約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6048.html
前ページ次ページ零姫さまの使い魔 「あっしは手の目だ 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ ついにと言うべきか 先日 ウチのお嬢がメイジの資質に目覚めた それも そんじょそこらの魔法使いなんざァ目じゃねえ 何でも この国で一番偉い神様 始祖ぶりみるさん伝来の力ときたもんだ お嬢の長年の努力も これで漸く実を結ぶ日が来たって訳で 本来なら目出度い話なんだが…… 正直 あっしは心配だね 何せ お嬢の方は本物の伝説だが その使い魔は単なる芸人なのさ 今までも騙し騙しやってきたもんだが あっしの代役も そろそろ限界なのかもしれねぇ それにしても あっしがお嬢の足手纏いになる日が来ようとは…… 分かっちゃいても 随分と癪に障る話だねェ」 「まったく忌々しい限りよね あたしがあれだけ必死で編み出した【エクスプロージョン】も 祈祷書を紐解けば ちゃんとスペルが記されていたって言うんだから こういう書物は 後世の人間が分かるように残しておいてもらいたいわ」 偉大なる始祖に言いがかりをつけつつ、部屋の壁に向かい、ルイズがぶんぶんと杖を振るう。 時折、祈祷書を読み返しては、呪文を念入りに確認する。 もう三時間ばかり、飽きもせずに同じ事を繰り返しているルイズに対し、呆れ気味に手の目がぼやく。 「予習はそれくらいで十分なんじゃ無いのかい? もう夜中だぜ どうせ 使う予定なんてありゃあしねぇのに……」 「アンタが怠慢すぎるのよ ちょっとは飛行機の仕様書に目を通そうとは思わないの」 「……あっしは出たとこ勝負なのさ」 ふん、と、やる気のかけらも無い手の目を無視して、ルイズは再び祈祷書に向きなおった。 【始祖の祈祷書】―― トリステイン王家に伝わるその書物をルイズが手にしたのは、偶然によるものであった。 一週間前、タルブの大地で、一つの『奇跡』を起こしたルイズ。 「彼女の力は 伝説にある【虚無】の系統かもしれない」と言う、オスマンの曖昧な見解を受け アンリエッタは、ルイズを王宮の宝物庫へと招き入れた。 始祖伝来と謳われる宝物群の中に、彼女の力のルーツを探す手がかりがあるのでは、と考えたのだ。 精巧な治金技術で作られた装飾品、奇抜なデザインの杖、果ては使い道の分からぬカラクリ細工。 久方ぶりに日の目を見た宝物庫の中は、さながら眉唾物の見本市といった態であった。 大仰な名前の割に、中が白紙の祈祷書などは、まさしくその『胡散臭い品々』の代表格であり たまたま、王家伝来の指輪【水のルビー】を嵌めてみたルイズが、ページを開くことが無ければ、 或いは、そのまま歴史の片隅で忘れ去られていたかも知れなかった。 先程の始祖ブリミルに対するルイズの当て擦りも、まんざら的外れな意見とは言えなかった。 ともあれルイズは、水のルビーを鍵に、祈祷書からいくつかの呪文を引き出す事ができた。 元々魔法が使えない事がコンプレックスだった彼女は、すぐにでも呪文を試したかったのだが 魔法の使用は、アンリエッタから固く禁じられていた。 戦局を大きく揺るがす程の魔法の存在が公になった場合、ルイズの身辺に危険が及ぶであろう事を危惧したのである。 ルイズも子供ではない。 女王の言葉の意味を十分に理解してはいたのだが、 魔法が使える事を隠し、『ゼロのルイズ』を装い続けるというのは、 ある意味で、魔法が使えなかった頃以上の負担を彼女に強いた。 ここ一週間、自室に戻る度にイメージトレーニングを繰り返していたのは 漸く手に入れた玩具を早く試してみたい、という、はやる心の顕れであった。 「ああ 早くこれらの魔法を トリステインのために役立てられる日が来ないかしら?」 「……勘弁してくれ」 夢見がちなルイズの言葉に、手の目がため息をもらす。 巨大な戦艦を一撃で葬り、たったの一人で戦力差を覆せるだけの可能性を秘めた虚無の系統。 その強大な力を使わねばならぬ事態に度々遭遇するようでは、もはや、手の目に未来は無いだろう。 「ともあれ 将来的な可能性はさておき 今のお嬢はまだ一介の学生なんだぜ? 『伝説』の魔法を使わなきゃならない事態に出くわすことなんざ 早々……」 ――カツン、と 部屋の窓を叩く小石の音に、手の目の言葉が止まる。 やや間を置いて、更に一回。 二人が思わず顔を見合わせる、人目を避け、秘密裏に連絡をとりたい時のためにと かねてよりアンリエッタと打ち合わせていた合図であった。 思わず、手の目が一つ舌打ちをする。 「……早々無いだろうと あっしは信じたかったんだがね」 裏庭に降りてきた二人の姿を認めると、その来客はフードを脱いだ。 二人の眼前に、凛々しい顔立ちの女性が現れる。 「あなたは確か……」 「覚えていたか そうだ 銃士隊のアニエスだ」 ルイズの呼びかけに、あくまで硬い表情を崩さず女が応じる。 アニエス・シュバリエ・ド・ミラン。 軍の再編に伴い新設された銃士隊初代隊長であり、 ルイズの持つ虚無の力を狙う者が現れた場合の備えにと、アンリエッタが紹介してくれた騎士であった。 「あなたがここに来たという事は まさかレコン・キスタが?」 「いや…… 女王陛下が こちらを訪ねてきてはいないかと思ってな」 「え……?」 思いもよらぬ一言に、ルイズの思考が淀む。 常識的に考えるならば、一国の代表が、こんな夜更けに一介の学生の下を訪ねるはずが無い。 それこそ先日のアルビオン行のような、特別な用件の無い限りは。 「城で 何かあったんだね?」 「うむ……」 察しの早い手の目の断定に、やや言葉尻を濁した後、やがて意を決したように、アニエスが口を開いた。 「女王陛下が 城から姿を消したのだ いや この場合 何者かに攫われたと言うべきか……」 「何ですって!」 ルイズが思わず叫ぶ。 真夜中の来客とあって、ある程度の異常事態は予想していたが、現実は彼女の想像の遥か上を行った。 「随分と突飛な話じゃないか…… 何か手がかりは無いのかい?」 二の句が告げられぬ主に代わり、手の目が会話を引き受ける。 しばしの沈黙の後、自らの思考を整理するかのように、アニエスが状況の説明を始めた。 「ああ…… 王女の自室では 侍従がひとり昏倒していたんだが 彼女がおかしな証言をしたのだ ……王女をかどわかしたのは かのアルビオンの ウェールズ皇太子であるとな」 「なッ!」 今度ばかりは、流石の手の目も驚きの声を漏らす。 「そんな! そんなハズ無いわッ! だって王子は……」 「ああ 皇太子は確かに亡くなられた筈だ ミス・ヴァリエールの証言だけではなく 信頼できる筋からの複数の情報で その事実だけは確定している 女官の見間違いか あるいは賊の変装なのか しかし…… だとしても 何故わざわざ皇太子に化ける必要がある……」 「…………」 「ともかく 主要な街道には既に捜索の手を回しているが 女王の行方はようとして知れん 友人である貴殿に 何か心当たりは無いか?」 アニエスの問いかけに、ルイズが再び沈黙する。 今しがた事情を聞いたばかりのルイズに、本来なら心当たりなどあろう筈も無い。 だが、会話の中に出てきた『ウェールズ皇太子』と言う単語が、 ルイズの直感に、一つの地名を訴えかけていた。 「手の目 今から零戦を飛ばせる?」 「……佐々木氏の腕なら 夜間飛行も大丈夫だろうよ だが 燃料があまり残って無ぇ あちこち探し回ってる余裕は無いよ」 手の目の答えを受け、ルイズが確かな口調で目的の地を告げた。 「ラグドリアン湖へ ……アンリエッタ様と皇太子が 初めて出会った場所よ」 ――ラグドリアン湖。 トリステインとガリアの国境に挟まれたその巨大な湖は 水の精霊たちの住まう地として、また、大陸でも指折りの風光明媚な地として古くより知られ、 長いハルケギニアの歴史の中、国家間の繁栄を祝う催しが度々開かれた名所であった。 三年前、大規模な園遊会が催された際に、アンリエッタの友人として、ルイズも彼の地を訪れていた。 「おそらくは その時にお二人は出会い そして恋に落ちた もちろん それが今回の事件と関係あるわけでは無いのだけれど……」 でも、とルイズが言いつぐむ。 筋道だった予想に基づく捜索ならば、アニエス始め王宮の家臣団が既に行っている。 その上でなんら成果が上がらなかったからこそ、アニエスは学院まで捜査の足を伸ばしたのだ。 今のルイズに出来ることは、己の勘を信じて行動する事のみであった。 「いや…… 案外お嬢の勘は当たっているかもしれねぇ」 「えっ?」 「メイジの使う魔法の中には 姿形を他人に変えられる術があっただろう?」 手の目が質問を投げかける。 答えは聞くまでも無い。彼女はアルビオンの地で、ウェールズに化けた刺客に襲われたことがあるのだから。 「その魔法の存在は 当然女王も承知の筈だ 女王を攫った偽王子の立場で考えれば 王女に自分を本物だと信じさせる為の材料が欲しい筈さ 逃避行の際に二人の思い出の地による事は 犯人達にとって 十分な利益になるだろうね」 勘の鋭い手の目の肯定を受け、ルイズが安堵の吐息を洩らす。 だが、しばしの沈黙の後、ルイズは再び表情を曇らせた。 「……アンリエッタさまを攫ったのは 本当に偽の王子なのかしら?」 「どういう意味だい?」 「だってそうでしょ? 腹心であるアニエスさんですら気付かなかった 王女の皇太子に対する思いを 『賊』はどうやって知り得たと言うの? 二人の関係は 私達を除けば それこそ当人同士くらいしか知り得ぬ筈なのに」 「…………」 「本当にあの時 ウェールズ殿下は亡くなられたのかしら? 例えば 私たちが去った後 未知の魔法やマジックアイテムの力で 一命を取り留めていた可能性だって……」 「いや それは無いね」 風防の外の闇夜を一心に睨みながら、振り返りもせずに手の目が言う。 「王子が亡命を拒絶したのは 己の名誉の為だけじゃねぇ トリステインを ひいては女王陛下を戦禍に巻き込むことを忌避したからだ そのウェールズ殿下が 仮に生きていたとしても 女王を惑わし 彼女の名誉を貶めるような真似をする筈が無いだろう?」 「それは……」 「あっしには そいつがどうしても堪忍ならねぇのさ 王子を思う女王の心を利用し 女王を思う王子の遺志を踏みにじる奴らがよ 賊の正体が何者なのかは知らないが そんな奴らは絶対に世にのさばらせて置いちゃならねぇ」 「……ええ そうね そうよね ごめん おかしな事を聞いたわね」 どうやら合点がいった風のルイズを尻目に、手の目は再び操縦に集中する。 実のところ、手の目の言葉は嘘である。 未知の魔法で王子が生き延びた可能性があるのなら、未知の魔法で王子が操られている可能性もあるだろう。 魔法の常識を持たない手の目には、王子が本物である可能性の方がよっぽど高いようにすら思われた。 それに、ほとんど面識の無いウェールズのために闘志を露わにするほど、彼女は義侠心に厚い人間ではない。 ただ、手の目の立場からすれば、王子が偽物であると言う前提をルイズに刷り込んでおいた方が 万一賊と鉢合わせになった時に都合がいいと、それだけの事であった。 やがて、二人の眼下に、双月の輝きを携えた、巨大な湖面がいっぱいに広がってきた。 「何てェデカさだ…… こいつは湖と言うよりは 大陸の中の海って感じだな しかし これだけ広いと どっから探しゃぁいいってんだ?」 「そのまま真っ直ぐ 高度を少し落として」 ルイズの指示に従い、手の目は零戦を寄せ、湖畔を舐めるように飛行させる。 「お嬢 当てがあるのかい?」 「ラグドリアン湖に住まう水の精霊は 別名・誓約の精霊とも呼ばれているわ その御下で交わされた誓約は 絶対に破られることが無いのと…… もし 偽王子が姫様を御するためにこの地に寄ったと言うのならば 永遠の愛を誓うために 必ずや 精霊の現れると言われる岸辺に向かうはずよ」 「ルイズ……」 月明かりに照らし出された二人の姿を捉え、零戦が鮮やかに機首を返す。 二人の行く手を遮る形で機体が止まり、ルイズがゆっくりと草むらへ降り立つ。 眼前の光景に、どくりと鼓動が高鳴る。 ルイズの視線の先にいたのは、彼女の主、アンリエッタ・ド・トリステイン。 そして…… 「ウェールズ……さま?」 咄嗟にこぼれた自身の呟きを、ぶんぶんと頭を振るい否定する。 だが、それがまやかしと分かっていてはいても、彼女は意識せずにはいられない。 アンリエッタを庇う様に立つ金髪の若者、その笑顔が、在りし日のウェールズ・オブ・テューダーそのものである事を。 「うそ…… 嘘よ! 私は確かに見たわ ウェールズ殿下は確かにあの時」 「胸元を貫かれ 血を吐いて死んだ かい?」 人懐っこい笑みを浮かべながら、ウェールズが襟元を緩める。 はだけた胸元に除く傷跡に、ルイズ達が瞠目する。 風穴を塞ぐ、異様な肉の盛り上がり。その位置は間違いなく心臓の上である。 魔法や薬による常識的な治癒とは異なる、明らかに異質な治療痕であった。 「――ッ 離れて 姫様! そいつは……」 「…………」 「姫様?」 アンリエッタはしばし、ウェールズに寄り添い俯いていたが やがて、静かに顔を上げ、口を開いた。 「お願い ルイズ…… 道を開けて」 「姫様……! そんな でも なぜ? 何故なんですッ! だって あなたはあの時……」 「ええ 装おうとしたわ あなたの前で…… 立派な王女の役を ウェールズ様が死んだと聞かされたあの時 私は全ての希望を失っていたから どうせ残りの人生を 外交の道具として費やす事になるのならば せめて民の 臣下の あなたの望む姿で振舞おうと思った それだけが 命がけで任務を果たしてくれたあなたに出来る 唯一の友誼であったから……」 「そんな……」 「でも 彼は再び 私の前に現れた 彼が本物なのか偽者なのか 生きているのか死んでいるのか そんな事は もはやどうでもいい事なのよ 彼が 彼が私の傍にいてくれる事だけが 私の唯一の希望なのだから」 「…………」 「最後の命令よ 道を開けて ルイズ・フランソワーズ……」 だらり、とルイズが杖を下ろす。 ルイズの脳裏に、かつての王女の顔が思い出される。 想い人を救う事が出来なかった自分を労わり、優しく抱きとめてくれたアンリエッタ 凛々しい甲冑姿で兵士達を束ねていた、王族の使命感に満ちたアンリエッタ その、誇るべき女王の心底が、これ程までに深く傷つき、絶望に覆われているなど、誰が想像出来たであろうか。 だが、少なくともルイズだけは、彼女の思いに気付けねばならなかった筈である。 ルイズはアンリエッタが頼みを置く側近であり、最大の親友であったのだから。 今のルイズには、自分がアンリエッタの前に立つ資格は無いように思われた。 気圧されるままに身を引きかけた、ルイズの肩を、手の目が軽く叩く。 「手の目……」 「聞く必要はないぜ お嬢 目の前のお姫さんは 既に王女としての責務を放棄しているんだからな」 つい、と手の目が一歩前へ出る。アンリエッタの表情が、やや険しいものとなる。 「なあ姫さんよォ お天道様に背いて あんた一体何処に行こうってんだ? 故郷を捨てて 人々の期待を裏切って 親友の思いを足蹴にして それで幸せになれると思うのかい……?」 「…………」 「無理なんだよ 大切な人に裏切られた者の悲しみが癒える事はあっても 大切な人を裏切っちまった者の重荷が消える事は無ェ 愛しい人の側で幸せを感じる度に あんたは裏切った者の大きさを感じる事になる あんたは今 真の意味での希望を捨てようとしているのさ」 「……あなたに何が分かるというの? 愛しい人を守る事すら適わない傀儡の孤独が 流れ者のあなたに分かると言うの!」 「あんたこそ何も分かっちゃいねェ 何一つ居場所を持たない 流れ者の侘びしさ…… 自らを束縛するものの一つ一つが どれ程かけがえの無いものかって事をね」 交渉の無意味を知り、アンリエッタが反射的に杖を構える。 その動きに合わせ、手の目も右手をかざそうとしたが……、 「むっ……!」 アンリエッタを庇うように立ち塞がったウェールズの姿に、手の目の動きが止まる。 瞬間的に、手の目は自らの力が通用しない事を悟った。 手の目の刺青の真価は、相手に幻を見せる事ではない。 相手の心理を、そのルーツを見通す心眼こそ、彼女の最大の武器であった。 相手の心の弱きを突き、対手に幻を疑う余地を与えない、 または、分かったところでどうしようもない幻を見せる。 その巧みな心理誘導こそが、スクウェアクラスのメイジとも渡り合える、彼女の力の真骨頂であった。 だが、目の前の青年には、その探るべき心が無い。 魂なき器に宿るのは、強力な魔力で制御された、意思を持たぬプログラム。 これまでも何度か、実力面で太刀打ちできない相手に出くわした事のある手の目であったが 今宵、彼女の目の前に居たのは、真の意味での彼女の『天敵』であった。 「手の目…… 少しだけ時間を稼げる?」 「!」 ルイズの言葉の意味に、手の目が即座に気付く。 祈祷書に記された虚無の魔法で、この場を凌ごうと言うのだ。 「合点だ」 手の目の返事を受け、ルイズがすぐさま瞑想に移る。 とにかく、ウェールズに幻術が効かない以上、狙いはアンリエッタに移すしかない。 狙いを気取られぬよう、手の目は緩やかに動き出そうとしたが…… アンリエッタを視界におさめた瞬間、手の目に悪寒が走った。 遠めに見たアンリエッタの呟きが、ウェールズの詠唱とシンクロしている事に気付いたのだ。 「なッ!」 直後、広大なラグドリアンの湖面が水蛇のようにうねり、巨大な水竜巻となって二人を取り囲む。 凶悪なるスペルの効果の前に、手の目は文字通り八方塞りとなった。 幻術を仕掛けようにも、立ち上る水柱が視界を遮っていた。 「時間を稼げとはいったがよ あっしは只の芸人だぜ こいつをどうすりゃァいいってんだ……」 だが、手の目に思考する時間は残っていない。 大地を大きく抉り取りながら、巨大な水龍が徐々に二人へと迫ってくる。 「畜生ッ!」 手の目が破れかぶれに右手を突き出す。 普段の冷静な彼女にしては、あまりにも無意味な悪足掻き。 ラグドリアンの地で、再び『奇跡』が起こったのは、まさにその時であった。 「なっ…… こいつは……」 その場にふさわしくない、手の目の呆然とした呟きに、ルイズが思わず目を開ける。 直後、彼女もまた驚きの声を上げた。 二人の眼前には、迫りくる巨大な竜巻から守るように両手を広げて立ちはだかる 金髪の青年の後姿があった。 「そ そんなッ! ウェールズ様なのッ?」 「何ですって!」 予想外のルイズの叫びに、アンリエッタの思考が大きく乱される。 水竜巻はぐらりと揺らぎ、三人の手前で二つに割れると、烈風とともに消え去った。 辺りを包んでいた緊張感が消え、湖畔が元の静寂を取り戻す。 双月の輝きに照らし出され、死んだ筈のウェールズが二人、その場に対峙する。 「ウェ…… ウェールズ さ ま?」 アンリエッタの杖先が震える。 新たに現れたウェールズは、いつもの穏やかな笑顔ではない。 深い悲しみを携えた、何処までも澄みきった瞳で彼女を見ていた。 「どうしたんだい? アンリエッタ」 傍らのウェールズが、アンリエッタの耳元で囁く。 「さあ もう一度 今度こそ確実に 彼らを退けるんだ」 「でも あれは ウェールズさまは…… なんで? あの人は いったい……?」 「莫ッ迦野郎が!」 呆然と震えるアンリエッタに叩きつけるように、手の目が吼える。 普段の彼女からは想像もつかない激しい感情が、喉を突いて溢れていた。 「世の理を破ってまで現れねばならなかった彼の苦しみが テメェにゃ分からないって言うのか? 愛する人の幸せを祈って逝った 彼の想いが 分からないって言うのかよ? 下らねェ人形如きに騙されやがって! アンタの王子への想いってェのはその程度のモンなのか?」 「…………」 「いい加減に気付けよ! アンタの自分勝手な都合が 彼の生き様を 死に様を汚してるってことによォ!」 「そんな…… 私 わたし は」 手の目の叫びに、ウェールズの瞳に、アンリエッタは杖をとり落とし、呆然とその場にひざまづいた。 「ごめんなさい 姫様…… ウェールズ殿下……」 涙を拭い、ルイズが最後の詠唱を完成させる。 「今の私には…… これしか!」 振り下ろした杖の先から、伝説の虚無の輝きが溢れ出す。 あらゆる魔法を無力化する【ディスペル・マジック】。 ――眩い輝きが周囲に満ちる中、魂無きウェールズは、ただの器へと還った。 「――どうやら お迎えが来たみたいだね」 月夜に映るヒポグリフの一団を見つめながら、手の目が呟く。 あれだけの竜巻に閃光である。平坦な湖畔では、遠目からでも良い目印になったであろう。 「お嬢は 姫さんに付いてやった方がいいだろうね」 「あなたはどうするの?」 「飛行機を置いていく訳には行かないからね 少し湖畔を散歩してから 一人で学院に戻るよ」 ルイズはひとつ頷くと、俯くアンリエッタを支え、 寄り添うようにヒポグリフの背に乗った。 ひとしきり事情を確認した後、一団は、再び月夜へと飛び去っていった。 再び、湖畔に静寂が戻る。 全てはこれで良かった筈だ。 月明かりを携える幻想的な湖を眺めながら、手の目がそう思考する。 今回の一件で、アンリエッタは王子を裏切り、親友を殺しかけるという重い十字架を負ったが その苦しみは、彼女をより良い為政者に導く糧となるはずである。 それに、なにも悪い事ばかりだったわけではない。 今回の事件は、アンリエッタとルイズの間にあった壁を取り払ってくれた。 ルイズもまた、かりそめの魂とはいえ、主人の前で最愛の人の命を奪うという重荷を負っていたが、 若い二人ならば、互いの重荷を分かち合い、助け合いながら、正しい方向に成長していけるであろう。 ――分かち合いようの無い荷を背負うのは、流れ者の手の目一人で十分なのだ。 「ああ……」 と、ややうんざりした声で、手の目が背後を振り返る。 「あんた まだ居たんだったね」 手の目の瞳の先には、件の金髪の青年、ウェールズ・オブ・テューダーが佇んでいた……。 ――結局の所、偽ウェールズは、手の目達の前に現れた方であった。 先の瞬間、手の目はアンリエッタを幻惑する事は不可能と判断し、咄嗟に標的をルイズに変えたのだ。 手の目の期待通り、混じりっ気のないルイズの驚愕の声は、アンリエッタの精神を乱し、水竜巻を不発に終わらせるに至った。 だが、当のアンリエッタ自身は、その事に気付いていない。 彼女の視点では、手の目達の前に現れたもう一人のウェールズが、竜巻から二人を守ったように見えた筈である。 そしてその錯覚が、偽者に本物以上の存在感を与え、彼女を疑心暗鬼に陥らせたのである。 してみれば、偽ウェールズが口を開かなかった理由も明白である。 手の目はウェールズの人となりを、殆ど知らなかったのだから……。 「幕はとっくに下りてるんだ 役者はとっと掃けなよ」 手の目の言葉にひとつ頷くと、ウェールズはそのままフッと消え去った。 ――それで漸く、湖畔には、手の目一人が残された。 「堪忍しとくれよ 王子様 あんたも色々言いたいことがあるだろうが 聞いてやる事はできそうもないや」 頭上の双月を見上げながら、手の目が誰に聞かせるでもなく呟く。 「……どっちかって言うと あっしは地獄行きだろうからね」 前ページ次ページ零姫さまの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6706.html
