約 3,978,684 件
https://w.atwiki.jp/oku2005/pages/214.html
#blognavi htmlプラグインエラー このプラグインを使うにはこのページの編集権限を「管理者のみ」に設定してください。 友達にも宝くじに毎回数万円投入している人が居る。 結果は…、当たったそぶりはない。 宝くじより株の方がよっぽど現実的に稼げると思うのにな。 なにせ宝くじは買う数を増やすしか当たる確率を上げる手段はない。 (あ、あとは、「願掛け」するとか、「○等賞出ました」とかいう販売店で買うことくらい?) それならば、自分の勉強次第で勝率が上げられる投資の方が良いと思わないだろうか。 いきなり3億円!とかは無理だけどね。 だいたい、そんなにお金が欲しいかね、3億円も転がり込んできたら、性格変わっちゃうよ、マジで。 とりあえず私は「買わない」。買っても1枚だけだろうな。 アクセスランキングに参加しております。できましたら1日1クリックのご寄付をお願いします。m(_ _)m htmlプラグインエラー このプラグインを使うにはこのページの編集権限を「管理者のみ」に設定してください。 カテゴリ [その他] - trackback- 2005年11月30日 00 29 35 名前 コメント #blognavi
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/6595.html
790 名前:通常の名無しさんの3倍 :2012/09/25(火) 12 34 49.34 ID ??? ウルフ「アセム、なれよ……(夜の)スーパーパイロットに」 792 名前:通常の名無しさんの3倍 :2012/09/25(火) 12 49 23.73 ID ??? アセム「 790って言われてお風呂奢ってもらったんだ、ウルフ隊長に」 ゼハート「なん…だと……」 ゼハート(アセム、お前は私よりもはやく大人の階段を登ったのか!! それもロマリーとではなくプロの人と!! くっ…私はデシル兄さんにお風呂に連れて行って貰ったことなど一度もないというのに! あげくデシル兄さんは私の名前でお風呂に行ってるというのに!!!」 ゼハート「アセム、私はお前が羨ましい!!」 アセム「え?」 ゼハート「私もそんな師にソープを奢って貰いたかった!!」 アセム「ソープ……? いや、石鹸は買わなくてもサテリコンに置いてるけど?」 ゼハート「妻子持ちのイゼルカント様にそんな願いを託すわけにはいかず私は……え?サテリコン?」
https://w.atwiki.jp/wiki11_library/pages/60.html
書籍ライブラリ 人間の可能性 演奏メソッド CD版 パーカッション奏法リズム・アンサンブル 買うならコレ。 2006.1 CD版と言っても文章(本)もちゃんと付いてきます。CD版じゃない本編が別にあるのでこんな名前になっているのですが、CD版では本来オマケであるはずの(失礼)、文章をさらっと読んだだけでもコンガのタッチが激変わり!驚きました。さっそく本編も注文したので手に入ったらそちらもレビューします。 数有る教則本や教則ビデオの中で、コンガに関してはイチ押し。○ットーミュージックから出ている某ベストセラー(と思われる)教則DVDは買わなくていいです。 なお、コンガの教則ビデオを買うならLP社から出ているジョバンニイダルゴ出演のものの方がおすすめ。 本編 パーカッション奏法 リズムアンサンブル 2006.1 早速注文しました。 「なんちゃってジャズ・ギター」 2006.1 ご感想などお寄せ下さい。 お名前 コメント
https://w.atwiki.jp/moujiki/pages/295.html
その灰色の夢の中で、僕にはそれが現実だと分かっていた。身体は眠っていた。意識もほとんどなかったと思う。でも頭のどこかが圧倒的に冷たく醒めていた。たぶん幽体離脱とか薬物によるトリップとか、そういうのと同じ感覚だと思う。いや、まだ十四歳の僕は、そんな素敵な体験はしたことがなかったけれども。なにもかもが普通じゃなかった。それは映像として目から入ってくるというよりは、脳内に直接電極でも差し込まれて、電気信号か毒電波か何かを送り込まれているような感覚だった。目から入ってきたにしてはリアルすぎる。間違っている、と僕は思った。でも間違いすぎていて、どう正していいのかも分からなかった。ただ抗えない力で、僕はそれを一方的に体験させられていた。 見えたのは破壊された街だった。至る所から煙が立ち上り、住宅は崩壊し、地面には亀裂が走っていた。戦争の記録映像か何かかと最初は思った。その夢は白黒だったし、その街のすさまじい廃墟っぷりには僕の知っている現実のリアリティがなかったからだった。でも、それは現代の日本の街だった。落ちそうで落ちないぎりぎりの場所、折れた高架の道路の先っぽで、バスが地獄の淵を覗いていた。もちろん何台もの車が実際に落ちて潰れて燃えていた。アスファルト舗装の道路はひび割れて、所々から水が噴き出していた。高層ビルが隣のビルにもたれかかるように倒れていた。ぺしゃんこに潰れた日本家屋もあったし、防水シートで応急処置されただけの倒れかけの住宅もあった。学校や公園の空き地にはテントが立ち並んでいた。怒鳴りながら走り回る人たちの横で、疲れ切った人たちが呆然と何をするでもなく座っている。あるいは頭を抱え込み、あるいは何もない中空に視線をさまよわせながら。 僕の身体はその場所に存在しなかった。ただの感覚器官として映像を見、音を聞き、そしてその場の空気を感じているだけだった。それは夢だった。でも間違いなく現実だった。訳がわからなかった。何なんだこれは、と僕は思った。僕の頭が、あるいは身体がどうかしたんだろうか。でも、何がどうおかしくなってしまったのかも分からなかった。でも、僕はそこにいた。何もできずにそこですべてを見ていた。 僕は眠るたびにその夢を見続けた。でも、そんな日は長くは続かなかった。二週間ちょっとしてからは夢ではなく、テレビをつけるたびにその映像を見ることになったからだった。それは阪神・淡路大震災の光景だった。死者数で三千人を超える、地震大国日本でも史上有数の大災害だった。影響を受けた人の数で言えば何百万というオーダーになるだろう、その被災者の中には僕も含まれると僕は思った。僕はその光景を夢で二週間前から見続けていた。このとき僕は十四歳、中学二年生を終わろうとしているところだった。僕の一九九五年はそんな夢で始まった。あるいは、今の僕はそのときから始まった、と言ってもいいかもしれない。 一月十三日の朝ご飯はトーストとスクランブルエッグだった。飲み物は雪印の牛乳に日東のティーバッグを入れて、アルミの雪平鍋で煮出したロイヤルミルクティ。基本的にはうちでよくある朝ご飯だったけれど、そんなどうでもいい記憶が鮮明に残っている。寒い朝だった。厚手の靴下をはいて、パジャマの上からジャンパーを羽織って台所に降りていった僕の耳に届いたのは、時計代わりのラジオから流れる朝のニュースだった。地震の速報を伝えていた。そのとき被害状況をどう報告していたかは覚えがない。まだ僕は気づいていなかった。確かまだ情報は全然入っていなかったし、まさか自分が未来のことを知っていたなんて思わないじゃないか。僕はただの好奇心からパンをくわえながらテレビのある居間に移動した。NHKが放送局内の被害の瞬間を流していた。震度を表す数字が地図の上に並んでいた。それは全部見覚えがある光景だった。やっと僕は気づいた。夢で見た映像、その圧倒的なリアリティが脳裏にフラッシュバックする。僕は、これを知っている。見た覚えがある。そんな被害じゃすまない、とすぐに僕は思った。 朝食はのどを通らなかった。まだニュースで流れていない映像も僕は知っていた。それは控えめに言っても破局と名前をつけるしかない規模の災害だった。僕が十四年の人生で体験する初めての破局だった。テレビ越しの映像はバーチャルなものに過ぎないし、夢で見ていたことだって本当はリアルとは呼べないかもしれない。でも、その体験は圧倒的な説得力で僕を引き裂いた。昨日までの何も知らない僕と、今、何かを知ってしまった僕と。僕は力なくソファに座り、見るともなくテレビを見ながら、何かを考えようとした。でも何も考えられなかった。 その日、僕は体調不良を口実に学校を休んでテレビニュースをずっと追いかけた。共働きの両親はいつも通り仕事に行って、家の中には僕ひとりしかいなかった。ニュースの情報はもどかしく断片的で、遅々としか入ってこなかった。おかげで僕はやっと、自分の身に起きていることについて考える余裕ができた。僕は二週間前からこの光景を知っていた。それは常識的にはありえないことだった。超能力、と僕は思った。嘘くさく手垢のついた言葉だ。そんなもの宗教と同じくらいにしか信じてはいなかった。年寄りは宗教を信じ、子どもは超能力を信じる。その程度の認識だった。でも、僕の夢は超能力という言葉でしか説明できなかった。予知夢、と僕は口に出してみた。泣きたくなるくらい嘘くさい言葉だった。 そもそも、僕にあるのがどの程度の能力なのか分からなかった。予知と言ったって、この大地震にだけ反応した一般化できない能力なのかもしれない。あるいは他の未来についても夢に見ることができるのかもしれない。僕だけおかしくなってしまったのかもしれないし、みんなどうかなっているのかもしれない。何も分からない状態は不安で仕方がなかった。寝て夢を見れば何か分かるかもしれない、と僕は思った。テレビなんか見ていなくても、どうせ地震の情報はもう全部知っているんだし。でも、こんなに興奮していては寝られる訳がなかった。 僕は居間で筋トレを繰り返して体力を消耗させることにした。エネルギーの無駄遣いならマスターベーションも有効な方法だけれど、さすがにそんな気分にはなれなかった。腹筋とスクワットと腕立て伏せをセットにして、それを体力の限り繰り返す。