す防御の力と、ファントムリングが作り出す攻撃の力。 二つの相反する力は偶然にも巨大なエネルギーのうねりを生み出し、ブロウクンファントムが迎撃した反応弾の威力を大きく削ぐ事に成功していた。 攻撃と防御の力を融合させて繰り出したその一撃は、不完全ながらもヘル・アンド・ヘヴンと酷似した性質の力場を発生させていたと推測される。 無論、このような攻撃手段はガオガイガーに装備されていない。咄嗟の行動が偶然に繰り出させた、イレギュラーな一撃である。 そして、イレギュラー故に、その代償は決して安くなかった。 スターガオガイガーの右拳は、荒れ狂う巨大な力に巻き込まれる形で綺麗に消し飛んでいたのである。 それだけではない。ファントムとプロテクトのリングもまた、規定外の使われ方をした為に、過剰な負荷に耐えられず爆発四散してしまった。 ステルスガオーⅡのウルテクエンジンは臨界直前まで酷使されて、もはや使い物にならなくなっている。 使い物にならなくなった両腕と、リングを失いエンジンが焼け付きかけたステルスガオーⅡ。 心残りが無いではなかったが、この二つはもはや使い捨てにするしか――ファイナルフュージョンを解除するしかなくなっていた。 もっとも、そんな事はどうでもいい。 今のゴステロにとって重要な事は、この溜まりまくった鬱憤をどうやって晴らすか。ただ、それだけなのだから。 「くっ……くくっ! くひゃひゃひゃひゃ! 今まで散々俺様をコケにしてくれやがった罰だぁ……! そう簡単には殺さねぇ! じっくり、たっぷり甚振ってやる!」 「っ…………!」 脱出装置を抜け出たアムロに、ゴステロは狂った哄笑を向ける。 たとえ相手が機体に乗っていなかろうと、ゴステロに容赦する気持ちは無い。 むしろ自分よりも弱い相手を一方的に嬲る事に、ゴステロは歪んだ喜びを憶えていた。 ゆっくりと振り上げられる、ガイガーの足。 ゴステロの企みに気が付いて、アムロは身を起こし走り出していた。 どすんっ……! つい先程までアムロの居た場所に、ガイガーの足が振り下ろされる。 あと一秒でも逃げ出すのが遅れていたら、アムロの身体は潰れてしまっていただろう。 「ははっ! 上手く避けやがったなぁ! だが、次はどうだぁ?」 無力な蟻を踏み潰すように、ゴステロは逃げ惑うアムロを追い駆ける。 楽しかった。 ちっぽけで無力なゴミどもを、圧倒的な優位に立って踏み潰す。 これだ……! これこそが俺様のあるべき姿だ……! 「俺はなぁ……人殺しが! 大好きなんだよぉッ!!」 ひどく歪んだ喜びを憶えながら、ゴステロはアムロをじわじわと追い詰める。 ……愉しみに浸るゴステロは、だからこそ気付かない。 獅子が、怒っている事に。 「はぁっ……! はぁっ…………!」 息を切らせて、アムロは走る。 その顔に、諦めは無かった。 あまりにも絶望的な状況の中で、それでも生き抜く事を諦めてはいない。 ……アムロとて、馬鹿ではない。この状況を好転させる事が不可能である事は、痛いほどに理解していた。 だが、それでも諦める事だけは出来なかった。 それは、何故か? 「っ…………!」 どさっ……! 体力の限界に達した身体が、ついにアムロの足を止める。足元の小石に蹴躓き、アムロは地面に転がった。 「はっはぁ! なんだ、もう終わりかよ?」 「…………」 「ホラ、逃げてみろよ。なんだったら、泣き喚いて命乞いでもしてみるか? ひょっとしたら、俺様の気が変ったりもするかもしれないぜぇ?」 うずくまるアムロを見下ろして、ゴステロは上機嫌な声で言う。 無論、嘘だ。ゴステロがアムロを見逃す事など、万に一つもありえない。 だが、その言葉に騙された馬鹿が惨めったらしく命乞いをする様子を想像すると、なかなか面白そうだった。 「……断る」 「あぁん……?」 だが、アムロは拒絶する。 この悪意で染まりきった男に屈する事は、そう……アムロ・レイの“勇気”が許さなかった。 「お前のような奴に命乞いをするくらいなら……最後の瞬間まで戦って死んだ方がずっとマシだ!」 ――悪の暴力に屈せず、恐怖と戦う正義の気力。 人、それを……“勇気”と言う! 「ああ、そうかよ……なら死ぃ……!? なぁっ、なんだぁ……!?」 突如起こった機体の異常。ゴステロの意思に反して、やおらガイガーは動きを止めていた。 それは、ギャレオンが見せた反逆の意思に他ならない。 勇気ある者達と共に戦い続けた正義の獅子は、ここにきて激しい怒りを抑えきれなくなっていた。 『ガォォォォォォォォォンッッッッ!!!』 獅子は吼え声を轟かせ、邪悪の束縛を引き千切る。 ――そう、フュージョン状態の強制解除。 これまで自分の身体を支配していた邪悪な存在――ゴステロを排除して、獅子は大地に降り立った。 「なっ……! て、てめぇ、このポンコツ、何のつもりだ!? ど、どうして俺様を……!」 ゴステロが上げる怒りの声に、だがギャレオンは応えない。 正義の獅子が見詰める先には、勇気を示した一人の戦士――そう、アムロ・レイの姿があった。 「お前……は…………?」 ……獅子の瞳に覗き込まれて、アムロは獅子の意思を知る。ニュータイプの力が、ギャレオンの意思を感じ取っていた。 そして……。 『ガォォォォォォォォォンッッッッ!!!』 獅子は再度の吼え声を上げながら、アムロの身体を――呑み込んだ! 「フュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! ジョォォォォォォンッッッッ!!!」 「ば、馬鹿なっ……! こんな……こんな馬鹿な事があってたまるかよ!? どうしてだ……! どうして俺様の機体がっ……!」 