約 14,479 件
https://w.atwiki.jp/sweetkiss/pages/2.html
TOPページ steamID・hikomaru2003 スカイプID・nekozixyara [リンク集] ・Lapis lazuli(FNO) ・らくだとまんぼー(cso) ・竹本さん
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/9282.html
登録日:2011/01/10 Mon 20 15 25 更新日:2024/08/14 Wed 19 36 34 所要時間:約 7 分で読めます ▽タグ一覧 Fallout Protect_and_Survive When_the_Wind_Blows この世の地獄の見本市 むしろ検索すべき アニメ ジェントルマン・ジム デヴィッド・ボウイ トラウマ ブラックユーモア ブラックユーモアを楽しめないと理解不能 ポジティブ思考推奨作品 リア充鑑賞推奨映画 レイモンド・ブリッグズ 不朽の名作 傑作or問題作 加藤治子 反核 忘れてはいけない 東京核撃 核戦争 森繁久彌 検索してはいけない 民間防衛 皮肉 社会風刺 神作? 神映画? 絵本 絵柄と内容のギャップ 被爆 超問題作 風が吹くとき 風刺 風刺映画 鬱アニメ 鬱展開 ※注意!! この項目ではネタバレ、鬱要素が含まれます。 ネタバレに敏感でない方、核が落ちてもポジティブに生きられる方のみ閲覧をおすすめします。 『風が吹くとき』(原題:When the Wind Blows)は、『スノーマン』などで知られるイギリスの作家レイモンド・ブリッグズが1982年に発表した漫画形式の絵本。 核戦争に巻き込まれた老夫婦を書いた物語。 と言ってもよくある核の悲劇を書いたものに対し直接的なグロ要素はほとんどない。 核爆発のシーンなど見開きで真っ白なだけ。しかし……。 【あらすじ】 イギリスの片田舎で老後を過ごすジムとヒルダの夫婦。 ジムは近々戦争が起きるというニュースを聞き、役所からもらった核兵器対策マニュアルを参考に、 家のドアを外して壁に立てかけ、周りをクッションで覆ったシェルターを作り、 役所と政府など出所でいろいろ食い違うマニュアルに四苦八苦しながら準備を始める。 そしてある日突然にラジオから流れた「核ミサイルが発射され、あと3分で到達する」というニュースを聞く。 ジムは洗濯物を取り込むために外へ出て行こうとするヒルダを慌てて抱えてシェルター(?)に転がり込む。 直後、閃光が閃き、爆風が吹いた。 町外れだったおかげでジムとヒルダは生き残り、家は熱風で半壊する程度で済んだ。 もうしばらくすれば救援が来ると生活を再開する2人。 しかし、それは死へのカウントダウンの始まりでしかなかった……。 電気も水道も止まってしまった。 ニュースを聞こうとしてもラジオもテレビも何も伝えない。 新聞配達も牛乳配達も来ない。 頭痛に悩まされる中、細々と少ない保存食で食いつなぐ2人。 妻を元気づけようと外に出てみるも、あたりの草は枯れ果て死の世界となっていた。 そこに雨が降ってくる。水が尽き喉が渇いていた2人は天からの恵みと雨水を溜めて、お茶を沸かして一息つく。 やがて2人の体はますます衰えていく。体中に斑点が出る。 トイレにネズミがいたと泣きわめくヒルダ。そんな彼女を楽しませるためにおどけて歌うジムだが、言われるまで口から血を流していることに気づかない。 ついにはヒルダの髪が抜ける。 それでもまだ必ず政府の救援が来ることを信じ続けるも、衰弱しきった2人は、次の核攻撃に怯え、紙袋をかぶってシェルター(と思われるもの)に潜り込む。 ジムに神へのお祈りをせがむヒルダ。 ジムはそれに応え、たどたどしく暗記していた聖書の一節を読み上げ始める。 主は我を緑の野にふさせ、いこいの水際にともない給もう。 たとえ我死の影の谷を歩むとも禍害をおそれなじ、なんじわれとともに存せばなり、 なんじの鞭なんじの杖わが日々を慰む。 600の兵士は進む。 物語はここで終わるため、ジムとヒルダの顛末は描かれていないが……「描くまでもない」という作者の意図とも受け取れる。 【登場人物】 ジム 年金生活をしている老人。 政府の指示に非常に忠実な模範的市民。 しかし政府が今どのように戦争をしているのか等はいまひとつ理解が足りない(「コンピュータがすべて決めているのだろう」とも)。 幼少期に第2次世界大戦を経験しているが、直接被害を受けたことはないのか、戦争になっても英雄がやってきて敵を撃退してくれる、 自分は空襲の中、救助活動で大活躍して美女を救出するなど刺激的な非日常くらいの感覚しかない。 戦時中については思い出補正か「あの頃はよかった」とさえ言ってしまう能天気ぶりである(これは妻のヒルダも同様)。 放射能の悪影響についても全くの無知で、被爆後の放射能漂う野外で呑気に日光浴し、雨水をためて飲料水にしてしまう始末である。 ちなみに作者の過去作『ジェントルマン・ジム』の主人公でもある。 ヒルダ ジムの妻。 家を切り盛りすることに熱心で、シェルターを作る夫に家を汚さないように注意する。 しかし目先のことしか考えられず、家事>>>>>(意識の範疇の壁)>>>>>世界情勢なくらいの認識の持ち主。戦争など完全に他人事。 どれほどかと言うと、核爆発が起きる直前、オーブンに入れていたケーキの心配をして「ケーキが焦げる!」と言い続けるほど。 ケーキどころか自分やジムも含めて全てが焦げるのだが…。 この通り核爆発への知識は全然ないが、被爆後に「地下室にいたほうが良かったんじゃない?」と言い出したり、 雨水を貯めるために豪雨降りしきる外に出ているジムに「死んじゃうわよ」と言ったりと、さり気無く察しが良いような面もある。 ロン 夫婦の息子で、街で家族で暮らしている。直接に登場はしない。 核シェルターの作り方において60°の角度がよく分からなかったジムが彼に電話をし、「分度器を買ってくればいい」とアドバイスをした。 戦争になると聞いて、シェルターも作らずのん気に笑っていた。もちろんその意味は……。(*1) 【備考】 タイトルは「風が吹いて枝が折れたら何もかも落ちる」という、権力者の暴走が国民をも巻き込むことを皮肉った趣旨のマザーグースから来ている。 ラストシーンで聖書の言葉の後に続く「600の兵士は進む」という文は、1854年に詩人テニソンが発表した詩の一節。 クリミア戦争でイギリスの軽装備旅団600人が下された命令の愚かさを知りながら、 ロシアの砲兵隊に突撃し全滅した悲劇を歌った詩である。 前述のとおり、この作品は『はだしのゲン』のような視覚的なグロ要素はない。 そのため日本の被爆者などからは「核の被害を軽く描いている」と批判された。 しかし、日本に落とされた原爆は現地に放射能汚染を残さなかったため、 「単に、日本の反核運動が放射能に汚染された大地で生きることの恐怖を意識していないだけだ」という見解もある。 また、こんな絶望的な極限状況下に追いつめられてなお無駄にポジティブな発言の数々が精神的に来る。 ちなみに作中に出てくる対策になってないマニュアルは、実際にあんな感じのクオリティのものが、50年代からイギリスでは配布されていた。この作品以外にも『THREADS』というテレビ映画にもそのマニュアルは出ている。 「ドアを壁に立てかけてシェルターとか有り得ない」とは誰もが思うが、劇中にも登場するパンフレットにはマジで書かれているのである(流石にこの作品の公開の後で回収された模様)。 実際にこの作品には当時の対策マニュアルへの批判と皮肉の意味が隠されているとの評判。 ただし、実際には爆心地から遠く離れた場所では「閃光に気づいて窓に近づく→爆風で割れた窓ガラスを浴びる」で多数の死傷者が出ているため、少なくとも「何もしないよりは生存率が上がる」のは事実である。 というか、核爆発の熱線そのものはカーテン一枚でも間に挟めば殺傷力は大幅に減じるので、「家庭でできる咄嗟の核爆弾対策」としてはそこまで間違ってはない。現に爆風で家の中がメチャクチャになったにもかかわらず、シェルターに逃げ込んだ二人は爆発による怪我は一切せずに済んでいる。 ただ、それを当てにして汚染地域にいつまでも残り続けるのは明らかに間違っているが。 「核爆発そのものを生き残るための対策」と「放射能汚染を生き残るための対策」は別物である、という話。 1986年にはアニメ化され、実写の背景やオブジェの中にアニメキャラが動くというものになっている。 主題歌は音楽界の巨匠デヴィッド・ボウイで、非常に爽やかな名曲。それだけに余計に来るのだが。 日本では翌年に細々と公開され、吹き替えを森繁久彌と加藤治子が担当した。 分かりやすく言うと乙事主とマダム・サリマン。2人の淡々とした演技も高く評価されている。 核を過小評価してる毛唐pgr的な意味合いにも取れる作品だが、日本人も核爆弾が落ちたらどうなるかは勉強で知っていても、 実際の放射能の恐怖や核攻撃の後にどうやって生き延びればいいかは知らない人が多いのではないだろうか。 この作品で語られていることは決して他人ごとではないのである。 (ちなみに、本作には第二次大戦当時の枢軸国と連合国の中心人物である フランクリン・ルーズベルト、ウィンストン・チャーチル、ヨシフ・スターリン、 アドルフ・ヒトラー、ヘルマン・ゲーリング、ベニート・ムッソリーニなどがジムの回想で登場しているが、枢軸国側で日本の代表であろう東条英機氏や昭和天皇が何故かいない。意図は不明である) 核の悲劇と恐怖を書いた作品と見るか、 政府をただ鵜呑みにして信じる情弱で愚かな夫婦を書いた作品と見るか、 どんな状況においてもお互いを励まし慈しむラブストーリーと見るか、 見る人によって感想が変わる点は、『火垂るの墓』と似ているかもしれない。 余談だが、現実的な対策が書かれたコピペがある。 ただそれもどこまで正しいか、実際にこの通りにできるかは分からない。 2024年8月に日本語吹き替え版がリバイバル上映予定。 “本作は反核を宣伝するためでも、特別な政治的意図に基づいたものでもない。 核戦争が起こったらどうなるのか、その警告がどう取り払われるのか、人々は次に何をするのかを描きたかっただけだ。 この老夫婦はイギリスの労働階級の典型的な人々である。 誰もが彼らと同じで、私の両親がまだ生きていたら、彼らのように行動したに違いないだろう。“ ―レイモンド・ブリッグズ もういいわ、あなた・・・ ああ・・・もう、いいのよ・・・ 追記・修正お願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] この人が描いた「さむがりやのサンタ」が好きだったのでこれを見てショックを受けた。ドアをつなげただけのシェルターもどきで助かると本気で信じていた老夫婦が悲しい。 -- 名無しさん (2014-02-16 10 12 48) 小学生のころ、これを読んですごいトラウマになったことがある。どれくらいかというと、物置の奥深くに、この本を閉まったほど -- 名無しさん (2014-03-25 13 53 02) ↑ 同じく。小学生低学年で読んで理解しきれなかったけどビビった。そして原爆とかを知ってもう一度読んでさらにトラウマになった。 -- 名無しさん (2014-03-25 14 08 20) はだしのゲンと比較される事があるが中身はどっちもどっちな気がする。 -- 名無しさん (2014-09-15 20 06 27) 大学の教職課程の講義でこれと楢山節考を見た時の衝撃は今も忘れられない -- 名無しさん (2015-02-08 13 36 53) どんなに衰弱しても、励まし合う夫婦が普通は微笑ましく、愛しいけど、この作品ではそれが何とも痛ましく、哀しい。 -- 名無しさん (2015-02-17 01 40 40) なんでか知らんが家に置いてあったなぁこの絵本 -- 名無しさん (2015-05-09 21 32 12) 上映会のときすでに高校生だったのだが、世の中が今よりは記憶があったために逆に・・・ -- 名無しさん (2015-07-13 21 02 22) わざわざ日本の反核本を引き合いに出す必要ねーだろ。これはこれ、それはそれでさぁ -- 名無しさん (2015-07-26 18 18 36) ↑「核を持たず、被爆体験がある」国と、「核を持ち、被爆体験がない」国の認識の違いは当然存在するわけで、引き合いに出す意義は十分にある。それともナニかい?引き合いに出されちゃ困るのかい?。 -- 名無しさん (2015-08-09 11 51 06) まさかこの作品に批判があるなんて、ここで読むまで考えもしなかった。ゲンもこれも小学生の時に読んだ自分からすると信じられない話だ。これがゲンに比べてソフトだとでも思うのか?そんな馬鹿な。 -- 名無しさん (2015-08-09 18 25 22) ↑はだしのゲン並の直接的描写がなければ核爆弾や放射能汚染の恐ろしさが想像できない、と思われているほど「今の人間は想像力に欠けている」とバカにされているようでなんか腹立つかな。 -- 名無しさん (2015-08-09 18 40 35) 「ドアを壁に立てかけてシェルターに」が本物のパンフに書いてあって、しかもそれが、この本の発売まで回収されなかったって……。どんだけなんだよイギリス政府; -- 名無しさん (2015-09-18 17 41 45) Protect and Surviveレベルの備えすらなかった日本ェ、とも言えてしまう訳で『差異』でしかないのよ -- 名無しさん (2015-10-11 17 33 37) 今の日本の政治家達にこの作品を読んで欲しいし、 -- 名無しさん (2015-10-26 20 15 19) ↑訂正、今の日本の政治家達に読んで欲しいし、見て欲しい。今の政治家達は、核が人類と動物と植物の命を絶やすほどの恐ろしさが、一切分かっていない。 -- 名無しさん (2015-10-26 20 18 32) ↑反原発運動がしたいなら他所でやって -- 名無しさん (2016-01-23 18 43 29) 最後に紙袋に潜り込むのは、核から身を守らせるためじゃなくて、死体を軍が片付けやすいようにやらせたんだっけか。 -- 名無しさん (2016-03-09 12 19 19) 今の、福島を経験した後の日本人はこの作品を笑える立場にないと思う -- 名無しさん (2016-06-25 20 47 32) ↑とりあえず↑×3を読もうか -- 名無しさん (2016-06-26 11 46 52) 誰も笑えねーよ。 -- 名無しさん (2016-09-01 22 40 43) ジム(一般的イギリス国民)にとっては大日本帝国とかどうでもいい敵国だったんすかね…おたくのプリンスオブウェールズとレパルス沈めて見せたんですけども。まあインパール作戦とかはあのざまだけど。 -- 名無しさん (2016-11-03 04 11 01) そりゃまあ、「イギリスの労働階級の典型的な人々」にとっちゃ地球の裏側の国なんか「なにそれ?」だろ。なにしろ目の前にナチスドイツって特大の脅威があったわけだし。 -- 名無しさん (2016-11-10 12 39 11) カイジの兵藤会長が「ダムとか道路とかバカなの?最初に公共事業で作らなきゃいけないのは核シェルターだろ!」的なこと言ってて妙に納得してしまったのを思い出した -- 名無しさん (2017-02-06 09 49 32) 最近の東アジア情勢をニュースで見てはこれ思い出してしまう -- 名無しさん (2017-10-12 23 10 52) Falloutで廃墟の中に2体の白骨と経過を記録したターミナルやこのマニュアルが残されてると感慨深そう -- 名無しさん (2018-04-09 17 06 40) 下に恐ろしきは、この夫婦が戦争をリアルタイムでくぐった経験の持ち主にもかかわらず、現代の戦争で祖国が戦ってる相手も知らず、政府の言うことに疑問も持たず明らかにおかしいマニュアルをウのみにしてしまう程の無知さ加減だったてことだよ。まあ、無知だろうと知識があろうと国同士が勝手に核戦争なんか始めたらどうしようもないけど。そこに身もふたもない絶望感が漂ってる -- 名無しさん (2018-07-23 12 29 39) ちっちゃい頃にこれのアニメ版見てトラウマだったな。