約 1,529,345 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4046.html
小人が駆けつけたとき、 ――総ては、終わったあとでした。 --------------------------- 人気のない校舎の片隅、保健室前の廊下通りで、古泉は朝倉と対峙する。 「……それは、どういう意味ですか」 古泉は、退路のない袋小路に行き詰ったように、苦渋の声を返した。想像し得る最悪の結末が、目の前にちらついて離れなかった。払い除ける余裕も、取り繕い毅然と笑ってみせる駆け引きも浮かばずに。 古泉の行く手を阻むように朝倉は扉前に立ち塞がり、桜色の唇をゆるく持ち上げて、淡く微笑んでいる。美しいと幾らでも形容されるだろう面を、けれども憂鬱に翳らせながら。 それは総てを理解し、また、諦めた者の眼差しだった。意思を投擲し、手ぶらになった両腕に、抱きすくめるものを失くしてしまった母親のような哀しい瞳。 「言葉通りの意味よ。……分かってるんでしょう、あなただって」 「――っ、どいてください!」 長門の様子が気懸かりで急く古泉の必死さを哀れむように、朝倉は手をひらりと振って古泉を遮った。 試すように言葉の鏃を突きつけ、笑う。 「私が此処をどいたら、あなたは今から長門さんを護れるの?――もう、真相に辿り着いたんでしょう?世界が壊れ始めているんだから、そういうことよね」 口調は雰囲気には不似合いに明るいまま、もしかするとそれは、朝倉涼子のTFEIとしての機能の限界であったのかもしれない。表情と出力する声の一致しない少女が行おうとする対話の意図を、古泉は察しかねた。 何れにせよ、朝倉涼子は長門と同じTFEIであった。その能力は人間の力の幅など軽々と凌駕する。朝倉が場を明け渡す気がない以上、無謀な喧嘩を吹っ掛けても勝てる見込みは、恐らくゼロに近いのだろう。 冷静に、冷静に。――冷静になれ。 ポーカーフェースと冷徹なまでに、氷の如く揺るがずにあれ。土台に基く精神と、いつ如何なる災厄を前にしてもたじろがない信条こそが、古泉一樹が古泉一樹であり続けるためのパーソナルだ。心のうちにそう唱え、包帯の下の握り拳に行き場のない衝動を封じ込めて、浅く息を漏らす。 朝倉は、そんな古泉の様を言葉の上では賞賛してみせた。 「ここは流石ね、って言うべきなのかな。この状況下でそこまで落ち着けるなんてね。優先順位を履き違えないのはあなたの長所みたい」 「朝倉さん、あなたと問答をしている暇はないんです。其処を、……一体、何をすれば通して頂けるんですか」 「あなた相手だと話が早いわね」 朝倉は人差し指を自身の頬に押し当て、――古泉に挑むように唇の端を吊り上げた。 「条件は揃ったみたいだし、クイズを出すわ」 「……クイズ」 「私が一体、『何』役か。答えられたら此処を通してあげる」 古泉は、眼を眇めた。 古泉の知り得る「名有り」は、長門有希と朝倉涼子しかいなかった。それ以外に用意された群集は名も顔も見知らぬ「名無し」でしかなかった。長門に向けて刃仕込みの櫛入り手紙を託してきた女生徒でさえ、SOS団に縁もない無名のキャラクターが用いられていたのだ。あれは『妃役』が遣わせた作り物の使者というところだろうが、それでは、「名有り」として此の世界に残ることを赦されていた朝倉涼子にも、何らかの役が振られているはず。それは、憶測ではあったが、古泉の仮定に予め取り入れられていたことだった。 天に名を馳す武将達、猛者が集う歴史小説ではない、元は子供向けを意図して描かれた童話なのだから、登場人物は、片手で数えて足りる程度だ。キャストオフは為されている。大部分は、自動的に絞られる。 小人は古泉、白雪姫が長門、王子を『彼』とするならば。 余りに明快な消去法だ。 「――あなたは、『鏡』役でしょう」 朝倉は微笑みを絶やさぬまま、刹那に儚い色を残してみせた。 「ご名答。やっぱり、古泉くんなら答えると思ってたわ」 無感動に手を叩こうとする朝倉の挙動を、古泉は細い手首を鷲掴みにすることで制止した。虚像とはぐれたようなその少女の心象は、見るに耐えなかった。朝倉涼子は目に見えて、そう、初めから投げやりだったのだ。 道を遮る気すら、本当はなかったのかもしれない。ただ古泉に総てを再確認させるためだけに。 「……あなたが『鏡』なら、以前、僕に忠告をしてみせたのは何故ですか」 妃役の手下という役回りの『鏡』の、それは『妃』役に対する裏切りに値するのではないのか。古泉に掴まれた手をじっと見つめ、朝倉は息を吐き出す。まるで人のような仕草で。 「私はね、本来ならこんな役目まではなかったの――まあ、言うなればアフターフォローよ。私は『お妃様』の役に立てなかった、無様な『鏡』役だもの」 PC内にあった、「白雪姫の鎮魂」というエンディングを描かれない、途切れたきりの物語。鏡は、確かに登場していた。お妃からの問い掛けにも、答える事の出来ない虚しい端役として。 役を与えられながらその役を全うできない存在の心は、忸怩たるものであったのかもしれない。……それはきっと、朝倉涼子の責任ではなく、世界が物語に従った故のことなのだが。 「もう全部が分かってるみたいね、古泉くん。私が『お妃様』から一体何を訊ねられたか……あなたには、想像がつく?」 「……ええ」 「ふふ、よく見ているのね。そう、だから私は『お妃様』を救ってあげたいの。 ……あなたに、後を任せてもいいかしら?」 「――お約束します」 「そう。良かった」 最期まで、少女の声は明瞭に、不揃いに、明るく優しかった。指の先から粒子になり、古泉が握っていた手首も徐々に侵食を受け、光を取りこぼしながら消滅してゆく。古泉は動揺しなかった。世界が壊れ始めていて、総ての人が消え失せていく のは分かっていたことで、恐らく時を待たずに古泉自身もそうなるのだろう。 朝倉涼子は――不完全な『鏡』であろうとも、『お妃』を本当に慕っていたのだろうと。終焉を眼の前に彼女は、そんな微笑み方をした。 「……あなたは、やはり、まるで人だ」 古泉がぽつりと吐いた呟きを、眠りに就く『鏡』役は聞いただろうか。 消え失せた朝倉の残像に眼を凝らし、それから眼を伏せ黙祷する。――腹は、据わっていた。 古泉は何もかもを見届ける覚悟を床敷きにして踏み越え、保健室の扉に手を掛けた。 ――扉そのものも、取っ手位置がチョコレートのように柔らかく液状になり、姿を保てずに融解していく。 露になった内装は、既に溶解したようになって原型を留めていない。古泉が脚を踏み入れた保健室は既に、先程までの保健室の様相を呈していなかった。いつかに体験した、ある種の情報制御空間のようだと古泉は思った。 そしてどろりとした飴が伸ばされたような地平の見えぬ空間、――仰向けに、寝かされた細く折れそうな身体を見つける。 だらりと四肢を垂らした少女。スカーフは整えられているのに、纏った制服のスカートはよれて皺になっていた。 けれども臨む、少女の上蓋を落とした表情は不思議と穏やかだ。 眠っているかのような彼女の掌に握られていたのは、まるく赤く瑞々しそうな、齧り痕の残る一個の林檎。 古泉は無言で、眠っているかのような少女の下まで歩み寄り、――膝を折った。震える左腕を伸ばし、少女の頬に手を触れさせる。まだ生きているように暖かいが……それも、じきに温度をなくしていくだろう。 「…………『間に合わなかった』。この物語の小人役も、どうやらそういう役回りらしいですね」 古泉は、視線を上向かせた。 死神のように立つ、以前の絞殺未遂事件に目撃をした黒フードの立ち姿が、そんな倒れ伏した長門を観察するように見下ろしている。背景が銀色と黄土色をマーブルにしたような歪みに彩られる中で、ふわりともせず静止する黒布は、不気味に浮かび上がって見えた。 この世界における『妃役』、この空間で長門を付け狙い、手に掛けた人物であることは瞭然だった。だが、古泉は罵声を浴びせかけることも糾弾をけしかけることもない。 眼鏡越しの少女の瞼は動かず、その結末を何処かしらで予感していた古泉の、噛み締めた唇から血が滲む。 ―――小人が呪に苦しむのを気に病んだ心優しい白雪姫は。 ―――そこに、毒が塗られているだろうことを承知の上で。 終わらせるために。誰もこれ以上傷つけないために、妃から林檎を受け取り、自ら、口にする。 『長門有希』はか弱く、脆く、優し過ぎた。 そしてそんな白雪姫の悲壮な死すら、計算づくで妃が書き上げたシナリオだというなら。視点を黒フードを羽織った『妃』役に向けて、古泉は遣り切れない総てをぶつけるように、問うた。 「どうして、ですか」 「…………」 「これは『あなた』だ。――あなたを、あなたが殺すのは、何故ですか…!!」 どうして、此の場に立ち会うのが、僕だったのですか。 古泉の臓を絞り切るような声に応じて黒布がはらりと落ち、蒸発するように端から消滅した。 露になったのは――古泉が縋るように抱いた少女とは違い、フレームのない素顔に、超然とした宇宙人端末としての匂いを損なっていない少女。白く薄い無表情の表層を保持し、古泉一樹の好意に、決して答えてはくれないだろう女性。 ――長門有希、だった。 --------------------------- 小人が駆けつけたとき、 ――総ては、終わったあとでした。 毒の林檎に齧りついて、白雪姫は死んでしまいました。 けれど例えば白雪姫が生き残ったらば、 火で炙られた鉄の靴を履いて、お妃様は死んでしまうことでしょう。 白雪姫を殺したのはお妃様。 ――お妃様を、殺すのは、だあれ? (→8)
https://w.atwiki.jp/heisei-rider/pages/363.html
レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕(2)◆.ji0E9MT9g ◆ 「どう?驚いた?自分の変身アイテム、まさか僕にとられるとは思ってなかったでしょ」 レンゲルバックルを再度懐に戻しつつ、相変わらず人を馬鹿にするような笑いを浮かべながらゆっくりと歩み寄ってくるキングを前に、唯一存在していたはずの抵抗手段さえ奪われ思わず後ずさりする渡。 それでも許される限りの抵抗を、とその手に握りしめたジャコーダーを振りかぶろうとしたその瞬間、二人の間に滑り込む影が一つ。 「――待て」 小野寺ユウスケ、その人である。 強い意志でもって渡を庇う様に立った彼に対して、しかしキングは小ばかにするように鼻息を一つ鳴らすだけだった。 「クウガ。なんでサガを庇おうとするの?そいつは君を操って人殺しの道具にしようとしたんだろ?」 「そんなの関係ない。俺は俺の信じたいものを……俺が感じた渡の優しさを信じる」 「笑える。そうやって信じた結果が、アビスや強鬼をその手で焼きつくすことなわけ? 肝心なダグバはもっと強くなってピンピンしてるのにさ」 ダグバがより強くなった、という言葉に少しばかりの引っ掛かりを覚えつつも、ユウスケはしかしそれでももう迷う素振りを見せず真っ直ぐにキングを見据えた。 「確かに、それは俺が一生をかけて償わなきゃいけない罪だ。でも、それに囚われてうじうじしてるだけじゃ、結局誰も救えない。 少なくとも今俺が手を伸ばせば死なずに済む人がいるなら、俺はそれを見捨てることなんて出来ない。例え不格好でも、うまくやりきれなくても、これが俺だ、俺のやりたいことだ!」 そこまで言い切って、ユウスケは天に向け大きく右手を掲げる。 瞬間空より降った青の一閃は、渡にも見覚えのあるものだ。 やがて点と化したその高速の星をしっかりとその手で受け止めて、ユウスケは顔だけ渡に振り返った。 「渡、よく見ておけ。これが加賀美さんが俺に繋いでくれた力。人を、お前を助けるために俺に託してくれた力だ! ――変身ッ!」 ――HENSHIN 掛け声とともに銀のベルトに叩き込まれたガタックゼクターから、ユウスケの全身を覆い隠すように青のヒヒイロノカネが形成される。 重厚な鎧に二門のバルカン砲を肩に構えた移動要塞、仮面ライダーガタック、そのマスクドフォームと呼ばれる形態が、再び渡の前に姿を現した瞬間であった。 変身の完了を示すように赤く闇夜に輝いたその瞳に全身を照らされながら、しかしキングは余裕の表情を崩さない。 「へぇ、ガタックか。それじゃ僕はこれにしようかな。 変身、っと」 あたかも適当に選んだ、というような言い草でキングは懐から黒地に金のエンブレムが入ったデッキを取り出す。 ガタックの鎧に反射したその姿に反応し現れたバックルにそれを装填すれば、キングの体はたちまち異形のものへと変貌した。 オルタナティブ・ゼロ、先の戦いで野上良太郎から奪い取ったその戦利品を、今またしても悪のために戦うアンデッドが纏った姿だった。 「さてそれじゃ、始めようか?」 「うおおぉぉぉ!!!」 オルタナティブのあくまで軽い言葉に、ガタックのどこまでも響くような咆哮。 それを合図にして、今新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。 ◆ 戦いを始めたガタックとオルタナティブを前にして、紅渡は一人戦場から踵を返していた。 戦えるだけの力がないためだ、制限のかかっていない力として見込んでいたレンゲルが敵の手に渡った以上、もう自分の手のうちに今使えるアイテムは存在しない。 時計を見れば時間もすでに4時を回っている。 もう少しで禁止エリアになるだろうここに執着するよりも、制限解除までをどこか別のところで休息するのが正しい選択ではないかと渡は感じたのだ。 「――どこ行くつもりだよ、渡」 乗ってきたバイクに向かってふらふらと歩いていた渡に、上方から降ってくる声が一つ。 聞き覚えのあるその声を無視するべきか数舜考えてしまったその時点で、既に渡は彼から逃げるタイミングを失ってしまった。 「キバット」 仕方なく見上げれば、そこにはどこか怒りを込めたように目を細めるかつての相棒の姿があった。 その失われた片目を見るたびに、渡はどうしようもなく胸を締め付けられる。 自分があそこで彼をこんな戦場に一人投げ出してしまったから、こんな傷を負うはめになってしまった。 自分と一緒にいても彼を利用してしまうだけだと決別したというのに、その結果として突き付けられたその痛ましい傷跡は、渡は嫌でもユウスケに言われた『逃げ』という言葉を痛感させる。 もしかしたら自分がキバットから逃げなければ、こんな傷を彼が負うこともなかったのでは。 そんな意味のない思考が、渡を捕らえて離さないのである。 「……なぁ、渡」 「キバット、僕のことは放っておいて。もう君と僕には、何の関係もない」 どこまでも変わらないキバットの問いかけに、渡はあくまでも拒絶で答える。 或いはそれが先ほどまでと同様キバットをしっかりと見据えたものであったなら彼もここでおとなしく引き下がったのかもしれないが、此度は違った。 本来は無関係であるはずだというのに持ち前の優しさであそこまで渡を説得してくれたユウスケの思いを、渡の相棒であるはずの自分が受け継げなくてどうする。 ここで彼をこのまま見送ることは、きっと誰も望んでいないことなのだ。 そう自分に言い聞かせるようにして、キバットは一つ自分の中の躊躇を飲み込んだ。 「――また逃げんのか?」 ピタリ、と渡の足が止まる。 彼が今の道を行ってしまったのはユウスケの指摘した彼の逃げについて、誰よりも近くで見ていながらそれを止めることをしなかった自分の責任でもあると、誰より強く自覚しながら。 「違う、僕は逃げるんじゃない、王は敵を前にして無様に逃げたりしない!」 「あぁそうだろうよ、お前が逃げんのはあのキングってヤローからじゃねぇ、ユウスケからだ! あいつと一緒にいると自分の中の何かが変わっちまいそうで怖いから、だから逃げるんだろ?名護の時と同じように!」 キバットの必死の剣幕を前に、渡は少したじろいだ。 長年彼と共に生きてきて、幾度となくケンカしたこともあった。 だがその大半が下らない理由によるもので、しかも最後には大抵キバットが折れて終わっていた。 だからこそ、だろうか。 ここまで折れずに自分に反論するキバットを見て、今回はいつものように彼が折れて終わることはないのだろうと気付いた。 少なくとも渡にそう思わせる程度にはキバットが必死の思いで止めなければならないことを、自分はやっているのだと、そう思った。 「そんなこと言ったって、結局今の僕には変身もできない。 だから今の僕には退く以外に何も……」 「……出来るじゃねぇか、変身なら」 言って自分の胸(正確には口の下)を叩くキバット。 しかしそれを見て、渡はどうしようもないほどの怒りが沸き上がるのを感じていた。 「ふざけないで!言ったでしょ、僕は君をもう二度と利用したくないんだ。 自分の都合で君を利用するなんて、もう二度と――」 「勘違いすんじゃねぇ!」 だが返ってきたのは、渡が今まで聞いたキバットの声の中で、最も大きな怒号だった。 思いがけないその声量と、そこに込められているだろう感情に渡は思わず気圧されるのを感じていた。 「いいか、渡。 今はな、お前が俺を利用するんじゃねぇ、俺がお前を利用するんだ。 ……ユウスケを助けるためにな」 「キバットが、僕を利用する?」 「そうだ、俺はこの通りボロボロだし、俺だけじゃ俺の我儘を聞いてくれた男一人助けてやることが出来ねぇ。 でもお前がいれば、それが出来る。ついでに、あのムカつくヤローをぶっ潰すチャンスだってな」 キバットの言葉は、渡にとって意外としか言いようがないものだった。 キングの打倒、劣勢であるユウスケへの助力、そして渡との間に生まれた確執。 それら全てを解決するために、キバットはきっと必死に考えたのだろう。 自分なら、その提案を蹴れるはずがないとそう思って。 「……だからよ、半分だけ力貸せよ、渡」 そう言ってキバットはニヒルに笑った。 きっとまだ自分を許し切ったわけではあるまい。 だがそれでもこの瞬間、利害の一致したこの瞬間だけでも、自分を仮面ライダーとして戦わせたいのだろう。 それに思い切り反抗することも出来なくはなかったが……今の渡には、それも意味のないことに思えた。 そして何より、視界の先で青い仮面ライダーを蹂躙し嗤う黒い戦士を見たとき、それ以上の思考は渡にとって不要なものと化したのだ。 黙って頷いた渡に、キバットもまた頷き返す。 それだけで、二人にとってお互いの意思を確認しあうには十分だった。 「っしゃあ、それじゃ久々に……キバって、行くぜええぇぇぇ!!!」 ビュンビュンと渡に周囲を飛び回ったキバットが、渡の掲げた右手に収まる。 そのまま慣れた手つきで渡の手にキバットが噛みつけば、溢れ出す魔皇力が彼の体を迸り、渡の全身にステンドグラスのような紋様を浮かび上がる。 それと同時腰に巻き付いた真紅のベルトの中心にキバットを収めると、渡の全身は新たに生成された鎧に包まれた。 仮面ライダーキバ。 キバの世界を代表する仮面ライダーが、今本来の装着者を伴って再びこの場に姿を現したのである。 その身に抱いた思いは違えども、為すべきことはただ一つ。 低く構えたキバは、視線の先で火花を散らす両雄に向かい飛び込んでいった。 ◆ 分かっていた話ではあるが、キングは強かった。 マスクドフォームの防御力に頼っていても、疲労した現状ただ相手のいいように時間を浪費するだけだと早々にライダーフォームへと変じていたガタックは、しかし未だに苦戦を強いられていた。 こうなった原因は、ライダーシステムそれぞれの優劣によるものではない。 ただ純粋に、ガタックに変身する自分の体力が今対峙しているキングに比べ思い切り劣る結果なのだと、ユウスケは分析していた。 牙王との戦いの時にも似た状況、しかしあの時と違い一人でただ一条を背負い歩き続けたこの数時間が、あの時よりもユウスケから体力を奪っていたのだ。 (今の体力的に、クロックアップできるのは精々あと1回か2回。 今のままじゃ決めきれない、何か……何か奴の気が逸れるようなことがあれば……!) クロックアップは、ZECT製ライダーであれば標準装備されているというその手頃さ故勘違いされがちだが、実際のところ高速移動中に体にかかる負担は多大なものである。 未だ能力の全貌を露わにしないオルタナティブを前に自身の切り札を切るには、何か彼を動揺させるだけの何かが足りないと、ガタックは勝負を決めきれずにいた。 「……ん?」 そんな時、両者の耳に飛び込んできたのは、勇ましい戦士の足音。 断続的に聞こえてくる、鎖が金属に触れ合うような音はユウスケにも非常に聞き覚えのあるものだった。 「渡、キバット!」 「ハアァァァァ!!!」 ガタックの喜色を帯びた呼び声に反応することなく、キバはその勢いのままに飛び上がりオルタナティブに拳を振りぬく。 確かな威力を誇ったはずのそれを難なくその手に持った大剣の腹の部分で受け止めながら、オルタナティブは再び嘲るように鼻で笑いながら口を開いた。 「やぁキバ。お友達の蝙蝠君と喧嘩してるっていうから楽しみにしてたのに、もう仲直りしちゃったの?つまんないなぁ」 「勘違いすんじゃねぇ!俺たちは今てめぇをぶっ倒すためだけに協力してるだけだ。 俺はまだ渡をキチンと許したわけじゃねぇ、ユウスケにやったこと謝るまで、俺はこいつを相棒とは認めねぇ!」 「あっそ、てか最初から君には聞いてないし」 ただ吐息だけでオルタナティブへの敵意をむき出しにする渡に、彼の代わりに応対するキバット。 