約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/revelations/pages/100.html
銀行A 銀行B 銀行C 銀行D 医者A 医者B 医者C 医者D 医者E 医者F 鍛冶屋A 鍛冶屋B 鍛冶屋C 鍛冶屋D 鍛冶屋E 鍛冶屋F 仕立屋A 仕立屋B 仕立屋C 仕立屋D 仕立屋E 書店A 書店B 書店C 銀行A 「あぁこれじゃ計算合わないな。仕入れがおかしいぞ」 「あぁ待て返済が間に合ってないなぁ。早くしないとな」 「えぇ勿論ですよ。あっわかりました、じゃあ全て任せて下さい」 金を引き出す 「ありがとうございました」 「きっと上手くいきますよぉ」 「お気をつけて。またのお越しを」 何もしないで退店 「またの機会に」 「では、またの機会に」 「では、お気をつけて」 銀行B 「もぅ新しい物がいくらでも出てきてさぁ俺とし…」 「最近は仕入れ値が高くなってたまりわせんわ。ほんまに」 「まったくいくら言っても返してくれないんだから。っとにどういう事になってるんだろうなぁ」 金を引き出す 「結構、それではまた」 「どうも、またどうぞ」 「引き続きご贔屓の程よろしくお願いいたします」 何もしないで退店 「では、またのお越しを」 「ご心配なく。いつでもどうぞ」 「ご心配なく。いつでもまたどうぞ」 銀行C 「ただ今計算しました所このような金額なのですが、どうでしょうか」 「あぁこれはこれは、どうもありがとうございます。是非ともご贔屓に」 「今回ご用意したのはこのようなものになっておりますが、どの程度の予算をお考えでしょうか」 金を引き出す 「これで全て完了です」 「ご成功をお祈りしております」 「ご利用ありがとうございました」 何もしないで退店 「では、お気をつけて」 「左様で。それでは、また」 「それでは、またのお越しを」 銀行D 「そうだ、あれを持ってきたら投資ができると」 「ちょっと待てよ、これじゃ利息の計算が合わないじゃないか」 「えぇとじゃああれの口座を持ってくると、こっちも出来るからえぇ…」 金を引き出す 「またのご利用を」 「引き続きご利用のほどを」 「またのご利用をお願いします」 何もしないで退店 「またの機会に」 「では、これでいずれまた」 「ご心配なく。またどうぞ」 医者A 「具合でも悪いのかね」 「医者の助けが必要かね」 「病気に怪我、何でも治しますよ」 「この辛い痛みをやわらげて進ぜよう」 「ほれ。この街の医者の腕を信用しなされ」 「骨接ぎ、傷の縫い合わせ、ヒル治療、何でも出来ますよ」 店に入る 「どんな御用かな」 「おや、何かお困りかな」 「何かお困りのようだが」 金を使い退店 「これですぐに治ります」 「大丈夫。すぐに気分が良くなります」 「終わりです。何かあったら来て下さい」 金を使わず退店 「気が変わったらまたお越しを」 「ふぅん。今は様子を見ましょう」 「ではまた必要になったら、また来て下さい」 医者B 「悪い血をヒルで吸い出そうか」 「さぁどうぞ。日頃の健康管理が大切です」 「口臭には苔とニンニクの湿布が効きますよ」 「病気に怪我、何でも治します。ヒル治療もどうぞ」 「硝石と硫黄はいかがかな。耳鳴りがピタリとやむよ」 「コリアンダーとレモンの湿布だよ。リュウマチとサラダにはこれが一番」 店に入る 「何か御用でしょうか」 「今日はどうしたんだ」 「今日はどうなさいましたか」 金を使い退店 「すぐに良くなりますよ」 「では、またいつでもどうぞ」 「大丈夫じきに良くなりますよ」 金を使わず退店 「またの機会に」 「御用の時はいつでも」 「またの機会にどうぞ」 医者C 「何にでも効くよ」 「さぁさぁ健康になりたい人達よ」 「恥ずかしがらずに見せてみなさい」 「水銀を使った新しい頭痛薬を調合したよ」 「子供が出来ない?柘榴の軟膏や蠍のゼリーはどうだい」 「腫れ物や吹き出物など、どんなデキモノでも上手く潰してやるぞ」 店に入る 「どうしました」 「どうなさいましたかな」 「今日はどうしました」 金を使い退店 「最善は尽くしました。ではまた」 「すぐに気分が良くなりますよ。お大事に」 「良くなりましたが、予防こそ最高の薬ですからね」 金を使わず退店 「では、では次回」 「いつでもここにいますから」 「では、御機嫌よう。また何かあったら来て下さい」 医者D 「病気に怪我、何でも治します」 「お悩みの方は遠慮せずにどうぞ」 「たいていの手術はこの場で行います」 「病気でも怪我でも何でも治療しますよ」 「腕には絶大なる自信を持っております」 「常に最新式の治療を提供しております」 店に入る 「どうなさいましたかな」 「さて、今日はどうしましたか」 「さて、今日はどうされましたか」 金を使い退店 「今は大丈夫だが、気をつけるように」 「少し休めばすぐ良くなりますよ。ご心配なく」 「傷口が開かないように、あまり動かないことですな」 金を使わず退店 「またのお越しを」 「御用の際はいつでもどうぞ」 「具合が悪くなったらいつでも来るように」 医者E 「さぁどうぞ最新の薬物療法であなたのお悩み解決致します」 「新鮮で丸々太ったヒルを使えばどんな病気もイチコロだとも」 「健康が第一だよ。それよりも大切な物なんてあると思うかい」 「イブンダ式の治療法だよ。名医直伝の最新治療はいかがですか」 「あなた、自分の体をおざなりにしてると後で大変な目に遭いますよ」 「最新の医術と錬金術を駆使してあんたを治療して進ぜようじゃないか」 店に入る 「何処かお悪いようですな」 「いかんなぁ、顔色が悪いぞ」 「おや、目の周りが緑色になってるが」 金を使い退店 「腕が黒ずんだらすぐ来るように」 「これからは尖ったものを避けるように、いいね」 「お大事に。いいですか野菜を忘れないで。ハッハッハッ」 金を使わず退店 「よろしい。ではいずれ」 「そこが腐りだす前に来るように」 「具合が悪くなったらいつでもどうぞ」 医者F 「薬も毒もあるよ」 「皆さんの何人かは年に一度の健康検査を怠ってますね」 「いらっしゃい。健康を大切にするのは今からでも間に合います」 「昔ながらの治療法から最新のものまで必要な治療は何でもしますよ」 「治験を行い効果が実証された治療術や、鉛を使った最新の薬の数々」 「イブン・ルシュドの治療法ならどんな病気も良くなります。彼の治療を再現します」 「薬も毒もあるよ」 店に入る 「どうしましたかな」 「治せるかもしれん」 「何処か具合が悪いですか」 金を使い退店 「もう元気になりましたね」 「では早く回復するといいですね」 「健康が貴方とともにあらんことを」 金を使わず退店 「ではまた」 「ではまた。もういいですよ」 「また何かあったら来て下さい」 鍛冶屋A 「最高の細工品を作ってますよ。どうぞ、見て行って下さい」 「これほど上等な細工、他では絶対に見た事が無いはずですよ」 「特別なお客様に大奉仕。値段は高めでも永久保証付きですよ」 「最高の品に最高の値段。スルタン仕様の鎧は値段もスルタン級だ」 「お客様は皆高貴な方ばかり。最も目の肥えたお客様に選ばれる店だ」 「いらっしゃい。当店の品はどれも値が高い分、品質は折り紙つきですよ」 「うちで扱っている品は一級品ばかり。物の価値がわからない人には来て欲しくないね」 金を使い退店 「結局、金は天下の回りものですからね」 「まっ、大したものは買わないと思ってたが」 「失礼をば持ち合わせがないように思えたので」 金を使わず退店 「ふんっ、やっぱり冷やかしか」 「持ち合わせがない?なんとまぁ」 「結局、来る店を間違えたようですね」 鍛冶屋B 「うちには何でも揃ってるよ。まっ、探し出せれば…だが」 「店はとっ散らかってるが品質は保証付きだ。嘘じゃないよ」 「自慢の刀をご覧あれ。ただ殆どは間違って出荷してしまったが」 「最高の武器と防具が揃ってるよ。何処に何があるかよくわからないがね」 「おーい寄ってかないかぁ。この街一番のお買い得品が揃ってるよ…多分」 「金物なら任せておいてくれ。あれっ小僧はどこだぁ。さっきまでいたんだが…」 「針の先みたいに、とんがった槍を作ったんだ。豚でも何でもブスッとね。確かここらへんに」 金を使い退店 「お気をつけて。またのご利用を」 「さぁどうぞ。お友達によろしく」 「きっと気に入りますよ。またいつでもどうぞ」 金を使わず退店 「どうも無いみたいで…確か…おや、ではまた」 「またのお越しを。それまでに何か見付けておきますよ」 「お探し物はあるはずなんですがねぇ…何でしたっけ。またどうぞ」 鍛冶屋C 「いらっしゃい。今週は赤字覚悟の大売り出しだ」 「大売り出しだ。去年から持ち越した在庫品も一斉に値下げだ」 「目を疑う低価格でご奉仕中。買って満足間違いなしの一品だよ」 「買わないと後悔するよ。ほら見てきながっかりはさせないから」 「最高の品を最低の値段で。ありとあらゆるお買い得品が揃ってるよ」 「さぁ大売り出しだ。女房には怒られるが何と言ってもお客様は神様だ」 「こんなに良心的な値段他にはないよ。さぁ自分の目で見て確かめてくれ」 金を使い退店 「またのご利用を」 「お友達にもよろしく」 「きっとご満足いただけますよ」 金を使わず退店 「またお越しを」 「気が変わったら、またいつでもどうぞ」 「生憎何でもかんでも置くわけにはいかなくて」 鍛冶屋D 「品質が良ければ値段もそれなりに上がる。こりゃ当然だ」 「最高品質の刀を取り揃えている。敵もこれでバッサリだ」 「先月はボルの知事が騎兵隊の為に200もの槍をお買い上げ下さったんだ」 「鎧も色々取り揃えてるよ。軽くて動きやすいのから、強くで丈夫なのまで」 「よそよりは高いかもしれないが、品質は間違いない。どれも一級品ばかりだ」 「最高の品ばかりだよ。実際に手に取って見てもらえば値段に納得すること請け合いさ」 「んっんっ、目利きなら満足すること間違いなし。道を極めた人は道を極めた店で買わないと」 金を使い退店 「では、またどうぞ」 「もう一度数えよう」 「どうやら本物のようだな」 金を使わず退店 「えぇ安物は無いんです」 「ここは高いものしか置いてなくてねぇ」 「生憎お似合いの品は無いようですねぇ」 鍛冶屋E 「精巧な金属加工、種類豊富、品質は保証付き」 「正直がモットーですから、お値段はとても良心的ですよ」 「腕利きは道具も拘らないと。一生物の武器と防具を揃えてるよ」 「台所用品、荷車の車軸、その他各種道具何でも修理いたします」 「当店の自慢は高品質の低価格でございます。どうぞお確かめ下さい」 「どうだい抜群の切れ味に鉄壁の守りだ。どれを買ってもがっかりはさせないよ」 「季節の変わり目の大売り出し。今月限りのご奉仕だ。蹄鉄10個お買い上げで1個おまけ」 金を使い退店 「是非またお越しを」 「それではお気をつけて」 「お気をつけて、またのご利用を」 金を使わず退店 「またのお越しを」 「いつかまたどうぞ」 「では、またどうぞ」 鍛冶屋F 「手に取ってみればわかるよ。職人の年季が違うんだ」 「武器なら当店でどうぞ。品質の良さをお確かめ下さい」 「腕の良い職人が設置場所に合わせた取付工事も致します」 「手頃なお値段でいい品物をお望みならこの店に来て正解ですよ」 「傷んだ品は一つもないよ。うちのは腕によりをかけた高級品だよ」 「さぁ手に取って見て行って下さい。お探しの物が見つかるかも知れませんよ」 「泥棒対策も当店にお任せを。最新式のカンヌキや錠前を特別価格でご提供中」 金を使い退店 「またのお越しを」 「お友達にもよろしく」 「ありがとうございます」 金を使わず退店 「またどうぞ」 「またいつかどうぞ」 「御用の際はいつでもお越しください」 仕立屋A 「比べりゃわかるよ、品質の良さ」 「うちの素晴らしい製品を見ていかないとは犯罪同然だよ」 「うちは最高の絹や皮しか使ってないから、一生使えますよ」 「私が選んだ婦人用のショール、ストール、スカーフはとびきりだよ」 「うちは下着にも自信がありますよ。ずれない股あてなんていかがですか」 金を使い退店 「では、またのお越しを」 「素晴らしい。では、また」 「満足されたお客様が、また一人」 金を使わず退店 「またの機会に」 「では次の機会に。さようなら」 「勿論承知してます。では、また」 仕立屋B 「どうぞ御覧下さい。がっかりはさせませんとも」 「ここにある衣はどれも一級品。最高の絹織です」 「さぁ自慢の技と長年の経験が、どれ程のものか見てって下さい」 「便利な飾り物もたくさん。自分では必要な物はわかりませんよ」 「この細かい模様を見て。うちで扱ってるのは本物の職人のだけですよ」 金を使い退店 「どうもまたの機会に」 「どうもまたのお越しを」 「ではまたお仲間にも宣伝を」 金を使わず退店 「また次の機会にでも」 「毎日営業してますから」 「ではまた次回、さようなら」 仕立屋C 「当店の服はどれも最新流行ですよ」 「当店のお客様がそんな格好ではいけません」 「いい絹帯を締めれば、つまらない服も見違えりますよ」 「そのブーツはちょっと…そうだお客さんにピッタリの品がある」 「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。最新流行。他では手に入らないよ」 金を使い退店 「また来た」 「すぐ新しいのが入荷します。これからもご贔屓に」 「ちょくちょく寄って下さい。流行はすぐに変わりますよ」 金を使わず退店 「またの機会に」 「ではまた。お手伝いしますよ」 「うぅ長いこと貧相な服を着ていますねぇ」 仕立屋D 「イスファハンとエルカヒランなど絹紬なら私が一番」 「他にも色々あります。全て私の匠の技によるものです」 「さぁ目を見張る技であなたを豪華に着飾って差し上げましょう」 「本物の素晴らしさに誰が抗えましょう。入ってみたらびっくりするよ」 「あなただけに生涯衣料制度を。揺るぎない我が名声がそれを保証します」 金を使い退店 「お目が高いですね」 「どうも、またのお越しを」 「良い買い物ですね。ではまた」 金を使わず退店 「次の機会に」 「勿論承知してます。ではまた」 「今日はあれですが…きっと戻って来ますよ」 仕立屋E 「さぁさぁお客様はカリフ様ですよ」 「今すぐ美しい絹であなたを包んで差し上げますよ」 「うちの裁縫はどこにも負けないよ。うちは最高の仕上がりだよ」 「最高のものが手元に、さぁどうぞ。上質の心地良さを堪能して下さい」 「腕がなくちゃシルクの精とは呼ばれないよ。いつでも注文を受けますよ」 金を使い退店 「素晴らしい。ではまた」 「いい買い物ですよ。ではまた」 「ご満足いただきましたか。ではまた」 金を使わず退店 「では、また次の機会に」 「見てくだけでも損はないよ、じゃあ」 「お探しの物でないようで、承知しました」 書店A 「当店の自慢は現代語に訳された改訂版アリストテレス全集です。 最高級の羊皮紙を使ってアテネの熟練職人が製本した全6巻本です」 「このソクラテスの問答法に関するプラトンの書物は、 まぁ色褪せ黴も生えているのでこの際格安でお売りします」 「いらっしゃい。新進写本家の手になる最新作の売り出しだ。 ギリシャの古典に英雄物語。さぁ早い者勝ちだよ」 「特売品好きの皆様、アリストファレスの写本を二種類入荷しました。 いずれも古く状態も良くないため格安で提供いたします」 「自慢の書物の数々を手に取ってご覧下さい。 掘り出し物が見つかること間違いなし。 ははっ、まさしく人類の叡智の宝庫です」 「ここにある聖典が紹介する啓示の数々、 皆様も是非ご自分でお確かめ下さい。 敬虔な僧侶が何年もの年月をかけて完成させた傑作です」 「皆様に嬉しいお知らせを。 我が工房に名門出の才能豊かな新進写本家が加わりました。 偉大なる作品の数々を特別価格でご提供申し上げます」 金を使い退店 「どうも、またどうぞ」 「毎度どうも。またどうぞ」 「ご利用ありがとうございます」 金を使わず退店 「ではこれで。またどうぞ」 「またどうぞ。どうかお気をつけて」 「次回までにはご希望にそえるような本を揃えておきましょう」 書店B 「超大作英雄物語エグゼナを待ち望む皆様の声にお応えして、 この度写本の大量発注を決定いたしました。乞うご期待」 「当店はいかなるご要望にもお応えいたします。 現在膨大な数と種類の在庫があり、 しかも今週は宗教本をお買い上げの方には祈祷書を差し上げます」 「アルキメデス、ユークリッド、ディオゲネス、 クセノフォン、ピタゴラス、ヘロドトス、 エンペドクレス、アナクシマンドロス ベストセラーをご所望?なら当店へ」 「来たる月曜日、私の蔵書を公開致します。 自慢の秘蔵本をお買い下さるはずだった総主教が、 残念な事にお亡くなりになったのです」 「聖書は完売いたしました。 現在来年の分の予約を受け付けています。 今すぐ先行予約して特別割引の特典と安心を手に入れましょう」 「西方に端を発する浅はかな技術など恐れるに足らず。 持ち運べる?印刷機械?はぁぁ! 我が工房が誇る写本と木版印刷の素晴らしい技術に勝る物などありません」 「製本または写本をご要望の方へ朗報です。 当店は街一番の低価格でお応えします。 しかも大量発注の場合は割引いたします」 金を使い退店 「どうも~、またのお越しを」 「毎度ありがとうございます」 「お友達にもよろしくお伝え下さい」 金を使わず退店 「またいつかどうぞ」 「またの機会にどうぞ」 「承知しました。早速入荷致します」 書店C 「ペルシャ医学の父アル・ラジーの大作、薬物学入門を入荷しました。 医者の卵や医学界の重鎮にはピッタリの贈り物です」 「このガザーリの大作をご覧あれ。 何という繊細な文字、凝りに凝った装丁に仕上げの素晴らしさ。 まさしくお宝本です」 「どれも今話題の新作ばかり。 出来たてのホヤホヤだ。今一番イケてる人、小説の数々。 タダ同然の値段で大放出だ」 「イブン・ルシュドの医学書を入荷しました。 特別に破格の安値でご提供申し上げます。 最後の数ページが足りませんが、まぁ新品同様です」 「さぁいらっしゃい。 アルアンドロス、アルジャジーラ、エルカヒーラ、バクダット、イスファハン、 目の肥えた読者のために、そこら中から傑作を掻き集めましたぞ」 「ギリシャの叡智、アラブの景色、トルコの実用主義、ペルシャの嗜好、ローマの衰退。 なんでもござれ。 古書なるものから退廃的なものまでここに来れば何でもあるよ」 「昨今のせいせきしょうとつにも関わらず、 この度イスファハン派の哲学本を入手しました。 我々がかの国から学ぶべき事は数多くあります」 金を使い退店 「どうも、またのご利用を」 「毎度どうも。またのお越しを」 「それでは、ご利用ありがとうございます」 金を使わず退店 「えぇいつかまたどうぞ」 「またのお越しを。さようなら」 「何でもかんでも揃えられないよ。ではまた」
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/138.html
