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前ページ次ページゼロのドリフターズ ウェールズを乗せたシャルルとその風竜は全速で飛び続ける。 しかし魔法による補助を加味しても、重量の分だけ距離は確実に狭まりつつあった。 アルビオン皇太子という、ある種の枷と重圧こそあれ、シャルルにとっては恐れるほどではなかった。 追撃は二騎ぽっち。引き離せないのであれば殺すという選択になるだけである。 それが例え精強なアルビオン竜騎士であったとて―― 「殿下、迎撃に入りますので振り落とされぬようお願いします」 「・・・・・・わかった、よろしく頼む」 ウェールズは素直に従う。シャルルの表情に焦りなどが見出だせなかったからだった。 竜の上での戦闘において、ウェールズは殆ど門外漢に近い。 高速で飛行する中での攻防は、相応の修練を必要とする。 俄かな連携は邪魔にしかならず、精神力の無駄遣いだけに留まらなくなる。 「ユビキタス・デル・ウィンデ」 シャルルは『遍在』の魔法を唱えた。 ――その意思によって自らの分身を複数創り出す、風のスクウェアスペル。 シャルルがもう一人増えて、竜の上は三人となる。速度差が命取りにもなる空中戦において、遍在は一体が限度であった。 しかしメイジが一人とメイジが二人とでは雲泥の差が生じる。 本体のシャルルは巧みに竜を操り、防御と回避に専念する。 遍在のシャルルは『ファイアー・ボール』をいくつも放つ。 攻撃と防御を完全分担することが出来るのが『遍在』の最大の強みであった。 基本的に魔法は一つの詠唱、一つの魔法が原則である。 "掛け捨て"は種類が限られるし、そうでない魔法の同時行使には多大な集中力を必要とする。 魔法による攻撃と防御を切り分ける。二つの魔法を同時に扱える。 人の動きを超える動きが出来て、単純な数を作るにも効率が良い『クリエイト・ゴーレム』とも違う。 遍在もまた本人であるゆえに、完璧な連携でもってあらゆる状況に応じた戦闘の展開を可能とする。 それこそが風の『遍在』であり、単一メイジながら複数メイジを擁せられる数の優位性である。 ――十数発目の『火球』が放たれる。 撃たれた数だけ回避行動をとり続けた敵竜騎兵達の歪んだ動きの瞬間。 シャルル達の乗る竜が突如として急上昇した。 急激に落ちる速度、敵との間合、そしてタイミング、全てが符号する。 その僅かな機を、さも予定通りと言わんばかりにシャルルは『ウィンディ・アイシクル』を形成出来た分だけ全てを叩き込んだ。 ウェールズは無数に串刺しにされた騎士と竜の墜落を見つめながら、その美事な戦い方に感嘆した。 『遍在』というスクウェアスペルを使える、メイジとしての確かな実力。 乱れなき空中機動を難なくこなして見せる熟練の竜捌き。 そして夜空でもはっきり目立つ、追尾性能と爆発性能を備える『火球』でもって、敵を誘導しまんまと嵌めた。 敵の二騎陣形を崩し、孤立させたところを待ち構え、『氷矢』の弾幕で仕留める。 それら一連の流れが漏れ一つなくシャルルの計算通りであり、掌の上の出来事だったのだ。 これほど完璧にこなすには、力量・頭脳・経験、三拍子全てが揃ってなければ不可能な芸当。 しかも平然とこなしてみせる絶対の自信と揺るがぬ胆力。 元とはいえ同じ四王家に連なる一族として。単純に一人の武人として。 嫉妬を抱かずにはいられないほどの、才能と努力の両輪あってのことだろう英傑―― ――シャルルが駆る風竜は、次いで分断された残る敵竜騎兵へ向け、一転して翻るように急降下した。 『風盾』による障壁をいくつか張ることで、不可視の誘導路を作り出す。 高度差と速度差を利用して、シャルルは正確無比な一撃を相手に見舞うと即座に離脱した。 二騎を確実に墜としたのを確認し、遍在を消したシャルルはすぐさま速度を戻して竜を操る。 増援なども考えれば、早急にトリステイン領内まで向かわねばならない。 味方でありながらも、ウェールズはその身を震わせる。 多数であれば一対一の状況を作り出し、そうなればかくも容易く打ち倒す。 確実を期してかつ消耗を抑えた戦い振り。元ガリア王族にして、トリステイン首都警護にあたる雄。 正規軍ではないとはいえ、我がアルビオン国の竜騎士を赤子の手を捻るかの如く屠り去った。 精鋭中の精鋭でも、太刀打ち出来るのかと疑問視してしまうほどの実力者。 「少々荒れましたが、大丈夫でしたか?」 「大丈夫だ、何も問題はない」 ウェールズが答える。あの程度で気分を悪くなろうものなら、武人の名折れというものである。 それにあれでなお同乗している自分に気遣った竜機動であったことくらいは、ウェールズとて気付けた。 たった今見せつけられたシャルルの強さを鑑みてれば、我々に危険が及ぶことはもはやないだろう。 後は船に残った皆の無事を"祈る"ことしか、ウェールズに出来ることはなかった・・・・・・。 † ――ルイズは目を必死に瞑って"祈る"ことしか出来なかった。 魔法も使えない、銃器も扱えない。自分は足手まといでしかない。 だから何にでも縋るように思い続けるしかなかった。 始祖の祈祷書を胸に、神に祈る――始祖ブリミルに祈る―― 祖国に――姫さまに――家族に――友人に――そして使い魔に。とにかくなんだって良かった。 (お願い・・・・・・) 修羅場の音に畏怖し、足が竦んで動かないながら・・・・・・ルイズは導かれるように目を開く。 瞳に映ったのは戦場の光景ではなく、指に嵌めた水のルビーと始祖の祈祷書であった。 どうしてか惹き付けられる。今にも死ぬかも知れないのに、引き寄せられるように祈祷書を開く。 すると水のルビーが輝き、始祖の祈祷書のページまでもが光りだしたのだった。 わけがわからない・・・・・・わからないけれど、何か意味がある確信だけは脳髄を打つ。 古代のルーン文字を読み進める。周囲の状況など遮断されるほどに終始する。 そこに書かれていたことは、ルイズの半生の中で最も驚愕し衝撃を受けたことだった。 ――この世の全ての物質は小さな粒で構成され、火水風土の四系統はその粒に干渉する。 ――『その力』は小さな粒を構成するさらに小さな粒に影響を与えて変化させる。 ――それは"四"ではなく"零"。『虚無の系統』と名付けられた。 (嘘・・・・・・?) でなければ夢としか思えない。いや実はもう自分は死んでいるのかともすら思う。けれど心のどこかでは理解していた。 つまるところ始祖ブリミルが使ったとされる伝説の系統『虚無』について、序文として記されてあること。 しかし――もしこれが"本物の始祖の祈祷書"であれば、書かれている内容そのものへの疑問は不要であった。 6000年も前に始祖ブリミル本人が、その手で書いたものと思うと感動を通り越して絶句する。 ルイズはただひたすらに、考えるのは後にして、無心でさらに読み進める。 (わたしが・・・・・・) ――始祖の祈祷書を読む者は、始祖ブリミルの行動・理想・目標を受け継ぐ者であること。 ――伝説の『虚無』の系統を扱い、"聖地"を奪還すべくこと。 ――『虚無』は膨大な精神力を消費し、時に命を削ることがあるということ。 ――ゆえにこそ才ある者が指輪を嵌め、始祖の秘宝をその手に持つことで授かるということ。 (わたしなんかが・・・・・・選ばれた?) 始祖の祈祷書に書かれていた内容を見れば、ルイズは虚無魔法の行使者として選ばれたということになる。 四系統の魔法が今まで使えなかったのも、召喚されたブッチが『ガンダールヴ』を刻んだのも―― 全て自分が"虚無の担い手"だからなのだと認識する。 そして続く文面に、今まで欲してやまなかったことが記されていた。 ――初歩の初歩の初歩の虚無の呪文。『爆発』 エクスプロージョン 。 コモン・マジックはほんの少しだけではあるが使えるようになった。 しかして四系統魔法は依然として使える気配すらなかった。 だが今は火・水・風・土の四系統を飛び越えて、伝説の虚無を扱えるのかも知れない。 (もしかして・・・・・・魔法を使うたびに爆発してたのも――) それもまたヒントだったのかも知れない。火系統が使う爆発とも違う性質。 学院の教師だけでなく、色々と詳しいシャルロットもついぞ説明出来なかった。 (つまりシャルロットも・・・・・・) 虚無の担い手なのだろうか。キッドが『ミョズニトニルン』を刻んだ。 四系統魔法を使えず――わたしのように乱発するようなことはなかったが――爆発していた。 『虚無』は伝説だ。シャルロットですら、自分達が虚無なのではという大それた予想はしなかった。 ブリミルが聖地に降誕して6000年。以降使う者がいなかったとされる伝説。 『虚無』そのものが荒唐無稽とさえ密かに噂されるほどであり、同時に畏れ多いものでしかない。 しかし今――ここにその伝説が具現したのだ。いや・・・・・・これから証明される。 詠唱のルーンを眺めるだけで自然と頭に入る。否、既にあった記憶を掘り起こすかのように馴染んだ。 ルイズの唇の端が上がる。劣等感に苛まれ続けてきた人生とは、もう御然らばだと。 もうわたしは足手まといじゃない。みんなを――今まで馬鹿にしてきた連中を見返せると。 心の中の何かが溶けていくような感覚の後に、ルイズは確固たる瞳を空へと移す。 一丸となって戦っている皆の姿。見ているだけだったこれまでを、変える。 (・・・・・・大丈夫) ガンダールヴ――ブッチ――が守ってくれている。だからわたしは気兼ねなく詠唱出来る。 ルイズは杖を取り出し視界を閉じた。あとはその口が詠ってくれる。 「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ――」 ゆっくりと、確実に、溢れ出るほどの魔力が体中を駆け巡る。 これがいわゆる――自身に合致した系統を使うと感じるらしい――うねる感覚だろうか。 詠唱を紡ぐほどに加速していき、もはや己に不可能などないといった気分になっていく。 始祖の祈祷書を読んでいた時のような集中力で、周囲の音が完全に消える。 長く続く詠唱の途中でルイズは気付く。何故だか頭の中で、"これで充分"とわかったのだ。 暗く無音の世界から、感覚を解放し、周囲を把握する。 仮に長い呪文を完全に詠唱を終えていたなら、たった一人で戦術兵器足り得るその威力。 その気になればあらゆる物質を消滅可能な、文字通り『虚無』の魔法。 初歩の初歩の初歩で、これほどのものなのかとルイズは戦慄する。 だが幸いにも『虚無』は言わば"武器"であった。『虚無』そのものに意志はない。 要は使い手次第ということ。"武器"を手に持つ者の意思次第なのだ。 一度放てば全てを無慈悲に飲み込むわけではない。生殺与奪はわたしが握っている。 ルイズは杖を振り下ろし、『エクスプロージョン』を開放した。 杖の先の虚空で、夜を照らす小さな光球が一瞬だけ停滞した後に急激に膨張する。 目が眩まんばかりの光の中で、ルイズは母胎の内にいるような安らかな心地を覚えていた。 そしてルイズは選択する――敵は殺さず――敵船の風石を消す――大砲と砲弾を消す。 ――味方は殺さず――ブッチも乗っている竜騎兵は殺さず――船の燃えている部分を消す。 数瞬の内に光球は収束し・・・・・・全てが終わっていた。 風石という推進力を失った敵船は墜落する。下は海であり、当然この高度から落ちれば粉々になるだろう。 願わくば乗員が『浮遊』なり『飛行』なりで脱出してくれることをルイズは思う。 「すぅ・・・・・・はぁ・・・・・・」 ルイズはじんわりと呼吸を繰り返す。未だ残滓があるような夢見心地。 落ち着いてきて周囲へと耳を向ければ、無事生き延びた皆が動揺で叫んでいた。 自分達のことだけで手一杯だったのか、わたしがやったこととはバレていないようである。 唯一人を除いては―― 「やるじゃねえかよ」 ブッチは敵竜騎兵を脅して甲板へと降ろす。 その重量だけで船は傾き、この船も長くないようであった。 「さっさと全員乗れ。ギリギリ行けんだろ」 船の火事は止めたものの既に損傷酷く墜ちかけ。ウェールズ達の安否も心配である。 さらなる敵の新たな追撃なども危惧すれば、ここはさっさと退避するのが良い。 トリステイン特使達も早々に合流し、次々と『浮遊』で乗って行く。 しかし虚無に目覚めど系統魔法は使えないルイズには、ブッチが手を差し伸べた。 二人は互いに不敵な笑みを浮かべ合う。ガシッとルイズはその手を掴むと、一気に引っ張り上げられた。 「もうちょっと優しくしてよ」 「はっ、もうそんなタマじゃねえだろうが」 絶体絶命の状況下で戦果を示した少女に、ブッチは相応の評価をしていた。 ただ一度の実戦が少女を目覚めさせ、戦士としての成長を促したのだ。 全員が乗ったのを確認すると、風竜はゆっくりと落ちていく船を下に眺めつつ、大空を窮屈そうに舞った。 晴れやかな表情を浮かべるルイズの胸の内は、今いる夜空のように澄み渡っていた―― † シャルロットとキッドは証拠品の羊皮紙とメンヌヴィル小隊のセレスタンをシティ・オブ・サウスゴータにて引き渡した。 その後、然るべき日にトリステインへ戻って来たのは――結婚式予定日のおよそ四日前であった。 アルビオンのロサイスから、港町ラ・ロシェールへ。 さらに首都トリスタニアへ到着する頃にはかなり日にちが経っていた。 通信連絡用の魔道具人形で、ある程度の情報を相互交換して警戒していた。 が、道中の襲撃もなく、特に何事もなく、極々普通に、無事戻って来れた。 さらに事の仔細は、アルビオン側からトリステインに伝わっている為、改めて報告の必要もなかった。 歓待の為にパーティを催してくれているというので、間を置かずに城へと向かう。 急ぎ正装に着替えて会場へ向かうと、慎ましいがそれでも豪華なパーティが始まった。 わざわざシャルロット達の到着を待っていたことに恐縮しつつも、心遣いを素直に受ける。 キッドとブッチは普段お目にかかれないほどの料理と酒を存分に楽しむ。 シャルロットはひとまず王女と王子に挨拶し、報酬の件について後々話す約束を取り付けた。 次に父シャルルと話した後に、最後にルイズの元へと向かった。 二人は無言でワイングラスを鳴らして乾杯する。 「おかえり」 「ただいま。お互い大変だった」 「うん・・・・・・」 シャルロットはルイズの煮え切らない――浮かない顔に首を傾げる。 「どうしたの?」 「ちょっと待って」 そう言うとルイズはグラスの中身を一気に飲み干す。その勢いのままにルイズは言った。 「後で部屋に行くわ、話したいことがあるの」 「・・・・・・? わかった。ただ先にアンリエッタ様と話すことがあるから、私がルイズの部屋に行く」 † "交渉"を終わらせた後、シャルロットはルイズが泊まっている客室へと招かれる。 「ごめん、遅くなった――それで、どうかしたの?」 ベッドに座るルイズの横に、シャルロットは腰掛ける。 下を向いていたルイズはゆっくりと顔を上げると、シャルロットを見つめて言った。 「・・・・・・虚無――」 シャルロットは心臓が一度だけ大きく高鳴る。ルイズは開口一番何を言うのかと。 先の交渉の中でも、アンリエッタにすらテファのことは話していない絶対の秘密だ。 "虚無"という単語が出たことに、シャルロットは必死に声色を保つ。 「――が、どうかしたの?」 「使えるようになっちゃった」 「ッ・・・・・・えっ」 一瞬呆ける。聞き間違いかと思って確認するが、ルイズは確かに虚無を使ったことを肯定した。 「そうなんだ」 「うん、・・・・・・あまり驚かないのね?」 既にテファがいたからなどとは言えない。彼女のことは例え半身のジョゼット相手であっても言わない。 「ブッチさんにも秘密に」とキッドにも言い含めてある。信用していないわけではないが、秘密とはそういうものだ。 「これでも驚いてる。・・・・・・おめでとう」 「ありがとう。でも・・・・・・その、なんか裏切りみたくなっちゃってごめん」 「何を言ってるんだか――」 シャルロットはルイズのおデコをコツンと軽く小突く。 確かに互いに同じ境遇で一蓮托生みたいな節はあったがそれは全くの別問題だ。 