約 488 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2623.html
失ってしまった幸せ 序章 限りない幸せ~familiar~上条と美琴が付き合いだしてから1ヶ月。最近では美琴は上条の部屋まで夕飯を作りに来て切れる。そのおかげで美琴とインデックスも今では仲良しだ。これは上条としても嬉しい限りだ。この日も上条と美琴は一緒に帰っている。今日は帰り道を変え、今は階段を登っている「美琴、今日の夕飯は何なんだ?」「今日は肉じゃがよ」「お、肉じゃがか楽しみだな」美琴が走って階段を上る「そんなにはしゃぐと転ぶぞ」「だい、じょう、ぶ!っ!」「っ!美琴!!」2人の意識はそこで途切れた 失ってしまった幸せ 第1章 その手から零れた掛け替えがないもの~sacrifice~ 美琴が目を覚ましたらそこは病院だった。(あれ?私、たしか、階段から落ちて・・・・・・それで)「そうだ、当麻、当麻は!?」「みこと、起きたの?」病室のドアを開けて入ってきたのは白い修道服を着た少女、インデックスだ。「ねえ、インデックス。当麻は!?」「・・・・・・」インデックスは何も答えない。「答えなさい、インデックス!」「・・・・・・ついて来て、美琴」美琴はインデックスと共に隣の病室へ向かう。そこには体中に包帯を巻き、ベッドに眠る上条の姿があった。「とう・・・・・・ま?」「お医者さんの話だとしょくぶつじょうたいっていうらしいんだけど」「そんな、あ・・・・・・ぁぁぁ」「とうま、治る・・・・・・よね?」これ以上美琴はなにも言えなかった。ただ泣くことしかできなかった。 病室に戻った美琴はインデックスと別れた。 今日はこもえという人の家に泊まるそうだ。 「どうやら起きたみたいだね?」 入ってきたのは白衣を着たカエル顔の医者、冥土返しだ。 生気の無い美琴の顔を見て冥土返しは話す。 「彼に、会ってきたのかい?」 「はい」 「救急車を呼んだ人の話だと彼、君を庇うように倒れていたんだよ?」 「え?」 「彼が庇ってくれたから君はその程度で済んだんだよ?彼に感謝することだね?」 「立ち直るまで、ここにいていいからね?」 そう言うと冥土返しは部屋から出て行った。 失ってしまった幸せ 第2章 失くした心~despair~ それから美琴はたくさんの人に会った。 後輩の白井黒子、友達の初春、佐天、上条の知り合い達だ。 しかし、誰も美琴を責めようとしない。 誰もがこう言うのだ。 あまり自分を責めるな。 上条当麻も彼女を守れたのだ。悔いはないはずだと。 しかし彼女は救われない。 自分の所為で上条が上条は傷ついた。 あの時帰り道を変えようと言わなければ、あの時階段ではしゃがなければ。 どうして自分は軽傷で、彼は重体なんだ。 自分だけ落ちてればよかったのに。 そんな思いだけが彼女を覆う。 ある日、美琴の病室に入ってきたのは白井黒子だ。 「お姉さま、ご様態はどうですの?」 「だいぶ、落ち着いたかな」 「そうですの。では退院の方は」 白井は本気で自分を心配している。 これ以上心配をかけるわけにはいかないが、今の美琴には無理だ。 「ごめん黒子。それはまだ待って欲しい。まだ何もしたくないの」 「ではお姉さま。黒子は何時までもお待ちしていますので」 白井は病室から出ていく。 (ごめん。黒子。私、最低だ!) 彼女の心にあるものは後悔だけだ。 失ってしまった幸せ 行間 天草式十字凄教元教皇代理、建宮斉字は上条のお見舞いに来ていた。 五和は上条が意識不明ということにショックを受けていて、お見舞いも落ち着いてからにさせるつもりだ。 上条の病室へ向かう途中、ある病室から1人の少女が出てきた。 その少女はとても悲しそうだ。 その病室はたしか上条当麻の彼女の病室ではなかったか。 「どうしたのよな?」 建宮は少女に話しかけてみる。 「あなたは?」 「上条当麻の知り合いだ。そこは上条当麻の彼女の病室のはずだが何があった?」 「私では、お姉さまを救えません。このままではお姉さまは後悔の念で潰されてしまいますの」 少女は今にも泣きそうな顔をしている。 このままでは彼女も救われない。 「俺に任せろのよな」 「え?」 ならば救ってみせよう。 我らが女教皇の教えに従って。 失ってしまった幸せ 第3章 絶望の底に差した光~salvare000~「失礼するのよな」 白井の次に病室に入ってきたのはクワガタ頭の男、建宮斉字だ。 「あなたは?」 「建宮斉字。上条当麻の知り合いだ」 建宮は美琴を見る。「何ですか」 美琴の顔は無気力で、ひたすら自身を責めているように見える。 「いや、上条当麻が命をかけて守った奴が、どんな女かと思ったが」 建宮は心底呆れたように言う。 「こりゃぁ犬死だな。正真正銘の犬死だ。これじゃ、馬鹿が馬鹿を助けて馬鹿やったって話だ」 「何ですってえぇー!!」 美琴が怒りで顔を歪め、前髪からも電撃がバチバチと出ている。 「あんたに何が分かるの!?私の気持ちが分かるの!!?」 「分かるのよな」 建宮はあっさりと答える。 「大切な人が傷ついているのに何も出来ない奴の気持ちは俺にも分かるのよな」 「証明してみせろ」 「え?」 突然の建宮の言葉に美琴は困惑する。 「お前を助けてよかったって思えるような最高の女になってみせろ」 「でも・・・・・・わたし・・・・・・どうしたら」 「なーに俺に任せとけ」 建宮はいつものような軽い調子で言う。 「お前を救える最適な人を俺は知っている」 そういうと建宮は帰っていった。 次の日、建宮は身長2mほどの女性と共にやってきた。 「貴女が御坂美琴ですね?私は天草式十字凄教女教皇神裂火織です。事情は建宮斉字から聞きました」 「え~っと、何をすればいいんですか?」 何も知らない美琴は2人に尋ねる。 「男を掴む時はまず胃袋からって言うのよな。過ぎてしまったのもはしょうがない。 お前さんにできることは、上条当麻が起きた時に最高の料理を振舞うことなのよな な~に、うちの女教皇の和食は世界一なのよな」 「それでは御坂美琴。退院ししだい、料理の練習を始めましょう」 「え、あ・・・・・・はい」 突然のことに美琴はただ従うことしかできなかった。 失ってしまった幸せ 第4章 取り戻した笑顔~friend~ 神裂火織と会ったその日の内に美琴は退院した。 美琴は決めたのだ。 もう悔やんでるだけではいけない。 過ぎたことはどうしようもない。 ならば自分の出来る精一杯の事をしようと。 退院した美琴は寮に帰ってきた。 そして向かえてくれたのは自分の1番の親友、白井黒子だ。 「お帰りなさいませ、お姉さま」 「ただいま。心配かけてごめんね、黒子」 あの事故以来、悔やむことしか出来なかった美琴に笑顔が戻った。 美琴は神裂と共に上条の部屋へと向かう。料理の練習をするためだ。 上条の部屋にはインデックスがいた。 「みこと!それにかおりも!」 「神裂さんは、インデックスの知り合いなんですか?」 「ええ、はい。仕事の同僚で、私の友達です」 どこか悲しそうに話す神裂をこれ以上追求する気にはなれなかった。 「みこと、入院してたときは悲しそうな顔をしてたけど、今は大丈夫そうかも」 「ごめんね、でも私、もう悩まない。今自分が出来る精一杯のことをしようと思うの」 「うん!美琴はやっぱりそうでなくちゃ!当麻だって美琴には笑っていて欲しいはずだから」 (本当は、インデックスだって当麻が怪我して悲しいはずなのに、苦しいはずなのに私のために、もう、大丈夫だから) 「それでは御坂美琴、練習を始めましょう」 美琴はもう迷わない。 自分を助けてくれた彼のために。 彼の望むように、笑顔でいようと。 失ってしまった幸せ 最終章 この手に戻った幸せ~familiar~ あの事故から1月たった。 以前、上条当麻は目を覚まさない。 「ねえ、当麻。あれからもう一ヶ月だよ?私、神裂さんに和食も教えてもらって、 インデックスだって、自分で家事できるようになったんだよ?」 それでも上条当麻は目を覚まさない。 「とう、ま。起きてよ。私、もう、耐えられない!」 少女の涙が、少年の頬にとき、 「ひっ、ぐす、おきてよぉ、とうまぁ」 「なにそんなに泣いてんだよ、美琴」 少女の涙が、奇跡を起こす。 「とう、ま。当麻ぁー!!」 嬉しさの余り美琴は上条に抱きつく。 「うわ!、み、美琴!?」 「だって、だってー!!」 「俺はお前を助けて良かったと思ってる。お前には笑っていて欲しいんだ。」 上条は優しく、美琴を抱き返す。 「だから、泣くなよ」 「でもっ、でもー!」 相変わらず美琴は泣いたままだ。 上条は呆れたように言う。 「はあー、全く美琴さんは」 彼女の涙はこれ以上彼には耐えられない。 「あーあ、上条さん、お腹すいちゃったなー」 2人の幸せを取り戻す時が来た。 「肉じゃが、作ってくれよ。」
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/674.html
そして、『食わせ殺し』にはだんだんと集まっていた。 まず、初春達が店に入ってきた。 「着きましたね。あれ、アホ毛ちゃん達がいますね。」 「本当ですね。とりあえず席に座りましょうか。」 「じゃあ私は飾利の隣な。」 「だから、何度言ったら分かるのですか。どさくさに紛れて飾利に近づかないでください。」 またもや二人は喧嘩し始めた。 「だったら火織お姉ちゃんは私の右側、シェリーさんは私の左側に座れば良いじゃないですか。」 ということで二人は初春の隣に座る事になった。 また建宮は拘束を外されており、二人を見ていて呆れていた。 そんなことしていたら、トライアングルカップルが入ってきた。 「うわぁ、結構人がいっぱいだね。どこにしようか? 出来れば個室が良かったけど空いてないよね、きっと」 「俺はどこでもいいよ。赤音さんと真昼さんが一緒なら。とりあえず聞いてみようか」 「そうだな。この時間なら知り合いや顔見知りも……げっ」 トライアングルカップルが個室が空いてるか聞こうとした時、真昼が何かを見つけると嫌そうな顔をする。 その原因たる人物がこちら側に気付くと、手を振って挨拶をしてくる。 「おー! 誰かと思ったら三色どんぶガファッ!!」 挨拶をした人物、建宮に容赦の無い飛び膝蹴りを彼の顔面に叩き込んだのは真昼だった。 倒れた建宮に追い討ちをかけるようにマウントポジションを取った真昼は建宮を殴りまくる。 「こらオッサン! てめぇが変な呼び名つけたせいで真夜が迷惑してんだよ! 散々注意してもまだこの口はそんなこと言うかコラァ!」 「す、すまんのよ! でも身に付いた習性とゴフッ! いうのはなかなかグハッ! 抜けないものなのよゲフッ!」 「真昼さんストップストップ! 俺なら全然気にして無いから! ごめん、建宮のおっさん」 「気持ちは分かるけど公共の場でそれはまずいよ真昼ちゃん。建宮さんを殺るならさ、学校で殺ろうよ♪」 真昼の暴力を止めたのは唯一、彼女を止められる存在の真夜と止める理由のベクトルが全く違う茜川だった。 トライアングルカップルと建宮のやり取りを見て、初春が目を輝かせている。 「火織お姉ちゃん、もしかしてあの3人って……」 「おそらく。私も土御門から聞いたので詳しくありませんが、彼らが例の……って飾利!」 初春は席を立って、トライアングルカップル(おまけで建宮)の所まで駆け出すと、丁寧に頭を下げて挨拶する。 「初めまして井ノ原真夜さん、井ノ原真昼さん、茜川赤音さん。私、初春飾利といいます。建宮さんがご迷惑をかけてしまったようですみませんでした」 「い、いえ、こちらこそ。ところで君と建宮のおっさんってどんな関係なの?」 「建宮さんですか? お友達ですよ♪」 初春の礼儀正しい態度にトライアングルカップルは関心すると、彼女の『お友達ですよ♪』発言を残念そうに聞いてる建宮に気付く。 そして建宮と初春の関係を何となく察すると、建宮にちょっと同情した。 「あの、良かったらご一緒しませんか? 私、土御門さんから話を聞いて皆さんとお話したいなって思ってたんですよ」 「土御門が? なあ、あの妹萌えのバカ、俺達のこと何て言ってた?」 「二股でしかも相手の一人は実のお姉さんって聞いてます。二股認めてるのは人としてどうかとも言ってました」 初春の正直な答えに真昼は土御門を見かけたら殴ろうかと思った、本気で。 しかし初春の反応は自分達が今まで見たことの無い驚きの反応だった。 「私、皆さんのこと応援してます! 風当たりは優しくないでしょうけど、皆さんを見てたら乗り越えそうだなって思います! 頑張って下さい!」 「あ、ありがとう。……あのね初春ちゃん、私達がこんなことを言うのも何だけどね、私達の関係、変って思わないの?」 「どうしてですか? たとえ血は繋がってても、3人で恋人関係でも愛する気持ちは本物ですよね? だったらおかしい所はありません♪」 ここまで自分達を好意的に受け入れてくれた少女にトライアングルカップルは感謝すると共に、ちょっと変わった子という印象を持つことに。 かくして初春に勧められるまま、3人は神裂とシェリーが待っている個室へと向かうのだった。(建宮は真夜が担ぐことに)。 一方、店内を忙しく動き回っていた『喰わせ殺し』の店長が足を止めて、入り口を見据える。 「どうかしたんすか? 店長。……まさか!」 「おお、間違いねぇ。あの子だ、インデックス嬢ちゃんが腹空かせてこっちに向かってやがる!」 店長だけが持つ対インデックスレーダー(別名野生の勘)が彼女の到来を察知すると、店員達はざわつき始め、さらにやる気に満ちた表情に。 「いいか野郎共! 俺らの超VIPのインデックス嬢ちゃんが腹空かせてんだ! 粗相の無いように準備しやがれぇ!」 「大お大オオおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」×全店員 店長の指示で腹ペコ大魔王のインデックスが来た時のおもてなし態勢(料理の量を増やすだけ)を取り始める店員達。 準備完了(所要時間1分!)と同時に車でかっ飛ばしてきた小萌がインデックスと一緒にやって来た。 「店長、インデックスがおなかすかして動けないでいるから、早く用意してくれないか。」 「もう準備してあるぜ!こっちにあるぜ。」 店長はステイルとインデックスを個室に連れて行った。 ちなみに、ステイルと店長はインデックスのことで少し仲がいい。 「じゃあ、私達も食べましょうか。って黄泉川先生と芳川先生!?なぜいるんですか?」 「それはこっちのセリフじゃん。私達は打ち止めと食べに来ただけだけど。」 「私達は神父さんにビデオカメラを貰って、そのときインデックスちゃんがおなかが減ってて神父さんに抱えられてたので、私の車でこっちに来たんですよ。」 「そうなのですか。で木山先生はどうしてついて来たんですか?」 「私はそのビデオをここで見ようという事になったから来ただけだが。」 「そうだったのでしたか。」 と先生達が話していたら、半郭が入ってきた。 「半蔵様どこに座りますか?」 「どこにしよっか?」 半郭がどこに座るか考えていたら、 「今度は半蔵さんと郭さんでは無いですか。」 初春が半郭を見たらすぐに近づいてきた。 「あれ、初春さんもここで食べに来てたの?」 「そうなんです。あと、さっきはあんまり話せ無かったのでこっちで話しませんか?」 「別に良いけど。」 ということで、半郭もトライアングルカップルと同じく個室に向かった。 そして数分経つと、上琴が入って来た。 「美琴、席はどこにする?」 「個室にしましょうよ。」 ということで、個室に向かおうとしたんだが、 「あれ、今度は当麻お兄ちゃんに美琴お姉ちゃんでは無いですか。」 一つの個室から声が聞こえたのでそっちの方を向いたら初春達がいた。 「飾利がなんでここにいるの?」 「あの後ビデオカメラを届けに言った後こっちに来たんです。」 「そうなんだ。他にここにいる人以外で誰かいるのでせうか?」 「先生達とアホ毛ちゃん、ステイルとインデックスさんがいますよ。」 「そうなんだ。じゃあ、私達は隣の個室にいるから。」 「分かりました。」 上琴は初春達の隣の個室に入った。 上琴が個室に入った時、青ピと合流した黒子と絹旗が入ってきた。 「じゃあ、私は飾利のところに超向いますので。」 店に入ってすぐ絹旗は初春の所にいる個室に向った。 「じゃあ○○様、どこに座ります?」 「個室も良いけど、普通でええんや無いか?」 「そうですわね。じゃあ普通の席にしますか。」 ということで青黒は普通の席に座った。 その数分後、なぜか家で時間がかかった一方通行がやってきた。 「しまったなァ、ちっと遅れちまったか。ま、クソガキ達が帰ってるってこたァ無ぇから大丈夫か」 「あっ! アクセラさんじゃないですかー! こんにちはー!」 「ンだァ? 誰かと思ったら初春のダチじゃねー……な、何でてめェらがここに居やがンだァ!」 シャワーに時間をかけていた一方通行に声をかけた佐天に彼なりにまともな挨拶というやつをしようと思っていたが、後ろに立っている二人にツッコミを入れることに。 それもそうだろう、英国第三王女のヴィリアンとウィリアムが居たのだから。 「何でって言われても。日本に用事があって、昼食を摂ろうとしたとしか言えないわよ。ね、ウィリアム」 「その通りである。しかし相変わらず目上の人間に対する礼儀がなっていない少年であるな」 「確かになァ、てめェらが普通のカップルなら何も言わねェぞ。けどてめェら、つーかそっちは王女様だろうがァ! こんな所で油売ってうおっ!」 色々とツッコミを入れていた一方通行の腰にぶつかってきたものを確認すると、そこには打ち止めがいた。 「やっと来たよー♪ ってミサカはミサカはあなたが来るのが待ち遠しかったりってあーっ! あの時のおじさんだーってミサカはミサカはよじ登る!」 「ぬおっ! またなのであるか! こ、こらっ! ちょこまかしないで欲しいのである!」 打ち止めはクリスマスの時に肩車をしてもらった(正しくはさせた)ウィリアムを見つけると、前のようにスイスイと彼によじ登り肩車をさせた。 一方通行は打ち止めの行動に呆れ、佐天とヴィリアンはその光景を微笑ましく眺め、ウィリアムは複雑な表情で打ち止めにされるがままになっていた。 「じゃあ打ち止めちゃんも落ち着いたことですし、飾利達が居る個室に行きましょう♪」 「そうね。私も早く初春に会いたいし。ウィリアム、その子を振り落とさないように来て下さいね」 「今日もミサカは絶好調ー! ってミサカはミサカはでっかいおじさんに肩車させてはしゃいでみる!」 「すまねェな、うちのクソガキが迷惑かけちまってよォ」 「気にしなくとも良い。確かにちと困ってはいるが、我はこの程度で怒りはしないから安心するのである」 一方通行、佐天、ウィリアム(打ち止め付き)、ヴィリアン達はすでに大所帯になっている初春達が居る個室へ入って行った。 「なーんか今日の『喰わせ殺し』はとってもカオスな予感がプンプンぜよ」 「それって元春自身の勘? それとも陰陽術で調べた結果?」 少しして土白も『喰わせ殺し』の前に到着していたが、土御門の勘がとんでもないことになっていそうだと告げていた。 「当然俺の勘ぜよ。というか月夜、俺が魔術使ったらどうなるか説明したはずにゃー」 「あははゴメンゴメン。ただの勘だったら心配無いと思うよ♪ きっといつもの面子がいるってだけだから心配要らないって」 (だから心配なんだにゃー……とは言えない雰囲気ぜよ。仕方ない、腹くくって突撃ですたい!) 土白は知らない、自分達が予想しているよりも遥かにカオスな集まりになっていることを。 かくして土白も『喰わせ殺し』へと足を踏み入れるのだった。 土白が店内に入って行った後、婚后、泡浮、湾内のお嬢様トリオが『喰わせ殺し』に到着した。 「ここが『喰わせ殺し』ですか。外観はなかなかご立派ですわね。ところで泡浮さんに湾内さん、ここはどのようなお店ですの?」 「わたくしも噂に聞いただけなのですが、なんでも学園都市に彗星のごとく現れたお店で常盤台の生徒も何名か通ってらっしゃるみたいです」 「そうなんですの? この婚后光子を満足させられるような料理が置いてあるとは思えませんわ。店の名前からして」 「ですが料理も一流、店員の接客も一流と評判ですのよ。きっと婚后さんもお気に召しますわよ。ただ、ばいきんぐ形式というものらしいのですが……」 この3人、美琴や黒子と違い、世間に疎い所が多々ある箱入り娘なのだ。 しかもたまたま、3人ともがバイキング形式の店に行ったことがないという妙な偶然を発揮する。 「スカンジナビアの海賊の名前の形式なんて聞いたことがありませんわ。婚后さんはご存知ですか?」 「も、もちろんですわよ! このわたくしに知らないことなどありませんもの(し、しまった……。また変な見栄を張ってしまいましたわ!)」 「さすが婚后さんですわ。では、わたくし達にバイキング形式のことを教えてはいただけませんか?」 「(考えるのですわ婚后光子! どこかでそのような言葉を聞いたような……そうですわ!)要は立食パーティーのことですわよ」 当たってるようなそうでないような婚后の説明に無垢な泡浮と湾内は納得した。 楽しそうに店内に入って行く泡浮と湾内を見ながら婚后が思い出したのは、美琴の惚気話。 (御坂さん、随分とお綺麗になられましたわ。恋をして、愛を知ると女性は美しくなるというのは本当のことでしたわね) (わたくしも御坂さんのように立派で素敵な殿方を見つけられるのでしょうか? 一度でいい、燃える様な恋をしてみたいですわ) 婚后は知らない、彼女が『喰わせ殺し』において希望通りの燃えるような、というか燃える初恋に巡り会うことに。 かくして『喰わせ殺し』に集まるべき人間が全て集まるのだった。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/474.html
旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室 突如現れて状況を覆したシェリーに対し、建宮が静かに問いかける。 「お前さんは、一体…?」 「フン。あなたたちの女教皇と同じ、『必要悪の教会』所属の魔術師よ」 「…まあ、謹慎処分を食らってる私の顔は、知る訳もねえか」 建宮に答えたというよりも、むしろ独り言を洩らすかのようにシェリーが呟いた。 「…確かに『必要悪の教会』の魔術師を呼びはしたが、幾らなんでも来るのが早すぎるのよな」 「それに…イギリス清教の魔術師が、こうもハッキリとローマ正教と戦闘行為をするのはマズイはず」 警戒を解かず疑問を口にする建宮を、シェリーは鼻で笑った。 「私がここにいるのは、依頼を受けたからじゃないのよ」 「?」 「言ったろ?私は謹慎処分を食らってるって」 シェリーの持つオイルパステルが、流れるように紋様を描く。 「――つまり私が暴れても、イギリス清教は全く関係ねえって事なんだよォ!!」 呆然とする職制者たちを、エリスの巨大な腕が文字通り叩き潰した。 壁の染みとなった彼らを一瞥もせず、シェリーは氷の寝台を眺めてチェックする。 (これは…聖ブラシウスの氷拘束術式の応用) (聖ニコラオスの抗電術式、十字架の特性を利用した拷問術式…ちくしょうキリがねえぞ) 天草式の2人を無視しながら分析作業を続けるが、背中に刺さる視線に耐えられなくなったシェリーは、溜息と共に告げた。 「そんなに私がいる理由が気になるのかよ…」 「私が戦う理由は、そこで捕まってる馬鹿にお説教するため。もういいわね?」 「じゃ、じゃあ…あなたはレイの事を知ってるって事すよね?」 おずおずと尋ねる香焼だが、シェリーはそれ以上詳しい事は喋らない。 やがてシェリーは舌打ちをすると、踵を返して部屋から出て行こうとする。 「どこへ行く気なのよ?」 「…レイを拘束しているこの寝台は、術式を全て解除するのにえらく時間がかかる」 「さっきの天井みたいに、魔法陣で溶かす事は出来ないすか?」 「無理ね。こいつは大量の術式を複合させた力技で、解除術式を迎撃してくるから」 「これが暗号による隠蔽術だって言うなら、私が解読してやるんだけどな」 「だから、こういう事に打ってつけの“専門家”を呼んでくる」 それだけ言い残すと、シェリーはエリスを連れて今度こそ部屋を後にした。 旗艦『アドリア海の女王』船底のとある小道 その時インデックスは、自分を容赦なく狙う氷像や大砲から逃げ回っていた。 オルソラがアニェーゼの部屋へ入れるように、その場にあった防衛機能を引きつけたからである。 大量の敵に襲われながらも、『強制詠唱』を使う事でなんとかうまく立ち回っていたが…。 「こ、これ以上は厳しいかも…」 体力が限界に近くなり、足がもつれてくる。 その隙に自分を囲んだ氷像へ、インデックスが『強制詠唱』を唱えようとして――その必要は無くなった。 「全部ぶっ壊しちまいな、エリス」 恐ろしい速度で突進してきた氷のゴーレムが、周りの氷像へ体当たりしたからだ。 そして後ろにいたシェリーが、オイルパステルを一閃して“場”を整える。 砕いた氷像を吸収して、より巨大なゴーレムが誕生。 まるで産声をあげるかのように、おぞましい咆哮が辺りに轟いた。 突然の出来事にポカンとするインデックス。 尤も、それも当然のことと言える。 かつて学園都市で自分を襲ったゴーレム使いが、何故かこの場に現れたからだ。 「…どうして、あなたがここにいるの?」 「説明は後。それよりもあなたの助けが必要だから、とっとと行って頂戴」 「え、え?」 「いいから。見りゃあ分かるからさ」 一方的に会話を切り上げると、シェリーは再びオイルパステルを振るう。 途端にゴーレムがインデックスを掴み上げ、フルチューニングのいる部屋へ進んでいった。 (…もう、私が行く必要は無いな) ほんの一瞬だけ、シェリーは不出来な弟子のいる方へ目を向けた。 (……) それでも、彼女の歩みは止まらない。 以前インデックスを襲った時と全く逆の理由が、彼女の足を推し進めたからだ。 ――すなわち、戦争を起こさせないこと。ただその一点のため。 「…しまった、先にオルソラがいる場所を聞いとくべきだったわね」 そう独り言を漏らして、かつて戦争の火種を求めた魔術師は船内を走り出した。 旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室 建宮たちがフルチューニングへ回復術式を施していると、ゴーレムに掴まれたインデックスがやってきた。 事態が把握できずインデックスは混乱していたが、部屋にいるフルチューニングを見て慌てて駆け寄る。 「酷い…!しっかりしてレイ!」 「そうか、あの魔術師はお前さんを呼びに行ったのか!」 その事に気付いた建宮が、インデックスに頭を下げる。 「頼む、この拘束術式を解除して欲しいのよ!」 「分かってる」 インデックスが、氷の寝台を睨みつけたまま頷いた。 「絶対に助けるから!」 微塵の迷いも無い断言。 建宮には、その言葉を聞いたフルチューニングが微かに笑みを浮かべたように見えた。 旗艦『アドリア海の女王』最下層の部屋 未だ無事な姿のアニェーゼを見つけて、それでもオルソラは絶望を感じていた。 理由は1つ。その場に現れたビアージオが告げた、この計画の真の目的。 対ヴェネツィア用大規模攻撃術式『アドリア海の女王』。 アニェーゼを犠牲にして、その術式の照準制限を解除する。 その標的は、学園都市。――いや、科学サイドそのものだった。 「始めるぞ。喜べシスター・アニェーゼ」 「君は十字教の歴史上、最も多くの敵を葬った名誉を得る!」 狂気の笑い声が部屋に響き渡る。 それでも。 すでにビアージオに叩きのめされ、満足に動けないはずのオルソラが立ちはだかった。 かつて自分を殺そうとした、アニェーゼを守るために。 「私は、そんなつまらない事を実現するために、アニェーゼさんが使い潰されるのが納得できないと言っているのでございます!」 「それによって多くの人が傷つくのが耐えられないのだという事が、何故信じられないのでございますか!!」 オルソラの放つ魂の叫びは、しかしビアージオには届かない。 「終わりだ、シスター・オルソラ」 迷いなき宣言と共に、ビアージオの十字架がオルソラを襲う。 「笑えシスター・アニェーゼ。君の夢が砕ける様を眺めて!」 こんな自分を助けに来てくれた、オルソラが抵抗も出来ずに殺される。 ビアージオの嘲笑に、アニェーゼの意識が爆発した瞬間。 その場の全てを蔑むような冷笑が聞こえてきた。 「醜いわね。…“砕く”ってのはこうやるのよ」 巨大化して飛んでくる十字架を、壁から出現した腕がゴギュリ、と握り潰す。 「ふん、随分酷い格好してんじゃねーかオルソラ」 「シェリーさん…」 予想だにしない人物の登場に、オルソラもアニェーゼも呆然とする。 只1人ビアージオだけが、さして驚いた様子も無くシェリーを睨みつけた。 「また邪魔者か、面倒臭い。わたしは面倒臭いのは大嫌いなんだ」 「だから…全員まとめて潰す事にしよう」 ゴーレム・エリスがビアージオを襲うよりも早く。 「――シモンは『神の子』の十字架を背負うッ!!」 その場にいた3人が床へ崩れ落ちた。 さらにゴーレム・エリスまでもが倒れ伏し、再び船と一体化して消滅していく。 「クソ…この術式は…!?」 オイルパステルを動かす事も出来ず、シェリーが悔しげに呻く。 オルソラやアニェーゼも同様に全く動けない。 しかも諦めずに何とか起き上ろうとするアニェーゼの顎を、悠然と歩くビアージオが思い切り蹴り上げた。 「どこぞの魔術師が侵入している事ぐらい、最初からお見通しだよ」 今度はシェリーに近づいて、オイルパステルを握ったままの左手を踏み砕く。 「ガ、ア…テメェ…!」 「邪魔者は全て消す。己の無力さを知ると良い」 自らの勝利を疑わず、ひたすら殺戮という悲劇へ向けて進むビアージオ。 だが、その悲劇を破壊するヒーローが近づく足音に、彼は気づいていない。 旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室 インデックスが、フルチューニングを助けるための作業を始めて5分。 この部屋で再び異変が始まった。 先ほど戦ったのと全く同じ氷像が、続々と復活してきたのだ。 その氷像が狙うのは、作業中で動けないインデックス。 咄嗟に構えたフランベルジェで氷像を砕きながら、建宮は質問した。 「作業終了まで、あとどれぐらいかかるのよ!?」 「…後10分は欲しいかも」 冷たい汗を流しながら、インデックスはそう言った。 その言葉を受けて、建宮と香焼は互いに目を合わせる。 「分かった。必ずここは守るから、お前さんは作業に集中してくれ」 「教皇代理だけに、良い格好はさせないすよ…!」 天草式の真骨頂はその支え合いだ。 仲間と戦う事で、その戦力を何倍にも引き出せる。 ましてや、戦う理由がフルチューニングという大切な仲間を救うためなら尚のこと。 何十体もの氷像に囲まれて、それでも2人は迷わずに突撃した。 同時刻、窓の無いビル いつもと同じく、闇に包まれたその空間。 『人間』アレイスターは、送られてくる情報を吟味していた。 情報の送り主は、意識の無いフルチューニング…の脳内チップである。 だが、アレイスターは『アドリア海の女王』による攻撃を警戒している訳ではない。 そんな事は“最初から”眼中にないかのように、別の事に集中している。 (ふむ、検体番号00000号の損害領域が87%を超えたか…) (だが3時間以内に死亡する可能性は、“たった”65%でしかない) (学園都市への輸送時間を考慮しても…『彼』ならまず救命できる) (まあ仮に死んだところで、肉体を第三次製造計画(サードシーズン) へ流用してしまえばいい) アレイスターの口元に、誰もその意味を窺い知ることが出来ない笑みが浮かぶ。 (それにしても、計画以上の働きだ) (天草式十字凄教、予想を超えて役に立つ) (あるいは、このまま検体番号00000号をプランへ組み込めるかもしれんな…) 常人には計り知れない思惑が、遠い異国のフルチューニングを狙っていた。 旗艦『アドリア海の女王』最下層の部屋 シェリー・クロムウェルは、目を見張った。 絶対的に優位だったはずのビアージオが、一撃で倒されたからだ。 それをしたのは、かつて学園都市で自分を同じように殴り飛ばした少年。 「テメェが思ってるより、俺の右手は甘くなんかねえんだよ!!」 その右手に『幻想殺し』を持つ無能力者、上条当麻だった。 上条はオルソラとアニェーゼに声をかけた後、シェリーにも手を差し出した。 「…何してんのよ?」 「ありがとうな。お前が、オルソラたちを守ってくれたんだろ?」 「チッ!」 上条の手を振り払って、シェリーは1人で起き上がる。 「相変わらず、気持ち悪い育ち方してるのね」 「ひでえ言い草だなオイ!」 ショックを受ける上条を無視して、シェリーは無事な右手でオイルパステルを握りしめた。 「…レイの所へ行く前に、こっちを片付けた方がいいのかしらね」 「え?」 シェリーの呟きに、上条がキョトンとした。 思わぬ2人の繋がりに驚いたからだ。 だが、そんな事はお構いなしにシェリーが話を続ける。 「とっととこの『アドリア海の女王』を破壊しちまった方が良い。放っておくのは目覚めが悪いでしょう?」 「ああ。アニェーゼを二度と利用させないために、完全に破壊しよう。でも、そうするにはどこを壊せばいい?」 上条の問いかけに、アニェーゼが静かに返答した。 「私たちがいるこの部屋だけは、替えが利かねえそうです。現在の技術ではもう作れないそうなので」 「なら、この部屋を片っぱしからぶっ壊そう」 船を海水に戻して、後は天草式のみんなに引き上げてもらおうと考えた上条が、右手を構える。 オルソラが、アニェーゼ部隊250人のこれからを心配して独り言を漏らした。 「船から降りた後どうするか、それぞれご自分でお考えにならないと…」 その言葉が終わる前に、アニェーゼが崩れ落ちた。 「い、ぎ。がァァあああああああああアアアアアアアアアアアアア!!」 そして苦痛に満ちた表情で、絶叫する。 理由は1つ。 先ほど敗北したビアージオが、強引に『刻限のロザリオ』を発動させたからだった。 その目的は、自爆。 自分1人が負けるぐらいなら、全てを巻き込んでやろう。 恐ろしくねじ曲がった執念が、ここにいる全ての人間に悲劇をもたらそうとしている。 そんなことを、許すわけにはいかない。 上条は迷うことなく叫んだ。 「オルソラ、アニェーゼを連れて先に甲板へ出ろ!」 「シェリーも、レイの所へ行きたいんだろ!? 早く行ってやってくれよ!」 「…本気かよ。あれか、左手潰れた私は戦力にならねえとか思ってんのか?」 右手でもゴーレム・エリスは作り出せる。 単純な事実として、この場において最も戦力となるのはシェリーだ。 その自分を頼ろうとしない上条に、シェリーが詰め寄ったが… 「違う!」 上条は力強く断言した。 「一度命懸けで戦ってんだ、お前の強さは身に沁みてる」 「アイツは、俺1人で十分なんだよ!」 「…な、に?」 「まだ近くには、レイに天草式のみんな、修道女部隊の人間がいるんだ。そいつらを助けてやってくれ」 「それは…俺には出来ないことだから」 議論は、そこで終わった。 アニェーゼを抱えたオルソラと一緒に、シェリーもその部屋を後にする。 (どこまで馬鹿なヤツなんだよ…) (…くそ、ちくしょう) (あんな根拠のない戯言に、この私が乗せられちまうなんて…) (いや、そういうのも私らしいのかもな) シェリーは一瞬だけ笑うと、フルチューニングの待つ部屋へ向かった。 同時刻、旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室 全ての術式を無効化し、フルチューニングが寝台から解放された。 だが、それで全てが解決したわけではない。 幾らでも復活してくる氷像との戦いは、未だに終わっていないからだ。 フランベルジェを振りまわしながら、忌々しそうに建宮が言う。 「ようやくレイを取り出せたっていうのに、このまま釘づけにされたら意味が無いのよな!」 「倒しても倒してもキリが無いし、どうするんすか教皇代理!?」 建宮がチラリとフルチューニングに目を向けた。 すでに彼女の呼吸音は、ほとんど聞こえない。 得体の知れない方法で体から数十もの部品を奪われた彼女は、傍目から見ても危険な状態だと分かる。 (クソ、こんな結末を認めてたまるかっていうのよ!) (どうやってここを切り抜ける?) (…助けを呼んで、助けが来るはずもない) (当然よな…そもそも我らが助けに来たというのに、そこから助けを求めるようでは本末転倒だ) 氷像は砕いてもすぐに修復される。 だが、体力に限りのある建宮たちはどんどん消耗していく。 確実に敗北が待っている悪夢のような戦場。 その中で、建宮たちはあるはずのない助けが差し伸べられたのを感じ取った。 「…イの…間に、手を…な…!」 この場で戦うのは、どんな状況でも救いの手を差し伸べる天草式の人間。 その“3人目”が、動かせない体でズルリと立ち上がる。 すでに声が出ないはずのフルチューニングから、音無き叫びが放たれた。 「レイの仲間に、手を出すな!」 旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室 唖然とするインデックスを庇うように、フルチューニングが前に出る。 (レイは、レイは、レイは……!) (建宮さんたちを、助けたい!) 体中に走る痛みを無視して、フルチューニングがオイルパステルを構える。 「無茶だレイ、ちょっと待っていろ!」 「必ず助けて見せるから!」 建宮の懇願も、朦朧としているフルチューニングには届かない。 そして。 これ以上は無いと思われた悲劇が、さらに続く。 (……、…) フルチューニングが、近くにあった氷像へオイルパステルを走らせた。 だが、もはや意識のはっきりしないフルチューニングが、適切な魔法陣を描けるはずはない。 (レ…イ…う…あ…?) (ああああアア…!?) (――ふむ、土より出でる人の虚像、か) それなのに、フルチューニングの魔法陣は極めて正確に氷像を支配した。 何故ならば、その魔法陣を描いたのは彼女ではなく――。 (幸い、既にこの“場”は魔術師シェリー・クロムウェルが属性を書き換えた異空間) (検体番号00000号に残るわずかな魔力でも、接続を断ち切ることは可能だ) 脳内チップを使って彼女の体を操った、歴史上最大の魔術師。 (どうせ死ぬかもしれない体なら、少しばかり“使って”将来の予測に役立てる事にしよう) アレイスター・クロウリーその人だったからだ。 途中見かけた人たちを、片っぱしから船の外へ放り出す。 シェリーがその作業をしながら、ようやくフルチューニングのいる部屋にたどり着いた時。 信じられない光景に彼女は絶句した。 (何だよ、これは!?) 氷の部屋の至る所に正確な魔法陣が浮かびあがり、氷像の動きが止まっていく。 満身創痍のはずのフルチューニングが、シェリー以上の正確さと速度でそれを行っていた。 「どういう事だ!?」 「俺が聞きたいのよ!」 シェリーの怒声に、建宮がそれ以上の大声で怒鳴り返した。 「今のレイは明らかに普通じゃないのよな! 一体何が…!?」 「…シェリーが教えたんじゃないの…?」 建宮の言葉を遮って、インデックスが静かにシェリーに尋ねる。 「ここまで正確なカバラの魔法陣を描けるのは、私の知る限りあなたぐらいだもん」 「確かに術式だけなら教えたけど、この子がここまで出来るはずない!」 「でも…」 「ハッキリ言うが、この魔法陣は私以上の使い手が描いたとしか思えねえんだよ!」 「クソ!」 疑問が解決されない事に業を煮やした建宮が、フルチューニングを背後から抱きしめて動きを止めた。 「おい、しっかりしろレイ!」 「…みや、さん…?」 「レイ!?」 建宮の体に、完全に意識を失ったフルチューニングが倒れこむ。 「教皇代理、今は早くここを逃げるべきすよ!」 「…ああ。全員でこの場を離れるぞ!」 とりあえず疑問を脇に置いた建宮が、フルチューニングを抱っこして走り出した。 その時遠く離れた学園都市で、魔法陣を描いた人物がどこか楽しそうな表情をしていた事を誰も知らないまま。 (わずか5分も操れないとはな…) (最後の最後で、意識を取り戻されてしまった) (ふふ…だが収穫は有ったし、良しとしよう) (『科学』と『魔術』の融合…第三次製造計画(サードシーズン) に大きく利用できる) 旗艦『アドリア海の女王』 「テメェらがまたアニェーゼを達を狙うってんなら、俺は何度でも歯向かってやる」 上条の一撃が、ビアージオの持つ十字架を粉砕した。 それと同時に、旗艦が音を立てて崩れていく。 甲板に出た建宮たちも、それを察知して慌てだした。 「術式が崩壊していく…?」 建宮の言葉に、シェリーが呆れたように吐き捨てた。 「あの気持ち悪い馬鹿が、『アドリア海の女王』の自爆を止める為に術式ごと破壊したみたいね」 「ま、まずいんだよ! このままだと船が海水に戻って沈んじゃうんだから!」 「んなこた分かってんだよ!」 わたわたと動くインデックスに、シェリーが怒鳴る。 「けどな、幾らなんでも只の海水を、人形として使役出来るはず無いでしょう!?」 