約 74,367 件
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/2881.html
「俺が利口なんじゃなくて、お前が物を知らないだけだろ」 庭を見るふりをしてさり気なく顔を逸らすと、愛のそうですねとのんびりした声が返る。庭に面した広 縁に控えている小十郎は、やれやれと言う替わりに背中で溜息を吐いてみせた。 開け放った障子の彼方では、枝垂桜と海棠が妍を競うように咲き誇っている。米沢にも遅い春が訪れ、 愛が嫁いできてからおよそ五ヶ月。春爛漫の景色を前にして、不意に、もう限界だと思った。 自分を厭い忌み嫌う母とも、自分を傅育した喜多とも、違う。濡れた穴ぐらを持つ女たちとも違う。愛 から向けられる無垢な笑顔が、無条件の好意が、苛つく。 「おい、小十郎。俺の部屋に行って本持って来いよ。宇津保物語」 「は……宇津保物語、ですか?」 肩越しに振り返った小十郎は、訝るような顔つきだ。 「Ya, 納戸の長櫃の中に入ってる。確か琴がどうとかいう話だったろ? 愛に貸してやるから」 「左様でしたか。ではすぐに持参しますので、しばしお待ちください」 ひとつ頷くとこちらへと向き直り、作法の見本みたいな一礼をしてから小十郎は立ち上がった。遠ざか っていくのを耳を澄ませて確かめながら、政宗は茶碗を持ち上げ、ぬるくなった中身を飲み干し、茶托に 叩き付けるように置く。 「喜多。茶のおかわり。あと茶菓子とかないのかよ、気がきかねぇな。饅頭でも大福でもいいから厨屋に 行って持ってこい――愛は甘いもの好きだよな?」 「はい。愛はお饅頭も大福も大好きです」 ほぼ地顔と言える笑顔で愛が言うと、喜多は相好を崩した。 「気の利かぬことで失礼しました。そうそう……南蛮菓子のかすていらがありますよ。殿が茶会で使われ るそうですけど、喜多が膳部の者に頼んで分けて貰ってきますから、お二人で仲良くお待ちくださいね」 いそいそと腰を上げた喜多は婉曲に表現したが、分けて貰うというより強奪してくるに決まっている。 膳部の襟首を掴んで凄み、横っ面を二、三発張り倒して切り取ってくるに違いない。 弟の小十郎は、口で言って分からなければ殴って言うことをきかせるが、姉の喜多は先に殴ってから口 で説明するという方法をとる。先に痛みを与え反抗する気概を挫くのだと言う。二人のおかげで政宗は十 になるまで、傅役は主を殴りつけるのが主な仕事なのだと信じ込んでいた。 幼い頃、悪戯が過ぎるたびに木刀を振りかざし追いかけてきた、二人の鬼のような形相を思い出すと、 ぶるりと身が震えた。 伊達×愛姫 4
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1693.html
伊藤組の朝は早い。 起床は朝の5時半。 これは、組長である伊東観柳斎の起床時間でもある。 「……む」 観柳斎は年齢を感じさせない逞しい男だった。 盛り上がった筋肉を和服で隠し、蓄えた髭と総髪は堅気の者とは一線を画す雰囲気をかもし出している。 「……組長、おはようございます」 「辰由か」 観柳斎は、重々しい声で襖の向こうに傅く忠臣の声に答える。 「いつも通り、朝礼は6時丁度に……」 「応」 午前6時丁度の朝の朝礼は、ここ伊藤組の伝統であった。 「……時に辰由」 「はっ」 襖越しの忠臣は、観柳斎の言葉に短く答える。 「……今日のワシは如何か?」 「……今日の組長は『絶好調』だと存じます」 「そうか、やはり『絶好調』であったか……」 うむ。と一つ頷き、観柳斎は身を起こした。 清々しい朝の始まりである。 鋼の心:番外編 ~Eisen Herz~ 伊藤組のとある一日(前編) 伊藤組の一室。 20畳を優に超える畳敷きの大広間に、朝礼に参加する組員たちが勢揃いしていた。 アットホームをウリにするのどかな極道一家ではあるが、序列の上下ははっきりと決まっている。 上座から下座まで、2列に向き合い列を作り座する組員達。 組長の座までの距離が、そのまま組内の序列となる。 その中でも最も組長の座に近い場所に、永倉辰由の姿があった。 「では、これより朝礼を始めます」 雑談に興じていた組員達も、彼の一言で静寂に還る。 「……」 すっ、と辰由は深呼吸をし、言った。 「貴様らの特技は何だぁ!?」 『警邏、清掃、老人介護っ!!』 「貴様らの目的は何だぁ!?」 『防火、防犯、町内美化ぁ!!』 「貴様らは極道を愛しているか、伊藤組を愛しているかぁ!?」 『ガンホー、ガンホー、ガンホォーッ!!』 「では、組長からの挨拶です」 先程の熱狂を何事も無かったかのように流し、辰由は上座を見る。 「うむ」 一同の視線を一身に受け、観柳斎は重々しく口を開いた。 「今日のワシは、『絶好調』であるっ!!」 『おぉーっ!!』 沸き立つ伊藤組の組員達。 これが伊藤組の朝礼であった。 「……何なのよ一体……」 上座、辰由の対面であきれ返る美空。 組長の娘である彼女は、立場上辰由よりも上位に位置する。 まあ、さり気無くその横(上座側)に、フェータ用の小さな座布団(組員手製)が置かれているのは愛嬌。 なお、客員であるリーナとレライナの席も美空のすぐ横に置かれていた。 「お嬢、そしてちっこい姐(あね)さん。おはよう御座います!!」 組員達が続々と、美空とフェータに挨拶をしに訪れる。 「おはよう御座います芦屋さん」 「はい、今日もお元気そうで何よりです、ちっこい姐さん!!」 芦屋と呼ばれた組員が、フェータに微笑まれ強面を綻ばせる。 「おはよう、芦屋」 「はい、お嬢」 美空相手だと割りと軽い。 「あ、芦屋さん目の下に隈が出来てますよ?」 フェータの指摘に芦屋は照れたように頭を掻いた。 「申し訳ありやせん。実は新作のRPGに嵌まってまして、徹夜を……」 「ダメです!! 皆さんは体が資本なのですよ!? 風邪でも引いたら如何するのです。……私も心配しちゃいます!!」 「はっ、申し訳ありやせんでした、ちっこい姐さんっ!!」 「もう、めっ!! ですよ」 「ははぁーっ!!」 フェータの小さな指でおでこを突つかれ、平伏する芦屋。 伊藤組において、フェータは『ちっこい姐さん』として組員達のアイドルと化していた。 「羨ましいぞ、芦屋ぁ!!」 「畜生~っ。俺もちっこい姐さんに『めっ!!』してもらいてぇ~!!」 「ああ、俺もだ。あのちっこい指で『めっ!!』ってしてもらった時の恍惚感は忘れられん!!」 「くそう、明日は俺が『めっ!!』してもらうんだぁ!!」 呆れ顔の美空が一言。 「……この変態どもめ」 と呟いても。 「ああ、いえ。別にお嬢の『めっ!!』では、そういう事無いんで」 「あれはちっこい姐さんだから良いんですよ」 「お嬢じゃなぁ……」 はぁっ、と溜息を付く始末だった。 「お嬢、宜しいでしょうか?」 「……ん、辰由?」 誰から殴ろうか考えていた美空は、辰由の声で振り返る。 「組長がお呼びです。奥の間へどうぞ……」 「……げっ」 美空は、とても嫌そうな顔をした。 もう、お見せできないのが残念なくらい、嫌そうな表情だった。 「組長。お嬢をお連れしやした」 「ご苦労、辰由」 観柳斎は床の間の奥で鷹揚に頷く。 「で、何の用よ?」 「うむ」 若本さん張りの渋い声で答え、立ち上がる観柳斎。 「美空たぁ~ん。今日はパパと遊ぼぉ~」 「ダメ」 「そ、即答だとぉ!?」 「組長、気をしっかり!!」 よろめく観柳斎をすかさず支える辰由。 「な、何故だ……? 今日は美空たんとオセロでもしようと思っていたのにぃ!?」 「……って言うか、なぜオセロ?」 「だってワシ、囲碁も将棋も出来んもん」 「胸張って言う事か!?」 「……ぅうっ……。辰由ぃ~、美空たんが冷たいよぉ~」 「組長が子分に泣き付くなぁ!!」 「だってぇ~、美空たんが冷たいんだも~ん」 「お嬢、今日は何か用事がおありなので?」 「うん」 美空は頷く。 「今日は祐一を家に呼ぼうと思って」 「―――何?」 伊藤観柳斎が固まった。 「お昼までに落ち合って、家に招待するのよ」 「まっ、待て、美空たん!?」 「ん?」 「わ、ワシ、初耳」 「何が?」 「ゆ、ゆういちって、誰じゃ?」 「友達」 「……何と言うか、男の子みたいな名前じゃが、ちゃんと女の子なんじゃろうな?」 「あん? 何言ってるの? 祐一は男の子よ?」 「いあかぁ~ん!! 良いか、美空たん。世の中の男なんて物はな、み~んな美空たんのプリティボディを淫らな目で見る変態ばかりなんじゃ!! そんな不埒な輩を美空たんに近づける訳には行かん!! どうせワシの可愛い美空たんをあんな事して、こんな事して、あまつさえ、せ、せ、せ、接吻を試みたりする淫獣なんじゃ、そんな奴は敵じゃ、敵。パブリックエネミー発生に付き世界の防衛機構がブギーポップとかエクセレントウォーリアーとか英霊エミヤとか絢爛舞踏とか呼び出して大惨事になるんじゃ~」 「組長。既にお嬢が居ません」 「なっ、何じゃと!?」 『変態ばかり』の辺りで既に姿が消えていた。 「いかん。いかんぞ辰由。組員を召集しろ、伊藤組臨戦態勢じゃぁ!!」 伊藤観柳斎の暴走が始まった。 「へぇ、お嬢が男を……」 「やるなぁ、お嬢」 「俺、一生男に縁が無いかと思ってた」 「いやあ、目出度い目出度い」 「まさか『あの』お嬢が男連れ込むとは~」 組員の反応はこんなものであった。 「貴様らぁ~、ワシの可愛い美空たんの一大事に何事かぁ!? 緊張感を持て、緊張感を!!」 「でも組長。ここらで男捕まえとかないと、お嬢一生行かず後家ですよ?」 「いいんじゃ、美空たんは嫁になど出さん!! 幼い頃の約束どおりワシのお嫁さんになるんじゃぁ~!!」 「流石にそれは問題があるような気が……」 暖簾に腕押し、観柳斎の怒りも組員達には伝わらない。 「組長、ここはこの辰にお任せを……」 「おお、辰由、言ってやれ、言ってやれ」 「はっ!!」 ここで辰由、コホンと一つ咳払いをして小さな声で呟いた。 「実は……。お嬢から聞いた話によりますと。その島田祐一とか言う少年。フェータさんを裸に剥いて弄り回した事があるとか……」 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 「……んだとぉ?」 ポツリと、静寂の中に声が漏れる。 「ちっこい姐さんを、剥いただとぉ!?」 「お嬢はともかく、ちっこい姐さんに不埒な事かましたのか、そのガキャぁっ!!」 「だぁぁっ!? 島田とか言ったな、ごらぁ。落とし前付けさせてやらぁっ!!」 「おう、新井ぃ!! 俺の長ドス出せやぁっ!! そのガキャ斬り刻んで天海の海に沈めてやらぁっ!!」 「チャカだせ、チャカ。蜂の巣じゃそのガキャぁっ!!」 組員全員大激怒。 気の早い者は既に懐からドスやら拳銃やらを抜いて臨戦態勢を整えている。 伊藤組に、にわかに不穏な空気が立ち込めた。 「あれ~、皆さん集まってどうかしましたか?」 「あっ、ちっこい姐さん!?」 フェータの声にさっと武器をしまう組員一堂。 「あれ? 今拳銃とか、ナイフとか……」 『気のせいです、ちっこい姐さん!!』 組員の声が一つに揃う。 「でも、確かに……」 『気のせいです、ちっこい姐さん!!』 「そ、そうなんですか……?」 「フェータさん。そろそろ剣術の稽古のお時間かと……」 辰由が咄嗟に話題を切り替えた。 「あら、もうそんな時間ですか……」 「はい、今日も抜刀の練習をなさるのでしょう? 久々にこの辰が巻き藁を作らせて頂きやす」 「まぁ、ありがとうございます。辰由さんの作る巻き藁は、斬り心地抜群なんですよぉ~」 こうしてフェータは辰由に連れられ道場へ。 組員達は、島田祐一対策会議を開始した。 『島田祐一対策委員会本部』 達筆な筆(観柳斎直筆)でそう書かれた、木の看板の架けられた一室で組員達が頭を寄せあう。 会議開始から1時間。 結論として、島田祐一は全殺し。 屍骸はバラしてコンクリに詰め、天海の海の底に沈める事で話が付いた。 だがしかし、会議は紛糾する。 「いいか、よく聞け。俺なんかちっこい姐さんにナデナデしてもらった事があるんだぞ!? その恩義に報いる為にも俺が止めを刺すっ!!」 「馬鹿なっ!? 俺はちっこい姐さんに『いつもお疲れ様です』と栄養剤の差し入れを貰った事があるんだ!! その借りをお返しするチャンスを棒に振れと言うのか!?」 「お、俺なんかちっこい姐さんに『サングラスが素敵ですね』と言われた事があるんだぞっ!?」 「なんだと、許さーん!!」 まあ、こんな感じで、誰が島田祐一に止めを刺すかで揉めていたのだ。 各々既に、ライフルやら刀やらダイナマイトやらを装備し、これから他所の組か警察にでも殴りこむ気だと言わんばかりの重武装。 デフコン的には既に『2』だ。 「あら皆さん、また集まって。今日は仲良しさんですね」 「あっ、ちっこい姐さん!?」 フェータの声にさっと武器をしまう組員一堂。 「あれ? 今ライフルとか、刀とか……」 『気のせいです、ちっこい姐さん!!』 組員の声が一つに揃う。 「でも、確かに……」 『気のせいです、ちっこい姐さん!!』 「だって、そこに一つ落ちてますよ?」 フェータの指の先にはAK47、俗にカラシニコフと呼ばれるアサルトライフルが落ちていた。 こんなの。 世界に銃は数あれど、このカラシニコフほど普及した銃は皆無である。 ソ連で開発されたこの銃は、安価で信頼性も高く、異常と言っても過言では無い生産性が特徴だ。 ちょっとした知識があれば、町工場程度の設備でコピー生産できる程である。 もちろん、ここ伊藤組でも愛用されていた。 「それ、AK47なんじゃ……」 『……………』 流石に現物を前にしては誤魔化しきれないか……。 組員達が覚悟を決めようとした瞬間、彼が言った。 「こ、これ。お菓子ッス!!」 「や、山南!?」 奴の名は山南三郎。通称サブ。 若手ながら辰由の信頼も厚い出世頭だった。 「え、でも、これって……」 「お菓子ッス!!」 山南。それは流石に苦しいだろう? 組員達の視線がそう告げる中、彼はAK47を手に取った。 全長90cm弱、重量4kg強。 ずっしりとした鉄の塊を―――。 「ほら、お菓子なんッス!!」 ―――山南はバリバリ食べ始めた!! ごりゅ、ごりゅ、ごりゅ、ごりゅ。 銃身を咀嚼し。 めきょ、ばきっ、めりっ、もぎゅ。 銃握を噛み千切り。 べきき、べきっ、ばきょ、ごぎゃ。 マガジンを飲み込んだ。 ……言っておくが、普通アサルトライフルは食べられない。 (耐えろ。耐えるッス。自分!! ここで負けたらちっこい姐さんの信頼がパァッス!!) 山南三郎は顔面を紫色に変色させながらも、金属と硬木で構成されたライフルを平らげる。 (そうッス、自分は『あの』お嬢の料理も完食できた数少ない“漢”ッス!!) 