約 3,978,684 件
https://w.atwiki.jp/moujiki/pages/173.html
7 今思い出しても、すてきな時の流れが続いていた。マコト君と出会い、朝子さんと出会った。僕は長い間待ち続けた瞬間を、ようやく迎えていると思った。やっと掴んだ幸せが長く続くようにと祈らずにはいられなかった。マコト君が口にする「必然たる偶然」や「運命的」という言葉にも意味があるように思えた。そして暖かな陽気に包まれてまどろむように、僕はその幸せな時間に心から浸った。 梅雨のある日、僕は朝子さんを家に呼んだ。 今日は両親はともに家を空け、姉はマコト君の家に泊まりに行って帰ってこない。両親の片方が一晩中家を空けることも珍しかったが、二人とも揃って家に帰ってこなかった。このことを知った時、チャンスだと思った。こういう時、人間というものは俄然やる気を出して知恵を絞る。学校の授業ではそれだけ意欲的に持ち合わせた脳を使うことはなかったのに、いざ自分の欲求の関わることになると、きちんとスイッチが入る。それはとても不思議なことだと思った。ただ、それでも姉が家を空ける方法がどうしても思いつかなかった。 「それなら簡単だよ」とマコト君はにんまりと笑った。彼は姉を自分のアパートに誘い、泊まっていかないかと誘った。いつもしていることだったけれど、彼から姉を誘うことは稀なことだった。たいていは、休日や仕事帰りに彼の部屋に姉が立ち寄り、両親を心配させまいと泊まることまではなかった。 「普通なら泊まるのに、結子さん…君のお姉さんはご両親の気持ちも考えて外泊は止めとこうって言うんだ。優しい人だね」 「律儀と言うか、硬いんだよ。融通が利かないと言うか」 「言い方を替えればね。けれども君たちはよく似ているよ、そういうところが」 「そうかな~?あんまり嬉しくないけれど…」 「僕は一人っ子だったから、そういうのは少し羨ましいな」 マコト君は肩をすぼめて笑った。少し彼に申し訳なかった。家族が当たり前のようにあるのに、羨む彼を前に、こんなことを頼んだりしていることが。 「君は仕方のない人だな。そんなことで心を痛めることはないんだ。世の中、そんなもんさ。あらゆるものは、存在すればその価値は当然のように感じられ、なければ貴重に感じられる。でも、大丈夫だよ。きちんと甘えさせてもらってるから。こういうところ、やっぱり君と結子さんは似ているよ。」 こうして家を空っぽの状態にすることができた。彼からこの話があったとき、「どうしたの?そんなこと言うなんて珍しい」と姉は彼に疑いのまなざしを向けたそうだ。それでも、そこはマコト君がうまくやってくれた。 「サトシ君から聞いたんだ。その日はご両親がいないって。こういうことってなかなかないし、一緒にいたいんだよ」 ここまで彼が言えば、姉は「仕方ないわね」と言いながらも嬉しげにすんなりと彼の申し出を受けた。 そして僕は朝子さんを誘ったが、「何かご両親がいない日を狙って、あなたの家に上がりこむのは気が引ける」と返事を渋っていた。きっとマコト君なら姉を誘ったように、良い言葉が思いつくのだろうが、僕にはからっきしダメだった。結局事実を話すしかなかった。それが一番楽な方法でもあった。共に自宅に住む身で、二人だけで時間を過ごすにはこうするしかなかった。朝子さんは少し考えてから、「いいよ」と言ってくれた。 いよいよその日はやってきた。夕方になると、雨がしとしとと降っていた。髪の毛が濡れている朝子さんもすてきだった。「そんなにジロジロ見ないで」と朝子さんは少し照れていた。それがまた、たまらない。普段は仕事柄ズボンを履いている彼女であったけれど、今日は濃い緑のスカートを履いていた。六月の暖かな雨が降る日には、よく合っていると思った。 食事は僕が作り、朝子さんは手伝ってくれた。本当は朝子さんの手作り料理が食べられるはずだったが、留守中に上がりこんだ上に、勝手にキッチンまで使うことはできないと彼女が言ったからだ。僕は彼女に手伝ってもらいながら、お好み焼きを作った。彼女はそば入りのモダン焼きの方が好きだと言ったが、焼きそばがなかったので大阪風のお好み焼きが出来上がった。作り方は姉が作るのを見ていたので、何とか見よう見まねで作れたし、朝子さんもいろいろと手伝ってくれた。 「でも、何でお好み焼きなのよ?」 二人きりの夜にお好み焼きもどうかと思ったが、それでも気兼ねなくお腹も満たせてすぐ作れる料理は、僕にはこれくらいしか思いつかなかった。朝子さんはそれを聞くと笑っていた。彼女の笑っている姿を見るのが、僕は好きだった。そして僕も一緒に笑った。誰もいない家に、僕らの笑い声が響いた。 ふと我に返ると、何だか夢を見ているような気分になった。嘘だろ、僕がこんな風に誰かと寄り添っているなんて…。よくよく考えれば、相手は姉と同じ年の人というのもまた驚きだった。もちろん、彼女を目の前にすれば、そんなことはどうでも良いことなのだが。ただ、なぜか少し尻ごむ僕らがいた。幸が薄いせいか、幸せになることになれていない。幸せになるのに、どうして臆病になる必要があるのだろうか。おかしな話だった。 「ただ、信じればいいのさ」マコト君の言葉を思い出した。 ただ、幸せになることを望めばいい。余計なことは後から考えればいい。そんな時は幸せになることだけを考えたらいい。 食事が終わり、片づけが終わると二階に上がり、僕の部屋で2人で過ごした。彼女は少し緊張しているようで、微妙に離れて座るその間隔がもどかしかった。話をしていくうちにそんなことも忘れ、少しずつ緊張もほぐれていた。 外は雨がしとしとと降っていた。雨音は、僕らの呼吸や話し声を除いて、すべての音を消してしまっていた。話が途切れると、そこには雨音のみが聞こえる沈黙の世界が広がっていた。この六畳間だけが、世界のすべてとさえ思えた。ここに僕ら二人がいることがすべてのように思えた。世の中に存在するあらゆるものや事実も、地球の中で僕らが他の惑星を思うのと同じくらいに遠いもののように思えた。それはとてもすばらしいことだった。