「じゃあ、このまま沈むしかないのかも…」 「心配しなくて良いのよな」 そう言い放つと同時に、建宮が和紙を海水にばら撒いた。 和紙はあっという間に木製の浮き輪となって、辺りに浮かぶ。 「それに捕まっていれば、溺れる事は無いのよ」 「わ、分かった!」 インデックスと香焼が、躊躇い無く海へ飛び込んだ。 「お前さんも早く行け。他の人間も、我ら天草式の仲間が救助を始めている」 「…分かった。“その馬鹿”を放すんじゃねーぞ?」 それだけ言い残すと、シェリーも船から身を躍らせた。 この場に残った建宮が、フルチューニングを抱える腕に力を込める。 (放す訳、ないのよ) (…絶対にな!) ドボンッ! 氷の船が崩壊する直前、最後の2人が脱出した。 キオッジアの、とある沿岸 意識の無いフルチューニングを連れて、何とか建宮が陸地にたどり着いた。 背負っていた彼女を地面に降ろすと、急いで呼吸の確認をする。 (…クソ、止まってやがる!) フルチューニングの呼吸は、完全に停止していた。 (死なせてたまるか…お前さんを死なせてたまるか!) 建宮は急いでフルチューニングの気道を確保すると、迷わず人工呼吸を始めた。 (悪く思うなよ、レイ) 幾度となくそれを繰り返す。 だがフルチューニングからは体温も感じられず、まるで本当に人形のようだった。 「ゴフッ」 「!」 「ガバ…ッ!」 「レイ!」 ようやく呼吸が戻り、フルチューニングは海水を吐き出した。 「良かった、本当に良かったのよな!」 「…ごめん、なさ…い……ニ…ーゼさ…」 「大丈夫だ、さっき連絡を受けた。アニェーゼも他のみんなも、全員無事に引き上げた!」 「…良かった…」 「……です」 フルチューニングが最後に言った言葉は、誰にも聞こえないまま。 ゆっくりと彼女は意識を失った。 さらに、体力の限界に達していた建宮も。 (やばいな…俺の意識も持たないか…!) (救援信号を…) フルチューニングが蘇生したことで安堵した所為か、その意識が漆黒の闇に沈んでいった。 「やれやれ、えらい事になったもんだにゃー」 こうして倒れ伏した2人へ、1人の魔術師が近づいてきた。 一見すると、能天気な足取りにしか見えない様子で。 「とりあえず面倒くさいことに、こっちのクローンは回収しないといけないんだぜい?」 「それとも、俺とやり合う気か?…シェリー・クロムウェル」 「回収してどうする気なのか、によるけどね」 近づいてきた魔術師――土御門元春に、ボロボロのシェリーがオイルパステルを向けた。 「そーんなマジな顔しないで欲しいにゃー」 「……」 「このクローンの体は、学園都市じゃないと助ける事は出来ないって分かるだろう?」 「……」 それでも厳しい顔をするシェリーに、土御門はへらへらと笑った。 「安心するにゃー。“都合良く”1時間で学園都市に到着する飛行機がイタリアに来てる」 「こういう事にピッタリの凄腕の医者が待機してるから、こっちに任せて欲しいんだけどにゃー」 そう言うと、土御門はシェリーの返答を待たずにフルチューニングを担いで歩きだした。 「…ちくしょう…」 「ちくしょう!!!」 結局、そこで戦闘は起こることなく。 イタリアを舞台にした1つの戦いは幕を閉じた。 癒える事の無い、傷跡を残して。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1456.html
香焼の学園都市トラベル 仏教で使われる道具に五鈷(ごこ)と独鈷(とっこ)というものがあるのを知っているだろうか? この道具は人の煩悩を打ち砕く仏の智慧を象徴するものといわれている。 その五鈷と独鈷がひょんなことから、天草式十字凄教の魔術師少年・香焼の元へたどり着く。 香焼と五鈷・独鈷が交わる時、物語は始まる― 第1章 天草の幼き魔術師 kouyagi_travel_to_gakuentoshi 1 天草式が本拠地を置く、ロンドンの日本人街。 ここは天草式がイギリス清教の傘下に入って以来、住みかとなり又治安維持も努めている。 そんな天草式に所属する少年・香焼はとある事情で、元教皇代理・建宮の部屋へ来ていた。 「で、何の用なのよな?」 部屋のなかにあるちゃぶ台の向かいから建宮が香焼に問いかける。 「教皇代理!」 香焼は勢いよく建宮へ詰める 「もうその呼び方はやめるのよな。」 そんな建宮の言葉を無視して続ける。 「俺を今度の、学園都市への遠征メンバーに入れてください!」 そう言って、香焼は机をバンッ!と叩く 建宮は五和の注いでくれたお茶をひとすすりし、 「ダーメ。」 速攻で、香焼の願いを却下した。 「というか、なんでお前が遠征の話を知ってるのよな?アレはイギリス清教の重役しか知らないはずなのよな。」 実は、今度天草式の数人がこの間起きた戦争の事後処理の為に、学園都市へ向かうことになっていた。 だがこのことは、イギリス清教の重役連中しか知らないはずなのだ。何しろ、戦後まもないこの時期に魔術師が学園都市に 踏み込むと多くの人に知られると、あまりかんばしくない状況になると思われたからだ。 「いや、だって最近ずっと五和が舞い上がってて、あれに気づかないほうがおかしいすよ。」 しかし、遠征メンバーに選ばれた五和が愛しの上条当麻に会えるということで、かなり舞い上がっており、 何があるかは天草式に筒抜けも同然だった。 毎日鼻歌を歌いながらカレンダーに×をつけていたり、ロンドンのブティックショップを練り歩いたり、 恋愛小説や恋愛マニュアル本を読み込んだり、どこか上の空で得意の料理に失敗したりと、天草式全員が気づくほどの気の舞い上がりようだったのだ。 (五和…、恋は盲目ってやつなのよな…) 建宮は心の中で溜息をつくと、 「大体、お前は学校があるのよ、学園都市なんて行く暇あるなら学校行ってあのフロリスとか言う奴といちゃいちゃしてるのよな。」 と、とりあえず正論を言ってみる。 香焼はまだ一応、子供なので現地の学校へ通っているのだ。 「学校なんて、サボればいいじゃないすか!つか、なんでフロリス!?」 香焼は息を荒げながら反論する。 「いやいや、あの娘、最近良くここら辺で会うのよな。で、会うたびに「あのぅ、香焼くんはいますか?」とか恥じらいながら聞いてくる のよな。香焼、あの娘絶対お前に気があるのよな。」 建宮はニヤニヤしながら答える。 「嘘だぁ!だってアイツ常に俺にツンツンしてるんすよ!?せっかく戦争のとき助けてやったのに。」 実は香焼、あの戦争時に身のより所の無くなったフロリスを庇い騎士達と戦ったりして、立派なフラグを立ててしまったのだ。 その後、フロリスはたっての願いで香焼と同じ学校に通うこととなっている。 「香焼。それはツンデレって奴なのよな。好きな人に辛く当たっちゃうっていう…」 「教皇代理。そんな都市伝説みたいなこと信じてるんすか?だから、いつまでたっても結婚できないんすよ…」 そう言って香焼が溜息をつくと、建宮の方からビキリという不穏な音がした。 「香焼ーッ!それ以上言うとフランベルジェで切り裂いてやるのよなーッ!!!」 建宮は壁に立てかけてあったフランベルジェを手に取り、振り下ろす。 結婚適齢期を越えても未だにまともな恋愛をしたことのない建宮には、結婚の二文字は禁句らしい。 「おわわわ!教皇代理!落ち着いて!落ち着いて!」 その一振りを間一髪でよけた香焼は建宮へ向かって叫ぶ。 だが、建宮の怒りは収まらず二振り目の為に、フランベルジェを振りかぶる。 「なにが結婚なのよ!俺にはディスプレイの中に嫁がいるからいいのよな!」 建宮は最近、日本発のオタク文化に凝っており、それで心を癒しているらしい。 まともな恋愛をしたことが無いのに、ツンデレだの恋愛の知識に詳しいのはそのオタク文化の一つ、ギャルゲーにあるということだ。 「のわッ!」 香焼は慌てて飛びのきフランベルジェを避けようとする。 だがフランベルジェは振り下ろされなかった。 何故なら台所にいた五和が騒ぎを聞きつけ、茶の間の障子をスパーン!と開け、 何故か手に持っていた一升瓶で建宮の頭をぶったたいたのだ。五和の本気の一発を食らった建宮は伸びてしまっている。 どうやら、五和は上条と会う緊張を紛らわす為に昼間から酒を飲んでいたらしく 「しんみりと1人酒を楽しんでたのに、うるさいですよ?建宮さん♪」 そして、完全に酔っ払っている五和は気を失った建宮をズルズルと引っ張っていた。 「た、助かった…」 とりあえず香焼は一難を逃れた。 (どうしよう、遠征の件は女教皇か最大主教に頼むかな…) 建宮はのびてしまってどうしようもないので、とりあえず女教皇・神裂火織のいる女子寮へ向かうために香焼は教皇代理の家を出た。 2 香焼は日本人街を出て、必要悪の教会の女子寮へ向かうためロンドンの街を歩いていた。 今は丁度昼時で、街は活気にあふれている。 香焼がトボトボと歩いていると、 「あれ?香焼?アンタなにやってんの!?」 後ろから聞きなれた声がした。 声のしたほうを振り向くと、そこには学校の制服姿のフロリスがいた。 最近、イギリスの女子学生の間では日本の女子高生の格好を真似るのが流行っているらしく、 フロリスもその例外ではないのか、黒いニーソにかなり短くなっているスカート、上はブラウスとカーディガンを着用している。 いかにも、日本の女子高生らしい格好だ。 香焼はフロリスのユニフォーム姿に見慣れていた為か、制服効果により普段よりカワイク見えてしまう。 「どうしたの?ボーッとして?」 思わずフロリスに見とれていた香焼はハッと我に返る。 「いや、なんでもないすよ!つか今日休日なのになんで制服なんすか!?」 「いや、ちょっと学校に用事があって…それにユニフォーム姿は目立つし…、何?似合ってないって言いたいの?」 フロリスは自信の勝手な勘違いで、少し機嫌を悪くする。 「いや、似合ってるっすよ…、カ、カワイイと思うすよ。」 「か、カワイイ!?ななな、何恥ずかしいこと言ってんの!バッカじゃないの!?」 顔を真っ赤にしてフロリスが言い返してくる。 「いや、褒めただけなのにバカ呼ばわりって…。つか用が無いんなら俺いくっすよ?」 どうにもフロリスのテンションについていけない香焼は先を急ごうとする 「用ならある!コレ拾ったから、アンタにあげようとおもったの!」 そう言ってフロリスは何かを握った手を突き出す。 「なんだコレ?」 「分かんないけど、さっきバッキンガム宮殿に行ってきてさ、何か大掃除したら色々出てきたからコレもらったの。 よく知らないけど、特殊な霊装らしいよ?」 そして、フロリスはその何かを香焼に押し付けてくる。そのとき、一瞬だけフロリスの手が香焼と触れ合う。 「ッ!!!!!」 その受け取った”何か”から目を離し香焼が顔を上げフロリスを見ると、タコのように真っ赤になっていた。 「どうしたんすか?フロリス?」 「ななな、何でもないッ!じゃあ、ワタシ帰るからッ!!」 そう言うとフロリスは香焼の目の前からあっという間に消え去ってしまった。 「なんなんだ?アイツ。」 フロリスの行動を不思議に思いながらも、受け取った物をもう一度確認してみる。 それは、二つあり、一つはダンベルのような形状で両端の膨らんだ部分が5個に分かれていて色は金。 もう一つは、ナイフのような形状で色は銀。 手で握れるぐらいの大きさではあるが、その大きさの割には重みがあった。 「これは、確か…仏具だったよなぁ…?」 仏具というのは、仏教で使われる道具のことであり、仏壇なども仏具の一つといわれる。 こう見えても、香焼は天草式の魔術師なので仏教などの法具に関しては詳しいのだ。 「確か…五鈷と独鈷だっけ?魔術的意味は、”煩悩を打ち消す”だったっけ?つかなんでこんな物がバッキンガムに?」 とりあえず、五鈷・独鈷よりも今の香焼にとっては学園都市遠征の問題のほうが優先事項なので、ちゃっちゃと女子寮へ向かうことにした。 3 神裂火織は悩んでいた。 それは例の学園都市遠征のメンバーについてだ。 (やはり、遠征メンバーに五和を入れるのはやめましょうか…) 彼女が何故こんなことを思っているのか。それは彼女自身が自らの気持ちに気づいた為だ。 ついこの間の戦争で、彼女にとっての大切な人である”禁書目録”こインデックスという少女を再びあの少年に助けられた。 あれ以来彼女は、あの少年のことを考えるだけで夜も眠れなくなるほどだった。 そして、彼女は気づいた。これが”恋”なのだと。 かりにもまだ18歳である、神裂にとってこの想いは重い物だった。 自分があの少年に恋をしていると気づいた以上、同じ対象に同じ想いを抱く少女を対象に近づけたくなくなるのはごくごく自然なことである。 自らの魔法名である「救われぬ者に救いの手を」という言葉を捻じ曲げてしまうほど、神裂にとって、この想いは重要な物だった。 (い、いけませんいけません!このような傲慢な感情をもってしまうなど私もまだまだ未熟ですね…) いろいろと神裂が悩んでいるところに、他人の声が割り込んでくる。 「神裂さん?来客者ですよ!」 それは、神裂の部屋のドアの外からの声だった。声の主はこの女子寮にすむシスター・ルチア。 「聞いてますか?神裂さん!?」 「は。はい!今行きます!」 一旦思考を中断し、神裂は部屋から出る。 するとそこには、ルチアと並んで天草式の少年魔術師・香焼がいた。 「ち、ちわっす。」 女子寮という空間にやや緊張気味の香焼はどこか動きがぎこちない。 「どうしたんですか香焼?」 「いや、ちょっと女教皇様に頼みたいことがあるんすよ…」 香焼はかなり深刻そうな顔をしている。 並ならぬ空気を感じたのかルチアは「私はこれで…」と言いながら立ち去っていく。 「まあ、立ち話もなんですから部屋に入りなさい、香焼。」 「は、はい!」 こうして二人は部屋へと入っていく。 二人とも腰を落ち着けてから、神裂が口を開く。 「で、相談事とはなんのことですか?」 「あ、あのー女教皇様、俺を今度の学園都市への遠征メンバーに入れてくれないすか?」 香焼はどこか申し訳なさそうに、相談事を話す。 「な、何故あなたがソレをしっているんですか!?あれは重役だけの…」 一方、神裂は驚きを隠せない。何しろ先ほどまで彼女の頭を悩ませていたことが香焼の口から出てきたのだから仕方がない気もするが。 「いや、それはっすねー最近の五和の浮かれ具合を見れば分かるんすよ…」 (五和…やはり侮れませんね…) 神裂は五和への対抗心を心に隠し、香焼との会話を続ける。 「でも、香焼。あなたには学校があるじゃないですか。」 「学校なんてどうでもいいじゃないすか!たった一週間だけっすよ!お願いしますよ、女教皇様!」 そういって、香焼は土下座をする。 「うーん、でも…」 「そこをなんとか!」 「いや、しかし!」 「何でもしますから!」 「うーん…」 「女教皇様!」 「わ、分かりました。考えておきましょう。」 結局、香焼の粘りに神裂は屈する形となる。 「本当すか!?ありがとうございます!女教皇様!頼みますよ!」 わずかな希望がさした香焼は目を輝かせている。 (困りましたね…最大主教になんといえば良いのか…) 「救われぬ者に救いの手を」を魔法名とする神裂はこのような熱心な頼みごとに弱いのだ。 しかし、なぜ香焼はここまでして学園都市に行きたいのだろうか…? 神裂はそこを不思議に思いながら、悩みの種が増えたことに困惑していた。 4 「シスター・アンジェレネ、あなたは何をやっているのですか?」 アンジェレネは背後から突然聞こえてきた声にビクッとしながら、後ろを振り向く。 「シ、シスター・ルチア…あ、あのーこれは…」 この二人のシスターが現在いるのは女子寮の厨房。 ルチアは昼飯前なのに何故か厨房のドアが半開きになっているのが見えたので、覗いてみると… そこには、冷蔵庫(学園都市製)をゴソゴソと漁るアンジェレネの姿が!……… というのが、ことの成り行きである。 「シスター・アンジェレネ、もう一度聞きますが何をやっていたんですか?」 ルチアはそう言ってアンジェレネをキッと睨む。 「あ、あのあれですよ!今日の昼飯の下ごしらえをですね…」 あたふたしながらも、アンジェレネは言い訳を考えるも… 「シスター・アンジェレネ、口の横にチョコがついてますよ。」 「え?ああ、ありがとうございます。いやーチョココロネって食べるときチョコがでてきちゃいますよn…」 そこでアンジェレネは見た、怒りに震えルチアの鬼の形相を… 「シスター・アンジェレネ、私も鬼ではありません。素直に白状したら許してあげますよ…?」 ルチアはなんとか怒りを抑えながら、必死に笑顔を造る。 「え…あぁ…すいません、早食いしました…」 アンジェレネがこうして罪を吐いたところで、ルチアの方からジャカッという音がする。 「え…?」 驚いたアンジェレネがルチアの方を見ると、そこには車輪をもち臨戦態勢のルチアがいた。 「シスター・アンジェレネ…あなたは一回ぐらい痛い目を見たほうがいいですね…」 そう言って、ルチアは世にも恐ろしい笑顔を浮かべる。 「ッ…、ギャーーーー!!鬼です!鬼がここにいますー!」 アンジェレネは叫びながら厨房の外へ飛び出す。 「待てェェェェェ!アンジェレネェェェェェ!」 性格が歪むほど怒り狂ったルチアがアンジェレネを追う。 「腹減ったすね…」 いろいろと頑張って腹が減った香焼は神裂の部屋を出た後、女子寮の食堂へと向かっていた。 ロンドンで十本の指に入る旨さだという噂もたつ、オルソラのご飯を食べてみようと思ったのだ。 「なんか、騒がしいっすね…」 なにやらドッタンバッタンと音が食堂のほうから聞こえる。 (まぁ、人数多いっすもんね、この寮は…) 勝手な解釈に自分で納得した香焼が食堂のドアを開けると… 「アンジェレネェェェェェェ!」 「ひー!許してください、許してください!神様ー!」 「普段教えに背く行為をしているような貴方に神のご加護があるわけ無いでしょうがぁぁ!」 「きゃー!」 そこでは、そのツンとした態度と整ったボディで天草の男衆からの人気の高い(「これぞ、イタリア式ツンデレ!」というのが建宮の評価) ルチアが怒り狂いながら、腹ペコシスター2の異名をとるアンジェレネを追い掛け回していた。 (何やってんすか…この人たちは…ルチアさんなんてあまりの怒りでパンツ見えてるのに気がついてないっすよ…) あまり見たことの無いシスターの姿に戸惑いながらも、香焼は声をかけてみた。 「あのー!ルチアさん!ルチアさん!」 香焼は大声をだすもルチアの反応は無い。しかし、アンジェレネは香焼の存在に気付いたようで、 「ひー!香焼さん!シスター・ルチアを止めてくださいー!」 そう言ってアンジェレネは香焼の影に隠れる。しかし怒りで何も見えていないルチアは止まる気配が無い。 「え?ちょっ!ルチアさん!」 無反応…ルチアの足は止まらない。 (ちくしょう!何でこんな目に!) そう思いながらも香焼は何か使えるものは無いかとポケットを漁る。 (…ッ!) 何かの感触を感じた香焼はその物体をポケットから引きずり出す。手に握られていたのは、先程フロリスがくれた、霊装・独鈷だった。 (これは…たしか、魔術的効果は”煩悩を消す”だったはずっす!) 「香焼さん!速くしないと、シスター・ルチアが!」 焦りと恐怖に震えるアンジェレネが香焼の後ろから情けない声を出す。 「任してくださいっす!これでなんとか…ッ!」 「アンジェレネェェェェ!」 香焼は独鈷を握り、突進してくるルチアに向かい手を突き出す。 (確か煩悩には「怒り」”忿・ふん”があったはずっす!) 独鈷がルチアの体に触れる。次の瞬間、ルチアの動きがフッと止まる。 「た、助かったー…」 アンジェレネは床にヘナヘナと座り込む。 「シスター・アンジェレネ、」 ニコニコとまんべんの笑みを浮かべたルチアがアンジェレネに呼びかける。 「は、はい!」 その声にビクッとしながらもアンジェレネは返事をする。 「お尻をだしなさい、シスター・アンジェレネ。」 「えっ?」 そう言って問答無用でルチアはアンジェレネの腰をつかみ、そしてパーンっと言う音とともに尻をたたき始める。 「あなたは、何度言ったら、わかるのですか!」 「ごめんなさいー!」 (独鈷だけじゃ、ルチアさんの怒りを消しきることはできなかったぽいっすね…) 「ごめんなさいー!」 食堂では昼食前までアンジェレネの悲鳴と尻をたたく音が響いていた。 5 一騒動あった後無事にオルソラの昼飯をご馳走になった香焼は、女子寮から日本人街の自分の部屋に帰っていた。 「ふー、疲れたっすねー。」 そう言って部屋の床に寝転がる。 (ちなみに香焼に親はいない、彼は一人暮らしである。飯は五和の作るご飯をわざわざ食べにいったりしている) ふと、香焼が顔をあげ机の上を見ると…そこには! 「えー何でこれが机の上にあるんすか!」 