内容が核戦争の話だなんて知る由もなかったけど、トイレの中にもぐりこんだネズミに悲鳴を上げるヒルダと、2人でのど飴を分け合って食べるシーンだけはずっと覚えてた -- 名無しさん (2018-08-06 15 03 00) ジェントルマンジムを読んでからこれを読むと更にガッツリ曇れるという寸法か… -- 名無しさん (2018-08-06 15 11 03) ただ、核の目標となった町にいたら、シェルターでもない限りジエンドな気がするけどね(汗 -- 名無しさん (2018-10-27 21 21 17) 今の現状を考えると笑えないし他人事のように思えない… -- 名無しさん (2020-03-17 21 16 21) 「核を軽視している」とは全く思わないけどな。むしろ「核兵器の恐ろしさは爆発だけじゃないだぞ」ということを深く描いていると思う。 -- 名無しさん (2020-03-17 21 37 32) 放射能の危険の軽視というと これの他にはアイアンジャイアント チェルノブイリ デーモンコア キュリー夫人の晩年 ラジウム商品ブームとかある -- 名無しさん (2022-04-30 17 58 53) ↑ そういや核分裂を観察できる子供向けの化学キッドで実際にウランが同梱されてたという、とんでもない商品が戦後間なしのアメリカであったらしいな。さすがに危険すぎるという猛ツッコミにより販売中止になったそうだが -- 名無しさん (2022-08-11 17 28 07) ↑あれ恐ろしいことに中止の理由が「採算が取れなかったから」なのよ。現在の価値で550ドルくらい、2年間で5000個未満しか売れなくて撤退したらしい。 -- 名無しさん (2023-07-17 21 50 33) ↑ラジウム商品の代表格といったら一種の栄養ドリンク的な扱いで販売されたラディトールとそれを愛飲しすぎた富豪の話なんかもエグい -- 名無しさん (2023-07-17 22 46 07) はだゲンはユーモアもあったし原爆の悲惨さ以上に「正しく強く生きろ」という正のメッセージがあったからトラウマとまではいかなかったけど、これは……初見はただただ辛かった。放射能の認識が被爆国日本でもこの夫婦とどっこいどっこいだったのがまた恐ろしい(福島の事故後に「マスクしてりゃ放射能防げる」とまことしやかに囁かれてた思い出) -- 名無しさん (2024-01-16 00 11 48) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/5372.html
作者:白兎 ※前編に虐殺シーンはありません。 ※独自設定多数。 ある群れに、一匹の子ぱちゅりーがいた。 珍しいことではない。 ぱちゅりー種など、どの群れにも何匹かはいるものだ。 れいむ種やまりさ種と比べれば数が少ない、というだけのことである。 しかし、その子ぱちゅりーには、他のぱちゅりーと異なる点がいくつかあった。 まず、家族構成が変わっていた。 彼女の父親はぱちゅりーであり、その母親もまたぱちゅりーだった。 普通、ゆっくりは、同種間のすっきりを忌避する傾向にある。 それは、多くの動物たちがそうであるように、近親交配を避け、 少しでも遺伝子の多様性を維持しようとする本能的なものであった。 むろん、ゆっくりの場合は、遺伝子ではなく餡子なのであるが、事情は同じことだ。 なぜ両親ともにぱちゅりーなのか。 その答えは、この両親が子ぱちゅりーを産むにいたった経緯にある。 彼女の父親だったぱちゅりーは、生まれつき病弱で、 親友だった別のぱちゅりーにいつも面倒を見てもらっていた。 このもう一匹のぱちゅりーというのが、子ぱちゅりーの母親にあたる。 父ぱちゅりーは、ひとりで狩りをすることもできなかった。 だから、母ぱちゅりーは、父ぱちゅりーとともに冬を越そうと決心した。 つがいになるつもりはなかった。 正確に言えば、2匹は、一度もつがいになったことなどなかった。 その年の冬、稀に見る寒波が山を襲い、父ぱちゅりーは自分の死期を悟った。 食糧はまだ十分にあったが、気温の低下に体が耐えられなかったのである。 父ぱちゅりーは、親友の母ぱちゅりーに、とんでもないお願いをした。 ゆん生で一度でいい、すっきりしてみたいのだわ、と。 母ぱちゅりーは驚き、最初はそれを拒んだ。 ぱちゅりー同士が子を作るなど、聞いたことがなかったからだ。 2匹の間で、その話は無かったことにされた。 それから3日後、外はますます冷え込み、巣の中も真冬のような寒さに包まれた。 父ぱちゅりーがいよいよ衰弱していく中、母ぱちゅりーは突然つぶやいた。 すっきりしてもいいのだわ、と。 その夜、2匹は生まれて初めてのすっきりをし、父ぱちゅりーはそのまま息を引き取った。 永遠にゆっくりしてしまった父ぱちゅりーは、いかにもすっきりとした表情を浮かべていた。 母ぱちゅりーは、泣く泣くその死体に切り口を入れ、まだ温かい生クリームを取り出すと、 それを使って入り口の補強工事を始めた。 油脂をたっぷり含んだ生クリームは、グリセリンと同じように防寒剤となり、 巣の中はとても暖かくなった。 それはまるで、死んだ父ぱちゅりーと寄り添い合っているかのような、そんな温かさであった。 ゆっくりの中でも比較的賢いぱちゅりー種である。 出産方法などは、事前に話し合っておいた。 動物型にんっしん。厳しい冬を耐えるには、植物型にんっしんでは危険過ぎる。 小さな赤ゆっくりから育てていくのは、到底不可能に思えた。 しかし、動物型にんっしんでも、2匹、3匹と産まれては困る。 食糧などを勘案して、育てられるのは子ゆっくり1匹だけだ。 そこで、父ぱちゅりーと母ぱちゅりーは、巣の中の葉っぱで避妊具を作り、 それをぺにぺにに巻いて、精子餡の量を調整した。 人間の場合とは違い、赤ゆっくりの数は精子餡の量に比例する。 大量の精子餡を放出するれいぱーが母体の死に直結するのも、このためだ。 3週間後、ぷっくりと下顎を膨らませた母ぱちゅりーは、 巣の中でゆっくりラマーズ法を実践しながら、陣痛に苦しんでいた。 ゆっゆっふぅ、ゆっゆっふぅ、と白い息を吐く母ぱちゅりー。 そして、次第に割れ目が大きくなり、赤ゆっくりがじわじわと顔を出す。 自分の位置からは見えないが、母ぱちゅりーには我が子の動きがはっきりと分かった。 ぽん コルク栓を抜いたような音とともに、赤ゆっくりが産道から飛び出した。 木の葉や綿毛で作った毛布をクッションにして、地面にぶつかったときの衝撃を和らげる。 ふぅー、と大きく息を吐いた後、母ぱちゅりーは産まれたばかりの赤ゆっくりを見た。 それは、案の定と言うべきか当然と言うべきか、ぱちゅりー種であった。 「ゆっくりちていってね!」 元気よく挨拶する赤ぱちゅりー。 「ゆっくりしていってね。」 母ぱちゅりーの目に、すっと涙が流れた。 死んでしまった親友への涙か、それとも、母親になれたことの喜びか。 そんな母親の複雑な思いを、赤ぱちゅりーは知る由もなかった。 赤ぱちゅりーはとてもゆっくりした子で、2匹は何とかその冬を乗り越えることができた。 春が来て、山のほうぼうからゆっくりたちが顔を出す頃になると、 母ぱちゅりーも、入り口を塞いでいた木の枝や苔をはずし、 久々に見るお日様に向かって、ゆっくりー♪、と喜びの挨拶をした。 そして、皮となった親友の死体を埋め、そこにお墓を作った。 父親のことは、成長して子ぱちゅりーになった我が子にも内緒にしておいた。 ぱちゅりー同士の子だと知れれば、何をされるか分かったものではない。 だから、母ぱちゅりーは、仲間に尋ねられると、いつもこう答えた。 これは、一本杉の根元に住んでいた、まりさの娘だ、と。 一本杉のまりさは越冬中の雪崩に巻き込まれており、まさに死人に口無しであった。 そんな母ぱちゅりーが、我が子のおかしさに気付いたのは、 4月に入り、山桜がゆっくりと咲き始めた頃のことだった。 「おかあしゃん。ちょうちょしゃんがゆっくりとんでりゅよ。」 「ほんとだね。ちょうちょさんはとってもゆっくりしてるね。」 「ゆわーん!いちゃいよー!まりしゃおねえしゃんがいじめりゅー!」 「いじめちぇないのじぇ。ちょっとおふじぇけしただけなにょぜ。」 「らんぼうさんはだめだよ。いもうとはまだちいさいからゆっくりあそぼうね。」 野原の片隅で、花と虫に囲まれながら、日光浴を楽しむれいむ一家。 彼女のつがいだったはずのまりさは、もういない。 親れいむの話では、冬越しの間に風邪をひき、そのまま死んでしまったのだという。 親れいむは夫の死を乗り越え、形見のおちびちゃんたちを世話している。 だが、親ぱちゅりーは薄々勘付いていた。 彼らは、予定外のすっきりで冬籠り中ににんっしんしてしまい、食糧が足らず、 親まりさが自ら命を絶つことで家族を救ったのだ、と。 話をもとに戻そう。 親れいむのそばで遊ぶ子ゆっくりたちは、子ぱちゅりーと同じ早生まれ、 通称、冬生まれである。 親れいむの話からすると、産まれた時期もほぼ一緒のようだ。 ところが、その子ゆっくりたちは、子ぱちゅりーとは似ても似つかない。 いや、逆だ。子ぱちゅりーが、その子ゆっくりたちとは似ても似つかないのである。 「むきゅん。おかあさん、きょうもごほんをよんでほしいのだわ。」 「もちろんいいのだわ。ぱちぇはほんとにごほんがすきなのね。」 お分かりいただけただろうか。 この子ぱちゅりー、れいむ一家の子どもたちと違い、 何の問題もなく言葉を話せるようになっている。 これは、ぱちゅりー種だという事実だけでは説明がつかない現象だった。 まだ生後3ヶ月しか経っていないのである。 「このまどうしょによれば、ひとざとには、ちょこれーとでできたおしろがあるのだわ。」 子ぱちゅりーが持って来たのは、河原で拾った1枚のちらしだった。 大方、キャンプ客が、何かを包むために持参したのだろう。 ちらし一面に、甘い食べ物がところ狭しと並んでいた。 「むきゅん。おかあさん、そんなおしろがあるのかしら。」 子ぱちゅりーが、いぶかしげに尋ねた。 「どうしてうたがうのかしら?」 母ぱちゅりーは驚いた。 これまで、自分がごほんを読んでいるときに、口を挟まれたことがなかったからだ。 ゆっくり一般に言えることだが、文字に関するぱちゅ種の解釈は絶対なのである。 「むきゅん。ちょこれーとさんはあついとすぐにとけてしまうのだわ。 そんなものでおしろをつくったら、だれもすめないのだわ。」 ぱちゅ親子が住む群れは、一度も人間の里に下りたことがなかった。 それが最も安全な方法だと、先祖代々伝えられていたからだ。 しかし、近くの河原がキャンプに適しているため、 夏場には人間のほうから群れの近くへやって来ることがある。 そして、彼らの中には、ゴミを持って帰らない人たちもいる。 そのおかげで、チョコレートというお菓子も、群れのゆっくりたちにはよく知られていた。 とっても甘くてゆっくりできる、伝説のあまあまさんである。 親ぱちゅりーですら、それを口にしたことは一度しかない。 「でも、このまどうしょには、ちょこれーとのおしろがあるのだわ。」 親ぱちゅりーは、うねうねと動く髪の毛でちらしを指した。 「それはおしろじゃなくて、おしろのかたちをしたちょこれーとなのだわ。」 「むきゅん。そうかもしれないわね。」 親ぱちゅりーは思った。 この子は、てんっさいかもしれない。 それも、自信過剰なまりさ種がよく使うような意味ではない。 思えば、父ぱちゅりーも、病弱ではあったが、頭の回転は群れ一番だった。 それを知っているのは、世話をしていた母ぱちゅりーだけだったけれども。 「おかあさん、このしろいものはなんなのかしら?」 「むきゅん。それはね…。」 こうして、ぱちゅ親子は、今日もごほんを読みながら一日を過ごした。 6月。梅雨の訪れ。 今や子ぱちゅりーも半年の歳月を経て、子ゆっくりから大人ゆっくりになろうとしていた。 そして、その間の成長ぶりは、親ぱちゅりーの予想を遥かに上回るものだった。 「お母さん。ぱちゅは今日、面白いことに気付いたのだわ。」 子ぱちゅりーは、地面に木の枝で何かを書きながら、母親に話しかけた。 いつまでも降り続ける雨の中、子ぱちゅりーは、こうやって時間を過ごしている。 「どうしたのかしら。」 「むきゅん。3匹のまりさが、木の実を4つずつ拾ったら、何個になるのかしら。」 母ぱちゅりーも木の枝を取り、地面に式を書く。 4+4+4=12 「12個なのだわ。」 普通、ゆっくりの中で計算ができるのは、ぱちゅ種だけである。 その計算とやらも、足し算と引き算のみから成る簡素なものだったが、 10以上の数を「たくさん」としか認識できないまりさ種やれいむ種と比べれば、 格段の能力差に違いなかった。 「そうなのだわ。でも、こうすると、もっと速く計算できるのだわ。」 4×3=12 母ぱちゅりーは、おめめをぱちくりとさせた。 彼女には、娘の書いた計算式が、何を意味するのか分からなかったからだ。 ゆっくりは、掛け算を知らない。 「足し算で同じ数が連続するときは、その連続する数を使って、計算できるのだわ。 この新しい計算方法に重要な組み合わせは、81通りあるのだわ。」 母ぱちゅりーは、子ぱちゅりーの言っていることが理解できなかった。 子ぱちゅりーの能力は、その母を凌駕していたのである。 だが、ひとつだけ分かったことがあった。 この子は、本物のてんっさいだということだ。 「むぎゅ。」 親ぱちゅりーは、そっと子ぱちゅりーを抱きしめた。 長い髪の毛で顔を撫で、すりすりをしてやる。 「ぱちゅはほんとにいいこね。おとうさんもよろこんでるのだわ。」 「むきゅきゅ。お母さん、苦しいのだわ。」 その夜、母ぱちゅりーは、花の蜜とムカデでお祝いをした。 「むきゅん。何のお祝いなのか分からないのだわ。」 こういうところには、てんで疎い子ぱちゅりーである。 だが、そんな彼女も、母親の喜んでいる姿を見ると、 うっとおしい湿気など、吹き飛んでしまうのだった。 7月。晴れ渡った夏空の下で、ぱちゅ親子は狩りに精を出していた。 他のゆっくりたちも、家族連れであちこち飛び回っていた。 目立つのはまりさ種とちぇん種だが、れいむ種もちらほら見かける。 この時期になると、春に産まれた子どもたちもすっかり大きくなり、 子育てに手間がかからなくなるのだ。 子ゆっくりたちは、親の狩りに同行し、生きるために必要な知識と技術を学ぶ。 父ぱちゅりーの世話をしていたためか、母ぱちゅりーは狩りが上手かった。 上手いと言っても、ぱちゅ種にしては、という条件付きだが。 それでも自分たちの食糧を集めるのには、一度も困ったことがない。 頭を使って山菜の群生地を探したり、虫の巣を見つけたりして、 体力任せにうろうろするまりさたちよりも、効率がよいくらいである。 それと対照的なのが、子ぱちゅりーであった。 すっかり大人になったというのに、自力で虫を捕まえることができない。 ぴょんぴょんと後を追っては、石に躓いて転んでしまう。 「むきゅん!虫さん待つのだわ!むぎゅ!」 今日も今日とて、何度目か分からない盛大な転び方をする子ぱちゅりー。 「むきゅん。ちょっときゅうけいするのだわ。」 「むきゅん…。」 いくら頭がいいとは言え、実践は別物である。 動植物に関する知識は完璧なのだが、動かないもの以外には応用がきかなかった。 とはいえ、親ぱちゅりーも、娘の鈍重さをそれほど気にはしていなかった。 欲張りさえしなければ、花や草、木の実だけでも生きていけるからである。 特に、この子ぱちゅりーほどの知識があれば、誤って毒草を口にすることもなく、 いろんな場所で食べ物を探すことができるだろう。 ただ、ごちそうのムカデさんを食べられないことだけは、不憫に思っていた。 ムカデさんは、本当に美味しいのだ。 「おひるごはんにするのだわ。」 「むきゅん。今日はお花さんの蜜を呑むのだわ。」 子ぱちゅりーは、自分で摘んだ花の蜜をちゅーちゅーと吸い、 親ぱちゅりーは、自分で穫った毛虫をむーしゃむーしゃする。 交換はしない。 それは、子ぱちゅりーのためにならないからだ。 毛虫を口一杯に頬張りながら、母ぱちゅりーは子ぱちゅりーを盗み見る。 子ぱちゅりーの顔は最近痩せており、どうも元気が無い。 娘が理由を語ることはなかったが、母ぱちゅりーには分かっていた。 友達ができないのである。 母ぱちゅりーは、子ぱちゅりーの偉大さを理解していた。 ただし、何となくスゴい、という意味でだった。 子ぱちゅりーは毎日「まどうしょのかいどく」に取り組んでいたが、 それを横目で見る母ぱちゅりーには、娘が何をしているのか見当もつかないことが多い。 ぱちゅ種の、しかも比較的優秀な個体ですらそうなのだ。 他のゆっくりがどういう反応を示すかは、火を見るより明らかである。 