前ページ次ページ虚無のパズル 王都トリスタニア。王宮のアンリエッタの執務室で、ルイズは古びた一冊の本を受け取った。 ルイズの隣に立ったオスマン氏が、興味深そうに、その古びた革の装丁がなされた本を見つめている。 表紙はぼろぼろで、ページは色あせて茶色くくすみ、触っただけでも破れてしまいそうだった。 「これが?」 ルイズが尋ねると、アンリエッタが頷いた。 「ええ。トリステイン王室に伝わる、『始祖の祈祷書』です」 ルイズは『始祖の祈祷書』を手に取ると、注意深くページをめくる。 何ページか眺めたあと、目をぱちくりさせた。 そこにはなにも書かれていなかったのだ。 ルイズは次々とページをめくったが、その三百ページ近い本は、どこまでめくっても真っ白なのであった。 ルイズは戸惑った。オスマン氏など、あからさまに胡散臭げな視線を向けている。 「ルイズ、あなたの言いたいことは分かるわ」 アンリエッタは苦笑して言った。 「そもそも、『始祖の祈祷書』は、始祖ブリミルが記した一冊しかないはずなのだけれど、何故だかこのハルケギニアの各地に存在するの。まがい物……、この手の『伝説』の品にはよくある話ね。 お金持ちの貴族や、寺院の司祭、各国の王室などに点在する『始祖の祈祷書』を集めただけで、図書館ができるだなんて言われてるわ」 「はあ……」 ルイズは曖昧に答える。 「でも、いやね。まがい物にしたってひどい出来。わたし、王女ですから、各地へ訪問へ行くことが多いのだけど、そこでいくつか『始祖の祈祷書』を見たことがあるわ。 どれにも古代語やルーン文字が記されて、祈祷書の体裁を整えていたけれど……、我が王家の『始祖の祈祷書』には、文字ひとつ見当たらないのよ。これっていくらなんでも、詐欺じゃないかしら。ねえ?」 くすくすとアンリエッタが笑う。 ルイズはなんと返したものか、困ってしまった。そりゃあ、この『始祖の祈祷書』はどう見てもインチキなのだけど……、それでも一応トリステインの秘宝である。 ルイズが困っていると、アンリエッタはオスマン氏がいることを思い出したのか、笑うのをやめて小さく咳払いをした。 「……こほん。では、ルイズ・フランソワーズ。これよりわたくしの婚礼の儀の日まで、あなたに王家の秘宝を貸与します。くれぐれも大切に扱うように」 ルイズはかしこまって、アンリエッタの手から『始祖の祈祷書』を受け取った。 オスマン氏は目を細めて、そんなルイズを見つめた。学院の生徒の名誉を、誇らしく思った。 アンリエッタはそれから、机に座ると、羽ペンを取って、さらさらと羊皮紙に何かしたためた。それから羽ペンを振ると、書面に花押がついた。 「これをお持ちなさい」 アンリエッタがルイズに書面を差し出す。 「これは?」 「わたくしが発行する許可証です。あなたは巫女の役を務めるあいだ、わたくしの女官という扱いになります」 「ええ!わ、わたしがですか?」 「大臣たちが、『巫女役を務めるものは、ふさわしい地位と役職を持ったものでなくてはいけません!』なんて言うものですから。伝統って、いやね。堅苦しくって」 アンリエッタはため息をつく。大臣たちの反対を押し切って、アンリエッタはルイズを巫女役に推薦してくれたのだ。 ルイズは感激して、胸がいっぱいになった。 「その許可証は、わたくしの発行した正式なものですから、期限付きとは言え、あなたには女官としての権限が与えられます。王宮を含む国内外へのあらゆる場所への通行と、一部公的機関の使用。 まだ結婚式まで一月あるわ。どこか小旅行にでも行ってみるのも、いいかもしれませんよ。そうしてすてきな詔を考えてちょうだいね」 ルイズは恭しく礼をすると、その許可証を受け取った。 ルイズとオスマン氏が退出しようとすると、アンリエッタがルイズを呼び止めた。 「お話したいの」と言うアンリエッタに、なんだろう、と思いながらも、ルイズは残った。 オスマン氏が従者に連れられ退出すると、アンリエッタに促され、ルイズはソファに腰掛けた。 しばしの間、沈黙が部屋に流れた。 ルイズはちらりとアンリエッタの顔を見る。アンリエッタはぼんやりと横を向いていて、その表情には、先ほどまでのハキハキとした様子が見られず、まるで氷のようだった。 「ルイズ、あれを見て」 ルイズがアンリエッタの視線を追うと、そこには、純白のウエディングドレスが壁にかけられていた。 まだ仮縫いの状態ではあるが、上質な素材と丁寧な縫製で、まさに王族が纏うにふさわしいといったふうのドレスだった。 「素敵なドレスですわ」 「ええ、そうね。小さな頃は、わたし憧れてたわ。こんなドレスを着ることができたら、どんなにすてきだろうって。でもね、いざそのときがやって来たと言うのに……、なんだかちっとも心が弾まないの」 「それは……」 ルイズは言葉に詰まった。これが、アンリエッタの望まない結婚だということは、ルイズもよく分かっていた。 「アルビオン新政府の樹立。ゲルマニアとの軍事同盟の締結。そしてわたしの結婚式……。なんだか、早い、早い川の流れに流されているみたいな気分よ。 政治を執り行うのは、いつだってあのマザリーニですもの、何もかもが、わたしの与り知らぬところで進んでいくみたい」 トリステインでは、国王が崩御したあと、王座は空位のままとなっている。 太閤マリアンヌは女王に即位することはせず、あくまで王妃の立場を貫いたため、実質的にトリステインの政治を行っているのは、枢機卿のマザリーニなのである。 此度のゲルマニアとの軍事同盟締結式にも、出席したのはマザリーニであった。 アンリエッタは、こうして城に残ってウェディングドレスの仕立てを受けている。なんだか、アンリエッタが政略結婚の道具としてしか見られていないような気がして、ルイズはやるせない気持ちになった。 「あなたを巫女に推したのは、わたしのささやかな反抗かもしれないわね。せめて、自分の式の巫女くらいは、自分で決めたかったのよ」 「姫さま……」 アンリエッタは美しい顔を曇らせ、さめざめと泣きはじめた。 ルイズはあわてて、アンリエッタに駆け寄った。おろおろしながら、アンリエッタの身体を抱く。 「ひ、姫さま!どうされたの!どこか痛むのですか!」 「違うの、ルイズ。わたしって、だめね……。どうしても、ウェールズ様のことが忘れられないの。悲しいの。つらいのよ」 ルイズははらはらと涙を零すアンリエッタを見て、戸惑っていた。 今まで、アンリエッタのことは絶対だと思っていた。トリステインを統べる王家。忠誠を誓うべき相手。 アンリエッタはルイズのことを「おともだち」と言ってくれるけれど、貴族の考えを重んじるルイズにしてみれば、アンリエッタは雲の上の人であった。 それなのに、今こうやってルイズの腕の中で泣いているアンリエッタは、とても小さく見えた。 まるで、わたしと同じ。ちっぽけな女の子……。 ああ、そうか。姫さまも、つまりは人間なんだ。 恋したり……、傷ついたり……、弱かったり……、そんな普通の女の子。 そう思うと……、ルイズはなんだか忠誠心とは違う感情で、アンリエッタを助けてあげたい、と思った。 「しっかりしてください。あなたは王女様ではありませんか」 ルイズが優しく声をかけると、アンリエッタはやっと泣き止んだ。ハンカチを取り出して、涙を拭う。 「……ごめんなさいね。幻滅したでしょう?なんて弱いお姫さまなのかしら」 「そんなことはありません」 ルイズはふるふると首を振ったが、アンリエッタはそれを気遣いと受け取ったようだった。 「いいのよ、ルイズ。でもね、王国に生まれた姫なんて、籠に飼われた鳥も同然。ちっぽけで弱々しい小鳥が、自分を大きく見せようと精一杯羽を広げているの」 アンリエッタは寂しそうに笑った。 「ルイズ、魔法学院であなたと再開した時、『なんでも話してください』と言ってくれたこと、わたし、嬉しかったわ。あなたを幻滅させることになるとは思うけど……、これからも、わたしの愚痴や泣き言を聞いてほしいの。 あなたに本当の気持ちを打ち明けることができるなら、わたしはこれからも、王女の仮面を被ることができると思うから」 アンリエッタの言葉に、ルイズは黙って頷いた。 タバサは息をひそめて、木のそばに隠れていた。目の前には、廃墟となった寺院がある。 門柱は崩れ、鉄の柵は錆びて朽ち、庭は雑草が生い茂って荒れ放題になっている。 ここは数十年前に打ち捨てられた開拓村の寺院であった。荒れ果て、今は近付くものもいないが、明るい陽光の中のそこは、どこか牧歌的な雰囲気が漂っている。 すると、突然爆発音が響き、門柱の横に立った木が燃え上がった。キュルケの『発火』の呪文である。 木陰に隠れたタバサは杖を握りしめた。 寺院の中から、この開拓村が打ち捨てられた理由が飛び出してくる。 身の丈二メイルほどもある、醜く太った身体と豚のような頭を持ったバケモノ。オーク鬼であった。 その数はおよそ十数匹。人間の子供が大好物という、困った嗜好を持つこのオーク鬼の群れに襲われた所為で、開拓民たちは村を放棄して逃げ出したのだった。 村人たちは領主に訴えたが、森の中に兵を出すことを嫌った領主は、要請を無視して放置した。 そのような村は、ハルケギニアには掃いて捨てるほどあるのだった。 オーク鬼たちは、ぶひ、ひぐ、と豚の鳴き声で会話を交わし、門柱の辺りで燃える炎を指差した。それからめいめいに、怒りの咆哮を上げる。 「ふぎぃ!ぴぎっ!あぎっ!んぐぃぃぃぃいいッ!」 手に持った棍棒を振り回し、オーク鬼たちはいきり立った。火がある。つまり近くに人間がいる。敵であり、餌である。 オーク鬼たちの様子を見ながら、タバサは呪文を詠唱した。空気中の水蒸気が凍り付き、十二本の氷の矢となって、タバサの大きな杖の周りに浮かんだ。 『水』『風』『風』、水が一つ、そして風の二乗。タバサが得意とする攻撃系呪文『ウィンディ・アイシクル』である。 オーク鬼の皮膚は分厚く、骨は岩のように硬い。オーク鬼を確実に仕留めるためには、最低でも三本の氷の矢が必要だ。 そうなると、タバサが『ウィンディ・アイシクル』でつくり出すことのできる氷の矢の量では、オーク鬼の群れを一度で仕留めることは難しくなってしまった。 敵の数が思ったよりも多いのだ。 強力な呪文は、続けざまには使えない。タバサは慎重に、攻撃のタイミングをはかる……。 そのとき、オーク鬼たちの前に、ふらりと陽炎が立ったかと思うと、青銅の戦乙女が七体、姿を現した。ギーシュのゴーレムだ。 タバサは眉をひそめた。打ち合わせと違う。焦ったギーシュが先走ったのだ。 ギーシュの七つのワルキューレは、先頭のオーク鬼に向かって突進した。手に持った短槍が、オーク鬼の腹にめり込む。 七体のワルキューレに襲いかかられたオーク鬼は、地面に倒れた。しかし、傷は浅い。分厚い皮と脂肪が鎧となり、穂先は内蔵まで達していなかったのだ。 倒れたオーク鬼はすぐに起き上がり、些細な絆どものともしない生命力で棍棒を振り回した。 オーク鬼の棍棒は、大きさが人の体ほどもある。一撃を受けた華奢なゴーレムは、吹っ飛んで地面に打ち付けられ、バラバラになった。 残ったワルキューレは体勢を立て直そうとしたが、硬い皮膚に阻まれて、オーク鬼の腹から槍を抜くことができない。 そうこうもがいているうちに、仲間のオーク鬼たちが駆け寄り、ワルキューレめがけて棍棒を振るった。あっという間に、七体の戦乙女たちは粉々に砕かれ全滅してしまった。 オーク鬼は、自分たちを襲っている人間が、まだ未熟なメイジであると当たりを付けた。 メイジとの戦いは一瞬で決まることを、オーク鬼たちは長い人間との戦いを通じて、覚えていた。負けるときは、ほんの一瞬で全滅してしまうのである。 ところが七体の青銅の人形は、自分たちになす術もなく砕かれてしまった。 オーク鬼たちは、下卑た笑みを浮かべると、ふがふがと嗅覚鋭い鼻をひくつかせ、襲撃者の隠れている場所を探り当てた。 寺院の庭の外から、うまそうな人間の臭いは漂ってくる。 オーク鬼の群れが走り出すと、門の右手の木の影から、ひう、と小さな悲鳴が上がり、一人の人間が飛び出してきた。 その、金の巻き毛をした人間は、見ればまだ子供である。薔薇の造花を突きつけて、何やら叫んでいる。 「やあやあ、我こそはかの偉大なるグラモン元帥の息子、ギーシュ・ド・グラモンである。薄汚いオーク鬼どもめ、このぼくが成敗……」 オーク鬼はギーシュの言葉を無視して突撃した。メイジは恐ろしい敵である。呪文を唱える暇を与えず、棍棒の一撃で潰してやろうというのだ。 ギーシュはあわてて、マントをばさっと広げた。裏地に縫い付けられた宝石が、きらりと光る。 「い、行け!精霊よ!」 ギーシュの叫びとともに、宝石の精霊たちが飛び出した。小鳥ほどの大きさの精霊たちは、光る尾を引いて、オーク鬼の群れに殺到する。 群れの先頭、手負いのオーク鬼は、精霊たちの強烈な体当たりをくらって吹っ飛んだ。 オーク鬼たちは一瞬ひるんだが、棍棒で飛び回る精霊たちを叩きはじめた。 棍棒の一撃を食らうと、精霊たちは風船がはじけるように、ぱちんぱちんと音を立てて消えてしまった。 「ああっ、ミック、ロニー、キース、クラプトン、ミッチー!」 ギーシュが悲鳴を上げる。 それを見て、タバサは素早く杖を振るった。十二本の氷の矢が、オーク鬼の群れに襲いかかる。 一匹につき三本、目と喉、そして心臓に正確に氷の矢を突き立てると、四匹のオーク鬼は倒れて絶命した。 しかしタバサの効果的な攻撃はここまでだった。いまだ、オーク鬼は十匹近い数が残っている。 奇襲にオーク鬼たちはひるんだが、すぐに鼻をひくつかせて、襲撃者の位置を探りはじめた。やがてタバサの隠れた場所を探り出すだろう。 そして、索敵するオーク鬼とは別に、数匹のオーク鬼がギーシュへの突撃を再開した。 タバサは小さく舌打ちし、杖を構えてふたたび詠唱を開始する……、 と、そのとき、突撃するオーク鬼の足が止まった。先頭が急に足を止めたので、後続のオーク鬼たちはぶつかって、ぶぎぃ!ぴぎぃ!と怒りの声を上げた。 見ると、オーク鬼の足に、長く伸びた草が絡み付いている。 すると、タバサの隠れた場所から離れた木の上……、キュルケとティトォが隠れている場所から、巨大な炎の玉が飛び出した。 『炎』と『炎』の二乗、キュルケの得意な攻撃呪文『フレイム・ボール』である。 しかし、どうにも炎の大きさが尋常ではない。その『フレイム・ボール』は、ふだんの三倍ほどの大きさにもなっていたのである。 巨大な炎の塊は、足を取られたオーク鬼の三匹を、一瞬で燃やし尽くした。 むんと、獣の肉が焼けるいやな臭いが辺りに充満する。 残されたオーク鬼たちは、一瞬で仲間を焼き付くしたその巨大な炎に、後じさった。 そのとき、門の脇の茂みをガサガサと揺らして、真っ赤な身体のサラマンダーが現れた。 オーク鬼たちは警戒するようにサラマンダーを見つめる。奇妙なことに、そのサラマンダーの身体には、火がついていた。 サラマンダーは普通、尻尾の先に火がついているものだが、このサラマンダーには、全身に火がついているのである。 しかもその炎は、今まで見たこともないような、白い色の炎であった。 サラマンダーは強敵だが、数でこちらが有利である。 そう考えたオーク鬼の群れは、棍棒を振り上げ、ぶぎぃ!びぎぃ!と咆哮を上げ、サラマンダーに突進した。 そしてそれが、彼らの命取りになった。 サラマンダーはかぱっと口を開けると、火竜のブレスに匹敵するほどの巨大な炎を吐き出した。 あっと言う間もなく、オーク鬼たちは消し炭になって、全滅した。 ばっさばっさと、タバサの風竜が地面に降り立った。この風竜が傷付いたら、歩いて帰るはめになるので、戦闘には参加させない取り決めであった。 木から降りてきたキュルケは、サラマンダーのフレイムと同じように、全身に白い炎を纏っていた。そして、とりあえずギーシュを小突いた。 魔法の炎でパワーアップされているので、ちょっと小突いただけなのにギーシュは派手によろけた。 「あいたぁ!なにをするんだね!」 「あんたのせいで、作戦が台無しじゃないの!」 オーク鬼の群れを、あらかじめ作った罠のエリアに誘い出し、魔法で一網打尽にする作戦だったのだ。 罠のエリアには、モグラのヴェルダンデが掘った落とし穴や、ティトォのホワイトホワイトフレアでパワーアップさせた、足に絡み付く草などが用意されていた。 「そんなに調子よく、罠にかかってくれるもんかね。戦は先手必勝。ぼくはそれを実戦しただけだ」 ギーシュはぶつぶつと文句を言った。 「あんたのモグラが掘ったんでしょ!穴を信じなさいよ!」 「まあまあ、結果オーライでいいじゃない」 ティトォがなだめるように言った。ギーシュが隠れている場所の周りには罠を設置していなかったのだが、ギーシュが先走る可能性を考えて、草に魔法をかける範囲を広くしておいたのだった。 ティトォは辺りを見回して、オーク鬼の生き残りがいないことを確認すると、キュルケと、フレイムにかけた魔法の炎を解除した。 キュルケはまじまじと、杖を持った自分の手を見つめた。 若くして『トライアングル』クラスのエリートメイジであるキュルケは、自分の炎に自信を持っていた。 『全てを燃やし尽くす』と常日頃から豪語しており、その言葉の通り、キュルケの炎は強力だった。 ところが、ティトォの魔法の強化を受けると、ただでさえ強いその炎の力が、さらに二倍にも、三倍にも威力を増すのだ。 やっぱりティトォすごい。面白い。冒険に誘って大正解。 うきうきしながらキュルケが振り向くと、ティトォは木に寄りかかって、荒い息を付いていた。 「ティトォ……、ダーリン?とうしたの?」 「大丈夫、ちょっと立ち眩み。魔法を使いすぎたせいかな」 ティトォは、なんでもないことのように言ったが、その額には汗が浮かんでいた。 どこか体調でも悪いのだろうか?キュルケは少し心配そうな顔になる。 「ところで、宝石の精霊は大丈夫?さっきいくつかやられちゃったみたいだけど」 ティトォは振り向いて、言った。ギーシュは少し困った顔になって、マントに縫い付けられた宝石を撫でる。 その宝石は、なぜかくすんだような色になってしまっていた。 「精霊は死にはしないよ。でも、こうなると宝石はしばらくの間、輝きを失ってしまうんだ。三日は使えなくなってしまうね」 ティトォは感心したような顔をしたが、これは、話題を逸らす為に振った話であった。 実のところ、ティトォはそのことは知っていたのだった。精霊使いの知り合いがいるのだ。 ティトォ・アクア・プリセラの『弟子』を自称するその男は、精霊使いの才能があった。 そういえば、最後に会ったのはもう十年も前の話だ。 元気でやってるだろうか。 したたかな男なので、きっとうまくやってるに違いない。 ひょっとしたら違う漫画のナレーションをやってるかもしれない。何を言ってるんだぼくは。 一方、タバサは激しい戦いの後にも関わらず、けろっとしたいつもの無表情だった。地図を眺めると、廃墟となった寺院に向かって歩いていく。 「ブリーシンガメル」 「あら!そうだったわ!早く行きましょ」 キュルケはぽんと手を叩くと、タバサと一緒に寺院へ向かって歩き出した。ティトォとギーシュもそれに続く。 「ブリーシンガメルってなに?」 ティトォが尋ねると、タバサは地図に付けられた注釈を詠みあげる。 「『炎の黄金』で作られているという首飾り。それを身に付けたものは、あらゆる災厄から身を守るという言い伝えがある」 「聞いただけでわくわくする名前じゃないか、きみ!なんでも、ここの司祭が、寺院を放棄して逃げ出す際に、その『ブリーシンガメル』を祭壇の下のチェストに隠したらしい。それだけじゃないぞ!チェストの中には、『ブリーシンガメル』の他にも寺院の金銀財宝が……」 その夜……、一行は寺院の中庭で、焚き火を取り囲んでいた。誰も彼も、疲れた顔をしている。 ギーシュは、地面に乱雑に散らばった、色あせた装飾品の中から、真鍮でできた安物のネックレスをつまみ上げた。 そして、深いため息をつく。 「まさかこれが『ブリーシンガメル』というわけじゃあるまいね」 キュルケは答えない。ただ、つまらなさそうに爪の手入れをしていた。タバサは相変わらず本を読んでいる。ティトォは寺院のスケッチを描いていた。 寺院の祭壇には、なるほどチェストはあった。しかし、中から出てきたのは、色あせた装飾品と、汚れた銅貨が数枚、あとは持ち帰る気にもならないガラクタばかりであった。 「これでインチキ地図は七件目!いくらなんでもひどすぎる!廃墟や洞窟は魔物のすみかになってるし、そいつらを苦労して倒しても、得られる報酬がこれじゃあ、割にあわんこと甚だしい」 「そりゃあそうよ。化け物を退治したくらいで、ホイホイお宝が手に入ったら、誰も苦労しないわ」 「だいたいね、ぼくは最初っから宝探しなんてやくざな方法だと思ってたんだ!きみの口車に乗せられて、宝の地図を買いあさって、苦労してお宝が眠るという場所に行ってみても、見つかるのはせいぜい銅貨が数枚じゃないか!秘宝なんてカケラもないじゃないか!」 ギーシュとキュルケの間に険悪な雰囲気が流れたが、ここでキュルケは必殺のカードを切った。 「うるさいわね。じゃああんた、他に何か借金を返すあてがあるっての?」 むぐ、とうなって、ギーシュは黙り込んでしまった。借金のことを持ち出されると、弱い。 小さく鼻を鳴らすと、つまらなさそうに敷いた毛布の上に寝転がった。荷物袋の中から保存食のパンを取り出し、かじる。 ギーシュもキュルケも貴族なので、普通ならこんなまずい食事には耐えられない。 しかし一行に料理のできる人間は一人もいないので、こうしてボソボソのパンと、干し肉、瓶詰の豆で我慢するしかないのである。 学院の食堂の、暖かいスープが懐かしかった。 食事のあと、キュルケはふたたび地図を広げた。まだ宝探しを諦めるつもりはないようだ。 ギーシュはため息をついて、「もう諦めて学院に帰ろう」と促した。 「何言ってんのよ。お宝が見つからなかったら、あんたどうやってお金を返すつもりなの」 「こんなインチキ地図を頼りにしたって、時間の無駄だよ。お金はどうにか、別の方法で作るさ」 ギーシュはもう、実りのない宝探しにすっかり情熱を失ってしまったようだった。 ティトォとタバサも、うんうんと頷く。二人とも、これ以上探しても無駄だろうな、と、そんな気分になっていたのだ。 三対一で、キュルケは不利な立場に追い込まれたが、諦めずに食い下がった。 「あと一件だけ。一件だけよ」 キュルケは、何かに取り付かれたように、目を輝かせて地図を覗き込んでいる。 そして、一枚の地図を選んで、地面に叩き付けた。 「これ!これよ!これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの!」 ティトォは地図を覗き込む。 それは、ここから南に8リーグほど行った、タルブの村の近くを示していた。 「で、そこにあるのはなんというお宝だね?」 ギーシュの問いに、キュルケは腕を組んで答えた。 「『魔王の骨』」 さて一方、こちらは魔法学院。 ルイズはここ2~3日ほど授業を休んで、結婚式の詔を考えていた。 図書館に行って、めったに手に取らない詩集やら歌集やらと格闘し、部屋に閉じこもって唸っているのだが、さっぱりはかどらなかった。 詩才もないのに理想だけは高いルイズは、最高の詔を作らなければと気負って、まだ最初の一語も書き出せていないのだった。 読書家の使い魔に手伝わせようと思ったのに、いつまで経っても戻ってこない。 さすがに二日も戻らないのは変だと思って、廊下を通りすがったモンモランシーに尋ねたら、ギーシュやキュルケ、タバサと一緒に授業をサボって宝探しに出かけたという。 先生たちはカンカンで、帰ってきたらキュルケたちに講堂の掃除を命じるつもりらしい。 なんだ楽しそうじゃないの、と思ったら、ふつふつと怒りが込み上がってきた。 ご主人様がこんなに苦しんでるっていうのに、あの使い魔ってば、なにを遊び回ってるのかしら。 自分で言うのもなんだけど、わたし、かなり寛大なほうだと思うの。 図書館に引きこもってても、ふらりとどっか行っちゃって帰ってこなくても、これまでずっと許してきたわ。 ティトォもアクアも人間だし。用のないときまでそばに控えさせておこうってのは、ちょっと横暴だと思うからね。 わたし、えらい。太っ腹。 でも、ご主人様が必要としてる時にまでいないっていうのは、どうかしら。 それはちょっと許せないなあー。 普段好き勝手させてるんだから、用があるときくらいはわたしの力になるべきじゃないかしら? 使い魔とか関係なく、それが人の道ってものよね? それなのに、あのアホ使い魔ってば。 どうしてやろうかしら。 どどど、どうしてやろうかしら。 ルイズはなんだかどんどん腹が立ってきた。 ルイズの頭は湯沸かしのポットようなもので、感情的になるとすぐに沸騰してしまうのだった。 こんな気分で祝福の詔を書くことはできないので、ルイズは乱暴に部屋のドアを開け放つと、ずんずんと厨房へ向かった。 夕食の仕込みをしていたマルトー親父に話を付け、厨房の一画を借りると、気分転換にパイを作りはじめた。 小麦粉を振るい、角切りのバターを混ぜる。 フォンティーヌ(土手)を作り、水とビネガーを入れ、カードで切りながら一つにまとめる。 ルイズの頭は沸騰していたが、手つきは繊細だ。 生地にバターを練り込んでしまったり、バターが溶けてしまったりすると、パイ生地はうまく膨らまないのである。 黙々と作業をしていると、だんだんと頭が冷えて、ルイズの心は落ち着きを取り戻していった。 冷たい大理石の板の上でしばらく生地を寝かせると、生地を伸ばして三つ折りにし、さらに三つ折りにして、また休ませる。 フィユタージュ・ラピド……、速成折りパイと呼ばれる生地である。 夕食の仕込みをしながら、横目でルイズの様子を見ていたマルトー親父は、パイ作りの手際に感心し、ほう、と感嘆の声を上げた。 やがて、ルイズのパイが焼き上がって、調理台の上に並べられた。なんだか興が乗って、四枚も焼いてしまったのだった。 フィリングはもちろん、ルイズの大好物のクックベリージャムである。 こんがりときつね色に焼き上がったパイは、食べるまでもなく絶品だということが分かった。 ルイズは満足そうにニッコリと笑う。お茶が必要ね、これは。 「シエスタ……」 声をかけようとして、ルイズは気付いた。シエスタは、故郷に帰省している最中だったのだ。 ティトォもいないし、シエスタもいない。ルイズが気安く接することのできる数少ない二人が、揃って学院にいないのだ。 ルイズは目の前に並んだ四皿のパイを見て、一緒にお茶をする相手がいないことが、急に寂しくなってきた。 いつもならいなくてせいせいするはずのキュルケの姿がないことさえ、なんだか寂しく感じてしまう。 気分が沈んでしまったルイズは、エプロンを脱ぐと、マルトー親父に声をかけた。 「へえ、なんですか」 ルイズは調理台のパイを指し示す。 「作りすぎちゃったの。晩のデザートに出すなり、あなたたちで食べるなり、好きにしてちょうだい」 そういってルイズは厨房を出て行った。ちなみに、しっかりと自分の分のクックベリーパイを一皿持って行った。 ルイズが出て行くと、厨房のコックたちが、パイを見てざわざわ言い出した。 「デザートに出すってもなあ、どうするよ?三皿だけじゃあ、とっても足りねえよ」 「なら、俺たちで食っちまえばいい」 マルトーがそう言うと、コックたちは笑い出した。 「旦那!俺たちゃプロの料理人ですぜ!」 「貴族様が道楽で作った菓子なんて、食えたもんじゃないんじゃないですかい」 マルトーは黙って、パイを切り分けた。三皿のパイは、厨房で働くコックたちにちょうど行き渡るくらいの量だった。 「ま、せっかくだから食ってみろって」 すると、厨房で働く、がっしりとした体つきのコックが進み出てきた。筋骨隆々の見習いコック、ロベールである。 「旦那。俺はちょっとばかし甘いものにはうるさいですよ。なにせ俺の実家は菓子職人の家系ですからね、すっかり舌が肥えちまった!そんな俺にうまいと言わせたら……」 サクッ、とロベールはパイをかじった。 「うまっ!」 ロベールは一言叫ぶと、ブワアアアッ、と後ろに吹っ飛び、派手に転がって、厨房の壁にぶつかった。ロベールは死んだ。 「うまい……、うますぎる!完敗だッ……!このパイには、親父もおふくろも太刀打ちできない!」 パイを食べた料理人たちも、次々と騒ぎだした。 「なんだこりゃ!うめえ!」 「これをほんとにあの娘が?」 マルトー親父は、ニヤッと笑って、言った。 「貴族の連中はどうにも虫が好かないが、なるほど、腕前は認めざるを得ないな、こりゃあ。シエスタが惚れ込むのも分かるってもんだ」 翌朝、キュルケたち一行は空飛ぶ風竜の背中に乗って、タルブの村へと飛んだ。 「それでその『魔王の骨』とやらは、どんなお宝なんだね?」 ギーシュの問いに、キュルケは肩をすくめた。 「わかんない。『魔王の骨』については、地図に注釈がないのよ」 「おいおい、そんな得体の知れないものを探しにいくっていうのかい?」 ギーシュは、地図の束の中でも特に薄汚い『魔王の骨』の地図を、胡散臭げに眺めた。 「大仰な触れ込みの付いた宝の地図は、全部インチキだったじゃないの。こういう飾り気のないボロ地図のほうが本物の臭いがするわ」 キュルケは髪をかきあげて、言った。 「だいたい、骨って。とてもお宝のイメージじゃないがなあ」 「あら、プラド卿ご自慢の『水晶の頭蓋骨』があるじゃないの。ああいうお宝にちがいないわ、きっと。それに『魔王』っていったら、あんたなにを想像する?」 ギーシュははっとした顔になる。 「そうよ、大魔王デュデュマ。始祖の伝説よ!ひょっとしてひょっとすると、『始祖の秘宝』かもしれないわ!」 「『始祖の秘宝』は、ブリミルの血統を継ぐ三の王家と、第一の三十指・聖フォルサテが興したロマリアがそれぞれ管理しているはず」 「あらん、そんな意地悪をいうのはこのお口?ロマリアの『秘宝』は、二十年前にどこかへ消えてしまったって話じゃないの。知らないわけじゃないでしょ、タバサ」 「でもねえ、市場に地図が出回るようなお宝が、そんな王家の秘宝だとは思えないんだけどなあ」 「まあ、ひどいわダーリン!あなたまでそんな意地悪をおっしゃるの?」 「わわわ、キュルケ、暴れないでくれ!また竜から落っこちるのはごめんだよ、ぼかァ!」 きゃあきゃあと騒ぐ一行を乗せて、風竜は一路タルブの村へと羽ばたいた。 前ページ次ページ虚無のパズル
