約 42,572 件
https://w.atwiki.jp/dangerousss/pages/92.html
準決勝第一試合 不動昭良 名前 性 魔人能力 白王みずき 女 みずのはごろも 不動昭良 男 インフィールドフライ 採用する幕間SS なし 試合内容 純粋に射撃性能だけを見て不動とみずきの能力を比較した場合。 もちろん一長一短あるものの、みずきの能力の弱点を挙げるならば、それは「残弾数」ということになるだろう。 不動の能力である「インフィールドフライ」は、周囲にある物体をいくらでも利用できる。 特に準決勝のフィールドである学校内は、不動の能力で利用できる物体が無数にあり、補充も容易である。 対してみずきの能力「みずのはごろも」は衣服と化して身に纏わせている水を射出する能力……使える回数には限りがある。 残りの衣服が少なければ少ないほど勢いが上昇するという特性もあるが、やはり長期戦となれば不動のほうに分があるだろう。 しかし。 この弱点を埋める方法も存在する。 廊下をみずきは駆けていく。 闇雲に敵の不動を探して走っているわけではない。 相手の準備が整う前に攻撃を仕掛け短期戦で決める……というのも戦術案の一つとしてはあった。 それも二番目くらいには有効な手だっただろう。 「!」 階段を駆け上がろうとして、みずきは脚を停めた。 気配を感じて振り返ると、後方に不動の姿が見える――そして、彼に先行する形で、多数の刃が追ってきている! (ガラスの破片っ!) 一回戦で不動が見せた、砕けたガラスの破片を飛ばす攻撃。 今回は数も多い。ぱっと見ただけでも十指に余る。それが今、超高速でみずきに襲いかかってくる。 みずきは息を止めた。 「……ふっ!」 水の鞭を生成させ、殺到するガラス片を撃ち落とす……一つ残らず! 遠距離戦はともかく、彼女の間合いの中に限れば、その精度は至近距離からの拳銃の掃射にすら対応できるほどに高まる。それほどの集中力と反射神経。 不動の射撃は確かに高速ではあるが、銃弾のそれよりは遅い。 返す刀で、水流を走らせる――それは学習机を盾にされて防がれた。 不動の能力は物体を盾にするような使い方には向かない……が、重さのない「水」による攻撃ならその限りではない。完全に防ぐことは難しくとも、軌道を逸らすことならできる。 (よく……考えられていますっ!) 出力を上げれば机ごと切断するのも可能ではあるが、それは彼女にとってもリスクを伴う。 さらに水球を放った。 ほんの僅かタイミングをずらして、脚を狙って水の矢を連射する。 防ぐのは難しいと判断したか、不動は窓の外へ飛び出して逃れた。追撃はせずに、再びみずきは走り始める。 (あと……少し……!) 扉に鍵はかかっていなかった。 開け放つと、日の光が彼女を照らす。 先回りされては……いないようだ。 「屋上にプールが……うちの学校とは違いますね」 ともあれ。 みずきの「みずのはごろも」 その弱点は戦闘中に補充が難しいことにある。 「しかし、これで弱点は補強しました……いざとなったら飛びこむだけで補充が可能ですっ」 さっそく手を伸ばして水に触れ、衣服の消費した部分を再生させていく。 ノースリーブ状態だった袖が元の制服の形に復元される。 (んっ……ふぅ。次の手は……おそらく不動くんは、ここのプールの栓を抜こうとするはずです) 敵の補給を断つのは戦闘の基本である。 だからこそみずきは何よりも屋上プールの確保を優先させた。 では、この後はどうするべきか? 機動力に優れる不動は、みずきがこの場所を放棄した場合、すぐに栓を抜いてしまうだろう。 しかしここに留まり続けた場合、不動に準備をさせる時間を与えてしまうことになる。 少し迷ったものの、動き回りながらの戦いは――特に、三次元的な戦闘が可能なこの戦場では、不動のほうが有利だと判断した。 「さっきみたいに逃げられる危険があるからには、待ち受けたほうが確実ですね……」 その間に思考する。 不動の出方を読む……彼は何を使ってくるだろうか? ---- 実況席。 「膠着しましたね……」 「ねえねえ司さん」 「……なんでしょうか?」 「連想ゲームしようか」 「ええっ!? オンエア中に突然何を言っているのですか?」 「いいじゃん。みんなこの時間は股の海の取り組みを見てるし。一敗を守れるかどうかが鍵ね」 「それはそれで問題ですねえ! あと、あとから配信動画で観戦される方もいらっしゃいますからね!?」 「いいから行くよ、テーマは『学校』ね。はい、司さんから」 「あ、ああ、ここから解説を広げるわけですね。では“理科室”」 「“セーラー服”」 「……“家庭科室”」 「“七不思議”」 「…………“プール”」 「“援助交際”」 「ボケ倒す気ですかあなたは!? しかも援助交際って!」 「司さん的には不純異性交遊の方が好みだったかしら?」 「私にまた変なキャラ付けをしようとしないでください!」 「あ、不動選手理科室に入りましたよ」 「またスルーですか……」 ---- 「くそ、やっぱ強いな……」 不動はぼやく。 白王みずきの強さ。その根本にあるのは意志の強さだ。 身体能力のスペックで言えばボルネオ、池松叢雲、日谷創面といった面々には遠く及ばない。 しかし、彼女にはそれを補ってあまりあるほどの精神力がある。 勝利への執念。集中力。能力のパワーとコントロール。 そういったものは、土壇場で響いてくる要素である。 「上回るにはやっぱ奇襲……それもとびきり予想外の奇襲しかないな……」 不動の後ろを、机、椅子、教室の戸、バケツ、ボール、何かの袋、掃除道具……その他もろもろがハーメルンの笛吹きよろしくふわふわとついてくる。 能力対能力の、全力での戦いが始まろうとしている。 そして。 不動が扉を開けて屋上に現れた時、みずきは正面にいた。 用具入れの物影に隠れて奇襲する、不動が屋上へ向かうのをいったんやり過ごし、後ろから狙撃するなどの方法も取ることはできた。 しかし。 「私は――逃げも隠れもしません」 それは彼女の流儀に反する。 意志乃鞘から譲り受けたメダルに――そして、彼女自身が目指す姿にも。だから。 「いざ尋常に――勝負です!」 「……わかりました」 不動が屋上に踏み出す。 「全力全開でいきます」 「!」 初手は机だった。その数およそ二十。 それを目に映しながら、みずきは薄く笑みを浮かべた。 (――やはり。不動くんの能力にも弱点はあります) 大型の水球を作り出し、力の限りに薙ぎ払う。 水のハンマーが、机を粉々に打ち砕く。 (考えてみれば当たり前のことですが……不動くんが操作できる物体の数には限りがあるみたいです) 制服が臍出しルックになり、太股も剥き出しのコケティッシュなスタイルになっている。それによりさらに攻撃力が増していく。 (可能ならばここは全教室の全ての机を飛ばしてくるべきところ。出し惜しみをする理由はありません) 思えば一回戦のホームセンターでも兆候はあった。 あの時不動が使った武器は工具や刃物など、攻撃力が高いものがほとんどだった。 しかし、操れる物体に際限がないならば、選り好みせずありとあらゆる物体を雨あられと掃射すればいいのだ。 どんな物体でも、「インフィールドフライ」の高速を上乗せすれば武器と化すのだから。 それをしない理由。 不動の能力では一度に操れる物体には限りがある……それが数量によるのか、重量によるのか、そこまではみずきにはわからないが。 (限界が高いにしても、無限でないのなら……勝ち目はありますっ!) 矢継ぎ早に飛来する物体。 無数のバケツが飛んでくる。それに紛れて、視認の難しいガラスのカッターが切り裂いてくる。 みずきは前進した。 目くらましを受けながら水の鞭で処理するよりも、危険を覚悟で攻撃に転じたほうが良い。 敵の攻撃が着弾する、その瞬間に水の防御壁を生成する。 ただの壁ではない。 振動と回転を生じさせることで、相手の弾丸はあらぬ方向へ弾き飛ばされる。 能力「みずのはごろも」――不動の能力に比べて、弾丸の補充が難しいという点ではやや劣るものの。 防御力という面で見れば圧倒的に優れている。 みずきは高出力で噴出させた水流を振るう。 単純に射出させた場合と比べ、この使い方は水の消耗が激しい……が、それはあくまで比較した場合の話で、実は消費する水の量はそれほどでもない。 むしろ使用する水量が少なければ少ないほど圧力は集約され、強力な攻撃となる。 ホースから水を射出する場合などを思い浮かべると、一見たくさん水を出したほうが衝撃は大きくなるような気がするが、それはそうしなければ圧力が高まらないからだ。 この場合の水圧はみずきの制御と、残りの衣服の面積で決まる。いたずらに水を消費する必要はない。 「う!」 能力による高速機動で回避する不動。しかし移動した線を縫って、正確に水の剣が後を追う。 全力で逃げなければならない不動に対し、みずきは手元を動かすだけで軌道の変更が可能である。最高速度にして時速200キロというスピードはあれど、避けるのは容易ではない。 (攻撃が単調になってきました……それは、避けるのに精一杯で能力の制御を攻撃に回す余裕がなくなっているということ!) 無論、その理屈はみずきにも適用される。 攻撃と防御とを同時に行うのはみずきにとっても難しい。だが、こちらは手元での制御で攻防両面をまかなえるのに対し、不動は自分自身と遠距離の相手に意識を振り分けなければならない。その差が出た形だった。 そして。 防戦一方にも関わらず不動が射程外に逃げない理由は。 (操作が自動的でなく、不動くんの意思で動くというのなら……少なくとも操作する物体を意識できるくらいの距離には本体がいる必要があるということ。それなら、私の能力の圏内ですっ!) プールサイドの端、金網の際に追い詰める。 「ここでっ!」 上昇しようとする不動の行く手にもう一本水流を作り出す。 上下からの交差する斬撃に対し、不動の回避した先は前方だった。 みずきのいる方向に向けて、剣が振るわれる動きよりもなお速く。 しかし。 「迂闊ですっ!」 突っ込んでくるなら、水弾の一斉射撃で対処すればいいだけのこと――水はまだ残っている。 その時。 突如プールが炎上した。 ---- 控え室の一つ。 「なるほど……トウユ(to you:「灯油」という意味の英語)か」 「……」 池松叢雲と日谷創面は一時トレーニング――いや、Lessonを中断し、試合の観戦に回っていた。 「学校というやつは広域避難所に指定されることが多いからな……災害時のために燃料の備蓄がある。引っ張り出してきたか」 「栓を抜いたほうが早いと思うんだけどな……」 池松の表情は仮面に隠れて窺えないが、特に感情が出ているということはない。 一方創面は若干苦い顔である。 恨みっこなしの戦いとはいえ、池松ほどすぐには敗北から感情を切り離すことはできない。 (まあ、それこそが強さへの原動力だが) と、これは声に出さず池松は独りごちる。 「お前の能力なら穴を開けるなりなんなりしてすぐ水を抜けるだろうが、あいつにはその余裕はあるまいよ」 「……バルブを回している間に撃たれるってことか」 「エグザクトリィ(Exactly:「その通りでございます」という意味の英語)、だ」 人差し指を立ててくるくると回してみせる。 「それに突然の炎は相手の動揺を引き出せる。おまけの効果をねらったという意味もあるだろうな」 『あえて相手に有利な状況を作ってやる』――当然自分は不利になるが、その状況を乗り越えたとき、相手には隙ができる。 「……それが、ロクロがやったことか」 どうやら――彼は、単なる豆腐馬鹿ではなかった、ということになりそうだった。 ---- 「――――っ!?」 みずきの驚愕は声にならない。 油と水は混ざらない。そして、灯油の比重は水よりも軽い。 結果、水面に油膜が張られることになる。後はマッチか何かで点火すれば、水面が燃え上がる。 不動が大量のバケツを用意したのは、ダミーを飛び回らせ、わざと撃ち落とさせることで本命のバケツが灯油を流すのを隠すねらいがあったためだ。 「! あっ……」 気を取られて掃射のタイミングが遅れた……決定的なチャンスを逃してしまう。 否、そんな場合ではない。 不動の動きを止めなければ、こちらがやられる。 繰り出されるバスケットボールを弾きながら、みずきの視覚は不動がポケットから何かを取り出し、放り捨てるのを見た。 (紙……包み?) 一度離れたその物体が弧を描いて戻ってくる……炎上するプールの、炎の中を通り抜けて。 刹那。 直視できないほどの、ひときわ明るく、白い炎が生じた。 「! これは!?」 速度を落とさずみずきを指して突き進んでくる――咄嗟に水の回転壁で防御する。 ――それが失敗だった。 バリアーに触れた瞬間、爆発的に白炎は燃え上がった。 「きゃあああああっ!?」 凄まじい威力。 半ば本能的に、全力で水撃を放つ。さらに炎は大きくなったようだが、衝撃を受け止めることはできず、あらぬ方向へ飛んでいく。 (うっ……いったい、なにが……!) 目がくらんで何も見えない。 不覚をとった……しかし、それでみずきを責めるのは酷というものだろう。普通ならまず起こらない現象が起こったのだ。 炎の正体は理科室から不動が持ち出したマグネシウムの塊。 熱すると酸素と反応し激しく燃焼するのはよく知られている。不動もそれを利用するつもりだった。 しかし、不動とみずき、双方が知らなかった事実もある。 「燃焼するマグネシウムに水をかけてはならない」――マグネシウムが水蒸気と反応するため……もっと言えば、生成される水素が燃えるためだ。 その結果が文字通りの爆発的な燃焼である。 (だ、だめです……このままじゃ……!) 涙が目に滲む。 ろくに見えないが、次の瞬間にも不動がとどめの一撃を放つだろう。 「こうなったら……!」 不動は驚愕した。 みずきがとった行動……それは、灯油の燃え盛るプールへ飛び込む事だった。 残り全ての水でヴェールを作り、防御をしているとはいえ―― (なんて、無茶な……!) 水柱が立つ。 次の瞬間。プール全ての水が、かっ、と発光した。 「……まさか!?」 現れたものを例えるなら、「山」だった。 年末の歌合戦の大御所が着るような巨大な衣装――その中心に、ちょこんとみずきの本体がおさまっている。 一瞬、水の補充が目的かと考える不動だったが、すぐにその考えを打ち消す。 みずきの能力は残りの衣服が少ないほど威力が高くなる特性を持つ……身につけている衣装が大きければいいというものではない。 次の瞬間能力が解除され、元の水へと戻る。 みずきの通常のバトルフォルムである制服の布地の分を除いた、ほぼ全ての水。 25メートルプールの水はどんなに少なく見積もっても300立方メートル以上。1立方メートルあたりの水の重さは1トン。 (『力が足りなければ重さを利用すればいい』……まさかこんな使い方を……っ!) 大波が不動を飲み込むその前に、彼は自分自身に対し、全開で能力を発動させた。 「…………っ!!」 腹部に衝撃を感じ、みずきは空中で身をよじった。 よく見えないが、これは―― (不動くん……本体!? あの状況で……っ!) 大波を起こしたのは爆発でダメージを負った視力が回復するまでの時間稼ぎという意味合いもあった。 しかし不動は全く躊躇なく水の中に飛び込んできた。 慎重な性格でいながら、不動は捨て身になることを躊躇わない……創面と戦っていたときのように、だ。 そして今、みずきは彼に体当たりを食らっている状態である。 「ですがっ……!」 同時にこれはみずきにとっても攻撃を当てるチャンス! 水弾を撃ち出す。 不動の体が離れる。 (当たった? いえ、これは――) 空中で密着した不安定な状態で、さらに目がくらんでいたせいか――おそらく外れたのだろう。 案外なんともなく、不動が金網の向こうに着地するのが見える。 (……金網の、向こう?) 気がつけば。 (――落ちる!) みずきの体は落下を始めていた。 三階分の高さ。魔人とはいえ、ただではすまない高度である。 (この程度……っ) しかし。 みずきは怯まない。 (この程度であきらめていては、羽山せんぱいに笑われてしまいますっ!) そう。 みずきが着けているリストバンドの持ち主――地上800メートルの高さから落下し、生還した羽山莉子に比べれば、この程度は大したことはない。 着地の瞬間、真下に向けて水を噴出させる。 さすがに落下速度を殺すには、それなりの圧力をもって大量の水を放たなければならなかった。 袖は完全になくなってしまったし、スカートも膝上どころか股上数センチという有様で、ほとんど無いのと変わらない。 お臍も白い肩も剥き出しになってしまっている。ほとんど下着姿と変わりなかった。 (しかし、着地成功です) 次の瞬間だった。 影が差したのを感じ、咄嗟に頭上に水の壁を張る。その上から降り注ぐものがあった。 「きゃあああっ……げほっ! けほっ! こ、これはっ……!?」 たちまち辺り一面真っ白になり、真っ白の砂埃が充満する。 校庭にラインを引くときに使用する白い粉。不動が上から大量の石灰をぶちまけたのだった。 もうもうたる煙幕。 その向こうに、マッチ箱が見える。 (――粉塵爆発っ!?) とっさに水球で撃ち落とした。ここでそんなものを起こされたらまず助からない。 今のでさらに残りの布地が少なくなってしまった。もう掛け値なしに残りの衣服は上下の下着のみ。 「はぁ、はぁ……けほっ」 目がまた痛み出す。 本来ならば能力で水をスプリンクラーのように吹き出させ、煙幕を取り除くところだが――もう少したりとも無駄撃ちはできない。 (あきらめません) 絶対的に不利な状況だったが、それでもみずきの闘志は折れない。 (さっき不動くんに触られてしまいました……それでも私の体が操られない理由は、接触の時間が足りなかったからです。不動くんがもう一度接触策をとってくるのなら、まだチャンスは残されています) 厳密にはみずきの体にはすでに不動の能力のエネルギーが注がれている。 一回戦の池松と事情が違うのは、それは場外までの距離。 体をせいぜい数メートル移動させられるくらい。短時間で注がれたエネルギーではそれが精一杯だ。 (だから諦めませんっ! 不動くんは私が能力で煙を払うか、走って出てくるか――それを待っているに違いありません。それなら!) 駆け出す。 石灰の煙の外に出た。……目的の姿を見つける。 (思った通りっ! どの方向から出てきても対応できる場所……不動くんのいる場所は、真上です!) 空中の不動と目が合った。だが、こちらのほうが早い。 胸を覆う布地を犠牲にして作られた水の槍が、今までとは比較にならない速度で伸びる。 同時に、左右のヘアゴムのうち、片方を槍に変換する。 「っ!!」 撃ち込もうとしたところでみずきの体勢が崩れた。 先ほどわずかに注がれていた「インフィールドフライ」のエネルギーが、狙いをつけるのを妨害した。 (…………まだです!) 「みずのはごろも」の制御の力を上乗せする。 狙いを外されて解き放たれる寸前の槍に、もう一つのヘアゴムも上乗せした。 槍ではなく、「鎌」の形となり水の刃が飛翔する。 そして。 続けざまに正真正銘最後の一発。 彼女の纏う下着の最後の一枚が水に変換される。 出し惜しみはしない――最初の槍はかわされたが、「鎌」は不動の肩口を切り裂いた。このチャンスを逃しては、次はない。 作り出された水球が胸部に命中し、不動の体躯が空中から落下した。 ……みずきの上に。 「きゃあああああっ!?」 仰向けに倒れる。 痛い。 そして重い。 (う、ううっ……なんで最後の最後でこんな目に……) 思いながら、みずきは体を起こして不動の下から這い出ようとする。――その裸の肩が押さえつけられた。 「――えっ?」 信じられない、といった顔のみずきの口から疑問符が零れる。 不動は荒い息を吐きながらも身を起こしていた。 彼が耐えられた理由がもしあるとするなら、それは、学生服の胸ポケットに念のため入れてあった予備のマグネシウム片のおかげだろう。 仮にそれ以外の急所、たとえば頭部に当たっていたら意識は保っていられなかったはずだ。 不動がみずきの目を真っ直ぐに見つめる。その視線にみずきは吸い込まれそうになる。 「…………まだ、続けますか」 息を吸うのも辛そうな表情で、不動は問う。 え、とみずきが聞き返す。 「わかっているとは思いますが……もう、俺の『インフィールドフライ』は発動してます。俺の勝ちだと思いますけど……」 すでに彼女に触れている手から能力のエネルギーは注ぎ込まれている。つまりは詰み――そうとしか思えなかった。 不動はみずきの瞳から目を逸らさない。 ――それは目を逸らすとみずきのなだらかな裸体が目に入ってきそうだからなのだが。 見つめる彼女の瞳に、涙が滲んだ。 「私の、負け――ですか」 「……」 不動は何も言わない。 しかし、客観的に見れば不動のこの行動は愚かだと言えるだろう。 この状況でまだみずきが奥の手を隠し持っていた場合、負けるのは不動のほうである。 もちろん不動の観察力はその可能性はないだろうと看破していたし、みずき自身、二回戦において「ヘアゴムが最後の切り札」であると述べている。 とはいえ、この状況でとどめを刺さないというのは不動の甘さに他ならない。 「私は……負けられない、のに」 みずきの目から涙の雫が一粒溢れる。 ――その粒が淡く光った。 紅玉を思わせる色の、泪のペイントシールに変化する。 それはすなわち、ティアドロップの弾丸である。 (――っ!) 不動は動けない。 少しでも動けば、今度こそ水弾は不動を撃ち抜く。この距離では外れる可能性はゼロに近い。 そして乙女の涙の破壊力は――少なくとも、不動を射殺すには十分だろう。 (く……甘かった……!) この状況。 動けばその瞬間に撃たれる。ならば残された手は一つ。 水の弾丸が撃たれると同時――念動力の力で自分とみずきの体の両方を瞬時に動かすことで、狙いをぶれさせ、命中する確率を少しでも下げる。それしかない。 (急所さえ守ればすぐ場外に押し出せる……この一撃さえ防げば……っ!) 覚悟を決めて、弾丸を待ち受ける。 「――――」 「――――」 「――――」 「――――?」 しかし。 (撃たない…………?) 見つめ合ったまま、みずきは動かない。彼女が動かないのでもちろん不動も動けない。 そうしているうちに、みずきの目から涙が溢れてくる。 「……撃てない、です」 その涙は能力で変化することなく、みずきの頬を濡らす。 生成されたペイントシールも、能力を解除されて涙の滴に戻る。 「私の、負け……だから」 不動はその言葉の意味を考えて――そして思い当たる。 「まさか、最初から……いや、一回戦から」 思えば、今大会を通してみずきは相手に致命傷を与えるような攻撃をしていない。 二回戦の決着も降伏を勧告しただけだったし――より顕著なのは一回戦、糺礼との勝負。あえて致命傷を避け、気絶させることで勝利していた。 「相手を殺したくないから…………?」 (……違い、ます) しかし、みずきは内心でそれを否定する。 (そんなのじゃないんです……でも。涙がこぼれたのは、私の負けだったから) 押し倒された時点で本来なら詰みだった……彼女自身、心の中ではそれを認めてしまっていたのだ。 人前で泣くなんていけないと思いながらも、涙を止めることはできなかった。 それほどまでに、負けることが悔しかった。 (でも……それでも、嘘はつけません。私自身に嘘をついてまで……戦うことは) そんなことは口には出せない。説明するつもりもない。 「その……不動くん」 だからみずきは代わりに言う。 「あの、そろそろ私……この格好は、恥ずかしいです」 ●白王みずき(ギブアップ)vs ○不動昭良
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/66.html
第06回トーナメント:準決勝② No.5441 【スタンド名】 ミストレス・メーベル 【本体】 アゲハ・フラテリカ 【能力】 鞭の痕を「折れ線」に変える オリスタ図鑑 No.5441 No.4569 【スタンド名】 フロム・ヘル・ガーデン 【本体】 厚狭田 亨児(アサダ キョウジ) 【能力】 触れたものを「強化」する オリスタ図鑑 No.4569 ミストレス・メーベル vs フロム・ヘル・ガーデン 【STAGE:遊園地】◆aqlrDxpX0s 「力が強いこと」……それはこの世で一番大切なことだと思う。 単に筋力が強いとかそういうコトじゃねェ。言い換えれば、「ケンカが強いこと」だ。 それさえあれば、この世で手に入らねェモンはない。 極端に言えば盗みをしたとしても、ケーサツでも軍でも返り討ちにするだけの力があれば、ソイツを止めることは不可能だ。 ま、俺はそんなコトするのはいちいち面倒だし、主義に反するからしねえケドよ。 『フロム・ヘル・ガーデン』のスタンド使い、厚狭田亨児(アサダキョウジ)は高校を中退し、ケンカに明け暮れる生活を送っていた。 厚狭田の住む界隈に彼に敵う者がいなくなると、厚狭田は強者を求めてアメリカに渡った。 アンダーグラウンドのファイトクラブは彼を満足させる環境といえた。 戦うことを邪魔する者はいない。むしろ、彼の戦いは観客を興奮させ、勝利することで多額のファイトマネーを得ることができた。 時々そこでスタンド使いと戦うこともあったが、彼は萎縮するどころかそれを楽しみにさえしていた。 そのファイトクラブで、彼が敗北したことは一度としてない。 彼が望んで得られないものは、何一つとしてなかった。 (まあ、得られないものがあるとすれば、そりゃ恐怖ってヤツなんだがよ。 それで、次の戦いが遊園地でやると聞いて"コレ"を楽しみにしてきたんだが……) 「真っ暗なだけで、何一つ怖かねェな……。このお化け屋敷を設計したヤツぁアホ丸出しだな」 そう独り言を呟きながら厚狭田は「恐怖の黄金体験!!」と大げさに看板に書かれたお化け屋敷の建物から出てきた。 お化け屋敷から出ても、空は墨を塗ったように黒く、明かりも街灯しか点いていないため遊園地にしては暗かったが、 厚狭田にとってはお化け屋敷の中のほうがずっと暗く感じた。 厚狭田は体にさらしを巻き、お菓子の包み紙のような柄をしたアロハシャツを羽織っている。 ベージュのハーフパンツに黒いビーチサンダルを履き、夏の砂浜でならかならず一人はみかけるような出で立ちだが、 顔に眉はなく、立派にそびえるその頭の「トサカ」はまわりの海水浴客を威圧し、近づけさせないだろう。 海の家でヤキソバでも焼いて販売しているのならば、少しくらいは近づいてくれる人もいるかもしれないが。 とにかく、ふつうの成人男性とは違った生き方をしているだろうことは予想させる姿であった。 「営業していないんだから仕掛けも動いてないし、真っ暗なのも当たり前じゃない。……馬ッ鹿じゃないの?」 そう吐き捨てるように言いながら近づいてきたのは、『ミストレス・メーベル』のスタンド使い、アゲハ・フラテリカだった。 彼女もまた、俗世離れした生き方を感じさせる格好だった。 キラキラとしたネックレス、小さな宝石のついたピアスをつけ、大きく胸元のあいたドレスを着ている。 腰からのびたスカートは膝くらいまでの丈があり、歩くと脚の美しさがいっそう映えて見える。 「……ずいぶんとイイ女だが、デートでもすっぽかされたのか?」 「格好は気にしないでちょうだい。普段着なんてもってないし、これが一番動きやすいのよ」 「あ? 動きやすい?」 アゲハの後ろからもう一人、スーツ姿にショートの金髪の女性が現れた。 「先程も申し上げました、が」 金髪の女性……この試合の立会人は語気を強めて言った。 「試合の最中、施設内のすべてのアトラクションは停止させていただきます」 「あ、そうかい。……もしかして、そっちのねーちゃんが俺の対戦相手か?」 「はい、厚狭田亨児様、アゲハ・フラテリカ様共に揃いましたのでこれよりルールを説明させていただきます」 遊園地の入場門近く、お化け屋敷の建物の前に厚狭田とアゲハは向かい合い、その間に立会人が立っていた。 厚狭田からはアゲハの背後に明かりの消えた入場門のカウンターと、そのすぐ前にある花時計が見えた。 正面に立たないとよくは見えないが、その2本の針はどちらも大体上のほうを指しているようだった。 アゲハからは厚狭田の背後に、営業してなければ何も怖くないお化け屋敷がすぐ近くにあり、 その横からのびる広い通りの向こうにはジェットコースターやメリーゴーランド、観覧車などのアトラクションが見えた。 厚狭田とアゲハはともに動かなかった。 その理由は相手の出方をうかがっているからではなく、立会人の存在にあった。 立会人がいる以上、戦いにはルールがあり、それを聞かなければ戦うことはできない。 アゲハは1回戦がそうであったし、厚狭田にとっては初めてだが、立会人を無視し不意打ちを仕掛けることは彼の矜持に反することであった。 立会人はおもむろに一枚のコインを取り出した。 「厚狭田様、表と裏どちらになさいますか?」 「はっ?」 立会人の突然の言動にアゲハは驚き、思わず立会人を睨みつけてしまった。 「厚狭田様、表か裏どちらかお選びください」 「ねえ、ちょっと……あなたまさかコイントスで勝負を決めようってんじゃないよね?」 「それが何か問題でも?」 「あるにきまってるでしょう!」 「…………表だ」 「え?」 厚狭田は異論も唱えずに答えた。 「こんな楽しいお祭りが、そんな簡単な勝負で終わるはずねえだろ? 立会人さんよ」 「それでは厚狭田様が表、アゲハ・フラテリカ様が裏ということで。ちなみに数字が描かれてあるほうが裏です」 ズズズズズズズズズズ…… その後の立会人の行動に2人は思わず目を見張った。 立会人の肩からもう一つの腕が……華奢な彼女の腕とはまるで正反対な、ふとくてごつい形の腕が現れたのだ。 「ス……スタンド!」 「まあ、当然っちゃ当然なんだろうけどよー……」 「お二方、コインから目を離さないよう願います」 立会人の持っていたコインはいつのまにか、スタンドの大きな手が持っていた。 手の平を真横に向けたまま、曲げた親指の爪先だけを包むように握り、丸めた人差し指の上にコインを置いた。 ピィィ―――――――z__________ン!! 立会人のスタンドはコインを思い切り弾き飛ばした。 厚狭田とアゲハは身構えてコインをみつめたが、 コインは真上に飛ぶどころか、3人の立っている場所から遠くへ一直線に飛んでいった。 もはや小さすぎてコインは見えなくなったが、飛んで行った先、観覧車のほうからバヂッと何かが破れる音が静かな園内に響いた。 その観覧車をよく見ると、そのひとつのゴンドラがゆれているように見えた。 厚狭田とアゲハが目をこらしてさらによく見ようとすると、立会人が話しだした。 「申し訳ございません。手元が狂ってコインを遠くへ飛ばしてしまいました。……ですが『幸い』、ゴンドラの窓に当たり、窓を破って中へ落ちたようですね。 どちらでもかまいませんが、私のもとへ持ってきていただけないでしょうか? 私は『持ってきていただいたコインの表裏を見て』、勝負を判断しようと思います」 ドドドドドドドドドドド…… 「ヘヘッ、そういうコトかい。ビーチ・フラッグスを往復でやるようなもんか」 「くだらない……そういうジョーク、アタシ嫌い」 「私はここで待機しております。それでは……『お願いいたします』」 その一言が勝負開始の合図となり、厚狭田とアゲハは同時に駆け出した。 観覧車に若干近い位置にいた厚狭田がアゲハの前を走っていた。 