子ぱちゅりーは、「かわりもののぐず」とみなされていた。 「むきゅん。美味しかったのだわ。」 「むきゅん。ちょっとおひるねしましょう。」 ぱちゅりー親子は、近場にある老木へと向かった。 その根元には、ゆっくりが寝るのにちょうどいい穴蔵がある。 春にそれを見つけた2匹は、草や苔でその穴を塞ぎ、ときどき別荘代わりに使っていた。 親子が薄暗い穴に身を隠すと、ひんやりとした土と空気に心が休まる。 「むきゅん。ごくらくなのだわ。」 「ここは太陽さんが当たらないから、昼間も涼しいのだわ。」 そう言うと、2匹はゆっくりとお昼寝を始めた。 8月。ゆん生の中で最も楽しい季節がやってきた。 子どもたちはみな成長し、あちらこちらに家族連れのゆっくりがあふれ返る。 おうたを歌うれいむ一家、どろんこになりながら遊ぶまりさ一家、 わかるよーと言いながら鬼ごっこをするちぇん一家、 そんな中でも、とかいてきな慎みを失わないありす一家。 ぱちゅ一家は、そのいずれにも与することなく、自分たちの夏をゆっくり楽しんでいた。 そんなある日のこと。 「お母さん、話があるのだわ。」 真剣な顔付きで、娘が口を開いた。 母ぱちゅりーも、自然と居住まいを正す。 「むきゅん。どうしたの。」 「ぱちゅは、河原に行きたいのだわ。」 ついにこの日が来てしまった。 母ぱちゅりーは、心の中でそう思った。 8月になると、人間の親子連れが、近くの河原に集まって来る。 この群れのゆっくりなら、誰でも知っていることだ。 だから、この時期、川に行くことは禁じられていた。 それでも、母ぱちゅりーには、娘の考えが手に取るように分かった。 にんげんさんを見てみたい、と。 「にんげんさんにあいたいのね。」 「むきゅん。ぱちゅは、人間さんを見たいのだわ。会うんじゃないのだわ。」 「それはおなじことなのだわ。」 「同じではないのだわ。遠くから見るだけで、お話はしないのだわ。」 「みんなさいしょはそういうのだわ。でも、おはなししたくなるのだわ。」 人間は、ゆっくりにとって、親しくもあり危険でもある、そんな存在だ。 同じ言葉を話す別々の種族。 違いは多々あれど、コミュニケーション手段が同じだという事実は、 人間にとってもゆっくりにとっても非常に魅力的である。 だからこそ、人間はゆっくりに、ゆっくりは人間に近付いて行く。 やはり駄目か。 子ぱちゅりーは、心の中で落胆した。 「あなたがいきたいのなら、いくといいのだわ。」 「むきゅん!本当!?」 意外な母の言葉に、思わず飛び上がってしまう子ぱちゅりー。 しかし、すぐに冷静さを取戻した。 おそらく、何か注文をつけてくるだろう。 子ぱちゅりーは、母親の言葉を待った。 「どうしたのだわ。いかないのかしら。」 「むきゅ…本当に行っていいのかしら…。」 「すきにするといいのだわ。」 母ぱちゅりーは、それ以上何も言わなかった。 彼女は、子ぱちゅりーの予想とは全く違う態度で、娘の意志を尊重したのである。 すると逆に不安になってしまうのが、ゆっくり心というもの。 子ぱちゅりーは、母が自分のことを心配してくれていないのではと思った。 そんな娘の不安を察した母ぱちゅりーは、ゆっくりと話を続ける。 「むきゅん。ぱちゅはおかあさんをこえてしまったのだわ。 おかあさんは、もうぱちゅのかんがえがよくわからないのだわ。」 「むきゅ!?」 ショックだった。 冷たい群れの中で、唯一の理解者だと思っていた母。 その母親が、自分のことをもはや理解できないと言うのである。 子ぱちゅりーの目がうるむ。 「ないちゃだめなのだわ。おかあさんは、ぱちゅがきらいじゃないのだわ。」 母ぱちゅりーは、娘を髪の毛で優しく包んでやる。 「おかあさん、わからないことには、さんせいもはんたいもできないのだわ。 だから、ぱちゅがやりたいようにやればいいのだわ。ぱちゅのかんがえは、 きっとおかあさんよりもただしいのだわ。」 「むきゅ…お母さん…。」 その夜、2匹は久しぶりに一緒のお布団で寝た。 優しい母の温もりを感じながら、子ぱちゅりーは明日の冒険に胸をはずませ、 なかなか寝付くことができなかった。 続く これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して 乞食れいむのおうた
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/370.html
17人いる!(後編) 【投稿日 2006/08/14】 ・・・いる!シリーズ 荻上「どしたの?随分疲れてるみたいだけど」 神田「みたいじゃなくて、ほんとに泳ぎ疲れました」 台場「蛇衣子とマリア、メチャメチャ速いんですよ、泳ぐの」 荻上「(意外そうに)へー」 ソフト出身で怪力の巴の力泳はともかく、肥満体の豪田が速いのは意外に思えた。 でもよく考えれば、全身を脂肪というフロートで覆われたその体は浮力の塊だ。 そうなると腕力と脚力(両方ともかなりの怪力だ)の殆どが推進力に使えるのだから、速いのも道理だ。 国松「ほんと速かったですよ、豪田さん。まるでツインテールみたい」 一同「ツインテール?」 日垣「国松さん、今時ツインテールって言うと、女の子の髪型の方だと思われちゃうよ」 荻上「それ以外のツインテールってあるの?」 日垣の説明によると、この場合のツインテールとは「帰ってきたウルトラマン」に登場した怪獣のことだそうだ。 最近新シリーズの「ウルトラマンメビウス」で再登場した際には、水中を高速で泳ぎ回っていたのでこういう例えに使ったのだ。 もともと特撮オタである国松は、特撮オタ特有の言葉を使って周囲をまごつかせることが時折あった。 荻上「それにしても国松さんはともかく、日垣君が何故それ知ってるの?」 日垣「いやー国松さんから勧められて、最近特撮もぼちぼち見てるんで…」 国松「メビウスにはリメイク怪獣が多いんですけど、日垣君元ネタ知らないって言うから、昔の作品のビデオ貸して上げてるんです」 荻上「そうなんだ。ところでみんな、今からどうするの?」 神田「ゴムボート出そうと思います」 浅田「俺と岸野は、みんなの写真撮りますよ」 日垣「えっ?岸野君も?」 岸野「ボートは2台だし、1台に3人乗るには狭いから、お前さんはとりあえず先発でボート漕いでな。俺たちは午後から乗るよ」 こうして浅田と岸野は、デジカメを持って海に向かった。 彼らは海などの水辺での撮影にはデジカメを使用していた。 万が一水をかぶった時の為だ。 (ちなみにデジカメは一応生活防水仕様だが、もろに海にドボンすればアウトだ) 彼らの本来の愛機であるフィルム式カメラは、今ではデジカメよりも高価なのだ。 一方日垣と国松は、ゴムボートを出して空気を入れていた。 その様子を見た神田が台場に囁く。 神田「ねえあの2人って、何かいい感じじゃない?」 最近はヤオイにも進出し始めたものの、基本はノーマルなカップリング中心の神田らしい感想だ。 台場「そうかなあ…確かに仲いいけど、2人ともオタ初心者だからじゃない?(浅田と岸野の方を見て)それよりも私は、あっちの2人の方が怪しいと思うけど」 それに対し、台場は男女の仲には今ひとつピンと来ず、ヤオイの方は妄想全開だった。 そんな様子に苦笑しつつ、荻上会長は海に向かった。 少し歩き出してから、ふと荻上会長は考えた。 「何か大事なことを忘れてるような気がする…」 沖の方に見慣れた人影が見えた。 豪田と巴だ。 こちらを見ながら手を振り、何か叫んでいる。 遠くてよく聞こえないが、多分「荻様~!」とでも叫んでいるのだろう。 彼女たちの居る辺りは足の着かない深さだ。 荻上会長の泳力では、浮き輪無しでは近付けない。 無視するのも何なので、皇族の人のように控え目に手を振って応えた。 波打ち際の少し後方で、浅田と岸野は泳ぐ2人をデジカメで撮影してた。 浅田「さすがはゴッグ(男子の間で定着した豪田のあだ名)だ。1時間近く泳いでも何ともないぜ」 岸野「それにしても巴さん、もったいないよな。ビキニ着て欲しかったなあ」 浅田「台場さんだって、胸は物足りないけどスタイルいいよ。本来ビキニってのは、ああいう子が着た方が似合うんだぜ」 岸野「胸と言やあ神田さん、意外と巨乳だったよな」 荻上会長が不意に2人の背後から声をかけた。 「写真係ご苦労様」 浅田「わっ、会長!」 岸野「見回りご苦労さんス!」 女子会員についてあれこれ批評してるのを聞かれたと思ってやや慌ててる2人を見て、クスリと笑う荻上会長。 不意に先ほどまで忘れていた「何か」を思い出した。 荻上「ねえ朽木先輩と斑目先輩知らない?」 浅田「先輩たちなら、あっちの方に行かれましたよ」 浅田が指差したのは、海水浴場の1番端っこの方の桟橋だった。 荻上「あっちの方って、どうなってるの?」 岸野「桟橋の向こうも砂浜みたいですけど、遊泳禁止らしいですよ」 荻上「んなとこで何やってんだか…」 海から戻って来た巴と豪田が口を挟む。 巴「えっシゲさん(斑目の愛称)とクッチー先輩が2人っきりで…」 豪田「前々から怪しいとは思ってたけど」 2人揃って赤面する。 荻上「(顔の前で掌をヒラヒラさせて)怪しくない怪しくない」 彼女のヤオイ妄想にクッチーの入る余地は無かった。 荻上会長は桟橋の方に向かった。 護衛するかのように、浅田、岸野、豪田、巴の4人も付いて行く。 近付くに連れて、向こうから「にょにょにょ~!」という聞き慣れた絶叫が聞こえてくる。 荻上「何やってんだか…」 桟橋の向こう側も砂浜だった。 だがすぐ沖が深いらしく、遊泳禁止区域になっていた。 だから当然海水浴客はいない。 その砂浜で、クッチーはサッカーボールを蹴っていた。 ちなみに下は海パンだが、上は袖のちぎれたTシャツという格好だ。 大波が来るのを待って、その波に向かってボールをぶつけるように裸足の足で蹴る。 当然ボールは波の壁に押し返される。 そしてシュートの直後、1本足になっているクッチーは波を被ってひっくり返る。 そこで竹刀を持った斑目が砂浜を叩き、檄を飛ばす。 「どうした朽木君!そんなことではブラジルゴールは割れんぞ!」 ちなみに斑目は、海パンにゴム草履のラフなスタイルだ。 外回りの仕事が増えて元々日焼けしてるせいか、今回は以前のように日焼けにはこだわっていないようだ。 その足元には、数個のサッカーボールが転がっていた。 クッチーは急いで立ち上がり、海岸線から5メートルほど離れる。 そして大波の到来に合わせて、海岸線沿いに斑目がボールを蹴り出す。 そのフォームが不思議とさまになっている。 案外少年時代はサッカー経験があるのかも知れない。 あるいは「キャプ翼」に影響されて、1人でリフティングやドリブルの練習をしていた口かも知れない。 スピードは無いが、クッチーの前方5メートルの地点にボールはピタリと止まる。 そこでクッチーは「にょにょにょ~!」と奇声を上げつつボールに突進する。 クッチーは走るのが遅い。 足を出す角度やリズムが微妙におかしいので、消費したエネルギーに見合う距離や速度が生じない。 案の定、走ってきた勢いの殆どは、ボールの前に着いた時には消えている。 これでは何の為に走り込んで来るのか分からない。 そして大波に向かってシュート。 空手をやっているだけあってキック力はなかなかのもので、意外とそのシュートは速く威力はありそうだ。 だがそれでも、さすがに大波を突き破るまでは行かない。 そしてボールは再び海岸に帰ってくる。 斑目はそれを小まめに拾って集め、またパスを出してやるという流れだ。 荻上会長たち5人は、そんな様子をしばし呆然と眺めた。 大体何をやってるかは見れば分かるが、それでも荻上会長は2人に近付いて訊いた。 「何やってるんすか、こんなとこで?」 朽木「おお荻チン、見ての通りタイガーショットの特訓だにょー」 荻上「海水浴場でやらないで下さい!」 朽木「何をおっしゃる!荻チンは日本が予選リーグで負けて悔しくないのかにょー?」 荻上「???」 朽木「4年後の南アフリカでは、僕チンが仇を討つにょー!」 どうやらクッチー、すっかりワールドカップ熱にやられたらしい。 走るのが遅く長時間走るスタミナの無いクッチーが考えたワールドカップ対策とは、強力な必殺シュートを身に付ければいいという単純な結論だった。 朽木「僕チンは常に相手ゴール前に待機し、残り全員で守る。これならあまり走らないで済むし、守備は完璧だにょー」 荻上「で、斑目さんまで何故?」 斑目「1年の子たち、出来るだけ自由に遊ばしてやりたいからさあ。俺はどちみち泳げんから、今日は朽木君に付き合うよ」 荻上会長は悪いと思いつつも任せることにした。 荻上「…それじゃあお願いします。お昼になったら戻って下さいね『何で4年生の方が1年生より手間かかるのよ』」 立ち去る荻上会長の背中に、竹刀で地面を叩く音と共に「こら立てクッチー!そんなことではアジア予選すら勝ち抜けんぞ!」という斑目の叫びが聞こえてきた。 どうやら彼もいつの間にかノリノリのようだ。 海でタイガーショットの特訓というのは、男オタの琴線に触れるものがあるらしい。 4人のところに戻ると、相変わらず呆然としていた。 ただ、巴だけは何か考え込んでいるように見えた。 荻上「さあ戻りましょう」 みんな呆れているだろうなと思い、敢えて何も言わずに戻ろうとする荻上会長。 4人は彼女に続いて歩き出したが、意外な感想を述べた。 岸野「朽木先輩って、凄いっすね」 荻上「えっ?」 岸野「いや普通ああいう特訓って、4年生なら後輩にやらせるでしょう?それを自分でやっちゃうんだからなあ。なかなか出来ることじゃないっすよ」 荻上「いや普通やらないって」 浅田「そうでもないっすよ。うちの高校のOBに、やたらと後輩に特訓やらせる人が居ましたよ」 豪田「特訓って、何の?」 浅田「千本ノックとか、マラソンとか…」 岸野「あと毛布に包まって階段を転がり落ちる特訓もあったな」 豪田「…あんたらって確か写真部だったよね?」 浅田「そういう写真部だったんだよ」 岸野「まあ、あれはあれで楽しかったけど」 豪田・荻上「…(2人の意外な体育会系体質に声も出ない)」 突如、巴がクッチーたちの居た方に戻り始める。 荻上「どしたの?」 巴「ちょっと気になることがあるんで…」 豪田「何すんのよ?」 巴「すぐ戻るから、先戻ってて」 走り出す巴。 その後巴は、昼飯の直前まで戻らなかった。 昼飯の時間になり、再び全員集合する。 野外調理用の大型コンロを3台並べ、田中・大野コンビが次々と肉や野菜を焼き、1年生たちは恐縮しつつも次々とたいらげる。 神田「すいません、何か食事係にしちゃって。代わりましょうか?」 田中「いいよいいよ、俺らも焼きながら適当に食ってるから」 大野「そうですよ、さあみんな、遠慮しないで食べてね。あっ朽木君、その海老まだ早いから置いといて。肉先に食べちゃって」 朽木「イエッサー!」 田中「伊藤君、魚ばっかり食わないで野菜も食べて」 伊藤「はいニャー」 どうやら鍋奉行ならぬバーベキュー奉行を楽しんでいるようだ。 食事が終わると、デザート代わりとばかりにスイカ割りを始める。 わざとやっているのか、バットを持って海に入っていく者や、みんなの居る方にやって来る者などの爆笑シーンも交えて、次々とスイカが割られていく。 ただ最後の1個を、巴が怪力で木っ端微塵にしてしまい、しかも金属バットをくの字に曲げてしまった時だけは、一同ドン引きした。 さらに彼女のお詫びのひと言が、追い討ちをかけて場の空気を凍り付かせた。 「ごめん、手加減したんだけど…」 全力でフルスイングでやってたら、どうなったことやら… 午後になると、一部例外を除いて各自ポジション総入れ替え状態になった。 さすがに泳ぎ疲れたか、巴と豪田は日光浴を始める。 クッチーは再び必殺シュートを身に付けるべく、桟橋の向こうへ特訓に出掛ける。 さすがにクッチーの相手に疲れたらしく、斑目は助手役を伊藤と有吉に任せる。 荻上「あの2人ですか?大丈夫かなあ」 斑目「2人居ればボール拾いとパスを分業出来るから、さほど疲れないと思うよ。それにさあ…」 荻上「それに?」 斑目「午前中に巴さんが朽木君の走るフォームいじってたから、だいぶマシな走り方になったよ。だからタイガーショットとまでは行かないまでも、けっこう満足出来るシュートが打てるんじゃないかな」 荻上「巴さんが?」 斑目「凄かったよ巴さん。仮にも先輩相手にビシビシしごくんだもんな」 荻上「それを我慢出来たんなら、朽木先輩も丸くなったもんですね」 斑目「彼は割とマゾっ気あるから、女性に命令されるの好きなんだよ。