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そして翌日。 結局神になれなかった俺は、朝からハルヒの苦言を雨あられと背中に浴びる覚悟を決め、登校中も土砂降りの酸性雨に見舞われたために既に辛酸をなめるような気持ちでいた。 そして下駄箱でも憂き目に合いながら教室へ辿り着き自分の席へと腰を下ろすと、ハルヒから他の意味でぎくりとさせられる言葉を掛けられることとなった。 「ねえキョン」 「……何だ? ポエムなら、スマンがまだ少ししか出来ちゃいないぞ」 嘘をついた俺に、 「それは急いで仕上げなさいよね。学校は明日までなんだから。どうしても出来ないってんなら、土曜の不思議探検までなら待ったげる」 なんて、二十段の跳び箱が十九段になった所で無茶な指示に変わりゃしないぜ。 俺は失敗が怖くて動けないといった根性はないつもりだが、派手に転ぶとわかっていて「やります」とは到底言えず、そして当然の如く「出来ません」など言えるわけもなく、「ああ、ありがとう」という自分では何がありがたいのか分からんながらも感謝の言葉で対応した。しかしハルヒが聞きたかったのは別のことだったらしく、「それじゃなくて」と続け、 「佐々木さん、元気してる?」 「……ん、ああ。してると思うぞ」 「そう」 特にどうでもいいといった感じで静まるハルヒ。 ――俺は佐々木の名を聞いて、先日の、佐々木に群がる奴らとSOS団との衝突を思い出した。 佐々木は自分自身を別の位置から見つめられる聡明さと思慮深さを兼備した女の子なのだが、過去に行って自分と話してみないかという藤原の話に乗ってしまい、あいつらと行動を共にしていた。 そうなってしまうような会話が佐々木と藤原の間で交わされたのは、いつもの喫茶店で俺が最初に佐々木たちと会合した後、藤原と佐々木の二人を残して帰ったときだった。 もし過去の俺がもっと佐々木の話を聞いていたならば、あいつは俺たちの争いに巻き込まれずに、安定した閉鎖空間が灰色に染まる程傷付いたりもしなかったのではないかと思う。 佐々木を傷つけた、あの事件。 それについて語る前に その事態を招く原因となったもう一つの事件について話しておこう。 長門がダウンしていた間、俺たちSOS団(ハルヒ除く。長門の代わりに喜緑さん含む)は、佐々木たちと喫茶店でハルヒの能力についての議論を行った。もちろん意見は対立し、平行線のままに終了したのだが。 そして後日。橘京子の組織がハルヒにちょっかいを出しやがり俺はハルヒの誤解を解くために思い出したくもない真似をやるハメとなったのだが、そのすったもんだは平穏に終了し、俺はようやくその日の夜深い眠りについた。 そして翌朝。目覚めるとそこは異空間だった。なんじゃそりゃ。 俺はすぐには現状把握が出来ず、もしかしてまだ夢の中を放浪しているのかと思ったのだが、俺の寝ぼけ眼に飛び込んできたある人物の姿によって、意識は一気に、鳴り響くアラート音とともに覚醒した。 そこにいたのは、周防九曜だった。 それだけでその場所が天蓋領域によって作られた空間であったのを認知でき、また計り知れない危機が俺にせまっているかもしれないという予感も身を焦がすほどに強く感じられた。 だがいつまで経っても周防九曜はバタつく俺を無機質な瞳で見続けるのみだった。 しばらくして俺は落ち着いてモノを考え初め、長門の部屋に最初に行ったときあいつはお茶ぐらい出したぞなんて緊張感に欠ける思考が巡っていた頃、その異空間に新たな来訪者が訪れる。 その闖入者の姿をみた俺は一瞬ああもうこれはダメかもしれんなと思ったが、意外にもそいつは俺を天蓋領域の異空間から救い出してくれた。 なぜ意外だったかと言うと、俺を解放した人物は――未来人・藤原だったからだ。 藤原はいきなりやってきたかと思うやいなや周防九曜の後頭部に美麗な皐月の花姿のバレッタを取りつけ、その後の周防九曜は、藤原の命令を聞くかのように従順と異空間の解除を実行したのだ。 そして現実世界に戻った俺は、もしかして藤原に感謝しなければならないのだろうかと戸惑っていたのだが、藤原は俺に、 「……まったく余計なことをしてくれた。これは僕の予定にはなかった。忌々しき事態だ。計画を変えなけりゃならない」 まるで万引きの被害を受けた店の側を怒るような理不尽極まりない文句をつけられたが、まさにこの言葉こそが、俺たちと藤原たちとの、ハルヒの能力を巡る抗争の戦火を切ったんだ―――。 争いの概要はこうだ。藤原は周防九曜を操ってハルヒの能力を奪わんとし、俺たちはそれを阻止すべく交戦した。 面子は喫茶店で議論を繰り広げた際の顔触れで、この戦いは位相転移した空間で行われた。古泉は超能力が有効化されて喜緑さんと共に戦線に加わり、橘京子に戦う能力はなかったので、佐々木と共に傍観者となっていた。 俺と朝比奈さんは言わずもがな見ているだけしか出来ず、佐々木たちと共に傍観していた。 暫く戦況は拮抗していたのだが……正直、SOS団側に思わしくなかっただろう。 そんな中、藤原によって自身の任務に関する独白がなされ、あいつら側の未来人の目的は、時空改変能力を周防九曜に消去させるというものであったのが判明し、それについての問答によって別理論での時間遡行法の話や、本来の計画では佐々木を過去に赴かせることによって現在を変えようとしていたという事実も浮き彫りになったわけだ。 そして藤原の話も終わっていよいよとばかりにSOS団が敗北を喫しようとした……そのときだった。急に橘京子が震駭しながら、佐々木の閉鎖空間に突如として《神獣》が現れ、閉鎖空間がたちまち拡大し始めたと俺たちに訴えてきた。 このままでは能力がどうのという騒ぎではなく世界が破綻してしまうので、俺たちはすぐさま佐々木の閉鎖空間へと向かい……そこに生まれた《神獣》を撃退した。 そして、あいつの閉鎖空間が消滅する直前、少しゴタゴタしていたときに俺と佐々木で交わされた会話があるのだが、これは少し思い出して振り返ってみようと思う。 それは、俺から佐々木に話しかけて始まった会話で………… 「……佐々木。良かったら教えてくれないか? お前がなんで、過去の自分と話そうなんて思ったのか」 割れていく空。かつての穏やかな雰囲気とは一変して灰色に染まった空間。そして《神獣》。 それの崩壊を……諦観のような、それでいて納得したような面持ちで見つめる佐々木に、俺は問いかけた。 佐々木は俺の方へと顔を向け、泣き明かした後のような切なさが映る笑顔で柔らかに答えた。 「キョン。僕はね、山月記の李微によって教導されるように、心の中に猛獣を飼っていたんだ。それがこんな形で具象化するなんて……皮肉以外の何物でもないが、おかげで感得することが出来たよ」 そう話す佐々木からは、やはり何処かいつもとは違う覇気のなさを感じられる。しかし、 「心の中の猛獣だって? それこそお前には似つかわしくないし、俺はそんなことはないと思うぞ」 佐々木は少しだけ普段を取り戻したように独特の笑いを発して、そしてまたすぐに哀愁を呈し、 「まあ、李徴ほどの人物と僕なんかを比喩するのは相応しくなかったね。僕には彼ほどの才知は備わっていない。それに僕にあったのは、愚昧な臆病心だけだったのだから」 自嘲する様な笑いを挟み、 「まさか僕の嫌悪するところの人体(にんてい)と同じものを自ら抱いていたとはね。恥じ入るよ。でもそれに気付けなかったのは、今では当然のことのように思う。全部僕のせいだ」 「何言ってる。こんな事態が起きちまったのはお前を担ぎ上げた奴等と……俺が原因だ。すまなかった」 たまらず俺が口を出すと、佐々木は「それも遠からず起因しているね」と答え、継ぐ言葉を失った俺に、 「でも違うんだ、キョン。これは僕が中学生の時から存在していたものだったんだから。気付いたのが現在なだけであってね。むしろそれに気付かせてくれた彼ら……特にキョンには感謝しているよ」 ありがとう、という佐々木の言葉に俺はいたたまれなさを感じ、そして気付いた。 「……ちょっと待ってくれ。そもそも俺の質問に答えが出てないんじゃないか? 言いたくないのならもう聞きはしないが、はぐらかさずに教えちゃくれないか? 俺だって、お前の力になりたいんだ」 俺の言葉に佐々木は、見て取れる程度に微小な悲しみを顔に浮かべ、 「……中学の頃、僕が恋愛感情は精神病の一種だという見解の話をしていたことを覚えているかい?」 忘れやしないさ。今でも同じ考えの奴が俺の身近にいるからな。 「それは涼宮さんのことかな? ……だったら、僕がこれから話す内容を彼女にも伝えてくれないか? きっと彼女にとっても有用な情報になると思う。多分、それは君にとってもね」 「……わかった。すまないな」 それを聞いた佐々木は、目をつむりながらすうっと一息ついて、 「――僕はね、恋人のような関係性にはまるで意味がないと思っていた。互いを見つめ合って、周りが見えなくなるようなものにはね。ただ、人生の伴侶のように、二人が同じものを見つめて歩いていく関係に関してはその限りではなかった。実はね、中学生の頃にキョンと肩を並べて歩いていたときに、僕はそれに似た感情を持っていたんだよ。これは正直な気持ちだ。そして、僕はその状況に満足していた。その関係を変えることなど考えもしなかった。それは恋人というものに意味はないと思っていたのもあったが、そもそも、僕はキョンの誰に対してもどんな場所であっても不偏的な人柄が気に入っていたからね。自分にも無理に変わろうという気持ちは生じなかったんだ。……そしてそのまま、僕たちは高校に入ってそれぞれ違う道を進むこととなった」 佐々木は俺の理解度を確かめるような間を置き、続けて、 「……それから一年以上が経過して、先日僕たちが久しぶりに駅で鉢合わせた瞬間、僕としてはキョンの顔を見て沸き出でる喜悦の情を禁じ得なかったんだ。でもそのときですら、僕はそれを、好意を寄せていた君に対して生物としての本能が感じさせたものだと思っていた。そして正直なところ……あの時僕は塾の時間までには暫くの間があってね。もっとキョンと昔のように話をしたかったんだ。言い訳がましく学校の憂さ等を語っていたがね。実はそうなんだ」 「じゃあ俺たちと一緒に喫茶店まで来たら良かったじゃないか。あいつらだって佐々木なら喜んで迎え入れてくれるし、茶の支払だって俺がいつも一括して担ってるから佐々木の分が増えたところで変わらん。お前が来てたなら奢らせてもらったんだがな」 俺の言葉を聞いて、佐々木はくっくっと嬉しそうな声色で笑い、 「それは勿体ないことをした。唯一の心残りだ。でも僕はあのとき涼宮さんたちを目に入れて、そんな余裕や厚かましい態度を取れる程心が平静ではなかったからね。態度には出さないように努めたが、あれで結構戸惑っていたんだよ」 「そりゃあ全く気付かなかった。でも何に戸惑う必要があったんだ?」 「……僕自身も、そのときは何故そんな動揺を抱いてしまったのか分からなかった。でもね、今なら理解できる。僕はあのときキョンは中学生の頃とそう変わっていないと思っていたが、キミと彼女たちをみて、以前とは違うものを感じたんだろう」 俺がイマイチ得心出来ないでいると、 「これはキョンには分からないかも知れない。自分で見ているものでも、他人からの視点でなければ感じ取れないものというのがある」 それが何かと言えば、と続けて、 「つまり、キョンの視点が以前と変わっていたんだ。僕はそれを感じて、今まで並んで歩いていたと思っていたキミが何処か別の場所へ行ってしまったように思い、無意識の中で寂寥とした侘しさを抱いたんだろう。だが僕の自意識はその感情を否み、それらが心底で葛藤を繰り広げていたために僕は動揺していたんだと思う」 …………………。急に不思議な静寂が広がる。俺が何事かと尋ねようとした瞬間、 「……ここまで、キョンは何か気付かないか?」 いんや。まだ良く話を聞かんことには何とも言えんし、すまんが話の内容以上のものは分からん。 「そうか。じゃあ話を続けよう」と佐々木は、 「少しだけ話を戻そうか。恋愛は精神病の一種だという見解についてだ。……現在僕が考える所の恋愛感情による病的症状というのは、万人がそう言うように、盲目という障害を発生させるものなんだ。そして、それは何も恋愛にとりつかれることによって恋人にしか目を向けなくなるということや、それによって周囲の状況を正常に認識し得なくなることだけではない」 「それ以外になんかあるのか? 俺にはまったく想像がつかないんだが」 ……このとき佐々木が浮かべた笑顔に、俺は軽くてやわらかな音を聞いた気がした。 「――僕も想像すら出来なかった。それに、僕がそれら以外のものに気付いたのは本当につい最近で、しかもこれは僕自身が実際に体験することによって認知出来たものなんだ。……質問の答えが遅くなってすまない。僕は、『それ』を過去の自分に教えてみたかったんだ。僕はそれに気付けて良かったと思っているけど、時期が遅すぎたことに対しては率直に後悔の念を隠せない。でも、そんな僕の愚考による浅劣な行動を君たちが止めてくれて、嘘偽りなく心から感謝しているよ。おかげでもっと大事なものに気付くことができたからね」 皆にはすごく迷惑をかけてしまったけど、と佐々木は微笑みながら話していたが、俺にはまだ分からない点があったのでそれを言葉に表した。 「佐々木。そのお前が気付いた『それ』っていうのは何なんだ? あと、もっと大事なものってのも」 佐々木はキョトンとして俺を見つめ、すっかり元通りになった独特の笑い声を漏らし、 「……既に九十九パーセントの部分を言ってしまっているようなものなんだがね。しかし、それは僕が今となっても、出来ればその曖昧な段階のまま終わらせたかったということだろう。すまなかった。ちゃんと言葉にしよう」 いや、謝るべきなのはいつだって俺さ。それに聞いてばっかりで申し訳ない。 すると佐々木は、 「――いや、考え方によっては、これはお互い良い方向に進めるきっかけになるかも知れないな。『それ』を明確に答えることによって、僕が抱えてる九十九パーセント答えが判明している懸案と、キミが抱える疑問に答えを出すことが出来るからね」 「……他にも悩みがあるのか?」 俺の言葉に、 「なに、悩みという程のものじゃない。あえて悩みという言葉で表現するなら……そうだな、百五十億年かけて壁にぶつかれば、一回は素通りできるんじゃないかという希望を否定しきれない僕の弱さに悩ましさを覚えるよ。だが、それもすぐに解決する。キョンの疑問の『それ』に対する答えとなる……次の僕の言葉によってね。これには、今までのように錯雑に言語を交えて紛らわせたりはしない。キョンには、そのままの言葉を受け取って欲しい」 俺が教会で神の御言葉を代弁する教皇に向けるような厳粛な態度で沈黙すると――佐々木から、俺が持つ想像力を遥かに超えた言葉が飛び出した。 「わたしね、ずっと前からキョンのことが好きだったんだよ? ……今まで自分でも気付かなかったのは、きっとわたしがその気持ちに背を向けていたからなんだと思う」 突然佐々木らしくない言葉でこれまたらしくないことを言われては、俺の天地が崩壊して意識がブッ飛ぶ事態を起こすのに何ら障害はない。 ――が、俺は体の支えを失って倒れこむなんてな真似は到底出来なかった。出来る筈がない。やる奴がいるとしたらそいつは本当のフヌケだ。 ……佐々木の瞳はしっかりと俺の眼へと向けられ、その言葉に冗談なんてものは微塵も入ってないと訴えかけていたからだ。 くっく。不意に俺の耳にそんな音が届いた。目の前にはイタズラな笑顔を見せる佐々木がいた。 「そう固まってくれるなよキョン。まあ、そうなるのも仕方がないことだけどね。今の僕の台詞は投げっぱなしであるがゆえに、キョンは何とも答えようがいんだ」 脳がオーバーフロー気味に停止していただけであった俺は未だ反応できず、 「それに、僕も何かキミからの返答を求めようとは思っていなかった……いや、本当は聞きたくなかったのかもしれないな。僕はこの期に及んでも、臆病な心に噛み付かれたままだったようだね。まったく、どうしようもないとはこのことだ。……このように、どうしても僕は心の中に飼っているものに自分では抗うことが出来ない。それを踏まえて、一つ質問してもいいかい?」 若干の思考能力を取り戻しつつ、おもむろに首肯した俺に佐々木はうなづき返した後、少しの間を置き…… 「もしキミが、先程の僕の発言に言葉以上のニュアンスを感じこちらの意思を受け取ることがあったなら、それに対してのキョンの気持ちをそのまま僕へと伝えて欲しい。恐らくそれは一言で済むだろうし、それで十分だろう。僕はそれに含有された意味を正しく受け取とれる自信がある。これは、今までの僕たちが積んできた時間と関係性を根拠にして言い切れることだ。それは君だって同じだろう? ……そして別段思うところがないのであれば、このまま続けてキョンが抱く疑問に対しての答えを出すことにするよ」 ――さて、どうする? と俺に質問を投げかける佐々木。俺は…………。 わかってる。流石に気付かなければならない。佐々木の気持ちに、言わんとしているものに。 即物的なものを佐々木は望んでいるんじゃない。それもわかる。 だが、それは『そう』なのだ。俺がそれを受け入れてしまえば、『それ』になってしまうんだ。 そして、あいつもわかってる。そうなってしまうということを。そして、俺のそれに対する返答と……、 ――この言葉が、どういった意味なのかを。 「……すまない」 キュッ、と唇をむすぶ佐々木。……それを見て、俺は眼の裏側が熱くなるのを感じた。 それは俺の意識をうろんげにし、ふと気付けば、既に佐々木は言葉をつむぎ出していた。思い返せば、「ありがとう」と聞こえていた気がする。それに、俺が返答してから佐々木が話し出すまではそう時間は空いていなかったかもしれない。 「……僕は恋愛感情というものに目を当てることをしなかった。そんなものは存在しないとさえ思っていた。しかし、それは確実に僕の中に成立していたんだ。それを認めなかったがために、僕は自分の心底に潜む猛獣、愚昧な臆病心に自身が捉われていることにさえ気付けなかった。それはつまり、僕は恋によって盲目になっていたと言えるんじゃないか? 恋愛感情を否定することが、実はその存在を肯定する一つの証明になっていたなんてね。不覚にも、僕の確証バイアスは真逆の結論を導いてしまったわけだ。……そうだな、この僕の経験則は、まるで社会主義の効率性を立証せんとし、逆に経済の破綻を導き出してしまったコルナイのそれに似ているよ」 まるでミレニアム賞問題のいずれかを解き伏せたような喜色でくっくっと笑い、 「しかもそれによって、僕にもずっと以前から恋愛感情は存在していたという事実と、それの不変性にすら確証付けるまでに至るとは思いもしなかった。これにはもう一驚を喫するどころか感嘆の意すら覚えるよ。ああ、こんな情操的な感情を抱けたのは実に久方振りな気がするな。一番近いときでは、都心に原発を誘致することによって原発の実態を国民に垣間見させるよう目論んでいた、都知事の計画案に対してだったかな」 まあこれは映画の話だがね、と無邪気に手を振りながら、 「キョンも見てみると良い。キミの価値観や世界観に対してもすべからく影響を与えてくれるだろうから。……そして、僕はいま、心から過去になんて行かなくて良かったと思えている。なぜなら、こうなることによって、僕の世界は新たな変容をむかえられたからね。もちろんそれはトランジショナルなものではなく、リアライズされたことによってのものだ」 フリスビーを手首のスナップだけで放ったような手つきを見せ、 「――さて、キミが残すところの疑問もあと一つとなった。僕としてはこのまま話を続けてもいいのだが、」 上空に広がっている亀裂が加速度的に拡大していく様を指差し、 「長らく続いた僕の閉鎖空間とやらも、そろそろ終焉を迎えるようだ。なので、どうかな? 日を改めて、またあの喫茶店に前回のメンバーで会するっていうのは。歓談が出来るかは分からないが、きっと彼等らもキョンに言っておきたいことやらがあるだろうし、僕もキョンがそうしてくれるとありがたい」 「ちょっと待ってくれ」 なんだい? っと思いのほか早い反応を見せた佐々木に、 「おまえさ、過去に行こうなんて思い立ったのも、藤原と喫茶店で二人っきりになったときに何か言われたからなんだろ? ……あのとき、二人でどんな話をしてたんだ?」 佐々木は微妙に悩ましげな表情を顔に作り、思い立ったように、 「……もう隠す必要もないだろう。うん、教えよう。まず僕が過去に行きたかった理由は先に話したように、僕に潜んでいた感情を過去の自分に気付かせたかったからなんだ。