約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/darthvader/pages/33.html
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 00 39 02.59 ID VYsc/m080 ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世とトリステイン王女アンリエッタの結婚式は、三日後にゲル マニアの首府、ヴィンドボナで行われる運びであった。 そして本日、トリステイン艦隊旗艦の『メルカトール』号は、新生アルビオン政府の客を迎える ために、艦隊を率いてラ・ロシェールの上空に停泊していた。 アルビオン艦隊の到着は遅れている。『メルカトール』号の後甲板では、艦隊司令長官のラ・ ラメー伯爵が苛立っていた。 「やつらは遅いではないか、艦長」 艦長のフェヴィスが、口ひげをいじりながら答える。 「自らの王を手にかけたアルビオンの犬どもは、犬どもなりに着飾っているのでしょうな」 ちょうどその時、鐘楼に登った見張りの水兵が、大声で艦隊の接近を告げた。 「左上方より、艦隊!」 なるほど、そちらを見やれば、雲と見まごうばかりの巨艦を先頭に、アルビオン艦隊が静々と 降下してくるところであった。 「ふむ、あれがアルビオンの『ロイヤル・ソヴリン』号か……」 感極まった声で、ラ・ラメーが呟いた。『ロイヤル・ソヴリン』改め『レキシントン』号……、おそ らくあの艦に、姫と皇帝の結婚式に出席する大使が乗っているのであろう。 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 00 42 46.18 ID VYsc/m080 「しかし、あの先頭の艦は巨大ですな。後続の戦列艦が、まるで小さなスループ船のように 見えますぞ」 フェヴィスは鼻を鳴らした。 「ふむ、戦場ではできれば会いたくないものだな」 降下してきたアルビオン艦隊は、トリステイン艦隊に併走するかたちになると、旗流信号を マストに掲げた。 「貴艦隊ノ歓迎ヲ謝ス。あるびおん艦隊旗艦『れきしんとん』号艦長」 「こちらは提督を乗せているのだぞ。艦長名義での発信とは、これまたコケにさらたものです な」 艦長はトリステイン艦隊の貧弱な陣容を見渡しながら、自虐的に呟いた。 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 00 46 41.83 ID VYsc/m080 どん! どん! どん! とアルビオン艦隊から大砲が放たれた。 弾は込められていない。火薬を爆発させるだけの礼砲である。 しかし、巨艦『レキシントン』号の長大な砲身から放たれた空砲は、辺りの空気を震撼させ、 トリステイン艦隊の将兵は皆肝を冷やした。 「よし、答砲だ」 一瞬後じさったラ・ラメーが、それでもどうにか威厳を保ちながら命令する。 「何発撃ちますか? 最上級の貴族なら、十一発と決められております」 礼法の数は相手の格式と位で決まる。艦長はそれをラ・ラメーに尋ねているのであった。 「七発でよい」 半ば意地を張って、ラ・ラメーは答えた。 それに先んじて、アルビオン艦隊の最後尾の旧型艦『ホバート』号から、全乗組員を乗せた ボートが脱出するのに、トリステイン艦隊の将兵の誰一人として気づかなかった。 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 00 49 56.50 ID VYsc/m080 空砲を発射し続ける『メルカトール』号の将兵の目の前で、アルビオン艦隊の『ホバート』号が 突如火を噴き、瞬く間に墜落した。あたかも、『メルカトール』号の砲撃で撃沈された、という ようなタイミングで。 そしてそれが、この忌まわしき戦争の発端だったのである。 アルビオン艦隊は、トリステイン艦隊の突然の砲撃に抗議すると主張しながら攻撃を開始した。 質、量ともに劣るトリステイン艦隊は、応戦する間もなく実弾による砲撃にさらされた。 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 00 54 57.11 ID VYsc/m080 トリステインの王宮に、国賓歓迎のためラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊が全滅した という報せがもたらされたのは、それからすぐのことであった。 ほぼ同時に、アルビオン政府から宣戦布告文が急使によって届いた。 不可侵条約を無視するような、親善艦隊への理由なき攻撃に対する非難がそこには書かれ、 最後に『自衛ノ為神聖あるびおん共和国政府ハ、とりすていん王国政府ニ対シ宣戦ヲ布告ス』 と締められていた。 ゲルマニアへのアンリエッタの出発でおおわらわであった王宮は、突然のことに騒然となった。 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 01 52.02 ID VYsc/m080 王宮の重臣たちが一人残らず集まり、御前会議が開かれた。 当然ながら議論は紛糾した。 原因の究明、責任の所在、特使の派遣……、夜を徹して行われた進展の見えぬ会議に終止 符を打ったのは、仮縫いの終わったばかりのウェディングドレスも眩しいアンリエッタであった。 「あなたがたは、恥ずかしくないのですか?」 居並ぶ重臣たちの顔を真っ向から見据えて、アンリエッタは問いただした。 「わたくしたちがこうしている間にも、民の血が流されているのです! 彼らを守るのが貴族の 務めなのではありませぬか? 我らはなんのために王族を、貴族を名乗っているのですか? このような危急の際に彼らを守るからこそ、君臨を許されているのではないのですか?」 一同から反論の声は上がらなかった。 その代わり、賛同の意見も出ない。 誰もが開戦の責任を取ることを嫌がっているようだった。 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 07 27.56 ID VYsc/m080 民の被害が拡大している最中にも保身に走る重臣たちに業を煮やしたアンリエッタは、自分 が軍を率いる、と宣言すると、ウェディングドレスの裾を破り捨てて愛馬のユニコーンに跨り、 先陣を切って駆け出した。 会議に居合わせた重臣たちは慌ててアンリエッタを押しとどめようとしたが、魔法衛士隊を 初めとして、兵の多くは勇敢な王女の方に従った。 この無謀な行動が、結果として軍を一つにまとめることになった。 トリステインの迎撃軍は、空軍の援護を受けられぬ絶望的な情況ながら、意気軒昂として 戦場に向かったのである。 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 10 46.34 ID VYsc/m080 生家の庭で、シエスタは幼い兄弟たちを抱きしめ、不安げな表情で空を見つめていた。 先ほど、ラ・ロシェールの方角から爆発音が聞こえてきた。 驚いて庭に出ると、恐るべき光景が広がっていた。 空から何隻もの燃え上がる船が落ちてきて、山肌にぶつかり、森の中に墜落していった。 村は騒然とし始めた。しばらくすると、空から巨大な船が降りてきた。雲と見まごうばかりの 巨大なその船は、村人たちが見守る中、草原に投錨し、上空に停泊した。 その上から、何匹ものドラゴンが飛び上がった。 シエスタは兄弟たちをぎゅっと抱きしめた。 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 15 35.24 ID VYsc/m080 馬に跨った領主の手勢が迎撃にやってきたものの、風竜を駆る髭の騎士に率いられた竜騎士 隊によって、あっという間に壊滅させられた。 その時になってようやくシエスタは実感した。 これは戦争なのだ、と。 「ベイダーさん……」 子供たちを家の中に引き入れながら、シエスタは我知らず呟いていた。 領主の小部隊を血祭りに上げたアルビオン竜騎士隊が、タルブの村めがけて針路を変えた。 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 19 24.36 ID VYsc/m080 いつものようにルイズの隣の席で授業を聞いていたベイダー卿が、突然音を響かせて立ち 上がった。 教室中の生徒が思わずビクッと体を強張らせた。 最初の授業からベイダー卿に苦手意識を持っているミス・シュヴルーズも例外ではない。 元から気の弱いシュヴルーズは、思わず教卓の陰に隠れてしまった。 「ちょ、ちょっと……。いきなりどうしたのよ?」 ルイズは驚いてベイダーのマントを引っ張った。 思えばそれが、その日初めてベイダーにかけた言葉だった。 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 22 21.46 ID VYsc/m080 昨日のあの出来事からなんとなく気まずくなって、ルイズはベイダーが部屋に戻ってきた後も ずっと声をかけられずにいた。 ベイダーは必要最小限のことしか口に出さないので、普段から二人の間にそれほど活発な 会話が交わされていたわけでもないのだが、この間の沈黙は常ならず妙な重苦しさを伴って ルイズの胸にのしかかっていた。 おそらくベイダーの方は別段何も感じていないのだろう……そう考えるとますます悲しくなって、 ますます腹立たしくなって、結局意地を張ったまま一言も口を聞かずじまいだったのだ。 ベイダーはマントを引っ張るルイズに気づくと、静かに座席に腰を下ろした。 「どうしたのよ?」 「わからない。フォースが何かを伝えようとしていたのだが……。嫌な予感がする」 いつになく歯切れの悪い口調でそう言うと、ベイダー卿は再び立ち上がり、マントを翻して教室 を出て行った。 呆気にとられる一同。 扉の開閉の音とともにミス・シュヴルーズがおずおずと教卓から顔を覗かせ、ようやく授業が 再開された。 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 26 38.72 ID VYsc/m080 放課後、ルイズが教室から寄宿舎に戻る際、中庭でベイダー卿が竜の羽衣をいじっている のが目に入った。 気のせいか、その動きにはいつものような余裕が見られない。 真剣そのものの手つきで、黙々と作業をこなしている。 その傍らでは、おそらく途中で授業を抜け出したのであろう、ギーシュとマリコルヌが助手を 務めていた。 ギーシュのみならず、いつからマリコルヌまでベイダーの軍門に降ったのだろうか――そう いぶかしみつつ、ルイズは自室への道を急いだ。詔の続きを考えなければならない。 急いでいるつもりなのに、その足取りは重い。 どうしようもない疎外感がその胸を苛んでいるのを、ルイズ本人も少しずつ自覚しつつあった。 ――結局、詔はほとんど書き進められなかった。 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 33 11.87 ID VYsc/m080 ベイダーがいったん帰ってきたのは、日が沈んでしばらくしてからだった。 ルイズはベイダーが扉を開けたのを無視して、始祖の祈祷書を広げて机に向かい続けた。 ややあって、違和感を覚えるルイズ。ベイダーがいつまでたっても部屋の入り口から動こう としないのだ。 さらには、ベイダーの視線が自分の背に注がれているのが意識された。 二、三分もそうしていただろうか、ルイズは根負けして、何気ない素振りで入り口を振り返った。 敷居の中に一歩踏み込んだ姿勢で、ベイダーはじっとこちらを見ていた。 「あ、あら、ベイダー。かかか、帰ってたの?」 動揺を押し殺そうとするルイズの試みは、見事に失敗に終わった。 ベイダーは小さく頷き、発声機越しに言葉を紡いだ。 「マスター、今夜は帰れないかもしれない」 ベイダーはそうとだけ言い、呆気に取られるルイズを尻目に、部屋を出て行った。 後に取り残される形となったルイズは、あんぐりと口を開けたまま硬直していた。 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 37 39.83 ID VYsc/m080 「な、なな、なによ、あれ……」 ルイズは誰にともなくそう呟いてから、机に突っ伏した。 またタバサの所に行くのだ、そう考えると無性に悲しくなった。 頬を伝う涙がアンリエッタから授かった『水のルビー』に滴り落ちた刹那、始祖の祈祷書に ぼうっと文字のようなものが浮かんだ。 もちろん、泣き伏すルイズはそれに気づかなかった。 