約 42,571 件
https://w.atwiki.jp/zensensyu/pages/2303.html
第三回葉鍵板最萌トーナメント・ブロック準決勝進出者 115 :水先案名無い人:2010/10/21(木) 21 14 06 ID cSuMJiEo0 第2回葉鍵最萌トーナメントから4年、すっかり過疎化した葉鍵板で ひっそりと開催されている第3回葉鍵最萌トーナメント 「第3回葉鍵最萌トーナメント、ブロック準決勝進出者を見たいか――――ッ」 「オ――――――――――――――――ッ!!!」 「俺もだ、俺もだ みんな!!」 「全選手入場!!!」 「ブロック準決勝 全選手入場です!!!!」 マンガ魂は生きていた!! 更なる研鑚を積み売れっ子マンガ家が甦った!!! こみパクイーン!! 大庭詠美だァ――――!!! ツンデレはすでに私が完成している!! ONEの乙女七瀬留美だァ――――!!! 見つけしだい☆を投げまくってやる!! 生霊キャラ代表 伊吹風子だァッ!!! 萌えの想像力なら私たちの歴史がものを言う!! CLANNADの立ち絵なし 合唱部員 仁科りえ!!! 真の前世を知らしめたい!! エルクゥの皇女 リネットだァ!!! 勉強は3だがアルバイトなら全職種私のものだ!! ToHeartの勤労学生 雛山理緒だ!!! ポテト対策は完璧だ!! ヒマヒマ星人 霧島佳乃!!!! うたわれキャラのベスト・ディフェンスは私の中にある!! 森の母が来たッ アルルゥ!!! タイマンなら絶対に敗けん!! 死人のケンカ見せたる SSS隊長 仲村ゆりだ!!! おまけシナリオ(なんでもあり)ならこの子が面白い!! 痕のふきふきヒロイン 柏木楓だ!!! 天使のいない12月からダウナーが上陸だ!! ギター弾き 須磨寺雪緒!!! ルールの無いゲームがしたいからリトルバスターズになったのだ!! プロのバトルを見せてやる!!神北小毬!!! (真琴の)めい土の土産に結婚式とはよく言ったもの!! おばさんの奥義が今 実戦でバクハツする!! 狐使い 天野美汐先生だ―――!!! 名無しさんだよもんこそが葉鍵板の代名詞だ!! まさかこの子がきてくれるとはッッ 長森瑞佳!!! 愛したいからここまできたッ エロの限界一切不明!!!! ToHeart2のHMX(H機能付き)メイドロボ イルファだ!!! 私はToHeart2のメインではないToHeart2シリーズのメインヒロインなのだ!! 御存知ToHeart2 柚原このみ!!! 音楽の本場は今やアニソンにある!! 私を驚かせる奴はいないのか!! 緒方理奈だ!!! デカァァァァァいッ説明不要!! バスト88cm!!! 長谷部彩だ!!! 記憶術は実生活で使えてナンボのモン!!! 神経衰弱常勝!! 痕から柏木初音の登場だ!!! 汐は私のもの 邪魔するやつは思いきり拒み思いきり嫌うだけ!! CLANNADメインヒロイン 古河渚 自分を試しに学園へきたッ!! メイドロボ試作機 マルチ!!! 謎ジャムに更なる磨きをかけ ”アークデーモン”水瀬秋子が帰ってきたァ!!! 今の自分にゴールはないッッ!! 第2回準優勝者 神尾観鈴!!! 潜り込みの秘技が今ベールを脱ぐ!! 他の学校から 柚木詩子だ!!! テーブルの前でなら私はいつでも全開だ!! 盛り上がる食欲 川名みさき 本気で登場だ!!! 部長の仕事はどーしたッ みさきの世話 未だ止まずッ!! 澪も浩平も思いのまま!! 深山雪見だ!!! 特に理由はないッ ロボットが萌えるのは当たりまえ!! 屑屋にはないしょだ!!! ぱんつはいてない! ほしのゆめみがきてくれた―――!!! 筆談で磨いた実践コミュニケーション!! ONEのドジっ子・演劇部員 上月澪だ!!! 夜戦だったらこの人を外せない!! 超A級隠しキャラ 草壁優季だ!!! 超一流ロボットの超一流の萌えだ!! 生で拝んでオドロキやがれッ ToHeartのメイドロボ!! セリオ!!! LeafVNSはこの子が完成させた!! 雫の切り札!! 月島瑠璃子だ!!! 甘党の王者が帰ってきたッ どこで浩平を待っていたンだッ 俺達は君を待っていたッッッ里村茜の登場だ――――――――ッ 加えて引き分け発生により超豪華な出場者を1名御用意致しました! タロット占い 藤林椋!! 関連レス 120 :水先案名無い人:2010/10/21(木) 21 17 51 ID cSuMJiEo0 以上33名によって ブロック準決勝が 行われますッ!! -------------------------- 投票数が少なくて引き分けがあったせいで準決勝出場者が33人いる それでリザーバーのところが変わったらしい 121 :水先案名無い人:2010/10/22(金) 08 22 09 ID lClHasex0 よく連投規制にかからなかったな とりあえず乙 123 :水先案名無い人:2010/10/24(日) 21 22 58 ID dXBYapWp0 理緒の勝ち残りはサプライズだね。 コメント 名前
https://w.atwiki.jp/newgenreschool/pages/228.html
荒鷹「スランプ+受験である意味絶好調の作者はほっといて準決勝をはじめたいと思います! ていうか勉強しろ! では早速準決勝第一試合をはじめます!」 準決勝第一試合 教員代表太田VS3年D組㍉子 荒鷹「外道太田先生と勝ってはいるけど目立ってない㍉子さん! どちらが勝つでしょうかね鮫子さん」 鮫「単純な戦闘力は㍉子だけど…太田の『普通なら反則』な行為が厄介ね」 荒鷹「なるほどなるほど! おっと、とうとう選手入場です! 会場から罵声を受けながら太田先生がやってきました!一体どのような心境でこの罵声を聞いているのでしょうか!?」 太田「罵声か…言いたい奴らには言わせておけばいいさ 次のテストが難しくなるだけさ」 荒鷹「あ、罵声が止まった おおっと!今度は㍉子さんが入場です! マシンガンを携えて悠然と…って撃ったぁああああ! 試合開始の合図を待たずに㍉子さん戦闘開始です!」 鮫「殺られるまえに殺るか…外道には外道で対抗ってことね」 太田「おのれ卑怯者めが!貴様には武士道というものが無いのか!」 ㍉「貴様にだけは言われたくない!」 荒鷹「㍉子さんが明らかに正しいですね おおっと!太田先生が脚に被弾!動きが止まりました!」 ㍉「今だっ!」 太田「ぐぉおおおお!!!!」 荒鷹「動きの止まった太田先生をマシンガンが無情に撃ち抜きます! 太田先生は哀れ蜂の巣に!」 鮫「これは勝負ありかな?」 太田「……甘い…な」 ㍉「ば、馬鹿な!」 荒鷹「なんと太田先生立っています! 全身に銃撃を受け満身総意の状態ながら倒れません!何が彼をここまで戦わせるのか!」 鮫「金でしょうね」 太田「フフ…酒池肉林の夢の為…私は負けるわけにはいかない!」 ㍉「クソッ…死ね!」 荒鷹「銃弾がさらに太田先生を撃ち抜きます!しかし太田先生はそれでも立っている! その姿はまさに煩悩の化身と言えましょう!」 太田「酒池…肉林! 金!金!諭吉パワー!!!!!」 ㍉「何故だ!何故死なない!」 荒鷹「な、なんか知りませんが太田先生の背後に福沢諭吉が見えます! ベクトルは違いますがそのオーラは荘厳さん並です!」 鮫「煩悩もここまでくれば悟りを開くようね」 太田「金…金…いっせんまーん!」 ㍉「く、来るなぁああああ!!!」 荒鷹「とうとう㍉子さん手榴弾を投げ出しました! 恐怖で歪んだ顔で必死に投げています!」 鮫「何発なげてんのよ」 荒鷹「今ので五発…あ、また投げた 計六発の手榴弾が太田先生にジャストミートしました!」 太田「酒池肉林の夢…が…」 荒鷹「手榴弾の攻撃で流石の董卓…じゃなかった太田先生もダウーン! 日下さんが見に行きます!」 日下「息…してません!」 鮫「勝者、㍉子」 荒鷹「ついに㍉子さん、煩悩の化身太田先生を成敗して決勝戦に進みました!」 日下「えっと…太田先生の治療お願いします」 魔幼「むぅー こいつはこのままにしといたほうがいいきがします!」 魔騎士「いけません魔幼さま こういう輩は死んだ後がややこしいんですよ ただで死ぬわけありません」 バル姐「こいつの亡霊、呪い、ゾンビ等を想像してみろ」 魔幼「ベホマ!」 準決勝第二試合 B組魔王幼女VS3年D組荘厳さんへ
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/36.html
第03回トーナメント:準決勝② No.4377 【スタンド名】 ニール・コドリング 【本体】 加賀 御守道(カガ ミモチ) 【能力】 インクを膨張させて造形して操作する オリスタ図鑑 No.4377 No.4720 【スタンド名】 コスモ・スピード 【本体】 桐生 麗(キリュウ レイ) 【能力】 5m内のものと同じ速度で動く事ができる オリスタ図鑑 No.4720 ニール・コドリング vs コスモ・スピード 【STAGE:空港】◆aqlrDxpX0s 物心ついたときに初めて見たスタンド それがニール・コドリングで、私は4歳でした。 その能力はインクに同化することで、こんな能力を生まれ持っている私は きっと特別な存在なのだと感じました。 空港の滑走路……その近くにある倉庫のカゲから加賀御守道(カガ ミモチ)は滑走路のほうをじっと見ていた。 広い滑走路のど真ん中には車が一台……いかにも高そうなド派手な車が停まっており、一人の男が車に寄りかかって髪をかきあげている。 まさに「俺は今、風を感じている……」というような顔で桐生麗(キリウ レイ)は対戦者が来るのを待っていた。 彼もきっと不思議な力を生まれ持っているのだろう。そう、その不思議な力とはもちろん…… N・C「『ヴェルタースオリジナル』」 加賀「なぜなら彼もまた、特別な存在だからです……!」 N・C「クソワロタ」 加賀「しかしスタンド使いってのを置いといても容姿だけ見ても特別な存在じゃないの、悪い意味で。 黒シャツ、黒パンツ、黒ネクタイと上から下まで黒一色で葬式かッつーのと言いたい所だけど、 ファンシーな柄のカーディガンと奇抜な配色の髪がいいアクセントになっている……って、これじゃホメてるみたいだわ。」 いっぽう加賀の服装と言えば、ベージュのパンツに、いつものシャツの上には防寒のための小豆色の毛編みのセーターを着ていた。 女性にしては、かなり地味な格好であった。 N・C「ヒヒッ、コッカラ不意打チデモ仕掛ケルカ?」 加賀「何言ってるの、たとえトーナメントとはいっても、不意打ちなんて警察官としてのプライドに傷がつくわ。」 加賀はそういって倉庫のカゲから、桐生のいる滑走路の方へ歩き始めた。 今回戦いの舞台となったこの空港は、規模はそれほど大きくなく、滑走路も二つしかないところだが、 小さいといっても国際便も扱うような立派な空港だった。 そんな空港を、大会の主催団体はたかだかスタンド使い同士の戦いのために一日貸しきりにしたという。 桐生「……ったぁーく、どんな連中だよヤツらは……。」 桐生はこの場所に自分の愛車に乗って来た。普段なら空港の滑走路に一般人の車両が入ったりしたら大事なのだが、 当然この日ならば問題はない。……というよりも、この空港には2人のスタンド使いしかいないのだ。問題となるはずがない。 そのうちの一人、桐生がふと目を横にやると、自分のところに近づいてくる女がいた。……そう、それこそがもう一人のスタンド使い……対戦者である。 桐生「アンタが……対戦者?(女だが……体つきが並の女じゃねえ、体育会系の職業か。)」 加賀「…………」 桐生「なんだ、ダンマリかよ。(筋肉質の女は……むしろ好みだが、コイツの場合地味すぎるな。)」 桐生の前まで近づいた加賀は、桐生のクルマに寄りかかり、右手を腰にあてて桐生に話しかけた。 加賀「君は…普通の人間にはない特別な能力を持っているそうだね? ひとつ………それをわたしに見せてくれるとうれしいのだが」 桐生「は?」 加賀「あ、いやこっちの話。」 桐生「あんたが対戦者ってことで間違いは無いんだな?」 加賀「あーそうだよ。悪いことは言わないから、おとなしく降参してくれない?マトモにやったら私がアンタのようなチンピラに負けるはずないしさ。」 桐生「うーん、チンピラだとナメてかかってると痛い目見るぞ?『コスモ・スピード』!」 C・S「ホ――――――――ゥ!!」 桐生のスタンド、『コスモ・スピード』が発現し、加賀に向かってパンチを繰り出す。 桐生「(好みじゃねー女なら躊躇無く打てるってのもヒデエが。)……さあ、お手並み拝見だ!見せてみろテメーのスタンドを!!」 グオンッ! しかし、加賀はスタンドを出す素振りすら見せず、側方宙返りで『コスモ・スピード』のパンチを軽くかわした。 加賀「なにがコスモ・『スピード』だよ。人並みの、眠っちまいそうなスローなパンチだわ。」 桐生「なッ……!こいつ、ただの女じゃねえ!」 加賀「まー、『21世紀の切り裂きジャック』なんつーバケモンを追ってるからねえ。だてに鍛えてないわ。」 桐生「な、何モンだよアンタは?」 加賀「体操選手にでも見えるのかしら?……私は『警察官』。なんでも人に聞かなきゃ理解できないのね……」メモメモ 桐生「………」チッ 加賀「心の広い青年を振舞っててもさすがにカチンと来たかな?……ま、スタンドのスピードも『普通』……どう転んでも私の敵ではないわね」メモメモ 桐生「………『コスモ・スピード』ッ!!」 C・S「ホォ――――――――ッ!!」 桐生のコスモ・スピードが加賀に向かっていく! 加賀は視線をメモ帳に向けたまま、手にしていた万年筆をコスモ・スピードに向け、 加賀「迎撃なさい、『ニール・コドリング』。」 N・C「アイ了解ィィ!」 万年筆の先から、インクがあふれ出したかと思いきや、明らかに万年筆よりも大きなインクに膨れ上がり、人の形をつくる。 加賀「この至近距離でなら、あなたのフルパワーでいけるわよね?」 N・C「モチロンサア!」 C・S「ホホホホホホホホホォォ――――――――――ッ!!!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドド!!!! N・C「オアチャチャチャチャチャチャチャチャチャァ!!!!!!!」 ガガガガガガガガガガガガガ!!!! 『ニール・コドリング』は加賀からの距離によってパワーが変わり、至近距離ならばパワー、スピードともにBクラスの力を出すことができる。 加賀「…………?」 加賀の見立てでは『コスモ・スピード』のスピードは人並み……つまり、Cクラス。この時点で加賀のスタンドはラッシュにおいては上回るはずだった。 C・S「ホゥホゥホゥホゥホ―――――――――ゥ!!!!!」 N・C「アンリャリャリャリャリャリャリャリャリャ!!!」 ドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!!!!! 加賀「こ……これは!?」 しかし、『コスモ・スピード』と『ニール・コドリング』のラッシュの応戦はまるで互角だった。 桐生「フフフ、どうした!?俺は人並みのスピードなんだろ!?」 加賀は相手スタンドのスピードを格下だと油断していたため、むしろ押されてしまっていた。 加賀「マズいっ……!」 C・S「ハォゥ!!」 ボグッ!! コスモ・スピードの拳が加賀の腹を捉える。 加賀「ぐッ………!」 コスモ・スピードのパンチに、加賀は思わずうしろのめりするように後退る。 加賀(何故……?さっきのパンチは本気じゃなかったというの?……いいや、あの場面なら手加減する理由が無い。何かがあるはず……) 桐生「倒れない……か。たしかに普通の鍛え方してないな。(女にしてはずいぶん硬い体だったぜ。)」 加賀(この手は使いたくなかったけど…………理由は立つだろ!) すると加賀は尻ポケットに手をつっこみ、あるモノを取り出す。 カチッ! 桐生「!!」 加賀が取り出したのは……拳銃。加賀の職業はロンドン市警警部だ。拳銃を持っていてもおかしくは無い。 桐生「おいおい!一般市民に銃を向けていいのかよ!」 加賀「……ここは空港だ。どんな、いかなる理由があろうとも、滑走路内に一般車両が入ることは厳禁!! テロの可能性だってあるからね……銃を向けるのは当然ッ!」 桐生「アホか、今俺たちは何をしてる!?貸切なんだぜ、今のここは空港であって空港じゃない!」 加賀「カン違いしないでよね。警察官は銃を撃ったら、その一発一発それぞれにどんな理由で撃ったか報告しなきゃいけないの。 『空港の滑走路で、テロリストと思しき人間の確保のために使った』……ただ、それだけよ。」 桐生「………チッ!」 加賀「私を、恨まないでね。」 パァン! 滑走路に、乾いた銃声が響く。 しかし、桐生麗は焦らない。『コスモ・スピード』が向かってくる銃弾に即座に反応し、一瞬で避ける。 加賀「ッ!?」 桐生「…………」 パァン! パァン! 驚いた加賀はさらに銃を撃つ。 しかし、いくら撃てども桐生は瞬間移動するかのように銃弾をかわす。 無駄だと悟った加賀は桐生に向けた銃を下ろす。 加賀「なるほど……それがあなたの能力なのね。」 桐生「…………」 加賀「ただしそれは瞬間移動じゃあない。おそらくは……『自分より速く動くモノに合わせて動ける』、 つまり銃を撃たれれば、銃弾と同じスピードでかわすことができる。」 桐生「…………フン、どうだかね。」 加賀「『そうだ』と、顔に出てるわよ。表情の隠せないタイプね。」メモメモ 桐生「………ッ」イラッ 加賀「しかしそれなら、私は至近距離で勝つには相当な根気が必要でしょうね。」 そして加賀は桐生に背を向け…… 加賀「だから……『距離をとる』。」 走り出した。方向は戦いが始まる前にいた倉庫のほうへ向かっている。 桐生「あっ、待てッ!!」 桐生も後を追って走り出す。 そう……彼の能力は加賀の見立てどおりだった。加賀には知る事はできないだろうが、『コスモ・スピード』の能力を発動できる範囲は5m以内。 彼が自分の力を出し切って戦うには、至近距離でなくてはいけなかった。 加賀は倉庫のウラへまわり、桐生も後を追った。 そこで2人は足を止めた。 その倉庫のウラは日陰になってて少し暗く、 桐生のそばには積み上げられたダンボール箱、そして加賀のそばにはドラム缶、ブルーシートなどが置いてあった。 加賀は再び銃を桐生に向けた。 パァン! パァン!! 桐生「………」ヒュン、ヒュン 桐生はいとも簡単に銃弾をかわす。 加賀は銃を桐生のほうに撃ちながら、徐々に後ずさりしていった。 桐生は銃弾をかわすことはできるが、同じ速さで加賀に詰め寄ることができなかった。 近づこうとすれば、一瞬で銃弾とは5m以上離れてしまうためだ。 パァン! パァン! 加賀は桐生と15mの間隔をあけて後退しながら銃を撃つ。 カチッ カチッ 加賀「…………!」 桐生「……弾切れか?まあ、無限に弾がでよーと、俺に当たる事はないがな。」 しかし加賀は焦りの表情すら見せない。 加賀「いいや、準備完了だよ。あんたを倒す準備は整った。」 桐生「準備完了?万策尽きたの間違いじゃあないのかい?」 加賀「几帳面な性格でね――やるといったらやるッ!これは予告だ。忘れっぽいからメモしておこう。」メモメモ 加賀は右手に持っている万年筆を地面に向けたまま、左手で銃を撃ち、後退していた。 その間、万年筆からはずっとインクがポトリポトリと落ちていた。 先ほど倉庫のカゲに逃げて、『ドラム缶の隣で足を止めてから』、ずっと。 桐生「………?」 加賀「あんたの隣にあるドラム缶……真っ黒に塗られたドラム缶があるでしょ?」 桐生は何の気なしにドラム缶に手を触れる。 桐生「………ッ?」 ドラム缶に触れた桐生の手が、べっとりと黒くなった。 桐生「な、なんだこのドラム缶は!?塗装が乾いてねーのかッ!!」 加賀「いいや、違うよ。それは『ニール・コドリング』。膨れ上がったインクの集合体が、ドラム缶を塗りつぶしたんだ。 私がアンタの目の前に姿を現す前にね。」 桐生(コイツの能力は……「インクに同化する」ことか……!まずい、ドラム缶のインクから、攻撃が来る……!) 桐生はドラム缶のほうを向き、『コスモ・スピード』を発現させる。 加賀「違う違う。そうじゃ、そうじゃないの。あなたが警戒するのは直接攻撃じゃあない。 そのドラム缶ね……真っ黒に塗られてるけど、もともとはこう書かれてたのよ。」 加賀はポケットからマッチをとりだし、こすって火をつける。 加賀「『火気厳禁』ってね。」 そして、足元に落とした。火は地面のアスファルトに落ちてしみた、油性のインクに引火した。 インクのしみは……ドラム缶まで続いている。加賀はドラム缶から後退する間ずっと、万年筆のインクで導火線を描いていたのだ。 桐生「――――――ッ!!」 桐生は急いでドラム缶から離れようとする。 加賀「遅い、遅い!もう間に合わないよ。」 加賀も走ってドラム缶から離れる。少しでも、『爆風の衝撃を逃れる為』に。 桐生の『コスモ・スピード』には弱点があった。 それは、向かってくるモノに対しては、よけるしかできないということ。 自分の方へ向かってくる銃弾なら、銃弾を追って敵から離れることはできるが、敵に向かうことはできないのだ。 なぜなら、向かおうとした瞬間に、銃弾は彼の5mの範囲外から外にでてしまうからだ。 ドカアァァァァァン!!!!! 桐生「『コスモ・スピード』。」 だが、もし銃弾が彼の背後から、敵に向かって放たれればどうか? 答えは簡単。彼は銃弾に並走し、一瞬で敵と距離を詰めることができる。 加賀「…………!!」 一瞬で、桐生は加賀との距離をゼロにつめた。 ドラム缶の爆発による爆風……それによって吹き飛ぶ『ちり』と桐生は並走し、加賀に一瞬で近づいた。 ドゴォッ!! 加賀「ぐ……ふっ……!!」 爆発による爆風……Aクラスのスピードを伴った『コスモ・スピード』のパンチが加賀の腹に命中する。 加賀はふっ飛ばされ、地面に仰向けで倒れた。 桐生「ったく……ただのチンピラだと思ってナメてかかるからそうなるんだぜ、ん?」 『コスモ・スピード』の能力ならば、爆発熱に巻き込まれずに、爆風で押される『ちり』と並走することは可能だ。 しかし、その能力を発動するタイミングは、桐生自身にかかっていた。つまりは1/1000秒の集中力。 音速を超える銃弾を避け、爆発の直前に能力を発動することができる彼の集中力は、彼の『趣味』によって鍛えられたものだった。 桐生「おまえ……『ドラッグレース』って知ってっか?