それはもちろん、只の自己満足などではなく、それによって変化するものがあったためだ。それは今ではどうしようもなくてね。僕は卑しくも、あのとき彼からそれを変えられるという話を聞いて、みずからそれを望んだんだ」 どこか悲しげにそれを話す佐々木に、 「……変えるって、この世界をか?」 佐々木はゆっくり首を左右に振って、 「僕の行動によって、君たちのSOS団がこの世界からなくなってしまうなんて知らなかった。本当にすまない。今思い返すと、自分の思慮を欠いた軽率な行動に悔やみ入るよ。取り返しのつかない事態になっていたかもしれないのだから」 いや、お前が世界を変えるようなことをするなんて誰も思っちゃいないさ。 「佐々木、謝るのはナシにしよう。それは俺がすべきことだ。お前は何も気になんかしなくっていい。それにさっきの俺の言葉だってな、どうもお前が過去に行ってなにかをやるなんて信じられなかったから出ちまったんだ。気にさせてすまなかったよ」 でも、と佐々木はうつむき加減に、 「……確かに、僕が変えたものによって現在を違えてしまう予見はあったんだ。むしろそれが、僕の本当の希望だったのかな。すまな――」 俺の視線を受けて佐々木は言葉を中断し、 「……僕の過去での行動よって、変わるものとは何か? について述べよう。それは非常にシンプルで、かつ単純に意味が反転するだけのものなんだ。それに、答えは既に僕たちの今までのやり取りの中に紛れている。キョン、わかるかい?」 んー。正直に言えばサッパリわからん。……ヒントをくれないか? 「そうだね、中学生の僕たちが話していても何らおかしくはない、むしろそちらのほうが健全であろう会話の中の一文だ。……僕はもう言いたくないので、キミ自身で気付いてくれないか? おや、これもヒントになるだろうね」 暫く考えた俺であったが、佐々木がもう言いたくないこと、という言葉をそのまま考えて答えらしきものを見つけた。だが……。 「――それって、まさか……」 「わかってくれたようだね。ご名答。それだ。そして変わるのは――」 虚をつかれて戸惑っているような顔をしている俺に、 「……僕の告白に対する、キョンの返事なのさ」 正直、佐々木のこの言葉には納得しかねた。……それって藤原の嘘だったんじゃないか? 俺の佐々木に対する認識は過去を通してつい先程まで変わっちゃいなかったし、いつ言われたとして俺の意見が変わるとは……。 「ストップ。……そこまでにしてくれないか?」 佐々木から沈鬱な色で言い止められ、 「……すまん。考慮が足りなかった」 あいつの気持ちをまたもや意にかけていなかった事実に俺が自省していると、 「そういう顔をしてくれるなよキョン。僕は何もその後の言葉が聞きたくなかったわけじゃない。あのね、親友という立場の見解から言わせて貰えば、今の言葉はキョンの返事の理由としては若干の異存を残してしまう。今のキミは、もっと違った理由からあの返事を言っているはずなんだ」 お前が言うからにはそうなんだろうな。しかし、 「じゃあ、どんな理由からだと思うんだ?」 くっくっ、佐々木は事もなげに笑い、 「……それこそが、僕が最初に感じた過去のキョンとの相違点なんだ。キミは依然として気付いていないようだが、それを僕が教えてしまうのは無粋でしかない。それに言ってみたところでキョンは合点がいかないだろうし、これは己で気付くべきものだからね」 だから言わない。と、続けて、 「さて、僕にもまだ言い残したことがあるが――それもまた次の機会に回そう。それに、僕の心も今は……人並み程度には失恋の悲しみに打ち震えているんだよ? 存在しないといっていたものを失くしたことによってそう思うなんてバカげた話だがね。……だが逆に、そうであるからこそ、今の僕の悲哀は通常よりも大きいかもしれないな。それこそ、今ここで泣き崩れることだって容易に出来る程だ。しかし、僕はキミにそんなものは見せたくないし、キョンだって見たくはないだろう?」 そう言いながら揚々とした態度を取る佐々木に、俺はそうは思わないと言った。なぜなら…… 「……おまえが一人で泣いてる姿を想像するほうが、俺としては……ずっとやりきれん」 ――そっか。と、言い漏らすかのように佐々木は小さく呟き……しばらくは俺も佐々木も表情を崩さず、ただ、佐々木が何かを思っているだけのような静寂が二人の間に流れた。 「……優しいね。キョンは、いつもそうだったね」 まったく身に覚えがないことを言われたが俺は否定せず、 「ならば、それに甘えさせて貰おう。僕はここで泣かせてもらうよ。けど、やっぱり涙は見られたくないかな。そうだ、こういうのはどうだい? キョンが許すなら、キミの胸を貸し――」 ――その時、スウ、と佐々木の頬を一縷の水が伝った。 それは止め処ないようにサラサラとしたたり始め、佐々木はあわてふためくように、 「……す、すまない。こんなモノを見せるつもりはなかったんだが…………」 ひらいた手の平でそれぞれの頬をさすりながら、 「――ふ、あっあれ……? 僕は――」 「……佐々木」 ――俺は視線を横に流し佐々木へと近寄りながら、一歩手前で足を止めた。 そこにはもはや少女の泣き顔になっていた佐々木がいて、俺は、受身になった佐々木のその潤んだ瞳をしたたかに見つめ、視線を斜に落としながら一言、「すまなかった」と……俺には、これだけしか言えなかった。 佐々木は両方の手で顔を包み隠すように、ストン。と俺の体に倒れかかってきた。 胸の中でむせび泣く佐々木に、俺はその双肩に手をやる事だけしか出来ず、「――少しは、気付いてよ……」という佐々木がこぼした言葉に、ただ、俺は馬鹿野郎だったと、痛いほど……感じていた。 っと、まあ……佐々木が過去の自分と話したかった理由は、こうだったというわけだ。 そして佐々木は最後のあのとき、俺の鈍感さ加減に対して言葉を漏らしたんだと思われる。 ……だがしかし、俺はもっと別のことに対して気付いてやるべきだった。中学時代、佐々木自身も気付いていなかった……佐々木の心の中、その脆い部分に。 そこを俺が友人としてなにか助言でも出来ていたならば、あいつが自分の悩みに気付けずに、自分が悩んでいるということにすら気付いていないという状態になるのを回避出来たかも知れない。 ……しかし、後悔ばかりしているわけにもいかなければ、現在の俺と佐々木の関係は、以前よりも健康的に繋がっている。事件の詳細についても後日の喫茶店での会合でもう少し掘り下げれられているので、もう少し回想タイムを延長しようと思う。 SOS団お馴染みいつもの喫茶店、そこにいたのは、 「よ、キョン! お前恋のポエムなんか書いてんだってなぁ? ほぉー、早く見せて貰いたいもんだ!」 いや正確に言えば一文字だって書いちゃないが。ていうか谷口、いきなり声を掛けられると困るんだが、色々と。 「お前が似合わねぇツラ下げて、物思いにふけってやがるからだよ。てゆーか、なんだ、全然書けてねぇのか?」 もっと俺を見習えよ、と俺のシリアスな回想を邪魔しくさった谷口はなにやらのたまっている。 なになに? ほう。お前はポエムの麒麟児なのかもしれないってのか。谷口。五つ神童、十で天才、二十歳過ぎればただの人って言葉を知ってるか? だがまあ谷口の場合は、五つ残念、十でがっかり、二十歳過ぎたらああやっぱりって具合だろうね。 「なに言ってやがる。俺にはひがみにしか聞こえねえな とにかく、ちゃんと書いてみるこったな」 まさしくその通りである指摘をし、早くも谷口は「ま、せいぜい頑張れよ!」とスタスタと教室内を歩き去って行った。あいつはマジで俺の心配でもしに来たんだろうか? 「ちょっとキョン。あんた、まったく詩書いてないっての?」 ……そういえばハルヒが後にいたんだった。谷口、スマンがお前は余計な事態しか起こさなかったみたいだ。 が、それより……。 ――こいつ、今日はやけに大人しいな。メランコリックなのか? まさか、なんかの予兆じゃなかろうな。それは勘弁してくれ。ただでさえ俺は朝っぱらから別の不安材料も持たされてるんだから。 「どうすんのよ? タイムカプセル埋める余裕がなくなっちゃったら」 そりゃああなた、埋めないだけですよ。とは言わず、 「いつ埋めるかもう決めてるのか? あと、何処に埋めるのかも」 そうだな、俺んちはよしといた方がいい。なんせ俺の妹という自分で隠したヘソクリすら翌日に開けちまうヤツがいる。こいつは庭に俺たちが何か埋めたのを嗅ぎつけて掘り起こすどころか、タイムカプセルの中身の眠りまで覚ましちまうぜ。 「あんたが掘り起こすんじゃないの」 とハルヒ、あくまで淡々と。俺は肩をすくめつつ、 「しないね。正直ヘソクリは俺も一日しか我慢できなかったが、こればかりは勝手に掘り起こそうもんなら団長ってよりは組長みたいなヤツから俺が埋められちまう」 ……うん? 予想に反してハルヒからの反応がない。 俺の話を聞いていたのかどうか、ハルヒは頬杖をついたまま流し目で、 「……ゴールデンウイークの花見のときに、そのまま鶴屋さん家の庭に埋めようかな。あそこなら、この先もずっと残っていきそうだし。そこで作った短歌を入れるのもアリね。うん。そうしましょう」 他人の家で実行される計画案にも関わらず、今この瞬間ハルヒの中で決定されたような口振りだ。確かにそれには誰も否やはないだろうし、鶴屋さん邸が何世代にも渡って受け継がれていきながら益々の発展を遂げていくだろう予見にも疑いようは皆無だろう。だがハルヒ、そこは人の良心としてだな、まず鶴屋さんにお伺いを立てるべきなんだぞ。 「わかってるわよ、そんなの」 いやぁどうだかね。お前ほどそこら辺が怪しいヤツはいやしないし、恐らく元より備わってないだろうし。 「あんたね」ハルヒは机の方へ体を少し沈ませて、「それもこれも、詩が出来てからじゃないとダメなの。余計なもんにあたま回してないで、ちゃっちゃと書きなさいよね。花見まで出来なくなったらどうすんのよ」 それは困るなと思いながら、 「……だいだいだな、恋の詩ってのが無茶なんだ。下手したらお前、それ、下手なラブレターより始末が悪いじゃねえか。しかもだな、ハルヒよ。それを掲示板に貼り付けられちまうってんならまだしも、自ら印刷して全校生徒に配ってどうする」 ピクリ。ハルヒの頬から杖の役割を果たしていた腕が離れる。 そしてハルヒは腕を組みながら背もたれに寄りかかり居直すと、何故かその表情は数学教師が難問を寝ている生徒に問いかけて狙い撃つ際の偽悪的に作られたニヤリ顔を呈しており、かと思えばシタリ顔で教鞭を振るうかの如く右手人差し指をクルクル回し、明快な声調で、 「キョン? いい? 宛名のない恋文になんか言葉以上の意味はないのっ! そんなんじゃ、あんたはラヴソングすら歌えないわ。世界中のシンガーソングライターを敵に回すつもり? あたしはそんなくっだらない戦いは所望してないわ。どーでもいいから書くのよ! ほら、テキパキと済ませちゃいなさいよねっ!」 「……そっ、そうか?」と圧倒される俺。 ――いやはや、今までさんざ俺が呼び水を差していたのにも関わらず、コイツはなんだかよくわからん場所で元気を取り戻した。一体さっきの俺の言葉のどこに元気の素があったと言うのだろうか。それより先にもっと噛み付くところがあったじゃないか。 しかし結果オーライだ。ハルヒはどうやら鬱々としていたわけじゃなく軽度の感情の浮き沈みで意味もなくホウけていただけだったようである。そうであって欲しい。なんせ現状は団員の原稿の仕上がり位しか危惧するところはなく、他の事情によって憂鬱な色が出ているのであれば、それはそのままハルヒ以外のSOS団員(特に俺)に憂慮すべき事態が発生し東奔西走するという過程を辿ってしまうということが、今までの経験からして疑いようもないんだから。 そんな思考を巡らしながら、「てゆうかさ」と俺。「お前、なんで今回の機関誌の内容をポエムなんかにしたんだ? 単純にページ数が少なくていいからだってのか?」 今更な質問に、ハルヒはさも当たり前のことを言わんとするかのように鼻を鳴らし、 「それもあるけどね。モチロンそれだけじゃないわ。いいキョン? 詩っていうのはね、作者の人間性を計るのにはベストな創作活動なの。人としての魅力ってぇのは結局、その人物のインプットとアウトプットがどれ程のレベルで成り立っているかってことだから」 「どういうこった」 「一つのモノから、どれだけ情報を得られるのか。それをどれだけ伝えることが出来るのかってこと。詩を作る際にはこれに情報を変換する作業が加わるの。これは人間にしかない文化なのよ? そして、いかにそれらに富んでるかってのがイコールその人の魅力度数で、それが人間性の豊かさって言葉になるわけ」 「じゃあ長門はどうなる?」 「有希はあんた、寡黙で知性的な所があの子の魅力じゃない。多くを語らずとも有希の人間性は溢れ出てるの。むしろ、有希は背中でモノをありありと語ってるわね。そういうこと」 ふむ……まあ、わかる気はする。長門はアウトプットこそ微小だが、そのままハルヒの言葉通りに行動から長門らしさが顕然と現れるし、内包しているものはそれこそ計り知れない程だ。 それに、その理論を体現しているのは他ならぬハルヒ自身であろう。 世の中の事象全てを己が内にせしめんとし、コメットハンターばりの瞳で宇宙を見つめながら実際にその目の吸引力で彗星をも引き寄せそうなハルヒの求知心は本当に珍妙なエトセトラを呼び込む程であるし、こいつがアウトプットするモノは物理的概念的な意味でも途方もない。 ……って、これじゃあハルヒが魅力度トップって話になっちまうんじゃないか? 魅力的ランキング争い大本命の朝比奈さんはどうした。 俺の脳内で何故か陸上競技のビブスを着用したSOS団三人娘(ハルヒ赤、長門青、朝比奈さん黄色)が激烈なレースを繰り広げていると、 「それにね。今回の機関誌製作は、昨今のテレビ制作やミュージックシーンに対するアンチテーゼでもあるの」 それは気付かなかった。まさか、特に別条のない一学校組織の中でもおぼろな一団のポエム誌に、そんな大仰な意義が付属していたなんてさ。 ハルヒは未だ腕を組んだまま、若者がフェミレスで姿の見えない何かに対して実体のない怒りをぶつけているような感じで、 「家族と夕飯喰ってるときに流れてるテレビ位はあたしの目にも入るんだけど、なんでどの局もテンプレートに似たような番組しか作ってないの? 制作スタッフが大衆を愚鈍だと思ってるとしか思えないわっ! それに音楽だって、癒しだのなんだのばっかで逆にウンザリしちゃうってのよ。もっとあたしたちみたいに、面白さがなんたるかを突き詰めてクリエイトしていくべきね!」 その面白さの基準は全てハルヒ視点からなるものでありそれによって俺と朝比奈さんが被害を被る事が非常に多い件については、じゃあ面白くないのかという問いに対して俺はあの日キッパリと答えを、明言しているので言及しない。それには長門、朝比奈さん、そしてどうやら古泉すらも同じ答えを出すであろうから、なんら問題はないんだ。まあ……毎回事件は起こるんだが。 そして俺は音楽業界に明るくはないのだが、確かに近頃メディアで流れているインスタントなミュージックよりは親の部屋から流れてくるロカビリーでジャジーな野良猫たちの音楽や、メンタイコが好きな雄鶏が歌うロックンロールの方が心に触れるモノがある気がする。だが多分、つまびらかに調べて行けば現在もそういったミュージシャンたちは存在するんだろう。そういえば谷口がリンゴがどうだのピローがどうしただのと絶賛してたっけ。 しかしテレビについては一つ俺の考えをハルヒに示してみようと思い、実際に提言してみた。 「ハルヒ。確かにお前のその意見には俺もほとんど同調する。しかしだな、テレビに関しちゃそんな手法を取っているのは他にも原因が考えられるんだぜ」 「なによ? まさか効率性重視な商業の打算的な考えだとか、興行だからとかいったツマンナイ理由を言い出すんじゃないでしょうね」 それも言おうと思っていたのでちょっぴり悔しくなり、「そうじゃない」と負け惜しみ的に前置きして、 「つまるところ、民放のテレビってのは単なる看板でしかないんだ。制作側がどんなに新鋭的で良質な番組を作ろうが、それを見る人が少数派ならスポンサーの付き手が少ないから成り立ちにくい。言うなれば、それは砂漠のオアシスみたいなモンで、見定めることができるヤツにとっちゃあまさに楽園だが、悲しいかな人が少ない場所には看板が立ち難いし、立たなけりゃ広告宣伝料も入らないがゆえに番組は潰れちまうというわけさ。しかしだ、そんな番組は当たれば視聴率が安定して得られるし、成功例が往々にして長寿番組になるんだ。と、そうは言ってもそれは難しい。それより、魚群の中にその時々で効果的な仕掛けを放ったほうが成果としては確実に望めるだろ? でもだな、そんな打算的なツマラナイ手段を取るハメになるのは、時勢に飲み込まれている視聴者側が、鋭気溢れる制作者たちの番組に目を向けられないからというのも起因してるんだ。つまり似たようなテレビ番組が増えてるのは、我々民衆の意識の程度にも問題があるわけで――――」 と……ここまで言いかけて、俺はどこかこの状況に既視感と違和感を覚え、ハッとするようにピタリと止まった。 「どうしたの? ちゃんと最後まで言いなさいよ。気になるじゃない」 「あ、ああ。そうだな……」 俺はハルヒに余した話を言い終え、先程感じたものについて考察し、それはすぐに判明した。 ――そう。さっきの風景は、ハルヒがSOS団結成を思い立つキッカケになった一年程前の俺とハルヒの会話の風景に似ていたんだ。 そして、あの頃とは決定的に違うものがある。 それはまあ、俺とハルヒが話している姿が周囲から見てなんら不思議ではなくなったということと、俺の演説をハルヒが止めなかったこともそうだな。思えば、会話の内容がハルヒ的には死ぬほどつまらない話であったはずにも関わらずだ。 ついでに言えば今は雨が振ってるし……朝倉もいない。 だがしかし、一番変化していて、しかも一番重要な以前との違いはそんな目に見えてわかる事柄じゃないんだ。一体それは何か。 わかるだろ? ハルヒは今、この世界を心から楽しんでいる。 そしてそれは、俺だって一緒だ。もちろんSOS団のみんなだって。 でもまあ、それには気付いているつもりだった。だったんだが……。 見えているものが違う――。俺は、佐々木があのとき言っていた言葉の意味が今、何となく実感出来たような気がした。 第二章
