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毛糸を規則的に縫ってみた クリスマスが目前に迫ったこの12月。近いように聞こえるが、俺が経験している現実はまだクリスマスまではほど遠い。あと3週間ほどであろうか。まあそんな事はどうでもいいだろう。俺にはイブや聖夜を共に過ごすような甘い関係にある間柄の奴はいない。音咲は誘えば好色を示してくれるだろうが、俺にそういう趣味の類はない。俺はノーマルだ。俺は一生涯をノーマルで過ごす。これは既定事項なのだ。どうせイブはいつものやつらでパーティーでもやるんだろうがな。音咲主催で。まあ俺はそのパーティーが来るまでこの平和的な日々を楽しむとするさ。不思議な力を持っていてそれを使って怪物退治をする連中のどこが平和かは俺も異論が夥しいが、とりあえずその当事者の俺が言ってるんだから間違いではない。これを平穏とは言わないって言うやつは、多分シルバニアの世界を極めてきた奴以外にはいないだろう。が、平穏というものは壊される為にあるようで、俺はそれを骨身に染み込ませているにもかかわらずそれを忘れていた。まったく、平穏ほど恐ろしい麻酔はないだろう。 朝、いつものように6時00分に起きる。理由は簡単、弁当を作るからだ。親からの仕送りがないわけではない。だがな?俺の家は中の中くらいの中流家庭だ。仕送るにも限度ってもんがある。だから毎日弁当を買っているとすぐに経済難となって我が家の大蔵省に借りこむか、バイトへ一直線となるのだ。俺もバイトくらいはしてもいいのだが、無論行けないのだ。働き口で困ってるわけではない。それなら音咲に頼めば一発でOKだ。ちゃんと働きたいといっているわけだから異論はないだろう。それよりも、それよりも大事なのは― って時間の無駄だな。決して逃げてるわけじゃないからな?ニート予備軍じゃないからな? 不毛極まりないことを考えつつも、俺の手は律儀に動き続けていたようで弁当箱が二つとも盛り付けられていた。うむ、完璧…っておい!盛り付けたらダメだろうが!理由は母親にでも聞いてくれ。 盛り付けた具材をすべて違うよう気に移し変え、ムラを取る。こうしないと…母親に聞いてくれ。 俺が弁当を作ったのにかかった時間はいつもどおりで30分。このまま七恵を寝かしていると遅刻するだろう。現時刻は6時40分だが、登校時間を考えると7時30分には家を出なければいけないだろう。 「おい起きろ七恵。朝だぞ」 ありきたりなセリフを言う俺。これくらいなら変革があってもいいと思うが浮かばないのだからしょうがない。 もちろん七恵は無反応。俺もこれで起きたら毎朝苦労しないだろう。確か七恵は10月頃からこうなったと思う。普通人の見解では…多分寒いだけだろう。 だが俺もアホではない。こんな状態の七恵がどれだけ手強いか知っている。恐らく、音咲ホモ疑惑が確信に変わっても起きないだろう。じゃあどうする?必殺技を使うしかあるまい。楓さん直伝の。 「1月の空―」 がばっ 「…おはよ…う睦…月」 言い切る前に起きやがった。なんであの言葉を耳元で言うだけで起きるかは知らないが、便利なことだ。 俺は思い出したように時計を見る。もう7時か。時間が経つのは早い…のか? とりあえず俺は七恵を正気に戻し、朝飯の準備に取り掛かる。もちろん、キッチンなるところからは七恵は見えない。というより俺が見えないようにした。そんな俺の配慮をあまり感謝することなく七恵は着替えている…と思う。なにかと理不尽だなこの世界は。 今日の俺が作った朝飯はフレンチトースト。賞味期限がそろそろやばそうな卵をふんだんに使った環境的配慮が著しい一品だ。食べ物を粗末にしちゃいけないぞ?食べ物から物体Xにするのもな? 賞味期限ギリギリといっても、一応は俺が作ってるわけだから食べれるものになっているはずだろう。というより俺はそこらの主婦よりかは料理が上手いつもりだ。自惚れじゃないことは音咲が証明してくれるだろう。 そんな家での事を済ませて学校に向かう。七恵が俺の家に無断で泊まることにはもう慣れた。鍵閉めて寝たにもかかわらずあいつは家の中に入ってきてたりするからな。いや、慣れたんじゃなくて諦めたのか。 不毛な考え事をしているとホームに電車が来る。学校に行くのに電車を使う必要はあまりないが、親からの数少ない支給品の中に定期が入ってるからな。親父のおかげだ。もっと言うと、学校は1駅行ったところにあるため歩いてもいける。自転車通学も許可されている。定期を崩して家系の足しにするのもいいんだが、それだと親父が哀れだ。まあ、楽できるからいいんだがな。 「今日の授業なんだっけ?」 既に電車内に入ったせいだろう。七恵が小声で聞く。 「数学、世界史、現国、古文、選択実習だな」 俺がうろ覚えの時間割を言う。合っているはずだが…如何せん俺は寝ているからな。需要がないのさ。 「数学の宿題…あったよね?」 もちろん。数学の…今は葛西は毎日宿題を出すからな。強面の黒スーツで園崎組幹部…って噂があるが、嘘だろう。 「睦月はやった?」 もちろんだ。見せてはやらんが、教えてやるならいいぞ? 「それでもいいから助けてね」 授業過程はこの際だから省略する。もし知りたいんなら、雑談の所にでも希望の意を示してくれ。書くから。 そんな色々な過程を経て今日の放課後の部室。今日は珍しくも5限だった為、既に部室は4人の定員を抱えている。俺はいつものように音咲と将棋。楓さんは…何をやっているのだろうか?七恵は…数学の葛西の宿題を攻略しようと頑張っている。…あ、諦めた。 今日もこんな感じで終わると思っていた俺達に、変革を齎すものがやってきた。 コンコンコン 「は?誰だ?」 俺は部室を見回す。誰も心当たりはないようだ。仕方ないので俺がドアを開けようと近づく。 バンッ ガンッ グシャァアッ …物凄い音と共に睦月君が倒れました。倒れた頭のところに椅子が直撃してかなり痛そうです。…落ちてますね。私はとりあえずドアを見る。一応血糊はついてないようです。とりあえずは死ぬような事はないでしょう。次に睦月君を落とした張本人を見ます。…濃緑のショートヘアーに黄色味がかかった綺麗な目。他の誰にも真似できないような、それでいて美人な顔。躍動的なそのボディライン。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるモデル体型。外見だけなら誰もが交際を申し込みたいであろう人。 「ようやくこの時が来たわ!」 その人は困惑している私達に目もくれず言い放ちます。 「編み物部部長園絵彩!今このときより部活を始めます!」 ○塾塾長みたいな言い方ですね。それはいいでしょう。私も編み物部員なので異論はありません。部活動説明会の時に12月から部活を開始するとは言ってましたし。12月に入っても始まらないようなのでないのかと思っていたのですけど…一応あったみたいです。言っておきますが、七恵も部員ですからね? 「あれ?楓と七恵は二人も捕まえたの?この二人もやってもらおう!うんそれでいこう!」 困惑している秀に目配せをする。 『無駄です。諦めましょう』 『それがよさそうですね』 「いつまで寝てるの?さっさとおきなさい!」 部長が睦月君に喝を入れている。多分起きるだろう…起きた。 …どうやら俺は生死を彷徨っていたようだ。まさかドアを開けようとしただけでそんな事になるとはな。日常には危険がいっぱいのようだ。気をつけよう。音咲から聞いた話だと、ここにいた奴ら全員で何かを作る事になったらしい。先ほど俺を生死の境で彷徨わせた人は… と色々な説明を音咲から聞き終えた時には外は暗くなっていた。もう本格的に冬だからだろうな。俺は適当に話を切り上げて家路に着いた。二人…いや、三人は既に帰っており、俺と音咲は二人で下校する事になった。因みに、6時40分頃である。ああ、これで雪でも降って楓さんと二人だったら…。 音咲と他愛のない話をして家につく。音咲の家は俺の家の先だからな。 「ではまた明日」 「おう、また明日会えたらいいな」 「敬礼でもしてあげましょうか?」 「いや、明日ちゃんと生きていたいから死亡フラグは上げたくない」 本当に他愛の無い会話を終えて家のドアのノブに手をかける。ほのかに香ばしい香りが漂ってきた…。鍵を渡していないが、多分家の中には七恵がいて夕飯を作っているに違いない。ああ、久しぶりだな。色々と。 俺はノブを引く。案の定ドアは開いた。やはりいるな? 「ただいま」 形式上言わなければいけない言葉を口にする。別に言わなくても誰が怒るというわけでもないんだが、気分だ。 家の中に入ると香ばしい匂いは強まった。ますます楽しみだ。 「七恵?なに作ってるんだ?」 キッチンを覗き込みながら聞く。俺もまだまだ甘かった。 「七恵じゃないけど…、誰?」 …濃緑の髪と黄色味がかった目の結構な美人が俺の家のキッチンで…炒飯を作っている。どういうことだ。いったい誰だ!? 「お前こそ誰だ?ここは俺の家だぞ?」 至極もっともな事を言う。見たところ泥棒ではなさそうだが…なんなんだ? 「ここは七恵の家でしょ?あんたこそ誰?」 それは勘違いだ。ここは紛れもなく俺の家だ。断じて言うが、七恵の家ではない。住所録を見せてやろうか? 今にも争いが始まりそうな雰囲気の中、俺の後ろでドアが開いた。 「あ、お帰り睦月。遅かったね」 …七恵。今すぐこいつの事を説明しろ。そして俺に素直に怒られろ。 「…で、この人は俺達の高校の先輩で編み物部部長なんだな?」 「そうだよ?」 「で、その編み物部部長がなんで俺の家で料理をしてるんだ?」 「彩ちゃん今日は親がいないから可哀相だから泊めてあげよ?」 …よし。お前の頭には重度の障害が認められた。今から病院に連れて行く。これは要望じゃない。命令だ。絶対だ。 「なんでダメなの?睦月がなんかするわけじゃないでしょ?」 確かに俺には甲斐性がないけどな!普通に考えてみろ!どこに寝るつもりだ! 「普通にベッドでだよ?二人くらいなら入れるよ?」 ふざけるな。そんなことしたらどっちかが絶対に風邪引くに決まってんだろ。 「じゃあ睦月の布団を借りていい?」 お前は俺を殺す気か?このクソ寒いのに布団無しで寝ろと?そろそろ怒るぜ? 「じゃあ三人で寝る?」 マジで怒るぞ? 「嫌なの?」 「全然嫌じゃない!むしろ夢のようだ!だがな、お前には『彩ちゃんの家で二人でいる』って選択肢はないのかよ!?」 本当にもっともな事を言う。一応公的には二人は美少女の部類に区別されるだろう。もちろんそう感じるのは俺も同じだ。その二人と一緒に寝る事が嫌か?全然OKさ。だがな?どう考えてもそれは俺の中の理性がダメだって言うに決まってる! 「あ、そうだね。じゃあ行ってくるね」 そう言って七恵は編み物部部長を連れて外に出る。一応8時なので俺もついて行く。SNNが使える俺達にもしもは有り得ないが、もしもというのは可能性論だ。俺も可能性つぶしには付き合ってやるさ。 そう言ってついていくこと2分。園絵さん宅に到着。アレ?近すぎないか? 因みに、園絵さんが連れて行ったんだ。七恵とは初対面とあまり変わらないそうだ。 園絵さん宅は、どこからどう見ても普通の一軒家。変な属性とかそういう類のものは何も感じられない。 が、なんだろう。違和感を感じた。普通の家にはなきゃいけないもの…それが欠けているような感じだ。 結局違和感の正体が不明のまま、二人を無事に送った俺は家に帰る。 ドアノブに手をかけたときに、香ばしすぎる匂いが鼻につく。…焦げ臭い。 俺は中に入ってキッチンを見る。ああ、やっぱりか。 園絵さんは炒飯を作る途中のままここを離れたのか。物凄く弱火だったから俺が送るまでは気づかなかったんだな…。脳内園絵さん評価を改正。『傍迷惑な部長』…はあ……。 「で、俺と音咲にも編み物をしろと?」 昨日という日が過ぎ去った今日の放課後の部室。それまでにも色々あったが全て省略する。 「そうよ!あんた達二人はうちんとこのヒモでしょ?」 ヒモって…。わからないやつはわからないままがいい。それだけはいえる。 「ヒモですか。一応否定しておきますが…無駄ですね?」 諦めモードの音咲。昨日という経験が役に立ったのだろう。俺にもその経験を分けてもらいたいものだ。レベルアップできるかもしれないしな。 「ヒモじゃなくてもやってもらうよ?今回編んでもらうのはマフラー!文句とか異議は作り終わった後気が向いたら聞いてあげる!」 …こうして俺達はマフラーを作る事になった。どうせ暇だから別によかったんだが…ああ、敗北感。 色はくじ引きで決める事になり、俺は黄色を引いた。七恵は濃い青、楓さんは紺、音咲は赤、園絵さんは白だった。 早速マフラーを編もう…なんてことは俺と音咲には不可能だ。俺に料理が出来るという意外な特技があり、音咲に無限の後付設定ができるとしてもそれは無理だ。少年『K』は言った。『マフラーなどの編み物はクリスマスの日に顔を赤らめながら渡されるのが最高に萌えるんだ』とな。野郎が顔を赤らめながらマフラーを渡すシーンを見て誰が萌える?断じて正常な男は萌えないだろう。 そういう理由で俺達にはマフラーを編む練習すらできないのさ。 「じゃあ教えてあげよっか?」 …七恵?俺が教えて欲しいのは毛玉の作り方じゃないぞ? 「私だって裁縫とか編み物くらいできるんだよ?今言った事ってすごく失礼だね?」 あー…すまん。悪かった。教えてください七恵様。 「七恵姫じゃないの?」 こいつは自分のことを姫なんていって恥ずかしくないのか?男が王子様とか言ってるのと変わらないぞ? 「教えてください七恵姫」 まあ、素直な俺は言ってしまうんだ。ああ、素直なやつは損をするんだな。 「おっけぇ!手取り足…足はいいや、教えてあげるねっ!」 なるべく怪我のない指導にしてくれよ?教育と偽ってのチョークはごめんだからな? 「じゃあ私怨としてのチョークにするねっ!」 …言い過ぎた。もうダメかもな…。 「まるで鴛鴦みたいですね」 楓さんの微笑んでる顔が霞んで見える。…トミー?そこにいるのはトミーかい?首は大丈夫か? とりあえず、そんな事があって俺は今人生初の編み物をしている。処女だな。…が、俺の処女は恐ろしく普通じゃないと思う。 どこの世界で美少女二人に囲まれて編み物をする奴がいる?どこの世界でこんな事になる奴がいる? 俺だけだろう。平行世界やループ論、世界に関する論は四十万だが、恐らくどの世界でもこんな経験をしているのは今この世界の俺だけだろう。ああ、幸せだ。などといえるのかは各自で考えて欲しい。先ほどの論を覆すようで悪いが、俺は幸福さと…言い表せない不幸さを感じている。因みに言うと、俺の指導には七恵と園絵さん。音咲には楓さんがいつの間にか指導者となっていた。できれば俺にしてほしかったんだが…ああ、不条理なり。 まあ充分過ぎるほどいい身分だと思うけどな。いや、そう思わないとやってられない。そうだ。俺は幸福なんだ。美少女二人に編み物の指導をされていて時々チョークとかヘッドロックとかかけられるけど幸せなんだ………! そんな茶番を少しだけ書いてみる。 放課後― 俺はいつものように部室に行く。習性といっても差し支えないレベルになっただろう。…帰巣本能というか、その類のエネルギーが働いているのは確かだ。 俺の脚は自然に動く。これだけなら病院送り確実なのだが、俺の中ではこれが日常これが平穏なのだ。今更治そうとは思わない。だが、少し気味が悪いのは、7月の偽者事件(俺命名)の後からこうなった事だ。こじ付けかもしれないが、注意を払っておいて損は…神経をすり減らす事になるが…楓さんに癒してもらおう。それがいい。それと、偽者事件の後から俺の目が時々赤くなるといわれた。…偽者の野郎は俺に結膜炎の持病を残して逝ったらしい。 ああ、傍迷惑なやつだった。 とかこんなことを時折考えつつも俺は手を休めない。休めないだけで止まっている。まあ、編み物を始めて1日目だ。一度も止まらずに完成を見るなんて夢どころか妄想の世界でしか見れないだろう。そして手の止まった俺にここぞとばかりに詰め寄る七恵…園絵さんまで?傍目から見れば非常に羨ましいであろうこの状態。後ろから七恵が俺の手首を血を止めんとばかりに握っており、園絵さんは俺の手を前から掴んで動かそうとしている。えー…っと、七恵。もう手の感覚がないんだが。園絵さん?そのままだと指折れますよね? 「うぎゃああぁあぁあああぁ!!!!!」 情けない悲鳴が部室に響く。 指が折れたとかそういうものではない。俺は二人に先ほどの事をパイプ椅子の上でやられていたのだ。もちろん座っていたが、それでも不安定すぎたのだろう。見事にぶっ倒れた。前か後ろか?残念横だ。悲鳴の意味?俺が倒れる時に嫌なものが見えたからな。恐らく頭に直撃するだろう。 なにかって?それを言うには勇気がいるぜ? ―スーパー分厚いハードカバーの本Ver.長門は戦艦でも強かった版― なあ、なんでこんな本が部室にあるんだ―? 言い切る前に直撃したわけだ。残念ながら二人は上手く体制を保って俺だけ地面と抱擁中だ。ああ、不条理なり。 「大丈夫?思いっきり頭に直撃してたけど」 これが大丈夫そうに見えるならお前の目はバルスにでもやられているだろう。 「大丈夫でしょ!男なんだからさっさと立ち上がる!」 男だからという理由にはなりえないと思いますよ? 「あっ。また敬語使ってる!私と話すときは敬語はやめなさいッ!!」 使いたくて使ってたわけじゃないし敬語でもなく丁寧語がいいとこだ。 「いいからさっさとやるッ!!」 …まったく。いつまでも俺が素直に言う事を聞くと思ってたら大間違いだという事を思い知らせてやるか。 「園絵部長。俺と勝負しませんか?」 我ながら唐突だと思う。だが園絵さんなら引っかかってくれるだろう。 「なんで私が勝負なんかしなきゃいけないのよ!!?」 もっともな事だ。だが、我に秘策あり! 「負けるのが怖いんですか?確かに敗者には×ゲームをさせるつもりでしたがね」 園絵さんの負けず嫌いに油を注ぐ。負けず嫌いかは確信はないが、外見的にはそう見えるだろう。 「クッ…種目は何!?」 種目なんて決まってるだろう。 「園絵部長。昨日炒飯作ってましたよね?それで思いついたんですが、料理対決をしませんか?」 俺が昨日の焦げ炒飯を処理する時に判明したのだが、園絵さんは炒飯を作るのが非常に上手い。恐らく他の料理も同じくらいのレベルだろう。人は自分に自信のあることを断る事は少ないからな。 「料理対決ね!?ふっふ~ん。これは私の勝ちになるみたいね!」 ほら。引っかかった。 「では今週の土曜日。音咲の家でいいな?」 音咲は軽く微笑む。頼むから頷くで勘弁してくれ。そんな毎回毎回微笑まれたら俺の背筋は氷河期を迎えてしまう。 「園絵さんは…七恵か楓さんに案内してもらってください。お題は何がいいですか?」 俺ならどんな料理でもできる。いや、できなくとも3日でマスターしてやる! 「あの、時期が時期なので、シチューなどはどうでしょうか?」 楓さんが言う。この瞬間園絵さんは勝ち誇ったような笑みになった。後で吠え面をかく姿を想像すると…ダメだ!笑っちゃダメだ! 「それで決まりね!」 これで俺への待遇も改善されるかな。 「でもマフラーはちゃんと編んでもらうからね?」 きちんと覚えてたよこの部長は。流石は部長なのか? …今の今まで気づかなかったが、メイド服を着た…誰だ? 俺が不審に思っていると音咲がそれを察したようで、俺に顔を近づけて、 「僕の家のメイドさんです。名前は麻灘さんという人で、優しい人ですよ」 ……戦闘歴は? 「…年齢-7でしょうか」 メイドだって? 「冥奴ですよ」 …とまあこんな事だったんだ。その後の料理対決はもちろん俺が勝ったし(園絵さんのシチューはビーフシチューで俺はホワイトシチューだったのだが、判定である麻灘さんの「この季節にホワイトシチューがあっているのと、旬の食材が味を活かしたまま料理されている堀崎君の勝です」とのことだ)編み物をしている時の指導の方法も少しやんわりとしたものに昇華した。普通に編み物をする分には構わないんだぜ?それに付きまとう副産物である痛みが嫌いなだけだ。そういえば、負けた時の園絵さんは面白かったな…。いや、これはまた今度だ。これ以上書くと際限がなくなること火の如しだ。 そんな過程があって、クリスマスイブイブイブ。つまり22日だ。 「よしっ。終わり!」 俺の作っていたマフラーがやっと完成を見る。二人の熱心な教師に指導と称する肉体的苦痛を味わったが、その分できはいい。俺としても作るときのモットーは『作るときは時間がかかってもいいものを』だからな。誰かの飯を作るときはあまりこだわらないが、時間や相手が許すときはこだわるからな。まあ、七恵は空腹に耐えられず俺を捕食しようとしてくるからさっさと作るのだが。そのほとんど無意味なモットーのおかげか、一番遅く出来上がった俺のマフラー。だが、そのマフラーは上出来だと思う。 「じゃあ今日の部活は解散!明日は休みだけど、とりあえず朝10時にはここにきてね!」 …そう言って園絵さんは部室を飛び出していった。今は雪が降っていて、走っていてはとても危ないのだが…あの人は大丈夫そうだ。七恵なら%で表すでもなくこけるけどな。 「睦月!?私ドジじゃないよ?」 この前―お前、布団干そうとしたら落ちそうになったよな?それから飯運ぼうとしたらぶち撒けたし。 「もういいって!わかったから!」 難なく七恵の撃退に成功した俺。次なるターゲットは…いいか。 「まるで台風のような人でしたね」 音咲が言う。まったくそのとおりだと思う。いきなり来て部外者である俺と音咲まで巻き込んで編み物をさせるとは。 「いいじゃないですか。こんな事がなければ、お二人とも編み物なんて一生しなかったと思いますよ?」 多分そうだろうな。楓さんと七恵は…七恵は微妙な所だが、この二人なら編み物をしててもおかしくはないな。だが…俺達の方は…ないだろう。ほぼ確実にないだろう。そもそも俺が料理ができる事も珍しい特技であるというのに。この世界がループしているのなら2%以下の可能性だろうな。 「ですが、いい先輩でしょう?あの先輩が来るだけで明るくなるんですからね」 別に今までが暗かったわけじゃない。でも、確実にいえるのは前より上の段階になったという事だ。別に計画とかそういうものはないんだが、そういう表現が一番あっている気がするだけだ。気にしないでくれ。 ふと、園絵さんの家族のことを考えてみる。 ……あれ?もしかして園絵さんは両親がいないんじゃないのか? 「あれ?どうしてわかったの?」 やっぱり当たってたか。あの時感じてた違和感はこれだったか。園絵さんの家には、明るさが足りなかったんだな。 「すごいね。そんなすごい観察眼があれば、きっと探偵になれるよ?」 すごくどうでもいいな。名探偵コナソに触発された精神的に可愛い幼子だったら喜ぶのかもしれないが、俺は探偵業には憧れない。理由は簡単。不安定だからな。 「でも、今は彩ちゃんがいないから言うけどね?両親がいなくて本当は寂しいんだよ?」 わかったから。みだりに話すなってことだろ? 「わかったならよし!さ、帰ろ?」 ああ。鍵は俺が持って―いやいやいや!うろたえない!ドイツ軍人はうろたえない! まあ、その日も七恵は俺の家に泊まったわけだが。 釈然としない気持が心の中で渦を巻いたが無視だ。そんなものにいちいち構ってたら心労で廃人になっちまう。 翌日 「睦月!?早く行こう!!?」 「わかったから!手を引っ張るな手を!まだ靴が―!」 あー…話せば長く…ならないな。かなり短い。漢字二字で表せる。 『寝坊』 だ。どうだ?完璧だろ? 「睦月も走ってよ!」 ああ…俺、厄年なのかな。高校生の三年間。ああ、まだ未来なのにその先もこんな日常が続いてる気がしてならない…。ああ、杞憂であれ…。 言われるがままに俺も走り出す。 …全力疾走を続けること2分。そりゃもう国営の展示場に飾れそうなほど見事に俺はへたばっていた。いや、誰だって全力疾走なんか2分も続けたら一歩も歩けなくなるだろ?いや、2分続けられただけすごいと思う。七恵の本気は俺の最速を軽く越えてたからな。それに合わせることを全力疾走って言ったんだ。ああ、俺すごい。 「頼む。休ませろ。死ねる」 現残存体力を生かさず殺さずの勢いで振り絞って出した声。受理されなかったら俺は七恵をどうにかしてしまうかもしれない。例えば―…ごめん。無理。返り討ちに遭う。 「もう…5分だけだからね?」 それで頬を膨らませていってくれたらかなり萌…ゲフンゲフン!いや、なんでもない! 俺は考える事をやめ、自身を休める事にした。 「とってね~!」 七恵の声がする。言葉どおりなら、俺に何かが飛んでくる事だろう。だが、今のところ視界にはなんの異物もない。じゃあ俺の死角から飛んでくるのだろう。さあ、どうする?どうやって避ける? そうだ!伏せよ― グシャッ あ…俺…死ねる。今多分死ねる…。 「だから取ってっていったのに~」 ほう。投げて2秒も経たないうちに直撃する速度で物を投げて取れなかったほうが悪いと? 俺は七恵のいるであろう方角を見る。そこには100mほど離れた自動販売機の前にいる七恵がいた。よし、 秒速は…100mでいいか。 100二乗×…いや、不毛だ。 それにしても…なんでホットの炭酸飲料があるのかな?絶対不味いよな?しかも投げたから振ったと同じじゃねえか。ああ、飲む気失せた。 「あれ?飲まないの?『泡泡珈琲エスプレッソスペシャル』。これおいしいかもよ?」 おい。疑問系なのはなぜだ?飲んだことないな?俺を玩具にしたいんだな? 「絶対飲まない。いや、絶対あけない」 俺がそういうと七恵はそれを取って、 「じゃあ私が開けたら飲む?」 いや、それでも飲まない。絶対不味いだろ。 「じゃあ…私も飲むから睦月も飲んで!」 そこまでそんなものを飲ませたいか?いいだろう。乗ってやる。お前の飲んだときの勇姿は携帯フォルダにしまってやる。 「じゃ、開けるね?」 七恵がそれを開ける。…幸いにもそれは暴発する事はなく、無事に七恵の口へと運ばれた。 七恵がそれを幾らか飲んだ後すぐに、 「睦月。これ逝けるよ」 …いけるんだな? 「すごく逝けるよ?」 OK。飲んでやろうじゃないか。 俺はそれを七恵から受け取り、口に運ぶ。珈琲の匂いと炭酸の風味が合わさって、…なんともいえない気持ち悪さとなっている。やっぱ飲むのやめるか?いや、それはできないようだ。七恵が俺を輝かんばかりの目で見てきてる。ここで飲まなきゃ後々色々されるだろう。 覚悟を少しして一気にそれを口に含む。 ぬぐぅっ!!!!? なんだこの最悪なコラボネーションは!!!!!? ヤバイ! これで人を殺せる! 珈琲以外にも何か入ってやがる! 俺は口に含んだそれを飲み込んでから製品表示を見る。 …コーラに麦茶か。まさか珈琲以外のものが入っていようとは。…なんで七恵は平気なんだ? 「これ、わかる?」 わかるわけがない。確かにコーラっぽい色ではあるが、コーラは固形物じゃない。 「さっきそこで、『夏季限定コーラグミビッグ版』っていうのが売ってたから買ってきたの」 …今冬だぞ? 「おいしいよ?」 そうかい。 「安かったんだよ?」 そうかい。 「あっちで売ってるよ?」 そうかい。 「間接キッスだよ?」 そうか…い? 「私が飲んだ後に睦月が飲んだでしょ?睦月、別に何も意識しないで飲んでたよね?」 ……OK。どこか高いところはないか?どっかのビルの屋上、アパートの屋上でもいいから案内してくれ。 「とりあえず、行かないと怒られちゃうよ?」 俺はなされるがままにしか行動できなくなっていた。なぜかって?味覚と心のショックで脳が少しスリープを要しているからさ。ああ、情けない…のか? 七恵に効果音がついてもよさそうなほど気持ちよく引きずられながら学校に向かう俺達に電話がかかる。もちろん携帯で、音咲から俺へとだ。 「どうした音咲?」 「…それはこちらのセリフですよ?」 「それは失敬。で、なんだ?」 「約束時間の事を忘れていますか?」 いや、予想できてた内容だが、やっぱりこれを言われると反論できないな。 「いや、覚えてはいたんだがな?体がそれを忘れてて、二人揃って寝坊したわけだ」 携帯越しにため息が聞こえてきそうな間を挟んで音咲が、 「『あと5分以内に来なきゃ死刑だからね!』と園絵さんが言っていますので、頑張って下さい」 音咲。伝言を伝える時は普通に伝えろ。園絵さんの声色を真似るな気色悪い。 …切れてるし。 「誰だったの?」 言わずもがないつものやつらだ。 「急いだ方がいいの?」 時計を見ろ。ほら、公園の時計は長い針が真下を指しているぞ? 「歯食いしばってね!」 不吉な事を言うn― 考える暇もなく俺は陸上ジェットスキーを味わう事になった。死ねる。これ死ねる。 俺が死ぬような思いをしたおかげか、はたまた人が死ぬほどの強さで俺を学校まで引っ張った七恵のおかげか俺達は門限である5分以内に部室に入る事に成功した。ミッションコンプリート。報酬はない。 「さーって! どこかの誰かさんが遅れたから遅れちゃったけど」 園絵さんは俺を見ながら言う。俺だけなのか?そして同じ言葉を二回使うとアホっぽいと思われますよ? 「アホって言うな!このアホ!」 「グヒュウッ!」 鳩尾が…! 園絵さんは俺の鳩尾をありえないほど正確に蹴ってきた。しかもありえないというのは、その爪先が筋肉のないところにクリーンヒット。文字通り会心の一撃だったわけだ。 …今気づいたが、麻灘さんもいるようだ。 「あ♪ いいこと思いついた♪」 絶対確実に2那由多%いい事じゃない。断言してやる。 「私に対して睦月はタメ口で話す事!」 「「「「…………」」」」 静まり返った。