ああ、変なクスリとは関係ないぜ。所謂『ゼロヨン』ってヤツだ。 大体400mの直線コースのゴールまでの時間を競うレースだ。ちょうど、あの滑走路のような道路でな。 俺のマシンも、それ仕様だ。もちろんマシンのスペックも重要なんだが……勝敗を大きく左右するのは、『スタートのタイミング』だ。 数秒で勝負が決するこのレースは、スタートがかなり重要でな。1/1000秒の差で勝敗が分かれるときもある。 しかも俺がやってたルールでは、フライングもゆるされない。」 加賀は地面に倒れたまま、動かない。 桐生「俺がそこで勝ってきたのは、その集中力があるからだ。ドラム缶の爆発音をスタートのブザーと同じに考えれば、 爆発に巻き込まれる前に『コスモ・スピード』を発動させるなんて朝飯前だぜ。」 桐生は加賀に背を向け、滑走路に停めた自分の愛車に向かって歩いていく。 加賀が桐生の攻撃を受けてしまったのは、加賀が桐生をチンピラだと見下していたからだ。 パチャッ 桐生「!!」 しかし、それは桐生も同じだったのかもしれない。 ドラッグレースで集中力を磨き上げた桐生には、自身への慢心があった。 桐生「なんだ、目に何か入っ……いっ、痛え!!」 加賀「『ニール・コドリング』。インクの目潰しは成功ね。」 コスモ・スピードのパンチを腹にモロに食らって倒されたはずの加賀は、何事もなかったかのように起き上がった。 加賀はポケットからペラペラの紙を取り出した。 加賀「『仕事運:大きな問題はありません、ただし、自分を過信しすぎるあまり、他人を信じられなくなるかも』……ね。 これはここに来る前、ある占い師さんに占ってもらった結果だけど、忠告をきいておいて良かったわ。」 桐生(いっ、痛えっ!!目を開けばインクが目に染みて、目が開けられねえッ!!) 加賀「あなたもバカね。私はさっきの作戦の前に、あなたの能力を把握していたのよ。それでもなお、私が作戦を決行したのが おかしいとは思わなかったのかしら?」 桐生は目を手でこすってインクを落とそうとする。しかし、こすればこするほどインクは目に染みるばかりだった。 桐生「しかし、何故だ!?『コスモ・スピード』の攻撃は当たった!なのになぜそんなピンピンしてるんだ?」 加賀は『硬くてゴワゴワな』セーターのポケットから、もう一枚の紙を取り出した。そこには、『ワイヤー繊維』と書かれている。 加賀(あの男の子(あれ、女の子だっけ。)……スタンドの『シール』の『台紙』に占いの結果を書き込んでくれたのね。 『ウォント・ゲット・フールド・アゲイン』のシールを、御守りとして渡してくれた。) 加賀は、『5m以内のモノと同じスピードで動く』コスモ・スピードの能力を信用して、『保険』をかけていた。 <加賀「几帳面な性格でね――やるといったらやるッ!これは予告だ。忘れっぽいからメモしておこう。」メモメモ> コスモ・スピードの攻撃がくることを想定して、シールの表に『ワイヤー繊維』と書き込んで、ポケットの中からセーターに貼り付けていたのである。 そのときから、加賀の着ていたセーターはワイヤー繊維が緻密に編みこまれた厚い『鎖帷子』になっていたのだ。 加賀「なんでピンピンしてるのかだって?それを言う必要は無いね。アンタは私にボコボコにされるんだからね。」 桐生「………ッ!!」 加賀「アンタの『コスモ・スピード』にはもう一つ弱点があったね。目が見えなければ、速く動くものを『視認できなければ』、能力は発動できるの!? 『ニーーーーーーーーール・コドリング』!!」 加賀の万年筆からインクのスタンド、『二ール・コドリング』が人型を象って発現する。 桐生「ま、まずいッ『コスモ・スピード』!見えなくてもとにかくガードしろォッ!!」 加賀「能力を発動しないアンタのスタンドのスピードなら、私のスタンドのスピードの方が上回ってるよ!」 N・C「ダァリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャリャア―――――――!!!!」 ドコドゴドコドコドゴドゴドコドゴドコドゴドコドコドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドゴドコドゴドゴ!! 桐生「ぐふおーーーーーーーーッ!!」 加賀「何しろ私はいろいろとやらなきゃいけないことが山積みなんでね……こんなところで負けるわけにはいかないのよ。」 バァ――――――――――――――――ン!! ★★★ 勝者 ★★★ No.4377 【スタンド名】 ニール・コドリング 【本体】 加賀 御守道(カガ ミモチ) 【能力】 インクを膨張させて造形して操作する オリスタ図鑑 No.4377 < 第03回:決勝① > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/dangerousss/pages/93.html
準決勝第二試合 真野風火水土 名前 性 魔人能力 真野風火水土 男 イデアの金貨 伝説の勇者ミド 女 おもいだす 採用する幕間SS 【真野 風火水土幕間SS】 (真野の能力が発動失敗、銃を取り上げられた状態で試合開始) 試合内容 形鋼をトラス状に組み上げた柱に身を預け、真野は持ち込んだ水に口を付ける。数メートル横を真っ赤に焼けた厚さ数ミリの鉄板が湯気をあげながら流れてゆく。息苦しいほどの熱気だが、最初に転送された地点の地獄のような熱と光景に比べればましである。 事前に確認した見取り図から考えて、単純にこの場所で待つ場合、敵と遭遇するまでおそらく7~8分は時間がある。簡単な罠を仕掛ける程度の時間はあるが、有用性は疑問である。 懐中時計を確認すると、戦場に転送されてから2分ほど経過しているようだ。 ミドもまた真野がいる場所とは別の圧延加工場を進んでいた。真野が休んでいる場所より若干迫力のある加工風景が繰り広げられている。 ミドは「イデアの金貨」を真野にとって都合の良い世界を実在化させる能力だと推理していた。例えば真野が「ミドに勝利する未来」を求めれば、世界はその未来へと分岐する。 ここまでなら誰もが考え付きそうなものだが、ミドの推理が違うのはここからだ。 イデアの金貨は真野にとっての理想の世界を生み出す。ただし、それはまばたきをする間もないほどの一瞬だ。理想の世界はすぐに次の分岐を迎え、確定していた未来は再び不確定へと拡散して消えてしまう。真野の理想の世界が未来に残すことが出来る結果は精々「コインの表裏」ぐらいしかないのだ。だが、真野にとってはその一瞬があれば、それをきっかけに後はいくらでも自分で勝機を広げていくことが出来る。それこそがイデアの金貨の正体。 このミドの推理は大筋で正解である。 ミドが真野と同じように敵と遭遇するまでの時間を計算していると、前方からコロコロと一枚の金貨が転がって来て、ミドの約5m手前でぱたりと倒れた。 「ダメだね、裏だ」 立ち込める蒸気の奥から真野が現れ、金貨を拾いあげる。 ミドの推理では真野が能力で実在化できる世界には射程距離がある。1、2回戦から推測するとおそらく半径5~6m。魔人能力の射程としては一般的だ。おそらく、ブラフのつもりで空撃ちして見せたのだろう。ミドは冷静に分析すると、剣を構える。 この剣が実体のない幻であることはばれているが、両者の格闘能力はほぼ互角。僅かでも武器のリーチを錯覚させることが出来ればそのアドバンテージは大きい。そして、ミドには彼女の地の利を完成させる用意がある。 立ち込める水蒸気の悪視界の中をミドは赤く燃える延鉄や、巻き込まれれば腕を容易くもぎ取られそうな圧延ローラーにギリギリまで踏み込み、攻撃を仕掛け、回避する。そうする事で、敵の厳しい攻撃を殺し、反撃を防ぐ狙いだ。 ミドは製鉄所の地形を文章化して記憶しているのだ。官能小説の濡れ場をありありと想像するように、彼女は製鉄所の細部までを脳内に再現していた。完璧な記憶はまるで五感の様に彼女の体に染みわたり動かす。準決勝に備えミドが備えてきた応用技である。 ミドの強い戦い方の前に真野は戦闘開始から5分以上も劣勢を強いられ続けていた。辛うじてナイフの切っ先を躱し続けているが、過酷な環境も手伝って体力にはあまり余裕がない。いつ致命傷をもらってもおかしくない状況だ。 「どうにも分が良くないね。三度目の正直、これで最後だ」 ミドの攻撃を大きく躱し距離を取ると素早く懐から金貨を取りだし、宙に弾く。今度こそミドを射程にとらえている。 (ふかくむねにきざみこむ!) ミドは即座に心の中で唱えた。ミドの能力は会話をその言葉に込められた意図、心理までを正確に記憶し、嘘を見破る。 真野の言葉には相手を揺さぶる意図、騙す心理が渦巻いている。だが、嘘は吐いていない。つまり、『どうにも分が良くない』真野の劣勢は演技ではなく、次に仕掛けてくる攻撃が正真正銘『これで最後』の策。 真野のブラフを打ち破ると同時に、これこそが彼女の用意したイデアの金貨を破る手段でもある。真野の言葉を新しく覚える際、ミドはひとつ記憶を消去している。完璧な記憶を完璧に消去する事で、能力発動前後でミドは別の存在となり、対象を失ったイデアの金貨は発動失敗する。 簡単なようで、実際には目を潰したり腕を斬り落とすほどの覚悟を示しても同じ理屈で能力の発動を阻害することはできない。「精神の連続性」を切断できるミドにのみ可能な対策である。 金貨が地面に落ちると同時に、真野はナイフで自分の掌を斬りつけ、そのままミドに投げつける。奇行にわずかでも気を取られれば躱し損ねていたであろう素早い投擲だが、ナイフ投げは一回戦で見て、常に警戒している。きわどく躱されたナイフはミドの背後の機械に弾かれ、真っ赤な鉄のベルトの上に落ちた。フライパンとは比較にならない高温で、ナイフに着いた真野の血がぶすぶすと黒い煙を上げる。 次の瞬間真野の血を吸ったナイフの皮製グリップが破裂音を立ててミドの顔めがけて跳ね上がった。自分の掌を斬りつけたのはグリップの皮を血で湿らせるためだった。 武器は失っても、ミドの周囲は凶器となりうる焼けた鉄や機械が取り囲んでいる。フライパンの上で跳ねる油の比ではない音と威力に一瞬でも怯めば、真野の必勝である。 しかし、ミドは顔に打ちつけられるグリップの残骸を意に介さず、目の下をはれ上がらせながら真野を睨み続けていた。 「このぐらいで緩んでるようじゃ勇者は務まっても、処女やビッチは務まらないの。おあいにく様」 真野の策を凌ぎ、勝ち誇ったようにミドが口を開いた。 「どうやら、さっきの金貨も発動失敗したみたいですね」 床に転がった金貨の表裏は確認していない。だが、真野の策が不発に終わった事実だけで十分だ。 「果たしてどうかな。君の推理が完璧だとは限らない」 真野の揺さぶりを能力で見破ることはできるが、それは製鉄所の地形の記憶と交換になる。武器を失ったとはいえ、真野に対し地の利を失うのは危険だ。真野の次の一手は確実に「逃走」だ。地の利を失えば逃げる真野を捕まえるのは難しくなる。 予想通り、真野は元来たルートを引き返すように逃走を図った。すかさずミドも真野を追う。次の策がない事はさっき確認している。『これで最後』。真野は嘘をついていなかった。だが、時間を与えれば次の策を用意されかねない。 ミドの瞳は目をつぶってでも走り抜けられる施設内の地形は無視し、真野の動きのみを追いかける。一回戦の森の中の動き、二回戦でレーザーを躱す動作。真野の動きはそれほど速くはないが柔軟で器用。気を抜けば予想外の動きで反撃を食らいかねない。 ミドの前を走る真野が前方の柱を躱すために減速する。―おかしい、柱を躱すためにしてはスピードを落としすぎている。ミドは即座に真野の動きの不自然さを察知し次の動きを予測した。 真野は柱のトラスを構成する形鋼をつかむと反動を利用し素早く切り返し、拳を握りしめてミド立ち向かう。予想通りとばかりにミドは思い切り右足を踏ん張り強引にブレーキをかけて、胸の前で腕を構える。カウンターパンチに備えるのならこれ以上ないタイミングだが、真野はそのまま低い姿勢でミドの脇を走り抜ける。読みを外したミドがあわてて真野を目で追うが、すでに遅い。真野の拳にはロープが握られ、その端は柱の形鋼に結び付けられている。次の瞬間ミドは腕ごとロープに絡め取られ、柱に強くたたきつけられた。頭を打ったのか、一瞬目がくらむ。真野は素早く柱を半周すると強くロープを引き絞り、巧くミドの腕を封じられた事を確認すると、ロープを緩めないように少しずつ拘束を強めてい く。あらかじめ仕掛けておいたロープを柱に括り付けておくだけの簡単な罠だった。 「私は趣味じゃあないけど、人によってはこういうのがそそるのかな」 「うそぉ……」 あまりの展開にミドが思わずつぶやいた。 「あの時、ロープなんて持ってなかったじゃない」 あの時とは試合前にお互いの武器を確認した時のことだ。 「ロープは道具だよ」 納得できないことは他にもある。何故イデアの金貨は最初の二回は発動失敗したのに、最後だけは発動に成功したのか?真野がつぶやいた『これで最後』は嘘ではなかった。この最後とは何を指しての最後だったのか? いずれにせよはっきりしているのは、ミドのイデアの金貨対策は完璧では無かったという点だけだ。 「悪くない推理だったけど、惜しかったね」 「男の人の『急所』には鋭いつもりだったんだけどなぁ」 「鏡子先生には及ばないね」 イデアの金貨 発動率:平均33% コインの表裏を操作する能力。 発動成否にかかわらず、333秒の間隔を空けて一日に3回まで使用可能。 発動成功時に一瞬だけ「術者の理想の世界」が実在化する。一瞬の「理想の世界」が与える小さな恩恵を活かせるかどうかは術者次第である。 (つまり、ミドの推理とは効果と副産物が逆)
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/96.html
第09回トーナメント:準決勝② No.2937 【スタンド名】 フライモスキート・ブルース 【本体】 陽沙 真倉(ヒサ マクラ) 【能力】 視界に映る異物を実体化させる オリスタ図鑑 No.2937 No.6425 【スタンド名】 アストロブライト 【本体】 西獅子 星司郎(ニシシシ セイシロウ) 【能力】 描かれた星座からイメージを具現化する オリスタ図鑑 No.6425 フライモスキート・ブルース vs アストロブライト 【STAGE:高速道路上】◆/R99hGowSU 私には、あまり時間が残されていません。 いやいや。 余命ではないですよ。 眼の寿命が、です。 何気無く辺りを見回した時に、日に日に視野が狭まってきているのが自分でも分かるんです。 もちろんお医者さんにも相談しました。 結局、いくら病院を廻っても原因は見付かりませんでしたけど。 皆、口を揃えて言うんです。 近い将来に目が見えなくなることだけは確かだって。 昔から『飛蚊症』を患っていたのが関係しているのかもしれない。 とにかく、この視野狭窄が始まったのは私が『目覚めて』からだと言うことを。 誰しもが無条件の懐疑を抱くであろうトーナメントに敢えて参加したのは、まだ光を失いたくないという悲痛な想いなのだと。 希望の光を求めて戦いに来たんだと。 貴方に知って欲しくて、勇気を出して打ち明けました。 何もかも見えなくなってしまう前に……。 え…? うふふ…それじゃあ私、期待してますね! 「貸切りなんて、どうやったんだ? そこまで影響力のある運営団体が管理しているのか、このトーナメント…」 A県A市、東北地方に属するこの土地は日本海側に位置しながら夏になると高温多湿のジメジメとした大気に覆われる。 そのため、真夏日などの夜間には熱帯夜になることもしばしばである。 「A県は梅雨明けしてないだろうに、どうしてこうも晴れ晴れとしているんだ」 汗ばんだ額を気怠く拭う男、西獅子 星司郎(ニシシシ セイシロウ)に於いてはどれだけ暑かろうが星の見える夜の方が戦い易かっただろう。 指に沿って軽くふやけた『せいざのほん』を団扇代わりにしながら、恨めしそうに裸の太陽を睨み付けた。 A市内を横断する東北自動車道、東日本を這いずる大蛇の腹が運営から二回戦の舞台に指定された場所だ。 女医時インターチェンジから徒歩で15分、西獅子は照り付ける日差しが陽炎を作り出すアスファルトの上に立って対戦相手を待ち受ける。 「こんにちは…。 暑いです…ね、今日は」 そんなに待ってもいない刻。 熱の揺らめきの向こうから、可愛らしい喘ぎと共に女の子の声がした。 陽沙 真倉(ヒサ マクラ)である。 相当この暑さにやられたような感じで、脚も僅かにふらついているようだった。 十中八九、彼女が対戦相手だ。 勝負の前から力尽きて倒れそうな危うい雰囲気だが。 「大丈夫か? もしかしたら熱射病じゃあないのか、君」 「はは…、平気ですよ…多分」 そう言っているそばから、少女の目は蕩けるようになり頬は赤く染まる。 そうすると、星司郎は妹が風邪を引いた時に見せた顔を思い出した。 敵に塩を送る、ではないがフェアな状態で彼女に勝たなければ意味がない。 「いや、予防はしっかりしないと。 夏の日には水分補給が第一だ。 『アストロ・ブライト―――Aquarius(水瓶座)』 」 星司郎のスタンドが姿を現す、頭部に広がる銀河の縮図は昼間でもはっきりと分かるほどに煌めいている。 「はえ~…綺麗だなぁ」 あまりの美しさに、敵であるのも忘れて(暑さで朦朧とするのもあって)ぼうっと魅取れる真倉の前に、再び何かが現れた。 これには驚いて、声を上げて思わず飛び退いた。 「『アストロ・ブライト』は星座のモチーフを具現化する。 この水は其処らの水道水よりも遥かに美味しいから、遠慮せずに飲むといい」 勧める星司郎と竦める真倉の間に突如として現れたモノ。 それは青銅製の水瓶である。 スタンドの銀河に負けない耽美さを誇る紋様が彫られた逸品だった。 瓶の容量をゆうに越えて、こんこんと透き通った清水を吐き出し続けている。 「あ、ありがとうございます…」 「構わないさ。 ところで、君の名前を聞かせてもらってもいいかい?」 「私は陽沙 真倉と言います。 えっと、貴方と同じスタンド使いで、 スタンド使い同士のトーナメントの二回戦がここで行われるって招待状に書いてあったので来たんですけど…」 「やはり、君が対戦相手か。 私の名前は西獅子 星司郎だ。 一回戦の相手も女性だったが…子では無かったからな」 悩むように独り言を溢した後で、ちらりと少女の方を見た。 一安心。 真倉の方は瓶の水を飲んですっかり回復したようだった。 顔色も良くなって、しっかりと地に足がついている。 「そこで、いきなりだが私から一つ提案がある。 今回の勝負はどうか血を流さないようなものにしたい。 例えば、徒競走とか星座の一等星当てクイズとか…」 「うふふ…星座のことは全然分からないですけど、同感です。 一回戦の時も相手と戦わなかったので、できるなら決勝までこのまま傷付け合うのはしたくないです」 「一回戦、戦わなかったのか。 どうやって勝敗を決めたんだ?」 「あのぅ、それが自分でもよく分からないんですよね。 お喋りしてたら相手の女の子が勝ちを譲ってくれた、みたいな」 人差し指を突き合わせて、真倉は困った顔を作り言う。 「ふふ、緩いな。 それにしても、このトーナメントは私以外女の子しかいないのか…?」 頭をポリポリと掻いて、星司郎が道路脇に広がる田園風景に目を移したその時だった。 「はぁッ!? 何そんな甘っちょろいこと言ってんの? そんなの、アタシが許しませェーん!」 星司郎から見て、おおよそ10時の方向にソイツは在った。我が儘に。 宙空に座する胸元の開けた黒服の女。 フォーマルな服装に似合わぬ、謂わば黒ギャルと呼ばれる部類の見た目をした少女であった。 自己主張の激しすぎる金髪を靡かせて悪意に満ちた瞳を向ける。 「アンタ達に試合内容を決める権利はないんだよ。 二回戦、勝敗を決するのはこのアタシ。 試合内容を設定するのもね。 要は『立会人』ってワケ」 脚を組んで、人を小馬鹿にした態度を取っている。 『立会人』の存在自体を知らなかった二人であるから、当然状況が飲み込めない。 それが女には気に食わなかったようで、狼狽える彼等に聴こえるほどの大げさな溜め息を吐いた。 「で、何? 血を流さないようにって? 馬鹿なの、死ぬの? いや死ねよ。 どっちかが息絶えるまで殺り合えよ。 それが二回戦の試合内容ね」 何だと? 真倉が短い悲鳴を上げた。 「星司郎さんっ…これって…」 「『立会人』、少し乱暴すぎないか。 私達は殺し合うつもりなんてない」 毅然と言い返す星司郎にうんざりした様子で、女は髪を弄り始めた。 「なお、この試合に棄権や降参はありませェーん。 戦う意志が感じられないとアタシが判断した時点で、その選手を殺害しまーす。 どうよ? 殺る気スイッチ入った? それじゃ早速、始めちゃっていいよ!」 一方的な進行に此方からの反論も足蹴にされて、試合を告げる女の溌剌とした合図だけが一人歩きする。 イカれていると、腹の中で憤るも意味はなく立場が好転することも望めない。 真倉の顔が真っ青になって小刻みに震えているのを確認すると、星司郎は唇をこれでもかと噛み締めた。 「陽沙君、…どうやら私達は殺るしかないようだ。 殺らなければここで共倒れになってしまう」 「はいっ…あのっ、あう…。 殺し、合うの仕方ないとっ…私も思いまっす…」 死の恐怖でか、または殺しへの強迫でなのかは定まらないが真倉は過呼吸を引き起こしている。 妹がよく喘息の呼吸困難に陥って、吸入器を慌てて探した記憶がふっと甦った。 ゴメンな、お兄ちゃん。 人殺しになる。 「『アストロブライト―――Pisces(うお座)』ッ!」 『せいざのほん』を晴天に翳し。 高らかにその星座名を読み上げると、ピラニアの姿をした、けれどシャチと変わらない大きさをした魚が無の空間から召喚された。 いつの間にか、星司郎の施しである水瓶は跡形もなく消えていた。 「水が無ければ役に立たないコイツも、予め水瓶座で地面を水浸しにすれば活動できる。 君に水を与えるついでに殺すのではなく、倒すつもりで仕掛けていたものだ」 『グギャアアアアアッ!』 獰猛を体現する牙と鱗を研ぎ澄まして、うお座の具現はぼうっと立ち尽くす真倉に迫りつつあった。 「ほ、本気なん…ですね? 『フライモスキート・ブルース』、殺るしかない…って!」 殆ど本能的に、彼女の心は揺らいだままに己の分身の名を口にしていた。 