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[11]Railgun02―上条当麻と御坂美琴の『サラダ記念日』 全力で逃亡した上条当麻だが追撃してきた美琴に捕まるのにそう時間は掛からなかった。 むしろあっという間に捕まったとも言える。 (さようなら俺の自由(フリーダム)) 上条は思わず空を仰いだが太陽を直視してしまい、頭がクラクラした。 止めておけばよかったと軽く後悔し、 「御坂」 上条は前を歩く御坂美琴へと声を掛けた。 「なに?」 と振り向かずに彼女の素っ気無い返事が返ってくる。 絶対怒ってる――、と思った。 わずかに2文字の短い言葉ですら少女の不機嫌さが滲み出ており上条は首をすくめる。 「どこ向かってるんだよ……」 あちこちに可愛い絆創膏を貼り付けた顔で上条は呟く。 傷は逃亡戦の際にいろいろと飛んできた破片や瓦礫などにより出来たものだ。 浅く切ったり擦りむいたりしたかすり傷程度で大したことは無いのだが美琴が強引に、 『破傷風とかになったらどうすんのよ、ほら、大人しくしてなさい』 とか言って可愛らしい絆創膏を貼り付けてきたのでこの有様だ。 ちなみに絆創膏の色はピンク。 キャラクター物であり緑色のカエルが描かれている。 確か御坂美琴が好きな「ケロヨン」がどうとか「ゲコ太」がどうとかいうカエルをモチーフにしたキャラクターだったと 上条は記憶を探って結論を出す。 (ラブリーミトンでケロケロがゲコゲコで……) 結論:間違っても男子高校生がつけるものでは無い。 すれ違う人達が時々振り返ってくるのは多分上条の気のせいじゃないだろう。 中には指差して苦笑する奴らまでいる。 恥ずかしくて仕方ないが外すと目の前の御嬢様にもっとひどい目に遭わされる事は必至。 (耐えろ……耐えるんだ上条当麻。 コイツも良かれと思ってやってくれてるんだ、男ならそこを汲んでやれ) 「……アンタの部屋」 「は?」 突然美琴がボソリと呟いた。 声が小さかったので思わず素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまった。 それが気に入らなかったのか美琴はぴたりと足を止めて後ろを振り返った。 「だ・か・ら」 と言葉を切って美琴は続ける。 美琴のサラサラの茶色い髪が顔の動きを追ってふわりと舞った。 ゆっくりと――。 そして丁寧に――。 一語一語をまるで自分に言い聞かせるように――少女は告げた。 これはもはや決定事項だ――とでもいう目をして。 「これから行くのはアンタの部屋、そこでアンタには私の作った昼食を食べてもらう」 上条当麻は今度こそ本当に素っ頓狂な声を上げた。 但し今度は聞き返しではない。 抗議だ。 「意義アリ! どうしてそうなるんだよッ、大体、何か見慣れない買い物袋なんて素敵なオプション付いてると思ったら!! 一体何を企んで――」 途中まで言いかけて上条は口をつぐんだ。 お嬢様の視線が怪しく光っていたからだ。 こういう顔をなんと表現するのか上条当麻には判らなかった。 判るのは今は彼のターンでは無いという事だけ。 「それとも何?私がアンタの部屋に行っちゃいけない理由でもあるのかしら? どうしてかしら? 何か見られたく無い物でもあるの? ……! はっはァ~ん……はっはァ~ん!……はっはァ~ん!!……もしかしてやらしぃ本とか? それなら別に気にしなくてもいいわよ。 結構寛大だから私。 あ、でも同じようなビデオとかあったらまとめて処分ね。 これ決定。 いっそ徹底的に家捜しでも……。 それより何よりこのスーパーの袋見て気づきなさいよアンタも。 どう見たって昼食の材料にしか見えないでしょうが。 朝から悲惨な食生活を送ってるみたいだからせめて昼ぐらいはマトモな食事をとか思ったりしちゃいけないわけ? (中略) それにアンタ、大覇星祭の時は料理がどうのとかさんざん言ってくれたじゃない? 私の家庭科スキルは職人芸の方向にしか成長してないと思ったら大間違いよ! これでアンタが私に持ってる『料理は駄目っぽい』とか言う心底失礼なイメージを払拭できればしめたもの。 この辺で汚名は返上しておこうと思うわけよ。 ってアンタちゃんと聞いてる!? そのうんざりした表情は何なのかじっくり聞き出したいけど今は忙しいからそれは後にしとく。 とりあえず、ここまでで質問とか感想とかは?(ここまで45秒息継ぎ無し)」 ぐぐっと上条に詰め寄り下から見上げて一気にまくし立てる美琴。 世界を縮めるイカス兄貴も裸足で逃げ出すほどの早口。 それでいて一回も舌を噛まない滑舌の良さ。 こいつは声優とかアナウンサーとかの方が向いてるんじゃ無いのか?と本気で思ってしまう。 肝心の彼女は戸惑う上条当麻の顔に「これでどうだ?」と右手の人差し指をビシっと指してくる。 多分リアクションを期待してるのだろう、応えてやる事にする。 「質問としては、俺と途中で待ち合わせをする真意がわからん。 勝手に部屋に来ればいいだろ……。 あと感想としてはふざけんなの一点に尽きるな。 あとやらしぃ本とか無いから!! マジで!! 『嘘つかなくてもいいのに』みたいな顔すんじゃネェよッ、慰めるような憐憫に満ちた視線を投げてくるなァァァ 俺の嫁さんかお前はッ!! ツンデレキャラが料理下手なのはお約束だろうが!(ここまで16秒息継ぎ無し)」 上条も負けずに早口で言い返す。 後半が悲鳴じみているのは美琴が向けてくる憐れむような視線を受けたからだ。 「嫁ッ!? いやその、よ、よめとかその……いいから早く案内しなさいよ! 大体の場所しか知らないんだから私」 と何故か頬を紅潮させ美琴は首に巻いたクリーム色のマフラーを翻してそっぽを向き再び歩き始めてしまった。 リアクション失敗か?と首を捻る上条。 「嫁……嫁……奥さん……恋人……(小声)」 「あ?なんか言ったか御坂へぶぁッ」 「うっさぃ!! アンタも少しぐらい言葉選んでから喋りなさいよ!」 「わけわかんね……」 肩越しに顔寄せたら右の裏拳で迎撃されてしまった。 『カッツーン』と丁度鼻にクリーンヒットして鼻を押さえて悶える上条。 目尻に涙を浮かべつつプンスカ蒸気をあげる機関車娘の後ろ姿を見る。 今日はすこし肌寒いからか彼女はいつもの服装の上に茶色いコートを羽織っていた。 腰の辺りまでのハーフコート。 ジッパーで取り外し可能なフードが付いている。 右胸の辺りに校章があることから恐らく常盤台中学の指定の防寒着なのだろう。 「案内ってどこにだよ……」 「アンタは私の話をぜんぜん聞いてないじゃないのよ……これから行くのはどこ?答えてみなさい」 「俺の部屋?」 「判ってんならさっさと前歩く」 上条と美琴は上条当麻の男子寮の部屋目指して目下移動中だった。 しばらく上条のすぐ後ろを美琴がテクテクと歩くのが続いたが、美琴が持つスーパーの買い物袋へ目を留めて少し考えると、 「御坂」 「なによ?」 「ほら荷物貸せって」 上条は美琴の左側に回りこんで強引に買い物袋を奪い取った。 一瞬の早業だ。 「ちょっとッ」 当然びっくりした美琴が声を上げるが、 「へへ、頂きッ」 と軽口を叩いて返す。 わずかなタイムラグもさしたる抵抗も無く上条の右手に買い物袋が納まり、袋からはみ出てるセロリが揺れた。 美琴曰く昼食の材料が入った白いビニールの買い物袋は利き腕で持っても重たかった。 (どれどれ、何買ったんだあいつ? 一応俺の口に入るらしいから確認しても文句を言われる筋合いは無いよな) 自己完結し両手で袋を開いて中を見る上条。 茹でてある剥き身の海老のパック。 いくつかの野菜に豚肉のパック。 それに2Lサイズのウーロン茶のペットボトル。 グリンピースの小さな缶詰なんかもある。 あとセロリ。 『「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日』 今日は12月23日だけどそんな言葉が浮かんだ。 買い物袋を右手に持ち直して上条は「重たかったろ?」と聞く。 「え、あ、いや、うん……その……ありがと」 ハッと我に返って美琴は礼を言うと早足で上条に追いつき上条と美琴は横に並んだ。 「しかし今日は寒いなぁ、昼も過ぎたというのに吐く息も真っ白だぜ、ほら」 ハァー、と息を吐くと白い軌跡が虚空に描かれた。 隣で美琴も同じような事をしてる。 「……」 「……なによ」 「いや、御坂らしいなって思ってな」 「何言ってんの、ばか……」 「ねぇ……」 「ん?」 5分ぐらい歩いた後、横の美琴から声を掛けられた。 とりあえず適当に返事する上条。 恥ずかしそうに彼女は言った。 「その、さ、て……手、繋いでもいい? 寒いから、その私が、うん、私が寒いから手貸しなさい!」 フリーになった両手を顔の前で組んだり放したりしながら俯き加減でチラチラと上条の顔色を窺がう。 少し瞳が潤んでいたり上目遣いだったりして普段の彼女とは雰囲気が違って見える。 普段の彼女はどっちかといえばこっちの意見を聞かずに自分のペースに巻き込むような人間だ。 大抵その犠牲者になるのは上条自身なのでそれは良くわかっている。 「なんで最後が命令形なのが良くわからないけど……好きにすればいいだろ。ほら」 上条はそう言って空いた左手をポケットから出して美琴へ差し伸べた。 上条なりのOKのサインだ。 美琴の顔の温度が更に上昇し赤みを増す。 熟れたリンゴですらここまで赤くはならない。 「じゃ、じゃあ好きにさせて貰うわよ、後でキャンセルは無し」 早口で言い放ち両手で少年の手を握り締める美琴。 美琴の手は冷たい外気のせいか少しひんやりしてて冷たかった。 「……変な奴」 上条の照れ隠しの言葉なんて気にしない。 少女はしがみつくように身を寄せて「さ、寒いから仕方無いのよ?、別に他意は(ごにょごにょ)」と言い訳をする。 これだともはや手を握るというよりは腕を組むといった感じだ。 隣の上条に気づかれないように美琴は口の中で小さく呟いた。 「(――時間よ、止まれ……なんちゃって、あー、もー何言ってんだろ私)」 「ん、なんか言ったか?御坂」 「なっ、なんでも無いわよ、空耳じゃ無い?」 [12月23日―PM12 45]
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[14]Interval extra02―初春さんと置いてけぼりツインテール 「明日はクリスマス・イヴだと言うのに、なんでわたくしだけこんなに働き者なんですの?」 誰とは無しに零れた嘆きの言葉は、コンクリートの冷たい壁に反響し消える。 狭い廊下を歩きながら、白井は自分で言っててなんだが少し悲しくなった。 本当なら憧れのお姉様に、一日中べったりと付きまとっていたいのだが、どういうわけか今日"も"次々と仕事が入る。 おかげで朝から学園都市中を飛び回る羽目になっている。 もちろん昼食なんてまだだ。お腹も大分空いている。 もう、西に事件あると聞けば西に、東に事件あると聞けば東に、といった感じだ。 「ダイエットには丁度良いのですけれどね」 と自分のほっそりとした腰に手を当て独り言をぽつり。軽く自虐的に笑いながらも、規則的に足は動かす。 自らのトレードマークである茶色のツインテールを従えて、長い廊下を歩く白井は、今のところ誰ともすれ違っていなかった。 もともとこの建物を訪れる人間の数はそう多くないので、少しも不思議と思わない。 訪れるのはごく一部の人間。 不機嫌そうに進むツインテールの少女の様に、緑の腕章をつけた風紀委員(ジャッジメント)ぐらいだ。 風紀委員(ジャッジメント)には幾つも支部がある。風紀委員(ジャッジメント)は、それぞれ所属する学園の治安を守るのが、本来の役目である。 だから風紀委員(ジャッジメント)の支部は、各学園に一個づつ作られているし、風紀委員(ジャッジメント)は、各学園から選出される。 それこそ数えるのも馬鹿らしくなるくらい存在する支部は、白井も総数でいくつあるのか良く知らないし、別に興味も無い。 お昼前に"学外"で起きた、"ちょっとした揉め事"を解決した白井黒子が、肩で風を切るというおよそお嬢様らしからぬ様子で歩く、 硬く冷たい感触のリノリウムの廊下がある建物も、その一つだった。 白井の、『歩く』というよりは既に早足に近い足取りは、彼女の今の気分を代弁するかのように、パタパタとスリッパが床を叩く音を 撒き散らしていた。 しばらく無人の廊下を歩いた先にゴールはあった。 『風紀委員活動第一七七支部』とこの部屋を示す長方形のプレートを睨みつけて、白井はドアの横にある四角いガラス板に自分の 人差し指をくっつけた。 