テレビでは延々、地震のニュースを流していた。見ていても代わり映えはしないし流れる映像は知っているし、でも切ることはできなかった。僕が健康であることに僕は罪悪感を感じた。でも、そんなのどうすることもできない。 結局、筋トレではうまく眠ることはできなかった。身体を動かすほどに頭が冴えてしまうのだ。僕は何をやっているんだろう、と考え始めると眠るなんてできやしない。やっと眠ることができたのは、風邪薬をまとめて飲むことを思いついた昼過ぎだった。きちんと夢を見た。それは居心地の悪い夢だった。 いつの、かは分からない。明日かもしれないし三年後かもしれない。学校で僕はクラスのみんなから無視されていた。ホームルーム前の親密なざわめきの中に居場所がなく、チャイムにあわせて入ってきた担任の教師も僕を意図的に無視した。机の中には落書きされたノートが入っていて、表紙には大きく「死ね」と書いてあった。誰かが僕に後ろから消しゴムをぶつけた。でも、誰も僕と目を合わせようとしなかった。僕に見られると居心地の悪そうなひともいたけれど、逆に僕に対して腹を立てるひともいた。一番多かったのは迷惑そうな顔だった。おまえなんかいなきゃよかったのに、みんなの顔はそう言っていた。試しに何人かに声をかけてもみたけれど、みんな聞こえないふりをした。それは明らかなシカトだった。予知についてしゃべった結果だ、と僕は何の根拠もなく理解した。誰も分かってくれない。僕は除外され迫害され、みんなは僕の存在を拒否する。それは至極ありそうな話だったから、僕としては納得するしかなかった。おまえなんかいなくなれ、それが僕に対するみんなの評価だった。 気持ち悪い汗をかいて目を覚ました時、テレビのニュースは死者の名前を読み上げていた。破壊された街と同じように、死にもリアリティはなかった。夢で見たノートの落書きに「死ね」とあったけれど、中学二年生にとっては死なんてせいぜいそのぐらいだった。もちろん、ニュースで読み上げられる名前には説得力はあった。被害者はただの数字じゃなくて、きちんと名前があるんだって。それは被害の生々しさを伝えるには有効な方法かもしれなかった。でも、僕にとっては生々しい被害なんて二週間前から知っていたことだった。今さら言われても、という冷めた気持ちがどこかぬぐえなかった。もし僕の名前がそこにあったら違うだろうな、と僕は思った。最初それを思いついたのは偶然だった。僕も被害者だ、という気持ちからのただの連想だった。でも、一度そう思うと、そこに僕の名前がないことがむしろ不自然な気がした。でも、もちろん僕の名前が呼ばれることはなかった。 僕は勝手に死ぬしかないと思った。いま生きていて、これからも生きていくということに実感がまるでわかなかった。昨日までの僕はもう死んでいた。今の僕はどこにもいなかった。みんなは僕を受け入れない、と夢の確かな手応えで僕は確信していた。僕がいなくなることをみんなは期待している。戻れるものなら戻りたかった。でも、もう戻れない。僕がみんなと違うことは今さら否定しようがなかった。みんなに受け入れられない僕は、いなくなるしかない。だったら死ぬしかない。どうせ地震で何千人と死ぬのなら、僕がここで死んでもたいした違いはないだろう。 でも、服を着替えてカッターナイフを買いにコンビニまで行く途中で、気が変わった。僕が死ぬ必要はない。間違っているのはみんなの方だ。僕が正しいんだ。僕だけが未来を知ることができる。それは神様から僕に託された権利であり、きっと何かの義務だ。たとえ誰も理解してくれなくてもいい。未来は僕の側にある。僕がみんなを変えればいいんだ。みんなが僕を受け入れないからって、僕が僕を受け入れない必要はない。革命、と僕はつぶやいた。僕は他の誰とも違うこの予知能力を使って、この世界を革命しなきゃいけない。この能力はそのためにあるに違いない。 カッターナイフの代わりにおにぎりふたつとカップラーメンと、大学ノートを一冊買って帰った。コンビニでは脳天気な歌謡曲が流れていた。でも恋愛も友情も、もう僕の関心事ではなかった。僕に興味があるのは未来のことだけだった。家に帰ってお湯を沸かしながら、僕はノートの表紙に<未来>と書いた。どんな未来が待っているのか、今はまだ何も分からなかった。でも、夢で未来をかいま見ることができるのなら、僕はそれを全部記録してやろう。きっと僕にしかできない何かがあるはずだった。 もちろん、すぐに眠ることなんてできなかった。僕はテレビが垂れ流す不幸なニュースを片目で追いかけながら、右手でずっと心臓を押さえていた。興奮と孤独ではりさけそうだった。でも、特別な自分、他の誰とも違う自分でいるのは悪くなかった。だって僕は特別なんだ。みんなに嫌われる、さっきまでそれだけで自殺までしようと考えていたくせに、もう僕はそう思っていた。 次の日、教室に入るときはシカトされる夢を思い出して緊張した。でも、誰も僕が昨日までの僕と違うことに気がつかなかった。みんな間違っている、と僕は思った。もう誰も僕のことを理解することはできない。 見る夢を選ぶことはできなかった。それに、眠れば必ず予知夢を見られるものでもなかった。夢を見たことは覚えていても、内容までは定かではないこともよくあった。ノートに「哀しい夢」としか書けない日もあった。「青空」とか「海」とか、そんな夢を見ることもあった。たぶんそんなのは予知とは何も関係ないだろうと思いながら、僕はそんな夢もノートに記入した。そもそも僕の能力が、未来のことを夢で見る能力なのかどうかだって僕には分からなかった。押しつぶされそうな不安の中で、僕は自分の殻にこもることを覚えた。必要なこと以外しゃべらなくなり、めったに笑わなくなった。 それからしばらくは具体的に予知が的中することもなかった。そもそも普段見るような不確かな夢に当たるも外れるもなかった。 新聞もテレビも地震のことを伝え続けていたけれど、それは逆にそれ以上のニュースがないからだったかもしれない。阪神・淡路大震災のような特大の災害がないから予知が働かないのか、それとも僕の能力が限定的なものだからなのか、それも分からないまま日々は過ぎていった。どうして僕だけが特別なのか、どうして突然目覚めたのか。分からないことばかりだった。でも、誰も答えを教えてくれない。僕はとにかく自分だけが特別なんだと言い聞かせて、なんとか日常生活を維持していた。どうせ誰も分かってくれないんだ。他人に何かを期待する方が間違っている。 次にまとまった夢を見るようになったのは三月に入ってからだった。ノートには、たくさんの救急車の回転灯を見たことや、電車の中やホームで人が倒れている映像を見たことが連日詳細に書いてある。僕はまたやってきた具体的なビジョンに興奮した。いつどこで起きることなのかは僕には分からなかった。でも、きっとそう遠くないうちに、この国のどこかで起きる。それはきっと僕の予知能力を証明することになるだろう。 もちろん僕は、それが地下鉄サリン事件と呼ばれる、オウム真理教に関係する一連の事件を指していたということをすぐに知ることになる。でも事件を予知していたといっても、ニュースが伝えるまで僕は犯人のことはまるで分からなかった。電車で何かが起きる、ということは分かっていた。でも、地下鉄の中で毒ガスによるテロが起きるなんて理解の外だった。後から思えば、誰かが傘で何かを刺す映像は夢でも見ていたような気がした。でもそれはワイドショーで見たものを、以前夢で見たと勘違いしているだけかもしれない。そもそも、テロが行われた場所が東京都の地下鉄だというのも、僕はニュースで聞くまで分からなかった。テレビで、被害現場からのレポートを見て、この映像には見覚えがあると思った。それは神戸の地震のときと同じだった。分かるのは全部終わってからだった。こんなんじゃ知っていたって何の役にも立たないじゃないか、と僕は思った。事件の意味を考えるとか被害者を悼むとか、そういう気持ちはほとんどなかった。僕は現実をリアルに感じる能力を失っていた。僕に興味があるのは僕自身のことだけだった。 ちょうど春休みに入るところだった。僕はもっと積極的に予知をしてやろう思った。精神修行だとか何だとか、きっと精度を向上させるためにできることがあるだろう。たとえ今は限られた能力かもしれないけれど、そもそも他のひとにはないものを僕だけが持っていることに代わりはなかった。僕だけにしかできないことがあるに違いない。未来を知っている僕にしかできないことが、何かきっとあるはずだった。それをするためには、もっとしっかり未来について知らなきゃいけない。そうすればきっと何かが分かる。 その日から、夢うつつの生活が始まった。予知夢を見たいと思って眠りにつくと、僕はきちんと何かの夢を見るようになった。僕はそれを進化だと思った。この先にきっともっと素敵な未来がある、この方向で努力を続ければいいはずだ。春休みをいいことに僕は不規則に眠り続け、起きているときも未来のことばかり考えるようになった。 その頃の僕が夢に見たのはグローバルな規模のものばかりだった。一番よく見たのは戦争の夢だった。たとえば砂漠を背景に、燃えている戦車や海に注ぐ重油、飛ぶミサイルの映像が繰り返された。アラブ系の住人がミサイルや空爆で殺されていた。逆に彼らは白人たちの前で自爆テロを試みていた。超えられない壁の前に銃を構えた兵士がいて、武器らしい武器もない群衆と睨み合っていた。石を投げると銃撃が返ってくる、分かっていても何もしないではいられない。そこには未来なんてなかった。 あるいは、どこかのジャングルの奥で、都会の真ん中の教会で、学校で。夢の舞台はもちろん砂漠に限らなかった。戦争の方法だって多種多様だった。銃撃戦は何度も見た。地雷も見たし、ロケット弾も見た。戦闘機が空母から飛び立つような大規模なものから、生身の人間がナイフで殺し合うような小さなものまで。バスジャックやハイジャックもあったし、爆弾テロもあったし、正規軍同士の戦争もあった。世界中に戦争は充ち満ちていた。実感は全然なかった。