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 44 20.94 ID VYsc/m080 その夜、日付がかわってずいぶん経つというのに、ルイズはどうしても寝付けなかった。 ゲルマニアで行われるアンリエッタの結婚式に出席するため、翌朝早く王宮からの馬車が 迎えに来る。早く眠らなければいけないのに、どうしても眠りが訪れなかった。 明日のことで不安なわけでもない。 夕方の悲しみを引きずっているわけでもない。 ただ、何かが足りない。何かが満たされない。 そんな渇望にも似た感覚に悩まされながら、ルイズは寝具の中で何度目かの寝返りを打った。 85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 48 39.23 ID VYsc/m080 どれくらいそうしていただろうか、部屋の扉がかすかな軋みと共に開き、あの耳慣れた呼吸音 が聞こえてきた。 「コーホー」 ちょうどそちらに背を向ける格好だったルイズは、そのまま寝たふりをした。 呼吸音の主はしばらくその場に立ち止まり、ベッドの上のルイズを見ていた様子だったが、 やがて足音を殺しながら、すっかり寝床代わりとなっている椅子に腰を下ろした。 規則正しい呼吸音が、ルイズの渇望を少しずつ溶かしていった。 そしてその途端、待ち望んでいた眠気が訪れた。 睡魔に侵食されつつある思考の中で、ルイズは眠りを妨げていた不満足感の正体を把握し ていた。 いつの間に自分はこの呼吸音なしには眠れなくなっていたのだろうか……、そう自問しながら、 ルイズはようやく眠りに落ちたのだった。 88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 51 38.02 ID VYsc/m080 トリステイン魔法学院に、アルビオンの宣戦布告の報が入ったのは、翌朝のことだった。 王宮は混乱を極めたため、連絡が遅れたのである。 ルイズはベイダーを従え、始祖の祈祷書を片手に、魔法学院の玄関先で王宮からの馬車を 待っているところであった。 ゲルマニアへルイズたちを運ぶ馬車だ。 しかし、朝靄の中魔法学院にやってきたのは、息せききった一人の使者であった。 彼はオスマン氏の居室をルイズに訪ねると、足早に駆け去っていった。 使者の尋常ならざる慌てぶりに、ルイズは不安を覚えた。 いったい王宮でなにがあったのだろう……、気になったルイズは、使者を追って学院長室に 向かった。 94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 01 57 49.66 ID VYsc/m080 オスマン氏は、式に出席するための用意で忙しかった。一週間ほど学院を留守にするため、 様々な書類を片付け、荷物をまとめていた。 その時、猛烈な勢いで、扉が叩かれた。 「誰じゃね?」 返事をするより早く、王宮からの使者は飛び込んできた。 「王宮からです! 申し上げます! アルビオンがトリステインに宣戦布告! 姫殿下の式は 無期延期になりました! 王軍は、現在ラ・ロシェールに展開中! したがって、学院におか れましては、安全のため、生徒及び職員の禁足令を願います!」 オスマン氏は顔色を変えた。 「宣戦布告とな? 戦争かね?」 「いかにも! 敵軍はタルブの草原に陣を張り、ラ・ロシェール付近に展開した我が軍とにらみ 合っております!」 「アルビオン軍は強大だろうて」 オスマン氏は呻いた。 99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 03 40.22 ID VYsc/m080 使者は悲しげな声で言った。 「敵軍は、巨艦『レキシントン』号を筆頭に、戦列艦が十数隻。上陸せし総兵力は、三千と見積 もられます。我が軍の艦隊主力はすでに全滅、かき集めた兵力はわずか二千。未だ国内の 戦の準備が整わず、緊急に配備できる兵はそれで精一杯のようです。しかしながらそれ以上に、 完全に制空権を奪われたのが致命的です。敵軍は空から砲撃を加え、我が軍をなんなく蹴散 らすでしょう」 「現在の戦況は?」 「敵の竜騎兵によって、タルブの村は炎で焼かれているそうです……。同盟に基づき、ゲルマ ニアへ軍の派遣を要請しましたが、先人が到着するのは三週間後とか……」 オスマン氏はため息を吐いて言った。 「……見捨てる気じゃな。敵はその間に、王都トリスタニアをあっさり陥落させるじゃろう」 100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 07 48.59 ID VYsc/m080 学院長室の扉に張りつき、聞き耳を立てていたルイズの顔が、戦争と聞いて蒼白になった。 思わず、隣に立っていたベイダーの顔を見上げる。 ベイダーはしばらく腕組みをして考え込んでいる様子だったが、やがて踵を返すと中庭に向 かって大股に歩いていった。 ルイズは慌てて後を追った。 ベイダー卿は中庭に辿り着くと、竜の羽衣に取りついた。 そのマントを、ルイズが掴んだ。 「どこに行くのよ!」 「タルブの村だ」 ベイダーの手振りで、コクピットのキャノピーが開いた。 105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 11 14.10 ID VYsc/m080 「ダメよ! 戦争してるのよ! あんたが一人行ったって、どうにもならないわ! 王軍に任せて おきなさいよ!」 「制空権を握られているのだろう? 空の敵をこれで叩く他ない」 「そんな玩具でどうしようってのよ!」 ルイズはマントを放さない。ベイダーはかまわず木製のはしごを上り、コクピットに向かう。 ルイズの体がマントに引っ張られて浮いた。恐ろしく丈夫な生地だ。 それでもしがみついて離れようとしないルイズに、ベイダーもやや辟易したようだ。 ベイダーは仕方なく一度地面に下りると、マントを放した彼女と向き合った。 その片手が軽く上がるのを、ルイズは見逃さなかった。 112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 16 49.46 ID VYsc/m080 「僕は行ってもいい」 「あ、あんたは……い、行っても……」 ルイズの口がそこできゅっと結ばれた。 ベイダーはやや驚いた様子で、今度はそれとわかるくらいにやや大きく手を振った。 「きみは僕の心配などしない」 「わ、わたしは、心配なんて……」ルイズはそこでぎりっと奥歯を噛んだ。「あんたの心配して あげてるのよ! それくらいわかってよ、バカッ!」 ルイズは顔を真っ赤にし、目に涙を湛えてそうとだけ言い捨てると、ぷいっと背を向け、さっき 出てきたばかりの本塔の方に走っていってしまった。 123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 24 25.53 ID VYsc/m080 「コーホー」 ベイダー卿はしばらくその場に立ち尽くし、離れていくルイズの背を見守っていたが、やがて 竜の羽衣に向き直った。 だが、その手をはしごにかけようとしたところで、燃料がないことに気づく。 ベイダー卿は本塔と火の塔に挟まれた一画にある、コルベールの研究室に向かった。 ベイダーの姿が見えなくなるのを確認してから、ルイズはまた竜の羽衣に駆け寄った。 (なによなによなによ、ホントに人の言うこと聞かないんだから!) ルイズは泣きそうになったが、唇を噛んで、こらえた。 あんな捨て台詞で、ベイダーに言いたいことが全部言い尽くされたわけではない。 それに、問いたださなければいけないことがまだある。 「こんなんで、アルビオン軍に勝てるワケないじゃないの!」 そう毒づきながら、ルイズははしごに手をかけた。 131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 30 09.49 ID VYsc/m080 ベイダーが一応は『研究室』と名づけられている薄汚い掘っ立て小屋の戸をくぐると、コルベー ルはちょうど樽を一箇所にまとめ終えたところのようだった。 「おお、ベイダー卿! ちょうど今燃料ができあがったところですぞ」 そう言って無精ひげが伸び放題の顔で笑ったコルベールが、積み上げられた樽を杖で指し 示した。次いで、床に転がって眠りこけているギーシュとマリコルヌをつつき起こす。 「ほらほら諸君、起きたまえ。ベイダー卿が来ましたぞ」 二人の少年がむにゃむにゃと目を覚ます。 どうやら徹夜でコルベールの作業を手伝い、そのまま寝入ってしまったらしい。二人の頬には、 床に敷かれた粗末な敷物の跡がくっきりとついていた。 「急いでその燃料を羽衣に運んでもらいたい」 ベイダー卿の指示で、三人が動き出した。 136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 36 29.07 ID VYsc/m080 竜の羽衣への燃料補給は、コルベールが行った。 それを監督するベイダーの前で、ギーシュが片膝を突いて頭を垂れた。 「畏れながらベイダー卿、私どもめにこの竜の羽衣への装飾を許可しては頂けませんでしょ うか」 ベイダー卿は頷いた。 「時間がかからないものならば、かまわぬ」 ギーシュはもう一度深々と礼をしてから立ち上がると、傍らのマリコルヌを見た。 その視線に応え、風上のマリコルヌが『風』系統の呪文を唱える。 足元の土が舞い上がり、竜の羽衣の垂直尾翼にくっついて文字を成した。 すかさず、ギーシュが『錬金』の呪文を唱えてその土を真紅の顔料に変化させ、次いで『固定化』 で固着させる。 既知銀河のどの言語とも違うその文字を見て、ベイダー卿はまた頷いた。 140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 39 14.35 ID VYsc/m080 「アカデミー等で作られた新たなマジックアイテムを、王軍の実験部隊ではこの番号をふって 使用するようです」 元帥の息子であるギーシュが、文字の意味するところを解説した。 「マスターがこの場にいれば激怒したかもしれんが、悪くない。気に入ったぞ、ギーシュ、マリ コルヌ」 二人の少年は互いに顔を見合わせ、パッと表情をほころばせた。 コルベールが、補給の完了を告げた。 144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 43 25.90 ID VYsc/m080 ベイダー卿は、操縦しやすいように改造したコクピットにその手足を収めると、下で待機する ギーシュに声をかけた。 「ギーシュ、この機体の下の地面を、平らな青銅に変えられるか?」 「おやすい御用です、ベイダー卿」 ギーシュは承知して、『錬金』を唱えた。 竜の羽衣の下の地面が、半径十メイルに渡って一枚の平滑な青銅に変化した。 「よし、よくやった。出来るだけ離れて耳を塞いでいるがいい」 コルベールたち三人が、本塔の方に退避する。 誰からともなく、示し合わせたように、三人が叫んだ。 「メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー、ロード・ベイダー!」 ベイダーは首を巡らせ、三人に視線を向けた。 そして、はっきりとこう応えた。 「メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー」 151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 46 24.09 ID VYsc/m080 本来であれば燃焼実験をしておきたかったところだが、残念ながらそんな時間はない。 ベイダー卿はコクピットの中で、ずっと前から知り尽くしているかのような慣れた手つきで計器 類を立ち上げ、エンジンをかけた。 ベイダーによって修理と改造を施されたペガサスエンジンが、学院全体を揺るがす轟音と共に 起動した。 片側に二つ、合計四つのエンジンノズルからガスと圧縮空気が噴出され、その推力で機体が ホバリングを開始する。 160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/06/18(月) 02 52 14.09 ID VYsc/m080 「浮いたぞ!」 両手で耳を塞ぎながら、コルベールは叫んだ。 耳をつんざくような騒音に顔をしかめていたギーシュとマリコルヌも、その光景に顔を輝かせた。 高度十メイル程度にまで上昇した所で、エンジンノズルが垂直から水平に向きを変える。 それとともに、竜の羽衣は信じられないような速度で飛翔した。 かつて『ハリアー』と呼ばれ、今『ゼロ』のナンバーを負わされたその機体は、こうしておよそ 四十年ぶりに大空に舞い上がった。
