約 3,071,502 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3671.html
6.《神人》 機関の本部ってのは始めて来た。 何の変哲もないオフィスビルの一角だった。普通の会社名がプレートにはまっている。 「もちろん偽の会社です。機関の存在目的を世に知らしめる訳にはいきませんから」 古泉はそう言って笑った。 しかし、何の仕事してるかわからん組織に良くオフィスを貸してくれたよな。 「このビルは鶴屋家の所有物ですから」 なるほど。 俺の計画は簡単だ。《神人》を通してハルヒに話しかける。 ハルヒの元に声を届ける場所が他に思いつかない。 「どうでしょう。《神人》に理性があるとは思えません。 あれは、涼宮さんの感情の一部が具現したものだと思われますが」 古泉は疑わしげだ。無理もない。閉鎖空間については古泉の方がよっぽど詳しい。 何度も訪れているんだからな。 俺だって確証なんか何もない。 だがな。 「お前は閉鎖空間でハルヒが俺を呼んでいる、と言っただろう」 前に古泉が言ったことを持ち出した。 この言葉が俺を決心させた要因の1つだ。 「確かに閉鎖空間に入るとそう感じますが……」 古泉はまだ納得行かない、という顔をしている。 「俺はこの1週間、何度もハルヒに話しかけたんだぜ。でも全く反応がなかった」 当たり前っちゃ当たり前だけどな。 「現実世界ではハルヒに声は届かない。 閉鎖空間でハルヒが俺を呼んでいるなら行ってやるしかないだろう」 俺としては、古泉始め機関がこの可能性に思い当たらなかった方が意外だ。 「なるほど。解りました。どのみち、僕はあなたに委ねたのですからね」 誤解を招くようなセリフはよせと言っているだろうが。どういう意味だ。 朝比奈さんも一緒に閉鎖空間に行かないかと誘ったのだが、古泉が止めた。 朝比奈さんは、病院でハルヒと長門についている、と言った。 「今回は神人に近づかなければいけません。危険ですからね」 ハルヒなら朝比奈さんに危害を加えるわけはないと思ったが、結局俺が折れた。 「万が一と言うこともあります。僕としても、1人ならともかく、2人も守れるか自身がありません」 そう言われたら仕方がない。 「わたしも、長門さんも気になりますから病院に行きますね」 朝比奈さんはそう言った。 長門は相変わらず眠ったままらしい。 こんな状態じゃなければゆっくり休んでくれ、と言いたいところだ。 俺は朝比奈さんに2人をよろしくお願いしますと言うしかできなかった。 「まず、あなたにお礼を言わなくてはなりません」 「お礼?」 何のことだかわからん。俺はまだ何もしていない。これからしようとはしているがな。 「いえ、橘京子のことです。1回目の接触で、ある程度目的は予測できていました」 まあ、あいつが俺に用があるとしたら1つしかないよな。 「ですが、そのときはまさかTFEIがすべて活動を奪われるとは予測していませんでした。 前日に連絡を取った際には、何も起こってなかったんですからね。 今朝の時点で、機関内部でも佐々木さんに頼るという案すら出たくらいですよ」 まじかよ! 機関はハルヒを神としているんじゃなかったのか。 「その案を指示したのはごく一部の人間です。でも情報のつかめない宇宙存在よりは 佐々木さんに力を託した方が安全。そういう考え方もあります」 胸くそ悪い、と思ったが俺も人のことは言えない。 一瞬でも、そっちに気持ちが動きかけたのは事実だ。 「結局、我々はあなたに選択を委ねたのですよ。 何とか最後まであがいてみるか。この場合、危険が伴います。」 古泉は大げさに首を横に振った。 「──それとも、佐々木さんに世界を委ねるか。 機関としては好ましくないのですが、仕方がありません」 そう言って肩をすくめた。 「結局、機関は何とかできるのはあなただけだという結論に達しました。 それが涼宮さんに選ばれた鍵の役目だと。 世界がどうなるか、それを決めるのはあなたです」 おいおい、勘弁してくれよ。そんな大げさなことを考えていた訳じゃないぜ。 だいたいそんな大事なことを俺個人の感情で判断していいのかよ。 だが、もう俺は選択しちまった。 「僕個人としては、やはり最後まであがいて見たかったので。 ですからお礼を言わなくてはなりません。ありがとうございます」 お前のためにやったんじゃねぇよ。勘違いするな。 「やれやれ」 もうそれしか言うことがない。 「とにかく、今は少し休んでいてください。今のところ閉鎖空間は発生していませんから」 「時間までに閉鎖空間は発生するのか?」 これが一番の懸案事項だ。他にハルヒと話せるかもしれない場所はない。 それすらできるのかどうか怪しいもんだ。古泉だってそんな経験はないんだからな。 いっそ、去年の5月にあったあの閉鎖空間を作ってくれりゃいい。 だが、そう上手くは行かないだろうな。 「実をいうと、最初の頃より発生頻度は下がってきてはいるんですよ。 その分、僕の感じる涼宮さんの不安感は増えているんですが。 それにしても、まもなく発生しますよ。単なる勘ですけどね」 「お前がそう言うなら間違いないだろうさ」 閉鎖空間のスペシャリストだろうからな。 俺のセリフに古泉は苦笑した。 「しかし、発生する数が減ってるってのはどういうわけだ? それで不安が増してる?」 長門が言うには、この探索とやらを実行中は、ハルヒにかかっている負荷が大きく変わる訳ではないらしい。 だったら、閉鎖空間も同じ頻度で発生するもんのような気がするが。 「はっきりとわかってるわけではありません。ただ、苦痛は慣れるということではないかと」 思案げな顔をして、古泉が言った。 俺がここで考えたってわかるわけもないか。 時間だけがただ過ぎていった。俺はイライラしながら閉鎖空間の発生を待った。 朝1で来たってのに時間は10時半を回っている。 わざわざ車を回してもらう必要もなかったな。橘から簡単に逃げられはしたが。 古泉は何かと用事があるらしく、俺は通された部屋で1人待っていた。 森さんが顔を見せてくれるかと思ったが、かなり忙しいらしい。 「まだかよ」 もう何度目になるかわからない独り言をつぶやく。 まさか閉鎖空間の発生を心待ちにする日が来るとはね。 あんな灰色空間は好きになれないはずなのにな。 だいたい、上手く行くのか? 何の確証もないんだぜ。 橘の戯言に乗った方が確実なんじゃないのか? 後のことは後で考えればよかったんだ。 1人で考えていると、どうもマイナス思考になる。 いかんいかん、俺は首を横に振った。 長門の診断と予測、古泉の言ったこと、朝比奈さんの忠告。 俺は全部信じているんだろ? だったら──俺は俺にできることをするだけだ。 「お待たせしました」 やがて、古泉が俺を迎えに来た。 「来たか」 待ちわびたぜ。 今行ってやるからな、ハルヒ。 閉鎖空間が発生したのは、前回と反対側の県庁所在地のある都市だった。 全国的にお洒落な街というイメージがあるらしい。 同じ県内にもかかわらず、俺は数えるほどしか来たことがない。 街に出る、というと前回の大都市に出る方が多いからだ。 駅前から続く花の通りとか名付けられた道の海側から、閉鎖空間は広がっていた。 ん? この位置だと、東側から入ればもっと早かったんじゃないのか? 「なるべく《神人》が現れる場所の近くから入りたかったので」 なるほどな。 「それでは行きます。目を瞑ってください」 あのときと同じように、古泉は俺の手を取った。 そういやどうして目を瞑らなければならないのか聞いてないな。 朝比奈さんとの時間旅行のように目が回る感覚などない。 何か違和感を通り過ぎる、という感じか。 ──キョン── 一瞬、ハルヒの声が聞こえた気がした。 いや、聞こえた気、じゃない。 はっきり聞こえる。 「もういいですよ」 古泉の言葉で目を開けたが、相変わらずハルヒの声が頭に響く。 ──バカキョン!── ──バカ! いつまで待たせんのよ! 罰金!!── えーと、ハルヒ? うるさい、お前の怒声は頭に響く。いや、文字通り響いているんだが。 俺は決死の覚悟でここに来たんだが、歓迎の言葉がこれか? 思わず溜息をついてうなだれると、古泉が心配そうに顔を覗いてきた。 「大丈夫ですか? どうかしました?」 古泉には聞こえてないのか。 「何がです?」 「ハルヒの声」 古泉は目を見張って俺を眺めた。 「俺の頭がどうにかなっちまった、って可能性もあるけどな」 そんな目で見られると自信がなくなってくる。 「そうではないでしょう。 前に言ったとおり、僕にも涼宮さんがあなたを呼んでいるのは感じられます。 ただ、感じているだけで聞こえている訳ではなかった」 そう言うと、少し考えるようなポーズを取った。わざとらしいが様になる。 「どうやら、あなたが正しかったようです。涼宮さんはあなたを閉鎖空間に呼んでいる、 それで間違っていなかったようですね」 悔しいがこいつにそう言ってもらえると安心する。 そんな会話をしながらも、俺の頭の中にはハルヒの怒声が続いている。 バカだのアホだのマヌケだの罰金だの死刑だの、ほんとに勘弁してくれ。 「呼んでいるっていうかな、さっきからずーっと怒鳴りつけられている訳だが」 俺が溜息をついて言うと、古泉は少しだけ笑顔に戻って言った。 「それはそれは。こういう状態になっても涼宮さんは涼宮さん、ということですか」 まったくだ。 「おい、ハルヒ、いい加減にしてくれ!」 俺たち以外誰もいない灰色の空間に向かって呼びかけてみる。 だが、何の返答もなかった。 俺の頭の中には、さっきからハルヒの罵声が響いてて、いい加減嫌気が差してくる。 なんつーか、今朝の俺の決意をすべて喪失させる気か、この野郎。 今朝まで深刻に悩んでいた俺がバカバカしくなってきた。 後で朝比奈さんに、今朝あたりの俺宛にでも伝言を頼むか。 『悩むだけ損だぞ、俺』なんてな。 そうは言っても、俺がそんな伝言受け取っていないことが既定事項ではあるが。 俺がそんなげんなりした気分になっていると、古泉の真剣な声が聞こえてきた。 「始まりました」 何度見ても現実感がない光景が広がった。 青い巨人──《神人》がゆらりと立ち上がった。 相当距離があるのに、その巨大さからかなりはっきり見える。 あれは新幹線の駅の辺りだ。 そして、前に見たとおり、周辺の建物を破壊し始めた。 「……………」 俺が無言なのはその光景に飲まれたからではない。 ──このバカキョン!── ズガァァァァン ──こんなにあたしを待たせるなんて許し難いわ!── ドカァァァァン やれやれ、間違いない、あの《神人》は確かにハルヒのイライラそのものだ。 《神人》の動きと俺の脳内音声が、完全に一致している。 しかも、俺に向けられているらしい。 「古泉、何でか知らんがあの《神人》は俺にむかついているらしい」 溜息とともに吐き出すと、古泉は一瞬不思議そうな顔をしたが、フッと笑って言った。 「なるほど、それがおわかりですか。ならあなたの計画も上手く行きそうですね」 しかしハルヒ、ずるいぞ。俺にだけ一方的に声を届けるなんてな。 お前に声を届けたいのは俺の方だよ。 「かなり遠いな。まさか歩いて行くのか?」 「いえ、それでは時間がかかりすぎますから。ちょっと失礼します」 そう言うと、古泉はいきなり俺を羽交い締めにするように抱えた。 「おいっ! 何しやがる!」 思わず反論した俺に、古泉は軽口で返しやがった。 「おや、正面から抱き合った方が良かったですか?」 「ふざけんな!」 アホなやりとりをしている間に、目の前が赤い光でに染まった。 古泉が例の赤い球になったらしい。内部はこうなってるのか。 なんて考えた次の瞬間、ものすごい勢いで飛び立った。 「うおぉ!?」 早い、何てもんじゃない。生身で飛行機に乗っているようなもんだ。 ただし、赤い光のおかげか、風圧は全く感じられない。 眼下に流れていく景色を見て、思わず身震いする。古泉にばれたな畜生。 しかしこれはかなり怖い。こいつはいつもこんなことをやっているのか。 《神人》の近くにたどり着くまで、1分とかかっていない。 時速何キロだったのか、誰か計算してくれ。俺は考えたくない。 《神人》は、手近な建物から破壊を始めていた。 近くで見ると大迫力だ。映画みたいだ。 そんなのんきなことを考えている場合じゃない。 あの《神人》がハルヒの精神と繋がっているなら、声が届くのはここしかない。 《神人》の少し上を飛んでもらいながら、俺は大声で叫んだ。 「ハルヒーーーーーーーーーー!!」 しかし、俺の声は全く届いていないように、《神人》は破壊活動を止めない。 俺の脳内音声もますます活発だ。 いくらハルヒの怒声に慣れていても、さすがに凹んでくる。 時折少し離れて休憩を入れながら、俺たちは何度も《神人》に近づいた。 俺は何度かハルヒを呼んだが、《神人》は変わらず、何も起こらない。 周りの建物を殴りつけ、蹴倒し、踏みつけている。 閉鎖空間も広がっている、と古泉が言った。 畜生、やっぱりダメだったのか!? だんだん焦ってくる。 ──何やってるのよキョン! このへたれ!── あーもう、ハルヒ、うるせぇ少し黙れ! お前どっかで見てるんじゃないだろうな。俺が何をしたっていうんだよ。 「すみませんがそろそろ限界です。これ以上《神人》の破壊活動を放置すると厄介です」 古泉が焦った声で言った。 ここで《神人》を倒してしまっては俺がここまで来た意味がない。 次の閉鎖空間を待つ時間もない。 もしかしたら、次の閉鎖空間は生まれないかもしれない。 どうする? 俺は悩んだ。 ハルヒは俺を呼んでいるくせに、俺がここにいることに気がついていない。 いや、識域下では気がついているのだろう。だから俺に声を届けている。 今回は表層意識に残らないと意味がないのか。 仕方がない。一か八かだ。無理矢理意識を引っ張り出すほどのことが必要だ。 俺は最後の賭けに出た。 「古泉、最後にもう一度《神人》の頭の上を飛んでくれ! これが最後でいい!」 「承知しました」 《神人》の上に来ると、俺はもう一度頼んだ。 「古泉、俺を離してくれ!」 「何を言っているんですか!?」 「いいから離せ!」 「無理です!」 「大丈夫だ、ハルヒが、俺が死ぬことを望むわけがない!」 俺だけじゃなくて、お前もな、とは言ってやらなかった。 「わかりました」 しばらく悩んだ古泉が苦しそうに言った。 「ただし、あなたを離したら僕も一緒に下ります。危険と判断したら助けますから」 「悪いな」 確かに、古泉の飛行速度を考えたら、自由落下より先に俺の下に回り込めるだろう。 「たたきつけられて潰れるのは俺もごめんだ。頼んだぜ、古泉」 古泉に助けられなくても大丈夫だと思いたい。 古泉が俺を離して──俺は落下を始めた。 ハルヒ、信じてるからな! 恐怖を感じている暇はなかった。俺は目一杯大声で叫んでやった。 「聞こえてんなら俺を助けやがれ、ハルヒーーーーーー!」 俺の体は更に落下していく。背筋がぞくりとした。 このまま落ちたら、体なんか残らないんじゃないか──? ふわり。 衝突の衝撃もなく、いきなり俺の体は止まった。 ふぅーっと溜息が出る。さすがに緊張していたらしい。汗びっしょりだった。 今どこにいるか、確認するまでもない。 足下も、俺の目の前も青く光っている。 俺は神人の手のひらの上にいるらしい。 まるでお釈迦様の手のひらにいる孫悟空だな。 差詰め古泉はキン斗雲か。 気がつくと、俺の脳内ハルヒ音声もストップしていた。 聞こえていた方が会話しやすいから好都合だったんだがな。 それとも、こいつとまともに会話ができるようにでもなったのか? 俺は目の前にいる《神人》を見上げた。結構怖いのは秘密だ。 古泉は赤い球になったまま、俺の隣に来た。 「まったく、あなたは無茶をしますね」 ああ、自分でも驚いてるぜ。 「よう、ハルヒ」 俺は目の前の《神人》に普通に話しかけてみた。……ハルヒも《神人》も無言。 「なんか、俺が遅くなって怒ってるみたいだな。わりぃ。俺も色々あるんだよ」 相変わらずの無言。 「腹が立ってるんだったら、こんなとこで暴れてないでいつも通り俺にぶつけてみろよ」 我ながら恐ろしいことを言っている。こんなことをハルヒに言ったら最後、俺はどうなるか誰にもわからん。 そして、やはり俺は言ったことを少しだけ後悔することになった。 《神人》が、さらさらと崩れ始めた。 そう、俺を襲った朝倉が長門によって情報連結を解除されたときのように。 俺は呆気にとられてそれを眺めていたが、状況を悟ってめちゃくちゃ焦った。 おい、俺の足場も崩れてるぞ!!!! 古泉があわてて俺の腕を掴んだ。 しかし、俺の足下の青い光がなくなっても、俺はその場に留まっていた。 古泉は腕を掴んでいるが、ぶら下がるわけでもなく、まるでそこに立っているように。 すげぇ、俺も宙に浮いているぞ! この空間は何でもありか?? 「《神人》と我々超能力者の存在だけ考えてみても、何でもありでしょう」 古泉が言った。 《神人》が完全に消え去ると、俺の目の前に──── やっとだな。 たった1週間とは思えないほど長かったぜ。 一気にいろんな感情が俺を襲う。 いろんな思いが混じり合った溜息をひとつついて、俺はそいつに声をかけた。 「久しぶりだな、ハルヒ」 目の前に現れたのは、間違いない。涼宮ハルヒだった。 感慨にふけってる暇もなく、俺は先ほどまであった脳内音声の続きを聞かされることになった。 「こんの……バカキョン!!!!」 やれやれ、再会の第一声がそれかよ。ま、声はさっきから聞いていたんだが。 「遅いのよ、遅い!!! あたしがどんだけ待ったと思ってるのよ!!」 「いや、だから悪かったよ。さっきも言ったけどな、俺も色々あるんだよ」 「うるさいっ! あんたは団員としての自覚が足りないのよ!!!」 だから悪かったってば。しかし何だって俺はこんなに怒られてるんだ? そもそも、ハルヒは今の状況を疑問に思っていないのか? 古泉に聞こうと思って振り返ると、そこには誰もいなかった。 ──逃げやがったなあの野郎。 「凄く怖いんだから、不安なんだから! 何でだかわかんないけどっ!」 ハルヒは言いながらぼろぼろ泣き出した。 俺は黙って聞いているしかできない。 「あ、あたしが、あたしじゃなくなるみたいで、凄く、怖いんだから……」 「……もしかして、今もか?」 ハルヒは過去形でしゃべっていない。今もその恐怖と闘っているのか。 「そうよっ! でも、あんたがそばに居れば何とかなる気がして、ずっと待ってたのに……」 いや、俺はできる限りそばにいたんだよ。それが伝わらない場所でな。 俺だけじゃない。長門は文字通り四六時中そばにいたし、朝比奈さんもできるだけ一緒にいたんだぞ。 伝えられなかったけどな。俺もどうすればいいのかわからなかったんだよ。 やっと今朝、ギリギリになって気がついたんだ。 遅くなってごめんな。 しかし、こんな素直なハルヒを見るのは初めてだ。 どんなに怖い思いをしても、それを誰かに悟られるのを何より嫌いそうな奴だ。 今回のことはよっぽど怖かったんだろう。 辛かったんだろう。 「悪かった、ハルヒ」 そう言って俺は、泣いているハルヒを抱きしめた。 誰だってそうするだろ? こいつは不安と恐怖相手に独りで闘っているとき、俺にそばにいて欲しいと望んでくれたんだぜ。 それに答えないのは男じゃない、そうだろ? いくら俺がへたれだと言われても、それくらいはできるさ。 しばらく俺はハルヒが泣くままにしていた。 今まで我慢していた分、目一杯泣けばいい。 いや、閉鎖空間でストレス解消していた訳だから我慢はしてないのか? ま、でも泣けるなら泣いた方がいいのさ。 しかし、大事なことをまだ伝えていない。 ハルヒを助けるためには伝えなければならない。 この時点で、まだ俺は悩んでいた。 ハルヒの力を自覚させる俺の切り札。『ジョン・スミス』をここで使うか? それとも、今ここで使うべきではないか? 近い将来、この切り札が必要になるかもしれない。 もし、ここで俺が『ジョン・スミス』だと言わずに話ができれば、それに越したことはない。 俺は脳の普段は使わない部分まで動員する勢いで、急いで考えをまとめた。 「ハルヒ。聞いてくれ」 ハルヒは涙目で俺を見上げた。 「これは夢だってわかってるんだろ?」 さすがにこの異様な空間で異常な状況だ。 なんせ俺たちは宙に浮いているんだからな。夢だとでも考えなきゃおかしい。 「そうね……こんな灰色の世界、前にも夢に見たこと……」 そこまで言って顔を背けた。何か思い出しやがったな。 「俺は現実のお前と会いたい。だから、願ってくれ。現実の世界で俺に会いたいってな」 「キョン……?」 不思議そうな顔をして俺を見上げるハルヒに、俺は更に続けて言った。 「俺だけじゃない。長門や古泉に朝比奈さん、SOS団のみんなに会いたいだろ?」 ハルヒの表情が少し変わった。目に輝きが戻ってきたような気がする。 「ハルヒが本気で願えばかなうさ。こんな灰色空間じゃなくてな。 ちゃんと“現実の”あの部室で、みんなで会おうぜ」 しかし、ハルヒは目を伏せると意外なことを言った。 「あんたは本当にあたしに会いたいと思ってるの?」 おい、さっきからそう言ってるだろ。だからわざわざこんな灰色世界まで会いに来たんだぜ。 「そうね、でも……わからないわ。あんたの気持ちが」 俺の気持ち? ハルヒが何が言いたいかわからなくて、俺は黙っていた。 「どうせ夢だし、この際だから言っちゃうけど、あんたあたしにあんなことしたくせに、何も言ってくれないじゃない」 あんなこと……って、あれだよな、やっぱり。 だけどな、あれはお前が先にしただろうが! 「そうだけど、そうなんだけど、あんたが何であんなことしたかハッキリさせたいのよ! ハッキリしないのは嫌いなんだから」 「………」 とっさに言葉が出なかった。 ハルヒがわがまま、とかそう言うのではなく。 いや、わがままなんだけどな。先にキスしてきたのはお前だ、と声を大にして言いたい。 だけどな。つまりだ。 ハルヒは、1週間前まで俺が暢気に味わっていた中途半端さに嫌気がさしてたってわけか。 正直、俺はハルヒが俺の言葉を信じてくれると思っていた。 だから、この閉鎖空間でハルヒと話さえできれば、何とかなると思っていた。 くそっ 俺が俺の首を絞めているわけだ。 自分の暢気さがつくづく恨めしい。 ああ、1週間前の俺を本気で殴ってやりてぇ。 「すまん、ハルヒ」 ハルヒの目を真正面から見つめた。 「俺は自分をごまかして、このままでもいいかなと思ってたんだ。時間はまだあるってな」 ハルヒは俺を睨み付けていた。 こいつは未だ不安と恐怖がある中で、こんな表情ができるんだ。 やっぱりたいした奴だよ、お前は。 「この先は、ちゃんと現実でお前に会ったときに言いたい。だから、帰ってきてくれ」 「夢の中のあんたに約束されたってしょうがないじゃない。 だいたいどうやって帰ればいいのかわかんないわよ」 「だから、夢じゃなくて現実の俺と会いたいと願ってくれればいいんだよ。 大丈夫だ、現実の俺もお前に言いたいことがあるはずだ。夢でも現実でも、俺は俺だ」 わかるだろ? 前の夢の後のこと、あの部室でキスした日のことを思い出せばな。 ハルヒは少し考えてから笑って言った。 「いいわ、信じてあげる。あたしをこれ以上待たせるんじゃないわよ!」 やっと笑顔が見れたぜ。 そのセリフを最後に、ハルヒも先ほどの《神人》と同じように消えていった。 思い立ったら即実行だ。何ともハルヒらしい。 「ああ、待ってろ!」 消えていくハルヒに、俺はそう言ってやった。 「うわああああ!?」 ハルヒが消えると、俺の体も宙に浮いてられなくなったらしい。 おい、ハルヒ、最後のつめが甘いぞ!! さっき助けてくれたのにこれじゃ意味がないだろうが!! そのとき、古泉が俺の腕を取った。 「大丈夫ですか?」 ニヤケ顔で俺に聞いてくる。なんか含んだ顔でむかつく。礼を言うのがためらわれる。 「何か言いたげな顔だな」 精一杯渋面を作って言ってやった。 「いえいえ、見せつけてくれたなと思っただけです」 どこで見てやがった、この野郎。 俺と古泉は近くのビルの屋上に下りた。 「我々が神人を倒す必要がなかったのは初めてのことですよ」 古泉が大げさな感情を込めていった。 「機関から表彰したいくらいですね。ありがとうございます」 そんなもの要らん。 「これから閉鎖空間が生まれたら、あなたに来て頂きましょうか」 ふざけんな。今回は緊急事態だ。いつもそう上手く行くもんでもないぜ。 「それもそうですね」 閉鎖空間はすでに崩壊が始まっており、前に見たとおりに空にヒビが広がっている。 「まったく、あいつは思い立ったら即実行で、後のことなんか考えちゃいねぇ」 俺が文句を言っている間にもヒビが広がり……やがて一気に現実世界に戻った。 日常の喧噪が耳に響く。 何とかなったのか? 日の高くなった空を見上げて一息つく。 しかし、古泉の真剣な声が俺の安堵感を帳消しにした。 「13時20分です──長門さんの予告を最小でも5分過ぎています」 ──遅かったか? 7.回帰へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/6015.html
11 36 キョン「はぁ、なんでこんなに遅く帰らなきゃいけねんだよ。」 俺はハルヒに付き合わさせられて遅く帰っていたときだった。 もぞもぞと動いていた物があった。 それを見てみると視界が暗くなった。俺が覚えている事はこれくらいしか無い。 7月6日 午後4 00 SOS団部室 ガチャ ハルヒ「みんないる~て、有希と古泉くんだけ~、みくるちゃんは。」 古泉「朝日奈さんなら少し遅れてくると、そういえばキョンさんは。」 ハルヒ「キョンだったら今日は休みよ。」 ハルヒ「なんか暇だから今日は帰るわ、古泉くんと有希も早く帰りなさいよ。」 古泉「そうですかではお言葉に甘えて帰らしてもらいます、では。」 続く
https://w.atwiki.jp/moiki/pages/243.html