ギャレオンとのフュージョンを果たした、つい先程まで哀れに逃げ惑っていたはずの無力な男。 この場から逃げ出す事すら忘却し、ゴステロは思わず叫び声を上げる。 どうしてこうなってしまったのか……何が悪かったというのか……! 「……お前の敗因は、たった一つだ」 「ひっ……!?」 つい先程とは逆転した立場で、アムロはゴステロに声を掛ける。 いくら機体が無いとは言え、見逃す気は起こらなかった。 この男を生かしておけば、数多くの悲劇が起こる事は間違い無いからだ。 「お前は……勇者じゃなかった……」 「ま、待てっ! 俺が悪かった……! 謝る! もうしない! だから助け…………ひでぶぅぅぅぅぅっ!?」 ……ガイガー渾身の爪先蹴りが、ゴステロの身体を吹き飛ばす。 奇怪な叫び声を上げながら、狂気のサイボーグは絶命した。 「……よし、これは何とか使えそうだな」 反応弾の着弾地点、ガオーパーツの残骸が転がる中、アムロは辛うじて使い物になりそうな機体を漁っていた。 ステルスガオーⅡ、ライナーガオー。この二つに関しては、完全に使用は不可能となっていた。 だが、運良くと言うべきか。ドリルガオーだけは、何とか破壊を免れていた。 「なるほど……このパーツ、分離した状態でも腕に装着できるのか……」 ドリルガオーがガイガーに装着可能な事を知り、アムロは「ついてるな」と呟きを洩らす。 敏捷性に優れるガイガーだが、いかんせん破壊力に乏しい事は否めない。 攻撃力の不足を補う事は出来ないかと悩んでいたが、どうやらこれで問題も解決出来そうだ。 ついでに言えば、シャアの奴に核ミサイルから乗り換えさせる事も出来る。このドリル、人が乗り込む事も出来るらしい。 唯一残念だった事は、ガイガーの蹴りを受けた衝撃によって、ゴステロの首輪が破壊されてしまっていた事だ。 あの時は冷静な判断力を働かせる事が出来なかったが、今になって思うと惜しい事をしたと思う。 ……もっとも、自分だけが機体に乗った状態で生身の人間を嬲り殺しにするような行為に抵抗があった事は否めない。 いくら相手が信じられないほどの外道であったとしても、だ。 もしかしたら無意識の内に、そんな考えが攻撃に必要以上の力を込めてしまっていたのかもしれない。 せめて苦しむ事の無いよう、一思いに……と。 「過ぎた事を悔やんでも仕方ない、か……」 苦いものを噛み締めながら、アムロは沈痛な声で言う。 そうだ、今は前に進むしかない。あの絶体絶命の状況を生き残れた事だけでも、良しとしておくしかないだろう。 「マッハドリル、装着!」 ふと頭の中に浮かび上がった名前を呼び、ガイガーはドリルガオーを装着する。 思った以上に時間を食ってしまった。シャア達との合流を急がなければ……。 【アムロ・レイ 搭乗機体:ガイガー(勇者王ガオガイガー) パイロット状況:良好 機体状況:機体表面に傷跡(戦闘には支障無し) マッハドリル(ドリルガオー)装着 現在位置:H-2 第一行動方針:シャア達との合流 第ニ行動方針:首輪の確保 第三行動方針:協力者の探索 第四行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見 最終行動方針:ゲームからの脱出 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している】 【ゴステロ 搭乗機体:なし パイロット状態:死亡 現在位置:A-2】 【時刻 20 45】 本編112話 失われた刻を求めて
https://w.atwiki.jp/toapa/pages/51.html
Cytus http //wikiwiki.jp/cytus/?FrontPage ワンナイト人狼http //oj.bakuretuken.com/ エルフウォーズ Magic Touch Wizard for Hire (魔法文字を手でかく) クイックボード 知略と心理のボードゲーム (動物が3×4で物騒ばとる) Tap Heroes (タップゲー) オフラインゲーム21までみた The Nine SimCity BuildIt 王国の道具屋さん2 0000 オルタンシアサーガ http //horsaga.sega-net.com/index.html http //www.onlinegamer.jp/game/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%82%B6 page=2 Gジェネフロンティア スマホ エミルクロニクルオンライン メイズミス スパロボOG PS2 GBA版のOG、OG2に追加シナリオのOG集大成 スパロボOG外伝 PS2 PS2のOGの続編 第二次スパロボOG PS3 OG外伝の続編 スパロボOG ダークプリズン PS3 DL専用 シュウが主人公 スパロボZ PS2 もってる スパロボZ2 破壊偏 PSP もってる スパロボZ2 再生偏 PSP もってる スパロボZ3 地獄変 PSVITA PS3 スパロボZ3 煉獄偏 天獄編初回封入特典 スパロボZ3 天獄編 PSVITA PS3 000 スマホ チェインクロニクル ブレイブフロンティア 2.3.3↑ メルクストーリア モンハンメセポルタ 4.0ファイナルファンタジーレジェンズ 時空(とき)ノ水晶 ドット絵 【開発中】 フェイト ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス ドット絵 メタルサーガ ~荒野の方舟~ いろいろ http //ge-mu.net/date/s952.php