なるほどこれは最高の相棒だと、キングは心中で静かに嗤った。 それと同時キバが繰り出したハイキックを今度は切り落とさんとするが、しかし右足を封印するカテナによって阻まれ甲高い金属音を生じさせるのみだった。 「やる気になってくれたとこ悪いんだけど、君たちの相手は後ね。 まずはクウガと遊びたいから――」 ――ADVENT そしてそれにより数歩後退ったキバが再び自分に向けて殴りかかってくる寸前に、オルタナティブは自身のデッキよりカードをバイザーに読み込ませていた。 ガタックの持つカリバーから質量を無視して飛び出したオルタナティブの契約モンスター、サイコローグは主の命じるままにキバに襲い掛からんと大きく両手を広げる。 「させるかッ!」 ――CLOCK UP しかしそこで、ガタックの切り札が発動する。 契約モンスターを倒せば弱体化するという『龍騎の世界』の仮面ライダーの性質上、ここでキバと分断させられ変身時間を浪費するよりは、ここでクロックアップを使用し一気に勝負を決めようと考えたのである。 そしてそのままガタックは両手に持ったカリバーを合わせ必殺の一撃を――。 「そんなことくらい、僕が読んでないと思った?」 後方より突如現れたオルタナティブの攻撃で阻止された。 ダブルカリバーをカッティングモードから双剣の状態へと戻し、何とか二撃目以降を凌いだガタックは、ことここに至って自分の甘さを呪った。 大ショッカー幹部が、自分の変身したガタックを見てわざわざ手持ちの中から選んだ姿だ、高速移動に準ずる能力やそれに抵抗できる手段くらい、持っていて当然だと警戒して然るべきだったはずだ。 自分の愚策を悔いる中、防戦一方のまま貴重なクロックアップの時間が終了する。 同時にオルタナティブの契約モンスターがキバを闇の彼方へと強引に移動させ、残されたのはまたしても自分たち二人のみとなってしまった。 もう助けも望めないだろうだだっ広いこの荒野、先ほどよりも消耗した体力が、頼みの綱である高速移動能力を拒絶する。 どうしようもない危機的状況でしかし、ガタックはまだ何も諦めてはいなかった。 大ショッカーの幹部を倒し、これ以上犠牲になる人を増やさないためにも、大ショッカーに反抗すると誓った自分の思いが嘘ではなかったと証明するためにも。 ここで立ち止まることなど許されないと、ガタックは決意を新たにカリバーを大きく振りかぶった。 ◆ オルタナティブとガタックの戦いから少し離れたところで、今また新しい戦いが始まろうとしていた。 キバとサイコローグ、向き合った両者。 意思の存在しないモンスターを前に、しかしキバは一切の油断をすることはなかった。 先代の王や自分自身も使用したゾルダという仮面ライダーの力、そのシステムの大体を理解した渡にとって、この契約モンスターという存在の有用性は痛いほどに分かっている。 そして同時に、自分たち参加者が契約モンスターを現界させたときに発生する消滅までのタイムリミット。 あのキングという幹部に首輪は存在しておらず、ゆえに変身制限が存在しないだろうことを思えば、もしかすればこうして現れた契約モンスターも制限なく彼が望む限り現実世界に存在できるのかもしれなかった。 そして自分たちが倒すべきは目の前のモンスターではなくそれを操るキングであるという事情を鑑みれば、むしろ10分という明確な変身制限が存在する自分のほうがより不利だと言えるだろう。 「ハァッ!」 まどろっこしい思考のすべてを一旦無に帰すかのように、キバは勢いよくサイコローグに向け右拳を振るった。 その拳は敵の防御に呆気なく受け止められるが、それで怯むキバではない。 続けざまに左右の拳を連続で繰り出し、敵の防御を崩さんと神速の勢いで攻撃を重ねていく。 そしていつしか生まれた一瞬の隙、右ストレートによって数歩後ずさったサイコローグに、続けざまに放たれたキバの鋭い蹴りが突き刺さっていた。 無防備に吹き飛んだ敵に、続けて追い打ちを仕掛けるため駆け寄るキバ。 しかしそれを前にして、サイコローグの身体は一瞬で人型からバイクへと変貌していた。 「な、何ィ!?」 思いがけない展開にキバットが驚愕の声を上げると同時、瞬きの間に最高時速まで加速したサイコローグがキバを目掛けて突貫してきていた。 間一髪横に転がり攻撃をやり過ごすが、急旋回し猛スピードで繰り出された二度目の突進は躱し切れずキバは大きく吹き飛ばされた。 地を転がり肩で呼吸するキバのもとに、間髪入れずにサイコローグが突撃してくる。 「クソッ、ちょこまか動き回りやがって……。 そっちがその気ならこっちだって――バッシャーマグナムッ!」 キバットに導かれるようにホイッスルを彼に噛ませたキバのデイパックから、緑の彫像が飛び出してくる。 何の変哲もないそれは魔皇力を受け一瞬で銃のような形状へと変形し、右手でそれを握りしめたキバの身体もまた深緑に染まった。 仮面ライダーキバ、バッシャーフォーム。 高い機動力と遠距離からの自在な攻撃を可能とする、キバとその従者が融合した姿だった。 「さっさと決めるぜぇ、バッシャーバイトッ!」 バッシャーフォームへと変身したキバがマグナムをキバットに噛ませると、彼の足元を起点としてアクアフィールドと呼ばれる亜空間を発生した。 向かってくるサイコローグを水面を滑るように移動して難なく回避し、キバはそのまま銃口を彼へと向ける。 しかし対峙する敵もまたそうした攻撃は読んでいたのか、キバを中心にするように円を描きながら徐々に距離を詰め、攪乱と攻撃を両立させる。 このままではまともに照準を定めることは出来ず、キバに待つのはただ行き止まり(DEAD END)のみである。 そう、彼が持っているのがただのマグナムだったなら、それは避けられなかっただろう。 「ハアァァァァ……」 緩くゆっくりと息を吐きだしながら、キバはサイコローグが奏でる喧騒に気を取られることなく銃口を引き絞った。 瞬間放たれた水の弾丸は、当然のように敵を直撃することなく彼方へと消えて……はいかない。 一度行き過ぎたかに思えたそれは、次の瞬間凄まじいスピードで標的へ追跡を開始する。 どんどん、どんどんとサイコローグが円の中心であるキバへ距離を縮めるたびに、キバの放った弾丸もまた彼へ肉薄していく。 そしてまさにサイコローグがキバへと襲い掛からんとするのと同時、水の弾丸は彼へと着弾し、激しい爆発がキバを包み込んだ。 ◆ 「ほらほらどうしたの?そんなもんじゃないでしょ?さぁ戦ってよ仮面ライダー」 薄れかけた意識が、癇に障る高い男の声で覚醒する。 こいつにだけは屈してはならない、何度目になるかわからないその覚悟で崩れかけた構えを何とか保つ。 この戦いが始まってはや数分、未だにガタックはオルタナティブに対して有効な攻撃を浴びせることが出来ていなかった。 もういつ変身制限が訪れてもおかしくはないと逸る気持ちが、より一層ガタックの消耗を加速させ彼から冷静さを奪っていく。 その一部始終をすべて分かったうえで観察するのが面白くて堪らないとばかりに笑い続けるキングの声が、ひたすらに腹立たしかった。 「お前は放送で、誰かを守るために戦った仮面ライダーの死を侮辱した。 だから俺が、ここでお前を倒す。お前が馬鹿にした、その誰かを守るための力で!」 「へぇ、誰かを守るために戦う仮面ライダーって、例えばもう一人のクウガ、とか?」 「あぁそうだ!五代さんもあの石で操られていたとしても、本当は正義のために戦いたかったはずなんだ、それを――!」 思わず語勢の強くなったガタックの耳に、ケタケタと笑い声が響く。 あぁ全く、こいつの話にまじめに取り合うだけ時間の無駄だったかと肩を怒らせる彼に対し、しかしオルタナティブは軽薄に嗤うのをやめない。 「いやごめん、ちょっとおかしくってさ。 だって君が影響受けまくってるもう一人のクウガ、それを殺したのはほかでもない君の大事な仲間のディケイドなんだから」 「……は?」 キングのその言葉について、脳が理解を拒んでいるのが分かった。 士が、五代さんを……一条さんにとって最高の友人で最も信頼のおける存在だと言っていたもう一人の仮面ライダークウガを、殺したと? 地の石による誤解が生んだ結果かもしれない、そもそもキングの吐いた嘘、出まかせかもしれない。 そんな甘い考えが脳を過るのと同じくらいに、もしかしたら士が破壊者として彼を破壊したのではという懸念が思考を占領していく。 世界がどうとか関係なく、五代さんを破壊した破壊者として士と戦わなければいけないかもしれないという不安は、どうしようもないほどに強かった。 どうしようもなく拭いきれないジレンマに陥りかけたガタックを、オルタナティブの放った横薙ぎの一撃が襲う。 間一髪直撃は避けることに成功するが、ほんの数cm胸元を掠めたその衝撃だけで、ガタックの身体からは火花が散り、遂に彼は膝をついた。 立ち上がろうとした瞬間自身の喉元に突き付けられたオルタナティブの大剣によって、ガタックはこの戦いの勝敗を察する。 どうしようもない、一切の異論も認められないほどに、ユウスケの完敗、キングの完勝であった。 「ね?だから言ったでしょ?口先だけの正義の味方とか弱いだけだって。 ルールも分かってないのに運だけで勝ち残っちゃった雑魚はさっさと退場してくれなきゃ」 「運……だけ?」 「そうだよ。僕の言ってること違うだのなんだのってうるさいくせに、誰一人僕より強い仮面ライダーなんていないんだ。 つまり結局僕が言ってることが正しいってわけ。君たち仮面ライダーはみんな、間違ってるから弱いんだよ」 ビュンと風を切り振り上げられた大剣がそのまま重力に従ってガタックの首に振り下ろされる。 そのまま一切の抵抗さえ感じさせず地面に叩きつけられると思われたその剣はしかし、ガタックの頭上、彼が掲げた一対の双剣に阻まれていた。 「なッ……!?」 「間違ってるのは、お前だ。キング……! お前が今まで負けなかったとしたらそれはお前が、自分が有利になれる状況でしか戦おうとしない卑怯者だからだ!」 ぴしゃりと言い切ったガタックに、オルタナティブは初めて僅かばかりの苛立ちを見せた。 だがそれだけでガタックの言葉は止まりはしない。 今まで良いように言われた分を取り返すかのように、彼はまた口を開いていた。 「一瞬でもお前の言葉に揺らいだ自分が恥ずかしいよ……! けどもう俺は迷わない。人を守ることも、士のことも、俺は全部諦めない。 もう二度と、悩んで立ち止まったりしない!」 ――RIDER CUTTING 新たな決意を叫んだガタックに呼応するかのように、ガタックの持つ二本のカリバーにタキオン粒子が流れ込んだ。 