園絵さんがこの一言を言う前には俺と園絵さん以外でなにかをやっていたようだったんだが、それが中断された。心なしか、音咲と楓さんの視線が俺に『いい反応をしてくださいね?』と語りかけてきているような感じさえする。いい反応ってどんな反応だよ!? 俺は吉本の人間じゃない。じゃあなんだ? 「それでいいのか園絵?」 タメで言う。違和感甚だしいが、そう言わなきゃまた鳩尾に蹴りが来るかもしれないからな。 「彩って読んでね?」 音咲!?楓さん!?なにその『ああ、フラグ立てちゃいましたね』みたいな視線は!?死亡フラグなのか!? 「彩さn…彩。今日はいったい何のために集まったんだ?」 途中で言い直したのは彩の足が動きかけたからだ。ああ、トラウマになるかもしれん。 …ところで、なんで七恵はそっぽ向いていじけてるんだ? 「今日集まってもらったのはね、籤を引いてもらうためなの!」 …正月まだ先だったぞ?曜日感覚でもおかしくなったか彩? 「みんなマフラー作ったでしょ?で、それを籤でみんなに分けようってことなの」 …要はプレゼント交換ってことだな? 「そうよ!さ、籤は作ってあるから引いてね!」 …いや、待て。考えろ俺!KOOLになるんだ堀崎睦月!ここで彩が交換だけで終わらせると思うか?いいや終わらないな。じゃあ他に何がある? …なにもないだろ。 「俺からでいいか?」 俺が引こうと手を前に出す。先陣を切れば、跡に感じる感動が幾らか和らぐだろう。 俺は『くじBOKS SUPER』と書かれた箱に手を入れる。スペルが違う事は指摘しない。鳩尾が疼く。 …俺が引いた籤は………楔文字? 楔文字っぽいそれは、日本語に直そうと努力すると2に見えてきた。2…でいいのか? 俺に続いて全員が『くじBOKS SUPER』に手を入れる。もちろん指摘はしない。俺の二の舞がいやなんだろう。 「みんな引き終わったみたいだから、説明するわ!」 …麻灘さんが籤を引いたことには驚いた。てっきり傍観しているだけかと思ったんだが…。 「今引いた籤に番号が書いてあったでしょ?その番号と同じ人と一緒に24、25日を過ごすの!」 ……俺に野郎と一緒に聖夜を過ごせと? 「まだ決まってないでしょ?もしかしたら私とかもよ?」 …そんな事勘弁してくれ。まあ、この人数でハズレを引くほうが…40%の確立で当たるな。もちろん楓さんと麻灘さんだ。残った七恵と音咲、彩は…来ない事を祈ろう。特に音咲。これだけの美女…がいるのにお前と聖夜を過ごすなんて『ビッグバンが再度起こってそれを撮影しようとしたんだけどシャッター押し忘れて失敗した』とかなるぐらいに惜しい。 「2番引いた人って誰?」 …楓さん?七恵の声色をまねしなくてもいいですよ?あ!麻灘さんですか? 「僕は3番ですね」 「私もですよ」 おい七恵。わざわざ楓さんの真似しなくてもいいだろ? 「私は1番ね!」 「不束ながら、よろしくお願いします」 …疑う余地もないだろう。 「ってことは睦月?紙見せてよ」 俺は無言で紙を出す。 「やっぱ同じだね。じゃあ二日間よろしくねっ」 二日だけなら大歓迎なんだがな。いや、普通の対応でもいいか。 「言い忘れてたけど、何をするかは各自の自由だからね!」 …彩は麻灘さんとだよな?二人がしゃべってる様子が想像できないのは俺だけか? 「心配無用ですよ。麻灘さんは僕もいい人だと思ってますので」 それでも会話が弾むとはとても思えないぞ? 「それは言ってはいけません。これ以上言うと聞こえてしまいますよ?」 俺は音咲の言うとおりに会話を切り上げて抗議に移る。決して組み合わせが悪かったわけじゃ…ないかもな。 「みんなで過ごすって選択肢はないのか?」 一番ベターな案を出す。あ、一番ってベストじゃん。 「それじゃ面白味に欠けるから今みたいにしたの!」 少し怒った様な声で彩が言う。何を怒るんだ?そんなに俺と一緒に居たかったか? 「え!?…あ、え、そんなわけないでしょ!」 なんだ違うのか……って気づかないわけがないだろ!いくら俺が普段『これで気づかないならあなたの五感は機能してないと思いますよ?』といわれるほどに鈍感だとしてもだ!まあ、今の彩の言い方は演技だろうな。リアルワールドにツンデレなんていないはずだ。 「じゃあ音咲か?」 俺じゃなかったら音咲だろう。 「なんで男限定なの!?」 あ、そっか。別に同姓と過ごしても問題はないんだったな。異性の方が問題ありか。 「とりあえずそれは別にいいでしょ!?」 彩が必死になにかを否定する。誰も何を否定しているかわからないために、その姿は酷く滑稽である。まるでピエロだ。解雇が決定されて必死に頑張ってるピエロだ。 「さ、マフラーの交換式を始めるわよ!」 …相手は? 「籤のペアに決まってるでしょ!もうちょっと頭使いなさいこのサナダムシ!」 酷い言われようだな。寄生虫レベルかよ。 しかもそのスペクタクルを音咲、楓さんたちは微笑みながら見ている。ああ、音咲よ。羨ましいぞ。いろんな意味で。 「言い忘れたけど、マフラーは相手の首にちゃんとかけてあげるのよ!?」 それを言った後、音咲は楓さんに何らかの情報伝達を行い、すぐにマフラーを交換し始めた。一瞬、音咲が楓さんの指輪を左薬指につけるビジョンが見えたがそれは俺の妄想だろう。いや、妄想であってくれ。 と俺が見とれている間に俺と七恵以外はすぐに終わってしまったようで、4人が俺をじっと見てくる。 このまま視線を合わせていても不毛なので俺が切り出す。 「七恵、かけるぞ?」 親しき中にも礼儀あり。俺はそれに乗っ取ってマフラーをかけ始める。 …マフラーを一つかけるのがここまで羞恥を孕むものだとは朝露ほども思っていなかった。マフラーをかけるとき、どうしても首の後ろに手を回さなきゃいけないので手を回す。そうするとどうなる?もちろんここにいる奴らは正しく状況を認識できる。だがな。傍目から見ると俺が抱き着いてるようにしか見えない。ああ、羞恥でどうにかなりそうだ。 俺が七恵にマフラーをかけると、音咲、楓さんは二人で並んで俺を温かい目で見てくるし。麻灘さんは『あの人は私を覚えているでしょうか…』みたいなことを考えてるし。彩はジト目で俺を見てくるし。七恵にいたっては全身茹蛸状態だ。その気持ちは俺もわかるが、そんな気持ちだからこそ早く俺にマフラーをかけて終わらせてくれ。 「七恵?」 七恵は我に帰る。今までどこに行ってたかは…決してわからなくていいだろう。 「じ、じじゃあかけるね?」 若干しどろもどろになりながらアポを取る七恵。いつもこんな感じだったら大抵の男なる生物は落とせるであろう。そんな恥ずかしい事をいとも簡単にモノローグに出現させるほどにまあ、その、なんだ。可愛いんだ。 「これで…いいかな?」 不安そうな上目遣いで俺を見上げる七恵。この攻撃の威力は体感しなくてもわかるだろう。いったいどこの誰が不安そうに上目遣いをしてくるやつにダメだしをする?上目遣いのレベル向上ならわからないでもないが、それは『K』に任せておこう。 「大丈夫だ。かけてくれてありがとな」 自分では至極自然に振舞って言ったつもりなんだが…なんだ?なぜみんなの視線がいろんなベクトルで強まる? 「では、僕から皆さんにクリスマスプレゼントを差し上げたいと思います」 音咲がどこかのテレビの司会アナウンサーのように言う。いや、お前は何をやっても似合いやがるな。 「前と同じで籤を引いてください」 俺は言われたとおりに籤を引こうとする。それを止めるように 「もちろんペアで一つずつですよ?」 聞こえた時にはもう遅く、既に七恵は籤を引いてはしゃいでいる。流石は光の能力者。使いどころが三角ねじに+ドライバーで挑むほどずれているが早いな。 はしゃいでいる七恵の隙を見て内容を見る。 ……『USJ』 「音咲。これはどこだ?」 「ユニバーサルスタジオジャパン、関西ですよ」 ほう。で、お前はチケットだけ渡してどうしろと?俺の懐事情を知らないとは言わせないぞ? 「おかしいですね。あなたは一人暮らしで無駄遣いをしないと思っていたのですが」 それに追い討ちをかけるように 「もしかして、誰かと同棲してますか?」 ………一回死ぬか?別に旅行費を出せといってるわけじゃない。とりあえずその態度を改めようか?その白々しい態度だ。さ、矯正しようか? 「遠慮しておきますよ」 俺はSNNで音咲を凍らせる。とりあえず少し頭を冷やせ。20分くらいで溶けるだろ。 「久しぶりに睦月のSNN見たね。そういえば…指令全然来なくなったね」 指令が来ない?おいおい何言ってるんだ。絶賛命令中だぜ?一ヶ月に4回は来てるな。 20分後、解凍された音咲から旅費を恵んでもらった俺と七恵は家に帰って早速旅行の準備をする事になった。なぜ拒否しなかったかって?It`s so easy. 音咲が俺の実家に電話であることないことを告げたためだ。お袋は『お土産はちゃんとお願いね! あと、年頃の女の子と一緒の部屋に寝るんだから気をつけなさいよ?』とか言われた。音咲が何を吹き込んだかは見当もつかないが、とりあえず言えるのは、『あの時凍らせた上で2、3回ぶん殴ってればよかった』本気で思ったね。 ………今気づいたけど、毛糸って縫うじゃなくて編むだったな。 タイトル変更 『毛糸を規則的に編んでみた』
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規則総論 Suica/PASMO大回り、というかSuica乗車券・PASMO乗車券を利用する場合の規則は、適用範囲が複雑です前提として、Suicaには、JR東日本が定めた東日本旅客鉄道株式会社ICカード乗車券取扱規則があり、またそれ以外の鉄道会社がそれぞれ定めた、PASMO ICカード乗車券取扱規則をテンプレートとした各社ごとの取扱規則があります(以下、JR東日本含めた各社の取扱規則を「取扱規則」と称します) 自動改札にタッチして入場した瞬間は、その駅の属する鉄道会社の取扱規則が適用され、発駅がICカードに記録されます 各路線に乗車中は、その乗車している路線の鉄道会社の取扱規則が適用されます 自動改札にタッチして出場した瞬間は、その駅の属する鉄道会社の取扱規則が適用され、その結果算出された運賃がICカードから引き落とされます JR鶴見駅以外の乗り換え駅(自社内・別会社問わず)の乗り換え自動改札にタッチした場合、乗り換える前に乗車していた鉄道会社の取扱規則により、その駅で出場・下車した場合の運賃がICカードから引き落とされますJR鶴見駅の場合、JR駅から乗車し、中間改札を経ていない場合のみ、運賃の引き落としは行われない JR線内のみを大回りする、東京近郊区間大回りと表面上同じ大回りを行う場合 JR東の取扱規則の次の2条文により、東京近郊区間大回りとほぼ同じ大回りが可能となります(下線は記述者による) (Suica乗車券を使用する場合の運賃の減算) 第27条 Suica 乗車券を第21条第1項の規定により使用する場合、出場駅において、入場駅から同一の取扱区間内を経由して最も低廉となる運賃計算経路で算出した普通旅客運賃をSF残額から減算します。この場合、小児用Suica乗車券にあっては小児の普通旅客運賃を、その他のSuica乗車券にあっては大人の普通旅客運賃を減算します。 (ICカード乗車券の効力) 第29条 第21条第1項の規定により使用する場合の、Suica乗車券の効力は次の各号に定めるとおりとします。 (1)当該乗車区間において、片道乗車1回に限り有効なものとします。この場合、小児用Suica乗車券にあっては1枚をもって小児1人、その他のSuica乗車券にあっては1枚をもって大人1人に限るものとします。ただし、小児用以外のSuica乗車券から大人の片道普通旅客運賃相当額を減算することを承諾して使用する場合には、小児1人が使用することができます。 (2)別表第1号、第2号及び第3号に規定する同一の取扱区間内にある駅相互間を前号の規定により乗車する場合で乗車経路が環状線1周とならないときは、当該取扱区間内に限りいずれの経路も乗車することができます。 (3)途中下車の取扱いはしません。 (4)入場後は、当日に限り有効とします。 「片道乗車1回」の定義は、この取扱規則には示されていないが、第3条2項に「この規則に定めのない用語の定義については、旅客規則の定めるところによるものとします。」とあり、同社旅客営業規則第26条1号に「普通旅客運賃計算経路の連続した区間を片道1回乗車船」とされているそして「普通旅客運賃計算経路の連続した区間」は、同規則68条にて「折り返さない、環状線一周を越えない」と定義されている 別表第1~3号とは、それぞれ、東京、仙台、新潟のSuica適用区間を定めたもの特に、東京と新潟のSuica適用区間のうちの自社鉄道線区間は、それぞれの近郊区間と完全に一致している また、27条より「最安運賃を引き落とす」ことが定められており、これは紙のきっぷの場合の「大回りの乗車券も発売は可能」というルールとは明確に異なっている 東京近郊区間大回りではできてSuica大回りにはできないこと 東京近郊区間大回りでは認められている「環状線一周」の大回りは、以下の条文により禁止されています環状線一周の乗車をすることはできるが、その場合、最短経路ではなく、実経路での運賃を現金払いしなければならない=大回りにはなり得ない 第42条 Suica 乗車券又はSuica定期乗車券を使用して入場した後、任意の駅まで乗車し、出場することなく再び入場駅まで乗車して出場する場合は、第27条の規定にかかわらず、実際乗車区間(券面表示区間内での乗車を除きます。)に対する普通旅客運賃を支払い、当該Suica乗車券又はSuica定期乗車券の出場処理を受けなければなりません。 また、東京近郊区間大回りでは認められている「複数葉の乗車券の併用」なども認められません 第23条 1回の乗車につき、2枚以上のICカード乗車券を同時に使用することはできません。 (中略) 6. 他の乗車券と併用して使用することはできません。ただしSuica定期乗車券の券面表示区間内の駅を発駅又は着駅とする乗車券を併用する場合及び新幹線に有効な乗車券類と併用して新幹線用の乗換改札機を使用する場合を除きます。 さらに、東京近郊区間大回りでは認められている「振替輸送」も認められません (列車の運行不能の場合の取扱方) 第44条 (中略) 2. Suica乗車券を所持し乗車する旅客及びSuica定期乗車券を所持し券面表示区間外を乗車する旅客が自動改札機による改札を受けた後、列車が運行不能となった場合は、次の各号の1に定めるいずれかの取扱いを選択のうえ、請求することができます。 (1)発駅まで無賃送還をするとき 乗車区間の運賃は収受しないものとし、無賃送還後に発駅において、当該Suica乗車券又はSuica定期乗車券に対する出場処理を行います。 (2)旅行を中止したとき又は発駅に至る途中駅まで送還したとき 旅行中止駅において発駅から当該駅までの区間について第27条及び第28条の規定により算出した普通旅客運賃を収受します。 (3)不通区間を別途旅行するとき 運行不能となった区間を旅客が当社線によらないで別途に旅行を希望する場合は、発駅から旅行中止駅までの区間について前号の規定により取り扱います。 第1号により、無賃送還は認められる しかし第2・3号により、「無賃送還でない場合、乗った分は乗った分として容赦なく徴収」とされ、さらにこれら以外の規定が存在しないため、振替輸送は受けられない東京近郊区間大回りの場合、振替輸送は認められるが、話が複雑なのでウィキペディアの項目をご参照ください なお、同じICカードであっても、JR西日本のICOCAでは振替輸送を認めている! Suica/PASMOにより、複数の会社をまたいで大回りする場合 この場合、JR東の取扱規則が適用される場合は、以下の取扱規則があります(下線は記述者による) (接続駅で改札を受けずに乗継ぐ場合の運賃の減算) 第51条 Suica 乗車券(第49条第2項第1号から第3号に規定する発行会社のICカード乗車券でSuica乗車券に相当するものを含む。以下本章において同じ。)で入場し、接続駅において改札を受けることなく当社線を含む複数の鉄道会社線(合わせて4社以内に限ります。)を乗継いで乗車する場合は、出場駅において、次の各号に定める金額をSF残額から減算します。 (1)第2号及び第3号に該当しない場合は、第27条の規定による当社の普通旅客運賃と鉄道会社毎に定める普通旅客運賃との合算額 (2)乗車区間の入場駅及び出場駅が当社線となる場合は、両駅間の経路に他の鉄道会社線を含むときであっても、全乗車区間について当社線を利用した場合の第27条の規定による当社の普通旅客運賃 (3)別に定める乗継割引適用区間又は他の鉄道会社が定める割引適用区間が乗車区間に含まれる場合は、第1号の規定により算出した金額から当該割引額を差し引いた金額 また、JR東以外の鉄道会社(交通局も含む)の取扱規則のテンプレートである、PASMO評議会が公開している規則には、以下の条文があります(下線は記述者による) 第13条 旅客がICSFカードを使用して乗車する場合、出場時に当該乗車区間の大人片道普通旅客運賃を減額する。ただし、小児用ICカードにあっては、小児片道普通旅客運賃を減額する。 2 当社の駅発着となる場合で、当該発着区間内に他のIC鉄道事業者を含む場合であっても、特に認めた場合を除き、全線当社を使用したものとみなして、片道普通旅客運賃を収受する。 3 乗換駅を経由して着駅で出場する場合は、発着区間の片道普通旅客運賃相当額と当該乗換駅における収受額とを比較し、不足額は収受し過剰額は払いもどしをしないものとする。 第14条 旅客がICSFカードを使用して入場した後、各IC鉄道事業者の定める取扱区間内を連続して乗車する場合、出場時に減額する旅客運賃は、実際に乗車した経路に基づき、各IC鉄道事業者で定める大人片道普通旅客運賃の計算方による運賃の合算額とする。また、小児用ICカードのSFから減額する旅客運賃にあっては、各IC鉄道事業者で定める小児片道普通旅客運賃の合算額とする。 2 前項にかかわらず、改札機等での旅客運賃の減額は、入場した駅から4社局以内の各IC鉄道事業者の定める取扱区間内を連続して乗車した場合に限る。ただし、5社局以上を連続して乗車した場合であっても、4社局以内を連続して乗車できる経路がある場合には、4社局以内を乗車したものとみなして運賃を減額する。 3 前項で減額するときに、乗車経路が特定できない場合は、実際に乗車した経路と異なる経路を乗車したものとみなして運賃を減額することがある。 4 IC鉄道事業者が規定する旅客運賃に割引を適用する区間を乗車する場合は、出場時に当該区間の片道普通旅客運賃相当額から割引額を減じた額を減額する。ただし、同一IC鉄道事業者の割引適用区間が重複する場合にあっては、次の各号に定めるとおりとする。 (1)割引額が異なる場合には、旅客運賃が低廉となる割引を適用する。 (2)割引額が同一の場合には、乗車経路において最初に発生する割引を適用する。 両者にはきわめて微妙、かつ実際の大回りに関係する差異がありますが、それを置けば、JR東の第51条2号・PASMOの第13条2項により、複数社を通過したとしても、発着駅が同一社の場合は自社内の最安運賃を引き落とす、とはっきり明示されていることになります Suica/PASMO大回りに関する制限・禁止事項 まず、Suica大回りの禁止事項「環状線一周禁止」「振替輸送不可」は、それぞれPASMO取扱規則の第26条・第27条で規定されており、Suica/PASMO大回りでも同様に禁止されています 「複数葉のICカードや乗車券との併用禁止」については、PASMO取扱規則には明文規定がありませんが、第5条の「使用時には改札を受けねばならない」ということから、同様に「事実上不可能」と思われます 「片道乗車1回に限る」という禁止事項は、PASMO取扱規則では以下のとおり規定されており、Suica大回りと同様に禁止されています (効力) 第15条 ICカード乗車券取扱区間内を、ICSFカードを使用して乗車する場合の効力は次の各号に定めるとおりとする。 (1)当該乗車区間において、片道1回の乗車に限り有効なものとする。この場合、ICSFカード1枚をもって1人が使用することができる。なお、無記名ICカードから大人片道普通旅客運賃を減額することを承諾して使用する場合には、小児1人が使用することができる。 (2)入場後は、当日限り有効とする。 (3)途中下車の取扱いはしない。 重箱の隅:Suica取扱規則とPASMO取扱規則の微妙な差異 (執筆中)
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公式通知014 競技規則の一部変更 2015.05.10 ニコニコ耐久選手権2013の競技規則の一部を、以下のとおり変更します。 2次募集の追加 現状のレギュレーションでは競技会の7日前にてエントリー受付が終了となっていましたが、新たに2次募集枠を新設することにより競技会2日前まで期限を延長可能としました。 これにより、以下の項の記載事項を変更しました。 1) エントリー手続き 2) 車検 以下の項を新設しました。 1) エントリーの2次募集 ニコニコ耐久選手権2013 競技規則 ニコニコ耐久選手権主催者 こたつ
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<平成17年> ・平成15(行ヒ)215 法人税更正処分取消請求事件 平成17年12月19日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 【判示事項】 外国税額控除の余裕枠を利用して利益を得ようとする取引に基づいて生じた所得に対して課された外国法人税を法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)69条の定める外国税額控除の対象とすることが許されないとされた事例 【裁判要旨】 外国税額控除制度を濫用する取引に基づいて生じた所得について外国の法令により課された法人税に相当する税を法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)69条の定める外国税額控除の対象とすることは許されないとされた事例 【参照法条】 法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)69条 ・平成16(受)1573 敷金返還請求事件 平成17年12月16日 最高裁判所第二小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約が成立していないとされた事例 ・平成15(受)1980 土地所有権確認請求事件 平成17年12月16日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 福岡高等裁判所 【判示事項】 公有水面埋立法に基づく埋立免許を受けて埋立工事が完成した後竣功認可がされていない埋立地が土地として私法上所有権の客体になる場合 【裁判要旨】 公有水面埋立法に基づく埋立免許を受けて埋立工事が完成した後竣功認可を受けていない埋立地であっても,同法35条1項に定める原状回復義務の対象とならなくなった場合には,土地として私法上所有権の客体になる 【参照法条】 公有水面埋立法(昭和48年法律第84号による改正前のもの)2条,22条,35条1項,民法86条1項,162条,国有財産法3条 ・平成16(オ)402 土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件 平成17年12月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 A名義の不動産につきB,Yが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合に,Aの共同相続人であるXは,Yが上記不動産につき共有持分権を有しているとしても,上記登記の全部抹消を求めることができる ・平成14(行ヒ)325 違法公金支出金返還請求事件 平成17年12月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 情報公開条例に基づき多数の食糧費の支出に関する文書の写しの交付を受けた日から約4か月後にされた住民監査請求について地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由がないとされた事例 ・平成17(受)560 不当利得返還請求事件 平成17年12月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所 【判示事項】 1 貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に同項所定の事項について確定的な記載をすることが不可能な場合に同書面に記載すべき事項 2 いわゆるリボルビング方式の貸付けについて貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として記載すべき事項 【裁判要旨】 1 貸金業法17条1項に規定する書面に同項所定の事項について確定的な記載をすることが不可能な場合に同書面に記載すべき事項 2 いわゆるリボルビング方式の貸付けについて,貸金業法17条1項に規定する書面に「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として記載すべき事項 【参照法条】 (1,2につき)貸金業の規制等に関する法律17条1項,43条1項,利息制限法1条1項 ・平成17(あ)204 電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件 平成17年12月13日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 新株の引受人が会社から第三者を通じて間接的に融資を受けた資金によってした新株の払込みが無効であるとして商業登記簿の原本である電磁的記録に増資の記録をさせた行為につき電磁的公正証書原本不実記録罪の成立が認められた事例 【裁判要旨】 甲社の増資の際,新株の引受人である乙社において甲社から第三者を通じて間接的に融資を受けた資金によって行った新株の払込みが無効であるとして,商業登記簿の原本である電磁的記録に増資の記載をさせた行為について電磁的公正証書原本不実記録罪の成立が認められた事例 【参照法条】 商法280条の7,刑法157条1項 ・平成17(受)1398 社員総会決議無効確認等請求事件 平成17年12月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 公共嘱託登記土地家屋調査士協会の総会において社員の除名決議をするに当たり除名事由が具体的に特定して示されたとはいえないとして決議が無効とされた事例 ・平成17(許)18 間接強制決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年12月09日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするために債権者において債務者の不作為義務違反の事実を立証することの要否 【裁判要旨】 不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするには,債権者において,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない 【参照法条】 民事執行法172条1項 ・平成17(受)715 損害賠償請求事件 平成17年12月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 拘置所に勾留中の者が脳こうそくを発症し重大な後遺症が残った場合について,速やかに外部の医療機関へ転送されていたならば重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたとはいえないとして,国家賠償責任が認められなかった事例 ・平成16(行ヒ)114 小田急線連続立体交差事業認可処分取消,事業認可処分取消請求事件 平成17年12月07日 最高裁判所大法廷 判決 その他 東京高等裁判所 【判示事項】 1 都市計画事業の認可の取消訴訟と事業地の周辺住民の原告適格 2 鉄道の連続立体交差化を内容とする都市計画事業の事業地の周辺住民が同事業の認可の取消訴訟の原告適格を有するとされた事例 3 鉄道の連続立体交差化に当たり付属街路を設置することを内容とする都市計画事業の事業地の周辺住民が同事業の認可の取消訴訟の原告適格を有しないとされた事例 【裁判要旨】 1 都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は同事業の認可の取消しを求める訴訟の原告適格を有する 2 鉄道の連続立体交差化を内容とする都市計画事業認可の取消訴訟において事業地の周辺に居住する住民が原告適格を有するとされた事例 