約 42,572 件
https://w.atwiki.jp/atiga-9nen/pages/187.html
【高校一年 ―― 8月インターハイ準決勝】 京太郎「(さて…とりあえず…やる事はやった)」 京太郎「(たった2日…だけど全員…強くなったとそう思える)」 京太郎「(特に玄と灼の成長っぷりははっきりと著しいと言っても良いものだ)」 京太郎「(これなら…白糸台にだって…届かない訳じゃない)」 京太郎「(レジェンドが到達出来なかった場所に…きっと…届くはずだって)」 京太郎「(そう…信じているから…だから…)」 玄「…」ギュゥ 京太郎「玄…」 玄「あ、あはは…やっぱり…緊張…しちゃってる…」 玄「ダメ…だよね…こんなのじゃ…分かってる…んだけど…」 玄「でも…」フル 京太郎「…怖いか?」 玄「…ううん」 玄「怖くなんか…ないよ」 玄「私…とっても…強くなったもん」 玄「京太郎君のお陰で…とっても…強くなれたから…」 玄「…緊張はしてるけど…でも…怖くなんか無い」 宥「…玄ちゃん」 玄「えへへ…でも…もしダメだったら…」 玄「おねーちゃん…敵はお願いね」 宥「…うん。大丈夫」 宥「必ず…おねーちゃんが点棒取り返してきてあげるから…」 玄「…ありがとう」 玄「では、先鋒戦、松実玄」 玄「…行ってまいりますっ!」 +2 玄(雀力8+能力42)50 +3 テルー(雀力12+???) 和了放棄 +4 怜(雀力5+能力40)45 +5 煌(雀力7+能力20)27 玄 97 照 12 怜 107 煌 58 怜「(…阿知賀の子…この前とは大分違うなぁ…)」 怜「(気迫も何もかんも…一回り大きくなっとるで)」 怜「(少なくとも…今のこの子から狙って打つのは難しい)」 怜「(…これは二回戦ほど楽な戦いにはならへんかもなぁ…)」 怜「(まぁ…そんなん…)」 照「…」ゴゴゴ 怜「(…チャンピオンいる時点で期待しとらへんけどな…)」 怜「(…でも…変やな…)」 怜「(確かに…チャンプは最初の一局は上がらへんって言うけど…)」 怜「(あんまりにも静か…いや…下手過ぎる)」 怜「(まるで…素人みたいに裏目ばっかり引いとるやないか)」 怜「(…流石にこれはちょっと不気味過ぎるで…)」 怜「(…でも、この機会を逃す他はあらへん)」 怜「(ファーストアタック…チャンピオンから取れるもんなら取りたいし…)」 怜「(ここは…)」スッ 怜「リーチ!」 照「…」トン 怜「…それ!6400」 照「…はい」スッ 怜「(…よし。チャンプなんて言うても…大した事あらへん)」 怜「(一巡先は変わらずに見えとる…)」 怜「(このまま行けば…)」 照「」ゴッ 怜「~~~~っ」ゾクッ 玄「…っ!!」ビクッ 煌「…?」 怜「(…今のがセーラの言うてた…見透かされる感覚…)」 怜「(…確かにこれは…どれだけされても慣れるもんやあらへんね)」 怜「(まるで全部…丸裸にされたみたいや)」 怜「(…でも、うちの能力は分かったところでどうとなるもんやない)」 怜「(ここからが本番やって言うんやら…望むところや)」 怜「(…お手並み拝見しましょーか…インターハイチャンピオン…!)」 ※照の照魔鏡の効果により+補正が半減します +2 玄(雀力8+能力21)29 +3 テルー(雀力12+60)72 +4 怜(雀力5+能力20)25 +5 煌(雀力7+能力10)17 玄100 照152 怜35 煌73 ※怜の一巡先を見るもの発動 最下位回避 怜「(うちには一巡先が見える)」 怜「(相手がツモるんなら…ずらす事が出来る)」 怜「(うちからロンをするのなら直撃を回避する事が出来る)」 怜「(そのメリットは…うちがエースに据えられるほどのもんなんや)」 怜「(幾らチャンピオンが強くったって…互角にやれるはずや…)」ジジッ 怜「(って…これか…)」 怜「(…しゃあない。これは他の子にあげるとして…)」 怜「…ポン」 煌「(ぅ…なんか凄い嫌な感じの牌が…)」 煌「(でも…チャンピオンを和了らせる訳にはいきませんし…ここは…)」スッ 照「…それ1000」 煌「あうち…っこれでしたか…」 煌「(…まずいですよ…連続和了…始まっちゃいます…)」 照「…」ズズッ 玄「ひぅ…」ビクッ 怜「…っ…」ゾクッ +2 玄(雀力8+能力21)29 +3 テルー(雀力12+120)132 +4 怜(雀力5+能力20)25 +5 煌(雀力7+能力10)17 玄 80 照 151 怜 111 煌 38 ※照の連続和了発動 前局で勝利している場合、特殊勝利となる ただし、前局の補正後コンマを超えられなかった場合、この効果は無効となる 照「…ツモ。4000オール」 怜「…っ!」 怜「(あかん…親に入ってからもどんどん点数があがってく…)」 怜「(止めへんかったらあかんのに…止められへん…)」 怜「(鳴いてツモずらしても…問答無用で和了られて…)」 怜「(このままやったら全員…毟られて終わりや…)」 怜「(どないしよ…予想以上に…化物やこの人…)」 怜「(下手な小細工なんて無意味やってばかりに上をいかれて…)」 怜「(…三人がかりでも追いつけへん…)」 怜「(せっかく…あの新道寺の子に教えてもろうたけれど…)」 怜「(…チャンピオン一人止める事も出来ひんなんて…)」 怜「(……ごめん、竜華)」 怜「(…約束…破らへんとあかんかもしれへん…)」 玄「(もう終わりそうなのに…まだ一度も和了れてない…)」 玄「(あんなに…京太郎君に協力して貰ったのに…私…)」 玄「(やっぱり…無理だったのかな…)」 玄「(一日で強くなるなんて…やっぱり…)」ギュッ 玄「(…っ~~!ううん…違う…!)」 玄「(私…まだ全力を尽くしてない…!)」 玄「(自分に出来る最善…まだ果たして無い…!)」 玄「(京太郎君に…教わったんだから)」 玄「(フォア・ザ・チーム…チームの為に戦うやり方…!)」 玄「(…そうだ…私が背負ってるのは…チームで…)」 玄「(決して一人じゃないんだから…)」 玄「(点棒もある…ずっと考えてた…方法もある…)」 玄「(後は…タイミング…それさえあれば…)」グッ 玄「(チャンピオンに勝てなくても…止める事くらいは…きっと…)」 +2 玄(雀力8+能力21)29 ?? +3 テルー(雀力12+180)192 特殊勝利確定 +4 怜(雀力5+能力20)25 ?? +5 煌(雀力7+能力10)17 玄 55 ???不発 照 289 怜 59 ???不発 煌 37 玄「(ドラ…ダメ…今のこの状況じゃ…)」 玄「(どれも危険牌…切っても…意味ない…)」 玄「(さっきなら…まだ何とかなりそうだったのに…)」 玄「(これじゃ…宮永さん止められないよぉ…)」 玄「(私…これじゃ…何も…)」 玄「(…ううん…!まだ諦めちゃダメ…!)」 玄「(危険牌なら危険牌で…他の人の援護をすれば…)」 玄「(きっと…きっと他の人が…和了ってくれるはず…)」 玄「(諦めない…最後まで…絶対に…!!)」 怜「(あ…ダメ…)」 怜「(やっぱり…トリプルなんて無…)」グラッ 怜「っ…!」 怜「(…無理…?何言うとるん…!)」 怜「(無理やからって…何かこの状況が変わるんか…!!)」 怜「(違うやろ…!倒れたら…チャンピオンが手心加えてくれるんか…!)」 怜「(そんな事…あるはずないやろ…)」グッ 怜「(まだや…まだ誰も飛んだ訳じゃない…)」 怜「(勝負はこれから…)」 照「…ツモ。12000オール」ゾッ 煌「すばっ」ビクッ 怜「あ…」 怜「(…今の…見えんかった…)」 怜「(一巡先さえ…うち…)」クラッ 京太郎「(…それからもチャンピオンの連続和了は続いた)」 京太郎「(それが何とかなったのは最後まで諦めなかった玄と新道寺の花田選手のお陰だろう)」 京太郎「(二人の手が奇跡的に合致して…何とか残りのチャンピオンの親を流す事が出来た)」 京太郎「(…けれど…残り一人、千里山の園城寺選手は…)」 京太郎「(もう麻雀出来ているのかどうかさえあやふやな状態だった)」 京太郎「(正直…モニターで見ているこっちが痛々しいくらいになって…)」 京太郎「(倒れていないのが不思議なくらいだった)」 京太郎「(…最後…終局の瞬間…崩れ落ちたけれども…)」 京太郎「(彼女は最後まで何とか戦おうとしていた)」 京太郎「(それは決して結実しなかったけれど…でも…その心は)」 京太郎「(エースとしての気持ちは決して最後まで折れてはいなかった)」 京太郎「(でも…だからと言って…結果は変わらない)」 京太郎「(なんとか止められたとは言え…白糸台との点差は約20万)」 京太郎「(絶望的という言葉さえ生ぬるい差になっている)」 京太郎「(インターミドルまでならば…俺が日常的に作っていた点差)」 京太郎「(しかし、今はそれがどれだけ深い谷なのか…良く分かる)」 京太郎「(これだけ開いてちゃ…どうにもならないと…きっと普通のチームならば思うんだろう)」 京太郎「(…だけど…)」 玄「おね…おねぇちゃ…」グスッ 宥「…うんうん。良く頑張ったね…」ナデナデ 穏乃「そうだよ!先鋒戦は何とか突破出来たし…」 憧「うん。失点だって…三人の中じゃ一番少なかった」 憧「悪い結果じゃないよ、大丈夫」 玄「ごめん…あたし精一杯やったんだけど…」 玄「でも…お…追いつけ…なくて…」 灼「…大丈夫。大丈夫だよ、玄」 宥「…きっと私が…きっと何とかしてくるから…」 憧「違うよ」 宥「…え?」 穏乃「私たち…だよ!」 灼「…うん」 京太郎「…そうだな。まだ…大将戦までには3つある」 京太郎「その間に20万点差…決して埋められない訳じゃない」 京太郎「俺の…最後のインターミドルの時みたいな事が起こるかもしれないしな」ポンポン 玄「き…京太郎君…」 宥「…うん…そうだね…」 宥「私の後ろには…こんなにもあったかい人たちがいる」 宥「なら…きっと…大丈夫」 宥「…だから…うん…だから…」 宥「…この松実宥に…お任せあれ…」ニコッ 宥「(相手は…優勝候補筆頭の白糸台…)」 宥「(そして…この前私を狙い撃ってた千里山の人…)」 宥「(その上…強豪って言われてる新道寺の人まで…)」 宥「(…決して油断出来るような相手じゃない…よね)」 宥「(…でも…)」キュッ 宥「(…須賀君と…赤土先生が教えてくれた)」 宥「(白糸台の人の癖…)」 宥「(もし…それを見極められれば…もしかしたら…)」 宥「(少しはこの点差も埋められるかもしれない)」 宥「(…ううん。埋めなきゃいけないんだ)」 宥「(…二回戦で…全然、働けなかった分…)」 宥「(今度こそおねーちゃんとして恥ずかしくない姿を玄ちゃんに見せてあげないと…!)」 +2宥(雀力7+能力39)46 ??? +3菫(雀力8+能力30)38 +4泉(雀力7+能力20)27 +5美子(雀力8+能力20)28 宥77 菫のSS発動(-20) → 対策により無効化→ 77 菫48 対策により(-20) → 28 泉68 美子57 ※菫への対策発動 自身がSSの対象になった時、それを無効にして相手のコンマを-20する 宥「(白糸台の部長さん…狙った相手を高確率でロンで仕留める人…)」 宥「「(チャンピオンさんは強いけど…でもこの人だって決して弱い人じゃない)」 宥「(今までの結果を見る限り…だいたいこの次鋒戦で点差が絶望的になってるんだから)」 宥「(正直…怖い…だけど…)」 菫「…」スッ 宥「(…来た…視線…!)」グッ 宥「(落ち着いて…気取られちゃダメ…)」 宥「(ここで慌てたら…分かってる事バレちゃう…)」ドキドキ 宥「(落ち着いて…冷静に…手を変えて…)」スッ 菫「…」キリキリ 宥「(…相手が無理をするのを…待つ…)」 菫「…」キリキリ…シュッ 宥「(…来た…っ!)」 宥「(だけど…もう手は変わってる…!)」 菫「…っ!」 宥「(そして…私に寄せているのが前提なら…)」 宥「(そっちの待ちだって…分かっちゃうんだから…!)」 宥「…ロン」 菫「なっ!」 宥「3900…です…」 +2宥(雀力7+能力39)46 菫への対策 +3菫(雀力8+能力30)38 +4泉(雀力7+能力20)27 +5美子(雀力8+能力20)28 宥90 菫28 泉84 美子110 →SS発動(-20) →90 菫「(…おかしい…)」 菫「(私の待ちは決して間違っていなかったはずだ)」 菫「(事実…彼女の河を見ても…)」 菫「(途中までは私の予想通りだった)」 菫「(…けれどある時を境に…高めを捨てて手を変えている)」 菫「(…まるで私が射掛けるのが分かっていたみたいに…)」 菫「(偶然か…?それとも…)」 菫「(…いや、今は避けられた事よりも…新道寺だ)」 菫「(二回戦ではこんなに細かく刻むタイプではなかったはずだが…)」 菫「(打ち方が変わったのか、或いは点差を見て確実に稼ぐ方向へとシフトしている)」 菫「(…こういうタイプは見捨ててはおけない)」 菫「(悪いが…今回はそっちを…射抜く…)」キリキリ 宥「(……)」 +2 末尾偶数 宥が和了る 末尾奇数 美子が和了る 美子が和了る 宥「(…弘世さんの狙いは私じゃない…)」 宥「(なら…ここは無理するべきじゃない…けど)」 宥「(…新道寺の人にも…千里山の人にも…)」 宥「(出来るだけ…白糸台から稼いでもらわないと…)」 宥「(これだけの点差…一校だけじゃ埋められない…だから…)」スッ 美子「…っ」 宥「(…今回はサポートに徹する)」 宥「(もうちょっとで和了れたけれど…でも)」 宥「(ここでかち合って弘世さんに和了られるのが最悪のケースだから…)」 宥「(…お願い…気づいて…新道寺の人…)」 美子「…」スッ 菫「…」スッ 美子「…ロン」 菫「…え…」 美子「5200です」 菫「(…また…!?)」 +2宥(雀力7+能力39)46 菫への対策 +3菫(雀力8+能力30)38 +4泉(雀力7+能力20)27 +5美子(雀力8+能力20)28 宥57 菫71 泉112 美子119 → SS発動 → 99 菫「(…まさか二回も外す事になるなんて…)」 菫「(いや…外すだけならともかく…返す刀で振り込み…)」 菫「(…そんなの私の打ち方をしってる奴らとの対局でも殆どなかったぞ…)」 菫「(それが…続けて二回…しかも…別々の相手に?)」 菫「(一体…どういう事なんだ?)」 菫「(ここに来て…私の打ち方がバレた?)」 菫「(…いや、そんなはずはない)」 菫「(分かっているなら分かっているで…こっちの直撃を交わす為に滅茶苦茶な打ち方をしなくてはいけない)」 菫「(それを他家に強要するのが私自身の一番の強みだ)」 菫「(だけど…阿知賀も新道寺も…今は普通に打っている…)」 菫「(…ならもう一度…試してみるか…)」 宥「(…ダメ…今度は新道寺さんが狙われてる…)」 宥「(どうしよう…今回はさっきみたいにサポート出来る牌もないし…)」 宥「(と、とりあえず…これ…!)」スッ 泉「ロン。満貫です」 宥「ふぇぇ」!?ビクッ 泉「(…悪いけど…こっちも置いてかれる訳にはいかないんで)」 泉「(二位を確実にする為には和了れるんなら阿知賀でも新道寺からでも和了らせてもらいますよ)」 +2宥(雀力7+能力39)46 菫への対策 +3菫(雀力8+能力30)38 +4泉(雀力7+能力20)27 +5美子(雀力8+能力20)28 宥122 → SS無効 菫120 → 対策発動(-20) 100 泉 43 美子 58 宥「(さっきので…弘世さんの狙いがまたこっちに来た…)」 宥「(最下位から抜け出すのに…一人浮きしてる私を狙うつもりみたい…)」 宥「(…でも…)」 宥「(…さっきので分かった)」 宥「(タイミングさえ分かれば、それほど怖い訳じゃない)」 宥「(先生たちの言ってた通り…逆にそれを利用する事だって出来る)」 宥「(なら…ここで私がするべきは…白糸台の点数を少しでも削る事…)」 宥「(その為なら…多少の点数はいらない)」スッ 宥「(どうせ狙われているんなら…和了を阻まれるんだから)」 宥「(それよりも…一回の直撃の方が遥かに大きい)」 宥「(…だから…ここは…勝負どころ…)」 宥「(何としてでもこれを…白糸台から和了るんだ…!)」 ※菫への対策特殊効果 SSの対象になった際、判定でコンマで50以上を出す事により、菫を最下位にする事が出来る +2 00~50 失敗 51~99 成功 ※雀力により+8 失敗 宥「(…~っ!)」 宥「(ダメ…さっきとは気迫が違う…)」 宥「(最下位から抜けだそうって…はっきりと私を狙ってる…)」 宥「(これじゃ…下手に狙おうとしたらこっちがやられちゃうよ…)」 宥「(…皆…ごめん)」 宥「(…本当は白糸台から和了りたいけど…でも…)」 宥「(それで和了れなかったら…本末転倒だから)」 宥「(だから…ここは…)」スッ 宥「…ロン」 泉「…んな…っ!?」 宥「満貫…です…」 泉「…くっ」 泉「(…さっきの仕返しって事ですか…)」 泉「(中々えげつない事してくれるやないの…)」 玄「おねーちゃーんっ」ダキッ 宥「えへへ…玄ちゃん…」ギュッ 宥「おねーちゃん…頑張ってきたよ」 玄「うん…うん…っ」ポロポロ 憧「宥姉さっすが!」グッ 穏乃「宥さんさいこーっ!」ギュゥゥ 宥「「えへ…あったかぁい」ポヤァ 灼「…」ウズウズ 京太郎「…別に言って来ても良いんだぞ」クスッ 灼「そういうキャラじゃないし…」メソラシ 宥「…灼ちゃん」 灼「う」 宥「…来て」ニコー 灼「……あー…もう」ギュゥ 宥「…皆の事イッパイ感じられて…最高にあったかぁい…♥」ポワァ 晴絵「幸せそうなところ悪いけど…憧」 憧「…ん」 晴絵「中堅戦…そろそろだよ」 憧「分かってる…大丈夫」スッ 憧「…今ので宥姉から運を貰ったから」 憧「今度こそ…千里山と白糸台に勝って来る」 憧「宥姉からもらったバトン…絶対後ろに繋いでみせるから…だから…」チラッ 灼「…うん」 穏乃「…後は任せて」 憧「頼りにしてるわよ。じゃあ…行ってきます!」 +2 憧(雀力9+能力30)39 +3 たかみー(雀力8) ??? +4 セーラ(雀力8+能力40)48 +5 羊先輩(雀力7+能力20)27 憧98 たかみー38 セーラ57 羊先輩 101 → 反転世界発動(-57) → 44 憧「(白糸台の人の能力を考えると…)」 憧「(ここで下手に点数を伸ばそうとするのは危険ね…)」 憧「(そうやって下手に刺激し過ぎると…オーラスででかいの喰らう可能性が高い)」 憧「(親の連荘はなし…稼ぐのは子の時だけ…!)」ゴッ 憧「(それさえ徹底できていれば白糸台は怖くない)」 憧「(問題は…他の二校がそれに気づいてくれているかだけど…)」チラッ 憧「(どちらにしても…あたしが卓を支配すれば…問題はない)」 憧「(幸い…スピード麻雀はこっちの独壇場)」 憧「(それだけなら…)」スッ 憧「…ツモ。2000・3900」 憧「(例え…名門の元エースにだって負けたりしない…!)」 +2 憧(雀力9+能力30)39 +3 たかみー(雀力8) ??? +4 セーラ(雀力8+能力40)48 +5 羊先輩(雀力7+能力20)27 憧114 たかみー12 セーラ115 → 反転世界発動(-96) → 19 ヒツジ先輩 → 61 憧「(よし…回ってる)」 憧「(白糸台も新道寺も…千里山さえも…)」 憧「(誰も…あたしについてこれてない)」 憧「(ふふ…これも宥姉に…運を分けてもらったお陰かな)」 憧「(でも…こうしてあたしが戦えているのは…決して一人だけの力じゃないよね)」 憧「(宥姉が頑張ってくれた分…こっちも攻めていける…)」 憧「(…攻めすぎるのは禁物だけど…でも…)」 憧「(…ここで二位の地位を確たるものにする)」 憧「(例え、この後で崩れても…決勝戦には和了れるくらいに)」 憧「(連荘なしで…子だけでしか和了れないけど…)」 憧「…ツモ。2000・4000」 憧「(…今のあたしは絶好調なんだから)」 憧「(これくらい…出来るはず…)」 +2 憧(雀力9+能力30)39 +3 たかみー(雀力8) ハーベストゲージ50 +4 セーラ(雀力8+能力40)48 +5 羊先輩(雀力7+能力20)27 憧 121 たかみー 72 セーラ 112 → 反転世界発動(-96) 16 ひつじ先輩 105 セーラ「(あかん…こいつ…二回戦とは別物や…)」 セーラ「(俺だって調子は悪くないのに…)」 セーラ「(寧ろ…絶好調って言ってもええくらいやのに…)」 セーラ「(完全にこいつに止められとる…)」 セーラ「(動こうにも完全に先を読まれて…先手を打たれて…)」 セーラ「(その上、テンパイ速度もこの前とは比べ物にならない…)」 セーラ「(…どうやら二回戦で完全に一皮剥けたみたいやな)」 セーラ「(出来れば…団体戦やなくて個人の方でも戦いたかったな…)」 セーラ「(こいつの成長を喜んでやるには…今は余計な柵が多すぎる)」 セーラ「(何より…)」 憧「…ロン。5200」 セーラ「あぁ…」 セーラ「(…急いどるのは分かるけど…なりふり構わなさ過ぎやって…)」 セーラ「(こっち飛ばすつもりか…つもりなんやろうなぁ…)」 セーラ「(…まったく…末恐ろしい奴やで…)」 尭深「…」 +2 憧(雀力9+能力30)39 +3 たかみー(雀力8+122) 130 ハーベストタイム +4 セーラ(雀力8+能力40)48 +5 羊先輩(雀力7+能力20)27 憧102 尭深137 → 反転世界(-48) 89 セーラ50 ヒツジ先輩 121 憧「(さて…オーラスだけど…)」 憧「(…ここまで殆ど親の連荘を許さずにこれた)」 憧「(白糸台の手牌はそれほど良い訳じゃない)」 憧「(小三元くらいなら作れるかもしれないけど…大三元は望み薄…)」 憧「(…今のあたしの速度なら…その前に和了れる…)」 憧「(和了って…最高の状態で灼さんにつなぐ…)」グッ セーラ「(あかん…ここで挽回せんと話にならん…)」 セーラ「(なのに…手牌はあんまりよぅないし…)」 セーラ「(くそ…さっきの直撃が痛すぎる…)」 セーラ「(アレさえなかったらまだ挽回のチャンスはあったのに…)」 セーラ「(いや…それでもやるんや…)」 セーラ「(今の千里山は最下位…このままじゃ決勝にはいけへん…)」 セーラ「(どれだけ配牌悪くても…必ず…和了って見せる…)」 尭深「(…まさかここまでやられるなんて…)」 尭深「(完全に私の能力…対策されてる)」 尭深「(…でも、問題ない)」 尭深「(オーラス…ハーベスト・タイムは私の時間…)」 尭深「(配牌も…予想よりも格段に良い)」 尭深「(いくらか削られたけれど…速度重視で点数は高くない)」 尭深「(これを大三元にして和了れば帳消しになる…)」 仁美「あっ」 憧「え?」 セーラ「ん?」 尭深「……??」 仁美「…あ、それ…ロン」 セーラ「えっ」 仁美「満貫やけん」 セーラ「え…えぇぇぇ…」 憧「あー…あー…あー…」 穏乃「大丈夫?」 憧「油断した油断した油断した油断したあ…」 憧「完全に…っ…意識の外だった…!」 京太郎「ど、どうどう。あんま気にすんなって」 憧「気にするわよ…!もうちょっとで…もうちょっとであたしも和了れそうだったのに…!」 灼「…二巡目で満貫振り込みとか最早、事故…」 憧「分かってるけど…分かってるけどぉ…もうちょっと稼げそうだったのに…!」 京太郎「大丈夫だって。それでも三位にはかなりの点差つけてるんだし」 灼「…でも…決して安全圏内じゃない」 晴絵「そうだね…点差をつけたと言っても…まだ副将大将と2つ残ってるんだ」 晴絵「しかも、副将には新道寺のエース白水哩…大将には大星淡がいる」 晴絵「どっちも決して油断出来るような相手じゃない」 晴絵「…だからこそ…灼」 灼「…うん。