約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/edge-ticket/pages/47.html
【用語名】 祈祷 【読み方】 きとう 【分類】 用語 【詳細】 一般的な定義では「神様に叶えてほしい願いを伝え、加護が受けられるように祈ること」。 「祈願」との違いは神職が関わるかどうかであり、一般的に祈祷は神主や祈祷師などが執り行い、祈願は自ら神様に願いを捧げる。 バランサーらAIが設計、改良したテラフォーミング用の機械群は地球から離れた惑星群でのテラフォーミングに失敗、敗退を続けることとなるが、神道式の祈祷を行った機械群は星々の攻撃に対して「祈祷していない機械群」よりも抵抗できたことからAIはその差異を分析。 それによって神道が何らかのパワーを地球(地脈、流体)から付与され、「祈祷」によって神道のパワーを対象に移植できる、ということが判明。 移住艦群は神道のパワーを微弱ながらに有しているため、艦群で祈祷を行うことで地球よりも低いパワーで移植することが出来る。 それが有る機材は通用度が高く、無い機材は通用度が低い。 なおバランサーは移住艦群にパワーの源が有るかどうか試験を行い、宇宙空間上の資源から無人工場を作り機材を生産した上でその工場で祈祷をしたものも、結果としては無祈祷のものと誤差範囲の抵抗力の差しかなく移住艦群から祈祷のパワーが離れて薄れたものだと判断されている。 結果として祈祷による神道パワーの源は、移住艦群で休眠している人類のうち、主に日本の出身者に由来する、ということとなった。 その後神道の実験をモデルケースとし、各神話、宗教に由来する方法で機材に神頼みを行い、それら機材は高い抵抗力を発揮できるようになる。 が、結局機材の投入のみでは加護のパワーが足りず効率が悪いことも明らかになった上、結局壊れるので材料、資材の消費も激しく、人類から離れると加護の力も落ちていくことも問題視され、最終的にプロジェクト 神有星 へつながることとなる。
https://w.atwiki.jp/syukuukuwo/pages/31.html
祈祷について 祈祷一覧聖律 天律 死律 獣律 龍率 喰律 聖樹律 祈祷について 神々の物語や神のように信仰されるもの、もしくは心の底から信じられているもを崇め称えることで自分の心の信仰心に魔力が反応し、その力を行使できる。宗教内での法則を「律」と呼ぶ。 この力は信じる心がゆるぎないものであるからこそより強くなっていく。 祈祷一覧 聖律 説明:天葬教の祈祷は光輪が中心となっており、光の輪は罪人を断罪し、彼らの信仰世界における「律」によって他者を正す概念が具現したと考えられる。最初に扱えるとされる祈祷の名は「聖律の光輪」 天律 クレリア聖教の祈祷は光の槍が中心となっており、天の裁きの概念が具現化したと考えられる。彼らの信仰世界における「律」は裁きは救済の光で在り、アンデットたちを浄化することができる。最初に扱えるとされる祈祷の名は「天降る光」 死律 説明:天葬教の祈祷は光輪が中心となっており、光の輪は罪人を断罪し、彼らの信仰世界における「律」によって他者を正す概念が具現したと考えられる。最初に扱えるとされる祈祷の名は「聖律の光輪」 獣律 獣霊神仰は自然霊に分類される獣たちの祖霊を信仰するものであり、その力を借りていると考えている。彼らの「律」は自然と共に生きる事であり、自然信仰ともいえる。獣の力の一端を身に宿すことからオークに類似した力を実行できる。最初に扱える祈祷の名は「獣爪」 龍率 龍の頂の祈祷は龍が扱ったとされる龍雷と龍炎を再現する。 龍の雷は赤く、炎は赤黒いものであるとされる。彼らはこれらを極めることで龍に至ろうと考えている。最初に扱える祈祷の名は「龍の落雷」 喰律 神喰いは神性を有する存在を食らうことで力を得ると考えており、他者を食らってそのものが有する力を自らのもにするという異端の宗教。最初にして最後の彼らの祈祷の名は「神喰らい」 聖樹律 聖樹と呼ばれる天高く伸びる大樹を神聖視したものであり、聖樹の祈祷は信じる心で小さな聖樹を具現化させその下にいるものに精神的な回復や肉体的な回復を施すことができる。最初に扱える祈祷の名は「聖樹の恵み」
https://w.atwiki.jp/ryoudan-trpg/pages/320.html
■キャラクター名:アリア・シルバートーン ■プレイヤー名:MK ■キャラクターレベル:Lv5 ■クラス :吸血鬼/電脳使い ■属性 :天/冥 ■種族/ワークス/二つ名: 吸血鬼/路上演奏者/ ■能力値 筋力 器用 感覚 理知 意思 幸運 6 6 7 9 9 6 CF修正値(幸運÷3) プラーナ内包値(7-CF修正値) 2 5 ■戦闘能力値 ベース クラス レベル 特技他 未装備 装備値 合計値 命中 6 1 0 0 0 7 0 7 回避 6 0 0 0 0 6 -1 5 魔導 9 1 2 1 0(+2) 13(+2) 1 14(+2) 物攻 0 1 0 0 0(+9) 1(+9) 0 1(+9) 魔攻 0 1 1 2 0(+9) 4(+9) 29 33(+9) 物防 0 1 0 2 0 3 8 11 魔防 0 0 2 1 0 3 7 10 耐久 15 3 2 20 0 40 0 40 魔法 24 2 3 20 0 49 5 54 行動 18 1 1 1 0 21 -12 9 ■特技 特技名 クラス SL タイミング 判定 対象 射程 代償 条件 効果 月衣 一般 1 常時 自動 自身 アイテムを隠す 月匣 一般 1 常時 自動 自身 月匣を展開する 満月の魔力 吸血鬼 3 セットアップ 自動 自身 なし 5MP なし 【魔導】+2【魔攻】+SL*3 サイバーブルーム 電脳使い 1 常時 自動 自身 なし なし なし ブルームギター所持 血界幻想 吸血鬼 3 オート 自動 自身 なし 10HP なし 「対象 単体」の魔法と同時に使用。その攻撃の対象を「対象 SL+1体」に変更 最奥幻想 吸血鬼 3 《血界幻想》 自動 自身 なし 10HP 《血界幻想》3 《血界幻想》による【魔攻】その他諸々の効果に+SL*4 デジタル詠唱 電脳使い 3 マイナー 自動 自身 なし 8MP デッキ装備 【魔導】+SL*2 電脳儀式 電脳使い 1 《デジタル詠唱》 自動 自身 なし 7MP 《デジタル詠唱》3 【魔攻】+10 マジックリミット 一般 3 常時 自動 自身 なし なし なし 記憶容量+SL*2 ビッグマジック 一般 1 常時 自動 自身 なし なし なし 魔装ひとつの【記憶】【魔攻】+2【行動】-1 ビッグマジックⅡ 一般 1 常時 自動 自身 なし なし なし 魔装ひとつの【記憶】【魔攻】+2【行動】-2 オーグメントリアリティ 一般 1 オート なし 自身 なし なし 1MP LIVE映像 ■装備 部位 名称 種別 重量記憶 命中 回避 魔導 物攻 魔攻 物防 魔防 行動 射程 武器 ブルームギター 装身具 3 0 -1 2+1+1 0 2+2+2 0 0 -2-2 - 補足:スロット 4/3+1 オプション:増設スロット オプション:マジカルビット【魔攻】+2 オプション:外道祈祷書【魔導】+1【魔法力】+5【行動】-2 オプション:Iris オプション:Iris用データカード:メイジ 【魔導】+1【魔攻】+2 武器 補足: 部位 名称 種別 重量記憶 命中 回避 魔導 物攻 魔攻 物防 魔防 行動 射程 魔装 ジャッジメントレイ 魔装(天) 16+4 0 0 -4 0 19+4 0 0 -2-3 近距離 補足: 魔装 補足: 部位 名称 種別 重量 命中 回避 魔導 物攻 魔攻 物防 魔防 行動 頭部 マジカルリボン 防具 1 0 0 0 0 0 0 1 -1 補足:【魔導】+1 上半身 補足: 肩 補足: 衣服 ロンギヌス戦闘制服 防具 1 0 7 5 -1 補足: 籠手 茨の手 防具 2 0 1 2 -1 補足:ジャッジの直前。【魔導】+2。代償:5HP 装身具 補足: 所持品 補足: その他 補足: ■所持品 名称 重量 個数 効果 0-Phone 0 1 アンチパラライズ 0 2 アンチポイズン 0 2 アンチプレッシャー 0 2 アンチマインド 0 2 HPヒールポーション 0 2 ハイMPヒールポーション 0 2 ■ライフパス 出自:ナチュラルボーンファイター 目的:バーニグラヴ 邂逅:ライバル 印象:ニュートラル 性格:優しい雰囲気 勇敢 ■設定 吸血鬼とは。まぁ細かい設定とかなんやかんやあるけれど今回はその寿命について考えてみる。 基本的に吸血鬼は悠久の時を生きる者。老いず死なず、彼らは人類の夢ともいえる者を当たり前に持っている。 そんな彼らだからこそ常に向き合わなければならない不倶戴天の敵がいる。 暇は無味無臭の劇薬、とはよく言ったもので。 長い時間を彼らは常に持て余している。ただでさえ永遠の命を持っているというのに、 大抵の生き物が心血をそそぐ生存活動をする必要がほぼないのだ。 だから、大抵の吸血鬼は退屈を紛らわすため他愛もないようなことに夢中になったりするのだ。 彼女はとても退屈していた。 演劇はなんだか見たことあるようなものばかりでつまらない。 昔買ってきた絵筆は上達しないままほこりをかぶっている。 小説は読んでて眠くなってくるし、竜退治にはもう飽きた! もう何をしてもつまらない。いつのころからか心の中はそんな気持ちでいっぱいだった。 それでも街をぶらついていたのは、まだ何かを期待していたのか。 ”それ”が目に入ったのは、多分何かの偶然だった。 何処にでもあるような量販店、そのとあるコーナーに置いてあったエレキギター。 手に取ったのは気まぐれだった。ちょっと珍しい形の楽器だなと。 その音色は、彼女の心に波を立てる。揺さぶる。まるで、壊してしまうかのように。 彼女の心は奪われる。これが、これこそが。私の退屈を埋めてくれるもの。私の心を満たしてくれるもの。 目についたのは偶然で、手に取ったのは気まぐれだけど。 それならきっと、それは運命というモノなのだ。 そうと決まれば即断即決。必要なのは広いスタジオ、音響設備にデジタル音源。 せっかくだから今の古臭い家は取り壊して新築してしまおう。 家が新しくなったし、最近噂のインターネッツにも挑戦してみようか。 なんとなく使わずにいたけれど、このパソコンというのも慣れてしまえばとても便利だ。 そんなこんな。彼女の生き方は10年ちょっとで大きく変わった。 パンクでキュートでロックンロールな生き様は、眉を顰められることもあるけれど、 彼女の心は間違いなく、輝くもので満ち溢れている。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5282.html
前ページ次ページとりすていん大王 時間ですね 始まります 今までありがとうございました とりすていん大王 13回目 「あなたは誰?」 タバサの詰問はいい加減な答えは許さないと暗に言っていました たまらずキュルケがみんなの代わりに答えます 「な・何言っているのよ?この人はモンモ「違う!!」って?」 鋭く、強く、タバサは否定しました そして静かに語り始めました 「思えば、最初っから変だった・・・何故私は初対面の人を見て級友の父と判断したのか」 その言葉に一同の心臓がどくりと鳴ります 「それだけじゃない 何故、彼の魔法は杖無しでも疑われない?」 一同の顔が一斉にお父さんに向きます お父さんはただ黙ってぷかぷかと浮いているだけです 「そしてこれが決定的・・・」 タバサがゆっくりとお父さんを見て次にモンモランシーを見ました びくりとモンモランシーが震えます そしてタバサは静かに最後の証拠をお父さんに突きつけました 「あなたは猫なのになんでモンモランシーは猫耳じゃないの?」 「「「「あ、アホかぁーーーーーー!!」」」」 ルイズの部屋にみんなの渾身のツッコミが木霊しました 「あのねぇ・・・いくらなんでもそれはないでしょ」 ルイズが呆れたように天を仰ぎます 「ねぇ、タバサ、疲れてるなら良く眠れる香水、調合しようか?」 モンモランシーが部屋に戻ろうとした時です、お父さんが笑い出したのです 「ははははは」 その笑いで空気が一変しました ただ笑っているのに何か重厚な雰囲気です 「お、お父さん?どうしたの?」 心配そうにお父さんに近寄るルイズをタバサが止めます 「何するのよ!?」 「待って」 ひとしきり笑い終えるとお父さんはぽんぽんと拍手をしながら前に少し進み出ます そのお父さんの一歩で自分が一歩さがった事にタバサは気がつきました 「よく、気がついたね・・・確かに私はモンモランシーの父ではない」 その言葉にルイズの部屋が凍りついたのでした 「え、ええ!?お父さんはお父さんであって?ええ?」 突然のお父さんの告白にモンモランシーがパニックに陥ってしましました 「モンモランシー、思い出しなさい」 お父さんがぽわっと光る指先をモンモランシーの額にかざすとパニックに陥っていたモンモランシーが落ち着きを取り戻しながら 何事かをうわ言の様に呟きます 「そうよ・・・思い出した、水の精霊が頼んだのよ・・・そう水の精霊とそれとお父さんが一芝居うって来るべき日の為・・・」 ぶつぶつと呟くモンモランシーを心配してギーシュがお父さんに尋ねました 「いったい彼女に何をしたのですか?」 「心配しなくてもいい 彼女は思い出しただけだ」 そうこうしているうちにモンモランシーが正気に戻り、 「思い出したわ、その人の正体 その人は・・・」 モンモランシーの次の言葉を一同が固唾をのんで待ちました そして 「その人の正体は・・・」 ごくりとルイズが喉を鳴らします 「正体は・・・」 ギーシュがモンモランシーの肩を抱き寄せます 「正体は・・・」 タバサの杖を握る手に汗が、キュルケも不安そうに事の行く末を見守ります そしてその時は来ました ついにお父さんの正体をモンモランシーが言う瞬間が 「その人の正体は・・・お父さんよ!!」 「「「おんなじやないかーーい!!」」」 見事なハーモニーのツッコミが入ったのです お父さんはぷかぷかと宙に浮きながらルイズに質問します 「ルイズ、君は使い魔が欲しいのか?」 その問いかけにルイズは戸惑いながらも答えました 「え、ええ、欲しいわ」 「そうか」 お父さんは大きく息を吐くと窓からふわふわと空に向かって飛び始めました 「実は私はルイズ、君の使い魔じゃない」 「「「「いや、それは知ってるけどさぁ・・・」」」」 二つの月の光に照らされてお父さんが神々しく輝いています 「さらに言うと私はこの世界の人間じゃない」 流石にこの告白には誰もが驚きました タバサも少し震えています 「私は、私の場所に帰る 君達は十分学んだはずだ」 お父さんがどんどんと空に昇って行きます それをみんなが見守っています 「ルイズ、君は君の使い魔を探すんだ」 「わ、私の使い魔って!?」 ルイズの質問に空に上昇を続けるお父さんは小首をかしげ、 「そんな事、わたしに聞かれてもなぁ~」 「えええ~」 そしてお父さんは空の彼方へと消えていきました 「で、結局、誰だったの?」 タバサの空しい問いかけがすきま風の吹くルイズの部屋に響くのでした 後日・・・ お父さんがルイズ達の目の前から消え、初めての春が来ました 「・・・いでよ、使い魔!!」 かってルイズ達が使い魔召還の儀式を行った草原で再びルイズは儀式をしていました お父さんがルイズのもとから消え、暫く塞ぎこんでいたルイズでしたが、多くの友人達の励ましで立ち直りました 始祖の祈祷書の使い方を偶然知り、自分の属性、『虚無』にも目覚めました 様々な人と出会い、多くの事件を仲間と解決して一回り大きくなったルイズは今日、完全にお父さんから独り立ちします 多くの仲間がルイズの召還を見守ります 召還時の煙が薄れて魔方陣の中心には 「ガウウウウ・・・・」 ちょっとトリステイン周辺では見られない茶色に黒の斑点が特徴的な山猫が威嚇しています 「怖くないから、おいで」 しゃがみこんでおいでおいでするルイズに警戒しながらも山猫は近づいていきます そしてルイズはそっと山猫を抱き寄せて・・・ 「我の使い魔となせ」 契約のキスをしたのでした トリステイン大王~エピローグに続く~ 前ページ次ページとりすていん大王
