約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8586.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 魔法学院の東の広場、通称『アウストリ』の広場のベンチに腰かけ、ルイズは一生懸命に何かを編んでいた。 今はちょうど昼休み。食事を終えたルイズは、デザートも食べずに広場へやってきて、こうやって編み物をしているのだった。 ときおり、手を休めては、『始祖の祈祷書』を手に取り、白紙のページを眺めながら、姫の式に相応しい詔を考える。 周りでは、他の生徒がめいめいに楽しんでいる。ボールで遊んでいる一団がいた。 魔法を使い、ボールに手を触れずに木に吊り下げた籠に入れて、得点を競う遊びだ。 ルイズは、その一団をちらと眺めた後、切なげなため息をついて、作りかけの自分の作品を見つめた。 はたから見るとその様子は、一幅の絵画の様であった。ルイズは本当に黙って座っているだけでさまになる美少女なのである。 ルイズの趣味は編み物である。小さい頃、魔法がダメなら、せめて器用になるようにと、母に仕込まれたものであった。 しかし、天はルイズに編み物の才能を与えなかったようである。 ルイズは一応、セーターを編んでいるつもりであった。しかし、出来あがりつつあるのは、どう贔屓目に見てもねじれたマフラーである。 というか、複雑に毛糸が絡まりあった、オブジェにしか見えない。 ルイズはそんなオブジェを恨めしげに眺めて、再びため息をついた。 あの厨房で働くメイドの顔が思い浮かぶ。エツィオが彼女を誑し込んだことを、ルイズは知っている。 そんな彼女にエツィオは食事を用意させている事もルイズは見抜いていた。 あの子は食事を作れる、キュルケには美貌がある。じゃあ自分には何があるだろう? そう思って、趣味の編み物に手を出したのだが……、あまりいい選択ではなかったようだ。 そんな風に作品を眺め、軽く鬱に入っていると、肩を誰かに叩かれた。 振り向くと、キュルケがいた。ルイズは慌てて、傍らに置いた始祖の祈祷書で『作品』を隠した。 「ルイズ、なにしてるの?」 キュルケはいつもの小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、ルイズの隣に座った。 「み、見ればわかるでしょ。読書よ、読書」 「でもその本、真っ白じゃないの」 「これは『始祖の祈祷書』っていう国宝の本なのよ」 「ふぅん、で? なんでそんな国宝をあなたが持ってるの?」 ルイズはキュルケに説明をした。アンリエッタの結婚式で、自分が詔を詠み上げること。 その際、この『始祖の祈祷書』を用いる事……などなど。 「なるほど。その王女の結婚式と、この間のアルビオン行きって関係してるんでしょ?」 ルイズは一瞬考えたが、キュルケが一応、自分達を先に行かせるために囮になってくれた事を思い出し、頷いた。 「あたしたちは、王女の結婚が無事行われるために危険を冒したってわけなのねぇ、名誉な任務じゃないの。 つまりそれって、こないだ発表された、トリステインとゲルマニアの同盟が絡んでるんでしょ?」 なかなか鋭いキュルケであった。ルイズは憮然とした表情で言った。 「誰にも言っちゃダメなんだからね」 「言うわけないじゃない、あたしはギーシュみたいにおしゃべりじゃないもの。 ところで、二人の祖国は同盟国になったのよ? あたしたちも、これからは仲良くしなくっちゃ。ねぇ? ラ・ヴァリエール」 キュルケはルイズの肩に手を回した。そして、わざとらしい微笑を浮かべる。 「聞いた? アルビオンの新政府は、不可侵条約を持ちかけてきたそうよ? あたしたちがもたらした、平和に乾杯」 そんなのとっくに知ってるわよ。とルイズはうっとうしそうに相槌を打った。 その平和のために、アンリエッタは好きでもない皇帝の元へ嫁ぐ事になり、エツィオは暗殺を行い続けたのである。 仕方のないこととはいえ、明るい気分にはなれなかった。 「それはそうと、この間のアサシンの話、覚えてる? ほら、『アルビオンの死神』のことよ」 ルイズは、ぴくりと肩を震わせた。 「ええ、それが?」 「ね、ここだけの話、『アルビオンの死神』って、エツィオなんでしょ?」 「残念でした、あいつはアサシンじゃないわ」 ルイズの顔を覗き込んで、キュルケは言った。 ルイズは、つんと澄ました顔で首を横に振る。だが、キュルケは何食わぬ顔で首を傾げた。 「あら? そうなの? おかしいわね、エツィオがそう言ってたのに」 「なっ……!」 ルイズは目を吊り上げた。 「あ、あのバカっ……! な、なに自分でバラしてんのよっ……!」 苦々しい表情で呟いたルイズを見て、キュルケはにやっと笑った。 「あらら、てことはアサシンって、エツィオなんだ」 「あっ……! あ、あんたもしかして!」 キュルケのその言葉に、鎌をかけられたことに気が付いたルイズははっとした表情になった。 キュルケは楽しそうに、ルイズの額を指でつついた。 「ウソに決まってるじゃない。エツィオに聞いたらはぐらかされちゃったわよ、彼って、煙に巻くのうまいわね。 ちなみに、彼にも同じ手を使ったけど、それでも自分ではないって否定されちゃったわ」 あなたってほんとに分かりやすいんだから、とキュルケは笑いながら言うと、やがて、ほうっ……と、切なげなため息を吐いた。 「それにしてもすごいわね! エツィオがあの『アルビオンの死神』だなんて!」 「い、言わないでよ! だって……!」 「わかってるわ、あたしだって馬鹿じゃないもの」 キュルケは少々むっとした表情でルイズを見つめる。それから頬に手を当て、うっとりした様子で呟いた。 「ああ、でもエツィオってば、想像以上だわ……、そのままでも十分カッコいいくせに、まだ秘密を隠し持ってたなんて……! 素敵……最高じゃない!」 「ふん、あんなバカのどこがいいのかしら」 口をへの字に曲げながら、つまらなそうに呟くルイズに、キュルケはにやっと笑った。 「あら、そんなの聞くまでもないんじゃなくて? それにあなたも……」 キュルケは、さっと始祖の祈祷書の下から、ルイズの作品を取り上げた。 「か、返しなさいよ!」 ルイズは取り返そうともがいたが、キュルケに体を押さえられてしまった 「さっきから、この……え、えーっと……、ごめんなさい、なにこれ」 キュルケはぽかんと口をあけて、ルイズの編んだオブジェを見つめた。 「セ、セーターよ」 「セーター? ヒトデのぬいぐるみにしか見えないわ」 「そんなの編むわけないじゃない!」 ルイズはキュルケの手から、やっとの思いで編み物を取り戻すと、恥ずかしそうに俯いた。 「あなた、そのセーター、エツィオに編んでたんでしょ?」 「あ、編んでないわよ! ばかね!」 ルイズは顔を真っ赤にして怒鳴った。 「あなたってほんとうにわかりやすいのね、好きになっちゃったんでしょ? わかるわ~、あんな完璧な男、惚れるなって言うほうが無理だもの」 ルイズの瞳を覗き込むようにして、キュルケは言った。 「す、好きなんかじゃないわ。好きなのはあんたでしょ」 「あのねルイズ。あなたって、嘘つくとき、耳たぶが震えるの、知ってた?」 ルイズは、はっとして耳たぶをつまんだ。すぐにキュルケの嘘に気が付き、慌てて手を膝の上に戻す。 「と、とにかく、あんたなんかにあげないんだから。エツィオはわたしの使い魔なんだからね」 キュルケはにやっと笑った。 「独占欲が強いのはいいけれど、あなたが今心配すべきは、あたしじゃなくってよ」 「どういう意味よ」 「ほら……なんだっけ、エツィオに誑し込まれたあのメイド」 ルイズの目がつり上がった。 「あら? 心辺りがあるの?」 「べ、べつに……」 「今、部屋に戻ったら、面白い物が見られるかもよ?」 ルイズはすっくと立ち上がった。 「好きでもなんでもないんじゃないの?」 楽しげな声でキュルケが言うとルイズは。 「わ、忘れ物を取りに行くだけよ!」と怒鳴って駆けだした。 エツィオは部屋の掃除をしていた。 箒で床を掃き、机を雑巾で磨く。最近、ルイズが洗濯や自分の身の回りの世話を自分でやるようになったため、仕事と言えば掃除くらいだ。 掃除はあっという間に終わってしまった、もともとルイズの部屋にはあまり物が無い。 クローゼットの隣には引き出しの付いた机。水差しの乗った丸い小さなテーブルに椅子が二脚。そしてベッド、本棚くらいである。 ルイズはわりと勉強家なので、本棚にはずっしりと分厚い本が並んでいる。 父上の書斎も、こんな感じだったな。と、なんとなく昔を思い出しながら、椅子に腰かけた、その時である。 開け放たれたままの窓から一羽の鳩が、エツィオの元に飛んできた。 「やっと来たか」 腕に止まった鳩から手紙を受け取りながら、エツィオは小さく呟く。 部屋の壁に立てかけたデルフリンガーが、エツィオに声をかけた。 「お? 姐さんからの手紙かい?」 「なんだよ姐さんって……」 苦笑しつつも、その手紙を開封する。 だが、その中身をみたエツィオは、すぐに眉根を寄せた。 「奴ら……正気か?」 「どうしたよ、相棒」 ただならぬエツィオの様子に、デルフリンガーが尋ねる。 エツィオは険しい表情のまま呟いた。 「『親善訪問』は予定通り行うそうだ」 「予定通りだって? するってぇと……」 「ああ、奴ら、艦隊の再編を終えつつあるらしい……。親善訪問に合わせ再編を終え、侵攻に乗り出すつもりのようだ。 最後通牒だったんだがな……、受け入れてもらえなかったようだ」 全て、無駄だったな……。エツィオは低く呟くと、顎に手を当て考える。 「降下予定地は……ラ・ロシェール近郊、タルブの大草原……か」 そんなところあったかな? とエツィオは小さく首を傾げる。 しかし、手紙に書いてある以上、あるものはあるのだろう。 エツィオは肩を竦めると、ルイズの机から羽根ペンを取り出し、なにやらさらさらと手紙をしたため始めた。 それを鳩にくくりつけ、窓から空へと放つ。 「これでよし、っと」 「何を頼むんだ?」 「資金源の再調査だ、今回の侵攻の軍資金がどこから出たのか調べてもらうのさ。まさか税金だけで賄える筈はないからな」 そう言いながら、エツィオは椅子に腰をかける。それから再びマチルダからの手紙を広げ、じっと見つめた。 「銀行家は全て消した……、市民から税を捲き上げたとしても、奴らに軍を動かす程の金なんてないはず……。 奴ら……、一体何を考えているんだ?」 「でも相棒、お前、これを想定していたんじゃなかったのか?」 「まぁな……、予定より艦隊の規模が小さいらしいが……、不意を打てるのならば制圧は可能だと踏んだんだろう。 トリステインには、伝える事は全て伝えた……あとはトリステイン艦隊がうまく立ち回ってくれることを祈るしかないな」 だが……もし万が一の時は、忙しくなるな……。と小さく呟き、エツィオは机の上に置かれたアサシンブレードを見つめた、その時、扉がノックされた。 エツィオは手紙を丸め、ポケットの中に入れようと。したが、ちゃんと入らず。丸まった紙きれがぽとん、と床に落ちる。 少し慌てていたためか、それに気が付かないまま扉に向かい、エツィオは「どうぞ」と声をかける。 すると扉ががちゃりと開いて、シエスタがひょっこり顔を見せた。 今までの険しい表情から一変、エツィオはにっこりとほほ笑んだ。 「やあ、シエスタじゃないか、どうしたんだ?」 「あ、あの……」 そうやって現れたシエスタの手には、大きな銀のお盆があった。その上にはたくさんの料理が乗っている。 「あのですね、その、今朝、エツィオさん、食堂にいらっしゃらなかったじゃないですか」 ああ、とエツィオは頷いた。 昨夜、まったく眠れなかったせいで、思いっきり寝過してしまい、ルイズはなんとか朝食にありつけたものの、 エツィオは食堂へルイズを送り出すことに精いっぱいで、朝食を食べる事が出来なかったのだ。 「だから、お腹すいてないかなって。心配になって……それで……」 シエスタはお盆をもったままもじもじした。その仕草がとてもかわいらしい。 「いや、助かったよ、今日は思いっきり寝過しちゃってね、朝食を食べてなかったんだ」 「寝過しちゃったんですか? ……実は、わたしもなんです。お陰でお仕事に遅れちゃって、部屋長に怒られちゃいました……」 シエスタはしゅんと項垂れた。 「なんだ、きみも寝坊しちゃったのか。お互い災難だな。さて、それはそうと、丁度お腹かがすいてたんだ、持ってきてくれて助かったよ」 エツィオはにこやかにほほ笑むと、そう言った。 「ほんとうですか?」 シエスタの顔が輝いた。 「うれしいです……、じゃあ、おなかいっぱい食べてくださいな」 小さなテーブルの上に、様々な料理が、所狭しと並んでいる。 シエスタが、にこにこしながら隣に座る。 「それじゃ、いただくよ」 エツィオはにっこりとほほ笑み、料理を口に運び始める。 「おいしいですか?」シエスタが尋ねてくる。 「ああ、とっても」 「えへへ……、たくさん食べてくださいね」 シエスタは、上品な、それでいて手慣れた手つきで料理を口に運ぶエツィオを、うっとりとした目で見つめている。 「エツィオさんって、上品なんですね、なんだか、料理も口に運ばれるのを楽しみにしているみたい。作った人も幸せな気分だなぁって」 「きみの前だからな、カッコつけてるのさ」 エツィオはウィンクしながら笑う。 まぁっ、とシエスタは頬を染めた。 「ところで、いつもと味付けが違うような……、誰が作ったんだ?」 エツィオが首を傾げると、シエスタは、はっとした表情になった。 不安そうにエツィオを上目遣いに見つめ、尋ねる。 「あっ……。お、おいしくない……ですか?」 「とんでもない、それどころか俺好みの味付けだ」 「ほ、ほんとですか! じ、実はそれ、私が作ったんです」 シエスタは、はにかんだ表情で言った。 「へえ! 大したものじゃないか!」 「あ、ありがとうございます。無理言って、厨房に立たせてもらったんです。 でも、こうやってエツィオさんに食べてもらうことが出来たので。お願いした甲斐がありました」 「きみの手料理を一人占めできるなんてな、これは寝坊して正解だったかな?」 上機嫌に料理を口に運ぶエツィオに、シエスタは嬉しそうに笑った。 やがて、机の上に置かれた料理を一通り平らげると、エツィオはお腹をさすりながら満足そうに頷いた。 「ふぅっ……、食べ過ぎちゃったかな。ありがとうシエスタ、とてもおいしかったよ」 「いえっ! あ、あのっ! 言ってくださればわたし、エツィオさんのために、いつでも作ります!」 「ああ、また頼むよ」 ワインを口に運びながら、エツィオは微笑む。 その魅力的な笑みに、シエスタは思わずクラっときてしまう。 しかしエツィオの手前、なんとか気を取り直そうと、シエスタは慌てた調子で言った。 「エ、エツィオさん!」 「うん?」 「あ、あのっ!」 それからシエスタは、言葉を選ぶようにして口を開いた。 「昨日のお話、とっても楽しかったです! エツィオさんの故郷! えと、フィレンツェって、とっても素敵なところなんだなって!」 ああ、とエツィオは呟いた。 エツィオとしても、フィレンツェについて、大したことは話していない、 しかし、あまり世間に詳しくない村娘のシエスタにとって、異国の話は、とても魅力的に聞こえたのだろう。 シエスタは、ぽん、と手を叩いた。 「あのね、エツィオさんの故郷の話も素敵だけど、わたしの故郷も素晴らしいんです。タルブの村って言うんですけど……」 「タルブだって?」 その言葉に、エツィオの表情が一瞬強張った。 タルブ……、手紙に記されていた、アルビオン軍の降下予定地だったはず……。 そんなエツィオの様子に気が付いたのか、シエスタはおろおろとした様子で尋ねる。 「ど、どうしたんですか? わ、わたしったら、もしかして、なにかお気に召さないことを……」 「あ、いや……、なんでもない。……シエスタ、もしかしてそのタルブって村、近くに草原がないか?」 エツィオが尋ねると、シエスタは顔を輝かせた。 エツィオが自分の村の事を知っていた事が、嬉しかったようだ。 「はい! 村の近くに広い綺麗な草原があるんです! もしかして、御存じなんですか?」 「ん……、ああ、是非一度行ってみたいと思っていた所でね」 「そうなんですか!」 エツィオがにこりとほほ笑むと、シエスタは胸の前で手を組み、勢いよく立ちあがって叫んだ。 「そ、それじゃあ、エツィオさん! わたしの村に来ませんか?」 「タルブの村に?」 「今度、お姫さまが結婚なさるでしょう? それで、わたしたちに休みが出る事になったんです。 でもって、久しぶりに帰郷するんですけど……。よかったら遊びに来て下さい! エツィオさんに見せたいんです、あの綺麗な草原。 今はきっと、夏の花が咲いているわ、地平線の向こうまで……。今頃、とってもきれいだろうな……」 とてもうれしそうに話すシエスタを見て、エツィオは、内心、胸を痛めた。 マチルダの手紙が確かならば、アルビオンの侵攻により、タルブの村は戦場となるだろう。 シエスタの身を案じるのであれば、彼女の帰郷を止めるべきである。 しかし、逆に考えれば、これはいい機会なのかもしれなかった、シエスタに事情を話し、村人の避難誘導に協力してもらえば、 被害を最小限にとどめることが出来るかもしれない。 無論、余計な動揺を防ぐために、現地に着くまでは、そのことを伏せておく必要があるが……。 「ああ、でも……、いきなり男の人を連れていったら、家族のみんなが驚いてしまうわ。どうしよう……」 そんなエツィオの様子に気が付いていないのか、シエスタは半ば浮かれた気分で呟いている。 それからシエスタは、ぽんと手を叩いた。それから、激しく顔を赤らめて呟いた。 「そうだ。だ、旦那様よ、って言えばいいんだわ」 「ん?」 「け、結婚するからって言えば、喜ぶわ。みんな。母さまも、父さまも、妹や、弟たちも……。みんな、きっと喜ぶわ」 「おい、シエスタ?」 なんだか、話がとんでもない方向へ進んでいることを心配したエツィオが、シエスタの顔の前で手をひらひらと振る。 すると、我に返ったのか、シエスタは慌てて首を振った。 「ご、ごめんなさい! そ、そんなの迷惑ですよね! っていうか、エツィオさんが遊びに来るって決まったわけじゃないのに! あは!」 「いや……、それはいい提案だ」 エツィオはそう言うと、僅かに口元に笑みを浮かべ、やおら立ち上がる。 「是非きみの村に行ってみたいな、きっと素敵なところなんだろう」 「え……あ、ほ、ほんとうですか?」 「もちろんさ、言っただろう? きみの事をもっと知りたいんだ」 シエスタはしどろもどろになりながら言った。 「エ、エツィオさんって……、だ、大胆ですよね」 「そうか? これでも大分遠慮してるんだけどな。それとも……」 エツィオは、ずいっとシエスタの顔を覗き込む。 咄嗟の事に驚いたシエスタは、バランスを崩した。その後ろにはルイズのベッドがあった。 当然、ベッドに倒れ込む形になったシエスタ、その上に、エツィオがのしかかる様にして顔を寄せる。 まるで獲物を捕らえるように、エツィオの手がシエスタの顎を掴む。 「大胆な男は……嫌いかな?」 かはっ……、っとシエスタの口から言葉にならない吐息が漏れた。 ボディブローのようにずっしりとくる、エツィオの甘い囁き。 もはやシエスタの顔はまるでゆで上がったように真っ赤になっている。 エツィオはニヤっと笑みを浮かべると、顎を掴んでいた手を離し、優しく撫でるようにシエスタの頬から首筋……そして胸へと下ってゆく。 「あわ、あわわ……あわわわ」 「……どうなのかな? シエスタ」 意地悪な笑みを浮かべながらエツィオが囁く。 シエスタは、元々いったん覚悟を決めると大胆になる性格である、だが、エツィオの前では覚悟を決めることすら許されない。 完全にペースを掌握したエツィオは、ずいっとシエスタに顔を寄せる。 その時だった、まさしく絶妙のタイミングで、ルイズがドアを開けて入ってきた。 それから十秒の間に、実に様々なことが起こった。 ルイズが、シエスタをベッドに押し倒しているエツィオを発見した。これが一秒。 エツィオが、「げっ!?」 とベッドから跳ね起きた。これが二秒。 一拍遅れ、我に返ったシエスタが慌てて起き上がる。シエスタはこれに二秒費やした。 衣服に乱れが無かったため、シエスタはペコリと頭を下げ、部屋を飛び出して行った。ここまでで六秒。 ここでようやくルイズの硬直は解ける。これで七秒。 ルイズはエツィオには向かわず、机の上に置いてあった、エツィオの鉄のセスタスを手に取り、それを右手にはめる。ルイズはこれに二秒費やした。 エツィオが「あ、いや、これには事情があって!」とルイズに言ったのと、ルイズの文字通りの鉄拳がエツィオの鳩尾に叩き込まれたのが同時で十秒。 そんなわけで、ルイズがドアを開けて十秒後には、エツィオは冷たい石の床に転がっていた。 ルイズはエツィオの頭をがっしと踏みつけた。声が震えている。身体も震えていた。 「何してたのあんた」 「げほっ……う……ぐぐ……」 「うぐぐ、じゃわかんないわ、人のベッドの上で何をしてたの?」 「い、いやぁ……ええと、その、なんと説明したらよいか……ぐぁっ!?」 「いいわけはいいのよ。ともかく、使い魔のくせに、ご主人様のベッドの上であんなことしようとしてたのが、どうにも許せないの。今度という今度はあたまにきたわ」 ルイズの目から、ぽろっと涙が流れた。 エツィオは流石にまずいと思ったのか、慌てて立ち上がる。 「いや、ちょ、ちょっとまった、泣くほどの事か?」 ……彼らしくないミスだった、不用意に放たれたその言葉は、ルイズの心を大きく抉ってしまった。 「出てって」 ルイズはきっとエツィオを睨んだ。 「お、おい……」 「出てって! あんたなんかクビよ!」 「いっ……!」 ルイズは右手のセスタスを外すと、エツィオの顔に思いっきり投げつけた。 勿論、ただの手袋ではない、鉄のプレートが縫い込まれた、いわば凶器である。 ぽたたっ、っと再び開いたエツィオの古傷から流れ出た血が床に飛び散った。 その光景に、ルイズはちくりと心が痛んだが、今回はそれよりも、腹の底が煮えくりかえるような怒りが勝ってしまった。 「く、クビって、おい冗談だろ?」 そんな目にあって尚、平静を保っているあたり、流石というべきか。 エツィオはなだめる様な口調で、ルイズに話しかける。 だが、そんな冷静なエツィオの態度が、益々癪に障ったのだろう、ルイズは掛けてあったエツィオのアサシンローブをひっつかみ、廊下に放り出す。 「クビよ! クビったらクビ!」 「お、おい! 落ち着けって!」 エツィオがそんなルイズをなんとか落ち着かせようとするものの、その勢いは止まらない。 今度はデルフリンガーやその他の装備を、全て廊下に放り出した。 「落ち着けですって? ふざけないで! あんたはクビなの! あんたなんかその辺でのたれ死んじゃえばいいのよ!」 ルイズは最後に、エツィオの袖を掴むと、そのまま部屋の外へと叩きだした。 「あんたの顔なんか、見たくもない!」 その言葉を最後に、ルイズは、ばたん! と勢いよくドアを閉めた。 「おい! ルイズ! 俺が悪かったって! 機嫌直せって!」 エツィオはドアを叩くも、返事が無い。 やがて諦めたのか、エツィオはがっくりと肩を落とすと、ルイズに投げ捨てられた自分の装備品を回収する。 「やれやれ、こんなカッコ悪いのは久しぶりだな……」 そんな事をぼやきながら、最後にデルフリンガーを拾い上げる。 「よお相棒、こっぴどくやられちまったなぁ」 「ああ。ま、一時的な物だと思うんだけどな……」 エツィオは肩を竦めると、どうしたものかと首を傾げる。 「はぁ……、参ったな……こんなに嫉妬深いなんて……。もっとうまく立ち回らなきゃな」 「お前……、いや、なんでもねーよ」 ため息を吐きながら呟くエツィオに、あきれ果てたようにデルフリンガーが吐き捨てた。 一人、部屋に残ったルイズは、ベッドの上に倒れ込んだ。 毛布をひっつかみ、頭から被った。 ひどい、とルイズは思った。 「今日だけじゃないわ。わたしが授業を受けてる間にあの子を連れ込んで、いっつもあんなことしてたのね。 