でもそれが僕に与えられた未来だった。こんな夢を見せられても僕には何もできない。でも、僕はそれを何度も何度も見せられた。 環境破壊の夢も何度も見た。切り倒される熱帯雨林、溶けて崩れて海に落ちる氷山。巨大なハリケーンに襲われて水に沈む街があり、逆に雨が降らなくて干上がった池では魚たちがなすすべもなく死んでいた。見上げると汚染された大気は日の光を遮って空を覆い、流れる川は汚れた水を海へ海へと運んでいく。酸の雨は浴びると肌を灼き、毒の空気は呼吸のたびに胸を冒す。規模が大きくなるほどリアリティは失われていった。 夢に出てくる未来に対して、僕にできることは何もなかった。でも、何か意味があるんだろうと僕は思った。僕にだけできる何かがあるんだろう、でなければ僕にだけ予知能力がある理由がない。脳髄に直接刻み込まれる予知夢は日常生活より遙かにリアルな記憶として残った。そして、すべての夢が不幸な未来を示していた。僕の存在に意味があると思わなければ耐えられなかった。 僕は時間があると図書館に行って、夢で見た情報の裏付けを取ることにした。戦争に関してはきな臭い情報はどこにでもあった。知らなかったけれど、ちょっと調べれば世界中が戦争の準備をしているようなものだった。そもそも全世界の国が軍隊を持って、戦争の準備をしているのだ。民族対立があり、宗教対立があった。引き金に指をかけて睨み合う毎日の中で、殺すことも殺されることも日常だった。他人はすべて敵だった。それが現実であることを僕は夢のリアリティで知っていた。僕が過ごしてきた毎日の方が薄っぺらい嘘のようなものだった。 現在の日本が平和なことは僕も認める。でも、そんなのは地域的に見ても歴史的に見ても、きわめて例外的なことにすぎない。五十年前の日本軍が中国大陸で何をしていたかなんて知りたくもなかった。それに現在の日本にだって北方領土問題があり、在日米軍問題がある。隣国の北朝鮮と韓国は停戦しているだけで戦時中だし、中国と台湾もミサイルを向けてにらみ合っている。僕たちの現実の外にきちんとリアルは存在しているのだ。予知の夢を見るまでもなく。 環境問題はもっと絶望的だった。既に放出されたフロンだけでオゾン層の破壊は続き、今すぐに対策が取られたとしてもこの先何十年も被害は拡大すると言われていた。その対策だって取られるとは思えなかった。先進国では対応できるかもしれない、でも環境問題以前に生存権が脅かされている国はいくらでもある。たとえば、アマゾンを切り開かなければ生活できないひとがいる。遠い未来より明日のことを考えなければ生きていけない人たちはいくらでもいる。違う例を挙げれば、いつか枯渇するに決まっている石油に依存して生きているという意味では先進国だって未来が絶望的なことには何の違いもなかった。エコ発電のプラントひとつつくるのに、どれだけ石油が必要になるんだろう? たとえば発電分野なら、可能性のある代替手段は原子力しかなかった。でも、原子力発電なんて放射性廃棄物の処理を未来に先送りしなければ成立しない技術だった。原子力発電所が大爆発する夢だって見た。マンガのような破滅が訪れる未来を僕は何度も見た。何度も何度も見た。 図書館で勉強をすればするほど精緻な夢を見るようになった。細かいところまではっきりすればするほど絶望的だった。どうしたらいいのか分からなかった。そして春休みの残り日数は少なくなっていった。春休みが終われば僕は普通の中学生に戻らなきゃいけない。でも、学校なんて行けるとは思えなかった。みんなと同じことをしているなんて耐えられない。この一瞬一秒でできることがあるはずなんだ、僕にしかできないことが。でも、そんなものはどこにも見つけられなかった。 頭のどこかでは、僕にだってそんなものがないことは分かっていたと思う。たかだか、ちょっと頭のおかしい中学生に、特別できることがあるわけがなかった。でも、目をそらすことはできなかった。眠るたびに夢はやってきた。戦争も環境破壊も僕の中にあった。怖くて仕方がなかったのに、僕は溺れるように夢を見続けた。そのうち、起きていても白日夢を見るようになった。 最初は、まぶしすぎる日の光を遮るために、カーテンを閉めようと窓辺に立ったときだった。僕は窓から落ちて死ぬ自分を見た。それは予知夢と同じリアリティを持つ空想だった。たかだか二階の窓から落ちたくらいで死ぬはずがないから、きっとそれは予知ではないと思う。でも圧倒的なリアリティがあった。僕はカーテンを閉めてベッドに倒れた。心臓が痛かった。もうカーテンには触れない、と僕は思った。きっとカーテンを見るたびに僕は転落死する夢を見ることになる。でも、もちろんカーテンだけが僕に悪夢を連れてくる訳ではなかった。 ビルの側を通れば何かが落ちてくる夢、道路に出れば車に轢かれる夢。どこにいっても白日夢は僕につきまとった。自転車に乗ればタイヤが外れ、川を渡れば橋が落ちた。大きな木の側に立てば雷が落ち、電車に乗れば脱線事故が起きた。マンホールに乗ると下水が噴き出し、飛び出してきたワニに襲われる。もちろんそれが夢だということは分かっていた。でも、そんなことは分かっていても何の助けにもならなかった。僕にとって夢の方がはるかにリアルだった。なんだって起きる、と僕は思った。リアルな世界ではなんだって起きる。 でも、本当に怖かったのは被害にあうことではなかった。僕の夢は僕を被害者だけで終わらせてはくれなかった。僕は加害者にもなった。それも、とびきりリアリティのある加害者だった。 鞄を持っていれば、僕はその鞄を振り回して誰彼構わずに殴りかかった。割れ物を手に持ったら叩きつけて壊さずにはいられなかった。老人や女性や子ども、僕の方が体力がありそうな人たちには襲いかかった。実際にはケンカひとつろくにしたことがないくせに、白日夢の中の僕は獰猛だった。拳を固めて殴りかかり、首を絞めたり蹴りつけたり踏みつけたり、思いつく限りの乱暴をはたらいた。女性に対しては服を引き裂いたり、胸を揉んだりもした。悲鳴を上げて逃げまどう声を聞きながら、僕は空を見上げて狂ったように笑った。それが夢の中の僕だった。 僕よりも体力がありそうなひとたちに対しては、僕はスマートな暗殺者になった。なにしろ僕は超能力を持った選ばれた存在なのだ。目の奥の照準で対象をロックオンして、イメージの引き金を引く。僕がそうすると彼らの頭は爆発四散した。心臓を破裂させることもできたし、同じ超能力でビルを爆破することだってできた。すれ違う人ごとに僕は妄想が止められなかった。僕が通りがかるだけでみんなの頭が次々と破裂していく、そんな白日夢。妄想は止まらなかった。 特別な自分でなんていたくなかった。予知能力が欲しいなんて思ったことはないのに。僕は普通の僕でいたかった。つい何ヶ月か前までの僕は普通の中学生だったんだ。でも、今の僕が僕だった。同じ超能力で僕は自分の頭が破裂するところも想像した。何度も想像した。いっそそうなればいいのに、と何度も思った。でも、もちろんそんなことは起きなかった。 光を見ると身体が溶ける夢を見るようになったのは、春休み最後の雨の日だった。僕はもう外出ができなくなっていた。妄想にとりつかれたままで日常生活なんて送れない。僕は部屋に引きこもって日々を過ごしていた。夢がやってくるたびに僕はベッドに逃げ込んだ。布団をかぶって震えていることしかできなかった。でも、目を閉じても白日夢は止まらなかった。薄っぺらな現実より、夢の中の方がリアルだった。僕は予知を通してリアルな世界を求めていた。その結果がこれだった。 冷たい雨は夜まで降り続いていた。窓の外でずっと雨音が続いていた。両親が何度か心配して覗きに来た。僕は布団の中で眠ったふりをした。助けて欲しいと思っていた。でも、何も言えなかった。誰も僕のことを理解できない。僕を助けに来てくれたかもしれない両親さえ、夢の中の僕は何度も殺していた。そんなことを考えているなんて気づかれる訳にはいかなかった。気づかれたら本当に僕は全否定されることになると思った。僕を助けることなんて誰にもできない。全否定されるくらいなら理解されない方がよかった。 ずっと起きていたのか、少しは本当に寝ていたのかは分からない。妄想は波のように押し寄せては去っていった。そして僕はいつの間にか自分を取り戻している自分を発見した。これが最後かもしれない、と僕は思った。この静けさは、津波の前の引き潮のようなものなんじゃないか。それが妄想なのか予知なのかは分からないけれど。 部屋の電気をつけていなかったから、布団から顔を出したときには世界は真っ暗だった。ひどく喉が渇いていた。今が何時なのか分からなかったけれど、特に知りたいとも思わなかった。世界の終わりにいるような気分だったけれど、もちろん自分の部屋にいるに過ぎなかった。多分ここが僕の世界の終わりなんだ、と僕は思った。僕は息を潜めて階下の気配を伺った。誰にも会いたくなかった。 もうみんな寝ているから大丈夫、と誰かが言った。もちろん幻聴だった。白昼夢をずっと見ていたから、現実も妄想もたいした違いはなかった。僕はあいまいに頷いた。それは聞き覚えのない女性の声だった。幻聴にしても誰の声なんだろう。 僕は足音を忍ばせて階段を降り、電気をつけないまま台所の扉を開けた。低く重く冷蔵庫がうなりを上げていた。電子レンジが緑色の光で時計を表示していた。午前三時。まず誰も起きてこないだろう。ダイニングテーブルの上には僕の分の夕飯がラップをかけて置いてあった。丸皿がひとつ、小鉢がひとつ、ひっくり返ったご飯茶碗と塗りのお椀、机に直接置かれた箸。夕飯は何だったんだろう、と僕は思った。最後に食べた食事がいつで、何だったのかを思い出そうとした。でもまるで記憶がなかった。痴呆老人か僕は。でも、家族がばらばらに食事をするのはいつものことだった。誰かの分の食事がずっと残っているのは珍しくない。この家では食事なんて誰も全然大事にしていなかった。 僕は食べ物を心の底から美味しいと思ったことがなかった。嫌いな食材はあるし、失敗料理を食べてこれは不味いと思ったこともある。