大丈夫」スクッ 灼「私…もう崩れたりなんかしない」 灼「相手が誰であろうと…必ず」グッ 灼「…必ずハルちゃんと京太郎を決勝戦に連れて行ってみせる」 灼「だから…もし…上手くいったら…」 晴絵「うん。うーんと褒めてあげる」 京太郎「おう。何でも言う事聞いてやるよ」 灼「…じゃあ…一杯頑張って…京太郎に恥ずかしい事一杯させないと」 京太郎「おい」 灼「ふふ…冗談」クスッ 灼「…じゃ…行ってくる…ね」 +2 灼(雀力8+能力40-能力(ふなQ)20)28 ?? +3 誠子(雀力8+能力30-能力(ふなQ)20-能力(灼)20)-2 +4 ふなQ(雀力8+能力20-能力(灼)20)8 +5 哩(雀力9+能力40-能力(ふなQ)10-能力(灼)10)29 灼55 誠子32 ふなQ43 哩36 灼「(この中で一番警戒するべきは白糸台の亦野誠子…)」 灼「(じゃなく…新道寺の白水哩だよね…)」 灼「(悔しいけど…この中じゃ一段飛び抜けている…)」 灼「(千里山の人も対策してるみたいだけど…慣れているのかあんまり効果は薄い…)」 灼「(新道寺の大将の方も高い火力を誇る選手…)」 灼「(穏乃が本気を出せるまで時間がかかる以上…逆転されかねない)」 灼「(だから…ここで私がやるべき事は…三位の新道寺を出来るだけ抑える事)」 灼「(一位の白糸台も怖いけど…でも、ここから下手に逆転を狙うよりは…)」 灼「(堅実に点数を稼いだ方が良い…)」 灼「…ツモ」 灼「1000・2000です」 +2 灼(雀力8+能力40-能力(ふなQ)20)28 ?? +3 誠子(雀力8+能力30-能力(ふなQ)20-能力(灼)20)-2 +4 ふなQ(雀力8+能力20-能力(灼)20)8 +5 哩(雀力9+能力40-能力(ふなQ)10-能力(灼)10)29 灼108 誠子42 ふなQ32 哩89 誠子「(…まずいな)」 誠子「(さっきから阿知賀が止まらない)」 誠子「(鳴く事は出来るけれど…三フーロまで中々いけなくて…)」 誠子「(…これは他家に完全に止められてる…な)」 誠子「(阿知賀は…単純に鳴く相手に慣れてる)」 誠子「(千里山はガチガチに対策固めて…)」 誠子「(…新道寺は単純に上手い)」 誠子「(全員…強いのは分かっていたけれど…)」 誠子「(でも…インターハイ初出場の二年が…)」 誠子「(こっちの対策しながら名門2つを抑えて和了り続けるなんて…そんなのあるのか?)」 誠子「(…さっきの新子という一年と言い…その前の三年と言い…)」 誠子「(こいつら…強い…)」 誠子「(今まで戦ってきた相手よりも…遥かに)」 誠子「(少なくとも先鋒で稼いだ分ゴリゴリ削られて…)」 灼「…ツモ」ゴッ 灼「1600・3200」 誠子「(…このままじゃ…逆転されかねないぞ…)」ゴクッ +2 灼(雀力8+能力40-能力(ふなQ)20)28 ?? +3 誠子(雀力8+能力30-能力(ふなQ)20-能力(灼)20)-2 +4 ふなQ(雀力8+能力20-能力(灼)20)8 +5 哩(雀力9+能力40-能力(ふなQ)10-能力(灼)10)29 灼 71 誠子44 ふなQ11 哩44 浩子「(あかん…これはあかん…!)」 浩子「(この鷺森って子…二回戦なんかとは比べものにならへん…)」 浩子「(せっかくの対策も…殆ど意味があらへんし…)」 浩子「(く…たった一日で何か出来るかと思うて…マーク外したんが間違いやったか…)」 浩子「(警戒するべきは…新道寺と白糸台やなかった…!)」 浩子「(二回戦…ギリギリでこっちを捲った阿知賀の方やったか…)」 浩子「(今更…後悔しても…おそい…か)」 浩子「(それでも…何とかここで踏みとどまらへんかったら…!)」 浩子「(対策どころやない…千里山が…ここで負けてしまう…)」 浩子「(それだけは…それだけは許せへん…)」 浩子「(身内の顔にも…仲間の顔にも泥を塗るような…そんな事…!!)」 灼「…ツモ」 浩子「…」ゾッ 灼「1300・2600」 浩子「…くっ…!」 +2 灼(雀力8+能力40-能力(ふなQ)20)28 ?? +3 誠子(雀力8+能力30-能力(ふなQ)20-能力(灼)20)-2 +4 ふなQ(雀力8+能力20-能力(灼)20)8 +5 哩(雀力9+能力40-能力(ふなQ)10-能力(灼)10)29 灼90 → 約束のネクタイ発動(+20) 110 誠子 17 ふなQ 89 哩117 ※約束のネクタイ 自身が二位以下の時に2度だけ発動、自身のコンマに+20の補正を加える 灼「(大丈夫…勝てる…)」 灼「(…このネクタイが…ハルちゃんが…)」 灼「(私に…力を貸してくれている…)」 灼「(そして…京太郎も…)」スッ 灼「(この一打一打に…京太郎がいてくれる)」 灼「(私に教えてくれた…京太郎がいてくれる)」 灼「(私…一人じゃない)」 灼「(大事な人に囲まれて…こんなにも力強い)」 灼「(だから…こんなところで…絶対に負けたりなんか…しない)」 灼「(絶対に…皆で…ハルちゃんの行けなかった場所に…っ)」 誠子「…ポン!そして…」スッ 灼「(え…そ、それ…っ!?)」 哩「ロンだ」 誠子「ぐっ…」 哩「…焦りすぎたな、満貫だ」パララ 誠子「…はい…」 灼「…ごめん…最後、油断した」 晴絵「何を言ってるの」ギュッ 晴絵「千里山を追い詰めて、白糸台に手がとどくようにした」 晴絵「十分な戦果でしょ」ナデナデ 灼「…本当?」 晴絵「うん。と言うか…コレ以上、何を求めるのよ」クスッ 憧「そうよ。コレ以上の成果なんて中々、出せるもんじゃないんだから」 京太郎「…いや、流石にオーラスで和了れなかったのを悔やんでるお前に言われたくないと思うぞ」 憧「そ、それはそれ。これはこれよ」カァ 穏乃「…でも、皆、凄い」 京太郎「ん?」 穏乃「穏乃…本当jに逆転出来そうなところまで持ってっちゃったんだから」 玄「はぅ…っ」ズガーン 穏乃「あ、ち、違うよ!そういう意味じゃなくって!」ワタワタ 穏乃「宮永さんをアレだけで流せたのは玄さんが頑張ったからで…」 穏乃「それから…宥さんが白糸台を削ってくれて」 穏乃「憧がリードを広げてくれて…」 穏乃「そして灼さんが…こうして白糸台に手がとどく場所まで連れてきてくれてる」 穏乃「…皆の想い…私、受け取ったよ」ギュッ 穏乃「…10速…ううん…100速で…!」 穏乃「必ず…勝ってくるから…!」 +2穏乃(雀力7-能力50(あわあわ))-43 +3あわいい子(雀力10+能力50)60 +4竜華(雀力9+能力20-能力(あわあわ)50)-21 +姫子(雀力8+能力30-能力(あわあわ)50)-12 穏乃41 あわあわ148 竜華0 姫子41 淡「(菫は二位に落ちても気にするな)」 淡「(お前は切り札なんだから情報を隠せ…って言ってたけどさ)」 淡「(…でも…テルーがいるチームが準決勝で二位抜けなんて…出来ないよね)」 淡「(…そのままでも逆転なんかされないと思うけど…でも…)」 淡「(このままコケにされて終われない…!)」 淡「(最初っから…全開で行くよ…)」ゴッ 淡「…リーチ」 穏乃「…っ!」 穏乃「(い、いきなりダブルリーチ…そんな…)」 穏乃「(…最初っから本気って…事…?)」 穏乃「(まずい…私…まだギア上がりきってないのに…)」 竜華「(ダブルリーチ…これは…)」 竜華「(一回だけ浩子が見せてくれた…あの地区大会の時の…)」 竜華「(明らかに対戦相手の表情がおかしい言うてた…)」 竜華「(浩子は気ぃつけ言うてたけど…)」 竜華「(…でも、一巡目でリーチされて…まったく読めない状況でのリーチなんて…)」 淡「カン」 竜華「…」ゾッ 竜華「(なんや今の…恐ろしい感覚…)」 竜華「(く…でも…ここで降りてたら…負ける…!)」 竜華「(ただでさえ最下位なんや…ここは…突っ張る…!)」スッ 淡「それロン」 竜華「く…(でも…ダブリーのみ…それなら…)」 淡「…あっまーい」 竜華「…え?」 淡「…これからだよ、私の本気は…」スッ 淡「…裏ドラ乗って…18000」ゴッ +2穏乃(雀力7-能力50(あわあわ))-43 +3あわいい子(雀力10+能力50)60 +4竜華(雀力9+能力20-能力(あわあわ)50)-21 +姫子(雀力8+能力30-能力(あわあわ)50)-12 穏乃 0 あわいい子 101 竜華 41 → 未来線発動(+40)81 姫子 36 竜華「(く…あかん…)」 竜華「(怜も来てくれへんし…白糸台にもおいつけへん…!)」 竜華「(せめて…二位の阿知賀から点数削り取りたいけど…)」 淡「…リーっち…っ」ゴッ 竜華「~~っ!!」 竜華「(さっきから…白糸台が止まらへん…)」 竜華「(次喰らったら…また飛んでもおかしくないし…)」 竜華「(勝負出来ひんまんま…時間が…)」 穏乃「(先生はカンの後、安牌だけを捨てろって言ったけど…)」 穏乃「(…でも、安牌…ないよぉ…)」 穏乃「(どうしよう…これ…全部危ない気しかしない…)」 穏乃「(こ、こ…こういう時は…)」 穏乃「(…自分の一番…納得出来るもので…っ!)」スッ 淡「はい、それローン」 穏乃「…っ!」 淡「そーしてぇー…カンドラ乗って…」スッ 淡「…また18000だね」ゴッ 穏乃「…う…」 穏乃「(ダメだ…やっぱり…素の私じゃ勝負出来ない…)」 穏乃「(白糸台で大将任されてるのは…伊達じゃないんだ)」 穏乃「(テンパイ速度も…打点も何もかもが追いつけない…)」 穏乃「(…だけど…)」ゴッ 淡「…っ」ゾッ 姫子「…」!ビクッ 竜華「(…来た…!?)」 穏乃「(…ギアは入った…)」 穏乃「(ここからは私の時間…!)」 穏乃「(さっきの倍満は痛いけど…でも…)」 穏乃「(私が登る山はいつだって高かったんだから)」 穏乃「(これくらいの逆境は…寧ろ望むところ…!)」 穏乃「(皆の為にも…ここから追い上げて見せる…!)」 穏乃「(そして…最高の状態で…皆と決勝戦に行くんだ…!!)」グッ +2穏乃(雀力7+能力90)+97 +3あわいい子 0 +4竜華 0 +姫子 0 穏乃 190 prprしたいくらいあわいい子 30 竜華61 →未来線発動 →100 姫子93 淡「(あれ…?なんか急に手が重くなった…)」 淡「(リーチは出来たのに…なんで?)」 淡「(おかしい…今までこんな事なかったのに…)」 淡「(…って言うか…)」チラッ 竜華「…」トン 姫子「……」トン 淡「(…効いて…ない?)」 淡「(…どういう事…さっきまで私の絶対安全圏は発動していたのに…)」 淡「(今はみんな普通に打ってる…)」 淡「(…新道寺はまだコンビ打ちの能力があるけれど…)」 淡「(でも…千里山はどうして?)」 淡「(見ている限り…千里山に打ち破れる理由なんてないんだけど…)」 淡「(…ま、いっか)」 淡「(どっちにせよ…リーチした以上、私は止まらないし)」 淡「(このままトップ激走で…)」 淡「…カンッ」ニコッ 竜華「…っ!」ビクッ 姫子「…」グッ 淡「(さーて…来ちゃうよ来ちゃうよ…)」 淡「(これでツモ…って…あれ?)」 淡「(なんだ、違う牌じゃん)」 淡「(こんなのいーらない…)」スッ 穏乃「…ロン」 淡「…え?」 穏乃「倍満です」 淡「倍…え…?嘘…」 淡「(私が…親で…直撃?しかも…倍満…?どういう…事…?)」 穏乃「(…ふぅ…ちゃんと…白糸台の人にも効いたみたい…)」 穏乃「(私よりも格上の千里山の人と比べても、さらに強いから不安だったけど…)」 穏乃「(なんとか通った…奪い返せた…)」ホッ 穏乃「(…また逆転圏内にまで点差を詰められたし…)」 穏乃「(諦めちゃ…ダメだよね)」 穏乃「(皆がここまで必死にバトンを繋いでくれたのは二位抜けする為じゃないんだから)」 穏乃「(…何より)」 姫子「…」ゴゴッ 竜華「…」ズズッ 穏乃「(…二人共諦めてない)」 穏乃「(機会さえあれば…喰らいつくぞって…そんな目をしてる)」 穏乃「(もう全員の親なんて一回しかないのに…それでも…)」 穏乃「(この状況でも諦めてない)」 穏乃「(なら…私も全力で相手をしないと)」 穏乃「(先生も言ってた…能力に絶対はないって)」 穏乃「(私自身、これがどういうものなのか良く分かってないし…)」 穏乃「(もしかしたら破られるかもしれない事を念頭に置きながら…)」 穏乃「(やるよ…!逆転…!)」ゴッ 姫子「…」ゴゴッ +2穏乃(雀力7+能力90)+97 +3あわいい子 0 +4竜華 0 +姫子 0 ※リザベーションにより特殊勝利 穏乃 177 あわいい子 83 竜華99 → 未来線発動 → 139 姫子22 → 特殊勝利 穏乃「…っ!」ゾッ 穏乃「(やば…これ…)」 穏乃「(新道寺さんの方…私の能力…効いてない…)」 穏乃「(こっちがひとつ進む度に…先に行かれて…)」 穏乃「(ダメ…これ…先に和了られる…!)」 穏乃「(それじゃ…それじゃ…逆転出来ない…!)」 穏乃「(白糸台が下がったところで逆転はされないけど…三位にはならないけど)」 穏乃「(でも…それじゃ…皆の気持ちが…無駄になっちゃう…)」 穏乃「(皆は…こんな終わり方をする為に頑張った訳じゃない…!)」 穏乃「(最後まで…諦めない…)」 穏乃「(絶対に…絶対に逆転するんだ…!)」 穏乃「(皆で胸を張って和に会いに行く為にも…絶対に…!!)」 +2 00~70 失敗 71~99 成功 ※雀力7が+されます 成功 穏乃「…!!」ゴゥッ 姫子「…え?」 姫子「(か…鍵が…部長から預かった鍵が…!)」 姫子「(そいはうちの…うちの鍵なのに……!)」 姫子「(返して…それ…返し…)」ゾクッ 穏乃「……」ゴゴッ 姫子「~~~っ!」 姫子「(何なん…こん子…)」 姫子「(さっきまではあげなに小さかったのに…)」 姫子「(今はもう山のごたぁ大きくなっち…)」 姫子「(しかも、今、モヤのかかったごと視界の悪くなりよった…)」 姫子「(そん一瞬で…部長との繋がりば断たれて…そいで…)」 穏乃「…」ズズズッ 姫子「(…っ!動いた…!)」 淡「(く…さっきから…おかしい…!)」 淡「(全然…思い通りに打てない…どういう事…!?)」 淡「(テルーと打ってた時でも…こんな事なかったのに…)」 淡「(この局は新道寺が和了るから…しっかりしないといけな…)」ゾクッ 淡「(…何…?今の…得体のしれないもので…背筋を撫でられたような…)」 淡「(まるで鱗まみれの…ゾワゾワする感覚…)」 淡「(…っ!あぁ…!もう!!)」 淡「(そんな得体の知れないものに…負けてたまるか…!)」 淡「(ともかく今は新道寺に集中…!)」 淡「(それ以外は放っておいても…)」 穏乃「…ロン」 淡「…え?」 穏乃「…12000」パタパタ 穏乃「逆転です」 淡「え…?あ…う、嘘…」 淡「(…本気でやったのに…?)」 淡「(私が破られただけじゃなくて…)」 姫子「…っ!」ブルッ 淡「(新道寺まで…!?)」 淡「(どういう事…この局は新道寺が和了るはずじゃ…)」 淡「(…まさか…それまで無効にしたの…!?)」 淡「(私の絶対安全圏だけじゃなく…プロでも破れないって言われる…新道寺まで…!?)」ゾッ 穏乃「…お疲れ様でした」ペコッ 淡「~~~っ!」 淡「(…何なの…こいつ…!)」 淡「(いや…こいつだけじゃない…)」 淡「(虎姫だけじゃなく…新道寺も千里山も決して弱くなかったのに…)」 淡「(そんな中で…20万点差詰めて逆転…そんなの…そんなのって…)」グッ 淡「(…ぐ…泣かない…泣かないもん…!)」グジグジ 淡「(二位にはなったけど…決勝戦には行けるんだから…!)」 淡「(絶対に…絶対に今度こそ…勝つ…!)」 淡「(その得体のしれないものを破って…私達が…チーム虎姫が勝つんだから…!!)」 【System】 松美宥の雀力が2あがりました 新子憧の雀力が3あがりました 鷺森灼の雀力が3あがりました 高鴨穏乃の雀力が2あがりました さらに白糸台を破った事によりボーナスとしてチーム全体の雀力が3あがりました
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/230.html
裏準決勝戦【特急列車】SSその2 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『戦闘開始から1秒』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 24.特急列車 戦闘領域:列車から周囲30メートル以内 高速で走る長大な特急列車。食堂車や寝台車も備わっている。 無人で走行しており、運転席で列車の操作をすることは出来ないらしい。 ノンストップで走り続けるこの戦場からは振り落とされないように注意。 「確かにパンフレットにはそう書いてあったなああああああああ!!!!!!!」 『ノンストップで走り続けるこの戦場からは振り落とされないように注意。』 「だからってこの開始位置はおかしいだろおおおおおおおおおお!!!!!」 俺は、いや俺達三人は推定時速150キロで転がっていた。特急列車の屋根の上をだ。 転送と共に超高速でかっとぶ足場に着地したんだ、そりゃコケて列車後方へと転がる。 魔人特有の頑丈さで足首を傷めずには済んだがこれは不味い。 俺は検事故の回転の速い頭脳で残された時間を計算する。 特急列車が7両編成とする。 日本の列車は一両大体20mなのでこの特急列車の長さは20×7=140m 列車は俺の目測で時速150キロ、秒速に直すと150キロ÷3600≒42m 俺達の転送地点は先頭車両の運転室真上の屋根だったから140mをそのまま使い 140÷42≒3.3 つまり3秒ちょっとで俺達は最後尾から転がり落ち、その1秒後には列車から30m 離れて場外負けとなってしまう訳だ。 ここまでの暗算に2秒。近年は探偵の頭脳ばかり注目されてるが、そのライバルである 検事もこれぐらいは出来るんだぜ。ってやべええええええええ!! 「いや、実は大丈夫なんだけどな。俺には事前に準備したアレがあるし。 えっ、アレが何かって?フッフフ、じきに分かるさお前らにもなっ!」 事前に用意していたこの状況を打破できるものなんて存在しないが、 この『やけに引っかかる言葉』から大きめのフックを作り出し 6両目と7両目の連結部分の窪みに引っ掛ける。 何とか留まる事に成功した俺は後ろを振り返る。 どうやら列車が7両編成という計算上の仮定は正しかった様だ。 暗算が0.5秒遅れていたら俺は後ろに転がり落ちてしょっぱなから 脱落していただろう。 そして後方から誰も落ちる様子は見えず、この連結部にも俺しかいないって事はだ、 あの二人もさっきの状況に対応し俺よりも先に停止するのに成功した訳だ。 前方に目を凝らすと列車の真ん中の当たりに肉付きのいい女のシルエットが、 その奥、先頭の方にもう一つ女のシルエットが見えた。 「最初に留まるのに成功したのは聖槍院九鈴、次にゾルテリアで最後は俺か。 この位置は正直言って不利かもな。だが俺は逆境ほど燃えるタチなんでね!!」 俺は『燃える太刀』で連結部の屋根を大急ぎで焼き切りだす。 電車内部ならともかく、電車の外で最後尾なんて不利以外のなにものでもない。 連結部は薄く柔らかく作られているとはいえ、それでも人が抜けられる穴を作るのは 一苦労だ。だが、一刻も早く電車の中に入らないとならない。 いつ前の二人がこっちに飛び込んでくるか分かったもんじゃない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『戦闘開始から9秒』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 表のトーナメントでは準備の差で敗北し、裏の一回戦では罠に偶然気づけた事で 勝利した。流石にこうなれば私も自分の能力が絶対有利じゃないという事に気づく。 このトーナメントに勝ち抜くには入念な準備と覚悟が必要。 今こうして列車の真ん中辺りの連結部位に留まれたのも、事前に『うぃきぺであ』 というもので戦闘フィールドについて調べ、外に出された場合を想定していたから。 「にしても、半端ないわね。あのトング女」 私がオッパイを連結箇所の窪みに引っ掛けるよりもずっと早く、あの女は靴を脱ぎ捨て 足の指に挟んだミニトングと両手のトングを使って僅かの時間で体勢を立て直した。 そして、最後尾でギリギリ助かってた彼が電車の中に入ろうと何やらギコギコと 武器をノコギリの様に使っているのをチラ見して、私も何とかして電車内に入った方が いいとか思ったけど方法が思いつかないでいた所、トング女こと聖槍院九鈴は 足のトングを上手いこと使って高速で走る列車の上を普通に走って来た。 「ちょ、もしかしてこの場所で闘うの!?」 「許せない。汚い言葉を物質化して散らす彼も、醜悪な外見で見るものの衛生を 損ねるであろう貴方も。これ以上のゴミ増産が行われる前に私が倒す」 「私の事は存在自体否定!?」 ムッカー、温厚な私もこれには流石に激怒ぷんぷん丸。 足場が不安定だろうとその喧嘩買ったるからね! 私は連結部の窪みにどっしりと構え彼女を迎え撃つ。 「さあ、アナタはどんな性技で私にダメージを与えるのかしら?」 「その予定は無い。というか、貴方には醜い本性を出さずに戦闘不能になってもらう」 「出来ると思ってるの?」 「無論」 様子見で繰り出したレイピアを避け聖槍院九鈴のトングが開き私の右肩を挟み込む。 やはり性属性からは遠い攻撃だ。 私はライトアーマーの肩パットを外してのトングからの脱出を試す。 だが、私が肩パットを外そうとするより先に九鈴のトングが肩パットだけを残して 私の右肩から離れた。そしてタフグリップが解除されたのだろう、 肩パットはトングによって私の後方に投げ捨てられる。 でも性技を使わないと言っておいて鎧を外す事に何の意味が? 「それでは、これより私の技が通じるか試させてもらう」 剥き出しの右肩に再びトングが向かう。 「でも、流石に油断しっぱなしじゃないのよ、私もね!」 何をするかは分からないが鎧を奪った箇所にトングが来る事は分かっていた。 私はその機動の下をくぐり抜けてトングを持つ腕に体重を乗せたフックを放つ。 「固っ!」 ごちーんと岩を殴った様な感触、ZTMが無ければ私の拳が砕けていただろう。 そして岩の様に硬かった九鈴の腕は折れても腫れてもいなくて、 動きに支障なく私の右肩を再度つかんでいた。ちくしょうwちくしょうw 「トング術はあらゆるゴミを拾い、離さず、分別し、そして捨てる。 その際に強化されるのはトングだけではない、トングの延長上の腕も」 「ふーん、でこっからどうするの。トングでの物理じゃあ私には効かないけれど、 …はっ、まさかこのまま私を持ち上げて場外に投げ捨てるつもりね!」 「それも考えた、けれどまずは」 九鈴の腕が右肩に固定されたトングをこねくり回すとバリッと音を立てて 私の右肩から何かが引き剥がされた!!右肩に纏っていた黒タイツと一緒に 引き剥がされたソレ、ソレは目には見えないが何かはすぐ分かった。 トングが離れた箇所のタイツが破れ、そこから見える部位に血が滲みズキズキと痛む。 物理攻撃を無効化し性ダメージに変えるはずの私の肉体がだ。 「そんな、私の身体を包む魔力膜をつかみ剥がしたというの!? 掃除人だなんて言ってアンタ本当は何者よ!!」 「聖槍院九鈴。トング道流派、聖槍院流の正統後継者。正真正銘の掃除人」 「アンタみたいな掃除人がいてたまるか!どう見てもレベル15以上の 錬金術師(アルケミスト)じゃない!」 私のいた世界では、メインジョブのレベル15はその分野において王として 崇められ無知なる民衆には神の所業と思わせられるレベルである。 ZTMを父から伝授された時、あの糞ブタ銭ゲバ変態オカマジジイはこう言っていた。 