「うぐ・・・・・・だけど・・・・・・」 (あぁ、きっと――) ルイズはこちらに驚きこそなく、微妙だった私の表情を読んだのだろう。 伝説の虚無なんてものに先んじて覚醒したということに、私の不可解な態度を勘違いした。 だからこそ何か居心地の悪さのようなものを感じたのかもと。 もちろん嫉妬や劣等感は全く無いとは言わないが、そんなことは些末なことであった。 シャルロットが微妙な表情だったのは、単純に立て続けに判明した虚無を扱う者の存在そのもの。 ティファニアだけに留まらず、ルイズまでも―― 「確かに羨ましくはあるけど、気にすることない。私はルイズの成長に素直に嬉しいと感じるから。 それに裏切ったと言うのなら・・・・・・地下水でまがりなりにも魔法を使えてた私の方が先」 「別にそんなことは――」 ――ない、とはっきりは言えなかった。 心情的に裏切られた気持ちがなかったと言えば嘘になる。 だかこれでお互い様だとルイズは完結する。気にするなと言われれば気にしない。 余所余所しいほうが、かえって居心地悪くなるのは逆でも同じだと。 そして虚無が発現した流れを、ルイズはザックリと語った。 帰国の船で襲われたこと、その中で始祖の祈祷書に書かれていた大まかなこと。 その上で虚無系統に覚醒し、実際に虚無の魔法を使って撃退に至ったということ。 「なるほど、そっか・・・・・・ルイズが――」 改めてシャルロットは意識する。二人目の『虚無』。二人目の伝説。 「そうなの、だからシャルロットもきっとそうなんじゃないかって」 ルイズは始祖の祈祷書を取り出すと、シャルロットに渡す。 「ルビーもいい?」 「構わないわ」 土のルビーが贋物である可能性も考えて水のルビーを借りる。 少し前には土と風が並び、今は土と水が美しく並んでいた。 そしてシャルロットは書を開いて集中して見るものの、目に映ることはついぞ何もなかった。 「・・・・・・ルイズには読めるのね」 シャルロットは目を閉じると、半ば諦めたように祈祷書と水のルビーを返す。 幼き頃の香炉の時も、ついこの前のオルゴールの時も一緒であった。ルビーも祈祷書も、何も起こる気配すらなかった。 「その・・・・・・さ、シャルロットもその内目覚めるわよ。わたしも襲われて初めて目覚めたんだし!!」 妙な言い回しで、姫さまから下賜された始祖の祈祷書を押し付けるように渡そうとしてくるルイズ。 何やらおかしな感じになっていることにシャルロットは苦笑する。 「いやいや、それは結婚式で使うでしょ」 「あっ、それもそうね」 シャルロットは丁重にお断る。考えなしのルイズのその気持ちは嬉しい。 しかしアンリエッタ姫殿下から親愛なるルイズへと、渡された秘宝を受け取るなんて出来るわけもない。 「それに私のところにも、始祖の香炉があるし」 正確にはジョゼットの持ち物だが、言えば貸してくれる。 とはいえ6000年前の物だから偽物という可能性も無いとは言えないが―― 「ルイズの読める内容――詳しく聞いてもいい?」 ルイズは頷いて書を開く。夜も更けて既に三日後に控えた結婚式。 その際に読み上げる詔のように悠然と朗読する。 オルゴールの歌と違って直接的な文言。 その語られる言葉が、6000年前もの偉大な始祖ブリミルのものだと思うと不思議な感覚だった。 メイジの礎を築いた伝説の人が書いたことを、実際に耳の当たりにしていることが感慨深い。 ルイズが読み上げた内容を聞きながら頭で整理しつつ、シャルロットはナイフの中の意思へと心の中で語り掛けた。 (どうなの? デルフリンガー) (あ~・・・・・・まぁあのエルフの娘っ子だけじゃなく、こっちの嬢ちゃんも目覚めるとはね) (つまり複数人いる可能性はあったと) (そうだね、相棒ももしかしたら覚醒する可能性あるかもね。あくまで可能性だけど) そう――可能性はあるのだ。と、シャルロットは自分に言い聞かせる。 なければないで不便はない、嫌なことだが既に慣れてしまっていた。 (内容については?) (んー、とりあえず必要に迫られた時に目覚めるってことかな) (つまり?) (おっぱい大きい娘っ子も、ちっちゃい娘っ子も――) (・・・・・・・・・・・・) (――本当に欲しい時に使えた。そういうこった) (・・・・・・今の私には必要ないから、秘宝はうんともすんとも言わないと) (かもね、本当に相棒が"虚無の担い手"なら・・・・・・だけど) (歯切れが悪い) (そりゃあ変に期待持たせて、ガッカリするのなんて見たくないかんね) シャルロットはデルフリンガーとの会話を閉じて黙想――しようとする。 (いや・・・・・・考えるのは後にしよう) 今はルイズがいるし、"もう一つ考えておくこと"もある。 すぐに考え込もうとするのは悪い癖であった。過ぎたるは猶及ばざるが如し。 考え続けるのは大事だし、思考を止めるのは駄目だが、"込む"のは良くない。 少なくとも今は、ゆっくりじっくり悩むのを後に回す。 「『爆発』・・・・・・」 始祖の祈祷書の内容では初歩の初歩の初歩らしいが、テファの『忘却』と比べれば攻撃的だ。 必要に応じて必要なものが示されるというのは、まさにこういうことなのか。 ティファニアも絶体絶命の状況だったからこそ、『忘却』に目覚めて危機を脱した。 『爆発』でなかったことは、使い手の気性でも反映でもされているのか。 秘宝が一体どういう情報を、どのように受け取って、どう判断しているのかは謎であるが―― 「そうよ、光が一切合切包み込んでわたしは選んだの。その気になれば全てを消せたけど、風石だけを消すって」 「便利・・・・・・と同時に恐ろしくもある」 「確かに恐いけど、使い方を間違えなければ大丈夫よ」 さらにルイズは詳しく状況を語ってくれた。 ルイズ自身はあまり覚えてないそうだが、ブッチ達が報告した統合情報を伝え聞く。 (・・・・・・んん?) シャルロットはふと気付く。全てを包み込んだという光球を生み出した『爆発』。 そんなものを一体どこから捻り出したというのか。そもそも虚無に"クラス"があるのかと。 系統一つのドット、二つのライン、三つのトライアングル、四つのスクウェア。 それぞれ一度に掛け合わせる系統の数に応じて、メイジのクラスは決定される。 "ランク"が上がるごとに、概ね使える精神力の総量や消費量も変化する。 個人差はあれど、一般的にラインよりはトライアングルの方が魔力も多く、より効率的に魔法を扱える。 「ルイズは今も四系統は使えない?」 「そうね、でもコモン・マジックは何故か完璧に出来るようになったわよ」 そう言うとルイズは唱えてみせる。確かに未だに半端なシャルロットのコモン・マジックとは別物であった。 虚無の覚醒が完全なスイッチだったのか。ルイズは自信に満ち満ちていた。 そしてテファ同様、ルイズも系統魔法に関しては一切使えない。 つまりは虚無と火水風土を掛け合わせるようなことはないということだろうか。 であれば、虚無のみを掛け合わせる・・・・・・ということになるのか。 「ルイズは虚無のドット――ということ?」 「・・・・・・? どうかしら、そもそもラインとかトライアングルがあるのかすらよくわからないわ」 一つの疑念が湧き上がる。どうして今まで調べようとしなかったとも思う。 「ルイズ」 「なあに?」 シャルロットは地下水を抜くと刃の方を持って、柄をルイズへと向けた。 ルイズは疑問符を浮かべながら、差し出されたナイフを反射的に持ってみる。 「どう? 地下水」 「・・・・・・そういうことか。少なくとも今のシャルロットよりは多いな」 ルイズは地下水がいきなり喋ったことに少しだけ驚く。 インテリジェンスアイテム自体は珍しくもないし、フーケの時に話は聞いていた。 そしてシャルロットはやっぱりと、得心したように頷く。 さらに"もう一つの共通点"。 地下水は持ち手のそれを自分に上乗せすることによって、魔法をより強力に使える。だから大まかに測ることも出来る。 続く闘争で大分目減りしていても、私のそれはまだまだ他のメイジの追随を許さぬほど膨大で余裕がある。 ――にも拘わらず、ルイズは今の私よりも多いと地下水は言った。 「どういうこと? 何が多いの?」 「ルイズも私同様、精神力の底が見えないってこと――いえ、私がルイズ同様と言ったほうがいいのかも」 シャルロットは地下水をしまいながら、もうちょっと早く思いついていればと悔やむ。 テファにも触れてもらっていればより確実な共通点になったかも知れないのにと。 「それじゃあ・・・・・・」 「まぁ状況証拠に過ぎないけど――」 「間違いないわ!!」 ルイズの満面の喜色にシャルロットも楽観的に嬉しくなる。 ――『ミョズニトニルン』という使い魔――系統魔法が使えないこと―― ――魔法を使えば失敗し爆発すること――膨大な魔力を蓄える器―― これほど合致していて違っていたらむしろおかしいとさえ思う。 あとは恐らく"必要に迫られる"という条件だけだ。 (必ず習得して見せる) 新たな決意と同時にシャルロットの気がどこかで一本抜けた。 召喚の儀の前までは絶望しかなかった・・・・・・今は揃った前提が違い過ぎる。 「でもこのことは誰にも言わないで。姫様であっても」 「へ? あぁうん、でもどうしてよ?」 ルイズは疑問符を浮かべる。アンリエッタさまにすら言わないで欲しいとはどういう了見なのだろうか。 「実際に使えるようになったら全然構わない。でも変に期待されるのだけは・・・・・・ね」 ルイズはハッと気付く。それは自分も持ち続けてきた悩みだ。 ラ・ヴァリエールの娘として幼き頃から期待をされていた。 なまじ姉二人が優秀だった為になおのことである。 学院に入学してもしばらくは続いた。傍から勝手に期待されて落胆される辛さ。 幻滅されるくらいなら最初から期待されない方がマシであった日々のこと。 双子のジョゼットがいるシャルロットも同じなのだ。 「わかったわ」 ルイズははっきりと約束する。やむを得ない事情でもない限りは言うことはない。 それがたとえ姫さまであったとしてもだ。 そんなルイズの固い瞳にシャルロットは「ありがとう」と小さく告げた。 「それにしても・・・・・・『虚無』、か。図らずも『ゼロ』のルイズの二つ名がピッタリになるなんて」 シャルロットはフフッと笑う。成功率"ゼロ"のルイズが"虚無"のルイズと重なる。 「ぐっ・・・・・・いい思い出はないけど、確かに今となってはむしろ相応しいのかしら」 「誰が最初に言い出したかは知らないけど、ある意味先見の明があった」 二人でクスクスと笑い合う。あれほど馬鹿にされたルイズが伝説に目覚めた。 あまつさえ揶揄の為の二つ名が、まさにお誂え向きなものになるとは痛烈な皮肉だ。 今まで馬鹿にしてきた連中に、丁寧な感謝の言葉でもって言い返してやりたいところであったが―― 虚無は伝説であり、同時に戦術兵器であることがわかった。 ゆえにアンリエッタ達の判断で、公にすることは禁じると厳命された。 とはいえシャルロットやキッドなど、事情を知り秘密を守れる近しい人ならば問題ない。 シャルロットの可能性を考えて、今宵は話すことに決めたのだ。 (私の――) 二つ名は何になるのだろうとシャルロットはふと考える。 自分はルイズと同じような立場であり、成功率も"ゼロ"だった。 しかし周囲を黙らせる程に、魔法以外の修練に励んできた。 意地っ張りで良くも悪くも向こう見ずなルイズと違い、失敗するとわかっていて魔法を使うことはなかった。 地下水の存在もあって、精神力の無駄にもなると、結果が同じことを繰り返すような真似はしなかった。 ただそれだけの違い。だがそれゆえに未だに二つ名がついていない。 ジョゼットが無理やり名付けて、流行らせようと画策したこともあったが当然拒否した。 (いつの間にか浸透しているもの・・・・・・か) 出来るならば――本人を象徴するようなものは勘弁願いたいと思う。 二つ名とはそのメイジたる由縁。『雪風』然り『微熱』然り、その特性によって付けられるのが慣例だ。 術者の名を知らしめるものであると同時に、その性質を聞く者に暗に伝えてしまうことにもなる。 ゆえに用心深いシャルロットにとって手の内を知られるような二つ名は好ましくない。 今の内に適当な魔法を大仰に使って二つ名を――なんてどうでもいいことを考えていると、ルイズが口を開く。 「ねぇ、シャルロットの方の話も詳しく聞かせなさいよ」 「・・・・・・ん。でもどこから話したものか」 「時間はたっぷりあるし、最初からでいいわ」 シャルロットは頷く。――今はこの時間を楽しむことにしよう。 夜も更けに更け、酒も入っている体。 揃って意識が落ちるその瞬間まで、二人は語らい続けたのだった―― 前ページ次ページゼロのドリフターズ
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 五四 「それで、どうなったの?」 ルイズは君のほうに身を乗り出し、話の続きをうながす。 「ちいねえさまは無事だったんでしょうね? それに、ちいねえさまのご病気は治せたの? それとも、だめだったの?」 あせった様子で矢継ぎ早に質問を浴びせてくるルイズに君は、順を追って話すので落ち着くように、と告げる。 ラ・ヴァリエール公爵の屋敷での事件から、まる一日が経つ(技術点、体力点、強運点を最初の値に戻せ)。 馬を飛ばして魔法学院に戻った君は、ルイズの部屋で彼女とふたりきりになり、事の顛末を語り聞かせているのだ。 ルイズは、君と公爵夫人とのあいだでいさかいがあったことを知ると、眉を吊り上げ、 「あんたって人は、どうしてわたしの言いつけを守らないのよ! 母さまには逆らっちゃだめって、さんざん注意したでしょ!?」と怒り、 執事のジェロームの死を知らされると、驚きと悲しみに暮れる。 ルイズが生まれるずっと前からヴァリエール家に仕えていたジェロームは、平民とはいえ、彼女にとって家族同然の存在だったのだ。 君はふたたび、ルイズの実家でなにがあったのかを語りだす。 薬を服まされてからしばらくして、カトレアは眼を覚ました。 しきりに礼を述べる彼女に体の調子はどうだと尋ねると、気分はよくなったが、体内の病魔が去ったようには思えぬという答えが 返ってきたたため、君はがっくりと肩を落とした。 DOCの術をかけられたブリム苺の汁は、風大蛇の毒を消し、消えかかっていた彼女の生命の炎をふたたび燃え上がらせたが、その炎は 常人に較べるとずっと弱々しいままなのだ。 病を治せなかったうえに、厄介ごとに巻き込んでしまってすまない、御者や執事は自分の巻き添えになって死んでしまったのだ、 と詫びる君に、カトレアは 「いいえ、気にしないで。あなたは精一杯がんばってくださったのですから。あなたが責められるいわれはありませんわ」と言って、 優しく微笑んだ。 「でも、ジェロームも、オーギュストも、それにこの子たちも、もう戻ってこないのですね……」 カトレアはそう言うと、足元に横たわる仔犬の亡骸を抱き上げた。 怪物が部屋じゅうに振りまいた毒煙によって、彼女の飼っていた獣や鳥の大半が死んでしまったのだ。 生き残ったのは小熊や大亀など、大柄で頑丈な生き物ばかりだ。 ルイズと同じ鳶色の瞳に涙を湛えたカトレアに、君は慰めの言葉をかけた。 公爵夫人はすべての奉公人たちを玄関ホールに集めると、君の身の潔白が証明された、と居並ぶ一同に告げた。 ジェロームの命を奪ったのは、公爵を狙ってアルビオンから送られてきた刺客であり、曲者は公爵夫人みずからが討ち取った、と。 公爵夫人の説明は事実といささか異なるが、暗殺者がクロムウェルの≪使い魔≫である恐るべき大蛇であり、狙いは君の命だったと 正確なところを告げても、奉公人たちを混乱させ、いらぬ疑念を抱かせるだけだろう。 誤解の解けた君だが、客人として屋敷に長居をするつもりはなかった。 クロムウェルが君を危険視しているということは、『ご主人様』であるルイズも狙われているかもしれない。 窓が割れてずいぶんと風通しのよくなった客間で、君は急いで学院に戻らねばならぬ、と公爵夫人とカトレアに告げた。 公爵夫人は、射抜くような眼差しでしばらく君を見つめていたが、 「あなたに問いただしたいことは山ほどありますが、今はその時ではないようですね。