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1109.html
13 ルイズを抱え上げた男は、身長180サントあまり。均整の取れた体つきをしていた。 不思議なことに、その身体は女性のように柔らかかった。受け止められたルイズがついすぐ上の姉であるカトレアを連想してしまう ような、柔らかい身体であった。よく考えれば胸もなく、あきらかに男の身体だというのに。 ルイズにそう思わせたのは、男の筋肉であった。生ゴムのように柔らかで、しなやかな筋肉。猫化の猛獣を思わせる優れた筋肉が 男の五体を覆っているのだ。 先ほどまでルイズを抱えていた張飛がブルドーザーやダンプカーだとすれば、この男はスポーツカーである。純粋に、速度のみを追 求した理想的なエンジンと、フレームの持ち主。そんな印象を受ける。 「おいおい/なに阿房みたいに呆けてやがんだよ/たすけにきてやったんだから、もっとよろこべってーの?/」 「で、デルフ!?」 突如現れ自分をキャッチした男。その腰に挿された顔なじみの剣を見つけて目を点にするルイズ。 「おいおい、なんだよ/もしかしておれっちがいねーことに気付いてなかったのか?/」 ぶっちゃけるとデルフのことなど完全に頭から消失していた。思わず、あはは、と苦笑いをするルイズ。 「……せっかく助っ人を連れてきたのに、なにそれ/ショックでけー/いいんだ、いいんだ/どうせおれなんて/」 答えがないのは図星の証拠と、剣の癖にいじけるデルフ。土鬼と名乗ったその男は、デルフを腰から引き抜いてルイズに渡す。 土鬼があごをしゃくって自分の後ろを指す。 「う、うま…?」 血のように赤い、見事な馬がそこにいた。 「元相棒があのオッサンは引き受けてくれるからよー/その隙に赤兎馬で戻るぞ!/」 腕の中でデルフがぎゃあぎゃあとわめく。それに答えるように赤兎馬がいななく。 ルイズは傍によって赤兎馬を観察する。なんという見事な馬だろうか。ビロードのような毛並みは、血で濡れたような色をしている。 瞳はラグドリアン湖のように深く静かな光をたたえ、一点の曇りもない。ギリシャ彫刻を思い出させるそ身体は、神の作りだした芸術 品というしかなかった。 「見とれてる場合じゃねーぞ/俺や祈祷書を落とすんじゃねーぞ!/」 デルフの言葉にへ?と首をかしげるルイズ。その瞬間、ルイズの身体は宙に飛ばされていた。 男、土鬼がルイズを後方へ投げ飛ばしたのである。 「う、うわわわわわわ!?」 突然の事態にパニック状態になるルイズ。 「ヒィィーン」 それを赤兎馬が器用に受け止めた。 「おい、嬢ちゃん/手綱をとれ!」 デルフの言葉に、慌てて手綱を握り締める。手綱を握り締めるや否や、赤兎馬は脱兎の如く駆け出した。 「な、なにこれ!?サラマンダーよりはやーい!??」 一部の人間の心臓をえぐるようなコメント、ありがとう。しかしそのコメントにまけぬ見事な走りである。元々運動神経があり乗馬に 一家言のあるルイズでなければ、場合によっては振り落とされてもおかしくないだろう。 「させるかぁ!」 だがそんな赤兎馬の前に立ちふさがろうとする一人の男がいた。山賊のような風貌の大男。 張飛だ。 その巨体に見合わぬ猛スピードで、赤兎馬の前に立ちふさがった。そして手にした槍で、赤兎馬の頭を貫かんとする。 ドスン だが、その槍を弾き飛ばすものがあった。 土鬼だ。 左手の甲が目も眩まんばかりに輝いている。まるで月の光、日の光だ。 土鬼が猛烈な勢いで体当たりをかまし、そのまま腹部に2度、3度と拳を浴びせ掛けた。 「ぐあぁ!」 張飛が吹き飛び、もんどりうって倒れる。 よく見れば土鬼は何かを握っている。握ったそれで張飛を殴りつけたのだ。 鋭い爪のついたグローブのようなものだった。 張飛の腹部がぱっくりと割れている。鎧を貫通し、肉にまで爪が達していた。 「てめぇ、この張飛さまに傷をつけるとはいい度胸じゃねぇか」 土鬼は赤兎馬を負わすまいと、ルイズの進行方向を背に張飛と対峙する。特別な構えをせず、ほぼ自然体で立っている。 張飛が薬を取りだし、傷口にぶちまけた。見る見るうちに血がとまり、肉が繋がって傷跡がなくなる。水の傷薬を使ったのだ。 「てめぇをさっさとぶちのめしてから、あの女を追わせて貰うぜ!」 張飛が吼えた。大気が、大砲をぶっ放した後のように振動する。それはまるで雷のような雄叫びであった。 「ああ、ワルキューレが!」 ギーシュの目の前で、最後のワルキューレが砕け散った。砂と化した肉体が、雨の中はらはらと舞い落ちる。 「千変万化諸行無常、形あれども皆消える。抵抗無意味を思うは必至。因果応報百薬長寿。」 ギィィ、と唇の端をゆがめるクロムウェル。そこにもはやクロムウェルの面影はない。 「伸し烏賊、それ人生。末路の終着、同じ運命。」 クロムウェルが足をあげた。精神力がほとんどなくなり、動くのもやっとというギーシュを踏み潰そうというのだ。 「ひぃぃっ!」 地面を這ってでも逃げようとするギーシュ。「命を惜しむな、名を惜しめ」というが、踏み潰されて死ぬのは恥だと考えたのか。本能 のなせる業なのか。 だが這う程度では移動距離も底が知れたもの。至近距離に最初の一撃が落とされる。 直接触れていないにも拘らず、その威力に跳ね飛ばされ、地面を転がるギーシュ。慌てて空を見上げたギーシュの目に飛び込ん できたのは… 「必殺必至是止め也。富と是李、仲良く喧嘩するべきか。米国漫画絵、潰れてなお生く!」 もはや避けようもない、クロムウェルの踏み潰し攻撃であった。 もうダメだ!そう観念した次の瞬間。 ゴガンッ と鈍い音。 クロムウェルの巨体が吹っ飛んだ。 恐々、うしろを向いたギーシュの目に飛び込んできたのは、鉄の巨人とその上に乗った 「ビッグ・ファイアくん!」 そう、バビル2世だ。 「ポセイドン、なんともないか?」 命を操り、触れただけで生命力を奪う怪物、命の鐘。もしかすればポセイドンといえども無事ではすまないかもしれない。そう考え たのだが、見る限り以上はなさそうである。 『異常なし―全て正常作動中―』 ポセイドンが発光信号を送ってくる。よし、と頷くバビル2世。 「だがあまり近づくな。万一ということもあるから、このまま遠距離から攻撃をするんだ。」 バビル2世の命令に応え、ポセイドンが腕を突き出した。指先が輝き、光のシャワーがクロムウェルに飛来する。 「何事発生!?」 起き上がろうとするクロムウェルの肉体を、強力なレーザー光線が襲う。すぱすぱと体組織が切断されていく。 「いいぞ、ポセイドン。だが今は雨が降っていてレーザーの威力が弱いはずだ。機関銃攻撃に切り替えるんだ!」 たちまち鉛の雨がクロムウェルに襲い掛かる。レーザーで切断された痕が、再生する暇もなく破壊されていく。 「ギーシュ、今のうちに」 モンモンが泥まみれで地面に転がるギーシュを助け起こす。モンモンの肩を借りて、ギーシュがよろよろと起き上がった。 「ギーシュ、すごいわ。あんな化け物に一人で立ち向かって……」 モンモンが涙ぐんでギーシュを迎える。雨の中だと言うのに、体温は高く、頬は赤い。 「い、いや。貴族として当然のことさ。」 あまり気障ぶる余裕もなく、ギーシュが応える。それを見てさらに頬を染めるモンモン。 「……でも、あんまり無理しちゃダメよ。」 胸に顔をうずめて、モンモンが呟く。なんだかここだけ異質な空間が形成されようとしている。 「もうよいからこっちへこい、単なるものよ。我が沸騰してしまうではないか。」 あきれたような水精霊の声。それを聞いて我に返ったモンモン。慌てて水精霊の入った瓶まで移動する。 「まったく。我の愛しい方の足元で邪魔をするでない。気持ちはわからぬではないがな。我も愛しい方とよく沸騰するような会話をか わしたものじゃからな。」 からかい気味の口調で、水精霊がモンモンを挑発する。でも本当にそんな会話があったのだろうか。水精霊は熱心にポセイドンの 姿を目で追っている。 モンモンと水精霊はポセイドンが地面にあけた穴に降ろされたのだ。それまで2人を守ってきたポセイドンが、バビル2世の帰還で 攻撃モードに移行したため、二人を隠す場所としてここに穴をあけたのだ。 「そ、それはそうとっ!」 顔を真っ赤にしてモンモンが水精霊に言う。ギーシュは精神力を使い果たし、さらに安心したこともあってこの雨の中寝てしまって いる。 「この雨何とかならないの?たしかに私は水系統の魔法を使うから良いんだけど、女王様も水を使ってるでしょ?ないほうが有利な んじゃないかって思うんだけど……」 「できるが、やりとうない。」 ポセイドンの勇姿に見とれている水精霊が、そっぽを向いたまま答える。 「雨が降るのは自然の摂理。雨が降らなくなれば、我も力を失う。あまり干渉したくはない。それに、どちらかと言えば、雨を担当し ているのは風の精霊じゃ。大地へと振り落ちた水は我の管轄じゃが、それを他所へやればこの辺りの生態系が大きく崩れるぞ? それはそのうち単なるものたちの同胞にも被害を及ぼすことになるじゃろう。それでもよいのか?」 とても湖の水位を上げていたとは思えぬ発言であった。どの口からこんな殊勝な言葉が出るのだろうか。 「それに我が愛しき方ならば、この程度のハンデがあってちょうど良いじゃろうしな。うふふ。」 こっちのほうが本音っぽいのは気のせいだろうか。 「……なんていうか、頭が痛くなってきたわ…」 こんなやつのせいで家が貧乏になったのだと思うと、もはや笑うしかないモンモランシーであった。 「早い!早い!早ぁぁぁぁい!」 今までにないスピードに揺さぶられ、脳が溶けてしまったかのように同じ単語を繰り返すルイズ。 「酔う!酔うって!なにこの馬!」 猛然と進む馬の速度は、ひょっとしたらシルフィード並にスピードがあるのではないか。もちろんそんなことはないのだろうが、地面を 駆けているだけに体感速度が異常なのである。 「うっせーなー/いいから祈祷書をめくれってーの!/」 「め、め、め、めくれるわけがないじゃないの!」 しがみつくのが精一杯なルイズ。どう考えても無茶です。この状態で祈祷書を開こうものなら、あっという間に後方に投げ落とされる だろう。 「そ、それにいまさらめくらなくても、エクスプロージョンがあるじゃないの!」 「バカヤロー!エクスプロージョンは強力だけどよ、精神力を無茶苦茶消耗するんだ/今のお前さんじゃあ年に1発大きいのを打てれ ばいいほうなんだぜ?/それでこのまま戻ったとして、花火程度のものしかでねーよ!それにだ、敵が使ってるのは先住やそれ以外 の魔法体系なんだぜ?エクスプロージョンが効くかどうかわっかんねーだろーが!」 「じゃ、じゃあ、おーすんのよ!」 思わず舌を噛みそうになるルイズ。怒鳴り返すものの迫力がない。 「祈祷書のページをめくりな。こういうときのために、ブリミルは対策を練ってるはずだぜ。」 「だから無理だってぇぇぇぇ!」 手綱を自分の身体に捲くりつけるルイズ。そうでもしないと風圧で吹っ飛ばされそうなのだ。 「今のうちに読んでおかねーと、向こうで読む時間があるかわかんねーぞー!」 「ひゃあああああ!!」 なんとか祈祷書をめくったが、そのせいで身体が煽られ、吹っ飛ばされそうになる。 「なんだかんだで真面目だよな、おめー」 「うっさいわねー!」 悪態をつくルイズの目に、エクスプロージョンとは別の、文字の書かれたページが飛び込んでくる。そこに書かれた古代語のルーン を読み上げる。 「ディ、ディスペル・マジック?」 「そいつだ。『解除』さ。わざわざ水の精霊を探して作った薬と、理屈は似たようなもんさ。」 「クロムウェル様!」 銃弾を浴び、殴りつけられて地面に転がるクロムウェル。そこへ駆けつけようとする偽ウェールズ。 「もうよすんだ。」 ポセイドンの上で、バビル2世が静かに宣告する。 「おまえたちに、もう勝ち目はない。このままクロムウェルが命を食い尽くされるのを待って、おまえを倒せばいいんだからな。」 ジリっとウェールズがたじろぐ。クロムウェルに対して、バビル2世たちは完全な包囲網を敷いている。右手側にセルバンテス。左手 側に残月。そして中心にポセイドン。クロムウェルの逃げ場はもうない。つまり、クロムウェルに偽りの命、かりそめの命を与えられた ウェールズの命もあとわずかということだ。 「その通りだ。」 残月がキセルをふかしながら詰め寄っていく。 「従姉妹は返してもらうぞ。」 冷たい、刺すような視線を偽者に浴びせ掛ける。でも、そんな権利があるのだろうか。疑問は残る。 フッフフ、と笑ってセルバンテスが近寄っていく。 「まさに袋のねずみ、といったところだねぇ。私にとっては、君が本物か贋物かはこのさいどうでもいいんだがねぇ。せめて利子ぐらい でも返してはくれないかねぇ。」 残月へ顔を向けるセルバンテス。そのゴーグルがギラリと輝く。 なるべく顔をあわせないように、そっぽを向く残月。 「さあ、観念したまえ!」 全員が声をはもらせた。ウェールズがじりっと後退した。クロムウェルが、やっとの思いで身体を起こした。 「否ッ!」 とクロムウェルが叫んだ。 「我消えずこの野望。もって成就すべき。真なるかな、新たな力!」 そこへアンリエッタが飛び出す。 「さ、させません!」 クロムウェルたちを守るように、大きく両腕を広げる。 「ウェールズさまを……もう2度と失いたくないんです!」 「そこにいるじゃないの。」とつめたい視線を残月に浴びせたのはキュルケ。当然、残月は挟み撃ちの形になって前後からダメージを 食らう。 「な、なにをいう。私の名は残月。ウェ、ウェールズ皇太子は死に申した。」 震える手でキセルを扱う残月。動揺しすぎだ。 「はいはい。そういうことにしときましょ。」 肩をすくめるキュルケ。それにしてもなんという勘の鋭さ。ヴァリエール家にツェルプストー家が勝ち続けてきた理由が窺えるというも のだ。 「なにを言っているのか、よくわかりませんが……」 アンリエッタが顔をあげた。呪文を詠唱し始めると、偽ウェールズがそれに加わった。 水の竜巻が、二人の周りをうねり始めた。 『水』『水』『水』、そして『風』『風』『風』。 水と、風の六乗。 王家の血のみが可能な、ヘクサゴンスペル。干渉しあう詠唱が、巨大に膨れ上がった。 2つのトライアングルスペルが絡み合い、津波のような竜巻を作り出した。この一撃を受ければ、城でさえ一撃で吹っ飛ぶだろう。 「ポセイドン!」 バビル2世がポセイドンから飛び降りて、命令をした。ポセイドンが身を低くして、竜巻に突進する。 バババババババ、と竜巻とポセイドンがぶつかり合うすさまじい音が響き渡る。 「どうだ!?」 だが、いくらポセイドンとはいえこの規模の竜巻には叶わないのか。飲み込まれて中で回転をはじめる。 やがて外に弾き飛ばされて、地面に伏せた。 「こうなれば、私の魔法で!」 残月がキセルを振りかざす。スクウェアレベルを凌駕するまでに成長した風をぶつけようというのだ。 「エア・ハンマー!」 進行方向へ空気の塊を叩きつけた。わずかに竜巻がひるみ、速度を落とす。 「だめか!」 だが、竜巻は一向に衰える気配がない。より勢いを増して、全てを飲み込まんと迫ってくる。 「さっきの戦いで精神力を使い果たしたぼくに、あれに対抗できる超能力が使えるだろうか。」 いや、そもそも一切消耗していない状態でも怪しい。 そこへ、 「バビル2世を倒すは是幸運。ヨミが願いは世界を支配。すなわち全てが万事に戻る!」 竜巻をかきわけ、クロムウェルが現れた。現れたクロムウェルを見て、アンリエッタとウェールズが頷く。 竜巻がクロムウェルの身にまとわりつき、鎧と化していく。クロムウェルの身体が渦に飲み込まれ、溶け合いっていく。 やがて巨大な竜巻と、クロムウェルが完全に一体化をした。竜巻の表面にクロムウェルの顔が浮き上がり、周囲を睥睨する。その 中心部には、命の鐘が浮かんで怪しい光を放っている。 「野茂が竜巻、英雄天使!食われて同化は我が力!決着最終決戦を、ここでつけるが我が願い!」 意思を持った竜巻が、バビル2世たちに襲いかかろうとしたそのとき、飛び出してきた赤い弾丸があった。 血のように赤い馬に乗った、ルイズであった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8467.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第四十六話 揺るがぬ意志との戦い 深海怪獣 ピーター 登場 照りつける日差しはトリステインでの真夏が小春に思えるほど暑く、全身から吹き出す汗は常時水筒の水を喉に欲しさせる。 道なき道は、一歩ごとに足を飲み込もうとし、歩くだけでも相当な体力を必要とする。 話に聞き、頭で想像していたよりもはるかに厳しい砂漠の旅が、弱音を吐く気力さえ一行から失わさせた。 だが、気力を振り絞ってひとつ、またひとつと砂丘を越え、ひときわ大きな砂の長城を一行は制した。その瞬間、先頭を 歩いていた才人の眼前に、ついに待ち望んでいた目的地が姿を現した。 「見えたぜ! あれがアーハンブラ城か、砂漠に浮かぶ島ってとこだな」 一週間の旅路を経て、ルイズたち一行はついに目的地であるアーハンブラへ到着した。 それまでの緑にあふれた世界から一転して、砂にあふれた乾いた世界。初めて見る砂漠を踏破して、とうとうティファニアが 囚われている古代の要塞へと、一行はやってきた。 「ここがガリアの最東端……人間の世界の終わりってわけね」 砂漠に孤高に立つ古びた小城を間近まで来て仰ぎ見て、ルイズは感慨深げにつぶやいた。 昔話や学校の歴史の授業で、過去幾百回と繰り返し聞かされた人間とエルフとの戦い。それが、ここでおこなわれてきたかと 思うと、散っていった幾万もの霊魂がさまよっているような、薄ら寒い錯覚すら覚える。 しかし、それとは別の悪寒を、ルイズたちはふもとの町から城へあがる道を歩きながら感じた。 「誰もいなかったわね。やっぱり、町全体が無人になってるのね」 どこまで行っても子供ひとり出てこないほど静まりかえった町が、これからティファニアを助けに行くのだという一行の心中に 水を差した。しかも、どの家も元々人がいないのではなく、きちんと戸締りされていた。つまり、少し前まで人間がいたという 生活観が残っていることが、よりいっそうの不気味さをかもし出している。 彼らは、ジョゼフの命によってアーハンブラから住人が強制退去させられたことを直前の宿場町で聞いてはいた。しかし いざ沈黙で覆われた町に迎えられてみると、嵐の前の静けさのような、待ち構えられているかのような圧迫感が伝わってくる。 そんな暗い雰囲気を敏感に察して、ルクシャナがやれやれと首を振った。 「あなたたち、そんなんじゃあ叔父さまに会ってもぜったいかなわないわよ。もっとシャキッとしてもらわないと、せっかく 連れてきた貴重な研究材料があっさり死んじゃったら、私の苦労が台無しになるんだからね」 自分が連れてきたくせに、まるで他人事のようにいうルクシャナにさすがに才人たちもカチンとくる。しかし、一週間の旅路で 彼女が研究第一で、その他は自分も含めて優先度ががくんと落ちることを知っていたたため、顔に出しても口には出さない。 その代わりに、エレオノールが別のことを尋ねた。 「ねえあなた、今日までもう何度も聞いたけど、あなたの叔父、ビダーシャルってエルフはそんなに強いの?」 「強いわよ。私たちエルフの行使手の中でも叔父さまほどの人はそういないわ。人間のメイジだったら、スクウェアクラスでも 素手で勝てるくらい。魔法を使えない兵士なら、四~五百人は軽く片付けられるでしょうね」 平然と話すルクシャナに、エレオノールは知っていたとはいえ、おもわずつばを飲み込んだ。 旅の途中で、一行はルクシャナから先住魔法を見せてもらっていた。彼女はたいした用もないのに精霊の力を行使するのは 冒涜だと言ったけれど、知識では知っていても、実際に見たことがあるものはいなかったから当然の備えである。が、いざ 目の当たりにしてみると、その威力は想像をはるかに超えていた。 ルクシャナが命じるとおりに森の木々が動き、鋭い槍や鞭に変形した。「風よ」と簡単に命じるだけで、タバサやエレオノールの 唱えた攻撃魔法が軽くはじきかえされてしまった。土も岩も水も、同様にルクシャナの言うとおりに動いて武器となった。実際、 学院のルイズの部屋で正体を明かしたとき、もしも交渉が決裂して戦闘になっていたら、石の精霊に塔を自壊させて全員を 生き埋めにするつもりだったらしく、一同はぞっとしたものである。しかも、ルクシャナ自身は戦士ではなく、行使手としては弱いというのである。 そんな相手とこれから戦わねばならないのかと、才人はうんざりした。 「なんとか、話し合いでティファニアを返してもらえないかなあ……?」 「叔父さまの性格からして、まあ無理でしょうね」 「そんなに気難しい人なのかよ?」 「よく言えば真面目、悪く言えば頑固者ってところかしらね。でも、保身しか考えてない評議会のおじいさんたちや、 決まりきったことしか研究してない学者たちよりはずっと物分りがいいほうよ。そこのところは、蛮人の世界とたいした違いは ないと思うわ」 ちらりと視線を向けられたエレオノールは、思い当たる節が多々あるので閉口した。 「ともかく、人格的には尊敬できる人よ。ただ、使命を果たすためなら自分の筋を曲げることもいとわない責任感の強い人だから、 正直言って説得は難しいと思うわ」 「やっぱりなあ……せめて、タバサとキュルケがいてくれたら心強かったんだけど。お母さんが急病じゃ仕方ねえもんな」 才人は、ため息をひとつついて西の空を望んだ。 タバサとキュルケが昨晩に一行から離脱したことは、ロングビルの口からタバサの母親が急病で倒れたという知らせが伝書 フクロウで来て、二人はそのためにシルフィードで帰ったというふうに説明されていた。これに、才人やルイズは土壇場で貴重な 戦力が離れることをもちろん惜しんだけれど、すぐにお母さんの命には代えられないなとあきらめたのだった。 こちらに残った戦力は、才人とルイズ、エレオノールとロングビル。なお、ロングビルの昨夜の負傷は自力で手当てをして、 後は代えの服で傷口を隠してごまかしている。ルクシャナは叔父と戦うわけにはいかないだろうから、実質のところは素人に 毛が生えた程度の剣士と、爆発しか使えない虚無の担い手、戦闘は専門外のメイジと、魔法の使えなくなった盗賊…… 他人が見たら、これでエルフに勝負を挑もうとするなど狂気のさた以外の何者でもないだろう。 だが、才人たちに引き返そうとする気持ちはさらさらない。