https://w.atwiki.jp/kuroeu/pages/2657.html
祈祷の剣 種族:創造体 登場作品:封緘のグラセスタ 解説 リューシオンの神域である祈祷岬を守る彫像。 雑感・考察 名前
https://w.atwiki.jp/kuroeu/pages/2658.html
祈祷の盾 種族:創造体 登場作品:封緘のグラセスタ 解説 リューシオンの神域である祈祷岬を守る彫像。 雑感・考察 名前
https://w.atwiki.jp/guidas68/pages/28.html
祈祷師 キャラクター難易度☆☆☆ ヒーローの説明 古代神殿の司祭 獣人族は古代の力を研究するためにすべてを捧げた種族である。彼らはその力が悪用されるのを防ぐためにこれを封印して守ってきたが、深淵の悪魔たちが目覚めた時、封印した古代の力を使うことにした。 パッシブスキル パッシブスキルがありません。 アクティブスキル スキルを使用すると、60%の確率で神殿をもう一度発動することができます。 レベルボーナス ☆★★★★ 体力+1 ☆☆★★★ 祝福を得た時、10%の確率でシールドを獲得 ☆☆☆★★ 攻撃力+1 ☆☆☆☆★ シールド+1 ☆☆☆☆☆ シールド+1 再度発動された神殿の祝福をもう一度別の祝福で替えます。 ステータス 青は最大強化時の値 体力 2(3) 攻撃力 10(11) シールド 2(3) 防御確率 0 攻撃速度 2.86 移動速度 4.1 詳細説明
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2404.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (20)プレインズウォーカーの狂気 それは黒い染み。 純白の世界に産み落とされた、汚らわしき黒の蜃気楼。 汚染と侵略とを等しくする邪悪。 「……ふん、くだらん、実に陳腐だ。失望したぞコルベール。お前は二十年の間に錆び付いて、俺の求めた温度ではなくなってしまったか」 倒れ伏せる男に向かってメンヌヴィルが吐き捨てる。 防御もままならぬまま、炎の射線へと己が身を躍らせた道化に対して、メンヌヴィルは既に興味を失っていた。 「興が殺がれた。コルベール、その命暫く預けておいてやる。次会うときは腑抜けた面構えをなおしておけ」 背を向けて、堂々と舞台から退場するメンヌヴィル。 扉が開かれ死神が去った艦橋、その場に五体無事で残されたのはルイズとモンモランシー、ギーシュの学院生徒達三人だけであった。 「モンモランシー!早く治癒を、早くっ!」 「嫌っ!嫌よっ!」 「ミスタ・コルベールは私達を助けるために身を挺して庇ってくれたのよっ!」 「だって、だって……わぁぁぁん!!」 ルイズの胸に飛び込んで大声で泣き出したモンモランシー。 突然の戦場、唐突な襲撃、そして目の前で仰向けに倒れているミスタ・コルベール。 ほんの少し前まで、戦いなどとは縁遠い学院で平和を享受していたモンモランシー。 大多数の貴族の令嬢がそうであるように、蝶よ花よと愛され育てられたモンモランシー。 そんな彼女にとって、ここ一時間に起こったことは何もかもが遠い世界の絵空事のようで、自分がどのような状況に置かれているかを本当に理解していなかった。 目の前に死の影が迫るまでは…… どうすればいいか分からず、背中を両手でそっと抱くルイズ。 だがそれも一瞬のこと、すぐさまモンモランシーの肩を掴んで引き離した。 「しっかりしなさいっ!モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ!」 顔を涙に濡らし、体を震わせているモンモランシーの目を、正面からしっかりと見据えるルイズ。 「見なさい!ミスタ・コルベールを!私達を救うために戦った人を!」 そしてモンモランシーの恐れ、その核心を突く。 モンモランシーの脳裏にフラッシュバックする、温度を失った顔をしたコルベール。 「この姿を見てもあんたは、ミスタ・コルベールがあいつと同じだって言うのっ!?」 モンモランシーの中に芽生えた原始的な『火』への恐怖、それを察知しながらもルイズは言う、打ち勝てと。 「で、でも……」 「皆戦ってる。ミスタ・ウルザ、ミスタ・コルベール、オールド・オスマン、タバサ、ギーシュも。あなたはあなたの戦いをしなさい、モンモランシー」 突き放すように言いながら、モンモランシーをいたわる色を滲ませるルイズ。 モンモランシーは顔をくしゃくしゃに歪めながら、治癒のルーンを呟き始めた。 「私じゃ応急処置しかできないわ……トライアングルか、それ以上の水魔法のメイジに早く治癒してもらわないと」 「そう……、聞いたわねギーシュ!すぐに王都に向かってちょうだい」 モンモランシーの治癒を受けても目を覚まさないコルベールの頭に手を置いてルイズの言葉。 だが、、、 「ルイズ、申し訳ないのだけれど、その前にまた問題発生のようだよ。最初に言っておくけど、僕はどっちが王都か分からない。次に、どうやらこのまま進むと敵のど真ん中みたいだ」 「……え?」 呆けた声を出したルイズは前方、硝子越しに月明かりに照らされた風景を見た。 いつの間にやら、船の周囲をうるさく飛びまわっていた屍竜達が消えていた、これはいい。 問題は、夜空を更に黒く染め上げる無数の影であった。 「……参ったのう、これは」 よっこらしょと、甲板に腰を下ろすオールド・オスマン。 その姿は汚れくたびれ、手傷も一箇所や二箇所では済まない。 中でも両足に負った火傷は見るからに酷く、座ったのが休むためだけではないことが窺える。 「きゅいきゅい!」 その横に降り立つタバサとシルフィードの主従。 こちらも似たり寄ったり、満身創痍といった格好である。 「どうかね、ミス・タバサ。あれはどうにかできそうかね」 「無理」 「困ったのぅ」 ウェザーライトⅡの前方に広がる無数な影。 それは王都を強襲すべく動員されたアルビオンの大艦隊。 旗艦レキシントン号を中心に編成された、ハルケギニア最大の航空戦力である。 船の数は五十隻以上、周辺を飛び回っている飛竜に至ってはどれだけの数がいるのか見当もつかない。 その背後に控えるのは、巨大な深淵からゆっくりと這い出してくる浮遊大陸アルビオン。 アルビオンの無敵艦隊がこの空域まで進軍しているという事実。 それはトリステイン王国王都トリスタニアが、既に喉元に短剣を突きつけられチェックメイトを言い渡されたということであった。 「あんな大艦隊、どうしろって言うんだ」 こちらは単騎。その上頼みの使い魔は意識を失ったまま、船の操作に詳しかったコルベールも重態。 素人であるルイズが考えても、勝ち目など無いことは容易に想像がついた。 かといって―― 「今から王都に引き返しても、すぐさまに王都が攻撃を受けるわね」 元々魔法学院とトリスタニアはフネならば短時間で結ぶことのできる距離である。 現在地が分からないながらも、そういった事情を加味すると、アルビオン艦隊の位置は王都と目と鼻の先と考えて間違い無いだろう。 このままでは王都の住人達、そして学院から王都へと避難した人々が戦火に巻き込まれるのは明白であった。 「ちょっと行ってくるわ」 「行くって…まさか外に出るつもりなのかい?何のために!?」 腰を痛めたまま、席から立つことが出来ないギーシュが首だけを動かしてルイズに聞いた。 「私は私の戦いをするために」 「ば、馬鹿なことを言っちゃいけない!とりあえず舵を切って今は何処か遠くへ逃げるから、君も何かに掴まっていたまえ」 「いいえ、このままよ。真っ直ぐに」 「このままって……」 ギーシュは改めてルイズを見やった。 桃色がかったブロンドの長髪、挑発的な鳶色の瞳。女性的な柔らかさと未成熟なしなやかさを併せ持つ、若木のような体。 その顔は真っ直ぐに正面の大艦隊を見据えつつも、諦めも絶望も浮かべてはいない。 ゼロの蔑まれようとも、決して卑屈な態度をとったことの無い不遜な少女、教室で時折見せた自信に満ちた顔の少女がそこにはいた。 そしてギーシュは、そんな彼女の中に誇り高い『偉大なる貴族』を見た。 「……駄目だと思ったら、僕の判断で引き返すからね」 「ありがとう」 「さて、言ってみたはいいけど、どうしようかしらね、ホント」 ルイズの勝機、それは自身の中に眠る『伝説』、虚無の力である。 以前アルビオンで暴走したあの力、あれをもう一度引き出すことができれば目の前の大艦隊を打ち滅ぼすことも可能かも知れない。 だが、再びあれを再現できるのか、ルイズの中で疑問は尽きない。 唯一つ確実なのは、できなければトリステインに明日は無いということである。 「おーい、ミス・ヴァリエール!」 甲板の端、そこには座り込むオールド・オスマンと、その傍らに立つタバサの姿があった。 「二人とも無事で何よりです」 「ほっほっほ、老兵は死なずなんとやらじゃよ」 「……」 気がかりであった二人の健在な姿を見て、ルイズも思わず顔を綻ばせる。 「して……ミス・ヴァリエールは何用でこんな所に来たのかな?」 オールド・オスマンが好々爺とした表情に鋭い目つきを含ませて、ルイズの手の中に『始祖の祈祷書』があることを確認して言った。 ルイズはちらりとタバサを見た後、なにごともなかったように切り出した。 「私の『虚無』で、敵を打ち払います」 タバサが一瞬息を呑むのを感じながら、ルイズはそのまま続ける。 「今ここで食い止めなければ、王都トリスタニアはすぐさま敵の攻撃に晒されてしまいます。そうなったら沢山の人が犠牲になります。だから……私が本当に『伝説』であるならば、ここで立ち向かわなければならないと思います」 「……君は学生じゃ。戦争などという馬鹿げたことは、軍人に任せておけばいいのじゃよ」 「違います、オールド・オスマン。私は学生である前に、一人の貴族です」 きっぱりと言い切る教え子に、オスマンは悲しみと哀れみを込めた言葉で応える。 「しかし、君の魔法はミスタ・ウルザから使ってはいけないと、止められていたはずではなかったかね」 そう、ルイズは使い魔ウルザから、以前ニューカッスル城で虚無の暴走を引き起こして以来、使ってはならないときつく戒められているのである。 曰く「虚無の魔法は術者への反動が大きく、未熟な術者が行使すれば、肉体への影響は避けられない」と。 だが、それでも、 「それでも、やります」 前方から迫る無数の敵艦と竜騎士。 それらに立ち向かう形で、マントをなびかせたルイズが立つ。手の中には開かれた『始祖の祈祷書』。 「どれ、もうひと踏ん張りいくかの」 「あなたを、守る」 ルーンの詠唱を始めようとするルイズの前、女王を守る近衛のようにオスマンとタバサが左右で杖を構えた。 頼もしい二人の背中に、詠唱を中断し声をかけようとするルイズ。 しかしそれも一瞬のこと、再び詠唱を再開する。 信頼に言葉はいらない。 ただ信じることこそ、万の言葉よりも意味を持つのだ。 ――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ 古代のルーンを唱え、自分の中にある力のうねりを感じる。 神経を研ぎ澄まし、細心の注意を払いながらそれを制御していく。 一切の雑音は排除され、彼女の耳には届かない。 ――オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド だが、突如としてルイズの世界にノイズが走った。 『やはり君は素晴らしい。僕の小さな小さなルイズ』 ルイズの詠唱が止まる。 まるで心臓を掴まれたかのように、呼吸が、鼓動が、リズムが止まる。 その声を聴いた瞬間、それまでの集中が嘘のようにかき乱されていく。 制御されつつあった力は再び混沌へと回帰した。 オスマンとタバサが一歩前に進み、声の主を警戒する。 『おっと。レディの前に顔も出さずに声だけなんて、僕としたことが余りに不躾だったね』 放たれた二つ目の言葉。呼応するように、三人の前方の空間が水面に雫を落としたかのように波をうって歪む。 そこから這い出すように現れる、ヒトの右半身。 『これで僕が誰だか分かってくれたかな。僕のフィアンセ、愛しい愛しいルイズ」 続いて現れる左半身。 全身を現出させ、その姿を露にした者。全身を白く染め上げた魔法衛士隊の制服に身を包んだジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 宙に浮かんだ白いワルド。 それを見たルイズの目が見開かれる。 確かにタバサからワルドが生きていたことは聞いていた。 だが、これは、まるで、ワルドの姿をした別の何かのようではないか。 確かにその姿、表情、仕草、それらは目の前の男がワルドであることを示唆している。 けれど、何かが違う。 