意味 角川スニーカー文庫から刊行されている、同名をタイトルに冠したライトノベルの主人公の事。原作既刊8巻、アニメ全28話、漫画版既刊10巻。10年冬に劇場版公開。 アニメ、漫画、ライトノベル等オタ系の話題が盛んなヤクルト実況板でも人気のある作品。 同作品はオタク層から絶大な人気を誇るシリーズであり、アニメ化もされた。 06年のアニメ1期で原作と共に大人気作品となったが、最近は原作の発売が3年くらい延期されたりアニメ2期でループという構成の名の下に同じ話を8週連続放送して視聴者を発狂させる等あまり良くない意味で注目を集めている。Amazon.co.jp 「涼宮ハルヒ」 参考涼宮ハルヒ wikipedia 社長とハルヒ 2006年5月13日の雑談中、涼宮ハルヒ(及び「君が望む永遠」の登場人物である涼宮はるか、涼宮茜)に関する中右占いで、当時の社長を意味する69が3連発で出る。 これは大変珍しい事態であり、住人は大喜び。 また、ハルヒと社長のキャラが被っている(俺様系、ツンデレetc)事からハルヒのAAに社長の名言を吐かせる住人が発生した。 社長の名言の数々に関しては多菊善和の項を参照。 ハルヒ丘高校 06年夏の甲子園愛知県予選準決勝、甲子園の常連高である愛工大名電高の相手は春日丘(ハルヒガオカ)高校。準々決勝では強豪の東邦高を破る快進撃を見せ、藤井に投球フォームが似ているらしいエースの龍功二を先発に立てて愛工大名電に挑んだ。 ハルヒブームが起きた06年にこの高校がスルーされる訳もなく、実況板住民に目を付けられる。 結果は、ハルヒ丘高が4点リードで9回2死までこぎつけたがいきなり名電に5点を奪われ、惜しくも逆転負けしてしまった。 ちなみに、下記の 690が話しているインチキホーミングモードのバットとは、主人公達が野球大会に出場するというエピソードがあり、その中で登場人物の一人である長門有希(宇宙人)が特殊能力で不正改造した金属バットの事である。そのホーミングバットの能力は、打者が何もしなくてもバットが勝手に動き、来た球をバックスクリーン場外まで運んでしまうという物。劇中では野球経験の無い女の子や小学5年生の女の子が大学生の球をホームランしていた。 676 名前:名無しなんだな[niyahya] 投稿日:06/07/30(Su)12 33 34【(・∀・)イイ!!】 ID ??? 愛工大名電負けそう 相手は春日丘(はるひがおか)高校(・∀・)ニヤレ! 681 名前:名無しなんだな[niyahya] 投稿日:06/07/30(Su)12 35 26【(・A・)イクナイ!!】 ID ??? 涼宮ハルヒ丘か(・∀・)テラリグス 682 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 36 09 ID ??? 676 この板じゃ去年の古川君に並ぶヒーローになりそうだな。 よりによってかすがじゃなくてはるひかよw 685 名前:名無しなんだな[niya] 投稿日:06/07/30(Su)12 36 44 ID ??? ハルヒ丘高校のピッチャー 投球フォームがafoにそっくりとのこと(・∀・)スルーテーマ! 690 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 37 22 ID ??? 名電を倒すなんて、ハルヒ丘チームはインチキホーミングモードのバット使ってんじゃないの? 694 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 38 15 ID ??? よ~し、パパはハルヒを応援しちゃうぞお 698 名前:名無しなんだな[niya] 投稿日:06/07/30(Su)12 38 39 ID ??? ハルヒが活躍してると聞いて飛んできました(・∀・)ワル!カコイイ! 704 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 40 02 ID ??? 現在9回表二死一塁二塁ハ6-5名 カウント2-3 711 名前:名無しなんだな[niya] 投稿日:06/07/30(Su)12 41 16 ID ??? ほあで満塁! ハルヒピンチ(・∀・)ニヤレ! 712 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 41 34 ID ??? ハルヒ高校、応援歌は晴れ晴れかしら 716 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 42 39 ID ??? ハルヒがここを凌げるイメージがわかないな。 722 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 43 34 ID ??? 名電逆転 走者一掃のタイムリーで8-6 723 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 44 03 ID ??? ハルヒ首都か 724 名前:中右[zonumatu] 投稿日:06/07/30(Su)12 44 23[4|0|1] ID ??? 俺のハルヒが… 727 名前:名無しなんだな[niya] 投稿日:06/07/30(Su)12 44 36 ID ??? afoに似たフォームのピッチャー 完投勝利寸前の9回表二死から5失点(・∀・)ヤ○ダチネ! 731 名前:名無しなんだな[niya] 投稿日:06/07/30(Su)12 45 59 ID ??? ハルヒ丘高校何気に東邦にも勝ってるのかお(・∀・)カイーコ 745 名前:名無しなんだな[] 投稿日:06/07/30(Su)12 52 26 ID ??? ハルヒ乙でした カマドウマ 原作の第3巻「涼宮ハルヒの退屈」に収録、アニメ版では第7話で放送された「ミステリックサイン」では実況板住民が勝手に作ったユニットのカマドウマの元ネタになった虫のカマドウマが出現する。 ログ 燕軍団軍団実況板06-312http //tubame.s45.xrea.com/swa/log/make.cgi?key=1147523755 243 名無しなんだな zonumatu 06/05/13(Sa)22 22[3|6|9] ID ??? ハルヒの野球の実力は中右級 246 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 22 ID ??? 243 248 名無しなんだな ahya 06/05/13(Sa)22 22【ゴルァ( ゚Д゚)===○】 ID ??? 243 なんかワロタ 251 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 22 ID ??? 243 すごそう(・∀・)ニヤレ! 252 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 22 ID ??? 243 ひどい操作(・∀・)⊃-{}@{}@ヤキトリクエ! 256 名無しなんだな zonumatu 06/05/13(Sa)22 23[7|6|9] ID ??? ハルヒハルヒうるせーぞ中右 257 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 24 ID ??? 256 !!!!!!!!!(・∀・)ノ●ドゾー 258 名無しなんだな niyahya 06/05/13(Sa)22 24【(*´〓`)おれ、ダメだろ?ヘタクソだろ?】 ID ??? 社長…(・∀・)スルーテーマ! 259 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 24 ID ??? 涼宮と言ったらハルカだろうが 261 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? アカネよ(・∀・)スナイポ! 262 名無しなんだな hatti 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? 256 (?_?) 263 中右 zonumatu 06/05/13(Sa)22 25[2|6|9] ID ??? 馬鹿野郎!茜だろ! 264 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? 263 265 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? 社長…(・∀・)モウヤマベ 266 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? -―――- / / / ̄ ̄`ヽ`ヽ、 / _/. /´「 ̄ ̄、`ヽ、 ヽ /. / ! /_/l ! 、 ヽ V ∧ i 〈_人! l∧\ヽ i i _ ト、 i . l //l/ ! lf千 ミ、ヽ\!≦´V lく l lく/〈/´! l ゞ-' 弋冫j/l l〉 ! l ! ヽ、! l 、_′ / ∧! ! ! l ∧ト、 ー ′/ /. / ハj . Vヽ、 lヽ、丶、_ ィ/. /. /j/ (\_ _ 、 !、|ヽ ト、/イ/ > _`ヽ__ /ヽ ヽ! \ _ヽ ̄ ヽ_ rf壬‐_´__ノ Vヽ / ∧ ヽ´__`ヽ ト、ヽ 〈\ ノ ト、!// 丶 、__`i l } /ヽ ̄ ノ ∨ 、 l ! !/ ヽ、 {  ̄ l / \ l l ∧ \ . \ l\ // \ ! ! / !/ ヽ ヽ ̄ /ヽ、 ヽ、! l / /  ̄ / 「やってみればいい、どれだけの価値があるか」 267 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? 社長壊れた 268 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? 誰か社長を止めて 269 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? 263 256 ………(・∀・)スナイポ! 270 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 25 ID ??? 社長wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 271 名無しなんだな niyahya 06/05/13(Sa)22 25【(*´〓`)おれ、ダメだろ?ヘタクソだろ?】 ID ??? 社長3連発(・∀・)ワル!カコイイ! 272 中右 zonumatu 06/05/13(Sa)22 25[8|5|5] ID ??? すいません、俺が社長にハルヒを読ませたばかりに… 273 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 26 ID ??? そうだったのか 274 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 26 ID ??? 社長はハルヒヲタで自分とハルヒはイコールだけど茜萌え 276 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 27 ID ??? 中右三連発ってかなり凄くなあい 278 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 27 ID ??? /_,-――- 、 . 、. \ //, -――‐- ヽ . ヽ . ヽ . //~、 ... 、 ... ヽ .! ! jュ、 | / .{. . !ヽ .. !\ .×. ! |ィ_|_ │ | i .レヘトレヽ| /ヽハ| |、!」」 ! ! _,,.. -‐ァ ! | | .!trz ィテカ`| .. |ノ . . | | . r ‐ 二 ==ll │ ヾヽヽ! ` | . ! | ! |"~r-‐ ァ ∥ | Vヽ \ つ ! .ノ ! l . /リ │ L.-‐ ∥│ レヽ> -ィ´ レリ、ノ /レ' !. ∥│ `┐/ / レ' ニ=、 | ∥│ ,-/~レ-―-/ / / ヽ . |. ∥│ /〃 /ニニミ/ // // ! ! ∧. ∥│ ,l ||| / / // // | . │ / ヘ. ∥ | { ||| ! / ィ / |/ イ |. / ヘ ||. | / {ヾ |fA/// 7 | │/社 ヘ_」|│ iヽ. ヽヾ! / / 〉 ! . レ 長 ヘ__...』 ___ ┌‐',ニ 二` ニ..._i ` /^ ー--‐'¨` ー‐ / . / ヘ /〃〈 ~¨`ヽ〃/´,- ヽ ̄ヽ `ー } 「もう限界だろう。来年は無理。走れればいいけど」 279 中右 zonumatu 06/05/13(Sa)22 27[2|6|1] ID ??? すいません、俺が社長に君望をやらせたばかりに… 280 名無しなんだな niyahya 06/05/13(Sa)22 27【何苦楚(゚∀゚)ナニクソ!】 ID ??? 279 ………(・∀・)モウヤマベ 281 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 27 ID ??? ろくなことしないな 282 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 27 ID ??? 279 おい(・∀・)ヤ○ダチネ! 283 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 27 ID ??? 社長選手に愛されてるわね 284 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 27 ID ??? 279 そんな仲だったのかお…(・∀・)↓偽実況禁止 285 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 27 ID ??? もう社長=ハルヒでいいんじゃね?(・∀・)スルーテーマ! 287 名無しなんだな ahya 06/05/13(Sa)22 28【ゴルァ( ゚Д゚)===○】 ID ??? 社長総受け 288 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 28 ID ??? 社長の中身はハルヒだったんだよ(・∀・)ワル!カコイイ! 289 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 28 ID ??? 285 キャラクターの方向性は似てるかもな(・∀・)アヤマレ! 290 名無しなんだな zonumatu 06/05/13(Sa)22 28[7|1|8] ID ??? 社長に愛されているのは中右 291 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 28 ID ??? 290(・∀・)643! 292 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 28 ID ??? (*´〓`) 293 名無しなんだな ahya 06/05/13(Sa)22 29【Щ(゚д゚Щ)カマーン】 ID ??? 290 なんと 294 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 29 ID ??? ( *´〓`) 295 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 29 ID ??? wikiに追加決定?(・∀・)アヤマレ! 297 名無しなんだな ahya 06/05/13(Sa)22 29【劇場帰還中ヽ(゚∀゚)ノ】 ID ??? 290 299 名無しなんだな zonumatu 06/05/13(Sa)22 29[0|4|1] ID ??? 社長に愛されてない中右 301 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 29 ID ??? 画伯・・・・・・ 302 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 29 ID ??? 299 ひっどーい(・∀・)ニヤレ! 303 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 29 ID ??? 299 画伯…(・∀・)カエレ! 304 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 29 ID ??? 299 今日は祭り 305 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 29 ID ??? 安くてお買い得だったのに(・∀・)ヤ○ダチネ! 307 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 30 ID ??? 299 そんな(・∀・)ウホッ! 308 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 30 ID ??? 社長飛ばし過ぎよう 323 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 31 ID ??? 俺様受けね 326 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 31 ID ??? 俺様受け。そしてツンデレ。(・∀・)ヤ○ダチネ! 328 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 32 ID ??? ,. -一……ー- 、 / { / ‐- 、 丶 \ / /´ ̄ ̄__\、 l,. -―、 / // /  ̄、 \ ヽヽ≦、ス=、、 / / |,.イ l 丶 \ X ', ヽ、 ヽハ ',ヽ f´ ̄! l _|_|\ \--/,r=ミ| lヾく l ', | | ヒア_| l | N,≧ミ、トゝ ハ心}! K ヾニ二ヽ ,r=ヽレ| | l |{ ト心 `'" ! | !', |ハ ! ` // | | ハ!、 ヾゝゞ'′ _'_,.ヘ / / |_! l リ // !ハ//| | ヽ 丶、__丶 _ノ/| /イ ハヘ!ヽ_ L! /ヘ | |ミニ='⌒ (⌒ヽ´ _ !イノl/ | ! ! !L_ 〈_{ ヾ.,!/ , ´ \ ∨,.‐、| l | |ノ ! __!\ / __ム V⌒! ! ! ! ハ /__レ-〈 / f´ ヽ. '. __! //./-‐ '´ / ヽ! |r' \l__ V/ /-‐ / 「 ! { `\_f_ノ∠ミヽ! / / ヽ`ヽ.二ニァ'V∠二ハ }},!-' / ヽ---/´/レ!ト--'/‐' / / ̄ヽ二ノ´l ヽノ_ r‐! / l / `ヾ==、ー-- 、 / ̄| ヽ./ 〃 /人 `ト、 \ ', / ,!\ |l \ / \ 〈 「全然いらない。ウチはお金がないから」 333 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 33 ID ??? 扱いづらいキャラだわ 334 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 33 ID ??? やっべ社長に萌えてきた(・∀・)スルーテーマ! 335 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 33 ID ??? 社長は昔っから萌えキャラよぅ(・∀・)⊃-{}@{}@ヤキトリクエ! 336 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 33 ID ??? 334 あたしはずっと萌えてるわよ(・∀・)⊃〃∩ヘェ~ヘェ~ 337 名無しなんだな ahya 06/05/13(Sa)22 33【(゚д゚)ウマ---】 ID ??? 334 遅いお 339 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 33 ID ??? 俺様受けツンデレ、でもすぐ反省しちゃうキャラ 346 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 34 ID ??? 社長がハルヒなら長門が吉田ね 349 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 34 ID ??? 339 なにその萌えキャラ(・∀・)↓偽実況禁止 353 名無しなんだな ahya 06/05/13(Sa)22 34【(´_ゝ`)フーン】 ID ??? ただの選手には興味有りません この中に禿げ、メガネ、国宝、妖精がいたら 私のところにきてください 377 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 37 ID ??? 世界を大いに盛り上げるための社長の団 387 名無しなんだな 06/05/13(Sa)22 41 ID ??? / \ . / / / / \ 丶 . / / / / , / .i 丶 ヽ ヽ //. / / . / . | . l 、 . . ヽ .. ', .ハ . 〃/. / . / . ,' . / . ! { \ . ヽ . l l . . ハ l. ,' . l l l { ヽ \ ヽ .. .. l l . l. l | /! . | ハ ∧ 八. . i\.. l \ \ l l ! | |{│. . | ハ l ヽl ', | ヽ l _\{-ヽ| | i l ! ! . ;小、. { 代ート、 ヽ .. l >七´__,ィ=-、.」 j ; l ,' ', l \ ムx≠于=ミ、\ヽ x=≠旡丁 `ドレ! ;イヽ i リ ヽ lヽ \ ヾハ{. ヽヽ _ { V、 .}├| ∧ l ,' . / \l ∨ {!ハ Vzイ} {!⌒ヘ} r'zィリ / l . / } ,ノ/l / ` ', ゝム ー' / ヽ、  ̄ノ' | / フ´ / ル′ ヽ `ヘー ‐ '´ '  ̄ |. /´; 〃/ ヽ {\ ャ‐、 jl / / / ″ \ ヘ ヽ 、 ¨ //イ /V \! ヽ>,、 , イ 〃 | ト、 ヽj父rー< { l) ヽ、 /... | 'y' \ / . /ノ / \ / . {′ / \ これからも勝ちますよ! 391 名無しなんだな niya 06/05/13(Sa)22 43 ID ??? 387 ターフルの新AA?(・∀・)カエレ! -
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5315.html
ある日、俺は本屋に行った。高校生になったことだし本を読み始めてみようかと思ったからである。まぁビギナーなので今回はラノベにするのだが・・・。そこで一冊の本と出会った 「『涼宮ハルヒの憂鬱ってタイトルか・・・』ってタイトルか、なんじゃそりゃ?」 ペラペラっと本を捲ってみると主人公は俺と同じあだ名で、登場人物は俺の知り合いと同姓同名ばかり なんか良くない予感を感じがしたがとりあえず買ってみることにした 家に帰ってさっそく本を読み始める キョン妹「キョン君ごはんだよー!」 「俺はあとで食うよ」 キョン妹「キョン君お腹痛いの?」 「いや、ちょっと忙しいんだ」 キョン妹「ふーん、ハンバーグなくなっちゃっても知らないよー?」 「俺の分も食っていいぞ」 キョン妹「・・・・変なキョン君~」 夕食どころじゃねぇよ、なんだこの胸糞悪い話は・・・・ 読み始めて3時間くらいで読み終えた、内容をまとめると 俺と同じあだ名の主人公は中3の冬に「涼宮ハルヒの憂鬱」って本を見つける。その「涼宮ハルヒの憂鬱」って本も登場人物は俺の知り合いと同姓同名ばかり。その本は気晴らしで読んだ1冊で終わるはずだったのだが、主人公は高校入学するとその本と同じような出来事が頻発してすぐにその本はこれから始まる自分の高校生活を著したものだと知る。主人公はその奇怪な状況に浮かれ、自分を「予知能力者」と設定しハメをはずした行動をする。主人公の周りはその本に忠実なのだが、主人公はその本とはまったく違う行動をするのだ。そしてその本と現実のズレが大きくなり最後には世界が滅亡してしまう というものだ。 なぜ世界が滅亡してしまうかということを説明しよう 「涼宮ハルヒの憂鬱ってタイトルか・・・」のヒロインも作中の「涼宮ハルヒの憂鬱」のヒロインも俺の良く知る涼宮ハルヒと同じく神様だ 俺の推測だが「涼宮ハルヒの憂鬱」の物語の展開は、俺がハルヒと出会ってから俺が閉鎖空間でハルヒとキスして世界を救うあの消えてほしい記憶までとまったく同じだ そして「涼宮ハルヒの憂鬱ってタイトルか・・・」の主人公は自称「予知能力」でデリカシーのない質問とかしまくってハルヒに嫌われちまうらしい そうするとハルヒに閉鎖空間に一緒に行くことを願われず、ハルヒにキスする人物がいなくなってしまったため世界が崩壊してしまったらしい 俺ではないはずなのにすごく恥ずかしくなってきた。てか「涼宮ハルヒの憂鬱」ってマジで俺たちの日々じゃねぇか、こんな偶然あるわけない。明日長門とか古泉とか朝比奈さんに聞いてみよう。それと、ハルヒには知られないようにしないと 次の日の部活、幸いにもまだハルヒはきていない 「この本を見てくれ」 古泉「おや、あなたが本を持ってくるとは珍しいですね」 「んなことはどうでもいい、とりあえずペラペラとめくってくれ」 古泉「んふっ、わかりました」 「長門と朝比奈さんも一緒に」 みくる「わかりました」 長門「わかった」 古泉「これは・・・」 みくる「これ私じゃないですか!」 長門「・・・・・」 「ただの本じゃないだろ?詳細はスレの最初を読んでくれ」 古泉「ん~・・・涼宮さんが望んだのでしょうか?」 「こんな偶然あるわけないだろ」 長門「涼宮ハルヒによるものではない、彼女は狂ったあなたも自分の伝記も望んでいない。」 みくる「情報統合思念体の情報操作でもないんですね?」 長門「ない」 古泉「では、まったくの偶然と考えたほうが得策ですね。これ以上考えても答えが見つかるものではありません。」 「でもなぁ・・・」 古泉「とりあえず、このことは涼宮さんには内密に。こんなに現実とシンクロした本を読んでしまって我々の正体は本の中と同じで、自分には力があると信じてしまったら大変ですからね。それはもう知っていると同義ですから。」 みくる「涼宮さんもそろそろ来るでしょうし、この話は今はここまでということで・・・」 「わかりました。」 みくる「あ、そういえば茶葉を切らしていたので買いに行ってきますね」 「行ってらっしゃい、朝比奈さん」 バタン 古泉「ではいつものようにオセロでもしましょうか」 「その前に俺トイレ行っていいか?」 古泉「それなら僕もご一緒しますよ」 「なんでだよ?」 古泉「んふっ、友情を深めようと思いまして」 「顔が近いんだよ気持ち悪い」 古泉「失礼しました」 「じゃ~長門、俺たちがトイレに行ってる間にハルヒが来たらよろしくな」 長門「わかった」 ハルヒ「遅れてゴメンね!!ってあれ?有希だけ?」 長門「・・・・」コク ハルヒ「まったく、どこで油売ってんのよ・・・ん?この本なに?」 長門「それは読んではいけない」 ハルヒ「どうして?」 長門「とにかく読んではいけない」 ハルヒ「読むなって言われると余計に読みたくなってきたわ!」ペラペラ 長門「あ・・・」 ハルヒ「お、私と同姓同名なんて珍しいわね・・・ん?キョンも? てか、私の知り合いと同姓同名ばっかりじゃない!」 