僕も朝子さんも、互いの瞳に互いの姿だけを写し、時の流れに身を任せていた。 僕が彼女の肩に手を回すと、少し驚いた顔をして僕を見た。それから僕の胸に顔を寄せた。僕の胸元では彼女の呼吸がはっきりと感じられた。彼女には僕の高鳴る鼓動の音が届いているのだろうかと考えると、見透かされているようで恥ずかしかった。 しばらく、二人で寄り添ってベッドにもたれて、いろいろな話をした。今日家に誰もいないからくりとか、バイトでの飛田君の話とか、これまでに見てきた、聞いてきたいろいろなことを。からくりの真相を聞いた時、朝子さんは「悪い人ね」と僕の鼻をつまんだ。僕は「苦しいよ」と少し悶え、彼女は笑った。でも、一番盛り上がったのは、飛田君の話だった。彼の話題で盛り上がるのはどうかと思ったが、それでも彼女と話しているのは楽しかった。 時計は十時を越えていた。互いに時計を見て、互いの顔を見た。無言のやり取りが一瞬にして交わされる。 朝子さん:もうこんな時間。 僕:何時までいられるのだろう? 朝子さん:そんな目をしないで。 僕:もう帰るのかな?泊まっていけばいいのに…。 楽しい時はいつだって時間が経つのが早い。一応泊まっていけるように、夜も僕と彼女だけしかいないようにしてあった。コンドームもきちんと用意した。鍵もかけた。それを下心というのだろうが、もし機会があるのなら無駄にすることはないと思った。 「今日は両親とも家に帰ってこないんだ」と僕は彼女に告げた。すると彼女は困った顔をした。しばらく二人とも黙って見つめあった後、朝子さんは「仕方ないな~」と笑みをもらし、そして僕も笑ってキスをした。温かく柔らかな唇は、僕を溶かしてしまいそうだった。最初は短く、やがて間隔を狭めながら何回もキスをした。その間に彼女の目はまどろんでいた。僕は服の上から彼女の胸を触り、またキスをした。もう時間の感覚なんて当になくなっていた。二人とも息が続く限りキスをした。まったりとしたものから、貪るようにして互いを求めた。僕は朝子さんの服をゆっくりと一枚一枚脱がせた。そして彼女も僕の服を脱がせてくれた。そしてしばらく肌を合わせて、抱き合ったままキスをした。 僕らはベッドに入ると、またしばらくの間キスをした。そして僕は上から順に手や舌で彼女の体の一つ一つを確かめるようにしてなぞった。彼女は少しくすぐったそうにしながらも、時々僕の頭を抱いた。彼女の体は温かくて、柔らかくて、すべすべとして気持ちが良いものだった。 やがて僕は彼女の中に入れようとしたが、最初は上手く入らなかった。 僕が「ごめん」と謝ると、彼女は「初めてなの?」と聞いた。僕は少し他所を見てから「自分でなら何回も」と答えた。彼女は「何それ」と笑った。僕は「愛嬌」と答えた。そして彼女が入り口まで導いてくれ、ゆっくりと中へ入れた。思ったよりも彼女の中は温かく、とても濡れていた。こんな時はアダルトビデオに感謝したくなる。初めてで経験がないのに、きちんと手順ややり方を心得ているのは、不断の努力と言える。努力もとい、欲求の追及によるもののおかげだ。煩悩万歳!! 僕は時々アダルトビデオを思い出しながら、彼女の後ろへ回ったり、彼女を上に乗せたりと体位を替えていった。彼女は心地よさそうな声を上げながら、髪を揺らしていた。少しずれかけた眼鏡を外すと、初めて彼女の素顔を見ることができた。赤いふちの眼鏡をかけた彼女も素敵だったが、素顔の彼女はそれよりも少し幼く見えた。より素朴な感じが増し、黒く長い髪がよく似合っていた。 「ねえ、初めてでしょ?」と彼女はキスをしながら僕に尋ねた。 「そうだよ」 「一体どこでそんな知識を学んでくるのよ?」 「エロビデオ。朝子さんもパッケージの写真とか見たことあるでしょ?」 「ありません」 「どうして?返却分のビデオ返す時とか見たりしない?」 「周りに人がいるのに、そんなにマジマジと見れない。だいたい、そういうのは男性が戻しに行ってくれるし」 「なるほど」 「もう、そんなくだらないことはよして」 僕は再び体を動かし、時には激しく、時にはゆっくりとしながら彼女の到達を見届けた。そして僕も彼女の中で気持ちよくなった。 どれくらいの時が経ったのだろう。僕らはしばらく互いの体温を感じながら抱き合っていた。それからタバコを一本吸った。時計の針は1時を指していた。 僕らはベッドから落ちないように寄り添って眠った。彼女の温かな寝息が僕の胸元に流れてきた。ゆっくりと穏やかなその呼吸は、彼女の話し方を思わせた。そしてもう一度、今日の出来事を思い返してみた。自分でも信じられない出来事だった。いつかはこうなるとは思っていた。けれども実際に終わってみると、意外とあっけないものだった。それでも想像するものと現実とは大きく違っていた。時間を掛けて求め合い、温かさを感じながら満ちることができた。すてきな出来事だった。それ以外に何も形容する言葉は思い浮かばなかった。どうか、今日のこの喜びがいつまで続くようにと祈った。そして、朝子さんに「ありがとう」と言うと、僕も眠りに就いた。 次の日の朝、目が覚めると朝子さんは既に目を覚ましていた。昨日のことを思い出して、僕らは顔を赤らめた。 「もう一度しようか」と僕が尋ねると、「もう、ダメよ。今から始めたら大変な時間になっちゃう」と彼女は下着を身に付けた。そして、身なりを整えると、まだ寝起きのままの僕に軽くキスをして、手を振って家を出て行った。外は雨が上がっていた。 その日、バイトで朝子さんと顔を合わせると、朝子さんはすぐにどこかへと行ってしまった。何だか淋しい感じがしたけれど、それでも一緒にいられることは嬉しかった。そして昨日の晩のことが夢でなかったことを確かめるために頬をつねってみたが、痛烈な痛みを感じた。それを飛田君は横でじっと見ていた。 「何してるんですか?今日は何かおかしいですよ」 そう言うと、返却分のビデオを持って店内の奥へと消えていった。 それからも僕らはホテルなどを使いながら、機会があれば何度もセックスをした。彼女とセックスをするのはとても気持ちが良かった。どれだけしてもやり足りなかった。終いには、彼女が「今日はもうこの辺にしよ」と言うことさえあった。