厚狭田が履いているのはサンダルなので、決して走りやすいとは言い難いが、アゲハはさらに走りにくいミュールを履いていたため、 徐々にではあるが厚狭田はアゲハとの差を広げていった。 (こりゃあ、サンダルを『使う』ほどでもねえかな。1回戦の女は『プロ』だったが今度の女はどうみても『アマ』だ。 ま、あれでも一応1回戦を勝ち上がってきたスタンド使いだ。警戒すべきは……) 「『ミストレス・メーベル』ッッ!!」 厚狭田の3メートル後ろを走っていたアゲハは自身のスタンドを発現させた。 「出したな……スタンドを!」 アゲハに併走するそのヴィジョンは、骨のような装甲だけで構成されており、スカスカで、力強さは感じさせない。 ただし、シンプルなだけに美しく、神々しささえ感じさせた。そして、その左手には金塊を水あめみたく伸ばしたような、黄金に輝くムチを携えていた。 (『ムチ』……か! ヤベェな、今は観覧車に向かってて、俺がリードしてる状況だが、言い換えれば俺があの女に追われているのと変わりねェ。 後ろからのムチの攻撃なんて……簡単には避けられねえ! どうする!? 『シャツ』をもう使っちまうか?) 追われ続けながら、うまくアゲハの攻撃に対処する方法を考えていたが……目の前10メートル先を屋内アトラクションらしき建物が立ちふさがっていた。 もうすぐ曲がり道―――― アゲハは道に設置されていた大きなダストボックスに飛び乗り、さらにそこから跳躍した。 「振り下ろせ、『ミストレス・メーベル』!!」 厚狭田がちょうど曲がり道を曲がったところでムチが何かに当たる音が頭上で鳴った。 ムチは命中せずにすんだのだ。 厚狭田の通った通路のそばには、遊園地のシンボルのひとつでもある大きな木がそびえていた。 「あ、アブねえ……ちょうど木の枝が通路の頭上まで伸びてたんだな。暗くて見えなかったんだろうが……高く跳んだのがアダになったなァ~運がいいぜ」 「違うわ、運がよかったのは……アタシだよ」 地上から8メートルほどの高さのところで通路にはみ出した木の太い枝にムチは命中してしまったが、弾かれたわけではなかった。 ムチの先端は木の枝に巻きついていたのだ。 跳びあがっていたアゲハの体はそのまま落ちることなく、木の枝を支柱にしてムチをターザンのように扱い、まるでステージのショーのように空を舞った。 体の位置が最高点に達すると、アゲハはスタンドを解除してムチを放した。 そのままアゲハが着地したのは、厚狭田の前を立ちふさがっていたアトラクションの建物の屋根の上だった。 「な、何だァッ!?」 「ここから観覧車まで、アタシを遮る障害物はない……一直線で向かえるわ」 アゲハが屋根の上に乗った建物は、複数のアトラクションが内設されているため、遊園地内最大といっていいほど大きい。 アゲハの乗った場所からは、屋根のむこうがわの端に観覧車が見えた。 対して下を走る厚狭田は建物を迂回しなければ観覧車にはたどり着けない。 「クッソ、普通に走るんじゃもう間に合わねェ! 『フロム・ヘル・ガーデン』、『走力を強化したサンダル』使うぜ!」 ドンッ! (あのムチの射程から外れている今なら、止まらずに走り続けることが出来るッ! 立ち止まるまでは『一度』だ、ぜってェ追い抜いてみせるッ!) だが、厚狭田の目論みはすぐに破られてしまう。 ガザザッ! 「うおッ、うおおおおう!!」 厚狭田の行く手を茂みが遮っていたのだ。 厚狭田の体はいくつもの葉に、枝に遮られて止められてしまった。 「なんっっでこんなトコに茂みなんか……いや、これは茂みじゃねえ!」 建物の屋根の上を走るアゲハは、屋根のへりをスタンドを発現させたまま走っていた。 「『ミストレス・メーベル』の能力は『ムチを当てた部分を折り曲げる』こと……道路に沿って並ぶ木の幹を『折り曲げて』、道を遮らせてもらったわ」 「木かッ!! クソッ、一度使ったモノをもう一度強化させるにはスタンドが触れ続けなければなんねェのに……」 (またサンダルが使えるようになるまで、ハダシでいくしかねえか……) (今あの男が見せた『高速移動』……アレが能力なの?) アゲハは順調に屋根の上を観覧車に向かって走り続けた。 厚狭田もアゲハに遅れぬよう追いかけるが、大きく差がつけられていた。 観覧車に先にたどり着いたのはもちろんアゲハだった。 ふと背後の通路を見るが、厚狭田の姿はまだ見えない。 片っ端から木を倒してきたので、それを越えながらではここへくるのはかなり時間がかかるだろう。 アゲハは観覧車を見上げた。 都市部にある観覧車のような巨大なものではなく、ゴンドラがたった12個あるだけのあまり大きくない観覧車だった。 すべてのアトラクションは停止しているので、観覧車も止まったままだった。 コインが窓ガラスを破った跡のあるゴンドラは時計でいう12時のほう、てっぺんにあった。 観覧車の乗り場のそばには管理室のようなものがあり、そこでスイッチを入れれば観覧車は動くのかもしれないが、 てっぺんのゴンドラがおりてくるまでには厚狭田に追いつかれるだろうし、そもそもスイッチを入れても動かない可能性もある。 アゲハは『ミストレス・メーベル』のムチを使って観覧車の骨組みをよじ登ることにした。 「ハァッ、ハァッ、ハァッ………クソ、やっと着いたぜ」 アゲハが観覧車に到着して数分後、やっとのことで観覧車前に到着した厚狭田は両手を膝につき、荒く呼吸をしていた。 そして観覧車を見上げると、アゲハはてっぺんのゴンドラの扉を開けて、中へ入ろうとしているところだった。 ゴンドラの中に入ったアゲハは、振り返って厚狭田を見下ろした。 「アサダといったかしら? はやくココまで登ってきなさいよ。ここまで来なければあんたはコインを手に入れられないし、 アタシもあんたが来るまでここを降りないわ」 「……決着をここでつけようってわけだな? 面白れェ」 「けどね、アンタがよじ登ってくるんなら、このムチを叩きつけてやるわ。その覚悟がなければ、降参しなさい!」 「悪ィけどよ、降参ってものは俺ンとこのルールにはねえんだ。みっともなく、あがいてやるぜ!」 厚狭田は観覧車に向かい駆け出した。 (アイツのスタンドが遠隔操作タイプでないかぎり、攻撃射程はアタシのムチのほうずっと長い。一発入れさえすれば、アイツは動けなくなる……) アゲハはゴンドラから厚狭田を見下ろし、どの位置から骨組みを昇ってくるのか、どういったルートで昇ってくるのかを予測した。 だが、厚狭田は観覧車の目前で突然、しゃがみこんだ。 「!?」 腕をおおきく振り、膝を伸ばすと、厚狭田の体は高く跳躍した! アゲハの乗るゴンドラの高さまで届く勢いだ。 「『強化』したサンダルを使っての大ジャンプだッ!」 「そんな馬鹿な……でも、問題ない! ムチを当てさえすればッ、『ミストレス・メーベル』!!」 ゴンドラの上部まで跳んできた厚狭田に向け、ミストレス・メーベルのムチが襲いかかる! バッシィッ!! しなったムチは音速を超えたスピードで厚狭田の腹部に横から命中した。 「効かねェっ!!」 「えっ!?」 「おおらっ!!!」 ガシッ! 厚狭田はゴンドラの手すりにつかまり、アゲハの体をゴンドラの中へ蹴り飛ばした。 「きゃっ!」 アゲハの体は狭いゴンドラの壁にたたきつけられた。 その間に厚狭田はゴンドラの中へ入る。 「さあ、辿りついたぜ。それから、どうするつもりなんだ?」 厚狭田はアゲハを見下ろして言った。 ムチは確かに命中していたが、厚狭田の体に異常はない。 「なぜ……? ムチは当たったのに……」 「ムチがあたったのは俺の体じゃねえ、このアロハシャツだ」 厚狭田の着ているアロハシャツ……ムチの当たった横腹の部分が折れ曲がっていた。 まるで鉄板を曲げたかのように、シャツの裾はピンと横に張っていた。 「アロハシャツの硬さを『強化』していたんだ。ムチの攻撃を一度防げるくらいになあ~~」 「『強化』……それがアンタの能力ってことね……」 「さて、コインを探す前に決着つけとこうかァ」 厚狭田はポケットからリボルバーを取り出した。 「言うまでもなく、コレの銃弾も強化してある。ただ撃ちぬかれるだけじゃ済まないぜ、てめェの柔らかい肉がねじりきられ、弾け飛ぶ」 「…………ッ!」 「なあ嬢ちゃん、どうしてこんな戦いに参加したんだ? 初対面で言う言葉じゃねえが、あんたいい女じゃねえか。戦いなんかしなくってもよ、幸せにはなれるだろうぜ」 「あ、あなたは……なんで、さ、参加したの……?」 「俺かァ? ……ま、理由なんてないわな。強ェヤツと戦いたい、それだけだ。俺こそが一番強いと、証明するためにな」 「『強い』……か、アタシも……強さが欲しいわ……」 「残念だが、勝ちを譲ることはできねえよ。……それじゃ、覚悟しな」 厚狭田はリボルバーをアゲハに向け、親指でハンマーをカチリと引いた。 トリガーに指をかけ…… バァン! 「……ッ!!」 銃声が鳴り響くも、アゲハは体に痛みを感じなかった。 バギッ、バリバリバリ…… 何かが破れる音が上から聞こえる。 見上げると、弾丸はゴンドラの壁に命中し、壁をねじり切っていた。 バァン! バァン! 続けて2発、厚狭田はリボルバーを撃った。 同じく強化された弾丸は壁に命中し、ねじり切って壁を破壊した。 バギッ! 次の瞬間、アゲハが寄りかかっていたゴンドラの壁が崩れ落ち、アゲハの体もゴンドラから落ちようとしていた。 「きゃあああああああああああああああああああッッ!!」 アゲハはゴンドラから転落した。 「さて、コインはっと……お、あった。シートのスキマに挟まってたのか。落ちなくて良かったぜ」 厚狭田はコインを取ったあと、ゴンドラの扉から下を見下ろした。 「登るときは跳びあがれたけど、さすがに飛び降りることはできねえなァ~。骨組みをつたって降りるしかねえか」 ゴンドラからおりて骨組みにつかまると、下方に宙に吊られているアゲハの姿が見えた。 ミストレス・メーベルを発現させ、骨組みにムチを巻きつけさせてぶらさがっていたのだ。 「よし、落ちずにはすんだみてェだな。命まではとらねえよ、主義に反するからな」 アゲハはぶら下がったまま、観覧車を降りていく厚狭田を見つめていた。 「アタシが……幸せになれる……?」 「ホラ、コインは表だったぜ」 遊園地の入場門前で、厚狭田は立会人にコインの表面を見せた。 「なァ、あの女もしかしたらまだぶら下がったままかもしれねえ。おまえらで助けに行ってやれよ」 「……我々が手を貸すことはできません」 立会人の女は表情も変えずに答えた。 「冷てェ連中だな。俺だってまァ戦いには手を抜かねェけどよ、ここまで冷酷ってワケじゃあねえぜ。俺は闘士だが、人間だ」 「………………」 「……ま、いいや。あの女も傷はねぇし、自力で降りられるだろ。……決勝戦楽しみにしとくぜ、じゃあな」 「厚狭田様」 入場門から外へ出ようとする厚狭田に立会人は声をかけ、引きとめた。 「ステージの外へ出た場合、その時点で失格負けとなりますが」 「ああ? どうしてだよ」 「『勝負はまだ、ついておりません』」 「…………なんだって?」 「このコインは、私の投げたコインではありません」 ドドドドドドドドドドドドド…… そう、立会人が言うのと同じくして、観覧車の方角からアゲハが現れた。 彼女もまた、手に『コイン』を持っていた。 「て、てめェっ!!」 厚狭田はあわてて立会人の前に出て、アゲハに立ちふさがる。 「あんたが持っていったコインは」 アゲハは立ち止まり、話し出した。 「私がゴンドラに着いてコインを回収したあと、アタシが落とした別のモノよ」 「な……ッ!」 「コイントスをするとき暗くてよく見えなかったんでしょうけど……立会人が投げたコインはアタシの持っているこの『100円玉』よ。 あなたが見慣れているであろう、日本のコイン。アタシが落としたコインは外国のものだから、あんたは疑いもしなかったでしょうけど」 「てめえ……なんでわざわざそんなことを」 「アタシが先にコインをとったとしても、ここへ戻ってこなければならない。その間、あんたと戦って勝てるかどうかは分からない。 観覧車で再起不能にできれば一番良かったけれど、念のためエサをまいておいたのよ。ゴンドラにたどり着かれても、アタシが安全にここまで来れるようにね。 拳銃向けられたときはさすがにヤバいと思ったけど……あとは、アタシが立会人にコインを見せるだけだわ」 「この……アマ……!! せっかく、命は見逃してやったってのによ……!」 「そんなこと、一度だって頼んでないわ。ようはあなたが『アマ』だったのよ。『ミストレス・メーベル』ッッ!!」 「なら、もう容赦はしねえぜ。俺は殺す気で、てめえを立会人には近づけさせねえ! 俺の勝利のために、強さの証明のためにッ!! 『フロメ・ヘル・ガーデン』ッ!!」 ここで初めて、厚狭田はスタンドヴィジョンを発現させた。ナマコのようなグニョグニョした体は毒々しい紫の色をしており、カバのような大きな口がついている。 そこからむきだしたキバは、何モノでも噛み潰しそうな、恐ろしさを感じさせた。 厚狭田のスタンドの特徴として、その能力の他にあるとすればその大きな口と鋭いキバによる噛みつき攻撃だった。 (『強化』させたリボルバーの弾丸はまだ3発残ってはいるが……さっきのように狭いゴンドラの中でなければ、俺が抜くより早く、あのムチが襲ってくるに違いない……) だが厚狭田は、あえてアゲハに接近するべく駆け出した。 走りながら、厚狭田はポケットからリボルバーを取り出そうとする…… 「させないわ、『ミストレス・メーベル』!」 バシィッ!! ミストレス・メーベルのムチが厚狭田の手首に命中した。 命中した部分はペッコリと谷のようになり、折れ曲がってリボルバーを地面に落としてしまった。 「予想通り……『リボルバーをとった手』に攻撃したな……?」 「………ッ!」 「これは本能なんだ……あのリボルバーの威力を知っているから、おまえはそれを持たせてはいけないと……反射でこの手に攻撃したんだ……だが、それは『間違っている』。 おまえは、俺の足に攻撃しなければならなかったんだ。そうすれば、俺は動けなくなって、おまえは立会人のもとへ行けたんだ」 「ナメないでよね、ムチは振るときだけに当てるんじゃあない、『引く』ときにも当てることができる!!」 ヒュパッ!! ミストレス・メーベルはムチをひいてしならせ、厚狭田の足に命中させた! 「ぐおっ、た、倒れる……!!」 踏み込もうとしていた厚狭田の右脚のふくらはぎに命中し、脚が折れ曲がって厚狭田はバランスを崩した。 だが、それすらも厚狭田の想定の範囲内だった。 「だが……射程距離内に入ったァ! 『フロム・ヘル・ガーデン』、噛みつけェ!!」 「ゴオラァアアアアアアアァァァッ!」 ガブッッ!! 「!!」 フロム・ヘル・ガーデンの巨大な口はアゲハの右腕も巻き込み、体を挟むようにして噛み付いた。 いくつも生えた鋭い牙はアゲハの腕に、胸に、腹に食い込み、血が流れ出ている。 「決着だッ! 死にたくなけりゃあ、降参しやがれッッ!!」 「うっ…ああっ…」 アゲハは痛みと恐怖に体を震わせるが、それを押さえつけるように、フロム・ヘル・ガーデンが体の動きを封じていた。 「……こ……こ…………」 アゲハは噛み付かれる痛みに耐えながら…………厚狭田を睨みつけた。 「これしきのことで……ひるむと思わないで……!!」 「なっ……!?」 その言葉に、厚狭田だけでなく、それを見ていた立会人の女ですら目を見開いた。 アゲハの目は、闘志に満ちていた。 「あんた……言ったよね……アタシがいい女だって。アタシだって、自分の容姿には自信を持ってるわよ。アタシの仕事には……ソレが大事なんだから」 アゲハの仕事……人によっては仕事とも言えないかもしれないが、それは娼婦だった。 自分の体を売り、それで食べていくこと。スタンド以外、彼女にはそれしかなかった。 「でもいつか花は枯れるもの。どんなに取り繕ったってそれはいずれ訪れるのよ。……そんなとき、美しさも枯れてしまったアタシに、いったい何が残るっていうのよ!!」 アゲハの体が封じられている以上、ミストレス・メーベルも自由には動けない。 動かすことができるのは……ムチを持った左腕ただひとつだった。 ミストレス・メーベルは、アゲハは懸命に左腕を、ムチを振り上げた。 「アタシはこの戦いを勝ち上がり……アタシにできることを見つけるッ! 新しい人生を見つけてやるんだッ!!」 ビュオッ!! ミストレス・メーベルはムチを厚狭田のほうへ向けて振った。 「く…………」 (確かに……俺は見誤った! 『アマ』だったのは俺のほうだ! だが……どんなに気力を振り絞ったとしても、これが最後の攻撃なのは間違いねえ!) 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」 厚狭田は目前に迫るムチを、体をのけ反らせてかわそうとした。 背中を地面に下ろすというよりは落とすように、ムチをくぐりぬけようとした。 ムチは厚狭田の胸の上を、アゴの上ギリギリを、鼻の上をかすめ、自慢のリーゼントの先を削り、通り過ぎた。 「か、かわしたッッ! ギリギリだが、勝ったァ!!」 「狙いは『あんたじゃないわ』、そして勝ったのは、アタシよ」 ガァン!! ムチが何かに命中した。周囲に金属を叩いたような音が響く。 命中したのは……厚狭田の後方にあった『街灯』。 街灯はムチの命中したところで折れ曲がり、仰向けの厚狭田に向かってゆっくりと倒れてくる……。 「うおぁあああああああああああああああっっ!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――― 「コインは『裏』だったわ」 アゲハは左手に持った100円玉の数字の面を立会人に見せた。 「コインは『裏』……ではこの勝負、アゲハ・フラテリカ様の勝利となります。……おめでとうございます」 「…………ふん」 「その100円玉の表面に描かれている花……ご存知ですか?」 「は? 知らないけど……」 「それは日本でしかほとんど見ることのできない花、『桜』というものです」 「へー、そうなの」 「そのコイン、記念に差し上げます。私からの気持ちということで」 「…………1回戦の立会人もヘンだったけど、あんたもヘンな人ね」 「決勝戦でのご武運を祈っております」 立会人の女は深々と礼をした。 「……そりゃいいけどさ、このケガどーにかならないの? アトが残ったら、アタシの仕事にも影響するんだけど」 「では、後ほど手配いたします。戦いで負った傷は、決勝前までに治療させていただきますよ」 「あ、いいんだ。できないって言われるかと思ったのに」 「とんでもございません……私、あなたのことが気に入りましたから」 「……………は?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――― ……夜が明けたころ、厚狭田は遊園地の入場門前で目を覚ました。 空がまだ暗かったのは、雨が降っていたからだった。 雨粒が厚狭田の頬をうち、目を覚まさせたのだ。 厚狭田が自分の手を脚を見ると、ミストレス・メーベルのムチの跡は残っていない。 だが、腹の上に金属製の街灯がのしかかっており、動くと痛みが走った。 「ああ……そうか、この街灯が腹に当たって気絶して……噛み付いてたフロム・ヘル・ガーデンも解除されたんだな」 まわりをみわたしても、誰の姿も無かった。 自分は負けたのだと、確信した。人生ではじめての敗北だった。 「くそ…………」 雨は、しだいに強まっていった。 髪もぬれて、自慢のリーゼントもほぐれ地面に垂れている。 いくつもの雨水が目に入ってくる。 「悔しい……悔しいなあ……ッ…………」 『悔しさ』、それは勝ち続けることですべてのものを手に入れ続けてきた彼にとって、初めての感情だった。 「くそっ……くそおッ…………! もう、ぜってえ負けねえ……! 今度は、絶対に負けねえからな……!」 ★★★ 勝者 ★★★ No.5441 【スタンド名】 ミストレス・メーベル 【本体】 アゲハ・フラテリカ 【能力】 鞭の痕を「折れ線」に変える オリスタ図鑑 No.5441 < 第06回:決勝① > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/165.html
第16回トーナメント:準決勝① No.6297 【スタンド名】 ネクスト・アルカディア 【本体】 ネプティス・アヌヴィッシュ 【能力】 対峙したものの能力に合わせて「定向進化」する オリスタ図鑑 No.6297 No.5405 【スタンド名】 フローレンス・アンド・ザマシーン 【本体】 奏 璃乃(カナデ リノ) 【能力】 様々な「香り」を生み出す オリスタ図鑑 No.5405 ネクスト・アルカディア vs フローレンス・アンド・ザマシーン 【STAGE:迷宮】◆aqlrDxpX0s 2人の男が立っていた。 彼らの周囲には暗闇が広がっているばかりで、彼らの眼にも写るのは果てしない闇と隣に立つ自分とよく似た姿の男だけである。 よく似たというより、彼らは双子と言っていいほどまったく同じであった。 ひとつだけ異なる点があるとすれば、片方は右腕が肩からごっそり無く、もうひとりは左腕が無い。 その欠き方さえもまったく一緒だった。 ひとりの男が口を開く。 「『運営』はとんでもない人物を招いたものだな、右近」 右近と呼ばれた男は、呼んだ男同様に首も視線も動かさず応えた。 「それはどっちのことだい、左近」 すると左近と呼ばれた男は口角をあげて不気味な笑い顔を見せる。 そして右近も、というより左近とまったく同じく鏡写しのように同時に笑った。 「君にもわかっているだろう、我らは互いに考えていることは同じ。そうだろう右近」 「とにかく我らの務めはトーナメント優勝者の栄光にふさわしい者を選別することだ、左近」 彼らの顔から笑みがふっと消え、真顔に戻る。 「もちろんだ、右近」 「そのために我々は効率的かつ効果的な方法で彼女らに試練を与える準備を整えたのだ」 「……この悪夢から目覚めることが出来るのははたしてどちらなのか……」 1回戦が終わってから1週間が経っていた。 ネプティス・アヌヴィッシュはそれまでずっと離れたことのなかった地元を離れ、海沿いの街にある安宿に泊まっていた。 食事とたまに海まで散歩に出る以外はほとんど部屋にこもってベッドに寝転がっている。 試合で戦ったあの男は、まるで過去の自分そのものであった。 ネプティスはスタンドをきっかけにみじめだった自分の性分を克服し強くなった。 だが、あの試合で「過去の自分を痛めつけたわたし」はいったいなんなのだ? なんのことはない、過去のわたしが嫌いだった者達といっしょなのだ。 痛めつけられていた側が、痛めつける側になっていたのだ。 「自分に嫌悪する……」 ネプティスは自分を知る誰にも会いたくなくて、自分のことを知っている人が誰もいない場所に行きたかったのだ。 あの馴染みの喫茶店は名残惜しかった。 喫茶店の店長は、弱さを克服したあとの自分しか知らない数少ない知人だった。 でも店長に会って、トーナメントのことをなんて報告すればいい? ねえ店長、勝ったよ。対戦相手はまるで弱かった昔の私みたいだった。 戦う気もないのに、ボコボコに痛めつけて、最後は見捨てたの。 私は過去の自分に打ち勝ったのよ。 吐き気がする。 ネプティスはサイドテーブルの上のクシャクシャになった一片の紙を手に取った。 広げてシワをのばすと、そこにはトーナメントの次の試合の開催場所と時間が書かれている。 1回戦終了後に立会人から渡されたものだ。 場所は「迷宮」、そして時間はきょうの午後5時となっていた。 時計を見ると、針は4時59分を指していた。 ネプティスにはなにも焦る気持ちは生まれなかった。 そもそも場所がただの「迷宮」とあってはどこへも行きようがないし 午後5時を過ぎて自分が失格負けになってももはやどうでもいいことだった。 自分には誰かを打ち負かして何かを得ようとする資格なんてないのだ……。 ネプティスはまくらに頭を乗せて目を閉じた。 「起きなさい、ネプティス・アヌヴィッシュ」 暗く冷たい男の声が突然聞こえ、ネプティスは驚いて飛び起きる。 その声が発せられた瞬間に状況が変わったことでぼんやりとしていた気分が吹き飛んでしまった。 「えっ……ここ、どこっ?」 ネプティスはいつのまにか安宿の部屋ではなく、石壁に囲まれた小さな部屋にいた。 壁は石のブロックを積み上げて造られているが、天井はごつごつした岩がむき出しになっており、 どうやら部屋は地上ではなく地下にあるようだった。 冷たく湿った空気がネプティスの肌にまとわりつき、息をすいこむとカビ臭さが鼻をつく。 シングルベッドはいつのまにか歪んだパイプのベッドに変わっており、 部屋にはほかに足元を照らすライトが設置されているだけでほかには何もなかった。 ネプティスが起き上がったとき、目の前には石の壁があり、男の声は背後から聞こえた。 振り返ると、そこには監守の制服を着た男が立っており、その背後には壁のかわりに鉄格子があった。 ネプティスは牢獄の一室にいたのだった。 「ネプティス・アヌヴィッシュ、私はトーナメント立会人の『宇喜田右近』だ。 開始時間となったので、きみをここへ連れて来たのだ。これよりトーナメント2回戦を始めるにあたって、ルールの説明をする」 ネプティスはその言葉を聞いてはじめて、自分がトーナメントの試合に強制的に連れて来られたのだとわかった。 宇喜田右近と名乗った男は身長が高く頬が痩せこけているが、不気味なほど青白い肌と監守の制服がいやに威圧感を放っていた。 そして、どうやら左腕がないらしく、左の袖が肩からぶらりと垂れ下がっている。 「トーナメント2回戦はこの岩窟の迷宮にて行う。2人の出場者が別の場所からスタートし、先にここから脱出した者が勝者となる」 立会人は困惑するネプティスに構わず、決まりきった文章を読み上げるがごとく淡々と言った。 「あの、私もうこの試合に出るつもりなかったんだけど」 「他の立会人なら、棄権も代理参加も許したのだろう。だが、私は棄権は認めない」 右近立会人は表情も変えずに続けた。 「それに君は棄権するつもりもなかったのだろう? 棄権するつもりならなぜその案内状を捨てずに持っている」 ネプティスが寝転がっていた歪んだベッドに、クシャクシャになった封筒が置いてあった。 「…………そんなの、屁理屈だよ」 「屁理屈ではない、この勝負でもっとも重要なのは決断力だ。あらゆる推測を立てて戦略を練っても、決断力がなければここでは勝てない。 なあに、参加するか棄権するかすら決められない今の君ではいずれここで負けてしまうだろう」 今の君では負けるという言葉だけがネプティスの頭に否が応にも残ってしまう。 ああ、そうか。 わかったよ、私は強くなってないんだ。 あのひとを、過去の自分にそっくりだったあのひとを助けられなかったのは、 まだ私が弱かったからなんだ。 この立会人の言葉は癪にさわるけど、やってやろうじゃないか。 「どのみち、この試合では降参することもできない。アリアドネーの糸もない。早くこの悪夢から脱出できるよう考え、行動するのだな」 右近立会人は鉄格子の扉を開き、出ていった。 「この悪夢の迷宮より先に脱出した者が勝者となり、トーナメント決勝へ進出する。冷静な思考と決断力が勝利へのカギとなるであろう」 宇喜田左近と名乗った、右腕の無い立会人が奏璃乃(かなで りの)のいる牢から出ていった。 黒に近い灰色の壁に囲まれ、錆び付いたパイプベッドにちょこんと座る璃乃は、 この牢にはとてもふさわしくない茜色のワンピースを纏い、束ねられた亜麻色の髪は陰湿な色の壁によりいっそう映えている。 奏璃乃は本来の出場者であったはずの菊谷志保の代理としてこのトーナメントに出場し、1回戦を勝利した。 この試合に璃乃はネプティス同様、午後5時になった瞬間にこの牢に瞬間的に移動させられ、 状況の判断がつかないままに左近立会人のルール説明を聞かされた。 「この迷宮から脱出した者が勝利って……まず入ってきた方法もわからないんですけど」 ひとりになった牢の中で璃乃はため息をつく。 牢の中を見回してもヒントになるようなものはない。 「とにかく、行ってみるしかないな……」 璃乃は牢の鉄格子の扉を押し開き、牢の外へ出る。 錆び付いた扉が不快な軋む音をたてた。 立会人は言った。「先に」脱出した者が勝利だと。 ということは自分の対戦者も今同時に迷路に挑戦しているのだろう。 璃乃はそう思い、慎重に迷宮を進む。 迷宮は一般的に知られるオーソドックスな構造になっているようだった。 牢の中と同じく石のブロックを積み重ねて作られた壁はすべて同じ厚さになっており、 通路はカーブしたり上ったり下りたりすることはなく直進のみで、曲がり角は必ず直角に折れていた。 通路の足元には等間隔で足元を照らすライトが設置されており、距離の把握もしやすくなっている。 しかし、立会人はこの迷宮については何の説明もしなかったため この迷宮がどれぐらいの広さなのか、どんな形をしているかもわからない。 璃乃は立ち止って、じっと考えた。 得体のしれない迷宮を進むために有効な手段は2つある。 ひとつは、壁づたいに歩くこと。 迷宮の入口と出口が迷宮の外周に面している場合、入口に接した壁はかならず出口まで途切れず続いているため確実に出口に向かうことができる。 ただしこの方法は同じ場所を何度も通ることは珍しくなく、出口にたどり着くまでにかなり時間がかかることになる。 もうひとつは、マッピングをしながら進むこと。 紙とペンを用意し、進みながら迷路の構造を紙に書き込んでいくことで、すでに通った道を判別したり、迷路全体の構造を知ることができる。 ただし立会人からは紙やペンなどは持たされていないし、もともと持ってもいない。 頭で覚えようとすると間違いや矛盾が生じやすくなりかえって混乱してしまうことにもなる。 璃乃はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと息を吸い込み、吐き出した。 「……『フローレンス・アンド・ザ・マシーン』」 璃乃は自らのスタンドを発現させた。 ネプティスは壁に手をつきながら歩いていた。 同じような風景の連続に飽きてくるが、ペースを変えず歩き続けている。 行き止まりの場所が何度もあったが、それでも壁から手を離さず、行き止まりまで歩いてそれから引き返していた。 何度も同じ場所を通ったような気がするが、ネプティスは構わず壁伝いに歩き続けた。 ネプティスのスタンド『ネクスト・アルカディア』は戦いにおいては相手に臨機応変に対応できるスタンドだが、 ネプティスひとりの場面では基本的に能力は発揮できず、ヴィジョンとしての役割以外にできることはなかった。 いまネプティスにできることは、ただ地道に進んでいくことだけであった。 しかし、それでも発見はあった。 石のブロックを積み重ねた壁に手をついて歩いていたが、ときどき手触りの違うブロックがあることがわかった。 良く調べてみると、そのブロックとまわりのブロックの数個だけが比較的新しいブロックに替えられていたのだ。 強く押したりしても反応はなかったが、一見同じように見える壁でも、隠された何かがあるということは判明した。 さらに、行く先が行き止まりと見えても念のため行き止まりまで進んでいたのだが、 あるひとつの行き止まりの床に『台座』とその上に半球状の『くぼみ』があった。 立会人はこの迷宮については詳しく説明しなかったが、この迷宮の出口とはなにか特別なものなのかもしれない。 