3 鉄道の連続立体交差化に当たり付属街路を設置することを内容とする都市計画事業認可の取消訴訟において事業地の周辺に居住する住民が原告適格を有しないとされた事例 【参照法条】 (1~3につき)行政事件訴訟法9条,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの)59条2項(1につき)都市計画法(平成7年法律第14号による改正前のもの)13条1項,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のもの)61条,公害対策基本法19条,環境基本法17条,東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの)24条,25条,45条(2につき)東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成14年東京都条例第127号による改正前のもの)2条3号,東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの)2条5号,13条1項,別表3号 ・平成16(あ)2199 未成年者略取被告事件 平成17年12月06日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所 【判示事項】 母の監護下にある2歳の子を別居中の共同親権者である父が有形力を用いて連れ去った略取行為につき違法性が阻却されないとされた事例 【裁判要旨】 妻と離婚係争中の夫が,妻の監護養育下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った行為につき,未成年者略取罪が成立するとされた事例 【参照法条】 刑法35条,刑法224条,民法818条,民法820条 ・平成17(許)19 債権差押命令申立て一部却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年12月06日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 保険医療機関,指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が社会保険診療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権と民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」 【裁判要旨】 健康保険法上の保険医療機関,生活保護法上の指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が社会保険診療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権は,民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」に当たる 【参照法条】 民事執行法151条の2,151条,社会保険診療報酬支払基金法1条,15条1項,2項,健康保険法63条3項1号,76条,国民健康保険法36条3項,45条,生活保護法49条,53条,児童福祉法20条,21条の3 ・平成14(オ)1615 損害賠償請求事件 平成17年12月01日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 1 学校教育法21条1項,51 条,教科用図書検定規則,旧高等学校教科用図書検定基準(平成元年文部省告示第44号)に基づく高等学校用の教科用図書の検定と憲法13条,21条,23 条,26条(合憲) 2 学校教育法21条1項,51条,教科用図書検定規則,旧高等学校教科用図書検定基準(平成元年文部省告示第44号)に基づく高等学校用の教科用図書の検定における文部大臣の裁量的判断と国家賠償法上の違法 ・平成16(あ)2172 逮捕監禁,営利略取,殺人,死体遺棄被告事件 平成17年11月29日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 殺人,死体遺棄の公訴事実について被告人が第1審公判の終盤において従前の供述を翻し全面的に否認する供述をするようになったが弁護人が被告人の従前の供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をして裁判所がそのまま審理を終結した第1審の訴訟手続に法令違反は存しないとされた事例 【裁判要旨】 殺人,死体遺棄の公訴事実について,被告人が第1審公判の終盤において従前の供述を翻し全面的に否認する供述をするようになったが,弁護人が被告人の従前の供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をして,裁判所がそのまま審理を終結した第1審の訴訟手続には,上記弁論において弁護人が,証拠関係,審理経過を踏まえた上で被告人に最大限有利な認定がなされることを企図した主張をしたとみることができるなど判示の事情の下では,法令違反は存しない。 (補足意見がある。) 【参照法条】 刑訴法30条,刑訴法293条2項,刑訴法379条,刑訴規則211条,憲法37条3項 ・平成16(あ)2571 ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件 平成17年11月25日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 ストーカー行為等の規制等に関する法律2条2項にいう「つきまとい等を反復してすること」の意義 【裁判要旨】 ストーカー行為等の規制等に関する法律2条2項の「ストーカー行為」とは,同条1項1号から8号までに掲げる「つきまとい等」のうち,いずれかの行為をすることを反復する行為をいい,特定の行為あるいは特定の号に掲げられた行為を反復する場合に限るものではない。 【参照法条】 ストーカー行為等の規制等に関する法律2条 ・平成17(し)380 裁判官がした証拠保全における押収の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件 平成17年11月25日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 京都地方裁判所 【判示事項】 捜査機関が収集し保管している証拠を証拠保全手続の対象とすることの可否 【裁判要旨】 捜査機関が収集し保管している証拠は,特段の事情が存しない限り,証拠保全手続の対象にならない。 【参照法条】 刑訴法179条 ・平成15(受)278 配当異議事件 平成17年11月24日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 【判示事項】 【裁判要旨】 根抵当権の実行としての競売の申立書に被担保債権及び請求債権の表示としてされた「金8億円 但し,債権者が債務者に対して有する下記債権のうち,下記記載の順序にしたがい上記金額に満つるまで。」との記載が被担保債権の一部について担保権の実行をする趣旨の記載ではないとされた事例 ・平成17(受)721 診療費等請求事件 平成17年11月21日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 公立病院における診療に関する債権の消滅時効期間 【裁判要旨】 公立病院における診療に関する債権の消滅時効期間は,民法170条1号により3年と解すべきである 【参照法条】 民法170条1号,地方自治法236条1項,会計法30条 ・平成16(あ)1478 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件 平成17年11月21日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 防衛庁調達実施本部の実施する指名競争入札の運用が同本部の提示した最低価格で落札されることが長年続くなど形がい化していたとしても指名業者による受注調整行為について私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成14年法律第47号による改正前のもの)89条1項1号の罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 防衛庁調達実施本部の実施する指名競争入札の運用が当初入札が不調となった後同本部の提示した最低価格で落札されることが長年続くなど形がい化していたとしても,同本部においてこれを指示,要請し,あるいは主導したものではなく,指名業者の入札における自由競争が妨げられていたというわけではないなど判示の事情の下では,指名業者が,長年の慣行に従って,前年度の受注実績を勘案して受注予定会社を決定した上,同社が受注できるような価格で入札を行うように受注調整をした行為について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成14年法律第47号による改正前のもの)89条1項1号の罪が成立する。 【参照法条】 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2条6項,3条,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成14年法律第47号による改正前のもの)89条1項1号 ・平成16(受)1434 損害賠償請求事件 平成17年11月21日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 船舶の衝突によって生じた損害賠償請求権の消滅時効の起算点 【裁判要旨】 船舶の衝突によって生じた損害賠償請求権の消滅時効は,民法724条により,被害者が損害及び加害者を知った時から進行する 【参照法条】 民法166条1項,同法724条,商法798条1項 ・平成17(ク)626 過料不処罰決定に対する特別抗告事件 平成17年11月18日 最高裁判所第二小法廷 決定 却下 広島地方裁判所 【裁判要旨】 民訴法209条1項の過料の裁判についての訴訟の当事者の申立権 ・平成15(行ヒ)231 損害賠償代位請求事件 平成17年11月17日 最高裁判所第一小法廷 判決 仙台高等裁判所 【裁判要旨】 地方自治法237条2項の議会の議決があったというためには,当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要する ・平成16(あ)385 業務上過失致死被告事件 平成17年11月15日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 大学附属病院の耳鼻咽喉科に所属し患者の主治医の立場にある医師が抗がん剤の投与計画の立案を誤り抗がん剤を過剰投与するなどして患者を死亡させた医療事故について同科の科長に業務上過失致死罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 大学附属病院の耳鼻咽喉科に所属し患者の主治医の立場にある医師が,抗がん剤の投与計画の立案を誤り,週1回投与すべき抗がん剤を連日投与するとともに,その副作用に適切に対応することなく患者を死亡させた医療事故において,その症例が極めてまれであり,科長を始めとして同科に所属する医師らに同症例を取り扱った経験がなく,上記抗がん剤による治療も未経験でその毒性,副作用等について十分な知識もなかったなど判示の事実関係の下では,治療方針等の最終的な決定権を有する同科長には,上記抗がん剤による治療の適否とその用法・用量・副作用などについて把握した上で,投与計画案の内容を具体的に検討して誤りがあれば是正すべき注意義務を怠った過失と,主治医らの上記抗がん剤の副作用に関する知識を確かめ,的確に対応できるように事前に指導するとともに,懸念される副作用が発現した場合には直ちに報告するよう具体的に指示すべき注意義務を怠った過失があり,業務上過失致死罪が成立する。 【参照法条】 刑法(平成13年法律第138号による改正前のもの)211条前段 ・平成14(あ)1396 被告人Aに対する公正証書原本不実記載,同行使,有印私文書偽造,同行使,被告人Bに対する公正証書原本不実記載,同行使各被告事件 平成17年11月15日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 定款に株式譲渡制限の定めのある非上場会社の一人株主がその全株式を同社の債務の担保のため譲渡担保に供するなどした後に同社の役員の解任及び選任等の株式会社変更登記申請を行い同社の商業登記簿の原本にその旨記載させた行為につき公正証書原本不実記載罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 定款に株式譲渡制限の定めのある非上場会社の一人株主が,その全株式を同社の債務の担保のため譲渡担保に供した後に,同社の役員の解任及び選任等の株式会社変更登記申請を債権者の関与なく行い,同社の商業登記簿の原本にその旨記載させた行為は,上記譲渡担保の契約当事者の合理的な意思解釈として,株主共益権を債権者に帰属させる旨の合意があったものと認められる判示の事情の下では,公正証書原本不実記載罪に当たる。 【参照法条】 民法369条(譲渡担保),商法204条1項,商法241条1項,刑法157条1項 ・平成16(行ヒ)46 損害賠償請求事件 平成17年11月15日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 市の助役が民間団体の開催する会合に出席した際の会費相当額として支出された市長交際費が社会通念上相当と認められる範囲を超えるものとした原審の判断に違法があるとされた事例 ・平成17(許)22 担保不動産競売申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年11月11日 最高裁判所第二小法廷 決定 破棄自判 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 根抵当権者が競売の申立ての際に提出した登記事項証明書に,当該根抵当権の登記のほかに譲渡担保を原因とする同人への所有権移転登記が記載されていても,同登記事項証明書は,民事執行法181条1項3号の文書に当たる ・平成15(受)281 損害賠償請求事件 平成17年11月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 大阪高等裁判所 【判示事項】 1 人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影する行為と不法行為の成否 2 写真週刊誌のカメラマンが刑事事件の法廷において被疑者の容ぼう,姿態を撮影した行為が不法行為法上違法とされた事例 3 人の容ぼう,姿態を描写したイラスト画を公表する行為と不法行為の成否 4 刑事事件の法廷における被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とはいえないとされた事例 5 刑事事件の法廷において身体の拘束を受けている状態の被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とされた事例 【裁判要旨】 1 人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。 2 写真週刊誌のカメラマンが,刑事事件の被疑者の動静を報道する目的で,勾留理由開示手続が行われた法廷において同人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影した行為は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の同人の容ぼう,姿態を,裁判所の許可を受けることなく隠し撮りしたものであることなど判示の事情の下においては,不法行為法上違法である。 3 人は自己の容ぼう,姿態を描写したイラスト画についてみだりに公表されない人格的利益を有するが,上記イラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,イラスト画はその描写に作者の主観や技術を反映するものであり,公表された場合も,これを前提とした受け取り方をされるという特質が参酌されなければならない。 4 刑事事件の被告人について,法廷において訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法であるとはいえない。 5 刑事事件の被告人について,法廷において手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法である。 【参照法条】 (1~5につき)民法709条,710条,憲法13条 (2につき)刑訴規則215条 ・平成17(行フ)2 文書提出命令申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年11月10日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所 【判示事項】 仙台市議会の議員が所属会派に交付された政務調査費によって費用を支弁して行った調査研究の内容及び経費の内訳を記載して当該会派に提出した調査研究報告書及びその添付書類が民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとされた事例 【裁判要旨】 市の議会の会派に所属する議員が政務調査費を用いてした調査研究の内容及び経費の内訳を記載して当該会派に提出した調査研究報告書が,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとされた事例 【参照法条】 民訴法220条4号ニ,地方自治法100条13項,仙台市政務調査費の交付に関する条例(平成13年仙台市条例第33号)1条,2条,3条,12条 ・平成13(行ヒ)243 損害賠償請求事件 平成17年11月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 広島高等裁判所 【裁判要旨】 市と外国都市との間の高速船運航事業を目的として設立された第3セクターに対する市の補助金の交付が地方自治法232条の2所定の「公益上必要がある場合」に当たるとされた事例 ・平成14(行ヒ)112 所得税更正処分等取消請求事件 平成17年11月08日 最高裁判所第三小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 非上場株式の低額譲受けに係る給与所得,その低額譲渡に係る譲渡所得及びその新株の有利発行を受けたことに係る一時所得の各計算において,評価差額に対する法人税額等相当額を控除した純資産価額を基に同株式を評価すべきであるとされた事例 ・平成16(受)1939 檀信徒総会決議不存在確認等請求事件 平成17年11月08日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 1 宗教法人の責任役員及び代表役員を選定する檀信徒総会決議の不存在確認の訴えにつき確認の利益があるとされた事例2 責任役員又は責任役員代務者と称して宗教法人の運営にかかわってきた檀信徒が責任役員及び代表役員を選定するための檀信徒総会を招集することが許されるとされた事例 ・平成15(あ)163 銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件 平成17年11月08日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 反目状態にあった男の運転する自動車に意図的に衝突されて自車が転覆したため同人とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を護身用にズボンのポケットに移し替えて自車からはい出した後に路上で携帯する行為について違法性が阻却されないとされた事例 【裁判要旨】 反目状態にあった男とのけんか抗争等に備える目的で自車のダッシュボード内に入れておいた刃物を車外に持ち出した後に路上で携帯する行為は,同人運転の自動車に意図的に衝突されて自車が転覆し,車外にはい出す際に護身用にズボンのポケットに上記刃物を移し替えたという事情があることを考慮しても,その違法性が阻却される余地はない。 【参照法条】 刑法35条,刑法36条1項,銃砲刀剣類所持等取締法22条,銃砲刀剣類所持等取締法32条4号 ・平成17(オ)153 詐害行為取消請求事件 平成17年11月08日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 旧会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの)78条1項1号に該当する行為についてした否認の効果が及ぶ目的物の範囲 【裁判要旨】 更生会社の管財人が旧会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの)78条1項1号に該当する行為についてした否認の効果は,当該行為の目的物が複数で可分であったとしても,目的物すべてに及ぶ 【参照法条】 旧会社更生法(平成14年法律第154号による改正前のもの)78条1項1号,会社更生法86条1項1号,民法424条1項 ・平成14(行ツ)187 市道区域決定処分取消等請求事件 平成17年11月01日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 仙台高等裁判所 【裁判要旨】 昭和13年に決定された都市計画における道路に含まれる土地に建築の制限が課せられることによる損失について,憲法29条3項に基づく補償請求をすることができないとされた事例 ・平成14(行ヒ)144 損害賠償請求事件 平成17年10月28日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 【判示事項】 1 町が公の施設を存続させるためその管理及び運営を委託している権利能力のない社団の赤字を補てんするのに必要な補助金を交付したことが地方自治法232条の2に定める公益上の必要を欠くとはいえないとされた事例 2 地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づく住民訴訟における請求の放棄の可否 【裁判要旨】 1 町が自然活用施設の運営を委託している団体に対してした補助金の交付が地方自治法232条の2所定の「公益上必要がある場合」に当たらないとはいえないとされた事例 2 地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づく住民訴訟において,原告である住民が請求を放棄することはできない 【参照法条】 (1につき)地方自治法232条の2,244条1項,挾間町陣屋の村自然活用施設の設置及び管理に関する条例(平成2年挾間町条例第15号)2条(2につき)地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号,民訴法266条 ・平成15(行ヒ)320 勧告取消請求事件 平成17年10月25日 最高裁判所第三小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 医療法(平成12年法律第141号による改正前のもの)30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病床数削減の勧告は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる ・平成17(し)406 勾留理由開示の期日調書の謄写を許可しないとの裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年10月24日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 新潟地方裁判所 【判示事項】 公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した起訴前の勾留理由開示の期日調書の謄写を許可しなかった裁判官の処分に対する不服申立て 【裁判要旨】 公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した起訴前の勾留理由開示の期日調書の謄写について裁判官が刑訴法40条1項に準じて行った不許可処分に対しては,同法429条1項2号による準抗告を申し立てることはできず,同法309条2項により異議を申し立てることができる。 【参照法条】 刑訴法40条1項,刑訴法280条1項,3項,刑訴法309条2項,刑訴法429条1項2号,刑訴規則86条 ・平成17(行ヒ)106 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成17年10月18日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【裁判要旨】 1 特許を無効にすべき旨の審決の取消請求を棄却した原判決に係る事件の上告審係属中に当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審決が確定したことにより原判決を破棄する場合に,上記無効審決を取り消す旨の自判をした事例 2 特許を無効にすべき旨の審決の取消訴訟の係属中に当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審決が確定したことにより上記無効審決を取り消す場合に,訴訟の総費用を特許権者に負担させた事例 ・平成17(許)11 文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件 平成17年10月14日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄差戻し 名古屋高等裁判所 【判示事項】 1 民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」と公務員が職務上知ることができた私人の秘密 2 民訴法220条4号ロにいう「その提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」の意義 3 いわゆる災害調査復命書のうち行政内部の意思形成過程に関する情報に係る部分は民訴法220条4号ロ所定の文書に該当するが労働基準監督官等の調査担当者が職務上知ることができた事業者にとっての私的な情報に係る部分は同号ロ所定の文書に該当しないとされた事例 【裁判要旨】 1 民訴法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」と公務員が職務上知ることができた私人の秘密 2 民訴法220条4号ロにいう「その提出により公共の利益を害し,又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」の意義 3 いわゆる災害調査復命書のうち,行政内部の意思形成過程に関する情報に係る部分は民訴法220条4号ロ所定の文書に該当するが,労働基準監督官等の調査担当者が職務上知ることができた事業者にとっての私的な情報に係る部分は同号ロ所定の文書に該当しないとされた事例 【参照法条】 (1~3につき) 民訴法220条4号ロ (3につき) 労働安全衛生法91条,94条,100条 ・平成17(あ)660 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,覚せい剤取締法違反被告事件 平成17年10月12日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」5条違反の罪の公訴事実が多数回にわたり多数人に譲り渡した旨の概括的記載を含んでいても訴因の特定として欠けるところはないとされた事例 【裁判要旨】 4回の覚せい剤譲渡の年月日,場所,相手,量,代金を記載した別表を添付した上,「被告人は,平成14年6月ころから平成16年3月4日までの間,営利の目的で,みだりに,別表記載のとおり覚せい剤を譲り渡すとともに,薬物犯罪を犯す意思をもって,多数回にわたり,大阪市内において,Aほか氏名不詳の多数人に対し,覚せい剤様の結晶を覚せい剤として有償で譲り渡し,もって,覚せい剤を譲り渡す行為と薬物その他の物品を規制薬物として譲り渡す行為を併せてすることを業とした」旨を記載した公訴事実は,「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」5条違反の罪の訴因の特定として欠けるところはない。 