山南、カッと目を見開き、カラシニコフを食べる速度を上げる。 (そう考えれば楽ッス!! お嬢の料理に比べたらこれは結構イケルッス!!) 銃床を嚥下し、トリガーガードを飲み込むと、AK47が一丁、この世から消滅した。 なお、刑事事件の証拠隠滅の方法に『食べてしまう』と言う物がある。 だがしかし、今までの古今東西、銃を食べて証拠隠滅した者は居ない。 ……いや、居なかった!! そう。 彼こそが!! 山南三郎こそが、その最初の一人であるっ!! まあ多分、最後の一人でもあると思うが……。 「ほ、ほらちっこい姐さん。お菓子だったッスよ?」 「はへ~、そうでしたか。わたし、勘違いしちゃいました」 「い、いえ。お分かりいただけて何よりッス……」 山南、脂汗だらだら。 って言うか、密かに死相出てる、死相出てる。 「あっ!! でもダメですよ、山南さん!?」 「な、なんッスか?」 「それ、皆で食べる筈だったのでしょう? 独り占めはいけません!! めっ!! です」 フェータの指が山南のおでこを突っつく。 「は、はひ。すみませんッス。ちっこい姐さん」 (うぬぅ、三郎、羨ましい奴……) (耐えろ、今は奴の所業を称える時だ……) (山南、なかなかやるな……) こうしてまた、山南三郎は伊藤組での評価を上げた。 「フェータさん、訓練お疲れ様です。あちらの部屋に『三直屋』のタイヤキを用意してあります。どうぞお召し上がりを……」 「あら、ありがとう御座います辰由さん。―――皆さんもご一緒に如何ですか?」 微笑むフェータに組員達が相好を崩す。 「はい、是非ご一緒に!!」 「光栄です!! ちっこい姐さん!!」 「ありがたや、ありがたや~」 「うぅ、ちっこい姐さんとティータイムなんて、これは夢か?」 沸き立つ組員を前に、フェータは三郎に向き直る。 「でも、山南さんはお菓子を独り占めしてしまったので、ダメです。私が一個では多いので、私と半分こだけですよ?」 むしろその方が嬉しい。 「流石にそれは許さ~ん!!」 「このやろ、このやろ」 「山南~っ!!」 山南三郎はタコ殴られた。 「注進、注進!!」 と、その場に駆け込んでくる組員が一人。 「あっ、これはちっこい姐さん!! 失礼いたしやす!!」 急いでいてもフェータへの礼は忘れずに、それが伊藤組組員のルール。 「何がありました、服部?」 辰由が落ち着いた声で問う。 「それが、島田祐一が現れやした。お嬢も一緒です!!」 「あら、祐一さんもう来たんですね」 ててて、と出迎えに走るフェータ。 途端に殺気立つ組員を、辰由が抑えた。 「……判っているとは思いますが、お嬢とフェータさんの前で荒事は禁止ですよ?」 「はっ、承知してやすアニキ」 「お嬢はともかく、ちっこい姐さんの前で不埒な真似は出来やせん!!」 「だが見てろ。島田祐一~っ」 「生きて伊藤組の敷地から出られると思うなよぉ~」 『おーっ!!』 組員は、それぞれに武装を隠し持ち、島田祐一の出迎えに赴いた。 続く 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る
https://w.atwiki.jp/25438/pages/1985.html
(次の日。甘味処) 澪「ああ…ひさしぶりの外出に浮かれて、 みたらし団子こんなに頼んじゃった」ウットリ 通行人1・2「」ギョッ (みたらし10本ピラミッドを下からゆっくりと見上げて、一本持ち上げる) 澪「おっとっと、たれが零れそう、 しっかり絡めて……」 通行人2「絡めて…」ドキドキ 澪「あむ!」 通行人1「食べた!!」 通行人2「」ゴクリ 澪「ああ…ひあわへ」ホワワーン 通行人1「何あれ可愛い」 通行人2「おい店主、みたらし団子おくれよ」 通行人1「あ、アタシにも頂戴!」 通行人3「俺も!」 通行人4「私も!!」 ガヤガヤ… 澪「何か騒がしいな……それにしても美味しいな、これ もう6本も食べちゃった ん? 何か詞が浮かびそうだぞ」 澪「“貴方と2人の甘い時間 愛を絡めた みたらし団子”」 澪「…」メモメモ 澪「……うーん」 (食べかけの団子を持ち上げつつ) 澪「良いとは思うけど、何か足りないな…こんどムギに相談 蕎麦屋「 食 い 逃 げ だー ! 」 (隣りの蕎麦屋から男が飛び出して澪の眼前を走り抜ける 蕎麦屋の主人があとを追い、奇異の視線を向ける通行人にがなり立てる) 蕎麦屋の主人「あの野郎うちの蕎麦を食い逃げしやがった、つつ、 捕まえてくれ!!」 澪「!」スッ (澪、とっさに立ち上がり、食い逃げ犯と思しき男を追う) ・ ・ ・ 食い逃げ犯「……くそっ、追手が増えやがった!!」 澪「は、は、ふ!」タタタッ 蕎麦屋の主人「はぁ…はぁ…待てぇこのやろぅ…」ゼエゼエ 澪(蕎麦屋の主人が遅れ始めてる…逃げ足が速いのもあって、ちっとも差が縮まらない まずいな……) 蕎麦屋の主人「…待ちやがれ……ちくしょう…」ハァ…ハァ… 澪(左手には食べかけの団子、竹串を使えば奴の足を止められる 距離はおよそ3間※って所か、射程としては厳しいな… せめて2間※に縮められれば…!) ※3間(けん)=約5.4m ※2間(けん)=約3.6m 澪「フッ!!」タンッ 食い逃げ犯(なんだコイツ、急に加速しやがった! おっさんは振りまいたが、コイツは厄介だな ……!!) (食い逃げ犯の前方に小さな女の子2人 食い逃げ犯に気づかないのか、道の端で友達と手毬遊びをしている) 女の子1「♪てんてんてまりは」テンテン 女の子2「♪てんころり」 女の子1「♪弾んでお籠の 食い逃げ犯「…邪魔だどけぇ!!!」ドカッ 女の子1「きゃぁ!」ドサッ 澪「!!」 女の子2「大丈夫?」 女の子1「えへへ…擦り剥いちゃった」ジワッ 澪「…アイツ…!!」 (団子を抜き取り、竹串を構える) 澪(距離は未だ3間…構うもんか、ここで仕留めてやる!!)スゥ ドカッ!! 食い逃げ犯「ぐあっ!!」ドサッ! (食い逃げ犯、何者かに飛びつかれ、横に倒れる) 澪「…え?」 食逃げ犯「くっそ、離せこの野郎!」ジタバタ 信代「…! 子供泣かすような、人でなしに、…この! 聞く耳なんかないね! どんな事情があるのか知らないけど、謝るくらいしたらどうなんだい!」 (距離、2間半) 澪「信代!」 食逃げ犯「うるせぇ!!」ズン! (信代の鳩尾を殴る) 信代「…グフッ!!」 (信代、耐えきれず身体を丸めるが、それでも男を離そうとしない) 信代「あや…まれよ…!」 食逃げ犯「…このガキ!!」 (食逃げ犯、信代に手をあげる) (距離、1間半) 澪「…フッ!」ヒュンッ ドスッ!! 食逃げ犯「がぁっ!! う、腕が…!!」 澪「信代、大丈夫か!?」 信代「み、お…」 ・ ・ ・ (甘味処) 信代「…へぇ、じゃあアイツは食い逃げ犯だったのかい」モグモグ 澪「ああ、私と蕎麦屋の主人で追いかけてたんだけど、中々追いつけなくてさ 信代が引き留めてくれたおかげで、助かったよ」お茶ズズ… 信代「ちょっと止めておくれよ、そんな大層な事をするつもりは無かったんだからさ …ただ」チラッ 澪「ただ?」チラッ 女の子1「このお団子おいしーね」モグモグ(右ひざに絆創膏) 女の子2「みたらし団子っていうんだよ」モグモグ 女の子1「へぇー、良く知ってるね、凄いなぁ」キラキラ 女の子2「そ、そうかな?」テレッ 女の子1「あ、照れてる」 女の子2「えへへ」 女の子1「ふふっ」 (信代、頬杖をつきつつ目を細める) 信代「……小さいころの妹が、あんな感じだったかな、と思ってさ」 澪「……」 信代「3つ下なんだけどさ、アタシに似ず器量良しなんだわ、これが 母ちゃんに似たのかな、はは」 澪「」クスリ 信代「こないだ初めて里帰りの許可が下りたから、早速実家に帰ったんだけどさ、驚いたね たった3年見ない内に、すっかり大人びていたよ、しかも別嬪さんときた アタシの後ろをついて回っていたような娘が、ずいぶんと成長したもんだって思ってさ」 澪「…嬉しそうだね」 信代「そりゃあ嬉しいさ 父ちゃんの居ない間は、あの娘が弟たちの世話をしていたんだもん いわば頑張った証さ、誇らしくないわけないよ」 澪「ふふ、そっか」 女の子2「あ、夕焼け」 女の子1「そろそろ帰ろうか あの、お姉さん」 澪「ん?」 信代「なんだい?」 女の子1「お団子、ごちそうさまでした!」 女の子2「絆創膏も、ありがとうございました!」 (女の子1、女の子2を見て、自分の膝を見る 顔を見合わせて、クスクス笑う) 澪「はい、お粗末さまでした」 信代「困ったことがあったら、何でも言いな 姉さん達が助けてあげるからね」 (女の子1・2お辞儀する) 女の子2「じゃあ、行こっか」 女の子1「うん」 (少し歩いて) 女の子1「」チラッ 澪・信代「ん?」(手を振りながら) 女の子1「」ペコッ 女の子1「」タタタ… 澪「……ふふっ」 信代「可愛いお辞儀だこと」 信代「……」 (信代、目を細めつつ見守るが、少しずつ悲痛な表情に変わっていく) 信代「・・・」 信代「……私も、頑張らないと、な」 澪「……信代?」 信代「」ハッ 信代「ア、アハハ、何でもない何でもない あ、そういえば買い物の途中だったんだっけ、急いで帰らないとさわ子さんに叱られるわ じゃ、また後でね」ガタッ 澪「お、おい、信代?」ガタッ 信代「あ、そうだ さっきの澪、格好良かったよ あの竹串でヒュッって奴」 澪「」ギクッ 信代「いやぁ、芸者ってのも奥が深いんだね あれも余興の一つなんでしょ? あとで教えてよ」 澪「あ、ああ、後で、ね」 信代「さあて、急げ急げ~」 タッタッタッ・・・ 澪「……」ポツン 澪「…はああああ、 危うくバレるかと思ったよ 用心しよう、ホント」 ・ ・ ・ タタッ 信代「あ、そうだ この間注文した反物、今日取りに行く約束だっけ ええと、確か」 (着物の衿から覚書を取り出す) 信代「ああ、やっぱりそうだ 危ない危ない、忘れるところだった さっきので気が動転していたんだね、気をつけないと」 (無意識に胸元に手をやる あるはずの感触が、無い) 信代「……え?」 (衿をかき分けて、慎重に探す) 信代「……無い」 (焦りながら袂や帯周りを調べる) 信代「……無い」 (足元を入念に調べようとして、下げた頭が通行人にぶつかりそうになる よろけながらも、目線を地面から離さず探し続ける) 信代「……無い!」 (また胸元をさぐる) 信代「…お守りが…!」 (呼吸が少し荒くなり、身体が小刻みに震える) 信代「お守りが、無くなってる…!!」 ・ ・ ・ (同時刻) 信代父「……」ザクッザクッ 信代父(苗の生育はおおむね問題ない 質が落ちたせいもあってか種もみの量こそ減ってしまったが… 土の乾き具合からして、そろそろ耕しても良い頃合いのはずだが、しかし)ザクッザクッ 信代父「」ペロッ (土を舐める) 信代父「くっ……」ペッ! 信代父(駄目だ駄目だ、なんだこの土は…! こんなのじゃまともに米が育つはずがない どうしてこうなった……!!) (あぜ道に座り込み、両手で顔を覆う 満開の枝が揺れて、信代父の右手に桜の花びらが張り付く 信代父、指の隙間から隣りの麦畑を見やる) サア… (風にそよぐ麦の穂 ほとんどが枯れ落ち、まばらな黄金色の畑 枯らすまいと、子供たちが必死に手入れをしている) 信代父(春作※の麦も芳しくない… これも土が悪いからだ このままじゃ借金はおろか、生活することだって出来ない 内職だって、とても追い付けるような稼ぎにはならん) ※春作:春にとれるように栽培した作物 (子供たちから顔を逸らし、呻くように呟く) 信代父「くそ、どうしたらいい、 どうしたら……!!」 (桜の木に潜む人影) 男1「……」 ・ ・ ・ (その夜 吉良酒造、吉良我ノ助邸の座敷 庭に咲いた桜を眺めながら、杯を傾ける) 吉良「……それで、首尾は?」クイッ 男1「上々にございます あの一家には、もう支払う術はありますまい」 吉良「……」トクトクトク 男1「“例の案件”につきましても、すでに手筈は整っております」 吉良「奉行所の方は」グビリ 男1「抜かりはございません 多少“騒がしく”なってもアチラは関知せぬようです あとは、旦那様のさじ加減一つで、如何様にも」 吉良「ふ……」グビ… 吉良「今宵は花見酒だ、お前も呑め」 男1「は……それでは、ご相伴にあずからせて頂きましょう」 (男1が杯を受け取ると、即座に酒が満たされる 満開の桜が杯の上で波打つ) ・ ・ ・ (琴の調べと共に、杯を持つ人物が切り替わる 同時刻、芸者小屋“桜が丘”のとある座敷) 紬「♪世界は贈り物 開けていいよね!」 紬「」♪シャララン シャララン (客1、杯に映った桜を視界の端に入れつつ、杯を傾け相好を崩す) 紬「」♪シャララララーン 客1「……素晴らしい、また腕をあげたな」パチパチパチ 紬「お褒めにあずかり光栄ですわ でも、まだまだ至らぬ身にございます」ペコリ 客1「謙遜はよせ 話に聴くと、その調べは自前で作ったそうではないか 俺とて商いで成功した身分ではあるが、唄の才能はからっきしでな だからこそ、素直に尊敬しておるのだ」 紬「…おとうさん※も、お唄の経験が?」 ※:客が経営者などであった場合の呼び名 客1「長唄を少々な ……だが俺には、実家の稼業を継ぐ方が向いていたようだ」クイッ 紬「人には得手、不得手というものが御座いますものね でもこうして、おとうさんと知り合えたのも、ご自信の実力と運があってこそ その僥倖に、運命を感じざるを得ませんわ」ギュッ 客1「」ムラムラッ 客1「む、むぎゅアーーっ!!」ガバチョ 紬「キャッ!」スカッ 客1「(軽く躱された、だと…!)くっ!」ガシッ 紬「アッ!!」 (客1、紬の腕を掴んで引き寄せる) 紬「おとう、さん……お戯れを」ニコッ… 客1「紬奴、俺を旦那※にせぬか? 俺の廻船問屋はもうじき樽廻船問屋※になる あの吉良酒造の傘下だ、経営規模はますます広がっていくだろう お前1人面倒見るくらい、わけは無い」 ※旦那:ここでは、芸者のパトロンを指す。旦那は、芸者を一生涯面倒を見なければならなかった ※樽廻船問屋:酒屋が廻船問屋を買収し、独自の輸送ルートを築き上げた (客1、紬に唇を寄せようとするが、すぐに躱される 紬、必死にもがくが、客1がしがみ付いて離れようとしない) 紬「…!ご冗談が、過ぎますわ、もう、おやめ、下さいまし」 客1「…俺の物になれ、紬!!」スッ (紬の胸元に手を入れる) 紬「! この!!」サッ ポキリ!! 客1「……え?」 (違和感に気づいて腕を引き抜く) 客1「」ダラリ (右手が、手首に張り付くように折れ曲がっている) 客1「…! う、うわあああああ! 手が! 手が! 折れ……!!」 ポキリ!! 客1「…!……て無い?」キョトン(手が元通り) 紬「……」スッ 客「…あれ? 