https://w.atwiki.jp/isekairoku/pages/17.html
祈祷について 祈祷一覧聖律 天律 死律 獣律 龍律 喰律 聖樹律 祈祷について 神々の物語や神のように信仰されるもの、もしくは心の底から信じられているもを崇め称えることで自分の心の信仰心に魔力が反応し、その力を行使できる。宗教内での法則を「律」と呼ぶ。 この力は信じる心がゆるぎないものであるからこそより強くなっていく。 祈祷一覧 聖律 説明:天葬教の祈祷は光輪が中心となっており、光の輪は罪人を断罪し、彼らの信仰世界における「律」によって他者を正す概念が具現したと考えられる。最初に扱えるとされる祈祷の名は「聖律の光輪」 天律 クレリア聖教の祈祷は光の槍が中心となっており、天の裁きの概念が具現化したと考えられる。彼らの信仰世界における「律」は裁きは救済の光で在り、アンデットたちを浄化することができる。最初に扱えるとされる祈祷の名は「天降る光」 死律 死に灯る火こそ、我らの最後の光。 黒と白、黄金が混ざる聖者を焼き殺す焔こそ、この世を糺す炎。 持続的に精神的苦痛を与える炎を扱う死律、死こそ魂が還る場所を示す光であると信じて疑わない。最初に扱えるとされる祈祷の名は「黒炎」 獣律 獣霊神仰は自然霊に分類される獣たちの祖霊を信仰するものであり、その力を借りていると考えている。彼らの「律」は自然と共に生きる事であり、自然信仰ともいえる。獣の力の一端を身に宿すことからオークに類似した力を実行できる。最初に扱える祈祷の名は「獣爪」 龍律 龍の頂の祈祷は龍が扱ったとされる龍雷と龍炎を再現する。 龍の雷は赤く、炎は赤黒いものであるとされる。彼らはこれらを極めることで龍に至ろうと考えている。最初に扱える祈祷の名は「龍の落雷」 喰律 神喰いは神性を有する存在を食らうことで力を得ると考えており、他者を食らってそのものが有する力を自らのもにするという異端の宗教。最初にして最後の彼らの祈祷の名は「神喰らい」 聖樹律 聖樹と呼ばれる天高く伸びる大樹を神聖視したものであり、聖樹の祈祷は信じる心で小さな聖樹を具現化させその下にいるものに精神的な回復や肉体的な回復を施すことができる。最初に扱える祈祷の名は「聖樹の恵み」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8773.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん ゛始まり゛には必然的に゛終わり゛がある。 それは世の理であり、容易に変えることはできない。 トリステイン魔法学院の生徒たちにとって楽しい休日である虚無の曜日は、ゆっくりと沈んでいく夕日とともに終わりを告げる。 朝方と昼はあんなに暑かったのだが、日が落ちていくにつれて段々と気温が下がり今では誰もが肌寒いと感じていた。 学院から離れた首都へ遊びに行っていた生徒たちも、この時間帯になるとバラバラではあるが校門をくぐってみずからの学び舎へと戻ってくる。 大抵の生徒は学院のレンタルか自費で購入した馬に乗って帰ってくるが、空を飛べる大型の幻獣を使い魔にしている者たちはその背に乗って戻ってきた。 あと一時間もすれば夕食の時間であり、それまで自室に帰って休む生徒もいれば広場に設置されたベンチに腰かけて友人たちと談笑をしている生徒たちもいた。 談笑する生徒のほとんどは男子であり、話の内容も年頃の少年にふさわしい自慢話の類が多かった。 ある者は街で傭兵に喧嘩を売られたが難なく返り討ちにしてやったという話や、名のある貴族の娘と話をしたという…嘘8割の談笑会をしている。 日が落ちればトリスタニアの繁華街が賑やかになっていくが、それは学院も同じであった。 人が集まるということは即ち、賑やかになるという事と同義でもある。 そんな賑やかな地上の様子を、霊夢はルイズの部屋から見下ろしていた。 いや、正確には項垂れた彼女の視線の先に偶然、広場で騒ぐ生徒たちがいた…と言った方が正しいのだろうか。 全開にした窓から両腕と頭を上半身ごと乗り出している彼女の顔は、まさに「ぐったりしている」という言葉が似合うほど辛そうな表情を浮かべていた。 顔色も若干青く、開きっぱなしの口からはう~う~と苦しそうなうめき声が漏れている。 この姿だけを見れば彼女がとある異世界の中核であり、異変解決と妖怪退治を得意とした博麗の巫女だと誰が信じようか。 それは霊夢自身も把握しており、今いる場所が幻想郷ではないことに安堵していた。 でなければ今頃…風のうわさで聞きつけた射命丸か紫辺りがニヤニヤと、一見暖かそうで実はそうでない笑みを浮かべて彼女を見下ろしていたに違いない。 「ホント…あの味には驚かされたわ」 「あぁ、あんなの初めて飲んだぜ…ていうかアレは飲み物なのか?」 ぐったりとした霊夢に続いて、同じような気分でベッドに横たわっている魔理沙もつぶやく。 その時、羽ペンを右手に持ったルイズが鳶色の瞳をキッと細めて二人のほうへ顔を向けた。 「ま…知らなかったのなら仕方ないけど、いくらなんでもコレを普通のお茶として淹れて飲んだのには驚いたわよ」 呆れたと言いたげにルイズは首を横に振ってため息をつくと、テーブルの上に置かれた小さな土瓶へと視線を移す。 その中には茶葉が入っている。そう…魔理沙だけではなくあの霊夢さえ苦しめた茶葉が。 「ホントビックリしたわ。なんせ街から帰ってきたら、アンタたちが部屋の中で倒れてたんだから」 そう言ってルイズはあの時の事を思い出した。 ☆ タバサが霊夢達に瓶を渡して部屋を出て行ってから一時間ほどした後、ルイズは学院に戻ってきた。 ちょっとした用事と買い物で部屋を霊夢に任せていた彼女は「ただいま」と言ってドアを開けた直後、それを目にしたのである。 部屋に漂うミントのそれと似たような鼻を突くツンとした臭いに、二人仲良くテーブルに突っ伏してうめき声をあげている霊夢と魔理沙の姿…そして。 『オォ帰ってきたか娘っ子!見てみろよコレ?ひでぇもんだろ!?ヒャッハハハハ!』 何故かバカみたいに笑っているデルフが、彼女の部屋の空気を異様なものに変えていた。 最初は何があったのかわからず困惑していたが、事の全てを見届けていたデルフのおかげで事情を把握することはできた。 そして全てを知った後、なんてものを渡してくれたのだとタバサを恨みつつ味覚以外が無事な霊夢達に後片付けをさせた。 ちなみに、緑の液体が入っていたティーポットは泣く泣く捨てることとなった。 霊夢達の飲んでいたあの液体がなんなのかわかった以上、捨てるということはとても懸命な判断だとルイズは思うことにした。 ★ 「噂では聞いてたけど…ハシバミ草のお茶が本当にあったなんてね…」 回想を終えたルイズは羽ペンをテーブルに置くと、土瓶を手に取ってそう言った。 この土瓶に入っている茶葉の原料は「ハシバミ草」というハーブの一種だ。 ほぼハルケギニアの全域で自生しており、地方の料理ではメインディッシュの添え野菜やサラダにしたものを前菜で出すことがある。 鎮静作用があり、細かくすりおろしてスープに入れたり煎じたものを飲めば風邪薬の代わりにもなるらしい。 その一方で独特の苦みもあり、自生してる場所によってはその苦味が味覚と臭覚を麻痺させる神経毒になることもあるのだという。 その為か、ここハルケギニアにおいては野生のハシバミ草は危険な代物というイメージが若干纏わりついている。 しかし何故かこれを愛食する者たちがいて、タバサもその一人であるという事はルイズを含め学院にいる多くの人間が知っていた。 「良薬口に苦し」という言葉があるが、「ハシバミ草」は正にその言葉を体現したかのような存在だ。 そして今、ルイズが手にしている土瓶の中に入っているのはそのハシバミ草を蒸し、乾燥させて作った茶葉である。 最も、それを普通のお茶のようにして飲めば濃縮された強烈な苦味が口内を蹂躙し、今の霊夢や魔理沙と同じように一時的な味覚障害に陥ってしまう。 「あのチビメガネ…次あったらどうしてくれようかしら」 「何物騒な事言ってるのよ。…やり方は間違ってたけど体には良いらしいわよコレ」 赤みがかった黒い目を鋭くしてチビメガネ=タバサに怒りを覚えている霊夢を宥めつつ、ルイズははしばみ茶の説明を始めた。 「これはね、瓶の中から一つまみ分だけをお茶が入ったポットの中に入れるのよ」 そうしたらはしばみ草の苦味が丁度いいくらいに効いて気分が和らぐらしいわ…とルイズは説明するのだが、二人は半ばそれを聞き流している。 今の霊夢達にとって、午前中から口内に居座るジワジワとくる苦味をどうすればいいのか頭を悩ましていた。 この苦味のせいで昼食の時には食欲が湧かず、紅茶や緑茶も口に入れればあの強烈な苦味に変わってしまう。 夕方になってからはだいぶマシになったが、それを見計らったかのように飢餓感が現在進行中で襲ってきている。 今の二人は、正に空腹状態の虎と言っても良いほど腹を空かしていた。 「夕食まであと一時間…ふぅ、長いわね」 「あぁ、全くだぜぇ…」 グゥグゥと腹を鳴らしながらボーっと窓の外から夕日を眺める異界の住人達を見て、ルイズは顔をしかめた。 理由はふたつ。二人が自分の話を聞いていないという事と、お腹のほうからだらしない音が出ているという事。 森の中でキメラと遭遇して以来ある程度のことは許容できるようになったが、それでもこういう細かな事は中々許せなかった。 「もう、人の前でお腹を鳴らすなんて…私以外の誰かに聞かれたらどうするのよ」 ルイズが二人に聞こえない程度の声量で呟くと、背後に置いてあるデルフが話しかけてきた。 『問題ねぇだろ。腹の音なんて腹が減りゃあ誰でも出るんだしよ』 「そういう問題じゃないのよ。…っていうか腹の減る心配が無いアンタが言っても説得力無いんだけど?」 デルフ突っ込みを入れるとルイズは再び頭をテーブルの方へ向けて作業を再開した。 羽ペンを再び手に持つと、テーブルの上に置かれた古びた本へとそのペン先を向ける。 開かれたページには何も記されておらず、色褪せた白紙をどうだと言わんばかりに見せつけている。 ルイズはその白紙を凝視して文章をイメージしているのか、ゆっくりと羽ペンの先端を上下左右に動かした。 しかしいい文章が思いつかないのか、クルリとペン先を回してから本の横に置き、腕を組んで目をつぶる。 脳内で考えているのだろうか、時折ウーウーと唸るような声が聞こえてくる。 その様子を後ろから見つめていたデルフは気になったのか、遠慮なくルイズに質問してみることにした。 『そういやぁさっきから気になってたんだけどよ…その本は何なんだ?全部のページが白紙の様なその気がするんだけどよ』 突然の質問にルイズの体がビクッと震えたものの、すぐに頭だけを後ろに向けて素っ気なく答える。 「アンタみたいなのは知らないと思うけど…これは始祖の祈祷書っていう王家に古くから伝わるとても大事な本なのよ」 その言葉をはじまりにして、彼女はこの本が手元にある経緯をデルフに話し始めた。 それはかつて、ルイズが霊夢と魔理沙を連れて王宮へ参内した時の話である。 ◆ 「ご多忙の中、わざわざ来てくれてありがとうルイズ・フランソワーズ、それにハクレイレイム」 白い純白のドレスに身を包んだ若き王女アンリエッタ・ド・トリステインは訪れた客人に感謝の意を述べた。 幼馴染であり、敬愛の対象であるアンリエッタにそのような言葉を言われ、ルイズはついつい緊張してしまう。 「いえ、姫殿下の命令とあらばこのヴァリエール。何処へでも馳せ参じます」 ルイズの言葉を聞いたアンリエッタは少しだけ表情を曇らせると彼女の傍へと近づき、その右手を手に取った。 日々手入れを欠かさない美しく繊細で白い指に自分の手を触られたルイズは、ギョッと目を丸くする。 「ルイズ。ここは私の寝室なのよ?マザリーニもいないしお付きの侍女もいない。子供のころのように、私に接して頂戴」 そう言ってアンリエッタはルイズに自身の笑顔――どこか懐かしい雰囲気が漂う笑みを見せた。 きっと思い出しているのだろう。身分も家柄も関係なく、毎日が楽しかった子供の頃の思い出を。 永遠に続くように見えて、余りにも短く儚すぎる時代の一ページを… 「姫さま…」 ルイズはそう呟き、その顔に浮かべた暖かい微笑みをアンリエッタへ見せた。 気づけば、生まれついての宿命から唯一逃げることのできた幼女時代へと戻ったかのように…二人は微笑んでいた。 「さすが、お姫さまというだけあって中々良いヤツじゃないか?」 「そうかしらねぇ?」 一方、そんな二人の外にいた霊夢と魔理沙はアンリエッタについて色々と話していた。 これで会うのが三度目となった霊夢は、アンリエッタに対して「王家らしくない王家の人間」という評価を下していた。 この国の頂点に君臨している人間らしいのだがどうも雰囲気的にはそんな風には見えず、かといって普通の少女にも見えない。 まるで高原に咲く一輪の白百合のように気高く綺麗なその容姿は、名家の貴族令嬢…というレベルでは例えられない高貴さがある。 