知らないのは、わたしだけだったのね、許せない」 ルイズは唇を噛んだ。 あの夜のエツィオの囁きは、嘘で塗り固められていたのだ。 涙がぽろっと溢れて、頬を伝った。 「なにが裏切らないよ……。キスまでしたくせに……、だいっきらい」 自分に言い聞かせるように、ルイズは何度も呟いた。 「……キスしたくせに」 「……で、きみはいつまでぼくの部屋に居候する気なんだね?」 ルイズの部屋を追いだされてから二日後、エツィオが転がり込んだ部屋の主が、ワイングラスを傾けながら、呆れたように呟く。 「そう言うなよギーシュ、お詫びにこうして、上等なワインを持ってきてやったんだからさ」 机に向かい、何やら作業をしていたエツィオが振り向き、両手を上げて言った。 部屋を追いだされ、行くあてが無くなったエツィオは、こうしてギーシュの部屋に転がり込んだのであった。 「まあ、それはいいんだけどさ。どうだい? ルイズには、許してもらえそうかね?」 「いや……さっきも謝りに行ったんだけどな、全然ダメだ、困ったものさ」 エツィオは肩を竦めて答える。 ギーシュは、はっはっは、と笑った。 「しっかし、きみも災難だねぇ、まさか、メイドを押し倒した所をルイズに見られるなんてさ」 「不運な事故って奴さ、ま、絶好の機会を逃したってのはあるんだけどな」 「きみがそんな事をしてても、別に驚くようなことでもないと思うんだけどね」 「まさかあそこまで初心だとはな……ますます燃えてきた」 ニッと笑みを浮かべるエツィオに、ギーシュは呆れたようにため息を吐く。 「それ、どっちのこと言ってるんだい?」 「そんなの、聞くまでもないだろ?」 「……きみの前の恋人は、さぞかし心が広いレディだったんだろうね」 「ギーシュ、俺はこれでも、フィレンツェにいた頃は、クリスティーナ一筋だったんだぜ?」 「はっはっは! 嘘はやめたまえよ! そんなはずないだろう!」 「おい! 本当だって!」 わっはっは、と笑うギーシュに、エツィオは少々むっとした表情で肩を竦める。 「なんだよ、全く……」 エツィオは吐き捨てるように呟くと、中断していた作業を再開する。 そんなエツィオに気が付いたのか、ギーシュは首を傾げた。 そう言えば、彼はここに来てから、自分と馬鹿話や、チェス等に興じる時以外はいつも机に向かい、羊皮紙を見ながら何かを作っている。 不思議に思い、エツィオの手元を覗き込むと、机の上には、秘薬の調合に用いる天秤や なにやら多種多様な丸っこいものが置いてあった。 一体彼は何をしているのだろう? と気になったギーシュはエツィオに尋ねた。 「そう言えば、エツィオ、きみはさっきから何をしてるんだ?」 「ん? 見てわからないか? 爆弾作ってたんだよ」 エツィオから返ってきた答えに、ギーシュは思わず目を丸くする。 「なっ! お、おいおい! ぼくの部屋で何してくれてるんだねきみは!」 「冗談だよ!」 「いやいやいや! その丸っこい物体といい、その火薬っぽい黒い粉といい、明らかに爆弾じゃないかね! きみ、一体何考えてるんだ!」 「いいだろうが! 別にここで使うわけじゃないんだからさ! ヘマなんてするものか!」 「いいから片づけたまえ! ぼくは犯罪の片棒を担ぐつもりはないぞ!」 ギャーギャーと、ギーシュと掴みあっていると、不意にドアがノックされた。 「おい、ジェントルメン、客だぜ」 ノックに気が付いたデルフリンガーが声を上げた。 「あ、ああ、開いてるよ」 ギーシュが返事をすると、ドアが開いた。 「し、失礼します、ミスタ・グラモン」 ペコリと頭を下げ、おずおずと入ってきたのは、メイドのシエスタであった。 「きみは……、件のメイドじゃないか、何か用かね?」 「あの、エツィオさんがここにいると伺ったものですから……」 シエスタがそう言うと、ギーシュは、得心したように、ああ、と呟き、エツィオを見た。 「きみも大変だったな。この……ろくでなしのせいで」 「お前が言うか! ったく……。で、シエスタ、どうだった?」 エツィオは口をへの字に曲げ、ギーシュを睨みつけると、シエスタに尋ねる。 「あ、はい! マルトーさんに頼んだら、おやすみが取れました!」 「……そうか、なら行こうか、準備は出来ているな?」 「はい!」 「それじゃ、下で待っていてくれ、俺もすぐに行く」 シエスタは、わかりました! と、頷き、忙しげに去ってゆく。 それを見送った後、エツィオは、アサシンのローブを羽織り、荷物をまとめてゆく。 その様子を見つめていたギーシュが首を傾げた。 「きみ、出かけるのかい?」 「ああ、ちょっとタルブにな」 「タルブ?」 「彼女の故郷だよ」 「はあ? きみ、あのメイドの件でルイズに怒られたっていうのに、それでも彼女の故郷に行くってのかね?」 ギーシュは呆れたようにため息をついた。 「知らないぞ、どうなっても」 「……承知の上さ」 一瞬、エツィオの顔が、思いつめたような表情になった。が、すぐにいつもの陽気な表情になると、ポンとギーシュの肩を叩いた。 「それはともかく、世話になったな」 「ぼくが言うのもなんだけど……、きみ、もう少し振舞いを考えた方がいいぞ」 「御忠告どうも。ま、戻ってきた時に、まだルイズに許されてなかったら、また世話になるからよろしくな」 「その時は、最高級のワインで手を打ってやろうじゃないかね」 絶対に許されてないだろうな。とギーシュは苦笑しながら、エツィオを見送った。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9080.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第二十二話「魔の眼鏡 スケベ心にご用心!!(後編)」 謀略宇宙人マノン星人 登場 「やはり侵略者の一員だったか!」 正体を現したマノン星人に、アニエスが改めて銃を向けて発砲した。しかし弾丸は、マノン星人が どこからか取り出した刀身が柄の両方にあるレーザー剣にはたき落とされる。 マノン星人は剣を振るった流れで一方の切っ先をアンリエッタに向けて、そこから赤い光弾を発射した。 「陛下ッ!」 「きゃあ!」 アニエスはすぐにアンリエッタをかばい、伏せさせた。光弾はアンリエッタの頭上を越えて、 背後の壁に当たって爆発を起こした。 この隙に、マノン星人が走って地下牢から逃げ出していく。 「待てッ!」 アンリエッタをかばったアニエスに代わって、才人がその後を追いかけていく。 「きゃあッ!?」 「うわあぁッ!」 才人から逃げるマノン星人は城内を走り回り、すれ違った人たちを一様に仰天させた。 その内に、人気のない行き止まりに差し掛かって立ち止まる。 「追い詰めたぜ……。まさか、王宮で宇宙人と出くわすなんてな」 才人も立ち止まると、振り返ったマノン星人は哄笑を上げた。 『ハハハハハ! 愚か者め! お前は誘い込まれたのだ!』 「何だって!?」 そのまま才人に、自身の目的を語り出す。 『私はウルトラマンゼロであるお前の暗殺のために、この国に潜入した。そして一人になったところを 狙って近づいたのだ。原住民に正体を見破られるとは予想していなかったが、貴様のウルトラマンゼロへの 変身を不能にすることには既に成功している!』 「! さっきぶつかった時に、ゼロアイを……!」 先ほど懐から何かをかすめ取られたことを思い出す才人。 『その通り! 見ろ! これがなければ、貴様は変身できない! 私の勝ちだ!』 豪語したマノン星人は、才人から奪い取った、『メデューサの眼鏡』の残骸を堂々と見せつけた。 『……何!? 何だこれは!? ウルトラゼロアイではない! おのれッ!』 「あれは……ふッ、盗るものを間違えたみたいだな。ゼロアイはこっちの手にあるぜ!」 才人は懐から、本物のゼロアイを取り出して、顔に装着した。 「デュワッ!」 才人の姿が一瞬でウルトラマンゼロのものに変わり、王宮の廊下で二人の異星人が対面した。 『へへッ、お生憎様だったな! ウルトラマンゼロ、ここに見参だぜッ!』 『おのれ、偽物を用意していたとは……! 思ったよりも抜け目のない奴だ』 勝手に誤解したマノン星人は、再びレーザー剣を取り出す。 『こうなれば、直接対決だ!』 『望むところだ!』 ゼロは頭部からゼロスラッガーを両手に取り、ガチンと鳴らした。そして互いに飛び掛かり、刃を交える。 「シェアッ!」 「ムォォン!」 ゼロスラッガーとレーザー剣がぶつかり、激しく火花を散らす。ゼロの両手のスラッガーを、 マノン星人はふた振りの刀身で弾き返す。 右手のスラッガーの横薙ぎを、頭を下げてかいくぐったマノン星人はゼロの脇をすり抜け、 背後に回った。そこから背中を斬りつけようとするが、振り返ったゼロの刃に止められる。 だがマノン星人は逆回転すると、反対側の刃をゼロの足元に振るう。それを跳んでかわしたゼロは、 マノン星人の顎を蹴り上げた。 「ムォォン!」 二、三歩後ろによろめくマノン星人。すかさず斬りかかるゼロだが、素早く立ち直った マノン星人の剣がそれを止め、ゼロの腹部に膝蹴りが入れられる。速い蹴りをよける暇はなく、 ゼロは息を漏らす。 『ぐッ! 体術も出来るみたいだな……面白いじゃねぇか!』 ハルケギニアではあまり出会わなかった、純粋な体術が優れた相手との戦いに、ゼロの戦士の血が騒ぐ。 「シェアァッ!」 「ムォォン!」 二人は剣戟を繰り広げながら、城内を移動していく。途中で戦いを目の当たりにした城の人間たちは、 皆悲鳴を上げて部屋や城の奥に引っ込んでいった。 「あれは、ウルトラマンゼロ!」 そんな中で、地下から上がってきたアニエスが戦いの場に駆けつけ、状況をひと目見ると マノン星人に銃口を向けた。 「援護する!」 すぐに発砲するが、マノン星人は軽々と跳躍して、弾丸をかわした。そして着地すると、ゼロに告げる。 『邪魔が入ったようだな。場所を移そうではないか!』 マノン星人が身を翻すと、辺りの景色が一瞬で切り替わり、ゼロはいつの間にかマノン星人とともに 歌舞伎で使うような板を張った舞台の上に立っていた。 『あッ!? 何だここ!?』 桜の花びらが舞い踊り、わずかな照明が照らす部隊の中で、急に場所が変わったことに動揺するゼロ。 一方のマノン星人は、姿勢を低くしてレーザー剣を両手で握り、構え直す。 『……専用の戦場って訳か。ますます面白いじゃねぇか!』 自分たち以外の人間が一人もいなくなったことで、状況を呑み込んだゼロも、ゼロスラッガーを 逆手に握った右手を肩の上に、左手を脇の下に構え直して、マノン星人と向かい合った。 そのままジリジリと動いて、間合いを測り合う。 『……ハァッ!』 花びらが一層多く舞い散り、床にハラリと落ちたその瞬間に、二人は前に出て刃を交える。 ゼロスラッガーがレーザー剣の両方の刀身を受け止め、両者とも一瞬硬直する。その後に二人とも 前蹴りを繰り出し、それもぶつかり合って互いに足を引っ込めた。 刃と刃で押し合いながら、その場でワルツを踊るように回るゼロとマノン星人。しかし 埒が明かないと見たか、一旦離れて構え直す。 戦いの間、どこからか小鼓が囃子を奏で続ける。 仕切り直してから、改めて剣戟を始める二人。繰り出されるマノン星人の剣を、スラッガーがいなす。 スラッガーの斬撃も、剣で受け流される。 マノン星人の鋭い蹴りをゼロが横にそれてかわし。 スラッガーの斬り上げを、マノン星人はバク宙で鮮やかに回避した。 マノン星人の飛び蹴りからの剣の振り下ろしは、ゼロは横に回転して逃れる。 ゼロの足によるすくい上げでマノン星人は背中から床に倒れ込んだが、すぐさま身体を起こして持ち直す。 お互いに、なかなか有効打を与えられない。 「デャッ!」 ゼロとマノン星人は再度刃を交えて、押し合いになる。だがその瞬間、マノン星人が右手を 剣の柄から離し、素早くゼロの喉を鷲掴みにした! 『ぐッ!?』 喉を締めつけられるゼロは苦悶の声を上げた。ゼロスラッガーで反撃しようにも、息の苦しい状態では 上手く力を出せず、片手のレーザー剣をなかなか押し返せない。 『ぐぐぐ……!』 ギリギリと、喉を締める力は強くなっていく。それにつれてゼロの顔色が青くなっていくが、 『らぁぁッ!』 一瞬の隙を突いたハイキックがマノン星人の胸元を捉え、大きく蹴り飛ばした。それにより 喉は締めつけから解放される。 戦況は一気に傾く。肉薄したゼロの斬撃を、剣で弾こうとするマノン星人だが、蹴り飛ばされた際の 衝撃が響いて、動きが先ほどまでよりも鈍る。そのため体当たりをするようなゼロの斬撃の連続を 止め切れず、少しずつ後ろへ押し込まれていく。 「ムォォン!」 だが意地を見せつけるかのように、不利な状況から脱する。攻撃後の隙を見計らって前転しながら跳躍し、 ゼロの頭上を跳び越えたのだ。そして振り返りざまに、切っ先から光弾を発射する。 「ゼアッ!」 しかし光弾は、薙ぎ払われたゼロスラッガーにはね返されて、マノン星人へと戻ってきた。 自らの胸部に命中し、大きくよろめくマノン星人。 ここに来て、ゼロがいよいよ勝負を決するために、マノン星人へと駆け出した。マノン星人も 逃げも隠れもせずに、迎え撃つために前に出て走る。 「デュワッ!」 「ムォォン!」 ゼロスラッガーとレーザー剣が翻り、一閃した。すれ違ったゼロとマノン星人は、背中を 向け合ったまま停止する。 『……』 ゼロもマノン星人も、振り抜いた獲物を手にしたまま止まっている。 ……が、やがて、マノン星人がグラリと傾いて、前のめりに倒れ込んでいった。その胸には、 スラッガーの刀傷が深々と刻まれていた。 マノン星人は床に倒れ、目の光が消えた。絶命すると同時に、異空間は瞬く間に消え去り、 ゼロは元の場所へと戻ってくる。 『終わったか……。静かだが、熱い戦いだったぜ』 戦闘後の余韻に浸り、つぶやくゼロ。そこに、アンリエッタが早足で駆けつける。 「ウルトラマンゼロ! こんなところで出会うなんて……! あなたにはたくさん聞きたいことが!」 「陛下! あまり近づいてはいけません。万一のことがあります故」 ゼロに駆け寄ろうとするアンリエッタを、アニエスが押しとどめた。その様子を見やりながら、 ゼロがぼんやり考える。 (アンリエッタ王女、いや今は女王か……。こうして対面するのはこれが初めてだな) 才人の状態なら、数度会っているが……なんて思っていたら、カラータイマーが赤く点滅し始めた。 そろそろエネルギーが残り少ない。 『おっと、長居し過ぎたか。アンリエッタ女王、侵略者は倒したぜ! 安心しな! じゃあ俺はこれで!』 マノン星人を倒したことを報告して、アンリエッタたちと反対方向へ走っていこうとするゼロを、 アンリエッタが慌てて呼び止める。 「お待ち下さい! せめてこれだけはお答えを! あなた方は、どうしてわたくしたち人間を 助けてくれるんですか!?」 その問いかけに、首だけ振り返ったゼロは、次のように答えた。 『理由なんてないぜ。強いて言うなら、俺たちはいつだって精一杯生きる人間の味方なんだ。 それだけのことさ!』 「あッ! 行ってしまう!」 言い残したゼロが駆け出し、角を曲がる。アンリエッタとアニエスがすぐに追いかけたが、 二人が角を覗いた時には、ゼロの姿はもうどこにもなくなっていた。 「……ふぅ。こんなところで戦いになるなんて思わなかったな」 王宮のアンリエッタたちから離れた廊下で、ゼロは人がいないことを確認してからゼロアイを外し、 才人に戻った。才人は早速ため息を吐く。 「宇宙人連合ってどこにでもいやがるな……。今回は運が良かったからいいものの、怪しい奴には 気をつけないと」 「サイトぉ!」 神出鬼没な宇宙人の脅威を改めて肌で感じたところで、ルイズが才人の下に駆けつけてきた。 「おッ、ルイズ……おわッ!?」 「馬鹿ぁッ!」 振り返った瞬間に、胸の中にルイズが飛び込んできた。涙目のルイズはそのまま才人の胸を叩く。 「聞いたわよ、また襲われたんですってね……もうッ! わたしの見てないところで危ないことになって! ご主人様にこんなに心配させて! ホントに馬鹿な使い魔なんだからぁ……」 「……ああ、ごめん」 口では責めながらも泣きじゃくるルイズを受け止めて、才人は頬をそっと緩ませた。 それから落ち着いたルイズは、今日のことを反省して謝る。 「今回は、その……やりすぎたわ。そのせいで大変なことになったし……。悪かったって思ってる……」 「いいよ。お前のプレゼントのお陰で助かったしな」 「? まぁとにかく、もう今回のようなことはしないけど……その代わり、あんたも他の女の子に 目移りしちゃ駄目なんだからね! ちゃんと自省するようになること! いいわね!?」 「へーい」 二人の間の話がひと段落着いたところで、アンリエッタがアニエスを伴ってやってきた。 「使い魔さん、それにルイズも、こんなところに」 アンリエッタの顔を見た才人は、先ほどアンリエッタの言っていたことを思い出す。 「そう言えば女王陛下、俺たちに話があるって……」 言いかけた才人を制して、アンリエッタが告げる。 「そのことですが、使い魔さんも牢から出たことですし、場所を移すことにしましょう」 そうしてルイズと才人は、アンリエッタに客間へと通された。三人だけの内密の話ということで、 アニエスは席を外すことになった。 「姫さま……、いえ、もう陛下とお呼びせねばなりませんね」 場が改まると、ルイズの表情が引き締まり、恭しく頭を下げた。そうすると、アンリエッタが 悲しげに目を伏せて言いつける。 「そのような他人行儀を申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしから、 最愛のおともだちを取り上げてしまうつもりなの?」 「ならばいつものように、姫さまとお呼びいたしますわ」 「そうしてちょうだい。ああルイズ、女王になんてなるものじゃないわ。退屈は二倍。窮屈は三倍。 そして気苦労は十倍よ」 深くため息を吐くアンリエッタ。才人にはよく分からないが、より責任のある立場になったことで、 早くも苦労することが増えたのだろうと思った。 それからルイズは、黙ってアンリエッタの言葉を待った。戦勝祝いの日に、自分たちに 話があるとはどういうことなのだろう。しかし、アンリエッタは自分の目を覗き込んだまま、 何も言わない。しかたなくこちらから、「このたびの戦勝のお祝いを、言上させてくださいまし」 と言ってみた。当たり障りのない話題のつもりだったが、アンリエッタは思うところがあったらしく、 ルイズの手を握った。 「あの勝利はあなたのおかげだものね、ルイズ。タルブ村に赴いて、侵略者の大軍を打ち滅ぼしたあなたの」 ルイズも才人も、驚いて目を見開いた。『虚無』の爆発は、巷ではゼロたちの攻撃だと思われているはずだ。 「ひ、姫さま、何をおっしゃるんですか? 確かにわたしはあの場にいましたが、わたしが 侵略者を滅ぼしただなんて、そんなことがあるはずが……」 とぼけようとしたルイズだが、アンリエッタには通用しなかった。 「光が消えた後、ウルトラマンゼロたちがしばし呆然とした様子でいたとの報告を受けています。 それが彼らの手によるものならば、戦闘中に立ち尽くしたりはしないでしょう。第一、あれほどの 攻撃が出来るなら、もっと早くに同じことをしていたはずです」 「うッ……ごもっともです……」 反論のしようがないほどの推理に、言葉を失うルイズ。 「また、タルブ村の住人に話を聞いたところ、光の起こる直前にあなたが杖を持って長い呪文を 唱えているようだったと証言する人がいました。ここまでの状況証拠がそろえば、あれがあなたの 魔法であることは簡単に導き出せます」 ぐうの音も出なくなっているルイズに、アンリエッタが告げる。 「多大な……、ほんとうに大きな戦果ですわ。ルイズ・フランソワーズ。あなたの成し遂げた戦果は、 このトリステインはおろか、ハルケギニアの歴史の中でも類をみないほどのものです。本来ならルイズ、 あなたには領地どころか小国を与え、大公の位をあたえてもよいくらい。……けれどその前に、ルイズ、 あなたの魔法について、何か聞きたいことがあるのではないでしょうか?」 と聞かれては、ルイズはそれ以上隠し通すことができなくなった。才人はいいのか? といった顔で シャツの袖を引っ張ったが、構わずに切り出す。 「あの何も書かれていない始祖の祈祷書なのですが……姫さまより賜った『水のルビー』を 嵌めて開いたら、古代文字が浮かび上がったのです。それがあの光の呪文で……。 始祖の祈祷書には、『虚無』の系統を書かれておりました。それは本当なのでしょうか?」 アンリエッタは目をつむったあと、ルイズの肩に手をおいた。 「ご存知、ルイズ? 始祖ブリミルは、その三人の子に王家を作らせ、それぞれに指輪と秘宝を遺したのです。 トリステインに伝わるのがあなたの嵌めている『水のルビー』と始祖の祈祷書」 「ええ……」 「王家の間では、このように言い伝えられてきました。始祖の力を受け継ぐものは、王家にあらわれると」 「わたしは王族ではありませんわ」 「ルイズ、なにをおっしゃるの。ラ・ヴァリエール侯爵家の祖は、王の庶子。あなたも、 このトリステイン王家の血をひいているのですよ。資格は十分にあるのです」 ルイズははっとした顔になった。それからアンリエッタは才人の手をとり、ルーンを見て頷く。 「この印は、『ガンダールヴ』の印ですね? 始祖ブリミルが用いし、呪文詠唱の時間を確保するためだけに 生まれた使い魔の印」 才人は頷いた。 「ルイズ、あなたは間違いなく『虚無』の担い手。そう考えるのが妥当です。そしてこれで、 あなたに勲章や恩賞を授けることができなくなりました。理由はわかりますね?」 才人には見当がつかなかったので、正直に尋ねた。 「どうしてですか?」 アンリエッタは顔を曇らせて、答えた。 「わたくしが恩賞を与えたら、ルイズの功績を白日のもとにさらしてしまうことになるでしょう。 それは危険です。ルイズの持つ力は大きすぎるのです。今のわたくしたちが束になっても敵わない 怪獣、侵略者を上回るほどの力なのです。それが知れたら……、侵略者はルイズの存在を 許しておかないでしょう。ルイズを敵の的にすることはできません」 それからアンリエッタは、ため息を吐いた。 「敵は未知の世界からやってくる怪物だけとは限りません。同じ人間にも……、あなたの その力を知ったら、私欲のために利用しようとするものが必ずあらわれるでしょう」 ルイズはこわばった顔で頷いた。才人もアンリエッタの言い分を理解する。ウルトラマンが 地球人と必要以上に関わらなかったのと大体同じ理由か。ウルトラマンの力は強すぎるので、 その力で地球人の心を惑わさないように、ウルトラ戦士が地球の社会の中に入って防衛の任に 就いた時は絶対に正体を明かしてはならなかったとゼロに聞いた。 「だからルイズ、誰にもその力のことは話してはなりません。これはわたしと、あなたとの秘密よ」 と命じられたルイズは、しばらく考えた後に、決心したように口を開いた。 「おそれながら姫さまに、わたしの『虚無』を捧げたいと思います」 「いえ……、いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ。 使えば使うほど、あなたの命が危うくなります」 「神は……、姫さまをお助けするために、わたしにこの力を授けたに違いありません!」 遠慮するアンリエッタに、ルイズが熱弁する。 「わたしは、姫さまと祖国のために、この力と体を捧げたいと常々考えておりました。そして今は、 史上最大といってもよいほどの未曾有の危機が世界を襲っています。姫さまはその脅威に立ち向かうために 尽力なさっています。そんな姫さまのお力にならないのは、わたしの貴族としての誇りを失うことになります。 それでも陛下がいらぬとおっしゃるなら、杖を陛下にお返しせねばなりません」 アンリエッタはルイズのその口上に心打たれた。 「わかったわルイズ。あなたは今でも……、一番のわたしのおともだち。ラグドリアンの湖畔でも、 あなたはわたくしを助けてくれたわね。わたくしの身代わりに、ベッドに入ってくださって……」 「姫さま」 ルイズとアンリエッタは、ひし、と抱き合った。