約 197,515 件
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/33.html
まだ、隣部屋の梨沙子と舞が眠つてもゐない時分、父母は男女のまぐはひを行使するに至つた。 性欲に效能があるらしい白檀も今宵は出番の機會無く、信樂燒の香爐で彼等の所業を靜觀してゐる。 女にしては逞しい體躯の茉麻を組み敷く樣にして、熊井は仰向けに寢かせてから、 彼女の寢間著を下の方から徐々に脱がせに入つた。 身に著けたあらゆる物を剥がされあるがまゝ赤裸々となつた茉麻。 指や掌で表皮を愛撫しながら蜘蛛蛇蠍の如く這ひ寄つて來る夫に捕食を許すべく妻は四肢を絡めた。 夫婦は互ひの脣に齧り付くと同時に舌で取つ組み合つたり泡や唾液を押し付け合つたりした。 交はり合ふ鼻腔と口腔の僅かな隙間に呼氣と吸氣とが渦を卷いて酸味を含んだ熱感を帶びてゆく。 茉麻が夫のうなじや耳の裡を丁寧に舐れば熊井は妻の鬱蒼とした腋毛の茂みの奧を舌先で突く。 熊井が妻の脣を齒で柔らかく痛めつけては悦ぶと茉麻は瞳を潤ませて夫の耳朶を甘噛みしてみる。 妻が右の手を熊井の下著へ忍ばせ陰嚢を弄んでみれば、彼は茉麻の乳房を黏土宜しく揉みほぐす。 夫は體勢を移動し妻に顏を太股で挾ませる。妻は必然夫の陰嚢を顏に頂きそれを口の中で轉がす。 娘達の氣づく懼れ、……聲だけは漏らさないやうに、……息の詰まる解放感に妻と夫は更に逆上せた。 が、茉麻が異變を察したのはその直後であつた。 「んん、ねえ、ねえパパ、ねえ、あつ、ん、ねえ、きいて」 夫が祕所をせめる事に夢中だつたので、茉麻は彼の陰嚢を輕く叩いて聲を報せた。 應答は「わかつてゐる」とだけ。 いくら觸つても、なぶつても、扱いても、舐めたところで、彼の、熊井の陰莖は萎え、力盡きてゐた。 それでも、熊井は、せめて妻の肉體だけでも滿足させようと思ひ、あらゆる手を盡くさうと考へてゐた。 好竒心旺盛で、獨創的に性の技を編み出す上に、特に妻の弱點にも通曉してゐる夫の手練手管は、 確かに茉麻の性的鬱憤を晴らす事に非力ではなかつた。壁の向かうの娘にも憚らず、茉麻は啼いた。 しかしながら、一時の忘我も、一體となれぬ缺乏と、夫を勃起させられぬ我が身の不徳が、妻を苛んだ。 ←前頁 次頁→
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/19.html
翌朝、熊井は夢精していた。 窓ガラス越しに曙光を眺めて途方に暮れながら、昨夜を思い出した。 とまれ、和合達せぬ己の不能を嘆いてみても始まらない、今はこの恥を隠滅すべきだ、と熊井は考えた。 妻の目が覚めぬよう、慎重にベッドを下り、洗面台で下着を洗濯した。 しかし、置き場に困る。隠すのも後々問質されるであろうし、洗濯機へ放り込んでも疑われる。 考え倦んでいる内に尿意を催して来たので、トイレのドアを開けると、梨沙子が便座に腰掛けていた。 熊井は股間を諸手に覆いつつ、慌てて飛び出し、理由もなく壁に背を張り付けた。 「吃驚したなあ、いるなら電気くらい点けておきなさい」 梨沙子は返事もせず下着を穿き、俯き加減で立ち去った。 娘の後姿に妻の面影を見るが、思い出したように熊井は「アイツ手洗ってないな」と呟いた。 用を足した後で、熊井は、濡れた下着を、念入りに絞ってから穿き直し、 ベッドの下に散らかっていた、寝間着に用意していた、黒色のパジャマを身につけた。 携帯電話に会社と、有原からメールが届いていたので確認していると、茉麻が目を覚ます。 夫婦は、無言で視線を交わし、目配せで慰め合った。 茉麻が用意した朝食も早々に済ませると、熊井は出勤の支度を始める。 妹の舞に率いられる様に、梨沙子も“再び”起床し、スーツ姿の熊井を一瞥した。 父と長女は、互いに照れ笑いを浮かべた。 ←前のページ 次のページ→
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/12.html