ちょうどクワガタの鋏のような形でオルタナティブの大剣を挟み込んだダブルカリバーは、そのままじりじりと二人の間の力関係を逆転させていく。 今まで膝をついていたガタックが徐々に立ち上がり、逆に今まで常に余裕を崩さなかったオルタナティブは徐々に呻き声をあげガタックの想定外の粘りに驚きを隠せないようだった。 高まり切ったエネルギー、完全に形成を逆転させた両者の間僅かの間競り合っていた均衡は一瞬で砕け散った。 オルタナティブの持つ大剣が、ガタックのライダーカッティングに耐え切れずその刀身を真ん中から二つに別ったのである。 それにより大きく体勢を崩したオルタナティブは、しかしすぐに立て直そうと一歩後ろに飛びのこうとする。 「ああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」 だが、それを許さなかったのはガタックのタキオン粒子を帯びた右足だった。 オルタナティブが仰け反ることさえ見越した間合いで放たれたその蹴りは見事に敵の胴体を捕らえ、彼方へと吹き飛ばす。 それにより生じた爆発の中、制限により変身を解除され地に膝をつき肩で大きく呼吸をしながらも、ユウスケは大きく腕を空へと突き上げた。 「――で、まさか今のが僕の本気、とか思ってないよね?勘違いしないでよ、これからが本番だから」 だが次の瞬間、僅かな苛立ちを含ませながらも、未だ健在のキングが煙の中から現れる。 先ほどまでと一つ違うことがあるとすれば、彼の姿がオルタナティブではなく軽薄な青年のものに戻っていることだ。 今し方変身を強制的に解除されたというのに浮かべている軽薄な笑みを見れば、なるほどこれからが本番というのはあながち嘘ではないらしい。 しかしそんなキングに対し、こちらにはもう変身手段どころかまともな抵抗を出来るだけの体力さえ残されてはいない。 今度こそ万事休すか、そう思われたユウスケの瞳はキングの後方よりゆっくりと歩み寄ってくる、牙王やダグバにも遜色ないほどの威圧を誇る戦士を捕らえた。 それは、今キバの持てる中で最高の形態、渡とキバット、そして彼に仕える三体の従者が一体化した姿。 仮面ライダーキバドガバキフォームがゆっくりと、しかし確実にキングに向け歩を進める姿だった。 「今度は君が相手?キバ。なら僕だって……変身」 しかしキバの威圧に一切怖じけぬまま懐から新しいデッキを取り出したキングは、東病院から持ち出してきた鏡の破片にそれを翳す。 それによって装着されたVバックルにデッキを勢いよく叩き込んで、彼の姿は刹那のに青藍の騎士に変じた。 「蝙蝠には蝙蝠……って奴?」 仮面ライダーナイトサバイブと化したキングは、不敵な笑みを浮かべたまま剣を構えキバに突撃する。 ガキン、と甲高い音を響かせてキバはダークバイザーツヴァイをユウスケのデイパックから呼び出したガルルセイバーの刃で、まんじりともせず受け止めていた。 次の瞬間、生まれた拮抗に甘んじず、キバの引き絞ったバッシャーマグナムの引き金がナイトに向かって火を噴いた。 弾丸の直撃を受け大きく吹き飛ばされたナイトは、しかし予想通りと言わんばかりにバイザーを弓状に変形させ無数の矢をキバに向けて放った。 すんでのところでガルルセイバーを振るい、空気の矢を全て切り落とすが、しかし先の対処速度を見れば、単に情報量に頼り切っているだけではなくこのキングという男が――一番かはともかく――強いというのは満更嘘でもないようだった。 「そういえばさ、キングっていう名前は、一番強いただ一人だけが名乗っていい名前なんだよね。 君はあの“王様”より強いけど、僕より弱いんだからその名前使われるとムカつくんだよね」 「ならやはりキングは僕だ。僕も……それにあの人も、お前より強い」 「言ってくれるじゃん……!ならやってみなよ、無理だと思うけど!」 その言葉を合図にするように、両者は互いに一斉の距離を詰めた。 再度剣を構えキバを切りつけんとするナイトに、キバは出し惜しみは不可能だと悟ったか、ザンバットソードの名を持つ大剣とドッガハンマーの名を持つ槌を構える。 ダークバイザーの刀身をザンバットで受け止めそのまま大きく振りかぶったドッガハンマーを思い切りスイングすれば、しかしそれはナイトの左腕に装着された盾状のバイザーに阻まれ本体には届かない。 しかしその一撃のあまりの重さにナイトの動きが一瞬でも硬直すれば、それでキバには十分だった。 片手のみで無理矢理に扱っていたドッガハンマーを乱暴に投げ捨てて、キバは両手でザンバットを振り下ろす。 何とか己の得物でそれを凌ごうとナイトは藻掻くが、しかし先の一撃で生まれた身体の痺れによってまともな防御も叶わぬまま全身から火花を撒き散らした。 呻きと共に後ずさり思いがけないキバの底力に意図せず圧されたナイトが顔を見上げた時には、既にそこに敵の姿はなかった。 まさか。敵の狙いに気付きハッと空を見上げたときには、もうそれは完了していた。 「――ウェイク、アアァァップッ!」 勝利宣言にも聞こえるキバットの叫びが聞こえるのと同時、キバの身体は月まで飛び上がった。 解放された右足のヘルゲートはそこにのみキバ本来の力が取り戻された証拠。 ダークネスムーンブレイクの名を持つその最強の一撃を、歯噛みし見上げながら、ナイトは必死の思いで何とか盾を構える。 必死に歯を食いしばり相手の一撃をただ享受せざるを得ないその姿には、最早先ほどまでの余裕は微塵も感じられなかった。 「――キバれぇぇぇぇぇ!!!」 キバットの絶叫に合わせて、キバの身体が急降下する。 右足をナイトに向け真っ直ぐに伸ばし迫るその姿は、まさしく死神のようだった。 ドン、と激しい音を響かせてキバの足とナイトの盾が接触し、その勢いのあまりそのままの体勢で彼の身体は大きく引きずられていく。 しかしその拮抗も長くは続かない。 キバの蹴りはナイトの盾をも超えてその一撃を敵へと届かせたからだ。 盾により幾分か威力は死んだものの、しかしなおも並の怪人であれば容易に撃破できるだけのキバの蹴りを胸に受けて、ナイトの身体は大きく爆発を起こしたのだった。 129 レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕(1) 投下順 129 レクイエムD.C.僕がまだ知らない僕(3) 時系列順 小野寺ユウスケ 紅渡 キング
https://w.atwiki.jp/kakiterowa/pages/226.html
「いい湯だな、アハハン~♪」 一人の男が、温泉に浸かっていた。歌など歌って、上機嫌だ。 だが、そんなのんきな光景は長く続かなかった。彼のまわりのお湯が、赤く濁り始めたのだ。 「ん?なんだこれ?…って、このにおいは…。血!?」 異変を悟り、慌てて周囲を見渡す男。すると、自分以外にも温泉に入っている人間がいるのを発見する。 その人物のまわりは、血の色が一段と濃かった。 「ちょっと、君!大丈夫か?」 とっさに、彼は声をかける。返事はない。代わりにその人物…幼い少女の体が崩れ落ちる。 「え?」 近づかなくてもわかった。湯船に浮かぶその少女は明らかに 死 ん で い た。 「うあああああああああ!!」 静かなる ~Chain-情~は、叫び声と共に覚醒した。 「だ、大丈夫ですか?」 すぐ後ろから、声がかけられる。Chain-情が首をひねって後ろを見ると、そこには自分を 心配そうに見つめる少女の姿があった。 (この子は、えーと…。俺はいったい何を…。) まだ完全に稼働していない脳みそを無理矢理動かし、Chain-情はこれまでのことを思い出す。 (そうだ、俺はバトルロワイアルに放り込まれて…。それで女の子を殺したメガネ野郎と、 この子からもらった支給品で戦って…。たしか勝ったんだ。たぶんその後、緊張の糸が 切れたか何かで気絶してたのか…。しかし、いやな夢だったな…。) 「あの…。お水飲みます?」 「ん?ああ、ありがとう。」 少女が差し出したペットボトルを受け取り、Chain-情はその中に入れられていた水を一気 に口に流し込んだ。 「あれ?」 そこで彼は、ようやく自分の身に起きた異変に気づく。 よく見れば、自分の着ていた服が学ランに変化していたのである。 「ねえ、これは…。」 右手で左腕の袖をつまみながら、Chain-情は少女に尋ねる。 「ああ、その服ですか?お兄さん、服がずぶ濡れだったじゃないですか。このままじゃ風 邪を引いちゃうってうっかり侍さんが言い出したんで、気絶している間に着替えさせても らいました。ちょうどうっかり侍さんの支給品に、お兄さんが着られそうな服があったんで。」 「うっかり侍?ああ、あのトウカの姿の人か。」 考えてみれば、彼女とChain-情はお互い名乗ってすらいなかった。 しかし、トウカといえばうっかり侍。うっかり侍といえばトウカ。 Chain-情の脳内ではその名前と姿は、驚くほどあっさりと結びついた。 「ん?ちょっと待って。さっき、着替えさせたって言ったよね?」 「はい。」 「つまり…。いろいろ見ちゃったわけ?」 ダイレクトに聞くわけにもいかず、ぼやかした言い方をするChain-情。 それに対し、少女は頬を赤く染めてうつむく。 「すごく……大きかったです。」 「ええーーーーー!!」 今度はChain-情の顔が、完熟トマトも裸足で逃げ出すくらいの赤さに染まる。 「なーんて。冗談ですよ。」 からかうような口調で、少女が言う。しかし、目が笑ってない。 (本当に冗談なんだろうか…。) Chain-情の心は、何とも表現しがたい複雑な感情に支配されていた。 そのころ、彼らがいる場所から遠く離れた学校では…。 「むっ!」 「どうした、エロ師匠。」 「今、私のエロセンサーにかすかな反応が…。すぐ消えてしまったが…。」 「知るか!というか、なんだそれは!」 話は再び森の中に戻る。 「おお、気づかれておられたか。」 何とも微妙な雰囲気になっていた二人の元へ、うっかり侍が戻ってきた。 その体には先の戦いで負った傷を覆うように、大量の布が巻かれている。 そして、両手は土で汚れていた。それを見て、Chain-情は彼女が今まで 何をしていたのかを理解する。 「えーと…。そういえば、まだ名を聞いておりませんでしたな。某は永遠のうっかり侍。 ギャルゲロワの書き手でござる。」 「私はアニロワ2ndの書き手、素晴らしきフラグビルドです。」 「え…?」 「どうかしました?」 「あ、いえ。俺は静かなる ~Chain-情~。アニロワの書き手です。」 実はChain-情は、いろいろショッキングなことがあったせいでこのロワに参加している 他の人間もパロロワの書き手であることを忘れていたのである。 「Chain-情さんって、たしか2ndでも書いてましたよね。