かれの机の上にあったのは通称”天草男衆パーフェクト・コレクション”(エロ本)であった。 この”天草男衆パーフェクト・コレクション”というのは男のロマン・夢が詰まったモノである。 しかし、これが女衆にばれると大変なことになるので、一番女が寄り付かないであろう香焼の部屋に隠してあったのだ。 「な、なぜ…これが…」 その”天草男衆パーフェクト・コレクション”(建宮命名)が堂々と机の上にあることは天草にとって大問題なのだ。 ふと気付くと、この”天草男衆パーフェクト・コレクション”のあいだに何か紙が挟まっている。 (最低ね!バッカじゃないの!? フロリス) 「あんの野郎…」 香焼は部屋をでて、管理人室へと駆け込んでいった。ちなみに香焼が住むアパートの管理人は対馬である。 「対馬さん!アンタ勝手に俺の部屋にフロリス入れたっすね!?」 香焼がかなりの勢いで対馬を問い詰める。 「あら、駄目だった?フロリスちゃんが掃除してくれるって言うんだもん。どうせアンタの部屋汚いと思ったし」 対馬はニヤニヤとしながら答える。 「なんか、赤い顔して走って帰っていったけどねー、なにがあったのかしら?」 対馬のニヤニヤがどんどんいやらしくなっていく。 「ちくしょぉぉぉぉぉ!」 フロリス同様顔を真っ赤にした香焼が対馬の下を走り去る。 「あ!そういえば、フロリスちゃんランベス宮に用事があるって言ってたわよー」 対馬は相変わらずのニヤケ顔であった。 「ふむ、香焼が遠征メンバーに入りたいといいけりなの?」 そのころランベス宮では神裂・建宮・ローラの3人による会議が行われていた。 「まったく、女教皇様、香焼の意見なんてどうでもいいのよな。」 建宮は相変わらず香焼の遠征には反対であるようだ。 「しかし、彼には並ならぬ熱意がありましたし…ひき受けてしまったので。」 神裂は困ったような顔をしている。 「ふむ、やはり香焼とフロリスはできていたると思ふのだが。」 ここでローラの爆弾発言。 「「え!?」」 神裂と建宮は驚いて素っ頓狂な声を出す。 「何をいっているのですか?最大主教?」 あまり事を把握していない神裂が質問する。」 「いや実はな、王室派も今度の遠征に参加したりとの意見がありけってな、その王室派の護衛に"新たなる光”がつきしことになったのよな」 「「はぁ。」」 「それで、私が聞きし所によりけるとな、最近フロリスが香焼という天草の少年の話ばかりをしたるるというところにありけりなのよ」 「では香焼は、フロリスの為にこの遠征メンバーに応募したということですか?」 神裂は改めて、事実確認を行う。 (そういう理由でしたか…、私としてもその気持ちは分からなくもないのですが…) 「だめ!ダメなのよな!色恋沙汰で遠征についてきてもらっては困るのよな!」 建宮は相変わらず反対を表明している。 「いいではないでぬか、なんか面白きしにありけるし」 最大主教にあるまじき発言をするローラであるが 「ダメダメ!そんな恋にうつつ抜かしているヤツが…」 「あなたに何が分かるのですか!建宮!あなたに香焼の何が分かるんですか!」 恋する乙女である神裂は声を荒げて、建宮の発言を遮る。 「そうにありしよ、建宮。おぬし、自らが結婚適齢期を過ぎしにも縁が無いにけるといって僻みたりているのではないの?」 ここでローラの言葉が建宮の心へザクっと突き刺さる。 「う、うるさいのよな…」 会議の結果、多数決で香焼の遠征参加が可決された。精神的にフルボッコにされた建宮はしばらく落ち込んでいた。 「フロリスゥゥゥゥゥ!」 ランベス宮近くで、フロリスを見つけた香焼は猛スピードで駆け寄った。 「な、何よ!」 若干顔の赤いフロリスが香焼を見る。彼女は先程この目の前の少年に関するビッグニュースをローラに聞いたばかりで その興奮さめやらぬ中でのご対面だった。 「何よじゃないっすよ!何で人の部屋勝手に掃除してるんすか!」 しかしそんなフロリスの心の高ぶりにも気付かず、香焼は例の件でフロリスを問い詰める。 「い、いやだって、アンタの部屋汚いと思って…」 「掃除してくれるのはありがたいんすけどね!お母さんみたいなことしないでっていいたいんすよ!」 「は?何のこと?お母さん?」 フロリスはビッグニュースを聞いたお陰で”天草男衆パーフェクト・コレクション”のことを忘れていたようだ。 さらにイギリスのお母さん方はエロ本探しなるものをやっていない可能性があり、イギリスっ子のフロリスには伝わらなかったようである。 「だーかーらー、って覚えてないんすか?」 「いや、だから何のこと?」 フロリスは”天草男衆パーフェクト・コレクション”のことなど完璧に吹っ飛んでいるようだ。 「い、いや覚えてないならなんでもいいんす…」 香焼も若干顔を赤らめながら、答える。 「それよりさ!アンタ、ビッグニュース聞きたくない?2つあるんだけど!」 急な話題転換と共に、かなりハイテンションなフロリスが早口でまくし立てる。 「な、なんすか…?」 いきなりのフロリスのテンションについていけない香焼だが 「実はね?なんとこの私とアンタの学園都市遠征メンバー入りがきまったのよ!」 「えぇ!?マジッすか!?ヤッター!つかフロリス!?」 香焼に喜びとともに疑問が生まれる。 「な、何よ?私と一緒が嬉しくないって言うの!?」 「いや…そういうわけじゃ…」 「バッカじゃないの!?私だってそこまで嬉しくないし!じゃあね!」 喜怒哀楽様々な表情をうかべ、フロリスは走り去っていった。 「何すか…あいつ…」
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/140.html
主賓一行が東京観光を楽しんでる頃、佐天と絹旗は正座してる建宮を睨み付けていた。 初春に頼まれたことを結局一人分しか考えていないことがバレてしまったのだ、神裂によって。 「酷いですよね建宮さん。初春の前でいいカッコしたいからって神裂さんの手柄を自分のものにしてたんですから」 「私の中でこの建宮は浜面と同じランクに超位置づけしました。まったく建宮のくせに、初春さんを超どうにかしようなんて超生意気です」 「(え? 呼び捨てってことは格下げ?)聞いて欲しいのよ! 土御門に関してはプリエステス御自らお考えになると仰ったのよ! だからすでに終わったものとああっ、プリエステス!」 絹旗の中で浜面と同格になってしまった建宮が言い訳していた所へ神裂が戻ってきた。 建宮の縋るような目に溜め息を吐いた後で、神裂は佐天と絹旗を優しく諭した。 「もうその辺にしてあげましょう二人とも。それに建宮の言っていたことは全て事実ですし、これ以上は時間が勿体ないですよ」 「ま、まあ神裂さんがそう言うなら……」 「神裂さんに超感謝しなさい。本当ならこんなモンでは超済まないんですから」 「あ、ありがとうなのよね。しかしプリエステス……土御門に堕天使エロメイドを着せるとは正気の沙汰じゃないのよ!」 堕天使エロメイドが何か分からない佐天と絹旗に建宮が実物の写真を見せる。 想像力豊かな二人は堕天使エロメイドを着た土御門を想像すると、もの凄く気分が悪くなった。 「うわぁ……。イメージしただけでも相当キツイですね」 「この衣装を土御門が着た時点で一種の超セクハラですよ。恥ずかしいという点では超間違いないんですけど……うぷっ」 「その点はご心配なく。土御門は男ですからスカートではなく半ズボンです」 「「「そうゆう問題じゃないっ!」」」 土御門の堕天使エロメイドカスタム(仮)を却下したい佐天、絹旗、建宮だったが妥協することに。 まだ一方通行と青ピのコスプレも決まっていないし、恥ずかしいという点では適切だと判断したのだ。 「はぁ、もうこれしか無いのかなぁ……」 そこへ頭を悩ませた初春が合流した。 「おおっ! どうしたのよ愛しき飾利姫! 悩む姿も美しいが貴女には笑顔あだだだだっ!」 「すみません初春。ところでその、白雪月夜への謝罪の件はまだ終わってないのですか?」 「いえ、それはもう終わりました。今は○○さんのコスプレを悩んでて……。あ、建宮さんを離してあげて下さい。耐性付きましたから」 初春から月夜が重度のやきもち焼きだと聞いた神裂は、素直に月夜のメールに答えたことを反省していた。 そこで今度は自分ではまた波風が立つと思い、月夜への謝罪のメールを初春に頼んだのだ。 お詫び1割、土御門から受けた数々の仕打ち&愚痴8割、祝福1割の長文メールを(土御門には内緒にしてもらって)。 「○○さんって白井さんの彼氏さんだよね? もしかして全く思い浮かばないの?」 「いえ、思いついたのはいいんですけどその衣装があまりにもその、みなさんには刺激が強すぎて……」 「刺激が超強いって一体どんなコスプレなんです?」 佐天と絹旗が興味津々で聞いてきたので、初春は仕方ないと思いながらも携帯の画面にその衣装を表示した。 次の瞬間、佐天、絹旗、神裂、そして建宮までもが引いてしまった。 「……何、これ。初春あんた、これを○○さんに着せるつもり……?」 「これは私が今まで見たことも無い、というか見たくも無かったおぞましい服ですね……」 「いや、これはいくらなんでもキッついのよな。これを愛しの飾利姫が着るのならアリごふっ!」 「建宮の超変態嗜好に超興味無いから余計なことは喋らないで欲しいです。でもこれは、私でもちょ、蝶、じゃなくて超寒気が……」 顔を覆う蝶々の仮面、胸元から股間ギリギリまで開かれたスーツ、そして股間部分にあしらわれた蝶々のエンブレム、普通の感性にはきついようだ。 しかし中にはこれを好しとする人間が居ることを初春は話し出す、気絶した建宮には気付かずに。 「白井さんならこれも有りなんです。御坂さんに着せようとした衣装の幾つかはこれの比じゃないですし」 (常盤台のジャッジメントは超変態だったんですね。これは超警戒する必要がありそうです) (これを受け入れるどころか好ましいと思う女子がいるとは……世の中は広いですね) 初春の言葉に絹旗と神裂はまだ思考する余裕があったが、黒子を知っている佐天はショックで頭が真っ白になっていた。 「恥ずかしいという点では申し分無いので○○さんはこれでいきましょう。少しエレガントとは思いますけど」 「ちょ、ちょっと待ちなさい初春! 貴女は! 貴女だけは道を踏み外してはいけない!」 「超その通りです! 初春さんにそんな美意識は超似会わないです!」 「そうだよ初春! あんたは白井さんのような変態さんになっちゃダメだからね!」 「皆の言う通りなのよな愛しの飾利姫! 姫のような純真無垢で可愛らしい女子がこれをエレガントと思ってはいけないのよね!」 初春の美意識にストップ&更生を迫る4人に初春はただただ頷くしかなく、その後も必死で諭されることになってしまった。 ちょうどその頃、神裂の本心を込めたメールを月夜は…… 「ねえ元春、この人知ってる?」 「ん?ああ、ねーちんか」 「ねーちん?」 「いや、それは呼び名だぜい!!」 「関係は?」 「仕事の同僚!!ちなみに俺が先輩だぜい!!」 「そっ、ならよかった。」 (にゃー…危なかったぜい…) 「そういえば元春って仕事仕事って言うけどなんの仕事してるの?」 「世界の平和についてだぜ!!」 「おおー!!かっこいいー!!」 「で?」「にゃ?」 「仕事ついでにいろんな女の人とあってるわけだ?上条君は公開型旗男、元春は密室型と。」 「ち、違いますにゃ!カミやんからも言ってくれい。」 「あ?まあ確かにそいつの同僚には変な人が多いな。老若男女問わず。」 ボロボロの上条が答える。 「だよなァ。」 「むっ、そろそろ着くよーってミサカはミサカは呼び掛けてみてリ。」 5バカップルが東京タワーについたころ、 傭兵崩れのゴロツキに試練が訪れていた……。 「ああ!ウィリアム、ウィリアム!!」 「ぬう!?ヴィリアン!?」 「おー!!さすが私の娘、大胆だ!!」 「若き頃を思い出すのよん♪」 「ヴィリアン様…」 「ウィリアム、ウィリアム、ウィリアム、ウィリアム!!」 「ヴィリアン!!少々落ち着くのだ!!」 「嫌です!!ウィリアム、貴方は何時も何処かへ行ってしまうではありませんか!!こうやって会うとき位よいではないですか!!」 「ぬおおおおおおおおおお!!」 傭兵崩れのゴロツキの試験とは理性との戦いであった。 「「良いものを見た!!」」 と、姉達が言っていたのは言うまでも無い。 「騎士団長からメールにゃー。おっ♪ カミやん、これを見てみるぜよ」 「どした? 土御門。へぇ、これはこれは」 土御門に送られてきた騎士団長からのメールにはアックアと第三王女が往来の場でいちゃついている画像が添付されていた。 幸せそうな第三王女と顔を赤くしているアックアの周りには驚くほどの量の野次馬がいるのだが、 「でもこれ大丈夫なのかよ。世界的な大ニュースになるんじゃないのか?」 「それは心配無用だぜい。あんな所に王女様がいるなんて誰も思わないにゃー。よく似た他人ってことで話は終わるさ」 土御門はこれが大事にはならないという確信があったので大して気にしていなかった。 むしろ今の土御門が気にしていることは先の月夜に送られてきたメールの方だった。 「なあカミやん。もしかしなくてもねーちんもパーティーに呼ばれてるのかにゃー?(嫌な予感がプンプンするぜ)」 「多分な。白雪のアドレスを神裂が知ってるはずねーから初春さんに教えてもらったんだろ。となると天草式の奴らも……」 「来てるだろうな。でも安心していいぜよカミやん。五和は入院中だからパーティーは欠席ですたい」 五和が来ないことに心の底からホッとした当麻だが、そこでようやくもう一つの脅威を思い出す。 「そうだ、インデックスは? あいつもパーティーに出席なんてことは……」 「それも心配無用。禁書目録は学園都市を出られない風斬氷華とクリスマスを過ごすらしい。同じく欠席のステイルからの確かな情報にゃー」 「そっか、それは良かった。あいつ一人でパーティーの食事全部食われたらシャレにならないからな」 (……禁書目録からの「パーティーから帰ってきたら短髪ともども覚悟するんだよ」の伝言は言わないほうがいいみたいだな) 当麻と土御門が話し込んでると、お互いのパートナーから声がかかる。 「当麻ー、何してんのよー。モタモタしてると置いてくわよー」 「元春もー。早く行こうよー」 「ま、今は東京タワーを楽しむとしようか」 「賛成だぜい」 パーティー主賓一行が向かう先は……蝋人形館。 蝋人形館の歴史 東京タワーろう人形館は1970(昭和45年)に開館しました。展示されているろう人形は、 ろう人形館発祥の地、ロンドンの工房から直輸入したものです。 2001年にリニューアルし、「20世紀を飾った人たち」をテーマに国内外で活躍した人物が追加されています。 中でも宇宙開発事業団の協力を得て製作された、 毛利衛さん・向井千秋さんは人気があります。 「だってよ、」 「ふーん。」 「(ロンドンの工房って、何か嫌だな…)」 「(安心しろ、呪いの蝋人形なんてないぜい。)」 「(そういう問題じゃない…。)」 「(じゃあどう言う…)」 土御門の発言は一方通行によって遮られた。 「くォらクソガキィ!!!蝋人形に抱きついたりして遊ンでンじゃねェ!!」 「だってあなたは抱っこしたりしてくれないもの。ってミサカはミサカは膨れてみたり。」 「だからって言って入っちゃいけません!!」 「はーい、ってミサカはミサカは言うとおりにしてみたり。」 「まったく。お姉さまに似てお嬢様らしくなゴギュウウウウウ!!!!」 「一言余計よ黒子。」 「…にゃー…まったくもって平和だぜい。」 「「「「「だな(ァ)」」」」」 男ども全員納得。 「あっ、もうこんな時間!そろそろ行かないとパーティーに遅れるわよ。」 美琴が呼びかける。 「んじゃ行くか。……なんかやな予感がするけど。」 同時刻、上琴宅(新居)。 「なんか凄いことになってるようなのよな。」 「どういうことですか建宮?」 「騎士団長からのメールなんですが……まぁ見てください。」 そこには。 くだんのいちゃつく英国第3王女のお姿が。 「…バカップルぶりが英国まで伝染してる気がします……」 「ところで建宮さん達、男性陣の服の用意はできたんですか?」 「できたのよな!!!」 そう言って彼は天草式の対馬以下何名かに買ってこさせた『物』を開陳する!! 「「「「げぇーーっ!!!」」」」 「よ、よく対馬さん達も買いに行ってくれましたね…。」 「う、初春、これはさすがに却下だよねえ。」 「ですが超時間が有りません。超パーティーまで2時間ないんですよ!」 「仕方がないのよな♪ってゴギュ!!!!」 「「「「(超)楽しそうに言うなっ!!」」」」 「はぁ、仕方ありません佐天さん。これで行きましょう。」 「っ!?本気なの初春!?英国女王も来るのに!!??」 「超そうですよ!!!不敬罪で超死刑になりかねません!!」 「それは…まあ大丈夫でしょうあの方なら。…どうも秋葉原で買い漁ってるご様子ですし。」
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/654.html
―――ロンドン、日本人街、とあるアパートの共同台所 五和「あッ、佐天さん、おはようございます」 佐天が共同台所を覗くと、そこでは五和が朝食の準備をしていた。 まだここでの生活に慣れていないものの、朝食の準備は彼女の日課らしい。 佐天「おはようございます。何か手伝いましょうか?」 五和「そうですね。じゃあ食器をテーブルに運んでもらっても大丈夫ですか?」 佐天「了解です!」ビシッ 五和「フフ、じゃあお願いします」 佐天「それじゃあ、よっと……」 「おッ、佐天嬢、今日は早起きなのよな。それに朝食の準備の手伝いとは、感心感心」 佐天「おはようございます、建宮さん」 クワガタのような髪型をしてだぼついたシャツとジーンズの男、建宮が台所に顔を出した。 佐天は建宮が『天草式十字凄教』と呼ばれる一団の教皇代理だとここに来たときに聞かされたが、 一体何が教皇『代理』なのか未だによく分かっていない。 とりあえずリーダーなんだろうなということで納得している。 五和「建宮さんも佐天さんに感心ばかりしてないで、少しは手伝ってくれませんか?」 建宮「『男子厨房に入るべからず』ってな。男の戦場は家の外にあるものなのよ」 佐天「でもうちのお父さんは日曜日なんかはよく料理作ってくれましたよ」 五和「それに私は外でも戦ってますけど」 建宮「建宮さんってば、古い日本男児だから、うんうん……」 佐天五和「…………」 「あれ、どうしたんすか? 朝から白々しい空気が漂ってますけど」 そこにやって来た小柄な少年、香焼はその場に流れるアレな空気を敏感に感じ取っていた。 佐天「香焼君、おはようー」 建宮「おお香焼。なに、ちょっとばかし“男”とは何か、二人に語ってたところなのよ」 香焼「そうなんすか。 自分はてっきり教皇代理がまた空気読めない感じの発言したのかと思ったすよ」 建宮「あ、あれ? どうしたのよ香焼君!? そんなキャラだったっけ? 原作にあんまり出てないからって、設定の改変は―――」 香焼「あ、自分も手伝います」 佐天「お、感心だねぇ、香焼君」 五和「それじゃあこっちをお願い」 香焼「了解っす」 香焼は佐天と一緒に朝食の準備を手伝い始めた。 それを見つめる建宮は、完全にこの場の流れに取り残されていた。 建宮「そしてこの疎外感……。し、仕方ないから建宮さんもお手伝いを―――」 五和「準備できたので、頂きましょうか」 項垂れる建宮。しかし誰もその様子に突っ込もうとしない。 佐天もここでの生活に必要なこの辺の『ノリ』に順応し始めていた。 佐天「他の皆さんはどうしたんですか?」 五和「牛深さんは任務で外に出てます。対馬さんは、この時間はまだ寝てますね。 そう言えば佐天さん、今日から魔術の勉強が始まるんでしたよね?」 佐天「はい。だから何だから朝からソワソワしちゃって」 建宮「早起きだったのはそういう訳か。感心して損しちまったのよな」 佐天「でも魔術の勉強ってどんなことするんですかね?」 五和「詳しくは聞いていないんですか?」 佐天「そうなんですよ。ステイル君に『覚悟しておくんだね』って脅されただけで。 皆さんはどうやって魔術を覚えたんですか?」 五和「魔術を覚えたとき? うーん、どうでしたっけ……」 香焼「そう言えば自分もよく思い出せないっす。いつの間にか使えるようになってたような………」 佐天「えーッ、そんなテキトーな感じなんですか?」 建宮「天草式は魔術を生活の中に溶け込ませる性質上、日常的な行動と魔術の境目が曖昧なのよ。 だから格式張った魔術の修行みたいなものがあまり存在しないのよな。 