約 811,898 件
https://w.atwiki.jp/ocg-o-card/pages/8661.html
《ファフニールの使い魔》 効果モンスター 星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 200 自分のフィールド上のモンスター3体を墓地に送る事で 自分のデッキ・手札・墓地からモンスター1体を特殊召喚する。 リバース:ターン終了時まで相手フィールド上モンスター1体 のコントロールを得る。 part19-168 コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1847.html
『――――つの・・・・さ・・・ペン・・・・の・・・・・』 全身を焼き尽くす・・・・否、溶かしつくす熱は急激に全身に回り 視界が崩れ、『オレ』が崩れ、支えを失って地面へと落下する。 受身も取れずに転倒したというのに大した音はしなかった。 地面につく頃にはもう殆ど『オレ』は失われて、石畳に落ちたのはオレの気に入りの厚みのある洋服ばかり。 いつもなら膝だってつかないからめったに汚れる事は無いそれ。 土埃まみれなんて我慢ならない!けど、今はそんな事考える余裕は一切無し。 熱い。熱い。熱い。消えていく、オレは死ぬのか?嘘だろ?オレは強かった。オレたちは! 『祝福を・・・・・・使い魔と成せ・・・・!―――――』 いつだってワンサイドゲームだった。オレたちが殺して、死ぬのは向こう。 膝だってつかなかった。怪我だってしなかった!オレの仕事は『引き込んで』、 訳もわからず困り果てる相手を『殴り倒し』『切り刻む』――――こんなんじゃない! 熱い!熱いッ! 熱はやがて脳味噌を蹂躙して、オレの思考は意味を成さなくなった。 ただ熱いだけの苦痛は頭部で遊びまわるのに飽きたのか、やがて左手に集束した。 なんだよ・・・・左手はさっき、溶けただろ・・・・・もういいじゃないか、やめてくれても・・・・ 「もう!あんた、何時まで寝てるのよ!?起きなさいよッ!」 「ふぐあッ」 何故か顔を赤く染めて怒り狂う少女に、 こめかみを思い切り蹴りぬかれ(トゥキックだ畜生)オレは視界を取り戻した。 本日は晴天なり。石畳なし。ウィルスなし。これはなんだ? 「なんだってこんな平民なのよー!」 わっと沸くガキどもの笑い声は遠い昔に置き忘れてきた『平和』ってヤツそのもので、 オレはますます意味がわからなくなる。 さっきまでギンッギンに痛んでた左腕をひょいととられ、 ほう、ふむ、とか言いながら眺めるオッサンが気持ち悪かったからとりあえずぶん殴った。 何なんだ、はこっちの台詞だ! 此処は何処だろう? ピンク頭の小娘をさんざっぱら笑った(平民がどうとか)ガキどもは、ふわふわと浮いて去っていった。 近くにスタンド使いが居るのか?モノに空を飛ばさせる能力なのか? 相手は何処に居るんだろう・・・・危険かもしれない・・・・状況がわからなさ過ぎる。今は。 「さっきから何をぶつぶつ言ってるのよ。」 「なんだ、まだ居たのかお前。鏡持ってるか?」 「口の利き方がなってないッ!」 痛ッ 痛い・・・・畜生、何だお前、プッツンしてるんじゃないのか。急に引っぱたくなんて 「何か言うならハッキリ言いなさいよ。」 「何も言ってません。すみません。」 五月蝿いな、口に出る癖は直した方が良いってのはわかってるさ。 だけど自分の能力を長々説明したり、攻撃方法を解説したり、皆似たようなもんだろ。 痛いのはもうたくさんだから口に出ないよう慎重に思考する。 周りのガキがふよふよ浮いてるってのに。この小娘、異常に気づかないのか? というか・・・・・・ 「お前は浮かないのか?」 「五月蝿いわね!」 痛ァッ 逆の頬にビンタを食らった。何なんだ。もう嫌だ。ギアッチョみたいなヤツだ! ああ、ガキの、しかも女に二発もビンタを食らうなんて、仲間に知られたら笑われる―――― ――――それどころじゃないだろ。『死んだ』んだ、オレ。笑われるのは間違いないが・・・・・・ 『死んだ』、はずだった・・・・ 少しばかり呆けていたら、いつの間にか屋内に居た。 あの小娘に手を引かれて連れてこられたような記憶が、ぼんやりとある。 ということはアイツの部屋かな。広くって、やたらと豪華だ。 そしてご本人様はオレの前で、椅子に座って、ふんぞり返ってオレを見・・・・・ 「やあーっと正気に返ったみたいね。急に静かになったと思ったら、ぴくりとも動かなくなるし」 「あ、ああ・・・・」 「いい加減名前くらいは教えなさい。呼ぶのに困るし。別に私がつけるんでもいいけど・・・・」 「イルーゾォ。」 「そう。」 小娘はつまらなそうにふんと言う。(名前をつけたかったのか?ごめんだな。 少女趣味なヤツをつけられたらたまらない――――『イルーゾォ』より少女趣味ってのは中々難しい気もするが) 「じゃあイルーゾォ、なんでアンタなのよ。ねえ?なんで平民のアンタが来るの?」 「平、民?」 「貴族なら良いってもんでもないわ!あたしは猫とか梟とか、出来たらドラゴンとかが良かったの! 『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出すなんて聞いた事ないし、どれだけ笑われたか――――」 「『サモン・サーヴァント』ってスタンドなのか。動物を呼び出してどうするんだ?大体何に使うんだ」 「よくわかんないけど、平民よりは動物のがマシよッ!アンタみたいに口答えしないでしょ」 暗殺者を捕まえて猫の方がマシとはよく言ったもんだ。 よっぽどオレの便利なスタンドについて説明してやろうかと思ったが、それより大事な事がある。 「お前の『サモン・サーヴァント』で、オレは此処に来たんだな?間違いないな?」 「ルイズ。それかご主人様って呼びなさい、無礼よ。」 高慢ちきな小娘だ。ご主人様?誰が呼ぶか、意味が分からない。 しかしコレで原因はハッキリした。無差別なスタンド攻撃でつれて来られたんだな。 何故か無傷なのだってスタンドの効果かもしれない。『完全な状態で呼び出す』だとか―――― 「何にせよ、オレは幸運だったし、それはお前の・・・・痛いすみません・・・・ルイズのお陰なんだろう。 ありがとう、だから、帰してくれ。」 オレは無傷だ。スタンドだって(まだ試してはいないが)出せるだろう。まだ『側に居る』感じがある。 実力ではなく『幸運で』だが・・・・戦いを乗り越えたオレには知識がある。 パンナコッタ・フーゴの危険なスタンド、新入りの機転や、『覚悟』!伝える必要がある! あいつ等はやはり危険なんだ。ホルマジオも死んだし、『オレだって死んだようなものだった』 イタリアに帰って、仲間に伝えるんだ! (仲間達はろくなヤツじゃあないが、オレは気に入ってるんだ。もう、ただの一人だって死んで欲しくない) 「場所がわからないなら、イタリアだ。イタリアならこの際何処だって」 オレはがっつくみたいに詰め寄って、小娘はそれに驚いて仰け反る。 申し訳無いけど時間が無いんだ。オレからの連絡が途絶えれば、次の追っ手があいつらの元に向かうだろう。 「・・・・む、無理よ。『サモン・サーヴァント』は召喚するだけで、帰すなんて出来ないわ」 冷水をブッ掛けられたみたいだった。 なあ、なんだって? 「それに出来たってね、帰しやしないわ。あんたは私の使い魔だもの。あたしの――――何処行くのよ。」 「・・・・洗面所なら、鏡はあるよな。」 「何なのよ鏡鏡って。いいけど。帰ってきたら身の回りの世話をしてもらうから!」 「嫌だね」 最悪だ。最悪の気分だ。もう一度死んだみたいに。 ふらふらと洗面所らしき場所を見つけ、「『マン・イン・ザ・ミラー』。オレだけを許可しろ」 鏡の世界へ潜り込む。 左右対称の『向こう側』でオレはルイズの居た辺りに戻り、少し狭いがふかふかのベッドに潜り込んだ。 (正確にはゾンビみたいな顔をしたオレを見て、マン・イン・ザ・ミラーが気を利かせて掛け布団を持ち上げてくれたんだが) ああ、此処はいい。五月蝿いやつの居ない、オレだけの世界だ。 ――――でも、喧騒も懐かしかった。帰りたい・・・・仲間の元へ・・・・ 今日は眠ろう。そして明日、何としても帰る方法を突き止める。 死ぬのは怖かった。泣くほど。(ギリギリで泣かなかったと思う。多分。暗殺者は泣いたりしないだろ) でも仲間達が死ぬのはもっと怖い。ソルベ達が死んだときの2.5倍、ホルマジオが死んだときの5倍は怖いだろう。 だから帰るんだ。 あんな強敵が相手じゃ謀反は失敗するかもしれない(急にネガティブになるのはオレの悪い癖の一つだとリーダーは言う。) でも、最悪そうなっても、『マン・イン・ザ・ミラー』を慎重に使えば仲間を逃がす事が出来るだろう。俺は帰らなくては―――― 「でも、もしも?」 嫌な事ばっかり思い浮かんで目頭が熱くなった。 熱くなっただけだぜ。泣いてない。暗殺者が泣くわけないだろ・・・・・・ 「わ、私の使い魔が消えた!?」 ルイズは鏡の外で大騒ぎしていたが、その声は届かない。 鏡の中のイルーゾォは、当分その姿を表す気は無いようだった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6776.html
前ページ次ページ滅殺の使い魔 「な、何だったのよ、あいつ……」 ギーシュとの決闘を終え、広場の生徒達がまばらになっている頃……、ルイズは自室へと向かっていた。 頭の中には、豪鬼への疑念が渦巻いていた。 平民。 自分が召喚した、ちょっとごつい平民。 みすぼらしい服を着て、それでも超人的な力を持つ。 一体あれは何者? メイジでは無いらしい。 異世界から来たとか言っていたが、本当なのか? 途中キュルケに話しかけられたりもしたが、上の空で返事をしたから覚えていない。 でも……ギーシュを倒した時、ちょっとすっきりしたかも。 そんなことを考えながら部屋に着く。 ドアを開け部屋に入る。 ――居た―― 「ご、ゴウキ、ななな、なんで居るのよ!?」 鍵は掛けたはず。 そう思いながら、急いでルイズがドアを見ると、ドアの鍵が壊れていた。 「あ、あんた……鍵壊したの!?」 「ぬ……あのような物、有って無いようなものよ」 ふん、と豪鬼が鼻で笑う。 ルイズは、自分に必死に落ち着けと言い聞かせながら、あくまで笑顔で質問する。 「ね、ねえゴウキ?」 「何用だ」 「ギーシュのゴーレムを倒した、あの、なんて言うの? あれ、何だったのよ?」 「……技」 「わ、技ぁ!? いや、そんなはず無いでしょ、どうやったら技で青銅を真っ二つにするのよ」 「笑止。 日々鍛錬の賜物よ」 「あ、あんたねえ……」 どうせこの使い魔のことだ。 本当の事は教えてくれないのだろう。 本当かもしれないが。 そう考えたルイズは、しかし諦めきれない。 「ね、ねえゴウキ? 本当の事を教えて頂戴?」 「嘘は言っておらん」 なんか段々腹が立ってきた。 そういえば、こいつはさっき自分を馬鹿にしたでは無いか。 そういえばあの時も、あの時もと考えたルイズは、その理不尽な怒りを豪鬼に向けた。 「あんた、ちょっと調子に乗ってるんじゃない?」 「笑止」 なにかあれば笑止、笑止。 そんなに笑うのを止めたいのか。 溜まりに溜まった怒りが遂に沸点に到達してしまったルイズは、豪鬼に罰を与える事にした。 いや、気付いたらやってしまっていた。 「あ、あんた、何かにつけて私を馬鹿にして~~! もういいわ! あんたは一回使い魔という自分の立場を思い知る必要があるのよ!」 ルイズはドアを指差した。 「これからずっと、外で生活しなさい!」 次の日の昼間。 「ぬう……」 ルイズの部屋の前にいる豪鬼は困っていた。 と、言うのは、今、自分の隣に自分の胴着を必死に銜えて引っ張ろうとしている火トカゲ……フレイムが居るからである。 もう今日の朝からずっとそうして、豪鬼をどこかへ連れて行こうとしていたのだ。 それこそ、食事の時も、洗濯の時も。 「うぬは一体……」 いくら豪鬼とて、獣の言葉は理解できない。 そんな訳で、豪鬼は困っていたのだ。 とは言え、この火トカゲ、かなり必死である。 何故ここまで必死になったのか、という疑問と、これ以上は胴着が耐えられないという理由で、豪鬼はそれに引っ張られていく。 ……筈も無く、豪鬼はフレイムに一発拳骨をくれてやると、今日の修練に向かった。 豪鬼がフレイムの意識とフラグを拳骨でへし折ったその頃……。 学院長室では、ロングビルが黙々と仕事をこなしていた。 仕事を一段落させると、視線をオスマンへと向ける。 オスマンは居眠りをしている。 よし、と小さく呟くと、すばやくサイレントの魔法を唱え、自身の足音を消す。 そして、薄ら笑いを浮かべながら学院長室を出るのであった。 実はロングビルは決定的な間違いを犯していたのだが、それに気付くことは無く……。 ロングビルが向かった先は、学院長室の一階下に位置する、宝物庫がある階だった。 宝物庫。 そこには、学院始まって以来の秘宝が納められている。 それ故、扉には巨大な鍵前で守られていた。 ロングビルは杖を取り出し、詠唱を始める。 詠唱を終え、杖を振る。 しかし、錠前には何も変化が起こらなかった。 ロングビルはまた違う魔法を掛けるが、それも効果を表すことは無い。 ロングビルは小さく舌打ちをすると、呟く。 「スクウェアクラスのメイジが、『固定化』の呪文をかけているみたいね」 『固定化』の呪文の前には、あらゆる化学反応から保護され、そのままの姿を永遠に保ち続けることが出来る。 『錬金』の魔法も効力を失う。 ただ、呪文をかけたメイジが、『固定化』の呪文をかけたメイジよりも実力で上回っているのであれば、その限りでは無い。 しかし、トライアングルクラスのロングビルに、スクウェアクラスのメイジに実力で上回れるはずも無く。 ロングビルはメガネを持ち上げ、扉を見つめていた。 そんな時、誰かが階段を下りて来ている事に気付く。 慣れた手つきで素早く杖をしまう。 現れたのは、コルベールだった。 「おや、ミス・ロングビル。 ここで何を?」 コルベールは、間の抜けた声で尋ねる。 ロングビルは、愛想の良い笑みを浮かべた。 「はい、宝物庫のの目録を作っているのですが……」 ロングビルは、困ったように笑う。 「あいにく、鍵を持っていないんです。 オールド・オスマンはご就寝中でして……」 「なるほど。 確かにあの方、寝るとなかなか起きませんからな。 では、僕も後程伺うことにしよう」 コルベールが歩き出す。 それを、ロングビルが呼び止めた。 「待って!」 コルベールは一瞬びくんと大きく反応すると、ぎこちなく振り向いた。 「な、なんでしょうか?」 ロングビルはもじもじとした仕草で、上目遣いでコルベールを見つめる。 「あの、よろしければ……、昼食を一緒にいかがでしょうか……?」 コルベールはその言葉に、満面の笑みで答えた。 「は、はいっ! 喜んで!」 二人は並んで歩き出した。 「ねえ、ミスタ・コルベール」 「は、はい! なんでしょうか!」 ロングビルから誘いを受けたと言う喜びと驚きと緊張でがちがちに見えるコルベールは、つい大声を出してしまう。 そんなことは気にも留めず、ロングビルは微笑む。 「宝物庫の中に、入ったことはありまして?」 コルベールは、ああ、と言うと、顎に手を添えた。 「ありますとも」 ロングビルが、ニヤリと笑う 「では、『悪夢の書』をご存知?」 「ああ、あれは、奇妙でしたなあ」 ロングビルの目が光る。 「と、申されますと?」 それは……、とコルベールが言うと、コルベールは急に真面目な表情になった。 「なんと言いましょうか……、あの巻物を見た瞬間、いや、あれが視界に入った瞬間、言いようも無い恐怖に襲われまして……。 何よりも不思議なのは……」 「不思議なのは?」 コルベールがごくりと唾を飲み込む。 顔には、冷や汗が流れていた。 コルベールは、一言一言かみ締めるように、恐怖に耐えるように言った。 「私はあれを見たとき、確かに、そう、確かに『悪夢』を見て、そして、いつの間にか、『死』を、あの場で、死んでしまうことを、覚悟していたんです」 ロングビルも、緊迫した表情になる。 「では、それはまだ、宝物庫に?」 「ええ……」 「でも、あの宝物庫には強力な『固定化』がかかっているんでしょう?」 「ええ。 しかし、宝物庫にも、一つだけ弱点があるのですよ」 「はあ」 「それは……。 物理的な力です」 ロングビルの目が、また光った。 前ページ次ページ滅殺の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1701.html