もう1キロほどは歩いただろうか、ネプティスはもうひとつあるモノを発見した。 『匂い』である。 ネプティスが迷路を探索していると、時々何かの匂いがすることがあったのだ。 その匂いがするたびに、ネプティス徐々に匂いの判別ができるようになっていた。 ネプティスが気付かぬうちに、彼女のそばには『ネクスト・アルカディア』が漂っていた。 「この場所は……最初のほうに通った道だ、柑橘系が強い。ということは、こっちの道はまだ通ってないね」 壁際に屈みこんでいた璃乃が立ちあがって次に向かうべき道のほうを向いた。 璃乃の屈みこんでいた場所には、足元を照らすために等間隔に設置されたライトがあった。 このライトは璃乃にとってひとつの目印となっていた。 璃乃は、自身が通った通路を判別するために『フローレンス・アンド・ザ・マシーン』の『香りを生み出す』能力により ライトに香りをこすりつけながら歩いていた。 さらに、通った順序を判別するために香りを「柑橘系」「フローラル系」「ハーブ系」で混ぜて使っていた。 璃乃は迷宮のライトに香りをつける方法で「マッピング」し迷宮を進んでいた。 「!?」 璃乃は突然立ち止まり、進行方向の先にある曲がり角をじっと見つめた。 思えばあまりにも迷宮は静かすぎた。 これまで聞こえていたのは自分の足音のみ。 迷宮を歩きはじめて30分ほど経った頃、璃乃ははじめて自分以外の足音を聞いた。 その足音はゆっくりと、そして確実に近づいてくる。 (そういえば……私は今まで対戦相手のことを考えなかった。この試合、勝利条件は『迷宮から脱出する』ことだから、 もし対戦相手が同じ場所、同じ時に迷路に挑戦しているならば、遭遇するのはできれば避けたい) 璃乃は後ろを振り返った。20メートルほど先に、ついさっき屈みこんで確認したライトがある。 璃乃はそこからまっすぐここまで進んできたが、途中に一つ分岐点があった。 その分岐した道もまだ進んでいないはず。 「……このまま進むのはよそう、あっちの道から進んでみよう」 璃乃は近づく足音の主に気づかれぬよう、忍び足で来た道を戻り、別の道に進んでいった。 コツ…… コツ…… 「…………足音」 壁伝いに進んでいたネプティスにもかすかな足音が聞こえてきた。 その足音は次第におおきく、感覚が早くなっていく。 「まずいな……」 ネプティスの額に汗が一筋流れる。 壁伝いに進んでいるネプティスは進行方向を変えるわけにはいかなかった。 一度壁から離れ、方向を変えてしまえば壁伝いに歩く手段は意味を為さなくなるからだ。 足音がさらに大きくなる。 どうやら足音の主はネプティスの進行方向から向かってくるらしい。 「迎撃する準備をして、ネクスト・アルカディア…… 近づいてくるのは私が迷宮の中で感じ取った『いくつかの匂い』のうちのひとつの持ち主、『花の香り』の持ち主だ」 ネプティスは壁から手を放し、進行方向の曲がり角に意識を集中させた。 靴が石畳を叩く音がはっきりと聞こえ、曲がり角から人影が飛び出した。 「『ネクスト・アルカディア』ッッ!!」 「……ッッ!?」 ネプティスのスタンドは曲がり角から現れた人影に向かって拳を振り下ろした。 突然攻撃を仕掛けられた璃乃はかろうじてスタンドで攻撃を受け止めたが、 すぐさま次の攻撃が迫ってくる。 「待って、私はあなたに攻撃しないッ!」 その言葉を聞き、ネプティスは硬直し攻撃の手が止まった。 『い、嫌だ‥死にたくない‥だ、誰か‥助けて‥‥‥』 一回戦で出会った男の言葉がネプティスの頭の中でリフレインする。 あっさりと攻撃が止んだことに璃乃は内心驚いたが、すぐにネプティスに向きなおった。 「私はトーナメント出場者の奏璃乃。あなたは……私の対戦相手ですか?」 「あ、えっと……はい、そうで…す」 「ということは……」 璃乃は一度、自分が来た道のほうを振り返った。 璃乃にとって、ここで対戦者であるネプティスに遭遇することは予想外のことだった。 「聞いてください、この迷宮には私たち二人のほかに何者かがいます」 「……立会人、じゃなくて?」 「立会人は基本的に勝負の邪魔になるようなことはしないでしょう。 私は聞いたのです。あなたと出会ったこの方向とは反対側に、もうひとつの足音を」 その言葉を聞いて、この少女は驚くことだろうと璃乃は思っていたが、 意外にも少女は自分たち以外の第三者について受け入れているようだった。 「そうか、じゃああの匂いは……」 「匂い?」 匂い、と聞いて璃乃はぎくりとする。 だがネプティスが考えていたのは璃乃とは別のことだった。 「私は迷路を歩いていて、いくつか気になる『匂い』を感じ取っていた。『花の香り』『柑橘系の香り』そして……『獣の臭い』」 ネプティスがそう言ったと同時に、新たな足音が聞こえる。 石畳を打ちつける、というより何か重いものを落としたような音がする。 その足音は璃乃の背後、璃乃が来た道から聞こえていた。 「さっきの道から……追いかけてきたんだ」 「そうだ、この臭いだ。獣の……臭い」 二人が見つめる通路の先にライトに照らされた大きな影が現れた。 その影は徐々に近づいてきて、その姿が現れていく。 2メートルは超える屈強な男の体に、角の生えた猛牛の頭、手には巨大な斧が握られている。 ギリシャ神話に語られる迷宮に棲む怪物、ミノタウロスそのものだった。 「ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」 耳をつんざくような咆哮は対峙した璃乃とネプティスのみならず、迷宮の石壁をも震えさせていた。 2人が目の前で起こっていることを頭の中で整理する間もなく、ミノタウロスは巨大な斧を両手でつかみ、体をひねらせて背中のほうへぐんと振りかぶった。 「にっ……逃げろ!」 「あっちに、急ごう!」 ミノタウロスに背を向けて駆け出した途端、巨大な斧は二人の背中をかすめる。 斧が石壁に思い切り叩きつけられる音、吹き飛ばされた石のブロックがむこうの壁に激突する音、 積み上げられたブロックが支えを失って崩れ落ちる音、ブロックとブロックの間の砂が煙を立てて撒きあがる音、 すべてが一緒になってあたりをこだまする。 こんなことでは「試合の勝利」など二の次、そう2人は考えざるを得なかった。 奇奇怪怪なる出来事が起こり、悲鳴をあげながらミノタウロスから逃げる2人の様子がモニターに映し出されている。 モニターに食い入るようにその様子を眺めている立会人はとても嬉しそうに口元をゆがませていた。 「楽しいね、右近」 「ああ楽しいさ、左近。人が恐怖し、怯えている様を見るのはとても楽しい」 「彼女は、どう思う?」 「彼女……」 モニターを眺めていた立会人の顔がすっと真顔に戻った。 「ああ右近、運営の招き入れた彼女のことさ」 「左近、それは……奏璃乃、いやその前に菊谷志保のことを言っているのか」 モニターの中の奏璃乃はネプティス・アヌヴィッシュとともに迷宮を駆け巡っている。 璃乃はネプティスを気遣うような様子をたまに見せていて、相手が自分の対戦者であることを忘れているようにも見えた。 「きみだってわかっているはずだよ右近、菊谷志保の正体に」 「ああ左近、我々が報せられていた菊谷志保の情報は、1回戦の前田立会人と同じ」 「『姓名』のみ、それ以外は不明だった」 「それが何を意味するのか……」 「ひとつ、名前以外の情報がそもそも存在しない。つまりは生まれたばかりの赤ん坊である」 「ふたつ、我らが誇る『運営』の情報収集力をもってしても正体を明かせなかった」 「みっつ、『運営』が意図的に隠している……」 その言葉を耳にし、嘲り笑うように立会人は言った。 「ひとつめ、ふたつめについては理屈に合わないじゃないか。 生まれたばかりの赤ん坊をトーナメントに出そうなんていくらなんでも趣味が悪すぎるし、 そもそもデータには『生まれたばかりの赤ん坊』とでも書けばいいじゃないか、白紙にする必要はない」 「運営にも正体が明かせない者を、わざわざトーナメントに呼ぶ必要もない。第一、どうやって連絡をとるのだ」 「だが、『運営にも正体が明かせない者を、わざわざトーナメントに呼ぶ必要もない』のなら……何故菊谷志保はトーナメントに出場することになった?」 「とにかく、運営は菊谷志保をトーナメントに出場させることに決めた。……だが、その正体について、現場の我々立会人には報せられていない。つまり……」 「『運営』が意図的に隠しているとしか思えない、そうだろ左近」 「ああ、右近」 「では隠す理由は何だ? まさか立会人ならまだしも、運営本部がひとりの出場者に肩入れするというのか?」 「何の意味がある? だが、運営が菊谷志保個人に肩入れしているという仮説は成り立たない」 「何故?」 「何故なら……」 立会人は再びモニターを眺めた。 迷宮を駆け巡る2人の女性。そこに菊谷志保という名の者はいない。 「菊谷志保が、ここにいないからだ」 「……たしかに、そのとおりだ」 「運営が菊谷志保に肩入れするならば、菊谷志保は1回戦に出ていなければならない」 「ではいったい、どういうことなのだ」 「わかっているはずだよ右近、わたしときみは考えていることは同じ」 モニターを見つめていた立会人はすっと目を閉じて、応えた。 「……たとえばこんな仮説はどうだろうか」 「情報を隠したのは運営ではなく菊谷志保個人だったのだ。自らの情報を隠して自らを出場者として選出、トーナメントに出ようとした」 「だが、そのことがトーナメント運営の人間にバレてしまった」 「過去のトーナメントで、私怨のために組み合わせを意図的に変えた立会人が粛清されたことがあった。 それと同じように、私情でトーナメントに参加しようとした菊谷志保も粛清された」 「そしてトーナメント本戦には、『菊谷志保の代理』として奏璃乃が現れた。つまり……」 「菊谷志保は、トーナメント運営側の人間だったのだよ」 ふたりはミノタウロスの姿が見えなくなるところまで走り、曲がり角を曲がって足を止めた。 ミノタウロスの足音と荒い鼻息は今のところ聞こえず、どうやらミノタウロスは見失った獲物をしつこく追いまわすようなことはしないらしかった。 璃乃は迷路の湿気を帯びた石壁に背中をあずけ、呼吸を整えてから言った。 「さっきも言ったけど、私の名前は奏璃乃。あなたは?」 璃乃はそばにしゃがみ込んだ銀髪の少女に名前だけを告げ、少女にも名前を言うように促した。 「ネプティス・アヌヴィッシュ……」 ネプティスの声に力はない。 疲れているわけではないが、今起こっている状況を受け入れがたく、困惑しているのだ。 「そう、ネプティス……いったん勝ち負けのことは忘れましょう。ふたりで力を合わせて、出口を探すの」 言葉だけなら気丈にも思えるが、璃乃もネプティス同様声に力はない。 「おそらくは、姿を見つけたときにだけ襲ってくるんだ。 ずっと追ってきていたら、行き止まりの道で逃げ場を失うんじゃないかと心配したけど……大丈夫なようね」 璃乃は近くにあった壁のライトに近寄り、屈みこむ。 「香りは……ペパーミントとベルガモットが半々、スタート地点からは離れているけど、一度通った場所みたい」 「香り……?」 「ええ、私のスタンド『フローレンス・アンド・ザ・マシーン』は香りを操作する能力。 目印になる壁のライトに香りをつけて、その香りの違いで迷路の進行順を記録していたの」 璃乃があっさり自分のスタンド能力を明かしたのは、本心からネプティスと協力して迷路を脱出しようと考えていたからだった。 「そうか……だから香りの嗅ぎわけができるようになったんだ」 「えっ?」 「私の『ネクスト・アルカディア』は、対峙したものの能力にあわせて進化する能力。 おそらくはあなたのスタンド能力でライトにつけた香りを嗅いだことで、無意識のうちに進化していたんだ」 「……ふうん、なんだか不思議な能力ですね」 「だから私は常に花の香りをまとったあなたが近づいてくるのがわかったし、獣の臭いをもつ者が迷路を徘徊していることもわかった」 ネプティスは璃乃の顔をみたあと、大きく息をはいた。 「それが、まさかあんなバケモノとは思わなかったけど……」 「そうね、こんなの前代未聞だわ」 「そういえば、この迷宮の脱出方法について心当たりがあるんだけれど」 「心当たり?」 ネプティスの言った「心当たり」に璃乃は興味を示し、ネプティスの顔をじっと見る。 璃乃に見つめられ、ネプティスは思わず顔をそむける。 璃乃の目は見ている者を吸い込むような、不思議な魅力を備えていた。 彼女の言動や性格も相まって、まるで誰も彼をも味方にしてしまうような…… 「……迷路をじっくり歩いているときに、いくつか気になるものがあった」 ネプティスは璃乃と直接目を合わさず、襟元を見ながら話し続けた。 「色の違う壁のブロック、行き止まりの床にあった台座とくぼみ……」 「そんなものがあったんだ……」 「私は地道に壁沿いに歩いていたから」 「なら……もしかしたら、あの怪物もそうなのかもしれないね」 「あの怪物も?」 「うん、ネプティスさんの言うものがこの迷路を脱出するための手がかりだとして……あの怪物は、出口を守る番人であるとも考えられない?」 「ええと……」 璃乃はネプティスの手を両手で包み込むように握り、言った。 「協力して、ここから出よう。ね?」 やはりこのタイプの人間は苦手だ、とネプティスは思った。 ミノタウロスは斧を肩に担いだまま、のっしのっしと迷宮の中を歩いていた。 遠くの通路をミノタウロスが通り過ぎていくのを、曲がり角からこっそり顔を出して璃乃は見つめている。 「……やっぱり、あの怪物があの道を通り過ぎて、再び戻ってくるまでの時間は毎回同じくらいの間隔ね」 「つまり、同じ道を決まった速度で歩いている」 「怪物は何かを守っている……可能性はあると思うわ」 璃乃は自分の言ったことを確かめるように繰り返した。 「ネプティスさん、あの怪物を私が引きつけている間にネプティスさんは怪物の徘徊ルートを探索してください。何か手掛かりがあるかもしれません」 「あ、あぶなくないんですか」 「私はブロックの色や台座には気付かなかった。わたしが探すより、ネプティスさんが探したほうがいいでしょう?」 「でも……」 「大丈夫です、私には秘策がありますから」 璃乃はにっこりと笑いかけてミノタウロスの徘徊ルートに向かって歩き出す。 ネプティスは曲がり角でじっと座り込んだまま璃乃を見送った。 (何故、他人のために身を張れるんだろう。私はずっと、自分のことしか考えてこれなかったのに) ネプティスにとって揺らぎなく自分の思う心のままに行動できる璃乃がまぶしく、うらやましく、妬ましくも思えた。 だが、かけられた期待に背くわけにはいかない。 なんとしても迷宮を脱出する手がかりをみつけなくては。璃乃のために、自分のために。 「…………」 だれのために、と思ったときネプティスは素直な疑問を抱いた。 そういえば、これは勝負のはずだった。 先にこの迷宮から脱出した者が勝利だと、片腕のないあの立会人は言っていた。 あの立会人はこの迷宮のことをよく知っているはずだ。あの怪物も含めて。 ならば。 あの怪物も、見境なく襲ってくるあの怪物もこの勝負内容に含まれている。 イレギュラーな存在ではないのだ。 考えすぎか? 結局は勝負を演出するための障害なのかもしれない。 だが現に、あの怪物は私たちにとって協力して越えるべき障害ととらえている。 それは立会人の本意なのか? 考えもまとまらないうちに、遠くから怪物の咆哮がネプティスの耳にも届いた。 何度も、何度も振り下ろされ、なぎ払われる斧から璃乃は逃げ続けていた。 ミノタウロスの動きは力強くとも俊敏ではなく、落ち着けばかわすのは容易だった。 闘牛士のムレタのかわりにワンピースの裾をはためかせ、璃乃はミノタウロスを翻弄し続けている。 「本当ならフラメンコでも踊ってあげたいところだけど……」 璃乃はミノタウロスをネプティスから離すべく、ミノタウロスからつかず離れずして引きつけていた。 だが道の選択を誤り、璃乃は行き止まりに入り込んでしまい出口をふさがれる。 「ヴーッ……ヴーッ……」 ミノタウロスは鼻息荒く、両手で斧を持ち壁を背にした璃乃に近づいていく。 「ヴオオオオオオオオオオ!!!」 思い切り斧を振り上げたところで、璃乃はスタンドを繰り出し退くのでなく逆にミノタウロスに近づいた。 「『フローレンス・アンド・ザ・マシーン』!!」 璃乃のスタンドはアンモニアの臭気をミノタウロスの鼻元に漂わせる。 「ブムオオオオオオオオオオオッッ!!」 ミノタウロスは苦しみながらも斧を振ることはやめなかったが、狙いを大きく外し斧を壁に激突させる。 大きな音を出して壁が崩れていき、隣の通路へ穴があいた。 「これで出られる……」 アンモニアの臭気に苦しむミノタウロスを置いて、璃乃はネプティスのもとへ戻って行った。 「ここも……ここもだ、ここもそうだ……」 ネプティスは壁に手を当てて、まじまじと観察している。 璃乃が近づいてくることには、「ネクスト・アルカディア」の能力で強化された嗅覚によってわかった。 「花の香り……璃乃さん?」 「ネプティスさん!」 璃乃は通路の奥からネプティスに向かって手を振りながら近づいていく。 「手掛かりは見つかった?」 「それが……色の新しいブロックは見つけられたんですが」 ネプティスは手を広げ、壁に向かって示した。 「この一帯が全部、新しいブロックなんです」 「ええ!?」 「でも押しても叩いても、何の反応もありません。ほかにくぼみのようなものも、くぼみにはめこむものも見つかりませんでした」 「そんな……でももう、あの怪物が戻ってきてしまいますよ!」 「うん……わかってる」 ネプティスは気づいていた。 璃乃が近づいてくるにつれ強くなっていく「花の香り」に続いて「獣の臭い」も近づいてくることを。 ネプティスはほかに手掛かりがないかどうか、「獣の臭い」が近づいてくるギリギリまで探そうと意識を視覚と嗅覚に集中させる。 「……!!」 そのとき、ネプティスははっと何かに気づいたような表情をして再び色の新しいブロックの一帯を見つめる。 「ネプティスさん! 怪物の足音が聞こえてきます、もうまもなく戻ってきてしまいます!!」 それもわかっている。 「獣の臭い」の強さからすると、まだ姿は見えないがもう50mほどまで近付いているだろう。 だが、ネプティスは嗅覚に意識を集中させたことで、「もうひとつの臭い」に気づいた。 それは璃乃の「花の香り」、ミノタウロスの「獣の臭い」、壁のライトの「花や柑橘、ハーブの香り」以外の非常にかすかな臭いだった。 その臭いの正体がなんであるかは今ネプティスにはわからないが、その臭いは確かにその色の新しいブロックのすきまから漏れてくるものだった。 そして…… 「璃乃さん、あなたの言ったこと今ならわかる気がする」 「え……?」 ネプティスは璃乃の目を見て話しだした。 怪物がせまっているというのに、ネプティスの目は今までで一番煌きを帯びているように璃乃には思えた。 今までは自分がネプティスをリードしていたはずなのに、いつのまにか自分のほうが彼女のその目に希望を感じはじめている。 「あの怪物は出口の番人であり、そして迷宮を脱出するための手がかり……カギなんだ」 「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」 ミノタウロスが雄たけびをあげ、斧を振りかぶりながらふたりに近づいてくる。 「きゃああああああああああああっ!!」 突然の怪物の咆哮に璃乃は思わず悲鳴をあげる。 しかし、ネプティスは怪物のとっている行動をしっかり観察していた。 「そう……そうだよね、怪物は斧を『横に』振りかぶっている。そしてわたしたちがこの色の新しいブロックの壁のそばに立っているとき、 わたしたちが斧の攻撃をかわしたとしたら……どうなる?」 「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッ!!」 ミノタウロスは足を前に踏み出し、ネプティスと璃乃に狙いを定め思い切り振りだす。 「璃乃さん、伏せてッッ!」 ネプティスは璃乃の頭と背中を押さえつけると同時に自らもしゃがみ込む。 ミノタウロスの攻撃はネプティスの頭上をかすめ、色の新しいブロックの壁におもいきり激突する。 壁は砕かれた、というよりブロックの継ぎ目から壁はぼろぼろと崩れだした。 そして崩れた壁の向こうには…… 「階段だッ!」 ネプティスはずっと見つからなかった落し物をやっと探し当てたような、歓喜にも見た声で目の前にあるものを確認した。 その階段は迷宮の天井以上の高さまで続いており、その先から眩しいほどの光が差し込んでくる。 怪物はバランスを崩して倒れている。 璃乃も無事なようだ。 ネプティスは階段を駆け上がり、光溢れるその場所へ向かっていった。 その先に、迷宮の出口があると信じて。 ――モニターで様子を眺めていた立会人は満足そうな表情を浮かべている。 「ネプティス・アヌヴィッシュ……彼女は無限の成長の可能性を秘めている。みろよ左近、あの彼女の嬉しそうな顔を」 「ああ右近、彼女はこの試合だけでも目に見えて成長したと言えるだろう。そして、これからも」 満足そうな立会人の表情はしだいに口元がさらに歪み、卑屈さも備えた顔に変っていった。 「そう、『これからも』だよ左近。なぜならばまだ『勝負は終わっていない』」 「そうだな右近、むしろここが『はじまり』といえるだろう」 「…………えっ」 たしかに階段を上った先はこれまで彼女が巡り続けた迷宮とは雰囲気が違っていた。 黒ずんだ石壁に囲まれ、暗く空気のよどんだ迷宮の様子とは一転し、 その場所はネプティスの上ってきた階段を中心とした広い円形の部屋だった。 天井は真っ白なドーム状となっており、天井と壁全体が発光しているのか、とても明るかった。 それだけだったなら、ネプティスはこの場所を迷宮の出口と思ったかもしれない。 しかし、この場所は迷宮の出口なんかじゃなかった、とネプティスはすぐに理解した。 白いドームの部屋は、床一面を覆うほどの真っ赤な血痕、血糊とところどころこびりついた乾いた肉片、 そして血で汚れた剣や槍、鉈、棍棒などの武器が無造作に転がっていた。 ネプティスは理解する。 自分が感じ取っていた『もうひとつの臭い』、それは『血の臭い』だったのだ。 まばゆい光に包まれてもなお、ネプティスは目の前がさらに真っ白になっていくような感覚を憶える。 ここは迷宮の出口ではなかった。 別の場所に出口があるのだろうか。 いや、その前にこの部屋の状況が意味するものはなにか。 たくさんの血痕、たくさんの武器。 ここでは以前に誰かが誰かと戦っていた。 それも一度ではなく、何度も、何度も。 つまりは、この迷宮から出る方法とは、結局そういうことなのか。 「先に」脱出したほうが勝利、とはこういうことなのか。 ネプティスは立ち止まったまま、拳を握りしめたまま、床一面に広がる血のキャンバスを見つめたまま、 頭のなかに流れ出てくる思考の津波に飲み込まれんと必死に耐え続けていた。 だが希望の光に煌めいていたネプティスの目は、暗く淀んだ迷宮が如く黒に染まっていった。 少し遅れて階段を上ってきた璃乃も部屋の状況を見て息を呑む。 (……これは一体、どういうこと?) あまりにも、無慈悲すぎるではないか。 先にネプティスに階段を上られ、半ば勝利を諦めていた璃乃だが この部屋に立ち入りネプティスに同情したほどだった。 いつになったら終わりが訪れるのか。 なるほどこれはたしかに迷宮だった。 迷い、迷いつづけ、決して外へ出ることはできない。 希望をちらつかせられながら走り回り、そして絶望に堕とされる。 立会人の行った通り、ここは悪夢の迷宮だ。 決して終わりの来ない、悪夢……。 「悪夢……?」 璃乃はふと呟いた。 「そうだ、これは悪夢なんだ……」 同調するように、ネプティスが応える。 「結局は、そうだったんだ」 ネプティスはゆらりと璃乃のほうに振り返る。 彼女の手には足元に転がっていた金属バットが握られている。 バットはところどころ凹んでいるうえに、血糊と頭皮のような乾いてペラペラした肉がこびりついている。 「いずれ私たちは戦って決着をつけなければならなかったんだ。迷宮なんてただの飾りだった。 ああ、それがこのトーナメントというもの。生きた者が勝ち上がり、負けたものは死ぬ」 ネプティスは金属バットをひきずりながらゆっくりと璃乃に近づいていく。 目は璃乃のほうを見ているが、焦点が合っていない。 「違う! トーナメントは、決してそんなことではない。勝っても勝てなくても何か大事なことを得られることだってある!」 「あなたはそうだったかもしれない……でも、私は違った。1回戦で私は何も得られるものがなかったどころか、自分の嫌なところに気づいてしまった。 そして対戦相手の彼は……何も得られなかった。いや、むしろすべてを失ったかもしれない」 「違う……違う……!」 璃乃はネプティスが不憫でたまらない。 あまりに可哀想でならない。 だがそれでも、ネプティスの心を変える言葉が出てこない。 まさに悪夢であった。 『この悪夢の迷宮を先に脱出したものが勝者となる』 立会人の言った言葉をネプティスも璃乃も思い出していた。 だが、そこからネプティスと璃乃の導きだした答えは全く違っていた。 「『フローレンス・アンド・ザ・マシーン』……!」 璃乃はスタンドを発現し、ポケットから液体の入った小瓶を取り出した。 璃乃のスタンドが小瓶に手を触れると、璃乃より先に臭いに過敏なネプティスが鼻をつまんで塞いだ。 「あなた……何をッ……!」 ネクスト・アルカディアの能力による定向進化で嗅覚が鋭くなっていたネプティスは、小瓶の中身の正体にすぐ気づいていた。 「よく聞いてください、ここは……この迷宮は、立会人の言った通り悪夢なんです。 ここはあまりに恐ろしすぎる、あまりに絶望的にすぎる。そして、あまりに現実離れしすぎている」 ネプティスは金属バットを手からだらりとさげ、全身はわなわなと震えている。 璃乃の言葉を聞いてはいるが、その意味まで伝わっているかどうか、璃乃にはわからない。 「もし、あなたが私の言葉を信じてくれるなら、わたしのあとにこの小瓶の臭いを嗅いでください。 私の考えが間違いでないなら……この悪夢はすぐに終わるはずです!」 そして璃乃は小瓶のコルクをゆっくりと抜き取る。 中から立ち上る臭気が璃乃の鼻腔を介し、脳を刺激させた―――――― 「…………!!」 璃乃が気づいたとき、目の前には白い天井があった。 むくりと体を起き上がらせると、四面を白い壁に覆われた病室のような場所にいることがわかった。 そして自分が寝ていたのは迷宮の牢で見たものと同じパイプベッドだった。 しかし牢にあったものとは違い歪みどころか傷もなく、清潔なシーツが張られている。 息を吸い込むとさわやかな空気が肺に送られていく。 小瓶の刺激臭の余韻は全くなかった。 はじめからそんなものを吸い込んでいなかったように。 四面の壁に窓はなかったが、1枚のドアがあった。 璃乃はゆっくりとベッドから降りてそのドアまで歩き、ノブを回して押しあけた。 ドアを開いた先には男が「ひとり」立っていた。 かかとを合わせ、ぴんと背筋をのばして立ち、手を後ろに組んでいる。 その痩せた顔にはどこか見覚えがあったが、璃乃はどうしても思い出せない。 その男は表情を変えぬまま璃乃に視線を向けて口を開いた。 「おめでとう奏璃乃、きみの勝利だ」 極めて淡々と、その男は言った。 その声を聞いて璃乃は思い出す。 この男は迷宮の牢で自分にルール説明をした宇喜田立会人だと。 しかし、目の前の男にはないはずの右腕がついていた。 そして左腕ももちろんある。 いったいどういうことなのか、と璃乃は思ったが その理由はこのたったひとことで片づけられることがすぐにわかった。 「……すべては『悪夢』だった」 璃乃はため息交じりにそう言った。 立会人の男はこくりと頷く。 「私は言った、『悪夢の迷宮より先に脱出した者が勝者だ』と。そうだな右近?」 立会人は璃乃から視線を外し、その方向へ向かって話しかけた。 璃乃は振り返り、その場所を見たが誰も立っていない。ただ白い壁があるだけだった。 「まあ私はネプティスには『悪夢から脱出できるよう考え、行動』しろと言ったわけだがな、左近」 「つまり我々は『迷宮の出口を見つけ、外に出る』とは一言も言っていない」 立会人がたった今自分が言ったことに応えるような口調でそう言った。 まるで一人の人間が二人の人間を演じて会話をしているように。 「もちろん君たちの見ていた夢は、我々運営のスタンド能力に影響されたものだ。 でなければ夢の内容を設定できないし、その夢を複数人で共有することもできないからね」 「あと言っておくが、あの迷宮をいくら探索したところで出口は存在しない。なあ右近」 「ああそうだな左近。奏璃乃、君たちが石壁の向こうのドーム状の部屋を見つけ出したのと同じく、 たとえば台座のくぼみに宝珠をはめ込んでも別の迷路の入口が現れるだけだ」 璃乃は「二人の」立会人の言うことをただじっと聞いていた。 その顔は怒りを抑えきれないでいるようだった。 ネプティスは迷宮の出口を見つけることに必死だった。 自分もそうだったが、彼女はそれ以上だった。 出口の手がかりを見つけたときはあんなに輝いてた彼女の瞳が、 その先が虚空だと知ったときその目は墨を塗ったように黒くなっていた。 私はあの彼女の目を、表情を、光景をずっと忘れることができないだろう。 これがほんとうの夢だったならよかったのに。 だがこれは夢であって夢でなかった。 迷宮の行き着く先で絶望に染まってしまった彼女は確かにあそこに存在し、今も私の脳に焼きついて消えてくれないからだ。 「進んでも進んでも、迷宮はただ広がっていくばかりで終わりなんてやってこない、まさに悪夢だ」 「そして現実離れした状況、空間、怪物……しだいに迷宮を歩む者は、これはマボロシか夢ではないかと思い始める。君も、ネプティスもそうだったように」 「それはだれしもが思うこと……だがそう『思う』ことと、『思った上でそれを信じ行動する』ことは大きな隔たりがある」 「日常においてもそうだろう? 予測はいくらでも立てられる、だがリスクを負って行動できるかは別の問題だ。なあ左近」 「ああそうだ右近。我々はこの勝負を『決断力』が重要であるものとしている。君にもそう言ったはずだ、奏璃乃。 これは夢だと予想することはたやすい、だが怪物や対戦者に対し無防備になるリスクを負って、気絶するほどの…… いや、『目の覚めるような』刺激を我が身に与えるという決断ができるかどうか、それがこの勝負の勝利の糸口である」 璃乃はうつむいて目を伏せ、身体の奥底から湧きあがってくる感情を抑えようと必死だった。 それはもちろん怒り。 だがそれは誰に対してのものか。 自分自身にか、 この立会人か、 それともトーナメントそのものに対してか。 「ネプティス・アヌヴィッシュは確かに迷宮で成長の兆しを見せた。だが、リスクを負う覚悟まではまだ持てていなかった。だから負けたのだ」 「だが奏璃乃、きみはリスクを負って行動することができた。それは君も成長したからか? どうだろう右近」 「いいや左近、彼女は『リスクを負う覚悟』を元から備えていたんだ。そう、『トーナメント参加前から』ね」 その言葉を聞き、璃乃はふと立会人の顔を見上げる。 璃乃の見た立会人の顔は、「すべてを悟っている」かのような表情だった。 