ということは、私と同郷ですね!」 「ああ…。」 フラグビルドの言葉も、Chain-情の頭には入っていっていなかった。 彼の脳内は、ひとつの考えに支配されていた。 (そうだ、このロワに参加しているのは書き手だけ…。つまり殺されたあの女の子も、 俺が倒したメガネ野郎も…。) 「Chain-情殿、いかがなされた?顔色が優れぬようだが…。」 「うっかり侍さん…。すいませんが、あの女の子を埋葬したところまで案内してくれませんか?」 「ええ?何故そのことを!まだ話しておらぬというのに…。」 「簡単な話ですよ。あなたの手には土が付いていた。ロワで手に土が付く行動といったら、 遺体の埋葬以外あり得ません。」 「な、なるほど…。」 「で、案内してくれますよね?」 「Chain-情殿が何を考えておられるのか某にはわかりませぬが…。わかり申した。 案内いたしましょう。」 温泉少女の遺体は、三人が会話していた地点から歩いて五分とかからぬ場所に埋葬されていた。 そしてその近くには、もう一つ土を掘り返した跡があった。 「うっかり侍さん、あっちは?」 「我らを襲った男の墓です。いくら罪もなき人を殺めた外道とはいえ、死んでしまえばただの亡骸。 放っておくのも忍びないと思い、あそこに…。」 「そうか、やっぱり死んでたのか…。俺は、殺してしまったんだ…。俺と同じ書き手を…。」 Chain-情の体が、小刻みに震え出す。それは自分への怒り故か。それとも悲しみか、恐怖か。 あるいは、本人にもわかっていないのかもしれない。 「Chain-情殿が気に病む必要はござらん!奴はゲームに乗っていた!Chain-情殿が奴を 殺していなければ、死んでいたのは我ら三人だったかもしれぬ!」 「わかってます。けど、彼だってこんな殺し合いに参加させられなければ、殺人なんて する人間じゃなかったのかもしれない。生きていれば、素晴らしいSSを書いて多くの人 を感動させていたのかもしれない。それを俺は…。」 「もうやめてください…。そんなに自分を責めないで…。」 なおも震えが止まらないChain-情。その体を、背後からフラグビルドの小さな腕が抱きしめる。 「Chain-情さんに武器を渡したのは私です。Chain-情さんの行動に罪があるというなら、 私だって同罪です。だから、一人で背負い込まないで…。」 「フラグビルドさん…。」 Chain-情は自分の胴に回されていたフラグビルドの腕を、優しく外した。そして、彼女の 頭に手を置く。 「ありがとう。そう言ってくれるだけで、俺は十分救われる。」 震えは、もう止まっていた。そして彼はフラグビルドから離れると、おもむろに落ちて いる石を拾い出した。 「Chain-情殿?いったい何を…。」 「まあ、見ていてくださいよ。」 拾い上げた数個の小石を、Chain-情は空中へ放り投げる。 「ゴールド・エクスペリエンス!」 Chain-情の背後から、黄金のスタンドが出現した。そのスタンドは、空中の石に向かって 拳のラッシュを放つ。 ゴールド・エクスペリエンスの能力。それは無生物を生物に変化させるというもの。 その拳を受けた石は白い花へ変身を遂げ、二つの墓の上に降り注いだ。 「わあ…。」 「おお…。」 その幻想的な光景に、女性陣二人は思わず声をあげる。 (今はこんな事しかできないけど…。君たちが命と引き替えにつないだバトンは、 確かに俺たちが受け取った。たとえ俺たちが死んでも、きっと他の誰かがバトンを拾ってくれる。 君たちの死は無駄じゃない。無駄になんかしない。だから、今はゆっくり休んでくれ…。) その後、三人は支給品のチェックおよび交換を行うことにした。 まず、ネオンが持っていた刀。これはChain-情が持つことになった。 すでに二つの強力な武器を持っているChain-情だが、カードデッキは使用に制限時間がある。 スタンドは、漫画ロワ制限により使用に精神的疲労を伴う。 そしてChain-情はライダーもジョジョも熱心なファンというわけではないため、 これらを完璧に使いこなせるかと聞かれると疑問符が付く。 以上のことから、デメリットのない武器をひとつ装備していてもいいだろうということになったのだ。 そしてうっかり侍が回収したネオンのデイパックに入っていた、彼の支給品。 これは表紙に「みWiki」と書かれた本と、真っ白なケースに入ったCDだった。 CDの方はスタンドDISCというわけでもなく、本当にただの音楽CDであるらしい。 要するに、二つともハズレ支給品だ。これは誰が持っていてもいいだろうということになり、 とりあえずChain-情が持つことにした。 それからChain-情が持っていたコアドリルは、「本編でゆたかが持っているから」という 理由でゆたかに似た外見を持つフラグビルドの手に渡ることになった。 「それで、これからどうなされる、Chain-情殿。」 「対主催として行動するなら、どこかに拠点を作った方がいいでしょうね。 とりあえず、温泉に戻りましょう。細かいプランを練るにしても、こんな森の中より しっかりした建物の中の方が都合がいいでしょうし。」 「なるほど、承知した。」 「私も異存はありません(温泉ならフラグを立てる手段にも事欠かないだろうし…)。」 「それじゃあ、いきましょうか。」 うっかり侍とフラグビルドを従え、歩き出すChain-情。その身には、すでに気高き魂が 育っていた。だが、その気高き魂があっさりとつみ取られるのがバトルロワイヤルである。 次に鎮魂歌が奏でられるとき、彼らはそれを奏でる側か、それとも聞く側か。 それを知る者はいない。 【早朝】【A-8 森】 【静かなる ~Chain-情~@アニロワ1st】 【装備】:カードデッキ(龍騎)、ゴールド・エクスペリエンスのDISC@漫画ロワ、 仗助の学生服@漫画ロワ、合成された刀(名刀“電光丸”+ 妖刀かまいたち + はやぶさの剣)@ドラえもん+風来のシレン+DQ 【所持品】:支給品一式×2、レインボーパンwith謎ジャム@ギャルゲロワ、みWiki@らき☆すた?、CD『ザ・ビートルズ』、 元々着ていた服(ずぶ濡れ) 【状態】:健康。強い決意。 【思考・行動】 基本:殺し合いに反逆ゥ!そしてなるべく多くの仲間と生還し、死んだ書き手の分まで頑張る。 1:温泉を拠点に、対主催の仲間を集める。 2:マーダーも出来れば殺したくないが、説得不可能な場合はやむを得ない。 ※容姿はスクライド(アニメ)の橘あすか。 【永遠のうっかり侍@ギャルゲロワ】 【装備品】:斬鉄剣@ルパン三世 【道具】:支給品一式、パロロワ衣服詰め合わせ 【状態】:全身各所に刀傷。軽い貧血。 【思考・行動】 基本:打倒主催、乗った人間は斬り捨てる。 1:Chain-情とフラグビルドを守る 2:無事に皆で帰る ※私立真白学園中等部の制服@アニロワ2ndを破り、包帯代わりに全身に巻いています。 【素晴らしきフラグビルド@アニ2nd】 【装備】無し 【所持品】支給品一式(まだ何か持っているかも)、コアドリル@アニロワ2nd 【状態】全身軽い火傷。 【思考・行動】 基本:フラグを立てて立てて立てまくる 1、静かなる ~Chain-情~と素敵なフラグを立てる 2、邪魔と判断したら、永遠のうっかり侍を殺す。 ※外見は小早川ゆたか@らき☆すた(ただし髪の色は緑色)です。 ※ゆびぱっちんで真っ二つに出来ます。 ※パロロワ衣服詰め合わせ 歴代パロロワに登場した衣服(支給品だけでなく、現地調達のものも含まれる)の詰め合わせ。 仗助の学生服@漫画ロワと、私立真白学園中等部の制服@アニロワ2nd以外の中身は 次の書き手さんにお任せします。あくまで衣服なので、鎧などは入っていません。 ただし、鎧より防御力の高い服が入っている可能性はあります。 113 走れたい焼きくん 投下順に読む 115 おっぱいの大きい熟女は好きですか? 113 走れたい焼きくん 時系列順に読む 115 おっぱいの大きい熟女は好きですか? 110 覚醒フラグ 静かなる ~Chain-情~ 128 温泉話っスか! Chain-情さん2 集まれ!コスプレ温泉 110 覚醒フラグ 永遠のうっかり侍 128 温泉話っスか! Chain-情さん2 集まれ!コスプレ温泉 110 覚醒フラグ 素晴らしきフラグビルド 128 温泉話っスか! Chain-情さん2 集まれ!コスプレ温泉
https://w.atwiki.jp/gods/pages/37233.html
コイエムシ コイェムシの別名。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3849.html
お妃様は、美しい鏡に己の顔を映し、艶然と唱えました。 「鏡よ鏡、わたくしの問いに答えておくれ」 はい、お妃様、と鏡は愛する妃に恭しく答えました。 ---------------- 温く哀しい夢を、見ていたような気がした。 古泉はうつ伏せていた身をそっと起こす。何時の間に眠っていたのだろう、と懲り固まった肩を微かに鳴らす。机に突っ伏して眠を取るなんて、随分、久し振りの行為であるような気がしたのだ。名残惜しさも相まって、霞がかった意識をどうにか覚醒させようと瞼を掌で軽くさする。 睡魔から解放されるのを待っているうちに、日は大きな傾きを見せていた。窓から降り注ぐ落陽の光は、オレンジ色に夜の闇を混ぜたような陰のある色彩を帯びている。 何という事もない、見慣れた文芸部室だ。 転寝をしていた古泉は、間近に開きっぱなしに伏せられていたハードカバーを、寝起きで回らない頭をどうにか動かそうと試みつつ見遣る。新人作家のものだが重厚な語り口と斬新な構成で話題を呼んだSF作品だ。そう、先程まで唯一同じ部員である読書家の少女に薦められたこれを、読んでいた……。眠気に陥落したのは、いつだろうか。 思い出せない。 「おや」 背にさりげなく掛けられていた薄黄色の毛布に気付いて、古泉は無言で与えられたのだろう気遣いに微笑を零した。 撫でると、羽毛の感触がさわさわと肌を滑る。 しかし礼を述べようと彼女の窓際の定位置を見ても、いつも辞典クラスの分厚い書物を読み耽っている少女の姿は見えない。少女の薄い鞄は本棚の傍らに立てかけてあるようだから、古泉を置いて先に帰宅した訳でもなさそうだ。手洗いにでも出ているのかな、とドアを振り返った古泉は、大きな音を立てることを忍ぶように努めて室内に抜き足で入るその少女の後姿を捉えた。 まだ二年生だが、人数不足のため仮に『部長』の役職を任されている、寡黙な眼鏡の少女。ドアの軋みにさえ気を遣って、ゆっくりとノブを両手で引く。恐らくは、眠っていた古泉を起こさないようにという配慮。