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第4周期 Dear my sister 卵の殻が向けるようにして真っ赤に染まった世界は崩れてゆき、現れた空の色は灰色だった。ハルナの精神世界が消滅して元の閉鎖空間に戻ってきたのである。 「なぜだ」 なんと目の前に神人がいるではないか。 しかもこちらを覗きこむようにしてじっと見ているではないか。 まさかのまさかとは思うが、狙われているのではないか? 蛇に睨まれた蛙の如く、神人に見られている俺は硬直してしまった。 「なーに固まってるのよ」 「いや、だって目の前に居るんだぞ……」 「そうね、でもまあなんとかなるんじゃない?」 そう言っているハルヒも、神人の意図がつかめないらしく、にらめっこが一分弱ほど続いた。 俺達を見たまま、腕をあげてとある方角を指をさしている。 「向こうに何かあるみたいね、行ってみましょ」 ハルヒは走りたいようだがハルナを起こさないことが優先されたらしく、早歩きで進んでいく。俺は慌る必要もなくその後をついて行った。 「古泉君!」 「お疲れ様です」 神人が指していた方角には、古泉を先頭に機関の御一行が俺達の帰還を待っていた。 ここにいたのが古泉だけだったら「何だお前だったのか」と言っていたが、今は森さん達がいるのでそう言えまい。 「約束を破って申し訳ありません。言われたとおりに待機していたのですが、神人が現れたので万一のことを考えて迅速に行動できるよう閉鎖空間で様子を見ていました」 「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、何とか今日のところは解決したわ」 「こちらは何一つ異変はありませんでしたから、うまくいったようですね」 その察しは正しいが、無駄に爽快なスマイルをいちいちこちらに向けるのは控えて頂きたい。 「ひとつ残念なことは、時間が巻き戻されてしまったということでしょうか」 「なんだって!?」 俺がそうリアクションをすると、森さんが加えるように言った。 「涼宮ハルナさんは昨夜11時以降存在していませんでしたから、それに合わせる形になったのでしょう」 「じゃああたし達はハルナが寝た時間に戻されちゃってるってことね。やれやれ」 そう言うとまたハルナの髪をなでた。 また一日をやり直さなきゃならんのか……。 「別にいいじゃない。また寝られるんだし」 ハルヒが眉間にしわを寄せ、口を尖らせて言う。そこまで不快だったのだろうか。 「そう言う考えでいいのか」 「そういうもんよ」 「とは言ったものの、どうやって戻るんだ」 「そうねぇ、普通にここから出てもいいんだけど、それだと家まで帰るの面倒だし」 確かにここから自宅まではかなりの距離がある。時間がかかりそうだ。 「よろしければ我々が家まで送りしますが」 「ありがとう、でも一番手っ取り早いのは……」 古泉の申し出を断ると、俺の顔を覗きこんで言った。 「前と一緒の方法でいい?」 「は?」 と言いますと……あれですか……。ハルヒは眠っているハルナを森さんに預け、準備万端といった面持ちである。 「SleepingBeauty」 「過剰なまでに分かりやすく言わないでくれないか、というか何で知ってるんだ」 「あたしをなめないで頂戴。じゃ、さっさと帰りますか」 そう言うとハルヒは俺の襟首を掴んで引き寄せる。当たり前のことだが顔が近い。 「ちょちょちょちょっと待て心の準備が」 「準備なんか要らないわよ馬鹿」 次の瞬間には、もう俺は言葉を発することが出来なくなっていた。 嗚呼、機関の皆さんの目の前で……。 「ぅはっ!?」 そして気付くと、自室の机に突っ伏して寝ていたわけである。 「ん、戻ったのか……」 目を開けて十数秒後、頬に張り付いていたのはよだれでしわくちゃになった数学のノートであると気付いた。そこから寝起きとは思えない素早さでティッシュペーパーを掴んで染みを拭き取ったが、健闘むなしくそこに書いてあった数式はもはや救いようのない状態となっていた。 ノートの救出を諦め、ティッシュを丸めてゴミ箱に投げた。時計を見ると、午後11時を過ぎたところであった。確かにハルナの寝た時間に戻されているようだ。 今改めて考えても、ハルヒのあれは強引過ぎやしないだろうか。いや、確かに俺の場合も……何を言わせるつもりだ。 嗚呼翌日古泉に何といわれるのだろうか。そしてどのように弁明すれば良いのだろうか。 「なんつうことしてんだよ俺……」 そしてまたあの時のように頭を抱えて一人悶絶していたのである。 「いや、したのは俺じゃないだろ! ハルヒが強引に……ぁぁ」 ダメだ、いくら言い訳したところで何も変わりはしない。思い出したら恥ずかしさ満点だ。 翌朝古泉にどのような措置を取ろうか対策案を考えるのは学校に行ってからでも十分間に合うだろうと考え、もう寝ることにした。 正直なところ、超絶リアルお化け屋敷を探検して心身ともに疲れていたのである。 そして俺はベッドに横たわり、目を閉じた。 「ん?」 ふと目を開けると、見上げた空は暗く、辺りは灰色に包まれている。 「ってまたかよ!」 勢いよく跳ねるように飛び起きると、しばし茫然としていた。 また制服を着ている。これで俺がいる場所は確定した。 「閉鎖空間……」 そう呟いた俺の声が半泣きだったのはなかったことにしてもらいたい、余りにも情けない。 もう一回寝られると言っていたではないかハルヒよ……。 確かに時間は巻き戻されていたわけだが、これじゃあ眠れなさそうだ。 「あ、キョン君が起きましたよ」 「おや、お目覚めになりましたか」 その声のした方向を向くと古泉と朝比奈さんがいた。 「……おはよう」 訂正及び追記、長門もいた。 勿論全員が制服姿である。みんなが閉鎖空間に集合するとは珍しい。 「俺達はどうしてここにいるんだ?」 「涼宮ハルヒに呼ばれたと考えられる」 まあその答えは全くもって予測通りであって。 「何のために1日に2回も連続で……」 「え? キョン君は2回目なんですかぁ?」 そのことを知らない朝比奈さんが見事なリアクションを見せてくれた。 「ええ、いろいろありまして彼と僕は2回目なんですよ」 こっちを見ながら『いろいろ』とか言わないでくれ頼むから。朝比奈さんのその視線からすると、間違いなく古泉のせいで勘違いしている。 「ハルナのことで一悶着ありまして」 誤解を解こうと弁明を始めたその時、青い光が灰色の世界を照らした。 「現れましたね」 学校のグラウンドに神人が姿を現した。下を向き、腕はだらんと下がったまま動かない。 「あれは一体何なんですかぁ……?」 朝比奈さんが不安で泣きそうな顔をしているが、前回同様あいつが何をするということもなければ大丈夫だろう。 「そう言えばハルヒはどこだ?」 「あそこ」 長門が指さした先、ハルヒがいたのはなんと神人の目の前だった。 「あんなところに、大丈夫なのか?」 その距離は20メートルあるかどうかという至近距離である。 さっきは大丈夫だろうと言ったが訂正する。今回の神人がアグレッシブではないとはいえ、あれだけ近いと流石に不安になってきた。神人が一歩でも歩き出せば大変なことになる。 「僕も懸念していましたが、あの状態から全く動いていないので、さほど危険ではないと思います」 「そうは言ってもだな、あれが動き出したら……」 「その時は僕が何とかしますのでご安心を」 長門がはっとした表情を浮かべた。 「どうした」 「情報フレア発生の予兆を感知、直ちに観測を開始する」 「あいつ、これを見せるために呼んだのか?」 ハルヒの周囲がやけに眩しい。 「……………始まる」 まるで長門のそれを合図にするように、神人が光の粒子となって消えていく。その粒子が渦を巻き、竜巻のように高速回転していた。 「これが、フレアなのか?」 「まだ。これから」 竜巻はしばらくすると消えてしまった。 ……。 「来た」 「?」 長門曰くもう始まっているらしいが、さっきまで眩しかった光はすっかり消えている。見た目では何も変わったことはない。 とてもフレア(爆発)が起こっているとは思えない静けさである。 「本当にフレアが起こってるのか?」 「情報は物質ではない。視覚化させなければ目視出来ない。でも、涼宮ハルヒを中心として膨大な情報が生み出されているのは間違いない」 今、グラウンドに立っているハルヒからとてつもない勢いで情報が生み出されている(らしい)のだ。 その情報量がどれくらいかは分からない。バイト数で表すとそれに必要な接頭文字はテラ(10^12)やペタ(10^15)では足りないだろう。もしかしたらヨタ(10^24)でもゼロがたくさん並んでしまうような量かもしれない。 長門のパトロンが待ち望んでいたような規模の現象なのだから、世界トップクラスのスーパーコンピュータでも処理出来ないような代物に違いない。 「今視覚化する。待ってて」 突然、目の前にガラス片のような物体が現れた。それらの量といったら、前方にいるハルヒの姿が全く見えないほどだ。しかもそれらが高速でこちらに飛んできているではないか! 「うわっ」 「ひゃぁっ」 「うおっ」 長門以外の3人はそれらから身を守ろうと重い思いの手段を講じていた。しかし破片はそのまま身体をすりぬけていった。 「これが、情報?」 「その人が最もイメージしやすい形になる。だから見え方は人によって異なるかもしれない」 俺には七色に輝くガラス片に見える。物質ではないのでぶつかることはないにしても真っすぐ飛んでくるのはやはり怖い。 その情報のかけらたちは四方六方に飛び散った後、はるか上空へと真っすぐに飛んでいき闇の中に消えていく。 どのくらい続いただろうか、次第にガラス片のような情報のかけらの数は減っていき、情報爆発とやらは終わった。 「観測終了」 長門がそう呟く。俺達は、目の前で起こった「すごいもの」が脳に焼き付き、言葉が出なかった。 どこか宙ぶらりんになっていた意識を戻したのは、ハルヒがこちらへ走ってくる足音だった。 ハルヒは息切れしていた。何もそこまでして走らなくても。 「どうだった? すっごいでしょ」 ああ、確かに超大規模な超常現象だったよ。 俺がそう答えると、ハルヒは高らかに言った。 「えー、この度は団長主催の第一回情報フレア観測会にご参加いただき誠にありがとうございましたー!」 主催って、やっぱりお前が呼んだのか。 「何よ、わざわざ招待したんだから有り難く思いなさい」 そう言って膨れっ面をするので、「はいはいありがとうな」と言って頭を撫でたら思い切り払い退けられてしまった。俺を一睨みすると視線を長門へ移す。 「有希、どうだった?」 「問題なく観測は完了。統合思念体に送信して分析を行なっている」 「そ、じゃあこれにて解散!」 そう言うと俺の襟首を掴んで引き寄せる。今にも顔と顔がぶつかりそうなほど近くに……、 え? 「なによ、文句ある?」 いや、文句ある無し以前にまたですか。俺だって何をしようとしているのかは分かってるぞ。 「なら尚更よ。この方が手っ取り早いんだからいいじゃない。それとも深夜の暗ーい住宅地をたった一人で帰れるのかしらー?」 こいつ、俺がハルナを連れて戻るのにどんな怖い経験をしたか知ってて言っているだろ。何という悪魔の笑顔。 「じゃ、2回目いきますか」 ……お前、顔赤いぞ。 「う、うっさいわね、あたしだってそれなりの準備はいるのよ」 古泉、期待するような視線は止めろ。長門と朝比奈さんも興味津々な表情をしないでください。 その視線がハルヒにも気になっているのか、しばらくこう着状態が続いた。 「……」 「しないのかよ」 「さっきはあたしがしたんだから、今度はアンタからしなさいよ!」 「無茶言うな」 しかしこの状況、生殺しだ。 「もーじれったいわね! するならする、しないならs……」 うるさいのでその口を俺が塞ぐことになってしまった。あくまでもそうなってしまったんだからな。 「うぐぉっ」 そして今度はベッドから転落して目が覚めたのである。 「さ、3時……」 時計を掴む手は震えていた。 「二度も……あんなことを……」 そして次の瞬間にはいつかの時と同様に頭を抱えて悶絶していた。 お陰で今月最高に眠れぬ夜となったのであった。 翌朝、俺は今シーズン最高の睡眠不足による強烈な眠気と戦いながら、通学路を歩いていたのである。 途上、何やら話しかけてきた谷口のトークを軽く流しながら昇降口に進み、止まることのない欠伸を噛み殺しながら上履きに履き替える。 廊下で待ち構えていた長門に会った。また報告があるらしい。 「貴方に報告すべきことがある」 「昨日のフレアについてか?」 「それはまだ分析中。今回は涼宮ハルナについて」 今度はどうなったのだろう。少し緊張しながら長門の報告を聞く。 「反対派は、涼宮ハルナの記憶修正を条件に賛成に回るとしていたがそれを却下した」 「どうしてだ、せっかく相手が譲歩してきたのにそれを突っぱねるなんて勿体無いぞ」 正直、俺も記憶修正には反対していない。あんな記憶を背負っていくなんて辛いだろうと考えているのである。 しかし長門は首を横に振った。 「記憶がフラッシュバックした場合を想定した結果、取り返しのつかない事態になると判断した」 「二の舞どころじゃ済まなくなるってことか?」 「そう。リセットできない可能性もある」 それを考えていなかった。フラッシュバックして凄惨な記憶が一気になだれ込んだらどんな精神状態に追い込まれるか、想像するまでもない。 「シュミレーション結果を提示したところ、反対していた主要な派閥は折れた」 軽く反省していた俺に飛び込んだその言葉に、一瞬耳を疑った。 「…………なに!? つまりOKってことだな!?」 「そう。こちらの主張が通った」 「よくやった長門!」 「痛い」 歓喜のあまり、肩を掴んで激しく前後に揺さぶっていた。 「あ、すまん」 そうだ、ここは廊下だ。またしても「何してんだこいつ」という視線が四方六方から容赦無く突き刺さる。(心が)痛い。 「いい。また放課後に」 俺には大ダメージを与えた視線という名の矢は長門には効果がないのか、そう言うと背を向けて歩いていく。 「忘れていた」 立ち止まって振り返る。長門が言い忘れるとは珍しい。 「2人の『あれ』は非常に興味深い」 長門から放たれた矢がぐさりと突き刺さる、一番ダメージがでかかったのではないだろうか。既にボロボロだった俺の精神はオーバーキルされていた。 「ちょ、長門……」 「ジョーク」 あはは、冗談がきつ過ぎますよ長門さん……。 (半ば抜け殻の冗談で)教室に入ると、既にハルヒがいた。いつかの時のように外を眺めていて、着席した俺に気付いていないのかわざとなのか、こちらを見ない。 「ハルヒ」 「……なに」 聞いているのか微妙な返事である。 「寝不足か」 「……さあ」 「……」 「……」 会話が成立しない。 諸問題は解決したというのに、結局昨日や一昨日と変わらずセロハンのように薄っぺらな言葉のみを交わすだけであった。 放課後、部室に行くと俺はまたしても遅刻のようで、ハルヒがまたしても仁王立ちしていらっしゃる。 「遅い!!」 すっかりいつものテンションに戻っているらしい。一方の俺はといえば相変わらずである。 「どっかの誰かの所為で夜眠れなくてな、どうも素早い行動がとれないんだ」 「ばっかじゃないの?」 何で顔が赤いんだ、お前がみんなの前でやったんだろうが。お前も眠れなかったのが今朝ぼーっとしていた原因か? 「だっ、誰がそんなお間抜けと一緒なもんですかっ」 「……ツンデレ」 「有希!?」 「迂濶」 長門の二度目の爆弾発言の投下により、俺とハルヒはどこかに矢が刺さった状態になっていた。 「……まぁそれはいいとして、みんな揃ったことだし、第3回緊急会議を始めましょ」 「まず、何か新しい動きがあったらどんどん言ってちょうだい」 ここで、朝比奈さんが手を挙げた。 「今朝、報告がありました」 「ようやく未来人も動き出したのね」 「どうだったんですか?」 「ハルナちゃんの出現による未来への影響は、危惧されていたよりも少ないみたいです」 「そう、よかった。じゃあこれで心配する必要は無いってわけね」 これは一昨日には朝比奈さん(大)から聞いたことなのだが、それは知らないことにしているのだ。 「こちらも涼宮ハルナが提示した条件を呑むことで一致した」 長門のその報告に、ハルヒの顔は一気に眩しく輝いた。 「それホント!? ありがとう有希!」 「じゃあ、これで解決ってことでいいんだな?」 「揉め事が起こらなくてよかった、もうこれで安心ね」 「では緊急会議を開くことはしばらくなさそうですね。おや?」 部室の扉が開いた。そこには、赤いランドセルを背負ったハルナがいた。走ってきたらしい。肩で息をしているし、汗でぐっしょりになっている。 「昨日は、ごめんなさい」 俺達は軽く困惑していた。ハルナが謝る理由は分かっていたが、それは謝る必要があるのだろうか。 「私のせいで大変なことになって……それで……」 「あのなぁハルナ、別に謝……」 俺が言うよりも、ハルヒが立ち上がるのが早かった。そしてまたあの高い音が部室に響いた。 ハルヒがまたしても思い切りハルナの頬を叩いたのである。やり過ぎだ、と言いたかったが、ハルヒの物凄い剣幕に負けてしまった。 「よくもそんなことが言えるわね!!」 マジギレというものだろうか。ハルヒが烈火のごとく怒鳴っている。 俺と古泉は正直怖くてとても手が出ず、長門も硬直していた。 終いにはそのまま蹴飛ばしてしまうのではないかという程の怒りようであった。 朝比奈さんが勇気を振り絞ってハルヒを止めようとしたが、顔のまわりを飛ぶ虫を払うかのようにあっさり振り払われた。 「あたしが世界のためにやってきたと思ってるの!?」 ハルナの肩をしっかりと掴んでいる。もう一回叩かれると思ったのだろう、ハルナは目をぎゅっと閉じていた。 が、ハルヒはハルナを抱き寄せていた。 「ハルナのために決まってるでしょ!!」 「…………ありがとう……」 その週の土曜日、涼宮姉妹を除いた俺達は長門の部屋に集合していた。 長門が時計を見て言った。 「来る」 皆がうなずいた。俺は立ち上がり、準備を始めた。 ハルヒには、ハルナと一緒にここへ来るようにメールを送信してある。メールに書いた時間よりも早く来るのは想定の内である。 待機して5分と経たないうちに扉が開いた。 「キョン、あのメールはどういう……」 玄関で待ち構えていた俺は、二人が入って扉を閉めたタイミングを狙ってそれを構えた。 「え……?」 「ちょ、ちょっとキョン?」 喰らえ。 マンションの一室に火薬が炸裂する音が響いた。 「………………へ?」 身の危険を感じてハルヒの腕にしがみついて目をつぶっていたハルナは、予想外のことにちょっと間の抜けた声を出した。俺はそれに思わず吹き出しそうになった。 手荒い歓迎によって涼宮姉妹は金色のテープまみれになっていた。 大量のテープの束を頭に被ったハルナはその状態のまま目を点にしている。ほぼ同じ状態のハルヒは静電気で髪や服にまとわりつくテープをに不快感を露にしていた。 「うーわ……、ちょっと何よこれ」 バズーカ型クラッカー、2000円也。貴重な一発なんだぞ。 「あのねえ、そういうのを訊いてるんじゃないの。ここでするなんて聞いてなかったわよ」 「サプライズってのは重要だと思うんだがな」 「最初に提案したあたしを差し置いて計画を変更するなんていい度胸してるじゃないの」 パキパキと指を鳴らす音が聞こえる。 「すまん」 その眼光で凍りついた俺は反射的に謝罪の言葉を述べていた。どうか罰は無しの方向でよろしくお願いします。 「姉さん、これは……?」 妹の髪に絡み付いたテープを払いながら姉がネタバラしをした。 「遅れちゃったけど、ハルナの誕生日パーティーよ」 あの日を悲劇があった日ではなく、ハルナの誕生日にしようということが満場一致で決まったのだ。 そしてそのことはハルナには内緒にして各々がパーティの準備をしていたのだが、ここで行うことはハルヒにも内緒にしていたのである。 「涼宮さん、早く早く」 玄関にいる俺達に早く来るようにと、朝倉が催促をしている。 「ってぇ! 何でお前が!」 「あら、悪いかしら?」 「お前を呼んでないしそもそもお前はパーティーのことは知らないはずだろ」 「こういった場は賑やかな方がより盛り上がる」 「あ、長門が誘ったのか?」 「そう。何か問題でも」 「いえ全く」 朝倉も飛び入り参加し、大勢が集まった誕生日パーティーはそれはもうにぎやかなものであった。 ハルナは見事にロウソクの火を一発で消した、さすがである。 さて、ロウソクの火が消えたことだし、ケーキを切って……朝倉、ケーキを切るのにそのナイフを使うな。 「ダメかしら」 駄目だ、ちゃんとした調理用具を、って聞いちゃいない。長門、その横でイチゴの数を数えるのは止めなさい。 「こっちが多い」 後で均等になるように分けてやるから我慢しなさい。おい朝倉、切ったあとにナイフについたクリームを舐めるなよ行儀の悪い。 「いいじゃない。クリームが勿体無いもの」 わざわざ妖艶な笑み浮かべてこっち見んな、調子に乗って舌切っても知らないぞ。 「おやおや、世話好きですねえ」 お前はニヤニヤするのを一刻も早く止めて手伝え古泉。さもなくばお前に回ってくる食い物はないぞ。 「それは恐ろしい」 今上げてる両手に皿をのせてこい。 パーティーが始まると、みんな騒がしく会食していた。 その喧騒の中、ハルヒが飛び級の提案をしたがハルナはそれを拒否した。 「どうして?」 姉の問いかけに、下を向いて答えようとしない。 「怒らないから言いなさい」 その台詞ってかなり矛盾してるよな、と俺が呟いた瞬間、俺の視界は音速で繰り出された拳によって真っ白になった。酷くないかこれ。 「え、あ、大丈夫ですか……?」 「ぁぁ大丈夫、続けて……くれ」 「それで? 理由は何なの?」 「学校で友達ができたから」 なんとも微笑ましい理由であった。 「そこのロリコン、ニヤニヤしない」 なぜこうも冷たい。 「だーかーらー……」 哀れな俺を誰か救ってくれ。 パーティーがお開きとかなると、今回の一連の騒動の最後の仕事が始まろうとしていた。 「座標計算中」 ハルヒとハルナは、平行世界の「俺」に謝罪しに行くのだという。そりゃあ、一度殺そうとしているのだからな。 各勢力の協力の元、二人は別世界への小旅行に向かうのだ。 「準備ができた」 「ありがとう有希」 「確認する。貴方はこれが最初で最後であると言った。これに間違いはない?」 「勿論よ。これ以上迷惑をかける訳にはいかないしね」 「分かった」 二人は私服を着ているので制服に着替えたりしなくていいのか尋ねたが、曰く私服は別世界のハルヒであることの証明とのこと。もっと効果的な手段もあるらしいが禁則事項らしい、どこがどう禁則なのやら。 「向こうにも、アンタとあまり変わらないキョンがいるんだけどね。改めてみるとやっぱり別人かもね」 「そりゃあ全く同じということはないだろうな」 「あっちのキョンの方が勇敢で格好良かったわよ」 な、なんだと? 