僕は自分の渇望をなかなか抑えることができずに、いろいろな形で彼女を求めていた。 「まあ、そんなものだよ」とマコト君は言った。 僕の中では朝子さんへの割合が大きく増し、以前に比べればマコト君への割合は減ってしまっていた。互いに恋人もでき、4回生ともなれば、就職や論文の準備、単位履修、アルバイトとすれ違うことが多かった。僕はそれを申し訳なく思った。僕はこれまで彼の存在をとても大切に思っていたはずだ。もちろん、恋人である朝子さんも大切だ。恋人と友だちを比べるならば、恋人を優先するべきなのだろう。けれども、僕にとってはただの「友だち」で片付けてしまうことができない存在だった。僕は朝子さんのことが大好きだ。どれだけ求めてもそれは満たされないくらいに求めてしまう。それは性的な欲求だけではなく、もっともっと彼女のことを知りたかったし、彼女に近づきたかった。どこかで自分と彼女の年齢差からだろう生まれる経験の差や成熟度合いに必死に追いつこうとしていた。そんなことをしたって追いつくはずもないのに。そしてそれ以上に、これまで抱えてきた孤独や憂いを消し去るように、彼女の存在が確かであることを確かめながら、ただひたすらに目の前にあるものに、僕はどこか求めすぎてしまっていたのかもしれない。自分の中で薄れてゆくマコト君の存在がどうしても気にかかった。彼との出会いにあれほど感動し、姉と同様に僕におおきな影響を及ぼしていた彼が、時の流れやすれ違いの生活で僕の中で少しずつ薄らいでいくのは良くないことだと思った。それでもそれが事実だと認めると、僕は自分を責めた。そんな状態でいる僕がおかしくなるのに、それほどの時間はかからなかった。 決定的に僕を狂わせたのは、姉の死だった。それは突然の出来事だった。あまりの衝撃に、僕の思考は完全におかしくなってしまっていた。当たり前のことを当たり前にできなかった。ひげも伸びたままだった。一瞬にしてすべてのものが存在感を失い、何も手につかなくなり、すべてを見失ってしまいそうだった。 死因は心臓麻痺だった。季節は移り変わり、冬を迎えたころだった。朝起きてから部屋で着替えているはずの姉が、なかなか部屋から出てこなかった。僕は何度か声をかけたけれど、返事はなかった。時刻は当に出勤の時間を迎えていた。少し心配になって部屋のドアを開けると、ベッドから足を落として横になっている姉の姿を見つけた。 「姉ちゃん、もう遅刻しちゃうよ」 何度も声をかけ、面倒臭さを感じながらも、再び姉に近寄って声をかけた。けれども、声をかけてもびくともしなかった。何回か体を揺すっているうちに、息をしていないことに気付いた。何度も名前を呼んだけれど、ピクリとさえ動かなかった。僕は走って階段を下り、救急車を呼んだ。電話口で男性がいろいろなことを言っていたが、何を言っているのか、まったくわからなかった。僕の耳には何も聞こえていなかったし、僕の目には何も見えてはいなかった。 病院に着いたときには、もう手遅れだった。それは、誰にもどうしようもないことだった。けれども、突然すぎる出来事に、あまりにも理不尽で姉がとても不憫に思えた。どれだけ言葉を連ねても、何も変わらなかった。姉が死んでしまったのは事実であり、もうどうすることもできないことだった。それはわかっているけれど、なかなかそんなに簡単に受け容れられるはずがなかった。 外は雨が降っていた。激しく降っていた。屋根を叩く雨音がすべてを包み、朝子さんと過ごした日のように、すべての音を消し去り沈黙を作り出していた。けれども、あの時とは決定的に違っていた。あまりにも悲しく絶望的な沈黙だった。どれだけ大きな声で叫んでも、その沈黙は破れないように思えた。何をしても、死の前では圧倒的に無力な自分が存在した。それはわかっていることではあったけれど、改めて直面すると、僕の中のいろいろなものまで削ぎとっていくように思えた。そして抜け殻のようになって、呆然とするしかなかった。何もしなくても涙がこぼれた。何度も顔をしわくちゃにして泣いた。どうしようもない悲しみが体いっぱいに広がって、僕の胸は押しつぶされそうだった。 灯かりを消した部屋で一人うずくまって、姉のことを思っていた。幼い時、両親の代わりをし、僕の面倒を見ていた姉。僕が独りぼっちにならないように、横で見ていてくれた。大切なものを見失わないようにと、いつだって灯かりを照らしてくれていた。少し強気で、けれども本当は臆病な人間だった。なぜ、僕のような不出来な人間がこの世界に残され、姉のような人間がこの世を去らなければならないのか、まったく理解できなかった。そして、マコトくんの悲しむ姿が頭の隅に浮かんだ。 それからしばらく誰とも出会うことなく、一人で過ごす日々が続いた。しばらくして、休みをもらっていたアルバイト先へ向かった。そこで久しぶりに朝子さんに会うことができたが、彼女の顔を見ても上手く笑うことができなかった。きちんと繋がっているはずの僕と彼女に、おおきな歪みが存在しているように思えた。 素早く彼女の前を横切ると、店の奥にいる店長の元へと向かった。僕は「アルバイトを辞めたい」と伝えた。突然の申し出に店長は戸惑ったし、怒った。主な働き手が急に抜けてしまうこともその理由だったし、あまりにもマナーに反していることもその理由だった。もちろんそれはわかっていたけれど、今は何もする気が起こらなかったし、この状態では迷惑をかけるだけだというのはよくわかっていた。本当ならば、こういう時は気をしっかり持って、耐えて生きていかなくてはならないのは知っている。ゆっくりと時間が悲しみを和らげてくれることも知っている。それでも、今は無理な話だった。店長は一通り説得し一応の説得も無理だとわかると、仕方なく退職を認めてくれた。 帰り際に飛田君に「ありがとう。楽しかったよ」と伝えた。飛田君は僕がバイトを辞めることを知って、驚きのあまり言葉を失った。いつものような調子の良い発言も見られず、ただ、立ち尽くしていた。そして横にいる朝子さんを見た。朝子さんは黙って下を見ていた。僕は「ごめん」とだけ言うと店を出た。