佐天嬢だって、いつ箸が使えるようになったとか、そういう日常動作については覚えてないよな? それとおんなじってことよ」 佐天「へー、じゃああたしもそういう風に魔術を覚えていくのかな?」 建宮「いやいや、これは天草式十字凄教っていう流派に限ったことであって たぶん他は違うと思うのよ。むしろ『格式張った魔術の修行』って感じなんじゃないの? しかも魔術を教えるのが、奴さんだしな」 佐天「うぅ……」 そう言われて、佐天は頭を抱えた。 本格的に魔術の勉強が始まると聞いてから、くすぶり続ける不安材料があったのだ。 五和「ステイルさん、すごく厳しそうですよね……」 佐天「薄々感じてたことをズバッと言われた……!」 何かにつけて刺のある言葉を吐くステイルのことだ。 教える側になった途端、物腰が柔らかくなるとは到底思えない。 香焼「でもステイルさんって何気にすごい魔術師すよね。 『必要悪の教会』の戦闘要員の中では、かなり上位クラスじゃないすか? さすがに女教皇には負けると思いますけど」 五和「あれ? でもステイルさんって魔導師ではないですよね?」 建宮「今回はたぶん特別ってことなのよな。 さすがのステイルも、弟子を取るほど完成された魔術師でもないのよ」 佐天「魔導師?」 建宮「魔術を使うのが『魔術師』。弟子を取ってその魔術を教えるのが『魔導師』。 あと魔導書を所有している者って意味も含んでるか。 まあ魔術の先生ってことよな。 ステイルはあの歳でルーン文字の全解析と新たな文字の創出を成し遂げた『天才』かも知れんが 弟子を取るとなると、自分の魔術を完成された一つの体系として纏め上げなけりゃならんのよ。 そういう意味ではまだまだ経験不足よな」 香焼「教皇代理も、そんな的確な分析ができるんすね。どうしたんすか?」 建宮「そりゃあ教皇代理だからに決まってるのよ!? ホントにどうしたのよ香焼君!! もちろんそれはボケで言ってるのよな!?」 香焼「すいません、醤油取ってももらっていいすか?」 佐天「はーい」 建宮の言葉を軽くスルーして、香焼は佐天から醤油を受け取った。 他の二人も建宮の言葉に反応しないところが何だが哀しみを誘う。 建宮「何この扱い!? クソッ、香焼!! お前もそんなのほほんとしてていいのか? ぶっちゃけステイルとお前ってそんなに歳変わらないのよ! 魔術でも身長でも完膚なきまでに敗北してるのよ!!」 香焼「なッ!? 魔術のことはともかく、身長のことはいいじゃないすか!! 自分には自分の成長の時期ってもんがあるんすよ!!」 五和「魔術はともかくなの?」 建宮「はんッ!! そんなまったく需要のないショタ要素を満たしてどうするっていうのよ! そんなんだから何時まで経ってもモブキャラ+αくらい存在感しかないのよ! 『けいおん!』で言えば、2期の第7話で出てきた澪ちゃんファンクラブの子くらいよな!!」 香焼「えーッ!? 自分はもう、純ちゃんくらいの立ち位置だと思ってたすけど」 建宮「それもう準レギュラーキャラじゃねぇか!? なんでそんな自己評価高いのよ!! 建宮さんだってまだ、さわ子先生くらいのポジションだというのに!!」 香焼「そっちもレギュラーキャラじゃないすか!? 教皇代理なんて精々ギー太くらいの存在感すよ!!」 「はぁ!? 何言ってんのよ香焼ッ!! どういうつもりだ、コラッ!!」 「教皇代理なんて、唯ちゃんのそばにずっといるだけで、存在感の薄いキャラってことっすよッ!!」 「何だとッ!! ……あれ? それはけっこうよくね?」 二人が存在感を巡る熱い(?)議論を交わしていると、スラリと背の高い女性が台所に姿を見せた。 金髪の似合う綺麗な女性なのだが、その髪も今はボサボサでその片鱗はどこにもない。 五和「あッ、対馬さん、おはようございます」 対馬「うん……おはよー……」ボケッー 香焼「相変わらず対馬先輩朝弱いっすね」 対馬「低血圧なんだらからしょうがないで、ふぁぁぁ……。 ああ、えーと、さ、さ、さ……」 佐天「佐天です、佐天涙子です」 対馬「うんうん……覚えてた覚えてた。佐々木ちゃんもおはよー……」 佐天「いやだから佐天です。ていうか、そろそろ行かないと!」 壁に掛かっている時計は、約束の時間の四十分前を指している。 時間的にはまだ余裕があるものの、慣れていない土地なので少し早めに出る必要がある。 佐天は残りの味噌汁を一気に喉に流し込んだ。 五和「佐天さん、頑張ってくださいね!」 建宮「頑張ってくるのよー」 香焼「道に迷わないように気をつけたほうがいいっすよ」 対馬「いってら、ふぁぁぁ……」 佐天「はい、それじゃあ行ってきます!」 ―――『必要悪の教会』関連施設、とある図書館 佐天「し、失礼しまーす……」 指定された部屋のドアを開けて、佐天は恐る恐る部屋の中に入った。 「いらっしゃいませ、佐天さん」 佐天「あれ? なんでオルソラさんがここに?」 そこにはこの前女子寮で会ったおっとりしたシスター、オルソラが待っていた。 オルソラ「あら? お聞きになっていないのでございますか? 佐天さんの魔術の勉強に関しては、何人かで分担して行うことになっているのでございますよ」 佐天「まったくの初耳ですよ」 オルソラ「あらあら。もしかしたらステイルさんなりの心憎いサプライズなのかも知れませんね」 佐天「何ですか、その微妙なサプライズ……」 オルソラ「ステイルさんも忙しい身の上でございますからね。 ステイルさんも私も他の方も、仕事の都合上、毎回お教えできるとは限りません。 佐天さんにはご迷惑をお掛けしますが、このような形式になってしまったのでございます」 佐天「い、いえ、教えてもらえるだけでも、十分ありがたいですよ!」 オルソラ「フフフッ、佐天さんは優秀な生徒さんのようでございますね。 それでは改めましてよろしくお願いします、佐天涙子さん」 佐天「はい、よろしくお願いします」 そう言って二人はお互いに頭を下げた。 オルソラ「では私がお教えする内容でございますが、十字教の基本的な『教え』でございます」 佐天「基本的な教え、ですか?」 オルソラ「はい、つまり、この聖書を学んでいくのでございますよ。 言わばこれが私の授業の教科書でございます」 オルソラが佐天の目の前に差し出したそれは、慣れ親しんだ学校の教科書とは明らかに異なっていた。 一応日本語で書かれているようだが、読めと言われてスラスラ読める自信はない。 佐天「うぅ……何か難しそうですね。しかも分厚い」 佐天はその聖書を手に取ってみる。ズッシリとした重みが手に伝わった。 オルソラ「そのようなことはございませんよ。 聖書に書かれていることをすべて覚え、理解することは確かに容易ではございませんが 少しずつ学んでいけば問題ないのでございますよ」 佐天「そういうものですか。ああそうだ、一つ、気になってたことがあるんですけど」 オルソラ「何でございましょう?」 佐天「えっと、あたし、十字教徒じゃないんですけど、聖書を学ぶ資格とか、あるんでしょうか?」 オルソラ「ということは佐天さんは、仏教でございましょうか?」 佐天「はい、たぶん。うちってそんな宗教とか熱心じゃなくて、仏教のほうもよく分からないんです」 佐天は首を傾げて、学園都市を出る前まで住んでいた実家のことを思い出してみた。 親戚の葬式に行ったときはお坊さんが来ていたはずだが、 宗派はなんだったかと言われても全く分からない。 オルソラ「はい、それでも問題はございませんよ。お教えするのはあくまで十字教の教え。 信仰心まで押し付ける気はございません」 佐天「うーん……あんまり違いが分からないんですけど……」 佐天はさらに首を傾げる。 オルソラ「フフフッ、今はよく分からないものかも知れません。 しかしそのうち分かるようになるのでございますよ。 それでは今日は神の子の生い立ちと足跡についてを学んでいくことにいたしましょう」 ……………………………… ……………… ……… オルソラ「はい、今日はこの辺で終わりでございます。 お疲れ様でございました」 佐天「お疲れ様ですー」 佐天はそのままぐでーと机に突っ伏した。 オルソラ「本当にお疲れのご様子でございますね。少し難しかったでしょうか?」 佐天「いえ、むしろすごく分り易かったです。 だから沢山の情報が頭に入ってきて、それで今頭の中が『ウワァー』って感じです」 オルソラ「『ウワァー』でございますか?」 佐天「はい、『ウワァー』です!」 そう言って佐天は両手を高らかに天に突き上げた。 文化の壁を超えるためのボディランゲージである。 オルソラ「『ウワァー』はよく分かりませんが、やはり佐天さんは優秀な生徒さんでございますね」 佐天「オルソラさんってすっごい教えるのが上手ですよね。 あ、こんなこと言ったら失礼ですよね」 オルソラ「いえ、お褒めいただき光栄でございます。 私は長い間様々な土地で布教活動をしておりましたので きっとそのお陰なのでございますよ」 佐天「布教って電車の中で三人掛かりで猛烈に話しかけたり 英会話サークルだと思ったら宗教団体だったというやつですか?」 オルソラ「恐ろしいくらい偏った知識でございますね。誰の体験談なのでございますか? というよりも、やはり日本の方は少し宗教というものに対して抵抗があるのでございますね」 佐天「うーん、そうかも知れませんね。特にあたしの場合は学園都市から来ましたから」 オルソラ「確かに『神』という目に見えない存在を信仰するというのは 科学側の人達からすれば愚かに思えるのでございましょうね。 しかしどちらも人々が積み重ねてきた知識という意味では同じ。 今日お教えしたことも『神』という存在を通して生きた人々の知恵や歴史なのでございますよ」 佐天「…………」 オルソラ「やはり少し難しかったのでございますか?」 佐天「いえ、そうじゃなくて、あたしって そういうことなんにも知らないでここに来ちゃったんだなあと思って。 もうちょっと勉強してくれば良かったです」 もちろん学園都市を出るときに決意や覚悟がなかったわけでない。 しかし魔術を学ぶために、もっと自分でもできることがあったのでないだろうか? それが小さな後悔となって、佐天の心を掠めた。 オルソラ「それも含めて少しずつ学んでいけば良いのでございますよ」 佐天「うぅ……頑張ります!」 オルソラ「その意気でございます。それでは本日は私はこの辺で。 この後次の方でいらっしゃるので、その方がまた色々教えてくれるのでございますよ」 佐天「次の方?」 ルチア「先日お会いしましたね。ルチアと申します。 元は『ローマ正教』に所属しておりましたが、現在は『イギリス清教』の一員です。 私はシスター・オルソラに比べて、人に物を教えた経験が多くはありません。 不束者ですがよろしくお願いします」 佐天「よ、よろしくお願いしますッ!」 佐天の目の前に立っているのは、オルソラと同じく、先日女子寮で会ったルチアだった。 しかしさっきのオルソラを見たときのような安堵は、そこにはない。 むしろ少し嫌な予感がする。 佐天(ルチアさんか……。この前会った時何か怖そうだったし、大丈夫かな) ルチア「私が教えるのは『言語』です。まずは、そうですね……」 ドンッ!とルチアが机の上に置いたのは、かなり使い込んだ感のある本だった。 先程オルソラからもらった聖書よりもさらに分厚い。 ルチア「このラテン語訳の旧約聖書を読むところから始めることにします。 ラテン語は現在では口語として学ぶ価値はあまりありませんが 魔術分野は元より、多くの分野で存在感を持ち続けている言語です。 ラテン語訳の参考として、このイタリア語訳版を使ってください」 さらにその横にドンッ!と置かれた本は、ラテン語版と同じくらいに分厚かった。 ルチアは一気にまくし立てた。 もちろん佐天にとってそれらは全部まとめて“知らない言葉”であり、 ヘブライ語にいたっては「えッ? そんな言葉あるの?」という状況である。 佐天「日本語だけですぅ……」 ルチア「はぁぁぁ!? 本当に日本語しかできないのですか!? 一体貴女は何のために遥々ロンドンまでやって来たのですか!!」 佐天「すいません……」 涙目になる佐天。嫌な予感は見事的中した。 ルチア「まったく、呆れて物も言えません。 学園都市という場所は、神の教えに背くような研究をしているばかりではなく 他国の文化まで蔑ろにしているのですか?」 佐天「ホントにすいません……。でも日本の中学生が英語を喋れないのは 日 本全国どこでもそうだと思うんですけど」 ルチア「日本全土が我々を馬鹿にしているのですか!?」 佐天「そ、そういうことは偉い人に言ってください!!」 話題が違う方向にスライドしていきそうな雰囲気の中、部屋のドアが開いた。 アンジェレネ「どうしたんですか、シスター・ルチア? 何か叫んでいたみたいですけど」 ルチア「シスター・アンジェレネ! 聞いてください!! やはり日本などという国は異教の蛮族の地です!! 今すぐ『ローマ正教』に戻り、対学園都市の戦列に加わるべきです!!」 佐天「えぇ!? そんな話じゃなかったですよね!? あたしが英語できないって話ですよ!!」 アンジェレネ「えッ? 英語できないんですか?」 小さく可愛らしいシスター、アンジェレネが若干引き気味で佐天に尋ねた。 佐天「そ、そうです……」 佐天(そう言えばこの子もあたしと同じくらいか、少し下くらいの歳なのに日本語話してるもんね。 やっぱり学園都市でもっと色々と勉強しておけば良かったよぉ……) アンジェレネ「この国際社会で、母国語しかできないっていうのはちょっと問題があると思いますよ。 少なくとも三ヶ国語くらいはできるようにならないと」 佐天「はい……」 ルチア「そうです! シスター・アンジェレネ、もっと言ってあげてください!」 アンジェレネ「私だってヨーロッパの言語は元より、日本語だって喋れるんですからね。 まあラテン語はよく分かってないですけど」 ルチア「えッ!?」 佐天「ん?」 アンジェレネ「あッ!」 再び部屋の空気が凍り付く。しかし今回はさっきよりもさらに冷たい。 さっきのが零度の氷だとすると、今度はマイナス二〇〇度の液体窒素くらいに。 ルチア「シスター・アンジェレネ!! 今何と!?」 アンジェレネ「い、いやシスター・ルチア! よく分かってないって言っても 時々分からない単語とかがあるくらいで、ほとんどは分かってますよ!!」 ルチア「ラテン語が読めない魔術師なんて前代未聞ですよ!? 普通有り得ませんよ、そんなこと!!」 アンジェレネ「そ、そんな訳ないじゃないですか! ホントです、ホントですってば!!」 ルチア「では私が魔術として使っている聖カテリナの『車輪伝説』について説明してください。 魔術を学び初めた頃、一緒にラテン語の専門書で読みましたよね?」 アンジェレネ「え、えーと、確かうっかり坂の上で聖カテリナが車輪を落としてしまって それが八百屋に突っ込んで大惨事という……」 ルチア「どんな愉快な出来事なんですか!? それはもう『伝説』じゃなくて『町内事件簿』ですよ!! それよりもシスター・アンジェレネは 私の魔術の元がそんな下らない事件だと思っていたのですか!!」 アンジェレネ「車輪の破片が飛び散るのが、八百屋の野菜が吹き飛ぶのを模しているのかと」 ルチア「それだったら私は車輪ではなく野菜を使いますッ!!」 怒り狂うルチアと、必死に取り繕うアンジェレネを、佐天は呆然と見つめた。 佐天(あたしにも分かる……。この子、駄目だ……!) ルチア「もう分かりました!! シスター・アンジェレネ!! 貴女もこれから佐天さんと一緒に私の授業を受けてもらいます!」 アンジェレネ「えーッ!? お菓子を食べる時間がぁ」 ルチア「そんな時間は元よりありません!! 佐天さんは英語、シスター・アンジェレネはラテン語です!! 返事はッ!!」 佐天 「は、はいッ!!」 アンジェレネ「は、はいッ!!」 ルチア「ではまずは―――」 佐天(うぅ……大変なことになりそう) アンジェレネ「えーッ、そんな難しいものからやるんですか? もっと簡単なのを―――」 言い争いながらも、お互いを信頼して、頼り合っているのが伝わる二人。 そんな二人を見て、どこか懐かしいような気持ちを佐天は覚えた。 佐天(初春たち、今頃どうしてるかな?) ―――学園都市、第七学区、風紀委員一七七支部 初春「…………」 カタカタカタッ… つづく
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/465.html
9月9日(午前1時30分)、とあるビルの屋上 天草式十字凄教の女教皇、神裂火織はその戦いを優しく見つめている。 自分が信じていた通り、天草式は変わらぬ思いを持ち続けていてくれた。 それだけを確認するためイギリスから来ていた神裂は、深い満足感を味わっていた。 神裂にとって唯一残念なのは、横に土御門元春がニヤニヤと笑いながら立っていることだ。 「助けに行かんでいいのかにゃー?」 その問いかけに、神裂は少しだけ寂しそうな顔をして答える。 「私には、彼らの前に立つ資格などありません」 「それに、今の彼らには私の力はもう必要ないでしょう」 「私は自転車の補助輪のようなものなんですよ」 その言葉は、寂しいながらどこか誇らしげであった。 「…ところで土御門」 「んー?」 「あなたに聞きたい事があります」 「なにかにゃー?」 「あそこにいる天草式の“新しい一員”である少女についてです」 「…それは…俺に聞かれても困るんだぜい?」 「いいえ。あの子は学園都市の能力者でしょう。ならば、確実にあなたは事情を知っているはずです」 チャキ、と神裂は七天七刀を動かした。 「…名乗らせないで下さい、土御門。私は、もう二度とアレを名乗りたくない」 「ちょっ、ねーちん目がマジなんですけど!?」 その日。 フルチューニングが知らないところで、救われぬ者(ウソツキ)が1人いたのだが、詳しくは割愛。 9月9日(午前1時30分)、オルソラ教会 天草式の面々は、数に勝るアニェーゼ部隊と何とかわたり合っていた。 正確にいえば、真正面から打ち合うのではなく、偽装や隠ぺいを駆使して誤魔化していたというべきか。 その中で、体を満足に動かす事の出来ないフルチューニングも死闘を繰り広げていた。 その場を動かず、電流を放射したり、磁力で操った鉄製品を盾や飛び道具とすることで戦っていたのだ。 幸いにもこの教会は工事中だった為、鉄骨や工具が至る所に散らばっていたのである。 (修道女の何人かは、対電気用の術式を構築しているっていうのが厄介です…) (ですが、ここをレイが離れる訳には…!) 徐々に修道女に囲まれ、消耗していくフルチューニング。 メキャッ!! (…ッ!) 盾にしていた鉄骨を粉砕され、破片がフルチューニングに襲いかかる。 何とか避けて直撃は防ぐが、わずかに掠めた破片が額を切り裂き、出血で視界の半分が赤く染まる。 それを見たオルソラと上条が、何故か自分よりも痛そうな顔をしたことにフルチューニングは笑いそうになった。 急いで助けに走ってこようとする上条に、フルチューニングは大声で叫んだ。 「来る必要はありません!」 「馬鹿言うな!」 「大丈夫です。…もう“準備”は整いましたから」 その言葉に、修道女たちが警戒を強めて…ハッと気がついた。 自分たちの知らぬ間に、辺り一面に鋼糸が張り巡らされていたのだ。 もちろん、張ったのは動けないフルチューニングではない。 天草式の仲間たちが、戦いながら鋼糸の準備をしてくれていたのである。 (流石に、鮮やかな手並みです!) かつて五和に教わった事を思い出して、フルチューニングは尊敬の念を抱く。 ――または、戦闘中に“こっそりと準備して”いざという時の補助として使うのが主流ですね (おかげで、まだレイは戦う事が出来ます!) ちょうどフルチューニングのいる地点を中心にして。 辺りに張り巡らされた鋼糸が、ただの足止め用トラップから高圧電流の流れる凶器へとその姿を変えた。 あるいは、対電気用の術式を構築している修道女には、鋼糸が巻きついて動きを封じて行く。 「全員、避けなさい!」 鋼糸に気づいていなかった、あるいは気づいていても警戒はしていなかった修道女たちが慌てて逃げる。 そして、そのバラバラになった隙を逃がすほど、天草式は甘くない。 一気に攻勢に転じて、次々と修道女の意識を刈り取っていった。 炎剣という圧倒的な武器を使うステイル。 何十人もの修道女を相手に「膠着状態」を作り上げる建宮。 『魔滅の声』と呼ばれる、魔力を使わない魔術を使うインデックス。 そして、超能力と魔術を駆使しつつ、高度な連携を見せる天草式。 (もしかして…このまま勝てる…?) フルチューニングはそう思えるほど、余裕を取り戻していく。 