しかし先程も述べた通り、王族であるにも関わらず千万の民と文武百官を束ねられるような威厳がちっとも感じられないのだ。 (きっと国の事とかもそこらへんに詳しい大臣たちがうまくやってくれてるんでしょうね) 霊夢はアンリエッタと今のトリステインのことなど全く知らなかったが、見事にその言葉は的中していた。 それが答えだと誰かが彼女に教えたら、頭を抱えつつ驚いていたに違いない。 (まぁでも、あの年頃で下手に威厳張ってたら馬鹿みたいに見えるしね) 手を取り合って二人仲良く笑いあうルイズとアンリエッタの姿を見て、心の中で呟いた。 きっとは二人はわずかな時間を使って思い出しているのだろう、純粋なる幼少期の頃を…。 その後、ルイズはアンリエッタに魔理沙の事を紹介した。 彼女と霊夢がハルケギニアとは違う幻想郷という異世界から来た事と、この話を他人に漏らさないで欲しい事もしっかりと告げた。 以前アルビオンへ赴いた際に、霊夢がこの世界には無い文字で書かれた本を読んだ所を学院長たちと一緒に見ていた所為か、彼女は幼馴染の話をすんなりと信じてしまった。 まさかこんなにも簡単に信じてくれるとは思わなかったルイズは何故信じてくれるのかとアンリエッタに思わず聞いてみると、彼女はこう答えてくれた。 「以前の本の事もありますけど、何より貴女達からは私の周りにいる人々とは全く違う雰囲気を感じますから」 その言葉に、ルイズは思わず同意してしまった。 一方、姫殿下の言葉に魔理沙はキョトンとしつつも笑みを浮かべたのだが、対照的に霊夢は胡散臭いものを見るような表情をアンリエッタに見せた。 アンリエッタは霊夢の表情を見ても不満気に顔を曇らせることなく、改めて魔理沙に挨拶をした。 「遠い所から遥々このトリステイン王国へようこそ。ささやかではありますが、歓迎いたしますわ」 アンリエッタがそう言って右手で魔理沙の左手をつかみ、握手をした。 「霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ。今後ともよろしくな、お姫様!」 「え?…キャッ!」 王女からの挨拶に魔理沙は勢いよく返事をすると、握手をしている左手をブンブンと軽く振った。 本人は軽いスキンシップのつもりであったが、突然のことにアンリエッタは小さな悲鳴を上げてしまう。 無論そんな無礼を見逃すルイズではなく、すぐさま魔理沙に掴みかかった。 「こら!何してんのよアンタは!?」 「えっ、ちょ…おいおい、そんなに怒る事じゃないだろ?」 「あ…二人ともよしてください!私は大丈夫ですから」 鬼のような表情を浮かべて魔理沙に掴みかかるルイズ、突然の事に慌てる魔理沙。 そしてそれを止めようとするアンリエッタを含む三人の様子を外野から眺めつつ、霊夢は一人ため息をついた。 ※ そんなやりとりの後、アンリエッタは侍女に紅茶と茶菓子などを用意させ、ルイズと話し合いを始めることとなった。 お茶が出ると聞いた霊夢は「まぁお茶が出るなら」と言ってとりあえずはルイズと一緒にいることにした。 魔理沙はというと「どんな話を聞けるのか少し興味がある」という理由で部屋に残っている。 色々と嫌な予想をしていたルイズは安堵しつつ、先程侍女が淹れてくれた紅茶をゆっくりと飲んでいく。 流石に王族の飲むお茶というものか、カップやポットはともかくとして使っている茶葉は高級品である。 霊夢と魔理沙のカップにも侍女が紅茶を淹れたが、アンリエッタは自分の手で紅茶を淹れていた。 「最近自分の手で淹れるのが楽しみになってきたのよ。好きな量を自分で調節できるしね」 (ポットの中に入った紅茶をカップに入れるだけじゃない…) 嬉しそうに喋りながらポットの中に入っている紅茶をカップに注ぐアンリエッタを見て、霊夢は心の中でそんな事を思った。 全員のカップに紅茶が淹れられ、アンリエッタは侍女を退室させると一呼吸置いて喋り始めた。 「ルイズ…戦火渦巻くアルビオンへと赴き、手紙を持って帰ってきた事は、改めて礼を言いますわ。 貴女の活躍のお陰でゲルマニアとの同盟も無事締結される事でしょう」 「そのお言葉、この私めには恐縮過ぎるものですわ」 アンリエッタの口から出た感謝の言葉に、ルイズは席を立つと膝をつき、深々と礼をした。 トリステイン王国の貴族達にとって、王女直々に感謝されるということはこの上ない名誉なのである。 しかしそんなルイズを見てアンリエッタは何故か悲しそうな表情になり、首を横に振った。 「頭を上げて頂戴ルイズ・フランソワーズ?貴女と私の仲は単なる主君と従者じゃないのよ」 アンリエッタの言葉にルイズは顔を上げると彼女もまた悲しそうな表情をその顔に浮かべる。 「………わかりました。姫さま」 素直に聞き入れたルイズがスクッと立ち上がり再び席についたのを見て、アンリエッタの顔に笑みが浮かぶ。 ただその笑顔には陰がさしており、見るものを悲しくさせる笑顔であった。 「貴女は…後数ヶ月もすればこの国を離れることになる私にとって無二の友人なのよ」 もの悲しそうに言うアンリエッタを見て、もうすぐ彼女がゲルマニアへ嫁ぐ事になるのをルイズは思い出した。 ゲルマニアへ行ってしまえばこの先数年、下手すれば数十年間は会えなくなってしまう。 「…ゲルマニア皇帝との御婚約の決定、おめでとうございます」 それを想像したルイズもまた悲しい笑みを浮かべつつ、アンリエッタに祝いの言葉を述べた。 幼馴染みの彼女は、政治の道具として好きでもない皇帝と結婚するのだ。 同盟のためには仕方がないとはいえ。彼女の悲しそうな顔を見るのは耐えられなかった。 一方、黙々と紅茶と茶菓子を堪能していた魔理沙はルイズの口から出た゛結婚゛という言葉を耳にして目を丸くした。 魔理沙にとって゛結婚゛というのは、愛する大人の男女が挙げる儀式だと大人たちから教えられていたのだから。 そして二人の話からして゛結婚゛するであろうアンリエッタは、魔理沙の目から見ても成人には見えなかった。 「結婚て…あの年でか?」 嘘だろ?と言いたげな表情を浮かべつつ魔理沙は隣にいる霊夢に聞いてみた。 霊夢は肩をすくめつつも興味が無いという感じでその質問に答える。 「そうなんじゃないかしら?まぁ色々理由でもあるんでしょう…っと――――ムグムグ…」 そこまで言うと皿に並べられた小さめのチョコチップクッキーを一つ手に取り、口の中に放り込んだ。 チョコチップの程よい甘さとバターの風味が口の中に広がり、このクッキーを作ったパティシエの腕の良さを教えてくれる。 ある程度咀嚼した後飲み込み、紅茶を一口飲んだ後霊夢はポツリと感想を述べた。 「クッキーと紅茶も良いけど、やっぱり私は煎餅とお茶の方が良いわ」 「わざわざ食べといてそんな事を言うか…」 「食べれるものを出されて食べなかったら勿体ないじゃないの」 さてそんな二人のやりとりを余所に、アンリエッタとルイズもまた話し合っていた。 「今日のトリステインがあるのも、今や貴女のおかげ… だからこそルイズ…貴女には私の人生の門出を、特別な席で見ていて欲しいのよ」 アンリエッタは寂しそうに言いながら手元にあった鈴を手に取って軽く振った。 透き通った綺麗な音色が広大な寝室の中に響き渡り、その音は部屋の外にも広がっていった。 鈴を鳴らして数十秒後、一人の侍女が古めかしい本を携えて部屋に入ってきた。 侍女は持っていた本をアンリエッタの手元に置くと一礼し、退室した。 一体何の本かと視線を向けた魔理沙はそれを見て、薄い苦笑いを顔に浮かべた。 「なんというか…随分と酷い所に保管されてたっぽいな」 蒐集家である魔理沙がそう言うのも仕方ない程、その本は酷く汚れていた。 古びた革の装丁がなされた表紙はボロボロで、触っただけでも破れてしまいそうである。 色褪せた羊皮紙のページも色褪せて茶色くくすんでおり、かなり酷い状態であった。 どんな方法で保管をしたらこんなにボロボロになってしまうのか。それがこの本を見て魔理沙がまず最初に思ったことだ。 少なくとも紅魔館の図書館に置いてあるかなり古い年代の本でも、これ程酷くはないはずだ。 一方のルイズもまた侍女が持ってきた本へと視線を移して、目を丸くしてしまう。 「い、一体何なんですかこの本は…見た感じ大分ボロボロなのですが」 信愛する姫殿下の手元に置かれたソレを指さしつつ、ルイズは恐る恐る聞いてみた。 アンリエッタは全然大丈夫といわんばかりにその本を手に取りつつも、口を開く。 「これはトリステイン王家に代々伝わる゛始祖の祈祷書゛というものです」 その言葉を聞き、ルイズと魔理沙は同時にキョトンとした表情を浮かべた。 「これが、かの有名な王家の秘宝…」 「祈祷書…というより魔道書の類だな。この形だと」 二人がそれぞれ別の事を言い、それを耳に入れながらもアンリエッタは話を続けていく。 「実は王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意するのです。 そして選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に詔を詠みあげる習わしがあります」 アンリエッタの説明に、ルイズは「は、はぁ」と気のない返事をする。 それを知っている程宮中の作法に詳しくない彼女にとっては、聞くことすべてが初耳であった。 魔理沙は若干興味があるのか興味津々と言わんばかりの表情を浮かべており、霊夢は紅茶を啜っている。 アンリエッタは手に持っていた祈祷書をテーブルに置いて一息つくと、ルイズに向けてこう言った。 「そして此度の婚約の儀で…ルイズ・フランソワーズ、あなたを巫女として指名いたします」 「――――――――え?」 アンリエッタの口から出たその言葉を聞いて、ルイズは目を丸くしてしまった。 まるで勝率ゼロの賭けに大勝してしまった時のように、信じられないと言いたげな雰囲気が伺える。 そしてルイズの傍にいる霊夢と魔理沙も、少し驚いた様な表情を浮かべた顔を、ルイズの方へと向けた。 「え…あの?私がですか…?」 「何かそうみたいね。あんまり話は聞いてなかったけど」 目を丸くしたルイズの言葉に、興味なさげな霊夢がさりげなく相槌をうった。 そしてアンリエッタもそれに続いて軽くうなずくと、テーブルの上で緊張して硬くなったルイズの右手を優しく掴んだ。 「先程も言ったように、あなたには私の門出を特別なところで見ていて欲しいのよ…ルイズ」 ルイズに向けてそんな言葉を告げた彼女の瞳には、幼馴染への期待と渇望の色が滲み出ている。 それは、友のいる故郷を離れる彼女の切実な願いなのだろう。 ルイズにとってその願いは叶えさせたいものであるが、自分では無理なのではと半ば諦めていた。 そう、詠みあげる詔を考える前から半ば諦めていた。 「わかりました…では、謹んで拝命いたします!」 しかし悲しきかな、ルイズはあまりにも実直すぎた。 幼馴染であり敬愛する姫殿下の瞳を見て断り切れず、結局は請け負ってしまった。 眩しすぎるほど目を輝かせ、自信に満ちあふれた表情を浮かべて… ◆ 「…で、近々行われるアンリエッタ姫殿下とゲルマニア皇帝の婚姻の儀で私が読み上げる事になってる詔を考えてるんだけどね…」 表情を曇らせて話し終えたルイズに、デルフは『へぇ~、こりゃまたタイヘンなことで…』と返して言葉を続ける。 『でも結婚式の詔だろ?そんなもん精々お二人の結婚おめでとうございます。末永くお幸せに…みたいなこと書いとけば良いんじゃねぇの?』 適当すぎるデルフのアドバイスに「バカ、そういうカンタンなモノなら苦労しないわよ」と言って説明を始めた。 「良い?畏れ多くも先王の子でありうら若きトリステイン王国の王女である姫様の一生一度の晴れ舞台なのよ。 それはほかの結婚式よりも神聖でなくてはいけないの…普遍的な詔ではその式を盛り上げる事なんてできないじゃない! だからこそ…誰も書いたことのないような素晴らしく、姫様の門出を盛大に祝える詔を考える必要があるの!わかる!?」 最後辺りで熱が入ったルイズの説明に、デルフは何も言わずプルプルと刀身を震わせた。 おそらく笑っているのだろうが、それは嘲笑ではなくきっと感心して思わず笑ってしまったのだろうと、ルイズは思うことにした。 『まぁそれ程熱が入るんならすぐに書けるだろ。一応カタチだけの応援はしておくぜ』 「えぇ見てなさい、今に素晴らしい文章を書いて見せるわ」 笑い声の混じったデルフの言葉にルイズは元気を取り戻したのか、勢いよく羽ペンを手に取った。 ルイズは知らないだろう。詔を考えているのが彼女だけではないことに。 今頃宮中で、多くの文官たちが結婚式で読みあげる詔の草案を考えているだろう。 彼女はただ、用意された詔を一字一句正確に詠みあげる巫女としてアンリエッタ直々に指名されただけである。 それを言い忘れたアンリエッタに原因があるかもしれないが、言っていたとしてもルイズは詔を考えていただろう。 「さぁ書いてみせるわ!姫様の結婚を祝う最高の詔を!」 ヴァリエール家の末女は気合を入れた。 家族に、敬愛する王女に…そして、部屋にいる一本と本物の巫女と普通の魔法使いに気づかれることなく、ただ一人。 「何一人で叫んでるのか知らないけど、腹が減りすぎて言葉を掛けるのもめんどうだわ…」 「今日はちゃんとした味のする食べ物を口に入れるまで…なにもやる気がおこらないぜ…」 『青春ムード全開のピンク少女とブルーな異世界少女たち…ハッハッハッ!見てるだけでおもしれぇなコリャ!!』 窓を通して外へと散らばる三人と一本の声は、闇夜が広がっていく空へ向けて羽ばたいていった。 ※ 一方、場所は変わって首都トリスタニアのブルドンネ街。 昼はとても賑やかであったここも、夜になれば殆どの店が閉まり活気が無くなっていく。 貴族用のホテルなど一部の公共施設はまだ開いてはいるがこの前起こった殺人事件の所為か営業している所は少ない。 それとは逆に、繁華街のあるチクトンネ街の安い宿の方が活気づいていた。 ここでは夜間営業の酒場や定食屋が仕事帰りの客たちを迎えようと、開店を知らせる看板を店の前にこれでもかと出し始める。 一日の労働を終えた人々はそんな店を求めて繁華街へとなだれ込み、ますます賑やかさを増してゆく。 日が沈み、再び上る時間までこの賑やかな雰囲気は続くのである。 そんな街の雰囲気と空気を、とある食堂に設けられた屋上席から見下ろす一人の少年がいた。 眼下の灯りで輝く金髪にすらりと伸びた体を一目見ただけでは、男か女かわからない。 細長く色気を含んだ唇。睫毛は長く、ピンとたって瞼に影を落としている。 そして何より特徴的なのは、彼の両目の色であった。 右眼の色は透き通るような碧眼なのだが、左眼の色は鳶色。つまり、左右の眼の色が違うのだ。 虹彩の異常。他人に尋ねられた時、少年はそんな風に答えている。 