この術はレベル13相当の紋章性術師(スペルマ・スター)のスキルと 女騎士のジョブ特性を組み合わせて開発した、物理はもちろん、 性属性以外の術で破壊出来る術式ではないと。 そのZTMをこんな形で突破するなんて! 「全く、ファントムとかいう亜神級の呪いは飛び交うし、 医者は因果を逆転する奇跡を呼吸をする様に行うし、 光素とかいうのは高位精霊としか思えない存在だし、とんだファンタジー世界だわ!」 「なら今すぐギブアップして帰ればいい。貴方には回収されるべき場所がある」 「やっぱ私の事ゴミ扱いしてるっ!?でも、アンタと距離を取るって一点は賛成ね」 私は一歩下がり連結部から二両目の先端へと移る。 幸い、逃げる手段はもうすぐそこまで来ていた。 「って訳で、一時撤退!」 「逃がさない、貴方は私が」 九鈴がトングを持つ手を伸ばし捕まえようとするが、それよりも早く 私はその場で思いっきりジャンプ!迫ってくるトンネルの縁に頭からダイブ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『戦闘開始から20秒』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 肩パットが飛んできた後に続いて本体が飛んできた。 何やら劣勢だったゾルテリアはトンネルに激突する事で特急列車の慣性から離脱し、 九鈴から撤退していた。よって、トンネルと共にケツが150キロで俺に迫る。 多分重さも150キロはありそうなケツは明らかに俺目掛けて降下。 ブレーキと俺への大ダメージを狙った上手い一手だなと感心してる場合じゃねえ! 「諦めんなよ!頑張れ頑張れば絶対出来る!頑張れば司法試験も合格出来るし 裁判で魔人を有罪にだって出来る!ネバーギブアップ!」 『燃える太刀』二本目を既に作った切れ込みに刺し、二刀で穴を押し広げる。 「間に合えっっっ!!!」 結論から言うと間に合わなかった。 連結部の穴は俺の顔面とゾルテリアのケツが連結した時の衝撃でようやく開通し、 俺達は二人揃って連ケツしながら連結部の狭い空間に転落する。 後頭部から床に落ちる、いてえ!続けざまにゾルテリアのケツが乗っかる、くせー! 「わお、ラッキースケベね坊や」 こんなのラッキースケベじゃねえ、それと坊や呼ばわりすんな。 俺はオッサン扱いもガキ扱いもされたくない微妙な年頃なんだよ。 そう反論したかったが口と鼻がケツで圧迫されて声が出せなかった。 おまけに両腕も体重が掛けられ動かせず、両足はある程度自由だが蹴りは届かない様に 絶妙な体勢でのしかかっている。流石は家庭持ちの数百歳。見事な寝技だ。 …あれ?ロジカル使えないし、ひょっとして俺って今詰んでる? 「そのまま話を聞いて、いつあのトング女が来るか分からないから手短に言うわ。 私と協力してあの女と戦ってくれない?賛成なら右足で床を鳴らして。 協力してくれないなら…」 ピッ ブビッ ブピピッ く、くせえーーーーーーーーーーーー!ゾルテリアのケツの割れ目から出る放屁が 俺の鼻にダイレクトアタックしてきたくせえー。 「今すぐ協力してくれないならこのまま10トン爆弾をお見舞いしちゃうわよ」 ブープスプススー そ、それは間違いなく大会最悪の敗因になってしまうじゃねえかくせえー! 同盟するかどうかはともかくせえー、俺は取り敢えずくせえー ブピピピピブモッ くせー一刻も早くこのくせー状態からくせー脱出するくせー為足で床を鳴らすくせー。 くせー直後くせー、くせーケツがどけられくせー俺はくせー自由くせーを取り戻した。 クサクナーイ。 「ぷはぁー。で、色々聞きたいがそもそも何で俺に共闘の話を?」 「その前に最後尾の車両に移りましょう。ここは話し合うには狭いから」 移動しながら俺は考える。 これまでの戦いを見てのイメージではゾルテリアは組むよりも組まれて 対策される側の存在だ。あのバリアーがある限り無策で突っ込んで一人で勝ち上がる。 斬り合いで劣勢だとはいえこんな話を振ってくるキャラじゃない。 罠か?だが俺をハメるメリットが無い。 あのまま尻で圧殺していれば少なくとも俺に対してはラッキースケベ勝利を得ていた。 「これよ」 ゾルテリアは怪我をした右肩を見せる。…おい、何で物理無効バリアー持ってる こいつがこんな怪我してるんだ。ああ、そうか。九鈴がこれをやったのか。 「トングでZTMを分別し、捨てられたわ。あのままやってたら右肩以外もやられて 削り殺されていたと思う。お願い、共闘してくれない?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『戦闘開始から34秒』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私の提案は彼にとって魅力的なものだろう。 さっき偶然が重なったとはいえ完封負け寸前になった彼にとって、 私との戦いの再開は避けたい所のはずだ。 表と裏の一回戦を見た感じ、様々な属性の武器を召喚する『けんじ』(剣士の亜種?) という職業に就いているようだが、私のZTMを破れる可能性は低そうだし 近距離戦闘では偽原や九鈴のレベルからは一段劣る。 私は単独では勝つ方法の見えない九鈴を排除する戦力を得られ、 彼は目の前の危機をスルーし、上手くすれば私と九鈴の共倒れも狙える。 彼は頭も悪く無さそうだし、きっとこの提案を受けてくれるはず。 「共闘ねえ…」 あれ?あんまり好感触じゃない模様。何が気に入らないのだろうか。 「何か問題でも?」 「二人であのやっかいなトングを退場させるのはいい。 それじゃあどうやってアレを倒すのか考えはあるのか?」 「ああ、そういう事ね。心配しないで、策はあるわ」 「ほう、聞かせてもらおう」 「アイツのトング攻撃は身体の前面からしか繰り出せないし、トングと トング術使用時の両腕以外の強度は並。よって片方がおとりになって もう一人が背中から斬りかかる!以上!」 「じゃあどうやって背後を取ればいい?」 「え、えーと座席の間かトイレに隠れて、もう一人と戦闘中に後ろからグサッって」 私はややしどろもどろになりながら答える。エルフの女騎士は基本ソロプレイの 戦闘員だから連携の策はこのぐらいしか思いつけない。 私は悪くない、ジョブ特性値の問題なのだ。父や夫ならいい考え浮かぶんだろうけど、 あいつらは女騎士がメインジョブじゃないから。ば、馬鹿じゃないんだからね。 ソロでの冒険知識や嘘を見抜く能力は高いんだからねっ! だが、ケンジさんは私の共闘案に納得いかなかった模様。 「そんなフワフワした考えじゃあ協力できねえな。 俺は魔人とアホが何よりも嫌いなんだよ」 反対の意見と共にズボンとパンツを一気に降ろし、ボロンとイチモツをさらけ出す。 私にとっては最大のダメージ倍率となる生男根。 それを出すって事は交渉は決裂したのか。 「やれやれ、あのトング女は私一人で」 「さっさと済ますぞ、掃除屋がここに乗り込む前にケリを付ける」 私の言葉が終わらぬ内に彼は言葉を被せてきた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『戦闘開始から2分7秒』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「思ったよりやるわね!」「てめえもな!」「この技はどうかしら?」 「うぐ!だがまだまだ!」「いやん!そこはだめぇ!」「ここがええのんか?」 「これで決めてやるわ!」「さあ来いっ!」 「「うおおおおおおおおおおおっっっ」」 『実況の佐倉光素です。裏トーナメント準決勝特急列車、激しいバトルの末に 内亜柄影法選手死亡!後はゾルテリア選手と聖槍院九鈴選手の一騎打ちです』 「ふうっ、間にあったか」 アナウンスの後、私は息を整えて聖槍院九鈴を待ちうける。 と、正にその時6両目と7両目の連結部の自動扉が開き、やっかいな敵が現れた。 さっきまで近くに気配は無かった。きっと私の開けた穴の近くで待機し、 決着のアナウンスを聞くや否や体力の回復する間を与えない為に下に降りてきた、 そういった所だろう。 「…その格好はどういうつもり」 私の見た目に突っ込む九鈴。無理も無い、最初に列車の上で戦った時と違って 私の顔は黒いタイツに覆われていた。てっぺんから見える金色の髪と 生乾きの血がこびりついた右肩以外すっぽりタイツに隠された姿を見ては 疑問を口にするのも仕方ない事だろう。だから私はこう答えてやった。 「今の私は貴方に負けたゾルテリアではないっ!私は黒タイツウーマン! そう、いわば第二形態みたいなものなのよ!私は天才、私は万才、 30…私は約20才」 「…バカじゃないの」 無表情でツッコミを入れる九鈴、うん、私だって馬鹿だとは思う。 だが、これも勝つためのステップの一つ。私はその場でくるくると回り歌い出す。 「前人未到の空前絶グォ~ 天下無双の針小棒ドァイ~ 驚天動地の五里霧ッチュ~ 我田引水自画自スワ~ン 青は藍より青く花より団子 とにかく無敵の 大・大・大・大・大・大・大・大・天・才~」 何度もその場で回転し、キリッとポーズを決める。 九鈴はさっさと終わらせて帰りたいという顔をしていた。 「死ぬ前の最後の言葉はそれでいいの?」 「この黒タイツウーマン、負けるつもりは微塵も無し! 準備運動は完了よ、さあいくわよっ」 私は奇乳とも言えるサイズの胸の谷間からレイピアを抜き放ち真っ直ぐに突く。 狙いは心臓!だが、レイピアの先端は簡単に、それこそゴミを拾うがごとく 黒いトングで摘ままれてしまう。 「あらま」 「それでは半端に終わったゴミ掃除を再開する。今度は逃がさない」 右手のトングでレイピアの先端を押さえたまま、左手のトングが私の着ている ライトアーマーと黒タイツを次々と剥がしていく。露わになる裸体、 手ごたえの無いZTM、落ちる胸の詰め物、飛び出すチンチン! 「いやーんみないでぇー、オカマッ」 「えっ、どういう…」 明らかに狼狽の色を浮かべる九鈴。 私は、いや、俺は好機と見て一気に策の仕上げに向かう。 「伸びろっ、レイピアー!」 『やたら間延びした歌』から生まれた伸縮機能を持つレイピアが俺の命令に反応して トングに摘ままれたまま伸び、先端が九鈴の胸をえぐる。 「うぐっ、な、内亜柄影法!死んだはずじゃあ」 「あの放送か?車内マイクを利用させてもらったのさ。それじゃあさよならだ」 九鈴の胸から本物のシルバーレイピアが生える。 俺の服を着たゾルテリアが背中から九鈴の心臓を貫いたのだ。 放送を信じていた九鈴は俺に化けたゾルテリアを死体と思いんだ結果、 背後からの攻撃を無防備で受け絶命した。 『実況の佐倉光素です。裏トーナメント準決勝特急列車、激しいバトルの末に 聖槍院九鈴選手死亡!後はゾルテリア選手と内亜柄影法選手の一騎打ちです』 本物のアナウンスが俺達と観戦者に九鈴の脱落を伝えた。 「終わったわね。にしても、良く思い付いたわね。こんな手段」 ゾルテリアの共闘案の後、ほぼ無策と言っていいゾルテリアの案に呆れ返った俺は 『被せる言葉』より生成したズラを出し、それを被りながら頭の良くない彼女にも 分かるように作戦を説明しながら必勝の策を作り上げていった。 この列車は運転は完全自動という説明がなされていた。 ならば運転以外の機能は俺達が利用しても問題無いという事だ。 最後尾の車掌室のマイクが利用できる事を確認すると、 俺達は激闘の叫びを上げながらお互いの服を交換していった。 はたから見たら間抜けそのものだが、九鈴に近づかれる可能性を少なくしつつ 入れ替わりを完了するには他に手段が無かった。 ちなみに黒タイツウーマンについてはゾルテリアのアイデアである。 「ところで、光素ちゃんや私の声マネ凄い似ていたわね。どうやったの?」 「おいおい俺は天才検事、それも声のスペシャリストだぜ? 探偵に出来る事なら俺にだってできるさ」 「…『けんじ』って剣士の上級職じゃなかったんだ」 もっとも、この偽アナウンス戦術を閃いたのはついこの間。 偽探偵こまねの遊園地での戦い方を見てからだけどな。 「それじゃあ、これで共闘は終わり。私達の戦いの続きをしましょう。 あ、その前に貴方の服返すわね」 「ああ」 ゾルテリアから渡された服を受け取り袖に手を通す。 胸周りが多少伸びている気がするが、トングを刺されて穴だらけのタイツより ずっとマシというものだ。などと考えていると、 「はい、ドーン!」 「うおっ!」 服を最後まで着る前に全裸のゾルテリアヒップアタックが俺にヒット。 そのまま揉み合って床に転倒し、俺の両腕はガッチリとロックされ、 顔面にはケツが押しつけられ言葉も発せられず僅かな隙間から 呼吸ができるのみの状態になってしまった。 「さあ、約束通りさっきの続きからよ!」 いや、確かに共闘前の体勢はこうだったけどさ。 「そして、私としてはギブアップをお勧めするわ。 言葉を戦闘の起点にしているアナタにはこの体勢からの逆転の手は無いはず。 さらに言えば全裸なせいで私は今お腹すっごいゴロゴロしてる!」 プスッ プー 尻からの放屁が始まった。くせー。耐えろ、そして考えろ俺。 天才検事の頭脳を持ってすればこっからの逆転の策はいくつも思い付けるはず。 ピプピー、ブブッブー 両手をどうにかして動かせばくせー、くそ、くせー、体重と技術の揃った見事な くせーロックと言わざるを得ない。ならば割と自由な足で相手を蹴りあげる!くせー 俺は足を畳みくせーゾルテリアのボディに膝を撃ち込み、し、しまった! 「はうう!そんな所蹴られると…らめぇぇぇ!!」 ブリブリブリー!ブリュブリュブリュブリュー! くせーくせーくせー土石流のごとくくせー下痢便が俺の顔にぶっかけられくせー くせーこうなったらくせーギブアップするしかくせーないのかくせーくせーくせー くせーあれ?この状態でくせーギブアップどうすればいいんだくせーくせー 右足でくせー床をくせー鳴らすくせーいやくせーこれはくせー共闘へのくせー同意 ブリブリブリブー!ゴボッ!ブチャラッティー! た くせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせー く す せーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせー くせー け くせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせー くせー て くせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせーくせー ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『戦闘開始から1時間37分42秒』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『たった今、内亜柄影法選手の失神が確認されました! よってエルフの元女騎士ゾルテリア選手の勝利とさせていただきます!』 ケツ・着! このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/tvsponsor/pages/3183.html
バドミントン 女子シングルス決勝トーナメント1回戦/混合ダブルス準決勝(2024.08.01・提供クレジットは全社絨毯の上に表示) A枠
https://w.atwiki.jp/dangerousurass/pages/60.html
『HERO WORLD』 「アッシュ・テンプル・ウィズ・フォー・スカイ#1」(by しお) 「アッシュ・テンプル・ウィズ・フォー・スカイ#2」(by しお) 『Birdman Birdman』(by サンライズ) 『HERO WORLD』 控え室。 備え付けられたモニターで、録画された過去の試合を見ている意志乃鞘は「はぁー」とため息を吐いた。 「うーむ、どうしたものかなぁ、これは」 煮詰まってきた感がある。このままモニターと睨めっこしても仕方ない、そう考えた彼女は気分転換に外に出ることにした。 少し歩けば自販機があった筈だから何か飲み物でも買うか、と。 缶コーヒーを買い、プルタブに指をかけたところで近くのドアが開く。 「げ」 「おや」 部屋から出てきたのは1回戦で戦い、更にこの後も戦うことになる糺礼だった。自販機が置かれた場所は礼の控え室のすぐ傍だったのだ。 すぐさま踵を返して部屋に戻ろうとする礼を、鞘は肩を掴んで引き止める。 「はっはっは。なんだその嫌なものを見たかのような反応は。せっかくだから少し話でもしようじゃないか」 「実際に嫌なものを見たんだけどね‥‥」 表の試合で振り回されたことを思い出したのだろう。礼はあからさまにげんなりとした感情を見せた。 彼女の本音としてはぶっちゃけ相手をしたくないという気持ちが強い、が。 「――仕方ない、付き合おう」 しかし、それでも。彼女は感情よりも実利を優先した。 「いやー、しかし困ったな」 「どうしたものだろうね」 廊下の壁に背を預け、飲み物片手に会話をする2人。ちなみに鞘は先述の通りコーヒーで、礼はココアだ。 一体何に困っているのか。それは、 「ノックアウトマスター次郎。ちょっと格が違いすぎるかな」 次の対戦相手――兼石次郎。本名「裸繰埜闇裂練道」についてだ。 裏トーナメント二回戦第一試合は三つ巴の戦いであり、練道を加えたこの3人の戦いとなる。 「むっ。私と君が再び戦う機会が訪れ、しかもそれがまた三つ巴だなんて、これは何か運命的なものを感じるな」 「私は感じないけどね」 「つれないなぁ」 それはともかく、と話を兼石次郎へと戻す。 「兼石次郎。医死仮面との試合を見たけど‥‥彼、なんでこっち側に来てるんだ?」 こっち側というのは裏トーナメントの事だ。これの参加者ということは、すなわち表トーナメントの初戦敗退者である。 「それはこっちが聞きたいぐらいだよ。ノックアウトマスター次郎といえば、裏社会じゃかなりのビッグネームだが‥‥」 礼は過去の事件について取り扱ったデータベースで、彼の名前を何度も見たことがある。勿論、警察でも要注意人物の1人だ。 つまり、相当な実力者ということである。その強さは試合を見てもよく分かる。 恐らく単純な戦闘能力でいえば今大会参加者最強クラス。特に格闘戦ならば、彼に敵うのは池松叢雲ぐらいかもしれない。 「そんな相手が次の対戦相手か‥‥。うーん、警察のデータベースに彼の詳細な情報とか無いかな?」 「あっても部外者に話せるわけないだろう。それに、君に話す理由は無いよ」 尤も、礼が知る情報も鞘と大差無い。裏社会の住人はどれだけ「名」を有名にしても、「中身」は隠す傾向があるからだ。 「いやいや、私に話すことで倒す為の活路が見つかるかもしれないよ?」 「どうだかね。‥‥実際のところ、勝ち目は見えているのか?」 ――礼が鞘と話すこと選んだのはこれが理由だ。 圧倒的実力者である次郎に対して、今のところ有力な勝ち手は考え付いていない。そこで、鞘はどうするのかを知りたい、というものだ。 対する鞘の答は、 「あぁ。――ぶっちゃけ、勝ち目見えないな!」 「随分とぶっちゃけたなー‥‥」 むしろ開き直りのようにすら見えるきっぱりとした鞘の言い分に、礼はかくりと肩を落とす。 「いやー。射撃武器が無い私の決め手はどうしても近接戦闘になる‥‥が、それじゃまず勝てない相手なんだよな。大体、私自身は戦闘系ではないし」 「ヒーロー補正、とやらでも無理なのか?」 「うーん‥‥。相手は『最強の達人』というクラスに属してるからなぁ」 「クラス?」 「ヒーロー物には『雑魚』『その話のメイン敵』『ライバル』『ラスボス』『ヒロイン』『頼れる友人』――こういった様々なキャラクターがいるだろう?」 「まぁ、いるな」 「そのうち、『最強の達人』は特にやばいんだ。『師匠』も同じタイプかな」 「何がどうやばいんだ?」 「ヒーロー――主人公は絶対勝てない」 「‥‥そういうもの、か?」 礼は自分が知る物語はどうだったかと記憶を探ってみる。幼い頃見たテレビ番組だけでなく、映画や小説でもそういった師匠などがいるパターンはあった筈だ。 「どうだった‥‥かな。確かに、師匠は強キャラで主人公はぼこぼこにされるのがお約束だが‥‥。最終的に主人公が勝つ、というのも見たような」 「そう、最終的にヒーローは勝つ。‥‥でも、それは最終的な話」 つまり、それまでには幾度の敗北を味わうことになる。いや、その敗北があるからこそヒーローは強くなれるのか。 だが、 「負けたら終わり、ってのがルールだからな。これはどうしようもない」 「‥‥あぁ、成る程」 「そのパターン以外で勝てる補正を得ようと思ったら――」 鞘が礼をじっと見つめる。 「――戦いを通じて絆を結んだ友人が敵に討たれて己の腕の中で息を引き取る。そして私はこう誓うのであった――君の為にも必ず勝つ、と」 「お断りします」 「えぇー」 とはいえ、強者を相手するにあたって手を組むのは悪くない――友人になるのは嫌だが――そう考えた礼は、その点について問うてみた。 「どうする? 一応、私達が手を組むという選択肢も無くは無いが」 鞘にとっては意外な提案だったのか、表情にやや驚きが見える。尤も意外だったのは礼の方から同盟を提案してきたことだろう。 鞘は腕を組んでしばらく黙考の後、答を出す。 「‥‥いや、遠慮しておこう」 ある意味では当然の答ではあるし、ある意味では疑問の答である。だが、それでも礼はすんなりと納得できた。 「そうだろうな。‥‥私は信用できる人間、というわけでもない」 「いや、そういう意味じゃない」 「うん?」 「最強の兼石次郎を打ち破った者の事を考えると、な」 その言葉を聞いて、礼は表トーナメントの試合を思い出す。 ノックアウトマスター次郎が裏トーナメントに参加した敗退者ということは、つまり彼に勝利した者がいるということ。 確か、彼に勝ったのは―― 「渡葉美土、だったか」 「そう。銃を持つわけでもなく、剣の扱いに長けているわけでもない。肝心の魔人能力は『おもいだす』というはっきり言って記憶力でカバーできるものといっていい」 そんなただの女子高生。 「それでも自分の力で勝った。そして、彼女はこう呼ばれている」 ――勇者、と。 「勇者とはつまりヒーローだ。‥‥ふふ、なら私も自分の力で頑張らないとな」 「‥‥ふむ」 「――まぁ、君を信用しきれないという理由も勿論あるがな!」 「そこはいい話で終わらせてほしかったなー‥‥」 礼は、飲み終えたスチール缶をゴミ箱へと捨てながら何の気なしに言葉を発する。 「それにしても、君は変わってるよな。女の子なのにヒーローだなんて。‥‥どちらかというと、女の子は魔法少女ものとか見てるものだと思ってたけど」 「うん? 君は魔法少女ものが好きなのか?」 「‥‥私は関係ないだろ。君についてだ」 「そうかー。魔法少女が好きかー‥‥睨まないでくれるか? いやまぁ、あれだ。そこらへんは十人十色ということで」 「はぁ‥‥」 「なんだその色々と諦めたようなため息は。ここに来る途中女神オブダークネスに会ってちょっと話したが、今期の『ガイアファイター・アクス』はクオリティ高いと意気投合してがっちり握手をしたんだぞ!」 「あぁ、いや、いい‥‥。私を巻き込まないでくれたら、それでいい」 もう話すことはない、それどころか余計に疲れるだけだ、そう判断した礼は背を向けて自室のドアを開ける。 「あんまり、そこでたむろしないでくれよ」 最後にそう言って部屋に入っていった。 戦いが始まる時。 一体、何を見ることになるのだろうか――。 珪素:礼さんが表と比べてずいぶん可愛らしいキャラに! こっちの方が好みだなー 「アッシュ・テンプル・ウィズ・フォー・スカイ#1」(by しお) #1:インフィニティ・ワールド・イン・メガネ 「灰堂四空君…だね。