「半分冗談よ」 半分ってどういうことだよ半分って、俺が劣ってるのに変わりないじゃないかそれじゃあ。 「はぁ……思い出してきちゃった……」 頭に手をのせてしゃがんでしまったハルヒの肩に、ハルナが手を置いた。それに反応してハルヒが顔を上げた。弱々しい笑みを浮かべていた。 「ごめんね」 ハルナが首を横に振った。 「謝らないで」 「ありがと」 ハルナと手を繋いで立ち上がる。と同時に長門が告げる。 「戻るタイミングは貴方達で決められる。でも、長居は禁物」 「分かったわ。じゃ、行ってくるね」 長門が何やら唱えると、二人を光が包んだ。それが二人の影を見えなくするほどに眩しく輝くと消えていった。 二人がいなくなった部屋で、片付けを済ませていた俺達は何をするということもなくくつろいでいた。朝倉はくつろぐどころか、部屋の一角を占領して熟睡していらっしゃる。 「しっかし、俺達がどうなったのか詳しくは教えてはくれなかったな。長門、お前のところにそれに類する情報はあるんだろ?」 「涼宮ハルヒの記憶はごく一部のみ閲覧が可能だった。でも、私には許可が下りていない」 「どうしてだ?」 「理由を尋ねた。統合思念体からの答えは、想像を絶するという短いコメントのみだった」 想像を絶する、か。俺がハルナの精神世界で見せられたのはちょっとした記憶の片鱗に過ぎないから、それ以上なのだろう。 「そういえば、あの時の情報フレアはどうだったんだ?」 「統合思念体が観測出来た情報の多くは、未知の暗号化が施されていた。分かっているのは、同一の情報を複数回送り出していたということだけ」 「何で暗号化なんてしたんだろうな、発信した意味がない気がするが」 「恐らく、」 古泉が割り込むように言った。 「ストレス発散のようなものではないでしょうか。愚痴を紙に書き連ねて破って捨てるのと同じようなものだと思います」 確かにハルヒが経験したものはかなりの負担だろうからな、古泉の主張も一理ある。 「統合思念体は情報の解析を保留している。破棄する可能性もある」 「せっかく受信した情報フレアを調べないで捨てるのか?」 待ちに待った情報フレアを観測出来たというのに、それは勿体無いのではないかと考えるのは素人なのか。 「そう。仮に解読が出来たとしても、それが本当に重要なものであるかは疑問」 「そうか、じゃあ、完全になかったことにしてもいいのか?」 「そうはいかないかと思います。お二方共に記憶はしっかり残っているわけですし、闇も完全に消えたとは言えません。今後どんなことが起こるかは」 「闇の影響は報告されてないです」 再び割り込んできた古泉にそれ以上言わせない勢いで朝比奈さんが割り込んだ。 「ハルナちゃんはしっかりしてますし、大変な事は起こらないと思います」 「済みません朝比奈さん、ですがこれが我々の仕事ですから」 「古泉、お前のところの機関はどうなるんだ?」 「これからも我々の活動方針に変更はありません。しかし貴方に頼る回数が増えるかもしれませんね」 そうか、ハルナの精神世界が発生した場合、入れるのは現段階では俺とハルヒしかいないのか。あの空間は入る人を選ぶんだったよな。 「頼るのはいいが早くハルナに信頼されるよう努力するんだな」 「肝に銘じておきます」 「長門、因みにあの情報フレアの量はどれくらいだったんだ?」 「現段階での情報量をバイト数で表すとおよそ3GcB」 なんだか知らない単位が聞こえたような気がするのだが。 「ぐ、ぐるーち?」 「そう」 「それはどれくらい大きいんだ?」 「分かりやすく表現するならば、SI接頭辞ペタの1024倍の1024倍の1024倍の1024倍の1024倍」 その説明が果たして俺にとって分かりやすいのか分かりにくいのか……。ペタってのがテラの1000倍だったよな、つまり……。 「すまん、逆によくわからない」 「10の30乗」 「ああ、とりあえず馬鹿デカイってことはよくわかった」 「そう」 長門は読書を始め、古泉は持参してきたマグネット将棋で俺と対局している。朝倉は相変わらず寝ている。 朝比奈さんが煎れてくれたお茶を飲む。うん、うまい。 「いつ戻ってくるでしょうか」 急須を見つめながらそう呟いた。 「何か都合があるんですか?」 「いえ、お茶が一番おいしくなるタイミングがあるものですから」 「帰ってきてからでもいいんじゃないですか?」 「丁度のタイミングで出せたらかっこいいかなーと思ったんです。ちょっと無理ですかね」 そう言ってこちらに微笑みかける。そのスマイルのおかげでお茶が更においしくなる。 「賭けましょうか。俺は今から30分後だと思います」 「んー、25分後くらいでしょうか」 「では僕は35分に」 「40分」 どうやら全員(寝ている朝倉を除く)がこの賭けに乗ったようだ。 「勝った方はどうします?」 古泉のその言葉に俺は内心焦った。朝比奈さんはわたわたと慌てている。 「え? あ、いや、本当に賭けるんですか?」 「冗談です。あくまでも予想するだけですよ」 まさか古泉のジョークにここまで動揺するとは、不覚である。 もう一口飲む。朝比奈さんの煎れるお茶はたとえ冷めても十分においしい。それでも朝比奈さんにはこだわりがあるのだろう。 ようやくいつものSOS団に戻った。今後、ハルナがどんな騒動を起こしてくれるのか、少し楽しみである。世界を変えない程度にな。 「角は貰った」 「あ、ま、待って下さい」 「待ったは1回だけな」 二人が戻ってきた時に何と言ってやるべきだろう。 シンプルに「おかえり」でいいか。 周期数不明 Brack Jenosider
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6.《神人》 機関の本部ってのは始めて来た。 何の変哲もないオフィスビルの一角だった。普通の会社名がプレートにはまっている。 「もちろん偽の会社です。機関の存在目的を世に知らしめる訳にはいきませんから」 古泉はそう言って笑った。 しかし、何の仕事してるかわからん組織に良くオフィスを貸してくれたよな。 「このビルは鶴屋家の所有物ですから」 なるほど。 俺の計画は簡単だ。《神人》を通してハルヒに話しかける。 ハルヒの元に声を届ける場所が他に思いつかない。 「どうでしょう。《神人》に理性があるとは思えません。 あれは、涼宮さんの感情の一部が具現したものだと思われますが」 古泉は疑わしげだ。無理もない。閉鎖空間については古泉の方がよっぽど詳しい。 何度も訪れているんだからな。 俺だって確証なんか何もない。 だがな。 「お前は閉鎖空間でハルヒが俺を呼んでいる、と言っただろう」 前に古泉が言ったことを持ち出した。 この言葉が俺を決心させた要因の1つだ。 「確かに閉鎖空間に入るとそう感じますが……」 古泉はまだ納得行かない、という顔をしている。 「俺はこの1週間、何度もハルヒに話しかけたんだぜ。でも全く反応がなかった」 当たり前っちゃ当たり前だけどな。 「現実世界ではハルヒに声は届かない。 閉鎖空間でハルヒが俺を呼んでいるなら行ってやるしかないだろう」 俺としては、古泉始め機関がこの可能性に思い当たらなかった方が意外だ。 「なるほど。解りました。どのみち、僕はあなたに委ねたのですからね」 誤解を招くようなセリフはよせと言っているだろうが。どういう意味だ。 朝比奈さんも一緒に閉鎖空間に行かないかと誘ったのだが、古泉が止めた。 朝比奈さんは、病院でハルヒと長門についている、と言った。 「今回は神人に近づかなければいけません。危険ですからね」 ハルヒなら朝比奈さんに危害を加えるわけはないと思ったが、結局俺が折れた。 「万が一と言うこともあります。僕としても、1人ならともかく、2人も守れるか自身がありません」 そう言われたら仕方がない。 「わたしも、長門さんも気になりますから病院に行きますね」 朝比奈さんはそう言った。 長門は相変わらず眠ったままらしい。 こんな状態じゃなければゆっくり休んでくれ、と言いたいところだ。 俺は朝比奈さんに2人をよろしくお願いしますと言うしかできなかった。 「まず、あなたにお礼を言わなくてはなりません」 「お礼?」 何のことだかわからん。俺はまだ何もしていない。これからしようとはしているがな。 「いえ、橘京子のことです。1回目の接触で、ある程度目的は予測できていました」 まあ、あいつが俺に用があるとしたら1つしかないよな。 「ですが、そのときはまさかTFEIがすべて活動を奪われるとは予測していませんでした。 前日に連絡を取った際には、何も起こってなかったんですからね。 今朝の時点で、機関内部でも佐々木さんに頼るという案すら出たくらいですよ」 まじかよ! 機関はハルヒを神としているんじゃなかったのか。 「その案を指示したのはごく一部の人間です。でも情報のつかめない宇宙存在よりは 佐々木さんに力を託した方が安全。そういう考え方もあります」 胸くそ悪い、と思ったが俺も人のことは言えない。 一瞬でも、そっちに気持ちが動きかけたのは事実だ。 「結局、我々はあなたに選択を委ねたのですよ。 何とか最後まであがいてみるか。この場合、危険が伴います。」 古泉は大げさに首を横に振った。 「──それとも、佐々木さんに世界を委ねるか。 機関としては好ましくないのですが、仕方がありません」 そう言って肩をすくめた。 「結局、機関は何とかできるのはあなただけだという結論に達しました。 それが涼宮さんに選ばれた鍵の役目だと。 世界がどうなるか、それを決めるのはあなたです」 おいおい、勘弁してくれよ。そんな大げさなことを考えていた訳じゃないぜ。 だいたいそんな大事なことを俺個人の感情で判断していいのかよ。 だが、もう俺は選択しちまった。 「僕個人としては、やはり最後まであがいて見たかったので。 ですからお礼を言わなくてはなりません。ありがとうございます」 お前のためにやったんじゃねぇよ。勘違いするな。 「やれやれ」 もうそれしか言うことがない。 「とにかく、今は少し休んでいてください。今のところ閉鎖空間は発生していませんから」 「時間までに閉鎖空間は発生するのか?」 これが一番の懸案事項だ。他にハルヒと話せるかもしれない場所はない。 それすらできるのかどうか怪しいもんだ。古泉だってそんな経験はないんだからな。 いっそ、去年の5月にあったあの閉鎖空間を作ってくれりゃいい。 だが、そう上手くは行かないだろうな。 「実をいうと、最初の頃より発生頻度は下がってきてはいるんですよ。 その分、僕の感じる涼宮さんの不安感は増えているんですが。 それにしても、まもなく発生しますよ。単なる勘ですけどね」 「お前がそう言うなら間違いないだろうさ」 閉鎖空間のスペシャリストだろうからな。 俺のセリフに古泉は苦笑した。 「しかし、発生する数が減ってるってのはどういうわけだ? それで不安が増してる?」 長門が言うには、この探索とやらを実行中は、ハルヒにかかっている負荷が大きく変わる訳ではないらしい。 だったら、閉鎖空間も同じ頻度で発生するもんのような気がするが。 「はっきりとわかってるわけではありません。ただ、苦痛は慣れるということではないかと」 思案げな顔をして、古泉が言った。 俺がここで考えたってわかるわけもないか。 時間だけがただ過ぎていった。俺はイライラしながら閉鎖空間の発生を待った。 朝1で来たってのに時間は10時半を回っている。 わざわざ車を回してもらう必要もなかったな。橘から簡単に逃げられはしたが。 古泉は何かと用事があるらしく、俺は通された部屋で1人待っていた。 森さんが顔を見せてくれるかと思ったが、かなり忙しいらしい。 「まだかよ」 もう何度目になるかわからない独り言をつぶやく。 まさか閉鎖空間の発生を心待ちにする日が来るとはね。 あんな灰色空間は好きになれないはずなのにな。 だいたい、上手く行くのか? 何の確証もないんだぜ。 橘の戯言に乗った方が確実なんじゃないのか? 後のことは後で考えればよかったんだ。 1人で考えていると、どうもマイナス思考になる。 いかんいかん、俺は首を横に振った。 長門の診断と予測、古泉の言ったこと、朝比奈さんの忠告。 俺は全部信じているんだろ? だったら──俺は俺にできることをするだけだ。 「お待たせしました」 やがて、古泉が俺を迎えに来た。 「来たか」 待ちわびたぜ。 今行ってやるからな、ハルヒ。 閉鎖空間が発生したのは、前回と反対側の県庁所在地のある都市だった。 全国的にお洒落な街というイメージがあるらしい。 同じ県内にもかかわらず、俺は数えるほどしか来たことがない。 街に出る、というと前回の大都市に出る方が多いからだ。 駅前から続く花の通りとか名付けられた道の海側から、閉鎖空間は広がっていた。 ん? この位置だと、東側から入ればもっと早かったんじゃないのか? 「なるべく《神人》が現れる場所の近くから入りたかったので」 なるほどな。 「それでは行きます。目を瞑ってください」 あのときと同じように、古泉は俺の手を取った。 そういやどうして目を瞑らなければならないのか聞いてないな。 朝比奈さんとの時間旅行のように目が回る感覚などない。 何か違和感を通り過ぎる、という感じか。 ──キョン── 一瞬、ハルヒの声が聞こえた気がした。 いや、聞こえた気、じゃない。 はっきり聞こえる。 「もういいですよ」 古泉の言葉で目を開けたが、相変わらずハルヒの声が頭に響く。 ──バカキョン!── ──バカ! いつまで待たせんのよ! 罰金!!── えーと、ハルヒ? うるさい、お前の怒声は頭に響く。いや、文字通り響いているんだが。 俺は決死の覚悟でここに来たんだが、歓迎の言葉がこれか? 思わず溜息をついてうなだれると、古泉が心配そうに顔を覗いてきた。 「大丈夫ですか? どうかしました?」 古泉には聞こえてないのか。 「何がです?」 「ハルヒの声」 古泉は目を見張って俺を眺めた。 「俺の頭がどうにかなっちまった、って可能性もあるけどな」 そんな目で見られると自信がなくなってくる。 「そうではないでしょう。 前に言ったとおり、僕にも涼宮さんがあなたを呼んでいるのは感じられます。 ただ、感じているだけで聞こえている訳ではなかった」 そう言うと、少し考えるようなポーズを取った。わざとらしいが様になる。 「どうやら、あなたが正しかったようです。涼宮さんはあなたを閉鎖空間に呼んでいる、 それで間違っていなかったようですね」 悔しいがこいつにそう言ってもらえると安心する。 そんな会話をしながらも、俺の頭の中にはハルヒの怒声が続いている。 バカだのアホだのマヌケだの罰金だの死刑だの、ほんとに勘弁してくれ。 「呼んでいるっていうかな、さっきからずーっと怒鳴りつけられている訳だが」 俺が溜息をついて言うと、古泉は少しだけ笑顔に戻って言った。 「それはそれは。こういう状態になっても涼宮さんは涼宮さん、ということですか」 まったくだ。 「おい、ハルヒ、いい加減にしてくれ!」 俺たち以外誰もいない灰色の空間に向かって呼びかけてみる。 だが、何の返答もなかった。 俺の頭の中には、さっきからハルヒの罵声が響いてて、いい加減嫌気が差してくる。 なんつーか、今朝の俺の決意をすべて喪失させる気か、この野郎。 今朝まで深刻に悩んでいた俺がバカバカしくなってきた。 後で朝比奈さんに、今朝あたりの俺宛にでも伝言を頼むか。 『悩むだけ損だぞ、俺』なんてな。 そうは言っても、俺がそんな伝言受け取っていないことが既定事項ではあるが。 俺がそんなげんなりした気分になっていると、古泉の真剣な声が聞こえてきた。 「始まりました」 何度見ても現実感がない光景が広がった。 青い巨人──《神人》がゆらりと立ち上がった。 相当距離があるのに、その巨大さからかなりはっきり見える。 あれは新幹線の駅の辺りだ。 そして、前に見たとおり、周辺の建物を破壊し始めた。 「……………」 俺が無言なのはその光景に飲まれたからではない。 ──このバカキョン!── ズガァァァァン ──こんなにあたしを待たせるなんて許し難いわ!── ドカァァァァン やれやれ、間違いない、あの《神人》は確かにハルヒのイライラそのものだ。 《神人》の動きと俺の脳内音声が、完全に一致している。 しかも、俺に向けられているらしい。 「古泉、何でか知らんがあの《神人》は俺にむかついているらしい」 溜息とともに吐き出すと、古泉は一瞬不思議そうな顔をしたが、フッと笑って言った。 「なるほど、それがおわかりですか。ならあなたの計画も上手く行きそうですね」 しかしハルヒ、ずるいぞ。俺にだけ一方的に声を届けるなんてな。 お前に声を届けたいのは俺の方だよ。 「かなり遠いな。まさか歩いて行くのか?」 「いえ、それでは時間がかかりすぎますから。ちょっと失礼します」 そう言うと、古泉はいきなり俺を羽交い締めにするように抱えた。 「おいっ! 何しやがる!」 思わず反論した俺に、古泉は軽口で返しやがった。 「おや、正面から抱き合った方が良かったですか?」 「ふざけんな!」 アホなやりとりをしている間に、目の前が赤い光でに染まった。 古泉が例の赤い球になったらしい。内部はこうなってるのか。 なんて考えた次の瞬間、ものすごい勢いで飛び立った。 「うおぉ!?」 早い、何てもんじゃない。生身で飛行機に乗っているようなもんだ。 ただし、赤い光のおかげか、風圧は全く感じられない。 眼下に流れていく景色を見て、思わず身震いする。古泉にばれたな畜生。 しかしこれはかなり怖い。こいつはいつもこんなことをやっているのか。 《神人》の近くにたどり着くまで、1分とかかっていない。 時速何キロだったのか、誰か計算してくれ。俺は考えたくない。 《神人》は、手近な建物から破壊を始めていた。 近くで見ると大迫力だ。映画みたいだ。 そんなのんきなことを考えている場合じゃない。 あの《神人》がハルヒの精神と繋がっているなら、声が届くのはここしかない。 《神人》の少し上を飛んでもらいながら、俺は大声で叫んだ。 「ハルヒーーーーーーーーーー!!」 しかし、俺の声は全く届いていないように、《神人》は破壊活動を止めない。 俺の脳内音声もますます活発だ。 いくらハルヒの怒声に慣れていても、さすがに凹んでくる。 時折少し離れて休憩を入れながら、俺たちは何度も《神人》に近づいた。 俺は何度かハルヒを呼んだが、《神人》は変わらず、何も起こらない。 周りの建物を殴りつけ、蹴倒し、踏みつけている。 閉鎖空間も広がっている、と古泉が言った。 畜生、やっぱりダメだったのか!? だんだん焦ってくる。 ──何やってるのよキョン! このへたれ!── あーもう、ハルヒ、うるせぇ少し黙れ! お前どっかで見てるんじゃないだろうな。俺が何をしたっていうんだよ。 「すみませんがそろそろ限界です。これ以上《神人》の破壊活動を放置すると厄介です」 古泉が焦った声で言った。 ここで《神人》を倒してしまっては俺がここまで来た意味がない。 次の閉鎖空間を待つ時間もない。 もしかしたら、次の閉鎖空間は生まれないかもしれない。 どうする? 俺は悩んだ。 ハルヒは俺を呼んでいるくせに、俺がここにいることに気がついていない。 いや、識域下では気がついているのだろう。だから俺に声を届けている。 今回は表層意識に残らないと意味がないのか。 仕方がない。一か八かだ。無理矢理意識を引っ張り出すほどのことが必要だ。 俺は最後の賭けに出た。 「古泉、最後にもう一度《神人》の頭の上を飛んでくれ! これが最後でいい!」 「承知しました」 《神人》の上に来ると、俺はもう一度頼んだ。 「古泉、俺を離してくれ!」 「何を言っているんですか!?」 「いいから離せ!」 「無理です!」 「大丈夫だ、ハルヒが、俺が死ぬことを望むわけがない!」 俺だけじゃなくて、お前もな、とは言ってやらなかった。 「わかりました」 しばらく悩んだ古泉が苦しそうに言った。 「ただし、あなたを離したら僕も一緒に下ります。危険と判断したら助けますから」 「悪いな」 確かに、古泉の飛行速度を考えたら、自由落下より先に俺の下に回り込めるだろう。 「たたきつけられて潰れるのは俺もごめんだ。頼んだぜ、古泉」 古泉に助けられなくても大丈夫だと思いたい。 古泉が俺を離して──俺は落下を始めた。 ハルヒ、信じてるからな! 恐怖を感じている暇はなかった。俺は目一杯大声で叫んでやった。 「聞こえてんなら俺を助けやがれ、ハルヒーーーーーー!」 俺の体は更に落下していく。背筋がぞくりとした。 このまま落ちたら、体なんか残らないんじゃないか──? ふわり。 衝突の衝撃もなく、いきなり俺の体は止まった。 ふぅーっと溜息が出る。さすがに緊張していたらしい。汗びっしょりだった。 今どこにいるか、確認するまでもない。 足下も、俺の目の前も青く光っている。 