「ふぅん、偶の旅行ってのはやっぱり体に良いものだね」 自分以外誰もいない屋上席でひとり透き通るような声で呟き、テーブルに置かれた飲み物の入ったグラスをに手を伸ばす。 小鹿の革の白い手袋に包まれた細い指でそれを手に取ると、ゆっくりと飲み始める。 ヒンヤリとしたグラスの中に入ったアップルサワーのすっきりした甘さと酸味を口内と舌で堪能し、一口分ほど飲んだところでそっとテーブルに置いた。 「……うん、やっぱりお酒は故郷のモノに限るね。どうも味がしつこい気がする」 少年はわずかな笑みを顔に浮かべて、胃の中に入ったアップルサワーの感想を誰に言うとでもなく述べた。 そんな時、「ここにいましたか」という声が耳に入り、少年はそちらの方へ顔を向ける。 振り向いた先にいたのは、屋上席の出入り口からこちらへ歩いてくる金髪の女性であった。 立派な麦のように光り輝く金髪をポニーテールにしており、歩くたびにシャランシャランと左右に軽く揺れる。 若草色のブラウスに薄黄色のロングスカートといったいかにも平民の女性…というよりも少女らしい服装で、足には立派な革靴を履いていた。 トリステイン魔法学院で働く給士たちに支給されるこの靴は大事にされているのか、近くから見ても傷ひとつついていない。 そして首にはネックレスのようにぶら下げた聖具が、街の灯りを浴びてキラキラと光り輝いていた。 少年は微笑みを浮かべ、こちらへ近づいてくる女性に声をかけた。 彼にとって彼女と出会うのは久しぶりで、彼女にとっても彼と出会うのは久々である。 「久しぶりだね。君と以前会ったのはシェル……シェ…何て名前だったけ?」 以前顔を合わせた町の名前を言おうとして言葉が詰まってしまった少年を見て、女性はクスリと笑って「シュルピスですよ」と優しく呟いた。 彼女の言葉で思い出しのか、少年はうれしそうな表情を浮かべた。 「そうそうそれだ!この国へ来てからもう二ヶ月近くたつけど、地名が中々難しくて苦労するんだよね」 「まぁ、良くそれで゛お仕事゛ができますわね。わたし驚きました」 自分より一つか二つ年上の人にそんな言葉を投げかけられ、少年は面目ないと言わんばかりに頭を掻いた。 笑いあう少年と少女にも見える女性。場所が場所なら青春の一ページとして心の中のアルバムに納まっていただろう。 ひとしきり笑いあった後、気を取り直すかのように女性が口を開く。 「相変わらず自分のペースを崩さないのですね。ジュリオ様は」 「いかなる時にも自分のペースを乱さなければ、どんな事も冷静に対処できるんだよ」 ジュリオ――女性にそう呼ばれた少年はそんな事を言いながら「さ、立ち話も何だし君も座ったらどうだい?」と女性に着席を促す。 彼の指差した先はテーブルの向かい側に置かれた椅子ではなく、自身が座っている椅子の方であった。 「え?…あ、あなたの隣…ですか?」 それを予想していなかったのか、ジュリオの言葉に目を丸くしてしまう。 「そうだよ。こういう時こそただのデートっていう感じにしないと後で怪しまれるだろう」 「は、はぁ…では、お言葉に甘えて」 ジュリオの言葉に彼女は困惑しつつも、彼の隣に腰を下ろした。 その瞬間、二人が座っている椅子から「ギシギシ…ギシギシ」という軋む音が聞こえてくる。 安い木材で作られたであろう長方形の長椅子が、未成年二人分の体重を受け止めて悲鳴を上げているのであろう。 その音を聞いた二人は顔を見合わせ、微妙な沈黙に耐え切れなかったジュリオが笑顔を浮かべて喋った。 「ははは!ヤバいよこの椅子。話しの途中で壊れたら良いムードが台無しになっちゃうな」 「そ、そうですね…」 相変わらずテンションの高いジュリオにどう接したら良いかわからず、彼女は無難な返事をする。 ジュリオはイマイチな女性の反応を見て笑うのをやめると一息ついた後、再度口を開いた。 「はは、じゃあ椅子が壊れる前に…゛質問゛に入るとするかな?」 「…!は、はい!」 人気のない屋上席に漂っていた女性とジュリオの間にある空気は、一瞬にして変わった。 ジュリオは笑顔を浮かべているままだが、女性の顔はキッと緊張感のあるものになる。 まるで裁判台に立たされ判決を言い渡されようとしている被告人のごとく、その表情は引き締まっていく。 「じゃあ最初の質問。゛トリステインの担い手゛と゛盾゛が消えた後に…何か変化は?」 「黒いトンガリ帽子を被った黒白服の金髪の少女とインテリジェンスソードが一本゛担い手゛の部屋に居つきました」 「トンガリ帽子の少女…?」 「はい、一見メイジのようにも見えますが杖は所持しておらず、自らを「普通の魔法使い」と自称しています」 「魔法使い…メイジじゃなくて…?あ、名前は…」 そんなことを聞かれた彼女は一呼吸おいて、質問の答えを告げた。 「マリサ。キリサメマリサです」 「キリサメ、マリサ…変わった名前だな」 ジュリオはひとり呟くと「ふふふ」と笑ってその顔に薄い笑みを浮かべた。 「もしかすると…彼女も゛盾゛と同じ場所から来たのかもね」 「常日頃゛盾゛と良く絡んでいたりするのでその可能性は高いと思われます」 「良し、゛トンガリ帽子゛という名前で彼女も調べてくれ。くれぐれも気取られないように」 「わかりました、ジュリオ様」 自分が信頼されているという思いを感じつつ、女性は頷いた。 「それと話は変わるが…ここ最近のトリステインはどうなっているんだい?」 今度は謎の会話から一転し、この国の方へと話が移った。 「ブルドンネ街ホテルでレコン・キスタの内通者が変死。事件の詳細を揉み消す動きがあったので恐らく国内の有力者が下手人でしょう。 まだ有力な情報は掴めていませんが、水面下でガリアとトリステインの一部の貴族の間で何かしらの取引があったようです」 彼女の゛報告゛を聞き、ジュリオはやれやれと言いたげに肩をすくめた。 「何処の国も同じだねぇ、年寄り連中が若い連中の足を引っ張るってことは」 年寄りにはうんざりだよ。と最後に呟き何を思ったのか、ふと空を見上げた。 すでに日が沈んでから一時間、見上げた先は深い深い闇を映す夜空が世界を覆っていた。 街の灯りに多少埋もれてはいるが、夜空に浮かぶ無数の星たちが光り輝いている。 一生懸命に自分たちを主張する自然の光は、人口の光が支配する街の中で暮らす人々の目には映らない。 「年寄りたちは上空の光を…未来へと続く道を歩こうとせずかつての栄光にしがみつく―」 先程とは違い真剣な表情を浮かべたジュリオはそんな事を呟き、言葉を続けていく。 「過去の栄光は所詮過去に過ぎないというのにそれすら理解できず、逆に未来へと歩もうとする若者たちを道連れにする。 どんなにすがったって意味がないと言えば、老いと死の恐怖に耐え切れず余計過去にすがる。 僕たちは、それを突き飛ばしてでも歩まなくてはいけない―未来へ…無限の可能性と進化、そしてそこからくる未知の恐怖が待っている未来へと」 ジュリオは座っていた席から立ち上がると、ピッ!と左手の人差指で夜空を指差した。 手袋に包まれた指の先には、一際強く輝く星が浮かんでいる。 まるで希望を胸に生きる若者たちを象徴するかのごとく、それは激しくも神々しく輝いている。 「僕たちのような若い世代の人間は、手を取り合って未来を切り開かなくてはいけない。 その為には四つの゛虚無゛の力と…誰にも縛られることのない゛博麗の巫女゛が必要なんだ」 ―――そう、人々がまた…゛旅立つ゛為にも その言葉を最後に、ジュリオは口を閉じた。 瞬間―――キラリ!と輝く流れ星が夜空を切って飛んで行く。 まるで、未来へ向かって一直線に飛んでいく隼のように、その流れ星はすぐに見えなくなった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8555.html
前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略) 抜けるような青空の中を飛ぶ二機の『竜の羽衣』。 だが、別れの時は近づいてきていた。 『さて、私はここまでね』 複座零戦よりも航続距離の短い震電に乗るマミからの通信。 魔法学院までの道のりの三分の二というところだが、巡航速度ではない 速度でシエスタたちの乗る複座零戦に平行し、帰投する燃料を考えると ぎりぎりまで一緒にいてくれたことに、シエスタは感謝した。 「うん。しばらく会えなくなるけど、マミも元気でね」 かつて『キョウリュウ』との戦いの時はタルブから国境まで往復して 空戦までできたと言うが――いやそれ以前にサハラの『聖地』から タルブまで無給油で飛んでこれた震電だが、今はそのときではないのか、 計算通りの燃料消費で燃料計の針が動いていく。 ろくに着陸できるところもない広い太平洋で行動する艦上戦闘機として 開発された零戦がベースの複座零戦とは異なり、震電は元々飛来する B-29などの超重爆撃機を撃墜する高高度迎撃用の局地戦闘機だ。 それに、自分は魔法学院まで行くわけにはいかない。マミは機首を返す 前に、もう一度『日本語』で通信を入れる。 『シエスタ』 「……何?どうしたの?」 発音の違いからマミが日本語で通信してきたのは即座に理解した シエスタだったが、ルイズの手前一瞬そのまま応えるか迷った。 寸時ルイズを振り返り、意を決して日本語で応じる。 『……もし私が死んじゃったら、この子、あなたに任せたいの』 「それはできないよ」 『シエスタ?』 レシーバーの向こう側の幼なじみの顔を思い浮かべながら、シエスタは 即答する。 幼なじみは軍人になった。だから、いつ戦死してもおかしくないから 自分にそう託そうとした――それは理解できていても、もうみんなで 蒼空に舞ったあの日に戻れなくても、シエスタにはそれだけは譲れないと 思えた。 「キョウコも、サヤカも、いなくなっちゃって……。 それなのに、そんなこと言わないでよ」 「…………」 その通信を聞きながら、ルイズは一人考える。言っていることは ほとんど分からない。断片的に固有名詞がそれらしく聞こえるだけ。 理解できるはずのふがくが口を挟まないことからも、二人の私的な内容 なのだろう。それでも、シエスタの口調から、悲しみの感情が感じられるのは 間違ってはいないと思う。それが改めてルイズに彼女たちの遠い故郷との 距離を感じさせた。 シエスタとマミの通信が途絶えたのはほんのわずかな時間。 だが、それは今まで感じたこともないほど長い時間だったとシエスタは 感じた。その沈黙を破ったのは、マミの方だ。 『……ゴメンね。さっきのことは忘れて』 「わたしこそゴメン。 死なないで、なんて言えないけど、マミのことを大切に思っている人が いることは忘れないで欲しいな」 『そうね。私、独りじゃないんだよね』 「うん。あかぎおばあちゃんも戻ってきたことだし、ジェシカも呼んで、 またみんなでパーティしようよ。昔みたいに」 『ええ。二人欠けてるのが残念だけど、それもいいわね』 マミはそう言うと、日本語での会話を止めてガリア語に切り替える。 『失礼致しました。ミス・ヴァリエール。 タルブ義勇軍マミ、燃料の限界のため護衛任務を終了、帰投します。 残りの飛行の安寧をお祈り致します』 「え、ええ。ありがとう」 トリステイン王国銃士隊って名乗らないんだ――そう思ったルイズ だったが、たぶんこの『竜の羽衣』に乗っているときはそうなんだろうと 納得する。そこにふがくからの通信が入る。 『ルイズに合わせたから大変だったでしょ?でも、ここまで送って もらえたらもう大丈夫よ』 『ふふっ。そんなことはないですよ。ふがくさんもお元気で』 『何かあったらすぐに呼んでよね。ぱぱっと駆けつけてあげるから!』 「この距離でどうやるのよ……」 思わずつぶやいたルイズだが、よく考えると『竜の羽衣』同士の会話でも 魔法は使っていない。大日本帝国の技術力ならそれくらい簡単なこと なのだろうと思い直した。 『それではみなさん、お元気で!』 軍人らしい口調でマミはそう言うと、機首を返して巡航速度に上げた。 反対方向に飛ぶことになりぐんぐんその姿を小さくする震電。 その姿が完全に見えなくなってしばらく飛ぶと、視界の先に魔法学院の 塔が見えてきた。 「……何か、ずいぶん長い間タルブにいた気がするわね」 アルビオンから戻ったときと同じような懐かしさを感じたルイズは、 思わずそう口にした。 魔法学院の外壁の外、ルイズがふがくを召喚した草原に複座零戦を 降ろしたシエスタ。それを見た教師たちが押っ取り刀で駆けつけるが、 そこにいたのがルイズとふがく、それにシエスタだったため、教師たちの 困惑はより大きなものとなる。 「……説明してもらえるかね?ミス・ヴァリエール」 「えっと、これは……」 先頭に立つギトーはそう言ってルイズに促す。その横で、複座零戦の 胴体から荷物を降ろしたシエスタが、その中から一通の手紙を取り出した。 見慣れぬ服装のシエスタに教師たちは怪訝な顔をしたが、彼女の口から 出た言葉でさらに目を見開くことになる。 「わたしの曾祖母、あかぎから学院長さまに宛てた手紙です。 この『竜の羽衣』はタルブ義勇軍に所属しており、総司令官あかぎが 許可した人間以外、手を触れることは許可できません。 学院長さまにお取り次ぎ願います」 ふがくを複座零戦に残し、ルイズとシエスタはギトーに案内されて 学院長室へと向かう。機体の保全の必要があり、誰かがここに残る必要が あったためだ。 「……しっかしおでれーた」 「そう?私は頑張るわねと思っただけだけど」 思わず漏らすデルフリンガーに、ふがくはそう言った。 ギトーに正面から宣言したシエスタだったが、その足がわずかに震えて いたのに気づいたのは、ふがくと、普段から生徒や職員をよく見ている シュヴルーズだけだ。それを見ているから、ふがくはシエスタの覚悟を 見守ろうと思った。 (あかぎと佐々木少尉に桃山飛曹長……、ううん、それだけじゃない。 あの子の周りにいた帝国海軍とドイツ第三帝国空軍(ルフトヴァッフェ)の 軍人たちの薫陶を受けたってところかしらね) ふがくは誰言うとなくそうつぶやくと、視線を本塔に向けた。運命の 歯車が一つ狂っていれば、ただのメイドとして一生を終えたはずの少女の 健闘を願って。 学院長室へと案内されたルイズとシエスタ。ギトーは二人を案内すると 部屋を辞する。マチルダ――いや、ここではロングビルだ――も、自分の 仕事をしながら意識を僅かに向けるだけ。そんな雰囲気の中で、オスマンは あかぎからの手紙を読んだ。 「……なるほど。ミセス・あかぎはきみをタルブ義勇軍の一員として、 本来ならばタルブの村に常駐させるべきところを、ミス・ヴァリエールの メイドでもあるということで、彼女の護衛を兼ねてここトリステイン 魔法学院に進駐させたい……か。 