今、確かに折れ…あれ?」アセアセ 紬「…おとうさん、さすがにお戯れが過ぎましたわね」 客1「」ビクッ 紬「“芸は売っても身は売らぬ” それが“桜が丘(ここ)”の、いえ芸妓遊びのお約束でございましょう よもや、それをお忘れになったと?」 客1「い、いや済まぬ 何と言いますか、疲れてまして、はい」ビクビク 紬「まあまあまあまあまあまあ、樽廻船問屋のご主人ですものねぇ、大変ですわ~ 心身ともに、さぞかしお疲れの事でしょう、お察しいたしますわ」 客1「6回言った辺りからして皮肉にしか聞こえん…! い、いや済まぬ俺が悪かった」 紬「いえ、私も言い過ぎましたわ、申し訳ありません おとうさんをお持て成しするのがお仕事ですのに、私ったら…」 客1「紬奴…」ジーン 紬「ですから」ゴゴッ 客1「……ん?」 紬「私が責任を持って、おとうさんの身も心も癒してさしあげますわ 私、按摩の経験もありますの」ゴゴゴ 客1「ちょ、紬奴?」ビクビク 紬「」スッ パキパキパキッ (紬、右手をかざしてゆっくり握ると、呼応するように骨が鳴る) 紬「……そう、死ぬほど良くして差し上げますわ」ゴゴゴゴゴ… 客1「ちょ、ちょっと止め、 ア、ア、」 客1「アッーーーーーー!!」ポキポキポキィッ! ・ ・ ・ (そのころ、別の御座敷では…) ♪ベベベベベベベーン(三味線の音) 唯「♪ま~どの サン~サも~デデレコデン~」 とみ(可愛ええ) 唯「♪は~れの サン~サも~デデレコデン~」グルグル 老人(可愛ええ) とみ「…おや、線香が尽きたようだね もう時間かい」 老人「早いものじゃの、じゃあ唯奴や、また来るからの」 唯「はい、ありがとうございました!!」 老人(元気で可愛ええ)ウン 老人「…そうだ。唯ちゃんに、これをあげよう」スッ 唯「……へ?」 ・ ・ ・ (玄関口) 唯「お気を付けてー!」 (老人2人が去ったのを見届けて、中に入る) ガラガラ、ピシャリ 唯「わぁい、お小遣いまで貰っちゃった お見送りの、あの嬉しそうな顔といったら もうね、芸者冥利に尽きるよ」ホクホク (座敷のふすまが開く) ガラッ 唯「…あ、別のお客さん出てきた」 スッ 紬「表までお送りしますわ」 きれいな客1「ああ、ありがとう わざわざ済まないね」 (なんかオーラが白い) きれいな客1「いやぁ、それにしても君は按摩も素晴らしいんだね 憑き物が落ちたみたいに身体が軽い 何か生まれ変わったような気分だよ」 紬「まあまあ、喜んでいただけて嬉しいですわ」 唯(あんなお客さんいたっけ…?) きれいな客1「(唯を見つけて)お、君もお疲れ様 がんばってね!!」白い歯キラッ 唯「」ペコリ (お辞儀した後、きれいな客1の邪魔にならないように立ち去ろうとする 紬が笑いかけ、唯も笑みで応える) 紬「……今度いらっしゃるときは、私のお友達を連れてきても良いでしょうか?」 きれいな客1「ん? それは構わないが、どうしてだい?」 紬「さっきの曲は、本当は私と、私の友達みんなで作り上げた物なんです 私たち…5人の、曲なんです」 唯「ムギちゃん…」 唯「」ギュッ(俯いて三味線を抱きしめる) 紬「今は故あって4人になりました でもその4人で、もう一度、あの曲を演奏させては頂けないでしょうか? 放課後茶会(ほうかごちゃかい)として、もう一度…!!」 きれいな客1「……」 紬「……」 唯「……」 きれいな客1「…分かった。その、“放課後茶会”とやらを指名すればいいんだな?」 紬「」パアッ 紬「ありがとうございます!!」ペコッ! 唯「……」 ・ ・ ・ 3
https://w.atwiki.jp/fairy-waterfall/pages/136.html
書くつもりはなかったオリンピア編本番w 一応、色々萌え、滝にポロポロ投下してたSSから繋がってるよ シェリルの柔らかな身体を壁に押し付け、貪るような口づけを交わす。 アルトは強引にシェリルの膝を割り開くと、彼女の愛液に濡れたショーツ越しに己の太腿を押し付けた。さらに、すっかりと熱を取り戻した劣情をシェリルの下肢に擦り付け、ゆっくりと腰を揺らす。 「……あっ」 敏感な秘所と、ガーターストッキング越しの太腿への焦れったい愛撫。 縋り付くように、アルトのジャケットの肩口を握り締めていた白い手が、高く結い上げられた彼の絹糸のような髪をクイッと引いた。 頭皮に走るむず痒いような感覚に、アルトは一旦濡れた唇を離し、シェリルの潤んだ青い瞳を見つめる。 「…ん、なんだよ……」 言いながらも、シェリルの下肢に挟まれてしまった己の足を引き抜き、代わりに不埒な指をシェリルの秘所に這わせた。 溢れ出したシェリルの愛液が染みて、アルトのボトムスの太腿部分は、濃く色を変えている。 ぐっしょりと濡れ、張り付くショーツの上から秘所を撫で上げると、鈍い快感にシェリルは身体を震わせた。 「…あっ、ん…。あると、やだぁ…」 「何が、やなんだ?」 意地悪く笑って、アルトは問う。ショーツの上を往復する指はそのままに。 「…さわっ、て……ちゃんと、触って…」 熱を孕んだ上擦った声で、欲に濡れた瞳で、シェリルはさらに先を懇願する。 アルトは背筋を這い上がる衝動に、ぶるりと身体を震わせた。 焦らしたつもりが、煽られた。 「そんな煽って…知らねぇぞ…」 チッと舌打ちをして、アルトはシェリルのショーツの隙間から指を差し入れる。 「…はは、大洪水……」 シェリルの下の唇から潜らせた指は、蠕動する内部に奥へ奥へと導かれる。 アルトの指から愛液が滴るほどに潤っているシェリルの内部だが、久しぶりのせいかいつも以上にきつい。 「あっ、あっ…ん」 中を探るアルトの指に、シェリルはさらに刺激を求めて腰を揺らす。 堪らなくなって、シェリルはアルトの熱に手を伸ばした。 「…あ、る…と、もう…がまん、出来、ない…」 先走りに濡れるアルトを先端から撫で下ろし、シェリルは熱い吐息を彼の耳元に零した。 「…っおま、…どこで、そんなこと、覚えてくるんだ……」 シェリルからの愛撫に、ともすれば射精してしまいそうになったアルトは、熱を散らすように、ゆっくりと息を吐いた。 「挿れるにも、多分、まだきついぞ?」 「いいからぁ……」 ゆっくりと中に挿れた指を動かしながら気遣うアルトの言葉にも、シェリルは首を振る。 立ち昇る女の色香にアルトはゴクリと喉を鳴らすと、濡れた指を引き抜きシェリルのショーツのサイドストリングを解いた。 そして、シェリルが触れている己の熱に手を伸ばしかけ、アルトはハッと動きを止める。 「…あ。あー…、ダメ、だ」 天を仰いで溜め息を吐くアルトに、シェリルは瞳を瞬かせた。 「……え?」 「シェリル、俺今日、スキン持ってないわ…」 欲を押し殺すように、細く息を吐きながらアルトは言う。 思わず触れたままのアルトの雄に目をやり、ハッと我に返って頬を染めたシェリルは、一瞬のあと、顔を俯かせて頷いた。 「…いい、わ」 「え」 「そのまま、して。…ツアー中は、ピル、飲んでるって、…知ってるデショ」 頬を染めたままアルトから視線を外し、シェリルは少し唇を尖らせて言う。 「…そうだけど」 「いいの!…中に…、欲しいの…」 自棄になって語気を強めて言うも、言葉尻は羞恥に震える。 耳朶まで真っ赤に染めながら雄を強請るシェリルに、アルトは理性をかなぐり捨てた。 「……ほんとに、お前は……っ」 吐き捨てるように呟いて、アルトはシェリルの片脚を抱え上げると、その身体を壁に押し付け、一気に灼熱を突き入れた。 「…あぁっ…!」 待ちわびた男の熱に、シェリルは白い首を仰け反らせて嬌声を上げる。 容赦ない突き上げに、つま先に引っ掛けた華奢なヒールのミュールが脱げ落ち、毛足の長い上等な絨毯敷きの床が、それを優しく受け止めた。 「あっ、あん…ある、と…っ」 背中は壁に押し付けられているが、細いヒールのミュールを履いた片脚だけで身体を支えるには不安定で、シェリルはアルトの首に腕を回し必死にしがみつく。 「アルト、ある、と……!」 ギュッとしがみつかれ思うように動けないアルトは、片脚で身体を支えガクガクと震えているシェリルの膝裏に手を差し入れると、力任せに抱き上げた。 「あっ……あぁぁ…!」 両脚が宙に浮いた状態になり、自重でアルトを最奥まで銜え込むことになったシェリルが、一層高く声を上げる。 身体の中心を貫く楔に深い安堵を感じながら、シェリルはアルトの動きに合せぎこちなく腰を振る。 高く響く水音と、肌を打ち合う音が響く。 「…アルト、どうしよ…もう、いっちゃう……っ」 熱く荒い吐息と共に耳元で零された言葉に、アルトも下腹部をブルリと震わせる。 「…あぁ、俺も…もう」 「アルト、あっ…あぁ…ん」 「シェリル…、中に、出していいか?…お前の、中……」 子宮口をこじ開けるような勢いで突き上げてくるアルトに、シェリルは必死に頷いた。 「いい、いいから…!アルト、中に、出してぇ…!」 啜り泣くようなシェリルの嬌声に、アルトはグッと息を詰めると、彼女の子宮めがけて熱い飛沫を迸らせた。 「あっ、…あぁぁ!」 腹の中でビクビクと跳ねる肉棒を銜え込んだ内部が、最後の一滴までも搾り上げるかのように蠕動し、シェリルも気を放った。 子宮を満たす白濁に、恍惚とした笑みを浮かべながら。 触れ合わせた胸から、早鐘を打つ心臓の鼓動がおさまらない。 アルトは抱え上げていたシェリルの両脚をゆっくりと床に下ろす。 「…平気か?」 「…ん」 腕と腰を支えて立たせながら、ふと足元に視線を落としたアルトは刮目する。 「うわぁぁ……。これ、怒られるか?」 「え……?」 アルトの視線を追って、己の足元に目をやったシェリルはかぁと赤面した。 「……アルトのせいじゃない」 「俺かよ!」 シェリルの白い脚を滴り伝った愛液と白濁が、絨毯に染みを作っていた。 そのそばに、挿入時に剥ぎ取ったショーツとミュールが絨毯の上に転がっている。 そういえば、服など何一つ脱がしていない。 あまりの余裕のなさに、お互い気恥しくなって俯いた。 「…お前、今日はどうしたんだ?」 情事後の気だるくも心地好い空気の中、優しくシェリルの髪を梳きながらアルトがぽつりと口を開く。 結局、お互いの熱が冷めやらず、ベッドに雪崩込んで二回戦を始めてしまったわけだが。 「…なにが?」 「あんなに積極的なの、滅多にないだろ」 「………別に」 アルトの言葉に、シェリルはシーツを被る。 「なに拗ねてるんだよ。言ってみろよ」 からかうようなアルトの物言いに、シェリルは唇を尖らせる。 「……アルトが悪いんだから」 「へ?」 ぽつりと零れたシェリルの言葉に、アルトは間の抜けた声を上げる。 「アルトが悪いのよ。久しぶりに会えたのに、女の子たちにキャーキャー言われて…」 アルトに非がないことは分かっているから、言葉尻が弱い。 「え。言われてたか?お前が、じゃなくて?」 シェリルの言葉に、アルトはきょとんとして首を傾げる。 2週間振りにアルトが護衛に付くことになってシェリルは浮かれていた。 午前中はツアーラストのオリンピア公演に向けて、スタッフと打ち合わせをし、昼から夕方にかけて雑誌のインタビューを数本受け、そして最後がウェブマガジン用の動画撮影だった。 紙媒体とは違い、ウェブ物は撮影しチェックが済めばすぐにアップ出来るのが楽でいい。 今回の動画も来週末には配信される予定だ。折角だからと、シェリルは季節に合わせ衣装に浴衣を選んだ。 「へぇ、浴衣、ですか?」 「えぇニホンの夏と言えば浴衣、なのよ?」 得意気なシェリルの言葉に、ヘアメイクの女性は感嘆の声を漏らす。 「シェリルさんの和装って、想像つかなかったけどいいですね!ご自分で着付けされたんでしょ?どこで習ったんですか?」 「うふふ。ヒミツ」 悪戯っ子のように笑って、シェリルはその話題を煙に巻く。 病気療養中に早乙女邸で過ごしたときに着付けを習ったなどとは、誰にも教えるつもりはない。 振袖も問題なく着付けられるのだから、浴衣の着付けなど朝飯前だが。 「でも…ちょっと着付け大胆すぎたかしらね…」 姿見の前でくるりと回ってシェリルはしばし考える。ここはやはり大先輩の意見を聞くべきだ。 「アル……早乙女大尉」 「…はい」 「ちょっと…」 控え室のドアを開け、シェリルが廊下で待機していたアルトを呼び寄せる。 「どうした?」 護衛として付いているので、必要以上に親しい素振りは出来ないが、アルトは優しい声を潜めシェリルを見る。 「うん…。あのね、これどう思う?」 向けられる眼差しの優しさに胸をときめかせながら、シェリルはアルトの前でもくるりと回ってみせた。 「へぇ…。その浴衣の意匠に兵児帯を合わせたのか。斬新だけど、悪くない。お前らしくていいよ」 濃紺の浴衣の裾には、白い藤の花が大胆にあしらわれている。 大人っぽいシックな浴衣に、薄い紅色と金地のふわふわの兵児帯の重ね付けが、シェリルの女性らしさを引き立てる。 アルトの言葉にシェリルが小さく笑を零すと、アルトも瞳を細めて柔らかく笑う。 その瞬間、シェリルの肩越しに、撮影スタッフの女の子たちの黄色い歓声が聞こえた。 耳聰いシェリルがそっと背後に聞き耳を立てる。 何あのイケメン!やだ、なにあの笑顔、超美人!っていうか、SMSの隊服着てるってことはシェリルさんの護衛?え、彼氏じゃないの?でも、超お似合い。もしフリーだったら連絡先聞いちゃおうかなぁ 聞こえてきたのは、アルトを讚美する言葉たち。もちろん、シェリルも悪い気はしないのだが。 「……シェリル?どうした?」 「………なんでもない」 なぜか途端に気持ちが急降下し、シェリルは唇を尖らせた。 婚約のことは内緒だから、SMSでもフロンティアの一部にしか知られていない。 その証拠に、急用が入ってしまったクランの代わりに護衛に付いた、オリンピア支部の年若い隊員は、シェリルとアルトが醸し出すそこはかとない色気に当てられ、今日一日ずっと居心地の悪そうな顔をしていた。 あーぁ、早くアルトのお嫁さんです!だから、アルトに手を出さないでね!って大声で宣言したいのに…と、シェリルは心の中で溜め息を吐いたのが、数時間前のこと。 「んもう!どうしてそう自覚がないの!」 「だって、ほかの女なんて興味ないし…」 「アルトが興味なくったって、女の子たちは興味津々なのよ、もう!アルトはあたしのなのに……っ」 そこまで言って、シェリルはしまったと口を噤む。 「…俺がお前の、なんだって?」 ポロリと零れたシェリルの可愛い本音に、アルトはニヤニヤと緩む頬を撫でながら問う。 「なんでもない!」 かぁっと頬を染めて背中を向けてしまったシェリルに、アルトは相好を崩す。 「馬鹿だな、お前」 「なんですって!」 笑みを滲ませる声色に、シェリルは思わずアルトを振り返り、声を上げる。 