いいでしょう、厩舎にお行きなさい。 いちばんの駿馬(しゅんめ)をお貸ししましょう。ルイズが可愛がっていた馬です。学院に戻り、主人であるルイズを守るのです」と言って、 部屋を出ていった。 あいかわらず冷たくつんけんとした態度だが、今朝のことを思えばずっと柔らかな物腰だと言えるだろう。 多少の信頼は得たと思ってよさそうだ。 カトレアは 「残念ですわ、あなたのお国のことや、学院でルイズがどうしているかをお聞きしたかったのに」と、 名残惜しそうにする。 君が、次に来るときはたっぷり話そうと言うと、彼女は顔を輝かせる。 「ふふっ、楽しみにしていますわ。今度はルイズも一緒にね」 そう言ったあと、表情を引き締め、君を見つめる。 「わたくしの可愛い妹、大切なルイズをどうかよろしくお願いいたしますわ。異国の勇敢なメイジ殿」 武器とマントを取り戻すと(幸いなことに、風大蛇に操られたジェロームは、それらを傷つけたり捨てたりはしなかった)、君は馬に跨り、 急ぎ学院を目指した。 君が借り受けた馬はたしかにすばらしいものであり、一昼夜に及ぶ、ほとんど不眠不休の速駆けにも耐え抜いてみせた。六六へ。 六六 「向こうでは大変だったのね」 君の話を聞き終えたルイズは、ぽつりと呟く。 今の彼女からは、普段の無鉄砲なほどの活力が感じられず、意気消沈のありさまだ。 「こっちは何も危険なことは起きなかったけど、主人の身を案じて大急ぎで学院に戻ってきた、その忠誠心は褒めてあげるわ。 ちいねえさまのご病気が治らなかったこと、それに、ジェロームたちのことは残念だったけど、あんたは務めを果たしてくれたわ。 ごくろうさま。今日はもう、ゆっくり休んでていいわよ」 ルイズはそう言って君をねぎらってくれるが、その表情は見るからに陰鬱なものだ。 彼女は君のかわりに、自分自身を責めているのかもしれない――君をラ・ヴァリエール家に送り出さなければ、執事も御者も死ぬことはなく、 姉が危険にさらされることもなかったのだと。 しかし、どうもそれだけではないように見える。 君の留守中に、何か悲しい出来事が彼女を見舞ったのだろうか? 君はどうする? 場の空気を変えようと、ルイズに話しかけるか(一二七へ)、部屋を出て休息に適した場所を探すか(二二〇へ)、それとも、 学院の誰かに会おうとするか(三二九へ)? 一二七 君はルイズに、自分が留守のあいだ、何か変わったことはなかったかと尋ねる。 物憂げな表情でうつむいていたルイズは、ゆっくりと顔を上げる。 「あんたが馬車に乗って出て行った次の日に、姫さまからの使いが来たわ」 彼女は言う。 「お昼過ぎには、姫さまにお会いできたわ。タルブに送り込まれた≪レコン・キスタ≫の新兵器らしきものが、不思議な光に包まれて 跡形もなく消え去ったって話は、姫様のお耳にも届いていたけど、そこにわたしたちが居たことは、王宮でもほとんど知られていないみたい。 アルビオンの軍艦を追跡していた竜騎兵が何人かあの光を目撃したそうだけど、被害に遭ったのは小さな村だけだから、本格的な 調査も行われなかったのね。 わたしは姫さまに、すべてをお話ししたわ。わたしたちがあの時タルブに居たこと、≪水のルビー≫を指に嵌めて≪始祖の祈祷書≫を 開いたら、古代文字が浮かび上がったこと、そこに記された呪文を唱えたら光がほとばしって、化け物を消し去ったこと、そしてそれが、 どうやら≪虚無≫の魔法であるらしいこと……あ、キュルケやタバサ、それにシエスタが近くに居たことは、伏せておいたわよ。 あの子たちは何も知らないし、ややこしいことに巻き込みたくないからね」 そこまで言って、ルイズは一息つく。 その表情は、あいかわらず陰鬱なままだ。 「姫さまは大変驚かれたけど、すぐに落ち着いてこうおっしゃったの。始祖の力≪虚無≫を受け継ぐ者は、末裔たる王家に現れるという伝説を 聞いたことがある、って。初代ヴァリエール公はトリステイン王の庶子だから、わたしにも少しだけ、王家の血が流れているのよ。 それから姫さまは、わたしの立てた手柄を褒めてくださったわ。あの化け物をあそこで止めなかったら、艦隊が集結しているラ・ロシェールは 大変なことになっていたでしょうからね」 君はぼんやりと考える。 ガリア、アルビオン、それぞれの王家の人間であるタバサやウェールズ皇太子にも、≪虚無≫の素質があるのだろうか、と。 しかし彼らは、≪ゼロ≫と呼ばれたルイズとは似ても似つかぬ、魔法の才能に恵まれた者たちだ(ハルケギニアの王族は一般に、 魔法の素質に優れた者ばかりだという)。 ルイズが普通の≪四大系統≫の魔法を使えぬことが、≪虚無≫を受け継いだ代償だと考えるならば、彼らが≪虚無≫の系統の使い手だとは 考えにくい――ルビーや祈祷書といった秘宝を持たせて試してみぬことには、断定できぬのだが。二一二へ。 二一二 ルイズは話を続ける。 「でも、この事を公(おおやけ)にするわけにはいかない、と姫さまはおっしゃったわ。≪虚無≫はあまりに大きすぎる力であり、 真相を知った者はわたしを利用しようとする、世界じゅうから狙われることになる、と。だから、わたしは姫さまと約束したの。 ≪虚無≫のことは誰にも言わない、たとえ親きょうだい相手であろうと、って」 そう言うと、寂しげな微笑を浮かべる。 結局のところルイズは、やっとの思いで手に入れた力を誇ることもできず、表向きには≪ゼロ≫のままなのだ。 ある者は厳しく、ある者は優しく、それぞれのやり方で彼女を愛してきた家族にさえ本当の事を話せぬというのは、つらい事に違いない。 「それからね、≪始祖の祈祷書≫は姫さまにお返ししたわ」 君は、あまりの驚きに言葉を失う。 ルイズは、タルブで使った術――≪爆発(エクスプロージョン)≫というらしい――の呪文は暗誦できるようだが、それ以外の術は いまだ使いこなせずにいる。 どうやら祈祷書は、持ち主の必要に応じて呪文が現れるという、まわりくどい仕組みになっているらしい。 担い手が簡単に≪虚無≫の術を極め尽くしてしまわぬよう、厳重な予防措置が施されているのだ。 つまり、祈祷書を手放してしまえば、ルイズはもはや新たな≪虚無≫の術を習得できぬことになる。 せっかく手に入れた力を捨ててしまうつもりか、と君が尋ねると、ルイズはそっとうなずく。 「姫さまは、わたしの身を心配してくださったのよ。だから、わたしもそれにお応えしたの。≪虚無≫のことは忘れて、 二度と使わないと誓うことで」 暗い微笑を浮かべたまま、ルイズは言う。 「大いなる力には大いなる責任と危険がともなうっていうけど、わたしにはそれらを受け入れる覚悟がないのよ。 ≪虚無≫としては初歩中の初歩にすぎない≪エクスプロージョン≫で、あれだけのことができるのよ? この先、祈祷書に浮かぶ呪文を 唱えたらどんなことが起こるのか、想像もつかないわ。自分が伝説の系統の使い手だとわかって、とても嬉しかったけど、 それ以上に怖かった。いつか、この力で大勢の人を傷つけてしまうんじゃないかって。絶大な力に酔いしれて、とんでもいないことを しでかすんじゃないかって。貴族といっても、しょせんわたしは世間知らずの小娘、ただの学生にすぎないんだから。 姫さまの心配もごもっともよ」 君はルイズに何か言おうとするが、ふさわしい言葉が見つからず、椅子の上でただ身じろぎするばかりだ。 「だから、わたしは≪虚無≫を捨てることにした。≪始祖の祈祷書≫をお返しして、すべてを忘れることに決めた。 ≪レコン・キスタ≫が倒されてしまえばハルケギニアには平和が戻るんだから、この力を祖国のために役立てる機会もないでしょうね。 もう二度と……二度と≪虚無≫を……使わない。平穏に生きるために、元の≪ゼロのルイズ≫に戻る……これでいい……そう決めたんだから」 語るルイズの声にしゃくり上げる音が混ざり、大きな瞳から涙がこぼれ落ちる。一〇六へ。 一〇六 自分が涙を流していることに気づいたルイズは、きまずそうに顔をそむけ、目頭を拭う。 君が声をかけると、そっぽを向いたまま 「な、なんでもないわよ。そんなことより、あんたも秘密は守りなさいよ。誰かに喋ったりしたら許さないんだからね」と、 ぶっきらぼうに返してくる。 魔法が使えぬために屈辱と無念にまみれた人生を送ってきたルイズは、ついに自身の≪系統≫に目覚めた。 しかし、それが伝説の系統≪虚無≫であったために、彼女はその力を捨てることを選んだ――無用な騒動に巻き込まれぬためには、 そうせざるをえなかったのだ。 その悔しさ、失望、そして喪失感は、いかばかりのものだろう。 君はルイズを多少なりとも元気づけようと、冗談を口にする。 そういえば姫君からの褒美はなかったのかと言うと、ルイズはぱっと振り向き、信じられぬという顔でにらんでくる。 「姫さまは、あんたのことも褒めてくださったわ。主人を守って勇敢に闘ったのでしょうね、って。あのようなお言葉を頂いただけでも、 身に余る光栄なのよ。それに、爵位や勲章を頂いたら、この一件がおおっぴらになっちゃうじゃないの。秘密は守らなきゃいけないって 言ったでしょ」と言う。 君は肩をすくめ、こう言う――なりゆきとはいえ結果的に港町と軍を救ったのに、アルビオンでの手紙騒動の時と同じくただ働きとは、 ひどい話だ、と。 君の言葉を耳にして、ルイズの目つきがみるみる険しくなる。 「あんたねえ、このトリステインの姫殿下をけち呼ばわりするつもり? 姫さまはおっしゃっていたわ。わたしたちに働きに見合うだけの 褒賞を授けたい、それなのに感謝の言葉しか与えられなくて、申し訳なく思っている、って!」 君はにやりと笑うと、口だけならなんとでも言えるし、言葉に金はかからないからな、と返す。 その言葉を聞いて、ルイズは顔を真っ赤にする。 「こ、こ、この使い魔は、どれだけ意地汚いのよ! 貴族に対する敬意が欠けているとは思ってたけど、姫さままで馬鹿にするなんて、 し、信じられない! 許せない! その腐った性根、わたしが叩き直してあげるわ!」 そう叫ぶと箪笥に駆け寄り、抽斗から乗馬用の鞭を取り出す。 鞭を振り回すルイズから逃げ回りながら、君は思う――やはり『ご主人様』はこうでなくては、と。 落ち込んでいるよりも、元気に大声を張り上げているほうが、ずっとルイズらしい。五〇〇へ。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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■ 第一部 その出会い ├ 第一話 使い魔を召喚しに行こう ├ 第二話 蒸発からの脱出 ├ 第三話 水分補給なし!トリステイン魔法学院へ向かえ ├ 第四話 今にも落ちてきそうな人の下で ├ 第五話 ギーシュが来る! ├ 第六話 そいつの名はロングビル ├ 第七話 タバサ-捜索者 ├ 第八話 マリコルヌは恋をする ├ 第九話 秘書ロングビルの秘密 └ 第十話 ルイズの覚悟 ■ 第二部 アルビオン、その誇り高き精神 ├ 第一話(11) 王女のために! ├ 第二話(12) アルビオン、一歩手前! ├ 第三話(13) ウェールズ悲哀の青春 ├ 第四話(14) 鬼気!偏在の男 └ 第五話(15) 恋人の資格 ■ 第三部 未来への祈祷書 ├ 第一話(16) 崩壊への序曲 ├ 第二話(17) 恐ろしき王女 ├ 第三話(18) 眠れる剣(つるぎ) └ 第四話(19) 過去からの復讐人形
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前ページ次ページスナイピング ゼロ 「私が、巫女をするんですか? 始祖の、祈祷書を持って・・・?」 「そうじゃ。これは大変に名誉な事じゃぞ、なにせ一生に一度有るか無いかじゃからな」 学園長室で、ルイズは椅子に座ったオスマンと向かい合っていた。 午前の授業中、コルベールによる『愉快な蛇くん講座』が行われていた時に、急な呼び出しを受けた。 何だろうと思って行ってみると、『姫殿下の結婚式で巫女の役を受けてほしい』と言われてしまった。 しかも『結婚式が始まるまでに、詔を考えておくように』と来たもんだ。ルイズは困ってしまう。 「でも、私が詔を考えるなんて・・・詩とか苦手ですし」 困った顔で、オスマンに向ける。 「そう難しく考える必要は無いぞい、なにせ草案は宮廷の連中が推敲するからの。形だけ出来とれば、後は勝手に 直してくれるだろうて」 「そうですか・・・では、引き受けさせていただきます」 オスマンは大丈夫と言ってるし、姫殿下の頼みだし、やっても良いか。そんな感じで、ルイズはオスマンから国宝である 『始祖の祈祷書』を受け取った。作られてから長い時間が経っているためか、全体的にボロボロだ。破れたりしないよう、 慎重に両手で掴み取る。 「結婚式で友に詔を読み上げてもらえるんじゃ、姫もさぞ喜ぶことじゃろう」 オスマンは両手を広げて立ち上がり、ルイズの決意を労う。だがルイズは始祖の祈祷書を開いたまま、動こうとしない。 ゆっくりと顔を上げ、ページを指差す。 「あの、オスマン校長・・・ちょっと聞きたいんですが」 「なんじゃね?」 「これって、なんで中身が真っ白なんでしょう?」 開いたページには、何も書かれていなかった。パラパラとページをめくってみるが、文字が書かれているページは一枚も 見当たらない。 「それはワシにも分からんのじゃ。持って来た者に聞いても『私には分かりません』と言われての」 「そうですか・・・」 腑に落ちないが、分からないのなら考えても仕方が無い。 「安心しなさい、始祖の祈祷書は持っているだけで良い。何も問題は無いぞい」 「そうですね、では失礼させていただきます」 ルイズは一礼し、部屋を出た。胸に手を当てて、大きく深呼吸する。 「姫様の結婚に出席か、ヴァリエール家の者として失敗は許されないわね!」 拳を握り締め、ルイズは教室へと続く廊下を戻って行った。 教室の入口前に辿り着くと、一旦立ち止まった。始祖の祈祷書を服の中に隠し、扉を開ける。 「ヴァリエールです、いま戻りまし・・・あれ?」 中を見ると、みんな好き勝手に雑談などをしている。教壇にコルベールの姿は無く、黒板には『実習』と書かれている。 自分の席を見ると、セラスとリップが居ない。ギーシュとお喋りをしているモンモランシーに、声をかけてみた。 「ねぇ洪水のモンモランシー、ミスタ・コルベールは?」 『洪水』と言う言葉に、モンモランシーは眉間に皺を寄せる。 「授業をほっぽり出して、何処かに行っちゃったわよ」 「どこに行ったの?」 「それはボクが説明するよ」 ギーシュが会話に割って入る。 「君が教室を抜けた後に、ミス・セラスが『私が住む世界では、すでに『愉快な蛇くん』は実用化されてます』と先生に 言ったんだよ。そしたら先生がミス・セラスを連れて、出て行ってしまったのさ。もう一人の使い魔さんも一緒にね」 そう言うと、ギーシュは薔薇に模した杖を口に挟む。急な事態に、ルイズは困惑する。 「すぐには帰って来そうに無いわね・・・」 「ま、授業が潰れてくれたから有難いけどね」 微笑を浮かべながら、モンモランシーは言った。ルイズは自分の席に座り、昼食の時間を待つ事にした。 さて、その頃セラスとリップは何処に行ったかと言うと・・・ 「えっとですね、私は技術者とかじゃ無いんで、詳しい事は分からないんですよ」 「同じく、私も知らないわ」 本塔と火の塔の間にあるボロい掘っ立て小屋の中で、二人はコルベールに事情を説明していた。教室でのセラスの言葉を 聞いたコルベールは、二人が『エンジン』に詳しいと勘違いした。だが実際には二人とも知らず、目論見は外れてしまった。 コルベールは肩を落とし、椅子に座る。 「そうでしたか・・・すいません、つい興奮してしまって」 「いいんですよ、私が誤解されるような事を言ったのが原因ですし・・・」 コルベールのハゲ頭に噴き出すのを堪えながら、セラスはハゲました。リップはニヤニヤと、口元を歪めていた。 正午を過ぎても、コルベールは教室に戻って来なかった。セラスとリップも、まだ戻らない。仕方が無いので、ルイズは 食堂に向かった。