俺は神人の手のひらの上にいるらしい。 まるでお釈迦様の手のひらにいる孫悟空だな。 差詰め古泉はキン斗雲か。 気がつくと、俺の脳内ハルヒ音声もストップしていた。 聞こえていた方が会話しやすいから好都合だったんだがな。 それとも、こいつとまともに会話ができるようにでもなったのか? 俺は目の前にいる《神人》を見上げた。結構怖いのは秘密だ。 古泉は赤い球になったまま、俺の隣に来た。 「まったく、あなたは無茶をしますね」 ああ、自分でも驚いてるぜ。 「よう、ハルヒ」 俺は目の前の《神人》に普通に話しかけてみた。……ハルヒも《神人》も無言。 「なんか、俺が遅くなって怒ってるみたいだな。わりぃ。俺も色々あるんだよ」 相変わらずの無言。 「腹が立ってるんだったら、こんなとこで暴れてないでいつも通り俺にぶつけてみろよ」 我ながら恐ろしいことを言っている。こんなことをハルヒに言ったら最後、俺はどうなるか誰にもわからん。 そして、やはり俺は言ったことを少しだけ後悔することになった。 《神人》が、さらさらと崩れ始めた。 そう、俺を襲った朝倉が長門によって情報連結を解除されたときのように。 俺は呆気にとられてそれを眺めていたが、状況を悟ってめちゃくちゃ焦った。 おい、俺の足場も崩れてるぞ!!!! 古泉があわてて俺の腕を掴んだ。 しかし、俺の足下の青い光がなくなっても、俺はその場に留まっていた。 古泉は腕を掴んでいるが、ぶら下がるわけでもなく、まるでそこに立っているように。 すげぇ、俺も宙に浮いているぞ! この空間は何でもありか?? 「《神人》と我々超能力者の存在だけ考えてみても、何でもありでしょう」 古泉が言った。 《神人》が完全に消え去ると、俺の目の前に──── やっとだな。 たった1週間とは思えないほど長かったぜ。 一気にいろんな感情が俺を襲う。 いろんな思いが混じり合った溜息をひとつついて、俺はそいつに声をかけた。 「久しぶりだな、ハルヒ」 目の前に現れたのは、間違いない。涼宮ハルヒだった。 感慨にふけってる暇もなく、俺は先ほどまであった脳内音声の続きを聞かされることになった。 「こんの……バカキョン!!!!」 やれやれ、再会の第一声がそれかよ。ま、声はさっきから聞いていたんだが。 「遅いのよ、遅い!!! あたしがどんだけ待ったと思ってるのよ!!」 「いや、だから悪かったよ。さっきも言ったけどな、俺も色々あるんだよ」 「うるさいっ! あんたは団員としての自覚が足りないのよ!!!」 だから悪かったってば。しかし何だって俺はこんなに怒られてるんだ? そもそも、ハルヒは今の状況を疑問に思っていないのか? 古泉に聞こうと思って振り返ると、そこには誰もいなかった。 ──逃げやがったなあの野郎。 「凄く怖いんだから、不安なんだから! 何でだかわかんないけどっ!」 ハルヒは言いながらぼろぼろ泣き出した。 俺は黙って聞いているしかできない。 「あ、あたしが、あたしじゃなくなるみたいで、凄く、怖いんだから……」 「……もしかして、今もか?」 ハルヒは過去形でしゃべっていない。今もその恐怖と闘っているのか。 「そうよっ! でも、あんたがそばに居れば何とかなる気がして、ずっと待ってたのに……」 いや、俺はできる限りそばにいたんだよ。それが伝わらない場所でな。 俺だけじゃない。長門は文字通り四六時中そばにいたし、朝比奈さんもできるだけ一緒にいたんだぞ。 伝えられなかったけどな。俺もどうすればいいのかわからなかったんだよ。 やっと今朝、ギリギリになって気がついたんだ。 遅くなってごめんな。 しかし、こんな素直なハルヒを見るのは初めてだ。 どんなに怖い思いをしても、それを誰かに悟られるのを何より嫌いそうな奴だ。 今回のことはよっぽど怖かったんだろう。 辛かったんだろう。 「悪かった、ハルヒ」 そう言って俺は、泣いているハルヒを抱きしめた。 誰だってそうするだろ? こいつは不安と恐怖相手に独りで闘っているとき、俺にそばにいて欲しいと望んでくれたんだぜ。 それに答えないのは男じゃない、そうだろ? いくら俺がへたれだと言われても、それくらいはできるさ。 しばらく俺はハルヒが泣くままにしていた。 今まで我慢していた分、目一杯泣けばいい。 いや、閉鎖空間でストレス解消していた訳だから我慢はしてないのか? ま、でも泣けるなら泣いた方がいいのさ。 しかし、大事なことをまだ伝えていない。 ハルヒを助けるためには伝えなければならない。 この時点で、まだ俺は悩んでいた。 ハルヒの力を自覚させる俺の切り札。『ジョン・スミス』をここで使うか? それとも、今ここで使うべきではないか? 近い将来、この切り札が必要になるかもしれない。 もし、ここで俺が『ジョン・スミス』だと言わずに話ができれば、それに越したことはない。 俺は脳の普段は使わない部分まで動員する勢いで、急いで考えをまとめた。 「ハルヒ。聞いてくれ」 ハルヒは涙目で俺を見上げた。 「これは夢だってわかってるんだろ?」 さすがにこの異様な空間で異常な状況だ。 なんせ俺たちは宙に浮いているんだからな。夢だとでも考えなきゃおかしい。 「そうね……こんな灰色の世界、前にも夢に見たこと……」 そこまで言って顔を背けた。何か思い出しやがったな。 「俺は現実のお前と会いたい。だから、願ってくれ。現実の世界で俺に会いたいってな」 「キョン……?」 不思議そうな顔をして俺を見上げるハルヒに、俺は更に続けて言った。 「俺だけじゃない。長門や古泉に朝比奈さん、SOS団のみんなに会いたいだろ?」 ハルヒの表情が少し変わった。目に輝きが戻ってきたような気がする。 「ハルヒが本気で願えばかなうさ。こんな灰色空間じゃなくてな。 ちゃんと“現実の”あの部室で、みんなで会おうぜ」 しかし、ハルヒは目を伏せると意外なことを言った。 「あんたは本当にあたしに会いたいと思ってるの?」 おい、さっきからそう言ってるだろ。だからわざわざこんな灰色世界まで会いに来たんだぜ。 「そうね、でも……わからないわ。あんたの気持ちが」 俺の気持ち? ハルヒが何が言いたいかわからなくて、俺は黙っていた。 「どうせ夢だし、この際だから言っちゃうけど、あんたあたしにあんなことしたくせに、何も言ってくれないじゃない」 あんなこと……って、あれだよな、やっぱり。 だけどな、あれはお前が先にしただろうが! 「そうだけど、そうなんだけど、あんたが何であんなことしたかハッキリさせたいのよ! ハッキリしないのは嫌いなんだから」 「………」 とっさに言葉が出なかった。 ハルヒがわがまま、とかそう言うのではなく。 いや、わがままなんだけどな。先にキスしてきたのはお前だ、と声を大にして言いたい。 だけどな。つまりだ。 ハルヒは、1週間前まで俺が暢気に味わっていた中途半端さに嫌気がさしてたってわけか。 正直、俺はハルヒが俺の言葉を信じてくれると思っていた。 だから、この閉鎖空間でハルヒと話さえできれば、何とかなると思っていた。 くそっ 俺が俺の首を絞めているわけだ。 自分の暢気さがつくづく恨めしい。 ああ、1週間前の俺を本気で殴ってやりてぇ。 「すまん、ハルヒ」 ハルヒの目を真正面から見つめた。 「俺は自分をごまかして、このままでもいいかなと思ってたんだ。時間はまだあるってな」 ハルヒは俺を睨み付けていた。 こいつは未だ不安と恐怖がある中で、こんな表情ができるんだ。 やっぱりたいした奴だよ、お前は。 「この先は、ちゃんと現実でお前に会ったときに言いたい。だから、帰ってきてくれ」 「夢の中のあんたに約束されたってしょうがないじゃない。 だいたいどうやって帰ればいいのかわかんないわよ」 「だから、夢じゃなくて現実の俺と会いたいと願ってくれればいいんだよ。 大丈夫だ、現実の俺もお前に言いたいことがあるはずだ。夢でも現実でも、俺は俺だ」 わかるだろ? 前の夢の後のこと、あの部室でキスした日のことを思い出せばな。 ハルヒは少し考えてから笑って言った。 「いいわ、信じてあげる。あたしをこれ以上待たせるんじゃないわよ!」 やっと笑顔が見れたぜ。 そのセリフを最後に、ハルヒも先ほどの《神人》と同じように消えていった。 思い立ったら即実行だ。何ともハルヒらしい。 「ああ、待ってろ!」 消えていくハルヒに、俺はそう言ってやった。 「うわああああ!?」 ハルヒが消えると、俺の体も宙に浮いてられなくなったらしい。 おい、ハルヒ、最後のつめが甘いぞ!! さっき助けてくれたのにこれじゃ意味がないだろうが!! そのとき、古泉が俺の腕を取った。 「大丈夫ですか?」 ニヤケ顔で俺に聞いてくる。なんか含んだ顔でむかつく。礼を言うのがためらわれる。 「何か言いたげな顔だな」 精一杯渋面を作って言ってやった。 「いえいえ、見せつけてくれたなと思っただけです」 どこで見てやがった、この野郎。 俺と古泉は近くのビルの屋上に下りた。 「我々が神人を倒す必要がなかったのは初めてのことですよ」 古泉が大げさな感情を込めていった。 「機関から表彰したいくらいですね。ありがとうございます」 そんなもの要らん。 「これから閉鎖空間が生まれたら、あなたに来て頂きましょうか」 ふざけんな。今回は緊急事態だ。いつもそう上手く行くもんでもないぜ。 「それもそうですね」 閉鎖空間はすでに崩壊が始まっており、前に見たとおりに空にヒビが広がっている。 「まったく、あいつは思い立ったら即実行で、後のことなんか考えちゃいねぇ」 俺が文句を言っている間にもヒビが広がり……やがて一気に現実世界に戻った。 日常の喧噪が耳に響く。 何とかなったのか? 日の高くなった空を見上げて一息つく。 しかし、古泉の真剣な声が俺の安堵感を帳消しにした。 「13時20分です──長門さんの予告を最小でも5分過ぎています」 ──遅かったか? 7.回帰へ
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それは突然の事だった。授業が終わり、部室でハルヒが宣言したのだ。 「キョン、セックスしよ。」 今部室では幸い二人っきりだ。OKOK、落ち着け俺!今日は四月一日でもないよな。 「おい、お前いきなり何を言っているんだ?洒落にならんぞ。まったく俺だって健全な高校生なんだからな」 ハルヒは顔を俯いたまま床下を見ている。今なら説得出来そうだな、よし! 「もしかしたら、俺が本気でお前の事を犯すかもしれんぞ。さっきの言葉を本気にして…それで妊娠してお前の将来がめちゃめちゃになったらどうする?」 ハルヒは小さな言葉で呟いた。 「あたし…キョンとなら……い、いよ」 ん?小さく何を言っているのさっぱり分からん。こんなしおらしいハルヒを見るのは久しぶりだな。 だが・俺は少しハルヒに意地悪したくなったのだが、さてどうする?やっぱりこれしかないか 「おい、ハルヒよ。俺としたいのなら言うことを聞け!」 意外なことにハルヒはコクっと頭を動かし怯えた子猫の様にこちらを見る。 「とりあえずスカートを捲れ。」 ハルヒは俺の言う通りスカートを捲り上げる。驚いたね、いつもならこのエロキョーンと叫びながら殴り付けるのに もしやこれは今までの仕打ちを返すチャンスかもしれんな。それともどっきりカメラかも… だがハルヒはスカートを捲り上げたままこちらを凝視している。多分次の命令を待っているのか? 「次はブラウスとスカートを脱げ。机の上でM字開脚するんだ」 これは思った以上にとんでもない。既にハルヒは下着姿でそれもM字で股を開いている。パンツに少し染みがあるがもしかして興奮しているのか? あの唯我独尊の団長様が…見ているのも体の毒だ、触ってみたいのが健全な高校生なんだよハルヒくん 「ハルヒ、俺が今からお前の体触るからな。その時は声を出すなよ?出したら止めるからな」 「うん…分かったよキョン…我慢するね」 俺は、人差し指をハルヒの肩から文字を書くように滑らす。気が付いたのだが、なぞっているとあいつはビックと体を震わせている。 以外に敏感なんだなハルヒよ。本当なら大事な所等を攻めたいが少し焦らしてやる。その分楽しませてもらえるからな 耳に息を吹き掛けたり、甘咬みをしてみる。いつも朝比奈さんにやっている事だからな…お前も受けてみろよ 「う…っ…く…うぁ…」 強情に耐えているな。左手で股の隙間を擦ってみると息の上がりが激しくなっている。まだ秘部には到達していないのに、この調子で触ったら一体どうなるのか見当もつかない。 「ハルヒよ、今から耐えた御褒美をやるから声を上げてもいいぞ」 俺は直接ブラの隙間に手を突っ込んだ ハルヒのそれは朝比奈さんより若干劣るものの、掌に合わせたようにちょうどいい大きさだ。 少し進んだところで、指に突起が触れた。その瞬間、ハルヒは腰を跳ねた。こいつは本当に感度がいい。 「ちょっ、ちょっとまっ‥あぁっ!」 ハルヒのそれはみるみる肥大した。俺はそこを激しく責め立てる。 悶えているハルヒ。俺は顎に手を添えて強引に唇を奪う。 ちゅぱ…んん…じゅる唾液が交じり合う。お互いの舌を絡み合えをしながら歯茎等を攻める。 余っている右手をショーツの中に入れる。反応がまた変わってきた。指先で触れると、陰毛からクリトリスまですっかりベタベタしていた。 「ちゅぱ…きょきょん…もっとあたしを…ふぁぁぁ」 段々態勢がきつくなってハルヒを引き剥がそうとしたらあいつは泣きそうな顔をしてこっちを見ている。 やばい…ハルヒに初めて萌えてしまった。ここは口には出さないことにする。 「ハルヒ…これを見ろ。俺もお前で興奮している。だから、分かるよな?」 俺はズボンとパンツを降ろし外に出たジョン(息子俺命名)はビクッビクッとハルヒの方向に向いている 「キョンのおっきい…ふふふ」 いやらしい口から放たれるその言葉は俺にとって理性を壊すのに十分な威力だ。 「ハルヒ、俺のコレを静ませなければいけない。」 俺はハルヒの手をとり握らせる。初めて異性に触られる快感、細い指で上下に擦る。 「すごい、また大きくなったねキョン…」 くう…気持ちいい、いつの間にか立場が逆転していた。袋を口に含み尿道に絡めてくる細い指 思わず射精感が込み上げてくる。それを見透かしてハルヒは激しく擦り上げていく、カリが大きくなる。 「で、出る!ハルヒ離せ、顔にかかるぞ」 言った瞬間ハルヒは俺のジョンにしゃぶりついてきた。 ドピュッドピュッと俺はあいつに口内射精をしてしまった。普通なら離すのにあいつは離さず。 精液をおいしそうに飲み込む。ドロドロしていててこずっていたが、嬉しそうに100万ドルの夜景並の笑顔を振りまいていた。 嬉しそうなハルヒの笑顔…ふと思い出す。あいつは俺とのセックスが目的ではなかったのか? 実は俺のジョンも再充電している。これもハルヒが望んでいる事だろう。こうなったら話は早い 「ハルヒ…また、大きくなったのだが?責任とってくれるよな?」 「え?」 何驚いているんだよ。お前が望んだからこうなっているんじゃないか、まさかここまでしていて拒否はないだろう。 兜虫だって目の前にある蜂蜜等無視できないさ 「俺はハルヒが欲しい。一生大事にするから、抱かせてくれ」 そう言うとハルヒはニヤニヤしながら俺の顔を見つめながら話し掛ける 「ふふ、やっとあんた素直になったわね。いつまで待たせる気だったの?あたしはこうでもしないとあんたの本音が聞けなかったからね」 げっマジかよ。ハルヒにしてやられたみたいだな、しかし悔しくはない寧ろ良かったと思う。 「まあいいわキョンの好きにしなさい、初めてだから優しくするのよ?団長命令なんだからね」 ハルヒを再び抱き寄せいつもなら絶対言わない言葉をかける。 「ハルヒ…愛しているぞ…この世界で一番」 「グスッ…キョン…世界じゃなくて宇宙で一番と言いなさい。でも、ありがと…」 お互いの気持ちが重なっていく、心も肉体も。胸を揉みながら口付けを行なう。 ふと思ったことがある。それは、さっきハルヒにジョンを舐めてもらったからなお礼をしなければならん。 「お前のアソコ舐めていいか? 」 「汚いから舐めなくてもいいわよ。でもどうしてもと言うなら…あたしはいいわ」 俺は押し倒し股を開かせ初めて生で見る女性器。エロ本で見るよりも興奮した。 「まじまじ見ないでよ…恥ずかしいし、キョンは初めて見るの?もしかして佐々木さんと…」 「佐々木とは何でもない。俺はエロ本でしかないから安心しろ」 肉色はピンクに近いな。しかし昨日までハルヒとこんな関係になるとは思わなかったな。 陰芯に舌を突き出しスジを舐め回す 拡げながら舐め回すとハルヒの顔を見ながら反応楽しむ。 「あ、あん…そ、そこよキョン…うん…」 クリトリスの皮を剥き先端にピンポイント攻撃!俺は女の潮吹きを初めて食らう事になる。 「ああぁぁぁぁぁぁーっっ!いくぅぅぅーっっっ!!キョーン!!」 クンニに集中していたから避けられずに顔面に液体がおもいっきりかかってしまった。 「うわーちょっと待て!」 「ちょっとキョン大丈夫?ぷぷぷっあはははーゴメンね!あんたの顔最高」 かけた本人のくせに、まったく困ったものだ…笑った仕返しに顔を舐めてもらうか? いや止めておくか…逆なら恐ろしいことになるからな…やれやれ 「キョン?もしかして怒った?本当にゴメンね。だってすごく気持ち良かったの…」 「俺は別に怒ってないぜ。だだ少しショックだっただけだ。」 「キョン…あたし気持ち良かったの初めてだったから、許してくれるかな?それにまだアレも残っているし…」 ああそうだったぜもう少しで萎えそうだったが、どうやら俺の息子は親孝行らしい 再びキスをねだるハルヒのリクエストに答えしばらくすると俺の目を見つめ合図をする。もういいって事だな。 再び俺はハルヒを抱き寄せて正上位の体型にもっていく ハルヒの遥(陰部俺命名)を開き俺のジョンを挿入していく ハルヒの中は予想以上きつく暖かいぜ。言うならかずのこ天井ってやつかな?俺の息子への吸い付きが半端じゃない。 「キョン…が中に…くう…また大きくなるよう…」 入れたばかりなのに、射精感がまた込み上げてきそうだ。しかしハルヒは処女のはずだが… まさか既に非処女なのか?中学時代、色々な男と付き合っていたのは知っている… だがハルヒは初めてと言ったから間違いはないはずだ、俺は信じることにした 俺は少しづつストロークを上げる。そのたびにハルヒは喘ぐ。 「あん…あん…キョ…気持ちいい…もっと乱暴にしてもだ、大丈夫よ」 そうかい、ならスピードアップする。でもすぐに出そうなので体位を変える事にしたほうがいいな 「ハルヒよすまんが四つ馬になってくれ。後ろからやってみたい、いいだろう?」 ハルヒは顔を真っ赤にして少し睨みを入れて話し掛ける 「あ、あんた正気なの?後ろから?本当に初めてなの?この変態エロキョン」 後ろから突きまくる。俺は小さな葛藤と戦っていた。ハルヒを乱暴して支配したい心。もう一つは愛しくハルヒを大事にして優しくする心だ 性交しているのに冷静になれるのはなんでだろうね。まったく俺は少し変態かもな… 気付くのが遅いかもな!もう少し奥まで突いてみた。 ズズッ…クチュ…いやらしい音が部室にこだまする 「あん…キョーン!あんたのアレ…うん…子宮に当たるわ…凄い何これ」 やばい、あまりにもハルヒの中の締め付けが丁度ジョンとの相性が抜群なのだ 「キ、キョン…次はあたしがキョンを上から見たいの、だから…いいかな?」 今度は騎上位かよ!心の中で突っ込みをいれる。 「分かったよ、お前の好きにしろ。」 ハルヒは嬉しそうに俺の上に乗りジョンを掴んで再挿入を行なう。 「あん、あん、これも気持ちいいよ。やっぱりキョンとあたしは最高のパートナーね!」 俺はハルヒの胸を揉み解す。なんか俺が犯されている感じだなこれは、しかし騎上位というのは精子を出す時難しいな。いったん退けなければいけないからな そう思いながら下を確認すると結合部から出血があった。これは純潔を破った証拠なんだな… ハルヒの動きが激しさを増す。これ以上は勘弁してくれ 「おい!やばいって出そうだ。聞いているのか?」 「うん…あん…キョンキョンキョーン何で…何か来そう」 まったく聞いちゃいない!このままでは俺はやばい事になる。射精感が限界に近い 「頼むよ…ハルヒ出そうなんだ。妊娠したくないだろ!おーい」 「ちょっと待ってよキョン!もう少しもう少しで何かが来そうなの」 「な、何?キョン中でプクッとしているわ!先端が大きくなっているじゃないの!」 更にジョンを締め上げていく。ダメだ…俺は耐え切れず。そして… くう…俺はメルトダウンしてしまった。やはり騎上位はやるのではなかった。 中で精子がハルヒに吸い取られる。 「ちょっとキョン!中に何を出したの!」 「スペルマ、ザーメン、子種、精子と言われるものだが」 まあ受精すれば子供が出来る。男と女の交わりで作る。なんて神秘的なんだろな 「妊娠しちゃうじゃないの!馬鹿キョン!あんたわかってんの?」 お前が話を聞かず騎上位で退かないのが悪い!と言いたいが…言ったら閉鎖空間どころじゃないからな 万が一子供が出来たら俺が責任とる。俺だって男だからな、その位頼りにしてくれよ。 「ハルヒ、もしもだ。出来たら一緒に育てよう。俺達の子供だ、ここで赤ちゃんを流す事は考えていないぞ。親の都合で命を奪うなんて俺はしたくない」 俺って格好いいな!ハルヒは涙を流している。 「グスッ…キョン。ありがと…出来たらあたし生むから」 俺はハルヒを抱き締めキスをする。やっぱりこいつを一生大事にしないとな…そして 突然ドアが開いた。 ガラッ 「遅れてしゅみましぇーん」 「………」 部室内が異様な雰囲気となっている。朝比奈さんは目をあさっての方向に向けながら 「あ、あ、あのう、これはお楽しみのところすみましぇーん」 朝比奈さんは真っ赤なになりながらパタパタしている「本当に知らなかったのです。ま、まさか涼宮さんとキョン君が禁止事項をしているなんて」 さっきから朝比奈さんが俺のジョンを熱い眼差しで観察されていますが… あーダメですよ。いくら手で目を隠そうとも隙間から見ているのがバレバレです 「ひゃっ!……す、すいません…ごゆっくりぃ;;」 いったい朝比奈さんは何をしに来たのか…まあ団活だが… とりあえずハルヒさん服着たほうがいいんじゃないか? 「キョンもう一度する?どうせ一回も二回も同じなんだしさ」 もう一度やるのか?確かに朝比奈さんに見られて興奮しジョンも起きたままだから…つーか我ながら凄いな 「じゃあ一応鍵かけておくか?誰にも邪魔されないようにな。」 俺は扉に鍵を閉めハルヒと再び向かい合う 「一応騎上位は止めような。出すとき不便だし…結婚したら何回でもやってやるからさ」 「うん!約束よ。キョン、忘れたらどんな手を使っても思い出させるからね」 どびっきりの笑顔で俺を迎える未来の俺の妻 もう既に俺の将来も決まっていたのかね。退屈するより遥かにマシだ だからこそハルヒが必要なんだろうな。重なり合いながら今後の事を考えていた。 一応完