「…なにも心配することなんてないのに、婚約者殿」 ふわりと笑って、アルトはシェリルの首から下げられた華奢なネックレスに指を絡める。ペンダントトップ代わりに付けられたのは、エンゲージリング。 「…分かってるもん」 アルトがあたししか見てないのは。 それでも、自分の婚約者が女の子たちに騒がれるのは誇らしくあるが、面白くはない。 複雑な乙女心なのだ。 拗ねた振りをして、自分の胸に顔を擦り付けてくるシェリルに、キスの雨を降らしながらアルトは言う。 「あのさ、なんだかんだ忙しくて大まかにしか話進めてなかったけど…」 「うん?」 「…お前、来年は音源製作中心にするんだよな?」 「…うん」 「ん、良かった。スケジュール変わってなくて。俺も来年は長期休暇取れるから、さ。そろそろ、式の準備始めないとだろ?お前が憧れてたジューンブライドだ」 「…ジューンブライド」 いつかの病室で憧れだったと教えたことがある。それをずっと覚えていてくれたアルトに、シェリルは幸せそうに瞳を細めた。 「そう。ウェディングドレスのデザインもするんだろ?…あれ、一年近く猶予あるから、準備間に合うんだよな?」 なんせ初めてだから段取りが分からないと眉を下げるアルトに、あたしだって初めてよ!とシェリルは笑う。 「そっか、ジューンブライド…。あ。ね、アルト」 「ん?」 「白無垢!」 「え?…あぁ」 子供のようにキラキラと目を輝かせるシェリルに、アルトは笑みを零す。 「白無垢着たいわ!アルトのお母様の…。お義父様にお見せしたいの!」 「……そこで、親父かよ」 愛しい婚約者の口から零れた言葉に、アルトはガックリ肩を落とす。 「…なによ」 「先ず、俺に見せたい、だろ?」 「あら」 拗ねたように唇を尖らせるアルトに、シェリルは小悪魔の笑みを浮かべる。 「…ね、あたしがフロンティアでのライブで会場にした、教会ステージ覚えてる?」 「そりゃ…。忘れるわけ、ないだろ」 「ふふ。あそこ、バジュラ本星に移築保存されたらしいんだけどアルト、知ってる?」 「いや…俺たちがオリンピアに移ったあとのことだから、直接見てはいないけど…」 そう言えば矢三郎兄さんが言っていたな、とアルトは思案する。 「あのステージ、使えないかしら。…あたしが子供の頃に、花嫁を夢見て過ごしたギャラクシーの教会を模してるの……」 「あぁ、そうだったな。いいかもな。もともとお前のステージ用に作られたんだ、新政府軍に申請出せばすぐに許可降りるんじゃないか?」 「白無垢は、早乙女のお屋敷でお義父様や矢三郎さんに見てもらって…。ウェディングドレスは、大切なお友達だけを呼んでホームパーティーみたいなお式で着るの!」 どう?と夢見るような瞳に見つめられて、アルトは優しく微笑み返す。 「そうだな。婚約は内密にしたけど、結婚式は、多少のパパラッチくらいなら我慢してやるか。なんせ、銀河の妖精の挙式だからな。全銀河の野郎どもに、俺の嫁だ!って宣言しなきゃだな」 「そうよ、アルトは幸せ者なのよ!」 数時間前、ひとり拗ねていたことを思い出してシェリルは瞳を潤ませる。 アルトは全部、分かってくれているのだ。 「あぁ。銀河一幸せな亭主だ」 すんなりと告げられた言葉に、シェリルは思わずきゅんとして眉を下げ、慌てたように言葉を繋げる。 「じゃ、じゃぁ、次のオリンピア公演が終わるまでに、ドレスのデザイン纏めなきゃ!」 善は急げよ!と今にもベッドを抜け出して画用紙に向かってしまいそうなシェリルの身体を抱き寄せ、アルトは苦笑する。 「おいおい。今日は、このままゆっくり…だ」 なんならもう一回戦出来るぞ?とシェリルの白い背中に下腹部を押し付けるアルトに、シェリルはぴくっと肩を揺らした。 「……来年は、もうピル飲むのやめようかな」 そっと背中を振り向き、チラと上目遣いに呟かれた言葉に、アルトはかぁっと赤面した。 「…お前、不意打ちすぎる……」 思わず口元を抑えて唸るアルトに、シェリルも頬を染めて笑い返した。 END
https://w.atwiki.jp/kkjs/pages/502.html
住人の萌え語りの流れから 見られている。ひたすら見られている。ゼシカはとうとう隣に座るククールを振り向く。「~~~いい加減にしなさいよッ!!」「だってゼシカが本当に可愛いから」「それはもういいわよッ早く朝ごはん食べなさいってばッ!!」「可愛すぎて目が逸らせない」「逸らせて」「嫌だね」呆れと、羞恥で、ゼシカは目をつぶり押し黙る。頭痛がしそうだわ、と呟く。それでも頬は赤い。このバカはテーブルについてから、朝食にまったく手を付けていないのだ。向かいにはとっくに朝食を終えて、音を立ててコーヒーを啜るエイトとヤンガスが。2人とも何も言わないのが余計に嫌だ。死んだ魚のような目で遠くを見ないでほしい。「……ククール。時間がないの。さっさとご飯食べて」「いらねぇよ。お前見てると胸いっぱいで苦しいんだ」「苦しいなら見なけりゃいいでしょうがっ」「恋は苦しいものさ」ついにゼシカはおでこに手を当ててうつむいてしまう。どうしたらいいのだろう、この浮かれポンチを。「……」ゼシカは考え、決心する。ふいに顔をあげてククールの目線と真っ向から向かい合うと、「わかったわ、好きにしなさい。私も好きにするから」そう言って、ククールの前に用意された朝食に、フォークを豪快に突き刺した。ずいっと突き出されるそれに、ククールが軽く身を引く。ゼシカの気の強い瞳。断固として曲げない時の少しわがままな表情。言われたとおりにそれを間近にじっと見つめて、ククールはますます相好を崩して呟く。「…かーわいい」その途端開いた口の中に押し込まれるフォーク。ククールはごく自然にそれを咀嚼しながら、さらにニヤけた顔でゼシカを見つめ続ける。ゼシカは次から次へと彼の口に朝食を詰め込むことに専念した。だって目が合えば、こちらが負けることはわかっていたから。ゼシカの差し出す山盛りのフォークを躊躇なくパクリとくわえるククールは、必死で目を逸らし続けるカワイイ恋人の赤い頬が愛しくて仕方なかった。なんとか全てを食べさせたゼシカは、はあっと疲労に近いため息をつく。「やっと食べたわね…まったく、子供じゃないんだから…」そう言いかけたゼシカの腕を、ククールが強引に引っ張り思い切り顔を近づけた。「まだ食べ終わってないぜ」「な、なんでよ…ちゃんと全部…」「見てるだけじゃ、我慢できない」一気に顔を真っ赤にさせたゼシカの頬に口付けながら、「ちゃんと残さず食べなきゃ…」ククールの口唇が、ゼシカの口唇を丸ごと食べた。仲間の鉄拳制裁がくだるまでの間、2人はおいしい朝食をむさぼったのだった。
https://w.atwiki.jp/kakiterowa/pages/376.html
生い茂る木々のただ中、吊るされた女の前で争うは二人の男。 片や自動人形吉良パンタローネ、片や変態魔術師レザードルーキー。 本来なら「私の為に争わないで!!」とでもいうべき状況も、 男二人がこれでは台無しである。 ってかそれ以前にお姉さま、あなたのロワ内性別結局どっちなんですか!? などなど突っ込みたいこと多々あれど、そんなものは置き去りに戦いは続いていく。 宙を駆ける空気弾と天より降り注ぐ光の槍。 両者ともに飛び道具の使い手だが戦況は圧倒的にパンタローネの不利であった。 「くそっ!」 零になる空気残量。 こうなってはパンタローネは回避に徹するしかない。 ルーキーから急いで距離をとりつつ、木々を盾に身を隠す。 幸いルーキーが攻撃手段に選んだイグニードジャベリンやダークセイヴァーは、 障害物のある地形に向いていない魔法である。 隠れている間はそうそう当たるものではない。 ルーキーとて無論そのことは承知済みだ。 それでも彼がこの二つの魔法を主軸にしているのは、その連射力に他ならない。 そう、今現在戦況を支配しているのは、まさに連射できるか否かであった。 「やれやれ、しぶといですね」 掌のピストルをくるくる回して遊びながらルーキーは溜め息をつく。 疲労が少ない魔法を連射しつつ、時々できる隙をピストルでカバーする。 相手の弱点を計算に入れての、一部の隙もない戦術である。 ファイアランスで森を焼き払うというのも考えたが、 自分やお姉さまも巻き込みかねないので却下した。 ピストルの銃弾に限りがあるのが欠点だが、そこはレザードなルーキーだ。 抜かりは無い。 「では、そろそろとどめといきましょう」 何度目かの空気弾をテトラカーンで弾き返し、 森へ逃げ込むパンタローネを見詰めつつレザードが告げる。 パンタローネが再補給するまでにかかる時間は大体掴んだ。 軽めの大魔法一発なら十分唱えきれる。 「我、久遠の絆絶たんと欲すれば、ことの刃は剛魔の剣と化し、汝を討つだろう!」 響く呪文にお姉さまが表情を変える。 VPもプレイ済みなお姉さまは気付いたのだ、ルーキーの狙いに。 「パンタローネ、逃げて!」 その声に事態を察したパンタローネが何かをデイバックから取り出そうとするが、 ルーキーは気にも留めない。 対ジョーカーにおいて対主催であるパンタローネが戦力を温存する必要は無い。 よって大したことのない支給品だと推測したからである。 「ファイナルチェリオ!!」 呪文の終節と共に巨大な剣が天より姿を現し、木々ごとパンタローネを刺し穿つ! 「ガハッ」 胴より分かたれ、上半身が千切れ飛ぶ。 人形とはいえ初めて直に目にする惨状にお姉さまが歯を食いしばる。 まだ泣くわけにはいかないと。 私を助けようとして死んだパンタローネの為にも必ずルーキーを倒してみせると。 だがその意志も強く睨む眼も、ルーキーを喜ばせるにしか至らない。 「ふははははははは、そうです、その眼ですよ、お姉さま。 私はあなたのその美しくも強い心に惹かれたのです」 だからこそ、お姉さまは悔しかった。 自分にはこの男を喜ばせることしかできないのかと。 いたたまれなくなって思わず眼を逸らす。 そして彼女は見た。 空飛ぶ人形を! 「なっ!?」 宙を舞うパンタローネがルーキーに激突し彼を両腕で抱え込む。 「っは、自動人形はなあ、首だけになってもそうすぐにはくたばらねえんだよおおおおお!!」 下半身を失ったパンタローネは、しかし右腕に新たな力を装着していた。 名をカセットアーム、仮面ライダー4号ライダーマンの武装である。 相手の上半身が吹き飛ぶのを確認しルーキーがお姉さまの方に向いた隙に、 彼はロープアームに変形させ木にフックを打ち込み機会を覗っていたのである。 「なるほど。いやいや恐れ入りました。対象ではなく自分の方をロープを回収することで動かすとは。 ですがいけませんね。私を捕らえるのに両腕を使っていては、うまく攻撃できませんよ」 「安心しな、こんな重心も定まらい状態じゃあ、どのみちうまくいかねえさ」 だからと、パンタローネは己が左腕に目を向ける。 否、そこに握られたダイナマイトに向って。 カセットアームをパンタローネが温存していたのは、 単にその多彩性が危険視していたルーキーや脳内補完に対するカウンターとして役に立つと考えたからに他ならない。 だがダイナマイトは違う。 もしも自分の中に芽生えた吉良の意思を抑えられなくなった時の自決用だ。 全く、どうせだからスタンド能力も目覚めてくれたらこうも苦労しなかったのに。 まあ仕方がないか、あの力はボマー氏の方が似合っているのだから。 いいや、とじじじと短くなっていく導火線を見て思い直す。 爆弾類が支給されていただけでもいいとしよう。 距離もとったしお姉さまが巻き込まれることもない。 「お姉さま、吉良はね、マリアさんが死んだときにすごい悲しんだんです。 ただその奇麗な腕を惜しんでかはわかりませんがね。 ははっ、私今かなり出鱈目な口調ざんすね」 ああ、きっと吉良の浸食が激しくなってきているのだろう。 俺の意思と混ざっているから今は口調が変なくらいで済んでいるが、 このままじゃ完全に吉良化してしまうのも時間の問題だ。 そんなのはごめんだ。 だからちょうどいい、俺が俺であるうちに、お姉さまの敵をまとめて葬れるのだから。 「それじゃあ、お元気で。っておかしいこと言ってるな俺。さようならお姉さま」 ジッという音がして、ダイナマイトが爆発する。 轟音、爆炎、赤い世界。 パンタローネの世界が閉じていく。 ただどうしてか、その世界には崩れ落ちる人間の姿が足りなかった。 【パンタローネ@漫画ロワ 死亡】 燃え上がる炎を見つめ、お姉さまはふと思った。 ああ、馬鹿だなあ、パンタローネ、そんなことしても誰も喜ばないのに、と。 大体あんた私のことちゃんと考えていたの? 今私動けないんだから、山火事になってたらシャレじゃあ済まなかったのよ。 炎が凍る だから、さ。無かったことにしてよ。 吉良やマリアなんてギャルゲロワの私にはわからないことなんだからさ。 私たち最初の話からずっと一緒に闘ってきたのよ? だったらさ、これからも私の背中守ってよ。 声が響く じゃないとさ、あんた本当に無駄死によ? 嫌でしょ、男なんだから。 私も嫌よ、こんなの燃え展じゃないし。 ねえ、ねえったら! 「やれやれ、不意をつくまでは良かったのですがね。 ペラペラしゃべってくれている間に転移魔法を発動できましたよ。 全く、暑苦しい人はこれだから扱いやすい」 炎を凍らせ、悠然と歩みよるは一人の男。 ルーキーだ。 彼の体はパンタローネの死が無駄だったと言っているかのように無傷である。 「うるさい!あんたがあいつを馬鹿にするな!」 お姉さまの罵声を受け、くくくと男は笑う。 「おや、失礼。あなたもあちら側の人でしたね。 ですがご安心を、今からあなたはエロス側の住人になるのですから! さあ、お姉さま、めくるめく官能の世界へ! もうあなたを助けてくれる人はいませんよ、 ふふふふ、ははははははははは!」 ルーキーの手がチャイナ服のスリットにかかる。 「この変態!!」 宙吊りにされた体制から無理に蹴りを放つも、軽く受け止められてしまう。 どころかルーキーは嬉しそうに足を撫で始める。 「失礼、まずは足から味わってほしいということですね くくく、パンタローネでしたっけ? 何やらお姉さまの手首に執着していたようですが、まだまだですね。 お姉さまはその全てが魅力的だというのに」 おおっと感極まった声をあげルーキーはお姉さまの足を堪能する。 素晴らしい張りである。 健康的でそれでもあたたかく柔らかい足のなんと揉み心地のいいことか。 掌に張り付くそれは、だが確かに弾力の感じられる足であった。 ふにふにと、指が沈む。 ぷにぷにと、押し返される。 「おおう、おおおおお!これがお姉さまの肌かあ!!」 まだふくらはぎだというのに既にテンションハイなルーキーは、 そのまま足を愛でつつ掌を徐々に上へと滑らせる。 お姉さまはせめてもの抵抗だと声すら出さずに耐える。 まだだと、その牙を心中へと沈めて。 