男達の使い魔 第八話 「うぉーーー!」 虎丸が雄たけびをあげながら馬を走らせる。 一部の塾生を除いて、一号生に乗馬経験者はいなかった。 ほとんどみな、この世界に来てはじめて馬に乗っているのだ。 そのような中で虎丸の上達具合は頭一つ抜けていた。 馬と気を合わすのが上手いのだ。 もともと誰とでもすぐに友人になれる男だったが、ハルケギニアに来てからさらにその才能が増した。 そんな虎丸だからこそ滅び行く国への使者にふさわしい。 少なくともJはそう考えている。 それに、 チラリとJは横を見る。桃は、いかにも仕方ないヤツ、という風をよそおっているが、 その目は温かく笑っていた。どうやら同じ気持ちのようだ。 さて、ルイズ達に追いつかないとな。 桃とJはさらに馬を飛ばすことにした。 虎丸もそれについてくる。 意外にも見事な乗馬術を披露するギーシュもまだまだ余裕だ。 シエスタにいたっては、時々馬の横を併走している。 どうやら大豪院流の鍛錬の一端らしい。 ルイズとワルドは、グリフォンに乗って先に行っているのだ。 少しはとばさないと追いつけなくなりそうだ。 そうして一同は、二日かかる道のりをわずか半日で駆け抜けた。 『金の酒樽亭』 港町ラ・ロシェールにある寂れた酒場だ。 この酒場には有名な看板がある。それには 『人を殴るときはせめて椅子をおつかいください』 と書いてある。 喧嘩が絶えないこの酒場で、せめて武器の使用を抑えさせたいという、店主の愛に満ちた看板だ。 そう、表向きはだ。真実を知るものはほとんどいないが。 キィ そんな酒場をくぐる男がいた。 長身で痩せ型。それだけならなめられそうな者だが、男は杖を手にしていた。 どうやらメイジのようだ。 さらに白い仮面にマント。異様な風体に思わず酒場の住人達は口を閉ざす。 そんな酒場の空気をいっさい気にすることなく男は歩いていく。 そうして、一人の男の前に立った。 その男もまた異様な男であった。 2メイル以上はある大柄な体格を、窮屈そうに虎の毛皮で飾っていた。 頭の髪の毛は、全て綺麗にそりあげてある。 何よりも、その眼が異常だった。 睨んだだけで気が弱い者なら死んでもおかしくないその目は、まさしく凶眼であった。 そんな男の前に立った仮面の男は、机の上にどさりと金貨の入った袋を投げおいた。 そして言った。貴様達を雇おう、と。 「ほう。貴族様が俺達のことを知って雇おうというのか。」 その言葉に仮面の男は薄く、そしてひどく酷薄に笑ってこういった。 「知っているさ。メイジをも上回るという傭兵集団、巌陀亜留武(がんだあるぶ)三十二天だろ。」 聞き届けた男は、素手の方が武器を持っているよりも凶悪な、三十二天の頂点に立つ男も酷薄な笑みを浮かべた。 その巧みな馬術によって、ルイズたち一行は、無事日が暮れる前に港町ラ・ロシェールにたどり着いた。 スクウェアクラスの地の魔法使いたちが競い合って作ったというその町は、まさしく芸術であった。 その町並みに思わず驚きの表情を浮かべる、桃たちにルイズとギーシュは誇らしげに解説している。 その後ろには、シエスタが密やかにたたずんでいた。 そうして騒いでいるところにワルドが戻ってきた。 無事宿を取ることができたらしい。一行は『女神の杵』亭に向かった。 「は~い!」 そこにはキュルケがいた。タバサも椅子に座って本を読んでいた。 その様子に思わずルイズは足を滑らせる。 なんでこんなところにいるのかと尋ねるルイズに、キュルケは悪びれる様子もなく返す。 朝こそこそと学院を出て行くルイズを見たキュルケは、タバサのシルフィードで追いかけたのだ。 面白そうなことを独り占めするなんてゆるせない、そう考えたキュルケは、 行き先をラ・ロシェールと勘で決め、ルイズの泊まりそうなホテルに先回りしていた。 貴族が泊まりそうなホテルなんて一軒しかなかったから楽だったわ、と帰すキュルケ。 まことに恐ろしきは、女の直感である。 そんなキュルケとルイズは言い争っている。 いつもの光景に、思わず桃たちはほほが緩むのを感じた。 そんな中でシエスタとワルドが睨みあっていた。 どちらがルイズと一緒の部屋になるかを競っている。 ついにワルドが折れたようだ。虎丸と相部屋になることになったようだ。 あの男達と私を一緒の部屋にするおつもりですか、というのが決め台詞だったようだ。 本心ではぜんぜん危険を感じてなどいないはずなのに、平気でそういうことを言うシエスタに、 虎丸はひそかに戦慄を感じていた。 そうして一日目の夜がふけていった。 二日目の朝がやってきた。 みな疲れも取れたようでさっぱりとした表情をしている中、ワルドだけがなぜか疲労していた。 「そんな顔してどうしたんだ?」 同室だった虎丸が不思議そうな顔をして聞く。そこにワルドが恨めしそうな視線を向ける。 どうやら虎丸の鼾と歯軋りで眠れなかったようだ。 同じ経験をしたことのある桃とJは憐憫の視線をワルドに向ける。 どうやら二人は結託して虎丸との相部屋を避けていたようだ。 そんなワルドであるが、口には出さないあたりは、さすがグリフォン隊隊長といったところか。 そうしてワルドは、もう少し休んでいくと言うと、部屋に戻っていった。 そんなワルドを見送ったルイズたちは、町へと繰り出すことした。 なんだかんだで、見知らぬ土地は、旅心を刺激するのだ。 初めて見るハルケギニアの町は、印象的だった。桃たちは、今まで学院から出たことがなかったのだ。 そんな光景に浮かれた虎丸とギーシュは、出店を冷やかしては店主と話し込んでいる。 Jは一人壁に寄りかかって景色を眺めていた。 キュルケとタバサは、かつての決闘場を見学に行っていた。何でも「殺シアム」というらしい。 そんな中、桃とルイズは、通りに面した店で飲み物を飲んでいた。 ふと桃が話を切り出した。一度デルフリンガーをじっくりと見たい、と。 いつも剣を背負っていることから、桃を剣士あろうと考えていたルイズはOKを出した。 その代わりあんたの腕前を見せなさい、という交換条件を出して。 桃がゆっくりとデルフリンガーを引き抜く。 「おでれーた。兄ちゃん相当の腕だな!兄ちゃんほどの腕なら喜んで使われてやるぜ! ん?しかしなんか変な感じだなー。使い手のようで使い手でないような……。」 デルフリンガーの台詞にルイズが突っ込む。 「使い手って?」 「忘れた!」 即答するデルフリンガーに、使えないわねぇとつぶやいたルイズは、桃に期待するような視線を向けた。 あたりを見回した桃は、適当な大きさの岩を見つけた。 ついて来い、そうルイズに行った桃は、岩の前に立って静かに大上段にデルフリンガーを構えた。 デルフリンガーは何も言わない。 その姿に思わずルイズは息をのむ。構えたまま微動だにしない桃には一種の威厳があったのだ。 閃 次の瞬間には真っ二つに切り裂かれた岩だけが残っていた。 風のメイジでもここまで簡単には切り裂けないだろうに。ルイズの感想である。 感嘆したルイズは、桃にしばらくデルフリンガーを預けることにした。 デルフリンガーも驚いていた。使い手以外で、これ程の腕前を持っている男はいなかったのだ。 そうして夜になった。 いよいよ明日はアルビオンだ。 酒場では、虎丸とギーシュが騒いでいる。キュルケやタバサも楽しんでいるようだ。 その風景を桃とJが楽しそうに見つめていた。 ルイズは二階でワルドと少し話している。 昔を掘り返そうとするワルドと、アンの親友としてあることを誓ったルイズでは話がかみ合わないようだ。 その時、酒場に男達がなだれ込み襲い掛かってきた。 反射的に、虎丸がどう少なく見積もっても200キロは下らないだろうテーブルをひっくり返して盾にする。 その音がゴングになった。 巨大なテーブルをいとも簡単にひっくり返した男に、傭兵達に戦慄がはしる。 とても人間の力とは思えないのだ。 しかし、自分たちとてプロである。矢を射掛けるのをやめると接近戦を仕掛けるべく突撃を開始した。 虎丸がテーブルを盾にするのとほぼ同時に、全員が合流した。 裏口まで完全に囲まれたことをワルドが知らせる。 そうして言った。血路を切り開く必要がある、と。 その言葉にJが答える。 「俺がやろう。全員合図とともに一斉に飛び出せ!」 「あら。あたしも参加させてもらうわよ。」 キュルケが不敵に笑って付け加えて化粧を始める。 いわく、この炎の舞台で主演女優がすっぴんじゃあしまらないじゃない。 タバサも、いつの間にか手に杖を持っている。どうやら残るつもりのようだ。 その風景にルイズは、思わず目に熱いものを感じた。 作戦は決まった。 傭兵達がテーブルの盾に近づいた瞬間、真っ二つにテーブルが切り裂かれる。 桃の抜刀術である。 その速度に、一瞬ワルドの眼が細まるが、気づいたものはいなかった。 「スパイラル・ハリケーン・パンチ!」 渾身の気合とともにJが拳を繰り出すと、巨大な竜巻が発生した。 タバサがそれに氷の呪文を合わせる。 氷の槍と竜巻で、傭兵達が蹴散らされる中、六人は竜巻の中心を駆け抜けた。 裏口の敵を倒してくる、そう告げたタバサを見送ったキュルケは、ようやく化粧の終わった顔を上げる。 「さて。後はあいつらを片付けるだけね。」 「ぐわはははは!やりおるわ。」 巌陀亜留武三十二天の将、棒陀亜留武(ぼうだあるぶ)百五十二世はそういて笑った。 「貴様らはわしら巌陀亜留武三十二天が直々に相手をしてくれるわ!全員下がれ!」 そうして舞台は決闘の様子をていしてきた。 二対三十二の不平等な決闘を。 Jが前に進みでようとするのをキュルケが止める。 「知らなかったミスタ?ヒーローは最後に登場するものよ。」 そう嫣然と笑って、キュルケが前に進み出る。 その様子に傭兵達が歓声をあげる。キュルケの姿に下卑た想像をしているのだろう。 まったく気にすることなくキュルケが声をあげる。 「さて、紳士の皆様!おあついのはお・好・き?」 一人目は足を燃やされた。二人目は足は庇ったが顔を燃やされた。 三人目は体を燃やされた。全身を盾に身を包んだ四人目はその自慢の盾ごと燃やされた。 ことここにいたって、相手がただのメイジではないことを悟った巌陀亜留武三十二天達の顔色が変わる。 いかに巌陀亜留武三十二天の中ではヒヨッコ同然の者達とはいえ、四人も倒されたのだ。 しかし、と棒陀亜留武は思う。これでメイジの手の内は見た!と。 そうして煙草を吸う振りをして、男達に目配せをする。一人の男が矢を放った。 完全に決闘と思い込んでいたキュルケにそれを避ける余裕はない。 ズドン! 矢が刺さる音がした。 その音に思わずキュルケは振り返る。Jの胸に矢が刺さっていた。 卑劣な相手への怒りがキュルケの胸を焼く。 そうして全員を燃やし尽くそうとしたキュルケをJが止めた。 胸筋は人間の体の中でもっとも瞬発力がある。ゆえに大丈夫だ。 そしてあいつらは俺がやる、と。その目に、主演女優は主演男優に場を譲ることにした。 メイジをやり損ねた棒陀亜留武は、不機嫌そうに鼻を鳴らす。 しかし、この人数ならば、いかに凄腕の炎のメイジとて造作もないだろう。 そう思い直した棒陀亜留武は、手下達に指示を出した。 連携戦闘に長けた五人が襲い掛かった。 Jの顔は怒りに燃えていた。 しかし、それを声に出すことはしない。ただ、行動で示すことにした。 襲い掛かろうとした五人が急に立ち止まる。 その光景に不審を感じた周りが囃し立てる。 (今のがわからないなんて、長生きできそうにない男達ね。) そうキュルケは心の中で呟いたとき、五人の鎧が砕け散り、地面に倒れふした。 周りが雑然となる中、残りの三十二天は戦慄を覚えていた。 Jのマッハパンチが炸裂したのだ。 「面倒だ。全員まとめてかかって来い!」 その台詞に、棒陀亜留武を除く三十二天全員が構え、副将各らしき男が応える。 「まさか、本当にわしら全員でかからねばならんとはな! 数多くのメイジ達をも瞬殺してきた巌陀亜留武三十二天集団奥義を見るがいい!」 「「「奥義!巌陀亜留武三十二天凶天動地!!」」」 そういって上から下から前後左右から男達が襲い掛かる。 天地を押さえ、四方を押さえた男達の攻撃に死角はない! たとえメイジといえども、これだけの同時攻撃を避けられる道理はないのだ! しかし、無理を押し通せば道理が引っ込む。 Jは己の拳を構えると、絶対の自信を持つ必殺ブローを放った。 「フラッシュ・ピストン・マッハ・パンチ!」 音速という名にふさわしい拳の連打が終わったとき、そこに立っているものはなかった。 「次はお前の番だ。」 棒陀亜留武の顔が凍りついた。 そういって棒陀亜留武へと歩き出したJの体がぐらりと揺れる。 その様子に、ようやく棒陀亜留武の顔に色が戻る。 「ふはははは!先ほど貴様が受けた矢には毒が盛ってあったのだ。 しかし、竜であろうとも10秒で倒れるほどの毒を受けてここまでもつとはな。 正直驚いたぞ!」 そう言って、棒陀亜留武がゆっくりとJに歩み寄ると蹴りを加えた。 その様子にキュルケと、いつの間にか戻ってきたタバサは唇をかみ締める。 しかし、手は出さない。Jの眼が言っているのだ。まだ自分は終わっていないと。 