長門「単なる偶然」 ハルヒ「そ、そう?まぁ有希がそういうならそうよね」 ペラペラ ハルヒ「ぶひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwなにこのキョンすんごいキモいしウザいwwwwww実際にこんなことやったら蹴り飛ばしてやるわよ」 長門「・・・・・」 ハルヒ「攻略本持ってるくせになにが予知能力者よwwwwww」 ガチャ 「お、ハルヒ来てたのか・・・ってなんでその本読んでる!?」 ハルヒ「これあんたの?すんごい傑作だわwwwww」 「返せ!」バシッ ハルヒ「ちょっとなにすんのよ!まだ最初のほうしか読んでないのよ!」 「これは読んじゃダメだ!」 ハルヒ「どうして?」 「うっ・・・・実は・・・これ官能小説なんだ!!!」 ハルヒ「はぁ?」 「こ、古泉は母子家庭監禁レイプものが好きらしくてな、その本は俺が古泉に紹介してやったんだ。だからお前は読んではいかん!」 古泉「ちょwwwwwww」 ハルヒ「そ、そんなものを神聖なる部室に持ってこないでよ!!」 「お、俺たちは健全な男子高校生だ!!さっきだって部室に俺と古泉と長門の3人しかいないとき2対1の妄想したんだぞ!!親友とエロトークして何が悪い!?」 長門「・・・・・・」 ハルヒ「わ、わかったわよ、うるさい」 古泉「す、涼宮さん・・・そういうことなので・・・」 ハルヒ「ひっ!」ビクッ 古泉「・・・・・・」 ハルヒ「まぁいいわ、でもその主人公が歓喜するほどの高校生活ってどんなのかしら?気になるわ!よしきめた!あたし『涼宮ハルヒの憂鬱』を探してくる!」 「は?」 ハルヒ「『涼宮ハルヒの憂鬱ってタイトルか・・・』ってのがあるなら、『涼宮ハルヒの憂鬱』もあるはずよ!」 ガチャ みくる「ただいま帰りました」 ハルヒ「お、みくるちゃん!来てそうそう悪いけどあたしこれから本探しに行くから!」 「おい!ちょっと待て!」 ハルヒ「じゃ~今日は解散!」 そう言うとハルヒは出ていった みくる「何かあったんですか?」 「あの本を読まれてしまいました・・・」 みくる「ふぇ!?ど、どうしましょう・・・」 長門「『涼宮ハルヒの憂鬱』はまだこの世にはない」 古泉「しかし彼女が望めば・・・ですよね長門さん?」 長門「・・・・・」 古泉「お願いですからひかないでください、こっちだって鬼畜ホモはさすがに辛いんです」 みくる「き、きちくほも!?」 古泉「もう!!キョン君のせいだからねっ!!」 「・・・・・・」 みくる「・・・・・」 長門「・・・・・・・」 古泉「何でもないです」 長門「とりあえずまだ大丈夫」 「じゃ~今日は解散か」 みくる「わかりました」 古泉「うひゃ!」 「ただいま」 キョン妹「おかえりキョン君!今日はご飯一緒に食べれる?」 「おう、昨日の夜の分も食べないとだからな」 キョン妹「やったー!」 しかしどうしようもねぇな、ハルヒのあの目は本気だ。もう発売は決定したようなもんじゃねぇか。ハルヒが本当の神様として仏壇に飾られるのも時間の問題だな キョン妹「今日はロールキャベツだって!」 「おいしそうだな」 妹よ、お兄ちゃんはもうすぐ神様の弟子になっちゃうかもしれない。そしたら精進しないとだから今日はおいしく食べような 次の日の教室 「涼宮ハルヒの憂鬱は見つかったか?」 ハルヒ「ふふ~ん、どうかしらねぇ~」 この様子だと見つかったのか・・・? 放課後の部室 古泉「今日の涼宮さんはどうでしたか?」 「なんか浮かれてるみたいだったぞ」 古泉「ということはまだ読んではいませんねぇ」 「どうしてそうわかる?」 古泉「他人に自分の人生を詳しく書かれるのは気持ちいいとは思えません」 「なるほど」 古泉「ところで母子家庭における内職は刺身のタンポポ作りが(ry」 ハルヒ「お待たせ!!今日はみんなに大ニュースよ!」 「やっぱ見つかったのか?」 ハルヒ「『涼宮ハルヒの憂鬱』は一週間後に発売らしいわよ!」 まだ手に入れてないか。よし、まだ一週間ある ハルヒ「もう楽しみで仕方ないわ!」 そしていつもの部活 長門「パタン」 ハルヒ「今日は解散!」 ハルヒが帰った後、俺たちは残って対策を練った 「一週間でなにができる?」 古泉「涼宮さんの興味を失わせるにしても説得できるような口述はありませんね。ネタバレは本の内容からして使えないですし・・・」 長門「私はもう手を打った」 古泉「ほう・・・なんですか?」 長門「角川書店に発売中止を求める脅迫文書を差出人不明で2万4536通送った」 みくる「ふぇ~長門さんさすがです」 「しかし規模こそは大きいが、ただのいたずらとして処理されちまうんじゃねぇか?」 長門「大丈夫、脅迫に信憑性を持たせることに成功した」 「どうやって?」 長門「日本の大手出版企業および印刷業者の倉庫全部に火を放った。情報操作により報道される可能性はない、安心して」 「ちょwwwww5日後に俺の生きがいであるCOMIC LO発売なのにwwww」 みくる「こみっくえるおーってなんですか?」 「いや、なんでもないです」 古泉「うほーいwwwwwキョン君、個人的には10歳~12歳が(ry」 「まぁ、これで発売に支障をきたすだろう」 しかし俺はハルヒを侮っていた 次の日の部活 ハルヒ「またまた大ニュースよ!!『涼宮ハルヒの憂鬱』の発売が明日になったの!土曜日だから朝一番でいっちゃうわよ!」 なん・・・だと・・・? 「古泉、これは予想外だぞ」ヒソヒソ 古泉「ええ、しかし本はすべて焼き払いましたし・・・」ヒソヒソ 「でも、発売決定ってことは在庫があるんじゃないのか?」ヒソヒソ 古泉「これも涼宮さんの力・・・」ヒソヒソ ハルヒ「ん?私がどうかしたの?」 「そうだよなぁ!古泉、スク水は肩の部分が細くて肩甲骨が見えるのが最高だよな~ははははwwwww」 古泉「いや、個人的には小4あたりの子が見栄はってブラつけちゃうほうが最高ですよwwwwwまったいらなのに胸をはっちゃうとかwwwwwそのプライドを崩してみたいです!!」 「・・・・・・」 ハルヒ「・・・・・・」 みくる「・・・・・・・」 長門「・・・・・・」 古泉「あれれぇ~?」 そして今日もいつもの部活 長門「パタン」 ハルヒ「今日は解散!」 「やっぱハルヒの力なのか?」 長門「おそらく」 みくる「でも、本は焼いちゃったはずです」 長門「私が情報操作で火を放ったのは昨日の午後4時37分、しかし発売予定日が明日になったため書籍の出荷が昨日の午後12時から始まったことにされた」 「ってことはまさか・・・」 長門「4時間と30分の間にかなりの量の本が出荷された」 みくる「ふぇぇぇ~」 古泉「どうやら水際で止めるしかなさそうですね、集積所を一ヶ所一ヶ所、トラックを一台一台炎上させるよりは我々の周辺の書店に的を絞って入荷してから阻止すべきだと」 「なぁ、出荷が早まったならLOも無事か?」 長門「その書籍の発売予定日は変わらないはず」 「そうか・・・・」 みくる「でも火は危ないですよ、書店は人が多いところにあるのですし」 「だったら売れる前に全部買うってのは?」 長門「北口駅の半径2km以内には書店が13店舗ある」 みくる「それにお金が・・・・」 「う・・・」 古泉「では涼宮さんに尾行をつけて涼宮さんがいこうとしている書店を割り出し、購入班に連絡する。そして購入班は書店に先回りし、本を買い占める。お金は機関の予算から出します。世界の存続がかかっているので・・・」 「尾行は誰がやるんだ?」 古泉「機関の人間にやってもらいます。そのほうが何かと融通がきくでしょう」 みくる「涼宮さんが誰かから借りるって可能性は?」 長門「可能性は0に等しい。涼宮ハルヒとその間柄にいる人物は極めて少ない」 古泉「とにかくやるだけやってみましょう」 次の日の午前8時、北口駅前 古泉「おや、今日は遅刻しないのですね?」 「そりゃぁ世界を背負ってんだからな」 みくる「でもさすがにまだ早いんじゃないですか?」 長門「古泉一樹、涼宮ハルヒの様子は?」 古泉「今、聞いてみます」 古泉『森さん、聞こえますか?』 森「聞こえているわ、まったく朝っぱらからどうしてこんなことしなきゃなのよ」 古泉『世界のためです、涼宮さんの様子は?』 森「今は朝食を摂っている」 古泉『そうですか、ではなにか動きがあったらよろしくお願いします』 ピッ 森「まったくなんで部下にこき使われなきゃなのよ」 古泉「涼宮さんはまだ朝食のようです」 「そうか、まだ時間があるか・・・」 午前8時30分 Prrrr 古泉「はい」 森『古泉、涼宮ハルヒが外出した』 古泉「わかりました、尾行を続けてください」 森『涼宮ハルヒは北口駅と反対の方向に向かっているわ』 古泉「そっちの方向には書店はないはずですが」 ビラ配り「よろしくお願いします」 みくる「ふぇ?ああっ!」 「朝比奈さんどうしましたか?」 みくる「このチラシ・・・」 「嘘だろ!?ハルヒの家の近くに本日TSUTAYAがオープンだと!?」 長門「おそらくは涼宮ハルヒが望んだもの」 「古泉!」 古泉「森さん、涼宮さんは今日オープンする近所のTSUTAYAに向かいます。我々では間に合いません。阻止してください。そこさえ阻止すれば涼宮さんは北口駅に来ざるをえないはずです」 森『でも私は今日そんなに金を持っていないわよ!』 古泉「マッチがあるじゃないですか」 森『わかったわ・・・身元引受人を準備しといて』 古泉「ご武運を祈ります」 森「冗談じゃないわ。古泉、これは重大なミスよ。あとでおしおきしてあげる」 9時TSUTAYAオープン 森「走れば間に合う!ラノベコーナーは・・・・あった!」 チッ、シュボッ 客「わぁぁぁぁ!!!何してんだよ!!」 客「店員呼べ店員を!!」 森「がたがた騒ぐんじゃないわよ!世界がかかってるのよ!!」 客「キャー!!」 森「はやく燃え尽きろ!はやく!消火器がきちゃう!」 パチパチッ 森「よし!」 店員「お客さん、ちょっと裏のほうまで・・・」 森「はい・・・」 森「古泉・・・私上手くやったわ・・・」 古泉『ありがとうございます』 森「戻ったらおしおきだからね・・・」 ハルヒ「開店早々ボヤ騒ぎなんて不運な店ね・・・仕方ないわ、北口駅前まで行かなくちゃ」 古泉「森さんがTSUTAYAを阻止しましたがこれから涼宮さんは単独です。しかし涼宮さんが来るまでまだ時間があります。その間に北駅口駅前の書店のうちで「涼宮ハルヒの憂鬱」を入荷したとみられる4店舗を片付けておきましょう。おそらくこの4店舗巡ってもなかったらあきらめるでしょう。」 紀伊国屋書店 「すいません!この本の在庫ありったけ下さい!」 店員「は、はい!」 みくる「ふぇ、重いです・・・」 古泉「まだ一店舗目ですよ」 長門「・・・・」ヒョイッ 八重州ブックセンター みくる「す、すいません!こ、この本をあるだけくださーい!」 「2店舗目でこの重さかよ・・・」 古泉「まだ半分です」 長門「・・・・」ヒョイッ ジュンク堂書店 古泉「この本をありったけください」 「おわっ!」 みくる「ぬぉぉぉぉぉ!」 長門「・・・・・」ヒョイッ 未来屋書店 長門「この本を全て」 みくる「おらよっと!」 古泉「さすがにキツイですね」 「ああ・・・・・」 北口駅構内 ハルヒ「なんでどこもないのよ、まだ午後11時なのにどこも売り切れてるなんて・・・。 そんなに注目されてる作品なのかしら?もう帰ろう・・・」 鶴屋さん「あれぇ~?そこにいるのはハルにゃんじゃないかっ!」 ハルヒ「あ、鶴屋さん!って朝帰り!?」 鶴屋さん「まぁ、そんなとこだねっ!」 ハルヒ「へ、へぇ・・・」 鶴屋さん「いや~楽しかった!親戚のチビッ子たちはもうめがっさ元気さっ!」 ハルヒ「あ~そういうことね・・・・」 鶴屋さん「ところで隣の市の本屋でおもしろい本見つけたさっ!これ登場人物がハルにゃんとかキョンくんとかと名前が同じでめがっさ似ているにょろ!」 ハルヒ「!!鶴屋さん、これ貸して!」 鶴屋さん「へ?べつにかまわないさっ!」 ハルヒ「ありがとう!それじゃバイバイ!」 鶴屋さん「ハルにゃんはあいかわらず元気だにょろ」 駅前 古泉「本の回収後、僕が駅前の様子を伺っていると涼宮さんは我々が本の回収を終えた10分後に駅前に現れ、我々が本を回収した4店の書店を巡って何も購入せずに駅に入っていきました」 「ついにやったな・・・」 古泉「はい、これで世界は救われました。在庫はおそらく当分はないでしょう。あと我々が回収した本は機関のほうで処分します」 みくる「でも涼宮さんの力で在庫が増えたりはしないんですかね?」 長門「今のところそのような動きはない」 「まぁハルヒも高校生なんだし我慢くらいできるだろ」 古泉「では今日は解散しましょう、お疲れ様でした」 みくる「お疲れ様でした」 長門「おつかれ」 「おつかれさま」 「ただいま」 キョン妹「おかえり!お昼ごはん食べた?」 「いや、今日はまだだ」 キョン妹「じゃ~一緒に食べよう!」 「おう、食べるぞ!」 こうして俺はまた家族とおいしくものを食べられる。今日の昼食は休日だけあって手抜きだが格別においしく感じられる。明後日の学校もきっと平和なんだろうな 月曜日の学校、今日のハルヒはやはり不機嫌なようだ 「本は手に入ったか?」 ハルヒ「手に入れたわよ」 なんですと!? 「ど、どうやってだ?」 ハルヒ「買いにいったらどこも売り切れていたんだけど、鶴屋さんとばったりあったら本を貸してくれたの。隣の市で買ったらしいわ」 それはどうしようもないなぁ・・・お手上げだ。ハルヒ神様誕生おめでとう 「本はもう読んだのか?」 ハルヒ「読んだわよ」 「どうだった?」 ハルヒ「ダメね・・・あんなに現実離れした話があるわけないわ。確かに登場人物は私たちと同姓同名で似てていてやっていることも同じようだけど、所詮は空想の世界よ。」 「ほう・・・」 あれ? ハルヒ「だって古泉君が超能力者で謎の組織に所属していていつかあたしが見た夢にでてきたような巨人と戦っているわけないじゃない。しかもその巨人はあたしの欲求不満の表れだとか・・・私もそこまで子供じゃないわよ」 そっか・・・俺たちの中では当たり前になっていることは一切ハルヒには見えないんだったな ハルヒ「みくるちゃんが未来人で時間を遡って私を監視しているわけないじゃない。どう見ても魔法少女って言われたほうが信じたくなるわ」 まぁそうだが、現実なんだよ・・・ ハルヒ「有希が宇宙人?宇宙人ならあたしたちもう食べられてるわ。読書好きな文学少女タイプの宇宙人なんてどこの秋葉原よ?あんな華奢な体で特殊能力とか使ったら体が壊れるじゃない」 俺はその華奢な少女に何回も助けられたか弱い男なんだが ハルヒ「そしてあたし、あたしの望みがいつも叶うならどうしてこの世界はもっとおもしろくならないの?」 いやもう十分叶ってますよ、知らないだけで・・・ 「お前はあの本の中に行きたいと思うか?」 ハルヒ「そうとは思わないわ。」 「でもこの世界は楽しくないんだろ?」 ハルヒ「あの本の世界のほうが楽しくなさそうよ、自分の身近な人たちは自分を監視するために自分の近くにいるなんて知ったらショックじゃない。あたしのひとつひとつの行動でギクシャクするのよ?」 何もいえない・・・ ハルヒ「でもあたしは宇宙人、未来人、超能力者を信じるわ」 「どうしてだ?」 ハルヒ「だってそのほうが楽しそうだからよ!」 結局それか 「そうか・・・そういえばなんでお前は不機嫌なんだ?」 今回の俺たちは骨折り損だったな・・・ハルヒは「涼宮ハルヒの憂鬱ってタイトルか・・・」の主人公のように要所要所が同じだとか、似ているだとかの理由で全てを知った気になるような人間ではない。ハルヒ自身は物事の真意を見たことないのにそうだと信じ込む愚かさを弁えている ハルヒ「だってあの本の中のあたしはキョンのことが好きみたいじゃない・・・」ボソッ 「へ?」 ハルヒ「なんでもないわよ!」 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2559.html
『2年前、あの光の巨人が暴れたとき、初めて機関という存在を僕は知った。テレビ演説で華々しく公表された超能力者を 有する組織。多分、これが平和な日常の中だったら誰も信じず、ただのオカルト話として笑いのネタにされていただけだと思う。 だけど、あんな大惨事の後だったから、みんな簡単に信じてしまった。その存在と目的、そして、惨劇の原因について』 朝倉撃退後の夜、俺は機関の連中や谷口の目を盗んで、国木田のノートを読んでいた。どうやら、ここに来る前までに 書いていたものらしい。内容はぱっと見では日記帳のように見えたが、よくよく読んでみると回想録のようなものだった。 個人的な思い出を語るものだったら、プライバシーの侵害になるからあわてて閉じるつもりだったが、 その内容は興味深い――それどころか俺の猜疑心をえらく揺さぶるものだった。 特に、一番最初のページにあわてて付け加えられたように書かれていた文。 『キョン、僕の身に何かあった事を考えてこのノートを託すよ。でも、このノートの内容は機関に属する人間には決して 見せないこと。もし見せればキョンの命の関わるからね。機関を信じないで』 訳がわからなかった。国木田の奴、人の荷物に何でこんなものを仕込んでいたんだ? 大体、命に関わるって…… 俺は近くで新川さんと談笑する古泉の姿を横目で見る。二人とも明日の移動ルートについてでも話しているのだろう。 ほどなくして、森さんと多丸兄弟が見回りから帰還し、その環に入る。確かにプロフェッショナルな雰囲気を醸し出す彼らだったが 今までふれあってきた限り危険視しなければならないような人たちには見えない。対朝倉戦では、 これ以上ないほどに俺を守ってくれたしな。 まあ、そんなことを言っても国木田ノートの内容の続きが気になるので、こっそりと読み続けることにする。 『……この日、僕は難民キャンプへと移送された。家に帰ろうにも、すでにそこは閉鎖空間に飲み込まれているらしい。 やむえず、遠く離れたところで仮設住宅暮らしをすることになった。幸い、友人たちも多くいたから、寂しくはなかったけど。 そんな生活が続いて半年ぐらい経った後、機関の人間たちがやってきた。用件は僕をスカウトしたいらしい。 最初は新手の詐欺か何かと思ったよ。だって僕に超能力があるとは思えなかったし、特化したものも大して無かった。 そんな僕をどうして? と思ったけどどうやらキョンがらみの話らしい』 ――俺はついノートの内容に没頭していることに気がつき、あわてて周囲を見渡す。幸い、機関組はまだ話し合いを続けていた。 ほっと胸をなで下ろして、次のページを開く。 『どうやら機関はキョンが目覚めた後、閉鎖空間の中心に攻勢を仕掛けるつもりみたいだった。この時点でキョンは半年以上 眠ったままだったのに、気が早すぎるんじゃないかと思ったんだけど、なぜか彼らはいずれキョンが目覚めることを 確信しているみたいだった』 確信? 古泉はありとあらゆる手段を行使したが、俺を目覚めさせることができなかったと言っていたんだが。 それともその内目覚めるに違いないと希望的観測でもしていたのだろうか。まさか、俺の目覚める時間を知っていたわけが…… 俺は次のページを開き、その内容に目を疑うことになる。 『結局僕は機関に入ることになった。提示された報酬も悪くなかったし、何よりもお世辞にも良いとは言えないキャンプ生活から 家族とともに抜け出せるからね。ただ、家族とは離ればなれにされてしまった。閉鎖空間という機関の機密の中枢に 関わることになるから少しでも情報漏洩の芽は潰しておく必要があるだってさ。しかも、書かされた誓約書は物騒な文言が 並んでいて、機関の任務遂行に影響を及ぼす問題を引き起こせば、最悪極刑もあり得るとか書いてあるほどだよ。 このときはちょっと機関入りを後悔したね。その後、いろいろな訓練とか説明とかを半年ぐらい受けた後に、 ようやく僕がやるべき任務の内容を教えてもらった。複雑な説明はややこしくなるだけだから避けて、簡単に要約すると キョンが目覚めた後、機関の人たちと一緒に北高に向かうってことだった。大体、予想していたことだったけど その中で驚いたのがキョンが目覚める日時が具体的に示されていたこと。機関はずっとキョンの治療や昏睡状態の原因解明を 続けていると言っていたのに、どうしてそんなことがわかるんだろうか? 僕の頭に初めて疑念が生まれたのはこの日だった。 キョンを眠らせているのは機関なんじゃないかって』 「何を読んでいるんですか?」 突如俺にかけられる声。目を離せない国木田ノートの内容に没頭している中での事だったので、 思わず悲鳴に近い驚きの声を上げてしまいそうになるが、ぎりぎりのところで飲み込むことができた。 俺はできるだけ冷静さを保ちつつ、 「ああ、せっかくだから体調管理とかを兼ねて日記をつけているんだ」 「なるほど。それは感心なことです。せっかくだから任務完了後に一緒に自伝でも出版しませんか? 閉鎖空間滞在日記~~それでも僕たちは諦められない~~という感じで」 「俺は自分の日記を世間に公表するほど派手な人間じゃねえよ」 そう軽く受け流して、国木田ノートをバッグの中に片づけた。 機関が俺の目覚める時間を正確に把握していた。ひょっとしていたら俺を昏睡状態にしていたのは機関なのかも知れない。 確かにこのノートの内容を機関の連中に見せるわけにはいかないな。 ◇◇◇◇ 「そうですか。あの時長門さんと再会していたんですね」 「ああ。ずいぶん久しぶりに声を聞いたよ」 「何か言っていませんでしたか? 涼宮さんの具体的な居場所や現在の状況など」 「いや……何かに追われているみたいだったぞ。すぐにどこかにいっちまった」 「そうですか……少しでも有益な情報が得られればと思ったんですが……」 古泉は残念そうな笑みを浮かべて嘆息した。 翌日の朝。俺たちは北高への移動を再開した。正直、第2第3の朝倉が出現するんじゃないかと思っていたが、 全くトラブルもなく順調に目的地との距離を縮めていっていた。このペースで歩けばあと2~3日で北高に到達できそうだが…… はっきり言って国木田ノートの続きが気になって仕方がねえ。あの後、古泉たちの目が終始俺に向けられているような気がして 結局続きを読むことができなかったせいだ。とんでもなく重要な事を見せつけられておきながら、続きが読めないでは 生殺しも良いところである。 ついそわそわしているところが身体に出てしまったのか、古泉が俺をのぞき込むように、 「どうかしましたか?」 「……何でもねえよ」 そう言ってかわした。 さて、気がついてみればもうA島の最北端に近くなり、着々と目的地に近づきつつある。 だが、あの国木田ノートを見てから俺は先に進むことに激しい抵抗を憶えるようになって来ていた。 機関は俺が目を覚ますタイミングを知っていた。いや、俺を昏睡状態にし続けていたのが機関なら 俺をいつでも目覚め指させることができる。ならどうしてそんなことをする必要がある? これから何をしようとしている? ああ、そういや俺を眠らしていたのが機関なら、そのきっかけとなった交通事故を起こしたのも連中なのか? そうなると事故から閉鎖空間の発生、そして、機関の存在を全世界へ公開し俺を目覚めさせて北高に向かうという流れは 奴らが全て仕組んだものだったのか? だったら何のために? 俺が思考をめぐらしている間に、自動車道のICが見えてきた。朝倉に襲われた場所とは違い、ここは無傷で残っている。 ここを越えればA島と本土をつなぐ連絡橋まではすぐで、橋を渡り終えてしまえば北高は目と鼻の先だ。 機関の行動の疑惑が出てきている以上、安易に先に進むわけには…… 地図を確認すると、このICはSAもあるようだ。ある程度留まれる環境はあると考えても良い。 俺は古泉の方に振り返り、できるだけ本心を悟られないように疲れた表情を浮かべて、 「古泉。ちょっと話があるんだが」 「何でしょうか。改まって」 ――ここでヘルメットを脱いで―― 「前回の朝倉との戦いで思い知ったんだよ。ここでは一瞬のミスで命を落としかねないって。 国木田がやられたのも一瞬の出来事だったしな」 「その通りです。これからはあれ以上に厳しい状況に追い込まれるでしょう。以前にこの辺りに入った偵察隊が 無傷で出てきたことは一度もありませんからね。で、何が言いたいんですか?」 ――ここで一旦躊躇するようなそぶりを見せてから―― 「言いにくい話なんだが」 「遠慮無くどうぞ」 「俺は疲れている。昨日の戦いの疲労が蓄積しているみたいで、正直歩くだけでもつらい。こんな状態でさらに危険地帯に 入ってもいいのかと思うんだ。もっときっちり疲労を取ってから進むべきじゃないかってな。幸い敵の襲撃もここじゃなさそうだ」 「正論ですね。身体が弱っている状態で敵に遭遇すれば、まともに戦うこともできずにただやられてしまうだけです。 休息も戦いの内と言えますからね。それにこの辺りまではいると無線で外側と連絡も取れなくなります。 怪我一つが致命傷になりかねません」 ――俺は古泉に軽く頭を下げて―― 「すまない。閉鎖空間に入ってからこれで3度目のわがままになっちまうんで、自分でも言いづらい話なんだが……」 「良いですよ。正直、僕も超能力を使ったおかげで結構疲労があるんです。朝倉涼子との戦いで中心的役割を果たした 森さんたちはそれ以上でしょう。ただ任務を果たすために口に出さないだけです。あなたが休息したいと言えば森さんたちも きっと喜んで賛成してくれますよ」 古泉はあっさりと俺の申し出を受け入れてくれた。だが、あまりに簡単に受け入れすぎて逆に不安を煽られた気分になる。 機関は先を急いでいないのか? それともいつでも北高に行けるということなんだろうか? いや、考えすぎだ。まだ国木田ノートの内容は全部読めていないし、大体それが事実とは限らない。 あれだけ俺のことを助けてくれた人たちだ。安易に疑うのはやめよう。 と、後方を歩いていた谷口が追いついてきて、 「なんだよぉー。またストライキか、キョン。おめーは本当に貧弱だなぁ」 「……仕方ないだろうが。あれだけの戦いを見せつけられた後じゃ、万全に万全を期したくもなる」 「まっ、そーだな。実を言うと俺もちょっと疲れ気味だからな。助かったぜ、サンキュな、キョン」 そう俺の方にぐっと親指を上げる。そう言えば、谷口はどうなのだろうか? 国木田とこいつは機関にスカウトされた 立場のはずだ。ならこいつには国木田ノートの内容を話しても良いのか? いや、待て。焦らずにとりあえずノートの続きを 確認しよう。きっと谷口についても何らかの言及があるはずだ。 やがて、前方を歩いてきた森さんたち機関組が俺のところまで戻ってきて、 「話は古泉から聞きました。100メートル先にあるSAでしばらく休息を取ることにします。新川。最大でどのくらい休める?」 「食料を考えれば三日は留まれるでしょうな」 新川さんの返答に森さんは軽く頷き、 「わかりました。では三日ここで休息し、その後に連絡橋を越えて閉鎖空間の中心部分に突入します。 恐らくこれ以降急速を取ることは困難になるでしょうから、各員しっかりと疲れを取ること」 俺は森さんの言葉に感謝の気持ちを持つように心がけた。 ――無理にでもそうしないと、疑念ばかり向けてしまうからだ。 ◇◇◇◇ SA到着後、俺はトイレと偽って機関組と谷口から目の届かない部分へ移動する。留まれるのは三日間だけ。 その間に国木田ノートを全て読み、今後どうするのかを決めなければならない。 俺は適当な林の中に入り、茂みに身を隠した後、腹の部分に押し込んでいたノートを取り出す。 『機関に入ってから僕は独自に疑惑について調査を始めることにした。でも、重要な任務を与えられているとはいえ、 立場は末端の兵士と同じようなものだったから表向きの情報しか得ることしかできなかった。 そこで、北高時代にキョンと同じSOS団にいた古泉さんに近づくことにした。最初はあまり話す機会がなくて接点を 持てなかったけど、その内一緒に訓練することも増えてきてだいぶ親しくなることができた。 プライドが高くて話しづらいような印象があったけど、話してみるとなかなかフランクな人ですぐに仲良くなれたよ』 古泉がフランクねぇ……記憶の大半がSOS団時代のもののおかげで、ニヤニヤしているイエスマンというイメージの方が 強いせいか違和感を憶えるな。 『ちょうどそのころ、谷口が機関にいることを知った。キョンの知り合いと言うことで僕がスカウトされたから ひょっとしたら谷口もそうじゃないかと思っていたけど、それが現実になっていたみたいだ。 ほどなくして予想通り僕と同じプロジェクトチームに配属されてきた。でも、相変わらずの調子ぶりで安心したよ。 機関の人たちはいまいち信用できなかったから、久しぶりに楽しく話せる相手ができて嬉しかった。 さすがに一時間ものろけ話を聞かされるとうんざりしてきたけどね』 谷口はずっとあんな調子なのか。全く国木田も苦労しただろうな。 『古泉さんとの仲をきっかけに僕はじわりじわりと機関の中枢に入り込めるようになっていった。 結構ランクの高い機密文書とかも見れるようになったし、公表されない情報も耳にはいるようになってきていたけど、 やっぱりキョンや閉鎖空間の発生にどう介入したのかまではわからなかった。 ただ僕が決して知ることのできないトップクラスの機密情報というものはやはり存在していることには気がついた。 となればやはりそこに知りたい情報があるに違いない』 ――次のページへ進んで、 『さすがに機関の最高機密だけあってなかなかそこにたどり着けなかった。色々やったよ。機関幹部の尾行はもちろん クラッキングから立ち入り禁止ゾーンへ不法侵入して文書をコピーしたりってね。 ある時は訓練名目で閉鎖空間内に入れてもらったりもした。でも、結局わからずじまい。 気がつけば、キョンが目覚める予定まで一週間になっていた。けどそんな絶望的な状況の中、ある日僕宛のEメールが届いた。 宛先は巧妙に偽装されているらしく誰が送ってきたのかはわからない。だけど、そこに添付されていた情報は 僕がずっと追い求めていたものだった』 と、ここでつい読みふけってしまっていることに気がついて時計を確認する。気がつけばトイレ使用の数倍の時間が 経過していた。これ以上、ノートを読みふければ心配した古泉たちが探しに来るかも知れない。 俺ははやる気持ちを抑えてノートを閉じた ◇◇◇◇ 俺がSAに戻ろうとしているときに、駐車場の脇で森さんと古泉が何やら話し込んでいるのに気がついた。 すぐに二人の前に出ようかと思ったが、 「彼の様子はどう?」 「昨日から少し様子がおかしいですね。朝倉涼子との一件かと思いましたが、その日の夜は特に変わったそぶりはなかったですね」 こんな二人の会話を聞いてしまうと出れなくなってしまう。まずい。やはり俺の変化を悟られているのか? 国木田ノートの一件もあるので、俺はそのまま身を潜めて二人の会話を盗み聞きすることにした。 「そう。何かきっかけになったようなものはあった? 些細なことでも教えて」 「そうですねぇ……そう言えば、昨日日記をつけていたようですが」 「日記? 以前はつけていた?」 「いえ、昨日僕も初めて気がつきましたね」 国木田ノートの話をしているのか。幸い古泉は日記だという俺の言葉を信じてくれているみたいだが、 どうやら森さんはその部分に何かを感じ取っているらしい。まずいな。余り深く追求されて、日記を見せろなんていわれれば 本当はそんなものを書いていないんだから出しようがない。荷物検査をされれば一発でノートの存在がばれるだろう。 こんなことならダミーの日記を作っておくべきだったか? ふと、俺の方に森さんの視線が向かっていることに気がついて、あわてて茂みの中に頭を引っ込める、 まずい、気がつかれたか? ここで盗み聞きをしていることまで見つかれば、余計森さんは疑惑を強めるだろう。 だが、幸いなことに森さんは俺の方に気がつかなかったらしく、古泉との会話を続ける。 「……まあ、いいでしょう。確かに全員に疲労があるのも事実だわ。特に不自然なところも見当たらない。 問題なしとして処理します」 「わかりました」 そう言うと二人はSAの建物の方に歩いていった。やれやれ。何とかばれずにすんだか。 俺は二人の姿が完全に見えなくなってからSAへ戻った。 ◇◇◇◇ SA内に戻ると、森さんたち機関一同が何やら談笑をしていた。いつもはキツイ表情で辺りを警戒しているというのに、 珍しく明るい笑顔を浮かべて何やら話し込んでいる。 一番以外なのは森さんだ。メイド姿の時は作り笑顔っぽかったし、朝比奈さんが誘拐された時は笑顔だったとはいえ、 あれは楽しさから来るものではなく、相手を脅迫する威圧のものだ。しかし、今の笑顔はまるで子供のように屈託のない笑顔を 浮かべている。それは――なんつーかだ。はっきり言って可愛い。表情から年齢を読み取りづらい森さんではあるが、 今の笑顔を見ている限りは俺と同い年ぐらいじゃないかと思いたくなるほどだ。 「お~い、キョン。お前何見とれてんだよ~」 気がつけば俺の肩に手を回して、ニヤニヤ顔を浮かべている谷口が隣にいる。俺はあわてて首を振って、 「別にただ何を話しているのかっと思ってみていただけ――」 「嘘だなウソUSO! おまえの視線は完全に森さんにロックオンされていたぜ。いくら言い訳しても俺の目はごまかせねえぞ」 お前の目ほど信用にならないものは無いと思うぞ。 そんな俺の疑惑の視線を完全に無視して、谷口は得意げに 「だがよー、おまえの気持ちもよーくわかるぜ。だって森さん可愛いじゃねえか。凛としたときは大人の魅力を、 笑ったときは少女の魅力は振りまくっているんだからな。俺は未だかつてあれクラスの女には出会ったことがねえぞ。 そうだな――朝倉のAA+以上のSS+の称号を与えるほどにだ」 「お前から与えられる称号なんて、ただ不名誉なだけだろ。大体、事実上のフィアンセがいるくせに、そんなに色気づいていて いいのか? 彼女が聞いたら悲しむぞ」 俺のズバリな指摘で谷口は動揺するかと思いきや、やたらと真剣な表情で俺の肩をつかんだかと思うと、 「良いかキョン。男ってのはな、悲しかな可愛い女性やりりしい女性に反応しちまうもんなんだ。 見てみろ。あんな笑顔を振りまく女性がいるってのに、欲情の一つもしないってのははっきり言って男失格だぜ? ずっと涼宮一直線だった不健康極まりないお前にはわからんだろうけどなぁ」 俺の知っている限りナンパ成功率0%で歩く公衆欲情マシーンのお前を基準に世界中の男の常識を語られても それこそ全人類の男性を敵に回すだけだぞ。 「あー? どうやらお前が眠りこけていた間に鍛え上げたナンパテクニックを見せてやらなきゃわからないようだな。 なら今から森さんに突撃しようぜ。俺の華麗な話術で森さんが独身かどうなのか聞き出してやるからよぉ」 そう言って嫌がる俺を引っ張り、機関組の話の中に突入する谷口だ。やれやれ。こいつは本当に変わっていないな。 それからしばらくの間、ここにいる全員で朝方の子供たちを送り出した後に行われる奥様方の井戸端会議の如く、 雑談に興じることになった。 森さんや新川さんの今までの活躍ぶりを多丸兄弟がおもしろおかしく話してくれた。 新川さんの戦地でもっとも危険な状態に追い込まれたときの話はやたらと緊迫したムードで聞くことに。 超能力者になりたての時の古泉の話は興味深く聞かせてもらったが、こっそりと古泉が耳をふさいでいたことが一番の収穫だな。 どうやらこいつでも見返したくない過去ってものがあるようだ。しばらくはこのネタでからかってやるか。 ちなみに谷口の巧妙なる話術による『森さんは独身なのか否か聞き出してやる作戦』は見事な森さんの会話テクニックにより、 すべて煙に巻かれてしまった。ところで谷口。お前の巧妙なる口説き文句って歯の浮くような露骨ものばかりだぞ。 2年間経っても全く成長していねえじゃねえか。ま、せっかく可愛い彼女がいるんだから、身の丈をきっちり把握して あまり無茶な色気は出さない方が身のためってところだな。 この数時間の雑談の間、俺は完全に国木田ノートの存在を忘れてしまっていた。ここまで機関の人たちと心ゆくまで話したのは 初めてだったが、みんなこれ以上ないほどにいい人たちだ。こんな人たちを疑うなんてどうかしている。 この時、国木田ノートを破り捨てることができれば良かったんだが…… ◇◇◇◇ その日の夜。相変わらず機関の人たちは周辺への警戒で出払っていた。あれだけ動き回っていると休息にならないんじゃないか? と思いつつも、今の俺には出払ってくれてもらっていた方が好都合だ。谷口は俺の護衛って事でここにいるが、 さっきから携帯ゲームに夢中になっているから無視しても問題ないだろう、 俺は谷口から少し離れたところに座り、国木田ノートを取り出す。機関の人たちと雑談を満喫した後で このノートを開くのははっきり言って気が進まなかった。むしろ、古泉たちにこいつを差し出してしまいたくなる。 しかし――今までのノートの内容を思い出していくにつれ、さっきまでのワイワイ気分が薄れていった。 機関がこの閉鎖空間発生に何らかの形で関与している。これに興味や好奇心、猜疑心が揺すぶられない方が どうかしているってもんだ。 俺は首を2,3回振ってノートを開いた。機関が何かをたくらんでいても、森さんや古泉がそれを知らない可能性だって 十分にあり得るんだから。そうならすぐに古泉にこいつを差し出して、その陰謀を打ち砕いてやればいい。 ただ、用心を用心を重ねておいた方がいいと思い、いざ誰かに見つかっても日記帳だとごまかせるように、 ボールペンを手に持っておく。ノートの後ろのページは何も書かれていない白紙だったのでそこに何かを書いているふりで ごまかせるだろう。 『Eメールの本文は【君が知りたいものを送る】とだけ書かれていた。ウィルスメールかスパムかと思ったけど、 いざ添付ファイルを開いてみると、膨大な量の資料があったんだ。全部読むのに三日間はかかったね。 で、肝心のその内容だけどどれも衝撃的なものばかりだった。かなり複雑かつ膨大な量の内容のため、 僕なりにまとめた上で目的別にその真相を記していく』 次のページからの内容に俺は……はっきり言おう。怒りを覚えた。さっきまでの楽しい雰囲気なんて完全に飛散して 世界中で怒鳴り散らしても収まらないほどに。 『まず、全ての始まりであるキョンが事故にあった件は予想通り機関が関与していた。 事故を装ってキョンに怪我を負わそうとしたんだ。キョンが死に至る可能性は考慮されたけど、 機関内では涼宮さんがそれをさせないと結論を出したみたい。そして、それは実行され予想通りキョンは事故にあったにも かかわらず無傷の状態になっていた。けど、そのままでは何もならないので、気絶している間に薬物を投与し 昏睡状態に陥らせてたんだ。継続して薬物の投与できるように機関の息のかかった病院に入院までさせた』 ――俺は怒りで震える手を押さえつつ先を読む。 『どうしてこんなことをしたのか。その理由はあの涼宮さんの情報創造能力が目的だった。 機関はあの能力を手に入れようとしていたみたい。けど、能力を人に渡すなんていうことはできないから、 涼宮さんにショックを与えて呆然喪失状態に追い込み、あとは薬物でも何でも使って何でも言うことが聞く人形に仕立て上げようと した。事実、キョンが入院してからというもの涼宮さんの精神状態はきわめて不安定状態になり、 閉鎖空間の発生が乱発していた。機関はその心の隙間を利用して涼宮さんに近づこうとしていた』 なぜだ? 機関は内部に異論があるとはいえ、大半はずっと現状維持を貫いてきたはずだ。 どうしてここに来てハルヒの能力を手に入れるなんて言うばかげたことを考え始めたんだ? 俺はページをめくって読み進める。そこにはまるで俺の疑問に答えるかのような内容が書かれていた。 『機関はずっと涼宮さんの精神状態を安定させて、現状を維持するという方策をとり続けてきた。 涼宮さんがどれだけすごい能力を持っていたところで、しょせん地域限定の超能力者を保有しているだけの機関では 利用のしようがなかったからね。それに情報統合思念体という強大な勢力が涼宮さんの観察を続けている以上、 手出しは厳禁と言っても良い。うかつなことをして彼らの怒りを買えば、一瞬でこんな地球なんて滅ぼされるかもしれない。 だからこそ、現状維持を貫いてきたんだ。でも、ここに来てその状態を覆す存在が現れた。それが情報統合思念体が天蓋領域と 呼ぶ勢力。彼らもまた涼宮さんの能力に興味を示していた』 別の宇宙人勢力の出現により力の均衡が変化したと思ったのか。スケールは壮大だが、考えることはしょせん人間って事だな。 『ちょっと話が逸れるけど、機関の中心的メンバーには結構なナショナリストがいたりする。ま、いわゆる極右って奴だね。 そう言う人間は多くのTFEI端末を派遣し、いつでも地球を握りつぶせる勢力である情報統合思念体に恐怖する一方 反発もしていた。事実上地球は情報統合思念体に支配されているに等しい。我々は彼らに媚びを売って生きていくことしか できていないと。だから、どうにかして現在の状況を変えてやりたいと思っていた。涼宮さんの能力を使えば 情報統合思念体の影響力を地球から排除して、真の独立を得られる。しかし、その能力は一人の少女の気まぐれでしか使えない。 またたとえ身柄を拘束しても使い方がわからない。そんな行き止まりの状態に希望の光となったのが天蓋領域だった。 彼らの協力を得られれば、涼宮さんの能力を使い放題にできるかも知れない。実のところ、情報統合思念体にも同様の協力を 要請していたらしいけどつっぱねられたみたいだね。でも、天蓋領域と接触して交渉した結果、彼らはあっさりと了承した。 捕獲は機関が行い、その能力の解析を天蓋領域が行い、涼宮さんの能力を機関・天蓋領域で共有して使用するという条件で。 全くひどい話だよ。本人の意志は完全に無視だから』 本当にひどい話だ。ハルヒの意志は完全に無視して、そんな野望をたくらんでいやがったのか。 『その目的でキョンは昏睡状態に追い込まれた。情報統合思念体も動こうとしたけど、天蓋領域が本格的に牽制を始めて にらみ合いの状態になっていたらしく手出しができなかった。その間に機関の計画は着々と進行し、 ついに涼宮さんは部室に閉じこもりっきりの状態まで追い込まれてしまっていた。後はそこで彼女の身柄を拘束して 作戦の第一段階は完了する予定だった』 ――次のページをめくり―― 『でも、身柄拘束の際に予想外の事が起こった。涼宮さんが現実世界にあの青白い巨人――神人を世界中に発生させたんだ。 どうやら襲いかかってくる人たちをすべてなぎ倒そうと思ってしまったみたいだね。そこまで追いつめられていって事だよ。 結局、機関はその場で身柄を押さえることができず世界中の神人の対処に追われ、作戦は事実上失敗に終わった。 でも、それでも機関はまだ諦めなかった。しつこいことに次の作戦を実行に移そうと――』 ――ここで、俺の視線に人影が入る。あわててノートの最終ページを開いて、何かを書いているふりを始める。 視線をちょっと上げてみると、多丸兄弟が見回りから戻ってきたらしい。ちょうど俺の前を歩いて通過していた。 以前ならまじめな顔で歩いているだけにしか見えなかっただろうが、今では全身から何か黒いものを吐きだしているように見えた。 この人たちが心底機関のやり方に賛同しているなら、一緒にいることは危険だ。 俺はノートを閉じ、荷物の中に隠す。見れば、森さんたちもSA内に引き上げ始めていた。 今日はこれ以上読むのはまずい。続きは明日にするしかないが、まだ肝心な部分が読めていなかった。 今俺たちが北高へ何をしに向かっているかの部分だ。それを読まない限り、俺が今後どうするかはまだ決められないんだ。 ふと空を見上げると、灰色の空に灰色の月が昇っている…… ◇◇◇◇ 俺は朝早くにまたトイレと偽ってSAを抜け出した。もちろん国木田ノートを読むためだ。 移動再開まであと二日あるが、機関の本当の目的がわかった以上、早く全てを読み終えて対策を練らなきゃいかん。 少なくともこれ以上古泉たちと一緒に移動するのは危険だ。 ――ふと、俺は古泉のニヤケスマイルが脳裏に浮かべた。あいつはどうなんだろうか? SOS団に入ったときはさておき 最近では副団長の地位に満足していると言い、SOS団のためなら機関を一度だけ裏切るとまで言ってのけた。 2年経ってもその考えは同じなんだろうか? それともその発言そのものが俺を安心させるためだけの方便だったのか? いや、そんなことを今考えても仕方がない。とにかくノートを読み終えなくては判断のしようがないんだ。 『しつこいことに次の作戦を実行に移そうと動き始めた。神人を全て排除した時には北高を中心に巨大な閉鎖空間が発生して、 うかつに近寄れない状態。最初はもう一度超能力者を使った上で、特殊部隊を突入させて涼宮さんを捕らえようと考えた。 でも北高に行った人たちは誰一人として帰ってこなかった。どうやらもう力押しではどうにもならないと理解した機関は、 路線を変更する。まず機関の存在を世界に知らしめ、閉鎖空間の発生原因が涼宮さんにあると宣言した。 世界中が訳のわからない化け物と灰色空間でめちゃめちゃの状態に併せて、神人を撃退したという実績のおかげで 世界からはすんなりと機関の存在と主張は受け入れられたよ。そうやって機関は世界中の協力を得られる立場になった』 自分たちがその原因を作ったくせに、ぬけぬけとハルヒに全責任を追いやるなんて、機関の連中の程度が知れる。 『機関は自由に世界中の軍事力を利用して、閉鎖空間の状況を調べた。どこまで入れるのか。どこが危険なのか。 徹底的に人的資源を使って調べ尽くしたよ。一方でキョンの存在が涼宮さんに与える影響についても調査を行った。 どうやら涼宮さんはキョンの存在を認知しているみたいで、閉鎖空間に近づけると拡大が停止するという 具体的な効果も確認できた。そこで機関は準備が整い次第キョンを目覚めさせて閉鎖空間に突入するという作戦を立てた。 当然嘘の情報を与えて涼宮さんを救い出そうという気持ちにさせた上でね。ただ、キョンも見知らぬ人と一緒に行動するのでは 精神的に不安定になる可能性もあるから、顔見知りの機関の人たちと僕と谷口が突入部隊に選ばれた。 そして、国連軍による大攻勢も失敗した時点で最後の手段になるこの作戦が実行されることになった』 具体的な作戦内容はないのか? 北高についてから何をするかとか…… その答えは次のページに書かれていた。 『作戦は短絡的といっても良いようなもので、まずキョンを北高に連れて行く。当然、涼宮さんはキョンを攻撃できないから 高い確率で無事につけるはず。そして、涼宮さんを確保後、彼女の目の前でキョンを殺害し混乱状態に陥ったところで 薬物注射により思考能力を奪う。これで何でも言うことの聞く人形のできあがりってわけだね。キョンはあくまでも機関の人を 無事に北高に送り届けるための道具に過ぎない』 あいつら……! 散々人を騙しておいて、最後は俺を殺すつもりだったのかよ! なんて野郎どもだよ! 怒りで目の前が真っ赤になる。頭の血管の一つが切れて、血が吹き出るんじゃないかと言うほど血が上っていた。 だが、まだ続きがある。 『この作戦がわかった時点で、僕は一度機関から脱走しようと思った。だけど、すぐに思い直したよ。 ここで逃げ出してもすぐに追っ手が来るだろうし、僕に関係なく作戦は実行されるだろうしね。 僕はあくまでも念には念をってだけの利用価値しかないから。だから、逆にこの作戦を阻止してやろうと思った。 北高についてキョンと涼宮さんを守る。そうすれば、あとは涼宮さんが機関をどうにかしてくれるだろうし、 そうなれば閉鎖空間も必要なくなる。それで全てが終わるんだ。同じ事を谷口にも話した。でも、谷口は僕以上にまずい――』 「何を読んでいるんだい?」 唐突に浴びせられた声に、俺ははっと顔を見上げた。見れば目の前には多丸圭一さんの姿が。 俺は驚きのあまり2,3歩後ずさりしながら、 「い、いえ……大したもんじゃないですよ……?」 完全な失策だ。ノートの内容に没頭する余り、周りの状況が全く見えていなかった。今更茂みに隠れて日記を書いていました なんていう言い訳なんて失笑ものだ。かといって、正直に言えば何をされるかわかったもんじゃない。どうする――どうする? 俺はこうなったら逃げるしかないと思い、さらに数歩後ろに歩いた辺りで気がついた。いつの間にか、俺の手から 国木田ノートがなくなっていることにだ。 「へえ、これ彼のものなんだ。厳重な監視下にあったはずなのに、よくこんなものを書けたもんだね」 背後から聞こえてきた声に、俺はとっさに振り返る。見れば、いつの間にやら背後に経っていた多丸裕さんの姿があり、 その手にはノートがあった。数ページぺらぺらとめくって内容を流し見している。 「返せっ! この野郎っ!」 俺は裕さんに飛びかかりノートを取り返そうとするが、ひらりとかわされてしまう。そして、裕さんは懐から拳銃を取り出すと、 俺に銃口を向けながら圭一さんのそばに移動した。 圭一さんは裕さんからノートを受け取ると、その内容を確認し始めた。すぐにでも取り返してやりたいが、 裕さんが銃口を俺にぴったり向けているので全く動けねえ。 やがて、ノートの内容を読み終えたのか、圭一さんはそれを閉じると、 「……なるほどな。これは非常に興味深い話が書かれているようだ。創作にしては良くできているんじゃないかい?」 そうにこやかな笑顔で俺に言ってきた。俺はその言葉に激高して、 「創作だって!? 白々しい嘘をつきやがって! 国木田がそんなことをやる理由はねえ!」 「彼はこの内容を信じて書いたのかも知れないが、どんな証拠があるというんだい?」 その反論に俺はうっとうなってしまう。証拠を見せろと言われても正直そのノートだとしか言いようがない。 だが、俺には国木田がでまかせや妄想を書いていたんじゃないと確信していた。そんなことをする理由なんて全くないからな。 大体、そんなものを俺に渡して何になる? 一向にノートは創作って事を受け入れない俺に業を煮やしたのか、圭一さんは裕さんにノートを預けると、 「……どうやらひどい誇大妄想を見せられて混乱してしまっているようだな。一つ懲らしめて目を覚まさせてあげよう」 そう言って拳をならしながら俺の方に向かって歩いてくる。身構えるか、逃げたいという気持ちはあるが、 裕さんに銃口を突きつけられている状態じゃ―― 「――ぶっ!?」 腹を捻り切られそうな衝撃で、俺の口から胃液が飛び出した。何が起こったのか理解できず、そのまま地面に膝をつく。 しばらく胃をさすり、気管周辺にたまっていた胃液をはき出そうと咳き込んでいたが、ようやく何が起こったのか理解できた。 一瞬の間に間合いを詰めた圭一さんが俺の腹を思いっきり殴りつけてきたようだ。俺は圭一さんから視線を外さなかったのに、 いつの間にこんな近くまで来ていやがったんだ―― 今度はこめかみ辺りに強い衝撃が与えられ、その勢いで地面に倒れ込んでしまう。激しく脳を揺さぶられたためか、 視界が揺れて安定しない。どうやら今度は頭を殴られたらしい。ちくしょう、圭一さんの動きが全く見えねえ…… 「どうだい? 少しは目が覚めたかな?」 俺の耳に、圭一さんの飄々とした声が届く。俺は自分の意思示すために、顔だけを上げちょうど真上に位置していた 圭一さんの顔をにらみつけながら、 「腹と頭の痛みはひどいが、残念ながら考えを変える気は全くないね……!」 そう言いきる。すると、圭一さんは困ったようにこめかみを掻き上げ、 「……そうか。どうやらお灸を据えても効果がないようだな。できればこれ以上手荒なことはしたくなかったんだが」 「君は筋金入りのバカみたいだね。抵抗しても無駄だってわからないのかい?」 少し離れたところから聞こえる裕さんの声。姿は見えないが、まだ拳銃は構えているだろう。 と、ここで国木田ノートの内容を思い出す。俺はハルヒのいる場所までたどり着くための大切な『道具』とされていた。 だったら、こんなところで俺を殺す事なんてできないはず。 俺は力を振り絞って立ち上がると、 「へっ……。手荒な事って何だよ。お前らは俺が必要なんだろ? いくら殴ったところで殺すことができないんじゃ こけおどしに過ぎねえんだよ……!」 口の中に残っていた胃液をはき出す。だが、多丸兄弟は二人で顔を見合わせると、軽く笑い声を上げて、 「君の言うとおりだ。確かに君なしでは目的地への到着はほぼ不可能になるだろう。だから我々には君は殺せない」 「でもね、言うことを聞かせるためには暴力しかないって言うのは短絡的じゃないの? 他にいくらでも方法はあるさ。例えば」 圭一さんに続いて口を開いた裕さんは耳に付けられている無線機に手を当てて、 「例えば、この無線機で君の大切な人を今すぐ殺してくれと、指示を出すとか。当然、君がこちらの指示に 従わなかったときだけどね。誰が良いかな……最初から家族だと勿体ない……そうだ、確か昔付き合っていた可愛らしい女の子が いたよね? この無線一本で彼女をとんでもなくひどい目に遭わせることだってできるんだ」 ……佐々木か!? ふざけんじゃねえ! 指一つでも触れてみろ! 絶対に未来永劫てめえらの指示なんて従わねえぞ! だが、裕さんは表情一つ変えずに、 「無論、率先してやるつもりはないよ。これはあくまでも君との交渉の一環だからね。君が僕たちの指示に従えば そんな悲劇は起こらずにすむんだ。ああ、でもあまり駄々をこねると見せしめが必要になるかも知れないよ」 「そう言うのは交渉とは言わずに、脅迫って言うんだよ……!」 怒りの身体を震わせる俺だったが、はっきり言ってどうしようもない。 このままでは佐々木や家族が犠牲になるかも知れないんだ。それだけはどんなことがあっても…… ……いや待て。そういや、古泉が言っていなかったか? ここだと無線での連絡ももう取れないって。 その事実を思い出したとたん、俺は勝ち誇ったような気分になり、 「だからどうしたってんだ。そんな脅迫に応じるつもりはねえよ。勝手にやればいいさ。できるならな」 急に強気になった俺を見た多丸兄弟は、不思議そうに顔を見合わせるが、やがて二人そろって嘆息し、 「仕方ないな。こういう手段は好きじゃないんだが……」 「意外と傲慢な人間だったんだね。でも、後悔することになるよ」 「好きにしやがれ」 俺は耳に入った二人の言葉を吐き捨てるように言う。これは完全なハッタリだ。無線連絡はここから確実にできない。 だからこそ、二人はまるでこっちの焦りを誘うように、じっと見つめたまま一向に指示を出そうとしないんだ。 