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涼宮ハルヒの憂鬱とは、アニメやライトノベルである。 涼宮ハルヒの憂鬱(アニメ)の主な登場人物は キョン(本名不明) 涼宮 ハルヒ 長門 有希 朝比奈 みくる 古泉 一樹 鶴屋さん(本名不明) 朝倉 涼子 谷口 国木田 キョンの妹 コンピ研 などである。 2期放送を予定していたが、再放送と決まり、がっかりである。
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ストーリー参考:X-FILESシーズン1「ディープ・スロート」 ハルヒがX-FILE課を設立して3ヶ月がたった。 元々倉庫だったところをオフィスにするため机を運んだりなんだりと 最初のうちはバタバタと忙しかったが、最近はようやく落ち着いてきた。 その間にもハルヒは暇を見てはX-FILEを読み漁っていた。 なお、X-FILE課は副長官直属の課となったため、事件性が見出せれば アメリカ中どこにでも出張できる。 まあ、この点に関しては退屈なデスクワークから開放されたことを ハルヒに感謝しなきゃな。 そうそう、ハルヒの世界に与える能力だが、古泉曰く高校卒業時には もはや消失していたらしい。 ハルヒ観察の任務であった長門がいなくなった点から見てもその通り なんだろう。 結局、最後の最後まで各自自分の正体をハルヒに明かさず、長門に 至っては「任務」と言う言葉をハルヒに伝えただけだった。 ハルヒとしてはどこかの諜報員とでも思ったに違いない。 それで政府が存在を隠しているとか考えたのかもしれないが。 故にハルヒ自身はまだ宇宙人・未来人・超能力者に会ったことが無いと 思ってるわけだ。 しかし、気になることがある。 古泉の「機関」はハルヒの後始末などを目的とした組織なのに未だ 健在、長門に至っては「別の任務」と言っていた。 そしてそれは意外な形で俺たちの前に現れることになる・・・ ワシントンD.CのFBI本部から少し離れたバーでハルヒと待ち合わせをしていた。 「遅いぞハルヒ。」 「キョンにしちゃ早いじゃない。なんなら1杯奢ってあげようか?」 「おいおい、まだ昼間だぞ。」 そんなやり取りをし空いた席に着き注文を済ませた。 その後ハルヒが1束の書類を俺に手渡してきた。 「なんだこれは?」 「エレンズ空軍基地の軍人の1人が行方不明になっているという情報よ。」 「軍のことなら軍に任せておけばいいじゃないか。」 「それがそうでもないのよ。この件に関しては軍は家族にすら詳細を 明かしてないの。それを不審に思った家族がFBIに捜索願を出してきたのよ。」 「軍にも何か事情があるんだし、怪我とかで治療してるんじゃないか? で、家族に心配かけまいと何も言わないように本人が言ってるとか。」 「それじゃもっと変よ。それに、私この件について1ヶ月間捜査してたの。 もちろん軍からは何も得られず。それに妙なことに先日上から捜査中止 命令が出たわ。」 破天荒な捜査をしているから中止命令が出たんじゃないかと言おうと思ったがやめた。 「それにこのエレンズ空軍基地ではおかしなことに63年から6人の飛行士が 行方不明になってるのよ。どう考えたっておかしいでしょ。」 「それに関しては噂を聞いたことがあるな。ロシア領空を誤って通過して 撃墜されたとか・・・まあ、噂の域を出ないが。」 「とにかく、何かを隠蔽しようとしていることは確かだわ。だから2人で アイダホに向かうわよ!」 「ちょっとまて。この件とX-FILEとどう関係がある?お前の守備範囲は 宇宙人など超常現象だろ。ただの失踪事件じゃないか?」 「なんとなく勘が働くのよ。絶対に何かあるわ!」 そういうとハルヒは席を立ちトイレのほうへ向かっていった。 しかし、勘だけで動くところはSOS団にいたころとまったく変わって ないな・・・などと懐かしく思ったりもした。 私がトイレに入ろうとしたとき、初老の男性がいきなり声をかけてきた。 「失礼、涼宮捜査官。率直に言おうこの事件から手を引いた方がいい。 その方が身のためだ。」 「なんですって?」 「軍はFBIの介入を望んでいない。」 「あなたは一体何者?」 「私は・・・君達の仕事に関心を抱いている者だ。力になりたいと 思っている。」 「どうして私達のことを知っているのかしら?」 「立場上政府に関することは何でも知っている。いろいろな情報が 入ってくるのだよ。」 「あなた一体誰?職業は?」 「そんなことはどうだっていい。君とキョン捜査官の身を案じるから こそ言うんだ。残念だが事件のことは忘れたまえ。」 「それは出来ないわ。」 「君達にはもっと大切な仕事があるだろう。せっかくの才能を無駄に するもんじゃないな。」 そういうと男性は人ごみの中へ消えていった。 わたしが呆然と立ち尽くしていると近くからキョンが、 「おい、ハルヒどうした?」 「ううん、何でもないわ。」 (あの男性は一体何者なのかしら・・・敵?味方?) そう考えながら私はトイレに向かった。 どうも気になる。 あのハルヒが普通の失踪事件に興味を見出すとは思えない。 そう思った俺はFBI本部の資料室で過去の新聞を調べてみた。 --エレンズ空軍基地 UFOのメッカに-- やはり超常現象か・・・ 確認するためハルヒに電話をかけてみた。 「もしもし、ハルヒか。」 『何よ、キョン』 「おまえ、俺に何か言い忘れてるだろ?」 『言い忘れてることって?』 「おまえ、アイダホに行くのはUFOが目的じゃないだろうな?」 キョンからの電話に雑音が入ってる!私は電話に雑音が入っているのを 聞いた後家の窓の外を見た。 黒いバンが外に止まっていた。 (盗聴されてるわ・・・) 「聞いてるのか?出張旅費が下りたのは捜査の為だぞ。科学雑誌に 投稿するような報告書書くのはごめん被るぞ。」 『キョン、電話ではまずいわ。明日飛行機の中で説明するわ。』 そういうとハルヒは電話を切った。 次の日、アイダホに着いた俺たちは早速依頼人の家に向かった。 そこでは失踪した軍人が以前からかぶれのような症状を訴えて いたこと、またある日から急に性格が変わり奇妙な行動を取ったり どなりちらすなどをするようになったことを伝えられた。 また、依頼人と同じような現象にあったという人を教えられ 依頼人と共にその人の家に向かった。 そこで見た光景は、まさに精神疾患にあった男性だった。 その男性の夫人話ではストレスによるものだろうと言っていたが・・・ その後、依頼人から軍の連絡先を教えてもらい、こちらも 泊まっているモーテルの電話番号を教えておいた。 「キョン、あれってどう思う。」 「やはり夫人の言うとおりストレスによるものなんじゃないか。」 「でも、彼らはベテランのパイロットでしょ?ストレスに対する 免疫は一般の人に比べればはるかに高いと思うけど。」 「聞いた話なんだがこのあたりでは『オーロラ計画』と言う名前で 新型飛行機のテスト飛行を行ってるらしい。その計画の重要性から 重圧に負けてストレスがたまったんじゃないか。」 「それはありえないと思うわ。だって依頼人の家の写真見た? 大統領からも表彰されるほどの腕前のパイロットよ。それほどの 腕なら何だって乗りこなせると思うわ。」 確かにハルヒの言うとおりだ。 男性の症状から見ても極度の恐怖や拷問などで無いとならないような ものだった。 一体ここでは何が起こってるんだ・・・ 「とりあえずエレンズ基地に行ってみましょう。」 ハルヒはそういうと車をエレンズ基地へ向かわせた。 車をエレンズ基地のフェンスのそばに置き近くの高台からエレンズ 基地を観察してみた。 「特に目立ったものは無いな。」 「あたりまえじゃない。そんなものがあったら全然秘密じゃないわよ。」 ハルヒの言うとおりだ。 俺とハルヒは夜までエレンズ基地を観察していた。 途中、SOS団の時の活動などの思い出話もしたりした。 「結局、有希はなんだったのかしらね。」 「さあな・・・」 いまさら宇宙人でしたと言っても納得しないだろうな。 と、まあ話し込んでいるうちに深夜になった。 眠りこけていると突然ハルヒが、 「ちょっとキョン起きなさいよ!」 「なんだよ・・・何かあったのか?」 「基地の上空を見てみて。」 基地の上空の空を見ると2つの光が空を舞っていた。 「普通の飛行機なんじゃないのか?」 「よくみてなさいよ。ほらあれ!」 ハルヒが指差すと2つの光はおおよそ普通の飛行機では考え 付かないような動きで飛び、最後に交互にきりもみ飛行しながら雲の上に消えていった。 「なんなんだありゃ・・・」 「とにかく中に潜入できないかしら・・・」 そうハルヒが言った瞬間、フェンスの中から男女がフェンスの 裂け目と思われるところから急ぎ足で出てきた。 逃げようとする男女をハルヒが、 「FBIよ、止まって!止まらないと撃つわよ。」 と威嚇し男女のカップルと話をすることが出来た。 カップルの話によると今日見たような光景は日常茶飯事で見られ、 中にはもっとすごい飛行をするときもあったという。 また、行った事はないがフェンスから15Kmほど離れたところに 格納庫らしきものがあるとも言っていた。 ただ、今日は普通ではヘリで追いかけられることもないのに、 なぜか突然ヘリが現れ一目散に逃げてきたと言う。 ある程度話を聞いた後2人別れ、ハルヒと共にモーテルへ戻った。 戻ったときにはすでに朝だったが。 フロントに行くと、依頼人から夫が家に帰ってきたと言う伝言を受けた。 さっそくハルヒとともに依頼人の家に行くと、依頼人である夫人は 「この人は夫じゃない!」と泣きはらしていた。 俺とハルヒは色々と質問をして本人かどうか確かめてみたが、やはり 本人らしい。 しかし夫人は「どこか夫とは思えない」という。 釈然としないままとりあえず失踪人は帰ってきたので依頼者宅を後にする。 「キョン、どう思う?」 「わからん。おれには普通にしか見えなかったのだが・・・」 「でも、基地でのことを質問するとなぜか不自然な答えが返って きたわよね・・・」 「そういえばそうだな・・・」 「もしかして、記憶を操作されたんじゃないかしら。」 「そんなば・・・」 「そんなば・・・なに?」 「いや、ありえんだろう。」 「そうかしら。キョン、早速今日の夜にエレンズ基地に潜入して みましょう。なにかわかるかもしれないわ。」 「ああ、そうだな・・・」 記憶操作か・・・長門たちの専門分野だったな・・・まさかとは思うが・・・ 俺は一抹の不安を胸に車へと乗った。 夜、ハルヒと共にエレンズ基地に潜入した。 情報通り15Kmほど離れた場所に格納庫らしきものがあった。 一筋の光が漏れている。そこから中を覗けそうだ。 早速ハルヒは中を覗きこんだ。 「なによこれ・・・凄いわ・・・」 ハルヒは驚愕しながらもカメラのシャッターを押し写真を撮っていた。 「キョン見なさいよ、これ。」 ハルヒに言われ中を覗くと・・・UFOらしき物体があるではないか! 「これは一体・・・」 「UFOに間違いないわ。写真に収めたし物的証拠もばっちりよ。」 「テストパイロットたちはこれを操縦したためにあんな目にあった のか・・・」 「たぶんね。」 俺たち2人は隙間からUFOと思しき物体をまじまじと見ていた。 そのため近づいてくる人影に気がつかなかった・・・ そうあの人影に・・・ 「そこまで....」 小さな声が聞こえ俺とハルヒは後ろを振り向いた。 そこにいた人物は・・・長門有希そのものだった! 「有希・・・有希じゃない!なぜこんなところに?」 長門は何も答えない。 「どうしたんだ長門!俺達のこと忘れちまったのか?」 俺がそう言うと、 「あななたちは見てはいけないものを見てしまった....」 「よってこの場で抹殺する....」 ハルヒがあっけに取られた顔で長門を見ている。 「なぜ・・・なぜなの有希・・・」 そうハルヒが言った途端、長門の両腕にブレードのようなものが 出現した。 早く逃げなければ!恐らく別の兵士もすぐに迫ってくるに違いない。 俺は呆然とするハルヒの手を取り元来た道をダッシュで逃げようとする。 「ハルヒ逃げるんだ!今の長門には俺たちの言葉は通じていない!」 「でも・・・でも・・・」 「いいから速く!」 俺とハルヒは猛ダッシュで逃げた。 途中ハルヒはカメラを落としてしまい、 「あ、カメラが!」 「今回は諦めろ!今は命が大事だ!」 カメラを見た瞬間長門が呪文を唱えている光景が見えた。 やばい!空間封鎖でもするつもりか! と、驚愕していると途中で呪文が途切れ、 「舌かんだ....」 俺とハルヒはその言葉を聞くとあっけに取られた。 が、すぐに我に返り逃げる。 「逃がさない....」 そういうと長門はこっちに向かってダッシュしてきた! 長門のスピードでは追いつかれるのも問題だ!まずい!まずい! そう思いながら走り続けていたが一向に長門が迫ってくる様子が無い。 恐る恐る後ろを見ると最初の長門のいた位置から10mほどのところで 長門がこけて倒れている。 どうやら絡まった雑草に足を引っ掛けたようだ。 「うかつ....」 チャンスだ!俺はハルヒの手をつかみ猛ダッシュで走った。 「戦闘モード変更。長距離狙撃モード....」 そうつぶやくと長門の手はバズーカー砲のようになっていた。 げ!あんなのに撃たれてはまず助からない! そう思った瞬間前方に人影が見えた。 よく見ると意外な人物・・・それは喜緑江美理だった! 両方に囲まれ万事休す!そう思ったとき、 「2人とも早くこっちへ遮断フィールドを張ります!」 その言葉を聞き俺とハルヒはすぐさま喜緑さんの元に向かった。 遮断フィールドが張られた直後長門からすさまじいビーム砲が フィールドに当たった。危機一髪だった。 「あなた方を車まで転送します。そのあとは出来る限り迅速に逃げて!」 「なぜあなたが俺たちを助けてくれるんですか?なぜ長門は俺たちを・・・」 「今は説明している時間はありません。いずれ分かるときが来ます。」 そう喜緑さんがいうと次の瞬間には俺とハルヒは車の中にいた。 「ハルヒ!車を出せ!急ぐんだ!」 「わかってるわよ!」 そういうとハルヒは猛ダッシュで車を基地とは逆の方向へ走らせた。 その頃基地では長門の下に兵士が集まっていた。 「追いますか?」 「いい....物的証拠は何も無い。」 「わかりました。では各自引き上げます。」 そういうと兵士はカメラを取り上げフィルムを出し燃やした・・・ そして喜緑江美理の姿も消えていた。 次の日、俺たちはワシントンD.CのFBI本部のオフィスにいた。 「なんで有希が私たちを殺そうと・・・しかも初対面みたいな 態度で・・・」 ハルヒは自分の席で悲嘆にくれていた。 「しかもまるで宇宙人みたいな感じで・・・喜緑さんも・・・」 ハルヒは自分の力を失った後も長門たちの正体を知らなかった からな・・・ 「ハルヒ、多分長門には何か事情があるに違いない。喜緑さんも 言ってたじゃないか『いずれ分かるときが来ます。』と。」 しばしの沈黙の後ハルヒはいつもの元気な声で、 「そうね!私達がX-FILEを追う限りきっと答えは見つかるわ! 絶対にね!」 「そうだな。俺達で真実をつかむんだ。」 「あたりまえでしょ!私を誰だと思ってるのよ!涼宮ハルヒよ!」 妙な自信を持ってしまったハルヒだが、まあこれでいいんだろう。 しかし、長門の「別の任務」とは一体・・・ 次の休日、私は家の近所のグラウンドでジョギングをしていた。 そこへ以前現れた初老の男性がまた姿を現した。 「命を落とすところだったな。これからはもっと慎重に行動するんだな。」 「そうね、考えておくわ。」 「まあ聞け、今後も利害が一致する場合には君に情報を提供しよう。」 「あなたの目的はなんなの?」 「君と同じ、『真実』さ。」 「あそこで見たもの、一体なんだったの?」 「UFOの技術・・・かな。」 「涼宮捜査官、1つ教えてもらいたい。君は確固とした証拠も無いのに なぜ宇宙人の存在を信じてるのかね?」 「それは・・・存在を否定する証拠もまた無いからよ。」 「そのとおり。」 「やっぱり彼らはいるのね?」 「もちろんだとも。ずっとはるか昔の時代からね。」 そういうと男性はグラウンドから姿を消した。 「有希や喜緑さんもやはり宇宙人なの・・・?」 私は一人グラウンドの真ん中で放心状態で考えていた・・・ <再会・終> 涼宮ハルヒのX-FILES おまけ2 ハルヒ「まさか有希が本当に襲ってくるとはね。」 キョン「喜緑さんが出てくることも意外だったな。」 ハルヒ「あの男って一体何者なのかしら。」 キョン「作者設定では最後には正体は;y=ー(゚д゚)・∵. ターン」 ハルヒ「キョン!いやあ!死なないで!」 ???「このスモークチーズで助かるにょろよ!」 ハルヒ「あなたは・・・鶴屋さん!」 鶴屋 「あたしって出てくる役割あるのかなぁ・・・」 キョン「というドリームをみた。」 ハルヒ「たぶん鶴屋さんには出番無いかもね。」 鶴屋 「にょろーん・・・」 キョン「作者はヘボで気まぐれなんで大目に見てやってください。」 次回 涼宮ハルヒのX-FILE あったらお楽しみにw 次へ