真倉に付き従う、彼女より一回りも二回りも大きな蚊のスタンド。 このヴィジョンは攻撃する訳でも、能力を持つでもない。 居るだけのスタンド。 「ああ、手加減無しだッ!」 巨体がのたうち、殺人魚は宙を舞う。 グロテスクな大顎を目一杯開いて、真倉の喉元を引き千切らんと襲い掛かる。 「具現化する、そういう意味では同じタイプのスタンドみたいです…。 だからこそ、『フライモスキート・ブルース』は貴方に負けないッ!」 黒い点が、戦意を増した真倉の周りに浮き上がってきた。 数にして6つ、不安定にブレる蚊にも似た黒点はアメーバ状の何かをぶら下げて飛び込んできた魚を捕縛した。 「…よく分からないな。 何の具現化なのか」 「これは私の『飛蚊症』を実体化したモノです。 簡単に言えば、眼の病気で私にはこの黒い異物が常に見えているんです。 今度はこちらから行きますよ!」 星司郎に対して、不規則な動きをして四方から黒点が展開する。 「厄介な能力だが、それ自体に特殊な効果は無いようだな。 それならば幾らでも対処法は考えられる」 哀れにも釣り上げられた魚座を消滅させ『せいざのほん』を慣れた手付きで捲ると、あるページでぴたりと指を止めその名を叫ぶ。 「『アストロブライト―――Cetus(くじら座)』ッ!」 「こ…こんなの、アリですか…」 「アハハッ、良いじゃんスゲーじゃん! 盛り上がってきたねぇ!」 少女はあまりの迫力に気圧されて、無意識に後退りする。 下品にハシャぐ立会人の眼下に、片道二車線の道幅を完全に覆う程の蒼く輝く鯨が出現したのだ。 真倉の具現化していた黒点はその圧倒的な巨大さに飲み込まれて消失した。 「でも! 『瞬き』すれば異物は無限に復活できますから! まだまだ負けませんよ!」 「君の目を封じなければならない。 …判っていたさ。 そのためのくじら座だよ」 そうして、星司郎は狙いを定めるように本を持つ手の中指を真倉の顔面に指し示す。 この行為に何の思惑が隠されているのか、それは次の異変で気付かされた。 『ボエエェエエーールゥゥッ!』 水が、鯨の雄叫びに呼応するかの如く渦を巻いて一点に集中していく。 大号令の鳴き声に導かれているのか、ぽっかりと開けられた大口の中へと――― 「目潰しには充分すぎる水量。 申し訳無いが、君の能力は封じさせてもらう」 「ふ、『フライモスキート・ブルース』ッ! 『飛蚊症』でシールドを作れば…」 真倉の黒点が再度姿を現し、彼女の全面に終結してバリケードを形成する。 「どうかな。 瞬きすれば、黒点を何度でも再発現できると君は言ったが…本当は『できる』んじゃなくて『しなければならない』だと私は推理したが」 「…!」 『ホエールルルルルルルッ!!!』 鯨が突然地響きを起こす程の身震いをする、そして動き出す。 下顎を支えにして、まるで鯱のように反り返っていくと背中の噴出口から高水圧の潮吹きが真倉に対して射出された。 「防ぎ…切らないと…」 アメーバ状の飛蚊症が折り重なって、押し寄せる水弾を断水する。 薄氷一枚の攻防が繰り広げられる中、星司郎は静かに勝ちを確信していた。 そろそろ閉じてしまう頃だろう、と。 「あ…目が乾い…て、もう無理…」 真倉が、開きっぱなしだった瞼をほんの一瞬、刹那の間に『瞬き』させてしまった。 黒点を一時的に消滅、再出現させるためのギミックを意図せずに発動してしまったのだ。 彼女の視界から万物が消え去るこの時を、『フライモスキート・ブルース』の唯一の弱点を星司郎は完璧に理解していた。 漆黒の防衛線を突破した潮の散弾が容赦なく真倉の瞳を目掛けて浴びせられる。 「ううあっ…染みるっ…」 真倉は焦るあまりとあるミスを犯してしまった。 服の袖で目を擦った、ただそれだけのこと。 しかし。 目が染みたらそれを涙と共に拭おうとするのが普通の行動なのだが、この場に限っては致命的な反射行動となってしまった。 「ご…ぐう…ぐぐぐっ…」 後方に吹き飛ばされ、アスファルトの地面に叩き付けられる。 視界が遮られ、能力が途切れれば潮吹きを受け止める防御体形も瓦解し本体である真倉が諸に攻撃を喰らうことになるのは必然だった。 ぐったりとして、真倉はぴくりとも動かなくなった。 「……立会人、勝負は着いた」 「その子、まだ死んでないけど?」 知っている。 最初から殺す気で攻撃していない。 どうしても、私は人殺しになれない。 「これ以上彼女を苦しめて、何になる。 君はそれで愉快なのか?」 「…戦う気がないなら、アンタを処刑するまでだけど。 そんなんツマラないっしょ? だからさ、早く殺れよ」 「ぐっ…!」 ぎりぎりと歯軋りをして、星司郎は歩み出した。 極めて冷血に、冗談や嘘など一切混じらない純粋な悪からの命令に逆らえない自分に腹が立っていた。 「…」 思いを言葉にするのさえ煩わしい。 星司郎は仰向けになって倒れたままの真倉の下へ。 背中には立会人の並々ならない殺気を背負い、進まない脚を無理やり前へ持っていく。 「陽沙君…。 謝っても許してもらえないだろうが、本当に済まない…。 せめて苦しませずに、」 「…星」 「…え?」 『アストロブライト』の拳を振り上げたまま、星司郎はその場で固まってしまった。 気を失っていたとばかり思っていた真倉が消え入りそうな声で呟いたからだ。 「綺麗です…ね。 青い、お星様…」 「星なんて出ていないぞ。 いまは真っ昼間、太陽と青空しか見えないじゃないか」 幻覚でも体験しているのか。 頭を打ったせいか、アスファルトの溜め込んだ熱にやられたのか。 「見えま…すよ。 私には…」 「…終わりにしよう」 拳を握り直すと、星司郎は苦虫を噛み潰したような顔になった。 最後はこうなる運命だったんだ。 「さよなら」 ドスッ ドスッ 「…ん?」 ドスッ ドスドスッ ドスドスドスッ 「がっ…ハッ!」 目を疑った。 「『フライモスキート・ブルース』、ブルーフィールド内視現象の具現…」 聞き慣れない少女の言葉は鋭い痛みによってすぐに頭から過ぎ去った。 自らの肉体にめり込む、青白い光を放つ小振りの球体群。 その動きがあまりに速すぎて回避することも打ち落とすこともできなかった。 見れば、右手に在った『せいざのほん』も蜂の巣にされて使い物にならなくなっている。 「星司郎…さん。 ごめんなさ…い、私まだ…死にたく…ない」 「ぐ…、謝ることは…ない。 どうせ、私は君を…殺すことはできなかったはず…だ」 「君は、私の…妹に似ていた。 そんな君の命を、奪えるはずが…ない」 そう言うのと同時に、星司郎は口から血を吐いた。 球体の衝突の衝撃で、いくらか内蔵がやられたらしい。 自分の体に目を落とすと球体はさながらシリウスの輝きを以てその美しさを主張してくる。 確かに、これは星のようだ。 星のよう…だ? 「真倉ちゃんさぁ、殺すならさっさと球で貫いちゃえば? 何躊躇してんの?」 後ろからは立会人の煽る声。 「うううっ、うう…」 前からは真倉の啜り泣く声。 星司郎はこの二人の願いを一緒に叶える方法を考えていた。 死に近づくと、人は恐ろしく冷静になれるものだ。 殺さなければ、勝ち上がれない。 勝ち上がるには、殺さなければならない。 どうすればいい? 星座、内視症、具現化、殺害、救済、妹、勝利…。 ああ…! そうだ、この手を使えば…。 「陽沙君、聞いて…くれ」 「えぇ…?」 それは分の悪い賭けであった。 しかし、得てしてこういう命懸けの策と言うのは功を奏するものである。 星司郎は一通り話終えると、黙って頷く真倉に優しく微笑み掛けた。 「『アストロブライト―――』」 不快な、肉を抉る音がして。 目を開けたままの少女の胸に、無情にも星司郎のスタンドの拳が突き刺さった。 「これで満足か、立会人」 華奢な体を易々と貫いた星司郎の『アストロブライト』は、もう動かない少女の亡き殻を立会人の真下へと投げ捨てた。 「…ねえ? どう、女の子を殺した感想は? サイコーだったよね」 「これで私の勝ちだ。 試合終了。 今すぐに失せろ」 「うんうん。 その気持ち、大事にしてよね。 殺人者の心持ち。 それを忘れちゃったら決勝戦でアンタ、確実に死ぬからさ」 立会人は初めて、悪意の抜けた笑みを浮かべると。 高速道路の高架橋の下へ。 自由落下していったようだが、星司郎が橋の下を覗き込んだ時には死体も何も残されていなかった。 「あの、もう立会人の女の子は帰りましたか?」 「らしいな。 もう起き上がっても大丈夫だろう」 真倉は慎重に辺りを警戒しながら上半身を起こすと、乾き切った目をしばしばさせる。 彼女は生きていた。 それは良いとして。 奇妙なのは、その胸に風穴が空いていないことだ。 「ドライアイにさせてしまったか? 無理をさせたな…」 「いえ、問題ありません。 どうせ私の眼は…」 「君の眼がどうしたって?」 「や、何でもありませんよっ」 高速道路の真ん中で、二人は奇跡的な命の無事を喜びと共に噛み締めていた。 成功するか微妙なラインだった賭けに。 星司郎のこれしかないという会心の策は、見事に立会人を騙し通したのだ。 『アストロブライト―――Gemini(ふたご座)』 策の要として具現化したのは真倉と瓜二つの少女の姿である。 星座の元となったのは、自身の体にめり込んでいたブルーフィールドの球体。 ふたご座の形を取ったそれらを維持するのは、真倉にとっても重労働だっただろうし星司郎にも痛みを伴うものだった。 何はともあれ、ダミーの真倉を殺したことで立会人による審判が下された時点で二人の勝ちは決まっていたのだ。 こうなれば後から運営にバレたとしても責任を負うのはあの立会人ということになる。 「そういえば。 君に勝ちを譲ってもらう形になってしまったが、本当に良かったのかい?」 「はい、星司郎さんを殺すのは私には出来ませんし。 こうやって、誰も命を落とさずに済んだのが一番ですから。 しかもですよ? こんなに素敵な体験をさせてくれたので悔いはありません!」 ペガスス座の上に跨がって、二人はA市を上空から見渡している。 暑さは収まってきて、爽やかな風に包み込まれるよう。 こうなったのは真倉から一度でいいから天馬に乗って飛んでみたいとせがまれて、星司郎がそれを快諾したところから始まっている。 「星司郎さん、一つお聞きしても良いですか?」 「なんだ?」 「あのですね。 どうして、このトーナメントに参加されたんですか?」 手綱を引く星司郎の腰に手を回していた真倉にははっきりと伝わった。 動揺、または悲しみ。 彼は問いに答えないまま穴だらけの本を掲げて、真倉に受け取るよう促した。 「…私が小学生向けの『せいざのほん』を持ち歩くのには理由があってだな。 この本は妹が大好きだったものなんだ。 妹は将来、天文学者になりたいと言っていたっけな」 だった。 その一言に、彼の全てが詰まっていた。 真倉は軽口で質問したことを悔やんだ。 「ドラゴンボール的な願いが叶うなら、妹を生き返して欲しいと頼んだだろう。 でも実際には、 死んだ人間はどんな方法をもってしても生き返らない」 悟った語り口で、だけど諦めきれていないような。 もしかしたら、この人は私と同じかもしれない。 「そういう君は、何か望みがあってトーナメントに参加したんじゃないのか?」 「…はい。 でも、私の願いもドラゴンボール的なものでしか叶えられないので…。 だから一回戦の時に、相手の子と約束したんです。 『私が優勝したら、貴女の願いを叶える』って」 「それはまた、可笑しな約束を。 君の願いはそんなに難しいものなのか」 「……聞いてくれますか?」 「当たり前だ。 私も言ったんだから、君のも聞いとかないと。 物によっては、私が優勝した時に君の望んだものを頼んでもいい」 「本当ですか? ふふ、…嬉しいです。 えっと、まずは私のことから話さないと」 「私、ですね――― ★★★ 勝者 ★★★ No.6425 【スタンド名】 アストロブライト 【本体】 西獅子 星司郎(ニシシシ セイシロウ) 【能力】 描かれた星座からイメージを具現化する オリスタ図鑑 No.6425 < 第09回:決勝① > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/105.html
第10回トーナメント:準決勝① No.6552 【スタンド名】 エロティカル・クリティカル 【本体】 クリームヒルド・ブライトクロイツ 【能力】 自分が投擲した物を絶対に命中させる オリスタ図鑑 No.6552 No.6136 【スタンド名】 ディプレッション&ラジィ 【本体】 朝比奈 薫(アサヒナ カオル) 【能力】 怠惰・憂鬱状態にさせるガスを発生させる オリスタ図鑑 No.6136 エロティカル・クリティカル vs ディプレッション&ラジィ 【STAGE:美術館】◆aqlrDxpX0s クリームヒルドが美術館の敷地内へ入る門の前に立つと、そこから美術館の建物へはずいぶんと距離があることがわかった。 ずっと上り坂を歩いてきて、門のところでやっと着いたと思っていたクリームヒルドは、ひとつため息をついて遠くに見える美術館の建物へ向かって再び歩き出した。 高原の中に建つ美術館は敷地内の庭も一面に芝生が広がっており、その中に一本だけ舗装された歩道が通じている。 クリームヒルドが歩くたびに揺れる長い髪は名の通りアーモンドクリームのような美しい色をしており、身に纏う真っ白なコートの裾が風で少しだけ翻る。 コートの裾からは鈍い光沢を放つ鉄製の武器がチラリと顔をのぞかせる。 クリームヒルドはコートの中に自らの得物である「クナイ」を忍ばせていた。 美術館の正面入り口が近づいてくると、そこに1人の男が立っているのが見えた。 真っ黒なスーツを着ているが、フォーマルな出立ちとはいえなかった。 ズボンは腰骨あたりまで下げてダボダボにし、ジャケットの下にはパーカーを着てフードをかぶっている。 あげくの果てにはフードの中にキャップまでかぶっていた。 そのわけのわからない装いの男はクリームヒルドに気がつくと、ニタニタしながら近寄ってきた。 歩きづらそうだなとクリームヒルドは思った。 「コンチャっす! おねーさん、クリームヒルド?」 「うん、そーだけど。あなたは何? 対戦相手? だったらあと3秒で決着つけたいところなんだけど」 クリームヒルドはそう言ってコートの中のクナイをすばやく手に取ると、ダボダボスーツの男は慌てて制した。 「まっ、まっ、ちょ待ーっ! 立会人! 立会人だって、この試合の!」 「はあ。立会人ですか、そーいう人たちもいるんですね」 「コ、コホン! じゃあ改めて……」 「オイラはこの試合の立会人! 上路遊助(ウエジ ユウスケ)、です!」 男は右手で敬礼のポーズを取って、左右に小刻みに揺れてそう言った。 可愛らしさアピールなのかもしれないが、お世辞にも20代にすら見えないその男の態度に、見てるこっちが恥ずかしくなるとクリームヒルドは思った。 「『ユウちゃん』って呼んでもらっても構わないよっ!」 「はあ。それでユウちゃん、あなたが立会人なら、私の対戦相手はどこにいるの? まだ着いてないのかな?」 「うん、対戦相手はもう着いてて中にいるんだけどさ」 「ええっ!? それじゃあ私、待ち伏せられることになるんじゃあ……ないの?」 「いややっ、それよりさ、クリームちゃんにお願いがあるんだけど」 「なによ、クリームちゃんって」 「お願いだから、降参してくれない?」 立会人は顔の前で手を合わせ、懇願した。 チャラけた態度だが、冗談を言っているわけではなかった。 「ヤバいんだって! 朝比奈ってヤツ、連続殺人鬼なんだ。マトモに戦って勝てる相手じゃないし、立ち会いしてるオイラまで死んじゃうかもしれないんだって!」 「対戦相手は、連続殺人鬼なの?」 「あう……思わず言っちゃった」 「あなた、出場者である私に降参することを要求するなんて、立会人としてどうなのよ」 「いや、そーなんだけど! 命が一番大事でしょ!? クリームちゃんのためにも言ってんのよーっ! ホントはオイラが立ち会うはずじゃなかったし……」 「ん?」 「あ……いやこっちの話。とにかく……オイラのためにも降参して、ねえっ!?」 「ムリ言わないでちょうだい、こんな面白い企画……ここで帰ったら、メインディッシュが来る前にスープ飲んだだけで会計するようなモンじゃないの」 クリームヒルドは困惑する立会人を尻目に美術館の扉に手をかけ、ゆっくりと押し開けて中へ入った。 「んー……じゃあオイラは外で待ってるからねぇー。クリームちゃんが無事に出てくるのを祈ってるよぉ……」 それだけ聞こえた後、美術館の扉は閉まった。 美術館のエントランスホールで最初にクリームヒルドを迎えたのは、大きな大理石の石像。 中央にそびえ立つ女性の体を模した石像の艶かしい美しさと、とても高い天井から下がっている豪華なシャンデリアの輝きを見ただけで、 この美術館がどれほどすばらしいものを収めているかを知ることができた。 1回戦で舞台となった美術館も隅々まで掃除が行き届き、意欲的な作品に満ちたすばらしいミュージアムであったが、 大きさは明らかにこちらの美術館のほうが大きかった。 クリームヒルドは目の前の女性の石像に鼻がつくほど顔を近づけた。 ここの展示品をすべて眺めていたらいったいどれくらいかかるんだろう……とクリームヒルドが観賞をはじめようとしたところで、彼女は本来の目的を思い出した。 (いけないいけない、また『悪癖』が出てしまうところだった) 外ならまだしも、ここでまた展示品に集中しはじめていたら敵に何をされるかわかったものじゃない。 もしかしたらわかる前に死んでしまうかもしれない。 (死んでしまう――かもしれない) そういえば、そう立会人は言っていた。 ここへ入ってからまだ一度も姿を見ていない、『連続殺人鬼』……それが対戦相手だ。 「…………」 だが、単なる好奇心でこのトーナメントに臨んだことをいまさら後悔してもいられない。否、後悔などしていない。 とにかくは身をもって知ることだ。そのために私はここへ来たのだから。まだ、前菜しかいただいていない。 そうクリームヒルドは思って対戦相手を探しはじめた。 1階の広い展示スペースには企画の展示品が並んでいる。 同じ時代の作家が制作した絵画や彫刻品が展示されており、どれも目をひくものばかりだが、 それを眺める客はひとりもいない。 クリームヒルドは展示品に目移りしながらも、手にクナイを持ったまま周囲を警戒する。 (相手が先に入った割には、その痕跡がどこにもないなあ……私なら対戦相手がくるまで、そこかしこにトラップを仕掛けるけど) ざっと1階のフロアを見渡したあと、中央階段から2階へ上がった。 2階は開放的だった1階とはずいぶん様子が変わり、質素な床板と壁紙の廊下に沿って、学校の教室ほどの大きさほどの部屋が並んでいた。 廊下と部屋の間の窓から中を覗くと、ここでもいくつかの展示品が並べられていた。 おそらくここは個展用の貸しスペースなのだろうとクリームヒルドは思った。 他の部屋の中にはいくつか空き部屋もあった。 こんな街から離れた高原の美術館に誰が個展など見に来てくれるのだろうかと考えながら廊下を歩いていくと、 クリームヒルドは廊下の奥の部屋の異変に気がついた。 窓から中の様子を見ても、何も見ることができない。 というのも、部屋中に真っ黒な煙が充満しており、締め切られた空間の中でもくもくと広がっている。 クリームヒルドは改めて周囲を見回すが、この部屋以外におかしな点は見られない。 背後にある部屋は空き部屋になっており、隠れられるスペースもない。 空き部屋の天井を見ると中央には煙探知機がついており、小さなランプが点灯している。 (この煙が充満している部屋にも同じ煙探知機がついているのなら、煙が部屋じゅうに広がる前に火災報知機が館内で鳴り響いているはずだよね…… っつーことは、この煙はホンモノの煙ではない……スタンド能力と考えてもよさそうかな) 部屋の煙を見つめながらクリームヒルドは考え込んだ。 (スタンド能力だとしたら、この煙の中へ入ったり、吸い込んだりしてもいいことはなさそうだね) どうするべきか? クナイを投げて調べてみるか? いや、目で見ている以上の情報は得られないだろう。 まだ見てもいない相手に能力を発動することなどできない。 そんなことを考えながらクナイを手でクルクル回していると…… 「はあ……もう待つのめんどくせえ」 「ッ!?」 突然、クリームヒルドの「真上」から男の声が聞こえた。 クナイを振りかぶり声のするほうへ投げようとする前に、 天井裏から廊下へ上半身だけを逆さに出した学生服の男――朝比奈薫(アサヒナ カオル)は『ディプレッション&ラジィ』のガスをクリームヒルドに吹きつけた。 ――――――――――――――― ―――――――――― ――――― 連続殺人鬼という裏の顔を持つ男子高校生の朝比奈薫は決してトーナメントに出たかったわけではなかった。 彼は表面上はごく普通の学生生活を送っていたので、手紙が彼の住むアパートの部屋へ届くこと自体に何もおかしいことは無かった。 たとえそれが不気味な赤い封筒であっても。 しかし、玄関ポストの封筒を手に取り中を確認すると彼の表情は凍りついた。 そこにあった「スタンド」という文字。 彼がスタンドを使うのは、人知れず残虐な行為を行っているときだけだった。 「スタンド使い」としての朝比奈に手紙が届くということは、このトーナメント運営の団体は彼の本性を知っているということに他ならなかった。 もし自分がこの手紙を無視したらどうなるだろうか? 自分以外に自分の本性を知っている者が存在することに変わりはない。 少なくともこの手紙を開いた時点で自分にとっての平穏な日常は崩れてしまった。 朝比奈にとってこの招待状は脅迫状にしか見えなかった。 救いがあるとすれば、この手紙の最後の一行だけ。 〝このトーナメントで貴方が優勝した暁には――〟 ――――― ―――――――――― ――――――――――――――― 「がほっ! ごほっ!」 『ディプレッション&ラジィ』のガスを吸い込んだクリームヒルドは激しくむせこんでしまい、クナイを投げることができなかった。 その隙に朝比奈は天井裏から2階の廊下へ降りた。 「……部屋の煙はスタンドとは関係ない。ただの煙。煙探知機が作動しなかったのは、単に俺が壊しただけ」 「…………ごほっ、ごほっ!」 「ガス吹きつけずに殴っても良かったんすけどね……あんたがなんかの能力で避けても面倒だから、先に『吸って』もらった」 (っ! なんだか……急にけだるくなってっ……?) 