才人は相変わらず蚊帳の外で、ぼんやりと頭をかいた。 「ゼロ、これでいいと思うか? ルイズのやつ、安請け合いしやがって……」 小声でゼロに話しかけると、ゼロはこう意見した。 『はっきり言って危険だが……まぁ、ルイズ自身のことなんだ。俺たちがとやかく言ったって しょうがねぇさ。本当に危なくなった時は、俺たちで助けてやろうぜ』 「結局そうなるのか……。ほんと、世話が焼けるな」 はぁ、とため息を吐いていると、ルイズとアンリエッタの話が再開する。 「これからも、わたくしの力になってくれるというのねルイズ」 「当然ですわ、姫さま」 「ならば、あの『始祖の祈祷書』はあなたに授けましょう。しかしルイズ、これだけは約束して。 決して『虚無』の使い手ということを、口外しませんように。また、みだりに使用してはなりません」 「かしこまりました」 「これから、あなたはわたくし直属の女官ということに致します」 アンリエッタは羽ペンをとると、さらさらと羊皮紙になにかしたためた。それから羽ペンを振ると、 書面に花押がついた。 「これをお持ちなさい。わたくしが発行する正式な許可証です。王宮を含む、国内外への あらゆる場所への通行と、警察権を含む公的機関の使用を認めた許可証です。自由がなければ、 仕事もしにくいでしょうから」 ルイズは恭しく礼をすると、その許可証を受け取った。 「あなたにしか解決できない事件がもちあがったら、必ずや相談いたします。表向きは、 これまでどおり魔法学院の生徒としてふるまってちょうだい。まあ言わずともあなたなら、 きっとうまくやってくれるわね」 それからアンリエッタは才人に向き直り、ポケットにあった宝石や金貨を取り出すと、 それをそっくり才人に握らせた。 「これからもルイズを……、わたくしの大事なおともだちをよろしくお願いしますわね。 優しい使い魔さん」 「そ、そんな……、こんなにたくさん受け取れませんよ」 才人は手に持った金銀宝石を見て、あっけにとられた。 「是非、受け取ってくださいな。ルイズの使い魔として、彼女を守る危険な役目を果たす あなたへのせめてもの手向けです。ルイズとともに国に尽くしてくれるのならば、 報いるところがなければなりませぬ」 俺はそう誓った訳じゃないんだけど……と才人は一瞬思ったが、ルイズの手前、断ることは出来ない。 仕方なく、金貨と宝石をポケットに突っ込んだ。 才人とルイズは、並んで王宮を出た。 「まったく……、お前ってば安請け合いしやがって……」 「どういう意味よ」 ルイズが才人を見上げてにらむと、才人は小言を唱え出した。 「侵略者を相手にすることがどれだけ危険なことか、分かってないだろ。あいつら、ほんと 容赦ってものがないんだぞ。変にしゃしゃり出ないで、ゼロたちに任せてればよかったのに」 「そんな言い方することないじゃない! わたしの姫さまへの忠義心を馬鹿にするつもりなの!?」 口喧嘩に発展しそうになるところに、ゼロが割り込んで二人をなだめた。 『まぁまぁ、今更言っても仕方ねぇだろ。それに悪いことばかりじゃない。姫さまからもらった 許可証があれば、才人の状態のままでも何かと活動できるぜ』 「そうだな。ある意味じゃ、俺たち、公的機関と同じになったってことだよな。そう考えると、 地球防衛隊の一員になったみたいでいい気分だ! 実は憧れてたんだよ」 『このまんま、将来ZAP加入を目指したらどうだ? あそこには俺も何度か世話になったことがあるんだ』 自分を置いて勝手に盛り上がる才人とゼロに、ルイズは頬を膨らませる。二人が頼りにしているのは アンリエッタからの許可証で、自分のことは相変わらずただの女の子と思っているみたいだ。 せっかく『虚無』の魔法が開眼したのに……と不満を隠せなかった。 なんてことをしながらブルドンネ街の大通りを歩いていると、才人がふと、道端の露店の一つに目を留めた。 才人が見つめているのは、地面に並べられたアルビオン軍からの分捕り品であった。おそらく捕虜を 管理する兵隊が、商人に流したものであろう。その中の一着の服を手に取った。 「服が欲しいの? どうせ着るんならそんな敵が着ていた中古じゃなくて、もっといいの着なさいよ」 ルイズの言葉を、才人は全く聞いていない。服を手にしたまま、ぷるぷると震えている。 「お客さん、お目がたけえ。それはアルビオンの水兵服でさ。安いつくりだが、便利にできてる。 こうやって襟を立てれば、風をみることだってできる」 水兵服の価値など、ルイズとゼロには分からなかった。だが、才人は違った。彼の頭の中には、 この服の利用価値がしっかりと存在した。そしてそれは、ハルケギニアにはない形のものだった。 「いくら?」 「三着で、一エキューで結構でさ」 ルイズはあきれた。こんな中古、お金をもらったっていらないぐらいである。 しかし才人はそれを、言い値で買い込んだ。 この時買い取った水兵服……要するに『セーラー服』が、とんでもない事態を招くことになるとは、 この時誰も、才人にだって予想は出来なかった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/h_session/pages/3599.html
キャラクター名:御国 桜詠(みくに おうた) プレイヤー名:[[きゅうび]] 種族:人間(多分) ワークス:高校生 年齢/性別:--/ふた 髪の色:-- 瞳の色:-- 肌の色:-- 身長/体重:--㎝/--㎏ ウィザードクラス:夢使い 1LV 大いなるもの 1LV スタイルクラス:ヒーラー 1LV 属性:〈冥〉/〈天〉総合レベル :2LV CF修正値: 2 プラーナ 内包値: 8 解放力: 2 消費/獲得経験点:12/28 送致/受領経験点: 0/ 0 基本能力値 ベース 成長値 現在値 基本能力値 ベース 成長値 現在値 【筋力】 5 -- -- 【知力】 11 -- -- 【器用】 6 -2 4 【信仰】 10 -- -- 【敏捷】 8 -- -- 【知覚】 5 -- -- 【精神】 9 -- -- 【幸運】 9 -- -- 戦闘値 ベース クラス修正 特殊 総合 未装 装備 最終戦闘値 【命中】(器用+知覚)÷2 = 4 0/ 2 -- -- 6 -- 【命中】 6 【回避】(敏捷+知覚)÷2 = 6 1/ 0 -- -- 7 -1 【回避】 6 【攻撃】(筋力+器用)÷2 = 4 0/ 0 -- -- 4 -- 【攻撃】 4 【防御】(筋力+信仰)÷2 = 7 2/ 2 -- -- 11 -2 【防御】 9 【魔導】(精神+幸運)÷2 = 9 3/ 3 -- 2 17 2 【魔導】19 【抵抗】(敏捷+幸運)÷2 = 8 2/ 1 -- -- 11 -1 【抵抗】10 【魔攻】(知力+精神)÷2 = 10 3/ 2 -- -- 15 3 【魔攻】18 【魔防】(知力+信仰)÷2 = 10 2/ 3 -- -- 15 -2 【魔防】13 【耐久】 -1= 13 2/ 3 -- -- 18 -- 【耐久】18 【魔法】 -1= 18 5/ 4 10 -- 37 10 【魔法】47 【行動】(筋力+敏捷+知力+信仰)÷3+1= 12 0/ 1 -- -- 13 -- 【行動】13 【移動力】 ベース 特殊能力 未装 装備 最終値 (未装備状態【行動】)÷10+1 = 2 -- -- -- --Sq ■ライフパス 出自:動物に育てられた 特徴:魔導の血/【行動】+1/【耐久】【魔法】-1 生活:口が上手い 特徴:--/-- コネクション/関係 --/-- --/-- --/-- ■特殊能力 名称 :SL: タイミング : 判定値 :難易度: 対象 :射程: 代償 :効果 汎用 : : : : : : : : 《月衣》 :-: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :所持品を隠せる。マイナーで飛行できる。(代償:1D6MP) 《月匣》 :-: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :月匣を展開できる 《蘇生の光》 :-: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし : 《代償軽減:付与》 :3: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :付与魔法の消費MP-(SL) 《隻眼の魔力》 :-: 常時 :自動成功: なし : 自身 :なし: なし :能力値1つ-2、【魔法力】+10 《領域作成》 :3: マイナー :自動成功: なし : 自身 :なし: 1P :戦闘能力をSL個選んで+2する、重複は3回まで、シーン持続 : : : : : : : : ■魔法 魔法記憶容量[【知力】+総合レベル]:12 名称 :LV:種別: タイミング : 判定値 :難易度: 対象 :射程: 代償 :効果 キュア :1:治癒: メジャー :【魔導】: 15 : 単体 :1sq: 1M : ヒール :1:治癒: メジャー :【魔導】: 15 : 単体 :1sq: 1M : ディフェンスアップ :2:付与: オート :自動成功: なし : 単体 :1sq:1M2C:【防御】+(魔導-10)、最大10 プリズムアップ :2:付与: オート :自動成功: なし : 単体 :1sq:1M3C:【魔防】+(魔導-10)、最大10 ヴァニシング :3:付与: オート :自動成功: なし : 単体 :1sq:2M2C:【防御】/【魔防】-(魔導-8)、最大10 リフレクトブースタ :3:付与: オート :自動成功: なし : 自身 : - : 1M :【行動】+(魔導-13)、最大7 : : : : : : : : : ■武装/魔装 重量上限[【筋力】+総合レベル]: 6 魔法装備可能レベル合計[【知力】+総合レベル]:12 名称 :種別:部位:重量/LV:命中:回避:攻撃:防御:魔導:抵抗:魔攻:魔防:耐久:魔法:行動:移動:射程:備考 : : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : 外道祈祷書 : 他 : 他 : 1/ : :-1: :-2: 2:-1: 3:-2: : :-1: : :【魔法】+10、幸運ジャッジ-5 : : : / : : : : : : : : : : : : : : 合計 : : : 1/ : : : : : : : : : : : : : : 武装/魔装 ■所持品 月衣収納上限[【筋力】×2+GL]: 名称 :重量:効果 スマート 0-Phone : : 幸運の宝石 : : 子犬 : 1:危険が迫ると吠える : : : : : : : : : : ■設定 ・ ・ ・
https://w.atwiki.jp/h_session/pages/9818.html
アルテミシア フォークナー ルール:ナイトウィザード3rd 短期キャンペーン12 【NIGHTMARE on the HEAVEN】 【パーソナリティ】 名前 アルテミシア フォークナー 戦闘時 PL PieN 種族 人間 ワークス/二つ名 輝明学園高等部/ 年齢/性別 16/♀ 髪/瞳/肌の色 金輝/蒼/白 身長/体重 163cm/50kg 3サイズ 82(B-)/62/85 クラス 魔術師/魔鎧使い レベル 8 属性 天/冥 CF修正/内包 2/5+5 【ライフパス】 出自/キーワード 純血統/純血のウィザード 目的 忠誠 邂逅/感情/対象 ビジネス/信用/重田美也 印象 ツンデレお嬢 性格 天邪鬼だが自信家 コネクション ”真昼の月”アンゼロット/主人 【戦闘値】 名称 種別 命 中 回 避 魔 導 物 攻 魔 攻 物 防 魔 防 耐 久 魔 法 行 動 能力値 5 6 10 26 25 17 魔術師 2 3 1 1 4 陰陽師 1 1 1 2 4 1 1 CLボーナス 3 1 4 4 35 35 未装備 5 10 14 8 3 3 66 65 18 巻物式破魔弓 片武 -2 1 4 2 -1 至近 ヴォーテックス△ 片魔 -1 21+J9 -6 近距 メサイアマント 防肩 2 1 1 1 3 3 -1 茨の手 防籠 1 2 -1 [前 魔導J+2、H-5]。 ジェムブルーム 飾他 -2 1 4+J2 2 -1 ブルームチェア 飾他 -2+J1 -2 12+J1 4+J4 1 4 5 -8 ビッグファイター 気ア 2 2 1 2 2 1 1 [前 魔攻J+3、消]。 陰陽四象 特技 1 3 淫らな衣装 特技 9 -4 -4 淫紋 特技 -J5 -J5 -J5 -J5 -J5 -J5 -J5 -J5 -J5 常時:飛行 飛行 +J3 +J3 +J3 +J3 +J3 +J3 +J3 +J3 +J3 +J3 常時計 1-2 12-2 30-1 7-2 54+13 2-2 14-2 66-2 70-2 1+3 【特技】 取 本 クラス 名称 種別 Lv/M タイミング 判定 対象 射程 代償 効果 7 基 陰陽 破魔弓所持 自物 1/1 常時 自身 破魔弓入手。 5 魔 陰陽 陰陽四象 自 1/1 常時 自身 【導】+1、【魔攻】+[SL*3]。 6 基 陰陽 多重発動 秘 1/1 メジャ 自動 自身 1P メジャー2回/魔法。1/シナ。 2 基 魔鎧 魔鎧所持 自物 1/1 常時 自身 魔鎧入手。 334 魔 魔鎧 魔鎧ウイング 3/3 常時 自身 戦闘値J+[SL]/飛行。 1 基 魔術 魔杖所持 自物 1/1 常時 自身 魔杖入手。 1 基 魔術 魔装改造 1/3 常時 自身 選装【導】+1、【魔攻】+[SL*3]、【行】-1。 88 基 魔術 魔力拡大 2/5 ムーブ 自動 自身 10M 魔法対象[範選(SL+1]/プ。 7 基 魔術 オーバーロード 1/3 マイナ 自動 自身 1P 魔攻ダ+[魔装魔攻]/消。SL/シナ。 6 基 魔術 マジックサークル 箒 1/1 ムーブ 自動 自身 1P 魔攻対象[場(選]/プ。1/シナ。 5 基 魔術 ダブルキャスト 秘 1/1 常時 自身 魔装攻2回化。1/シナ。 1 基 電脳 サイバーブルーム 自物 1/1 常時 自身 デッキ入手。 1 基 電脳 バトルデバイス 1/1 常時 自身 【魔導】+[デッキS]。 12 上 電脳 プログラムマテリアル 2/3 常時 自身 選装攻J+[SL*3]。 4 魔 電脳 エクスパンド 箒 1/1 常時 自身 デッキS+2。 1 幻 電脳 データファンド 物 1/1 常時 自身 写用2Mv。(ビッグ、タゲ、チャジ、ビビ、ユニ、マスコ) - 基 一般 月衣 自 1/1 常時 自身 所持品隠、マイナ飛行(代償 1D6MP) - 基 一般 月匣 自 1/1 常時 自身 月匣を展開できる。 - 基 一般 マジックリミット 1/5 常時 自身 記憶容量+[SL*2]。 - 基 一般 リムーブトラップ 1/1 常時 自身 トラップ対処J+2。 - 基 一般 耐久力UP 1/1 常時 自身 【耐】+[CL]。 - 上 一般 鍛錬:耐久 1/1 常時 自身 【耐】+5。 - 上 一般 ビッグマジック 物 1/1 常時 自身 選魔装「記」+2、【魔攻】+2、【行】-1。 - 上 一般 マジックマスター 1/1 常時 自身 魔装【魔攻】J+3。/理10 - 追 刻淫 淫らな衣装 4/5 常時 自身 【魔攻】+[SL+5]、【両防】-[SL]。 - 追 刻淫 淫紋 5/5 常時 自身 P+[SL]、行J+[SL]、全J-[SL]。 - 追 刻淫 百合の花園 1/1 メジャ 自動 単体 至近 P/4 P回/消費。1/シナ。 - 追 刻淫 淫紋開放 1/1 セット 自身 全J+[淫紋SL*100]/ラ。[BS:色狂]。1/シナ。 【能力値】 筋力 器用 感覚 理知 意思 幸運 耐久 魔法 合計 4-4 6-4 7-4 10-4 10-4 6-4 26 25 天 1 1 1 5 7 冥 1 1 1 4 8 魔術師 2 3 2 5 4 2 電脳使い 2 3 3 3 4 3 ボーナス 1 4 10 耐久UP 8 鍛錬:耐 5 淫紋 -J5 -J5 -J5 -J5 -J5 -J5 【装備品(12+3/18+2)】 常k 名称 種別 重量 命中 回避 魔導 物攻 魔攻 物防 魔防 行動 射程 部位 備考 基 - 巻物式破魔弓 箒魔:白(棍 1 -2 1 4 2 -1 至近 片手 S2。 上 150 ヒーリングデバイス 箒O:魔 S1 箒 常:【治】達+3。 基 700 ヴォーテックス△ 魔(冥 記15+2 -2+1 16+5+J9 -4-2 近距 片手 基 - 魔装改造 +魔術特 +1 +3 -1 上 - Pマテリアル +電脳特 +J6 上 - ビッグマジック +一般特 +2 +2 -1 上 - マジックマスター +一般特 +J3 上 - メサイアマント 箒防:防 2 1+1 1 1 1 3 3 -1 肩 S3+1。 基 400 増設スロット 箒O:- S0 箒 常 S+1。 基 200 アポジモーター 箒O:- S1 1 箒 基 400 ステッカー:エンブレム 箒O:- S1 箒 [BS:重圧]回。 基 400 霊ドーム 箒O:- S1 箒 常 エネミー識別 トラップ識別 対処J+2。 基 200 ギガントアーム 箒O:防 S1 箒 可能重量+3。 上 250 茨の手 防 2 1 2 -1 籠手 [前 魔導J+2、H-5]。 上 - ジェムブルーム 箒魔:飾 1 -2 1 0 2+2+J2 2 0-1 他 S1+1。 基 400 増設スロット 箒O:- S0 箒 常 S+1。 基 500 マジカルビット 箒O:魔 S1 +J2 箒 魔 800 強化魔法陣 箒O:杖 S1 +2 -1 箒 基 - ブルームチェア 箒魔:飾 9 -2+J1 -2 2+10+J1 2+2+J4 1 4 -6-2 他 S5+3。 基 400 増設スロット 箒O:- S0 箒 常 S+1。 基 600 Iris 箒O:- S1 箒 前:能判+2。1/シナ。 上 800 Iris用:メイジ 箒O:- S1 +1 +2 箒 上 500 外道祈祷書 箒O:デ S1 +1 -2 箒 MMP+5。 幻 200 ジョイスティック 箒O:- S1 +J1 +J1 +J2 箒 /アバター装備。 幻 500 Dウェポン 箒O:デ S1 +J2 箒 /アバター装備。 幻 50 アバターデバイス 箒O:デ S0 箒 常 アバター装備可。 基 10 0-Radio 箒O:- S0 箒 情+1。1/シナ。 基 - バトルデバイス +電脳特 +8 魔 - エクスパンド +電脳特 S+2。 幻 (DF ビッグファイター ア:射魔 記2+1 2 2 0+1 2 2 1 1 気 S2。【回】CT時、達+3。 幻 (DF ターゲットカスタム アO:射 S1 +1 ア 【導、記】+1。 幻 (DF チャージショット アO:射魔 S1 ア 【魔攻】前:J+3。消耗。 幻 (DF ビビッドフェザー アO:- S0 ア 【筋】前:J+1。1/シン。 幻 (DF ユニークヘア アO:- S0 ア 【感】前:J+1。1/シン。 幻 (DF マスコット アO:- S0 ア トラ探J+1。 幻 10 カラーエディット アO:- S0 ア 合計 15/20 基 305 ツイスター 魔(風 記11 -2 9+J3 -3 遠距 片手 対遠持替用 上 - マジックマスター +一般特 +J3 基 50 ヴォーテックス 魔(冥 記 6 -1 7+J3 -2 近距 片手 上 - マジックマスター +一般特 +J3 【一般アイテム】 常k 名称 種別 タイミング 対象 射程 効果 基 0 0-Phone 道具 基 100 Evil-EYE 道具 エネミー識別 トラップ識別J+2。 基 20 アンチパラライズ ポーション マイ/メジ 自身 マヒ回復(非消耗品) 基 20 アンチポイズン ポーション マイ/メジ 自身 邪毒回復(非消耗品) 基 30 HPヒールP ポーション マイ/メジ 自身 治癒0HP回復。消耗品。 基 30 HPヒールP ポーション マイ/メジ 自身 治癒0HP回復。消耗品。 基 30 HPヒールP ポーション マイ/メジ 自身 治癒0HP回復。消耗品。 基 30 HPヒールP ポーション マイ/メジ 自身 治癒0HP回復。消耗品。 基 50 MPヒールP ポーション マイ/メジ 自身 治癒0MP回復。消耗品。 基 50 MPヒールP ポーション マイ/メジ 自身 治癒0MP回復。消耗品。 基 50 MPヒールP ポーション マイ/メジ 自身 治癒0MP回復。消耗品。 基 50 MPヒールP ポーション マイ/メジ 自身 治癒0MP回復。消耗品。 非装備 【設定】 処女、はえてない。性的経験なし、知識は一応ある。学園ウィザード寮在住。 左眼の魔眼にEvil-EYE複合デッキを装着・接続してコントロールするアバターでの(ビット)攻撃がメイン。 代々ロンギヌスウィザードである欧州名家のお嬢様。本人もロンギヌス所属。 基本的にアンゼロットの傍に仕え、頼まれて活動しているが、 「頼み方というモノがあるんじゃありませんの?・・・まあ、貴女の頼みでしたら何でもしますけど。」 とデレツン風味の態度をしている。実際、何でもします。 同僚の「カグヤ」によくその態度を注意されるが、 「忠犬(誉め言葉)なのはいいですが、本人がナニも言わない事で無駄に吠えるモノではありませんわ。」 とあしらっている。なお、カグヤの事は仲間として信頼しているし、 「貴女はいい友人だけれども・・・貴女の乳がイケないのよ。」 とか言いながら胸をぐりぐりしてじゃれる程度には親しみを持っている(性的な意味ではない)。 【セッションボーナス】 日付 獲得 230421 GL+1、経験点+10、堕落点+1、NPC:巫由良 230526 GL+1、経験点+10、堕落点+1、NPC:ソフィア 230616 GL+2、経験点+20、堕落点+1、淫紋+1、NPC:セリス 230721 GL+1、経験点+10、堕落点+2 230810 GL+2、経験点+10、堕落点+3 【成長記録】 タイミング 内容 1>2 プログラムマテリアル(2)、CC(電脳使い>魔鎧使い) EX06 常1.2M(ギガントアーム(200)、外道祈祷書(500)、Dウェポン(500)) EX04 常800k(マジカルビット(500)、茨の手(250)、0-Radio(10)、カラーエディット(10)、HPP(30)) 堕落1 淫紋(2) 2>3 魔鎧ウイング(1,2) EX05 マジックマスター(1) EX04 常800k(強化魔法陣(800)) 堕落1 淫紋(3) 報酬3 淫紋(4) 3>4 魔鎧ウイング(3)、CC(魔鎧使い>電脳使い:エクスパンド) 4>5 ダブルキャスト(1)、CC(電脳使い>陰陽師:陰陽四象) 堕落1 淫らな衣装(2) EX10 耐久力アップ(1)、鍛錬(1) EX10 常2M(ジョイスティック(200)、Iris(600)、Iris用:メイジ(800)、増設スロット(400)) 5>6 マジックサークル(1)、多重発動(1) 堕落2 淫らな衣装(3)、淫紋開放(1) EX07 常1.4M(ステッカー:エンブレム(400)、増設スロット*2(400*2)、ヒーリングデバイス(150)、MPP(50)) EX04 常785k(ツイスター(305)、霊ドーム(400)、HPP(30)、MPP(50)) 堕落3 淫らな衣装(4)、淫紋(5)、百合の花園(1) 6>7 破魔弓所持(1)、オーバーロード(1) 7>8 魔力拡大(1,2) EX04 常800k(ヴォーテックストライデント(700)、MPP*2(50*2)) EX05 マジックリミット(1) EX01 未使用