昼食と食後のデザートを食べ、アウストリの広場に向かった。ベンチに座り、始祖の祈祷書を開く。 周りで他の生徒が遊んでいる姿を横目で見ながら、白紙のページを眺めた。 (姫様の結婚式なんだから、完璧な詔を読み上げなきゃね・・・) 傍から見ると、明らかに肩に力が入り過ぎていた。リラックスしていれば絵画のように見える姿が、今は台無しである。 初夏の日差しを浴びながら詔を考えていると、いきなり両手で視界を塞がれた。 「だ~れだ!」 後ろからバカにしたような声が響く、こんな事をするのは学園で一人のみ。相手が誰か分からないほど、ルイズの目は 節穴では無い。 「何か用なの、乳お化け」 「あら、分かっちゃった?」 予想通り、正体はキュルケだった。嬉しそうに笑いながら、隣に座る。 「ねえ、それ何?」 「始祖の祈祷書よ」 「始祖の祈祷書って、確か国宝でしょ。なんでそんな物を、貴女は持ってるの?」 「さっき私、授業中に呼び出しを受けたでしょ。あれ、オスマン校長からだったの。それで行ってみたら、姫殿下の 結婚式で巫女の役をするよう言われちゃってね・・・それで、この本を授かったって訳」 「ふ~ん、大役を任されちゃったわね。因みに聞くけど、ちゃんと巫女を出来るの?」 ルイズは言葉が詰まった、出来ると断言は出来ないが、プライドの所為で見栄を張ってしまう。 「姫様からの願いだもん、やってみせるわ・・・多分」 ハッキリしない言い方に、キュルケは小さく笑った。 「引き受けた以上、失敗は許されないわよ。もしミスったりなんかしたら、独房に入れられちゃうかもね」 「バ、バカなこと言わないでよ! ヴァリエール家の名に賭けて、必ずや巫女を演じてみせるわ!」 立ち上がり、ガッツポーズを決める。固く握り締めた拳が太陽に重なり、光り輝いていた。 「なるほど、つまりルイズは詔を考えるのに忙しくて、外出する暇は無いって訳ねぇ・・・」 そう言うと、キュルケは胸の谷間から羊皮紙の束を摘み出した。ルイズが見ているなか、それをベンチに並べる。 「なに、これ?」 「宝の地図よ」 「宝?」 確かに、それは宝の地図だった。道や山、家などの絵柄が描かれている。中には、宝の在処を示す×印も示されている。 「なによ貴女、これから宝探しにでも行くつもり!?」 「えぇ、そうよ」 あっけらかんとしたキュルケの返事に、ルイズは言葉を失う。 「王女様が結婚式を披露してる間、学園は休みになるのよ。生徒や平民の中には、故郷に戻る人もいるみたいね。 因みに私は親と顔を合わすのが嫌だから、宝探しで暇潰しって訳」 キュルケは楽しげに語る。地図を見つめるルイズは、怪訝な表情を浮かべている。 「これって本物なの? 見るからに怪しげなんだけど・・・」 「そりゃあ魔法屋、情報屋、雑貨屋、露天商、およそ怪しげな店を訪ね歩いて掻き集めたんだから当然よ」 「止めといた方が良いよ、どうせ偽物だ。適当に『宝の地図』を作って売り歩く商人を何度となく見てきたからね、 破産した貴族の二の舞になるよ」 二人が振り向くと、何時の間にかギーシュが一枚の地図を持って立っていた。 「あら、いたのギーシュ。どう、貴方も宝探しに行かない? 因みにタバサも一緒だけど」 「ふん、宝なんか見つかりっこないよ」 ギーシュは吐き捨てるように言った。だが、キュルケは気にした素振りを見せない。 「そりゃ見つかる可能性は低いけれど、見つからない可能性も低くは無いわ。もし宝が見つかったら、姫様にプレゼント したらどう? きっと貴方を見直すはずよ」 「よし、その話のった!」 即座に意見を翻したギーシュに、キュルケは心の中で舌を出す。そしてルイズに顔を向けた。 「あと、ルイズの使い魔さんも連れて行きたんだけど。良いかしら?」 「私に言われたって困るわ、本人に聞いてみないと・・」 「今どこにいるの?」 「さぁ・・・」 ◇ 「ええか、ええか、ええのんか~♪」 「リップさん、こんな朝っぱらから・・・んぁ、あん」 コルベールが退室した研究室の中で、今日も元気に百合の花が咲き乱れていた。 ◇ 「私は、その案には反対です」 アルビオンの首都、ロンディニウム郊外。空軍の工廠ロサイスに停泊しているアルビオン空軍本国艦隊旗艦 『レキシントン号』の下で、一人の男が呟いた。両の手を強く握りしめ、顔は青ざめている。 その男の前に立つのは、アルビオンの皇帝であるオリヴァー・クロムウェル。右隣には秘書のシェフィールド、 左隣にはワルドが立っている。何時もの羽帽子にマントでは無く、右目に眼帯を付け、額にはバンダナを巻いている。 「アルビオンの長い歴史の中で、他国との条約を利用して戦争を起こした例は存在しません。皇帝、貴方は祖国を 裏切るつもりなのですか!」 『レキシントン号』の艤装主任であるサー・ヘンリ・ボーウッドは、脇目も振らず想いをブチまけた。それほどまでに、 クロムウェルが計画した『親善外交の陰謀』は常軌を逸していた。 「口を閉じたまえ、ミスタ・ボーウッド。これは議会と皇帝である私によって決定したのだ、変更する事は出来ない。 それに君は軍人であり、政治家が決めた事に従う義務がある。それとも何かね、君は文民統制を破る気かな?」 指揮系統の最高位に存在するクロムウェルにそう言われ、ボーウッドは肩を落とした。 祖国の忠実なる番犬が飼い主に牙を向ける事は、決して許されない。 「アルビオンは、卑劣な条約破りの国として認知される事になります・・・それでも良いのですか?」 クロムウェルは微笑みながら答える。 「君が気にする事では無い、軍人はただ黙って命令を遂行するのみだよミスタ・ボーウッド。それに考えてみたまえ、 エルフ達との戦いに勝利し、聖地を奪い返した時・・・些細な外交の問題など、誰も覚えてなどいないよ」 ボーウッドは顔を上げると、クロムウェルにつめよった。 「条約を破り捨てるのが些細な問題ですと、貴方は何を考え・・・うぐッ!?」 突然、背後から首を絞められる。振り向くと、そこにはワルドの姿があった。左腕で首を巻き、右手には サプレッサーが装着されたベレッタM9が握られていた。ボーウッドの頭の上に『!』が現れる。 「う、撃たないでくれ・・・ぐわ!」 バシュッと言う音と共に、ボーウッドは倒れた。だが、撃たれた箇所からの出血は見られない。 「安心しろ、麻酔弾だ」 ワルドはボーウッドを抱きかかえ、近くに置かれているロッカーに放り込んだ。アイドルのポスターが貼られていたが、 気にせず扉を閉める。スライドを引いて、銃に次弾を装填する。ホルスターに戻し、葉巻を銜えた。 「流石は『不可能を可能にする男』だねワルド君、良いセンスだ。いや、ここは『英雄』と言うべきかな?」 拍手をしながら、クロムウェルはワルドに話しかける。 「私は英雄などではありません、ただの傭兵です・・・」 ライターを着火させ、葉巻に火を付ける。 「子爵、君を竜騎兵隊の隊長に任命する。先頭に立って、レキシントン号に乗りたまえ」 「了解だ大佐、任務を続行する」 『大佐』と言う言葉に、クロムウェルは首を傾げる。 「うん、まぁ細かい事は任せるよ。因みにボーウッド君は気にしなくて良い、頑固で融通は効かないが信用は 出来るからね・・・所でワルド君、ちょっと聞きたいんだが」 「なんでしょうか?」 クロムウェルは、ワルドの腰を指差した。そこには細長い布袋がベルトに引っ掛けられている。 バンダナの下の、ワルドの左目が光った。袋の口を開け、中身を取り出す。クロムウェルと横にいるシェフィールドは、 思わず後ずさった。 「あ、貴方・・・なんでそんな物を持ってるの!?」 シェフィールドの悲鳴にも似た問いに対し、ワルドは楽しげな顔で答える。 「これはワニキャップと言う物で、見ての通りワニの形をした帽子だ。水中で装備すると、敵兵などに見つかっても 怪しまれない特性が有る。単なるマヌケアイテムなどと、侮られては困るね」 喋りながらワニの帽子を被るワルドに、二人は揃って引いている。勿論、心情的にだ。クロムウェルはハンカチを 取り出し、額を流れる脂汗を拭いた。 「な、なるほど。確かに、良いアイディアだね・・・マネはしたくないが」 「使い方次第では、有効な武器になるわね・・・マネしたくないけど」 皇帝と秘書がジリジリと、その場から離れていく・・・その時、『ピルルッピルルッ』と言う独特の音が流れだした。 ちょっと失礼、と二人に言い残し、ワルドは左手を耳に当てる。 『私だよ、フーケさ。いきなりで悪いけど、ちょいと体を見てくれない?』 『体?』 目線を下に向けた、足と足の間を。 『今日も元気だな』 『そこじゃ無いよ、バカ!』 フーケの大声に、ワルドは鼓膜の心配をする。 『じゃあ、どこを見れば良いんだ?』 『脚だよ、脚』 視線を脚に移すが、特に変化は無い。 『言い忘れてたけど、アルビオンと違って大陸側にはヒルがいるんだ。知ってた?』 『昼?』 『昼じゃなくてヒル、血を吸う生物のことさ。もし沼や川に入る時が有ったら、虫ジュースを使いな。噛まれた時は、 葉巻をヒルに押し付けるんだよ』 テキパキと対処法が伝えられる。 『うん、まぁ注意する事にしよう』 『そうしておくれよ・・・あぁそうだ、もう一つ聞きたいんだけど』 『なんだ?』 『貴方、タバコ吸ってないかい?』 『煙草は吸ってない、葉巻は吸ってるが・・・それがどうかしたか?』 無線機の向こうで、フーケが溜息を漏らす声が聞こえた。 『煙草は体に悪いって事くらい、貴方も知ってるでしょ。悪い事は言わないから、今の内に禁煙しな』 『官能的とすら言える濃厚な香り、この誘惑からオサラバするのは、辛いものがあるんだが・・・』 『肺ガンになって、この世からオサラバしたいのかい?』 声のトーンを一段下げたフーケの声に、ワルドはビビる。 『分かったよ、これから先はヒルに吸わせる事にしよう』 『そうしな、じゃあ切るよ』 スイッチを切り、無線機を戻す。ポケットからオロシャヒカリダケを取り出し、口に放り込んだ。即座に、バッテリー が回復する。 「失礼しました皇帝、相棒の話が長いもので」 「別に謝る事は無いよ、女の話は長いと言うしね、ハハハ・・・」 適当に返事をしながら、クロムウェルは秘書に流し目を送る。シェフィールドは居住まいを正すと、少し大きな声で ワルドに状況を伝える。 「では子爵には、このままレキシントン号に乗り込んでいただきます。のちほど風竜を連れてきますので、それまで待機を」 「分かりました、では行ってまいります」 雨除けのために巨大な布で覆われた戦艦に、フライの呪文で乗り込んで行く。姿が見えなくなると、皇帝と秘書は 赤レンガで出来た空軍発令所に向かった。ロッカーから鼾を響かせるボーウッドを、その場に残して・・・。 前ページ次ページスナイピング ゼロ
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (46)破滅的な過ち ルイズと教皇が去った後も、依然として場の空気はイザベラとアンリエッタによってその温度を高め続けていた。 話題は政治経済趣味嗜好、ありとあらゆるものに及び、そのことごとくで二人は反発し合う。 そして今―― ついに片方が、その臨界を迎えた。 「おおっと! 手が滑ったぁ!」 ぱしゃっ、という音。 イザベラが目の前にあった、ルイズが飲んでいたグラスを掴み取り、中に入っていた水を、アンリエッタの顔に浴びせかけた音である。 それはアンリエッタが「あなたの服のセンスはちょっと理解できません。青髪に青いドレスは無いと思いますわ」と言った直後のことであった。 一方、水をかけられた側は無言。 顔面に水をお見舞いして満足したのか、ニタニタと笑っているイザベラに対して、アンリエッタは表情も変えていない。 否、変わっていないのではない、それは人形もかくやという無表情。 刹那、迅雷の如き速度でアンリエッタの手が動いた。 「あっと、私も手が滑りましたわ」 抜き打ちのごとく迸った手に握られていたのは、トリステインの王権の象徴。 彼女の魔力の発動体である杖の先から、浴びせかけられた量をはるかに上回る水が吹き出して、イザベラの顔面に直撃した。 水の勢いが収まると、そこには濡れ鼠のようになったイザベラがいた。 「じ……」 誰かが制止するより早く――最も、この場に彼女を止めようとするものもいなかったのだが――イザベラが席を立ち上がった。 「上等だあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 戦いが、始まった。 月光と魔法の明かりに照らし出された、ガリアが誇る花壇庭園は、言葉が無い程に美しかった。 白、赤、紫、色とりどりの花々、月と星とを反射してきらめき揺らめいている池の水、そしてその間を一直線に伸びる、白灰色の石畳。 昔読んだおとぎ話の中に誤って迷い込んでしまったような、そんな不思議な感覚。 自然と人の調和。そこに広がっているのは一つの美の完成形。 幻想的とはこのような光景を言うのだろうと、ルイズはひとりごちた。 「流石はヴェルサルテイル宮殿。これほどの庭園、ハルケギニア中を探しても他にないでしょう」 ルイズの傍らに立つ青年がそう言った。 心ここに非ずという様子でルイズも彼の言葉に無言で頷く。 全く同感であった。 「例え誰かに見つかって、後で叱られることになるとしても、この光景が見られたのならそれで十分でしょう。そうは思いませんか?」 ぼうっとその光景を見入っていたルイズは、その言葉ではっと我に返った。 そう、ここは先ほどまでとは違う。秘密でも何でもない場所なのである。 もしもこのような場所にいることが誰かに見咎められでもしたら、言い訳のしようもない。 あるいは今自分が着ているメイド服から、教皇聖下に頼まれて庭の案内をしているメイドという方便も思いついたが、 トリステインのメイドが、ガリアの宮殿でロマリアの教皇を案内しているというのは、いくらなんでも無理がありすぎるとすぐに気づいた。 「美しいと、そう思いませんか。ミス・ヴァリエール」 「あ、え、っ、はい、そう思います!」 二度目の問いかけ。 考えに没頭して最初の問いかけを無視する形になってしまったことに気がついて、ルイズは顔を林檎のように真っ赤にした。 しかし、教皇はルイズの方を見るでもなく、じっと庭園を見つめながら続けた。 「この庭園は美しい。ここは、この世界の美を集めたような場所です。 この場所には生まれたばかりの風があり、清らかな水があり、生命力に溢れた土があります。きっと、秋が深まれば秋の顔を、冬になれば冬の顔を、春になれば春の顔を、我々に見せてくれるに違いありません。 けれど、それはただそこにあるから美しい訳ではありません。この場にある全てのものは、それぞれ懸命に生きているのです。 だからこそ、生きているからこそ、美しい。生きているということは、ただそれだけで、人を惹きつけてやまないのです」 何かを想い、どこか遠い目をして、語る青年。 いつからか、彼の口から出るものが、普段使いの柔らかなものから、真剣なそれへと変わっていることに、ルイズは気がついていた。 「ミス・ヴァリエール。私はこの世界を、このハルケギニアを、愛しています。ハルケギニアに生きる自然を、人を、生命を、愛しています。だから、私にはこの世界が土足で踏みにじられていく様を、黙ってみているようなことはできません。 ましてや、私に力があるのなら。世界を変える可能性が授けられているのなら、なおさらに」 ザッという音。 風が、吹いた。 夏も終わろうかという頃合い。 秋を予感させる、冷たい空気を乗せた風が、強くルイズ達に吹きつけた。 思わず目を瞑って、顔を押さえようとしたルイズの手を、暖かい誰かの手が取った。 同時、その誰かがルイズの前に立って、風を遮った。 それが誰かなど、一人しかない。 「ミス・ヴァリエール。この無力なわたくしに力をお貸しください」 ルイズは、最初何を言われたのか分からなかった。 『――聖下に、教会の代表者に、 何?』 思考がまとまらない。 だが、時は止まることなく流れる水のように、ルイズの理解を待ってはくれなかった。 「あなたが持つ、始祖の祈祷書を、この私にお貸し下さい」 瞬間、 夢が 醒める。 