でも、僕には好きな食べ物はなかった。そもそも食べ物を好きになる、という発想がなかった。母親は料理に興味がなかったし、父親は日常生活に興味がなかった。必要なだけ栄養があって、カロリーが適度にとれればそれでいい。それが僕の家族にとっての食事だった。作るのが面倒なときは外食や冷凍食品ということも多かった。料理の上手なお母さんなんて幻想だ。家族で囲む幸せな食卓なんてホームドラマの中にだけにしかありえない。 でも、いま僕が求めていたのは、そんな幻想だった。冷蔵庫と電子レンジ以外は何も動いていない台所で僕はそう思った。僕は母親を求めていた。血のつながった料理に興味のない僕の母親ではなくて、象徴的なお母さん的なもの、たぶん僕を無条件に庇護し慈しみ、愛し育ててくれるものを求めていた。僕はずっとそれを与えられないで来たんだ、と僕は思った。言葉にして求めていることを意識したのは初めてだった。もともとうちにはないものだとずっと僕は思っていた。それは求めて与えられるようなものではない、と思っていた。でも、僕は今、それを求めていた。得られないことは分かっていた。たとえば今、母が起きてくることなんて僕は求めていない。僕が求めているものは妄想の中にしかなかった。そんなことは自分で分かっている。 どこかの台所で、誰かが料理をしている後ろ姿を僕は想像した。大きな窓があって、明るく日が差す台所だ。鉢植えが置いてあったり花が飾られたりしている。肩までの長さに髪を切りそろえた彼女は、エプロンをしてカウンターに向かっているだろう。包丁で何かを刻んだり、おたまで味を確かめたりしている。すらりと細身の体が蝶のようにキッチンの中を舞っている。前髪を左手でかき上げながら、時々ちらりと時計に目をやる。 今日は肉じゃがですよ、と彼女が言った。もうすぐできますからね、待っててくださいね。 背中越しでも彼女が料理を楽しんでいることが分かった。料理を楽しんでいるし、その後で僕と一緒に料理を食べることを楽しみにしている。幸せというタイトルの物語のようだった。陳腐だ。でも、それは幸せに違いない。陳腐かもしれないけれど、僕の知らない幸せだった。 これは予知かもしれない、と僕は思った。というか、予知であることを祈った。でも間違いなく妄想だろう。僕は彼女の料理が食べたかった。それはきっと僕が今までに食べたことのあるどんな料理よりも美味しいに違いない。だからそんなのは妄想に決まっているんだ。 白日夢の中の僕は、包丁を持って彼女の背中に襲いかかった。どうしてそんなことをしたのかは分からない。僕はそんなことをしたくはなかった。でも、妄想は止められなかった。彼女は悲鳴を上げて倒れ伏した。僕はその背中に何度も何度も包丁を突き立てた。切っ先が刺さるたびに血が飛び散り、骨に当たれば固い手応えが返ってきた。その手応えはリアルな記憶として僕の手に残った。耳の奥に悲鳴も焼き付いている。僕は笑っていた。それが僕だった。何をしているのか分からなかった。でも、僕は自分がしていることを冷静に正確に認識していた。僕は彼女を破壊しようとしている。彼女を破壊することで、僕は僕自身を否定しようとしている。僕は幸せになるようにはできていないんだ、と僕は思った。たぶんそれは真実だった。普通のひとと違う僕には普通の幸せはありえない。そんな当たり前のことが、僕は彼女を殺さなければ理解できないらしかった。 僕は冷たい台所の床に座って泣いた。現実の僕はひとりきりだった。僕はひとりで生きていくだろう。数少ない幸せの可能性を自分で破壊しながら、孤独だけを友として生きていく。それが僕の未来だった。夢を見るまでもない。もし、今すぐ死ぬことを選ばないなら、それしか未来はありえなかった。誰かを殺さなければ生きられないなら死ぬ方がいい。包丁のある場所なら知っている、と僕は思った。暗闇の中で天井を見上げた。 予知と同じリアリティを持つ妄想の中で、僕は空を見上げていた。引きちぎられたような雲が空を流れていく。日が沈みかけていて、冷たい風が吹き抜けていった。犬の散歩をしている人やはしゃぐ子どもたちが、みんな僕を避けていく。でも、僕もみんなを避けているからお互い様だった。僕は公園のベンチに座って、ただ、そのときが来るのを待っていた。僕には待っているのが何なのかが分からなかった。やってくるのが幸せではありえないことは分かっていた。来ないかもしれない。でも、僕は待つことをやめられなかった。 おひさしぶりです、と逆光の中で、シルエットの彼女は僕の前に立ち止まって言った。ついさっき台所で貴方に殺されたものですが、覚えていますか? しばらく言葉が出なかった。彼女は小首をかしげながら僕の反応を待っている。絞り出すように、そんなのは嘘だ、と僕は言った。台所で彼女を殺したのが嘘なのか、彼女がここにいることが嘘だと言いたいのか、自分でも分からなかった。本当ですよ、と彼女は小さく笑った。でもまあいいです、そのときが来れば分かりますから。 「今は言葉だけです。まだ、その時じゃないから。いつか会えるといいですよね」 あなたは誰なんですか、と僕は聞いた。私ですか? と彼女はまた小首をかしげた。それはあなたが一番よく知っているはずですよ。でも、もちろん僕は彼女に心当たりなんかなかった。 彼女はまた空を見上げた。春ですね、そんな意味のないことをぽつりと言う。こんな未来がありえないことは僕が一番よく知っている、と僕は思った。これは妄想だ。僕の意識が見せる白日夢、ただの幻に過ぎない。死ぬしかない僕が思いつく、唯一生き残るための虚ろな希望だ。こんな未来が待っていると思ったら生き残れるんじゃないか、僕の無意識がその可能性にすがっているだけだ。僕はそう思った。 「この可能性にすがったら生き残れるんなら、すがって生き残ればいいんじゃないですか。貴方には、貴方にしかできないことがあるんでしょう?」 僕と彼女の見上げる空に、今までに予知してきた未来が浮かんで見えた。戦争や環境問題や、そんな場違いなあれこれだった。未来、と僕は思った。ひどく嘘くさい言葉だった。それで貴方はどこにいるんですか、と静かに彼女は言った。僕は胸を押さえた。確かに、今まで見た予知の中に僕はいなかった。全部、他人事だった。僕がどこかにいる、という考え方をしたことがなかった。僕は戦場で倒れる一兵卒なのか、それともそれをテレビで見ているのか。戦場は僕のいる場所ではなく、環境破壊の最先端もまた今の僕と連続する場所ではなかった。 僕はどこにいるんだろう、と僕は思った。未来の僕どころか、現実の僕がどこにいるのかさえ僕には分からなかった。僕はどこにもいなかった。 「規則正しい生活をしなさい。夜寝て朝起きること、きちんと食事を摂ること、適度な運動をすること。それができれば貴方は生き残ることができます」 「そんなことが簡単にできたら苦労しないよ」 「簡単にする必要はないでしょう。苦労しなさい、まだ若いんだから」 ふと視線を落とすと、僕の右手はバールのようなものを持っていた。意図しているところは明確だった。僕はそんなことをしたくなかった。逃げて、と僕は声を振り絞った。僕は彼女に襲いかかろうとしていた。理由は分からないけれど、僕にはそうするしかない必然性があった。僕には僕をコントロールすることはできない。でも、もちろん、そんなことを僕はしたくなかった。 「あなたになら殺されてもいいですよ」 彼女は静かに言った。僕にはもう選択の余地はなかった。僕はバールを握りしめて彼女に襲いかかった。どこからか桜の花びらが舞っていた。夕日が僕の影を長く地面に引き伸ばしていた。彼女は逃げなかったし、抵抗もしなかった。ただ僕に殺されていた。死にたくない、と僕は思った。僕は死にたくない。こんな風に死にたくない。 気がつくと、もう隣に彼女の姿はなかった。場所も、もう公園ではなかった。床の冷たさから僕は台所に座っていることを思い出す。周りは暗い夜の底で、僕は元通りひとりきりだった。どうせ誰も助けてくれない、と僕は小さく声に出してみた。貴方を助けられるのは貴方だけです、と彼女は答えた。幻聴はまだ続いていた。 隣の部屋の時計の針の音が聞こえる。深い沈黙の中で僕は冷蔵庫を開けた。オレンジの光の中で、トマトケチャップやイチゴジャムの赤がもの言いたげに僕を見ていた。床にぶちまけたら少しは楽になるかもしれない、と僕は思った。でも、そんなことをしても何も解決しないという理性が勝った。そんなことは妄想の中ですればいい、現実よりそちらの方がリアリティがある。僕はケチャップをぶちまけ、イチゴジャムをぶちまけ、卵をすべて叩き割るさまを妄想した。それから牛乳を取り出してコップに注ぎ、蜂蜜を少し注いでかき混ぜ、電子レンジで四十秒間温めて、ゆっくり飲んだ。眠ろうと思った。頭から布団をかぶって丸太のように眠ろう。今なら眠れるかもしれない。どんな夢を見るかは分からないけれど、どんな不幸な未来だって、僕がいない未来なんて知ったことじゃない。 明日から学校に行ける気はしなかった。僕が普通じゃないことに代わりはなかった。たとえ今、さっきの彼女が出てきたって僕に釣り合わない。彼女の存在はただの幻に過ぎないだろう。でも、死んで何かを解決したことにする気にはならなかった。僕は死にたくなかった。理由なんて分からない。でも、死にたくない。 夜中の台所で君に話しかけたかった、というフレーズを僕は思い出した。谷川俊太郎の詩集のタイトルだったか。僕は彼女に話しかけたかった。今はまだ語りかける言葉も思いつかない。でも、きっと今じゃない未来に、いつか、どこかで誰かに会う日が来るのかもしれない。幸せな未来なんかじゃなくていいから、ただ、瞬間のすれ違いだけでいいから、僕は彼女に話しかけたい。そう思った。 真っ暗な台所から僕は静かに立ち上がり、ゆっくりと階段を上って部屋に戻った。また家から出られるようになったら、図書館へ行って詩集を借りてこよう。谷川俊太郎なんて名前しか知らない。世の中は僕の知らないことばかりだ。僕に関係ないどこかの予知なんてたいした問題じゃない。知ったことか。そう、思うことにした。布団に入る前にカーテンを開いてみた。落ちて死ぬような気がした。窓の外は都会の薄明るい闇、まだ僕の白日夢は続いている。きっと僕が僕である限り、このよくわからないビジョンは続いていくんだろう。でも、僕は眠るために目を閉じることができた。あるいは、苦労はするかもしれないけれど、規則正しい生活をすることだってできるかもしれない。夜寝て朝起きること、きちんと食事を摂ること、適度な運動をすること。それができれば僕は生きられると彼女は言った。それを目指してみようと僕は思った。彼女を殺してきたおかげかもしれない、それができる気がした。根拠なんて何もなかったけれど、そう思った。 僕は布団にもぐりこんで目を閉じた。眠りはほどなくやってきた。また僕は何かの夢を見ていた気がする。でも、目が覚めたら何も思い出せなかった。