まるで歯車を違えた機械時計が、全く別のものになってしまったかのような違和感。 再びルイズの前に現れたワルドは、そういったものを撒き散らす魔人と成り果てていた。 「アイス・ストーム……!」 初撃から最大魔法による迎撃。 サン・マロンの『実験農場』、そこでワルドの力を垣間見たタバサに敵への過小評価はありはしない。 氷雪の二つ名の由来、細かな氷の粒を巻き込んだ強烈な暴風がワルドを襲う。 だが…… 「ウインド・ブレイク」 ワルドが呟いた風の低位スペル。 その瀑布が放たれた瞬間、渾身の力を込めたタバサの風は吹き散らされその力を失っていた。 「どうだい?僕の新しい力は」 三人は幽霊でも見たかのように、口を開いて宙を見た。 今ワルドが放った呪文の力も勿論驚愕に値する。 だが、それ以上に彼らを驚かせたのは宙に浮きながら呪文を唱え、あまつさえワルドの手の中に杖が無かったということである。 そのどちらもが、系統魔法にはあり得ない行為であった。 「僕は力を手に入れた。以前の僕は確かに君とつり合わない取るに足らない存在だったかも知れない。けれど……今の僕なら君に十分相応しいはずだ」 ワルドが右手を振る。 突如発生した空気の槌にタバサは全身を打ち据えられ、子供に投げ飛ばされたぬいぐるみの様に、一度、二度と甲板を撥ねて転がった。 「さあ、迎えに来たよ。僕の花嫁ルイズ、ああ、愛しい愛しいルイズ」 ワルドが左手を振る。 無数に現れた風の槍にオスマンの全身が貫かれ、血飛沫を撒き散らしながら吹き飛ばされる。 邪魔者を排除して、ゆっくりと滑るようにルイズへと近づいてくるワルド。 「これで僕達二人きりだ、僕の小さなルイズ。君は昔からこういったロマンチックな舞台が好きだったからね」 既にルイズの呪文の詠唱は完全に中断している。 否、ワルドが現れてからのルイズは、バジリスクの目を見てしまった犠牲者の如く固まってしまっていた。 「あな……あなたはっ」 「僕が死んでしまったと思っていたのかい?すまない、すまないルイズ!本当は手紙の一つも送るべきだったのかもしれない。けれど僕も忙しい身でね、伝えるのが遅くなってしまったよ!」 違う、全く違う。 自分の知るワルドは、ただ自分を道具として必要としただけの男。こんな狂熱に浮かされた目で自分を見ることはなかった。 目の前の男は……ワルドじゃない! 「ふふふ、聞いておくれルイズ。僕は今、この世界を開放する為に戦っているんだ。アルビオン、ガリア、ゲルマニアは既に僕の手の中にある。トリステインもすぐに手に入れてみせる。 そうしたら次はロマリアの腰抜け達だ。彼らが終わったら次はいよいよ砂漠だ!そう、エルフだよ!エルフ達から聖地を奪還するんだ!」 大きく手を振り体を動かして語るワルドの独演会。 ルイズ一人に聞かせるための狂想曲は、高らかにヒートアップしていく。 「ハルケギニアの悲願!始祖ブリミルが降り立った始まりの地!それが聖地!君はそこに何があると思う?そこにはね、扉だ、扉があるんだよ。僕達を外へ出て行けないようにしている扉があるんだ!僕はその扉を開け放ち、ハルケギニアを開放する!」 「そんな……エルフ達に、勝てるわけ、ないじゃない……」 「それは思い込み、思い込みなんだよルイズ!エルフ達は絶対の存在じゃない、彼らを上回る力を持ってすれば打倒するのはたやすい!何より僕は一人じゃないんだ!君だ、君がいる!僕の愛おしいルイズ!それだけじゃない!」 ワルドが左手を差し出して、握っていた手を開き、そこにあるものをルイズに見せた。 ルイズが視線を移した手のひらの上、そこには時折光を発する黒い球体があった。 否、良く見れば分かる、それはただの球体ではない。生き物の質感を持つ材質で作られた、機械の眼球。 「盟友たる彼が与えてくれた眼が、僕に無限の知識を与えてくれる!これと君の力があれば、ロマリアも!エルフも!始祖も!何も恐れる必要なんてない!」 ルイズはワルドの手のひらから、ゆっくりと視線を上に移動させる。 そこには触れ合うほどに近づいたぎらぎらと異様に光る二つの眼、そして猛毒の笑み。 「ああ、君が欲しい!ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!」 プレインズウォーカーの正気の度合いを計るのは難しい。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7568.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ ソーサリー・ゼロ これまでのあらすじ 第一部「魔法使いの国」 君は、若く勇敢な魔法使いだ。 祖国アナランドを危機から救うべく、カーカバードの無法地帯を横断する旅を続けていた君だったが、ふと気がつくと周囲の光景は 一変していた。 そこは、ハルケギニア大陸のトリステイン王国と呼ばれる未知の土地であり、魔法を使える特別な血筋の者たちが王侯貴族として君臨し、 大多数の平民たちを支配しているという、奇妙な世界だったのだ。 君がこのハルケギニアにやって来たのは、ルイズという少女が執り行った、『≪使い魔≫召喚の儀式』が原因だった。 ルイズは大いに戸惑いながらも、とにかく君を≪使い魔≫にすることに決め、自分に対する忠誠を求めた。 今すぐカーカバードに戻る方法がないと知らされた君は、当面の庇護を得るために彼女に従うことに決めるが、自分が重大な任務を帯びた 魔法使いであることは、黙っておいた。 ルイズは、貴族の子弟のための学び舎『トリステイン魔法学院』の生徒であり、君も彼女の学業につきあわされることになる。 君の『ご主人様』であるルイズは、名門貴族の令嬢でありながら、どういうわけか魔法がまったく使えぬ劣等生であり、 心ない者たちから≪ゼロのルイズ≫という屈辱的な名で呼ばれていた。 ハルケギニアに召喚されてから七日目に、事件が起きた。 学院の教師コルベールが、解読の助けを求めて君に手渡した≪エルフの魔法書≫と呼ばれる書物が、≪土≫系統の魔法を操る正体不明の盗賊、 ≪土塊(つちくれ)のフーケ≫によって奪われたのだ。 森の中でフーケに追いついた君は、盗賊の正体が美しい女だと知るが、そこに思いもよらぬ乱入者が現れる。 かつて、君によって全滅させられたはずの『七大蛇』のうちの二匹、月大蛇と土大蛇が、君とフーケに向かって襲いかかってきたのだ。 さらには、ルイズと、彼女の同級生であるキュルケとタバサまでもが駆けつけ、激しい闘いの末、月大蛇は打ち滅ぼされ、土大蛇は逃走した。 学院に戻った君は、ルイズと学院長のオスマンに、自らの正体と≪諸王の冠≫奪回の任務について打ち明ける。 ふたりは大いに驚きながらも、君の話を信じ、君がカーカバードに帰還する方法を調べると、約束してくれた。 翌日の夜、学院で催された舞踏会から抜け出したルイズは、君のところへやって来て、必ず≪ゼロ≫から抜け出し、君より偉大な魔法使いに なってみせる、と宣言する。 君は、『ご主人様』のルイズや学院の人々、そして、この美しい世界に対して愛着を覚えるようになっていたが、自身の内側で起きている 恐るべき異変には気づいていなかった。 第二部「天空大陸アルビオン」 トリステインの王女アンリエッタが学院を訪れた日の夜、君とルイズはオスマン学院長の呼び出しを受ける。 オスマンが話すところによれば、彼の旧友であるリビングストン男爵という貴族が、遠く離れた二つの場所をつなげる≪門≫を作り出す魔法を 研究しているのだが、その≪門≫は、このハルケギニアと、君が居たカーカバードを結んでいるかもしれぬというのだ。 カーカバードへ戻れる望みが出てきたことを知った君は、男爵が住まうアルビオンに向かうが、その旅には『ご主人様』のルイズと、 かつて君を相手に決闘騒ぎを起こしたギーシュが、強引に同行してきた。 港町ラ・ロシェールで≪土塊のフーケ≫と再会した君は、彼女と力を合わせて水大蛇を倒すが、七大蛇がアルビオンに拠点を置いて、 何かを企んでいることを知る。 『白の国』の異名をもつアルビオンは、雲と霧に包まれて天空を漂う、驚異の地だった。 空飛ぶ船でアルビオンに降り立った君、ルイズ、ギーシュの三人は、リビングストン男爵の領地へ向かうが、アルビオンは国を二分しての 内乱に揺れており、男爵は行方知れずになっていた。 男爵を探してとある村に立ち寄った君たちは、そこで酸鼻きわまる虐殺を行っていた傭兵たちと出くわし、捕らえられてしまう。 君は、以前にオスマンから貰った、意思を持つ魔剣であるデルフリンガーの謎めいた力の助けを借りて、彼らの首領格であるメンヌヴィルを 討ち取り、残った傭兵たちは、突如現れた、アルビオン王国の皇太子ウェールズ率いる一隊によって、殲滅された。 君たちがアルビオンに来るにいたった事情を知らされたウェールズは、リビングストン男爵は貴族派と呼ばれる反乱軍によって捕らえられ、 むごたらしく殺されたと告げる。 ウェールズは、帰還の望みが絶たれたことを知らされて意気消沈する君を、ニューカッスルの城へと招いた。 追い詰められた王党派にとって最大の拠点であるその城には、男爵の遺品や書き置きが残されているかもしれぬのだ。 秘密の地下通路をたどってニューカッスルの城に入った君たちは、倉庫で男爵の日記を見いだすが、君の役に立つような記述は何もなかった。 ≪門≫の探索をあきらめてトリステインに戻ることに決めた君たちは、トリステインから派遣された大使、ワルド子爵と出会う。 婚約者であるルイズとの偶然の再会に喜ぶワルドだったが、その正体は、アルビオンの貴族派を背後から操る結社≪レコン・キスタ≫の 一員だった。 巨大なゴーレムがニューカッスルに襲来した混乱に乗じて、国王の命を奪い、ウェールズをも手にかけようとしたワルドだったが、その場に 君が立ちふさがる。 ルイズとデルフリンガーの助けもあって、どうにかワルドに打ち勝った君だったが、そこに火炎大蛇が現れ、ワルドは逃走する。 火炎大蛇が倒されたのち、ウェールズは君たちに、裏切り者のワルドにかわって、トリステイン大使の務めを果たしてほしいと頼む。 務めとは、かつてアンリエッタ王女がウェールズに宛てた恋文を、王女のもとへ持ち帰ることだった。 この恋文の存在が明らかになれば、締結直前にあるトリステインと帝政ゲルマニアの同盟は破棄され、トリステインは単独で、 ≪レコン・キスタ≫が主導する新生アルビオンの脅威に、立ち向かうことになってしまうのだという。 君たちに手紙を託したウェールズは、数日のうちに全軍による突撃を敢行し、名誉ある戦死を遂げるつもりだと言うが、ルイズはそれに反対し、 トリステインへの亡命を勧める。 ウェールズはルイズの意見に頑として耳を傾けなかったが、ついで説得に立った君の言葉に心を動かされ、たとえ卑怯者と呼ばれようとも 生き延びて、≪レコン・キスタ≫を苦しめてみせると告げた。 ウェールズと意気投合した君は、彼が語った噂話から、七大蛇が≪レコン・キスタ≫の頭目クロムウェルの忠実なしもべだと知る。 君たちはニューカッスルの城から脱出する難民船に便乗し、トリステインへの帰路につくが、その頃アルビオンでは大陸全土に、 奇妙な甲高い音が鳴り響いていた。 それは、二つの世界を隔てる壁が引き裂かれた音だった。 第三部「さまよえる冒険者」 トリステインに帰り着いた君たちは、アルビオンでの顛末とウェールズの決意をアンリエッタ王女に報告した。 アンリエッタは感謝の証として、ルイズに王家伝来の秘宝≪水のルビー≫を譲り、また、同じく国宝ではあるが、何も書かれていない頁が 連なるだけの書物≪始祖の祈祷書≫を預け、その調査を頼む。 アンリエッタは、大国ガリアを中心とした≪レコン・キスタ≫討伐のための諸国連合軍が結成され、トリステインもこれに参加することを、 君たちに伝える。 これによって、アルビオンの脅威は遠からず消滅することは確実なため、トリステインとゲルマニアの同盟締結は中止され、アンリエッタは、 ゲルマニア皇帝との望まぬ政略結婚をまぬがれることとなった。 学院に戻った君はタバサと言葉を交わし、彼女の家族が重い病に臥せっていると知り、近いうちにその者の治療に行くと約束した。 数日後、君は荷物持ちとして、ギーシュとその恋人モンモランシーとともに『北の山』へ行くことになったが、そこで土大蛇の襲撃を受ける。 土大蛇を倒した君だったが、深手を負ったギーシュを救うために、ブリム苺のしぼり汁を使い果たしてしまった。 この薬は、タバサの家族に試すはずの癒しの術を使うために、必要不可欠な物なのだ。 タルブの村の出身で、今は学院に奉公している少女シエスタの実家に、同じ薬があることが明らかになり、君、ルイズ、タバサ、キュルケ、 シエスタの五人は、タルブへと向かった。 シエスタの実家でブリム苺のしぼり汁を手に入れた君は、シエスタの曾祖父が、君と同じように≪タイタン≫の世界からハルケギニアに 迷い込んだ人物であることを知る。 