動かない体に次々と攻撃が加えられる。Jはなんとか動く口を動かした。 「この下種野郎が!」 「うわはははは!この世は勝てばよいのだ! お前が死んだ後も、あのお嬢ちゃん達は俺達で面倒を見てやるから安心して死ぬがいい!!」 そう言って、下卑た表情を浮かべる男にJの血が煮え滾る。 なおも男は攻撃を加え続ける。 骨が折れた!それがどうした。 体が動かない!それがどうした。 Jは問答を続ける。怒りが彼の体から命が消えるのをゆるさない。 彼の両眼からは、怒りのあまり血の涙が滴っている。 そして…… 「充填完了だ!」 そう言ってJは男を跳ね除けた。 「まだそれほどの力があるとは見上げたヤツよのう。 最後に言い残すことがあれば聞いておこうか。」 「フィスト・オブ・フュアリー。これが貴様を地獄に送る拳の名だ。」 そう返すJに男は不快感を感じた。 そうして止めを刺すべく男は奥義を繰り出した。 「食らえ!巌陀亜留武三十二天秘奥義!」 しかし、それよりも早く 「マッハ・パンチ!」 Jの拳が男に突き刺さっていた。 男は大きく弧を描いて空を飛んでいた。 Jはゆっくりと崩れ落ちた。全てが限界だったのだ。 そこにキュルケとタバサが駆け寄ってくる。 それを視界におさめつつ、Jの意識は暗転した。 そのころ桃は苦戦を強いられていた。 無事敵陣を突破した桃達に、白い仮面の男が襲い掛かってきたのだ。 それを食い止めるべく、桃が躍り出たのだ。 白い仮面の男は恐るべき使い手であった。 桃は思う。このデルフリンガーがなければ、自分は初手で敗れていただろうと。 じりじりと時間がたつ。 初撃のライトニングクラウドをデルフリンガーで吸収することに成功した桃であるが、 以降はこうして対峙したまま膠着していたのだ。 下手に踏み込めば、あの閃光の餌食になってしまうだろう。 しかし、 (相手が間合いを取ろうとしたところを逆にしとめる!) 桃には勝算があったのだ。 そうして時間が経過する。 ふとキュルケの声が聞こえた。向こうを片付けたようだ。 その声に仮面の男の気配がゆれる。 好機! そう判断した桃は、ついに男を一刀両断した。 二つに分かれた男が風となって消えいく光景に、桃は戦慄を覚えた。 あの男は実体ではなかったのだ。 まさか!桃の脳裏に根拠のない考えが浮かぶ。 キュルケ達が追いついた後も、桃はじっと空の方を見上げていた。 それはアルビオンの方であった。 男達の使い魔 第八話 完 NGシーン 雷電「あ、あやつらはまさか!」 虎丸「知っているのか雷電!」 雷電「うむ。あいつらこそまさしく、古代中国において恐れられた暗殺拳の使い手である巌陀亜留武三十二天!」 巌陀亜留武三十二天、ハルケギニアにおいて有名な傭兵集団であるが、その出自を知るものは少ない。 もともと彼らは、古代中国で迫害されていた暗殺拳の使い手であったのだ。 そのあまりの腕前に恐れを抱いた煬帝が、王虎寺に命じて征伐させたのはあまりにも有名な話である。 しかし、実は彼らは滅んではいなかったのだ。 間一髪表れた不思議な光に吸い込まれた三十二人は、不思議な人物に命を救われた。 彼こそ、後の始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴである。 命を救われた三十二人は、ガンダールヴにその命の借りを返そうと、数多くの戦いを共に闘ったという。 しかし、運命は無情にも、彼らよりもガンダールヴを先に死なせてしまった。 死因はわからない。ただ、そういう事実だけは伝わっている。 恩人に先を越された彼ら達は、それでも借りを返すべく闘い続けた。 そんな彼らを、民衆たちは敬意を込めて巌陀亜留武三十二天と読んだという。 なお、最近巷をにぎわしている傭兵集団にそう名乗る者達がいるが、 その因果関係はまったくもって不明である。 民明書房刊 「港町羅炉死獲流(ら・ろしえる)」(平賀才人著)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6734.html
前ページ次ページ滅殺の使い魔 ――森の一角。 「ティファ、薪割りが終わったが」 金髪の壮齢の男が少女に話しかける。 赤いタキシードを着こなす所にダンディズムが感じられる。 「あ、ありがとうルガールさん。 もういいですよ、休んでいて下さい」 ティファと呼ばれた少女は、料理をしながらルガールに言う。 「そういうわけにもいかんだろう、君のような少女が一人で働いていると言うのに」 ルガールは困り顔で肩を竦める。 そんなルガールに、ティファはクスッと笑うと、遊んでいる子供達を見る。 「なら、子供達の相手をしていて下さい」 「ふむ、わかったよ」 ルガールはそう言うと、子供達の中へ向かった。 「あー! ルガールおじちゃん!」 「ああ、何をしているのかな? 私も混ぜてもらいたいんだが」 そういって子供達に混ざっていく。 ルガールは考える。 何故、自分はこんなにも穏やかに日々を送っている? いや、それ以前に、何故自分は生きているのか? あの時、自分は死んだ……、いや『オロチの力』に体を乗っ取られた筈だ。 豪鬼との死闘の末、その殺意の波動を奪い、しかし、その力を使いこなせずに……。 その他にも疑問はあった。 果たして自分は、こんなにも穏やかな性格だっただろうか? 否。 断じて否だ。 『悪』こそが自分の全てだ。 では、なんの影響だ? オロチ? 否。 殺意の波動? これも違うだろう。 二つの力の反応? 否定は出来ないが、可能性は薄い。 ではやはり……。 このルーンの仕業か。 朝―― 朝早くに豪鬼は目覚める。 ルイズを起こす為では無い。 修行の為だ。 まだ日は昇りきっては居ない。 修行しよう、と考えた後に豪鬼は気付いた。 道知らねぇ。 つまり、洗濯にはかなりの時間がかかる。 道に迷うことも視野に入れなければならないのではないか。 結局、豪鬼は今日のところは何もしないことにした。 と、言うわけで、もう少しボーッとしていた訳だが。 しばらくして、日がかなり昇ってきたので、豪鬼はルイズを起こすことにした。 「ルイズ、朝だ」 ……反応を示さない。 「ルイズ、朝だぞ」 ……反応を示さない。 ルイズがあまりに起きないので、豪鬼は毛布を引っぺがした。 「な、何!? 何事!?」 「朝だ、ルイズ」 「はえ? そ、そう……。 って、誰よあんた!」 「豪鬼」 「あ、そうだ、昨日召喚したんだ」 ルイズは起き上がり、部屋を見渡す。 豪鬼は何も用意していないようだ。 そして豪鬼に命じた。 「服」 そう言うと、いつの間にか椅子にかかっていた服が豪鬼の手に握られていた。 「ま、魔法!?」 「いや、普通に取ってきただけだ」 いつもならかなり気にするところだが、そこは寝起きの頭である。 「下着」 「どこだ」 「そこのクローゼットの一番下」 場所を言うと、またいつの間にか豪鬼の手に 下着が握られていた。 豪鬼には基本恥じらいなど無い。 「服」 「渡したぞ」 「着せて」 豪鬼は、なるべく力加減を覚えるように着せた。 問題は無かった。 ルイズとともに部屋を出る。 すると、すでに一人の女子生徒が廊下に出ていた。 豊満な胸に、それを強調するような服の着方をしている。 普通の男であれば、否応無しに胸に目が行く所だが、そこは豪鬼である。 巨乳の女は他に見たこともあるし、全員鍛えぬいた体をしていた。 そんな訳で、豪鬼には目の前の少女の胸はただ肥え太った不摂生の賜物にしか見えなかった 彼女はルイズににやりと笑いかける。 「おはよう、ルイズ」 それに対して、ルイズはあからさまに嫌そうな表情になった。 「おはよう、キュルケ」 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない!」 豪鬼は密かに、それには感謝している、と心の中で呟いた。 「『サモン・サーヴァント』で、平民を呼んじゃうなんて、さすがはゼロのルイズね」 ルイズは頬を染めながら、キュルケを睨む。 「五月蝿いわね」 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。 勿論、一発で成功したわ」 「知ってるわよ」 「どうせ使い魔にするなら、こういうのが良いわよね~。 フレイムー」 キュルケが勝ち誇ったような声で使い魔の名前を呼ぶ。 すると、キュルケの部屋から虎ほどの大きさの赤いトカゲが現れた。 辺りを熱気が包み込む。 ルイズは息苦しそうな表情になる。 豪鬼は動じない。 「あら? 怖がらないの? 度胸あるのね」 豪鬼がそのトカゲを見る。 よく見ると、その尻尾には炎がついているではないか。 豪鬼は少し驚き、兄の弟子の金髪を思い出した。 更に、学生服の男も思い出した。 インド人も思い出した。 「これってサラマンダー?」 ルイズはかなり悔しそうだ。 「そうよー。 火トカゲよー。 見て? この尻尾。 ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランド物よー。 好事家に見せたら値段なんてつかないわよ? あたしの二つ名は『微熱』。 相応しいと思わない?」 未だに二人は何やら競っているが、それを尻目に豪鬼はフレイムを見つめていた。 こいつと死合いたい。 かなり好奇心が刺激されていた。 そうして豪鬼が必死で自分と死合っていると、キュルケが豪鬼に話しかけてきた。 「あなた、お名前は?」 「……豪鬼」 「ゴウキ? 変な名前」 「……ふん」 すると、キュルケは豪鬼の体をまじまじと見つめながら言った。 「うーん、でも、かなりいい体してるじゃない。 逞しい殿方は好きよ?」 キュルケは豪鬼を誘惑した。 豪鬼はそれでも揺るがなかった。 「それじゃあ、お先に失礼」 キュルケは、フレイムと共に去っていった。 キュルケが居なくなると、ルイズは悔しそうに拳を握り締め、呟いた。 「くやしー! 何であんなのがサラマンダーを召喚できて、わたしはこんななのよ! メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われてるぐらいなのに~!」 そう言いながら拳を豪鬼に向かって振った。 勿論そんなものが豪鬼に当たるはずも無く。 「かわすな!」 「当てて見せい」 そんなやり取りをしながら、豪鬼はふと思った。 そういえば、まだルイズの魔法を見たことが無い。 あの火トカゲと『微熱』という二つ名を見る限り、あのキュルケとか言う女は火を使うのだろう。 モグラを召喚している小僧も居たが、あれは土か? では、ルイズは? まさか『殺意』などと言う属性は無いだろうが、では何だ? 自分が使う属性に似たものは……。 『灼熱波動拳』しかない。 とすると『火』か? では『ゼロ』とはなんだ? まさか、あの光の剣を使う者という意味ではあるまい。 少し気になるが、まあ良い。 力を振りかざすのは弱者のみ。 あのキュルケとか言うのは弱者だろう。 「ほら、わたし達も行くわよ」 落ち着いたらしいルイズは、すでに前方を歩いていた。 「うむ」 豪鬼達が食堂に着くと、既に多くの生徒達が集まっていた。 ルイズによると、朝昼晩全てここで食事を取るらしい。 全てのテーブルには、豪華な飾りつけがなされていた。 「愚かな……」 無駄に権力を振りかざしているのがありありと分かり、豪鬼は少し失望していた。 これが人の上に立つ者として正しいとでも言うつもりか。 見たところ、相応しそうな人物など数人ではないか。 そんな豪鬼の態度を見て、ルイズは何を勘違いしたのか、得意げに豪鬼に説明した。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけではないのよ」 「……ほう」 「メイジはほぼ全員がメイジなの。 『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族足るべき教育を、存分に受けるのよ。 だから食堂も、貴族の食卓に相応しいものでなければならないのよ」 豪鬼は、心の中で舌打ちをした。 貴族足るべき教育? これがか? これでは傲慢な人間が増え、格差が広まる一方ではないか。 相応しい食卓? 下らん。 何故こんな贅沢の限りを尽くすものなのだ? 貴様はこの食事に相応しい人間か? 否、断じて否。 色々と腹は立ったものの、腐った人間などそれこそはいて捨てる程見てきた(強者ではあったが)ため、それくらいで済んだ。 「わかった? ほんとならあんたみたいな平民は『アルヴィーズの食堂』には一生は入れないのよ。 感謝してよね」 「……ふん」 「もっと感謝しなさいよ! ……まあいいわ、いいから椅子をひいてちょうだい。 気が利かないわね」 「ああ」 虫唾が走る思いで椅子を引く。 「じゃあ、あんたはそれね」 ルイズが床を指差す。 「特別に、ここで食べさせてあげる。 床だけどね」 皿を見てみる。パンが二切れ、肉が申し訳程度に浮かんだスープが一皿。 格闘家は体が資本である。 故に豪鬼は、断食したことなど無いし、一日として食事を抜いたことは無い。 瞑想や修行で知らないうちに食事を忘れていたことならあるが。 朝はこの程度で十分だろう。 そうおもった豪鬼は、少々野菜が少ないことを不服に思いながら平らげる。 パンを食べ終え、スープに手を付けようとした時、ルイズが鳥の皮を入れてきた。 「ほら、肉は癖になるからだめよ」 「要らん」 豪鬼の言葉を無視し、ルイズは自分の食事に戻った。 鳥皮などという油の固まりは、豪鬼にとって毒でしかない。 入れられてしまったものは仕方が無いと、豪鬼はスープを丸々残した。 豪鬼とルイズは教室の掃除をしていた。 ルイズが魔法を失敗し、教室を滅茶苦茶にしたからである。 事の成り行きはこうだ。 豪鬼とルイズが教室に入ると、一斉に生徒達が二人の方を向き、クスクスと笑った。 キュルケも男子達の中に居た。 多くの男をはべらせている様だ。 下衆が。 豪鬼はそう思ったが、やはり下衆の相手をする気はなく、ルイズの隣に座った。 教室内を見回すと、珍妙不可思議な生物がたくさんいた。 見回す中でルイズに視線を向けると、ルイズが不機嫌そうに豪鬼を見ていた。 豪鬼はそれに構わずに再び教室を見回し始める。 ルイズももう諦めたようで、何も言ってはこなかった。 授業中、ルイズが口論を始めたりはしたが、豪鬼は構わず、時間を瞑想に使っていた。 しかし、興味があるものが耳に入ると、それをやめ、授業に耳を傾けた。 「では、この練金を……、ミス・ヴァリエール、やって御覧なさい」 「え? わたし?」 「先生! やめた方がいいと思います! 危険です!」 キュルケが立ち上がり、叫ぶ。 教室の中の殆どの生徒が頷く。 「やります」 それに反応したのか、ルイズは何か決意したように言う。 つかつかと黒板の前に向かっていくルイズ。 すると、殆どのの生徒が机の中に隠れる。 その中でも、キュルケだけは隠れずにルイズを見つめていた。 さっきまで必死にルイズを止めていたのに、いざとなるとちゃんと向き合うとは、実は少しはやれるのではないか、と豪鬼は思った。 少なくとも、このときキュルケは豪鬼の中での『下衆その一』という位置づけからは脱していた。 ルイズが呪文を唱え、杖を振り下ろす。 刹那、爆発。 目の前の机を吹き飛ばし、破片を飛ばす。 豪鬼はそれに反応した。 丁度いい。 「ぬぅん!」 飛び散る破片や机を全て叩き落す。 「あ……」 キュルケだけがそれを目撃した。 豪鬼のお陰で大きな被害は出なかったものの、生徒達はルイズを睨む。 ルイズは全く悪びれる様子も無く、こう言った。 「ちょっと失敗しちゃったみたいね」 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「いつも成功の確率、ゼロじゃないか!」 豪鬼は、ルイズが何故『ゼロ』と呼ばれているのか理解した。 今日の「滅殺!」必殺技講座 灼熱波動拳 波動拳に炎を付加(?)し、放つ技。 この波動拳は、多段ヒットする上、威力も高いものとなっている。 その代わり、発射前に大きな隙がある為、使いどころが難しい技となっている。 コマンド「(右向きの時)逆半回転+パンチボタン」 「んんん、ぬぅん!」 「どうやって火付けてるのよ」 「知らん」 「はぁ!?」 前ページ次ページ滅殺の使い魔