あのばーさん、やはり死んではおらんかったか」 「あ、あの……オールド・オスマン……?」 手紙を読んで目を細めるオスマンに、ルイズがおずおずと言葉をかける。 シエスタは、まっすぐにオスマンを見て微動だにしない。 「ミス・ヴァリエール。これは重大な事態じゃ。 きみの専属メイドであるシエスタは、取り扱いを一つ間違えばこの国を 滅ぼしてしまえる力を解放した。彼女が、いや『竜の羽衣』がここに ある限り、この国を攻めようとするものはタルブの村だけでなく、 この魔法学院をも狙ってくるじゃろう。 ……いや、きみの持てる力は、今やその気になればこの国を乗っ取れると 言える。トリステイン王国の陸海空軍のすべてをもってしても、 ミス・ふがくとシエスタを止めることはできまい」 オスマンは重厚な机に手を組むと、ルイズを見る。今までに見たこともない、 射貫くような視線。ルイズは思わずつばを飲み込んだ。 そんなルイズに視線を向けたまま、オスマンはマチルダに告げる。 「ミス・ロングビル。ミス・ふがくをここに呼んできてくれまいか。 ああ、『竜の羽衣』のことは心配する必要はない。ミス・ロングビルと、 ミセス・シュヴルーズに監視をお願いすることにする。 ミス・ロングビル、ミス・ふがくをこちらに呼んだ後は、 ミセス・シュヴルーズと二人で『竜の羽衣』を見張っておくように。 言うまでもないが、『竜の羽衣』に傷一つつければ、この国を滅ぼすことに なると心するように。君とて五千七百万リーブルの巨艦に匹敵する 鋼の女王を敵に回したくはあるまい?」 オスマンはそう言ってマチルダにふがくを呼びに行かせた。すれ違いざま、 ルイズが「冗談じゃない」という言葉を聞いたような気がしたが、 それを確かめることはできなかった。 それからしばしの間を置いて、ふがくが学院長室に現れた。 彼女のそばには誰もいない。マチルダは本当にふがくに学院長室に 向かうように告げた後、『竜の羽衣』のそばにいるらしかった―― 一方。ふがくに学院長室に向かうよう、オスマンからの伝言を伝えた マチルダは、途中で合流したミセス・シュヴルーズとともに『竜の羽衣』、 複座零戦を見上げた。 「……本当に飛ぶものだったなんて。私にはとても信じられません」 シュヴルーズの手前、営業用の口調で話すマチルダ。その横に立つ シュヴルーズは、複座零戦を感慨深げに見上げる。 「私も、兄から聞いたことはありましたけれど、実際に目にするのは 初めてです。こんなに美しいものだったのですね」 「ミセス・シュヴルーズのお兄さま、ですか?」 マチルダの問いに、シュヴルーズは昔を思い出すかのような優しい 表情になる。 「一番上の兄が、あの『キョウリュウ』との戦いの時に『レドウタブール』号に 乗艦していました。 あの戦いの後、兄も『キョウリュウ』の毒に倒れましたが、その直前に、 毒に苦しんでいるはずなのにとても嬉しそうな顔で言った言葉を今でも 覚えています。 『秘密だが、この国には、ものすごい守護天使たちがいるんだ』と」 「守護天使……ですか」 マチルダはそう言って複座零戦を見る。ハルケギニアの常識では とても飛ぶとは思えない、濃緑色を基調とした華奢な金属のゴーレム。 その姿は確かに美しいが、どちらかと言えば量産された武器というより 職人が生み出したワンメイクの工芸品にも思える。その翼と胴体にある、 白で縁取られた深紅の紋章は、なるほど、ふがくと同じ太陽の紋章だ。 そして、翼から突き出た、穴が開けられた鉄の筒は、裏稼業で鳴らした マチルダには、確かにあまり近づきたいとは思わない剣呑さを湛えて いるように見えた。 マチルダは本塔を見上げる。その視線の先には――この『竜の羽衣』を 駆る少女と、その主がいる。 (さて、賽の目はどう出るかねぇ……) つぶやいたその言葉は、誰の耳にも届くことはなかった。 「……それで?私まで呼んだ理由は何?」 開口一番。ふがくはオスマンにそう言った。 オスマンは机に手を組んだまま、三人を見る。 「なに。手間は取らせんよ。 さて、ミス・ふがく。仮に、仮にじゃが、ミス・ヴァリエールがきみと シエスタに『敵を殲滅せよ』と命じた場合、それを実行に移すかね?」 オスマンの言葉に、ふがくは、はぁ?という顔をした。 「質問の意味が分からないわね。 でも、ルイズがそう命じた場合、実行するかどうかは内容次第ね。 ニューカッスルでもそうだったし」 ニューカッスルという言葉を聞いて、ルイズがびくっと肩を振るわせる。 それを見て、オスマンは、ほおと頷いた。 「……ニューカッスルの噂は、ワシの耳にも届いておるよ。王党派も、 貴族派も、どちらも壊滅するほど多くの犠牲を出した凄惨な戦いじゃったとな。 あれは……そういうことじゃったのか……」 そう口にしたオスマンのルイズを見る視線が変わる。先程までの厳しさは 消え失せ、己の過ちから立ち直ろうとする生徒を陰から支える教育者のそれに。 「ルイズさま……」 オスマンのその視線に耐えられずうつむいたルイズに、ニューカッスルの 戦いには参加していなかったシエスタが言葉をかけた。それで奮い立ったのか、 ルイズは涙をぬぐいまっすぐ顔を上げると、再びオスマンに向き合う。 「……失礼、致しました。オールド・オスマン」 「うむ。では、質問を変えよう。ミス・ヴァリエール。きみは、きみが 手にしたこの力を、再び使おうと思うかね?」 「それが必要であるならば、使いたいと思います。杖も、使うべきところで 使わなければ、ただの飾りだと思います」 まっすぐに言葉を口にするルイズ。その凛とした姿に迷いはない。 ふがくも、そしてシエスタも、安心したようにオスマンと向かい合った。 「私は鋼の乙女、すなわち兵器よ。だから司令官の命令には基本的には 従うけれど、それが間違ったものであるならば遠慮なく違うって言うわ」 「わ、私も、私に空を飛ぶことを教えてくれた曾祖父とモモ隊長の教えを 無にすることはしません! それに、最初に『竜の羽衣』に乗り込むとき、あかぎおばあちゃんが 言っていました。この力は、私が守りたいものを守るための力だって。 だから、私も、その言葉に従おうと思います!」 「ふがく……シエスタ……」 ルイズは、自分の両隣に立つ二人を交互に見やった。 大丈夫。もう間違えたりはしない。そんな思いを胸にするルイズに、 二人は微笑んで見せた。 「……どうやらワシの取り越し苦労のようじゃな。 よろしい。今のきみならば、かつての『欠地王』や『第四列の男』の ようなことにはなるまい」 「なにそれ?」 得心するオスマンの言葉にふがくが首をかしげる。それに答えたのは ルイズだ。 「『欠地王』はね、千年前のアルビオン王ジョン一世のことよ。 アルビオン随一の愚王として名を残してるわね。 けれど、この王さまよりも、妹の『白銀の姫騎士』バージニア姫さまの方が 有名かしらね。火のラインとあまり魔法は得意ではなかったそうだけど、 お付きの動物とも心を通わせたとも言われている心優しき竜騎士 リチャードを連れてたった二人で植民島に取り残された平民を助けるために ガリア軍と対峙して、そのときに彼女の起こした奇跡――ヴァルハラから 戦乙女(ワルキューレ)の軍勢を呼び出してガリア軍が恐れおののき撤退 したってものだったそうだけど――は今も歌劇として演じ続けられているわ。 トリステイン王国王立歌劇団の人気演目よ。 でも、その奇跡の代償からか、姫が一七歳の誕生日の日に忽然と姿を 消してしまってからジョン一世は狂ってしまったわ。ガリアとの無理な 戦争をして、結果、そのときまで保有していた植民島――今はトリステイン 王国やガリア王国に編入されているわね――をすべて失い、アルビオン 王国の領土はあの浮遊大陸だけになってしまったの。『欠地王』って 二つ名はその愚行に対して送られたものよ」 「へえ。そうなんだ」 「で、『第四列の男』ってのはぁ……これ、トリステイン王国史上 最っ大の恥部と名高い宰相テューブのこと。 三十年前に宰相エスターシュ大公が謀反を起こして減封されて蟄居を 命じられた後、リシュリュー枢機卿って人が宰相に就いたんだけど、 この人も十五年前に謀反の咎で死罪になったの。で、その後任が、当時の ヘンリー一世陛下と懇意にしていた政事結社『民主党』(デモクレーツ)の 代表だったゲルマニア出身の『異邦人』ことタウベ伯爵。だけどコイツ とんでもないペテン師で、最後にはアルビオンの俗語で『バカ』って 意味の『ルーピー』なんて呼ばれたわ。 さらに最悪だったのが、タウベの後釜の『第四列の男』ことテューブ伯爵。 能なしでとんでもないウソツキよ。こいつらの在任二年間で、トリステインは アルビオンとの関係が戦争直前まで悪くなったし国としての信用も 損なわれたし浪費も浪費で国力が半分になったわ。ヘンリー一世陛下の 唯一の善行が、こいつらの爵位剥奪して国外追放して『民主党』を 非合法組織にしたことくらいだって言われるくらい。 だから、その後にロマリアから招かれたマザリーニ枢機卿が宰相に 就いてから大変な苦労をしてアルビオンとの関係修復したりこの国を 立て直そうとしたの。本当に関係修復されたのは、三年前にラグドリアン湖の ほとりで催された園遊会でのことだったくらい。 でも、その後ヘンリー一世陛下が崩御なされて……それからマリアンヌ 太后陛下が喪に服されて、アンリエッタ姫殿下も大変な苦労をされているわ。 そこからは、言わなくても分かるわよね」 ルイズはそう言ってふがくに促した。確かに、そこから先は言われるまでもない。 ふがくが納得したように頷くと、オスマンがルイズを褒めた。 「さすが、座学学年トップの成績は伊達ではないの。ミス・ヴァリエール」 「あ、ありがとうございます」 「うむ。強すぎる力は災いを招く。扱う人間に知恵がなければなおさらじゃ。 努々気をつけることじゃ。 それに、後回しになってしまったが、ワシはきみに謝らなければならん」 オスマンはそう言うと立ち上がり、ルイズに深々と頭を下げた。 「きみの系統を察することすらできず、教師一同不当な扱いをしたことを 深くお詫びする。本当につらい目に遭わせてしまった。申し訳ない」 「オ、オールド・オスマン!?あ、頭を上げてください」 オスマンが自分より低いくらいに頭を下げたことに、ルイズは動揺した。 その言葉に、オスマンは面を上げる。 「あ、あの……オールド・オスマン。わたしが……その、『虚無』だって ことに?」 ルイズの問いかけに、オスマンは首肯した。 「そうかもしれぬ、と思ったのは、ミス・ふがくがミスタ・グラモンと 決闘をしたときじゃった。『ガンダールヴ』の力の一端を見て、な。 確信を持ったのは、きみに『始祖の祈祷書』を手渡したとき―― 気づいておったかね?きみが自室で『始祖の祈祷書』に触れたとき、 途方もない魔力があふれ出した。系統が系統のため、そうと知らねば、 気づくこともないことじゃったがの」 ルイズは、『水のルビー』を鍵として『始祖の祈祷書』の封印を解いた ときのことを思い出す。あのときにそんなことがあったとは、ルイズ 自身気づいていなかった。 「ワシが『虚無』を知っておることが不思議なようじゃの。 三十年前、ワシはフィリップ三世陛下より、『虚無』を捜すよう命じられた。 あのような悲劇を二度と起こさぬようにな。 だから、ワシは『虚無』がどのようなものであるかを知るために数多くの 文献、伝承を当たった。そして知った。始祖の末裔たる三王家の血統、 そして、それ以外の『虚無』を」 「それ以外の……『虚無』、ですか?」 ルイズの疑問に、オスマンは頷いた。 「うむ。きみのように始祖の末裔である王家に連なる『虚無』は、 このハルケギニア史上そのものが残されることはないが、そうであると 確証できるようなものが一番多く残っている。しかし、文献、伝承を 当たれば、どう考えてもただの平民が『虚無』であるとしか思えないものも 少なからず存在するのじゃ。 先にきみがその名を出したアルビオン王家の血統である『白銀の姫騎士』 バージニア姫はもちろん、平民であったと伝えられるかの伝説の勇者 イーヴァルディも、ワシは『虚無』であったと思っておる。第一、始祖と、 その末裔のみが『虚無』であるというのであれば、始祖の弟子と伝えられる ロマリア皇国の初代教皇、聖フォルサテはどうなるかね?」 「あ……」 オスマンの指摘にルイズは思わず声を上げる。オスマンは続けた。 「始祖ブリミルに『虚無』を授けた存在――それは、始祖のみに『虚無』を 授けたのではない、ということじゃ。おそらく、現在に至るまで影から 我々に干渉を続け、今もどこかで『虚無』を生み出しておることじゃろう。 その目的は分からぬがな。 いや、むしろそれが本来の『虚無』の姿であり、きみのような血統による 『虚無』の方が破格の存在なのかもしれぬな」 「…………」 ルイズは言葉も出ない。その肩に、オスマンは優しく手を置いた。 「……これで、ワシはようやく陛下の墓前にご報告ができる。 じゃが、問題は今の学院に『虚無』を教えることができる教師がおらぬ ことじゃの」 「あ、あの。オールド・オスマン。わたしが『虚無』だってこと、内緒に してもらえませんか?」 「ルイズはね、ウェールズ皇太子殿下から、それを誰にも話さないよう 厳命されてるわ。その意味が分からない、なんてことはないでしょ?」 ルイズとふがくがそう言うと、オスマンは告げる。 「誰もおおっぴらにするとは一言も言っておらんよ。 本来ならミス・ヴァリエールの名誉を回復するために公言すべきじゃが、 それがどんな結果を招くか分からぬほど耄碌しておらんわ。 ミス・ヴァリエール。きみの系統を正しく使うための手引きとなるのは、 今のところ『始祖の祈祷書』のみじゃろう。ただの白紙のぼろ本が、 『虚無』の魔導書じゃったとは思いもせんかったがの。 ともあれ、それをきみが占有できるよう、ワシの方から手を回してみよう」 「そんなこと、できるんですか?」 ルイズの疑問はもっともだ。何しろ『始祖の祈祷書』はトリステイン 王国の国宝。いくらルイズが王国三指に入る公爵家の令嬢といえども、 おいそれと譲渡できるようなものではない。 だが、オスマンは大仰に頷いて見せた。 「心配はいらんよ。かつてフィリップ三世陛下が『虚無』を捜すために 設立した特務機関、『ゼロ機関』。表向きは『アカデミー』とは別系統の 魔法機械の研究組織として存在しておったが……知っておるかね?」 ルイズはふるふると首を振る。もちろん平民のシエスタも、ハルケギニアに 召喚されたふがくも知るはずもない。 「まぁ、表向きの理由が理由だけに、ヘンリー一世陛下の時代に『民主党』の 連中に解体されたがの。真の存在理由を知ろうともせず、浅薄にな。 