だが、次の裕さんの言葉で俺の足が自然と動いた。 「君の要望通りにしてあげるよ。あ、ひょっとしてここからじゃ無線は届かないからハッタリだと思っている? それなら無線が使える地域まで移動すればいいだけさ。そんなに遠くじゃないからね」 「……この野郎っ!」 俺は全力で一番近くにいた圭一さんに飛びかかった。さすがにこの動作は予測していなかったのか、 俺の体当たりを完全に食らった圭一さんは俺ごと茂みに突っ込む――次の瞬間、俺に強烈な落下感が襲った。 茂みの向こう側が高さ5~6メートルの崖になっていたのだ。 俺たち二人は組み合いながら悲鳴を上げて落下する。着地と同時に鈍い衝撃が俺を襲うが、運良く圭一さんがクッションに になったおかげでダメージは思ったより大きくない。だが、感謝なんかしねえぞ。 一方、二人分の重量の衝撃を背中に受けた圭一さんが少しもだえるような表情を見せたが、すぐに立ち上がると どこから取り出したのか右手に構えたナイフを俺に斬りつけてきた。 斬撃をかわすべく俺は圭一さんと距離を取ろうとして気がつく。俺たちがいる場所は崖の途中にある出っ張りの上に過ぎず、 少しでも動けばまた10メートル程度下まで落ちてしまう。これじゃ、まともに避けられねえぞ。 すぐに自動小銃を構えようとするが、どこにもないことに気がついた。ノートを読んでいたときは肩にかけていたはずだ。 恐らく圭一さんに殴られたときにどこかに落としてしまったのかも知れない。あるのは腰にある拳銃だけ―― だが、圭一さんがそれを抜かせる時間を与えてくれるわけもなく、またナイフで俺に襲いかかる。 とっさにナイフが握られている腕をつかみ、必死にそれの移動を妨げようとするが、力の差は歴然だ。 ゆっくりとナイフの刃が俺に向けられてくる。おまけに圭一さんの顔は完全に怒りに染まっていた。 おいおい! 我を忘れて俺を殺すか!? このままではやられる。そう判断した俺は、一か八かで足払いをかけた。腕に集中力が向けられていたためか 圭一さんはあっさりとバランスを崩す。俺は間髪入れずに崖の下へ突き落とそうと、力の限りはねとばそうとするが、 「うわっ!」 思わず悲鳴を上げたのは俺だ。崖の下に落下し始めた圭一さんは死なばもろともと言わんばかりに、俺の迷彩服の胸ぐらを つかんだからだ。当然、不意打ち状態だった俺は一緒に崖下へと落下する。 ………… ………… ………… 俺は自分が意識を失っていることに気がつき、はっと目を覚まして起き上がった。周りを見ればすぐ隣に横たわった圭一さんの 身体がある。目を見開いたまま指一つ動かなかったが、それもそのはずだ。まるで仕組まれたかのように眉間にナイフが 突き立てられているからだ。完全に……死んでいる。 「うっ……」 始めて見る死体に、俺は猛烈な嘔吐感に襲われた。あまりのひどさにリバース寸前まで来たが、すぐにそれも収まった。 目の前の木に一発の銃弾が命中したからだ。とんできた方向を考えれば、俺の頭すれすれに放たれたものだったということは すぐにわかった。 俺はとっさに近くの岩の陰に身を潜める。すぐに3発の銃弾が俺のそばに着弾した。 どうやら裕さんが俺を銃で狙っているようだ。 「くっそ……もう何が何やら……」 はっきり言って展開が急すぎてついて行けていない。頭の中は大パニック状態だぜ。 そう愚痴りつつも、俺は拳銃を取り出し裕さんの姿を探し始める。と、崖の上をちらりとかすめる影の存在に気がついた。 移動していく先は緩やかな下り坂になっていて、その内崖下につながるだろう。隠れている場所を把握されている以上、 こっちも移動しないとまずいな。 俺は足音を殺しつつ、別の岩の陰に隠れた。この位置なら裕さんが移動している下り坂がよく見えるはずだ。 「……いた」 予想は大当たりだった。裕さんはまだ俺が移動したことに気がついていないのか、拳銃を構えながら堂々と崖下めざして 歩いている。拳銃で狙うには距離が遠すぎるが、弾は届く距離だ。 銃を構えようとして一瞬躊躇という言葉が脳裏に過ぎった。圭一さんの死は事故だ。偶然といっても良い。 だが、今から俺がやろうとしていることは完全に裕さんを殺すという行為だ。当たり前の話だが、俺は生まれてこの方 人を殺したことなんてない。朝倉は宇宙人だから例外だ。そんな俺に撃てるのか? ――彼女をとんでもなくひどい目に遭わせることだってできるんだ―― 裕さんの言葉が脳内にリピートされた瞬間、俺の頭から躊躇なんていう感情は完全消滅した。ここで撃たなければ、 佐々木や俺の家族の命が危ないんだ。迷っている暇はねえ。やるしか…… ゆっくりと銃口を歩く裕さんの方に向ける。向こうはまだ俺に気がついていない。撃ち合いになれば勝てる相手ではない以上、 ここで確実に仕留めるしかない。 撃て、撃て、撃て、撃て――当たれ、当たれ、当たれ、当たれ…… 俺は念じるように唱え、そして拳銃の引き金を引いた。パンという鼓膜を貫く発砲音と硝煙匂い。 やがて、裕さんの歩みが止まりぐらりと崖下へとその身を落下させる。 「……当たった」 俺は呆然とつぶやいた。一発で命中し、裕さんはそれで命を散らせた。そう俺は裕さんを撃ち殺した―― 殺人を自覚したとき、俺はもう嘔吐感に抵抗もできずもどし始めた。人を殺したという感覚。 ドキュメンタリーかなんかでこういった症状を引き起こすことがあるっていうのは知っていたがこれほどとは…… 数分間、そのまま俺は動くことができなかったが、はっと気がつく。さっきの発砲音を聞きつけて森さんたちが こっちにやってくるかもしれない。その前にノートを回収してとっとと身を隠さなければ。 今なら俺が機関の事実を知ったのではなく、敵に襲われたと言い逃れができるかも知れないんだから。 俺は岩陰から飛び出すと、裕さんの死体に駆け寄る。こめかみに銃弾が直撃したみたいで即死だったようだ。 自分が死んだことすら理解していないように、目を見開いたままぴくりとも動かなかった。 幸いなことに、手にはノートがしっかりと握られていたので、それを引きはがすように取り戻すと立ち上がって―― 「どこに行くつもりですかな?」 俺の後頭部に冷たいものが押しつけられていることに気がついて、身体が硬直した。同時に聞こえてきた声の主は、 「……新川さん。見ていたんですか?」 「ええ、一部始終全て見させて頂きました」 新川さんも多丸兄弟と同じように、いつもと変わらぬ口調だった。だが、明らかに俺の後頭部に押しつけられているのは 拳銃だ。そして、すぐにでも引き金を引きそうな殺気がそこから放たれていることを感じる。 と、今度は崖の上から誰かが飛び降りてきた。森さんだ。 しばらく地面に死体となって転がっている多丸兄弟を一瞥した後、俺の目をしっかりと見つめて、 「……面倒なことをしてくれましたね」 そう冷たく言い放った。その時の森さんには昨日見た屈託のない少女の顔はなく、恐ろしいほどに洗練された殺し屋の 素顔があった。 ◇◇◇◇ 「話せ、この野郎っ!」 俺は森さんと新川さんに両腕を掴まれ、SAの駐車場に連行された。そこには困ったような表情を浮かべる古泉と、 ばつが悪そうに目をそらす谷口の姿があった。どうやらこの二人も完全にグルみたいだな。 やがて、俺は古泉たちの前に跪かせるように座らせられた。両腕をがっちりと固められたままなので、 まるで磔に架けられたような感覚に陥る。 そんな俺を古泉の野郎は目を細めてしばらく見つけていたが、やがてわざとらしく大きなため息を吐くと、 「全く面倒なことをしてくれましたね。この先は更なる障害があるだろうと予測はしていましたけど、 まさかあなたが反乱を起こすとは思っていませんでした」 「……反乱だと? 今まで俺を散々だましていたのはどっちだ」 俺は森さんと同じことを言うニヤケ野郎を睨み付ける。だが、古泉は全く動じることなく、 「仕方がないでしょう? 本当のことを言えば、あなたが僕たちに協力する可能性は皆無ですから」 「当たり前だろうが! お前ら機関はハルヒに全責任を押し付けただけじゃなくて、ハルヒの意思を無視して 能力だけを奪い取ろうとしたんだ。絶対に許せねえ」 「ですが、それも仕方のないこと」 俺の怒りに返答してきたのは、新川さんだった。じっと俺の目を見つめ、言葉を続ける。 「あなたには理解できないことなのでしょう。TFEI端末や情報統合思念体というものがどれほどのものか 直に見たことがないのですから。ですが、私たちはその強大な力にずっと触れ続けてきました。 彼らの力は私たちの住む世界など指一つ動かすだけで作りかえられます。この星の存在が危険だと認識すれば 即座に抹消されるかもしれませんな。所詮はこの世界など彼らの手のひらの上で踊るちっぽけな存在でしかない」 新川さんに続き、森さんも口を開く。 「機関という組織ができ、TFEI端末と初めて接触したその日から私たちはただおびえる毎日でした。 気の向くままに世界を作り変えかねない涼宮ハルヒという存在と情報統合思念体という強大な存在の両方に。 そんな中、私たちができることは涼宮ハルヒの精神状態を安定させ、情報統合思念体の観察に 支障をきたさないことだけです。そのため機関は奔走する羽目になりました。まるで主に仕える奴隷のようにです。 そんな状態に私たちはいつまで耐えればよいのですか?」 その問いかけに俺は答えられず黙っていることしかできなかった。さらに森さんは続ける。 「機関だけではなく、この世界そのものが涼宮ハルヒと情報統合思念体の玩具にすぎないのです。 だからこそ、私たちはその奴隷・モルモット的状態に陥っている世界を救わなければなりません。 ですが、その方法が全く見つからなかった。どうすればよいのかすらわからなかった。 そんな袋小路の状態のときに、ようやく救世主が現れた」 「……天蓋領域ってやつか」 「その通りです。彼らは涼宮ハルヒの存在に強い興味を示していましたが、彼らもまた情報統合思念体により その行動が移せずにいたのです。この時点で両者の利害は完全に一致していて、協力関係になるまで さほど時間を有しませんでした。機関は涼宮ハルヒを天蓋領域に提供する代わりに、その能力を使わせてもらう。 情報統合思念体などという全てを超越した存在に対抗できるだけの力を有することができれば、 人類は強大な存在に縛られず、自由に自らの意思で判断できるようになり、真の独立を勝ち取れるのです」 森さんの演説じみた言葉は、国木田ノートに書かれていたことと全く同じだった。 もうノートの内容に間違いはないと思っていいだろう。 古泉は二人の演説を黙って聞いていたが、やがて腕を組んで俺に見下すように顔を近づけると、 「どうですか? お二方の主張を聞いても、まだ僕たちに協力する気にはなりませんか? 拘束状態から脱して、自由を得るということは人間なら誰しも望むことですよ?」 「……そのためにはハルヒがどうなってもいいって言うのかよ?」 「やむ得ないと考えられます。大事の前の小事なんて考えるに値しません。恨むのなら、涼宮さんがあのような能力を 持ってしまったことを恨むしかないですね」 古泉は表情一つ変えずに淡々と言ってくる。 はっきり言って納得できねえし、理解する気もねえ。確かに機関の主張は誤りではないだろう。 だが、ハルヒが神がかり的な能力を得てから4年間、水面下ではいろいろあったとはいえ 世界は特に変化なく続いていたはずだ。それをぶち壊して混乱状態に置いたのは機関じゃねえか。 こんな惨事になるくらいなら、そのままハルヒをそっとしておいた方がずっとマシだったんだ。 一向に納得しない古泉は珍しくいらだちの表情を浮かべて、 「わかりませんかねぇ……自決権の取得は何に変えても保持しておくべきものなんですよ。 それが民族的感情というものです。どうしてあなたはそれを理解しようとしないんですか?」 「俺はそんなものなんて意識したこともないし、たとえ意識した今でも今までどおりの生活が続けられるなら 必要ないと断言できるぞ。確かにおまえら機関の働きがあってこそだから、それには素直に感謝するけどな。 だが、プライドだけにこだわった自決権とやらを得るためには、どんな犠牲を払ってもかまわないと言い出すなら 大きなお世話だと言ってやる」 「人類の生存権を取り戻すためには多少の犠牲は避けて通れません。それに涼宮さんはやむえない犠牲として、 また人類を救った英雄としてずっと祭られ続けるんです。悪くない待遇だと思いますよ?」 「それも気にいらねえ。まるでハルヒを道具か何かとして見ていやがるからな」 「人類が独立するためには神ですら利用する。それが生存本能というものです」 「……古泉、もういいわ」 俺と古泉の会話をぶった切ったのは森さんだった。いつの間にやら、その手には薬物らしきものが入った 注射器が握られている。 「これ以上説得しても無駄だと判断します。ですが、人類の悲願達成のためにはどうしてもあなたの力が要る。 そのためにはどんな手段でも用いるつもりです」 「……また脅迫か。言っておくが、俺の知り合いに少しでも手を出したら、二度と協力なんてしないぞ。 当然、手を出さなくても協力するつもりはねえけどな」 俺はそう森さんに強がって見せるが、正直どうすればいいのかわからなかった。本当に佐々木や家族たちに 手を出されたらどうする? しかし、だからといってハルヒを代わりにに差し出すなんてことはできない。 だが、森さんから返ってきた言葉は予想外のものだった。 「いいえ。脅迫という手段は時として有効です。そうすれば、あなたの身体は私たちの指示に従うでしょうけど、 心は反発したままです。そのような不確定要素を保持したまま作戦の遂行に支障をきたしかねません。 ですから、薬物注射であなたの思考能力を奪います。こちらとしてはあなたの外見上の存在だけでも 十分に大きな効果が期待できると考えていますので」 森さんの手に握られた注射器が俺に向けられる。どうやら、あれは何でも言うことを聞かせられるようになる 魔法の薬のようだな。冗談じゃねえぞ。あれを挿されたらもう反抗のしようがなくなる。 俺は必死にそうはさせまいと森さんと新川さんを振りほどこうとするが、力の差は歴然のようでびくとも動かない。 一方で古泉はただニヤニヤしながら、俺に注射器が刺さるのを見つめている。 「古泉! おまえはSOS団にいたときに言っていたじゃないか! 今ではSOS団副団長としての立場の方がいいって! 機関を一度だけ裏切るとも言っていたよな! あれは全部うそだったのか!?」 「……懐かしい話ですね。当然、方便に過ぎませんよ? あなたや涼宮さんに取り入るためのでまかせです。 僕があくまでも機関から派遣された人間であることをお忘れですか?」 冷酷に言い放つ古泉に俺は愕然としてしまった。全部嘘だったってのか? 俺はそんな嘘にころっと騙されて…… ゆっくりと俺の腕に注射器が近づけられてくる。抵抗もできず、助けも呼べない。もうどうすることもできないのか。 ――だが、突然森さんと新川さんが俺の両腕を離し、後方へ飛びのいた。同時に俺の両脇を銃弾が飛んでいく。 何が起きたのかわからず、俺は辺りを見回すとやや離れた場所に谷口が立っているのが見えた。 どういうわけだか、俺――いや、森さんたちに自動小銃の銃口を向けている。そして、 「キョン! 早く逃げろっ! 急げっ!」 そう言いながら今度は古泉に向けて撃ち始めた。理由はわからんが、とにかく感謝するぞ谷口。 俺はすぐに近くの林に向かって走り始めた。谷口も俺をかばうように銃を撃ちながら続いてくる。 「すまねえ谷口! 恩にきるぞ!」 「いいからとっとと走れよっ! すぐ追いついてくるぞ!」 谷口の言うとおりだった。俺たちがようやく林に飛び込んだあたりで、 「新川――!」 遠くから森さんの声が聞こえてくる。そして、次の瞬間一発の銃声が鳴り響き、後ろを走っていた谷口の身体が 前のめりに倒れようとしていた。俺はあわてて足を止めて谷口の身体を支える。 見れば、のどの一部から大量の出血が起きていた。谷口自身はショック状態に陥っているのか、 ほうけた表情のまま声一つ上げずに固まっている。撃たれたのは確実だった。 「くそっ!」 俺はすぐに谷口を背負うと、林の中を走り始めた。 ◇◇◇◇ 「谷口っ! おいしっかりしろよっ!」 俺は林の中にあったくぼみの中に逃げ込み、そこで谷口の容態を確認していた。喉の辺りを銃弾が貫通したようで 出血がひどく、全く手の施しようがない。このままではいずれ死に至るだろう。 だが、治療なんて俺にはできるはずもなく、ただ小声で谷口を呼びかけることしかできなかった。 「……すまねぇ……」 ようやく自分が瀕死の状態であることを理解したらしい谷口は、ほそぼそと俺に語りかける。 俺は今にも泣き出しそうな気持ちで、 「謝るのは俺の方だっ! どうして……なんで俺をいきなり助けたりしたんだよ……!」 「……我慢できなかった……これ以上、お前を……キョンを裏切り続ける……ことが……」 「だからってお前が死んだら意味がないだろうがっ! 頼む! 死ぬなっ!」 俺の必死に呼びかけに応じたとしても、谷口の容態が回復するわけもなく、次第に顔は白くなり 手も血の気が引いたようになってきた。俺は……ただそれを見ていることしかできなかった…… しばらく、谷口は息苦しそうに呼吸を続けていたが、やがて俺の手を握ると、 「キョン……ごめんな……騙しちまってごめんな……」 「いいんだっ……気にするなっ……」 もう俺の目からは土砂降りのごとく涙があふれ出ていた。長く付き合ってきた友人が目の前で息絶えようとしている。 そして、俺はそれを見ていることしかできない。悲しさと悔しさともどかしさが入り混じり、頭がおかしくなりそうだった。 そして、谷口が続けた言葉。俺はこれで完全に我を忘れてしまう。 「こんなことやりたくなかったんだ……。でも、あの子と家族が人質にとられていて……」 これを聴いた瞬間、俺は頭が爆発するんじゃないかというほどの血が上り、ひどい頭痛とめまいに襲われた。 ノートは全部読めなかった。だが、最後に書いてあった内容に、谷口は国木田以上にまずい状態にあるとされていた。 それが家族や恋人を人質にとられているっていうことだったのだろう。 「機関にスカウトされたときに……俺は最初は断ったんだ……でも、そうしたら奴らあの子が どうなってもいいのか言い出しやがった……当然、家族もだ……俺はNOとは言えなかった」 目もうつろで谷口は独白するように続ける。やがて、俺の方に顔を向けると、 「俺が死んだら……あの子と家族はどうなるんだろう……?」 「……わからない」 谷口の問いかけに俺は首を振って答えることしかできなかった。 次第に、俺の手を握っている谷口の力が弱くなっていく。 「キョン……頼む……あの子と俺の家族を……助け……助けて……」 その言葉を最後に、谷口の口が動かなくなった。俺の手から谷口の手がするりと抜け落ちる。 俺は谷口が息を引き取ったことを確認すると、開いたままだった目を閉じてやった。 そして、俺は谷口の武器を取り出すと、くぼみから立ち上がった。この時点で俺は完全に自分を見失っていた。 ……あいつら全員ぶっころしてやる……! ◇◇◇◇ タタタタと俺はSA近くの山の頂上から自動小銃を撃ちまくっていた。目標はSA内を移動していた 森さんと新川さんだ。距離は遠いが十分に届く距離ではある。 だが、距離が遠いためか二人には全く命中しない。それがわかっているのか、二人とも物陰に隠れることもなく じっとこちらを伺っているようだった。なめやがって。とはいっても、俺もここで撃ち殺せるとは思っていないけどな。 しばらくこのまま撃ち続けていたが、森さんたちは一向に動こうとしない。こっちの目的が何なのか考えているのか? それとももう俺の意図を悟られた―― バスっという鈍い音が聞こえたとたん、俺の思考が完全に停止した。見れば、俺の30センチ右側にある木の幹に 銃弾が当たったような痕ができている。当然ながらさっきまでなかったものだが…… 俺はとっさに双眼鏡で森さんたちの様子を伺った。そこには、自動小銃をこちらにぴたりと構えて立っている 新川さんの姿があった。 すぐに俺は身を翻してその場から走り出した。すると、まるで俺の姿を追うように背後を銃弾が飛んでいく。 あの距離からこれだけの精度で射撃できるのか。とてもまともに撃ち合って勝てる相手ではない。 どのみち最初から正攻法でどうにかできる相手とは思っていなかったんだ。落ち着いて作戦通りに進めよう。 ◇◇◇◇ それからの森さんたちの動きは早かった。俺が山を降りると、まるで瞬間移動でもしてきたかのように 新川さんが俺の前に立ちふさがる。しかし、すぐには銃を撃ってこなかった。そりゃそうだな。 俺を殺してしまえばハルヒの元へはたどり着けないってのが機関の見解なんだから。 それが唯一の俺が有利な状況である。 新川さんは自動小銃を投げ捨てると、歳に似合わない機敏な動きで俺に迫ってきた。 俺は近づけないように後方に下がりながら自動小銃を乱射するが、まるでこないだの朝倉のように機敏な動きで 全くヒットする気配がない。本当に改造人間か何かじゃないのか!? すぐに目前まで間合いをつめられると、新川さんはラリアットのように腕を回転させて俺にぶつけてくる。 俺はぎりぎりのところで身体を後ろにそらして、それをやり過ごした――が、今度は足払いをかけられて バランスを崩してしまった。続けざまに頭をつかまれると、今度はヘッドロックをかけてきた。 身体が引き裂かれそうな痛みで悲鳴を上げる。しかし、それでも口からは絶対に悲鳴を上げなかった。 ここで痛みに身を任せればそれ以上動けなくなるかもしれないからだ。 ただし、別の意味での声は上げる。 「痛い! 痛い! 首が折れる! 死ぬ死ぬ!」 自分でも演技くさいとは思うが、新川さんは俺を殺すことができない。オーバーにリアクションをとれば 絶対に力を緩めるはずだ。 案の定、ほんの少しだけヘッドロックの力が弱る。それはそれで身体が動くようになったことを感じ、 すぐさま腰に入れていた拳銃を取り出すと、新川さんの腹の部分に密着させて数初発射した。 驚いた新川さんは俺から飛びのく――んだが、何でまだ動けるんだ? その理由はすぐにわかった。新川さんが自分の迷彩服を調えるように引っ張るとばらばらと銃弾が地面に落ちた。 防弾チョッキか――いやだから! いくら貫通を避けられても、あれだけの衝撃を受ければアバラが折れたり、 内臓のどっかがいかれてもおかしくないはずだろ!? やっぱり改造人間か何かなのか!? やはりまともに相手をするわけにはいかない。俺はまた自動小銃を撃ちながら、新川さんから走って逃げ出した。 ◇◇◇◇ 「……来たか」 前方の獣道を新川さんが歩いてくるのを、茂みの中で身を潜めていた俺は確認した。 あの後、全速力で俺は逃げ出したんだが、不思議なことに新川さんは追ってこなかった。 いや、走って追いかけてこなかっただけだが。おかげでこちらの準備にもある程度余裕ができた。 新川さんが歩いてくる獣道には、俺が仕掛け爆弾のトラップが仕込まれている。 あと数メートル新川さんが前進すると、獣道に張っておいたロープに足を引っ掛け、その衝撃で 両脇に仕掛けてある手榴弾のピンが抜けるという寸法だ。いくら防弾チョッキをつけていても至近距離で手榴弾の破片を 浴びれば、身体の中まで機械製とかでない限り耐えられまい。 新川さんがトラップの位置に迫る。さあ来い。一歩先で谷口の仇をとってやる…… だが。 「新川」 突然かけられる声。その発生源は俺のすぐ横だった。あまりの脈絡のなさに俺は一瞬声を上げてしまいそうになるが あわてて手で口を覆う。 見れば、いつの間にやら森さんが俺の右数メートルの位置に立っていた。全く気がつかなかったぞ。 本当に瞬間移動ができるんじゃないだろうな? しかし、幸いなことに森さんは俺の存在までは気がついていないようだ。そのまま新川さんの元に近づき、 「迂闊よ。これを見て」 そう言って持っていた自動小銃の先でトラップのロープを突っつく。ちっ、もうちょっとだったのに、 森さんに気がつかれちまったか。 ――だが、それがばれるのも計算のうちだ。正攻法じゃあの人たちにはかなわないからな! 俺は手元に引かれているロープ2本を思いっきり引っ張った。気がつかれることを考えて、こちらからでも 手榴弾のピンが抜けるように細工しておいたのさ。 すぐに森さんたちはピンの抜ける音に気がつき、逃げようとするが即座に周辺の手榴弾4発が炸裂した。 映画とかとは違い、手榴弾が爆発しても火が出たりはしない。代わりに激しい衝撃と火薬の中に混ぜられていた鉄くずが 周辺に飛び散り、草木が悲鳴を上げるかのようにざわめいた。 しばらく砂煙がたちこめ視界が利かない状態になった。俺は確認したい気持ちをぐっと抑え、 煙が晴れるのをじっと待った。 2~3分ほど立つと砂煙は完全になくなった。森さんと新川さんが折り重なるように地面に倒れているのが見える。 俺は本当に死んだかどうか確認すべく茂みから出て、二人の元に駆け寄った。 二人とも顔がささくれるようになりスプラッタ映画状態だ。白目をひん剥き、どうみても生きているようには見えない。 「…………」 俺はしばらく呆然とそれを見つめる。谷口の仇を取ったという気分よりも、あの二人がこんなに簡単に くたばるだろうかと不安になってしまう。 だが、立ち止まっている場合ではない。まだ古泉が残っている以上、こんなところで立ち止まっている場合ではない。 俺は2,3回頭を振ると、その場から走り出した。 ――違和感は確かにあった。だが、罪悪感は全くなかった。 ◇◇◇◇ 「動くな」 俺は自動車道の上で古泉の後頭部に拳銃を突きつけていた。森さんたちに任せておけば安心だと思っていたんだろうか。 能天気にぼけっとしているもんだからあっさりと背後に取り付けてしまった。 「おやおや、まさか森さんたちを出し抜いてきたんですか? ちょっと以外ですね」 淡々とそんなことを言ってきやがった。背後に立っているせいで古泉の表情は見えなかったが、 どうせいつものニヤケ顔なんだろう。余裕じゃねえか。 「まず、国木田のノートを返してもらおうか。後で告発の証拠として使わせてもらうからな」 「どうぞ」 古泉はあっさりとノートを俺に背を向けたまま渡してきた。俺はそれをズボンにねじ込む。 「さて……これからどうするつもりですか?」 「確認したいんだが」 ――俺は一拍置いてから、 「はっきりと言っておくぞ。森さんと新川さんは死んだ。多丸兄弟もだ。これで機関の人間はお前だけってことになる」 「そのようですね」 「谷口は脅迫されていた。家族と恋人を人質に取られて無理やり連れて来られたらしい」 「知っています」 「……お前は違うのか? もう他の連中はいない。正直に答えてくれ」 俺は祈るようにその言葉を古泉に告げる。そうだ。お前も谷口と同じように機関から脅迫されていたんだろ? でなけりゃ、こんな命を賭けた仕事なんてやるはずがないからな。それにお前は超能力者だから機関から 目をつけられる理由も十分にある。さあ、答えてくれ。そうだって。 だが、古泉が言い放った言葉は、俺を完全に裏切った。 「答えはNOです。僕は僕自身の意思で機関に所属し、ここまでやって来ました。 誰からも強制されていませし、脅迫も受けていません。僕はね、心底機関に忠誠を誓っているんですよ。 