https://w.atwiki.jp/yaruoperformer/pages/1596.html
_,ヘr-_r-、_ ,、-- ⌒ヽ| } ヽH l L ,、 '´ _〈 ̄ ., 、‐====‐ 、V/ /⌒ / ノ / `' ‐-、/'―i / ` ' / i i \) /. /.l ./. /l . . .l . . .l. \ ,'. . . . |. l . . .l. 7 ̄l ̄ フ'ト.l. . . . .| ヽ |. . . . . . | ハ . . ィム--式ス、.l.|ヽ. . ,/ / l. l |. . . . . . . . .l| ヽ. .Kr'f' ;;;オ'`` ! .|. ./癶 . |. | |. . l. . . . . .i. . `ト マ__フ レ=く. |. . /ィ. .l |. . l. . . . . .l .l | /;;(,リイ. ノ/|. / |. . l. . . . . .|. . .l. .l ,. 'ミ' .ハレイ レ L_|. . . . . |. . . . ',.l r- ,. /. l . l | /⌒ヽ `‐-、 |;; . . . .|'ヽ `´ /. . j l |. / ヽ、\ __i>、 |.__\.、__ ィ升. . . . ,'./lj r'´ /⌒ヽヽ、 ∨ `┘ `7Lri \. . .// ,リ ノ /. . . . . . . . ..l l `rr―――〈i V | `y/ (__/. . . . . . . . . . . | | ヽl ` l_L -‐、___ ,、-‐|. . . . . . . /マノ__ ノヽ、 ` =-|l;;; .l__ ヽ \\ {  ̄|. . . . . .\7_\、 / ___ヾ,_ノ¨ / ヽ.ヽ ) ノ. . . . . . . ..\. . .)ヽー‐ァ-イ'7 ス¨\| | .|. `‐(. . . . . . . . . ノノi } / ./ .i |/ | 「T´ -r-r‐'´ ―――――― ノノ ノ\ ./ i|l ヽ \  ̄「\ 名前:シエスタ 性別:女 原作:ゼロの使い魔 AA:ゼロの使い魔/シエスタ.mlt ヒロインの一人。トリステイン魔法学院で働くメイド。 曾祖父が日本人のため、トリステインでは珍しい黒髪黒瞳をしている。 とある事件を切っ掛けに才人に好意を寄せるようになり、かなり積極的にアプローチを仕掛ける。 そのため、ルイズとは何かにつけて対立するが、同時に身分を越えた友情関係を築く。 AAはほとんどメイド服のため、メイド役で起用されることが多い。 キャラ紹介 やる夫Wiki Wikipedia アニヲタWiki ニコ百 ピクペ 登場作品リスト タイトル 原作 役柄 頻度 リンク 備考 ゼロの使い魔最終巻発売決定記念にせっかくだからゼロの使い魔のループものをAAでやってみる ゼロの使い魔 本人役。逆行組の一人私服姿のAAは萩原雪歩で代用されている 常 まとめ 予備 あんこ時々安価でクトゥルフ神話TRPG クトゥルフ神話TRPG シナリオ「延命病棟」に登場する病院に勤める看護師 脇 登場回 wiki R-18G 安価あんこ 完結 異世界に転生したカズマは悪徳領主になるようです オリジナル 雪代伯爵家のメイド。巴についてサトウ家にやって来る 脇 まとめ 予備 完結 誠はバッツのようです ファイナルファンタジーV サーゲイトのメイド 脇 まとめ やる夫Wiki エター 短編 タイトル 原作 役柄 リンク 備考
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9206.html
前ページ次ページ暗の使い魔 夜空に煌々と双月が輝く頃。ルイズは自室のベッドで夢を見ていた。 それは、幼い自分が懐かしきヴァリエールの領地にいる夢。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」 ルイズの母が、そんな事を言いながら彼女を探し回る。姉たちと比べて出来の悪い自分を叱る為だ。 夢の中でルイズは、そんな自分を叱る母から逃げまわっていた。 召使達が、ルイズの事をひそひそと噂しながら通り過ぎる。 「ルイズお嬢様は難儀だねぇ。上のお姉さま方はあんなに魔法がおできになるっていうのに」 庭園の中庭で茂みに隠れながら、ルイズはそんな噂話を悲しい思いで聞いていた。 だれも自分の事を分かってくれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなって、ルイズは彼女が『秘密の場所』と呼ぶある場所へと行くのだ。 そこは、ルイズが唯一安心できる場所。人の寄り付かない、うらぶれた中庭の池。 季節の花々が咲き乱れ、池のほとりには小さな白い石で作られたあずまやが建っている。 見るものが息をつくようなのどかな風景である。そして池には小さなボートが一艘。 ルイズは何かあると、決まってそのボートの中に逃げ込むのだ。 ルイズは用意していた毛布に包まりながら、ぐすぐすと泣き出した。 と、そんな時、霧の中からマントを羽織った立派な貴族が現れるのをルイズは見た。 年の程は十六歳ほどであろう。つばの広い羽根突きの帽子をかぶり、その顔は窺えない。 しかし、ルイズにはそれが誰であるかわかった。 幼い夢の中のルイズは、その白い小さな頬を染める。 そして、身を起こしその立派な貴族を恥ずかしそうに見つめるのだ。 「ルイズ、泣いているのかい?」 「子爵さま……。いらしてたの?」 ルイズは泣き顔を見られまいとふと顔を背ける。しかし、彼女の胸の高ぶりはおさまらない。 憧れの人に、自分の恥ずかしいところを見られた。それにも関わらず、彼女の顔は熱をもったままだった。 「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」 ルイズはさらに頬を染めて俯いた。 「いけない人ですわ。子爵さまは……」 「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕の事が嫌いかい?」 子爵がおどけた調子で言う。それに対してルイズは一生懸命首を横に振りながら言う。 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」 ルイズははにかんで言った。帽子の下で、優しげな顔がにっこりと微笑み。 「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」 そういって手が差し伸べられた。 「子爵さま……」 ルイズは小さく頷くと、立ち上がりその大きな手をとろうとした。しかしその時、彼女はあることに気がついた。 「あれ?何これ」 みるとそれは子爵の手ではなかった。煤に汚れた逞しい腕に、枷が嵌っている。その手が伸びる腕は筋骨隆々である。 バッと見上げるとそこにあったのは。 「さっさと行くぞお前さん」 使い魔の官兵衛の顔であった。 「な、なによあんた!」 官兵衛がぐいとルイズの腕を掴む。 「ちょ、ちょっと何するのよ!」 見ると夢の中のルイズは十六歳の彼女に戻っている。官兵衛の強引な態度にルイズは思わず声をあげる。 「何って、これから晩餐会だろう?エスコートしてやるからさっさと来い」 「な、なによその言い方。レディに対して!」 あまりの言い草にルイズは抗議した。しかしそんなルイズの態度に官兵衛は。 「ああもう、まどろっこしい!」 そういってルイズを軽々と抱き上げた。 「きゃっ!ちょ、ちょっと!」 いきなりの事にルイズは顔を赤らめた、そして。 「ルイズ。お前さんは小生のものだ。一緒に天下を取ろう」 「なっ!」 ルイズの顔から火が出そうな台詞を、官兵衛は平然と口にした。 いつになく真剣な表情の官兵衛。精悍な顔立ちが、その雰囲気をより一層際立たせる。 そんな官兵衛に、魚のように口をぱくぱくさせながらルイズは。 「い、いいいやよ……。ばっかじゃない?なんであんたなんかと」 声を震わせ、顔を俯かせながらそう呟いた。 「ルイズ」 官兵衛が今度は優しげにルイズに言う。「なによ」とルイズが顔を上げると。 息の掛かりそうな程近くに、官兵衛の顔があった。知的な瞳にルイズの表情が写る。その中のルイズの顔は―― 「やや、やだそんな……」 まるで幼子のようにしおらしい表情をしていた。そのまま官兵衛の瞳が閉じられ、顔が近づいてくる。 ルイズはハッと息をのみ、固く目を閉じた。ルイズの唇に官兵衛のそれが重なろうとした、その瞬間。 「なあぁぁぁぁぁぜじゃあああああっ!!」 「きゃあ!」 ルイズは現実にたたき起こされた。夜中にも関わらず、響き渡るみっともない叫び声に。 暗の使い魔 第十三話 『異国の男』 「よう相棒!随分と騒がしい目覚めだなっ」 壁に立てかけられたデルフリンガーが、カチャカチャと喧しく喋る。 「ハッ!ゆ、夢か……!ちくしょう刑部め!」 官兵衛は、藁のベッドから飛び起きるなり、そう呟いた。 忌々しそうに枷を振りかざしながら、官兵衛は悔しげに歯を食いしばった。 「一体全体どうしたってんだ?ニワトリだってもう少し遅起きだぜ」 「ああ、不快な夢を見た」 いつもに比べ落ち着かない様子で、官兵衛はその場に足を投げ出した。 しばしの間、沈黙していた官兵衛も、やがて落ち着くと。ゆっくり口を開いた。 「……もう大丈夫だ。気にするな」 「気にするな、じゃあないでしょうが!」 その時、ポカンと、官兵衛の頭に調度品が飛んできた。 見事にクリーンヒットしたそれがガランガランと床に転がり、官兵衛は頭を抑えた。 「毎回毎回、よくも人が気持ちよく寝ている所を起こしてくれたわね!」 見ると腰に両手を当て、ルイズが険しい形相でそこに立っていた。 ルイズ自身まだ眠いらしく、眼を時折手で擦りながらも官兵衛を睨みつける。 「いてて!何しやがる!」 ぶつけた箇所を擦りながら官兵衛が言う。それに対してルイズは。 「だって何度目かしら?こうして起こされるのは。この前は地震のオマケ付きだったわね!」 ルイズが近くにあった乗馬用の鞭を手に持った。そして官兵衛にツカツカと近づくと。 「ばかばか!ばか!」 頬を真っ赤にしながら彼を叩きだした。 「痛っ!何だ急に?」 「うるさい!いつでもどこでも!ご主人様を何だと思ってるの!」 ルイズの止まらない癇癪を身に受けながら、官兵衛はげんなりした。 起こしてしまっただけで、なぜこうも怒られにゃあならんのか。年頃の娘の扱い、というのはどうにも苦手な官兵衛だ。 まったく自分なんて久々に目覚めの悪い夢を見たというのに、この娘っ子は。 そこまで考えた時、官兵衛はピーンと閃いた。 「(ははあん。さてはこの娘っ子!)」 官兵衛は、真っ赤な顔で怒るルイズを見て何かに気がついたようだ。 「おい……」 「あによ!」 官兵衛が、嵐の如く唸るルイズの腕を、ガシッと掴む。鞭が彼の顔寸前で止まった。 そのまま壁際に押しやる官兵衛。 「はなして!はなしなさい!この大型犬!」 「もういいルイズ。安心しろ」 官兵衛が珍しく、静かな声色でルイズに語りかける。その普段ない官兵衛の様に、おもわずルイズはドキッとした。 「(な、なによコイツ……)」 先程夢で見た官兵衛の様子と、目の前の彼が不意に重なる。それを感じて、ルイズはさらに頬を赤らめた。 官兵衛は満足げに頷くと、こういった。 「見たんだろう?(怖い)夢を……」 「は、はあ!?」 ルイズは、先程自分が見た内容の夢を反芻する。 そうだ、自分は夢を見た。自分の使い魔が生意気にも私に想いを告げ、あろうことか口付けを。くくく口付けを……。 そこまで考えて、羞恥で顔が沸騰しそうになる。 「な、なによ!私がどんな夢をみようと勝手でしょう!?」 そんな様子を見て官兵衛は、ルイズが悪夢にうなされ、それを看破されて恥ずかしがっている、と踏んだ。 口調を変えず官兵衛が言う。 「小生も見たんだ、夢を……。いまだに鼓動がおさまらん(恐ろしくて)」 「はえ!?」 思わず口が開きっぱなしになるルイズ。 「(官兵衛も見ていた?同じような夢を?そそそそれに、ドキドキしている!?)」 その言葉に、甘ったるいものを感じ、脳内が麻痺する。 官兵衛の足りない言葉が誤解を生んでいるのだが、そんなことは露知らず。 「小生だってそうなる事くらいあるんだぞ?恥ずかしいが、仕方無い」 官兵衛はポリポリと頭を掻きながら、笑みを浮かべた。満更でもなさそうな表情であった。 ルイズの胸が早鐘のように鳴る。 「(ななな何ときめいてるのよ、こんな大男に!だいたいコイツは使い魔じゃない! なによ!ご主人さまの夢見てドキドキするなんて!身の程知らず!生意気!ばかうつけ!)」 心の中で、そんな言葉を繰り返しながらも、ルイズは官兵衛と目をあわせられなかった。 官兵衛が顔を覗き込んでくる。まるでこちらの感情を窺うかのように。 「ルイズ」 夢の中と同じように、官兵衛が真剣な声色で名前を呼んだ。 その言葉に俯いていた顔を上げ、彼の瞳を見やるとそこには。 「(やだ……!)」 夢の中とまるっきり同じ、幼子のようなしおらしい表情のルイズが写りこんだ。 ぎゅうっと目を瞑る。きっとこれから夢の中と同じように……。そう思うと身構えずにはいられなかった。 「(なによ、舞踏会で踊っただけじゃない。 そりゃあ私も少し、すこ~しだけ!頼もしいとか思ったり、守られて嬉しいとか思ったりしたわ! でもそれだけでこんな、ああこんな!どうしよう!こんな使い魔に!)」 ルイズは熱く熱せられた頭で、その瞬間をいまかいまかと待った。 時間にして数秒にも数分にも感じられた。長いのか短いのかわからない。 その時間が、沈黙が、何よりも心地よかった。ある一言でブチ壊されるまでは。 「漏らしてないな?」 「………………は?」 ピキーンと空気が固まる。 甘ったるかったルイズの桃色の空気が、風に吹かれてすっ飛んだ。 場違いな、肌寒い風に。 「……なんですって?」 「だから漏らしてないか聞いたんだ。怖い夢を見たんだろう?」 その言葉が耳から入り、神経に伝わり、大脳に入って情報に変換され、理解に至るのに、ルイズは果てしなく長い時間を費やした。 理解した途端、彼女の幸せな想像が、繊細なガラス細工の様な心情が、無造作に打ち砕かれたのだ。 ルイズの全身が小刻みに震えだす。 そんな様子を気にもとめず、官兵衛は続けた。 「小生もな。ガキの頃は悪夢でよく漏らしたもんだ。その度に父上に呆れられたもんだが――」 得意げに言いながら、官兵衛はルイズの震える肩をポンポンと叩いた。ルイズの拳が固く握られる。 そして官兵衛は、まずは深呼吸!気を落ち着けるのが一番だ!などとのたまいながら胸を張ったのだった。 それを聞いてか聞かずか、ルイズは深呼吸を始める。すうはあと、目を瞑り呼吸を整えた。 そして次の瞬間であった。ルイズの怒りのオーラを纏った鋼の拳が、官兵衛の鼻っ面に叩き込まれたのは。 「ぶべらっ!!」 圧倒的運動量を秘めた物体が、顔面に激突する。 情けない声とともに、官兵衛の巨体が部屋の端から端まで吹き飛んだ。 そのまま、反対の壁際に置かれた高価なアンティークの机に頭を叩きつける。 衝撃で机上に飾られた花瓶が落ちてきて、官兵衛の頭にヒットしかち割れた。 三連コンボを喰らった官兵衛は、鼻から一筋の血を垂らし、ふらつく頭を押さえながら目前を見やった。 見るとそこにいたのは、桃色の頭髪を逆立たせながら屹立する一匹のオーク鬼。 それが、手にした杖先から赤黒いオーラをたぎらせ、徐々にこちらに近づいてくる。 「……ゲホッ!ちょ、ちょっと、待て、お前さん。」 そのあまりの圧力に咳き込みながら、官兵衛は口を開いた。 近づいたルイズがこちらを見下ろす。 「ねえ?デカ犬?」 「デ、刑事?」 官兵衛は、花瓶から降りかかった水を払うように首を振る。視界が良好になり彼女の表情が窺える。 その顔は無表情だったが、目は伝説のオロチのように血走り、爛々と輝いていた。マグマのような怒りをたたえて。 「な、なんでそんなに怒るんだ?一応、いちおう、小生は心配して――」 「黙れい」 ルイズが低い声色でうなる。 「今度と言う今度は許さないわ。ご主人さまを前にして、始祖ブリミルをも恐れぬ不敬の数々……」 ルイズが杖を掲げる。 その先端に光が収束していく。 その失敗爆発の前兆に顔を照らされ、ルイズは言い放った。 「死をもって償うがいいわ……!」 杖が振り下ろされた。 目前に集中するエネルギーを感じながら、官兵衛は思った。また眠れない日々がやってきた、と。 そんな頃、トリステイン城下町の一角に聳え立つ、チェルノボーグの監獄内。 その人物は静かに、鉄格子入りの窓から覗く双月を眺めていた。 「全く、とんだ災難だったよ」 土くれのフーケは杖を取り上げられ、ここチェルノボーグの狭い独房内に身柄を拘束されていた。 逃亡の際、天海からつけられた傷は、水のメイジの手によって綺麗に元通りになっている。 しかし傷はなくなったが、フーケはあの長髪の男を未だ苦々しく思っていた。 自分が杖を持たない人間に遅れを取った事、容易く裏切られ捕まってしまった事。 彼女のプライドを傷つけるには十分であった。 だがそれに加えて、自分を捕まえたあの黒田官兵衛という男。 「大したもんじゃないの!あいつらは!」 彼女は、彼らには素直に賞賛の意を示していた。 あの時彼らが破壊の杖に細工をしていなかったら。あそこに駆けつけていなかったら。 自分はあの天海に始末されていただろう。 結果として捕まってしまったが、自分の命を救ってくれた彼らには感謝していた。 「クロダカンベエ……。妙な名前だけど中々面白い奴だったね」 フーケは独房の天井を見上げながら、向かいの独房の男に向かってそんな話をしていた。 「そうかい……」 男は少し考える素振りを見せた後、静かにそう呟いた。歳若い男の声だった。 「と、こんな所かね。私を捕まえた連中の話は」 「おお、ありがとうよ。」 語り終えたフーケに静かに礼を述べる男。そしてしばらくの後に、そっと呟いた。 「こっちに来てる奴が、俺以外にもいやがるとはな」 男の言葉にフーケは首を傾げた。フーケが思わず聞き返す。 「……?どういうことだい」 「いいや、こっちの話だ」 フーケは男の答えに興味を惹かれた。「へぇ」と短く呟きながら、彼女は男に言った。 「じゃあさ、あんたのことを教えておくれよ」 「何?」 今度は男が怪訝な様子でフーケに聞き返す。フーケは構わずに続けた。 「いいだろう?私はあんたの聞きたいことを話したんだ。あんたも色々と教えてくれても罰は当たらないんじゃない?」 「そりゃそうか?まあいいぜ、ここで会ったのも何かの縁だしな」 男の答えに表情を明るくしながら、フーケは鉄格子越しに身を乗り出した。と、その時であった。 「待ちな。だれか来る」 男が低い声でフーケを制した。聞けば、拍車の音の混じった足音が、コツコツと階段を下りてくるのが聞こえた。 看守ではない。看守であれば足音に拍車の音が混じろう筈はなかった。 「気いつけな」 「ああ」 男の言葉にフーケが身構える。すると、鉄格子の向こうに白い仮面をつけたマントの男が姿を現した。 マントの影から長い杖が覗いている。どうやらメイジであるらしかった。 「おや!こんな夜更けにお客さんなんて珍しいわね」 フーケはおどけた調子で目の前の男に言う。仮面の男は答えず、さっと杖を引き抜いた。フーケは思わず後ずさる。 しかし、仮面の男はくるりと反対側の独房に杖を向けると、杖を中の男に向けた。そして短く呪文を呟き杖を振るった、瞬間。 ばちんと周囲の空気が弾けて、仮面の周囲から、電流が牢の男に一直線に伸びた。 「ぐあっ!」 電流が胴体に命中し、男は力なく床に崩れ落ちる。バチバチと男の体中を強力な電気がほとばしった。 「野郎ッ……!」 男は力を振り絞り立ち上がろうとしたが、ガクリと倒れ伏す。 ぴくりとも動かなくなる男を、フーケは青ざめた顔でじっと見ていた。 牢の男を邪魔そうに見やった仮面の男は、くるりとフーケに向き直り、口を開いた。 「そう怯えるな土くれ。話をしに来ただけだ」 「話?」 牢の奥でフーケは油断無く身構えながら、仮面を睨みつけた。 「随分と物騒な挨拶だけど、私にどんな話があるっていうんだい?」 「まあ聞け土くれ。それともこちらで呼んだほうがいいか?マチルダ・オブ・サウスゴータ」 フーケの顔が強張る。それは自分が捨てる事を強いられた過去の名前だった。なぜそれをこの男は知っているのか。 ますます警戒を強めるフーケ。 「あんた、一体何者?」 震える声を隠す事もできずに、フーケは男に問うた。しかしそれに答える素振りも見せず、男は笑いながら言う。 「単刀直入に言おう。我々と一緒に来い。マチルダ」 「何だって?」 「我々は一人でも優秀なメイジが必要だ。聖地奪還の為にな。」 男の言葉にフーケは、フンと鼻を鳴らした。男は静かな口調で続ける。 「まずはアルビオンだ。アルビオンの王朝は近いうちに倒れる。我々貴族派の手によってな。 そして無能な王族に代わり我々が政を行った暁には、ハルケギニア全土を統一する。 我らの手で聖地を奪還するのだ。」 「ちょっと待ちな、聖地を取り戻すだって?あの屈強なエルフ共から?夢幻もいいところだよ」 フーケが呆れたように男の言葉を遮った。かつてハルケギニア中の王達が幾度と無く兵を送り、失敗してきた聖地奪還。 強力な先住魔法を扱うエルフの恐ろしさは彼らも良く知っているはずだ。それをあろう事か目的の一つとして掲げているのだ。 馬鹿馬鹿しい。フーケは心底そう思った。 「生憎だけど、そんな絵空事に付き合うつもりはさらさら無いね。」 「ほう、たとえ死んでもか?」 杖の切っ先が静かに、しかし無駄の無い動きでフーケを捉える。 それを見て、フーケは観念したかのように構えていた腕を下ろした。仮面の男が続ける。 「お前は選択する事が出来る。我々『レコン・キスタ』の同志となるか、或いは――」 「ここで死ぬか。でしょ?」 「そういう事だ。先程の男のようになりたくなければな」 男は満足げに頷いた。と、その時であった。仮面の男のマントが突如としてごう!と燃え上がった。 「何!?」 フーケも仮面も目を疑った。見ると仮面の足元に、赤々と燃え盛る一本のナイフが突き立てられているではないか。 咄嗟にマントを脱ぎさる仮面の男。そして目を向けた先には。 「あ、あんた!」 フーケは向かいの独房をみて叫んだ。 「やってくれるじゃねぇか」 燃え盛る炎に照らされ、その男は何事も無かったかのようにそこに佇んでいた。 男の鍛え上げられた上半身が、赤々と輝く。仮面の男が短く舌打ちし、再び杖を構えた。 「仕損じたか」 再び呪文を唱えようとする仮面。しかしその詠唱は、檻の中から投下された一本のナイフで遮られた。 まるで矢のような速度で迫る飛来物を、サーベルのような杖で叩き落す仮面。 しかしどこに仕込んでいたのか、無数のナイフが檻の中から次々と飛んでくる。 そして次の瞬間、何とそれら全ての物が赤熱し炎を発したではないか。 「ぐおおっ!」 その内の一本を捌ききれずに、再び仮面の衣服に火が燃え移った。 狭い通路内で逃げ場も無く、仮面の男は炎に包まれる。そして次の瞬間、男は燃え盛るマントを残して霞のように姿を消した。 チャリンと、金属音が廊下に響き渡る。みるとそれは独房の鍵の束であった。 仮面が消え去るのを見ると、独房の男はフゥと息を吐いた。 そして向かいの独房で唖然と一部始終を見ていたフーケを見ると。 「大丈夫かよ?」 そういって歯を覗かせ笑った。フーケがハッと我に帰り、手を伸ばし鍵を拾う。 そしてガチャリと独房の扉を開け外にでると、鉄格子越しに男に近寄った。 「あんた、なんで生きてるんだい?」 「あぁ?随分じゃあねぇか」 男が眉をひそめながら言う。 「さっき喰らったやつならよ、この通りだ」 男が自分の胸を指差す。そこには先程の電撃で出来たであろう火傷の跡が出来ていた。しかし程度は見た目程に酷くはない。 あれほどの魔法を受けておいて、軽い火傷で済むとはどんな身体だろう。フーケは呆れてため息をついた。 「全く、でもありがとう。助かったよ」 フーケは廊下に残されたマントの燃えカスを見ながら、男に言った。 「いいってことよ。俺もいきなり訳分からんもん喰らって、頭にきた所だしよ。それよりも――」 「ああ」 フーケは男の独房に鍵を差し込んだ。ガチャリと鍵が開き、重い音と共に鍵が開かれる。 中から長身の男が、背負った上着をたなびかせながら悠々と歩き出てきた。 「いいのかい?そんな簡単に逃がしちまって。俺が極悪人だったらどうするつもりだい」 「極悪人は見ず知らずの私を助けたりしないだろう?それに――」 フーケはニヤリと笑い、男の目を見据えた。 「目を見ればあんたがどんな人間かわかるよ。長年盗賊やってないからね」 フーケの言葉に一瞬戸惑いの表情を見せた男だったが、すぐに口を空けると。 「ハハッ!アンタおもしれえな!気に入ったぜ」 そういって、声をあげて笑い出した。 トリスタニアで最も堅牢な筈のチェルノボーグの最下層に、豪快な笑い声が響き渡る。 そして、騒がしく牢獄を駆け抜けるのは二人の賊。 一人は、貴族の金銀財宝を根こそぎ奪い、トリステイン中を掻き乱した世紀の大盗賊、土くれのフーケ。 そしてもう一人―― 「あったぜ!やっぱりこいつがなきゃあ締まらねえ!」 囚人の持ち物を保管する倉庫から出てきた男は、手にした得物を得意げに振り回した。 風を払い、地面に突き立て、鋼の音を響かせる。その豪快な様におお、とフーケは感嘆の声を漏らす。 それは長さ三メイル以上はあろう豪槍。荒々しく鎖が巻かれたそれの穂先には、さらに巨大な白銀の碇。 それを男は、軽々と片手で取り回して見せた。 「いくぜぇ!こんなしみったれた場所からはおさらばだぜ!ハッハ!」 瞬間、男の手にした豪槍が赤熱して炎を吹き出した。 炎の槍が、男の頭上で旋回する。 振りかぶられた槍が男の手を離れ、吸い込まれるように塀に激突した。 どおん!と地響きが鳴り響く。 その瞬間、生じたのは閃光と爆音。 厚さ数メイルにも及ぶ石壁が弾け飛び、さらに業火に焼き尽くされて消滅した。 それを見て、彼女は声ひとつ出なかった。あらゆる砲撃もかなわぬ堅牢の防壁を、いとも容易く砕いた目の前の男に。 フーケは目を見張って、男を見つめた。 そこに立つのは異国の男。 逆立つ銀髪、紫色《しいろ》の眼帯。 同じ紫色の衣を纏い、大海制すは七の海。 男がいた乱世では、彼を指してこう呼ぶ。 四国の主。 海賊の長。 西海の鬼神。その名は―― 天衣無縫 長曾我部元親 進撃 暗の使い魔 第二章 『繚乱!乱世より吹き荒れる風』 前ページ次ページ暗の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5949.html
前ページ次ページ絶望の使い魔 トリステイン魔法学院の本塔の最上階、学院長室では鏡に向かっている老人がいた。 オールドオスマンと呼ばれ、生きた年は200や300とも言われている怪老である。 普段は飄々としており深刻さを出さない人物だが今は眉をしかめていた。 視線の先の鏡には何処かの屋敷の様子が高い場所から俯瞰しているように映し出されている。 風竜に乗った人物が裏門の警備員を殺している場面であった。 表の門に二人、庭にも二人と羽の生えた犬が2匹。すべて死んでいると分かる。 それを行った人物は館の中に入ってしまい、外にいるのは先ほど裏門で殺人を行った風竜に乗った者だけ。 屋敷にはなんらかの力が働いているのか遠見の鏡の視点を中に移すことが出来なかった。 オスマンは鏡でその屋敷の外観の様子を見ることしかできなかった。 最初はどんなことをするのか楽しみであった。あまり感心できない趣味をもっているとはいえ、 宮廷ではかなりの権勢を誇るモット伯からメイドを救おうという心意気に、 オスマンも心躍らせたものである。 風竜を使い魔とした少女を伴いどのような活躍を見せてくれるのか。 ところが蓋を開けてみればいきなりの殺戮。 始祖の属性である虚無を発現させるであろうメイジが行った凶行に言葉も出せない。 これは問題どころではない。とんでもないことをヴァリエールはやらかしてくれた。 これが公になればヴァリエール公爵家と言えどもその家名は地に落ちるであろう。 それどころかルイズを預かっていた学院もまた責任を取らされるであろうことは間違いない。 オスマンからこの話をすれば知っていたのに止めなかったのかという問題にもなる。 そして、オスマンが一番危惧するのがルイズが虚無の属性であろうことが宮廷に発覚することであった。 ガンダールヴと共に大規模な争いの火種になる可能性がある。 そうオスマンが考える一方、ルイズ自身は争いを求めているのに関わらず、 自身の能力の発覚を恐れているのはなんとも滑稽であった。 事が事だけにすぐに事件事態は広まる事を覚悟しながらも、オスマンは真相を闇に葬ることにする。 何か決め手となるような証拠があってはいけない。自身の遍在を作り出しモットの館に送った。 オスマンの遍在が館に着いた時にはすでにルイズとタバサは帰った後であった。 風の魔法で姿を消しながら内部に足を踏み入れる。玄関ホールには死体が折り重なっていた。 兵士と思われる死体は剣や魔法で素早く殺されたらしく間抜けな顔を残している者もいる。 使用人などは逃げ回っているところを狙われた様で顔の表情は酷く歪んでいた。 館を探索しているとまだ生きている住人に気がつく。自身の使用人室に閉じこもっていた者がいるようだ。 ルイズが皆殺しではなく、自分の姿を見た者だけを始末したことを知り少しだけ安堵する。 すでに館の騒ぎが収まってそれなりに時間が経っている。 部屋に篭っている者もそろそろ様子を見ようと外に出てくるだろう。 一通り見回り証拠らしい証拠を残していないことに驚きながらも金庫があった部屋に行く。 錬金の魔法を掛け金庫の扉を崩し、中の金塊や秘薬、証文を取り出す。 それらをさらに錬金の魔法で塵にし、風で窓から吹き飛ばした。 これで強盗のために入ったように見えるだろう。オスマンはそこで遍在を消した。 学院の方ではすでにルイズ、タバサの両名は学院に帰ってきており自室に入っている。 オスマンはルイズが就寝したことを確認し溜息をついた。 ルイズの凶行は使い魔の影響を受けてのものである事は間違いない。彼女の使い魔は危険すぎる。 始祖の使い魔であるガンダールヴの課した力にルイズは飲まれている。 魔法が使えないルイズでは御せないのか、それとも力への時間的な馴れが解決してくれるのかわからないが どちらにしてもルイズにはまだ早すぎることには違いない。ルイズ自身が元に戻るかはわからないが、 かの使い魔を始末すれば、虚無が宮廷に漏れることはないだろう。 これは慎重に行う必要がある。 使い魔は眠っているとしてもルイズが黙っているわけがない。 彼女は毎日一度は使い魔のいる医務室に顔を出している。 なにか異変を感じ取れば学院内ならすぐに駆けつけることもできる。 館での惨劇を見たオスマンは、ルイズが尋常ならざる力を手に入れていることをよく理解していた。 ルイズが暴れた結果で生徒に死者が出れば、それこそ問題になり、虚無が漏れることになるだろう。 ルイズが何か、首都へ買い物にでも・・・いや、それなりの準備を行うなら、もっと時間が欲しい。例えば実家である公爵領に帰る、これは使い魔を伴う可能性が高いので無理かもしれんが。 一番は国外に行くような事があればよい・・・ オスマンは顰めた顔を揉み解しながら背もたれに身体をあずけた。 そんなオスマンが悩んでいた頃、 ある部屋で青い髪の小さな少女がベッドにもたれかかりながら床に座っていた。 タバサはこの夜に自分が行ったことを思い返えす。 自分の目的は第一に母を助けること、第二にジョゼフに対する復讐。 心を水の秘薬で壊されたであろう母を助けるため、 先住魔法を行使しているように思われるルイズに力を貸してもらうことも選択の一つだと考えていた。 そして折りよく、ルイズが目を掛けていたメイドがモット伯に連れて行かれたことで貸しを 作るチャンスも得た。そして助ける手伝いを申し出る。ここまではいい。 だがあれはなんだ?あれは断じて人が放つ気配ではない。相対するだけで死を予感した。 心臓を握られたかのような感覚の中で問いただされ、自分のことを話してしまった。 母を治せそうならともかく館へ行く段階で話してしまうという愚を犯してしまった自分。 そして、トリステイン王宮勅使であるモット伯の暗殺の片棒を担がされてはもう逃げ場はなかった。 ・・・だが手応えはあった。ルイズは確かに自分の使い魔なら母を助ける事ができるだろうと言った。 彼女の使い魔、あの亜人は人では行使できない先住魔法を系統魔法さえ使えなかったルイズに伝えるほどだ。 亜人が感情を糧にする云々は話半分としても、確かに母を治すことには期待が持てそうだ。 タバサは自分にそう言い聞かせながら目をつぶった。 シルフィードは自分の主人に取り付いた闇のピンクを恐れていた。 あれは本能の奥から自分達を揺さぶる者、自分達を支配する者だと感じる。 ピンクから遠くにいれば大丈夫だが、近くに寄ると酷く怖くて乱暴な気持ちになる。 ピンクを乗せている間はそれに耐えるのに必死だった。そして、お姉さまはピンクの言葉に篭絡された。 お姉さまからピンクを引き離すのは自分しかいない。シルフィードは人知れず決意していた。 夢を見た。 ルイズの目の前ではモット伯を片付けたこの夜が再現されている。 ルイズは自分が行っている凶行に満足していた。 モットの館の使用人たちが恐怖に引きつらせた顔をして逃げ惑うのを狩るのは楽しかった。 きっと使い魔も満足してくれる。 すべてが終わった後、目の前が闇に満ちる。凝り固まった闇が近づいてくるのがわかった。 その闇に包まれるとゆっくりと知らないはずの知識が入ってくる。 闇に抱かれながらルイズは安寧を感じていた。 翌日、ルイズは問題に直面していた。 いや、最初から気付いていた問題だったのだが先送りにしていただけだ。 もう着れる学院の制服が1着しかなかった。 衣装ケースには赤く汚れた制服が1着、同じく目立たないが赤く汚れたマントが2着、 制服とマントを2着づつしか用意していなかった。 これらは血で汚れたものを持っておくのはまずいと思いながらも始末できずに隠していたのだ。 とりあえず血の付いていない制服を着てから昨日タバサに洗ってもらった汚れがましなマントを羽織る。 白い制服に付いた血は取れないだろう。首都の仕立て屋注文しよう。 間接的に注文するには学院側になぜ制服が使えなくなったかを報告しなければいけない。 もちろん理由を言えるわけがないし、誤魔化して人を遣るにしても勘ぐられるのもあまり歓迎できない。 自分が直接トリステインの城下町まで行ったほうがよいように思う。 思い立ったが吉日、今日は授業をさぼろう。 使い魔の服を調べていた先生に話を通せば外出許可は簡単にとれるだろう。 首都に着いてから大剣を背負っている魔法学院の生徒というのが珍しいのか、注目を浴びていた。 むしろ前回のスリの件が効いているかも知れない。 大通りに面した贔屓にしている店に入る。 微笑みながら応対してくれる売り子は直接注文に来たことを不思議そうにしていたが 制服のマントで隠れる目立たない所を少し改造してほしいと言うと喜んで受けてくれた。 改造制服はこうやって作られているのだろうことが窺い知れる。 できてから学院のほうに小包として送るかと訊かれたがちょうど虚無の曜日に出来るとの事なのでその日に取りに行くと返事をする。 店から出ると複数の視線が感じた。そのまま大通りからはずれ、人気のない路地裏に入っていく。 ちょうど空き地があったのでその中央まで入り振り返ると背の低いぼろを纏った浮浪者がこちらを見ていた。 しかし浮浪者とは思えないほど眼に力がある。ゆっくり近づいてきたが5歩の距離を残して立ち止まる。 「こんにちは。先日は貴方を攫うために馬車まで用意したというのに皆殺しにされてしまいました」 その言葉で理解したこいつは浮浪者ではないことを理解する。以前町で潰したスリ、 そしてその後学院の帰り道で皆殺しにしたゴロツキ共の仲間・・・・ 「まあ、我々としてもあれだけの人数、しかもかなり使える奴らを失ったのは痛手でした。 そして、今回はその穴埋めをしようと思いまして」 ここまでくるとこの男が何を言いたいのかルイズも理解していた。 「金?私をどうしようと言うのかしら?」 「はい、今回の人員の損失でトリステインに置ける我々の立場が大変危うくなっております。 いままで押さえつけられていた者たちが我々に牙を向けようしていて眠れない夜が続いているのです。 ですのでここらで見切りをつけて最後に多額の金銭を稼いで逃げようと考えました。 つまり身代金目的の誘拐をしようと思っております」 「貴族にそんなことして逃げ切れると思っているのかしら。あなた、縛り首じゃ済まないわよ」 「もちろん大丈夫ですよ。我々は成功と同時にさっさとこの国から逃げる算段を付けております。 貴族様は体面を気にしますからね。金銭で解決するなら魔法を使えない自分の娘が誘拐された等と 貴方のお父様は外にはもらさないでしょう」 ルイズが魔法を使えなかったことをしっかり調べられていることに目を剥くと、 それに気を好くしたか浮浪者はさらに続ける。 「情報収集に抜かりはありません。貴方についてはしっかりと調べましたよ。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、かのヴァリエール公爵家の3女。 学院での二つ名は『ゼロ』、これは魔法が使えないからだそうですね。 しかしこの春の使い魔召喚の儀式で大物を呼んだとか。 確かに貴方の使い魔は我々の仲間を皆殺しにするほどすごいようですが今は連れては居ないでしょう? 貴方が何も連れずにここまで来たことはわかっています。 魔法も使えない子娘一人くらい簡単に攫って見せますよ」 使い魔・・・その単語が出た瞬間心臓が大きく波打ったが、 よくよく考えるとルイズの使い魔は眠ったままだ。 こいつらは仲間を私の使い魔が殺したと勘違いをしている? そうだ女一人であれだけの人数を殺せるとは普通は思わないし、 まして私は魔法が使えないことになっている。 そこで使い魔が出てくるのか・・・ 背中のデルフリンガーの柄に手を掛ける。 浮浪者の格好をした者は特に緊張した様子も見せずこちらを見ているだけだ。 いざ闇の衣を纏おうとしたとき、視界が歪み、猛烈な眠気に襲われた。 眠りの魔法、スリーピングクラウドだと頭に思い浮かべながらルイズは膝から落ちるように地面に突っ伏した。 ルイズの位置からは死角になっていた路地から町人風の服を着た杖をもった者が2人出てくる。 ルイズの杖と剣を取り上げた後しっかり縛り、ちょうど人一人入れられそうなズタ袋にルイズを詰め込む。 「我々としてもあれだけの被害を負っては貴方を侮ることなどできません。 剣で殺された連中もいましたし、町の武器屋でのあなたの行いも調べました。 あなた自身かなり使えるのでしょうね。 しかしスリーピングクラウドを二重に食らえば何もする暇はないでしょう。 使い魔も連れていないのは感心できませんが、そのおかげで貴方を攫うことができます」 すでに意識のないルイズに言い聞かせるように話す浮浪者は満面の笑みであった。 男達はルイズを入れた袋を担いでそのまま馬車を使って町を出て行った。 王都から荷馬車が飛び出したのを観察していたモノがいた。 それは自身の主が荷馬車に乗っていると感じ取っており、何時も通りそれの後を追う。 不幸にも馬車に乗っている者達はそのモノに全く気付かなかった。 __________ ・・・頭が痛い。 眠気を無理やり押さえつけて起きたような痛みでゆっくりと覚醒したルイズが瞼を上げると 木目が並んだ天井があった。 呆けて居るうちに自分が眠る前にあったことを思い出し眠気が飛ぶ。 ズキリと痛む頭に手を遣ると瘤ができているのが確認できた。落ち着いてくると自分の現状を確認する。 自分の四肢は縄で縛られ背中のデルフリンガーも無ければ杖もない。 周りを見たところ木で造られた建物の一室であることがわかる。 家具は椅子と机しかなく、部屋の隅には埃が貯まっておりあまり使われていないようだ。 しかし、誘拐した者たちの気配もない。物音一つせず静まり返っているのはどういうことだろうか。 闇の衣を纏い即座に縄を引きちぎると扉に向かう。 その途中で窓から外を見るが森しか見えない。場所の判断はできそうになかった。 日もずいぶん高くなっている。下手をすればすでに午後どころか日付をまたいでいるかもしれない。 さっさとチンピラ共を片付けねばなるまいが血を制服に付けて学院に帰ると怪しまれる。 血が出ないように殺さなければと考えながらゆっくり扉に隙間をつくると 最近になって嗅ぎ慣れてしまった鉄の匂いが漂ってきた。 扉の隙間から外を伺うと一人の人間が足を投げ出し壁にもたれかかっているのが見える。 服装から例の浮浪者の姿をした者だと判断できたが、その粗末な服が赤黒く染まっていた。 何時もの夢遊病のように自分が寝ている間に殺ったのだろうか? しかしさっきまで縛られていたのだから出来るはずもない。 そのまま慎重に外を伺いながら部屋を出ると、先ほどの部屋より大きなリビングのような場所であった。 今入ってきた扉の他に2箇所ドアがある。一方は上がり小口があるので外に通じているのだろう。 3つの部屋だけで構成される小さな小屋といったところか。 こちらの部屋はよく掃除が行き届いているのか塵もほとんどない。 その代わりとでも言うように六体の死体が転がっていた。 生きている者が居ないことを確かめてからすべての死体をじっくり観察する。 六人の内、四人は喉に杭で穿たれたような穴がある。残り二人は頭蓋骨が凹んでいるのと 首が曲がってはいけない方向に曲がっている事がそれぞれの死因であろう。 さらに部屋を見ていると、先程は気付かなかったが微妙に床が濡れていたり、 壁に鋭い傷が付いていたりと魔法で戦闘を行ったであろうことが見えてくる。 もう一度死体を見ると喉に穴の開いた死体の近くに杖が落ちていることに気付くことが出来た。 ここで何があったのだろうか。6人の内少なくとも4人ものメイジが揃っているというのに殺されている。 これ以上は時間の無駄と判断したルイズはさらに探索を続ける。 残った最後の部屋に入るとデルフリンガーが机の上に何枚かの紙といっしょに置かれているのを発見できた。 机の引き出しにはルイズの杖が入れられており、すべての武器を取り戻すことができた。 机の紙はどうやらルイズを誘拐した旨を綴ろうとしている痕跡が見られる。 チンピラ達はこれをヴァリエール領の本邸に届けようと考えていたのだろう。 デルフを鞘から抜いて何があったのか聞けばいいことに今更ながら気付いてしまった。 「ぷはぁー!やっとしゃべれるぜ」 がちゃがちゃと口に当たるのであろう部分を動かしながらデルフがしゃべる。 それを無視して死体のある部屋に行く。 「さっき目が覚めたところだから情報が足りないわ。どのくらい時間が流れた? あとここで何があったの?」 「って、娘っこが殺ったんじゃねぇのか?・・・ええっと何処から話せばいいのかね。 まず時間はおまえさんが眠らされてから4時間ほど経ってる。 おまえさんが眠らされた後小屋まで運ばれたんだが、この部屋で離れ離れ。 俺にできた事はさっきの部屋に置かれてから陰気な奴が手紙書いてるところを見る事だけだったよ。 一時間ほど経った頃に少し騒がしくなったからてっきりお前さんが暴れたとばっかり思ってたんだが。 さっき起きたって言うしな」 「こいつらを始末したのは私じゃないわよ」 「わかってるよ。よく見ればこの死体の喉に空いた穴。ぶっとい槍で串刺しにされたんだろうぜ。 そんなの娘っこは持ってねぇしな」 「この傷、エアーニードルか何かじゃないの?」 「違うね。それならもっときれいな穴が開いてるだろうぜ。魔法なしで 六人相手に立ち回って速攻で勝負を決めたんだ。メイジでなくとも恐ろしい使い手だぜ」 そうこうしていると外から馬の蹄の音が聞こえてくる。 窓から外を伺うと町人風の服を着ている男が馬を下りているところだった。 その後に続くように3台の馬車が止まる。デルフによると最初の男は見たことあるとのこと。 どうやら死んだチンピラ共の仲間らしい。 馬車からは武装した人間がどんどん降りてきて周囲を警戒し始めた 全員で19人ほどか・・・しっかり杖を持っている者もいるようだ。 杖剣と見られるものを装備した3人がゆっくりとこちらにに向かってくる。 「まずいぞ。あの三人、めちゃくちゃ強い。娘っこじゃかなり苦戦するぞ」 デルフがそう警告するのなら本当にそうなのだろう。 そして油断のないこの人数を相手にするなら間違いなく怪我を負い、制服が血に染まる。 ルイズはまずいと感じながらも詠唱の無い魔法の先制攻撃以外思いつけない。 悲鳴が上がった。小屋と逆方向の森の陰から巨大なオークが武装した者たちに襲い掛かってきたのだ。 そのオークは流れるような動きで最も手前に居たメイジに接近するとその手に持った槍で喉を見事に突く。 続く蹴りでその横に立っていた男が地面と平行に10メイルほど飛んだ。 こちらに向かっていた3人も身を翻してオークに向かっていく。 中途半端な魔法はその体毛で跳ね返し、詠唱の長い魔法では素早い動きに付いていけない。 範囲魔法を放とうともすぐにその範囲から抜け出してしまう。 「ありゃあ娘っこが遺跡から連れ出したオークの親玉だな」 デルフリンガーがとんでもない事を言っている。それ以外にもルイズはこのオークに覚えがある。 確か魔法の練習を行ったときに出会った奴だ。間違いない。あの巨体を見間違えるはずがない。 8人目が殺されたところで先程こちらに向かっていた3人がオークを取り囲む。 3人とも風のメイジなのかエアニードルを剣に纏いかなりの連携でオークを苦しめ始めた。 オークはその囲いから抜け出せず攻撃を防御することに手が一杯になってしまっている。 そうなると他の者も落ち着きを取り戻し始める。 まだ生きているメイジ全員が改めてラインやトライアングルのスペルを唱え始める。 3人が抑えているうちに土メイジの魔法がオークの足に纏わりつく。 続いて詠唱していた魔法が一斉に放たれた。 オークは避けることもできずにすべてをまともに受けてしまったようだ。 膝を付き、槍を杖のように寄りかかることで何とか膝立ちの体勢を保っている。 その身体は焦げや深く入った切れ込みなどがあり正に死に体であった。 様子を見ようと考えていたルイズもかなりの槍さばきを魅せたオークが 連携の取れた3人に翻弄されていたことで一人で彼らを相手にするのは苦しいと考える。 オークに注目が集まっている内に一人を殺しておこうと、 デルフを完全に抜いて外への扉を開けた正にその時、声が響いた。 「ザラキ」 瀕死でありながらしっかりと力の込められたその声を聞いた瞬間、 ルイズは背筋が凍ったかのような錯覚を受けた。全身から汗が吹き出る。 しかし全く体に異常がないことに安堵したところでオークを囲んでいた3人の内2人が糸の切れた人形のように突然倒れた。他にも3人ほどが倒れている。 残った6人は何が起こったのかわからず呆然としている。 「ベホマラー」 さらに声が響いた後、瀕死であったオークが立ち上がった。 何時死んでもおかしくなかった怪我が一瞬で動けるまでに治っていることにルイズは目を剥く。 このオークの先住魔法!なんと強力なのだろうか! オークを囲んでいた3人組みの一人が倒れている2人にふざけている場合かと声を掛けている内にオークが近寄り心臓を一突きにする。連携が取れていなければ呆気ないものであった。 そこでやっと事態を悟った残りの5人が悲鳴を上げて逃げ出した。 恐怖に駆られた人間はその恐怖の根源であるオークから一番遠い方向、 つまり小屋のあるルイズがいる方向に向けて走り出す。 5人はルイズを見ると血走った目で走り寄ってきながら詠唱し始める。 「貴様さえ殺せば使い魔の契約は解ける!」 すでに彼らの中ではオークはルイズの使い魔であるようだった。あの三人がいないならどうとでもなる。 訂正することはせずにちょうど綺麗にまとまってくる連中を冥土に送ってやることにする。 「ヒャダルコ」 詠唱も無く突然出現した氷の嵐に抵抗もできずに凍ったひき肉になる。たまたま2メイルほどのゴーレムを出した土メイジだけがそれを壁として生き残った。 運よく生き残ったというのに全くうれしそうでないその男にルイズは微笑みかける。 天使のような微笑に男も釣られたかのように引きつった笑みを浮かべ、杖を放り出し命乞いをし始める。 オークを見れば傷の大半を先住魔法で癒し終わったらしく、 ルイズから少し距離を置き、座って槍の手入れをし始めている。 どうやらこちらに敵意はなさそうだ。小屋の中を片付けたのもあのオークで間違いないだろう。 一応オークにも注意を向けながら男に向き直る。 チンピラ達のことについて質問すると、よほど恐ろしいのかオークをちらちら見ながら 能弁に話し始める。小鳥のように囀るというのはこのことだと感心したものだ。 ルイズを前にして男はとにかく喋った。死にたくなかったから・・・ 身持ちを崩した貴族たちが集まって起こした庸兵集団。その名は血管針団。それがチンピラ達だった。 名前の由来は昔リーダーが魔の遺跡で盗掘に励んでいた時、仲間であった冒険者たちと使っていた技らしい。 名前の由来を聞いたときビビンと興奮気味に話すリーダーにちょっと引いたのは内緒だ。 他の経験豊富なメイジや庸兵も納得していたことからその名前に決まってしまった。 すでに守るべき名誉もない20人近いメイジを核とした集団はどんなことでもやった。 今では庸兵というよりもトリステインの掃き溜めと呼ばれるまでに成長し、すっかり裏側を仕切っていた。 依頼による任務はもちろん、生活が苦しくなると盗賊の真似事までした。 そんなある日仲間の一人が魔法学院の女生徒にスリを働こうとして失敗した挙句、血祭りに上げられた。 その女生徒こそルイズである。 その出来事は裏に素早く広まり、裏の顔としての実力や信用がひどく損なわれることになりそうだった。 さすがに貴族相手はかなり危ない橋を渡ることになる。しかし、これまでのクライアントや他の悪党、庸兵たちへの信用を回復するためにもやらなくてはならない。 貴族の娘はどこかの奴隷市で出品すればいい値が付くかもしれないから楽しみでもあった。 ここで想定外の事態が起こる。攫いにいった仲間がなかなか帰ってこないのだ。 そして明け方に皆殺しにされたという報が届く。向かった奴の中には手練のメイジもいた。 失敗するはずがなかったというのに。 もちろん信用の回復どころではなかった。そして、これに伴う戦力の低下が周りの動きを活性化させた。 いつの間にか庸兵団への包囲網が出来上がっており、これまで下についていた者たちが追い落としにくる。 手配されていた仲間の幾人かが役人に垂れ込まれて捕まるに至り、 このままトリステインにいたら全員が不味い飯どころか縛り首になるかもしれなかった。 そこで最後に大きいことをして金を稼いで逃げようと皆が考えていた時、ルイズの調査報告が入ってくる。 調べた結果思ったよりも大物貴族であった事に皆浮き足立ったがリーダーはがっぽり稼げるとほくそ笑む。 ルイズの誘拐身代金計画が始まった瞬間であり、俺達の運命が決まった瞬間だ。 「すでに逃げる先は決めている。アルビオンだ。すでにトリステインと仲のいい王党派は風前の灯。 間違いなくレコンキスタが政権を取るだろう。 レコンキスタに庸兵として紛れ込むことこそ生存への活路」 そう断言されると消極的だった者たちにも自信が湧いて来たのだ。 そして決行した。 「で、見事に皆殺しになったわけね」 「そ、そうです。小屋が貴方の使い魔に襲われたと聞いて戦闘要員は全員馬車に乗って来ましたので 残っていません」 必死になって取り繕っているのがわかるが墓穴を掘っている。 ルイズは必死な男の頭を万力のような力で固定し目を合わせる。 「あなたで最後ってわけね」 「命だけはご勘弁ください!どうか!どうか!」 「仲間の仇を取ろうと言う気概もないのかしら」 「仲間って言っても皆から俺は馬鹿されてきたんだ!要領が悪いってラインなのにドットからも笑われた。 団を抜けるなんて怖くて言えねぇし・・・」 その言葉から男が本当に冷遇されてきたことが感じ取れた。 目と鼻から水を垂れ流しているのを見て満足気に頷くとルイズは宣告した。 「あなた、私に雇われなさい」 何を聞いたのか分からないといったような顔でこちらを見る男。 「あなたの組織、戦闘要員は残っていないと言ったわね。なら他の人員は何のためにいるのかしら? 一応庸兵団名乗るなら貴方達も情報に気を使ってたんじゃない? 私が欲しいのはその情報を得るための人員よ」 男が何度も頷く。確かに残っている者の中には目端が利く情報を集める奴もいる。 もちろん今回の誘拐計画以前にさっさと団を見限った奴も多いがまだまだ残っている。 「あなたのやることは庸兵団でそういう諜報に使える奴を勧誘して新たに組織を作ること。 けっして損はさせないわ。私の実家がどこかはよく知っているでしょう?」 「組織を立ち上げるなんて・・・お、俺じゃリーダーみたいにはできねぇよ・・・」 普段からあまり褒められたり、頼られたりしていないのだろう。 聞けばリーダーは小屋の中で死んでいた浮浪者風の男らしい。 しかし雇うのはしっかりしている者ではいけない。 ルイズが支配できる精神的に不安定であり、古巣に愛着がない者こそ使うのだ。 戸惑っている男にルイズは殊更にやさしく諭していく。 「あなたはさっきの死地を生き残ったのよ。きっとそれには意味があるわ。 幸運はいまあなたに味方してる。そしてこの提案も貴方を見込んでのことよ。 これまでどんな苦労を背負ってきたのか私は見てきたわけじゃないから知らない。 けれど自信を持ちなさい。その苦労があなたを生かしたの。あなたを馬鹿にしていた連中は死んだわ。 いまここからあなたの本当の人生が始まるのよ」 死にたくない一心で追い詰められているところで突如掌を返したかのような優しさで包む。 ルイズの言葉はこれまで冷遇されていた男の脳を侵すように響いてくる。 しかし、それ以上に奇怪なことが起こっていた。それを見ているのはオークだけだっただろう。 男の顔を固定しているルイズの手から闇の衣と呼ばれた黒い靄がゆっくりと男の耳、鼻、口から 体内に入っていた。 「あなたならどんなことでもできるわ」 一応現在の予算と報告方法を決めた後、しばらく放心したような焦点のない目をしていたが 突然目に力が戻り男は直ちに町に帰って行った。 男がしっかり仕事をするかはわからないが、こんな方法で情報源が手に入るならいくらでもやってやろう。 とにかく自分の目がほしい。アルビオンの戦況を知りたいのだ。 ここで残ったもう一つの問題に視線を向ける。 巨大なオークが仲間になりたそうにこちらを見ている。 デルフリンガーが言っていた遺跡からルイズが連れ出したとの発言、そしてこれまでの行動。 すべてルイズに危害を及ぼすことはせずに今回など助けられた。 下手をすると起きた目が覚めたときにはすべてが終わっていた後だった可能性も否定できない。 そしてなによりも気になったのはあの先住魔法だ。 一言で発現する様子といい。今ルイズが使っているものに似ている。 オークが魔法を使うなど聞いたことも無い。体の大きさといい、こいつは別の種族ではないか? 竜と韻竜が違うように特別な存在ではないか? 話しかけてみるが人語を解しているが話すことはできないようだ。 使っていた魔法について質問するとブヒブヒと地面に絵を描き出す。 それはオークが描いたとも思えないような遠近法まで使った無駄に綺麗な絵であり、 それは間違いなく本に見える。 オークにその魔道書を貸してくれないかというと胡坐を止めて跪き、 まるで臣下の礼を取るような仕草の後、走って行ってしまった。 まだ聞きたいこともあったが喋れないなら仕方がないかと諦める。 しかしあのオークは自分には従うだろう。 モンスターを従える力もすでに持っており、そう遠くない内に自分の中に見つけられる。 そんな確信がルイズに芽生えていた。 それよりも外出許可は取ったが外泊許可は取っていない。そろそろ帰らなければ。 「・・・どこよ、ここ・・・」 この日、魔の遺跡に駐留していた軍を外からの奇襲で通り抜け、 遺跡に入ってしまった巨大なオークがいたことは別の話であり、 さらにその後、遺跡からモンスターがあふれ出し、それに紛れてオークが包囲を突破したことも 語られることも無い話である。 前ページ次ページ絶望の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/70.html
少女、ルイズ・フランソワーズ・ルブラン・ド・ラ・ヴァリエールがもう幾度と無く失敗したサモンサーヴァント。 担当教官であるコルベールに 『時間が押しているから、この次ダメならまた後日改めて儀式を行いなさい』 と言われてしまった最後のチャンス。 詠唱・爆発、そして煙が晴れたところには、緑とも黄色ともつかぬ不思議な輝きをした 高さ3メートルほどの【鏡】が“浮かんで”いた。 鏡の中の使い魔 「ロック、そっちの計器の様子はどうだい?」 「あぁ、問題ないよ。ちゃんと正常値だ。【剣】の様に『こちらへ広がる』兆候は見られないね」 【生きている岩】が起こす現象を解析し、【入口】と【出口】として活用する技術である【ゲート】。 『【岩】は新しい宇宙を生み、それが【剣】から我々の宇宙へ侵食、入れ替わる』 ニンバスやオメガが引き起こした事件は、【ゲート】が実用化されて既に長い年月がたつ現在においても 連邦最悪の出来事の一つだ。 それゆえ、当時を知る唯一の人物であるロックは、ごくまれに連邦の研究機関に招かれることがある。 今回もそんな、ある意味『確認試験』のようなもののはずだった。 突如【岩】が活性化するまでは! 「ゲートはどうなっている!」 研究員の一人が叫ぶ。 「多少活性化しているようですが、何かが『落ち込む』と言った現象は今のところ発生していません」 「エスパーたちは!」 「岩とコンタクトを試みているようですが反応無いようです」 【岩】は何万年単位で“生きて”おり、活性化する時期も期間も条件もほとんどわかっていない。 【岩】が持つ力【第3波動】を使うエスパーも連邦内には数は少なくとも存在する。 この実験の際には必ず1人は常駐しているが、 彼らですら【岩】と【会話】できずにいるこの状況は非常に危険だ! 「僕が岩にコンタクトしてみます。そちらは実験用ゲートの終息を」 「すまん、ロック」 ロックがスタッフの一人に告げ岩のセクションへ向かう。 果たして、岩はパリパリと放電のような現象を起こしていた。 「テレパスで接触する。最悪【剣】が発生したら、僕が戻っていなくても【ゲート】で【剣】を消滅させてくれ」 そう言って【ラフノールの鏡】を張って“接触”する。 ロックが岩の宇宙に転移したと感じた瞬間、岩は非活性化し、後には、沈黙した【岩】、そして 『ロックが入ったままの鏡』 が残された。 「なにこれ、鏡?」 出てくるわけのない代物が現れて、ルイズは困惑していた。 「サモン・サーヴァントで生き物でもないものを召喚するなんて、さすがはゼロのルイズ」 などと言った囃子声が聞こえるがそれすら頭に入ってこない。 鏡を覗き込む。自分の姿が映る、当たり前だ。 しかし、当たり前でないモノが見えてギョッとした。 『鏡の中に、見たこともない顔の、刺々しい髪形をした青年が倒れている』のだ! 驚いて後ろを振り向く。いない。覗く。いる。ふりむく、いない、のぞく、いる。 「おばけーーーーーーー!」 叫んだ、そりゃもう大声で。お化けの苦手なタバサ(この当時はルイズと交流なし)が気絶するくらいの勢いだ。 「どうしました? ミス・ヴァリエール。大声を上げるとははしたないですよ」 おっとり刀で近寄ってきてコルベールがそう言うが、 「ミミミミ、ミ、ミスタ・コルベール? か、か、かが、鏡の、な、中に…」 そういって腰を抜かしながら鏡を指差すルイズにつられて、他の生徒も鏡を覗き込む。 「!!!!」 コルベールはともかく、生徒はパニックになった。 せっかくたった今契約したばかりの使い魔が逃げ出しているのにも気づかない生徒までいる。 と思うと、皆の頭の中に声が響いた。 “ここはどこですか?” さらにパニックになる生徒たち。 「先住魔法?」「エルフ? エルフが攻めてきたのか」などなど口走りながら どこに逃げるでもなく駆け回っている。 “言葉が通じないかと思ってテレパスで話しかけたんだが、失敗したかな?” 微妙にのんきに聞こえるまた同じ声が響く。 唯一正気を保って辺りを見回していたコルベールがまさかと思い鏡を覗き込んだところ、 先ほどまで倒れていた若者が起き上がって微笑んでいるではないか。 「今の声は君かね?」 意を決して話しかける。話ができるなら生徒が怖がらなければならない道理もないはずと思いながら。 “ええ。ちょっとうまくコントロールができていないようで。脅かしちゃったみたいですね” 「まずはパニックを抑えたい。君が幽霊の類や危害を加えるものではないことを証明したいのだが」 “なるほど。ならちょっと目をつぶってください” 「何をする気だね? 生徒に危害が加わるようでは私は君を打ち倒さなくてはならない立場だ」 “え~と、催眠術のようなものです。みんなには眠ってもらいます” 「害はないのだな」 “ありません” ふむ、と逡巡する。【炎蛇】の二つ名を持つコルベールだが、これほどの広範囲で生徒を眠らせる術はない。 水系統のメイジに眠りの秘薬でも使ってもらうか、風系統に眠りの雲を使ってもらうか。 「信用する、やりたまえ」 “ありがとう。では目を” カッ! というほどの一瞬の光を閉じた目にも感じたコルベールが再び目を開くと、確かに生徒たちは皆眠っているよ うだ。使い魔もそれに応じてパニックから脱し、主人の元に戻ってくる。 『ふむ、流石に幻獣はただおとなしくなる、というわけでも無い様だな』 タバサのシルフィードなどは主人を守るように警戒しているのが目に入った。 “君はシルフィードと言うのかい。ごめんよ、君の大好きなご主人様を傷つけるつもりは無いんだ” 「君は幻獣とも話ができるのか!」 コルベールはシルフィードが風韻竜であることを知らない。 『ミス・ヴァリエールはいったい何を召喚したのだ?』との、危惧に近い感情が肥大する。 “えぇと、今の、聞こえちゃいました?” 鏡の中の青年がちょっと困ったような顔をしている。 “テレパスが漏れているのか。サイコ・ブラストに近い現象かな。 ユージンが言っていたのは本当だったのかもしれない” 「何だねそれは、そもそも君はなにものなんだ?」 “詳しい話はきちんとします。その前に彼らを遠ざけるか僕がどこかへ行かないと。 たぶんそろそろ目を覚ますかと” 「君は自力で移動できるのかね?」 “ええ。どうしましょうか?” 「ならば…、ミス・ヴァリエール、起きなさい! オールド・オスマンのところにこの【鏡】を案内して、私が行くのを一緒に待っているのです」 いきなり起こされたルイズは目の前にまだ先ほどの鏡が浮かんでいて、 相変わらず鏡の中だけにいる青年にびびりまくっている。って言うか半泣きに近い。 「ミスタ・コルベール。そんな…」 「ミス・ヴァリエール、この鏡は君が召喚したのだ。この儀式は神聖なものであり、 例外を認めるわけにはいかない。だからと言ってこのままでは皆がパニックになる。 ですから、早くオスマン師の元へ行ってください」 立て板に水で反論の余地はない。気味は悪いがこうなったらもうどうしようもないのだろう。 どんよりとしたオーラを背負ってこの場を離れるルイズと、その後ろをふわふわ漂う鏡。 ある意味とてもシュールだった。 「ところで」 “なんだい? 確かミス・ヴァリエールだっけ” 声だけ聞くと優しそうなんだけどな、とか場違いなことを考えるルイズ。 「ルイズよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。アンタ名前あるの? 【鏡】なんて呼びにくくていけないわ」 “ロック。ただのロックだよ” これが【虚無】と【超人】の邂逅であった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8351.html
前ページ蒼炎の使い魔 あれからギーシュと一旦別れて自室へと戻ってきたルイズとカイト。 その二人はとてもとても大切な事を話していた。 「さて、それじゃあ聞かせて貰いましょうか?」 ルイズは鞭を軽く振りながらカイトに微笑みかけている。 穏やかな表情をしていたが、眼は笑っていない。 笑顔とはこんなに恐ろしいものだったのだろうか。 「シエスタの所に、何の用事があったの?」 「……ハァァァァアアア」 デルフを取り出して、訳を言ってもらう。 単にシエスタに料理を振舞って貰っただけだと。 「本当に? それだけ?」 心なしか鞭を振るスピードが速くなっているのはきっと気のせいじゃない。 僅かに身震いをしたカイトを見て居た堪れなくなったのか、通訳をしていたデルフが口を挟んだ。 「あ~…、カイトの言ってる事は本当だぜ。 俺が証人、いや証剣だ。」 デルフの言葉にカイトはコクリと頷いた。 その仕草にルイズは少し追い詰めすぎたかな、と思いながらカイトの傍へと寄っていった。 「……はぁ、前から言おうと思ってたんだけど。」 鞭を下ろしながら、言う。 カイトはホッとしながらもルイズを見る。 「アンタは大事な事を省略しすぎなのよ。 それとそのまま直訳するデルフも。」 俺も!?、とデルフは叫ぶがルイズは無視してカイトを見る。 「……」 カイトの表情は動かない。 だが、彼の脳内では思考をひたすら巡らせていた。 「アンタはね、頭は良いし理解力も速い。 だけど、応用する事が出来ない節があるわ。」 ルイズは単純な思考を持っている時があるが馬鹿ではない。 カイトがシエスタの所に行った、と聞いた時も何をしていたか、大体アタリはつけていた。 それでも怒った素振りを見せたのは、まあその場のノリだ。 カイトからすれば堪ったもんじゃないが。 「良い? 次からは、ちゃんと『誰と』、『何処で』、『何をしていたか』言いなさい。 漠然とした言葉じゃ解らないから。」 その声は、何処か子供を諭す親のようで。 「……ハアァァァアァア」 カイトは静かに頷いたのであった。 (やっぱり、こっちの方が良いのかな…。) ルイズは目の前で理解を努めるカイトを見てそう思った。 確かにあの時、カイトがシエスタの所に行ったと聞いた時は、怒りがこみ上げた。 だが、その後ギーシュと共に怒鳴り散らした後、急激に頭が冷めて、こう思った。 幾らなんでも大人げが無いんじゃないか、と。 確かにカイトは訳がわからない存在である。 だが、人と同じ機能を持っている事は漠然としたものだが理解できる。 そして、何処か幼い一面を持っていると言う事も。 そんな彼に無闇やたらと怒鳴り散らしてあれこれと頭に叩き込ませるのは、何か違う、と感じていた。 確かに使い魔と主の主従関係は絶対だ。 だが、生憎カイトは普通の存在ではないし、あのギーシュとの決闘の時も自分を庇ってくれた。 それに対して、ただ怒るだけと言うのは貴族としてではなくルイズ個人として間違っていると感じていた。 ルイズには姉が居る。 一人は厳しく、幼かった彼女にとっては恐怖の象徴だったが、 もう一人は何時も自分を慰めてくれた優しさの象徴だった。 ならば、自分がするべき事は何か。 優しく接してみよう。 使い魔としての扱いでは無く、カイトとしての扱いとして。 主従関係は絶対だが、信頼関係はソレよりも圧倒的に勝る。 そう思い始めたルイズだった。 あの後、仮眠を取っていたルイズが目を覚ます。 「ん……」 目をこすりながら、窓の外に目を向けると日は降りており、薄暗くなり始めた頃だった。 そして、時間を確認する。 作戦時刻まであと1時間30分だ。 「っ……」 時間を確認した瞬間、ふるりと彼女の体が震えだした。 自分を抱きしめるように腕を回すが、体の震えが止まらない。 正直、怖い。怖くて怖くてたまらない。 これから2時間後に更に暗くなる外へと行くのだ。 買い物やピクニックに行くのとは訳が違う。 命を懸けた戦いが始まるからだ。 カイトは強い。それこそ土くれのフーケすらにも負ける事はないだろう。 ギーシュだって、陸軍元帥の父がいる。初めてとはいえ、上手く立ち回れるだろう。 ならば、自分はどうだろうか。 全ての魔法が爆発に変換される。 運動神経だってあまりよくは無い。 命を奪い合う戦いなんて対岸の火事の出来事だ。 (なんで、あんなこと、言っちゃったのかな……) ルイズはあの時の事を深く後悔していた。 もしも、あの時手を上げなかったら。 もしも、あの時口を出さなかったら。 もしも、あの時プライドよりも自分を優先させていたら。 それのせいで、ギーシュまで巻き込んでしまった。 ギーシュは自分に借りを返したいと言った。 ならば、自分が行かなければ、ギーシュもきっと手を上げなかっただろう。 体の震えがさらに大きくなる。 体に回す腕にも更に力が入る。 目は強く閉じられ、息が荒くなり、歯はカチカチと鳴っていた。 「~~~~~~~っ……」 今、怖いから逃げ出したいと学園に言えば、きっと学園長は別のものを手配してくれるだろう。 だけど…… (逃げたくないっ…) 貴族としてではなくルイズ自身の小さなプライドがそれを邪魔していた。 使い魔は、カイトはギーシュとの決闘の際に、逃げなかった。 自分がアレだけ必死に命令しても、カイトは応じなかった。 決闘の当事者であるギーシュに言われたのだが、あの時カイトはギーシュの陰口に対して怒りを見せたという。 陰口を言われた、と面と向かって言われると腹が立つ。 だが、その苛立ちが霞むほどに、カイトが自分の為に怒ってくれたというのは、正直、かなり嬉しかった。 もっとも、素直になりきれないルイズはカイトに対して強く当たってしまうのだが。 そんな彼を裏切りたくない。 自分をゼロと呼ばなくなったギーシュを裏切りたくない。 そして何よりも… (自分を裏切りたくない……! 裏切りたくない… 裏切りたくない…… 裏切りたくない………!!) そんな言葉を頭の中で繰り返していると、ふと後ろのほうで布が動く音がした。 カイトが起きたのだ。 「!!」 カイトの特徴的な瞳がゆらゆらと暗い部屋にゆれている。 ルイズは慌てて、明かりをつけて、何時もどおりを装ってカイトを見た。 「お、おはよう…!」 「……」 カイトは無言でルイズの傍に近づいて行く。 そんなカイトにルイズは少しだけムッと来た。 声を出して叱ってやろうと口を開こうとした瞬間。 「ダ@ジョウブ?」 「えっ?」 カイトがルイズの目元に手を伸ばしたのだ。 「ちょ、ちょっと!」 何するの、と言う前にカイトの指がルイズの目元を拭ったのだ。 「え、あっ…」 ルイズは泣いていた。 泣いていた事にすら気がつかなかったのだ。 それほどまでに、彼女は追い詰められていたのだ。 「っ……」 その手を振り払う事も出来ず、かと言って、離せと命令する事も出来ず、ルイズはカイトのなすがままになっていた。 ルイズはカイトの目を見た。 そして、見てしまった。 その不気味な瞳が、自分を心配しているかのようにルイズを見ていたことを。 カァッとルイズの頬が赤くなる。 使い魔が主を心配していたことに対する苛立ちか、 はたまた、ある意味純粋な瞳で見られていたということに対する羞恥心か。 「aasdvカラ…」 「え?」 「ルイズヲ、a34fgsafvカラ。」 「……」 「マモルカラ、シンパイシナイデ。」 ルイズの目が見開いた。 きっとカイトは解ってしまったのだろう。 今、自分が不安と恐怖に包み込まれている事を。 そして、デルフを介してではなく、自分の口から言った事。 ルイズはカイトの指を払い、俯いた。 「……?」 そんなルイズにカイトは首を傾げた。 こういう時は、大体彼女が怒り出す予兆だ。 その瞬間、カイトの脳内で怒る彼女の映像が映し出された。 そして、その映像と同じように目の前のルイズが手を上げて… ぽん、と背の高いカイトの頭にルイズの右手が乗せられた。 「……?」 訳がわからない、とカイトはルイズを見る。 「ばーか。 心配なんてしてるわけ無いでしょ。 アンタは私と一緒に動けば良いのよ。」 ルイズは笑顔になってそのままぐりぐりとその右手はカイトの頭をなでた。 その手はもう、震えては居なかった。 前ページ蒼炎の使い魔