僕が店を出た後、彼女が店の外に出て僕を眺めているのは知っていた。でも僕は振り向かずに、ただ歩き続けた。もう僕には誰の声も届いてはいなかった。もう、涙すら出ない。悲しいのに、涙は流れなかった。いつまでも姉がなくなった日の雨音が僕を包んでいた。 それから数日後、僕は朝子さんと喫茶店にいた。二人で会う時によく使っていた店だった。個人で経営しているとても小さな店舗で、店内は薄暗かったけれど、それが僕らには落ち着いてよく似合っていた。椅子やテーブルも木製を使い、趣深い装いも心惹かれた。いつもはくすくすと笑って、いろいろ話していたのに、その日の僕らの間には笑みは一つもなかった。僕は窓から外を眺めながら、タバコを吸った。朝子さんはずっとスプーンでコーヒーかき回していた。 「何も辞めることなかったのに」と朝子さんは口を開いた。 「このままじゃ、何も上手くいかないのはわかってたし。みんなにも迷惑かけてしまうから」 「どうして一言も言ってくれなかったの?」 朝子さんは僕を睨んだ。僕はしばらく彼女を眺めて、それから外に目をやった。長い沈黙が続いた。彼女の言葉の意味も、僕を睨む理由もよくわかっていた。けれども、僕はそれ以外に選ぶことはできなかった。そうするしかなかった。それがたとえ間違った選択であったとしても。それがわかっているからこそ、それでも黙っていたし、今ここで何も語る言葉を持たなかった。 繰り返すようだが、僕はこの頃すべてを見失っていた。この世界のすべてが色をなくし、もう何にも前ほど強く存在感を感じることもなかった。目の前にいる朝子さんさえも。おかしくなっているのは自分でも気付いていた。だからと言って、どうすることもできないことも知っていた。 「すべてをリセットする必要があるんだよ」 僕は瞬間的に脳裏に浮かんだ言葉をそのまま口にした。本当に言葉の意味をわかって語っているのかは怪しかったが、それが今僕の望むことであることはわかった。 「1回すべてをゼロにするんだ」 僕は朝子さんを見つめた。朝子さんは僕を見て、言葉の意味を理解し泣いた。彼女が悲しく泣いているのはとてもつらいことだった。それが僕のせいであることも知っている。どうにかできるものならしたかった。 「ただ、横にいるだけでもダメ?」 朝子さんの気持ちは嬉しかった。彼女を好きになってよかった。僕のために涙を流し、優しい心が伝わってくる。こんなすてきな人ならずっとそばにいたいと思った。でも、今の僕とそばにいたら、きっと傷つけてしまう。僕は大好きだから、今は彼女と一緒にいることはできなかった。だからと言って、僕がまともになるのがいつになるかわからないのに、彼女を僕一人に繋ぎとめておくわけにもいかない。これまでも悲しみを背負ってきた彼女だから、これからは幸せな時間を過ごして欲しい。僕にはそれができそうにもないから、さよならをするんだ。 すがるように僕を見る彼女に、「今はそうするしかないんだ」と呟いた。朝子さんは声を上げて泣いた。僕は黙って彼女の泣く姿を眺めていた。 こうして、僕はやっと手に入れた大切なものをなくしていった。
https://w.atwiki.jp/moujiki/pages/168.html
2 高校時代、気がつくと僕は一人だった。いや、もっと以前から僕は一人だったのかもしれない。窓の外を眺めれば、楽しそうに笑いながら通り過ぎる女子生徒や、木の下で寄り添って時間を過ごすカップルもいた。同級生たちは人並みに学校生活を楽しんでいた。賑やかな笑い声や廊下を駆ける靴音が、大きくなったり小さくなったりした。 僕はと言えば、一人でぼんやりと空を眺めたり、ウォークマンで音楽を聞いていることが多かった。耳元で流れる音とはまったく違った情景が、僕の目の前を広がっている。僕はただ、それを眺めて暮らす。そうやって、ほとんど人と関わりを持つことなく一日が過ぎていった。 しかし、僕はいつから一人だったのだろう。もともと一人でいることにそれほど苦痛も感じることはなかった。そして、いつしかそれにも慣れてしまっていた。一人でいることは、他人が思うよりも僕には自然なことだった。余計なことで神経を使う必要もなく、気楽だった。自分のペースで、自分の世界で、生きて行ける。いろいろなことに僕は過敏になっていたのかもしれない。そしてきちんと真っ直ぐに向き合うことができていなかったのかもしれない。突っ張らなければやんわりいくことも、なかなか素直になれない。自分の個を譲るくらいなら、最初から関わらない方が良かった。自分のことなんて誰も理解できないと思っていた。けれども、誰かにわかって欲しかった。気付いて欲しかった。そんな都合のいいことなんて通る訳ないことは十分にわかっていた。そんなことあるはずがないことはわかっていた。意味のない、行き場のない自分を抱えて生きている時間の連続に、失望感を拭い去ることなんてできなかった。そして、こんな自分の未来を不安に思った。 何度か、もっと別の人生も想像してみた。たとえば、今と正反対の人生。誰とでも気軽に話す気さくな人柄。今の僕のように自分の殻に閉じこもっていない、外向きの人生。でも、それは僕らしくなかった。淡々と静かな口調で話す、一人で窓の外を眺めて暮らす、感情の浮き沈みの少ない穏やかな時間の継続、それが僕らしい暮らし方だった。 ある意味、僕の自分自身である純度は高い。他のものからの影響で余計な色に染まることなく、自分の考えと感情で満たされる純粋な自分を保つことができる。僕は僕自身を見失わぬように、この世界を守った。 世界、それは僕という個人の存在を基にして、刺激と受容により構築される。自分以外から得られる刺激、自分の内部から得られる刺激、あらゆる刺激が世界に流れ入ってくる。そうすると、入り口の番人はきちんと振り分け、自分自身の世界への取り込む。時には、番人が気付かないうちにすごい勢いで侵入してしまうものもある。忙しくなると、番人は応援を呼び、複数で素早く作業を行う。取り扱いが難しいものは時間を掛けて行う。そして取り込まれたものたちは反映され、世界は再構築される。