【参照法条】 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律5条,8条2項,刑訴法256条3項 ・平成17(許)14 遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件 平成17年10月11日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄差戻し 大阪高等裁判所 【判示事項】 相続が開始して遺産分割未了の間に第2次の相続が開始した場合において第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときの持戻しの要否 【裁判要旨】 相続が開始して遺産分割が未了の間に相続人が死亡した場合において,第2次被相続人が取得した第1次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は,実体上の権利であり,第2次被相続人の遺産として遺産分割の対象となる 【参照法条】 民法896条,898条,899条,900条,903条,907条,家事審判法9条乙類10号,家事審判規則104条 ・平成15(行ヒ)295 公文書非公開決定処分取消等請求事件 平成17年10月11日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 1 土地開発公社が個人から買収した土地の買収価格に関する情報が,「公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報」に当たり,旧奈良県情報公開条例所定の個人に関する非開示情報に当たらないとされた事例2 土地開発公社が個人に対して支払った建物,工作物,動産,植栽等に係る補償金の額に関する情報が旧奈良県情報公開条例所定の個人に関する非開示情報に当たるとされた事例 ・平成14(あ)1431 商法違反,背任,有価証券偽造,同行使,有印私文書偽造,同行使被告事件 平成17年10月07日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 商社の理事兼企画監理本部長が同社から給与等の支給を受けていなくても商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項にいう「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人」に当たるとされた事例 【裁判要旨】 甲商社から巨額の融資を受けていた不動産会社のオーナー経営者乙が,甲社の不動産開発等の業務を担当する理事兼企画監理本部長に就任し,甲社社長の指揮命令に服しながら,対外的法律行為に関する包括的代理権の行使を含め,甲社の企業活動の一端を継続的かつ従属的に担っていたなど判示の事実関係の下においては,乙は,甲社から給与等の支給を受けていなかったとしても,商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項にいう「営業ニ関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人」に当たる。 【参照法条】 商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項 ・平成15(あ)59 商法違反,法人税法違反被告事件 平成17年10月07日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 会社の絵画等購入担当者の特別背任行為につき同社に絵画等を売却した会社の支配者が共同正犯とされた事例 【裁判要旨】 甲社の絵画等購入担当者である乙らが,丙の依頼を受けて,甲社をして丙が支配する丁社から多数の絵画等を著しく不当な高額で購入させ,甲社に損害を生じさせた場合において,その取引の中心となった甲と丙の間に,それぞれが支配する会社の経営がひっ迫した状況にある中,互いに無担保で数十億円単位の融資をし合い,各支配に係る会社を維持していた関係があり,丙がそのような関係を利用して前記絵画等の取引を成立させたとみることができるなど判示の事情の下では,丙は,乙らの特別背任行為について共同加功をしたということができる。 【参照法条】 商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)60条,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)65条,刑法(平成3年法律第31号による改正前のもの)247条 ・平成14(あ)1431 業務上横領,商法違反被告事件 平成17年10月07日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 商社の代表取締役社長が行った巨額の融資につき特別背任罪における加害目的が認められた事例 【裁判要旨】 商社の代表取締役社長がその任務に違背して巨額の融資を行った場合において,融資実行の動機は同社の利益よりも自己らの利益を図ることにあり,同社に損害を加えることの認識,認容もあったなど判示の事実関係の下では,特別背任罪における図利目的はもとより加害目的をも認めることができる。 【参照法条】 商法(平成2年法律第64号による改正前のもの)486条1項,刑法247条 ・平成17(あ)684 大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反,器物損壊被告事件 平成17年09月27日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証の証拠能力 【裁判要旨】 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で,実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証が刑訴法326条の同意を得ずに証拠能力を具備するためには,同法321条3項所定の要件が満たされるほか,再現者の供述録取部分については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の要件が,再現者が被告人である場合には同法322条1項所定の要件が,写真部分については,署名押印の要件を除き供述録取部分と同様の要件が満たされる必要がある。 【参照法条】 刑訴法321条1項2号,刑訴法321条1項3号,刑訴法321条3項,刑訴法322条1項,刑訴法326条 ・平成17(行ツ)71 選挙無効請求事件 平成17年09月27日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【裁判要旨】 衆議院議員選挙を無効とする判決を求める訴えは,衆議院の解散によって訴えの利益を失う ・平成16(受)1847 損害賠償請求事件 平成17年09月16日 最高裁判所第二小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 売主から委託を受けてマンションの専有部分の販売に関する一切の事務を行っていた宅地建物取引業者に専有部分内に設置された防火戸の操作方法等につき買主に対して説明すべき信義則上の義務があるとされた事例 ・平成13(行ツ)82 在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件 平成17年09月14日 最高裁判所大法廷 判決 その他 東京高等裁判所 【判示事項】 1 公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)が在外国民の国政選挙における投票を平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙当時全く認めていなかったことと憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書 2 公職選挙法附則8項の規定のうち在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分と憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書 3 在外国民が次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えの適否 4 在外国民と次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができる地位 5 国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合6 平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙までに国会が在外国民の国政選挙における投票を可能にするための立法措置を執らなかったことについて国家賠償請求が認容された事例 【裁判要旨】 1 平成8年10月20日に施行された衆議院議員の総選挙当時,公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)が,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が国政選挙において投票をするのを全く認めていなかったことは,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。 2 公職選挙法附則8項の規定のうち,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権の行使を認める制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,遅くとも,本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては,憲法15条1項,3項,43条1項,44条ただし書に違反する。 3 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民が,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法である。 4 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民は,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録され ていることに基づいて投票をすることができる地位にある。 5 国会議員の立法行為又は立法不作為は,その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける。 6 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民に国政選挙における選挙権行使の機会を確保するためには,上記国民に上記選挙権の行使を認める制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず,上記国民の国政選挙における投票を可能にするための法律案が廃案となった後,平成8年10月20日の衆議院議員総選挙の施行に至るまで10年以上の長きにわたって国会が上記投票を可能にするための立法措置を執らなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものというべきであり,国は,上記選挙において投票をすることができなかったことにより精神的苦痛を被った上記国民に対し,慰謝料各5000円の支払義務を負う。 (1,2,4~6につき,補足意見,反対意見がある。) 【参照法条】 (1,2,4につき)憲法15条1項,3項,43条1項,44条(1,6につき)公職選挙法(平成12年法律第62号による改正前のもの)21条1項,公職選挙法(平成10年法律第47号による改正前のもの)42条,住民基本台帳法15条1項(2~4につき)公職選挙法第4章の2 在外選挙人名簿,42条,49条の2,附則8項(3につき)行政事件訴訟法4条(5,6につき)国家賠償法1条1項,憲法41条 ・平成14(行ヒ)72 審決取消請求事件 平成17年09月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 1 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律7条の2第1項所定の「売上額」の意義 2 損害保険業の事業者団体の構成事業者につき私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律8条の3において準用する同法7条の2第1項所定の「売上額」 【裁判要旨】 1 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律7条の2第1項所定の「売上額」は,事業者の事業活動から生ずる収益から費用を差し引く前の数値をいう。 2 損害保険業の事業者団体の構成事業者である損害保険会社について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律8条の3において準用する同法7条の2第1項所定の「売上額」は,損害保険会社が損害保険の引受けの対価として保険契約者から収受した保険料の合計額である。 【参照法条】 (1,2につき)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律7条の2第1項(2につき)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成9年法律第87号による改正前のもの)8条1項1号,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律8条の3 ・平成14(受)989 損害賠償請求事件 平成17年09月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 帝王切開術を強く希望していた夫婦に経膣分娩を勧めた医師の説明が,同夫婦に対して経膣分娩の場合の危険性を理解した上で経膣分娩を受け入れるか否かについて判断する機会を与えるべき義務を尽くしたものとはいえないとされた事例 ・平成14(行ツ)36 保険医療機関指定拒否処分取消請求事件 平成17年09月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 1 医療法に基づく病院開設中止勧告に従わないことを理由とする健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの)43条ノ3第2項に基づく保険医療機関指定拒否処分が適法であるとされた事例2 医療法に基づく病院開設中止勧告に従わないことを理由として健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの)43条ノ3第2項に基づいてされた保険医療機関指定拒否処分は憲法22条1項に違反しない ・平成16(受)1222 預託金返還請求事件 平成17年09月08日 最高裁判所第一小法廷 判決 大阪高等裁判所 【判示事項】 共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属と後にされた遺産分割の効力 【裁判要旨】 相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し,その帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けない。 【参照法条】 民法88条2項,民法89条2項,民法427条,民法601条,民法896条,民法898条,民法899条,民法900条,民法907条,民法909条 ・平成16(あ)2716 住居侵入,強盗致死,強盗傷人,強盗被告事件 平成17年08月30日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所 【判示事項】 裁判官が公訴棄却の判決をし又はその判決に至る手続に関与したことと再起訴後の審理における刑訴法20条7号本文所定の除斥原因 【裁判要旨】 裁判官が公訴棄却の判決をし,又はその判決に至る手続に関与したことは,その手続において再起訴後の第1審で採用された証拠又はそれと実質的に同一の証拠が取り調べられていても,再起訴後の審理において,刑訴法20条7号本文所定の除斥原因に当たらない。 【参照法条】 刑訴法20条7号,刑訴法338条 ・平成17(し)346 検察官送致決定に対する特別抗告事件 平成17年08月23日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京家庭裁判所 【判示事項】 少年法20条による検察官送致決定に対する特別抗告の許否 【裁判要旨】 少年法20条による検察官送致決定に対しては,特別抗告をすることはできない。 【参照法条】 少年法20条,刑訴法433条 ・平成16(あ)2723 貸金業の規制等に関する法律違反,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律違反,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件 平成17年08月01日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 1 出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項所定の行為が反復累行された場合の罪数 2 貸金業の規制等に関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)47条2号,11条1項に違反して無登録で貸金業を営む行為と出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項の制限超過利息を受領する行為との罪数関係 3 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項の犯罪収益等の取得につき仮装する行為と出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項の制限超過利息を受領する行為とが併合罪の関係にあるとされた事例 【裁判要旨】 1 出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項所定の行為は,反復累行されても,特段の事情のない限り,個々の契約又は受領ごとに一罪が成立し,併合罪となる。 2 貸金業の規制等に関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)47条2号,11条1項に違反して無登録で貸金業を営む行為と,業として金銭の貸付けを行う中で個別的に出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項の制限超過利息を受領する行為とは,刑法54条1項の観念的競合又は牽連犯ではなく,併合罪の関係にある。 3 出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項の制限超過利息の取得につき継続的に事実を仮装する意図で,架空人名義の銀行預金口座を入手し,同口座に元金及び利息を振り込ませることにより,上記架空人が犯罪収益等を取得したものであるように仮装したなど判示の事実関係の下においては,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項に該当する上記行為と,個別的に上記制限超過利息を受領する行為とは,刑法54条1項前段の観念的競合ではなく,併合罪の関係にある。 【参照法条】 刑法45条,刑法54条1項,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項,貸金業の規制等に関する法律2条1項,貸金業の規制等に関する法律3条 ・平成17(許)4 一部文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件 平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷 決定 東京高等裁判所 【判示事項】 1 捜索差押許可状及び捜索差押令状請求書が民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に当たるとされた事例 2 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押許可状の文書提出命令の申立てに対して刑訴法47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとされた事例 3 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押令状請求書の文書提出命令の申立てに対して刑訴法47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとされた事例 【裁判要旨】 1 警察官が文書提出命令の申立人の住居等において行った捜索差押えに係る捜索差押許可状及び捜索差押令状請求書は,いずれも,当該警察官が所属し,上記各文書を所持する地方公共団体と文書提出命令申立人との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当する。 2 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押許可状の文書提出命令の申立てに対して,刑訴法 47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断は,本案訴訟において同許可状を証拠として取り調べる必要性が認められ,同許可状が開示されたとしても今後の捜査,公判に悪影響が生ずるとは考え難いなど判示の事情の下では,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものというべきである。 3 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由としてされた捜索差押令状請求書の文書提出命令の申立てに対して,刑訴法47条に基づきその提出を拒否した所持者の判断は,本案訴訟において同請求書を証拠として取り調べる必要性は認められるものの,被疑事件につき,いまだ被疑者の検挙に至っておらず,現在も捜査が継続中であって,同請求書には捜査の秘密にかかわる事項や被害者等のプライバシーに属する事項が記載されている蓋然性が高いなど,同請求書を開示することによって,被疑事件の今後の捜査及び公判に悪影響が生じたり,関係者のプライバシーが侵害されたりする具体的なおそれが存するという事情の下では,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとはいえない。 【参照法条】 民訴法220条3号,民訴法220条4号ホ,刑訴法47条,刑訴法110条,刑訴法218条1項,刑訴法218条3項,刑訴法219条,刑訴法222条1項,刑訴規則155条1項,憲法35条 ・平成16(受)443 親子関係不存在確認等,相続回復,土地所有権確認等請求事件 平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 遺言書作成当時の事情,遺言者の置かれていた状況等を考慮することなく遺言書の記載のみに依拠して遺言書の条項の解釈をした原審の判断に違法があるとされた事例 ・平成16(行ヒ)343 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 登録商標「国際自由学園」が商標法4条1項8号所定の他人の名称の著名な略称を含む商標に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例 ・平成17(行フ)4 文書提出命令に対する許可抗告事件 平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷 決定 東京高等裁判所 【判示事項】 1 法務省が外務省を通じて外国公機関に照会を行った際に同省に交付した依頼文書の控えにつき民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり同法220条 4号ロ所定の文書に該当する旨の監督官庁の意見に相当の理由があると認めるに足りないとした原審の判断に違法があるとされた事例 2 外務省が外国公機関に交付した照会文書の控え及び同機関が同省に交付した回答文書につき民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり同法220条4号ロ所定の文書に該当する旨の監督官庁の意見に相当の理由があると認めるに足りないとした原審の判断に違法があるとされた事例 【裁判要旨】 1 難民であると主張する外国人に対する外国官憲作成名義の逮捕状等の写しの原本の存在及び成立の真正に関し,法務省が外務省を通じて同国公機関に対して照会を行った際に同省に交付した依頼文書の控えにつき,監督官庁が,民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり,同法220条 4号ロ所定の文書に該当する旨の意見を述べ,同文書の所持者である法務大臣が,同文書には,同国の内政上の諸問題,調査の際に特に留意すべき事項,調査に係る背景事情等に関する重要な情報等が記載され,その中に同国政府に知らせていない事項も含まれていると主張しているなど判示の事情の下においては,上記記載の存否及び内容について審理して,同文書が提出された場合に我が国と他国との信頼関係に与える影響等を検討することなく,上記意見に相当の理由があると認めるに足りないとした原審の判断には,違法がある。 2 難民であると主張する外国人に対する外国官憲作成名義の逮捕状等の写しの原本の存在及び成立の真正に関し照会するために外務省が作成して同国公機関に交付した照会文書の控え及び同機関が同省に交付した照会に対する回答文書につき,監督官庁が,民訴法223条4項1号の「他国との信頼関係が損なわれるおそれ」があり,同法220条4号ロ所定の文書に該当する旨の意見を述べ,上記各文書の所持者である外務大臣が,上記各文書は,公開しないことが外交上の慣例とされる口上書と称される外交文書の形式によるものであり,発出者ないし受領者により秘密の取扱いとすべきことを表記した上で相手国に対する伝達事項等が記載されていると主張しているなど判示の事情の下においては,上記記載の存否及び内容,口上書の形式によるものであるとすれば上記慣例の有無等について審理して,上記各文書が提出された場合に我が国と他国との信頼関係に与える影響等を検討することなく,上記意見に相当の理由があると認めるに足りないとした原審の判断には,違法がある。 (1につき補足意見,2につき補足意見及び意見がある。) 