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2887.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 『アンドバリの指輪』で甦らされたと思しきウェールズ皇太子、そして悪魔とともにいたのは、アンリエッタ女王。 決まりだ。クロムウェルが謀略戦を仕掛けてきている。いかにあの女王でも、搦め手から攻めれば捕まる。 後は人質として枢機卿たちに降伏を迫るもよし、洗脳して操るもよし。『指輪』があれば操るのは容易だ。 そして、この悪魔。バックベアードが言っていた、ベリアルの部下といったところか。 「ルイズ! キュルケ! タバサ! そのウェールズは、もはや死人だ! 無傷で捕らえればそれなりに利用はできるが、我々は女王を奪還せねばならない!」 「分かっている。悪魔も撃退する」 「ちょっと、いきなり悪魔ですって!? 本物なの!?」 湖面が激しく波打ち、水柱が立つ。体長5メイルはある、人魚の姿をした悪魔が現れた。 銀に縁取られたエメラルド色の鱗を持ち、波打つ髪は海草に覆われている。口は耳まで裂け、耳の後ろに鰓がある。 「あんたが『東方の神童』マツシタかい!? なあんだ、まだちいちゃな餓鬼じゃあないか! 腹の足しにもなりゃあしない! そおれ、霧でも喰らえ!!」 びゅうーっと悪魔が口から濃霧を噴き、松下たちを攻撃する。タバサは風を放って霧を吹き散らす。 「あの姿、この能力。貴様はソロモン王の召喚した、72柱の魔神の一である『ヴェパール』だな! 海洋を支配する地獄の大公爵であり、29の悪魔軍団を指揮するという……」 敵の『正体と名前』を知っている事は、魔術戦闘における大きなイニシアティヴだ。 だが、百年前のオールド・オスマンを苦しめたアンドラスは『不和の侯爵』。 その上位にある『公爵』が、ホームグラウンドたる水の中にいるのだ。生半な事では倒せない。 『ソロモンの笛』があれば、従わせて使い魔にしてやるのだが。 「いかにも、私は『海洋の公爵』ヴェパールさ! 海でないのが残念だけど、水さえあれば私は無敵! 今度は、私の『邪眼』を受けてみな! グズグズの膿まみれにしてやるよ!」 悪魔の邪眼により、キュルケとタバサの体には無数の傷が生じた。 その傷はすぐにグズグズと腐り、膿と蛆が湧き始める。 「この呪傷を治すには、ヴェパールを倒して解呪させる他方法がない! 手遅れにならないうちに、総攻撃をかけるぞ!」 松下はそう叫ぶと、モンモランシーの使い魔・蛙のロビンを思い切り遠くへ投げ、湖の中へ放り込む。 上手く湖底まで逃げ延びれば、『水の精霊』を呼んで来てくれるだろう。 松下、キュルケ、タバサが力を併せ、悪魔ヴェパールに挑む。だが敵は1体ではない。 「おお公爵、敵は懐かしい、あのヴァリエール嬢とその仲間たちか! 僕も加勢しよう! 喰らえ『ウインド・ブレイク』!」 ウェールズが杖を振るい、側面から魔法攻撃を仕掛けてきた。馬群もこちらに駆け寄り、魔法を放つ。 多勢に無勢、大ピンチだ。ルイズは大して役に立たないし。……いや、待てよ。 「ルイズ! あの『祈祷書』と『水のルビーの指輪』は、肌身離さず持っているか!?」 「え、ええ! 始祖ブリミルより伝わる、二つとない秘宝だもの! 姫様のお墨付きと一緒に、ここにあるわ!」 ルイズが薄い胸に手を当てる。ああ、何か入っている気がしたが、そこか。 「よし、この間のタルブでの戦闘を思い出せ! その指輪を嵌めて祈祷書を読めば、新たな『虚無の呪文』が見えるだろう! それでこの場をどうにかするんだ! 防御と時間稼ぎは、ぼくたちがやる!」 「分かったわ! ええと、ええと、これね!」 松下はルイズに命令を下すと、さらなる呪文を唱え、森の木々から根や枝を伸ばさせて追っ手を縛ろうとする。 さらに葉っぱは刃となって降り注ぎ、敵を切り裂く。だが、仮初の生命でしかない死人は、頚を裂いても斃れない。 空中に指で『精霊の五芒星』を描き、手裏剣のように投げつけて、死人の手首を落とし、悪鬼の頭を割ってゆく。 業を煮やしたヴェパールの姿が変容し、赤い甲羅のような鎧に包まれる。 「私の別名は『真紅の公爵』ゼパール! 女性を他人の愛の虜にし、劣情と恥ずべき情欲を燃え上がらせる! さらに女を不妊にすることもできるのさ。そこの赤い髪の売女(ビッチ)、私の手下にならないかい?」 強力な『魅了』の魔法がキュルケを襲い、陶然とした表情でタバサに杖を向けた。 やむなくタバサは雪風を放ち、彼女の手から杖を弾き飛ばす。これで戦力が減った。 「ははははは、行け、我が29の軍団の精鋭たちよ!」 悪鬼たちはぐにゅぐにゅと分裂を開始し、松下たちに襲い掛かる。霧の中から幻影と嵐も湧き起こる。 《愛は寛容であり、愛は親切である。また人を妬まない。愛は高ぶらず、誇らない。 礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばずに真理を喜ぶ。 すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを耐える。愛はいつまでも絶えることがない》 (『愛の讃歌』:新約聖書『コリント人への手紙1』第十三章より) 猛攻を加える悪魔たちを相手に、松下とタバサは、それでも頑張っていた。 松下は、タバサにしなだれかかるキュルケを転倒させ、魅了解除の秘薬を飲ませて戦線復帰させる。 タバサは周囲に風の結界を作り、ルイズが呪文を完成させるまでの時間稼ぎとする。 「ルイズ! まだかっ!」 「……Eloim Essaim frugativi et appelavi(炎の神よ、我は求め、訴えたり)……」 ルイズは呪文を発見し、トランス状態に入っていた。もうすぐだ。 「ええい、まだるっこしい! ウェールズ! 愛しいアンリエッタと協力して、さっさと邪魔者を殺すんだよ!」 愛を操るヴェパール=ゼパールの呪文が飛び、正気を失ったアンリエッタはふらふらと立ち上がる。 そして二人は、風と水のトライアングル・メイジは、力を併せて呪文を唱える。現れるのは六芒星。 「始祖ブリミルの正統なる後裔、王族の近親者同士にのみ許された、ヘクサゴン・スペルの威力を見よ!」 猛烈な嵐に水の刃が混じり、タバサの結界に穴を空ける。おそらくスクウェア級以上の威力だ。 「サノバビッチ(売女の子)! ああ、王族にこんな事言っちゃダメよね、ブリミル(畜生)!」 キュルケが憎まれ口を叩きながら新たな結界を張るが、防御しきれない。松下も魔法結界を構築する。 「キュルケ! タバサと協力して、ヘクサゴン・スペルとやらは撃てないのか!?」 「さっき二人が言ったように、よっぽど条件が揃った相手同士じゃなきゃ無理よ! それに皇太子はともかく、女王陛下は一応生身なのよ!」 愛か! 愛とはなんと、人間の理性を、正しい判断力を失わせることか! アガペー(隣人愛・人類愛)ではなく、フィリア(友情・好意)やストルゲー(家族愛)でも過ぎればそうだが、 ただのエロス、情欲、愛欲、恋愛という奴は! 「あああはははははは、愛の力を甘く見たかい? 二人は永遠に結ばれるのさ! 地獄でね! 情欲のために国を滅ぼした罪で、邪淫地獄で嵐の中、互いにぶつかり合って苦しみなぁ!!」 「おお、ウェールズ皇太子……愛しています。いいえ、『愛していました』」 突如、アンリエッタの氷結魔法が、隣のウェールズを襲った。意表を点かれ、彼は首まで氷に包まれる。 「なっ!? あああああああ!! アンリエッ、タ!?」 「けれど、今は立場がございます。貴方の飲ませた眠りの秘薬は、右奥歯に仕込んだ解毒剤で。 魅了の魔法は、同じく左奥歯に仕込んだ強力な気付け薬で、解除しました。 この頃激務続きでしたもの、こんなものまで仕込んでいて、助かりましたわ。ふふふふふ」 アンリエッタは不敵に笑う。眼の下に隈が出来ていた。皆、正直驚愕する。だが、トランス中のルイズは別だ。 「……ヘカス・ヘカス・エステべべロイ! 忌まわしき太古の術法よ、主なる神の御名において、この者たちより退き、彼らを解放せよ! 『解呪』!!」 霊的結界が周囲を包み、『虚無』の力が解放される。 ルイズの放った虚無の呪文『解呪』によって、ウェールズたちの仮初の生命は失われた。 さらにキュルケとタバサにかけられた『呪傷』も、解除される。 「くっ、愛のない女だねぇ、女王陛下ぁ! 鉄の処女王にでもなるおつもりかい!? って、うわあぁああ!?」 たじろぐヴェパールの背後から、同じ姿を取った『水の精霊』が襲い掛かる。 悪魔を羽交い絞めにし、手下の悪鬼どもも飲み込んで、精霊は彼らを湖の底へと引きずり込んだ。 ちゃぽん、と蛙のロビンが水面に顔を出す。どうやら間に合ったようだ。 「……曲りなりにも、地獄の公爵だ。いかに『水の精霊』でも、封印するのに数年はかかるだろう。 ここは湖全体に封鎖結界を敷き、しばらく悪魔と精霊を封じ込めた方がいいかも知れん。ガリア側からは無理かな」 「そうですね。彼の弔いが終われば、付近の諸侯をここに集め、儀式を行いましょう。 ガリア側にも増水被害が出ていましたから、それを食い止める目的と宣伝すれば、国境紛争にはなりますまい。 ……さようなら、ウェールズ。私は『水の精霊』に誓いましょう。必ずやクロムウェルとワルドを討ち、 貴方の仇をとることを。そして、アルビオン王国の復興を……」 ウェールズ皇太子は、すでに物言わぬ遺体に戻っていた。女王は深く一礼すると、彼に固定化魔法をかけた。 ……『証拠物件』だ。女王がスキャンダルに巻き込まれても、これなら多少の言い訳は立つ。 敵は卑劣にも皇太子のご遺体を操り、女王を無理矢理誘拐したのだ、と。 「いずれアルビオンを解放した暁には、ご遺体は霊廟にお納めしましょう。それまでは、我が王城にお眠りを……」 「女王陛下ァ! ラグドリアン湖を封鎖するなんて、本当ですか!? 我々ヴォジャノーイ族は、どこへ行けばいいんです!? 数千年ここで生きてきたんですよ!」 「わしら周辺住民も、湖の漁業で生計の半分を立ててきたんですぞ! 今更住み慣れたこの土地を、数年とは言え離れろって仰るんですかい!?」 翌日から、女王は住民や諸侯との折衝に入る。王都での外交と内政は枢機卿に任せた。 「では、ひとまずぼくの治めるタルブへ移住させよう。戦争の準備中だから、仕事の口は充分にあるぞ。 税金は国内のどこよりも安い。身の安全は、国家とぼくが保証する。なんなら条例で保険加入料も無料にしよう」 「おいおい、湖や川はあるのかい? ヴォジャノーイは陸上じゃあ暮らせないぜ。海辺でもいいが」 「地下水脈はそれなりにあるようだが……。陛下、どこかいい場所はありませんか」 女王は少し考え、返答する。 「では、海辺の『ダングルテール(アングル地方)』に彼らを移します。もともとアルビオンからの移民が多い土地、 亜人でもどうにか暮らせるでしょう。何か問題を起こせば、トリステイン国民と同等に処分します」 ガリア側諸侯や住民との交渉は枢機卿にも任せる事とし、女王はトリスタニアへと還御された。 かくして、ラグドリアン湖畔での一件は落着した。 モンモランシーとギーシュも人間に戻り、ルイズも一安心したという。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6832.html
前ページスナイピング ゼロ 「ルイズ~!」 始祖の祈祷書に目を通していたルイズに自分の名を叫ぶ声が聞こえたのは、敵軍の艦隊「レキシントン号」に向けて ヘリが急行している時だった。 何事かと思いながら、右側の窓から外を見る。そこには、見知った人物の姿が見えた。 「あれは!?」 そこに見えたのは、幻獣のグリフォンを操り、羽付き帽子と魔法衛士隊の制服を身に付けた男の姿。義手となった左手で 手綱を握り締め、右手でレイピア型の杖をコルト・シングル・アクション・アーミーのようにクルクルと回している。 「オセロッtじゃなくて、ワルド!」 「まだだぁっ!」 ワルドは杖を腰に仕舞うと、手綱を両手で握り猛烈な勢いでヘリに接近してきた。勢い良く回転するメインローターを 気にする様子は、全く無い。ルイズは操縦桿を握る二人に、大声で叫ぶ。 「ワルドが来たわ! 右方向、距離20メイル!」 「ワ、ワルドさんがですか!?」 即座にセラスが、遅れてリップが右方向に視線を向ける。デルフがボソリと「あのオッサンも頑張るねぇ」と呟いたが、 ローター音に掻き消された。 「早く離脱して、撃墜されるわ!」 「ヤ、ヤー!」 操縦桿を倒し、機体を大きく左へカーブさせる。だがワルドは離されること無く距離を詰めてくる。 ルイズは始祖の祈祷書を後部座席に置き、ドアの下部に取り付けられているハンドルに手をかけた。 「マスター、何を!?」 「セラスは前を向いてて!」 力を込めて、ハンドルを90度回転させる。ガチャッと言う音が響き、ドアのロックが外れた。 「せーの~!」 天井に走るパイプを両手で掴むと、ルイズは思いきりドアを蹴り飛ばした。 「何!?」 突然ヘリのドアが飛んできた事に、ワルドは驚いた。だが持ち前の腕前でドアを避けると、再び接近する。 ヘリの後部では、悔しそうに地団太を踏むルイズの姿があった。それを見て、ワルドは苦笑いを浮かべる。 「まさか元許嫁に、扉を蹴り飛ばされるとは思わなかったな……」 ぼやきながらも、ワルドは両足をグリフォンの背に乗せた。ヘリを操っている二人が銃器を使おうとしているが、操縦桿 を握っているため動きが遅い。その隙を逃す事無く、ワルドはヘリに飛び移ろうと背を蹴った。 「外したわ!」 ドアをぶつける作戦が失敗し、ルイズは床を踏みつける。リップは地表に向けて落下していくドアを見下ろしながら、 「後で回収しなきゃ」と呟いた。セラスはハルコンネンで攻撃しようと銃器に弾を装填しようするが、操縦桿から手を 離せないため手間取っている。 「どうすんだ、どうやら敵さんはヘリに飛び移る気だぜ」 デルフの声に、ルイズは足を止めて外を見る。ワルドがグリフォンの背中に座るような格好で近付いていることから、 明らかに飛び移ろうとしているのが分かる。 「何してんのよセラス、早く撃ちなさい!」 「ヤー!」 そう言ってセラスが銃口を窓から外へ突き出すと同時に、ワルドは飛んだ。 「あーッ!」 ルイズが叫ぶと同時に、ワルドはヘリ内部への侵入に成功。そのまま勢いよく回転し、左のドアにぶつかって 「あ」 ドアがガタンと言う音と共に外れ、ワルドは 「うわぁあああ~!」 雄叫びをあげながら、地表へ向けて落下して行った。その後を、グリフォンが雄叫びをあげながら追いかけて行く。 ルイズとセラスは、予想外の事に呆然としている。リップはアホ毛を指先で弄りながら、呑気な声で答える。 「ロックするの忘れてたわ」 それからしばらく、ヘリにはデルフの笑い声が響き続けた。ルイズは落下していくワルドに 「良いセンスよ……」と、フォローの言葉を送った。 ◇ タルブ村の南部に位置する森の中で、ワルドは仰向けの状態で倒れていた。帽子やマントには、木の葉や小枝などが 幾つも付着している。空の上では、見失った主人を求めてグリフォンが回りながら飛び続けている。 「うぐぉぉ……」 膝に手を乗せ、痛む体を立ち上がらせた。傍に生えた大木に背を預け、息を整える。 「なんとか、墜落死は免れたか……」 痛む背中を撫でながら、苦悶の表情を浮かべた。帽子を脱ぎ、葉や枝を掃い落とす。 ヘリの飛び移りに失敗したワルドは、そのまま地面に向けて真っ逆さまに落ちてしまった。 フライの呪文は唱えたが落下の勢いを抑えきれず、大木の枝に接触しながら背中から地面に落ちた。 前日に降った雨で地面が柔らかくなっていたのは、不幸中の幸いと言えるだろう。 「まったく、私とした事がとんだ失態だな」 そう言って空に向けて口笛を吹こうとした時、ふと足元に目を向けた。 「ん?」 そこに見えた奇妙な物に気付き、唇に伸ばしかけた指を下ろす。 「なんだ、これは?」 そこに見えたのは、弁当箱のような形をした白い塊だった。木の根元に細い糸で結ばれており、動かないよう固定 されている。他にも数本の糸が伸びており、周りの木に真っ直ぐ繋がっていた。不思議に思いながら白い塊に顔を 近づけた時、ワルドは凍り付いた。 「まさかこれは!?」 白い塊に印字されている二つの文字を、しっかりとした声で呟く。 「C4爆弾!」 「そうだ、そのワイヤーに触れると貴様ともどもC4が爆発する」 ワルドは即座に杖を抜き、声のした方へ向ける。そこには、馬に乗った一人の女騎士がいた。短く切り揃えた金髪と、 トリステイン軍を示すマントが風で揺らいでいる。 「お前がクロムウェルとか言う皇帝のお気に入りか?」 「お前は!?」 ワルドは鷹のような眼で、相手を睨みつける。だが、女騎士に怯む様子は無い。 「私はアニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン」 右手に持ったマスケットを、真っ直ぐワルドへ向ける。 「貴様が噂どおりの男かどうか試してやる」 女騎士の名前に、ワルドは心当たりがあった。 (任務でアルビオンに向かった頃に新設された部隊の隊長か。確か、平民の女だけで組織されていたはず……ん?) そこでワルドは、アニエスの腰に付けられている袋が動いている事に気付いた。 「貴様、その動いている袋は何だ?」 「コレのことか?」 アニエスは袋の紐を解き、中身を掴み出す。それは、胴体が膨らんだ蛇らしき生物。ワルドは、その生物に 心当たりがあった。 「それは、まさか!?」 「どうやら貴様は、この生物を知っているようだな」 アニエスは、左手を高く掲げた。尻尾を掴まれた生物は、頭を左右に振りながら悶える。 「貴様が空から落ちて来たのを見て、ここへ来るまでにキャプチャーしたものだ」 幻の生物と言われるツチノコを揺らしながら、アニエスは当然のように言った。 「そのツチノコは必要だ!」 ワルドが叫んだ。 「お持ち帰りはさせん」 馬から降りると、アニエスは挑発するかのように手招きする。 「来い!」 その言葉を合図に、ワルドは駆けた。 向かって来るワルドに対し、アニエスは微塵の躊躇も無く引き金を引いた。黒色火薬が破裂すると同時に、大きな煙が 薬室から吹き出し視界を奪う。即座に左手で煙を払うが、ワルドの姿は見えない。 「どこだ!?」 周囲を見渡し警戒していると、上空から枝の折れる音が響いた。前方へ飛び伏せると同時に、先ほどまで立っていた場所に ワルドが降り立った。レイピア型の杖が、地面に深く突き刺さっている。 マスケットを捨て、剣を握り一直線に立ち向かう。ワルドが杖を抜くと同時に、剣を勢いよく振り上げた。 「貰った!」 一刀両断するほどの威力で、剣を振り下ろす。だが接触する寸前で、ワルドは左腕だけで剣を防ぎ止めた。 「な!?」 予想していなかった防御の仕方に、アニエスは目を見開く。その隙を逃さず、ワルドはレイピアをアニエスの腹部に向けて 突き出した。鎖帷子が軋む音が響く。二人は互いを武器で払い、距離を取るため後ろへ飛び下がった。 互いを睨みながら、膠着状態が続く。しばらくして、アニエスは言った。 「もう一度いこうか……」 「良いのか?」 ワルドの問いに、アニエスは不敵な笑みを浮かべながら懐に手を入れた。回転式の拳銃を取り出し、撃鉄を起こす。 「六発以上、生き延びた奴はいない」 銃口をワルドに向ける。 「怪しいものだ」 ワルドは杖を握り締め、身構える。アニエスは立ち上がり、ポケットからオロシャヒカリダケを取り出し口に 放り込んだ。短く切り揃えられた金髪が発光しはじめる。 「良し生き返った、さあ行くぞ!」 アニエスが両手で拳銃を構えると、ワルドは杖を振り呪文を唱えた。自分と瓜二つの姿形をしたワルドが5人も現れ、 アニエスを円形状に取り囲む。 「良いセンスだ、そろそろ本気を出していこうか」 そう言うと、アニエスは片足を軸にして回転しながら銃を撃ち始めた。回りながらも狙いを外す事無く、分身した ワルドの内の2体の心臓や頭部を撃ち抜いていく。そして3体目を撃とうとした時、分身に変化が生じた。 「何!?」 分身したワルドの姿が、じょじょに消えていく。他の2体も同じように消えていき、やがて見えなくなった。 「ステルス偏在か!?」 回転を止め、近くの大木に背を合わせる。銃を握り締めながら、周囲を警戒する。 「どこだ、どこから来る?」 その時、視界に自身が仕掛けたトラップが見えた。 「……そうだ!」 銃を構え、20メイルほど離れた木の根元に固定されているC4に向けて発砲した。 発砲音と爆発音、二重の轟音が鼓膜を振るわせる。一つのC4が爆発したため、ワイヤーで繋がれている他のC4も次々と 爆発していく。あっと言う間に、周囲は爆風で舞い上がった砂埃で覆われた。 「姿を消されては、標的を狙う事は出来ない。だが……」 一点に向けて、銃口を向ける。その地点を漂う煙が、微かに動いた。 「どこを動いているか分かれば、狙う事は可能だ!」 狙った場所に、銃弾を撃ちこんだ。即座に遍在のワルドが2体、姿を現わすと同時に砂のように消滅する。 銃口の向きを変え、残り一発を撃つ。残り1体の偏在が消え失せると同時に、煙も消え失せる。 「偏在は全て倒した、後は張本人である貴様だけだぞ!」 アニエスの叫びが、森に轟く。すると、上空から羽ばたきの音が降りてきた。 「流石だ、平民の女騎士と侮ったのは間違いだったようだな」 幻獣のグリフォンに跨り、ワルドは楽しそうに言った。銃口を向けられた状態のまま、アニエスの正面に降り立つ。 「どうする。まだ続けるか?」 「いや、続けている時間は無い」 ワルドは呟き、遠くの空を指差す。アニエスが視線を移すと、そこには燃え盛るアルビオン軍の艦隊が見えた。数秒ほど 経つと、轟音と衝撃波が二人にも伝わって来た。 弾が切れた銃を懐に仕舞い、アニエスは口笛を吹く。走り寄ってきた馬に乗り、ワルドに顔を向ける。 「邪魔が入った、まあ会おう!」 そう言うと、背を向けて走り去って行った。ワルドはハァっと息をつき、腰をトントンと叩く。 「新型のスニーキングスーツが欲しい所だな……」 そうボヤくとグリフォンに跨り、戦場へと飛び去って行った。 前ページスナイピング ゼロ
https://w.atwiki.jp/dai_zero/pages/85.html