ピッ、と小さな電子音がした。 (毎度毎度面倒ですの。いっそ自動で開いて欲しいものですわ) もう一度わざとらしい電子音が聞こえると、指紋、静脈、指先の微振動パターンが登録されたデータと一致しないと解除されない 厳重なロックが解除された。 「入りますわよッ初春!」 意識して出した大音量の叫びと共に、豪快にドアを開け放ち、白井は部屋の中に入った。 機能性のみが追及された殺風景で飾り気の無い風紀委員(ジャッジメント)の支部。 あまり広くは無いオフィスのような空間にいるのは中学生くらいの少女が一人。他には誰も居ない。 役所に置いてあるようなビジネスデスクが並び幾つもの最新式コンピューターがその上に鎮座しているだけだ。 「白井さんったらそんな大声出さなくてもちゃんと聞こえてますよー」 頭の上にお花畑を咲かせてる少女――初春飾利はケラケラと笑いながら『人間工学的に疲れない変な形の椅子』を180度回転させて 振り返り、甘ったるい声を返してきた。 一般的なデザインの紺色のセーラー服を着ているが、どこか服に着られてる感じがする少女。左腕にはやはり白井の物と同じ緑の腕章。 この部屋は、風紀委員(ジャッジメント)の支部であり、入り口のドアのロックは、一部の例外を除き、風紀委員(ジャッジメント)として登録されて いる人間にしか開ける事は出来ない。 つまり、この部屋に居る=風紀委員(ジャッジメント)という図式が出来上がる。 彼女も白井と同じ風紀委員(ジャッジメント)だった。 だが一口に風紀委員(ジャッジメント)と言ってもピンからキリまである。 大多数の風紀委員(ジャッジメント)は異能力者(レベル2)よくても強能力者(レベル3)がほとんど。白井のような大能力者(レベル4)なんてのはむしろ 稀だ。中には能力の強度なんて関係無しに有能なのも居たりするがそれは更に稀と言っていい。 例えば白井の目の前にいる中学一年生の少女みたいに。 能力によって得意な任務が違ったりする、という面もあるから単純に、能力の強度=風紀委員(ジャッジメント)の実力というのは、 あまり成り立たない。適材適所。なんと良い言葉だろうか。 初春飾利はどっちかと言えば有能の部類に分類されるのだろう。白井から見ても初春の情報収集能力はちょっとずば抜けている。 その上よくコンビを組むのが機動力&戦闘力抜群の白井だ。自然と『お仕事達成率』は高くなる。 白井はツカツカパタパタと初春の方へと歩み寄った。 「ごきげんよう初春。帰ってもよろしいですの?」 顔だけ笑って告げた。 「ごきげんよう白井さん……って突然お嬢様っぽい挨拶で煙に巻こうとしても駄目!絶対駄目です!」 椅子の上に立ち上がった初春は両手で大きくバッテンを作った。 誰かの舌打ちが小さく鳴った。 「それはそうと初春。なんか前にもこんなパターンで呼び出された事があった気がするのは気のせいですわよね。あんな大事件が ホイホイと起きてもらっても困りますものね」 遠い目をした白井が言ってるのは『残骸』を巡って九月十四日に繰り広げられたあの事件の事。 今回もあの時の様に初春が電話で「白井さんちょっと支部まで」って言うものだからわざわざ支部まで出向いてやったのだ。 「白井さんったら、やっぱり予知能力(ファービジョン)系の方向に目覚めたんですね。いやぁ、やっぱり才能がある人は違うんだなぁ。 ほんと尊敬尊敬。尊敬しちゃいますよ」 「……多重能力者は存在しない筈ですわ」 「――でも多分『あたり』です。ぱちぱちぱち、すごいですね」 初春がわざとらしく手を合わせる。何度も何度も。拍手の音がやたらと虚しく響いた。 「これはもう高笑いでもするしかありませんよね。はっはっは」 拍手にわざとらしい高笑いも追加された。 「ふっふっふ、あら、なんだか楽しそうですわね」 白井のわざとらしい声も加わり一七七支部には笑い声が木霊した。 「わたくし急用を思い出しましたわ。初春、後はよろしくお願いしますですわ。それではごきげんよう」 踵を返し、そそくさと立ち去ろうとする白井の手をがしりと掴む物があった。言うまでも無い、初春の手だ。 「あーっと。そうは問屋が卸しませんよ。そんな都合良く急用とか思い出すわけ無いじゃ無いですか!」 「チッ」 「今、舌打ちしましたね?」 「してませんわ」 「絶対しました!あんなあからさまな舌打ち初めてです」 「気のせいですわよ」 白井はわざとらしく口笛を吹いた。 「いいですか白井さん、嘘はいけません。嘘は最低です。まぁ世の中には『吐いてもいい嘘』ってのも確かに存在しますけど、 それらはあくまでも例外って場所に分類しておいて欲しいんですよッ」 逃げられてたまるか!とばかりに白井の腰に初春がしがみついて来る。その目は真剣そのものだ。 「うわーん。このままでは私一人が面倒な事件に関わる事になってしまうのは明白なんです。一応定められたマニュアルに従って 本来の所轄である警備員の方々への連絡は済ましてあるんですけど、事態はどうも望まない方向へと転がって行ってるって感じ なんですよー。この前みたいに、応援の警備員の方々が私に状況説明を求めてくるのはもはや当たり前すぎて確定事項なんです!」 だから彼女は必死だ。もう一度繰り返す。初春飾利は必死だった。必死過ぎて白井を捕まえる両の手には必要以上に力が籠もっていた。 極端な話、とても痛い。白井が。白井黒子のウエストの辺りがとても痛い。 「嘘じゃありませんわ!わたくしの体内ではいま激しくお姉様エナジーが不足してますの!今にも枯渇しそうですのっ!」 「お姉様エナジー!?そんな不思議な成分が人間の体に存在する訳無いじゃ無いですか。冗談ばっかり言ってないでたまには 優しく手伝ってくれても良いじゃあ無いですかぁ!」 「わたくしの体には存在するんですのぉぉぉ!」 白井も初春とは別の意味で必死だった。 ここ最近お姉様――つまり敬愛する御坂美琴と白井黒子が接する時間は大幅に削られている。 それもこれも、このお花大好き少女が、白井に押し付けてくる、大小様々な厄介事の数々が、その原因の一つだ。 数々なのだから厳密には一つでは無かったりもするのだが、要するにこれ以上付き合ってられるか、と言う事だ。 「早急にお姉様エナジーを補わないと命の危険すらありえますわ。集中力も低下しますし」 「あんまり意地悪しないで下さいよ白井さん。私の命が危ないんですよ。知らないんですか?命が危ないととっても危険なんですよ!」 「訳がわかりませんわ。なんで状況説明だけでそこまで飛躍するんですの?とにかく今すぐにでもお姉様に熱烈な抱擁をしないと わたくしはきっと明日の夜明けを見る事無く死んでしまいますわ。だからその手を離しなさい初春ゥ」 右手で初春の頬を押しのけるようにして白井は抵抗を試みる。が、一向に初春は白井から離れない。 だって必死なのだ。全力なのだ。人間やろうと思えばとんでもない力が出せるのだ。俗に言う火事場のなんとやら、である。 「いやですぅぅ!白井さん知らないんですか?説明って面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いですよね?私だって嫌いなんです。 だから白井さんは私の手伝いをしてくれないと困っちゃうんです!手伝ってくださいよ白井さん」 初春の両手は白井の腰から首へと場所を変えた。ついでに締めた。キュッと締めた。 気道を圧迫され白井の息が詰まった。 「ぐぁ」 「警備員の人って本当に細かい事まで説明を求めてくるんですよ?細かい説明は面倒なんですよ!面倒なのは誰だって嫌いです! いいですか白井さん?私は面倒なのが嫌いなんです!だから手伝ってください、お願いです」 初春は半狂乱気味に喚き立て、掴んだ白井の首をそのままブンブンと激しく前後に揺する。 白井の首ががっくんがっくんと、ちょっとやばげに、壊れた水飲み人形みたいに動く。 「く、くるしいですわ……」 弱弱しく白井の手が初春の手を掴んだ。 「聞いてますか?白井さん。根掘り葉掘り聞かれるのはとにかく面倒です!面倒なのはみんな嫌いです。そうでしょ? 私も本当に面倒くさいのが嫌いなんです!いや嫌いなんじゃなくて本当は苦手なんですけど、この際どっちでも良いですね。 根掘り葉掘りの根掘りは判るとして葉堀りって一体なんなんでしょうね?根っこは掘れるけど葉っぱなんて掘ったら反対側が覗けちゃう と思うんですが、まあ今は関係無いですよね。 警備員(アンチスキル)の人もぺーぺーの風紀委員(ジャッジメント)である私の説明なんかより、すらすらと答えてくれそうな白井さんの方が良いに 決まってるじゃないですか!白井さん?白井さ~ん!私の話を聞いてくださ~い」 ヘッドバンギングはいよいよヘビメタ系アーティストのライブもかくやといった具合に絶好調の極みだった。 二本のツインテールの先っぽが空中に孤を描き、規則的な縦運動にはついに、右回転まで加わった。 遠心力は速度の二乗で増加し、白井の視界も螺旋を辿る。 「目が、息が――」 わなわなと痙攣しだした白井の両手の動きが不意に止まり、力無くだらんと垂れ下がる。 「白井さ~ん、寝たら死んじゃいますよぉ!起きてください起きてください起きてください――」 初春は訳の分からない台詞を吐きながら白井を揺する。揺する。超揺する。縦縦横横丸書いてちょん。上上下下右左右左BA。 とにかく揺すった。 「――シッ!!」 小さく吐き出した吐息と共にギラリと白井の目に一瞬だけ活力が戻った。 そして白井の両手が手刀の形を取り、下から一気に跳ね上がった。 目標は首を掴む初春の手首。 空中で合掌するように合わせられた手刀は、細い手首の間へと、強引に滑り込んだ。 そして人間の構造上どうしても力が掛かりにくい場所から左右へと力任せに押し開く。 「いい加減にしなさいですのぉぉ!」 「はぅぁ!?」 背景に巨大な炎を背負って大噴火したツインテールの怒号でビクゥ!と初春が正気に戻った。 風紀委員(ジャッジメント)の四ヶ月に及ぶ研修の中には基本的な格闘技の研修があったりする。 当然相手に掴まれた場合、首を絞められた場合の対処法もある。今のはその応用だ。 白井黒子の研修中に格闘技の研修を担当していた女性の警備員(アンチスキル)もまさか同じ風紀委員(ジャッジメント)同士でその成果を発揮する事に なるとは夢にも思うまい。 本当、人生何が役に立つか分からない。 白井はこの時、教官役の警備員(アンチスキル)に心から感謝した。 「そのうち本当に死んでしまいますわッ!少しアレンジしただけの同じ言葉を早口で誤魔化して何度も何度も使って畳みかけようとしても わたくしは断固として拒否致しますわ。結局あなたが面倒なだけじゃないですの!」 ダンダンダンと地団駄を踏み、続いてハァハァと荒い息をつく白井。なんだか目が据わってる。 「面倒くさいの嫌いなんですー。これだけ頼んでも引き受けてくれないっていうんですか? 白井さんのいけず!意地悪!ツインテール!腹黒!百合系!このお嬢様め!」 「なんですの、その言い草はッ、この花瓶!はなぺちゃ!やせっぽち!セーラー服娘!他力本願!地味子!発育不良! 頭の上だけじゃなくて中にまでお花が咲いてしまった四季折々娘!しっかり雑草を抜いておかないからこんな事になるんですの!」 「白井さんッ雑草などという草は無いんです!観念して手伝ってください」 「カッコいい事言いながらちゃっかりと自分の要求だけ通そうとするんじゃないですわ!」 思いつく限りの悪口(?)を互いに浴びせあい、二人の中学一年生による不毛な罵り合いはしばらく続いた。 数分後――。 「手伝う手伝わないは別として、そろそろ休戦致しませんこと?一応話ぐらいは聞いて差し上げますから」 白井が諦めたように呟くのは、二人の少女のボキャブラリーが双方共に尽きた頃だった。 「白井さんなら、そろそろそう言ってくれるって私信じてました。でも本当は手伝うって言って欲しいですね」 まだ言うか――と、空間移動(テレポート)で急接近した白井のデコピンが、カッツーンと初春のオデコに火を噴いた。 「のー!白井さんったら冗談が通じないんですから」 少し赤くなった額を押さえながら初春は言う。心無しか頭の花がすこししおれてる気がする。 初春は軽く涙目になりながら、給湯室に引っ込んだ。 「紅茶でいいですか?」 「コーヒーがあるならコーヒーで」 空きっ腹に紅茶を流し込むぐらいならコーヒーの方がまだ胃に優しそうな気がした。 少ししてコーヒーカップを持って初春が戻ってきた。数は二つ。もちろん初春と白井の分だ。 白井は差し出されたコーヒーカップを、適当なビジネスデスクに腰掛けて受け取った。 「なんで机なんです?」 