余りに慎重で、余りにいじらしくて――古泉は抑え切れない感情の赴くまま、笑み崩れた。 「長門さん」 古泉の呼びかけを聞き、慌てたようにぱっと古泉へと視線を向けた少女は「あ……」と僅かに表情を動かす。フレームの奥で、黒瞳が水銀を溶かし込んだようにゆらりと揺れた。 「起こした?」 「いいえ、今丁度起きたところなんですよ。そう、……毛布をありがとうございます。すみません、部の活動中に居眠りをしてしまって」 部の活動といっても、最近は専らお互い読書に励むくらいのことしかしてはいなかったのだが。不意打ちと云うわけでもないだろうに、少女の頬が朱に染まった、と、見えた。安堵の吐息を漏らした彼女、長門有希は、微かに顔を赤らめながらも、摘み取れてしまいそうなほどか細い声音で古泉を案じるようにした。 「今日は、疲れてる?」 「近頃考査が多いですから、自覚のない内に少々疲れは溜まっていたかもしれません。大丈夫です、眠ったら気分は幾らかすっきりしましたから」 「……そう」 部室で古泉が寝顔を晒すような失態を演じたのは、初めてであったこともあるだろう。古泉の体調不良を純粋に憂う長門の言葉に、古泉は大事ではありませんと安心させる意を込め、朗らかに微笑んだ。 長門は返答に、極小の空気穴から声を絞り出すような微かさで、ぎこちなく「無理はしないで」と告げた。対等な友人に抱く以上の好意を長門に向けて握り締めている古泉は、それを差し出せる瞬間を捜しながら、今この時を何より幸せだと感じて笑うのだ。 (本当にここでしあわせだと笑うのは、自分の役割か?) そのとき胸を掠めた、何かどうしようもない違和感のようなものを、古泉は意識的に押し潰した。 読んでいた書籍や最近の流行小説に関してを話題に、それからも幾らか歓談を交えた古泉と長門だったが、ふと時計を確認した長門がぽつりと呟いたことでその時間も終了を告げる。 「今日は、もう下校時間」 「そういえばそうですね。……帰り際、途中までご一緒してもよろしいですか」 「いい」 少し、耳が赤い。古泉は長門の所作一つに気付くたび、笑みを零した。 「それでは、帰り支度をしましょう」 読みかけの単行本の方は皮製の栞を挟み、鞄に纏めて仕舞い込む。入部当初から少しずつ人数を減らし、現行での部員数がたった二人きりとなった文芸部は、それでも古泉には酷く満ち足りた居場所だ。 他の学生がまだ多数在籍していた頃の騒々しさも懐かしくはあるが、今の打ち寄せる波を見護るような安穏とした空気、ひたすら先の物語を読み進める事に意を見出す無為の静けさも、長門の側で彼女の読書をそれと気取られぬよう観察することも。総て、古泉の好みとするところであったから。こんな平和な日常が恙無く流れてゆけばいいと、そんな風に古泉は思っている。長門がどう考えているかは、分からないにしろ――長門もそう思ってくれているのではないかと期待する想いもまた、確かに古泉の内に眠っていた。 それも甘酸っぱい、「思春期だから」で済ませられる夢で終わる日が来るのだろうか。 後片付けを済ませ廊下に並んだ二人は、向かい合ってそれからを打ち合わせた。古泉は「文芸部室」というネームシールがついたキーホルダー付の鍵を摘んで、長門に示す。 「僕は職員室に鍵を返してきますから、先に玄関の方へ行っていてください。すぐに追い着きます」 「わかった」 こくり、と頷いた長門がゆったりとした歩調で階段を下りて行くのを見送り、古泉は用事は手早く終わらせようと踵を返す。職員室まではそう遠くない。 部室をそのまま横切り、通り過ぎようとして――何か足りないような気が、した。 思わず止めてしまった脚も気にならず、碇と共に沈めても海面へ浮上してくる、差し迫る気持ちの悪さに古泉は口元を押さえた。まただ。先程押し殺したのに、また。 言い知れぬ不安が古泉の胸中を席巻した。具体的に表現のしきれない、何か。放課後、文芸部が散会になった折には、もっと掛け声や語らいがあったような漠然としたイメージ。思い出そうとしても、白い靄が侵食し記憶の遡行を阻んでしまう。心の片隅に引っ掛かり、上手く流されてくれないそれを前に、古泉は暫しの間立ち竦んだ。 何かが変わったのだ。そして、何かが足りない。けれどもそれを古泉は思い出せない。 何か忘れたことがあったろうか。 ――何か、とてもとても、大切なことを。 階下から長門の悲鳴が聞こえたのは、それから、間もなくのことだった。 ---------------- お妃様は、美しい鏡に己の顔を映し、艶然と唱えました。 「鏡よ鏡、わたくしの問いに答えておくれ」 はい、お妃様、と鏡は愛する妃に恭しく答えました。 「それでは鏡よ、お答えなさい。此の世で××××××はどちら?」 お妃様の問い掛けに、鏡は押し黙り、やがてやがて、哀しげに言いました。 「お妃様、それは、わたしにも分かりません」 分からないのです、お妃様。 (→3)
https://w.atwiki.jp/rcmuseum/pages/670.html
[96/03/14 22 31] 横浜 鯨一 「何時かは会えると思っていた」 皆さん,再びこんばんは. 昨日ロボット集が届いたのですが,余りにもショッキングな事実がありま したのでボーゼンとしてしまいました... いつか会えるかと思っていたのに そんな事って... [96/03/18 22 17] ザポテコ 「ロリィじゃなくロンリー」 私もとてもショックを受けました。よりによって、なぜこの人がと言う気持 ちも大きかったかもしれません。 それで彼女のロボットを画面に呼び出しました。とても妙な気分になりまし た。主人を失ってもなお忠実に戦うロボット。あるいは、姿を変えてまだそこ に生きている彼女。あるいは、異界とのコミュニケーション・・・。 [96/03/20 22 22] はた 「[諸々]パンタグリュエル」 今回はなによりもまず彼女のことがショックでした。 誰もがいつかはということはわかってはいても、なんだか呆然と してしまって、大会の様子を読んでいてもなんだか自分でない自 分が読んでいるような感じでした。 《第7回 郵送ロボットバトル大会》へ戻る
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4275.html
白雪姫に、最期に与えられたのは、林檎でした。 紅く艶のある、瑞々しそうな林檎。 白雪姫は、手を伸ばしました。 もう何も、堪える事はありませんでした。 --------------------------- 俄かには信じ難い事象を、否応なしに信じさせられる。 ――そんな事例なら、以前にもあった。四年前、涼宮ハルヒに何らかの出来事が発生し、突如として古泉が能力に覚醒した日。古泉は拒否権なくあらゆるものを奪い取られ、代償に幾許かの『選ばれたもの』である、という自負を与えられ、逃避する余地のない宿命という名の拘束に縛り付けられた。 けれども「分かってしまった」古泉は、重責を課せられたとて、放り出すことは叶わなかった。自覚的にそうだったのだ。「分かってしまう」ということは、つまりはそういうことだった。 無論、過去の彼自身がそうであったように、SOS団団員として走り回る事そのものを青春の一環として謳歌している「今の」古泉一樹がそのように感じているかといえば、話はまるで別であった。 部室で少年と指す将棋はこの上ない娯楽であったし、少女がいそいそと淹れてくれるお茶はどんな喫茶店で出される紅茶よりも遥かに美味で、行動力に満ち溢れた少女の眩しいくらいの笑顔と高らかな一声が古泉には愛おしく。 読書をこよなく好む、彼女が定位置で頁を捲る姿を通した日常は、何物にも代えがたい、古泉にとっての安らぎだった。 そして、今回だ。 栞を見た瞬間に「分かってしまった」――古泉自身、忘れさせられていたことを。 一体いつから、記憶の改竄にあっていたのか。たったふたりの文芸部という偽りの記憶を遡れば、不鮮明になっていくそれらにもっと早く気付いて然るべきだった。眼鏡を掛け、人のように有りの侭の感情を流出させる長門のことも、ヒントには十分な資料であったのだから。 「……副団長職失格ですね。彼らのことを、一時とはいえ忘れてしまうとは」 自虐の一言は古泉なりの戒めだった。これ以上はない。 もう、惑わされはしない。 思い出して初めて、長門と二人きりという状況下がどれほど奇怪であったかを思い知れる。団員のないがらんどうの室に、仲間と過ごして来た数々の思い出の象徴のように、残存していた給湯器、パソコン、ボードゲーム、華々しい女物の衣装類。彼らの美しいとも表すに吝かでない、大切な忘れ物だ。 忘れ物は届けなくてはならない。当人たちの下へ。 古泉は沈思した。 他のSOS団員たちは、総てを統べる母とも言うべき誇り高き団長は、何処へ消えたのか。何故、古泉と長門のみがこの白雪姫にあつらえたかのような、けれど目覚める余地を残した空間に留まることになったのか。 恐らくは筆跡からして長門が遺したメッセージに違いない、栞の文面からその意図を汲み取り、取り得る限りの手を尽くすことが第一だろう。――古泉は薄っぺらい紙切れに過ぎぬ栞を、光に翳して透かす。 あなたは鍵を見つけ出した。 求められる回答はPC内に記録されている。 最後の選択権を、わたしは、あなたという個体に委ねる。 栞のメッセージの、最後の選択権とは何なのか。この部内のパソコンを平素から利用しているのは、眼鏡を装着した長門有希の方だ。――栞に拠れば、此処に総ての解決策が集約されているはず。 古泉は旧式PCの前に移動すると、電源マークを親指で押し込み、ランプの点灯を待った。 起動画面が表示され、聞き慣れた軋んだ作動音が鳴り、デスクトップの黒い背景に白文字が並ぶ。「偽装されていた記憶」によれば、元よりこの古いパソコンは使用可能になるまで数分を要する。砂時計のアイコンが現れるのをもどかしく待ちながら、古泉はこの度のあらましを振り返っていた。 古泉と長門のみが、SOS団なきこの封鎖的な世界に存在する世界。ここにはどうやら涼宮ハルヒも朝比奈みくるも『彼』もいない。超常的な力も機関も未来人も宇宙人もない。長門に至っては性格が大幅に書き換えられ、当人そのものかどうかさえ分からない状態だ。 元の時空でハルヒを始めとする三名が行方知れずとなったのか、それとも古泉と長門が彼等からすると消失した側なのか――。もし此処が閉じられた世界ならば綻びを見出し、どうにか抜け出す方法を捜さなくてはならない。 白雪姫の物語を暗示したこの奇妙な世界を終わらせるには、どうすれば最善か。 古泉は、切れ長の薄目を開く。 案一。