この場において、素人の上条を除けばフルチューニングだけが知らなかった。 ローマ正教の“狂気”が、この程度で済むはずが無いという事を。 ――フルチューニングは、シスター・ルチアの号令を聞いた時、初めてそれを目の当たりにする。 「攻撃を重視、防御を軽視! 玉砕覚悟で我らが主の敵を殲滅せよ!!」 「?」 言葉の意味が分からず、フルチューニングが戸惑っているその時。 インデックスと戦っていた修道女たちは、万年筆を取り出して両手に持ち始める。 そして、迷わず万年筆で両耳の鼓膜を突き破った。 「な、にを…!?」 魔術に詳しくないフルチューニングは、その行為が『魔滅の声』を防ぐためであるという事を知らない。 だが例え知っていても、平然と己の鼓膜を突き刺すという行為を受け入れる事が出来ただろうか。 (これが、ローマ正教のやり方なのですか!) そして、一気に戦局が塗り替えられる。 今まで敵の修道女たちが冷静であったからこそとれていたバランスが、向こうが全力で攻撃を始めることで崩れたのだ。 こうなると、圧倒的に少ない天草式は、数の暴力で押しつぶされてしまうのは明らかだった。 特に多数を相手に戦っていたインデックス、ステイル、建宮の3人が追い込まれ、急いで奥の聖堂へ向かっていく。 近くに居たオルソラと上条も一緒に中に入り、5人はその中で立て篭もる事にしたようだ。 その扉を破壊しようと、100人以上の修道女が武器を打ちつけている。 思わず駆け出したくなる気持ちを、フルチューニングは必死で押さえこんだ。 (建宮さんたちを信じる事にします) (きっと、打開策を見つけてくれるはずです) (ならば、レイたちは少しでも相手の戦力を減らしておくべきでしょう) (助ける可能性を、少しでも高めるために) 近くに居る天草式の仲間と頷き合ったフルチューニングは、建宮が来るのを信じて再び戦いを始めた。 「吹っ飛べ!」 「こ、の、ローマ正教でもないくせに!」 「分からず屋!」 血まみれで戦うフルチューニングに、後ろから対馬が声をかけてきた。 「レイ、無茶しちゃダメよ」 「対馬さん…」 対馬がフルチューニングの背中をさすり、回復魔術を施す。 (こんな回復方法が…!?) (やっぱり魔術ってデタラメですね) 「ありがとうございます!」 「当然のことよ。さあ、もうちょっと頑張りましょう」 「はい!」 それから10分後、打ち破られた聖堂から5人が飛び出してきた。 「レイ!」 建宮の鋭い呼び声に、敵に電撃を放っていたフルチューニングが即答した。 「はい、建宮さん!」 「簡潔に言うぞ。この状況を何とかするためには、このルーンのカードを使う必要があるのよな」 「それは、確か炎剣使いの…?」 「そうだ。俺が指示を出すから、レイは鋼糸を使ってこのカードを配置していってくれ」 「分かりました」 「その間、俺や他の仲間が必ずレイを守るから、何も気にせずカードだけに集中するのよな」 「はい!」 返事をしながら、大量のカードに鋼糸を突き刺していく。 その作業中、あの上条当麻が立った1人でアニェーゼのいる場所へ走って行くのが見えた。 きっと妹達を救った時も、同じように立ち向かっていったのだろう。 (そうですよね…誰かを助けたいのなら、出来る事をしなくては) (レイは、今度こそ信頼に応えなくてはいけません!) 「いつでもいけます!」 「よし、まずは説教壇後方の壁、その中心に40枚!」 「続いて右の壁、こちらから数えて2つ目の窓の上方10センチに28枚!」 「天井の左隅、ピッタリ端から6センチへ53枚!」 流れるような建宮の指示を受けて、次々とフルチューニングの操る鋼糸がカードごと指定の場所へ刺さっていく。 そして、その効果は劇的に現れた。 「…なるほど、これが天草式の多重構成魔方陣…なかなかやるじゃないか」 ステイルが、珍しく感嘆したように呟いた。 その背後には彼の誇る炎の魔術、『魔女狩りの王』が顕現している。 しかも、フルチューニングがカードを張って行くごとに、目に見えるほどその炎が強くなっていく。 無謀にも飛びかかった何人もの修道女が、その燃える怪物に薙ぎ払われた。 (これが…本物の魔術…) (…ルーン、ですか) 眩しげにその様子を見るフルチューニングに、建宮が声をかけた。 「良くやったのよ。見ろ、敵さんが突っ込んでこなくなった」 言われてフルチューニングも気が付いた。あれだけ激しい戦闘の音が、今は止んでいる。 仲間があっさりやられたのを見た後では、流石にあの怪物相手に不用意には近づけないのだろう。 「本当ですね…」 フルチューニングから、思わず力が抜けそうになる。 その様子を見て、建宮が笑いながら肩を貸して立たせた。 「じゃあ、決着をつけに行くのよな」 「はい!」 そしてフルチューニングたちは、上条とアニェーゼが戦っているであろう奥の部屋へ歩き出した。 最高のハッピーエンドを迎えるために。 9月9日(午前1時50分)、オルソラ教会婚姻聖堂 フルチューニングたちが聖堂へ踏み込んだ時、上条はアニェーゼと対峙しているところだった。 こちらを見て愕然とするアニェーゼに、上条は不敵に告げる。 「言ったろ。作戦があるって」 上条は、フルチューニングを含む天草式の仲間が、必ず作戦を成功させると信じていた。 その絶対の自信に応えられた事に、フルチューニングは笑みを浮かべる。 「ざまあみろ、です」 「仲間どころか、自分自身すら信じられないようなあなた方に、レイたちが負けるはず無いでしょう」 「随分良い気になってんじゃねえですか…さすがは神をも恐れぬ超能力者、ってことですか」 「…」 「ふざけてもらっちゃあ困るんですがね!」 「こちとら、その神様にテメェの想像出来ねえようなどん底から拾い上げてもらったんですよ!」 「そのおかげでこいつらとも出会えたんです…」 「その十字教を台無しにするような裏切り者を、逃がす訳にはいかねえって分かりませんかねぇ!?」 「…なら…」 「あぁ?」 アニェーゼの怒りに、フルチューニングがそれ以上の怒りを滲ませて叫んだ。 「その大切な神様を、人を傷つける理由に使うな!」 「なっ」 「レイは能力者として製造されましたが、今は天草式十字凄教の一員です!」 「だから分かるんです…神様を理由にしていいのは、人を救う時だけなんですよ!」 「…人工的に作られたレイに、神様なんていないのかも知れませんが…」 「そんなレイを助けてくれたのは、この天草式十字凄教のみんなです」 「その理由が十字教で、その支えが神様だったから、こんなレイだって神様に祈ろうと思えるんです!」 「今のあなた方を見て、誰が神様に信仰を抱く事が出来るんですか!」 一歩も引かないフルチューニングに、アニェーゼは口を歪ませる。 「ここまで互いに暴力を振るっておいて、自分たちだけは正しいと主張出来るなんざ、大したもんですね」 「それは」 「こっちも引けねえ理由があるんですよ!…暴力の連鎖を、簡単に止められるなんて思わねえ事です!」 「さあ、なにをやっちまってんですか!数の上ならまだ私たちの方が断然多いんです!」 「まとめて潰しにかかりゃあこんなヤツら、取るに足らねえ相手なんですよ!!」 一気にケリをつけようとするアニェーゼが、部下へ指示を飛ばす。 だが―― 「何を……!?」 勝てるはずなのに、それでも修道女たちは動かなかった。…いや、動けなかった。 ようやくアニェーゼは理解する。これは不審だと。 今、修道女たちが数にものを言わせて飛びかかれば間違いなく勝てるはずだ。 だが彼女たちは、それを心の中で信じ切れていないのだ。 ならば、無理やりにでも信じさせればいい。 (司令塔である私が、この男を叩きのめしてやりゃあいいんですよ) (そうです、あんな素人、一撃で――) (けど…本当に?) (確実に勝つには…何をすれば…!?) アニェーゼの心に、自分に対する疑念が生じる。 自分を信じきれないアニェーゼに、上条が近づいて行く。 なぜなら、この場で1人で勝たなくてはいけないのは、上条にとっても同じことだったから。 そして、アニェーゼと違って上条は信じることで行動している。 息が詰まる静寂の中、ジリジリと間合いを狭める2人。 ついに、迷いのない声が上条から発せられる。 「終わりだ、アニェーゼ」 「テメェももう自分で分かってんだろ。テメェの幻想(じしん)は、とっくの昔に殺されてんだよ」 言葉と同時、上条は迷わずアニェーゼに突撃した。 (…あ) その光景を目にしたフルチューニングが、思わず目を疑った。 上条に殴り飛ばされるアニェーゼが、ほんの一瞬。 あの白い『最強』と重なって見えたからだ。 (…どんな敵でも、どれほどの人数が相手でも、迷わず助けに飛び込める) (そんなあなた(ヒーロー)だからこそ…妹達も、オルソラも、救う事が出来るのかもしれません…) ガラン…… 自分たちのリーダーを撃破された修道女が、自分の武器を力なく床に落とした。 ゴトン…… その反応は連鎖していき、その場にいたアニェーゼ部隊の修道女が同じように武器を投げだす。 ガラガラガラガラ! やがてその音は教会中に響き渡り…1つの戦いが終わりを告げた。 その音を、聞いたことも無い子守唄のように感じながら、フルチューニングもゆっくりと意識を手放した。 9月9日(午前2時30分)、オルソラ教会 フルチューニングがふと目を覚ますと、天草式の回復術によって体の痛みが和らいでいた。 隣にはオルソラも居て、安らかな顔で眠っている。 ローマ正教の修道女部隊は、すでに立ち去った後のようだった。 (…良かった) (本当に良かった) 「レイちゃん、もう起きたんですか?」 「!…五和さん」 「無理しちゃだめですよ、一番重症なんですから」 「大丈夫です。建宮さんは?」 「今、イギリス清教の人たちと打ち合わせ中なんです」 「…イギリス清教と、何を?」 「それは…」 五和が答える「話はまとまったよのよな」 「建宮さん…」 「あ、レイ。お前さんも起きたか。ちょうど良かった」 ニコニコと笑顔な建宮のところに、天草式のメンバーが集合していく。 どことなく、フルチューニング以外の人間は建宮の言葉を予想しているようだ。 (何故かみんな、笑いをこらえるような顔をしています) (…むー) ちょっぴり疎外感を感じて、ふてくされ気味な顔をするフルチューニング。 そんなフルチューニングの気持ちを、、一瞬で吹き飛ばすほどの発表がされた。 よりも早く、建宮とステイルが揃って現れた。 「たった今、この神父様に確認してもらったのよ」 「現時点を持って、オルソラ嬢及び我ら天草式は、イギリス清教の傘下に入る事になった」 「そう言う事だ。最大主教ローラ・スチュアートの許可は取り付けたからね」 ステイルの言葉に、フルチューニング以外の天草式がワァ!と歓声を上げる。 「…どういう事ですか?」 1人事情の分からないフルチューニングの質問に、建宮が笑顔で説明する。 「何しろ、我ら天草式十字凄教はローマ正教相手に喧嘩を売ってしまったわけよ」 「はい」 「それにオルソラ嬢も、いつまた暗殺されるか分からない」 「…」 「相手は我らと比較にならん巨大組織。ならばこそ、イギリス清教の保護を受ける必要があるのよな」 「…確かに」 教皇代理建宮の言葉に、周りの仲間も嬉しそうに同意する。 「そう、これは当然の成り行きですよね!」 「…五和さん?」 「選択肢が無い以上、仕方ないすよ!」 「…香焼?」 「そうだ、これは決してあの方を追いかける意味は…」 「…諫早さん?」 「全く、みんなガキじゃないんだから…しょうがないわね」 「…何で対馬さんまでそんなに笑顔なんです?」 どうも天草式のみんなは、この発表を予想して喜びを隠していたらしい。 イギリス清教の保護下に入るのが、そんなに嬉しいのだろうか? (…あ!) そこまで考えて、フルチューニングは初めてステイルを見たときに五和とした会話を思い出した。 ――「イギリス清教の『必要悪の教会』――本物の魔術師サマかよ」 ――「ねせさりうす?」 ――「イギリスが誇る、対魔術師用の魔術師集団です。“私たちの女教皇も今はそこに所属しています”」 そう。イギリス清教には、女教皇が所属しているという話だった。 (もしかして…イギリス清教に属する事じゃなく、女教皇を追いかけられる事が嬉しくて…?) フルチューニングがその事に気が付くと、途端に天草式のみんなが子供っぽく見えるようになった。 これでは、親離れできない子供みたいではないか。 「あの、建宮さん…」 「どうしたレイ?」 「ひょっとして、最初から女教皇の後を追うつもりだったんですか?」 「…」 目を逸らす建宮に、ステイルがああ、と気づいた事を口にした。 「そういえば、あなたの服の赤い十字架…イギリス清教のシンボル、聖ジョージの印じゃないか」 「…タテミヤサン、ヨクワカラナイ」 白々しい教皇代理に、フルチューニングが冷たい目を向ける。 だが、一瞬感じた強い気配に思わず後ろを振り返った (今のは…?) (これほど大きな、人間のエネルギーを初めて感じました) (持っていたのは、大きな刀のようでしたが…) (ひょっとすると、あの人が?) (…間違いなさそうですね) (まあ、どの道今は追いかけることなんて出来ませんし) (いつか、ちゃんと挨拶する日が来るのでしょう) (子離れできない、天草式の女教皇様に) 丁度その時。 魔術で気配を消していたものの、フルチューニングの電磁波で一瞬感知された女教皇が、 包帯を持って急いで立ち去ったのを、天草式のメンバーは誰も知らなかった。 フルチューニングが追求を止めたことで余裕を取り戻した建宮が、ゴホン、と咳払いして場の空気を元に戻す。 そして全員が注目する前で、堂々と宣言した。 「とにかく、これより我らの拠点は英国ロンドンに移る事になる」 「ろんどん?」 「というわけで…明日より、天草式引っ越し大作戦を実行するのよな!」 「……わあ」 こうして、彼ら天草式の長い1日が終わりを告げた。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1997.html
酔い琴さんは泣き上戸 美琴: あ~喉渇いた……寮監、このジュース飲んでもいいですか?寮監: あっ! バカ!! それは私の梅s…あー………美琴: ………ヒック……… ~一時間後~上条: ったく、この前はひどい目にあったぜ……結局、怒ってる理由は教えてくれなかったし…… まあ今度会ったら一応謝っておごばら!!! な、何だ!? 誰かが突進してき―――美琴: ふええぇぇ~~~~~上条: って御坂!!? 何で泣いてんの!? あと何で抱きついてんの!?美琴: 良がったよ~~~ アンタが生ぎててホントに良かっだよ~~~~~ えぐっえぐっ上条: 何の話だよ!! って言うか酒臭っ!!!美琴: アンダが…一方通行と戦うって…言うがら…絶対死ん…じゃうと…思って……ぐすっ上条: そこなんだ! ロシア戦じゃねぇんだ! いつの話してんだよ!!美琴: だって…アンぅぇ…が…い…も…ぇ…ぉぅ…して…る…から…上条: 何言ってるか全っ然分かんねぇ…… え~と、とりあえず落ち着け。 あとゆっくりでいいから離してくれ、な?美琴: ………やだ…………やだやだやだやだ!!! 離れたらアンタまたどっか行っちゃうもん!!! また私の知らない他の女の所に行っちゃうもん!!! だからもう離さないもん!!! ずっとアンタと一緒にいぶええぇぇぇ~~~ん!!!上条: 泣きたいのはこっちだよ!! 周りから冷たい視線が上条さんに突き刺さってるよ!?美琴: ずっど一緒゛にいどぅぼん!!!上条: わかったわかった!! ずっと一緒にいるから!! だから泣き止もう? そして早くここから逃げよう? 警備員が来ちゃうから!!美琴: ……ホント? ホントにもう離れない?上条: ああホントだ!(とりあえず今は)約束する!!美琴: ホントにホント?上条: ホントにホント美琴: ホントにホントにホント?上条: ……ホントにホントにホント美琴: ホントにホントにホントにホントにホンt上条: だー、しつけぇ!! 本当だってば!! わたくし上条当麻は、永遠に御坂美琴さんのもとから離れません!!! これでいいか?美琴: う………う゛れ゛じ い゛よ゛おぉぉぉぉーーーーー!!! ぶええぇぇ~~~~ん!!!上条: 結局泣くのかよ…… ハァ…こんなとこ誰かに見られでもしたら…… ……ん? 何か周りが騒がしいような……小萌: かかか上条ちゃん!? そういう事は先生まだ早いと思うのですよ!!吹寄: 貴・様・は!! 呆れてモノも言えないわね!!姫神: どういうことか。説明してほしい御妹: まさかお姉様に遅れを取るとは、とミサカは起死回生の一手を必死で考えます風斬: あ、あはは……お、お熱いですね……雲川: ……まさか上条に彼女ができるとは思わなかったけど………神裂: しゅ、祝福するべきですよね! そうですよね!! ……はぁ…五和: ……一緒……約束……永遠……は…はは……建宮: ちょっと誰なのよ!! 「天草式メンバー急に押しかけて上条当麻にドッキリ大作戦」なんて考えたヤツは!! こっちがドッキリさせられてるのよな!!!対馬: あんたでしょーよ!! 女教皇様と五和どうするんですか!! 五和なんて魂抜けてますよ!?上条: 何でこのタイミングで皆いるの!? なにこれ超不幸なんだけど!! でもまぁインデックスがいないだけまだマシ……禁書: と~~う~~ま~~~………上条: やっぱりいたのかよ!! みんな落ち着け!! 今からひとつずつ誤解を解いていくから!!美琴: ふぇ!? やっぱり…嘘だったんだ……あたしじゃ…ダメなんだ…… おっぱいが大きくないとアンタは一緒にいてくれないんだ………うええぇぇ~~~ん!!!上条: ぅおーーい!! どっからそんな話が来た!!?美琴: だって!! 全然振り向いてくれないじゃない!!! あたしは…こんなに…アンタの事が……大好きなのにーーー!!!!!全員: !!!!!上条: ぇぇえええ~~~!!?吹寄: 上条!! 一から十まで説明しろ!!上条: いや、酔ってるから!! この子酔ってるから!! それで訳分かんねぇ事言ってるだけだから!!!美琴: アンタがいいの!! アンタじゃなきゃダメなの!!!禁書: と、とりあえず短髪はとうまから離れて!!御妹: そうですお姉様。そのポジション変わってください、とミサカは強攻策にでます美琴: や~~だ~~!! 離れたくな~~い~~!!!上条: もう収拾がつかねぇ!! どうしようコレ!? 建宮: (そうだ!!) あー、この場を収めるいい方法があるのよ上条: どうすればいいんだ!?建宮: ズバリ!! 上条当麻がこの中から一人選べば万事解決なのよ!!!全員: !!!!!!!!上条: な、何だそりゃ!? どういう意味だ!?建宮: 言った通りの意味なのよ この美女軍団の中から一人選ぶだけで、四角い話もま~るく収まるのよな上条: そ、そうなのか……理由は全く分かんないけど…… (となると、重要なのは誰を選ぶかだな…下手に選べば上条さんは死んでしまいますのことよ!! ……………だ・れ・に・し・よ・う・か・な・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り……………)建宮: (さすがの上条当麻も悩んでいるのよ……まぁ適当に選べるわけはないのよな…… 間違っても、「だ・れ・に・し・よ・う・か・な」、なんてするわけないし、 この男がそんなことしたら、一番不幸な結末が待っているに決まっているのよ!!)上条: 決めた!!全員: !!!!!!!!!!上条: 俺は御坂を選ぶ!!全員: …………………建宮: (ババを引きやがったぁぁーー!! ここでその子を選んだら元の木阿弥なのよ!?)美琴: よ、よ、よがっだよ~~~!!! よっど想いが通じだよ~~~ えぐっえぐっ ホ、ホントだよ!? ずっと…えぐっ、一緒だよ!? もう離れちゃ…グスッ、ダメだからね!?上条: あーはいはい。 分かった分かった さっ! この場が収まったところで今日はもうお開き……姫神: するわけ。ない雲川: これで終わるとは誰も思わないけど禁書: やっぱりとうまはどこまで行ってもとうまなんだね……上条: ア、アレ? なぜに皆様は臨戦態勢なのせうか…? た、建宮!? 丸く収まるんじゃなかったのか!!?建宮: いやもう知らんのよ。 お前さんはいっぺん死んだほうがいいんじゃないか?上条: またこのオチかよ!! ちくしょうーー!! 不幸だぁーーー!!美琴: えへへへへ……… ~翌日~美琴: 何で昨日の事バッチリ覚えてるわけ!? アイツはさっぱり忘れてたじゃない!! あ~も~!! これから先どんな顔してアイツに会えばいいのよ~~~!!!!!