自分たちの目的はエルフを倒しに来たのではなく、ティファニアを 救出しに来たのだ。その意味を履き違えるなと、才人とルイズは自らに言い聞かせる。 やがて丘の上の城門に一行はたどりついた。巨大な鉄製の門は固く閉ざされていて、まるで動く気配もなかったが、 ルクシャナが前に立っただけで開門した。どうやら、ルクシャナが到着したら開くようにビダーシャルが門の精霊と契約していたらしい。 城門をくぐると、突然それまでの砂漠の熱気が消えて、秋口のような涼しげな空気が一行を包んだ。 「うわっ? なんだ、急に涼しくなったぞ」 「ああ、叔父様がこの周辺の大気の精霊と契約して、気温を下げてるんでしょう。わたしも自分の家の周りにこれをやってるけど、 城ひとつを覆わせるなんてさすが叔父様ね」 軽く言うルクシャナに、一行は例外なくぞっとした。いくら小さいとはいえ、城ひとつを覆う大気を自在に操るとは。同じことを 人間の風のメイジで再現しようとしたら、いったいどれだけの人数が必要になるか想像もつかない。 「たいしたものね……」 「あら、このくらいで驚いてたらとても叔父様の相手はできないわよ。それに、契約がなされてるってことは、ここに間違いなく 叔父様がいるってこと。覚悟しておくことね」 ごくりとつばを飲み込む音が誰からともなく流れた。 城内はルイズたちが想像したものを裏切り、古城とは思えないほど美しく整えられていた。だがやはり、人の気配は皆無で、 その生活感のない無機質さが才人たちをいっそう警戒させた。 兵士たちの詰め所を素通りし、廊下をしばらく進むと中庭に出た。そこは、砂漠の中だとは思えないような、水をたたえた オアシスになっていて、乾燥した世界に慣れていた才人たちの目を癒した。しかし、彼らの目を本当にひきつけたのはそこでは なかった。池のほとりの芝生の上で、憂えげに空を見上げている金色の妖精……その姿が蜃気楼でないとわかったとき、 誰よりも早くロングビルがその名を叫んでいた。 「テファ!」 「えっ? えっ!? あ、マ、マチルダ姉さん!?」 戸惑いながらもティファニアがロングビルの本名を答えたとき、真っ先にロングビルが駆け出し、一歩遅れて才人たちも続いた。 駆け寄ってきたロングビルとティファニアは熱い抱擁を交わしあい、互いに本物であることを確認しあう。ほんの数秒しか経って いないというのに、ロングビルの顔はすでに涙でぐっしょりと濡れていた。 「本当に、本物のマチルダ姉さんなのね。いったい、どうやってここまで来たの?」 「まあいろいろあってね。話せば長くなるけど、みんなで助けにきたんだよ」 ティファニアはロングビルの肩越しに、才人とルイズの顔を見つけて表情を輝かせた。 「サイト、ルイズさんも、あなたたちも来てくれたんですね!」 「ああ、もちろんさ。用があって今はいないけど、キュルケとタバサも来てたぜ」 「ウェストウッドの子供たちも無事よ。今はトリステインで預かってもらってて、元気で待ってるわ」 子供たちの安否が知れたことで、ティファニアに心からの安堵の笑みが浮かんだ。こんな状況にあっても、一番に子供たちの ことを考え続けているとは、やはりティファニアは優しいなと才人は思う。それに、一番ティファニアの心配をしていたはずの ロングビルも、外聞など眼中になく彼女の無事を確かめていた。 「ともかくテファ、怪我とかしてない? なにもされてない?」 「うん。大丈夫、ここではなにも不自由しない暮らしができてたから元気よ」 「でも、ひとりで寂しかったでしょ。いじめられたりしてない?」 「平気、最初は一人だったけど、ここでもお友達ができたから」 そう言ってティファニアが手を数回叩くと、池の中から小さなトカゲのような生き物が顔を出した。だがそれは、水面から地上に あがってきたとたんに子馬ほどの大きさの、カメレオンに似た生き物に変わって皆を驚かせた。 「うわっ! な、なんだいこいつは!?」 「やめてマチルダ姉さん! この子は暴れたりしないから」 驚いてナイフを取り出したロングビルを、ティファニアは慌てて止めた。確かにその生き物は暴れるでもなく、むしろぼぉっとした 様子でティファニアの後ろで四つんばいで止まっている。しかしルクシャナは珍しい生き物ねと興味深げに眺めているが、 カエルが苦手なルイズは、爬虫類系の容姿をしているそれにおびえて才人の後ろに隠れてしまって、エレオノールも気味悪がっている。 ただ、才人は常時肌身離さないGUYSメモリーディスプレイを取り出して、その生き物の正体を探っていた。 「アウト・オブ・ドキュメントに記録が一件。やっぱり、深海怪獣ピーターの仲間か」 エレオノールとかに見つかると後々うるさいので、スイッチを切ってさっさとしまった才人はルイズにこいつは危険はないと告げた。 深海怪獣ピーター……正確には怪獣ではなく、学名をアリゲトータスという太平洋の深海に生息する普通の生物である。 水陸両性で、性質はおとなしく、他者に危害を加えるようなことはない。だが、本来の体調はわずか二十センチくらいと普通の トカゲ程度の大きさしかないのだが、体内にある特殊なリンパ液の作用によって、周辺の温度変化に反応して一瞬にして 大きさを変える能力を持っているのだ。 まれに漁師や釣り人に釣り上げられることがあり、現在はそのまま海中に帰すことが義務付けられている。凶暴性は ないのだが、あまりに高熱にさらされると最大体長三十メートルにも巨大化してしまうことがあり、過去にペットとされて いたものが、山火事の影響で巨大化してしまった例が重く見られているのだ。 才人はピーターの下あごあたりを軽くなでてみた。すると、気持ちよがっているのかは不明だが、喉を鳴らすように鳴いたので 才人はおかしそうに笑った。 「これがテファの新しい友達か。ふーん、よく見るとけっこうかわいい顔してるじゃん」 「サ、サイトよしなさいよ。噛み付かれるわよ」 「だいじょぶだって。ティファニアのお墨付きだよ。それに、おれもこれを見るのははじめてなんでな。興味あるんだ」 実は才人もピーター……アリゲトータスのことはよく知らないのだ。その性質ゆえに、動物園でもこれを飼うことは厳禁で、 一般人が実物を見ることはほとんどない。しかし、普通海中深くにいるはずのこいつがなんでこんなところに? 首をかしげると、 池の水が底からとめどなく湧き出ているのが見えて、はたと思いついた。 「そっか、地下の水脈がどこかで海までつながってるのか。それで、迷い込んだこいつがここまで来たってことか」 知ってしまえばたいしたことではなかった。砂漠は表面は乾燥しきっていても、その地下には地底の海ともいうべき巨大な 水源を抱えている。それが場所によっては地上に吹き出してオアシスとなり、砂漠に生きる人々の生命の源となっている。 もしこれがなければ、いくらエルフとて砂漠に住むことは不可能だっただろう。 しかし、ひとときピーターをなでる平穏な時間が流れたのも、危険の中のほんのわずかな休息時間にしか過ぎない。 そのことを、ティファニアと会えて喜びに沸いていた彼らは忘れていた。 「お前たち、そこでなにをしている」 突然響いてきた、高く、澄んだ男性の声が一行に現状を思い出させた。一部をのぞいていっせいに身構える。 しくじった。ティファニアを見つけた時点でさっさと連れて逃げればよかったと思っても、後の祭りは変えられない。 いや、仮にそんなことをしていたとしても、すぐに捕まって同じことだっただろう。姑息な手など通じないだけの、穏やかな 声色の中に隠された巨大な威圧感を感じて、才人は無意識に乾いた唇をなめた。 対して、相手……近づいてくるにつれてエルフだとわかった男は、まるで戦うそぶりなど見せずに無防備に歩いてくる。 が、彼……ビダーシャルは、ティファニアを囲んでいる人間たちの中に見知った顔を見つけると、深くため息をついた。 「私はエルフのビダーシャル。招かざる客たちよ。お前たちに告ぐ……と、言おうと思ったのだが、ルクシャナ……お前の仕業か。 これはどういうことか説明してもらおうか?」 「あら、説明させてくださるんですの? そりゃあもう、私も蛮人世界でけっこう苦労したんですよ。何度か命の危機にも会いましたし、 でもそのおかげで、ラッキーな発見もありましたの」 厳しい口調で問いかけてくるビダーシャルにも、少しも悪びれた様子もなくルクシャナはこれまでのことをこまごまと説明した。 やはり、虚無の担い手を薬にかけるのは絶対反対で、しょうがないので力づくでやめさせようと思った。でも自分だけでは どうしようもないので、たまたま彼女の知り合いを見つけたのでけしかけたと平然と言う。これは弁明というよりも、自慢の論文を 壇上で聴衆に発表しているに近い。そのふてぶてしさを超えた不遜さに、才人たちさえ呆れたが、当然ビダーシャルは怒った。 「ルクシャナ! 研究熱心なのはけっこうだが、度を超して人に迷惑をかけるなと言ってあるだろう。第一、蛮人の戦士を幾人か 連れてきたところで、私に勝てると思っているのか?」 「ええ、ですから悪魔の末裔を連れてきたんですの」 「なに?」 ビダーシャルの顔から怒りが消えて、困惑の色が浮かんだ。そしてルクシャナはルイズに対して、「出番よ」とでもいう風にうながす。 ルイズはルクシャナの一歩前まで歩み出し、貴族の流儀を守った礼をして名乗った。 「わたしはトリステイン王国の貴族、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。エルフの国の使者、 ビダーシャル卿、あなた方の探している虚無の担い手の一人は、このわたしです」 毅然と名乗りきったルイズには、エルフに対しての恐れはない。覚悟ならとっくにすませていたし、なによりも後ろに才人が いて守ってくれているという安心感が、強く彼女を支えていた。 一方のビダーシャルは、さすがに一瞬動揺した様子を見せたが、すぐさま鋭い目つきに戻るとルイズに問いかけた。 「お前が、悪魔の力の担い手だと?」 「ええ、始祖ブリミルが残した失われた系統……わたしもつい先日まで幻だと思っていましたが、始祖の残した秘宝のひとつ、 始祖の祈祷書がわたしにすべてを教えてくれました」 ルイズはビダーシャルの問いに、明白に、堂々と答えた。それはルイズの中に眠る血の力か、それともルイズ自身が持つ強い 意思のなせる業か。このときだけは、人並みより小柄なルイズが長身のビダーシャルを見下ろしているような錯覚を才人たちは感じた。 「信じる信じないはあなたの自由です。ですが、ひとつだけ誓って、わたしたちはあなたと戦いに来たわけではありません。 わたしたちは理不尽にさらわれた友を救うためだけに来たんです。願わくば、話し合いに応じられたく思います」 ビダーシャルは瞑目した。即答を避けたのは、ルイズの言葉を否定したからではなく、事の唐突さと重大さが彼の判断力の 処理限界をすら軽く上回っていたからだ。ティファニアなどは、「えっえっ? ルイズさんが、えっ?」と、困惑しきって、「ごめん テファ、話はあとでするから」と、才人になだめられている。彼はそれよりははるかにましなほうではあったけれど、それでも 彼自身が一番論理的かと認めえる答えをはじき出すまでには数秒をようした。 「いいだろう。ルクシャナが連れてきたのだ、ただの蛮人ではあるまい。我々エルフも戦いは好まない。話を聞こう」 「感謝します」 ビダーシャルが紳士的な対応を見せたことで、ルイズたちも肩の力を半分は抜くことができた。一応の覚悟はしてきて あったとはいっても、やはりエルフといきなり戦わずにすんだというのはほっとする。だがその喜びにも、すぐに冷水がかけられた。 「ただし、まず断っておくが、私はシャイターンの末裔を逃がすつもりはない。お前も、悪魔の力を宿しているというのであれば 同じだ。この城から帰すわけにはいかない」 冷たい目で断言したビダーシャルに、才人はデルフリンガーを向け、ロングビルはナイフを取り出す。しかし彼らの前に、 意外にもエレオノールが立ちはだかった。 「やめておきなさいよ。まともに戦ったところでどうせ勝ち目なんかないし、せっかく向こうがまずは話を聞こうって言って るんだから、ぶち壊しにしないでよ」 「でも、この野郎はおれたちを帰さないって言ってるんだぜ!?」 「それはまた後で考えましょう。どのみち、最初からそうなることは覚悟のうえだったんだし。それよりも、人間とエルフ、どっちが 野蛮な生き物なんだかあんたたちが証明してみる?」 その一言が、今にも攻撃をかけようとしていた二人の気持ちを落ち着かせた。 様子を見ていたルクシャナも、いきなり戦闘に突入しなかったことでほっとした様子を見せている。 「ま、結論がどうなるにせよ、議論を尽くすのは無駄じゃないからね。さすが先輩、うまくまとめてくれました」 目配せしあった二人には同じ目論見があった。すなわち、ルイズとビダーシャルに会話させることで、謎のベールに覆い 隠されている虚無の実情を探ることである。なにしろ六千年も前のことであるので、人間とエルフのどちらにも断片的な 記録しか残っていない。ルイズたちはすでにルクシャナから、聞けることは根掘り葉掘り聞き出しているものの、虚無に関しては エルフの間でも重要な機密らしく、ルクシャナもほとんど知らなかった。そのためにビダーシャルとどうしても話す必要があったのだ。 そうして、まずルイズは前置きとして、ルクシャナからなぜビダーシャルたちがこの地にやってきたのかなどは聞いていると告げた。 「あなた方の土地でも、すでに怪獣の出現や、異常な現象が起こっているそうですね」 「そうだ、それを確かめ、変調をきたしているこの地の精霊を鎮める。そうしてサハラへの影響を事前に食い止めるのが一つ目の 任務。もうひとつが、お前たちシャイターンの末裔が揃うのを阻止することにある」 ここまではお互いに確認のようなものだった。本題は、ここからである。 「そのシャイターン……あなた方は悪魔と呼ぶ虚無の力、かつて大厄災とやらをもたらしたそうですが、それはいったいなんだったのですか?」 ルイズの質問に、ビダーシャルはジョゼフやティファニアに語ったとおりのことを説明した。エルフの半数が死滅したというほどの 恐るべき大災厄……ただし、その実情はビダーシャルすら知らないということが、少なからずエレオノールたちを落胆させた。 「お前たちの期待に添えなくてすまないな。だが、それではこちらからも質問させてもらおうか。お前が、本当にシャイターンの 末裔というのならば、悪魔の力に目覚めたいきさつを聞かせてくれ」 「ええ、数週間前のことよ……」 了承したルイズは、ビダーシャルにはじめて虚無の魔法を使ったあの日のことを話した。怪獣ゾンバイユの襲来、始祖の 祈祷書と風のルビーの共鳴、現れた古代文字、そこから発現した魔法『エクスプロージョン』の威力など。そして、自分が虚無に 目覚めたその事件が、すべてガリア王ジョゼフが虚無の担い手を探し出すために起こした事実も、包み隠さず語った。 「なんだと!? あの男が、自ら悪魔の力を……」 この事実はビダーシャルにとってもショックに違いなかった。嘘でない証拠に、トリステインで起きたことはすべて事実だと ルクシャナも証言している。彼としては、虚無の発現を防ぐために、わざわざ大きなリスクを背負って交渉を成立させた男が、 陰では虚無の目覚めを早めていたと知って穏やかでいられるはずもない。 が、ルイズたちとしては、まだビダーシャルに聞きたいことはある。その機を逃してはならないと、ルイズは矢継ぎ早に質問をぶつけた。 「もうひとつ聞きたいことがあります。ジョゼフは、わたしを虚無と見極めるときと、ウェストウッド村でティファニアをさらうときの どちらも怪獣を囮として使いました。人間が怪獣を使うなんて、普通じゃ絶対不可能なのに、ジョゼフはいったいどうやって怪獣を 使役する術を手に入れたかご存知ですか?」 「いや……それも初耳だ。しかし、奴には奇怪な様相の側近が何人か存在していた。なかでも、一人は明らかに人間ではない、 感じたこともない不気味な気配を放っていたのを覚えている」 「一人は間違いなくシェフィールドね。つまり、ジョゼフが怪獣を操っているんじゃなくて、ジョゼフの側近の何者かが怪獣を操る 方法を持っているということになるわけね」 ルイズは才人と目を合わせて意見を交換した。その、明らかに人間ではないというやつ。確証はないけれど、人間の能力を はるかに超えた相手、宇宙人だと考えれば可能性は高い。しかし、エルフに加えて宇宙人まで配下に加えているとすれば、 ジョゼフとはいったい何者であるのか? その疑問に、ビダーシャルは苦々しく答えた。 「わからぬ。私が言うのもなんだが、ジョゼフ……あの男は蛮人の中でも別格といっていい。やつなら、なにをしでかしたとしても、 私は驚きこそしても疑問には思わないだろう」 「無能王と呼ばれている。そんな男が、ですか?」 「無能王か……それは相当な偏見と誤解の産物だな。やつの頭の中身は、私からしても底が見えない。それは状況証拠だけを 見ても、お前たちにも充分わかるはずだが?」 「ええ……」 言われなくとも、それは十分に承知している。これまでのシェフィールドの手口の大掛かりさと合わせた狡猾さ、それをまったく 外部に知られずにおこなうなど凡人のなせる業ではない。 「我も当初は蛮人どもの評を参考に、やつに接触を試みた。しかしそれが大変な誤りだと気づいたときには遅かった。こちらの 弱みに付け込んで、あらかじめ用意していた交換条件の何倍もを提供させられるはめになってしまったのだ」 「まあ叔父様、そこまでなめられておいでなのに、よく生真面目に家来をやっていられるわね」 ルクシャナが呆れたように言うと、ビダーシャルはやや疲れた笑みをこぼした。だが、それはあくまで表面的なものだ。 ビダーシャルはジョゼフに対して知性以外の脅威を感じていたことを語った。 「確かにな。私もそう思う……が、どうにも抗えぬ妙な迫力を持った男でな。ともかく、直接会った者でなければ、奴の魔物じみた 得体の知れなさはわかるまい」 ティファニアを預けてきたときも、今思えば疑ってしかりだったとビダーシャルは思うが、そうはできなかっただろうなとも思うのだ。 確かに虚無について調べてくれと頼みはしたけれど、その本人を見つけてくるとは想像していなかった。いったいどうやって 見つけてきたのかと尋ねても、ジョゼフはロマリアの研究資料を拝借してなどと適当にはぐらかしてしまった。本当なら、もっと 食い下がって疑うべきだったのに。 「叔父様、もうこの際ジョゼフとは縁を切ったほうがいいんじゃありませんの?」 「しかし、そうすると我らがこの地に干渉する糸口を失ってしまう。それはできない」 危険な匂いを感じ取ったルクシャナが警告しても、使命を重んじるビダーシャルは受け入れようとはしなかった。しかし、 ルクシャナはやれやれと呆れたしぐさを大仰にとり、あらためて叔父に忠告した。 「叔父様、それでしたらもうこの場でほとんど解決できるんじゃありませんの? ここにはこのとおり、悪魔の末裔が二人も いるんですよ。私たちが恐れているのは揃った悪魔の力がシャイターンの門に到達することでしょう。そのうち半分をこっちに 取り込めば安心なんじゃありませんか?」 「なっ!?」 ルクシャナの言葉は乱暴ながら確信をついていた。人間よりはるかに強大な武力を誇るエルフにとって、警戒すべきは虚無の 力ただひとつと極論してしまってもいい。ただの人間の軍勢が攻め込んできても、撃退することが可能なのはこれまでの歴史が証明している。 だが、そのためには彼らが悪魔と呼ぶものたちと正面から向かい合わねばならない。ルイズは、今こそビダーシャルに自身の本心を伝えた。 「ビダーシャル卿。わたしや、このティファニアはエルフの世界に攻め込もうなどとは微塵も思ってはおりません。伝説がどうあれ、 それがわたしの意志です。それに、もしも残りの二人の虚無の担い手が悪意を抱くようであれば、わたしたちが全力をもって 阻止します。ですから、どうかわたしたちを信じて彼女を返してはくれないでしょうか」 ルイズの言葉には、うそ偽りのない熱意のみが込められていた。これで、なおルイズを疑うとすれば、それは人間の良心を 最初から信じていないものだけだろう。ビダーシャルは直立姿勢のまま瞑目し……やがて、ゆっくりと目を開いてルイズを見た。 「残念だが、それはできない。今はその気がなくとも、人間というものは心変わりするものだ。未来の危険を放置するわけにはいかない」 「くっ……未来の危険などを問題にするのであれば、それこそきりがないではないですか! 虚無といってもしょせん人が使う力、 六千年前と同じ結果が出るとは限らないではないですか」 「そんな危険な賭けに一族をさらすことはできない。我らにとって、シャイターンの門を守るということは、もはや伝統という 生易しいものではなく、”義務”なのだ」 かたくななビダーシャルの態度に、ルイズはこのわからずやめと顔をしかめさせた。ここまで話ができて、ジョゼフへの信頼が 薄らいでいる今なら説得できるのではないかという淡い期待は裏切られた。ルクシャナの言ったとおり、これはまた大変な 頑固者らしい。使命感が強すぎて、まったくとりつくしまがない。 「ミス・ヴァリエール、残念だけど交渉は決裂のようね。こうなったら、もう力にうったえるしかないわ」 ロングビルが落胆するルイズを慰め、戦うようにと促す。見ると才人も戦闘態勢に入っており、ビダーシャルも迎え撃つ気配を示している。 「来るがいい、悪魔の末裔よ。お前が完全に力に目覚める前に、ここで食い止める」 戦うしかないのか……ティファニアを救い、ここから皆で帰るにはもうそれしかないのか。 だが、杖を握りながらもルイズは納得できなかった。以前、始祖の祈祷書が見せてくれたビジョンの中では、人間とエルフは ともに手を携えていた。なのに、その子孫である自分たちは血を流そうとしている。これでいいはずはない。なにか、なにかまだ 方法はないのか? ビダーシャルを納得させ、無益な戦いを避ける方法が! そのときだった。ルイズの指にはめられた水のルビーが輝きだし、同時にルイズが肌身離さず持ち歩いている始祖の祈祷書が光を発しだしたのだ。 「こ、これはいったい!?」 突如あふれ出した神秘的な光に、才人だけでなく、エレオノールやロングビルも目を覆って立ち尽くす。 ビダーシャルとルクシャナも、目が見えなくては精霊に命ずることはできず、ティファニアもわけもわからずうずくまる。 その中で、ルイズだけは妙に落ち着いた様子で祈祷書を開いていた。 「始祖ブリミル……そう、あなたもこんな戦いは望んでいないんですね」 祈祷書を自分の体の一部であるように開き、ルイズは物言わぬ本に残されたブリミルの声を聞いていた。 これまで、どんなに新しいページを開こうとしても応えることのなかった祈祷書が応えた。まるで、ルイズが真に必要とする ときまでじっと待っていたように……ルイズが心から欲しているものを与えようとするように。 虚無の魔法……『記録(リコード)』……それを使って始祖の祈祷書に残されたブリミルの記憶を皆に伝えるのだ! 「お願い、始祖の祈祷書! わたしたちをもう一度、あの時代に連れて行って!」 光が爆発し、人間もエルフも関係なくすべてを飲み込む。 そして、光が消え去って祈祷書がただの古ぼけた本に戻ったとき、ルイズの望んだすべては終わっていた。 「まさか……あれが、六千年前のハルケギニア……」 力を失い、芝生の上にへたり込んだエレオノールの声が短く流れた。ルイズの声に応えた始祖の祈祷書は、以前二人に 見せた六千年前のビジョンを、この場にいた全員の脳に叩き込んだのだった。 想像を絶する、破滅と殺戮の戦争の歴史……かろうじて立っているのはルイズと才人だけだ。ロングビルやティファニアも、 白昼夢を見ていたように呆然としている。 だが、もっとも衝撃が大きかったのはエルフの二人であった。これまで漠然とした伝承でしか知ることのできなかった、 大厄災の光景。それを直接目の当たりにしたこと、そしてなによりも、エルフのあいだでは悪魔として伝えられているブリミルが、 エルフとともに戦っていたということが、彼らの信じてきた"常識"に大きな揺さぶりをかけたのだ。 「あれが……大厄災」 いつも人をバカにしたような態度をとっているルクシャナも、許容量を超える衝撃に腰を抜かしていた。人間とエルフの 小競り合いなど比較にもならない、全世界規模の最終戦争。かつてエルフの半分を死滅させたという伝承をすら超える、 世界を焼き尽くした大戦。そして、その戦火の中を戦い続けたブリミルと、その仲間たち。 やがて、ショックからいち早く立ち直ったルクシャナは、隠し切れない興奮とともにビダーシャルに詰め寄った。 「叔父様、見ましたよね! あれ、あれって!」 「あ、ああ……」 「あれが悪魔、シャイターン本人なんですね! それに、いっしょにいたあのエルフ、光る左手を持ってましたよね! もしかして あれが大厄災のときに私たちを救ったという、聖者アヌビスなのでは!? もしそうなら、学会がひっくり返るほどの大発見になりますよ!」 好奇心の塊のようなルクシャナにとっては、たとえ自分の常識を根本から打ち砕くような出来事でも喜びの対象となるようであった。 しかし、ひたすら愚直にエルフとして生きてきたビダーシャルにとっては、それは受け入れるにはあまりにも異質で大きすぎた。 