それでもワシのように独自に活動を続けた者もおれば、近年再結成して アンリエッタ姫殿下の許で活動を再開した者もいる。 もっとも、アンリエッタ姫殿下の目的は『虚無』を捜すことではなかったから、 その方向性は昔とは違うようじゃがの。詳しいことは分からん。 しかし、王家に近いところに知り合いがおることには変わりないからの。 彼らに頼んでみようと思う。悪いことにはならんじゃろう」 「あ、ありがとうございます」 「うむ。『竜の羽衣』についても、了解した。ミスタ・コルベールが戻り次第、 彼を担当に当てよう。この学院で、あれが少しでも理解できるのは 彼くらいじゃろう」 オスマンはそう言ってシエスタに視線を向ける。 「それはミスタ・ササキの戦装束じゃな。よう似合っとる。 きみが毎朝メイドにしては激しい訓練をしておったのは知っておったが、 それはすべてこのためか……身分はさすがに変えられんが、きみの身の 安全についても学院でできる限りのことをしよう」 「あ、ありがとうございます!」 シエスタが二つにならんばかりにお辞儀をする。 「うむ。ワシの取り越し苦労じゃったことがよく分かった。退出してよろしい」 その言葉に、三人は学院長室を退出する。誰もいなくなった部屋で、 オスマンは窓の外に見える『竜の羽衣』を見下ろし、言った。 ――もっとも、すでに姫殿下はきみらの力を手の内に組み込んでいるかもしれんがの―― その言葉を聞いたのは、使い魔のモートソグニルだけだった。 その頃――アルビオンの工廠都市ロサイス。ここはアルビオン空軍艦隊の 一大拠点であると同時にアルビオンの首都ロンディニウムに一番近い 空の玄関口でもある。 王党派との内戦にも一区切りし、共和制の名の下に復興への道を歩み 始めたこの国だが、王党派の首魁である国王と皇太子をニューカッスル沖の 空戦で乗艦していた戦列艦『イーグル』号ごと撃沈、戦死させたことにより、 テューダー王家とのつながりが深いトリステイン王国からの報復の侵攻の 予感に民の心中は穏やかではない。 そんなやや緊張感を帯びた街並みを、この状況にはあまり似つかわしくない 一行がゆく。多くの子供を連れた奇妙な格好の少女二人――ほとんどの 人間は彼女たちに関心を示さない、いや関わり合いを避けようとしていたが、 その理由は、少女たちの格好に由来していた。 「えっと、この先の『バルハラ』ってお店ですね」 そう言って指さしたのは、貧相な異国の服装の上から腕や脚に鋼の 装甲を身につけた黒髪の少女、チハ。鋼の乙女である彼女は、『聖地』に 召喚されてから迷いに迷ってこのアルビオンにたどり着いていた。 「ええ。スピ……じゃなかった、マイトさんの知り合いのハーマンって 人に会うのよね。どんな人なのかな」 そう答えたのは、母の形見であるフードに飾られた真っ白い羽飾りが 目を引く焦げ茶色の外套を羽織った金髪の少女、ティファニア。 そのこぼれるような美しさと、外套も隠しきれないはち切れんばかりの スタイルには、無関心を装う男たちも視線を向けざるを得ない。 チハがティファニアのところに転がり込んだのは、二週間ほど前のことだ。 へろへろになって森に迷い込んだチハを、ティファニアが山菜採りの途中で 見つけたのがきっかけで、そのまま厄介になっていた。そんな、同年代の 友達がいなかったティファニアと、怯えた小動物のようなところがある チハが打ち解けるきっかけになったのは、ティファニアと一緒に暮らす 子供たち。彼らが戦災孤児であると聞いたチハは、あの戦争のことを 思い出し、それがきっかけで急速に打ち解けていった。マチルダが彼女たちが 暮らす隠れ村ウエストウッドを訪れたのも、そんな時期だった。 「ティファねえちゃん、もう疲れたよぉ」 子供たちの一人がそう言ってしゃがみ込む。ティファニアはその子の 目線に合わせるようにしゃがむと、優しく言葉をかけた。 「もう少しだから、ね。ついたらご飯を食べよう。だから、頑張ろう」 「……うん」 「私がおんぶしてあげます」 チハがそう言って子供を背負うと、他の子供たちが騒ぎ出す。 「あー。チハ、私も!」 「ずるいよぉ!僕も!」 「あはは。みんなは頑張ろう。頑張った後のご飯はおいしいですよ!」 チハはそう言って鉄帯の音を響かせ、子供たちとじゃれ合うように先に 進む。ティファニアは、その様子を楽しげに追いかけた。 スピノザが指定した宿、『バルハラ』は、アルビオンの古典的な ベッド・アンド・ブレックファストだった。それはガリアやトリステインでは シャンブル・ドット、ゲルマニアではペンションと呼ばれる、朝食付きの 宿を提供する比較的低価格な宿泊施設。ここもその例に漏れず、家族経営の 家を改装して一階をパブ、二階を宿として提供しているところだった。 おそらくティファニアの素性を慮って、目立たないここを指定したのだろう。 「いらっしゃい」 軽やかな音色のカウベルが鳴り響き、カウンターで洗い物をしていた 赤毛の女性が声をかけてくる。二十代中盤というところか、優しい気持ちに なる声だった。 「あ、あの……マイト・トゥールビヨンという男の人が予約を取って くれているはずなんですけど。わたし、ティファニア・ウエストウッドです」 ティファニアがおずおずとスピノザの偽名を言うと、カウンターの 女性はああ、という顔をする。 「あなたがウエストウッドさん?こんなに綺麗な子だとは思わなかったわ。 トゥールビヨンさんからお代も全部受け取っているから、ゆっくりして いってね。 そうそう。『マリー・ガラント』号は今日到着したから、荷物の 積み卸しとかで乗船できるのは明日になるわね」 「あ、ありがとうございます。騒がしくなると思いますけど、よろしく お願いします」 ティファニアが深々と頭を下げる。カウンターの女性はティファニアに 宿帳にサインするように促し、それからよく使い込まれた青銅の鍵を 二つティファニアに手渡した。 「これがお部屋の鍵よ。こっちが玄関の鍵。夜遅くに外出して、玄関が 閉まっていたら使ってね。 それからお夕飯はどうするの?トゥールビヨンさんはここで食べさせて あげてくれ、って言っていたけれど」 「あ、えと……お、お願いしても……いいですか?」 普通こういう宿では夕食は外に食べに行くものだが、世情に疎い ティファニアはそれを知らなかった。しかし、ティファニアの言葉に 女性は快く応じる。それも代金に入っていたのだろう。 そのとき、カウベルの音が響いた。 「ただいまーメリル姉さん。って、お客さん?」 ドアを開けて入ってきたのは、背の高い男女二人組。ティファニアと 年の変わらないまだ少年少女というところか。どちらもハルケギニアでは 珍しい黒髪で、黒い肩を出した工員シャツを着た少年の鍛えられた体と、 ここロサイス工廠で使用されている赤い上下繋ぎの作業服を着た少女の 背中に届く髪にティファニアとチハは思わず見とれた。 「あらゼルちゃんアリサちゃんおかえりなさい。 こちらはトゥールビヨンさんのお知り合いのティファニア・ウエストウッドさんと、ええと」 「あ、チハです」 「チハさんね。お二人が連れている子供たちも一緒に、明日の朝まで ここに泊まるわ。お客様に失礼のないようにしてね」 ゼルと呼ばれた少年は、それを聞いて口笛を吹いた。 「マイトさんの知り合いか。二人ともすごい美人だ」 「ゼルー。アンタ手が早いよ。でも、本当に綺麗だね。二人ともお人形みたい」 アリサがそう言ってゼルをからかうが、ティファニアとチハを見て 思わず溜息を漏らした。 「そんな。アリサさんもお綺麗ですよ」 「チハさん、だっけ?お世辞でも嬉しいよ。もっとも、あたいみたいな 油くさい女じゃ、そんな言葉、似合わないけどね」 「油くさい……ですか?」 ティファニアが聞くと、アリサは「そうだよ」と答える。 「あたいらロサイス工廠で働いてるからね。いつも鉄と油に囲まれてるのさ」 「それなら私もずっと戦場にいましたから、大して変わらないです」 チハがそう言うと、ゼルもアリサも意外そうな顔をした。 「確かにチハさんが身につけているの、結構物々しい……ってか、 見たこともない装備だけど、どこで戦っていたんだ?」 ゼルの問いかけに、チハは遠くを見るような目をした。 「……ここからずっと遠いところ、です」 夕食の時刻。夜間はパブになる『バルハラ』だが、今日は客足が少ない。 常連らしき数人がカウンターで酒を飲む一方で、ティファニアたちは テーブル二つを囲んでメリルが運んでくる料理を楽しんでいた。 「はい。どんどん食べてね」 子供たちが大皿が運ばれてくるたびに歓声を上げる。ここロサイス方面の 郷土料理が中心だが、フネが出入りする港町でもあるためか、トリステインや ガリア風の料理もある。メリルの腕前もあってアルビオンにしてはかなり マシな食事ができ、外食などしたことがなかった子供たちには大受けだった。 「おいしいです」 ローストビーフにウスターソースに似た味のソースをかけたものを 口に運んだチハが、思わず懐かしさに涙が出そうになる。フィリピンで 鹵獲されてから連合軍として欧州戦線で戦い、それなりにイギリス料理にも 親しんだチハだったが、まるで日本の洋食屋で食べるような味だったのも、 それに拍車をかけた。 「本当。みんなも喜んでるし、スピ……じゃなかった、マイトさんには 感謝しなくちゃ」 アルビオンの伝統的調理法である塩で味付けされただけのあっさりとした ウサギのシチューを口にしたティファニアも、そう言って柔らかく微笑む。 ハーフエルフの長い耳を隠すために店内にもかかわらず外套を羽織って いるのだが、誰も気にすることがない。 「ゼルさんたちが『マリー・ガラント』号に連絡してくれる、って 言ってましたけど。どんな人なんでしょうね、ハーマンさんって」 チハは付け合わせのヨークシャー・プディングを食べやすいように ちぎりながら言う。チハが食べているのは付け合わせの大きなものだが、 別のバスケットに入っているのは中にソーセージが入った、いわゆる トード・イン・ザ・ホールのため、子供たちに大受けな料理の一つだ。 そんなとき、カウベルが軽やかな音を立てる。扉を開けて入ってきたのは、 女性の二人連れ。片方の背の高い女性は緑色の長い髪を揺らし、体のラインが 分かる黄色い鎧下の上に上質のファーが付いた上着を羽織り、頭に動物の耳が ついた耳当てをつけている。もう一人の小柄な女性は金髪を少年のように切り、 その格好も平服ながら動きやすさを重視したもの。しかし、その気の配り方は 相方よりもずっと歴戦の戦士のそれだ。そんな奇妙な二人は店内を見回して、 それからまっすぐティファニアたちのテーブルの前にやって来た。 「え?」 近づいてくる二人、いやそのうちの一人の顔を見て、チハは思わず 自身の目を疑った。そんなはずはない。ここはハルケギニア。見知った 人などいないはずなのに。 そんなチハの心情など知らず、二人の女性はティファニアの前に立つと、 背の高い女性がティファニアに声をかけた。 「……お食事中に失礼いたします。ティファニア・ウエストウッドさまですか?」 「え?あ、は、はい。え、と」 突然声をかけられたティファニアは思わず女性の顔を見上げた。 年は二十歳そこらというところか、耳当てがかなり傾(かぶ)いているが、 世情に疎いティファニアにも、このハルケギニアに召喚されてまだ日が浅い チハにも、それが分からなかった。 「私、ハーマン・ド・エランと申します。マイト・トゥールビヨンさまの 使いで参りました」 「あ、あなたが……」 驚くティファニア。だが、もっと驚いていたのはチハだった。 「あなた……まさか……シンさん!?こんなところで何をしてるんですか!?」 それを聞いて驚いたのはシンと呼ばれた女性だけではない。ハーマンもだった。 「え?もしかして……じゃなくて、もしかしなくてもチハさん?!」 「なんだいシン。知り合いかい?」 「あ、いやぁ……あはは……」 先程までと違い、ハーマンの口調がくだけたものになる。 そして、シンはといえば……乾いた笑みを浮かべるしかなかった。 前ページ次ページ萌え萌えゼロ大戦(略)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7296.html
前ページ次ページゼロのロリカード 「さすがは我が主、それでこそ仕えるに値する」 聞き覚えのあるその声に、ウォルターは弾かれたように振り向く。 見れば、邪悪な笑みのアーカードが歩いてきていた。 と、その後ろから続くタバサが詠唱をし、杖を振る。 ウィンディ・アイシクルの矢が二本、ルイズを捕えているガーゴイル二体を正確に貫いた。 機能を停止したガーゴイルの腕から逃れたルイズは、地面へと落下していく。 ウォルターは舌打ちをして、落ちるルイズを糸で確保しようとする。 しかしウォルターの糸がルイズ触れることはなかった。 アーカードが放ったジャッカルの弾丸を、止めなければならなかったからである。 瞬間的に糸を編み込み、盾を形成する必要があった為に、ルイズを確保する事は不可能であった。 ルイズはタバサのかけたレビテーションで、無事地面へと降り立つ。 (あーーー、時間掛け過ぎたなぁ・・・・・・) 最初はアーカードがいなかった事を考えると・・・・・・。 途中までは足止めをしていたが、何かしらの理由でタバサは心変わりをしたという事だろうか。 まぁそんなことは最早どうでもいい。考えるだけ無駄というもの。 ――――――こうなれば力尽くで奪うだけだ。 ウォルターの額に刻まれたルーンが一層輝く。 神の頭脳『ミョズニトニルン』。知恵のかたまり神の本。 あらゆる知識を溜め込みて、あらゆる魔道具を自在に使いこなす。 「貴様が来ていたとは、ウォルター。ふむ・・・・・・少し浅慮だったな、全く危ないところだった」 さすがにウォルターを相手にしては、ルイズ一人では持て余す。 大丈夫だろうと高を括っていたのは、何気にヤバかったと言わざるを得ない。 「ルイズを人質に、私に零号を開放させるつもりだったか?」 「いや、違うよ。多少の打算も無かったとは言わないけど・・・・・・、主人の命令でさ。 訳あって虚無の担い手を集めてるんだ。既に一人確保している。ルイズも頂いていくよ」 そう言うとウォルターはニッと笑う。 糸を天高く伸ばし、グッと握ると・・・・・・そのまま引っ張られ、空へと上昇していく。 ウォルターの姿を追うように、アーカードは夜空を見上げた。 双月を食い潰すかのように、"巨大なシルエット"が浮かび上がる。 そしてその周囲には、10メイルほどはありそうな空飛ぶ人形が四体。 羽を広げた姿は、左右で30メイルはあろうかというガーゴイルが四体。 しかしそんなものよりも、四体のガーゴイルがそれぞれ吊るし上げている"それ"を凝視する。 