「動きを封じるためにね…… 『ディプレッション&ラジィ』!」 真っ黒な甲冑騎士のような朝比奈のスタンドは拳をクリームヒルドめがけ振り下ろす。 クリームヒルドはそれを間一髪でかわし、朝比奈に背を向けて走り出した。 「あれ……ガスの量が少なかったかな」 朝比奈もすぐに走り出し、クリームヒルドのあとを追った。 朝比奈とクリームヒルドとでは当然朝比奈のほうが体力は優っている。 さらにクリームヒルドは腰ほどまであるコートを羽織っており、見るからに走りづらい格好をしている。 追いつくのは時間の問題である……そう朝比奈は思っていた。 「ええい……『エロティカル・クリティカル』!」 そう叫ぶと同時に、クリームヒルドは前を向いたまま1つのクナイを投げた。 それを見ていた朝比奈はその行動を不可解に思えたが、すぐに意味を理解した。 クナイは物理法則を無視し、きゅるんと向きを変えて朝比奈のほうへ向かっていった。 「な……防御しろ、ディプレッション&ラジィ!」 向かってくる2つのクナイを朝比奈のスタンドは両手で弾いた。 鉄製のクナイを弾いて朝比奈の手がビリビリと痺れる。 (この感触は……スタンドのそれじゃあない、ホンモノの鉄だ。とすると……ああ、考えるのメンドクサイ) 朝比奈はクリームヒルドのスタンド能力を朧げに把握しつつも、深く考えるのをやめた。 考えるのが、いやそれだけでなく何かとめんどくさい。 そんな感情は、クリームヒルドにも襲い掛かっていた。 (あー、なんだかさっきより体がだるい気が……やっぱガスのせい? あー走るのもうヤダけど……つかまったらそれで終わりな気もするし…… なんでこんなめんどくさくなってきてるんだろう私) クリームヒルドはクナイで牽制しつつ朝比奈から逃げ続けていた。 クナイを投げるたびコートは軽くなっているが、それよりもクナイを持つ手の感触がだんだんと重くなっている気さえしている。 投げ続けなければ追いつかれてしまうのはわかっているが、投げるたびにクナイを持つことすら億劫になってしまっていた。 そして、朝比奈との距離は確実に縮まってきている。そして、体のけだるさも脚まで襲いつつあった。 (ああーくそっ……もう仕方ない、集中せえー集中ッ!) クリームヒルドはすうっと大きく息を吸う。 「あーっ……ガスによって身の倦怠感、憂鬱状態が引き起こされる外的要因として考えられるのは亜酸化窒素、セボフルランに代表される吸入麻酔薬、映画やマンガでよく見られるのはクロロホルムではあるが、本来では吸入した時点で眠りにつくわけではなく、眠りにつくまでには時間のかかるものであり、今身に起こっている事態もそれによるものと考えられ、吸入麻酔薬について笑気やエーテルは浸した綿花を患者の鼻や口においたり、大きな袋の中に入れて吸入させたりして使用されてきて今日なおその作用機序については不明な点があるものの吸入麻酔薬はスムーズな導入と速い覚醒を得ることができるようになっており、かのスタンド能力もそれに類似したものと仮定すればこのままでは知覚麻痺と意識消失に至ると予測され筋弛緩も引き起こしつつある現状を鑑みれば極めて回避できぬ自体であることは否定できず吸入麻酔薬分子が細胞脂質膜に溶け込むことにより疎水性膜の拡張がおこり麻酔が起き……」 「…………!?」 突然クリームヒルドは早口に一本調子で演説を始めた。 日々図書館で身につけた知識を、それっぽく説得力がありそうにただべらべらと繋げ、語り続けていた。 朝比奈から逃げながら、クナイをときどき投げながら。 クリームヒルドは自らの『悪癖』……「集中しだすと周りが見えなくなる」ことを逆に利用した。 『ディプレッション&ラジィ』の引き起こす怠惰状態に対抗するために。 当然、朝比奈にとってすれば意味不明な行動である。 しかし先ほど少し近づきはしたものの、クリームヒルドが論じ始めてからは距離をそれ以上詰めることができなかった。 「外的要因以外にこの精神状態に類似した症状といえば所謂鬱状態があり、現代の医学によれば精神療法に限らず投与薬によっても解消することが証明されている。ただし投与薬の副作用として倦怠感やだるさが引き起こされる場合があり、その原因としてはセロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリンの体内での分泌量に変化が生じホメオスタシスが崩れることにある。薬による副作用を薬で抑えるのは堂々巡りといえるため確実ではなく自己治癒力によって乗り切るほかは無い。この倦怠感、憂鬱状態が気づく限り私の敗北は濃厚になる故に早急に対策を練らねばならず、このような不測の事態に陥った場合の対処法を示す論文は存在せず、もっとも原始的な、それでいて確実な、言い換えれば強引な対処法をこの場で自身に施さねばならない……」 とはいえ、クリームヒルドは逃げ続けるだけでは勝ち目が無いのは明らかだった。 もちろんそれをクリームヒルド自身も理解している。 彼女は逃げながらある場所へ向かっていた。 「ここは……エントランスホールか」 クリームヒルドが向かっていたのは美術館のエントランスホールだった。 そこにはクリームヒルドが入ってきたときに見たものと同じ大きな大理石の女性の像と、豪華なシャンデリア、そして……受付のカウンター。 クリームヒルドはそのカウンターの中へ入り、身をかがめた。 「何のつもりですかね、そこに隠された逃げ道でもあるんすか」 「私が1階を物色しているとき、カウンターの中にある『モノ』があることを今思い出し……ええと、しゃべるのもめんどくさい」 クリームヒルドがカウンターの中から立ち上がると、手にはある『モノ』が握られていた。 「『救急箱』…………この中に、私が求めていたモノがあった。鎮痛剤という名の化学兵器……」 「…………はァ」 「『アン○ルツヨコヨコ』がね」 容器の注意書きには『1.次の部位は使用しないこと (1)目の周囲、粘膜など』と記されている。 クリームヒルドはその『アン○ルツヨコヨコ』をよく振って、フタを開けた。 ツンとした刺激臭が漂う。 「ただ黙って倦怠感が抜けるのを待っていたら負けてしまう……私が必要としていたのは気つけ薬だったのよ」 そういうとクリームヒルドはその『アン○ルツヨコヨコ』を鼻の下に塗った。 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」 エントランスホールに響き渡る断末魔の響き。 鼻から吸った刺激臭は脳を刺して耳から抜けていくように感じる。 「痛゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」 朝比奈はただ立ち止まっていた。 クリームヒルドに逃げ道はないし、そんなもので自分の能力を打ち消されるとは思っていなかったからだ。 しかし、朝比奈にとって予想外のことが起こる。 「ン゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ッ゛…………」 「…………」 「はあ、スッキリしたわ」 「……マジかよ」 クリームヒルドはシャッキリと背筋をのばし、目をぱっちりと開けている。 果たして本当に薬品の痛みが効いたのか、はたまたプラシーボ効果だったのか、それとも単に能力の効果時間が切れただけなのかはわからない。 しかし確実にいえることは、『ディプレッション&ラジィ』のガスの効果はクリームヒルドに残っていないということである。 「まあ……いいや。フツーに叩きのめすことにします」 「フン、ずいぶん自分のスタンドに自信がおありのようでございますが、考えが甘いのではなくて?」 「…………何すか」 「あなたごときのスタンドで、私のスタンドに勝てると思ってるの?」 「まだアンタのスタンド見てないんすけどね」 「そんなに見たいの?」 「……別に。もう行きますよ?」 「フフ…………後ろよ、う・し・ろッ」 「!!」 朝比奈はぐるりと振り返り後ろを見る。 いつのまに回っていた相手のスタンドの攻撃に対処するために。 今まで姿を現さなかったのは、遠隔操作型だったからか。 しまった、もう少し考えながら追えばよかった。 そう朝比奈は思ったが、背後にスタンドらしき姿は無い。 「うわあ、ホントにひっかかりやがった」 「…………『ディプレッション&ラジィ』!!」 「なーんつってな、本当は上だよ上」 「聞くかッ、アイツをぶん殴」 そこまで言いかけた時、朝比奈の頭上から何か巨大なものがのしかかる。 朝比奈はその重さに耐えかねて、床の間に押し潰された。 白い床の上に倒れた朝比奈の周囲に、キラキラとしたものが降り落ちている。 それらの中に金色の鎖や装飾のガラスが飛び散っているのを見たが、そこで朝比奈の意識は途絶えてしまった。 「私のスタンドは遠隔操作型……接近戦なら勝ち目はない。ただしここなら……あなたに勝ちうる手段があった」 朝比奈の背中にのしかかっているのは、エントランスホールの高い天井から吊り下げられていたシャンデリアだった。 クリームヒルドはエントランスホールに入って、カウンターの中へ向かっているときから 彼女のスタンド『エロティカル・クリティカル』をシャンデリアの根元へ向かわせていた。 スタンドがシャンデリアの支えを壊すのに時間はかかったが、 朝比奈はうまくいきすぎなくらいに、シャンデリアの真下に位置どっていた。 「これで、私の勝ちということでいいんだろうか。あの立会人、外にいやがるからなあ」 そのとき、床とシャンデリアの間でうつ伏せで倒れている朝比奈のポケットから何かがコロコロと転がっていった。 クリームヒルドのいる位置からは反対側の、美術館の2階へ上がる階段のあるほうへと向かっていた。 クリームヒルドはそれに近づき、手にとって確かめた。 「これは…………ヨーヨー?」 そのときだった。 ヨーヨーを手にとって見ていたクリームヒルドの背後で大きな破壊音がした。 それはシャンデリアが朝比奈の上に落ちたときの音に似ていたが、それよりもさらに大きく激しい音だった。 何が起きたのか。またシャンデリアが落ちたのか。いや、エントランスホールに巨大なシャンデリアはひとつしかなかった。 だが、今聞こえた音は確かにシャンデリアのものだった。 クリームヒルドはちらりと後ろを見た。 するとそこには、ついさっきまでシャンデリアの下で寝ていたはずの朝比奈が立っていた。 朝比奈の後ろの正面入り口の扉にはシャンデリアが打ちつけられ、粉々になって破片が扉に刺さっている。 「うしゅるるるるるるルルルルるるるるルルルルるるるるルルルルるるるるルルルルるるるる」 目を見開かせ、言葉にならぬ声を出し続けている。 朝比奈の顔や服からは血のしたたりがポタポタと落ちている。 クリームヒルドは、美術館に入る前の立会人の言葉を思い出した。 (連続殺人鬼なんだ) それを聞いて直に朝比奈を見たとき、クリームヒルドにはとてもそうは見えなかった。 だが、えてしてそうは見えないのが普通なのだろうと思っていた。 しかし、クリームヒルドは確信する。今の朝比奈が、連続殺人鬼としての顔なのだと。 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛あああああああああああアアアーーーーーーー!!」 まるで産声をあげるかのように殺人鬼の朝比奈は吼えた。 そして視線をクリームヒルドへ向けた。 「ま、まずいって!!」 クリームヒルドは恐怖を感じ、踵を返して駆け出した。 美術館から出るというより、とにかく朝比奈から離れるために。 (まーそりゃ『何があっても不思議じゃない』とは聞いてたけどなっ、こんなスリリングさは求めてないんだってば!) 「ひゃあーーーーーーーァはははははハハハハはははぁハハハハ!!!」 さっきとは逆に、1階から2階へ、そして3階へと階段を登りながらクリームヒルドは逃げていった。 今度はクリームヒルドは『ディプレッション&ラジィ』のガスは吸ってはいないものの、狂人と化した朝比奈に追いつかれるのは時間の問題だった。 階段は3階で終わっていた。 クリームヒルドは朝比奈と対面する前に3階には上っていなかった。 したがって、3階がどのようになっているのかクリームヒルドにはわからなかった。 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ろろろろろろろろろろろろろろろろろろろすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすすす」 とにかく、朝比奈から離れなくてはならない。捕まってしまったら、遠隔操作型の自分のスタンドでは確実に力負けしてしまうのだ。 クリームヒルドは廊下のガラス戸を開けた。 ガラス戸の外は屋上テラスだった。 高原の上に立つ美術館なので、フェンスの向こうには木か雲に覆われた真っ白な空しか見えない。 クリームヒルドが屋上テラスに出ると、続いて朝比奈も飛び出してくる。 屋上テラスには、今出てきたガラス戸以外に出入り口のようなものはなかった。 「くぅうううう~~~~~~~~ッッ!」 クリームヒルドがうなり声をあげる。 朝比奈もクリームヒルドに逃げ道がないことを理解するが、今度は余裕ぶって待つことをしない。 勢いを止めないままクリームヒルドに掴みかかろうとする。 クリームヒルドはフェンス際まで追い詰められた。 胸ほどの高さがあるフェンスの向こうは当然なにもない。 見下ろせば庭の芝生が広がっているだろう。 だがクリームヒルドは止まらなかった。 フェンスに飛び乗り、そのまま向こう側へ落下した。 「はああああああああああああああああ!!!!??」 朝比奈は当然、クリームヒルドがそこで止まるものと考えていた。 だが彼女は止まらずにフェンスから外へ落ちていった。 狂ってるとはいえ、さすがに自分も落ちていくようなマネはしない。 クリームヒルドの姿を確認しようと朝比奈はフェンスから上半身を乗り出して下を覗き込んだ。 クリームヒルドの姿はそこにあった。 それは真下に落ちている最中でも、あるいは地面の血だまりの上で横たわっているのでもなく、 ほんとうに『そこ』にいた。 「ヘーイ、グーテンターク」 クリームヒルドは下から上に浮き上がっていたのだ。 右手の『ヨーヨー』に引っ張りあげられて。 「なあッ!!?」 離れようとしたときにはすでに遅かった。 クリームヒルドのヨーヨーは糸が朝比奈の首にぐるぐると巻きつき、 クリームヒルドの体重が首にのしかかった。 「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐゥゥゥゥ…………!」 「『エロティカル・クリティカル』、能力は投げたものを『必ず』命中させること。 それが対象とは逆方向に投げられたクナイであっても、それが落下中に屋上へいる対象へ投げられたヨーヨーであっても。 私の『エロティカル・クリティカル』は否が応でも命中させる」 ヨーヨーの麻糸が朝比奈の首を締めつける。 力を込めて真っ赤になっていた朝比奈の顔面は、首が絞められていることにより徐々に青くなっていく。 一方のクリームヒルドも無事ではない。 ヨーヨーをつける指のわっかを広げ、手首に巻いたとしても手首がちぎれそうになるほど痛く、 また血が止められてどんどん痺れて感覚が無くなっていく。 (早く~~~~~~早く~~~~~~) だが、どちらが辛いかは明白である。 朝比奈はついに耐え切れず、クリームヒルドの体重に引っ張られてフェンスの外側へずり落ちていった。 「!!」 それを見たクリームヒルドは密かにコートに忍ばせていた『かぎ縄』を出して屋上テラスのほうへ投げ込んだ。 かぎ縄はフェンスにひっかかり、クリームヒルドはかぎ縄にしがみついた。 朝比奈がフェンスから落ちてくる前にヨーヨーの輪っかを手から離して、フェンスから屋上テラスへよじ登った。 入れ替わりに朝比奈は屋上テラスから真下へ落ちていく。 どこまでも響く叫び声をあげながら。 「ウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!」 ――――――――――――――― ―――――――――― ――――― 〝このトーナメントで貴方が優勝した暁には、貴方の願いをひとつ叶えて差し上げます〟 朝比奈の受け取った招待状の最後にはそう書かれていた。 トーナメント運営は、自分の本性を知った上で招待状を送り、なおかつ『願いを叶える』と手紙に書いたのだ。 朝比奈はそう思ったが、その真意まではわからなかった。 あるいは、ただの酔狂か。 どのみち、朝比奈にとって選択肢などなかった。 本当の自分の姿を知る存在をほうっておくことなどはできなかった。 かくして朝比奈はスタンド使いの集まるトーナメントに参加することを決意した。 手紙の最後の一行に望みを託して―― ――――― ―――――――――― ――――――――――――――― 「!」 美術館の庭の芝生の上で仰向けに倒れていた朝比奈は目を覚ました。 全身に激しい痛みを感じる。だが、立てないほどではなかった。 朝比奈はゆっくりと立ち上がり、『ディプレッション&ラジィ』のガスを吸って心を落ち着かせた。 「立つんかい……」 美術館の屋上から下を見下ろしていたクリームヒルドは呟いた。 3階とはいえ、1階のエントランスホールを含めた天井の高さを考えれば、屋上から地面まではビル5階分ほどの高さはあった。 (……ここで倒れるわけにはいかない、俺の望みを叶えるために) 朝比奈は全身の痛みに耐え、苦悶の表情を浮かべている。 (俺は……俺は、自分の狂気を捨て、普通の生活をしたい……!) 「俺は、勝たなくてはならないんだッ!!!」 朝比奈の持つ狂気は、敢えていうならば彼にとっての正気だった。 普段はそれを自身のスタンド能力で抑えているに過ぎない。 だが、『正気の沙汰』の一方で、自らの狂気に苛まれる想いもわずかに存在していた。 これまでの十数年間の狂気と殺戮に満ちた日々の中で、彼を癒すものは何一つ無かった。 癒えることなどありえないと思っていた。普通では不可能であると、彼自身は思っていた。 だが、そんな彼のもとに此度の招待状が届いた。 死人以外に知られるはずのなかった本当の朝比奈薫に向けた招待状が。 だからこそ朝比奈は希望を感じたのだ、招待状の最後の一行に。 蝕み蝕まれた自らの人生をやり直すために、彼は立ち上がった。 「『ディプレッション&ラジィ』ーーーッッ!!」 美術館の屋上のクリームヒルドは、朝比奈に戦う意思が残っているとわかると、 コートの中から手にもてるだけのクナイを取り出した。 「まだ、やるというのなら……テッテーテキにやってやろうじゃないの」 クリームヒルドは片手に4本ずつ、指の間にクナイを持って両手を振りかぶった。 「私の能力は『投げたものを必ず命中』させること……私の真下にいるあなたに、このクナイを投げ下ろしたら、どうなると思う? ……クナイは落下で速度を増して、そのままあなたに襲い掛かる!」 クリームヒルドは両手を同時に振り下ろし、8本のクナイを真下にいる朝比奈に向けて投げた。 通常なら、朝比奈に当たりそうなクナイは1本か2本だろう。 だが、8本のクナイはなだらかな弧をえがくように、すべて朝比奈へ猛スピードで向かっていた。 「殴り落とせェーーーーッ!」 『ディプレッション&ラジィ』は真上へ向けてラッシュを放った。 向かい来るクナイを防御するために。 いくら速く、いくら多いクナイでも、それに対抗しうるほどのパワーとスピードを自身のスタンドは持っていると朝比奈は確信していた。 一方のクリームヒルドも8本のクナイだけでは終わらない。 投げた後すぐさまコートに手を入れ、新たにクナイを取り出して再び投げ下ろし続けた。 狙いなど定めなくとも、投げたクナイはすべて朝比奈に向かっていた。 「せぇぇぇぇえええええりゃぁぁああああああーーーーーっ!!!!!!」 『LAAAAAAAAAASIEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!』 (いったい……いくつのクナイを隠し持っているんだ? すでに100は超えているのに……) (女は常に何かを隠しているというでしょう?) だが、それでも無限ではなかった。 クリームヒルドがコートの内側に入れた手にクナイの感触が少なくなってくると 自然と手数は少なくなっていった。 ついにコートの中のクナイが数個になると、攻撃の手は完全に止まってしまった。 「ハァ……ハァ……」 だが、それでも朝比奈は立っていた。 息を切らし、手は血だらけアザだらけになっている。 しかし朝比奈は競り勝った。 「…………」 「……もう、終わりか?」 朝比奈は上を見上げてつぶやいた。 もちろん、屋上のクリームヒルドには聞こえないのだが。 「これで……カンバンだッ!」 クリームヒルドは最後に残った5個のクナイを思いっきり投げ下ろした。 「今更こんな残りカスが通用するかッ、『ディプレッション&ラジィ』!」 迫り来る5本のクナイ。 それを朝比奈の『ディプレッション&ラジィ』は次々と弾き飛ばしていった。 1本、2本、3本、4本……何の問題もなかった。 そして、最後の5本目…… 「!!」 『ディプレッション&ラジィ』は5本目のクナイを弾き飛ばす。 それ自体に何の問題はなかった。 だが、弾き飛ばした5本のクナイ……そのあとにもうひとつ、クリームヒルドが投げていたものに朝比奈は気づいた。 それは空に広がる雲の色にまぎれた、真っ白な容器。 朝比奈は見えていた5本のクナイを弾き飛ばしたところで、完全に手を止めていた。 しかし、気づいたところでそれを弾き飛ばすのはもはや遅かった。 容器が朝比奈の顔に当たり、パシャンと中の液体が降りかかった。 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! ! ! ! ! !」 その液体は目に染みて激痛を走らせ、きつい臭いが鼻を通って脳を刺激した。 朝比奈は顔を手でおさえて悶絶する。 地面に落ちた容器には「アン○ルツヨコヨコ」と書かれていた。 注意書きには『1.次の部位は使用しないこと (1)目の周囲、粘膜など』と記されている。 「あなたが何を望んでこのトーナメントに参加したのかは知らない。 けれど殺人者であるあなたが、他人の望みを断ってきたあなたが、いまさら何の望みをかなえられるというの? そんな都合のいいことが、あなたにあると思っているの?」 「ウ゛ウ゛ッ……ア゛ア゛ア゛……」 朝比奈はよろめきながら美術館の建物から離れようとする。 「今度こそ、きっちり決着つけるわよ」 そういうとクリームヒルドは自身のスタンド『エロティカル・クリティカル』に自分の体を抱えさせた。 「コレがホントの『落とし前』」 『エロティカル・クリティカル』はクリームヒルドをそのままフェンスの向こう側へ投げ落とした。 垂直に落ちていくクリームヒルド。 だが地面スレスレで、狩をするツバメのごとく地をすべるように水平に飛んでいき、朝比奈の後頭部へ膝蹴りを喰らわせた。 朝比奈はめまいと共に頭が真っ白になり、地面に突っ伏した。 「おおっ、クリームちゃん無事だったんだね!」 美術館の敷地へ入る門に立っていた立会人は、近づいてくるクリームヒルドに向けて手を振った。 「外にもいないと思ったら、こんなとこまで避難してたんだなアンタは」 「ヘヘッ、万が一クリームちゃんのクナイが飛んできたらあぶないからね!」 「へ? 何、観てたのあなた」 「オイラたち立会人はね、どこにいても戦いの内容はすべてお見通しなんだよっ! ちゃんと観てたよ! クリームちゃんが朝比奈を3回もノックダウンさせたとこ!」 「ふ~ん……まあちゃんとジャッジしてくれてんならそれでいいや。……私は帰るわよ」 「じゃあオイラは後処理があるから! じゃーねクリームちゃん!」 立会人は坂道をおりていくクリームヒルドに向けて両手を振った。 クリームヒルドは振り返らぬまま、空を見上げた。 「……雨が降ってきたわね」 ★★★ 勝者 ★★★ No.6552 【スタンド名】 エロティカル・クリティカル 【本体】 クリームヒルド・ブライトクロイツ 【能力】 自分が投擲した物を絶対に命中させる オリスタ図鑑 No.6552 < 第10回:準決勝② > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/ginreirap/pages/34.html