これは初春の疑問。なんで机に座るのか?椅子ならいっぱいあるのに?という意味だろう。 「わたくし、その椅子嫌いですの」 即答で返す。 一七七支部にある椅子は、全てが初春が座る椅子と同じデザイン。普通の椅子は無い。 変にお尻にフィットするあの椅子は白井的に嫌だ。 椅子が無いと座れない。 だから消去法で座るのは机しか無いじゃないかという事になる。 行き着いた答えがコレだ。 「白井さん。お嬢様が机に腰掛けるのはお行儀悪いんじゃ無いですか?」 「例え机に腰掛けてても絵になるのが真のお嬢様ですのよ」 「そういうものですか?」 「そういうものですの」 「じゃあ御坂嬢がそれをやれば、さぞ絵になるんでしょうね」 まあ、しそうにありませんけどね――、と初春は続けたが白井の耳にはまるで届いていなかった。 (お姉様が机に腰掛けて!?ああ、なんてすばらしい構図!見下ろすあの勝気な瞳……考えただけでもゾクゾクしますわ) 脳内インスピレーションを全開で開放していた白井は、コーヒーカップを両手で持って固まっている様に見えた。 少なくとも初春にはそう見えた。 「白井さん?コーヒーはお嫌いでしたか?」 一向に飲まない白井を怪訝に思い、初春が声を掛けた。 「ハッ!?……ちょっと考え事をしてただけですわ。それにしてもこのコーヒーは入れた人間の心が反映されてる様に黒いですわね」 あはははは――、と二人の少女の乾いた笑いがオフィス調の部屋に響いた。 「やだなぁ白井さん、砂糖とミルクが欲しいなら素直にそう言ってくださいよ」 そして唐突にこんな事を言った。 「白井さん、コーヒーの楽しみ方を思いつきましたよ」 にこやかな笑顔で初春は、どこからとも無く取り出したスティックシュガーとポーションタイプのミルクを白井の持つコーヒーカップ へと注ぎ、プラスチックスプーンでぐるぐるとかき回す。 「コーヒーはまず見た目を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」 「それワインの楽しみ方じゃないですの?」 コーヒーカップの中では白と黒が渦巻いて混ざり合っていた。 「次に香ばしい香りを楽しんで……砂糖を入れてミルクを一杯」 「聞けよ話、ですの」 初春が手品のようにミルクのポーションを取り出してコーヒーカップに注ぐ。白井のカップの中身に白みが増した。 ついでに砂糖も追加された。 「最後に味を楽しんでから……砂糖を入れてミルクを一杯」 「飲んでないじゃないですの……」 プラスチックスプーンが円を描き、更に追加されたミルクと砂糖を灰色の液体に溶かし込む。 「今回はコーヒーですけど。学校でお茶ってのは何度考えても優雅なイメージがありますよね。残骸事件の時は結局教えてもらえません でしたから今度本格的に紅茶を教えてくださいよ、白井さん。……砂糖を入れてミルクを一杯」 灰色をとっくに通り過ぎても白の侵食は止まらない。甘ったるい匂いをさせる『ほぼ白い飲み物』は溢れんばかりに増量された。 白井はとりあえず軽く脳天にチョップする事にした。 「って入れすぎですわ。いい加減にしないとコーヒーとミルクの比率が逆転してしまいますわよ」 「え、でも。白井さんの『黒いの』を私レベルまで『白く』するにはッぎゃわー!」 無言で白井のデコピンが炸裂。本日二発目の思いやりにかける破壊力に初春は額を押さえてヨタヨタとふらつく。 「わたくし面白くない冗談は嫌いですの。言うならもっと面白い冗談にしてもらえませんこと」 「ほんのウィットに富んだジョークだったのにぃ」 「カップの淵ぎりぎりにまでミルクと砂糖を継ぎ足して言うことはそれだけですの?」 レシピとしてはミルクがいくつか。スティックシュガーもやはりいくつか。いくつ追加されたかも判らない。でも飲まなくても判る。 きっと、とんでもなく甘い。いうなれば理不尽な甘さだ。どれくらい理不尽かといえば100gのシュークリームの中に含まれてる 砂糖の量が丁度100gですよ!ってぐらい理不尽だ。 甘さの表現で『獰猛』とか『狡猾』とかが使えるのならきっとそんな感じ。 ぶっちゃけると、とても飲めた物では無い。 全世界のコーヒーの製造に関わる人達、流通させてる人達に謝れ、ひたすら謝れ、謝りまくれとすら思える甘さだ。 だから飲まない。それどころか1㎜も動かせない。動かした瞬間に零れるのは目に見えている。 早々に白コーヒーに見切りをつけ、ポットの傍らにコーヒーカップを空間移動(テレポート)させ放置すると。 途端に手持ち無沙汰になりそっぽ向いてツインテールの先っぽを指先でいじくる羽目になった。 「白井さん」 初春の呼び掛けにぴくりと白井が反応を示し、顔を向けた。 「やっと本題ですの?」 「そうです。白井さんを呼び戻したのは他でも無くてですね」 初春はそこで一旦言葉を切った。少し考えてから一台のコンピューターへと向かい、白井に背を向けた。 白井がしばらく後姿を眺めてると無線LANで部屋中の端末とリンクしている横に置かれたプリンターが動き出した。 学園都市の電化製品は総じて高性能だ。 風紀委員第一七七支部備え付けの備品であるプリンターも例に漏れず、大いに静粛性を発揮し数枚のA4用紙を吐き出し動きを止める。 「まずはこれを見てもらえますか」 初春はプリンターからA4用紙を引っつかんで白井に差し出した。 とりあえず出された以上は受け取るしか無い。 白井は足をぶらぶらさせながら、ひょいとA4用紙をつまんで自分の顔の前まで持ってくると、ザッと書類に目を通す。 A4用紙の内容はいくつかの写真と検証で構成された報告書のような物。 とりあえず雰囲気だけ把握し白井は顔を上げた。 「なんですのこれ?」 「今日のお昼過ぎに繁華街を警邏中の警備員が発見した事故現場に関する報告書です」 「初耳ですわね」 「今言いました最新情報です」 初春が最新情報と言うからには本当に最新の情報なのだろう。こと情報収集に関しては白井も舌を巻くしかない程、初春飾利という 風紀委員(ジャッジメント)は優秀なのだ。 「初春、これはどういう事ですの?」 「読んだ通りですよ、白井さん」 「読んで判らないから聞いてるんですの」 書かれた文面をつらつらと読み進めるが、報告書特有の主観を取り払った表現で書かれてる為、いまいち状況が浮かんでこない。 報告書としては多分"良"なのだろう。白井的には"不可"だったが。 写真付で説明された文章を、斜めに読み進めていた白井の目は、ふと"ある一文"に留まった。 「"戦闘の痕跡有り"」 顔を上げて、パンッとA4用紙を右手の甲で叩き、白井はその言葉を強調した。 初春も、白井が言わんとする事がわかってるようで、淀むこと無く対応する。 「レーザープリンターのモノトーン画像じゃ良くわかりませんね。こっちに画像データもありますよ、見ますか?」 「見るに決まってますわ」 ビジネスデスクから飛び降りて、コンピューターを操作する初春の椅子の背もたれに片手を掛けてモニターを覗き込む。 サムネイルで表示された数枚の画像がモニターに表示されていた。 さきほどの書類に載っていた物と同じ。但しこちらは鮮明なカラー画像だ。 鋭い切り口で斜めに切断された街灯の支柱。 とんでもない圧力を受けて、ひしゃげ、粉砕され、小さな瓦礫になったコンクリート片と、それらが収まっていたであろう大穴の開いた コンクリート製の壁。 割れた窓ガラス。アスファルトに突き刺さった閉店した中華料理屋の看板。 続いて初春が操作するコンピューターのモニターにGPSのような地図が表示された。 「それは?」 「この赤いのがそれぞれの痕跡です。ここからこう移動してたんでは無いかと思われます」 地図にはいくつかの赤い点が点在していた。初春の指が痕跡を辿って行く。白井がその先を追えば繁華街の狭い路地裏の入り口辺りから 途端に赤い点が集中している。というかほとんどがここだ。 「現場はこの辺りですのね」 「ええ、この路地裏で戦闘していたのは間違いなさそうです。この路地裏は監視衛星の死角になっちゃうんですけど繁華街にも監視カメラは ありますからね。それに痕跡を分析すれば使われた能力も予想がつきます」 「目星はついてるということですの?」 「ええ。これが決め手です。おかげで假名垣さんに連絡が取れない理由がわかっちゃいましたよ。 そりゃ携帯が壊れてれば連絡取れないですよね」 そう言って初春はモニターの後ろの辺りをなにやらごそごそと探る。引っこ抜かれたその手には、警察の鑑識班が使いそうな チャック付の厚手のビニール袋が握られていた。 中身はピンク色の二つ折りタイプの携帯電話らしいもの。ヒンジ部分から乱暴に分割されている。 これでは通話はおろか電源すら入らないだろう。 「真っ二つにへし折られちゃってますね。地面に落ちた携帯電話を掴んでばっきん!ってところでしょうかね。 中身も強力な電磁波でも浴びたのかメモリーやらチップやら、とにかく全部オシャカです」 初春が片手を開く。パーです、と言いたいのだろう。 「掴んだのなら指紋が残ってるんじゃありませんこと?」 「さぁ?手袋でもしてたんですかね。携帯電話からは"一人分"の指紋しか出てきませんでした。携帯電話のシリアルナンバーも照合 しましたがこの携帯電話は間違いなく假名垣皐月(かながき さつき)さんの物です」 「路地裏の破壊跡は彼女が誰かと戦闘した跡というんですの?」 戦闘。それも割と全力で。画像のような破壊を行なえるだけの威力をもし人間が喰らったらどうなるかは容易に想像できる。 (でもそこまでやっても勝てていないですわ) 「痕跡から見てそれが正解だと思いますよ。真空の刃とかは風力使い(エアロシューター)の人達の得意技じゃ無いですか。 すごいですよね、あれって鉄でも切断できるんですよね」 「初春、假名垣さんの能力はその画像のような破壊を行なう事が可能なんですの?」 「可能です。ていうか楽勝です。假名垣さんは大能力者(レベル4)の風力使い(エアロシューター)、能力名は『気流操作』(エアロタービュランス)です。 書庫(バンク)にあった実験データだけでも様々な結果を残してます。竜巻だとか短距離の飛行とかいろいろ」 目をきらきらさせ期待に満ちた眼差しで、白井を見つめる初春の視線を、軽く無視して白井は、 「――ああ、なんだかわたくしって不幸なヒロインを演じれそうですわね。トラブルが勝手に舞い込んできますわ」 と零した。 初春が「トラブルメーカー体質なんじゃ無いですか?」とか言った後に、短い悲鳴をあげて虚空に消えた。 次の瞬間彼女は白井の後ろのビジネスデスクへと落下していた。「ぎゃ」と短い悲鳴が聞こえたが当然無視する。 「いきなり空間移動(テレポート)ですか白井さん!お花が落ちちゃったじゃ無いですか、もう」 「当たり前ですわ。不意打ちはいきなりする物ですもの。声を出して襲撃するのは三流のする事ですわ」 「お嬢様は普通襲撃なんてしないと思うのは私だけですかね、白井さん。まぁそれはそうと良いヒロインのコツって知ってますか? 今思いついちゃったんですが、そのうち忘れちゃうと思うんで特別に教えてあげちゃいますよ」 腰の辺りを押さえ、落っことした花冠を拾いなおした初春がそんな事を言った。 「教える代わりに手伝えと?」 「まさか。そんな事言いませんよ」 なんだか嬉しそうな初春。 「なら聞きましょうか。科学万歳なこの学園都市にはファンタジー小説みたいにヒロインを攫う悪いドラゴンも それを打倒する勇者もいませんわよ」 「何言ってるんですか、そんなファンタジー的な要素は必要ありませんよ。ヒロインが輝くにはたった一つの事をすればいいんですから」 「それはなんですの?」 首をかしげる白井。ヒロインに必要な事の候補が、いろいろと白井の頭を通過し、没と言う名のダストボックスへと捨てられていく。 いくつか白井にも該当しそうな候補もあったが、どこか違う気がした。 「わかりませんか?」 白井は唇に人差し指を軽く当てて、片目を瞑り考え込むが、やはり思い浮かばない。 やがて降参ですわ――、と両手を上に向けて肩を竦めた。 「わかりませんわ、それは必ずしも必要な事なんですの?」 「はい、必須事項です」 再び数秒考え込んだが結果は先程と大差ない。 せいぜい大きな亀に攫われるぐらいしか思い浮かばないが、それだと助けにくるのがヒゲオヤジだ。 白井はその脳内設定を全力で拒否した。 「やっぱりわかりませんわ」 白井の敗北宣言を聞いて、初春はビジネスデスクの上に座ったまま、 「それはですね――」 少し間を空け、 「まず事件に巻き込まれる事です」 とまだまだ発展途上の胸を張って、得意気に告げた。 「おや、こんな所におあつらえ向きな事件がありますよ。やりましたね白井さん、これでヒロイン確定です」 どうやら今日"も"白井黒子が『お姉様エナジー』を補充する事は出来そうに無さそうだ。 「はぁ……働き者ですわね、わたくしって」 深い溜息は、今の白井の気分を端的に表しているかの様だった。 [12月23日―PM14 32]
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[13]Accelerator04―結標淡希の一番長い一日 その3 染み一つ、皺一見つからない白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には結標と一方通行の努力の成果が置かれていた。 テーブルの中央には『例のニンジン嫌いな子供用』に調整された『カレー』の鍋。 結標は自分の細い小指で鍋の淵を軽くなぞって、ちろりと舐めてみた。甘い。 「これなら大丈夫だと思うわ。我ながら自信作と言ってもいいわね」 満足そうな顔で一方通行へと振り返りながら結標は更に口を開いた。 「なにやってんの?いまさら冷蔵庫なんかごそごそして。このカレーは完璧よ?」 「あァん!?何言ッてやがる淡希。福神漬けの野郎がまだだろうがよッ。おッと、あッたあッた。黄泉川の奴が後先考えずに片付け やがるから冷蔵庫の中身までごちャごちャになッてやがる」 その後、結標は「福神漬け無くして何がカレーかッ!」と学園都市最強の福神漬け至上主義を聞く羽目となった。 そしていい加減、話にうんざりしてきた頃、変化が訪れた。それが幸か不幸かは神のみぞ知る所だが、科学万歳な学園都市には神を 崇めるような習慣は無い。なにせ教会の類すら無いのだ、この街には。 「たっだいまー!とミサカはミサカは多分寝てる貴方に聞こえるようにわざわざ大音量を披露してみたり!」 「はぁー、やっと帰ってきたわね。打ち止め(ラストオーダー) 、ちゃんと靴を揃えてから上がりなさい」 扉が開かれる音と同時に訪れた二つの声は結標と一方通行の度肝を抜いた。 家主が居ない部屋に若い男女が二人っきり。一方通行の同居人であろう声の主達への上手い説明の言葉は結標の頭がフル回転しても 咄嗟には出てこない。戸惑う結標と違い一方通行の判断はメチャ迅速だった。即急即時即座即決即断即行、思考時間にしてわずか1秒以下。 一方通行は結標の華奢な肩をがっしり掴むと大型冷蔵庫の下部にある野菜室の引き出しを開け放った。そこには野菜など一切無く、 お弁当用の小さなベビーチーズとか口の開いたお菓子の箱しか入ってない、ほぼがらんどうの空間が口を開けていた。 「ちょ!?何する気!痛いッ!痛いってば!むー!むー!」 不穏な空気を察して抗議の声を上げる結標を、白い少年は残虐な光を讃えた紅い瞳を光らせて野菜室へと押し倒す。激しい抵抗も虚しく 結標は野菜室の引き出しの中へと押し込まれてしまった。この場合はまさに、収納されてしまった、の方がぴったりくる。 「狭い!超狭い!てか足痛いってばッ!何これ?猟奇殺人!?どこのホラー小説!?無理無理絶対無理!」 「黙ッてそこに入ッてろ!」 「ちょ、説明とか一切無し!?すっごく無理があるわよ、これ。ねぇ?ちょっと、話聞きなさいよ一方通行っ閉めるなぁ!」 結標は膝を抱えたままの体勢で一方通行へと罵声を飛ばすが、当の一方通行はあっさり無視して野菜室の引き出しを元に戻した。 当然結標の視界は真っ暗になった。 (暗ッ!狭!あと寒!) 普段から野菜が入ってないのかあまり変な匂いはしなかったが、完全な密室となった野菜室の中はあまりにも狭すぎて身動き一つ 出来ない。 自力で脱出するには自分自身を座標移動(ムーブポイント)するぐらいしか思いつかない。手や足はおろか指一本ですら動かすのが困難なぐらい ぎっちぎちなのだ。比較的スリムな結標でも正直辛い。 でもって勝手に脱出した場合、高確率で一方通行に苛められるであろうことが容易に想像できて結標は少し悲しくなった。 (私、今ならいい死体の演技できるわ、多分。いざとなったら適当に脱出するしか無いわね、マジで) 外の様子が見えないので仕方なく耳を澄まして脱出のタイミングを図る。理想的なのはキッチンに誰も居なくなるのがもっともいい。 『むむむ、今、女の声が聞こえたような!キッチンが怪しい!行くぞワトソン君。とミサカはミサカは名探偵の気分を味わってみたり』 『はいはい、ホームズさん。でもドタバタ走らないの』 一方通行の声を聞きつけたのか声がキッチンへと近づいてくる。接触まであと数秒といったところだろうか。 そこでプチンと言う音がして、冷蔵ファンが動きを止め、噴き出されていた冷風も止まった。恐らく外の一方通行がコンセントを 抜いたのだろう。 (い、一応助かった?お腹壊すのだけは避けれたかも) 『料理!?しかもハンバーグ入りのカレーとか妙においしそうな物を!?そ、そんな、不器用な一方通行とか萌えだったのに……。 ミサカの幻想はバラバラに砕け散ってしまったかも知れない、とミサカはミサカはがっくりと膝を突いてうなだれてみたり。でもカレーに ニンジンが入って無いところを確認してアナタの優しい一面を発見し、ミサカはミサカはその一部始終をミサカネットワークに 配信してみたりする』 『よし、クソガキ。お前ベランダからダイブするのと階段で1階までロックンロールするのとどッちがいい?いますぐ選べ』 『わーい、なんだか聞いたことがあるような台詞キター、とミサカはミサカは叫びながら逃げ回ってみたり』 外ではなんだかホームコメディが繰り広げられてそうだ。ドタドタと走り回る音が聞こえる。 『何やってるの貴方たち。あら?今日のお昼はカレーなの?貴方が作ったのかしら』 トントンとフローリングの床を歩く音がしてもう1人の声がキッチンに増えた。声からすると20台前半辺りの女性。結標はなんだか その声に柔らかそうな印象を覚えた。 『おい芳川、”野菜室は空”だぞ』 しれしれっと嘘を言い放つ一方通行の声がした。 (あー、なんだかそろそろ足とか、手とか、背中とか、とにかく体の節々が痛い!ヘルプミー) もはや限界と座標移動(ムーブポイント)で自分自身を飛ばそうと思考を走らせはじめた瞬間。暗闇に光が差した。 「私のポッキーが確かここに……ッ?」 「あ……」 キッチンの一角に3点リーダーが通過し、たっぷり30秒ほど時間が止まった。 20台ぐらいの若い女性と目が合った。ショートボブの可愛い感じのお姉さん。 彼女はややあってから、 「……よいしょっと」 野菜室の引き出しを元に戻そうとした。見なかったことにするつもりだ。 「ああ、待って。閉めないでッ!お願い!」 再び暗闇に閉ざされかけた野菜室で、ちょっぴり涙目になりながら結標は懇願した。 両手を自分の膝の上に乗っけて、洋風の椅子に腰掛けた結標の目の前に置かれたティーカップに柑橘系の香りをさせる紅茶が注がれる。 詳しい銘柄とかは良くわからない。紅茶もティーカップもだ。 「あ、どうも……」 紅茶を入れてくれたのはさっきのショートボブのお姉さん。結標がかしこまってお礼を言うと「どういたしまして」と返してくれた。 お姉さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、結標は少し記憶を整理してみる。傾けたティーカップから口の中に紅茶の風味が広がった。 (えーと……野菜室から引っ張り出されて、名前を教えてもらって、それから) まず結標の正面で学園最強の能力者(アクセラレーター)を「いーじゃん、いーじゃん」とからかってるもう1人のお姉さんへと首を動かす。 彼女は黄泉川。黄泉川愛穂がフルネームだ。とある高校の体育教師をしていて、学園都市の治安を担う警備員(アンチスキル)としての一面も あるとかないとか。首の後ろあたりで長い髪を無造作に纏めている。服装は動きやすそうなジャージの上下。 これは料理の合間に一方通行が言ってたことだが黄泉川には強能力者(レベル3)程度ならポリカーボネート製の盾一個で難なく制圧してしまう 名物警備員(アンチスキル)とかいう伝説があるらしい。特別な装備も無しで『それ』を実行する姿は結標の頭ではちょっと想像がつかない。 あと『この部屋』も彼女が借りているという事だ。結標が野菜室から救出された後にひょっこりと帰ってきた。 『は~いタダイマ、タダイマーじゃん、おやおや珍しいことにお客さんじゃんよー?。居候の分際でこんな可愛い女の子連れ込んで……。 こちとら長々と続いた、校長のロシア談義で心身共にお疲れさんだってのに、二人でラブラブ?スーパー生意気じゃんよー』 結標の記憶が正しければそれが黄泉川の第一声だったはずだ。その『じゃんじゃん』言う独特の口調はなんだか前に聞いたことがある気も するのだがあれは一体どこだったか?奥歯に挟まった物が取れないような妙な気分が結標を襲う。 (思い出したくないような気もするけど、これは何故?) それでも彼女の顔を見るのは初めてだったし、多分自分の思い違いだろうと結標は早々に結論をだし納得した。 続いて黄泉川の右側の席をチラリと見る結標。そこには先ほど紅茶を入れてくれたショートボブの女性が座っていた。 優雅にティーカップを傾けて就職情報雑誌に目を落としている。多分傾けてるカップの中身は結標の持ってるものと同じ。 さっき軽く自己紹介してもらったが名前は芳川桔梗というらしい。騒ぎまくりの黄泉川とは随分対照的で、落ち着いた雰囲気の知的美人と いったところだろうか。野菜室から助けてもらったり紅茶を入れてもらった事もあり、少し贔屓目ではあるが、結標は芳川をそう評価した。 「桔梗ー、今日の就職活動はどうだったじゃんよー?いいところあったかい?」 「別に。特に惹かれる所は無かったわね。というか大半が打ち止め(ラストオーダー) の子守だったような気までするわ」 芳川は黄泉川と他愛の無い会話を交わしながら『この事態』を静観するつもりのようだ。 (まぁ、この二人は別にいいんだけど……) 最後に控えるのは見た目10歳児くらいの小さな女の子。芳川の隣に置かれたお子様用の椅子から身を乗り出し、目を吊り上げている。 「えーと……すっごく嫌われてる気がするわ……一方通行、パスッ」 比喩抜きでバチバチする幼女の視線に耐えかねて結標は思わず一方通行に助けを求めた。 幼女の「この女誰?」といった感じの不満ビームの矛先が結標から一方通行へと切り替わった。 「――チッ。オイ、クソガキ、とりあえず、その眼鏡はなンだ、その眼鏡は。俺には眼鏡属性なンてもンはねェぞ」 一方通行が指差す幼女の鼻の上にあるのは、エンジ色の細いフレームが、四角いレンズの下側だけをなぞる今風な眼鏡。 しかも少し幅が大きいのか折角の眼鏡は半分ずり下がってたりする。さっきから何回も位置を直してたりする。 「これ?今日芳川に買って貰ったの。似合ってる?とミサカはミサカはある言葉を期待しつつ眼鏡のフレームを持ち上げてみたり。 これでミサカの知的なイメージが5アップ。アナタはたちまちメロメロ。とミサカはミサカはオデコの眼鏡ででこでこでこりん♪とか 懐かしいフレーズを口にしてみたり」 「……」 紅茶を楽しむ芳川に目で『語りかける』一方通行。いやもう視線の強さは目で『殺す』レベルまで達している。 「大丈夫よ。度は入ってないから。それより、貴方も野菜室に女の子押し込めるより先に早くお世辞の一つや二つ覚えたほうがいいわよ」 「社交辞令ってのは社会に出る上では結構重要な技術じゃんよー。覚えておいて損は無いじゃん。あと女の子を冷蔵庫の野菜室に押し込むの は流石にどうかと思うじゃんよ」 「突ッ込むところはそこじャねェだろうが!」 「いや、私を野菜室に押し込めるのは充分突っ込むところだと思うわよ。って聞いてないわね」 学園都市最強の能力者のガンツケはおろか、突っ込みを受けても、大人の女性ニ人はどこ吹く風といった様子だ。一向に堪えない。 黄泉川、芳川は両名とも氷を浮かべた冷水にポッキーを濡らしてポリポリと齧ってる。 食事の前にお菓子を食べるのは正直どうかと思ったが結標はとりあえず話が進まないので幼女の方に集中することにした。 「えーと、ら、ら、らす……」 結標は一方通行から「このクソガキはなんたら」と紹介してもらったのだが、なんとも耳に慣れない名前だったので ついつい記憶を探ってしまう。でも結局思い出せないので自然と言葉が詰まってしまう。 幼女は、おでこに人差し指を当てて壊れたプレーヤーの様に幼女の名前の先頭ニ文字を連呼する結標の方へ、向き直って口を開いた。 「ミサカの名前(パーソナルネーム)は打ち止め(ラストオーダー) 。