巴さんのことも『監督』とか呼んで敬語使ってたし」 荻上「…仮にも4年生が1年生相手に監督って」 斑目「もっとも最後の方はトモカンって呼んでたけどね」 荻上「トモカン?」 斑目「巴監督の略らしいよ」 荻上「相変わらず、人を勝手な愛称で呼ぶのが好きな人だなあ」 呆れる荻上会長を背に、斑目は浅田と岸野のデジカメを握って歩き出す。 写真係2人は、午後からはボートで沖に出るのだ。 2人と一緒に乗るのは恵子と沢田だ。 ちなみに太陽光線に弱い沢田は、麦藁帽子に加えてサングラス装着という重装備だ。 台場、神田、日垣、国松はビーチバレーに興じる。 大野さんと田中は、また今年も砂の城を作っている。 どうやら「ハウルの動く城」らしい。 呆れるほど細かく、よくもまあ砂でここまで作れるものだと見る者を感心させる。 そんな様子をボンヤリと見ていた荻上会長に気を使ったのか、ビーチバレー組はひと区切り付けて彼女を泳ぎに誘った。 神田「会長、せっかく来たんだから少し泳ぎませんか?」 台場「そうですよ荻様。失礼ですが、ひょっとして泳げないんですか?」 荻上「泳げないことはないけど、私肌弱いから日焼けが…」 国松「曇ってきたから今ならそんなに焼けないですよ」 荻上「それに私、あんまし遠くまでは泳げないし…」 日垣「みんなも付いてるし、浅瀬で浮き輪持って行けば大丈夫ですよ。」 何時の間にか起きた豪田と巴が突進して来た。 豪田・巴「荻様~私も参ります~!」 荻上「ちょっ!ちょっと待…」 まるで捕獲した宇宙人を連行するように、荻上会長の腕を持って海に向かう巴と豪田。 日垣「おーいちょっと、浮き輪浮き輪!(浮き輪を持って追う)」 あとの3人も追おうとするが、荷物番に想定していた2人が行ってしまったので迷う。 3人の背後から不意に声がかかる。 斑目「行っといでよ」 驚く3人。 神田「シゲさん!」 台場「いつ戻られたんです?」 斑目「今さっきだよ」 どうも現視研というところは、長く居座ると気配を消す術を自然に覚えるらしい。 斑目「そんなことより行っといでよ。荷物は俺が見てるからさ」 天然ボケの気のある国松は、素直に好意に甘えた。 国松「ありがとう、シゲさん!」 神田・台場「すいません、お願いします」 2人もそれに続く。 そんな調子で、泳ぐ予定の無かった荻上会長も少しだけ泳いだ。 日垣の言う通り、彼女が小柄であまり泳ぎが得意でないことを考慮して、浮き輪装着の上であまり沖まで行かずに浅瀬で泳いだ。 幸い午後はずっと曇っていたので、太陽光線をあまり気にすることなく海水浴を楽しめた。 沖に出てたボート組も合流し、終盤にはかなり賑やかな状況になった。 波打ち際では砂の城作りを終えた田中と大野さんが、元写真部コンビのデジカメを借りてその様子を撮影していた。 (田中は自分のカメラは持って来てたが、殆ど大野さんの撮影に使い切ってしまった) みんなの楽しそうな笑顔を見て、荻上会長は内心ひと安心していた。 『夏コミのネタ論争の時は、ちょっと険悪な空気になったけど、みんな基本的には仲良しだから何とかなりそうね』 そろそろ帰りの時間が近付いてきた頃、桟橋の向こうから「にょにょにょ~!!!」という絶叫が轟いた。 先程までに比べ、格段に声が大きい。 絶叫に続いて、何かを吹き飛ばすような音と、何かが風を切る音が轟く。 次の瞬間、桟橋の先から沖に向かって、何かが高速で飛んで行くのが見えた。 その「何か」は沖に浮ぶ漁船の甲板に飛び込み、微かにガラスの割れる音が響いた。 どうやら窓ガラスを割ったらしい。 荻上会長が双眼鏡を向けてみると、船室からサッカーボールを抱えた漁師さんが出て来て、周囲を見渡して首をかしげていた。 急いで桟橋の向こうに向かう現視研一同。 途中で青い顔をした有吉と伊藤に会った。 有吉「あっ会長!」 伊藤「たいへんですニャー」 荻上「何があったの?」 桟橋の向こうに着くと、クッチーが寝っ転がっていた。 彼の足元の砂浜には、長さ30センチほどの深い溝が掘られていた。 荻上「朽木先輩、何があったんですか?」 朽木「おう荻チン、遂に必殺シュートが完成したにょー」 荻上「タイガーショットをですか?」 朽木「いやそれが、僕チンのサッカーセンスが凄過ぎて、一歩先を行ってしまったにょー」 荻上「どういうことです?」 有吉「朽木先輩、最後のシュート打つ時に軸足がカックンしちゃって…」 伊藤「それで思い切り砂浜蹴っちゃいましたニャー」 朽木「で、蹴り足が止まんなくてそのままシュートしたもんで、タイガーショットを完成させる予定が、雷獣シュートになっちゃったにょー」 こける一同。 朽木「でもねえ荻チン、やっぱり雷獣シュートが足首への負担が大きいってのは本当だったにょー。何かさっきから足首痛くて、上手く立てないにょー」 荻上「足首?(クッチーの足首を見て)ひへっ?」 青ざめる一同。 クッチーの右足は、爪先が後ろを向き、踵が前を向いていた。 朽木「やっぱちょっと挫いたかな?」 荻上「それどころじゃないです!思いっきり脱臼してます!」 朽木「にょ~!!!」 結局クッチーは、巴に怪力で足首の関節をはめてもらった。 幸い靭帯には損傷は無かったので、テーピングでガチガチに固めることで何とか歩けた。 つくづくタフな男である。 帰りの車の内の1台の車中にて。 運転手は沢田、助手席には恵子。 そして後部座席には巴、荻上会長、クッチーという面子だ。 恵子「いやー今日は楽しかったね、姉さん」 荻上「まあ最後のあれが無ければね」 朽木「いやー面目ないにょー」 沢田「クッチー先輩、大丈夫ですか?」 巴「靭帯はやってないみたいだから大丈夫よ」 朽木「いやートモカンのおかげで助かったにょー」 一同「トモカン?」 朽木「でももう雷獣シュートは、やめた方がよさそうですなあ」 荻上「当たり前です!」 恵子「まあまあ姉さん、それより夏コミ済んだらまた合宿やんねえ?」 沢田「あの去年軽井沢行ったってやつですか?」 巴「いいですねえ。あと冬もスキーなんかどうです?」 恵子「ほんとに体育会系になって来たな、現視研。どう、姉さん?」 荻上「夏は恵子さんに任せます。冬の方は冬コミが当選するかによるけど、多分正月明けてからですね」 朽木「雪山で修行ですか。よし、今度はイーグルショットの特訓ですにょー」 一同「全然懲りてねえな…」
https://w.atwiki.jp/orirowa2014/pages/89.html
プロフィール 【名前】オデット 【性別】女 【年齢】1900 【職業】魔族 【特徴】金髪赤目の美人だが、痩せ気味 山羊の様な黒い巻角が頭の横から生えているが、普段はフードを被って隠している。 【好き】歌、お洒落、月光浴 【嫌い】戦、強い日光、食事 【特技】魔法、魔眼での幻影 【趣味】歌、花占い 【詳細】 高位の魔族の娘。現在は放浪中の身。『人喰らいの呪』という呪いをかけられている。 かつて魔王軍の幹部であった父は人間に情を移し、少なくない人間を庇ってしまった為、反逆者として処刑される。 娘のオデットは死こそ免れたが、死よりも厳しい罰として魔王に呪いをかけられ放逐された。 穏やかで人見知りが強く争いを好まない性格。人間だろうと魔族だろうと差別しない。しかし呪いにより、大抵の場合飢えに喘いでいる。 【備考】 人喰らいの呪:人間の血肉でしか飢えや渇きを満たせなくなる呪い。 死体でも多少は腹は膨れるが、生きたまま食べるのが一番飢えを満たせる。 他キャラとの関係 カウレス・ランファルト 魔王を倒す為の手助けをしているが、魔族だということは知られていない ミリア・ランファルト カウレスの妹。面識があるかは不明 ガルバイン 面識有り。魔王軍の反逆者として処刑された父親の部下であり、片想いをされている ディウス 呪いをかけた張本人と思われる 暗黒騎士 魔王の側近。面識がある可能性が高い 13.尾関裕司 参加者名簿 15.音ノ宮・亜理子
https://w.atwiki.jp/ssdmset2/pages/93.html
第2試合SSその2 地獄への道は善意で舗装されている 四月の入りにしては冷え込む夜だった。 朝木水仙は微睡みかかった意識の中で、大鋸草菊の事を考えていた。あの日、あの月の夜の事を。普段の彼女からは到底考えられない、圧倒的な暴力で不良たちを蹂躙する草菊の姿は、今も瞼の裏に鮮烈に焼き付いている。か細い月光が鮮血に照り、哄笑を上げる草菊の狂気をいや増しているように見えた。怒号と悲鳴、恐怖と混乱が入り混じったあの場で、ただ草菊だけが美しかった。 月の女神のようだ――とはその時抱いた少々気恥ずかしい感想だが、今から考えてみてもそれ以上に適切な形容は思い浮かばない。全身を赤く染め、踊るように破壊を撒き散らしながら陶然と微笑(わら)う少女の姿は侵し難く神聖だったが、不思議と恐ろしいとは感じなかった。出来るならば、そのダンスをずっと見ていたいとさえ思った。詰まる所、水仙はその時点で、大鋸草菊という少女にどうしようもなく魅了されていたのだ。 「水仙」 隣に横たわる草菊が小さく呟いた。水仙は布団の中で身動ぎして草菊へ顔を向ける。一人で寝るには少し広く感じるベッドも二人が入るとやや手狭だが、それを不快に感じる事は無い。 「ん……どうしたのくーちゃん」 「まだ起きていましたか。良ければ少しお話をしようかと」 「うん、私は大丈夫だけど……寝付けないの?」 「ええ、まあ」 草菊が困ったように微笑する。彼女でもやはり緊張するのだろうか、と水仙は思索した。 そもそも何故今二人が同衾しているのかといえば、草菊から『無色の夢』とそのルールに関する話を聞かされた時、水仙が「自宅で眠るのは危険じゃないか」と言い出したのがきっかけである。ルール上、『無色の夢』が始まる前に定められた対戦相手を排除してしまえば不戦勝となる為に、闇討ちをかけられる可能性は否定できなかった。無論、たかが瑞夢を見たいが為に殺人を犯すなど割りに合わない話であるし、夢の相手があの優等生で知られる百舌川清音だと言えば尚の事考えにくい。この話も実際の所、『無色の夢』にかこつけてお泊り会をしたかったというのが本音である。その胸の内を知ってか知らずか、草菊はいつも通りの穏やかな笑みで「水仙が構わないのならお邪魔しましょう」と提案を受け入れたのだった。 「くーちゃんも、怖いと思う事ってある?」 「私だって人並みに恐怖心はありますよ。ただ――」 ただ、あの血の香を全身に浴びる昂揚を思えば、ほんの些細なものに感じてしまうだけで。 草菊には対魔人戦闘の経験が無い。ちょっかいをかけてきた街の不良ややくざ紛いのチンピラを相手にする事はあれど、その中に魔人は居なかっし、自ら進んで喧嘩を吹っ掛けようとも思わなかった。草菊はあくまで無辜の女生徒であり、その立場が彼女の武器の一つでもあったからだ。ならず者どもにとっては格好の餌であり、暴力沙汰になっても社会的に擁護され易い。一見か弱い少女とチンピラでは、誰しも心理的に前者を庇いたくなる。専守防衛に徹してきたのもその為だ。 しかし、最近になって新たな悩みが生まれた。飽きてきたのだ。ゲームにおいてチートコードを使ってかつて苦戦した敵を一方的に蹂躙するのは楽しいが、すぐに飽きてしまうのと同じように。まして草菊は初めからチートを使用していたのだから、このような事態は時間の問題であったといえよう。加えて近頃はちょっかいをかけられる機会も減ったように思う。柄の悪い男が草菊の顔を見るなりそさくさと場を立ち去る事も度々あった。 だから、今回の『無色の夢』は降って湧いた僥倖だった。安全かつ確実に魔人と戦う事が出来て、もし負けても悪夢を見るだけで死の危険は無い。これ程都合の良い状況がセッティングされる事など、今後の人生においてあるかどうか。 勿論、魔人同士の戦いに絶対は存在しない。が、夢で告げられた相手はあの百舌川清音だという。草菊が好むのは戦闘ではなく蹂躙と鮮血であり、そういった意味で彼女は絶好の獲物と言えた。気立てが良く万人から好かれるという百舌川を力任せに組み伏せ、殴り付けた時の表情を想像するだけで、身体の芯に火が灯ったように熱くなる。泣き叫んで命乞いをする少女の返り血はどんな味がするのだろうか。いや、降参されてはそこで終わってしまうから、先に喉を潰した方がいいかもしれない。いずれにせよこれ程楽しい憂さ晴らしは他にあるまい。草菊の本性を知られる事も問題は無い。 口止めの方法は嫌という程知っている。 「――今はむしろ、遠足前日の小学生、という気分ですね」 「あははっ、なにそれ」 水仙はひとしきりくすくすと笑って、それから不意に真顔になった。彼女の手が布団の中でもそもそと動き、細い指が草菊の手に触れた。 「……本当を言うとね、私はちょっと心配だよ。あの百舌川さんの噂、くーちゃんも知ってるでしょ」 「ええ、少なくとも一年生の中で知らない人は居ないでしょう。1-Cの“石棺”事件を」 それは今回唯一の懸念材料と言えた。草菊たちも始めて知った事だが、『無色の夢』に選ばれた以上、百舌川は魔人である。かねてより噂されていた事ではあるが、それが現実であると知ると、かの“石棺”事件の真犯人が百舌川であるという話もかなり現実味を帯びてくる。彼女の存在に関して政府筋の人間が絡んでいるなどという噂もあるが、それも一笑に付す事が憚られるだけの説得力がある。数名の生徒を残してでも教室を封鎖しなければならなかった理由。異常なまでに迅速な事後処理。見覚えの無い黒服たちが校内を出入りしていたのもその時期だ。そして百舌川清音は、1-Cから最後に脱出してきた生徒である。 「でも、大丈夫ですよ。結局は夢ですから、負けた所で死ぬ事もありません」 「うん……そうなんだけどさ」 「……優しいですね、水仙は」 少女の表情は冴えない。例え夢の中であっても、草菊が傷ついたり苦しんだりする所を想像すると胸が痛むのだろう。草菊は水仙の手をそっと握り返し、子供をあやすように努めて穏やかな声で言った。 「水仙、私の友達で居てくれてありがとう。あの夜、貴方は私の本当の姿を見てもずっと一緒に居てくれた。私にとってかけがえの無い存在です」 「くーちゃん……」 水仙は一瞬驚いたような表情を浮かべ、すぐにはにかんだように笑った。彼女もまた草菊の手をぎゅっと握り返した。 「こっちこそ、あの時助けてくれてありがとう。くーちゃんが居なかったら、私は今こんな風に過ごせてなかったと思う。……それに、あの夜のくーちゃんはなんていうか、その――」 「……?なんですか?」 「……すごく、綺麗だったから」 薄暗闇の室内でも見て取れる程顔を赤くして、水仙はぽつりと呟くように言った。一瞬呆気に取られたように小さく口を開けた草菊は、一瞬の間を置いてくつくつと笑い始めた。 「あっ!ひどい、今言っててめちゃくちゃ恥ずかしかったのに!」 「いえ、違うんです水仙。私はこんなに幸せで良いのかなと思っただけですから。こんな理解者を得られるなんて、考えても居なかったから」 自分のこの性分は生まれ持った性だ。誰に恥じる事も無いし、誰に理解して貰うつもりも無かった。それがこうして何を隠す事も無く話し合える友を持てるなんて、まったく恵まれ過ぎている――そう思うと、お腹の底から笑えて仕方が無かった。無敵にでもなった気分だ。 「お陰でリラックス出来ました。さあ、そろそろ寝てしまいましょう」 「……うん、気を付けてねくーちゃん。起きたら夢の話、たっぷり聞かせてね」 「ええ、勿論。では、お休みなさい」 「うん、おやすみ」 握り合った手と互いの呼吸に集中すると、泥濘へ沈み込んでいくような感覚と共に、草菊の意識は夢の世界へと旅立った。 春風も穏やかな野山は一面桜色に染まっていた。緑の生い茂る地面へ目を向ければ、ツクシやヨモギ、フキノトウなどが芽吹いている。空はどこまでも青く、遠くにぽつぽつとはぐれ雲が浮かんでいた。ここが戦地で無ければ、日当たりの良い場所で日光浴でもしたくなるような陽気だった。 戦闘領域は一キロ四方と然程広くは無いが、木々に阻まれて視界が利かない。遭遇戦を覚悟すべきだろう。草菊は迅速に行動を開始した。全身に緊張を漲らせ、可能な限り気配を絶ち、音を立てぬよう草木を避けて進む。周囲に人影は無いか。罠は張られていないか。警戒し過ぎるという事は無い。 やがて草菊は森の中に拓けた空き地のような場所を視認した。広さはおよそ半径10メートルといった所か。中央には立派な桜の古木が満開の花を咲かせている。その根本には、見覚えのある少女が一人。間違いない――あれが百舌川清音だ。少女は広げたシートの上で、鼻歌交じりに風呂敷を解いている。中から現れたのは立派な重箱だ。 「(――何をしているんだろう)」 茂みに身を潜めながら草菊は思案した。パッと見では花見の準備をしているとしか思えない。