「なあ、そうだろう奏璃乃『立会人』よ」 しばらく沈黙が続き、その間互いに視線をそらそうとはしなかった。 ただ、宇喜田立会人は勝ち誇ったような顔つきをしており、にやつきを抑えきれていなかった。 奏璃乃の沈黙が答えを示していた。 その沈黙をもって、宇喜田立会人は「自分たち」の予想が当たっていたことを確信した。 「運営の人間である菊谷志保は、このトーナメントにおいて自らの目的を達するため『自ら』を出場者として登録した」 「だがそのことが運営側に発覚し、菊谷志保は粛清された」 「しかし、それによってトーナメント出場枠にひとつの空席が生まれてしまった」 「そして別の運営の人間が代理を立てる時間もなく一回戦の試合が始まってしまう」 「本来菊谷志保がいなくなったこの試合は、対戦相手であるボディガードの男が不戦勝となるはずだった」 「だがそこに現れたのはきみ、奏璃乃だ」 「菊谷志保の代理を買って出た君を、その試合の立会人は出場者として認めた。そうだな左近?」 「ああ右近。しかし何故運営と出場者しか知りえない対戦場所と時間をきみが知っていた?」 「菊谷志保が出場できなかったのは粛清という運営内の問題なのに、何故きみは菊谷志保が出場できないことを知っていた?」 「それは君もまた運営側の人間であり、菊谷志保に近しい人物だったからなのだ!」 宇喜田立会人の一人二役の演説をじっと聞いていた璃乃は何も言い返そうとはしなかったが、 表情には焦りが見え始めていた。 「……もし、一回戦の立会人が前田立会人のような運営との関係が薄い人物でなく、運営に近しい人物であったなら…… 奏璃乃、君も菊谷志保と同じく粛清されていただろう。君はその多大なるリスクを負って菊谷志保の代理参加をしようとした」 「結果は成功……一回戦の立会人は君が運営の人間と知るには時間も情報も足らな過ぎた。彼は責められまい」 「もし菊谷志保がトーナメントに参加しようとしたのを機と見て、彼女を粛清し自分がまんまとその席に着く……ということだったら いっそう面白かったが、君の様子を見るにどうもそうではないようだな」 「君は本当にやさしい性格の持ち主のようだ。対戦相手にもかかわらず相手をいたわることを怠らない。 君は真剣に菊谷志保の代理として、菊谷志保の目的を果たさんと試練に挑んでいるようだ」 璃乃の額から脂汗が滲み出る。 璃乃は宇喜田立会人の言動からその本意を探ろうと必死だった。 「それで……あなたはどうするつもりなんですか。私を粛清するおつもりですか」 宇喜田立会人はわざとらしく両手を胸元でぱっと開いて言った。 「まさか! そんなつもりはありませんよ、『我ら』は前田立会人の判断を尊重します。なあ左近」 「ええ右近、我々は『面白ければそれでいい』のです。我ら立会人の多くがそうであるように。ねえ奏『立会人』?」 奏璃乃は何も応えようとはせず、部屋の出口へ向かい外へ出ようとドアノブをつかんだところではっと振り返った。 「彼女は……ネプティスさんはどうなったのです!」 「聞きたいですか? ……聞かないほうがいいと思いますが」 そうは言いながらも宇喜田立会人はにやにやと笑いながらモニターのスイッチを入れた。 モニターには迷宮を走り回るネプティスの姿が映し出されている。 「彼女はこのとおり、まだ『目覚めて』おりません。現実にはあなたの隣の部屋のベッドにずっとおりましたが、 あなたが悪夢を脱したあともずーっと迷宮を彷徨いつづけています」 「そんな……」 「あなたの忠告も聞かず、それどころか我を失った彼女は、『気絶して』もぬけのからになったあなたをさらに金属バットで殴りつづけました。そうだね右近?」 「ああ左近。奏梨乃、きみがベッドから起きてドアを開ける直前までその映像がモニターに映し出されていた。その様子を見ずにすんでよかったですね」 「…………!」 モニターに映し出されたネプティスを見て璃乃は絶句する。 ネプティスが璃乃に見せた、希望の煌めきに満ちた顔はすでに面影がない。 こわばった表情で頭髪をくしゃくしゃにさせ、手には血のこびり付いた鉈が握られている。 迷路を徘徊する怪物を見つけるや否や叫び声をあげてその鉈を振るう。 「ネプティスさんはたったひとりで、迷宮の数々の難解な謎を解きあかし、襲い来る数々の怪物を倒しながら出口のない迷宮を進み続けています」 「『リスクを負う覚悟』がないから彼女は迷宮を進み続けているのですが…… 数々の難関を越え、彼女は目まぐるしいほどのスピードで精神的に成長しています。『人間として』はどうかわかりませんが」 「いずれ彼女も目を覚ますことになるでしょう。要はショックを受けたり攻撃を受けたりして気絶すれば夢から覚めるのですから。 ただ、成長し続けていることがそれを困難にしているようですが」 「ならば、彼女が目覚めるのは『リスクを負う覚悟をする』能力を得たとき。その時彼女は比類なき強さを得ているでしょう……怪物じみた、ね」 いつのまにか部屋に奏璃乃の姿はなかった。 ネプティスの姿を見ていることに耐えられなかったのか、 それとも彼女がネプティスを救えなかった事実をこれ以上突きつけられたくなかったからなのか。 璃乃は、ネプティスを救うことができたのである。 自分が敗北することになっても、刺激臭を溜めこんだ小瓶を自分より先にネプティスに吸わせればよかったのだ。 では何故璃乃はそうしなかったのか。 菊谷志保の願いを叶えるためだった。 トーナメントに優勝して、菊谷志保が果たすはずだった願いを実現する。 そのために璃乃はネプティスを見放したのだ。 少なくとも璃乃自身はそう思っていた。 優しすぎるがために、彼女は自ら業を背負う。 璃乃のいなくなった部屋で宇喜田立会人は問いかける。 「菊谷志保の願い、もとい奏璃乃の願いを聞けなかったな左近」 「からかいすぎたな右近、まあ決勝でもないのにここで聞くのは無粋だ。その願いは次の戦いで語ってもらうとしよう」 「ああ左近、我々は彼女が目を覚ますまで、彼女の活躍を楽しむとしよう……」 ――台座のくぼみに、倒したミノタウロスの首飾りの宝珠をはめ込んだら新たな道が開けた。 蛇の群れを払った先に見つけた宝箱に赤い鍵が入ってた。 ドームの部屋の奥の壁に小さな鍵穴を見つけた。赤い鍵を回すと隠し扉が現れてさらに鍵付きの扉があった。 また階段を降りて迷宮の中を探そう。 ああ璃乃さんごめんなさい、私はきっと迷宮を脱出してみせる。 あなたを死なせてしまったけど、あなたのぶんまで私は生きる。 ああ、またミノタウロスだ。振るった斧をかわしながら脚を斬りつければバランスを崩して倒れる。 その隙に鉈で首を叩き落とせばすぐに動かなくなる。簡単だ。 なんでこんなのろまを怖がっていたのか、いまではわからない。 別の場所で見つけた扉には牛の頭の紋章とカウンターが備え付けられていた。 カウンターによればあと16体のミノタウロスを倒せばあの扉は開くはずだ。 鉄球の転がる坂道の奥に宝箱が見える。あれこそドームの鍵付き扉の鍵が入っている宝箱に違いない。 スタート地点の牢の壁を壊したら、下に向かう階段が現れた。 そうか、もしかしたら最初はここから入ってきたのかもしれない! そうすると出口もここに…… 階段をおりて通路をすすむと奥にミノタウロスがあらわれた。 ふりかえるともう一たいのミノタウロスがいる。 ほそい道で、はさみうちするつもりか。 ああこれでいっきににたいのミノタウロスをたおせて、カウンターがすすむ。 なにもこわいものなんてない じぶんでも よくわかる わたしは せいちょうしている すべてを なにもかも のりこえるちからを わたしはてにいれる このめいきゅうを だっしゅつして だから さっさとかかってこい にたいいっしょに たおしたら わたしは もっと もっと つよくなる さあこい こい こい こい こい こい こい こい こい 「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」 ネプティス・アヌヴィッシュの咆哮が迷宮内に響き渡る。 ★★★ 勝者 ★★★ No.5405 【スタンド名】 フローレンス・アンド・ザマシーン 【本体】 奏 璃乃(カナデ リノ) 【能力】 様々な「香り」を生み出す オリスタ図鑑 No.5405 < 第16回:準決勝② > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/106.html
第10回トーナメント:準決勝② No.6221 【スタンド名】 カラー・オーケストラ 【本体】 小野乃木 小町(オノノギ コマチ) 【能力】 色の持つイメージを現実化させる オリスタ図鑑 No.6221 No.3761 【スタンド名】 リトル・テンポ 【本体】 照屋 風夏(テルヤ フウカ) 【能力】 物体の魂「九十九神」を操る オリスタ図鑑 No.3761 カラー・オーケストラ vs リトル・テンポ 【STAGE:夜の街】◆LglPwiPLEw プシュ━━━━━ッ! 小町「♪くちぃ~をひらけばぁ~ ぅわかぁ~れるとぉ~ ささったぁ ンまんまのぉ~お ぅわれがらすぅ~♪」 玉を転がすような声で演歌を歌いながら、ガード下の壁にスプレーでグラフィティを施す少女が一人。 その服は雪のように白い和服だ。 一見してちぐはぐな趣味を持つ少女の名前は『小野乃木小町』。 彼女は落書きするためではなく、ある“待ち合わせ”のためにこの場所に来ていた。 小町「いや~絶好のペインティングスポットだねここ! しばらく通っていっちょド派手なの残しちゃおうかな~」 自分が描いたカラフルなグラフィティを眺めながら、小町は満足気に独り言を言った。 グラフィティにはルールがあり、元からある落書きの上に施す場合には、元よりも手のこんだものでなくてはならない。 小町には、元々この場にあったグラフィティに上書きできるほどの実力があった。 小町「・・・って、そんなことのために来たわけじゃあないんだよね、っと」 小町は『スタンド使い』達が集まって行われる『トーナメント』に出場し、見事1回戦を勝利したのだ。 そして2回戦目のバトルが、これからこの付近で行われる。 どんなスタンド使いが、どんな戦いを挑んでくるのか分からないのだ。 チラリ 小町「ん?」 ふと近くからの視線を感じ、小町はガードの向こうに目を向けた。 そこには、一匹の子犬のような影がいるのが見えた。 サーッ その影は、すぐさま歩道の向こう側に隠れてしまった。 小町「あれって・・・」 普通の子犬ではない、異質な存在感を放っていた。 もしかしたら、相手のスタンドが偵察しているのかもしれない。 小町「そーこなくっちゃあね・・・いくよ!『カラー・オーケストラ』!」 CO『・・・・・・』 狐のような頭をもった小町のスタンドが、彼女の傍らに立っている。 小町は、先ほどの子犬のようなものが隠れた場所に向かって軽い足取りで歩いていった。 * * 風夏「も~遅れちゃってるよ~!」 『フゥが寝過ごしたから悪いんでしょ・・・』 半身が犬のような奇妙な存在とともに、少女が街の中を駆けている。 彼女は「照屋風夏」。 小野乃木小町の対戦相手となる人物である。 傍らで走っているのは風夏のスタンド『リトル・テンポ』だ。 風夏「だって私って毎晩9時半には寝るもん! 夜遅いのは苦手なんだよぉ!」 人一倍バイタリティの高い風夏にとって、就寝時間は極めて重要だった。 当然、今の彼女のコンディションは絶不調である。 LT『そんなこと言ったって・・・時間と場所を指定したのは運営だし・・・』 風夏「それより! 試合の場所ってもう少しだよね!」 LT『・・・あぁ、そうだね! ○○駅南口近くのガード下―――』 バテーン! 風夏「ひゃあッ!!」 いきなり、風夏は派手に転倒した。 LT『もう・・・ちゃんと足元には気をつけようよ・・・ 試合はこれからなのに・・・』 リトル・テンポがそう言いかけた時、風夏の足元の“異変”に気付いた。 LT『!? これはッ!』 風夏の足首には、何か「黒いもの」が絡みついている。 それは、風夏自身の「影」そのものだったのだ。 風夏「ひぃ! リトル助けてえぇぇ~~!」 LT『スタンドだっ! しまった、先に向こうから!』 リトル・テンポの判断は早かった。 咄嗟に戦闘の構えを取り、風夏を救い出そうとする。 ??「待て!」 その時、近くから少女の声が響いた。 ??「罪深き異形のビジョンよ―――我は汝の“対戦相手”ではない」 LT『誰だ!』 闇に紛れていたように、謎の人物が姿を現した。 その仰々しい口調の主は、黒と銀色のギラギラした装飾を全身に身につけた、派手な格好の女の子だった。 年齢は風夏と同じくらいか。 風夏「き・・・君は・・・?」 ??「―――驚かせてすまない、我は今回汝らの血の儀式における“立会人”を務める者。 見ゆるは星、堕つるは陰。時に冥府の王にも並ぶ裁きを下す者。 名を『坂出紅璃珠(ばんで くりす)』と言う」 風夏「はぁ・・・」 LT『・・・?』 何やら凄い趣味をお持ちの方のようだが、とりあえず彼女が「立会人」であるということは理解できた。 風夏「え~っと、立会人さんがなんでここに?」 地面にうつ伏せになったまま風夏が尋ねた。 紅璃珠「そう―――それなのだが、今回の勝利は君に譲りたいのだ」 風夏「・・・は?」 風夏とそのスタンドは目を丸くした。 風夏「な、ななななんで!? まだ相手と会ってもないんだよ!?」 紅璃珠「―――星がそう告げている。汝と“対戦相手”は出会ってはいけないと。 どちらかを不戦勝にしなければ、なにかしらの災いが起こると――― だから我は先刻に勝敗を決めた。我が大いなる星に誓って―――」 紅璃珠は手に握っていたコインを指で弾いた。 風夏「ちょ、ちょっと待ってよ!」 風夏は慌てて起き上がりながら言った。 風夏「まさか、コイントスで決めたの!? 試合の結果を勝手に!? そんなの納得できないよ! 相手の人は知らないんでしょ? 災いとかそんなの知らないよ! 私は戦う! 行こうリトル!」 不満を思い切り顔に表しながら風夏は歩き出した。 LT『・・・』 いまいち状況が飲み込めていないリトル・テンポも、無言で風夏の後についていく。 紅璃珠「行くのか―――我は止めない。 だが、既に我から妨害措置を取らせてもらった―――」 風夏とリトル・テンポの足元からは、「影」が消えていた。 * * 小町「おかしいなー、どこにいるんだろ?」 スタンドのような影を追う小町は、ガード付近をウロウロしていた。 謎の影は、小町の視界に現れては消えていた。 追いかければ追いかけるほど、こちらが弄ばれているような気がしてくる。 小町「まさか“罠”なんてことはないよね・・・『カラー・オーケストラ』?」 CO『・・・・・・』 小町のスタンドは何も言わなかった。 元々、自我を持たないスタンドなのだから仕方ない。 しかし、小町はしばしば意味もなく自分のスタンドに話しかけるのが癖になっていた。 小町「・・・あ! いた!」 ようやく、小町は相手の姿を見つけることができた。 暗くてよく分からないが、少女と先ほど見た犬のようなスタンドのシルエットが見えた。 小町「よし!」 気合いを入れて、小町はその影に向かって歩きだそうとした。 だが・・・ グググ・・・ 小町「ん!?」 突然、身体全体が後ろに引っ張られるような感覚に襲われた。 小町「なにッ!?」 小町は相手のスタンドからの攻撃だと思った。 ―――しかし、そうではなかった。 小町「え?? アレッ!?」 自分の身体を引っ張っているのは、他でもない自分のスタンド、『カラー・オーケストラ』だった。 小町「ちょ・・・戻って! どこいくのぉ!? うわあああぁぁっ!!」 抵抗できないほどの強い力で、小町はグイグイとスタンドに引っ張られる。 身体全体が磁石になって引きつけられているかのようだ。 『カラー・オーケストラ』は何も言わないまま、相手とは逆方向に歩き続ける。 小町(とにかく止まらなきゃ!) スタンドの能力、“色のイメージを現実化”を使って、身体をどこかに固定させようと試みる。 小町「トリモチ! トリモチ! トリモチ!」 小町の白い和服を鳥餅に変え、電柱に貼りつこうとした。 ペタッ 小町「んぐううぅぅぅ! ・・・ちょっと、急にどうしちゃったの・・・!」 必死に電柱にしがみつき、小町はスタンドにそう言いかけた。 小町「・・・あ」 先ほどの影の見えた場所を振り返って、小町は目を丸くした。 彼女が踏み出そうとした先は用水路だった。 丁度その場所だけフェンスが途切れており、あそこで前に進んでいたら真っ逆さまに転げ落ちていたはずだ。 しかも彼女は、身動きの取りにくい和服姿。 もし落ちていたら、それほど深くなくても無事ですまなかったかもしれない・・・ 小町「助けてくれたんだ・・・『カラー・オーケストラ』・・・」 * * 小町の様子を眺めていた、立会人の紅璃珠は・・・ 紅璃珠「―――我の幻影を見破ったのか? 幽波紋が救いだしたように見えたが――― あの純白の衣を纏いし少女の潜在能力か? ―――いや違う、もっと、何か“罪深き因縁”の匂いがする。 非常に興味深い出来事が起こりそうな予感がする――― ―――フッ 予想外な事象だが、面白くなってきた。 星の運命(サダメ)を敢えて護らずに見守るのも面白いかもしれない。 彼女の犠牲以上の災いが生まれるのを知っていても―――」 * * 風夏「あれ~誰もいないよ~?」 LT『・・・』 約束のガード下に到着した風夏であったが、そこには誰一人いなかった。 ただ、塗りたてのペンキのような匂いだけが籠っている。 LT『ねぇフゥ・・・』 風夏「なに?」 LT『さっきの立会人、怪しいと思うよね?』 風夏「そりゃあ、格好とか話し方とかアレっぽかったけど・・・」 LT『それもそうだけど・・・確実にスタンド使いだよね。“影”を操ってる感じだった。 仮にそうだとすると、あの“忠告”も無視できない気がするんだ・・・』 リトル・テンポの言葉に、風夏は少し声を張って言い返した。 風夏「でもさぁ! 勝手にあの人に決められるのはルール違反でしょ! 私はちゃんとした試合で勝ちたいんだよ!」 LT『気持ちは凄くよく分かる。でも正直な話・・・僕もかなり“嫌な予感”がしてるんだ。 今回の相手は凄く「危険」な気がする・・・』 風夏「どうしてそんなこと分かるの?」 LT『うーん・・・』 小町「ちょちょちょちょちょ! 分かったから急がないで! もう引っ張らないでええぇ!!」 向こうから、女性の声が聞こえてきた。 風夏「あ・・・」 白い和服を着た少女。 その前にいるのは、何本もの尻尾を持った、二足歩行の狐のような存在だった。 風夏「あの人が対戦相手・・・?」 LT『だと思うけど・・・』 小町「あ! トーナメントの人ですよね! わ、私は小野乃木小町といいます! この子は『カラー・オーケ・・・」 ブンッ! 風夏「ひゃあ!!」 LT『!?』 風夏に向かって猛全と歩いてきた『カラー・オーケストラ』は、何の躊躇もなく彼女に向かって拳を振るったのだ。 小町「えええええ!? 勝手になにしてるのおおおぉぉ!!?」 LT『逃げるよ! フゥ!』 風夏「ひいいいい~~~~!!」 足をもつらせながら、風夏は必死に逃げ出した。 CO『・・・・・・』 ドンッ それを見たカラー・オーケストラは地面を殴りつける。 バテーン! 風夏「きゃあぁぁ~~ッ!!」 白いタイル貼りの地面がトリモチになり、風夏は足を取られてまた転倒してしまった。 小町「やめてよカラー・オーケストラ! どうして勝手に動くの!?」 本体の命令を無視し、強引に引っ張りながら、狐頭のスタンドは風夏に接近する。 風夏「リトル! 助けてえぇぇ!!」 LT『くっ!』 バキ! バキバキ! 今度は地面のタイルが剥がれ、宙に浮き始めた。 リトル・テンポがタイルの「九十九神」に命令を出したのだ。 タイルは空中で一ヶ所に集まり、巨大な足の形を形成する。 LT『地面のタイルはいつも踏まれているから・・・逆に“踏みたい”要求が強いはずなんだ・・・』 CO『!』 小町「うわああああ!!」 バキャアアア!! 巨大な足がカラー・オーケストラを踏みつけた。 能力が解除された一瞬を見計らい、風夏は立ち上がって駈け出した。 CO『・・・・・・』 尻尾と腕を使って、カラー・オーケストラはタイルの足を難なく砕いていた。 小町はもはや放心状態だった。 小町「・・・ほへ~」 風夏「ねえ! なんであのスタンド、私を殺しにかかってるの!? 恨みでもあるの!?」 走りながら、半分パニックの状態で風夏が言った。 LT『・・・あのスタンド・・・僕に「すごく近い」。 半分動物で、なにか曖昧な物を具現化するっていう能力も似てるんだ』 風夏「そ・・・それがどーしたっていうの!?」 LT『僕の予想が正しければ、あの本体はフゥの“滅茶苦茶遠い親戚”だ』 風夏「は!? 親戚ィ!?」 全く予想外のことを言われ、ますます頭が混乱する風夏。 LT『スタンド同士の波長で感じた。あの娘の先祖はフゥの先祖と何か凄い確執があったんだよ! 「血族の因縁」が、あのスタンドを勝手に動かしてるんだ』 風夏「インネンって・・・私のご先祖様が何をしたの?」 LT『それは分からない。でも一目散に襲ってくるくらいだから、結構えげつないことを・・・』 風夏「・・・き、キターーー!!」 背後から、小町を抱いたカラー・オーケストラが物凄いスピードで迫ってきた。 その動きは、まるで地面を滑っているようだ。 LT『しまった・・・“氷”か! 白い地面を氷に見立ててスケートみたいに・・・』 風夏「早く助けてよおぉぉ!」 LT『分かってる! 何とかして決着をつけないと!』 小町「・・・ふふふ、もう逃さないよぉ~」 地面に下ろされた小町は目つきが変わっていた。 風夏「あ、あんな人だったっけ!?」 LT『きっとスタンドの影響だよ!』 小町「九尾のスタンドラッシュを、食らってくたばれ!」 ギュン! プシュ━━━━━ッ!! 小町「ぎゃあああぁッ!?」 突如、小町の顔に何かが吹きかけられた。 小町が持っていた、グラフィティ用のカラースプレーだ。 LT『あなたの服に、インクのような染みがついてますね? それはガード下にあった落書きのインクと同じだった! つまりあなたはストリートアーティストで、スプレー缶を持ち歩いていると予想したんです!』 九十九神が具現化したスプレー缶は、リトル・テンポの近くに飛んできた。 小町「うう・・・」 LT『フゥ! アレは持ってるよね!』 風夏「うん!」 風夏はポケットからカッターを取り出した。 LT『風夏の私物のカッターです。僕の言うことを一番忠実に守る“フゥ自身のもの”! 降参しなければ、これをあなたの首に突き立てますよ!』 脅しをかけ、相手を降参させる作戦だ。 風夏(お願い、降参して・・・ リーナちゃんもだけど、私と大して歳の違わない娘じゃない・・・) LT『・・・ハッ!!』 バッ! 急に、リトル・テンポが横に飛び退き、風夏を押し倒した。 バアアアァァァン!!! 風夏「きゃあああっ!!」 すぐ近くで、何かが破裂したような爆発が起こった。 小町「“赤”いスプレー缶を・・・自分の近くに浮かせていたのは・・・君自身のミスだからね・・・ 中で発火させれば当然爆発するよ!」 風夏「痛・・・」 タラタラ・・・ 風夏「う・・・うわああああッ!」 赤い塗料が付着した部分から、自分の血がどんどん流れていくのが分かった。 LT『しくじった・・・』 ビバババババ!! 風夏「ッ!!」 今度は全身に火花が走るような衝撃を受けた。 感電だ。 小町「“黄色”い点字ブロックの上にいつまでも寝てるのも君のミス・・・ うーん、女性だからミス・ミステイクだね」 風夏「ハァー、ハァー・・・」 風夏(ダメだ・・・死んじゃう・・・) とどめを刺さんと、カラー・オーケストラが風夏に近づいてくる。 LT『無い・・・攻撃できる九十九神が・・・カッター以外に・・・!』 リトル・テンポも既にボロボロだ。 風夏は死を覚悟した。 風夏(怖いよ・・・) 沖縄の家族とも、友達とも、こんな場所でお別れとは。 風夏はそっと自分のスタンドに触れた。 風夏(ごめんなさい・・・興味本位でトーナメントに出たばっかりに・・・ 天国に・・・リトルは一緒に来れるのかな・・・) そこまで考えたとき、ほんの一瞬だけ、風夏に冷静な意思が舞い戻ってきた。 風夏(あれ? 私さっき立会人さんになんて言ったっけ?) ―――災いとかそんなの知らないよ! 私は戦う! 私、戦いたかったんだよなぁ~。 それなのに、今までビビりまくってリトルに任せきりにしてたじゃん。 そんなんじゃダメじゃん。 ここで諦めないでリトルと頑張らなきゃ。 私は―――「本体」なんだよ? 必死の思いで風夏は立ち上がった。 小町「うん?」 LT『ハァー・・・ハァー・・・ フゥ、ありがとう。その気持ち伝わったよ。 お陰でちょっとだけ・・・成長できたかも』 小町「カラー・オーケストラ! 戻ってきて!」 今度は小町の命令に従い、スタンドは後退する。 ユラァ・・・ 立ち上がったリトル・テンポは、ゆっくりとした動作で相手と向かい合う。 LT『 「臨」 「兵」 「闘」 「者」 「皆」 「陣」 「烈」 「在」 「前」 』 九字を唱え、印を結んだ。 ブツン! 小町「!」 次の瞬間には、周囲が真っ暗闇になっていた。 街灯は全て消え、自販機の音も聞こえなくなった。 小町「て、停電!?」 LT『違いますよ。これは“召喚の儀式”です』 暗闇の中から、リトル・テンポの声が聞える。 小町「ハッ!」 オドロォォォ・・・ 奇怪な音が小町の耳に入ってくる。 ものすごく低い、男の微かな呻き声のように聞こえた。 その音が、次第に周囲のあらゆる場所から鳴り始めたのだ。 小町「こっ、これは何!?」 LT『周囲のあらゆるものに宿った九十九神を、“物”という檻から解放したんです。 魂を失った“物”は機能しなくなってしまうけど・・・九十九神は自由に行動できるようになる!』 オドロオォォ・・・ オドロオォォ・・・ 目が慣れてくると、「九十九神」とやらの姿が見えるようになってきた。 顔が3つある干からびた胎児のような姿。 体中に目玉がある巨大な芋虫のような姿。 胴体が脳味噌の足高グモのような姿。 一つ一つの姿が異なり、いずれも妖怪のように不気味な姿だった。 そんな九十九神が向かう先は・・・当然一つしかない。 小町「こここコイツら、私をどーする気なの? 何をしてくるの!?」 LT『さぁ・・・初めてのことなので見当つきませんね・・・ でも降参していただければ、いつでも能力を解除できますよ?』 暗闇の中のリトル・テンポはそう答えた。 小町「ぐぐぐ・・・!」 得体の知れぬ無数の怪物どもが周囲から迫ってくる。 その恐怖と、『負けたくない』という気持ちが小町の中で闘っていた。 小町「『カラー・オーケストラ』!!」 CO『!』 スタンドで九十九神を殴りにかかる。 スカッ 小町「うっ!」 ジュワジュワジュワ・・・ 小町「きゃああぁぁぁッ!!」 『カラー・オーケストラ』のパンチは九十九神に当たらず、代わりに小町の腕が無機質な金属のようになってしまった。 LT『どうやら生物が九十九神に侵食されると・・・“物”に変化してしまうようですね・・・』 小町(どうしよう・・・どうしよう・・・!) 潔く負けを認めるか、自分がこのまま銅像のようになってしまうのか。 LT『早く、負けを認めてください!』 風夏「小町・・・ちゃん・・・」 LT『あれ?』 リトル・テンポが急に焦ったような声を出した。 風夏「どうしたの?」 LT『いなくなった・・・』 風夏「・・・え?」 九十九神たちは、目標を見失ってウロウロしていた。 LT『馬鹿な・・・完全に包囲されてたはずなのに・・・!』 風夏「リトル! 後ろ!」 LT『・・・おわっ!』 ドギャアァ! 背後に現れたカラー・オーケストラが、強烈なパンチを繰り出していた。 リトル・テンポはそれを間一髪で避け、スタンドの拳は地面を砕いた。 風夏「て・・・テレポートした!?」 小町「いいや・・・追い詰められたお陰で、『カラー・オーケストラ』も成長できたみたい。一応この子も“成長性-A”だからね。 私達は周りの“黒”い宵闇に同化して、好きな所に移動できるようになった! 私の方が一歩先を行ってたみたいだね!」 フッ そう言って、小町とそのスタンドは姿を消した。 LT『まずいッ!』 リトル・テンポは必死に周囲を見回している。 小町の言うことが本当なら、どこから攻撃されるか分からない。 かといって今能力を解除しても、勝てる見込みはない。 風夏「もー、そんなに焦らなくていいでしょリトル?」 風夏はそう言うと、スタンドを介して九十九神たちに命令を出した。 パッ すぐ近くにある街灯が、1つだけ点灯する。 そして風夏はその明かりの中に入り込んだ。 風夏「闇に紛れてるなら、私達だけ光の中にいれば入ってこれないよね?」 LT『そりゃそうだけど・・・これでどうするのさ?』 風夏「このカッターを・・・」 持っていた自分のカッターを放り投げる。 既に九十九神を戻しておいたカッターは、暗闇の中を音もなく飛び始めた。 風夏「これで相手を探知しよう! 場所が分かったら、また隠れる前に九十九神たちをけしかけるの!」 LT『そんな! この広い暗闇の中をアレ一本で探すの!? っていうか・・・!』 リトル・テンポは、風夏の犯したミスに気付いてしまった。 LT『こんな目立つ光の中にいたら・・・!』 小町「おりゃあああ━━━━━━━━━━ッ!!」 能力を解いた小町とカラー・オーケストラが、目一杯の力を込めて殴りかかってきた! ガツン!! CO『!!』 小町「あっ!」 どこからか現れた鉄の板のようなものに、パンチを防がれた。 小町「しまっ・・・!!」 ピタッ 小町の後ろから飛んできたカッターは、彼女の首のところを紙一重で止まっていた。 風夏「・・・私の勝ちだよ、小町ちゃん!」 カラー・オーケストラのパンチを防いだのは、九十九神が具現化したマンホールの蓋だった。 小町「・・・君は・・・“あえて私を誘ったんだね”。光の中に入って・・・」 風夏「そのとーり! 頑張って考えたんだから!」 怪我を負っているにも関わらず、風夏は太陽のような笑顔で言った。 小町「・・・仕方ないね、私の負けだよ」 風夏「どうリトル? 最後は私の力で勝ったでしょ?」 LT『フゥ・・・』 * * 風夏「ごめんなさい」 試合の後、風夏は小町に向かって妙にうやうやしく謝った。 小町「えっ!? どうしたの? 私こそ怪我させちゃって謝らなきゃいけないのに・・・」 風夏「いや、小町ちゃんにもだけど、ご先祖様にもだよ」 小町「え? ご・・・先祖?」 風夏「私のご先祖様って、小町ちゃんのご先祖様に嫌なことしちゃったんでしょ? だからスタンドが暴走しちゃったんだよね。 だから私が、ご先祖様に変わって謝ろうと思ったの」 小町「?? 何のこと?」 LT『分からなくても大丈夫ですよ。 あなたのスタンドが、きちんとフゥの気持ちに答えてますから・・・』 小町「スタン・・・え? え?」 風夏「リトルの言う通りだよ! ねぇ、仲直り・・・の代わりに、私たちも友達になろうよ! 風夏っていいます! よろしく!」 小町には理解が及ばなかったが、風夏の屈託のない笑顔を見て、彼女も理由のない安心感を覚えた。 小町「・・・よろしくね!」 * * 遠くから2人の様子を見ていた紅璃珠の独り言・・・ 紅璃珠「実に素晴らしいものを見せてもらった――― 血の因縁による幽波紋の暴走 闘いによる互いの成長――― 幽波紋にここまで未知なるチカラが眠っていたとは――― そしてあの2人の結末―――こうなるとは想像できなかった。 勝敗こそ我の見た結末と変わらぬが 時を超えて血族が和解するとは――― 真の物語は「星の運命」ではなく「その血の運命」だった。 我も深く学ばせてもらった。 感謝するよ―――」 紅璃珠はそう言って夜の街から消えていった。 立会人・坂出 紅璃珠/スタンド名『マグマ』 * * 翌日のニュースはこう伝えていた。 ナレーター『昨日未明、○○駅付近で発生した停電と思われる事故より、始発から全線が運転を見合わせています。 この影響により、約20000人の通勤客の足に影響が―――』 LT『・・・なにかしらの災いってこれか・・・』 風夏「・・・ZZZ」 ★★★ 勝者 ★★★ No.3761 【スタンド名】 リトル・テンポ 【本体】 照屋 風夏(テルヤ フウカ) 【能力】 物体の魂「九十九神」を操る オリスタ図鑑 No.3761 < 第10回:決勝① > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/136.html