得体の知れないこんな超能力を持っているにもかかわらず、彼らは僕を必要としてくれました。 待遇もすごくいいですし、今の立場に非常に満足しています。あと、機関の上層部が持っている人類独立の目標にも 強く賛同していますから」 「そうかよ……!」 俺は古泉から返された裏切りの返答にはき捨てるように答える。さっき言っていた通り、今までSOS団として なじんできているのは全部フリだけだったのかよ。ハルヒや朝比奈さん、長門、そして、俺を裏切ってきたのか。 「それが僕の任務だったんですよ。涼宮さんに近づき、できるだけ理想である人物を演じ、ずっと機会を伺う。 全ては機関の指示――そして、理想を果たすためにね。これで満足ですか?」 「……ああ、満足だ。初めててめえの本音が聞けて、俺の怒りは最高潮だからな……!」 俺の頭の中にあった最後の希望の火は完全に消えてしまった。古泉が裏切った――いや、最初から仲間ですらなかった ことがわかってしまった以上、もうあのときのSOS団には戻れない。俺の知っている胡散臭いが信頼できる古泉は もうどこにもいなくなってしまったのだから。 裏切られた怒りともう元には戻らないという絶望。両者が入り混じり俺は軽いパニック状態に陥っていた。 おかげで何のためらいもなく引き金を引けそうだがな。 「質問はそれだけですか? では次は?」 「……今考えているところだよ」 俺は苛立ちをこめて返す。正直、古泉が脅迫されているんだと信じていたし、そうであってほしかった。 だから、万一そうでないときのことなんて全く考えていなかったのが本音だ。しかし、混乱しているためか どうするべきかなかなか頭が回らない。 「そうですか……!」 ――次の瞬間、古泉がくるりと振り返ったかと思うと、俺に向けて腕を振り回した――いや、その手に握られている ナイフで俺を切りつけてきたんだ。 そして、俺は反射的に一発の発砲する。狙ったつもりはなかったが、その銃弾はきれいに古泉の額に命中した。 撃たれた衝撃で古泉は仰向けに倒れる。 「……ちくしょうっ!」 目を見開いたまま、路面に大の字で倒れた古泉を見て、俺は毒づいた。ピクリとも反応しないところを見ると 完全に即死だったのだろう。苦しむ暇もなく、自分が死んだことにすら気がつかないように呆然とした表情を浮かべていた。 「何で……こんなことになっちまったんだよ……」 俺は力なく路面に座り込んでしまう。 ハルヒの無実を証明するため、SOS団としてまた日常を過ごすために俺はここにやってきた。 にもかかわらず、その内の一つがかなわぬ夢と化してしまったのだ。この先、俺一人で北高まで向かい、 ハルヒを助け出してきたとしても、もう以前のようなSOS団はできない。事故にあったあの日より前にはもう戻れないだ。 それを認識したとたん、俺はどうしようもないけだるさに襲われた。何もする気が起きない、何もしたくない…… 「でも、そういうわけにはいかないんじゃない?」 唐突にかけられた声。俺が顔を上げると、そこには消えたはずの朝倉涼子の姿があった。 なぜだ? 古泉と長門に消されたはずじゃなかったのか? 俺はあわてて立ち上がり拳銃を向けようとするが、持ち前の高速移動であっという間にそれを取り上げられてしまった。 そして、すぐに自動車道の外に投げ捨ててしまう。 「安心して。あなたに危害を加えるつもりはないの。ただ、ちょっと話したいことがあるだけ」 「……何の話だ?」 やわらかい微笑を見せる朝倉だが、俺の警戒心が解かれることはない。こいつには何度も危ない目にあわされているんだ。 今だって安心させておいて、ドスッとやられかねない。 朝倉はまず手に持っていたノートを開き――いや待て! あれは国木田のノートだ。俺が持っていたはずなのに いつの間に奪いやがったんだ? 「ごめんね。ちょっと借りるわよ」 「返せ!」 俺はあわてて取り返すべく飛び掛るが、それをひらりと朝倉はかわしてノートを読み続ける。 相変わらず、あの異常な身体能力は健在なようだ。これじゃ、捕まえようがねえ。 しばらく俺との鬼ごっこが続いたが、やがて朝倉は全てのページを読み終えると、 「ふーん。大体、理解できたわ。で、このノートの結果がこれ?」 朝倉は死体となって動かなくなった古泉を指差す。俺は朝倉を追い回したおかげで上がりきっていた呼吸を整えつつ、 「ああ、その通りだ。人のことを散々騙しやがったからな。当然の結果だ」 「へえ、でもこのノートに書かれているのって、あたしのポエムだけど? それでどうしてそんな結果に?」 「……は?」 朝倉から返ってきた想定外の言葉に、俺は間の抜けた返事をしてしまった。バカ言え。 そこには国木田が書いた機関の悪行の告発が書かれているんだぞ。 「読んでみたら?」 そう言って朝倉は俺にノートを投げつける。そして、それを開いて見て驚愕した。 そこにはさっきまで読んでいたはずの国木田の告発文が一切なく、代わりに女性が書いたような丸みを帯びた文字が 並んでいるからだ。全てのページを見ても同じ状態になっている。いや待て―― 「……偽物とすり替えやがったのか。本物はどこに隠したんだ?」 「ううん、それはあなたから借りたときと全く同じものよ」 「嘘をつけ! 俺が読んだノートはこんな……」 俺はそう激高しながらノートへ再度目を落としたときに気がつく。そこには俺が知っているあの国木田の書いた 告発文が並んでいた。 「どういうことだ? 何がしたいんだ?」 朝倉がノートに細工をしているのか。だが目的が分からない。そんなことをやって何の意味がある? 訳が分からなくなって、朝倉を怒鳴りつける。だが、朝倉は全く動じず、 「ま、大体分かったけどね。もうちょっとそのノートを読んでみたら?」 とりあえず、朝倉の言うように俺はもう一度ノートを読み始めた。同じ内容だと最初は思った。だが何かが違う。 告発の内容は大筋では一緒だった。だが、微妙にページの位置がずれていたり、俺がさっき古泉から 聴かされた裏切りの言葉まで書かれている。最初に読んだときはこんな内容はなかったはずだ。 まだ読んでいなかった部分かと思ったが、それはもっと先ページの箇所だった。どうなってやがる……!? さらに気がついたが、ページをめくったりしているうちに、同じページであるはずなのに内容が 微妙に異なっていることに気がついた。内容ではなく、改行の位置やページを跨ぐときの最後の文字が違う。 まさか……と思いつつ俺は、今度はあることを念じながらページをめくって見た。 すると、頭に浮かべた内容がそのままページに書かれているではないか。 「ど、どういうことだよ……!?」 俺は明らかに動揺していた。思ったことがそのままノートに書かれる? そんな馬鹿なことがあってたまるか。 それなら――それが本当なら―― 朝倉は頭がこんがらがっている俺から再度ノートを取り上げると、 「思ったとおりの内容がここに書かれるみたいね。結構面白いわね、これ。 でも、こんな惨事の原因となったノートの内容もあなたが思い浮かべていただけの妄想ってことになるんじゃない?」 ドクンっ……俺の心臓が跳ね上がった。そんなわけがない。そんなわけがないんだ。 ああ、そうだ。このノートに書かれている内容がただの妄想っていうなら、古泉たちの言っていたことと 明らかに矛盾することになるんだぞ。ここに書かれているとおりのことを機関の連中は口に出していっていたんだ。 ただの俺の妄想だったら、古泉たちは当然それを否定するはずだ。 「あら、このノートもっと面白いことができるみたい」 そう言って朝倉はノートを見つめ始める。すると、SAの建物が突然大爆発を起こし木っ端微塵に砕け散ってしまった。 なんて事しやがる―― だが。 俺の脳裏にある可能性がよぎった。いや、これもただの妄想に違いない。そんなご都合主義なことがあってたまるか。 あるわけがない。ありえない! だが、朝倉が俺に告げた内容は、 「このノートに書いてあることは現実にも反映されるみたいね。ああ、なるほど。だから、あなたの妄想が ノートに反映されてそれが現実になってしまったってことみたいね」 「バカ言え! そんなわけがあってたまるか! そんな馬鹿げた話があってたまるか! そんなわけが――」 「でも、それが現実よ。ここは閉鎖空間。何が起こっても不思議はないわ」 朝倉の声がとても冷たく感じた。 あるわけがない。 あってたまるか。 なぜなら。 なぜなら! そうならば、俺が古泉たちを…… あんな非道な連中に仕立て上げたことになっちまう! 「あなたがそれを全て考えていたわけじゃないかも。きっと誰かの誘導は入っているはずよ。 でも、あなたはちょっとそれらしいことを吹き込まれただけでそれを信じ、あまつさえ妄想を拡大させてしまった」 やめてくれ。 「本心の部分で疑ってしまっていた。だから、他の人たちを信じられなかった。信じられると思っているなら、 こんなノートとっくに破り捨てているはずだしね」 やめてくれ! 「そう……これはあなたが無実の人たちを殺したことと同じ。どうする? どうやって責任を取るつもり?」 閉鎖空間に俺の悲鳴が響く…… ~~その4へ~~
https://w.atwiki.jp/rowamousou/pages/102.html
【名前】涼宮ハルヒ 【出典】涼宮ハルヒの憂鬱 【性別】女 【年齢】15歳 【名ゼリフ】「殺し合いだろうと何だろうと関係ないわ! 私達はこの一瞬を、刹那を、満足するのよ!」 【支給武器】海馬デッキ@遊戯王、マリィ@Dies Irae-Acta est Fabula- 【本ロワでの動向】 ご存知涼宮ハルヒシリーズのヒロインにして、本ロワにおけるヒロインの一人。ヒーローの女性版という意味で。 本ロワにおいてもその行動力を遺憾なく発揮することとなる。 その行動方針は冒頭の一言に集約される。 登場話では殺し合いを面白くないことと断じて、それよりもと支給品であったマリィのコスプレに興じる。 ただの人間ではない美少女、並びにコスプレ衣装というハルヒにとって都合が良すぎる支給品だったのは、その能力ゆえのことであろう。 後に藤井蓮が推測し、天魔・夜刀が是とすることだが、ハルヒはDies iraeで言うところの流出位階一歩手前であるという。 尚、超強力な支給品であり、遊んでも面白く、ハルヒの趣味嗜好にも合う海馬デッキも丸ごと支給されてもいたのだが、ハルヒは当初一瞥しただけでしまい込んでいた。 まあ普通はカードゲームが汎用性抜群の武器になるなんて思わないわけだし、しかたがないことではあるが。 このあたりのエキセントリックな言動や強固な渇望に反しての常識的な感覚こそが、ハルヒのハルヒたる所以であり、彼女が流出一歩手前で留まっている要因である。 余談だが、この時のデッキの仕舞い方が雑だったもので、支援レスに「貴様ぁー!」「レアカードに傷が付いたわ!」など某社長が大量発生した。 とはいえ、無意識の内に願望を実現させる力を持っていることには変わらず、ハルヒにとって本人の認識はともかく都合のいいことが頻発することとなる。 登場話の次の話で、藤井蓮及び美堂蛮の強力対主催コンビ、通称カドケウスと合流し、SOS団を暫定的に結成。 特に蓮はマリィの本来の所持者だったこともあり、一気に戦力が増強した。 ただし、退屈を嫌うハルヒと平凡な日常を愛する蓮では度々諍いが生じ、喧嘩別れしたことも。 蓮からマリィと交換する形で手に入れていたスマートフォンを用いたチャットを通じて、まだ綺麗だった頃の夜神月に愚痴った程にご立腹であった。 だがそれは、感覚的にであれ、互いが互いの内面を理解していたがための喧嘩であり、その関係性を妬んだ鬼柳京介に襲撃されることとなる。 在りし日の自分とチーム・サティスファクションをハルヒとSOS団に重ねた鬼柳により、目の敵とされ、拐われるハルヒ。 蛮と蓮の活躍により奪還され事なきを得るも、倒れ伏す鬼柳を前にハルヒの心境は複雑だった。 鬼柳がそうであったように、ハルヒもまた、つまらない世界に抗い、満たされることを求めた者同士、シンパシーを感じていたのである。 ハルヒ「満足……」 蛮(鬼柳だろ……) 鬼柳「なんだ?」 蛮「返事すんのかよ、おい!?」 その結果、鬼柳への未練に自らの能力を無自覚ながらも発動させることとなった。 ハルヒの願いどおりに、鬼柳は塵となることなく生き延び、ダークシグナー版のままではあるものの、ある程度は冥界の神の力をコントロールできるようになったのである。 このことにハルヒはツンデレしながらもたいそう喜び、鬼柳を副団長としたSOS団の派生団体、刹那オブサティスファクション団を改めて結成。 結局何をする団体なんだと訝しがる団員たちに冒頭の名台詞を放ち、なんだかんだで悪くないなと受け入れらる。 それなら手始めにデュ↑エルだぁと早速馴染んだ鬼柳の提案により、第一回の活動はパーフェクト・サティスファクション・デュエル教室となる。 ここでようやく海馬デッキの支給品としての強力さに気付き、デュエルの楽しさも知る。 SOS団内の交流としても微笑ましい結果に終わり、少しずつ距離を詰めていくこととなる。 加えてメンバー増強も忘れない。 バランとの戦いの傷を癒すために休息していたアーチャーを、つまらなそうな顔をしているのが気に食わないと無理矢理SOS団の一員に。 実際このロワでのアーチャーは、凛ルートとはいえエンディング以前からの参戦だったため、まだ磨耗した状態だったのだ。 とはいえアーチャーの加入は概ねSOS団にプラスの方向に働き、ハルヒはまた一つ満足することとなる。 ハルヒ的には何よりも家政夫としての能力が一番ありがたかったみたいである。 もっとも、人使いが荒すぎたため、一度はアーチャーに出奔されてしまうこととなるのだが。 それから先も、一本満足を団員とともに食べ満足したり、満足しすぎて鬼柳ともども最高にハイになり団員たちを置いてけぼりにしたりと大騒ぎ。 ハルヒが騒いだり先走ったり無鉄砲だったりマーダーに襲撃されたりしても、チート揃いの団員たちのおかげで大きな危機には陥らず。 ロワ内にも限らず、あれだけ求めていた退屈しない時間と、只の人間じゃない仲間たちに囲まれたハルヒは紛れもなく、一瞬刹那に充足感を得ていた。 そんな満足が、永遠に続くと、そう思っていた。 鬼柳「……おい、ハルヒ」 ハルヒ「なによ、満足」 鬼柳「SOS団の連中、ここにいるのだけじゃねぇ、元々のメンバーも含めてだ。 ある日、そいつらと一緒にいる理由がなくなったら、お前はどうする?」 ハルヒ「どうもしないわよ、だって、私達が一緒にいられなくなる理由なんてあるわけ無いもの」 鬼柳「……どうかな。まぁ、いいさ。だが、覚悟しておけ。別れの時ってのは、嫌でもやって来るものさ」 思いたかった。 涼宮ハルヒという人間は神の如き力に反し、どこまでも普通の女の子で、平凡な人間だった。 鬼柳に言われるまでもなく、誰よりも、この幸せにいつ終わりが来てしまうのかと、心の底では怯えるようになっていた。 皮肉にも、その怯えから、蓮の抱いている“愛すべき一瞬を永遠に味わいたい”という願望をいくらか理解できるようになり、絆を深める。 また、クラウザーさんの影響でノリノリになった鬼柳を追う形で、デモンベインレイプ事件にも遭遇。 巨大ロボデモンベインや、神の子、現人神東風谷早苗ら常識を大きく外れた者たちと出会うことになる。 特に年齢や境遇が似ていながらも、自らとは違い常識に囚われなくなった早苗には良くも悪くも影響を受けることとなった。 ハルヒもまた常識の楔から解放されかけ、能力の暴発が頻発するも、先人であるキリストの導きもあり、大事に至ることはなかった。 その後、早苗とカズマの反応から、クラウザーさんのことを性犯罪者と勘違いして追跡。 その途中、クラウザーさんと序盤行動を共にしていた月達と前述のチャットの縁もあり合流するも、この時既に月はデスノートを手にし記憶を取り戻していた。 ハルヒはすっかり月のことを信じていた為、今度は月にきな臭さを感じていた蛮と衝突することに。 しかし蛮の危惧したとおりに月が人殺しであったことがキリストのおかげで発覚。 団員たちの活躍もあり脅威は去るも、信じていた月に裏切られたこととその無残な末路にはショックを隠せないでいた。 目の前で初めて人に死なれたことも相まって、このことをハルヒは大きく引きずることとなり、クラウザーさんとその信者たちと合流した時に火種となる。 クラウザーさんの被害者達と信者達で、対主催同士での諍いに発展しかけるが、幸か不幸かシックスが会場中の悪意を吸収。 誤解が解け対主催は一致団結するも、シックスのように未だに各地でマーダーが大規模な厄災を引き起こしていたこともあり、一度、チームを分けてそれぞれに対処して回ることとなった。 ハルヒはラインハルト・ハイドリヒと因縁のある蓮の意思もあり、SOS団として黄金大戦を担当しようとするも、そこに天魔・夜刀が顕現。 チート揃いのSOS団全員で立ち向かったとしても勝てるかどうか分からない相手と一人戦うこととなった蓮に、思わず加勢しようとするもアーチャーに止められる。 それでも蓮が危機に陥ったときは団長として檄を飛ばし彼を奮い立たせた。 この戦いの最後、敗北を受け入れた夜刀により、自らの持つ能力がどういったものなのか、座に至り己の理を世に流れ出させることの意味を伝えらる。 あくまでも感性は普通の高校生であるハルヒは、思いもよらない自分の秘密に動揺。 夜刀曰く、元となった渇望は“この世には不思議があるべき” “世界を面白くしたい”。覇道神としての理は“千変万化生々流転”。 ハルヒが座についた場合、退屈を嫌う彼女に合わせ、ハルヒの思い通りに面白くなるという現状から転じ、ハルヒ自身も含めた誰の思いもよらぬ変化と神秘に富んだ世界になるという。 それはハルヒにとっては面白い世界だが、同時に不安定極まりない世界を全ての人間に押し付けるということでもあり、傍若無人に振舞ってきたとはいえ一人の人間が背負うには重すぎる覚悟を要することだった。 その上ハルヒに追い打ちをかけるように、一時の団欒を経た後のジ・エーデル・ベルナルとの最終決戦において、遂にSOS団の仲間たちとの死別に見舞われることとなる。 ハルヒを庇い、凶刃に討たれる蛮。 これまで仲間を誰一人として失って来なかったハルヒが悲しみに耐性があるわけなどなく、自らを庇ったが故の死もあって、その精神はギリギリまでに追い詰められる。 “こんなのちっとも面白くない!” 抱いた悲憤が引き鉄になり、あわや今ある世界を見捨てて座へと至りかけるも、かつて自分の過去を抹消しようとしたアーチャーの言葉により思い直す。 ジ・エーデル「ハハハハハハハ!君たちSOS団とボクのどこが違うっていうんだい? 同じだよ、あくなき快楽を求めるボクと君たちは!」 ハルヒ「はぁ? なにいってんの、あんた? 満足ってのはね、文字通り満たされることなのよ。 あんたみたいな使い捨ての快楽を求め続ける奴と一緒にしないで欲しいわ」 そうだ、満足とは満たされることなのだ。胸のうちに残り続けるものなのだ。 ジ・エーデルのように快楽を消費し、飽きたから使い捨てるのとは違う。 蛮と過ごした時間を、美堂蛮という人間が自分を護ってくれたことを、ハルヒは手放したくなかった。 ……果たしてその選択は正しかったのだろうか。 いつしかの鬼柳の言葉を証明するかのように、アーチャーが、蓮が、鬼柳が死に、マリィが座へと駆け上り、全てが終わった時、SOS団はハルヒは一人きりになっていた。 「こんなんじゃ……満足できないじゃない……」 悲しげに呟いて元の世界へと戻ったハルヒ。 座へと至りかけた影響か、元の世界では楽しかったSOS団での残滓のように、デュエルモンスターズが流行っていた。 けれども、その程度ではハルヒの慰めには到底成り得なかった。 沈み込んでいるハルヒの調子を取り戻させようとキョンたち本家SOS団がハルヒにデュエルを挑むも、鬼柳仕込みのデュエルの腕には長門有希ですら叶わず不満足が貯まる一方。 家に帰りベッドに寝転びながら、鬼柳の形見であり、今や自分のデッキであるカード達にこの先もう満足できないのではないかと弱みを漏らし、いつしか眠りについていた。 その夜、ハルヒは不思議な夢を見た。 水銀の王と名乗るものから、女神に抱かれたことへの礼をされたのだ。 訳が分からないと当初ハルヒは訝しがるが、その女神というのがマリィのことだと気付くとそれまでの困惑から一変して立ち直る。 抱かれたとはどういうことか、あのあとあの子はどうなったのか、あとあんたうざいと目の前の胡散臭い男に詰め寄り、根掘り葉掘り聞き出す。 そして、マリィが健在で、本来あるはずだった脅威からも護られたと知ると久しぶりに満足し、いつかまた会いに行くからと言伝を頼む。 今すぐではないのかい? 生々流転は輪廻転生に通じる理である以上、覇道共存も叶うだろうに。 そう問うてくる水銀にハルヒは笑顔で答える。 抱きしめてくれてるんでしょ。だったらいいわ。私とマリィちゃんも、あいつらも、ずっと一緒なのだから、と。 そこでハルヒの目は覚めた。 夢だったのか、などとは思わない。 現実に戻ってきてしまったなどと悔やみもしない。 涼宮ハルヒは2つのSOS団の団長なのだ。 この一瞬を、刹那を、満足できないというのなら、まずは神としてではなく、団長として、世界を面白くしていくことから始め直そう。 「こうなったら大会でも開いてみんなを強く鍛え上げようかしら?」 これは満足の向こう側へと完結する物語。 始まりの物語。 ミスター・ブシドーが考察したように、様々な多元世界の雛形になったプレーンな世界があるとするのなら。 その世界を元に、数多の神秘や巨大ロボに満ちた世界は生まれたのは、いつの日か、ハルヒが座につき、このロワでの思い出を込めた流出をなしたが故のことなのかもしれない。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/605.html
俺は春休み前から思っていた。 高校に入ったら、自分を変えてみようと。 ただ、決心するのはまだかかりそうだ。 なんたって、野球部に入ったのはいいが、俺はいまだにロングヘアーだからな。 まあ、男の場合はロン毛と略したほうがあってるかもしれない。 とりあえず、ピアスは外した。 しかし、まだ坊主にする勇気がもてなく、いまだにロン毛だ。 どうやら、仮入部中は坊主にしなくていいらしいので、まだ仮入部の状態。 そろそろ、切ろうとは思うのだが・・・。 ところで、今俺は先輩達がバシバシ放つボールを拾っている。つまり、球拾いだ。 ありきたりすぎる。しかも、ここ何日かずっと。 と、そんな俺の横にいるのは、今日仮入部してきた、俺と同じクラスの女の子、 涼宮ハルヒ 普通、他人がどんな自己紹介をしたかなんてすぐに忘れてしまうだろうが、この子の自己紹介はすこし衝撃的。 後、10年は忘れそうにない。 ところで、何で女の子なのに野球部なんだろうな? ソフトボール部に入ったらいいのに・・・ と思って、言ってみたのだが、 「そこには昨日仮入部したわよ。あんたのせいで、最後の1点とれなかったけどね」 と、睨まれながら言われた。 ああ、あれ試合中だったのか。 そんな感じは、確かにしたんだが・・・ 球拾いをずっとしてたから、そのまま返しちゃったんだよ。 「ソフトボールも野球も似たようなもんだと思うけど」 「あんたには関係ない」 なんか分かんないけど、怒られた。 ところで、いまだに球拾いか筋トレしかやってないんだが、いつバットを握らせてくれるんだろうね? まあ、仮入部の俺がそんなこと言えるわけがないが・・・ というより、仮入部の人までこんなことやらせるのはどうかと思う。 仮入部生にまでそんなことさせたら、その生徒がやめたくなるぞ。 もちろん、そう思ってるのは俺だけじゃないらしい。 隣の女の子も、先ほどからイライラオーラを出している感じだ。 多分、そろそろやめるだろう。聞いた話によれば、毎日、行く部活を変えてるらしいからな。 球拾いばかりで面白くないと分かったはずだ。 と、思ったのだが、そう思っていると部長がこちらへやってきて、 「お前ら、これつけろ」 と言いながら、グローブが山のように詰められているダンボールを持ってきた。 「適当に二人一組になってキャッチボールしろ」とのことだ。 キャッチボールか・・・どことなく懐かしい響きだ。 さて、誰と組むか・・・ 「一緒にやる?」 「別にいいけど」 ということで、俺はこの涼宮ハルヒという女の子とキャッチボールをすることになった。 他にもこの女の子とやろうとしてた人がいるらしいが、多分、俺はそいつらと同じ理由でこの子を誘ったのではない。 ただたんに、近くにいたから・・・それだけだ。 でも、やることになったのはいいんだが・・・。 「……」 「……」 会話がない。 いや、普通、部活中のキャッチボールは話しながらするものではないが、何か言わなきゃいけない気もする。 「あの、俺の名前知ってる?」 「知らないわよそんなこと」 「花瀬。同じクラスなのは知ってるよね?」 「だから知らないって言ってるでしょ」 ・・・・・この子はどうやら、人と話すのを嫌うらしい。 それとも、ただたんに苦手なだけなのか? 「そういえば、入学式の自己紹介だけど・・・」 「あんた何か知ってんの?宇宙人?」 「いや、どこまで本気かな?と」 「・・・あんたもそれ。どうせ、何でもないんでしょ。だったら話しかけないで」 「ごめん」 自分でもなぜ謝ってるかが分からない。 「あっそうそう、言い忘れてたが、50回したらこっち戻って来い!」 やばい!数えてなかった! 「31回目」 ・・・怒ったような口調で言ってくる。 どうやらこの女の子は意外とマジメらしいな。 その口調とかなおせば、かわいらしい感じになるのに。 「50回やったけど」 「じゃあ戻ろうか」 で、戻ろうとした時だ。 先輩が打った球がこちらの方向に飛んできて、そのまま来ると涼宮さんにぶつかってしまう。 と思ったと同時に、俺はその女の子の腕をつかみ、こちらに引き寄せて、ボールを避けた。 よかったぶつからなくて。 ・・・と、思ったのだが、その拍子で、しりもちをつき、しかも腕をつかんだまんまだった。 この状況を詳しく説明しなくても、分かってもらえたらうれしい。 これまた、よくあるパターンだ。 「何すんのよ!!」 「グハッ!」 腕をふるい、そのままおもいっきり腹を蹴られた。痛い。 とりあえず、説明しなければ。 「だって、君あのままだとボールに・・・」 そう言ってくれたら分かってくれると思ったんだけど。 「あれぐらい自分で避けれるに決まってるでしょ!あたしは掴もうと思ってたけど」 ・・・かなりまずいことをしてしまったようだ。 今度はグローブを投げつけられた。痛い。 まだ、バットじゃなかっただけよかったと思うべきなのかもしれないけど。 「つまんないし、あんたみたいな男もいるみたいだからさっさとやめる」 はい、ごめんなさい。できたらもうちょっと早くやめていてほしかったです。 それから、その子は教室に戻っていった。 「お前、何、女押し倒してんだよ!!」 いや、そのつもりはなかったんですけどね・・・ とりあえず、俺は必死になって先輩とか、同輩とかに事情を説明。 分かってもらえたかは分からない。 でも、今日、一つだけ分かったことがある。 あの女の子には近づかないほうがいい。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4203.html