https://w.atwiki.jp/moujiki/pages/148.html
#blognavi 8 「何をしているのかわかっているのかい?」と、マコト君は立ち上がった。僕は静かに頷いた。 「いや、君は何もわかっていないよ」 マコト君は横に首を振った。 「だって、そうだろ?朝子さんは、君の大好きな人じゃないか?何で別れてしまう必要があるんだい?そういう時は肩を寄せて、ともに時を過ごすべきだよ。」 マコト君は僕を諭したが、「決めたことなんだ」と僕は首を振った。マコト君は、大きくため息をついた。 「僕は、君となら分かり合えると思ったのに。君にそんなことを言われるために、ここに来た訳じゃないんだ」 僕は冷ややかに呟いた。 「友だちが間違っていることをしているんだ。言うのは当然だろう。悲しいのは君だけじゃない。そんな君を見ている僕や、朝子さんだって悲しいんだ。誰もが悲しいんだよ」 そんなことはわかりきっていることだった。僕が彼の部屋を訪れたのは、恋人である姉を失った彼ならば、僕の悲しみを理解できると思ったからだ。すべてが通じると思ったからだ。なのに、彼はありきたりの台詞を口にする。そんな言葉なら、朝子さんだって言っていたさ。僕が聞きたかったのは、そんな言葉じゃないんだ。 「何で僕を見て悲しくなるのさ?みんな哀れな自分に悲しんでいるんだろ?」 「違うとは言わない。孤独や、悲しみや、寂しさに涙することだってあるさ。けれども、自分に大事な人が悲しんでいたら、そういう気持ちになるのは当たり前だろ?増してや、今の君のように自分を見失っていれば、なおさらさ」 僕が欲しかった言葉は、こんな言葉じゃない。顔を上げて前を向くことを促す言葉じゃない。この悲しみに深くすべてを投じられる言葉だった。僕が彼に求めたのは同情だった。いつもならマコト君の言葉は僕の心に心地よく響いたし、言っていることにも耳を傾けることができた。けれども、この時の僕には、それができなかった。彼の言葉はまったく響かなかった。 「君ならわかってくれると思っていたのに。まさか、君までそんな風に言うなんて、がっかりだよ」 「すべてには、きちんと意味があるんだ」 「何の意味があるって言うんだ?どんな理由で姉ちゃんは死ななくちゃならなかったんだい?どんな理由で?」 「それは今はわからないよ。もう少し時が経てば、わかるのかもしれない」 「いつもの君のアレかい?必然的な偶然とか言うのかい?お願いだから、そんなくだらない言葉で片付けないでくれないか?」 僕は思いのまま言葉を口にし、彼は「ごめん」と悲しそうな顔をした。そしてしばらく口を閉ざした。目の前の紙コップに入ったコーヒーは、当に冷めていた。吸いかけのタバコをその中につけると、わずかにジュッと音を立てて、火は消えた。 タバコの消える様を見ていると、すべてはこんな風に一瞬にして消えてしまうものなのだろうと思った。世界には白と黒、光と影、生と死が、背を合わせて存在している。姉が突然死んでしまったように、僕と朝子さんが今別々に暮らしているように、何でもないことで僕らはその存在を改めて思い出させられる。 マコト君の視線に気付いて、僕は顔を上げた。彼はとても悲しそうな顔をしていた。 「君は何もわかっていないんだね」 とても悲しい響きの言葉だった。それ故に僕はその言葉を受け容れることができなかった。今更受け容れて自分の非を認めたところで、何も変わりはしないのだから。 「大丈夫だよ。すべては繋がっているから…」 それが、マコト君の最後の言葉になった。 年が明けて春が来る頃、僕は大学を卒業した。 まだ何も変わらない生活を送っていたが、マコト君にはあの日のことを謝ろうと思った。僕がどうであれ、彼には僕の非礼を詫びるべきだと思った。僕はあまりにも自分にだけ目を向けすぎ、彼のことなんて一切考えていなかった。きっと彼だって悲しかったに違いない。僕にも言い分はあったけれど、それでも謝るべきだと思った。 けれども、卒業式に彼の姿はなかった。アパートを訪ねると、部屋の中は空っぽになっていた。表札も取れていた。家主に行き先を尋ねたが、それもわからなかった。大学に戻り、彼の就職先を訪ねたが、それも不明だった。彼は僕の知らないうちに忽然と姿を消し、どこかへと行ってしまった。 「僕らは友だちだ。僕が君を嫌うことはないよ」 いつだったか、彼が言ってくれた言葉が虚しく響いた。せめて、一言くらい欲しかった。 すべては僕のわがままだ。姉を亡くし、自暴自棄になり、わがままを言って朝子さんを悲しませ、彼にもひどいことをした。その結果、僕は一人ぼっちになった。それは当然の結果と言えた。しかし、いざ孤独になると、いかに自分がバカなことをしたかがわかった。誰もがいることが当たり前だと思っていたのかもしれない。優しい言葉や慰めの言葉も払いのけ、他人を傷つけた。楽しい時間が続くことに何の不安もいだかなかった。人の温もりが感じられることにも慣れすぎて、その喜びも忘れてしまっていたのかもしれない。孤独が嫌で抜け出したはずなのに、そのありがたみも忘れ、僕はまた孤独に逆戻りをしているではないか。姉が僕に教えてくれた言葉の意味を、僕は忘れてしまっていた。 そして、その代償として、僕は手に入れたわずかではあるが大切な幸せを手放す羽目になった。一度は自分で望んだことだったが、いざその場に身を置けば、それが間違いであったことはよくわかった。しばらくは自分のしでかしたことと、それでも耐えられた。けれども今度は失った痛みに、僕は身を刻まれた。すべては後の祭りだった。 一人は淋しかった。寂しさを感じると、必ず朝子さんの泣いていた姿が思い浮かんだ。その姿を思い出すと、胸が押しつぶされそうになった。何と悲しい光景なのだろうか。僕はどうしてこんな風にむやみに彼女を傷つけたりしたのだろう。そして、すべてを自分から手放したりしたのだろうか。自分から不幸になろうとするなんて、マコト君の言うとおり、本当に馬鹿げている。どれだけ悔やんでも、何も取り戻せやしないと思った。 こうして時の流れるとともに、僕は自分の愚かさを知り、その度に唇をかみ締めて声にならない声でひっそりと泣いた。そうすることで混乱は少しずつ収拾することができた。そして身の回りを整理していると、姉もマコトくんもいないこの場所に僕が居続ける理由はないことに気付いた。 それから僕は家を出て、一人暮らしを始めた。 部屋には何もなかった。テレビもパソコンもなかった。家具も生活に必要なものに極力抑えた。本当に大切なものは、すべて僕の中にある。そして、僕はいつでも好きな時に思い出すことができる。それで十分だった。 それらの記憶が僕の生きる糧だった。人は明日に期待をしなくても生きていけると思った。思い出だけを抱えて生きていこうと思った。それが僕の残された幸せだと思った。 一人で暮らし始めて何ヶ月か経った頃、町を歩いていると円谷さんに出会った。相変わらず、営業で歩き回る毎日だとか。僕らは喫茶店に入ってしばらく話をした。 「しばらく会ってなかったな。就職したんだろ?」 「ええ、まあ」 「何だか歯切れの悪い返事だな」 僕はこれまでの経緯を話した。すると、「自業自得ってやつだな」と円谷さんは腕組みをした。 「で、恋人とは会ってないのか?」 「会ってません。どんな顔して会えばいいのかわからなくて…」 「バカだね~。どんな顔もないだろう。そんなところで見栄張ってどうするんだよ?お前はその時、今は一緒にいられないと離れたんだろ?」 「ええ、まあ」 「なら、一度会ってみたらどうなんだ?」 「会ってどうするんですか?」 「お前ねぇ、それくらい自分で考えろよ。謝るに決まってるだろ?謝って縁りを戻すんだよ。そうしたいんだろ?」 「できれば…」 「なら、そうするしかないだろ?」 「でも、それじゃ都合が好すぎやしませんか?そもそも事の発端は僕なんですよ。僕のわがままから招いたことなのに、また僕のわがままで彼女を困らせて、悲しませて…」 「じゃあ聞くけど、お前は誰も一生悲しませないで生きていけるか?わがままで他人を振り回したりしないのか?起こったことは仕方ないさ」 けれど、本当にそれでいいのかはわからなかった。自分のわがままで再び彼女を求めていいものか。あの時、僕が自分を見失わなければ、こんなことにはならなかった。朝子さんもあんなに涙することなんてなかった。彼女の泣いている姿は、いつ思い出しても悲しかった。 それからしばらく僕は決断に迷っていた。何度も考えたけれど、なかなか答えが出せなかった。確かにあの時「しばらく一人にして欲しい」と僕は言った。けれども、あれから一年が経っている。何かを待つとき、とても時が長く感じられる。それが痛みを伴えば、その時間はとても長くつらいものになってしまう。この一年を彼女はどんな風に過ごしたのだろうか。彼女が少しでも幸せに近づいてくれることを祈らずにはいられなかった。 数日後、ようやく決断をした。一度会ってみることにした。それから自分の行く道を考えるのも悪くはないと思った。いつまで考えても、きっと同じことなのだから。 朝子さんの自宅に電話すると彼女の母親が出て声を濁らせたが、彼女を呼んでくれた。