第四話 ゼロとゼロ 前ページ次ページゼロの影 胸に走る痛みに炎を思わせる赤髪の少女は眉をひそめた。彼女の名はキュルケ。アルビオン侵攻には参加せず、学院に残っていた。 気がかりそうに見つめる青髪の少女――タバサに大丈夫というようにひらひらと手を振ってみせる。 「今ごろどうしてんのかしらねー」 どうでもよさそうな表情と口調の彼女に、タバサはぽつりと呟いた。 「心配」 「まっさかあ!」 途端にキュルケは大仰に眉を上げて否定してみせた。 「殺したって死ぬような可愛げないわよ、ヴァリエールもダーリンも」 「心配」 淡々と指摘され、キュルケはほんの少し頬を赤く染めた。 「ち、違うわよ! ヴァリエールはイノシシみたいにつっかかるのが面白いし、ダーリンはもっとお近づきになりたいから死なれちゃ困るって程度で」 それ以上追及せずタバサは本に視線を戻した。 彼女はミストバーンにどこか近しいものを感じていた。怒り、憎しみ、そして孤独――。 彼女はキュルケに出会い救われた。彼にはそんな存在がいるだろうか。 どれほど深い闇も照らすような。どんな障壁も焼き尽くすような。 もしキュルケを喪ったり二度と会えなくなったりしたらどうなるだろう。彼女はふるふると首を振り、想像を打ち消した。 その時おそらく自分の心が死ぬであろうことを、彼女は悟ったのだから。 船の上で学院の生徒達は安堵したように仲間と笑い合っていた。アルビオン軍の進撃速度は極端に低下しており、全軍乗船も間に合いそうだった。 彼らの口に上るのは一人の英雄――否、“勇者”の名。 「すげえよな! 俺達全員を逃すために敵地に残って戦ってんだぜ!? ……おいギーシュ、どうしたんだよ? 活躍の場を奪われて悔しいのか?」 「やめとけやめとけ、七万の大軍相手じゃお前なんか鼻クソ以下だ」 ギーシュは憂鬱そうな面持ちで首を振った。 「そりゃわかってるよ。僕が言いたいのは――」 タルブの村での戦いの後ギーシュは名前で呼ばれるようになっていた。今まで顔もろくに覚えられていなかったため急激な変化に戸惑ったものだ。 彼はウィンプフェンの語った内容に違和感を覚えていた。ミストバーンが他人の盾になるとは思えない。 仮に戦うとするならば、自らを高める者の命を賭した覚悟が必要だとギーシュはぼんやり想像していた。 だがウィンプフェンにそんなものがあるとは思えない。もしかすると、情報を操り彼を利用したのかもしれない――そんな気がする。 「トリステインの美しきレディ達を守るのは僕達の役目のはずだろう?」 「そんなこと言ったって、弱い奴が残っても仕方ないだろ」 「そりゃそうだけど……誰かに全部押し付けて知らん顔でいいのかね」 苦しい時は力ある者にすがり、戦いが終われば手の平を返す。それで胸を張って生きていけるのか。 もっと強くなって自分が戦えるようになりたい――ギーシュはそう思った。 「彼が“勇者”なら、僕達は――」 そこまで言いかけて苦笑する。勇者という響きは彼には似合わない。麗しき女性以外のことを考えていたため頭が混乱しているようだ。 薔薇の造花を一振りし、花びらを落として口にくわえ直す。 それから彼は愛しのモンモランシーのことを想い、幸せそうな笑みをこぼした。 徐々にアルビオン軍が体勢を立て直し、脅威を葬る準備を進めている。間もなく丘の上へと殺到するだろう。 デルフリンガーが知らせるが立ち上がる力は残されていない。 心臓二つを潰され、両腕は千切れかけてろくに動かない。全身に刻まれた無数の傷の痛みすら鈍く遠くなっていた。 感覚がゼロへ近づいていく。だがそれは以前の状態に戻るのではなく、最も遠いはずの死がすぐそばまで迫っているということだ。 (バーン、さま……) 自分が滅んでも主が立ち止まることは無いと知っている。振り返らず一人で己の道を歩んで行くだろう。 体を返せないことだけが心残りだが、理想の器の中で死ぬのなら“寄生虫”にはもったいないくらいの最期だ。 「申し訳ありません……バーン様」 彼は薄れゆく意識の中、繰り返し主の名を呼び、詫び続けていた。 その時、ぽたりと雫が落ちた。いつの間にか視界に桃色の髪が揺れている。 「いっつも謝ってるのね」 彼にはルイズが泥まみれになりながらここまで来た理由も、涙を流す理由も理解できない。不思議そうに眺める彼の顔に水滴が落下し続ける。 その頬は深々と切り裂かれ、エルフに似た形の耳は半ばから千切れていた。髪も、肌も、衣も、血に染まっている。 (何が……何が“認めさせる”よッ!) 悔しくてたまらなかった。 一緒に行動することすら拒まれたことが。限界まで追い詰めてしまったことが。 何より、ここまで傷つくのを止められなかったことが。 弱さを見せようとしない彼にとって、血に塗れ倒れている姿を見られるのは屈辱以外の何物でもないだろう。 彼女は涙を振り払い、誇りにかけて叫んだ。 「わたしが命を賭けてまで認めさせようとした大魔王の部下! それは熱い魂を持った誇り高き戦士よっ! 偽りのない忠誠心こそがあんたの最大の武器じゃなかったのっ!」 ともに戦った時と同じく、その眼は真っ直ぐ彼を見据えている。器ではなく彼自身の魂を。 「正体が何だろうと! どんな姿だろうと! あんたはあんたよ……! わたしの騎士(シュヴァリエ)で大魔王の誇る忠臣――ミストバーンよ!」 魂の奥底から絞り出される言葉が彼の心に染み込み、光となって照らし出す。 「あんたがゼロであってたまるもんですか……! 誰にも――誰にも偽りなんて言わせないんだから!」 ゼロになりかけていた何かが眩い輝きとともに蘇る。不死鳥のように。 「そう、か」 血のこびりついた唇がゆっくりと動いた。 ここで諦めては主からの信頼を裏切ることになる。 絶対に譲れぬものを、自ら“偽り”にしてしまうことになる。 全てを与えられた恩を返していないのに、勝手に歩みを止める権利などない。 「少しは報いなければ……死んでも死にきれん」 かすかに口元に笑みが浮かび、消えかけていたルーンが輝きを取り戻す。 (何故君は戦う?) 命をかけて戦った敵の問いが蘇る。答えは、彼が尊敬し、その名を覚えた者と同じ。 「守るべきものが――在るからだ……!」 身を起こし、立ち上がる。――彼が彼であるために。 ルイズはその背を見て息を呑んだ。一目見たら永久に忘れられない惨い傷。背中だけでなく両腕も所々炭化し、体中に斬られ、刺され、焼かれた跡がある。 (あんたはわたしが責任持って送り返すんだから……!) 絶対に死なせない。その一念で『始祖の祈祷書』をめくり、あるページを開く。そこに光る文字を読み進める。 (ほんの一瞬だけでいい……! 『虚無』の力よ湧き上がれっ! 今こそ……あいつの力になるためにっ!) 息を吸い、精神を集中させる。極限まで研ぎ澄まされた神経が言葉を紡ぎだしていく。 デルフリンガーが問う。 「……どうする?」 「戦い抜き、バーン様の元へ戻る」 もう、迷わない。 詠唱を背に敵の方へ足を踏み出そうとした時、声が聞こえた。 何よりも望んでいた声が。 「――ミストバーン」 弾かれたように顔を上げ、声の源――太陽を見つめる。天空の太陽は完全に隠れようとしていたが、彼の心を確かに照らしている。 表情が驚愕に、次いで歓喜に染まり崩れ落ちるように跪く。 「あ……ああ……!」 尽きぬ想いを込めて主の名を呼ぶ。 「バーン様――!」 異世界の像を虚空に映し、腹心の部下を探していた“彼”は困惑した。 発見したはいいが、秘法が解け、素顔も露になっており、器が徹底的に痛めつけられていたのだから。 冷静に観察するうちに“彼”は施した封印が完全には解けていないことを知った。 解けているように見えるが、召喚の衝撃でゆがみ、逆に力を極限まで抑え込んでいたのだ。ルーンを刻まれる前から身体を蝕む枷がつけられていた。 「ミストバーン」 名を呼ぶと体がびくりと震えた。 「申し訳……ありません」 彼は心から怯え悲しんでいる。帰還が遅れ、主の体を守れきれなかった失態に。 “彼”にも叱責したい気持ちはあるのだが、今はそんな時ではない。 「余がお前に預けた力は……そんなものではないはずだ」 “彼”は手を向け、魔法力を放った。移動や魔法の行使はできずとも、声や力を届けることは可能であるようだ。 ねじれた封印が正しい形に戻り、項垂れていたミストバーンは力が湧き上がるのを感じた。 「言ったはずだ。お前は余に仕える天命をもって生まれてきた、と。余のためにまだまだ働いてもらわねばならん」 己の体を忌み嫌い、鍛え強くなれる者を羨望した時――その能力を必要とし、生きる理由を与えてくれた存在。 (最高の主、バーン様……。あなた様に出会えて……良かった) 彼には歪んだ封印やルーンによる反発だけでなく、他に精神的な枷があった。 秘法が解けたため、主の体を敵の攻撃で傷つけてはならない。無茶な戦い方をして内側から破壊してはならない。 それらの想いが動きを鈍らせていた。 また、あらゆる感情を無理矢理抑え込み封じていたためガンダールヴや暗黒闘気も力を発揮できなかった。 今、心の枷がルイズと主の言葉によって砕け散った。 ルーンの反発も収まり、融け合い、昇華された。 傷口からしゅうしゅうと白煙が噴き上がり、細胞がうごめき再生していく。 闇の衣から血の染みが消え、美しく力に溢れた元の姿を取り戻していく。 ――羊皮紙にはこう書かれていたかもしれない。 『虚無に心が完全に食われる時、少女が涙し、闘志を取り戻す。主という名の光が姿を現し、影を包む』 ルイズは青年の全身から放たれる力を感じ、『始祖の祈祷書』の文面を思い起こしながらいよいよ高らかに詠唱した。 『破壊の力も解呪の力も持たぬが、あらゆる災厄から対象を守り抜く力を持つ魔法をここに記す。 完全に日が食われる時のみ唱えることができ、いかなる干渉も受け付けぬ絶対不可侵の存在へと変える、その名は――』 「凍れる時の秘法(インビンシブル・マジック)」 青い閃光――召喚の際に解かれ、再びかけられた秘法の光が完全に傷の癒えた彼を包みこんだ。 時の流れをゼロにする魔法と、その術者である虚無の使い手ルイズ。 主のために忌避する能力をも揮う、枷を打ち砕きゼロにしたミストバーン。 ゼロとゼロ。 互いの心の闇――“ゼロの影”を払い、認め合った者達。 本来相まみえぬはずの二人が巡り合ったことによって起こる、限りなく奇跡に近い何か。 隠れていた太陽が光を取り戻すにつれて、二人を中心に力が渦巻いていく。 「それでこそ余の半身よ」 大魔王が満足そうに笑い、影が首を垂れる。 「お許し下さい……バーン様」 ふがいない姿を晒した失態は戦いで償うしかない。ハルケギニアで詫びるのはこれで最後にすることを誓い、視線を太陽に向ける。 完全に太陽が姿を現し青年を照らした。 ――羊皮紙には以下のように書かれていた。 『太陽が完全に食われる時、時が凍り、失ったものを取り戻す。太陽の光が姿を現し、影を包む』 「バーン様……よろしいですね!」 「許す……! ミストバーン……!」 掲げられた左手が、天高く輝く太陽に重なった。 封印が完全に解かれ、神の領域に達した力が弾ける。 魔界の頂点に立つ、最強の男。 その半身が今、真の力を取り戻した――! 前ページ次ページゼロの影
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9234.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十話「アルビオン氷河期」 隕石小珍獣ミーニン 冷凍怪獣マーゴドン 凍結怪獣ガンダー 宇宙海獣レイキュバス 冷凍怪獣シーグラ 登場 「……はい。こちらもひどい吹雪でございます、陛下」 ウエストウッド村からそう離れていない地点。ガンダーとマーゴドンの二大冷凍怪獣の引き起こす 猛吹雪によって大地は雪に埋まり、元がどんな地形だったのかは皆目見当がつかない。 その雪原の上に、ローブで全身を包んだ女が雪と風に煽られながらたたずんでいた。かつてアルビオンに 潜入していた謎の女、シェフィールドである。 彼女は傍目から見たら、独り言を唱えているように見える。だが実際は違う。テレパシーとも 言うべき能力によって、ある人物と連絡を取り合っているのだ。 「ガーゴイルを用いたとしても、前に進むだけでも困難な状態です。真に申し訳ありませんが、 仰せつかった“始祖の祈祷書”の回収の任、開始できそうにありません……」 本当に心底罪悪感を抱えている様子で、シェフィールドは謝罪した。 彼女はルイズの持つ“始祖の祈祷書”を強奪する目的で再びアルビオンに現れたのだ。 しかし、行動に出ようと考えていた今日この日に、折悪しく怪獣による異常気象が発生した。 そのためにルイズを見失い、任務遂行が不可能な状態に陥ったのだった。 シェフィールドの脳内に、連絡相手の声が響く。 『それは真に残念であるな。しかし、そんな巡り合わせの悪い日もある。よい、我がミューズよ。 祈祷書の奪取は打ち切り、我が元へ帰ってくるのだ』 「い、いえ。この吹雪がやんでから、改めて虚無の担い手を捜索することは出来ます。陛下がひと言 お命じ下されば、このわたくしめが、必ずや成し遂げてご覧にいれます」 『いや、余の気分が変わったのだ。単に“秘宝”と“指輪”を集めて眺めるより、“虚無”対“虚無”の 対局を指すことにした。その方が面白そうだ。故に必要はない。それに何より……そんな寒い場所に長々と 立たせて、お前が風邪を引いたりしたら心苦しい』 相手の最後の方の言葉を聞いて、シェフィールドは顔を輝かせた。容貌に似つかわしくない、 恋をする少女の顔だった。 「あ、ありがたきお言葉です! ではすぐにあなたさまの御許に馳せ参じます……ジョゼフさま!」 シェフィールドは懐から小さな人形を取り出し、それを足元に放った。 人形は一瞬にして羽を生やした大型の魔法人形ガーゴイルに変化し、シェフィールドは その背にまたがった。シェフィールドを乗せたガーゴイルは飛び上がり、風に逆らいこの場から 飛び去っていった。 知らず知らずの内にシェフィールドに狙われていたルイズであったが、彼女は現在、行方不明の 才人を捜す旅を行っていた。自責の念から一度は自殺も考えたが、ゼロたちとの生活の中で命の 大切さを知った彼女は、自らの命を絶やすその行為が大罪であることを悟り、前を向いて生きることを 遂に発起したのだ。 そう、まだ確実に死んだとは言い切れない才人の行方を捜し出すことを決めたのだ。そのために、 自分を心配してわざわざ様子を見に来たシエスタをお供にして、馬車の旅に出た。 が、しかし、ウエストウッド村に近づいたところで、怪獣たちの猛吹雪に襲われてしまった。 馬は凍死してしまい、ルイズとシエスタは雪の真っ只中に立ち往生するという最悪の状況に 見舞われているのだった。 「うぅ、さ、寒いわ……」 ガチガチと歯を鳴らすルイズ。ありったけの防寒具を着込んでいるが、それが役に立たないほど 気温が低下しているのだ。 顔が青ざめるルイズを、シエスタが励ます。 「ミス・ヴァリエール、しっかりして下さい! 眠ってはいけません。雪の中で眠ったら 命はありません!」 「う、うん……。シエスタ、あなた体力あるのね……」 「田舎育ちですから。このぐらい、なんてことありませんわ」 と言うシエスタだが、実際にはこれは強がりであった。本当は彼女も苦しい。しかしルイズを 激励するために、平気なように振る舞っているのだった。 「この幌馬車、雪の中に埋まりかけてます。このままでは生き埋めですわ。まずは脱出しましょう」 「ええ……」 荷物を持っていく余力はない。二人は着の身着のままで馬車から外へと抜け出した。その直後に、 馬車は幌に積もった雪の重みで押し潰された。 「危ないところでしたね。でも、ここからどうすればいいか……」 さすがに困惑するシエスタ。自分たちの発った町から、もう大分距離があるところに来ているので、 そこに引き返すというのは難しすぎる。この吹雪の中では、方向が分からなくなって遭難することも 十分にあり得る。 一方でルイズは、自分たちの目の前にある森の入り口を見やった。ウエストウッドの森だ。 「確か、この森の中に村が一つあるって話を町で聞かなかったかしら?」 「え? ええ……何でも、身寄りを亡くした子供たちが寄り集まって暮らしてる小さな村があるとかないとか。 でも、人の行き来が滅多になくてほとんど忘れられたところみたいですが……」 「そういう場所にいるんだったら、今の今まで行方不明のままでもおかしくないわね。いえ、それより 今は人のいる場所へ行きましょう。このままじゃ、二人とも凍え死んでしまうわ」 「そうですね……。本当に村があることに賭けましょう!」 ルイズとシエスタは、自分たちが生き残るために森の中へと歩を進めた。 「ガオオオオオオオオ!」 「プップロオオオオオオ!」 マーゴドンとガンダー、二体の怪獣の姿が、才人たちの目にしっかりと飛び込んだ。吹雪の中で 暴風のうなりにも負けないほどの咆哮を上げる怪獣たちの様子は、まるでこちらを挑発しているかのようだった。 怪獣たちの威容を目の当たりにして、子供たちはミーニンやティファニアにしがみついて 大いに震え上がる。ティファニアは彼らを落ち着かせるのに必死だ。 「あいつらの仕業だったんだな……!」 一方で、グレンと才人はガンダーたちを強くにらみつける。この吹雪は自然の天候ではない。 奴らをどうにかしない限りは、自分たちはもちろん、ハルケギニア中の人々が助からないだろう。 しかも、ガンダーはこちらに歩み寄ってきているようであった。ウエストウッド村を踏み潰すつもりか! 「このまんまじゃやべぇぜ! 俺が怪獣を遠ざける!」 そう叫んで家から飛び出していこうとするグレンに、ティファニアが驚愕した。 「そ、そんなの危険すぎます! こんな猛吹雪の中、無謀ですよ!」 事情を知らない者から見れば、グレンの行動はそう見えるだろう。しかし彼の本当の姿は、 熱く燃えたぎる炎の戦士なのだ! 「任せてくれって! みんなはどうにか自分たちの身を守っててくれよ!」 「グレン! 俺も……!」 才人が名乗り出ようとしたが、グレンに手で制された。 「お前はここの嬢ちゃんと子供たちを守ってやってくれ」 でも、と言いかけた才人だが、続きを口に出せなかった。ウルトラマンゼロになれない 今の自分に、巨大怪獣と戦える訳がない。 戸惑っている間に、グレンは素早く玄関から飛び出ていった。 雪原に飛び出すと、グレンは早速変身を行う! 「うおおおぉぉぉぉぉッ! ファイヤァァァァァ―――――――ッ!」 燃え盛る炎の勢いで一気に巨大化し、グレンファイヤーへと変貌した! 赤き戦士が 立ちはだかったことで、ガンダーは足を止めて警戒する。 『とぁッ!』 『むんッ! ジャンファイト!』 更にはミラーナイト、ジャンボットも駆けつけ、グレンファイヤーの左右に並び立った。 『お前たちも来たのか!』 『この一大事、何もしない訳にはいきませんよ』 『今変身の出来ないサイトたちには、指一本とて手出しはさせん!』 頼れる二人の仲間の登場でグレンファイヤーの心はますます燃え上がった。 『こんな寒々しい景色、ぶっ飛ばしてやるぜ! ファイヤァァァ―――――――!』 手の平から火炎放射を飛ばすグレンファイヤー。吹雪と極低温にも負けない灼熱の炎は、 ガンダーをひるませマーゴドンをたじろがせる。 『よぉし、行くぜぇぇぇぇぇぇッ!』 敵をひるませたことで、グレンファイヤーは一気に畳みかけようと駆け出した! 雪原を踏み越え、 ガンダーに猛ラッシュを食らわせようと迫る。 だが途中で、足下の雪から赤い巨大なハサミが飛び出してきた! 『うおわぁぁぁぁッ!?』 『グレン!?』 『グレンファイヤー!』 足をはさまれて前のめりに倒れるグレンファイヤー。ミラーナイトとジャンボットは動揺する。 「グイイイイイイイイ!」 雪の中からハサミがせり出してくる。その正体は、左右で大きさの不揃いなハサミを生やした、 角ばった甲羅を持つカニとエビを足したような甲殻類型怪獣……! かつてウルトラマンダイナをギリギリまで追い詰めた恐るべき宇宙海獣、レイキュバスだ! 『くっ、こんな奴までいやがったのか!』 グレンファイヤーは足を掴むハサミを振り払うが、起き上がったところにレイキュバスが 冷凍ガスを浴びせてくる。 『ぐわあああぁぁぁぁッ!』 その攻撃に悶え苦しむグレンファイヤー。レイキュバスの冷凍ガスはウルトラ戦士の巨体も 一瞬で凍りつかせるほどの恐ろしい威力がある。たとえ炎の戦士のグレンファイヤーといえども、 ただでは済まない! 『グレンファイヤーが危ない!』 ミラーナイトが援護攻撃をしようとしたが、そこに吹雪の間から飛び出してきた、上顎から 太い牙を剥き出しにした恐竜型怪獣が襲いかかってきた。 「ギャァァァアアア!」 『むッ! はぁッ!』 反射的に喉にチョップを叩き込んで返り討ちにするミラーナイト。だが恐竜型怪獣はミラーナイトの 周囲から更に三体も現れ、口から冷凍ガスを吐き出して攻撃してくる! 「ギャァァァアアア!」 『なッ! こんなに怪獣が……うあぁぁッ!』 三方向からの攻撃にどうにも出来ずに、ミラーナイトの身体が凍りついていく。 この怪獣たちの名はシーグラ! シーグラもまた冷凍怪獣である! 『グレンファイヤー! ミラーナイト! 今助け……!』 「プップロオオオオオオ!」 劣勢に立たされる二人を救援しようとするジャンボットにも、ガンダーが襲いかかる。 宙を滑空しながらドリル状の爪でジャンボットの肩を切り裂く! 『ぐわッ! くぅッ、思うように動けん……!』 ジャンボットたちの劣勢は、数の差だけが理由ではない。極低温の猛吹雪の中という、 相手に圧倒的有利な環境でその力を十全に発揮することが出来ないからだ。 『まずは吹雪をどうにかしなければ……!』 ジャンボットは高性能センサーを働かせて、事態打開のためのデータを収集した。 その結果、吹雪の中心がマーゴドンであることが判明。マーゴドンを叩けば、状況は好転するに違いない! 『よし! ジャンミサイル発射ッ!』 そうと分かったジャンボットの行動は早かった。ミサイルを一斉に飛ばし、マーゴドンへと炸裂させる! その爆発と熱でマーゴドンにダメージを与えるはず……。 「ガオオオオオオオオ!」 しかしミサイルの爆発はマーゴドンの身体に吸い込まれていき、火花は瞬く間に消え去ってしまった! 『な、何だと!?』 マーゴドンの冷凍能力は数々の怪獣の中でも頂点に君臨するレベル。あらゆるエネルギーは 絶対零度の肉体に吸収され、ゼロにされてしまうのだ! マーゴドンに爆撃は効かない! 『くッ、どうすれば……ぐわぁぁぁッ!』 「プップロオオオオオオ!」 ジャンボットが逆転の一手を考えつく前に、ガンダーが冷凍ブレスを食らわせた上に張り倒した。 横転したジャンボットは回路が凍りついて、立てなくなってしまった! ゼロのいないウルティメイトフォースゼロは、冷凍怪獣軍団の前に絶体絶命の窮地に追いやられた! 「み、みんなが危ない……!」 三人のピンチを、才人も目の当たりにしていた。焦燥を覚える才人だが、彼らを助ける方法は 何も思い浮かばない。何せ、頼みの綱のゼロは未だに覚醒していないのだ。 (くそぉッ……! どんなに訓練したって、人間の身じゃいざという時に何の役にも立たない……! やっぱり、俺に出来ることなんて何もないのか……!?) 激しい無力感に打ちのめされ、目の前が真っ暗になりそうな才人。 だが、ふと倒れているジャンボットの姿が目に入る。 その時、才人に電流が走った! (そ、そうだ! これが上手く行けば……!) 才人の脳内に、逆転の手段が浮かび上がったのだ! しかしそれを実行するのには、大変な危険がある。果たして自分に、その危険を突破する 力があるのか……。ほとんど無謀な行為なのだ……。 悩んでいたら、後ろの子供たちとティファニアの声が耳に入った。 「テファお姉ちゃん……眠い……」 「ね、寝ちゃ駄目よ! 気をしっかり持って! お願いだからッ!」 子供たちの体力は限界のようだ。 それを知った時、才人は決心した! (力があるのかとか、危険がどうとか、そんなことじゃない! あの子たちの命が消えかかってる! それを救わなくちゃいけない! そうしなきゃ、俺は本当に駄目な人間になる!) 瞳に光を灯し、デルフリンガーを背負ってマントを勢いよく羽織った! (俺は男だ! 人間だ! どんな敵が立ちはだかろうと――勇気を胸に、立ち向かってみせるッ!) 玄関の扉に手をかける才人に、ティファニアが慌てて呼びかけた。 「サイト、何をするの!?」 「行ってくる。今みんなを救うことが出来るのは、俺しかいないんだ」 「む、無理よ! 死にに行くようなものだわ! お願い、やめて!」 必死に制止するティファニア。だが才人の心は、もう変わらないのだ。 「無理なことなんてない! 俺は、諦めない! 不可能を可能にするッ!」 そして一気呵成に吹雪の中へ飛び出していった! 「サイトぉぉぉぉぉ―――――――――――!」 ティファニアの絶叫を背にして、才人は吹雪に逆らい駆けていく。暴風は彼を枝きれのように 吹き飛ばそうと襲い来るが、才人の身体は前へ前へと進んでいく。 (こんな逆風の中で、身体が動く……! グレンに鍛えてもらったからだ! グレン、ありがとう!) 己の肉体が逆風に負けないことを、グレンファイヤーの課した特訓の成果だと才人は考えた。 しかしそれだけが理由ではない。 今の才人の心の中に、雪と氷に負けない熱い勇気と使命感が燃えているからだ! 「くッ……けれど、さすがに目を開けてるのは難しいな……!」 足は動いても、目に雪が入ってくるのは防ぎ難い。才人が視界の確保に苦しんでいると、 背にしているデルフリンガーが呼びかけた。 「相棒、俺がジャンボットまでの方角を指示してやらあ。俺には目ン玉がないからな、雪は関係ねえのよ」 「そうか! ありがとう、デルフ!」 「こんくらいのこと、礼を言われるまでもねえぜ」 デルフリンガーのお陰で、方向を見失うことはない。才人は感謝するとともに、デルフリンガーが 一緒にいてくれることでもっと勇気をたぎらせた。 (俺は一人じゃない……! 一人じゃないなら、何だってやれる気分だ!) だが、雪中を突き進む才人にガンダーが容赦なく襲いかかってきた! 「プップロオオオオオオ!」 「相棒危ねえ! 伏せろッ!」 デルフリンガーの指示でその場に身をかがめる才人。ガンダーがその上スレスレを通り過ぎていく。 『サイト!?』 『くそッ、あの野郎サイトを……!』 ミラーナイトとグレンファイヤーは、才人が外に出ていることに驚き、彼を狙うガンダーをにらみつけた。 しかしレイキュバス、シーグラの猛攻をしのぐのに手いっぱいで、彼を助けに行くことは出来ない。 「プップロオオオオオオ!」 着地したガンダーはなおも才人をつけ狙う。 巨大怪獣に狙われ、追われる恐怖。それは生身の人間には耐えられないほどの、大きすぎる恐怖だ。 心臓が張り裂けてもおかしくないような。 しかし才人は立ち止まらない! 「相棒、走り続けろ! ジャンボットのとこまでたどりつけりゃあ勝ちだ!」 「言われるまでもないぜ!」 才人の勇気は、巨大な恐怖を打ち払うほどに強くなっているのだ! そして才人は走る。執拗に追ってくるガンダーが振り下ろす爪を、吐き出す冷凍ブレスをギリギリの ところでかわし続けながら。一歩間違ったら即あの世行きの、あまりにも危ない橋。その上を駆け抜けていく。 苦しくない訳がない。無理のある回避行動を取りながら前に進むので、脚はパンパン、筋繊維は悲鳴を上げる。 心臓は物理的に破れそうだ。だがその苦しみを、腹にくくった思い一つで抑えつける。 「負けるか……! 人間はッ! お前たちなんかに負けなぁぁぁぁいッ!」 そうして気がついた時には――横たわったジャンボットの顔が目前にあった! 才人は即座にジャンボットに呼びかける。 「ジャンボット! 意識はあるか!?」 『サ、サイトか……!? よくここまで……』 「俺をお前のコックピットに入れてくれ! その力を……俺に貸してくれッ!」 才人の言葉が届き、ジャンボットになけなしの力が宿った。 『力を借りるのは、私の方だッ!』 転送光線が才人を包み、次の瞬間には才人の身体はジャンボットのコックピット内にあった。 「プップロオオオオオオ!」 ガンダーは才人を内部に収めたジャンボットへ詰め寄り、鋭い爪を振り上げる。このままでは、 ジャンボットはズタズタに引き裂かれておしまいだ! しかしその直前、コックピットの中央に立った才人がファイティングポーズを取り、力いっぱいに叫んだ! 「ジャァァァンッ! ファァァァァァァァァイトッ!!」 ガンダーの爪が振り下ろされる! ……その顔面に、ジャンボットの鉄拳がめり込んだ! 「プップロオオオオオオ!」 仰向けに傾き、雪の上に倒れ込むガンダー。それとは反対に、鋼鉄のボディと『心』を持った武人は身を起こした! 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』 システム再起動。回路は瞬時に正常に戻り、黄色い眼に光が灯る! 「行こう、ジャンボット! みんなを救いにッ!!」 冷凍怪獣にも消すことの出来ない勇気の炎を内にしたジャンボットが、雄々しき機体を立ち上がらせたのだ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8841.html