少し話をしないか」 裏トーナメント一回戦終了後。 トーナメント会場、観客席に向かう途中 突如として現れた眼鏡の少女に呼び止められ、灰堂は足を止める。 「何だい?あんた、トーナメントの参加者か?…何の用だ?」 「とぼけなくていいんだよ。ぼくの『眼鏡サーチ』で、君から多大な眼鏡力を感知している」 「…は?」 その少女が発した単語が理解できず、灰堂は硬直する。 「『眼鏡スキャン』を使わせてもらったよ。…その懐に、いくつ眼鏡を隠し持っているんだい? まったく…とんだ伏兵がいたものだ。ぼく程ではないが、きみも眼鏡を愛するもののようだね。 だから、君を勧誘させてもらうよ…我が『眼鏡部』にね!」 「いや、あんた、何言ってるんだ。待て。ちょっと落ち着こうぜ」 「ああそうか、きみはサングラスだから眼鏡部に入る資格はないんじゃあないか―そう思っているのか。 その心配は杞憂だよ。サングラスであっても、伊達眼鏡であっても我が眼鏡部はすべてを受け入れる。 そう、眼鏡とは単一にあらず。すべての眼鏡に貴賤はないのだから―」 (ああ、駄目だ。こいつ、関わっちゃあ駄目なタイプだ) 一方的に勧誘(?)をする少女に気圧される灰堂。 今までの敵とは全く異質―異常(アブノーマル)とも言える存在に、完全にイニシアチブを握られていた。 その性、何処までも不敵。その心、何処までも透明な闇。誰よりも眼鏡に愛されし少女─── ───その名は、一∞(にのまえ・むげん)。 「きみが希望崎の生徒だということは我が『眼鏡データベース』で把握しているよ。 …この一∞と、眼鏡の明日を救おうではないか!」 「ははっ…あんたオモシレーな。たまにはそういうのもオッケーかもな!」 「…発音が悪いな」 気づいたときには、鳥面の男がそこに立っていた。 #2:イングリッシュ・マスター・イン・ダンジョン 「何の用かな?…池松先生。まさか、野試合を申し込むわけじゃあないよね?」 一はその鳥面の男に対し攻撃姿勢を取る。 池松と呼ばれたその男は、それを一瞥し、灰堂に向き直る。 「一とか言ったか…お前には今のところ用はない。 それよりそっちの…灰堂とか言ったな。お前にはLessonの必要がある」 「れ、レッスンだってぇ?(また関わっちゃいけないタイプだなこりゃ)」 「NO。Lessonだ。英語とは―」 流暢な英語とともに、池松が構える。 「純度」 「発音も、英語の一撃の中においては重要なfactorだ」 「これから、お前にそれをLessonしてやろう。―そこの、一。ちょっと攻撃してみろ」 「え?ぼくが?―いいんだね?」 「構わん(come one:「大丈夫です」という意味の英語)」 「…手加減はしないよ」 そう言って一が眼鏡に手をかける。 その直後! 「『眼鏡ビィーーーーームッ』!!!!」 「応勁(O.K.)ッ!」 ドオオオオオオオオーン! …轟音と共に、廊下が光に包まれた。 「―これが、正しい発音を伴った『英語』だ。いまのができれば…初段合格はたやすい」 「…いってて…眼鏡がなければ即死だったね…」 「灰堂、お前には『SLGの会』に入る資格がある…そこで、俺がお前に英語をTeachingしてやろう」 「…で、その灰堂くんは?」 「…ム」 「はーっははははは!ここだ!ここにいるぞ!」 どこからともなく、声が響きわたっていた。 「アッシュ・テンプル・ウィズ・フォー・スカイ#2」(by しお) #3:ワナビー・ユア・ヒーロー 「とうっ!」 崩れ落ちた瓦礫の上からその人物は跳躍し、二人の前に降り立つ。 「こんなところで喧嘩とはいけないな!いけないぞ君たち!」 「意志乃鞘…!きみ、よくもまぁぼくの前におめおめと現れたものだね…!」 「喧嘩ではない。Lessonだ」 意志乃と呼ばれた女性は灰堂を肩から下ろしつつ、二人に言い放った。 「四空くんは我がヒーロー部に入部してもらう!よってここは引き下がってもらおう!(ビシィ」 「いってて、助かっt…って何だとーッ!」 「意志乃…きみは本当に気に喰わないな…。やはり眼鏡をかけていない人種は野蛮だ」 一が再びビームの発射準備に入る。 だが、先程最大出力のビームを発射したためか、まだチャージに時間がかかるようだ。 「…俺は灰堂をお嬢のもとに連れていかなくてはならん。邪魔するのであれば―」 池松も英語を構え、呼吸を整える。 「debateを始めよう」 まさに一触即発! 三すくみめいた空気が場に流れる。 「ちょ、ちょっと待て!あんたら、当人を差し置いて何いってんだ! 俺は何にもオッケーとは言ってないぜ!」 「きみは黙ってろ!」 「黙れ(Damm ray:「静かにしろ」と言う意味の英語)」 「黙っていたまえ!」 「…オッケー」 「あんたたちッ!ちょっとまちなsひでぶーーーーーーッ!!!!」 3人が衝突したかに思われた瞬間、赤きオカマが空を舞っていた。 #4:レッド・オカマ・フライング・イン・ザ・スカイ 「あ、あれは…バロネスさんじゃねーか!」 ボロ雑巾のように吹き飛ばされたオカマは、バロネス夜渡であった。 「…急に飛び込んでくるから、撃っちゃったじゃないか」 「魔人は急に止まれない!これは常識だなっ!」 「哀れだ(hour lader:「可哀想に」という意味の英語)」 …他人事である。 それを聞いて、吹き飛ばされたオカマは何事もなかったかのように立ち上がった。 「アンタたち、人をブッ飛ばしといてその態度は何よ!キィー!」 「(無事だったのか)…ところでバロネスさん、あんたなんでココに?」 「アタシもハイドきゅんを勧誘しようと思ったんだけど」 バロネス夜渡は、オカマバー「カーマラ」の店員兼バウンサーである。 灰堂にとっては同業者に当たる。 「…まあ、アンタを引き抜いたらあそこで商売しにくくなっちゃうからネー あ、でも、ヘルプとして手伝ってくれるならいいのよ?もちろん女装して」 「それは勘弁してくれ」 「カーマラ」と灰堂の務めるホストクラブは同じ路地にあり、同業者として良好な関係を築いていた。 バロネスとしても、その関係を崩すことは良しとしないだろう。 「それはそうと、アンタたち!何つまらないことで争ってるのよ!」 「つまらないこととは、聞き捨てならないな」 「部外者は黙っていてもらおうか!」 一と意志乃がバロネスに反論する。 「だってさぁ、アタシ希望崎学園のことはよくわからないんだもん。…兼部ってできないの?」 「「「それだ!(so red art:「その発想はなかった」という意味の英語)」」」 「…え?」 「一つに絞れないなら、全部やっちゃえばいいのよ。アタシみたいにね!」 「(何か違う気もするけど)…ああ、そうだな つまり、俺はこれから眼鏡部兼ヒーロー部兼SLGの会兼用心棒ってわけか。…オッケーじゃねぇの」 「うむ、これにて一件落着だなっ!」 「…まぁ、ぼくは眼鏡部の人が増えればいいんだけど」 「やはり発音が悪いな。最低でも英検5段を取れるようにLectureしてやる…部活の合間にな」 ―灰堂四空:戦績・2戦2敗 だが、これからの学園での生活は、少しは楽しくなりそうだ。― (アッシュ・テンプル・ウィズ・フォー・スカイ 完) 『Birdman Birdman』(by サンライズ) 眠らない街の夜空を2人の鳥人が舞っていた。羽撃くことも、ムササビの如く滑空することも出来ない両者はビルからビルへ、およそ人とは思えぬ脚力で跳び移りながら幾度と無く空中で火花を散らす。 一方は池松叢雲。徒手空拳ながら、その鍛えあげられた四肢は岩を砕き、鉄を引き裂く。一方は医死仮面。その手に握られた鍼とメスは生者を一瞬で死体に変える。ツインタワーの両壁面を蹴り、互いを目指して突進する。今宵幾度目かもわからぬ衝突。 「ACHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」 飛び込んでくる医死仮面に怪鳥音をあげながら蹴りを繰り出す池松。対する医死仮面は流麗な動きでメスを繰り出す-と思いきや、ぶつかる直前、彼の体は不自然な角度で浮き上がり、池松の蹴りは空を切った。 「What?」 何故、と思ったがそれ以上考える余裕は無い。上空を取られた。 「ハッ!!」 「Hum…!」 医死仮面渾身の踵落とし。両腕を交差させて受け止めるが、虚を突かれたためにやや防御が遅れ、脳天に受けた。仮面が砕け、衝撃で叩き落される。その刹那、医死仮面の手から伸びるモノに気づいて池松は合点が行った。 「糸か(eat-car、「糸か」という意味の英語)」 そう言えばこれも先の試合でもやっていたな、などと頭の片隅で思いながら、絶賛落下中の我が身をどうするかと考える。このまま地面に叩きつけられれば、池松の頑強な肉体でも重傷は免れまい。 「COOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」 大気を肺に溜め込み、一気に吐き出す。必殺の英語を放つための呼吸だが、今度は違った。猛烈な呼気の反作用は池松の落下の向きをずらし、その落下先には路上に停められた軽自動車があった。 ベゴオッッ!! 車体の上半分が衝撃で大きく歪み、窓ガラスが砕け散る。陥没した屋根の上で、体に異常が無いかチェックする。 「No problem…日本車で助かったな…。」 完璧な身体操作を可能とする「統一駆」は、何かしらの不具合もすぐに察知できる。 頑丈だけが取り柄のアメ車なら落下の衝撃は吸収されず、地面に叩きつけられるのと大して変わらなかったかも知れない。(作者の偏見に基づいています。) 一方の医死仮面は自由落下と比べてもゆったりした速度で地面に近づいていった。無論糸につかまりながらの降下である。地上数mで糸を離し、地面に着地する。その際地面についたのは、利き足の右では無く、左足からだった。 「気づいたか(kids-eat-a-car、「気づいたか」という意味の英語)」 「お前さんが裸繰埜にやっていたからimitateさせてもらった…」 右脚には鍼が刺さっていた。戦いの最中に医死仮面が投げたモノを、池松が掴み、先ほど右脚で繰り出された踵落としを受け止めた際に刺しておいたのだ。鍼が突いたツボの作用で医死仮面の右脚は曲がらなくなっていた。着地の際に脚を全く曲げなければ衝撃は吸収されず、骨折くらいしていたかも知れない。医死仮面は刺さった鍼を引き抜き、右脚が曲がることを確認する。 砕けた仮面が池松の顔から離れ、カランと音を立てて屋根に、地面に落下する。これまで仮面で隠れていた池松の素顔が晒される。ハーフだとか純粋な日本人だとか言われる彼の秘密が明らかになったのだが、医死仮面はそのことをなんとも思わなかった。今彼の頭にあるのはひとつの疑問。 Pond pine Cloud masses John Smith 「知らないな…こんなツボは…。」 「Naturally(当然だ)、経絡ではなく経絡(k-lack、「経絡」という意味の英語)だからな。逆に俺も経絡は知らないがね。」 「お前は医死として一流かも知れないが、『英語』はNative止まりだ。元々話せるから極めようとしない。」 「極めれば…その経絡(k-lack)を知ることが出来るのか?」 「Exactly(その通りでございます、という意味の英語。)、ただし…」 ああ、と医死仮面は池松の意図を理解した。 「SLGの会に入れ。」 池松の大会参加の目的は猛者との戦いであると同時に、有望なSLG魔人の勧誘でもあった。 先の戦いで能力らしき能力を見せていない医死仮面を、池松は自分と同様実力者でありながらSLG魔人と判断したのだ。ちなみに練道もこの先当たれば勧誘する予定である。 そもそもこの戦いは池松がしつこく彼をSLGの会に勧誘したことに端を発する。しかし、今の医死仮面には「英語」のLessonと引換ならば入会も魅力的に思えた。が、 「いいのか?暗殺者の私で。」 SLG魔人の社会的地位向上を目指す団体に、社会的イメージが最悪の自分がいていいのか、という問いであった。 「構わん(come one、「許容する」という意味の英語)…殺人者で無ければな。」 ビジネスに徹する殺し屋か、真性の殺人者か、医死仮面は前者であった。 「(仮面の上からでも…わかるものか…素顔の一端が…)」 「お嬢たちの前に出るときは暗殺者の顔で無いなら、素顔でも、別な仮面でもいい。SLGの仲間であってくれるならwelcomeだ。」 「俺も仮面だしな」と初めて見る笑をその顔に浮かべる。 「…。」 中世から続く暗殺者の一族「裏メディチ家」。長男を除いた子供に「感情抑制剤」(プロジアム)を日常的に投与し、己なき殺人機械として育て上げていたその当主や長老がある日皆殺しにされたのは、彼らが最高傑作と思っていた一体-後のジョン・スミス、アレキサンダー・メディシス-が、薬物ごときでは抑えきれぬ強烈な自我を、幼少期からその鉄面皮の下に隠していたからであった。 「仮面でもいい」形は違えど、彼が「仮面武闘會」に求めたモノがこの男にも、SLGの会にもあった。「内面への干渉が許せない」、善悪の観念も無いジョン・スミスが持つ、唯一まっとうと言える価値観。前者の組織には裏切られた故の現状なのだが、少なくともこの男は裏切らないのでは。そう思わせるモノがあった。 「いいだろう。どうせ脱ぐつもりだった仮面だ。」 顔を覆う布を取り去り、彼の象徴であった「医死仮面」を脱ぐ。ジョン・スミスの素顔が晒された。 「Beautiful…」 「本当にいいのか…?割れると爆発するんだぞ?」 「どうということは無い(do-to-you-court-one-night、「当たらなければどうということは無い」という意味の英語)」 池松は割れた自分の面の代わりに医死仮面の鳥面を要求してきた。ジョン・スミスは最初渋るが仮面そのものが「仮面武闘會」に繋がるものでは無いのでまあいいかと考え、譲り渡した。 「そうか…ではまたSLGの会で…。」 「ああ、そのときはみっちりLessonをつけてやろう。」 「「see you」」 もはや「医死仮面」では無いその鳥面を被った池松に別れを告げると、ジョン・スミスは自身の顔を裂いたマントを巻いて隠した。 池松叢雲が最後まで知らなかったジョン・スミスの能力。それは名前を「メモリーズオブユー」と言い、医死仮面の素顔を直接見た人間にのみ発動する。ジョン・スミスが晒した素顔を再度隠した瞬間、その素顔に関する対象の記憶を消失させるというSLG能力である。つまり、現状ジョン・スミスを知っているのは-結局ジョン・スミスだけということなのだ。 数週間後、 SLGの会に入会してきた、鳥の仮面の男、「医師仮面」は池松先生とキャラが被るとかで物議を醸すことになるが、その池松はいつものように所在不明だったので鈴木三流は問題を保留扱いとした。
https://w.atwiki.jp/dangerousss4/pages/401.html
裏準決勝戦SS・神社その2 神のみぞ知る。 進むべき道を、勝負の行方を、運命を、全てを知る事が出来る者がいるとするならば。 それは神と呼ばれるべき存在なのだろう。 ――― 戦闘空間、神社。社前。 迷宮時計に導かれた一人の少女、刻訪結がその神社に現れた瞬間"彼女"もまた、目の前に存在していた。 彼女は結に時計を見せてくる。かわいらしいデジタル腕時計。 だが、そんなかわいらしさを全て打ち消して余りあるほどの、強烈な殺意。 結はその姿を見るなり彼女に交渉は通じないという事を悟った。 それは彼女の裏社会に生きる者としての勘であったのかもしれないし、自分自身が時折見せる殺意に似ていたからだったのかもしれない。 「……」 彼女……"刻の辻斬り"はその黒い瞳で結を見ていた。 右手には辻斬りと言うにはやや不釣り合いな大きな剣。その名に反しそれは若い(といっても結よりは年上に見えたが)女性だった。 当然偽名であろう。結は特に疑問は感じなかった。 自らも本名(綾辻結丹)とは別の偽名(刻訪結)を使用している。そして、今までの対戦相手に伝わっていたのは偽名(刻訪結)の方であったからだ。 最もこれは後付けの理由であり、実際は疑問に感じる暇などなかったというのが正解である。 戦闘空間に現れたと同時に刻の辻斬りは既に結に肉薄し、その剣を突き刺さんとしていたからだ。 「……!」 結にその剣は通らなかった。 彼女が身に着けていたそのマントによって斬撃が弾かれていたからだ。 それは、彼女が先日の戦場である"温泉旅館"にて手に入れた戦利品であった。 ――― 危なかった。 もしも"お兄ちゃん"からもらったシールドマントがなければ私は成すすべもなく死んでいたかもしれない。 お兄ちゃんが守ってくれた。そんな気がした。 まあ……第5席だけど、お兄ちゃんには変わりないもんね。 相手の能力は高速移動か、瞬間移動か……高速移動ならば、お兄ちゃんと同じだ。 もしあの勝負、お兄ちゃんが問答無用で殺しにかかってきてたら何も出来ずに死んでいたんだな。 そう思うと、少しだけ怖くなる。でも、だからこそ負けるわけにはいかない。このマントをくれた想いを、無駄にするわけにはいかない。 私は"お兄ちゃん"の形見である狐の仮面を付け、閃光弾を地面に叩きつけた。 強烈な光が刻の辻斬りを包む。このまま一気に終わらせる。 消影糸術(シャドウハイドストリングス) なんのことはない。相手が光に包まれている間に糸を一気に巻きつけ、刻の辻斬りを縛りつけ、殺す。それだけだ。 「……ッ!!」 糸を限界まで引く。しかし、既に彼女はいなかった。 ――― 社の中。 厳かな空気が流れるその空間の中心には一人の壮年の男性。 そしてその前に正座する一人の少女。 少女はやや緊張した面持ちであった。 それは儀式への不安もあったが、外で起きている"何事"かへの不安もあった。 その少女の姿を見て、男性は少女に語りかけた。 「儀式を中断することはならん。"神"がお怒りになる」 「……」 「案ずるな、儀式になんら支障はない。掟通りに動け」 少女が頷くと、儀式は再開された。 ――― 刻の辻斬りが姿を消した後も結は糸を引き続ける。仕掛けを張り巡らせる。 そして" 消影糸術(シャドウハイドストリングス)"に仕掛けていた鋏でわずかに得た彼女の血を体に刺繍しはじめていた。 それにより理解する。彼女の瞬間移動は既に存在している物を上書きして移動出来るタイプではない。 こうして糸を自らの周りに張り巡らせておけば迂闊には手出しは出来ないはず。 なによりこのシールドマントを利用すれば、相手の戦法である剣術はまず通じない。 相手も慎重派であるのか、一旦身を隠してこちらの出方を窺っているのだろう。おかげで刺繍をする時間が生まれた。 (あの剣は能力とは無関係な所持品……私のマントと同じか) 明らかに普通の剣ではない。それはわかった。 結はあの剣にほんのわずか、消しきれない呼吸のようなものを感じていた。 刻訪結の身体能力は普通の中学生と大差ない。 それでも彼女が裏の社会で生きていけたのは、"操絶糸術(キリングストリングス)"の技術と、そのわずかな気配を察知する勘の鋭さによるものが大きい。 彼女が戦闘の最中に自分の体を縫う、という隙だらけの行動を行える事も何より彼女の感覚が優れていてこそである。 (……痛い、痛い、痛い、痛い、痛い) 刻訪結は痛いのが嫌いだ。 故にこの能力を使用する際、尋常ではないほどの精神力を必要とする。 普段ならば気が狂ってしまいそうになるほどの痛みを今、彼女はギリギリのところで耐える事が出来ていた。 それはマントと共にもらった、貫く力。 今は決して振り返らない。真っ直ぐに進む。そう決めた事で、彼女を正気を保ったまま刺繍を施せるようになっていた。 再び気配を感じる。強い殺気。 背後にいる!結はマントを翻す。 「ぐ……ッ!!?」 刻の辻斬りが背後にいたことは間違いではなかった。 しかしその剣の形は大きく変わり、背中側から回り込んでマントを避け、結の腹部を貫いていた。 剣が蠢く。何かがまずい。 そう察した結は"赫い絲"で結ばれた刻の辻斬りの力を発動させる。 刻の辻斬りと向かい合う形となった結は、たった今逃れた剣の形を見て恐怖した。 その剣先の形は、血によって赤く染まった人の手であった。 殺意を持ったその手から結は、自らの内臓がその手によって潰される様を想像してしまった。 しかし結はその恐怖をも振り払った。確実に彼女は成長していた。 「……」 刻の辻斬りは、結を見ていないようであった。 目こそ結の方に向いているものの、それはどこか遠くを見つめているようであった。 結は糸を引く。刻の辻斬りは姿を消す。 刻の辻斬りは剣を振るう。結は姿を消す。 瞬間移動は想像以上に疲労が激しい。刻の辻斬りはどうかはわからないが、結にはそれほど何度も連続しては行えなかった。 どちらにせよ結が能力を移しておけるのは約10分(酸素に触れた赤がやがて黒に近付くまで)。長時間の戦闘は不利。 しかし決定打もない。糸を引いても刻の辻斬りはすぐに姿を消してしまう。 結は覚悟を決める。そして、賭けに出た。結はマントを丸める。 「が、ふっ……!!」 その隙を突かれ、結は剣に貫かれる。内臓が抉られる。 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い。 それでも、貫き通す! 「……ッ!!」 結は直前に丸めていたマントを強く翻して広げた。中には手榴弾。 骨を斬らせて肉を断つ。今までの結には思いついても実行には移せなかった作戦だろう。 瞬間移動はしない。爆発はマントで防ぐ。それが出来るということは実験済みだ。 爆発までの時間はもはや見てから移動出来るほど残されていない。 爆風。 流石にそれはマントでは防ぎきる事は出来ない。結はマントを握りしめたまま風圧で転げた。 「えほっ……げ、はぁあッ……ぐぶ……ッ!!」 結は血を吐きだしつつも、爆発の跡を見る。 戦いが終わったか否か、それがすぐにわかるのが迷宮時計の戦いの長所であるのかもしれない。 どうやら死んではいないということがわかった。しかし少なくとも無傷ではいられないはずだった。 「……ッ……!!」 黒い煙の中、彼女は立っていた。 まるで何も見ていないように、何も感じていないように、何もされていないかのように、立っていた。 しかし、その剣の刃は、爆発の影響で黒くくすんでいた。 「その剣、盾にもなるわけね……冗談じゃないわ……」 いよいよ保ち続けてきた精神が限界に近くなった結はやや饒舌となる。 一方の刻の辻斬りの方はそれを気にもせずただ結の目の前に再び現れると、剣を振るう。 もはや結はかろうじて瞬間移動で逃れる、しかし。 「……!?」 結が逃げた先、既に彼女は存在していた。 逃げる間もなくマントを握りしめていた結の右腕は切り落とされる。 「あぁああッ!!」 刻の辻斬りは結を蹴り飛ばし、大きな木の下へと追い詰める。 結の戦意は、正気は、まだ消えていなかった。 私は、お父さんを連れて帰る。お母さんを連れて帰る。 このまま、真っ直ぐ貫いて。 お兄ちゃんを連れて帰る。真実を連れて帰る。 絶対に諦めたりなんかしない。 結は糸を構えた。 刻の辻斬りは、剣を構えた。 結は、誰かの声を聞いた気がした。 刻の辻斬りには、声は聞こえなかった。 ――― 「頭領……」 不安げな少女に男は何も言わない。そのまま再び少女に向き直る。 「儀式の最終段階だ。これがお前に奉げる札。読み上げよ」 「……"力合わせる 二百万"」 少女はその札に刻まれた一文字のひらがなから、その文章を読み取った。 それは紛れもなく、彼女に確かな呪力が存在する証。 男は力強く宣言する。 「今この時!そなたは"上毛早百合"の名を継いだ!グンマーと共にあらん事を!!」 ――― 戦闘空間、貫前(ぬきさき)神社。 "ゆかりは古し 貫前神社" "上毛歌留多"の読み札の通り、その神社は古くから変わらず上毛衆の儀式の場として使われている神社である。 もし、結がその事に気付いたのがこの瞬間でなければ、勝負はまだついていなかったかもしれない。ほんのわずかでも反撃の機会がまだ残っていたかもしれない。 結にとっては誰とも知らぬ声。それを呼ばれたのが"彼女"であったのかなどわからない。 だが、結の鋭い勘はそれを確信へと変えてしまった。彼女にはそれを聞き流す事が出来なかった。 それによって生まれた一瞬の隙(振り返り)。それは彼女の肉と骨を貫き、蛙の木に縫い付け赫い刺繍とするに十分な時間であった。 ――― ここは、どこだろう。 暗い、ただ、暗い、そのかわり、もう痛くない。 でも、誰もいない、何もない、見えない、聞こえない、感じない。 死ぬって、こういうことなんだ。 「……いやだよ……誰か、返事してよ……」 結はつぶやいた。すると、辺りが少し明るくなり始めた。 森だ。私は森の中にいる。 ――……結、なのか? 「……!」 ――おお、やはり結なのだな その声は、かつて聞いた事がある。 そう、それはつい先程、結がその"名"を聞いた一人の少女だった。 「……早百合……」 ――今は早百合じゃないのだ、アタシは×× 「……ここ、どういうこと……?」 ――結も死んでしまったのだな そうか、やっぱり私は死んだんだ。 でも、何故だか先程よりは辛くはなかった。 「……××、ごめん……私……あなたのこと……」 ――ふふ、××と同じ事を言っていますね 「……?」 ――ああ、彼女は**、アタシと同じグンマーの民なのだ。これからアタシ達はまたグンマーの民として生まれ変わるのだ 「……そっか……私は、これからどうなるのかな」 ――何を言っているのだ?結もこれからグンマーの民として生まれ変わるのだぞ? ……ん? 何だって? ――聞きましたよ結さん、その能力で一時的にグンマーの民になったんですってね? ――一時的にでもグンマーの民はグンマーの民なのだ。グンマーの民はまたグンマーの民として生まれ変わる運命なのだ 「……え?……ちょ、ちょっと待って、私は、え?」 ――つまり、あなたのお兄さんとはお別れですね ――家族とも友達ともお別れなのだ 「え……?」 結は後ろを振り向いた。 そこには両親が、一文字が、真実が立っていた。 ――君は確かに私達の娘だったよ ――体に気を付けてね、結丹 「パパ、ママ……何言って……!!」 ――元気でやるんだぞ ――グンマーでもしっかりね 「お父さん、お母さん……!?……ま、待って……!」 ――結ちゃん、いつかまた会えるといいね 「一文字……お兄ちゃん……ちょ、っと、やめてよ……!」 ――結丹ちゃん、ボクは大丈夫だから、向こうでちゃんと幸せになってね 「真実……!私は……!!」 守くんが、まっつんが、刻訪家の人間が、有為先輩が、学校の友人が、次々に私に別れのあいさつをしてくる。 どうして、なんで、なんでこんなことになってるの? 「待ってよ、私、グンマーなんて行きたくないよ?冗談だよね?なにかの冗談だよね?」 ――結丹 "彼"は、結にとって今一番聞きたい声で、今一番聞きたくない言葉をささやいた。 ――結丹、さよなら 「……あ……あ……ッ!!!」 ――さあ、結、グンマーの神が待っているのだ ――大丈夫、グンマーの神はあなたを受け入れますよ 「やだ、やだ、やめて!来ないで!!」 ――でもグンマーの神は ――裏切り者を許さない ――結には相応の罰が下るのだ ――でも大丈夫です。だって結さんはもう、グンマーの民なのですから 「嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」 その森にはもう、彼女達(グンマーの民)の他には、誰もいなかった。 ――― 刻の辻斬りは、殺す。 かつての親友を救うために。 刻の辻斬りは、殺す。 迷宮時計の戦いを終わらせるために。 刻の辻斬りは、殺すだけ。 人を殺した者は誰かを救えるのだろうか。 刻の辻斬りは、殺すだけ。 人を殺した者は誰かに救われるのだろうか。 その答えなど、知る由もない(神のみぞ知る)のである。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousurass/pages/55.html
準決勝第二試合 池松叢雲 名前 性 魔人能力 池松叢雲 男 統一躯 バロネス夜渡 男 ブラディ・シージ 採用する幕間SS なし 試合内容 富山県水晶岳・杉原宗義鉱山。 富山県独立に寄与したドワーフの聖人、杉原宗義大佐を記念して掘られた鉱山―― というより、近隣の富山県民にとっては聖域のようなものである。 いまでは全ドワーフ企業の日本撤退によって打ち捨てられ、 顧みるものもなく、ただドワーフの旧式電気灯が衰えた光で照らす坑道であるという。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ バロネス夜渡は、吸血鬼ではない。 吸血鬼に特有の、闇を力に変える力も、暗視力もあるわけではない。 しかし、坑道の闇が秘めた沈黙は、確かに彼の神経になんらかの力と、 高揚をもたらしているように思えた。 (池松叢雲に、アタシが勝てる理由はいくつかある) 狭い坑道だ。 壁際に点々とともる、ドワーフの電気灯が橙色の光を投げかけている。 歩くバロネス夜渡の影が八方に伸びていた。 (理由ひとつ、あいつの能力は、操作タイプの中でも極めて弱い部類に入る。 決してアタシの能力より強くない) 池松の能力でできることのほとんどは、バロネスにもできる。 能力を応用した自己身体操作ならば、バロネスも当然のように練習を積んでいるし、 かなり精密なレベルで制御できる自信がある。 問題は、あの異常な英語だが―― (理由ふたつ、あいつの英語は、この坑道内部ではまともに使えない) 池松の英語は強烈すぎて、崩落の危険が常に伴う。 一方でバロネスの『飛行』というアドバンテージもある程度制限されるが、 相殺というには、池松の不利が大きすぎる。 それでも、あの男ならば打ってくるだろうか? 賭けのような一撃を? いや―― (そして理由みっつ。あいつはアタシ相手じゃ、きっと本気になれない) バロネスは強靭な肉体を持つバウンサーだが、決して戦いの技を収めた者ではない。 経験上、ああいう手合いは、そういう『素人』を相手に全力で当たれない。 どこかでこちらの手を見たがり、また、どこかで技を緩める。 (最悪でも互角以上。なのに、この嫌な予感は?) これもバロネスの経験上の話だ。 オカマの直感は、当たる。 (直感だけで戦って、勝ち負けするなら世話ないわね) バロネスは電気灯の下を、決して店では露にしない真剣な顔で歩く――。 そして、急に視界が開けたと思ったとき、その男はそこにいた。 ・・・・・・ それは、いくつもの坑道が合流する、広間のような場所だった。 ある程度、派手に格闘するにも向くだろう。 いくつもの電気灯が、殺風景なその空間を照らしていた。 「来たか(kit-tacker)」 池松叢雲は組んでいた腕をとき、鳥面の奥の目を開いた。 すでに自然体である。 この炭鉱内部にこもった熱気の中でも、汗ひとつかいていない。 上半身は裸であり、よく鍛えられ、絞られた筋肉が露出していた。 おそらく、と、バロネスは思う。自分の能力を警戒したのだろう。 衣服を操られることを。 「バロネス夜渡。待っていた」 「……あらら、待たせて悪かったわねぇ?」 バロネスはことさら冗談めかして答えた。 この広間に踏み込んだ瞬間から、異様な緊張感の高まりを感じていた。 それを外すための、あえて道化じみた受け答えだった。 「どうしたの? ずいぶんやる気じゃない。 そ~んなにアタシに会いたかったワケ? 照れるわ!」 バロネスは見るからに滑稽であろうしなを作った。 が、池松叢雲は微笑すら浮かべなかった。 池松が真に何かを決意したのなら、話術や虚勢でそれを揺さぶることはできない。 ――《統一躯》の、自己精神操作。 「操作能力者だそうだな。ああ――会いたかった(I-it-a-tacker)」 池松は静かに肯定する。 「いま、ここで、お前を克服する。ささやかなprideだ。 そうでなければ、俺は先に進めそうにない」 彼は片手を挑発するように差し伸べ、そこで初めて笑った。 「お前にとっては迷惑な話だろうな」 「……まったくよ、もう」 バロネスは心の中で毒づいた。 ひとつ、計算外ができた。自分に大しては、本気になれないだろうと思っていた。 それが最大の、致命的な弱点だと。しかし―― この男に一回戦でなにがあったか知らないが、この異常な、肌がひりつくような闘志。 この炭鉱内部の暑さのせいだけではなく、じっとりと汗が滲んできそうだ。 「誘ってもらうなら、もっと華やかな舞台でお願いしたかったわぁ。 でも、まあ」 もしかすると、池松の闘志に触発でもされたのだろうか、自分は? 強烈な精神が、他人に影響を及ぼす。そういうこともあるかもしれない、と思った。 「アタシも、アナタみたいな人を乗り越えておきたかったの。 負けっぱなしも癪だから、ね!」 「いや、まったく(year-mad-tack)」 そして、バロネスと池松の影は、衝動的に動き出した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 互いに、激越した一撃であった。 池松の放った直突きを、バロネスは大きく身体を傾け、手を添えてそらした。 そして傾きながらも、返礼のフック。 こちらは池松がダッキングで回避し、旋回しながら回し蹴りを放つ。 「――吹ッ(foot:「足」という意味の英語)」 「わお」 バロネスは軽く悲鳴をあげ、後方へ飛ぶ。その身体をとらえ損ねた。 迅い。 池松はバロネスの動きを見て、静かに判断する。 そして動作が異常だ。 格闘攻撃には、その予備動作として最低限必要な体勢というものがある。 上半身で回避しながらのフックならば、ある程度は威力を犠牲にしなければならないし、 フックを放った直後の前傾姿勢からすぐに後方へ飛ぶ、という回避の仕方はまずない。 (やはり操作系……だな。彼と似たタイプの) 池松は己の能力を知っている。 操作系の中でも、おそらく最も弱い部類に属するだろう。 大抵のサイコキネシスの使い手ならば、習熟すれば自分の肉体に 物理法則を無視した動きをとらせることはできる。 そして、バロネスは血の付着した物質を操ると聞く。 おそらくは自分自身の肉体を、血流が浸透していると認識して操作しているのだろう。 この異常な動きは、それだ。 つまり、池松の能力に、限定的ではあるが周囲への影響をプラスしたものが バロネス夜渡の能力であるといえた。 そして英語は、威力の高いものは使えない。 崩落の危険性があり、そのような捨て身の戦いで勝利したとしても、池松には納得ができない。 完全な形での勝利だ。それをこそ、池松叢雲は求めていた。 結果、攻撃の補助としての英語にしかなりえない。 速度、反射力、それらを総合した身体能力では互角。だが―― 「疾ッ(shick 「病気の」という意味の英語)」 「あら」 池松の貫き手――をフェイントに使った、さらに身体を旋回させての足払いが、バロネスの体勢を崩した。 バロネスは自分の身体を後方へ飛ばして緊急回避を行おうとする。 だが、それよりもさらに速く踏み込んだ池松の裏拳は、その鼻先を打った。 身体能力が互角ならば、技の分だけ池松が勝る。 ぶっ、と、バロネスの鼻腔から血が噴出し、さらに池松の回し蹴りがその身体を吹き飛ばす。 「グワーッ!」 異様な悲鳴を発したバロネスはゴム球のように吹き飛び、土を固めた壁面に叩きつけられる。 彼は血の滴る鼻を押さえながら、しかし、すぐに身体を起こした。 「は、鼻いったぁ~い…… やってくれるじゃないの。 オカマの顔を殴るなんて!」 池松はにやりと笑うバロネスの表情から、ダメージを観測する。 直撃が入ったのは、裏拳だけだ。回し蹴りは自分から後方へ飛ばれ、ほとんど軽減されてしまった。 「ま、そりゃ身体能力が互角でも、ステゴロの接近戦だとちょ~っと分が悪いわよね~。 ってわけで」 バロネスは鼻からの血を撒き散らし、地面を蹴った。 電気灯の下、薄ぼんやりとした影が躍る。 「第2ラウンドね」 ざざざっ、と地面が蠢いたような気がした。 バロネスが血をこぼした地面から、いくつかの石の礫が浮かび上がる。 「《ブラディ・シージ》……一本入れといたわ」 石礫は、生き物のように飛んだ。 バロネスはそれを追うように地面を蹴った。身体操作の圧倒的速度である。 「そう(so:「そう」という意味の英語)。それだ」 池松は自然体に構えた。 飛んでくる石の礫を、拳で弾き、あるいは身体を傾けてかわす。 いくつかの礫がかすめ、皮膚を浅く裂いたが、これは牽制にすぎない。 そしてバロネスが直進しながら放つ右の貫き手を捌くべく、右手を差し出し―― それがフェイントであることに気づくのは、一瞬遅れた。 「hum(感嘆詞。特に意味はない)……」 さきほどの、池松の見せたフェイントとまったく同一の動きだった。 貫手を囮にした足払い。これを回避し損ね、体勢の崩れたところに裏拳。 池松が鼻から血を噴出し、バックステップで後退するところまで同じだ。 「……どう? なかなか上手でしょう」 バロネスは池松を追撃しない。 池松を挑発するように、彼とまったく同じ自然体に構えていた。 技を盗まれた。 もっとも驚くにはあたらない。 一度見た動きなら、それとまったく同じように身体を操作すればいいだけだ。 「このくらいは、操作タイプなら練習しとかないとね」 「やれやれ」 池松は鼻腔から流れる血をぬぐった。 「いつもなら、『まっすぐ行く』と答えるところだが」 身体能力で互角。 技でも、互角に並ばれるだろう。 そして力。場所が悪い。こちらは最大の武器の英語が、ほとんど封じられている。 接近戦で不利、遠距離戦闘ではより不利だ。 ならば、とる道は一つ。 「今日の俺は、信念を通すためでなく、勝つために来ている。 悪いがな。英語にはこういう言葉がある……」 池松はわずかに腰を落とした。 そして前へ――ではなく、後方へ飛ぶ。 「逃げるが勝ち(niger-Luger-cut-in)」 「あ!? ちょっと!」 (この能力に打ち勝つこと) 池松はバロネスが怪訝そうに眉をひそめるのを見た。 (それができずして、最強の一打に近づくことができるものか?) そしてさらに後方へとべば、そこには一台の長方形状の物体がある――棺桶にも似ていた。 トロッコであった。レールの上に鎮座している。 「追ってこい。バロネス」 池松はトロッコを蹴り飛ばし、同時に飛び乗る。 「俺を始末するなら、ここがいいだろう?」 「へぇ……」 動き出すトロッコを一瞥し、バロネスはふわりと宙に浮いた。 《ブラディ・シージ》を応用した、空中飛行能力である。 トロッコの移動速度程度なら、追える。 どうやら、あの池松が何かを意図しているらしい。 だが、それならば、バロネスにも考えはある。 事前の地形説明を受けた時点で、そこに辿り着けば勝利できると思った。 「面白いじゃない。乗ってやろうじゃないの!」 加速が始まった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ トロッコはどうやら半電動式のようで、加速がついた後は時速百キロ程度で走り始めた。 それでも、バロネスの飛行速度で追えないスピードではない。 レールに沿って、電気灯が点々と先を照らし、それにつれて高速で影が流れる。 (いっそ幻想的だわ。……この暑ささえなければ) トロッコの走行路には、さきほどまでの通路以上の熱気が満ちている。 バロネス夜渡は、加速しながらトロッコに追いすがり、片手に握った鉄片を構えた。 鉄片は刃状に形成されている。 道中、《ブラディ・シージ》により、血液を付着させた鉄鉱石を操作し、削りだしていた。 生半可な不意打ちは池松に通じるとは思えなかったが、ある程度の助けにはなるだろう。 すぐに、ゆれるトロッコの上で屹立し、腕を組む池松の姿が近づいてくる。 バロネスは、ふと会話をしたい気分になった。空中を併走しながら隙を窺う。 「池松。アナタって、あの男に似てるわ」 「誰のことだ?」 「裸繰埜。闇崎」 「あの男を、知っているか?」 不意に、池松の鳥面がめくれ上がり、何か異質な獣が顔をのぞかせたように思った。 笑ったのだ、と、少し遅れて気づく。微笑ではなく。 「面白い(on-moss-ill-roy:「面白い」という意味の英語)。 やつはどこにいる? やつはお前に何か言っていなかったか?」 「……知らないけど」 隙はない。当然か。池松叢雲は、やはりあの男に似ている――。 ゆえにバロネスは攻撃を決意した。 「そろそろ、いくわよ」 バロネスは加速しながら上半身を捻った。池松は腕組みをとき、つぶやいた。 「いつでも構わん(it's-demo-come-one:「いつでも構いません」という意味の英語)」 「あ、そ~う?」 バロネスはことさら軽く答えた。 そして、加速しながらの――空中回し蹴りである。 池松はこれをスウェイと、手の甲で逸らして捌く。即座に反撃。 「渇ッ(cut:「切る」という意味の英語)」 低く抑えた英語の拳は、高速のトロッコが生む風に流され、さらに大きく威力を減じていた。 バロネスは空中の急減速と、旋回でこれを回避。 それでも、かすってはいたらしい。額の付近がぱくりと切り裂かれ、血を噴出す。 「……あらら」 吹きだした血は、速度と風に流され後方のレール上に置き去りにされる。 (こういう形で、アタシの能力を凌ぐつもり? そして双方の体勢が違いすぎて、技を盗まれるのも防げる。 悪くないけど) バロネスは、額の血を指にとる。 (甘いわ。こっちには遠隔攻撃もある!) 《ブラディ・シージ》の応用のひとつだ。 血液そのものを操作して飛ばす。弾丸のように―― 「なるほどblood…か。参考になる」 池松の右腕が、その一瞬、鋭く翻った。 何か打ち出した。バロネスには、そのようにしか見えなかった。 ――かわしたと思ったが、『それ』は空中で軌道を変えた。 びすっ、と、左の肩に何かが直撃する感触がある。 「……ちょっと……人の十八番を簡単に盗むなんて、ひどいわ、ね」 何かに貫かれたような痛み。 バロネスの放った血の刃はかわされて壁に突き刺さり、トロッコのスピードに置き去りにされる。 「血液操作はこっちも特技の一つだ。 飛ばした空気中の血液を、自分の身体の一部として認識する。 お前の能力を見て考えついたが、やってみれば不可能ではないな」 池松は血のしたたる右腕を掲げてみせた。 その血流を操作して、弾丸のように高圧で飛ばしたのだ。 そして、空中で動かす。 (遠距離攻撃……この男が? やっぱり) 池松のなにかが、変わったらしい。まだ強くなっている。 バロネスはその変化をこそ恐れるべきだと感じた。 池松は鳥面の奥で微笑した。 「来い。その距離からでは、俺の命には届かない」 「……上等じゃない」 挑発されている。それがわかったから、バロネスにも火がついた。 相手を戦士に変えるような何かが、この男にはある。 「届かせてやるわ」 バロネスは右手に即席のナイフを握りこみ、鋭く加速しながら、池松へ切りつける。 頚動脈。 かっ、と、空気が異様な音をたてて裂けた。 「……!」 池松は上半身を大きく倒して、刃の閃きをかわす。やはり見切られた。 しかし、その時点でバロネスは目的を達成していた。 柄もない刃を握り締めたのだ。びゅっ、と血飛沫が流れ出て、トロッコの縁を濡らした。 バロネスの攻撃は、相手を傷つけるだけではない。 自分を傷つけることでも、戦況を有利にすることができる。 池松は、自分を始末するなら『ここ』と言った。 高速で走るトロッコの上。 なるほど、ある程度はバロネスの能力を牽制できるが、トロッコそのものを動かす場合、不利は池松の方だ。 この男には空を飛ぶことはできないのだから―― それを承知で、ここでの戦いに挑んだということは、このトロッコの向かう先に何かがあるということだ。 (なにかの策があるってわけね? ……阻止するのなら、いま、ここで倒すに限る!) バロネスは、自分の血が付着したトロッコに意識を集中した。 前方へのみ力のベクトルが向かっている物体である。 動かすならば、側面から――唐突に強い力をぶつけてやることだ。 そして、集中した瞬間。 「……いくぞ」 池松の身体がバネ仕掛けのように俊敏に跳躍していた。 能力使用の瞬間というのは、操作型にとって最大の隙の一つだ。 特に、他者操作を手動で行うタイプは、いわば『チャンネル』の切り替えが必要となる。 ――自分の肉体を動かすのと、糸で人形を操るのは、まったく別の作業である。 池松の唐突な跳躍が、攻撃を目的とするものでなかったこともまた、 バロネスの回避を遅らせる原因のひとつとなった。 池松は空中のバロネスの足に飛びついた。 (うわ、マジ? こいつっ) バロネスは足を振り回すような中途半端な蹴りで、それを迎え撃とうとするしかなかった。 池松はその一撃をあえて受け、同時にバロネスの足首を捕える。 密着しての打撃戦闘。 それこそが池松の意図したものだった。 「打ッ(duck:「あひる」という意味の英語)」 バロネスの足首を支点に、遠心力をくわえて大きな回し蹴り―― これは、バロネスがブロックしている。 腕が痺れはしたが、ダメージはない。 英語を流して《経絡(K-luck)》を乱す打撃も、身体操作の可能なバロネスには効果が無い。 だが―― 唐突に重量と衝撃を加えられ、バロネスは体勢を崩す。 加速がついていた。 「Coooooo――!」 静かなバイリンガルの呼吸が、肌を粟立てるように響く。 トロッコは激しい騒音を立てながら、彼方へ走り去り、池松は一撃を放とうとする。 (こんな速度で体勢崩したら、どっちも共倒れだっつーの!) バロネスは心の中で罵倒しながら、必死で安定した体勢を探そうとする。 しかし、スピードがありすぎる。 「――打ッ(duck:「あひる」という意味の英語)」 そして池松はブロックしたバロネスの腕をつかみ、 今度はショートフックで顔面を打とうとしてくる。 辛うじての防御。やはり速度は互角だ。池松との攻防に集中しなければ、やられる。 ゆえに、飛行の慣性を殺しきれない。 「――――打!(duck:「あひる」という意味の英語)」 池松は続けざまに身体を捻り、至近距離からバロネスの首筋に貫き手を放つ。 「な」 バロネスは首の皮一枚で貫き手を捌きながら、目の前の鳥面の男を見た。 鳥面の奥。落ち着き払った青い目は、狂気を孕んだ気がして仕方が無い。 「落ちるわよ? なに考えてるわけ、アンタ?」 たずねると同時に、ナイフを池松の腕に突き刺そうとする。 「お前を倒すということ。そして」 突き出されるバロネスのナイフを捌き、返答と同時に打撃。防御。 「一撃」 池松は、短くつぶやき、それを繰り返した。 「一撃、一撃、一撃、一撃、一撃、一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃。 それだけだ」 「こ、この」 バロネスは姿勢制御を諦めた。ダメージを緩和することに集中する。 もはや加速して、どこかに着地、いや――落下した方がいい。 「狂人め! ザッケンナコラー!」 暗黒の地面が迫る。いや、これは坑道の一種か、洞穴か? ちょうどいい。頭を切り替えろ。次だ。 (第3ラウンド!) バロネスは、落下しながら己の手首にナイフを滑らせた。 いずことも知れぬ洞穴の暗がりに、落下していく……。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 吹きだした鮮血は、ある程度のところですぐに止めた。 