「……聖下、何をおっしゃっているのか、私には分かりません」 「隠さずとも良いのです。あなたが肌身離さず始祖の祈祷書を持っているのを私は知っています」 その通り。 確かにルイズは始祖の祈祷書を持っている。今も彼女が手にしている鞄の中にそれはある。 だが、だからといって…… 「もしも私がそれを持っていたとしても、それをお貸ししなくてはいけない理由はありません。 始祖の祈祷書はトリステイン王家に伝わる大切な宝物。例え聖下であろうとも、それをみだりにお渡しする訳には参りません」 「もっともです。ですが、私がそれを欲する理由を聞けば、あなたも考えが変わるでしょう」 「理由?」 理由、思いもよらなかった。 そう、欲する以上理由があるはずである。 始祖の祈祷書は、ルイズに何を与えたか、そしてそれ以外の人間に対してはどうであったか。 そこまで思いつけば、あとは勝手に仮説に結びつく。 「まさか……」 「ええ、そのまさかです」 そして、青年は池に向かって膝をつくと、祈るようにして、低く呪文を呟き始めた。 その呪文は知らない。しかし、その調べには覚えがある。 ユル・イル・クォーケン・シル・マリ……。 長く詠唱が続く。 どれだけの時間が過ぎたであろうか。 ルイズには長く感じられたが、それでも時間にして五分ほどであろう。 呪文が完成し、教皇は杖を池へ向けて振り下ろした。 ルイズが見ている前で、月を映し出していた池の表面に波紋が広がっていく。 一瞬、それが光ったかと思うと、次の瞬間、そこには天空にある月ではない、他の何かが映し出されていた。 映し出されたのは見知らぬどこか、ルイズの知らぬ土地が映し出されている。 見えたのは高い、高い……それこそ天まで届いているような、銀の塔。 しかもそれがいくつもいくつも、地上から空を追うように突き出していた。 再び波紋。 それまで映っていたものが途端にかき消えて、元の月の姿だけが、後に残った。 「今のは……」 「分かって貰えましたか? 私もあなたと同じ、虚無の担い手であるということが」 認めない訳には、いかなかった。 風系統の遠見によく似た呪文。しかし、ルイズは今の呪文に、一つの心当たりがあった。 それは始祖の祈祷書の中で見た、一つの呪文。 それに、先ほどの呪文が決して系統呪文などではないことを、ルイズは詠唱の旋律で確信していた。 流石にこの段に至り、ルイズもとぼけることを観念した。 「……分かりました。確かに今の呪文は虚無の系統、聖下は虚無の担い手で、そして私も虚無の担い手であることを認めます」 それに、同じ虚無の担い手を相手にこれ以上、秘密に固執する必要性を感じなかった。 「けれど聖下。既に虚無の呪文を使われる聖下が、何故今更始祖の祈祷書を欲するのですか?」 当然の疑問であり、当たり前の帰結。 ルイズには彼が虚無の魔法の使い手だと分かっても、彼が虚無の魔法の記された祈祷書を欲する訳が分からなかった。 「〝秘宝〟は、〝四の担い手〟を選びません。我らはそういう意味では兄弟なのです」 「つまり、ええと……聖下は始祖の祈祷書を使って、新しい虚無の魔法を習得しようというのですか?」 「その通りです」 彼の回答に、ルイズにはどうにもしっくりこないものを感じた。 「あの……お言葉ですが、聖下も虚無の魔法が使えるのなら、どこかでこの本と同じものをご覧になったのでしょうが……それをまた見れば良いのではないでしょうか?」 その問いかけに、教皇は首を振った。 「いいえ。まずあなたの知識をいくつか訂正しなくてはなりませんね。我々に力を与える始祖の〝秘宝〟は、何も本だけではありません。オルゴールであったり、香炉であったりとその形は様々です。 次に、あなたの指に二つ嵌っているルビーですが、それは鍵となります。〝秘宝〟〝ルビー〟は揃って初めて我々に道を指し示すのです。 わたくしの……ロマリアの〝秘宝〟と〝ルビー〟は、以前に背教者の手で持ち去られ、それ以来行方不明になっておりました。その後、数奇な運命を経て、火のルビーがわたくしの手に戻りましたが、未だ〝秘宝〟は行方知れずのままなのです」 「つまり……聖下が新しい呪文を身につけるためには、この祈祷書が必要だとおっしゃるのですね」 ルイズは内心の動揺を抑えながら、その言葉を紡ぎ出した。 自分の手元にある風・水のルビー、ワルドの手元にある土のルビー。 行方不明だった最後の火のルビー。 どこにあるとも知られなかったそれが教皇の手にあるなど、ルイズは思いもしなかった。 「その通りです。あなたの助けになるために……わたくしは新たな力を手に入れなくてはなりません」 教皇はそう言うと、左手でルイズの方を柔らかく掴んだ。 「ミス・ヴァリエール……いいえ、ミス・ルイズ。あなたが背負う重荷を、このわたくしにも背負わせて下さい。世界のために、あなたのために」 そして彼は肩に置いた手を滑らせて、その頬を撫でた。 思わぬ動作にびくんと驚きを示すルイズをよそに、教皇はその美しい顔を、触れあうほどにルイズの顔に近づけた。 「せ、聖下、何を……」 「ミス・ルイズ。わたくしの目を見て下さい。わたくしの目をのぞき込んで、その奥底を見て、判断して下さい。あなたにとってわたくしが信用に足る人物であるかを」 突然の行動にルイズは頬を染める。 それでも、教皇は真剣なまなざしでルイズを見ていた。 「わっ、わかりました! 聖下を信用いたしますっ! だから、どうか、もう少しお離れ下さい……」 尻つぼみになりながらそのように言うことしか、ルイズにはできなかった。 あるいは、この時にルイズが教皇を拒絶し、押しのけていたならまた違った未来があったかもしれなかった。 だが、これまで陰謀という陰謀から遠ざけられてきたルイズが、教皇ヴィットーリオからその真意をかぎ取ることができなかったことを、誰にも責められようはずも無い。 そういう意味では、過保護に育てたルイズの父ミシェルの、表から裏から庇護していたウルザの、ワルドの、その行為が裏目に出た瞬間だった。 ルイズが逃げるようにその場を立ち去ってから、教皇は庭園の一角に据えてあったベンチに腰掛けて、自分の杖に灯した弱々しい灯りを、始祖の祈祷書を読みふけっていた。 みすぼらしい丁重の一冊の古書。ぼろぼろになった冊子をただ閉じているだけの本。 その中身が始祖ブリミル本人によって書かれたものであることを、教皇は感動と共に実感していた。 虚無の魔法は、使用者にあわせて呪文が開陳される。 彼がページをめくると、いくつかのページが輝きそこの文字が現れた。 それこそが、今の彼に与えられるべき呪文。 そうして三〇分ほども読みふけった頃だろうか。 彼は目的の呪文が書かれたページを見つけた。 「あった……」 彼が指をとめたページ。 そこには中級の中の上のページに書かれていた、一つの呪文があった。 教皇は立ち上がり、呪文を唱え始めた。 静かな庭園に、朗々とした詠唱が響く。 ユル・イル・ナウシズ・ゲーボ・シル・マリ…… それが、何を意味するとも知らず。 ハガス・エオルー・ペオース……。 教皇は、ただ美しく、調べを奏で続ける。 そして、世界は―― 場を辞したルイズであったが、すぐ戻る気にもなれず、不用心なことは分かっていたが少しの時間ならとぶらぶらと中庭を散策した後、部屋へと戻ることにした。 そうして戻ってみると部屋は、 戦場と化していた。 「このっ! このっ! このっ!」 「きゅいきゅい! 楽しいのねっ!」 「くそっ、枕だ! くそっ! シャルロット、新しい枕を寄こせぇっ!」 扉の前で呆然と立ち尽くすルイズ。 その前で繰り広げられる光景は、 1.両手で白い枕を掴んで、イザベラにバシバシと叩き付けているアンリエッタ。 2.両手に一つづつ枕を掴んで、アンリエッタと一緒に枕で嬉しそうにイザベラを叩いている、青髪の娘。 3.ベッドまで追い詰められて、文字通り二人から袋叩きにあっているイザベラ。 ルイズは軽い立ちくらみを感じて、手近にあったテーブルに手をついた。 元々部屋の中心付近にあったそのテーブルには、避難してきたらしいキュルケとタバサが席に着いていた。 足下には無数の枕が落ちている。 「一体、何がどうなってるのよ……?」 「あらルイズ、ハンサムさんとの逢瀬はもう良いの?」 「逢瀬って……そんなことより、一体どうしてこんなことになっているのよっ! 部屋も滅茶苦茶じゃないっ!」 ルイズはちらりとアンリエッタ達をみやった。 アンリエッタは近くに落ちている枕を掴もうともがいているイザベラを、執拗にぼすぼすと叩いていた。 アレには見覚えがある。確かよく小さい頃にやられたような…… 「問題無い」 横合いから、ぽつりと声。 ルイズがそちらを見ると、タバサが本に目を落としたまま、足下に転がっていた枕の一つをむんずと掴んで、三人がいる方に投げつけようとしているところだった。 そのまま砲弾のような勢いで投げつけられる枕。 直後にイザベラらしき声で『ほぎゃっ!』と聞こえたが、タバサは気にしてもいないのか、ただページをめくるだけ。 「ちょっとタバサっ! あんたも止めなくて良いの!? ここはあなたの部屋なんでしょう? それに、あなたこんなところで本なんて読んでいたら……」 ルイズの頭を、意地悪な女王に脅されて、弱みを握られて仕方なく従っているタバサという構図がちらりと横切った。 と、そこで更に横やり。 「あー、それなら大丈夫みたいよ。この子、なんだかんだ、好きで付き合ってるみたいだから、あの女王サマとね」 まるでルイズの考えを読んだように、キュルケが言った。 「そうなの? でも、あの女王はあなたの父上と、母上の……」 「……仲直りした」 「仲直り? でも……」 「その子、それ以上は答えないわよ。自分達にわだかまりは無い、その一点張り。そもそも、私はタバサがガリアの王族だったなんてつい最近知ったんだけど、一体どんな事情でトリステインに居たわけ? あんたはその辺の事情知ってるみたいだけど?」 「それは……」 横目でタバサの顔を伺うルイズ。彼女は別に頓着しないという様子で、視線を降ろしたままだった。 「つまりね……」 ルイズが掻い摘んでタバサの事情を話し始めると、キュルケも興味を引かれたのか身を乗り出した。 そうして、ペルスランから聞いた話をざっと語り終えた頃になると、キュルケは難しそうに額に皺を刻んでいた。 「なるほど、そういう事情だったのね……。そういうことだと、確かに仲直りしたと聞いても、にわかには信じがたいわね」 と、そこで 「色々あった」 再び枕を砲弾のように打ち出しながら、タバサが言った。 その声を聞いて、キュルケはじっとタバサを見た。 そしてそれから大げさに溜息をつくと、優しい声色でルイズに言った。 「まあ、この子がこう言うのなら、本当に色々あったんでしょうよ。ある意味ではあたしや、勿論あんたなんかよりもしっかりした子だから、心配はいらないと思うわ」 「そう……かしら?」 「そうよ。それじゃっ」 言葉の最中で、席を立つキュルケ。 そんなキュルケの突然の動作に驚いて、ルイズは顔を上げて彼女を見た。 キュルケはルイズを見下ろして、にやりと笑って先を続けた。 「私も参加してこようかしらね」 「ちょ、ちょっとキュルケ! 参加って、アレに? 正気?」 「ええ、正気よ。だってほら……、わりと面白そうじゃない」 言われて、ルイズもそちらの方を見やる。 確かに、そこで枕を振り回す三者はそれぞれに、どこか楽しそうに見えた。 ルイズに背中を見せて、枕を片手に歩いていくキュルケ。 「……うん。それじゃ、私も」 言って、足下の枕を掴んでその後に続こうとルイズが立ち上がったその時、 ――――――世界がひるんだ。 同時刻。 トリステインの片田舎、昼間でも薄暗い森の中。 近くにある人里はタルブという名の小さな村だけで、後は森と平原と山があるだけの、そんな僻地。 そこにフードを目深に被った女がいた。 「本当に大丈夫なの? それにこんな大金……」 彼女の前に立っていた、帽子を被ったブロンド女性が言った。 「大丈夫さ。今回の仕事はバックが大物で、その分実入りも大きい、ただそれだけのことさ」 「でも……」 「そんなに心配しなくたって、上手くやるよ。お前は何も心配しなくて良いんだ」 そう言って、女はフードを降ろして、ブロンドの少女を抱きしめた。 「大丈夫……大丈夫だよ……」 優しげに呟いて少女の頭を撫でたのは、女盗賊フーケであった。 「本当に? 本当に大丈夫なのね?」 「ああそうさ。危ないことなんて何一つ無いよ」 「そう……分かったわ」 フーケの言葉を信じて、安心したように少女は呟いて、その体を彼女から話した。 「あのね。マチルダ姉さんの為に、クッキーを焼いたの、今持ってくるからちょっと待ってて」 そう言って少女はその身を翻し、仮の住み処と定めた、うち捨てられた森の『元廃屋』へと走っていった。 フーケが息をつき、近くの木の幹へと背中を預けて暫く待っていると、少女が小走りに戻ってきた。 「お待たせっ!」 軽く息をはずませた少女が手を差し出すと、その上にはハンカチの包みが一つ。 「ああ、ありがとう。悪いね、ありがたく受け取るよ」 フーケがそれを受け取ろうと、 瞬間 駆け抜ける 突然の、衝撃。 ズクンと、腹に響くよう何かが、フーケの体を襲った。 「なっ……、なんだい、これは……」 正体不明の感覚に、さしものフーケも戦慄を隠せない。 そして、彼女の目の前で、少女の手から、包みがこぼれ落ちた。 「? どうし……っ!?」 フーケの前で、少女は頭を抱えて小刻みに震えていた。 両手で頭をつかんで、何かに怯えるように、必死の形相で。 その震えが、次第に、大きく、迫る何かをに、恐怖するように。、 「いや、……いや、いや、いやいやいやいやいやいやいやああああああああああああああ!!」 そして、 ――――――世界がおののいた。 同時刻 ゲルマニア、ウィンドボナ上空。 浮遊大陸アルビオン、その中枢部。 「それでは閣下、ご武運を」 玉座に深く腰を下ろしたワルドに深々と礼をして、男はその場を辞した。 対するワルドは頬杖を突いて片目をつぶり、一見して思考に没頭しているようであった。 そんな彼に語りかける、虚空からの声一つ。 「本当にあのような男に任せるというのか?」 続いて暗黒の空間に、一人の人間が染み出すようにして現れた。 頑健な肉体、特徴的な眼帯、巌のような顔つき。 歴戦の傭兵、メンヌヴィルである。 「あのような男に総大将がつとまるとは思えん」 ドンと鈍重そうなメイス型の杖を床に降ろす。 「竜殿もそうは思わぬか?」 竜――ここにいない者への問いかけ。 しかし、どこからかそれに対して返事があった。 「興味がわかぬ。我にとってはどうでも良いことだ。」 姿はない。知性と獰猛性を秘めた声だけが、ただ響くのみ。 それを聞いたワルドは、開けていた片目を一度閉じ、それから両目を開いて体を起こした。 「竜殿の言うとおりだ、メンヌヴィル。既に人間同士の殺し合いなど、今となっては必要であるだけで、さして重要ではない。私のやるべきことは、最大の邪魔者であるあの老人を排除すること。 その為には、煩わしい手間は極力省きたいというのが本音だ。そう言う意味では、アレは大いに役に立ってくれる」 「……ふん。お前の頭の中はいつもあの娘とあの老人のことで一杯なのだったな」 「そういう君の頭の中は、火と破壊だけしかつまっていないではないか」 「はっ。違いない」 メンヌヴィルが頬をつり上げて笑った。 「!」 それまで特に気を払っていた様子もなかったワルドの顔が、突然悪鬼のような形相に変わった。 そしてやおら立ち上がると、獰猛な犬が獲物の匂いを探るようにして周囲をぐるりぐるりと見回しはじめた。 「む……」 片腕であるメンヌヴィルでさえ彼の狂態に戦いていることも気にとめず、ワルドはある一つの方角を見つめると、地の底から立ち上る悪霊の呻きのような一声を漏らした。 「馬鹿めっ」 そして、 ――――――世界がたじろいだ。 同時刻 ロマリアの東方、数百リーグの位置。 暗闇の中で、ウルザは三人の人影といた。 「つまり、あなたは我々に協力を求めるというのですか?」 金管楽器の音色を思わせる、透き通った女性の声。