世界は僕自身であり、らしさであり、感情や思考の誕生する場所でもある。つまり、世界は始まりであり、終わりである。そして存在の象徴の一つである。 世界の純度を問う時、外部からの刺激が少ない僕の世界は、純度が低いと言えるだろうか。実はそうでもない。なぜならば、それが僕の世界を構成するルールの一つであるからだ。僕の世界は他人のとの干渉の少ないもの。自分の内側に向いているもの。外部からの刺激を必要としないもの。そういった設定がきちんと存在している。その設定を守っているという点では、僕の世界は純度がむしろ高いと言えるだろう。 勿論、それが良いことだとは必ずしも言えないが、「自分らしさ」という点では良いことなのかも知れない。誰かに惑わされたりしない。誰かに染まったりしない。自分を見失ったりはしない。 付け加えておくと、世界は必ず存在している。その人間がもつ思考や感情には必ず傾向があるように、それがきちんと世界を築き上げている。もちろん、世界はなくとも、意識しなくとも生きていけるだろう。ある人間は意識し大切にし、ある人間はまったく捉われず、下手すると一生向き合うことなく終わる。もっとも、世界の純度や存在意義について、これほどまでに重要視する必要があるのかという疑問は大いに残るけれど。 それならば、生き方を変えることができれば、幸せなのかもしれない。しかし、僕はそこで何を話せばよいのかわからなかったし、その生き方には価値や意味のようなものを感じることはできなかった。そういうことで悩んだのは、中学生の頃までの話だった。今の僕は、この生活を割り切れていると思っていた。 しかし稀に、会話のない僕であっても、話しかけてくれる人たちもいた。傍から見ていると、何を考えているのか不思議に映るらしい。誰かと話している姿を見たこともなく、声が思い出せない人も多かった。彼らの多くに共通していたのは、「僕が何を考えているのか」「一人で淋しくないのか」、突き詰めるとその二つが主な関心事だった。 僕に関心を持ってくれるのは嬉しいことだったが、いつだって嬉しさはすぐに煩わしさに変わった。僕の心をそうさせるのは、僕自身を彼らの一時的な好奇心の餌食にされることだった。彼らは本当に僕を心配しているわけではなく、ただ自分たちの好奇心を埋めることしか頭にないように見えた。もちろん、好奇心を持つことは良いことだと思う。しかし、それほど親密でもない人間に簡単に自分の内側を見せるほど、僕は社交的ではない。もし、そうであったならば、今もあの頃も僕は一人でいることはなかっただろう。彼らの独りよがりな好奇心は、僕の人間関係を余計に億劫にさせていたのかもしれなかった。そして、僕の中のことをどのように説明したら、彼らに上手くわかってもらえるだろうか。僕はそのための言葉を思いつくことができなかったし、彼らもきっと理解できないだろうと思った。「もう、よしてくれよ」と心の中で呟いた。そして、また僕は一人途方に暮れた。 これは、何も学校だけに限ったことではなかった。家に帰ると、それは両親との関係に置き換えられた。自分の息子が何を考えているのか、どう関わりを持ったら良いか、掴みきれずにいる両親がいた。会話のきっかけもつかめずにいたし、たまに話しかけられても、僕は一言返すだけで会話にはならなかった。もちろん、これはこれまでの経過あってこその現状と言えた。両親は早くから共働きに出ていたので、そばにいないことはいつものことだった。 こういう場合、極端に分ければ人間は二つのタイプに分かれるだろう。一つは、寂しさの反動で誰かに自分を主張し、受け入れられることを望む、外向きのタイプ。もう一つは、その逆である。一人でいることに慣れ、自分自身の中で多くを解消し、他に何かを求めたりしない内向きのタイプ。僕は言うまでもなく、後者だった。両親は、僕がそんな人間に育っていることをきちんと把握していただろうか。一日の多くは親が家にいない。そして帰りも遅ければ、わずかな時間で親子の関係を築かなければならない。つまりは、限られた時間でその人間の動きによって結びつきは決まる。目の前にある選択肢だけに捉われなければ、つまりはあらゆる方法を用いれば、もっと結びつきを強める可能性はあるのだが。僕と両親の場合、それは存在しなかった。姉は自分から歩み寄り、両親はそれに応えた。僕は姉を介し言葉を聞いた。それ故に、僕と両親には互いが認識する以上の距離感が存在してしまっていた。 両親はそれをきちんと理解することができず、「今どきの子ども」に僕を染めることで、何とか理解しようとするしかなかったようだ。実際、僕も両親との会話はクラスメイト同様に煩わしさを感じていた。針でも触るような触れ合いは、瞬間で話す意欲を削いだ。もちろん、元々意欲など存在していなかったのだが。自分の子どもをきちんと理解できない親を、僕はとても非力に思い、関わりを知らず知らずに拒んでいた。そして煩わしさばかりが先に立ち、僕と両親の間に何も生まれなかった。両親だってそれほどバカじゃない。きちんと僕の感情や態度から何かしらを察知していた。それでも手立てがないのは変わりなく、時々姉にぼやいていた。 「あの子は一体何を考えているのかわからない」「私たちにはあの子は理解できない」「何であんなふうになってしまうのだろうか」、更には「あの子はそのうち頭がおかしくなるんじゃないだろうか」などとさえ言っていた。姉は包み隠さず、ストレートに僕に両親の言葉を伝えた。さすがに僕もその言葉はショックだった。 姉とは時々話をした。幼い頃から両親は共働きに出ていて、姉と二人の時間が長かったので、姉と話したりすることは僕にとって習慣のようなものだった。姉との時間は、幼い僕の中で大切なものだった。だから自然と姉は僕の姉であり、時に母親の代役さえしていた。つまりは、両親と僕の間柄はそういうもの(過去の親子関係)も少なからず影響を及ぼしながら、今まで来てしまった結果といえるかもしれない。そう思った。 姉は僕の部屋に入ってくると勉強机の椅子を前後逆に座り、手を乗せて顎をついた。 僕はイヤホンをつけて音楽を流したまま、姉の行動を横目で追った。 