たどたどしい会話だったけれど、もともと彼女の口調はそれに近いものだったと思い出した。なかなか言葉の出ない時間が続いた。僕は手短に「一度会って欲しい」と頼むと、「いいわよ」と言ってくれた。 季節は春・夏・秋・冬と移り、あのときから一回りしていた。 久しぶりに町へと戻ってくると、何も変わってはいなかった。何だか懐かしかった。彼女にどんな顔をして会えば良いかわからず、少し困っていると朝子さんが遠くからやってきた。彼女は少し髪を切り、毛色もわずかに茶色くなっていた。 「お久しぶり、元気?」と僕が尋ねると、「それ、電話の時も聞いてた」と朝子さんは言った。何だか上手く話せなくて困った。 「髪を切ったんだね。よく似合っているよ」 「ありがとう」 「アルバイトはまだ続けてるの?」 「ううん、今は違うところにいるの。あそこにいるのはつらかったから」 「ごめん」 「仕方ないわよ。お姉さんが亡くなったんだもの。確かにつらかったし、あなたをひどい人だとも思った。けれども、人の死にそれだけ悲しめるということは、優しい人なんだなとも最近思えるようになった」 朝子さんは僕が思っているよりも、強く前向きに生きていた。当時の彼女を思い出すと、このまま自殺でもしてしまわないかと思ったくらいだった。だから、電話を掛けたとき、彼女が生きていることでほっとした。 僕は、まず彼女に一年前のことを詫びた。姉の死があったとはいえ、彼女を傷つけたことには変わりなかったし、自分が強くあればこんなことにはならなかったと。今こうして会えたことが、素直に嬉しいと。 彼女は少し唇をかんで、上目遣いで僕を見た。 「そんなこと言わないでよ」 朝子さんの瞳が潤んで、僕の姿が滲んでいた。それで彼女がどんな思いでこの一年を過ごしたのか、すぐにわかった。きっと、今こうして僕と会うことも、本当はとてもつらいことなのだろう。僕はまた彼女を傷つけているのではないか、そう思うと何も言葉を口にできなくなってしまった。 「ごめん、気にしないで」 朝子さんは指を目尻に当て、鼻をすすった。僕はコーヒーカップを持ったまま微かに揺れる彼女の指を眺めていた。 「元気にしてた?」 「僕は何とかまた普通に暮らせるようになったよ。今は少しここから離れたところで一人暮らしをしてる」 「そうなんだ」 「朝子さんは、今のアルバイト先には慣れた?」 「まだ移って半年くらいだけど、みんな良くしてくれる」 僕は彼女から良い返事が返ってくることで胸を撫で下ろした。時々、彼女の言葉がただの強がりで、本当はすべて嘘なんじゃないかという思いが脳裏をよぎった。それでも彼女が時々見せる笑みを注意してみたけれどわからなかった。つらそうでもあったし、割り切れているようにも見えた。 「少しは肩の力抜けた?」 観察されてたのは僕の方かもしれない。朝子さんは一つ笑みを作って、下の唇を上の唇で噛んだ。しばらく下を向いて何か考えているようだった。僕は彼女が顔を上げるのをじっと待った。そう言えば、上手くいっていた頃、バイトでもプライベートでもこうして僕は彼女が考えている時は言葉が出るまでゆっくりと待っていたことを思い出した。そういうところは今も変わらないようだ。 朝子さんは顔を上げて一つ咳払いをした。 「本当は、今日あなたに会うことは迷ってた。もうあの時のことを思い出したくなかったし、これでも少し怒っているのよ」 「ごめん」 「仕方ない。だってあなたの心は傷ついていたんだから。あのとき私を遠ざけたのは、少しは私のことも考えてのことだったんでしょ?」 「そうだね」 僕には、何も言い返す言葉がなかった。朝子さんは一つ話すとまた考え、ゆっくりと話した。 「私が今こうしてあなたに会っているのは、あなたの友だちのおかげよ。蔦井さんっていう人いるでしょ?」 「マコトくんのこと?」 「そう。彼がね、私のところに来たの」 「いつ?」 「そうね、三月だったと思う」 僕は驚きを隠せなかった。どうしてマコトくんが朝子さんに会いに行くのか。そして、卒業式の時にはもうアパートを引き払っていなくなっていた彼が、その時期にこの町にいることも。つまり、彼はこの辺りにまだいるのかもしれない。 「彼は何て言ってた?」僕は身を乗り出して朝子さんに聞いた。彼女は少し体を後ろにそらしながら、「落ち着いてよ」と促した。それからその時のことを話してくれた。 三月も終わる頃、彼はスーツ姿でお店にやってくると、朝子さんが一人になるのを見計らって声をかけた。突然面識のない男性に自分の名前を言われて、朝子さんは警戒をした。マコト君は自分が僕の友人であり、僕の姉の恋人であったことを告げた。そして朝子さんに伝えたいことがあってここにやって来たのだと。朝子さんはあいにくバイト中だったので、「休憩時間まで待って欲しい」と伝えた。 休憩時間に、店の近くにある公園に行った。 「今から僕が話すことに関して、快く思わないかも知れないけれど、できれば受け容れて欲しいんです」 そう言うと彼はスーツを正して、朝子さんの目を真っ直ぐに見た。 「ナガミネ君がいつかあなたに会いたいと言ってきたら、会ってあげてください。そして彼を許してあげて欲しいんです」 朝子さんは少々戸惑った。僕の友人が突然現れて、僕のことを許してやって欲しいと言う。朝子さん自身はようやく普通の生活が送れるようになってきたばかり。別れも同然の僕の言葉に自分の意思を挟む余地もなく、突きつけられた現実から目を背け、やがて受け容れた。眠れない夜もあった。暗くなるのが怖くて、朝まで部屋の明かりをつけて眠った時期もあった。僕の姉がなくなってから三ヶ月が経とうとしている。 「なぜ、あなたがそんなことを私に言いに?」 「僕らは結子さんの死で大きな傷を負いました。彼は見ての通り、未だ道を見失っている状態ですし、あなたも彼と離れることを余儀なくされ、ひどく悲しんだことでしょう。僕もまた大切な人を失うことになった。僕らはそれぞれ痛みの理由は違えど、ひどく心を痛めた。僕らには、もう少し時間が必要なのかもしれません。彼から連絡があるのは、これから半年よりもっと先になるのではないでしょうか。もちろん、そのときにあなたの気持ちが彼に向いているかわかりませんが、せめて許してあげて欲しい。僕も彼を許すから」 「許すも何も、お姉さんが亡くなってのことだし…」 「出すぎたことだと思っています。けれども、今僕にできるのはこんなことしかない。彼が立ち直ったとき、前を向いて進めるように道を照らしておきたいのです」 朝子さんは、勝手な言い分だと思った。この混乱の元である僕を、僕のために許すなんて。けれども、マコト君の一途さを前に自分の気持ちをぐっと押し殺した。 「約束はできないけれど、そうなるように祈っていてください」と朝子さんはマコト君に告げた。 話を聞いて、彼が朝子さんの元を訪れてどうして僕を許すように伝えたのか、その理由がわからなかった。朝子さんも「私も最初はわからなかった」と言った。 「けどね、きっとその理由は、彼の言葉そのものだと思う。彼はあなたのことを本当に大切な友だちだと思っていたのよ。だから、あなたがいつか立ち直れるようにと思ったんでしょうね。後になってみれば、それがよくわかる。いいお友だち、持ったね」 僕は改めて彼に出会えたことを感謝した。僕がどんなときでも彼は友人として誠実であり、僕を見捨てたりはしなかった。彼自身も傷ついているはずなのに、彼は僕らにその素振りをまったくと言っていいほど見せなかった。それどころか、朝子さんに僕のことを託してまで行った。 結局、僕らは縁りを戻すには至らなかったけれど、彼女は僕を許してくれた。 「もう少し早く会えたなら、私の心も動いたかもしれない。けれども、あまりにも時が経ちすぎてしまって、あの頃のようにあなたをあれほど近くに感じられない」 やはり直にその言葉を聞くと、胸がずしんと重くなった。けれども、それが当然の成り行きなのだろう。僕もあの時一応は自分で彼女の言葉を払ったのだから、覚悟はしていた。これで気持ちにも整理がついた。 「誤解しないで。あなたのことは今でも好きよ。あなたに会えてよかったと思ってる。私も彼と同じようにあなたのことが心配なのよ」 「ありがとう。それだけでも十分だよ。きちんと話ができて、気持ちにも整理がついたし」 「またいつか会いましょ」 「いいの?」 「あなたと話すのは嫌いじゃないから」 それから僕らは別れた。別れ際に、朝子さんはマコト君から僕宛に預かっていた伝言を伝えた。 終わりのための始まり、始まりのための終わり、と。 あれから更に二年が経った今も尚、僕は一人ぼっちのままだった。時々朝子さんや円谷さんと食事をしたが、ほとんどは一人で日々を送った。一度狂った歯車は、そうは簡単に修復されないようだった。 気がつくと、もう夕日が傾いていた。どれだけの時間が経ったのだろう。段ボール箱を出して、ノートを引っ張り出していたことは思い出せる。いつ眠ってしまったかは思い出せない。せっかくの休日も、もうすぐ終わってしまう。と言って惜しむほどのものでもなかったけれど。 夢の中で、昔姉が言っていた言葉を思い出した。 「終わりのための始まり。始まりのための終わり」 まるで呪文のような言葉だと思った。これは僕が高校生だった頃、姉が僕に語った言葉だった。 「いつだって、やり直せるのよ」 「そんなに簡単にやり直せやしないよ」 「そんなことはないってば。何のために毎日朝に陽が昇り、夕方に沈むと思う?」 「そんなのは、地球の自転をこじつけただけじゃないか…」 「物事、理屈じゃないのよ。すべてに意味があるのだから…」 「すべてに?」 「そう、すべてに」 「僕の毎日の暮らしにも?」 「ええ、もちろん」 「嘘だよ。一体何の意味があると言うんだ」 「今はまだわからなくても、そのうちわかるようになるわ」 「わからなかったら?」 「やり直せばいいのよ」 「時間なんて取り戻すことはできないじゃないか」 「確かに失ってしまったものの多くは取り戻せないけれど、また新しく始めたらいいの。そのための始まりと終わりよ」 「そんな当てのない未来に、きっとなんて期待できないよ」 「それは違う。