第13回トーナメント:準決勝② No.5393 【スタンド名】 ホット・アクション・コップ 【本体】 鹿鳴 志弦(カナキ シズル) 【能力】 スタンドが触れた『凶器』を『押収』する オリスタ図鑑 No.5393 No.6597 【スタンド名】 ハレルヤ・ハリケーン 【本体】 卍山下 秋実(マンサンカ アキミ) 【能力】 触れた対象の「特性」を強化する オリスタ図鑑 No.6597 ホット・アクション・コップ vs ハレルヤ・ハリケーン 【STAGE:プール付きの豪邸】◆aqlrDxpX0s ――センパイ、前回のことはほんとーに教訓として身に染みました。 この遠見妃奈子、立会人の仕事をぼーっと試合の行く末ながめて報告するだけ、試験の監督官と同じような仕事だと思って…… イファイイファイ! ほっぺたつねらないでください! 反省してます、今は思ってません! ええ、ファミレスでの立会いの時は、クールで奔放な諸センパイ方を見習って対戦者同士にルールを決めさせましたが…… え? 私は単に誘導されただけ? いや違いますよお私はエキサイチングな試合にするためあえて乗せられたフリを…… あ、やめてください! 構えないでください! ま、まあどのみちそれで失敗して怖い想い……もとい寒い想いをしたわけです。 ですから今回の試合は、自分自身の未熟さを自覚して、こっちからガチガチのルールを組んでやるってもんですよ! フッフッフ……私が朝の9時から夕方の5時まで寝ずに考えたこのルールの中で最高の試合を演じてもらいますよ……。 あ、その節はセンパイに私の雑務をすべてやってもらって感謝してま……イファイイファイ! すんません業務サボってすんません! とにかく! 今回、対戦者の2人には私の手のひらの上で最高のショーを演じてもらいます……クックック。 ……ええ、もう手紙は送ってありますよ。 でわでわ、行ってきますセンパイ! ****************************************************** 拝啓 残暑の候 皆様におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。 この度は私どもの主催するトーナメントにご参加いただきありがとうございます。 二回戦につきまして、詳細が決定いたしましたのでご連絡いたします。 ルールは「かくれんぼ」です。 今回の試合は「会場内に足を踏み入れた時点で勝負開始」と心がけください。 立会人からの開始の合図もございません。 十分に準備を整えてから会場へ向かっていただければ幸いです。 ルールの詳細につきましては添付した別紙をご参照ください。 では、貴君の御健闘をお祈り申し上げます。 敬具 平成○○年八月吉日 トーナメント運営 ****************************************************** 試合当日、卍山下秋実(まんさんか あきみ)はトヨタ・ランドクルーザーに乗って会場へと向かっていた。 秋実に送られてきた手紙を秋実のマネージャーである社冬子(やしろ ふゆこ)が秋実の運転する車の助手席で読んでいる。 「試合会場まではあと20km……あと30分くらいってとこかなあ」 「ねえ、秋実。一つ質問していいかしら」 冬子は視線を手紙に向けたまま言った。 「ん、何?」 「この車、どうしたのよ?」 「…………」 冬子の質問に秋実は押し黙った。 ぐぐっとハンドルに力が入り、前かがみになる。 「あなたの車はフォレスターだったじゃない」 「……冬子さんだって見たでしょ、前の試合で壊れちゃったじゃん。いや、壊れてはいないけど車検通らない車になっちゃったっていうか」 「それは知ってるけど、この車って代車じゃないでしょ。……もしかして、買ったの?」 「い、い、いや買ったっていうか……何百万ってお金はないけど、毎月4万ずつお金出して乗せてもらっているっていうか、なんていうか」 「それを世間では買ったっていうのよ、割賦とか、リース契約っていうの」 「……ごめんなさい」 しょんぼりと肩を落とす秋実を見て冬子は失笑する。 「……ふふっ、別に悪いといってるわけじゃないわ。最近あなたの仕事が増えてきたし。いくらマネージャーでも、あなたの買い物にまで口出しする義務はないもんね」 それを聞いた秋実の顔はほころんでいく。 「ありがとう冬子さん……へへっ、この車は私自身へのゴホウビなんだ。ドラマの仕事も入ったし、CMの依頼もいっぱい来てるしね」 「そうね、でも気を抜かないでね。アイドルはいつ他の誰かに立場を奪われるか、油断できないんだからね」 「はいっ!」 秋実はしゃきんと背筋を伸ばしにっこりと笑っている。 表情豊かな、愛らしい娘だと冬子は改めて思った。 (でも、自分のゴホウビになんでこんなでっかい車なのかしら。 女の子なら服とかアクセサリーとか……まあこうだからこそ彼女がアイドルとして生き残っているのかもしれないけど) 冬子は再び手紙に目を落とす。 試合の詳細が書かれた紙を手に取り、じっと眺めた。 「えー……『試合内容は【かくれんぼ】です』」 「『試合内容は【かくれんぼ】です。試合会場内で先に対戦相手の体に触れて【つかまえた】と言ったほうの勝ちです』……」 強い日差しが照りつける中、鹿鳴志弦(かなき しずる)は道を目的地に向かって歩きながら自分のもとに送られた手紙を読んでいた。 手紙は志弦の手の汗で湿っている。 「やっぱり何度読んでも腑に落ちないんだよなあ、どう思うコップ? あ、日当たってないか、大丈夫か?」 志弦は隣で志弦の差した日傘の陰を歩く少女に向かって話しかけた。 『どう思うも何も……そのまんまじゃないっスか? あと本官に日傘はいらないでスよ』 「何言ってるんだ! 真夏の紫外線は女の子の肌の天敵なんだぞ?」 『いや本官スタンドでスから。紫外線よりもマスターが本官に話しかけるときの周囲の視線のほうが痛いス! いつンなったら、自分の姿はキホン他人には見えないってわかってくれるんスか』 志弦の「そばに立つ」のは、その姿こそ人間のようだがれっきとした志弦のスタンドである。 『だいたい日焼けして欲しくないと思うなら本官を出さなきゃいいじゃないスか』 「それは絶対に嫌だ、俺はどんなときもコップの横を歩いてたいんだ」 ホット・アクション・コップという名のスタンドは明確な自我を有しており、志弦と話すことができる。 本来念話で会話ができるはずなのだが、志弦はあえて言葉でコップと会話をしている。 コップ自身は口では嫌がりながらも、志弦が言葉で意思疎通しようとしていることは嬉しいのだったが。 「お前の愛くるしい姿が誰にも見えてないことはわかってるよ……けどな、スタンドである前に俺にとってコップは一人の女の子だと思ってるんだ。 それなのに俺が日焼け止めクリームを塗ろうとしたら嫌がるし……」 『だからスタンドだから日焼けしないスよ。あとクリーム塗ろうとするマスターの目が怖かったッス』 「何を言う! 俺はおまえのためを思って……」 『話ススめません? ルールのことでしょ?』 ああそうだった、と言うと志弦は手紙に再び目を移した。 「勝利条件は『相手の体に触れて【つかまえた】と言う』だけしか書いてない。だけど、その対戦相手については何も書かれていない。顔写真もないし、名前もない」 『ルールについて、他にはなにも書かれてないんスか?』 「あとは会場と開始時刻だけだな……あ、もうひとつ、こう書かれてるぞ」 <試合会場に入ることができるのは試合出場者のみです。ただし、試合会場の人払いは行いません> <出場者の方には、会場にいる複数の人の中から対戦相手を見つけ出し捕まえていただきます> <対戦相手以外の人に触れることはかまいませんが、【つかまえた】と言う相手を間違えた場合即失格負けとなります> 「『試合会場に入ることができるのは試合出場者のみ』……だって!? 俺にコップと離れ離れになれっていうのか!」 『ンなわけないでしょ、本官マスターのスタンドなんスから。スタンドは一緒にいていいでしょうよ』 「だから俺にとってコップはひとりのおんn『人払いを行わないってことは、試合会場にいるのは本官らと相手だけじゃないんスね』 コップは志弦の言葉を遮り話した。 志弦はもどかしそうに顔をしかめて手を震わせた。 しかしコップの足に日が当たっているのを見るとはっと我にかえって日傘を差しなおす。 『会場はどういうところなんスか?』 「なにやらデケェ屋敷だ。元海軍中将の邸宅で……今は国の重要文化財、一般開放していてちょっとした展示スペースもある。 対戦者以外の人ってのは入場している観光客のことだろうな」 『そういうところだとあまり目立った動きもできないスね』 「つまりは顔も名前もわからない相手を、たくさんいる人の中から探して見つけ出せってことだ。しかもお手つきなしで」 『ずいぶんと難しい戦いになりそうスね……』 コップは腕を組み首を傾げた。 その横で志弦がぼそりと呟く。 「……だからこそ、こうやって事前に書面で送ったんだろうな」 『へっ?』 「この試合……事前にしっかり作戦を立てておかないと、きっと負ける」 「たぶんこの試合、準備を怠ったほうが負ける……そんな感じがする」 ランドクルーザーを運転しながら秋実は言った。 試合会場である中将邸宅まではあと10kmをきっている。 「準備……って、どうすればいいのかしら。顔も名前もわからない相手を探すというのに」 「その方法を考えとかなきゃならないんじゃない?」 「そーねえ……スタンドってスタンド使いにしか見えないんでしょ? それならスタンドを出して、反応したらスタンド使いは見つかるんじゃないの?」 「確かに……それもひとつの手だよね。スタンドを出しても、普通の人は気づかないし。 冬子さんだってこれまで8枚のブラを不思議な力で破かれたけど、そのうち2枚は私のスタンドがやったってことに気づいてないんだもんね」 冬子の表情が固まった。 秋実はハンドルをきりながらにししと笑っている。 「……ちょっと待ってなにそれ」 「じょーだんだよお、じょーだん♪ でも、ウソかどうか冬子さんはわかんないよね。スタンド使いじゃないんだから」 「……それについては後でもう一度話し合いましょう」 「(言わなきゃ良かった)……あ、でもスタンドを見せてもスタンド使いがリアクションするとは限らないんじゃない?」 「それも……そうよね。私たちが考えているようなことは相手も考えてるし……」 「むしろスタンドを出しちゃったら、イッパツで相手にはバレちゃうよね。特に私のは近距離型だし」 「スタンドを出さずにスタンド使いを判別する方法か……」 道は下り坂に差し掛かり、秋実はギアを落として減速した。 「冬子さん、私は冬子さんが今手紙を読むよりも前に、手紙が届いたときにそれを読んでるんだよ?」 「ん?」 「いくつか作戦があるんだ。聞いてくれないかな」 「…………わかったわ。スタンド使いでない私だけど、力になれるなら」 秋実は缶コーヒーをぐいと飲むと、息を一つはいてから話し出した。 「この試合ってさ……」 「この試合ってさ……スタンド使いの……ハァ……戦い……なんだよ」 志弦は息を切らしながら話していた。 『マスター、歩き疲れたんスよね? 本官マスターのスタンドだからわかりまスけど』 「何……おまえの前でよわっちぃトコ見せられねえだろ、たいしたことねぇよ」 『日傘持って歩いてるからスよ、休憩するッスよ。ホラ日も雲に隠れてきたし。まだ開始時間まで時間あるんでしょ?』 志弦はコップに手を引かれて歩き、道の縁石に腰掛けた。 『それで、なんですって、マスター?』 志弦は水筒を取り出すと、蓋を開けてゴクゴクと喉を鳴らして水を飲んだ。 コップにも差し出したが、自分スタンドなのでいいスと突きかえされた。 「この試合はさ、スタンド使いの戦いなんだ。だから、スタンド能力を駆使して戦うっていうのが前提になるんだよ」 『というと?』 「さっきコップが話した、『コップ自身で脅かして反応を見る』って作戦だけどよ」 『ああ、逆にコッチがスタンドを見せてしまうって理由で却下したヤツッスね』 「単純に考えてよ? こっちがスタンドを見せるとなんでマズイんだ?」 『……暑さで頭おかしくなっちゃったんスかね、いや頭はもともとおかしいか』 「いやそうじゃねえって! ……いいか? スタンドを見せれば確かに俺が出場者だってバレる」 『相手がうまーくリアクションせずにスめば、こっちは骨折りゾンになりまスね』 「だが……わかったところで、相手は俺にタッチして【つかまえた】といわなきゃなんねえ」 『……あ』 「いずれ、相手もリスクを負わなければならないんだよ。潜んで背後に回れればいいが、試合会場はミュージアムみたいなもんだ。 来場者は立ち止まって展示を見ている。そこで誰かがヘンな動きをすればすぐにバレるんだ」 『なるほど』 「どっちが先に見つけたかなんて、実は大した問題じゃないのかもしれないぜ? むしろ先に動いたほうが、戦況を有利にすることができるかもしれない」 『先に動く……ッスか』 「そう……先に動いて、『スタンド能力』で有利にする」 「『スタンド能力』……ねえ」 冬子は額に指を当てて考え込んでいる。 「冬子さんはスタンド使いじゃないからピンとこないだろうけど……スタンド能力で何か仕掛けられるかもしれないんだよね。 だから、対戦相手を『探す方法』もだけど『見つからない方法』も考えとかなきゃいけない」 車は市街地を抜けて郊外にある目的地へと向かっている。 秋実たちが中将邸宅へと向かうには、大きな国道から一度街へ入ってそこから郊外へ抜けなければならなかった。 渋滞を危惧していたが、思っていたよりも道はすいており秋実は一安心した。 「『見つからない方法』……」 「私の『ハレルヤ・ハリケーン』、あの場所でどれだけ活かせるかわからないけど……」 「ねえ秋実……」 「何?」 赤信号で車は止まり、秋実は冬子のほうを見た。 冬子はため息をついて不安げな表情をしており、秋実は一瞬ぎょっとした。 「秋実……あなたが相手と比べて圧倒的に不利な点を見つけたわ」 「えっ、何? 怖いですよなんか」 「あなた……アイドルなのよ? それも人気急上昇中の」 「えっ? い、いやあそういわれると照れますな」 能天気にはにかむ秋実に対し冬子は続けた。 「いい? ……あなたは『目立っちゃう』のよ、何もしなくても」 「いやあこれも冬子さんの普段の指導の賜物で…………」 照れくさそうに頭をかいていたが、秋実は冬子が何を言いたいかに気づき、笑顔が消えた。 「秋実、試合会場の観光客の中にはあなたを知ってる人が何人もいるでしょう」 「わ、わたしは……もしかして……」 「スタンド能力を使った仕掛けなんてできないでしょう、きっと。常に誰かに見られているのだろうから」 「……ひぇっ、人気出るってこわい……」 「それだけじゃあない……あなたのファンがいたら、ちょっとした騒ぎになって目立つかもしれない。それを対戦相手に見られていたら……」 「…………ひっ!」 「もし、対戦相手があなたのことを知っていたら……?」 「やっやめてえええええええ冬子さあああああああああん!!!」 その時、車の背後のトラックからクラクションが鳴らされた。 秋実が我に返り前を見るとすでに信号が青になっていた。 あわてて発進し、再び目的地へ向かい始めた。 「ご、ごめんね秋実」 「やめてくださあい冬子さん…………あっ、私いい方法思いつきましたよ!」 「いい方法?」 「私のファンがいたら、協力してもらうんです! 対戦者っぽいアヤシイ人を見つけたら……私のファンにお願いして一芝居うってもらうんですよ!」 「一芝居って……」 「つまりは……『アヤシイ人の肩に触れて【つかまえた】』と言ってもらうんです」 「……ええっ!?」 「それで相手がどうリアクションをとるか……面白くありません?」 「……ダメね、マネージャーとしてそれは許すことはできないわ」 「なんでー!? 冬子さん」 「場合によってはあなたのファンを危険にさらすことにもなる……。それにそもそも選ぶ相手を間違えてしまった場合のリスクが大きいわ。 もしあなたが対戦者に対してそれを『お願い』したら、あなたが出場者であることがバレる。 もし対戦者じゃない人にお願いしたとしても、肩を叩く人が対戦者じゃなかったら、対戦者がそれを見ていたら……相手にヒントを与えてしまうことになる」 「むむぅ……」 「あとは……そうね、突拍子もないけど、相手が『透明になる』能力でも持っていたら」 「『透明』……あはっ、あははははははははは!!! 冬子さんおっかしー! かわいー!!」 秋実はハンドルをバンバン叩きながら大声で笑う。 「なっ、なにがおかしいの!? 私は真剣に……」 「真剣だからおっかしーんだもーん!! だってさ、相手が『透明能力』もってたら、こんなルール私に不利すぎるじゃん! それはありえないよ」 「ハッ……そ、それもそうね……」 「そりゃあー冬子さんにとってはスタンドは全部透明人間みたいなもんだけどさー!」 「…………」 「あっ、冬子さんむくれないでよー! ……あっ、アレ見てあれ!!」 「えっ…………何?」 冬子が秋実の指差したほうを見ると、3人組のおばあさん、1人の男の子、修学旅行生らしい女子高校生のグループが歩道を同じ方向に向かって歩いていた。 近くに立て看板があり、そこには「重要文化財 元海軍中将邸宅 この先500m」と書かれていた。 志弦とコップは再び目的地に向かって歩きだしていた。 日を厚い雲が覆い、あたりに涼しい風が吹き始める。 『あえて先に動いて戦況を有利にする……なるほど、マスターにしては面白い考えッスね』 「そうだろそうだろ」 志弦は馬鹿にされてるのに気づかず満足げに頷いた。 『でも……具体的にはどうするんスか?』 「例えば……3つくらい方法を考えたんだが」 『お、スゴイッス! 3つも』 「まず1つ……『火災報知機を鳴らす』」 『火災報知機? どうしてッスか』 「ふつう、ウソでも火事の報せがあったら中にいる人は皆逃げ出す。だけどこの試合の出場者はそうはいかない。 一度中に入ってから外へ出たら失格負けになるかもしれないからな。ましてや『かくれんぼ』だし」 『おお! これはいい作戦ッスね! 火災報知機を鳴らしておいてから身を隠し、残るひとりが近づいたらタッチ! でスね!』 「作戦その2……だれかれ構わずぶん殴る」 『……えっ?』 「対戦相手以外の人に触れるのはルール違反じゃない。【つかまえた】と言わなきゃオッケーなんだ」 『そ、それで?』 「スタンド使いだったら本能で本体を守る」 『じゃなかったら、ただ殴られるだけスか……』 「作戦その3……建物を爆破する」 『…………頭いたくなってきたッス』 「同じ理由でスタンド使いだけはスタンドで本体を守ろうとする……他の人は全員死んじゃうかもしれんけどな」 『本気で言ってるんスか?』 「いやまあ……一般人を殴ってるのを対戦相手に見られたらコッチがばれるし、建物を爆破する用意はしてないからなあ」 『じゃ何で言ったんスか。無駄な見栄で評価下げましたよ』 「でも、火災報知機は使えるだろ?」 『うーん、まあそうかもしれないスね……でも、相手も同じこと考えてるかもしれないッスよ?』 「同じこと?」 『火災報知機でも何でも、2人以外の者を追い出して身を潜ませることス。そしたら、お互い隠れて見つけられないんじゃないスか?』 「そうなったらアレだよ、どちらが痺れを切らすまでの持久戦だ……あ、いやすぐに火事がウソだとバレたら人が戻ってくるな」 『じゃあ火災報知機の作戦も時間が限られてるッスね』 「いっそ開き直って、火災報知機を鳴らして人払いをしたらあえて身を隠さないのもいいかもな」 『ええっ!?』 「グーゼン火災報知機が誤作動したように装って、あえて俺に隙をつくる。相手が現れたところでこっちから叩く!」 『もはや作戦といえるんスか? なんかもう考えるのめんどくさくなっちゃったようにも見えるんスけど』 「いや、そうでもないよ……ところで俺たちが今から行く場所はどんなところだ、コップ?」 『元海軍中将の邸宅ッスよね?』 「そう、現在は重要文化財、そして展示スペースがある。戦争と、戦時下名を馳せた軍人にまつわる展示だ」 『それがどうかしたんスか?』 「ちょっと前調べしてたんだけどな……この海軍中将、死因は自殺なんだ……それも、『拳銃で自殺』」 『拳銃……自殺? …………!』 「中将が自殺したときに使った拳銃も展示スペースに飾ってある。もちろん今では骨董品みたいなモノで使えるワケがない」 『しかし……それはれっきとした「凶器」スね。しかも、実際に中将を死に至らしめた「凶器」……』 「そう、おまえの能力を介せばこの拳銃はりっぱな武器になる。しかも……コップ、おまえ自身が使うことで敵スタンドに対しては最大の効力を発揮する」 『「ホット・アクション・コップ」…… 「『取り出された凶器』は、『その凶器を所持し使用している生物と同じ生物』に対して軽くかすっただけでも致命傷を負わせるようになる」 たとえば、「スタンド」と「スタンド」でも……』 「その拳銃は、俺達の先制攻撃としては最高のものになるだろうな。何せ拳銃の弾をスタンドに防御させないわけにはいかないだろうからな」 志弦とコップが歩き続けた先に大きな平屋の屋敷が見えてきた。 手前の駐車場にも幾台か車が停まっており、志弦は自分たちが目的地に着いたとわかった。 「よーし……結局、なるようにしかならないさ」 『まずは観光客を装って拳銃の回収からスね……』 「展示スペースは入場口を入って左だったな」 『ちゃんと入場料は1人分だけ払うッスよ、いつもみたいに2人分払うってゴネてると対戦者にバレまスからね』 「くう……苦渋の決断だが、仕方ない……コップは普通の人間と変わらない、一人の女の子なのに……」 『スタンドでス……っていうか本官は外に出てないほうがいいと思うんスけど』 「……嫌だ」 『どうしてもッスか、いい加減呆れまスよ』 「いや、とっさにいい作戦を思いついたんだ。コップ、中に入ったら俺の妹を装うんだ。いや装わないで本当の妹になってもいいんだが」 『装いまス、でもなんででスか?』 「いいか、コップ。お前は俺じゃなくても誰が見てもスタンドには見えない、普通の女の子にしか見えないはずだ」 『ちょっとカゲキなコスプレした女の子ッスけどね、それがどうかしたんスか?』 「悔しいことに一般人にはおまえの姿は見えない、見ることができるのはスタンド使いだけだ。 だが、スタンド使いにとってお前は『スタンドか人間か』一見してわからないんだ」 『…………!』 「コップ、おまえは中に入ったら俺の妹になって、黙ったままあたりをきょろきょろしてるといい。 そしてもし、おまえと目が合う人間がいたら……そいつが対戦相手だ」 『わかったッス。もし何度も目が合う人間がいたら、にぃちゃんの袖のスソをひっぱるッス』 「……おまえは口ではああいいながらもホント俺の胸キュンポイントをおさえてるよな」 志弦とコップは試合会場である元海軍中将邸宅の中へ3人組のおばあさんの後ろから並んで入っていった。 志弦はポケットから財布を取り出し、1人分の入場料を手に取った。 コップは志弦に言われたとおりにあたりを見回しスタンド使いを探す。 3人組のおばあさんが受付を終えて志弦が受付の前に立つ。 受付の女性は軽く礼をして入場料を置く小皿を前に差し出した。 志弦とコップは想像もしていなかった。 こんな試合会場の入り口で、 ものの1分も経っていないような時間に、 決着を迎えようとは。 「【つかまえた】」 不意に聞こえた声と、肩に置かれた手の感触。 志弦はどきりとして後ろを振り返った。 そこに立っていたのは女の子。 髪を二つに結わえた背の小さめな女の子。 女の子はにっこりと、可憐な笑顔を志弦に見せている。 志弦はこの女の子を知っていた。 先日ふと観たドラマで、主人公よりもヒロインよりも輝きを放っていた役者。 その可憐な表情と、それに反するほどの凄まじい演技に惚れて思わずファンレターを書いた役者。 その役者をネットで調べて、志弦はその女の子が『Z1プロダクション』に所属するアイドルだと知った。 その役者の、その女の子の名前は…… 「卍山下…………秋実……!」 「やだ、私のこと知ってたんですか? 嬉しいなあ」 「は、はい゛っ……!」 志弦は緊張のあまり声が上ずった。 憧れのアイドルが目の前にいること、そして『肩に触れられ【つかまえた】』といわれたことの二つの理由で。 「ど、どうしてあなたが……」 「ん? それは、どういう意味でかな?」 志弦のその質問には、「どうしてアイドルの卍山下秋実がここにいるのか」と「その卍山下秋実がどうして自分の肩に触れたのか」という意味があった。 しかし、秋実にとっては『どうして自分が対戦者であるのかがわかったのか』という意味にも捉えられたかもしれない。 そして秋実はそのすべての意味の答えとなる回答を示した。 「それは、あなたがトーナメントの対戦相手だからだよ」 その言葉を聞いて、志弦はすぐにその意味を理解できなかった。 しかし間もなく志弦は理解する。 自分が敗北したことに。 「ふざけんなーーーーッッ!!!」 突如響き渡る叫び声。 その声に驚きまわりにいた一般人は皆こちらを向いた。 声を発したのは敗北が決定した志弦ではなく、彼のスタンドであるコップでもなかった。 叫んだのは、受付に立つ女性だった。 受付の女性は顔を真っ赤にして涙を流している。 「せっがく……っ、いっしょうけんめいルールかんがえだのに……準備じだのに……なんでこんな早く……う゛う゛う゛」 受付の女性に扮し試合を見届けようとしていた立会人の遠見妃奈子は体を震わせながら秋実を睨みつけた。 「あ、あなたが立会人だったワケですか」 「そう……だよ……っ」 『……つーことは、マスターマジに負けちゃったんスね』 コップは志弦の手を握り、顔を見上げた。 志弦自身、敗北を受け入れたとはいえ、なぜ秋実が自分が対戦者であることがわかったのかは理解していない様子だった。 それは当然、コップも同様だった。 「勝負は……ここに来る前からついてたんだよ。私の、頼れるマネージャーのオカゲでね……」 「ええっ……? 秋実……ちゃんの、マネージャー?」 「実はね、私は『ここに向かって歩いていく2人の姿を見ていたんだよ』、車からね」 『エエッ!!』 「でも、助手席に乗っていた冬子さんは『1人しか見ていなかった』んだ」 ――――――――――――――― ―――――――――― ――――― 「あははははははははは!!! 冬子さんおっかしー! かわいー!!」 「なっ、なにがおかしいの!? 私は真剣に……」 「真剣だからおっかしーんだもーん!! だってさ、相手が『透明能力』もってたら、こんなルール私に不利すぎるじゃん! それはありえないよ」 「ハッ……そ、それもそうね……」 「そりゃあー冬子さんにとってはスタンドは全部透明人間みたいなもんだけどさー!」 「…………」 「あっ、冬子さんむくれないでよー! ……あっ、アレ見てあれ!!」 「えっ…………何?」 秋実が指差した方向には、「重要文化財 元海軍中将邸宅 この先500m」の立て看板と、その方向へ向かう人たちの姿があった。 冬子は秋実が指差したのは立て看板だと思い、答えた。 「……ああ、試合会場まで、もうすぐね」 しかし、秋実が指差したのは看板ではなかった。 「ちがうよ、そっちじゃなくてほら、『あの子』! 『2人で歩いているあの子たちの』!」 冬子は秋実が指差したほうを改めて見た。 そこに歩いていたのは、3人組のおばあさん、女子高校生のグループ、そして『1人の男の子』。 「『2人』? 2人組なんていた?」 「えっ? 冬子さん見なかったの? あの『婦警コスプレっぽい女の子』! かわいいなあ、あれかなあ、隣のカレシがコスプレ好きなのかなあ。 あ、でもあんなズタ袋被ってたのだったら、なんかのゲームのコスプレなのかな? この先でなんかイベントあるのかな……」 「ちょ、ちょっと秋実。カップルなんていなかったわよ。『男の子は1人で歩いていたじゃない』」 「…………えっ?」 ――――― ―――――――――― ――――――――――――――― 「……そうか、そういうことなんだな。秋実ちゃん、あなたはここへ向かう俺とコップを見ていたんだ」 「うん。でも、私だけが見ていたら、私だけでここに向かっていたら私は勝てなかったんだ。 あなたを見て『その子』を見れなかった冬子さん……マネージャーがいたから、私はあなたがスタンド使いであるとわかったんだよ。 対戦者以外のスタンド使いがここに向かって歩いているなんてグーゼンもないだろうし! そのマネージャーはルールでここへは入れないから、今は車で待ってもらってるけどね」 『マスター……』 「そういうことなら、仕方ないな。俺はどんなことがあってもコップのそばを歩きたい。それが理由で負けたんなら悔いはないよ」 『……いつもなら呆れてしまうセリフッスけど……今だけはカ、カッコいいスよ』 「…………俺はどんなことがあってもコップのそばを歩きたい。それが理由で負けたんなら悔いはないよ」 『なんでもう1回言うんスか』 「だってカッコイイって言うし」 『もうカッコよくないッスよ』 「あははっ! ほんとに可愛い兄妹みたい」 「……ほ、ほんと!? 秋実ちゃんもそう思ってくれる?」 「うん、さっきも言ったけど、私だけだったらあなたのスタンド、スタンドだと気づかなかった。人間と区別つかないもん。 もし気づかないままここで会ったら、試合のことも忘れて話しかけて、可愛がってたかも。そしたら私負けちゃってたよね」 『か、可愛いだなんてそんな……マスター以外に言われたの初めてス……』 「あのー、私のこと忘れてません?」 志弦の後ろで立会人の妃奈子が冷めた目で様子を眺めていた。 「あ、ごめんなさい立会人さん! それで、この勝負は……」 「あーハイハイ、卍山下秋実さんの勝ちです。もう、帰っていいですか? 後片付けもないし、さっさと運営に報告したいので」 妃奈子はそれだけ言うとため息をつきうなだれながら去っていった。 「立会人もいろいろいるんだね……」 「あの……秋実ちゃん、次の試合もがんばってくださいね、ケガしないように。それじゃあ俺も帰るので……」 「あ、待って!」 背を向けて帰ろうとする志弦とコップを秋実が呼び止めた。 志弦は憧れのアイドルに呼び止められたことに驚き、くるっと振り返った。 「君の名前はなんていうの?」 「鹿鳴志弦……です」 「あなたは?」 『ホット・アクション・コップ、マスターはコップと呼んでるッス』 秋実は白い歯を見せてニッカリと笑い、2人に言った。 「今度、うちのプロダクション所属のアイドルの握手会とライブがあるんだ! 良かったら来てくれないかな? ナイショなんだけど……実はうちのアイドルってみんなスタンド使いだから、コップちゃんも楽しめると思うよ!」 「…………!」 『マスター?』 「じゃっ、また会おうねー!!」 秋実は手をぶんぶん振りながら駐車場へ向かって行った。 飛び跳ねるように走る彼女の姿を志弦はただじっと眺めていた。 『……マスター、残念でしたね』 「ああ……このトーナメントで優勝したら『コップを人間にする』って願いを叶えてもらおうとしたんだが、残念だ」 『そんな大層すぎる願いがあったんスか、さすがにそれはムリが過ぎません?』 「でも……よかった」 『え?』 「コップを……可愛いと言ってくれた人がいた。人間と区別がつかないって言ってくれた。それだけで俺はじゅうぶん幸せだ」 『マスター……』 「コップ、今度秋実ちゃんのライブに行こうか。チケットも2人分買って」 『いい加減にするッスよ、チケットはマスター1人分でいいんスよ』 「違うよ、秋実ちゃんは『コップも楽しめる』って言っただろ? そしたら、チケットは2人分買わなきゃだろ」 『…………そうか。……へへ、そースね。本官も秋実ちゃんや他のアイドルと握手したいでス』 「……あーもうっ、かわいいなコップは! 天使だな!! アイドルだな!!」 『や、やめるッスよ、恥ずかしい……』 「今日で俺は完全に秋実ちゃんのファンになったけど……それでもお前が一番のアイドルだ、コップゥゥ!!!」 立会人が去り、秋実も帰って一般人しかいなくなった場所で、 志弦は周囲の冷たい視線に晒されながらコップを愛で続けた。 それでも、志弦は以前にも増してコップがそばにいる幸せを感じていた。 ★★★ 勝者 ★★★ No.6597 【スタンド名】 ハレルヤ・ハリケーン 【本体】 卍山下 秋実(マンサンカ アキミ) 【能力】 触れた対象の「特性」を強化する オリスタ図鑑 No.6597 < 第13回:決勝① > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/liargame-umg/pages/136.html