「ねえアンタ、そんな風に生きていて何が楽しいの?」 いつだって姉はストレートだ。両親は僕から一歩引いてしまっているのに、この姉ときたら僕には容赦はない。それを今ここで口にすれば、「何でアンタに遠慮する必要があるのよ」と言い返されるに決まっている。姉との間での不用意な言葉は、まさに命取りになる。だから、黙って聞いていることが多かった。そうしていれば、一応話を聞いているように見え、不用意に自分で地雷を踏みに行くようなこともない。もしかしたら、僕の人生がこれほどまでに内向きに進んでいるのは、この姉のせいかもしれないと思った。もちろん、そんなことは口に出せるわけはないのだが…。 さて、困ったものだ。何が楽しいと聞かれても答えが見つからない。別にこんな生き方は何も楽しくもない。ただ、これが一番自分にしっくりくる暮らし方だった。誰にも気を使わない。自分を誰かに誇張させて見せたりしない。他人の印象に振り回されたりしない。僕が純粋に僕でいるための生き方だった。理屈を抜きにすると、そういう生き方しかできなかった。違う生き方は、息遣いがどこかぎこちない。 僕が頭の中でそんなことをごちゃごちゃと考えているうちに、姉はぼんやりとする僕を横目で見ながら話を進めた。 「そんなんじゃ、アンタ本当におかしくなるよ。だいたい話し相手はいるの?」 僕は黙って姉を指さした。 姉は呆れていた。言われてみれば、僕は姉以外とあまり話してはいなかった。ヘッドホンを外し、僕がさっき頭の中で考えていたことを話すと、姉は「アンタ、バカじゃないの?」とため息を吐いて呆れていた。 しかし姉と言えども、いくら何でもひどすぎる…。こんな僕だって一人前に傷ついたりする。呆れ半分で言われると、まったく冗談味を感じない。それでは、本当に僕がバカみたいじゃないか。もちろん、姉は僕に対してはそんなことはお構いなしなのだが。 「いい?自分に一番合っているからってこんなこと続けてたら、本当に取り返しがつかなくなるのよ。そりゃ、確かに自分らしく生きることは大事よ。でも、それだけじゃダメなのよ。ねえサトシ、何も知らないアンタがまだ見ぬ未来を否定するのはおかしなことだと思わない?生きてみて、後から大したことないというのでもいいんじゃない?アンタが思うより、世界はずっと広くて深いのよ」 姉の言葉はいつだって真っ直ぐで強く温かい。それが僕の心をどれほど揺さぶることだろう。そして、僕は戸惑いをどこにぶつければ良いのかわからず、いつも苦しまなくてはならなかった。 姉の強い眼差しはやがて重たげに降りた瞼によって隠され、穏やかな柔らかなものになった。僕よりたった五つ上の姉が、随分と大人に見えた。十八歳の高校三年生と大学卒業して就職した社会人とは、これほどまでに違うものなのだろうか?それとも姉が大人なのか?僕が子どもなのか?そして、具体的に僕は何をすれば良いのか? 「せめて、お母さんとお父さんに挨拶くらいはきちんとなさい」 姉はそう言うと、ため息をついて部屋を出て行った。ちなみに姉が僕の部屋に入ってくることは許されていたが、僕が姉の部屋に入ることは許されなかった。僕は自分の生き方よりも、こちらのことの方がよっぽど気になった。なぜ、僕だけ締め出されるのか? 部屋を後にした姉がドアの隙間からひょっこりと顔を出し、「休みの日でも髭は剃りなさい。本当はそれなりに良い顔立ちしてるんだから」と言って再び自分の部屋に戻っていった。 その後、自分の顔を鏡で見て、やれやれと思った。確かに、冴えない顔だと思った。最近自分ばかり見ている。いや、本当は自分さえも見ていなかったかもしれない。このままでは姉の言う通り、僕は引きこもりや、おかしくなってしまうかもしれない。僕はこうしていることで何か大切なことを見逃してしまっているのだろうか。そう思うと、少し焦りを感じた。しかし、今は不思議と動く気がしない。じっと何かを待ち続けているのかもしれない、と思った。しかし、僕は「いつか良いことある」なんて何の根拠もない言葉は嫌いだったはず。大体、一体何に期待をするというのか。まだ見ぬ未来にだろうか。それこそバカげている。姉の言葉が頭の中に響いていた。 「アンタ、バカじゃないの?」 ああ、僕はバカだ。どうしようもないバカだ。誰かこんな僕でよければ救ってくれ。道端に捨てられた猫のように、僕を拾ってくれればいい。少し扱いにくいけれど、それほどバカじゃない。いや、やっぱりバカなのかもしれない。雨ざらしから、寒さから、飢えから、この凡庸な日々から僕を救ってくれ。もちろん、誰も僕なんかを救いやしない。 そして一通り考えを巡らすと、現実逃避をした。 誰か僕を殺してくれないか、と。 これが僕の高校時代だ。暗く陰鬱とも言えるような陰が付きまとっていた。それは不安であり、虚しさであり、失望であり、悲しみであり、苛立ちであった。ただ、それはどうしようもないもので、忘れることが僕にできる精一杯のことだった。「本当に何も僕にはできなかったのか」と26歳の現在に自問自答した。あの頃、僕は自分を失わないように、自分自身の世界を守っていた。他のものの影響の少ない純粋な自分を守るために。他人の印象や言葉、世の中のくだらないルールや、でたらめなものに心を汚されたりしないように。 しかし、本当に僕自身、僕の世界にそれだけの価値はあったのだろうか。 大切な時間を一人で過ごしてまで、守るべきものだったのだろうか。 そもそも何から守り、何を基準に純粋と言うのか。 他のものからの影響が少ないことは、本当の意味で純粋といえるだろ言うか。 純粋とは、偏った独りよがりなものを指すのだろうか。 他のものの影響を受けながら作り上げていく自分に、純粋という言葉は当てはまらないのだろうか。 孤独であることに寂しさを感じていたはずなのに、どうして人と分かり合おうとしなかったのだろう。 あの頃、現状に満足しているはずの僕は、いつだって耳を塞いでいた。余計なものが聞こえたりしないように。それは誰かの声だったり、感情の塊だったり、自分自身のため息だったり。