【参照法条】 民訴法220条4号ロ,民訴法223条3項,民訴法223条4項1号 ・平成16(あ)2554 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,出入国管理及び難民認定法違反被告事件 平成17年07月22日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 規制薬物の譲渡を犯罪行為とする場合における「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」2条 3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に係る同法11条1項1号の没収及び同法13条1項前段の追徴に当たり取得費用等を控除することの可否 【裁判要旨】 規制薬物の譲渡を犯罪行為とする場合における「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に係る同法11条1項1号の没収及び同法13条1項前段の追徴に当たっては,規制薬物の対価として得た財産から当該財産を得るために犯人が支出した費用等を控除すべきではない。 【参照法条】 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律2条3項,11条1項1号,13条1項 ・平成17(あ)202 覚せい剤取締法違反被告事件 平成17年07月19日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 治療の目的で救急患者から尿を採取して薬物検査をした医師の通報を受けて警察官が押収した上記尿につきその入手過程に違法はないとされた事例 【裁判要旨】 医師が,治療の目的で救急患者の尿を採取して薬物検査をしたところ,覚せい剤反応があったため,その旨警察官に通報し,これを受けて警察官が上記尿を押収したなどの事実関係の下では(判文参照),警察官が上記尿を入手した過程に違法はない。 【参照法条】 刑法134条1項,刑訴法218条1項,刑訴法239条,刑訴法317条 ・平成16(受)965 過払金等請求事件 平成17年07月19日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【判示事項】 貸金業者の債務者に対する取引履歴開示義務の有無 【裁判要旨】 貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,その業務に関する帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う。 【参照法条】 民法1条2項,民法587条,民法709条,貸金業の規制等に関する法律19条,貸金業の規制等に関する法律施行規則16条 ・平成17(行ツ)73 選挙無効請求事件 平成17年07月19日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 衆議院小選挙区選出議員の選挙において当選人となった議員が辞職したことにより選挙訴訟の訴えの利益が失われる場合 【裁判要旨】 衆議院小選挙区選出議員の選挙を無効とする判決を求める訴訟は,当該選挙において当選人となった議員が辞職した場合において,その選挙に関し,辞職した議員以外の者が繰上補充又は当選人の更正決定により当選人となる可能性がなく,かつ,上記訴訟の結果選挙の一部のみが無効とされる可能性もないときは,その訴えの利益を失う。 【参照法条】 公職選挙法33条の2第7項,公職選挙法95条2項,公職選挙法96条,公職選挙法109条,公職選挙法112条1項,公職選挙法113条1項,公職選挙法204条,公職選挙法205条1項,公職選挙法208条1項 ・平成14(行ヒ)207 勧告取消等請求事件 平成17年07月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 その他 名古屋高等裁判所 【判示事項】 医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告と抗告訴訟の対象 【裁判要旨】 医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の勧告は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。 【参照法条】 医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の7,健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの)43条ノ3第2項,行政事件訴訟法3条1項,2項 ・平成15(行ヒ)250 非公開決定処分取消請求事件 平成17年07月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 1 土地開発公社が個人から買収した土地の買収価格に関する情報が名古屋市公文書公開条例所定の非公開情報(所得,財産等に関する個人識別情報のうち通常他人に知られたくないと認められるもの)に当たらないとされた事例2 土地開発公社が個人に対して支払った建物,工作物,立木,動産等に係る補償金の額に関する情報が名古屋市公文書公開条例所定の非公開情報(所得,財産等に関する個人識別情報のうち通常他人に知られたくないと認められるもの)に当たるとされた事例 ・平成16(受)1611 第三者異議事件 平成17年07月15日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 第三者異議の訴えの原告についての法人格否認の法理の適用 【裁判要旨】 第三者異議の訴えの原告の法人格が執行債務者に対する強制執行を回避するために濫用されている場合には,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して強制執行の不許を求めることは許されない。 【参照法条】 民事執行法23条,民事執行法38条1項,民訴法115条,民法33条,商法52条 ・平成16(オ)1653 売掛代金請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 被告が,抗弁として主張する弁済の事実に対応する書証を提出しているものと誤解していることが明らかであるにもかかわらず,裁判所が,同抗弁に係る立証等について釈明権を行使せずに同抗弁を排斥したことには,釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例 ・平成13(行ヒ)348 公文書非公開決定処分取消請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 市の局長等の交際費の支出に関する文書で交際の相手方が識別されるものの情報公開条例所定の非公開事由(事務事業の目的を損ない,又は適正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの)該当性 ・平成15(受)1284 損害賠償請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 1 証券取引における適合性原則違反と不法行為の成否 2 証券会社の担当者による株価指数オプションの売り取引の勧誘が適合性原則から著しく逸脱するものであったとはいえないとして不法行為の成立が否定された事例 【裁判要旨】 1 証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となる。 2 証券会社甲の担当者が顧客である株式会社乙に対し株価指数オプションの売り取引を勧誘してこれを行わせた場合において,当該株価指数オプションは証券取引所の上場商品として広く投資者が取引に参加することを予定するものであったこと,乙は20億円以上の資金を有しその相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと,乙の資金運用業務を担当する専務取締役らは,株価指数オプション取引を行う前から,信用取引,先物取引等の証券取引を毎年数百億円規模で行い,証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと,乙は,株価指数オプションの売り取引を始めた際,その損失が一定 額を超えたらこれをやめるという方針を立て,実際にもその方針に従って取引を終了させるなどして自律的なリスク管理を行っていたことなど判示の事情の下においては,オプションの売り取引は損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性がある極めてリスクの高い取引類型であることを考慮しても,甲の担当者による上記勧誘行為は,適合性の原則から著しく逸脱するものであったとはいえず,甲の不法行為責任を認めることはできない。 (2につき補足意見がある。) 【参照法条】 民法709条,証券取引法2条22項,証券取引法43条1号,証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)54条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号)8条5号 ・平成16(受)930 損害賠償請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 公立図書館の職員が図書の廃棄について不公正な取扱いをすることと当該図書の著作者の人格的利益の侵害による国家賠償法上の違法 【裁判要旨】 公立図書館の職員である公務員が,閲覧に供されている図書の廃棄について,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをすることは,当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となる。 【参照法条】 国家賠償法1条1項,図書館法2条,図書館法3条,憲法13条,憲法19条,憲法21条1項 ・平成16(行ヒ)4 審決取消請求事件 平成17年07月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に分割出願がされもとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときにおける補正の効果が生ずる時期 【裁判要旨】 商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,分割出願がされ,もとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない。 【参照法条】 商標法10条1項,2項,68条の40第1項,商標法施行規則22条4項,特許法施行規則30条 ・平成14(行ヒ)181 固定資産評価審査決定取消請求事件 平成17年07月11日 最高裁判所第二小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 固定資産課税台帳に登録された土地の価格についての固定資産評価審査委員会の決定の取消訴訟において同委員会の認定した価格が裁判所の認定した適正な時価等を上回っていることを理由として同決定を取り消す場合における取消しの範囲 【裁判要旨】 固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格についての固定資産評価審査委員会の決定の取消訴訟において,裁判所が,同期日における当該土地の適正な時価又は固定資産評価基準によって決定される価格を認定し,同委員会の認定した価格が上記の適正な時価等を上回っていることを理由として同決定を取り消す場合には,同決定のうち上記の適正な時価等を超える部分を取り消せば足りる。 【参照法条】 地方税法(平成11年法律第15号による改正前のもの)341条5号,地方税法(平成11年法律第15号による改正前のもの)411条1項,地方税法(平成 11年法律第15号による改正前のもの)432条1項,地方税法(平成11年法律第15号による改正前のもの)433条1項,地方税法(平成11年法律第 15号による改正前のもの)403条1項,地方税法349条1項,地方税法359条,地方税法434条1項 ・平成15(行ヒ)353 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成17年07月11日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 商標法4条1項15号違反を理由とする商標登録の無効の審判請求が除斥期間を遵守したものであるというためには,除斥期間内に提出された審判請求書に,当該商標登録が同号に違反する旨の記載があることをもって足りる ・平成16(受)2134 預金払戻,不当利得返還請求事件 平成17年07月11日 最高裁判所第二小法廷 判決 札幌高等裁判所 【裁判要旨】 相続財産である預金債権について一部の共同相続人が銀行からその相続分を超えて払戻しを受けても他の共同相続人に当該超過分を支払うまでは当該銀行には民法703条所定の「損失」が発生しないとした原審の判断に違法があるとされた事例 ・平成17(あ)764 公職選挙法違反被告事件 平成17年07月06日 最高裁判所第三小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所 【判示事項】 特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者と公職選挙法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」 【裁判要旨】 特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者は,いまだ選挙運動を行っていなくても,公職選挙法225条1号及び3号にいう「選挙運動者」に当たる。 【参照法条】 公職選挙法225条1号,公職選挙法225条3号 ・平成17(し)125 控訴申立棄却決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年07月04日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 福岡高等裁判所 【判示事項】 電子複写機によって複写されたコピーであって作成名義人たる外国人である被告人の署名がない控訴申立書による控訴申立ての効力 【裁判要旨】 電子複写機によって複写されたコピーであって,作成名義人たる外国人である被告人の署名がない控訴申立書による控訴申立ては,同書面中に被告人の署名が複写されていたとしても,無効である。 【参照法条】 刑訴法374条,刑訴規則60条,外国人の署名捺印及び無資力証明に関する法律1条1項 ・平成15(あ)1468 殺人被告事件 平成17年07月04日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」(判文参照)を依頼された者が入院中の患者を病院から運び出させた上必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させた場合につき未必的殺意に基づく不作為による殺人罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」(判文参照)を依頼された者が,入院中の患者を病院から運び出させた上,未必的な殺意をもって,患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させたなど判示の事実関係の下では,不作為による殺人罪が成立する。 【参照法条】 刑法199条 ・平成16(行フ)7 訴えの変更許可決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年06月24日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は,指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たる ・平成16(受)997 特許権侵害差止請求事件 平成17年06月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 専用実施権を設定した特許権者がその特許権に基づく差止請求をすることの可否 【裁判要旨】 特許権者は,その特許権について専用実施権を設定したときであっても,当該特許権に基づく差止請求権を行使することができる 【参照法条】 特許法68条,77条1項,2項,100条1項 ・平成15(受)900 損害賠償等請求事件 平成17年06月16日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【裁判要旨】 我が国における加熱血液製剤の製造承認等に関する雑誌記事等の執筆者がその記事等に摘示されている事実を真実であると信じたことには相当の理由があるとして名誉毀損による不法行為の成立が否定された事例 ・平成13(行ヒ)263 県営渡船情報非公開処分取消請求事件 平成17年06月14日 最高裁判所第三小法廷 判決 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 公開請求の対象を公文書と定めている情報公開条例の下において,実施機関が,公開請求に係る公文書に請求者が公開を求めた事項以外の情報が記録されている部分があることなどを理由として,当該部分を公開しないことは許されない ・平成16(受)1888 損害賠償請求事件 平成17年06月14日 最高裁判所第三小法廷 判決 札幌高等裁判所 【判示事項】 損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合 【裁判要旨】 損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならない。 【参照法条】 民法404条,民法709条 ・平成14(受)1250 未払賃金請求事件(通称 関西医科大学付属病院研修医賃金請求事件) 平成17年06月03日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの)16条の2第1項所定の臨床研修を行う医師と労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの)9条所定の労働者 【裁判要旨】 医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの)16条の2第1項所定の臨床研修として病院において研修プログラムに従い臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事する医師は,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの)9条所定の労働者に当たる。 【参照法条】 医師法(平成11年法律第160号による改正前のもの)16条の2第1項,労働基準法(平成10年法律第112号による改正前のもの)9条,最低賃金法(平成10年法律第112号による改正前のもの)2条 ・平成16(受)29 自動車損害賠償保障法に基づく損害てん補請求事件 平成17年06月02日 最高裁判所第一小法廷 判決 大阪高等裁判所 【判示事項】 1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務の履行期と履行遅滞 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たっての過失相殺と国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額の控除との先後 【裁判要旨】 1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務は,期限の定めのない債務であり,政府が被害者から履行の請求を受けた時から履行遅滞となる。 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額を控除すべきときは,被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をし,その残額からこれを控除する。 【参照法条】 民法412条3項,民法722条2項,自動車損害賠償保障法施行令21条14号,自動車損害賠償保障法72条1項,自動車損害賠償保障法73条1項,国民健康保険法58条1項 ・平成15(行ヒ)108 原子炉設置許可処分無効確認等請求事件 平成17年05月30日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 名古屋高等裁判所 【判示事項】 1 原子炉設置許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するか否かの判断 2 原子力安全委員会等における2次冷却材漏えい事故に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例 3 原子力安全委員会等における蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例 4 原子力安全委員会等における1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象に係る安全審査に依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例 【裁判要旨】 1 どのような事項が原子炉設置許可の段階における安全審査の対象となるべき当該原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に該当するのかという点は,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号所定の基準の適合性に関する判断を構成するものとして,原子力安全委員会の科学的,専門技術的知見に基づく意見を十分に尊重して行う主務大臣の合理的な判断にゆだねられている。 2 高速増殖炉の設置許可の申請に対する原子力安全委員会及び原子炉安全専門審査会による安全審査において,2次冷却材ナトリウムの漏えい事故が発生した場合に漏えいナトリウムとコンクリートとが直接接触することを防止するために床面に鋼製のライナを設置するという設計方針が当該原子炉施設の基本設計を構成するものとして審査の対象とされたこと,床ライナの溶融塩型腐食という知見を踏まえても,床ライナの腐食対策を行うことにより前記の直接接触を防止することが可能であり,床ライナの腐食については後続の設計及び工事の方法の認可以降の段階において対処することが不可能又は非現実的であるとはいえないこと,漏えいナトリウムによる床ライナの熱膨張については,床ライナの板厚,形状,壁との間隔等に配意することにより前記認可以降の段階において対処することが十分に可能であることなど判示の事情の下においては,前記設計方針のみが前記許可の段階における安全審査の対象となるべき原子炉施設の基本設計の安全性にかかわる事項に当たるものとした主務大臣の判断に不合理な点はなく,また,原子力安全委員会等における前記事故に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。 3 高速増殖炉の設置許可の申請者が行った蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全評価のための解析条件が,伝熱管破損伝ぱの機序としてウェステージ型破損(伝熱管から漏えいした水又は蒸気とナトリウムとの反応によって生じた水酸化ナトリウムの噴出流による損耗作用とその化学的腐食作用との相乗効果によって,隣接伝熱管が破損すること)が支配的であるという考え方を基に設定されたものであったこと,当該原子炉施設については,伝熱管からの水漏えいを検知して伝熱管内の水又は蒸気を急速に抜くなど高温ラプチャ型破損(伝熱管から漏えいした水又は蒸気とナトリウムとの反応によって生ずる高温の反応熱のため強度が低下した隣接伝熱管が内部圧力によって破損すること)の発生の抑止効果を相当程度期待することができる設計となっており,現在の科学技術水準に照らしても前記解析条件が不相当であったとはいい難いことなど判示の事情の下においては,前記解析条件を前提に前記事故を想定してされた解析の内容及び結果が原子力安全委員会における具体的審査基準に適合するとしてされた同委員会等における前記事故に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。 4 高速増殖炉の設置許可の申請者が,1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象(外部電源喪失により1次冷却材ナトリウムの炉心流量が減少し原子炉の自動停止が必要とされる時点で,制御棒の挿入の失敗が同時に重なることを仮定した事象で,炉心崩壊をもたらす事故を起こす代表的事象)における起因過程での炉心損傷後の炉心膨張による最大有効仕事量を約380メガジュールと解析したこと,同申請者が,海外の評価例,関連する実験研究等を調査し,米国の国立研究所が開発した解析コードにより,保守的条件設定によって生ずる遷移過程の再臨界の場合であっても,その機械的エネルギーが380メガジュールを超えないことを確認したこと,この値を踏まえて構造物の耐衝撃評価に当たっては膨張過程における最大有効仕事量として500メガジュールが考慮されたが,この圧力荷重によってナトリウムが漏えいするような破損は原子炉容器等に生じないと解析され,原子力安全委員会は,この解析評価について,事象の選定,解析に用いられた条件及び手法が妥当なものであり,解析結果が同委員会における具体的審査基準に適合する妥当なものであると判断したこと,同審査基準は,前記事象の安全評価の目的を,技術的観点からは起こるとは考えられない事象をあえて想定して事故防止対策に係る基本設計に安全裕度があることを念のために確認することとしていることなど判示の事情の下においては,同委員会等における前記事象に係る安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできず,これに依拠してされた高速増殖炉の設置許可に違法があるとはいえない。 【参照法条】 (1~4につき)核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)23条,24条2項,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律24条1項3号,4号 (2~4につき)核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(平成10年政令第308号による改正前のもの)6条の2第1項1号,動力炉・核燃料開発事業団法(平成10年法律第62号による改正前のもの)2条1項,動力炉・核燃料開発事業団法施行令(平成10年政令第308号による改正前のもの)1条,行政事件訴訟法3条4項 ・平成15(受)1771 弁護士費用請求事件 平成17年04月26日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 名古屋高等裁判所 【裁判要旨】 地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第4号の規定による訴訟が訴えの取下げにより終了した場合は同条7項にいう「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には当たらない ・平成16(受)1742 自治会費等請求事件 平成17年04月26日 最高裁判所第三小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 権利能力のない社団である県営住宅の自治会の会員がいつでも当該自治会に対する一方的意思表示によりこれを退会することができるとされた事例 ・平成16(行ツ)178 差押処分無効確認等請求事件 平成17年04月26日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 札幌高等裁判所 【裁判要旨】 農業災害補償法(平成11年法律第69号による改正前のもの)が定める水稲等の耕作の業務を営む者と農業共済組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立するという仕組み(当然加入制)は憲法22条1項に違反しない ・平成16(行ヒ)332 遺族共済年金不支給処分取消請求事件 平成17年04月21日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 私立学校教職員共済法に基づく私立学校教職員共済制度の加入者で同法に基づく退職共済年金の受給権者の男が重婚的内縁関係にあった場合に,遺族共済年金の支給を受けるべき配偶者に当たるのは内縁の妻であるとした事例 ・平成16(受)2030 損害賠償請求事件 平成17年04月21日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 犯罪の被害者は,証拠物を司法警察職員に対して任意提出した上,その所有権を放棄する旨の意思表示をした場合,当該証拠物の廃棄処分が単に適正を欠くというだけでは国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることができない ・平成16(あ)1595 出入国管理及び難民認定法違反被告事件 平成17年04月21日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 在留期間更新の申請をした後在留期間を経過した外国人が上記申請を不許可とする決定の通知が発出されたころ以降本邦に残留した行為につき不法残留罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 在留期間更新の申請をした後在留期間を経過した外国人が上記申請を不許可とする決定の通知が発出されたころ以降本邦に残留した行為については,同人において,上記申請に当たり虚偽の申出をしたほか,審査のため入国管理局が求めた出頭要請等にも誠実に対応していないという本件事実関係(判文参照)の下では,上記通知の到達の有無や上記申請が不許可となったことについての同人の認識の有無を問わず,不法残留罪が成立する。 