君たちは、シエスタの曾祖父がくぐり抜けた≪門≫が存在するという洞窟を調べ、最深部にそれらしき場所を見出したが、そこに≪門≫はなかった。 洞窟の調査を終えた君たちがタルブに戻ると、そこに、生きた泥沼のような姿をした≪混沌≫の怪物が来襲する。 草木や家畜をむさぼり喰い、土や空気を汚染して、どんどん大きくなる≪混沌≫の怪物を前に、進退窮まる君たちだったが、ルイズが偶然開いた ≪始祖の祈祷書≫に現れた呪文を唱えると、まばゆい光が炸裂し、怪物は跡形もなく消滅した。 デルフリンガーによれば、ルイズが唱えた呪文は、伝説の失われた系統≪虚無≫のものであり、彼女は≪虚無≫の担い手なのだという。 ルイズが普通の≪四大系統≫の魔法を使えなかったのは、≪虚無≫を受け継いだ代償だったのだ。 タバサに連れられて、彼女の実家にやってきた君が見たものは、恐るべき毒に心を狂わされ、我が子を目にしておびえた声を上げる、 タバサの母親の姿だった。 タバサの母親に癒しの術をかけた結果は、完治には程遠いものだったが、それでも彼女は、恐怖や苦痛からは解放されたようだった。 タバサと、彼女の実家を管理する老執事は涙ながらに喜び、君は、タバサがガリア王家の出身であり、彼女とその両親は王位継承争いの 犠牲者だということを知らされた。 タルブから持ち帰ったブリム苺のしぼり汁は数に余裕があったため、君は次にルイズの姉を治療するべく、ルイズの実家である ラ・ヴァリエール公爵の屋敷へ行くが、そこで執事殺しの疑いをかけられ、屋敷の中を逃げ回ることになってしまった。 ルイズの姉カトレアは君の無実を信じ、部屋にかくまってくれるが、そこに今回の事件の黒幕である風大蛇が現れ、君たちに襲いかかる。 七大蛇の主人クロムウェルは、正体不明の兵器を用意していたが、それを妨げる手段を知るかもしれぬ君を危険な存在とみなし、 抹殺するべく土大蛇と風大蛇をさしむけてきたのだ。 風大蛇はルイズの母親によって倒され、怪物の放つ毒を吸って重態に陥ったカトレアも、君のかけた術によって救われたが、 癒しの術も、彼女の生まれつきの体質を改善するまでにはいたらなかった。 学院に戻った君は、≪虚無≫の絶大な力を恐れたルイズが、アンリエッタと相談した末、自分が≪虚無≫の担い手であることを絶対の 秘密とし、二度と≪虚無≫の術を使わぬと決めたことを知った。 ルイズやキュルケ、ギーシュたちと一緒になって、アルビオンに向かって出征するトリステインの軍勢を見物する君の内心は、 穏やかではなかった。 クロムウェルが用意しているという、この世界の常識を超えた恐るべき秘密の兵器とは、いったいなんなのだろうか? 一 夏の訪れを感じさせる陽射しを受け、額に汗をにじませながら、西の空を見上げる。 視界の遥か先を漂っているであろうアルビオン大陸の姿は、見えるはずもないが、雲と霧をまとって空に浮かぶ『白の国』の壮大な眺めは、 君の頭に刻み込まれている。 かの地では今、敵味方合わせて十万をゆうに越す大軍がぶつかり合い、火花を散らしているはずだ。 ハルケギニア諸国連合軍によるアルビオン遠征が始まって、二十日近くが経つが、トリステイン王国と魔法学院は平和そのものだ。 アルビオンにおける戦況について、宮廷からの発表はなく、人々の情報源はもっぱら、徴用された貨物船の水夫や荷役夫たちが持ち帰る土産話と、 貴族の将校たちが家族や恋人に宛てた手紙による。 君は学院とトリスタニアの町でこの大戦(おおいくさ)に関する噂を拾い集めたが、その多くは、万事が順調に進んでいることを示していた。 ──アルビオンへの進撃において、驚くべきことに、精強を謳われたアルビオン空軍の迎撃はなく、艦隊はまったくの無傷で上陸した。 ──連合軍は各地で快進撃を重ね、トリステイン軍は交通の要衝である古都シティ・オブ・サウスゴータを占領した。 ──主力をつとめるガリア軍は首都ロンディニウム攻略の準備にかかっており、もうすぐ≪レコン・キスタ≫は崩壊し、戦は終わるだろう。 噂を聞くかぎり、連合軍の勝利は揺るぎなきものと思えたが、君が本当に知りたいこと──ウェールズ皇太子の安否とクロムウェルの秘密兵器── に関する情報は、なにひとつ得られなかった。 『白の国』に上陸した連合軍はすぐさま、アルビオン王家の最後の生き残りであるウェールズの生死を確認すべく動いたが、 彼の足跡は、王党派最後の拠点ニューカッスルの城──今は瓦礫の山に変わっているそうだ──を最後にふっつりと途絶えており、 その行方は杳として知れぬという。 君は、アルビオンを発つ前夜にウェールズと交わした言葉を思い起こす。 「たとえ卑怯者のそしりを受けようとも、私は生きる」 「この命が続く限り、奴らの悪だくみを邪魔し続けてやるさ」 力強くそう言った皇太子が『名誉の戦死』を遂げたとは思えぬが、ならばなぜ、彼とその部下たちは連合軍と合流しておらぬのだろうか? また、ルイズの実家で風大蛇が語った、クロムウェルが準備しているという『百万の軍勢でも千フィートの城壁でも防げぬ、 まったく新しい武器』の存在も噂にあがらず、その実態は推測することもままならない。 追い詰められたクロムウェルにとって、起死回生の策となるであろう兵器は、結局のところ間に合わなかったのだろうか? それとも、連合軍を懐に引き寄せてから使って、一網打尽にするつもりなのだろうか? 君の不安はつのるばかりだが、アルビオンへ出向いて直接調べるわけにもいかない。 君の身分は、トリステイン魔法学院の生徒ルイズの≪使い魔≫にすぎぬのだから。 今日の授業は終わり、生徒たちは夕食までのあいだ、めいめいのやりかたで時間を潰している。 時間を潰さなければならぬのは、君も同じだ。 とくにルイズから言いつけられた用事があるわけでもなく、今の君は手持ち無沙汰なのだ。 これからどこに向かうべきかを考える。 マルトーやシエスタの居る調理場へ行けば、食糧や日用品を扱う出入りの商人から仕入れた、新しい噂を聞けるかもしれない。 噂といえば、ギーシュと話してみるのはどうだろう? 彼は武門の生まれであり、三人いる兄はいずれも、アルビオン遠征に参加しているらしい。 かの地の様子を記した手紙も、何通か受け取っているだろう。 授業が終わった直後に、東の広場へ向かっているところを見かけたので、そちらへ向かえば会えるはずだ。 そこまで考えたところで、君は唐突に、アルビオンから戻った直後にコルベールとかわした会話を思い出す。 コルベールは、君の左手に刻まれた≪ルーン≫の効果に興味を示し、人間のような知性をもつ生き物に≪ルーン≫が刻まれた例を 探してくれると言ったはずだが、あれから何の音沙汰もないままだ。 君は今の今までその事を忘れていた──考えてみれば、なんとも奇妙なことだ。 調べ物には何の進展もなかったのかもしれぬが、それでも彼の『研究室』を訪れるのは有意義だ。 彼のような学識豊かで誠実な人物と言葉をかわすというのは、悪くない時間の使いみちだろう。 どこへ行く? 調理場・二二二へ 『研究室』・一三六へ 東の広場・五三四へ ルイズの部屋・一二三へ 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/nobu-wiki/pages/240.html
分類区分 祈祷札 (フリガナ) 分類 価値 重量 特殊効果 ---- ---- ---- ---- 生産情報 職 目録 技能 数 材料 神職 神職之匠・九 宝飾之よ 4 牛毛筆 1 墨汁 1 三椏紙 2 取引価格 買値 売値 --文 --文 主な用途 職業 技能名 侍 籠手作成之ほ 皮の掴み手 神職 宝飾之た 職人手ぬぐい 陰陽師 裁縫之む 職人着 忍者 履き物作成ほ 職人わらじ 鍛冶屋 鍛冶之へ 金槌 鍛冶之ち 蛮鉄の金槌、和鉄の金槌 コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3017.html
back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next トリステイン王宮会議室。 既に正午だが、誰も昼食だと言って席を立とうとはしない。 居並ぶ大臣・将軍・高級官僚達の前に、次々と情報が送られてくる。 様々ある情報だが、そのなかに一つの共通する要素があった。 「アルブレヒト三世、正式に婚約破棄を通告してきました。同盟の件も、白紙と…」 「レコン・キスタ軍総司令官オリヴァー・クロムウェル、非公式ながら神聖アルビオン共 和国樹立を宣言。正式な宣言と初代皇帝への即位式は、一週間後の予定です」 「アルビオンより本日正午、つまり現時刻をもって宣戦布告すると、書簡が送られてきま した。同時に、ウェールズ皇太子の身柄返還要求も」 「ガリアは沈黙。あらゆる要請、質問書を黙殺しています」 「ロマリアより、今回の件について遺憾の意を表す、とのことです。それだけです。援軍 はおろか、講和会議設置の件についてすら、何も」 それは、トリステインが孤立無援だという要素。 トリステイン王国太后マリアンヌ、マザリーニ枢機卿、ド・ポワチエ大将、財務卿デム リ、高等法院長リッシュモン、ド・グラモン元帥、魔法衛士マンティコア隊ド・ゼッサー ル隊長、トリステイン艦隊司令長官ラ・ラメー伯爵、モット伯爵、etc... 会議室に並ぶ面々は、皆この国を動かす重鎮達。だが、彼等の顔に余裕はない。沈痛な 面持ちで、国内各所からの報告に目を通していた。 城下では、既に避難する民が街道を埋め尽くし… 周辺国は国境を封…流民化すれば治安が… 物価は早くも上…長期化すれば、経済への影響は… ラ・ロシェー…敵艦隊についての情報はまだ…国境での監視をさらに強… …ビオンからの亡命…続々と城へ… 重鎮達の叫びに、部下も走り回り、大声で報告し、伝令に飛び出していく。 ラ・ラメー伯爵が叫ぶ。 「艦隊は!我が艦隊は動けるのか!?」 「現在、トリステイン艦隊は弾薬、風石、糧食の積み込みを急がせています。ですが、全 艦艇を完璧に稼働するには、練兵が足りません。どうしても今しばらく時間が…」 「どうせ国内での戦いになる、糧食は後にしろ!足りなきゃ現地徴収だ!!練兵を急がせ よ!」 ド・ポワチエ大将の怒号も飛ぶ。 「王軍だけでは足らんぞ!!諸侯はどうしている!?」 「諸侯への招集のふれは送りました。現在、ラ・ヴァリエール公爵初め、続々と参戦の返 答が届いております」 「ふっ!当然だ。諸侯に伝えろ。『この一戦に杖を並べぬ者は、レコン・キスタに与する 逆賊とみなす』とな!」 ド・ゼッサール隊長が首を傾げる。 「たしか、ヴァリエール公爵は軍務を退かれたはずだが」 「『王国存亡の危機に、老骨を鞭打ち一命を賭して参戦つかまつる』との事です。なお、 我が妻も戦列に並ぶ、と」 「おお!?カリーヌ隊長が!」 ヴァリエール伯爵夫人――先代マンティコア隊隊長。通称「烈風カリン」として恐れら れた、風のスクウェア。 マザリーニ枢機卿が、重々しく口を開く。 「アルビオンの最新の戦力を」 下級士官が靴を鳴らして進み出て、報告書を広げる。 「アルビオン艦隊は、旗艦『ロイヤル・ソヴリン』…失礼、現在は『レキシントン』号旗 下、戦列艦18隻。兵数5万。竜騎兵は、総数は未確認ながら、少なくとも100騎以上 が確認されております!」 「100…竜騎兵だけで、か。天下無双だけある。戦列艦も内戦を経たというのに、未だ 我が方の9隻に対し、倍だ」 「ですが現在、アルビオン艦隊は首都ロンディニウム郊外、ロサイスの空軍工廠にて補給 中との事であります!また、一般兵士には三日間の休暇が与えられています!」 「ふむ…では、それが済めば、こちらへ来るというワケか。恐らくは、即位式典に合わせ て出撃だろうな。ラ・ラメー伯爵、全艦艇を急ぎ飛ばせ。なんとしても一週間後に間に合 わせよ」 「はっ!陣頭指揮に参りますっ!」 伯爵は会議室を飛び出していった。 大后マリアンヌが静かに、だが威厳ある声を上げる。 「アンリエッタとウェールズ皇太子は、いずこに?」 この一言に、会議室は一瞬で静まりかえった。 臣下達にとり、今アンリエッタの名を口にする事は、はばかられる。『アンリエッタ姫 のせいでゲルマニアとの同盟は為し得ず、開戦の口実も与えてしまった』など、王家への 忠誠を誓ったはずの彼等には、少なくともこの場では言えなかった。 「モット伯爵」 マリアンヌは、王宮の勅使として学院と連絡を取る伯爵に目を向けた。 一瞬息を止めた伯爵は、一筋の汗を流しながら部下を呼んだ。 「おほんっ!…今朝、部下より報告を受けた所によりますと、姫殿下も皇太子も学院にて ご無事との事です」 「よろしい、すぐに迎えを送りなさい。それと、今回の件について詳細な報告を」 「ははっ」 モット伯とその部下は、学院での調査報告を読み上げた。 『 三年前、ラグドリアン湖での園遊会で、アンリエッタはウェールズに恋文を送った。 