前ページ次ページThe Legendary Dark Zero 金髪の巻き毛が自慢である少女、〝香水〟のモンモランシーは趣味で秘薬作りに勤しんでいる。 彼女の実家のモンモランシ家はトリステインの由緒正しい伝統ある名家であるが、色々な事情があって領地の経営だけで精一杯の状況である。 故にモンモランシーも小遣いを自分で稼ぐために香水を作ってはそれを街女や貴族の女性らに売り捌いていたのだ。 彼女の香水は独特の香りがすることで中々評判があり、結構な高値で売れるのである。そうしてお金を稼いでは、珍しい秘薬の材料を手に入れて作るのである。 もっとも、それらはコレクションを目的としているために使う機会はほとんどないのだが。 あくるの日の夜のことである。寮の自室でモンモランシーはいつも以上で真剣に秘薬作りに熱中していた。 「見てなさいよ……絶対に振り向かせてみせるんだから」 ぶつぶつと呟きながら、るつぼの中の秘薬をすりこぎでこね回していた。 今作っているのははただの秘薬ではなく、国法によって作成と使用を禁じられている品である。 これまでコツコツと貯めていた小遣い1000エキュー以上を費やして禁断の秘薬を作るための高価な秘薬を購入していたのであった。 見つかったら大変な罰金が科せられると知りつつも、モンモランシーはその秘薬を作らねばならなかった。 自分の大切な人が今、奪われようとしている。しかもあのスパーダという男と一緒にいたためかギーシュは以前とすっかり変わり果てた姿になりつつあった。 その時の男らしい気迫ある姿は悪くないとは思いつつも、そんなのは本当の彼ではない。ギーシュはキザっぽいのが一番似合っているのだ。それが変わってしまうのが嫌だった。 だがあのスパーダという男にすっかり入れ込んでおり、まともな手段では元のギーシュには戻せないだろう。 だからこそ、これから作る秘薬に全てを賭けているのだ。 滑らかにすり潰した香木に竜硫黄、マンドラゴラ、そして闇市でなければ手に入らない肝心の秘薬……香水瓶に入れられたほんの少量のその液体をるつぼの中に入れていく。 ちょうどこの一滴が闇市で扱っていた最後の一品。しかも今後、入荷の予定はないというので本当にギリギリだったのだ。決して、失敗は許されない。 少しずつ、少しずつ……こぼさぬように細心の注意を払って一滴一滴をるつぼの中へ落としていき、慎重にかき混ぜていく。 大切な人を何としてでも取り戻すために、モンモランシーは徹夜で禁断の秘薬を作り続けていた。 アルビオンより帰還してもう一週間以上が経っていた。 その日は虚無の曜日、多くの男子生徒達は朝からヴェストリ広場でスパーダの行なう剣術の稽古に参加していた。 この稽古によって己の状況、環境が変化した生徒が何人かいる。 まず、ルイズと同じクラスの同級生で〝風上〟の二つ名を持つマリコルヌ・ド・グランドプレ。 元々、彼がスパーダの稽古に参加したのは女の子にもてたいからという理由であった。小太りな体格である彼は女子には全くもてたことがない。 故にギーシュが師事しているスパーダから剣術を習って少しでもモテるためのきっかけを作ろうとしていたのだ。 スパーダの稽古は昼休みの合間、そして時々午後の授業が終わった夕方近くにも行なわれる。 それが何週間もほぼ毎日続けられており、マリコルヌにとっては極めて辛い運動となっていた。 「君、最近少し痩せたな?」 共に稽古を受けているギムリはマリコルヌの体を見て思わず呟く。 そう。結果的にその稽古をほぼ毎日受けていたのが功を成したのか、マリコルヌのぽっちゃりとした体は以前より少しではあるが逞しいものへと変わっていた。 出ていた腹も少し引っ込み、脂肪の多かった体などには筋肉がつき始めている。 「よぉしっ! もっともっと、修行に取り組むぞー!」 その指摘を受けたマリコルヌは、いつになく張り切っていた。女の子にモテる様を想像して、思わず顔がにやけてしまう。 「あっ! おい!」 「うげっ!」 結果として、組み手の相手をしていたギムリの木剣を腹へまともに受けることになってしてしまった。 「ワルキューレ!」 スパーダの直接の弟子であるギーシュ・ド・グラモンはいつにも増して戦士としての気迫を発揮していた。 剣を片手に杖を振り、青銅のゴーレムを作り出すと正面に立つスパーダ目掛けて突進させていく。 スパーダは腰の閻魔刀は手にせず左手に篭手のデルフを装着しており、向かってきたワルキューレに一発フックを叩き付けた。 バゴンッ、と鋭く重い打撃音と共に粉々に砕かれるワルキューレ。 だが、ギーシュは既に武装したもう二体を作り出して左右から時間差で向かわせていた。 「てやっ!」 さらに、スパーダ目掛けて自らの剣を投擲する。 勢いよく真っ直ぐに飛んでいく剣をスパーダはひらりと体を横に捻ってかわした。 右から来たワルキューレがメイスを振り下ろそうとする。だが、スパーダはそのまま体を勢いよく左に一転させる。 遠心力を利用して繰り出された左手の裏拳がワルキューレのメイスを腕ごと吹き飛ばし、もぎ取っていた。 砕かれた青銅の残骸が草地に放られるようにして転がる。 左から時間差で向かってきたもう一体のワルキューレもまたメイスを薙ぎ払おうとしていたが、一転し終えたスパーダはそのまま腰を低く落として足払いを繰り出した。 軽々と宙を舞ったワルキューレだったが、スパーダの頭上をギーシュの剣が回転しながら通過していくのをはっきりと耳にしていた。 「てえりゃあっ!」 念力で剣を引き戻したギーシュは即座に、立ち上がろうとしているスパーダへと駆け寄り斬りかかろうとした。 だが、スパーダは草地に叩きつけられていたワルキューレを蹴り上げ、再び宙へと舞わせていた。 「おっと!」 今までずっと、スパーダが腰だめに構えていた左拳を目にしたギーシュは慌ててその場で倒れるようにして伏せる。 直後、先ほど以上に鋭く凄まじい衝撃音と共にワルキューレが吹き飛ばされていた。 「危ない!」 「きゃあっ!」 まるで砲弾のような勢いで飛んでいったワルキューレを観戦していたギャラリー達は慌てて道を開けるようにして左右によける。 そのまま学院の外壁まで飛んでいったワルキューレはそれに衝突し、バラバラに砕け散っていた。 「ひゅーっ! 飛んだ、飛んだ!」 正拳突きを繰り出したスパーダの左手、装着されているデルフが歓声を上げていた。 「おおおっ!」 ギーシュは回避に成功したことを確認してすぐに起き上がり、そのままスパーダに斬りかかっていた。 袈裟に振り上げ、体を捻りつつ斬り返し、懐目掛けて突くなど、次々と剣の乱舞がスパーダに繰り出される。 矢継ぎ早に繰り出されるその剣を、スパーダは子供をあしらうかのように篭手で全て防ぎきっていた。 「素敵よ! ギーシュ様!」 乱舞を次々と繰り出すギーシュの表情はまるで獅子のように勇ましく、ギャラリーの女子達から黄色い声が上がっていたがギーシュの耳には届いていなかった。 「――うわあっ!」 スパーダに乱舞を繰り出し続け、剣を振り下ろそうとした途端、激しい閃光が瞬いた。同時にギーシュは自分の胸に風魔法のエア・ハンマーが叩きつけられた時以上の強烈な衝撃を感じていた。 ギーシュの体は軽く10メイルは吹き飛ばされ、剣を手放し草地に叩きつけられてしまう。 スパーダは左手を突き出したまま、静かに立ち尽くしている。 「ふぅ……。突っ込み過ぎだったなぁ、貴族の坊主」 蓄積されていた衝撃を開放されたためにどこかスッキリした様子でデルフは言った。 「痛い……」 まともに魔力開放によるカウンターを食らってしまったギーシュは草地の上で仰向けになったまま、起き上がれないでいた。 全身が痺れてほとんど動けない。 ちらりと、ギャラリー達の方を見やる。……初めはそこにいたモンモランシーの姿は、どこにもなかった。 (何故だ? どうして、僕を見てくれないんだい) 哀しそうな面持ちで、ギーシュは溜め息を吐いた。 アルビオンから帰ってきてからというものの、モンモランシーは何故かギーシュを避けるようになっていた。 以前、二股をかけてしまった件はあったものの、ギーシュの本命はあくまでモンモランシーである。 だから積極的に愛の言葉を囁いたり、薔薇の花を贈ったりなどして気を引いたり、共にお茶を飲んだりもしていた。 彼女もまんざらではないのか、表面上は仕方なさそうにギーシュに付き合ってくれたのだ。 ところが最近はどれだけ彼女の気を引こうとしても無視されてばかりであることにギーシュは困惑していた。 その理由を、「自分が弱々しいから」と判断していたギーシュはいつも以上に剣の修行に取り組むことにしたのである。 自分がモンモランシーを守れるようにもっと強くなることで振り向いてもらいたかったのだが、どうやらまだまだ彼女に認めてもらえる強さにはなっていないようだ。 そのためにもこうして更なる特訓に打ち込み、それが終わった後には諦めずにモンモランシーにアタックするのである。 体を起こしたギーシュは未だビリビリと痺れる胸を押さえる。 「……そ、そういえばどうしてタバサはいないのかな。また手合わせを頼もうかと思ったのに」 「実家に帰ったそうだ」 スパーダは左肩を揉みつつ回しながら言った。 タバサは今のギーシュの練習相手としてはちょうど良い相手であり、暇な時は手合わせをしてくれることに了承してくれていた。 しかし、いざそれを頼もうかと思ったら今日は朝食が終わってからシルフィードに乗ってどこかへ行ってしまった。 おまけに親友であるキュルケも面白そうだから、という理由で同行したためにここにはいない。 タバサは時々、授業を休んだり抜け出したりして留守にすることが多い。その際、伝書フクロウが必ず飛んでくるので何か特別な用事のようである。 そもそも彼女の実家はどういった場所なのかよく分からない。ガリアからの留学生だということは分かるのだが。 まあ、何にせよタバサとの手合わせができなかったので師匠のスパーダにこうして直接、手合わせをしてもらったのである。 スパーダとの手合わせは本気の殺し合いに等しいものだった。 以前にもたっぷり味わった悪魔としての本性を露にしていた組み手はタバサの時と違って、絶対に気は抜けない。 少しでも気を緩めれば確実に殺される。故にギーシュも本気を出し切らねばならなかったのだ。 結果的にギーシュは殺されはしなかったものの、スパーダの体術で徹底的に痛めつけられることになった。 顔こそ傷つけられることはなかったものの、体中に無数の痣をつけられている姿は実に痛々しい。 それでもモンモランシーは以前のように彼を介抱してくれることはなかったが、ギーシュ本人はこの傷だらけの姿を彼女に見せることで自分はさらに強くなったことを示すのだ。 「ああ……待っててくれよ、モンモランシー。今、君の元へ……」 足取りはおぼつかず、剣を杖にしなければまともに歩くことはできなかったが。 (ギーシュもこりないわね。あんなにボロボロになるまで続けることないのに) 始祖の祈祷書を抱えながらルイズは呆れたように嘆息する。 朝食を終えてからというものの、式で告げる詔を自室や図書館、そしてつい先ほどまでこの広場と回って初めの文程度までは考え付いていた。 そこから先で停滞してしまったので、気分転換をするため一時中断しているわけである。 「それからどうだ。何か詔は考え付いたのか」 庭の隅のベンチに腰掛けるスパーダに近づくなり、何の前触れもなく単刀直入に尋ねてきたためルイズは渋い顔をした。 「ありきたりなものかもしれないけど……」 「では、思いついたのを述べてみろ。だが、あまり批評には期待しないでもらおうか」 「ま、あまり固くなるなよ? どうせ、ほとんどは王宮の奴らに手直しされるんだから」 左手に装着したままのデルフがけらけらと笑うと、ルイズはムスッとした顔になる。 「うるさいわねっ。黙って聞いてなさい」 こほん、と小さく可愛らしい咳をしてルイズは考え付いた詔を読み上げていく。 「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……」 「どうしたい? 続けろよ」 そこで黙り込んでしまうと、デルフが急かしてきたので拗ねたように唇を尖らせた。 「これから火に対する感謝、水に対する感謝……順に四大系統に対する感謝の辞を、詩的な詞で韻を踏みつつ読まなきゃならないの。 でも、詩的な表現なんてそう簡単には思いつかないわよ」 かと言ってスパーダは芸術などにはあまり関心がなさそうなので助力は求められないし、デルフなど論外だ。 「……詩、か。では、ギーシュにでも聞いてみてはどうだ」 黙って詔を聞いていたスパーダが提案するが、ルイズは渋面を浮かべた。 「嫌よ。だって、ギーシュの考え付くのなんてどうせキザ臭いものばかりじゃない。そんなもの詔になんかしたら恥よ」 「それじゃあがんばって、自分で考えるこったなぁ」 他人事のように笑うデルフにうぅ~、と唸るルイズ。 「ねぇ、スパーダ。本当に何か良い詩とか知らないの?」 「そうだな……」 あまり芸術に興味がないスパーダとて、何もそういった分野に無知というわけではない。世を渡り歩いていると自然に耳にしてしまうものもあったりするものだ。 が、やはり今のルイズに必要なものをスパーダは耳にしたことがない。 「すまんな。やはり力にはなれん」 「……もういいわ。まだ時間はあることだし、ゆっくり考えることにする。さ、お昼ご飯にしましょう」 残念そうに溜め息を吐いたルイズは、既に生徒達は解散して自分達以外に誰もいない広場をスパーダと共に後にしていた。 昼食が終わって一時間ほど経った後、ルイズは詔を考えるのは一日中断することにし、スパーダを連れて学院裏手の草原へと訪れていた。 詔を考えるのも大事だがもう一つ……ルイズにはやらなければならないことがあるのである。 そのために昼食が終わった直後、スパーダに頼み込むことでこうして来てもらったのだった。 この場所を選んだのはヴェストリ広場では人が来るかもしれないため、スパーダの悪魔の力を見られる恐れがあるからである。 「それじゃあ、お願いね」 「うむ」 杖を抜き身構えるルイズに対し、スパーダは自分の左右に無数の赤い魔力の刃、幻影剣を浮かべていた。 なお、デルフを幻影剣にしたままだとうるさくなるために篭手にして装着している。 高速で回転する幻影剣を学院の外壁に向かって射出する。呪文を唱えていたルイズはその刃に向けて杖を振り下ろした。 「ファイヤー・ボール!」 別に呪文など何でも良かったが、ルイズはこの魔法を選んでいた。 ルイズがイメージしたのは、幻影剣の少し先の空間に爆発を起こすことだ。 ――ドンッ! 何もない空間に一瞬、透けた魔力が収束したのが見えた途端、その場所を中心にして爆発が起きた。 「おっと、おしかったなぁ」 篭手のデルフが呟く。 狙いは僅かに外れており、爆発は飛んでいった幻影剣のすぐ横で発生している。ピンポイントで狙えなかったのがルイズは悔しかった。 もっともその爆風によって幻影剣は砕かれていたのだが。 「まだまだ続けるわよっ。スパーダ、お願い!」 ルイズはさらに杖を構えてはりきっていた。スパーダは無言で幻影剣を自分の周囲に作り出していた。 自分の魔法は本来ならただの失敗に過ぎないものだ。四代系統魔法のどれにも当てはまらない。 だが、スパーダが助言をしてくれたおかげでその失敗を自分なりに活かすという道に進ませてくれた。 コモン・マジックならば何とか使いこなせるようになったとはいえ、この失敗も更に活かすことが大切だ。 ルイズの目標は多くの人に認められる立派なメイジとなることなのだから。 気分転換にもちょうど良い。 スパーダの放つ幻影剣を的にしてルイズはこの爆発の失敗……〝バースト(炸裂)〟と名付けることにした魔法を撃ち続けていた。 今のように射出され、高速で飛んでいく幻影剣を一発のバーストで撃ち落したり、大量に放たれた幻影剣を小さなバーストを連鎖的に同じ場所で発生させて一掃するなど様々なバリエーションで魔法を行使していた。 それは夕方になるまで続き、スパーダは黙々と自分の魔力から作った幻影剣を的にしてくれていたが、ルイズは次第に精神力を消耗してきて頭がクラクラしていた。 「今日はもはや打ち止めだな」 「まだよ。あともう二、三発くらいは撃つわ」 だが、それでもルイズは虚勢を張って続けようとした。 「おいおい、娘っ子。あまり無理すんなよ? 引き際が肝心だぜ」 「うるさいわね。アンタを的にしてあげなかっただけでも感謝しなさい」 茶々を入れてきたデルフに言い返すと、ルイズは改めて杖を振り上げようとした。 「あ……」 その途端、これまで以上の目まいがルイズを襲い、さらに視界もぼんやりと霞みだす。 ルイズの体はくらりと、力なく倒れそうになるがスパーダが左手で支えてくれた。その拍子に、左手で抱えていた始祖の祈祷書が足元に落ちてしまう。 「限界だ。自重しろ」 スパーダはルイズを支えたまま諌めてくる。 「もう……こんな時に……」 「だから無理すんなって言ったじゃねえか。メイジの魔法は無限じゃねえ。いくらイレギュラーな魔法つったって、精神力の消耗は他の魔法とそう変わらないんだからな」 ルイズとしてはもう少し特訓を続けたかった。 スパーダはギーシュ達に何時間にも渡って剣の稽古を付けているのだから、自分にだってそれと同じくらい特訓に付き合ってもらいたい。 悪魔であるスパーダの体力はそれこそ人間の何十倍もあるだろうが、人間であるルイズの体力や精神力はそう高くはない。 「ねぇ、スパーダ。例のデビルスターって秘薬……」 「残念だが、今は切らしている。どの道、戻らねば作れん」 悪魔の秘薬に縋ったが、やんわりとスパーダは断っていた。 「うぅ~……」 やはり、今日はもう切り上げた方が良いのかもしれない。悪魔であるスパーダの忠告はある意味、的を得ているものばかりだ。それを拒めばどうなるか分からない。 ルイズは仕方がなく、その言に従うことにする。落としてしまった始祖の祈祷書を拾おうと屈みこんだ。 「やだ……本当に今日は休んだ方がいいみたい」 「何だ」 篭手のデルフをしまったスパーダが尋ねる。 「気にしないで」 開かれていた祈祷書の1ページ、白紙しかないはずのそこに一瞬、文字のようなものが見えた気がした。 次に目を凝らしてみてもそれは霞のようにページの上から消えてしまっており、もうそこには何も見えなかった。 本当に疲れてしまっているようだ……。 拾い上げた祈祷書を抱えてルイズはスパーダのコートに寄りかかったまま、共に学院へと戻っていった。 右手の指にはめている、アンリエッタ王女から任務の褒賞として貰った水のルビーが仄かに光っていることに気づくことはなかった。 同じ頃、学院本塔正面の中庭にて、モンモランシーは設けられたテーブルの一席についていた。 頬杖を突いていた彼女は恐る恐るポケットの中から手の中に収まるほどの小さな香水瓶を取り出すと、それを両手で包んだままじっと見つめていた。 「今のうちに入れちゃおうっと……」 誰も人がいないことを確認し、モンモランシーはテーブルの上に置かれていたワインを二つのワイングラスに注ぐ。 そして、今しがた取り出した香水瓶の中にある液体をほんの一滴……僅かな量だけを片方のグラスに落とした。 あまり量が多すぎると効果が強くなりすぎるらしいので、これくらいがちょうど良い。 後は、ギーシュの到着を待つのみ。 昼間、スパーダと組み手をしたおかげでボロボロの姿になって現れたギーシュはいつものようにモンモランシーに愛の言葉を囁いていた。 「僕はこんな姿になるまで、彼の稽古を受けていたんだ」とか、「君を守れる強い男になれるなら、この程度の痛みなど、問題ないさ」などと言ってきたのである。 そんな風に熱心に口説かれると、モンモランシー自身は悪い気はしなかった。 もっとも、そんな姿を見せられた所でモンモランシーはツンとした態度で彼をあしらう。そうすることでギーシュはさらに必死になって自分に食いついてくれる。 モンモランシーがずっと彼に対してつれない態度をとり続けていたのは、そうすることで自分へもっと目を向けるように仕向けたのであった。 そして、仲直りをするということで夕方、一緒に一杯やろうということになった。……だが、ただの仲直りではない。 「でも、本当に効き目あるのかしら……?」 たった今、ワインに注いだポーションの正体は国法で作ることを禁じられている惚れ薬だ。 何故、そのような物を作ったのか。理由はただ一つ。 ギーシュはあのスパーダという男の元で貴族であるはずなのに剣の稽古を受けるようになったことで彼に夢中になってしまったのである。 おかげで自分と過ごす時間は大幅に減ってしまい、おまけに自分の知らない姿になりつつある。 それを阻止するためにも、何としてでも自分へと振り向かせてやるのだ。そのためには、たとえ違法である惚れ薬を作ることさえ躊躇わない。 