論争杯シード戦相手はエッジ 俺危ないものなら巻いてはねーし つまりはいつでもシラフでかます あんたの倍俺は韻が踏めまーす これが迅零初バトル? 関係ない今日があんたにとってのラグナロク 今の俺にぜってえ敵はいない 見せつけてやるよ徹底的な違い 危ないもの巻いてないならば この場所から逃げてしっぽ巻いとけ 迅零での初バトル、 論争杯予選 お前は俺に負けてコソコソ泣いとけ笑 お前は韻踏めてもライムが相当ハリボテ 俺からのアドバイスをノート書いとけ ベストバウト出さなきゃしょうもないよね お前は今日最後で、される公開処刑 コソコソ泣くわけがねえ 俺が泣くのは優勝してからだ 優勝して流す嬉し涙 悪いけど今日あんたの上に立つわ 俺のライムハリボテって言っとるけど今更公開処刑 で踏むのも脳無いよね ここであんた倒して放ってくよ 決勝でよしかわも倒して本戦へGO っていいながら 6小節目で踏んでる公開処刑 だから言ってるんよハリボテライム 優勝できんから裏で泣いとけや お前が流すのは悔し涙 所詮スキルもプレミア以下 それに比べ俺は天賦の才だよ 何ヶ月ぶりの文面でも取るベストライマー賞
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/125.html
第12回トーナメント:準決勝① No.6754 【スタンド名】 ティン・エンジェル 【本体】 白鷺 かふら(シラサギ カフラ) 【能力】 接触する二つのモノを徐々に癒着させる オリスタ図鑑 No.6754 No.4367 【スタンド名】 ムーン44 【本体】 滕翦瑜(テン・ジャンユ) 【能力】 触れたものの「状態」を「感染」させる オリスタ図鑑 No.4367 ティン・エンジェル vs ムーン44 【STAGE:ホテル】◆Zb4sdv40uw トーナメント第二回戦、その一日前。 まだ対戦場所を知らされていないはずの参加者、滕翦瑜(テン・ジャンユ)は対戦場所であるホテルの一室でベッドに寝そべっていた。 明らかに公平性を欠いたそのような事態がなぜ招かれたかというと、それは彼の所属している組織『ディザスター』のトーナメントへの関与があった。 『混沌の世界』の創造を目的とする組織『ディザスター』。 その構成員の多くをスタンド使いが占めるその組織は、一部隊の長であるはずのジャンユをもってしても全容が把握できないほど大規模な組織である。 いや、正確には組織化さえなされていないのかもしれない、とジャンユは思う。 世界の無秩序化、というのは何も組織外だけの話ではなく。 むしろ組織内でこそその無秩序さ、無法さは突出している。 上下関係が一月のうちに何度も入れ替わるなど日常茶飯事だし、風の噂ではすでに二、三回組織のトップの入れ替わり騒動が起きているという話だ。 そんな組織の体すらなしていない『ディザスター』が、何故今日まで崩壊もせずに存続しえたのかというと、理由は酷く単純な話だ。 構成員の全員にとって『ディザスター』というスタンド使い同士の広大なネットワークの存在自体が『自分にとって』都合がいいから、という理由である。 元々『スタンド能力』という圧倒的個性を持って組織に受け入れられた構成員たちは、それゆえに求められる仕事量が少ないのだ。 本人にとっては出来て当たり前のことをこなすことが、組織において多大な貢献となる。 実社会で真っ当に生きるにあたっては余分ともいえる『スタンド能力』を求められた時だけ発現させることで、汗水たらして働くより遥かに割のいい収入が得られる。 無論、『スタンド使い』という存在自体が世界秩序にとっては邪魔者といってもいい存在であり、法の目を掻い潜り犯罪行為を重ねているうちにこの組織に勧誘されて入った者や、この組織の目的に心酔して構成員となった者も少なくない。 だが、確かに名目上は『実験部隊』隊長という肩書を得ているものの、ジャンユ自身もただ『ムーン44』という自身のスタンドを活かすことの出来る場を与えられているだけだという思いのみで、『ディザスター』という組織への忠誠心はほとんどないといっていい。 故に、今回『スタンド使い同士の戦うトーナメントに参加し、優勝しろ』という命令には彼自身煮え切らない思いがあった。 出来レースに次ぐ出来レース。 わかりきった実験の『被験体』になっているような居心地の悪さがあった。 噂では、最近組織内で勢力地図に大きな動きがあり、その際にこのトーナメントで優勝したジャン・ギャバンという若い男とその上司が、このトーナメントの優勝を何らかの形で利用して組織の中枢にまで上り詰めたらしい。 逆に、このトーナメントでふがいない成績を残した組織幹部だった男は、今では末端と構成員と同じような扱いを受けているそうだ。 今回の命令もどうやらこのトーナメントにご執心らしい、ジャン・ギャバンの上司の男から下されたモノのようだと、ジャンユは人伝に聞いていた。 このトーナメントにはもう一人、同じ『ディザスター』に所属する構成員が参加しているとも。 「ま、あまり深く考えることないか…………俺はただ命令をこなしているだけで勝ち進めるんだから」 ジャンユは一つあくびをすると、これ以上深く考えることを諦めた。 いくら『実験部隊』の隊長とはいえ、所詮は下っ端に過ぎないし、これからもそれでいい。 『ディザスター』はその特性上、組織内で地位を高めようとする人間には厳しいが、それ以外の末端のスタンド使いに対しては比較的に無干渉だ。 ジャンユは『混沌の世界』にも『組織内の地位』もどうでもよかった。 ただ漫然と、与えられた命令をこなすだけで普通のサラリーマンよりはるかに贅沢な暮らしが出来るのだからそれでよかった。 その与えられた命令が自身のスタンド能力を使った人体実験だろうと、大量虐殺だろうと、ジャンユにはあまり関係がない。 労せず結果が得られるならば、それだけでいい。 むしろそういうジャンユのアイデンティティーこそが、彼が『実験部隊』隊長に任命された理由だろうと、ジャンユは他人事のように考えていた。 「隊長、頼まれていた処理済みのマウスをお届けに上がりました」 扉の外から部下の声がして、ジャンユはベッドから立ち上がる。 扉を開くと、重そうなクーラーボックスを手にした幾人もの白衣姿の部下の姿があった。 「おいおい、隊長なんて仰々しい呼び方はやめろっつったろ」 「はは、スイマセン、ジャンユさん。これ、どこに置いとけばいいですかね?」 「適当にそこらへんの床に置いといてくれ、あとは適当に俺がばら撒いとくから」 「了解しました。…………それにしても、こんなに必要ですかね? 相手は高校生の少女だって聞きましたけど」 「ま、そうだけどさ。一回戦の情報が上から下りてきたんだけど、どうやら今回の対戦相手の女の子、能力も込みでかなり『キレちゃってる』子らしくてね。できれば会わずに済ませたいし……」 そういうと、ジャンユはへらへらと笑う。 そこには人を殺そうなどと言った深刻さはなく、ただ享楽的な能天気さだけがあった。 「俺のスタンド『ムーン44』のテリトリーの中で、『被験体』がどうもがくのかにも興味があってさ」 人里離れた山の奥に、そのホテルはあった。 高度成長期、土地の値段が軒並み高騰し、そこかしこに道路や駅が乱立される中、ある成金大富豪が山一つを巨大なリゾート地としようとした、その名残である。 ゴルフ場計画は環境保護団体の圧力で頓挫し、この近辺で最も巨大なテーマパークとなるはずだった場所は、コンクリートで均された地面と、幾つかの建造物を残して計画途中で資金が底を尽き、まともに形になったホテルでさえ、海外のファンドに二束三文で買い叩かれた。 尤も、その大富豪がある海外の裏組織から『いずれここには新幹線の駅が作られる』などと言った誤った情報を掴まされ、斡旋されたスポンサーには計画途中で軒並み資金を引き揚げられた挙句、残った廃墟同然のそれらの土地を恐喝とも取れる取引で買い叩かれたなどという話は、公には知られていない。 そのホテルの正面玄関の前、ドーナツの箱とコーヒーを傍らに駐車場の縁石に座る青年がいた。 大きく欠伸をし、右手の腕時計を見て、また大きく欠伸を一つする。 つまらなさそうにドーナツを齧り、縁石のヘリに置いたカップからコーヒーを啜る。 懐から文庫本を取り出し、数ページめくり、目頭をもんで肩をすくめる。 それから空をしばらく眺め、思い出したかのように大きく欠伸をし、右手の腕時計を眺める。 もう1時間も青年はその一連の動作を繰り返していた。 「…………いちじかーん」 誰に聞かせるでもなく、青年が空に向かってつぶやく。 そして、青年が大きな欠伸をし、右手の腕時計に目をやろうとした、ちょうどその時。 冷たい風に運ばれて、遠くから微かに風切り音が聞こえてきた。 普段では気にも留めないような小さな音ではあるが、周りを深い森に囲まれたこの場所では、いやでも耳につく。 青年が手に持ったドーナツを口にくわえながら、音の方向に目を向けると、小さな黒い点が徐々に大きくなってくるのが見えた。 最初はその小ささが故に気が付くことはなかったが、しかし。 その黒い点が豆粒大の大きさからソフトボールほどの大きさになって初めて、その異様さに気付く。 ヘリコプターだ。それもテレビ局などが中継に回すようなヘリとは比べものにならないほど速い。 それは青年の上空、300メートルほどの高さで制止すると、地上に向けて何かを落とした。 青年が目を凝らすと、それは背負っているリュックのようなものから花火の様に鮮やかな色をしたパラシュートを開き、青年が突然の出来事にただただ呆然としている間に、華麗な受け身を取って青年のちょうど真正面に降り立った。 そして優雅なしぐさで背負っていたパラシュートを駐車場に下すと、二、三度スカートを叩いてから恥じらうようにはにかんだ。 「申し訳ありません。開始時刻の変更のお手紙が届いたのが、その手紙で指定されていた開始時刻の30分後だったものですから、やむなくこのようなはしたない方法を取らせていただきました」 そういうと彼女は、スカートのすそをつまんで優雅にお辞儀をした。 「ご機嫌麗しゅう、わたくしは白鷺かふら(シラサギ カフラ)と申します。以後お見知りおきを……」 刃物のように鋭利な光を帯びた銀髪を二つに結わえ、夜のように暗いセーラー服を着た彼女『白鷺かふら』は艶やかにほほ笑んだ。 刹那、青年はその佇まいに心を奪われていたことに気付いた。 軽く咳払いをし、青年は自らの目的を意識の中に取り戻す。 「えー、と。流石に失格にはしないけど、どんな理由があろうと遅刻は遅刻だからね。この場合自分の不運とのろまな配達員を恨むといいよ」 「それはありがとうございます。ところで、あなたが今回の対戦相手の……」 「え!? いや違う違う、僕はしがない立会人、いわば裏方さ」 彼女の瞳の奥に浮かぶ怪しい光に気付き、青年は思わず大きな声で否定する。 理屈ではなく本能で、彼は目の前の成人もしていないであろう少女に警戒心を抱いていた。 まるで食虫植物のように、一度捉えられたら離れられないような。 暴力的な魅力のようなものが、彼女にはあった。 「それは残念……ところであなたのお名前は?」 「ドーナツ食べ夫…………」 「……………………………」 「…………偽名だよ」 「…………まあいいでしょう」 名乗りたくない一心で吐いた名前は、論外を通り越してギャグの域に到達していたが、幸いにも彼女はそれ以上の詮索を諦めた。 「それで、食べ夫さん。肝心の対戦相手『滕翦瑜(テン・ジャンユ)』様はどこにいるのかしら?」 青年は内心大きく安堵の息を吐いた。 とりあえず、これからは命令通りに言われたことを言えばいい。 「えー、と。それも含めて、今回の対戦内容、説明します。今回二人……といっても一人はすでにゲームを開始してるけど……にやってもらうゲームは『おにごっこ』です」 「『おにごっこ』……というのは、あの有名な遊びのことかしら?」 「まあ、あのおにごっこと相違ないモノと思ってもらって大丈夫。ルールは単純、一人は鬼となって他の人を追いかけ、相手の体に触れたら鬼の権利が移る。カウントするのは生身と生身の接触のみで、スタンドや衣類の上からの接触はカウントしない。鬼の権利が移って五分間は権利の移動は発生しない……まあ仕切り直しってことだね。勝利条件は制限時間が過ぎた時に鬼ではないこと。あ、あとフィールドはこのホテルの敷地内のみ。これより外に出た場合強制的に失格とします。えー、本来なら開始時刻に二人の中からランダムで鬼を決めることになってたんだけど…………」 そういうと青年は言葉を濁してかふらの方をチラチラとみる。 「遅刻のペナルティーとして、私の鬼番からスタート、制限時間は遅れた分の延長無し。つまりこういうことですわね?」 「いやぁ、ハハハ。理解が早くて助かります。えー、本来この『おにごっこ』の制限時間は三時間を想定していたので、残り二時間、それでは頑張ってくださいねー」 苦笑いを顔に張り付けながら、青年は逃げるようにその場を後にした。 しかし、それはかふらの事を恐れて……というだけではなく。 もうひとりの対戦相手、ジャンユのその能力ゆえでもあった。 (まあ、彼女…………白鷺かふら、だったか。もしこれが正当なトーナメントだったら結構いい線までいってたかもしれないけれど……) (うちの隊長の『ムーン44』の『実験』が始まったが最期、死んで終わればまだマシかもね) 豪奢なシャンデリアが煌々とエントランスホールを照らす。 草原の様に厚く、深さのあるペルシャ絨毯には高級そうな光沢を放つ皮制のソファーや、巧みな意匠の施されたテーブルクロスに包まれたテーブルが置かれ、すぐそばにはちょっとしたカフェも備え付けられている。 だが、その煌びやかな内装とは相反して、無人のホテルの中は張りつめた沈黙で包まれていた。 そのエントランスホールの入口付近で立ち止まり、かふらは高鳴る胸を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。 このトーナメントに、なんらかの不平等な介入があることなどかふらはとっくに看破していた。 第二回戦に遅刻させられるように仕組まれた手紙と、誂えたかのようなルール。 だが、かふらの抱いた感情は、怒りでも、悲しみでもなかった。 (ああ……スタンド能力だけでなく、このトーナメントを動かす『権力』までお持ちとは、一体どれほど強かな殿方なのでしょう……なんとしても、そのお顔を拝見したいものですわ……!) 興奮で震える自らの体を鎮めるように、かふらは強く自身を抱きしめる。 (ですが、先走ってはいけません……これほどまでに慎重な殿方、必ずそこかしこに罠を仕掛けているに違いありません……) 駆け出したくなる己の衝動を抑えて、かふらは五感を研ぎ澄ませ、一歩一歩絨毯を踏みしめる。 と、かふらはペルシャ絨毯の模様の間に、なにか白いモノが蠢くのを捉えた。 『キューン…………』 かふらは自身のスタンド『ティン・エンジェル』を絨毯の上に発現させた。 クリオネのように透き通った小さな天使は、毛深い絨毯の繊維、その一本一本に『癒着性』を与える。 絨毯と癒着し、身動きの取れなくなったソレをかふらが覗き込むと、それは白い一匹のネズミだった。 普通なら、無人のホテルにネズミがいた所で、何の疑問も持たないところではあるが、幼いころから『白鷺家』の跡取りとして英才教育を受けてきたかふらの知識は、そのネズミに違和感を覚えさせる。 (このネズミ、この季節のモノにしてはずいぶんと体毛が薄い……それによく見れば手足が妙に綺麗ですわね、まるで誰かに『洗浄』されたみたいに……つまりこれは野生のモノではなく、誰かが意図的に持ち込んだもの…………だとすればあるいはこの実験用のマウスがジャンユ様の能力の理解の助けになるかもしれませんわね…………) だが、時として知識があることが悪い方向に働くこともある。 もし、かふらが絨毯の上のマウスに意識を奪われていなければ、天井から微かな物音がすることに気付いただろう。 そして、さらに、天井に幾つも空けられた、不自然な穴にも。 絨毯の上のマウスを覗き込むかふらは、首筋に何かが落ちてきたことに気付いた。 そして『まるでさっきからそうだったかのように自然な』暴力的な左胸の痛みと、急に高山の頂上に放り込まれたような息苦しさにも。 息が苦しい、冷たい汗が額に浮かぶ。 指先がドライアイスを詰めこまれたように痺れる。 視界が暗くぼやけて、睡魔がかふらの首を絞める。 膝がガクガクと震え立っていられず、かふらは絨毯の上に倒れこみそうになった。 (…………ありえませんわ) (首筋に落ちてきたのは、恐らく絨毯の上にいるのと同じマウスでしょう) (で、あるならば) (このマウスの上に倒れこんで、マウスに触れるのだけは、ありえません!) 異常とも思える意志力で、かふらはなんとか足を支え、頭上を確認する。 天井には、明らかに人為的に空けられたであろう穴が等間隔に並んでいた。 痺れる手のひらに爪を思い切り食い込ませ、かふらは何とか冷静な思考を取り戻す。 (あの穴からマウスが落ちてきた……それはまず間違いない) (そして、このマウスに触れると私の体にダメージがフィードバックするということも) (私の『ティン・エンジェル』で天井裏に潜むマウスを全て『癒着させて』しまうのが恐らく一番の解決法でしょうが……しかし、隣接したモノ同士を癒着させる私のスタンドのスピードではあの天井まで能力をいきわたらせるには時間がかかりすぎる…………しかし……) (…………ああ! 思考が曇る!) 冷静な思考を取り戻してなお、かふらの呼吸はおぼつかない。 頭に新鮮な酸素が供給されず、靄がかかったように思考は空回る。 (まず必要なのは、隠れる場所です……頭上からの攻撃に怯えずともよい場所……) そして、かふらはエントランスホールにあるテーブルに気付く。 (あのテーブルのテーブルクロスの端を『癒着』してしまえば、マウスはそれ以上入ってこれないでしょう。そうすればあとは、天井にまで私の『ティン・エンジェル』の能力が浸透するまで待てばいい……!) よろよろと、満身創痍でかふらは歩を進める。 何度も暗転しそうな意識を、血が滲むまで手のひらに爪を立てることで奮い立たせつつ。 最初の一匹を皮切りに、まるで雨が降るかのようにエントランスホールにはマウス達が落下し続けていた。 恐らく、予め閉じ込めておいたマウスをリモコンか何かで解放したのだろうと、かふらは意識の片隅でそんなことを思う。 (あと、十数歩……、なんとかあのテーブルの下に潜り込めれば…………!) 願うような気持ちでかふらは安全を確かめるために頭上を見上げた、だが。 ちょうどかふらの真上あたり、退路すら塞ぐように五つの白い影が穴から覗く。 だが、このような絶望の淵に立たされようと、かふらの胸の内の高鳴りは止むことはなかった。 (ああ……、ああ……! なんと苛烈で、なんと容赦のない攻撃なのでしょう! 私にそれほどまでの熱情を向けてくださるなんて、なんと素敵な殿方なのでしょう!) (ああ…………あなたを愛してしまいそうですわ、ジャンユ様! あなたに会うまで、私も死ぬわけにはいきません……!) かふらは決して諦めることなどない。 なぜなら、自らを死に追いやるその攻撃が、愛ゆえだと盲信しているからである。 殺意も、悪意も、害意も、敵意も。 全てが自らに向けられた熱情であると、そう信じてやまないがゆえに。 むしろ死地であればこそ、白鷺かふらという人間は燃え上がるのである。 かふらは懐に忍ばせた匕首を取り出すと、一瞬の躊躇いもなく、その刃先を自らの首筋に向けた。 そして、その刃先を下に勢いよく滑らせる。 かふらの纏っていたセーラー服が胸元から真っ直ぐに切り裂かれた。 そして、そのセーラー服の裾から素早く腕を引き抜くと、そのセーラー服の下に滑り込むように身をかがめ、襟をつかんで頭巾の様に頭にかぶり、渾身の力を込めて勢いよく踏み出した。 マウスが何匹も頭上から落ちてくるが、勢いよく脱がれたセーラー服に阻まれ、かふらの体に届くことなく一度弾んで絨毯の上に落ちる。 そして、渾身の力でかふらはテーブルクロスの中に自らの体を投げ込み、そして『ティン・エンジェル』の能力で端を絨毯と『癒着』させた。 …………だが、しかし。 かふらは勢い余ってセーラー服の下に来ていたシャツまで切り裂いていた。 無論、あの局面でそんなことを考慮し、少しでも動作が遅れていたら、何匹ものマウスに触れ、恐らく致命傷となるダメージを負っていだろう。 