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新学期が始まり、一ヶ月程過ぎた5月のある日。 SOS団の私室と化した元文芸部室で、 いつものように、朝比奈さんの淹れてくれた美味いお茶を飲みながら、古泉相手に将棋をしていた。 古泉が次の手を考えてる間、ふと顔を上げてSOS団メンツを眺めた。 長門はいつもの場所で本を読んでいる。 朝比奈さんはハンガーの前に立ち、コスプレ服を整頓したり掃除している様だ。 平和な部室。それというのも、いつも何かをしでかすハルヒが居ないからだ。 どこにいったのやら。どうせまたろくでもないことを考えなら校内を徘徊しているのだろう。 視線を元に戻す。古泉が駒を握り、手を進めたと同時に扉が勢いよく開かれた。 我らが団長様の登場である。ハルヒはニコニコとご機嫌な顔つきをしている。今度は何を思いついたんだ? そして俺は久しぶりに驚かさせられる事になる。 一応言っておくが、俺は今までに散々色々な事に巻き込まれ、ちょっとやそっとのことでは驚かない自信がある。 だが、今回のハルヒには意表を突かれた。ハルヒの横には小柄な少女が立っていた。 そんなに校内をうろついた事はないが、その少女を今まで見た記憶がない。 推測から言うと、新入生って所だろうか。俺が驚いたのはハルヒの次の言葉だ。 ハルヒは少女の手を引いて中に入ると、立ち止まりこう言った。 「皆、注~目!紹介するわ。新しい団員よ!」 今、なんて言った?WHAT?新しい・・団員!? 続いて横の少女が自己紹介を始める。 「新しくSOS団に入る事になった伊勢 海奈でーす。よろしくお願いしまーす」 伊勢と名乗った少女をよく観察する。見た目は本当に高校生か?というような童顔である。 さらに胸はぺったんで、長門といい勝負かもしれない。 総合的に考えて、妹と同じ年齢だと言われても驚かない様な容姿である。 ハルヒの指示で現SOS団の自己紹介が始まる。俺の番はハルヒによって遮られ、案の定キョンと紹介された。 しかし、そんな事はどうでもいい。普通の部活動ならロリ属性の一年生が入団しましたー。ですむだろう。 だが、ここはSOS団は普通の部ではない。未来人、宇宙人、超能力者が一同に集まるというおかしな集団なのだ。 という訳で、ここには俺を除いて普通の一般人はいないし、入団することもないだろう。 ということは、目の前のロリ少女も普通ではないはずなのだ。 ふと周りのSOS団メンバーの顔を見る。 長門は無表情の中にどこか怪訝な顔付きをしている。 古泉はぱっとみれば、いつものニコニコハンサムスマイルだが、どこか影りがある気がする。 朝比奈さんは慌てた様な、どうしたら良いのか分からない様な困った顔をしている。 ハルヒだけが能天気にニコニコ笑っている。お前はいいよな、悩みが無さそうで・・。 思い返すのは2ヶ月程前の朝比奈(みちる)さん拉致事件である。(参考原作小説陰謀) 古泉の機関に敵対する組織。その尖兵である可能性もあるのである。 メンバーの紹介後、ハルヒは伊勢にある程度のSOS団活動の簡単な説明をし、 既に時刻が日暮れ時な事もあり、その日の活動は解散となった。 ハルヒ達が帰った後、ハルヒを除いたSOS団メンツの集会が行われた。 内容は言うまではないとは思うが、伊勢についてである。 集まっているのは俺、古泉、長門の3人だ。 朝比奈さんの伊勢の見張りという事でハルヒと一緒に帰っている。内容は後で連絡するつもりだ。 「で、伊勢の正体についてだが・・何か心あたりはあるか?」と俺が2人に聞く。 「こちらにはなんとも言えない、といった感じですね。敵対組織の情報はある程度聞いていますが、 その数も少なくも無く、完全に特定はできません」と古泉。続いて長門が、 「ある程度は理解した。でも・・ありえない存在」 どういうことだ?という俺の更なる問いに、長門が続ける。 「彼女はこの世界に存在するはずの無い存在」 よく分からないな・・存在しているのに存在するとは・・幽霊とか、そういう類のものなのか? 「違う。貴方にも分かるように言えば・・彼女は別の次元の存在」 つまり・・、異世界人ってことか? 「そう」 俺は初めてハルヒを知ったあの強烈な自己紹介を思い出していた。 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところまで来なさい。」 現在そのハルヒの望み通り宇宙人、未来人、超能力者はSOS団に所属している。 ということは、1年越しで異世界人がやってきたということになる。 けれど妙だ、最近のハルヒは、今のSOS団の活動に結構満足している様子だった。 時には、ハルヒの気まぐれかもしれないが、まったく謎に関係のない事もしている。 そんなハルヒが、今頃になってそんな事を望むのだろうか?俺の問いに答えたのは、やはり長門だった。 「今回は、涼宮ハルヒが望んだ事ではない」 そうなのか?だったら、なぜ伊勢は俺たちの前に現れたんだ?古泉の敵対組織に関係あるのか? 「敵対組織に関係あるのかは分からない。でも伊勢海奈が自ら望んで私達の前に現れた事は事実」 「今まで割りと大人しく影で行動していた彼らが、とうとう表まで出てきたんでしょうか」 「わからない」古泉の問いに長門が答える。 いくら長門が万能宇宙人だとしても、未来との同期を止めた事で先のことは分からない。 結局伊勢が異世界から来たであろう、ということくらいしか分からなかった。 古泉は機関で情報を集めてみますといい、その日は解散になった。 完全に日も落ち、薄暗い道を歩いていた時。 「あの、---さんですか?」ふいに後ろから名前を呼ばれ立ち止まった。 自分の本名など久しぶりに聞いたので一瞬自分のことかわからなかった。 が、次の言葉で気づいた。「それとも、キョンさんと呼んだ方がいいでしょうか?」 振り返る。薄暗い夜道を照らす街頭の下に、一人の少年が立っていた。 北高の制服を着ているその少年は、俺と同じぐらいの年頃だろうか。 古泉の様に気持ち悪いほどのハンサムスマイルとはいえないが、それなりの笑顔で俺を見ている。 「こんばんは、キョンさん」そういいながら俺に近づいてくる。 「1年2組の鏡野と言います。時間が無いので手っ取り早く説明しますね」 俺は黙っている。というよりはいまいちよく分かっていなかっただけだが。 「僕はこの世界の人間ではありません。もう伊勢海奈には会いましたよね?彼女と僕は同じ世界の人間です。」 次々に喋る。その表情はどこか焦っているように見えた。 「彼女の動向に注意してください。彼女は・・」鏡野と名乗った少年は次に恐ろしいことを口にする。 「涼宮ハルヒさんの命を狙っています」一瞬、頭の中が真っ白になった。 なんだって?伊勢がハルヒの命を狙っている?そんなもん狙ってどうすんだ?新手のギャグか? いきなりの爆弾発言に完全に動転してしまい、何がなんなのか分からなくなる。
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12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/30(水) 10 16 33.26 ID owgHTflm0 涼宮ハルヒの憂鬱 ある男子にほれた主人公は精神的な持病によってアプローチすることができない。 だが、変な奴らを集めてじょじょに接近していく。 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2008/04/30(水) 10 33 05.01 ID Eyt7IFwN0 涼宮ハルヒの憂鬱 主人公涼宮ハルヒがいじめられまくって憂鬱になってしまう。 それを見かねた友達がSOS団を立ち上げ、いろいろあってだんだん元気になる 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 11 26 48.60 ID 4+jRQ26x0 雨宮ハルヒの憂鬱 学生ハルヒに破壊されそうになっている世界を救うことをコンセプトに ヒロインミクルのコスプレを愛でるアニメ 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 12 33 17.27 ID JaCO1CRtO ハルビン ハルヒがなんか宇宙人の長門を倒す話 465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 15 46 34.11 ID SoTC0tpT0 「涼宮ハルヒの憂鬱」 馬鹿なクラスメイトに辟易しながらも日々の日常を贈る 厨二病の少女を主人公にした風刺の強い青春群像ドラマ 478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 15 54 10.95 ID LAYfMD3rO 涼宮ハルヒの憂鬱 主人公涼宮ハルヒは11歳の女の子 体は女心は男の葛藤の毎日に嫌気がさしてきた冬、涼宮は男に恋をしてしまう 体は女なのだから正常に思われるが心は男 何と切り出せば良いのか分からずに悶々と過ぎ行く日々を綴るラブストーリー 633 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 18 49 02.06 ID blR5Fl6RO ハルヒ 宇宙人がハルヒをおそってSOSする? 662 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 19 07 14.51 ID /ityZHeq0 涼宮ハルヒの憂鬱 高校の国語教師でもあるハルヒ(26歳)が主人公。ゆとり教育によって荒廃した教育現場が舞台。 無気力(無関心)でぶつぶつと独り言や奇行を繰り返す男子生徒キョンや、 父親からの性的暴力によって心を病み、援助交際にふけるみくる、 自閉症で、やや虚言癖がある長門ゆき。 現代社会が抱える闇を浮き彫りにし、これら問題ある生徒たちに対して ハルヒが体を張ってぶつかっていき、共に解決していくことで人間的にも成長していく物語。 667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 19 12 33.68 ID /ityZHeq0 662 書いてて思ったが、ごくせんかGTOとか金パチ先生とかこんなんかな? 実は全部見たことwww 690 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 21 09 46.32 ID OvnsEnhz0 667 金八の場合 妊娠した女子生徒 優等生の仮面をかぶった学級の裏ボス 性同一性障害の女子生徒 殺人犯の子 などの濃いメンツが勢ぞろい 807 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 00 12 35.04 ID FWg895+yO ハルヒ 普通の高校生活 修学旅行とかやってそう 809 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 00 28 46.78 ID bY+NeWAb0 ハルヒ うららかな春の日に、ボクは彼女と出会い恋をしました。 こそばゆい恋愛アドベンチャー、今春発売。 811 名前:全部繋げてみた[] 投稿日:2008/05/01(木) 00 53 27.60 ID weD9CH8N0 高校の国語教師でもあるハルヒ(26歳)が主人公。 ゆとり教育によって荒廃した教育現場が舞台。 無気力(無関心)でぶつぶつと独り言や奇行を繰り返す男子生徒キョンや、 父親からの性的暴力によって心を病み、援助交際にふけるみくる、 自閉症で、やや虚言癖がある長門ゆき。 現代社会が抱える闇を浮き彫りにし、これら問題ある生徒たちに対して ハルヒが体を張ってぶつかっていき、共に解決していくことで人間的にも成長していく物語。 ちなみに主人公涼宮ハルヒは11歳の女の子。 修学旅行とかやりつつ普通の高校生活を送るが、 体は女心は男の葛藤の毎日に嫌気がさしてきた冬、男に恋をしてしまう。 体は女なのだから正常に思われるが心は男、 何と切り出せば良いのか分からずに悶々と過ぎ行く日々を綴るラブストーリー。 ほれた男子にハルヒは精神的な持病によってアプローチすることができない。 だが、変な奴らを集めてじょじょに接近していく。 しかし、ハルヒはいじめられまくって憂鬱になってしまう。 それを見かねた友達がSOS団を立ち上げ、いろいろあって ハルヒはだんだん元気になる。 馬鹿なクラスメイトに辟易しながらも日々の日常を贈る 厨二病の少女を主人公にした風刺の強い青春群像ドラマ。 うららかな春の日に、ボクは彼女と出会い恋をしました。 こそばゆい恋愛アドベンチャー、今春発売。 861 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 09 37 32.25 ID QDMJUxLmO 【涼宮ハルヒの憂鬱】 最初朝倉さんが好きだったキョンは涼宮さんの助力を得て、 朝倉さんと付き合えることになったけど、 そのうちキョンは朝倉さんより、涼宮さんのほうが良いと言い出して まんざらでもない涼宮さんはなんとなくOKして 涼宮さんはキョンを受け入れてしまいます。 キョンと涼宮さんはそろって朝倉さんをシカト どんどん壊れていく朝倉さん。 そのうちに涼宮さんが妊娠したとか言い始め 涼宮さんがうざくなるキョン キョンは涼宮さんをほっぱらかして、学友の長門さんや朝比奈さんや、 あまつさえ自分の妹とも関係を持っていきます。 ついに、キョンは狂った涼宮さんに刺し殺されてしまいました。 そしてその後、涼宮さんは、朝倉さんに腹を裂かれて殺されてしまうのです。 「中に誰もいませんよ」 朝倉さんは切り取ったキョンの頭を胸に抱いて ついに一緒になれましたとさ。 おしまい 666 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/04/30(水) 19 11 15.15 ID 9VU3H/UeO 涼宮ハルビンの憂鬱 とある中国のハルビンという少女が餃子拳を会得し戦い続けるバトルマンガ 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 16 50 00.26 ID 2ko/FyiEO ハルヒがでるやつ なんかロリな女がたくさん戯れて歌を歌いまくり男をたぶらかす作品。多分へんな髪色のやつがいっぱい出ると思う。 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 16 51 19.07 ID 08L2KDL3O 14 みたいな 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 19 28 20.33 ID 6NbFjDI40 絶対 内容知ってるのに ワザと変な妄想してる奴いるだろ 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 19 32 05.17 ID xZPLM/4mO 40 ハルヒなら見た事あるけど、想像とかなり違っててびっくりしました。 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/05/01(木) 23 13 02.27 ID gYtCKwg7O ハルヒの憂鬱 中2のハルヒという名前の女のやる気が究極になく、何をするにもネガティブ もうクソ暗い漫画
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第2周期 nOiSEleSsphAnTOmGIrL3 場面は転じて、夜の公園。しかも一人ベンチで寂しく……はないが座っている。 何故こんなところに居るかというと、此処で待つように指示するメモ書きが下駄箱にあったためである。 で、それを見た俺は素直にその指示に従って此処で待っているということだ。飯は食ってきたから長時間待っても大丈夫である。 まあ、この手段で呼び出しというのであれば、SOS団の緊急召集ではないことは皆さんもお分かりであろう。 「お久しぶりです」 朝比奈さん(大)がやってきた。 「今日は、ハルナについてですよね」 「はい、そうです」 取り敢えずベンチに座り、話を切り出した。 「今回のことで未来はどうなったんですか」 「不思議なことに、影響は少ないんです。確かに大きな変化が無かったとまでは言えませんが、私達が動く必要性はないとの見解です」 「そうなんだー」 「!!!!!!!!!」 !!!!!!!!! 何ということでしょう、そこにはニヤニヤしながらこちらを見ている団長の姿があるではありませんか。 勿論、慌てるとかいうレベルではない俺と朝比奈さん(大)。 「は、ハルヒ!?」 「あ……えっと……」 朝比奈さん、今更隠れようとしても無駄ですよ……。 「うーん、やっぱり大人になったみくるちゃんのもなかなか。これは揉みがいがありそうね…」 何だその品定めするような視線は。そしてその怪しい手の動きを止めなさい。というかさっきからどこを見ているんだ。 「決まってるでしょ、みくるちゃんのその立派な」 「あー、それ以上は言わなくていい」 駄目だ、あれは完全に獲物を見る目だ。 「例えおっきくなってもみくるちゃんはみくるちゃんよ!!」 「えっ、あ、ちょっと…! ぃゃ………………!!」 ハルヒが朝比奈さん(大)に飛びかかった瞬間には俺は即座に後ろを向いて見ていないので何があったのかは分からない(ということにしておいて貰いたい)。 背後から天使の悲鳴が聞こえるが俺にはどうにもできません、ごめんなさい……。 しばらくして悲鳴は止んだ。どうやらハルヒが満足したらしい。嗚呼無力な自分が悔しい。 「いやーやっぱり気持ち良いわねー」 「ぅぅ……涼宮さん…」 やはり泣いていらっしゃる。だがしかし俺にはどうすることも以下略 こうやってこそこそしていたわけだし、ハルヒに見つかってしまうのは相当まずいことなのではないのだろうか? 「はい、以前まではそうでした。涼宮さんに見つかることだけは避けなければならなかったんです。でも、涼宮さんによるリセット以降、これは規定事項になってたんです」 これ、とはつまり、ハルヒに見つかって…… 「い、言わないで下さい……」 「なに? つまりあたしから逃げられなくなったってこと?」 「簡単にいえばそうなります。その原因は分かっていませんが、リセットされたことで私達の未来とはほんの少しではありますが方向が変わったのかもしれません」 「少しねえ。その『少し』の影響量が気になるわね」 「それについては調査中ですので何とも言えません」 「調べ終わったらまた報告してくるの?」 朝比奈さんの言うことをしっかり聞いているのは、罪悪感などが残っているからなのだろうか。 「ここにおっきなみくるちゃんがいるってことはキョンに何か大事な話があるんでしょ?」 「え?」 再び二人は仰天である。何でそこまで知ってるんだ。恐るべし、全能の涼宮ハルヒ。 「お邪魔しましたー、ごゆっくりー」 ハルヒはそう言い残すと俺達に何も言わさぬままどこかへ行ってしまった。 ぽつーんと残された二人は呆気にとられていた。 あんなにあっさりしていたのは全くもって予想外であった。ハルヒがあれほど追い求めていた未来人に対面したのだから、もっと首を突っ込んでくると思ったのだが 「それにしても、なんかあの言い方はむかつくな」 「私があまり長時間この時間平面に留まれないことも知っているのかもしれません」 「あ、なるほど」 しかしまさかハルヒが配慮するなんてな。『事件』とやらが与えた影響はかなり大きいのかもしれん。 しばらくの沈黙ののち、本題へ戻った。 「リセットの影響はあるのにハルナの出現の影響はないというのはどういうことですか? ハルヒが二人になったも等しいというのに」 「そう思われたのですが、これが私たちの調査結果です」 「この先、何か重大なことが起こるんですか?」 「それはキョン君の結論次第です」 朝比奈さん(大)は真っすぐ俺を見てそう言った。 俺達がハルナを認めるか否か、それによって朝比奈さん(大)の時代で予測されているのとは異なる未来に向かうかもしれないのだ。 「では、そろそろ失礼します」 朝比奈さん(大)がベンチから立った。 「最後に一つ聞いてもいいですか」 「何ですか?」 「朝比奈さんはハルナのことはどう思いますか?」 「そうですね」 しばらく空を見上げていた。その後こちらを向いて微笑みながら言った。 「妹って、なんか羨ましいです」 翌日、ハルヒによる世界改変でハルナは元々いたことになっていたという報告を長門から聞いた。 「現在、涼宮ハルナは近所の小学校に通っている」 長門は廊下で俺が登校するのを待っていたのだ。朝会うなりそんな重要なことを聞かされるとはな。 「この改変に対し幾つかの派閥が苦言を呈している」 長門は付け足すようにそう言った。そんなこと無視してしまえばいいと思ってしまうだろうが、相手が相手だけに注意しなければならない。 「だが暫定的であってもそうでもしなけりゃハルナの居場所がないぞ」 「そう主張したが受け入れられなかった」 「そうか……、済まんが引き続き説得を頼む」 「わかった」 僅かに頷いた長門はカバンを持って教室へと入って行った。 その姿を見ていてしばらくその場に突っ立っていた俺であったがが、「廊下のど真中で何してんだこいつ」という周囲の視線を喰らったため教室へ入ることにした。 教室には既にハルヒがいた。頬杖をしてぼんやりと外を眺めている、やはり考え事をしているようだ。 俺が来たことに気付き、こちらを向いた。 「おはよ」 「おう」 綿菓子のように軽い挨拶だけすると、また視線を外に戻していた。 「……」 「……」 着席して以降お互いに話しかけようとせず、会話が成立することはなかった。 