わかりきった未来に何があると言うの?驚きも発見もない、それは味気ない生活よ。当てがなくていいのよ。そうすれば、すべては無限に広がっているんだから」 あの時は、ただの理屈だと思っていた。つまらない毎日に、僕自身に、存在に、世界に意味があるだなんて信じることはできなかった。僕は疑うことを止めなかったけれど、姉はその言葉を信じていた。 「いつかわかる日がくるわ」と姉はそう言った。 いつか…、あれから八年たった今、僕は初めてその言葉の意味に気付くことができた。もう、いい加減にこんな暮らしは止めにしなければならない。僕はここに至るまで、言葉の意味に気付くまで、たくさんの犠牲を払ってきた。まずは僕のこれまでの時間。それに加え、姉に、朝子さん、マコトくん。よき理解者、恋人、友だち。後に残っているものと言ったら、 僕の時の流れや、思考、言葉、記憶くらいなものだろう。 思わず、笑いがこぼれた。僕は失うものはないと思っていた。けれども、僕には失うものがまだ残っている。大切な記憶があり、つながりや共有のための言葉、広がりを持たせるための思考、無限に広がる可能性とも言える時の流れ。姉の言うように、すべてのものに意味があるのならば、僕はそれらの意味をまだ見つけてはいない。悲しみも寂しさも憂いも儚さも、そんなものさえ連れて、意味を探しに行こう。僕はそう思った。 そして、残っているすべてのものと一緒に、僕はもう一度始まりを迎えようとしていた。 カテゴリ [ヒナタ] - trackback- 2006年03月04日 20 54 15 #blognavi
https://w.atwiki.jp/moujiki/pages/259.html
#blognavi ヒナタ版「もうじき僕は歌わない」について、僕なりの(たぶん他の誰もしない)アプローチで再度解釈を試みよう、という企画です。ここの書き込みがなくなるのも淋しいので誰かが何かを書くまでのつなぎ、程度ですが。・・・って、既に僕しかここを使っていない、という話もある。 もし、ヒナタ師に余裕があったら、返事をいただけると幸いです。 第一回、キャラクター名に秘められた謎について。 <マコトくん> いちばんインパクトがあった名前は彼、「蔦井真言(つたいまこと)」くん、でした。もちろん「真言」って基礎的な宗教用語で(密教系?)、個人的にヒナの知り合いの仏教関係者で思い出した方がいるのはここだけの秘密です。 たぶん、意図したのは「真実の言葉を伝えるひと」(つたい=つたえる)でしょう。性格も、だいたいその通りのように見えます。ということは、マコトくんの言うことは真実である、というのが物語の基本構造なんでしょうか? <僕> フルネームはあまり出てこないけど、「ナガミネ・サトシ」くん。漢字変換は分からないけど、単純に考えたら「ながめる」+「さとる」(あるいは「かしこい=さとい」?)というメッセージを託された名前でしょうか。物語の主人公=傍観者の視点であることが、それを裏付けます。何かをこの後で悟るのか、悟ったようなことを言っている現在までを指しているのか、「さとし」が意図するところは僕は読み切れていません。でも、今後も物語を続けていくなら、たぶんサトシくんが何かを悟っていく話にはなるんだろうなあ。 <姉> 「ナガミネ・結子」。「ながめる」+「結う=結びつける」でしょうか。傍観者の視点を持つサトシくんをさらに俯瞰する視点を持ち、マコトくんをサトシくんとくっつけるあたりが名前そのものです。本当は、サトシくんを世界とくっつける仕事をする予定だったらしいんだけど、その働きを今後どうするのか。 <円谷さん> とても性格が円満だとは思えないけど、頼りになる先輩だったり社会人だったり、サトシくんの先を行く存在であり、サトシくんに欠けている部分を持っている存在「円=欠けるところのない存在」でしょうか。姉亡き後の、サトシくんの導き役? <飛田くん> 性格が軽く地に足の着かないさまを「飛」に託した感じかなあ。 <朝子さん> 本名が「市野 朝子」。この名前の解釈に困ったので、この記事を立ち上げたようなものです。この名前は、どう解釈すればいいんでしょう? @仮説1 朝子の「朝」は、サトシくんの夜明けを象徴する。朝子さんと出会うことで、サトシくんは異性と交流できるようになったから。 @仮説2 「朝=あさ=浅」で、結局のところ深い関係なんて結べていなかったじゃないか、というアピール。 @仮説3 結子さん(姉)の「ゆう=夕」に対比して「朝」。サトシくんが姉から卒業して、姉と違うひとと仲良くできるようになったことを表現。 @仮説a 円谷さんの「円」に対比して、「市=いち=一」。尖っている。他人を傷つける。 @仮説b 「市=他人が集まるところ」と考えて、サトシくんが他人の中に出てきた、ということをアピール。 基本構造は、傍観者サトシくんを中心に置いた時に、円谷さん・姉・マコトくんは上位存在、飛田くん・両親等他の人たちは下位存在で、対等な関係の他人がいないように見えました。朝子さんとは対等な関係だ、という話なのか、やっぱり朝子さんのことも見下しているのか(年上の女性であるはずなのに、見上げる感じがしないのはどうしてでしょう?)。 名前の字面だけを見ても、朝子さんの置き場に困っていて、他のひとたちは機能に合わせた名前を持っているのかなあ、と思いました。昼休みが終わるのでこのへんで。 カテゴリ [io] - trackback- 2006年09月12日 13 00 00 #blognavi
https://w.atwiki.jp/oraoratorio/pages/83.html
暇だからバッテリー交換 NC39のバッテリーを上がらせてから数日のこと。 信用できない中古車屋、信用できないディーラーから私の元に届いた バッテリーは『大丈夫なのか?』という不安に駆られる。 とりあえずバッテリーのチェックをしてみることにする。 端子部分の腐食、窓から覗いたときの液残量、液漏れは無いようだ。 本当は電圧を測定できれば一番だけどそこまでする気は起きない。 何故なら車のバッテリーは『安い』からである。 そして買うなら安く置いてあるホームセンターをお勧めする。 車はそこまで変わらないが、バイクとなると酷いものがあるからだ。 間違っても用品店でバイクのバッテリーは買わないこと。 カー用品コーナーに着いて気が付くことがあった。 自分の車の適合サイズを調べていなかったのだ。 現場にある早見表を見れば解決するのだけどね・・・ さて早見表には下記のように記してあります。 40B19R メンテにまったく興味が無い人には意味プイプイですね。 まず先頭の数字40は蓄電量を表します。 単純に大きければ大きいほど大容量ということになります。 ウーハー、ナビ等を装備するなら数値UPするといいかもしれません。 Bは幅(短い側面)と高さになります。 19は横幅です。190mmということです。 Rはプラスの端子を手前に向けて見た際に、 右側に端子が来るのをR,左側をLとなっています。 40以外が適合すれば使用可能ということになります。 私はLRを間違えて買いそうでした・・・。 1980円 1年と2万キロ保障 下記のモデルもありました。 2980円 2年と3万キロ保障 3980円 3年と4万キロ保障 乗り方にもよりますが、3年間もバッテリーを使いたくないですね。 マージンを考えても1,5年で1980円のものを交換すればいい。 そんな考えで一番安いものをチョイス。 ターミナル周辺は見ないでください(恥 取り付けとしては 1、マイナス端子をはずす。 2、プラス端子をはずす。 3、固定ステーのナットとボルトを外す。 4、+、-共に汚れていたら掃除する 私は導電性をあげるシリコンスプレーを塗るだけです。 5、バッテリーを入れ替える。 6、プラス端子をつなぐ。 7、マイナス端子をつなぐ。 8、ステーで固定する。 9、エンジンを掛けて5分程度暖気。 くれぐれも各端子の接触なきこと・・・。 装着後=始動性UP こころなしかカーステの高音が澄んだ。 今日のお勧めの一曲 山下達郎 「湾岸スキーヤー」 93 s 今や跡形もなくなってしまった室内スキー場『ザウス』 家から15分もすれば到着する位置にそれはそこに在った。 スキーもスノボもやらない自分だけど、 この曲を聴くと懐かしさと90年の華やかさを思い出す。 冬のカーステにお勧めの一曲です。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/vipmhp/pages/331.html
大タル爆弾だッ!!! -- 名無しさん (2007-06-22 20 18 36) WRYYYYYYYYY!!!! -- 名無しさん (2007-06-22 21 27 01) 俺が小タル爆弾を置いた・・・2個目を並べた時点でな・・・ -- 名無しさん (2007-06-22 21 33 32) これはいいDIO様 -- 名無しさん (2007-06-23 19 19 28) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4908.html
7月18日 羽田から千歳まで飛行機で戻る。 私は師であった教授の遺品の中に有ったとある書物を頂いた。 彼は生前、文化人類学の研究者として名を馳せていたのだがとある南方の島に行って以来様子がおかしくなり、そのまま山奥に隠棲して生涯を終えている。 愛弟子である私にすら何が有ったかを明かさなかった。 彼の遺した本とフィールドワークのメモを解き明かすことでもしかしたら彼が何を発見したのかがわかるかも知れない。 この日記を書いている時点で飛行機の機材の到着が遅れたというアナウンスが入った。 やれやれ、異常気象に合わせてこれでは北海道に帰るのが遅れそうだ。 7月19日 見てはいけないものを見てしまった。 私は一刻も早くここから離れなくてはいけない。 教授の研究を狙う者がこんなに居るだなんて私は思わなかったのだ。 どうやら家には帰れそうにない。 私を狙う者は既に家にも手を回しているだろう。 留守電には出てくれなかったが私の愛する妻と二人の娘が無事であることを願うばかりだ。 7月20日 私は今ホテルの一室でこの日記を書いている。 ここならばしばらくは追手もかからないだろう。 教授のメモの内容の要約については後の方に纏めて書いた。 信じられないことだが、教授の本に載っていた魔術は本物だ。 解読する中で私もまた使い方を理解してしまった。 それにしても雪が酷い。 ホテルは停電してしまったそうだ。 今は自家発電装置で賄っているが……いつ駄目になることやら。 先程から窓の外で何かが歩いているような気がする。 巨人? いいやまさか……。 やけに外が明るいおかげで日記を書けて幸運だったと思っておこう。 念の為に後で確認してみよう。 追記→巨人は居た。どうやら私は本当にわけの分からない世界に居るらしい 7月21日 私の携帯に妻の弟から連絡が入った。 どうやら私の妻と子が奴らの手にかかったらしい。 そうなるとこの状況で生きている彼ももはや信用ならない。 私は携帯を捨てた。 教授は、何を研究していたのだ。 彼が自らの書物にまとめていたのは見るも悍ましい黒魔術の数々だった。 呪殺、召喚、異形との混血、普段の私であればそれはくだらないオカルトだと一笑に付しただろう。 だが今私が置かれているこの異常な状況からすればそれらはまだ正気にも思える。 毒が恐ろしくて食事は缶詰ばかりになってしまった。 私はおそらくもうすぐ死ぬ。 だが真実を、この真実だけは確かめなくてはいけない。 それが私にできる最後の…… 7月22日 新聞を見ると妻の弟の家が出ていた。 強盗が入ってきて彼らを皆殺しにしたらしい。 するとあの時既に彼は死んでいた……? やはりあの電話の指示に従わなくてよかった。 もしかしたら私の妻と娘も生きているかもしれない。 今はそれだけが希望だ。 教授の遺したこのメモが正しいのならば私があの場所に行きさえすれば…… 7月23日 ついに私は私の故郷についた。 故郷の人々は私を変わらず受け入れてくれる。 あの玩具屋の主人も年齢を感じさせない若々しさで私に挨拶までしてくれた。 この不況でもなくならない玩具屋とは大したものだ。 ……少しメランコリアにとらわれてしまった。 今の私にはやらなくてはいけないことがあるのだった。 私が、私が世界を救わなくてはいけないのだ。 もしこの日記を見ている人が居るならばそれは恐らく私が失敗したということである。 願わくば私の、教授の遺志を継いで頂きたい。 君の力になる全てはこの日記の裏に記してある。 敵の名前は“ようぐそとほうふ”だ。 私は明日、この本に記された聖地、月山(ツクヤマ)へと行く。 君の健闘を祈る。 ※ ※ ※ 「――――良い夢は見れたかな?」 私の故郷には月山という霊峰が有る。 私の身の回りで続く異常事態を止め、異形の招来を邪魔するにはそれしか無いのだ。 山道をひた走る私の前に真紅の外套を纏った青年が立っていた。 「そこをどけ、今の私にはやらねばならぬことが有る」 「どかないと言ったら? 財団の奴らを殺したみたいに俺も殺すのか? その本から勉強した魔術ってやつで? 面白いねえ見てみたいねえ!」 青年は青い石のペンダントを指でいじりながら挑発的な笑みを浮かべる。 「退かないならば……」 私の頭にビリビリと電撃が走る。 激痛、嘔吐感、めまい、その他あらゆる不快感が腹の底からこみ上げる。 教授の遺したメモに有った呪文を唱えると私の前に壁が現れて、そのまま壁が青年へと向かう。 「温いな」 青年は腰から紫と金で彫刻された艶やかな短刀を取り出し、壁に向けて斬りかかる。 ガラスの割れるような音と共に私の呼び出した壁は砕け散る。 馬鹿な、ありえない。これは、これはあの青い炎の巨人すら退けた…… 青年は流れるような動作で銃を抜き取り、私に向けて五発ほど撃ちこむ。 だがそれは無駄だ。私とて防護策は怠って無い。 肉体を保護する呪文もまた教授のメモにある。 私が世界を救う、救わねばならぬのだ。 どんな強敵が現れようともここで倒れる訳にはいかない。 私こそが今、英雄なのだから。 弾丸は私の身体に当たるが弾かれて何処かへ消える。 「良いことを教えてやるよ あんたの手に入れた魔術書の名前は“緑の本” 効果は妄想の実現及び外なる神との一時的な契約 あんたが一生懸命学んだつもりの魔術は神の気まぐれで あんたの繰り返してきた戦いとやらはあんた自身の内に秘めていた妄想さ」 「ふん、馬鹿なことを言うな!」 用意していた火炎瓶を投げつける。 破壊した所で仕込んだ薬液が青年を焼く二段構えだ。 これならば刀で切られた所で…… 「馬鹿はあんただ」 青年は手をギュッと握る。 すると瓶がその場で何かに押しつぶされたように圧縮されて小さくなり、消えてしまう。 「その本は見る者によって内容を様々に変える だがそれは絶対に作者の願望を映し出し、それを作者に実現させる あんたは家族を奪われた悲劇の戦士にでもなりたかったのかい? まったく幾つだよ あんたはこんなもの手に入れた時点でまず真っ先に家族の元へと帰るべきだったんだ 本当に本当に馬鹿にしてるぜ」 青年は懐から再び拳銃を取り出して、今度は私の持っていた本を狙う。 私は反応できない。だが何故本を? 本の内容なら既に私の頭の中に入って…… 本は突如輝きだして銃弾を弾いた。 当たり前だ。今度の追手はこんなことも知らないのか。 「その本が映し出す内容は千差万別 しかし共通点はもう一つ有る これはあんたの願いとは無関係だ それはね、その願望の終着点として……ヨグ=ソトースを呼び出すのさ」 「ヨグ……? 貴様何故その名前を!」 青年の銃口が私の額を狙う。 『お前が封じようとしていたモノをお前自身が呼び出す そしてそれを嘲笑する そのためだけに作られた悪趣味な魔導書なのさそれは』 青年の言葉が何故だか私の耳に張り付く。 嘘とも思えない、わけの分からない説得力がその言葉には有った。 「私は……私は信じないぞおおおおおおおおおおおおお!」 私は全ての力を込めて再び呪文を唱えた。 視界が白く霞み、私の意識は途絶えた。 ※ ※ ※ 「う……あ……」 「残念だったな、俺のほうが十秒ほど起き上がるのが早かった」 青年は私を見下ろしている。 どうやら相打ちになったものの彼のほうが先に目を覚ましたらしい。 「安心しろ、魔術書の担い手たるお前が死ねば、お前の妄想が起こした全てのことは無かったことになる」 信じられない。 私が、私の魔術書が……。 「お前は不運なことに通り魔に会って死んだ可哀想な只の人間として死ねる」 私の信じた物が……教授の遺志が……。 「教授は気づいていたんだよ 一度読んだらもうアウトだって だから山奥に籠もってたんだよ あんたもどうしても平和に生きたければそうするしかなかった 俺が来た時もあの人喜んでたぜ、やっと死ねるってさ」 「お、お前が教授を……」 「ああ、悪いか? あんたも同じように只の人間として死ねる あんたの妻子も無事、親戚連中も無事 何もかもが平和 そして唯一欠けてしまったあんたを皆が悼む まあマシだぜえ死に方としてはさ」 青年は私から奪い取った本をライターで燃やす。 本を奪い返そうと伸ばした手は青年の足に踏み潰された。 本の最後の一片が燃え尽きて風に消えた時、私は私の心のなかから執着のようなものが消えていくのを感じた。 何故私は世界を救わなくてはいけないと思ってたのだ。 その為にとてつもなく大きな物を犠牲にしてしまった。 結局私はあの本にどうしようもなく魅せられていたのだろう。 もう取り返しはつかない、ならばせめて……。 「……私が死ねば、妻子は助かるのか?」 「ああ」 「……せめて、楽に頼む」 青年は深くため息をついて俯く。 「くふっ……」 突然青年が笑い出す。 何を考えている……? 「ははっ!」 「な、なんだ!?」 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは! うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあああああっはははっっはっはっはっはっは! ふへえはあああははははははっはあ! あんたも馬鹿だなあ本当に馬鹿だ!救いようがなく愚かで本当に楽しい奴だなあ! 呪いが解けた? 妻子は助かるのか? あんたの見る夢はあんたが目覚めるしか無いし、一度消えた命は二度と帰らねえよ! そうじゃなきゃこの世に生きる意味すらねえや! お前一人のせいで皆死んだ! バカみてえに死んだ! 本当に笑えたよ! いいコメディだった最高だった感動した! 本当になんでこんな簡単に俺の言うこと信じちゃうんだよ馬鹿だなあ馬鹿だねえこれだから人間ってのはやめられねえなああああああああひひひひひひっひっひっひぃ……ひうぃ……」 青年は悪魔的な笑顔を浮かべて私を嘲り笑う。 「お、お前は……」 嘘だ。 嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。 「そうさ、これが現実だ!」 私の首に短刀が振り下ろされた。 この鮮やかに乱れ飛ぶ鮮血は……ああ、これは、これは本当だ。
https://w.atwiki.jp/hayate-tcg/pages/679.html
秋2-32(R) Cカード カードタイトル:三千院ナギ パワー:7000 ジョブ:温泉 iluus:やすゆき DS 4 PS 3 このカード以外の「温泉」があなたの場に出た時、あなたの場にあるAキャラカードを1枚選んで、ターンの終了時までパワー+2000、DS+1、PS+1。ただしこの能力は1ターンに1回しか誘発しない。 寒い中の温泉、悪くないな 温泉とAキャラを結びつけるカード。 1ターンに1回しか誘発しないという点があるので、 秘密の悩みを並べたほうが効率的かも。 ストライクは悪くないので、使い捨てとして使用するのもいいかもしれない。