そんなものが塞いだ手をすり抜けて心に届くときは、その辺にあるものをひっくり返し、荒ぶる心を振るわせたかった。自分の中にあるものすべてをぶちまけて、何もかもを破壊し、粉々に燃やし尽くしたかった。けれども結局それはできずに、ぐっと胸の奥に押し込んで奥歯をかみ締めた。そんなときは、僕はあれが精一杯だった、どうしようもなかったと思い込んだ。そうやって何も解消されないまま、糸は絡まったまま時は進み、僕は19歳になった。 今思い返しても、できることならば目を閉じてやり過ごしたい記憶だった。まるで井戸の中に落ちてしまったように、狭い世界で僕は一人、空を眺めていた。いつもイヤホンを耳に当て、音楽を聴いていた。人の話し声や車の走る音や、そんなものは何も聞こえていなかった。まるで音楽を聴きながら、テレビの映像だけを眺めている、そんな風に物事を見ていたように思う。ほとんどの言葉は僕には届かなかったし、僕も言葉を必要としていなかった。いや、本当は欲していたのに、受け入れようとしなかっただけなのだ。 そして、時が過ぎ行くのをただ黙って眺めていた。今という時間をやり過ごすように。 今あの頃を振り返れば必ず思う。あの頃、僕は一人で空を眺めて何を考えていたのだろう。長く時が過ぎた今となっては、それもわからなかった。ただ、虚しくて不安だった気持ちを隠して暮らした日々があったということは覚えている。そして思い出せば、自然にあの頃の気持ちがふっと浮き上がって、僕の胸をつまらせた。もう、こんなことは終わりにしなければならない。あれから8年経った今、再び僕はそう思っていた。 朝が来ると、僕はまだ寒い部屋に暖房を入れ、やかんを火に掛けた。そして、タバコを一本吸った。眠りから覚めたばかりの僕の頭は、まだすっきりせずに少しボーッとしていた。そして頭の中に残っている記憶が昨夜のものであったのか、夢の中のものであったのか確かめていた。それは昨夜から夢の中へ、そしてこの朝へとつながっていた。 僕はタバコを吸い終わると、コーヒーを入れゆっくりと飲み干した。温かな液体が体の中へと滲み渡る様をしっかりと感じることができた。そして1つ大きくため息をついた。 久しぶりの休日は、思い出探しから始まった。僕は押入れにしまいこんだダンボールを引っ張り出し、その中から1通の封筒があり、中には便箋1枚と写真が1枚入っていた。写真は僕と朝子さんが二人並んで撮った唯一の写真だった。二人ぎこちなく寄り添う様が当時を思い出させた。彼女の名前が僕の記憶に問いかけ、僕の脳は静かに記憶の断片をランダムに再生し始めた。過去の記憶をたどるということは、懐かしい反面どこか切ない。浮かび上がる記憶は僕の意図とは関係なく呼び起こし、おかげで僕はしばしばつらい思いをしなければならなかった。 あれから4年経ち、僕はいつしか過ちを恐れ後悔の少ない人生を選んで歩くようになった。おかげで窮屈な思いもするけれど、それにも随分と慣れた。飼い馴らされた猫のように自由を失い、次第に自分の名前さえ忘れていくことだろう。ただ、僕の世界のどこか片隅で、静かに何かが動き始めているような気がした。
https://w.atwiki.jp/neetura2/pages/811.html
変態無口やガンショット、ゴーストなどを手掛ける作家。 ねとらじでは歯に衣着せぬ物言いで、時には過剰な個人中傷なども盛り込まれるため賛否両論。 今日から契約者を読んだ感想をねとらじで述べたが 絵が酷過ぎるというか糞そのもの 作者はマゾなのか頭がおかしいのかどちらか こんなもの公開自虐レイプであり作品とは呼べない 作画に対して努力が感じられない 面白い作品を作ろうとする意欲が無いんじゃねーの 新都社で一番酷い作品 と苛烈な批判を並べた この時リスナーの一部は今日から契約者の良いところなどをあげ好意的な意見をした者もいるが 中二病患者がさらなる批判を重ね結果的に配信者、配信者意見側リスナー、猫介擁護リスナーに分かれた険悪なムードを作りだした ねとらじにて、高校時代に振った女に現在ストーカー行為をされてるという事を打ち明ける http //www.nicovideo.jp/watch/sm11087340
https://w.atwiki.jp/wangel/pages/177.html
我が部創設50年以上が経つ。その間でいくつものドラマが生まれ、その代その代ごとに特色をぶつけ合い飛躍させてきた。 56人の主将による56個の黄金時代があったかと思う。 だがそれでいいのか?57代はそれで満足か? 私たち二年には上級がない。その中でもう一度先代と肩を並べた活気のある部活にするためにできることは何か。 ピンチは最大のチャンス 上級がいないディスアドバンテージを57代のアドバンテージにすべく、団結して組織力を武器にした強い57代。そんな代を目標にする。もう一度…もう一度…気高く、たくましいメンツのそろった、どこにも負けない部活にするために。 黄金時代の“再生”ではない。黄金時代の“創造”なのだ。我々の我々による黄金色に輝く豊かな4年間にするために…始動…今…動き出す。 戻る
https://w.atwiki.jp/strange_journey/pages/29.html
パスワード生成プロセスのアウトライン パターン番号をランダムで生成 (0~255) ステータス値をビット列に変換 ビット列を所定の順序で並べる 並べたビット列をバイト値 (8 ビット単位) に分割 (22 要素) 分割したバイト値ごとに、パターン番号との XOR を計算 パターン番号ごとに決まっている移送パターンにより、22 要素の順序を入れ替える 23 バイト目にパターン番号を格納 24 バイト目に、1 ~ 23 バイト目までの単純なチェックサム値を格納 この 24 要素のバイト配列を並べ、6 ビット単位に分割 (32 要素) 32 要素のビット列をそれぞれ対応する文字に変換 完成 パスワード生成
https://w.atwiki.jp/kaeuta-matome/pages/2245.html