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/453.html
8月22日(午前2時00分)第7学区のとある病院 とある病室 フルチューニングが意識を取り戻した時、既に時間は深夜を過ぎていた。 痛む体を無理やり起こして辺りを見回す。 そしてどうやらここは病院らしい、と判断を下した時。 「…目が覚めましたね、とミサカは声をかけます」 「!」 唐突に自分と同じ声が聞こえてきたので、フルチューニングはビクリと反応した。 暗くて見えづらいが、足元の方に妹達の1人がいるのが分かった。 「殺される前に、1つ聞きたいのですが」 「?」 「レイが意識を失う直前、天草式のみんなの声が聞こえた気がするのです。…見かけませんでしたか?」 「天草式?…ひょっとしてあのクワガタみたいな奇妙な髪色の男と、その仲間達の事ですか、とミサカは確認します」 フルチューニングはコクリと頷いた。 (やっぱり、みんなもここに来ていたのですね) (なのに、ここに妹達がいると言う事は、もしかして…) (まさか、まさか、殺され…) 一瞬で、フルチューニングの脳裏に最悪の結末が描かれた。 「彼らなら今廊下で仮眠をとったり、思い思いの事をしていますが、とミサカは率直に告げます」 「…え」 「それと、あなたは何か勘違いをしています、とミサカは溜息をつきます」 「勘違い?」 「ミサカはあなたを殺すつもりはありません、とミサカは少々あきれて誤解を解きます」 「どういう事ですか?」 「…ミサカの検体番号は10032号です。つまり、今日の実験に使われた個体です、とミサカは事実を明らかにします」 「どうしてあなたが…実験の結果殺される予定だったはずでは?」 「その実験が中止になりました、とミサカも未だ信じられない事をお知らせします」 その言葉を聞いて、フルチューニングは思わず力が抜けてしまった。 「中止…何があったのですか?」 「あなたと同じように、実験を止めようとある人が来て…」 そこで一旦言葉を区切る御坂妹。 まるで大切なものを自分の中だけに隠しておきたいような、そんな子供っぽい逡巡をして―― 「このミサカの為に、命懸けであの第1位『一方通行』を倒し、計画を中止させました、とミサカは正直に語ります」 「そんなことが…」 信じられない奇跡を目の当たりにしたかのように、2人とも無言になった。 いや、確かにそれは奇跡的とも言っていい出来事である。 なにせあの『最強』は、世界で最も強い超能力者なのだから。 (一体、誰がそんなことを成し遂げたのでしょうか?) (誰が、救われないはずの妹達を救ってくれたのでしょうか?) ほんの僅かな時間。 静寂がこの病室を包んでいたが、コンコン、というノックが時間を動かした。 「では、ミサカは研究施設へ一旦戻る事にします、とミサカは空気を読める事を証明します」 「あ、そういえばあなたと戦ったミサカ達から伝言です」 「伝言…なんですか?」 「『高レベルとはいえ、廃棄された素人相手に大人げない事をしました。ごめんなさい』」 「な……」 あまりの言葉に、カチンときて無言になるフルチューニング。 「『悔しかったら、またいつでも相手になります。まあ、ミサカ達が負ける事はありえませんが』」 「『ミサカ達にも、死ねない理由が出来ましたから』」 「…」 「と、ミサカは一字一句正確に伝えます」 「…」 「まあ、ただ単に“長女”ともう一度会いたいという意味でしょう、とミサカは事実を暴きます」 「長女…」 「「妹達」最初の個体なのですから、長女で合っていますよね、とミサカは告げて部屋を後にします」 ぎこちない笑顔を浮かべて立ち去る御坂妹と入れ替わるように、建宮と五和が病室に入ってきた。 「建宮さん、五和さんも…」 「おー、大事に至らなくて良かったのよなー」 「心配しましたよレイちゃん!」 ヒシ、と抱きついてくる五和の背中に手を回しながら、フルチューニングは質問した。 「レイが気絶した後、何があったのですか?」 「ソレが俺にも良く分からんのよ」 「しばらく私たちとあのクローンの子たちが睨みあっていたんですけど」 「突然『風車を回します!』ってみんないなくなっちゃって…」 どうやら、五和も事情を把握していないらしい。 「で、とりあえずお前さんを病院に連れてきた訳よな」 「その後しばらくしたらさっきの子が来て、『もう戦う事はありません』って」 事情はよく分からないが、どうも天草式と妹達が戦う前に実験が中止に追いやられたらしい。 誰も死ななくて良かった、とフルチューニングは安堵して…重大な疑問に気が付いた。 「ところでどうして、みんながここにいたのですか?」 あー、それは…と言葉を濁しつつ、諦めたように建宮が回答する。 「五和がおまえさんに渡したお守りは、一種の護符になっていたのよ」 「ゴフ?」 「おまえさんが危ない状況になると我らにそれを教えてくれる、発信器のようなものよな」 「結局、レイちゃんが心配だったのでみんなで近くまで来ていたんですよ」 2人の言葉に、フルチューニングは呆気にとられた。 (なんだかんだ言って、みんなはずっと傍にいたのですか) (レイがやられたのを知って、あんなカッコ付けた登場をしたのですね) (まったく…あれ?) 「…建宮さん、確かあなたはまだお仕事の途中だったのでは?」 ギックウ!と反応する建宮を、ジト目で睨むフルチューニング。 あはははー、と誤魔化し笑いをする教皇代理(今一番偉い人)。 結局、建宮が降参してゴメンナサイすることで、この話題は片づけられた。 「とりあえず、ここのお医者さんは優秀だから、明日には退院できるって話ですよ」 「だから我らも一泊して、明日全員で帰る事にしようと思うのよ。ちょうど新しい拠点に行くころ合いだしな」 「…分かりました」 その後、五和が仮眠をとるため病室を後にし、フルチューニングは建宮と2人きりになった。 (何も、聞いてこないのですね) 不思議な事に、建宮は今回の事件について何も聞こうとしなかった。 (レイと同じクローンが他にもいて、しかも戦っていたというのに、どうしてでしょう) 「あの」 「言っておくが、俺から聞く事は何もないのよ」 「…」 「お前さんが、誰かを助けるために手を伸ばした」 「それだけ知っていれば、十分なのよな」 どこまでも優しく、労わるような心地よい空気。 けれども、フルチューニングは自分の手をギュッと握りしめた。 「…ダメなんです」 建宮が、目だけ動かしてその独白に耳を傾ける。 「レイは、何も出来なかったんです」 「あの子を助けたかった、救いたかったのに!」 「レイは、役立たずでしかありません」 「…」 自分を言葉で傷つけるフルチューニングを見て、それでも建宮は返事をしない。 「だから、お願いがあります“教皇代理”」 「!」 「レイに、戦い方を教えてください」 「もう役立たずは嫌です。このまま倒れたままなのは嫌です!」 「レイは、助ける力が欲しいです!」 歯を食いしばり、瞳を揺らして絶叫するフルチューニング。 建宮はしばらく無言だったが、やがて笑顔を浮かべて“あるモノ”をフルチューニングに放り投げた。 「これは…?」 「我ら天草式十字凄教が使う、『蜘蛛の糸』と呼ばれる鋼糸なのよな」 「お前さんなら、きっと誰よりもうまく扱えるようになる」 「しかもそれは、“通電性”が高い特別製なのよ」 「あ…」 渡された鋼糸を、フルチューニングは大切そうに抱き込んだ。 (もしかしたら、この人は待っていてくれたのかもしれない) (無様に負けた自分が、それでも立ち上がろうとするのを) 「とは言え、それ以外にも覚えるべき魔術、戦術は山ほどあるが…」 「レイは優秀ですから、きっちりこなして見せます!」 「…それはそれで、イロイロ問題なのよなー」 「?」 天草式十字凄教の中でも、フルチューニングを戦闘に参加させるかどうかは議論されていた。 大能力者(レベル4)が戦力となってくれれば、もちろん嬉しい。 だが、当然ながらこの無垢な女の子を自分たちの都合で戦士にしてしまう訳にはいかない。 みんなが悩んでいる時、建宮は厳然と告げた。 このまま自分たちと一緒に行動すれば、いつかレイを戦いに巻き込むことになる、と。 ならば、レイと別れる覚悟、またはレイを戦わせる覚悟が必要になる、と。 彼らプロの魔術師は知っていたから。 戦場は、戦う意思のない人間が生き残れるほど甘くは無いことを。 自分たちの実力では、レイを守りきることが難しいことを。 当初は、その事実をハッキリ説明してレイ自身にどうするか選ばせようと思っていたのだが… (まさかレイの方から、戦う事を選ぶとはなー) (やると決めた以上、本当に戦う術を叩きこむことになる) (…対馬や諫早あたりが知ったら、やっぱり怒ると思うのよな…) 明日のみんなの反応を考えて、ちょっとだけ憂鬱になる現教皇代理であった。 8月22日(午前10時00分)第7学区のとある病院 退院手続きを終了し、ようやく拠点へ向けて出発しようとした天草式は、建宮が来るのを待っていた。 その建宮は、今もカエル顔の医者とレイの体調について話し合っている。 「だから、クローンとはいえ他の「妹達」と違って調整の必要はないね」 「そもそも基本コンセプトが異なっているから、当然と言えば当然なんだけどね」 「…良く分かりませんが、このまま素直に退院ってことで大丈夫なのよな?」 「そういう事だね。ただ、もし何かあったらすぐに僕の所へ連れてきてほしい」 「ちゃんと覚えておくのよな。じゃ、どうもお世話になりました」 笑顔で握手を交わし、走り去る男の姿を見て、カエル顔の医者は表情を曇らせた。 (確かに、あの子は「妹達」と違って細胞の成長速度に異常は無い) (あの子を作った研究者が、出来る限りの対処を施したみたいだね) (そう…) (あの子の体が抱える問題は“そんなレベル”じゃない) (能力補佐の為、体中に得体の知れない部品が取り付けられている) (しかも脳の中には、僕にも手を出せないマイクロチップが埋め込まれている…) (間違いなく、アレイスターの仕業だね) (すでに彼女は、いつ“壊れて”もおかしくはない) (…それでも、何とかするのが医者(ボク)の仕事なんだ) カエル顔の医者は、新たな決意を胸に病院へ戻って行った。 同時刻、窓の無いビル 闇に包まれたその空間で、『人間』アレイスターは1人佇んでいた。 彼が見つめる先にはモニターがあり、天草式のメンバーをリアルタイムで映している。 「おい、これで良いんだな?」 突然、案内人のテレポートで出現した土御門元春がアレイスターに詰めよった。 「…ああ、ご苦労だったね」 「一体、どんな理由があったのか教えてもらおうか?」 「ふむ。理由とは?」 「なぜ廃棄処分されたクローンを、天草式とつるませたのかって事だ」 そう。天草式十字凄教にフルチューニングの売買をリークしたのは、土御門であった。 「大したことではないよ」 「では理由を聞かせろ」 アレイスターは、何でもない事のように淡々と告げた。 「あの検体番号00000号は、特殊なチップを脳に埋め込んである」 「チップ?なんの?」 「能力者が、魔術を使えるようになるチップだ」 「なんだと!」 土御門は驚いて声を上げた。 彼自身もそうであるように、能力開発を受けた人間は魔術を行使できない。 能力者は『回路』が異なるので、無理に魔術を使うと体が爆砕する危険すらあるのだ。 「とはいえ、検体番号00000号以外には使用できないものだがね」 「どういう意味だ?」 「あのチップを使うには、ミサカネットワークが必要不可欠。この意味が分かるか?」 「…確か同一脳波による並列型ネットワークだったな」 「そうだ。あのチップはそれを利用した変圧器みたいなものでね」 「魔力の流れを、ミサカネットワークを通じて強引に適合させることが出来る代物だ」 「しかも各個体が受ける影響は、極めて軽微で無視できるレベルだと予測されている」 「まあ結果、検体番号00000号自身はミサカネットワークに接続できない状態らしいが、大したことではない」 本当にどうでもよさそうに答えるアレイスターに、土御門は嫌悪感を隠そうともしない。 「だから、魔術結社と接触させたかったのか?」 「そんなところだ」 「だが、“何故”天草式を選んだ?」 「一応魔術師とはいえ、本場イギリスの『必要悪の教会』のような連中とは趣が異なるぞ?」 「さて、ね。気になるなら予想してみたまえ」 アレイスターは、土御門の苛立ちをどこか楽しげに眺めつつ呟いた。 「私としては、コレに大して重きは置いていないのだよ。…プランとは関係の無い話だからな」
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/478.html
第22学区のとある救命救急病院 夜の暗さに包まれた病院の廊下で、フルチューニングは周りの仲間と一緒に意気消沈していた。 (結局、アックアには相手にもされませんでした) (…フフ、考えてみればレイは負けてばっかりですね) そう自分を嘲るフルチューニングに、目立った外傷はない。 彼女が受けた攻撃は、肘打ちとメイスの振り下ろしの2回。 どちらも躊躇ない一撃だったが、十二分に手加減をされていた。 しかも一撃で気絶した為に、それ以上の打撃を受けずに済んだのだ。 だがそれは、代わりに他の人間がその分の攻撃を受けたという意味でもある。 ――廊下の奥で蹲っている五和と、集中治療室で眠っている上条当麻。 守りたかったはずの2人に守られて、フルチューニングは今も無事だった。 (しかも五和さんの話によれば、一日以内に再びアックアの襲撃がある) (ですが、今のレイに何が出来るのでしょう…) 唯一の武器であるゴーレムは、簡単に粉砕された。 今からわずか一日で、シェリーのように強い術式を扱えるようにはならない。 自身の発電能力が急成長し、オリジナルのように超電磁砲を撃てるようにもならない。 体調が回復し、仲間と同じように連携のとれた体術を扱う事すらも。 (結局、唯一の可能性はコレだけですか) アックアの前では、もろい壁も同然のゴーレム術式。 あまりにも頼りない武器を思い浮かべつつ、フルチューニングはオイルパステルを握りしめた。 「私…何の役にも、立たなかったのに…ありがとうって、言ってくれて……」 五和の嗚咽交じりの言葉が聞こえたのは、その時だ。 (五和さんと、建宮さん…?) 疑問符を浮かべるフルチューニングなど目に入らない五和は、目の前の建宮にこう続けた。 「あの人は、どんな防御術式に頼る事もできない。どれだけの回復魔術があっても、掠り傷一つも治せない」 「本当に、体一つで戦っていただけなのに……」 「五和……」 「私、そんな人を見殺しにしたんですよ」 その一言が、フルチューニングの胸に突き刺さった。 五和の話では、2人がやられた後に上条当麻がアックアに単身立ち向かったという。 その理由は明白だった。 他ならぬ五和を、そしてフルチューニングを救うため。 結果彼は、瀕死の重傷を負っている。 「そんな人間が、何で一人だけのうのうと生きているんですか。こんなのはおかしいんです。私の方が…」 「それはレイも同じ事です」 我慢できなくなったフルチューニングが、割り込んで立ち上がった。 「むしろ、最後まで戦えなかった分五和さんよりもはるかに情けない」 「違う、違うよレイちゃん…」 「それに思いおこせば、レイは今まで負け続けです」 「まず妹達に負け、アニェーゼ部隊に負け、ビアージオに負けました」 今までの戦いで、フルチューニングは確かに負け通しだった。 それでも『妹達』を、『オルソラ』を、『アニェーゼ』を救えたのは何故か。 「ですが、いつもレイは1人ではありませんでした」 「いつだって天草式のみんなが一緒に戦ってくれたから。だから何とかなったんです」 「……レイ、ちゃん」 「今もそうです。私たち全員が上条当麻を守りたいと思っています」 「なのに五和さんだけがこの敗北を背負うなんて…」 「違うのっ!」 今回遮られたのは、フルチューニングの方だった。 目に涙を浮かべた五和が、投げかけられた言葉をすべて否定する。 「あの人の代わりに、私がやられていれば全て解決していたはずなんです!!」 フルチューニングの言いたい事が、分からない五和ではない。 だがそれでも。 彼女は自分を責めたくてたまらない。 心の底から守りたかった人を守れなかったという事実は、彼女の精神をボロボロにしていた。 そんな五和に、フルチューニングは何も言えなくなってしまう。 代わりに言葉を発したのは、黙って話を聞いていた建宮だった。 「立つ気はないのか」 「……」 「お前さん、一体そこで何をやってんのよ?」 それだけではない。 建宮はそのまま五和の胸倉を片手で掴み上げると、近くの壁にズドン!と叩きつけた。 フルチューニングを含むみんなが呆気にとられる中、五和が建宮を睨み返す。 「…建宮さんだって、負けたじゃないですか」 その言葉にフルチューニングが言い返すよりも早く。 「こんな女を助けるために、あいつは体を張ったのか?」 建宮から、信じられないような発言が飛び出した。 イギリス、王立芸術院 その日、講義があるはずのシェリーは教壇に立っていなかった。 1人で資料室に籠り、難しい顔をしている。 学園都市でフルチューニングと別れてから、薄々感じていた予感がついに的中したからだ。 (あの馬鹿、入院中のはずなのにゴーレム術式を使いやがった) (現在学園都市には、後方のアックアから幻想殺しを守るため天草式が派遣されている) (どう考えても、これはあの馬鹿がアックアと一戦やらかしたってことよね) 培養器越しに分かれた時、フルチューニングはカバラの教本を欲しがった。 