夢の中とはいえ、リアルな感覚を伴う殺し合いの最中で、花見。お人好しの優等生という風評が真実ならば、本当に脳みそまでお花畑の平和主義者なのか、はたまた何らかの意図あっての行動か。草菊は判断に迷った。そもそも彼女の目的は愉しむ事である。後ろから殴りかかってお仕舞い、というのではあまりに味気ない。出来得る限り嗜好を満たす為のお膳立てがしたい―― そうした欲求が、草菊に奇襲を躊躇わせていた。 異変を感じたのは百舌川が魔法瓶から何かを注ぎ出した時だった。液体がコップに注がれると同時に、周囲が青白い光に包まれた。木々の桜も草の碧も、幻想的な青光に照らし出された。それは緊張を維持していた草菊でさえ、一瞬見惚れてしまう程の美しい光景だった。しかし同時に感じる、全身が泡立つような悪寒。草菊は知らず頬を流れ落ちた汗を拭い、それに気付いた。手の甲にぬるりとした感触。見ればべっとりと血に濡れている。鼻血だ。ほぼ同時に地面が傾くような感覚。呼吸が荒い。鼓動はいつからこんなに早くなっていた?頭痛も気のせいでは済まない域に達しつつある。これらの症状に関して、草菊は一つの心当たりがあった。数年前の大震災の折、大騒ぎになった原発事故。それをきっかけに調べた知識が、今になって警鐘を鳴らしている。青白い光。1-C石棺事件。百舌川清音。これらは一つの答えを指し示しているのではないか。 「(急性放射線障害……!)」 人類が原子力という力の存在を発見し、開発する途上において、幾人もの命を奪ってきた光がある。荷電粒子が物質中の光速度を超えた際に発生する光子の衝撃波。人類はその青光を発見者の名を取り、チェレンコフ光と名付けた。 原子の光は見えず匂わず、知覚不能の刃となって草菊の遺伝子を刺し貫いた。 ようやく合点が行った。何故1-Cが封印されたのか、何故百舌川があの光に曝されながら平然としているのか。百舌川の能力とは、放射能を作り出す事なのだ。そして自身はそれに耐性を持つ。強力な爆弾を起動しておきながら、自分は無傷のままで居られる。これ程強力な能力もそうはあるまい。草菊は対応を迫られた。 「(恐らく既に致死量の放射線を浴びている。長期戦は自滅するだけ、かといって接近してもいつ動けなくなるか分からない……)」 放射線を一つの毒として見た場合、即効性は薄い部類に入る。人体を即死に至らしめるには数千から数万シーベルトという膨大な出力が必要なのだ。しかるに、あの光を目撃して数分も経たない内にこの病状。相当な高線量が撒き散らされている事は疑う余地も無い。因みに一般的な人間の致死量は7シーベルトと言われている。草菊と百舌川との距離は約20メートル。それだけの間合いがあってこの有様なのだ、間近で被爆すればこんなものでは済むまい。草菊の取った選択はシンプルだった。足元の石を数個拾って投げる。ただそれだけだ。 「――ッああ!」 すんでの所で飛翔音に気付き身を伏せた百舌川だが、音速に迫る飛礫はその背中を裂いて地面を抉った。投石の意義は百舌川への牽制と、脅威の根源たる魔法瓶の排除だ。礫の一つが魔法瓶を撃ち、吹き飛ばされたそれは重力に従って坂道を転がり、やがて淡い光の欠片も見えなくなった。そうして草菊はすっくと立ち上がり、ふらつく足に鞭打ちながら百舌川の元へ歩を進める。あの女だけは、自分の手で殴らなければ気が済まない。 「……待って大鋸さん!私は争いたくないんです!」 草菊の姿を認めると、百舌川は身を起こしてそう言い放った。どの口が言うのか。 「私はただ、お花見しながら二人で話し合えば平和的に解決出来ると思って……!」 「善人ぶるのもそこまで行くと賞賛に値しますね」 そも鼻血を流しながら酩酊したように歩く女生徒に言う台詞では無い。逆に挑発しているのかと疑いたくなる程だ。草菊は聞く耳など持たず、ただ感情に任せて思い切り拳を振るった。弾丸のような速度で放たれた拳打は、咄嗟に身をかわした百舌川の左肘から先をもぎ取り、勢い余って地面に激突した。衝撃は地に穴を穿ち、振動が木々を伝って桜吹雪を巻き起こした。百舌川は肘先から血の螺旋を描いて地面に倒れ込み、か細いうめき声を上げた。草菊の待ちわびた、少女の血の香り。 「アアアアアアアアーッ!!!!」 おにぎり(と百舌川が称する七色に変色するペースト状の何か)が詰まった重箱の蓋が開いていた。先の草菊の一撃が地面を揺らした衝撃で、パンドラの蓋が開いてしまった。草菊は代償として、脳の臭球を直接ブン殴られるような激烈な悪臭に耐えなければならなかった。繰り返すが、おにぎりである。母の味の原点たるおにぎりだ。何処の世界のおにぎりが周辺に居る生物の嗅覚を無差別かつ恒久的に破壊し得るというのか。全国のお母さんに謝って欲しい。 「大鋸……さん!」 百舌川は痛みを噛み殺し、精力を振り絞って体を起こした。完璧な美少女たる彼女は困っている人間を見過ごす事は出来ない。咄嗟にハーブティー(と百舌川が呼ぶエメラルドグリーンに輝く粉状の何か)の入ったポットを掴み、介抱を試みる。 「こ、これ……カモミールが入ってるんです。鎮静作用が……」 「アアアアーッ!!アアアアアアアアーッ!!!!」 痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い!痛み以外の感覚が無い!全身の臓器と骨から棘が生えてきたように思える。草菊は薄れ行く意識の中でハーブティーという言葉が聞き間違いである事を願った。世界中の茶葉製造に携わる人々への侮辱に他ならないからだ。だと言うのにこの馬鹿野郎はハーブティーと連呼する事を止めない。草菊はありったけの気力をかき集めて動いた。一ミリどこかを動かすだけで気絶しそうな程痛い。この状態で全力を出せばそれで死んでしまえる程に痛い。だからそれで良い。彼女の魔人能力『生命賛歌(ライフ・イズ・ビューティフル)』は、彼女自身の行動では何をしても誰も殺すことが出来ない能力だ。それは自分自身においても例外では無い。死んでしまうと本気で思えるならば、絶対に死ぬ事は無いのだ。百舌川の首を掴み、坂道を転がり落ちて、頃合いを見計らい戦闘領域外に投げ出す。それで終わる筈だった。涙で霞む視界の中でかろうじて狙いを定め、草菊が百舌川へ伸ばした腕を、百舌川では無い誰かの手が突かんだ。 「え」 思考が現実に追いつかない。この手は誰のものだ。この死人のように冷たい手は。 草菊は手の主を見やった。白い肌に死斑めいて青い血管が浮き出ている。どうやらそれは、残る一つの重箱から半身を出していた。 「ひ」 悲鳴が形となる前に、無数の腕が草菊を捕捉する。引き寄せられる。引きずり込まれる。腕を。首を、顎を、頭を掴まれている。一切の自由を許されぬまま、草菊は重箱の中へと誘われた。視界が暗転する間際に映った顔には覚えがあった。封印された1-Cの生徒。平本と言ったか。何故と思う間も無く、草菊の意識はそこで途絶えた。 完璧なる美少女、百舌川清音。料理とは料理単品で成立するのでは無い。それを食べる人間が居て、初めて料理は料理足り得る。即ち、人もまた料理の一部。しかるに1-C生徒の面々も、彼女の料理を構成する、無くてはならない要素の一。百舌川の手料理に彼らが現出するのは最早必然であった。 「おはよう!」 鈴の音が転がるような声が教室に響く。遍く世界を照らす、柔らかな陽光を思わせる声色。 教室に居る者は、その一声で世界が色彩を取り戻したような感覚さえ覚えるだろう。 爽やかな小春の風が木々の緑を揺らし、授業前の憂鬱をも吹き飛ばすような。 枝葉に泊まる小鳥達は盛んに春を囀り、世界が今日も平和である事を謳う。 長閑で平穏な一日の始まりだ。 「ちょっと遅れちゃったけど……はい!バレンタインデーのプレゼントです!」 陽光を思わせる笑顔と共に、生徒たちにチョコクッキーを配る百舌川。教室はたちまち歓声に包まれた。感激の余り泣き出す生徒もちらほらと居る。 学年一の美少女たる百舌川の手料理にあり付けるとなれば、その反応も無理からぬ事だろう。 「うめえ!マジうめえよ百舌川!なんつーか、クッキー以上の味がする!」「お前、いきなり食ってんじゃねえよ!こういうのは家でじっくり味わうもんだろうが!」「つーか語彙が貧弱過ぎるよな。百舌川のお菓子を評価するならそれなりの品性ってもんをだな」「うるせえ!美味いもんは美味いんだよ!」 怒号と喧騒、そして笑顔。誰もが幸せそうに百舌川のクッキーを頬張っている。 「……あれ、モズ、泣いてる?」「えっ、マジ?花粉症?」「俺杉伐採してくるわ」 「え、あれ、なんでだろ、あはは、なんでだろう……」 皆が百舌川のお菓子を美味しそうに食べている。いつも通りの当たり前の日常。それなのに、こんなにも涙が溢れてくるのは何故だろう。何も珍しい事じゃないのに、こんなにも幸せな気持ちになるのは何故だろう。百舌川は理由も分からぬまま、ただ困ったように笑いながら。滂沱の涙を拭い続けた。 了
https://w.atwiki.jp/footringwore/pages/3.html
カウンター 今日 - 人 昨日 - 人 合計 - 人 現在-人が閲覧中。 更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/34801.html
登録日: 2016/07/17 Sun 05 30 45 更新日:2024/06/10 Mon 21 57 30 所要時間:約 8 分で読めます ▽タグ一覧 エログロ クトゥルフ ホラー 八房龍之助 宵闇眩燈草紙 漫画 隠れた名作 電撃大王 宵闇眩燈草紙とは月刊コミック電撃大王で連載されていた漫画作品。全7巻。 作者はスーパーロボット大戦OGのコミカライズ(これとかこれとか)の他、クソコラキモカワエネミー苦辛公主や鋳人などのメカニックデザインを担当している八房龍之助。 同作者の他作品と世界観を共有している。 概要 人間の業を感じさせる仄暗い伝奇モノの傍ら、マフィア同士のいざこざが起こったりクトゥルフな化け物が登場したり、果ては妖怪大戦争じみたガチバトルが勃発したり…といった様々なエピソードを描いている作品。 ストーリーテリングの前提として「主人公がいないこと」が意識されている。 メインキャラクターである京太郎、美津里、虎蔵の3人はあくまで狂言回しの駒であり、「その時書きたい話がどんなジャンルだろうと、この3人の誰かをメインに据えれば話が回るだろう」という計算の上で連載を始めたのだとか。 インチキぎりぎりの冴えない医者・京太郎が語り部になることが多い。 が、終盤の長編「シホイガン編」を筆頭に、京太郎が一切登場せず虎蔵だけが登場しているエピソードもある。 概要 登場人物メインキャラクター 複数のエピソードに登場するキャラクター 長編ストーリー寄群(よぐ)編あらすじ 登場人物 シホイガン編あらすじ 登場人物 登場人物 メインキャラクター 木下京太郎 「何かさ… お前等のそういう事するの見てると 真面目に生きてんのが馬鹿らしくなるよ」 後ろ暗いやり方で生計を立てているお幇間医者(お偉いさんの太鼓持ちをしながら稼ぐ医者)。 「医者ならば喰いっぱぐれることは無い」と医学を志したが、血を見るのが致命的なまでにダメだった事と医者は患者の命に責任を持たなくてはいけないという事に気が付き、それは絶対に嫌だという理由であっさりとドロップアウトした。要はヘタレ。 そんな半端者な為、医者としての腕も碌なものではない。お幇間医者に身をやつしているのはその腕のなさを誤魔化すためでもある。 金持ち以外の主な客筋が子を堕ろさせたい花街の関係者だったりヤのつく人だったりと、とうにカタギではないのだが妙に割りきれていない部分がある……が、そそのかされたとはいえ水子を干して潰して云々を実践してしまったことを思うにやっぱり普通じゃないかもしれない。 美津里たち超常的な能力の持ち主に複雑な思いを抱きつつも付き合い続けている。 虎蔵や美津里と違って人並みの良心は持っている。そのためゲストヒロインから助けを求められることが多い。それに対して「どうして異常事態に対処できる人間を頼らないのか」と鬱屈とすることも。 作者いわく「何だかんだ言って結局我が身かわいさが何を置いても先に立つ人間」。 長谷川虎蔵 「明日の朝日を拝む気のねぇ奴以外は退いて去れッ!! 永の無聊の慰みに そっ首引いて並べるぞ!!」 京太郎の屋敷に下宿している隻眼の男。 世界中の裏社会を渡り歩いており、複数の別名を持つ。 良く言えば風来坊、悪く言えばチンピラ。 ぱっと見20代に見えるが実は40才を過ぎているらしい。それにしては落ち着きが無いため、美津里からは馬鹿にされている。 五行八卦に能く通じ、忍術道術その他諸々を駆使して戦う。電撃系の術を好み、普段は巨大な数珠と刀を使うスタイル。 全力時は不具の片眼に封じた大団扇の力によってカラスのような翼が生える。 天候操作、主に嵐(低気圧)を得意とするが気の流れに影響されるため陰水や太陰などの風水上で相性の悪い気が満ちていると思うように操作ができない。 過去についてはあまり語られないが、おそらく天狗さらいの伝承が来歴のモデルになっている。本人いわく、元は農民の子なのだとか。 作者いわく「何しろ、とにかく、自分が一番。自分の機嫌、都合が優先する人間」。 人物モデルは天狗隠しに遭い、帰還したとされる実在人物「天狗小僧」寅吉、名前のモチーフは鬼平犯科帳主人公の長谷川平蔵と考えられる。 麻倉美津里(みつり) 「今すぐ一足飛びとはいかないが まずは半歩だ。 こっちへおいでな」 古道具屋「眩桃館」の女主人。年齢不詳。 奇妙な生物を小間使いとして使役していたり、店の敷地内に変なダンジョンがあったり、黄金の蜂蜜酒ならぬ外なる宇宙の蜂蜜を自分の利益のためだけに利用していたりetc…と得体の知れない女性。 元々はどこぞの魔術師の小間使い兼弟子であったが、師が「相手を喰う事でその力を得ることができる」と教えたため、師を食い殺して独立した。 その後、すったもんだの末に若返りの術を編み出してこの世界でも数名しかいない「魔法使い」に至った。 目的は、兎に角世界を眺めて楽しむ事であり、様々な事象をピーピングして(覗き見して)いる。 因果律の外にある存在で、下手に事象に関与すると揺り返しで自分が滅ぶ可能性があるため、1年の間にどれほど他者に関わってよいのか計算して行動している。が、結局の処面白いもの好きなためその計算分を超えて物事に関わり、火消や尻拭いに奔走することもしばしば。 どことなく某作品の女主人と似てるけど気にするな。つか発表順的にはこっちが数年先ry 作者いわく「兎に角自分が楽しければそれでいい人間」。 世界観を同じとする仙木の果実/塊根の花にも幾度となく登場するが、あちらでは「ワルプルギス」、「魔女」、「ソフィア(自称)」、「イリシャ」と呼び名が妙に多い。 複数のエピソードに登場するキャラクター 馬呑吐(マー・トンツー) 「人として生まれたからには 望み! 欲し! 焦燥に身を焦がし! 急流に揉まれる木ノ葉の如く千々に乱れるワタシの心ヨ 最喜極上の人生であろうがッ」 虎蔵と因縁のある長生者(エルダー)。凄腕の僵戸(キョウシ)使いにして幽棲道士。 悪役としては準レギュラー的存在で長めのエピソードは大体こいつが絡む。 800年を生きた大物吸精鬼で、自らの弱点を克服しワンランク上の生物になるために虎蔵の持つ宝具・太郎丸の大団扇を欲している。 素の技量は虎蔵よりも遥かに上で魔法使いのラスキンすら圧倒する程だが、術の性質につけ体術につけとにかく虎蔵とは相性が悪く、何度も返り討ちにあっている。 それでも虎蔵曰く「死ぬ気でやれば追っ払うくらいはできる」と言うぐらいで作中屈指の不死身キャラ。バラバラにして七海に撒こうが復活するし、消し飛んでも自分の体を骨格の材質選びからリビルドしたりする。 道士故に五行八卦はお手の物で、別の要因を加えることで自身の気を変化させる等の対策も練る。 不死者としては西欧のものよりも血統が段違いに古い真祖で、太陽や銀、ホーリーシンボル、その他不死者に有効と言われるものが通用せず、健康のために日光浴まで楽しむ。 吸血する事で吸血鬼の使徒として数を連鎖的に増やし、強敵にはさらに使徒を術で僵戸化して強化したり、深きものどもまで使徒化したりと無国籍くさい節操がない。 幽幻道士に封殺してもらうことぐらいしか始末する方法が無いが、それだけの力を持った道士は馬呑吐本人ぐらいという始末。 美津里に手を出すような怖いもの知らずは恐らくコイツぐらいだろう。 欲を捨てて成る尸解仙には成ろうとは思わず、どこまでも己の欲を満たすべく生きている。 悔恨の花では同じ顔と話し方の人物が阿片窟の主人として出てくるが同一人物かは不明。 