あのビジョンの歴史が真実であるならば、エルフと人間という、過去幾たびとなく争い続けてきた二つの種族のいがみ合う理由はなくなる。 そのとき、迷うビダーシャルにルイズが呼びかけた。 「ビダーシャル卿、信じられない気持ちはわかります。わたしもはじめ見たときはそうでした。でも、人間とエルフは手を 取り合うこともできていたんです。それだけじゃありません。翼人に、獣人、今は他の種族と交流を絶っている多くの種族が 共に生きることができていたことがあったんです。過去にできていたことが、今はできないなんてことはないはずです。その 可能性を信じてくれませんか?」 「しかし……あの映像が真実であったという証拠はない」 「いえ、あなたほどの使い手なら、あれが作り物であるのか違うのかわかるはずです」 断言するルイズにビダーシャルは口ごもった。自然と口をついて出てしまった否定の言葉だったが、ビジョンはぬぐいきれない 現実感を彼に突きつけていた。あの質感や熱は幻覚で再現できるものではない。ならば、やはり…… 「残念だが、認めざるを得ないようだな。あの光景は太古の現実……そして、お前が悪魔の末裔であることも」 「あなたがわたしをどう呼ぼうと自由です。でも、悪魔だろうと心はあります。意志はあります。何度でも言います。わたしたちは 誰一人としてあなたと、エルフと争うつもりはありません。だから、ティファニアを返してください。お願いします!」 ぐっとルイズは小さな頭を体の半分まで下げた。その姿に、エレオノールはあのプライドの高いルイズがエルフに頭を 下げるなどと驚き、ビダーシャルも、ここまでの魔法を見せながらなお戦おうとしないルイズに心を揺さぶられた。だがそれでも、 ビダーシャルの答えは苦渋に満ちながらも変わらなかった。 「……何度言われようと、私の答えは変わらない。シャイターンの復活を……」 「いいかげんにしなさいよ!」 ビダーシャルの言葉が終わらないうちに、猛烈な怒声でそれをさえぎったのはエレオノールだった。彼女はとまどうルイズを 押しのけると、ビダーシャルを指差して怒鳴った。 「さっきから黙って聞いてたらなんなのよあなたは! これだけの証拠を突きつけられて、あまつさえ自分の半分も生きて ないような子供に頭を下げさせておきながらその態度。あんたのその澄んだ目や長い耳は飾りなの? あんたは自分の目で 見て、自分の耳で聞いたことすら信じられないわけ!?」 「貴様になにがわかるというのだ! 過去いくたびの蛮人との戦乱で同胞を失ってきたのは我らも同じだ。シャイターンの門を 守るために散っていった大勢の先人たちの意志を、私が裏切るわけにはいかぬ」 ビダーシャルは、譲れないものがあるのはお前たちだけではないとはじめて怒鳴り返した。 しかしエレオノールは、そんな彼を見据えるとはっきりと言い放った。 「違うわ。あなたはただ、楽な道を選ぼうとしているだけよ」 「なに……っ!?」 「先祖から代々受け継いできたしきたり。そりゃ確かに大事でしょうよ。でもね、”従う”なんてこと誰にだってできるのよ。 自分じゃなにも考える必要はないからね。本当に難しいのは、自分で考えて決めるってこと。それが”生きる”ってことじゃないの?」 エレオノールは心の中で、ほんの少し前までは私もあんたと同じだったんだけどねとつぶやいた。ヴァリエールと ツェルプストー、対立して当たり前だとずっと思っていた自分の中の常識に、正面きってひびを入れてくれた妹と、生意気な 赤毛の小娘がいなければ。 彼女は整った顔をゆがめて立ち尽くしているビダーシャルに、最後の一言をたたきつけた。 「ここにいる者は、誰一人として強制されてきた者はいないわ。皆、自分の意志でここに立ってる。虚無だとか世界だとか 関係なく、この子たちは友達を助けるために、私は妹を守るために覚悟を決めてね。なのに、その相手がこんな優柔不断男 だとはがっかりだわ」 過去何十人もの婚約者候補の男の心をへし折ってきたエレオノールの暴言が、容赦なくビダーシャルの心に突き刺さった。 ルイズはもう一度争うつもりはないと告げ、才人もルイズの心意気に打たれてティファニアを帰してくれと頼む。 使命と、歴史の真実のはざまでビダーシャルは迷った。一族の義務を守るか、それともあくまで戦うつもりはないとする 目の前の少女を信じるか。そのとき、葛藤する彼にルクシャナが言った。 「叔父さま、結論を容易に出せるものではないのはわかります。でしたら、私が彼らのそばについて常時監視するということで どうでしょうか? もし、彼らが私たちに害あるものでなければそれでよし。もし不穏な行動があれば即伝えますし、私が 害されればそれでもう結論となるでしょう。どうです?」 「いや、しかしそれでは君が」 「研究のためにこの身が滅ぶなら、むしろ本望ですわ。それに、どっちみちジョゼフとは手を切るんでしょ。こっちのほうが手が かからなくて確実ですって」 それで使命にもある程度報いることもできるでしょうと、言外にルクシャナは言っていた。確かに……妥協案としてはかなり 乱暴ではあるけれど、ビダーシャルとて虚無の担い手相手に確実に勝てるという自信があるわけではない。なにより、人の 心を薬で奪うということに、彼の良心も痛んでいた。 迷った末、彼はついに決断した。 「わかった。ルクシャナ、君にまかせよう」 その瞬間、緊迫感に包まれていた場が、一転して歓喜の渦に変化した。 「やった! テファ、これで帰れるぜ」 「サイトさん……よかった。誰も傷つかないで、本当によかった……あ」 「ちょ、テファ! しっかりして」 安堵して倒れ掛かるティファニアを、才人とルイズが支えた。 「信じられない。ほんとに、エルフと和解できるなんて」 ロングビルも、最悪のときには刺し違えてもティファニアを逃がそうと覚悟していただけに、気が抜けてどっと疲れがきた。 が、誰よりも解放された思いを味わっていたのはビダーシャルであった。悪魔の末裔を相手にしていたつもりだったのに、 その相手は目の前で、今は小さな子供のようにはしゃいでいる。あれが本当に悪魔なのか? むしろ悪魔なのは…… 物思いにふけるビダーシャル、そこへいつの間にやってきたのかルイズが現れて言った。 「ありがとうございます。ビダーシャル卿」 「礼を言われる筋はない。それに、勘違いするな。我らとお前たちが敵であることに変わりはない」 「でも、人間の世界にはこんな言葉もありますよ。昨日の敵は今日の友って」 なにげなく、ルイズは右手を差し出した。ビダーシャルは一瞬意味をはかりかねたが、すぐにルイズがなにを求めているのかを悟った。 もしも、これが成立したらエルフと人間の両方にとって浅からぬ意味を持つ出来事となるだろう。彼はその引き金を自らの意思で 引くべきかを考えた。 だが、そのとき。 「見たぞ、裏切りものめ」 突如、不気味な声がして一行はいっせいに振り返った。そこには、全身を黒いローブで包んだ男が立っていて、その姿を 見たビダーシャルは忌々しげに言った。 「貴様は、あの女がよこしてきた使用人の……ただの使用人ではないと思っていたが、やはり監視だったか」 「ふふふ……協定は破棄なのだろう。ならば、この城から全員生きて帰すわけにはいかぬ。覚悟するがいい、もはやこの城は 私の体の一部も同然だ。見よ! そして今度こそ、サヨナラ・人類……」 男はローブを脱ぎ捨て、不気味な怪人の正体を現す。その瞬間、アーハンブラ城全体が激しく揺れ動きだし、地下から 巨大な柱のような物体が無数に空を目指して生え出した。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1214.html
出撃! 幻影作戦遂行せよ! シエスタの祖父の形見であるゴーグルを首に下げ、背中にデルフリンガーを背負った承太郎がコルベールの研究室を訪ねた。 コルベールは新兵器の説明書を承太郎に渡すと、彼は語り出す。 本当は『火』の力を人殺しのためには使いたくないと。 その言葉の重みに、承太郎はコルベールの過去を垣間見た気がした。 「確かに今は……戦いのために使われている。 だが、生活や平和のために役立てたいという意志があれば、前進する事はできる。 恐らく長い道のりになるだろうが……その意志をあきらめずに努力すれば、いつかあんたの望む未来が来るかもしれない……」 「……そう言ってもらえると、何だか救われる気がするよ。ありがとう」 コルベールが誇らしげに微笑むと同時に研究室の戸が開いた。 「お待たせ! ジョータロー、行くわよ」 「ああ。……コルベール、おめーのおかげで助かっている。ありがとよ」 「うむ。君も気をつけたまえよ」 こうして新兵器を搭載し通信機をはずして二人乗りに改造されたゼロ戦に乗った二人は、シエスタからもらったマフラーを自分達の首に巻いてエンジンをかけた。 「ジョータロー君! ミス・ヴァリエール!」 エンジン音の中、コルベールが叫ぶ。 「死ぬなよ! 死ぬな! みっともなくたっていい! 卑怯者と呼ばれても構わない! ただ死ぬな! 絶対に死ぬなよ! 絶対に帰ってこいよ!」 承太郎は親指を立てて応えると、ゼロ戦を発進させた。 命を懸ける覚悟はある。 だが死ぬつもりは無い。 ふと、承太郎はDIOとの戦いで死んでいった仲間を思い出す。 もう二度とコルベールに会えないような、そんな気がした。 『竜母艦』という新しい観種の戦艦をトリステイン軍は建造した。 名を『ヴュセンタール号』という。 コルベールだけでなく、数多くの土系統のメイジが錬金したガソリンを積んでいる。 すなわちゼロ戦の母艦となるためだけに造られた戦艦なのだ。 虚無の担い手。 虚無の使い魔。 竜の羽衣。 このみっつがトリステイン軍でもっとも重要な武器であった。 空を埋める大艦隊にゼロ戦が近づくと、竜騎士がヴュセンタール号への案内に現れた。 誘導に従いヴュセンタール号の甲板へと着艦させた承太郎は、ルイズと共にゼロ戦を降り、甲板仕官を名乗る将校に司令部へ連れて行かれた。 そこには総司令官、参謀総長、ゲルマニア軍司令官といった軍のトップが待っていた。 総司令官の男がルイズを虚無の担い手と紹介し、アルビオン艦隊を沈めた白い閃光はルイズが唱えた虚無の魔法だと説明すると、 虚無の存在をまだ聞かされていなかった将軍達は感嘆の声を上げた。 そして軍議が再開される。虚無を交えて。 アルビオンに六万の兵を上陸させる、それが軍議の内容だったが非常に難航していた。 障害はふたつ。まずは未だ有力な敵空軍艦隊の存在。 タルブの戦いでレキシントン号他十数隻を沈めたとはいえ、アルビオン軍にはまだ四十隻程の戦列艦が残っている。 トリステイン・ゲルマニアは六十隻の戦列艦を有するが、二国混合艦隊のため指揮が困難であり、練度で勝るアルビオン艦隊相手では、数の差を引っくり返されての敗北も十分ありえるのだ。 第二に上陸地点の選定である。 アルビオン大陸に大軍を降ろせる要地はふたつしかない。 主都ロンディニウム南部に位置する空軍基地ロサイス。北部の港ダータルネス。 港湾設備の規模からいってロサイスが望ましいが、大艦隊ではすぐ気づかれ迎撃される。 連合軍に必要なのは奇襲。 敵軍に『ダータルネスに上陸する』と思わせて、ロサイスを制圧するのが望ましい。 軍議が行き詰ったところで、ある将校が虚無に任せてみてはと提案する。 陽動任務だ。エクスプロージョンとディスペルマジックしか使えないルイズだが、デルフリンガーが小声でした助言のためにルイズは承諾した。 「必要な時が来たら必要な魔法の詠唱が読めるさね。 ディスペルマジックの時がいい例だろ? 多分大丈夫じゃねーかな」 というアドバイス通り、ルイズは始祖の祈祷書を開いてみる事にした。 といっても部屋に着いてからだ。将軍達以外の前で虚無の存在を明らかにはできない。 廊下を歩いていると、目つきの悪い貴族五~六人程度が承太郎達を待ち構えていた。 歳は承太郎、ルイズとほとんど差が無いように見える。 しかし方や老け顔、方やロリ顔。同年代だと思っているのは虚無側だけだった。 一行は同じ革の帽子と青い上衣を着ていて、何らかの部隊の集まりだと推測できる。 その中の一人が承太郎に声をかけた。 「おい、お前。ちょっと来い」 これは新人いびりというやつだろうか? だとしたら社会のルールというものを教え込んでやった方がいいだろう。 承太郎は無言で彼等の後をついていった。ルイズも心配そうに続く。 連れてこられたのはゼロ戦を係留している甲板だった。 一行のリーダー格と思われる少年は、ゼロ戦を指して恥ずかしそうに問いかける。 「これは、生き物か?」 「そうじゃないなら何なんだ? 説明しろ」 もう一人が真顔で訊ねてきた。 同じ艦に乗る者同士とはいえ、どこまで答えていいものか。 「いや……生き物じゃあねーぜ」 とりあえず、それくらいなら教えても構わないだろうと答えてみる。 すると一番太った少年がガッツポーズを取った。 「ほらみろ! 僕の言った通りじゃないか! ほら一エキュー寄越せ!」 で、他の連中はポケットからエキュー金貨を一枚出して太っちょに渡す。 「驚かせちゃってゴメンね」 「実は僕達、賭けをしていたんだよ。これが何なのかって」 「一風変わった竜じゃないかと思ったんだけどな~……。 この艦、竜母艦なんて艦種がつけられてるしさ」 「こんな鉄の塊の竜がいてたまるかよ!」 「いるかもしれないじゃん! 世界は広いんだから!」 言い合いを始める彼等を見て、承太郎は学校の休み時間にダベってるクラスメイトを思い出した。 自分はあまり話に加わらなかったが、いつもくだらねー事で盛り上がっていた。 「やれやれ、こいつは飛行機っていう乗り物だぜ」 気が抜けた承太郎は、飛行機の簡単な説明をしてやる。 皆聞き入ったが、コルベールと違い飛行機の原理を理解できる者はいなかった。 彼等の正体は竜騎士で、本来見習いなのだが戦争という事で駆り出されたそうだ。 案内された竜舎にはシルフィードより二回りも大きい大人の風竜がいた。 竜騎士になる大変さや、竜の性質などを彼等は得意げに語る。 「使い魔として契約していない竜は気難しく、乗りこなすのが一番難しい幻獣なんだ。 乗り手の腕、魔力、頭のよさまで見抜いて乗り手を選ぶんだぜ」 試しにまたがってみるかと言われたので、承太郎は挑戦する事に。 「俺が無事乗れるかどうか賭けてみな」 と言ったら全員『乗れない』に賭けたので、外れたら全額承太郎がもらう約束をする。 またがる前に風竜にガン飛ばしてやったら、風竜は承太郎を乗せてくれた。 竜騎士隊の少年達は悲鳴を上げるほど驚いて、承太郎に一エキューずつ払った。 承太郎が乗れたんなら自分も、とルイズも名乗り出た。 太っちょの少年は「彼が乗れたのなら、もしかしたら彼女も」と『乗れる』に賭ける。 が、他の全員は『乗れない』に賭けた。承太郎も『乗れない』に賭けた。 承太郎の賭けに激怒したルイズは、乱暴に竜にまたがろうとして、思いっきり振り落とされて承太郎にキャッチされた。 爆笑が巻き起こり、ルイズは顔を真っ赤にしてわめき散らす。 そんなこんなで割りと平和な一日をすごすのだった。 「って、マズイ。全然思いつかないし、始祖の祈祷書も真っ白のまま」 夜。自室にてルイズは頭を抱えていた。 虚無のルイズは陽動作戦をせねばならない。方法は自分で何とかしなくてはならない。 で、何ともならない。 「どどど、どうしよう? 何かいいアイディアない?」 唯一相談できる承太郎の部屋にやって来てそう訊ねると、承太郎はしばし黙考する。 「陽動というからには……少数の部隊でダータルネスに奇襲をかけ、かつ小隊を大隊と誤認させるのがベターか……」 「小隊を大隊と誤認……う~ん。でも人数数えられたらすぐバレるわよね」 「雲の中に艦隊が隠れていると思わせるとか、何か方法はあるだろう」 「雲……雲……。当日晴れてたらどうしよう?」 「知るか」 「うぅ……誤認させる、誤認、誤認……。ねえ、ジョータロー。 あんたはそういう経験無いの? ありもしないものを、あると勘違いした事」 「……砂漠を旅していた時、ポルナレフの奴がオアシスを発見して車を向けたが、 実は蜃気楼だった……というような事はあったな」 「蜃気楼? ……それよ! 蜃気楼を見せればいいのよ! ルイズは始祖の祈祷書を開きページをめくった。 蜃気楼という単語に集中して白紙のページを一枚一枚確認する。 しばらくして、一枚のページが光り出し文字が浮かび上がる。 虚無の魔法、初歩の初歩。 『イリュージョン』 翌日その作戦を軍議で発案すると、満場一致で賛成された。 『幻影作戦』と名づけられたそれを遂行すべく、ルイズと承太郎はゼロ戦に乗る。 「虚無を出撃させる! 作戦目標ダータルネス! 仔細は任す。 第二竜騎士中隊は全騎をもってこれを護衛せよ! 復唱!」 「虚無出撃! 作戦目標はダータルネス! 仔細自由! 第二竜騎士中隊は全騎はこれを護衛!」 命令を受けた第二竜騎士中隊は、先日承太郎と賭けをした若き竜騎士達だった。 彼等は風竜に騎乗すると、ゼロ戦を先導するように飛翔した。 続いて、操縦席後部にある通信機を外して造った座席にルイズを乗せた承太郎が、ゼロ戦の操縦桿を握り滑走路を走らせる。 飛行機の原理を知らない風のメイジ達が、上官からの指令通り風の魔法を前方から吹かせ、プロペラを力強く回転させ滑走距離を縮め、甲板から車輪を浮かせて飛び上がる。 その光景にヴュセンタール号の乗員達は歓声を上げた。 風のアルビオン。 承太郎にとっては一日にも満たない時間をすごした、しかし忘れられぬ国。 戦友ウェールズの故郷。ここでウェールズの仇を討つ。 「待ってやがれ……クロムウェル!」 一機と十騎の混成部隊、ゼロ戦と竜騎士隊が大空を行く。 目指すは風のアルビオンが港ダータルネス! 幻影作戦遂行せよ!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/585.html
前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「失礼します」 ルイズは学園長室の扉をこんこんと叩いた。 とある魔術の使い魔と主 次の日、いつも通り授業を受けていたら、オスマン氏に呼ばれたルイズはハラハラどきどきしていた。 なにせ学園のトップからご指名を受けたのだ。なにかよくない事が起こしたのでは? と嫌でも思ってしまう。 「鍵はかかっておらぬ。入ってきなさい」 威厳ある声に、ルイズの心臓が飛び上がる程激しく動く。 本当は可愛い秘書を雇わないとなー、とルイズが聞いたらブチ切れてもおかしくない事を思っていたりするオスマン氏。 すーはー、と体を落ち着かせる為深呼吸を数回した。よし、大丈夫。イケる。 扉をノブをゆっくり回して、そのまま押す。ギィィィと悲鳴をあげながら、オスマン氏のシエルエットがはっきりと現れた。 ルイズは落ち着いていた鼓動が再び激しくなってしまった。なんというか、やるだけ無駄であったのだ。 ルイズは一歩二歩と踏み込み、扉を閉める。 「わたくしをお呼びと聞いたものですから……」 若干怖がっていたので、言葉に自信がなかった。 そんなルイズの心情を察したのか、オスマン氏は両手を大の字に広げて、立ち上がる。 歓迎の意を体全体を使って表したのだ。 「おお、ミス・ヴァリエール。旅の疲れはいやせたかな? 思い返すだけでつらかろう。だがしかし、おぬしたちの活躍で同盟が無事締結され、トリステインの危機は去ったのだ」 優しい声でいわれて、ルイズの気持ちは幾分か落ち着いた。では悪い事でなければ一体何なのであろうか? 「そして、来月にはゲルマニアで無事王女と、ゲルマニア皇帝との結婚式が執り行われることが決定した。きみたちのおかげじゃ。胸を張りなさい」 しかし、その言葉に対しては、胸を張れなかった。 アンリエッタとウェールズが愛し合っていたのだと知っている今、姫が望まない結婚はやはり喜べない。 たとえ同盟の為であろうとも、幼なじみである姫が政治の道具として扱われるのは悲しかった。 一昨日彼女が見せた哀しい笑みが思い出される。 そんな風に思いながら、ルイズは黙って頭を下げた。 オスマン氏はしばらく黙りこんだ。思わずルイズがあの……、と不安になって声をかける程黙っていた。 すると、オスマン氏は何か思い出すように手に握っていた小さな本をルイズに差し出した。 「これは……?」 「始祖の祈祷書じゃ」 「始祖の祈祷書? これが……ですか?」 名前ならルイズも聞いた事がある。王室に伝わる、伝説の書物。 一冊しかないはずだが、国宝という事もあり、沢山の偽物が存在していると。おそらく、これが本物であるようたが…… 「トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばらなんのじゃ。選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげる習わしになっておる」 「は、はぁ」 適当な相槌を打つ。あまり宮中の作法に詳しくないからだ。 「そして姫は、その巫女にミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ」 「姫さまが?」 オスマン氏が頷く。 「その通りじゃ。巫女は式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠みあげる詔を考えねばならぬ」 「ええ!? わ、わたしが詔を考えるのですか?」 「そうじゃ。もちろん、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうが……。伝統はちとめんどくさいもんじゃのう。だがな、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。 これは大変に名誉なことじゃぞ。王族の式に立ち会い、詔を詠みあげるなど、一生に一度あるかないかじゃからな」 ルイズは昨日の夜、当麻に言われた事を思い出しながら頷いた。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 ルイズは、オスマン氏の手から『始祖の祈祷書』を受け取った。オスマン氏は笑みを浮かべて、ルイズを見つめた。 「快く引き受けてくれるか。よかったよかった。姫も喜ぶじゃろうて」 「いやー、ごえもん風呂を考えた人は天才ですなー」 当麻は上機嫌になっていた。パチパチと下で炎が燃え、水の温度がちょうど心地よい辺りに上昇していく。 一日を疲れを取る、数少ない当麻の楽しみであった。 その日の夕方、当麻は自作のごえもん風呂に身を浸かっていた。 トリステイン魔法学院にも風呂はあるのだが、当然貴族にしか許されない場所である。 一応平民用の風呂もあるが、日本人の当麻には合わないサウナ風呂であった。 だから、当麻は自分で作る事にした。コック長のマルトーさんに頼み、古く、使われていない大釜を一つもらった。 その下にくべた薪を燃やし、蓋を沈めて床板にして入るのである。 その風呂場をヴェストリ広場の隅っこにぽつりと置いたので、他の人に見られる事はなかった。 「上条当麻さんもこれには癒されますな」 頭にタオルを乗せて、鼻歌を歌う。 しかし、隅っこに置かれてたとしても、その広場に人があまり出入りしなくても、見られてしまう事はあったりするのだ。 当麻からは注意して見ないとわからない場所にて、この学院に仕えているメイド達がいた。 シエスタと、その友達二人である。 三人は当麻の存在を確認すると、喋り始めた。 「チャンスよチャンス! 今こそトウマ君と話すべきよ!」 金髪の子がシエスタを促す。 「で、でも……なんか今は一人のんびりとしているようだし……」 「何を言っているのシエスタ! これじゃあ何の為に後をついていったのかわからないじゃない!」 オレンジ色の髪を持った子がシエスタに迫る。 「で、でもやっぱり緊張するよー……」 シエスタは顔を俯いてしまった。 当麻に少なからず恋愛感情を抱いたシエスタは困っていた。好きになってしまったが、なにぶん出会う機会がほとんどないのだ。 たまに、偶然寮で会う程度である。そして追い討ちをかけるかのように、この数日学院を留守にしていたのだ。 ルイズ、キュルケ、タバサといった貴族達といなくなっていた間、シエスタは仕事に集中できない程気になっていた。 その様子に気付いた二人は、シエスタに脅迫がまいの尋問をして、見事彼女の秘密を引き出したのだ。 「なにいっているの! こうしている間にも他の子は好感度を上げているのよ!?」 シエスタの体がぴくっと反応する。それだけは、やっぱり恋する女の子としてあって欲しくない事である。 「それにトウマ君って結構人気あるわよ?」 「へ……? そ、そうなの?」 「私たちの中ではやっぱり好感触だし、ギーシュを倒してフーケも捕まえたし貴族からはひそかにあったりするんじゃない?」 シエスタは肩をがっくりと落とした。貴族が相手なら敵うはずがない、と思っているシエスタにとって今の言葉はショックである。 「わたし……なんの取り柄もないし……」 「なぁに言ってるのさ! シエスタには胸があるでしょうか!」 「ひゃい!?」 金髪の子に胸を突かれて、シエスタは悲鳴をあげる。オレンジ色の子がそれに続いた。 「そうです。男の子はやはり胸がある子の方が好きになると統計学的にも証明されてるのです!」 「どこの統計ですかー!?」 もー、と顔を赤くしながら一歩二歩と下がる。しかし、金髪の子が、代わりに一歩二歩と進んでくる。 