最終話 一(ひとり)前編~永遠に幸あれ~ 前ページ次ページゼロの影 烈風が巻き起こり、草を千切った。 銀色に鈍く輝く爪と鎌がぶつかり合い、甲高い音を響かせる。白と黒の服を着た男が交差し、攻撃を繰り出すたびに光が走った。 「よく動けるねえ。不死身なのかい?」 感心したような死神の台詞にミストバーンは沈黙で答えた。代わりにルイズが胸の内で毒づく。 (あんたに言われたくないわよ) ルイズはふらつきながらワルドの杖を拾い、近づいた。 「大丈夫? ワルド」 「その言葉だけで……十分さ」 軽口を叩いてみせるが顔色は蒼白だ。 ワルドの腹部と足の傷は深いが、ルイズが水の秘薬を所持していたためそれを使った。ミストバーンがフーケとの取引で入手し、彼に比べれば遥かに脆弱なルイズに一部を渡していたのだ。 ウェールズとワルドが力を合わせて『水』系統の魔法を唱えると応急処置程度の効果は得られた。二人とも『風』の系統を得意とするため最低限しか癒されなかったが、贅沢は言えない。 ルイズは『記録』や『解呪』を使用して消耗している。暗黒闘気を撃ち込まれ地面に叩きつけられたため、体がまともに動かない。 ウェールズは暗黒闘気を克服して不安定な状態から脱したものの、罠の炎を突破したせいで体力がほとんど残されていない。 特に足の火傷が酷く、炎は闘気に近い性質があるため治療できない。 ワルドは腹部の傷がある程度ふさがったばかりで、足もしばらく動くことができないほど傷つけられている。 今まで遍在だけでなく様々な風の魔法を使ったのだ。もう力はほとんど残されておらず、全身の切り傷や火傷も癒えきっていない。 誰も満足に戦えない。 その場から動けない状態では魔法を当てることは難しく、連発するほどの力は残されていない。 見ていることしかできない三人にはわかった。 ミストバーンも限界だということが。 闘魔傀儡掌も闘魔滅砕陣も使用せず、爪の剣のみで戦っている。友人だからといって手加減するような性格ではないというのに。 動きのキレも攻撃の速度も隻腕かつ消耗しているキルバーンと同程度。万全と言うには程遠い。 ずっと罠の炎によって生命を削られ続けていた。本来まともに動くこともできぬはずだ。 封印を解除しようとしても、呪いの効果がまだ残っている。 キルバーンは挑発するように笑みを漏らした。 「魔界の情勢は一刻を争うんだ。ホラ、早くボクを仕留めないと」 ひらりと舞うように攻撃を回避し、後退する。 「一つ忠告しておくよ、怒りっぽかったらマズイって。こんな風に――」 「だめ!」 距離を詰める彼を見て悪寒に襲われたルイズが悲鳴を上げた。 罠が作動し、飛来した無数の光の槍が全身に突き刺さった。衝撃によって人形のように体がはねる。 「かは……あ……」 地に膝をつく乾いた音が響いた。 ルイズは顔をそむけたくなる衝動を必死にこらえた。膝をついた彼は立ち上がろうとするが、体が動かないようだ。 倒れることだけはこらえているのも、一度倒れれば起き上がるだけの力は残されていないため。 罠があるとわかっている相手をも引きずり込む誘導こそ、死神の真骨頂。 キルバーンはもったいぶって指を立てて振ってみせる。 「なるからさ。側近は主より冷静(クール)じゃないと。……ね?」 「やったあ、蜂の巣だっ! キャハハッ!」 風に乗ってどこからともなく子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。一つ目の小人、ピロロのものだ。遠い場所から観戦しているのだろう。 この場にいない使い魔をたしなめてキルバーンは得物を構え直した。 ワルドが必死の形相で、動けぬ体で立ち上がろうとする。それを押しとどめたのはルイズだ。 「このままでは、彼は――!」 血を吐くような声に対して、彼女の声も震えている。 「大丈夫じゃないけど大丈夫よ。あいつがひれ伏す相手は、一人だけだから」 目を血走らせ、唇に血がこびりつき、青ざめ泥まみれになった顔で語るルイズにワルドは言葉を呑み込んだ。 多少戦いに慣れたと言っても実戦経験豊富とは言いがたい。このような非道な敵と戦ったのは初めてだ。 悔しさと怒りが混ざった表情は、張り詰めた糸が切れる寸前だと告げている。 「ゴメンね蜂の巣にしちゃって。今楽にしてあげるから――」 「キル」 滅びの淵へと近づいているとは思えぬ声が響いた。 白い衣のあちこちが破れ、そこからしゅうしゅうと黒い霧が立ち上り、消えていく。眼光鋭い彼の放つ殺気に、空気が痛いほどに震える。 友からの言葉と攻撃で冷静さを取り戻したのか、声は静かだった。 「蜂の巣にするとは……こういうことだ」 次の瞬間キルバーンは目を見開いた。わずかに体が揺れる。 「――え?」 自分の体を見下ろした死神の口から間の抜けた声が漏れた。 銀光が流れたと思った時には、全身に鋼の爪が突き立てられていた。両手の指全てが胴体を貫通している。 “仕掛けてはめる”ことを得意とする死神とは違う、数千年の間戦い続けてきた者の極限まで集中した攻撃。 それを見切るのは不可能に近い。 爪を引き抜いて戻しながらもミストバーンの動きが止まることは無い。 この程度では死なないということを、よく知っている。 地を蹴って接近し、手刀を繰り出し胸を刺し貫く。そのまま指を動かして心臓と思しき箇所に触れ、掌に暗黒闘気を集中させた。 思い描くは、自身の最強の技。 全ての力と感情を乗せた、最後の一撃。 「闘魔最終掌」 掌から黒い波動――限界まで圧縮された暗黒闘気を迸らせる。 鈍い音が響き、体が大きく震えた。鎌が手からポロリと落ちて地面に転がったが、度重なる激突のためか刃が砕けてしまった。 「ガハ……ッ! 酷いことするなァ、キミは……っ!」 一息に心臓を握り潰された死神の口から驚愕に満ちた声が絞り出され、首ががくりと垂れる。 心臓を瞬時に完全に破壊される――生物ならばすぐに息絶えるはずだ。 それでも死神は切れ切れに言葉を紡いだ。これだけは訊いておかねばならないというように。 「ねえ、ミスト……ボクは、キミの友達だったかい?」 かすれた声に、ミストバーンは小さく、だが確かに頷いた。 先ほどまで燃えるようだった目の光が弱くなっている。 これで全ては終わった――はずだった。 数百年の付き合いの友を、自らの手で殺す。 ミストバーンの心境を考えたルイズ達は沈んだ気分になったが、言葉を失った。 キルバーンは顔を上げると手から逃れるように二、三歩後退したのだ。 胸に大きな穴が開いた状態で、隻腕で拍手するような仕草をしてみせる。 心臓を完全に破壊されたはずなのに生きている。 死ぬ寸前に見えたのは演技だったのだろう、ぎこちないとはいえ急所を攻撃されたとは思えない動きだ。 「さっすがミスト。もう少しで壊されちゃうところだったよ」 パチリと指を鳴らすと黒い蔓――ルイズ達を狙ったものと似ている――が伸びて彼の全身に巻きついた。 動きを封じ、凄まじい力で締め上げていく。 「く、う……!」 「これで最後の罠さ。キミに相応しい罠を捧げられなくなったのが残念だ」 ギシギシという音が響く。普通の体ならば骨を砕かれているだろう。 だが、拘束するだけならばいずれ脱出してしまう。罠を使い果たしたという言葉に嘘は感じられず、得物も失ったというのに焦りは見られない。 死神は観客に対するように、大げさに手を広げた。 「とっておきの秘密を教えてあげる。キミに隠し事をしたままじゃ心が痛むからね」 ぽっかり空いた穴を隠すように手で胸を押さえ、俯いてみせる。 「実は、ボクは機械でできた人形なんだ。本体が声色を使って使い魔を演じていたのさ」 戒めを解こうとするミストバーンの動きがピタリと止まった。 信じがたいが、不死身に近い生命力はそう考えないと説明がつかない。本体というのは一つ目の小人――ピロロのことだろう。 「本体は大した力を持たず、人形を使って戦うんだ。“バーン様より強い”キミはそういうの嫌がりそうだけどねェ」 ミストバーンは凍りついたように動きを止めたまま目の前の死神を見つめている。 ルイズ達の表情が不満だったのか、死神は大仰に溜息をついて肩をすくめた。 「そんな顔しなくてもいいじゃないの。自分は一切傷つかず思い通りに動かせて、一方的に敵をいたぶれる……理想的だと考える人間もいるんじゃないかな?」 フフッと笑う死神――人形に、ルイズは顔をしかめた。最低の発想だと言うように。 彼女たちが今どんな表情をしているのか、ミストバーンには見ずともわかる。 本体のピロロはこの場にいない。気配を探るが掴めない。 観客の驚愕を直接観察したかったのだろうが、万一の事態を警戒して今回は別の場所から見るだけにとどめているようだ。 ルイズはともかく、ワルドに居場所が知られようものならば即座に殺されるかもしれない。 これまでのキルバーンの様子を考えると、本体が近くにいない時も動いていた。 遠隔操作できるのか。 それとも、普段は自律的に行動できるのか。 どこまでが人形の行動で、どこからが本体の意思なのか、わからない。 「我々の仲は……偽りだったのか?」 (そんな……!) 疲れたような声にルイズは反射的に首を横に振った。 演技だとは思えなかった、友情は本物だった――そう言いたいが、キルバーンに会って間もないルイズは口にできない。 唯一答える資格を持つキルバーンは、肯定も否定もせずただ笑っただけだった。 「ウフフッ、ビックリした? 信じられないって顔してるね。……証拠を見せるよ」 指が頭部の側面を押すと、仮面が落下した。 露になった面を見てミストバーンが息を呑む。 機械仕掛けの顔の中央には、異物が埋め込まれていた。 「黒の核晶……!」 ルイズの顔色が変わる。その単語はウエストウッド村で聞いたことがある。 黒の核晶――国をも簡単に滅ぼせる凄まじい威力の爆弾。 それが爆発すれば、自分たちだけでなくタルブの村も完全に消し飛んでしまう。 慌てて始祖の祈祷書をめくり、浮かび上がった文字を反射的に唱え始めるが、作動を阻止したり爆発を防いだりする魔法など存在しない。 ワルドやウェールズも形勢を逆転させるすべなど思い浮かばない。 ミストバーンは蔓のようなものに拘束され、動きを封じられている。手にも絡みつかれ爪を伸ばすこともできない。 そこまで強固な物質ではないが、このままでは内側からは千切れない。 それでも負けん気の強いルイズは詠唱を続ける。 (だからって、諦めるもんですかぁっ!) 全ての力を出し尽くし、誇りをかけた貴族らしい戦いの末に敗れるのではなく、このような形で終わるなど耐えがたい。 キルバーンはミストバーン以外の者を軽視しており、特にルイズは甘く見られている。先日『虚無』に目覚めたばかりで、使いこなしているとは言えないためだ。 一方的に嘲笑されたままでは終われない。 だが、このままでは力が足りない。 キルバーンも彼女の儚い抵抗を叩き潰そうとはしなかった。何らかの『虚無』を使っても、消耗した今の状態では効果を発揮できないと知っている。 焦りに染まる一同の表情を見て、笑い声が響いた。機械の顔まで笑っているように見えるほど、嬉しそうな。 「タイミングよく助けに来てくれる誰かもいないし、ピンチになったからいきなり覚醒ってのもないだろうし……“実は生きてました”なんてのもこの距離じゃねえ」 今ここで正体を明かしたのは全部吹き飛ばすからだろう。 ミストバーンの視線に意識を向けたためか、笑みを含んだ声が静かなものに変わった。 「もう一度訊くよ。ボクは、キミの友達だったかい?」 無邪気な質問への返事は無い。 親友だと思っていた者が顔を近づけ覗き込むのをミストバーンは凝視している。 いつもの口調なのに、目の前にあるのは人形の貌。 今喋っているのは本体なのか。人形なのか。それさえもわからない。 「最後にキミが喉から手が出るほど欲しがっていた帰還のヒントをあげよう。キミが考えた通り、ルイズが鍵を握るんだ」 でたらめを言っているのではないとわかる口調だ。相手に打つ手が無いと確信してから、真実を告げている。 いくら特殊な体を持つ彼といえども、弱り切った状態で至近距離からまともに爆発を食らえば滅びるだろう。 万一爆発から生き延びても、この場にいる人間は全員死ぬ。 全てが失われる。 やっと掴んだと思った手がかりも。 彼が心を震わせた光景も。 彼が認め、彼を知る者達も。 改めて手がかりを探し魔界に戻ることができたとしても、手遅れならば今まで仕えてきた数千年が無意味になる。 生きる理由を与えた相手を守りきれなかったという想いを抱えたまま、不滅の体を引きずって彷徨い続けることになる。 これから先、永遠に。 彼を待つ運命は、ゼロか一のどちらかだ。 『実は、戻る方法も無いわけじゃないんだ』 と、先ほども言っていた。 帰還の情報について欲していなかった態度を考えると、ミストバーンに再会する前から知っていた。 時期が来ればそのうち話したのかもしれないが、こんな事態になってしまったため機会は無くなった。 他にも情報――ルイズ以外の『虚無』の使い手など――を得ているのだろうが、その中から一部のみ与えたのだ。 何も言わないまま爆発させずにわざわざ知らせたのは、反応を見たかったからだろう。 「予備の人形(ボク)が魔界にあるから、それを使えば……キミはバーン様にお仕えできなくなっちゃうねえ?」 鎌を突き立てられたかのように、ミストバーンがビクリと身体を震わせた。 「バーンさまの、お役に――」 言葉は意識して吐き出されたものではなかったのだろう。力が欠けている。 大魔王以外に彼を必要とする者はいない。 そして、肝心な時に相手の役に立てなければ道具にすらなれない。一部の魔族はそういうもののことを“ただのゴミ”と言う。 「本当に、腐った性根の持ち主だな……!」 ワルドが吐き捨てるとキルバーンは照れたように頭をかいた。 「え~っ? それほどでも~」 倒れたまま会話を聞くウェールズがぞっとして呟いた。 (なんて、楽しそうなんだ) まるで心が芽生えたかのようだ。 気楽な口調は生真面目な友人をからかっているだけとしか思えない。いつもと同じように雑談しているだけだと錯覚させる。 生き生きとしている様子は機械仕掛けの人形とは思えず、手品師が張り切って最後のマジックを披露する姿によく似ていた。 「キル……お前にとって私は――」 「決まってるじゃない。……誇りだよ」 傷を抉られたような声に対し、答える方は自信に満ちている。 憎悪を向けられたのならば受け止めることができる。 嘲りの言葉の一つでも吐かれれば、それをきっかけに力に換えてぶつけられるだろう。 だが、友情は偽りだったと思わせる面と、嘘の感じられない言葉が合わさることで彼に残された力を奪っていく。 これも罠なのか、真実なのか、わからない。 ただ一つ確実なのは―― 「バーン様はキミをどうお思いになるかなァ。想像してごらんよ」 ある時は顔を隠し、ある時は素顔を見せながら放たれる見えざる刃(ファントムレイザー)が的確に心を切り裂いていくことだ。 回避は不可能。防御も無効。 希望を摘み取り憎悪までも刈り取る、死神の鎌。 長年付き合いのある相手だからこそ繰り出せる不可視の刃の檻が、彼の闘志を削り封じてゆく。 死神は知っている。 親友の強さを。 ただ攻撃しただけでは闘志を奪えないことも。怒りによって力を増すことも。源を絶たない限り逆転の可能性は消えないことも。 ほんの一瞬、ミストバーンの眼には死神の足元から伸びる影がまったく別のものに映った。 ――自分の真の姿に。 どれほど強い体を手に入れようと、戦いに勝利しようと、決して逃げられない己の亡霊(ファントム)に。 (僕は、これほど弱かったのか!?) ワルドが血がにじむほど強く唇をかみ締める。 大切な存在が希望を捨てずにいるのに、力になれない。 鍛錬に協力し、さらなる高みを見せてくれた相手が苦しんでいるというのに、何もできない。 (国を守りきれず……自分を救った相手も守れないのかッ!?) ウェールズが歯を食いしばり、拳を砕けんばかりに固く握り締める。 ミストバーンが彼の生命をつなぎ、ルイズの助けがあったからこそ闇の淵から戻ってくることができた。 それなのに、彼らから救われた生命だけでなく、彼らまでも喪おうとしている。 最も強い彼が力を失っていく姿が、他の人間にまで無力さをかみ締めさせることとなる。 負けられない理由がある。 守るべき存在(もの)がある。 誇りや信念がある。 それでも勝てないというのか。 今彼らが共有する感情を表すならば、ただの一語で事足りる。 勇気や闘志を振り絞るほど、より深く心を浸していくもの。 全てを投げ出してしまいたくなる、暗闇に閉ざされたような感覚。 人はそれを“絶望”と呼ぶ。 「そろそろ終わりにしよう。キミがこれ以上苦しまないように」 慈愛に満ちた呟きとともに黒の核晶が光った。 力を受けて作動したのだ。残された時間はせいぜい十数秒だろう。 このような結末では、“主のために全力を尽くし、誇りをかけて戦い、敗れた”と言うことすら許されない。 ミストバーンは戒めを振りほどこうとするが、何かを掴もうとするように腕を伸ばした姿勢のまま、動けない。 体が震えているのは力を振り絞っているためか、それとも――。 その様を見たキルバーンは素顔を手で隠し、極上の美酒を味わうような声で告げた。 「なかなかいい表情するじゃあないか、キミも」 それを聞いた瞬間、ルイズの中で何かが切れた。 死神はルイズ達の表情を鑑賞して高らかに笑う。 「アハハッ! そうそう、その顔! さよなら、みなさん」 キルバーンは仮面をつけて親友に向き直った。 「さよならミスト。……ボクのお友達」 付け足した口調が優しいものだっただけに、いっそう残酷だった。 ――声が消えた数秒後、閃光が弾けた。 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1147.html
アルビオン空軍工廠の街ロサイス。 そこに元レコン・キスタ総司令にして現アルビオン皇帝、オリヴァー・クロムウェルは側近とともに来訪していた。 目的はアルビオン空軍本国艦隊旗艦『レキシントン』号の改装の視察である。 『レキシントン』はアルビオンが革命戦争(と、レコン・キスタでは先ほど終結した内戦を呼んでいる)の際に、反旗を翻した船で、元の名を『ロイヤル・ソヴリン』という。 「何とも大きく、頼もしい艦ではないか。このような艦が与えられたら、世界を自由に出来るような、そんな気分にならんかね? 艤装主任」 「わが身に余りある光栄ですな」 『レキシントン』号の艤装主任にしいて、艤装終了後は艦長となるサー・ヘンリー・ボーウッドが気のない返事を返した。 ボーウッドはクロムウェルを快く思っていない。彼は軍人であり、上官の命令に服従するが故にレコン・キスタに組したが、心情的にはアルビオン王国側だったのだ。 「見たまえ、あの大砲を! 余の君への信頼を象徴する、新兵器だ。アルビオン中の錬金魔術師を集めて鋳造された、長砲身の大砲だ! 設計士の計算では……」 「トリステインやゲルマニアの戦列艦が装備するカノン砲の射程のおおよそ一・五倍の射程を有します」 「そうだな、ミス・シェフィールド」 ボーウッドは途中でクロムウェルの言葉を引き継いだ長髪の女性を見つめた。冷たい雰囲気のする、二十台半ばくらいの女性だった。 細い、ぴったりとした黒いコートを身に纏っている。見たことのない、奇妙ななりだった。マントもつけていないため、メイジでもないらしい。 クロムウェルは満足げに頷くと、ボーウッドの肩を叩いた。 「彼女は、東方の『ロバ・アル・カリイエ』からやってきたのだ。エルフより学んだ技術で、この大砲を設計した。彼女は我々の魔法の体系に沿わない新技術をたくさん知っておる」 「なるほど。しかしながら、たかが結婚式の出席に新型の大砲を積んでいくとは、下品な示威行為ととられますぞ?」 この『レキシントン』は国賓としてクロムウェルを始めとする神聖アルビオン共和国(新たなアルビオンの国名だ)の重鎮の御召艦としてトリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式に参加する予定である。 親善訪問に新型の武器を積んでいくなど、相手国への遠まわしな脅迫であり、砲艦外交ここに極まれり、である。 アルビオンの伝統、ノブレッス・オブリージュ…高貴なる者の義務を信奉する彼にとって、そのような下品な真似は虫が好かないのだった。 「ああ、君には『親善訪問』の概要を説明していなかったな」 何気ない風を装って呟くと、クロムウェルはボーウッドを二言、三言耳打ちした。それを聞いたボーウッドの顔色が変わる。目に見えて蒼白になった。 「馬鹿な! トリステインとは不可侵条約を結んだばかりではありませんか! このアルビオンの長い歴史の中で、他国との条約を破り捨てた歴史はない!」 激昂するボーウッドに、クロムウェルは静かに言い聞かせた。 「ミスタ・ボーウッド。それ以上の政治批判は許さぬ。これは、議会が決定し、余が承認した事項なのだ。いつから君は政治家になった?」 ボーウッドは軍人であり、彼にとっての軍人とは命令を忠実に執行する物言わぬ番犬である。こういわれては黙るほかにない。 「……アルビオンは、ハルケギニア中に恥をさらすことになります。卑劣な条約破りの国として、悪名をとどろかすことになりますぞ」 ボーウッドが苦しげにいうと、クロムウェルは鼻で笑った。 「ハルケギニアは我らレコン・キスタに統一されるのだ。聖地をエルフから取り戻した暁には、そんな些細な外交上のいきさつなど、誰も気に留めまい」 「条約破りが些細な外交上のいきさつですと? 貴方は祖国を裏切るつもりか!?」 ボーウッドがクロムウェルに詰め寄ると、その脇に控えていた男がすっと杖を突き出し、ボーウッドを制した。その男の顔を見て、ボーウッドが声を上げる。 「で、殿下?」 果たしてそれは、討ち死にしたと伝えられる、ウェールズ皇太子であった。咄嗟に膝をつき、ウェールズの差し出した手に接吻する。その手は氷のように冷たかった。 クロムウェルは満足そうに頷くと、周囲に促し、歩き出した。ウェールズもその後に続く。 ボーウッドは呆然と立ち尽くしていた。 クロムウェルは傍らを歩く貴族に話しかける。ワルドだった。羽帽子を被り、失われたはずの左手は義手が取り付けられている。 「子爵、君は竜騎兵隊の隊長として、『レキシントン』に乗り組みたまえ」 ワルドは密かに安堵した。空の上でなら、あの男…リゾットと出会うことはあるまい。 「目付け、というわけですか?」 クロムウェルは首を振ってワルドの憶測を否定した。 「あの男は決して裏切ったりはしない。頑固で融通が効かないが、だからこそ信用できる。余は魔法衛士隊を率いていた、君の能力を買っているだけだ。竜に乗ったことはあるかね?」 「ありませぬ。しかし、私に乗りこなせぬ幻獣はハルケギニアに存在しないと存じます」 だろうな、と言ってクロムウェルは微笑んだ。それから、不意にワルドの方を向いた。 「子爵、君の目的は何だ? 君の忠誠を疑うわけではない。が、トリステインにいても栄華は極められただろうに、何故こちらに裏切った?」 「『聖地』です。私の探すものはそこにあると思いますゆえ」 「信仰か。欲がないのだな」 元聖職者でありながら信仰心の欠片も持たないクロムウェルは笑った。 ワルドは首から提げたペンダントを開き、その中の肖像画を見る。綺麗な女性の肖像だった。それを見ていると、ワルドの心が……リゾットによって恐怖に打ちのめされた胸の奥が、再生されていくのだった。 しばし極小の肖像を見つめた後、ワルドは呟いた。 「いえ、閣下。わたしは世界で一番、欲深い男です」 第十七章 真実を探す者、真実を待つ者 キュルケたち一行は焚き火を取り囲み、リゾットの話す異世界の話を聞いていた。 自分が魔法のない異世界から来たこと、スタンドと呼ばれる異能力を持つこと、そしてスタンド使いがこちらの世界に召喚されていること。 タバサとキュルケは既に聞いていたので、ギーシュとシエスタに対する説明が主なものだったが、四人とも興味深げに耳を傾けていた。 「う~ん……。突飛もない話だなあ」 「月が一つしかなくて、貴族のいない世界っていわれても、想像できませんね……」 「でも、事実。そう考えたほうが色々なことが筋が通る」 半信半疑といった二人に、タバサが淡々と付け加える。 「まあね、僕もあの館でいろんな変な道具を見てなければ笑い飛ばしていたところだったけど……」 「信じられなければ、信じる必要はない。今までどおり、東方から来たと思ってくれていても一向に構わない」 「い、いえ、信じます! リゾットさんは意味もなく嘘をつく人じゃないって、分かってますから!」 慌ててシエスタが取り繕うが、リゾットに嘘は通じない。