林潤花(リン・ルンファ) 大陸系マフィアの女幹部。ショートカットで強気な美人。 どことなくポンコツ感漂うが、スパイとして組織に潜り込んでいた女の子を容赦なく拷問したり人身売買について「8ヶ月あれば出荷できるし元手もかからないから手軽」と言い切ったりきっちりマフィアやってます本当にありがとうございました。 メイン3人の中では虎蔵と縁がある。 金髪碧眼褐色の少女 寄群(よぐ)編以降に登場する。 京太郎の屋敷の下宿人その2。アクが強いキャラばかりのこの世界観において多分一番普通に可愛い女の子。 伏線をぶん投げられたまま作品終了したかもしれなかった人。 朱乃(あけの) 花街の妓。 事件解決に絡むことは少ないが、虎蔵が頻繁にしけ込んでいるため出番は多め。 ジャック・セトフォード・カーライル&ジュヌヴィエーブ・コトフォード 謎の青年とその助手。仙木の果実/塊根の花の主人公コンビ。 美津里と面識があり、いくつかのエピソードで顔出しする。 後述の寄群(よぐ)編にも主要陣営のひとつとして登場する。 長編ストーリー 一連の続き物として描かれたエピソード。 おおまかに「寄群(よぐ)編」と「シホイガン編」のふたつで、どちらもすさまじくスケールが大きい話になる。 最終的に「巨大ロボvs忍者vs神話生物vs妖怪vs虎蔵vs馬呑吐」みたいな顛末になる。本当に。 因縁深い虎蔵vs馬呑吐が主軸で、それに共闘や横槍が加わるスマブラ状態といったところ。下手にちょっかいを出して轢き殺されたような人もいたような気がする。 以前の話から再登場するキャラも多い。 寄群(よぐ)編 単行本3~4巻に収録されている。 ストーリーの下敷きになっているのはラヴクラフトの小説「インスマスの影」。 寄群…よぐ…… あとがきいわく、舞台となる漁村の名前は元ネタ小説に沿ったものにしたかったが当て字が思い付かなかったらしい。 あらすじ ある日、京太郎は患者からの依頼で寂れた漁村、寄群(よぐ)へ行くことになる。 奇しくも別口で同じ場所へ向かう虎蔵と美津里。 そこにはそれぞれの都合で動くいくつもの勢力が集まっていた。 事態は三つ巴とかそういうレベルじゃない大混戦へもつれこんでいくことになる。 登場人物 出海 公にできない物品を扱うオークションの主催者。魔女鼻。 寄群(よぐ)に住み着くある一族の眷属らしい。 河村 第壱巻の「汐曇り~汐溜り」にも登場した。 裏社会で活動するブローカー。 出海同様寄群(よぐ)に住み着くある一族の眷属で、高い忠誠心を持つ。 アーノルド・ラスキン 「我が偶神 クスィ・アンバー。 我が信念のかたちだ みくびるな」 異能のわざを使う老紳士。自らの正義感と信念によって行動している。 成り行きである女性を保護し、彼女の探し物に協力している内に寄群(よぐ)へ辿り着いた。 仙木の果実/塊根の花にも度々登場する、世界に数えるほどしか存在しない「魔法使い」の一人。 旧知の美津里の事は「魔女」と呼んで毛嫌いし、ジャックの体には封印(鍵)を付けた張本人。 八房氏の世界観に登場するキャラクターの中で多分一番正統派ヒーローっぽい。 切り札としてクスィ・アンバーという巨大ロボを召喚する。ちょうかっこいい。 笹森房八 「苦手な物とか都合の悪い事は 見ない事にしちゃうのも処世術じゃないですかね」 京太郎を寄群(よぐ)へ案内した壮年の男。 山登りが趣味で、一見気のいい性格に見える。 余談だが、事態を混乱させる元となったアタッシュケースの中身と成り行きは… ネタバレを表示する アタッシュケースの中身はそれぞれ、 特異な体質の少女 銃(サンダラー) 美津里によって受精させられた人魚(魚人)の卵 このうち少女は「馬がチベットの村を襲撃して捕獲→出海のオークションに出品→ジャック ジュネが落札→ジュネと虎蔵が一戦交えた際に銃(サンダラー)の入ったケースと取り違え→虎蔵たちが持ち歩く→京太郎の部屋へ」。 銃(サンダラー)は「オークションで虎蔵を連れた林が落札→ジュネと虎蔵が一戦交えた際に取り違え→銃(サンダラー)のケースを持っていたジャックたちの船が難破→流れ着いたケースを遺留品として房八が確保→房八と同室だった京太郎が虎蔵の持っていたケース(in少女)と渡し間違え→虎蔵(林)の元へ戻る(→五巻の「ならずものうみをわたる」→六巻シホイガン編へ)」。 人魚(魚人)の卵は「人魚の腹を切り裂いて取り出した卵を河村が何がしかの取引の上で入手→オークションに参加していた房八が卵の入ったアタッシュケースを美津里の依頼で入手→受精させた状態で美津里の店に保管→水気(五行の「水」)を得るため水子を欲した馬が美津里の店からケースを奪取、卵を体内に取り込む→馬の肉体を苗床に卵が成長→(水気を得たことで馬が虎蔵の雷を一時的に克服→)ラスキンが帝王切開(剣)」。 人魚の卵を受精させるには特殊な知識が必要なようで、卵が受精し育っていることを馬から知らされた河村は驚いていた。 馬としては体内に取り込んだ卵が育つことは想定外で、腹を食い破られる前に河村に対処法を尋ねようとしていた。 シホイガン編 単行本6~7巻に収録されている。 ストーリーの下敷きになっているのはボードゲーム「The Creatures that ate Sheboygan(シーボイガンを喰った怪獣)」。 あとがきいわく、シホイガンという街の基本情報と裏で蠢く陰謀のタイムスケジュールのみを設定し、そこから各キャラクターがどう動くかTRPG風にシミュレーションするという方法でストーリーを作ったらしい。 あらすじ 美津里の依頼でアメリカのシホイガンへ渡った虎蔵。 そこはある重要な秘密が隠された土地だった。 地元の紡績機メーカーに荷物を渡すだけだった仕事は、最終的に世界が変容するのどうのという大事件に発展していくことになる… 登場人物 ムーチー・マディガン 「チンピラの見せ場としちゃあ 格好良すぎるんでないかいアタシ」 愛称:ムチュ。虎蔵の知己の黒人。 銃を扱う軽いノリの男。 筋金入りのアウトローだが、何故かオリビアとマイケルを無頼漢から守っている。 漢その1。 オリビア ・ミルストン&マイケル カフェ・ミルストンを経営している母子。 オリビアは未婚の母。今でもマイケルの父親である男を愛している。 だが、その父親絡みで陰謀に巻き込まれることになった。 ピーター ガンスミスショップ・シノーラの店主。 気難しそうな厳つい老人。 複数の秘密がある。漢その2。 大澤操 第弐巻の「ひとかたの~おもいおもて」などにも登場した。 「人間よりも人形が好き」という少々特殊な精神性を持つお嬢さん。 美津里から頼まれたある仕事のためにシホイガンで働いている。 黄人載(ホワン・レンダイ) 第五巻の「ならずものうみをわたる」にも登場した。 操と何がしかの仕事をしている中国人。 実は……姿かたちを変えた虎蔵の宿敵、馬呑吐(マー・トンツー)その人である。 Mr.ビリー 第五巻の「ならずものうみをわたる」にも黄人載(ホワン・レンダイ)と共に登場した。 寄群編でも登場した銃、サンダラーに並々ならぬ執着を見せる。 かの有名な「ビリー」にしては年齢を重ねた姿だが…? ディズィ・ポートマン 美津里の依頼で虎蔵が荷物の受け渡しをしたストダート社の社長秘書。 おっぱいマシンガン。 神父 シホイガンで一番古い教会の神父。 行き場のない人間を信者として広く受け入れており、シスターたちからも慕われている。 敬虔な信仰者。 具体的な宗教名は出してないからセーフ。 熊 シホイガン編で遥か昔に異世界との膣口を通ってやってきた自然現象の性質を持つある生物を丸ごと呑み込んで超強化され人間からまた数歩遠ざかった虎蔵を 更 に 圧 倒 し た野生の熊。 凄まじいベアクローの使い手らしく、虎蔵は2週間ほど彼(?)の元で下働きしていた。別れ際に餞別としてハチノコをくれたナイスベア。 本編には登場せず、単行本の中書きにあるシホイガン編以降の虎蔵の足跡(の一部)に出てくる。 土下座している虎蔵の絵もあり妙に目を引く。 追記・修正は「吸ってくれる」の意味がわかってからお願いします。 △メニュー 項目変更 画像出典 「宵闇眩燈草紙 壱(197P)」著者:八房龍之介 発行所:株式会社メディアワークス 発売元:株式会社角川書店 刊行年:1999年 「宵闇眩燈草紙 弐(62P)」著者:八房龍之介 発行所:株式会社メディアワークス 発売元:株式会社角川書店 刊行年:2000年 「宵闇眩燈草紙 六(94P)」著者:八房龍之介 発行所:株式会社メディアワークス 発売元:株式会社角川書店 刊行年:2005年 「宵闇眩燈草紙 五(210P)」著者:八房龍之介 発行所:株式会社メディアワークス 発売元:株式会社角川書店 刊行年:2004年 「宵闇眩燈草紙 壱(74P)」著者:八房龍之介 発行所:株式会社メディアワークス 発売元:株式会社角川書店 刊行年:1999年 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] この作品が好きだから項目ができてうれしいです。 -- 名無しさん (2016-07-17 08 09 54) 作者がスパロボ書いてるし今の電撃大王には合わなさそうだから難しいとは思うが復活してほしい作品の一つ -- 名無しさん (2016-07-17 11 08 51) 地味に作者の名前間違ってたから直したよ。介じゃなくて助。 -- 名無しさん (2016-07-17 13 27 19) 寄群編最後の人外バトルロイヤルとか大好きだった、続き読みたい作品だよねえ -- 名無しさん (2016-07-17 17 15 51) まともな人間が出てきたら、後で死ぬか実はゲスだったかの2択フラグ・・・ -- 名無しさん (2016-07-17 17 58 02) ↑ら、ラスキンは正義漢だから…。低気圧モードのTRPG風説明を見るに、低気圧モードに長い時間なってるとヤバい感じなのかね虎蔵。 -- 名無しさん (2016-07-17 20 21 27) ↑低気圧の主を吸収した後にデブが言ってるが、本来は結構無茶な行為でありカイゾウニンジャ戦やその後を見る限り完全に制御できてないしよく寝るようになってる辺り、使いすぎて制御から外れると最低でも死ぬ。あとは低気圧の主が復活して大暴れの可能性も -- 名無しさん (2016-07-18 18 03 20) シホイガン編は神父の上司が好きだな、あの手のキャラって無残な最期なのにちゃっかり生き残って驚いた -- 名無しさん (2016-07-18 21 35 45) 麻倉屋さんってぜってーニャル様の無自覚な無貌の一体だよな -- 名無しさん (2016-11-30 06 41 09) 続きマダー? -- 名無しさん (2017-01-11 16 50 06) ほんと大好きな作品 -- 名無しさん (2017-01-13 00 12 01) 流石に低気圧モードは使ってないだろうけどそれでも一流の術師で体術もそれなりで空も飛べる虎蔵を圧倒とかやべぇな、熊 -- 名無しさん (2017-01-13 00 27 01) 足洗邸とブラックラグーン足して割ったようなテイスト -- 名無しさん (2017-05-26 17 28 15) 「吸ってくれる」の意味 てなんぞ -- 名無しさん (2022-10-10 23 48 04) 女キャラ可愛いけど作者がリョナ好きなのか殆ど悲惨な姿になって死ぬよね -- 名無しさん (2022-10-11 08 02 45) こういうとっ散らかった空気感の作品だいすき -- 名無しさん (2024-06-10 21 57 30) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/5369.html
作者:白兎 ※前編に虐待シーンはありません。 ※独自設定多数。 ある群れに、一匹の子ぱちゅりーがいた。 珍しいことではない。 ぱちゅりー種など、どの群れにも何匹かはいるものだ。 れいむ種やまりさ種と比べれば数が少ない、というだけのことである。 しかし、その子ぱちゅりーには、他のぱちゅりーと異なる点がいくつかあった。 まず、家族構成が変わっていた。 彼女の父親はぱちゅりーであり、その母親もまたぱちゅりーだった。 普通、ゆっくりは、同種間のすっきりを忌避する傾向にある。 それは、多くの動物たちがそうであるように、近親交配を避け、 少しでも遺伝子の多様性を維持しようとする本能的なものであった。 むろん、ゆっくりの場合は、遺伝子ではなく餡子なのであるが、事情は同じことだ。 なぜ両親ともにぱちゅりーなのか。 その答えは、この両親が子ぱちゅりーを産むにいたった経緯にある。 彼女の父親だったぱちゅりーは、生まれつき病弱で、 親友だった別のぱちゅりーにいつも面倒を見てもらっていた。 このもう一匹のぱちゅりーというのが、子ぱちゅりーの母親にあたる。 父ぱちゅりーは、ひとりで狩りをすることもできなかった。 だから、母ぱちゅりーは、父ぱちゅりーとともに冬を越そうと決心した。 つがいになるつもりはなかった。 正確に言えば、2匹は、一度もつがいになったことなどなかった。 その年の冬、稀に見る寒波が山を襲い、父ぱちゅりーは自分の死期を悟った。 食糧はまだ十分にあったが、気温の低下に体が耐えられなかったのである。 父ぱちゅりーは、親友の母ぱちゅりーに、とんでもないお願いをした。 ゆん生で一度でいい、すっきりしてみたいのだわ、と。 母ぱちゅりーは驚き、最初はそれを拒んだ。 ぱちゅりー同士が子を作るなど、聞いたことがなかったからだ。 2匹の間で、その話は無かったことにされた。 それから3日後、外はますます冷え込み、巣の中も真冬のような寒さに包まれた。 父ぱちゅりーがいよいよ衰弱していく中、母ぱちゅりーは突然つぶやいた。 すっきりしてもいいのだわ、と。 その夜、2匹は生まれて初めてのすっきりをし、父ぱちゅりーはそのまま息を引き取った。 永遠にゆっくりしてしまった父ぱちゅりーは、いかにもすっきりとした表情を浮かべていた。 母ぱちゅりーは、泣く泣くその死体に切り口を入れ、まだ温かい生クリームを取り出すと、 それを使って入り口の補強工事を始めた。 油脂をたっぷり含んだ生クリームは、グリセリンと同じように防寒剤となり、 巣の中はとても暖かくなった。 それはまるで、死んだ父ぱちゅりーと寄り添い合っているかのような、そんな温かさであった。 ゆっくりの中でも比較的賢いぱちゅりー種である。 出産方法などは、事前に話し合っておいた。 動物型にんっしん。厳しい冬を耐えるには、植物型にんっしんでは危険過ぎる。 小さな赤ゆっくりから育てていくのは、到底不可能に思えた。 しかし、動物型にんっしんでも、2匹、3匹と産まれては困る。 食糧などを勘案して、育てられるのは子ゆっくり1匹だけだ。 そこで、父ぱちゅりーと母ぱちゅりーは、巣の中の葉っぱで避妊具を作り、 それをぺにぺにに巻いて、精子餡の量を調整した。 人間の場合とは違い、赤ゆっくりの数は精子餡の量に比例する。 大量の精子餡を放出するれいぱーが母体の死に直結するのも、このためだ。 3週間後、ぷっくりと下顎を膨らませた母ぱちゅりーは、 巣の中でゆっくりラマーズ法を実践しながら、陣痛に苦しんでいた。 ゆっゆっふぅ、ゆっゆっふぅ、と白い息を吐く母ぱちゅりー。 そして、次第に割れ目が大きくなり、赤ゆっくりがじわじわと顔を出す。 自分の位置からは見えないが、母ぱちゅりーには我が子の動きがはっきりと分かった。 ぽん コルク栓を抜いたような音とともに、赤ゆっくりが産道から飛び出した。 木の葉や綿毛で作った毛布をクッションにして、地面にぶつかったときの衝撃を和らげる。 ふぅー、と大きく息を吐いた後、母ぱちゅりーは産まれたばかりの赤ゆっくりを見た。 それは、案の定と言うべきか当然と言うべきか、ぱちゅりー種であった。 「ゆっくりちていってね!」 元気よく挨拶する赤ぱちゅりー。 「ゆっくりしていってね。」 母ぱちゅりーの目に、すっと涙が流れた。 死んでしまった親友への涙か、それとも、母親になれたことの喜びか。 そんな母親の複雑な思いを、赤ぱちゅりーは知る由もなかった。 赤ぱちゅりーはとてもゆっくりした子で、2匹は何とかその冬を乗り越えることができた。 春が来て、山のほうぼうからゆっくりたちが顔を出す頃になると、 母ぱちゅりーも、入り口を塞いでいた木の枝や苔をはずし、 久々に見るお日様に向かって、ゆっくりー♪、と喜びの挨拶をした。 そして、皮となった親友の死体を埋め、そこにお墓を作った。 