おまけに自分の命など惜しくないとまで言い切る始末。 わずかに懸念を感じたシェリーは、渡した教本に仕掛けを施していた。 すなわち、学園都市でゴーレム術式が発動するとこちらにそれが伝わる感知術を掛けてあったのだ。 学園都市は能力者の街で、魔術師はいない。 ましてや『必要悪の教会』流にアレンジしたゴーレム術式を扱う人間など、フルチューニング以外には有り得ない。 (仮にも師である私を、騙したつもりなのか。あの馬鹿は) (…あなたにも意地があるんでしょうが、それはこちらも同じ事) (すでに私は魔法名にかけて誓った。…もう2度と、壊れる超能力者を出す訳にはいかないってな) そしてシェリーは資料室の電話を手に取ると、とある番号をコールした。 『――こーんな夜遅くに、一体何の用なのかにゃー?』 「分かってるくせに聞いてくるんじゃねえよ……土御門。頼みがある」 『こう見えて、俺ってば結構忙しいんだぜい?』 「この状況で頼めるのは、あなたぐらいなのよ」 『やれやれ。で、何を頼みたい?』 「――――――、――――――」 『……は?』 シェリーがした頼みごとに、土御門は素っ頓狂な声を上げた。 「出来るか?」 『1つ目は何とかなるだろうけど、2つ目は正直厳しいぜい』 「私はこっちでやらなきゃいけないことがある。学園都市でそれが可能なのは――」 『分かった分かった。確かに俺以外に適任な魔術師はいない…借りもあるし、何とかしてやるにゃー』 「借り? ああ、あのふざけたメイド服のこと?」 『そうそう。流石は天才シェリー・クロムウェル。あれならねーちんも喜ぶ事間違いなしってもんだ』 「あいつの趣味じゃねえと思うがな…」 『大事なのは見る人の趣味に合っているか、ってことなんだぜい?』 「?」 『まあ、とにかくこっちは俺がなんとかしてみるにゃー』 「…ありがとう」 シェリーが通話を終了した直後、今度は電話がかかってきた。 「はい」 『あらあら。そちらはシェリーさんでよろしいのでございましょうか』 「……やっぱりテメェかオルソラ」 学園都市から遠く離れた英国の地で、魔術師シェリー・クロムウェルの戦いが始まる。 第7学区のとある病院 仲間のいる第22学区を離れて、フルチューニングは1人病院へ戻ってきていた。 もちろん、戦場から逃げてきた訳ではない。 今の自分に出来る事をするためである。 (ぐだぐたと“出来ない事”を考える暇はありません) (術式の強化? 超電磁砲? 体調の回復?) (いずれも今のレイには不可能。ならば、これしか方法はありません) フルチューニングは、つい先ほどの会話を思い出して決意を新たにする。 あの時、建宮は嘲笑した。 ボロボロになった恩人を前に動こうともしない、そんな女のために命を投げ出したあいつは犬死にだ、と。 当然激怒する五和に、あるいはそれ以上の怒りをもって建宮は咆哮する。 絶望し立ち上がることすらできない五和に、彼は再び戦う力を与えたのだ。 『――後方のアックアは、必ず来る』 目を背けたい現実を指摘して。 それでもなお、希望はあると言いきった。 救える可能性はある、と。 『まだ可能性は残っているのに、たとえどれだけ少なくても確実に残っているのに、そいつをつまんねえ後悔や罪悪感で全部捨てちまうのか!?』 『笑顔を守りたければ立ち上がれ。自分の都合で他人の人生を投げ捨てるんじゃないってのよ!!』 あまりにも強大な敵、後方のアックアが上条の右手を狙っている。 それなのに、今彼を守れるのは――。 『今ここで戦えるのは俺達だけだ!!』 『惨めだろうが何だろうが、今ここにいる俺達が動かなかったら、今も麻酔で眠らされているあいつは一体誰に守ってもらうのよ!!』 女教皇も、増援も来ない。立ち向かえるのは自分たち天草式しかいないのだ。 それならば、もう一度立ち上がる他にない。 大切なものを守るために。 だから建宮はこう言った。 『お前さんが最高に良い女であることを証明して、こんなヤツのために命を張って良かったって思わせてやれ』 『墓前で懺悔をしたくなけりゃ、俺達は戦うしかねえのよ』 そう言われて、五和は、いや天草式全員が戦う覚悟を無言で示す。 決意は固まった。天草式十字凄教50余名全員が、再び戦場へ舞い戻る。 「あの」 「どうしたレイ?」 フルチューニングが建宮に待ったをかけたのは、その時だった。 「今すぐアックアと再戦するつもりではないですよね?」 「…ああ。ふざけた事に、こっちには一日の猶予を与えられている」 「利用できるものはこの際何でも利用するべきだ。それが時間でもな」 「悔しいが戦力差は絶望的。然るべき準備を整えなければ、また同じ事の繰り返しなのよな」 「そうですか。それを聞いて安心しました」 意味深なフルチューニングの言い方に、天草式全員が注意を向けた。 「次は全員で戦うつもりですよね」 「…もちろんだ。それがどうしたのよ?」 「それなら、レイの“戦力”について知っておいてもらいたいのですが」 「待て、今のお前さんに能力は……」 諫早が思わず疑問を口にする。 「分かっています。…キオッジアで部品を奪われた上、今の体調の良くない状態では能力は使えません」 「仮に使えても、レベル3程度が限界である以上アックアへの有効な攻撃手段にはならないですし」 そこまで言うと、フルチューニングは握っていたオイルパステルを見せた。 「五和さんは、先ほど見ましたよね?」 「レイちゃんの、ゴーレム術式……」 五和の返事に、みんなが驚きの声を上げる。 只1人、建宮だけは静かに溜息をついた。 「あの女王艦隊での戦いが終わってから、俺はシェリー・クロムウェルという女魔術師を訪ねたのよ」 「レイを助けにわざわざ女王艦隊まで乗り込んできたからには、何らかのつながりがあるのは明らかだったからな」 「我らに内緒で他の魔術師に弟子入りするとは、隠し事が上手くなったものよなあレイ?」 「…ば、ばれてましたか」 いきなり出鼻をくじかれて、フルチューニングは怯えたように体を小さくする。 (っていうか、師匠は女王艦隊へ乗り込んでいたのですか…!) (あの時の事はぼんやりとしていて思い出せませんが、せめて一言教えてくれても良かったのに) (どうして師匠は、変なところで恥ずかしがり屋なんでしょう) 「で、そのゴーレム術式とやらはどれぐらいの戦力になるんだい?」 黙ってしまったフルチューニングに、牛深が優しく問いかけた。 それでようやく気を取り直した彼女は、簡単にスペックを説明していく。 「――ですから、一時的とはいえ力で拮抗することなら可能です。尤も、かく乱用に使うのがベストでしょうが」 「まあ、おおよそは理解できたのよな」 教皇代理である建宮が、今回の作戦を再び練り直す。 天草式の真髄が高度な連携にある以上、今のフルチューニング及びゴーレムを主軸に据えることは不可能だ。 むしろ、唯一単体で力勝負が出来るゴーレムを囮や陽動にして、アックアの隙を生み出すという使い方をするべきだろう。 (本音を言えば、あの化け物相手にレイを戦わせたくはないが…) (いかんよなあ…この俺が私情を挟みたくなるとはよ) (――死なせやしない、絶対に) 「より詳細な手順は、イギリスからの情報を待ってから詰める事にするが――」 建宮の作戦案に全員が耳を傾け、やがて同意した。 そして今、フルチューニングは自分が入院していた病院の臨床研究エリアに来ていた。 あの救急救命病院とは違って、ライトの明かりが眩しい小さな待合所でようやく彼女は発見する。 (やはり、ここにいましたか!) もう夜遅いにも関わらず、目的の人物がそこにいたことに安堵して彼女は近づいた。 だが話しかけようとするよりも早く、逆に相手から言葉が発せられる。 「こんな時間に、一体何の用なのですか?とミサカは問いただします」 「お願いがあってきました。今病院にいる『妹達』を全員呼び出してもらえますか」 「……」 突然の願い事に対し、目的の人物――御坂妹は無表情でコクリと頷いた。 わずか2分足らずで病院にいた『妹達』が全員集合し、フルチューニングのお願い事を聞いた。 「…用意は可能ですが、それを一体何に使うのですか?とミサカ10039号は訝しみます」 「下手すれば大事になります、とミサカ19090号も懸念を表明します」 「そもそも持ち出す理由を教えないとはどういうつもりですか、とミサカ13577号は呆れます」 無茶な事を頼んでいるという自覚があったので、フルチューニングは言い返せない。 それに、この問題に他の妹達を巻き込む訳にもいかなかった。 「お願いします、今のレイにはどうしても必要なのです!」 「――分かりました、言う通りにしましょう、とミサカ10032号は長女に従います」 頭を下げたフルチューニングに、御坂妹がついに折れて承諾した。 「どう見ても諦めない様子なのですから、ここで問答するのは時間の無駄です、とミサカ10032号は事実を告げます」 「ですが、後々怒られのはミサカ達ですよ?とミサカ13577号は不満を述べます」 「仕方ありません。これであの実験の時の借りを返せると思えば安いものです、とミサカ10039号は投げやりに答えます」 「そうですね、ちゃんと返してくれるなら…とミサカ19090号も10032号と10039号に同意します」 結局、フルチューニングはそれをきっかけに渋々ではあるが全員の承諾を取り付けた。 そして目的のものを預かると、天草式が待つ戦場へ出発した。 ちなみに。 そこで恋する乙女五和が、石油化学コンビナートに大引火状態になっている事、 アックアの情報を伝えたシェリーが、フルチューニングに何かあったらただじゃおかないと建宮を脅しつけている事、 土御門元春と言う魔術師が陰で色々と暗躍している事、 それらを彼女は知らないままである。 第22学区のとある鉄橋 天草式と合流したフルチューニングは、何故かガタガタと震えている建宮を疑問に思いながらも、用意が整った事を報告した。 「もうすこし有れば良かったのですが…」 「いやいや、用意できただけ上出来よな」 「ところで、どうして先ほどから建宮さんは震えているのですか?」 「へあ!? そ、そう。武者震いってヤツなのよ!」 「…?」 つい先ほどまで建宮は、マジギレした五和に怯え、 シェリーの“あの馬鹿に何かあったらテメェの肉塊でゴーレム作るからな?”という一言に怯え、 仲間からの“この大馬鹿野郎!またお前だけレイの秘密(シェリーに弟子入り)を知っていたのか!”という冷たい視線に怯えていた。 ぶっちゃけアックアと対峙するよりも恐怖を感じていたかもしれない。 「ま、おふざけはここまで」 だが、ここにきて空気が変わる。 「ここから先は――戦場だ」 天草式十字凄教の矜持を掛けた、絶望的な戦いが幕を開ける。 深い闇の中、それでもアックアは“敵”の存在を感知した。 それでも欠片も動じることなく、淡々と言葉を放つ。 「準備はもう済んだのか?」 その言葉に応じるかのように、天草式のメンバーがその足音を響かせた。 誰もが武器を握るその姿は、まるで豪華なパレードのようだ。 剣、槍、斧、弓、鞭、鎖鎌、十手、鉄の笛。 様々な武器が鈍く光るその中で。 たった一人丸腰で立つ少女が、アックアにはやけに目立って感じられた。 (最初に戦った時は失念していたが、彼女が報告にあった魔術を使う能力者であるか) (まさかゴーレム術式を行使するとは思わなかったが、あの拙さでは話になるまい) そんなアックアの視線から彼女を庇うように、建宮が1歩前に出た。 それだけで、交渉の結果は火を見るより明らかだ。 「交渉は決裂、という訳であるか」 「それ以外に何があるってのよ」 「別に。困るのは貴様達の方である。……唯一生き残る可能性のある選択肢を、自らの手で放棄したというのだから」 「どうやら、あなたは少し視野が狭いようです」 アックアの押しつぶすような気配を切り裂いて、丸腰の少女――フルチューニングが言葉を挟んだ。 「あなたに上条当麻の右腕を差し出さずとも、私たち全員が生き残る方法があるんですよ」 「ほう。一応その方法を聞いておこうか?」 「決まっています。あなたをここでボコボコにすればそれでOKです」 「…下らんな。私は聖人であり、『神の右席』としての力も有している」 「……」 「それを正しく理解した上で、なお守るべき者のために命を賭して戦うと言うのならば、私は期待するのである。人の持つ可能性とやらに」 「ならば、期待に応えなくてはいけませんね」 不敵に笑うフルチューニングに、アックアが笑い返す。 「その大言が寝言でない事を期待しよう」 「その上で、勝つ」 そしてアックアは、メイスを構えるために半歩動く。 文字通り天草式を粉砕するつもりだ。 「勝負とは善悪ではなく強弱によって決定するものだという事を、私は証明するのである」 「…まるで、自分が悪だと認めているかのようなセリフですね?」 「所詮善悪など、価値観の違いに過ぎない」 「分からないのか? 力無き善は、時として悪よりも性質が悪いのであ――」 アックアの話はそこで終わりを告げる。 痺れを切らした五和が、ドバン!!と全力で海軍用船上槍を放ち――アックアを巻き込んで起爆させたからだ。 「…五和さん?」 「いっ、五和……ちゃーん?」 ポカーンと驚く2人を無視するどころか、五和は悔しそうに舌打ちまでした。 無傷で現れたアックアが、呆れたように語る。 「人の話は最後まで聞くものではないかね?」 「……話なら、後で聞いてあげますよ」 フルチューニングと建宮を押しのけて、五和が前に出てきて宣言した。 「さんざんさんざんさんざんさんざんグチャグチャのグチャにブチのめした後に!」 「まだ顎が砕けていなかったらの話ですけどね!!」 事情を知る天草式の面々が、ことごとく目を逸らす。 唯一理解できないフルチューニングが、建宮に詰め寄った。 「(一体五和さんはどうしたのですか?)」 「(大丈夫よレイ。あれが恋する女って事。神様でも敵に回せるんだから)」 傍に寄り添う対馬が、妙に冷静にフルチューニングを諭す。 直接の原因となった建宮が呆然としている中で。 五和とアックアが、轟音と共に激突した。 普通の人間であるはずの五和が、聖人であるアックアと渡り合う。 その理由は共に戦う天草式だ。 互いに動体視力や運動能力を補強し、増強して。1つの生き物として戦場を移動する。 (だが、あの少女だけは“動いていない”) (女王艦隊における戦いで、致命的なダメージを受けているという話だが…) (そんな弱点をみすみすさらして、この私に勝とうと考えているのであるか) アックアの感じたとおり、フルチューニングがこの輪に入る事は出来ない。 それはあまりにも明確な標的だった。 「せめて、ゴーレム術式ぐらいは構築しておくべきであったな」 アックアが、メイスを振り下ろしながら彼女に言い放つ。そこには失望があった。 だがしかし。 「――当然、すでに完成済みですが?」 「なに…?」 気が付けば、他の天草式が距離をとっている。 悪寒を感じたアックアがメイスで防御を取るのと同時。 バババババババババババババババババババババ!!!!! 対戦車用ライフルのフルオート――秒間12発の遠距離狙撃がなんと10丁分。 凄まじい爆音を引きつれて、辺り一帯を粉にする勢いで射出された。 「……これは」 「安心しました。あなたが防御を取ったという事は、“当たれば死ぬ”ということですね?」 「まさか、狙撃兵を雇ったのであるか?」 「いいえ。これがレイのゴーレムです」 フルチューニングがオイルパステルを横に振るう。 「さあ、いきましょう《ゴーレム・フルチューニング》!」 再びライフルによる掃射が始まり、アックアが銃弾を叩き落としながら後ろへ下がった。 その間に、ズゥゥン!という音を立てて上の階層から着地した巨大ゴーレムが、“体に備え付いてある20の銃口”をアックアに向ける。 「本当は、マシンガンやガトリングガンを付ける事が出来れば良かったのですが」 「れっ、レイ…ちゃーん? あんな威力があるとは聞いていないのよな…?」 「たまたま手に入った武装がこれだったんです」 今のフルチューニングが頼れるのは、どこまでいってもゴーレム術式だけ。 その術式を強化する事が出来ない以上、ゴーレムの“材料”を強化するしかない。 そう思い至った彼女が思い出したのは、初めての敗北だった。 負けっぱなしのフルチューニングが、最初に負けた『妹達』――あの時彼女達は銃を持っていた。 それだけではない。病院車の警護の時にも、彼女達は銃を携えていた。 フルチューニングが病院へ戻ったのは、銃器を借りるためである。 (無理を言って借りた鋼鉄破り(メタルイーターMX)10丁と、オモチャの兵隊(トイソルジャー) 10丁を武装として組み込みました ) (術式は師匠に遠く及びませんが、戦力の観点から見れば引けを取りません) 50口径の対戦車砲ライフルと、5.6ミリ弾のアサルトライフル。 メタルイーターの暴力的な反動も、重く巨大なゴーレムなら全て受け止める事が出来る。 魔術に科学を取り入れた、フルチューニングならではの作戦だった。 「まさか、魔術人形に銃器で武装させるとはな」 土煙りの中、未だ傷の無いアックアが感心したように呟いた。 対しフルチューニングも、オイルパステルを彼に向けて静かに宣戦布告する。 「レイには、何が何でも叶えたい願いがありますから」 「詳しい“魔法名”の儀式なんて知りませんし、認められるかどうかも分かりません」 「…ふん」 「ですが、この魔法名は譲れません。今こそレイは宣言しましょう」 「――Crastinum000(届かぬ明日を掴む者)!!」