その後は雑談もしたが、さすがにハルナのことについて教室で話すのはまずいと考えたのでそれを話題にすることはなかった(ハルヒも同じ考えだったようだ)。 放課後、真っ先に部室へ向かうとすでにみんな揃っていた。団長様は腕を組んで仁王立ちしていた。 「遅い!」 「そんなに遅くないと思うんだが」 「もうみんな揃ってんのよ、あたし達を待たせたのがアンタが遅れた証拠」 「そうかい、そりゃあ失礼」 「まあいいわ、全員揃ったことだし、早速会議を始めましょう」 というわけで各々が着席する。議題は言うまでもなくハルナについてである。 「そういえば、ハルナちゃんは小学校に通ってるんですよね」 朝比奈さんも知っているのか、長門はみんなに報告して回っていたのだろうか。 「そうよ」 「何歳なんですか?」 その質問に及んだ瞬間、ハルヒがわざとらしくため息をついた。 「それを考えてなかったのよ。突然生み出されたんだから自分でも年齢なんて分からないのよ。二人で随分考えたけど、アンタの妹ちゃんより二つ下ということにしたの」 つまり4年生か。 「あの骨格からすればそのあたりが妥当」 長門がそう言うのだから、ハルヒの勘は正解だったということか。 だとしても、あいつの頭脳からしたらまさしく某小学生名探偵のような状態だな。 「仕方ないじゃない。あの姿で高校に来てもいいけど飛び級なんて……そうよ! 飛び級ってことにすればいいのよ!」 ぶっ飛んでいらっしゃる。この国に飛び級の制度はなかったと思うんだが。 「ちょっとまて、いいのかそれ」 「あたしがいいって言ったらいいのよ!」 自分中心に回るハルヒ節が復活していた。それもそれで悪くはないんだがな。 「だがハルナはそれに賛成するのか?」 「それはハルナに聞いてみないと分からないわ。あくまでもハルナの意見を最優先にするつもりだけど」 「古泉君、そっちには何か動きはあった?」 「機関からは正式な結論は出されていませんが、賛成意見が多数を占めているので心配はいらないと思います」 「そうか、まず一つは良しだな」 朝比奈さん(大)が言っていたことを賛成意見と捉えてもいいならば、早くも統合思念体以外はOKということになる。順調と言えば順調だが、ここからが正念場である。 「有希の方はどう?」 「こちらとしては結論が出ない限りは無暗に行動できない」 「まだ結論は出てないの?」 「審議中。なかなか折り合いがつかない」 「大変みたいね、ちゃんと休んでる?」 「大丈夫」 「そう、ならいいけど。無理はしちゃダメだからね」 そのいたわる気持ちを小さじでもいいから俺に対しても持ってほしい。 「じゃあ今日はこれで解散ね」 いきなりの終了宣言であった。 「やけに早いな」 「あたしにだって色々あるのよ、じゃあね」 自分のカバンを持ってさっさと出て行ってしまった。 昨夜同様、取り残された形となって呆気にとられていたが、気を取り直して気になっていたことを尋ねた。 「なあ古泉」 「なんでしょうか」 「閉鎖空間はどうなってる」 「やはり悩んでいるようです。小規模ながら高い頻度で発生しています」 長門に言っておきながら、お前が無理してどうすんだよハルヒ。 ハルヒが帰ってから十分と経たないうちに、自然と解散になった。 だが俺はまだ帰らず、一人で廊下を歩いていた。 実に不覚である。教室に課題プリントを忘れるとは。 教室に入る時に、どっかの誰かみたいに『忘れ物の歌』なんか歌わないぞ、と思ったものの結局脳裏にあのリズムが浮かんだまま席に向かっていた。 「あったあった」 目的のプリントを見つけ、それを四つ折りにしてカバンの奥にねじ込んだ瞬間であった。 一瞬にして明かりが消えて真っ暗になった。 「おいおい……」 蛍光灯がすべて同時に寿命を迎えるなんて奇跡的なことがあるのだろうか。経験者はぜひともSOS団に連絡してほしい。 驚いたのは勿論のことだが、すぐさま身構えた。この真っ暗な教室は見覚えがある。窓も扉も、無機質なコンクリートのようになっていたからな。 暗がりの中、机に座って待っていたのは予想通りの人物であった。 「朝倉、またお前か」 「そう。悪い?」 十分悪い。 「今回はハルナの件についてだろ? あいつの能力が未知だからって、俺を殺して涼宮ハルナの出方を見るとか言うなよ?」 「残念ながら貴方の予想はハズレね」 「どのみち俺には生命の危機がやって来るんだろ?」 「あら、でもこれからの動向によってはキョン君の運命も変わるかもね」 わざわざウインク付きの笑顔をありがとう。あまり嬉しくないね。 「キョン君の予想通り、今回は涼宮ハルナちゃんについてなんだけど」 ちゃん付けなんだな。まぁハルナは見た目は幼いからな。 「こんな場所に閉じ込めたんだから、お前の派閥が賛成じゃないってことは確定なんだろうな」 朝倉はあの時のように俺の正面に立つと下を向いた。 「ごめんなさい。急進派としてはあの要求は不都合みたい」 「一体どこが不都合なんだ。ハルナの存在か? 不干渉という条件か?」 「残念だけど両方。私達の正体を知ってしまった以上、こちらにも涼宮さんの影響が現れかねないという見解なの」 で、俺を人質にしてハルナの要求の撤回を迫っているって訳か。 「警告はしたはずです」 その声に仰天した。 「え……おい……」 まるで最初からいたように、俺の隣にハルナがいた。いつ来たんだろうか。 「まあ、これは想定の内なんだけどね」 余裕の表情を見せる朝倉をハルナが睨みつけている。 初対面のはずなのにお互いをよく知っているようだ。 「警告を無視すると、言った通りになりますよ」 「貴方の脅し文句は統合思念体の無力化、だったかしら? 残念だけど、貴方にそれは出来ないわ」 そう言うと背中を向けて教室内を歩き回る。 「貴方には涼宮さん……貴方のお姉さんみたいに意志を貫くことが出来ない。貴方には強い責任感があるから」 朝倉が立ち止まると、誰かの机の中から忘れ物らしき教科書を手に取った。 「強い願望を抱いても、現実が伴い『でも』等と考えてしまう。だから願望が完全に実現することはないわ」 それは瞬く間に槍へと形を変えた。 「たとえそうだとしても、彼を殺させはしません」 ハルナが更に語気を強くしているが、朝倉は相変わらず挑発的な笑みを浮かべて俺とハルナを交互に見ている。 「更に残念だけど、キョン君は只の撒き餌なの。本当の目的は貴方ってこと」 だろうな、俺を殺すなら以前にでも来たはずだろうし。 「私に与えられた仕事は貴方を殺すことだもん、ハルナちゃん」 壁が一瞬光った。嗚呼やっぱり強烈なデジャヴを感じる……。 それを見たハルナは明らかに動揺していた。 「空間が上書きされて封鎖が強力になっています。私一人では突破出来ません」 「そうよ、逃げられないの。だから、抵抗しないで殺されて」 それだけは避けなければならない。ハルナがどれ程の力を持っているかは知らんが、朝倉に対抗できるかどうかは更に分からない。もしかしたら敵わないか可能性だってある。 急進派の好き勝手を許してなるものか。 俺は傍にあった椅子を掴んで投げ飛ばした。勿論、効果はないのは承知済みである。しかしささやかな妨害くらいにはなるだろう。 「ん? キョン君は私達とは逆の意見のようね」 「そうみたいだな」 そう言った瞬間、強烈な痛みを感じた。 朝倉が持っていたはずの槍が左肩に刺さっていた。投げたモーションが見えなかったぞおい。 傷口から止めどなく熱い液体が流れている。 「てめぇ……」 「あら? その目はまだやる気ってことかな? 勇敢ね」 またしても気付いた時には朝倉が目の前に移動していた。そして俺を壁に押し付け、肩に刺さっていた鎗を握った。 「うるさくしてもいいんだけど、邪魔しないでね?」 「うあああああああああああああああああ!」 鎗がねじ込まれ、肩に猛烈な痛みが走る。右手で必死にそれを止めようとするが力は相手に比べりゃ圧倒的に少ない。 「やめろおおおおおおおおおおおお…………!!」 叫んでも全くもって無駄である。容赦なく肉を裂き骨を割り、鋭利な金属が奥まで侵攻してくる。 遂には貫通して壁に深く刺さっていた。俺は磔にされたも同然だった。 「利き腕にしなかっただけましだと思ってね」 俺が身動きできなくなったのを見届けると、ハルナのほうを振りかえった。 ハルナはじっと動かずにこちらを見ていた。 「お待たせハルナちゃん、そろそろいくね」 朝倉がナイフを手にハルナに近づく。 「くそっ、やめろ……」 少しでも動けば傷に刃が食い込み激痛に襲われる。 「逃げないの? いい子ね」 朝倉がハルナを切りつける。ハルナは慌てる様子もなくナイフの刃を掴んでいた。 しばらくの無音の後、ハルナの手から血が滴り落ちた。 「どうしたら、許してくれますか?」 その問いかけに朝倉はまた笑っていた。 「それ無理。許すも何も、私は貴方を殺さなきゃいけないもの」 「私を殺したら、姉さんの分も許してくれますか?」 「さあ。私には決定権はないの」 その時、普通に扉が開いた。ハルナいわく頑丈に封鎖されていたにも関わらずである。 やって来たのはハルヒと長門だった。 「あら客さん?」 「また随分と行動が早いのね、早速攻撃をしてくるなんて」 磔にされた俺を見た長門が高速呪文詠唱をすると、左肩を貫通していた鎗が消えて傷も痛みも全く無くなっていた。 鎗は教科書に戻って床に落ちていた、って谷口の数学の教科書じゃねえかこれ。 「あんまり面倒を起こしたくなかったんだけどね」 そういうとハルナの前に立ち、朝倉と対峙した。 だがこれにも朝倉は動揺することはなかった。それどころかクスクスと笑ってやがる。 「もう、みんな邪魔が好きなのね」 朝倉がジャンプしたかと思うと、ハルヒが吹き飛ばされて壁に衝突した。とんでもない速さの跳び蹴りだった。 「ハルヒ……!?」 急いで駆け寄ったが、頭を強打したらしく気を失っていた。 ちょっとまて、朝倉強すぎないか? 長門に心の声が届いたのだろうか、その答えを出してくれた。 「反対派が朝倉涼子に協力している可能性がある」 「だとしたら対抗できないんじゃないか……?」 「こちらも協力を要請している。それまで私が時間を稼ぐ。貴方は涼宮ハルヒを」 そう言って朝倉に攻撃を仕掛けようとした長門であったが、朝倉の方を向いた瞬間に動かなくなった。 「…………」 「何……」 長門がそう呟いた。何かあったのか? そう言おうとした瞬間だった。 全身の毛が逆立つのを感じた。 人の目を見てあれほど怖いと思ったことはなかったな。 悲しみか怒りか、ただ黒いだけではない黒い影がハルナを中心としてブラックホールのように全てを喰らい尽くそうとしていた。 それを間近で見た朝倉は硬直している。ただ動かないだけなのか、動けないのだろうか。 )H??繼bモM、・.09wSS瞑Iコen 蹣、、h.1ae,顳コ・f%HdL、 udjmx劉_??KU、夊? ・F?Vz? 何と言っていたのかはノイズ混じりだったのでさっぱり聞き取れなかった。 ノイズはさらに増幅して防犯ブザーに負けず劣らずの大音量となって耳を襲い、俺の聴力を狂わせていた。 「ハ、ハルナ……?」 そう呼び掛けたであろう自分の声も骨伝導でわずかに聞こえただけであった。 耳を押さえても無駄であった。そのノイズは耳を介さず直接脳に響いているようであった。 気付いた時には、教室は荒野に変貌していた。 机と椅子はそのままにして、現実離れしたほどに荒れ果てた大地である。 ここはどこだ? 見上げると、異常な早さで雲のようなものが流されている。 とうとうノイズは聴力だけに飽き足らず、視力さえ侵食し始めていた。 目の奥が焼けるように痛い。視界がぼやけ、時折テレビのチャンネルを合わせていない時に映るあのノイズが見える。 「……何……………これ…………」 朝倉に何が見えているのだろうか。 「…………めて……………来……で……!!」 視力を奪われつつある俺の目には、金切り声を上げながらナイフを振り回す朝倉の影がかろうじて映っていた。 何に襲われているのだろうか、俺には朝倉が怯えるほどのものは確認できていない。 視力がほとんどないので無暗に動けない。 俺はただ朝倉が発狂する様を見ているしかなかった。 「何が起こっているのか全く分からない」 長門の声が聞こえた。この異様な光景を前にした宇宙人は一体どんな表情をしているのだろう。 「いったぁ……生身の人間相手にあんな強くやるなんて……」 ハルヒが意識を回復した。 「大丈夫か?」 「なんとかね」 だが周囲の様子を見るや否や、ハルヒの表情は一変した。 「派手にやってくれたわね……全く」 怪我は大したことなかったようにすっと立ち上がると、何やら念ずるように目を閉じた。 「……は?」 またしても一瞬の出来事であった。次の瞬間には、荒野が再び元の教室へ姿を変えていた。 もう何が何だか。 だが完全に元の世界に戻ったわけではなかった。灰色に染まった見覚えのある空間だ。 「閉鎖空間……って言うんだっけ? それに上書きしたのよ」 淡々と語っていつその目は、真っすぐハルナを向いていた。 「それしか戻し方を知らないから」 その視線に刺されたハルナは、悪戯が見つかってしまった子供のような表情で固まっていた。 ハルヒは硬直しているハルナに歩み寄ると、思いきり頬を叩いた。 それはもう凄い音が教室に響いていたから、本気で叩いたのではないだろうか。 「ハルナ、それは使わないって約束だったよね?」 「……」 怒りに満ちたその声を聞いた俺と長門は、こちらに向けられたものではないのに委縮してしまいそうだった。 「二度目は無いからね!! 分かった!?」 「……ごめんなさい」 これほどまでに厳しく叱りつけるのは、その力がどれだけ恐ろしいかを知っているからなのだろう。 そのころ朝倉はというと、一体何を見たのだろうか、震えたまま教室の隅で子供のように丸くなっている。 「これはやり過ぎね……」 そう言ってハルヒが近付くと、朝倉が弱々しい悲鳴を上げる。 「や…………め………て………」 もはや言葉は一文字ずつしか発することが出来ないらしい。 ハルヒはしゃがむと怯える朝倉の頭に手を置いた。 すると朝倉の呼吸が少しずつ落ち着き、恐怖一色だった表情が段々穏やかになっていく。 「……」 落ち着いたとはいえ、言葉が出ないらしい。 「貴方達は……何なの?」 ようやく出た言葉は、高い能力を誇る宇宙人らしからぬものであった。 「あたしは涼宮ハルヒ、でこっちが妹のハルナ」 「そうじゃなくて……」 「あたし達にとってはそれ以上もそれ以下もないわ」 「……でも貴方達は我々にとっては脅威なのよ。だからこんな命令が下っ」 「そう思ってるだけよ、あたしはアンタ達を敵視してるつもりはないわ」 ハルヒがこちらに振り返った瞬間、朝倉が床に横たわってそのまま動かなくなった。 「言っとくけど眠らせただけよ」 ナイフのように鋭利な眼光であった。こいつ、最近で一番と言っていいほどに苛立っているな。能力のことに関して神経質になっているのだろうか。 その表情を緩めると長門と対面した。 「有希、このことは上には報告しないってことは出来る?」 「それは不可能。既に送信されている」 「そう……じゃあせめてさっきの記憶だけでも消してあげてくれる?」 「分かった」 長門が朝倉の記憶を修正している間にハルヒは教室を出ていってしまった。 ハルヒが帰ってから数分後、閉鎖空間は消滅し、窓からは夕闇が差し込んでいた。 ハルナはすっかり落ち込んでいた。夕日よりも真っ赤に腫れた頬を涙がつたっていく。 教室を荒野に変えてしまったあの時からずっと動かずに立っている。俺はその小さな背中の後ろに行くと、ハルナが呟いた。 「……ごめんなさい」 「失敗から学ぶっていうだろ? 学習学習」 頭を軽くぽんぽんと叩いた。 「同じ過ちを繰り返さなけりゃいいんだよ」 ハルナは少しだけ頷いた。 そう言ったものの、その力がたった一回の過ちで世界を滅ぼしたのではなかったか。 俺が言っていることは矛盾していた? 「繰り返さなきゃ……な」 二回目のそれは、どちらかといえば自分に言い聞かせているように思えた。 朝倉の記憶修正を終えたらしく、長門が立ち上がった。 「終わった」 「御苦労さま」 「いい。朝倉涼子のことは私に任せて、貴方は涼宮ハルナを」 「長門、あの時言ってたことに間違いはないんだな」 「何」 長門がこちらを振り向いた。その奥で朝倉はいまだに眠っていた。 「あの時言った『無理はしていない』ってのは嘘じゃないだろうな」 「嘘ではない。無理をするのは反対派との全面衝突になった時」 答えるまでに少しの無音があったので、図星なのかと思ってしまった。 まさか長門がジョークを言うとは思わなかった。あまり笑えないのだが。 「分かった、それなら安心だ。それと、もう一つ頼みがあるがいいか?」 「何」 「ハルナのケガを治してやってくれ」 「分かった」 長門がハルナに近づき、その手を取った。 ナイフの刃を握っていた小さな手からは、未だに血が流れていた。高速呪文を呟くと、傷は跡形も無く消えた。 「……」 ハルナは傷の消えた手の平をずっと見ていた。 「ほら、お礼」 「え、あ、ありがとうございます」 俺が促すとはっとしたようにそれだけ言って、また視線を手の平に戻して黙り込んだ。 「いい。……また明日」 「おう、またな。行くぞ、ハルナ」 やっぱりこの名前を呼ぶのにはまだ違和感がある。早いとこ慣れないと。 「……」 「いつまでもここで落ち込んで立って仕方ない、帰るぞ」 今度は頷くことはなかった。だが、俺が廊下に出でもう一度呼ぶとついて来た。 廊下を歩く俺の隣の小さい影は下を向いていた。何と言ってやればいいのか分からず、帰って墓穴を掘りかねないので黙っているほかなかった。 無言でいる間、さっきのことを思い出していた。 砂漠のように荒れた大地、激しいノイズ、何かの叫び声のような音、現れたものは散々ハルヒのことに巻き込まれてきた俺でさえ全て未体験のものばかりで、それらはハルヒの閉鎖空間とは似ても似つかぬ光景を生み出していた。 何より気になったのが、ノイズに視力や聴力を奪われていてもしっかりと感じたあのどんよりとした重たい空気である。 あの空間はあの『事件』とやらの記憶が影響しているのだろうか。ハルヒが詳細を言わないので推測にすぎないが、好んであんなものを創造するとは到底思えないからな。 ハルナは事件の記憶を引きずっているのだろう。その時にハルナが関与していたのかもしれない。 昇降口に差し掛かった時に俺は立ち止まり、こう切り出した。 「さて、そろそろ仲直りタイムにしようか」 「あ……」 ハルナもすぐに気付いたようだった。 「どうして分かったの」 そこにハルヒが待っていた。 「勘、だな」 「なによそれ、カッコつけてるの?」 「これでもいたって真面目の回答なんだがな」 「ふぅん」 夕日に照らされながら坂を下る三人。結局ハルヒと合流しても無言に変わりはなく、気まずい雰囲気が持続していた。 「……さっきはごめんね。思いきり叩いたりなんかして」 で、ハルヒが口を開いたかと思えば……。 「……」 「あたしが無茶苦茶してた時は、ハルナは何にも咎めず許してくれたのに、あたしは散々怒鳴り散らしちゃって……」 ハルナはそれを黙って聞いていた。 「ハルナを苦しめ続けてきたのよ、あの時からずっと」 俺もなかなか割り込むチャンスを得られなかった。 「あたしばっかりが勝手に怒って、勝手に泣いて。ハルナのことを思ってのはずなのにそれは二の次三の次にしちゃって」 「ちょっと止まれ」 急な命令に驚いたのか、二人はすぐに立ち止まった。 「どうしたのよ急n……」 こっちを向いた瞬間に、二人同時にでこピンをお見舞いした。 「いっ」 「ぅぅ……」 「何すんのよ!」 「本当にそっくりだよな、自分にばっかり責任を感じちまうところも」 その指摘を受けた二人は、額を押さえながらお互いを見ていた。 「何と言ったらいいかよくわからんが、あんまり深く考えない方がいいんじゃないか? この世界は崩壊してないんだし……な」 返事がない。そりゃあ俺のどうにも言葉足らずなものではどうにもならないか。 「なんかごめんね。じゃ、あたし達はこっちだから、またね」 「おう」 何か気の利いたことが言えないのか俺。 だんだんと小さくなっていく二人の背中を見ながら、おれは自分の手の平を見ていた。 どうも違和感があったんが敢えて何も言わなかった。 「現実までこうなんのか……」 俺の手の平には赤いべとべとがついていて、鉄の臭いがした。いつついたんだよこれ。 第3周期へ
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涼宮ハルヒの憂鬱の小説です オリジナルキャラクターが出ますので嫌いな人は注意です 涼宮ハルヒの危機