父親のことは、成長して子ぱちゅりーになった我が子にも内緒にしておいた。 ぱちゅりー同士の子だと知れれば、何をされるか分かったものではない。 だから、母ぱちゅりーは、仲間に尋ねられると、いつもこう答えた。 これは、一本杉の根元に住んでいた、まりさの娘だ、と。 一本杉のまりさは越冬中の雪崩に巻き込まれており、まさに死人に口無しであった。 そんな母ぱちゅりーが、我が子のおかしさに気付いたのは、 4月に入り、山桜がゆっくりと咲き始めた頃のことだった。 「おかあしゃん。ちょうちょしゃんがゆっくりとんでりゅよ。」 「ほんとだね。ちょうちょさんはとってもゆっくりしてるね。」 「ゆわーん!いちゃいよー!まりしゃおねえしゃんがいじめりゅー!」 「いじめちぇないのじぇ。ちょっとおふじぇけしただけなにょぜ。」 「らんぼうさんはだめだよ。いもうとはまだちいさいからゆっくりあそぼうね。」 野原の片隅で、花と虫に囲まれながら、日光浴を楽しむれいむ一家。 彼女のつがいだったはずのまりさは、もういない。 親れいむの話では、冬越しの間に風邪をひき、そのまま死んでしまったのだという。 親れいむは夫の死を乗り越え、形見のおちびちゃんたちを世話している。 だが、親ぱちゅりーは薄々勘付いていた。 彼らは、予定外のすっきりで冬籠り中ににんっしんしてしまい、食糧が足らず、 親まりさが自ら命を絶つことで家族を救ったのだ、と。 話をもとに戻そう。 親れいむのそばで遊ぶ子ゆっくりたちは、子ぱちゅりーと同じ早生まれ、 通称、冬生まれである。 親れいむの話からすると、産まれた時期もほぼ一緒のようだ。 ところが、その子ゆっくりたちは、子ぱちゅりーとは似ても似つかない。 いや、逆だ。子ぱちゅりーが、その子ゆっくりたちとは似ても似つかないのである。 「むきゅん。おかあさん、きょうもごほんをよんでほしいのだわ。」 「もちろんいいのだわ。ぱちぇはほんとにごほんがすきなのね。」 お分かりいただけただろうか。 この子ぱちゅりー、れいむ一家の子どもたちと違い、 何の問題もなく言葉を話せるようになっている。 これは、ぱちゅりー種だという事実だけでは説明がつかない現象だった。 まだ生後3ヶ月しか経っていないのである。 「このまどうしょによれば、ひとざとには、ちょこれーとでできたおしろがあるのだわ。」 子ぱちゅりーが持って来たのは、河原で拾った1枚のちらしだった。 大方、キャンプ客が、何かを包むために持参したのだろう。 ちらし一面に、甘い食べ物がところ狭しと並んでいた。 「むきゅん。おかあさん、そんなおしろがあるのかしら。」 子ぱちゅりーが、いぶかしげに尋ねた。 「どうしてうたがうのかしら?」 母ぱちゅりーは驚いた。 これまで、自分がごほんを読んでいるときに、口を挟まれたことがなかったからだ。 ゆっくり一般に言えることだが、文字に関するぱちゅ種の解釈は絶対なのである。 「むきゅん。ちょこれーとさんはあついとすぐにとけてしまうのだわ。 そんなものでおしろをつくったら、だれもすめないのだわ。」 ぱちゅ親子が住む群れは、一度も人間の里に下りたことがなかった。 それが最も安全な方法だと、先祖代々伝えられていたからだ。 しかし、近くの河原がキャンプに適しているため、 夏場には人間のほうから群れの近くへやって来ることがある。 そして、彼らの中には、ゴミを持って帰らない人たちもいる。 そのおかげで、チョコレートというお菓子も、群れのゆっくりたちにはよく知られていた。 とっても甘くてゆっくりできる、伝説のあまあまさんである。 親ぱちゅりーですら、それを口にしたことは一度しかない。 「でも、このまどうしょには、ちょこれーとのおしろがあるのだわ。」 親ぱちゅりーは、うねうねと動く髪の毛でちらしを指した。 「それはおしろじゃなくて、おしろのかたちをしたちょこれーとなのだわ。」 「むきゅん。そうかもしれないわね。」 親ぱちゅりーは思った。 この子は、てんっさいかもしれない。 それも、自信過剰なまりさ種がよく使うような意味ではない。 思えば、父ぱちゅりーも、病弱ではあったが、頭の回転は群れ一番だった。 それを知っているのは、世話をしていた母ぱちゅりーだけだったけれども。 「おかあさん、このしろいものはなんなのかしら?」 「むきゅん。それはね…。」 こうして、ぱちゅ親子は、今日もごほんを読みながら一日を過ごした。 6月。梅雨の訪れ。 今や子ぱちゅりーも半年の歳月を経て、子ゆっくりから大人ゆっくりになろうとしていた。 そして、その間の成長ぶりは、親ぱちゅりーの予想を遥かに上回るものだった。 「お母さん。ぱちゅは今日、面白いことに気付いたのだわ。」 子ぱちゅりーは、地面に木の枝で何かを書きながら、母親に話しかけた。 いつまでも降り続ける雨の中、子ぱちゅりーは、こうやって時間を過ごしている。 「どうしたのかしら。」 「むきゅん。3匹のまりさが、木の実を4つずつ拾ったら、何個になるのかしら。」 母ぱちゅりーも木の枝を取り、地面に式を書く。 4+4+4=12 「12個なのだわ。」 普通、ゆっくりの中で計算ができるのは、ぱちゅ種だけである。 その計算とやらも、足し算と引き算のみから成る簡素なものだったが、 10以上の数を「たくさん」としか認識できないまりさ種やれいむ種と比べれば、 格段の能力差に違いなかった。 「そうなのだわ。でも、こうすると、もっと速く計算できるのだわ。」 4×3=12 母ぱちゅりーは、おめめをぱちくりとさせた。 彼女には、娘の書いた計算式が、何を意味するのか分からなかったからだ。 ゆっくりは、掛け算を知らない。 「足し算で同じ数が連続するときは、その連続する数を使って、計算できるのだわ。 この新しい計算方法に重要な組み合わせは、81通りあるのだわ。」 母ぱちゅりーは、子ぱちゅりーの言っていることが理解できなかった。 子ぱちゅりーの能力は、その母を凌駕していたのである。 だが、ひとつだけ分かったことがあった。 この子は、本物のてんっさいだということだ。 「むぎゅ。」 親ぱちゅりーは、そっと子ぱちゅりーを抱きしめた。 長い髪の毛で顔を撫で、すりすりをしてやる。 「ぱちゅはほんとにいいこね。おとうさんもよろこんでるのだわ。」 「むきゅきゅ。お母さん、苦しいのだわ。」 その夜、母ぱちゅりーは、花の蜜とムカデでお祝いをした。 「むきゅん。何のお祝いなのか分からないのだわ。」 こういうところには、てんで疎い子ぱちゅりーである。 だが、そんな彼女も、母親の喜んでいる姿を見ると、 うっとおしい湿気など、吹き飛んでしまうのだった。 7月。晴れ渡った夏空の下で、ぱちゅ親子は狩りに精を出していた。 他のゆっくりたちも、家族連れであちこち飛び回っていた。 目立つのはまりさ種とちぇん種だが、れいむ種もちらほら見かける。 この時期になると、春に産まれた子どもたちもすっかり大きくなり、 子育てに手間がかからなくなるのだ。 子ゆっくりたちは、親の狩りに同行し、生きるために必要な知識と技術を学ぶ。 父ぱちゅりーの世話をしていたためか、母ぱちゅりーは狩りが上手かった。 上手いと言っても、ぱちゅ種にしては、という条件付きだが。 それでも自分たちの食糧を集めるのには、一度も困ったことがない。 頭を使って山菜の群生地を探したり、虫の巣を見つけたりして、 体力任せにうろうろするまりさたちよりも、効率がよいくらいである。 それと対照的なのが、子ぱちゅりーであった。 すっかり大人になったというのに、自力で虫を捕まえることができない。 ぴょんぴょんと後を追っては、石に躓いて転んでしまう。 「むきゅん!虫さん待つのだわ!むぎゅ!」 今日も今日とて、何度目か分からない盛大な転び方をする子ぱちゅりー。 「むきゅん。ちょっときゅうけいするのだわ。」 「むきゅん…。」 いくら頭がいいとは言え、実践は別物である。 動植物に関する知識は完璧なのだが、動かないもの以外には応用がきかなかった。 とはいえ、親ぱちゅりーも、娘の鈍重さをそれほど気にはしていなかった。 欲張りさえしなければ、花や草、木の実だけでも生きていけるからである。 特に、この子ぱちゅりーほどの知識があれば、誤って毒草を口にすることもなく、 いろんな場所で食べ物を探すことができるだろう。 ただ、ごちそうのムカデさんを食べられないことだけは、不憫に思っていた。 ムカデさんは、本当に美味しいのだ。 「おひるごはんにするのだわ。」 「むきゅん。今日はお花さんの蜜を呑むのだわ。」 子ぱちゅりーは、自分で摘んだ花の蜜をちゅーちゅーと吸い、 親ぱちゅりーは、自分で穫った毛虫をむーしゃむーしゃする。 交換はしない。 それは、子ぱちゅりーのためにならないからだ。 毛虫を口一杯に頬張りながら、母ぱちゅりーは子ぱちゅりーを盗み見る。 子ぱちゅりーの顔は最近痩せており、どうも元気が無い。 娘が理由を語ることはなかったが、母ぱちゅりーには分かっていた。 友達ができないのである。 母ぱちゅりーは、子ぱちゅりーの偉大さを理解していた。 ただし、何となくスゴい、という意味でだった。 子ぱちゅりーは毎日「まどうしょのかいどく」に取り組んでいたが、 それを横目で見る母ぱちゅりーには、娘が何をしているのか見当もつかないことが多い。 ぱちゅ種の、しかも比較的優秀な個体ですらそうなのだ。 他のゆっくりがどういう反応を示すかは、火を見るより明らかである。 子ぱちゅりーは、「かわりもののぐず」とみなされていた。 「むきゅん。美味しかったのだわ。」 「むきゅん。ちょっとおひるねしましょう。」 ぱちゅりー親子は、近場にある老木へと向かった。 その根元には、ゆっくりが寝るのにちょうどいい穴蔵がある。 春にそれを見つけた2匹は、草や苔でその穴を塞ぎ、ときどき別荘代わりに使っていた。 親子が薄暗い穴に身を隠すと、ひんやりとした土と空気に心が休まる。 「むきゅん。ごくらくなのだわ。」 「ここは太陽さんが当たらないから、昼間も涼しいのだわ。」 そう言うと、2匹はゆっくりとお昼寝を始めた。 8月。ゆん生の中で最も楽しい季節がやってきた。 子どもたちはみな成長し、あちらこちらに家族連れのゆっくりがあふれ返る。 おうたを歌うれいむ一家、どろんこになりながら遊ぶまりさ一家、 わかるよーと言いながら鬼ごっこをするちぇん一家、 そんな中でも、とかいてきな慎みを失わないありす一家。 ぱちゅ一家は、そのいずれにも与することなく、自分たちの夏をゆっくり楽しんでいた。 そんなある日のこと。 「お母さん、話があるのだわ。」 真剣な顔付きで、娘が口を開いた。 母ぱちゅりーも、自然と居住まいを正す。 「むきゅん。どうしたの。」 「ぱちゅは、河原に行きたいのだわ。」 ついにこの日が来てしまった。 母ぱちゅりーは、心の中でそう思った。 8月になると、人間の親子連れが、近くの河原に集まって来る。 この群れのゆっくりなら、誰でも知っていることだ。 だから、この時期、川に行くことは禁じられていた。 それでも、母ぱちゅりーには、娘の考えが手に取るように分かった。 にんげんさんを見てみたい、と。 「にんげんさんにあいたいのね。」 「むきゅん。ぱちゅは、人間さんを見たいのだわ。会うんじゃないのだわ。」 「それはおなじことなのだわ。」 「同じではないのだわ。遠くから見るだけで、お話はしないのだわ。」 「みんなさいしょはそういうのだわ。でも、おはなししたくなるのだわ。」 人間は、ゆっくりにとって、親しくもあり危険でもある、そんな存在だ。 同じ言葉を話す別々の種族。 違いは多々あれど、コミュニケーション手段が同じだという事実は、 人間にとってもゆっくりにとっても非常に魅力的である。 だからこそ、人間はゆっくりに、ゆっくりは人間に近付いて行く。 やはり駄目か。 子ぱちゅりーは、心の中で落胆した。 「あなたがいきたいのなら、いくといいのだわ。」 「むきゅん!本当!?」 意外な母の言葉に、思わず飛び上がってしまう子ぱちゅりー。 しかし、すぐに冷静さを取戻した。 おそらく、何か注文をつけてくるだろう。 子ぱちゅりーは、母親の言葉を待った。 「どうしたのだわ。いかないのかしら。」 「むきゅ…本当に行っていいのかしら…。」 「すきにするといいのだわ。」 母ぱちゅりーは、それ以上何も言わなかった。 彼女は、子ぱちゅりーの予想とは全く違う態度で、娘の意志を尊重したのである。 すると逆に不安になってしまうのが、ゆっくり心というもの。 子ぱちゅりーは、母が自分のことを心配してくれていないのではと思った。 そんな娘の不安を察した母ぱちゅりーは、ゆっくりと話を続ける。 「むきゅん。ぱちゅはおかあさんをこえてしまったのだわ。 おかあさんは、もうぱちゅのかんがえがよくわからないのだわ。」 「むきゅ!?」 ショックだった。 冷たい群れの中で、唯一の理解者だと思っていた母。 その母親が、自分のことをもはや理解できないと言うのである。 子ぱちゅりーの目がうるむ。 「ないちゃだめなのだわ。おかあさんは、ぱちゅがきらいじゃないのだわ。」 母ぱちゅりーは、娘を髪の毛で優しく包んでやる。 「おかあさん、わからないことには、さんせいもはんたいもできないのだわ。 だから、ぱちゅがやりたいようにやればいいのだわ。ぱちゅのかんがえは、 きっとおかあさんよりもただしいのだわ。」 「むきゅ…お母さん…。」 その夜、2匹は久しぶりに一緒のお布団で寝た。 優しい母の温もりを感じながら、子ぱちゅりーは明日の冒険に胸をはずませ、 なかなか寝付くことができなかった。 続く これまでに書いた作品 ダスキユのある風景(前編) ダスキユのある風景(中編) ダスキユのある風景(後編) 英雄の条件 ふわふわと壊れゆく家族 ♂れいむを探して 乞食れいむのおうた
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3040.html
『ゆっくり呑もうゆっくり酒』 16KB 調理 赤ゆ てんぷらあきさんに約束したやつ ※てんぷらあきさんと随分前に約束した ゆっくり食材ネタです。 『ゆっくり呑もうゆっくり酒』 D.O ぷるぷるぷる、ぶちっ!・・・ぺしょ。 「ゆっくちしちぇっちぇにぇ!きゃわいいれいみゅが、ゆっくちうまれちゃよ!」 「しゅーりしゅーり、ちあわちぇー。」 「ゆゆ~ん。れいむのおちびちゃんたち、とってもゆっくりしてるよぉ~。」 今、私の目の前には、額に茎を生やした1匹の、大型バランスボール並に巨大な成体れいむと、 その周囲に群がる生まれたての赤れいむが・・・えーと、25匹いる。 この赤れいむ達は、私が部屋の一角を柵で囲い、その中で繁殖させた食用ゆっくり達だ。 巨大な母れいむの品種は『れ-108号』。 この品種の特徴は第一に、成体のサイズが標準的なゆっくりより大きく、 そのおかげで一度に、大量の赤ゆっくりを産み落とせることだ。 食用ゆっくりの苗床としては重宝する性能である。 そして第二、これが重要なのだが、いわゆる『はじめてのおちびちゃん』、 初めての出産で産み落とした赤ゆっくりが、通常の赤ゆっくりと比較して格段に美味なのだ。 「しゅーりしゅーり、みゃみゃのほっぺしゃん、あったきゃーい!」 「みゃみゃのかみのけしゃん、ゆっくちだにぇ!ちあわちぇー!」 「れいむのはじめてのおちびちゃ~ん、ぺーろぺーろ、すーりすーり、しあわせー!しあわせー!」 『れ-108号』は、初めて産んだ赤ゆっくりに、過剰なほど愛情を持つよう生み出された品種である。 チューブ入り精子餡を注入されて妊娠したのに何の疑問も感じず、 赤ゆっくり達の誕生を素直に喜んでいるのもいい証拠だろう。 その愛情が産まれる前の赤ゆっくり達に、茎を通じて大量のゆっくり成分を与えるらしい。 それこそが赤ゆっくり達の味を劇的に引き上げる要素になる。 ゆっくりはゆっくりするほど味が悪くなるなどと言われているが、 実のところ、甘みが少なくなる、と言うのが正確だ。 味の深み・コクといったものは、基本的にゆっくりするほど向上する。 生まれたて・新鮮な赤ゆっくりを生で食す場合は、フレッシュなさっぱり味が求められるので、 ゆっくりさせ過ぎたり、逆に苦痛を与えてしまうのはタブーだ。 だが、調理して食べるなら、生まれるまでと生まれて数時間の間は存分にゆっくりさせ、 そこから絶望に落として甘みを引き上げるのが最良の調理法となる。 最高の素材で赤ゆっくり料理を作りたいなら、『れ-108号』はオススメ品種だ。 ぜひ試していただきたい。 さて、この最高の素材を使って今日作る予定のものは、『ゆっくり酒』だ。 実は今日仕込んでも出来上がりは約一ヶ月後と、大変手間のかかる代物なのだが、 私は、それだけの手間をかける価値はあると思っている。 