元ネタ:Hacking to the Gate(Steins;Gate いとうかなこ) 作:ヤジオーディエンス Well done. Rhymed lines babble in the same Well done. Hear anything from the state 数十億もの言葉の数さえ 羅列なら落書き程度のやわな論及 何か言いたくて あれこれ綴るも 何ひとつ印象を残さぬ全然 無意味につなげる意味も 響く音符も 曖昧にほだされた 需要と供給 表現 それは誤解をさせることと 残念な定石と商いへ Anything from the state ※だから今 1曲ごとに違うように見えて 同じような歌詞 繰り返すのさ そしてまた 趣のない言葉のループへと 飲み込まれてゆく 滑稽な勤労者 誰かの主張は 悪魔の証明 玄人でも糊口のしのぎ辛い状況 制作者気取りの お偉いあいつは うぬぼれた大人の事情を並べた 無意味と断じたものも 君の回想も 曖昧に示された 古典の見本 表現 それは無益なものを作り 化けたなら運のいい商いへ Anything from the state いくつもの 長すぎる歌詞 何を伝えてるの わかったふりして 聴いちゃいけない そのために 意味を欺く 多すぎる言葉に もう頼らないで 滑稽な勤労者 ※繰り返し 検索タグ その他ネタ アニメ フルコーラス ヤジオーディエンス メニュー 作者別リスト 元ネタ別リスト 内容別リスト フレーズ長別リスト
https://w.atwiki.jp/yomiura/pages/10.html
ピーモで一儲け ミクシーの大人気を利用して、エージェントになってあなた自身がオーナーになってみませんか?と一口何万円で勧誘して会員が増えるごとに収入がガッポリと美辞麗句を並べたねずみ講。 いつの時代も人間の欲には限りなく、のど元過ぎれば熱さ忘れるでいまだに騙されるバカがいる。別にその欲の皮がつっぱった奴らの為に啓発する気はサラサラない。 目的はそのバカ相手に左うちわしている奴らを野放しにさせない為である。 しいて言うならば、私自身の趣味の領域である
https://w.atwiki.jp/saitama-u/pages/62.html
JR東日本の路線の一つ。 駅 ● 停車、▲ 土休日のみ停車、| 通過 各駅停車 快速 大宮 ● ● さいたま新都心 ● ● 与野 ● ● 北浦和 ● ● 浦和 ● ● 南浦和 ● ● 蕨 ● ● 西川口 ● ● 川口 ● ● 赤羽 ● ● 東十条 ● ● 王子 ● ● 上中里 ● ● 田端 ● ● 西日暮里 ● | 日暮里 ● | 鶯谷 ● | 上野 ● ● 御徒町 ● ▲ 秋葉原 ● ● 神田 ● ● 東京 ● ● 有楽町 ● | 新橋 ● | 浜松町 ● ● 田町 ● ● 高輪ゲートウェイ ● ● 品川 ● ● 大井町 ● ● 大森 ● ● 蒲田 ● ● 川崎 ● ● 鶴見 ● ● 新子安 ● ● 東神奈川 ● ● 横浜 ● ● 桜木町 ● ● 関内 ● ● 石川町 ● ● 山手 ● ● 根岸 ● ● 磯子 ● ● 新杉田 ● ● 洋光台 ● ● 港南台 ● ● 本郷台 ● ● 大船 ● ● 各駅停車 快速 沿線から埼大へのアクセス 大宮~与野の各駅から北浦和駅まで 東京・大船方面に乗車種別・行先はどれでもよい 北浦和駅下車 南浦和~鶯谷の各駅から北浦和駅まで 大宮行に乗車大宮行以外には乗らないこと 日中に西日暮里~鶯谷の各駅から行く場合は山手線に乗車し、田端で京浜東北線に乗り換える 北浦和駅下車 上野~大船の各駅から北浦和駅まで (上野東京ライン通過駅から行く場合のみ)京浜東北線 大宮方面に乗車 (同上)直後の上野東京ライン停車駅(上野・東京・新橋・品川・川崎・横浜)で下車 上野東京ライン 宇都宮線直通または高崎線直通 大宮方面に乗車普通と快速のいずれでも構わない 上野行や常磐線直通には乗らないこと 浦和駅下車 浦和駅2番線(京浜東北線 大宮行)の列車に乗り換え 北浦和駅下車 北浦和駅から埼玉大学まで 北浦和駅から埼玉大学までの移動方法は北浦和駅を参照。 ※浦和駅から埼玉大学までは直接バスで行くことができる→浦和駅を参照。 路線概要 京浜東北線の列車として運行される列車は、北は大宮まで、南は根岸線の大船まで直通で乗り入れる。また、横浜線からの直通列車が東神奈川―大船間に乗り入れる。 大宮―横浜間は京浜東北線(正式には大宮―東京間は東北本線、東京―横浜間は東海道本線) 横浜―大船間は根岸線 横浜線直通は8両編成、それ以外は10両編成で運転される。 概ね10~15時台の列車は全て快速となるので、通過駅に行く場合は手前の停車駅で山手線に乗り換える必要がある。 田端―田町間の各駅は山手線とホームが隣同士になっているので簡単に乗り換えられる。 車両 使用される車両はJR東日本E233系1000番台である。また、東神奈川―大船間ではE233系6000番台も運用される。 E233系6000番台は横浜線用の車両で、一部列車が京浜東北線区間に乗り入れという形で運行しており、大部分は桜木町までの乗り入れである。 京浜東北線では、平日朝の列車の一部区間で大船寄り3号車が女性専用車両となる。
https://w.atwiki.jp/tohoku-suisou/pages/20.html
東北大会2007中学校大編成 東北大会2007中学校小編成の部 東北大会2007高校大編成 東北大会2007高等学校小編成の部 東北大会2007小学校 東北大会2007大学 東北大会2007職場 東北大会2007一般
https://w.atwiki.jp/shintouzyo/pages/2571.html
李嶧 りえき ?-? 盛唐の宗室・官人。信安郡王李禕の子。李峘の弟。李峴の兄。戸部侍郎、銀青光禄大夫となる。兄弟揃って長興坊の邸宅に同居し、門に三戟を並べたという。官は蜀州刺史で終わった。 列伝 『新唐書』巻八十 列伝第五 太宗諸子 鬱林王恪 趙国公峘 『新唐書』巻一百三十一 列伝第五十六 宗室宰相 李峴