――『妃』を、捕まえるのでは、どうか? ――この世界における、情報統合思念体端末からは外れているらしい普通の少女となった様子の、長門有希。彼女が二度、胸紐と櫛で殺されかけた事を踏まえれば、彼女が『白雪姫』の役割の担い手であることは疑いようがない。この御伽噺を掲げた残酷な封鎖空間は、長門有希を抹消する為に仕組まれたものと仮定できる。彼女を無力化し、生じさせた世界のルールに則らせることで抵抗を封じたとするなら? この仮説が確かならば、『妃』役――この空間を創出し、長門の消滅を望む者――が存在している、ということ。 それを突き止め、捕捉することができれば、あるいは。 では、と古泉は思索を転換する。 異常世界に正常の感覚を取り戻し、故に取り残された古泉一樹に振られた役割は何か。 白雪姫のメインキャラクターを一揃え浮かべ、誰もが最初に想像だけならしてみせるだろう、「王子役」、と始めに呟いた古泉は、しかしすぐに失笑を見せた。 「……いや、これは違うでしょうね」 言ってみただけだ。長門が望むであろう王子役が、『彼』であろうことは、考えるまでもないことだった。分かり切っているとはいえ、一抹の寂しさは積もる。 SOS団で繰り広げていた騒々しい活動のさなかにも、古泉は控えめにも望み様のない恋情を、胸郭の深奥に隠し入れて、壊れないよう、大事に抱え育ててきた。今更だったのだ。長門が一体誰を真に想っているのか、等ということは。 それでは、と古泉は消去法を使う間もなく解答を産出する。該当は、一つだけ。 「――『小人』役」 古泉は顎に手を添えつつ、己の解釈に妥当性を認めた。これが最も適正な線だろう。実際、物語に登場する小人にかこつけるような形式ではあれど、古泉は二度妃の魔の手から白雪姫を救っている。ただし逆に言えば、小人は「三度目の白雪姫の死」だけはどう足掻いても救えない、ということになるのだが……。 思い至った古泉は、指を軽くなぞる様に食み、黙考を深めた。 もしや、『王子』役は、不在なのか? 『彼』が涼宮ハルヒや朝比奈みくると共に、この閉鎖された世界に存在していないならば、白雪姫を三度目の死の窮地から助け出せる者がない、ということだ。 もしかしたらそれこそ、この世界を仕組んだ者の計略なのかもしれない。三度目の死で、長門を完全に抹殺するための布石として、王子役を蚊帳の外へ追い遣ったとすれば辻褄があう。 三回目の「毒林檎」により長門が危機に瀕する、というのは、忌避すべき展開だった。この世界が物語通りに進むように練られているなら、王子役が居ない時点で話は決着がつく。白雪姫は目覚めない。物語はそこで、終わりだ。 悪循環に陥りかける渦を断つように、古泉は、己を叱咤した。 デスクトップに視点を移す。――画面は、起動準備を終えて、明るくなっていた。空模様の壁紙を下地に、幾つかのショートカットアイコン、そしてフォルダがひとつ。「創作物」とタイトルの付けられたそれは、書き掛けの原稿を仕舞い込んでおくためのフォルダだ。 一時、長門が書き溜めたものを纏めてあるフォルダを勝手に開いていいものかを躊躇った古泉は、今は此方が優先事項と自分に言い聞かせ、マウスを不自由な左手で操作した。 単純なクリックが、震えてぶれる。答えは、此処にある。長門の言葉を信じてどうにか開いたフォルダの中身が一覧表示されると、古泉は現れた数十のワード文書の項目のうち、ひとつひとつを丹念にチェックした。そうして、一番端に位置していたデータに眼を留める。 ――白雪姫の鎮魂、というタイトルの、それ。 *********** 雪の降りしきる春先の日、白雪姫はこの世に生を受けました。 彼女は周囲の大人に見守られ、大切に育まれていきました。 白雪姫は大変素直で、感情をくるくると表に出します。 白雪姫はよく愛され、よく人を愛しました。 けれども、白雪姫は、お妃様に疎まれてしまいました。 「鏡よ鏡、こたえておくれ、わたくしと白雪姫、■■■■■■■■?」 お妃様は鏡に問い掛けをしましたが、鏡は、答えてはくれませんでした。 お妃様はずっと悩んでいましたが、みるみる美しく大きく成長する白雪姫に、お妃様は覚悟を決めました。 白雪姫がやがて、お妃様を食いつぶし、世界を食いつぶしてしまうと、お妃様は思ったのです。 お妃様は白雪姫を、もはや生かしてはおけないと、殺してしまう算段を立てました。 命の危険を感じた白雪姫は、お城から逃げ出しました。 白雪姫は、逃げ延びた森で小人に出会い、小人と共に暮らすことになりました。 けれどもお妃様は白雪姫を殺すことを、諦めることはできませんでした。 お妃様は老婆の扮装をして、白雪姫を尋ね、たくらみを実行しました。 胸紐を用いて、白雪姫の胸を締め上げて殺そうとしたのです。 白雪姫は息絶えてしまいましたが、戻ってきた小人が紐を緩めると、息を吹き返しました。 お妃様のたくらみは失敗したのです。 小人は白雪姫に強く言い聞かせましたが、白雪姫は大変無知な娘でしたので、小人は不安でした。 そんなうちにも、お妃様はふたたび、白雪姫を殺しにやってきます。 今度は毒を差した紅色の櫛を利用しようというのです。 小人は白雪姫を独りにしていては、また彼女が殺されそうになるかもしれない、と思いました。 小人は扉越しに白雪姫のふりをして、お妃様から櫛を受け取り、白雪姫の身を護ろうとしました。 櫛にはそのお妃様によって手ずからかけられた、呪いがあることも知らずに……。 ――櫛を受け取った小人は病に蝕まれて、倒れてしまいます。 お妃様は小人以上に機転の利く人だったのです。 小人が白雪姫を護るために何をするかまでを考えて、策を練っていたのでした。 自分の所為で小人が倒れてしまったことを知った白雪姫は、追い詰められてしまいました。 看病を重ねても小人は一向に良くなりません。 心優しい白雪姫は思い詰め、精神を病み、小屋に引き篭もってしまいます。 そうして、三度目に小屋を訪れたお妃様は、 ――ドアの隙間から、赤い林檎を差し入れました。 *********** ――書きかけの文書は、そこで終わっていた。 眼球が乾ききって罅割れてしまうまで、古泉は画面をきつく凝視し、その文書の端末の一文字にいたるまでを網膜に焼き付けるように睨み付けた。 原本の白雪姫から、派生させた新たなストーリーといえる内容だ。物語自体の語り口は童話そのもの。彼女なりの「白雪姫」への多角的アプローチ。興味深い描写が散りばめられているが、古泉の双眸は何れも、その示唆された意図以外のものを追ってはいなかった。 ……この後の白雪姫がどうなるかなんて、読まずとも、誰であろうが察せられるだろう。 『妃』が誰であるのか。問いの真相を、古泉は己の思考のみで補完した物語の全容から掬い取り、痛いほどによく理解し。 唇を噛み締め、吐き捨てた。 「――そういうこと、か…!」 文芸部室を飛び出す。包帯で固定された右腕では旨くバランスが取れず、壁に左手をつきながら、脚を忙しなく働かせる。 古泉は走り出してすぐに、無音の違和感を覚え、その正体を悟った。 駆け抜けてゆく古泉の脚音の響きが、走るなかについてくる。放課後とはいえど、この時間帯に生徒のざわめきが一切耳に届かない。夜の廃屋でも、これほど物静かということはないだろう。 駆ける中見渡した教室、教室、教室――人が、消失していた。正しく、蛻の殻というべき空間。上辺だけ取り繕われていたこの世界の「おかしさ」が、一気に噴出したように。 先程まで教室付近で談笑したむろしていた男子生徒も、掃除用具を片付けていた女生徒も、居残り勉強に勤しんでいた学生たちも、部活に声を張り上げていたグラウンド外の運動部も、職員室で模試の採点をする頃合だろう教師も、一切が、いなくなっている。 古泉は、偽りに覆われていた世界の脆さを予感する。崩れ始めている、――古泉が真相に辿り着いたことによって。 「……長門さん……!」 保険医が残っているからと、保健室を出たのが過ちだったのかもしれない。彼女を一人にするべきではなかったと、古泉は悔いた。 古泉の不在時に『妃』役がどうでるか分からない。焦燥にかられ、不自由な腕を庇いながら走り込んだ保健室前。 扉に凭れ掛かり視線を投げ掛ける、見知った少女が、一人、哀憫の情を握らせるように微笑んでいた。 「だから、忠告してあげたのに」 セミロングの美しい髪を、窓からの微風に遊ばせた朝倉涼子は、古泉に、物悲しげに笑いながら、最終通告を投げ掛ける。 「―――『今度こそ』手遅れになる前に、って。言ったでしょう?」 --------------------------- 白雪姫に、最期に与えられたのは、林檎でした。 紅く艶のある、瑞々しそうな林檎。 白雪姫は、手を伸ばしました。 もう何も、堪える事はありませんでした。 ――ごめんなさい小人さん、 ごめんなさい。 ごめんなさい。 愚かな私でごめんなさい。 あなたを苦しめてごめんなさい。 白雪姫は謝り続けました。 心の中で、幾度も繰り返し、謝り続けました。 毒の塗られた甘やかな林檎を、その小さな掌に乗せて。 (→7)
https://w.atwiki.jp/gods/pages/25073.html
カイエムヌ カイアムヌの別名。
https://w.atwiki.jp/requiem_negesoft/pages/121.html
対千秋 晩鐘ガード後は完全先端ガード時でない限り、立C→八咫烏が確定。 夜警ガード時やスカ時は、Cジェネシスが安定して反撃できる。他にプロミネンスやダッシュからの連続技でも反撃可能。 対海堂 良子 Cトーネードをガードした場合、Cジェネシスで反撃可能。ただし完全先端ガード時以外。 ブレイブハートをガードした場合、間合いを問わず2Cで反撃可能だが、Aブレイブハートの派生ガード時には難しめ。間合いをきっちり把握できるなら、2Cより発生の早い攻撃で反撃可能。 対凛 屈D→弱樂雷は屈Cで割り込み可能、キャンセルプロミネンスが連続ヒットする。キャンセル太陽の世界→屈D→Cジェネシス→(太陽の世界ヒット)→各種追撃ということも可能。 対カグツチ A二連獄は完全先端ガード時以外、立A(カウンター)→Aジェネシスで反撃可能。密着に近い場合、強攻撃でも反撃できる。 対追手 対天堕スカ時は刀の部分に2Bや2Dで反撃でき、2D>Cジェネシスが繋がる。エフェクトが最も大きいときの3F間にしか攻撃判定がない。 A天堕は先端ガード時でも2Bで反撃可能。 対スケバンキックA版、C版のどちらも完全先端ガード時でも不利フレームを有する。 地轟での起き攻め飛び越えでも表裏の攻めの場合、Cジェネシスを出すことで回避可能。 対スサノオ 近い間合いで6Aガード時は立C(屈A、屈Bも可)で反撃可能。 立Cor屈C>(6A)>Aたつまきガード時は立C(屈A、屈Bも可)で反撃可能。ただし、単発Aたつまき先端ガード時は反撃できない。 対ルイス 空中必殺技しかないため、Cコロナを2Dの間合い外から撃つことで大きな行動抑止になる。 2ゲージ以上ある場合、各種コロナにレクイエムを合わせられる可能性がある点に注意。ただし全く撃たなくなると好き勝手に行動されやすいので、相手がコマンドを仕込んでない場面で使っていくと○。 対炎 遠めの間合いのBコロナを遅めに飛び越えてきた場合、立Dが安定対空になる。 業打ガード時、めりこんでいれば屈D(立C、屈A、屈Dも可)で反撃可能。そもそもしゃがんでいれば業打は当たらない。 D業蹴ガード時は非常に隙が大きいため反撃しやすい。近い間合いでは屈Dなどで反撃可能。先端ガード時でもダッシュから反撃可能。 戻る