そうと知ってか知らずかますますルーキーの手の動きはヒートアップする。 さわさわ、わきわきと撫で続けていた指が遂に膝裏へと達したのである! 「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」 ふにゅり。 そこのなんと温かいことか! しかもそれまでの張りがあった筋肉とは違い、 骨に覆われた皮や肉はまるで底なし沼のように指を受け入れていく! 沈む、沈む、お姉さまの体に、温かい肌に!! 「ふあはははははは、いい、最高にイイ!膝裏がこうも素晴らしかったとは、ははははは!」 もはやキャラが違う気がするがツッコミ禁止。 レザードは変態ですから。 膝裏を堪能したルーキーはついに太ももへとたどり着く。 「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」 パンパンだ!今度は膝裏とは逆に気持ちいいように指がはじき返される。 だが撫でてみるとどうだろう? 吸い付くのだ、温かく、そして汗で濡れた肌が。 もはやルーキーの興奮はマックスに達していた。 だがしかし、彼とて根は善良な書き手である。 このままいきなり「創世合体、ゴー、アクエリオン!」な展開にしてしまえば、 世界結界なりガイアの抑止力なりで詳細に描写されないのは必須である。 読み手の期待を裏切ることは避けたいし、自分もできるだけ長く快楽を味わいたい。 「となれば、答えは一つですね」 足への未練を振り払いルーキーは一度お姉さまより手を離す。 明らかにほっとした表情を浮かべるお姉さまに内心ますます悶えつつ、 ルーキーはお姉さまの正面に立ち、その服の中に、手を突っ込んだ! 「ひゃ!」 思わず声をあげるお姉さま。 さてここで諸君にルーキーが出した解決方法を提示しよう! 即ち着衣プレイである! 服を全部着たままなら15禁くらいで済むだろうという素晴らしい作戦さ! 決してルーキーの趣味だからではないゾ? 「さあ、めくるめく、む?」 言い訳完了で意気揚々だった彼だがそこで手に違和感を感じた。 温かくない。 気持くない。 これは違う。 恐る恐るそれを掴んだまま手を外に出すルーキー。 パッドだった。 「は?」 さすがのルーキーもぽかんとする。 「わるかったわね、パッドで!ほら、がっかりしたでしょ、だからもおどっか行ってよ!」 先程までの強がりはどこえやら、すっかり涙ぐむお姉さま。 あれ?パンタの死ってパッド発覚より悲しみ下なの? 対するルーキーの表情に浮かんだのは怒り。 あいするお姉さまに騙されていたといういか「もったいない」あれ? 「お姉さま、あなたは何か勘違いをなされてる」 「え?」 その余りにも真摯な声にお姉さまは完璧にのまれた。 気がつけばルーキーの口調がおかしくなる前のものに戻っていたことも拍車をかけたのだろう。 「あなたが知っての通り、レザードは変態です。 愛するレナスを我が物にしようと、ペド、ロリ、少女、女と様々な体を用意しました。 この意味がわかりますか?」 「あ~わかりたくもないんだけれど」 体ではなく心が大事ってことですよ!っと正当な物語なら言うだろうが、この書き手ロワではさに非ず。 「簡単な話です。彼にとって胸の大きさなどどうでもよかった。 いや、どんな胸でも女性のそれは男性にとって宝であるということですよ!!」 今やルーキーはレザードのキャラすら凌駕して熱く語り続ける。 響け、世の心理!! 大きさなどというまやかしに囚われた愚か者たちの眼を覚ませと! 同士の代弁者として高らかに宣言する!! 「ナイムネ、ペチャパイ、貧乳、胸、巨乳、爆乳。 そのどれもがそれぞれに素晴らしい魅力を秘め、キャラ達を昇華させているのです! 胸の大きさで優劣をつける?っは、くだらない、なんてアホらしい。 おっぱいは大きかろうが小さかろうがそこにあるだけで正義!! 全てのおっぱいはこの宇宙に存在する限り平等なのです!!!! ただベクトルが違うだけ。 わかりますか、お姉さま! あなたがやったっことはおっぱいに対する侮辱なのです!!」 「は、はあ」 何がなんやら、展開についていけないお姉さま。 そんな彼女の前でルーキーはにへらっと相好を崩す。 「っというわけで、お姉さま。胸も性別も気にしないので食べられちゃってください!」 ルパンルパ~ンとダイブし、そのナイチチに手が触れようとする。 さあ、ついにめくるめく官能の世界の扉が開かれ、 「ふあああああああああああ、ららめぇええええええええ!!」 すぐ閉じた。 お姉さまの母乳弾幕こと空裂乳刺驚(好きなセリフをあててね☆)によって。 心臓を貫かれ崩れ落ちるルーキー。 「はあ、はあ、はあ。私、遂に人殺しちゃったんだ」 木に吊上げられたまま、お姉さまは一人呟く。 ずっと一緒だった仲間を失い、未遂とはいえ襲われ、 遂に命を奪ってしまった彼女の胸中は、誰にも分からない。 ただ一つ、彼女の慰めになることがあるとすれば、 間違いなくルーキーは、この世で一番幸せな死に方の一つを迎えたということである。 ほら、見てごらん、彼の死に顔を。 そのだらしないまでの、呆けた顔を♪ 【◆yHjSlOJmms(ルーキー)@AAAロワ 死亡 死因:母乳】 【午後】【C-1 森】 【お姉さま@ギャルゲロワ】 【装備】:青龍偃月刀、ディー、胸に穴のあいたチャイナ服 【所持品】:支給品一式×2、首輪(ボイド@漫画ロワ) 【状態】:やや体温上昇、動揺、悲しみ、大木に手錠で拘束されてます 【思考・行動】 基本行動方針:殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出。 0:??? 1:ディーが復活したら手錠を はずしてもらう 2:戦う覚悟。 3:ハクオロの姿をした参加者……候補のロワは三つ(ギャルゲ・葉鍵・アニロワ1st)か。 ※容姿はくれないの長髪でスレンダーな美少女。というかまんま東方の中国w ※性別は未だ不明。 ※ディーにより東方キャラに変わる力を得ました。何に変わるかはディーの気分次第。確率的には咲夜が高い。 やばすぎる能力には制限がかかってます。 ※ディーは制限により弱まっています。そしてそれが原因でちょっと逝ってます。 ※ギャルゲ版最速の人の死体を見つけると、もしかしたらディーの力が少し復活するかもしれません。 また、その後ディーがどれだけ協力してくれるかは、次の書き手さんにお任せします。 ※胸はパッドです。 ※ディーも性別についてはしりません。 ※ディーは負傷しました。もしかしたらディーの力が消えて、カレーの侵食が更に侵攻するかも知れません ※母乳弾幕が使用可能になりました。設定や詳細は後の書き手さんにお任せします。 ※不明支給品は手錠@ギャルゲロワでした。 ※パンタローネの死体と支給品は消し飛びました ※ルーキーの死体は胸に穴が開いており、手にパッドを握りしめています ピストル(0/15)がその付近に落ちています 216 旅館に泊まってすぐ堕ちる~狂気の闇メイド~ 投下順に読む 218 仮面の下の邪悪な微笑み 216 旅館に泊まってすぐ堕ちる~狂気の闇メイド~ 時系列順に読む 222 ランチタイムの時間だよ 198 大いなる意思(後編) お姉さま 226 もってかれた!お姉さま 198 大いなる意思(後編) パンタローネ 198 大いなる意思(後編) ◆yHjSlOJmms(ルーキー)
https://w.atwiki.jp/910moe/pages/2417.html
天然vs偽天然 男はかわいいなどと言うものじゃないと思っていた。 好きだとか欲しいとか言わないことを「わがままでない」と褒められる生い立ちだった気がする。 すぐ下の妹と違う、俺は大人なんだ、お兄ちゃんなんだと望まれるままに。 だから衝撃だった。 男のくせにかわいいネコだとか犬、花とかファンシーな雑貨に、何の抵抗もなく 「かわいい。これ俺好きだなー」 相好を崩せる高見が、とんでもなく偉い人物に見えた。 人は自分に無いものを求めるという。高見はただの空気読めない変人だったのに。 最初に「お前、馬鹿か? 男のくせに」と、そういう態度をとってもよかったのだ。 「かわいいな」 同意したときから俺は高見の同類と認識されたらしい。 高見はしきりにご推薦の『かわいい』アイテムを披露するようになり、なぜだか俺も相づちを打った。 ゼミやサークルの友人達は、俺達を天然コンビと評した。 「あ、ネコ」 道を歩けばふたりで、犬やらネコやら、ゲームセンターのかわいい景品やら小さなキャラクターに道草する。 特にネコは、見つけるのは俺の方が圧倒的に多く、視力のやや悪い高見はそのたびに 「尾方のネコセンサーはすごい」 などとよくわからない言葉で俺をほめた。 「すごいだろ」 「うん、すごいな」 他愛もない、気の置けない時間。 単位だ、バイトだ、合コンだとギラギラしている日常の隙間でぼんやりとネコを見つめているうちに、俺のどこかがほどけていく。 「あ、かわいいな」 今日も散歩中のむくむくした柴犬に見とれていると、高見が 「尾方くんに似てるよね」 と言いだした。 「むっちりした筋肉とか、真面目そうな顔が似てる」 またも随分飛ばしてきたものだ。さすがに首を傾げると、覗き込んできた目がニッと細くなった。 「柴犬に似てる尾方くんって、かわいいよね」 一瞬、何を言われたのかわからなかったくらい。 自覚しているが、こうしてかわいいものを高見のために探してはいるが、俺自身はかわいいとはまったく縁のない男だ。 ないないない。おかしいだろう。 俺はひどくうろたえた。 いったい何事に衝撃を受けているんだ、俺は? 急に襲ってきたこの感情自体が、正体不明だ。 「……俺はかわいくない」 狼狽は照れとは違って、罪悪感すら覚えるくらいいたたまれない。 なのにやっぱり高見は空気読めない奴で、俺の耳を触って 「すっごい赤い。熱くなってるよ? こんなに赤くなる人初めて見たかも」 子供のように感心しながら、 「尾方くん、かわいいって言われるの好き?」 「えっ」 問われて絶句、「好きじゃない」とつぶやいた声はもごもごと口の中で消える。 耳だけじゃなく顔が熱い。 こんなでかい男が絶対ひどいありさまだ。 なのに、高見は笑った。本気で大好きなかわいいものを見つけたときの顔で。 「かわいい。尾方くんかわいい」 ああ、やっぱり高見には敵わない。 平和主義と戦闘狂
https://w.atwiki.jp/virako/pages/80.html
いくら総指令と言えど議会が休みの盆と正月は自宅でのんびりまったりできる。 年の瀬どころか大晦日の夜、紅白を見て年越し蕎麦を愛猫と啜っていても誰にも咎められない。 非番!何て素晴らしい響き! 隣りでは「ぜったいジョヤのカネきくんだ!」と息巻いていたので、 眠気覚ましにと淹れてやった緑茶をちびりちびりと飲んでるヴィラルがいる。 それが、先程から何かのチラシを熱心に見つめて時折「はぁ」とか 「うん」とか呟いてはクレヨンで何やら書き込んでいた。 「……何やってるんだ?」 と問い掛けると、その言葉を待っていたーァ!と言わん許りのキラキラおめめが俺を見据えた。 「あしたのはつうりで、かうプクプクロにしるしつけてた!」 あーこの目は行く気満々だなぁ…… 明日は寝坊しつつ昼過ぎ辺りに初詣なんて想定してたんだが、こりゃあそうも言ってられないな。 とシモンは一呼吸置いてから腹を決めた。 「福袋な。うっし、じゃあ明日早起きして初売りに出撃だ!だから早く寝るぞ!」 「めいれいか?」 「いいや、提案だ」 「だったらのったー!ブータもはやくねるぞ!」 「ブミュ」 ウキウキしながら二階の寝室に駆けてく小さい姿を見やって、 自分もコタツから体を引き抜いて伸びをする。 福袋が欲しいなんて、やっぱり女の子なんだなぁ と思いながら、置きっ放しになっていたチラシを手に取ってどれどれと目を通す。 「……前言撤回」 何故なら、しるしが付いていたのは洋服やアクセサリー等の福袋ではなく、 トビタヌキソーセージ詰め放題の写真にそれこそデカデカと赤いクレヨンで三重丸がついていたからだ。 「……俺も寝よう」 なんだか1年分の疲れがドッと押し寄せた心持ちで、トボトボと寝室へ上がる地球政府総指令であった。 翌朝、腹に強い衝撃を受けて飛び起きた。 「ぐぎゃっ!」 「おきろシモン!あさだ!はつうりだ!」 テンションゲージMAX状態で、俺の腹上で踊り狂う子猫の頭をぽふぽふ叩いて宥める。 「解ったから、とにかく腹の上をのしのしするの止めような。昨日の蕎麦が鼻から出そうだ」 「うん!」 ぴょんと反動を付けて飛び退いたもんだから、再び息が詰まるが何とかかんとかこらえて、 シモンは暖かい布団にさよならした。 早く早くと急かされるままに雑煮を適当に飲み下し、 バスに乗っかってえっちらおっちらたどり着いたデパート前には、既に長蛇の列ができていた。 「正月なのに……みんなのんびり過ごしたいとか思わないもんなのかな」 「サスーンもいくっていってたしな!みんなはつうりがだいすきなんだな!」 わたしもまけないぞ!と気合い十分な愛猫に、 たぶん人間ヴィラルが相手の俺も、今日はこんな感じで初売りに引っ張り出されてるのかなぁ と思いを馳せて見た。 すると、ぼんやりしていた俺にヴィラルはキリッと向き直って活を入れる。 「いいかシモン、はつうりはオンナのセンジョーなんだぞ!きあいをいれろっ!」 「お、おぅ!」 ちゃんとした返事を聞いて満足したのか、小さな猫手でむんずと俺の手を握って、行列に並ぶべくのしのし歩き始めた。 ……が、しかし、あるけどあるけど「列の最後尾です」が見えない。 一体全体何をどう広告に載せればこんなに人が集まるのか!? 心なしかヴィラルの表情が険しくなってきた気がする。 「心配するなって、こんなに人が集まるってお店側は解ってるだろうから、福袋いっぱい用意してあるさ」 だから大丈夫。とフワフワ頭を撫でると、気合いが入ったのか三角耳がピンと立つ。 「わかったぞ!むりをとーしてどーりをけっとばすんだな!」 「んー。使いどころが間違ってる気がするけど。まぁそういうことだ!」 そうさ、折れない心が有る限り人の力は無限なんだ! なんて思っていたら、正面入口方面からわーっと歓声が聞こえて、次いで拍手何かも聞こえて繰る。 不審に思い見やった行列もゾロゾロ動き始めている気がする。 開店時間にはあと一時間あるはずだよな…と確認のためチラシに目を走らせる。 開店時間10 00よかった合ってる、と思ったのも一瞬で、下方に小さく書かれているただし書きに驚愕する。 『1日に限り9 00開店』 くじかいてん 「いっけねっ!」 ?マークを飛ばす愛猫を小脇に抱えて、列の向かう方とは逆方向に全力疾走。 