冤罪ゲーム 頭脳:★★★☆☆ 心理:★★★☆☆ 運 :★☆☆☆☆ ルール 各プレイヤーはAチーム・Bチームのいずれかに振り分けられる。 【Aチーム】 1リューク。 11ネコうた 13トルネード 14ツルギ 16じゅたん 17シャイン 19カムハ 31karuke 38みすたぁ 39navi☆DEST! 42パラマター 【Bチーム】 2ラルファス 5マー 6ホネコッツ 7ブルーテレサ 18クロス 21ヴァスターZERO 24tamago224 25takesi 26TOLLOW 27SpecialSky 35★けんや★ まず最初の15分で代表者を選出する。 代表は3、他プレイヤーは1のライフを持つ。 ライフが0になるとその日は行動できなくなる(有罪) 翌日になると代表以外のライフが回復する。 投票タイムでは次の行動を行うことができる。 証拠の提示(攻撃) 異議の提示(防御) それぞれ攻撃力・防御力として指定したプレイヤーに加算される。 投票結果によって次のようになる。 攻撃力>防御力:攻撃されたプレイヤーは-200とライフ-1、このプレイヤーに証拠の提示をしていたプレイヤー全員+50 攻撃力=防御力:変化なし 攻撃力<防御力:防御の指定されたプレイヤーは+50、そのプレイヤーに攻撃していたプレイヤー全員-100。ライフは減らない。 ポイントが多い上位10名が決勝予選進出。 制限時間:1日4回×3日 参加者 :21名 参加者変動:21→10 結果 AとBの一部が協定を組み、そのメンバーが勝利した。 しかし、優勝候補であったシャイン氏が思わぬ敗退を喫してしまった。 ★けんや★・トルネード・ブルーテレサ・じゅたん・ホネコッツ・tamago224・リューク。・rel・ツルギ・ヴァスターZERO・TOLLOW 以上11名が決勝予選進出。 UMG Prisonトップに戻る
https://w.atwiki.jp/saimoe_madoka/pages/30.html
ティロ・フィナーレ 準決勝 11月3日 22:45:00 ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃┏━┫┃┃ ┃┣┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗┛ ┗┻┻━┻┛┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ ┣┻┻┫■ 巴マミ 本ラシ【ティロ・フィナーレ】のおしらせ┃┏┓┃■ ┃┣┫┃■ 本日の本ラシ【ティロ・フィナーレ】は 22:45:00から行います。┣┻┻┫■┃┣┓┃■ 今回はティロ・フィナーレによるエネルギーの奔流をイメージしてみました。┃┣┛┃■ http //www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2213658.jpg┣━━┫■ ┃┏┓┃■ AAテンプレは http //yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/vote/1320080971/11-14┃┗┛┃■ ┣┳┳┫■ Lv1用は http //yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/vote/1320080971/15┃┗┛┫■ , -─-、┃┣┓┃■ ,マミ-─-'、┣┻┻┫■ ν*(ノノ`ヽ) にぎやかし大歓迎ですので気軽に参加してください┃┏┓┃■ ξゝ*^ヮ゚ノξ┃┣┫┃■ ___(つ/ ̄ ̄ ̄/__┗┛┗┛■┏━━\/ mami /. ┏━━┳┳━┳┳━━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ ━┫┃ ┃┃┏┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ■ ..,-─-、 ┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫. ☆ .■ .,マミ-─-' ┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛ ■ν*(ノノ`ヽ) [[コードを入れてね]]. ☆ .■ ξゝ*^ヮ゚ノξ 巴マミ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ■┏━∪∪┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ Lv1用 ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ |;i! ! ;; ;. l;i.i! !;ilill l! [[コードを入れてね]]┣┻┻┫■ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┃┣┫┃■ l!; ill l ,i i l!; ill l; i;ii i|┣┻┻┫■ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l|┃┣┓┃■ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i!┃┣┛┃■ |;; ll i;; ; l l i ; .lli;iiilll!!┣━━┫■ |;!; il ;; . i!.l!; i.l ;i ;i.i!|┃┏┓┃■ |;! ! ;;; l l;ii!i. ! ;ililli|┃┗┛┃■ !;ll i;ii;; ! ; ll i;ii ;ii! |┣┳┳┫■ !; ill;l ;l; ;ll i;ii ;i l!; ill |┃┗┛┫■ |; ill l; ,ii;. l!; ill l; i;ii l┃┣┓┃■ |;; !l; l;lil !i.li;! !l; l;lil |┣┻┻┫■ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┃┣┫┃■ 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ ┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ |;i! ! ;; ;. l;i.i! !;ilill l! [[コードを入れてね]]┣┻┻┫■ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┃┣┫┃■ l!; ill l ,i i l!; ill l; i;ii i|┣┻┻┫■ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l|┃┏━┫■ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i!┃┗┛┃■ |;; ll i;; ; l l i ; .lli;iiilll!!┣━┻┫■ |;!; il ;; . i!.l!; i.l ;i ;i.i!|┗┓┏┛■ |;! ! ;;; l l;ii!i. ! ;ililli| , -─-、┏┛┗┓■ !;ll i;ii;; ! ; ll i;ii ;ii! | ,マミ-─-'、┣━━┫■ !; ill;l ;l; ;ll i;ii ;i l!; ill | ν*(ノノ`ヽ) ティロ!┃ ┏┛■ |; ill l; ,ii;. l!; ill l; i;ii l ξゝ*^ヮ゚ノξ┃ ┗┓■ |;; !l; l;lil !i.li;! !l; l;lil | ⊂) 巴)つ┣━━┫■ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! ! く/±|jゝ┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i| .し'ノ┃┣┫┃■ 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ ┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ |;i! ! ;; ;. l;i.i! !;ilill l! [[コードを入れてね]]┣┻┻┫■ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┃┣┫┃■ l!; ill l ,i i l!; ill l; i;ii i|┣┻┻┫■ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l|┃┣┓┃■ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i!┃┣┛┃■ |;; ll i;; ; l l i ; .lli;iiilll!!┣━━┫■ |;!; il ;; . i!.l!; i.l ;i ;i.i!|┃┏┓┃■ |;! ! ;;; l l;ii!i. ! ;ililli|┃┗┛┃■ , -─-、. !;ll i;ii;; ! ; ll i;ii ;ii! |┣┳┳┫■ ,マミ-─-'、 !; ill;l ;l; ;ll i;ii ;i l!; ill |┃┗┛┫■ ν*(ノノ`ヽ) ティロ!. |; ill l; ,ii;. l!; ill l; i;ii l┃┣┓┃■ ξゝ ゚ ヮ゚ノξ |;; !l; l;lil !i.li;! !l; l;lil |┣┻┻┫■ ⊂) 巴)つ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ く/±|jゝ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┃┣┫┃■ . し'ノ 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ ┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ |;i! ! ;; ;. l;i.i! !;ilill l!┣┻┻┫■ ,,,-'--''  ̄ ''ニ;;-==-'--_____┃┏┓┃■ _-'' " ̄ ;;;;----;;;;;;;; ` "'' ---,,_ ┃┣┫┃■ ._,,-'ニ-''ニ-" ̄|;! ! ;;; l l;ii!i. ! ;ililli| `"''-;; ''-`-,,┣┻┻┫■ ,,-'' 二-''" !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| "- ;; `、┃┏━┫■ ._,-" / 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ ヽ i┃┗┛┃■ ( { (i(____ |;; ll i;; ; l l i ; .lli;iiilll!! _,,-' / }┣━┻┫■ `''-,_ヽ ''- ,,__,, ,___|;!; il ;; . i!.l!; i.l ;i ;i.i!|,----..--'''" ノ,,-'┗┓┏┛■ "--;;;;;;;.""''"''-|;! ! ;;; l l;ii!i. ! ;ililli|;; ---;;;;;;; --''"~┏┛┗┓■  ̄ ̄ !;ll i;ii;; ! ; ll i;ii ;ii! |┣━━┫■ !; ill;l !; ill;l!ii ;i l!; ill |┃ ┏┛■ |; ill l;|; ill l; ,iii l; i;ii l┃ ┗┓■ |;; !l; l;lil !i.li;! !l; l;lil |┣━━┫■ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┃┣┫┃■ l!; ill l ,i i l!; ill l; i;ii i| [[コードを入れてね]]┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ !; i``.-=.、;ii ;i l!;ill|| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |; ill l; ,ii;. ll``.-=.、l ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ Yへ, |l ;; l;lil !i. ;! r.'"´| 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ ┣┻┻┫ / }. 丶 |l l i; . r.'"´ i ; il| , -─-、┃┏┓ / / / // ヽ. |l;r.'"´. ; ill;l | l| ,マミ-─-'、 Σ!┃┣┫ / / / ハ -=、 . ;ii ! ll i;ii ! i; l| ν*(ノノ`ヽ) ;。・┣┻┻| ___ // / __.| | i. !; i``.-=.、; ;i l!; i l| ξゝ;゚ ヮ゚ノξ c□┃┣┓|/ /^ l / .| ノ 八 |; ill l; ,ii;. ll``.-=.、| ミ ノつ巴つ┃┣┛| j / j/ ,x=、 Vハ′ \ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil !| ⊂くノ±iノ┣━━| ,x==、 〃 V| |;; !l;┏┓ ┏┳┓ ミΣ し' ┏┓┏┓┃┏┓| 〃 ____ /// }|./\ |; l! i┃┗━━╋┻┛ ┏┓ ┃┃┃┃┃┗┛l/// r ´ \} ハ ノ |;;r.'┃┏┓┏┛┏┓ ┃┃┏━━━━┓┃┃┃┃┣┳┳| | ノ / // ノ ,, ┗┛┃┃ ┃┃ ┃┃┃ ┃┃┃┃┃┃┗┛ ヽ ._丶 __ . イ ..イ / } l l;|; il! l┃┃ ┗┛┏┛┃┗━━━━┛┗┛┗┛┃┣┓┃x'|⌒【】`iヽ、 \彡 j‐/... ノ ;l; l;li┏┛┃ ┏━┛┏┛ ┏┓┏┓┣┻┻/ .´!_∧i` \ }=彡 / ,;i;; li┗━┛ ┗━━┛ ┗┛┗┛┃┏┓ ,イ{ !\_\ ゝ==イ/ |;; !l; l;l ;l; ; l!; ill;i;; i| ┃┣┫┃ 〉 ヽ( ー' ) 乂 l!; ill l i l! ill l; i;ii i| [[AST113-3sTTOF8Q-XK]]-00035┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ [[AST113-YUTZz1Gk-Hb]]-00313 l! _X/ ┌ 7 Y  ̄ \| | __┣┻┻┫■ 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ l l⌒ くУ〉 |__ ァ┴-}ミx Y(彡 \┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i| マ人| ム-ァ≧= \ミヽ ヽ┃┣┫┃■ l!; ill l ,i i l!; ill l; i;ii i| ノ__y ´/ 〈込》Уミヽ \r ァ、 ハ___┣┻┻┫■ _ r t7!;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ノイ ′ {l \ \У / ハ レ  ̄ヽ┃┣┓┃■ (_Lヽ>!;;; !l; l;l; li;; !l;>⌒=― 」 ァぅ》 ヽ=ァ- / / l / |┃┣┛┃■ !;;; !l; l;l; li; / /⌒ ー \}之ツーメ-ー ´ ′, | |_________________二=/_ ャー、- 、 ヽト \’ニ=- ― | l l ___ノヽ x< к__п__ж__ф__щ\> ~\――くミ┐ ヽ 〉 rv ┐ ==--‐┤ | ′ \ 人 / ´ __ `ヽ、 マ「| } | | /r人ィ_ア二ニ=- Vハ / ヽl「 /´/// ` ヽ、 \. r―、 | l イ;ノ o Y l|/んヽー ---― へ ゝ′ ム//////ハ ‘, | |⌒ __ イ レ⌒ | ヽヽ)ノム ///////ハ l!_L| < / 〉 /┴イ彡 /`ミシ´{////////ハ/ /  ̄ヽ /  ̄ ̄|//////// , }‐< /;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|∨ /////// / ,/ 〉―― l!; ill l ,i i l!; ill l; i;ii i| \ .///// / / /゙ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓\ `、 ./// ´ / / ┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ..,-─-、 ┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ .,マミ-─-' ┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ν*(ノノ`ヽ) |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| 意味もなくLv=1用をタテにつないでぶち抜きまくる!┣┻┻┫■ ξゝ*^ヮ゚ノξ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il┃┏┓┃■┏━∪∪┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓┃┣┫┃■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃┣┻┻┫■ ..,-─-、 ┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃┏━┫■ .,マミ-─-' ┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┗┛┃■ν*(ノノ`ヽ) |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| 左側が合わなくなっちゃったけどね!┣━┻┫■ ξゝ*^ヮ゚ノξ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il┗┓┏┛■┏━∪∪┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓┏┛┗┓■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃┣━━┫■ ..,-─-、 ┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┏┛■ .,マミ-─-' ┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃ ┗┓■ν*(ノノ`ヽ) |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ ┣━━┫■ ξゝ*^ヮ゚ノξ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il [[にぎやかし!]]┃┏┓┃■┏━∪∪┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓┃┣┫┃■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ |;i! ! ;; ;. l;i.i! !;ilill l!┣┻┻┫■ |;i! ! ;; ;. >‐=7 ̄ミメ┃┏┓┃■ |;i! !/ `ヽ〈┃┣┫┃■ . ー=ニ彡' \┣┻┻┫■ |/ ,/ /ハ ゙ ,┃┣┓┃■ . / {〃 7⌒| ∧ | | j┃┣┛┃■ // /^う心 }/ ヽ∧⌒ ; ト┣━━┫■ . {/ / じノ う心ヽ .′ j┃┏┓┃■ . 〃 / ′ じノ У ;┃┗┛┃■ . | ∧ __ / / ゙┣┳┳┫■ . |从 ∧ ‘ ノ / / / 私って、ほんとバカ┃┗┛┫■ { | | iヽ、 / / / ┃┣┓┃■ jハ从⇒ ,r―=/ / f┣┻┻┫■ . /  ̄ ̄〈 `〃¬¬彡' / ,ヘ{┃┏┓┃■ . / 「 ̄ ̄`ゝイ___〈ノ从ノ}/┃┣┫┃■ / { | ⌒厂〉ー \`ヽ、┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ |;i! ! ;; ;. l;i.i! !;ilill l! [[投票済]]┣┻┻┫■ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┃┣┫┃■ l!; ill l ,i i l!; ill l; i;ii i|┣┻┻┫■ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l|┃┏━┫■ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i!┃┗┛┃■ |;; ll i;; ; l l i ; .lli;iiilll!!┣━┻┫■ |;!; il ;; . i!.l!; i.l ;i ;i.i!|┗┓┏┛■ |;! ! ;;; l l;ii!i. ! ;ililli| , -─-、┏┛┗┓■ i i !´`⌒ヾ i .!;ll i;ii;; ! ; ll i;ii ;ii! | ,マミ-─-'、┣━━┫■ ((( ノノリ从从ゝ !; ill;l ;l; ;ll i;ii ;i l!; ill | ν*(ノノ`ヽ) フィナーレ!┃ ┏┛■ ゞ(リ ゚ ヮ゚ノリ ティロ! |; ill l; ,ii;. l!; ill l; i;ii l ξゝ*^ヮ゚ノξ┃ ┗┓■ ⊂}li i}つ |;; !l; l;lil !i.li;! !l; l;lil | ⊂) 巴)つ┣━━┫■ く(人人)ゝ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! ! く/±|jゝ┃┏┓┃■ し'ノ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i| .し'ノ┃┣┫┃■ 巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ ┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ━┫■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┣━ ┃■ | | ├――┤|;i! ! ;; ;. l;i.i! !;ilill l!┣━━┫■ | 」.ィ ┴――┴|; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ |´ | , -‐ 、 |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i| あちゃー┃┗┛┃■ l |{ じ .l!; ill l ,i i l!; ill l; i;ii i| またソバシナーレか…┣━━┫■ 〃! | ー .!;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ┃ ━ ┃■ / | i ; | u ' !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! (邪魔だな…)┃ ━ ┃■ l ト、 ト . ^TTIト |;; ll i;; ; l l i ; .lli;iiilll!!┣━━┫■ | ヾ ィ>イl川´|;!; il ;; . i!.l!; i.l ;i ;i.i!|┃┏┓┃■ _.. ヘ ヽ 川|| |;! ! ;;; l l;ii!i. ! ;ililli|┃┣┫┃■ , ィ''´ } ンrtく !;ll i;ii;; ! ; ll i;ii ;ii! |┣┫┣┫■ / l 、\ {_/ |o| !; ill;l ;l; ;ll i;ii ;i l!; ill |┃┗┛┃■ {、 l --\ |o| |; ill l; ,ii;. l!; ill l; i;ii l、┗┓┏┛■ ハ_} / _二ヽ \ Ll |;; !l; l;lil !i.li;! !l; l;lil | ヽ┏┻┻┓■ { / -- 、ン‐ヘ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !_}┃┏┓┃■ に7 ‐ァ-一'’_¨二\ ..|;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|‐ノ ティロ ┃┣┫┃■ // /ヽ、<´ ミ=三ゝ=!;ll i;ii;; ! ; ll i;ii ;ii! | | [[AST113-5ut3AwjA-AB]]┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃ ┏━━┓■ ┃┃┃┃┏┫━┃┃ |; ; ll i; ;!l l i!!!lli;iiill l| ┫┃┗━┫ ━┫┣┫┃ ┃■ ┗┛┗┻┛┗━┛┗ |!;l!; il ; !ii!;l!;!!il;i.ii!il ┗┻━━┻━━┛┗┛┃┃┃┃■ |;i! ! ;; ;. l;i.i! !;ilill l!'─z___┣┻┻┫■ |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !‐-、 ∠_,,..-──‐'-‐''" ┃┏┓┃■ |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i| \/, -‐'⌒ ─、 ┃┣┫┃■ [[AST113-XMFwATuw-AH]]-00082; i;ii i| / -'  ̄ ヽ ┣┻┻┫■ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| / / , - 、 r´、、ヽ ┃┣┓┃■ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ,' 〉 l // l |。l l l | ) ┃┣┛┃■ |;; ll i;; ; l l i ; .lli;iiilll!! l ' 、l l ゚ノ_ ヽ//ノ ` ┣━━┫■ _ ___ . |;!; il ;; . i!.l!; i.l ;i ;i.i!| | 〉 ィ^r' ヽ  ̄ /ヽ r' ┃┏┓┃■ _ヲ ,_巴_| |;! ! ;;; l l;ii!i. ! ;ililli| ', ヽ_ `´ ̄_,..-''´ ノ ┃┗┛┃■ 彡☆j i 、 ヽ !;ll i;ii;; ! ; ll i;ii ;ii! | ヽ 、_  ̄ ̄ ̄´_,,..ノ /┣┳┳┫■ ' |´`/ // ヽレ)ノ. !; ill;l ;l; ;ll i;ii ;i l!; ill | \ ヽ ─-、_,,ノ _;; -''┃┗┛┫■ Z_z(| | ┃ ┃ |!z |; ill l; ,ii;. l!; ill l; i;ii l┃┣┓┃■ Zニハゝ''' ヮ''ノz_Z |;; !l; l;lil !i.li;! !l; l;lil |┣┻┻┫■ 乙´/,}|{}.王{}{ヽ,ろ . |; ll i;i;; ! ; ll i;ii ;ii! !┃┏┓┃■ Cく_A___A,〉D .|;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┃┣┫┃■ (__j__) |;; ill;l;l; ; l!; ill;l li;; i|┗┛┗┛■┏━━┳┓ ┏ !;;; !l; l;l; li;; !l; l;lil l| ━┳┓ ┏━━┓┏┓. ☆ .■┗┓┏╋╋┳┳━┓┃ !; ;i;;l; ,i;.. ! ;i;;l; ,l;i;i! ┓┃┃ ┃ ━┫┃┃