適当な高度で"それ"は投下され、その巨大さとは裏腹に、恐ろしく静かに地面に降り立った。 軽い衝撃と、土埃を少しだけ散らし、緩慢に立ち上がる。 落ちていた己の杖を拾って合流したルイズは、呆然と"それ"を見つめ、そして畏怖した。 誰よりもそういった物に見慣れているタバサも、かつて火竜と相対した時のように恐怖する。 大抵の事に動じないアーカードですら、驚きの色を隠せなかった。 そこに在るのは、堅固な鎧を纏った騎士風の巨大な人型。 10メイルの巨大ガーゴイルすらも小さく見える、さらに巨大な怪物。 「・・・・・・さてと、それじゃ闘ろうか」 "それ"の肩に乗ったウォルターは、さながら「遊びましょう」といった感じの口調。 アーカードはすぐさまジャッカルを構えると、弾丸を全弾撃ち込んだ。 しかし鎧が薄っすらと光るのが確認出来たところで、弾丸は全て虚しく弾かれる。 間髪入れずタバサがジャベリンを叩き込むも、粉々に砕け散った。 次いで砕けた氷の破片を縫うように、アーカードはバネ仕掛けの人形のように跳んでいた。 ジャッカルが効かないなら、生身で攻撃をぶち込むまで。 しかし渾身の拳を巨大な剣士人形の胴体に叩き込むも、逆にアーカードの拳が破壊された。 予想外の結果にアーカードは破壊された拳を見つめる。直後に糸の攻撃を視界に捉えた。 アーカードはそのままさらに蹴りを入れると、その反動で元の位置まで戻って回避する。 拳はおろか、蹴りでも剣士人形には傷一つついていない。 通常、アーカードの攻撃ならば、鉄鎧程度など簡単に破壊出来るにも拘らず。 「無駄だよ、この"ヨルムンガント"には先住の『カウンター』が掛かっている」 ウォルターは手にしたばかりの玩具を自慢するように、わざわざ解説をする。 ヨルムンガントと呼ばれた巨大な剣士人形は、非常に滑らか且つ緩やかに。 正に人間の様な動きで、大剣を抜く。 「ルイズ!!エクスプロージョンだ!!!」 アーカードの背中のデルフリンガーが突然叫んだ。 ルイズはその言葉に即座に反応して、エクスプロージョンを唱え始める。 その様子を見て取ると、ウォルターもマズいと感じたのか、ルイズを糸で襲った。 しかし襲い掛かる糸の全てを、アーカードは強引に掴んで止める。 「・・・・・・そりゃそうだよねえ」 ウォルターは呟く。主人に対する攻撃を止めないわけがない。 アーカードは掴んだ糸を引っ張り、ウォルターを引き落とそうとする。 しかし糸の鋭さはそれを許さなかった。アーカードの手は無残に切り落とされる。 だがその間にエクスプロージョンの詠唱は完成し、ヨルムンガントへと放たれた。 尤もウォルターは焦らない、それも想定の範囲内。冷静に対処するのみ。 質量を無視するような、軽やかな動きでヨルムンガントはバク宙しながら飛び退る。 その光景は非現実的としか言いようがなく。 エクスプロージョンはあっさりと、虚空のみを爆発させた。 「なっ・・・・・・!?」 ルイズの口から驚愕の声が漏れた。 まさか避けられるなんて思っていなかった。 アーカードは、ウォルターに切断された手を再生しながら思う。 回避行動を取ったことから、虚無魔法は通用する可能性が有るだろうことはわかった。 しかし、ルイズが使える虚無で唯一の攻撃魔法であるエクスプロージョンが・・・・・・当たらない。 その恐るべきスピードを目の当たりにして、アーカードだけでなく全員に焦燥が生まれる。 「ふぅ・・・・・・いつの間に人形使いに転職したのだ?」 再生を終えたアーカードは焦りを見せないよう、世間話をするかのようにウォルターに問う。 「いやあ、『ミョズニトニルン』のルーンのおかげだよ。魔道具を好きなだけ操れる、便利なものさ」 なんともまぁ厄介なルーンを手に入れたものだと思っていると、デルフリンガーが囁くように耳打ちする。 「まずいぜ、相棒。エクスプロージョンすら避けられるんじゃあ、どうしようもねえ。 『カウンター』ってのは、あらゆる攻撃を跳ね返すエルフの先住魔法だ。それに加えてあの動き・・・・・・」 デルフリンガーのその説明にアーカードが策を考えようとする。 しかし次の瞬間、ヨルムンガントが手に持った大剣を振りかぶった。 一瞬の間すら置かず、一気に振り下ろす。 アーカードは咄嗟に跳躍する。 狙いは自分に対してだったが、あんなものが己ごと地面に叩きつけられたら、その周囲も危険だ。 全身のバネでパワーを捻り出す凶悪な蹴りが、縦に襲う大剣を何とか横に逸らす。 軌道を逸らされた剣は大気を裂き、突風のように空気が渦巻く。 「ヒュ~♪」 ウォルターから思わず口笛が漏れる。 「流石だねぇ、アーカード。でも・・・・・・僕も操作するばかりじゃつまらないんでね」 ヨルムンガントの横薙ぎがアーカードを、ウォルターの糸がルイズへと襲い掛かる。 アーカードは大剣を蹴り上げ、タバサがフライでルイズと共に躱して何とか事なきを得た。 しかし・・・・・・このままでは間違いなくジリ貧だった。 アーカードは思索を巡らせる。 拘束制御術式321号を開放すれば、破壊出来るだろうか。 若しくは、魔道具と言えど所詮は無機物。英空母の時のようにヨルムンガントを乗っ取り操作するか。 いや、ウォルターが機動制御をしている以上、こちらの支配下に置くことは出来ないかも知れない。 そもそも開放する間の多少なりと出来る隙を、ウォルターが見逃すわけがない。 今はこちらが完全に待ちに徹し、即座に対応出来る状態だから辛うじて保っているだけ。 故にタバサも、無理にルイズを連れて逃げるような真似はしない。 わかっているからだ。そんな事をすれば、矛先が完全にルイズへと向くことに。 ウォルターがヨルムンガントという圧倒的戦力を保有し、且つ対峙しているからこその拮抗状態。 優位を楽しんでいるのだ。絶対的な立場にいるからこそ、焦らない。 もしルイズが逃走の素振りを見せれば、捕獲を優先するだろう。 強引に来られたら、どんな危害が及ぶかわからない。最悪死ぬ可能性すらある。 タバサは滲み出る汗を拭くこともせず、ひたすら集中していた。 既にアイス・ストームにジャベリンを二発。 ウィンディ・アイシクルに、自分の怪我を治した治癒魔法。 加えてフライで精神力をかなり消費している。 ルイズを抱えた上で、さらなるフライで逃げ切るのは不可能に近い。 故に今は来た攻撃にのみ対応して、退避するのが正しい選択。 しかし現状打破が見込めない以上は・・・・・・。 既に周囲は大変な騒ぎになっていた。 野次馬も集まり始め、距離を取っているものの、学院と生徒にいつ被害が及ぶかわからない。 (援軍は・・・・・・期待しても仕方ないな) 吸血鬼となったアニエスでもいれば色々と変わってくるが、ここは学院。 ジャッカルの弾を、タバサの氷槍を、拳も蹴りも全く効かないのだ。 ウォルターとヨルムンガントの前では、有象無象が何人いようと戦力にならない。 キュルケやコルベールですら、戦力としては心許ない。 その時、聞き慣れぬ詠唱が聞こえた。タバサではなく、ルイズの声。 それはエクスプロージョンでもイリュージョンでもない、第三の魔法。 ルイズはエクスプロージョンが通用しないとわかると、次の手を考えていた。 手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に。追い詰められた今の状況を打破する一手。 今の自分に出来ること、必要に迫られた時、己のするべきこと――――――。 「あっ・・・・・・始祖の祈祷書」 ウォルターがルイズが手に持っている物を確認し呟いた。 そうだった、ジョゼフに回収してくるように言われていた事を思い出す。 四つの指輪と四つの秘宝。水のルビーと始祖の祈祷書が、たった今目の前にある。 (まぁルイズごと攫えば、一緒に手に入れられるか。それよりも・・・・・・) 新たな魔法を唱えようとしているということ。 何が出てくるかわからない以上、迂闊に喰らうわけにはいかない。 先住を扱うエルフが恐れる、悪魔の力、『虚無』。 如何に『反射』をかけたヨルムンガントと言えど、どうなるかは未知数。 虚無呪文はたとえ詠唱途中でも、不十分ながら効果が発動することは知っている。 ウォルターはヨルムンガントを操り、いつでも回避できる体勢を取った。 「くっ・・・・・・」 詠唱を完成させたルイズだが、また避けられるのではと、魔法を放つのを一旦止める。 アーカードはどんな状況にも対応し動けるように、感覚を研ぎ澄ませる。 タバサはルイズを守る事だけに専念する。フライでいつでも回避出来るようにと。 『解除』、ディスペル・マジック。 あらゆる魔法効果を打ち消す、虚無魔法。 これでカウンターを解除出来れば、アーカードの攻撃も通用する筈。 ルイズは静かに機を待つ。 そこに在るのは『勝つ為の行動』という計算世界のみ。 痺れを切らしたウォルターとヨルムンガントが動き出す、その出掛かりを潰す。 緊張が走り、全員が張り詰めているその時。 デルフリンガーが何かを思い出したようにルイズに向かって叫んだ。 「俺に『解除』をかけろ!」 ルイズは一瞬眉を顰めるものの、すぐにディスペルをデルフリンガーへとかける。 アーカードもすぐに反応し、デルフリンガーを抜いていた。 ウォルターは動かない。『誰が叫んだのか』を認識出来なかったので動くに動けなかった。 ディスペルをかけられたデルフリンガーの、刀身が鈍く光り始める。 「相棒、これなら『カウンター』を切り裂いて攻撃が通る。だがあの鎧はかなり分厚い。 多分ってか間違いなく、相棒のパワーで叩きつけられたら俺が折れる。だから――――――」 「みなまで言わずとも・・・・・・」 デルフリンガーの意図を察し、アーカードは深く腰を落として構えを取る。 そしてウォルターとヨルムンガントが動く前に、『縮地』により一瞬にして距離を詰めた。 「島原抜刀流・・・・・・鍾馗」 間合いに入った刹那には、既に攻撃は終わっていた。 アーカードの中にある命の一人、高木由美江。その技を借り受ける。 一瞬にしてヨルムンガントの腕は斬り落とされ、握っていた大剣と共に地面へと落ちる。 「なッ!?」 ウォルターは狼狽する。カウンターが掛かっている筈なのに・・・・・・。 あんな長剣一本で、鎧に覆われた腕を造作もなく斬って落とすなんて。 ヨルムンガントを綺麗に切り裂く以上、大振りになるだろう、長剣ならば尚のこと。 にも拘らず軌跡がまるで見えなかった。恐ろしいほどまでの抜き打ちの速度だった。 「島原抜刀流・・・・・・秋水」 ウォルターの糸を掻い潜り、アーカードはさらに斬撃を重ねる。 時にヨルムンガントの巨体を踏み台に、縦横無尽に動き回り、残った四肢を切断する。 足を失ったヨルムンガントは崩れ落ち、ウォルターも地に降り立つしかなかった。 「クソッ・・・・・・何故だ・・・・・・」 ウォルターは毒づくしかない。 先程までは戦闘の流れを支配していた、相手をコントロールする側に立っていた。 しかし、ルイズの虚無を起点に一気に逆転されてしまった。 「ルイズの魔法のおかげでな、今この剣はカウンターとやらをも切り裂く」 「なん・・・だと・・・?」 つまりはアーカードの持つ長剣に限って、カウンターは無効化されるわけだ。 しかしそれでも疑問が残る。あんな剣如きで、鋼鉄の鎧を突破するなど・・・・・・。 「バラバラにされたのが不思議か?なれば残骸をよく見てみるといい」 そう言われ、ウォルターはヨルムンガントを横目に見る。 「・・・・・・介者剣法。目、喉、脇、右胴合わせ、篭手裏、右帯部、草摺下、腿裏、脛、足先。 まぁこれは日本の甲冑の場合だが・・・・・・基本は同じ。要は関節の隙間を狙うだけ。造作もない」 なるほど、言われてみれば確かに関節から綺麗に分断され、バラバラにされていた。 チェック 「王手だ、ウォルター。闘うか逃げるか位は選ばせてやろう。まっ、逃げても殺すがな」 「はぁ・・・・・・まさか、ヨルムンガントが破壊されるとはねぇ」 ウォルターが発した声色には、焦燥も狼狽も窺えない。 切り札でもあるのか、それとも諦観か。 「闘争か、逃走か・・・・・・」 ウォルターがふっと笑ってかぶりを振ると、その額が輝いた。 「両方かな」 その言葉と同時に、上空にいた三体の巨大ガーゴイルが、アーカード目掛けて襲い掛かる。 「無駄な足掻きを・・・・・・」 どれだけ大きかろうが、ただのガーゴイルならば障害にすらならない。 仮にカウンターが掛かっていたとしても、ディスペルの付加効果はまだ続いている。 アーカードはあっという間に三体の巨大ガーゴイルを斬り下ろした。 「ほんの少しで良かったんだ。そう・・ほんの少しの時間だけ・・・僕が自由になれば・・・・・・」 ウォルターがブツブツと呟くように喋り出す。 「おかげで、準備は整った」 いつの間にかウォルターは、ヨルムンガントの残骸の上に立っていた。 「我ながら名案だ、ちょっときついけどね」 ウォルターの手からは無数の糸が伸びていた。 その一本一本がヨルムンガントの残骸に複雑に絡み付いている。 「・・・・・・相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している」 ウォルターはそう告げると、同時にあやとりをするかの如く手を素早く動かす。 そのままさらに、大きく後ろへ退きながらウォルターは思い切り糸を引っ張った。 するとバラバラになっていた筈の、ヨルムンガントの四肢が繋がり立ち上がる。 アーカードが気付いた時には遅かった。 動かなくなったヨルムンガントは、ウォルターの糸によって無理やりマリオネットにされていた。 ウォルターが体ごと豪快に腕を振ると、それに合わせてヨルムンガントは両手を振り上げる。 そのままアーカード目掛けて両拳を叩き落とし、土埃が辺りを包み込む。 (チッ・・・・・・視界が・・・・・・!?) なんとか躱したものの、さらにヨルムンガントはその場で荒れ狂う。 25メイルに及ぶその巨体は、ただ暴走させるだけで充分だった。 視界の確保出来ないままアーカードは殴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。 ――――――そして全てが終わっていた。 四体の内残った一体の巨大ガーゴイルの手にはルイズが掴まれ、その背にはウォルターがいた。 「あー・・・・・・しんど」 その言葉の後、ヨルムンガントは文字通り、糸の切れたマリオネットの様に崩れ落ちる。 ルークや黒犬獣を操った時とは訳が違う。 風石のおかげで軽やかに移動するヨルムンガントとは言え、その重量は相当なもの。 ちょっと動かすだけでも、正直指が千切れそうだった。 だが結果的に上手くいった。ちょっと血が出ているけれど、指も無事。 ヨルムンガントはこのまま破棄するしかないが・・・・・・仕方ない。 