それ故に、かふらの上半身は上品な黒いブラジャーのみとなっている。 そして、そのむき出しとなったお腹の下に、かふらは確かに生物の拍動を感じていた。 確かに一度端を癒着してしまえば、テーブルクロスの中にマウスが入ってくることはないが。 元々、テーブルクロスの下にマウスが潜んでいれば話は別である。 ストン、と。 かふらの体を支えていた右腕に力が入らなくなり、かふらは絨毯に頭を強かにぶつけた。 現状を確認しようとかふらが体を起こそうとしても、頑なに右手は言うことを聞かない。 「あ、ああ…………!」 そして、かふらは自らが受けたダメージに気付く。 かふらの右ひじより先は、まるで手術で切り取ったかのように縫合跡を残して消え去っていた。 しかし、右腕を失ったかふらが思ったのは絶望ではなく。 受けたダメージが致命傷ではないという安堵であった。 『キューン……』 『ティン・エンジェル』の『癒着』の能力が天井にまで浸透する間、かふらはゆっくりと息を整える。 かふらは現状を悲観的には考えず、むしろこの状況を楽観的にとらえていた。 先ほど自らの腹で潰してしまったマウスの死体を左手の匕首で器用に解剖しながら、かふらは思考を組み立てていた。 (このマウスがテーブルの下にあったのはむしろ好都合だったかもしれませんわね……ジャンユ様の能力の正体は恐らく『状態の同期』、いや、この場合『状態の感染』と言った方が適切かもしれませんわね……) (このマウスは、私と同じで右腕が途中から手術によって切り取られていた……もしやと思い腹を切り開いてみたら案の定、マウスの死体には右腕と同じように手術によって、いや、手術によるものと同じ『状態』で、左の肺が欠損していた…………もとからこのマウスが私の現状と同じく右腕と左肺が欠損していたとは考えにくい。ならば考えられる結論は一つ) (最初のマウスに『左肺が欠損した』状態を感染させられた私を通して、この『右腕が欠損した』マウスに『左肺の欠損』が感染した…………これがジャンユ様の能力、であるならば、もしや…………いえ、これは今考えることではありませんわね……) (状態を感染させることができるのは、おそらく『生物』から『生物』のみ……だからこそ一匹のマウスで私に致命傷を与えることは不可能だった…………しかし、今の私では話が変わってくる) (もしも、『右肺が欠損した』状態になっているマウスに触れてしまえば。こんどこそ確実に、私は死に至ることでしょう) (その上、左肺を切除され、数日しか経っていないという、本来であればリハビリが必要であろう状態を感染させられた私では、制限時間内でしらみつぶしにホテル内にいるジャンユ様を見つけるという行為は得策ではない…………ならば) 『ティン・エンジェル』の癒着が天井まで行き渡ったことを確認して、かふらはごそごそとテーブルの下からはい出した。 かふらがテーブルの下からはい出して、次に訪れたのは階段でもエレベーターでもなかく、洗面所だった。 マウスが物陰に潜んでいることを警戒し『ティン・エンジェル』を発動させつつ、かふらはゆっくりと洗面台に近づき、ゆっくりとしゃがみこんだ。 「洗面所にへたり込むような不潔な真似はしたくないのですが……仕方ありませんわね」 そう誰にともなくつぶやくと、かふらは洗面台の下の、むき出しになった冷たいパイプに自身の耳を強く押し付ける。 『キューン……キューン…………』 半透明の天使が音もなく発現し、かふらの耳にちょこんとその小さな手を置いた。 すると、徐々にかふらの形の整った耳がパイプに沈み込んでいく。 いや、正確には、まるで異なる絵具を混ぜ合わせているかのように、かふらの耳の肌色が染み出し、金属光沢を放つ銀色へと変化しだしていた。 ____『ティン・エンジェル』の能力は『隣接した異なる二つのモノを癒着させる』能力であり。 そして『接着』ではなく、『癒着』であるということは。 その能力の本質は『異なる二つのモノを、一つにする』という能力である。 強く押し付けられたかふらの耳は金属のパイプと一つになり、かふらはそのホテルに張り巡らされた水道管を、まるで自身の『鼓膜』であるかのように扱ってホテル内の様子を聞き取っていた。 そして、かふらはホテルの最上階、地上10階で。 マウスのモノとは異なる拍動を確かに聞き取った。 かふらは能力を解除してパイプから耳を離すと、艶やかな笑みを浮かべた。 恋い焦がれた彼を見つけたように。 獲物を見つけた魔物のように。 「ああ…………ジャンユ様、今、お傍に参ります……っ!」 ジャンユはホテルの最上階で退屈そうに時計を一瞥し、大きく伸びをした。 指定された制限時間まであと15分を切り、ジャンユはほとんど勝利を確信していた。 (しかし、この時間になってもホテルの敷地外から出る『棄権』扱いにならなかったことを見ると、お相手さんはどうやら『コンボ』をくらって死んじゃったかね) ジャンユの能力では、ある程度共通の要素を持つ相手同士でしか『状態の感染』を発動させることが出来ない。 例えば『無生物→無生物』であったり、『生物→生物』であったり。 同じ生物にしても、ハエと人間と言った、極端に体の構造が異なる生物同士での状態の感染は行われない。 そのため、マウスの死体に触れた相手に『死』を感染させることは不可能であるため、どうしてもマウスには『致命傷』を与えることが出来なかったということである。 ジャンユの言う『コンボ』というのは、例えば『右肺の欠損』と『左肺の欠損』を同時に食らうことであったり、『肺炎』と『エイズ』を同時に食らうことであったり、つまりは相手をそれ自体で致命傷たり得ない要素を同時に感染させることによって致命傷を与える『組み合わせ』である。 ジャンユはホテルの全フロアに、均等にこれらの『感染源』たりえるマウスを放していた。 (ま、確立としてはそんなに高くないし。本来のもくろみ通り四肢欠損と重病が重なってどこかのフロアで動けなくなってるくらいなもんでしょ) ジャンユはあえて人を殺そうはしないが、それは優しさ故ではない。 長年の経験と習慣から無意識に、そうすることが一番『効率がいい』事を知っているからだ。 例えば、『ディザスター』が人間の被験体を村ひとつ分ほど欲しがったとする。 そういうとき、すぐに『感染源』を殺してしまえば、それ以上『感染』は広がることはない。 苦しみ、生き続ける人間こそが最も有効な『感染源』となるが故に。 人情ではなく、効率で。 人を殺すことを忌避するでもなく、歓喜するでもなく。 人間の死すら一種の『状態』と捉えているジャンユは殺人にすら興味がなかった。 退屈しのぎにテレビでも見ようとリモコンに手を伸ばしたジャンユは、ふと違和感に気付いた。 座っている椅子から立ち上がることが出来ないのだ。 まるで、何物かに『張り付けられた』かのように。 「ああ…………ようやく、ようやくお目にかかれましたね。ジャンユ様」 顔を上げると、窓の外、ベランダに半裸の少女の姿があった。 右腕は欠けており、胸には無残にも縫合跡が走っている。 だが、その欠損すらも妖しさに変えてしまうようなそんな不思議な魅力を持った少女。 その顔には、恍惚とした笑みが浮かんでいるが、瞳の奥に灯る光は暗く淀んでいるように見えた。 彼女はゆっくりと窓を開けると、部屋に入り、スカートの裾を摘まんで丁寧にお辞儀をした。 「ご機嫌麗しゅう、ジャンユ様。わたくしは白鷺かふらと申します。以後お見知りおきを……」 極度の疲労か、それとも興奮が故か。 異様に震える声色で、かふらはジャンユに名を名乗った。 その対戦相手を眺めながら、ジャンユは胸中で嘆息した。 仕掛けた罠は見事に掻い潜られ、自分はどうやらゲームに負けたようだと自嘲した。 あーあ、これで今回も………… 「おいおい参ったな。まさかあのマウスの中を抜けてここまでやってくるとはね……恐れ入ったよ」 「いいえ、ご期待に沿えないようで申し訳ないですけれど、私が通ったのは正規ルートではありませんから……」 うつむきながら頬を染め恥じらうかふら。 これが普通の場であれば可愛らしい仕草だとジャンユも思っただろうが、今この場所ではただただ異常だった。 「えーと、とすると君は一体どうやって…………」 「ああ……それは、もちろん。壁を伝って登って参りました」 事もなげにそう口にするかふらだったが、しかし語られた内容は想像を絶するモノだった。 外見から察するに、彼女は右腕と、おそらく臓器の欠損に『感染』している。 『ディザスター』から下りてきた情報によると、彼女の能力は『モノを貼り付ける』能力。 確かに壁を登るに適した能力に思えるが、所詮はパワーのない遠隔操作型のスタンドであり。 壁に貼り付く助けにはなっても、登る助けにはならないはずである。 「……するとだ。かふらちゃんはこの地上十階まで左手一本と両足だけで登ってきたってことか!?」 「ええ、途中で何度か意識を失いそうになりましたが……」 そういうと、かふらは艶やかな微笑みを浮かべて、ジャンユの目を覗き込んだ。 淀んだ瞳の奥に、狂気に燃える光が宿っていることに、ジャンユは気付いた。 「ジャンユ様に会うためだけに、力を振り絞ってここまで参りました」 (おいおい、聞いてねぇぜ。確かに『キレちゃってる』女の子とは聞いていたがよ…………) ジャンユは背中に冷や汗をかくのを感じた。 一秒でも速く決着を着けないと、確実にまずいことが起こると彼の本能が知らせていた。 「やれやれ、敵わねえな。これ以上抵抗しても無駄そうだ…………」 胸中の動揺を隠しつつ、ジャンユは手筈通り、肩をすくめて彼女に手を差し出した。 まるで諦めたかのように、草臥れた笑みを顔に張り付けつつ。 「俺の負けだよ。ルール通り、タッチして終わりにしようや」 瞬間、ジャンユは全身の血液が凍りついたかのような錯覚を覚えた。 恥じらうような笑みを浮かべていたかふらが、その言葉を聞いた瞬間。 表情を全てはぎ取られたかのような、無機質な表情へと変貌したからだ。 先ほどからは想像もつかないような、冷たく、硬質な声色で、かふらは言った。 「ええ、タッチする前にあなたを殺して、それで終わりにいたしましょう」 「…………………………え?」 「ふふ、もう一度言いましょうか?」 口元に微笑みの残滓を浮かべて、彼女が嗤う。 その眼からは淀んだ熱情の光は完全に消えて。 代わりに暗く冷たい深海の底の泥のような瞳が、ジャンユを見据えていた。 「……おいおい、なんで殺す必要なんてあるんだよ!? なぁ! こんなもんただのゲームじゃねぇか! 命の駆け引きがあるわけでもねぇだろぉが!!」 「ふふ、おかしいですわね。たった今あなたは、私を殺そうとしたはずですのに」 「ッッ!!」 図星を突かれて言葉に詰まったところを、かふらが流れるように畳み掛ける。 「この試合は最初から出来レースだったことは理解していました…………そして、あなたの能力。生身同士の接触をトリガーとして相手に『状態を感染』させるこの能力に気付いたときに、私はある仮説にたどり着いたのです。『タッチは生身と生身の接触に限る』。このルール自体がすでに私を必殺の間合いへと引き寄せる罠なのではないかと…………しかし、これはあくまで仮説。ですが、もし『ジャンユ様が抵抗することなくタッチさせようとしたら』そのときは……」 ジャンユは思わず歯ぎしりをした。 必勝のはずのこのゲームを、目の前の少女に完全に見透かされている。 『ディザスター』の『実験部隊』隊長である彼は、自身を特注のウイルスに罹患させていた。 『ムーン44』の最大の弱点、その殺傷能力の『遅行性』をジャンユは当然理解していた。 しかし自身が『本人以外を確実に殺す』病魔に侵されているのであれば話は別である。 彼は『実験部隊』隊長の権限を最大限活用し、彼以外のDNA情報に反応し活性化するウイルスを生み出していた。 その『即効性』はまさに一瞬であり、一度『感染』させてしまえば、銃弾より速く人を殺す。 「ああ…………全く、残念ですわ。私の全てを奪おうとなさるなら、全身全霊を賭して向かってきてくださらないと……戦うことをしようとしない殿方には、一片の価値すらありません」 「…………『ムーン44』ッ!」 ジャンユはなりふり構わず自身のスタンドを発現させた。 いくら近接向けのスタンドとはいえ、かふらのスタンドは所詮パワーの無い遠隔操作型だ。 自身は椅子に張り付けられてはいるものの、かふらをスタンドの一撃で葬り去ってしまえればそんなことは問題にならない。そう見越しての奇襲だったが…… 「ふふ、もう少し早くその熱情を見せていただければ、私の心も変わっていたかもしれませんわね」 気の利いた冗談を口にしたかのように、かふらが柔らかく笑う。 渾身の力を込めて打ち込んだ『ムーン44』の一撃はかふらに届くことはなく。 ヴィジョンがジャンユの体から離れることなく、拳は空を切ったのみだった。 「私の『ティン・エンジェル』の癒着は、スタンドパワーすら例外ではありませんから……」 ジャンユはかふらのその柔らかい微笑みに、初めて絶望した。 自身の死という現実が、初めて重みをもってジャンユを襲う。 (俺を殺せば『ディザスター』が黙ってないぞ!) そう口にしようとしたジャンユだったが、しかし舌が口内から離れることはなく、ジャンユの口からは無様なうめき声が上がったのみだった。 何時しか瞼は降りることなく眼球に貼り付き、指の動きもおぼつかなくなってきていた。 思考は靄がかかったように曖昧になり、視界は白に染まりつつある。 どこか遠くの方から、かふらの声が聞こえてきた。 「ふふ、私の『ティン・エンジェル』の能力の本質は『異なる物を一つにすること』。床と椅子が、椅子とズボンが、ズボンと肌が一つになれば、次は肉体の内側ですわ。舌は口蓋に貼り付き、骨と骨は一つに繋がり、血流は滞る。そして最後には、体の中枢、心臓の弁がぴったりと癒着いたします。あとに残るのは人の形をした肉の塊のみ。ああ、ジャンユ様、もう私の声すら届いては…………」 そして、ジャン、ユ、は、、、 ★★★ 勝者 ★★★ No.6754 【スタンド名】 ティン・エンジェル 【本体】 白鷺 かふら(シラサギ カフラ) 【能力】 接触する二つのモノを徐々に癒着させる オリスタ図鑑 No.6754 < 第12回:準決勝② > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/dangerousss2/pages/113.html
考察(by ゆとりのぽこぺん) 魔人墓場の日常―こんな謎の声は嫌だ編その3―(by しらなみ) ぽこぺんが書いたHなSS『陰毛スレイヤー・マッチング編』(by ゆとりのぽこぺん) 安全院・綾鷹の人間関係②(by しらなみ) ぽこぺんが書いたHなSS『陰毛スレイヤー・決戦編』(by ゆとりのぽこぺん) ぽこぺんが書いたHなSS『陰毛スレイヤー・レズプレイ編』(by ゆとりのぽこぺん) 考察(by ゆとりのぽこぺん) これは肉皮が敗退してから奪衣婆になるまでの間の話 『考察』 「ああ、負けたかー。うん、アレは無理ゲーだわ」 霊的肉体を失い、奈落の奥底にて再び思念のみの存在となった肉皮。 どうやって勝つか、どうすればあの声の主に愛されるのか、もし優勝した場合 あの人の傍に居続けるにはどうすればいいのか。そのような考えから解放された彼女は 以外にもすっきりとした様子で新たな事を考え込んでいた。 敗退後は声の主への執着も薄らいでいる。もう自分には興味を持たないだろうという諦めからだろうか。 「あの子の事は生き残った獄卒に任せるしかないから…と。 そもそもこの冥界の大会の選出基準は何なのだろうね」 肉皮は基本に立ち戻ってこの現象を引き起こされたことへの動機を考察し始めた。 もう戦略を練る必要もなく、時間もいくらでもある敗者だからこそ考えられる事だ。 「今回の選出された27名で気になる事、それは彼らがある法則によって2種類に分けられる事だ」 肉皮は全員が一つの空間に揃った時の事を思い出し、脳内の彼らを二つにグループに分けていく。 「記憶の無いリーマン、記憶の無い少女、手首だけの女子高生、首だけの女、 体内厨房が損壊しているラーメン野郎、自分の死因を知らない少女。 そう、死亡時に大切なモノが欠けており不完全な状態での参戦者が多過ぎる」 肉皮が気づいた違和感、それは参加者の中に完全状態で無い人物が多過ぎる事。 「様々な強者同士の殴り合いが観たいなら、完全な状態に戻してから行うはず …いや、ひょっとしたらこの大会の目的がココにあるって事?」 「車星人に戸次にキョスエといった規格外の怪物達、地獄の環境による外部からの刺激、 これらを乗り越える事は欠損者達の記憶や肉体を取り戻す為に用意されたのかもしれない」 ここまでの話は全て肉皮の妄想である。しかし、欠損部位がある彼らは地獄の環境や 一回戦の強敵との戦いの中急激な成長を見せたり己を取り戻している事も事実。 しかし、だとすると。 そうだとすると参加者の中でも下の方の戦力であり、肉体や記憶に欠損も無く 参戦動機も最初は存在しなかった自分は―。 肉皮リーディングが声の主に魅了されこの度の戦いに連れてこられた理由はただ一つ。 「ハハハ、私は記憶を引き出すためのアイテム役だったのか。 最初から私の優勝はあの方に期待されてなかったんだ」 戦闘中に彼女の能力を使えば、記憶に問題のある参加者が答えを得る時間が 大幅に短縮されるのは間違いない。幸か不幸かそういった相手と当たりはしなかったが。 「それにしても安全院」 考察の過程により、肉皮は彼の二回戦前の行動の意図に気づく。 「アイツ私との勝負を避けたいフシがあったけれど、あれは私が相手だと 苦戦するかもというのもあるけど、私を相手にする事での自分の記憶と 向き合うのを恐れていたというのもあったのかもね」 富豪達の愛人として裏世界を渡り歩いていた肉皮は安全院という男について ある程度の噂は聞いていた。顔合わせは魔人墓場が初めてだが、 所属する組織を通じて間接的に敵同士にも味方にもなった事もある。 彼について様々なエピソードがあるが共通している事項が一つ、彼は酷い嘘つきなのである。 相手を心配する素振りを見せながら無情に破滅に追いやり、遠慮しがちな顔で報酬を独り占めする。 「墓場で見たアイツは『困ってる人の力になりたい、後出来れば自分の記憶も取り戻したい』 そんな風だったわね…。ふん、あいつの本音は『忘れた記憶と向き合いたくない、自分第一』でしょうよ」 安全院を辛辣に批判する肉皮。 戸次にやられたのは半分は彼のせいだと確信している故の意地悪であるが あながち間違ってないとも思っている。 「もしアイツと私が戦っていたら、戦場で能力使用可能になった私がアイツの頭を覗いたら、 映る最愛の存在は誰なのか、そしてその女性とアイツの関係がどの様に表示されたのか…」 考察はここで停止する。二回戦マッチング以降の情報を得れない肉皮が推測できるのはここまで。 これ以上はこの先の結果に対する陳腐で的外れな意見になってしまう。 「まあこのネタでの妄想はこのぐらいでいいか。次々」 大会意図の考察と安全院の意思の予想を切り上げる。 今度はもし自分が神奈と戦っていれば凄い絵面になっていただろうという妄想に沈んでいった。 きっとあのバカビッチならこっちの能力が割れていようが「オラー!変身しろー!オケケー!」 と自分から引っかってくれるだろう。なんというチョロさ。 そんな事を考えながら肉皮は意識体ライフをエンジョイしていた。 魔人墓場の日常―こんな謎の声は嫌だ編その3―(by しらなみ) …九つの魂が、消え、残る灯りは五つのみ… ―冥界第2回戦終了後― 謎の声 「────── ────── ──────闘争を選びし亡者達よ―」 (ジャラジャラジャラ) 闘争を選びし亡者達。 「北、ポン!!それはオレの風~鳴りやまぬオレの風」 「”当たる・な”リーチ」 「それ通らないっす。リーチ一発スグ美味しい麺タンドラ1の8000」 「兄さん、ラーメンが抜け切れてない、抜け切れてない。」 「…ん、ベッキーてめぇ、実は毎回国士無双狙ってないか?」 「無論。」 (全員、ガン無視) 謎の声 「──────…」 謎の声は仲間に入れてもらいたそうにもじもじしているゾ! なんかヤバイ!慌てる司会者3名。 弑「さあさあ、」 葬「こっちで僕たちと一緒に一局どうですか!?」 沈「ホントはサンマがいいんだけどね(空気読み人知らず発言)」 そして紅一点。 「ふむ、どうも私だけ手持無沙汰だな…。…手がないだけに」 「(ドドドッ)じゃ、俺が代わりに揉んで差し上げるッす。とりあえずそのお胸を。」 「(ドゲシッ)それをいうなら肩だろ。」 かくして闇は深けていく。これは準決勝前のとある一幕…なのかなぁ。 ぽこぺんが書いたHなSS『陰毛スレイヤー・マッチング編』(by ゆとりのぽこぺん) ここはごく普通の剣とラーメンのファンタジー世界…。 物語はネオサイタマ、カワゴエ・ストリート内の地獄から始まる…。 「私はクソレズ!」 「ちょっとした事故で地獄に落ちた私は生き返りを賭けた トーナメントに参戦し優勝して現世のあの子達をレズったり 大会中に参加者のあの子達をレズったりを夢見ていた!」 「でも一回も最後までオケケ剃ってからのレズ行為完遂出来ず 二回戦敗退となってしまった!ショッギョムジョウ!」 誰も居ない無間地獄の闇の中で心の声をダダ漏れにしている亡者。 このクソレズの名はタテイス・カンナ=サン。 「あー、野試合のオファー来ませんかねー、それもJKキボン」 「その希望、叶えようではないか」 「だ、誰だっ!」 デーーーーン 突如闇の中におどろおどろしい老人の顔が浮かび上がる。 「あ…貴方は、ジード・ジャスキー先生!」 「そうだ、私じゃ。話は聞かせてもらった。あの三兄弟が野試合を プロデュースしているらしいからのう、ワシもやってみたくなった。 てなわけでお前を野試合に招待してやろう」 「是非お願いします。カンシャ!」 「クックック、だが、タダで野試合できると思ってるのか?」 「なにい!」 「参加料350円です」 「はい、350円」 神奈はポケットに入っていた小銭入れから350円出して先生に手渡す。 今どきのJKはスイーツ分補給の為にポケットに小銭を入れていたり メイク直しの為に使いきりの化粧品セットを入れてたりするものだ。 地獄に来た際も所持品として加えられていた事が幸いした。 「よろしい。では案内しよう。決戦のバトルフィールドへ!!」 