https://w.atwiki.jp/dangerousss/pages/91.html
準決勝第一試合 白王みずき 名前 性 魔人能力 白王みずき 女 みずのはごろも 不動昭良 男 インフィールドフライ 採用する幕間SS 【白王みずき幕間SS ~準決勝前~】 (莉子にリストバンドを貰いました。ついでにみずきに天然ジゴロの片鱗が見えます) 【白王みずき 幕間SS みずき友人帳】 (鞘のメダルを回収しました。ついでに不動VS池松戦に違和感を抱いています) 試合内容 「――やってしまいましたっ……!」 トーナメント準決勝第一試合。一般的な高等学校の校舎や付随施設を模して造られたフィールド【学校】へと転送された白王みずきは、開始早々己の失敗を嘆いた。 いつもの制服に身に纏い、左の手首には兄から譲られたミサンガ、そして右の手首には二回戦で相対した羽山莉子から譲られた純白のリストバンド。 さらには片手に携えたるは能力により創り出されしローファー。なんらの不足もない完璧な布陣のように思えるが、彼女の“失敗”とは、このローファーのせいであった。 「どうしましょう……。てっきり校庭辺りに飛ばされるものだと思い靴を持って来ましたが、まさか教室に転送されるとは……!」 変なところで律儀なみずきは、いくら学校という体裁は整えているとはいえ、今にも血で血を洗う戦闘破壊空間に変わりかねぬこの教室においても外履きを着用することを躊躇っているのだ。 とはいえ、相手は念道力の使い手・不動昭良。学校に当然置かれているであろう、様々な道具でアンブッシュを仕掛けてくるであろうことは想像に難くない。戦闘力に機動力、なにより安全性を確保するためにも、上履きがないからといって裸足でいることは余りにも無茶である。 「これは今朝がた能力で作ったもので、決して汚くないです……」 と、誰に対してかも定かでない断りを入れ、みずきは渋々ローファーに足を通した。 この葛藤に数分。ともすれば、かなりのタイムロスとなっていたかも知れぬが、幸運にも不動は、今、この瞬間に転送されてきた。 みずきは三階、不動は一階。転送場所は、それぞれ普通の教室である。 ――戦闘開始、である。 割に広大なMAPである学校において、対面するまでの序盤戦は己に有利な条件を整えるのが定石である。 不動はまず、教室に掲示された避難経路図から、近くにあった美術室へと移動する。 手中には彫刻刀。殺傷力の高いこの武器を一旦取り上げ、しかして不動は棚に戻した。 「……やっぱ、女の子を相手に刃物はないよなあ」 不動昭良。魔人警察の助手として幾多の死線を潜り抜けてきたとはいえ中学生。しかも魔人にしては健全な精神の持ち主である。リョナの趣味など持ち合わせていない。 それから不動は「相手を殺すことがないよう、精々戦闘不能程度で済む武器」という優しいのだか微妙な狙いの得物を探し始める。ぱっと見つかったのは、チョークやペンか。 それらをポケットに仕舞い込んでいると、頭上より聞きなれたチャイムの音が鳴り響き、次いで鈴の音のような愛らしい声が聞こえてきた。 「あー、あー。ただいまマイクのテスト中です」 「……?」 ナビゲーションの時に聞いた、運営側の少女たちの誰とも異なる声色。 ということは、この子が対戦相手の白王みずき……! 幾許かの緊張を覚える不動だったが、しかし、なんでこの人はマイクテスト……? 「ごほん。……えー、不動昭良君。不動昭良君。担任の先生がお呼びです。至急、職員室までお越しください」 ずる、と不動はその場でずっこけた。 なんというあからさまな誘い方か! もし自分が本気でこんなものに引っかかると思われているのだとしたら、それは流石に甘く見られすぎではないだろうか……? 不動は初め、みずきのこの発言を無視するつもりであった。だが、ふと目に映った避難経路図を見て、彼女のこの計略を逆に利用することに決めたのである。 「……よし、不動君はまだ来ていないみたいですね」 職員室の扉を確認し、みずきはほくそ笑んだ。 予め職員室に訪れていたみずきは、かの部屋の扉をちょっとだけ開けた状態にして階を隔てた放送室へと移動し、そこで不動に向け呼びかけを行った。 職員室を決戦場に選んだのは「お呼びだしするなら職員室でしょう!」という謎の拘りによるものだ。 みずきはこの部屋には特に罠は仕掛けておらず、扉の隙間から不動の到着の有無を確認し、まだならば部屋に入り物陰に潜みイニシアチブをとり、逆に先回りされていた場合は気付かぬ振りをして部屋に入り、今が好機と仕掛けてきた敵の奇襲にカウンターをくれてやろうという算段であった。ちなみに、無視されるとは露にも思っていなかった。 前と後ろ、両の扉の隙間は予め仕掛けたものと変わらぬもので、不動はまだ来ていないと判断し、少女は待ち人を迎えるために部屋へと入って行った。 少女が部屋の中ごろまで進んだところで、膨れ上がった闘気に全身が粟立った! 「――!」 戦慄の刹那、襲い掛かるは無数の“弾”! 咄嗟に腕で顔を守り全身から水を放ち、弾きつ、避けつ、しかして当たりつ、無様に転げまわりながらみずきは入ってきた扉の元へと辿り着き、脱出せんと手を掛ける―― ――――だが、開かない! 「そんなっ!?」 開かずの扉に手間取った一瞬の代償は大きい――少女を喰い尽くさんと、獣の如き獰猛さで幾多のチョークが飛来する! 逡巡する時間もない。みずきは戸に手を掛けたまま、全力で水を放つ! 果たして扉は破壊され廊下へと激しく吹っ飛ぶ。背中を掠めるチョークの痛みに顔を顰めながら、みずきも同時に部屋の外へと転がり出た。 転がる勢いをそのままに職員室から離れ、追撃に備え素早く体勢を立て直す。 「はあっ、はあっ……! まんまとしてやられてしまったようですね……!」 みずきは、己よりも先に不動が職員室へと辿り着いていたことを悟った。 不動は放送を聞いた直後、職員室が自身のいる美術室と同じ一階の割と近いところにあり、逆に放送室は二階に――それも、職員室とは横軸的にもそこそこ離れた場所に――あることを、目にした避難経路図により知った。 今から自分が職員室へと向かえば、高確率でみずきに先回りして逆に奇襲を仕掛けることが可能であると不動は確信したのだ。 迅速に行動を開始した不動は間もなく職員室に到着し、持ち前の観察眼によりその扉がごく僅かに開いていることに気付く。 これこそが相手の策だと考え、中に入ってから急ぎつつも慎重に扉の隙間を再現し、それから職員室内のペンやらなんやらに“力”を注いでいった。 また、彼は抜け目なく入った方とは逆側の扉にも触れておいた。これにより扉にも“力”が注がれ、みずきの脱出を妨げた“開かずの扉”の作成を可能にした(さすがに扉自体の耐久力まではどうすることもできず、破壊されてしまったが)。 「いつまでも中にいたって私は倒せませんよ! さあ、出て来なさい!」 部屋の外より、自分へ呼びかける少女の声が聞こえる 不動は少し迷ったが、その呼びかけに応じることにした。 対象を視認できていない現状では弾丸の命中精度もそれほどではなく、また仮に姿を現しても手負いの少女ならば充分自分が有利であると踏んだのだ。 破壊されていない方の扉が開き、見慣れぬ学生服に身を包んだ少年が視界に入る。 「不動昭良君、ですね」 「ええ。……あんたは、白王みずき……さんか」 儀礼的に互いの名を確認し合いながら、みずきは思考を巡らせていた。 現在の自分は身体中のあちこちに打撲を受けている。コンディションは悪いと言わざるを得ず、こんな状態で“真なる狩り場”へと不動を誘導できるか心配であった。 当の不動はみずきの方をまったく見ず、あちらこちらへ忙しなく視線を動かしている。 「(っ! もしかして、部屋の外にも罠が……!?)」 警戒を強めるみずき。だが実を言えば、不動は目の前の少女を単に直視できないだけであった。 不動の奇襲への対応や扉の破壊のために放った水弾でみずきは多くの衣服を消費しており、さらには四方八方から襲い掛かった弾丸が衣服に幾条もの亀裂を生じせしめ、今の彼女の格好は半袖にヘソ出しの上半身とミニスカートの下半身、加えてそれらに無数の亀裂が生まれ、思春期の少年の気恥ずかしさをくすぐるに足る露出度を誇っていたのだ。 年上のお姉さん――にしてはあまりにも知能が残念だが――の際どい部位の肌色や純白の下着が視界の端にチラチラと映る度、嫌でも反応してしまう己が恥ずかしかった。 「(ううっ……、こんな時に何考えてんだっ! 目の前の人は敵なんだぞっ!)」 己を叱咤する不動であったが、中学生という多感な時期の少年に己の性衝動に抗えと言うのも酷な話であろう。 事実、一回戦や二回戦の映像で対戦相手のことを研究している最中に何度も目撃したみずきの裸体が頭を離れず、さらには本人を目の前にしてそれがリフレインし、精神的にも肉体的にも彼を固くしてしまったことを誰に責められようか。 もう一人の自分との戦いに勝利し不動がようやく沈静化した時には、みずきは目の前から姿を消してしまっていた。 よたよたと足を引きずるようにみずきは階段を上っていた。 職員室に不動を呼び出したのは二段構えの策であり、一度交戦して互いの姿を視認した後、本当の罠を張り巡らせた放送室へと逃げる振りをして誘い込む手筈であったのだ。 予想外のダメージを受けてしまってはいたが、当初のプランに変更はなし。階段を上りきり、放送室へと続く廊下を急ぐ。 時たま振り返ってみれども、不動は追ってきていないようだった。安堵しつつ歩を進めるみずきだったが、突如として窓ガラスが割れ、衝撃がみずきを襲う! 「っああああ!」 吹き飛ばされ壁に背中を打ちつけながら、苦し紛れに攻撃の為された方へと水弾を放つ――が、視界の端に映ったのは、渾身の水弾を空中で易々と躱す不動の姿であった。 そう、不動は硬直より立ち直った後、近くの窓より外へと飛び立ち、二階の廊下を往くみずきを見つけると、“力”を注いだ消しゴムを飛ばして攻撃を仕掛けたのだった。 不動は相変わらずみずきの方から目を逸らしたまま、口を開く。 「……分かったでしょう? 力の差は歴然です。これ以上あなたを傷つけたくないんで、とっとと降参して下さい」 さもなくば――と、不動は片手をポケットに入れ、いかにも思わせぶりな仕草をする。 勿論これはみずきに降参を促すためのパフォーマンスであり、ポケットには特別殺傷力のある物は入っていない。今までどおりの、消しゴムやチョークなどばかりだ。 そもそも不動には女の子を殺す意志も度胸もなかった。降参してくれないと、むしろ困るのは彼の方だったのである。 「…………」 さて、一方のみずきは、不動の忠告を聞いているのかいないのか、壁に寄りかかって不動を見つめたまま、感情の読みとれない瞳で何かを考えているようだった。 服も身体もボロボロの少女に特別興奮する性癖も持ち合わせていない不動はただただ居心地が悪そうに、ふわふわと浮かびながらみずきの返答を待っている様子だ。 やがて、みずきは不思議そうな表情で不思議なことを呟いた。 「……避けたんですね、水弾」 「はあ……?」 何を当然のことを、と不動は訝しむ。 敵の攻撃を――あまつさえ、衣服の減少したみずきの水弾の威力は侮れない――避けるのは当然のことであり、まさかこの女は余りにも不均等なダメージの差を考慮して自分がわざと攻撃を受けることを期待していたのではあるまいか、と疑ってしまう程に不動は彼女の発言の意図を理解しかねており、故に少女の次の言葉を待っていた。 ――少女の一言で、彼のこれまでの人生の全てがひっくり返るとも知らずに。 「――なのに」 「……なんですって?」 まるで得体の知れない力に引き寄せられるかの如く、訊き返してしまう不動。 そしてみずきも、決定的な言葉を口にしてしまうのだった。 「――不動君、『転校生』なのに」 『転校生』――。 無限の攻撃力と無限の防御力を有す、異界より現れし契約の執行者。 ワイドショーや上司との会話にのみ現れる存在だと思っていた、『転校生』。よりにもよって、自分が。一体この少女は何を言っているのか。不動の困惑をよそに、みずきの言葉は続いた。 「『転校生』になるのって、ええと、なんでしたっけ……。ナントカとかいう、能力と能力の戦いに勝った人だって……。うーん、お母さんなんて言ってたんでしたっけ……」 「……『認識の衝突』」 「あっ、そうそう、それです。不動君、一回戦で池松さんという方と戦った時に、能力で彼の身体を操作したじゃないですか。でも、池松さんの能力も、自分の身体を操作するっていう能力なんですよ。これって、ええと……ソレだと思うんですよ」 不動昭良の『インフィールドフライ』と、池松叢雲の『統一躯』。 不動が池松の身体を動かそうとした時、池松も恐らくは能力でそれに抗ったはずだ。 そして結果は、池松の身体は宙に浮かび、場外へとまっしぐらであった。 なるほど。 言われて見れば確かに『認識の衝突』を起こしていた。そして不動はそれに勝利した。 だが、この時点では不動は『転校生』ではなかった。もう一つの要件が欠如していたのである。 「――俺が、『転校生』……!」 『転校生』として覚醒するためのもう一つの要件――それは、『神に愛されたという認識』。 他人の能力との衝突に勝利したという事実を、『自分が特別な存在である』という『認識』を以て受け入れること。それが、『転校生』になるための最後のステップ。 『認識の衝突』の存在は不動も知っていたし、池松を場外送りにしたことも、もしかしたらそれにあたるのかも知れない、と思った事もないではなかった。 では、何故不動はその時点で『転校生』とならなかったのか――。 それは、不動の生来の懐疑的性格に原因があった。 疑り深く、他者はおろか自分自身ですらあまり信用していない不動は、無意識下において「俺が『転校生』? そんなバカな」と考えていたのだ。 だが、今、不動はみずきに『転校生』であると断ぜられた。 『転校生』化の過程を詳らかに説明され、自分が確かに『認識の衝突』に勝利していることを『納得』させられてしまった。ひいては、『勝者たる自分』を『認識』してしまったのである。 その瞬間――、不動昭良は『転校生』になった。まさに、今! 「そうか……。『転校生』。俺が、か……」 茫然とした様子で浮かびながら、不動は窓のサッシに手を掛けた。 そして軽く力を込めると、触れていた部分を中心に広範囲の壁に亀裂が走った。 そのまま力を込め続け――壁が破壊されると同時に、能力により操作された破片がみずきを襲った! 「――! きゃああああああっ!!」 轟音と共に舞い上がる土煙。渦中の少女の安否も窺い知れぬ。 煙幕が晴れるのも待たず、不動は『インフィールドフライ』により上昇し、校舎の屋上へと降り立った。 地に足をつけ、そのまま座り込む。体育座りのような体勢で、俯いたまま動かない。 「……『転校生』かあ。一体どうすりゃいんだろうなあ……」 自嘲的に呟きながら、不動が考えたのは己の身の回りのことであった。 家族。友人。そして、支倉葵ら魔人警察の上司たち。 彼女達とこれからも紡いで行けると思っていた日々は、唐突に打ち切られたのだった。 これから、自分はどうなるのか。 大会運営本部は、己の変貌を既に知っただろうか。ネットのリアルタイム中継を見ている者たちは……。自分の大切な人たちが知るのは、一体いつになるのだろうか。 そしてその頃、自分はまだこの世界にいるのだろうか。 「それにしても、まだ続いてるのか」 大会運営者からは何のアナウンスもない。ということは、みずきはまだ動けるらしかった。 あの攻撃で殺してしまっていなかったことを安堵するも、流石にもう自分に向かってくることはないように思えた。 元より力の差は大きく、加えて今の自分は『転校生』だ。勝てる道理はない。 「……まあ、もうどうでもいいけど。この大会も」 『転校生』となった自分の処遇が大会運営上どうなるかは分からなかったが、今の不動には二回戦で芽生えた勝利への渇望すらも些事に思えてならなかった。 恐らく遠くない未来、自分はこの世界を去ることになろう。もしかしたら、噂に聞いた『転校生』の世界とやらに連れて行かれるのかも知れない。 いずれにせよ、今この瞬間、世界から自分は隔絶されてしまっているのだ。 そう、自分は―――― 「俺は、独りだ――――」 「――そんなことありませんっ!」 突然響いた大声に、不動は驚愕に満ちた顔を上げる。 屋上の正規の入口たる扉より、白王みずきがふらつきながら現れた。 「ぜえっ……、はあっ……!」 その服装は、二階の廊下で最後に見た時よりもさらに際どくなっており、不動の放った礫弾を水壁により防御したであろうことが窺えた。 だが、最低限の衣服を残して生成された水壁では完全な防御は不可能だったらしく、荒い息をつきながら一歩一歩少し進むのもやっとの様子で、しかして真っ直ぐに不動を見据え近づいてゆく。 「あなたは、決して独りじゃありません……! 少なくとも、いま、この場において……私と、あなたは、トーナメントという絆で繋がっています……!」 右手首につけた、少しだけ汚れてしまっている純白のリストバンドを左手で握り、不動に向けて息も絶え絶えに語りかけるみずき。 「絆……」 「そうです……。だから、最後まで……戦いましょう!」 絶望的な力の差。体力も底をつき、今は気力のみで動いているに等しい。 そんな状態で、瞳に炎を燃やし、微笑みまで浮かべながらみずきは歩み寄る。 熱意に突き動かされるが如く、気付けば不動も立ちあがっていた。 白王みずきと不動昭良。準決勝第一試合の、最後の激突である! 「(だが、どうする――!)」 不動の脳内に、大会レギュレーションのうち、『勝利条件』に該当する情報が浮かぶ。 勝利の判定は四つ――。『対戦相手の戦闘不能』、『対戦相手の死亡』、『対戦相手のギブアップ』、そして『対戦相手の戦闘領域からの離脱』である。 最初に除外されるのは『対戦相手の死亡』か。再三になるが、いくら試合後に生き返るとはいえ、不動に女の子を殺すことなどできないはしない。 「(だったら、俺がとるべき手段は――)」 学生服の胸ポケットからボールペンを取り出す。 次に彼が選択したのは『対戦相手の戦闘不能』である。 『転校生』の無限の攻撃力はあくまで肉弾戦闘にのみ関与すると『認識』し、能力『インフィールドフライ』による攻撃ならば、これまで通りのパフォーマンスでみずきを殺害することなく戦闘不能に追い込めると判断したのだ。 「さあ――行きますよ、白王さんっ!」 復活せし勝利への飢えが、不動の口をついて迸る。 彼の掌の上に添えられたボールペンが、流星の如く発射される! 対するみずきは地面を確りと踏みしめ、右腕を左半身へと回しながら上体を捻り――弾かれるように右腕を振るい、飛来するボールペンに裏拳を叩きこんだ! 「らああああああっ!!」 「っ!?」 果たしてボールペンは粉々に粉砕され、みずきは踏ん張りを利かせられず、尻もちをついた。 目の端に涙を溜めながら、右の手首を押さえている。 驚愕の不動――。時速200kmで突撃したボールペンを生身の拳で弾いては、手首の先が爆散しても可笑しくなかろうに、と。 「――ふ、ふふふ。……どうです? これが、『トーナメントの絆』です……!」 精一杯の強がりで笑いながら、みずきは右手のリストバンドを掲げる。 不動が思わず注目する中リストバンドを捲ると――中から、黄金のメダルが姿を現す。 そう、実際はみずきがボールペンと衝突させたのは拳ではなく手首であり、莉子のリストバンドに仕込まれていた、第一回戦の相手・意志之鞘から譲られたヒーローメダルが、みずきの右手首を爆散から骨折程度にまで護ったのだ。 「……トーナメントの、絆……!」 不動は今や、すっかりみずきに呑まれていた。 次弾以降を放とうとも、この少女はきっと、骨を折り這いつくばりながらも立ち向かってくるのだろう――それこそ、死ぬまで。 そも、今の瀕死状態のみずきでは、時速200kmの弾丸で死にかねない。この時点で、不動の採るべき選択肢から『対戦相手の戦闘不能』も『対戦相手のギブアップ』も消えた。 「(――そうなると、最後に残るのは『場外』か)」 場外負け。第一回戦において、池松がボルネオに、そして不動が池松を相手に使った勝利の手段である。 当該MAP【学校】における戦闘領域は、確か『学校敷地内』であったように思う。 となれば――。不動が屋上から見下ろした先には、校舎やグラウンドを取り囲むように聳える塀が見えた。 「あそこを超えさせれば――!」 みずきを場外へと運ぶ手段は既に考えてある。一回戦同様、『相手に触れる』ことだ。 不動の『インフィールドフライ』は生物にも効力を及ぼす。相手に触れて“力”を注ぎ込むことで、自分の身体を浮遊させるのと同様に他者を操作することが可能となるのだ。 自分が『転校生』となるキッカケであった池松戦をなぞるが如く、みずきは敗北する。 「ぜえっ、はあっ……! ぐ、くううっ……!」 見るに、みずきは最早立ちあがることすらも困難なようであった。 生まれたての仔馬のように四つん這いでぷるぷると震えている少女の元へ近づき、ぽんと肩に触れてやるだけで、全ては終わるのだ。『転校生』の無限の防御力を以てすれば、今や必殺の威力を秘めているみずきの反撃すらも怖くはない。 いざ終わらせん――。そう決意して踏み出しかけた右足は、しかして動かなかった。 「(……なんだ、くそっ! ふ、震えてるのか……!?)」 不動の両脚は震えたまま、動こうとしなかった。不動の深層心理が、みずきに触れることを拒否しているのだった。 考えてみればわかることだ。覚醒直後の魔人が能力の制御を不得手としているのと同様に、覚醒直後の『転校生』も、力の加減を不得手としていても何ら不思議ではないのだ。 事実、熟練の『転校生』ですら力加減は困難を極めるという。『ただ、触れる』。それだけの行為が、殺人を厭う不動に与えたプレッシャーは推して知るべきであろう。 「……思った通り、優しいんですね、不動君」 不動が場外送りと殺害の狭間で揺れている内に、いつの間にやらみずきは不動の眼前にまで迫っていた。 だが、そこから何をすることもしない。ただただ不動を見つめているのみ。 沈黙に耐えかねたように、不動が口を開いた。 「……一つ、訊かせてもらっていいですか?」 「ええ、どうぞです」 「あなたは、どうしてそこまで勝利に拘るんですか……?」 どうしてそんな問いをしたのか、不動にもよくは分からなかった。 賞金が目的とは思わなかったが、自分のように誰かからの命令だとも思えなかった。 みずきは左の手首に巻かれたミサンガに右手を添え、優しい笑みと共に語り出す。 「……最初は、憧れの人に近づくためでした。強く、正しく、凛々しい、そんな人に、私もなりたくて……。この戦いで勝ち抜けば、そうなれると思ったんです」 言いつつ、今そうなれてるかはわかりませんけどね、と舌を出して笑った。 「でもですね。大会に出て知ったんです……。戦いを通して『対話』することで、いろんな方と、すごく強い『絆』を結べるんだなあ、って」 今度は右手首のリストバンドとメダルに触れながら、うっとりと語るみずき。 最後に、みずきは不動を強く見据える。 強い意志を秘めた瞳に、不動は思わずたじろぐ。 「だから……私は、不動君とも『絆』を創りたいです。独りぼっちだなんて思わないでください。不動君にも、たくさんの『絆』があるはずです――!」 ――もしかしたら。 もしかしたら、上層部が自分をトーナメントに参加させたのは、このためだったのかも知れない。 自分に、拳を交わして『絆』を結んだ仲間を創って欲しかったのでは――。 もしかしたら違うかもしれない。でも、少なくとも自分は『絆』を創りたい。不動はそう思った。 「……白王さん」 「みずき、でいいですよ。……あっ、私も、昭良君、って呼んでいいですよね?」 「みずきさん……。決勝戦、頑張ってくださいね」 「はいっ?」 「参りました。俺の負けです」 妙に晴れ晴れとした表情で、不動は降参の宣言をした。試合終了である。 敗因はなんだったのか。不動にも上手く言語化できそうになかったが、強いて言うなら『救われたから』かもしれない。 そして、こんな負けも悪くない――そんなことすら思っていた。 勝利に渇いていた不動の心は、今や、まったく別のもので満たされていた。 <終> ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 「突然ごめんあそばせえ。実況・アナウンス担当の斎藤窒素よ。 本大会の準決勝第一試合は、白王みずき選手の勝利で幕を閉じたわ。 だから、あなたはここでこのSSを読むのをやめても構わない。 この先の物語は、ある意味で蛇足にあたるわけだものねえ。 もちろん私は読むわ。だって、このままじゃちょっと悲鳴が足りないじゃない? 用意はいい? ……それじゃあ、続けるわよ」 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 「……おかしいですねえ」 不動の降参からしばらくが経過した。 黙って女神オブトーナメントによる転送を待っていた二人だったが、待てど暮らせど転送されぬのである。 「もしかして、なにかトラブルでしょうか……」 「ただ単に、お菓子でも食べてるのかもしれませんけどね」 「もう、そんなこと言っちゃダメですよ」 素で心配しだすみずきと、あくまで懐疑的姿勢を崩さぬ不動。 先ほどまで戦っていたとは思えぬほど和やかな空気が流れる両者だったが、とはいえ転送が遅れとしたらそれは実際由々しき事態である。 敗北しつつも無傷な不動とは違い、勝者たるみずきは満身創痍――いくら『転校生』ワン・ターレンがあらゆる怪我を治すチカラを持っていても、それまでが辛いことに変わりはないのだから。 「――あっ」 と言っている間に、上空より降り注いだ淡い光がみずきを包み込む。転送の開始だ。 しかし、そのことを素直に喜べはしなかった。 対戦相手の不動には、何の音沙汰もなかったのだから――。 「ちょ、ちょっと待ってください! タイムです!」 転送の刹那、慌てて中止を要求するみずき。 果たして転送は為されなかったが、しかしどうにも腑に落ちない。どうして自分だけが転送され、不動はここに残されるのか。 事情の説明を求めんと少女が口を開きかけると同時に、二人の脳内に美声が響いた。 (あてんしょん・ぷりぃいず。お邪魔するわあ、斎藤窒素よ) 声の主は、本大会で実況や選手へのアナウンスを担当している希望崎学園報道部三年・斎藤窒素である。 このタイミングでの通信が、単なる勝者宣言で終わるはずがない。 そう考え身構えるみずきと不動に、いつもと変わらぬ声音で窒素は語りだした。 (まずは、白王選手、勝利おめでとう。いい悲鳴だったわあ……決勝も楽しみねえ) ぞわり、と背筋が凍る。 悲鳴に関しては褒められている気は全くしなかったが、みずきは一応「ありがとうございます……」とお辞儀しつつ礼を述べた。 (そして、不動選手……。真に言い難いのだけど、運営本部は貴方をこの空間から出すわけにはいかないわあ) 「「 !? 」」 みずきと不動をかつてない衝撃が襲う! 女神オブトーナメントの能力により創り出されたこの空間から出られないということは、つまり大会本部により軟禁されるということに他ならない。 きっと生半可な理由ではないだろう。二人の無言は、窒素に次の言葉を促していた。 (実は、魔人公安に「『転校生』不動昭良抹殺指令」とやらが出ているらしくてねえ) 「えっ――!」 (私たちにもお達しが来たのよ。「小隊が到着するまでターゲットを逃がすな」って。 そういうわけで、無関係な民間人の白王選手には安全なところへ避難して欲しいというわけなの。……わかってくれた?) 「理解はしました。――でも、納得はできません!」 言いながら、みずきは不動の手をギュっと握る。 驚く不動。その顔には、ほんのりと朱が差していた。 心臓も、さっきまでより明らかに強く、激しく動いている。 「昭良君だけ残して避難するなんて出来ません! 勿論、殺させもしません! 絶対に二人で脱出してみせますっ!」 (うふふ。楽しみに待ってるわあ。じゃあねえ♪) それから美声は聞こえなくなった。辺りに静寂が戻る。 みずきは握りしめた手を離さぬまま、不動に向き直り口を開いた。 「こうなったら、本当に二人で脱出するしかありません……! さあ、力を合わせて頑張りましょうっ!」 おーっ! と空いているもう片方の手を空中に突き出し、ひとり気合を入れるみずき。 一方の不動はそっぽを向いて頬をポリポリと掻きながらボソボソと喋る。 「……よかったんですか?」 「ええ。大切な仲間の昭良君を放ってなんておけませんもの!」 薄い胸を張って答えるみずきに、不動の鼓動はますます早鐘を打つ。 「あ、ああ、そう。……あと、手」 「……ああ、ごめんなさい! つい……! あの、離した方がいいですか?」 自分より僅かに小さい年上の少女の無垢なる上目遣い。 何故かは分からぬが不動の心は大きく掻き乱された。 「だって、自分は『転校生』ですし……。もしかしたら、何かの拍子に……」 ――あなたを傷つけてしまうかも。 続く言葉を飲み込んで、不動が堪らず目を逸らした直後――触れていたみずきの手から力が消え、その身体が崩れ落ちる――。 「危ないっ!」 言うが早いか、不動は手を出してみずきを受け止めていた。 己の腕の中におさまった華奢な身体。滑らかな曲線美。眩い肌色。 意味も分からずどぎまぎしていると、腕の中から、優しい笑い声が聞こえてくる。 「ほら、私はなんともないですよ? 制御できない力で私を傷つけてしまうのが、怖かったんですよね? 昭良君、やっぱり優しいです」 心中をズバリ言い当てられ、不動は気恥ずかしさに思わず逃げ出したくなった。 「でも、大丈夫です。昭良君なら、絶対に大丈夫。私、信じてますっ!」 にっこりと微笑みながら、みずきは不動に体重を預ける。 何がどうなっているのか。首から上がやけに熱い。不動には何も分からなかった。 だが、一つだけ分かっていることがある。自分はこの人を絶対に傷つけない――! 「さて、いつまでもここでお喋りしているわけにもいきません。行動を開始しましょう」 「でも、この空間は女神によって支配されています。何か策でも……?」 「はい! そのためには、昭良君にもひと仕事してもらわなければいけません」 ハートが飛ぶようなウィンクと共に言い放つみずき。そして、その言葉に無条件で頷ける程の『絆』を、不動は感じていた。 ゆるゆると緩慢な速度で飛行する不動。その背には、ほぼ全裸に等しかったみずきが、不動の学生服を羽織った出で立ちで乗っていた。 みずきの言う“一発逆転の秘策”を使うには大きな移動が不可欠とのことであるらしく、彼女はあろうことか不動にそこまでの乗り物役を命じたのだった(実際はもっと柔らかくも天然めいて核心を突いた言葉であったが、受け取る方からすれば同じである)。 不動はみずきに学生服の上を掛けてやり、それから少女を負ぶさり飛び立つという涙ぐましい献身さを見せ、何の躓きもなく計画は進行していた。 「昭良君……あの、重かったらごめんなさい。確かこっちだったと思うのですが……」 「……別に、大丈夫ですよ」 ぶっきらぼうに答える不動に対し、「ああ、やっぱり重いんですね……」と勝手に落ち込むみずきだったが、実のところ不動はそれどころではなかったのだ。 己が肉体に絡みつく熱を帯びた肢体。静まれと念じる程に火照る顔。何かがおかしい。 