とにかく尻尾にいかなければっ! 結局列の尻尾を見つけたのが9 20、更に店内に入れたのが9 50…… それから目的地たる地下の食品館にたどり着いたのが10 00を少し過ぎた辺りで…… そこは既に合戦の真っ直中だった。 まぁ、案の定いるのは若い女性ではなく妙齢のご婦人ばかりなのだが…… そんな状況に臆することなく、迷子防止で肩車されていた子猫は猫手でペシペシ俺の頭を小突いて急かす。 「シモン!アレをやるぞ!」 「アレ……それも一興ッ!……って逆じゃないか?」 「こまかいことはいわない!とつげきー!」 「あ、はい」 言われるままにおばちゃんの群に近付く……弾かれた。 なにくそ!もう一度売場に近付く……弾かれた。 ま、負けるかっ!……弾かれた。 「もうダメだよ。ヴィラル、家に帰ろう」 「なにいってるんだシモン!むりをとおしてどーりをけっとばす!!」 ペシペシと再び頭をはたかれて気合いが入る。 「解った!アンチスパイラルだって蹴散らせたんだ!おばちゃんの10人や20人なんだってんだ!俺に任せろ!」 うぉおおおおおっ!とは声に出さないまでも、それ相当の気概をもってしておばちゃんの壁に挑む。 「あれ?」 意外とすんなり売場に到達した。 なんだ!その気になれば楽勝だったじゃないか!と、品物が出されているケースを見て固まる。 「……うりきれ?」 悲しげなヴィラルの声が物語っているように、その場には折れたソーセージが数個残っている程度で、殆ど何もない状態だった。 「そんなまさか!だってまだ開店してから一時間しか経ってないんだぞ」 とキョロキョロ辺りを見回して発見した店員に声を掛ける。 「すみません、広告に出てたトビタヌキソーセージ売場に無いんですけど」 「あ、申し訳ありません。出てる分だけなんで、売場に無ければ無いです」 ななななななんだってー!? あまりの衝撃に返す言葉も無く、スタスタといなくなる店員を呆然と見送るしかなかった。 「うりきれ…」 すんと鼻をすする音が聞こえてハッとする。 「ほら、泣くなよ。代わりに何か美味しいもの食べて帰ろう。正月なんだから寿司とかさ!」 「………うん」 何処となく渋々うなづいた感はあるが、兎にも角にもお腹がいっぱいになったら機嫌もなおるだろう。 一人と一匹は上を目指してエスカレーターに乗っかった。 少し早い時間から並んだからか、飲食店には大して待たされることなく入れて少しホッとしながら腰を下ろす。 「えーと、お子様セットでいいのか?」 「…うん」 ぼんやりメニューを眺めながらおざなりにうなづく子猫に、シモンは肩を竦める。 「そんなに楽しみだったのか」 「うん。このまえ、テレビでみたひとが、イーッパイつめててかっこよかったから…」 へこんと三角耳が頭に突っ伏す。 そうか、そりゃあ家計のことに必死になってる主婦の姿は雄々しかっただろう。 「そっかそっか、俺もカッコいいヴィラルが見れなくて残念だ」 「ちがう」 「ん?俺何か変なこと言ったか?」 「ちがう。わたしじゃなくて、シモンのカッコいいトコロみたかった!」 「俺!?」 考えてもいなかった展開に目を丸けると、目の前の子猫がゆっくりうなづく。 えっ!?俺?詰めるの俺の予定だったの!?いや、やってやれないことはないよ。そーいう細かい作業得意だし…でも、俺!? 「え、えーと。とりあえず寿司頼んじゃおうか」 「うん。おもちゃはコマな!」 話したらスッキリしたのか、気持ちがお食事モードに移行したようだ。 先程と打って変わってウキウキとメニューを眺め始めている。 「すみません。えっと、お子様セットと、寿司盛り松お願いします」 店員に注文をした後は、シモンがぼんやりする番だった。 カッコいい俺?どーすりゃいいんだ? 早めの昼食後、せっかく来たんだから!と各階をぶらぶらして回った。 福袋があらかた履けてしまったからか、新春初売りバーゲンなるものをやっていて、そうだとヴィラル用のコートを買った。 「その色なら迷子になってもすぐ見つけてやれるな」 水色に星の柄がプリントされさコートに着替えたヴィラルが、ニッコリ笑顔でうんとうなづく。 何故だかめちゃめちゃ値引きされてて、買う時店員に苦笑いされたが、ものすごく似合ってるじゃないか。 「でも、シモンとてをちゃんとつないでるから、まいごにはならないぞ!」 ギュッと握り返された手に、何だか暖かい気持ちになる。 「そうだぞ。俺の手を放しちゃダメだからな」 「うん!」 こんなあったかい手、ニアにも握らせてやりたかった。と心中感傷にふける。 「シモン、シモン」 「ん?どーした?」 「フクフクロまだうってる!」 手を引かれてそちらをみると、ヘアアクセサリー等の雑貨を扱ってる店の店頭に、ピンクの紙袋が幾許か鎮座間していた。 「うりきれじゃないんだな!」 「あーうん。というか、欲しいのか?アレ…」 「うん!プクブクロほしい!」 「でも、中身トビタヌキソーセージじゃないぞ」 「いーの!きぶん!」 ぷーっと頬を膨かして断言する子猫に、気分ならしょうがないか。と満更でもなく尻ポケットから財布を引き抜く。 「ほら、どれがいいんだ?」 「かってくれるのか!?」 「だって、欲しい気分なんだろ?」 すると、途端に不安げな顔つきになって、モジモジ猫手をすりあわせる。 「うん。…でも、おかねだいじょうぶか?おスシたべたから、おかねなくなったんじゃないか?」 「そんなもんじゃ俺の給料無くなったりしないよ。心配すんな!」 ポンと黄色い頭に手を置くと、三角耳がシャキンと背筋を伸ばす。 「じゃあ、じゃあね、コレ!」 君に決めたーと言った勢いで引き抜かれた紙袋に、シモンは子猫に代金を握らせた。 「レジに行ってこれ下さいってお金渡すんだ」 できるよな?との問いに子猫は自信満々にうなづく。 「わたしをだれだとおもっていやがる!」 「シモンさん家のヴィラルです。はい、じゃあいってこい」 「うん!」 トビタヌキソーセージ詰め放題だけじゃなくて、ちゃんとこういう女の子らしいものにも興味があったじゃないか。 お代を握り締めてレジに駆けてく小さな背中を見つめてホッと一息。 「シモン!かえた!」 意気揚々と紙袋を掲げて、突進してくるヴィラルを受止めて、ニッコリ笑顔にニッコリを返す。 「よくできました」 「はなまるか?」 レシートを差し出しながらされる問いに、花丸だよ。と返した。 「なかみ、なんだろうな!」 「家に帰ったら開けて見ような」 「うん!はやくおうちかえろう!」 「そうだな。その前に夕飯のおかず買ってこう」 「うん!」 一人と一匹は再び地下の食品館に向ってエスカレーターに乗っかった。 コタツにつかりながら、玄関にさがっていた御重を開ける。 「ヨーコも来るなら来るって言ってくれればいいのにな」 「そーだな。いそくさいな!」 「みずくさい、な。んでも、お節用意するのすっかり忘れてたから助かったよ」 ぱっかり開けられた御重には昆布巻きに海老、黒豆、数の子とヨーコの気遣いがみっちり詰まっていた。 「おいしそうだな!」 おめめをキラキラさせながら見ているヴィラルには悪いが、蓋を閉めて台所に持って行く。 「夕飯にはまだ早いだろ。とりあえず今時間はお茶とミカンだ!」 「りょーかいした!」 ポテポテ階段下の物置に蜜柑を取りにヴィラルが駆けていく。 はぁやれやれ、やっと一息吐けそうだ。と湯飲みを手にコタツに舞い戻った。 「ミカンもってきたぞ!」 ポロッと一抱え(と言っても3、4個)の蜜柑を卓上に置いて、俺の脇にちょんとすまし顔で座る。 「なぁシモン、フクブクロあけてもいいか?」 「あ、すっかり忘れてたな。いいぞ」 よしが出たとなると、おめめキラキラが三割増ぐらいになって、嬉々として紙袋をこじあける。 「?」 それまでニコニコしていた顔が疑問に固まった。 「どーしたんだ?」 「なんかモジャモジャがはいってる」 「モジャモジャぁ?」 モジャモジャって何だ?と恐る恐る中から小分けにされてるビニール袋を取り出した。 「……モジャモジャだな」 「な!」 恐らく付け毛だろう茶褐色の人工毛の束が、ヘアアクセサリーなんかと一色他になって詰まっていた。 取り出してヴィラルの黄色い頭に乗せて見る。 「……プリンアラモード」 「うまくない!」 お気に召さなかったようで、ぶんむくれにむくれながら頭上の毛束をはたき落とす。 「あーもー。物を粗末にしちゃダメだろ!」 と拾いあげたそれをコタツの脇に寄せて、新年会の一発芸で使うかさもなきゃロシウにあげるかな。と思案した。 「ほら、可愛いヘアピンだって入ってるんだからそんなにホッペ膨ますなよ」 「ふくれてない!」 明らかに膨れていたが、言及せずに取り出したヘアピンをつけてやる。 「お、印象変わるな」 「そーか?おねーさんみたいか?」 「うんうん。似合ってるぞ」 おでこが見えるだけで随分雰囲気が変わるんだな。と半ば関心しつつ、その後とっかえひっかえ髪飾りを付けて遊ぶ。 「ブィ!」 頭にリボンを結ばれたブータが紙袋から最後の小袋を取り出してみせた。 「お?髪飾りじゃないのも入ってるのか?随分お得なんだな福袋って」 その小さな包みを小さな手(前足)から受け取って、中身を引っ張り出す。 「ブレスレットか?にしては長い気もするけど…」 細い鎖に小さな星型チャームが一つぶら下がっている。 それをしげしげ眺めていたシモンが、ふとした思い付きでヴィラルの首にかけてやると、ちょうどよく巻かさった。 「ネックレスだったんじゃないか?」 「うーん…タグにはアンクレットって書いてあるけど……まぁピッタリだからそれでいいよな!」 「わたしはかまわないぞ!」 元々は何処に着けるんだかサッパリ解らないが、似合ってるし丁度いいんだからそれにこしたことないじゃないか! と己を納得させて、袋からピンクのブタモグラストラップを取り出してヴィラルのポシェットに吊す。 「シモン、なんかおちた!」 掲げて見せるそれが目に止まった瞬間、シモンの中で全てが制止した。 「ん?…ゆびわだ!」 その通り、愛猫が手にしているのは指輪だった。 それもよりによって、ニアに渡した婚約指輪と色も形状も瓜二つというとんでもない代物だ。 恐らく、ニアの指輪に便乗した類似商品なのだろう。石の部分もよく見ればプラスチックかガラス玉で光彩が微妙に違うではないか。 「どーしたんだ?シモン、おなかいたいのか?」 おずおずよってきたヴィラルを抱き締める。 「どこも痛くないよ」 嘘だ。強いて言うなら胃と心臓の間ぐらいがギュ~ッと締め付けられて呼吸がし辛い。 しかし、心配したヴィラルが頬を舐めてくれるので、だいぶ楽になってきた。 「それ、かして」 小さな猫手から指輪を受け取って、首に巻かさった鎖にそっと通した。 「それなら無くさないだろ」 ペンダントヘッドに早変わりした指輪をしげしげ眺めていたヴィラルが相好を崩す。 「おそろいだな!」 コアドリルの代りに首から下げてる指輪のことをさして、愛猫がニッコリ笑う。 「そうだな。おそろいだ」 「うん!すっごくうれしいぞ!シモンありがとう!」 「俺こそ、いてくれてありがとうな」 アンチスパイラルを倒してニアを救出す事に全力を注ぎ、注ぎ切った対象がサラッと己の掌から零れ落ちた。 悔いは無かった。悔いどころか何もない空虚な心を埋めてくれたのはこのフカフカの小さな毛玉だったのだ。 ギュ~ッと抱き締めた子猫がキョトンと俺を見上げる。 「なにをいってるんだ?わたしはシモンとずーっといっしょだぞ!」 だからそんな顔をするなとばかりに肉球がぽふぽふ額に当たる。 「うん。ありがとう」 抱き締めた子猫が照れくさそうに喉をクルクル鳴す。 ――暖かいな――
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/1067.html
崩れ落ちる巨体からは轟々と炎が立ち昇る。 巨体をマンションに預け、燃え立つ姿はまるで大火に見舞われた山を思い起こさせる。 シンの唇に焼け落ちていく巨神の脂肪が貼り付いていく。 それを拭うには、余りにもシンの身体は酷使されていた。 鼻を突く刺激臭が、巨神の焼けていく臭いだとすぐにわかった。 不快でしかないはずのそれが、しかし今だけは心地良く思えた。 (ようやく……守れたんだ……) 何を、とは問わなかった。 ただ漠然とした、けれども確たる達成感が身体中に満ち満ちていく。 緩みそうになる頬を押さえながら、何となく照れ臭いようなむず痒さを覚えて、顔を下に向けた。 座りこんでいたエリオと不意に目が合う。 互いに言葉は交わさない。 けれども、エリオの顔にも似たような照れ臭さ、誇らしさが滲んでいた。 煤に汚れ、汗が張り付いた顔は、昨日よりもどこか大人びて見えた。 自分も同じような顔をしているのだろうか。 尋ねてみたくなった。 脳裏に浮かぶのは今はもう遠い過去のように思える親友の顔。 「やったね、シン!!」 「隊長…」 隠し切れない疲労を滲ませながら、それでも喜色満面の表情でフェイトが駆け寄ってきた。 その顔を見て、くすりとシンは小さく笑う。 何故シンが笑ったのかわからずに首を傾げる仕草は、彼女を年よりも幼く見せた。 本当に自分より三つも年上なのだろうか。 何だか可笑しく思いながら、シンはそっとフェイトの鼻の頭を指でなぞる。 フェイトの鼻の頭に付いた煤を指の腹で拭うと、悪戯が成功したように笑う。 その仕草、その表情にフェイトの顔が林檎のように染まる。 シンは気付いていなかったが、シンの浮かべた笑みは今までの彼のものとは異なっていた。 子供っぽさの残るやんちゃな少年少年した顔ではなく。 一つの事を成し遂げた、夢をその手に掴んだが故に勝ち得た、強さと気高さを孕んだ『男』の笑みであった。 (あ……) その表情に、シンから放たれる雄の空気に、フェイトは急激に鼓動が高鳴るのを覚えながら、ようやくある事に気付いた。 「背、伸びたんだね」 自分の頭の上に手を当てて、そのまま横にスライドさせる。 フェイトの手は丁度シンの頬に触れて止まる。 「初めて会ったときは私の方が高かったのに」 「そういえばそうですね」 男の子なんだなぁ、とフェイトが感慨深く思っていると、フェイトの手をシンが掴んだ。 「ふぇッ!?」 突然の行動にフェイトがうろたえる。 普段シンにそれ以上のスキンシップを迫っているくせに。 そう、心の中で何度も自身に言い聞かせながらも、主と袂を分かったかのように、鼓動は高鳴る一方だ。 シンはそんなフェイトの事など知らぬとばかりに、まじまじと細い羽のようなしなやかな彼女の手を見つめる。 次第に、シンの眉間に皺が寄る。 「怪我してるじゃないですか隊長」 「え?」 「ほら、ここ」 「あ……そうだね、そういえばそうだった」 「直してもらってきて下さいよ?」 「う、うん」 子供を叱る様に、嗜めるように言い聞かせるシンの言うままにフェイトは頷く。 