夫から外食で済ますとの連絡を受けたので、茉麻の拵えた夕餉は3人前。 熊井との間に儲けられた2人の娘が、食卓からキッチンを窺っている。 やがて茉麻が、片手に一枚ずつ、スパゲッティを乗せた皿を運んで来ると、 母の手料理を待ち焦がれていた娘達が群がった。 残る自分の皿をテーブルに置き、茉麻はスパゲッティを頬張る娘達を眺めた。 「美味しい?」という茉麻の問いかけに対して、娘達は揃って頷いて見せた。 好み通りに作ったのだから解りきっていたことなのに、茉麻は安堵した。 「ママ?」 唐突に、長女の梨沙子が茉麻を呼んだ。 「はやく食べないとスパゲッティさめちゃう」 「あ、そうね、ありがと」 姉が笑うから妹の舞もつられて笑い声をあげた。 一方の茉麻は、手料理を喜ばれた安堵に潜む違和感を察した。 茉麻は、梨沙子に名を呼ばれるまで、脳裡に彷徨うあらぬ光景、 というよりは過去に浴していた感触を味わっていたのだ、無意識の内に。 ほんの刹那、梨沙子の口が女陰を模り、梨沙子の口をめがけて昇る麺のうねりが 夫の長い指と視え、フォークを掴む白くか細い五指は乱れ動く自らの肢体と思え、 食堂へ麺が流れて行く音に、乳房を吸う夫の舌触りを想った。 我が娘の身に、夫との営みを想起してしまう、己の浅ましさににゾッとする茉麻ではあったが、 いまだ張りも艶もある皮膚の奥から膨れ上がってくる肉欲を、これ以上意識しないではいられなかった。 起伏なき幸福が、女の性的な機能を妄想へ移譲していたのだ。 ←前のページ 次のページ→
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/42.html
帰り道のタクシィの中には、熊井の姿が見えた。 熊井は、桃子から渡された正式な名刺を手にして、溜息をついた。 あす同伴すれば、全てを審らかに述べる、らしい。 店のママと一悶着を起こしても引かぬ桃子に折れた形ではあるが、 いっかな埒の明かぬ状況を抜け出す為、敢えて彼女を信用した。 半ば脅迫めいた誘いだし、性行為に及ぶわけでもないのだから後ろめたい事などない。 己に言い聞かせながら、国道を走る無数の夜光を眺める熊井がいた。 娘の夏休みには家族旅行をしよう。 自らの多忙も弁えず、ひとりの父親は、罪滅ぼしを思案した。 そんな彼を乗せたタクシィが、交差点へ差し掛かった時だった。 タクシィ右後背部の衝突音と共に、突然、車体が跳ね上がり、前方を軸にして横に一回転した。 次に、遠くでブレーキ音と、金属同士の擦れる音が鳴り響いた。 ←前のページ
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/2.html
原文 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 舊假名遣ひ編 壹 貳 參 肆 伍 陸 漆 捌 玖 拾 拾壹 拾貳 拾參 拾肆 拾伍 拾陸 拾漆
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/32.html
シャワーから放たれた湯が排水溝まで川を作つてゐる。 浴槽には、まだ、熊井の爲に殘されてゐた、再び沸される事の無い水が張つてゐる。 誰の物か判らない縮れ毛が沈殿してゐるのが見えた。それを手で掬ひながら、 熊井は、事に運べさうな意欲の高まりを、確かに肌で感じてゐた。 情けないが、桃子から歸り掛けにされたキスが、思ひの外、身心へ刺激を及ぼしたのだ。 謂わばカンフル劑となつたアクシデントへ、感謝を捧げる樣に、指に絡まつた縮れ毛を流した。 浴室を出る。脱衣所で身體を拭き終へるまで、熊井は考へてゐた。 何故、出來なくなつてしまつたのか。別に夫婦關係の義務感から已むを得ずしてきた譯でも、 妻の魅力が衰へたとか言ふ譯でもなく、むしろ、官能的願望は彌増すばかりなのだ。 だからこそ、熊井は、果たす事も受け取る事も叶はぬ現状に苦悶してゐた。 沼地に潛む蛇に似て、密やかで獰猛な陰莖を、滿たすべき獲物へ向かはせる爲には、 こゝは、どうしても、牙を剥いてもらはねばならぬ。といふ氣概で、熊井は右手を揮つた。 扱いてゐる内に、蛇は鎌首を擡げて來た。熊井は堪らず興奮しながら、急いで著替へを濟ませ、 廊下を拔け、我が寢室へ入つた。寢間著姿の妻がベッドに腰掛けて髮を梳いてゐた。 無言のまゝで、熊井は、妻の櫛を取り上げ、微笑みかけた。 茉麻は、鼻息の荒い夫に當惑と期待を抱きながら、呑まれる樣に押し倒された。 ←前頁 次頁→
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/36.html