半信半疑レベルであることは表情や仕草から分かっていた。 「無理しなくていい。信じられないのが当然だからな」 「……はい」 内心を読み取られたことが恥ずかしいのか、シエスタは顔を赤くしてうつむいた。 「ま、相棒はどこから来たって相棒ってことよ!」 「そうですね。……あ、私、ご飯の様子見てきますね!」 「次はどこへ?」 リゾットの話は終わったと判断して、タバサが次の行き先を尋ねる。 「そろそろ、学院へ一旦戻ったほうが良いと思うんだが。学院を勝手に抜け出してしまったことだし。キュルケ、君はどう思う?」 DIOの館で財宝探しの目的を達成したギーシュはさっきから黙っているキュルケに話題を振ってみた。キュルケは答えず、爪の手入れをしていた。 無視されたことにギーシュは少し苛立つ。 「聞いているのかね?」 ギーシュが多少、声を荒げると、やっとキュルケは顔を上げた。 「……え? ごめんなさい、ちょっとぼんやりしていて、聞いてなかったわ」 「だから、僕はそろそろ学院へ戻るべきだと思うんだが、君はどうかね?」 「そうね…」 そういったきり、心ここに在らずと言った風情でまた押し黙ってしまう。ここ数日、夕飯などの自由な時間になるとキュルケはこんな調子だった。流石にリゾットも心配になる。 「大丈夫か? 疲れてるなら、今日はもう寝た方が……」 「大丈夫。ダーリンに気遣ってもらえて嬉しいわ」 頬を染めて笑うが、その笑顔にも妙に影があった。横で見ていたギーシュはそれを見てどきりとする。 今のキュルケは酷く儚げで、普段とは全く雰囲気が違っていたからだ。要するに、今までとは違う意味で色気がある。 (いかんいかん、僕にはモンモランシーがいるじゃないか) 頭を振って、ギーシュは今の感覚を振り払う。 「キュルケの体調も良くないようだし、リゾットには悪いがもう帰ろうじゃないか」 「そうだな……」 リゾットも同意する。しかし当のキュルケが顔をあげて反対した。 「大丈夫よ! 少し考え事をしていただけ! いつもどおりよ」 「……本当に体調は悪くないんだな?」 「ええ」 リゾットが真偽を確かめるため、キュルケの顔を覗き込む。キュルケは心臓の鼓動を抑えるのに苦労した。 「……嘘はついてないな。分かった。信じよう」 タバサは読んでいた本越しに二人を見て、首を傾げた。 実際、キュルケは体調が悪いわけではない。ただ、彼女は悩んでいただけだ。 手がかりが見つかればリゾットが喜ぶと思うが、それは同時にリゾットが元の世界へ帰る日が近づくことを意味する。それは嫌だった。 昼間はやることがあるので考えないようにしているのだが、こういった空いた時間になるとそれらが浮かび上がり、キュルケの思考はそこに流れるのだった。 「確かにギーシュの言うことにも理がある。もう一ヶ所回ったら一度戻ろう」 「あの貴族の娘っ子もそろそろ機嫌を直してるかもしれないしな」 リゾットがデルフリンガー、タバサと最後の一箇所を選び始めると、シエスタが明るい声を上げた。 「みなさーん、お食事ができましたよー!」 シエスタは、火にかけた鍋からシチューをよそって、めいめいに配り始めた。いい匂いが鼻を刺激する。 「こりゃ旨そうだ! と思ったら本当に旨いじゃないかね! 一体何の肉だい?」 ギーシュがシチューを頬張りながら呟いた。皆も口にシチューを運んで、旨い! と騒ぎ始めた。シエスタが微笑んでいった。 「オーク鬼の肉ですわ」 途端、全員シチューを吹き出した。今日の昼間、オーク鬼を倒したところなのでまさか……という気分になる。 「じょ、冗談です! 本当は野うさぎです! 罠を仕掛けて捕まえたんです!」 予想以上のリアクションにシエスタは焦って撤回する。キュルケなどは思いっきり咳き込んでいた。 「お、驚かせないでよね。でも、あなた器用ね。こうやって森にあるもので、おいしいものを作っちゃうんだから」 「田舎育ちですから。これは私の村に伝わるシチューで、ヨシェナヴェっていうんです」 シエスタは褒められたのが嬉しいのか、鍋をかき混ぜ、自分の皿にもよそいながら嬉しそうに説明する。 (ちなみに当初、シエスタは貴族の面々に遠慮して最後に一人で食事していたが、リゾットの「チームを組んで行動しているのに平民も貴族もない」という意見で、全員で食べるようになった。) 「父から作り方を教わったんです。食べられる山菜や、木の根とかを入れて、煮る。父はひいおじいちゃんから教わったそうです。私の村の名物なんですよ」 安心したのか、タバサがお代わりを要求し、シエスタはシチューをよそった。 おいしい食事を食べれば当然、みんな和む。リゾットは学院を出発してから一週間ほどたった今までの成果を振り返った。 あれからいくつかの場所を回ってみたが、いずれもハズレで、DIOの館以上の成果はなかった。 ケニー・Gを倒し、タバサが目覚めた後、館を探索したところ、黄金を始めとする大量の財宝・美術品の他に書物や電化製品、そしれそれに増して危険な品々が発見された。 財宝・美術品についてはギーシュとキュルケがしかるべきルートで換金し、書物に関しては好きなときに閲覧させてもらえるという条件で学院へ寄贈する予定だった。 美術品はいずれも地球ならば数十万から数千万ドルの値がつく品々だったが、美術品の値段は周囲の評価で決まる。 そのため、ハルケギニアでは売れないのでは、とリゾットは思ったが、キュルケに言わせるとそれならそれで売り方があるらしい。 残りの様々な物については使えそうな物、売れそうな物は持ち出し、使えそうにない物に関しては館に残した。 売却額がいくらになるか知らないが、DIOという人物は相当な資産家だったらしい。財宝だけでも大貴族が目を剥くような財産になる、とキュルケは断言していた。 (ルイズはどうしているだろうか……) 自分の恩人のことを考え、夜空を見上げる。月は変わらず二つ、そこにあった。と、そのリゾットの前に、新たな皿が出された。 見ると、シエスタが申し訳なさそうにはしばみ草のサラダが入った器をリゾットの前においている。 「ええと、ミス・タバサがどうしてもリゾットさんにこれをって……」 リゾットはタバサを見る。同志に対する親愛の視線が返ってきた。もちろん、その手にははしばみ草のサラダを持ち、黙々と食べている。 もはや抵抗する意思をなくし、リゾットは覚悟を決めてはしばみ草を食べた。 「……?」 想像した衝撃は襲ってこない。苦いことは苦いが、耐えられる苦さだった。 「シエスタ、これに何か特別の調理をしたか?」 「いいえ、何も?」 となると、考えられるのは自分がはしばみ草に慣れつつあるという可能性だけだ。人間の適応能力の高さに驚きながら、リゾットははしばみ草を食べ続けた。 食事の後、再び最後の一件を選ぶ。 「やはりここか……」 リゾットは一枚の地図を選んだ。 「なんというお宝だね?」 地図を突き出す。タルブ村の位置が示してあった。 「『竜の羽衣』だ。これで終わりにしよう」 シエスタがぎくりと身体を震わす。 「い、行くんですか? 本当に大した事ないものなんですよ?」 「何よ、貴方。知ってるの? タルブってどこらへんなの?」 キュルケの質問にキュルケは焦った声で呟いた。 「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原があって……、私の故郷なんです」 翌朝、一向は風竜の上でシエスタの説明を受けていた。 しかしやはりどこか要領を得ない。とにかく、村の近くに寺院があり、そこに『竜の羽衣』と呼ばれるモノが存在しているという。 空を飛べるらしいが、マジックアイテムでもないインチキのものらしい。妙に恥ずかしそうなので、問いただしてみる。 「実は……、それの持ち主、私のひいおじいちゃんだったんです。ある日、ふらりと村に現れて、その『竜の羽衣』で東の地から私の村にやってきたって、皆に言ったそうです」 「すごいじゃない」 キュルケは素直に感心したようだ。シエスタは言葉を続ける。 「でも、誰も信じなかったんです。ひいおじいちゃんは、頭がおかしかったんだって、皆言ってます」 「どうして?」 「誰もその『竜の羽衣』で飛んでいるところを見たことがないんです。ひいおじいちゃんは『もう飛べない』といって住み着いちゃって。でも、大事なものだったらしくて、お金をためて貴族に『固定化』の呪文までかけてもらってました」 「変わり者だったのね。さぞかし家族は苦労したでしょうね」 「いえ、『竜の羽衣』以外ではいい人だったので、皆には好かれていたそうです」 「インチキじゃあなあ…」 ギーシュはため息をつく。だが、黙って聞いていたリゾットは、逆に『竜の羽衣』に興味が湧いた。 「俺の世界から来たものは大抵、使い方を知らなければインチキにしか見えないものばかりだ。知らべる価値はある」 「『破壊の杖』もそう」 タバサが同意する。 「問題はそれが村の名物ってことだな。仮に何かの手がかりでも、持ち出すわけにはいかない……」 リゾットの呟きに、シエスタは悩みながら答えた。 「でも……、私の家の私物みたいなものだし、リゾットさんがもし、欲しいなら、父に掛け合ってみます」 「まー、実物をみてみねーとなんともいえねーわな」 デルフリンガーが締めくくりを言って、風竜はタルブの村へと羽ばたいた。 さて、一方その頃、魔法学院。 未だにルイズは授業にも出ず、部屋、食堂、浴場、トイレの四箇所をローテーションする生活を続けていた。 リゾットがヴェストリ広場にテントを張っているとの話を聞いて訪れたが、そこはもぬけの殻だった。モンモランシーによると、リゾットはギーシュ、キュルケと授業をサボって宝探しに出かけたという。 何だか楽しそうで、余計に泣けてきた。自分は仲間はずれなのか、とますます落ち込み、今日もベッドの中で泣いていた。 リゾットが使っていた毛布を頭から被る。それを見ているとますます泣けてくるのだが、手放すこともできないのだった。 そんなある日、学院長のオスマンがルイズの部屋を訪れた。ルイズは慌ててガウンをまとい、ベッドから降りる。 オスマンは身体の具合を尋ねると、次に詔の出来具合を尋ねた。ルイズはうつむいて首を振った。 「その顔を見ると、まだのようじゃの」 「申し訳ありません」 「まだ式までは、三週間ほどある。ゆっくりと考えるがいい。そなたの大事な友達の式じゃ。念入りに、言葉を選び、祝福してあげなさい」 ルイズは頷いた。自分のことで手一杯で、詔を考えるのを忘れていたことを恥じた。 (ダメね、私。姫殿下は私との友情を思ってくださって、巫女の大役をくださったというのに……) オスマンはルイズをしばらく眺め、立ち上がった。 「ところで使い魔のリゾット君はどうしたね? ケンカでもしたのかね?」 きゅっとルイズは唇をかむ。そんなルイズを見て、オスマンは優しい微笑を浮かべた。 「若い時分は些細なことでケンカをするものじゃ。時には素直に気持ちをぶつけてもいいんじゃないかの。リゾット君は大人じゃし、聞いてくれると思うがのぅ。ともかく、ちゃんと話し合わんことには、始まらんぞ」 そういって立ち去る。ドアが閉まった後、ルイズは呟いた。 「些細なことじゃないもん」 それからルイズは机に向かって始祖の祈祷書を開き、目を閉じると詔の作成に精神を集中させる。 目を開くと、ぼやけた視界に映る白紙のページに、何か文字のようなものを見えた。驚いて目をこするともう消えていた。 気のせいかとおもって再び精神を集中する。だが、なかなか集中できない。 これじゃダメだ、とおもって祈祷書を閉じた。落ち着いて、自分の今するべきことを考える。オスマンやキュルケの言っていたことが頭の中をぐるぐると回る。自分は何をすべきか、それを考えると、リゾットと話し合うことから始めるべき気がした。 「……そうよね。今のままじゃ、私は逃げてるだけだもんね…」 何故逃げていたのか? 要するに『覚悟』がないからだ。自分の使い魔と向き合うのを恐れていたからだ。 自分の使い魔を恐れるメイジがどこにいよう? ルイズは椅子から立ち上がった。着替えて外へ向かう。自分の使い魔を追うために。 リゾットたちはタルブ村の寺院を訪れ、『竜の羽衣』を見ていた。木で出来た奇妙な寺院の中に安置された、その濃緑の塗装を施された『竜の羽衣』は『固定化』の呪文のお陰で作られたそのままの姿でそこに存在していた。 キュルケやギーシュは、気のなさそうにそれを見ていた。タバサだけは好奇心を刺激されたのか、興味深そうに見つめている。 やがてリゾットがポツリと呟いた。 「珍しいな……」 「珍しい?」 リゾットの隣にいたシエスタが不思議そうに問い返した。 「どこの博物館だったかな……? 一度見たことがある。日本がまだ帝国だった頃に作成された戦闘機だ」 「あの…リゾットさん?」 シエスタはよく分からない単語を呟くリゾットを心配そうに伺う。リゾットはシエスタを見た。 「お前の曽祖父はインチキなどではない。これは空を飛ぶ。お茶を飲んだときに話しただろう? 飛行機だ」 「アレなんですか!?」 シエスタは目を輝かせる。タバサも目を見張って驚いていた。だが、横で聞いていたギーシュは吹き出した。 「冗談は止めてくれよ、リゾット。これはカヌーか何かだろう? それに翼をくっつけただけのインチキさ。大体、こんな翼じゃ羽ばたけない。羽ばたかないで空に浮かべるもんか」 「あたしもそう思うんだけど……違うの?」 キュルケさえも否定的だった。それほどそれはハルケギニアの技術からはかけ離れていた。説明するのが難しいので、リゾットは答えない。 「シエスタ。すまないが、曽祖父の残したものは、他にないか? 日記とかは?」 「えっと、あとは大したものは……、お墓と、遺品が少しですけど」 「それを見せてくれ」 シエスタの曽祖父の墓は、村の共同墓地の一角にあった。白い石で出来た幅広の墓石の中、一つだけ黒い石で作られ、その趣を異にしている。 「ひいおじいちゃんが死ぬ前に作ったものだそうです。異国の文字でかいてあるので、誰も読めなくって…。なんて書いてあるんでしょうね」 「やはり日本式の墓だな……。生憎、日本語は読めないが、シエスタの曽祖父は日本人だったんだろう」 「相棒、日本って何だい?」 デルフリンガーが興味深げに聞いた。 「日本は…トリステインとか、ゲルマニアとか、そういうのと同じ国名だ。そういえば…」 シエスタの黒い髪と瞳をまじまじと見る。リゾットに見つめられ、シエスタは頬を染めた。 「な、何でしょうか? そんなに見つめないでください……」 「その髪と瞳の色は、曽祖父から受け継いだのか?」 「は、はい! どうしてそれを?」 再び寺院に戻り、リゾットは『竜の羽衣』に触れた。すると兵器に反応して左手の甲に刻まれたルーンが光り、中の構造や操縦法が流れ込んでくる。 『竜の羽衣』の周りを一周しながらメタリカを展開し、各機関の隅々まで潜行させる。飛ばない原因は燃料切れと判明した。 「この世界にもガソリンがあるのか…? コルベール辺りに相談してみるか……」 見ると、タバサはプロペラを杖でくるくると回していた。ギーシュは胡散臭げに『竜の羽衣』を見ている。キュルケはまた何か考え事をしていた。時折リゾットを見て、ため息を吐いている。 キュルケの様子がおかしいので話しかけようとした丁度その時、シエスタが生家から帰ってきた。 「ふわ、予定より、三週間も早く帰ってきてしまったから、皆に驚かれました」 学院勤めの平民の大半は王女の結婚祝いに特別休暇を出される予定だったことを、リゾットは思い出した。 「ひいおじいちゃんの形見、これだけだそうです」 シエスタは古ぼけたゴーグルをリゾットに手渡した。 「日記とか、あればよかったんですけど、残さなかったみたいで。ただ、父が言っていたんですけど、遺言を遺したそうです。 何でも、あの墓石の銘を読めるものが現れたら、その者に『竜の羽衣』を渡して、『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、だそうです。陛下っていうのはやっぱり、日本という国の陛下なんでしょうか?」 リゾットは頷いた。 「確か今も日本には皇帝がいたはずだ」 「そうなんですか…。ええと、実は私、お父さんにリゾットさんがひいおじいちゃんの国を知っているみたいだって言ったら、お渡ししてもいい、と言われました」 「いいのか? 俺に日本語は読めないが…」 「ええ…。その、陛下という方にお会いしたときに『竜の羽衣』をお返ししてくれるなら、構わないと思います。それに……」 シエスタは声を潜めた。 「管理も面倒だし……、大きいし、拝んでる人もいますけど、村のお荷物らしいんです」 少し考えて、リゾットは貰うことにした。これを動かせれば相当な機動力を確保できるからだ。 「分かった。ありがたく貰おう。もしも飛ばせるようになったら、一度、この村に見せに来ないとな……。お前の曽祖父の汚名を晴らすことで、恩を返すことにしよう」 「はい……。天国のひいおじいちゃんも竜の羽衣が飛ぶ姿を見れば、喜ぶと思います」 「ああ。そうだ。こいつの本当の名前を教えておこう。『ゼロ戦』だ」 「『ゼロ』? ミス・ヴァリエールと同じですね」 シエスタがそういって微笑むと、リゾットは頷いた。 「そうだな。『ゼロ』の使い魔の俺に相応しいかもしれない」 その日、リゾットたちはシエスタの生家に泊まることになった。貴族の客をお泊めすると言うので、村長までが挨拶にくる騒ぎになった。 リゾットはシエスタの家族を紹介された。父母に兄弟姉妹。八人もいる兄弟の一番上の姉がシエスタだった。 その不気味な目が恐ろしいのか、リゾットはあまり近寄られなかったが、シエスタは家族に囲まれて楽しそうだった。 その様子を眺めていて、唐突に十八のときに捨てた家族を思い出し、リゾットは戸惑った。 リゾットはゼロ戦の置かれた寺院…つまり神社の前で剣を振っていた。シエスタたち家族を見ていると、どう対処すればいいのか分からない、奇妙な感覚に襲われるからだ。 暗殺のときはこういった感傷を殺すこともできるが、今、この場で暗殺者の思考になるのは流石にためらわれた。 それでもゼロ戦の近くに来ているのは、やはり自分の世界へ戻ることを渇望しているからかもしれなかった。 どちらにせよ、剣を振るときはそれに集中し、雑念を捨てられた。 気がつくと、タバサが境内の階段に座ってこちらを見ていた。本を抱えているが、読んではいない。 「……どうした?」 剣を振りながら問いかける。タバサはしばらく沈黙を貫いた後、口を開いた。 「寂しいの?」 「!!」 リゾットは虚を突かれ、剣をとめた。 「どうしてそう思う?」 「分からない。だけど、貴方を見ていてそう思った」 リゾットは考えた。自分は寂しいのか、と。そうかもしれないが、よく分からなかった。 「よく分からない」 「そう……」 しばらく沈黙が流れる。 「……お前が俺を寂しいと感じるのは……自分自身が寂しいからか?」 「!!」 今度はタバサが虚を突かれる番だった。やはりしばらく考える。 「…よく、分からない」 「そうか……」 また沈黙が流れた。いつの間にか辺りには西日が射していた。 次に口を開いたのはタバサだった。 「貴方が私を信じるように、私も貴方を信じている。貴方は一人じゃない」 「お前も一人じゃない」 二人は同時に、お互いにしか分からないほど、かすかに笑った。 「私はもう行く。貴方に会いたい人が別にいるから…」 後半部に少し今までと違う感情を含ませ、タバサは去っていった。 見送るリゾットの後ろから、声がかかる。 「ここにいたんですか。お食事の用意ができましたよ。皆で食べましょう」 シエスタだった。家に帰ってきたせいか、いつものメイド服と違う、茶色のスカートに、木の靴、そして草色の木綿のシャツといった私服を着ていた。 「ミス・タバサを知りませんか? どこかに行っちゃって」 「いや、もう戻った…」 「そうですか。じゃあ、行きましょう」 神社からシエスタの生家へと歩いていく。途中で、一面に草原が広がっていた。夕日が草原の向こうの山に沈んでいく。 リゾットは故郷のシシリー島を思い出した。シシリー島でも海の向こうの山へ太陽が落ちていくのだ。 「……まるで草原が海みたいに見えるな」 「そういえば、リゾットさんは海の近くで生まれたんですよね」 リゾットが頷くと、シエスタは草原に向かって両手を広げた。沈む夕日が辺りを幻想的に染め上げる。 「この草原、とっても綺麗でしょう? 私、小さい頃から好きなんです」 「そうだな……」 シエスタは両手を広げたまま、草原の中へ分け入っていく。くるくると回ったかと思うと、草原の中に倒れ、見えなくなった。 「おい…?」 声をかけるが、返事がない。仕方なく、リゾットもシエスタが消えた辺りに分け入って行く。と、手をつかまれた。リゾットもそれがシエスタだと分かっているので、掴ませてやる。 「捕まえた……」 シエスタにいつもの純粋な笑みを浮かべられ、リゾットはどうしていいか分からなくなった。特に今日はその度合いが大きかった。 しばらくそのまま、シエスタはリゾットの手を握っていた。だが、やがて離す。その顔は寂しげに曇っていた。 「なんて…ね。無理ですよね。リゾットさんは私なんかじゃ捕まえられません。どうしても、元の世界へ帰るつもりなんでしょう?」 「ああ……」 リゾットは頷いた。 「帰って、何をするんですか? 誰か、待っている人でもいるんですか?」 リゾットはどう答えようか迷った。いつものように拒絶で返すことも出来る。だが、シエスタは真剣に、彼女なりに『覚悟』を決めて訊いている。だからリゾットも答えることにした。 「いない…。家族とは皆、別れた。仲間たちは皆、死んだ」 「それなら、どうして帰るんですか? ずっとこの世界にいても…」 「仲間はただ死んだんじゃない。裏切られて、殺された」 シエスタを怯えさせないように、なるべく感情を込めず、平坦に言う。それでもシエスタはびっくりしたようだった。 「だから俺は裏切った奴に復讐しなければならない。