これではいつもと立場が逆だ。 たった一つの戦いで。 たった一つのきっかけで。 随分と大人になったようにフェイトは感じた。 これが男の子の成長なのかと、どこか嬉しく思うと同時に、寂しくも思えた。 「フェイトさん!!大変です!!」 「キャロ?どうしたの」 慌しく走ってきたキャロの帽子を直してやりながら、フェイトは落ち着かせる。 キャロは短く呼吸を整えると、縋るようにフェイトを見上げる。 「まだ、避難が済んでいないんです!!!」 指さしたのは巨神がもたれかかるマンション。 炎が揺らめき、蛇の舌のように近隣の建物を舐め回している。 炎を勢いは衰える事を知らず、真昼の如くシン達の立っている場所までを煌々と照らし出す。 ぎりッ、歯が軋む程に強くシンは歯を噛み締めた。 「俺が行きます」 「そんな、キケンだよ!!」 「中にいる人はもっと危険でしょ」 「それは……だったら私が行く!!」 フェイトの手がぎゅっとシンの袖を掴んだ。 「魔力が空なのにですか?」 「それは…シンだって一緒でしょ!!!」 あの巨神を倒すのに、なのは、はやて、そしてフェイトのトップ3は、その持てる力の全てを使った。 文字通り全てを。 否、死力を尽くさなかった六課の者は誰一人としていない。 シンも当然例外ではなく。 「同じガス欠なら、男の俺が行くべきでしょ?」 シンの言葉にフェイトが押し黙る。 正論であった。 魔力というアドバンテージがなければ一人の少女でしかないフェイトと、屈強な元軍人のシンとを比べたならば、どちらが適任かは明白である。 けれども、フェイトの手は引きとめるようにシンの袖を放さない 。 幼子が親を行かせまいとするように。 必死というよりも、健気なその行為に、シンはフッと険しく引き結んでいた唇を緩めた。 そっとフェイトの頭を撫でると、シンは一つ頷く。 「大丈夫。守ってみせます。誰であろうと」 「シンッ!!!」 そう言いきると、踵を返し、炎に向かって行くシンの背に、悲鳴にも似た声を上げる事しか、フェイトには出来なかった。 ◇ 少女は震えていた。 とうとう来たのだ。 とうとう来たのだ、と小さく呟くと一層震えが増した。 しかし、恐怖はなかった。 視線をぐるりと移す。 テーブルに突っ伏した一人の女。 少女の母であった。 手には包丁が固く握られていた。 左手からはおびただしい血。 既に固まり、どす黒く成り果てた血を汚らわしげに見つめる。 愚かな母だと思う。 少女の家はある宗教に入っていた。 母がではない。 母も父も、祖父も祖母も。 敬虔な宗教家であった。 そのような家に生まれた少女もまた例に漏れず、その宗教を信仰していた。 母親と同じように。 いや、それ以上に。 教典には今日という日が刻まれていた。 『悪魔が跋扈し、狂宴が始まる』 何とも陳腐なものだ。 しかし、少女は、そして少女の家族はそれを陳腐だとは思わなかった。 教典は絶対であったからだ。 そして、教祖はこう言った。 『悪魔に殺されれば魂が穢れる。その前に聖水で清めた刃で自らの命を絶つのだ』と。 母はそれを忠実に実行した。 何故なら母は信仰心に篤い人であったからだ。 愚かな母だと、少女はもう一度思った。 穢れた魂になるのを嫌って命を絶つ。 それはなんて…… 「なんて利己的なの…」 自らの魂の清らかさばかりを思うあまり、肝心の事に気が行っていない。 舞い降りた悪魔を野放しにしておいても良いのか。 いいはずが無い。 主の手を煩わせてよい筈が無い。 本当に主への愛があれば、愛があれば自らを犠牲にしてでも悪魔を一匹でも多く殺すべきではないのか。 「そうよ………そうに決まってる………」 少女は信仰心に篤かった。 母親以上に篤かった。 しかし、少女の未熟な精神は、『自己犠牲』という大儀に酔いしれ、歪んでいた。 少女は恐怖で震えてはいなかった。 ただ、ただ、自己陶酔のあまり、興奮に打ち震えていた。 少女は窓の外をみる。 外は夕焼けのように赤く染まっている。 そう一面の赤。 何と禍々しいのか。 悪魔の赤。 その時、少女の住むマンションの一室がけたたましく開けられた。 「大丈夫か!!!」 少女の瞳に紅が飛び込んだ。 ◇ 「大丈夫か!!!」 一室一室マンションに飛び込んでは人の有無を確認した。 声を外から掛けているだけではわからない。 恐怖に声すら上げられない人間を何人も見てきた。 恐怖に足がすくんで動けない人間をごまんと知っている。 故に、一室一室、部屋を抉じ開けては確認をしていた。 倒れたタンスに足を挟まれている者がいれば手を貸した。 恐怖で動けない者がいれば叱咤した。 ティアナとスバルが駆けつけてくれたのは僥倖であった。 飛び込んだ先には、まだ幼女と言っても差し支えない少女が一人。 小刻みに震える不安げなその姿に今亡き妹が、出会った頃のヴィヴィオが重なった。 「もう大丈夫だから……君は俺が守る」 シンはだからこそ、気付かなかった。 気にもしなかった。 少女の震える手に握られているものに。 激しい炎と、それ故に刻み付けられた濃い影の隠すものに。 「さぁ、いこう……」 そういって、少女の肩に触れた時、初めて少女の瞳とぶつかった。 その瞳の色に、シンは心当たりがあった。 それは ――――――――― 「あ……くま……」 見開かれた黒目がちの瞳、掠れた声。 冷たい感触。 「え……」 冷たい感触がするりとシンの『中』に入り込んでいた。 ゆっくりと、やけにゆっくりとシンは顔を下ろす。 其処には装飾華美な銀色のナイフが根元までシンの腹に入り込んでいた。 刺さっているというよりも埋まるというように。 埋まるといよりも隙間を通すように。 冷たいと思ったのはほんの一瞬であった。 熱い。 急激な熱さ、そして脱力感がシンの全身に広がった。 痛いとは余り思わなかった。 それが少し意外で、何故か滑稽だった。 シンはもう一度顔を上げると、其処には熱病が一気に引いたように、真っ青な顔をした少女の怯えた顔があった。 「わ…わたし…わた…」 カタカタと震える手を見下ろそうとするのを、シンは自分の手を少女の手に被せることで止める。 少女の肩が大きくビクリと震える。 シンは何故だかその少女が愛しくなった。 愛しいというのは些か違うのかもしれない。 放っておけない。 そう思った。 どうしてなのだろうか。 少女は怯えた瞳をシンに向ける。 「あ、ああ、あの、あたし…」 「大丈夫、全然平気だよ?」 少女の黒い髪を撫でる。 叩かれると思っていたのか、一瞬強張る少女が可愛らしかった。 苦笑が漏れる。 「ゴメンな?」 「え?」 「お兄ちゃんの目怖かったか?」 少女は暫しの逡巡の後、おずおずと頷く。 素直でよろしいと、シンは大人ぶって言う。 頭には、嘗てのなのはの姿があった。 彼女達も、或いはこんな思いで自分を見ていたのだろうか。 「大丈夫だよ。怖くない。君を怖がらせたりなんかしない」 「ほんとう?」 少女の震える手をぎゅうっと握り締め、シンは頷く。 一つ、小さく息をする。 腹部に広がる熱が、下半身を覆い、痺れを齎し始めている。 (BJくらい展開出来る余裕くらい残しておけばよかったな) 「いいかい、今からこの棟を出て真っ直ぐに走るんだ。階段に向かって真っ直ぐに」 「まっすぐ……」 「そこにお兄ちゃんの友達がいる。大丈夫、君をいじめたりしないから。その人に付いて行くんだ。そうすれば全部オッケーだから」 こくん 少女は小さく、けれども確かに頷く。 シンはホッとすると、少女の手を引いて立ち上がらせる。 立ち上がらせた瞬間、シンの身体に少女の小さな重みが掛かる。 本当に小さな、些細な重みだ。 しかし、それだけでシンは倒れそうになる。 それを歯を食いしばって耐えると、少女の背中をぽんと叩く。 二、三踏鞴を踏むと、びっくりしたように少女はシンを見上げる。 (もう一ふんばりだ) 「さ、先に行きな」 「うん…」 赤い服を着ていて良かった。 心の底からそう思う。 少女の背が遠ざかるのを見つめながらシンは深く息を吐いた。 「あの!!」 壁にもたれたシンに少女の声がかかる。 「ごめんなさい!!」 涙を浮かべながら言う少女に、シンはニイッと唇を吊り上げて笑ってみせる。 不敵な笑み、力強い笑み。 それを心に牢記しながら。 少女は安心したように、微かに唇を緩める。 初めて見せる少女の笑み。 「ありがとう、お兄ちゃん!!!」 そう言って、今度ははっきりとした笑みを作る。 瞳を閉じて、満面の笑み。 閉じた拍子に両の目の端から涙が零れ落ちた。 それでも少女は笑っていた。 走り出し、部屋から出て行く少女を見つめながら、ようやくシンは座り込んだ。 救われた。 シンは何故かそう思った。 冷たくなり、感覚の無い手を懐に入れると、シンは携帯に手を伸ばす。 一つ一つ渾身の力を込めるように、ボタンを押すと、暫しのベルの後で、喧騒が飛び込んだ。 『シン!!』 「ああ、ティアか……」 『こっちの避難は全部終わったわよ』 「ああ、こっちは最後の一人を送り出したところ。階段に向かってるからさ、頼むな」 『わかったわ』 「ああ……頼むよ」 『シン?』 電話口のティアナの声に不審な色が浮かぶ。 シンは自らを奮い立たせると、努めて軽い声を出す。 「何だよしおらしい。ティアナ様らしくないんじゃないのか?」 『ば、馬鹿!!何よしおらしいって』 「ははは……それでこそティアだ」 『………あんたこそらしくないわよ?無理矢理テンション上げてない?』 鋭い。 シンは内心驚く。 「実はさ、ちょっと怪我して凹んでる」 『何よ。情けないわね~~~怪我してるんじゃないわよ。折角ヴィヴィオがパーティーの準備してるのに』 「パーティー?」 『今日でアンタがこっち来て二年でしょ?』 二年。 もうそんなに経つのか。 あっという間の歳月の流れにシンは急激に感傷を抱く。 『ヴィヴィオったら張り切ってるんだから。シンパパをお祝いするんだって』 「そりゃあ楽しみだ」 本当に。 心底シンはそう思った。 『わかったら…さっさと帰ってきなさいよね』 ティアナの声はこの上なく優しかった。 シンは鼻の奥がツンとした。それは感激だけではなかった。 ようやく気付いた自分の感情。その激しい衝動に涙があふれた。 「わかったって。ああ、それとティア」 『ん?』 これが最後の最後の力だ。 歯を食いしばってシンは顔を上げた。 「俺さ、かなりお前の事好きかも」 『はぁッ!!!ば、ば、馬鹿言ってるんじゃないわよ!!!』 「それだけ。じゃあまたな」 『ちょ、シン!!』 自身の血でぬるぬるとしていた携帯はいつしか乾き、固まり、ごわごわとした感触になっていた。 しかし、シンの手は既にそれを感じるまでもなく、ころんと携帯を落とした。 シンはゆるりとうつぶせに崩れ落ちる。 さっきの少女の目。 マユに似ているとも思った。 それは確かだ。 しかしそれ以上に。 あの瞳の色に、シンは心当たりがあった。 それは ――――――――― 「俺の目じゃん……」 マユを失った自分。 ステラを失った自分。 レイを失った自分。 全てを失った自分。 ただ全てが憎かった自分。 全てが敵に見えた自分。 恐怖と怒り、混ざり合い濁り歪んだ自分。 いつの間に忘れていたのだろうか。 あれは嘗ての自分。 あの世界にいた頃の自分。 「そっか………救いたかったんだ………」 誰をではない。 あの頃の自分をではない。 あの日、あの時、全てを失ったあの日。 妹の手を握り締め、打ちひしがれ、泣き伏していた無力な自分。 あの光景丸ごとを救いたかったのだ。 「じゃあ、やったのか……」 シンの瞼の裏に浮かび上がったのはあの日の光景ではなかった。 なのは はやて フェイト それだけではない。 六課の仲間達の顔。 エリオ キャロ シグナム ヴィータ シャマル ヴァイス かけがえの無い友人。仲間。家族。 スバル ヴィヴィオ そしてティアナ。 全てがこの世界に来てシンが手に入れたもの。 世界から失せたはずの『色』は、いつしか戻っていた。 嘗てのように。 それ以上の鮮やかさで。 「帰らなきゃ……」 シンは両の腕に力を込めた。 ずるずる。 血が張り付き、腹が擦れる度に気が遠退きかける。 それでもシンは力を込める。 どれほど進まなくても。 それでもシンは力を込める。 どれほど痛くとも。 「帰らなきゃ………帰りたい………帰りたい………」 ◇ 「どうしたの?」 フェイトが覗き込むティアナの顔は赤い。 それは炎のせいだけではなかった。 火照りを冷ますように、ティアナは両手を己の頬に当てる。 「な、何でもありません!!!」 「そ、そう?」 あまりの勢いにフェイトは後ずさる。 耳だけではなく首筋まで真っ赤にしておいて何でも無いわけは無いのだが、それを言うにはフェイトは勇気が足りなかった。 「そ、そういえば、ヴィヴィオの準備の方はどうなんですか?」 「ああ、二周年記念パーティーの?うふふふ、ヴィヴィオってばプレゼントまで用意してるよ」 娘の愛らしさを自慢する親馬鹿のように、相好を崩すフェイトを見て、つられるようにティアナも頬を緩める。 ヴィヴィオの健気さが目に浮かぶようだった。 それだけではない。 ヴィヴィオを溺愛するシンのデレデレになるであろう姿を想像したら自ずと頬が緩んだ。 『俺さ、かなりお前の事好きかも』 電話口でのシンの言葉が甦る。 また冷ました頬が熱を帯び始める。 「ばぁーーか…………とっくの昔から私はそうだったわよ」 口にすると、妙な温かさが胸に広がる。 シンが帰ってきたら言ってやろうか。 その時シンはどんな顔をするのか。 それを思ってティアナは一人はにかむように笑った。 シン編:グッドエンド『おかえり』 一覧へ
https://w.atwiki.jp/bakiss/pages/898.html