勤務地へ向かふ地下鐵車兩内で、熊井は、とある事件に出くはした。 ドア付近に場所をとり、手摺に掴りつつ新聞に目を通してゐた熊井の耳に、 隣の車兩から話し聲が聞こえた。どうやら揉め事のやうだつた。 「やつてねえよ」と、如何にも煩はしさうに言ひ捨てるしよぼくれた聲の後、 「この目でハツキリ見てゐたんだ」と、衒ひも有漏も感ぜられぬ若い聲が屆く。 やがて驛に到著すると、若い聲が再び響き渡る。 「待て!」 下車する乘客群を、白線の内側で巧みに避けながら、小男が自分の前を横切らうとしたので、 熊井は咄嗟に、左足をプラットホーム側へソッと放り出し、小男を躓かせた。 長い、熊井の脚に引つ掛けられた小男は、無樣にも顏面から轉倒し、 後を追つて來た青年によつて取り押さへられた。 「ありがたうございます」 青年は白い齒を見せて熊井を仰いだ。 と同時にドアが閉まり、次の驛へ發車した。 ←前頁 次頁→
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/7.html
動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/35.html
―――2年程前に、熊井夫妻は現在の低層分讓マンションへ移り住んだ。 賃貸ではあるが、閑靜な住宅街に建ち、3LDKと間取りも廣く、オートロック等設備も充實してをり、 西北に延びた陽當りの好いバルコニィや、地下駐車場が魅力的だつた爲、夫婦とも即決した。 尤も、普段自家用車を乘り囘してゐるのは茉麻だし、バルコニィも茉麻の育てた草花が犇めいてゐるから、 殆んど彼女の專有物としての機能しか果たせてゐないと考へて構はない。生活圈は原則的に女の物だ。 茉麻は、夫が家を後にすると、娘達にもパンや卵燒きを與へる。それからプランターの植物へ水を遣る。 物干に取り掛からんとする母を、次女の舞が觀察しながらニヤついてゐるので、梨沙子が自重を促した。 彼女達の樣子を横目に察した茉麻は「マセてるんだから」と獨りごち、尻を態と艷かしく律動させて歩いた。 搗き立ての餅に似た茉麻の臀部は、觀る者に、性欲と言ふより食欲に近い興味を抱かせる。 娘達も送出した頃には洗濯物も片付き、自分の食事と洗ひ物を濟ませてしまへば、家には暇だけが殘る。 ソファに寢そべり昨晩の夫を想つた。 彼の持つ障害を、出來れば取り拂つてあげたかつたが、その障害の原因すらも解らない。 一度、熊井には泌尿器科等で診察を受けるやう勸める心算であつたが、 ある日の朝方、眠る夫の下著からはみ出す程に膨れ上がつた龜頭を目の當たりにした。 急に何となく理由を知る事が怖くなり、妻として夫を氣遣ふよりも、これまで積み上げてきた、 夫婦の絆の樣なものが崩れ去る事への危惧に靡いた。 下著越しに夫を愛撫し、また布團を被せた。 ←前頁 次頁→
https://w.atwiki.jp/yajikumaazu/pages/39.html
業務の終はりも近づいた頃、急遽として熊井に接待役が囘つてきた。 相手は金融廳幹部の立川といふ人物で、これといつた面識は無かつたが、 直々の指名を拒む理由も無い爲、祕書から傳言を受け取ると即座に返答した。 歸りが遲くなるので夕飯は要らない、又先に寢て構はない、等といつた旨のメールを妻へ送信した。 これで、2夜連續、愛妻の手料理が食べられない。夫が食さぬ時の茉麻の飯は簡單になるさうで、 父としては少し娘達を不憫に思つたが、仕事だから致し方がない。 熊井側が歡待する場所は、立川行き付けの會員制高級クラブで、これも相手側の指定だつた。 席に著くなり、立川から見覺えのある顏のホステスを紹介された。 桃子である。 ドレスやアクセサリーで著飾つてはゐるが、熊井にはすぐに誰なのか判つた。 事態を呑みこむのに時間はかゝつたものゝ、どうやら桃子が立川に依頼し、 店へ誘ひ出したのだといふ事を知つた。 しかし、得意客、それも官僚を利用してまで自分に會はうとする桃子の執念は理解し難い。 こんな使はれ方をした立川に、不快ではないか訊ねても、彼は鷹揚に構へてゐる。 「君に粗相があつたからつていふんで、お詫びをしたひさうだよ」と、立川がわざはざ上席を讓る。 洋酒も薦められたので一口飮む。熊井は桃子を見た。 「どうしてこゝまでする?」 「お召し上がりになつて」 熊井を無視するかのやうにワインを注ぐ桃子。 不意に立川が歸る準備を始めた。 「立川さん、どちらへ」呼びとめる熊井。 「桃子は君に貸すよ」と告げる立川は笑顏だ。 「そんな」 熊井は困惑を隱せない。 「さ、立川樣もあゝ仰つて下さつてますから」 桃子は初めから立川と仕組んでゐた。 嵌められた、と思ひながら、熊井は桃子に向き直した。 「夜はまだ始まつたばかりですよ」 さう言つて、桃子は微笑むのだつた。 ←前頁 次頁→