そしてガシッ! と肩を掴む。 「大丈夫だって、結局最後に決まるのはどれだけ勇気を出したかによるんだから! あんたならやれるって!」 「勇気か……、うん。頑張ってみる!」 シエスタはようやく決心した。したのだが…… これほど大きな声をあげると、やっぱりとある少年に聞こえちゃったりする。 「誰かそこにいるのかー?」 当麻の声が、自分らに向けたものだとわかって、シエスタはびくっ! と体が震え上がった。 「わわわ、どどどうしよ。まままだ心の準備ががががが」 「えぇい落ち着け! このお茶をトウマ君に渡すのでしょーが! もうちゃっちゃといってこーい!」 オレンジ色の子がティーポットとカップが乗っているお盆を渡し、金髪の子がシエスタの背中を思いきり押した。 「シエスタ……?」 月が照らしていない所であったので、当麻には掠れた声と人影しか見えなかった。 しかし、人影がこちらに進んできて、月明かりに照らされた為、その人物の名前を当麻は呼んだ。 (もうこうなったら当たって砕けろー……かな?) 「えええええと、ちょ、ちょっとトウマさんの姿が見えたのでお声をかけようかな? って思ったりしなかったり……」 最初は震えたが、後半は一気に喋りきった。それでも、徐々に小さくはなっていったが。 「あ、そうなの。つか誰か一緒にいなかったか?」 「ああ! はい! わ、わたしの友達です! なんか用事があるとか言って去っちゃいましたアハハ!」 「そ、そか」 シエスタのテンションについていけない当麻は、お盆に目を注ぐ。 「それ、持ってきたのか?」 指を指してくれたので、シエスタも何を聞いてきたのかすぐにわかった。 「あ、はい! ええと、あれです! 今日とても珍しい品が入ったんです! だからトウマさんにご馳走しようかなー思って持ってきたんです!」 会話に慣れてきたのか、シエスタに笑みが浮かぶ。 一方の当麻もちょっと興味が沸いたのか、詳しく聞いた。 「へー、どんなのなんだ?」 「えと……。東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた『お茶』というものです」 「お茶……?」 って普通に売ってあるお茶の事だよな? 確かにここはどちらかというと西洋の感じがするから、きっと珍しいのだろうと一人で納得した。 「はい! よかったら……飲んでくれますかね?」 お盆を隣の地面に置いて、手をもじもじしている。 ここまでわざわざ自分の為に持ってきてくれたのだ。断らない理由がない。 「もちろんです、もちろんだ、もちろんなの三段活用! てかぜひぜひ飲んでみたいです」 そう言うと、シエスタの顔がパーッと明るくなる。サッとカップにお茶を入れて、当麻に渡そうとしたのだが、 当麻のカミジョー属性はなめてはいけない。もといフラグ立て能力と不幸属性に幾多の女性が敗れ去った。 この子もまたしかり―― 瞬間。いきなり何の前触れもなくシエスタが盛大にぶっコケた。 「わっ、わっ、わぁぁぁあああッ!」 どぼーんと釜の中にシエスタが飛び込んでいった。 「さすがシエスタ、ドジッ娘巨乳メイドさんの称号を与えるわ」 「ドジッ娘ではない気が……」 と、遠くで眺めている二人の感想。 「あー、えとー、大丈夫? そしてごめん……」 こういう展開は多々体験した当麻はすぐに自分のせいだと感じて謝った。ぶくぶくぶくと泡ができた後、バシャッ! とシエスタの顔が出てきた。 「だ、だいじょうぶですけど……。わーん、びしょびしょだぁ……」 メイド服がずぶ濡れで悲惨な事になっている。ちなみに、お茶を入れたカップは見事当麻がキャッチ……しているわけがない。 取ろうとしたが、手を滑らしてしまい、地面の栄養剤へと変貌してしまった。 と、シエスタは気付く。当麻が裸である事に。 ボン! と爆発したかのように真っ赤に染まるシエスタ。さすがの当麻にもこれには察した。 「待ってください! ここはお風呂だから仕方なかったりしちゃうんですからどうしようもないです。許してくださーい!」 「い、いえ。悪いのわたしですし……その、すみませんっ!」 謝りながらも、シエスタは風呂から出ようとはしない。 (ってなんですか、こんなイベント一枚CG絵ってありました? 上条当麻はこの前代未聞な出来事に戸惑いを隠せない所存で……) 一言で言うと、当麻は混乱するとあほになる。 「うふふ」 途端、お風呂にメイド服で浸かったまま、シエスタは笑い出した。 「えっと……シエスタさん?」 大丈夫ですか? と思わず聞いてしまう。どこか頭をやられたのかもしれない。 「あ、いえ……。き、気持ちいいですね! これがトウマさんの国のお風呂なんですか?」 「まぁ、ちょっと違うけど似たもんだなー。まあ普通は服を着ながら入ったりはしないけど」 「あら? そうなんですか?」 シエスタはそこである言葉を思い出す。 『大丈夫だって、結局最後に決まるのはどれだけ勇気を出したかによるんだから! あんたならやれるって!』 (勇気……うん、頑張らなきゃ!) 出す所が違うのだが、間違えるのもまた一興である。 「そ、そうですよね。じゃ、じゃあ脱ぎますね」 「はい?」 当麻は目を丸くしてシエスタに尋ねた。 「ひめ、今なんとおっしゃいました?」 シエスタの顔は未だに茹卵のように湯気が出そうな程真っ赤にしているのだが、何か開き直ったらしい。 唇をキュッと結ぶと、決心したように当麻を見つめた。 「脱ぎます、と言いました」 「えとー、ちょっと色々まずい気がするのですが……ほらフラグの数だってそこまで立ってないし、少年漫画誌に載れないような表現が――」 「トウマさんなら、そ、そんな事しないでしょ?」 そんな事を言った時だけ妙に声が小さかった。 「いや、そうでございますが……」 「ですよね。わ、わたしもこの『お風呂』にちゃんと入ってみたいんです。気持ちいいし」 言うや否や、行動に移すのは早かった。シエスタはお湯から出ると服を脱ぎ始めた。 当麻は慌てて目を逸らす。 「マジで? いや、待って……くれませんよねはい」 「だ、だって、びしょびしょだし……、こ、このまま帰ったら部屋長に怒られちゃいます。火で乾かせばすぐに乾くと思うし」 当麻は観念したらしく黙ってしまった。 「おぉ! シエスタが遂にアタックしたぞぉぉおおお!」 「なんと大胆な! やはり私たちの教育のおかげですな!」 こんなシエスタにした犯人である二人のテンションは上がっていった。 シエスタは脱いだメイド服や下着を、薪を使って火のそばに干した。それから、再びお湯の中に入ってきた。 「あー、気持ちいい! あの共同のサウナ風呂もいいけど、こうやってお湯につかるのも気持ちいいですね!」 恥ずかしい感情もあるシエスタだが、予想外に気持ちがよく、また勇気を出すんだという脳の命令がそれを上回った。 シエスタはいつまでたってもこちらに振り向かない当麻に、はにかんだ笑みを浮かべて言った。 「これじゃあなんだか寂しいです……。大丈夫です。む、胸は腕で隠していますし……、それに水の中は暗くて見えないから平気ですよ」 言われて当麻は前を向いた。まぁ見えないなら……という言い訳を作って欲望に負けたのであった。 シエスタは当麻の前にちょこんと座っていた。前に出している足が白くて、とても健康的であった。 (って待て、これきつい! 色々きつい!) 当麻は命を懸けた戦いは今まで多々やってきたが、実はラブコメ的な展開はほとんど体験したことがない。 だからこれに関しては健全なる未経験者の一高校生となってしまうのだ。 自分と一緒にお風呂に入っている。顔だってかなり可愛い部類に入る。 あ、シエスタルート突入も悪くないかもと考えてしまう程、今の当麻は無防備であった。 そんな事は知らず、何か話題はないかな? と考えるシエスタは、とりあえず口を開いた。 「……えっと、ト、トウマさんの国ってどんなところなんです?」 「え? 俺の国?」 「はい。聞かしてくれますか?」 シエスタが身を乗り出して、無邪気に聞いてくる。マテマテ、身を乗り出すな約束が違うってー、と当麻はパニックに陥った。 「え、えっと……月が一つで、超能力者がいて、魔法はあんまり身近な存在……ではないよな?」 当麻がうまく説明できないでいると、シエスタはプクーと頬を膨らませた。 「いやだわ。月が一つだの、超能力者がいるだの、わたしをからかってるんでしょう。村娘だと思って、バカにしてるんですね」 「えーと……違うんだけど聞いてくれないよね?」 言いながら当麻は思った。ホントのことを言ったら混乱させるだけだ。何せ、当麻が異世界からやってきたことを知っているのは僅かだけなのだから。 まあ混乱する以前に信じないと思うが 「じゃあ、ちゃんとほんとのこと言ってくださいな」 シエスタの勇気は正直半端なかった。純粋が故に成せる技なのかもしれない。 シエシタは、当麻を上目遺いで見つめた。あ、とあることに当麻は気付く。 日本人に似ているな……と。 「あー……食生活がまず違うな」 当麻は習慣や生活において話した。これなら異世界だと思わせる事はない。 シエスタは目を輝かせて、その話を聞き入った。 当麻にとって当たり前な分、一生懸命に聞くシエスタが新鮮であった。当麻自身も、時間を忘れる程であった。 しばらく経つと、シエスタは胸を押さえて立ち上がった。ガバッ! と再び視線を逸らす当麻。 そんな当麻を気にせずに、シエスタは乾いた服を身につけ、当麻にぺこりと礼をした。 「ありがとうございます。とても楽しかったです。このお風呂も素敵だし、トウマさんの話も素敵でしたわ」 シエスタは思い返し、嬉しそうに言った。 「また聞かせてくれますか?」 ああ、こんなんでよかったらな、と当麻は頷く。 シエスタはそれから、頬を染めて俯くと、はにかんだように指をいじりながら言った。 今日のシエスタはとにかく突っ切るだけ突っ切ろうという気持ちである。 「えええと、お、お話も、お風呂も素敵だけど、一番素敵なのは……」 「シエスタ?」 「あああ、あなた、だったり……」 「え……?」 そ、それでは! と言い残し、シエスタは駆けていった。 いったぁぁあああ!! と叫び声がしたが、今の当麻には聞こえなかった。 ポカンと口を開けたまま、のぼせてしまった。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主
https://w.atwiki.jp/occultfantasy/pages/108.html
イラン神話 アヴェスター(Avestā) ゾロアスター教の聖典。 アヴェスターという名前自体は、中期ペルシア語のアパスターク(Apastāk)、アヴィスターグ(Aβistāγ)の崩れた近世ペルシア語に由来する。 現在は1/4しか残っていないが概要は中期ペルシア語の『デーンカルト(Dēnkart/d)』から知ることができる。 アヴェスターが成立した時代や地域は、ザラスシュトラの時代とともにはっきりはしていない(*1)。 その地域についてはおおまかに東部イランだろうと推測されているが、時代については紀元前1000年よりも数百年さかのぼるとも言われるし、前600年くらいだ、という説もある。 それも根本となる「ガーサー」だけの話で、新体アヴェスター語で書かれてザラスシュトラ本人の教えとは微妙にずれてきている一部のヤスナやヤシュトなどは、アケメネス朝~アルサケス朝にかけて成立したと思われる。もちろん述作者は一人ではなく複数で、制作地も広い範囲にわたっていた。 ゾロアスター教文書への最古の言及は、イランの宗教改革者マニ?(後216-277)の時代に文字で書かれたテキストがあったということである。このテキストは、アルサケス朝時代(前224-後226)にアラム語でかかれて編集されたものだと考えられている。これは王の宝庫に入れるためのもので数部しか作成されず、伝承の方法は依然として口承であった。また、それ以前にもアヴェスターは弟子たちによって書きとめられていたが、アレクサンドロス大王の軍によるペルセポリス放火で一緒に焼けてしまったという伝説がある(だからゾロアスター教ではアレクサンドロスは大悪魔である)。 マニ以後、いつの時代かは不明だが(少なくともササン朝時期)アヴェスターの編纂が行われ、全21巻にまとめられた。そのとき、同時に中期ペルシア語の表記に使われたパフラヴィー文字を改良してアヴェスター文字が作成され、アヴェスターはこの文字システムによって記録された。パフラヴィー文字はほとんど子音だけのアラム文字をそのまま利用したものだったので、子音だけでもかなりの意味が通るアラム語と違うイラン系言語を表記するには欠陥だらけだったのである。ちなみに聖典を自分で書いたマニは母音も完備したイラン語むけのマニ文字を創案していたが、これは当時主流にならず消えていった。 この時代、アヴェスター語はほとんど理解されていなかった。語られた時代から10世紀以上経っていたのだからそれは当然だった。そこで人々は中期ペルシア語によって訳注であるザンド(Zand)を作成した。しかしながらアヴェスター語は東イランの方言であり、ザンドを作成したペルシアでは西イラン系の中期ペルシア語を話していた。そのため、とくに純粋なアヴェスター語を保っているガーサーに対する訳注にはかなり理解不足が見られる。 このザンドという言葉は西ヨーロッパの学者に誤解されて、研究初期にはザンド語なる言葉がアヴェスター語を意味するものと用いられた。 少し前後するがアヴェスターの言語はアヴェスター語と呼ばれる。これは、アヴェスターにある言語がアヴェスター以外に見当たらないためである。そのなかでも「ガーサー」に使用されている言語はインドのヴェーダ語とかなり類似しており、現存しているイラン語派の言語としては最も古い時代のものを保っていると考えられている。両者はある一定の法則に従って音を並べ替えればガーサー語をヴェーダ語として読むことができるというくらい似ているが、実際はそんな簡単にはいかない。それ以外の、時代を下った言語は新体アヴェスター語と呼ばれる。 現存のアヴェスターは以下の6部分からなる。 名称 原語(ローマ字転写) 内容、特徴 ヤスナ Yasna 神事書。大祭儀に読まれる。全72章。「ガーサー(Gāθā)」はヤスナの一部で、第28~34、43~51、53章の全17章である。全体としては5群にわけられ、それぞれ名前がつけられている。その内容はおそらくすべてのアヴェスターの中でももっとも古い時代のものを残していると考えられ、ガーサーの言語は特別にガーサー語と呼ばれる。とはいえ、ガーサー内にも微妙に新旧の言語の違いがある。ガーサーを歌ったのはおそらくザラスシュトラ本人か、または非常にザラスシュトラに近かった周囲の人間たちだった。つまり、ザラスシュトラによる宗教改革の最も基本とされる部分(最高神アフラ・マズダー、アシャとドゥルジ?の対立、善悪二霊の対立、選択の自由、終末論、アムシャ・スプンタ?など)はガーサーに述べられている。ついで古いとされるのが「7章のヤスナ(Yasna Haptaŋhāiti)」といわれる部分で、第35~41章、実際には42章が加わる。ヤスナや他の祈祷書と比較するといくぶんガーサー神学に近いが、それでもなお異なる点が見られる。残りはすべて新体アヴェスター語で書かれた、新しい時代の祭文である。 ウィスプ・ラト Visp-rat ヤスナの補遺。祭礼に用いられる。「すべてのラトゥ」を意味する。このラトゥというのは「善なる庶類のなかで特に権威ある者たち」のことであり、ここでは様々な「神」として使われている。ヤスナ第1~27章に類似しているが、祭式ではヤスナに連続すべきものとされている。。 ウィーデーウダート Vīdēvdat/d 除魔法。悪魔を避けるための祭儀書。創造神話、イマの物語、種々の罰則や法、呪文、犬((ウィーデーウダートでは、ハリネズミやヤマアラシ、カワウソも犬の一種だとされていたらしい))についての規定、不浄物について、悪魔によるザラスシュトラの誘惑、悪魔リストなどが書かれている。 ヤシュト Yašt ヤザタ?を含めた諸神への賛歌。災いを避け、幸福を招くための書。章ごとに招聘される神格は異なり、内容も多彩である。そこでは神話が語られ、クルサースパやスラエータオナなどの英雄が登場し、叙事詩的な雰囲気を持っているものもある。ヤシュトに招聘される神々は「ガーサー」にはなくてもインド・イラン時代からザラスシュトラ以前にかけては重要だった神々、たとえばミスラやアナーヒター、フラワシ?などに捧げられており、ザラスシュトラ以前のイランの宗教状況を知るのに重宝されている。なお、ヤスナのなかにもハオマに捧げられたホーム・ヤシュトというものが入っている。 クワルタク・アパスターク Xvartak Apastāk 小部アヴェスター。小賛歌、小祈祷書。 その他 ハーゾークト・ナスク(Hāδōxt Nask)などの残りの部分。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5612.html
前ページ次ページ蒼い使い魔 生家の庭で、シエスタは幼い兄弟たちを抱きしめ、不安げな表情で空を見つめていた。先ほど、ラ・ロシェールの方から爆発音が聞こえてきた。 驚いて庭から空を見上げると、恐るべき光景が広がっていた。 空から何隻もの燃え上がる船が落ちてきて、山肌にぶつかり、森の中へと落ちていった。 村が騒然とする中、雲と見紛う巨大な船が下りてきて、草原に鎖のついた錨を下ろし、上空に停泊した。 その上から何匹もの火竜が飛び上がる。 シエスタは不安がる兄弟たちに促して家の中に入る。 中では両親が不安げな表情で窓から様子を伺っていた。 「あれは、アルビオンの艦隊じゃないか? アルビオンとは不可侵条約を結んだってお触れがあったばかりなのに……」 「じゃあ、さっきたくさん落ちてきた船はなんなんだい?」 そう話している間にも、艦から飛び上がった火竜が、村めがけて飛んできた。父は母を抱えて窓ガラスから遠ざかる。 その直後、騎士を乗せた火竜は村の中まで飛んできて、辺りの家々に火を吐きかけた。 ガラスが割れ、室内に飛び散った。村が炎と怒号と悲鳴に彩られていく。平和な村は一瞬にして灼熱の地獄に変わった。 シエスタの父は気を失った母を抱えたまま、震えるシエスタに告げた。 「シエスタ! 先に弟たちを連れて逃げろ!」 父の言葉に従い、シエスタは弟たちを連れ急ぎ森の中へと逃げる、後ろを振り返ると 平和だった村は炎上し、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。 「なんで…私たちがなにをしたっていうの…?」 シエスタは悲しそうにそう呟くと、両親の無事を祈りながら森の中を駆け抜けた。 広大な草原に、アルビオンの軍隊が集結している。対して、トリステイン軍隊は港町ラ・ロシェールに立てこもっていた。 両者睨み合ったまま時間だけが過ぎていく。いつ決戦の火ぶたが切られるのかおかしくない状態。 また、タルブの村の上空では、空からの攻撃を部隊から守るため、『レキシントン』号から発艦した竜騎士隊が見張りを兼ねて飛び交っている。 実際何回かトリステイン軍の竜騎士隊が攻撃をしかけてきたが、いずれもこちらにそう被害なく返り討ちに合わせた。 決戦を行う前に、トリステイン軍に対し艦砲射撃が実地する事をアルビオンは決めていた。 これで一気に敵の士気を下げようとする。そのため、『レキシントン』号を中心としたアルビオン艦隊はタルブの草原の上空で、砲撃の準備を進めていた。 「………」 シルフィードの背の上で、険しい表情をしたバージルがタルブの村の方角を睨みつける、 学院を飛び立ってあまり時間はたっていなかったが、ここからでも、アルビオン艦隊 『レキシントン号』ならびに多数の戦艦、そこから出撃した竜騎士隊が視認できる。 「なによあれ…あんなにたくさん…タルブは…シエスタは無事なの…?」 その光景を見たルイズが呟く、知った場所がほんのわずかな時間で戦場と化し、 蹂躙されているなど想像しにくいことであり、受け入れがたいことである。 そしてタルブの村へと近づくにつれ、アルビオン艦隊によって蹂躙しつくされた村の光景が目に飛び込んできた。 つい一日前に見た、素朴で美しい村はそこにはなかった。ほとんどの家は燃やされ、所々黒い煙りが立ち昇っている。 「嘘よ…そんな…」 その光景はバージルの視界にも飛び込んでくる、シエスタと眺めた草原は アルビオンの軍隊で埋まっていた。綺麗だったその光景は、いまや醜く蠢いているものでしかない。 一騎の竜騎兵が村のはずれの草原に向かって、炎を吐きかけた。瞬く間に草原は燃え広がる。 その方向にはゼロ戦が奉納されている祠があった、 「あっ! 祠が!」 ルイズが思わず声を上げる、その声に反応したのかバージルが素早く顔をあげ、タバサに指示を出す。 「向こうへ飛ばせ」 その言葉にタバサは無言で頷き、シルフィードを急旋回、急ぎ祠のある方向へと飛ばした。 火を放った竜騎兵が上空へ飛びあがり、こちらへ向かってくる一匹の風竜を確認する。 「一騎だと? トリステインの生き残りか?」 竜騎兵はそう言いながら迎撃態勢を整える、 お互いの距離が近くなり、竜騎兵の駆る火竜が炎のブレスを吹きかけようとしたその刹那 風竜は突如身を翻し、背中から一人の男がこちらに向け飛び出してきた。 「バカめ! 気でも違ったか!」 そう叫ぶと、竜騎兵は火竜にブレスを吐かせ、男を焼きつくそうとした。 だが、その巨大な火球は―ゴォッ!っという音とともに男の抜き放った剣により両断、霧散する。 「なっ―」 ―ゴシャッ! 竜騎兵が驚愕の声を上げるよりも先に飛び込んできた男が空いた左手で背中の剣を抜き、竜騎兵の頭蓋を叩き割る、 その一撃は頭だけに留まらず鳩尾にまで食いこみ、哀れな竜騎兵は派手に血肉を噴出しながら地上へと落下していった。 「………」 墜ちて行く竜騎兵の死骸を火竜の上に乗りながら無言で見ていたバージルは すぐに祠へと視線を送る、だが祠はすでに炎に包まれており、どう見てもゼロ戦は無事ではないだろう。 上空を旋回する竜騎兵達、草原に陣取る兵士、そしてアルビオンの艦隊を睨みつける。 「おい、相棒、まさかアルビオン軍に喧嘩売る気か?」 「奴らは帰還の糸口を灰にした。生かして帰すつもりはない」 デルフの問いに短く、だが怒りに満ちた声で返すと、バージルは天高く跳躍する。 足場になっていた火竜は真っ二つになり竜騎兵と同じく地上へと落下していった。 「敵だ! 討ち取れ!」 小隊長の号令とともに上空を旋回していた竜騎兵達がバージルへと襲いかかる、 火竜がバージルに炎のブレスを吹きかけようとした時、バージルの姿がフッと掻き消える 竜騎兵が慌てて周囲を見渡すといつの間に移動したのか、 突然火竜の目の前へ再び姿を現し、火竜の頭へ強烈な踵落としを叩きこむ。 ベオウルフ無しとはいえ強烈な一撃、火竜は脳を激しく揺さぶられぐらりと体勢を崩す。 「う…うぉっ!」 それに驚き竜騎兵が火竜にしがみつき振り落とされまいとした、 バージルは踵落としを叩きこんだ衝撃を利用し、その火竜の後へと飛びあがり ―ガシッ! と火竜の尻尾を掴む、そして勢いよく振り回し始めた、 「くっ…! 何をっ!」 竜騎兵が声をあげるが、気にすることもなく火竜をフレイルのように振りまわし、 迎撃に飛んできた竜騎兵に叩きつける! しがみ付いていた竜騎兵の体は、叩きつけられた衝撃で千切れ飛ぶ。 バージルは尻尾を掴んだまま放そうとはせず、次々と同じように迫る竜騎兵に火竜を叩きつけ、 衝撃を利用し空中を移動、叩き落としていく。 やがて一通り竜騎兵を殲滅し終えたバージルは身を翻し、数百メイル下の歩兵が犇めく地上へ向け勢いよく地面に火竜を投げつけた。 ―ビッダァン! という水の入った革袋を勢いよく地面に叩きつけたような音が響く。 ぐちゃり…と叩きつけられた火竜の体から血だまりが出来上がった。 重力に従い地面に向かい落下し始めたとき、飛んできたシルフィードがバージルを受け止める。 「相変わらずデタラメよね…アンタ…」 今まで呆然と見ていたルイズが呆れたように声を出す。 タバサもそれには同意したのか無言でうなずく。 バージルはそれには応じず、レキシントン号を静かに睨みつけた。 「それで、どうしようっていうの?」 「あの艦を落とす」 ルイズのその問いにバージルは当然のように即答する。 「ちょ…ちょっと待ってよ! いくらあんたでもアレを落とすのは無理よ! そもそもシルフィードでは近づけないわ!」 「無理」 「きゅいきゅい!」 ルイズとタバサはブンブンと首を横に振りシルフィードまで抗議の声を上げる、 確かにシルフィードで近づけば、たちまち砲撃の雨に晒され撃墜されてしまうだろう。 だがそんなことは知らんとばかりにバージルは続ける。 「無理に近づけとは言わん、ただ、アレの真上へ飛べばいい、真上なら砲撃をするわけにはいかんだろう。 そこから俺が直接降下して中の人間を殲滅する、それで問題あるまい」 「あ…あんたはそれでいいんだろうけど私達はどうするのよ!?」 「知らん、着いてきたのはお前だ、自分の身くらい自分で守れ」 「うっ…それは…そうだけど…って! あんたは私の使い魔でしょうが! 主人をほったらかすってどういうつもりよ! ちゃんと守りなさいよ!」 「(こいつは一体何しに来たんだ・・・・?)」 喚き散らすルイズを見て小さく鼻を鳴らすとバージルはタバサに指示を出す。 