スパーダは女子だけでなく、多くの男子でさえ惹きつけられるほどの強いカリスマを持った男だ。 まともにやったのではまるで勝ち目がないからである。 ……しかし、当のギーシュはいつになっても現れない。 スパーダに痛めつけられたダメージが祟ったのか、この密会の約束をしてからすぐに気絶してしまい、今は自分の部屋で寝かせてある。 あれから大分経っているのにまだ起きていないのだろうか。 だが、いずれ起きるのだからモンモランシーはそれまで待つことにした。 取り出した手鏡で髪の調子などを整え、いつ彼が来ても良いように準備をする……。 「こんな所で何してるの?」 突然、誰かに声をかけられた。振り向くと、そこにはギーシュを奪ったスパーダとルイズの姿があった。 何だかやけに疲れている様子で、スパーダに寄りかかっている。 傍から見れば父と娘みたいに見える姿である。 「ギーシュを待ってるのよ。あれだけボロボロになるまでがんばったんだから、ちょっとだけ許してあげることにしたの」 「ふぅん。今までずっとギーシュにつれない態度だったのに、急に許してあげるなんて。どういう風の吹き回し?」 「べ、別に良いでしょ。ルイズには関係ないわ」 「あっそ……。これ、もらうわよ」 すると、ルイズが手を伸ばしたのはテーブルの上に乗っていたワイングラス。 しかも、それは惚れ薬を仕込んだやつだ。 それを見たモンモランシーは慌ててルイズに飛び掛る。 「……あっ! 駄目よ! それはギーシュに飲んでもらうんだから!」 「いいじゃないの。あたし、疲れて喉が乾いてるんだから。減るもんじゃないでしょ」 「駄目だったら駄目なの!」 ルイズが手にしたワイングラスを取り返そうと、モンモランシーは彼女と取っ組み合いになった。 その拍子でワイングラスの中身がいくらか飛び散り、その一部がまだテーブルに乗っているワイングラスの中へ落ちたことにモンモランシーは気づかなかった。 スパーダはその様子を黙って傍観しているだけであったが、ふと近づいてくる人影に気づきそちらを振り向いた。 「何をこんな所で騒がしくしているのかしら」 学院長の秘書、ロングビルであった。 彼女は休日ということで朝早くからトリスタニアの修道院を訪れ、ティファニアに会ってきたのだ。 そして、たった今こうして帰ってきたばかりなのである。そこで目に付いたのが、隣で騒いでいる二人の女子とスパーダだった。 「気にするな。それより、彼女の様子はどうだ。変わりはないか」 「ええ。他の子達ともよくやっているわ。すっかり馴染んでいるわよ」 「うむ。何か異変が起きたら私にも知らせろ。スカロンにも相談をしておくといい」 ロングビルはあのオカマの男の顔を思い浮かべ、思わず渋い顔を浮かべていた。 ……気持ち悪いったらありゃしない。 「……ところで、あなた明日明後日は用事があるかしら」 「何か用か?」 「あの子があなたに会いたいっていうのよ。あなたのことをずいぶんと気に入っているみたいでね」 ティファニアがスパーダの話題を切り出すと、妙に明るくなっていたのをロングビルは思い起こす。 スパーダは魔法学院でどのようなことをしているのか、自分とはどのような関係なのかといったことを熱心に聞いてきたりするのだが、あれはまるで身内のことを知りたがる子供のような姿だった。 たとえスパーダが悪魔であろうとその内に秘めたる人間らしさは分かっているようで、また会って話をしたいなどと言ってきたのだ。 「別に今のところは用はない。付き合ってやってもいいぞ」 「そう。それじゃあ、明日は平日だから私の仕事が終わったら行くことにしましょうか」 隣では未だルイズとモンモランシーがいざこざを続けていたが、二人は気にせずに話を続けていた。 ふと、ロングビルはテーブルの上に乗っていたワイングラスへゆっくりと手を伸ばした。 帰ってきたばかりで喉が渇いていたこともあるが、スパーダと会話を続けていたためにほとんど無意識な行動であった。 ロングビルはくいっ、と中に注がれているワインを一飲みしていた。……安物のようだが、まあ悪くはない味だ。 「素直にすれば良いのよ。それじゃ、貰うわね」 一方、腕っ節は強いルイズはモンモランシーをようやく組み伏せ、奪い取っていたワインを同じように一口で飲み干してしまった。 「あっ!」 それを見たモンモランシーは青ざめた顔で声を上げる。 もう、全てが台無しだ。……このままでは。 「やあ、遅くなってすまないね。モンモランシー。僕はこの通り、すっかり回復したよ……」 と、そこへ今になって現れたのはモンモランシーが待ちわびていた男、ギーシュであった。 ルイズはあの惚れ薬が入ったワインを飲んでしまった。もしも、ここでギーシュを見てしまったら……。 「わああああああっ!」 起き上がり、上に乗っているルイズを弾き飛ばしたモンモランシーはそのままギーシュに向かって体当たりした。 二人はそのまま草地の上に倒れこんでしまう。 「おっとっと……ど、どうしたんだね。そんなに僕が待ちきれなかったのかい?」 何も知らぬギーシュはそんな彼女の行動に酔ったように笑っていた。 「いたた……何すんのよ、モンモランシー! たかがワインの一つや二つくらいでそんな……に……」 体を起こし尻餅をついていたルイズの視界に入ったのは、スパーダの姿。 その姿を目にした途端、ルイズは己の胸が熱くなるのを感じていた。 スパーダはルイズにとって、いわば尊敬できる教師か父親のような存在であった。 自分の失敗を活かせるように導いてくれただけでなく、強大な剣技をもって自分達を守ってくれた。 おまけに彼は人間のために力を尽くした正義の悪魔であり、人間の愛を知って故郷と決別したのだという。 その彼の偉業を思い出し、ルイズは更にスパーダに対する憧れを強くしていた。彼のように強くなってみたい、と。 だが、その憧憬はたった今、好意へと変わった。あのワルドに抱いていたようなまやかしなどではなく、心の底から彼を愛する思いが膨れ上がった。 たとえ悪魔であろうが、そんなことは関係ない。自分は、彼が好きなのだ。 ルイズ自身でさえ当惑するほどにその感情は大きかった。 とろんとした目つきで、スパーダを見つめる。 そして、そんな彼の傍にいつの間にかいるロングビルに対する嫉妬心が大きくなっていた。 一方、同じようにワインを飲み干したロングビルにも変化があった。 ロングビルは密かにスパーダに対して強い思いを抱いていた。 初めは同じ没落貴族ということで親近感を抱き、次は自分のために色々と手助けをしてくれた挙句たった一人残された身内までも助けてくれた彼に恩義を抱いていた。 ロングビルはそんな彼に対していつかその借りを返したいと思い、その中でスパーダに心惹かれていた。 たとえ彼が悪魔だろうと、それは変わらない。 もっとも、スパーダが自分に振り向いてくれるとはさすがに思ってはいなかった。だから、それ以上の思いを抱くことは自ら封じていた。 ところが、そのスパーダをこうして間近で見た途端、彼女もまた心の奥に秘めていた彼への思いがより大きく膨れ上がった。 この男に対して、どんな女が色仕掛けをしかけようが振り向くことなどありえないことだろう。 だが、それでもロングビルは濁流のように膨れ上がった自らの思いを抑えることはできなかった。 自分はこの男に尽くす。そう決めたのだ。 惚れ込んでいた男の顔を見て、ロングビルの顔は仄かに赤く染まった。ぽろりと、手にしていたグラスが落ち、カシャンと音を立てて割れた。 妖艶な目付きで、じっとスパーダの顔を見つめてくるロングビル。 そして、スパーダの胸にそっと自分の頭をうずめて抱きついていた。 スパーダは自分に抱きついてきたロングビルを平然としたまま見下ろしている。 「ああ……スパーダぁ……」 いつもの彼女とは思えぬ色気のある声で呟く。 「ねぇ、お願いよ……私を抱いて……」 「だめぇっ! スパーダはあたしのものなの! 他の女の人と一緒にいちゃ嫌ぁ!」 ルイズがロングビルに飛び掛るが、彼女は敵意を剥き出しにした表情でルイズを睨みつけていた。 「……うるさいわねっ! 子供が大人同士の恋路に入り込むんじゃないよ!」 「あたし、子供じゃないもん!」 二人の女は一人の男……悪魔を巡って争い合った。 倒していたギーシュの上から起き上がったモンモランシーはその様を見て唖然とした。 「へ? な、何でミス・ロングビルまで……」 「な、何がどうなってるんだね? これは一体……」 これが惚れ薬の効果なのだろう。どれほどの効果があるか少し不安だったモンモランシーだったが、これで納得ができた。 結局、それをこのギーシュに飲ませるのは失敗したが……。 しかしルイズがあんな姿を見せるのは分かるが、何でロングビルまで? 見ると、テーブルに乗っていたもう一つのグラスがない。先ほどの音と草地に散らばっているガラスの破片からして、彼女が飲んでしまったのだろう。 だが、どうしてあのグラスに惚れ薬が? 全く理解できないモンモランシーとギーシュは、二人の女が争い合う姿を見ているしかなかった。 それに対し、二人が取り合おうとしている当のスパーダはというと、 「Did you even feel madness?(気でも狂ったのか?)」 などというあまりに素っ気ない反応であった。 前ページ次ページThe Legendary Dark Zero
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1525.html
「……な……なによあの……船は……」 「オレが知るか」 大きさとしてはレキシントンより一、二回り大きい程度だが、ハルケギニアの船のように側舷砲を持たず船首に長大な砲を構えた鉄の船がそこにあった。 「まぁ、見た感じこっちのモンじゃあねぇ事は確かだろうぜ」 「……あれ、あんたの世界の船なの?」 「オレんとこの船は飛びはしねーよ……だが……形はそうだな」 船がどうあれグレイトフル・デッドの射程内に納まる大きさだ。 そう思い、ゼロ戦を船に近づけようとした時、船から何かが連続で飛んでくるのを察知した。 普通なら、スタープラチナ並みの精密さでも無ければ見えない速さだったが、印効果で何かが飛んでくる事には反応できる。 だが、操縦者は反応できても機体はそうはいかない。アムロの反応速度にガンダムが追いつけなくなったアレと同じだ。 数発が機体をかすめ、回避先に一発操縦席目掛け飛んできている。 「……チッ!」 回避不能、狭い操縦席内では避ける事もできないし、元よりベルトで固定している。 回避ができないと判断するやグレイトフル・デッドを全面に展開させ腕でガードする。 衝撃はあるだろうがモロに食らうよりはマシだ。 風防に穴が空き、それを受けるが、グレイトフル・デッドの腕に綺麗な穴が開いた。 「うぐぁ!……バカなッ!」 「え……なんで腕から血が!?」 スタンドに穴が開いたという事は当然、本体にもダメージがフィードバックされ服こそ破れてはいないが腕から血が吹き出た。 それを見たルイズが右往左往……狭いからできないのであたふたとテンパっている。 スタンドにダメージを与えられるという事から導き出される答えは一つ。 「スタンド攻撃かッ!!」 ミスタのピストルズを思い出したが、弾が誘導される気配は無かったし、なによりピストルズの射程ではない。 (船からの攻撃……遠距離型か……?ピストルズみてーに誘導されてるわけでもねーが……弾幕が邪魔で射程に入れやしねぇ) こちらも20ミリ機銃で撃ち返すが、装甲を僅かに貫いただけで効いた様子は無い。 「兄貴、あの親玉ありえねーぐらいカテーぞ!」 元々機銃弾は空戦用装備であり、対艦を目的としたわけではない。 木造船ならどうにかなっただろうが、あの艦を砕くにはパワー不足もいいとこだ。 「デルフ、オメーなんか気付いた事はねーか。ささいな事でいいんだ。何か本体が撃ってきてる気配とか感じなかったか?人影とかよ」 「わかんねぇ……船員も沢山居るだろうしよ」 ただの対空機銃なら吃水船の下に入れば飛んでこない。だが、この弾幕はその下にいても襲い掛かってくる。 急速上昇、そのまま反転し背面飛行している機体をロールさせ戻し距離を取る。 座席に体を固定させているプロシュートはいいが、そうではないルイズは後ろで色々と転がりながら悲鳴をあげている。 「も、もっと丁寧に操りなさいよぉ!」 「直撃食らうよりマシだろーが!」 旗艦の弾幕ですら厄介なのに、他の船からの援護砲撃が襲ってきた。 当然、通常の砲弾なら当たるはずもないが、小さな鉛弾をショットガンのように詰め撃ち込んで来ている。 「クソッ!親玉の弾幕だけでも厄介だってのに…仕方ねぇ!トコトンやるぜッ!」 散弾を回避しつつ上昇し援護砲撃をしてくる船の真上につけスタンドエネルギーをフルパワーで老化に回し沈黙させていく。 風石によって今すぐ沈む事はないが、援護砲撃は止まる。 だが、未だに本命の射程圏内には踏み込めない。 決め手を欠いたまま弾幕を避けていると、『ストレングス』が船首を少し傾けた。 船首の向きはようやく建て直しが始まっているトリステイン軍だ。 瞬間、凄まじい轟音が鳴り響き船首砲から砲弾が放たれた。 その砲弾を迎撃すべくトリステインのメイジが総出で風の防壁を作り防ごうとするが、それを突き抜け血と肉片が辺りに飛び散り悲鳴があがった。 砲の口径、弾速、その全てがハルケギニアのものより圧倒的に上だ。 もちろん、それを知らないトリステン軍はレキシントン落しの効果もあって壊走寸前と化している。 恐らく、次に砲撃が行われれば、もうそれは止めることはできないであろう事はギーシュが決闘したら負けるぐらい確実ッ! 「ど、どうしよう…!あそこには姫様が…!」 そうは言うが、今の自分にはどうする事もできない。 必死になって自分にできる事を探そうとするが、失敗魔法しかできない以上全く無い。 無意識にポケットの中の水のルビーを指に嵌め指を握り締める。 「どうか姫様をお守りください…」 やれる事が無いのなら、せめてアンリエッタの無事を祈ろうと思った。 「兄貴!左と正面から弾幕だ!」 「分かってる!」 言われるまでも無く右側面に機体を90°傾けさせ、そのまま右下に滑るように回避。 「キリがねー……このままじゃあ燃料が持ちゃあしねぇ」 燃費がいい方だとはいえ、急速反転や上昇を繰り返している。 航続距離2000キロを誇るゼロ戦でも、そんな無茶な機動を繰り返していては、そう長く持ちはしない。 また転がったルイズが泣きそうになりながら地に落ち開いた始祖の祈祷書を拾い上げる。 持ってくるつもりは無かったが、あそこで置いてくるなどと言えば、自分が置いていかれる恐れがあったのでそのまま持ってきたのだ。 そうして開いた祈祷書に触れた瞬間、水のルビーと祈祷書が光った。 「兄貴、座席の下に何か落ちてるぜ?」 弾幕の射程圏外に出つつスタンドでそれを器用に掴み取る 「……ボルトじゃねーか。何でこんなもんがあんだよ」 それを掴んだまま、弾幕の射程圏外に出ると、そのボルトが溶けるかのようにして無くなった。 「おでれーた、溶けたぜ」 「ボルトが溶けた……?しかも弾幕の射程外に出たとたんに…溶けた以上、あのボルトは物質じゃねぇ……」 何か分かりかけてきた。ゼロ戦のものではないボルト。それが弾幕の射程外に出た瞬間溶けた事。 そして風防に空いたさっきのボルトと同じ程度の大きさの穴。 「……弾幕の正体はこのボルトか!だが、なぜボルトなんだ……?」 リゾットのメタリカのように磁力のようなものを操り飛ばしてきているという 事も考えたが、それならばボルトなどという形を取る必要は全く無い。 「兄貴…ボルトって何に使うんだ?」 「あ?こっちにはボルトねーのか?ネジのデカイヤツで金属板とかをこいつで固定すんだよ」 「じゃあ、あの鉄の親玉にも使われてんだな」 スタンドのボルト、金属装甲の船、360°繰り出される弾幕。これで何かが繋がった。 「……でかしたぞデルフ!『どこから』『どんな方法で』攻撃しているのか、お前のおかげで全て理解したぞデルフ!」 「……悪りぃ、さっぱり分かんねー」 「射程外に出たら溶けたって事は、あのボルトはスタンドって事だ! そして、あの船『から』撃ってきてるんじゃあねぇ……!あの船『が』ボルトを撃ってきている…つまり、あの船そのものが…スタンドってこったァ!!」 「な、なんだってーーー!あんなデカイやつもスタンドってやつなのかよ!」 「何でもアリってのがスタンドだからな……だが、あんだけデカイスタンドを操るとなると……本体もかなりの化けモンだな」 「スタンドはスタンド使いには見えなかったんじゃあねぇのか?溶けたって事は物質と一体化してるわけじゃねぇしよ」 「……スタンドエネルギーがデカすぎるって事ぐらいしかねーな、あんなタイプのスタンドなんざ組織の情報網にも引っかかった事ねーよ」 だが、船の正体が分かったところで、あの弾幕をどうにかしない事には詰みだ。 スタンドパワーの枯渇を待つ。Noだ。持続力A以上は間違い無いだろうし、まずこちらの燃料が持たない上に時間も無い。 弾切れを誘う。これもNo。スタンドである以上、スタンドパワーが尽きない限り弾幕は途切れない。 射程外からの機銃弾による攻撃。問題外だ。スタンドエネルギーが実体化してるという事はダメージはあるかもしれないが あの大きさに20ミリの穴を開けたとしても大してダメージにはならない上に、修復されかねない。 250キロ爆弾でも積んでれば話は変わってくるのだろうが、そんな装備はこのゼロ戦には付いていない。 ハッキリ言えば打つ手無しだった。 「なにこれ……古代ルーン文字?」 今まで魔法が使えなかったぶん、それに反比例するかのように勉強に勤しんでいたルイズである。 古代ルーン文字を読むことができたのは当然といえた。 「序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。 四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す」 呟くような声で読み上げるが、前で必死こいて回避運動を行っている一人と一振りには聞こえてない。 「チッ!せめて弾幕の軌道と間隔さえ読めりゃあ接近できるんだがな」 「でもよぉ兄貴、近付いたら近付いたで、回避しようがねぇよ」 確かにそうだ、広域老化では効果が出るのに多少時間がかかる。 至近距離では弾幕を回避する事はできず直撃を受ければ良くて機関停止、悪くてその場で爆散だ。 「神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。 神が我に与えしその系統は、四の何れにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん」 「こっちの位置をどうやって把握してるかだな……エアロ・スミスみてーに特定のものを探知しているか……視認で撃ってきてるかだが」 レーダーなどで確認しているのなら打つ手はないが、視認で補足してきているのなら、まだ一つ打つ手はあったが、確証が無い。 「これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。 『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。 『虚無』は強力なり。また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。 時として『虚無』はその強力により命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。 たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 #center{ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ} 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。初歩の初歩の初歩の呪文。第一の爆発『エクスプロージョン』」 その後に、呪文が続いたがルイズは呆然としている。 「始祖っていうわりに頭脳がマヌケじゃない……?指輪がなくちゃ祈祷書が読めないんじゃ、誰がその注意書きを読むのよ」 だが、祈祷書が読めるという事は…… 「わたしが『虚無』の使い手って事なの?」 『エクスプロージョン』と自分の失敗で起こる爆発。 効果としては同じだ。なら今まで失敗と思っていた魔法が『虚無』だったとしたらどうか。 思えば誰もあの爆発を失敗と呼び笑っていた。 ただ一人、その爆発も使い方次第でどうにでも変わる『自信を持て』と言ってくれたのはプロシュートだ。 なら、祈祷書が読める以上、自分を信じて、それに頼るしかない。 そう思った時スデに行動していた。 「このクソ忙しい時に何やってんだッ!」 座席の隙間からルイズが身を出し、操縦席にやってきて座り込んだ。 「……もしかしたら、何とかなるかもしれない……うまく言えないんだけど選ばれちゃったかもしれないのよ」 「何にだ?」 よもやスタンド能力に目覚めたのではないかと思ったが、どうやらそうではないらしい。 「いいから、合図したら、ひこうきをあの戦艦に近づけてちょうだい!」 「……自信はあんのか?」 「……ぁ……る」 「聞こえねー……!自信を持ってんなら、自信を持って答えろ!」 「……あるわよ!あるから言ってるんじゃない!!」 そう答えるルイズを見て、口の端を上げ笑った。 「やれんのは一回限りだ。しくじったら次はねー。それに、こいつは賭けだぜ? もしかしたら墜とされっかもしれねーが」 「いいから近付けなさいッ!使い魔は黙ってご主人様の言う事に従うのッ!」 「了解、『ご主人様』」 急速上昇、敵旗艦の遥か上空まで駆け上がった。 「子爵、どうやら敵の竜騎士はどこかに逃げたようだが」 「ガンダールヴの能力の射程にさえ入れなければいいわけですからな… しかし、あの男がそう簡単に退くとも思えますまい、念のために艦の上空に遍在を二つ配置していますよ」 「ウキャアアアアア」 猿―フォーエバーがそう叫びを上げると壁の中にめり込み消えていく。 今までは遍在のワルドが、ゼロ戦の位置を捕捉し使い魔としての能力を使いフォーエバーに指示していたが、自らが捕捉し、攻撃を行う気になったようだ。 ストレングス上空約3千メートル、眼下に映る巨艦ですら点のような大きさだ。 もちろん酸素濃度は結構低い。そんな状態で風防を開けて、スタンドでガッシリと掴まれたルイズが風防から顔を出しているのだからスゴイ事になっている。 「ぜぜぜ、絶対に離さないでよねぇ~~~!」 さっきまでの、自信はどこにブッ飛んだのか、半泣きに近い状態でそう叫ぶ。 まぁスタンドが見えないため、何に固定されているのか分からない状態なのだが。 「どうする?止めんのなら今だぞ」 そうは言ったが、答えはスデに分かっている。 さっき見せた目には明確な覚悟が宿っていたからだ。 「ばばば、馬鹿言うんじゃないの!わわ、わたしがやらないと姫様が危ないんだから!!」 その言葉と同時に機首を巨漢に向けスロットルを限界まで絞る。レシプロ機の特性上プロペラがすぐに止まる事は無いが時間の問題だ。 巨大戦艦に向けての垂直降下。さらにすれ違い様にルイズが、『エクスプロージョン』を放つ。 言うなれば、米軍機が得意としていた戦法の一つ、急降下爆撃だ。 音で感知されないようにエンジンは止めておかねばならないが、水面に浮かぶ船とは違い、下にも空間は十分にある。 フルスロットルにし最加速するまでは十分な高度が。 これが水上艦ならバンザーーーーイと叫びながらの特攻だが、宙に浮いている事が幸いした。 もちろん、懸念はある。 エアロ・スミスのようにレーダーで特定のものを探知するようなタイプであれば早々に迎撃される。 探知か視認か、このどちらかによって、結果は違う。 賭けだった。それはもう、どこぞのギャンブラーが見たら迷わず『グッド!』と指を向け叫んだぐらいに。 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ その詠唱と共にゼロ戦が自由落下を始めた。 