その恋文は、始祖ブリミルの名において永遠の愛を誓う文面が含まれていた。 ゲルマニアとの婚約成立のため、ヴァリエール家三女ルイズへ回収を依頼。 グリフォン隊隊長ワルド子爵、及び学生三名を加え、アルビオンへ潜入。 手紙は回収成功、ウェールズと共に学院へ帰還。 本日明朝、王子と姫は面会。再会を喜び合い、抱擁と共に永遠の愛を誓い合う。 同時刻、ゲルマニア高官の使い魔を連れたアルビオンの傭兵が、フリゲート艦にて学 院を襲撃。使い魔を通じゲルマニアへ王子と王女の姿を送る。 回収班及びオスマンがこれを迎撃。フリゲート艦を撃沈、隊長を除き全て討ち取る。 傭兵隊長らしき人物は、外見の特徴から『白炎』のメンヌヴィル。現在逃走中。 その後、ワルドは行方不明。 事情聴取対象者 トリステイン魔法学院学長 オールド・オスマン 同学院生徒 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 同生徒 及び回収班員 ギーシュ・ド・グラモン 同上 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー 同上 タバサ 以上 敬称略』 「ギーシュ、あのバカめ…何故この父に相談せんのだ…」 グラモン元帥がこめかみを押さえて呻く。 「報告によると、姫殿下の依頼から出立まで、僅か数時間。恐らくは、時間がなかったも のと」 モット伯が元帥を慰めるように、ギーシュを擁護する。 「そなたの子息は全力をもって、王家への忠義を示したのです。感謝致します」 「も、もったいなきお言葉にございます。愚息も喜ぶことでしょう」 マリアンヌの言葉に、ようやく元帥は顔を上げた。 太后は横に座るマザリーニを見やる。 「ところでマザリーニよ。この件でワルドから事前の報告は?」 「…いえ。私にも内密にしていました」 「そうですか…。それで、今朝以降の連絡は」 「ありませぬ。恐らくは、メンヌヴィルを追ったのでは。最悪、討ち取られたやも」 「引き続き両名の捜索を」 「御意」 「皇太子の処遇、いかが致しましょう?」 リッシュモンが立ち上がり、居並ぶ面々に尋ねた。だが、その事に誰も触れたがらない 事は、顔を見れば明らかだ。 沈黙の後、誰からと無くささやき声が上がる。 「王権は、始祖ブリミルより授けられし、神聖なもの。そして皇太子は今や、アルビオン 王家最後の一人・・・」 「同じ王家として、トリステイン王家の権威を守るためにも、始祖ブリミルへの信仰から も、皇太子の亡命を受け入れざるをえない、が…」 「アルビオンからは、身柄引き渡しを求めてきておりますが」 「ふんっ!王家に弓引く恥知らずどもめ。いっそ首級を上げてこいとでも言えば良かろう が!」 「今さら引き渡した所で、戦争を回避出来るわけでも無かろうて・・・」 「最初から攻め入る気だったんでしょうな…残念ながら」 「だろうな。でなければ、王子の身柄返還についての返事を聞く前に、宣戦布告などする ものか」 「ハルケギニアの統一と、聖地奪還。聞こえはいいがのぉ。あのエルフ共と正面切って戦 うじゃと!?」 「狂気の沙汰です。統一したくらいで奪還出来るなら、とうの昔に奪還しています」 「同感だ。それに、姫殿下とは永久の愛を誓われた仲。引き離すなど、王家への反逆に等 しい」 「むしろ、トリステイン=アルビオン二重王国を目指す、と言う手もありますぞ!」 「おお!それはいい!」 「ですが、現実として、どうすればアルビオンに勝てますかなぁ?」 リッシュモンが、まるで他人事のように問いかけた。皆が、一番考えたくない問を。 沈黙が広がる。 「あの…この場に沿う議題か否か分かりませんが、一つモット伯に伺いたい事が」 デムリ財務卿が、おずおずと手を挙げた。モット伯が眉間にシワを寄せたまま、顔を上 げる。 「先ほどの報告で、フリゲート艦を撃沈、とあったのですが、真ですか?」 「いかにも。学院周辺に爆発し落下した残骸が確認されています。加えて、傭兵達の死体 も」 「その…私は武人ではありませんので、よく分かりませんが…戦艦というのは、人の力で 撃墜出来るのでしょうか?」 「え?いや、それは、恐らく…無理かと」 「では、なぜその艦は撃墜されたのでしょうか?」 モット伯は慌てて部下を睨むが、部下も慌てて首を横に振り、恐縮してしまった。 デムリの素朴な問に、室内の全員が首を傾げる。 「ワルド殿はグリフォン隊隊長で、確か風のスクウェアですが…」 「騎乗しているのはグリフォンだ。風竜ならともかく、グリフォンでは弾幕を避けられん よ」 「学院は貴族の生徒達で一杯だが、遙か上空に浮く戦艦を破壊するなど…どんな魔法も届 かんわい」 「傭兵共が、よほどのマヌケだったとか?」 「こんな重要任務に就くのにマヌケ…ありえんわい。それに、メンヌヴィルは名うての傭 兵だ」 「…待て!確か報告では、ヴァリエール家三女に依頼した、とあったな!?」 「ふむ、確かに…まさか、あの噂の平民使い魔がか?」 「何ぃ!?エルフのガーゴイルを所有するという、例の少年か!?」 「噂では最近、風竜に匹敵する飛翔用マジックアイテムを手に入れたとか…まさか、真実 だったのか…」 「あー…失礼ながら、よもや貴殿等は、魔法も使えぬ平民が戦艦を撃墜した、とでも言う つもりかのぉ?」 「そういうわけではない。わけではない、が…やはり、例の使い魔には、何かある」 「この際、使えるなら何でも良い!」 「確かアカデミーには、ヴァリエール家の長女が…」 「アカデミーに使いを出すのです。エレオノールを呼びなさい」 会議は踊り続ける。 トリステイン魔法学院は朝から大騒ぎだ。 王子の亡命。戦艦襲来。アルビオン傭兵侵入。そして戦艦墜落。 ルイズの使い魔が、学院の秘宝『破壊の杖』を用い、戦艦を撃墜。侵入した傭兵達も倒 してしまった事は、即座に学院中に広まった。 だからといって、もう今は勝利を喜ぶ者などいない。貴族も平民も、もはや学校どころ ではないのだ。 お昼もとうに過ぎ、太陽が少し傾いた頃。 ルイズの部屋にはトランク二つ。ベッドの上には少年少女 少年はボロボロで泥に汚れた服のままで、少女は下着のままで、突っ伏していた。 二人とも大イビキをかいて熟睡している。 デルフリンガーは、床に抜き身のまま放り出されていた。 …ぐぅ、ぐうううう… お腹の音で目が覚めたのはルイズ。 「…ふぅうわあぁあぁ…」 周りを見て、下着姿の自分のすぐ隣にジュンが寝ているのに気がついた。 一瞬、真っ赤になってしまう。 や!やだ、そか、戦艦倒した後、部屋に戻ったとたんにジュンが倒れたんだったわ。 まったくもう!ジュン相手に、何赤くなってるのよっ!ワルド様がいるのに! そういえば、ワルド様は結局、どこへ行かれたのかしら…。 え~っと、あの後、シンクとスイと、みんなでジュンをベッドに運び上げて… …あ、あたしも濡れた服脱いだら、そのまま寝ちゃったんだ。徹夜だったもんね。 あ~あ、ベッドがドロドロだわぁ。やだ、あたしの服ももうメチャクチャね というか、臭うわね…ラ・ロシェール以来、お風呂入ってないんだった… やーね。これじゃ姫さまの所にもいけないわ お風呂、行ってこよっと 着替えて、そんで、何かご飯を… ルイズはもそもそと服を着て、ノロノロと風呂へ向かった。 ルイズが部屋を出てしばらくの後、真紅と翠星石も目を覚ました だらだらと力なく開けられたトランクから、ヨロヨロと二人が起きあがる。 「ふぅわぁ~~おはよう、ですぅ」 「はふぅ~おはよう、翠星石。よく眠れたようね」 小さな少女達は、ベッドにうつぶせで熟睡したままのジュンを見た。 しぃ~っと人差し指を口に当て、デルフリンガーに手を振り、抜き足差し足で部屋を出 て行った。 「…この5日間、馬やグリフォンで走り続けたり、海賊船と戦ったり、ニューカッスル脱 出に、学院への襲撃…もう、ヘトヘトでしたよねぇ」 「そうね、今日はスキなだけ寝させてあげましょう。私達は、食堂でも行こうかしら?」 「良いですねぇ!もう、おなかペコペコですぅ…」 二人は食堂へトコトコ歩いていった。 寮塔から本塔へ向かう間、人影は全くなかった。食堂にも、だーれもいなかった。当然 食べ物も無い。二人は肩を落とし、隣の厨房へ向かう。 「もしもーしですぅ!マルトーのおやっさんはいるですかぁ?さっさと食い物出さないと 呪うですよー!」 「…誰もいないわねぇ。ヘンねぇ」 厨房にも、誰もいなかった。いくら食事の合間の中途半端な時間とはいえ、下ごしらえ をする者すらいないのは珍しい。というより、学院自体に人の気配がない。 「う~、なぁんて使えんヤツらですかぁ!?たすけてやった恩を仇で返すですねぇ!」 「そんなワケないでしょ?シエスタさんを探しましょう」 「うぐぅ、あの女、スキじゃないですぅ…ジュンにベタベタしやがるしぃ」 「そういう事を言うものではないわ。それに、今はとにかく何か食べないと…もう、倒れ そうだわ」 「…です、ねぇ…」 二人はスズリの広場へ、なんだかフラフラと歩いていった。今の二人には、石畳の小さ な溝すら越えられそうにない。 スズリの広場には、煉瓦造りのこぢんまりした建物、女子使用人宿舎がある。中には厨 房もある。 真紅は思いっきり背を伸ばし、ステッキで扉をノックした。 …返事はない。二人は顔を見合わせる。 もう一度、今度はステッキと如雨露で、二人でエイエイと叩いてみた。 少しして、扉が少しだけ開けられた。外をのぞくのは、金髪がまぶしいローラだ。 ローラは外をキョロキョロとのぞき見て、溜息とともに扉を閉 「こらこらーっ!あたし達を無視するなですぅ!」 「下よ、下」 閉めようとしたら足下から声がした。 下を見たとたんに、陰鬱そうだったローラの顔がパァッと明るくなった。 「助かったですぅ!ホントに美味しいですよぉ」 「本当ね。これで生き返ったわ。皆さん感謝するわ」 「いえいえ!こちらこそ気がつかずに申し訳ありませんでした」 「ミス・ヴァリエールとジュンさんの分も作っておきますわね」 テーブルの上で二人は、小さな口でサンドイッチと紅茶をもぐもぐと頬張ってる。 宿舎の厨房には、学院のメイド達が集まっていた。皆で食事する人形をニコニコと眺め ている。だが、その中にシエスタの姿はなかった。それに、その人数も妙に少ないのに真 紅が気付いた。 「ねぇ、シエスタさんはいないのかしら?」 真紅の何気ない問に、メイド達は急に暗くなった。 「ああ、あの子ならトリスタニアへ行ってるわ」 「ジェシカっていう、従姉妹がいてね。避難を勧めにいってるのよ」 「他に何人も、メイド長と一緒に街や近くの村へ行ってるわ。今のウチに食べ物とか買い だめとこうって。男共はみんな狩り出されてるよ」 「それと、姫さまとアルビオンの王子様の方へも行ってるよ。なにせ王族が二人もだなん て、前代未聞だからねぇ」 「あたしら平民だけじゃあない。教師も生徒も、貴族共だってみんな買い物さ。戦争に備 えてね」 「王宮へ向かった者も多いよ。呼び出されたり、軍へ志願しにいったり」 「明日の朝、学院の全員が食堂に集まるよう、オールド・オスマンに言われてる。今日は 休校さね」 「一週間後の、アルビオン襲来に備えて、ね。その事はもう、近くの村の子供まで知って るよ」 「そう、ですか。戦争が、始まるですか…」 翠星石も、表情を曇らせる。真紅も心配そうだ。 「あの王子と姫、大丈夫かしらね」 「まぁ、せめてもの救いは、学院を去るヤツが少ないってことかねぇ」 「んだねぇ!田舎より、かえってこっちの方が安全だわ!」 「この辺は学院以外なーんもないんだもん。王子様とお姫様が城に帰ったら、襲ってくる 理由がないよ」 「おまけに、今朝は戦艦ですら、あっという間に墜としちまった!ほんと、あんたら凄い よぉ!!」 いきなりメイド達に持ち上げられ、翠星石は鼻高々にテーブルの上でふんぞり返る。 「おーほっほっほっほ!このくらい、あたし達ローゼンメイデンには、朝飯前でーす!任 しておくですよー」 真紅はクールに、人間用カップを両手で抱えて、紅茶を飲んでいた。 「ところでねぇ…えっと、スイセイセキさん、だっけ?」 「はいです、なんですかぁ?」 なにやらローラが、机の上で胸を張る翠星石に、じわじわとにじり寄ってくる。 よく見ると、他のメイド達も、真紅達に微笑みながら寄ってくる。 「いっつも、ミス・ヴァリエールやジュンさんに抱かれて歩いてるじゃない?飛んだ方が 早いのに」 「飛ぶと、余計な力を使うですから…な、なんでみんな寄ってくるですか?」 人形達はなんだか、すっかり囲まれた。 「え?…え~っと、ねぇ。ほら、あたしら平民でしょ?だから、ねぇ?あなた達みたいな 貴族向けの人形なんて、見た事なかったのよ」 「そうなのよぉ!だからぁ、あなた達を抱いてるのを見て、いつもみんなで『うらやまし いなぁ~』って、話してたの!」 「そうそう!