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4139.html
お妃様は、ついに、白雪姫を殺してしまおうと思い立ちました。 顔を隠し、白雪姫の興味を引くだろうものを携えて小人の粗末な襤褸を訪ねます。 「さあさ、扉を開けておくれ。お嬢さんや、こんなものはいかがかね」 無知な白雪姫は、無防備にお妃様を迎え入れ。 するりするりと取り出されたそれに、眼をかがやかせました。 ---------------- 心臓を突き刺すような、尾を引く、か細く切羽詰った悲鳴だった。 何かが、起きた。直感的に古泉は悟った。 全身の血の気が、ざあと干潮のように引くのを自覚する。圧倒されるような「不吉な予感」が喉元を奔った。 生じた危機意識に、警鐘がけたたましく脳内を鳴り響いて冷静さを占拠する。喉につっかえた様な己の所在に対する違和感も、一瞬にして思考から消し飛んでいた。矢も楯もたまらず古泉は身を翻して走り出した。何があったのかはわからない、わからないが――とにかく、一秒も惜しい。 階段を駆け降りて声の発生源へ。運動部も眼を瞠るだろう勢いで疾走した古泉の視界に飛び込んできたのは、先程別れたばかりの少女が小柄な身体をばたつかせ、足元を無様に宙に揺らしている姿だった。 恐怖に染まった相貌が生気を失い青褪めている。丸眼鏡は床に落ち、上から踏み潰したらしく、フレームは砕けてひしゃげ粉々に散っていた。 呼吸を求めるようにひっ、ひっと短く喘ぎ、表情を引き攣らせた少女。背後には黒いフードで全身を覆った異様な何者か。その手には、今この一瞬にも少女の、長門の首を締め付ける白い紐が―― 「――――長門さん!!」 我を忘れた古泉の絶叫に、黒フードの人物はするりと指から紐を離し、途端に崩れ落ちた長門に一瞥の未練もくれず、廊下の角に姿をくらます。飛び込むように古泉は角に視線を走らせたが、見えない。走り去ったのだとしたら驚異的なスピードだ。 「がはっ、ごほっ……!」 咳き込みながら、床上に尻餅をつき、首を抑え蹲る長門に、古泉は駆け寄った。膝を折って少女の薄い背中を擦る。 急激に酸素が流入した肺に、呼吸も苦しげだ。長門の眼には怖れからか咽喉を痛めたのか、うっすらと涙が滲んでいた。首筋には長門の白い肌に明らかな、赤く腫れたような紐の跡。その痛ましさに、思わず古泉は眼を背けた。 不逞の輩への怒気が、漂白された理性に注ぎ込まれる。容貌から背格好までを隠したあの黒ずくめは、誰だ。追い掛けて捕まえるべきだという理性の声と、たった今殺されかけた彼女を放っていいのかという感情の声が古泉の心中に交錯する。可能なら付き添いたい、けれど彼女の今後の安全を考えるなら取るべき選択は前者だ。 だが、立ち上がり追跡を試みようとした古泉の袖元を、後ろから引く小さな手がある。 「……長門、さん」 「いかないで」 勢いが殺がれる。見ぬふりをしようと思えば出来ただろう。だが、古泉は弱弱しくかかる力を振り切れない。 小刻みに震える長門は、獰猛な獣に睨まれ寸でのところで噛み殺されかけた、怯え縮こまった小動物のそれだ。眼鏡のない双眸は視点を定めていないが、如実に伝わる、その心許なさ。今にも潰されそうなくらいに恐慌し、色を失った唇が寒々しい。 置き去りには、できそうにもなかった。 古泉は諦めにふっと息を吐き、腕を引かれるまま、長門と同じくフローリングに身を屈める。向き合って、精神的な衝撃から立ち直れぬまま震えの止まない幼い瞳を、古泉は安心させるようにふわりと微笑んで見せた。 額を突き合わせて、体温や人の接触、鼓動のリズムを確かめさせて、生の実感を受け渡せるようにと、長門の手を握る。 「分かりました、何処にも行きませんよ。僕はここにいますから。大丈夫。……大丈夫です」 そっと長門の細い上体を抱き寄せて、古泉は少女の背をあやすように、唄うように、とんとんと叩く。騒ぎを聞きつけた生徒達が集まり始めても、ざわめきを増してゆく観衆も素知らぬようにして。そんな最中に、また思索を掠めていく疑惑もあったけれど。 (――彼女が此処にいてほしいと願っているのは、本当に、僕か?) 言い知れぬ不安もすべて、見ないようにした。首を横に振って、振り払う。 どうでもいい。彼女を癒せればそれでいい。今は、まだ。 震えが収まりを見せてくれることを願って、長門を抱き締めるその腕に古泉は力を篭めた。 / / / 「物騒な上に奇妙な話ね。こんな身近なところで、本当に怖いわ」 憂鬱な表情を見せ、長門の級友だという朝倉涼子は、眉を顰めてそうコメントを残した。セミロングの髪が風に靡いて、微かな花の香が薫る。 昨晩、教師に付き添われて帰宅した長門のことが気掛かりで、長門の所属クラスを朝一番に訪ねた古泉を目聡く見つけたのが朝倉だった。 中庭に連れ出ってから、朝倉は掻い摘んで長門が襲われたことに関してのクラスの反応を切々と語った。純粋に友人のことを案じた、物憂げな瞳を誤魔化すように微笑みを付加して。 「残念だけど、長門さんなら今日はお休みよ。昨日が昨日だから、仕方ないわよね。あの子、とても繊細だもの。いきなり殺されかかるなんて、彼女じゃなくたって一生のトラウマものの体験よ」 「ええ、僕もそれを心配しています。犯人が捕まれば、多少は気も楽になるのでしょうが……。警察の方のお話では、現時点で絞り込むのは難しそうな口ぶりでした」 「手がかりが、犯人の残した紐一本なんですってね」 長門を手に掛けようとした「何者か」が、夢幻ではなかったことを示す唯一の証明。現場に落ちていた犯人の数少ない遺品だ。 白い何の変哲もなさそうな紐は、着物の着付けに使用するという専用の胸紐だった。胸紐を何の用途もなく日頃から持ち歩く者はないだろうからつまり、これは発作的な行動結果ではなく、計画性のある行為であった、ということになる。 そこまで思い耽って、古泉は暗澹とした気分にかられた。 もし長門有希個人を標的とする者の犯行とすれば、闖入者の存在によって達成できなかった殺人を、今度こそ、と機会を改めてくる可能性は低くない。彼女はまだ命を狙われ続けることになる。 今にも割れてしまいそうな、硝子細工のような少女を、追い詰めたくはないのに。昨夜のことを回想すれば、古泉は危惧を抱かずにはいられなかった。 あの後、事情を受けた教師が通報をし、二人は警察から簡単な聴取を受けたのだが、犯人捜しをするには絶対的に情報が不足していた。古泉が目撃した『犯人』は黒い布で全身を覆っていたため性別も断定ができないばかりか、外部から校舎内に侵入してきた変質者の類である可能性も否定できず、北高生なのかすら曖昧だ。 長門も、襲撃者の顔を直接は見ていなかった。帰り際に、突然後ろから羽交い絞めにされて悲鳴を上げ、それから古泉の呼び声に意識を取り戻すまでの記憶は少女から欠落していた。保護されてからも俯きがちに、恐怖から脱け出せないままの長門が、古泉には不憫でならなかった。 さらに、奇妙なことがひとつ。 殺人未遂犯は古泉とは正反対の方角へ走り去った。――そのルートを辿ると、必ず一年教室を横切らなければならなくなる。だが当時、生徒の密集していたその範囲を逃げ延びたのだろう人物を、誰一人として目撃していない。 つまるところ、古泉の見た「黒いフードの人物」は、掻き消えてしまったことになる。 くゆらせた煙草の煙が、自然と薄く透明に延ばされて、その白さを空気に紛れさせ喪失させるように、……跡形もなく。 奇怪なことばかりだ。その上、古泉自身が付き纏って離れない何某かの違和感に悩まされている。正しく、分からないことだらけだった。 古泉の深層の思いを知ってか知らずか、朝倉は古泉の言わんとするところを先読みしたように、深く肯いた。 「うん、そうね、大体わかったわ。同じマンションに住んでいるよしみもあるし、定期的に長門さんの様子を見るようにする。まあ、頼まれなくてもそうするつもりだったけど。私だって彼女とは、短い付き合いでもないしね」 「それは……助かります。長門さんも安心でしょう」 朝倉は長門の所属するクラスで委員長を務め、気配りもできるという、他クラスにまで名の及んでいるような才女だ。朝倉が長門を多少なりとも気に掛けてくれれば、長門も少しは心休まるのではないかという古泉の配慮を交えた提言に、朝倉は真摯な眼差しをもって賛同した。 髪を掻き上げて、それから試すように、朝倉は古泉を見上げる。 「それにしても随分長門さんに肩入れしてるのね、古泉君。……それって、長門さんが好きだから?」 回答を一時、迷った古泉は、朝倉が冗談半分に訊ねたわけではないことを見て取った。逡巡の後に、そうですね、と笑う。 「一方通行、ですけれどね」 「やっぱり、そうなの。予想はしてたけど、そっかあ」 ふと、古泉は思う。長門が別の誰かを慕っていると、極当たり前にそれを知っているような気がしたのは、何故だろうかと。 朝倉は、何処か、遠望に悲しいものを見出したように微笑んだ。声そのものの調子は明るいだけに、そのアンバランスさが眼を惹いた。頼り甲斐のある、いつも背筋のぴんと伸びた彼女の、何かを耐えるような表情の作り方が、古泉には儚げに映った。 「長門さんを泣かせたら承知しないから。……『今度は』、護ってあげてよね」 朝倉涼子の詞の真意を古泉が知るのは、まだ、少し先の話。 ---------------- お妃様は、ついに、白雪姫を殺してしまおうと思い立ちました。 顔を隠し、白雪姫の興味を引くだろうものを携えて 小人の住まいを訪ねます。 「さあさ、扉を開けておくれ。お嬢さんや、こんなものはいかがかね」 無知な白雪姫は、無防備にお妃様を迎え入れ。 するりするりと取り出されたそれに、眼をかがやかせました。 「どうだい、素敵な胸紐だろう? さあさあ、一度、身に着けてごらんなさい」 白雪姫は胸郭をきつく結ばれ、其の場に倒れ附しました。 お妃様の望みどおり、白雪姫は息絶えて―― (→4)