ジード・ジャスキー先生がそう叫んだ途端、神奈の身体から落下感覚が消失し、 久しく忘れていた地面を踏む感触と1Gの重力が戻って来た。 「ここは…河原?地獄だから賽の河原だね。で、私の相手は…」 キョロキョロと周囲を確認する。 既にジード先生は消え去っている。代わりに見慣れた黒マントを着た奪衣婆が こちらを見据えていた。たしかあれは参加者の一人、肉皮の着ていたマントだ。 「アイエエエ!オカマイル!ナンデ?チェンジ!」 「人を見ていきなりそれかい。失礼ねえ。それと私は只の立会人役さ。 アンタの相手はあっちで待ってるよ」 奪衣婆にしては若い、マントの人物が示した数メートル先、 岩陰からこっちを見ている少女が居た。 十代後半の巨乳の女の子の外見、大当りである。 「イエス!ストライクゾーンカモンっ!ぶっちゃけ二回戦はあんたとやりたかった! 右乳首のオケケ、じゃなくって右手首の怨念=サン、宜しく!」 「ごめんなさい、違うんです。私は右手首の怨念なんかじゃないんです」 「はい?」 自らの名前を否定した事に首を傾げる神奈。 右手首の怨念が岩陰から全身を見せた時違和感に気付き、彼女の言った事の意味を それとなーく理解する。 神奈が知る右手首の怨念と目の前の彼女、瓜二つだが明らかに違う点が二つ。 彼女は相棒とも言える二本の刀を持っておらす、そして選手登録名であり 能力名でもある右手首の怨念としても意味を失っていた。彼女には完全な実体があったのだ。 数式にすると『右手首の怨念-日本刀×2+手首から先の実体=普通のJKの霊体』である。 「な、何があったの?すっごく普通の霊体に見えるんですけど、たまんねえ!」 「うう…アンゼンイン=サンが私の事を…くすん」 「オッケイ、辛いならそれ以上言わなくていい。おのれ、あのオッサンめ。 イタイ毛な美少女をこんな姿にしやがって、おかげでさわり放題ですありがとう!」 グッとガッツポーズする神奈。もしこれが野球ならガッツポーズだけで5点ぐらい 入りそうなぐらいの渾身のガッツポーズだった。口からヨダレ股間からカンナを ドロドロと零しまくり戦闘準備オッケー。 「さあ、勝負の前にオジギと挨拶っ…所で今のアンタの事何て呼べばいいの?」 「そうですね…、では『騙りし者』とでも」 「はーい」 右手首の怨念ではない新たな呼び名も決まった所で二人は距離を取り自己紹介とオジギをする。 「ドーモ、カタリシモノ=サン。カンナデス」 「ドーモ、カンナ=サン。カタリシモノデス」 【野試合・賽の河原】 舘椅子神奈(気力150) 対 騙りし者(素手) プロデュース:ジード・ジャスキー先生 立会人:黒マントの奪衣婆 『陰毛スレイヤー・決戦編』に続く 安全院・綾鷹の人間関係②(by しらなみ) ―九つの魂が旅たち、再び現れた時、5つの灯りのみを残し消え去っていた― その5つのうちの二つ。夜魔口組の片割れ、夜魔口工鬼が盗み聞きした 比良坂三兄弟と次の対戦相手のやり取りを断頭に報告する。 「安全院が比良坂兄弟とのやり取りで確認してたのは以下の2つっす。」 1)勝利条件の確認 ⇒夜魔口2名とも対戦相手とみなす。両名が戦闘不能または戦闘放棄になった場合勝利。 (地獄特有条件を利用してもギブアップなければ駄目だよ!) 2)生者復活の権利委譲は認められるか? ⇒「最後に残った者のみ」(テンプレ回答)で回答あいまい回避 「ふむ」 本来なら腕を組み手を顎に手を掛け考えるポーズをしただろうが、あいにく彼女には両手がない。 僅かに首を傾けるだけで済ました。 (生き返らせるのは”最後に残った者”のみか。『決勝で勝った者』『優勝者』と いわないあたり相当にいやらしいな。恐らく次で終わりでない…もうひと波乱ありそうだ。 …いやここで重要なのは安全院が何故この場面で確認したのかということ。 どういう意図だ。) 考え込んだ断頭とは対照的に工鬼がお気楽に声を上げる。 「意外っすね。てっきり2VS1は不公平だって何癖つけ始めるかと思ったらそのまんまですもん」 「今更、変更なんかしたら『オッズ』が大幅に狂うからな。 運営側がそんな話を受けるはずない。その辺のことは安全院だって想定内だろう」 「オッズ???」 不思議そうな顔をした工鬼に軽く舌打ちをする断頭。 「あのな。まあいい…こないだ、どこからか入りこんで試合情報を外部に持ち出そうとし 『絶対秘密厳守です!!』って大目玉くらってた御嬢ちゃんいたろ?」 「いましたねー」 「そこで問題だ。絶対秘密厳守の情報漏らされそうになった場合、夜魔口だったらどうする?」 「刻んで沈めて東京湾の魚の餌にします。」 「正解だ。だがなぜ連中はそうしない?」 考えた振りをする工鬼。サドでゲイだからという理由でないことは確かだ。 「そいつが客だからだよ。この”秘密の”ファイトクラブのな。」 「あ。」 「殴り合い、殺し合いって古今東西、表裏関わらず、大人気の見世物だ。金持ちどころか 神々でさえ熱狂する。そして賭けを通して莫大な金が動き、胴元に莫大な利益が舞い込む 打ち出の小槌でもある。うちらの大事な”しのぎ”の一つだ。可能性として頭の中に きちんと入れておけ」 「すいません。」 「実際この線だと思うんだが…毎回マッチングしている件もエンタメ路線優先もこれなら 説明が付く。」 問題は連中に参加者を生きて返す気があるかどうかだ。死人に口なしという諺はここでは 通用しない。皆既に死んでいるから。。 (さてブレードランナーとでるか未来世紀ブラジルとでるか) 「他に何かあるか」 「あ、あと一つだけ。24のつぶらな瞳で補選から2回戦まで通して見てて、うちの アマゾンが気がついたんですがね」 「気づいたのアマゾンなのかよ。なんで一番キワモノのキャラ付けが…で言ってみろ」 「安全院のヤツ、…で…なのに…ですよ。まあそんだけの話なんですがね。」 「あ。」 断頭もこの件、気づいていなかった。 見落としは誰にでもある。だが、さて、これは…。 ††† 一方の安全院綾鷹は確認すべき内容を確かめると三兄弟との話を打ちきり、元の場に戻る。 今回の地獄はボーナスチャンスもありますよ、お楽しみに!と三兄弟から暖かい(?) 声援も受けていたが、これはとりあえずスカッと無視する。 (”シンカ”に汚染されてた肉皮リーディングとの戦いは回避できたが、 今度は夜魔口の二人組か…かなり不利だな。というか) 頭の中でのシミュレーションの結果はどれも芳しくなかった (『奥の手』を使えば勝てるんだろうが、決勝用だったよう気がするし、さてどうする) …か、といいかけてふとあることに気づき、口に出して呟く。 「コイツは凄いな…」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (『奥の手』がなんだったかを思い出せない、どんな酷いJOKEだ。) 見落としは誰にでもある。だが、これはあまりにBLACK過ぎて笑えない、 非常に性質の悪い冗談だった。 (この流れだと、次の試合十中八九負けだな。何かきっかけがない限りは。) 案の定、彼の予感は的中する。 ぽこぺんが書いたHなSS『陰毛スレイヤー・決戦編』(by ゆとりのぽこぺん) ピシャアアアン! 画面が光り、暗転後戦闘モードへと移行する。 カタリシモノが現れた! 「イヤーッ」 カタリシモノが居合の構えから水平チョップを放つと小規模の爆発が カンナの足元に発生した! カタリシモノのキナセジゲンリュウ・ギガデスフレアのジツ!! カンナは8%死に近づいた! 「フィーヒヒヒ!そんなものかぁ!」 「くっ、やはり素手では…」 「今度は私の出番だ、イヤーッ」 カンナは両手でアソコを締め付けビーダマンの要領で強烈に鉋を発射した!! 「アーン!」 これぞカンナのワザ、ウルトラブルカンナホウ!! カタリシモノの霊子を13465938362g削り取った!! 「グワーッ」 カタリシモノを倒した! カタリシモノの肉(性的な意味で)を手に入れた! 「フィーヒヒヒ!カタリシモノ=サン、勝者特権としてその身体自由にさせてもらうわ」 「くっ…身体が動かない…、私は、キナセのジツがこんな所で…」 「あーそうだ、犯す前に一句詠ませてあげるね。どうぞ」 カタリシモノは1分近く考えた後、自分の心情を乗せた俳句をひねり出した。 『我は地へ アキカンは野へ 剣は無し』 「ではっ、いただきまーす」 ズルリッ、スカートと下着を一気に下ろす。 「おおー、これは素晴らしい。正に私の理想のアソコではないですかー素敵!」 「そ、そんなにまじまじとみないで」 カタリシモノの下半身は、剃りがいのある太い毛が臍の下から 肛門の周りまでびっしりと並んでいた。それでいて適度に隙間が空いていて 剃る前からアソコが透けて見える。濃すぎず薄すぎず理想の陰毛のラインがそこにあった。 「今綺麗にしてあげるからね、大丈夫、動かなければ痛くしないから」 「空兄…助けて…」 『陰毛スレイヤー・レズプレイ編に続く』 ぽこぺんが書いたHなSS『陰毛スレイヤー・レズプレイ編』(by ゆとりのぽこぺん) シャアアアアアーーーー 本来陰毛を剃る為のものではないにも関わらず、 鉋はカミソリよりも優しく肌を傷つけずにアソコをツルツルに仕上げた。 これも変態性により磨かれたワザの賜物である。 「アイエエエ!インモーナイ!スースー!」 「大丈夫よカタリシモノ=サン。すぐ気持ちよくなってそんな事気にならなくなるから。 フィーヒヒヒ!!フィーヒヒヒ!!」 ぬちゃり カンナのフィンガーテクが無毛の割れ目を責め立てる。 「アヒィ、凄いッ、オカマッ」 カタリシモノの股間から白い肉棒がピーンと生える。 「…アバ?」 首をかしげ、カタリシモノの股間に生えた10センチ程の肉棒を凝視し触って見る。 柔らかいながらも熱く脈打ち、頂上の孔からは白い液体が垂れ落ちている。 カンナがその液体を掬って舐めると苦い味がした。 「この味間違いなく精液、ということはこれはチンコ。…」 「…」 「…」 無言でしばし見つめ合う二人。やがて事情を把握したカンナは突如吐き気に襲われる。 「アバーッ、オカマ!というかお前は肉皮!」 「その通り、イヤーッ!」 髪の毛に隠した暗殺用のペンがカンナの額に刺さる。 頭蓋骨で止まったがKOには十分な衝撃が脳に伝わった。 「グワーッ」 「はい、野試合私の勝ち。ホントちょろいわねあんた」 「し、質問がある!5~6個程!!」 「うん、答えてあげる」 カンナ=サンの突っ込みたい事、それは恐らくこれを読んでる読者の思いとほぼ同じ事だった。 1.カンナ=サンの思い人はプロフィールの上では他に存在するのに、 何故ニクカワ=サンはオンネン=サンに変身出来たのか? 2.変身能力では戦闘力は変わらないのに、どうやってキナセのジツを使ったのか? 3.対戦相手のお前が肉皮ならあの立会人の肉皮らしき若い奪衣婆は誰なのか? 4.というかこの勝負肉皮側だけ下準備万端で不平等だ。 5.こんな勝負をマッチメイクしたジード・ジャスキー先生は何考えてるのか? 「その答えは…次回のおたのしみよ」 「アバーッ、『陰毛スレイヤー・真相編』に続く!ここまで読んでくれてカンシャ!」
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/175.html
第17回トーナメント:準決勝① No.4082 【スタンド名】 クレセント・ロック 【本体】 藤島 六郎(フジシマ ロクロウ) 【能力】 殴った場所からロケットを生やす オリスタ図鑑 No.4082 No.5002 【スタンド名】 ブレイク・フリー 【本体】 相羽 道人(アイバ ミチト) 【能力】 触れたものの「束縛」を解放させる オリスタ図鑑 No.5002 クレセント・ロック vs ブレイク・フリー 【STAGE:商店街】◆Vsyfe2xP/6 ───その少女は、とんと光沢を失った暗い瞳を彼方の夜空へ向けながら、一人商店街のアーチ横にある西洋風の街灯の下に佇んでいた。 時刻は既に深夜の12時を回っていて、ほど近くに新幹線も通っている駅があるにも関わらず、周囲に人の気配は感じられない。 だからこそ少女の存在は異質であった。 カエルの姿を模している、流血表現や頭に突き刺さるナイフの装飾など、グロテスクなデザインが印象的な縫いぐるみをか細い腕で潰れるほど強く抱き。 素人目にも高級品だと判別できる漆黒のドレスをその華奢な体に身に纏う。 背後の黒に、つい最近原因不明の火災によって焼け落ちたという通りの闇に溶け込むように。 「……星」 ふと、少女はただ暗がりの広がっている視界の端で何かが揺れたような気がした。 しかし少女は微動だにせず、ただ闇雲に夜空に浮かぶ光の粒を目で追っていく。 彼女の心が件の『揺れ』に動かされなかったので、当然体もそんなものに反応しなかったのだった。 「……月」 「あー、お嬢ちゃんがオレの対戦相手か? スタンド使いのトーナメントの。 だとしたら、俺は一回戦の時から本当にツイてねぇな……」 今度は少女の気のせいではなく、不意に響いた声によって『揺れ』はハッキリとその存在を主張してくる。 「最上級で戦いにくい性別とトシだ。 これはエミリちゃんと同じくらい嫌な組合せだなァ」 やがて向こうから、此方に歩み寄る『揺れ』の風体が現れ始めた。 声と合わせ、点在する街灯に淡く照らされて朧気に確認できる輪郭は成人した男のそれである。 「……人工衛星」 「あれ、俺の声聞こえなかったか? それとも答えたくないのかい? 」 綺麗に刈り揃えられた顎髭を擦りながら、もう目と鼻の先にまで来た『揺れ』の男は、少女が果たして自身の敵となるのかを知るために質問を投げ掛ける。 「……流れ星」 一昨日届いた二通目の招待状に案内されるがまま、トーナメントの二回戦に参加するため遠方から遥々やって来たその正体は、藤島六郎(フジシマ ロクロウ)である。 「可愛いカエルの縫いぐるみだな……ゴメン訂正する、やっぱ可愛くないわ」 六郎はいよいよ少女と対面すると少しでも彼女の気を引くつもりで、試合前の挑発も兼ねて縫いぐるみを小突いてみせた。 すると『グエッ』と口の中からやけにリアルな音が出たので、六郎は内心僅かにビビってしまった。 「……旅客機」 「どうやっても無視かよ。そういうのが一番傷付くんだぜ、俺みたいな年頃のオッサンはよ」 「……人工衛星」 「あ! そうかそうか! なんか探してんのかな、君。 もしかして……UFO? 」 「……人工衛星」 六郎が挫けずに話を続けようとするも、少女は相変わらずに一人ぶつぶつと呟いて空を見上げたまま石像のように固まっていた。 「そんな空一杯に人工衛星が見えるか? ……ったく、埒が明かねェ」 「もう試合時間になっちまうってのに」 六郎がやれやれと溜め息を吐き、一旦この場を諦めて何処かに隠れているであろう立会人の登場を待たんとした矢先。 丁度アーチの支柱にもたれ掛かって、タバコとライターをどこに仕舞ったか上着のポケットを漁っていた時である。 彼女がずっと大事そうに抱いていた例のモノ…… 「ゲロゲーロ! ゲロゲーロ! 」 「ッ!? ぬ、縫いぐるみが鳴いたぞッ! 今確かにゲロゲーロって……ゲロゲーロって! お嬢ちゃんのッ! おいッ! 」 「……星」 「歓迎シヨウ、挑戦者ヨ! ヨウコソ! とーなめんと二回戦ノ火蓋ハ遂ニ切ッテ落トサレル! 」 「うわ、お嬢ちゃん! コイツなんか普通に喋っちゃってるよ今度はッ!! 」 「……月」 「エエイ、サッキカラ喧シイゾあごひげ! 静粛ニシロ! オ前ハ発情期ノ牛蛙カッ!」 ……カエルの縫いぐるみが騒ぎ始めた。 六郎に怒っているのか、アクリル製のドールアイを忙しく動かして、エナメル生地の舌を乱舞させている。 それ誰がどう見ても縫いぐるみの『仕様』では片付けられない異常現象だった。 動きは激しく口調は底抜けに明るくて、持ち主である少女の無感動との温度差が底知れない不気味さを醸し出している。 「あっ、あご……まあ確かに俺のチャームポイントはこの顎髭だがあんまりに安直すぎる名前だぞ……。 て言うか、お前は正しく何なんだよッ! 最近流行りの喋る縫いぐるみとかか? 」 「イイカ……三度目ハ無イゾ、黙レ! ソシテチョットバカシ静カニ話ヲ聞ケ! 」 「えっ……あぁ、スマン」 六郎は取り敢えず口を閉じ、目の前で気色の悪い挙動を繰り返す縫いぐるみの言うようにした。 すると縫いぐるみは満足そうに腕を組んで、縫い糸が解れかけている首を縦に振った。 「ゲコッ、ソレデイイ。 ……オ前ハ藤島六郎デ間違イナイナ? ナラバ先ンジテ名乗ラセテモラオウ、我コソハ今日ノ試合ノ立会人、『カエサル・カエ=ル・ゲコリウスⅦ世』デアル! ソシテ、初メニ言ッテオクガ、オ前ノ対戦相手ハ既ニ到着シテイルゾッ! 」 「ちょ、ちょっと待て! 」 「ナンダ! 」 「……月」 六郎はすかさず、自称ゲコリウスⅦ世が矢継ぎ早に吐き出す説明の間隙に口を挟んだ。 少女の方は未だに意図不明の呟きを不定期で止めないので少々タイミングに苦労した。 「お前が喋り出してからの展開が速すぎて状況が全く飲み込めないんだがッ! つーか俺にも質問させろっつーの! そもそもお前はこの女の子のスタンドなのか、から話を訊きたい! 」 「ソウダ! 我ハすたんどデアルゾ! 」 「ああ、じゃあこの女の子が本体かつ立会人なんだな? 」 「チガウ! 立会人ハ我ダト言ッタダロウ! 主人ハ我ガ意識ヲ保ツタメノ『じぇねれーたー』ノヨウナ役割シカナイシ、ソレ以外ハ何モデキナイ! 」 「えーと、簡単に言うと女の子はお飾りでスタンドが立会人って……あっ、まずお前人じゃねーじゃねーか! 」 「ソンナ!? 」 「知らなかったのかッ!? 」 ゲコリウスⅦ世は突然、信じられないとばかりに素頓狂な声を上げるとガパリと大口を開けたまま震え出した。 「ソノ先ニ主人ガ居ルンダゾッ!! 」 「? 誰に話して…… 」 束の間の突っ込み役に回ってしまった六郎にはその反応の意味が分からなかった。 それから風を切る音に端を発し、六郎がもはや手遅れだと理解するまで、そう時間は掛からなかった。 「『ブレイク・フリー』ッ!! 」 「ぐがっ……」 青年のものと思しき雄叫びが後方から発せられ、それから鉛の砲丸を撃ち込まれたと錯覚する程の鈍重な痛みが襲った。 続けて、間髪入れずに六郎の無防備な背中へと押し寄せる鉄拳の嵐、嵐、嵐。 一発毎に口端から鮮血が弾け、耳障りな骨折りの旋律が弾かれるようだ。 「うぐああッ!! 」 六郎は何とか対抗するためスタンドを発現させようとするが、それすらも推定青年の拳は許さない。 「ッオラァ!」 「ぐっふ……! 」 一頻りのラッシュの後、内臓まで抉り取るような強烈無比のアッパーによって六郎の体は地球の引力に抗い宙に浮く。 「オオッラァッ!!」 そして最後の一撃と言わんばかりの渾身の正拳突きを鳩尾に食らい、 六郎は皮肉にも自身の能力であるロケット弾のように横方向へ吹き飛ばされた。 必然的に、六郎と向かい合っていた立会人の本体である少女を巻き込む形で……。 「うぐおぁああああああっ!! 」 「……人工衛ひぅ!? 」 アーチの先に積み上げられた商店街通りを分断する黒焦げの瓦礫の山。そこに六郎と少女の体が衝突し、あまりの衝撃によって爆発音にも似た空振を引き起こした。 不幸にもこの時、揺れでバランスを崩した瓦礫の一部が二人の倒れているであろう場所に降り注いだ。 「成功した……のか」 『ブレイク・フリー』、自らのスタンドの名をそのように叫んだ青年はゆっくりと瓦礫の方へ歩き出した。 傍らには常にスタンドを控えさせ、未だ能力が不明の相手に遅れを取らないよう予期せぬ反撃に備えておく。 そうして万全の状態を整えた上で、青年は二人の居所を探してみたが、瓦礫の外側からは彼等の姿を確認できない。 「もう必要は無いかもしれませんが、……俺の名前は相羽道人(アイバミチト)です。 藤島六郎さん、あなたは卑怯な真似をと思ったでしょうけど……」 「……ぅ」 「あなたが到着する前にカエルみたいな立会人さんが俺にこう言っていましたから。 今回の戦いは『バーリトゥード』……何でもありだと」 ミチトは憮然として、生きているかも定かでない相手に対し、丁寧に言い訳をした。 これは彼が罪悪感から逃れるための言葉などではなく、この奇襲が一回戦の腹いせ、つまり『八つ当たり』ではないと自分自身に言い聞かせるためだった。 本音を言えば、立会人と少女をもまとめて吹き飛ばしてしまったのはミチトのボーンヘッドであり、そこに多少の罪悪感を覚えはしたのだが。 「ちょっと……いやかなり本気で殴りすぎたかなぁ。 カエ……ゲコリウスⅦ世と女の子まで一緒に吹き飛んじゃったし、無事だとは思うんだけど」 ミチトが一人険しい顔で先程の反省をしていると、まだ直前の衝突で煤や埃が舞っている中、手前の瓦礫が俄に持ち上がった。 「……無用の心配だったみたいだ」 瓦礫の山へ突っ込んだ二人の並びからすると、脱出しようと動いているのは藤島六郎の方だろうか、とミチトは推察した。 (流石、伊達に優勝者トーナメントの初戦突破者じゃないってことか。 一筋縄ではいかないな……うん。 そうこなくっちゃ、面白くないッ! ) そんな嬉し半分、残念半分の複雑な感情を抱いた後、ミチトは頭の中を完全なる戦闘モードへ切り替える。 スタンド、『ブレイク・フリー』の拳にも主の殺気に押されるように自然と力が入っていく。 「ゲコ……チガッ」 しかし、それが正体を現すと、ミチトは思わず拍子抜けして、同時に彼の存命にホッと胸を撫で下ろした。 瓦礫の隙間からひょこりと顔を覗かせたのは、煤汚れて真っ黒に変色してしまったゲコリウスⅦ世だった。 自力で身動きの取れなくなった少女を助けるために、自慢の長い舌をロープ代わりにして彼女の腰にグルグルと巻き付け、気合いと根性で引っ張り出てきたのだ。 「……けほっ」 少女は出てきたそばから息苦しそうに咳き込んでいる。 ミチトが見た限り、彼女の体には特に目立った外傷は無く、顔や露出した腕に掠り傷が幾つか付いているだけだった。 恐らくあの時、六郎は衝突の寸前で咄嗟に体位を入れ換えて少女を抱き抱える形になって、そのまま二人分の衝撃を一身に受け止めたのだろう。 「違ウ! ……ゲロッゴホッ! 我ガ言ッタノハ 『ばーりとーど』ダ、『とーど』ッ! 『我ト主人ニ対シテ以外ハ何デモアリ』、ダ! モウ……二度ト間違エルナッ! 」 ゲコリウスⅦ世も薄汚い色合いに変わってしまった以外は、随分と舌好調の様子である。 「あぁ……! 良かった生きてたんだ! もし死んじゃってたら……どうしようかと思ったよ」 「フン、白々シイ。 