スイセイセキさんの月目、特にルビー色の右目とかぁ、茶色のロングへアと かぁ、スッゴイ綺麗よねぇ!」 「あたしはぁ、シンクさんのその金髪!もう、キラキラ輝いてさぁ!」 「でも、何と言っても小さなお手々が可愛いよねぇ!」 口々に褒められて、二人とも悪い気はしない。ツンとすましつつも、頬は赤い。 「と、いうわけでぇ…」 ローラが、顔を翠星石の真ん前にずずぃと近づける。 「あの、ねぇ…ちょっとだけ!ちょっとでいいから、抱かせて欲しいの!他に何にもしな いから、お願い!」 「わ、私はその、シンクさんを…その」 「私も!私もーっ!」 もう、メイド達全員が目を輝かせてにじり寄ってくる。 人形達は顔を見合わせ、諦めたように溜息をついた。 「しょうがないですねぇ…いつもご飯作ってもらってるですし」 「少しだけよ。余り気安く触らないでちょうだい」 スズリの広場に、しばし少女達の黄色い歓声が響いた。 「…う、うぅ…。…イタタタタ…」 ルイズのベッドで、ようやくジュンが体を起こしたのは、もう空が朱く染まる夕暮れ時 だった。部屋には誰もいない。いるのは壁に立てかけられたデルフリンガーだけだ。 「よー!おはようさん!ようやく目が覚めたか」 「…デル公…おはよぉ~。っ!つぅーイテテテ、打ち身捻挫に筋肉痛か。火傷も、か。こ りゃしばらく、まともに動けないなぁ」 「この5日間、暴れまくったもんなぁ。大きな怪我が無いのは奇跡だぜ。ま、まずは腹ご しらえでもしな」 鏡台の上には、ジュンのメガネと山盛りサンドイッチが置いてあった。 もしゃもしゃとサンドイッチを頬張りながら、ぼ~っと外を眺める。 沈みゆく太陽が、夕焼け空を星空へと姿を変え始める。 外には人影が増えている。皆、大荷物を抱え、次々と倉庫や本塔へ運び入れている。 あ~そうだ鏡の出入りを外から見られちゃまずいな~、とぼんやりと思いつき、のろの ろとカーテンを閉め、再び鏡台の前に座る。 「なぁ、みんなどこ行ったんだ?」 「nのフィールドさ」 「ルイズさんを連れてか?」 「おう。この鏡以外の出口が、ハルケギニアのどこにつながっているのか、調べに行くっ てよ。さっきまで何度も鏡を出入りしてたぜ」 「そっか。タルブやラ・ロシェールへのルートが見つかると良いな。でも城下町へのルー トが一番先か」 「アルビオンもいいな。嬢ちゃんは、実家につながってないかな~、ていってたぜ」 「げー、それは勘弁。めんどくさそーだ」 と話してる間に、目の前の鏡台が輝きだした…と思ったら、人影がいきなり飛び出して きた。 「うわぁ!」「きゃっ!」 ルイズはジュンにのしかかったまま、二人は床に倒れ込んでしまった。 「あつつ…ジュン!ちゃんと避けなさいよっ!」 「な、なに言ってンだよ!?そっちがいきなり!」 ぎゅむ さらにその上に、真紅と翠星石も降り立った。 「ケンカはまた今度にしてちょうだいな」「にひひぃ~二人ともラブラブですね~?」 翠星石に冷やかされ、慌てて二人は顔を赤くしながら飛び退く。 コンコンと扉がノックされた。来たのはローラ。 「失礼します、ミス・ヴァリエール。先ほど、王宮より姫殿下とウェールズ皇太子をお迎 えする馬車が参りました。ミス・ヴァリエールも共に王宮へ上がるように、と太后様から の命です」 「そう…分かったわ。すぐ行くから、そう伝えてちょうだい」 「承知致しました」 ルイズは、真剣な顔で皆を見つめる。 「んじゃ、行ってくるわ」 「ルイズさん、一人で大丈夫?よければ、僕らも」 「大丈夫よ、ジュン。任せてちょうだい。もしかしたら、ワルド様が戻っていらっしゃる かもしれないし」 「そう、だね」 ジュンの胸にチクリと痛みが走る。人形達も、複雑な面持ちで顔を見合わせる。 「それなら、ルイズさん。僕らは一旦日本に帰るよ」 「おーい、いい加減今日こそ俺をチキュウに連れてけー!」 「今からなら、丁度向こうは朝だわ。ホーリエ、ルイズをよろしくね」 「んじゃ、また明日ですー。王宮の腹黒オヤジどもなんかに、まけるなですよぉー!」 「もちろんよ!んじゃねー」 ホーリエとスィドリームを連れて、ルイズは部屋を後にした。 ジュン達もデルフリンガーと共に、鏡の中へ消えていった。 「…では、今君の言った事が、全て真実だというのだね?」 マザリーニが目を見開く。 「はい。誓って嘘偽りはありません」 ルイズは会議室で、以前オスマンやキュルケ達に語った『ジュンはロバ・アル・カリイ エ出身で、薔薇乙女はローゼン作7体の人形で…』、加えて今朝までの事実経過を報告していた。 無論、nのフィールド、ローザ・ミスティカ、ガンダールヴなどは除いている。 おお…、という声が会議室を満たす。 昼からずっと会議を続けていた重鎮達が、部屋の後ろに座るルイズの報告を、最初は小 馬鹿にしたように、今は真剣な顔で聞いていた。 全ての報告と、目の前の赤と緑の光玉を連れた少女の言葉が一致するという事実に、元 帥も大将も枢機卿も、太后も真実と認めざるを得なかった。 「ルイズ、大儀であった。明日、学院へ送らせましょう」 マリアンヌの言葉を受け、最大限の礼をもって会議室を退室した。 ふぅ、と大きく息を吐き、ルイズは廊下の壁にもたれかかった。 「ルイズ、お疲れ様でした」 「あ、姫さま…」 声をかけたのはアンリエッタだ。剣を帯びた、護衛らしき女性騎士を連れている。 「会議が終わったのでしたら、後で共にお茶を飲みませんか?」 「は、はい。私などでよければ、お供致します」 「では、アニエス。この者を私の部屋へ。私は会議後、すぐに向かいますわ」 「かしこまりました。ミス・ヴァリエール、こちらへ」 アンリエッタの部屋は、王族に相応しいものだった。 豪華な天蓋つきベッド。精巧なレリーフが施された椅子。何百年、何千年と王家を見守 り続けたであろう始祖像。壁一面の装飾も、非常に細やかで華麗だ。 香り立つ紅茶を挟み、二人は椅子に座る。 「本日はご苦労様でした。大臣や将軍に囲まれて、さぞや居心地が悪かった事でしょう」 「いえ、そんな事は」 「あらあら!ルイズは強いわねぇ。私はもう、それはそれは居心地が悪かったわ♪」 「でも、とてもご機嫌麗しゅうございますね」 「ええ、あなたのおかげよ、ルイズ。愛しのウェールズ様と、私…。わたくし、本当に、 何とお礼を言えばいいか…」 「姫さま…」 アンリエッタは、瞳を涙で一杯にしている。心からの、輝くような笑顔で満たされてい る。 「そうですわ。姫さま、これ、お返しします」 そう言ってポケットから取り出したのは、水のルビー。 「とんでもない!これほどの功績に報いるに、水のルビーなど全く足りません!さぁ、受 け取って下さい」 アンリエッタはルイズの手を押しとどめる。 「し…しかし、私は姫さまのそのお言葉だけで、胸が一杯でございます」 「ですが、ルイズには申し訳ないのですが、実は…まだ行っていただきたいことがあるの です」 そういって、アンリエッタは一冊の書を取り出した。 それは、古びた皮の装丁がなされた本だ。表紙はボロボロで、羊皮紙のページは色がく すんでる。 手に取ったルイズが開けてみると、中身は白紙だった。 「それは、王家に伝わる『始祖の祈祷書』です」 「…始祖の、祈祷書…でございますか?」 「6000年前、始祖ブリミルが神に祈りを捧げた際に詠み上げた呪文が記されている… と、伝承では語られています」 「…なっ!?」 ルイズは慌ててページを進める。しかし、約300ページ、全部白紙だった。 「…白紙、ですね」 ガッカリ、と顔に書いてあるかのようだ。 「はい、白紙ですわ。 王室の伝統ですの。王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女に、その書を渡して式 の詔を詠み上げるのです」 「…巫女?も、もしや…」 ルイズの血の気が引いていく。 「はい。ルイズ、お願いしますわ」 「そ!そんな私など!もったいない、過ぎる大役にございます!」 首も手もブンブン振ってしまうルイズ。 「いえ、実はこれは、ルイズにしか頼めないのです」 「そのようなことは…他に私より」 「いいえ、ダメなのです。何故なら、これは、今夜ここにいるあなたにしか頼めないので すから」 「今夜?どういうことでしょうか」 アンリエッタは、哀しげに天井を見上げた。 「簡単な事ですわ。此度のアルビオンとの戦争、勝てる見込みがほとんど無いからです。 負けた場合、例え講和に持ち込んだとしても、アルビオンは必ずウェールズ様の身柄を要 求します」 「あ…い、いえ!勝てば良いのです!」 「無論、そのための努力は惜しみません。ですが、やはり分は悪いのです。ですから、今 できる事を全て行いたいのです。もう、後悔をしないために…」 「姫さま…」 憂いを秘めつつも、王女の目には力があった。意思の力が。 「ふふふ、このような事、母様にもマザリーニにも言えませんわ。何しろ先ほどの軍議で さんざん叱られましたもの! 大臣達も、国民も皆、こう思っているでしょう。『為政者の器に非ず』と。私もそう思 います。王家を見放しレコン・キスタに付く貴族が現れるやもしれません。それも無理か らぬ事でしょう。 だから、よいのです。私は姫でもなんでもありません。愛に目がくらんだ、ただの女で す。ただウェールズ様への愛に殉じます。今宵こそ、夢にまで見たウェールズ様との婚儀 を行う刻なのです」 王女は、真剣な目で幼なじみを見つめる。その想いにルイズは、とても断れないと覚悟 した。 「・・・承知致しました。私などでよろしければ、巫女の大任を拝命いたします」 「あなたなら、そう答えてくれると信じていました。さぁ、共にウェールズ様の部屋へ参 りましょう」 二人は部屋の前に控えるアニエスも連れて、ウェールズの部屋へ向かった。 ウェールズが与えられた部屋の前にも警備の騎士はいる。 彼は軟禁されているわけではない。非公式ながら、既に亡命を認められている。だが本 来なら、未婚の王女と亡国の王子が夜更けに面会しようとすれば、上官が飛んでくるだろ う。 しかし、二人が将来を誓い合った仲なのは、既に国中に知られている。今さら王女の面 会を止める理由は無かった。 無論ウェールズも、思い人の来室を待ち焦がれていた。 「…私からもよろしくお願いする。もはや国も失い、ただの一人のメイジに成り下がった 身だが。それでも私を必要としてくれる愛しのアンリエッタのために、この命、全てを捧 げよう」 「ウェールズ様…」 「で、では…コホンッ」 ルイズは手を取り合う二人の前に立ち、祈祷書を持った。 持ったはいいが、何を言えばいいのか分からない。 緊張でダラダラと冷や汗が出る。 「そ、その…実は私、こう言う時に巫女が何を言うのか、よく存じません…」 「あらあらいいのよ!ここには母様もマザリーニもいないのだから。必要な事を思いつく だけ言ってくれればいいのよ」 「ああ、だから硬くならなくていい。楽にしてくれたらいい」 そうは言われても、もうルイズはカチコチ。 少しでも緊張を和らげれようと、無意識に手が服を直したりポケットを探ったり。 そのうちに、ポケットの中にある水のルビーに触れた。 せめて貫禄を出そうかと、それを指にはめた。 そして、脂汗でじっとり濡れた手で、祈祷書を開いた。 瞬間、三人の前で祈祷書とルビーは光を放った。 ―――次の日 夜のヴェルサルテイル宮殿 ~アルビオン戦七日前~ 薄桃色の小宮殿『プチ・トロワ』では、王女イザベラがタバサの前で、報告書に目を 通していた。 「つ…追加報告を、命じて見れば…ますますメチャクチャね。あんた、マジ?」 光るおでこが眩しい王女に至近距離で睨まれても、タバサの表情は全く変化がない。 しばし睨むが、やっぱり何の反応も示さない。 「これだけは答えなさい…この報告書に、嘘偽りはないんだね!?」 タバサは、無表情なままコクリと頷いた。 忌々しげに歯ぎしりする王女も、ついには根負けして顔を逸らした。 「アルビオンでは手紙に加え、王子まで保護して帰還。 学院を襲撃したフリゲート艦を、一瞬で破壊。傭兵共の隊長も撃退。 ワルドとかいうのが相当の手練れだったとしても…信じられないねぇ」 イザベラはにんまりと笑い、机の上の書簡を手に取った。それでタバサの頭をポコポコ叩く。 「しかし、これが真実だってんなら、あんたも終わりだねぇ。なにせ次の任務は、アルビ オンとの戦争が始まるまでに、その使い魔達を、生きたままここへ連れてこいってんだか らねぇ!」 夜空へ向けて、タバサを乗せたシルフィードは学院へ向けて飛んだ。 「きゅいきゅい…お姉さま、大変な事になっちゃったのね」 夜空を飛ぶシルフィードは、毛布にくるまるタバサに心配げな声をかける。 「あの使い魔達、一人でも無茶苦茶強いのね…しかも、三人なのね。勝つのは大変、なの ね…きゅい」 毛布にくるまりながら、タバサは本を読んでいた。 「さっきも話したけど、わたし見てたの。昨日、ジュン達とワルドって人が、森で戦って たの。もう、グッスリ寝てたのに、ねぐらのすぐそばで戦い始めるんだものぉ!飛び起き ちゃった! ワルドが兵隊達をぜーんぶ倒した後に、あの子達が来たの!信じられないのね!あの子 の剣さばき、見えなかった!それでそれで、緑の、スイセイセキって言ったかな?そのお 人形が、如雨露から何かこう、細い水かな?すっごい勢いでだしたの!きゅい!そしたら 森の木々が、スッパリきれーに切れちゃったのね!!信じられない魔法なの!!」 タバサが、本を閉じた。 「何故、戦ったの?」 シルフィードは、首を捻る。 「それは、わかんないのね。危なくて近寄れないから、話は聞こえなかったの。きゅい。 でも、ルイズが来たとたんに、二人とも」 「戦いを、止めた」 「きゅい!そうなのね」 以後、タバサは学院に着くまで、何も言わなかった。シルフィードがいくらおなかすい たと訴えても、本も開かず黙って夜の闇を見つめていた。 ―――その頃、日本 放課後の帰り道、ジュンは三人の上級生に囲まれていた。 「お前よぉ、ひっさしぶりにガッコ出てきたんだってぇ?」 「ヒッキーのくせに、意外と良い根性してんのなぁ?見てるこっちが恥ずかしくてしょう がないぜ」 「ウゼぇダニ見て、気分悪くなって昼飯吐いちまったぜ、チビ。どうしてくれんだ?弁償 しろや」 「あは、あはは、あはははは・・・」 ジュンはズボンのポケットに両手を入れたまま、もう苦笑いするしかなかった。 薔薇乙女達、巨大ゴーレム、ゼロ戦、空飛ぶ海賊船、天を覆う竜騎兵達、ロケットラン チャー…。 そんな、非現実的としか言いようのない夏を過ごした彼にとって、目の前の『不良にカ ツアゲされる』という現実の方が、よっぽどファンタジーに思える。 両手をポケットに突っ込んだまま、『あ~、やっぱ日本って平和なんだなぁ~』と感心 してしまった。 だが、その余裕な態度が、上級生達のプライドを傷つけた。 「なぁにニヤニヤわらッてんだぁ!?だっせぇメガネしやがって!」 と叫んだ一人が、メガネを取ろうと手を伸ばす。 ひょいっと、ジュンは避けた。 くそっこのっ、とつぶやきながら、何度も手を出す。だが、全て紙一重でかわされた。 彼はポケットから手を出す事もなく、上体を上下左右にそらすだけで見事に避け続ける。 「こっ!この野郎!!」 軽くかわされ続けてあっさり切れ、ブロック塀を背にしたジュンに向け、思いっきり右 拳をぶん回した。 ゴキッ 「…ぃぃいいぎゃあああっ!!」 拳は、ブロック塀を殴っていた。しかも、小指の付け根で。骨折したのだろう、みるみ る真っ赤に腫れていく。 ジュンは左足を軸に、軽く半回転しただけで避けていた。手もポケットに入れたまま、 汗もかいていない。 「てめぇ!?」 と叫んだもう一人がが、ジュンの足にタックルをかけようと低空で突っ込んだ。 ドゴォッ! 派手な音を響かせて、壁に顔から激突した。そのまま鼻血を吹き出しながら、ズルズル 崩れていく。 ふわりと跳ねてタックルをかわしていた。ポケットから手を出さないまま。 すぅっと、最後の一人の前に舞い降りる。着地した音すらしない。 「ひ、ひぃぃ!た、助けてっ!!」 「・・・あのさ、その二人、早く病院連れて行ってやりなよ」 息も服も乱さずに、ジュンは何事もなく歩いていった。 「お見事ね。それがルーンの力?」 脇道から出てきたのは、巴だ。剣道用具を肩に乗せている。 「ああ。どうやら『武器』ならなんでも良いらしい。通販で買っといてよかったよ」 ジュンが右手をポケットから出す。手には小さな十徳ナイフを乗せていた。 「他にも、こんなのも着けてるんだ」 といって、シャツからネックレスを取り出した。地味な金属製のネックレスには、やっ ぱり地味な金属製品が飾りとして下がっていた。 「用意周到ね・・・でも、ちょっとそれは見つかると良くないかも。あんまり目だったら ダメよ。気をつけなきゃ」 「そだな、ちょっとやりすぎたか。これはハルケギニアでだけ着けるとしようか」 ジュンはネックレスを外してポケットにしまう。 二人は、並んで歩き出した。 桜田家の門に立つと、なにやらぶつかり合う金属音が聞こえていた。 また派手にやってるなぁ~っと思いつつ、二人は扉を開ける。 カキンカンキンカカカカキンッ! 「そぉらそらぁっ!いくわよぉっ!」「なんの!こぉれでもくらいやがれぇですぅ!」 リビングでは、デルフリンガーを振り回す水銀燈が、如雨露を構える翠星石とチャンバ ラしていた。 『おでれーたなぁ!姐さんのちっこい体でここまで使いこなすとはよ!』「良いわねぇ、 この剣!あたしずっとこれ使おうかしらぁ?」「ダメですぅ!さっさとジュンに返しやが れですぅ!!」 二人がチャンチャンバラバラやってる間に、ソファーやカーテンがどんどん切られてボ ロボロになっていく。 キッチンでは草笛みつと、のりと、金糸雀が札束を数えていた。 「…うひひひひぃ、これでカードローンともおさらばよぉ!すごいわぁ、エキュー金貨が あんな高値で売れるなんてぇ~」 「ジュンから頼まれてたモノ全部買っても、こんなに余ったのかしら♪」 「よーっし!カナの新作ドレスも買っちゃおー!」 「なっ!?みっちゃんダメです!それは、ジュンくんの参考書代にしますから!」 「ちょっとみんな、静かにしてちょうだい。落ち着いて見れないじゃないの!」 ソファーに座った真紅は、ハルケギニアに行ってる間撮り貯めていた『くんくん探偵』 を見ていた。 「あー!カナも見たいかしらー!」 「く!水銀燈、ここは引き分けにしておくですっ!」 「水銀燈、あなたも一緒に見てはどう?」 「な!?な…バ、バカ言ってンじゃないわよぉ、なんであたしがそんな、下らないモノ」 と言ってそっぽを向きつつも、黒い翼が嬉しげにパタパタと羽ばたく。 ぐだぐだの桜田家を見て、ジュンは諦めのため息をつく。巴はクスクス笑っていた。 ―――そして、トリステイン魔法学院 ~アルビオン戦六日前~ カーテンが開け放たれた窓から朝日が差し込む。 鏡台の鏡も光りを放ち、部屋を照らす。 とたんにベッドからネグリジェのルイズがガバッと起きた。 「ルイズさーん、戻ったよー」 ジュン達が鏡から、にゅっと顔を出すと、 「おっかえりぃーっ!待ってたのよぉ!」 と、ルイズが思い切り抱きついてきた。 「うわったた!どうしたのルイズさん!」 「聞いて!聞いてよ!あたし、とうとう見つけたのよっ!」 鏡から上半身だけ出したジュンに抱きつきながら、興奮して叫び続けている。 「見つけたって、何を…まさか!?ローザ・ミスティカを!?」 「ブブー!ざぁんねんでしたぁ。でも、もうスッゴイ物みつけちゃったんだからぁっ!」 ジュンはワケも分からず抱きしめられて、鏡から出るに出れない。隙間から真紅と翠星 石も顔を出した。 「な、なんだか妙に上機嫌ですねぇ?」 「ともかく、鏡から出させてちょうだい!荷物が重くて大変なのよ」 「あらやだ、ごめんなさい」 ジュン達は、ようやく鏡から出れた。ジュンは背のデルフリンガーに加え、手に大きな ボストンバッグを持っている。 「ねぇ、これなんなの?」 「へっへー!今回は色々もってきたんだぁ~」 ツンツン 「ルイズさんがくれた金貨のおかげで、スッゴイの沢山買えたんだ!」 ツンツンツンツン 「まずこれ!インカムとトランシーバー!ゼロ戦に乗ってる時、話をするのが楽に…なん だよ真紅」 真紅が背中をツンツンつついていた。 ドカッ! さらに翠星石が尻を蹴り飛ばした。 「さっさと気付けですっ!」 「気付いてンじゃねーかっ!あにすんだよっ!?」 真紅が、窓の外を指さした。 カーテンが開けっ放しの外には、シルフィードがいた。 『プチ・トロワ』から帰ってきたばかりのタバサを背に乗せて飛んでいた。 ジュンは、タバサと目があった。 シルフィードも、鏡から出てきた一行を、じぃ~っと見ていた。 「…えっと」「みら…れた、です?」「の、よう…ね」「お、おでれーた?」「か、かーて ん、しめ、忘れたぁ…かなぁ?あははは…は」 「きゅいいいいいいいいいいっっっ!!!鏡から人なのねぇええええっっ!!」 シルフィードの悲鳴が学院中に響き渡った。 第二話 休暇の終わり、戦の前 END back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
https://w.atwiki.jp/aoari/pages/5462.html
上祈祷札 (ジョウキトウフダ) 相場 買値/売値:文/文 備考 宝飾之れで生産可能 分類 価値 重量 特殊効果 1 なし 材料 上祈祷札:4 柳材:2上羽毛筆:2 主な用途 価値17の職人装備 侍 籠手作成之ち 上手の手袋 陰陽師 裁縫之え 棟梁羽織 傾奇者 装飾之そ 棟梁被り? 神主・巫女 宝飾之む 気合だすき 僧 手芸之ま 名工の道具入れ 鍛冶屋 鍛冶之ち 和鉄の金槌 忍者 履き物作成ち 名工の足袋 薬師 お守り作成ち 八百万神符
https://w.atwiki.jp/yaruomura/pages/116.html
iiilll川i';,三彡 彡 /´ ̄ ̄`ヽ . ミ三彡ミシ彡´`ヾ、彡 三ミ彡 i (◎ゝく◎) |.゙ミ三彡ミシ彡´ ,川川lliiゞ、`三彡 ヽ ';;' ハ ';;' iミ三彡ミシ彡,イ川!川lliiiゞ、彡ゞ三 ヾ {bdbd} / 三彡ミシイイ川ソ´ヾシミミミ';,ミ彡彡ミソ ,ゝ、二,,./ 三彡ミ川川ソゞ´ ←禍々しい羽根飾り /7 (/__; /-‐'´/ __,. L.._`l‐ヽ=ヽVVli | ! .l ..ィ!f 7! {「 ト!| i l.l ヘ! ‐、 l | || レ|r|「 | | {| |!li |.||、 | | | i |.ト|Y プォーン プォーン V| l l _ i_ |__ |_,i l、ムム l-l |! | l.| レ ↑そこはかとない角笛 V!ヘl |テrt nミヾ! /'ノ'イ でリj ノ リ |' i||! ヘ圦、V Z ノ ゞ='ィシ | ||! トゝ | イ | ズンドコドコドコ ズンドコドコドコ ゙|! ヘ . } /!| l | |! ||'ヘ __ , ' |.| | | ズンドコ ズンドコ ズンドコドコドコ |、 l|| \ ´ニ` ィヽ .| レ| | ↑鳴り響く太鼓のリズム | V|| /|` 、 / .トi V ' ,.| rー''''"゙゙~i { } | "''‐- .,_ ソイヤッ ソイヤッ.'' "´|| ┏| / i┓ |i"'' キェー キェー ↑謎の合いの手 .ll ┏┫! ヽ ノ /┣┓ || ↑遠くで聞こえる謎の雄叫び ll ┣┫ヽ / ┣┫ i|. ii ┣╋ \ ∨ / ╋┫ ノ ←魔物の毛皮 基本情報 陣営 村人 役職系統 司祭系 実装バージョン Ver. 1.5.0 α4 特殊な判定結果 護衛制限 あり 特徴 翌日の天候を知ることが出来る司祭系の役職。 天候オプションが付いていない場合、人狼以外の人外が人狼よりも多いとランダムな天候を引き起こす。 判定があるのは3の倍数の日数の夜。発動はその2日後(3n+2)の朝。 正確な計算式は 生存者の数-生存者のうちの村人陣営の数(恋人を含む) 人狼系×2。 恋人については元の陣営で判定するので、計算を間違えないように注意。 司祭系ということで、地味に狩人の護衛制限も付いている。 どう動くか 天候オプションがオンの場合、翌日の天候を知れるのは祈祷士のみ。COするだけで真証明が可能。 実際に証明に繋がるのは翌日なので、鉄火場に出るよりも少し早く出るのを意識しておきたい。 早期に出て真証明、確定○を作るのもよし、いざとなれば証明できるので潜伏して他の役職の盾を目指すもよし。 天候オプションがオフの場合、天候を発生させることで完全な真証明は可能だが条件が厳しめ。 常識的な配役の場合は狼が削れ続けた上で他の人外が多くないと発動しないので、発動したらラッキー程度に考えておけばよし。 天候が発動したのが見えたらさっさとCOして真証明するか、最低でもそれを示唆する発言をしておき、後でCOした時に信用を得られるようにしよう。 潜伏した場合、対抗が出るリスクもあるが基本は他の重要な役職の盾になれるよう、積極的に発言・推理を進めていきたい。 どう騙るか 天候アリのオプションの場合、天候を言い当てなければその時点で終了。 実際の真証明はCOの翌日なので、1日だけ言い逃れればいい状況ならば適当な天候でCOしておこう。 強運の持ち主であれば、1回ぐらいなら適当な天候が当たる可能性もある。 そうでなければ発動機会の少ない、概ねニートのひとつ。終盤のニート乱舞に紛れる形でCOしておこう。 天候が発動して祈祷師がいるのが分かった場合、真証明は難しいので対抗として騙るの自体は難しくは無い。 ただし前述の通り、本物の祈祷師は天候が発生すると分かった時点でCOするか、布石となる発言をするので信用勝負で勝つのは厳しいだろう。 参考ログ コメント 名前 コメント