「タバサ、俺が降下した後はお前の判断に任せる。行け」 タバサは無言で頷くとシルフィードの高度を上げつつ『レキシントン』号の上空へ向けシルフィードを飛ばした。 途中こちらへ向かってくる竜騎兵達に向かい、バージルは大量の幻影剣を飛ばし容赦なく叩き落としていく。 タバサもそれに倣いウィンディ・アイシクルを放ち援護を行っている。 幻影剣に貫かれた竜騎兵が火竜もろとも息絶え、地上へと落下していく。 バージルやタバサはそんな彼らに一切目をかけることなく、次の敵の標的を捕捉して距離を縮める。 もはやここまでくるとルイズの必要性が全く感じられなってきた。 (なっ…なによ! なによ! わ、私にだって出来る事はあるんだから!) そう考え模索するが、浮かばない。これではバージルとタバサが戦っているようなものだ。 何か、何かないかと、ルイズは手を服にあてる。 すると、マントの裏には始祖の祈祷書が入ってあった。そしてアンリエッタ王女から貰った大切な水のルビー。 (こ…この二つでどうするのよ!?) 何も書かれていない本とただの指輪に、ルイズは項垂れる。 しかし、だからといって現実が変わるわけではない。残る手段としては、神に祈る事ぐらいである。 雰囲気を出す為、水のルビーを指に嵌めて、両手を胸の前で強く握る。 「姫様…、私達を…お守りください」 呟くと、もう一つこの場にもってきた本を手に持ちそっとなでた。 思えば、詔を考えるために渡されたが、結局思いつかなかったな…。 こんな状況でも、いつもと変わらない事を思ってしまう自分が不思議だ。 それでも一応、本物かはわからないが一応始祖にまつわる大切なものなのだから、せめて始祖にも祈っておこう、 そう考え、何となく開いた。特に理由もなく、本当になんとなく。 だから、その瞬間、水のルビーと始祖の祈祷書が光を放った時、心底驚いた。 ルイズは恐る恐る光の中の文字を読み始める、 それは古代のルーン文字で書かれていた、真面目に授業を受けていたこともあり ルイズはその古代語を読むことができた。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ 以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。 初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』 「ね…ねぇ、バージル?」 「何だ」 始祖の祈祷書を読んでいたルイズが顔を上げバージルにおずおずと声をかける 「わ…私…選ばれちゃったみたい…」 「………?」 その一言に怪訝な表情でバージルとタバサが振り向く 「そ…その…『始祖の祈祷書』が…えっと…光ってて…読めるんだけど…」 「…何のことだ?」 「いいから! とにかくあの戦艦に近づけて、あんたが直接突入したほうが早いかもしれないけど あんたがいないと私達が危ないわ、だから私がやる、やるしかないわよね、やってみましょう」 ルイズのその独り言のような言葉にバージルが『何を言ってるんだ? コイツは』いった表情でタバサを見やる。 タバサも理解できないのだろう、わからない、と言いたげに肩をすくめた。 「だから! さっさと近づけなさい! あんたは使い魔! 詠唱中のご主人さまを守るのがあんたの役目でしょうが!」 「………」 「こうなったら聞かない、やるだけやらせてみる」 沈黙するバージルに変わりタバサがあきらめたように呟き、シルフィードを駆った。 その時、雲間から一騎の風竜が飛び出して来た事に気がついたものはいなかった。 ワルドは風竜の上で、にやりと笑う。 彼はこの時を、『レキシントン』号の上空の雲に隠れ、ずっと待っていたのであった。 味方の竜騎士隊を生身で次々墜落させていった謎の騎士… その報告はワルドの耳にも届いていた。 そんな化け物じみた事が出来る者はただ一人、ガンダールヴ、いやスパーダの血族しかいない。 奴の目的は、おそらく旗艦『レキシントン』への直接攻撃、 ゆえにここで待っていれば奴は必ずくる、そう睨んで待ち伏せしていたのだった。 バージルが振り返り険しい表情で後方を睨みつける、 見ると背後から猛スピードで風竜が飛んでくるのが見える、 そしてそれに乗っている人物、ワルドを視認すると、バージルが口を開く 「邪魔が入ったか」 「どうしたの?」 「詠唱を続けろ、蠅を叩き落としてくる。俺が戻るまで戦艦には近づくな」 不安そうにバージルを見るルイズとタバサをよそにそれだけ言い残すと、 バージルが突如シルフィードから身を投げる。そして後ろから迫り来る風竜に向けダイブ、そのままデルフを引き抜き 風竜を駆るワルドを一刀のもとに両断するべく頭蓋めがけ振り下ろす。 だがワルドの体はバチッ!という音とともに稲妻と化し掻き消えた。 「―ッ!?」 風竜の上に着地したバージルが驚いたように目を見開く、 立ち上がり周囲を見渡すと、風竜の周囲を稲妻が弾け飛ぶ。 すると突然稲妻がワルドの姿を形作る。 ワルドは魔力で雷の剣を生成し背後からバージルに斬りかかる、 それをバージルは振り返ることもなくデルフでそれを受け止め切り返す。 バージルは風竜から飛び降りると、稲妻となったワルドもそれを追う、 二人の壮絶な空中戦、地上へと落下していくバージルに次々と稲妻が襲いかかる。 それらを紙一重でバージルが切り返し受け流す。 やがて地上へと着地したバージルの前に稲妻が人の形を作りワルドが姿を現した。 「また会ったなガンダールヴ! いや…スパーダの血族!」 地上で二人が対峙する、 「…また貴様か…大体予想はつくが一応聞いてやる、なぜ生きている?」 「ムンドゥス様に新しく命をもらったのさ! 俺は悪魔として生まれ変わった!」 その言葉を聞き、バージルは不快そうに眉間にしわを寄せる 「やはりか…、貴様の様な者を蘇生させるなど…暇な奴だ」 「魔帝の御為! ここで貴様を討たせてもらう!」 その言葉とともにワルドは雷の剣を作り出す。 「貴様の『二つ名』…たしか『閃光』だったな」 それをみたバージルがふと思い出したようにワルドに話しかける 「そうだ、悪魔の力を得てついに俺は文字通り『閃光』の力を得た!」 雷の剣を構えながら高らかに笑うワルドを見てバージルがフッと軽く鼻で笑う、 「そうか、ならば」 バージルがそう言うと閻魔刀から手を放しゆっくりと構えをとる。 するとバージルの両手両足が光り出し、『閃光装具ベオウルフ』を装着した。 「本物の『閃光』がどういうものか、貴様にたっぷりと味わわせてやる」 「面白い…やってみるがいい!」 ワルドが叫び、自身の体を稲妻に変え再びバージルの周囲を飛びまわる ガァン!という音とともに雷の剣とベオウルフが激突する。 お互いの激しい攻撃の応酬が続く。 速度はほぼ互角、最初は均衡を保っていたが次第に力で勝るバージルが押していく。 「くっ…」 不利になったワルドは一度距離をとり遍在一体をバージルの背後に作り出す。 生み出された遍在はバージルへ襲いかかった。 「死ねッ!」 バージルの後頭部目がけ鋭い突きが繰り出される。 だがバージルはそれをひょいと避けると、その腕を掴み 突っ込んできた勢いを利用し遍在を一度地面に叩きつけると、そのまま本体のワルドに投げつけた。 「なっ!」 それに驚いたワルドはとっさに回避する。 そして慌ててバージルに視線を戻すと、蒼い影が目の前に躍り出る。 「エアトリック」で一瞬で間合いを詰められていたことに気がついた時には既に遅く、 バージルの上段蹴りがワルドの下顎に叩き込まれる。 意識を刈り取られたワルドがカクンと膝をつく、だがバージルがそれを許すはずもなく… まるでゼロ戦を失った鬱憤を晴らすかのように陰鬱に口元をゆがませると… 跪いたワルドの胸倉を掴むと鼻っ柱を数回殴りつけ、無理やり意識を覚醒させる。 「う…ぐッ…」 ワルドがうめき声をあげた瞬間、バージルは空中高くワルドの体を放り投げ、 それを追うように空中に飛び上がったバージルがガシリとワルドの頭部を掴む。 そしてそのまま空中でぐるんと豪快に振り回すと、そのまま地上へワルドを顔面から叩きつけた。 「ぐぇっ!」 凄まじい勢いで地面に叩きつけられたワルドは衝撃のあまり再び宙へと跳ね上がる、 その浮いたワルドの胴に地面への落下を許さないとばかりにバージルの連撃が叩き込まれた。 前回、ラ・ロシェールで食らったボディブローとは比べ物にならない威力の拳がワルドの胴体へ次々突き刺さって行く 人間の身体なら一撃で身体が千切れ飛んでいるだろう、 だがワルドの体は悪魔として強化を受けており、その程度では死に至ることはなかった。 今回は、その身体強化が不幸にも苦痛を長引かせる結果となる… 一撃叩き込まれるごとに、骨が砕け内臓が破裂する、大量の血を吐き出し、 息も絶え絶えになりながら跪く様にバージルへしがみつく、 「ぐ…ぐぉっ…」 苦悶の表情を浮かべ、再び頭を掴まれ引きはがされる。 「Show down...(―終わりだ…)」 バージルはニヤリとしながらそう呟くと頭を掴んでいた左手をパッと放すと、 崩れ落ちるワルドの腹部目がけ渾身のアッパーを叩きこむ。 凄まじい衝撃とともにワルドの体は宙へと跳ね上げられ… やがて重力に従い地面に叩きつけられた。 「Rest in peace.(―眠れ)」 呻くワルドを尻目にバージルは背を向けるとすっと腕を横に出しパチンと指を弾く すると倒れ伏すワルドの上空から大量の幻影剣が降り注いだ 「がぁぁぁぁぁああああ!!!!!」 ワルドが苦痛に悲鳴を上げる、地面に縫い付けていた幻影剣が砕け散る。 「コ…殺ス…殺ス…スパーダ…血族…」 幻影剣の雨に体中を貫かれ地面に這いつくばりながらもジリジリとバージルへと近づいて行く。 もはやワルドの体は原形を留めておらず崩壊を始めていた。 「俺ハ…! 俺ハ!! 悪魔ノ…チカラヲ…!!」 ワルドから紅い電流が迸り、体を包み込む、 苦悶の悲鳴を上げながらのたうちまわり、ワルドの体は爆発し砕け散った。 「品のないセリフだ」 自爆したワルドを後ろ目でちらりと見て呆れるように吐き捨てたバージルは周囲を見回す。 あたりには既に動くものはなく、黒焦げになりブスブスと音を立て煙を上げるアルビオン軍の兵士達の死体が転がっている。 上空を見上げると、シルフィードが急降下し、バージルへ近づいてきた、 ワルドとの戦いに決着がついたのを見て迎えに来たのだろう。 ワルドの襲撃により地上まで降りてきてしまったため、もう一度『レキシントン』号の上空まで飛ばなくてはならない、 バージルは地面を強く蹴ると地面スレスレに飛んできたシルフィードに飛び乗った。 「まだ終わらんのか?」 シルフィードに飛び乗ったバージルが『始祖の祈祷書』を開き熱心に見入っているルイズに呆れたように声をかける。 ルイズはその声が届いていないのか険しい表情で『始祖の祈祷書』を睨みつけ詠唱していた。 そんなバージルに短くタバサが話しかける。 「詠唱中、邪魔しちゃダメ」 「……」 言われてみれば確かにルイズから強い魔力を感じる。 ルイズが詠唱を進めれば進めるほどその力が増していく。 「…わかった、このまま進め」 それを感じ取ったバージルは短く指示を出し、砲撃を続ける『レキシントン』号を睨みつけた。 長い詠唱の後、呪文が完成した、その瞬間、ルイズは己の呪文の威力を理解した。 巻き込む、すべての人を、一瞬だけ悩む。殺すべきか否か。 しかし、答えは決まっていた。自分の視界一面に広がっている戦艦『レキシントン』号。 ルイズはシルフィードの背から立ち上がり、虚無の魔法『エクスプロージョン』を放とうとする。 だが、放とうとした途端、軽い眩暈を感じ、思わず座り込んでしまいそうになった。 その時、杖を持ったルイズの右手を包み込むようにバージルが左手で掴み、 ルイズの身体を引き立たせ、再び『レキシントン号』に狙いを定める。 「世話が焼けるな」 バージルがため息を付きながら短く呟く、するとルイズがいたずらっぽい笑みを浮かべる。 「あんた達の"決めゼリフ"知ってるわよ」 その言葉に少々驚いたような表情を浮かべるも、バージルはニヤリと口元を緩める。 ルイズとバージルが『レキシントン』号目がけ杖を振り下ろす。 「「JACK POT!」」 同時、光の球があらわれた。太陽のような眩しさをもつ球は、膨れ上がる。 そして……、包んだ。 上空にある、全ての艦隊を包み込む。 それだけでは終わらない。さらに膨れ上がって、見るもの全ての視界を覆い尽くした。 誰もが目を焼いてしまうと思い、つむってしまう程光り輝くそれ。 そして……、光が晴れた後、上空の艦隊全てが炎によって包まれていた。 「…………………」 タバサが唖然とした表情でそれを見ている。 目の前に布陣していたアルビオンの艦隊が綺麗さっぱりなくなっていたのだ。 「次はもっとマシな相手に使うんだな」 それに対しバージルは特に驚くような様子は見せずにそれだけ言うと、ルイズの右手をパっと手放す。 するとルイズは力尽きたのか、崩れるようにバージルに背中を預ける。 それをバージルは今しがた離したばかりの左手で襟首を掴み倒れないように再び引き起こした。 ルイズは全ての精神力を出しきり、疲れ切った表情を浮かべている。 「安全な所へ降りろ」 それをみたバージルは茫然としているタバサに安全な場所へ降下するように指示を出す。 その一言に我に返ったのかタバサは頷くとシルフィードの高度を下げて行った。 前ページ次ページ蒼い使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6215.html
前ページ次ページラスボスだった使い魔 まだら色の空に、平らな正六角形の銀色のブロックを敷き詰めた異空間。 仮面の男が作り出した、千年王国。 ここでは全てが存在し、全てが無となる、因果律を超越した世界……。 「よく来た……ガイアセイバーズの諸君」 そこで男は、自分の敵たちと対峙する。 「お前……やはり、あの■■■■■■■■■なのか!?」 「そうだ、一条寺 烈……いや、ギャバン。君と共にバード星から地球に派遣された、銀河連邦警察科学アカデミーの科学者、■■■■■■■■■だ」 「その仮面を脱いで素顔を見せろ!」 「……私の素顔は見ない方がいい。もう私はお前が知る■■■■■■■■■ではない」 やはり『男の名前』以外―――他の人物の名前は、普通に聞こえる。 どうして男の名前だけが、聞き取れないのだろうか。 ……相変わらずそんな自分の疑問には構わず、展開は進んでいく。 「さて、ガイアセイバーズの諸君……今までご苦労だった」 「何だと!?」 (……?) 部下や協力者だったはずの者たちがことごとく破られたと言うのに、『ご苦労だった』とはどういうことだろうか……? 「お前達が倒してきた者たちは、私と現世を繋ぐ因果律……。おかげで余計な手間が省けた。感謝するぞ」 「■■■■、それはどういう意味です!?」 「私の正体を知る者の始末が終わりつつある、ということだよ。それにより、私は■■■■という小さな器から解脱出来る」 ローブを身にまとった……女、なのだろうか? 男にも見えるが……ともかくその人物の問いに、男はサラリと答えた。 「さしもの私も、部下を自らの手で始末するのは辛いからな……。 それが私に残された、最後の人間性だと理解してくれ……」 「ま、まさか……それで因果律を操作せず、部下たちを復活させなかったというのですか……?」 「そうだ」 「そして……あなたはこの私をも……」 「そうだ。信じるものは己のみ。孤高の存在とはそうあるべきだ」 (ひどい……) 自分で彼らを勧誘しておいて、わざと見殺しにするなんて……とルイズは思った。 しかし、よくよく考えてみれば『勧誘された者たち』も、この仮面の男を倒すつもりだったようだし……。 つまり、どっちも悪人だ。 (自業自得……ってヤツなのかしら) 「私を相手にするか、彼らを相手にするか……楽な方を選べ」 「おのれ……人間の分際で!」 激昂したローブの人物が仮面の男に攻撃を行おうとするが、逆に妙な衝撃波のようなもので攻撃されて、弾き飛ばされてしまった。 「私に向かってきたか……正しい選択だ。どの道、お前を生かすつもりはないのだから……」 ……さあ、どうせ死ぬのなら彼らと戦って死ね」 「う、うう……身体の自由が……利かない!? これが……奴の力……!」 「まだ、不完全だがな……」 そして、なかば自暴自棄になりながらも戦いに身を投じたローブの人物は、青い鎧を身にまとった戦士の横一閃の一撃によってその生涯を閉じる……。 邪魔者を排除した仮面の男は、目の前に立つ自らの複製人間の素性を語り始める。 「私の複製人間は……誕生後、ネオバディムからモビルスーツ・トーラスを奪って脱走し、行方不明となった……」 「そう……俺に埋め込まれたナノマシンは作動せず、その代償として俺は記憶を……■■■■の記憶を失った。 今にして思えば……記憶喪失が、俺の独自の人格を形成するのに役立ったのかも知れん……」 「だ、だけど、お前はイングラムなんだろう!? 俺たちの仲間……イングラム・プリスケンなんだろう!?」 「お前たちが知るイングラム・プリスケンは……■■■■■■■■■の記憶と、独自の人格を持つイレギュラーな複製人間……。不完全・不安定で哀れな生き物なのだよ……」 仮面の男は、自分の複製である青い髪の男を完全に見下していた。 いや、ある意味では嫌悪感すら抱いていたかも知れない。 「だが、まさか自分の複製人間が全ての因果律をまとめ上げ……。 私に対する対抗手段として、ガイアセイバーズを引き連れて来るのは予想外だったがね……」 その手腕や意志の強さを認めつつ、しかし存在を認めることはしない。 なぜなら、それを認めてしまったら……。 「デビルガンダム!? さっき破壊したはずなのに……」 「今の私でも、この程度の芸当は可能だ。そして……この容れ物には、すでに光の巨人の力が満たしてある……。 後は私が生体ユニットとなれば良い……」 まさに悪魔のような異形の金属の巨人へと同化する、仮面の男。 そして青い光のカタマリ―――たしかカラータイマーという名前だったか―――が現れ、その力の源となった。 「さあ、行くぞ! ガイアセイバーズ!!」 夢は、もはや佳境に入っている。 おそらくはこれが、最後の戦いとなるのだろう。 赤と青、左右非対称の身体の『人間ではないモノ』が、黒い翼を穿つ。 白と青の色をした鉄で作られた巨人が、両手から物凄いエネルギーを放つ。 赤い服を着た男が、その強化服の能力と超絶技巧をフルに活用して一撃をぶつける。 そして白銀の鎧をまとった、仮面の男のかつての友は……ほんの僅かな葛藤を見せつつも、光の剣を振り下ろす。 超神と化した仮面の男は、それらの攻撃にも構わず、因果律を操作して自身の再生を図った。 だが、それは彼が憧れた光の巨人たちの『捨て身のエネルギー放出』という所業によって、阻止されてしまう。 それによって、光の巨人は自分の姿の維持すら出来なくなったが……。 「おのれ……ウルトラ兄弟め! 再生が……再生が間に合わん!! くっ、クロスゲート・パラダイム・システムが……作動しない! 奴らの力で私の力が中和されたとでも言うのか!?」 その引き換えとして、超神の力も相殺していった。 これで、敵と条件は五分である。 「イングラム! 貴様が……貴様さえいなければ……!!」 もはや軽く錯乱すらして、複製だったはずの男に呪詛の言葉を吐く。 この男さえいなければ、自分の計画は成功するはずだった。 だが、この男を作ってしまったのは……他でもない仮面の男だ。 ならば仮面の男は、どこで―――何を、間違えてしまったのだろうか? ……やがて戦いは終わる。 仮面の男は敗北した。 それは、もしかしたら必然だったのかも知れない。 そして男の仮面は砕け、素顔があらわになるのだが……。 (……見えない……?) ちょうど仮面の男の素顔の部分が、霞がかかったようにボヤけていて、よく見えなかった。 この男の素顔に関してはかなり気になっていたのに、これでは生殺しである。 「ふ……ふふふ……この顔は……まぎれもなく……私の顔だ……。 ……私は……40年前……地球を脱出する時に……瀕死の重傷を負い、本来の顔を失った……。 この顔は……その後で与えられたもの……。 複製人間であるイングラムの顔と……この顔が同じなのは当然だ」 「イングラムの顔は……この顔を、コピーしたものなのか……」 「今思えば……■■■■■■■■■という人間は、40年前に死んだ……。 お前たちが知る……本当の■■■■は、すでに死んでいるのだ……。 だから私は……仮面で、偽りの素顔を隠した……」 それが与えられた顔を忌み嫌い、仮面を被った理由。 その意思は紛れもない自分自身であるのに、その顔は自分のものではないという矛盾に耐えられなかったのだ。 (でも、この顔と同じってことは……) 青い髪の男の顔は、よく見える。 この顔と、同じ顔ならば――― ルイズの疑問に構わず、息も絶え絶えに内心を吐露した男は、やがて同じ顔を持つ複製―――いや、一人の地球人に対し、最期にして初 めて羨望の言葉を送った。 「私は……お前が……うらやましい。地球人に受け入れられた……お前がな……」 そうして、彼の物語は終わった。 「……………」 いつものように、目が覚める。 おそらくあの仮面の男の死をもって、一連の夢は終わりなのだろう。 だが……。 「……納得いかないわ」 そう、納得がいかない。 そりゃあ、男に敵対していた者たちから見れば、敵を倒せて良かっただろう。これで『悪』はいなくなったわけだから、めでたしめでたし、だ。 ……でも、それじゃあ倒された男はどうなるのか? 確かに、色んな酷いことをした。完全に悪人だ。弁明の余地もない。 「……でも、だからって……」 あの男は、あんな物凄い力を持つ存在たちに、よってたかって袋叩きにされるほど悪いことをしただろうか? しかもこちらは、たった一人だというのに。 色々と策謀を巡らせて、世界の運命を狂わせた。間接的には、人もたくさん殺した。 だが、直接手を下したことは……全く無いとは言わないが……ほとんど無かったじゃないか。 「……………」 ……スッキリしない気分を抱えたままで、ルイズの一日は始まったのだった。 瓦礫と死体の山と化した、ニューカッスル城。 かつては名城としてその名をハルケギニアに知られたその城は、もはやかつての栄華など見る影もない。 そんな残骸のような場所を歩きながら、ワルドは戦跡を検分していた。 金貨や宝石を漁っている傭兵の一団が視界の端に映るが、あのような下らない連中などはどうでもいい。 ワルドは礼拝堂だった場所まで進み、瓦礫を小型の竜巻で吹き飛ばす。 すぐに自分が殺したウェールズの亡骸が目に入ったが、それもどうでもいい。 そのまましばらく、『目当ての人物』の死体を探したが……どこにもそんなものは見つからず、代わりに人間一人が通れる程度の穴が見つかった。 「………」 穴からは、風が吹いている。ということは、この穴は外に通じているということだ。 「……やはり生きているか」 予想通りではあるが、出来ればあの連中には死んでいて欲しかった。 今は『ただの学生たちと、その使い魔』に過ぎないが、下手をすると自分の最大の障害になる可能性がある連中だ。 特にルイズの秘められた力が開花した場合、その使い魔の頭脳と組み合わされでもしたら――― 「想像も出来んな……」 自分の婚約者だったルイズが『虚無』の系統であるのは、ほぼ間違いがないと思うのだが、その『虚無』の魔法がどのようなものなのかは全く分からない。 『全く分からない』のであれば、対策の立てようもない。 仮に分かったとしても、あのガンダールヴはこちらの想像もつかないような応用方法を考えてくる可能性が高い。 「……………」 まあ、そんな正体不明のものに対して、いつまでも気を揉むのも馬鹿らしい。 取りあえず戻るか……と礼拝堂の残骸を後にしようとしたところで、そんなワルドに声がかけられた。 「子爵! ワルド君! 件の手紙は見つかったかね!?」 緑の装束に身を包んだ30代半ばほどの男、『レコン・キスタ』の総司令官―――今となってはアルビオンの新皇帝ことオリヴァー・クロムウェルである。 元は司教で聖職者のはずなのだが、どうにも信用できない空気を身にまとわせていた。 「申し訳ありません、閣下。どうやら手紙は穴からすり抜けたようです。私のミスです、何なりと罰をお与えください」 地面に膝をつき、深々と頭を下げるワルド。 ……ハッキリ言ってワルドはこの男をほとんど信用していないのだが、現在の社会的地位や『得体の知れない力』を操ることなどから、ひとまず恭順の態度を示していた。 そんなワルドに対して、二カッと人懐こそうな笑みを浮かべてその肩を叩くクロムウェル。 「何を言うか、子爵! 君は目覚しい働きをしたのだよ! 敵軍の勇将を一人で討ち取るなど、並の人間に出来ることではない!!」 アルビオンの新皇帝は、笑いながら部下に賞賛の言葉を送る。 そしてひとしきりワルドの肩を叩いた後、クロムウェルはウェールズの亡骸へと歩み寄った。 「ふむ、彼はずいぶんと余を嫌っていたが……こうしてみると不思議だ、妙な友情さえ感じるよ。ああ、そうだった。死んでしまえば誰もが『ともだち』だったな」 微笑みを浮かべて皇太子の死体を眺めるクロムウェル。 「ワルド君。余はこのウェールズ皇太子と、更に友情を深めたいと思っているのだが……異存はあるかね?」 「いいえ、閣下の決定に異論を挟めようはずもございません」 「うむ」 クロムウェルは頷くと、腰に差した杖を引き抜き、何やら判別のつかない言葉で詠唱を開始した。 