ソモソモ最初カラ相手ヲ殺ス気デ殴ッテナイダロウ。 カトイッテ、藤島六郎ガ立チ上ガレル程手加減シタ訳デモナイヨウダガナ」 そうあんまり憎々しげに言われたので、ミチトは悪戯っぽく当たり前でしょ? と薄く笑いながら言い返した。 ゲコリウスⅦ世はそれが気に食わなかったのか、ミチトの返しを無視すると、棒立ちしている少女に対して自分を抱き直すよう指示を出した。 「フゥ……手間ノ掛カル主人ダ。 ガ、ヤハリ我ノ安ラギノ場ハ此処ダケダナ」 安寧のレギュラーポジションに戻れたことで、ゲコリウスⅦ世の機嫌も直ったようだ。 集中力と体力温存のために、ミチトは一時的にスタンドを解除する。 「ソレニシテモ、我ガ主人ニマデ危害ヲ加エルトハナ───相羽道人、話ニ聞イテイタ人物像トハ大分異ナルゾ。 オカゲデ精神的ニハ死ンデシマッテイル主人ガ、今度ハ肉体的ニモ破滅ヲ迎エルトコロダッタ」 「対戦相手を確実に倒すこと一点に集中してたから……うん。 今のやっぱ無し、頑張って考えたけど俺には君に返す言葉も無いよ」 「ホッ、返ス気デイタノガ驚キダナ」 恨み節を延々と垂れ流すゲコリウスⅦ世と申し訳なさそうに受け答えするミチトをよそに、少女はまた何事もなかったかのように夜空を眺めていた。 「いや、でも俺は本当に心配してたんだよ? 立会人はともかく、本体の女の子は怪我とか大丈夫かなって」 「オイ」 「あッ! ごめっ、口が滑った。 また余計なこと言っちゃって……」 「……」 「そ、そんなことよりも、試合の決着はもうついたんだからさ! 夜も大分更けてきたし、ジャッジを下して早く終わらせようよ」 ミチトの急かしに、ゲコリウスⅦ世は訝しげな面持ちで言う。 「ウ~~~ム。 残念ダガ、仕留メ損ナッタナ。藤島六郎ハマダ、オ前ト戦ウ気満々ノヨウダゾ? 」 「え? 」 瞬間、背筋に悪寒が走った。 ミチトは額に手を当てて初めて、自分が冷や汗を掻いていることを理解する。 「まさか……」 第六感とでも言うべきか、スタンド使い特有の精神センサーが全身全霊に『危険』だと警鐘を鳴らしているかのような感覚。 (『来る』のかッ! ) 「『クレセント・ロック』ゥゥーーーッ!!」 「な─── 」 突如として辺りに響き渡った爆轟音を皮切りに、六郎が埋まっていた辺りの瓦礫群が天に爆ぜる。 否、『飛び立った』のだ。瓦礫の一片一片がミサイルポッドのようになり、無数の小型ロケットを火花を撒き散らしながら乱射したのである。 「暴レン坊メ、ヤレヤレダ」 「……星、星、星」 ゲコリウスⅦ世はこれにいち早く気付き、少女を側の路地裏に避難させていた。 「こっ、これはッ! ミサイル攻撃!? 」 動揺して初動が遅れたミチトは、回避を捨てこれを迎え撃とうとするが、あまりにもロケットの発射数が多すぎた。 瓦礫はミチトの後方や側面の商店二階部分にまで飛び散っていて、ロケットは文字通り四方八方から標的の体を貫かんとしている。 「ぶ……『ブレイク・フリー』ィッ!! こうなったら、やるしかないッ! 」 『ブレイク・フリー』、このスタンドの腕からは千切れた鎖が垂れ下がっている。 束縛を破壊し、秘められたものを解き放つ……それを如実に現したヴィジョンの一部であるが、ミチトはそれを利用する手を思い付いた。 要するにヌンチャクの要領で鎖を振り回し全方位からのロケットを撃墜できる球状の防衛網を作り上げたのだ。 『ウォォォリヤァァーーーッ!! 』 ロケットの豪雨は身を屈ませるミチトの体に触れるギリギリで次々と爆散していく。 『ブレイク・フリー』は雄叫びを上げ、際限無しに腕を振るう速度を増していく。 そして遂に、 『ドォォリャアアアアァッ!! 』 最後に放たれた中型のロケット弾をスタンドの拳と拳で紙風船のように挟み潰した。名残の爆煙が通りを包み込む。 全弾は落とし切れずに何発か被弾してしまったが、ミチトが想定していたよりもロケットの威力は低く殆ど無傷で済んでいた。 「ゴホっ……はぁ、終わりか? ……ふぅ、意外と何とかなったな。 それじゃあ六郎さん、反撃、行きますよ! 『ブレイク・フ───」 ミチトが爆煙から逃れるためスタンドを前進させようとした、その刹那。 「油断したなァ、相羽道人ッ! 」 霞がかった頭上から、聞き覚えのある声が落ちてきた。 「なんッ!? 」 「食らえゲンコツッ!! 」 「~~~~ッ! くぅあああ~~ッ!! 」 当惑するミチトの脳天に『クレセント・ロック』の拳が打ち下ろされた。 爆煙を隠れ蓑に、六郎は残った瓦礫の山からジャンプ攻撃を仕掛けたのだ。 ミチトは視界がグニャリと歪曲するのを体感すると、次に猛烈な吐き気と痛みに思考を侵された。 堪らずに地面に突っ伏して頭を抱えるが六郎は無理矢理にミチトの胸ぐらを掴み、 起き上がらせた。 「オメーな……俺はまぁともかく、立会人の……じゃなく立会人と女の子までブッ飛ばすってーのは、漢のやることじゃねーだろうが」 「うぅ……。ワザとじゃなかったんですけど……」 六郎は鼻を鳴らして、目逸らしするミチトを睨み付ける。 「どうかなァ、オメーは俺を殴り飛ばす前からかなりイラついてただろ。 だから柄にもなく奇襲なんて手を使って、しかも細かな判断を疎かにしたんだよな」 「! 」 「その悪人面のスタンドで殴られた時に感じたんだ。 俺も素人じゃねぇし分かる、相手を生命エネルギーの塊で殴ってンだから。 スタンドの『質』ってのはな、案外気分なんて曖昧なものに左右されんだぜ? 」 「……」 「まぁどうでもいいか、そんなことは。 肝心なのは勝つか負けるか……それだけだしな」 そう言うと、六郎はおもむろにミチトの頭を指差した。 そして疲れたような鈍い手付きで胸ポケットからタバコを取り出し、火を着ける。 「頭の上に化学ロケットを取り付けた。 俺の合図でソイツが発射されりゃあ、高温高圧のガスが噴射口から射出される。 まっ、トーゼンそんなことになったら……オメーの命はタダじゃあ済まねぇよ」 ハッとして、ミチトは恐る恐る自分の頭に触れてみた。 ……信じられないが、指先に鋼鉄の冷たい感触がある。 ミチトも言われる前から違和感こそ感じていたが、六郎に頭蓋を思いっきり殴られたせいだと大して気にはしていなかった。 「外れない……か」 「一応言っとくが、あんまり無理に取ろうとするなよ。 オメーの頭にぴったりと張り付いてんだから、奇跡的にロケットを外せたとしても髪の毛も一緒に抜けちまって丸ハゲるぞ? 俺ァ、美容師だから、髪についてはウルせえんだ」 「ははは……御忠告どうも」 「いやいや、どういたしまして。 そんじゃ、そろそろ……な? 」 六郎は短くなったタバコを指で弾き、ロケットにして瓦礫の山に突っ込ませた。 ぼうっと小さな爆発が起こり、二人の顔を一瞬照らしただけで忽ちに消失した。 こうなっては負けただろう、不意討ちまでして最後には負けるなんて。 (でも、不思議だ) ミチトは、自身の心内からとある感情が欠落していることに気付いた。 (僕は勝ちたかったのか? この人に負けたくなかったのか? 本当に? ) 火を見るよりも明らかな完全敗北の筈、なのにミチトは一片も悔しいと思えないのだ。 むしろ心は清々しく、肌を撫で去る一陣の夜風がとても爽やかなものに感じられた。 「降参しな、完璧に『詰み』だぜ」 これならば、一回戦で勝ちを譲られた時の方が万倍……でも何故なんだろうか。 その答えはちゃんと、俺の心の内側にあるのだろうか。 「オイ、聞いてンのか」 ミチトはふと、六郎の顔を見た。 正確には瞳を見、目を見開いた。 時間の流れが遅く、意識が遠くなる。 ………………。 ─── ─ ─ ─ ─ 果てなく広がる白の空間。 立ち尽くすミチトを取り囲むようにして、嘗てのトーナメントで拳を交えた対戦者達が輪を作っている。 「女としては耐えられないどんな仕打ちも、行いも、この姿でなら耐えられた。 でも……貴方が居るから必要ないもの」 ヴィクトリア、彼女の束縛は血統だった。 没落したラズロ家の幻影に憑かれ、誇り高き一族の再興のため男として生きてきた彼女の仮面を破壊したのはミチトだった。 「私を苛めた奴等に復讐する『覚悟』、ううん。 そんな彼等を許してあげる『覚悟』を決める方がずっと辛くて苦しくて、だからこそ価値があるんだよね、ミチトくん」 安西歩はミチトと出会う前から、クラスメートの陰湿な苛めによって歪んだ覚悟に心を囚われていた。 そんな彼女の『思い込み』を破壊し、奥底に閉じ込めらた『本心』を解き放ったのもまた、ミチトである。 「なんだ……これ。 俺は、六郎さんと……トーナメントは……」 「ボウズ、何を迷っているんだ? ……違うな、お前は怖がっているんだな。 でもな、どれだけ金を積まれても俺にお前を守ってやることは出来ん」 バド・ワイザー。 凄腕の用心棒で、前回のトーナメント決勝でコイントスでの勝負を行い、ミチトと息詰まる熱戦を繰り広げた男。 彼は知らなかったことだが、『ブレイク・フリー』に 破壊された成長の束縛とは、『凄腕』故の過信、慢心であった。 「俺が、怖がっている? バドさん……教えてください。 俺は何を怖がっているんですか、俺は……俺の心が何を……」 ミチトの問い掛けにバドはただ悲しげに俯くと、何処か彼方に消えていく。 彼を急いで追おうとして、周りを改めて見渡すと、ヴィクトリアと歩の二人も此処から居なくなっていた。 「実のところ、君は物心付いた時からずっと、自分を『脱け殻』のようなものだと思っていなかったか? 学校でも、家庭でも、君は常に自分の本質を見失っていると感じていなかったか? 」 今度は脚蛮醤の声だ。 背後から彼の凛としていて、しかしどこか寂しげな声がする。 「見失う、というのはあまり適切な表現じゃなかったかな。 何故なら、君は自らの本質を垣間見たことがないのだから。 藤島六郎と目が合った時、悟っただろう」 「本質……」 「そうだ。 あらゆる生物の心は成仏すれば俗世の汚れを落とすため綺麗に洗われるが、魂と本質は輪廻する。 君の魂にはこれまで何千、何万という数の前世の意志が宿っていて石碑のように刻まれているんだ。 それが、本質だ」 「なんだか、宗教臭い話ですね」 ミチトは苦笑する。 これは夢か、幻なのか。 もしかしたら、現実の相羽道人は既に死んでいて、この場所こそがあの世、天国なのだろうか。 「信じ難いだろうが、真実なんだよ。 俺だってそうさ。 君の記憶の中にあった、君が最も強い感情を抱いている男の姿を借りているだけで……俺も『本質』の一員だからな」 「えっ、それって……」 ミチトが振り返ると、直前まで話していた筈の脚蛮醤の姿は影も形もなく、そこには大理石で彫られた石碑が建っていた。 「僕は……」 ミチトは不可視の『意志』に導かれるまま、無心で歩みを進める。 「ああ……」 手を伸ばし、石碑に触れて、理解する。 「……こんな場所にあったのか」 そう呟くと、行く手から目映い光が押し寄せてきたので、ミチトは満足そうに目を閉じた───── 「ふふ……」 ─── ─ ─ ─ ─ 「……ん」 ミチトがやおらに目を開けると、ボヤける視線の先で六郎が腕を組み、半崩壊した瓦礫の山に腰掛けていた。 座ったままの姿勢で、状況が飲み込めずに狼狽えるミチトを見やる。 「いきなり反応がなくなったから、何か企んでるのかと思ったが、そんなんじゃなかったみたいだな。 それなら、気ィ失ってる内に殴って試合終わらせとけば良かった」 と六郎は言った。 無抵抗の人間を殴る気はさらさら無いにせよ、馬鹿正直にミチトが起きるのを待っていたのが無性に恥ずかしくなったからだ。 「……夢を、見てたみたいです」 「へぇ、ロケットで宇宙に行く夢かい? 」 六郎は腰を上げ、服に付いた煤を払い落とすと、まだ頭がぼんやりとしているミチトと真正面から向かい合った。 「あの、六郎さん。 この試合の決着をつける前に、あなたに一つだけお願いがあるんです」 「あン? 」 突然の提案に、六郎は面食らう。 悪知恵を働かせているようには思えなかったが、どこか危なげな雰囲気をミチトから感じ取った。 「心配しなくても、変なことじゃあないですよ。 他愛もない話なんですが……俺が一回戦で体験した出来事を聞いてくれませんか? あなたにどうしても知ってほしくて、俺が気を失った訳を……」 「な、一回戦の話だって? 正気に戻ったと思ったら、お次は呑気に仲良く思い出トークでもしようってのか? 」 「……はい。駄目ですか? 」 六郎は暫く悩む素振りを見せた後、答えを黙って待っているミチトに無言で頷いた。 無下には頼みを断れない『凄み』が今のミチトには備わっていて、六郎は折れたのだ。 「ありがとうございます。 実は俺、一回戦の時点で本当は負けていたのに……勝ちを譲られたんです。 相手は脚蛮醤っていう珍しい名前の男の人だったんですが……」 「……! 」 (やはりジャンもトーナメントに参加していたのか。だが、どうして勝ちを……? アイツは確か成し遂げなければならない目的があると言っていたのに……) 「その時、彼は俺にこう言ったんです。 『俺にとって勝利とは目的を達成することだ』と。それだけを望み、他は求めない。 ジャンさんは俺との闘いに於ける目的は果たしたから、勝ちは君に譲ると」 (ジャン……お前は……) 「あぁ、あんなに悔しいと思ったのは生まれて初めてでした。 俺は戦いの舞台だった学校の校庭で、何時間も泣き続けて……」 「あなたなら分かってくれていると思いますが、俺は勝利を譲り受けるという屈辱に泣いたんじゃあない……ですよ」 そこまで言うと、ミチトはフラフラと二、三歩後退りして『ブレイク・フリー』を静かに発現した。 其処から更に六郎から離れるように、否、助走を付けるために……そんな風に見える。 「って、何をしているッ! 勝手にスタンドを出すんじゃあないッ! 忘れたのか、試合の勝敗は既に決定しているっつーことをよ! 」 「間違っても、自分が弱いから、不甲斐ないから泣いた訳でもない……」 六郎は慌てて『クレセント・ロック』をミチト制圧のために向かわせる。 頭の化学ロケットが取り除かれていない以上、ミチトの方も迂闊には此方に手を出せないと踏んでの行動だった。 「俺がッ!! 」 時を同じくして、ミチトが吼えた。 さながら魂を吐き出しているようで、圧倒的なその様に藤島六郎やゲコリウスⅦ世ばかりか、外の世界に無関心だった少女までもが彼から目を離せなくなる。 「俺が泣いたのは、俺に何も無かったからだッ!! 目的も目標も、欲しいものさえ見付からなくて、招待状が自分宛に届いたから思考停止でトーナメントに出場したッ!! 」 一歩。 「死ぬ気で戦って優勝して、何か得られたかッ!? 何もだッ! 何にもない! 俺の心は空っぽなんだから、それは当たり前の結果だったんだッ!! 」 また一歩。 「だけどッ!! 『ブレイク・フリー』ィィッ!! 僕はやっと掴んだ、心の向こう側を閉ざしていた『錠前』をッ! 見出だしたぞッ『鎖』をッ!! 」 六郎は、戦慄する。 あろうことか、ミチトは自らを拘束しようとする『クレセント・ロック』へ、右腕を勇ましく振り上げた『ブレイク・フリー』を道連れに突進してくる。 こうなってしまったら、六郎に選択肢は残されていない。 「なんっ……でだよ、この阿呆がァーッ! 『クレセント・ロック』ッ! ロケット点火だッ!! 」 「魂を束縛する『鎖』をッ! 僕がこれを引き千切る時が来たんだァァーーーッ!! 」 『クレセント・ロック』が解除される。 化学ロケットに内蔵された固形燃料が着火され、巻き起こる熱風と煙が六郎の顔を煽る。 「そして……」 この時。 ありったけの残存生命を振り絞り、目前に迫ったミチトの表情を、六郎は一生忘れることができないだろう。 「そして、これはあなたのお蔭なんだ……六郎さん」 それは人間では到達し得ない、生物を超越した『何か』を得る事ができた喜びに、魂から打ち震えているような『笑顔』であった。 「勝った……勝ったのか……」 ミチトの拳が、『ブレイク・フリー』 の拳が『クレセント・ロック』に届く……その瞬間が訪れることは永遠に無かった。 頭の天辺に設置されたロケットは漆黒のキャンパスに一筋の光線となり、月面を目指すが如く遥か成層圏に消え入った。 後に残ったのは、煌々とする紅の炎に包まれた相羽道人『だった』モノと、傍らで呆然と立ち尽くす藤島六郎。 それに路地裏から闘いの終わりを察知して顔を出す一人と一匹だけだった。 「オメーはどうしたかったんだ……相羽道人」 六郎はミチトの死体の横でガクりと膝を突いた。 ゲコリウスⅦ世がそこに寄り添うようにして、実際には少女が音もなく六郎の隣にしゃがみ込み事も無げに話し掛けてきた。 「ナニ、ソレハ本人ニ直接聞イタラ良イダロウ、藤島六郎」 「生きてンのか……いや死んでるだろ、どう見たって」 「フム、コレハ我ガ主人トハ真逆ノぱたーんデアルナ。 肉体的ニハ死ンデイルガ、精神的ニハ生キテイル。ダガ、幽霊トモ違ウ存在ダ」 「何だって……ゴフッ!? 」 あり得ない、六郎は刹那の内にその可能性を否定しようとした。 だが再び背中に食い込んだ拳の感触は本物で、何らかのスタンド攻撃を受けたことは紛れもない事実であった。 おまけに、この敵スタンドから伝わってくる破壊の生命エネルギーは、ここに来て嫌と言うほど味わったばかりの……。 こうなれば、現実を受け入れる他ない。 「『ブレイク・フリー』……うん。普段通り扱える」 「クッ……マジかよォ……。どういうマジックを使ったんだ……つーかオメー、なんだ……? 」 相羽道人は生きていた。 だが、彼を前にして、六郎の第一印象だった冴えない地味目な青年の面影はもはや欠片も見当たらない。 「名付けようかな……そう、『ブレイク・フリーact3』、キャスト・オフ・ブレイク・ザ・ソウル・ケージ。 ……うん。ちょっと長いか、この名前は」 黄金色の輝きが精悍な男性の姿を形作り、彼の顔立ちや立ち振舞いは神話に登場する勇猛果敢な闘神のそれにすら見えてくる。 人間でもなければ幽霊でもない、六郎は彼の放つ神性に言葉を失う。 「貴方と僕の名誉のために言っておくと」 ミチトは穏やかな声色に乗せて、こうなった経緯を説明し始めた。 「僕が死んだのは決して貴方のロケットのせいじゃあない。 『ブレイク・フリー』の束縛を破壊する能力……魂を束縛している肉体を破壊した結果です」 「肉体を破壊、ってオメー……」 「さっきも言いましたが、貴方のお陰なんですよ。貴方の能力をその身に受け、目を合わせた時……なんとも奇妙な表現ですが。 ちょっとだけ互いの魂を同調できた、そんな風に僕は思った」 本質的に似ているんでしょうね、とミチトは微笑んだ。 「俺の魂に触れた、と 」 「ええ。そこで貴方のスタンド、『クレセント・ロック』って名前……」 「変な名前と思うか? 」 「そういう種類のカギがありますね……ロケットの能力とは全然関係無いですが」 「スタンドを初めて発現した時に脳裏を過った言葉だ」 それを聞いて、ミチトは一人合点する。 引かない痛みに蹲る六郎に背を向けて、駅のある方向をじっと見据えていた。 「立会人」 「ドウシタ? 」 「僕はこの試合を『棄権』する」 「……分カッタ。 我ハオ前ノ実力ヲ買ッテイタンダガ、仕方アルマイ」 六郎は、思わず耳を疑った。 同じだ。このままでは一回戦と全く同じ結末を迎えてしまうではないか。 心の片隅に凝りを残す、溜飲の下がらない幕引きとなってしまう。 「『棄権』だと……! 」 「決勝戦、頑張ってくださいね」 そう言い残して、ミチトは足早に商店街から 立ち去ろうとした。 勿論、六郎はそれに憤慨し、帰りがけの彼を呼び止める。 「俺はまだ負けてねぇぞ……! 見下してんじゃねぇッ! 」 「そんなつもりは無い、ですよ。 僕がこの姿を選べたのは、貴方のお陰だと言いましたよね。 僕が己の本質に触れられたのは、貴方という『鏡』があったからこそなんですよ」 「……だから、これはその感謝の気持ちですってか? じゃあ俺からも、オメーにとっておきの贈り物を用意しているぜ……『クレセント・ロック』ッ!! 」 「……ゲコォ!? 」 いきなりゲコリウスⅦ世が嘔吐き出し、ミチトは不思議そうに彼の口元を注視する。 「ゲボォッ! 」 「────ッ!! 」 口内から溢れ出てきた物は、吐瀉物などではなく、先端が鋭く尖った小型ロケットであった。 六郎が少女と初めて顔を合わせた際に、ゲコリウスⅦ世を普通の縫いぐるみだと思って小突いた時に、試合中の奥の手として仕込んでおいたのだ。 ミチトとゲコリウスⅦ世の間の距離は、おおよそ4m程。 「この至近距離なら避けられねーだろ! 」 「……そう。避けられない」 発射されたロケットは一直線に飛んでいき、ミチトの胸を易々と貫通した。 「気が済みましたか? 」 が、手応えは微塵も感じられなかった。 ロケットは貫通したんじゃない、ミチトの精神体をすり抜けただけらしい 。 スタンドで本体が倒せないのなら、『ブレイク・フリー』を狙うしかないが、勝てる見込みはあまりにも薄い。 六郎は地面に手を付き項垂れると、 「どうして俺に勝ちを譲る……」 と呟いた。 「だから言ったでしょう? 貴方と僕は本質が似ていると。 僕は、貴方に勝ち取って欲しい。 空っぽの心を潤い、満たすものを。 それが何かは僕にも貴方にも分からないけど、必ずや手に入れてトーナメントを終えて欲しいんです」 「適当なことを……言うな」 「……クレセント・ロックを開錠するのは僕の役目じゃない、忘れないで。 その役目を担うのは他でもない、貴方自身の心です」 六郎は結局、悠々と離れ行くミチトの後ろ姿をただ眺めるだけしかできなかった。 ───次の試合も、その次の試合も、おまえが相手の手のひらの上で踊りまくった上で相手が降参してくれたら、おまえは優勝できるかもしれねえなあ……。 「優勝して、だから何になるってんだよ……俺は、俺は……! 」 「……お月様、泣いちゃいそう」 知らない内に、美しかった夜空の明星を分厚い雨雲が余さず覆い隠している。 少女は、月と星が見えなくなったと分かるや否や、崩れ落ちた藤島六郎を尻目に、すっかり喋らなくなったカエルの縫いぐるみを連れ帰っていった。 「ゲ,ゲロ……ショウシャ,フジシマ ロクロウ」 ★★★ 勝者 ★★★ No.4082 【スタンド名】 クレセント・ロック 【本体】 藤島 六郎(フジシマ ロクロウ) 【能力】 殴った場所からロケットを生やす オリスタ図鑑 No.4082 < 第17回:準決勝② > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]