プロローグ ある日の午前十一時半、倦怠生活に身をやつしている身分の俺には一日のうちでもっとも夢膨らむ楽しい時間。このところ妙に開放感を感じているのは、きっと束縛感の塊のようなやつが俺から少なくとも十メートル半径にいないからだろう。精神衛生的にも胃腸の機能的にも正常らしい俺は、さて今日はなにを食おうかとあれこれ思案していた。その矢先に机の上の内線が鳴った。無視して昼飯に出かけるにはまだ二十分ほど早いので仕方なく受話器を取ると総務部からの転送だった。お客様からお電話よ、と先輩のお姉さまがおっしゃった。俺を名指しで外線?先物取引のセールスとかじゃないだろうな。 「キョン、今日お昼ご飯おごりなさい」 あいつ俺に電話するのに代表にかけやがったのか。 「職場に直接かけてくんな。携帯にメールでもすりゃいいだろ」 「いいじゃないの。あんたがどんな人たちと働いてるか知りたかったのよ」 俺の周辺に涼宮教を広めないでくれ。 「俺とお前の職場じゃ昼飯を食うには離れすぎてるだろ」 「じゃあ、北口駅前でね」 そう言っていきなり切りやがった。相変わらずこっちの都合なんてないんだよなぁこいつは。 「すいません、外で昼飯食って打ち合わせに直行します。三時ごろ戻ります」 俺は戻りが遅れることを予想して上司に言った。いちおう取引先に会うカモフラージュのためにカバンを抱えて出た。中身は新聞しか入ってないんだが。 「キョン!こっちよこっち」 北口駅を出るとハルヒが大声で叫びながらハンドバッグを振り回していた。俺は横を向いて他人のフリ、他人のフリ。 「恥ずかしいなまったく」 「この近くにイタリア人がやってるフランス風ニカラグア料理の店が開いたのよ」 どんな料理だそれは。 ハルヒにつれて行かれた開店したばかりという瀟洒な料理店は意外に混んでいた。ニカラグアがどんな国かは知らないが、まあ昼時だからそれなりに客も入っているようだ。そのへんのOLが着る地味なフォーマルスーツに身を包んだハルヒはズカズカと店の中に入り込み、ウェイターが案内しようとするのも構わずいちばん見晴らしのよさそうな窓際の丸テーブルにどんと腰をおろした。 「あーあ。ほんと、退屈」 ハルヒがこれを言い出すのは危険信号だ。俺はパブロフの条件反射的に身構えた。何も言わない、何も言うまいぞ。 「あんたさぁ、」 腕を組んでテーブルに伏したままハルヒが呟いた。 「なんだ」 「仕事、楽しい?」 キター!!これはまずい展開だぞ。話の行方を考えて返事をしなくては。ハルヒがこういう話の振り方をするとき、不用意な俺の発言でとんでもない事件に巻き込まれることが歴史を通じて証明されている。 「半年だし、まあやっとペースに乗ったところって感じかな」 「あたしは退屈。こんな生活が退職するまで続くかと思うと憂鬱になるわ」 「定年までいることはないさ。結婚するとか、転職するとか、資格を取ってキャリアを重ねるとか、いろいろあるだろ」 「あんた、有希と結婚したとして、こんな生活が延々続くことに耐えられるの?」 「生活は安定するさ」 いや、今なんか問題発言がなかったかハルヒ。 「あたしは耐えられないわ。人に使われて歯車を演じるだけの人生なんて」 人、それを“歯車にさえなれない”と表現するんだが。そんなことをハルヒに向かって言ったら牙をむいて頭ごと食われそうなのでやめとこう。 「貯金して海外旅行でも行ったらどうだ」 「毎年それでリフレッシュするわけ?帰ってきて自分が飼われてるのを実感するだけよ」 「うーん……。お前を満足させられる会社ってのが、そもそもあるのかどうか分からん」 それ以上会話が続かず、俺たちはしばらく黙っていた。ハルヒは眠そうにニカラグア産コーヒーをすすった。もしかしたら俺たちはこのまま、一生社会のしがらみの流れに身を任せて生きていくしかないんじゃないか。そう思わせるような雰囲気が、俺とハルヒの半径二メートルくらいを充たした。だがまあ、それも悪くはないと思う。今までハルヒに付き合っていろいろやってきたが、もうお遊びは終わりだ。 俺は倦怠感に身をゆだね、持ってきた新聞を広げて壁を作った。ゆっくりしよう、どうせ戻りは三時だし。 「気がついた!」 ハルヒの声が店内に響き渡わたり、俺は新聞を落とした。突然俺のネクタイを締め上げた。ずいぶん前に似たようなシーンに遭遇した覚えがあるぞ。 「く、苦しい離せ」 「どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら」 「何に気づいたんだ」 「自分で作ればいいのよ!」 「なにをだ」 「会社よ会社」 うわ、まじ、やめて。ハルヒは携帯電話に向かって怒鳴った。 「全員集合!」 1章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5987.html
※注意書き※ 涼宮ハルヒの驚愕γ(ガンマ) のγ-7の続きとなります。 思いっきり驚愕のネタバレを含むので注意。 γ-8 翌日、火曜日。 レアなことに、意味もなく定時より早く醒めた目のおかげで、俺は学校前の心臓破り坂をのんびりと歩いていた。日々変わらない登校風景にさほど目新しさはないが、一年生らしき生徒どもが生真面目に坂を上っているのを見ると去年の自分の影がよぎる。 そうやってのびのび登校できんのも今のうちだぜ。来月にでもなりゃウンザリし始めることこの上なしだからな。 ふわあ、とアクビしながら、俺はやはり無意味に立ち止まった。 突然にSOS団に加入してきた佐々木、その佐々木を神のごとく信仰する橘京子、そして、何をしでかしてくれるか予測すらつかない周防九曜。 さて、これから何がどうなるのかね? 「ふむ」 俺は生徒会長の口調を真似てみた。考えていても前進せんな。まずは教室まで歩け。そこで団長の面でも拝むとしよう。俺の学校生活はそうせんと始まらん。いつしかそういう身体になっちまった。 その日の授業中、ハルヒはロープで繋いでおかないと宙に舞い上がりかねないほどソワソワした機嫌を維持していた。そのお眼鏡に適う新入団員を得られたのがよほど嬉しいようだ。 その日の昼休みも、ハルヒ謹製弁当と俺の母上作弁当との間の強制的おかず交換が実行され、クラスの連中から好奇の視線が向けられた。 ハルヒよ。これずっと続けるつもりか? 一緒にメシ食うぐらいならともかく、こんなことを毎日やっていたら本気で勘違いする奴が出てくるぞ。 校舎中のスピーカーが本日の営業終了を伝えるチャイムを鳴らし終えるとほぼ同時に、ハルヒは俺の腕をつかみ教室からすっ飛んで行った。目指すは、当然、我らが文芸部室である。 俺と古泉はUNOで対戦、朝比奈さんは部室専用メイド、長門はいうまでもなくいつもどおり。 ハルヒはパソコンを立ち上げるとなにやら印刷し始めた。 やがて、佐々木がやってきた。 「やあ、待たせたね、キョン」 おいおい、いくらなんでも早過ぎないか? 佐々木の学校からここまで来るには結構時間がかかるはずだが。 俺にしか聞こえない小声で古泉が答えた。 「『機関』から送迎の車を回してます。橘さんの依頼もありましたしね」 なるほど、そういうことか。 「団長に挨拶なしというのは、どういうことかしら?」 ハルヒがまるで姑が嫁をいびるかのようにそう言った。 「ごめんなさい。うっかりしてたわ」 「次からは気をつけなさい」 そして、唐突にこう宣言した。 「これから、佐々木さんには入団試験を受けてもらいます。今はあくまで仮入団段階。試験で落第点をとったら退団となるので、心して受けるように」 「おや、それは初耳ね」 いつものごとくハルヒの突発的思い付きだろう。 ハルヒは、ちょうどいい暇潰しネタを見つけてしまったようだ。佐々木も災難だな。 プリンタから吐き出された紙が一枚、佐々木に手渡された。 「試験は、ペーパーテストよ。制限時間は三十分。文字制限はなし」 そして指し棒をスチャッと伸ばし、 「始め!」 佐々木は、机に向かって、シャープペンを動かし始めた。 俺は、ハルヒが余計に印刷してしまったらしい紙を手に取ると、書かれている内容を確認した。 ・Q1「SOS団入団を志望する動機を教えなさい」 ・Q2「あなたが入団した場合、どのような貢献ができますか?」 ・Q3「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者のどれが一番だと思うか」 ・Q4「その理由は?」 ・Q5「今までにした不思議体験を教えなさい」 ・Q6「好きな四文字熟語は?」 ・Q7「何でもできるとしたら、何をする?」 ・Q8「最後の質問。あなたの意気込みを聞かせなさい」 ・追記「何かすっごく面白そうなものを持ってきてくれたら加点します。探しといてください」 これのどこがテストなんだ? 単なるアンケートだろ? それでも、佐々木は真面目に取り組んだようで、回答はA4用紙表裏2枚にわたる大作となった。 ハルヒは渡された回答用紙を読み終わって、 「まあ、及第点ね」 ハルヒは回答用紙を適当に畳んでポケットに収めた。 「おい、俺にも見せろ。あんな問題でどうやって4ページにわたる大作論文が書けるのか興味がある」 「それはダメ」 にべもない返事だった。 「守秘義務に反するわ。個人情報でもあるし、やたらと見せるわけにはいかないの。これはあたしが決めることだから、あんたに見せても意味がないってわけ」 よく輝くデカい瞳で俺を睨み、 「特に興味本位のヤツにはね。団員の選定は団長の仕事よ」 団長は断固拒否の態度を崩さなかった。 その後、俺は、朝比奈さんの豊潤な芳香立ち上るお茶で満たされた湯のみを片手に、UNOで古泉に連勝し続けた。 無事テストをパスした佐々木は、朝比奈さんとお茶の薀蓄を語り合っている。 さりげなく長門に目を向けてみた。 読書を続ける文芸部部長は、椅子から一ミリも離れず不動たるノーリアクションのままである。 長門が無変化で無言の体勢を崩していないということは、何の問題も起きていないということでもある。少なくても、あの九曜に動きはないようだ。 いつものように長門が本を閉じるのを合図として、団活は終了した。 昨日と同じように佐々木と帰路を共にすることになったが、いくら訊いても入団試験の回答内容は教えてくれなかった。 「団長の意向に逆らったら、退団させられるかもしれないからね」 佐々木の顔は、どう見ても自分の言葉を信じているようには見えなかった。 わざわざ学外の人間を入団させたんだ。ハルヒは、佐々木をそう簡単に退団させたりはしないだろう。 そのことは、佐々木も分かっているようだった。 γ-9 翌日、水曜日。 これが一時的なのか、この後も続いて加速度を増すのか、とにかくポカポカ陽気は春を超えて初夏というべき気候にホップステップという感じでジャンプアップを遂げていた。そういや去年もこんなんだったような。 どうやら地球はどんどんヌクくなりつつあるようで、それが人類のせいなんだとしたら早いとこなんとかしないと、シロクマや皇帝ペンギンから連名の抗議文が全国各地の火力発電所気付で届くに違いない。字の書き方を教えに行ってやりたい気分だ。 そんなわけでこの朝、登校ナチュラルハイキングに甘んじる俺のシャツは早くも汗で張り付くようになってきた。隣の芝は青々と茂って俺の目にうすら目映く、それにつけても冷暖房完備の学校が憎くてたまらん。 今度会ったら生徒会長に注進してみたい。実際的な予算の有無はともかく、喜緑さんの宇宙的事務能力ならエアコンの二十や三十、たちどころに設置完了となるかもしれない。 俺の足取りはいつものペースだが、多少早歩き気味なのは無常な校門が閉ざされてしまう時間ギリギリであるせいである。 いつものことなんだが、余裕をもっての登校がついぞ実行できてないのは、家を出発する時間がおおむね決まっており、遡れば起床の時間も一年から二年になっても変化していないという事実をもってその答えとしたい。 一回間に合いさえすれば、次からも同じ時間での発走となるのは、実は人間が持つ経験値蓄積の結果と言うべきだろう。用もないのに早朝の学校に行きたがる生徒なんざ、ボロ校舎に倒錯的な趣味を持つフェティシズムの持ち主だけさ。 本日、通学路の途中、毎度のことながらひいひい言いつつ坂道を上っていると、背後から意外な人物の声がかかった。 「キョン」 国木田だった。俺の後を急いで追ってきたんだろう、国木田は荒い息を吐きつつ、 「佐々木さんがSOS団に入ったそうだね」 なんでおまえが知ってるんだ? 「昨日、校内でばったり会ってね。あまり話す時間はなかったけど、中学時代と変わってなかった」 まあ、そうだな。 「でも、佐々木さんもキョンも最近、九曜さんと知り合ったと聞いたときには驚いたよ。こんな偶然もあるのかなって」 おいおい、なんでおまえが九曜を知ってるんだ? 「谷口の元カノだよ」 前に言ってたクリスマス前に交際が始まって、バレンタイン前に振られた彼女か? 驚いた。それは、本当に偶然なのか? 「世間は意外に狭いってことなんだろうけどね。ただ、谷口には悪いけど、九曜さんに最初に会ったとき、関わり合いにならないほうがよいと直感したんだ。なんか普通の平凡な人間とは違うような気がしたから」 鋭い────。とも言えないか。あの九曜を見てうさんくささを感じないまともな人間がいるとも思えんからな。国木田の感想は至極まっとうなノーマル人間のそれだろう。 「僕なら彼女と付き合ったりはしないね。谷口くらいのものさ。でさ、実はね────」 声をひそめた国木田の顔が接近した。 「ちょっと言いにくいんだけどさ。僕は似たようなことを朝比奈さんや長門さんにも感じるんだ。 気のせいだとは思ってるんだけど、どこかが違う。けれどあの鶴屋さんが足繁くキョンたちの輪に入っていることを考えると、それは警戒するものでもないだろうとも考えるんだけどね。 いや、ごめんよ、キョン。気にしないでくれよ。一度言っておきたかったんだ。SOS団でまた僕の活動が必要なときはいつでも声をかけて欲しいね。できたら鶴屋さんと一緒がいいな」 その後、教室まで、俺と国木田はどうでもいいような日常的会話に終始した。国木田は言うだけ言ってそれっきりすべての興味をなくしたように、中間試験の心配や、体育の授業でする二万メートル走への愚痴を語っていたが、なかなか見事な日常話題への切り替えだった。 こいつはこいつで俺にライトなアドバイスをしてくれているつもりなのか。特に鶴屋さんへの言及は、漠然としながらもなかなか核心をついた洞察力だと言わざるをえないだろう。 ここにも俺たちをよく解らないまでも心配の種としている同級生がいるわけだ。何しろ国木田は俺と佐々木を知っている唯一のクラスメイトだしな。俺たちの間に何か奇妙かつ歪んだ関係性めいたものがあると感づいていてもおかしくない。 聡く、親身になってくれる友人を持って俺はなんと幸せ者か。テスト前のヤマ張りでもお世話になっているし、中学時代からの付き合いでもあることだし、そろそろハルヒにかけあって単なるクラスメイトその一以上の認識を与えるべきだろう。 ただし谷口は除かせてもらうがな。奴には永遠の一人漫才師がお似合いだぜ。 きっと国木田もそう思っているのだろう。だから、先ほどのようなセリフを俺たち二人しかいない、このタイミングで俺に吐露したんだ。 どうも俺の周辺の一般人ほど、なんだか妙に勘がさえてくるみたいだな。誰の影響だろう。 午前午後の学業時間はこれということなく進行し、俺が授業の半分くらいをうつらうつらしている間にいつのまにか終業のチャイムが鳴っていた。 なお、本日の昼休みもハルヒ謹製弁当と俺の母上作弁当との間で強制的おかず交換がなされたことを付言しておく。 放課後。 ハルヒとともに団室に入った俺は、鞄を床に置き、古泉の向かいに座った。 「どうです? 一局」 古泉が、テーブル上の盤を俺のほうに寄せてくる。 「なんだ、これは」 一風変わった盤上に丸い石。刻まれている漢字は『帥』とか『象』とか『砲』などの、動かし方の検討もつかないチャイニーズミステリアスな様相を呈する駒だった。 オセロでも囲碁でも軍人将棋でも連戦連敗の古泉め、今度こそ勝てそうなボードゲームを搬入してきたということか。 「中国の将棋です。象棋(シャンチー)とも呼ばれていますね。ルールさえ覚えたら、気軽に誰でも楽しめますよ。たいして難しくはありません。少なくとも大将棋よりは手短に終わるでしょう」 そのルールさえ、という部分が問題なのさ。そいつを覚えるまで俺は連戦連敗の苦汁を舐め続けるに決まってるじゃないか。花札にしないか? オイチョカブでもコイコイでも母方の田舎ではちょいと鳴らした経験がある。 「花札は盲点でしたね。いずれ持参しますよ。それでこの象棋ですが、チェスや囲碁将棋と同じでゼロサムゲームだと解っていれば、それで充分です。あなたならたちまちのうちにルールを飲み込めます。 差し掛けの囲碁の盤面を見て、あっさり勝敗を看破できる実力があれば鉄板ですよ。これもボードゲームとしては運の要素があまりありませんから、あなた向きだと思いますよ」 余裕の笑みを浮かべ、 「では、最初は練習ということで、初戦は勝敗度外視でいきましょう。まずこの『兵』いう駒の動かし方ですが──」 俺は古泉に教えられるまま、駒を並べ、それぞれの動きの把握にかかった。将棋に近いが細かい部分はけっこう違う。まあチェスやオセロにも飽きていたことだし、新しいボードゲームに親しむのも悪くはないかな。 「お待たせしました」 天使のような声色とともに、お盆に湯飲み載せた朝比奈さんが視界の中に入ってきた。 「ルイボス茶といいます。カフェインゼロで健康にいいそうです」 朝比奈さんから湯飲みを手に取り、赤茶けた液体を一口すすり、同様の行動をとった古泉と数秒後に目が合った。 「……風変わりな味ですね」 微苦笑とともに感想を述べた古泉とまるごと完全に同感である。決して不味くはない。かといって刮目するほどの美味さでもない。むしろ口に合わない、妙な風味がする。 これなら煎茶や麦茶のほうが忌憚なくがぶ飲みできるだろうが、正直に舌の具合を報告するには俺はちと小心者すぎた。 「違うのとブレンドしたほうがいいかなあ?」 朝比奈さんはさらなる改良を思案しているようだった。 そこに佐々木がやってきた。 ハルヒは、佐々木がやってくるなり、 「佐々木さん、パソコン詳しい?」 「人並み程度だけど」 「そう? じゃあ」 団長机に鎮座するコンピ研印のパソコンディスプレイには、例のSOS団ウェブサイトが、かつて俺が作った状態のまま表示されている。 もちろんショボいレイアウトにチャチなコンテンツと、意味のある文字列などメールアドレスしかないという、今時日進月歩で進化し続けるネットの世界において、ほとほと時代遅れなホームページであると言わざるをえない。 ブログ? 何それ? って感じのデジタルデバイトっぷりである。 そのうちリニューアルすべし、とハルヒの意気だけは高かったが、もっぱらその役目は俺に任じられており、そしてそんなもんはまったくする気のなかった俺はなんやかんやと理由をつけて先延ばしにし続けていたわけで。 実際、SOS団の名がネットワークに流失して誰一人幸福な結果になりそうにないというのは、去年のコンピ研部長の件でも明らかだったため、ハルヒには適当に忘れていて欲しかったのだが。 アクセスががんがん増えてネット内知名度を高める野望を未だ捨てきっていなかったらしい。 もちろんハルヒは長門がロゴマークに細工したことを知らないし、気づいてもいない。 「サイトをもっと人目を呼ぶようなのにしたいだけど、できるかしら?」 と、ハルヒは付けっぱなしのパソコンモニタを指さし、 「SOS団のメインサイト。キョンが作ったきりのまるで殺風景な役立たずな代物なのよ。なにより美しくないわ。世界にはもっとスタイリッシュで情報満載なサイトがたくさんあるっていうのに、これじゃワールドワイドウェブの名が泣くというものよ」 悪かったな。 「ご期待にそえるかどうかは解らないけど、やってみるわ」 古泉と象棋に集中している間も、俺は他の団員の様子をちらちらと窺っていた。 長門は本を読んでいる。黙々と読んでいる。新しい団員が増えたところで所詮それは文芸部の新戦力ではないと達観しているのか、一年前からこの部室での態度はアイスランドの永久凍土のように不変だった。 膝に置いている単行本がやや薄茶けているが、古本屋から掘り出し物を入手した稀覯本なのかもしれない。こいつの行動範囲も市立図書館から広がりつつあるのか。 寂れた古書店を巡ってふらふらした足取りで本棚から本棚へと移動している長門を想像し、俺の精神はどことなく落ち着いた。 佐々木にウェブサイトデザイナーの才能はなかったらしく、SOS団ホームページは結局はあまり前と変わり映えしない感じに落ち着いた。佐々木に言わせれば細かい点ではいろいろと改良されたということらしいのだが、見た目では解らん。 帰り道。 俺と佐々木の今日の議題は、国木田が朝、話していたことだ。 周防九曜について、佐々木の率直な意見を聞いてみたかった。 「九曜さんについては、僕もいろいろと試行錯誤しながら考えてみたんだけどね」 佐々木はそう前置きしてから、 「僕は子供の頃から、地球外生命体がいるのなら、いったいどんな姿形をしているのかと想像していた。小説やマンガでは、光学的に視認できる形状のものが多かったし、ある程度の意思疎通も可能であることが前提条件だった。 たとえば素数の概念を理解してくれたりね。翻訳機という便利なアイテムが登場することも稀ではなかったな」 そこから始まる宇宙的対話がキモであるSFは枚挙のいとまがない。これでも俺は長門の影響で最近の小難しい海外SFを多少はたしなんでいる。フィクションから学ぶことだって多いのさ。 「ま、それはそれで置いとくとして、長門さんの情報統合思念体や、九曜さんの広域帯宇宙存在については、どうやら人間の紡ぐ解りやすい物語上の異星人とは根本的なズレがあるように思える」 火星や水星にヒューマノイドタイプの宇宙人がいたと書いていた前時代のSF作家たちに聞かせてやりたい言葉だ。たぶん当時よりもっと面白い物語活劇を書いてくれだろうにな。 「そうだね。SFに限定することもなく、例えばJ・D・カーがこの時代に生きていたら、現代技術を取り込んだ奇抜で新機軸な密室トリック小説を大量に生み出して、僕を読書の虜にしてくれたものなのにね。 いっそカーを時間移動で現在に連れてこられないものだろうか。キミの朝比奈さんに頼んでみてくれないかな。真剣にそう思うよ」 残念だが俺だって過去に連れて行かれたことがせいぜいで、未来には行けてない。きっと禁則事項やら何やらで、進んだ時間の世界には行けないことになってるんだろう。 「それは余談だけどね。思うに、彼女たちは僕たち人間の価値観と理屈が理解できないんじゃないかな。 高次元の存在が無理矢理、人間のレベルまで降りてきているわけだから、何を話しているのかは解っても何故そんなことを話しているのか解らない。あるいはどうしてそんな話をする必要があるのか解らない、みたいにね。 5W1Hのうち、誰とどこは判断できても残りが全然ダメだとしたら、そんな存在とまとな対話ができると思うかい?」 思わないね。長門の言ってることすら納得不能に近いのに、九曜に至っては5W1Hのどれも噛み合わない感じだ。 しかし、佐々木は、 「この手のコミュニケーション不全は特に難しい問題ではない。たとえばキミはミジンコやゾウリムシの価値観を理解できるかい? 百日咳バクテリアやマイコプラズマと一緒に談笑できると想像できるかな?」 俺の知能ではちと難しいことは確かだな。 「単細胞生物やバクテリアが人間レベルの知能を獲得したとしても、きっと同じ感想を抱くと思うよ。この二本足で歩く哺乳類はいったい何がしたくて生きているんだろう。人類はこの惑星と世界をどうしたいのか、と疑問以前に呆れるかもしれないな」 俺自身、何がしたくて生きてるのかなんて考えても解らんからな。全人類的に考えて圧倒的多数派であるとは信じているが。 「たとえばキョン、キミにとって一番大切なものは何だい?」 突然言われても、とっさには出てこない。 「僕もだよ。高度に情報の錯綜する現代社会において、価値観が定量化されることはまずないといっていい」 佐々木の表情と口調は変化しない。 「たとえば、ある人にとっては金銭かもしれないし、情報だと言う人もいるだろう。別の人は絆こそが最も大切だと主張するかもしれない。 それぞれ全然別の価値基準を持っているものだから、自分の価値観のみでこの世のすべてを判断することはできない────と、僕もキミも知っているだけの話さ。だからこそ、問われてすぐさま回答を出すことができないわけだ」 そうかもしれない。 「でも昔の人はそんな問いかけにそれほど悩まなかったと思うよ」 そうかもしれない。 今でこそ情報は好きなときに好きなだけごまんと手に入る。しかしほんの百年、いや十年前でさえ入ってくる情報は限られていた。これが戦国時代、平安時代ともなるとどうだ。 何かを選ぶことに対し現代人より躊躇いは深いものだっただろうか。当時、選びようにも選択肢は限られていたにちがいない。 多様性を増して選ぶ自由が増えたと言っても、逆に何を選べばいいのか悩むのであれば、むしろそれは多様化による選択の弊害になるんじゃないか? どれを選ぶべきなのか何の情報もないとき、人はより多くの人間が選ぶものを手に取るだろう。 それだと本末転倒だ。多様化どころか、実は一極集中が進んでいることになる。価値観の均一化だ。 「どうも異星人たちは拡散よりも均一化を正常な進化と考えていたようなんだ」 佐々木の声は常に淡々としている。 「でも、どうやら違う側面もあると気づいた気配があって、それはたぶん、涼宮ハルヒさんやキミと出会ったことがきっかけになっていると僕は推理するのだがね」 ハルヒはいい。あいつなら火星人に大統領制を承認させるくらいのことならやってのけるさ。しかし、俺にそんなバイタリティはないぜ。 「いやいや、実際、キミはたいしたやつだ。橘さんから聞いた話だけでもね。さすがは、涼宮さんと僕が選んだ唯一の一般人だ」 今の俺の意識は選民意識とはほど遠い地点にある。そんな自信満々に言われてもただ困惑するだけだ。選ぶだの選ばれただの、何なんだよそりゃ、と言いたい。叫びたい。 長門や古泉や朝比奈さんが俺を特別視したがっているのは解っているし、俺だってそこそこの覚悟を持っている。去年のクリスマスイブに腹をくくったさ。それは今でも作りたての豆腐のように心の深奥に沈んでいる。 ハルヒの無意識が何かをしでかした結果として俺がこんな立場に置かれているのは渋々ながらも認めざるを得ないとして、佐々木、お前までもが俺を選んだと言うのはどういうことだ。 ハルヒは徹底的に無自覚なはずで、お前はそうじゃない。神もどき的存在であるという、ちゃんとした自覚があるはずだ。理解しているんだったら教えてくれ。 なぜ、俺を選ぶ。 「ふっ、くく。キョン、キミの鈍重なる感性には前から気を揉ませてもらっていたが、この期に及んでまでそんなことを言うとはね」 愚弄しているのではなく、単に呆れているだけのようだった。 「まあ、それはともかくとして、キミの類稀なる経験を今回も生かしてもらいたいと思う。