血液を固めて傷口をふさぐのは、血液使いにとって基本中の基本だ。 (でも、ちょっと貧血ね) バロネス夜渡は、闇の中に起き上がる。 完全な暗闇。 電気灯ひとつもない。 目を凝らしても、吸血鬼でないバロネスには完全な闇を見通すことはできない。 ただ、地中特有の熱気と、かすかな風の流れを感じる。 どこか、とても遠くの方で風のうなる音。 (ここ、どこかしらね?) トロッコの運搬領域からさらにはずれた、通常の坑道でないどこか。 天然の洞穴空間か、すでに廃棄された区域ならばこんなものかもしれない。 (どこだっていいわね、こうなったら) バロネスは己の身体を操作し、物音を立てさせないように努力しなければならなかった。 池松も、この暗闇の領域のどこかに落下したはずだ。 こうなった以上は、先に居場所を特定した方が勝つ。 心臓の鼓動ですら、相手に存在を知らせる手がかりになりそうに思えた。 呼吸を細め、身体機能を抑制していく――一方で感覚は研ぎ澄ます。 そういうことに関しては、あっちの池松の方がはるかに有利だ。 (……けど) バロネスは能力を起動させる。 《ブラディ・シージ》。 周囲に飛び散ったはずの血液を操作する。 まるで身体の延長のように、暗闇でもそれらはバロネスの意志に答える。 闇の中になにがあるかわからないため、地面の石や砂などは認識できずに操れないが、 確実にそこにあるとわかっている自分の血液ならば…… (それでも、アタシが勝つわ。この状況ならね。 そうじゃなきゃ先に進めない。そうでしょう、池松?) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 落下する地点に、確信があったわけではない。 (どうだ?) 池松は完全な暗闇の中で、ダメージを確認する。 (やれるな?) どこか骨に亀裂が入っているだろうか? 折れているだろうか? だが、関係は無い。バロネスを倒す。それだけだ。 池松は己の未熟に思いを馳せる。 バロネスに密着したとき、あのときに勝負を決しているべきだった。 打撃はすべて阻まれ、決着を逃した。 (未熟だ) 速度が足りなかった。技術が足りなかった。 力が足りなかった――ガードの上から叩き込める一撃ではなかった。 英語なしではこんなものか。 真の英会話者ならば、彼を笑っただろう。 『言葉がなくても伝わるのが真の英語』だと。 (それでも、勝つ。でなければ先へ進めない。 そうだろう、バロネス夜渡?) 池松もまた、先に相手の位置を特定した方が勝つ、ということを知っていた。 身体活動を抑制し、一方で感覚を研ぎ澄ます。 《統一躯》。 ――その耳に、かすかな水音が聞こえてきた。 (blood……) バロネスの能力に思い至る。 血が滴る音だとすれば、それは彼の囮か……いや。 血液の滴る音は、増えた。 二箇所。三箇所。そして増え続ける。 中には、ゆっくりとこちらに近づいたり、遠ざかったりする水音もある。 すぐにその音は、びすっ、びすっ、と地面を貫くような音に変化していく。 (無差別攻撃か) 血液を弾丸のように操り、地面を、壁を撃っている。 まだ少し遠いようだが、いずれは自分のいる位置に届き、撃ちこまれるだろう。 そうなったら、たとえ《統一躯》でダメージによる肉体反射を無視しようが、 この射撃音の変化で位置を特定され、あとは集中砲火が待っている。 いわば、ソナーの亜種だ。 コウモリのように音の反響で位置を探り、標的を襲う。 (いいだろう) 池松は、意識を尖らせる。 闇の中だからかもしれない。通常の状態を超えて、感覚が冴えていく。 (一撃だ。聞くがいい) 池松は静かに《統一躯》の制御に意識を集中させる。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (こうやって無差別に攻撃していけば) バロネスは血液を精密に操作しながら、 闇の中にいるもう一人の男のことを考える。 (あの男も、焦ることがあるのかしら?) 血液が壁や床を打つ音にあわせて、少しずつ移動してくるかもしれない。 そのため、ランダムなタイミングで血液の射撃を行う必要があった。 そしてこちらの位置の特定を防ぐため、範囲も分散せねばならない。 時間はかかるが、確実にしとめるためだ。 (いずれにしろ) バロネスの血液は静かに池松へ迫っていく。 (これでチェックメイト――え?) 不意に、バロネスは右腕に触れてくるなにかを感じた。 錯覚? 違う。 ほんのささやかな、この感触は。 (これ――) ぎりっ、と、右腕に触れてきた何かが、急に生き物のように動いた。 強くからみつき、バロネスの腕を締め付ける。 (これは!) バロネスは右腕の何かに触れたとき、背筋に戦慄が走った。 彼の腕に絡みついたのは、どうやら髪の毛のようだった。 (髪の毛まで操作するわけ? そ、そりゃそうか――身体操作!) そして次にバロネスは聞いた。 それは、闇の中から迫るバイリンガルの呼吸であった。 「――Cooooooooooooooooo――――」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (見つけた) 池松は髪の毛を急速に伸ばし、バロネスの居場所を探っていた。 熊野ミーコの触手操作、そして日谷創面の裁縫術から 思いついていた技法であった。 《統一躯》には、さらに洗練の余地があることを、池松は常に意識している。 (いくぞ) 池松は身体の力を抜く、 そして――鳥面を外し、少し遠くへ放り投げた。 かぁん、と、離れた場所で音が木霊する。 バロネスが本気で引っかかるとは思えない。牽制だ。一瞬の。 闇の中ではあったが、その相貌が露になる。 黒い瞳。 そして、その顔立ちは、ほぼ典型的なアジア人の特徴を備えていた。 (英検は一瞬。一閃。そして一呼吸だ。その、本当の意味を) とん、と、池松は跳躍した。ごく軽く。ほんの少しだ。 それでもバロネスは彼の位置に気づくだろう。 だが、気づいたときにはもう遅い。 これは、そういう英語だ。 (教えてやる) その瞬間、池松の瞳が闇の中で青く輝き、 顔の彫りがローマ人のごとく深くなった。 英語が発声される。 『 雷 神 (rising)』 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ――それは、とても池松の得意とする破壊的な英語と呼べるものではなかった。 短い音節。静かな抑揚、アクセント、声量。 しかし、それは洞穴内部の壁を、天井を、地面を、激しく反響して、 バロネスの鼓膜の奥に突き刺さる。 (衝撃……? いや、音……!?) バロネスは、その瞬間、完全に平衡感覚を失った。 決して破壊的な英語ではない。 しかし、その衝撃。 池松の英語は、ただの英語ではない。 敵を倒す。 その目的のためだけに鍛え抜かれた、特別の発声による英語だ。 (やばっ……!) 狭い通路を反響した英語は、echoにechoを生み、膨張し、バロネスの鼓膜の奥を直撃した。 危機を感じたバロネスは、《ブラディ・シージ》の最高速度で 後方へ離脱しようとし――そして失敗した。 手動操作タイプの、もう一つの欠点が、ここにあった。 操作には、対象をどの方向に、どのような力で動かすのか、明確なイメージが必要となる。 平衡感覚を麻痺させられるようなケースでは、操作の失敗は必然といえた。 (迎撃、いや、き、緊急回避っ……!?) とにかくどこか別の方向へ逃げようとしたが、その右腕にからみつく、 池松の髪の毛がミシリと張り詰めた。 その動きをさらにもう一瞬だけさえぎる。 そこまでであった。 仮面を放り投げて意識をそらした一瞬。 音の衝撃で平衡感覚を奪った一瞬。 髪の毛で移動を封じた一瞬。 三つの一瞬が、池松に接近の機会を与えていた。 「グワーーーーッ!!!」 ――次の瞬間、バロネスは激しい英会話の衝撃とともに、 どこかに叩きつけられる自分をはっきりと意識できた。 (迅い…… こんな英語が……) 英語の衝撃がきて、平衡感覚が失われた、と思ったら、一撃を受けていた 周囲に散らせた血液で迎撃する暇もなかった。 意識が速やかに黒い何かに押しつぶされる。五感が朦朧とする。 (なにこれ?) 黒い――何かの只中に浮いている。 ちか、と、池松の青い片目が輝いて見えた。 青い。青い――いや、青すぎる。違う。瞳ではない。 (これは……まさか……) ――地球――である。 暗い闇の宇宙に浮かぶ、太陽系の紺碧の宝石。 人類の、いや、すべての生命の源。 英語を覚えれば、その数およそ七億五千人―― この美しい地球の四分の一の人々と会話することができるのだ――。 (男性も、女性も、ニューハーフも、老人も若者も子供も吸血鬼も―― 皆、そんな立場には関係なく――) 英語の前では、すべてが英会話者となるのだ――。 バロネス夜渡は、そんな光景を幻視しながら、意識を手放した。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ (最速の一撃を――最速の英語を) 池松は伸びすぎた髪の毛を振り乱し、片足を引きずりながら、坑道を歩く。 左足は完全に砕け、骨が膝や足首から突き出している。 右腕も似たようなものだ。筋繊維が爆ぜ、骨まで露出していた。 肉体の限界を超える、《統一躯》による最速の英語の代償だった。 (半分以上が幸運だった。 地の利と、相手の戦い方) 暗闇の中だ。 あともう少し狭い空間ならば、バロネスの血の拡散射撃が 自分のところに到達していただろう。 それともあれが開けた空間ではなく、もっと遮蔽物が多ければ? 直進しての高速の英語の一撃は不可能であり、 接近する前に《ブラディ・シージ》で迎撃されていたはずだ。 (まだだ) 池松の彫りの深い相貌から、汗が流れる。鳥面はない。 その顔が、ゆっくりと……軋みながら、アジア人のものへ変容していく。 (未熟だ、俺は。あの『一撃』にはほど遠い) 池松は砕けた足をひきずり、腕をかろうじて肩からぶらさげながら歩く。 (一撃……だ。 一撃、一撃、一撃、一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃……) ぶつぶつと呟きながら、池松は電気灯が照らす、闇の坑道を歩いた。 (新しい面が必要だ) 【バロネス夜渡:昏倒にて戦闘不能】 【池松叢雲:一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃】
https://w.atwiki.jp/dangerousurass/pages/54.html
準決勝第一試合 意志乃鞘 名前 性 魔人能力 裸繰埜闇裂練道 男 永劫 糺礼 女 この胸にキミを抱きしめたい 意志乃鞘 女 HERO DESTINY 採用する幕間SS 【HERO WORLD】 (礼と魔法少女について話したり、女神様と握手をしました) 試合内容 ● ――『HERO DESTINY』 それはヒーロー補正を与える能力。ヒーロー補正は、設定やシチュエーションによってヒーローに本来持つ以上の力を発揮させ、場合によっては不可能を可能にもする。 これを極めれば『○○だからしょうがない』の境地にたどり着くという。 さて、つまりは「世界」によって「運命」が変わる能力ともいえる。 ではもし逆だったら? 「運命」によって変わる「世界」とは――? ● 女神の力によって転移した意志乃鞘は周囲を確認する。 辺りには不法投棄によって捨てられた大小様々なゴミが所狭しと積みあがっている。 「ついに……ここまで来たか」 彼女が見据える先には、スクラップやどこからか持ってきた兵器で武装された巨大な塔があった。 あの場所にこそ――倒すべき巨悪がいる! 「いざ、往かん!」 そんな彼女を、1体の野良アキカンが物陰に隠れて観察していた。 「メ、メカ~! これはあのお方に報告しなくてはいけないメカー!」 ● 場所は変わって、実況席。 この試合の司会と実況を務める結昨日司と木村沃素は目を丸くしていた。 それもそうだろう。これから試合が始まると思ったのに、そうとは思えない映像が流れてきたからだ。 「えっ――えっ?」 「なんですか、この『これから敵の基地に乗り込んで決戦だ!』と言わんばかりのクライマックスストーリーは……!?」 「あ、司くん! 今のアバンだったようですよ!? オープニングが始まりました!」 「オープニング!? オープニングってなんですか!?」 困惑する2人を置いてきぼりにしながら、モニターには歌と編集された映像が流れ始める。 暗き闇を 切り裂く 聖なる刃が 唸りを上げる 希望の ファイター! 燃える想いが 叫び 熱き血潮が 体が巡る 究極の エナジー! たとえ 挫けて 折れたとしても その足が 地を踏みしめてる限り 負けはしないのさ! Oh! Oh! いざ進めやレッツゴー! 戦いのゴングは 鳴らされた! Oh! Oh! 吼え叫べパッション! 最高のバトルは この後だ! いくぜ ガイアファイター! アクス! アクス! アクス! ガイアファイター・アクス!! 「――」 「あ、私これ知ってますよー」 「えっ!?」 何がなんだか分からないといった様子の2人に助け舟を出したのは、横から見ていた女神だ。 「これはテレビでやってるヒーロー番組、『ガイアファイター・アクス』のオープニングですね。すんごい面白いんですよー。今は序盤に仕込まれた伏線がどんどん明らかになってるとこで、毎週毎週が見離せないというか――」 「あ、いや、問題はそのヒーロー番組のオープニングが何故流れているかということなんですけども。……司くん、チャンネル間違えました?」 「間違えてませんよ!? これは確かに裏トーナメント第二回戦第一試合の映像です! ――自信無いですけど」 「あ、Aパートはじまりますよー。わーい」 ● 意志乃鞘はついに悪の組織『カオスノワール』の本拠地を突き止めた。 その場所こそが、今彼女のいる島。いつからか不法投棄物が集まるようになった、通称『惨骸島』。 彼女は戦いに終止符を打つべく、単身この島に乗り込んだのだが……。 「くっ、さすがに本拠地……! 守りも厚いな……!?」 彼女の前に現れるのは数々の雑魚戦闘員。 捨てられたアキカンが怨念その他諸々で魔人化した野良アキカンや、その辺に捨ててあったゴミで武装したスクラップモヒカンが行く手を阻む! 「ヒャッハー! こいつをやっつけてボスに褒美をもらうぜー!」 「メカー! 我らスクラップの安寧の地を乱させはしないメカー!」 尤も雑魚戦闘員というだけあって弱い。 1発か2発殴ればそれだけで十分倒せる。しかし、数が多いのは何より問題だった。 倒しても倒しても次々に湧いてくる為一切気が抜けない。モヒカンどもはガスバーナーを改造した火炎放射機や、電子レンジを改造したマイクロウェーブ波などで武装してるから尚更だ。 「汚物は消毒だ~!」 「お前は電子レンジの中に入れられたダイナマイトだー!」 鞘は己に向けられた火炎放射やマイクロウェーブを華麗な体捌きで避けると、一気に懐へと入る。 「まったく、こんな場所で火を使うんじゃない!」 モヒカンの持つ火炎放射機を蹴り飛ばす、と蹴り飛ばした先にはゴミから発生したガスが溜まっていたのか、それに引火して大爆発を起こす。 「ヒャッハー!?」 「メカアアアアア!?」 爆発は連鎖を起こし、辺りを吹っ飛ばす。勿論、アキカンとモヒカンも纏めてだ。 鞘も爆発に巻き込まれるが、爆風を利用して敢えて吹き飛ぶことでダメージを最小限に抑えていた。 空中でくるりと1回転し、一際高いスクラップの山に着地する鞘。眼下ではアキカンとモヒカンが爆炎に巻き込まれる阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。 熱で暖められた事によって発生する風で揺れる前髪を手で軽く押さえながら、鞘は現状を確認する。 「雑魚はだいぶ片付いた……か?」 ――これで本拠地であるジャンクバベルに行くのが楽になりそうだ。 そう考えた刹那、自身を射抜くような殺意をその身に感じた。 いや、射抜いたのは殺意だけではない。咄嗟にその身を捩った彼女の脇を弾丸が通り抜けていった。 「これは――!?」 鞘は知っている。 この弾丸を放った者を。 だが、認めたくはない。彼女が自分に銃を撃つだなんて――! そんな希望を打ち砕くように、未だ消えぬ炎が襲撃者の姿を明るく照らした。 「さすが意志乃――そう言うべきかな?」 「糺礼――! 何故、君が!?」 スーツを着た長身の女性。その右手には硝煙が上る拳銃が握られている。 彼女こそ糺礼。かつて戦い、そして永久の友情を結んだ筈の仲間――! 「糺礼? ……違うな。糺礼は――死んだ」 「な、何を言っているんだ礼君!」 「今の私は――」 礼が拳銃を上空へ向けて発砲する。 しかし、放たれたのは銃弾ではなく光の帯。彼女の頭上に展開された光は、重力に従うように落ちていき礼を包む。 彼女を包む光の繭が消えた時、そこに居たのは―― 「私は、魔法少女ちゃーみんぐ☆レイちゃんだ!!」 ふりふりの衣装を身に纏った魔法少女だった――! ● 「ちゃーみんぐ☆レイちゃん……だと……!?」 鞘の表情が驚きに染まる。 それもそうだろう。今、彼女の視線の先にはピンクを基調とした実に可愛らしい魔法少女――の格好をしたお姉さんがいるのだ! 花が散っていたりキラキラとした光を纏っていたりすれば「あぁ、ちょっと年齢高めの魔法少女なんだな」で納得できたかもしれないが、そんなことはなく、辺りには炎と煙が渦巻いていた。 鞘が知っている限り、礼はそのような格好を好む女性ではなかった。真面目で、クールで、煙草の似合う大人のかっこいい女性――! 「礼君、君に一体何があったというんだ――!?」 「ふ、意志乃――君には分からないだろうな」 ちゃーみんぐ☆レイちゃんが魔法のロッド『しぐ☆ざうあー』を構える。 レイちゃんがロッド下部に付けられたスイッチを押すと、羽の意匠が施されたロッド先端部からマジックショットが放たれた! 慌ててステップすることで、それをなんとか避ける鞘。 「これただの銃撃じゃあないか……!?」 「違う! 魔法の力を使ったマジックショットだ!」 「思いっきり火薬に臭いがするぞ!?」 そんな抗議の声を封じるように、レイちゃんがロッド先端部を鞘に向ける。 鞘が黙ったのを確認してから、レイちゃんが再び口を開いた。 「私はな――魔法少女になりたかったんだ。憧れていた、といった方が正しいか」 分かるだろう? とレイちゃんは寂しそうな笑顔で鞘に同意を求める。 「女なら魔法少女に……綺麗な女の子に変身したい。それは、どの時代であっても変わらない永遠の女性の願いだ」 だが、 「だが、私は魔人に襲われ、おぞましい魔人能力に覚醒してしまったことで魔法少女になる術を失ってしまった――!」 『あの時』の事を思い出したのか、体が震えている。恐怖による震えか、それとも怒りによる震えか――。 その震えを抑えるように自分自身の体をぎゅっと抱いて、顔を伏せたまま言葉を搾り出す。 「く、ふふ……! だが、だけどな……! 私はこうして魔法少女になることができた!」 腕を解き、胸を張るように背筋を伸ばす。 レイちゃんのコスチュームは胸の形がよく分かるものだ。突き出される胸を見て、鞘は目を細めた。 「……普通の、胸?」 あるべきところに胸がある。 当たり前のことだが、これは礼に限ってはおかしいことである。彼女の場合、そこに『手』が無いとおかしいのだ。しかし、それが無い。 「私は変わった! これが私の新たな能力『この胸にキミを抱きしめたい』! そうだ。私は確かに、この『胸』で誰かを抱きしめることができるようになった――!」 それこそが彼女の悲願――! だが、まだ分からないことがある。 「しかし、どうやって……! それに、何故私と敵対する――!?」 「その問いには僕が答えるよ」 可愛らしい少年の声がレイちゃんの方から聞こえた。 いや、正確にはいつの間にかレイちゃんの肩に乗っていた『ナニカ』だ。 「お前は……!?」 「僕が彼女を魔法少女にしたんだ。これこそがレイの望みだしね」 嫌らしさを感じない純粋な声。――純粋な、悪意の塊。 「僕はノンべえ。――君も、僕と契約して魔法少女になってよ」 ● カオスノワールの本拠地、ジャンクバベル。 いつもは幹部が席を埋めている円卓の間に、今は1人の男しか座っていない。 着物の袴姿の男は、目を伏せただ静かに腕を組んでいた。 「……ノンべえめ、余計なことを」 男の名は兼石次郎。カオスノワールで特に優れた者につけられる7つの『マスター』の称号のうち、『ノックアウトマスター』の称号を与えられた男である。 尤も次郎はカオスノワールが何を企んでいるかは興味が無いし、進んで協力するつもりもない。 彼がこの組織に属している理由はただ1つ――強者との戦いを求めて、だ。 次郎は知っていた。悪は強く――しかし、それを打ち倒さんとする正義は更に強いであろうことを。 例えどんなに小さく弱い正義であっても、くじけぬ心がある限り正義はどんどん強くなる。 それを知っていたからこそ、わざわざこんなつまらない組織にも手を貸していた――だというのに。 「『ビジネスマスター』のノンべえ……。奴が何を企んでいるかは知らんが」 奴にも為すべき仕事があるというのだろう。だが、それは次郎には関係ない。 関係があるのはただ1つ。ノンべえが強敵との邪魔をした……それだけである。 「ふん、潮時か……」 強敵との戦いが出来ないのであれば、この組織に用はない。 いっそのこと、首領の首でも土産にしようか――そう考えながら次郎は立ち上がるのであった。 ● 「お前が『ビジネスマスター』のノンべえ……!」 カオスノワールにそのような名前の幹部がいるという話は聞いたことがあった。 それがまさか、こんなマスコットのような獣だとは想像の埒外である。 ――いや、だが……! 分かる。 全くの穢れがない白い毛皮は、その毛皮自体が『穢れの象徴』であるということ――! 悪意しか存在しない故に、穢れることがない! 「ノンべえ! 礼君に一体何をしたというんだ!」 「さっきも言っただろう? 僕と契約して、魔法少女にしてあげたんだ」 にこりと笑う。悪意に疎い人間ならころりと騙されてしまいそうな、可愛らしい笑み。 「契約……ということは代償があるはずだ! それは何だ!」 「代償は魔法少女になることだよ。本来は願いを叶える代償として魔法少女になるんだけどね。レイは願いと代償が一致してたんだ」 ――くっ! ノンべえののらりくらりとした言葉に鞘は歯噛みする。 ……大事な事を分かってて話そうとしないな……!? 魔法少女になる。それだけが代償なわけがない。魔法少女にした上で何をさせるかが問題だ。 また、代償だというのであれば、魔法少女になること自体に何らかのデメリットがある筈――! そんな鞘の思考に割り込むように、レイちゃんが口を挟む。 「まぁ――確かに魔法少女としての仕事を頼まれたがな。私にとっては普段の仕事とそう変わらん」 「それは……?」 「――魔人を殺すことだ」 レイちゃんが『しぐ☆ざうあー』に魔法のエネルギーを溜めていく! すると、先端部が横に開き、中から新たな銃口が姿を見せた。 「バスターモード、いくぞ」 『レディ』 雨のように弾丸が連続で発射された。 「ふふふ……。魔人を殺すことで手に入る『DP』。それこそが――」 ● 実況席。 「いやー、濃厚なAパートでしたね! まさかマスタークラスが一気に2人も出るとは思いませんでしたよ!」 「……そうですね。どこらへんが試合なのか分かりませんが」 「あ、玩具のCMで――『魔法少女の呪縛を破った、ワンダーレイちゃん変身セット』って明らかなネタバレですよね!?」 「よくあることですから、あまり気にしても仕方ないですよ。