そして詠唱が完了し、杖を振り下ろすと―――もう固く閉ざされていたはずのウェールズの瞳がパチリと開き、ゆっくりと身を起こす。 青白く、血の気が全く感じられなかった顔に、みるみる生気が……文字通りに『甦って』いく。 その様子を『当然』とばかりに眺めていたクロムウェルは、軽い口調でウェールズへと話しかけた。 「おはよう、皇太子」 「久し振りだね、大司教」 「失礼ながら、今では皇帝なのだ。親愛なる皇太子」 「そうだった。これは失礼した、閣下」 そのままクロムウェルはかつての仇敵と談笑を始め、にこやかにその仇敵だった男を自分の親衛隊に加える。 「よし。では早速で悪いのだが、会議と行こうか。 今後の政略や軍略、それと戦が終わったら頻繁に現れるようになった、例の怪物どもの対策も立てねばならんしな」 『例の怪物』というのは、先の戦の終盤から姿を見せている異形のモノのことである。 今のところ『怪物』は3種類ほど確認され、レコン・キスタの人間たちからはそれぞれ『骨』と『ツタ』と『鎧』という通称で呼ばれていた。 そしてウェールズと共に歩き出そうとしたところで、クロムウェルは思い出したように足を止め、ワルドに向かって喋り出す。 「ワルド君、失敗をそう気に病む必要はない。同盟は結ばれても構わぬ。……いずれにせよ、余の計画に変更はないのだから」 「は……」 ワルドは会釈した。 「レコン・キスタの―――いや、新たなるアルビオンの最初の標的はトリステインだ。あの王室には『始祖の祈祷書』が眠っておるからな。あの忌まわしきエルフどもから聖地を取り戻す際には、是非ともこの手に持っておきたいものだ」 言い終わって自分のセリフに満足げに頷くと、クロムウェルは礼拝堂跡から去っていく。 その姿が完全に見えなくなった時点で、ワルドは大きく息を吐いた。 クロムウェルが言うには、あれが『虚無』らしいのだが……そうだとすると、恐ろしい力だ。 つくづくルイズを手に入れられなかったことと、確実に始末が出来なかったことが悔やまれる。 「だが、俺は更なる力を手に入れられるかも知れぬ……」 予定より少し早いが、善は急げということで既に『偏在』で作った分身を各地に飛ばして、あの『紫の髪の男』に関する情報収集は開始している。 アルビオン近辺が怪しいと睨んでいるのだが、ボヤボヤしていると感付かれて逃げられる可能性もあるので、なるべく急がねばなるまい。 「さて……、それでは取り急ぎ義手を手に入れねばな……」 ワルドは無くなった左腕の辺りを撫でながら呟く。 『紫の髪の男』に接触したとして、その後どのような結果になるのかは分からないため、自分の状態を万全にしておくに越したことはないからだ。 ……その『紫の髪の男』について僅かでも知識のある人間がワルドの思惑を知ったら、呆れるか同情するか失笑するか忠告するかしたのだろうが……。 生憎と、ハルケギニアにおいて『シュウ・シラカワ』の恐ろしさを知っている人間は、ほとんど存在していなかった。 「『始祖の祈祷書』、ですか?」 ボロボロの古びた本を遠目に眺めながら、里帰りから帰ってきたミス・ロングビルが疑問の声を上げた。 「うむ、今しがた王宮から届けられたものなのじゃがなぁ」 そのページをめくりながら、オールド・オスマンは溜息を吐く。 「トリステイン王室に古くから伝わる……という触れ込みのくせに、300ページの内で文字が書かれている部分が1箇所もなくての」 「まがい物ではありませんの?」 「……何だか、私もそんな気がしてきた」 この『始祖の祈祷書』という本は、『1冊しか存在しない』はずなのにハルケギニア各地に存在しているという奇妙な本である。 始祖ブリミルが六千年前に読み上げた呪文が記されていると伝承にはあるのだが、何せ六千年も時間が経過しているだけあって偽物が数え切れないほど作られてしまい、今では『この本を集めるだけで図書館が出来る』とまで言われていた。 「しかし、まがい物にしても酷い出来じゃな」 いくら何でも、全く文字すら書かれていないとはどういうことか。 そんな感じで首をひねるオスマンだったが、ふとミス・ロングビルが物憂げに溜息をついていることに気付いた。 「おや、悩みごとかね、ミス・ロングビル?」 「……ええ、まあ。帰省した先で、少しありまして」 「ふむ、よければ私に話してみんか? 伊達に年を食ってるわけではないのでな、何かアドバイスが出来るやも知れん」 悩める女性の相談に乗る、というのは少し心惹かれるモノを感じる。 それに上手くすれば、これを機に『秘書と学院長のイケナイ火遊び』などに発展する可能性も……。 「もし解決が出来ずとも、話して楽になることもあるでな」 ……内心のそんな下心を微塵も表に出さず、あくまで『頼れる学院長』を演じながらオスマンはミス・ロングビルに悩みの告白をうながす。 「はあ……。実は、男性のことで……」 オスマンは『よりによって男の相談かよ』、と内心で盛大に舌打ちした。 しかし自分から話を振った以上、途中で打ち切るわけにもいかない。 「続けたまえ」 「はい。実は私は、ここで貰った給料の一部を仕送りとして実家……と言いますか、とにかく帰省先に送っているのです」 「ほう」 それは初耳である。やはり人の相談は聞いてみるものだ。 「そこには、妹代わりの……血は繋がっていないのですが……年頃の娘がいまして」 「ふむ」 「で、先日戻ったらですね、なぜかその『妹代わりの子』の家に、変な男が居ついていたのです」 「はあ、それは……」 つまり、妹代わりの少女とやらが色気づき始めた……ということだろうか。 ミス・ロングビル本人の相談ではなかったことに若干安堵しつつ、オスマンは質問する。 「よく分からんが……その男はどのような男なのかね?」 「どういう、と言われましても……説明しにくい男ですから……」 うーん、と悩むミス・ロングビル。 そんな様子を見て、オスマンは質問の形式を変えることにした。 「その男とやらは、君の妹代わりの少女に対して……まあ、その、下心があるようだったかね?」 「……いえ、多分ないと思いますが」 「少女がその男を嫌がっている素振りは?」 「ありません。と言うか、間違いなくその男に対して……好意を抱いているみたいでした」 「男の性格が破綻している、とかは……」 「これでもかと言うほど徹底的に、冷静かつ理知的に見えました」 「では、顔が悪いのかね?」 「…………認めたくありませんが、女性が10人いれば8人か9人は『美形』と言うと思います」 「じゃあ、何が不満なのかね?」 話だけを聞くと、まさに非の打ち所のない人間である。 「いや、しかしですね……!」 ミス・ロングビルは頭を抱えて唸り出す。 まあ、保護者と言うのはそういうものかも知れんなぁ……などと思っていると、学院長室にノックの音が響いた。 ミス・ロングビルが少し慌てながらもチラリとオスマンを見ると、オスマンは小さく頷いた。 そして彼女はドアへと歩いていき、扉を開ける。 扉の前には、オスマンが呼びつけたルイズが立っていた。 ルイズはミス・ロングビルによって部屋の中に通されると、オスマンから先日の任務についての労をねぎらわれる。 「来月にはゲルマニアで、無事に王女とゲルマニア皇帝の結婚式が執り行われることが決定した。君たちのおかげじゃ、胸を張りなさい」 にこやかに言うオスマンだったが、ルイズの心は晴れやかではない。 政治の道具として、結婚すら利用されてしまうアンリエッタのことを思うと、悲しくなってしまうのである。 オスマンは黙って頭を下げるルイズをしばらくじっと見つめていたが、やがてスッと『始祖の祈祷書』を差し出す。 「これは?」 「王室に伝わる、『始祖の祈祷書』じゃ」 「これが……ですか」 国宝であるはずの『始祖の祈祷書』がこんな所にあることに、ルイズは疑問を抱いたようだった。 「トリステイン王家の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。 選ばれた巫女は、この『始祖の祈祷書』を手に、式の詔(ミコトノリ)を詠み上げる習わしになっておる」 「は、はあ」 「そして姫さまは、その巫女にミス・ヴァリエール、君を指名してきたのじゃよ」 「姫さまが……わたしを、ですか?」 半信半疑でオスマンの言葉を反芻するルイズ。 「その通りじゃ。巫女は式の前より、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠み上げる詔を考えねばならぬ」 「……って、詔ってわたしが考えるんですか!?」 てっきり『お決まりの文章』を読み上げるとばかり思っていたらしく、まさか自分で考えるとは思っていなかったようだ。 まあ、王族の結婚などそうそうあるものでもないので、知らないのも当然だが。 「もちろん、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうが……伝統と言うのは面倒なもんじゃのう。だがな、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。これは大変に名誉なことじゃぞ」 それを聞いて、ルイズはキッと顔を上げる。 幼なじみが、かつて共に過ごした自分を式の巫女役に選んでくれた……ということを再認識して、やる気を出したのだろう。 「分かりました。謹んで拝命いたします」 ミス・ロングビルの手を経由して、ルイズに『始祖の祈祷書』が手渡される。 そしてボロボロの本をしっかりと握り締めたまま、ルイズは学院長室を後にしたのであった。 「……結婚、か」 ルイズが去った後、ミス・ロングビルはポツリとそんなことを呟く。 そして、オールド・オスマンはそれを聞き逃すような真似はしなかった。 「時にミス・ロングビル」 「何でしょう?」 「君の年齢はいくつかね?」 「……………」 しばしの沈黙の後、ミス・ロングビルはゆっくりと口を開いた。 「…………23ですが、それが何か?」 「ほぉ~、そうかそうか。姫さまは17で結婚するというのに、ミス・ロングビルは23で―――うおっ!?」 そこまで言いかけると、いきなり分厚い本が高速で飛来してきた。 長年のカンでそれを回避するオスマンだったが、見るとミス・ロングビルは『何かそれなりの大きさがある物体』を投げた姿勢のまま、ゾッとするほど冷ややかな視線でこちらを見ている。 「……ミ、ミス・ロングビル?」 「あら、申し訳ありません。少しばかり手がすべってしまいましたわ」 「す、少しって……」 「『少し』、です」 それなら、こっちだって少しばかりからかっただけなのに……と言おうとしたが、余計な災厄を招きそうなので黙ることにした。 (この話題をミス・ロングビルに振るのはやめておこう……) 教訓として、オスマンは学習する。 もちろん、後のフォローも忘れない。 「……ご、ごめんなさい」 「はい。それでは溜まっている仕事を、速やかに、手早く、迅速に消化してくださいね」 一方、ユーゼスは研究室の中でギーシュと話していた。 「……前から聞こうと思っていたのだが」 「何だね、ユーゼス?」 今日届いた手紙を読み上げながら、金髪の少年に質問を投げかけるユーゼス。 「お前はなぜ、ことあるごとに私の研究室に入りびたるのだ?」 「駄目かい?」 「駄目ということはないが……」 アルビオンから戻って以降(と言ってもまだ数日しか経過していないが)、ギーシュは毎日のようにユーゼスの研究室に顔を出していた。 最初は『女子寮に忍び込む口実がわりか』とも思ったが、頻繁に『ワルキューレを使った攻撃方法』などを質問してくることから見るに、単純にそういうわけでもないらしい。 「なら良いじゃないか」 まあ、特に騒いで迷惑というわけでもないので、取りあえず放置しておく。 そして手紙を机の脇に置くと、クロスゲート・パラダイム・システムを起動させて『覗き見』を開始する。 『覗き見』と言っても、その対象は個人のプライバシーや組織の暗部などではなく、並行世界である。 『シュウ・シラカワの世界』を見て以来、『他の世界』にも興味が湧いてきたのだ。 差し当たって、手始めに『自分のいた世界と位相がごく近い世界』を見てみるのだが……。 (……イングラムが女だった場合の世界、か) 何を思って自分の複製を女にしたのか、『その世界の自分』の思考があまり理解できないユーゼスだったが、まあそのような世界もあるだろう。 しかし、その性別が女であること、名前がイングラムではなく『ヴィレッタ・プリスケン』であること以外は全くと言っていいほど差異が見当たらない。 (何の意味があるのだろう……) そう思って『ヴィレッタ・プリスケン』を辿ってみると、別の並行世界では自分の複製であるイングラムの、更に複製として存在していることが分かった。シュウ・シラカワのいた世界にも、そうして存在している。 彼女はイングラムの代役のような存在としてR-GUNに搭乗し、SRXチームの隊長に収まっているようだった。 (ふむ……) 深く追求するつもりはないが、少なくとも無意味な存在ではないようだ。 やはり色々あるものだな、と並行世界について一人で納得するユーゼス。 「……む?」 ふと意識を現実のハルケギニアに戻すと、ギーシュが自分のレポートを興味深げに見ている光景が目に入った。 「何をやっている、ミスタ・グラモン」 「ああ、いや、何かの参考になるかと思って、君の論文を見てたんだが……いやぁ、難しい単語が並べ立てられてて、僕にはサッパリだな」 「学生のレベルで、いきなり第5稿などを見るからだ」 1~2稿ならば『勉強熱心な学生』程度でも読み解けるだろうが、5稿にもなると専門的になり過ぎており、完全に専門的な『研究者』に対してのレベルになっている。 と言うか、下手に自分のレポートなどを読むよりは、普通の魔法の学術書でも読んだ方が余程ためになるだろう。 その旨をギーシュに伝えると、彼はうーむ、とアゴに手を当てて首をひねる。 「そういうものか……。しかし、よくここまで複雑な論文を、これだけ大量に書けるものだね。何日も徹夜しないといけないんじゃないかい?」 「ああ、実際にしているぞ」 ユーゼスの言葉を聞いて、ギーシュは驚く。 「その割には、君は……何だ、えらく健康そうに見えるが」 「ミス・モンモランシから『眠気覚まし用』のポーションや、『体力回復用』のポーションを貰っているからな」 そうなのか、と一瞬納得しかけたギーシュだったが、何だか聞き捨てならない単語が先ほどの会話に含まれているコトに気付いた。 「ちょ、ちょーっと、その辺りを詳しく説明してくれないかなー、ユーゼス・ゴッツォ君?」 「詳しく、と言われてもな……」 自分のアイディアを元に、よく図書館で一緒になるモンモランシーに『眠気覚まし用』だとか『集中用』などのポーションを作ってもらっているだけなのだが。 ちなみにそのアイディア自体は、メトロン星人がやっていたことの応用である。 それを説明したところ(無論、メトロン星人うんぬんは伏せてある)、ギーシュはまだ納得がいっていないようだった。 「僕が聞きたいのは、そういうコトじゃなくてねー? どうして君が、モンモランシーと交流があるのかってコトなんだよねー?」 「口調がおかしいぞ、ミスタ・グラモン」 そしてユーゼスは、なるべく理解しやすいように自分とモンモランシーの関係を語った。約5分ほどの時間を要した。 一通りの説明を受けたギーシュは、額を右手で強く抑えながらユーゼスに確認する。 「…………うん、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくれ、ユーゼス。……いいかい、情報を整理しようじゃないか」 「? 分かった」 「まず、君はよく図書館に行く。これは良いね?」 「ああ」 「そして、モンモランシーもよく図書館に行く」 「そうだ」 「つまり君とモンモランシーが図書館でよく会うのは、ある意味で必然だ」 「うむ」 「よし、ここまでは良い。……で、君は水魔法や秘薬の関連で、図書館の蔵書を調べている時に、モンモランシーと出会った」 「ああ」 「で、それが元になって、以降モンモランシーと君は、図書館でよく会話をするようになったわけだ」 「『よく』と言うほどではないが」 「そうかい。それで、君から色々と話を聞いて、モンモランシーは香水の試作を行っており―――」 「………」 「―――その香水の試作品を、君に渡して意見を聞いている、と」 「最初は金を受け取ろうかと思ったのだが、双方にとって得になるだろうから現物支給で、ということになってな。いわゆるギブアンドテイクというやつだ。互いの知識の交換にもなるしな」 「ふむ……。ここまでの話を総合すると、『君』と『モンモランシー』は『よく図書館で会って』いて、『彼女の香水』を『君が受け取り』、更に『お互いの知識について理解を深めて』いる―――という結論に達するわけだが、これについて何か訂正はあるかね?」 「無い」 「なるほど……」 うんうん、とギーシュは頷いて、 「……って、ふざけるなぁぁぁあアアアアアアアアアア!!!」 「何だ、いきなり」 猛烈な咆哮を放った。 「こ、ここここ、ここ恋人の僕をさしおいて! 密会して! プレゼントと言葉を交換し! アレコレ理解を深めているだとぉォオオオオオオオ!!?」 「かなり曲解しているな」 それにモンモランシーからはよくギーシュについての愚痴も聞かされているが、彼女の口ぶりでは二人は別れたように言っていた。 どうも二人の間では、認識にズレがあるらしい。 「け、ケケケケ決闘だぁぁァァアアアアアアアア!!!」 全身と顔の筋肉全体をガクガクと震わせ、バラの造花を取り出しながら叫ぶギーシュ。 ユーゼスはすかさず『リラックス用(試作)』と書かれた小ビンを手に取り、フタを開けてギーシュの鼻先に突きつける。 「うっ……っ」 するとギーシュはビクンと痙攣し、やがて無表情になっていった。 「……まあー、いっかー」 「ほう」 どうやら効果はあったようだ。 「もうー、モンモランシーのこともー、他の女の子のこともー、どうでもー、いいやー」 「……む?」 何か様子がおかしい。 「僕自身のこともー、トリステインのこともー、生きてることもー、どうでもー、いいやー」 「……………」 そのままバタン、と倒れるギーシュ。どうやら効き過ぎたらしい。 「……『問題あり、リラックス用の成分を半分以下にするべき』……と」 まあ、実験に失敗はつきものである。 そして必要以上にリラックスしまくりのギーシュを横目に、また並行世界を覗くか、本を読むか、レポートを書くかしようとしていると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。 わざわざノックをしてまで入ってくるような人間など、ハルケギニアにおけるユーゼスの知り合いには片手で数えるほどしかいなかったが、ともあれ来客を無下に断るのも何なので迎え入れることにする。 「鍵はかかっていない、入れ」 一体誰だ、と思いながらボンヤリとドアを見ていると……、 「ふぅん、平民にしては異例の扱いじゃないの、この研究室」 ドアが開いて、ついこの前にユーゼスが会ったばかりのスレンダーな体系の女性が入って来た。 「……ミス・ヴァリエール?」 金色の長い髪に、眼鏡をかけているため元々キツい瞳がもっとキツく見えるルイズの姉、エレオノールである。 「さあ、出発するわよ」 「出発?」 いきなり放たれた言葉を、思わずそのまま返してしまうユーゼス。 エレオノールは若干イライラした様子で、ユーゼスに確認を取り始めた。 「私があなたのレポートの添削と一緒に送った手紙は読んだわね?」 「これのことか?」 机の脇に置いていた手紙を手に取る。 それには、大まかにこんなことが書かれていた。 ・王宮から、宝物やマジックアイテムの探索の依頼が来た。 ・アカデミー的には本来なら断る類のものなのだが、自分の権限で半ば強引に受けることにした。 ・それにあなたもついて来なさい。拒否は認めないわ。 ・近い内にそっちに直接行くから、早いうちに仕度をしておきなさい。 「……『近い内』すぎるだろう」 「ウソは書いてないでしょう」 それにしても、手紙が着いたその日にやって来る……などというのは急すぎる気がする。 アルビオンとの戦争が迫っているこの時期にトレジャーハントなどを行う理由について、大体の予想はつくのだが……。 (……『この時期』だから急なのか?) おそらく、昔の財宝なりマジックアイテムなりを発掘・発見して、それを資金源や武器や兵器にでもする腹積もりなのだろう。 そう都合よく宝が見つかるとも思えないが、何もしないよりはマシ……と言った所だろうか。 アカデミーが断ろうとするわけである。 「まあ、さすがに探索メンバーが私とあなただけという訳にもいかないから、他に学院の生徒を適当に連れて行っても良いわよ」 「………?」 疑問符を浮かべるユーゼス。 『学院の生徒を連れて行く』というのは、別に構わない。 だが、先程エレオノールの口から出たセリフの前半の部分に、何か不穏なものがあったような気がするのだが……。 「……待て、ミス・ヴァリエール。他にアカデミーの研究員や、護衛の人間はいないのか?」 「いるわけないでしょう、これを受けたのは私の独断に近いんだから」 「……………」 「仕度をしてないのなら、とっとと仕度をなさい。他のメンバーは……取りあえずコイツにしておきましょう」 「まあー、どうでもー、いいやー」 エレオノールはユーゼスに命令しつつ、生きながら死んでいるような状態のギーシュを指差す。そして『どうでもいいなら、別について来ても構わないわね』と形ばかりの念押しをした。 「……………」 普段は感情を顔に出さないユーゼスだったが、この時ばかりは微妙に嫌そうな顔をする。 (そう言えば、御主人様の許可は取ったのだろうか……) 忘れがちだが、自分はあくまでルイズの使い魔であって、決してエレオノールの従者でも助手でもない。 ならば、そもそもルイズが首を縦に振らなければ……と思って、その旨を質問してみると、 「は? そんなもの、これから許可させるわよ」 「…………そうか」 『許可を取る』ではなく『許可させる』と来た。 記憶を掘り返してみると、ルイズはこの姉に全く頭が上がっていなかったことを思い出す。 もはや決定事項か……と、ユーゼスはなかば諦めに近い心境に至るのであった。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
https://w.atwiki.jp/njtrpg/pages/396.html
プロフィール キャラクター名:アルフィン・ヴィツァルト クラス&レベル:ウィザード2 背景:侍祭 種族:ハイエルフ 属性:混沌にして善 性別:女性 年齢:102歳 身長:159cm 体重:46kg 経験点:350 人格的特徴:学識を示すため長く難しい言葉を使う。寺院で長い事暮らしてきており、外の世界の人々とやっていくのは慣れてない。 尊ぶもの:知識。力も成長も知識を通じて得られる。 関わり深いもの:関り深い 弱み:研究に新たな発見を付け加える歴史上の秘密を解明する事に目がない。 能力 【筋力】 【敏捷力】 【耐久力】 【知力】 【判断力】 【魅力】 能力値 10 15 14 16 12 8 修正 0 2 2 3 1 -1 セーヴ習熟 ○ ○ ○ ● ● ○ 副能力値 HP イニシアチブ アーマークラス 移動速度 サイズ 15 2 12 30 中型 技能 技能 習熟 技能 習熟 〈威圧〉 ○ 〈生存〉 ○ 〈医術〉 ○ 〈説得〉 ○ 〈運動〉 ○ 〈捜査〉 ● 〈隠密〉 ○ 〈知覚〉 ● 〈軽業〉 ○ 〈手先の早業〉 ○ 〈看破〉 ● 〈動物使い〉 ○ 〈芸能〉 ○ 〈ペテン〉 ○ 〈自然〉 ○ 〈魔法学〉 ● 〈宗教〉 ● 〈歴史〉 ○ 習熟 防具:習熟防具なし 武器:クォータースタッフ,ダガー,単純遠隔武器,ショートソード,ロングソード,ロングボウ 道具:習熟道具なし 言語:共通語,エルフ語,ゴブリン語,ドワーフ語,竜語 特徴 特徴 参照 暗視 P20 薄暗い:60ft明るい中同様。暗闇:60ft薄暗がり同様(色覚×)。 フェイの血筋 P20 魅了へのST有利。魔法で眠らされる事が無い。 トランス P20 眠らず4時間の瞑想で8時間の睡眠に相当する休息。 信仰あつき者の保護 P135 信仰を共有する者達に助けてもらえる。神殿のひとつに自分の部屋を持つ。 秘術回復 P49 1日1回、小休憩後に5LV以下で合計[ウィザードLV/2(ru)]LVまでの呪文スロット回復。 学派:力術 P53 力術呪文を呪文書に書き写す費用・時間が半分になる。 呪文効果範囲操作 P53 力術の対象から[1+呪文LV]体を除外できる。除外された対象はST自動成功。 ST成功時効果半減する呪文ならば、除外者には効果無効となる。 装備 名前 重量 参照 攻B ダメージ 種別 射程 不利 メモ ショートソード 2 P149 0 1d6+0 [刺] 至近 ─ 軽武器、妙技 防具 名前 重量 参照 種別 AC 【敏】 【筋】 隠密 メモ 鎧 盾 その他 重量 参照 個数 合計 メモ 呪文構成要素ポーチ 2 1 呪文書 3 1 背負い袋 5 1 インク瓶 1 ペン 1 羊皮紙 0 10 小さなナイフ 1 歴史伝承の書 5 1 聖印 1 P150 1 祈祷書 5 1 普通の服一揃い 3 1 ポーチ 1 1