この異常の正体を彼は見つけあぐねていた。不動昭良、齢十四にしてこれが“初めて”だったのである――。 「あっ! ありましたよ、昭良君っ! ほらっ!」 突如としてはしゃぎだしたみずきが左手で指差す先には、大きなプールがあった。 不動の通う中学にあるものよりも深く広いそれは、一般的な高校のプールよりも大きかったかもしれない。女神が思い切り泳ぎたかったんだろうな……と、不動は思った。 プールサイドへとふわりと降り立った不動は、腰を屈めてみずきを下ろす。みずきは不動に礼を述べ、水の張ったプールにじゃぶんと入ると、恥ずかしそうに懇願した。 「あの……。あのですね? これから私、その、“お着替え”しますので……。こっち見ちゃ、嫌ですよ……?」 「わ、分かってますよ!」 ぼっ、と顔から火を噴きながら、大声を張りつつ不動はプールの外、グラウンドの方を向いた。 「まったく、もしかして俺が覗くとでも思ってたのかよ」「それは心外だ」「さっきの“信じてる”って言葉は嘘だったのか」「でも、なんで俺はあのひとに言われた言葉の一つ一つにこんなに振り回されてるんだ……?」「うわああああ、分からねえっ……!」 右往左往を繰り返し、不動昭良の脳内会議は踊る。思春期特有の甘酸っぱさに、不動は全身で浸かっているようだった。 しかし、この堂々巡りは実のところ彼の生命を救ったと言わざるを得ない。 外界の音を一切寄せ付けぬ程己に没頭した不動の背後では、“着替え”に勤しむみずきのあられもない声が漏れていたのだから。 「ひゃあああっ!」「だめえっ、こえ、でちゃぅう!」「ふああっ!」「すぐそこに、あきらくんがいるのにぃ……!」「我慢、できなっ――!」 両者がそれぞれ己のと戦いに打ち勝ったのは、それから実に数分後。 プールから上がったみずきは、不動に「もういいですよっ」と上気した声を掛けた。 早く計画を次の段階に進めんと、振り返った不動はしかしてすぐに硬直する。 「――な、なんで、スクール水着……!?」 「だって、ここは学校のプールですよ?」 さも当然だと言わんばかりに小首を傾げたみずきに、不動はようやく確信した。 ――このひと、天然だっ! しかも、すっっっごく“危うい”タイプだっ! 紺色と肌色のコントラストが映え、肩紐のズレを直すと、ぱちんっと快闊な音が鳴り飛沫が飛ぶ。完璧なるスク水少女・みずきが、次の瞬間にとんでもないことを言い出した。 「さあ、次のステップに進みましょう! 昭良君、服を脱いで下さい!」 「なっ、はあああっ!?」 素っ頓狂な声を上げる不動だったが、みずきはきょとんとして見返す。 二人きりのプールサイド――。少女はスク水――。己に脱衣を要求し――。目指す港は“次のステップ”――。 またもや熱を上げる不動を意にも介さず、みずきは言葉を続けた。 「だって、昭良君もプールに入るんですよ? 服着たままじゃ、なんとなく気持ち悪くないですか?」 そう、次のステップで、不動はみずきと共に入水する必要があったのだ。 みずきの言葉はむしろ不動を慮ってのものだったのだが、彼には逆効果のようだった。 果たして不動はみずきの勧めを断り学生服のままプールに入り、次いでみずきも水の中へと身を投じる。 「では、参りますよ――!」 「……ええ」 懸命な表情で気合を入れるみずき。その背後で、不動はさも居心地が悪そうだ。 というのも今の二人は、両腕を水平に伸ばしたみずきを後ろから不動が支えているというなんともタイタニックめいた体勢であり、それがゆえに不動は腰をぎこちなく屈め、顔も赤くしていたのだった。 落ち着きを取り戻すために頭の中で素数を数える不動は、今この瞬間も漏れるみずきの艶めかしき声が響いていたのだから。つくづく噛み合っているのか分からないコンビだ。 そんな風にしていると、やがて異変が起こりつつあるのが不動にも分かった。 プールの水嵩がどんどんと減ってゆき、みずきの纏う服がどんどんと肥大化し、気付けば自分もその巨大な服の内部に取り込まれていたのだ。とんだ二人羽織り状態である。 どうしたものかと決めあぐねていると、みずきが不動に精一杯の指示を出した。 「あっ……、あきら、くんっ……! いっしょに……飛んでぇ……っ!」 「だああああああああ! わかったよチクショオオオオオオ!!」 いちいちアブナイひとだよなあホントッ! ヤケクソ気味に不動は能力を行使した。 『インフィールドフライ』により、ふわりと飛翔し上昇する二人。 プールの水が底をつく頃には二人は校舎よりも高く舞い上がっており、みずきの服装も年末に現れるという伝説上の生物“コバヤシ・サティコ”のように巨大になっていた。 「お疲れ様です昭良君。あとはお姉さんに任せておけば大丈夫のはずですっ!」 自信満々に断言するみずき。不動は若干以上の不信感を抱いたが、もう彼女に頼るより他はないのだ。呪うべきは己の運命か。 みずきの考えた作戦とは、「女神の空間にも限界があるのではないか?」という仮定に基づいたものであった。 その内容は至ってシンプル。女神のMAPの限界を超える量の水を、みずきが放てば良いというものであった。 「(ほんとに上手くいくのか……?)」 ここまで手伝っておいてなんだが、不動は未だにこの作戦に懐疑的であった。 みずきはフッと表情を引き締めると、凪いだ水面の如く静かになった。 そして、徐々に――だが確実に、彼女の纏う巨大衣装に何らかのチカラが漲っていた。 「これは――!」 驚く不動。これは、みずきの能力『みずのはごろも』の特性によるものだった。 みずきが水を操る際に失う衣服の量は、過去を思い出してみれば分かるが完全な比例関係にはない。例えば夢の中での沢木戦での極度の精神不安定状態での能力行使では、水量や威力に比してあまりにも多くの衣服が失われ、またモヒカンザコ戦での最後の水撃は、絶大な威力・水量ではあったが何とか局部を隠せる程度の衣服を残せたのだ。 ここから分かる『みずのはごろも』の仕様とは、『水弾の威力・水量は放出後の衣服の残量に比例する』ことに加え、『発動時の精神状態により大幅な補正を得る』のである。 「きてます……。私の意識が水に融け合い、最高の状態へと醸成され――」 漲り続けるチカラはやがて、ぼこっ、ぼこっと、滾るマグマの如く気泡を産んでいた。 「昭良君は、確かに『転校生』です……。お国からしたら、少しだけ迷惑な存在なのかもしれません……」 ――――でもっ! 「彼は中学二年生ですっ! 私たちと同じ子どもでっ! あなたたちと同じ心を持っているんですっ! 私は怒っています……! こんな仕打ち、絶対に許しません!!」 無論、みずきに水の温度を操作する能力など備わってはいない。だから、この気泡はあくまで彼女の精神の昂りのイメージに過ぎない。 しかし、不動はこれ以上ない程にアツさを覚えていた。 顔が、胸が、そして何より目頭が、こんなにも熱い――。 「――よし、今ですっ! 昭良君っ!」「はいっ!」 極限まで研ぎ澄まされた集中に怒りが交差し、みずきの水撃は過去最大の規模の――大津波を放った! 「「 いっけええええええええええええ!! 」」 「「 ――――ええええええええええっ!? 」」 気付けば二人は控室のベッドの上にいた。 みずきは全裸で不動に支えられており、ベッドの上という関係上、それは見ようによってはとんでもなくとんでもない誤解を生みかねなかったが、あまりにも急すぎる場面展開に脳が付いていけず、幸いにもその事実にまでは理解が及んでいないようだった。 ややあって、控室の扉が開く。入ってきたのは、四人の少女だった。 「わあーん、わあーん。みずきちゃんの能力に耐えきれず、ついつい二人とも転送してしまいましたあー。わあーん」 恐らく自分では迫真の演技のつもりなのだろうが、誰がどう見ても棒読みなセリフを繰り返す――女神オブトーナメント。 「あらあら困ったわねえ。私が白王選手を焚き付けちゃったせいで、不動選手が出て来ちゃったわあ」 漆黒のヴェールでも隠しきれぬ、セリフとまったく噛み合っていない愉しそうな顔をした――斎藤窒素。 「てえへんだあーっ! 白王選手が全裸だあっ! 不動昭良の行方なんかどうでもいい! おおおおおおお、この命が燃え尽きてでも、私はカメラを回し続けるッ!!」 一人だけ明らかに素な――結昨日映。 「……というわけで、運営本部は『転校生』不動昭良様を拘束すること叶わず、まんまと控室の窓より逃げられてしまいましたとさ、ちゃんちゃん。……というわけです」 締めくくるは、聖母の如き笑みを湛えた――結昨日司。 「皆さん……これって、つまり……!」 「そうそう、魔人小隊の方は、支倉葵様達がなんとか押さえているようですよ。今がチャンスですね――おおっと、これは失言でしたね。うっかりうっかり」 「支倉さんが……みんなが、俺のために……」 「ね? 言ったでしょう、昭良君」 みずきも不動の手を握り、優しく語りかける。 「君は独りじゃなかったんだよ。ほら、こんなにも『絆』がいっぱい――!」 みずきの言葉が不動に沁みてゆく。瞳から、一条の涙が頬を伝った。 「感動的なところ悪いけど、そろそろ発たないと本当に危ないわよ? 私としては魔人公安に捕まって残虐の限りを尽くされる不動選手の悲鳴にそそるものがあるけれど……」 「……また斎藤窒素様は、こんなときまでドSアピールをなさって……!」 「なあに、文句でもあるのかしら。ねえ映さん、少し“御仕置き”が必要なようねえ」 「ぐへへへへ、自分からおねだりするたあ、どうしようもないド淫乱娘だぜえ……!」 「ふええー、皆さん楽しそうですねっ! 私も混ぜて下さいよう!」 かしましく騒ぐ運営陣の声をバックに、不動は窓に足を掛け、今にも飛び立たんとしていた。 一瞬、名残惜しむような表情を見せたが、すぐさま晴れやかな笑顔に変わった。 「じゃあ、みずきさん。お世話になりました。……さようなら」 「違いますよ、昭良君。“さようなら”、じゃなくて、“またね”、ですっ♪」 「――はい。また会いましょう……!」 飛び立つ若人の胸に満ちるは万感の思い。 戦いの日々と、実らなかった初恋が、少年を少しだけ大人にした――。 <終>
https://w.atwiki.jp/2009yosen/pages/17.html
準々決勝トーナメント ※勝利した3チームは決勝トーナメント抽選を行う。 方川桐蔭 いなべ統合 方川西 西条 名張が丘 夢野
https://w.atwiki.jp/dangerousss/pages/94.html
準決勝第二試合 伝説の勇者ミド 名前 性 魔人能力 真野風火水土 男 イデアの金貨 伝説の勇者ミド 女 おもいだす 採用する幕間SS なし 試合内容 † 勇者ミドの伝説 第三章 『リセットボタン』 「これはまた、物騒な社会科見学だな」 ほうぼうで破裂する火花を見ながら、真野は暢気な笑顔を崩さずに一人ごちた。 金属製の足場で歩を進めるたびにカン、カンと甲高い音が鳴り、 どこに繋がっているのかもよくわからない巨大な歯車があちこちで緩やかに うごめいている。 時折、何らかの装置から煙があがった。暑い。ソデで額の汗をぬぐう。 「あまり居心地が良いとは言えないね。長居は避けたいものだが・・・ しかし、こういうものを見るのはなかなか楽しいものだ」 真野は巨大な歯車のひとつに目を留める。 ごうん、ごうんと回るそれを見る真野の目は、巨大な玩具を与えられた子供のようだ。 その歯車は下半分が床下に埋まっており、巨大な凹凸が次々と現れては消え 現れては消え、半裸の少女が現れては消え、巨大な凹凸が現れては消えた。 二度見する真野。 ふたたび歯車が一周すると、やはり上半身裸の女の子が汗だくで歯車に抱きついていた。 少女は3周目で真野に気づくと、片手を上げて挨拶した。 「あ、どうも」 「・・・どうも」 苦笑で表情を固め、真野はオウム返しする。少女は歯車から体を離すと、 よいしょっと声を出しながら着地した。 真野は笑い顔のまま、素直な感想を口にする。 「・・・私も世界中を見て回ったが、初めて見る光景だよ」 「あ、ありがとうございます」 ミドも頬を若干染めながら、やはり笑顔で答えた。 【準決勝 第ニ試合】 真野風火水土 VS 伝説の勇者ミド ††† ■石田歩成による解説 <準決勝第二試合 展開予想> 今回、たまたま顔見知りの2人が対戦するという事で個人的にも楽しみなこの試合。 共に将棋でこそ私には及ばないが、戦いの場では知略家で通っているため 駆け引きには期待できるところだろう。 これまでの戦いを振り返ると、真野さんは周到な準備と作戦、計算された立ち回りが 特徴的である。一回戦でお釣りを小銭で受け取る、二回戦では試合前から相手の眼鏡を 用意するなど結末へ向けた行動は一貫している。序盤から彼の動きには目が離せない。 すっかりお馴染みとなったコイントスの瞬間は、その戦略が閃きによって結実する瞬間 であり、いつ、どのタイミングで金貨が宙を舞うのかにも注目したい。 対する美土さんも事前の情報収集を怠らないなど周到な面を見せつつも、一回戦で バロネスを相手に見せた立ち回り、また二回戦で、あのクイーンの能力に飲み込まれて から対応してみせるなど臨機応変な機転も見せている。個人的な話になるが、 以前「お相手」して頂いた際に、初対面ながら的確な責めで私を性的に屈服させており その観察力と対応力には感心した覚えがある。昇天した覚えもある。 単純な戦力比較では、体格で勝り銃も所持する真野さんが一歩リードと言って 差し支えないだろう。これまで一度も発砲はしていないが、撃てないのと撃たないのは 違う。実際に射撃可能であるという事は大きなアドバンテージを生むだろう。 美土さんが、あの不思議な剣(結局切れるのか切れないのか?)でどこまで対抗できる のかは未知数である。真野さんとしては、初めての格下との戦いとなる。 しかしながら美土さんに関しては試合中に必ず脱衣する事でも知られており、 白王みずき選手に次ぐ男性人気とも言われている。実際モニターの前で自らの歩を ト金とした者も多いだろう。この試合の放送が、いかに価値あるコンテンツである かを物語る要素と言える。本当に運営には頭が下がる思いである。 今試合でも、特にそのあたりを余すところなく楽しみたい。そして、美土さんには 是非また個人的にお相手願いたい次第である。 ††† 「はぁ、あついぃ」 試合開始から少し経ち。 いきなり息も荒いミドである。確かに、このじりじりと焼かれるような高温は辛い。 全身がじっとりと汗ばみ、呼気も自然と湿っぽくなる。メガネも若干曇る。 薄手のブラウスは透け、ところどころ肌色を映し出していた。 「・・・いけないいけない」 ミドはかぶりを振ると、対戦相手について考える。 無駄に色っぽくなってる場合ではない。一切の油断は許されない相手なのだ。 銃を持っているという時点でまずもってやっかいである。 現実は、射程概念のないターン制戦闘とは違うのだ。すばやさだけで先手は取れない。 遠距離戦は避け、こちらから近づくべきだろう。剣の間合いで戦う必要はある。 しかし最も注意すべきは・・・金貨だ。常に細心の注意を払っておこう。 何しろ真野風火水土。大会屈指の知能派だ。何をしてくるかわからない。 学者とも聞いている。深い知識と鋭い思考の持ち主に違いない。 モニターで見たあの目の光は、常人とはどこか違う次元を捉えているようですらあった。 それと、精悍な顔つきに、スラリとした長身に―― ミドの瞳がどろりと濁り始める。 ぶっちゃけ、ドストライクなのである。呼吸がさらに上気する。腰元がぶるりと震える。 ――カン、カン。 そこへ、彼女を現実に引き戻す音がした。 一定のリズムで響く金属音。・・・足音だ。 この製鉄所の足場はほぼ金属製の網状の素材であり、足音を殺すことは難しい。 これは、接近したいミドにとって大きなチャンスである。 ミドは足音のするほうへ近づいていった。 そして、しばらくすると・・・いくつかの歯車が蠢くちょっとした空間へ出た。 足音は先程より音量を増している。近い。 ここに一旦隠れよう。ミドは考えた。幸い、歯車の下部は床下を通っており、 彼女の細身を通すくらいの空間はありそうだ。 ごくり、と生唾を飲み込む。 いや、なぜ今生唾などを。先ほどの真野に関する思考で心が乱れているのか。 歯車の凹凸が誘う。いや誘っている筈などないのだが。ああ暑い。汗が止まらない。 歯車の凹凸が誘う。これって気持ち良いだろうか。ブラウスのボタンに手をかける。 そうだ、服なんか着ているから暑さで体力を消耗するんだ。 それもこれも、全部歯車の凹凸が悪い―― ††† そして2人は(主に真野にとって)電撃的な形で出会いを果たしたのである。 歯車から降りたミドと対峙した真野は、あくまでも落ち着いて語りかける。 「これは・・・どういう事なのかな」 「えー、その、気持ちイイかなって、思って」 「・・・。で、戦闘開始でよろしいのかな?」 「よろしいと思いま・・・す!」 それが合図だった。ミドが動く。さすがの真野も今のシーンには面食らったか、 初動がわずかに遅い。その隙にミドは脱いでいたブラウスを拾い上げ、袖を 振り回した。その先端には、1本のナイフが結び付けられている。 これは――まるで即席の『くさりがま』だ! 遠心力の乗った刃先が飛び、真野は思わず後ずさった。そしてそのまま、 背を向けて逃げ出す。元より距離を取ったほうが有利だ。格闘する気などないのだろう。 「これは参った、今回は私が逃げに回るとしよう」 「そりゃ困ります! もっとお顔が見たいし・・・抱いてっ」 本気とも冗談ともつかぬ台詞を吐きながら、しかし冷静にミドも追う。 彼女は走力にはそこそこ自信がある。簡単には距離を開かせない。 ミドが中距離の武器を持った事で、真野は逃げ続けない限り安全とは言えなくなった。 振り返って銃を撃とうにも、今の間合いではその腕を狙われる恐れがある。 こうして、珍しくミドが追う形での追走劇が始まった。 真野の逃走ルートもさすがに巧妙である。急に左にステップしたと思ったら、 今までその背に隠されていた火花が現れる。そのまま突っ込めば火の粉を被る。 ミドは振りかざした刃で火の粉を払うが、すこし肌を焼かれた。 つい足を取られそうな床の歯車にも、何度か誘導されかける。 そして、やがて――前方に壁。 道は左右に分かれている。上層に向かう左の階段と、下層に向かう右の階段だ。 ここで進む方向は真野が選べる。建物の構造を考え、どちらにすべきか一瞬の逡巡を する真野はその最中、左に飛んだ。そして今まで右肩のあった箇所をナイフが通過する。 やや右の箇所を狙って投擲された『くさりがま』が真野の道を左に限定したのだ。 ミドもやられるばかりではない。真野はより体力を消耗する登り階段を行く事を 余儀なくされた。 「はは、なかなか楽をさせてくれないものだね」 「何をおっしゃる、これだけ走れるなら一晩で10戦はできますよ♪」 「・・・それは二進法か何かで数えているのかな」 抜け目無く相手を妨害しながらも、緊迫感のない会話を続ける2人。 それは、この命のかかった知恵比べを楽しんでいるかにも見える滑稽な光景であった―― 状況が動いたのは、真野が階段を最上部にまで登ってすぐの事だ。 ミドは分かれ道のたびに妨害し、真野に選択肢を与えなかった。 ある時は再び『くさりがま』を投擲し、ある時は拾ったネジの束をばらまいて罠とし、 そして、最上階での分岐点。 「やあ、次は右に曲がろうと思うが、また何か見せてくれるかね?」 「ふふふ、そろそろ私が魔法も使える勇者だということを証明しましょう」 真野のハッタリも意に介さず、ミドはすでに外していた自らのブラを火の粉にさらして 着火すると、それを炎のつぶてと化して投擲したのだ。 これは彼女の最大炎系呪文・・・【ブラゾーマ】である! 名前は今考えた。 その名に違わず、効果は間違いなかった。いくら真野といえど、背後からの炎を かわした上で道を選ぶ余裕はなかったのだ。 仕方なく左を選ぶ真野。結果、楽しかった追いかけっこは終わりを迎えた。 そう、行き止まりである。 真野が足を止めたのは、一区画だけせり出した狭いバルコニー。 心許ない手すりの向こうでは、溶鉱炉が大口をあけて地獄のように煮えたぎっている。 まさに人を追い詰めるならここ、ともいうべきスペースであった。 ミドはここの位置をほぼ把握していた。 自らの初期位置から、階下よりぶち抜きで作られたこの溶鉱炉の区画を見ていたのだ。 真野に退路はない。押されれば落ちるような場所だ。この狭い場所で刃をかいくぐる 必要もある。間合いも近く、銃で応戦しても自分が落下しない保証はない。 「ふむ・・・君ならこんな時、どうするかな?」 「ギブアップしたらいいんじゃないですかね」 「いやあ、それは最後の切り札に取っておこう」 背後に地獄を背負ってなお、真野の笑顔は曇らない。 ポーカーばかりしているだけの事はある。しかし、状況が悪い事は明らかであった。 「じゃあ・・・あなたは、どうするんですか?」 ミドは笑って、相手に決断を迫った。 ――ここまで、真野の計算通りの展開である。 ††† その手紙が彼の元へ届いたのは今場所の直前ごろであった。 中身はありふれたファンレターだったが、 取組み内容に関する記述の詳細さには驚いた記憶がある。 これほど自分を見てくれている存在がいるとは、なんと勇気づけられる事か。 そう思って終盤まで読み進めた彼は――最後の一行に目を見開いた。 「私事で恐縮ですが、一ヶ月後に手術を控えています。これからも勇気をください」 自然と、両の目を涙が伝っていた。 病床よりこれを送っているという事実にも驚いたが、途中まで普通に心からの ファンレターを書いておいて、最後につつましやかに私情を添える謙虚さ、 奥ゆかしさ。心の美しい人なのだろうな、と思った。 だから今・・・股ノ海は病院の前に立っている。 自分にできる事があるならば、してあげたいと思った。少しでも力になれるなら。 差出人は女性の名であった。 股ノ海にはあまり女性と接した経験がない。相撲ひとすじに生きてきた。 珍しく少し緊張する。心中に待ったがかかった気がして、入口で足を止めた。 そうだ、まず自分が落ち着かないでどうする。パシンと平手で両頬を打つ。 股ノ海は四股を踏む。 稽古の前と同じだ。精神を研ぎ澄ませ。 股ノ海は四股を踏み続ける。 ††† 例えば真野は、靴の裏に鉄板を貼り付けていた。足音を大きくするために。 分岐にさしかかる際、溶鉱炉と反対に曲がりそうなそぶりを見せる事も忘れなかった。 わざと妨害させるために。 真野風火水土の戦略は――追い詰められてから始まるからである。 「さて困った、いや本当に。どうしたものかな・・・」 そして真野は、いつもの調子で口を開いた。 ミドはまだ仕掛けない。待っているのだ。真野が怖いのはここからだという事は わかっている。金貨。その瞬間を阻止する事に、全力を傾けなければならない。 一挙手一投足を逃すまいと集中するミドを前に、真野は苦笑して話を続ける。 「何しろ君は、思ったとおりやっかいだ。前の試合でもわかったが、君はあきらめも 悪くて、試合後半でもずっとしたたかだ。『ここ』以上に、」 真野は頭を指差してから、その指を胸に持ってゆき、 「『ここ』も強靭なんだろう。しかし、私も―― ――『ここ』には自信があるのだがね」 そう言って、とん、と胸を叩いた。 やたらと芝居がかった仕草である。深く考えない者なら一笑に付したかもしれない。 しかしたったこれだけの言葉で、ミドの思考は暗黒の中に放り出された。 真野風火水土は、意図のない事を言う男とは思えない。ミドは咄嗟に今の言葉を 『ふかくこころにきざみこむ』が、しかし。その意図が掴めない。 表向きにはまるで「金貨はここだ」と言っているかのような発言だが。 そうミスリードさせる事が狙いで、実際は別の場所からコイントスをする気なのか? それともさらに裏をかいて、本当に胸に金貨はあるのか。裏か、裏の裏か。 二回戦では口の中に金貨を仕込んでいた。こちらが金貨を警戒している事も既知だろう。 いずれにしても、真野の胸ポケットを注視せざるをえない。 「だから私も、まだあきらめるつもりはない。負けるまでは、負けではないだろう?」 「そもそも負けとは何だろうね。相手を倒すだけが勝ちではない。例えば――」 そんな敵の思考を知ってか知らずか、真野は講義でもするように口を動かし続けている。 表情は笑っているが、その目は深い深い光を宿しており、まったく油断ならない。 ミドは新たなセリフも能力の記憶に加える。 「試合に負けて勝負に勝った、などという言葉もあるが・・・」 真野の右手が動いた。滑るように胸元へ。喋りながら、ノールックの動作だ。 ミドは急いでその動きを目で追う。真野の戦略は佳境を迎える。 ††† 「そんな・・・どういう事ですか!」 柄にもなく、股ノ海は声を荒げた。 「ですから、何度もご説明している通り、当院にはそのような名前の方は入院 しておりません」 「しかし手紙の差出人欄に、確かにここの病院名が書かれて・・・」 「そう言われましても、『鎌田ナオミ』さんという方は本当にいないんです」 ぬう、と股ノ海は口をつぐんだ。 病院の受付は波立つようにざわついた。あの股ノ海が来たと思ったら、この不可解な 事態である。そして何より―― 「心当たりだけでもないでしょうか、こういった手紙が来ているんです」 「心当たりもありませんし、患者さんの情報をみだりにお話する事はできません。 それと・・・」 「な、何でしょう」 「まわし一丁でのご来院は衛生的にちょっと」 股ノ海は固まる。 「えっ」 「ですから、まわし一丁の方はちょっと」 「えっ」 なお補足として、佐藤権助(源氏名:鎌田ナオミ)は軽い骨折の治療を終えてこの 病院を退院した後、別の病院で無事に性転換手術を終えて女性となったという事を、 ここに記しておこう。 ††† 胸元へ届いた真野の右手は何を掴むのか。 金貨か・・・あるいは銃か。いや、どちらであっても危険だ! 一歩遅れてミドもついに動いた。真野の右手が引き抜かれる。どっちだ? 『くさりがま』が右腕に向け投擲される。 真野の右手は―― 空であった。 その手がそのまま、飛来したブラウスの袖を巻き取る。 さらに同時に真野は右足を宙に投げ出していた。前蹴りだ。長い足が迫る。 ミドは真野の右手から視線を移しつつ、『くさりがま』を諦めて手を離す。 蹴りをかわしながら「まるごし」を引き抜く。真野の足が空をきる。 その時・・・足裏から金貨が飛び出して弧を描いた。 鉄板が貼られて底上げされた真野の靴、その土踏まずに金貨が仕込まれていたのだ。 さすがにこれは読めなかったミドは一瞬驚きで動きが止まった。 真野は前方に投げ出した右足をそのまま踏み込みグンと前方に移動。 あっという間にミドと位置を入れ替えつつ、手ぶらの左手で服の下に隠していた銃を 引き抜いて構える。 煮えたぎる溶鉱炉を背に、真野に剣を向けたまま銃を向けられるミド。 この濃密な数秒で、形勢は急転直下で逆転してしまった。 遅れて着地した金貨が、決着を告げるかのごとく残響を響かせる。 世界を一手でひっくり返してしまう鮮やかさ。これが――真野風火水土。 が、彼にもひとつだけ誤算があった。 (予定では剣を抜かせず胸に直接銃を突きつけるつもりだったのだが、 なかなかそうもいかないものだ。そこまで騙されてはくれなかったか・・・) 真野は考える。彼の思う通り、それが出来ていれば予定通りの完全な詰みだった。 予定と違ったのは、右手への対応だ。『くさりがま』を離さず右手を拘束し続けると 思っていた。右手を自由にすると、再び胸ポケットを探ることができるからだ。 左手ではポケットのある左胸は探りにくく、遅れが生じる。 胸に意識を持っていかれていれば、それを封じる為に選択しそうな行動ではある。 実際ミドは真野の胸元を注視させられていたが、右手から視線を離すのも早かった。 それでなんとか詰まされず踏みとどまったのだ。 ――実はここに、ミドの能力による妙手があった。 ††† 今一度、能力『おもいだす』の仕様を振り返ってみよう。 直接会話した人間の言葉を、半永久的に記憶しておける 一度に覚えておけるのはセリフ3つまで セリフ1つはどんなに長くても、単語のひとつひとつに至るまで詳細に記憶できる 相手のセリフの終了と同時に『ふかくこころにきざみこむ』と念じることで発動 4つ以上覚えようとすると、古い順に記憶から完全に抹消される。 ポイントは最後。覚えられるセリフの限度を超えると、記憶から『完全に』抹消される。 この能力は、記憶する能力であると同時に忘却する能力でもあったのだ。 「しかし、私も――『ここ』には自信があるのだがね」 真野の言葉に混乱させられたミドは思考をリセットすべきと考え、このセリフを 忘れる事を選択した。この後、真野は三言以上発言していたため可能であったのだ。 そしてミドは、真野の胸元に過剰に注意を払いすぎることなく立ち回れた。 こうしてミドには一筋の光明が残った。 とはいえ、この状況。 剣はまだ届く距離に見えるが、中に仕込んだナイフの刃がわずかに届かない。 見せているだけで、実際に真野を斬ることはできない。絶妙に辛い間合いだった。 実は。金貨が宙を舞った際、その軌道は足元から剣の刃先を通過して弧を描き、 さらに手元に近いナイフのほうに接触してから地面へと落ちていた。 真野はそれで剣の正体、さらにはナイフのおおよその刃渡りを見抜き、適切な距離を とっていたのである。いずれにしてもすでに詰んでいるように見えた。 ミドはふっと笑う。 「やっぱり、駆け引きじゃかないませんね。凄いや。お手上げです」 「今なら私の切り札を使わせてあげてもいい。・・・要るかね?」 ギブアップを催促する真野に、しかしミドは無言で再び微笑んだ。 手首をスナップさせて剣を軽く振る。 バラリと、大量の小さなネジが剣から飛び出して視界を塞いだ。 大剣の、刀身の中から! そして同じく剣の中からスカーフがはらりと落ちた。 これはナイフの刃にあらかじめ巻かれ、内部にネジをたくわえていたものだ。 「まるごし」の見せかけの刀身がナイフよりも太かったためできた芸当であった。 この手品に、さすがの真野にも瞬間の迷いが生じる。 今発砲しても急所を外すかもしれない。ならばそうなると、ああ、いずれにしろ。 ミドは真野に急接近して思い切り抱きつき、手すりを破ってバルコニーから身投げした。 眼下には溶鉄の海が広がる。 上になっているのはミドだ。このまま突っ込めば、コンマの差で先に絶命するのは真野。 いま発砲したところで、ミドの心臓が止まるより先に全身を溶かされてしまう。 真野はゲームオーバーを悟った。 「ここでは命のリセットがきくとはいえ・・・よくやるものだね」 「すみませんね、ゲーム脳なもので」 「ははは。いや――これはやられたな」 終始消えなかった真野の笑顔に、ここにきて暖かみが増した気がした。 「私の負けにしよう! ここから戻してくれたまえ!」 どことも知れぬ中空に叫ぶ。 瞬間、2人は灼熱に接する寸前で姿を消した。 ††† 「・・・そろそろ、降りてくれないかな」 両者はそのままの姿勢で選手控え室に転送されていた。 「いやいや。頭は沢山使いましたが、実際のところ体力はまだ余ってまして」 「私はそうでもないんだがね」 「もうあなたの言う事は信じません♪」 「はは――どうやら信用を失くしてしまったかな」 ミドも本日一番の笑顔を見せる。 「せっかく上に乗ってるんですから。・・・騎乗位はお好きです?」 互いの体温を感じる。むきだしの貧乳を前に、真野の瞳がわずかに踊った。 †おわり