所詮は一度壊れた玩具。データも十分に取れた。 それに製造ラインは出来ているから、一体オシャカにしたところでさほど気にすることはない。 始祖の祈祷書と水のルビーも確保したし、及第点だ。 と、気付けばルイズをその軌道上から避けるように、無数の氷の矢が空中に浮いていた。 氷の矢が放たれるよりも一瞬早く、ウォルターは事も無げに糸を振る。 それだけでタバサの放ったウィンディ・アイシクルを全て切断した。 これ以上攻撃されても面倒なので、ガーゴイルはグングンと高度を上げていく。 次いでアーカードが矢の様に飛んで来るのが見えた。 しかし呆気無くウォルターの糸に掴まって、細切れにされる。 ウォルターの糸は、中~遠距離で特に力を発揮する。 近距離も不得意ではないし、使いこなすのは難しい反面、相当に強力な武器である。 ほぼ真っ直ぐ突っ込んで来る飛行体を切断するのは、さほど難しいことではなかった。 多少のフェイントを入れられたところで、何も問題はない。 「アーカード!!」 切断された従僕の姿に、ガーゴイルの手から必死に逃れようと暴れていたルイズが思わず叫ぶ。 「ルイズに手を出せば・・・・・・後悔させてやる」 地に墜ちながらアーカードは、首だけで声を発してウォルターに警告する。 「怖いなぁ・・・・・・、僕は手を出さないし善処はするけどさ。果たしてジョゼフがどうするか・・・・・・。 まっ今回は僕の勝ちってことで、潔く認めて欲しいな。・・・・・・アーハンブラ城で、待ってるよ」 零号を開放させる為に、ガリア領のはずれにあるアーハンブラ城は最適だった。 なにせアーカードが零号開放しても、ガリア国内への影響は薄い。 思う存分戦える数少ない場所であった。 ガーゴイルはさらに高度を上げていき、最早追いつくことは適わない。 「糞餓鬼が・・・・・・」 アーカードは吐き捨てる。・・・・・・確かに、今回は負けだ。 一本取られたとかじゃない。ルイズが攫われた以上、完全な敗北。 地に激突する頃には、既に再生が終わっていた。 地面を粉砕しながら着地すると、タバサが走って来るのが見える。 「気にするな」 タバサが口を開こうとするのを見て、先に制した。 何を言いたいのかは・・・・・・大体わかる。 「・・・・・・それでも、私の所為」 「私が迂闊だっただけだ。いや・・・・・・ウォルターが一枚も二枚も上手だった」 ヨルムンガントという強力な駒を、トリステインまで運び、周到な準備で以て襲った。 最初にとっとと攫わなかったのは疑問だが、とにかく戦闘になっても実に厄介極まりなかった。 (アーハンブラ城か・・・・・・) 必ず助け出す・・・・・・何を置いても必ず――――――。 それが、拘束制御術式零号開放をする事になろうとも――――――。 前ページ次ページゼロのロリカード
https://w.atwiki.jp/mangaroyale/pages/66.html
ふたりはスカーフェイス ◆7jHdbxmvfI 暗闇が包み込む夜の校舎。 そして、その校舎の中の一つの教室に二つの声が小さく響く。 その教室は外敵を警戒してか、灯りをつけず月明かりだけが教室の中を明るく照らしている。 「……つまりあのピエロはいきなりあんたを襲ったってことか」 「ああ、本当にいきなりナイフを投げてきた。君が来なければ私はきっと……心から礼をする」 「あれぐらい大したことじゃねえよ」 斗貴子は先ほど起こった出来事を説明し、丁寧に頭を下げる。 花山は例を丁重に受け取ると、気になっていたことを質問する。 「それより姉ちゃんのその傷……ただの女子高生じゃねえのかい?」 先ほどは夜の闇で気付かなかったが、斗貴子の顔にはうっすらなピンク色の傷がある。 傷は古い為に、先ほどのピエロに付けられた物ではないことは容易に推測できる。 そのために聞いてみる事にしたのだ。 「これは……昔いろいろあってな……聞きたいのか?」 花山の問いに斗貴子は思い出す。 幼少期のホムンクルスに襲われたときの事を。 出来る限り触れてほしくない過去だった。 あの時の記憶がよみがえり、目には少しだけ哀しみが訪れた。 「別に話したくないならいい。変な事聞いちまったな……本当にすまねえ」 傷痕を軽く手で押さえ、目は僅かに曇り、途切れ途切れで話す仕草から話したくないであろう事はすぐに分かる。 その変化から、自分の過失で目の前の女性を傷つけてしまったと感じ取り、追求をやめ謝罪する。花山は丁寧に頭を下げた。 「あっ、いや。君が謝ることじゃない」 花山の風貌とは想像できない反応に、逆に斗貴子も恐縮してしまう。 そのせいで変な沈黙が生まれる。 しまった。予想以上にこの男、女性には優しいみたいだ。私の周りにはこのようなタイプいなかった。 どうする。私はこういったタイプの扱いは苦手だ。しかしこのままでは……そうだ。支給品があるじゃないか。 その話題でこの場は乗り切るしかない。それにもし核鉄を持っていれば借りれるかもしれない。よしっ! 「……そうだ。君の支給品は何がある。私は……この三つだが」 この妙な空気を打ち破るべく斗貴子のほうから話を切り出す。 支給品の確認のために、率先して自分の支給品を机の上に出す。 「……何だ?」 思わず聞き返す。 何より花山は自分の支給品を確認していない。いや、一度もバッグを開いていない為に、武器のことを知っていない。 「支給された武器らしいのだが……残念だが私の物は武器とはいえない物ばかりだ」 机の上に出ている物は、一冊の本と指輪と小学生サイズの運動靴。 斗貴子は試しにと本を開くが、見たことのない文字のために意味が分からない。 靴はいくら自分が小柄と言っても、小学生のサイズではさすがに合わず履けない。 指輪は試しにとはめてみたが、はめたところで特に何も起こらなかった。 「……支給品か。調べてなかったな……」 斗貴子の支給品を見て、花山も自分のバッグを開く。 すると中から出るは包み紙が三つ。斗貴子はその中に核鉄が入っているのを祈る。 しかし紙を開くと、中から出た物は突撃用ライフルとその予備マガジン、そしてタバコ一箱だった。 核鉄は無いのか…… 少しばかり斗貴子はうなだれる。 しかし花山はすぐに銃を手に持ち、 「……使うかい?」 丁寧にそっと、斗貴子の前に置いた。 「これは君の……いいのか?」 そしてそれを斗貴子は受け取りながら問い返すが、花山はいつもどおりの顔で―― 「構わねえ」 ――簡潔に答え返す。 事実花山は銃を好まない以上、いくら高性能の銃であっても無用の長物にすぎない。 それに斗貴子は普通の女子高生のように花山には感じられた。 その女子高生が丸腰で歩き回っては的にされるだけと感じとり、護身用にと銃を渡したのだった。 なによりこの銃は誰でも扱えるのがウリのAK。銃の心得が無くても銃に振り回される心配もなかった。 「……さてと、どこに行くかい?」 互いの支給品の確認を終えて、バッグに戻して再度わずかの沈黙が流れた直後だった。 今度は花山が次の移動先を聞くことにより沈黙を打ち消した。 いつまでもここに居てもあまり意味は無い。行動を起こす必要があると言う判断ゆえの行動だった。 「……そうだな、市役所にでも行くか。あそこなら人が集まる可能性が高い。君もいいのか?」 「ああ、付き合うぜ」 斗貴子は冷静に考え結論を出す。 ここよりは繁華街に近く、人の集合場所に使われそうな施設に思えたからだった。 花山も了承して、移動先は決まる。 花山と斗貴子。 二人のスカーフェイスは学校を出て、新たな目的にへと歩き出す。 【C-4 北東部 1日目 黎明】 【津村斗貴子@武装錬金】 [状態]:健康 [装備]: USSR AK74(30/30) 水のルビー@ゼロの使い魔 [道具]:支給品一式、USSR AK74の予備マガジン×10 始祖の祈祷書@ゼロの使い魔 キック力増強シューズ@名探偵コナン [思考・状況] 基本:主催者をなんとしても倒す 1:花山と市役所に向かう 2:カズキ、またはブラボーと合流。パピヨンには警戒 【花山薫@グラップラー刃牙】 [状態]:健康。 [装備]: [道具]:支給品一式、川田のタバコ@バトルロワイアル [思考・状況] 基本:乗っていない奴は助けるor手を出さない 1:斗貴子と市役所に向かう 2:襲ってくる奴はぶっ飛ばす 040 零式防衛術外伝 すごいよ!!散さん 投下順 042 オーガ=範馬勇次郎 039 北斗神拳の恐怖 時系列順 045 ひとりぼっちのエスケープ 009 銀の道化師と痕面 津村斗貴子 051 鬼と戦士と喧嘩師 009 銀の道化師と痕面 花山薫 051 鬼と戦士と喧嘩師
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/572.html
前ページ次ページZONE OF ZERO 王都に帰還したルイズは、取り次ぎを経てアンリエッタ王女の元に帰還した。 王女の自室で、王国軍の壊滅と恋人の生存が絶望的なことを聞き、 静かに涙する彼女の姿を見たときは、流石にルイズも胸を痛めた。 今回は彼女の仕草にも芝居っ気は見られず、ADAも自重していた。 それに重ねてワルドが裏切った事を告げると、いよいよアンリエッタのメンタルレベルは、 割と洒落にならないところまで落ち込んでいったので、 ルイズは今夜のシエスタのシチューを諦めた。 圧縮空間から割合アルコール度数の高い一本と二つのグラスを取り出すと、 片方になみなみと注ぎ、半ば無理やりに、アンリエッタに押し付けた。 しばしグラスで揺れる、琥珀色の液体を見つめていたアンリエッタだったが、 やがてそれを一度だけ睨み付けると、一息に飲み干した。 ……だがそれがいけなかった。 元々限界間際だった王女の精神は、蒸留酒のストレート一杯で 呆気なくお花畑の向こう側へとゼロシフトした。 杯を差し出したルイズも、習って一杯に注いだグラスを難なく空けるが、 これはルイズが酒に強いのではなくて、ADAを召喚した際に身についた強力な自浄作用が、 体内に取り込んだ毒物(アルコール)を片っ端から分解し、酔う事を許さないからである。 なので、精神がまるでどこかの火星の指導者みたいにぶっ飛んだ幼馴染の、 愚痴と癇癪と弱音と泣き言と恨み言と八つ当たりと暴言と呪詛と覇者宣言を、 素面のままで延々聞かされ当たられ宥めすかす羽目になったルイズは、 夜が明ける頃には、完全に燃え尽きて真っ白になっていた。 しかしその甲斐あってか一晩でアンリエッタのメンタルレベルが、 どうにか正常値近くまで回復したのを確認したルイズは、 正気に返って青くなったり赤くなったりしながら、何度も謝罪を繰り返す王女に、 ルイズはやけくそ気味にいっそ爽やかに微笑み返すと、 徹夜でナチュラルハイに揺れる頭を抱え、王城を後にした。 ……そして、早朝の朝焼けのなか消えてゆくルイズの後ろ姿を、 まだだいぶ頭にアルコールを残したアンリエッタは、どこか切なげな顔で見送ったのだった。 学院に帰還したルイズは、とりあえずベッドに潜り込む前に、 腹に何か詰め込もうと食堂に向かった。 中に入ると、すぐにシエスタが仕事を中断して、ルイズの元に小走りで駆け寄ってきた。 「~で、本当は、昨日の昼にはトリステインに着いていたんだけどね。 その後の報告とか、事後処理で今までかかちゃったのよ、ごめんなさいね」 「いえ、無事に帰って帰ってきていただいて、本当に良かったです」 正直、癒される。 戦争とか陰謀とか裏切りとか政略結婚とか、ここ数日の間、 くっさくさした話にばかり巻き込まれてきたルイズは、 シエスタの木漏れ日のように優しげな微笑を見て、心の底からそう思った。 そして、アルコールは片っ端から分解されているとはいえ、暴飲明けで 荒れた胃に優しいスープをそっと差し出されたルイズは、このひと時の為にだけでも、 頑張った甲斐があったと思った。 次の日、久しぶりに出席した授業で、ルイズはコルベール師の開発した 内燃機関を目の当たりにした。 教室の皆は、総じて白けた目を向けるだけだったが、 現在数千年先を行く超技術の恩恵を受けているルイズは、 無意識のうちに、ソレが何かとんでもないモノの雛型であると理解した。 それに加え、ADAがこの世界の技術を一新しかねない物であると助言すると、 ルイズはADAと相談した末、コルベール師を支援する事に決めた。 コルベール師の発明が技術革新に繋がり、国力の増強に繋がるのであれば、 支援の見返りは果てしなく大きなものになる。 ――アルビオンを滅ぼした新政府が次に狙うのは、このトリスタニアだろう。 現在は一応、不可侵条約が締結されてはいるが、これが一方的に破られる可能性は かなり高いとADAは分析し、ルイズもまた同じように結論付けた。 それが何時になるかまでは定かでないが、そう遠い時ではあるまい。 ならばその時、そしてその後に備え、手札が多いに越した事は無いと二人は判断したのだ。 ルーンの力で無意識に技術を扱うだけのルイズでは不可能だが、 コルベール師ならばADAの知識を有効に活用する事も可能だろう。 また一つ仕事が増えた事を悟り、ルイズは嘆息した。 それから数日後、何かルイズは仲人やる事になった。 トリステインの王族の結婚式には詔を読み上げるらしいのだが、 アンリエッタ王女が何とルイズを指名したらしい。 学園長から何にも書かれてない一冊の本を手渡されたルイズは、 自室に戻った後、つい不遜にも、何の嫌がらせだコンチクショウとか思ってしまった。 結婚の祝辞なんて思いつかないし、名指しで頼まれた以上誰かに頼るわけにもいかないし、 唯一例外的なADAも、万能に見えて人間の感性によるような作業では役立たずなのだ。 だが、そこにそのADAから声がかかった。 『対象より魔法による迷彩を確認』 「迷彩って、本当は白紙じゃないってこと?」 『はい。恐らく何かキーとなる触媒が存在する筈です』 「キーと言われても……ちょっと思いつかないわ。ADA、解呪出来ない?」 『恐らくは可能ですが、かなり強力な魔力で封印されています。時間を必要とする上、 解呪の為には、現在進行中のシステムの復旧作業を、中断及び分割する必要があります』 その言葉にルイズはしばし黙考したが、やがて頷いた。 「仕方が無いわ、あまり時間もないし。 それに、現状では復旧を急ぐ必要も無いでしょうし、やって頂戴」 『了解、これより解呪を開始します』 そうしてルイズは始祖の祈祷書を圧縮空間に放り込むと、溜息をついた。 「全く、ほんっとうに次から次へと厄介ごとばかり起こってくれるわね。 これ以上、何事も起こらなければいいのだけど……頼むから」 しかし当然のように、その願いが叶う事は無かった。 ルイズ超頑張れ。 ――新たな機能『グラブ』を取得しました。 前ページ次ページZONE OF ZERO