【参照法条】 出入国管理及び難民認定法21条,出入国管理及び難民認定法(平成16年法律第73号による改正前のもの)70条1項5号,刑法35条,刑法38条 ・平成12(受)243 国家賠償請求上告,同附帯上告事件 平成17年04月19日 最高裁判所第三小法廷 判決 広島高等裁判所 【判示事項】 1 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官が同庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として接見の申出を拒否することができる場合 2 検察官が検察庁の庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否したにもかかわらず弁護人が同庁舎内における即時の接見を求め即時に接見をする必要性が認められる場合に検察官が執るべき措置 3 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官が同庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として接見の申出を拒否するに際し立会人の居る部屋でのごく短時間の「接見」であっても差し支えないかどうかなどの点についての弁護人の意向を確かめることをせず上記申出に対して何らの配慮もしなかったことが違法とされた事例 【裁判要旨】 1 弁護人から検察庁の庁舎内に居る被疑者との接見の申出を受けた検察官は,同庁舎内に,その本来の用途,設備内容等からみて,検察官が,その部屋等を接見のためにも用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等が存しない場合には,接見の申出を拒否することができる。 2 検察官が検察庁の庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人がなお同庁舎内における即時の接見を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合には,検察官には,捜査に顕著な支障が生ずる場合でない限り,秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の「接見」(面会接見)であってもよいかどうかという点につき,弁護人の意向を確かめ,弁護人がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは,面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務がある。 3 弁護人が,検察官から,検察庁の庁舎内には接見のための設備が無いことを理由に同庁舎内に居る被疑者との接見の申出を拒否されたのに対し,接見の場所は被疑者が現在待機中の部屋でもよいし,検察官の執務室でもよいなどと述べて,即時の接見を求めたこと,弁護人は,勾留場所が代用監獄から少年鑑別所に変更されたことをできる限り早く被疑者に伝えて元気づけようと考え,接見を急いでいたこと,ごく短時間の接見であれば,これを認めても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがあったとまではいえないことなど判示の事情の下においては,検察官が,立会人の居る部屋でのごく短時間の「接見」(面会接見)であっても差し支えないかどうかなどの点についての弁護人の意向を確かめることをせず,上記申出に対して何らの配慮もしなかったことは,違法である。 【参照法条】 刑訴法39条,国家賠償法1条1項 ・平成16(あ)971 殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂被告事件 平成17年04月18日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 道路を走行中の普通乗用自動車内におけるけん銃発射行為が銃砲刀剣類所持等取締法3条の13,31条のけん銃等発射罪に当たるとされた事例 【裁判要旨】 国道を走行中の普通乗用自動車内において,助手席に乗車していた被害者に対し,背後からけん銃を突き付け発射した行為(判文参照)は,銃砲刀剣類所持等取締法3条の13,31条のけん銃等発射罪に当たる。 【参照法条】 銃砲刀剣類所持等取締法3条の13,銃砲刀剣類所持等取締法31条 ・平成13(行ヒ)25 処分取消請求事件 平成17年04月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 1 過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項所定の請求の手続によらないで過誤納金の還付を請求することの可否 2 登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項に基づいてした請求に対する登記機関の拒否通知と抗告訴訟の対象 【裁判要旨】 1 過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者は,登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項所定の請求の手続によらなくても,国税通則法56条に基づき,過誤納金の還付を請求することができる。 2 登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項に基づいてした登記機関から税務署長に還付通知をすべき旨の請求に対し,登記機関のする拒否通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。 (1につき反対意見がある。) 【参照法条】 (1,2につき)登録免許税法31条1項,同法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項 (1につき)国税通則法56条1項,同法(平成11年法律第10号による改正前のもの)15条2項14号,3項6号(2につき)行政事件訴訟法3条1項,2項 ・平成16(あ)1618 傷害,強姦被告事件 平成17年04月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 名古屋高等裁判所 【判示事項】 刑訴法157条の3,157条の4と憲法82条1項,37条1項,2項前段 【裁判要旨】 刑訴法157条の3,157条の4は,憲法82条1項,37条1項,2項前段に違反しない。 【参照法条】 憲法37条1項,憲法37条2項,憲法82条1項,刑訴法157条の3,刑訴法157条の4 ・平成16(あ)2077 監禁致傷,恐喝被告事件 平成17年04月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 恐喝の手段として監禁が行われた場合の罪数関係 【裁判要旨】 恐喝の手段として監禁が行われた場合であっても,両罪は,牽連犯の関係にはない。 【参照法条】 刑法45条,刑法54条1項,刑法220条,刑法249条 ・平成17(し)23 強姦未遂保護事件に関し保護処分に付さない決定に対する抗告の決定に対する再抗告事件 平成17年03月30日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 1 少年保護事件の抗告裁判所による非行事実の認定に関する事実の取調べと抗告裁判所の裁量 2 少年保護事件の抗告裁判所が非行事実の認定に関し家庭裁判所において検討していない点について行った事実の取調べが合理的な裁量の範囲内にあるとされた事例 【裁判要旨】 1 少年保護事件の抗告裁判所による非行事実の認定に関する事実の取調べは,少年保護事件の抗告審としての性質を踏まえ,合理的な裁量により行われるべきである。 2 少年保護事件につき検察官のした抗告受理の申立てに基づく抗告審において,非行事実の認定に関し,家庭裁判所が検討していなかった共犯者のアリバイ供述等の信用性を検討しなければ,被害者の供述等について最終的な信用性の判断ができないなど判示の事情の下においては,抗告裁判所が上記アリバイ供述等の信用性に関して必要な事実の取調べを行うことは,合理的な裁量の範囲内にある。 【参照法条】 少年法32条,少年法32条の2,少年法32条の3第1項,少年法32条の4,少年法32条の6 ・平成16(あ)2145 傷害被告事件 平成17年03月29日 最高裁判所第二小法廷 決定 棄却 大阪高等裁判所 【判示事項】 自宅から隣家の被害者に向けて連日連夜ラジオの音声等を大音量で鳴らし続け被害者に慢性頭痛症等を生じさせた行為が傷害罪の実行行為に当たるとされた事例 【裁判要旨】 自宅から隣家の被害者に向けて,精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら,連日連夜,ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして,被害者に精神的ストレスを与え,慢性頭痛症等を生じさせた行為(判文参照)は,傷害罪の実行行為に当たる。 【参照法条】 刑法204条 ・平成15(受)1590 車両通行妨害等禁止請求事件 平成17年03月29日 最高裁判所第三小法廷 判決 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 通行地役権者が承役地に車両を恒常的に駐車させている者に対し車両の通行を妨害することの禁止を求めることができるとされた事例 ・平成16(行フ)5 訴状一部却下命令に対する抗告事件 平成17年03月29日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 同一の敷地にあって一つのリゾートホテルを構成している複数の建物の固定資産課税台帳の登録価格についてされた審査申出の棄却決定の取消しを求める各請求が互いに行政事件訴訟法13条6号所定の関連請求に当たるとされた事例 【裁判要旨】 同一の敷地にあって一つのリゾートホテルを構成している同一人所有の複数の建物について,固定資産課税台帳に登録された同一年度の価格につき需給事情による減点補正がされていないのは違法であるとしてされた審査の申出を棄却する固定資産評価審査委員会の決定のうち,所有者が各建物の適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求める各請求は,互いに行政事件訴訟法13条6号所定の関連請求に当たる。 【参照法条】 行政事件訴訟法13条6号,行政事件訴訟法16条1項,民訴法9条1項 ・平成17(し)91 保釈請求却下の裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年03月25日 最高裁判所第三小法廷 決定 さいたま地方裁判所 【判示事項】 被告人の配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹からの保釈請求を却下した裁判に対する同人らの不服申立ての許否 【裁判要旨】 被告人の配偶者,直系の親族又は兄弟姉妹は,自ら申し立てた保釈の請求を却下した裁判に対し,刑訴法352条にいう「決定を受けたもの」又は同法429条1項にいう「不服がある者」として抗告又は準抗告を申し立てることができる。 【参照法条】 刑訴法88条1項,刑訴法352条,刑訴法429条1項 ・平成16(し)316 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年03月18日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 福岡高等裁判所 【判示事項】 1 刑訴法349条の2第1項に基づく求意見に対する回答について成人である被請求人から委任を受けた母親のした刑の執行猶予言渡しの取消決定に対する即時抗告の適否 2 刑の執行猶予言渡しの取消決定に対する即時抗告について被請求人から権限の委任を受けた母親が被請求人を代理してした即時抗告の適否 【裁判要旨】 1 刑の執行猶予言渡しの取消決定に対し,成人である被請求人の母親は,被請求人から刑訴法349条の2第1項に基づく求意見に対する回答について委任を受けていたとしても,即時抗告をする権限を有しない。 2 刑の執行猶予言渡しの取消決定に対し,被請求人の母親は,被請求人から即時抗告に関する権限の委任を受けたとしても,被請求人を代理して即時抗告をすることはできない。 (2につき反対意見がある。) 【参照法条】 刑法26条,刑訴法349条,刑訴法349条の2,刑訴法355条 ・平成14(し)18 再審請求棄却決定に対する異議申立棄却決定に対する特別抗告事件 平成17年03月16日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【裁判要旨】 刑訴法435条6号の証拠の明白性を否定するなどした原判断が是認された事例(いわゆる狭山事件第2次再審請求) ・平成15(あ)434 収賄被告事件 平成17年03月11日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 警視庁A警察署地域課に勤務する警察官が同庁B警察署刑事課で捜査中の事件に関して告発状を提出していた者から現金の供与を受けた行為につき収賄罪が成立するとされた事例 【裁判要旨】 警視庁A警察署地域課に勤務する警察官が,同庁B警察署刑事課で捜査中の事件に関して,告発状を提出していた者から,告発状の検討,助言,捜査情報の提供,捜査関係者への働き掛けなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金の供与を受けたときは,同警察官が同事件の捜査に関与していなかったとしても,刑法197条1項前段の収賄罪が成立する。 【参照法条】 刑法197条1項,警察法64条 ・平成13(行ヒ)40 県職員野球観戦旅費返還請求事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 【裁判要旨】 全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加する議員の応援等を目的とする旅行命令は違法であるが,発令に至る経緯や当該出張には別の目的もあったことを考えると,上記旅行命令に伴い知事の職員が専決によりした旅費の支出命令は違法とまではいえないとされた事例 ・平成14(受)1954 賃料請求本訴,同反訴事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 賃借人の要望に沿って建築され他の用途に転用することが困難である建物について3年ごとに賃料を増額する旨の特約を付した賃貸借契約が締結された場合において賃借人のした賃料減額請求の当否を判断するために考慮すべき事情 ・平成16(行ヒ)278 消費税更正処分等取消請求事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 福岡高等裁判所 【判示事項】 青色申告の承認を受けた法人が帳簿書類を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合の法人税法(平成11年法律第160号による改正前のもの)127条1項1号所定の青色申告承認の取消事由該当性 【裁判要旨】 青色申告の承認を受けた法人が,法人税法(平成12年法律第97号による改正前のもの)126条1項に規定する帳簿書類を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は,法人税法(平成11年法律第160号による改正前のもの)127条1項1号所定の青色申告の承認の取消事由に該当する。 【参照法条】 法人税法(平成12年法律第97号による改正前のもの)126条1項,法人税法(平成11年法律第160号による改正前のもの)127条1項1号,法人税法(平成13年法律第129号による改正前のもの)153条 ・平成13(オ)656 建物明渡請求事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 1 所有者から占有権原の設定を受けて抵当不動産を占有する者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる場合 2 抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり抵当権者が直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる場合3 第三者による抵当不動産の占有と抵当権者についての賃料額相当の損害の発生の有無 【裁判要旨】 1 抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても,抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり,その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる。 2 抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,当該占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。3 抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではない。 【参照法条】 民法369条,民法709条 ・平成14(受)1565 土地明渡請求事件 平成17年03月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【裁判要旨】 土地の賃借人が,土地を無断で転貸し,転借人が同土地上に産業廃棄物を不法に投棄したという事実関係の下では,賃借人は,賃貸借契約の終了に基づく原状回復義務として,上記産業廃棄物を撤去すべき義務を負う ・平成16(受)1271 売掛代金請求及び独立当事者参加事件 平成17年02月22日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 動産売買の先取特権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡 【裁判要旨】 動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。 【参照法条】 民法304条,民法322条,民法467条 ・平成15(受)995 損害賠償請求事件 平成17年02月15日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 【裁判要旨】 1 株主総会の決議を経ずに支払われた役員報酬について事後に株主総会の決議を経た場合の当該支払の効力2 株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われたことを理由として当該報酬相当額の賠償を求める株主代表訴訟において被告とされた役員らが当該報酬につき同訴訟提起後に株主総会の決議を経たことを主張することと信義則 ・平成12(行ヒ)126 消費税決定処分等取消請求事件 平成17年02月01日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 事業者が消費税の課税期間に係る基準期間中の課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務を免除された場合における当該基準期間中の消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)9条1項所定の課税売上高の算定 【裁判要旨】 事業者が,消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)9条1項に該当するとして,課税期間に係る基準期間において課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務を免除された場合に,消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)9条2項,28条1項を適用して当該基準期間における課税売上高を算定するに当たっては,免除される消費税相当額を控除することなく,課税資産の譲渡等の対価の額を算定すべきである。 【参照法条】 消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)9条1項,消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)9条2項,消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)28条1項 ・平成13(行ヒ)276 所得税更正処分取消請求事件 平成17年02月01日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【裁判要旨】 受贈者が贈与者から資産を取得するために要した付随費用の額は,受贈者が同資産を譲渡した場合に所得税法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において,同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に当たる ・平成16(受)1019 更生担保権優先関係確認請求事件 平成17年01月27日 最高裁判所第一小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保しそのうちの1個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合において当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときの上記売却代金からの弁済受領額 【裁判要旨】 不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保し,そのうちの1個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額につき代位弁済した場合において,当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権のすべてを消滅させるに足りないときには,債権者と保証人は,両者間に上記売却代金からの弁済の受領についての特段の合意がない限り,上記売却代金につき,債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権額に応じて案分して弁済を受ける。 【参照法条】 民法249条,民法264条,民法502条1項 ・平成10(行ツ)93 管理職選考受験資格確認等請求事件(通称 東京都保健婦管理職選考受験資格確認等請求事件) 平成17年01月26日 最高裁判所大法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所 【判示事項】 1 地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることと労働基準法3条,憲法14条1項 2 東京都が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた措置が労働基準法3条,憲法14条1項に違反しないとされた事例 【裁判要旨】 1 地方公共団体が,公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。 2 東京都が管理職に昇任すれば公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員に就任することがあることを当然の前提として任用管理を行う管理職の任用制度を設けていたなど判示の事情の下では,職員が管理職に昇任するための資格要件として日本の国籍を有することを定めた東京都の措置は,労働基準法3条,憲法14条1項に違反しない。 (1,2につき補足意見,意見及び反対意見がある。) 【参照法条】 憲法14条1項,労働基準法3条,労働基準法112条,地方公務員法(平成10年法律第112号による改正前のもの)58条3項,地方公務員法13条,地方公務員法17条,地方公務員法19条 ・平成16(行ヒ)141 所得税更正処分等取消請求事件 平成17年01月25日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所 【判示事項】 米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社である米国法人から付与されたいわゆるストックオプションを行使して得た利益が所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとされた事例 【裁判要旨】 米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が,親会社である米国法人から親会社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利(いわゆるストックオプション)を付与されてこれを行使し,権利行使時点における親会社の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得た場合において,上記権利は,親会社が同社及びその子会社の一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けた制度に基づき付与されたものであること,親会社は,上記代表取締役が勤務する子会社の発行済み株式の100%を有してその役員の人事権等の実権を握り,同代表取締役は親会社の統括の下に子会社の代表取締役としての職務を遂行していたものということができ,親会社は同代表取締役が上記のとおり職務を遂行しているからこそ上記権利を付与したものであること,上記制度に基づき付与された権利については,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされていることなど判示の事情の下においては,同代表取締役が上記権利を行使して得た利益は,所得税法28条1項所定の給与所得に当たる。 【参照法条】 所得税法28条1項,所得税法34条1項 ・平成16(許)26 債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成17年01月20日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 広島高等裁判所 【裁判要旨】 定期金の給付を命ずる仮処分の執行と民事保全法43条2項 ・平成13(受)704 破産債権確定,解約返戻金請求事件 平成17年01月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 広島高等裁判所 【判示事項】 破産債権者が破産宣告の時において期限付又は停止条件付であり破産宣告後に期限が到来し又は停止条件が成就した債務に対応する債権を受働債権とし破産債権を自働債権として相殺をすることの可否 【裁判要旨】 破産債権者は,破産者に対する債務がその破産宣告の時において期限付又は停止条件付である場合には,特段の事情のない限り,期限の利益又は停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく,破産宣告後に期限が到来し又は停止条件が成就したときにも,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)99条後段の規定により,その債務に対応する債権を受働債権とし,破産債権を自働債権として相殺をすることができる。 【参照法条】 破産法67条2項,破産法71条1項1号,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)99条,旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)104条1号 ・平成14(行ヒ)103 過少申告加算税賦課処分取消等請求事件 平成17年01月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 東京高等裁判所 【判示事項】 1 国税の納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い納税者が税額の全部又は一部を免れた場合における国税通則法70条5項の適用の有無 2 税理士に所得税の申告を委任した納税者が脱税を意図しその意図に基づいて行動したとは認められないとした認定に経験則違反の違法があるとされた事例 【裁判要旨】 1 国税通則法70条5項は,国税の納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い,これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用される。 2 納税者が,土地の譲渡所得を得た年分の所得税の申告を委任した税理士から,委任に先立ち,実際に出費していない土地の買手の紹介料等が経費として記載されたメモを示され,多額の税額を減少させて得をすることができる旨の説明を受けた上で,同税理士に上記の申告を委任したものであり,同税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるなど判示の事情の下においては,税理士に申告を委任する者は法律に違反しない方法と範囲で必要最小限の税負担となるように節税することを期待して委任するのが一般的であることなどを理由として,上記納税者が脱税を意図し,その意図に基づいて行動したとは認められないとした原審の認定には,経験則に違反する違法がある。 (2につき補足意見がある。) 【参照法条】 国税通則法68条1項,国税通則法70条5項,民訴法247条,税理士法1条