殺された仲間はそうなることも『覚悟』して戦った。だから、これは敵討ちじゃない。俺自身の納得の問題なんだ。 『恩には恩を、仇には仇を』。恩を受けたら必ず返すように、俺たちの『誇り』と『信頼』を踏み躙った奴に、俺は報いを受けさせなければならない。そうしなくては次に進めない。 少なくとも今、俺はそう思ってる」 「……それでリゾットさんは幸せになれるんですか?」 気がつくと、シエスタは涙を流していた。それを見てもリゾットは淡々と答える。 「俺は幸せという結果を求めてはいない。納得のいく、俺の中の真実を求めているだけだ。その真実を、俺はまだ見つけてはいない」 「分かりました……」 シエスタは涙をぬぐった。 「じゃあ、待ってます。貴方が真実を見つけるまで。その真実が、帰らなくてもいいっていう結論であることも、あるんですよね? なら、私はそれを待ちます。私は何の取り柄もないけど、待つことは出来ます」 「待っても、期待に答えられるかどうかは、分からない」 「いいんです。勝手に待つだけですから。でも、偶にでいいから、少しは私を見てください。一緒にお茶を飲んだり、一緒に働いたりしてください。それだけでいいんです」 「分かった……」 シエスタが歩き出す。リゾットはその後について歩いた。暗い気分だった。仕事以外で他人に涙など流させたくはない。 不意に、シエスタが振り向いた。もう涙を流してもいない。それどころか微笑んでいた。 「さっき、伝書フクロウが学院から届いたんです。サボりまくったものだから、先生方はカンカンだそうですよ? ミスタ・グラモンは顔を真っ青にしてました」 クスクスと笑う。だが、その内側がまるで戻ったわけではないのはリゾットには分かる。他人の感情を察せると言うのも問題だ、とリゾットは思った。 「あ、そうそう。私のことも書いてありました。学院に戻らず、そのまま休暇をとっていいですって。そろそろ、姫様の結婚式ですから。だから、休暇が終わるまで、私はここに居ます」 リゾットは頷いた。 「ねえ、リゾットさん。あのゼロ戦、もしも飛ばすことが出来たら、一度でいいから、私も乗せてくださいね」 「…ああ。もちろんだ」 翌朝、リゾットたちはゼロ戦をロープで作った巨大な網に乗せた。ギーシュの父のコネで、竜騎士隊とドラゴンを借り受け、それで学院までゼロ戦を運ぶことになった。 ギーシュは「どうしてこんなものを運ぶんだ?」と怪訝な顔をしていたが、リゾットの頼みについに折れた。竜騎士隊を呼んだり、網を作ったりの諸経費がかかったが、DIOの財宝を売った金からすればそんなものは何の問題にもならないという。 事件は、学院への帰途で起きた。 「…………?」 シルフィードの上のリゾットは左目に違和感があることに気がついた。しきりに目を擦るが、違和感は取れない。 「どうしたの、ダーリン?」 「左目がおかしい…。目が霞む」 「疲れてるんじゃないか? 君はいつも一番負担がかかるところで戦ってたしな。疲れて当然だよ」 「寝る?」 仲間が心配そうに声を掛けてくる。大したことはない、と言おうと思った途端、左目が像を結ぶ。 「!?」 どこかの森の中だった。オーク鬼が見える。この視点を持つ人間は必死に逃げている。オーク鬼の向こうに、倒れた馬と、廃墟らしき礼拝堂が見えた。 「何だ…、これは?」 「ちょっと、ダーリン。どうしたの?」 キュルケが焦ったようにリゾットの肩をゆする。 「ルイズの視界か?」 『使い魔は主人の目となり、耳となる』という言葉を思い出し、呟いた。だが、これでは逆だ。 「おい、相棒、左手を見ろ!」 デルフリンガーの声に右目の視界を落とすと、左手のルーンが武器を握ってもいないのに光り輝いてた。 だが、そんなことは問題ではなかった。今、問題なのは、この視界の持ち主であるルイズがオーク鬼に襲われているということだ。 辺りを見回すと、森の木の陰にまぎれて見えにくいが、打ち捨てられたらしき礼拝堂が見えた。 「タバサ、あの礼拝堂の門から50メイルほど離れた場所の上を飛んでくれ」 タバサは理由も聞かずに頷いた。リゾットがそうしろというのだから何か理由がある、と信じた上での行動だった。 その上にシルフィードが到達する。 「レビテーションを!」 叫ぶと同時に、リゾットはデルフリンガーを抜き、シルフィードから飛び降りた。 「ちょっと、ダーリン!?」 キュルケは慌ててレビテーションをかけながら、リゾットを見送った。 ルイズは逃げていた。 厨房のマルトーからどうやらリゾットたちがタルブ村に回るつもりらしいと聞き出し(マルトーは貴族嫌いだったが、ルイズの真剣な様子に渋々教えた)、タルブ村へと馬で駆けた。 だが、ちょっと近道をしようと思って普通の人間が通らない封鎖された道を通ったのが運の尽きだった。 捨てられたその開拓村は、オーク鬼の住処になっていたのだ。 オーク鬼は身の丈2メイルほどもあり、体重は標準の人間の優に五倍はある。突き出た鼻を持つ顔は豚そっくりで、二本足で立つ豚、という表現がしっくり来る姿をしていた。 数はおおよそ十数匹もおり、人間の子供が大好物というこの怪物は、自分から飛び込んできたこの餌に狂喜して襲い掛かった。 それでもルイズは杖を振って爆発を起こし、何匹かのオーク鬼に軽くない怪我を負わせた。 だが、多勢に無勢、逃げるしかなくなり、追い詰められていった。 ルイズとオーク鬼では体力が段違いの上、歩幅にも相当の開きがある。あっという間に追いつかれた。 「……な、何よ。あんたたち! 無礼よ! さっさと私に道をあけなさい!」 精一杯の虚勢を張るが、オーク鬼はにやにやと笑うだけである。 「この…っ! 道をあけないと…!」 杖を振り上げる。オーク鬼たちは少しひるんだようだが、自分たちの多勢を信じ、すぐに持ち直した。 獲物をなぶるように、一匹のオーク鬼が前に出、振られようとするルイズの杖を弾き飛ばした。その衝撃でルイズは転んでしまう。 ルイズは自分の死が避けられないことを感じた。恐怖が心の奥から湧いてくる。だが、それでも立ち上がった。杖はもう飛んでいってしまったため、両手に石を持って立ち上がる。 「私に触るな! 汚らわしいオーク鬼め!」 こんな連中に流す涙などない。自分は貴族なのだ。フーケにもワルドにも決して屈さなかった自分が、この程度の敵にどうして屈することができよう。その矜持がルイズを支えた。 だが、身体はどうしようもなく震える。知らず、自分の使い魔の名を呼んでいた。 「リゾット……」 来ないことは分かっている。だが、その名前はルイズの身体から勇気を呼び起こしてくれる気がした。 「リゾット…!」 再び名を呼び、石を握りなおす。オーク鬼たちはそんなルイズを眺めるのに飽きたのか、巨大な棍棒を振り上げた。ルイズも石を振り上げた。 「(リゾット、ごめん……)」 最後に心の中で謝罪した。石が届くより早く、棍棒はルイズの頭を砕く。それがはっきり分かった。だが、現実はそうならなかった。 オーク鬼が悲鳴を上げると、背中から無数のナイフを吹き出した。そのナイフは後ろに控えていたオーク鬼たちの顔面に突き刺さり、オーク鬼は次々と倒れていく。ルイズの眼前のオークもナイフに引っ張られるように仰向けに倒れた。 戸惑うオーク鬼たちの真ん中に、黒い影が落ち、光が一閃した。その一撃で、オーク鬼たちは首をはね飛ばされ、地面に倒れていく。 黒い影は攻撃の手を休めず、残ったオーク鬼を切り裂いていき、ものの十数秒で残らず倒してしまった。 「ルイズ、呼んだか?」 黒い影がルイズの前で止まり、名を呼ぶ。リゾットだった。いつもと同じ、何事もないかのような無表情だった。 その顔に安心すると同時にそんな自分が憎らしく、駆けつけてくれたことに喜ぶと同時に今まで不在だったことが腹立たしく。 緊張が解け、とにかくいろんな感情が吹き出たことで、ルイズは泣き出した。しゃくりあげながら、目頭から真珠のような大粒の涙をボロボロとこぼし、泣いた。 「一週間以上も、どこ行ってたのよ! もう、馬鹿使い魔! 馬鹿リゾット! 馬鹿イカ墨!」 「すまない……」 「宝探しとかいって、ご主人様に無断で行くんじゃないわよ!」 「……クビじゃなかったのか?」 「使い魔をクビにできる主人がいるわけないでしょ! 使い魔が主人を変えることも出来ないのと同じよ! もう、馬鹿! あんたが悪くないことくらい、私だって分かってるわよ。あんたと違って馬鹿じゃないんだから!」 理論は滅茶苦茶で筋も何もないが、とにかくこうなってしまえばルイズの方が強い。何しろリゾットは恩を返す身であり、基本的にルイズには下手に出ざるを得ないのだから。 そこに、シルフィードに乗ったキュルケたちが追いついてきた。 ギーシュは泣いているルイズと、それを見ているリゾットを見て、にやにや笑いを浮かべた。 「きみ、ご主人様を泣かせたら、いかんのじゃないかね?」 キュルケは複雑そうな顔をしていた。ルイズが元に戻るのは嬉しいのだが、リゾットがまたルイズにかかりっきりになってしまうと思うと実に寂しい。 (まあ、でも、とりあえずはいいか。ルイズがあのままじゃ、私も色々つまらないし) こう思ってしまう辺りが、キュルケの人の好い所である。 タバサは首をかしげ、不思議そうな顔をしていた。でもとりあえず、二人を指差して思いついた言葉を言っておく。 「雨降って地固まる」 三者三様の視線を送られながら、ルイズは大いに泣き続けた。
https://w.atwiki.jp/iliasion/pages/376.html
ep.221「日雇いのバイト」「拝み屋の祈祷」不思議な話・人怖を朗読・考察 朗読怪談 1.「日雇いのバイト」 2.「拝み屋の祈祷」 参加メンバー Tomo K-suke その他 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/testest-umigamedb/pages/1853.html
2021年10月9日 出題者:従業員よっしー タイトル:「祈祷師Xの転身」 【問題】 男は多くの人を巻き込む災いが起こることを期待した。 実際に大きな災いが起こり多くの人が巻き込まれたのだが男は残念そうだ。 なぜだろう? 【解説】 + ... 名古屋に住む小学生のタカフミ(男) ニュースキャスター「…台風9号が接近しており…現在の予想進路によると東海地区を直撃しそうです…」 タカフミ「やった、台風で学校休みになる!!警報!!お願い!!」 台風の進路は予想進路を逸れて他県では暴風(災い)により甚大な被害を受けたのだが、 名古屋にはまったく影響がなく休校とならずにがっかりしたのだった。 配信日に戻る 前の問題 次の問題
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2064.html
前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 学園都市では雨が降っていた。 「あぅぅ……。やっぱり繋がらないのですよー」 とある学校の教員室で、身長百三五センチの小学生体型の女の子が、ため息を吐きながら受話器を戻した。 月詠小萌。事情を知らない人にとっては嘘だろうと思ってしまうが、なんと教師であるうえに上条当麻の担任であるのだ。 その、上条当麻がいない。 確かに、小萌先生も彼の性格と体質を理解している。それでも、無断欠勤をした事は一度もなかった。 少し不安になって、彼の自宅と携帯電話に何回か連絡を入れたが音沙汰なし。 それがますます小萌先生を不安に陥れさせた。 当麻の家には白いシスターちゃんが居座っている。多少機械音痴なのだが、電話に出るという行為ぐらいは知っているはず。 しかし、繋がらない。 それは、彼女も当麻と同じように行方がわからないという事を示している。 土御門元春も同じようにいないのだが、それは今回に限ってという事ではないのでまだ安心できる(といっても不安なのには変わりはないが)。 かといって、通常授業もあるので捜しに行けないし、警備員に頼みたくてもまだ事件と決まっていないので気が引ける。 「もう……一体どうすればいいのでしょうかー」 ドバーと、小さい体を目一杯机に預ける。周りに置いてあるプリントがバサッ、と宙に舞うが気にしない。 そこへ、 「大丈夫? 小萌先生」 と声をかけられた。 「あ、姫神ちゃんですかー」 姫神秋沙。昔とある事情で上条当麻に助けられ、今は同じ学校に通っている女の子だ。 彼女は、ホームルームの時間に配ったアンケートの束を抱えている。小萌先生はガバッと慌てて起き上がると、自分の机にスペースを作った。 「これ。そこに置いていいのかな?」 「はいー、ご苦労様ですー」 姫神は言われた通り、指定された場所にプリントを置いた。 本来なら用事を終えたので、そのまま去るべきなのかもしれない。しかし、自分が声をかけるまで気付いてくれない程悩んでいた姿がどうしても気になった。 その原因はおそらく……、 「上条君のこと?」 「えぇ、こんなことは今まで一度もなかったのでー……」 姫神はなんとなく想像できた。 きっと彼はまたとある事件に巻き込まれたのだろう、と。 姫神はあの白いシスターと違って、帰りを信じて待つタイプだ。以前にも同じような事はあったが、ボロボロにはなったものも彼は帰ってきた。 だから、姫神にやれる事と言えば無事戻ってくれるのを祈るだけ。おそらくは病院から帰ってくる気がするが……。 もっとも、それはもちろん小萌先生も同じように感じているに違いない。 「先生は。不安?」 「もちろん不安ですよー。もしかしたら怪我を負っているのかもしれないのですから」 それでも、やっぱり心配なのには違いない。そうでなかったら姫神もわざわざ聞く必要性がないのだから。 ならば、と。 姫神は小さく頷いた後、 「きっと。どこかでまた女の子を助けているのかな」 「むっ、それはライバルが増えてしまいますねー」 ピタッ、と金縛りにあったかのように姫神の体が止まる。 しばらくして、その口が開く。 「先生。それはどういうことですか?」 一方の小萌先生は、そんな姫神の反応に対してニヤニヤと笑みを浮かべると、 「ごまかそうたってそうはいかないのですよー。先生は姫神ちゃんの味方なのですよー」 「別に。私は上条君に対してなんの感情ももっていないから」 「むっ! もっと自分に素直になったほうがためになりますよー!」 「もってないって言ったらもってない」 何で意地はるんですかーっ! とブーブー文句を言う小萌先生を見て、姫神は小さく笑う。 (これで大丈夫かな?) 不安なのには違いない。だけど信じなければ何も始まらない。 そう、きっとなんとかしてくれる。自分の時と同じように。 窓から外の景色を見る。 ザーザーと激しく降る雨は、もう止んでいた。 (上条君のことだから。きっといい仲間と一緒に頑張っているんだろうね) ファイト、と姫神は心の中で呟いた。 フーケとアンリエッタ、そしてウェールズのコンビネーションは完璧と言えた。 声をかけることなく、それぞれ最善の方法を互いに取り合う。アンリエッタが敵の魔法の迎撃に集中し、ウェールズの攻撃にフーケが援護をする形。 一見普通な戦術であるかもしれないが、シンプルがゆえに隙がない。攻撃、援護、防御、とバランスがよい属性であるからだ。 しかし、ルイズ達は違う。雨が降って来たせいもあり、キュルケの魔法の威力が半減した。 さらにはアンリエッタの盾が強化されたせいで、ルイズやタバサの魔法も突破する事ができない。 つまりは、苦戦をしいられたのだ。 「どーするの!? このままじゃ……」 しかし、一方的にやられてるわけではない。相手の攻撃魔法がウェールズだけ、という事が幸いし何とか拮抗状態を保っている。 が、それも時間の問題であるのも事実。常に攻められているという感覚が、重圧が彼女達にミスを与えるかもしれない。 「なにか……なにかいい手ないの!?」 「ウェールズを倒すのが最優先」 ルイズの問いかけにタバサが簡潔に答える。まずは相手の攻撃手段を潰す。しかし、逆を言えばそれしか方法がないのだ。 しかし、 「だけどあいつはゾンビなんでしょ!? ダーリンの右手以外で倒せる方法なんてあるの!?」 キュルケの言った通り、彼は不死身なのだ。こちらが放つ魔法を直撃させたとしても、相手は平然と立ち上がってくるだろう。 彼を触れる事で倒せる少年はワルドと戦っている。そちらからの援護はないと見て取ってもおかしくない。 「なにも倒さなくていい。杖を吹き飛ばせばいい」 「そうするにはどうすればいいのよ!?」 「まだ……わからない」 「じゃあどうするのよ!」 「難しい。あの布陣を崩す第三者、もしくは新たな魔法が必要となっていく」 すなわち、アンリエッタの盾を打ち破るなにかか、人数差で一気におすべきという意味であろう。 「第三者って……トウマは無理だし来るわけないじゃない! 新しい魔法だってそんなの無理に決まってるじゃない!」 「だから、難しい」 「なっ……そ――」 「ルイズ! 今は仲間割れしてる場合じゃないでしょ!」 タバサの異常なまでの冷静な態度に、もう少しで怒鳴り散らそうなルイズをキュルケが落ち着かせる。 瞬間、敵の攻撃が再開された。 ドゴッ! と、地面から勢いよく槍が射出される。タバサはそれを予知していたのだろうか、素早く冷気の壁を形成する。 ガァン! と土と氷がぶつかり合い、どちらも粉々に砕け散った。 細かくなった残骸を吹き飛ばしながら、轟ッ! と烈風が吹き荒れる。 キュルケが負けじと炎の嵐を作り上げる。雨のせいで威力は下がるが、魔法のランクを上げればまだ優勢にもっていける。 炎が風を巻き込みながらアンリエッタ達に襲いかかるが、水の壁の前には無力と化してしまう。 「ルイズ! あんたも援護しなさいよ!」 今の一連の流れで戦いに参加しなかったルイズに、キュルケが怒鳴る。 「ちょっと待って!」 (なにか……なにかあるはず……!) ルイズは始祖の祈祷書のページをめくり続けていた。 最初のエクスプロージョンが書かれたページ以外、ずっと白紙が続いている。しかし、 それがありえないのだ。 もしエクスプロージョンだけが虚無唯一の魔法であったらわざわざ本にすることはない。そうじゃなくても、こんなに厚い本にしなくても問題ない。 つまりは、この本にはまだ魔法が隠されている。それが流れを変えることのできる新しい魔法かはわからない。 しかし、それに賭けることは悪くないはずだ。 (ない、ない、ない……) めくってもめくっても白紙のまま。その間にもキュルケが叱ってくるが気にかける余裕はない。そして後少しで終わりそうになるその瞬間、 あった。 エクスプロージョン以外の、新しい魔法がそこにはあった。 「ディスペル・マジック……? 解除……。これなら!」 その魔法の意味と可能性を信じて、ルイズは二人に声をかける。 「ねえ!」 「なによ! 用が済んだら早く戦ってよ!」 キュルケが叫びながらも炎の熱で迫り来る土の矢を溶かす。 「あるのよ! 新しい魔法が!」 新しい魔法という言葉にタバサが反応する。 「それはあの布陣を崩せるの?」 「わからない。けど可能性はあるわ! でも詠唱に時間がかかるの……」 「なら問題ない。全ての精神力を防御にまわせば時間は稼げる」 サッと、自然な動きでタバサが二人の前に立つ。ルイズとキュルケはそれぞれやるべき事を見極め、詠唱を始める。 「あなたのその魔法を信じてみる」 自分より大きい杖を、タバサは強く握りしめた。 (くそ……考えろ……) 眠気などとうの昔に吹き飛んだ当麻は、ただ己の拳だけを信じていた。 距離は五メートル弱、まずは間合いに入らないとただの動く的である。拳を握って追う当麻に対し、ワルドは無理に近づかずに後ろへ下がりながら杖を振るう。 途端、魔法が発動する。 瞬ッ! と風の刃が勢いよく当麻よりやや右へと通りすぎていく。敵の意図はわからず、当麻はそのまま走り続けた。 ギギギギギ、と。 森という字の通り、幾多の木が当麻に襲いかかるように倒れ込んできた。 「!?」 一瞬とも呼べる間に、当麻は考えを巡らせる。 体の重心は完全に前方、下手に足を止めてしまったら巻き添えにあうかもしれない。左右もダメだ。縦に長い木が横から迫ってくるがゆえに、危険度も高い。 ならば、 (前に……) 三方向の逃げ道を封鎖された今、残りは一つしかない。降り注ぐ範囲よりも外へと逃げ込むだけだ。 (動きやがれ! 俺の足!!) 恐怖感に足がすくむことなく、逆にいつも以上の力を足へと踏み込み、爆発するかのように跳躍する。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!」 当麻のいた場所に、ズシンズシン! と次々木々がなだれてくる。 しかし、後ろはもう気にしない。 その先にワルドがいるからだ。 が、 気付いた時にはもう遅かった。 ワルドも同じように当麻の懐へと一気に突っ込んできたのだ。 「な……」 対応にワンテンポ遅れる。そのワンテンポが攻撃も回避も防御も不可能にさせる。 「遅い」 ドゴッ! と、当麻の鳩尾へと拳を叩き込んだ。体内にある酸素が吐き出されて、吐き気が後一歩のところまで迫る。体がくの字に曲がり、足が地面から離れる。そこへ、 追い打ちをかけるかのようにワルドの魔法が炸裂した。 「ゴフッ……!?」 空気で作られた打撃魔法なのか、そのまま数メートル後方へと吹っ飛ばされる。 体の至る所が悲鳴を挙げ、倒れた木に衝突した。ビキビキと嫌な響きが背骨から聞こえてくる。 手を地面につき、口の中にたまった苦い味を吐き出した当麻はワルドの方を見上げる。 (ダメだ……このままじゃ……) 勝てない。 その単語を振り払うかのように当麻は思考を切り替える。つまり、どうすれば攻撃を与えられるか、だ。 ワルドは近距離の技に遠距離の技、両方を備え兼ねている。近距離、しかも魔法が使えない当麻にとっては圧倒的に相性が悪い。 当麻はちらっと自分の左手にあるルーンの文字を見た。 