あっ、Bバート始まりますよ!」 ● 鞘は劣勢に立っていた。 何しろ、レイちゃんの武器は強力な銃であり、しかもいまやマシンガンなみの威力と連射力を兼ね備えているのだ。 火薬の臭いがぷんぷんしているが、一応魔法の力という言葉に偽りはないのかリロードをしている様子は無い。 その為、鞘は近づくことすらできず逃げるしかない。物陰に隠れても、掃射で一気に吹き飛ばされてしまう。 ――何より、どうすれば礼君を元に戻せる……!? このまま倒していいのか。その疑問が何よりの足かせとなっていた。 ……魔法少女になって魔人を倒すことが契約だとしたら、その契約を執行できない場合のペナルティはどうなる――!? 銃弾の嵐から身を隠しながら、周囲に視線を巡らせる。 だが、この戦いをどこからか見ているであるノンべえの姿は見つからない。 「『ビジネスマスター』……ちぃ、上手いことつけた称号だな……!」 敏腕営業マンである彼のことだ。決してリターンが回収できない契約はしないはずである。 そう考えると、ペナルティは恐らく本人の死――! これでも『魔人を殺す』という目的は達成できる! 「なら、私が倒すことは……。――ぐぁ!?」 唐突に右足に痛みが走って、思考が中断する。 痛みの箇所に手をあててみると、べっとりと血がつく。跳弾か、それとも吹き飛んだ破片が当たったのかもしれない。 このままでは殺られる。 ――選ぶしか、ないのか……!? 私が死ぬか、礼君を殺すかを……! ● それは決して忘れることのない思い出。 「ねーねー、ヒーローって……何?」 「正義の味方だよ」 「正義……?」 「あぁ、そうだ。そして正義とは――己の信念。だから、迷わなければなんでもできる。それこそが――ヒーローさ」 「……うぅん、よくわかんない」 「ははっ、その内分かる時が来るよ」 大事な思い出。 ● 「――ふっ、そうだったな……!」 ヒーローとは信念を貫き通す正義の味方! 今の私にように迷っていて、一体何ができるものか! 気合を入れる為に両頬を強く叩く。 「私は死なないし、礼君も救ってみせる――!」 ――それでこそ、ヒーローだ!! ● ジャンクバベル、最上階。 5メートルはあろうかという扉の前に、次郎は立っていた。 「……さて、ここに『マスター・オブ・マスター』がいるはずだが」 巨大な扉を片手で軽々と開ける。 扉を抜けた先にあったのは、広間と玉座。だが、玉座に王の姿は無い。 「メガガガガガ!!」 「む」 錆付いた鉄が擦れるような笑い声と共に、扉が自然と閉まる。 それと同時に広間の中心の床が開き、階下から更に床がせり上がってきた。 そうして新たに姿を現したのは、赤く錆びた巨大なドラム缶……! 「お前は……『アキカンマスター』の廃棄王ドラムカン、か」 「メガガガガ! 『ノックアウトマスター』次郎! 貴様、こんなところで何をしているメガ!」 「ふん、知れたことよ。首領の首を貰い受けに来た」 「メガー、やっぱりメガ! 貴様の動きが怪しいと思って見張っておいてよかったメガ!!」 廃棄王ドラムカンの中から、アキカンが次から次へと出てきて周囲を埋め尽くす……! 「我がミリオン(一万)ストライク……貴様に受けきれるメガ!?」 「ふ、準備運動としてはちょうどいい――来い!」 『アキカンマスター』と『ノックアウトマスター』の戦いが始まる――! ● 「うおおおおお!!!」 残骸を集めて作った盾を前面に持ち、鞘が走る。 「その程度、撃ち砕いてやる――!」 『バースト』 魔法のロッド『しぐ☆ざうあー』から放たれるマジックショットの嵐が盾を次々に削っていく。 削られた破片が鞘の体を抉り、血が辺りへと飛び散る――しかし鞘は決して足を止めない。 「だが――これで終わりだ!」 『フルバースト』 今の薄さの盾なら、簡単に貫ける。そう判断したレイちゃんは魔法力を最大まで注入する。 それによって放たれたマジックバズーカは……盾を粉々に砕いた。 砕かれた盾の向こう側に、鞘の姿は無かった。 「その身ごと、砕けたか。……最期に、私の『胸に抱いてやろう』と思ったのにな」 「おっと、その言葉は本当か――!」 「なっ!?」 声は――上だ!! 鞘は盾が吹き飛ばされることを念頭に置いて、跳躍をしたのだ。 バズーカの超破壊力で盾が粉々になって煙幕となったことが手助けにもなっていた。 鞘がレイちゃんの懐に入る。 「くっ……!」 最早、この距離は鞘の距離。彼女の拳は一撃必殺――それはライバルとして数々の戦いを共に潜り抜けたレイちゃん自身が知っている! だが、 「――もういいんだ」 「えっ……?」 鞘がレイちゃんを抱きしめる。自分の胸に抱くように、ぎゅっと――。 攻撃ではなく、抱きしめられることに戸惑いを隠せない。 「魔法少女になんてならなくても……礼君は、礼君だ!」 「な、何を……!? お前に何が分かる!」 「分からない!」 分からない、だけど。 「私が礼君を好きなことは、分かる――!」 「な、ば、馬鹿言うな!?」 「馬鹿じゃない! 君は素晴らしいヒーローとしての素質を秘めている!」 「……あ、あぁ、そう」 なんだかレイちゃんががっかりしてるように見えるのは気のせいか。 「魔法少女になれないんだったら、ヒーローになればいい! 女性が変身するのは魔法少女だけじゃないんだ……!」 「だけど! あんなおぞましい私が……!」 「いいや。礼君が信念を貫くのであれば――それだけで、ヒーローだ。見た目なんて些細なことだ」 鞘が何を言っているのか。レイちゃんには理解できない。 理解できない。だけど、それでも、 ――何故だろう。胸が、打たれる。 「……私が、ヒーローに……なれるのか?」 「なれるとも!」 鞘がレイちゃん――いや、礼を抱きしめたまま、ジャンクの山に立つノンべえへと叫ぶ。 「さぁ、『ビジネスマスター』! クーリングオフだ!」 ● ジャンクバベル最上階、決戦場。 「ふん、これで九千……といったところか? アキカン程度では準備運動にはならんか」 辺りには粉々に砕かれたアキカンの残骸が散乱していた。アルミ缶ですら粉砕する次郎の力はさすがノックアウトマスターといったところだろう。 しかし、一方的に押されている筈の廃棄王ドラムカンは余裕の笑みを消さない。 「メガガガガ! 粉砕されることも作戦のうちメガ!!」 「ほぅ?」 「いでよ! ジャンクロード!」 粉砕されたアキカンの残骸が部屋のあちこちに飛来していく。 そのアキカン礫を攻撃と判断した次郎は身構える、が彼の方に飛んでいくことはなかった。 「何をするつもりだ……?」 「メガガガガ!! すぐに分かるメガ!!」 直後。 ジャンクバベルが揺れた。 地震、ではない。まるで『それ自身』が立ち上がるような揺れだ――。 「メガー! アキカンの『要素』をこの塔に散布したことで、この塔自身を『アキカン』にしたメガー!」 「何……?」 「そして、アキカンであれば『アキカンマスター』のワレが支配することができるメガ! これこそがジャンクロード!」 「――しかし、塔が動いても結局この場は変わらないのではないか?」 「……メガ?」 廃棄王ドラムカン、窮地を脱せていないことに気付いていなかった。 ● ノンべえにクーリングオフをしてもらった礼はいつものスーツ姿に戻っていた。 『ビジネスマスター』の称号を戴いてるだけあってか、仕事はしっかりこなすようだ。 ノンべえ本人もここで抵抗する事の無意味さを知っているのだろう。ここで時間を取るぐらいだったら次の営業に回った方がいい、と。 「さぁ、後はカオスノワールを潰すだけ――って、なんだ!?」 彼女達の視線の先、ジャンクバベルが動き始めていたのだ。内部から手足が生えており、まるで巨大なアキカンのような形になっていた。 「拠点そのものが最終兵器……というわけか!?」 そう呟いた刹那、塔の頂上付近で爆発が起きた。 「……一体、何が起きているというんだ?」 動き始めた塔は、爆発が起きたことが原因でか動きを止めた。 ――だが、沈黙は何かの前兆だったのか。 塔は先程以上に暴れ始めたのだ! 腕を、足を、振るえば地面が抉れ、スクラップが宙を舞う。あの爆発を生き残ったアキカンやモヒカンが踏み潰されていた。 「な、何ぃ!?」 そんな2人の前に1人の男がどこからか現れる。『ノックアウトマスター』次郎だ。 「……やれやれ。まさか廃棄王ドラムカンを潰したら、暴走するとはな」 「お前は、『ノックアウトマスター』!」 「正義の味方、か。……手を合わせたいところだが。そういう場合でもないな」 鞘も次郎も、お互いが倒すべき敵だということは理解している。 だが『ジャンクロード』が大暴れしている以上、次郎は邪魔の入る戦いを望まないし、鞘の優先度も現状を切り抜けることの方が高い。 超大型の機動兵器が暴れているという途轍もない状況――ではあるが、次郎はニヤリと笑った。 「ふ、機動兵器潰しか……。それもまた良い戦い、か」 「……まったく、さすがのバトルマニアだな。しかし、あれが外に出ても困る」 「あぁ、ここで潰さなくては――!」 こうして、意志乃鞘、糺礼、兼石次郎の最初にして最後の共闘が始まる――! ● ジャンクロード。その力は絶大にして暴力的といえるものであった。 正に、絶暴の象徴――! 仕込まれた数々の砲塔からはマシンガンが、ロケットランチャーが、ビームが発射され、辺りを火の海へと変えていく。 「だが――狙いは大雑把だな」 ゆっくり歩くようにしかし尋常ではない素早さで火線を潜り抜け、一気に足元へと入るノックアウトマスター。 両足を地にしっかりとつけ、真っ直ぐ立つことで丹田に気を溜める。 「破ァァァァァァ!!!」 巨体を支える脚に向けて、裂帛と共に拳が放たれる――それが、ジャンクロードを大きく揺らし、倒した。 「――ちょっと、言うべき言葉が見つからんな」 「あ、あぁ……」 一個の人間の力とはとても思えない攻撃に、鞘も礼も呆然とするしかない。 「しかし、これはチャンスだ!」 ジャンクロードの形からして、そう容易くは起き上がれない――そう思った時だ。 「む――?」 倒れたジャンクロードの壁面に火が点る。――ブースターだ。それを利用して、起き上がったのだ。 いや、起き上がるどころではない。なんと飛行したのだ! 「飛行アキカン塔・ジャンクロード……。なんでもありだなぁ……」 さすがに飛んだ相手には手が出せないのか、次郎も困った顔を見せ――いや、笑った。 「成る程。この力を使うことになるとはな――『永劫』」 時が止まった。 いや、正しくはその場にいるものが動けなくなったのだ。 これこそが次郎の能力、永劫! 範囲内にいる者の動きを止めるというもの! ジャンクロードは人間ではない為効果が無い――そう思われた。しかし、ジャンクロードはあくまでもアキカン! アキカンであれば――効果がある! 行動不能状態になり、ジャンクロードは地に堕ちる! 落下地点のスクラップを破砕し、墜落するジャンクロード。しかし、そのボディに傷はついてない。 「追撃の――激!」 そこに次郎の蹴りが叩き込まれる、が、やはり少々抉った程度で効果的なダメージにはなっていない。 「未熟……!」 「いや、少しでもダメージを与えるだけ凄いと思うけどなー……」 永劫の効果が切れたのか、絶暴のジャンクロードが再び立ち上がる。 このままでは――決め手がない。 「……さて、どうしたものか」 「――私にいい考えがある」 「いや、ちょっとその言い方だとあまり聞きたくないんだが」 礼の言葉を無視して、鞘が作戦を話し始める。 「あれだけの巨体だ。どこかに動力炉がある筈。それを叩き潰す――!」 「成る程、道理だ。……だが誰がやる?」 次郎の問い。それは「誰が死ぬ?」というものだ。 動力炉を潰すということは、大爆発が起きてもおかしくない。そうでなくても、ジャンクロードの崩壊に巻き込まれたら死は免れないだろう。 その問いに、 「私が往く」 やはり、というべきか。鞘が名乗りを上げた。 更に、 「ふ、お前にだけいい格好はさせるか。私も手伝わせてもらおう」 礼も表明した。 彼女は近くにあったモヒカンのバイクが動くことを確かめると、それに跨る。 「後ろに乗れ。届けてやるよ」 「おいおい、警察がノーヘルで2人乗りしていいのか?」 「緊急事態だ」 礼の後ろに鞘が乗り、礼に抱きつくように腕をまわした。 「いくぞ――!」 バイクが走る。 絶暴の象徴へと。入り口は見えている――爆発で穴が開いた最上階だ。 尤も、バイクでそのまま行くことはできない。 そこで、 「いくぞ!」 バイクが下に棒が仕込まれた板の上に載ったところで、次郎が板の反対側を強く踏み込む。 そうして、てこの原理でバイクが――空を飛んだ。 「うおおおおおおおお!!」 空を飛ぶバイク。2人がジャンクロードへの頭に近づいていく。 このままいけば2人は無事にジャンクロードの中に入ることができるだろう。 が、 「――死ぬのは1人だけで十分だ」 「えっ?」 鞘が後部座席で立ち上がり、バイクを蹴るように跳んだ。 その反動でバイクは失速するように落ちていく。 「ノックアウトマスター――任せたぞ」 「……やれやれ」 落ちていく礼を次郎が空中でキャッチし、スクラップの山に着地した。 それを見届けて、鞘が内部へと入る。 「待て――待て! 私をヒーローにしてくれるんじゃないのか……!?」 礼の声は届かない。 「……さぁ、じきに爆発するだろう。その前にここを離れるぞ」 そんな礼を、次郎は羽交い絞めにすると無理矢理移動を開始する。 ――ヒーローになるというのであれば、ここで死なすには惜しい。 礼も抵抗はするが、相手はノックアウトマスター。首に手刀を入れられて気絶させられてしまった。 「……生きて、戻れよ」 次郎が繋がれたボートである程度島を離れた時。 島が極大の爆発に包まれた。 ● ――こうして、ジャンクバベルは崩壊した。 ――しかし、戦いはまだ終わっていない。なぜなら『マスター・オブ・マスター』は姿すら見せていないからだ。 ――失意に沈む仲間達の前に、新たな敵が姿を現す! ――それに立ち向かうのは――!? 次回ガイアファイター・アクス、『現れたモヒカンマスター』期待してくれよな! 「はぁー……いいお話でしたー」 「え、いや、次回予告されても困るんですけど……これどうするんです?」 「誰か説明してください……」 『説明しよう!』 沃素の言葉に応えるように、モニターに繋がれたスピーカーから男性の声が聞こえる。 「わー、ささきさんの声です! 番組のナレーションですよ!」 「……うん、説明してくれるならそれでいいです」 『結論から言ってしまえば、これは意志乃鞘の能力によるものだ!』 「意志乃様の……? しかし、意志乃様の能力は――」 司が首を傾げる。彼の知っている鞘の能力はあくまで人にヒーロー補正を与える能力。こんなことができるものではない。 『正しくは、彼女がヒーロー補正を与えた能力によって、こうなったというべきだ』 「ヒーロー補正を与えられた……?」 『世界を作る能力者がヒーロー補正を持つことで、世界は運命によって変わるようになってしまった――逆転してしまったんだ』 「運命によって変わる?」 『ヒーローがいるなら、ヒーローが戦える世界に。魔法少女を望む者がいるなら、魔法少女になれる世界に。達人がいるなら、達人が力を発揮できる世界に――改変された。その結果が、これだ』 「鞘ちゃん……はともかくとして、礼さんや次郎さんまでなんというか、こう……ハジけてたのは?」 『世界の影響を強く受けちゃったのではないだろうか。何はともあれ、原因は世界ということだ』 「え、しかし、このマップは女神様が作ったもので――!?」 そこまで言ってから、司は気付く。 鞘が一体誰にヒーロー補正を与えたのか、ということを。 「……え、なんで私を見るんですか?」 女神オブダークネス。 聞いたところによると、彼女は試合前に鞘とがっつり握手をしていたらしい。その時に補正を付与されたのだろう。 「これ、ルール的にどうなんです?」 「……う、うーん。事前に制定した反則には抵触してない、ですね」 「勝敗は?」 「……島が爆発に包まれる前。つまり、意志乃様が確実に生きている状況で、兼石様と糺様はマップから離脱しています」 「ってことは……?」 「意志乃様の勝ち、ですね」 ――『HERO WORLD』 「さーて、次に魔法少女になってくれる子はどこかな……?」
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/226.html
準決勝戦【豪華客船】SSその1 『ケケケ、海には船っていうじゃありませんか。』 『広い海の上に何かを浮かべるとすれば、一番に思い浮かぶのは船ですよ。』 『ありとあらゆる物語作者が海を描くとき、それはシェイクスピアだろうがヘミングウェイだろうが同じでしょう。』 『アラビアンナイトの世界でもシンドバットは船に乗って海へ出るんだから。』 『そう、海と船はセットなんですよ』 『そうなんです、遭難ですよケケケ』 『あ、つまらなかったですか…』 『古今東西、物語に出てくる船は大概沈むということを、ね。言いたかったんですよ。ウケケ。』 『僕の名前はシャイロック。』 『シャイロックの悪魔。シェイクスピアの強欲な商人の名を持つチンケな悪魔です。』 『そうですね、取立て人ってヤツでしょうか。』 -1- 『青い空。』 『白い雲。』 『照りつける夏の日差し。』 『見渡せば一面のエメラルドグリーンの海、そして海。』 『水平線の彼方まで海だ。』 『豪華客船クルージング。』 『青春ですねえ。』 「に、似合わねえェー…。」 『そ、そんなァ、輝く肌に申し訳程度の水着。』 『酒にフルーツ、健康的な色気。』 「そんなもんはねーっての。いやまてよ?仕事が終わって金がたっぷりある状況なら?や、それでもダメだなぁ、ハハッ」 真夏の日差しを受ける豪華客船デッキの上には不似合いなジャケットの男、赤羽ハルは呟いた。 『ケケケッ、どうでしょ不味いんじゃないですかねぇ。』 「お前が出てくるってことは相当不味いんだろうよ、シャイロック」 『ウケケ、そう邪険にしないでくださいよぉ。』 『僕は貴方の能力の制約みたいなモンなんですから。』 『一心同体、一蓮托生ってヤツです。取立てが近いと思ったら側にいなくてはいけません。』 「制約みたいモンってなんだよ、制約そのものじゃん。しっかし、やってくれやがったなァー。」 『ケケケ、見事に座礁してますねぇ、船。』 『こりゃあ、動きませんよ。』 『ちっともミツコさんが出てこない理由がわかりましたねえ。』 「チッ、あーそーだな、これかよ。さて原因は」 『まァ十中八九エンジン系統でしょ。』 『ハル君もわかっているはずだ。』 『だって僕がわかってるんだから、ケケケッ。』 『そしてこう考えている。』 『浸水状況の確認は必要だがミツコの戦闘力でこの巨大な客船に穴を開けられるだろうか。 ってね。』 「ない。とは言い切れねーなぁ。これはさっさと船ごと換金して海に沈めるべきだったか?」 ジャリン…。 ハルは手近な花瓶を硬貨に換金しポケットに詰め込む。 「資金(ぶき)調達は楽でいいんだが、こりゃ面倒になりそうだな。」 『ケケケッ、大変だァ大変だァ、でも僕としましてもね、お金を回収できるに越したことはないわけでして』 『健闘をお祈りしますよ、ケケケ』 「ハハッ、好きにしろよ。」 赤羽ハル。 手に掴んだ物を換金する能力『ミダス最後配当』を持ち。 金を武器として扱う『日本銀行拳』という暗殺術の使い手。 この豪華客船は彼に無尽蔵の残弾を与えている。 この時は、まだ。 -2- 二日目。 『ミツコさんはガン逃げですかねえ、ケケケ』 「そういうことだろ?んっと、お?TVはつくぞ」 『電気はまだ生きているようですねえ。』 『だとすると、冷凍貯蔵庫が動かなくなったのは発電機や電気回路ではなく。』 「ミツコの攻撃ってことだな、ったく。」 『ウケケ、ほらほら気を落とさないで、お昼休みのショッキングでも見ましょうよ』 「おっ?トミさんはいつも元気だなァー」 TVにはタレントのトミタさんが出ている。 サングラスが似合うマルチ解説者だ。 『エー今日のゲストはフジワラタツヤさんですハイ』 『よろしく、お願いします』 『エー、またドラマの主演が決まったようですねハイ』 『今回ははまり役だと思うんですよね』 『エー、なんてドラマでしたっけ?ハイ』 『【家族-リソース-】って言うんですよ』 『エー、ところで髪切った?ハイ』 『役づくりですよ』 『エー、この主役はエー』 『猪狩誠っていうんですよ』 『エーそろそろお友達紹介?ハイドーゾ』 『あ、じゃあ黒田武志さんで』 『エー、どんな知り合い?』 「さて、飯も食ったし。かくれんぼを再開するかァー。船を換金して沈めれりゃ話は早いんだが」 『それができりゃあ、確かに話が早いんですがねえ、わかってるんでしょ?』 「お前が出てきたって事はそういうことだろ?」 『ケケケ、警告ですよ、警告。これも契約内のサービスですウケケケケ…。』 -3- 4日目。 『まさるが死んだのは、お゛ま゛え゛ら゛のぜいじゃないかあぁッ!!』 ♪世界がー 『イイ演技してますねえ。ケケケ』 「思ったより面白いなァこれ」 TVを消してハルは立ち上がった。 「しっかしなんだよ、面倒くせーなぁ。」 重厚な扉を換金すると同時に部屋の中にコインを撃ち込む。 クローゼットやカーテンの陰になりそうな部分も。 およそ人が潜める可能性がある場所は徹底的にやる。 『待ち伏せからの奇襲、罠。リスクの排除は必要ですからねえ。』 「ッたく。メシ食う場所確保するのも面倒なことだよな。」 ハルは3日かけて現状の確認を終えた。 「とりあえず浸水はないな、これは上々。」 『しかし、操縦系統、エンジン制御などを念入りに壊されてしまってますからねえ』 『船自体も完全に岩礁に乗り上げた状態ですからケケケ』 「水は入ってこないが船体へのダメージは大きいってことだよなあ。」 運良く沈没は免れているがこれではもう自力の航行を望むことはできない。 ミツコが船を操縦する技術を持っているかどうかは不明なので偶然か故意かはわからないが。 少なくとも赤羽どうにかできるレベルを超えた故障である。 つまり、もう船は動かない。 -4- 6日目。 『黒田さん』 『どーした誠?』 『見つけましたよ、奴らの計画の穴を、逆転の一手を…』 『おー、そりゃすげー』 ♪世界がー ♪たとえー AYAMEが歌うエンディング曲が始まったところでTVを消してハルは立ち上がる。 『ドラマで黒田さんも言ってましたが食糧の確保は重要な問題ですよぉ。』 『いかに強靭な魔人であっても、人は食べなければ生きてはいけませんからね。ケケケ。』 「腹が減ってはなんとやらって言うしなァ」 『簡易食糧にはまだ余裕があります。』 『食料庫にはまだ缶詰とかもありますからね、ケケケ。』 「しかし、これが狙いか、チッ。やるじゃねーか。」 ミツコは姿を見せないが地味な破壊活動を続けている。 『ほとんど嫌がらせのレベルですねえ。狙いは徹底的に食糧ですがね。』 「生で食えるモンから潰しやがってよォ、トマト祭りかっつーの」 『ケケケ、昨日のは酷かったですねえ。食料庫の食べ物にケチャップがぶちまけるんだもん。笑っちゃいましたよ、ケケケ。』 「すぐに食えなくなるってわけじゃあないが」 『ケチャップ味だけとかアメリカ人じゃあるまいし、ケケケ。』 『そもそも、痛みやすそうですからねえコレは』 「ったく、メンドクセー」 元々、毒などを混入される危険性を考慮すれば安全な食べ物は缶詰などの保存食に限っている。 実質的な被害はないといってもいいが、精神的なプレッシャーはある。 『メッセージってとこでしょうかね。』 食べ物から目を離すな、というミツコからのメッセージ。 -5- 8日目。 『ゴミめ、社会のゴミッ。貴様らの。その程度の策など。』 