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判示事項の要旨: 国立大学法人が,国立大学のときから期間の定めのある雇用契約を締結してその更新を継続してきた外国人教師の更新を拒絶したことについて,更新を拒絶するには合理的理由が必要であるが,合理的理由が肯定されるとして,契約の終了が認められた事例 平成17年10月28日判決言渡 平成16年(行ウ)第32号 地位確認請求事件 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 原告が,被告に対し,平成17年4月1日以降も労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 第2 事案の概要 本件は,主位的には,旧国立学校設置法による大学である国立A大学(以下「A大学」という。)の外国人教員として国に任用されたとし,予備的には,第1に,A大学との間で期間の定めのある雇用契約を締結したが,更新によって期間の定めのない契約となったとし,第2に,その雇用契約が期間の定めのあるものであっても,更新に対する期待権が生じていたとする原告が,その地位が労働契約上の地位として,被告に対する関係で承継されたから,被告が原告を解雇し又は雇い止めをするには合理的理由が必要であるが,かかる理由を欠くとし,第3に,仮に,原告と被告との間で期間の定めのある雇用契約が新たに締結されたとしても,原告には更新に対する期待権が生じていたから,被告が原告を雇い止めをするには合理的理由が必要であるがかかる理由を欠くとして,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるものである。 なお,本件訴訟は,当初,行政事件訴訟法の実質的当事者訴訟として立件されたが,民事訴訟である。 1 争いのない事実等 (1) 原告は,平成6年4月1日から,A大学の教員として勤務していた(その教員としての身分については争いがある。)。 (2) A大学は,平成15年12月24日付け文書(甲2)をもって,原告の代理人弁護士に対し,平成16年度(平成17年3月31日)をもって原告との間の雇用契約を終了させる旨回答した(以下「本件回答」という。)。 (3) A大学B研究科長C(以下「C教授」という。)から,原告に対し,平成15年12月4日付け書面(甲19の1)が送付され,同書面に添付の同年11月12日開催のC研究科教授会での説明メモ(甲19の2)によると,原告の雇用を平成17年3月31日までとする理由は,次のとおりとされていた。 ア 平成8年に,英文学と英語学とで構成されていた英文学研究室が,英米文学と英語学とに分離独立したが,その際に英米文学の外国人教師枠をしかるべき時期に英語学に譲るとの方針が立てられた。 イ 平成8年の英米文学と英語学との分離独立後も外国人教師枠を英米文学にて使用してきたが,平成16年4月の独立行政法人化に際して,任期付き外国人教授ポストを最初に英語学が使用することに双方で同意した。 (4) 原告は,前記(3)の説明メモに対し,次のとおり反論した(甲4)。 ア 原告がA大学との雇用契約を締結したのは,平成6年4月1日であるが,前記(3)アにある「平成8年に,英文学と英語学とで構成されていた英文学研究室が,英米文学と英語学とに分離独立したが,その際に英米文学の外国人教師枠をしかるべき時期に英語学に譲るとの方針」は,雇用契約後にA大学が一方的に決めたことであり,しかも,原告には平成8年の時点でこのことを知らされていない。 イ 前記(3)イについては,原告は任期付き教授ではなく,期限の定めのない雇用契約となっており,「任期付き外国人教授ポストを最初に英語学が使用することに双方で同意した」ことと,原告の雇用契約を打ち切ることは全く次元の異なった事柄である。 ウ 前記(3)アに関連して,仮に平成8年の時点で原告(現在51歳)が「英米文学の外国人教師枠をしかるべき時期に英語学に譲るとの方針」を知らされておれば,原告は当時は45歳であり,他の大学へ定年まで勤務でき,年金が受け取れる条件での転職が可能であった。 現在の51歳という年齢では,そのような条件の職場を見つけることはほとんど不可能である。 エ 前記(3)イについては,英米文学科の教授はC教授を含む日本人教員2名と原告であるが,博士号を保有しているのは原告のみである。 前記の説明メモでは,「外国人教師枠が定員化される機会に,それを任期付きの教授として,日本人スタッフと対等にプロジェクトを組めるDistinguished Scholarを招聘し教育研究を活性化させる」とあるが,原告こそがDistinguished Scholarである。 オ C教授は博士号を持っておらず,しかもこの10年以上にわたって同教授の研究科からは一人も博士号を取得した者がいないという実情にあり,C教授こそがDistinguished Scholarを招へいする資格のないものであり,学科生に対する指導にも多くの問題がある。 (5) A大学は,平成16年4月1日,国立大学法人法に基づき,被告となった。 国立大学法人法附則4条では,国立大学の職員(これがいかなる範囲の者を指すかについては争いがある。)の身分はそのまま国立大学法人に引き継がれると規定されており,職員については,原則として別に辞令を発せられない限り身分の承継がされている。 したがって,A大学の職員であった者は,平成16年4月1日の被告の成立により,別に辞令を発せられない限り,被告の職員となった。 (6) 被告は,平成16年12月17日,原告の代理人弁護士に対し,平成17年3月31日をもって原告と被告の間の雇用契約は終了する旨通知した(乙27)。 2 争点 本件の主たる争点は,(1)原告は外国人教員として国に任用されたか,(2)原告がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなったか,(3)原告がA大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係が被告に承継されたか,(4)原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が打ち切ることは許されないかという点にある。 (1) 争点(1)(原告は外国人教員として国に任用されたか)について ア 原告の主張 (ア) 原告は,平成6年4月1日,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて,A大学の外国人教員として国に任用された。 原告は,平成6年4月1日の採用以来,毎年契約書を締結してきたが,これは「日本国政府の会計行政によるもので」(甲1のC教授の原告あての手紙の記載)あり,その契約書は形式的なものにすぎない。この毎年の契約書に原告の署名を求める際に,A大学から原告に対して,1年間の雇用継続であることの説明は一切なく,会計処理のために原告の署名を求めたにすぎない。毎年の契約書の署名の際に,原告はA大学から「次の契約期限の後は働く意思があるか。」と質問されたことは一切なく,契約書に原告が署名することは当然のこととして契約書が作成されていた。そのことが10回も繰り返されてきたものであり,この実態は契約書が会計行政のための形式的なものにすぎないことを示している。 (イ) A大学の外国人教員として任用された原告の上記身分は,平成16年4月1日に被告との間の労働契約上の地位として承継された。 (ウ) 被告は,A大学の地位を承継したものであるので,被告が原告を解雇するためには合理的な理由が必要であるが,かかる合理的理由はない。 イ 被告の主張 (ア) 原告が国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて任用された外国人教員であるとの主張は否認する。 原告の採用は,国家公務員法2条7項に基づく契約によるものである。すなわち,国家公務員法2条6項は,「政府は,一般職又は特別職以外の勤務者を置いてその勤務に対し俸給,給料その他の給与を支払ってはならない。」と原則的な規定をしているところ,同条7項は,「前項の規定は,政府又はその機関と外国人との間に,個人的な基礎においてなされる勤務の契約には適用されない。」として,この原則に対する唯一の例外として,外国人の雇用を定めている。 この例外的規定に基づく契約により雇用される外国人の身分は,一般職,特別職のいずれにも属さない国家公務員であって,給与,勤務条件等についても,国家公務員法,一般職の職員の給与に関する法律等の適用はなく,政府又はその機関との契約により決定される。 旧国立学校設置法施行規則30条の3第1項では,「国立大学又は国立短期大学の学長は,国家公務員法第2条第7項に規定する勤務の契約により,外国人を教授又は研究に従事させることができる。」と定めている。これが「外国人教師」の制度であり,原告はこの外国人教師として雇用されたものである。 これを受けて,その取扱いについては,昭和44年4月16日文大庶第251号各国立大学長あて文部事務次官通知「外国人教師の取り扱いについて」等の通知が出されており,これらにより取扱いは詳細に定められている。 すなわち,国立大学及び国立高等専門学校において外国語科目又は専門教育科目を担当させるにたる高等の専門的学識又は技能を有する外国人で,国立大学等が常勤の教師として雇用する者を外国人教師とし(通知第1項),外国人教師には俸給,調整手当,期末手当及び勤勉手当,通勤手当並びに寒冷地手当を支給し(通知第2項),外国人教師との雇用契約の期間は1年を超えないものとし,会計年度の中途で契約する場合はその終期を当該年度の末日とし,この雇用契約は必要に応じて更新することができるが,国外から招へいする場合の招へい期間は,帰国旅費の支給の関係から原則として2年とし(通知第3項)等と定められ,これらの定めの中で外国人教師との契約が締結されるものであり,原告との契約もこれらの定めに基づいてなされた。 このように原告との雇用契約の締結は,前記「外国人教師の取り扱いについて」の通知に従い,当初は国外からの招へいとして平成6年4月1日から2年(最初の1年の契約の後,その後の1年について更新を保証したもの)の契約とされた。 その後は毎年4月1日から1年間ずつの契約が更新されてきたものであり,毎年契約書を作成して,期間1年と明示し,その契約に当たっては,毎年A大学内部の手続である文学研究科教授会の決議を経て,総長の名で締結されてきた。 (イ) 原告は,毎年の契約書の締結の事実を認めた上で,「これは日本国政府の会計行政によるもの」との甲1の表現を引用して,形式的なものにすぎないと主張する。 しかし,甲1の記載では,最初の招へい期間は2年であること,しかし,最初の契約は到着から会計年度の期間で締結し,その次の会計年度の1年を更新して,招へいの2年間の期間とすること,その後は「相互の合意により1年ごとに契約更新することが可能であること」を正確に明示し,前記「外国人教師の取り扱いについて」の通知を遵守している。 (ウ) 国立大学法人法附則4条では,国立大学の職員の身分はそのまま国立大学法人に引き継がれると規定されており,国家公務員法2条6項に定められた一般職の国家公務員については,原則として別に辞令を発せられない限り身分の承継がされている。 したがって,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づき採用された外国人教員は,一般職の国家公務員であり,身分の承継がされる。 しかし,前記のとおり,原告は,国家公務員法2条6項に定める一般職の国家公務員ではなく,同条7項により,特別に例外として雇用された外国人教師であり,国立大学法人法附則4条の適用はなく,身分の承継はない。 (2) 争点(2)(原告がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなったか)について ア 原告の主張 (ア) 仮に原告の地位が外国人教員として任用されたものでないとしても,原告とA大学とは,平成6年4月1日,原告がA大学のB部客員教授として平成8年3月31日まで働く旨の雇用契約を締結し,その期間を更新したことによって,原告とA大学との雇用契約は期間の定めのない契約となった。 (イ) 被告は,A大学の地位を承継したものであるので,被告が原告を解雇するためには合理的な理由が必要であるが,かかる合理的理由はない。 イ 被告の主張 (ア) 前記のとおり,A大学は,国家公務員法2条7項に基づいて,旧国立学校設置法施行規則30条の3第1項による外国人教師として原告を雇用したものであり,前記「外国人教師の取り扱いについて」の通知に従い,毎年契約書を作成して,期間1年と明示して雇用してきたものであるから,この雇用契約が継続して繰り返されても,性質が変更となるものではない。 外国人教師の雇用においてはもともと法律の定めにより1年の契約しかできないのであり(ただし,招へいの当初を除く。),A大学は,法律に従い原告との間で1年の契約をしてきたものであって,更新時においても,明確に1年の有期契約であることを明示し,また,原告の契約書への署名についてはその場で求めるのではなく,時間を与えて,原告自身で契約書を確認の上署名している。 (イ) したがって,更新によって原告とA大学との雇用契約が期間の定めのない契約となったとの事実はない。 なお,原告との契約は,B部客員教授としての雇用契約ではなく,外国人教師としての雇用契約である。 (ウ) 前記のとおり,国家公務員法2条7項によ外国人教師としての雇用契約である以上,国立大学法人法附則4条の適用はなく,身分の承継もない。 (3) 争点(3)(原告がA大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係が被告に承継されたか)について ア 原告の主張 (ア) 原告とA大学との間の有期雇用契約は,平成16年3月31日まで更新が繰り返されてきたのであるから,その更新は形式的で,平成16年3月31日の時点では実質的には期間の定めのない労働契約と同じような状態で存続しており,原告には契約更新に対する期待権が生じていた。 (イ) A大学と原告とのこの雇用契約上の関係は,被告の成立後も被告が原告との有期雇用契約を実質的に更新したことによって被告がこれを承継したものである。 (ウ) よって,被告は,平成17年3月31日をもって有期雇用契約を打ち止めとするためには合理的な理由が必要である。 (エ) しかし,以下に述べるとおり,かかる合理的理由はない。 a 被告は,原告と間の雇用契約の打ち止めの理由として,原告との契約を終了させて,その外国人教師枠を「21世紀Center Of Excellenceプログラム」(以下「21世紀COEプログラム」という。)の中で任期付き教官定員として利用する方針を決定したものであり,原告の外国人教師枠を利用することにしたのは,英米文学研究室の外国人教師は所期の目的を達成したと判断されたからであると主張する。 しかし,C教授が原告に告知した内容は「平成8年の大講座化したことに伴って英米文学と英語学が独立し,その際に英米文学の外国人教師枠をしかるべきときに英語学に譲ることが方針として決められ今般の独立法人化による外国人教師枠の定員化を機に,原告の役目も所期の目的を達しているので,原告の雇用契約を打ち止めとして,英語学が任期付き教授ポストを使用することを合意した」というものであり,被告が主張するような説明はなされておらず,21世紀COEプログラムのことは何も触れられていない。したがって,被告の上記主張は,紛争になってから考えられた架空のものであり,雇用契約を打ち止めとする正当な理由とはなり得ない。 また,原告の役目も所期の目的を達しているとの点は,明らかに事実に反している。A大学大学院B研究科案内において,原告の講義中の写真が掲載されており,英米文学にとって原告が枢要な存在であることが裏付けられている。原告は,英米文学のスタッフ3名のうちの1名として,大学院レベルの研究指導に携わっており,着任以来,大学院の講義を担当して教授しているほか,卒業論文・修士論文の口述試験にも審査教官としてかかわっている。 b 被告は,21世紀COEプログラム予算が十分でないことを理由として,原告の雇用を打ち切ってその空いた外国人教師の枠を21世紀COEプログラムのために利用すると主張するが,この主張は虚偽である。 すなわち,被告のB研究科は,21世紀COEプログラムのためにDビルの15階オフィスフロアに部屋を2つ借りているが,その部屋はほとんど利用されておらず,国から得た21世紀COEプログラム推進経費を不要な支出に用い乱費している。 E教授(以下「E教授」という。)は,原告に対して,21世紀COEプログラム推進経費を消化するために頻繁に海外に出掛けなければならないと愚痴をこぼしており,ここでも不要な支出がなされている。 被告は,21世紀COEプログラム研究支援者には高給の外国人研究者を雇用することができないかの如くに主張するが,要綱や要領には21世紀COEプログラム研究支援者の給与に関しては何の制限もない。たまたま被告のB研究科が雇用した21世紀COEプログラム研究支援者の給与が低額であったにすぎない。 c 被告は,原告を「英語を母国語とする外国人教師」であり,英語教職科目担当と考えられたと主張するが,採用条件では,35歳以上の英文学の修士号あるいは博士号を保有するものであればよく,F人でもG人でも英語で授業ができればよいのである。採用の目的は,英文学の教師であり,英語を母国語とすることは条件でなかったのであり,この点でも被告の主張は事実をわい曲している。 イ 被告の主張 (ア) 原告とA大学との間のこれまでの雇用契約は,年度(4月1日を始まりとし,翌年3月31日をもって終了する。)ごとに1年の期間を区切っての雇用契約であり,平成15年度の雇用契約は平成16年3月31日をもって終了した。 平成16年4月1日からは,国立大学法人法の下において,被告と原告との間で,新たに1年限りの雇用契約を開始したものである。 (イ) 平成6年4月1日の契約の当初に,原告に対し,「定年まで勤務できる。」と確約した事実もないし,その後においても「定年まで勤務できる。」と保証した事実もない。逆に,C教授が最初に送付した文書(甲1)の2枚目第4項には,就業期間は有期であることが明らかに記載されている。 一般の教員と異なり,法の定め,国の制度に従って1年という有期契約をしている外国人教師に対して,そのような約束はできるはずもないし,そもそも教員個人にそのような権限もない。 原告との契約が有期契約であるがゆえに,原告自身,次の契約更新がされるかどうか不安に思い,E教授に対し,「来年の契約はどうなるだろう。」と不安な心情を訴え,機会あるごとに相談をなした事実が存在する。 (ウ) 以上のとおり,被告成立前の原告とA大学との間の1年ごとの雇用契約は,法令に基づき明確に期間を区切って契約されてきたものであり,全くの1年ごとの契約の併存であって,形式的に更新されたものではなく,期間の定めのない労働契約と同じような状態になったものでも,原告に契約更新の期待権が発生したものでもなく,雇い止め法理等の適用はない。 (エ) したがって,期間の満了する平成17年3月31日をもって契約を更新しないとの本件回答に問題はなく,特別の理由が必要とは解せられない。 (オ) また,本件では更新しないことに合理的な理由も実際に存在するのであり,仮に原告の主張を前提としても何ら問題はなく,解雇権濫用法理の類推適用の余地はない。 (カ) 本件回答をした経緯,理由は,以下のとおりである。 a 平成8年に英文学研究室が英米文学研究室と英語学研究室に分割された際に,それまで英文学研究室で保有してきた外国人教師ポストについては,英米文学研究室が使用し,もともと英語学研究室にも利用の権利はあったので,しかるべき時期に英語学研究室へと移行するとの約束・了解がなされた。 しかし,英語学研究室として,現実に移行を求めれば,いかに了解事項であるとしても英米文学研究室として困るのは目に見えている。そのため,教授会の了解の下に,独立した研究室になり,学問的にも確立し,学生数においても増加してきた英語学研究室に新たに外国人教師ポストを求めて概算要求するという方策で外国人教師を得ようと努力してきた。しかし,この概算要求が取り上げられることはなく,結局,大学法人化構想が進み,平成14年度半ばころには,法人化後は概算要求自体も不可能となる事実が明らかになり,概算要求による枠の増加の方法はあきらめざるを得なくなり,当初の約束に従ってポスト移行を要求せざるを得ない事態となってきた。 これが,平成15年7月に,原告に対し,平成17年3月をもって契約を打ち切ることを通告した基本的な理由である。 英語学研究室は,概算要求という形で外国人教師を確保したいと努力はしてきたが,それが通らないことになれば,英米文学研究室の外国人教師枠を移行することは了解事項として存在したのである。 b 大学の構造改革として,大講座化,大学院重点化,研究の先端化が挙げられるところ,大学院重点化とは,従来の学部教育研究を主体とした講座組織を,大学院教育研究を主体とする講座組織にシフトすることによって,最先端教育研究組織を構築し,高度専門職業人の育成や研究者養成を行うなど,変革する社会情勢に積極的に応えたものである。 A大学B部でも,平成12年に大学院重点化したことによって,教員組織も大学院での教育研究を専任することとなり,それとともに学部教育研究も兼担することとなった。このため,B研究科所属の教員は,高度化した大学院教育研究の指導責任を果たすために一層業務負担が加重してきた。しかし,原告は,飽くまで「学部教育・研究を主体とした外国人教師」であって,この構造改革の外に位置するままであった。 上記のように,大学は大きく変わることを求められ,その流れの上に21世紀COEプログラムが存在した。 21世紀COEプログラムとは,世界最高水準の研究教育拠点作りを目指し,資金の重点配分をなすもので,平成14年度に始まった国家的プロジェクトである。 この資金の重点配分は,世界的に見て創造的,画期的な観点での一定の研究テーマを探求する研究グループに与えられるものではあるが,その研究が人材育成機能を有し,事業終了後も継続的な研究教育活動が期待できることを要件としており,研究拠点であると同時に教育拠点(人材育成拠点)であることが求められている。 平成14年度において採択された21世紀COEプログラムにA大学B研究科の「H」が入った。これは,大きな名誉であるが,同時に,今後の成功(成果)への責任を負うことになったものであり,その責任は,資金が重点配分される5年間だけの責任ではなく,プログラム終了後も,引き続き研究拠点として継続的に研究活動を続けていかねばならないのであり,そのために次代を担う若い人材を育てておかねばならない。 この21世紀COEプログラムで成果を挙げ,正に文字通り「卓越した研究拠点」,「優れた研究拠点」として評価を得ることが,A大学B研究科の今後の生き残り策である。それゆえに,研究科全体として,このプログラムに取り組み,推進する体制がとられることになった。 前記「H」プログラムとは,意思伝達行為の所産をすべて「テクスト」としてとらえることに特徴があり,一定の情報内容を,効果的に他に伝え,他者を動かし,社会を形成し,揺り動かし,世界を構築していくプロセスの中で,言語,図像,文学,身振りというコミュニケーションの手段はすべて「テクスト」としてとらえられ,これがなぜ選択され,どう機能するか,その一般原理を解明しようとするものである。その一般原理の中では,言語テクストのみならず,非言語テクストが重要なものと認識され,それらを統合した体系網,機能文法へと広がり,方向付けられる。 上記のような体系網・機能文法を非言語テクストに応用する分野は,社会記号論とも呼ばれるものであり,平成14年度に21世紀COEプログラムに採択されると同時に,B研究科として,社会記号論の支援体制を早急に整える必要性に迫られることとなり,記号論と密接な関係にある表象認識学講座を設置すること,社会記号論を専門分野とする外国人の人文学専攻教員1名を採用することという支援策が決定された。 その支援策の決定の道程の中で,外国人教師ポストに関して,21世紀COEプログラムの推進という側面からの要請が一気に高まってきた。これは,単に英米文学研究室の外国人教師ポストを英語学研究室へ移行するということにとどまらず,「H」プログラムをB研究科の下で推進していくことにおいて,このポストに重要な意味付けがされるということであった。 すなわち,当初,B研究科は,21世紀COEプログラム推進経費の中から外国人の人材を確保することを希望していたところ,限られた推進経費(研究拠点形成費補助金)の中から多数の,しかも若手の人材育成を主眼とした雇用をするとなると,1人当たりの給与を低額にせざるを得ないのであり,高度な研究能力を有する外国人研究者の雇用には高い手当を要することから,実現しなかった。 