体をすっぽりと覆う貫頭衣を纏った女性が言った。 「そうだ」 「自らが悪魔と同じ存在であると分かっていながら、我々におこがましくも協力を求めるとは。ますます度し難い」 しゃがれた老人の声。 同じく貫頭衣であるが、腰を折って手で杖を突いている老人が言った。 「それは感情的な問題だ。現実の問題を前に正しい姿勢とは言い難い」 「あなたは我々エルフ以上に合理的なものの考えをしているようだね、ウルザ」 落ち着いた調子の、聡明そうな青年の声。 前の二人とは違って、三人目の青年はその素顔をさらけ出していた。 金髪をした美しい顔立ちの青年。だが最大の特徴はそんなところにはない、特筆すべきは、その尖った耳。 「そう。これは君たちエルフにも関わる問題のはずだ」 ウルザの前に立つ三人の男女。彼らはこの地に住まうエルフの代表者達であった。 「しかし、それでもあなたの意見に従うことはできない」 青年が言葉を句切り、その後を最初に喋った女が続けた。 「我々は確かに人に比べれば合理的な考えを重要視する種族です。しかし、それでも感情がないわけでありません。私も、我々も、あなたの考えには賛同できない」 そして、最後は老人が締めくくった。 「去るが良い。我々は戦いなどという野蛮な行いは望まない。もしも我々の元に害が及べば戦いを拒否することも無かろう。だが、お前の甘言に惑わされて自ら戦いに赴くなど、あり得ぬことだ」 「……しかし、」 「言葉は覆らぬ。去れ、異邦の悪魔よ」 聞く耳を持たずといった様子の老人を前にして、ウルザはじっと何かを考えるようにしてたたずんだ。 それから、言葉も無く三人の賢者達にその背を向ける。 そうして三歩四歩歩いてから、彼は足を止めて、それを告げた。 「これでも本当に意見は変わらないかな?」 そして、 ――――――世界は恐怖した。 その時、彼の気配に、世界の全てが総毛立った。 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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衝撃! その名は『ヨシェナヴェ』 翌朝になって、コルベールはさっそく竜の羽衣を学院へ移送するため、竜騎士隊に大金を払う約束をして運び出してもらった。 ついでにコルベールも竜騎士隊に付き添って一緒に学院へ帰るらしい。 曰く、シルフィードの背中を軽くして上げようと思ったらしい。 承太郎達は、お昼にシエスタ特製のヨシェナヴェを食べてから帰る予定だ。 コルベールもヨシェナヴェを食べたがっていたが、今は一刻も早く竜の羽衣を持ち帰って研究したい事と、シエスタが休暇を終えて学院に帰ってくればいつでも作れるという事で納得した。 こうしてコルベールは竜騎士隊と一緒に竜の羽衣を持ってタルブの村を去る。 残ったルイズ達は、授業をサボって得た休息を満喫していた。 タバサは承太郎をピクニックに誘って怪しまれ断られ部屋で読書をしている。 キュルケは承太郎をデートに誘って断られてやる事がないから読書をしている。 ギーシュは人気の無い森に行って花びらやワルキューレを出して特訓している。 シルフィードはのん気に草原でゴロゴロして遊んでいる。 ルイズはシルフィードが遊んでる姿を見てぼんやりしていた。 「……はぁっ」 思い出すのは、昨日この辺で抱き合ってた二人の姿。 そしてシエスタの告白。 慌てて逃げ出してしまったため、承太郎が何と答えたのかは聞いていない。 昨晩遅くにシエスタの家に戻ったから、どちらとも顔を合わせてない。 今朝はわざと寝坊してみんなと朝食の時間をずらした。 二人を避けてここまで来て、今は暇をもてあましている。 「どうしたものかしら……」 何気なくルイズは始祖の祈祷書を開いた。詔を早く考えねばならない。 しかし祈祷書の中身が真っ白なように、ルイズの頭も真っ白だった。 何も思い浮かばない。全然さっぱりちっとも微塵もだ。 「……はぁっ」 何度目かの溜め息をついた時、ちょっと強めの風が吹いた。 パラパラと祈祷書のページがめくれる。どこもかしこも真っ白け。 ぼんやりとそれを見ている。 文字。 パラパラと祈祷書のページが表紙の部分までめくれた。 「……あれ?」 さっき、風でめくれる祈祷書の中に、何か書いてあったような気がした。 文字、だったと思う。多分。 ルイズは慌ててページをめくった。 文字が書いてあったのはどのあたりだったか? 解らないため一ページずつしっかりじっくり確認していく。 けれど結局文字を見つける事はできなかった。 「……気のせい…………? 寝不足なのかな」 昨晩はなかなか寝つけなかった。朝余分に寝たけど、眠り足りなかったのか? 試しに目を閉じてうつむいてみたけど、特に眠気は感じない。 でも、こうしていると頬を撫でる風がとても心地よく思えて、しばしルイズは日光のぬくもりと草木の香りに身をゆだねる。 何もかも忘れて真っ白になれるような、そんな安らぎ。 でも。 「あ、ミス・ヴァリエール。おはようございます」 目を開けて振り返ると、かごを持った私服姿のシエスタ。 「お、おはよう」 やばい、声がムッチャ震えてる。動揺丸出し。平民相手に、何でこんな。 「お加減でも悪いんですか? 顔色が悪いように見えますが……」 「なな、何でもない。何でも」 やばい、顔にも出てた。ルイズは慌てて草原へと視線を戻す。 シルフィードが仰向けに寝転がってこっちを見ていた。 こっち見んな。 「……あの、私、ミス・ヴァリエールに何か粗相をしたのでしょうか?」 「どどど、どうしてそう思うの?」 「気のせいかもしれませんけど、何だか避けられてるように……。 あ、申し訳ありません! 失礼な事を言ってしまって」 「別に、かか、構わないわ。それと、避けてないから。偶然だから」 「ホッ、よかったです」 「そそそそれよりあんた、ここ、こんな場所で、何してんのよ?」 「ヨシェナヴェの材料を集めてるんです。野山にある山菜も使いますから」 「そ、そう。ちゃんと綺麗に洗ってから料理しなさいよ?」 「もちろんです。多分、ジョータローさんにお出しする、最後の料理ですから」 「えっ」 もう一度、振り返る。 シエスタは今にも泣き出しそうな表情だった。 しかしルイズの視線を感じたシエスタは、すぐ笑顔を作って誤魔化した。 日食はほんの数日後。 シエスタは休暇をタルブの村ですごす。 つまり今日学院に帰る承太郎が、もし元の世界に帰ったら。 そしてシエスタの反応から、あの告白の返事が、シエスタにとって幸せなものではなかったのではと考える。 「……ねえ、もしジョータローが帰っちゃったら、どうする?」 「待ちます。この世界で、いつまでも」 「そう」 今、ルイズがシエスタに対して抱いているのは――共感、だった。 胸に穴が空いたような気分になって、そこからモヤモヤした気持ちは抜けていったが、とても寒く感じた。とても。 お昼になると、シエスタ宅のリビングに貴族一行+使い魔が集合していた。 テーブルには熱々のヨシェナヴェがおいしそうな香りを漂わせている。 「さあ皆さん、腕によりをかけて作りましたので、どうぞご賞味ください」 シエスタが自信満々に言い、ギーシュの期待は高まった。 「いやあ、楽しみにしてたよ。何せ、君達の作る料理は絶品だからね! 食堂に出される料理とは比べ物にならない!」 「しかもこいつは俺の故郷の料理だぜ。正確には寄せ鍋っていうんだがな」 承太郎も祖国の料理を味わえるとあって嬉しげだ。 キュルケも承太郎の祖国の料理なら、と期待を高まらせた。 タバサはすでに臨戦態勢だ。 ルイズも、この料理はよく味わって、感謝して食べようと思った。 そして皆は鍋の中身をおわんによそい、息を吹きかけて冷ましながら食べる。 「あら、本当においしい。ハーブの使い方が独特ね。この肉は何?」 「野うさぎのお肉です」 「うさぎ? へえ、こんなにおいしかったのね。味が染み込んでるからかしら?」 キュルケはご満悦らしく、満面の笑顔を浮かべた。 ギーシュは当然というか舌を火傷しそうな勢いで食べている。 「ホフッ、ホフッ。この熱々なのがまた、ンま~い! おかわり!」 一番乗りでおかわりをして、シエスタが嬉しそうによそう。 ルイズも材料はこの世界の物なれど異世界の調理法で作られた鍋の味に舌鼓。 おいしそうに具を頬張り、そして、独特の苦味を感じて「ん?」とおわんを見る。 緑色の葉が入っている。 色んな味が染み込んでいて、覚えのあるその味が何なのかすぐには思い出せなかった。 しかしタバサはそれに気づき、ハッと承太郎を見た。ゴッツ見た。 睨んだとか凝視とか視線で射抜くとかそんな勢いで。 承太郎は一言も喋らず、しかししっかりと料理を味わいスープまで飲みながら、 ギーシュに続いてのおかわりを自分ですくい――緑色の菜っ葉が混じり――。 「どうですか? ジョータローさんの故郷の味と違ったりしませんか?」 シエスタが訊ねる。承太郎が答える。 「具が違うから、そのままとはいかねーが、こいつぁうまいぜ。 故郷で食うよりもずっとな。こんなうまい鍋は初めてだ」 「まあ! よかった、喜んでもらえて」 シエスタの笑みに釣られて、承太郎も微笑を浮かべた。 そしてその希少価値の高い微笑の唇に、スプーンが具を運ぶ。 緑色の葉が入っている。 タバサは、さすがにこれでヤられたら熱いと思い、避ける準備をする。 だが。 「シエスタ、この緑の野菜は何だ? 独特の苦味が利いててうまいぜ」 「あ、それははしばみ草です。ジョータローさん、苦いのお好きみたいですから」 ス タ ー プ ラ チ ナ ・ ザ ・ ワ ー ル ド !! ド―――――z______ン 時 は 止 ま る。 その時、確かに時は止まった。 しかし時の止まった世界の中を、みんな普通に動いていた。 例外は一人、タバサのみ。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 世界の時が止まったというよりは、むしろ彼女のみの時が止まったと表現するべきか。 彼女は信じられない光景を見て茫然自失と化していた。 そして続く言葉を聞く。 「はしばみ草……? こいつぁたまげた、料理次第でこんなにうまくなるとはな」 「え? もしかしてジョータローさん、はしばみ草は苦手でしたか?」 「ああ、だがシエスタの寄せ鍋だけは別だぜ」 「えへへ、ありがとうございます」 遠くで声が聞こえる。 ――独特の苦味が利いててうまいぜ。 ――はしばみ草……? こいつぁたまげた、料理次第でこんなにうまくなるとはな。 ――シエスタの寄せ鍋だけは別だぜ。 馬鹿な、そんな馬鹿な。 彼にそう言わせるのは、自分だ。自分だったはずだ。 そのために日夜研究し、彼のために改良を重ねてきたというのに。 完成したのに。 タバ茶七号。 私の、最高傑作。 その瞬間、タバサのマントから小さな水筒が落ち――彼女の時は動き出した。 「あら? タバサ、何か落としたわよ」 隣の席に座っていたキュルケが水筒を拾う。 当然、水筒の落ちた音はみんな聞いていたため、視線はそこに集中する。 当然、承太郎も。 「タバサ? どうしたのよ」 水筒を差し出すキュルケだが、タバサは受け取ろうとせず、乱暴に鍋をあさってはしばみ草を自分のおわんによそう。 そして食す。 はしばみ草の苦味と、他の様々な食材の味が見事に溶け合っている。 それはまさに異界の叡智が生み出した鍋料理に込められた魂そのもの! ――浦木少尉! 俺に構わず行け、日食に飛び込むんだ! タバサは戦友の身を案じる兵士の姿を見た。 ――俺は、生きる! 生きて、アイナと添い遂げる! タバサは恐怖を乗り越え愛を叫ぶ男の姿を見た。 ――勇気ある誓いと共に進め。 タバサは幼い勇者に未来を託し神話となった勇者の姿を見た。 「タバサ?」 はしばみ草を食べて固まる親友を見て、キュルケは不安になる。 承太郎やルイズ達も妙に思ってタバサを見ている。 タバサは、震えていた。 「あ、あの、お口に合いませんでしたか?」 恐る恐るシエスタが訊ねると、タバサは席を立ってシエスタに向かった。 彼女にとってギーシュの次に交流のある貴族がタバサだが、無口で無表情で承太郎以上に何を考えているのかよく解らない相手だ。 そんなタバサが、なぜ自分に向かってくるのか? 不安に駆られるシエスタの手を、タバサがギュッと握りしめた。 「私の負け」 「え?」 負けって、何の話ですかとシエスタは疑問に思った。 「あなたの勝ち」 親友のキュルケも、今回のタバサの行動はさっぱり理解できなかった。 しかし承太郎は何となく理由を察し「やれやれだぜ」と呟く。 その後、タバサは誰よりも一番多くヨシェナヴェをおかわりしたという。 でもはしばみ草は承太郎に多めに取らせるよう動いていたそうな。
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か ガイコツ丸 慨世 壊帝ユガ 楓(月華) 火炎(影丸) 顔なしカワウソ 嘉神慎之介 かがり 神楽衆 「影」 筧十蔵 影一族 影丸(影丸) 影夢平四郎 陰流忍者 かげろう(影丸) 陽炎(獣兵衛) 蜻蛉 かげろう霞丸 かげろうの黒八 風間火月 風間蒼月 風祭澳継 風間葉月 風見の笛 果心居士 果心居士(無限)? 霞打ちの松吉 霞谷七人衆 霞の伊三次 霞梅月 ガダマーの宝珠 片目(影丸) 片山伯耆守? 葛城衆? 加藤段蔵 金井半兵衛 七坐灰人 蟹(綺堂) 鐘巻自斎? 花音 花諷院骸羅 花諷院和狆 兜(綺堂) カマキリガラン ガマ法師 上泉伊勢守 画猫道人 神夷京士浪 賀茂源助? 機巧おちゃ麻呂? カラクリ城 カラクリ磐馬 ガラシア祈祷書 「鴉」 鴉(からす) 烏左近 鴉羽根 ガリヴァー 雁杉野坊 狩又貞義 ガルーダ? ガルフォード 牙狼忍軍 川上新夜? がわっぱ カワハギ 寒月斎 神崎十三 勘助(影丸) 岩石入道 巖陀羅 頑鉄 岩鉄 ガンリュウ
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使用アイテム 吸収時の効果 備考 始祖の祈祷書 世界扉やイリュージョン、加速、エクスプロージョン、etcのうち二つ選択 完成してから吸収ならさらに強化 時魔法の魔道書 時を操る魔法を習得 スナップドラゴンの書 味方一人を武器に変える魔法を習得 固有時制御の巻物 固有時制御を覚える、コストは軽減される ウス異本 次元魔法を覚える 宇宙CQCの指南書 カオスになる dies irae 使用すると・・・ マックスウェルの魔道書 文字を使った魔法を習得 悟りの書 全体にデバフ無効を張れる レメゲトン 召喚に適正を持つ、悪魔の使役には一日の長がある R lyeh Text 水神の力を得ることができる セラエノ断章 ハスターの力の片鱗を持っている 悪魔全書 悪魔を対価と引き換えに召喚できる 黒の聖書 洗脳のBSを中心に習得 この中から3個の魔道書を選んでリインフォースを形作ります、似たような能力の魔道書を選べば その魔導が強力になります、また、始祖の魔道書のような多くの魔導がある場合そこから更に 二つ選ぶことになります