『お゛ま゛え゛ら゛がゴミ扱いしたってなぁ!!俺たちは!!俺たちは家族なんだ!!』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー エンディングテーマの途中でTVを切る。 探索をあきらめる。 客室数にして500。 乗務員分の居住室が200。 その他様々な部屋、設備、倉庫。 膨大な部屋、部屋、部屋。 完全に逃げに徹した魔人。 しかも手芸者を追うにはあまりにも労力が多い。 「トラップも仕掛けてやがるしなァ。」 『この一週間で遭遇したトラップは4つですがねえ。』 「少ないと見るべきだ。だが悪質だぜ。完全に無視できないって。油断すれば致命的なダメージを覚悟する必要もあるからなあ。」 「あの時仕留められなかったのが不味かったなァ」 一度だけ、ミツコに遭遇したが、すぐに逃げられた。 「追う途中にトラップが仕掛けられていたことから考えると、罠はこちらの消耗を狙うというよりは」 『出会ってしまったときに逃げるための盾でしょう、ケケケ。こりゃ分が悪い。』 「ハハッ、まあ無駄な神経使って追いかけるのはヤメだ。とりあえずはメシだな」 -6- 16日目。 『黒田さん!黒田さん!ここで、ここで諦めるんですか?ここで!』 『おーこりゃすげー、お前も泣くことがあるんだな…いいもん見れたぜ』 『ぐっ、黒田ざーん!!』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー TVを消して立ち上がる。 『まさか誠の買い占め作戦が読まれているとは驚きでしたねえ、ウケケ。』 『そして今回のドラマの教訓は残された食糧と飲料を確保するのが大事ってことですねえ。』 「ッても、サバイバル能力は相手が上か、何か手段を考えねーとな。」 『料理人に園芸部に手芸者でしたっけ。そりゃ海で魚をとって普通に調理できそうだ。』 『海で待ち伏せします?ケケケ。』 「無駄な労力だろうな、無駄な動きは相手の利益だ」 『相手が来ないなら、こっちも籠城戦ですねえ』 「根比べってか」 ありったけの缶詰と水を集めて、赤羽ハルは籠城を決め込んだ。 -7- 34日目。 『ほらよ』 『なんのつもりだ?誠…。情けならいらんぞ。』 『そんなんじゃないよ。園長のオッサン。俺たちは今や同じ立場だ。』 『ふん…。』 『だからさ、まずは喰おうぜ。俺とあんたの仲だろ。』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー ♪囚われーてもー TVを消す。 腹が減った。 『まさか、園長があんな事になるなんて…。感動ですねえ、ウケケッ。』 「あーあ、動くしかねえか、ここまで、追い詰められる前に出来る事はっとォ。ねーのかよハハッ。」 『ありませんねえ、初手が全てでしたよ、ケケッ。今思えばねえ。』 『初手で船自体を換金することが最善手だったんです。それを逃しちまったんだから』 『ま、ハル君は精神的に追い詰められることはないでしょうがねえ。』 「まずは隣の部屋だな。」 『食べるものが有ればいいんですがねえ。』 『あと僕はドラマの展開が気になりますよ。』 「ハハッ、TVが有るといいな」 -9- 41日目。 「ま゛ゆ゛!!め゛い!!まざるぅぅぅ!!な゛んで立つんだよぉぉぉ お前が強いから人が死ぬんだっ!!ま゛ゆ゛!!め゛い!!まざる!!」 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー ♪囚われーてもー ♪私はー TVを消す。 『いやいやいや、何です?この展開は、泣けるじゃないですか。ここまでかんどーできるだなんて』 『僕は涙が止まりませんよ』 「涙って、お前…」 『心の涙ですよお』 「さて、結構なんとかなるもんだな。」 『一般客室には、菓子や飲み物が常備されてましたからねえ。』 『毎日コーラとナッツから始まってのお決まりメニューってのは見てて悲しくなりますがねえ、ケケケ。』 「贅沢は言えないからな、相手からの攻撃を警戒しながらでも寝れるってのは大きい」 『あと客室には各部屋にTVがあるのも大きい。』 『昼の連続ドラマ【家族-リソース-】。これがあればこそって感じですからねえ。』 「しっかし、まさか園長のピンチにまさるがなァ」 『まさか、まさるにあんな使い方があるだなんて』 「意外…だったな」 『ねえ』 -10- 92日目。 『おー、こりゃすげー』 『お、お前はッ!?』 『俺?俺はちょっと目立ちたがり屋のヒーローさ』 『黒田さん!!』 『待たせたな、誠!!地獄の底から帰ってきてやったぜ!!』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー ♪囚われーてもー ♪私はー ♪あなたのー 『熱い、これは熱いですよお』 「脚本家の園堂長次郎…いったい何モンだ?」 TVを消してハルは立ち上がった。 『ケケケッ。部屋の移動を開始して50日ってとこですかねえ。』 『ミツコさんに破壊された部屋も多い事から、そう長くコレは続けられませんよお』 「わかってる、相手を釣りだそうって作戦はどうも上手くいかねえな。」 『ケケケ。ハル君も相当辛抱強いですが、相手も相当だ。』 『僕もこんなに長く居るとは思いませんでしたよ』 『潜在意識の底で支払い期限が近いとハル君が思った時だけ出てくる警告存在ですからねえ』 『この僕、シャイロックの悪魔は』 「ハハッ、死の宣告みてーなもんだからな。」 『まあ、僕も取立てが終われば消える身ですから?』 『ハル君には生きていてもらいたいわけですがねえ。』 『まあ、こんなに話せて楽しかったですよお、ケケケ。』 「そう簡単にくたばりはしねえさ」 『ケケケ、そうあって欲しいもんですがねえ』 -11- 150日目。 『な゛んでだんだよ゛う゛、園長!だんで…何で』 『それはな、誠よ…』 『園長…』 『ワシがお前の家族(リソース)だからじゃ!!ゆけい!!誠、お前は無敵じゃ!!』 『う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!力がッ!!』 ♪世界がー ♪たとえー ♪赤いー ♪亡霊にー ♪囚われーてもー ♪私はー ♪あなたのー ♪家族に… ♪なりたい… TVを消す。 『おろろーん、泣けるッ!!泣けますねえ。園長の死、誠の覚醒。そしてこのエンディング曲、次回は最終回。』 「そうだな」 『ケケケ、続きはどうします?最終回を見てからってのが無難ですがねえ。』 「いや、最終回はもっと落ち着いて見るさ、決着をつけてからゆっくりとなァ」 『準備は万全とは言い難いですがねえ』 「これ以上の時間はもうねーよ。腹も減ったしな。」 『最後の部屋でしたからねえ』 「随分後手に回っちまったが、ただ時間をかけていたわけじゃあないからな。」 『ウケケ、まあ頑張ってください』 「ハハッ、まあ期待してくれ」 ハルはTVを消す。 そこにはTVと相当額の金が転がった。 『ケケケ、金があってもここじゃ何も買えません。ケツ拭く紙にもなりゃあしません』 「だが、この金で敵を殺せるぜ」 -12- 夏の日差しが暑い。 『ウケケ、甲板の上は流石に暑いですねえ』 「うおおおおッい!!ケルベロスッ!!」 『でかい声だなあ』 「ったく!!やってくれるぜ!!完敗に近いぜ!!だから出てきてやった!!」 『返事はありませんねえ』 「だろうな、これが最後の攻撃だ、受けろよ」 ポケットから取り出した硬貨を指で弾く。 高速で打ち出された効果が空中で一瞬のうちに増殖し甲板をぶち抜いた。 ズズン…。 船が揺れる。 「正式な貨幣、10万円金貨を空中で1円に換金した極大砲だ。重さにして100kg、秒速300mの一撃だァ、当たりゃあ死ぬぜえ」 『ウケケケケ、相手がどこにいるかわからないのにねえ』 「ハハッ、その為にこんだけ時間かけて船中の金目のモンを10万円金貨に換金してきたんだ。どんだけでかい豪華客船だろうがよぉーッ!!」 一撃で展望ブリッジを粉砕する。 「スクラップにしてやるぜェッ!!」 -13- 「ハッハァー!!」 船は大きく揺らいでいる。 いくつもの大穴が空き、浸水が始まっているようだ。 『もう死んだんじゃないですかねえ』 「相手が死ねば、なんらかのアクションがある筈だ、まだだなッ」 豪華客船だけあって調度品はどれも高級なものだった。 持てるだけの十万円金貨の量は20kg分で1000枚、一億円相当。 凄まじい勢いで連射しながら空中で換金。 スピードはそのままに20gの金貨が100kgになって船体にぶち込まれていく。 『ケケケ、でもおかしくありません?』 『船、思ったより丈夫すぎる』 「壊したように見せかけて補強してやがったってのかァ!!」 『糸と植物を使ってってとこですかねえ』 しかし、手を止めるわけにはいかない。 「押しつぶしてやるッ」 ヒュン…。 「っとぉ!!」 『しびれを切らしましたかねえ、ウケケ。』 後方より飛来した針を極大砲で迎撃する。 「ようやくってェーことだなァ」 そこに立っているのはケルベロス“ミツコ” -14- 「フゥッ!」 両手から10発の10万円金貨が撃ち出される。 ゴオン!!ゴオン!!ゴオン!! 金貨が膨れ上がり1円玉の塊となる。 秒速300m、音速よりやや遅いスピード。 質量にして1t。 「防御に優れるということはッ」 「こういうことです」 金属塊がはじけ飛ぶ。 周囲に金属片が飛び散る。 「ぐううッ」 逆に飛来した散弾をコインで迎撃する。 「あなたが準備をしていたように私も準備を怠ってはいません」 「ああーん?」 瞬時に10万円金貨を打ち出すが 空中で爆散する。 「この船には燃料を始めとして無数の可燃物、化学薬品がある。フフ、爆薬のトラップです。」 「タイミングを合わせ移動しトラップを盾にする。化学って素敵ですね。農薬から爆薬まで同じ材料でできるんですから。」 「私たちはあなたの攻撃を耐え切れる。」 「意味がわかんねーよ、何だァ、見えねえ爆薬ってか?」 『ケケケ、どうだろうねえ。床下に爆薬を仕込んでおいてタイミングを合わせれば爆発で指向性の爆発でこういう芸当はできるかもしれませんよお』 「教える必要はありません。」 「そして、貴方は出てくるべきではなかった。」 「少し話をしませんか?」 「必要はねえなァー、あんたの爆薬は有限だろ?金貨とどっちが多いかなァー!!」 「残念です。」 「あなたは出てくるべきではなかった、この場所に。」 ゴオッ!! 赤羽ハルの足元が爆発する。 「っつっだぁ!!ぐおっ!!」 「150日かけました、この船の甲板上は巨大な爆薬です。」 -15- 「痛えェー」 体の半分が爆散した状態で赤羽ハルはまだ息をしている。 「そう簡単にくたばらせてくれねえんだよなァ」 『ケケケ、ですがコレはもう支払い不可能ですねえ』 「ったくよぉー、船の上は爆薬だらけかよ、そら入ったら死ぬわ!!」 『さてハル君、負債の支払いが出来る体に見えないのだが、取り立てさせて貰っていいかな?』 「150日かけてここを爆薬の極地にしたてましたからね」 「最初に船を換金されて金で押しつぶされてしまえば私達の負けでしたが」 先程から話しているのは次女の満子か。 「そうできなくしちまったのは、やっぱり気づかれたなァ。」 『そうみたいですねえ』 「沈没船は負債の塊だ。座礁した船の価値だって?そんなもん撤去費用考えりゃ極大のマイナス決算だっつーの!!」 「あんたァ、わかってたのか」 「私の弟はそういうところに目が効くものですから」 「貴方の負った最初の負債も、おそらく」 「あーそうだよ。似たようなもんだ、マイナスの物件を換金しちまったのさ」 「それでこのザマだよ」 片手だけ上げてヤレヤレとポーズを取る。 「殺せねえ殺し屋に価値があるとは思えねえからよ、殺せよホラ」 「殺しません」 「ああ?」 「だって、あなた最終回が気になりませんか?」 「私たちもずっと見ていたんですよ。家族-リソース-」 「ハハッ、なんだそりゃあ!!」 『あ、僕は気になりますねえ』 「最終回を見たら、話をしたくなるでしょう。ドラマについて。ねえお姉さま、みっちゃん。」 「ソーダねぇー」「確かにね」 「だから、最終回を見たらまた話しましょう」 『君が生き残るなら、まだ負債を返済できる目は残ると思いますし、この船の調度品を換金していけばそれなりに稼げるんじゃないですか』 『治療は大会運営がやってくれますからねえ』 「都合のいいこといいやがってよォー」 「見たいんだろ最終回」 『ウケケッ、ま、ギブアンドテイクですよ。これっくらい融通きかないと悪魔じゃありませんから』 『だってハル君もそうでしょ?』 「ああ、最終回は気になるな、ドラマの為じゃあ仕方ねえな」 「では」 「俺の負けだァー、おらァ!!さっさと美味い飯食って、ドラマ見んぞォー!!さっさと治療しろって!!痛えんだよォー!!」 準決勝 豪華客船の戦い 了 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/netto/pages/5.html
各地の代表地区予選が行われてる中、こんなニュースがでてました。 秋田市の秋田県立こまちスタジアムで22日に行われた第88回全国高校野球選手権秋田大会準決勝の本荘―秋田戦で、大量リードした本荘の尾留川徹監督が七回表、雨天ノーゲームを避けるために、打者に対して故意に三振するよう指示した。県高野連は同日、同校野球部に対しフェアプレーをするよう指導し、始末書提出を求めた。問題のプレーは、本荘が12―1とリードした七回表の攻撃中、1死二塁の場面で起こった。県高野連によると、尾留川監督が打者に三振するよう指示、打者は明らかなボール球を空振り三振した。県高野連は、本荘の野球部責任者を呼び「アンフェアなプレーがないように」と指導した。しかしその後、三塁に進んだ走者も本盗を狙ってタッチアウト。七回裏の秋田は無得点で、本荘は七回コールド勝ちした。県高野連は試合終了後、本荘に対して始末書提出を求めた。秋田の佐藤幸彦監督は試合後、「負ける以上の屈辱だ。最後まで正々堂々とやりたかった」と怒りをあらわにしていた。(以上、ネットより引用) 何で怒ってるのかわからないです。秋田のほうは、雨天中止を狙って遅延行為に及んでたと情報もあるし。どっちもどっち。 どこかにもでてましたが、これでギャーギャー言われるのなら、敬遠行為もアンフェアなプレーとして凶弾されなきゃいけないでしょ? だいたい、雨天中止で、最初から試合しなきゃいけない、なんてルールがあるからダメなんで、囲碁や将棋でも、中断する際に、盤面を記録した紙を封筒にいれて、再び対局する場合もその場面から始めるんだから、野球もそうすりゃ、こういう問題は無くなるでしょう。 ただ、ルール上、問題ないから、と、えげつないことばかりするのは、「金儲けして何が悪い」なんて、公人の立場で言い切った人間みたく、品格が無いです。 正々堂々とは言わないけど、後腐れ無い試合をしてもらいたいですね。 結果至上主義になって、視野狭窄だから、こういうことになる。ゴジラ松井が明徳にやられた、5連続敬遠の件以来、誰も何も教訓にしてない、ってことですね。
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/231.html
裏準決勝戦【特急列車】SSその3 野望・陰謀渦巻く大会。 戦士たちは戦いの果てに何を掴むのか。 「ふふ~ん、なかなかやるわねっ!それっ!それっ!」 「……ムダ」 どこから来てどこへ行くのかわからない特急列車の最後尾、二人の女が縦横無尽に飛び回る。 ゾルテリアのシルバーレイピアが空を裂き、聖槍院九鈴のトング『カラス』が切っ先を掴む。 返すトングがゾルテリアの胴を打つ!だが効果はない! 「そんなんじゃピクリとも感じないわよ~ん!やるならティクビでもつまみなさいな!」 「……」 当然、ゾルテリアの無駄に豊満な乳房は鎧に守られている! 構わずトングでラッシュをかける九鈴! レイピアが開放されると同時にすかさず突きを入れるゾルテリア! トングに捕まらないように素早く撹乱しながらの攻撃はさすがの元騎士か! レイピア!トング!トング! トング!レイピア!トング! しかしこのままでは決定打を与えられない九鈴が徐々に不利! 少しづつレイピアによる刺突傷が刻まれていく。 「ほーっほほほ!ここでアナタを倒しちゃって、もう一人とヨロシクヤラせてもらうわ!」 「……くっ」 そこへ現れる噂の3人目。…内亜柄影法。 「……そいつァゴメンだな」 レイピアとトングで鍔迫り合いをしながら睨み合う二人に無造作に近づく内亜柄。 その手に武器はない。ゾルテリアと九鈴が注意を向けた瞬間、 「俺は男のほうが好きなんだ」 瞬間、凍りつく場。 内亜柄の掌に手榴弾のようなものが生成される。 ――『爆弾発言』! 「そんなものじゃアタシの防御は……!」態勢を立て直し、構わず突っ込んでくるゾルテリア! 「……」窓から飛び出し、タフグリップで体を保持する九鈴! 「……ま、嘘だけどな」 内亜柄が後ろを向いた瞬間、車内が激しい光に包まれる! 『フェイク』の『手榴弾』……すなわち、『閃光手榴弾』! 「しまっ……!」 いくら鉄壁の防御を誇るゾルテリアのZTMといえ、視覚に対してのダメージは防げない! 「さーって……目が見えなくっちゃ抵抗もできねェな」 「……くっ!やるならやりなさい!アタシは絶対に屈したりなんか……!」 「ククク、その言葉……フラグ丸出しだぜ?いやらしい女だな……」 内亜柄の『攻め』の言葉に呼応して現れる武器は……鞭! 「『言葉攻め』ならうまくやれると思うぜ……!じゃあ、ヨロシクやろうか、豚野郎……!」 「ヒッ……!アタシにいやらしいことするつもり!?エロ漫画みたいに!エロ漫画みたいにィィィィィ!」 「いやらしいことってのァ……【自主規制】に【自主規制】したり【以下青少年のなんかに配慮して略】 内亜柄の手には『卑猥』な武器……つまり、バ○ブ! 「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~……」 【自主】 ――しばらくお待ち下さい―― 【規制】 醜く肥えた豚のような体を放り出し、ピクピクと小刻みに震える豚…ではなく、ゾルテリア。 「ハァ、ハァ……こ、この豚野郎……厄介な能力持ちやがって……っとォォォォ!?」 突如激しく揺れる車両! 窓を覗くと、そこには…… 「……おいおい、マジかよ……ッ!」 最後尾の車両をトングで掴み上げる聖槍院九鈴! 「バッッッッッカじゃねーーーーーーーーーーーーのかッッッッ!」 急ぎ隣の車両に飛び移る内亜柄。 「ちょちょちょちょ、まってぇ~~~~~~!」 転げ落ちる肉塊!運良く車上に落下! そして掴み上げられた車両は九鈴によって綺麗に前の車両へと積み重ねられる! なんたるあらゆるゴミの投棄を許さぬ清掃員魂か! 「……”そして清掃婦は謎めいた掃除具で疫病を集め、ファラオの家畜をすべて殺した”……」 禍々しいチャントを唱える九鈴! その足元は小型トングでガッチリと車両に固定されている! 「フー……さて、問題はアンタだ」 高速走行する特急列車の上でバランスを取りながら、九鈴に向き直る内亜柄。 「実際こいつは賭けなんだ……結局よ、どうなるかはわかりゃしねェんだ」 「……ごめん、本当にごめん。わたしが、ちゃんと、そうじできなかったから」 ・・・・・ 「結局よォ、俺達は繋がってるんだぜ。おれもおまえも、そしてあいつも」 内亜柄の手に、『掴みどころのない』刃……ビームサーベルのようなものが生成される。 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ 「そうだろ、俺達はみんな、『紅蓮寺工藤の関係者』になっちまってるんだぜ!この大会に参加した時から!」 迸る雷鳴! ――『紅蓮寺工藤の関係者』だと認識した瞬間!『創作の祭典(フィクション・ファンクション)』が発動する! 隙を突いてビームサーベルで斬りかかる内亜柄! 『掴みどころのない』剣はトングの防御を貫通する! ……はずだった。 「……ちがう」 「……ちがうよ」 『掴めない』はずのものをガッチリと掴む九鈴のトング『カラス』! 「……わたしが」 「……まもれなかったから」 熱によって塗装が剥げ、銀色に輝くトングが現れる! ――『シルバーカラス』! 内亜柄の剣を『シルバーカラス』で弾く! おお、見よ!そのマスクには威圧的な『清』『掃』の二文字! 「……だから」 「……すべてのけがれを、そうじします」 高速走行する特急列車から数メートル浮遊し、威圧的に内亜柄とゾルテリアを睨む九鈴。 ――そう、『掴めない』物を『掴んでしまった』ことにより、『転校生化』した清掃婦の姿であった。 転校生化したことでパワーアップした能力―― 『タフグリップEX』により、概念さえも掴むことが可能になった九鈴は、 『列車との相対座標』を掴んで浮遊していた。 その姿はまさに、トングを超えたトングそのもの、「エクストング」と呼ばれる姿であった。 「……まずは、ここから」 「ぐっ……!」「キャアアアア!」 心臓をトングで一掴みにされるような威圧感。 今の彼女に掴めぬものは――ない。 「ま、待ちやがれ……!」 立ち上がる内亜柄。 ――そう、ここまでは『計画通り』だ。 「紅蓮寺の能力のお陰でよ……わかっちまうんだよな……」 「アンタがその能力で本当に『掴みたかったモノ』はよ……」 「そんなもんじゃァ、ねえだろう……!」 「なにが、いいたい」 プレッシャーが跳ね上がる。心臓が痛む。 落ち着け。言葉を間違えるな。 罪を認めた被告人を諭すように……いつものようにやるだけだ。 「だからよ、アンタが守れなかったものも……」 「今なら守れるはずだぜ……!こんな世界になった原因から!」 「『掴んで』みろよ……!『運命』をッ!その『トング』でッ!」 「……わたしが」 「……まもる?……」 「九郎を。父さんを。母さんを。しずくを。みんなを。せかいを。みんな。みんな。みんな――――」 「わたしが、『掴む』。みんなの、『未来』を――ッ!」 九鈴の論理トングが閃く! 『掴む』のは――『時間の流れ』! 「掃除する!忌まわしい過去をッ!」 『シルバーカラス』が輝きを放つ! そしてトングを超えたものは――光を放ち、消えていった。 時空を超えたとある『転校生』の活躍は、また別の機会で語られるであろう。 別の時間軸では、トングを操る姉弟の物語も語られるかもしれない。 ……それはまた、別のお話。 「…………っぷはァ~~~~~~~、死ぬかと思ったぜ……」 『転校生』から開放された内亜柄は、流れ出る汗を拭いながら大きく息を吐く。 (あいつなら、あそこでああしてくれると思えたのも紅蓮寺のおかげってのが癪に障るが) (俺もいつか、真実を『掴む』ことができるだろうか) 『運命』を掴んだ転校生に思いを馳せ、タバコをふかす(もちろん携帯灰皿持参だ)。 「ぶっふふ~、検事さんったら、なかなか熱いところもあるじゃない?惚れ直しちゃったわ」 しぶとくも生き残っていた元エルフが顔を赤らめながら這い寄る。 「ほほーう、そうかそうか、そりゃァありがたいねェ。 ……ところで、『熱く』なっちまったついでにこんなものがあるんだが」 そう言って内亜柄が能力を発動すると、その手に現れたのは……『熱い』ロウソク! 「あ、アンタって本物のドSじゃないのォォォォォォォォ~~~~~~~~~~…………」 (ギャフン) ◆試合結果◆ 聖槍院九鈴:『転校生』エクストングとなり時空を旅する。場外負け。 エルフの元女騎士ゾルテリア:さんざんM調教された結果、電車から蹴り落とされる。 分厚い脂肪により奇跡的に無傷。場外負け。 内亜柄影法:若干Sに目覚める。勝利。 このページのトップに戻る|トップページに戻る