この21世紀COEプログラム推進経費の使途に関して,原告は,21世紀COEプログラムのために借りているDビルの2つの部屋がほとんど利用されていないとか,E教授が21世紀COEプログラム推進経費を消化するために頻繁に海外へ出掛けたなどと主張するが,そのような事実はない。 21世紀COEプログラム推進経費の中から外国人の人材を確保することは実現しなかったが,21世紀COEプログラム採択直後から,平成15年6月に実行することが予定されていたシンポジウムを準備する中で,日本人の研究者と共に協力し,共同して研究ができる外国人の必要性が,より強く認識されてきた。 また,21世紀COEプログラムの予算は5年間と限られているが,B研究科としては,プログラム終了後も引き続き研究拠点として継続的に研究し,成果を挙げる責任があり,そのためには,B研究科の中で引き続き支援し,当該研究を遂行する高度な研究能力を有する外国人研究者を確保していくべきとの要請も厳然として存在した。 しかし,行政機関の職員の定員に関する法律(いわゆる総定員法)の根底にある考え方からすれば,非言語テクストを含めた統合テクスト科学を日本人研究者と同じ目線で共同研究し,その成果を伝える外国人の研究者の採用についての純増は認められないということであり,そのような外国人研究者の確保は,現行の外国人教師のポストを定員枠に振り替え,その定員枠のポストで採用することしか方策はないとの結論に至った。 この外国人研究者の受け入れをなす研究室は,B研究科の中では言語学的手法をとっている英語学研究室が,適任であり,また任務を負うことになる。 一方,原告の専門は英米文学であり,21世紀COEプログラムがとっている言語学的手法とは直接的な関連がなく,21世紀COEプログラム中の共同研究には不適であった。また,外国人教師ポストを廃止し,研究者としての採用(定員化)とする動きの中では,原告では,日本語が理解できず,教授会メンバーとして発言できることや,マネジメント業務をこなすことは期待できなかった。 c 外国人教師ポストを英語学研究室へ移行するとともに,原告との契約を打ち切りとせざるを得なかったことは,以上のことからも明らかであり,B研究科の21世紀COEプログラム「H」は言語学の手法をとり,その一翼を英語学が担っていること,また,英米文学研究室の外国人教師は初期の目的を達成したと判断されたことから,今回の契約更新をしないことになったのである。 原告との間の契約打ち切りは,単にポストの移行を理由とするのみならず,学部教育等を中心に担当している原告に対し,大学院レベルの研究・指導を期待するものでなく,他の教員をもって代替も可能であること,そして,B研究科として,21世紀COEプログラムの成果を挙げて社会的責任を果たし,将来へと進むべき途,また,将来へ生き残る途として,やむを得ざる選択であった。 これに対し,原告は,英米文学研究室にとって原告が枢要な存在であり,大学院レベルの研究指導に携わっており,着任以来,大学院の講義を担当して教授しているほか,卒業論文・修士論文の口述試験にも審査教官としてかかわっていると主張する。しかし,卒業論文と修士論文の作成過程における助言を与える者とは別に,卒業論文・修士論文の審査員は教授会で別途決定される。そして,当該研究室の卒業論文は,研究室所属教員のみで審査し,修士論文は,当該研究室所属教員と他研究室の教員1名で審査される。したがって,原告も審査員ではある。しかし,卒業論文・修士論文の審査は,作成過程の最後に位置するものであり,通常,指導教員は,論文作成過程において指導・助言に当たった上で審査員となるが,平成8年以降は原告には助言の依頼をせず,現実には助言はしないまま審査に当たっており,他の教員とは同列ではない。 被告としては,原告の立場も考慮し,契約打ち切りを平成16年度の1年間は猶予したものの,これ以上の譲歩をすることはできなかったものである。 d 原告は,原告の雇用契約の打ち切りが,あたかも研究科長であるC教授の気持ち一つで決定されたかのような誤解をしているが,そのような事実は全くない。 従前からの英語学研究室への移行の約束と,B研究科全体の将来を見据えた上で,21世紀COEプログラムの推進と支援をいかになすべきかとの模索の中で,現状としては文学研究科の中の英米文学研究室にある原告のポストを打ち切らざるを得ないとの考え方で,B研究科教授会で決定されたものであり,B研究科教授会としては,原告との契約を終了させ,その外国人教師枠を21世紀COEプログラムの中で,任期付き教官定員として利用する方針を最終的に決定したが,そのために原告が他の仕事・就職先を探す便宜を考え,1年だけは更新して,猶予期間を与えて,雇用期間を平成17年3月末日までとし,それ以降は更新しない方針を決定したものである。 契約更新をしないこととした背景は,21世紀COEプログラムとの関係を抜きにしては理解できないことはもちろんである。しかし,それだけではなく,このプログラムの背景にある大学に対して求められてきた大きな流れ(大講座化,大学院重点化による教育研究の高度化,研究の先端化等)が理解されなければならない。この大きな流れの中,国の予算を億単位で獲得し,5年間という長期にわたって遂行されるのが21世紀COEプログラムであり,それだけに,この投資に見合っただけの成果を出すことが期待されており,その期待に応えられ,このプログラム遂行の補完ができる任期付き外国人教授の採用が目指されたのである。しかし,原告は,この流れ,背景等を全く理解しておらず,それは原告が他の教員のように大学運営のスタッフとは位置づけられておらず,1年単位での有期雇用契約者にすぎないことによるものである。 e 前記教授会の決定を受け,C教授は,原告に対し,契約の終了について,最初平成15年7月11日に口頭告知し,その後数回やり取りした。そして,平成15年9月19日,原告は,C教授に対し,契約が平成17年3月末日で終了することを了解し,次の仕事探しのため,契約終了の理由と原告の授業は良かったことを書いてほしいと依頼した。 C教授が原告に通知したのは,本来は平成16年3月末日に終了させたいところであるが,1年猶予し,平成17年3月末日に契約を更新せず終了させるとの点であり,雇用終了と21世紀COEプログラムとの関係等についての詳細な説明はしていない。 もともと,私法上の雇用契約においても契約を更新しないとの意思表示の際に事細かに理由の説明をする必要はない。まして,国家公務員法に基づき,1年ごとに契約を更新するものとして雇用された原告に対し,理由を説明する必要はない。その上,原告は,その職責上大学の運営・マネジメントに携わることがないので,大学組織の変更等と複合している21世紀COEプログラムについて詳細に説明したり話したりしなかったものである。 被告は,これまでの説明の中で,更新しない理由を明らかにしてきたのであるし,21世紀COEプログラムがA大学にとって重要な位置づけを持つプロジェクトであることは原告といえども理解しているはずである。 その後も,21世紀COEプログラムの位置付けの重要性から,原告のポストを定員枠に振り替えて21世紀COEプログラムで共同研究を行う外国人研究者の確保の要請は,強まりはせよ,弱まることはない状況である。 (4) 争点(4)(原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が打ち切ることは許されないか)について ア 原告の主張 (ア) 仮に,原告と被告との有期雇用契約が平成16年4月1日に新たに締結されたものであるとしても,平成16年4月1日からの有期雇用契約の開始時には,平成16年3月31日までA大学と原告との有期雇用契約が長年更新されて原告には有期雇用契約が更新されて定年まで勤務できるとの期待権が生じていた。 (イ) このような事情の下に,被告が原告と実質的に従前と同じ有期雇用契約を締結したのであるから,被告が平成17年3月31日をもって有期雇用契約を打ち止めとするためには合理的な理由が必要であると信義誠実の原則から解釈されるべきである。 (ウ) しかし,前記(3)ア(エ)のとおり,合理的理由はない。 イ 被告の主張 (ア) 平成16年4月1日に始まる被告と原告との雇用契約は,期間1年の契約とする旨を原告に告げ,また,その旨の文書も発送しており,契約更新の期待権が生じる余地はない。 (イ) 被告は,原告に対し,平成17年3月31日をもって被告との雇用契約は終了することを,念のため,改めて通知している。 (ウ) したがって,原告と被告との間の雇用契約は,平成17年3月31日をもって終了した。 (エ) ちなみに,被告が原告と新たな契約を結ばない理由は,前記(3)イ(カ)の理由と同様の理由である。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(原告は外国人教員として国に任用されたか)について (1) 後掲証拠によれば,C教授は,平成5年10月,外国人教師の選考のための覚書(甲5)を文部省作成のひな形に基づいて作成し,原告あてに送付したが(乙11の1,証人C),それには,地位は外国人教師であり,教授会で認められれば,客員教授としての称号が与えられること,勤務期間は2年(互いの合意で毎年更新できること)とすることなどが記載されていたこと,原告の採用に当たり,原告は,A大学B部の「英文学講座外国人教師詮衡委員会」において,その職歴,業績等に照らし,英文学講座外国人教師として採用するに最もふさわしい者として推薦されたこと(乙12の1,2),このように原告の採用に当たっては,公募ではなく,招へい人事(個別人事)の形式が採られたこと(乙11の1,証人C),平成6年4月7日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師(客員教授)として,同月1日から平成7年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の1の1,2),平成6年11月9日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の2),平成7年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成8年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の3の1,2),平成7年10月30日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の4),平成8年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成9年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の5の1,2),平成8年12月16日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の6),平成9年4月1日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同日から平成10年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の7の1,2),平成9年12月12日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の8),平成10年4月1日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同日から平成11年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の9の1,2),平成10年10月19日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の10),平成11年4月7日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成12年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の11の1,2),平成11年11月25日,A大学総長と原告は,給与額を改定する等の内容の更改契約書を作成したこと(乙1の12),平成12年4月3日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成13年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の13の1,2),平成13年4月6日,A大学総長と原告は,原告をA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成14年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと,同契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より増額されたこと(乙1の14の1,2),平成14年4月11日,A大学総長と原告は,原告をA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成15年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと(乙1の15の1,2),平成15年4月10日,A大学総長と原告は,原告をA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教師として,同月1日から平成16年3月31日まで雇用するとの契約書を作成したこと,同契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より減額されたこと(乙1の16の1,2)が認められる。 甲3,乙2,3の1の2,3及び弁論の全趣旨によれば,前記契約書の「雇用」との文言のほか,給与等の勤務条件について,契約によって定められていることに照らせば,A大学総長と原告との間で作成された前記契約書に基づく契約とは,国家公務員法2条7項所定の「政府又はその機関と外国人との間に,個人的な基礎においてなされる勤務の契約」としての外国人教師としての雇用契約(公法上の契約)であると認められる。 (2) これに対し,原告は,平成6年4月1日の採用以来,毎年契約書を締結してきたが,これは「日本国政府の会計行政によるもので」(甲1のC教授の原告あての手紙の記載)あり,その契約書は形式的なものにすぎず,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて,A大学の外国人教員として国に任用されたものであると主張する。 しかし,甲1によれば,C教授は,平成6年1月,原告に対し,招へい期間は1994年(平成6年)4月1日から1996年(平成8年)3月31日までの2年間であること,最初の契約は,A大学に到着の翌日から会計年度の終期までの期間で調印し,次期新会計年度に契約を更新することになること,これは日本国政府の会計行政によるものであること,最初の2か年の任期満了後においては,相互の合意により1年ごとに契約を更新することができることを手紙で伝えていることが認められる。 そして,甲3によれば,昭和44年4月16日文大庶第251号各国立大学長あて文部事務次官通知「外国人教師の取り扱いについて」は,国家公務員法2条7項に基づく外国人教師の雇用契約に関して,雇用期間等について,「外国人教師との雇用契約の期間は1年をこえないものとし,会計年度の中途で契約する場合はその終期を当該年度の末日とする。ただし,この期間は,必要に応じて更新することができる。なお,外国人教師を国外から招へいする場合の招へい期間は,帰国旅費の支給の関係から,原則として2年とする。」と定めていることが認められる。 そうすると,甲1の手紙の内容は,前記「外国人教師の取り扱いについて」に沿うものであると認められる。 したがって,甲1の手紙の「これは日本国政府の会計行政によるもので」との文言から,原告が,国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法に基づいて,A大学の外国人教員として国に任用されたものであると認めることはできない。 また,甲19の2によれば,平成15年11月12日開催のA大学B研究科教授会でのC教授の説明メモには,平成16年度は,平成16年4月にA大学が独立行政法人化することに伴い外国人教師の任用は経過措置となり,平成16年度も継続して雇用することにしたが,原告に関しては雇用を平成17年3月31日までとし,更新は行わない旨の記載があり,外国人教師の「任用」という表現がされていることが認められるが,雇用の更新が予定されているものであって,甲19の2の「任用」という表現から,原告が外国人教員として国に任用されたものと認めるには足りない。 他に原告が外国人教員として国に任用されたものと認めるに足りる証拠はない。 (3) 原告が外国人教員として国に任用されたものではなく,国家公務員法2条7項に基づき外国人教師として雇用されたものであると認められる以上,原告には国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総長と原告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解される。 2 争点(2)(原告がA大学と締結した雇用契約は,期間の定めのないものとなったか)について (1) 前記1(1)で認定した事実によれば,原告がA大学総長と締結した雇用契約書には,雇用期間を1年とすることが明示されていたこと,雇用期間の満了時に契約を更新する際には,その都度新たに雇用期間を1年とする契約書が作成されたこと,平成14年4月11日に作成された契約書において,それまでの職務内容がA大学B部英文学及び英語学担当の外国人教師であったものが,A大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教師と改められたこと,平成13年4月6日に作成された契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より増額され,平成15年4月10日に作成された契約書において,俸給月額及び調整手当は,従前の額より減額されたことが認められる上,雇用契約の更新においては,毎年10月末か11月ころに次年度のカリキュラムを考える際に,C教授と原告が協議した上,教授会において更新が決定されたものであり(証人C),原告は,契約書にサインをする際,いったん自宅に持ち帰って注意深く読んでからサインをしたことがあったこと(原告本人)が認められる。 (2) 以上の事実によれば,雇用期間の満了による契約更新の都度,具体的勤務条件について協議の上,契約書が作成され,契約更新の際に職務内容,給与額が変更となったことがあるのであるから,原告とA大学総長との間の契約が,更新により平成6年4月から平成16年3月31日まで継続したからといって,期間の定めのない雇用契約に転化したものと認めることはできない。 (3) なお,前記のとおり,原告が外国人教員として国に任用されたものではなく,国家公務員法2条7項に基づき外国人教師として雇用されたものであると認められる以上,原告には国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総長と原告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解されるから,原告とA大学が締結した雇用契約が期間の定めのないものに転化したか否かにかかわらず,その雇用契約を被告が承継したと認めることはできない。 3 争点(3)(原告がA大学との間で締結した期間の定めのある雇用契約上の関係が被告に承継されたか)について (1) 原告は,原告にはA大学との間の有期雇用契約につき契約更新に対する期待権が生じていたところ,A大学と原告とのこの雇用契約上の関係は,被告の成立後も被告が原告との有期雇用契約を実質的に更新したことによって被告がこれを承継した旨主張する。 (2) 確かに,後掲証拠によれば,C教授は,平成15年10月29日,原告との間の外国人教師雇用契約を平成16年度においては更新するが,雇用契約は平成17年3月31日を限りとして,それ以後の雇用契約の更新はない旨を手紙(甲6)で伝えていること,C教授から原告に送付された平成15年12月4日付け書面(甲19の1)に添付された同年11月12日開催のB研究科教授会での説明メモ(甲19の2)には,平成16年度は,平成16年4月にA大学が独立行政法人化することに伴い外国人教師の任用は経過措置となり,平成16年度も継続して雇用することにしたが,原告に関しては雇用を平成17年3月31日までとし,更新は行わない旨の記載があること,平成15年11月12日開催のB研究科教授会の議事概要(乙22の2)に同旨の記載があること,A大学副総長は,平成15年12月24日,原告の代理人弁護士に対し,A大学は,毎年外国人教師と契約更新の手続を行っており,原告に対し,平成16年度については雇用契約を更新し,当該契約期間の満了をもって雇用関係を終了させる旨を知らせている旨の本件回答(甲2)を送付していることに照らせば,C教授,A大学B研究科教授会及びA大学副総長はいずれも,被告が設立される平成16年4月1日以降も,A大学総長と原告との間で締結された雇用契約が被告と原告との間で更新されるものと認識していたと認められる。 (3) しかし,前記のとおり,原告が外国人教員として国に任用されたものではなく,国家公務員法2条7項に基づき外国人教師として雇用されたものであると認められる以上,原告には国立大学法人法附則4条の適用はなく,A大学総長と原告との間の雇用契約を被告が当然に承継することはないと解される。 そうすると,被告と原告との間の平成16年4月1日以降の雇用契約は,A大学総長と原告との間の雇用契約(公法上の契約)が更新されたものということはできず,被告と原告との間で平成17年3月31日までの期間の定めのある雇用契約(私法上の契約)が改めて締結されたものといわざるを得ない。 (4) したがって,被告がA大学と原告との間の雇用契約上の関係を承継したとする原告の主張は,採用することができない。 4 争点(4)(原告が被告との間で締結した期間の定めのある雇用契約を被告が打ち切ることは許されないか)について (1) 乙27によれば,被告は,平成16年12月17日,原告の代理人弁護士に対し,平成17年3月31日をもって原告と被告の間の雇用契約は終了する旨通知しており,雇用契約の更新を拒絶したものと認められる。 (2) 前記のとおり,被告と原告との間の平成16年4月1日以降の雇用契約は,A大学総長と原告との間の雇用契約が更新されたものではなく,被告と原告との間で平成17年3月31日までの期間の定めのある雇用契約が改めて締結されたものというべきであるが,原告とA大学総長との間で締結された雇用契約は,平成6年4月以降,9回の更新により,平成16年3月31日までの10年間継続してきたものであること,その間に原告が従事していた職務は,A大学B部ないしA大学大学院B研究科及びA大学B部の英文学及び英語学担当の外国人教師であり,臨時的な職務ではなく,恒常的に存在する職務であると認められること,外国人教師の中には,雇用契約が5年間を超えて更新されないものと明示されていた者がいたが(甲10の1ないし3),原告の場合には,相互の合意により1年ごとに契約を更新できるとされ,更新継続期間の限定はされていなかったこと,外国人教師の中には,20年以上にわたって雇用契約の更新継続がされた者がいたこと(甲10の4,5,甲35),C教授,A大学B研究科教授会及びA大学副総長のいずれもが,被告が設立される平成16年4月1日以降も,A大学総長と原告との間で締結された雇用契約が被告と原告との間で更新されるものと認識していたこと,原告が被告との間で締結した雇用契約による職務は,それまでのA大学総長との間の雇用契約による職務と同内容のものであると認められること(甲15,36,弁論の全趣旨)に照らせば,平成15年10月29日のC教授の手紙,同年12月4日付けのC教授の作成書面に添付されていた同年11月12日開催のB研究科教授会での説明メモ及び同年12月24日のA大学副総長の本件回答によって,平成16年4月1日以降の原告との間の雇用契約は,平成17年3月31日までであり,それ以後の雇用契約の更新はないことが原告にあらかじめ伝えられていたことを考慮してもなお,原告としては,原告と被告との間で締結される雇用契約についてある程度の継続を期待する合理的理由があったものといわざるを得ない。 したがって,被告が原告との間の雇用契約の更新を拒絶する場合,解雇に関する法理が類推され,その更新拒絶には合理的な理由が必要であると解される。ただし,原告と被告の間の雇用契約が有期契約である以上,その更新拒絶の基準は,期間の定めのない従業員を解雇する基準よりは緩やかなものであると解するのが相当である。 (3) 前記争いのない事実等に,甲33,乙11の1,乙23,証人E,同C,原告本人及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 ア A大学B部では,平成8年に大講座制が導入され,英米文学研究室と英語学研究室が英文学研究室から独立したが,その分離独立の経緯から,原告の外国人教師ポストは英語学研究室にもある程度の利用権があることが両研究室間での合意事項とされていた。 しかし,英語学研究室としては,上記外国人教師ポストを英語学研究室に移行するよう要求しても,英文学研究室が困るだけであるので,平成8年度から平成16年4月まで,別途外国人ポストを概算要求する道を選んでいた。 ところが,総定員法の枠組みの中でこの概算要求が認められることはなく,平成15年7月に国立大学法人化法案が議会で可決され,同年10月1日から施行された後は,かかる概算要求を出すことすらできなくなった。 イ 平成13年6月の「大学の構造改革の方針」に基づき,21世紀COEプログラムとして,平成14年度から文部科学省に新規事業として「研究拠点形成費補助金」が措置された。同プログラムは,我が国の大学に世界最高水準の研究教育拠点を学問分野ごとに形成し,研究水準の向上と世界をリードする創造的な人材育成を図るため,重点的な支援(研究拠点形成費補助金)を行い,もって,国際競争力のある個性輝く大学づくりを推進することを目的とし,①人材育成機能を持ち,②世界的な拠点形成が期待でき,③特色ある学問分野を開拓し,創造的,画期的な成果を出し,④事業終了後も世界的な研究教育拠点であることが求められている国家的事業である(乙28)。 平成14年4月1日の文部科学大臣決定により,「研究拠点形成費補助金交付要綱」(乙24の3)が定められ,「この補助金は,学問分野別に評価を行い,主として研究面においてポテンシャルの高い専攻等が世界的な研究教育拠点を形成するために必要とする経費を専攻等の研究者からなる研究グループに対して補助することを目的とし,もって世界最高水準の大学づくりを推進し,我が国の科学技術の水準の向上及び高度な人材育成に資するものとする。」などとされた。 平成14年9月30日,21世紀COEプログラム委員会において,「平成14年度「21世紀COEプログラム」審査結果について」と題する書面(乙28)が作成され,研究拠点形成費補助金は,当該分野における研究上,優れた成果を挙げ,将来の発展性もあり,高度な研究能力を有する人材育成機能を持つ研究教育拠点の形成が期待できるものなどに対し,重点的支援を行うものであるなどと定められた。 ウ 平成14年10月,A大学が申請していたB研究科の「H」と題する事業が21世紀COEプログラムの補助金の交付対象と決定され(乙8の1),平成15年度においても,同事業は,研究拠点形成費補助金の交付対象と決定された(乙24の2)。 平成14年10月7日,I振興会により,「《21世紀COEプログラム》研究拠点形成費補助金(研究拠点形成費)取扱要領」(乙24の4)が定められ,事業の遂行に必要となる外国人を含む研究員等の雇用等をする場合の方法が示された。 平成15年11月21日に21世紀COEプログラム委員会が作成した「「21世紀COEプログラム」評価要項」(乙29)によれば,評価項目として,「若手研究者が有為な人材として活躍できるような仕組みを措置し,機能しているか」というものがあり,平成16年4月1日,被
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