竜王の顎。これさえ具現化できれば一気に場の状況をひっくり返すことができる。 しかし、それはこのルーンの文字が読めたあの日だけのこと。不幸にも発動したのはその日だけ。これに頼っても意味がないのは確かである。 (なんかねえのか!? せめて対等に戦えるなにかいい手が!) 思いながら、再び駆ける。 幻想殺し以外なにも能力がないことを知って、 決して届かない拳を振るって、 少年は考える。 自分の思っていることが現実に起こるまで、 少年は考える。 「はっ、あんたが他の二人を守るほどそっちには余裕があるのかね!?」 フーケが愉しそうに笑い、魔法を放つ。タバサ達を中心点にするように、全方向から土の銃弾が射出される。 それに加え、ウェールズが雷の槍を放つ。全包囲型と一点集中型の合わせ技だ。 「…………」 しかし、タバサは臆することなくそれに対処する。 自分の背丈より大きい杖を存分に振るい、呪文を紡ぐ。一瞬とも呼べる間に魔法は完成する。 ルイズが魔法を完成するまで耐えればいいのだ。耐え切れば勝ち、耐え切れなかったら負け。わかりやすい勝敗である。 逆を言えば耐え切れば勝てるのだ。そこに精神力の節約という概念は存在しない。 タバサ達を囲むように風の渦が小さく形成されたと思ったと同時、 轟ッ! とそれは一瞬にて巨大な竜巻へと成長した。 土の銃弾が一瞬にて巻き込まれ、雷の槍も一カ所に穴を開けただけで、すぐになかった事にされる。 タバサが覚えている魔法の中で、攻撃そして防御にも使える最高クラスの物である。 後はこの竜巻が消えないよう精神力を与え続ければよい。残った不確定事項は、自分の精神力が尽きる前にルイズが先に詠唱を完成するかどうかだけ。 ―――のはずだった。 竜巻、といっても魔法で創られた代物。内側にいるタバサ達はちゃんと外側の様子も見る事はできる。 そこには……、 ウェールズとアンリエッタが同時に呪文を詠唱していた。 それも、別々にというわけではない。まるで、二人が一つの呪文を詠唱しているようだ。 二人の周りに水でできた竜巻が徐々に大きくなっていく。 本来できるはずのない水と風の六乗。 王家の中でもほんの一握りしか使えないヘクサゴン・スペル。 詠唱が長くなるに従ってさらに大きくなっていく。地面には二人のトライアングルが六芒星となって現れている。 瞬く間にそれはタバサの竜巻よりも巨大に膨れ上がった。 おそらく、これを防ぐ術はないだろう。 「ちょ……、ちょっとどうするのよ! あんなの防ぎきれないわよ!」 「……一時撤退」 さすがにあれは防ぎようがない。理屈うんぬんよりもまず不可能だ。己の経験から得た結論は、迅速に行動へと起こす。 まずは竜巻よりも高い高度へと逃げ込むため、シルフィードを呼ぶ。それに加えて絶対的な防御を誇った竜巻をタバサは解除する。もちろん、警戒を怠るつもりはない。 風の勢いが止み、景色がはっきしと見えてくる。 瞬間、森の中から三体の等身大ゴーレムがタバサ達を、上空からグリフォンがシルフィードを襲いにかかった。 「……ッ!」 タバサとキュルケははすばやく魔法を放ち二体撃破するが、続けて詠唱している間にゴーレムの拳がタバサを捉えていた。 ドゴッ! と、タバサの体が何メートルも先にある森の中へと吹っ飛ばされる。 「タバサ!?」 キュルケの放った魔法が三体目のゴーレムを粉砕し、慌ててタバサのもとへと近寄ろうとするが、 「させないよ!」 僅かな時間で精巧なゴーレムを作り上げたフーケがそれを制止させる。新たな土の槍がキュルケの足を止めさせた。 反撃と言わんばかりの炎球を放つが、先に張られたアンリエッタの水の壁が行く手を阻む。 上空のシルフィードも予想外の敵、グリフォンに逃げるだけで、とてもじゃないがこちらを助ける余裕はない。 アンリエッタとウェールズによるヘクサゴンスペルである水の竜巻は、既に見上げる形になるほど大きくなっていく。 ルイズの詠唱はまだ終わらない。このままではルイズの呪文が完成する前にすべてがおしまいだ。 タバサも気絶したのだろうか姿を表してはくれない。 そして自分自身はフーケの相手。しかも相手に防御魔法を敷かれている以上勝ち目はほとんどない。 そう、絶対絶命であった。 なぜその言葉が口から出たかキュルケにはわからなかった。 助けが欲しいから? 自分が死にたくなかったから? そんなのはわからない。 だけど、 自分じゃどうしようもないから、 自分じゃこの流れを変える事ができないから、 叫ぶ。 他の誰でもない。たった一人の少年の名前を。 「助けて! トウマ!」 声が聞こえた。 助けを呼ぶ声が、 自分を求めてくる声が、 気付くと、当麻は全ての考えを捨てて駆け出していた。 目指すは声の持ち主、キュルケの所である。 背後から「なっ……」と驚く声が聞こえたが気にしない。 走る。ただ、走り続ける。 今まで対峙していた敵に背を向けるという行為が、どれだけ無謀なのかは当麻もわかっている。 しかも、こちらは満身創痍で走る速度は万全の状態の時よりもかなり遅くなっている。 そう、 「貴様には失望したぞ幻想殺し」 ワルドに追いつかれるのは当然である。 声が聞こえた瞬間、当麻は雨のせいで柔らかくなっていた土の部分に足を踏み入れた。足がもつれて前に転びそうになる。 同時、ワルドの杖に纏っている風の刃が当麻の背中を切り裂いた。 「……ガァァァァァァァァああああああああああああッ!!」 体内の組織が全て断ち切れていく感触をえてから一秒後、ようやく熱を帯びた痛みが爆発した。 しかし、当麻は倒れない。 そのような半端な覚悟であったらまず敵に背を向けない。 自分を求めてくれた言葉に応えるため絶対に諦めない。 だって、嫌だから。自分が何も出来ずにこのまま見捨てることが。 自分を信じて、自分を頼った言葉を裏切るなどあってはならないのだから。 「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!」 たとえぶざまな恰好でも、 たとえ痛みに襲われて上手く走れなくても、 走る。走る。ただ、走る――! しかし、敵は待ってくれない。 「なるほど、斬るよりかは突くほうが効果的だな」 あくまで冷静に、しかしどことなく遊ばされているように感じられる。 当麻はちらっと後ろを見る。そこには余裕の笑みすら浮かべているワルドの姿があった。 (くそっ! よけることができるか!?) 広範囲斬撃ではなく、一点集中型の突き。タイミングと狙う場所さえわかればなんとかやり過ごす事はできるはず。 相手が油断してるとわかっている今だからこそチャンスがあるのだ。 しかし、それが難しいのだ。 一歩間違えれば死亡、いやしないところで結果は変わらない。 さらにいうならば、ワルドを連れてくのだ。仮にたどり着いたとしてもさらに不利な状況になってしまうかもしれない。 それでも、それでもだ。 当麻は走る。一秒でも早く、たどり着くために。 だから、 「これで終わりだ幻想殺し!」 当麻は最後の最後まであがく。 「うぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!」 神に見放された男は、決して神に頼むような事はしない。 地獄のような不幸に何度遭遇しても、それを常に乗り越えていく強運を持っている少年は、 自分を信じて、体を屈ませて態勢を低くした。 瞬間、 キィン! と金属と金属がぶつかり音が響いた。 「なんだと!?」 それはワルドにとって予想外であった。いや、当麻にも同じ事が言えた。 第三者の介入、絶対起こりえない奇跡(幻想)。 が、当麻はそれが誰か知っている。思わず振り返って、視界に入り込んだその後ろ姿を忘れたわけがない。 「はっ、」 自然と笑みが零れる。不謹慎だと押さえようと思うと余計に表情へと表れる。 ワルドと当麻の間には、青銅でできたヴァルキリーが立ち塞がっていた。 いたのだ。一緒に戦ってくれる仲間が、まだいたのだ。 もう、キュルケとは目と鼻の先であった。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/401.html
前へ / トップへ / 次へ 桟橋が見えた。 背後で燃え盛る町が、煌々と桟橋を照らし出している。 さらには月のおかげもあって、隅々まで夜目が必要がないほどくっきり見えている。 桟橋は山ほどもある巨大な樹であった。枝には確かに船がイカリをおろすようにぶら下がっている。 その中の一艘が、今まさに出撃するのだといわんばかりに帆を張り始めている。 急いで樹に開いた穴に入る。中がうろのようになっていて、階段がついている。 「む?」 異常な殺気が、バビル2世を捕らえた。 ケツの穴にツララをぶっこまれたような殺気だ。 何かがバビル2世めがけて吹っ飛んできた。精神集中も間に合わず、樹の外へ吹っ飛ばされた。 くるくると回転してネコのように着地する。しかし、間髪いれず何かが呪文を唱えた。 「おまえはあのときの!」 奇襲を仕掛けて来たのはあの白仮面であった。だが、次の瞬間バビル2世でさえ避けようもない速さで、雷が放たれていた。 電撃がバビル2世を捕らえた。 バチバチッとバビル2世の身体に火花が走った。が、それだけであった。 効かなかったことを確認した白仮面が慌てて身を翻す。 「どうやらこの世界の魔法も電撃ならば吸収できるらしいな。」 それを聞いたのかどうか、白仮面はすでに逃げ出していた。一瞬追いかけようと考えたバビル2世だったが、船は枝につないだ もやい綱を解いているところであるらしい。 「ずいぶん焦っているな。」 いったい何が起こったのかと訝しくも思ったが、早く乗らなければ船が出てしまう。あとでロプロスで追いかけてもよいが、目指す アルビオンとやらの広さがどの程度かわかっていない以上、バラバラになってしまえば落ち合うのも一苦労だろう。せめて落ち合う 場所を決めておけばよかったのだが、今更な話である。それにバラバラに行動するなどという話はなかったのだから。 白仮面はその間に姿を消している。しょうがない、今は船に乗るのを先決すべきだろう。 リスのように超巨大樹を駆け上る。あっというまに目的の枝まで移動して、出発直前の船に飛び乗った。 「ひゃあ!」 甲板に着地したバビル2世を見て船長らしき酒臭い男が尻餅をついた。酒臭いにもかかわらず妙に顔が青い。 「やあ、すまない。」 「な、なんだ、てめえは。」 どやどやとルイズたちが甲板に現れた。 「ビッグ・ファイア!」 バビル2世の顔を見て、ルイズたちが叫んだ。 「よかった。なんとか間に合ったようだね。」と、ロリコンがほっとしたように言う。 「子爵様、お知り合いで?」 その様子を見て船長が尋ねる。ああ、と頷き事情を説明しているロリコン。 ったく今日は何て日だ、町には化け物が出るし、博打では負けるし、船に飛び乗ってくる野郎がいるし、とブツブツ呟く船長。 船はその間に空中に一瞬沈み、すぐに風石が発動して宙に浮かんだ。帆と羽が風を受け膨れ上がり、船が動き出した。 「ところで、アルビオンとやらにはいつごろつくんだい?」 ロリコンに尋ねると、「明日の昼頃らしい」との答えが帰ってきた。 「ところで、あなたはこの船にずっといましたか?」 「ああ、いたよ。船長に船を早く出すなら乗せてくれないかと交渉していたが?」 「ふむ。」 何が気になっているのか問うバビル。それを見ていたルイズが横から口を挟んだ。 「なにが気になっているのかしらないけど、ワルド様はずっとわたしたちと一緒にいたわよ?」 「そうか。なに、ちょっと似た人間をさっき見たんでね。」 ごめんごめん、と疑った人間の婚約者をなだめる。だがどうも腑に落ちない。なにしろ魔法の世界だ。なんでもありでもおかしくはない。 ならばここは心を無理矢理読んで…、と精神集中を始めるが、 「ちょっと!ビッグ・ファイア、なにやってるのよ!」 ルイズにすぐに気づかれてしまい、お叱りを受けて止めさせられた。おまけに説教が長く続きそうであった。 しょうがない、ここは話題を変えようと、 「ところで、今回の目的であるところの、ウェールズ王子の行方は?」 「わからん。生きてはいるようだが……」ロリコン首を振る。 「まあ、ここで答えの出ぬ問いを言っていても仕方があるまい。ここはアルビオンに着き、直接無事を確かめる以外に方法はない だろう。だが、王子のいるニューカッスルは包囲され落城寸前だとも言う。はたして、間に合うかどうか…」 そして、翌日昼――― 「アルビオンが見えたぞー!」 という見張り船員の声に外へ出るバビル2世たち。目の前に白い雲が広がり、その上に黒々と大陸が覗いていた。大陸ははるか 視界の続く限り伸びている。地表には山が聳え、川が流れている。川が空中で霧となり、雲となって消えていた。 「すごいな。」 思わず呟くバビル2世に、「驚いた?」と自分の功績でもないのにかわいらしい胸を張るルイズ。 「浮遊大陸アルビオン。ああやって、空中を浮遊して、主に大海の上をさまよっているわ。でも月に何度かハルケギニアの上に やってくる。大きさはトリステインの国土ほどもあるわ。通称、白の国。」 「ふむ。」感心して頷くバビル2世。 「それで、この大陸が通るルートはいつも同じなのかい?」 「ええ、同じみたいよ。詳しいことは知らないけど……」 「ひょっとすると、空中にこの大陸を浮かばせているレールのようなものがあって、その上を滑っているのかもしれないな。」 「なによ、レールって。ビッグ・ファイアの世界にあった道具?」 道具というか、道みたいなものだよというと納得するルイズ。もう一度大陸を見ると、霧は雲となり、大陸の後ろをたなびいている。 あれが雨雲になって、ハルケギニアに大雨を降らすのだ、とルイズが説明してくれた。 ふと横を見るとギーシュが風呂敷の中身を広げて弄っていた。 「やあ、ギーシュ。」 「ああ、ビッグ・ファイアか。」 ようやく原理がわかったよ、ここを押すと風が吹き込んで火のついた炭を燃え上がらせるんだね、とふいごを弄って説明するギーシュ。 「でも、これをどうしろって言うんだい?」 「それは、きみの二つに名について考えるべきだ。」 「二つ名?青銅かい?」 「ああ。よく、青銅の特性について勉強すべきだ。それがわかれば…」 だが、突然の見張りの声に、バビル2世の声はかき消された。 「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」 バビル2世がその方向を見たときにはもう遅かった。雲を利用してすでに大砲の射程距離にこちらを捕らえた空賊が、手を伸ばせば 届くような距離にまで近寄って来ているところであったのだ。 「……なんか臭い…」 「いやねぇ、髪に匂いが移っちゃうわ」 ルイズが呟く。メイジとわかると身代金を取れると踏んだ空賊は最上級の扱いで超上等の迎賓室へルイズたちを案内してくれた。 つまり杖を取り上げられ、倉庫兼弾薬庫に蹴るようにして押し込められ、完全に閉じ込められたのである。もうこうなっては手も足も でない。達磨と一緒だ。 鍵はもちろんこちら側にはついていないので、扉を強引に開ければ即座に空賊たちが丁寧に出迎えてくれるだろう。バビル2世は ともかく他の5名はあっというまにこの倉庫へ逆戻りに違いない。 「まあ、逃げ出すのは陸についてからでもできるだろう。今は停戦するのを待ったほうが懸命じゃないかな?」 「ああ、たしかに。風石はいずれ尽きるだろうから、港に戻らざるを得まい。僕は風魔法を使えるし、油断を見計らって船を奪い、 切れた風石を補充すればすぐにでも逃げ出せるはずだ。」 タバサも風系統のメイジだったはずだが、うんともすんとも言わず本を読んでいる。「ハッピー三国志」なる本だ。ものすごく内容が気に なる。 「ところで…」 とロリコンが口を開く。「僕とみんなの距離が微妙に開いているのはなぜかな?」 言わなくてもわかるだろう、と視線が突き刺さる。 「へ、閉鎖空間だからっていたずらなんかしないよ!」 「どうだか。」 「わたしは、まあ、ストライクゾーン外でしょうけど、あんまり近寄りたくないし。」 「……同じ空気を吸うだけで、妊娠。」 「ぐはあ!」 ロリコンがまたもや激しくダメージを受けている。 「そうだね、「どうせ死ぬんだ!」とか言いながら襲われるかもしれないしねえ」 「ルイズはいいでしょうけど、タバサは縁もゆかりもない人にされるのはねぇ」 「犬猫以下…見境なし…」 「あまり言ってやらないほうがいいんじゃないかな?仮にもぼくの主人の未来の夫だろう?」 「きみたちはほっとくと無茶苦茶いいよるな」なぜか関西弁交じりになるロリコン。 「……お前ら、捕虜の自覚はあるのか?」 気づくと呆れたように、痩せぎすの空賊が扉を開けていた。 「おかしらがお呼びだ、来い」 「王党派?」 何をいってるんだこの女は、と言いたげに問い返してくる。例えるならば東京都庁前で「これが東京タワーですか?」と聞いてきた 頭の軽そうな女を見るような、そんな感じだ。 「ええ、そうよ。」 「もう一度聞くが、本当に王党派なのか?トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンにきて、王党派の援軍だって言うのか?」 空賊たちがこりゃあおもしろいものを見たとばかりにどっと笑った。 「そんな、明日にでも消えちまうようなところに加勢に行ってどうするんだ?葬儀屋が儲けるだけだぞ?悪いことはいわねぇよ、貴族派 につくんだな。あいつらは今、メイジが喉から手が出るほど欲しいんだ。たんまり礼金がもらえるぞ。」 「死んでも嫌よ!」 「絶対に?」 「絶対にノゥ!!!わたしはメイジ。ノゥとしか言わないのが貴族よ!」 「ならばきみの心変わりを誘発しよう。」 おかしらが指を鳴らして合図をすると、周りの連中が一斉に剣を抜いた。 「完全武装空賊!この命知らずたちにキミは勝てるというかね?」 「イエスッ!」 「ノーとしか言わないはず!?」 「もういいから話を進めましょう、ウェールズ王子。」 ザッと空賊たちの顔色が一瞬で変わり、真顔になってバビル2世を見た。 「な、なに言ってやがる!」 「だ、だれがウェールズのアホボンだ!」 「そうだ、あの変態王子なんかとうちのおかしらをいっしょにするな!」 「あんなアンポンタンと間違えやがって!」 「お前ら、とりあえず減給!」口々にウェールズを罵る部下たちに冷たく言い放つおかしら。 おかしらが閻魔帳に採点しながら立ち上がった。ルイズたちは話の急展開振りに戸惑い、顔を見合わせた。 「驚いたな。まさかばれるとは思っていなかったんでね。失礼した、貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはね。」 周りにいた空賊が、減給…とぼやいていた連中も含め、一斉に直立した。 縮れた黒髪をはぎ、眼帯を取り外し、髭を剥がす。現れたのはりりしい金髪の若者であった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官…といってもすでにこのイーグル号しか残っていないがね。」 若者は居住まいを正し、威風堂々と名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。アルビオン王国へようこそ、大使殿。」 「つまりぼくたちは試されていた、ということですね、王子。」 「その通りだ。吉良邸に討ち入る同志を何度も試した大石内蔵助ではないが、とてもではないが外国に我々の味方の貴族がいる とは思わなかったものでね。きみたちを試すような真似をしてすまない。」 ここまで来ても状況のつかめていないルイズの代わりに、ロリコンが優雅に頭を下げて言った。 「姫殿下より、密書を言付かってまいりました。」 「ふむ、姫殿下とな。きみは?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。 」 それからロリコンはルイズたちを次々紹介していく。 「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔の少年でございます、殿下。」 「使い魔?ふむ。私の変装を見破ったのが使い魔か。これは君たちにばれたのは不幸中の幸いだったというべきだろうかな?」 と、何かに気づいたようにバビル2世の格好を見るウェールズ。ルイズが慌てて手紙を取り出そうとして、躊躇し王子を見る。 「あ、あの……その、失礼ですが、本当に皇太子様?」 ウェールズは笑った。 「まあ、さっきまでのこともある。無理もない。僕は正真正銘のウェールズだよ。なんなら証拠をお見せしよう。」 ウェールズはルイズに、自分の薬指に光る指輪を外して渡した。ルイズの指に嵌っていた水のルビーが共鳴しあい、虹色に輝いた。 「この指輪の石は王家に伝わる風のルビー。そしてキミの指についているのはアンエリッタの嵌めていた水のルビーだ。そうだね? 水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ。」 「大変、失礼をばいたしました。」 ルイズは一礼をして手紙をウェールズに渡す。ウェールズは愛おしそうに手紙を見つめ、花押に接吻した。が、中を読み始めると、 表情に曇りが出た。そして顔を上げ、真剣な顔で 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従姉妹は……」 ワルドは無言で頭を下げる。ウェールズは再び視線を手紙に戻す。そして最後の一行まで読むと微笑んだ。 「了解した。姫の願いに答えよう。何より大切な姫から貰ったものだが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう。だが、手紙は 今手元になくニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を空賊船につれてくるわけには行かないのでね。それに……」 ウェールズは笑っているような、泣いているような、耐えているような顔のまま言った。 「それに、僕のほうからも君たちに頼みがあるんだ。始祖から伝えられたという王家の秘宝を賊に渡すわけにはいかない。きみたちに、 ぜひ持ち帰ってもらいたいんだ。多少、面倒だがニューカッスルまでご足労願いたい。」 雲中を通り、大陸の下に出てニューカッスルの秘密軍港に到着した。 途中、巨大戦艦「レキシントン」なる反乱軍の旗艦の目をやり過ごし、慎重に隠密潜行を行った末の到着であった。 それはまさに「空賊」であった。 無事城に到着した一行は杖と武器を返され二手に分かれた。いつの間にかデルフリンガーまで回収されていたらしい。ロリコンたちは こちらのメイジたちと王女の代理として歓談、一方ルイズとバビル2世はウェールズに案内され粗末な彼の居室へと迎えられた。何を 話したのか、ルイズだけが中に迎え入れられたため詳細はわからない。魔法をかけているのだろう。超感覚をもってしても中の様子は 細々としか聞こえてこない。やがて扉が開き、ルイズが手招きをしてバビル2世を呼んだ。その表情で、なんとなく中でどんなやり取り が行われていたか察せられた。 「仕事よ、ビッグ・ファイア。」 先ほどの通り、王家の秘宝を処分したいのだという。できれば持って帰って欲しいが、無理ならば完全に破壊して欲しい。とのことで、 極秘に行う必要があるため、ウェールズとルイズ、そして使い魔であるバビル2世のみがその任に当たることになったのだ。 粗末なベッドを移動させ、椅子を代わりに足の部分に当てて置く。するとタペストリーのかかった壁が割れ、入り口が開いた。 中は天然の洞窟を利用した通路になっており、長い階段が備えられている。 そこを降りながら、ルイズはつい気になったことを聞いてみた。 「それで、アルビオン王家の秘宝とはいったい何なのでしょうか?」 ルイズはいくつか噂に聞いたことがあった。始祖から伝わった宝が、それぞれの王家に伝わっている、と。たとえばトリステインには 始祖の祈祷書なる書物があるという。アルビオンについて聞くのは… 「まさか、始祖のオルゴール…でしょうか?」 「半分、正解だ。」 ウェールズは笑って答えた。屈託のない、いい笑顔であった。育ちのよさがその笑みからにじみ出ているようであった。 「秘宝は二つあるんだ。一つはオルゴール…だがそれは先の戦いで行方知れずとなった。」 50mほど降りてホールに出る。竜が臥せたような意匠が施された門と子供をかたどったらしい石像がそこにあった。 ウェールズはその石像に深く一礼をした。 「さあ、まず入り口まで戻りましょう」 「え?戻るんですか?」 往復し今度は門を指でなにやら字を書くようになぞった。 「私もこの字の意味は知らないんだ。ただ、次期王位相続者にのみ門の開け方が代々教えられ伝わってきたんだ。」 再往復する3人。ルイズは半分嫌気が差していた。が、表に出すわけにもいかず粛々と従っていた。 ふとルイズはバビル2世がどこかで見た何かを思い出そうとしているような顔をしていることに気づいた。 『ちょっと!そんな顔するんじゃないわよ!』 『い、いや、そうじゃなくてどこかでこれと似たような話を…』 『シッ!静かに。ここであとは門が開くまで待たないといけないんだ。場合によっては半日でも、1日でも…』 が、そのときはやけにあっさりと開いた。 「やはり…」 なにがやはりなんだろうか?そう思うルイズ。ウェールズ王子は奥へと2人を手招きする。 「やはりそうだったのか。この服、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔のものとよく似ていると思わないかい?」 「こ…これは、人?でしょうか…?」 「いや、これはどうも超精密なゴーレムやガーゴイル、らしい。実際のところよくわからないんだ。」 ブルルルル、とバビル2世の背中でデルフリンガーが震えた。何事かと鞘から抜こうとするがでてこない。 無理矢理ひきぬくと、いつもの調子はどうしたのか異常に怯えた様子で 「あれはやばい/あれは起こしちゃダメだ/よく覚えてないけどやばいんだ/起こしちゃいけない!/」 「インテリジェンスソードか。珍しいな」ウェールズ王子が気づいてこちらを見る。 「そこの剣、きみはなにかこれについて知っているのかい?王家では始祖の使い魔と言われているんだが。私も胸にルーンが刻ま れているのを確認したよ。」 「伝説の始祖の使い魔ですか!?」 「そ、そうなんだよ/だからやばいんだ!/そいつは起こしちゃいけねえ!/」 その時、ルイズは気づいた。始祖の使い魔が震えていることに。 「う、動いている!?」 「目覚めやがったのかよ!/おしまいだ、畜生め!/」 それの目が開く。 ゆっくり立ち上がり、手に持った羽扇子をふわっと舞わせる。白いスーツを着、口髭を生やした細身の男のようなゴーレムが目覚めた。 「おお、コウメイ様が…!」「げぇっ!コウメイ!/」 「お久しぶりです、バビル2世様。」 コウメイ、と呼ばれたそれは優雅にバビル2世に向かい、会釈したのであった。 前へ / トップへ / 次へ
https://w.atwiki.jp/h_session/pages/5713.html
NIGHT WIZARD The 2nd Edition Character Sheet キャラクター名:ディルク=T=マールブランシェ PL名:氷神 種族:吸血鬼 ワークス:貴族 年齢:20前後(外見) 性別:男 髪の色:蒼銀 瞳の色:緋 肌の色:白 身長:180cm 体重:76kg ウィザードクラス:吸血鬼 11Lv スタイルクラス :アタッカー 0Lv 総合レベル :11 属性:冥/火 使用経験点:126 未使用経験点:132 未使用LvUP権利:6 CF修正値:2 プラーナ 内包値:8+6 解放力:2 基本能力値 ベース 成長値 現在値 基本能力値 ベース 成長値 現在値 【筋力】 9 3 12 【知力】 10 -- 10 【器用】 10 +1 11 【信仰】 4 -- 4 【敏捷】 7 -- 7 【知覚】 7 -- 7 【精神】 10 -- 10 【幸運】 6 -- 6(ジャッジ-5) 【戦闘能力】 :基本値(クラス修正)特殊能力 総合Lv=未装備 + 装備修正 戦闘値 命中値: 9( 3+ 7) +2 =【21】 + 2 【命中】23 回避値: 7( 2+ 0) =【 9】 + 1 【回避】10 攻撃力: 11( 4+ 2) +23 =【40】 +12 【攻撃】52(近接時ジャッジ+2) 防御力: 8( 2+ 0) =【10】 + 7 【防御】17 魔導力: 8( 0+ 2) 5 =【15】 + 5 【魔導】20 抵抗力: 6( 0+ 2) =【 8】 【抵抗】 8 魔攻 : 10( 0+ 3) +20 =【33】 + 9 【魔攻】42 魔防 : 7( 0+ 2) =【 9】 - 1 【魔防】 8 耐久力: 36( 5+ 4) +3 =【48】 【耐久】48 魔法力: 34( 2+ 3) +6 =【45】 + 2 【魔法】47 行動値: 11( 2+ 5) 6 =【24】 - 3 【行動】21 移動力: 3 【移動】 3 ス+ウィ ■ライフパス 出自:高貴な血筋 特徴:上流階級/作成初期所持金+10万v 生活:結社の一員 特徴:組織の力/組織のコネクション一つ取得(背教者会議) ■特殊能力 名称 :SL:タイミング: 判定値 :難易度: 対象 :射程: 代償 :効果 【汎用】 : : : : : : : : 《月衣》 :-: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :所持品を隠せる。マイナーアクションで飛行できる。(代償:1D6MP) 《月匣》 :-: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :イノセントを無力化できる 《超美形》 :1: メジャー :自動成功: なし : 自身 :3S: なし :同意した対象のコネクションを得る。1シナリオSL回 《不思議な隣人》 :-: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :【魔法力】+3 情報ジャッジの達成値-2 《財力》 :--: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :3S: なし :プリプレイに[50+2D6*10]万v入手可 《伝家の宝刀》 :1: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :[1000+1000*LV]万v以下のアイテム常備化 《闘気の才》 :6: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :プラーナの内包値+6 《闘気の才》 :3: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :《闘気の才》の上限+3 《訓練:筋力》 :3: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :筋力+3 《訓練:器用》 :1: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :器用+1 【アタッカー】 《物理攻撃力UP》 :自: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :【攻撃】を+[CL+3] 《ウェポンマスタリー:鎌》:1: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :種別(鎌)の武器装備中【命中】を+[SL+1] 《ウェポンマスタリー:投》:1: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :種別(投)の武器装備中【命中】を+[SL+1] 【吸血鬼】 《月下の魔城》 :1: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :【耐久力】【魔法力】に+[SL+2] 《夜の一族》 :1: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :明度によるペナルティを受けず、明度2以下の場合全ジャッジの値+2 《始祖の血脈》 :1: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :1シーン(1ラウンド)●回の特殊能力をSL個選択。 使用回数制限を+1する。 《緋色の闇》 :1: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :魔装取得。オートアクションで装備可。《血の呪い》適用可 《破壊の忌み名》 :10: 常 時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :【攻撃】【魔攻】を+[SL*2] 【攻撃】【魔攻】の手加減不可 《不老不死》 :--: オート :自動成功: なし : 自身 :なし: 1P :瀕死状態を回復し、HPを[CL*3]点まで回復できる。1シナリオに1回まで使用可。 《真紅の夜》 :--: オート :自動成功: なし : 自身 :なし: 5M :[瀕死]状態になった直後に1回メインプロセスを行う。 このメインプロセスでカウント減少はしない。1シナリオ1回。 《夜の王》 :1: オート :自動成功: なし : 自身 :なし:5M5C:【防御】【魔防】の出目をCに変更。1シーンSL回 《漆黒の翼》 :1: マイナー :自動成功: なし : 自身 :なし: 5M :シーン中飛行状態になり【防御】【魔防】ジャッジに+SL 《拘束術式》 :1: マイナー :自動成功: なし : 自身 :なし: 2P :シーン中【攻撃】【魔攻】に+[SL*3] 1点でも通れば狼狽 《不夜城の主》 :1: メジャー :命中魔導: 対抗 :範囲選2:武器: 1P :「範囲選択(2)」の対象に物理or魔法攻撃。ダメージ+[SL×5] シーン1回 《魂の通貨》 :--: メジャー :自動成功: なし : 自身 :0S: 3P :同意した対象または瀕死の対象の[CL3]以下の特技を同じSLで取得する。 CLは吸血鬼の物を使用する。1シナリオ1回。 《真紅の夜》 :--: オート :自動成功: なし : 自身 :0S: 5M :[瀕死]状態になった直後即座にメインプロセスを行う。 【追加特殊スキル】 クラスに関らずLvUP時に取得可能 《月衣:撃剣砲》 :1: メジャー :【命中】: 対抗 : SL+1 :3S※: 3M :攻撃対象は《月衣》に格納している種別:武器の本数(最大[SL+1]本)とする。 【命中】=未装備【命中】+使用する武器の命中修整+[SL] 【攻撃】=未装備【攻撃】+使用する武器の攻撃修整+[SL+1] 使用する武器は 重量:0 種別:武器(投)として扱い、使用後破壊。1シーンSL回 【アイテム[[追加スキル]]】 《魔殺の結界》 :--: : : : : : :特殊能力一つを封印※《夜の王》指定 《 》 :--: : : : : : : ■魔法■魔法記憶容量[【知力】+総合レベル]:21 名称 :LV:種別:タイミング: 判定値 :難易度:対 象:射 程:代 償:効果 エンチャントフレイム :2:付火: オート :【魔導】: 10 : 自身 : なし :3M2C:メインプロセスに行う物理攻撃を 火 属性にし【攻撃】+[【魔導】-5](MAX10) マジックブレード :1:付与: マイナー :自動成功: なし : 自身 : なし : 3M :第一or第二属性の魔法ダメージに変更し【攻撃】+[【魔導】-10](MAX10) フライト :1:付与: メジャー :【魔導】: 10 : 単体 : なし : 3M :対象をシーンの間飛行状態にする。 リフレクトブースター :3:付与: オート :自動成功: なし : 自身 : なし : 3M :【行動】ジャッジに+[【魔導】-13](MAX7) : : : : : : : : : [予備欄] : : : : : : : : : ■武装■重量上限[【筋力】+総合レベル]:23 ■魔装■装備可能レベル合計[【知力】+総合レベル]:21 【武装】 名称 :種別:部位:重量:命中:回避:攻撃:防御:魔導:抵抗:魔攻:魔防:耐久力:魔法力:行動:移動: 射程 :備考 Aeternitas : 鎌 :両手: 6:-3: :11: : : : : : : :-1: : : Superbia :防具:頭部: 2: 1: : : 2: : : : : : : : : : Lamia :防具:衣服: 1: 1: 1: : 3: : : : : : : 1: : : Mantellum :防具: 肩 : 4: : : : 3: :-1: : : : :-2: : :【筋力】及び射程に※のない【攻撃】に+2 常古の記憶 : 他 : 他 : 1: :-1: :-2:+3: : :-2: :+10:-1: : :【幸運】ジャッジ-5 忌まれしヒトとの交わり :防具: 他 : 2: 1: 1: 1: 1: 1: 1: 1: 1: : : : : :《魔殺の結界》 : : : : : : : : : : : : : : : : : 小計 : :16: 0: 1:12: 7: 4: 0: 1:-1: : 10:-3: : : :命中:回避:攻撃:防御:魔導:抵抗:魔攻:魔防:耐久力:魔法力:行動:移動: 射程 :備考 緋色の闇(特技魔装) :攻撃: : 3: : : : : 1: : 8: : : -6: : :2Sq: ソードエンブレム :付与: : 1: 2: : : : : : : : : -2: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 合計 : : 2: 1:12: 7: 5: 0: 9:-1: : 2:-3: : : ■所持品■月衣収納上限[【筋力】×2+総合レベル]:30 名称 :重量:効果 幸福の宝石 : 0:《幸運の加護》ジャッジのダイス目がF値だった場合、ファンブルを打ち消す。1シナリオ1回。 スマート0-Phone : :《モバイルシステム》通信販売 《メモリ領域》メモリ領域アイテム使用可能 吸血祭祀書 : 0:《ブラッドコントロール》 吸血鬼の特殊能力で回復するHPとMPの量と上限に+5 : : 残固定化P:164,200v ※相当品リスト Aeternitas(サイズ) Superbia(スナイピングゴーグル) Lamia(絶滅社戦闘服) Mantellum(パワードブレイス) 常古の記憶(外道祈祷書) 忌まれしヒトとの交わり(魔殺の帯) ■設定 Dirk=Toreador=Malebranche 生来の吸血鬼であり、300年以上の年月を生きている“純血”の一人にして背教者会議の構成員の一人。 『マールブランシェ』は中世時代には人間世界へも浸透し、伯爵位を賜り公然とした領地を持っていた人界の貴族としての歴史も併せ持つ。 私領の領民を城内に抱え込んで“糧”とする代わりに無闇な略取を避けるなどある種の整合性と独自のルールを制定し表界で生活を続けていた。 しかし、ある時血族同胞が起こした悲劇的な事件を発端として血族同胞が“大量殺戮事件”を起こすに至り家名も“殺戮伯”として失墜する。 その事件との係わり合いを避ける形で狭界へと隠遁、背教者会議の推挙もあり“常世の国”へとその居住地を移す。 そして現在、ファージアース及び狭界が酷く不安定になるに辺り“常世の国”内部に燻っていた騒乱の種が芽吹いただけならず、 存在を持続させる事の危うさを感じ取った背教者会議の招致を受ける形で再度表界へと帰還する事を決意、戦線参入を理由にAAAへと籍を置く事になる。 ミドルネームとして名乗る“トレアドール”は別の血脈たる一族の家名ではあるのだが、 その生き様―――美しいモノを愛で慈しむ姿勢―――に感銘を受け、その思想同調の証として名を連ねる許しを受けた。 対象となる“美”は絵画や彫刻、細工物などの造形美に留まらずそれを創り出す『人間』そのものを含む。 また美しい女性や可憐な少女、といった存在そのものを好む事ともなるのだが……傍目には好色なだけ、とも見える。 捕食者としての本能は失って居ないものの過去の事件以降『眷属』を作る事への抵抗感は強く率先して眷属を増やす意思は無い。 吸血行為による“食事”への意欲はある為機会あらば吸血行為を行う事はあるが因子を埋め込む事はせず、極力抵抗力の高い者を選ぶようにしている。 とはいえ現在は協定の存在も相まって主な“食料”は輸血パック等の代替手段(曰く「ジャンクフードのような物」)に頼る事となっている。 戦時は従前の装いであるドレスシャツに黒のベスト、漆黒のスラックスに漆黒のロングコートといった黒ずくめの装いであり、 デザイン的にも現代風、と言うよりは中世代の風合いが色濃く残る。 魔術的に強化された繊維で仕立てられており、血族内の愛用者も多い事から“Lamia(吸血鬼 ラミア )”とその製法を名付けた。 軍靴と見紛う黒のブーツを愛用しており、仕立てはスーツとの揃いになっている物だが甲に鉄板を仕込み靴底も運動性を高める等の改良を施している。 尚、付随する夜色のマントは“Mantellum(マント マンテリューム ”と、やはり単純な命名である。 愛用の獲物は柄長2M弱、刃渡り1M強の大鎌。柄から刃先に至るまでが全て黒鉄で出来ており、焔を纏って尚変質する事の無い逸品。 銘は“Aeternitas(永遠 アエテルニタス )” 性格的には高慢であり、美しいと認めたモノ(人・物品問わず)には相応の執着を見せる為対人関係的には好色傾向にある。 が、数百年のブランクを伝聞知識で埋めているため知識範囲が若干ズレて居るなど、いまいち締まらない部分も多々。 コネクション :関係 背教者会議 :同志(共存関係):現代を生きる吸血種のサロン。“異常時”に際し狭界から渡り出る助力及び現状に対しての情報の提供元。 セディス卿 :仇敵(思想衝突):愛でるべき人間すらも駆逐し、常世の国の闘争の一端を担う難物。 [[クロエ]] :友人(愛玩対象):我等マールブランシェの血族により悲運を味わった少女。……好意を向けてもらえるようになるとは、ね。 壬土 優希 :幼子(愛玩対象):新米異能者。ウィザードとしての生活も落ち着いた様子だが……さて、こちらはどうしたものかね。 [[箕薙 光]] :同志(執着) :“時間”を枷として震える少女。……放っては置けぬ、気にもなる、……成る程、彼女の言う通り、かもしれないね。 レイアル :興味 :街中の書庫で出会った少女。数年もすれば程好く育つだろうね、気性も含め……色々と愉しみだな。 アルテール :同志 :生命の神秘の探求者にして元素使い。血の提供の申し出も有難い、さて……色々と気になる人、だね。 [[セルヴィス]] :同行者 :色々と弄り甲斐のありそうな少年。先行きは微笑ましくもあるね。 冬子 :ビジネス :“欠片集め”の依頼者。しぶとい模造品からの指輪奪取だったが……さて、残りはどうかね。 イルリード :幼子 (保護) :よじ登ってきた幼女。幼いながらも防衛力の高さ共々先が楽しみ、ではあるか…… 草薙 理緒 :同行者 :遺跡探掘の際の同行者。俊敏な身のこなしに合わせやすい呼吸、しなやかなバネと良いかなりの腕か。 クー :同行者 :遺跡探掘の際の同行者。同じく無手ではあったが……リーチの長さと良い、独特な動きをしている。 戸塚 清花 :同行者 :優希と同じく、珍妙な力を繰る少年。……蹴りの威力は相当なもの、か。 ラインヒルデ :同行者 :重厚な鎧を纏った女性(?)鎧を脱がぬのには騎士の誇りがあるというが、さて……? ミヤ :同行者 :正しく“少女”と呼べる可憐な妖精。……しかし本体は巨大戦艦と言うのは非情ではあるね。 ミスティア :同行者 :遺跡探掘の際の同行者。眼福ではあったが……さて、種々の意味でガードの堅そうなヒトだね。 エリーシア :借り :無数の龍種襲撃を追滅してみせた女剣士。これ、を如何返すべきかね…… 蓮見沙由 :仇敵 :謎の世界“アガツマ”にて遭遇した見えない攻撃を繰る少女。 イリス :興味 :現世に於いて“魔女”とされかけたか。……真理に至る日が来ると良いがね。 わんこ :同情 :“クローイ”の悪夢にて出会った犬。昔の飼い犬、か…… : : ※対人メモ※ : 【セッションボーナス】 エディ君を倒せ :EXP+11 Lv+1 天空の島へとご招待 :EXP+11 Lv+1 夏の夜に :EXP+11 Lv+1 紅き悪夢 :EXP+13 Lv+1 イリス捕獲計画 :EXP+11 Lv+1 夢の砦~縛鎖~GM分 :EXP13点 Lv+1 はらぺ子GM分 :EXP19点 Lv+1 王都に響く鈴の音GM分 :EXP17点 Lv+1 冥魔王マレフィキュアGM分 :EXP27点 Lv+1 滲み出す紅夢GM分 :EXP14点 Lv+1 夢の砦~大運動会・夜の部~GM分:EXP11点 Lv+1 夢の砦~HappyHalloweenFor~GM:EXP14点 Lv+1 テラ~戦場の鈴~GM分 :EXP21点 Lv+1 乙女の抱く儚き“夢”GM分 :EXP22点 Lv+1 世界を創りし嗤う“緋” :EXP21点 Lv+1 世界を拒む虚しき“躯” :EXP21点 Lv+1 【成長記録】 EXP10 :《超美形》《財力》獲得 吸血鬼Lv1⇒LV2:命中+1 吸血鬼Lv2⇒LV3:命中+1 EXP10 :《伝家の宝刀》(パワードブレイズ)《不思議な隣人》獲得 吸血鬼Lv3⇒LV4:命中+1 EXP15 :《闘気の才》3Lv EXP8 :1,600,000v入手(ソードエンブレム・スナイピングゴーグル) 吸血鬼Lv4⇒LV6:命中+2 EXP12 :2,400,000v 吸血鬼LV6⇒Lv8:行動+2 EXP6 :1,200,000v 吸血鬼Lv8⇒Lv11:行動+3 EXP35 :《闘気の才Ⅱ》3《闘気の才》3《訓練:器用》1 EXP15 :3.000.000v 【特記事項】 ■現在時点での他の『マールブランシェ』一族 殺戮者と化した一族はウィザードの手により討滅された、と言う事になっているが一部の生き残りが裏界や狭界に渡り生き延びている可能性はある。 ディルクへは背教者会議に所属する事、トレアドール姓を同時に名乗る事での身元保証が成されている。 ■過去の事件 『マールブランシェ』血族の者がイノセントを愛してしまった事がきっかけで起こった殺戮事件。 血統主義を重んじすぎるが故に殺めてしまった事、血統主義故に“糧”と愛を交し合った事実を抹消する為の粛清を含めた“最初の事件”と、 その行為を境に殺戮行為の悦楽を呼び覚ましてしまった同胞の無差別殺害事件と言う“二番目の事件”が存在する。 が、表界の歴史には残らなかった異常事件であり、ウィザード側としてもある意味では“よくあること”であった為きちんとした記録は無い。 一部に残っている可能性はあるが、その場合も『突如発狂、錯乱した吸血鬼一族による大量殺害』と言う当時としては凡百の事件に埋没してしまう程度であり、 事件詳細が二つの出来事に分かれている事を知る者はディルクを含めた当事者の生き残りに限られる。 “最初の事件”については同情的ではあるものの“二番目の事件”については忌避と嫌悪を抱くのみ。 誤解を解くにも時間を要すると判断した結果、隠遁生活を選択させた。 ■ディルクの吸血 抵抗力の強い者(ウィザードを含むプラーナを自由に操れる存在)を選び吸血し、眷族を増やさないようにと予防している。 ※ディルクの吸血起因で吸血鬼化する場合は相談貰えると助かります。 個人的メモ:サイズ(60,000v)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7090.html
前ページKNIGHT-ZERO 鏖(みなごろし)の雄叫びを上げ、戦争の犬を切って放てよ W・シェイクスピア 「ジュリアス・シーザー」より 地下組織レコンキスタの総帥、クロムウェルが編成した平民兵と貴族士官、奇兵隊と呼ばれた一群は いくつもの村を呑み込み、その数を数万単位にまで増やしながら、スコットランドを西へと進んだ ベルファストのホテル最上階、駐留トリステイン軍本部は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった 安穏な占領地暮らしをしていた老貴族達は、半分入っていた棺桶から叩き出されたように右往左往する 王宮への報告を過小に書き換えた駐留軍に替わり、ルイズからのコミュニケーター・リンクを使った通信で 状況を聞いていたアンリエッタは、他の貴族より早く、奇兵隊の移動がもたらす意味と危険性を察知した 既に奇兵隊の集結地を臨む岬までひとっ走りしたルイズから、詳細な映像を添付した報告を受けていたが アンリエッタには、毎朝届けさせている、資源の生産と決済が最も盛んな隣国ガリアの相場綴りの数字 鉄鋼と銅、製鉄用石炭、硝石と風石の価格がじりじりと上昇しているという事実のほうが恐ろしかった もしも彼らの目的が領土的な野心なら、武器より兵站に必要な食料や燃料の価格が上がっているだろう 彼らの目的は、交渉でもなければ独立運動でもない、蹂躙し破壊し、殺戮を行う戦闘以外の何物でもない かつてレコンキスタ支配下のアルビオンがタルブを侵攻した折、アンリエッタは独断で騎士隊を率いた 女王マリアンヌの時代より、王宮の中で一派閥を形成している軍門の貴族達は、武力防衛に反対していた 勝目の薄い戦で大怪我するよりも、タルブ割譲という手打ち金でのレコンキスタ懐柔が、彼らの腹積もり 恒久的な国境とは異なる、軍事的な停戦ラインが形成されれば、境界警備その他で軍部の発言力は増す 後の世から見れば愚策と言えるそれをブチ壊したのは、王女アンリエッタの指揮による徹底抗戦だった アルビオンの軍備を知る者にとって無謀な戦闘は、ルイズとKITTによる撃退という予想外の結果に終った 顔を潰された軍門連中は、結果よりその過程に難癖をつけ、それ以来、王室の強権発動には反発が多い 地球では植民地維持のため、ドゴール大統領の命を幾度も狙った右派組織に似た経緯と理念を持つ集団 短期の直接戦闘より長期冷戦で軍を活性化させ、サハラに植民地を持つことを悲願とする軍部の覇権派は 王室にすら制御困難な派閥を形成し、王命の意図的遅延や各師団単位での独自サボタージュを行っていた アンリエッタは最近、お忍びで下町に出かけた時に買った玩具、木駒を使う東方のチェスを好んでいた ショウギ、とかいう名の、主に行商人が賭博に用いる、貴族の間ではあまり上品でないとされる遊戯 相手は専ら、マザリーニ宰相や大后マリアンヌ、軍門ながら王室寄りのグラモン退役元帥が務めていた アンリエッタは軍閥の独走を抑止するべく、その火種になるであろうアルビオンの駐留軍本部に 飛車駒のルイズとKITTを送り込み、歪曲や握りつぶしの無い直接的な情報ルートを確保していた 王宮と軍部の乖離を危惧する老貴族達は、若く経験値の少ない女王と、東方のチェスを通じて語り合った "彼ら"は相手のナイトやポールを削いで、じっくりとキングを詰む戦略を得意としていることを教えた 戦争だけではなく王宮内の権力争いもまた、物量と手持ちの駒の数で勝敗が決まるのが定石だと学んだが 王道には必ずそれを覆す一手があることを知ったアンリエッタ、彼女には少数ながら一騎当千の駒がある 手数に劣るアンリエッタは思案し、王将の守りが空くことを覚悟で、手元に温存していた角駒を動かした 飛車角を同時に敵陣へ放り込み、短期決戦で王将駒を奪る、貴族のチェスにはあまり見られない攻略 以前、変装してチクトンネの賭け将棋に参加した時に、財布の中身を残らず取られたえげつない技 真剣師と言われる賭け将棋のプロと対局し、すんでの所で肌着まで奪われそうになった経験を活かした 数日後、アンリエッタの意を受けた宰相マザリーニが、駐留軍激励の名目でアルビオンの地へと旅立った 東方のチェスに使う駒は、敵陣に飛び込むと裏返って赤い駒となり、その可動範囲を大幅に増やすという 懐刀のアニエスや酒席で親交を持ったスカロン、そしてルイズとマザリーニ宰相がそうあることを願った アンリエッタの望んだ敵将の首は、自らが身を捧げた祖国と、かつて愛した人の国の、安寧と平穏 もしも手持ちの駒が出払って丸裸の自分が敵駒に詰まれたら、王将駒たる自分自身が縦横に動けばいい アンリエッタは、年若き女王だった その頃、アルビオン北部高地、レコンキスタ本営にある執務室に、安穏よりも動乱を求める男が居た 当時の貴族の間では、前線で指揮を取ることが、戦争の決定者に課せられた高貴なる義務とされていたが 非効率的な慣習を嫌ったクロムウェルは、農民集団に偽装した奇兵隊がアルビオンを西へと進軍する中 高給で雇った風竜騎兵によって随時送られてくる、報告書で埋もれた粗末な執務室を、一度も出なかった 彼は本来、戦闘の精鋭である竜騎兵を伝書鳩の如く諜報と伝令に使い、偵察衛星の如く使いこなしていた クロムウェルはいつも通り、報告書を精読すると、奇兵隊へと戻る竜騎兵に、簡潔明瞭な指示を与えた 「では、始めてください」 アルビオン西部の半島、コーンウォール 過去の民族移動で定住した大陸人中心のスコットランド領ながら、文化的には古代アルビオンに近い地域 コーンウォール半島の突端、雲の海峡には、自然によって造形された細い陸続きの橋が掛かっている 中継地であるマン島を経由して、ほんの20リーグほどの先には、トリステイン領アイルランド島 現在、クロムウェルが組織した貴族士官と平民兵からなる奇兵隊は、コーンウォールに集結している 現地住民の一部は兵士や賄い、雑役に寡兵され、残りの大部分は強制的に半島の端に移住させられた 奇兵隊は隊士を養う当座の食料と、それまで各地で密造していた武器と火薬を、この半島に集結させた もう武装を隠す必要はなかった、群集は全員に行き渡って余りある銃と豊富な弾薬で、兵士と化した 分解され、藁束や酒樽に隠された鉄と木が、それを運んでいた荷車と組み合わされ、野砲の列となる 半島は一隻の軍艦の如き様相を呈していた、幾重にも並んだ砲口は雲海の先、アイルランドに向けられた 彼らの行為が明らかな軍事示威行動で、それが戦争であることを最後まで認めようとしなかったのは 平民が貴族に剥いた牙、喉元に剣を突きつけられていたアイルランド駐留のトリステイン貴族だった 他の統治国が沈黙を守る中、トリステインの老人貴族達が、奇兵隊を只の百姓集団と舐めているうちに 奇兵隊は本隊をスコットランドに残したまま、少数のゲリラを送り込み、港へのテロ行為を繰り返した クロムウェルは軍事的衝突よりも、まず兵站と退路を破壊することで、国と人間心理を内部から攻撃した 低空で進入し、市街に爆弾を一発投下して速やかに去る奇兵隊の竜騎士は、駐留軍を睡眠不足にさせる 戦時に置いて劣勢にある軍隊ならば、背後の橋を壊すことは、時に兵士達を鼓舞することもあるが 駐留の軍務にありながら戦争に来ている意識の薄い、トリステインの軍人達には逆の効果を及ぼした 宣戦布告の無いまま、見えない敵との不正規戦による不安の増幅は、最も費用対効果の高い攻撃となった 奇兵隊の集結に伴い、トリステイン駐留軍もスコットランド島と繋がるアイルランド島のダブリン岬に 防御陣地の構築を始めていたが、防衛や侵攻の軍事行動時に、現地で寡兵される平民やメイジの傭兵は アイルランドにまで入りこんだ奇兵隊の強募によって大部分が引き抜かれた後で、定員充足にはほど遠く ダブリン岬の陣地ではトリステインの兵士達が、酸素希薄な異国の高地で慣れない塹壕掘りを行っていた 既に座学と秘密裏の実技で武器操作に習熟していた奇兵隊の隊士が、現地での最終的な訓練を終えた頃 クロムウェルより適時の行動開始を委任されていた奇兵隊の指揮官、ホーキンス将軍は進軍の杖を振った コーンウォールの端、アイルランドと繋がった細い陸続きの道、その入口に完全武装した奇兵隊が集結した その大半は張りぼての偽兵士だったが、恐怖を植えつけられたトリステインの斥候兵は過大な報告をする 翌日、マザリーニ宰相の鶴の一声で、アルビオン駐留トリステイン王国軍の完全撤退が決定された その頃ルイズは、いまだ特務士官としてトリステイン統治下アイルランドの首都、ベルファストに居た 店じまいとなった魅惑の妖精亭で、どうやって任務をほっぽり出してこの国をおさらばするか考えていた アンリエッタ女王はKITTの通信装備、コミュニケーター・リンクを通し、ルイズに即時の帰国を要請した レコンキスタの侵攻がトリステイン本国に及ばない形で、人的被害無くアルビオンの占領を終了させる それでアンリエッタが想定していたルイズの役目は終わりだった、貴重な駒を奪われるリスクは犯せない そして、ルイズは友達 未知の力を秘めた機械KITTを擁し、その扱いに秀でた虚無メイジのルイズを道具として扱う冷徹な判断と 幼馴染の親友ルイズを案じての優先的な任務解除、個人的な感情を同じ盆に乗せるアンリエッタの思考は 政治には縁遠いが青臭い論議ばかり好きな若い貴族からしてみれば、甘いとも愚かとも思える物だったが 年若いアンリエッタを認め、王位を譲った大后マリアンヌや、ロマリアの教会とトリステインの議会で 半生を政治に費やしたマザリーニ宰相、そして少なからぬ老獪な貴族達は、その真意を知っていた それが一国の女王でも、下町の雑貨屋の店主でも、頂点を極めし者、王たる者に求められる力とは 必ずしも優秀であることではない、ということ、優れた人間が自然と周囲に集まる、人の器の大きさ それが、帝王学とも言えるものだった 古来、友情や義理に薄い人間が良き参謀や宰相になったことはあっても、良き王になった例は無い ナイーブにも映るアンリエッタ女王の施政は、その能力より人の善さと信義を知らしめる効果を発揮した 損して得を取る、利益だけでなく、人間的な信頼と誠実な対応で継続的な顧客を得る、商人に似た感覚 彼女の元には、その人格に惹かれた人間が少しづつ集まり、アンリエッタの若さゆえの未熟を補っていた アンリエッタはコミュニケーター・リンクを通して、腹心の、そして大切な友達のルイズに呼びかけた 「ルイズ、今すぐ空から落ちてきて、トリステインのどこだろうとレビテーションで受け止めてあげる」 仲間を決して見捨てない、それはアンリエッタが、ウェールズを失った時、女王たる己に課した掟だった アンリエッタの願いはルイズの元に届いていた、しかし彼女はKITTのモニターを苦々しい目で眺めている 「それが出来ればね…とっくにそうしてるわよ」 王命による全軍の撤退は決まったものの、自国民の保護や接収品の輸送など、駐留軍には任務が多く 軍上層部との繋がりで順番が決まるという、逐次的な帰国命令はなかなかルイズの所までは回ってこない ルイズが軍部からすれば煙たい存在であるアンリエッタの子飼いと見られている事にも関係があった アンリエッタが王宮から発した、ルイズの本国召還命令は「各方面と調整しつつ善処する」事案のまま 危険に目ざとい民間人が爆破テロに怯えながら、次々と自前でチャーターした引き揚げ船で本国に帰る中 老人連中は敵前逃亡の恥とか残置資産による損害などとお題目を唱えては従軍貴族の帰国許可を出し渋り 口だけは勇ましく植民地死守を主張する将軍達の方策で、帰国便の増発や港湾、航路の警備強化は遅れた アンリエッタの采配で優先的に帰国する事など、今さら不可能であることはルイズにはわかっていた KITTをトリステインまで船で空輸するには、一般兵12人分の風石と、壁も床も特製の船室が必要になる 少しでも多くのトリステイン人を甲板に乗せるため、高価な馬車を次々と船から叩き落す姿を見ていると 自分とKITTが後回しになるのは仕方ないと思った、多分それが高貴なる者の義務とかいうやつなんだろう KITTはかつて地球におけるベトナムで祖国が行った同一の行為を、映像とマイケルの実体験で知っていた マザリーニ宰相はルイズに、KITTをアルビオンに置いたままルイズだけでも帰国しては、と勧めたが それはルイズにとって問題外だった、KITTと引き裂かれた後の生活なんてルイズにとって死んだも同然 このまま軍務を放棄して、KITTに乗って広いアルビオンのどこかに逃げることも不可能ではなかったが 従軍士官の敵前逃亡は処刑と決まってる、その累は一族の縁者にも及ぶもので、もしもルイズの両親が 貴族にとって不名誉な罰を下される事があったなら、それはヴァリエール家と現王家との戦争になるだろう 駐留軍本部に徴発されたホテルの裏手、将官達の騒動とは無縁な馬車溜まりに停めたKITTの中で お茶を飲んでいたルイズの元に、赤帽が一通の命令書を届けに来た、伝令の当番兵は脱走したらしい 妙に重い封書を破り、ひっくり返すと薄い延べ板が滑り出てきた、水晶の埋め込まれた黄金の徽章 今、ルイズが付けている金張りの襟章、近衛少尉章よりずっと重い純金の小片を片手でもてあそびながら ルイズは命令書に目を落した、女王直属の特務士官で、駐留軍の指揮系統から外れた自分には珍しい書面 経費節約とか服装規律の徹底とか、軍の命令書を見るたびに何かと怒っていたルイズが、無言のまま 何の感情も窺い取れない彼女の表情から、ただならぬ状況を察したKITTがルイズを案じ、声をかける 「ルイズ、命令内容の復唱をお願いします」 ルイズはKITTの言葉には答えず、命令書をシートに放り出すと、同封されていた純金をそっと摘み上げた 三姉妹の落ちこぼれには一生縁が無いと思っていた上級士官の徽章を、ルイズはブラウスの襟に着ける 「わぁ、見てよKITT、わたし少佐よ、お父さまと並んじゃったわ、…戦死特進の先払いってわけね…」 ルイズはKITTから出てドアに寄りかかると、着けたばかりの徽章を襟から引きちぎり、石畳に叩きつけた 「KITT…ごめんね…この世界の人間は…あんたが召喚されたハルケギニアは…クソみたいな場所よ!」 もしも今、目の前に異世界のゲート、伝説に聞く世界扉があったら、ルイズは全て捨てて飛び込んでいた ルイズ・フランソワーズ・ド・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール特務少佐に通達 明1200を以って、貴官をトリステイン王国軍転進作戦の殿軍指揮官に任ず 魅惑の妖精亭 閉店後、照明を落したバーカウンター スカロンの趣味で飾られた店内は地球におけるマンハッタンのバーのようなロマンティックな舞台だったが 店内に招きいれられたKITTが流す「赤垣源蔵徳利の別れ」のおかげで、店は新宿の居酒屋のような雰囲気 トリスティンから出稼ぎに来ていた店の妖精達は数日前、引き揚げ船で無事アルビオンを脱したらしい 戦争が始まれば真っ先に犠牲になる若い女性を船に乗せるため、スカロンはあらゆるコネと私財を使った ルイズとKITTだけになった店でバーテンを務めるスカロンは、ワインセラーから取っておきの瓶を出す 「アルビオンの古い奴よ?ルイズちゃんにはちょっと辛口かしら?」 ソムリエナイフで銀の封を切り、コルクが抜かれたワインが、グラスに赤い流れとなって落ちていく 駐留軍発令の辞令、ルイズがアンリエッタや、本国にトンボ帰りしたマザリーニに泣きついたとしても 撤回の王命が間に合わぬ事を見越した上での命令、しかしアンリエッタはルイズに保険をかけていた 「ルイズちゃん、アニエス大尉が言ってたわ、今ならルイズちゃんの、殿軍指揮官の辞令を改竄して 明日の朝イチで出航する輸送船の添乗武官として押しこめるって…もちろん、KITTちゃんと一緒にね」 アンリエッタが平民出身であるアニエスの昇進と権限拡大を計らったのは、ルイズを護るためだった ルイズは呟きながら、ワインを覗き込んだ、赤い色を見て思い浮かぶのは、KITTのフロントスキャナー 「…不作為の罪…か…ねぇKITT…一緒に逃げちゃおっか?…いいよね?…わたし…もう充分やったよね…?」 地球の聖書と始祖の祈祷書に共通している原罪、教典の意義も神の身勝手も、世界は違えど変わらない 「ルイズちゃん、わたしたちがこの国でできることは終わったわ、人は歴史を変えられる、でもね 歴史の流れを止めてはいけないのよ、そのために血を流すかどうかを決めるのは、この国の人間」 地球からの召喚者であるスカロンもまた、この世界を変えようと動いたのは一度や二度じゃなかった 目前の理不尽と戦うたびに気づかされたのは、人は神にはなれない、世界は犠牲無くして変わらないこと ルイズはヴィンテージ・ワインを一口呷った、普段愛飲している安物の果汁入りワインより強い酒精にむせる 「今夜はこれくらいにしとくわ、…飲酒運転はよくないしね…スカロン店長…ひとつお願いがあるんだけど」 酒で座ったようなルイズの目、テコでも動かぬ意志に触れたスカロンは息をつくと、肩を竦め了解を示した 「このお店に伝わるっていう、伝説のビスチェを貸してくれないかしら…明日は、晴れの衣装が必要なの」 なんでこの少女は、目の前にある上等なワインを飲み干して、さっさと酔っ払ってウチに帰らないのか 自らの不作為を許せない、ただの無鉄砲な若者なのか、それとも、この場末の酒場に降りた聖女なのか スカロンはルイズに背を向けると、床の跳ね上げ戸を開いて、年季の入った籐の行李をカウンターに出す 「…店長、これ、キープしといてくれない?ブルドンネ街にあるっていう本店まで、飲みに行くわ」 ルイズはワインの瓶を一瞥すると、財布の中身を全部カウンターに落とし、金銀貨をスカロンに押しやる 「ワインのキープなんて出来ないわよぉ、早く飲みにこないと、わたしたちで飲んじゃうからね」 スカロンはルイズの払った硬貨を一枚残らず集めて布で包み、行李に仕舞うと、そのままルイズに持たせた 「特別にツケにしといてあげる…ルイズちゃん…死んだらおしまいよ、生き残りなさい!この赤が…」 ルイズは、魅惑の妖精亭に伝わる秘宝が納まった行李を、無造作にKITTに放り込み、エンジンをかける スカロンと話し、アルビオンのワインと語り、そしてKITTの操縦席に座った時に、揺れていた心は決まる 「大丈夫…誓って、これをわたしの弔い酒にはしないわよ…だってわたしには、KITTが居るもの…」 翌朝、ルイズはフリルをあしらった黒いミニスカート「魅惑のビスチェ」に身を包み、KITTに乗りこんだ 「この国で失われる命、流される血が、神さまの意思なら…わたしは…全力で抗うしかないじゃない…」 上物のワインを店に残したルイズは、この国で、目の前の戦で、誰一人弔い酒を開けさせないと決めた 前ページKNIGHT-ZERO
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2134.html
次の日の午後、アンリエッタは久しぶりに、自室でくつろいでいた。 アンリエッタは疲れきっていた。 日々の政務が日増しに多くなっている。 その多くが、アルビオンとの戦争関係のものだ。 「ウェールズ様……」 その独り言が自然と出る。 アンリエッタのそばにいた女官が、察するかのように外へと出て行った。 そのとき、、ふいに、 「僕のことを呼んだかな?」と、外の窓の所から、声がしたのだった。 アンリエッタは外を見て驚愕し、会心の笑顔を見せた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 次の日の昼、ルイズたち三人は、トリスタニアの食堂『魅惑の妖精』亭で食事をとっていた。 零戦を受領したアカデミーの人間が、鉄の羽衣について、シエスタに聞きたいことがあるらしくシエスタを引き止めていたのだ。 さらに、マザリーニとアンリエッタが、ルイズたち三人に対し、タルブ村での出来事を詳しく聞きたい、との思惑もあり、そのためルイズたち三人は、今しばらく王都に滞在することになっていたのである。 しかしルイズたちは暇でも、アンリエッタたちは多忙を極めている。 そのうえ、アカデミーの人間は、いまだトリスタニアには到着していない。 だから、ルイズたちはやることもなく、王都をぶらついているのが実情であった。 ブチャラティがサフランのリゾットの最後の一口を口に入れたそのとき。 ふいに、城の方向から、叫び声とともに、兵士の一群が走ってこちらに来ていた。 その中にマザリーニもいる。 「いったいどうしたのかしら」 ルイズがつぶやくのと、マザリーニがルイズのことを見つけるのは同時だった。 「おお、ミス・ヴァリエール! アンリエッタ姫様を見かけませんでしたか? 何者かが城内に侵入し、姫様の近習を殺害。姫様はさらわれてしまったのです!」 「なんてこと! 私たちも探しましょう」 「私はトリスタニアの街内をを探します」シエスタは言った。 「私たちは外ね。馬で行くわよ、ブチャラティ!」 「ああ、良いだろう!」 二人は同時に街の外へと駆け出した。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ルイズたちはラ・ロシェールへと続く街道を馬でひた走っていた。 「この道で間違いないみたいだな」ブチャラティが言った。 彼らの行く手には、先行していたらしい、トリステインの近衛魔法騎士隊の死体が累々と横たわっている。 「酷い、誰がこんなまねを?」ルイズが嫌悪感に顔をゆがめた。 その視線の先には、喉仏を切り裂かれた男の死骸が横たわっている。 「生存者はいないのだろうか?」 「あそこ!」 ルイズの指差した先には、一人の騎士が、ヒポグリフの死体を背に横たわっていた。 肩で息をしている。 「大丈夫か?」ブチャラティが馬を下りた。ルイズもそれに続き、騎士に近寄っていく。 「あ、あいつ……こっちの攻撃を食らっても、びくともしないんだ……」 騎士はあえぎ声を出した。 「アイツとは?」 「ウ、ウェールズ公……」その言葉を最後に、騎士は意識を失った。 ルイズとブチャラティは、顔を見合わせた。 「どういうこと?」 「ウェールズは生きていたのか?」 「なら、なんで、こんな」ルイズはあたりの死体を見回し、 「マネをするのかしら?」と、最後にブチャラティをすがるように見た。 だが、その答えはブチャラティにもわからない。 黙って首を振るのみであった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 夕闇の迫る逢魔ヶ時。 アンリエッタとウェールズは連れ添って馬に乗り、ラ・ロシェールへの道をひた走る。 だが、速度を求めている馬はただ一頭。 もう一頭、アンリエッタの操る馬は、時々、乗り手の意を汲むかのように、徐々にス ピードを落としていった。 「アンリエッタ、またさっきの話かい?」ウェールズが言う。 「だって、どうして。あなたは騎士たちを殺してしまったのですか?」 「今は、何も考えずに僕と共に来てくれ。僕のかわいい人形におなり、アンリエッタ」 「ですが、三年前のあなたは言いましたわ。『僕は自分の民を不幸にはできない』と。 どうして、私の民を不幸にさせるのですか?」 「三年前とは色々と変わったのさ。君はもうすぐ女王になる。僕も変わった。 だが、僕と君との愛は、これは絶対に変わらぬものだよ」 その言葉に、アンリエッタの心が、心地よく混ざる。 アンリエッタには、先ほど見たトリステインの騎士の死など、もうどうでもよくなっ てきていた。 そのときだった。 「姫様、どうしてこんな真似を!」ルイズの声だ。 「あなたにはわからないのだわ。愛する者のこの意志が!」アンリエッタが叫ぶ。 「ええ、わからないわ! 私はわかりたくもない! たくさんの人々を手にかけて、 そこまでして何をしたいというのですか!」 「私はこれからウェールズ様とアルビオンに渡ります。そこで、貴族派の人々を手 なずければ、戦争を回避することすらできるかもしれないのよ。 お願いルイズ! 行かせてちょうだい!」 ルイズは戸惑った。 ひょっとしたら、姫様はウェールズ様と一緒に行かせるべきじゃないのかしら? そうしたら、トリステインは、アルビオンとの戦争を終わらせられるかもしれない。 そのように考え始めたルイズの隣で、ブチャラティが口を開く。 「アンリエッタ。俺はかつて、露伴とともに、あなたの王族としての覚悟を聞いた」 「ならば、ここで再度問おう! 今の君の決断は、果たして真の進むべき道か? それが、その血みどろの道が、君の進むべき王道の姿なのか!?」 「くうぅ!!!」 「ウェールズ! 君にも問おう! 君は貴族派に組したのか? それならば、あの、アルビオンでの内戦は一体なんだったのだ?!」 「ブチャラティ君。人は誰でも恋に狂うものさ」 「それで、その物言いで! 君の名の下で死んでいった者たちが、浮かばれるとでも言うのか!」 おかしい。ルイズは思った。 このウェールズ様は、あのニューカッスル城で出会った英君とは、なにか決定的に違う! 「あなた、本当にウェールズ様?」 「ああ、私は紛う事なきウェールズ・チューダーだ」 「姫様をアルビオンに連れて行くのは、あなたの信じた道なのですか?」 無言のウェールズ。 「姫様に、貴族派との喧騒を見せ付けるのが、あなたの覚悟なのですか?」 ウェールズは答えない。 「ニューカッスルで見せてくれた、姫様を気遣う態度の結果が、これなのですか?」 沈黙。 「なぜ何も答えない!」ブチャラティは言った。 「僕は生まれ変わったのさ。ブチャラティ君。 クロムウェル卿、アルビオン皇帝の手によってね」 「アルビオンでの貴族派の政治は知っている。 君は、あの恐怖政治を、失政を許すとでも言うのか!」 「僕は悟ったのだ。人は恐怖でしか変われぬ。 恐怖こそが人を正しい方向へ導くことのだ」 アンリエッタは、心の中に違和感を感じた。 愛情の歯車が、今まで滑らかに動いていた律動が。 何かの『異物』によって乱されていく。 ルイズは言った。 「ウェールズ様、あなたは、今のアルビオンの独裁を良い物と思っている?」 「そのとおり」 ぴしり。 「姫様を連れて行くのはあなたの愛ゆえ?」 「どうかな」 がくん。 「姫様とクロムウェル。どっちを選ぶ?」 「……閣下だ」 ぱちん。 っああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ 「決定的だな」ブチャラティが言った。 「ええ。姫様、ウェールズ様は操られているわ。貴族派の手によって」 だめ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 「いや! 聞きたくない!!!!!!!!!!!!!!」 いや! いやいや!! ききたくないききたくないききたくないききたくないききたくないききたくない キキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイ キキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイ キキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイ キキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイ キキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイ キキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイキキタクナイ 「姫様……」 「やはり、アンリエッタもうすうす感ずいていたのか」 「さて、ばれてしまっては、くだらない茶番もこれまでだ。アンリエッタは頂いて行くぞ」 「それは、させない」ブチャラティが言った。 アンリエッタは放心したようにうずくまった。 ルイズが駆け寄ろうとしたが、立ちふさがるウェールズに邪魔をされた。 彼の目には、今までにないほどの邪悪さがある。 「さがっていろ、ルイズ」ブチャラティが言った。 スティッキィ・フィンガーズを出現させる。 ウェールズとスタンドの間合いはニメイル。 スタンドの拳が男の体を貫く。 だが、肉片と化し、散り去ったはずの体の部位が、見る見るうちにふさがっていく。 「今の私の『モード』は水。君の攻撃は効かんよ」 ウェールズのが杖を振ると、ブチャラティの周囲の水蒸気が集まり、ゼリー状にな ってブチャラティの口をふさいだ。 「そのまま窒息死してもらおう」 ブチャラティはもがくが、如何ともしがたい。 スティッキィ・フィンガーズのビジョンが薄くなっていく。 彼の意識がなくなっていく証拠だ。 ルイズは思った。 あの水をエクスプロージョンで吹き飛ばそうか? いや、だめ。ブチャラティまで吹き飛んでしまうわ。 ルイズはなきそうになった。 私は何もできない。 虚無に目覚めたというのに。 せっかくここまでついてこられてたというのに。 ブチャラティの手助けもできない。 姫様を慰めることもできない! 私は、このままいつまでも傍観者のままなの!? おねがい! だれか、私に力を!!! そのとき、ルイズの持っていた『虚無の祈祷書』が光るのを、ルイズは見て取った。 ルイズは開き、そこに書かれていた呪文を唱えはじめる。 それは『ディスペル・マジック』。 効果は他の魔法の効果を打ち消すこと。 ルイズは、杖を振り下ろした。 そのときだった。 「アン……?」 ウェールズの声である。 だが、先ほどまでとは打って変わった、温かみのある声だった。 「ウェールズ様?!」 アンリエッタは駆け寄り、倒れ掛かったウェールズを支えて、彼の顔を覗き込んだ。 そこには、澄み切った瞳があった。 先ほどまで、アンリエッタに対して甘い声をかけていた男にはない瞳の輝きであった。 「僕は一体……いや……僕は操られていたのか……」 「ウェールズ、まさか、正気に戻ったのか?」ブチャラティがむせながら言う。 ウェールズは顔を向け、 「君は、ブチャラティ」といった。が、その声はとても弱々しい。 「ウェールズ様……!」 アンリエッタが息を呑む。 それもそのはず、ウェールズの体が、徐々に黒焦げていったからだ。 あわててアンリエッタは回復の魔法をかけた。 だが、ウェールズの焦げていくさまをとめることはできなかった。 「いいんだ、アンリエッタ……僕は今、本当は生きちゃいけないんだ」 「そんな……そんな!!!」 アンリエッタは首を激しく振り、己の持つ魔法力を限界まで使い、回復魔法をかける。 アンリエッタの意識が飛びそうになる。 ウェールズはそれを見て、 「アンリエッタ……最期のお願いだ。僕を、あの泉へ連れて行ってくれ……」 と、つぶやいた。 アンリエッタはこくんとうなずいた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 一時間後。 ラグドリアン湖の湖畔、ウェールズとアンリエッタは、アンリエッタが肩を貸す形で、 ただ、たたずんでいた。 「アンリエッタ……」 ウェールズはそういった。そういうのも難しいらしく、息も絶え絶えだ。 アンリエッタはそれを全身で支えながら答える。 「ウェールズ様……」 「君とは、かつてこの湖畔で誓ったね……」 「ええ、でも、愛を誓ったのは私だけ…… あなたは、『私とこの湖畔で二人で再会する』としか誓ってくださらなかった。 どうしてですの?」 「それはね……僕は、君を不幸にしたくなかったんだよ」 そう答えるウェールズの足から、一歩ずつ、力が抜けていく。 「私は、あなたに愛されることだけが望みでしたのに」 アンリエッタは泣きそうになった。だが、懸命にこらえた。 ウェールズは薄く笑い、微笑んだ。 「アンリエッタ。ひとつ誓ってくれ。今生の頼みだ」 アンリエッタは嗚咽を誤魔化すかのように叫ぶ。 「何でしょう。私にできることなら、何だっていたしますわ!」 「僕を、ウェールズを、忘れると誓ってくれ……」 「……え?」 「僕は死ぬ。君を幸せにできない。だから、君は別の人を好きになってくれ」 ウェールズはそれだけ言うと、湖畔のそばに崩れ落ちた。 「そんなこと誓えませんわ。嘘を言えるわけないでしょう!!!」 「お願いだアンリエッタ。でないと、僕は君を不幸にしたままあの世に行ってしま うことになる。だから、ラグドリアン湖の前で、水の精霊の前で、誓ってくれ」 ウェールズは虚空を見つめ、 「さあ、アンリエッタ、僕にはもう時間がない……」 そうつぶやいた。もはや目に力がない。 アンリエッタは誓いの声を口にした。 「ウェールズ様、私は誓います」 だが、アンリエッタは深呼吸を一回だけ行うと、はっきりと続けた。 「私はウェールズ様以外の誰も愛さないことを。 今宵限り、永久に私は他人を愛することはないでしょう」 ウェールズはわずかに微笑んだ。 「困ったな……僕は不幸なのか、果報者なのか……」 「同じことですわ、ウェールズ様……」 「そうか……」 ウェールズはその言葉を最後に、完全に炭になった。 ラグドリアン湖へと吹き寄せる風が、かつてウェールズの肉体であったものを塵と して湖に運んでいく。 「これで、よかったのでしょうか?」ルイズがアンリエッタに言った。 「ありがとう、ルイズ。私の一番大切な親友……」 アンリエッタは、目に浮かんだ涙をぬぐったのだった。 「いま、私は確かにウェールズ様と分かり合えたわ……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― アンリエッタは、トリステインの王であることを示す王冠を頭に載せ、王宮のテラス に姿を現した。 眼下に見下ろす広場には、多数のトリステイン国民がつめている。 本日はトリステイン王国の戴冠式が王宮にて行われていた。 この日に限っては、貴族・平民の区別がなく、王女…もとい女王を見上げていた。 皆が王冠を頭に載せたアンリエッタの姿を羨望している。 彼女はそれらを一瞥すると、大きく、深く息を吸い上げた。 「親愛なる国民の皆さん」 オオッと、歓声が上がる。平民の声が多い。今の彼女の言葉は、トリステインの伝 統に基づいた宣言文書には記載されていないからだ。 本来ここでは、王者の口からは、始祖ブリミルに統治の安寧を願い、加護を請う言 葉が紡がれる筈であった。 「このようなめでたい日ですが、一つ、悲しい報告をしなければなりません」 ――なんという滑稽な日…… 「わたくし達の友、親愛なるアルビオンの王家が、貴族派によって滅ぼされました」 ――ウェールズ様…… 「ハルケギニア中にあらさまに露呈したこの暴挙には、いったい何の意味があるというのでしょう。 彼らのの行いは、単に王家への侮辱というだけでなく、始祖ブリミルそのものに対する侮蔑なのです。 始祖の教えに従い、共に生きようと願う人々の仲を引き裂いているのです」 ――これで、いいんですよね?…… 「彼らは、傲岸不遜にも我々を屈服させ、聖地をエルフより取り返したいと考えているようです」 ――傲岸不遜……この私にこそ最もふさわしい言葉…… 「しかし、彼らのような礼儀知らずの愚か者達に、始祖ブリミルの意思を継ぐことができるのでありましょうや?」 ――意思……これは誰の意思? 「まして、始祖ブリミルの子孫を打ち滅ぼす事など、始祖御自身が望むのでしょうか?」 「今こそ、我々は、この国が始祖ブリミルによって創られたことを思い出さなければなりません」 ――そう、これは私の意志。 「始祖ブリミルの意思を継ぐのは我々です」 ――私だけの意思。 「貴族も、平民も区別なく、すべて始祖ブリミルの子として使命を果たさなければならないのです」 ――貴族の意思でも、平民の意思でもない。 「私は本日、トリステイン王国王女として戴冠いたしました」 ――人形であったものが。 「そしてまた、わたくし、アンリエッタは、始祖ブリミルの正当なる子孫として」 ――利己的な人間らしく。 「また、こちらにいるアルビオンの方々の推挙により」 ――くだらない根拠によって、 「アルビオン王国の、国王の位を受け継ぐことを宣言いたします」 ――無限の血が流れるのを望むことを宣言します。 広場の一角から歓声が上がる。彼らは、アルビオンから亡命してきた元王党派の面々であった。 一寸、アンリエッタの目の前に、ありえるはずのない光景が出現した。 アルビオンの王冠を抱くウェールズと、その傍らには同じ紋様の、王妃の冠をかぶったアンリエッタ。 隣同士の玉座に座る二人の間に、小さな子供がが元気よく走り回る…… 「たった今から、アルビオンとトリステインはひとつになりました」 ――今、はっきりとわかりました。 自分の声で我に返る。目の前に見えていたはずの幻影が、哀しいほどに愛おしい。 「わたくしたちこそが」 ――私こそが…… 「わたくしの王家があり続ける限り、総ての国民が」 ――私が女王である限り、総ての国民が…… 「アルビオンとトリステインの国民総てが、いまやわたくしの兄弟・姉妹なのです」 ――すべての国民が不幸であり続ける…… 「今こそ始祖ブリミルの子らに申し上げます!」 ――わたしは、虚無だ。 「わが兄弟のアルビオン人よ、あなたの国家があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたがあなたの国家のために何ができるかを問いましょう。わが姉妹のトリステイン国民よ、我が国があなたのために何をしてくれるかではなく、わたくしたちと共に兄弟の為に何ができるかを問いましょう」 ――私は、私に何ができるかを確かめる。 「私はロンディニウムで、アルビオンの王冠の戴冠式を執り行うつもりでいます」 ――私にはそれを止めるつもりは無い。 「それは、現在アルビオンを牛耳っている叛乱軍との交戦を意味します」 ――それは私が望んだこと。 「その過程で、あなた方はこう思うに違いありません。『アンリエッタを王女にするのではなかった』と」 ――そう、まさにその通り。 「わたくしは、国民の犠牲に対し、報いるものはほとんど持ち合わせておりません」 ――その代わり、私はあなたがたに要求する。 「わたくしがあなたがたに提供できるのはただひとつ」 ――あなたがたに、死ねと命じる。 「死につながる多数の道と共にある、栄光をつかむ極わずかな一筋の道のみです」 ――彼らは皆、私に従って、失われる命も報われると信じて戦う…… 「栄誉を唯一のたしかな報酬とみなし、神がわれわれの行動に最終的な判断を下してくれることを信じて、始祖ブリミルに祝福と助けをもとめながらも、このハルケギニアでは、神の仕事はわれわれ自身でなしとげなければならないということを肝に銘じて、われわれの愛すべき国を導くために前進しましょう」 ――軍靴を履いて、どこまでも血塗られた道を進む。 万歳。どこからともなく発せられたそれは、さざなみのように広場中に広がっていった。 「アンリエッタ女王万歳!」 万雷の声が重なる。狂喜とともに。 「始祖ブリミル万歳! アンリエッタ女王に栄光あれ!」 この瞬間、この場所にいる人間は確かに一つの感情を共有していた。 たった一人の女性を除いては…… 第4章 トリステインとイゾルデ Fine...