もしくはミサカ20001号でもいいかも!とミサカはミサカは改めて自己紹介してみたり。 貴女の名前は結標淡希でいい?唐突で悪いんだけど。この人(アクセラレーター)とは一体どういった関係で?ミサカが納得できる理由を 400字詰めの原稿用紙3枚以内で簡潔かつ明瞭にまとめて即座に答えて欲しいかも、とミサカはミサカは知的な一面をアピールしてみたり しつつ説明を要求してみたりしてみる」 幼女の要求した答えを探して結標淡希はさらに頭を悩ませるのだった。 しばらくして、結標の口から出たのは、 「えっと、私は、ほら、コイツの女友達でね。夏休みの終わりぐらいからちょくちょくと。今日はおいしいカレーの作り方を教えて欲しいと コイツに頼まれて、仕方なくね」 という半分以上が嘘で構成された言葉。これでも必死に考えた末のベターな答えだった。 「この人(アクセラレーター)に友達なんて居るわけ無い!とミサカはミサカは断言してみる!」 打ち止め(ラストオーダー) はきっぱりと言い切った。 「即答すンなッこのクソガキ!」 結局お茶を濁しながら『例のハンバーグカレー』を5人分それぞれの皿へと注いでいく結標の姿をまだ納得してません、といった 打ち止め(ラストオーダー) の視線が追う。 「うう、視線が痛い」 結標は仕方なく一方通行を促すことにした。 「ほら、あなたもフォローしてよ」 「――あー、大体そンな感じだ」 結標の肘に小突かれて一方通行もぶっきらぼうに口裏を合わせた。打ち止め(ラストオーダー) もそれで納得したのか『例のカレー』が よそわれた皿を見て「わーい」と喜びの声を上げた。 (本当はニンジンがこれでもかってぐらい入ってるんだね、そのカレー) 無邪気に喜ぶ打ち止め(ラストオーダー) の笑顔で結標の良心がちくりと痛んだ。 「やほーい!最初は『この泥棒猫が!』とか思ってたけど淡希は実はいい人だったかも!ってミサカはミサカは……淡希? ミサカのカレーはなんだか、どんどんとミサカの手の届かない所に行っちゃうんだけど、とミサカはミサカは状況を説明してみたり」 どうやら痛んだ良心は無駄だった様だ。 「……なんだか、打ち止め(ラストオーダー) ちゃんの頭上にある私の力作カレーが急降下しそうな予感がするわ。湯気がでてるしきっと熱い でしょうね。大火傷かしら?こういうときは何て言うべきなの?打ち止め(ラストオーダー) ちゃん。4、3、2――」 「ご、ご、ごごごめんなさい。ミサカはミサカはいきなり4から始まるカウントダウンの恐怖に身を震わせながら一生懸命謝ってみたり! だから罪の無いカレーを落とさないで!ってミサカはミサカは懇願してみる!!」 ガタガタと震え涙目になる幼女の前へ、カレーを座標移動(ムーブポイント)し、その頭をポンポンと軽く叩いて結標も席に戻った。 (びっくりしてる、びっくりしてる) 突然、何も無い虚空から出現したカレーに、目をパチクリさせる打ち止め(ラストオーダー) を見て結標はニヤリと微笑んだ。 『いただきます(じゃんよ)(とミサカはミサカはお行儀良く手を合わせて言ってみたりする)』 テーブルに着いた全員が手を合わせて言ったが、一方通行だけは一人やる気なさそうに口ぱくでごまかしていた。 言い終わるなりスプーンを握りなおし、カレーにぱくつき「カレーウマー」と口から光線でも吐き出しそうなリアクション で感嘆の声を上げる打ち止め(ラストオーダー) 。大人の女性二名もニコニコと舌鼓を打っていた。一応好評のようだ。 どうやら隠されたニンジンの味には気づいていないようだが、作った本人としては打ち止め(ラストオーダー) の無邪気な反応が この料理に対する最大限の賛辞とも取れ、なんだか嬉しくなってしまう。自然と結標の顔が穏やかに笑みを形作る。 ふと結標は黄泉川の隣に座ってる一方通行へと声を掛けた。 彼の前の皿の中身はあまり減っていなかった。「食べないの?」と聞いたら「甘すぎィンだよ」と返ってきた。 どうも彼は甘いのは苦手のようだ。だったらカレールーを二種類用意すればよかったのにとも思ったがそれは黙っておいた。 「アンタが作れって言ったんでしょう……ニンジンが――むー!むー!」 突然とんでもない速度で回りこんできた一方通行の右手が結標の口を塞いだ。 カレーの皿から顔を上げた打ち止め(ラストオーダー) が「?」と首を傾げた。 「喋るな。それ以上一言も喋ンじャねェぞ。ネタ晴らしはあのガキが食べ終わッてからだ、いいな?」 打ち止め(ラストオーダー) の様子をちらりと伺い、結標の耳元に口を寄せて、彼は囁いた。 「――!――!」 顔を真っ赤にして、声にならない悲鳴を上げながら何度も何度も頷く。思わず心臓の音が部屋中に聞こえるんじゃないかとまで思った。 ややあって一方通行は結標を開放した。開放された結標は「ぷはぁ」と久方振りの空気を肺に送り込んで 「死ぬかと思った……」と小さく零す。 『それ』は恥ずかしくてなのか、息が出来なくてなのかの答えは、結標の胸にだけひっそりと仕舞われた。 「これはまた随分と仲がいいじゃんよー」 「そうね、独り身には少々目の毒だわ。打ち止め(ラストオーダー) の教育上も良くないからラブシーンはベランダでやって欲しいわね」 「はっ!?これはもしかして食べ物で懐柔された!?淡希がミサカを謀った!?ミサカはミサカは疑心暗鬼に陥って軽く混乱してみたり!」 品のよくない笑いを浮かべる黄泉川。適当に見当違いの相槌を打つ芳川。スプーンを握り締めて叫ぶ打ち止め(ラストオーダー) 。 赤い顔をして荒い息をつく結標と、不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向く一方通行。 多分これは自分が経験した中でもっとも騒がしい昼食の一幕だ――と結標はそう思った。 「淡希淡希遊んで欲しいかも、とミサカはミサカは淡希の了解も得ずにいきなりその胸に飛び込んでごろごろと甘えてみたり!トゥ!」 「え、うひゃぁ!?」 結標の胸に飛び込んでくる小さな魔物。可愛さ余って痛さ100万t。ヘッドダイビングを敢行した幼女を結標は変な悲鳴を 上げながら受け止める。打ち止め(ラストオーダー) の頭が結標の鳩尾にヒットしいい感じに息が詰まってしまう。 「えへへへ、ふかふかーぷにぷにーいい匂いするー、ここミサカの定位置にしたいかもってミサカはミサカは簡潔に要求してみたり」 「ぐぅ。打ち止め(ラストオーダー) くすぐったいからやめてちょうだい」 少し遅めの昼食を取った後、結標達はリビングのソファーでくつろいでいた。 隣には一方通行。そして結標の膝の上にはさきほど飛び込んできた打ち止め(ラストオーダー) が座る。 黄泉川と芳川は「昼食の礼じゃんよー」「お客さんに皿洗いまでさせられないでしょ?」と2人仲良くキッチンだ。時折キッチンから もれてくるのは水音と食器同士が奏でる不協和音。それに混じって「桔梗、1秒間に16連射じゃんよー」「無理よ」とか聞こえてくる。 確かAI搭載の全自動皿洗い機があったような気がするのだが、どうやら本当に使われていないようだ。 (しっかし可愛いわね、この子) 「うりうり」 「きゃははははは、淡希くすぐったいかも~、とミサカはミサカは率直な感想を口にしてみたり」 自分の膝の上の打ち止め(ラストオーダー) の髪を撫で回して「ハフゥ」とあったかい溜息をつく結標。 癒されまくりでマイナスイオン充填完了だ。隣の一方通行がそれを見てあからさまな舌打ちをしたがそれはどういう意味なのだろうか? 一方通行では無いので結標にその真意の程はわからない。 膝の上で暴れる打ち止め(ラストオーダー) を落ち着かせるために手前のテーブルからTVのリモコンを取りチャンネルを適当に切り替える。 学園都市のローカル番組も見れるらしく沢山のチャンネルがあった。 この時間はあまり面白い番組はやっていないようだ。せわしなくリモコンを操作して膝のお子様が焦れ始めた頃にようやく お目当ての子供向けのアニメ番組が表示された。 超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン) とか丸っこい字のタイトルが流れていた。 少しだけ打ち止め(ラストオーダー) と一緒になって眺めてみたが初めて見る番組なので内容がさっぱり判らない。 だが膝の上の打ち止め(ラストオーダー) はと言えば食い入るように映像に夢中だった。映像が進む度に「おおー」とか「どきどき」とか 率直な感想を口にする打ち止め(ラストオーダー) の方は見ていても一向に飽きが来なかった。 しばらくして両手一杯の荷物を持って黄泉川と芳川がやってきた。二人は結標達が座る三人掛けのソファーとは放れて置かれた、透明な テーブルを挟んで独立した、一人掛けのソファーにそれぞれ座った。 ゴトンと硬い音をさせて透明なテーブルの上に”持っていた物”を広げて、 「打ち止め(ラストオーダー) が淡希っちにすっかり懐いてるじゃんよー。居候一号、そっぽを向いてるのは焼き餅かい?」 と聞く。 居候一号――これは恐らく一方通行を指している。いつの間にか結標にも『淡希っち』と愛称が付いていた。 「愛穂、それだと『どっち』に対しての焼き餅なのかわかりづらいわよ、一応教師でしょう?」 「い、一応だと!居候三号め!私は体育教師であって国語教師では無いじゃんよー!」 プルタブを開ける音がして黄泉川の持つ350mlのアルミ缶から白い泡が吹き出る。透明なテーブルの上には大量の酒。缶ビールをはじめ、 チューハイ、ワイン、ウイスキー、吟醸、泡盛、梅酒などなど。とにかく所狭しとアルコールが広げられていた。 「ど、どこから?洋酒は確かに部屋に置いてあったけど」 「戸棚の中にぎッしりとあンだよ」 黄泉川と向かい合う芳川もなんだか梅酒をグラスに注いでちびちびと口に運んでいた。 「オイ、駄目人間一号ニ号……未成年の人間が三人も居る上にまだ日も高いうちから酒盛り始めンじャねェよ。酒臭ェだろうが!」 「若いうちから細かい事気にするなじゃん!それにもう一人来る予定だし、今日の黄泉川せんせーのお仕事は昼まで。 後は野となれ山となれじゃんよー」 「淡希、淡希ッ。ミサカもあれ飲んでみたい!ってミサカはミサカは好奇心全開で要求してみたり」 おいしそうにグラスやら缶やらを傾ける大人の女性ズを横目で見て、興味を抱いたのか打ち止め(ラストオーダー) の期待に満ちた 視線が結標を真下から打ち抜く。正直幼女の要求を叶えてあげてもいい、と頭に過ぎったが、すんでのところで理性が歯止めを 掛けてくれた。未成年の飲酒は法律で禁止されています。 「打ち止め(ラストオーダー)そんなの駄目に決まってるでしょう!?お酒ばっかり飲んでると駄目人間になっちゃうわよ?」 結標の細い指が指し示すのは隣で呆れた顔をする学園最強。幼女が縦に握った右拳を左手に打ち付けるとなんだか可愛い音がした。 「淡希……それはどういう意味だ?随分と楽しそうだな、ヲイ。俺も酒は飲まねェンだが。その顔を見る限り聞く耳持ッてやがらねェな。 あとクソガキ!間髪入れずに納得すンじャねェよ!なンだ、その、ポン☆、ッてのは」 激しく語気を荒げる一方通行に打ち止め(ラストオーダー) が「えへへ」と可愛らしく頭を掻くので結標も真似して「えへへ」を敢行してみる。 「チッ!」 効果は抜群だ。やたらとあからさまな舌打ちだけを残し、オーバーレブ寸前まで達していた一方通行の戦意は見事に殺(そ)がれた。 「「イエーイ☆」」 パチンと小気味の良い音をさせ、ハイタッチをする結標&打ち止め(ラストオーダー)。傍目からは仲の良い姉妹か親子のように見える。 まあそれでもお酒に対する興味は少しも薄れないようで駄々っ子モードを駆使して幼女はお酒を要求してきた。 「淡希っち、なんだか打ち止め(ラストオーダー) のお姉さんかお母さんみたいじゃん。よし、私が許す。チューハイなら一口ぐらい 飲んでも平気じゃんよー。パスッ」 黄泉川はそう言うと緑のラベルのアルミ缶を一個投げてよこした。結標はライムの絵が書かれた350ml缶を受け取ってプルタブに 爪を掛ける。軽い抵抗と共に空気が漏れる音がした。 「あの、私も未成年なんですけどね……聞いてないですね、そうですね。いいです飲みますから。飲めばいいんでしょう。 この部屋では私に選択権って無いのね。それにしても、なんだか爪が割れそうで恐いのよね、プルタブって」 アルコールなんてクリスマスのシャンパンぐらいしか飲んだこと無かったが軽く口をつけてみると口当たりはそう悪くなかった。 アルミ缶を両手で持ってクピクピと呷る結標の膝の上では、お姫様がその様子を見て口を尖がらせていた。 「あー、ミサカもソレが飲みたーい!飲みたい、飲みたい、飲みたい!淡希の馬鹿ー! 淡希の怪我はもう治ってるのよ!淡希の意気地なし!ミサカはミサカは反旗を翻して振り返らずに走り去ってみたりしてみる。ちらり」 ジタバタと結標の膝の上では幼女がご乱心だ。さっきまでの上機嫌はどこへやら、一転して駄々っ子と化した。打ち止め(ラストオーダー) は ひとしきり暴れた後に結標の膝から飛び降りて、部屋の隅っこの観葉植物の陰に隠れてしまった。拗ねてるみたいだ。 「打ち止め(ラストオーダー) ……。最後の方、意味がわからないんだけど、とりあえず……こうしてやるっ!」 結標は左手の人差し指で対象を指定。一瞬の後、観葉植物の陰から幼女の姿が虚空に消えた。 「ひゃあ、びっくりした。う、あひゃははははは、淡希ちょっと、それは、ぐひょい、くるしいかも、ってミサカはミサカはぁぁぁ――」 観葉植物に隠れていた打ち止め(ラストオーダー) を座標移動(ムーブポイント)で再び膝の上に持ってきて左手で柔らかい脇腹をくすぐる結標。 たちまち陥落する幼女。笑い疲れた幼女は荒い息をついてぐったりと手足を投げ出している。とりあえずこれでお酒の件は解決した。 結標は隣に座る一方通行の方をチラリと覗いてみた。一言で言うならぶっきらぼうな表情。 けだるそうな視線で結標と打ち止め(ラストオーダー)を眺めている。何か私の顔についてるのかしら?と結標は思わず勘繰ってしまう。 「淡希っちに焼き餅なのか?それとも打ち止め(ラストオーダー) に焼き餅なのかはっきりするじゃんよー!」 「寝てろ酔ッ払い」 空き缶、空き瓶を量産する黄泉川の言葉に一方通行は打てば響く反応で返した。 その『酔っ払い』という括りには自分も含まれてるのだろうか?と思ったが、ほどよく体を回ってきた酔いが結標の思考を妨げる。 自分の顔に仄かな熱を感じたが結標はそれをアルコールのせいにする事にした。 一人分スペースの開いた三人掛けのソファーの片隅では、綺麗に畳まれた紺色の上着の上で携帯電話が静かに震えていた。 [12月23日―PM14 00]
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[16]Interval extra03―コイワズライ 前編 午後三時過ぎ――第七学区。 『♪~~』 駅前から続く坂道。上り坂をテクテクと歩いていた姫神秋沙の学生鞄から緩やかなメロディが流れた。 「ん?」 「電話?」 「電話だねぇ」 携帯電話の着信音。着信メロディーは誰からかかってきても同じメロディが流れる様に設定してある。 だから誰からかはまだ判らない。 でも、その電子音は姫神の心臓のリズムを少しだけ早くした。 メゾピアノからメゾフォルテへ。アダージョからアンダンテへ。トクン、トクンとときめく乙女心の旋律は頬を容易く赤色に染め あげる。 (明日の約束とか?いや、もしかしてこれから会えないか?とか) 真っ先に浮かぶのは一人の少年。上条当麻。 自然に足が止まった。 (時間差攻撃。君も女の子の扱いが上手くなったね。そこだけなんかムカつかなくも無い) 少し先に不思議そうな顔をした吹寄と越川の顔が並んでいる。突然姫神が立ち止まったから何かあったのかと思うのも当然だろう。 「姫神さん?」 「ひめちゃーん、彼氏からの電話?」 「なっ!?彼氏!?姫神さんいつの間に……。いやもしかして……あぁいやいやそれは無い、それは無い……はず」 「ふーちゃん何ブツブツ言ってんの?姫ちゃんってば結構人気あるんだよ。てかそれはふーちゃんだって一緒っしょ?」 「知らないわよッ!?私はああいう軟派な連中は嫌いなの!」 「んじゃ本命は上条君?彼も結構人気あるみたいだよ。前途多難だよねぇ"お互い"」 「なっ!?なんでそこで上条当麻の名前が出てくるのよッ!」 「図星か、にやり」 「待ちなさいッ」 「待ちませんッ」 とりあえず姫神は歩道の真ん中でぐるぐるとコントしてる彼女達に「先に行ってて」と右手を振って先を促す事にした。 どうせ目的地は分かっている。一端はぐれた所で問題は無い。それに電話の内容いかんではこのまま別行動になる可能性すらある。 あるかも知れない。無いとは言い切れない。むしろあって欲しい。あの少年には是非自分を選んで欲しい。姫神秋沙はそう思った。 どうしても期待してしまう。それがどんなに可能性の低い事なのか理解していても。 学生鞄と白いトートバックを持つ手に力がこもった。 携帯電話はまだ取らない。着信音が途切れた。がすぐにまたかかってきた。 「ん、そう?じゃあ先に行ってるわね姫神さん」 「姫ちゃん、その、いろいろとがんばってね」 「わかった。できるだけ早く行く」 着信音は鳴り続ける。これで着信は四回目。つまり、よっぽど大事な用件という事だ。 クラスメイト二名の姿が坂の向こうに消えたのを確認してから、姫神は大きく深呼吸をして鞄を開けた。 (願わくば"彼"からでありますように……) 淡い幻想を胸に。胸の早鐘はどんどんと勢いを増す。それは決して悪い感覚では無かった。 だが少女の淡い幻想はその直後、無残に砕け散る事となる。 鞄から取り出した携帯電話の液晶に表示されるのは姫神が居候している家主の名前、彼女の担任でもある月詠小萌。 「小萌。紛らわしい」 あからさまな落胆の吐息を吐き出して、姫神の幸せ指数がみっつぐらい下がった。 思わず携帯電話を握る手に力が籠もる。握ったぐらいで壊れる程最近の携帯電話はやわではないが何故か携帯電話はミシミシと音 を立てていた。 携帯電話の通話ボタンを押し、耳に当てる。 『もしもし……』 流れ出たのは聞き慣れた声。 (この人には。声変わりという時期が無かったのだろうか?) とえらく失礼な感想が頭に浮かぶ。 それでも学園都市の七不思議の一つに数えられるちびっ子先生だからと説明されれば、納得できるのが凄いといえば確かに凄い。 知らない人が聞いたら、きっと簡単に信じ込んでしまう事だろう。 『もしもーし』 「もしもし」 『姫神ちゃんですかー?なかなか出てくれないから困ってたところですよー』 「小萌。携帯電話で相手の確認は不要だと思う」 ちびっこ先生は自分の部屋にいるんだろうか?フローリングの床を歩く音が聞こえる。 『一応の礼儀なのですよー。そりゃ姫神ちゃんの携帯電話に掛けてるのだから姫神ちゃんが出なかったら先生は激しく ビックリしちゃうのですけれどね。そんな事より姫神ちゃん、今外ですか?』 「今外。吹寄さんと越川さんと一緒に地下街に行く所」 今度は扉が閉まる音。少し遅れて鍵が掛かる音。 おそらく部屋を出たのだろう。途端に雑音が多くなり声が聞き取りづらくなった。 『ありゃ、上条ちゃんと一緒じゃ無かったんですか。先生はてっきり姫神ちゃんは上条ちゃんと遊びに行ってると思ってたんですが』 「ぁぅ」 何気に姫神の乙女回路へとグサリと突き刺さる恩師の言葉。これで狙ってやってる訳で無いのだから余計にたちが悪い。 が、痛む胸を押さえ姫神は冷ややかな口調で切って返す。 「小萌。切っていい?」 既に細い指は通話終了ボタンにリーチをかけてある。後は押し込むだけ。それでこの拷問(かいわ)は終わる。 『わーわー!姫神ちゃんってばいつからそんな悪い子になったのですかぁ!?』 「小萌。そろそろ用件を言って欲しい」 『う~、姫神ちゃんは先生の事を馬鹿にしてるのですね?先生は……先生は……』 「小萌先生。用件」 先生とつけただけだが向こうのちいさい人はそれで満足するようで機嫌を直してくれた。 (小萌。単純) 『実はですねー黄泉川先生から部屋に遊びに来ないかと誘われてまして、これからお邪魔しに行くところなのですよー』 (体育の黄泉川先生。小萌の同僚) 「小萌。お酒はほどほどに」 『なっ!?姫神ちゃんは先生を大酒飲みだと思ってるのですかー!?』 「うん。あとヘビースモーカー」 『うぁぁぁああああああ!教え子がいじめるんですよぉぉぉぉ』 「小萌。うるさい」 時折姫神の後ろを車が通り過ぎる。この街は学生が人口の八割を占めるので道路を走っているのはほとんどが学バスだ。 小萌先生が落ち着くまでに要した時間は数分――。その間姫神は坂道の中腹辺りでガードレールに腰を掛けて待つ事になっていた。 『えぐえぐ、ですから夕食は外で済ますか何かして欲しいんですよー』 結局の所、肝心の用件自体は数分もしない内に終わった。 要は小萌先生はこれから同僚の部屋に遊びに行って夜まで帰ってこないから、夕食は適当に済まして来て欲しいと言う事だ。 メールでも済む所を律儀に電話してくれるのは責任感故か。 『というわけで、姫神ちゃん、すみませんがよろしくお願いしますね』 「わかった。小萌も気をつけて」 『それでは行ってきますねー』 パタン、と二つ折りに携帯電話を畳んで姫神は軽く嘆息した。 視線は左手に持つ携帯電話に落とされる。 細い指で小さなボタンを押し込んで姫神はアドレス帳を呼び出した。 登録件数は少ない。三十件程度。二学期からのクラスメイト達がそのほとんどだ。 だから目的の番号はすぐに見つかる。探して数秒で即ヒット。見つかるように整理もしてある。"特別"な分類にも分けてある。 「上条。当麻」 姫神秋沙にとってその名前は特別な意味を持つ。 ただ口から出しただけで顔の温度は上がる。思い浮かべれば胸が苦しくなる。吐き出す吐息は熱を帯びる。 典型的な恋の病。 胸に秘めた思いが成就するその時まで決して完治する事の無い不治の病。 学園都市屈指の名医であるあの医者ですら、姫神の難病を治療する事は出来ないだろう。なにせ手ごわい恋敵(ライバル)は例の少年が 無自覚の内に発揮するフラグ体質のせいで現在進行形にて増殖中だ。正直いい加減にして欲しいと思う時もある。 「はぁ……。虚しい」 丁度坂道の頂上に差し掛かった頃だった。後ろの方からけたたましい排気音。接近する騒音に気づいた姫神が振り返った。 (歩道なんだけど……。スクーター!?) 「きゃっ!?」 姫神の手から携帯電話が落下しカツンと音をたてた。 掠めるように通過した黄色いスクーターに驚いて姫神はアスファルトの地面に尻餅をつく。 「いたたたた。なんて乱暴な運転」 悪態をつき、ゆっくりと立ち上がる。スカートの汚れを手で払い。地面に落ちた携帯を拾った。そして鞄へと手を伸ばす。 手は何も掴まなかった。 「……あれ?」 黒い瞳をパチクリ。ぐるりと周囲を見渡す。一気に血の気が引いた様な気がした。 (鞄が。無い) 姫神は慌てて走り去るスクーターを見た。 赤いフルフェイスヘルメットを被った運転手の手に握られているのは"姫神の学生鞄と白いトートバック"。 それを表す言葉が姫神の頭に浮かんだ。ひったくり。普通はもっとお金になりそうな物を狙う。 (よりによってアレを……) この時、姫神秋沙は自分の準備の良さを呪った。まさかこんな事になるとは思っても見なかったのだ。 「返してっ!」 姫神秋沙の思考はただ一つの目的の為に動いた。 彼我の距離を確認。続いて自分の速度を確認。最後に相手の速度を確認。 (走って追いつくのは無理) 相手はまがりなりにもバイクだ。姫神が仮にオリンピック選手級の運動能力を持っていたとしてもまともに競争しては勝負の結果が 見えている。まるで兎と亀。そもそも競う事自体が間違ってるような絶望的な状況だ。兎が昼寝しない限り、亀は絶対に勝てない。 だけど諦めるわけにはいかなかった。 (せっかく。せっかく"編みきった"のにっ) 懸命に手を振って。脚を急かして。追いかけた。 だけど距離は縮まらない。むしろ開く。 下り坂を降りきった所で、引ったくり犯のスクーターが二十メーター程先の角を右に曲がったのが見えた。 遠い。おそらく姫神が角を曲がる頃には更に差は開いてるだろう。 「はぁ。はぁ」 荒い息がひっきりなしに吐き出される。悲鳴をあげる心臓と弱音を吐く脚の筋肉。いくら若いとは言っても準備運動も無しに全力疾走 すれば当然だった。筋肉がボイコットを開始し、体を倦怠感が襲う。脳からは休息の指示が出る。 だけど全部無視する。 「ま、負けるか。他の何でもいいけどアレは駄目」 悩んだり、迷ったりしてる暇は無い。 見失ったらアレは二度と姫神の手には戻らないだろう。もしかしたら犯人の手によってボロボロに切り裂かれてしまうかも知れない。 何せ相手は金目の物でも入ってるかと思って姫神の鞄を盗ったのだろうから。その辺りが少し疑問ではあるが。 性根が曲がっていれば腹いせにそれぐらいの事はやりかねない。 実際の所、別に鞄自体はどうでもいい。戻ってこなくてもいい。アレ以外の中身もどうでもいい。ボロボロに壊されても破かれても、 今は興味も愛着も沸かない。アレ以外は。 だけどアレは駄目だ。代わりが無い。 普通なら、ここで諦めて警備員なり警察なりに駆け込むところだった。そう"普通”なら。 (こっちも。はい、そうですかって諦められない) 悔しそうに握り締める右手。生憎、姫神秋沙の事情は"普通"ではなかった。いうなればそれは"特別"。 明日はクリスマス・イブなのだから。その為に一ヶ月も前から準備をした。 あのやたらと情報通な茶髪ポニテからは購買のチョココロネ十個と引き換えにあの少年の胸囲だとかその他もろもろのデータを教え てもらった。暇を見つけては少しづつ編んだ。 だというのにこれではあんまりでは無いか。これは姫神では彼に相応しくないと意地悪な神様が与えた試練なのだろうか? 「そんな神様なんて要らない。そんな結末なんて認めない。そんな結果なんて――絶対に従わない!」 走りながら目尻に涙を滲ませて吼える。バッドエンドのヒロインになるのは嫌だった。 (犯人が逃げたのは一本道……) 考える。姫神秋沙は考える。考えなければいけない。 取り戻す為に。明日の為に。一ヶ月の努力の為に。そしてあの少年の為に。何よりも自分の為に。 思い浮かぶのは切欠。追憶の一ページ。 『今年の冬は寒くなるからな、俺なんて去年まで着てたセーター縮ませちゃってさ。新しく調達しなけりゃならないのに上条家の家計 簿は火の車ですよ、もう赤ペン先生もびっくりだ』 『ふぅん。それは大変』 『大変だと思ってねぇだろ姫神』 『そんな事は無い。私も大変だから』 『んだよ、それ?』 『来月になればわかるかも知れない。それまでセーターは買わないほうがいいよ』 『わけわかんねぇぞ姫神、何かの謎掛けか?』 『それは秘密。とにかく言うとおりにしてみて』 丁度ひと月前の教室。些細な出来事。ただの世間話。友人同士の他愛の無い会話。 だけど姫神の知る限り、それからあの少年が学生服の下にセーターらしき物を着てきた事は無かった。 もしかしたら本当に買う余裕が無いだけだったかも知れない。 でも姫神は違うと思っていた。彼はわがままを聞いてくれているのだ。優しいから。誰も対しても優しいから。 だったら誰がその優しさを裏切る事なんて出来るだろうか?誰にだって出来やしない。少なくても姫神秋沙には出来ない。 (あきらめない。絶対に取り戻す) "あの先には何があった?あの先には誰がいた?自分はどこに向かう途中だった?"思い至り額の汗を拭う。 黒真珠の瞳には活力が戻り、汗だくの手が制服のスカートのポケットを探る。固い感触が指先に当たった。乱暴に引っつかんで手首 のスナップで開き、アドレス帳から目当ての番号を探し当てる。 「あっち。あっちには彼女達が――いる!」 [12月23日―PM15 12]
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[17]Accelerator05―結標淡希の一番長い一日 その4 丁度とある坂道でちょっとした窃盗事件が起きていたのと同じ頃、黄泉川愛穂の部屋は結構散らかり始めていた。 結標がこの部屋に来た時には驚くほど片付いていたはずなのだが今では見る影も無いぐらいに混沌としている。 (あの短時間でここまで散らかせるとは……) 結標は思わず顔に手を当てた。 これで片付けた人間と散らけた人間が同じだなんて、正直な話全然信じられない。 いや、もしかしたら自分で散らけるからあれだけ片付けに力が入るのだろうか? (いや、それは考えすぎね) 一方通行がいうのは部屋が片付いてる時は何か揉め事というか、問題が起こったときだけ、との事だったが。 結標のつま先に何かが当たった。 空き缶だ。 下を見れば床には空き缶がいくつも転がっている。 ぐびが生だったり、札幌が黒かったり、端麗が緑だったり、七福神の一人があれだったり、冬季限定のサワーがどうだとかアクアがブルー だとかギュギュっと何かが搾ってあったり。とにかく銘柄はいろいろ。 (えーと、一本、二本、三本……あぁ、めんどくさい、あといっぱい!) 全部集めれば冬休みの工作として結標の身長くらいありそうなでっかい電気ネズミとか作れたりしそうだ。 作るのが誰かは知らない。少なくても私では無い。と結標は思った。 とりあえず手当たり次第で手に持った学園都市指定のゴミ袋へと空き缶達を次々放り込んでいく。 自分だって客のはずなのになんで結標が掃除してるのか……それは結標本人にだってわからない。 一つわかっている事は、今この部屋にいる人間の中で彼女以外は掃除しそうに無いって事だけだ。 芳川なら掃除ぐらいしそうなのだが、彼女も今は散らける側っぽい。 「ん……?」 空き缶は当然、発生源になっている黄泉川、芳川両名の側に集中している。 酒のつまみにとガラステーブルの上の深皿には、柿の種とかチーズおかきとかのお菓子類がこんもりと盛られていた。 打ち止めにはお酒は飲ませないようにしていたので彼女用のオレンジジュースのコップも置かれていた。 そのすぐ側には打ち止めの小さな背中。 可愛らしい青のワンピースは打ち止めによく似合っている。 後ろを向いてるので表情まではわからない。 でも、なんだか小刻みに小さな肩が震えている。カリカリと変な物音もする。 「打ち止め?」 どうしたんだろう?と疑問を持って結標が声をかける。 声に応えて打ち止めがくるりと振り返った。 (うわぁ……まじで?) 結標はそう思った。 「ハムスターみたいよ……打ち止め」 そして率直な感想が口に出た。 「――、―――――、―――――」 振り返った打ち止めの口元には食べかすがいっぱい。 口いっぱいに頬張っている。まさにハムスター。 でも頬張ったまま喋るのでまるで言葉になっていない。 「ごっくんしなさい……打ち止め。ごっくんってしてから喋りなさい」 こくこく。打ち止めの首が上下に大きく振られた。可愛い。 「お酒のつまみばかり食べてると鼻血でるわよ、打ち止め」 オレンジジュースが減っていく。 「っぷは――チーズおかきの真ん中っておいしいかも……。ミサカはミサカはもうコレに夢中だったりする」 小皿の上には真ん中だけ無くなったチーズおかきの成れの果て。 ごっくん、と残骸を飲み込んだ打ち止めの口元をスカートのポケットからハンカチを取り出して拭ってあげる。 打ち止めは「うにゅ~」とわけのわからない鳴き声を発していた。ますます小動物のようだ。 「はぁ……なんで私こんな事してるんだろう……」 元凶たる人物の方へと視線を送り、やがて諦めたかのようにぼやく。 打ち止めの不思議そうな瞳でそれを見ていた。 「淡希っちぃ、その制服って霧ヶ丘女学院(きりがおかじょがくいん)だろ?結構いいとこ通ってるじゃんよ」 声の主は一人掛け用ソファーには背を預け、缶ビール片手にほろ酔い状態の黄泉川。 飲み始めより大分アルコールがまわって来た様で頬はほんのりと桜色に染まっている。 髪をかきあげる。ただその仕草だけでも同性である結標から見ても妙に色っぽい。 (こういうのってフェロモンっていうのかしら?それとも大人の魅力?) 結標だって年頃の女の子だ。化粧もすればアクセサリーだってつける。 いつもは二つに分けて纏めている髪をほどいたりして髪型を変えてみるのも良いだろう。香水を少しつけてみるのもありだ。 クローゼットを開いてコーディネイトを考えて時間をかけてオシャレな服を選んで着こなせば、それなりに大人びて見えたりもする。 (……と思うわ、この人見てるとなんか自信無くなるけど) だが黄泉川のソレはそういう後付の色っぽさとは一線を画す物だ。人工物では無くあくまでも本人から滲み出る天然の色気。 (着ているのは普通のジャージの上下なのに……羨ましい限りだわ) ピンク色の毛布を抱えた結標はとりあえず、「ええ、"一応"」と限りなくグレーゾーンの言葉でお茶を濁した。 結標淡希は一応霧ヶ丘女学院所属にはなっているがそれはあくまでも記録上だ。 残骸事件の影響でいまだ扱いは留学中のまま。 学園都市の中にいないと言う事になっているので今は霧ヶ丘女学院の女子寮には住んでいない。 現在はあのプカプカ逆さ人間がどこからか手配したワンルームマンションで一人暮らし中。 風の噂で耳にした話だと残骸事件で結標に協力していた仲間達も似たり寄ったりな境遇らしい。 もっとも連絡は取れた試しが無いのだが。 (とはいえ、実際問題として霧ヶ丘への復学の見込みは低いのよね……。アレイスターは長点上機学園か常盤台付属辺りにでも転入処理して やっても良いとか言っていたけど、どこまで本気やら) 実際、大能力者(レベル4)である結標が申請を出せば大抵の学校は「はいはい」と二つ返事を返してくるだろう。 少し考えただけでもいろいろなパターンが思い浮かぶ。 転校、転入、新しい空間。 (それもいいかもしれない) 結標がふと口を開いた。 そういえばこの黄泉川は現役の教師だったはずだ。 (どんな学校なんだろう) 「黄泉川さんの所の学校……」 少しばかり黄泉川の勤める学校に興味が湧いた気がした。 「うん?」 「高校でしたか?」 「そうじゃんよ」 グビっと缶を傾ける黄泉川。教え子達の事でも考えてるのか、その表情は柔らかい。 「どんな学校ですか?特徴っていうか、その、特色みたいな?そんなのってあります?」 「いや、全然無いじゃん」 即答。 思考時間にして一秒以下だろう。 「学力レベルが高かったり?」 「いや、全然」 これも即答。 空き缶が床に転がった。 「スポーツが盛んだったり?」 「コレといって記録を残してるクラブは無いじゃんよ」 三度即答。 ガラステーブルの上の皿から柿の種を口に運び、ぽりっと齧る。 「小学校からエスカレーター式のマンモス学校?」 「うちは高校のみの単品だったりするじゃん」 しつこいが即答だ。 辛いものばかり食べてたら甘いものが欲しくなったのか、今度はコンビニ羊羹に手を伸ばす。 「じゃあ……」 少し間を空けて結標が本命を聞く。 器用に片手と口で羊羹の包みが開かれた。 「能力開発が」 「それもいたって平凡なもんじゃんよ。上は強能力者が片手の指でお釣りが来るぐらい。下は正真正銘の無能力者まで。 特徴っていう程の特徴は……、無いことも無いか。強いていえば生徒がやたらと個性的な事ぐらいじゃんよ。 特に一年生のクラスの一つは個性的って言葉が馬鹿らしくなる様なのが何人かいるじゃん。まぁ、見てる分には退屈しないかもね」 皆まで言うなとばかりに途中で先を言われてしまった。 ここで黄泉川が再び缶ビールを呷り始めたので結局それ以上は聞くことが出来なくなってしまった。 「ふぅ」 (個性的……。個性的とそうでないの線引きってどこからかしら?) 結標はそこで毛布を持って三人掛けソファーの前まで来て、そこで寝ている人物へと視線を落とした。 そう、個性的な人間ならここにもいる。それもとびきりの。 学園都市最強。質、量を問わず、あらゆるベクトルを支配下におく超能力者(レベル5)。学園都市の全能力者二百三十万人の中の第一位。 現在むかつくぐらい気持ち良さそうに睡眠中。 穏やかな寝息が結標の耳に届く。 変な人格の人間を個性的って乱暴に一括りにしてもいいのなら、結標の知っている人物の中に一方通行程個性的な人間も見当たらない。 彼がこうなったのは確か十分ぐらい前の事だっただろうか?確か三十分まではいかなかったと思うが、とにかく少し前。 「勝手にやッてろ」 の捨て台詞と共に三人掛けソファーを大胆に占領して、不貞寝してしまった事だけははっきり思い出せる。 (一方通行って学校行ってるの?) 結標の手がソファーで寝ている一方通行の肩辺りまで毛布を掛けた。 もともと、こうする為に隣の部屋から毛布を持ってきたのだ。 更にソファーのアームレストは枕には少々硬すぎるだろうと、少年の頭を下から少し持ち上げて白と水色のクッションを二つ折りにして 滑り込ませた。 毛布がくすぐったかったのか一方通行が身じろぎし、ゴロンと寝返りを打った。 横を向いていた白い少年の顔が九十度向き変更で結標の正面へと来る。 ビクゥ!?と露出している結標の肩が大きく震えた。 「び、びっくりさせないで欲しいわ……」 多分今の台詞を一方通行が聞いていたら確実に半殺しモードだろう。 だけど寝顔だけは、なんというかとても穏やかであり、なんだかカワイイ気がしないでも無い。 「う゛ッ……」 思わずたじろぐ結標。不覚にもスヤスヤと寝息を立てぐっすりと夢の中にいる一方通行に目を奪われてしまう。 (反則だわ……この顔は反則だってば……なんでこんなに) 「カワイイじゃんよぉ。なんなら襲ってもいいよ淡希っち」 「ひぇえぇぇ!?」 結標の心の声に合わせる様に黄泉川の声が訪れた。 変な悲鳴が結標の喉から飛び出た。 完全な不意打ちに呼吸は乱れ、心臓はバクバクと落ち着かない。 ただ口をパクパクと開いたり閉じたりするだけで声にならない。 それでも、しどろもどろでなんとか言い訳を探す。 「み、見とれてませんよっ!寝顔がカワイイなんて思ってませんよ!」 結標はそう言い切り、身振り手振りを織り交ぜてブンブン両手を振り回して黄泉川に訴える。 が、返ってくるのは暖かな視線が二つ。 いつの間にか芳川まで「あらあら、初々しいわねぇ」とかすっかりお姉さんモードだ。 ガラステーブルを挟んで黄泉川と一緒に 「若いわねぇ」 「若いじゃんよ」 「でも口喧嘩してなかった?」 「喧嘩するほど仲が良いじゃんよ。それに一方通行と口喧嘩できるなんて人間、そうそういないじゃんよ」 とか少し暢気な会話をしている。 「夫婦喧嘩っていうんだよね。ってミサカはミサカはミサカネットワークから引き出した情報を得意気に使ってみたりする」 にょきっと出てきた打ち止めが会話に乱入した。そして結標のスカートの裾を引っ張る。 「淡希、夫婦喧嘩って何?ミサカはミサカは詳しく聞いてみる」 「ぁぅ……」 答えられない。 「違うじゃん打ち止め、あれは痴話喧嘩っていうじゃんよ。キチンと固有名詞で登録しておくじゃん」 「愛穂」 「何?桔梗」 「あんまり打ち止めに変な事ばかり教え込まないで頂戴」 「そっかそっか、わかったじゃん。なら打ち止め、夫婦の一個下のランクで『恋人』とか『彼女』とか登録しておくといいじゃん、これなら バッチリじゃんよー」 なにがバッチリなのかわからない。 ばちこーん☆と黄泉川のウインク。 「だ、だから違うっ!私はコイツ(アクセラレーター)とは何でも無いんですって!?さっきから何回もそう言ってるのに信じ――」 「ぶぅぇつにぃー、淡希っちの事だとは一言も言って無いじゃんよー」 「あらあら……墓穴を掘ったわね」 ニヤニヤとした生暖かい視線の中、結標に出来るのは両手をバタバタと振って抗議する事ぐらいだった。 「ミサカもこの人で遊びたいかも、とミサカはミサカは準備運動を始めてみたり」 幼女が助走をつけようと壁際まで下がったのはすぐ後の事。 ソファーにダイブしようとした打ち止めを結標が空中で阻止して一言。 このままでは自分の身が持たない、と結標の目が物語っていた。 「ら、打ち止め……さ、散歩、そう、外に散歩とか行きましょうよ。ついでにお菓子的な物、買ってあげるから、ね、ね」 [12月23日―PM15 17]
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[12]blank girl02―幕間 洗脳能力(マリオネッテ)と 操り人形(マリオネット) 様々な研究施設が立ち並ぶ実験区画。外と30年は差があるといわれる程の超技術を作り出す一端を担っている学園都市の屋台骨。 その性格上普段から出入りする人間は限られている。通常は研究者か警邏で回ってくる警備員(アンチスキル)の二通り。 例外として実験に協力する能力者の出入りが無いことも無いがそれなら協力する研究機関から発行された偽造不可能なIDパスを 首からぶら下げたりして掲示する必要がある。 だが30半ば過ぎ、やや恰幅のいい警備員(アンチスキル)の目の前を堂々と通り過ぎる二人を見る限りIDパスの類は見受けられない。 180センチ前半、黒い髪を額の真ん中で半分に分け、白い学生服を着た少年。 そのやや後ろに続くのは燃えるような赤い髪をしたショートカットの少女。 しかも少女の着ている赤いブレザータイプの制服は中年の警備員(アンチスキル)が平時に勤めている中学校の物だ。 流石に生徒全ての顔と名前を把握しているわけでも無いがそれでも自分の学校の生徒だというのならなおさら放って置けない。 中年の警備員(アンチスキル)は二人に声をかけた。 「君達、ここは学生の立ち入りは禁止されている。実験の協力者だと言うのなら協力機関から発行されるIDパスを見せてもらえるか?」 そこで中年の警備員(アンチスキル)は白い学生服の少年の左腕にある緑色の腕章に気づき、更に続けた。 「風紀委員(ジャッジメント)か?たとえ風紀委員(ジャッジメント)でも緊急時以外はこの区画に立ち入る事は出来ない」 中年の警備員(アンチスキル)はIDを見せろ、と右手を彼らに向けてその行く手を阻む。 ただ白い学生服の少年は中年の警備員(アンチスキル)よりも背が高いので下から見上げる形になってしまう。 「――」 少年が小さく何か呟いたが声が小さくてよく聞こえなかった。中年の警備員(アンチスキル)は後ろの少女へと視線を動かし、 「それに後ろの子は風紀委員(ジャッジメント)では無いだろう?」 と、白い学生服の少年に質問する。背の高い少年の後ろに控えた少女は無言で立ち尽くしていた。 少年は面倒くさそうに左手をポケットから抜き放ち中年の警備員(アンチスキル)へと向け 「――邪魔だ」 と短く言い放った。 ぱちぱちと何かが弾ける様な小さな音がした後に中年の警備員(アンチスキル)が体を痙攣させて膝から崩れ落ちドサリと地面に倒れた。 口元から涎を垂らし白目を剥いて気絶する警備員(アンチスキル)を一瞥し、 「少し強かったか……中年にはもう少し出力を落とす必要があるな」 と呟いて、彼――襟草励磁(えりくさ れいじ)は倒れた警備員(アンチスキル)の脇腹を蹴っ飛ばして仰向けにさせ、微かに 上下する胸を確認した。 「死んでないからまぁいい。それにしても風紀委員(ジャッジメント) の腕章をつけているだけで随分と楽に動けるものだ。 流石にどこでも、というわけではないがな」 白い学制服の左腕につけられた腕章を撫でて襟草は自嘲気味に言葉を紡ぎ嘆息する。本来の持ち主であるオッドアイの少女から奪った物 だが白い学生服の左腕に取り付けられた緑の腕章は思いのほか役に立った。 学園都市中を歩き回らなければならない襟草にとって風紀委員(ジャッジメント) という隠れ蓑は最適だった。 少々怪しい場所をうろついていても咎められないし、万が一咎められても襟草の足元に寝転がるこの警備員(アンチスキル)のように 勝手に油断しこちらの射程内まで入って来てくれるのだ。あとは死なない程度に加減して相手の脳に能力を叩き込めばいい。 使えそうなら駒(ユニット)として洗脳してもいい。とにかく先手さえ打てれば彼の能力で大体片がつく。 「君の出番はまだ無いみたいだ。まぁ”虚数学区”を探ってる以上そのうち直属部隊とやらがお出ましになるだろう」 襟草は傍らに立つ少女へと話しかけた。返事は無い。ただ虚ろな視線が虚空を見つめるだけだ。 操り人形――そんな言葉がぴったりくる少女は感情の類を一切表さないでいた。 「『幻想殺し』(イマジンブレイカー)の方は自動暗示(オート)でなんとかなるだろ。さぁ、次に行こうか」 襟草は左手をポケットに突っ込んだまま足早にその場を去ったが彼に返事を返す相手は誰も居なかった。 [12月23日―PM13 00]
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01-回送 02-試運転 03-臨時 04-団体 05 空白 06-取手 07-我孫子 08-柏 09-松戸 10-綾瀬 11-上野 12-北千住 13,14 空白 15-取手(常磐線各駅停車) 16-我孫子(常磐線各駅停車) 17-柏(常磐線各駅停車) 18-松戸(常磐線各駅停車) 19-綾瀬(常磐線各駅停車) 20-北千住(千代田線直通各駅停車) 21-代々木上原(千代田線直通各駅停車) 22-代々木公園(千代田線直通各駅停車) 23-霞ヶ関(千代田線直通各駅停車) 24-表参道(千代田線直通各駅停車) 25-湯島(千代田線直通各駅停車) 26-大手町(千代田線直通各駅停車) 27-明治神宮前(千代田線直通各駅停車) 28~30 空白 31-取手(常磐線直通各駅停車) 32-我孫子(常磐線直通各駅停車) 33-柏(常磐線直通各駅停車) 34-松戸(常磐線直通各駅停車) 35-綾瀬 36-北千住 37-代々木上原 38-代々木公園 39-霞ヶ関 40-表参道 41-湯島 42-大手町 43-明治神宮前 路線表示 常磐線各駅停車 常磐線直通各駅停車 千代田線直通各駅停車 更新情報 2016.01.24 ページ作成、各種追加
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サーバーで使用できるコマンド一覧 LWC(チェスト・かまど・看板・ドア)保護について ※チェスト・カマドには看板を付けるだけで保護されます ※ドアの場合は、保護したいドア上部ブロックに看板を付け下記記載通りにやればドアが保護されます。 [private] 空白 キャラ名 空白
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Summary. 果たしてこれが何の役に立つのか自分でも疑問ですが(おい)、リプレイファイルの名前に使える文字を調べてみました。うまく使うと順番の整理とかに役立つ・・・かも。 表示可能な文字 まず、大前提として ゲームの中に用意されていない文字は表示されない です。というわけで、某Susieでさくっと漁ってみると下のようなデータが見つかります: どうやらこれが表示可能な文字のすべてみたいです。文字コードに詳しい人なら、この配列にピンと来るところがあると思います(そうでなくても、キーボードの1段目と比較すると雰囲気がわくかも)。 実際はこれ以降に説明するように "文字化け" が生じます。たとえば、小文字のアルファベットは全部大文字に変換されます。そのため、小文字のアルファベットを混ぜることは(基本的に)不可能です。 ASCII文字 いわゆる半角文字(1バイト文字)の場合、半分くらいはそのまま表示されます。それがどの文字で、他の文字はどうなるか、一覧表にしました(オレンジが化ける文字): 2 3 4 5 6 7 0 SP 0 @ P ` p 1 ! 1 A Q a q 2 2 B R b r 3 # 3 C S c s 4 $ 4 D T d t 5 % 5 E U e u 6 & 6 F V f v 7 7 G W g w 8 ( 8 H X h x 9 ) 9 I Y i y A J Z j z B + ; K [ k { C , L l D - = M ] m } E . N ^ n ~ F O _ o SP は半角空白。 小文字アルファベット → 大文字になる [ ] ^ _ ` → それぞれ a ~ f に変わる セミコロン → = に変わる それ以外は空白に変わる 左にあるほど(同じ列ならより上にあるほど)順番が前になる。 ただし、a~zは大文字にされてから並ぶ(=A~Zの位置)。 同じ空白でも「@」が化けたものはアルファベットの前に来て、 「~」が化けたものはアルファベットの後に来る。 2バイト文字 基本的な処理 自分の知る限りReACTが動作する環境はWindowsのみなので、普通は文字コードとしてシフトJISが使用されているはずです・・・たぶん。 結論から言うと、2バイト文字が含まれていた場合は 1バイトずつバラバラに扱われる ようです[1]。もう少し細かく書くと、ファイル名の各バイト毎に ASCII文字の範囲外(0x80以降)なら空白。ただしそれがファイル名の先頭だった場合は完全に無視される ASCII文字の範囲内かつ "小文字のアルファベットでない" なら上の通り 小文字のアルファベットの場合、小文字のまま表示される という規則になっています。シフトJISの仕様上、最初の1バイトは必ず空白になってしまいます。また、2バイト目も0x40~0x7Eが使われるので 「 」 などはどうやっても使用できません。 例外 実はこれでもまだ不完全で、たとえば全角の「b」(0x8282)は上位も下位も両方とも0x82なのに "空白+a" に化けます。これは自分の予想ですが 全角の小文字アルファベットも大文字に変換してから処理される のではないかと思います。実際大文字の「B」(0x8261)なら2バイト目がaになります。上にある「aがAになる」が適用されないのは、この2つの処理が同一のものだから「二度掛け」が起こらない・・・てことでしょうか。 まあ、なんでそんな無駄なことをしてるのか謎ですがw(全角文字にも効くtowupperみたいなのを使ったとか) [1] 文字コードについては、IMEの文字一覧などでご確認ください。