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前ページ次ページいぬかみっな使い魔 いぬかみっな使い魔 第19話(実質18話) スカボロー駐留艦隊を下したトリスティン艦隊はアンリエッタの演説の後、 褒美としてスカボロー艦隊司令部から奪った金貨の一部と酒を将兵に配った。 褒美は、元レコンキスタ将兵にも分け与えられ、忠誠を確かなものとした。 交代で兵達を休ませるよう命ずると、アンリエッタは自室に戻る。 今回の演説も恥ずかしかったようだが、日が沈みランプと魔法の明かりで 照らされたアンリエッタは、多少顔色が赤くなっていても目立たない。 「ケータ殿は、こんな事まで計算していたのかしら?」 「さて、私にはわかりかねます。」「きゅ~~?」 アンリエッタの疑問に、律儀に答えるマザリーニだ。 「ケータなら、このくらいの先読みと打算は当然だと思いますわ、姫様。」 ルイズが、得意そうに言った。 「毎回姫様に演説させているのは、士気を上げるためと、兵が姫様への忠誠を 確実にすることと、兵へのご褒美として高貴な王族から直接賞賛を受けるのと、 姫様の場慣れの訓練。今後の大まかな予定を知らしめる、という目的があるかと。 当然、ご褒美の金貨を今与えたのも、計算のうちだと思います。スカボローには 硫黄を買うお金が山ほどあるはずだって最初から言ってました。3回分の ご褒美を1回で済ませられて。アルビオン将兵の買収の意味も持ちますし。」 今頃、出航禁止を言い渡された商人や船長達は、スカボローに運んできた荷物、 スカボローから運び出す荷物、人員名や目的地、期限、など等を書いた書類を 書いていることだろう。ラ・ロシェールで船の出航許可を申請するために 必要だった書類だ。それが異端審問の証拠として使われたことはまだ 伝わっていないはずであり、素直に提出するだろう。その後、黄金並みの 値段で取引される硫黄の商人達から、膨大な量の黄金を搾り取り、船を没収。 他の物資についても没収できるだろう。膨大な戦利品が手に入る。 ある意味、この戦争はすでに勝利したといっても良い。 戦争とはつまるところ経済活動であり、利益が出れば成功なのだ。 膨大な資金と物資、運輸に役立つ船の入手。このまま行けばトリスティンは 今後大きく発展するだろうことは間違いない。 そして、まだ啓太以外に気づいていないことだが、ガリア王ジョゼフの野望を 大いに躓かせてもいた。ジョゼフは高値で硫黄を売りつけると共にレコンキスタへ 購入資金を提供…多くは貸与という形で…することで値段を維持させて来た。 つまりは、儲けから搾り取った税金のかなりをレコンキスタに供給することで 黄金並みの値段で硫黄を売りつけていたのだ。さもなくば、 こんなばかげた高値で硫黄が売れるはずが無いのである。 資金の円還。 その一部を断ち切り、流れる金をトリスティンに回した事により、 ガリア商人達は大いに困り、しばらく後に破産するものも続出することになる。 硫黄で儲けた金は、とうの昔に支払う予定の決まった金であり、 それが滞ることで債務不履行が連鎖する事になったのである。 経済の安定によって国力を増すことで支持を受けてきたジョゼフにとって、 これは実に痛い攻撃であった。戦争資金の調達予定も大幅に狂っていく事になる。 厨房からおやつのプリンが届いたすぐ後にマザリーニは呼ばれて出て行き、 次いでともはねと啓太が戻ってきた。タバサも一緒である。 啓太は自分の執務室(口の堅くて頭のいい武闘員達のたこ部屋)に行っていた。 戻ってくると色々な書類を持っている。 「姫殿下、今マザリーニ枢機卿にも渡しましたが、これがレコンキスタ スカボロー艦隊を取り込むに際しての演説草稿です。ご確認ください。」 「ええ。ケータ殿。プリンが届きましたの、食べながら話しませんか?」 アンリエッタは、書類を受け取るとかわりにプリンを手渡してやった。 「おや、姫殿下じきじきにおやつをいただけるとは、これはうれしい。 味わいも格別でしょうな。何よりの褒美にございます。」 啓太は、わざと大仰にうれしがって見せた。 「! い、いいえ、ただ渡しただけですわ。」 アンリエッタは何かに気づいたようだ。 「はい、シャルロット様。はい、ともはねちゃん。」 「…ありがとう、アンリエッタ様。」 「わ~~い、プリンプリン!」「きゅ~~(俺も分けてくれ)」 タバサが、ほんのりと笑みを浮かべる。ともはねがぴょこぴょこはねる。 ツインテールと尻尾がそれにつれて上下に揺れる。 アンリエッタは、啓太の意図を正確に理解した。こういった些細なことでも、 大きなご褒美になる事があるのだ、と。 「時にケータ殿。今回もスカボロー港でも、伝令を逃がしましたが、 良いのですか? 最初の戦いでは絶対に情報を漏らすな、と厳命しましたのに。」 「良いのです。最初の戦いでは大砲の新戦法を試しました。 それをばらすわけには行かなかった。今回は見せていませんからね。」 そんな戦術論を話しているアンリエッタと啓太である。 一方タバサは、プリンをじっと見つめて考え込んだ。 啓太の袖を引き、一口目を食べようとしていたところに訴えた。 「ご褒美は?」 ルイズ、ともはねのテンションが急降下した。部屋の温度が数度下がる。 「ああ、ゲルマニア竜騎士団攻撃作戦とその後の戦闘のか。1騎捕まえて 1騎落としたんだったよな。規定の金額はもう渡されたはずだけど、 それ以外のご褒美だよな?」 うなずくタバサに、啓太は頭をなでなでしてやった。 タバサは目を細めて気持ちよさそうにしている。 「ああ! ず、ずるいです、ともはねも一杯働いたのにご褒美もらってません! 啓太様と14騎も倒したんですよ! ご褒美ください!」 啓太は、プリンをテーブルに置くと反対の手でともはねの頭をなでてやった。 ともはねも気持ちよさそうに目を細める。 「ケータ! 私は!? 私にもご褒美!」 ルイズも騒ぐ。アンリエッタ王女もうらやましそうに見ている。 「ルイズ。お前は姫殿下の後ろに控えてただけだろ。」 「うっ! そ、それは、でも…」 ルイズは、うんうん悩み始めた。 (「確かに何にもしてない。今の私じゃ、手柄を立てる手段が無いわ。 危険な戦場に来たのに! なんとか、何とか方法を考えないとご褒美が!」) ↑目的が摩り替わってます! 悩むルイズを尻目に、つい、とアンリエッタも頭をさしだした。 少し恥ずかしそうに上目遣いで啓太に訴える。 「あの、私も恥ずかしい演説をがんばったのですから、ご褒美を。」 王族であるために庶民的に甘えた経験が少ないゆえか免疫が無かった故か? アンリエッタは、甘えることにある種目覚めてしまったらしい。 マザリーニを初めとする大人達がいない場所でならいいようだ。 「少しだけですよ?」 啓太は、素直に頭を撫でてやった。 なでなで。なでなで。なでなで。 その手は、順番から言って当然ながらタバサの頭から移動したものであり。 一通り撫でてやった後、タバサがまた啓太の袖を引いた。 「(くいくい)もっと。」 それは、もっと頭を撫でてほしい、というだけの要求だった。 しかし啓太は、さらに別のご褒美がほしい、という意味だと解釈した。 ふと見ると、脇のテーブルにはまだ食べていないプリンが。 「はい、あ~~ん。」 「!! ……(はむ)」 タバサは数瞬悩んだが、啓太の前だとなぜだか素直に甘えられる気分になる。 素直にプリンを食べさせてもらった。当然、ともはねは嫉妬全開である。 「あああああああ!! ずるいずるいずるい!! そんなうらやましいこと、 私だって数えるくらいしかして貰ってないのに! 私も私も私も!」 地団駄踏んでくやしがるともはね。2口ほど食べさせた後、自分でも一口食べた 啓太は、ちょっと困惑した。タバサは、間接キス、と述懐して赤くなっている。 「ともはねにやる分のプリンはもう無いからな。厨房に行ってもらってくるか。」 ともはねの分のプリンを食べさせるのではこの場合ご褒美にならない。 「無かったらどうするんですか!」 「む、そうか、その可能性もあるか。」 「だいたい、プリンならまだあります!」 びしっと指差すともはね。食べかけだが、確かに啓太の手にある。 「これでいいのか? ほら、あ~~ん。」 「わ~~い! あ~~ん!」 実に幸せそうなともはねである。アンリエッタは、さすがにそこまではしない。 それを見ていたルイズは。ついに一大決心をした。 「姫様! ルイズ一生のお願いがあります! どうか、私に始祖の祈祷書を お貸しくださいませ! どうしても、どうしても必要なのです!」 鬼気迫る様子のルイズである。ルイズ達は以前、虚無魔法の呪文書に 心当たりが無いかオスマンに聞き、あっさりと始祖の祈祷書を教えられた。 1冊しかないはずなのに、集めれば図書館が出来るほどハルケギニア中に あると言われるまがい物のどれか一つは本物であり、6000年前、 始祖が神に祈りをささげた際に読みあげた呪文が記されているとされる。 身近なところではトリスティン王家も所蔵している、と。 「ええ、いいですわよ。」 あっさりと、あまりにもあっさりと承諾され、ルイズ達は固まった。 アンリエッタは、部屋の隅にあった作り付けのロッカーから厳重に魔法で 封印された箱を取り出すと、呪文を唱え杖を振った。 蓋が開き、中からものすごく古めかしい1冊の本が出てくる。 「我が王家に伝わる『始祖の祈祷書』です。ガリアの始祖の香炉、アルビオンの 始祖のオルゴール等と並んで始祖に与えられたと伝えられる秘宝です。 わが国では、王族の結婚式で貴族から選ばれた巫女がこの『始祖の祈祷書』 を手に式の詔を読みあげる慣わしになっています。詔を考えるのは、巫女。 ウェールズ皇太子との結婚に尽力してくださるとケータ殿が 請合ってくださったのですもの、早めに考えておきませんとね。 さすがは博学なルイズ、ちゃんとわかっていましたのね。 私も、あなたに巫女になって欲しいと思いますよ。結婚式まで、 『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詔を考えてくださいね。」 現在、出征しているトリスティン貴族の女性でなおかつ処女なのは ルイズだけである。アンリエッタは、その事に思い至ったルイズが、 巫女を志願し、ひいてはウェールズとの結婚に協力しようとしてくれた、 と解釈したようである。 「は、ははは、はい! 誠心誠意、勤めさせていただきます!」 ルイズは、頭がいいだけにそれらの事をすぐ理解し、遅滞無く引き受けた。 が、目的は別にある。失敗魔法で攻撃するという情けない状況を打破し、 強力かつ有益な虚無呪文を習得して活躍し、啓太にご褒美をもらうためである。 なんだか変な目的になってしまっているがルイズは気にしない。 早速ページを繰り出すルイズ。一方啓太は、頭を抱えて聞いた。 「姫殿下。もしかして、ウェールズ皇太子との結婚、最初から狙って 親征いたしたのですか? すぐに結婚式挙げられるようにと持ってきたと。」 「ええ、そうですわ。」 アンリエッタは、澄まして答えた。啓太が自ら動かなくては何も手に入らない、 自分から掴みにいけ、と教えたのである。それを実践したまでだ。 「さ、さすが王族!?」 啓太はうなった。恐るべき学習速度とバイタリティである。 「そういえば、おん年17歳ですでに水のトライアングルでしたな。 それだけの努力もしているわけですか。頭も良く機転も利く。もう10年、 いえ、5年も齢を重ねれば、押しも押されぬ女王となられましょう。」 啓太は、アンリエッタの信用を得て、脇から軍政に口を出して、という心積もり であった。しかし、その予定は大幅に変えたほうが良さそうな気がしてきた。 かわいい顔に似合わず、かなりしたたかだ。 そのときである。 「ひ、姫様。この本、最初から最後まで白紙なんですけど!?」 戸惑いと落胆とやはりそうだったか、という嫌な予想の当たったような声。 ルイズが開いて見せたページは、完全な白紙。パラパラとめくってみせる その他のページも同様だ。総数300Pほどの始祖の祈祷書は、 まがい物と呼ぶのもはばかられるほど出来が悪い…ように見えた。 「ああ、それですの? まあ、仕方ありませんわ。とにかくその 白紙のページを見ながら詔を考える伝統なのですもの。」 「やっぱり、昔からこうなのですか、姫様?」 「ええ。」 二人の会話は、当然の結果を確認するような、そんな調子である。 だが。啓太とともはねは違った。 「くんくん。姫様、これ、触ってみてもいいですか?」 「ふむ。俺も、調べさせて欲しいのですが。」 アンリエッタが許可すると、二人は目を眇めたり瞑想したり匂いをかいだりと 思い思いの方法で本を調べ始めた。アンリエッタもルイズも、 何をしているのかわからずにきょとんとしている。 「一見見えないインクで書かれた書物というものは、実在する。」 タバサが、ポツリともらした。アンリエッタとルイズが、顔を見合わせる。 ディティクトマジックで見えるインクで書いた、アンチョコ。 アンリエッタは、数日前からこれのお世話になりっぱなしである。 旗に書き込んだり盾に書き込んだりして身近において演説する事の なんと多いこと。一見何も書かれていないこの本も同じかもしれない? だとすると、そう簡単に人に見せられない、それなり以上に重要なものとなる。 少なくとも、権威付け用に作ったまがい物なら、もっとそれらしく 体裁を整えるはずである。古代ルーン文字で呪文を書き込む、とか。 ということは。これは。 本 物 なのだろうか? 「強い霊力を感じますね。ページの匂いも、なにか書いてある部分と 素の羊皮紙の部分に分かれてるみたいな匂いです。」 「うん、確かに、かなり強い霊力を感じる。こっちの系統魔法とは違うな。 むしろ陰陽五行系仙術に近い。何かあるのは確かだな。」 啓太は、じっと考え込んだ。法術の呪文を唱え、始祖の祈祷書に霊力 を流し込んでみる。しかし何も起こらなかった。次いで、最大限まで 霊力を高めて霊視をしてみる。その状態で、波長も変えてみる。 「違うな。あぶり出し、なんてものをやったら本が傷む。となると、 場所の条件を満たすか、道具を使うか、あるいは人の条件を満たすか。 それとも複数か? ルイズ、お前が持って、精神力を集中させて見てみろ。 魔法力もこの本に込めてみな。」 いずれも、RPGの一つもやっている連中なら、あるいはファンタジー系の 知識があれば思いついて当然の可能性である。啓太は本物の霊能者である分、 そちら系統の知識は豊富であり、ごくあっさりと方法を考え付いていた。 「わ、わかったわ。」 ルイズは、いわれたとおり精神を集中し、魔力を込めてみる。 それを見ていたアンリエッタが、当然の疑問を呈した。 「なぜ、ルイズに試させるのです?」 「ルイズが、虚無の担い手である可能性が高いから、ですよ。」 「ええ!?」 「今は、何も聞かずにルイズに機会をおあたえくださいますよう、 伏してお願いいたします。可能性は、充分あります。虚無に目覚めれば、 ルイズは大いに姫殿下のお力となりましょう。ですから、今は。」 「え、ええ、もちろん良いですわ。」 そうこうするうちに、ルイズから何の変化も無い、と報告される。 「そうか。ならば、姫殿下。」 「は、はい。」 ただのガラクタと思っていたものが、本物かもしれない、どころかルイズが 虚無の担い手かもしれないと知って、アンリエッタも真剣な表情で答えた。 「この本を公式の行事などで読むよう指示されている場所、それも数千年前から 変わらない伝統の場所にお心当たりは? あるいは、始祖の祈祷書と セットで王家に伝えられているアイテムなどはありますか? 杖とかメガネとか指輪とかペンダントとか。メダルとか。 法衣や帽子もありうるかな。それらとセットなら読めるのかもしれない。」 「私にはわかりません。でも、マザリーニ枢機卿ならば判るかも知れません。」 かくして、マザリーニが戻った後に質問を繰り返した啓太は、 アンリエッタの嵌めていた『水のルビー』を指摘された。 アンリエッタから借りた青い水のルビーをルイズが嵌めて始祖の祈祷書をめくる。 「意識を集中しろ。何がなんでも今読まなければならないと必死になれ。 祈祷書とルビーに魔力を注ぎ込め! 可能性は高い!」 啓太の励ましに、ルイズが意識を集中させて始祖の祈祷書を開く。 1ページ目から、開いていく。 「光? 光が漏れて見える。これは…! 古代ルーン文字? 見える! 見えるわ! 読める、読めるわ!」 「おでれーた。お嬢ちゃん本当に担い手かよ。懐かしいな、その本。」 今の今まで、壁に立てかけられ忘れられていたデルフリンガーがしゃべった。 「あ。そういやお前、ガンダールヴの持ってた剣だったんだよな。 なんでいままで教えてくれなかったんだ?」 「ガンダールヴの剣!?」 「まさか、デルフリンガーですかな!?」 アンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿が驚く。 「いやあ、始祖の祈祷書見てから、ずっと思い出そうとがんばってたんだ。 けどよ、何しろ何千年も生きてるからな。忘れてること、 思い出せないことも多いんだ。年寄りなんだから勘弁してくれや。」 「なるほどね。じゃあ、やっぱりこれは本物で。私は、虚無の担い手なのね。 何しろ生き証人が保障してくれるんだもの!」 ルイズが、誇らしげに無い胸を張った。 「待ってください。ミス・ヴァリエールの使い魔はそのオコジョ「きゅ~~!」 でしょう、虚無の担い手ならば使い魔はもっと大きいはずです。ガンダールヴは 1000の軍勢を壊滅させるほどの強さを持っていたとされるのですから、 このように小さくはない「きゅう~~~!!!」はずですよ。なんです、 うるさいですね。ミス・ヴァリエール、使い魔のしつけがなっていませんよ。」 「あの、マザリーニ枢機卿。マロちんの事を悪く言ったら怒って当然かと。」 ルイズが、控えめな声でフォローする。 「そうですね、目の前でオコジョなんていわれたら怒りますよ。」 「マロちんはオコジョじゃなくてムジナです! 強いんですよ!」 ともはねも無い胸を張ってマロちんをフォローする。 その後しばらく、使い魔談義になって話は中断した。マザリーニ枢機卿が 怒ったマロチンに口を封じられるという一場面もあったりした。 そして。 しばらく逡巡した啓太が切り出した。 「しょうがないか。俺が、ルイズの使い魔。伝説のガンダールヴですよ。」 啓太が、左手の手袋を外してルーンを見せる。 「これは!」 「なんと! 古代ルーンでガンダールヴと。」 (ちなみに木などに掘り込む活字体ではなく筆記体である。 イラストやアニメではなぜか活字体であるが原文準拠ということで) 次いで、デルフリンガーを抜いてルーンが光るところを見せる。 アンリエッタとマザリーニが、動かぬ証拠を見せられて驚愕する。 「君は、ガンダールヴだったからあんなにも強かったのか!?」 「幼い頃からの修行にガンダールヴの力を上乗せしたから強いのです。 そこの所は間違えないで戴きたい。努力もなしにそこまで強くはなれませぬ。」 「修行の成果と合わせたからゆえ、ですか?」 アンリエッタが確認する。 「修行修行でろくに遊べず友達もわずかしか出来ず、幼い頃から何度も 死にかけました。姫殿下とて、苦しい修行の末にトライアングルと なったのでございましょう? 才能と努力。それを補助する道具。 様々なものが相乗してこそ、強力な力となるのでございます。 それは国の統治や軍事も同じこと。広いだけの国土では意味が無く、 人多く住み、初めて国土と呼べます。国民が豊かでこそ国力は高くなりますが、 高い技術がなくてはそれを生かせませぬ。そして、国内が割れていては 軍事力を大幅に削がれる事になるため、外征はままなりませぬ。」 アンリエッタは、納得してうなずいた。 マザリーニももっともだとうなずいた。しかし、本題はそこではない。 「虚無に関する人、物、才能がこのように一つ所に集まるとは。 とはいえ、本来虚無とは王家に伝わる力のはず。公爵家とは言え 貴族のミス・ヴァリエールが担い手となるはずが…」 「何をおっしゃいます、枢機卿。ヴァリエール家の初代はトリスティン王家の 姫を守り抜いたからこそ公爵となったのです。その後の1000年で、 何度も王家の血を受け入れています。そもそも公爵家とは王家の血を受けた 強大な貴族もしくは王家の分家に与えられる爵位。資格は充分でしょう。」 「むむ。」 マザリーニは考え込んだ。 王家の正統を示す最高の証拠が、ヴァリエール家という最強の貴族の血に現れた。 これは、下手を打つと王家交代劇にもなりかねない。本来なら、抹殺を考える 必要がある場面である。だが幸い、ヴァリエール嬢は姫、ひいては王家に 非常に好意的だ。これは、むしろヴァリエール嬢とヴァリエール公爵家を 王家に取り込む方向で利用したほうがいいのではないだろうか。 「このように目出度い事は滅多にありませんな。枢機卿として、 そなたに祝福を授けたい。ですがその前に虚無の担い手としての 証立てをする必要があります。始祖の祈祷書を読み、虚無呪文の 習得を行っていただきたい。姫殿下も、よろしゅうございますか?」 「もちろんです!」 「わかりました!」 マザリーニの言葉の裏を知らないアンリエタとルイズは、喜んだ。 「よかったな、ルイズ。皆にもわかるように、声を出して読みあげてくれ。」 「ええ!」 啓太が促すと、満面の笑みを浮かべたルイズは、始祖の祈祷書を開いた。 「序文。(略)全ての物質は、小さき粒より為る。4の系統はその小さな粒に 干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる(略)神は我に更なる力を与えられた。 (略)小さな粒は、さらに小さな粒より為る。神が我に与えしその系統は、 (略)我が系統はさら為る小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる (略)零すなわちこれ『虚無』これを読みし者は、我の行いと理想と目標を 受け継ぐ(略)力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。(略) 『聖地』を取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。(略) 詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。(略) 『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。」 ここまで黙って聞いていた一同だが、さすがに聞き捨てなら無い部分である。 「おい!?」 「命を削る!?」 「詠唱が永きにわたるため詠唱中の始祖を守るガンダールヴがいたと されてはおりますが、命を削るほどだったとは。」 「ルイズ、呪文を習得しても絶対に全力で使うなよ。常にセーブして使え。」 「そうですそうです!」「きゅるきゅる!」 「そうですわ、ルイズ。命を削ってまで使うなど、してはなりませぬ。」 「そうですな。そんな使い方は誰も望みませんでしょう。」 「ありがとうございます、姫様、枢機卿、ケータ、ともはね、マロちん。」 ルイズは頭を下げると、音読を再開した。 「選ばれし読み手は、『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ユミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 以下に、我が扱いし虚無の呪文を記す。ここまでで後は白紙です。」 「おい!?」 「白紙!?」 「ここまで来て白紙とは、肩透かしにしても酷すぎますな。」 「ルイズ、ちゃんと意識は集中してるのか?」 「そうですそうです!」「きゅるきゅる!」 「そうですわ、ルイズ。もう一度意識を集中して!」 「そうですな、ここまで来た以上呪文の一つも習得しないことには。」 「で、でも、何も書かれていないのです!」 大騒ぎの室内だが、発言していないものが2人。いや、一人と一本。 「必要にならないと読めない、とか?」 「あ、そうだったそうだった。その本は必要な場面にならないと読めねーんだわ。 どんどんページを繰っていきな。今必要とされる呪文が見えるはずだ。 無いなら、虚無を必要としないほどの安泰だってこった。喜びな。」 タバサの呟きとデルフリンガーの助言に、ルイズが猛烈な勢いでページを繰っていく。 「あった! ディスペルマジック!」 啓太とタバサが、目を見開いた。 「「魔法薬の中和!」」 「な、なに!?」 声をそろえた二人に、ルイズがビクリとなって聞いた。 「タバサ。いいな?」 「(無言でコクリ)」 啓太は、アンドバリの指輪について説明する際、『シャルロット姫』について さわりだけ説明したタバサの過去を詳しく話した。 「つまり、タバサの母親を正気に返らせる事が可能な呪文、かもしれない。 だめだとしても、アンドヴァリの指輪で心を操られた人、死体を操られた人を 本来の状態に戻す事が可能って事になる。だとすれば、実に強力な戦力だ。」 一同の意見は、まさにこの状況にふさわしい、ということで一致した。 「よっしゃ、それじゃあ、無駄打ちして寿命を縮めるのもなんだから、 今回は紙に呪文を写すだけにしておけ。序文もな。いずれ、多数の 虚無呪文を習得したら、その呪文を全部書き記して、お前のように 虚無系統だったせいで魔法使いとしてダメ認定された奴らの救済に使おう。 というか、他にも注意書きとか、虚無系統を使うときに共通の確認事項とかは 書いてないのか? 普通、基本として書いてありそうなものだが?」 「書いてないみたいね。まずは、このページを写しますね。」 「ええ。後で見せてね。」 「はい、姫様。」 かくして、ルイズはこの日、ディスペルマジックを習得した。 「タバサ。今すぐお母さんを治療しに戻れないのは許してやってくれ。 戦争中でどうしても戻れないんだ。いや、方法はあるか。 姫様! トリスティン第2艦隊に、シャルロット姫の母君を伴うよう、 急使をお願いいたします! シャルロット姫の母君なら、正気になれば 貴重な戦力となってくれましょう!」 マザリーニ達は直ちに動いた。それを尻目に、啓太はタバサに耳打ちする。 「人をうまく使うコツはこれさ。相手にも利益・利得があると理解させて、 自分のためなんだから自分から協力しなければ、と思わせるのさ。」 そっとウインクすると、タバサは、笑み崩れた。やっと。 やっと、『母』と会える。 「ただ、もしルイズの虚無が、呪文のみで魔法薬には効かないものだったら、 危険な場所に狂った人を呼びつけるだけになる。それでもいいか? 止めるなら今しかない。それと、だめでもルイズを責めてくれるなよ?」 タバサは、数瞬迷った。が…例え無理だったとしても、いまさら 先延ばしに出来るはずが無いほど、親の愛情に飢えていた。 「今、呼んで貰う。ダメでも、責めたりしない。」 「タバサは、いい子だな。」 啓太は、タバサの頭を、優しく撫でてやった。 さて一方。 平賀才人と楽しく通信していたガリア王ジョゼフであるが、何分にも数 日にわたる狩で王宮を開けていた以上、仕事が山積みしている。 ほとんどを家臣に押し付けているとはいえ、やはり仕事はあるのだ。 侍従長が遠慮がちに入室し、一人遊びを見て眉をわずかにしかめた後促した。 「陛下、ロマリアの大使が来て強硬に謁見を求めております。」 「もう夜ではないか? 明日にせい。」 「すでに数日待たせておりまする。とにかくお会いいただきますよう。」 さすがにこれ以上は外野がうるさい。 「サイト。しばし待て。政務が溜まっておってな。3時間ほど後でどうだ? うむ、では、ちと片付けて来るのでな。」 そういって、ジョゼフは人形を置いて部屋を出た。 夜も遅いので、謁見の間ではなく、執務室に通されたロマリア大使は、 「というわけでクロムウェルめはアイテムの力で虚無を装うという冒涜を」 とレコンキスタ首魁オリヴァー・クロムウェルの背教行為を訴え、 「ガリア王国におきましては直ちにアルビオン救援艦隊の派遣を要請いたしたく。 一部義勇兵が傭兵としてアルビオン王党派に参加しているだけで王国としては 何もしていない現状では始祖の教えに対して軽視しているのではと(中略) 後々まずい事になりまする。なにとぞ(後略)」 と派兵を促す。とはいえ、直ちに兵を送るなどガリア王ジョゼフの予定には無い。 共倒れになってくれたほうが面白いのだ。これ以上増援など送ったら、 一方的にレコンキスタ不利となってしまいつまらない結果になる。 送るとしても、もう少し共食いをさせてからだ。 充分かみ合わせた後においしいところで介入し、漁夫の利を得るのが良手だろう。 「国内の不穏分子がうるさいものでな。現状ではすぐには艦隊を動かせぬ。 ご期待に沿えず申し訳ない。」 とつっぱねた。すると今度は、 「では義勇軍をもっと大々的に送られますよう要請いたしまする。 募集を国王公認とし、王国側から告知するだけならなんら問題ないはず。 できれば多少なりとも資金援助や補助金を。また、勝利の暁には称揚を。」 と要求する。 (「さては、勝手に義勇軍として参加したガリア艦隊のフォローか?」) とジョゼフは思い至った。 (「ならばそれらを咎めだてるとちらつかせれば引き下がるか? いや、遠隔地の情報を素早く手に入れた理由を問いただされれば困るか。 背教者の味方をしているのでは、と勘ぐられても困る」) 個人で艦艇まで動かして参加したとなると、相当の大家で、なおかつ ジョゼフに恭順していない連中という事が消去法でわかる。 それらのリストを作れるとなれば、それはそれで面白いかもしれない。 しかも、そやつらの資金や軍備を磨耗させることも出来るだろう。 直ちに王宮から告知をし、功著しいこと明白な者に年金のつかない勲章を与える 事について、ジョゼフは了承し、文書を交わした。 その後も様々な陳情や書類決済等の些事をこなした後、ジョゼフは 私室に戻ってまた才人と通信を始めた。そして。 「ふむ、アンドバリの指輪の噂が瞬く間に広まったと。王党派は明らかに 意図して噂をばら撒いておるわけか。どこから漏れたのか、だな。 そうか、偽情報で動揺を押さえ込んだか? 良くやった。 しかし、一旦広まった疑念はそう簡単には消えぬ。どうなっておる? スキルニルやガーゴイルのように? そこまで分析されておるのか。 しかも、傭兵だけでなく民衆や商人達まで。」 ガリア王ジョゼフは、美髯をしきりにしごいた。 「ロマリアに知られておる以上、向こうでも噂になっておるとは思ったが。 敵もなかなかやるな。いかにして情報が漏れたかな?」 才人は、伝説のアイテムの能力として、誰かが思いついてもおかしくない、 と控えめに述べると共に、ラグドリアン湖周辺で異変が無かったか確かめた。 「ふむ、確かに、最近随分と水量が増えているとは聞いておるが。」 この時点で、タバサが母や親しい使用人、その家族などをトリスタニアに 連れて行った事の情報はヴェルサルテイルに届いていない。 見張りは「鳩小屋に狐が入り込んだ」ために素早い情報伝達手段を失っており、 「シャルロットがラグドリアンの水の精霊を鎮めた」 という情報を馬で連絡所まで届け、そこから早便で届けられている最中だ。 その後、見張りは 「物取りが旧オルレアン邸に入り、人を皆殺しにして財宝を盗み、 (実は豚の血を撒いて荒らして偽装しただけ)死体を湖に沈めたらしい (実は重い石を詰めた麻袋を崖まで引きずって行って跡をつけただけ)」 という情報を届けにまた馬で移動中であったので、タバサの母親についての 情報をジョゼフが知るのは数日後だ。 かくしてジョゼフは、単なる偶然と幸運で啓太の策謀ではないとはいえ、 この時点で後手後手となり、タバサを罰する機会も大金を奪われたことに 抗議する道も閉ざされつつあったのである。 前ページ次ページいぬかみっな使い魔
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アルビオン ニューカッスル 地下 「ふっ、本当にあるとはね。この城に始祖のお宝・・・オルゴール、祈祷書、香炉か・・・微妙にしょっぱいわねぇ・・・」 「それにしても本当に立派な内装だわ」 切捨てごめーん! 骸骨男がフーケの後ろから切りかかる ザシュ 「ククク、始祖の秘宝に誘われてのこのこやってきたかこの愚か者めっ!」 刀を舐めながら 「あんなもんはうそっぱちよ!ここに来た人間はこの妖刀デルフリンガーいけにえになる運命なのだ!黙って斬らせろ!」 「キエーーーーーーーーーーーーーーーーーー」 「っきゃ」 微妙に少女っぽい悲鳴をあげこけるフーケ なぜかパンツが見えている 「うひゃひゃひゃひゃ」 なんとか間一髪で白刃どり うりゃー と気合で刀ごと倒す 「なんだたいしたことないじゃないか」 素で倒せると思ったが 何故か天井から逆さまに顔を出し、フーケの攻撃を防ぐ謎の骸骨二号 「ご無事ですか殿!」 ”殿” ”ウェールズ” しゅた 「そして引っ込むのか!」 そして ぞろぞろ出てくる骸骨量産型 おわり