できれば、話し合いで解決してほしいね」 相手にその気があるのならな。 問題はその相手が何を考えてるのかすら解らないことだ。いきなり武力行使に及ぶ可能性だって否定できない。 相手がそうしてきたら、もう長門に頼るしかない。宇宙人的パワーの前には俺なんてミジンコ以下だろうからな。場合によっては、喜緑さんにも出張ってもらおう。 佐々木は、別れ際にこう言い残した。 「キョン。団共有のパソコンにMIKURUフォルダなんて隠しフォルダを設けるのは、あまり感心しないね。そういうのは、自分専用のパソコンでこそこそやるものだ」 驚愕の俺の顔を置き去りにして、佐々木は颯爽と去っていった。 γ-10 翌、木曜日。 朝から夕方まで普通にルーティーンな授業を受け続ける時間が、ひねもすが地を這うごときにだらりんと続き、ホームルーム終了の合図でようやく俺とハルヒは五組の教室から自由の身となった。 俺とハルヒは一目散に教室を飛び出した。言っておくが俺はあくまで団長殿に腕を引っ張られての強制連行に近いのだぜ。そこだけは勘違いしないでいただきたい。 そうしてハルヒと肩を並べて文芸部室まで行く道のりもいつも通りなら、学内の春的雰囲気も普段どおりである。四月も半ばとなるとすっかり春という季節に飼いならされちまう。 さすがは四季、頼みもしないのに律儀に毎年現れて、悠久の歴史で地球上の生物をコントロールし続けるのも伊達ではないと言ったところか。 だが、毎日毎日、何もかもいつもどおりというわけではなく、 「あっ、涼宮さん。長門さんと古泉くんは今日は用事があって来られないそうです」 部室のドアを開けるなり、メイド姿の朝比奈さんが駆け寄ってきてそう言った。 「そう。なら仕方ないわね。今日は団活は休みにしましょ。佐々木さんにはあたしからメール入れとくわ」 ハルヒはそういうと身を翻して帰っていった。少々残念そうな顔だったな。 解るさ。いつものメンバーが揃わないと団活にならんからな。 メイド服から制服にお着替え中の朝比奈さんを残して、俺も帰路についた。 学校の玄関に到着した俺は、機械的かつ習慣的な動作で自分の下駄箱を開けた。 「ぬう?」 ずいぶんと久しぶりな物体が、揃えた外靴の上に載っていた。 ただし、いつぞやのものとは違って無味乾燥な封筒。宛先も差出人の名も書いてない。 封をあけると、一枚だけの便箋に印刷したかのような明朝体の文字が躍っていた。 ────本日、私の部屋にて待つ。 差出人はいうまでもないだろう。 俺は、すみやかに靴を履き替えると、長門のマンションに直行した。 すっかり馴染みになってしまった長門の部屋。 そこにそろったのは、俺、長門、古泉、喜緑さん、そして、橘京子だった。 いまさらこのメンバーが勢ぞろいしたところで驚きはしないさ。それぐらいの耐性が備わってるつもりだ。 「わざわざご足労いただきすみません」 古泉がいつものスマイルを崩さずに、社交辞令を述べる。 「さっさと本題に入ってくれ。このメンバーで話し合いってことは、なんかあったんだろ?」 「はい。実は、『機関』と橘さんの組織、両方で佐々木さんをSOS団から引き剥がそうとする動きが起きてます」 対立する組織で同じ動きが起きるというのは、奇妙なことだ。 古泉は、それとなく、橘京子に続きを促した。 「組織の中で、佐々木さんがそちら側に取り込まれてしまうことを懸念する勢力が増えているのです」 考えてみれば、それは当然だろうという気はする。 「おまえ個人の意見はどうなんだ?」 「私は、このまま佐々木さんをSOS団に留まらせるべきだと思います。聡明な佐々木さんなら、涼宮さんを近くでじっくり観察すれば、神の力を彼女に保持させ続けることの危険性を理解できると思うのです」 その言葉に嘘はないだろうと、俺は思った。橘の立場ならば、そういう判断もありだ。 「で、『機関』の方は、なんで佐々木をSOS団から引き剥がそうとしてるんだ?」 「佐々木さんの加入以来、涼宮さんの力が活性化しています。ポジティブな方向での活性化ですが、それでも活性化していることには違いありません」 確かに、最近のハルヒは機嫌がいいというか、何か張り合いみたいなのが出てきたというか、ポジティブな方向への変化は見られる。 「このままでは、秋に桜の花が咲いたりといった異常事態が頻発する恐れがあります。ひいては、世界そのものが改変されてしまうかもしれない。まあ、こんなふうに考える人たちが増えてるんです」 『機関』の役目は、ハルヒの訳の分からない力を抑えて、世界がこねくり回されることを阻止すること。 だとすれば、ハルヒの力の活性化原因を除去しようという動きは当然のことだ。 「おまえ個人の意見はどうなんだ?」 「僕は反対ですね。佐々木さんを無理やり引き剥がせば、涼宮さんの力がネガティブな方向に発現されかねません。まず、間違いなく閉鎖空間が頻発するでしょう。それを抜きにしても、SOS団の意思を無視して事を進めることには賛成いたしかねます」 「なんとも奇妙な話だな。敵対する組織同士の利害が一致して、敵対するはずの個人同士の利害も一致しちまった。そして、組織と個人は対立してる」 「僕たちの世界じゃ、別に珍しいことではありません。利害が一致すれば手を組み、反すれば手を切る。普通のことです」 「それじゃ、俺はおまえを信用するわけにはいかなくなるぞ」 「問題は、どこに基本軸を持つかということですよ。僕の基本軸はSOS団にあります。橘さんにとってのそれは、佐々木さんでしょう」 橘が無言でうなづいた。 古泉がいいたいことは、僕とあなたの基本軸は同じですといったところなのだろう。 まあ、その点に関しては、古泉を信用してやってもよいとは思っている。 「僕が気になるのは、現状が変化するとして、情報統合思念体がどう動くかです。長門さん、そこのところはどうでしょうか?」 「情報統合思念体主流派は、涼宮ハルヒの情報改変能力の肯定的な方向での活性化を好ましいものと考えている。それを妨げる行動は阻止することになると思われる」 「穏健派のご意見は?」 これには、喜緑さんが答えた。 「穏健派は、涼宮ハルヒの情報改変能力の否定的な方向への変化を望んではおりません。それは、情報統合思念体の存立を危うくする恐れがありますから。よって、それを誘発する可能性がある動きに対しては否定的にならざるをえません」 少なくても、この件に関しては、情報統合思念体はこっちの味方になってくれそうだ。 これもまた、利害の一致というやつだが。 「問題は、九曜の親玉がどう動くかだな」 俺は、一番の懸念材料を素直に口に出してみた。 「広域帯宇宙存在の行動原理は不明のまま。周防九曜がどう動くかも予測がつかない。現状では彼女は観測に徹しており、特段の動きは見られない」 長門が厳然たる事実だけを述べた。 「そこのところが不気味ですね。彼女たちの基本軸が見えないと、行動の予測もつかないですから。まったくのお手上げですよ」 「周防九曜への警戒は、私と喜緑江美里が継続する」 「現状では、それ以外には対処のしようもありませんね。よろしくお願いします」 事態がややこしくなってきたな。 九曜だけじゃなく、『機関』や橘京子の組織も要警戒か。 「『機関』は僕が多数派工作をしてみます。今のところ決定的な事態にはまだほど遠いですから、間に合うかもしれません。僕のところに『機関』内の情報が流れてこなくなったときが真の危機でしょうね」 「こっちの方は、私が何とかします」 橘はそう言ったが、こいつの組織内での立場からするとあまり期待できない。 となれば、せめて『機関』だけでも味方にとどめておかなければなるまい。いざとなったら、鶴屋さんを拝み倒すしかないだろう。 佐々木は、団長殿に認められたSOS団員なのだ。 その意思を無視して、勝手に引き剥がすなんてことは認められない。 γ-11 もう金曜日か。 この一週間はやたらといそがしかった気がするな。佐々木がSOS団に加わっただけだというのに、なんだか二週間分の人生を過ごしたような気がしている。 やはり九曜とか橘京子の組織とか『機関』とかがどう動くか解らないせいで、どうも気がそぞろになっていかん。 そんな気分で登校し自分の席についたわけだが、ハルヒの席はずっと空席のままだった。 やがて、担任の岡部がやってきて、こう告げた。 「今日は、涼宮は風邪で休みだそうだ」 ハルヒでも風邪を引くことがあるんだな。あいつなら、風邪のウィルスも裸足で逃げていきそうなもんだが。 と、いきなり、俺の携帯が震えだした。携帯の画面を見ると、古泉からだった。 ホームルームの時間中に電話をかけてくるとは、何かの緊急事態だ。 「先生、ちょっとトイレ行ってきます」 俺は、岡部の同意も取らず、教室を飛び出した。 すぐに電話に出る。 「どうした?」 「緊急事態です。至急、部室に集合してください」 いったい何が起きたんだ? γ-12 俺は、全速力で部室に駆け込んだ。 そこには、古泉、長門、朝比奈さん、そして、喜緑さんがいた。 「いったい何が起きたんだ!?」 「涼宮ハルヒが、周防九曜の襲撃を受けている」 長門が、あくまでも淡々とした声でそう告げた。 「なんだって!」 「いきなり本丸を奇襲してくるとは、意外でした。不意をつかれましたね」 古泉の冷静な口調が、俺をいらだたせた。 「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないだろ!?」 俺の叫びを無視するかのように、喜緑さんが口を開いた。 「長門さん、私は賛成いたしかねますね。周防九曜に対応するのは、私たち二人で充分ではありませんか? 人間がいても障害にしかならないでしょう」 「事は涼宮ハルヒにかかわること。不測の事態がないともいえない。可能な限りでの対応能力の確保が必要。それに、彼らがそれを望んでいる」 長門の言葉に古泉と朝比奈さんがうなずいた。 「わかりました。それが長門さんのご判断なのならば、これ以上は何も言いません。情報統合思念体への救援要請は私からしておきます」 長門は無言でうなずくことで、同意を示した。 「私がみなさんを現地に転送します。無断早退になってしまいますが、その辺は私が情報操作しておきますので」 喜緑さんが、呪文を唱えだした。 γ-13 喜緑さんの呪文が終わった瞬間に、俺たちは、ハルヒの家に転移していた。 「こっち」 長門がまっさきに階段を駆け上がっていく。 長門に続いて部屋に飛び込むと、そこにはハルヒと九曜、そして、なぜか佐々木もいた。 「きゃっ!」 ハルヒと佐々木の様子に、朝比奈さんが悲鳴をあげ、俺はしばし呆然とした。 「なんだ、これは!?」 γ-14 ハルヒと佐々木。二人の体の一部が、融合としかいいようがない状態でくっついていた。二人の意識はないようだ。 「てめぇ、何をした!?」 九曜は、こんなときでも、まるでやる気がないような声で、こう答えた。 「融合……完全化」 「なるほど。『力』の器の融合による『力』の完全化ですか。二人が接近するのを放置していたのも、同期率を高めるのに好都合だったからでしょうね」 九曜のあまりに情報量が少ない言葉を、こんなときでも嫌味なほど冷静な古泉が翻訳してくれた。 「私がさせない」 長門が攻撃をかける。 無数の光の矢が九曜に襲いかかるが、すべて弾き飛ばされた。 その間に、長門は一気に間合いをつめて九曜に殴りかかった。だが、九曜が右手がそれを難なく受け止めていた。 「なぜ……融合、望んでない?」 「強制的な融合は、力の対消滅をもたらす可能性がある。容認できない」 「対消滅とは何か」 九曜の髪がうなるように動き、長門が弾き飛ばされる。 長門は、部屋の壁に打ちつけられた。 「くっ」 長門は、何か重たい物が乗っかったかのように、床に倒れ伏した。起き上がろうとしているのに起き上がれない。息が苦しげだ。 「涼宮ハルヒとは何か」 そこに、唐突に銃声が響いた。 古泉がいつの間にか拳銃を握っていた。お前、そんなもんどっから持ってきたんだよ? その疑問に答える者はない。 飛び出した弾丸は、目に見えないバリアのようなもので弾き返された。 「やはり、こんなものは通じませんか」 続いて、一筋の光線が九曜に向けて飛んできたが、これも弾き返された。 その光跡を逆にたどると、そこには未来っぽい銃らしきものを握った朝比奈さんがいた。おそらく、光線銃かなんかなんだろう。 クソ。未来の武器も通用せずか。 ハルヒと佐々木の方を見ると、二人の体は、既に半分がくっついている状態だった。 突然、部屋がぐにゃりと歪んだ。 「その程度の物理攻撃は、九曜さんには通用しませんよ」 そして、空中から忽然と現れたのは、喜緑さんだった。 圧迫が解けたのか、長門がゆっくりと立ち上がった。 「遅れてしまってすみません。あのあと、この部屋が情報封鎖されてしまいまして、解除するのに時間がかかってしまいました」 「言い訳は後で聞く。今は、敵性存在の排除を優先すべき」 「そうですね」 二人は、そろって高速で呪文を唱えだした。 これでこちらの勝利は確実だと思ったのだが、そうは問屋がおろさなかった。 二人の呪文は延々と続き、止まることはなかったのだ。 やがて、二人の顔から汗がしたたり落ちてきた。 宇宙人同士の戦闘については素人の俺でも、これはまずそうだというのは分かった。二人がかりでも、九曜一人にかなわないというのか? 突然、喜緑さんが崩れるように倒れた。 同時に、長門の顔が苦悶で歪んだ。 そして、九曜がゆっくりと長門に近づいてきた。長門は一歩も動けない。 「力とは何か。答えよ」 「この野郎!」 俺は思わず九曜に殴りかかったが、俺の拳は九曜に届くことはなく、俺の体は九曜の髪の毛に巻き取られるように空中に固定された。 「キョンくん!」 朝比奈さんの悲鳴が聞こえた。 銃声が何度も聞こえた。だが、弾丸は九曜には全く届いていない。何度も放たれた光線も九曜の周辺ですべて消失していた。 「あなたは答えてくれる? 涼宮ハルヒとは何か」 九曜は、表情を────劇的と言ってもいい────変化させた。 微笑んだのだ。 とんでもなく玲瓏で美しい笑みだった。 感情の発露というよりは高度なプログラムが完璧に模倣したような笑顔だったが、こんな笑みを向けられた男はどんな朴念仁でも一瞬にして一目惚れ病に罹患する。 耐えられたのは俺でこそだ。事情を知らない谷口あたりなら即、墜落だ。 それは、唐突だった。 九曜の背後に何かが現れたかと思うと、九曜の口からコンバットナイフが飛び出した。それは、九曜の頭を完全に貫通し、俺の心臓に突き刺さる直前で停止した。 ナイフの柄を握る手までもが見える。それだけで、人間技では不可能な力をもって突き刺されたことがわかる。 俺の心臓が無事で済んだのは、そのナイフが誰かの左手で白刃取りされていたからだ。 片手での白刃取りを成し遂げた主────長門はすかさずこう唱えた。 「パーソナルネーム周防九曜の情報生命構成を消去する」 九曜が砂が崩れ落ちるように消えていく。 その代わりに、ナイフを突き刺した人物の姿が明瞭に現れてきた。 北高の長袖セーラー服に包まれたかつての一年五組の委員長が、さっきの九曜に勝るとも劣らない笑みを浮かべてそこに存在していた。 「あら、残念。ついでにあなたも殺せると思ったのに」 「…………朝倉か」 「ええ、そうよ。他に誰かいる?」 ナイフの柄を握る朝倉の握る手と、その刃を白刃取りしている長門の手が、ともに震えていた。両者ともその手に尋常でないエネルギーを注ぎこんでいるようだった。 「協力に感謝する。また会えてうれしい」 長門がそう言った、本当にうれしそうな口調で。 言っておくが俺は全くうれしくないぞ。二度も殺されかけた相手を歓迎するほど、俺はマゾじゃない。 「命じられたから来ただけよ。でも、私も長門さんに会えてうれしいわ」 ナイフは依然として小刻みに震え続けていた。 「あなたの再構成は、敵性存在排除のための措置。彼の殺害は、情報統合思念体の総意に反する」 「そうですよ、朝倉さん」 俺の背後から喜緑さんの声が聞こえた。彼女もいつの間にかすっかり回復したようだ。 喜緑さんはさらに何か呪文のようなものを唱えた。 すると、朝倉と長門の間で震えていたナイフがまるで霧のように消え去った。 と同時に、宙に浮いていた俺の体が床に下ろされる。 「つまんないわね」 「喜緑江美里は私ほど甘くはない。次は有機情報連結解除ではすまなくなる。自重して」 長門が淡々とした口調でそう言った。 「そういえば、あのとき長門さんの処分が決まってたら、処分実行者は喜緑さんになる予定だったんだっけ?」 あのときって、昨年の12月18日のことか? 「情報統合思念体の総意は、不処分と結論付けました。現時点において過去に仮定を持ち込むことには意味がありません」 「まっ、そうだけどね」 朝倉は俺に視線を向けて、 「近いうちに二年五組に転入予定だからよろしくね」 そう言い残すと、部屋から去っていった。 「おい、長門。これはどういうことだ?」 「朝倉涼子は、私のバックアップとして再構成された。今後も広域帯宇宙存在の攻撃の可能性は否定できない。それに備えるため。私と喜緑江美里が監視するので危険性はない」 「そうは言ってもだな……」 たった今だって殺されかけたんだぞ。はいそうですか、ってわけにはいかないだろ。 「彼女は私の最初の友人。仲良くしてほしい」 長門、友達はよく選んだ方がいいぞ。 「さて、このお二人はどうしましょうか」 古泉が、ハルヒと佐々木を見下ろしていた。喜緑さんの呪文で元通りに切り離された二人の意識はまだ回復してない。この状態でいきなり目を覚まされても対応に困るが。 「二人の記憶は改竄しておく。最小限の情報操作でこの事件自体なかったことにする」 「まあ、それが無難でしょうね」 何はともあれ、最大の脅威と見られていた周防九曜は消滅した。 代わりに危ない奴が復活しちまったし、佐々木を巡る『機関』やらの今後の動きは気になるところだが、とりあえずこれはこれで一件落着だろうと、俺は思った。 しかし、それは甘い見通しだった。 γ-最終章 週明け、学校での昼休み。 毎日弁当を作ってくるのに飽きたらしいハルヒが以前のように学食に向けて飛び出していった後に、俺のクラスに朝比奈さんが訪ねてきた。 「キョンくん、ちょっといいですか?」 はいはい。朝比奈さんのお誘いならば、どこへでも参りますよ。 朝比奈さんに連れられて、俺は学校の屋上にやってきた。 朝比奈さんは、どこか元気がなさそうな様子だった。いったい何があったんですか? 「TPDDがなくなっちゃいました……」 ポツリとつぶやかれたその言葉の意味を理解するまで、十秒ほどの時間がかかった。 「どういうことです?」 「あの事件のあと、家に帰った直後でした。いきなりなくなっちゃったんです」 「どうして?」 「原因は分かりません」 「涼宮ハルヒの情報改変能力によるものと思われる」 突然、背後から聞こえてきた声に振り向くと、そこには、長門と喜緑さんがいた。 「我々も、広域帯宇宙存在、情報統合思念体及びすべての急進派インターフェースの消滅を確認した」 長門は、淡々ととてつもないことを告げてきた。 なんだって? 九曜の親玉と、長門の親玉と、朝倉とその仲間がまるごと消えただと!? 「記憶の消去ぐらいでは、涼宮さんの無意識は騙せなかったということでしょう」 長門たちの背後から、ニヤケハンサム野郎が現れた。 「俺にも分かるように説明しろ」 「要するに、涼宮さんは、我々SOS団を脅かす恐れがある存在を、丸ごと消去したわけですよ。二度とあんなことが起きないようにね」 さらに続ける。 「時間航行技術を奪い取って未来人の介入を排除し、強大な宇宙存在を消滅させ、危険な急進派TFEIも消し去った。そして、最後に、自分の『力』も封印した」 今、なんていった!? 「自分の『力』の存在こそが、危険を呼び寄せる原因になったと理解したのでしょう。ちなみにいうと、涼宮さんの『力』が封印されたのと同時に、我々の能力も消滅しました。類推するに、佐々木さんの『力』と橘さんたちの能力も、同様の経過をたどっているでしょうね」 あまりのことに、俺は声も出ない。 「とはいっても、『力』が完全に消滅したわけではありません。封印されただけで、また復活する可能性もあります。よって、『機関』も残ることになりました。 規模は最小限まで縮小されますが、鶴屋家がスポンサーとして残ってくれることになりましたので、資金的には困りません。僕の役割も今までどおりです。橘さんの組織も、同様でしょうね」 「私たちはどうするのですか?」 喜緑さんが、長門をにらみつけるように見ていた。 「我々は、情報統合思念体から与えられた任務を継続する。涼宮ハルヒの『力』が完全に消滅したわけではない以上、自律進化の可能性はまだ残っている。我々は観測を継続すべき。『力』の封印が解かれれば、情報統合思念体が復活する可能性もある」 その言葉に喜緑さんは目を見開いていたが、やがていつもの表情に戻ると、こう答えた。 「監査役として、プレジデントの御命令は、合理的なものと認めます」 「地球上の残存全インターフェースにこの旨を命ずる。……伝達完了」 「私はどうしましょうか……?」 朝比奈さんがポツリとつぶやいた。 そうだ。朝比奈さんは、帰る場所も手段も失った上に、組織のバックを完全に失ってしまったんだ。今まで生活費をどうしていたのかは不明だが、組織の支援がなければだいぶ厳しいことになるだろう。 「私の部屋に来ればよい」 意外なことに長門がそう提案した。 「いいんですか?」 「個体単体でも、生活費を捻出できる程度の情報操作能力は残っている。問題はない」 さらに、古泉が助け舟を出してきた。 「お金にお困りでしたら『機関』からも援助はしますよ。それに、鶴屋さんに頼めば、事情を詮索してくることもなく援助してくれるでしょう」 「ありがとうございます」 朝比奈さんは深々と頭を下げた。 放課後。 学外団員の佐々木もやってきて、団活となった。 長門は黙々と本を読み、朝比奈さんはメイド姿でお茶をいれ、俺は象棋で古泉を打ち負かし、佐々木は小難しい口調で俺と古泉の一手一手にツッコミをいれ、ハルヒはパソコンでネットサーフィン。 全くいつもどおりで、昼休みのトンデモ話が嘘じゃないかと疑いたくなるほどだった。 長門がパタンと本を閉じて、その日の活動は終了した。 あの下り坂を集団で下校し、やがてみんなと別れて一人になる。 釈然としない思いが脳裏を渦巻いていた。 今回のことは、古泉たちや橘たちにとってみれば悪くない結果だろうが、とてもじゃないがハッピーエンドとはいえない。 朝比奈さんは、帰る場所と手段を奪われた。何事にも前向きな朝比奈さんだが、さすがにこれはつらいだろう。 長門と喜緑さんは、親兄弟を殺されたも同然だ。今思い返してみれば、あのときの喜緑さんは、親を殺されたことに怒っていたんじゃないのか? 長門がああいうふうに言いくるめなければ、どんな事態になっていたことか……。 ハルヒよ、もうちょっとなんとかならなかったのか? 「納得してないようだね」 思わず振り向くと、そこには佐々木がいた。 「ずっと後ろをつけてきたのに気づかないなんて、よほど思考に没頭していたか、あるいは、上の空だったのか」 どっちも正解という気がするな。 「橘さんからだいたいの事情は聞いたよ。朝比奈さんや長門さんたちにとっては気の毒な結果になったけど、完全なハッピーエンドなんて、物語の世界にしか存在しないものだ。僕は、この結果はバッドエンドよりはマシなものとして受け入れざるをえないと思う。 それに、涼宮さんは意識してこうしたわけでもない。彼女を責めるのは酷というものだ」 それは解ってるつもりなんだが。 「それに、これは僕のせいなのかもしれない」 なんだと? 「涼宮さんと融合したときに、僕の意識が彼女の無意識に混入した可能性は否定できないってことだよ。涼宮さんが僕に課した入団試験の七番目の問いを覚えてるかい?」 なんだったかな? 「『何でもできるとしたら、何をする?』だよ」 ああ、確かそんな質問だったな。 「あのときは紙には書かなかったけど、それに対する僕の答えが、今の事態に近いんだ。時間航行技術を奪い取って未来人の介入を排除し、強大な宇宙存在を消滅させ、危険な宇宙人を消し去り、そして、最後に自分の『何でもできる力』を封印する」 そのまんまじゃねぇか……。 確かに、二人が融合したときに、ハルヒの無意識にそれが混入した可能性を否定はできんな。 「だから、恨むなら僕を恨んでもらいたい」 佐々木はそういうと、きびすを返した。 家に帰ると、自分の部屋に直行して、ベッドの上に寝っころがった。 釈然としない思いは解消されなかったが、それとは別に、脳の奥に何かが引っかかったような感じがとれなかった。 それの正体が判明するまで、五分ほどの時間が必要だった。 そうだ! あのいけ好かない未来野郎。 あいつは、結局、今回は俺たちの前に姿を見せなかった。 奴は、いったいどこに行きやがったんだ? ────ソシテ、トウトツニ、スベテガ、アンテン──── γ-エピローグ────あるいは、αおよびβへのプロローグ とある時間軸のとある時間平面。 ────報告受領。時間軸γの消滅を確認。原時間平面にすみやかに帰還せよ。 「フン。くだらん」 彼は、さきほど未来の組織に簡潔な報告を送信し終わったところだった。 分岐点のほとんどは安定的なものだが、たまにある不安定な分岐点はイレギュラーを引き起こし、規定事項を破壊する。だから、消去する。 まったくもってくだらない任務だった。 しかし、『力』を涼宮ハルヒから佐々木とやらに移し、その力で時空連続体を再構築する────そのときまでは、黙々と任務を遂行して、組織に忠実なフリをしておく必要がある。 彼──便宜上『藤原』の名を騙る彼──は、何か決意を固めたような表情をすると、TPDDを起動した。 『機関』時空工作部の保管記録より。 ────上級工作員朝比奈みくるより、最高評議会各評議員へ。消去対象時間軸237個のうち236個の消去任務完了。 ────時空観測局より、最高評議会各評議員へ。消去対象時間軸237個のうち236個の消滅を確認。 ────時空観測局より、最高評議会各評議員へ。消去対象時間軸γは、別組織による時間工作により消滅したことを確認。 ────最高評議会代表長門有希より、各評議員へ。統合時空補正計画SOSパート8パターンAフェーズ1の完了を確認し、フェーズ2に移行することに異議はないか? ────異議なし。 ────異議なし。 ────異議なし。 ────異議なし。 ────異議なし。 ────全会一致で可決と認める。 ────最高評議会代表長門有希より、上級工作員朝比奈みくるへ。統合時空補正計画SOSパート8パターンAフェーズ2へ移行せよ。なお、当該任務中は上級権限2級を付与する。 ────上級工作員朝比奈みくるより、最高評議会各評議員へ。命令受領。工作活動をフェーズ2へ移行します。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2382.html
01┃02┃階┃06┃07┃ ━┻━┛段┗━┻━┛ 廊下 トイレ→ ━┳━┓談┏━┳━┓ 03┃05┃話┃08┃10┃ 室 2階 01 涼宮ハルヒ 02 キョン 03 橘京子 05 佐々木 06 長門有希 07 喜緑さん 08 朝比奈みくる 10 鶴屋さん 3階 02 古泉一樹