垂直に落下しているので風防から身を乗り出しているルイズは当然、下を思いっきり見る事になる。 掴まれているとはいえ、この高度からの急速降下である、絶叫マシーンなぞ比較にならないぐらいアレなのだが詠唱そのものは途切れる気配は無い。 「……ゲームにハマってるメローネと……同等の集中力だな」 「それってスゲーのか?」 「言いたくねーが、そういう時のメローネを邪魔できんのはブチキレたギアッチョぐらいしかいねーよ」 「あー……そりゃあスゲーな」 ギアッチョの事は聞かされていたので、そのスゴさが一発で理解できたようだ。 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 呪文の詠唱を始めて、すぐに降下に対する恐怖心など無くなった。 なによりどこか懐かしいようなリズムが、それを許さなかったからだ。 体の中で何かが生まれ、行き先を求めてそれが回転するかのような感覚だ。 コルベールエンジンを爆破した日、自分で言っていた事が今まさに『言葉』でなく『心』で理解できていたッ! ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ 重力によりさらに加速、敵艦との距離が凄まじい勢いで詰まる。 「……風が乱れた?」 ストレングス上空で風竜に乗り哨戒中の遍在ワルドx2だが周辺の風が乱れた事に気付いた。 周りに船が多数浮いている中よく気付いたのだが、微かに乱れただけで詳しい場所も分からない。 まぁ、この状況でそれに気付いたのは、風のスクウェアだけの事はある。 それに、反応してフォーエバーも壁から出てきたが、ストレングスの船内に居る相手なら手に取るように把握できるが、船外ならそうはいかないのでワルドに任せている。 本来ならただで人間に従う機など毛頭無かったが、学ランの男にボコボコにされ辛うじて生きてはいたが色んな所が再起不能になって暮らしていたところ この男がそれを治してくれた(正確に言えば水のメイジ)というのもあるが、何故かDIO様のように仕えなくてはならないという気になっていた。 「来るか……?ガンダールヴ!」 下方、側面を見渡すが、何も無い。となれば上しかないが、あるのは陽光眩しい太陽だけだ。 だが、その太陽に影が差すと、その場所が特定できた。 「日の中か……!やってくれる!」 少し光が薄らいだ太陽の中から降下してくるのは緑の機体だった。 「……あのハゲ!日食は今日じゃあねーかよ!」 太陽を背にし、その光に紛れてギリギリまで接近するつもりだったが、日食のおかげで予定より早く探知された。 「逃げねーとモロに食らっちまうぜ兄貴!」 ここで回避する事はできるが、そうなればこの策は二度と通用しない。 つまり、アレを沈める事ができなるなる。 「いいや、ここは突っ切るしかねぇ!」 フルスロットル、最大加速しながら降下する。重力と推進力によって一気に限界速度に達し突っ込んだ。 ジュラ……イサ・ウンジュー…… その風圧に思わず詠唱が途切れそうになるが、急にそれが弱まった 「グレイトフル・デッドを前に出しといてやったから、ちったぁ……マシになんだろ」 背負わされている形になっているのだが当然見えないルイズには分かった事ではない。とにかく風圧が弱まった事だけは事実だ。 操縦している方も喋っている場合ではないのだが、同じようにスタンドの体で風圧を弱めているため何とかなった。 「ホキョァァアアア」 「止まれぇぇぇぇぇガンダールヴッ!!」 ストレングスから弾幕が放たれるが、限界速度で高速移動している飛行物体に当てるのは至難の業だ。 水平飛行している状態なら数に物を言わせ当てることもできたが、この場合は違う。 減速する気配が微塵も無い上に、むしろ加速しながら突っ込んできている。 ただ、機動飛行を行っているわけではないので、少しづつだが、弾幕がゼロ戦をかすめ始めた。 バキィ!と嫌な音をたて開け放った風防が脱落し、周りをボルトの弾幕がかすめる。 「チッ!あのハゲ……!戻れなかったら老化で全滅させてやっからな!」 「その前に生きてりゃあな……」 スデに弾幕の射程内。ストレングスまで400メートルといったところだ。 この速度なら、一瞬。だが、その分直撃は貰いやすくなる。 ハガル・ベオークン・イル…… 詠唱が終わるが、その瞬間この呪文の威力を理解した。 周辺空域全てを巻き込むであろう、その威力を。 選択肢は二つ。殺すか。殺さぬか。 破壊すべきは何か。 一瞬、迷いが生じたが直ぐにそれを断ち切る。 (『詠唱する』と心の中で思ったなら……その時スデに行動は終わっているのよね……) 翼に穴が開くが、速度は落さない。むしろ落したりでもしれば、それこそ蜂の巣だ。 風竜に乗った遍在ワルドと目が合った気がしたが、構っている暇など一切無い。 そのまま、ストレングスとすれ違うように降下し、胴体部に直撃を果たすボルトの弾幕が見えた瞬間、光の玉が辺りを包んだ。 ようやく到着した二人と一匹だが、艦隊が光の玉に包まれていく光景を見た。 「なによ……あの光は……」 「分からない……」 「でも、あれなら、トリステインが勝ったって事じゃない?」 ラ・ロシェール付近に展開し壊走寸前だったトリステイン軍からも歓声が聞こえている。 「……まだ!」 タバサがそう叫ぶと光が晴れる。殆どの艦は炎上し、甲板とマストを燃やし墜落していたが、唯一本命の巨大戦艦だけは、炎上しながらも健在な威容を見せていた。 スタンドの船という事が災いした。 本体、つまり、フォーエバーには直接ダメージは入ってないのだ。 核。ストレングスがベースとしている艦が炎上していれば墜落していただろうが、巨大なスタンド像に阻まれ、こちらは損傷には至っていない。 もちろん、船に与えたダメージの分は本体にもフィードバックされているが致命傷というわけではない。 「フフ……ハハハハハハハ!」 船の中でワルドが笑う。ただひたすら笑う。 あの光を見た瞬間、それを虚無だと確信したのだが、その伝説の虚無すらものともしない艦を手に入れた事に笑った。 「ギャオオオォォォォ」 だが、その笑いをも打ち消す獣の叫びが辺りに響き渡る。 その声の主はフォーエバーだ。 船体を焼かれているのだから、当然ある程度本体も焼かれている事になる。 こうなれば、ワルドに対しての忠誠など一切無い。使い魔になって日が浅いというのも災いした。 敵を倒すという本能のみが頭を支配する。 スタンドに目覚めているだけあって、普通の猿とは違う高度な頭脳を持っているのだ。 通常なら制御できていたが、焼かれた事でベイビィ・フェイスの息子もびっくりな暴走っぷりを始めている。 主砲はスタンドではなく実弾なので、それを込める乗員などその他多数乗船していたが、一人の例外も無く船の中に飲み込まれようとしている。 「こ、これは……馬鹿な……!」 ワルドとて例外ではない。スデに半身を底なし沼にハマった旅人のように船体に埋めている。 必死に、フォーエバーと連絡を取ろうとするが、怒り一色のフォーエバーにはそんなもの聞こえてすらいない。 「アレでまた墜ちねーのか……」 「もー無理だ、逆立ちしても無理だね」 機首を翻し、光の起こった方向を見たが、炎上しながらも依然として健在な戦艦が上空にあった。 弾幕の射程に入らないようにしていると、見慣れた竜が戦艦に近付くのを見た。 「あの馬鹿が……ッ!死ぬぞ!」 タバサ&キュルケinシルフィードなのだが、どうやら戦艦上空に向かおうとしているらしい。 へばっているルイズを後ろに押し込むと、再び高度を上げるが、シルフィードに向け弾幕が放たれた様子は無い。 「やはり、視認で撃ってきたってわけか……?なら本体はどこだ?」 甲板を見渡しても本体らしき者は居ない。中に本体が居ると判断し広域老化を仕掛けるべく甲板上空に付けるが、それより先にシルフィードがそこに居た。 「オメーら邪魔だ!」 そう叫ぶが、距離もある上に、ゼロ戦自身の爆音で聞こえていない。 船自身がスタンド。迂闊に接近するのは自殺行為だ。グレイトフル・デッドの 長大な射程があればこそ、ギリギリまで接近したのだが、シルフィードは近付きすぎている。 「ここまで近付いても攻撃してこないなんて……何があったのか知らないけど先手必勝ね!」 普通の船なら、近付くまでに船員なりが攻撃を仕掛けてくる。旗艦なら当然メイジも居るはずだ。 だが、現在フォーエバー暴走中につき船から反撃が行われる事は無い。 それで、二人して乗り込もうと思ったのだが、この船自身がスタンドなどとは微塵も思っていない。 そして、シルフィードが最も接近した時、二人と一匹に船体からパイプなどの部品が絡みついた。 「なな、何よこれ!」 「……引っ張られる!」 (こ、こいつおねーさまに何をーー!……はッ!まさか、その触手っぽいモノでおねーさまに、あんな事やこんな事を!……少し見てみたい気も!) ちょっとアレな想像をして悶えているシルフィードだが、相手はあの家出少女(14)に手ぇ出そうとした猿。 何が言いたいかというと……正解である。 獣の叫びを上げながら、壁から巨大な猿……オラウータンことフォーエバーがにじり出てくる。 怒りで顔を通常の三倍の如く赤く染め上げ、絡め取られている二人+一匹に近付いていく。 タバサが辛うじて握っていた杖で『ウィンディ・アイシクル』を唱えたが、フォーエバーに当たる直前に 床の壁がフォーエバーをガードするかのように盛り上がり氷柱を阻んだ。 「……錬金!?……違う……まさかスタンド!?」 改めてフォーエバーを見据えるが、刺さった氷柱を抜き、火傷に押し当てたり、かじりつつタバサを見ている。 「猿のくせに……気に入らない顔してるわね…!」 そっち方面の事に関しては百戦錬磨のキュルケさんにとってはその猿の顔は今まで見飽きたような顔だ。 「なに?この微熱のキュルケを無視してタバサに?……いい度胸してるじゃない!」 もちろん、そんな露骨な表情で迫ってきた男達は火葬される事になっているのだが、それが、自分にではなくタバサに向けられている事が気に入らなかった。 Fuck you……ブチ殺すぞエテ公 そんな危ない呟きが聞こえたのは多分幻聴だ。 そして、『フレイム・ボール』が放たれるが、フォーエバーの遥か手前で壁に阻まれ炎上している。 魔法―ストレングスから見ればスタンド能力だと思っているのだが、それを見て、邪魔だと言わんばかりにキュルケとシルフィードを船体に半身を沈めさせる。 「ヤッバイ……逃げなさいタバサ!」 「……無理」 人間の五倍近くの力を有するオラウータンだ。並の人間でも太刀打ちできないのに、普通より小柄なタバサが拘束から逃れるのは不可能といえた。 「ウホ、グフホホホ」 氷をかじりながらモット伯もドン引くような笑みを浮かべゆっくりと近付く。 (ああ!おねーさまの初めてが、あんな猿に!?……でも大丈夫なの!後でシルフィが慰めてあげるのね!) フォーエバーとは別の方向でなんか興奮しているシルフィードを見て、これを乗り切ったらどんなお仕置きをしようかと思ったのだが、それどころではない。 だが、フォーエバーとタバサの距離が3メートルに達したところで、フォーエバーが止まり右手を横にかざした。 瞬間、その横に『ウィンディ・アイシクル』を止めたものより厚い壁が盛り上がり、そこに機銃弾が撃ち込まれた。 「チッ!」 それと同時に、上空をゼロ戦が通り過ぎ、その場に風が流れる。 「最悪、巻き込もうかと思ったが……氷食ってやがんな」 忌々しげに眼下のフォーエバーを見るが、ガリガリと氷を貪り余裕とアレが混じったムカつく笑みを浮かべている。 本来ならオラウータンと人間の寿命差でフォーエバーが先にくたばるのだが、タバサが魔法を使ったのが仇になった。 こうなれば、広域老化は役に立たない。 直触りは問題外だ。ゼロ戦を捨てたとしても船上はフォーエバーのホーム・グラウンド。 例えるなら、虎の球団のファンが大勢乗った電車の中で一人オレンジ色のマークの球団の帽子を被り、それに乗るようなものだ。 機銃弾も通じない以上、残った手段は、キュルケの炎でフォーエバーの体温を上げさせる事だったが肝心の魔法がフォーエバーの遥か手前で止められているから期待できそうにない。 もう一度反転し、機銃を撃ち込むが、さっきと同じように壁に阻まれフォーエバーに届いていない。 「エテ公が……ここで、撃ってくれば墜とせるってのに、やらねーって事は…ナメきってやがんなッ!」 「こいつじゃ、あの壁を貫通できねーしな。どうするね兄貴」 連続して同じ場所に撃ち込めば貫通できるだろうが、ゼロ戦自体が高速で動いている以上それはできない。 ガンダールヴ印の効果で精密射撃自体は可能になっているが、あの壁を貫通できるぐらい同じ場所に連続射撃をするというのは無理だ。 遠すぎれば弾はバラけるし、近ければ、その速度故に貫通するだけの量の弾を撃ち込めない。 「ホワイト・アルバムを相手にしてる気分だぜ……クソッ!」 あの堅牢な装甲も、同じ箇所に立て続けに攻撃を食らったり、一点集中の強大な負荷をかければ破れるのだが、それをやるのがディ・モールト難しいのだ。 つまりまぁ……目の前の猿がギアッチョと被り、ムカついてきた。 「速すぎるなら速度落せばいいんじゃないか?」 「これで限界だ、これ以上落すとこいつが墜ちるからな……」 もう少し落せない事も無いが、水平飛行をギリギリ維持できる速度だ。上昇や旋回などは当然できない。 まして、照準の調整などしようものなら即、失速して墜落だ。 「いっその事、こいつを空中で止めちまうってのはどうだ?」 「馬鹿かオメーは?プロペラが回って前へ進んでるからこいつが飛んでんだろーが」 「いや、魔法でさ」 悪くは無いが、誰がやるかが問題だ。 タバサは、もうスデにがっつりと絡め取られ、ルイズはヘバっているし、爆発を起こしかねない。 となると残っているのは、半身を埋めているキュルケだが、フォーエバーに気付かれずに伝える手段が無い。 スタンド使い同士なら、意思疎通も可能だが、そうではない。もっともフォーエバーにも聞こえてしまうが。 直接伝えるのがベストだが、そんな真似ができる人間はここには――― 「……オメー確か丈夫な方だったよな?」 「ああ、そりゃあ伝説だしな」 「それじゃあ、今から言う事をしっかり覚えとけ」 「んー?どうするんだね?」 説明し終えると、デルフリンガーの柄を握り、キュルケの方を見る。 半身を埋めているものの、杖を持った方の手は出ている。良好だ。 「イタリアに戻れたら言えねーから、先に言っといてやる。世話になったな『相棒』」 「兄貴……俺の事を初めてそう言ってくれたな……!もう泣きそぉぉぉぉぉぉぉぉ」 言い終える前に、デルフリンガーをキュルケの方に向けブン投げる。 見下ろすと、見事にキュルケの近くに刺さったデルフリンガーとキュルケが何やら言い合っているが問題は無いと判断し再び上昇する。 スデに、日は半分欠けている。一発勝負だ。 「あたしに刺さってたらどうしてくれんのよ、この剣は」 「俺に言うな。投げたのは兄貴だぜ…で、大丈夫なんだな?」 「任せときなさいな。あのエテ公に一泡吹かせられるんなら何だってやるわよ。……タバサも色々と危ないみたいだし」 猿を睨むが、腕をタバサに向け動かしている。 タバサの方も見るが、フォーエバーが腕を動かす動きに合わせパイプがグネグネと動いている。 正直言って、触手そのものと言ってもいい。 ジュルリ そんな音がしたが、デルフリンガーは幻聴だと思った。というかそう思わせてください。 「そ、そろそろ、くるぜ」 キュルケの方は見ないでそう答える。見れば今までの価値観が崩れてしまいそうな気がする。 今までタバサの方に向けていた腕を上に向けるとフォーエバーを覆うように壁ができた。 それと同時に、直上方向から機銃弾が浴びせられるが、さっきと同じで貫通はしない。 20ミリ機銃でも突破できない厚さの上にスタンドだ。 普通のものより強化されている。 特攻という事も考えたが、この船は俺のものだ。壁を介して何時でも逃げられる。 何より、この近さでは、この少女も巻き込むはずだ。 上は放っておいても問題無い。となれば、何かしてきそうなのは捕獲している一人と一匹かと判断し視線をメンドクさそうにそっちに向けると 赤髪の女が杖を振っている事に気付いた。 それを見るや、手を掴むように握りこむ。 「がッ……レディにこんな事するなんて……礼儀を知らないわね……エテ公が……うぐぁぁ……!」 (痛い痛い痛い痛い痛い痛いのーーーーー!) 人間の5倍近いオラウータンの握力とスタンドパワーによる締め付け、下手すれば埋もれている部分から切断される。 フォーエバー自身、キュルケにもアレでナニな事をするつもりでいたが、ド真ん中ストライクゾーンなのはタバサだったため、放置していたが害になるのなら始末する。 そう判断し、そちらに集中を向けたため、それが一手遅れる事になった。 直上方向から壁を穿つ音が聞こえていたが、その音が長すぎる。 機首を翻していなければ機体を船にぶつけているはずだが、それも無い。 思わず上を見上げるが、見た物は同じ箇所に銃弾を受け、脆くなった壁を突き破り己の額に向かってくる20ミリ機銃だった。 「資料で見ただけだが…ナランチャがトドメを刺す時はこう言っているようだな……」 機体を90°傾けさせ機首をフォーエバーに向けた機体の中でスタンド使いにのみ聞こえる会話をフォーエバーに向ける。 「ブゴォォォ!ウグアボゴォォォォ!!」 勢いが殺されている弾とはいえ、生物を貫く事ぐらいはできる。 だが、勢いが殺されているだけあって、一発で致命傷に至らなかった事が、この猿の不幸か。 「ボラーレ・ヴィーア(飛んでいきな)…だったか?」 トリガーを押しっぱなしにし銃身が焼きつかんばかりに弾切れまで撃ち尽くした。 「はぁ……ものすごい締め付けだったわね……千切れるかと思ったじゃない」 ちょっと言葉がアレだが気にしない。 猿とタバサの方を見るが、どうやらギリギリ一歩手前で無事なようで一先ず安堵した。 (死ぬかと思ったのね……でもこれから、泣き崩れるおねーさまをシルフィが優しく抱いて……) (なにやってるの?) (はッ!おねーさま、何もされなくてよかったのね……) 現実に引き戻され、ちょっと残念そうに答えるシルフィード。自重しろ。 (……お仕置き) (へ?な、何を!?ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサヤッダッバァァァァ) 解放されたタバサが恐ろしく素早い動きで、シルフィードの口に捻じ込んだのは、ご存知『草』が入ったアレだ。 韻竜も一発で昏倒させるその威力に引いたが、船体が溶け始めた事にはビビッた! 「兄貴がこの船スタンドって言ってたから、あのエテ公がスタンド使いって事だな」 「……それって、あの猿を倒したからこの船が消えてるって考えていいの?」 「そういう事だな」 落ちる。そう思った瞬間、垂直に空中で浮いているゼロ戦を水平に戻した。 タバサは気絶したシルフィードで手一杯だ。 直上方向から垂直に降下し『レビテーション』で浮遊させ装甲を貫通できるまで機銃弾を叩き込む。 推力を落としているため、前に進むこともなく墜落もしない。 水平方向なら惰性で照準がズレるため、降下しながらの作戦だ。 水平になった瞬間、再稼動。『レビテーション』が切れる前に飛行可能速度に達するべく、勢いよくプロペラが回転し、その場を離れる。 「どーやら任務完了ってわけだが……間に合うか?」 上空を見上げると日は2/3といったところか。 このまま行けば間に合うだろうが……後ろでヘバっているルイズを見た。 船があった場所を見ると、スタンドが溶けながら核となる船が炎上しながら落ちていっている。 スタンドは溶けたが炎はそうではないため燃え移ったようだ。 タバサとキュルケはスタンドの中に飲み込まれていた船員をそっちに移している。 ストレングスにはメイジも居たため、まぁ何とかなるだろう。 ワルドっぽいヤツも居たような気がしたが、早々に逃げたようだ。 「あっちも手一杯ってわけか……仕方ねーな」 言いつつ機首を下げようとすると、後ろから声がかかった 「なに……やってんのよ?……帰るんじゃなかったの?」 「オメーみてーなの連れていったら、オレが色々困るんだよ」 ルイズが付いてきて、なおかつチームの連中が生きて万が一にでも見られた日には、ハイウェイ・トゥ・ヘルもんである。 そうでなくても、ボスを暗殺せねばならないのだ。暗殺チームの戦いにルイズを巻き込む気は無い。 そう言うが、左手のルーンがさっきよりも少し強く光っている事には気付いていない。 「……わたしが邪魔ならハッキリそう言いなさいよ。いいわ、今日であんたクビね!」 「あ?イカレたのか?この状況で」 「好きにしていいって事よ……元の世界にでもイタリアってとこにでも勝手に帰りなさい」 「だからオメーを連れて行く気は……な……!……てめー何やってる!外は時速350キロだぞ!!」 後ろに居たルイズが、また隙間から前に出てきて、外に身を乗り出そうとしている。 この高さから落ちれば、速度の関係無しに紫外線の直撃を受けたコルベールの毛髪が抜け落ちるぐらい確実に死ぬ。 「わたしを誰だと思ってるの……!虚無の使い手『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』よ?」 「……スタンド使いも能力の目覚めたてが一番危なっかしいんだよ。……本気か?」 「虚無の使い手のわたしが、使い魔如きに心配される覚えなんてないんだからね!でも一つだけ命令よ」 「クビなんじゃあなかったのか?」 「う、うるさい!一々揚げ足取るんじゃないの!……その組織ってとこを相手にしても死なない事」 「オメーに言われるまでもねーよ。オレ『達』は簡単には死ななねぇ」 「な、ならいいわ!……あんたも少しはわたしを信頼してよ……」 「……マジってわけか……止めはしねーが後ろに気をつけろ。後で見たらオメーの肉片が付いてましたとかじゃあ洒落にもならねぇ」 「い、嫌な事いわない!……皆に伝えて欲しい事は無いの?」 「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)。こいつだけで十分だが、しばらく時間が経ってから言えよ」 「なんで?」 「……オメーがそれ言った後に帰れずに戻ってきた時の気まずさを考えてみろ」 「あー……それ、なんかすっごく分かるわ」 別れの挨拶をしてから、後でその本人が現れる。B級映画でもやらない、洒落にもならない行為だ。 「それじゃあね……今だから言うけど結構楽しかったわよ」 「餞別だ、グレイトフル・デッドで運んでやる。あと、デルフの鞘も持っていけ」 言うと同時に、ルイズを持ち上げる。 「死んでも責任取らねーからな」 「く、クビにした使い魔に責任取ってもらう必要なんて、無いわよ」 「言ってろ」 フルパワー。尾翼に当たらないように放り上げるようにルイズを投げた。 投げると共にフルスロットル、太陽に向け急速上昇。 少し気にはなったが、後ろは振り向かない。 一端の覚悟を持って望んだのだ。信頼してやるのが礼儀というものだろう。 さて、こちらは重力に従って降下しているルイズだ。 確信があったわけではないが、自分の系統を見つけた事により、それも使えるであろうという奇妙な感覚があった。 「落ち着くのよ…ルイズ・フランソワーズ……落ち着いてやればできるわ……あいつも言ってたじゃない」 風圧で手に持つ杖が飛ばされそうになるが、しっかりと握り締める。 これを飛ばされたら、パール・ジャム決定だ。 呪文を詠唱し風圧に逆らいながら杖を振ると降下の速度が落ちる。 「『レビテーション』……やっと成功ってとこね」 地面に着陸すると同時にガクッと意識が遠くなる。今ので最後の最後まで精神力を使い果たしたらしい。 完全に意識を失う瞬間、キュルケとタバサが近付いてくるのが見えた。 そして、翌日。学院で目が覚めたルイズだったが…使い魔がどこにも居ない事に……泣いた ←To be continue...? 戻る< 目次 続く