俺もお前も半生状態にされて落ちていくとこさ。馬鹿になる為に成長し、「何もするな」と教育される。 俺はドラッグが好きな訳じゃない。ドラッグが俺を好きなんだ。 第七話 『DOGVILLE』 放課後の銀成学園高校。生徒玄関からは一日の授業を終えた生徒達が次々に出てくる。 それら帰宅の途につく人の流れの中、校門前では柴田瑠架が携帯電話を片手に佇んでいた。 彼女の指が繰る携帯電話の液晶画面には―― 【芸能】永江衣玖、初の全米ツアー ジャイアンツスタジアムで8万人がフィーバー【キャーイクサーン】 【経済】株式会社湯谷がアメリカのロボット開発企業ウェイランド社を吸収合併 “ウェイランド湯谷”へ 【イベント】ビリー・ヘリントン来日 秋葉原ワンホビ9にゲスト出演 ――等の文字列が現れては消えていく。 外出先で暇な時に見るのは大抵2ちゃんねるの“ニュース速報+”だった。 常駐スレに携帯から書き込むのは嫌だし、アップされた画像もほとんどがサイズオーバーで表示されない。 それならば、見出しと1レス目だけで大体を把握出来て(その後に続く999レスに然したる価値は無い、 と彼女は考えていた)、テレビや新聞が報道しない世の流れも手軽に知る事が出来るニュー速+がちょっとした 暇潰しには一番相応しい、との結論に至ったのだ。 ニコニコモバイルから携帯電話でニコニコ動画を観られない事も無いのだが、画質や音質の悪さ、 それとボタン連打に辟易してしまい、すぐに利用しなくなってしまった。 ふと画面の右上に表示されている時刻をチェックすると、この場所で待ち始めてから約三十分が経過していた。 生徒玄関の方に眼を遣るも待ち人は来ず。 粗方のスレを見尽くしてしまい、今度はファイルシークからwikipedia巡りを始める。 自分の好きな事柄についてwikipediaで検索して、文章中のリンクを次々に辿っていく。 思いもよらない繋がりが楽しいし、時間も潰せる。これも外出時の携帯電話いじりの中ではお気に入りである。 「おまたせー! ごめんね、遅くなっちゃって」 そんな声が掛かったのは、『最遊記シリーズ』の項目から声優巡りでも始めようか、と思案していた時だった。 顔を上げて振り返ると、いつの間にか“待ち人”は現れていた。しかも、息を切らせた満面の笑みで。 1年A組の同級生、武藤まひろ。 入学から一年が経過しようとする二月に、この高校で初めて作った友人だ。 瑠架はいそいそと携帯電話を仕舞い、自然と浮かんでしまう慣れない笑顔を持て余しながら答える。 「そ、そんなに待ってないから、大丈夫…… でも、何してたの……? 今日は掃除当番じゃないよね……?」 何の気無しに瑠架が尋ねたのと同時に、二人は並んで歩き始めた。 「あのね、東風谷さんと一緒に知得留先生のカレー菜園作りを手伝ってたの」 「東風谷さん……?」 実のところ、瑠架はクラスメイトの名前を九割方憶えていなかったし、憶えようともしていなかった。 最初から憶えるつもりなど無いのだ。それは小学校高学年時のクラス替えから変わっていない。 いつまでも口に手を当てたまま首を捻っている瑠架を不思議に思ったのか、まひろが付け足す。 「え? ほら、クラス委員で。ヘビさんとカエルさんの髪飾りをしてて。よく『常識に囚われてはいけません!』って」 脳裏に不鮮明な映像が浮かぶ。礼儀正しくて丁寧な言葉遣いだが、少し騒がしい少女だったような。 余程の特徴がある生徒ですら完全には憶えていない。いわんや自分と似た、目立たない性質のクラスメイトなどは 制服の静止画くらいしか頭に浮かばない。 それは、学校にいる間は数式や英単語にしか記憶力を使いたくない、と願い続けた結果だった。 しかし、そんな事をいちいち説明する程、瑠架は馬鹿ではない。当たり障り無く答えるのがベストと知っている。 「あ、ああ…… うん、思い出した……」 厳密な意味では“思い出した”という言葉は嘘になる。 ただ単に名前と脳内の情報が合致しただけであり、最初からその女子生徒を憶えていた訳ではないのだから。 そんな隣の友人の内心など知る由も無いまひろは、鞄を大きく振り、幸せそうに声を張り上げる。 「柴田さんのお家に行くの初めて! 楽しみだなー!」 子供っぽく浮かれるまひろに苦笑気味の瑠架であったが、やがてハッと眼を見張った。 眼の前の光景に、過去の記憶がオーバーラップしていく。 まただ。彼女と知り合ってから何度と無く経験させられた、この現象。 浮かび上がる過去の記憶とは―― それは、まだ少しは楽しかった小学校低中学年。いつも横にいた活発で友達思いな少女。 いろんな遊び場所に連れて行ってもらった。自分の知らない知識をたくさん知っていた。いじめられていた ところを何度も助けてもらった。 どんな男の子よりも元気で、どんな女の子も敵わない愛らしさの、彼女。 彼女が道を誤る事無く成長していれば、この友人のようになっていたのだろうか。 もしそうだったら、中学生時代はもっと楽しく、高校に入ってからも彼女とこの友人と三人で―― いつも繰り返してしまう詮無き思いは、バス停に到着してまひろに路線を尋ねられるまで続いた。 埼玉県、緑青町。 人口5024人の小さな小さな町。取り立てて観光名所も特産物も無い、只の住宅都市。 銀成市やさいたま市、もしくは東京都内へ通勤している者の住む住宅がほとんどの、所謂ベッドタウンである。 隣接する街は銀成市のみで、それ以外の方向は山や林に囲まれている。 そして、不幸な事にJRも私鉄も通っておらず、バスと自家用車のみが交通手段だ。それにも関わらず、 国道は一本のみ。バスも決して本数が多いとは言えない。 大半の住人の通勤先は銀成市で、さいたま市や東京都内に向かう者も一度銀成市を通過・経由しなければならない。 まさに“行き止まり”の町と言って良いだろう。 商業の面でも、充実しているとはお世辞にも言い難い。 昔からあるいくつかの個人商店の他はコンビニが二軒と、ショッピングモールですらない中規模の スーパーマーケットが一軒。 家庭の食卓を賄うだけならばそれらだけでもあるいは充分かもしれないが、服飾・書籍・音楽・玩具・その他諸々の 二次的な生活関連物を手に入れようと思えば、やはり銀成市に出向く必要がある。 更には映画館を始めとした娯楽施設も存在しない。 上記の“ベッドタウン”という言葉も頷ける。本当に語源通りの“寝に帰る場所”だ。 人口や住人の平均年齢を考慮すればある程度は仕方の無い事なのかもしれないが、それでもこの状況では 学生等の若者や、延いては青年層の社会人に「この町にいるな」と言っているようなものである。 町のセールスポイントが安価な土地代や賃貸物件だけでは、住みたいと思う人間もなかなか増えない。 おそらく近い将来には銀成市との合併が待っているのだろうが、肝心の“交通機関の改善”や“企業の誘致”が 期待出来ない以上、当地区の活性化が促されるとは正直考えづらい。 さて、停車したバスから降り、緑青町の地に立ったまひろと瑠架の二人。 と書くといささか大袈裟なのだが、住人の瑠架はともかくとして、初めての土地に訪れたまひろにしてみれば 外国に来たようなものだ(あくまでも“まひろにしてみれば”なので誤解の無きよう)。 何の変哲も無い住宅地だというのに、まひろはまるで観光客のようにキョロキョロと周りの風景を見渡している。 彼女の反応を最大限好意的に解釈するならば、新しめの賃貸アパートや似たような建売の一軒家の中に 古めかしい旧家屋が点在している異質な風景に興味を惹かれる、といったところか。 「へぇ~、ここが柴田さんが住んでる町かぁ。いいところだねっ!」 「そ、そうかな…… ありがとう……」 何を以ってして“いいところ”なのかはわからないが、自分の生まれ育った町を褒められて悪い気はしない。 二人は瑠架の自宅へと歩き続けた。 町内を走るバスの路線はたった一本の為、バス停から離れた場所に住む者にとっては徒歩の時間も 通勤通学に大きく影響する。 瑠架の自宅はまさにその代表格である。家からバス停までの距離に要する時間は大体三十分弱と、 かなりの不便を感じるものだ。 延々と変化の無い風景が続く道を歩きつつ、まひろは飽きもせずにそれらを眺め続け、何か自分なりの 発見がある度に感想を述べる。 充分楽しそうに見えるのだが、瑠架としては性格上、どうしても気を遣ってしまう。 「い、いっぱい歩かせちゃってごめんね…… もうすぐ着くから……」 「へーきへーき! 初めての町だからいろんな発見があって面白いよ。あっ、猫さんだ。おーい!」 おそらく、それは本心なのだろう。理解はし難いが。 まひろの能天気な返事は、瑠架の忙しく押し寄せる不安な心を幾分和らがせてくれる。 そうこうしているうちに、ある一軒の古びた家の玄関先から不意に声が掛けられた。 「おや、瑠架ちゃん。おかえりなさい」 見ると、“木戸房江”と書かれた粗末な表札が掛かった玄関の前で、一人の老女がホウキを両手にこちらへ 微笑みかけていた。 老人特有の地味な装いではあるが、背中はシャンと伸び、決して田舎臭さを感じさせない涼やかな雰囲気がある。 どうやら瑠架の顔見知りのようだ。 見かけて気軽に声を掛けられるという事は、町民同士の近所付き合いも割と親密なのだろう。 住宅地と田舎町が混合したこの町ならではといったところか。 「あっ…… こんにちは、木戸さん……」 気づいた瑠架が慌てて頭を下げると、まひろもそれに倣い、大きな声の挨拶と共にお辞儀をする。 「こんにちは!」 今時の若者には珍しいしっかりとした挨拶を受け、房江は嬉しそうに眼を細める。 「おやおや、元気がいいねえ。お友達かい?」 「は、はい……」 もじもじと照れながら俯く瑠架の横で、まひろは挨拶の時より少し丁寧に自己紹介をする。 「はじめまして、武藤まひろです」 「はい、はじめまして。まひろちゃん、瑠架ちゃんと仲良くしてあげてね」 その言葉を聞くや、まひろは突如として隣の瑠架に抱きつき、笑顔で答えた。 「はーい! すっごく仲良しです!」 顔を真っ赤にしながら振りほどこうとする瑠架。 離すものかと抱きつく力を強めるまひろ。 ややズレ気味の仲良しっぷりに、房江は相好を崩す。 クラスメイトであれば、まひろのこういった奇行には“笑う(悪い意味で)”か“呆れる”か“眉をひそめる” といったところだ。 しかし、そこは年の功。目の前の大分変わった女の子を、“子供らしくて良い”と受け止める度量がある。 「あははは、良かった良かった。 ……でも、遊ぶのはいいけど、あまり遅くなっちゃいけないよ。 最近はこの緑青町も物騒だからね」 「そうなんですか?」 まひろの言葉に頷いたのは房江だったが、それについての説明は同じく頷いている瑠架の口から為された。 「ここしばらく、立て続けに人が“いなくなる”の…… 中学生や高校生くらいの子が突然いなくなったり、 夜中のうちに一家全員が突然いなくなったり…… 町の大人や警察は、家出とか急な引越しだって思ってるけど…… でも……」 瑠架は不安げな表情を見せる。 この老女から“町の言い伝え”を聞き、多少アレンジを施して授業中に発表した彼女でも、 それが現実味を帯びてくると少しは怖くなるらしい。 「この町は呪われているんだよ……」 まひろと瑠架がギョッとする程の暗い声が傍から聞こえてきた。 声は勿論房江のものだが、同一人物とはまるで思えない。 さっきまでの朗らかな表情は影を潜め、死人のように無表情な顔貌で俯いている。視線は地面の辺りに 置かれているのだろうが、虚ろでまったく定まっていなかった。 “不気味”と言っても良いくらいの低音の、ゆっくりとした口調で言葉を続ける。 「いや、町じゃない。この“土地”そのものが呪われてるんだ。呪いが悪霊を呼び、この土地の人間を喰らい、 喰われた人間もまた悪霊となって災いを起こす…… 三十年に、一度……」 「あの一家…… “兼正館”に引っ越してきた、“桐敷”とかいう一家…… あいつらが来てから おかしな事ばかり起きる……」 「今度はあいつらが悪霊を呼び寄せているんだよ…… いや、悪霊そのものだ……」 ついにはホウキを握る両手がブルブルと震え出し、言葉が終わっても半開きの口からはヨダレが垂れ落ちる。 どう見てもまともではない。異常者の振る舞いだ。 「木戸さん、私達そろそろ…… 行こう、武藤さん……」 瑠架は房江と眼を合わせないように頭を下げると、まひろの腕を掴んで促す。 「う、うん」 流石のまひろも房江の急激な変貌に薄ら寒さを覚え、余計な事も言わず瑠架に付き従った。 ある程度の距離を歩いてから二人が振り返ると、老女は尚も同じ姿勢のまま玄関先に立ち尽くしていた。 「ご、ごめんね…… 木戸さんのお婆ちゃん、いい人だけど少し変わってるから……」 「ううん、平気だよ。でも、あのお婆ちゃんが言ってた“兼正館”とか“桐敷さん”とかって……?」 瑠架は立ち止まると、宙空に人差し指を伸ばし、ある場所を指した。 「あれ…… あの洋館……」 彼女の指の向こうは草木が生い茂る小高い丘となっており、そこには木々の葉に覆い隠されるようにして 一軒の古めかしい洋館がひっそりと佇んでいた。 全体像は樹木のせいで少々見えづらいが、三階分の窓の数やワンフロアの高さから推して相当な大きさと窺える。 町の一番奥の、町で一番高い場所に建てられた洋館は、まるで緑青町全てを見下ろしているかのようだ。 まひろは元々丸くて大きな眼を更にまん丸くして洋館に見入り、感嘆の声を上げる。 「わっ、すごーい。立派なお屋敷だね」 「あれが“兼正館”…… 百年以上前からあの丘の上に建ってるんだけど、三ヶ月くらい前に“桐敷”って言う一家が あそこに引っ越してきたの…… 旦那様と奥様とお嬢様と、それに使用人さんの四人……」 視線を兼正館の方へ向けたまま、瑠架は町の新たな住人について、更に詳しく語り続ける。 「奥様とお嬢様は“SLE”っていう難病なんだって…… 使用人の辰巳さんがご挨拶の時に話してた…… 自分でもネットで調べてみたんだけど、正しくは“全身性エリテマトーデス”と言って、皮膚炎に関節炎、 あとは多臓器機能低下が主な症状の自己免疫疾患で、関節リウマチと同じ膠原病の一種なの……」 まひろの知らない、難しげな医学的な用語が瑠架の口から次々に飛び出してくる。 わざわざ会話の中に出てきた単語を憶えてまで、隣人の病気をインターネットで検索とは、ある意味 感心するべきなのかもしれない。 いくら娯楽の少ない町とはいえ、よくもまあ只の転居者にそれ程の興味を持てるものだ。 それとも、興味を持たせるだけの何かが“桐敷家”にはあるのか。 「それと光線過敏症もあるから、日光には当たれない身体なんだって…… だから夕方や夜にしか 外出できないみたい…… 私も二人にはまだ会った事が無いし…… 旦那様と辰巳さんはよく見かけるけどね……」 「そうなんだ、大変だね。何だかかわいそう……」 まひろの口調には、真剣みを含んだ同情の響きがあった。瞳は若干潤んでいるようでもある。 面識の無い、話の上での他者の不幸にさえ、心の底から“かわいそう”と思えるのは彼女の美点と言ってもいい。 しかし、一方の瑠架にはそういった感情はあまり見受けられない。 件の病気に関しても、“桐敷家そのもの”への興味から発生した知的好奇心の範囲を出ないのではないか。 その証拠に、“桐敷家の夫人と令嬢を襲った病魔”を語ったのと同じ口から、次のような言葉が飛び出した。 「夜中に突然引っ越してきて、あまり町の人と触れ合わないから、皆は『あやしい連中だ』とか 『お高くとまってる』とか悪口ばかり言うけど…… でも、私は……――」 多くの羨望と少しの嫉妬に満ちた眼差しが兼正館を捉える。 「――羨ましいな…… あんなに立派なお屋敷に住んで、丘の上から私達を見下ろして…… 上流階級っていうか、 セレブっていうか、すごく憧れちゃう……」