さあ、それでは仕込みの最初から順番に見ていただくことにしよう。 ----------------------------------------------- 「みゃみゃー。れいみゅ、おなかしゅいちゃー。」 「れいみゅも!おなかぺーこぺーこだにぇ!」 「ゆっくちむーちゃむーちゃさせちぇ!」 先ほど茎から生れ落ちたばかりの赤れいむ達は、食用だろうと野生だろうと変わることの無い、 生まれて最初の重要な儀式を、誰に教えられるでもなく順番に行っていく。 茎から離れて地面に着地したら、元気いっぱいに『ゆっくりしていってね!』とご挨拶。 最初にご挨拶を返してくれるのは、当然両親。 まあ今回の場合は母れいむだけだが。 自分に無条件の愛情を注いでくれるであろう母の姿を確認すると、 赤れいむ達はカタツムリ並のよちよち歩きで母れいむに擦り寄り、 『しゅーりしゅーり、ちあわちぇー』と目いっぱいスキンシップをとる。 そこまで終われば、もうお腹はぺこぺこ、さっそく初めてのご飯を催促し始めるのだ。 「おちびちゃん、『ポキッ』このくきさんをたべてね!」 「「「ゆぁーい!むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー!」」」 この、生まれるまで自分達がぶら下がっていた茎を、 赤ゆっくり達に食べさせる行為も、ゆっくり達にとっては非常に重要な行動である。 適度に甘く、わずかな苦みとシャキシャキした触感を持つ茎を食べることで、 赤ゆっくり達は自然で生きるのに適した味覚に調整される。 草や虫、自然で手に入る食料を(好き嫌いはあるが)美味しく食べることができるようになるのだ。 そしてそれ以上に重要なのが、免疫力の確保である。 生まれたての赤ゆっくりは、この茎を食べることで初めて、 防虫・抗菌作用のある物質を含んだ体液を生成できるようになるのだ。 茎を食べなかった赤ゆっくりは、無菌室で育てでもしない限り、 アリに襲われたり、体にカビが生えたりして数日で死んでしまう。 これは純粋に食品として扱う場合特に重要な性質だ。 新鮮とれたて赤ゆっくりを食べるのでなければ、通常全ての食用赤ゆっくりは、 茎を食べさせるか、茎ペーストを注射してから出荷されるのである。 ともあれ、これで下ごしらえはおおむね完了だ。 ----------------------------------------------- 「ゆぁーい!おしょらとんでるみちゃーい!!」 「ゆぁーん!れいみゅもあしょんでにぇ!」 「はいはい。ゆっくりゆっくり」 ふきふきふき…… 「ちゅっきりー!」 「ゆわーい!れいみゅも、きれいきれいしちぇにぇ!」 「はいはい。ゆっくりゆっくり」 まずはじめに、赤れいむ達を一匹づつ摘まみあげ、清潔な布等で軽く拭いてきれいにしてやる。 清潔なシートの上で出産と(十数分とは言え)子育てをさせていたので、 赤れいむ達ほとんど塵一つついていない清潔さだ。 そうは言っても一応食品なので、全身を清潔にしてやる必要はある。 それに… 「あ、あにゃるしゃん、しゅーりしゅーり…ちゅっきりー!」 「きゃわいいれいみゅが、うんうんしゅるよ!ちゅっきりー!」 体をきれいにしてやるついでに、あにゃる付近を刺激してやり、うんうんの排泄を促すのも大事だ。 本来ならば母ゆっくりが、食後にあにゃるを舌で刺激してやり排泄を促すのだが、 母れいむの唾液で汚されてしまっては、何のために生まれたてを使うのかわからなくなる。 うんうんは要するに劣化餡子なので、味を落とす要因を取り除くなら調理者の手で行う必要があるのだ。 「ゆぅ?ゆっくちだしちぇにぇ!」 「ゆぅ?『フニフニ…コロリ』ゆぁーん、のぼれにゃいー!」 こうして体内体外ともにきれいさっぱりした赤れいむ達は、大きめのボウルにでも入れておく。 生まれたてで這うのがやっとの赤ゆでは、ボウルの内側は登れないので安心だ。 ただ、深めの皿程度では逃げ出されるので注意する必要はある。 「ゆ?お、おにーさん?おちびちゃんをゆっくりかえして『ボグシャッ』ゆべぇ…」 ちなみに『れ-108号』は2度目以降のおちびちゃんからは味が落ちてしまうので、繰り返し使用には向かない。 うるさいし、母体は食べても美味くないので、思い切って使い捨てにしてしまうことをお勧めする。 虐待したいのならば話は別だが。 次の行程にいく前に、赤ゆっくり以外で事前に用意しておくものを紹介しておこう。 まずは口の広いビン、あるいは大きめのタッパーなどの容器。 梅酒を作る時などに使用する容器でいいが、赤れいむを積み重ねるのは勧められないので、 幅が大きくて底が浅い容器の方が効率はいいだろう。 収納場所をとってしまうのが問題だが。 次に、焼酎のオレンジジュース割り。 分量としては、焼酎:オレンジジュース=1:1程度。 オレンジジュースは果汁100%で焼酎もできるだけ上質な物を使って欲しい。 用意するものは以上。 さて、それでは早速作業にかかろうか。 「ゆぅ?『ぷにょり』ゆゆ?ここはゆっくちできりゅの?」 「おしょら『むにゅ』ゆあーん、せまいよ!ゆっくちさせちぇー!」 まずは赤れいむ達を、容器の底に敷き詰めるように並べていく。 ギッチリ詰めてしまうと潰れてしまうので、お互いの肌が触れ合わない程度の間隔に並べるのがコツだ。 赤れいむ達を積み重ねると潰れることもあるので、この段階から十分気をつけてほしい。 そんなわけなので、私の場合底が浅く、幅が広いタッパーを使用しているのである。 そして、赤れいむ達を敷き詰め終わったら、こいつを注ぎ込む。 トポトポトポ… 「ゆっぴゃぁぁああん!おみじゅしゃんはゆっくちできにゃいー!?」 「やめちぇにぇ!?やめ…ゆ?ぺーりょぺーりょ、ちあわちぇー!」 ふむ。 ちなみに、今赤れいむ達の容器に注ぎ込んでいるのは、先ほど用意した、焼酎のオレンジジュース割りである。 別に甘いものではないのだが、不思議とゆっくりは、オレンジジュースの味を好む。 「「「ぺーりょぺーりょ、ごーきゅごーきゅ、ゆっくちー!」」」 最初こそ液体ということで恐れているが、あんよがちょっと濡れたあたりで注ぐのを止めると、 このように幸せそうにジュース割りを飲み続けるのだ。 まあ、これで終わりなはずもないのだが。 ドボドボドボドボ… なぜなら、ジュース割りは赤れいむ達の全身が沈むまで注ぎ込み続けるからである。 「ゆ?ゆぴ?ゆわぁぁあん!やめちぇにぇ!もういっぱいごーきゅごーきゅしちゃよ!」 「ゆっぷ、ゆぷ…ゴポゴポ…ぴ……」 「こぴゅ…ゆ…」 「ゆ…ぴ……」 ジュース割りを程よい分量注ぐと、赤れいむ達は必死にのーびのーびして、 水面から口を出して空気を求める。 この、のーびのーび状態で全身が完全に沈む程度が、ちょうどいい酒量となるのだ。 多すぎても少なすぎても味に影響があるので、この辺は注意して欲しい。 それにしてもこの、水面から空気を求めチロチロと飛び出す舌が、なんとも食欲をそそらせてくれる。 ゆっくり酒にするのでなければ、この舌を切り取って火で軽く炙り、 晩酌の肴にするのだが、それはガマンガマン。 ああ、そうそう。 息ができずに苦しんでいるから舌を突き出しているのでは?と思われるかもしれないが、 それは何の心配もない。 ゆっくりは呼吸ができないと苦しむが、実は生命維持に呼吸など必要としておらず、 空気を口の中に出し入れしているだけなのだから。 息ができなくて苦しんでいるのは、単なるゆっくりの思い込みである。 ただし、ホントにゆっくりが死んでしまうと、ゆっくりの持つ抗菌効果が失われるので 酒が傷んでしまう可能性が大きく、注意が必要だ。 容器内で赤れいむが潰れたり、皮が破けたりしてしまわないように、 細心の注意を払って容器を取り扱うようにしてほしい。 ああ、ちなみに赤れいむ達の体が溶けてしまう心配は無用だ。 普通の水なら溶ける赤れいむ達の体も、オレンジジュースの回復効果によって、 重大なレベルまで脆くなることはない。 多少ふやける程度で済む。 「ゆぷ…こぽこぽ……」 赤れいむ達はしばらくのーびのーびし続けると、5分程度で力尽きて、 最後は完全にジュースの中に沈んでいく。 ここまでくれば、とりあえず作業は完了だ。 今後赤れいむ達はのーびのーびをするほど気力を取り戻すことはなく、 身動きのしづらい水中では変に暴れたりすることもなくなり、 焼酎のジュース割りの中で、ぷかぷかと浮いたり沈んだりするだけの存在となるのだ。 ぷか…こぽ…ぷかり… さて、すっかり静かになったので、普通はこのまま容器を戸棚にしまってしまうのだが、 今回はもう少しだけ中の様子を見てみよう。 中では、きっと赤れいむ達はこんなことをしゃべっている(つもりだ)と思う。 「(ゆ…おみずしゃん…ゆっくちできにゃいよ…)」 「(ゆぅ~、のーびのーびしちゃから、おにゃかぺーこぺーこだよ…)」 「(ゆっくちごーきゅごーきゅしゅるよ!ごーきゅごーきゅ!)」 もはや、赤れいむ達に食事が与えられることはないが、 この状態でも赤れいむ達が餓死することはない。 それは、赤れいむ達のまわりになみなみと存在しているジュース割りが、 貴重な栄養源となるからである。 もちろん、ちゃんとした食事が与えられているわけではないので、 命をつなぐのがやっとで、これ以上成長することも、うんうんを出すこともないのだが。 「(ごーきゅごーきゅ、ごーきゅごーきゅ)」 「(ごーきゅ…ゆ?れいみゅ、ゆっくちしーしーしたくなってきちゃよ!)」 で、飲んだら出すのが生き物である。 「(しーしーしゅるよ!ちゅっきりー!…ゆっぴゃぁぁああん!きちゃにゃいぃぃいいい!?)」 「(な、なにしちぇるの!?しーしーしにゃいでにぇ!…ゆわぁぁあん!?れいみゅもしーしーしちゃいぃぃいい!)」 こうなってしまえば、後は時間の問題だ。 周りが液体に満たされている以上、しーしーをされれば逃げ場はない。 人間からすれば無害な液体であるしーしーも、ゆっくりにとっては汚物でしかないので、 最初は、一番乗りでしーしーをしたれいむをみんなで睨みつけるものである。 だが逃げ場がない以上、やがで全員同じ運命を辿るのだ。 こうして、赤れいむ達はジュース割りに浸されながら、 延々とジュース割りを飲み、しーしーを排泄する、を繰り返し続けるのである。 成長もできず、飛んだり跳ねたりもできず、あいさつもできず、 そしてもちろん、ゆっくりすることもできないまま。 ----------------------------------------------- さて。今日は時間もないので、 先月仕込んで、一か月戸棚で保管していたヤツを見てもらおうか。 コポ・・・コポ・・・ 一か月熟成された『ゆっくり酒』。 見てほしい。 一か月暗い戸棚で寝かせておいただけで、 元はオレンジジュースらしくオレンジ色に濁っていた液体が、 今やブランデーのように、琥珀色に透き通った液体に変容を遂げている。 これこそが、完成品の『ゆっくり酒』なのだ。 「こぽ…ゆぴぃ…」 ぷかり…こぽ…ぷか… ちなみに、一か月放置しておいても当然、中の赤れいむ達は生きている。 赤れいむ達は、この一ヶ月もの間、延々と自分達の体の中で、 焼酎のオレンジジュース割りをろ過し続けていたのだ。 その過程で、ジュース割りはしーしーとの混合物となり、アルコール分だけを維持したまま、 ゆっくりと『ゆっくりのしーしー酒』へと昇華していったのである。 ……飲みたくない? まあ、なんとなくイメージが悪いのは理解できるが、美味いんだよ。ほんとに。 そもそもゆっくりのうんうんやしーしーというものは、ゆっくりにとっては汚物だろうが、 人間からすれば極めて安全な、無菌無毒の食材であり、珍味として喜ぶ美食家も多いのだから。 と、いうわけでこれにて『ゆっくりのしーしー酒』、略して『ゆっくり酒』は完成。 中の赤れいむ達はお役御免である。 酒だけをデキャンタなどに移し、中の赤れいむ達は邪魔なので取り除いてしまおう。 「たしゅけてくれちぇ、ありがちょー」 「ゆっくちー!」 ひと月ぶりに息ができ、言葉を話せる世界に帰ってきた赤れいむ達は、 それはもう幸せそうに感謝のお礼を言う。 自分達を苦しめてきた張本人は、目の前の私だというのに。 で、『ゆっくり酒』だけが目当てならば、このまま赤れいむ達は潰して捨ててしまってもよいのだが、 私としては少々もったいないので、待ったをかけたい。 この赤れいむ達、苦痛でいい感じに熟成されているので、調理しても美味なのだ。 ここで是非試していただきたい食べ方を紹介しよう。 私は『ゆ干し』と呼んでいる、お手軽な食べ方である。 「おにーしゃん!ゆっくちかわかしちぇくれりゅの?ありがちょー!」 「おひさましゃん、ぽーかぽーかして、ゆっくちできりゅね!」 やり方は簡単、清潔な布巾で赤れいむ達の水分を拭き取り、ゴザに広げて日干しするだけである。 普通の赤ゆっくり達であれば、「ひなたぼっこは、ゆっくちできりゅね!」とか言って、 一日中日光浴を楽しむものなのだが、この赤れいむ達は、それで終わりにはならない。 「ゆっくち~…ゆぅ?」 「ゆ?おひさましゃん…にゃんか、へんだにぇ?」 赤れいむ達の体には、いくつか重大な変化が起こっているのである。 「ゆ?にゃんだか、のどがかわいちゃよぉ」 「ゆっくちおうちにもどりゅよ!ゆ…ゆゆ?れいみゅのあんよしゃん?ゆっくちうごいちぇにぇ!」 「ゆわぁぁん!ゆっくちありゅけにゃいぃぃ!」 第一に、生まれてまもなく狭い容器の中に詰められて放置されたため、 長期間の運動不足であんよが全く動かないことだ。 生まれたての赤ゆっくりは、あんよの動かし方も、餡子の使い方も下手なので、 這うくらいしかできないのだが、今の赤れいむ達は、這うことも、身を捩ることもできなくなっている。 「ゆぁぁぁん!?のどがかわいちゃぁぁああ!」 「ごーきゅごーきゅさせちぇぇぇええ!」 「ゆ、ゆぴ!?れいみゅのあんこしゃん、ゆっくちしちぇぇぇええ!」 また、水中生活に体が順応してしまい、水分無しでは急激に乾いていく。 本来ゆっくりは、水中では生きられないのでこんな体の変化は起こり得ないのだが、 オレンジジュースに長期間浸されるという特殊な状況に置かれていたため、 体が多量の水分の中でなければ乾燥してしまうほどに性質が変化してしまうのである。 実に不思議な饅頭生物だが、こういう仕組みなのだから納得してほしい。 とは言っても、赤れいむ達の姿は、苦しむ様子に比べると表面上は大きく変化していない。 お腹のあたりが張りを失い、へにゃへにゃとしているが、可愛らしい赤れいむの姿を維持している。 だが、日干しによる体の変化は、赤れいむ達の体内で起こっているのだ。 体内の水分が表皮の乾燥を防ぐため、ものすごい勢いで外に集中していった結果、 赤れいむ達はほんの十分ばかり日干しにされただけで、餡子の水分をほとんど失ってしまうのだ。 「けぴっ…けふ…おにーしゃ、いもうちょに、おみじゅ…」 「ゆけふっ…のど…かわいちゃ…」 今や赤れいむ達は、ジュース割りの中に沈んでいった時と同様、 舌をぴんっと伸ばして水を求めることしかできなくなっている。 死んでしまうと味が落ちるので、こうなった頃が食べ頃だ。 後はコイツを砂糖醤油など塗って炙るなり、蜜を塗ってさらに乾燥させ保存するなり お好きな方法で召し上がっていただきたい。 「やめちぇ…ゆっくち」 もしゃ・・・もぐもぐ。 ぐびり。 旨い。 サクサクとクッキーのような食感で、甘みはそれより少し強い。 だが、味の深みと酒の香りは市販のお菓子など比較にならない。 それに何より、『ゆっくり酒』に『ゆ干し』はめちゃくちゃ合う! 同じ原料だからだろうか。 いやまったく、ゆっくりという奴らに無駄な部分は何一つない。 最高に効率的な食材だな、いやはや。 ----------------------------------------------- ところで、今日オレンジジュース割りに漬け込んだばかりの赤れいむ達はというと… 先ほどの、苦痛と絶望で消耗し切り、ゆっくりと食べられる先輩赤れいむ達の姿を 目の前でたっぷり見せておいたおかげで、絶望に包まれた素晴らしい表情をしている。 仕込みはバッチリ、来月も素晴らしいゆっくり酒が期待できそうである。 戸棚にしまって…と。 ん? 私は、閉ざされようとしている戸棚の奥の、酒に漬けられた赤ゆっくり達と視線があった。 そこに赤れいむ達らしい活発で自信過剰な笑顔は無い。 ただ、逃れようのない戸棚の暗闇へと沈んでいく、 無表情な、絶望で暗く濁った数十の瞳が、 …実に美味しそうな黒い輝きを蓄え、私の方をぼんやりと眺めていた。 挿絵: 挿絵: