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私は少女なのです。 唯の少女なのです。 そこら辺に居るような少女なのです。 一介の、普通の、平凡な――女子学生なのです。 だから此の物語の中で、私についてはあまり触れません。 触れたくもありません。 どこにそんな必要があるのでしょう。 誰も望まないことでしょうし、勿論私もそんなこと望みません。 注目されるのは、苦手ですから。 だから此れは――ある一人の青年が主人公の話なのです。 奇しくも語り部は私になってしまいますが、その点は嫌々でもいいので、御了承ください。 では始めます。 +++ それは三月中旬あたりの出来事。 学校から我が家に帰るために、私は川沿いを歩いていました。 風が吹くごとに、私の左側からピンク色の花びらが舞って来ます。 素直に綺麗だと思いました。 同時に邪魔だと思いました。 嗚呼、視界が狭くなる。 と、私は思いました。視界が狭くなると言っても、ほんの少しの差なのですけどね、仕方がない子ですよね、本当に、私は。 「ふふふ、こんなにも愛しいのになあ」 と突然、切なそうに声を漏らす彼が居ました。 鮮やかな和服を着た彼は、桜の木の枝を手で支えるように触っていました。 その人は例えるならば――大理石の微妙な透明感。変な比喩ですけど、そんな風なのでした。 「愛しいなあ、愛しいなあ――おや」 大理石の人がこちらを向きました。興味深そうに、私を下から上まで――まるで見定めるように、じろじろと見ました。 見るというよりも、観察する目だったような気がします。 一見すると、まさしくその人は不審者でした。しかし私は不思議と、嫌悪感や不信感と言った類の感情を、その時には持ち合わせていなかったように思います。 それはやはり――その人が、『その人』だったからでしょう。 「やあやあこんにちわ。木(ぼく)の名前は催馬楽(さいばら)。一応、桜人というものをやっているよ」 挨拶と自己紹介を突然された私は、次に何をすればいいのか一瞬分かりませんでした。 「あ、えっと、その、こんにちは……?」 逃げようなんて気持ちは、ありませんでした。 「うんうん、挨拶もきちんとできるね。木は嬉しいよ、君が自己紹介もしてくれたら、もっと嬉しいけどね、踊っちゃうかもしれないね」 踊ってもらったら困ります、私が恥ずかしくなってしまうからです。 なので私はフルネームでは答えませんでした。 「わ、私は……七紙(ななし)。七枚の紙と書いて、七紙」 「へえ、良い名前だね、七紙ちゃん」 彼は――いえ、催馬楽さんはニコリと気持ちよく笑って、 「木は――七紙ちゃんに伝えるべきことを伝えて、消えることにしようかな」 意味の分からないことを言いました。 私は今更ながら、此の人は危ない人だと、認識しましたが――しかし、やっぱり、逃げようなんて気持ちはありませんでした。 此処で逃げたら、後悔しそうだったから。 「木は花――特に桜をを愛でるのが好きなんだ。それが趣味でもあるし、職業でもあるし――使命でもある。だけど最近は、どういうわけか、ヒトがあまり花見を楽しまなくなって――あ、楽しむ心はあるよ、勿論。彼らには。だけどあまりにも、『桜を楽しむ』ヒトが居ないんだよ。ふふふ、これなんか特に、美人さんなのに」 催馬楽さんはさきほどまで触っていた枝を見て「ふう」と再び、溜息。 「だから桜は競争するんだ――私を見て、私を見て、そんな桜より、私を見て―― ――そうしないと、私の存在する意味が無いの、ってね」 催馬楽さんは身振り手振りで、一生懸命に私に全てを伝えるように、努力しているようでした。私もどこか、夢心地でした。想像世界に居るようでした。 「その結果、桜は早く咲くんだ。そして桜は――木が現れる前に散ってしまう。悲しいよね、苦しいよね、桜人って本当に。まあそんなところも小悪魔的で……ね?」 「……え、あ、まあ、はい」 ね? と聞かれても、私は桜人ではないので分かりませんよ、催馬楽さん。 「だから、さ」 催馬楽さんは言います。深刻そうな顔だったので、私も真面目に聞こうと懸命でした。 「そんな桜を、君一人だけでもいいから、見て欲しい。見て、褒めて欲しい」 美しいね、艶やかしいね、綺麗だね、色っぽいね、可愛いね……。 どれもこれも――お世辞にしか聞こえないようなものしか、私には思い浮かびませんでした。何て私は頭が悪いのでしょう。語彙力が壊滅的状況に陥っています。 「何て褒めれば、最適でしょうか」 私は催馬楽さんに言いました。 「七紙ちゃん……」 すると、催馬楽さんは泣きそうな顔で、私の目を見ました。どうしてだか、分かりませんでした。私がそれでおどおどしていると、催馬楽さんは「ふふふ」と笑いました。 少年の様な、笑い方でした。 「いいかい、七紙ちゃん、こう言えばいいよ――――」 +++ 思い出に浸っていると、隣に座るお母さんが言いました。 「桜が綺麗ね」 私にはそれが棒読みに聞こえました。一年前の私ならきっと、何も感じなかったでしょう。 「うん。そうだね」と、相槌を打っておきます。 周りを見渡します。 ほとんどのシートが飲み会のためにひかれていました。人はそこそこ沢山居ました。 此の中で私だけが桜の心の価値と意思を知っているのだと思うと――少しだけ優越感が沸きました。 なので、 私は心の中で唱えます。 愛しいですね。
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あんぎゃあ!!!!!!!!!!!!!! おんぎゃあ!!!!!!!!!!!!!!!!! フヒヒwwwサーセンwwwwwwwwwwwwww ふひひwwwしゃーせんwwww これでも小説な?小説だと思え? どうだい?ぬれてきただろう!!!!!!!!!!!!
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キミとわたし まだお互い違う人を 愛してた頃 キミはわたしの中で イチバンといえる 大切な友達だった でも 好きになってしまった 愛しあってしまった キミと両想いになって 同じ時間を過ごせて 幸せだったのに そばで聞く声も わたしを抱きしめる力も キミの体温もいつも同じ だけど 日を重ねるにつれて 冷たくなっていく気がした 恋人としては上手くやっていけない だからさよならしよう キミはある日そう言った 友達のままだったら キミとわたしの未来は 違ったかもしれないのに キミとこんな悲しい別れ方を しなくてもよかったのかもしれないのに そう思うと苦しかった
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……やさしい香りで目が覚めた。 うっすらと開けた目に黄ともオレンジともつかぬ色が飛び込んできて、反射的に閉じる。まぶた越しに見える外の明るさが、今が夜ではないということを教えてくれた。 というか自分はいつの間に寝たのだろうか。読んでなかった小説を読んでいたのが最後の記憶だ。 そういえば、さっきからのこの香りはなんだろうか。 もう一度眠りに落ちてしまいそうな、安らげる香り。でも、何の香りだっただろう? 思い出せない。 不意に、視界が暗くなった。いや、まぶたの上に注ぐ光が遮られたのだろう。 でもなんだ? ゆっくりと目を開けた。 「!」 びびった。目の前に一人の女性がいた。 大人だろうが、微妙にあどけなさが残る顔をしている人だ。背中ぐらいまでありそうな長い髪がリボンで一つにまとめられている。今時あまり見ないゆったりとしたワンピース、それに麦わら帽子なのがやけに印象的だ。 向こうも少しびっくりしたのか、僅かに目を見開いて少し固まっていたが、やがて動き出して俺の前から退いた。うわ、また眩しい。とりあえず上体を起こすと、背中に草がたくさんついていた。 「うわ、やばっ……」 手で払うも簡単には落ちず、微妙に届かない所まで草がついている。さてどうしようかと迷ったが、その時何かが背中をはたいてくれた。 「ん、あ、ありがとうございます」 さっきの女性だった。女性は小さく微笑むと俺に何かを差し出す。寝る直前まで読んでいた(はずの)小説だった。 俺が小説を受け取ると、女性は立ち上がって向こうへと去っていった。 残ったのは小説と、さっき感じたあの香り。 ……そういえば、彼女は一体誰だったんだろう?
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史無国 壱 時は西暦647年。 ヨーロッパでいえば、暗黒時代に相当するこの時代。 隠された歴史の裏に、動乱が渦巻いていた。 西ローマ帝国がオドケアルによって倒された数十年後、新たにゲルマン人によって国が建てられた。 国の名は『リムノール』。 後にこの国は、ヨーロッパ全土に跨るほどの、大帝国になる。 ゲルマン人はラテン人から引き継いだ技術や文化を昇華させ、新たな文明を築きあげて行った。 リムノール帝国もその御他聞に洩れず、めきめきとその力を伸ばした。 しかし、栄える物には衰えあり。 栄華を極めたリムノール帝国も、180年たてば血の淀みが現れてくる。 この淀みが顕著になったのは、名君と名高かったクランディール7世が崩御したときだった。 このクランディール7世には、正嫡が居なかったのである。 そのため、それぞれの妾や側室が、我が子を皇帝に、と考えた。 さらに達の悪いことに、権力に目がくらんだ者たちが、一人の皇太子を押さず、それぞれに分かれ争いだしたのである。 これにより、帝都サレム・ノティスでは、血で血を洗う陰謀、暗殺、流言が横行し、この争乱に巻き込まれた民を含めると、およそ27万人が死亡した。 人々はこれをパリス・ド・クリミエーネ(犯罪者の王宮事件)と呼んだ。 パリス・ド・クリミエーネの話は瞬く間にリムノール全土を駆け巡り、皇室の衰退を感じ取った各諸侯たちは、次なる覇権を獲るために活発に動き出した。 こうして、リムノール全土に暗雲が立ち込めて行く。 だが、これはまだ序章に過ぎなかったのだ…… そして、話はリムノール帝国辺境、クリアール地方、トリエスト。 ここから始まる。 青々と続く草原。 それが見渡せる小高い丘の上で、騎乗の若い男が一人。 「……風が、変わるかな」 そう呟いたのもつかの間、背後より蹄の音が二つした。 「ここにいたのか、エルムッド。探したぞ?」 「今日は公爵に挨拶の日だろうが、エル。遅れたらどうする?」 「ああ、もうそんな時間か……」 エルムッドという若者は馬首を返すと、丘を下って行った。 彼を呼びに来た二人もそれに続く。 三十分後。 三人は一際大きな屋敷の前についた。 と、門の前には三人の男が立っていた。 「遅い、エル。何時に来るのか、知っているか?」 「悪い、父さん。ちょっと丘の上で呆けてた……」 「……全く」 エルムッドは筋骨隆々とした、如何にも武人と言ったような男にいう。 どうやらこの男はエルムッドの父らしい。 後の二人も、やはり同じようなものだった。 「という事は、いつも通りテレシスとセリック君は、エルムッド君に振り回されたんだね?」 「そうだよ、父上。エルムッドの放浪癖、どうにかならないの、と思っているんだけどね」 「はっはっは、それはどうしようもないよ、テレシス。彼は私達の考えもつかないことをいつもしでかすからね」 「で、遅れたことに謝罪はあるんだろうな、セリック?」 「あぁ? 俺は悪くねぇよ。悪いのはエル……」 「この馬鹿ものが! お前はいつもエルムッドのせいにしてからに……」 眼鏡をかけた、テレシスという青年とその父。 やや粗雑な空気を匂わせるセリックという青年とその父。 彼らが繰り広げられる漫才の嵐に気づいて、衛兵が近づいてきた。 「あのう、皆さまはもしかして、公爵様の……?」 「そうだ。公爵に伝えてくれ。『ヴァンディールとフォンベルグ、エレナーデが子を連れて来た』とな」 エルムッドの父が、そういった。 史無国 弐へ
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サヤ「・・・今頃気づいたのか?」 ユウナ「どした?敵を目の前にしてそれはないだろと思うんだが?」 サヤ「いや、タイトル見て、今更かいみたいな・・・。」 ユウナ「それは今言うべきことじゃない。」 目の前にいるのは、雑魚い敵に扮した、第二の阿部さん。本名、小田原ヤスシ。 サヤ「さて、ウホの人にはエクスハリセンは使えないんだな~どうしたもんか・・・。」 ユウナ「その時点で雑魚じゃねぇだろ・・・。」 サヤ「さて、現在の装備は、 日本刀三本とハンドガン(サイレンサー付き)五丁とピアノ線二十本とアサルトライフル二丁と、 エクスハリセンと麻酔猟銃しかないな・・・。」 ユウナ「そこでしかってどうよ、しかって。誰かここで突っ込もうよ・・・。」 サヤ「大丈夫、うちの家の常識ではこれがしかだから。」 ユウナ「貴女のものさしで常識を図らないで下さる?てか、万能撲殺バットはどうしたよ? 補導用の刃引きした日本刀はどうしたよ?麻酔銃はどうした?」 サヤ「全部、妹(6歳)に貸した。」 ユウナ「そんな物騒な妹認めない。」 サヤ「認めなさい。確か、学校を武力で改革するって言ってたな。 だから、ありったけの麻酔銃が必要って言って、家の全部持って行っちゃった。」 ユウナ「若干六歳にして、それはないだろと言ってみる。」 サヤ「いや、アイツは有言実行を主義としてるから、言ったらやる。」 ユウナ「マジで?」 サヤ「大マジ。」 ヤスシ「俺、無視されてるよ・・・。」 サヤ「ああ、ごめん。軽く存在を忘れてた。」 ヤスシ「俺を無視した罪は重いぜ!ウホッ抱きつき攻撃だ!」 | ヤスシは抱きつき攻撃をしたが、サヤは飛び蹴りをしてかわしつつ攻撃した。 ヤスシ「グハッ!!!いいぜ!ぞくぞくするな・・・ハァハァ。」 サヤ「文字数関係上、短期で行きます。」 | サヤは特性スナイパーで麻酔猟銃を使ってヤスシを狙撃した。 ヤスシ「がはっ!!!!」 | 見事命中!ヤスシは戦闘不能になった! サヤ「さて、大魔王様にお目にかかりますか!」 ユウナ「早っ!てか、短期すぎでしょ!?」 サヤ「いいの、いいの。」 | サヤとユウナはついに大魔王サツキのところに着いた! ユウナ「展開早っ!」 どっちが勝つのか!?続きます!!!! ユウナ「まだ引っ張るつもり!?」
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さあ目を剥け! 視覚を奪い取れ! さあ耳を千切れ! 聴覚を妨害しろ! さあ鼻をもげ! 嗅覚を嗅がせるな! さあ舌を抜け! 味覚など意味がない! さあ麻酔を打て! 感覚を与えるな! さあ、宴の始まりだ! 四肢を折れ! 腹を裂け! 頭を撃て! 首を落とせ! さあ、肉を喰らえ! 髄を飲め! 脳を混ぜろ! 腸を焼け! さあ、次の獲物は誰だ? …………私の死はとても近かった
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けじめ キミとボクとのけじめ お互い キミとボクは 好きだ そう 何度も 何度も 理解しあった けど そこには 越えられない 壁があって どうしても どうしても 抜けられない 沼があって ボクらは 言葉 形 には出来なかった けど いつかは 越えられない壁も 抜けない沼も 消えていく そんなキミが 「好きです」 そうボクに向かって呟いた 「幸せになろう」 って でも でもね ボクはキミの言葉には応えられない 「ごめんなさい」 好きだけど 大好きだけど 駄目なんだ キミが望む 『幸せ』 ボクの望む 『幸せ』 それは 違うもの キミを愛してしまえば ボクはきっと キミの『幸せ』に行ってしまうから だって 好きだから 大好きだから でも ボクは 今のボクは キミの『幸せ』に 行けないんだよ 「ごめんなさい」 キミは分かってたように 笑って 少し涙目で笑って 「ううん、ごめんね」 そういった ごめんなさい ごめんなさい けじめ 愛したキミへのけじめ なくしたものは 大きく そして 得たものは 何もない けど これがボクのけじめだから すみません。 最近、色々ありましてずっと悩んでました(-"-;) 今日ぐらいからまた復活して、コメントやらがんばっていきますw けじめ みなさんは「けじめ」という言葉を使ったことはありますか? 私はあります。 使われたこともあります。 けじめとは私の印象ではイイ言葉ではありません。 けじめにより、私は色々なものを無くしました。 そして、得たものなんて何もなく 残ったのは、自分自身… 記憶だけでした。 いつかはつけないといけない「けじめ」 けじめとは 急に来るものでした。 嵐のように来て 全部かっさらって 多分、みなさんの「けじめ」のイメージは違うと思いますが、そんな「けじめ」という言葉に今回は注目して、詩を書いてみました。 この詩は多分、批判者も凄くいると思いますが、温かい目で見てくれると幸いです。
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長い廊下を、男が一人、せわしなく歩いていた。 向かう先は突き当りにあった部屋だ。 男はその部屋の扉を開けると、明かりもつけていないその部屋の奥に声を飛ばした。 「マーカス、そろそろ出立すべき時ではないかね? 『リンドブルム』を動かすことも是であろう」 「もう? 流石に早いなぁ、トリエスト公の軍は」 「中央軍総司令官なら、もっと読むものではないのかね?」 マーカスは椅子から立ち上がると、こちらに歩きながらデナール――言う。 「思ったよりかは、だよ、デナール卿。いや、皇帝陛下と呼ばないといけないのかな」 闇の中を歩くマーカスに、外の光が当たる。 だが、そこに居たのは屈強な武人でも、豪壮な将軍でもなく。 まだ成人していないであろう、幼さの残る少年だった。 背に至っては、デナールの肩辺りまでしかないであろう。 そんな少年が、幅広の長剣を佩いているのは、どことなく滑稽な絵だった。 「別にどっちでも良いわ。それよりも、早く出立したまえ、マーカス。あと残るはクオンクハイル家のクリノール地方と、ガラディノール家のオリノール地方だけだ」 「そんなに急がなくても、いいんじゃないの? 僕らは余裕があるんだし」 マーカスが、幼く笑いながら言った。 「いいか、私は皇室七貴族の第六位だ。ガラディノール家は第七位だから我がタルワーリア家よりも継承権が低い。だが……」 デナールは憎らしげに顔をそむけながら言った。 「クオンクハイル家は違う。あの家は……第四位。我がタルワーリア家よりも、継承権が上なのだ」 この皇位継承権は、これまで国祖ファリアンの直系が途絶えることはなかったため使われることはなかった。 しかし、事実上国祖ファリアンの直系が途絶えた場合、この皇位継承権の高い順に皇位継承が行なわれる。 第一位であるナルドネイル家は、パリス・ド・クリミエーネのときに、男系子孫が全員死.亡したため、現在復興の最中である。 これを除けば第二位であるハルノーゼ家、即ち先日戦死.したテスコノール領主アルマス・クォッド・ハルノーゼ公爵が皇位を継ぐべき筈であった。 しかしデナールはハルノーゼ家を滅亡に追い込んだため、ハルノーゼ家は皇位を継ぐことはできなくなってしまった。 第三位であるフラムドレイン家、つまりマーカスの家系は、形式上皇位継承権を持っているが、数十年前に永久臣下の礼を取ったため、事実上継承権は保有していない。 第四位はクリノール領主クオンクハイル家。 現在デナールが攻めんとし、またデナールより上位の皇位継承権を持っている男子がいるただ一つの家でもある。 第五位はラタノール領主オルノディア家。 この家もデナールに攻められ、一族もろとも縛.り首に処されている。 「だからマーカスよ、一刻も早くクオンクハイル家の人間を皆殺.しにしてくれ。そうでないと、人民は私が皇帝になることは認めんだろう」 デナールは、そう言った。 つまり、彼は皇位への道の妨げになる者を、排除して進んでいるのである。 「まあまあ、デナール卿。そう焦らなくてもいいよ」 「焦らずに居れるものか、マーカス!」 「ふふん……」 そう、鼻で笑うと、マーカスは部屋の奥に再び歩いて行った。 そして、分厚いカーテンをいっぱいに広げ、窓を解放した。 刹那、デナールの耳に、響くような大音量の歓声が聞こえる。 デナールはその元をたどった。 「これ、は……」 デナールの眼の前の広場には、十数万もの兵が詰めかけていた。 「僕の、秘蔵っ子たちだよ。実際、デナール卿は見たことがないでしょ?」 「……奴らは、リムノール帝国中央軍、ではないよな?」 「無論だよ。あんな廉兵と同じにしないでほしいね」 「では……」 「ふふん……」 マーカスはまた鼻で笑うと、出っ張ったテラスに身を曝した。 するとすぐに兵たちの歓声が、一つの唱和になっていく。 ――…nd B…m! Rind Bu…! Rind Bulm!―― 「これが……」 「そう、これが皇帝直属近衛親衛禁軍、通称……」 マーカスが手を挙げた瞬間、唱和は止まり、静寂が広場を包む。 そうして、マーカスは呟くように言った。 それも、少年らしからぬ、老成しきった様子で。 「『リンドブルム』だよ」 「……これが、帝国最強の軍……」 「そうだよ。父上が、愚かな皇室のために人生をかけて作り上げた、実に下らない軍……」 そう言うと、マーカスは少しあざけるような、そんな笑みを浮かべた。 デナールがそれを見て言う。 「そういえば、父君は今も『御病気』かね?」 「ふふん……屋敷の奥の部屋で、『養生』してもらっているよ」 マーカスが、さっきの笑みに負けず劣らずの、黒い笑みをまた浮かべる。 「そうか、では正式にマーカス、お前をフラムドレイン家の当主と認定する」 「ありがとう、デナール卿。これで……これでやっと、僕の思い通りの軍が作れる……」 「好きに軍を作ってもいいが、まずはやることがあるだろう?」 「ふふん……分かってるよ。まずは手早く……」 彼は指笛を鳴らすと、一羽の鳩が飛んできた。 その鳩に何かを書いた羊皮紙をくくりつけると、それを飛ばす。 鳩は勢い良く窓から飛び出すと、サレム・ノティスの中央部、大聖堂や士官学校、元老院議会堂のある方へと飛び立って行った。 「トリエスト軍を、叩き潰さなきゃね」 少年らしい、無垢な笑みを浮かべて、マーカスはいう。 さもこれから、ただの悪戯でもするかのような、そんな口ぶりだった。 場所は変わって、クリノール州境・グラムドロヌス。 通称『堕落の荒野』と呼ばれるこの地。 およそ40年前に起こった内乱の際、クリノール地方へと攻め入ろうとした叛徒が通過した際につけられた名である。 その名にふさわしく、ほとんど平地は存在しないほどの岩場に、水や食料が補給できるような場所も無い、荒れ果てた大地が続く。 さらに地盤は緩く、大地の下には空洞も存在する場所もあり、迂闊に踏み入れると地面が崩れ、下に落ちてしまうという場所でもある。 お陰さまでここを通過しきった叛徒の軍は半数に満たず、いとも容易く当時のトリエスト軍に打ち破られたことが由来であった。 「如何な軍とて、自然の脅威には勝てまい。と信じたいところだな、クラムディン」 「だね。どんな精強な軍でも、地面の下にのみ込まれ、補給もままならないここでは無事には済まないはずだ」 「しかし、クリノールに入る道はほかにもあるのだろう。そっちはどうなんだ?」 「安心してくれ。軍が通れるほどの大きな街道は、北のオリノール地方からの道しかないし、西のテスコノール地方から入る街道は、商人の車が通れてやっとの、険しい山中の道だ」 「当然、砦を立ててふさいでる、という訳か」 「ご明察」 レイムッドとクラムディンが、『公爵の智嚢』の力を合わせて調べた、グラムドロヌスの精巧な地図を見て軍議をしていた。 ここには、自然の陥穽のある場所、細々ながら水の出る場所、間道のある場所の他に、兵力の予定配置場所、罠の配置場所など、総帥であるランディールと副帥であるクラムディンが用意した27の策にかかわる情報が書いてあった。 暫く軍議を続けていくうちに、ティタルニアとランディールも加わり、さらに精密な軍議は進められていく。 「しかし、フェルノリア卿。これは少々まずいのではないだろうか?」 それまではほとんど押し黙っていたティタルニアが、突然口を開いた。 ランディールがそれに答える。 「何かな、ティタルニア殿。不備があると思われるのであれば、指摘して頂けるとありがたい。何せ某は軍師であるから、武人からみた戦場は、知ることができないのでな」 「いや、そうではない。この地図も作戦も、極めて精巧なものだが、ただ……」 「ただ?」 「この地図が敵の手に落ちたら、と考えると、寒気しかしないかな」 ティタルニアは大げさに体を揺すった。 それを見てランディールは豊かなひげを揺らしながら大笑いする。 「はっはっは、安心したまえ、ティタルニア殿。管理は某がきっちり行うし、トリエストに関係の無いものに見せるつもりはない」 「しかし、奪われるということも有りうるのでは無いだろうか」 「奪われそうになったら、燃やせるように硫黄と黄燐は用意している。ともかく、これは我が命に代えても、敵には渡さんよ、ハッハッハ」 ランディールは豪放に、そう言って笑った。 史無国 拾参へ